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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第22回

第22回:成人の頸部リンパ節腫脹について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの現場で、頸部リンパ節腫脹はそれ自体を主訴に受診する場合のほか、急性疾患に罹患して受診した際に気付かれる、時に見られる症候の一つです。 生理的な範疇なのか、反応性なのか、それとも悪性なのかの区別をつけることが、臨床的には重要になります。 以下、American Family Physician 2015年5月15日号1)より原則として、経過が急性・亜急性・慢性かで鑑別を考える。急性【外傷性】外傷性の場合、組織や血管系の損傷による。少量であれば自然軽快するが、大きく、急性に増大する場合はすぐに処置や外科的精査を要する。剪断力が追加されると偽性動脈瘤の形成・動静脈瘻の形成につながる。その場合はスリルや雑音を伴った柔らかい、拍動性腫瘤として触れる。【感染・炎症性】最も多い原因である。歯や唾液腺のウイルス細菌によるものが代表的である。性状は腫脹、圧痛、発赤や熱感を伴う。可動性がある。ウイルス性の上気道症状は1~2週続くことが一般的だが、リンパ節腫脹は上気道症状改善後3~6週以内に治まってくることが多い。そのため、上気道症状改善後にも頸部腫脹が続くことで心配して受診する患者さんもいる。病原ウイルスはライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザが多い。生検が適応になるのは、4~6週経っても改善しなかったり、夜間の寝汗・発熱・体重減少・急速な腫瘤増大といった悪性を示唆する所見があったりする場合である。よって、この点について病状説明を行うべきと考える。細菌性感染では、頭部・頸部がフォーカスの場合に主に頸部リンパ節腫脹を来す。肺外結核も頸部リンパ節腫脹を起こす。びまん性、かつ両側性にリンパ節腫脹があり、多発し、可動性もなく、硬く圧痛もなく、胸鎖乳突筋より後ろの後頸三角地帯に存在していることが特徴である。疑えば、ツベルクリン反応を行うべきだが、結果が陰性だからといって否定はできない。亜急性週~月単位の経過で気付かれる。ある程度は急速に増大しうるが、無症候性に増大するため発症スタートの段階では気付かれない。成人で持続する無症候性の頸部腫瘤は、他の疾患が否定されるまでは悪性を考えるべきである。喉頭がんなどでは診断が遅れる事で生存率が下がるため、家庭医にとって頭頸部がんの一般的な症状については認識しておくことが最重要である。【悪性腫瘍】頭頸部の原発性悪性腫瘍で最も多いのは上気道消化管の扁平上皮がんである。よくある症状としては、改善しない潰瘍・構音障害・嚥下障害・嚥下時痛・緩いもしくは並びの悪い歯・咽頭喉頭違和感・嗄声・血痰・口腔咽頭の感覚異常がある。悪性疾患を示唆するリンパ節の性状は、硬い・可動性がない・表面不整であることが多い。上気道消化管がんのリスクファクターとしては、男性・アルコール・タバコ・ビンロウの実(betel nut:東南アジアではガムを噛むようによく使用されている)である。口腔咽頭がんのリスクファクターは頭頸部扁平上皮がんの家族歴・口腔衛生不良である。扁平上皮がんの一部はヒトパピローマウイルス感染との関連も指摘されている(とくにHPV-16がハイリスク)。病変は急速に腫大し、嚢胞性リンパ節(持続性頸部リンパ節過形成)、口蓋・舌扁桃の非対称性、嚥下障害、声の変化、咽頭からの出血といった症状を来す。集団としてリスクが高いのは、35歳~55歳の白人男性で喫煙歴・重度のアルコール常用者・多数の性交渉相手(とくにオーラルセックスを行っている場合)の存在である。唾液腺腫瘍の80%近くが良性であり、耳下腺由来である。これらの腫瘍は一側性で無症候性、緩徐に増大し可動性のある腫瘤である。一方、悪性腫瘍では、急速増大、可動性がなく、痛みを伴い、脳神経(とくにVII)も巻き込むという違いがある。黒色腫のような皮膚がんもまた局所のリンパ節に転移する。局所のリンパ節腫脹を説明しうる原発の頭頸部がんが存在しない場合、臨床医は粘膜に関わる部位(鼻・副鼻腔・口腔・鼻咽頭)の黒色腫を検索するべきである。まれに基底細胞がんや扁平上皮がんからの転移でリンパ節腫脹を来すこともある。発熱、悪寒、夜間寝汗、体重減少といった全身症状は遠隔転移を示唆しうる。頸部リンパ節腫脹を来す悪性腫瘍の原発部位は肺がん、乳がん、リンパ腫、子宮頸がん、胃食道がん、卵巣がん、膵がんが含まれる。頸部はリンパ腫の好発部位であり、無痛性のリンパ節腫脹で出現して急速に進行し、その後有痛性へと変わる。びまん性のリンパ節腫脹や脾腫よりも先に全身症状が出現することが多い。転移によるリンパ節腫脹と比べ、リンパ腫の性状は弾性軟で可動性がある。Hodgkinリンパ腫では二峰性の年齢分布(15~34歳、55歳以上)があり、節外に症状が出る事はまれである。Non-Hodgkinリンパ腫では高齢者で多く、咽頭部の扁桃輪のようにリンパ節外にも症状が出る。リウマチ性疾患では唾液腺腫大を来すのは3%、頸部リンパ節腫脹を来すのは4%存在する。唾液腺腫大や頸部リンパ節腫大を来すリウマチ性疾患にはシェーグレン症候群やサルコイドーシスがある。慢性小児期から存在する先天性腫瘤がほとんどで、緩徐に進行し成人になっても持続している。慢性の前頸部腫瘤の原因として最も多いのは甲状腺疾患であるが、進行が緩徐であることがほとんどである。びまん性に甲状腺腫大がみられた場合、バセドウ病・橋本病・ヨード欠乏による可能性があるが、甲状腺腫を誘発するリチウムのような物質曝露によるものも考える。傍神経節腫は神経内分泌腫瘍で、側頸部の頸動脈小体の化学受容体・頸静脈・迷走神経を巻き込む。通常無症候性だが、機能性になる時はカテコラミン放出の結果として顔面紅潮・動悸・高血圧を起こす。診断的検査は血漿もしくは24時間蓄尿でカテコラミン・メタネフリンを測定する事である。診断手段成人の持続する頸部腫瘤に対しては、まず造影CTを選択する。大きさ・広がり・位置・内容などに関して評価しうる初期情報が得られるためである。加えて、造影剤は腫大していない悪性リンパ節を同定する助けにもなり、血管とリンパ節の区別の一助になりうる。造影CTでの精査は頸部腫瘤の評価に対しては第1選択として推奨される。しかし、ヨードを用いた造影剤検査は甲状腺疾患の病歴のある、もしくは転移性甲状腺がんの心配のある患者へは避けるべきである。PET-CTは予備的診断として使用するには効果的でなく、悪性腫瘍の最終的な評価目的で使用すべきである。超音波検査はCTの代わり、もしくは追加で行われるとき、嚢胞性疾患と充実性疾患との区別に有用であり、結節の大きさや血流の評価にも有用である。CTと超音波の使い分けとして、より若年で放射線被曝を減らしたい場合に超音波を選択する。また、造影剤腎症を避けるために腎疾患が基礎疾患にある方へは造影剤使用を控える。FNAB(fine needle aspiration biopsy:穿刺吸引生検)については、施行に当たり重要な構造物を含んでいないことが確認できていれば進めていく。FNABでは、細胞診、グラム染色、細菌培養、抗酸菌培養を通じて得られる情報が多い。FNABでの悪性腫瘍診断については、感度77~97%、特異度93~100%である。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) James Haynes, et al. Am Fam Physician. 2015; 91: 698-706.

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チクングニア熱に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ(まあ誰も呼んでないんですけどね)」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回は緊急特番として「MERSに気を付けろッ!」をお送りしましたが、今回は前々回の続きとして「チクングニア熱に気を付けろッ! その2」をお届けしたいと思います。デング熱との鑑別診断は大事なポイント前々回の「その1」では、チクングニア熱を野球界で例えると本塁打を60本打ったときのバレンティン選手(ヤクルトスワローズ)であり、手の付けようがないので敬遠するしかないというお話でした。そこで、今回はチクングニア熱の特徴とその敬遠の仕方についてお話ししたいと思います。チクングニア熱の臨床症状は、デング熱と非常に良く似ています。ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるところも同じですし、発熱、頭痛、関節痛といった非特異的な症状もそっくりです。おまけに皮疹までデング熱によく似ています。しかし、チクングニア熱がデング熱と異なる点もいくつかあります。チクングニア熱の潜伏期はおおむね2~4日とされており、デング熱(おおむね3~7日)よりやや短い期間で発症します1)。また、発熱は3~5日間くらい続くことが多く、これも5~7日間続くデング熱よりも短い傾向にあります。デング熱では少ない頻度ではありますが重症化し、出血症状が現れることがありますが、チクングニア熱では出血症状はまれです。また、チクングニア熱では関節痛だけでなく「関節炎」まで起こすことがあるのが特徴です。しかも、タチの悪いことに、この関節痛・関節炎は遷延化することがあり、長い人では3年経っても関節炎が残っていたという報告があります2)。図は熱が出た後から1ヵ月くらい両肩関節炎のため肩が上がらないという主訴で、国立国際医療研究センターを受診された患者さんです。チクングニア熱による慢性関節炎と診断しました。長期間QOLが低下してしまうという意味では、デング熱よりもやっかいな感染症です。また、左右対称性の慢性多関節炎ということで、関節リウマチが疑われてリウマチ膠原病科を受診する方もいらっしゃるようです。診断は、ウイルス血症を呈している急性期にPCR法でチクングニアウイルスを検出するか、亜急性期~慢性期にチクングニアに対するIgM抗体陽性、あるいはペア血清でのIgG抗体の陽転化または有意な上昇を確認することで診断されます(表1)。現在のところ、採算の面から気軽に行える検査ではありませんので、保健所に連絡をして地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査をしてもらうことになるでしょう。チクングニア熱は感染症法で4類感染症に指定されていますので、確定診断後にただちに保健所に届け出る必要があります。忘れないようにしましょう!やっぱり蚊に刺されないことが1番の予防さて、肝心のチクングニア熱の治療ですが……ありませんッ! 残念ながら今のところ対症療法しかないのです。関節痛が強いので、ついNSAIDsを使いたくなるのですが、デング熱との鑑別ができていない時点では、NSAIDsの使用は避けたほうがいいでしょう。なぜなら、デング熱であった場合にNSAIDsが出血症状を助長してしまうからですッ! チクングニア熱と診断されれば、NSAIDsの使用は可能です。なお、チクングニア熱による慢性関節炎に対するステロイドの有効性は今のところ不明です。というわけで、チクングニア熱にかかってしまったら大変ですので、チクングニア熱は敬遠するのが一番です。チクングニア熱のワクチンはまだ実用化されておりませんので、現実的には「蚊に刺されないこと」が重要となってきます。具体的な防蚊対策として、(1)蚊が多い時間・時期・場所を避ける(2)肌の露出を最小限にするため長袖長ズボンを着用する(3)DEETを含む防虫剤を適正に使用する(4)蚊帳の使用などが挙げられますが、とくに重要なのはDEET(N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)を含む防虫剤を適正に使用することであり、表2の持続有効時間ごとに塗り直す必要があります。わが国で販売されている防虫剤は、最大でも12%までしかDEETが含まれていません。そのため、基本的には2時間ごとにこまめに塗り直すことが推奨されます。海外のデング熱やチクングニア熱の流行地にいく場合には、より濃い濃度のDEETを含む防虫剤が販売されていますので、20~30%のDEETを含む製品を購入し、4~6時間ごとに塗り直すのがお勧めです。これでチクングニア熱をバッチリ予防しましょう!前回お話ししたようにチクングニア熱は毎年輸入例が報告されていますし、いつ日本で流行してもおかしくない感染症です。感染を広げないためには早期に診断し、感染者が蚊に刺されないよう指導することが重要になります。チクングニア熱の正しい知識を身に付け、症状を診察したときに正しく診断できるようにしておきましょう!さて、次回はクリプトコッカス界の新興感染症、Cryptococcus gattiiのガチな(シャレですう)気を付け方について、お話したいと思います!1)Borgherini G, et al. Clin Infect Dis.2007;44:1401-1407.2)Schilte C, et al. PLoS Negl Trop Dis.2013;7:e2137.3)Fradin MS, Day JF. N Engl J Med.2002;347:13-18.

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感度100%のエボラ迅速診断検査キット/Lancet

 エボラウイルス感染のための迅速診断検査キット「ReEBOV Antigen Rapid Test」は、ポイント・オブ・ケア検査(POCT)でもその診断感度が100%であることが報告された。米国・Partners In Health(ボストン)のMara Jana Broadhurst氏らが、106例を対象とした実地試験の結果、報告した。なお同氏らは284例を対象に検査センターでも試験を行い、同様な結果が確認されたことを報告している。Lancet誌オンライン版2015年6月25日号掲載の報告より。シエラレオネの2ヵ所の医療機関で、ポイント・オブ・ケア検査試験 研究グループは、シエラレオネの2ヵ所の医療機関で、エボラウイルス感染が疑われる患者106例について、指先穿刺による血液検体を用いた迅速診断検査キット「ReEBOV Antigen Rapid Test」の診断能について検証した。 同グループは被験者の検体を、臨床現場でのReEBOV Antigen Rapid Testと、検査センターでのリアルタイムRT-PCR(RealStar Filovirus Screen RT-PCR)の両方で検査し比較した。ReEBOV Antigen Rapid Testの結果については、2人の研究者が個別に結果を判断し、相違があった際には3人目を交えて判断した。 さらに別の試験として、シエラレオネの複数の医療機関から検査センターに集められた284の検体について、迅速診断検査とRT-PCRを行い、同じく結果を比較した。臨床現場・検査センターでも、迅速診断検査の感度100%、特異度92% その結果、RT-PCR検査でエボラウイルス感染が確認された人は28例で、そのすべてが迅速診断検査でも陽性だった(感度:100%、95%信頼区間[CI]:87.7~100)。また、RT-PCR検査で陰性だった77例中71例が、迅速診断検査でも陰性だった(特異度:92.2%、同:83.8~97.1)。 検査センターで実施した試験でも、RT-PCR検査でエボラウイルス感染が確認された45例全員が、迅速診断検査でも陽性だった(感度:100%、95%CI:92.1~100)。RT-PCR検査で陰性だった232例中214例が、迅速診断検査でも陰性だった(特異度:92.2%、同:88.0~95.3)。 なお、迅速診断検査の結果について2人の研究者の判断が一致したのは、ポイント・オブ・ケア検査では95.2%、検査センターでは98.6%だった。この結果について著者は、「ベンチマーク自体の感度は不十分ではあった」との点に触れつつ、「迅速診断検査はエボラウイルス感染陽性患者すべてを検出することが可能であった」と評価している。

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侮れない侵襲性髄膜炎菌感染症にワクチン普及願う

 サノフィ株式会社は2015年7月3日、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease、以下IMD)を予防する4価髄膜炎菌ワクチン(ジフテリアトキソイド結合体)(商品名:メナクトラ筋注)のプレスセミナーを開催。川崎医科大学小児科学主任教授 尾内 一信氏と、同大学小児科学教授 中野 貴司氏がIMDの疾患概要や予防ワクチンの必要性について講演した。  細菌性髄膜炎の起因菌にはHib(インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌などがあるが、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)もその1つである。髄膜炎菌は髄膜炎以外にも菌血症、敗血症などを引き起こし、それらをIMDと呼ぶ。IMDの初期症状は風邪症状に類似しており、早期診断が難しい。だが、急速に進行し発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死に至り、生存しても11~19%に難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残ると報告されている。また、髄膜炎菌は感染力が強く、飛沫感染で伝播するため集団感染を起こしやすい。そのため、各国の大学・高校、さらにスポーツイベントなどでの集団感染が多数報告されている。このような状況から、IMDは本邦でも2013年4月より第5類感染症に指定されている。 IMDは全世界で年間50万件発生し、うち約5万人が死亡に至っている。IMDの発生は髄膜炎ベルトといわれるアフリカ中部で多くみられるが、米国、オーストラリア、英国などの先進国でも流行を繰り返しており注意が必要だ。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国では2005年~2011年に年間800~1,200人のIMDが報告されている。発症年齢は5歳未満と10歳代が多くを占める。本邦でも、2005年1月~2013年10月に報告されたIMD 115例の好発年齢は0~4歳と15~19歳であった。 IMDの治療にはペニシリンGまたは第3世代セフェム系抗菌薬などが用いられるが、急速に進行するため予防対策が重要となる。IMDの予防にはワクチン接種が有効であることが明らかになっている。本邦の第III相試験の結果をみても、4価髄膜炎菌ワクチン接種後、80%以上の接種者の抗体価が上昇しており、その有効性が示されている。このような高い有効性から、発症数は多くないものの、米国、オーストラリア、英国においてはすでに定期接種ワクチンとなっている。 本邦でも4価髄膜炎菌ワクチン「メナクトラ筋注」が本年(2015年)5月に発売され、IMDの予防が可能となった。しかしながら、本邦におけるIMDの認知度は医師および保護者の双方で低い。また、IMDワクチンの医師の認知率は49%と約半分である。IMDの罹患率は低いが、そのリスクは無視できない。今後の啓発活動が重要となるだろう。サノフィプレスリリース「侵襲性髄膜炎菌感染症」に関する意識調査(PDFがダウンロードされます)「メナクトラ筋注」新発売のお知らせ(PDFがダウンロードされます)

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複合免疫不全症の遺伝子欠損を特定/NEJM

 複合免疫不全症からの早期発症の侵襲性細菌ウイルス感染症を発症した小児について、常染色体劣性のdedicator of cytokinesis 2 遺伝子(DOCK2)の欠損を特定したことを、米国・ボストン小児病院のKerry Dobbs氏らが報告した。複合免疫不全症は、存在するT細胞の量的および機能的不足というT細胞免疫の先天異常を特徴とする。液性免疫障害も一般的にみられ、患者は重度の感染症または自己免疫疾患、あるいは両方を呈する。複合免疫不全症は複数のタイプがみられ、特異的な分子、細胞および臨床的特徴は不明のままであった。NEJM誌2015年6月18日号掲載の報告より。5例の患児について検討 研究グループは、早期発症の侵襲性の細菌ウイルス感染症を有した非血縁の小児5例について、遺伝子的および細胞免疫について検討した。 患児には、リンパ球減少症、T細胞、B細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の反応低下がみられた。対象のうち2例は早期に死亡。その他3例は、同種異系造血幹細胞移植後、T細胞機能が正常となり臨床的改善を認めた症例であった。DOCK2欠損症の症状が共通 検討の結果、これら5例の患児について、DOCK2における両変異アレルが特定された。 また、T細胞におけるRAC1活性化の障害、T細胞、B細胞、NK細胞においてケモカインに誘導された遊走とアクチン重合の障害を確認した。NK細胞の脱顆粒の影響を受けていたことも確認された。 ウイルス感染後には、末梢血単核球によるインターフェロン-αおよびインターフェロン-λの産生低下がみられた。さらにDOCK2欠損線維芽細胞において、ウイルス複製が亢進しており、ウイルス誘導による細胞死の増加を認めた。これらの状態はインターフェロンα-2bによる治療後、または野生型DOCK2の発現後に正常化した。 これらを踏まえて著者は、「DOCK2欠損症は、造血性・非造血性免疫の多面的異常を伴う新たなメンデル遺伝性疾患である」と述べ、「複合免疫不全症の臨床的特徴、とくに早期発症の侵襲性感染症を発症した小児では、これらの症状がみられる可能性がある」とまとめている。

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真菌活性を有する新たなピーナッツアレルゲンを同定

 ピーナッツは、最も危険な食物アレルギーの原因の1つで、未知のアレルゲンが親油性マトリックスの中にまだ隠されている。ピーナッツアレルギー患者がアレルギーを起こすリスクを推定し診断法を改善するためには、こうしたアレルゲンを発見する必要がある。ドイツ・ボルステル研究所のArnd Petersen氏らは、この問題に取り組み、新しいピーナッツアレルゲン(Ara h 12およびAra h 13)として、とくに重度ピーナッツアレルギー患者のIgEと反応するディフェンシンを同定した。このディフェンシンは、抗細菌活性ではなく抗真菌活性を有することが明らかとなった。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌オンライン版2015年5月30日号の掲載報告。 研究グループは、ローストしたピーナッツの親油性抽出物から2次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)ならびにクロマトグラフィー法を用いて低分子量成分を分離するとともに、ピーナッツアレルギー患者の血清を用いてSDS-PAGEおよび免疫ブロット法を行い、アレルゲンタンパク質を検出した。 タンパク質シークエンシング、相同性検索および質量分析によりアレルゲンを同定し、好塩基球活性化試験を用いてアレルギー誘発性を、各種細菌および真菌の阻害試験により抗菌活性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・クロロホルム/メタノールで抽出後、疎水性クロマトグラフィーの流出液中に12、11および10kDaのIgE反応性タンパク質が検出された。・検出されたタンパク質は、ピーナッツアレルギー患者の好塩基球を活性化した。・EST(expressed sequence tag)データベースを用いて検索した結果、アレルゲンはピーナッツ-ディフェンシンと同定され、質量分析にて確認された。・ピーナッツ-ディフェンシンは、クラドスポリウム属およびアルテルナリア属の糸状菌株に対して阻害活性を示したが、抗細菌活性はなかった。

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特別編 MERSに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

2015年5月末からの韓国でのMERS流行を受けて、日本国内でも危機感が高まっています。今回、緊急特集として拙著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)でおなじみの忽那・上村コンビが「MERSの気を付け方」について語ります。韓国へ焼肉に行く前に 上村「くつな先生、ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」 忽那「なんだ?」 上村「明日から韓国に焼肉を食べに行ってきますので、その間の当直をお願いしてもいいですか? 当直代は僕がもらいますんで」 忽那「ちょっと待て。いい訳ないだろう」 上村「大丈夫ですよ、先生にもキムチを買ってきますから」 忽那「そうじゃない。おまえ、今の状況がわかってないのか」 上村「わかってますよ。今は日韓関係が冷えきっているから渡航は控えたほうがいいんじゃないかってことでしょ? でもね、先生…逆にそんな今だからこそ思うんですよ、僕が焼肉を食べることで日本と韓国の距離が縮まれば最高じゃないかってね…」 忽那「何が『逆に』なのかわからんが、オレが言ってるのは、日韓関係のことじゃない。MERSだよ、MERS」 上村「またまた~。マーズレンS®のことをそんなオシャレな言い方しちゃって~、胃でも荒れてるんですか~?」 忽那「マーズレンS®は今関係ない! おまえ、ホントにテレビとか見てないんだな。MERSと言ったら『中東呼吸器症候群』のことだろ。韓国は今MERSで大変なことになってるんだよ!」 上村「いつから韓国は中東になったんですか!」 忽那「ああ、もう!おまえと話してると話が一向に進まないな! 中東ではやってた感染症が、韓国でも流行してるんだよ!」 上村「ふーん…中東呼吸器症候群って名前なのに中東だけじゃないんですか」 忽那「そうだ。サウジアラビアを中心に中東で流行しているMERSだが、これまでに25ヵ国で症例が報告されている(図1)1)。MERSは中東以外でも発生しているのだッ!」画像を拡大する 上村「でも発端となったのは中東からの輸入例ってことですよね?」 忽那「そのとおり! そして、その中でもイギリス、フランス、チュニジアでは輸入例を発端とした国内でのヒト-ヒト感染事例が報告されているのだッ!1)」 上村「オソロシス!!」 忽那「そう、恐ろしいね……そして2015年5月現在、韓国でも輸入例を発端としたMERSのヒト-ヒト感染がこれまでにない規模で起こっているんだ」 上村「なるほど…韓国でMERSってのはそういう意味だったんですね。じゃあ今は韓国でも10人くらいの患者が出てるんですか?」 忽那「10人なんてもんじゃない。とっくに100人を超えているレベルだ」 上村「ワンハンドレッド・パーソンズ! チャバイじゃないですか!それ、チャバイじゃないですか!」 忽那「2015年5月24日に、中東地域に渡航歴のある60代男性の確定例が報告されてからというもの、日に日に症例は増え、7月22日現在感染者は186人、死者は36人に達している。今や4次感染例まで報告されているんだ(図2)2)」画像を拡大する 上村「そうか…さっきの言葉は『韓国に旅行するのは危ない』って意味だったんですね」 忽那「まあ『韓国に旅行するとMERSに感染するぞ』って意味ではないけどね」 上村「えっ? 言ってることがわからないんですけど! 韓国ではMERS患者があふれてるんじゃないんですか?」 忽那「いや、今のところ韓国で報告されているMERS患者はすべて疫学的なリンクが追えている症例ばかりだし、しかもそのほとんどが病院内での曝露によって感染していると考えられている」 上村「じゃあ韓国に焼肉を食べにいっても、感染しないってことですか?」 忽那「まあ現時点では可能性はきわめて低いだろうね…でも、わざわざ今韓国にいくのはお勧めしないけど。帰ってきてから熱が出ようものなら面倒なことになるよ?」 上村「確かに…焼肉はMERSが落ち着いてからにしようかな…」 忽那「その前に、われわれはいつMERSが来てもいいように、十分な準備をしておくべきではないだろうか」 上村「ほほん。つまり『MERSの気を付け方』を知っておくということですね」 忽那「そういうことだ」MERSの実体は何だ? 上村「でも、そもそもMERSってそんなに怖い病気なんですか? マーズレンS®は効かないんですか?」 忽那「現時点でMERSに有効な抗ウイルス薬はない。それは胃薬であるマーズレンS®も例外ではないッ!」 上村「頼みの綱のマーズレンS®が…」 忽那「2012年4月から2015年6月10日までに全世界で1,288例のMERS症例が報告されているが、そのうち498例が亡くなっている。つまり致死率は38.7%ということになる」 上村「38.7%って…エボラ並みじゃないですか! MERS激ヤバでしょ! 終わりだ…もう世界は終わりだ~!」 忽那「落ち着けッ! MERSが恐ろしい感染症であることは間違いない…だが、実際のMERSの致死率はここまでは高くないだろう」 上村「実際のって…実際のMERSの致死率が38.7%って話でしょ~がよ!なに訳わかんないこと言ってるんですか!?」 忽那「感染症はしばしば軽症では、検査が行われずに見逃されやすい。逆に重症例はしっかりと診断されることが多い。つまり、見かけの致死率は高くなりやすい傾向にあるんだ。現に、積極的な検査が行われている韓国では、致死率は10%前後と低い状態にある」 上村「10%でも十分高いでしょ!」 忽那「そのとおり。いずれにしても怖い感染症には間違いないね」 上村「MERSの怖さはわかったんですが…どういう症例でMERSを疑ったらいいんでしょうか?」MERSへの対応 忽那「厚生労働省は、1.中東地域・韓国などの感染地域から帰国後14日以内に、38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、臨床的又は放射線学的に肺炎、ARDSなどの実質性肺病変が疑われる場合 2.発症前14日以内にそれらの国において、医療機関を受診もしくは訪問した者、MERSであることが確定した者との接触歴がある者、ヒトコブラクダとの濃厚接触歴がある者で発熱を伴う急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合 3.発症前14日以内にそれらの国によらず、MERSが疑われる患者を診察・看護もしくは介護していた者、MERSが疑われる患者と同居(当該患者が入院する病室又は病棟に滞在した場合を含む。)していた者、MERSが疑われる患者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた者で発熱または急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合の3つのいずれかに該当し他の原因が明らかでない場合、MERS疑似症として対応するように、という通知を2015年6月4日に出している。これを念頭に置いておくことが重要だね」 上村「なんか言い回しが難しくてよくわからないんですけど!」 忽那「上村…『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』でさんざん教えただろう。輸入感染症で重要なのは『渡航地・潜伏期・曝露歴』の3つだと!」 上村「…ハッ! そうでした…友情ッ!努力ッ!勝利ッ!」 忽那「MERSの感染が持続的に見られているのは中東と韓国であること、MERSの潜伏期は2~14日であること3)、MERSの感染はラクダとの濃厚接触や病院内感染が多く、ヒト-ヒト感染では原則として飛沫感染であることを考えると、渡航地中東または韓国に渡航していたか潜伏期渡航から発症までが14日以内か曝露歴ラクダとの接触歴があるか、現地で病院を受診または入院しているか、MERS患者と接触があったかが重要ということになる。このポイントを覚えておくことが重要なんだ」 上村「なるほど…勉強になるっす!」 忽那「これらの疑似症に当てはまる症例は、ただちに保健所に連絡し、感染症指定医療機関(特定、第1種または第2種)に搬送され、地方衛生研究所で気道検体のPCR検査が行われることになる。ちなみに日本国内におけるMERS診断までの流れは厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150604_01.pdf)で確認することができるので、これも確認しておこう」MERSの診断と対策 上村「了解です!ちなみに中東呼吸器症候群っていうくらいだから、まず間違いなく呼吸器症状があるんですよね?」 忽那「呼吸器症状の頻度は高いと言われている…が、100%ではない。サウジアラビアで診断された47人のMERS症例の臨床症状がまとめられている4)が、それによると、発熱(>38℃) - 46人(98%)悪寒と戦慄を伴った発熱 - 41人(87%)咳 - 39人(83%)(乾性47%、湿性36%)息切れ - 34人(72%)血痰- 8人(17%)咽頭痛 - 10人(21%)筋肉痛 - 15人(32%)下痢 - 12人(26%)嘔吐 - 10人(21%) 腹痛 - 8人(17%)胸痛- 7人(15%)頭痛- 6人(13%) 鼻炎- 2人(4%)胸部X線所見の異常 - 患者47人(100%)となっており、咳や息切れも100%ではなく、また消化器症状や頭痛・筋肉痛といった全身症状もみられることがある。つまり、呼吸器症状がなければMERSの可能性は下がるが、完全に除外することはできないということになる」 上村「難しいなあ…なんか見逃しちゃうのが怖いんですけど」 忽那「少しでも疑わしい症例をみたら、ひとりで抱え込まずに保健所に相談するほうが安全だろうね」 上村「わかりました!悩んだらくつな先生を呼びます」 忽那「うん、悩んだら保健所に相談しようね」 上村「頼りないなあ…もし本当に疑わしい症例の対応をすることになったら感染対策はどうすればいいんですか?」 忽那「現時点ではまだ完全にはわかっていないこともあるけど、MERS-CoVは飛沫感染および接触感染で伝播すると考えられている。なので、WHOは飛沫感染予防策と接触感染予防策の徹底を推奨している5)」 上村「ふーん、N95マスクは要らないんですか?」 忽那「気管挿管や気管内吸引などのエアロゾルが発生するような場合には、N95マスクの着用を含む空気感染予防策を推奨している」 上村「ですよね~。なんとなくN95がないと不安なんですよ…」 忽那「確かにCDCはエアロゾル発生手技に限らず、空気感染予防策を推奨してるけどな6)。この違いは、まだMERSという感染症がよくわかっていないからということもあるだろうし、CDCは資源が豊富なアメリカのための機関であり、WHOは世界中の感染症対策のことを考えないといけない機関であり、途上国の状況も配慮した感染症対策を提示しなければならないという、それぞれの立場の違いも関係しているのかもしれないね」 上村「じゃあN95マスクを付けておいたほうが無難ってことですね!」 忽那「いや、現時点ではなんとも言えないなあ…でも大事なことは、中東からの輸入例が報告された国の大半ではMERSは広がっていないということだ。N95マスクにこだわらなくても、適切な接触感染予防策と飛沫感染予防策を行えばMERSの伝播は抑えられると思うよ」 上村「んな~る」Take Home MessageMERSを疑う手がかりは渡航地・潜伏期・曝露歴!MERS疑似症を満たす症例は、ただちに保健所に連絡を!MERSに対する感染対策は、接触感染予防策と飛沫感染予防策が重要!エアロゾル発生手技のときには空気感染予防策も!1)European Centre for Disease Prevention and Control. RAPID RISK ASSESSMENT. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) 17th update, 11 June 2015.2)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) maps and epicurves. 3)Assiri A, et al. N Engl J Med. 2013;369:407-416.4)Assiri A, et al. Lancet Infect Dis. 2013;13:752-761.5)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS‐CoV) summary and literature update - as of 9 May 2014. 6)Centers for Disease Control and Prevention. Interim infection prevention and control recommendations for hospitalized patients with Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV). ※ イラスト協力:中外医学社『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』より転載

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「伝染性紅斑」と「手足口病」に気を付けろッ!

国立感染症研究所の『感染症週報』(2015年第21週)によると、「伝染性紅斑(リンゴ病)」と「手足口病」が、例年に比べ早いペースで感染が拡大している。小児だけでなく成人にも感染する疾患であることから、両疾患の概要とその対応策について、CareNet.comでお馴染みの忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 感染症内科/国際感染症センター)にお話を聞いた。伝染性紅斑(リンゴ病)の気を付け方約5年ごとに大流行を繰り返す伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19が原因となる感染症である。主に気道分泌物から飛沫する鼻水、咳・くしゃみで感染し、毎年、年始めから7月頃をピークに以降は減少していく。約5年ごとに大きな流行を繰り返す傾向があり、本年は、その大流行期に当たるのかもしれない。症候として、小児では、感染後10~20日の潜伏期間の後、頬に真っ赤な発疹が出現するのが特徴。また、先行する感冒症状として、頬に発疹が出る約7日前に発熱する患児もいるが、発熱がなく、急に発疹が出る患児もいる。そのほか、手足にレース様の紅斑の皮疹が出現する場合もある。成人では、頬に発疹が出ることはなく、四肢にレース様の紅斑が現れることがある。また関節炎の頻度が高く、時に歩行が困難になるくらいである。女性のほうが関節炎が起こりやすい。ウイルスの排出は、先行する感冒症状の時期に排出され、顕在症状期には感染は広がらないとされている。診断では、問診や視診などが中心となるが、患児では頬に紅斑が出るなど顕在症状があるので、診断はつきやすい。しかし、成人では関節炎や皮疹などにより、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)との鑑別診断も必要となるので、本来はパルボウイルスB19IgM抗体検査などで確定診断することが望まれる。現在パルボウイルスB19IgM抗体検査は妊婦以外では保険適用外のため、1日も早い保険適用を期待したい。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、発熱があれば水分補給をしっかりとし、関節炎などが強ければ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの使用が必要となることもある。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患すると免疫獲得により再罹患はないとされている。成人の罹患はさまざまなリスクに注意注意すべきポイントとして、本症は小児と成人では症状が異なることである。成人では、妊婦が罹患した場合、胎児水腫などの発生が懸念され、自己免疫性溶血性貧血などの血液疾患の既往がある場合には一過性骨髄無形成クリーゼと呼ばれる合併症のリスクが、また免疫不全患者での慢性パルボウイルスB19感染では赤芽球癆による重症貧血などの合併症のリスクがあるので、外出時にマスクの着用や子供の多いところに出かけないなどの対策が必要となる。診療する医療側の対策としては、ウイルス排出時期にパルボウイルスB19感染症と診断することは難しいため、適切に感染対策を行うことは難しい。本症の流行期にはインフルエンザ流行期と同様に本症を疑う患者には、サージカルマスクや手袋を着用しての診療が望まれる。手足口病の気を付け方3種類のウイルスが交互に流行手足口病は、わが国では主にコクサッキーウイルスA6、同A16、エンテロウイルス71(EV71)などが原因となり、飛沫感染と接触感染(糞口感染も含む)などで感染する。毎夏にピークが来るが、秋から冬にかけても流行する。今季はコクサッキーウイルスA16が流行している模様である。重複することもあるが3種類のウイルスが交互に流行を繰り返すのが特徴で、年によって流行するウイルスは異なる。症候としては、3~5日間の潜伏期間の後、口腔内粘膜、手のひら、足の裏などに水疱性病変ができる。患児によってはひざ、ひじ、臀部などでも観察される。これは、成人もほぼ同様で、口腔内の水疱のため、嚥下がしづらくなるなどの主訴を経験する。水痘、単純ヘルペスと区別がつかないことがあり、鑑別診断で注意を要する。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、口腔内の水疱の痛みで水分補給が不足する場合など補液が必要となる。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患しても、原因ウイルスの違いにより、再度罹患することもあるので注意が必要である。インフルエンザと同様の対応で感染防止注意すべきポイントとしては、小児が罹患した場合、とくにエンテロウイルス71が脳炎、髄膜炎を引き起こすなど、重症化することもある。成人も同様に注意が必要だが、合併症の頻度は小児のほうが高いとされる。診療する医療側の対策としては、本症を疑う患者には、個室に入ってもらい、飛沫感染予防、接触感染予防を行う。また、インフルエンザ流行時のようにマスク、ガウン、手袋着用での診療が望ましい。トピックスとして、重症化した小児の脳症がとくに東南アジア、東アジアでは問題となっており、中国ではEV71ワクチンの開発が進められている(現在第III相試験)。流行を防ぐためにいずれの疾患も小児領域では、お馴染みの疾患であるが、どちらも成人にも感染し、重症化リスクを伴うものである。これからの流行拡大の注意喚起のために現在の状況を解説いただいた。両症ともにとくに家族内感染が多く、患者には、こまめな手指消毒や外出の注意などの指導で感染を防ぐ取り組みが必要とされる。関連リンク感染症週報(2015年第21週)

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チクングニア熱に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回はBorrelia miyamotoi感染症という激マニアックな感染症の気を付け方について学ぶという、ある意味貴重な回でしたが、今回は比較的「マジで気を付けたほうがいい」感染症であるチクングニア熱について学びたいと思います。爆発的な拡大をする「チクングニア熱」まず最初に、皆さまは「チクングニア熱」という感染症を聞いたことがありますでしょうか? いかにも戦闘力の高そうな名前の感染症ですが、「チクングニア」とはタンザニアの言葉で「身をかがめる」「猫背」などを意味し、これは本疾患の強い関節痛・関節炎に由来します。チクングニア熱に非常に似た病気としてデング熱がありますが、デング熱と比較すると関節痛の頻度が高く、関節炎まで起こすことがあるというのが特徴です。さて、なぜこのチクングニア熱が「マジで気を付けたほうがいい」感染症なのかといいますと、それはチクングニア熱が凄まじい勢いで世界中に広がっているからであります。その勢いたるや、シーズン中60本塁打を打ったときのヤクルトスワローズのバレンティン選手を彷彿とさせるものがあります。そう、手のつけようがないのです。しかし、バレンティン選手は敬遠すればホームランは打たれずに済みますが、チクングニア熱は敬遠が通用しません! なぜなら野球選手ではないからです!(自分で言ってて意味がわかりません)このチクングニア熱は、デング熱と同じく蚊が媒介するウイルス感染症であり、わが国では4類感染症および検疫感染症に指定されています。チクングニアウイルスが最初に発見されたのは1950年代にアフリカのタンザニアでしたが、その後、アフリカ、東南アジアや南アジアで散発的なアウトブレイクが報告されていました。図1は2001~2007年の頃のチクングニア熱の流行地図です。図1 2001~2007年におけるチクングニア熱症例の世界的状況1)画像を拡大するこの時期は南アジアを中心に、アフリカ、東南アジアで流行がみられています。まだまだ遠い国の珍しい感染症といった感じですね。しかし、2015年現在の流行地図(図2)をみてくださいッ!図2 チクングニア熱が報告された国と地域の一覧(2015年3月10日時点)2)画像を拡大するアフリカ、アジアはおろか、中南米まで流行地域に……。かなり凄まじい勢いで流行地域が広がっていることが、おわかりいただけるかと思います。そして、気が付かれましたでしょうか。そうです、アメリカ合衆国にも色が塗られているんですッ! 2013年末から始まったチクングニア熱の中南米での大流行は、ついにアメリカにまで飛び火し、フロリダ州では渡航歴のないチクングニア熱患者が出てしまうという事態にまで発展してしまいました。2014年、日本はデング熱でてんやわんやだったわけですが、アメリカ大陸の人々は、チクングニア熱できりきり舞いだったわけであります。すでに中南米だけで100万人以上の感染者が出ているといわれています。次は日本が危ないわれわれ日本人も、対岸の火事を眺めている場合ではありません。このチクングニア熱の大流行に、いつ日本も巻き込まれるかわからないのです。チクングニア熱を媒介する蚊の1種であるヒトスジシマカは日本にも生息していますし、近年チクングニアウイルスの中には、ウイルス変異によってヒトスジシマカの体内で増殖しやすくなっているウイルスも報告されています3)。最近は「今年の夏もデング熱は流行るのか?」という報道がテレビでも流れていますが、むしろ本命はチクングニア熱かもしれないのですッ!さて、さんざん煽るだけ煽ってしまいましたが、次回はそんなチクングニア熱の気を付け方、そして、敬遠の仕方についてもご紹介したいと思います。1)World Health Organaization. Weekly epidemiological record (WER). 2007;82:409-416.(参照 2015.6.3).2)Centers for Disease Control and Prevention. Countries and territories where chikungunya cases have been reported (as of January 13, 2015). (参照 2015.6.3).3)Schuffenecker I, et al. PLoS Med. 2006;3:e263.

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呼吸数は何秒測るべき?-身体診察の重要性

 2015年4月30日、都内にて金原出版創業140周年記念の特別講演が行われた。本講演では、実臨床ですぐに実践できる内科診療のコツが紹介された。身体診察には技術が必要 第1部では、「身体診察のアプローチ」をテーマに徳田 安春氏(地域医療機能推進機構本部 総合診療顧問)が血圧、心拍、呼吸数をはじめとする身体診察の重要性をレクチャーした。 日常診療において、患者の様態が思わしくない際に、われわれは採血結果やCT・MRIといった検査に目がいきがちであるが、まず身体診察を行うことで多くの重要な情報が得られる。たとえば、「ショック状態」の患者にはまず静脈圧を測り、静脈圧が下がっている低静脈圧型ショック、上がっている高静脈圧型ショックに分類する。それぞれのカテゴリーで治療方針が異なるため、初期診断において確実に静脈圧を測定することが求められる。 また、身体診察にはその1つひとつの診察に技術を要する。たとえば「呼吸障害」ではとくに呼吸数が重要であり、これを省くと重要なバイタルサインを見逃してしまう可能性がある。具体的な呼吸数の測定では、少なくとも20秒は測定する。15秒未満では誤差が大きくなるためで、切迫した状況下であっても十分な時間で測定する必要があるという。 徳田氏は、日々の診療の中で、身体視察の技術を磨く重要性を強調し、第1部を締めくくった。感染症治療を志す研修医へのメッセージ 第2部では、岩田 健太郎氏(神戸大学医学部附属病院 感染症内科 教授)が、自身の感染症専門医としての経験、そして、自院の研修医への教育について、熱く語った。 岩田氏は、2014年12月~2015年1月に西アフリカに渡航し、エボラ出血熱の感染症対策を行った経験を語り、十分な検査機器もない環境で、身体診察の重要性を痛感したという。 研修医の育て方の話題では、研修医が胃腸炎や肺炎患者のグラム染色を省略した結果、診断に必要な細菌を見逃しそうになった例を挙げ、日常のルーチン検査の重要性を述べた。そして、グラム染色で何か検出されそうにない場合でも、まずは行ってみること、グラム染色の限界──「何がみえるか」「何がみえないか」を認識し、診療に当たるべきであることを示した。 最後に、岩田氏は研修医に向け、「自分がどこまでできて、どれができていないかという現状認識をしっかりとし、そのうえで現状に満足せず上のレベルを目指してほしい」とエールを送り、第2部を締めくくった。原因不明の発熱診療はこう診る 第3部では、「不明熱」の症例についてパネルディスカッションとなり、パネリストによる活発な意見交換が行われた。 「下がらない原因不明の発熱」で救急外来を訪れた患者の症例では、発熱の原因を鑑別診断するに当たり、以下の2点が大切であると示唆された。1) さまざまな検査結果のみならず、来院するまでの様子、患者の置かれている社会状況や背景などを丁寧に問診すること。2) この症例ではリンパ腫が疑われるが、生検を行うのが容易ではない場合、適切な生検部位を 同定し、外科に迅速な生検依頼を行うためにも陽電子放出断層撮影(以下「PET」)を活用すること。 PETを用いることでCTなどでは特定しづらい病巣の広がりを把握することができる。また、患者の腎機能が不良でも検査可能である。さらに、造影剤アレルギーのリスクが少ないという利点もある。 最後に 「不明熱であっても漫然と診療を行わず、PETなどの検査機器を用いて迅速に診断し、治療に繋げよう」と結ばれて、パネルディスカッションは終了した。

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真菌症に有用なホウ素含有の新規抗真菌

 爪真菌症は生活の質に影響を与える。ホウ素を含有する新しいクラスの抗真菌薬タバボロール(tavaborole、国内未承認)は、足の爪真菌症に対して優れた臨床効果を発揮するとともに安全性プロファイルは良好であることが、米国・アラバマ大学バーミンガム校のBoni E. Elewski氏らによる2件の第III相試験の結果、確認された。タバボロールは爪真菌症に対する新たな治療選択肢として期待される。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2015年5月5日号の掲載報告。 第1趾爪(対象爪)の20~60%が感染している遠位爪甲下爪真菌症の成人患者を、タバボロール群または基剤群に2対1で無作為に割り付け、1日1回48週間投与した。  主要評価項目は、52週目の完全治癒率(完全に透明な爪かつ真菌学的治癒の割合)であった。副次的評価項目は、完全またはほぼ完全に透明な爪を有する患者の割合、真菌学的治癒率、完全またはほぼ完全な治癒率(完全にまたはほぼ完全に透明な爪かつ真菌学的治癒の割合)、および安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・完全治癒率(タバボロール群/試験1:6.5%、試験2:9.1% vs. 基剤群/それぞれ0.5%、1.5%)および真菌学的治癒率(同様に31.1%、35.9% vs. 7.2%、12.2%)は、タバボロール群が基剤群より有意に優れていた(p<0.001)。・完全またはほぼ透明な爪を有する患者の割合も、タバボロール群が基剤群より有意に高かった(26.1%、27.5% vs. 9.3%、14.6%:p<0.001)。・完全またはほぼ完全な治癒率も、タバボロール群が基剤群より有意に高率であった(15.3%、17.9% vs. 1.5%、3.9%:p<0.001)。・タバボロールの適用部位にみられた主な有害事象は、皮膚剥脱(2.7%)、紅斑(1.6%)および皮膚炎(1.3%)であった。

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肛門性器疣贅、高用量の酸性化亜硝酸塩クリームで改善

 肛門性器疣贅は、肉体的・精神的な苦痛と医療費を患者に強いる疾患である。英国スコットランド・アバディーン大学のAnthony D. Ormerod氏らは、亜硝酸塩の酸性化による局所への一酸化窒素送達の有効性を検討する目的でプラセボ対照無作為化試験を行い、肛門性器疣贅の治療において亜硝酸ナトリウム6%+クエン酸9%クリーム1日2回塗布はプラセボより有効であることを明らかにした。主な有害事象は局所刺激性であった。JAMA Dermatology誌オンライン版2015年4月29日号の掲載報告。 研究グループは、2001年12月20日~2003年1月14日に、欧州の泌尿器・生殖器内科クリニック40施設にて無作為化用量設定試験を行った。 対象は2~50個の肛門性器疣贅を有する18歳以上の男女計299例で、プラセボ群と治療群に無作為化し、被験薬を1日2回12週間局所塗布した後、12週間追跡した。治療群は低用量群(亜硝酸ナトリウム3%+クエン酸4.5%クリームを1日2回塗布)、中用量群(プラセボを朝1回塗布、亜硝酸ナトリウム6%+クエン酸9%クリームを夜1回塗布)、高用量群(亜硝酸ナトリウム6%+クエン酸9%クリームを1日2回塗布)の3群。 主要評価項目は標的疣贅の完全消失率、副次的評価項目は標的疣贅領域の減少および安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・12週後の標的疣贅完全消失率は、プラセボ群が74例中10例14%(95%信頼区間[CI]:6~21%)、低用量群が72例中11例15%(95%CI:7~24%)、中用量群が74例中17例23%(95%CI:13~33%)、高用量群が70例中22例31%(95% CI:21~42%)(p=0.01)であった。・標的疣贅領域の減少、消失までの期間、および患者/研究者の評価は、高用量群がプラセボ群より優れていることが示された。・治療に関連する全身性または重篤な有害事象はみられなかったが、治療群では用量増加に関連した肛門性器皮膚のそう痒、疼痛、浮腫および変色が認められた。・治療群全体で21例が有害事象のため脱落したが、プラセボ群ではいなかった。

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HPVワクチン、男児にも接種するメリット/BMJ

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を女児だけでなく男児へも接種をすることのメリットについて、オランダ・VU大学メディカルセンターのJohannes A Bogaards氏らが、ベイズ法によるエビデンス統合解析を行い報告した。女児への接種で男性は間接的な利益を得られるが、現状の接種率60%ではHPV関連がん、とくに肛門がんのリスクは残ったままで、女児への接種率が90%に高まり、男児への接種も行うことで肛門がんの予防がもたらされ、男性同性愛者へのHPV予防に寄与することが示唆されたという。BMJ誌オンライン版2015年5月12日号掲載の報告より。男性のがん負担が軽減するかを評価 研究グループは本検討で、HPVワクチンを女児とともに男児へも接種した場合、男性のがん予防の負担が軽減するかを調べた。 ベイズ法エビデンス統合解析を用いて、HPV16または18ワクチンの肛門がん、陰茎がん、口咽頭がんへの影響を、異性愛および同性愛の男性について評価した。 被験者はオランダの一般住民で、12歳男児をHPVワクチンプログラムに組み込み、質調整生存年(QALY)と予防に必要なワクチン接種数(NNV)を主要評価項目とした。女児への接種率90%超で、男性のHPV関連がん66%減少 オランダにおけるHPVワクチンプログラム実施前の、HPV関連がんによる男性1,000人当たりのQALY損失は14.9(95%信頼区間[CI]:12.2~18.1)だった。この負担は、女児へのワクチン接種が現状の60%で推移した場合は、37%(同:28~48%)の減少であると予測された。 この場合、男性のがんを1例予防するのに必要な男児へのNNVは795例(95%CI:660~987例)と予測された。がんの種別でみると、肛門がん予防に必要なNNVは2,162例、陰茎がん3,486例、口咽頭がん1,975例だった。 男性のHPV関連がんの負担は、女児へのワクチン接種率が90%を超えれば66%(同:53~80%)の減少につながると考えられた。その場合の男児へのNNVは1,735例(同:1,240~2,900例)で、がんの種別にみると、2,593例、2万9,107例、6,484例であった。

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エアロゾル麻疹ワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-360

 麻疹はワクチンで防ぐことができる疾患群(vaccine-preventable diseases)の1つである。皮下注射で行う麻疹ワクチンは安全で効果的であり、世界中で広く使用されている。米国、オーストラリア、韓国などの先進国は、WHOから「麻疹排除国」として認定されており、日本もやっと2015年3月に認定された。一方で、とくに医療資源の乏しい発展途上国ではワクチンの接種率が低く、いまだに麻疹の流行が起こっている。WHOはこの状況を改善する手段の1つとして、注射手技の不要な吸入タイプのワクチンの可能性を追求している。  本研究は、エアロゾル化した麻疹ワクチンの抗体誘導能を検討したランダム化比較試験である。麻疹ワクチンの初回接種年齢として適切な生後9.0ヵ月~11.9ヵ月の子供を対象に、インドで実施された。麻疹ワクチンを(1)エアロゾル吸入で行う群(1,001例)と、(2)皮下注射で行う群(1,003例)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、ワクチン接種後91日時点の抗麻疹ウイルス抗体の陽性率と、有害事象とした。非劣性マージンを5パーセントポイントと設定した。  per-protocol解析では、2,004例中1,560例(77.8%)を評価しえた。91日時点での抗体陽性者は、エアロゾル吸入群で775例中662例(85.4%、95%信頼区間:82.5~88.0)、皮下注射群で785例中743例(94.6%、同:92.7~96.1)であり、両群間差は-9.2パーセントポイント(同:-12.2~-6.3)だった。麻疹ワクチンによる重篤な有害事象は発生しなかった。有害事象として、エアロゾルワクチン群では鼻風邪様の症状が多くみられた。 本研究は、麻疹の皮下注射ワクチンに対するエアロゾルワクチンの非劣性を証明するために計画された臨床試験であったが、両群間差は事前に設定された非劣性の上限である5パーセントポイントよりも大きく、非劣性を証明できなかった。本試験の結果からも、皮下注射ワクチンが普及している先進国では、今後も皮下注射が主流になると思われる。しかしながら、エアロゾル吸入ワクチンは手技的には非医療従事者でも使用可能であり、医療資源が限られている途上国などではワクチン接種率向上に貢献する可能性があると考える。 今後は、エアロゾルワクチンの投与量調節などによる抗体陽転化率の改善、エアロゾル化した麻疹・風疹混合ワクチンの開発に期待したい。

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レーバー先天性黒内障、遺伝子治療の有効性報告/NEJM

 小児の進行性網膜変性疾患であるレーバー先天性黒内障について、ヒトを対象とした遺伝子治療の長期有効性の試験結果が報告された。わずかで一過性ではあるが、網膜感度の改善が示されたという。レーバー先天性黒内障は、RPE65遺伝子変異によって生じる。検討では、rAAV2/2 RPE65ベクターを用いた遺伝子治療が行われた。これまでの遺伝子治療の検討では、夜間視力のわずかな改善が示唆されていたがヒトにおける効果については報告が限定的であった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJ.W.B. Bainbridge氏らが報告した。NEJM誌2015年5月14日号(オンライン版2015年5月4日号)掲載の報告より。レーバー先天性黒内障12例対象、視機能を3年間測定、イヌモデルについても検討 試験は非盲検にて行われた第I/II相の臨床試験で、レーバー先天性黒内障12例を対象に、RPE65の相補的DNAを保有する組換えアデノ随伴ウイルス2/2(rAAV2/2)ベクターを用いた遺伝子治療の安全性と有効性を評価した。また、視機能を3年間測定した。 レーバー先天性黒内障12例のうち4例に低用量のベクターが、8例に高用量のベクターが投与された。同様の用量投与試験をイヌについても行い、ベクター投与量、視機能、網膜電図(ERG)所見における関連性を調べた。3年間で6例にレーバー先天性黒内障の遺伝子治療による網膜感度の改善 程度は異なるものの、レーバー先天性黒内障の遺伝子治療による網膜感度の改善が、3年間で6例にみられた。ピークは治療後6~12ヵ月で、その後低下した。 ERGによる網膜機能の改善は検出されなかった。 被験者3例に眼内炎症が、また2例で臨床的に重要な視力の低下がみられた。また、中心窩網膜厚の減少は、患者によってばらつきがみられた。 一方、イヌに対するrAAV2/2 RPE65遺伝子治療では、低用量群で視覚誘導行動の改善がみられたが、ERG検出による網膜機能の改善が認められたのは高用量群のみであった。 上記を踏まえて著者は、「rAAV2/2 RPE65遺伝子治療は、わずかで一過性ではあるが網膜感度を改善した。イヌモデルの結果との比較により、視覚路を動かすために必要なRPE65量について種の差があること、また予測したヒトにおける同必要量は、持続的で確実な効果を得られる用量には達していなかったことが示された」とまとめている。

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HCV1型感染に経口3剤配合剤が高い効果/JAMA

 代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染者に対し、経口薬のみの3剤配合錠ダクラタスビル(商品名:ダクルインザ)+アスナプレビル(商品名:スンベプラ)+ベクラブビル(beclabuvir、国内未承認)の12週間治療は、87~98%と高い割合で持続的ウイルス学的著効率(SVR)を達成可能であることが示された。これまでにインターフェロンや直接作用型抗ウイルス薬(DAA)で治療を受けた人についても、同達成率は高かったという。米国・デューク大学のAndrew J. Muir氏らが、約200例の患者を対象に行った試験UNITY-2の結果、報告した。ダクラタスビルとアスナプレビルは日本で先行発売されている。ベクラブビルは非ヌクレオシド系NS5B阻害薬である。JAMA誌2015年5月5日号掲載の報告より。4ヵ国、49施設で試験を実施 UNITY-2試験は非盲検非対照無作為化試験で、2013年12月~2014年10月にかけて、米国、カナダ、フランス、オーストラリアにある49施設で、代償性肝硬変を伴うHCV遺伝子型1型感染者を対象に行われた。被験者のうち、インターフェロンやDAAで未治療の人は112例、すでに治療を受けたことのある人は90例だった。 同グループは全被験者に対し、ダクラタスビル(30mg)+アスナプレビル(200mg)+ベクラブビル(75mg)を1日2回、12週間投与した。 被験者を遺伝子型1aまたは1bで層別化し、無作為にリバビリン(1,000~1,200mg/日)またはプラセボを併用する群に割り付けて評価を行った。 主要評価項目は、治療12週後のSVR(SVR12)だった。リバビリン投与群でSVR12は未治療群98%、既治療群93% 被験者の年齢中央値は、未治療群が58歳、既治療群が60歳で、74%が遺伝子型1a感染者だった。 SVR12は、リバビリン投与群で未治療群が98%(97.5%信頼区間[CI]:88.9~100.0)、既治療群が93%(同:85.0~100.0)だった。プラセボ群では、それぞれ93%(同:85.4~100.0)と87%(同:75.3~98.0)だった。 なお、治療に関連する重度有害事象の発生は3例、有害事象による治療中止は4例だった。 治療により現出したグレード3または4のALT上昇は4例でみられ、総ビリルビン値の上昇がみられたのはそのうち1例だった。

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ジェノタイプ2型C型慢性肝炎治療薬 ソバルディ錠が5月25日発売

 ギリアド・サイエンシズ株式会社は5月20日、ジェノタイプ2型C型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善の効果・効能で、核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害薬「ソバルディ錠400mg」を5月25日に発売することを発表した。同社にとっては日本国内で初めての製品販売となる。 ソバルディは、ジェノタイプ2型C型慢性肝炎の治療において、インターフェロンを必要とせず、リバビリンとの併用において、1日1回の12週間投与を可能とする初めての経口薬のみの治療法となる。 日本国内には、C型肝炎ウイルスに感染している患者が150~200万人いると考えられており、20~30%がジェノタイプ2型に罹患している※といわれている。これまでのジェノタイプ2型のC型慢性肝炎に対する治療は、24~48週間に及ぶペグインターフェロンの注射とリバビリンなどによる治療法が主だったが、ソバルディでは経口薬のみ12週間の治療となり、患者の服薬負担が軽減される。※出典:国立国際医療研究センター 肝炎情報センター. C型肝炎. 詳細はギリアド・サイエンシズ株式会社のプレスリリースへ

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Borrelia miyamotoiに気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。読者の皆さまは今年のゴールデンウイークをどのようにお過ごしになられたでしょうか? 私はゴールデンウイークの後半である現在、この原稿を書いて過ごしています(例によって締め切りを過ぎているのですッ!)。さて、この連載は「新興再興感染症の気をつけ方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。前回はSFTSの気を付け方について学んだわけですが、今回は一気にグッとマニアック度を増してBorrelia miyamotoiについて考えたいと思います。Borrelia miyamotoiとは?Borrelia miyamotoiはボレリア属の細菌です。ボレリアは、スピロヘータの一種であり、ちぢれ毛のような形態をしております(図1)。画像を拡大するボレリア属は大きく分けると、ライム病の原因となるグループと回帰熱の原因となるグループの2つに分かれます。Borrelia miyamotoiは、このうち回帰熱ボレリアに属する細菌になります。これらの2つのグループは、それぞれ異なる種類のマダニに媒介されることが知られています(例外的にシラミによって媒介される回帰熱もあります)。しかし、このBorrelia miyamotoiだけは回帰熱グループのボレリアであるにもかかわらず、ライム病グループのマダニに媒介されるという面白い特徴を持つことがわかっています。一般的な回帰熱のイメージ=中島みゆき皆さんは、回帰熱というと1989年にリリースされた中島みゆきの17作目のアルバム『回帰熱』(図2)を想起される方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで言う回帰熱は感染症の回帰熱です。中島みゆき17作目のアルバム『回帰熱』。忽那は未聴ですが、国立国際医療研究センター 総合診療科 國松淳和医師いわく、名作とのことです。なお図はイメージです(編集部注)その名のとおり、無熱期と発熱期を繰り返す、特徴的な熱型の感染症です。輸入感染症としての回帰熱は、日本ではこれまでに2例が報告されています1、2)が、どちらも不肖忽那が診断したものです(捏造ではありません!)。そう、これまで日本で回帰熱といえば輸入感染症と相場が決まっていたのです。しかし……しかし、このBorrelia miyamotoiはこれまでのボレリアとは異なり、日本にいるボレリアなのです。つまり日本でもBorrelia miyamotoiに感染するかもしれないのですッ! 回帰熱が輸入モノの時代は終わったッ! 今は国内の回帰熱が熱いんですッ!おっと……少し興奮しすぎました……。気を取り直してBorrelia miyamotoiの解説を次に続けたいと思います。病原体の由縁このBorrelia miyamotoiという名前をみて「ミヤモトイ? 宮本?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そうなんです、このBorrelia miyamotoiの名前は、日本人の宮本健司先生のお名前に由来しており、日本で発見された病原体なのであります。発見された当時はヒトへの病原性はないのではないかと考えられていたそうです。しかし、ロシアで46例のBorrelia miyamotoi感染症の症例が報告され3)、がぜん注目を集め始めました。また、2013年は米国、欧州でも症例が報告され始め、“New England Journal of Medicine”4)や“Lancet”5)といったメジャー医学誌に、免疫不全者の慢性髄膜炎というプレゼンテーションで、受診し、診断に至ったBorrelia miyamotoi感染症の症例報告が掲載されたのは記憶に新しいところです。そして、ついには病原体が発見された地である日本でもBorrelia miyamotoi感染症が報告されるに至ったのです!!盛り上がってきたところで、次回はBorrelia miyamotoi感染症の日本国内の疫学、臨床像や治療に迫りますッ!1)Kutsuna S, et al. Am J Trop Med Hyg. 2013;89:460-461.2)忽那賢志ほか. 感染症誌. 2014;88:713-714.3)Platonov AE, et al. Emerg Infect Dis. 2011;17:1816-1823.4)Gugliotta JL, et al. N Engl J Med. 2013;368:240-245.5)Hovius JW, et al. Lancet. 2013;382:658.

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帯状疱疹の新規ワクチン、50歳以上で97%有効/NEJM

 帯状疱疹ウイルス中のタンパク質gEとAS01Bアジュバントを組み合わせた新規ワクチン「HZ/su」について、50歳以上高齢者への有効率は97%で、70歳以上にも同等の効果があることが報告された。米国・GSK Vaccines社のHimal Lal氏らが、50歳以上成人1万5,411例について行った第III相臨床試験の結果、示された。すでに高齢者を対象に組み込んだ第I-II相臨床試験において、臨床的に許容できる安全性プロファイルおよび高い免疫原性が示されていた。NEJM誌オンライン版2015年4月28日号掲載の報告より。 50歳以上を年齢別に分け、無作為化 著者らは世界18ヵ国で50歳以上の1万5,411例を対象に、プラセボ対照無作為化試験を行い、HZ/suの高齢者における有効性について検討した。 被験者を年齢別に、50~59歳、60~69歳、70歳以上に分類したうえで、それぞれの年齢群で無作為に2群に分けた。一方の群にはHZ/suを2ヵ月間隔で2回接種し、もう一方の群にはプラセボを接種した。帯状疱疹罹患率、HZ/su群0.3/1,000人年、プラセボ群9.1/1,000人年 結果、平均追跡期間3.2年間中に帯状疱疹を発症した人は、プラセボ群210例(罹患率:9.1/1,000人年)に対し、HZ/su群では6例(同:0.3/1,000人年)だった。 全体的な同ワクチン有効率は97.2%(95%信頼区間:93.7~99.0、p<0.001)と高かった。 また年齢群別のワクチン有効率は、96.6~97.9%と各年齢群で有意な差はなく、70歳以上への有効性も確認された。 副作用については、接種後7日以内の注射部位反応および全身性反応の報告が、ワクチン接種群のほうが高かった。また、グレード3症状の非自発的・自発的報告がプラセボ群では3.2%だったが、ワクチン群では17.0%だった。

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耐性菌が増加する尿路感染症に有望な抗菌薬/Lancet

 複雑性下部尿路感染症や腎盂腎炎に対し、新規抗菌薬セフトロザン/タゾバクタム配合薬は、高用量レボフロキサシンに比べ高い細菌学的効果をもたらすことが、ドイツ・ユストゥス・リービッヒ大学のFlorian M Wagenlehner氏らが実施したASPECT-cUTI試験で示された。尿路感染症は生命を脅かす感染症の発生源となり、入院患者における敗血症の重要な原因であるが、抗菌薬耐性の増加が治療上の大きな課題となっている。本薬は、新規セファロスポリン系抗菌薬セフトロザンと、βラクタマーゼ阻害薬タゾバクタムの配合薬で、多剤耐性緑膿菌のほか、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌などのグラム陰性菌に対する効果がin vitroで確認されている。Lancet誌オンライン版2015年4月27日号掲載の報告。セフトロザン/タゾバクタム配合薬の有効性を非劣性試験で評価 ASPECT-cUTI試験は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬の高用量レボフロキサシンに対する非劣性を検証する二重盲検ダブルダミー無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、膿尿を認め、複雑性下部尿路感染症または腎盂腎炎と診断され、治療開始前に尿培養検体が採取された入院患者であった。 被験者は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬(1.5g、8時間ごと、静脈内投与)または高用量レボフロキサシン(750mg、1日1回、静脈内投与)を7日間投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、治療終了後5~9日における細菌学的菌消失と臨床的治癒の複合エンドポイントであった。細菌学的菌消失は、治癒判定時の尿培養検査におけるベースラインの尿路病原菌の104コロニー形成単位(CFU)/mL以上の減少と定義した。また、臨床的治癒は、複雑性下部尿路感染症または腎盂腎炎の完全消失、著明改善、感染前の徴候、症状への回復であり、それ以上の抗菌薬治療を必要としない場合とした。 非劣性マージンは10%とし、両側検定による群間差の95%信頼区間(CI)の下限値が-10%より大きい場合に非劣性と判定した。また、95%CIの下限値が0を超える場合は優位性があるとした。セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性を確認 2011年7月~2013年9月に、25ヵ国209施設に1,083例が登録され、800例(73.9%)が解析の対象となった(セフトロザン/タゾバクタム配合薬群:398例、レボフロキサシン群:402例)。 656例(82.0%)が腎盂腎炎で、274例(34.3%)が軽度~中等度の腎機能障害を有し、199例(24.9%)が65歳以上であった。菌血症の62例(7.8%)の原因菌のほとんどは大腸菌で、多くが腎盂腎炎患者であった。また、776例(97.0%)が単一菌感染で、629例(78.6%)が大腸菌、58例(7.3%)が肺炎桿菌、24例(3.0%)がプロテウス・ミラビリス、23例(2.9%)が緑膿菌だった。 複合エンドポイントの達成率は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群が76.9%(306/398例)、レボフロキサシン群は68.4%(275/402例)であった(群間差:8.5%、95%CI:2.3~14.6)。95%CIの下限値が>0であったことから、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性が確証された。 副次的評価項目であるper-protocol集団における複合エンドポイントの達成率にも、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の優位性が認められた(83.3% vs. 75.4%、群間差:8.0%、95%CI:2.0~14.0)。セフトロザン/タゾバクタム配合薬の優位性は複雑性尿路感染症でも セフトロザン/タゾバクタム配合薬群で治癒判定時の複合エンドポイントの優位性がみられたサブグループとして、65歳以上、複雑性尿路感染症、レボフロキサシン耐性菌、ESBL産生菌、非菌血症が挙げられ、他のサブグループもレボフロキサシン群に比べ良好な傾向にあり、いずれも非劣性であった。 有害事象の発現率は、セフトロザン/タゾバクタム配合薬群が34.7%、レボフロキサシン群は34.4%であった。最も頻度の高い有害事象は、両群とも頭痛(5.8%、4.9%)および便秘(3.9%、3.2%)、悪心(2.8%、1.7%)、下痢(1.9%、4.3%)などの消化管症状であった。 重篤な有害事象はそれぞれ15例(2.8%)、18例(3.4%)に認められた。セフトロザン/タゾバクタム配合薬群の2例(クロストリジウム・ディフィシル感染)は治療関連と判定されたが、いずれも回復した。同群の1例が膀胱がんで死亡したが治療とは関連がなかった。 著者は、「この新規配合薬は、複雑性尿路感染症や腎盂腎炎の薬物療法の有用な手段に加えられるだろう。とくに、治療が困難なレボフロキサシン耐性菌やESBL産生菌の治療に有望と考えられる」としている。

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