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LCAT欠損症〔Lecithin-cholesterol acyltransferase deficiency〕

1 疾患概要■ 概念・定義1966年、角膜混濁、貧血、蛋白尿を呈し、慢性腎炎の疑いで33歳の女性がノルウェー・オスロの病院でみつかった。腎機能は正常ではあるが、血清アルブミンはやや低く、血漿総コレステロール、トリグリセリドが高値で、コレステロールのほとんどはエステル化されていなかった。腎生検では糸球体係蹄に泡沫細胞が認められた。その後、患者の姉妹に同様の所見を認め、遺伝性の疾患であることが疑われた。その後、ノルウェーで別の3家系がみつかり、後にこれらの患者は同一の遺伝子異常を保有していた。患者は血中のレシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性を欠損しており、NorumとGjoneによりこの疾患が家族性LCAT欠損症(Familial LCAT deficiency:FLD)と名付けられた。後にCarlsonとPhilipsonによって魚眼病(Fish eye disease:FED)が報告された。LCATは、血漿リポタンパク質上のコレステロールのエステル化反応を触媒し、この反応はHDL上とアポリポ蛋白(アポ)B含有リポ蛋白(LDLとVLDL)上の両方で起こる。前者をα活性、後者をβ活性と呼ぶ。LCAT蛋白のα活性とβ活性の両者を欠損する病態がFLD、α活性のみを欠損する病態がFEDと定義されている。現在これらはいずれもLCAT遺伝子の変異による常染色体潜性遺伝性疾患であることが知られており、LCAT機能異常を原因とする脂質代謝異常とリポ蛋白異常を介してさまざまな合併症を引き起こす1-3)。わが国では、2015年7月1日に指定難病(259)として認定されている。■ 疫学FLDおよびFED症例の大部分はヨーロッパで報告されており、FLD症例報告数は男性が多い。ヘテロ接合体の地理的分布は、FEDとFED患者にみられる分布と同じである。興味深いことに、ヘテロ接合体の性別分布は、FED変異とFLD変異のヘテロ接合体の男女比は同等であると報告されている。角膜混濁はほぼすべてのFLDおよびFED患者に認められる。HDL-C値は、FLDとFEDの両者で一様に低く、ほとんどの患者で10mg/dL未満である。FLD症例の85%以上は報告時に蛋白尿を呈しているが、FED症例では蛋白尿は報告されていない。FLD患者のほとんどは貧血を合併している。臨床学的に明らかな動脈硬化性心血管疾患は、FLD患者の10%程度、FED患者の25%程度で報告されている。■ 病因第16番染色体短腕に存在するLCAT遺伝子の変異が原因である。単一遺伝子(LCAT遺伝子)の変異による先天性疾患であり、常染色体潜性遺伝形式をとり、既報では100万人に1人程度の頻度であると述べられている。わが国において同定されている遺伝子変異は20種類程度ある。■ 症状LCAT欠損症の典型的な臨床所見を表に記載した。表 LCAT欠損症の典型的臨床所見画像を拡大するLCAT活性測定法は外因性(HDL様)基質を用いる方法でα活性を評価できる。内因性基質を用いる方法では、血中の総エステル化活性(Cholesterol esterification rate:CER)が評価できる。これらを併用することで、FLDとFEDの鑑別が可能である。1)脂質代謝異常LCATによる血漿リポ蛋白上のコレステロールのエステル化反応は、アポA-IやEなどのアポリポ蛋白の存在を必要とする。FLDやFEDにおけるLCAT活性の低下はHDL-Cの顕著な減少を引き起こし、未熟なHDLが血漿中に残り、電子顕微鏡観察で連銭形成として現れる。このHDLの成熟や機能の障害に伴ってさまざまな合併症が引き起こされる。2)眼科所見角膜混濁はしばしば本症で認識される最初の臨床所見であり、幼少期から認められる。患者角膜実質に顕著な遊離コレステロールとリン脂質の蓄積が観察される。FLDよりもFEDにおいてより顕著である。本症では中心視力は比較的保たれているものの、コントラスト感度の低下が顕著であり、患者は夜盲、羞明といった自覚症状を訴えることがある。3)血液系異常赤血球膜の脂質組成異常により標的赤血球が出現し溶血性貧血が認められる。赤血球の半減期が健常人の半分程度である。また、溶血のため血糖値と比較してHbA1cが相対的に低値となる。4)蛋白尿、腎機能障害幼少期から重篤になるケースは報告されていないが、蛋白尿から進行性の腎不全を発症する。FEDでは一般に認められない。患者LDL分画に異常リポ蛋白が認められ、それが腎機能障害と関連することが示唆されている。5)動脈硬化前述のように動脈硬化性心血管疾患を合併することがある。しかし、これまでに行われている研究の範囲では、LCAT欠損が動脈硬化性心血管疾患のリスクとなるかどうかはどちらとも言えず、はっきりとした結論は得られていない。■ 予後本症の予後を規定するのは、腎機能障害であると考えられる。特定のFLD変異を有する1家系を中央値で12年間追跡調査した研究によると、ホモ接合体ではeGFRが年平均3.56mL/min/1.73m2悪化したのに対し、ヘテロ接合体では1.33mL/分/1.73m2、対照では0.68mL/min/1.73m2であった4)。また、これまでの症例報告をまとめた最近の総説において、FLD患者は年平均6.18mL/min/1.73m2悪化していると報告されている3)。18例のFLD患者を中央値で12年間追跡調査した研究では、腎イベント(透析、腎移植、腎合併症による死亡)は中央値46歳で起こると報告されている5)。これらの報告から、典型的な症例では、蛋白尿を30歳頃から認め、腎不全を40〜50歳で発症すると考えられる。FLDとFEDに共通して、角膜混濁の進行による患者QOLの低下も大きな問題である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査角膜混濁、低HDL-C血症が本症を疑うべき主な臨床所見である。さらにFLDでは蛋白尿を認める場合がある。HDL-Cはほとんどの症例で10mg/dL未満である。LCATがコレステロールのエステル化を触媒する酵素であることから、総コレステロールに占めるエステル化コレステロールの割合(CE/TC)が低下する。CE/TCはFLDで著減するのに対し、α活性のみが欠損するFEDは大きく低下することはない。■ 特殊検査1)脂質検査HDLの主要なアポリポ蛋白であるアポA-I、A-IIが低下する。血清または血漿中LCAT活性の低下が認められる。LDL分画を中心として異常リポ蛋白が同定される。2)眼科検査Slit-lamp examination(細隙灯検査)により上皮を除く角膜層に灰白色の粒状斑が観察される。本症の患者の中心視力は、比較的保たれているケースが多い一方で、コントラスト感度検査で正常範囲から逸脱することが報告されている。■ 腎生検FLDが疑われる場合は腎生検が有用である。糸球体基底膜、血管内皮下への遊離コレステロールとリン脂質の沈着が認められる。泡沫細胞の蓄積、ボーマン嚢や糸球体基底膜の肥厚が観察される。電子顕微鏡観察では毛細管腔、基底膜、メサンギウム領域に高電子密度の膜構造の蓄積が認められる。■ 確定診断遺伝子解析においてLCAT遺伝子変異を認める。以下に本症の診断基準を示す。<診断基準>本邦におけるLCAT欠損症の診断基準を難病情報センターのホームページより引用した(2024年7月)。最新の情報については、当該ホームページまたは原発性脂質異常症に関する調査研究班のホームページで確認いただきたい。A.必須項目1.血中HDLコレステロール値25mg/dL未満2.コレステロールエステル比の低下(60%以下)B.症状1.蛋白尿または腎機能障害2.角膜混濁C.検査所見1.血液・生化学的検査所見(1)貧血(ヘモグロビン値<11g/dL)(2)赤血球形態の異常(いわゆる「標的赤血球」「大小不同症」「奇形赤血球症」「口状赤血球」)(3)異常リポ蛋白の出現(Lp-X、大型TG rich LDL)(4)眼科検査所見:コントラスト感度の正常範囲からの逸脱D.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。他の遺伝性低HDLコレステロール血症(タンジール病、アポリポタンパクA-I欠損症)、続発性LCAT欠損症(肝疾患(肝硬変・劇症肝炎)、胆道閉塞、低栄養、悪液質など蛋白合成低下を呈する病態、基礎疾患を有する自己免疫性LCAT欠損症)二次性低HDLコレステロール血症*1(*1 外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月以内のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む))E.遺伝学的検査LCAT遺伝子の変異<診断のカテゴリー>必須項目の2項目を満たした例において、以下のように判定する。DefiniteB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外し、Eを満たすものProbableB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外したもの3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 臓器移植腎移植は一時的な腎機能改善には効果があるが、再発のリスクがある。角膜移植も同様である。■ 食事および薬物治療低脂肪食により腎機能障害の進展が遅延した症例がある。腎機能の増悪の予防や改善を目的とした薬物療法が行われた症例がある。いずれも対症療法であり、長期の進展予防効果や再発の可能性は明らかでない。■ 人工HDL(HDL-mimetic)人工HDLの輸注により腎機能の低下が遅延し、腎生検では脂質沈着がわずかに減少したと報告されている。■ 酵素補充療法組換え型LCAT蛋白の輸注によるものと、遺伝子治療による酵素補充療法が考えられる。1)組換え型LCAT製剤米国で組換え型LCATの臨床試験が1例実施され、脂質異常の改善とともに貧血、腎機能の改善が認められたが、その効果は2週間程度であった。繰り返し投与が必須であり、また、臨床試験期間中に組換え型LCATの供給が不足し、当該患者は透析治療に移行したと報告されている。2)遺伝子治療遺伝子治療は、より持続的な酵素補充が可能であると考えられる。LCAT遺伝子発現アデノ随伴ウイルスベクターが動物実験で評価されている。わが国で脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子細胞治療が、臨床試験段階にある。投与された1例において、LCAT活性は臨床試験期間を通じて患者血清中に検出されている。これらは長期の有効性が期待される。4 今後の展望FLDとFEDの診断には、代謝内科、眼科、腎臓内科など複数の診療科の関与が必要であること、また、本疾患が自覚症状に乏しいことなどにより診断が遅れる、もしくは診断に至っていない患者がいると考えられる。わが国では、現状LCAT活性の測定や遺伝子検査は保険適用対象外であり、このことも医師が患者を診断することを困難にしている。現在、遺伝子組換え製剤の輸血や遺伝子・細胞治療によるLCAT酵素補充療法が開発中である。近い将来、これらの治療法が実用化され、患者のQOLが改善されることが期待される。5 主たる診療科代謝内科、眼科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業(原発性脂質異常症に関する調査研究)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会ガイドライン「低脂血症の診断と治療 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版」(2023年6月30日発行)(医療従事者向けのまとまった情報)千葉大学医学部附属病院【動画】LCAT欠損症について【動画】LCAT欠損症の治療について未来開拓センター(いずれも一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報LCAT欠損症患者会(患者とその家族および支援者の会)1)Santamarina-Fojo S, et al. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th edn. 2001;2817-2833.2)Kuroda M, et al. J Atheroscler Thromb. 2021;28:679-691.3)Vitali C, et al. J Lipid Res. 2022;63:100-169.4)Fountoulakis N, et al. Am J Kidney Dis. 2019;74:510-522.5)Pavanello C, et al. J Lipid Res. 2020;61:1784-1788.公開履歴初回2024年9月12日

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第113回 経鼻インフルワクチン「フルミスト」を使いますか?

フルミスト登場私は子供の頃、注射されるのが恐怖だったのですが、「全然怖くないやい!」と言いつつ強がっていました。インフルエンザワクチンは例外なく腕に注射されるため、とくに小さな子供ではなかなか大変なことがあります。さて、鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト®」が今年から使用されます。2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで認可されたもので、世界から10年以上遅れて日本でようやく認可されました。めっちゃ遅いやんけ!と思いましたが、しばらくH1N1株に対する有効性が疑問視されてきて、中央で揉まれていた時期があるようです。保存状態も含めていろいろと改善点が判明し、その後国際的にも推奨されたことが、承認の後押しとなっています。このフルミスト、針を刺さないため、「痛くない」というメリットが期待されています。対象年齢は?フルミストの対象年齢は、2歳以上19歳未満です。2歳未満の子供に対しては喘鳴のリスクが増加したという報告があり、使用が認められていません。また、国際的には49歳まで使用可能ですが、日本の薬事承認は上限19歳未満で、これも注意が必要です。要は、子供のためのワクチンなのですよ、これは。フルミストは、不活化ワクチンではなく、弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫不全状態にある方には使用できません。もちろん、注射で用いられてきた従来の不活化ワクチンは、2歳未満でも妊婦でも接種可能です。フルミストの効果は?鼻粘膜の表面に直接免疫を成立させることから、高い感染防御効果が期待できます。とくに小さな子供に対しては、従来の注射不活化ワクチンと効果は同等で、感染の成立を約7割減らすとされています。また、重症化リスクを軽減する効果が示されています。「接種しても感染した」とおっしゃる人が一定割合いますが、全員に効果があるわけではなく、コミュニティ全体でリスクを低減する効果を期待して接種することになります。フルミストの注意点は?これも上述したように、2歳未満、妊婦、免疫不全のある人には使えないことです。需要が一番高い層には不適なので、従来の注射不活化ワクチンを使用ください。注意点としては、生ワクチンなので、経鼻接種後に鼻水や咳などの風邪症状がみられる場合があることです。そのため、喘息や鼻詰まりが強い子供では、接種を避けたほうがよいでしょう。副反応で風邪症状が出現した場合、生ワクチンなので接種から2週間程度、インフルエンザ抗原検査が「陽性」になってしまう可能性があります。この解釈には注意が必要でしょう。その他、卵アレルギーやゼラチンアレルギーのある人も避けたほうがよいとされています。費用が確定すれば、すぐにでも接種が始まるでしょうね。

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季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet

 重症化リスクの高い季節性インフルエンザウイルス曝露者に対し、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルによる曝露後予防投与は、症候性季節性インフルエンザのリスクを低下させる可能性が示された。また、これらの抗ウイルス薬は、ヒトへの感染で重症化を引き起こす新型インフルエンザAウイルス曝露者に対しても、予防投与により人獣共通インフルエンザの発症リスクを軽減する可能性が示されたという。中国・重慶医科大学附属第二医院のYunli Zhao氏らがシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。抗ウイルス薬のノイラミニダーゼ阻害薬による曝露後予防投与は、インフルエンザの発症および症候性インフルエンザのリスクを低減することが可能だが、その他のクラスの抗ウイルス薬の有効性は不明のままであった。Lancet誌2024年8月24日号掲載の報告。6種の抗ウイルス薬についてシステマティックレビューとネットワークメタ解析 研究グループは、WHOインフルエンザガイドラインの更新サポートのために、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析により、抗ウイルス薬のインフルエンザ曝露後予防について評価した。 MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、インフルエンザ予防における抗ウイルス薬の有効性と安全性を他の抗ウイルス薬、プラセボまたは標準治療と比較した、2023年9月20日までに公開された無作為化比較試験を系統的に検索。2人1組のレビュワーが独立して試験をレビューし、データを抽出、バイアスリスクを評価した。 ネットワークメタ解析は頻度論的(frequentist)ランダム効果モデルを用いて行い、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。 重視したアウトカムは、症候性または無症候性の感染、入院、全死因死亡、抗ウイルス薬に関連した有害事象、重篤な有害事象であった。 検索により公表論文1万1,845本を特定し、6種の抗ウイルス薬(ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジン、リマンタジン)に関する33試験・被験者1万9,096例(平均年齢6.75~81.15歳)をシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析に組み入れた。ほとんどの試験でバイアスリスクは低いと評価された。ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは軽減効果がある可能性 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やかに投与することで(例:48時間以内)症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(ザナミビル[リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.25~0.50]、オセルタミビル[0.40、0.26~0.62]、ラニナミビル[0.43、0.30~0.63]、バロキサビル[0.43、0.23~0.79]、確実性は中程度)。これらの抗ウイルス薬は、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 また、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、感染したヒトの重症化と関連する新型インフルエンザAウイルス曝露後に、速やかに投与したときは、人獣共通インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(確実性は低度)。 オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジンは、すべてのインフルエンザのリスクを低下させる可能性が示唆された(症候性および無症候性の感染:確実性は中程度)。 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、無症候性インフルエンザウイルスの感染または全死因死亡の予防に、ほとんどまたはまったく効果がない可能性が示唆された(確実性は高度または中程度)。 オセルタミビルは、入院への効果は、ほとんどまたはまったくない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 6種の抗ウイルス薬はすべて、エビデンスの確実性は異なるが、薬剤関連の有害事象または重篤な有害事象の発現頻度を有意に増加させないことが示唆された。

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医師はなぜ自ら死ぬのか(解説:岡村毅氏)

 医師の自殺率は高いとされてきた。本論文は1960年から2024年に出版されたすべての論文を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析であり、現時点での包括的な情報と言っていいだろう。ちなみに英語とドイツ語以外は、翻訳ソフトであるDeepLを用いて評価しているのが現代的だ。男性医師では時代と共に自殺率は低下してきていることが示されたが、女性医師においてはむしろ増加している。 いくつかの視点で論じてみよう。 自殺の関連要因はさまざまであるが、この論文1)では以下のように分けている。第一に精神疾患(うつ病や統合失調症)、第二に身体疾患、第三に当たり前だが自殺関連行動(過去の自殺企図歴など)、第四に人口社会学的要因(借金、学歴、信仰、仕事のストレスなど)、そしてその他として犯罪歴、幼少期の逆境、火器が身近にあるなどを挙げている。医師といっても多様だとは思うが、身体疾患、貧困、借金、火器などが一般人口より多いとは思えないので、やはり仕事のストレスやうつ病が関与するのかもしれない。 自殺は、近年は「絶望死」の1つとして捉えられることもある。「絶望死」とは自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患を指す。米国の労働者階級の白人においてこれらの絶望死が増えていることが指摘され2,3)、トランプ現象との関連も語られている。これを医師の自殺と結び付けるのは飛躍かもしれないが、激しい競争と格差が「絶望死」とつながっているとしたら、医師の世界の激しい競争が関係しているのかもしれない。 仕事のストレスといえば、患者や家族からの過大な要求などは増えているとされている(いわゆるモンスターペイシェント)。一方で、たとえば私が某下町の救命救急センターで研修を受けていた2000年代初頭は、日・当・日直で36時間稼働して12時間休むのを3回(つまり6日稼働し、その間に3晩休める)して、初めて休日になるというありさまだった。あらゆる仕事は尊く大変だが、医師は命が関わる局面が多く、休みたいなどと言うと人間性を疑われることが多いのはつらい。これを米国の友人に言うとドン引きされるので、日本が異常なのだろう。とはいえ、このような身体的なストレスは確かに減ってきた。 この論文の対象外であるが、新型コロナウイルスパンデミックのような社会現象も関連するだろう。新型コロナの患者に接している医療従事者の子供が保育園で差別されるといった事象や、国民の生命を守るためにマスコミに姿を曝した専門家に対する誹謗中傷4)などである。 ではなぜ女性で増えているのか。本論文ではまったく明らかになっていないが、これまでの研究を総合して、問題の在りかを明らかにし、これからの研究の道標にするというのがこの研究の意義である。

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第231回 コウモリが減って乳児死亡が増加

コウモリが減って乳児死亡が増加米国のコウモリが謎多き真菌感染症でおよそ20年前に大量に死に始め、その数が大幅に減っています。Science誌に報告された新たな解析1)によると、コウモリの激減で人間も知らぬ間に思いもよらぬ影響を受けていたようです。その影響とは乳児の死亡率上昇です。農家にとってコウモリはただで害虫を駆除してくれる貴重な存在です。害虫を含む昆虫をコウモリが一晩で捕食する量は実に自分の体重の40%かそれ以上に達します。コウモリのその無償の奉仕は1年間当たり少なく見積もって37億ドル、多ければ530億ドルもの価値を生み出していると推定されています2)。米国でのコウモリの大量死は、欧州から紛れ込んだPseudogymnoascus destructansと呼ばれる真菌が広まって、同国の北東部で2006年に始まりました3)。冷温を好むP. destructansは冬眠中のコウモリの鼻のあたりで増えて鼻を白くします。それゆえコウモリのP. destructans感染症は白鼻症候群(White-nose syndrome:WNS)と呼ばれます。WNSの主な害は、餌の乏しい時期にコウモリを冬眠から早く目覚めさせてしまうことです。WNSで目覚めてしまったコウモリは寒さゆえカロリーを多く摂取する必要がありますが、いかんせん捕食がままならず、たいてい冬を生きて越すことができません。WNSの破壊力は凄まじく、わずか7年で500万匹を超える北米のコウモリがそのせいで死んでいます。その激減は“風が吹けば桶屋が儲かる”とは反対の悪い影響を巡り巡ってヒトの健康にもたらしたようです。新たな解析によると、捕食者であるコウモリがWNSで減ったことでまずは昆虫が増え、続いて農家は殺虫剤をおよそ31%多く使うようになりました。その殺虫剤使用の増加と並行し、コウモリが大量死した地域では環境毒素の指標としてよく使われる乳児死亡率が平均およそ8%上昇していました。殺虫剤やその他の農薬とヒトの健康への害の関連の裏付けがいくつか存在します。政府は及ぼしうる害を検討したうえでそれら農薬の使用を許可しています。それでも農業従事者や世間の人は農地からの浮遊や地下水に混入した農薬成分を被るかもしれません。殺虫剤はコウモリほど害虫予防に役に立たず、むしろ経済的損失をどうやら招いたことも新たな解析で示唆されています。農作物は質が低下したらしく、その販売収入は29%低下しました。その結果、コウモリが大量死した地域の農家は2006~17年に殺虫剤の費用と減収で合わせて269億ドル損したと推定されました。また、乳児の過剰な死亡は124億ドルの損失を招いたと推定され、コウモリ大量死地域は2006~17年に乳児の死亡と農家の損を合わせて394億ドル損したようです。コウモリが昆虫を抑え込めなくなることが強いる莫大な社会的負担に比べ、コウモリを保つための費用はそれほどかからないでしょう。自然の価値をもっと知ってその保護政策に活かしていく必要があると今回の解析の著者のEyal Frank氏は言っています4)。今回の解析をただ1人で行ったFrank氏によると、コウモリのいくらかの群れが回復し始めている兆しはあるものの、元どおりに増えるまでには数十年かかりそうです。Frank氏の所属団体はコウモリの冬眠場所に昆虫がより集まるように明かりをつけ、コウモリが十分食べられるようにする取り組みをしています5)。また、廃鉱の空調を調節してコウモリのねぐらとして好ましい温度になるようにする検討も他の自然保護団体が始めています。参考1)Frank EG. Science. 2024;385:eadg0344.2)Boyles JG, et al. Science. 2011;332:41-42.3)Loss of bats to lethal fungus linked to 1,300 child deaths in US, study says / Guardian 4)The collapse of bat populations led to more than a thousand infant deaths / Eurekalert 5)My jaw dropped’: Bat loss linked to death of human infants / Science

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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重症インフルエンザに抗ウイルス薬は有効か/Lancet

 重症インフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は未だ不明とされる。中国・蘭州大学のYa Gao氏らは、重症インフルエンザの入院患者において、標準治療やプラセボと比較してオセルタミビルおよびペラミビルは、入院期間を短縮する可能性があるものの、エビデンスの確実性は低いことを示した。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号で報告された。WHO診療ガイドライン改訂のためのネットワークメタ解析 研究グループは、世界保健機関(WHO)のインフルエンザ診療ガイドラインの改訂を支援するために、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(WHOの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2023年9月20日までに発表された論文を検索した。対象は、インフルエンザが疑われるか、検査で確認された入院患者を登録し、直接作用型抗インフルエンザウイルス薬をプラセボ、標準治療(各施設のプロトコールに準拠またはプライマリケア医の裁量による)、あるいは他の抗ウイルス薬と比較した無作為化対照比較試験であった。 注目すべき主要アウトカムとして、症状改善までの期間、入院期間、死亡率のほか、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象などの評価を行った。 頻度論に基づく変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析でエビデンスを要約し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチによりエビデンスの確実性を評価した。死亡率に対する効果、エビデンスの確実性は「非常に低」 8件の試験(1,424例、平均年齢の幅36~60歳、男性の割合の幅43~78%)が系統的レビューの対象となり、このうち6件をネットワークメタ解析に含めた。 季節性インフルエンザおよび人獣共通インフルエンザにおけるオセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルの死亡率に対する効果に関しては、プラセボまたは標準治療と比較した場合、どの薬剤も有効性に差はなく、エビデンスの確実性は「非常に低(very low)」であった。また、オセルタミビルとペラミビル、オセルタミビルとザナミビル、ペラミビルとザナミビルの比較でも、死亡率に対する有効性に差を認めず、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」だった。 季節性インフルエンザによる入院期間は、プラセボまたは標準治療に比べオセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間[CI]:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)で短縮したが、いずれもエビデンスの確実性は「低(low)」だった。 また、症状改善までの期間については、標準治療と比較してオセルタミビル(平均群間差:0.34日、95%CI:-0.86~1.54、エビデンスの確実性「低」)およびペラミビル(-0.05日、-0.69~0.59、エビデンスの確実性「低」)で差がほとんどないか、差を認めなかった。有害事象、重篤な有害事象の頻度も3剤で有意差なし 有害事象および重篤な有害事象の頻度には、オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルで有意な差はなく、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」であった。 機械換気への移行、機械換気の期間、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象ではネットワークメタ解析を行うことはできなかったが、ペアワイズメタ解析は可能であり、機械換気への移行、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象に関してはザナミビルに対するオセルタミビルのリスク比は1.20~2.89の範囲であった(エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」)。退院先を評価した試験はなかった。 著者は、「これらの知見は、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の効果に関する不確実性を強調するものであるが、抗ウイルス薬の使用をある程度正当化する」「重症インフルエンザ患者における抗ウイルス薬の臨床的有用性、安全性、抗ウイルス薬耐性への影響について知るためには、より多くの臨床試験が必要である」としている。

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第112回 エリスロシン錠の在庫が尽きる薬局続出

エリスロシン®錠争奪戦15時頃、外来の患者さんも残り10人くらいになり、ラストスパートをかけようというとき。「先生、調剤薬局から疑義照会が来ています」と外来ナースが横からいつものFAX用紙を見せてきました。湿布を貼る場所を書き忘れたかなと思いながら見てみると、「エリスロシン錠の在庫がありません」の文字が。どうやら、販売元のヴィアトリス製薬で生産に問題が発生し、供給が不安定になっているようです。エリスロシン錠をめぐる騒動は、静かに、しかし確実に広がっています。7月には限定出荷の通知がありましたが、処方が多い呼吸器内科や耳鼻咽喉科で、その影響を実感し始めています。呼吸器内科領域のエリスロシン処方びまん性汎細気管支炎(DPB)という、気管支がびまん性に拡張する疾患があります。喀痰に悩まされる方が多いです。悩まされるだけならまだしも、耐性緑膿菌を保菌したり、細菌感染症で入院を繰り返したり、わりと社会生活上インパクトが大きな慢性呼吸器疾患です。1980年代前半のDPBの5年生存率はわずか42%でした。しかし、エリスロマイシンの低用量投与が導入されると、その生存率は劇的に改善され1)、若くして亡くなるという事例は減りました。エリスロマイシンの効果は単なる抗菌作用にとどまらず、抗炎症効果も持っています。このため、細菌感染を予防するだけでなく、気道の炎症を抑える効果があるとされています。DPBの予後改善はこの抗炎症効果によるものと考えられています2)。基本的にはDPBをはじめとした気管支拡張症に対してエビデンスが蓄積されてきた薬剤ですが、肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に対しても有効とされています3)。肺MAC症は、マクロライド、エタンブトール、リファンピシンを用いた多剤併用治療が行われますが、このマクロライドが示すのは、アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシンです。エリスロマイシンの抗菌活性は決して高くなく、上述した抗炎症効果によって臨床的悪化を食い止める働きがあります。そのため、MACに対してクラリスロマイシンやアジスロマイシンとの間に交差耐性はないことが知られています。DPBに有効というだけでなく、MACに対するデメリットも少ないということで、エリスロマイシンを長期投与されている呼吸器内科通院中の患者さんは多いです。拡大解釈されて、気管支拡張症にも用いられています。マクロライドスイッチにご注意を冒頭の続きです。エリスロシン錠の在庫がありません問題ですが、「エリスロマイシン錠」やクラリスロマイシンに余波が広がりつつあるということが懸念材料です。まず、「エリスロシン錠」と「エリスロマイシン錠」は、厳密には一般名が異なる製品です。エリスロシン錠の一般名は、「エリスロマイシンステアリン酸塩」で、エリスロマイシン錠の一般名は、シンプルに「エリスロマイシン」です。エリスロマイシン錠は、エリスロシン錠の後発医薬品でないのです。実は、適応菌種などに微妙な差が存在します(表)。画像を拡大する表. エリスロシン錠とエリスロマイシン錠の適応菌種・適応症・効能効果(赤字が異なる部分)今回出荷が問題になっているのはエリスロシン錠ですが、現在「エリスロマイシン錠」の処方が増えていると聞いています。さらに、クラリスロマイシンの処方が一部地域で増えつつあるそうです。代替薬としてクラリスロマイシンが提示されることが、まれにあるようです。副鼻腔炎や気管支拡張症に長期間クラリスロマイシンの単剤治療を適用すると、マクロライド耐性の非結核性抗酸菌を助長する可能性があります4)。そのため、エリスロシン錠からクラリスロマイシンへスイッチ、というのは代替薬としては推奨できないと考えてよいでしょう。参考文献・参考サイト1)Kudoh S, et al. Improvement of survival in patients with diffuse panbronchiolitis treated with low-dose erythromycin. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jun;157(6 Pt 1):1829-1832. 2)Tanabe T, et al. Clarithromycin inhibits interleukin-13-induced goblet cell hyperplasia in human airway cells. Am J Respir Cell Mol Biol. 2011 Nov;45(5):1075-1083. 3)Komiya A, et al. Long-term, low-dose erythromycin monotherapy for Mycobacterium avium complex lung disease: a propensity score analysis. Int J Antimicrob Agents. 2014 Aug;44(2):131-135.4)Griffith DE, et al. Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 Oct 15;174(8):928-934.

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マイコプラズマ肺炎ってどんな病気?

マイコプラズマ肺炎ってどんな病気?• マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染することによって起こります• 14歳以下で多く報告されていますが、大人もかかることがあります• 感染後2~3週間の潜伏期間があり、発熱や倦怠感(だるさ)、頭痛、咳などの症状がみられます(咳は少し遅れて始まることもあります)• 咳は熱が下がった後も長期にわたって(3~4週間)続くのが特徴です• 多くの場合は気管支炎ですみ、軽い症状が続きますが、一部の人は肺炎になったり重症化することもあるので、注意が必要です治療法は?•他の人にうつさないようにするには?抗菌薬により治療します※ただし、大人で肺炎を伴わない気管支炎であれば、抗菌薬治療は行わないことが推奨されています•咳が長引くなどの症状があるときは、医療機関で診察を受けましょう出典:厚生労働省「マイコプラズマ肺炎」•感染した人の咳のしぶき(飛沫)を吸い込んだり、身近で接触したりすることにより感染します•流水と石けんによる手洗いが大切です•タオルの共用はしないようにしましょう•咳の症状がある場合には、マスクを着用するなど咳エチケットを心がけましょうCopyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第230回 肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少

肥満症治療薬セマグルチドでコロナ死亡が減少ノボ ノルディスク ファーマの肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬セマグルチド2.4mg皮下注(商品名:ウゴービ)と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)による死亡率低下との関連が第III相SELECT試験の長期経過解析で示されました1)。SELECT試験の被験者の割り振りは、COVID-19流行開始前の2018年10月に始まって2021年3月まで続き、被験者の受診は2023年6月29日に完了しました。すなわち同試験の期間はCOVID-19流行の最悪期である2020年3月~2022年3月の約2年間をすっかり含みます。SELECT試験には、太っていて(BMIが27以上)心血管疾患の既往があるものの糖尿病ではない45歳以上の1万7,604例が参加しました。それら被験者の選択基準は図らずも後に判明するCOVID-19重症化リスクが高い集団の特徴とかぶるものでした。よってSELECT試験のデータは、COVID-19重症化リスクが高い人のSARS-CoV-2感染後の経過がセマグルチドでどう変わるかを調べるのに好都合です。そこでハーバード大学関連のブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究者らはSELECT試験の被験者の半数の経過が3.3年間に達した時点までのデータを解析し、COVID-19の経過にセマグルチド投与がどう影響したかなどを検討しました。昨年の11月にNEJM誌にすでに報告されているとおり、心血管が原因の死亡率(心血管死亡率)はセマグルチド投与群のほうがプラセボ投与群に比べて低かったものの、p値は0.05を超える0.07で有意ではありませんでした2,3)。それゆえ他の副次転帰の検定はなされませんでしたが、あらゆる死亡の発生率(全死亡率)はセマグルチド投与群のほうが19%低く、そのハザード比0.81の95%信頼区間は有望なことに1未満に収まる0.71~0.93でした。そしてCOVID-19死亡率も全死亡率と同様にセマグルチド投与群のほうが低いことが今回の解析で示されました。セマグルチド投与患者はプラセボ群と同程度にSARS-CoV-2に感染しました。しかしSARS-CoV-2感染したセマグルチド投与患者のほうがSARS-CoV-2感染したプラセボ投与患者に比べてCOVID-19死亡をより免れており、その発生率はセマグルチド投与群のほうがプラセボ群より34%低くて済んでいました。また、SARS-CoV-2感染者の深刻なCOVID-19関連有害事象の発生率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低いことが示されました(それぞれ2.6%と3.1%、p=0.04)。感染症による死亡率もセマグルチド投与群のほうがプラセボ群に比べて低くて済んでいました。それらの効果のメカニズムは不明です。体重の大幅な減少と重度のCOVID-19合併症が少なくて済むことの関連が肥満手術患者の観察試験で示されていることなどから察するに、セマグルチドの感染症死亡予防は体重減少のおかげらしいと著者は言っています1)。いずれにせよさらなる試験での検証が必要です。また、他の同種の薬の試験で新たな発見を得られそうです4)。参考1)Scirica BM, et al. J Am Coll Cardiol. 2024 Aug 27. [Epub ahead of print] 2)Lincoff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:2221-2232.3)Novo Nordisk A/S: Semaglutide 2.4 mg (Wegovy) cardiovascular outcomes data presented at American Heart Association Scientific Sessions and simultaneously published in New England Journal of Medicine. 4)Brigham-led study finds weight loss drug semaglutide reduced COVID-19 related deaths during the pandemic / Eurekalert

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第208回 都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省

<先週の動き>1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会6.独居高齢者の孤独死が2万8000人超に、2024年上半期/警察庁1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省厚生労働省は、8月30日に地域ごとの医師の偏在を是正するための総合対策を発表した。医師が多い都市部での新規開業を抑制するため、法令改正を含む一連の措置を検討しており、都道府県知事の権限を強化する予定。武見 敬三厚生労働大臣は30日の記者会見で、医師の偏在を是正するため、省内に「医師偏在対策推進本部」を設置、9月には初会合を開くことを発表した。具体的には、新規開業希望者に対して、救急医療や在宅医療などの地域で不足している医療サービスを提供するよう要請する法的枠組みを整え、開業を事実上制限することが柱となっている。さらに、地方の医療機関への財政支援を強化し、医師不足地域への医師派遣を推進するためのマッチング支援を行うことが検討されている。これには、医師が少ない地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関の拡大、大学医学部卒業後地元で働くことを条件に医学部入学を認める「地域枠」の再配置も含まれる。厚労省内では、部局横断の推進本部が新設され、年末までに具体的な対策パッケージがまとめられる予定。また、この対策は「近未来健康活躍社会戦略」の一環として、国民皆保険の維持や医療・介護産業の発展を目指している。今後、25年度予算案への反映や通常国会での法改正も視野に入れ、医師の偏在是正に向けた取り組みが本格化する見通し。参考1)武見大臣会見概要[令和6年8月30日](厚労省)2)今後の医師偏在対策について(同)3)近未来健康活躍社会戦略(同)4)医師偏在是正へ開業抑制、都道府県の権限強化 厚労省案(日経新聞)5)医師多い地域で開業抑制、厚労省が偏在是正へ対策骨子案 地方医療機関へ財政支援強化(産経新聞)6)医師偏在是正「多数区域」の知事権限強化など 厚労省が対策具体案、年末までに具体化(CB news)2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、「マイナ保険証」の利用促進策について検討した。2024年7月時点でのマイナ保険証の利用率は11.13%と低迷し、政府が掲げる現行健康保険証の12月廃止に向けた利用促進には課題が残っていることが明らかになった。とくに利用率が低い医療機関や薬局に対しては、厚労省が地方厚生局を通じて個別に事情を確認し、利用促進を図るための支援を行う方針を明らかにした。厚労省は「消極的な利用は療養担当規則違反の恐れがある」としているが、医療機関側からは威圧的との批判も寄せられている。政府はマイナ保険証の利用率を引き上げるため、医療機関に対して一時金の支給や補助金の期間延長などのインセンティブを提供してきたが、利用率については最高の富山県で18.0%、最下位の沖縄県で4.75%と依然として利用率が伸び悩んでいる状況。今後、政府は利用促進策をさらに強化し、国民の不安を解消するための広報活動にも力を入れる予定。さらに総務省と厚労省は、マイナンバーカードの利用拡大を図るための一連の新対策として、マイナンバーカードの暗証番号をコンビニエンスストアやスーパーで再設定できるサービスを開始し、従来の自治体窓口に出向く必要をなくした。変更にはスマートフォンの専用アプリを使用して事前手続きを行い、イオングループの店舗やセブン-イレブンの一部店舗内のマルチコピー機端末で再設定が可能となり、今後さらに広がる予定。マイナンバーカードの普及と利用促進に向けた政府の取り組みが進んでいるが、現場の課題や地域差が浮き彫りになっており、さらなる対策が求められている。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証 利用率低い医療機関や薬局に聞き取りへ 厚労省(NHK)3)マイナ保険証利用増へ追加策 厚労省、個別に働きかけ(日経新聞)4)マイナ保険証、利用実績低い施設に働き掛けへ 7月の利用率11.13%、新たな利用促進策(CB news)3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省厚生労働省が発表した2024年1~6月の人口動態統計(速報値)によると、出生数は前年同期比5.7%減の35万74人で、1969年の統計開始以来、上半期として最少を更新した。この減少は、少子化の深刻さを浮き彫りにしている。前年同期比で約2万人の減少がみられ、これで3年連続して40万人を下回る結果となった。また、2014年と比べると出生数は約3割減少しており、長期的な低下傾向が続いている。加えて、2024年の年間出生数が70万人を下回る可能性が高まっており、少子化対策の重要性が一層強調されている。婚姻数は、前年同期比で若干の増加がみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響による晩婚化や晩産化が、今後の出生数減少に拍車をかける可能性がある。厚労省は、若い世代の減少や晩婚化により、出生数が今後も中長期的に減少する可能性が高いとし、少子化対策は待ったなしの危機的状況であると強調する。政府は、児童手当の拡充などの対策を進めているが、これまでの施策だけでは減少を食い止められていない状況。参考1)人口動態統計速報(令和6年6月分)(厚労省)2)上半期の出生数速報値で35万人余 統計開始以来最少に(NHK)3)1~6月の出生数は35万74人、上半期で過去最少 厚労省統計(朝日新聞)4)出生数1~6月最少、5.7%減の35万人 年70万人割れの恐れ(日経新聞)4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、一定の所得がある75歳以上の高齢者の窓口負担割合を、2022年10月から医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げられた影響で、1人当たりの1ヵ月の医療費が3~6%減少したことが明らかにした。この調査は、2割負担の高齢者と1割負担のままの高齢者の診療報酬データを比較して行われ、医療サービスの利用が減少したことが確認された。とくに、糖尿病や脂質異常症などの一部の疾病で外来利用が顕著に減少しており、負担増が受診控えに繋がった可能性が示唆されている。厚労省が行った厚労科学研究の結果、負担増に伴う「駆け込み需要」も一部でみられたことが報告された。調査では、2割負担への移行後に医療サービスの利用日数が約2%減少し、医療サービス全体の利用が約1%減少したことが確認された。これにより、高齢者の医療費総額が減少し、特定の疾病での外来受診が減る傾向がみられた。一方、負担増が高齢者の健康にどのような影響を与えているかについては、さらに詳しい調査が必要とされ、社会保障審議会委員からも健康影響の検証を求める声が上がっている。今後、厚労省は、この調査結果を基に、後期高齢者医療制度の窓口負担割合の見直しを検討する方針。この調査結果は、高齢者の医療費負担増が医療サービスの利用にどのような影響を及ぼしているかを理解する上で重要な資料となり、これからの政策立案に役立てられることが期待されている。参考1)後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について(厚労省)2)受診控えで医療費3~6%減 窓口負担1割→2割に増の75歳以上 厚労省調査(産経新聞)3)75歳以上で窓口負担2割、1ヵ月の医療費3%減少 1割負担者と比べ 厚労科研で検証(CB news)5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会が、2024年8月30日に発表した調査結果によると、2022年に国内で実施された不妊治療の一環である体外受精によって誕生した子供は、過去最多の7万7,206人に達した。これは、前年よりも7,409人増加し、全出生数の約10人に1人が体外受精で生まれたことを意味している。2022年の総出生数は約77万人であり、体外受精による出生がこれまでで最も多くなったことが確認された。体外受精の治療件数も過去最多の54万3,630件に上り、前年から4万5,000件以上増加した。とくに42歳の女性での治療件数が突出して多く、4万6,095件に達した。これは、2022年4月から体外受精に対する公的医療保険の適用が始まり、費用面でのハードルが下がったことが大きく影響したと考えられている。保険適用の対象は43歳未満の女性であるため、この年齢までに治療を行いたいと考える人が増加したとされている。また、体外受精の治療件数は2021年の約50万件からさらに増加し、前年の45万件台の横ばい傾向から再び上昇に転じた。この増加傾向は、2021年に続く大規模なもので、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な減少を除けば、近年は一貫して増加していることが示されている。その一方で、適齢期の女性の人口が減少していることから、今後もこの増加傾向が続くかどうかは不透明であり、専門家からは、医療保険適用による一時的な増加が影響している可能性が高く、今後の動向については引き続き注視が必要だとしている。参考1)2022年体外受精・胚移植等の臨床実施成績(日本産科婦人科学会)2)22年の体外受精児、10人に1人で過去最多 識者「保険適用でハードル下がった」(産経新聞)3)体外受精児、最多7.7万人 22年、10人に1人の割合(日経新聞)4)2022年に国内で実施の体外受精で生まれた子ども 年間で最多に(NHK)6.独居高齢者の孤独死が2万8,000人超に、2024年上半期/警察庁警察庁は、2024年上半期(1~6月)に全国で自宅死亡した独居高齢者(65歳)が2万8,330人に達したことを初めて発表した。これは、同期間に全国の警察が取り扱った自宅で死亡した1人暮らしの人が、全国で3万7,227人(暫定値)いた中の約76.1%を占めている。この統計は、政府が進める「孤独死・孤立死」の実態把握の一環として行われ、今後の対策の議論に活用される予定。この中で孤独死は、85歳以上の高齢者が7,498人と最も多く、次いで75~79歳の5,920人、70~74歳の5,635人と、高齢者の孤独死が顕著だった。また、男女別では男性が2万5,630人、女性が1万1,578人と、男性の方が圧倒的に多い傾向がみられた。地域別では東京(4,786人)が最も多く、続いて大阪、神奈川といった都市部での高齢者の孤独死が目立っている。さらに、死亡から警察が認知するまでの期間が1日以内のケースが全体の約4割に当たる1万4,775人であった一方で、15日以上経過したケースも19.3%に達し、孤立した生活の中で発見が遅れる事例が少なくないことが浮き彫りとなった。政府は昨年8月から「孤独死・孤立死」の問題に対応するためのワーキンググループを設置し、今年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行された。この統計結果は、今後の政策立案や社会支援の強化に向けた貴重な資料として活用されることが期待されている。参考1)令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)2)独居高齢者、今年上半期に2万8,000人が死亡 7,000人超が85歳以上 警察庁まとめ(産経新聞)3)高齢者の「孤独死」、今年1~6月で2万8,330人…警察庁が初めて集計(読売新聞)4)高齢者の「孤独死」、半年で2万8千人 死後1ヵ月以上経ち把握も(朝日新聞)

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脾腫の鑑別診断(2)[感染症編]【1分間で学べる感染症】第10回

画像を拡大するTake home message脾腫の感染症の鑑別診断は「MESHBELT」で覚えよう。今回は脾腫の鑑別診断、とくに感染症に焦点を当てて学んでいきましょう。前回は脾腫の鑑別診断を「CHINA」で覚えました。脾腫を来した患者を診る場合には、この「CHINA」に加えて感染症疾患の多様な鑑別診断を念頭に置いて、精査やリスクに応じた治療を開始することが重要です。脾腫を来す感染症で頻度が高いものとしては、EBウイルスやCMVなどによる伝染性単核球症が重要です。また、海外からの渡航者であれば渡航地域のリスクによって、マラリアや腸チフスなど、地域特有の疾患を考える必要があります。さらには、ネコの曝露によりバルトネラやトキソプラズマ、ネズミや汚染された土壌・淡水などの曝露によりレプトスピラが考えられます。レプトスピラは農業従事者、下水管作業従事者、食肉処理業者だけではなく健常者でも報告があります。最後に、感染性心内膜炎の合併症としては、免疫複合体による脾梗塞の機序や菌体そのものが脾膿瘍を引き起こして脾腫を来すこともあるため、注意が必要です。脾腫を来した患者を診る場合、まずは感染症の診断・除外が重要になります。それぞれの疾患に対してのリスクを問診や身体所見、そのほかの他覚的所見で絞り込むようにしましょう。1)Aldulaimi S, et al. Am Fam Physician. 2021;104:271-276.

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新クラスの抗菌薬、「人喰いバクテリア」にも有効か

 新たな抗菌性化合物により、マウスに感染した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を効果的に除去できることを示した研究成果が報告された。S. pyogenesは「人喰いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)」の主な原因菌であり、この細菌による感染症により毎年50万人が死亡している。研究グループは、「この化合物は、薬剤耐性菌との闘いにおいて貴重な存在となり得る、新規クラスの抗菌薬の第1号となる可能性がある」と述べている。米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のScott Hultgren氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に8月2日掲載された。 ペプチドミメティックなジヒドロチアゾロ環縮合2-ピリドンという分子構造を持つこの新しい化合物は、「GmPcides」と名付けられている。当初、Hultgren氏らは、共同研究者であるウメオ大学(スウェーデン)化学分野のFredrik Almqvist氏に、尿道カテーテルの表面に細菌のバイオフィルムが付着するのを防ぐ化合物の開発を依頼したが、結果的に、この化合物が複数の種類の細菌に対して感染防止効果を持っていることが判明したという。 論文の上席著者である、セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のMichael Caparon氏は、「エンテロコッカス属やブドウ球菌、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)など、われわれがテストした全てのグラム陽性菌がこの化合物に対して感受性を示した」と話す。グラム陽性菌は細胞壁が厚く、感染時にさまざまな毒素を放出する傾向があり、薬剤耐性の黄色ブドウ球菌感染症、中毒性ショック症候群、その他の致命的な感染症の原因となっていると研究グループは説明する。 今回の研究では、S. pyogenesに感染させたマウスを用いて、皮膚軟部組織感染症(SSTI)に対するGmPcidesの効果が検討された。壊死性筋膜炎などで知られる皮膚軟部組織感染症には複数の細菌が関与し、症状の進行が早く、感染の広がりを抑えるために肢の切断を要する場合もあり、罹患者の約20%が死亡する。 その結果、GmPcidesを投与されたマウスでは未治療のマウスに比べて、体重減少が少なく、感染による症状として現れる潰瘍が小さく、感染からの回復も速いことが示された。 ただし、GmPcidesがどのようにしてこのような効果をもたらすのかは明確になっていない。しかし、顕微鏡による観察からは、GmPcidesが細菌の細胞膜に重要な影響を与えていることが示されている。Caparon氏は、「細胞膜の機能の1つは、外部からの物質を排除することだ。GmPcidesによる処理後5〜10分以内に膜が透過性を持ち始め、通常は排除されるべきものが細菌の中に入り込むようになることが分かっている」と説明する。GmPcidesによる細胞膜の損傷は、細菌が宿主に対して損傷を引き起こす機能や、宿主の免疫応答に対抗する能力を低下させることが考えられるという。 さらにGmPcidesによる治療では、薬剤耐性菌の発生が少ない可能性も示された。薬剤耐性菌を作成する実験では、治療に耐えられる細胞はごくわずかであり、そのため耐性を持つ菌が次世代に引き継がれることはほとんどなかった。 以上のように有望な結果が得られたとはいえ、Caparon氏は、GmPcidesが病院や薬局で入手できるようになるまでには、まだ時間がかかると話す。同氏らは、この研究で使用された化合物の特許を取得し、彼らが所有権を持つ企業QureTech Bio社にライセンスを供与した。同氏らはこの企業と協力して製薬開発や臨床試験を進め、GmPcidesを市場に出すことを計画している。

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コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。これまでPASC(またはlong COVID)に関する研究のほとんどは成人を対象としたもので、小児におけるPASCの病態についてはあまり知られていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月21日号掲載の報告。6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析 RECOVER-Pediatricsコホート研究は、4つのコホートで構成され、前向き研究と後ろ向き研究を併合して解析した。今回は、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず医療機関および地域から新規に募集した0~25歳の参加者を含むde novo RECOVERコホートと、米国最大の思春期の脳の発達に関する長期研究であるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)コホートのデータの解析結果が報告された。 対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、黒人またはアフリカ系アメリカ人11%、ヒスパニック系、ラテン系またはスペイン人34%、白人60%、思春期児がそれぞれ14.8歳、48%、13%、21%、73%であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった。 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

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新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

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第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

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モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

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妊娠中のチーズ摂取が子どもの発達に好影響?

 日本の大規模研究データを用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、子どもの3歳時点の発達との関連を調べる研究が行われた。その結果、妊婦の発酵食品の摂取量が多いことは子どもの発達の遅れのリスク低下と関連し、この関連は、特にチーズで強いことが明らかとなった。富山大学医学部小児科の平井宏子氏らによる研究であり、「PLOS ONE」に6月21日掲載された。 母親の腸内細菌叢は、新生児の腸内細菌叢の構成に影響し、さまざまな微生物が産生する神経伝達物質の作用を通じて、神経系に影響を及ぼすと考えられる。著者らは過去の研究で、妊娠中に母親が摂取する発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルト、チーズ)と、子どもの1歳時点の発達との関係を調査し、妊娠中の発酵食品の摂取が子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性を報告している。 今回の研究で著者らは、日本全国規模の出生コホート研究である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータ(リクルート期間:2011年1月から2014年3月)を用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、3歳時点の子どもの発達との関係を調査した。「食事摂取頻度調査票」を用いて、妊娠中の味噌、納豆、ヨーグルト、チーズの摂取量を算出した。子どもの3歳時点の発達は、「ASQ-3」という指標を母親に回答してもらい、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)を評価した。解析対象者は、母子6万910組だった。 妊娠中の発酵食品の1日当たりの摂取量を四分位で4群(Q1~Q4)に分類し、妊婦の背景因子を調整した上で、3歳時点の発達との関連を多変量ロジスティック回帰で解析した。その結果、チーズの摂取量は、Q1群(0~0.7g)と比べ、Q2群(1.3~2.0g)、Q3群(2.1~4.3g)、Q4群(5.0~240.0g)で、5つの領域全てにおいて、発達の遅れのリスク低下と関連していた。また、味噌のQ4群(147~2,063g)とヨーグルトのQ4群(94~1,440g)は、コミュニケーション領域でのみ、発達の遅れのリスク低下と関連していた。これらの関連については、摂取していた母親から生まれた子どもでは、リスクが低いという有意な傾向が認められた。一方、納豆については、摂取量と発達との関連は認められなかった。 今回の研究の結論として著者らは、「妊娠中にチーズを摂取することと、子どもの3歳時点における発達の遅れのリスクが逆方向の関連を有することが明らかになった」としている。また、発酵食品の種類により異なる結果が得られたことに関しては、栄養成分などが発酵食品ごとに異なり、健康促進効果も異なると考えられることなどに言及。今後さらなる研究が必要とした上で、「発酵食品の摂取により妊婦の腸内環境を改善することは、子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

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