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職場へのお土産の予算は?/医師1,000人アンケート

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めた頃、出張や旅行は自主的に制限され、また学術集会もオンラインで開催されるなど、外出への機会は失われ、お土産を買ったり、もらったりということは減少した。しかし、最近では、コロナワクチンの普及や治療薬の登場により、COVID-19以前の生活に戻りつつある。 出張や学術集会が再開されて気になるのは、残してきた家族や医局の同僚などへの「お土産」である。実際、医師がどの範囲の集団に、どの程度の予算でお土産を購入しているのか、今回会員医師1,000人にアンケート調査を行った。 アンケートは、10月13日にCareNet.comのWEBアンケートにて全年代、全診療科に対して実施した。職場へのお土産の予算、最も多いのは「2,000~3,000円」 質問1で「お土産を買うか」(単回答)を尋ねたところ「必ず買う」が439人(43.9%)と一番多く、「ときどき買う」なども含めると全体で895人(89.5%)の会員医師がお土産を購入していた。 質問2で「職場用のお土産の全体予算」(単回答)を尋ねたところ「2,000~3,000円」が325人(32.5%)、「3,000~4,000円」が157人(15.7%)、「1,000~2,000円」が154人(15.4%)の順で多かった。 質問3で「お土産を買う範囲」(複数回答)を尋ねたところ、「家族」が763人、「職場の上司・同僚・部下」が686人、「自分」が302人の順で多かった。 質問4で「よく買うお土産」(複数回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が814人、「地方限定販売のお菓子」が283人、「地元特産の食品」が221人の順で多かった。 質問5で「もらったとき最もうれしいお土産」(単回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が557人(55.7%)、「地元特産の食品」が151人(15.1%)、「地元のお酒」が117人(11.7%)の順で多かった。以上からおおむね欲しいものと提供されたものが合致していたが、「地元特産の食品」や「地元のお酒」などを所望する声が多かった。人気のお菓子は「博多通りもん」 具体的にもらってうれしかったお土産では「博多通りもん」、「ご当地のお酒」、「萩の月」の順番で多く、有名な銘菓や現地でないと入手できないもの、運搬にかさばるため簡単に入手できないものに人気があった。 また、寄せられたコメントでは、「医局にお土産が置いてあると和みます(20代・麻酔科)」、「地域限定の食品(保存ができるもの)が一番ありがたい(30代・糖尿病・代謝・内分泌内科)」、「有名なお菓子がうれしいです。マイナーなものだと結局おいしくないものが多い(30代・眼科)」、「子供が鉄道好きなので、それを踏まえたローカルなグッズをもらったこと(30代・耳鼻咽喉科)」など人間関係を円滑にする事例のコメントが寄せられていた。

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セマグルチド、12~18歳でも優れた抗肥満効果/NEJM

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチドは、成人の肥満治療薬として欧米で承認を得ている。オーストリア・Paracelsus医科大学のDaniel Weghuber氏らは「STEP TEENS試験」において、肥満症の青少年(12~18歳未満)に対する本薬の有用性を検討し、セマグルチド+生活様式への介入は生活様式への介入単独と比較して、68週の時点でBMI値の有意な低下をもたらし5%以上の体重減少の達成割合を有意に増加させたが、消化器系の有害事象の頻度が高かったことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月2日号で報告された。12~18歳の肥満、過体重の無作為化試験 STEP TEENSは、8ヵ国37施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIa相試験であり、2019年10月~2020年7月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Novo Nordiskの助成を受けた)。 対象は、年齢12~18歳未満で、肥満(BMIが性・年齢別の成長曲線で95パーセンタイル以上)または少なくとも1つの体重関連の併存症を有する過体重(同85パーセンタイル以上)の青少年であった。 被験者は、セマグルチド(2.4mg)またはプラセボを週1回、68週間皮下投与する群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。全例が減量を目的とする生活様式への介入(栄養、運動)を受けた(両親または保護者を含む)。 主要エンドポイントは、ベースラインから68週目までのBMIの変化率とされた。副次エンドポイントは、68週目までの5%以上の体重減少であった。10%、15%、20%以上の体重減少も著明に改善 201例(平均年齢 15.4歳、女性 62%)が無作為化の対象となり、このうち180例(90%)が試験を完遂した。セマグルチド群に134例、プラセボ群に67例が割り付けられた。1例(過体重)を除く全例が肥満だった。ベースラインの平均体重(109.9kg vs.102.6kg)、BMI値(37.7 vs.35.7)、ウエスト周囲長(111.9cm vs.107.3cm)が、セマグルチド群でわずかに高値であった。 ベースラインから68週目までのBMIの平均変化量は、セマグルチド群が-16.1%と、プラセボ群の0.6%に比べ有意に良好であった(推定群間差:-16.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-20.3~-13.2、p<0.001)。 68週の時点で、5%以上の体重減少の達成割合は、セマグルチド群が73%(95/131例)であったのに対し、プラセボ群は18%(11/62例)であり、セマグルチド群で有意に優れた(推定オッズ比[OR]:14.0、95%CI:6.3~31.0、p<0.001)。 また、68週時の10%以上の体重減少(62% vs.8%)、15%以上の体重減少(53% vs.5%)、20%以上の体重減少(37% vs.3%)についても、セマグルチド群で達成割合が顕著に高かった。 セマグルチド群で改善された心血管代謝リスク因子として、ウエスト周囲長(-12.7cm vs.-0.6cm、推定群間差:-12.1cm[95%CI:-15.6~-8.7])と糖化ヘモグロビン値(-0.4% vs.-0.1%、-0.3%[-0.3~-0.2])のほか、総コレステロール、LDLコレステロール、VLDLコレステロール、トリグリセライド、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が挙げられた。 最も頻度の高い有害事象は消化器症状(主に吐き気、嘔吐、下痢)で、セマグルチド群のほうが高頻度(62% vs.42%)であったが、重症度は全般に軽症~中等症であり、発症期間中央値は吐き気、嘔吐、下痢とも2~3日と短かった。セマグルチド群の5例(4%)で急性胆嚢疾患が発現し、いずれも胆石症で、1例が胆嚢炎を併発した。重篤な有害事象は、セマグルチド群で11%(15/133例)にみられた。 著者は、「セマグルチド群で観察された体重およびBMIの減少の程度は、先行研究で他のGLP-1受容体作動薬や肥満治療薬を投与された青少年よりも、実質的に大きかった」としている。

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2型糖尿病のCOPD重症化、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬が有効か/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で2型糖尿病(DM)の患者において、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬は、スルホニル尿素(SU)薬と比べ、COPD増悪による入院リスクを約30~38%低減することが示された。また、GLP-1受容体作動薬は、中等度増悪リスクを37%低減した。一方でDPP-4阻害薬は、COPD増悪リスクの明らかな低減は認められなかったという。カナダ・マギル大学のRicheek Pradhan氏らが、英国国民保健サービス(NHS)データを基に行った住民ベースの3種実薬比較新規使用者デザインコホート試験の結果で、BMJ誌2022年11月1日号で発表した。3種の新規血糖降下薬vs.SU薬を評価 研究グループは、英国の全NHS病院入院データ「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care and Office for National Statistics」とリンクした、大規模プライマリケアデータ「Clinical Practice Research Datalink」を基に住民ベースコホート試験を行った。 被験者は、試験薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬)のいずれか、またはSU薬を、新たに服用開始したCOPD既往の2型DM患者だった。 第1コホートにはGLP-1受容体作動薬の服用を開始した1,252例とSU薬服用を開始した1万4,259例が、第2コホートにはDPP-4阻害薬服用を開始した8,731例とSU薬服用を開始した1万8,204例が、第3コホートにはSGLT-2阻害薬服用を開始した2,956例とSU薬服用を開始した1万841例がそれぞれ含まれた。 主要アウトカムはCOPDの重症増悪(COPDによる入院と定義)で、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬それぞれについて、傾向スコア層別化重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)値を推算して評価した。また、これら3つの試験薬が中等度増悪(同日に、COPD急性増悪の外来診断と、経口コルチコステロイドと抗菌薬の同時処方と定義)のリスク減少と関連するかどうかも検証した。COPD重症増悪リスク、GLP-1受容体作動薬は30%、SGLT-2阻害薬は38%低減 SU薬と比較して、GLP-1受容体作動薬はCOPD重症増悪リスクを30%低減した(100人年当たり3.5 vs.5.0、HR:0.70、95%CI:0.49~0.99)。また中等度増悪リスクも37%低減した(0.63、0.43~0.94)。 同様にSGLT-2阻害薬も、COPD重症増悪リスクを38%低減した(100人年当たり2.4 vs.3.9、HR:0.62、95%CI:0.48~0.81)。一方で、中等度増悪リスクの低減は認められなかった(1.02、0.83~1.27)。 DPP-4阻害薬は、COPD重症増悪リスク、中等度増悪リスクともに低減はわずかだった(それぞれHR:0.91[95%CI:0.82~1.02]、0.93[0.82~1.07])。

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第135回 大阪急性期・総合医療センターにサイバー攻撃、「身代金受け取った」報道の町立半田病院の二の舞?

約2週間経っても一部の診療が可能になっただけこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも完全に終わってしまったこの週末は、原稿書きをしながらネットの“ストーブリーグ”のニュースを読んで時間を潰しました。今ホットなのは、福岡ソフトバンクホークスの千賀 滉大投手、オリックス・バファローズの吉田 正尚選手、阪神タイガースの藤浪 晋太郎投手など、MLBへの挑戦を宣言している日本人選手たちがどこのチームと契約するかのニュースです。そんな中、個人的に気になったのはオリックスの吉田選手です。それなりの高評価を受けているとのことですが、本当でしょうか?私は吉田選手を何度か球場で観たことがあるのですが、バッティングはともかく、守備能力はプロ野球選手の平均以下で、とてもMLBで通用するようには見えませんでした。外野手ですが肩は弱く(だから左翼を守っているのでしょう)、走力も今ひとつで守備範囲も広くありません。かといって、DHのポジションを取れるほどの桁外れのパワーがあるわけでもありません。広島に帰って来た秋山 翔吾選手や、未だ来季の所属チームが決まっていない筒香 嘉智選手の二の舞を踏まないことを願うばかりです。さて今回は、10月31日に大阪の災害拠点病院で起きた電子カルテへのサイバー攻撃の事件について書いてみたいと思います。約2週間経った11月15日現在も、やっと一部の診療が可能になっただけで、全面復旧は来年1月頃になるとのことです。昨年起きた徳島県つるぎ町の町立半田病院のサイバー攻撃の事件を上回りそうな被害状況です。全国の医療機関の経営者は、自院のセキュリティ体制や、外部事業者との契約等について改めて調べ、検討し直す必要がありそうです。患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算もできない状態地方独立行政法人 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)は10月31日夜に記者会見を開き、ランサムウェア(身代金ウイルス)によるサイバー攻撃を受けたと発表しました。記者会見の席で岩瀬 和裕病院長らが事件の概要を説明しました。それによると、31日午前6時40分ごろ、職員がサーバーの障害に気づき、同8時半ごろ、業者の調査でランサムウェアの攻撃と判明したとのことです。サーバー上の画面には、英語で「全てのファイルは暗号化された。復元したければ、指定のアドレスにメールを送りビットコインで支払え。金額はメールを送る時間で変わる」と、データに対する「身代金」を要求するメッセージが表示されていたそうです。同センターは「金銭を支払う考えはない」として大阪府警に相談、同日夜の記者会見となりました。システム障害によって、患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算もできない状態に陥り、31日は午前9時からの外来診療を中止し、緊急以外の予定手術は延期となりました。この日だけで最大1,000人の患者に影響が出たとのことです。復旧は遅々として進まず、全面復旧は来年1月ころに同センターは地方独立行政法人 大阪府立病院機構が運営する救急医療や災害医療の拠点病院で36診療科865床を有しています。府内の唯一の基幹災害医療センターであり、かつ府内に3ヵ所ある高度救命救急センターの1つでもあります。救急搬入数は府内に16ヵ所ある救命救急センターの中でもトップクラスとのことです。これまでサイバー攻撃を受けた病院と同様、サイバー攻撃からの復旧は2週間たった現在も遅々として進んでいません。各紙報道等によると、同センターは翌日以降も外来診療を含む通常診療を休止、紙のカルテを用いた手術の一部再開は11月4日、新規の手術や予約済みの外来診療が可能となったのは、電子カルテの一部が復旧した11月10日でした。元々カルテなどのデータのバックアップは取っていたとのことですが、閲覧するには攻撃を受けたシステムへの接続が必要で、安全性が確認できるまで閲覧できない状態が続きました。7日までに、攻撃を受ける直前の電子カルテのバックアップが確認でき、参照できる環境が整ったことで、10日から新規の手術や予約済みの外来診療が可能になったとのことです。同センターは一部復旧について、感染を免れた約1,000台(感染したサーバーや端末は約1,300台で全体の6割を占める)の端末のうち20台を使って、サーバーと切り離していたバックアップデータを参照できるようにした、と発表しています。診察内容の書き込みや担当部署への検査の発注などは10日時点でまだできていません。引き続き検査や新規の外来診療は停止しており、CTやMRIなどの画像診断システムも含めた全面復旧は来年1月ころになりそうだとのことです。ウイルスは給食の委託事業者のシステムから侵入そんな中、とても興味深い報道もありました。同センターが7日に開いた記者会見で嶋津 岳士総長が、障害の原因となったコンピューターウイルスは、給食の委託事業者のシステムから侵入した可能性が高い、と発表したのです。各紙報道等によれば、政府から派遣された専門家チームが調査した結果、患者の給食を納入している事業者の調理施設「ベルキッチン」(堺市)から、病院のサーバーに大量の不正なアクセスが確認されました。事業者側のシステムも病院と同様、ランサムウェアの感染が確認されました。脅迫文の内容などから、サイバー犯罪集団「Phobos」による攻撃の可能性があるそうです。事業者のシステムは、配食数や食事内容を管理するもので、病院のネットワークや電子カルテシステムと常時つながっており、病院はこのネットワークを利用し、糖尿病などの患者の食事内容を事業者に伝えていました。ベルキッチンを運営する社会医療法人・生長会の発表では、給食提供のためのシステムに障害が発覚したのは10月31日午前6時頃で、病院の電子カルテシステムの障害が発覚したのはこの約40分後だったそうです。ちなみに、事業者のVPN(仮想プラベートネットワーク)機器は、昨年10月にサイバー攻撃を受けた徳島県つるぎ町立半田病院と同じ製品で、ソフトウェアが更新されていませんでした。一方、病院側は最新のセキュリティ対策ソフトを導入するなどしていました。病院は「事業者のシステムに脆弱性があり、そこからウイルスの侵入を許し、こちらに入ってきた」との見方を示しています。病院自体はセキュリティ対策をしっかりしてきたつもりなのに、ネットワークにつながっていた外部の業者からウイルスが侵入してきたわけで、改めてハッカー対策の難しさが浮き彫りになった形となりました。つるぎ町の町立半田病院のサイバー攻撃から1年目に起きた事件サイバー犯罪集団のランサムウェアを用いた病院攻撃については、本連載でも徳島県つるぎ町の町立半田病院(120床)のケースを昨年のちょうど今頃、「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」で書きました。町立半田病院のケースは、2021年10月31日に起きました。病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗るロシア拠点の国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受付ができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのは2ヵ月後の2022年1月でした。本連載では、同病院のケースの調査報告書がまとめられた今年6月にも、「第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」で、その内容について書き、外部事業者に任せきりになっている医療機関のセキュリティ対策のずさんさを指摘しました。4つの興味深い共通点私はコンピューターウイルスの専門家ではないので細かなことはわかりませんが、素人目線で2つの事件を眺めると、いくつかの興味深い共通点があることがわかります。主な点を列挙してみます。1)どちらも10月31日に感染している。2)一度電子カルテシステムが感染すると紙のカルテに戻り、全面普及には2〜3カ月かかる。3)ソフトウェアの更新を怠っていたVPN経由で攻撃された。4)表向き「身代金は払わない」「身代金は払っていない」としている。1)はまったくの偶然でしょうが、ひょっとしたら何か理由があるかもしれません。皆さん、31日や来年の10月31日は気をつけたほうがいいかもしれません。2)紙のカルテについては、現在、ほとんどの病医院で運用していないと思いますが、こうした事態に備え、紙のカルテの使い方の練習もしておく必要があるかもしれません。東日本大震災の津波の被害の時も、紙のカルテに戻っていました。3)町立半田病院のVPN機器は、過去に認証情報の流出が問題になった米国フォーティネット社のもので、ソフトウェアが更新されていませんでした。報道によれば、大阪のケースでは、患者給食を納入している事業者のVPN機器がその機種で、やはりソフトウェアの更新がされていなかったようです。町立半田病院事件、「身代金受け取った」報道の謎そして、4)はなかなかセンシティブでグレーな問題です。報道等によると、今回の大阪のケースでは、身代金の支払いの「期限」が切れたとみられる1日午後4時過ぎ現在、支払いの指示に関する連絡はなかったそうです。このまま身代金を支払わず、全面復旧が実現すればいいのですが、気になるニュースもあります。10月26日付の共同通信によれば、町立半田病院の事件を巡り、「LockBit2.0」(現在は「LockBit3.0」と名称変更)が「データの『身代金』として3万ドル(約450万円)を受け取った」と主張していることがわかったのです。警察庁などは身代金を払うべきでないとしており、つるぎ町も払わないと表明していましたが、「復元を依頼されたIT業者の関係者が交渉した可能性がある」と共同通信は書いています。ランサムウェアの暗号を解除してデータを復元するのは技術的にほぼ不可能と言われています。だからこそ身代金要求が成立すると言えるでしょう。復元を依頼された IT業者が実際に身代金を払っていたかどうかは不明ですが、一部には、身代金の受け渡しを否定した町立半田病院に代わって、この業者が秘密裏にLockbit側と交渉、同病院(つるぎ町)から支払われた復旧費用(7,000万円だそうです)から身代金を捻出し支払うことで復元プログラムを入手し、電子カルテの復旧を実現したとの情報もあります。「身代金は払わない」と言っていた町立半田病院に内緒でこっそり450万円を支払い、7,000万円の売上を得ていたとしたら、それはそれで「契約違反」なわけでとても大きな問題です。なお、この件については、雑誌『選択』11月号が、「サイバー被害者『救済商法』に要注意 『半田病院事件』驚きの真相」という記事を掲載しています。そう考えると、医療機関のセキュリティ対策は、まず医療機関自身が自発的に取り組むことに加え、信頼に足る(そして暴利を貪らない)IT業者と組むことも重要と言えそうです。なお、厚生労働省は大阪急性期・総合医療センターの事件や、町立半田病院の身代金報道を受け、11月10日に「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起)」と題する事務連絡を発出しています1)。事務連絡は「医療機関を攻撃対象とする同種攻撃は近年増加傾向にあり、その脅威は日増しに高まっています」として、リスクを低減するための措置、インシデントの早期検知、インシデント発生時の適切な対処・回復、金銭の支払いへの対応などについて注意喚起しています。金銭の支払いについては、「金銭を支払ったからと言って、不正に抜き取られたデータの公開や販売を止めることができたり、暗号化されたデータが必ず復元されたりする保証がない」、「一度、金銭を支払うと、再度、別の攻撃を受け、支払い要求を受ける可能性が増える」といった理由を挙げ、サイバー攻撃をしてきた者の要求に応じて金銭を支払うことは、犯罪組織に対して支援を行うことと同義であり厳に慎むべきである、としています。大阪急性期・総合医療センターはかつて「某毒院」「大阪駆黴院」と呼ばれ、梅毒の検査・治療施設だったそうです。同センターは果たして、現代の病院の“感染症”を克服し、無事身代金を払わずに全面復旧までこぎつけることができるのでしょうか。幸いバックアップが生きているようで、先行きは明るそうですが、「全面復旧は来年1月」と少々先過ぎる点が、実はダメージは深刻なのではないかと気になります。今後の展開を注視したいと思います。参考1)医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起)/厚生労働省

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重症CKDのRAS阻害薬中止で、腎機能は改善するか/NEJM

 レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は、軽症~中等症の慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するが、重症CKD患者ではRAS阻害薬を中止すると、推算糸球体濾過量(eGFR)が上昇し、その低下が遅延する可能性が示唆されている。英国・Hull University Teaching Hospitals NHS TrustのSunil Bhandari氏らは、「STOP ACEi試験」において、重症の進行性CKD(ステージ4/5)患者では、RAS阻害薬の投与を中止しても、継続した患者と比較して3年後のeGFR低下に関して臨床的に重要な変化はなく、死亡率も同程度であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年11月3日号に掲載された。英国の重症CKD患者対象の無作為化試験 STOP ACEi試験は、重症の進行性CKD患者におけるRAS阻害薬の中止が、eGFRを上昇させるか、あるいは安定化させるかの検証を目的とする非盲検無作為化試験であり、英国の37施設で参加者の登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]と英国医学研究会議[MRC]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ステージ4/5のCKD(体表面積補正eGFR<30mL/分/1.73m2)で、透析および腎移植を受けておらず、過去2年間にeGFRが2mL/分/1.73m2以上低下し、ACE阻害薬またはARBの投与を6ヵ月以上受けている患者であった。被験者は、RAS阻害薬の投与を中止する群または投与を継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは3年後のeGFRで、腎代替療法開始後のeGFRは除外された。副次アウトカムは、末期腎不全(ESKD)および腎代替療法の複合、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合、死亡などであった。生活の質や運動能にも有意差はない 411例(年齢中央値63歳、男性68%)が登録され、投与中止群に206例、投与継続群に205例が割り付けられた。ベースラインのeGFR中央値は18mL/分/1.73m2、29%がeGFR<15mL/分/1.73m2、尿蛋白中央値は115mg/mmolであった。また、糖尿病(1型、2型)が37%、糖尿病性腎症が21%含まれた。58%が3剤以上の降圧薬、65%がスタチンの投与を受けていた。 3年の時点で、最小二乗平均(±SE)eGFRの値は、中止群が12.6±0.7mL/分/1.73m2、継続群は13.3±0.6mL/分/1.73m2であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:-0.7、95%信頼区間[CI]:-2.5~1.0、p=0.42)。また、事前に規定されたサブグループで、アウトカムの異質性は観察されなかった。 3年時のESKDおよび腎代替療法の複合(中止群62%[128/206例]vs.継続群56%[115/205例]、ハザード比[HR]:1.28[95%CI:0.99~1.65])、腎代替療法(ESKD患者を含む)およびeGFRの50%以上低下の複合(68%[140/206例]vs.63%[127/202例]、相対リスク[RR]:1.07[95%CI:0.94~1.22])、死亡(10%[20/206例]vs.11%[22/205例]、HR:0.85[95%CI:0.46~1.57])について、両群間に有意差はなかった。また、生活の質(KDQOL-36)や運動能(6分間歩行距離)にも有意差はなかった。 重篤な有害事象(52% vs.49%)および心血管イベント(108件vs.88件)の頻度は、両群で同程度であった。 著者は、「これらの知見は、進行性CKD患者では、RAS阻害薬の投与中止により腎機能、生活の質、運動能が改善するとの仮説を支持しない」とまとめ、「本試験は、RAS阻害薬の中止が心血管イベントや死亡に及ぼす影響の評価に十分な検出力はなかったが、腎機能に関して中止による利益はないことが明らかになった。そのため心血管系の安全性を検討するための、より大規模な無作為化試験を行う理論的根拠はほとんどないと考えられる」としている。

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糖尿病」の名称変更、医師の6割が反対/医師1,000人アンケート

 これまで、病名とその患者の関係性を考えたことはあるだろうか? 近年、糖尿病患者が社会的にスティグマ(偏見)を持たれていることを受け、日本糖尿病協会のアドボカシー活動の1つとして、医療現場の言葉の見直しが検討されている。そのなかに、『糖尿病』という疾患名も含まれており、将来、疾患名が変更されるかもしれない。そこで、ケアネットは会員医師1,028人に対し、緊急のアンケート調査を実施した。糖尿病の名称変更は年齢問わず、半数以上が“反対” Q1「『糖尿病』の名称変更について、賛成ですか?反対ですか?」対し、賛成は37%、反対は63%であった。年齢による差はとくに見られず、理由は以下のとおり。<賛成>・糖尿病自体が病態を的確に示した言葉ではないから(20代、臨床研修医)・若年発症の1型糖尿病患者、とくに女性患者で自身の疾患名についてコンプレックスを抱いている例が多いため(30代、糖尿病・内分泌内科)・心血管イベントを想起させるような名前にしたほうがいいと思うから(40代、リハビリテーション科)・SGLT2阻害薬の普及で、ますますオシッコの甘い感が強調されているので(50代、放射線科)<反対>・尿という言葉が持つ負のイメージへの懸念が、名称変更のデメリットを上回ると思えない(30代、小児科)・理由の1つに挙げられた「住宅ローンや生命保険に入れない」というのは名称変更で解決できる問題ではない。一般に浸透しているし、名称そのものが悪印象なわけではないと思う(40代、循環器内科/心臓血管外科)・患者に振り回されるのもどうかと思う。そんなこと言いだしたらキリがないんじゃないでしょうか。新しい病名にもよるけれど(50代、眼科)・すでに広く認知されている。名前を変えることで、有病者の受診行動が変わるとは思えない(60代、腎臓内科) などが挙げられた。賛成意見では「患者が望むなら」という患者視点でのコメントが多く、一方で反対意見には「名称変更が偏見払拭にならないのでは」という指摘が多かった。病気の名称変更問題、“尿”がダメなら“臭”もダメでは… Q3で糖尿病以外に名称変更が望まれる疾患を尋ねたところ、『重症筋無力症』『悪性貧血』などが挙げられた。これらの病名に共通するのが、重症、悪性というマイナスイメージの表現が付いている点で、これにより患者の不安が強まったという経験をしたと複数名が答えていた。同様に「『〇〇奇形』も負のレッテルを貼られている印象がある」との回答が寄せられた。このほか、「病名の文字が不快と感じるのであれば、腋臭症も変更に値するのではないか。“尿”が負のイメージであるとするのであれば“臭”がより負のイメージが強い」という意見もあった。 糖尿病の名称変更問題は“患者だけ”“医療者だけ”の問題ではないことは周知の事実である。今回のアンケートでは反対意見が多かったものの、患者の病名によるスティグマを軽視しているのではなく、病名を変えるさまざまなリスクに基づき意見していることが明らかになった。 また、患者1,087人を対象とした日本糖尿病協会のアンケート調査「糖尿病の病名に関するアンケート」の結果も、単純に名称変更を訴えるものではなく、病名変更を願ったり、偏見や誤解に悩んだりしている患者がいることを医療者に理解して欲しいという思いが込められている。 医師と患者のアンケート調査1)2)から双方の意見が出揃った今、お互いの意見を尊重し議論が進んでいくことを願う。1)回答者:全医師の0.3%(令和2年12月31日現在の全国の届出「医師」は33万9,623人)2)回答者:糖尿病有病者の0.01%(糖尿病が強く疑われる者[糖尿病有病者]は約1,000万人:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果より)糖尿病の名称変更についてのアンケート詳細を公開中『「糖尿病」の名称変更、医師は賛成?反対?』<アンケート概要>目的:日本糖尿病協会が「糖尿病」の名称変更を検討する方針を示したことを受け、医師の意見を調査した。対象:ケアネット会員医師1,028人調査日:2022年11月10日方法:インターネット

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映画「心のカルテ」(前編)【なんでやせ過ぎるの? なんで食べ吐きは止められないの?(摂食障害)】Part 1

今回のキーワード少食タイプ過食タイプ食べ吐き(自己誘発性嘔吐)空腹中枢と満腹中枢行動依存ダイエット文化皆さんは、体型を気にしますか? やせるために食事制限をしてジムに通っていますか? 今の世の中では、やせていることに価値がとても置かれていますよね。一方で、明らかにやせ過ぎている「拒食症」の人たちがいます。また、食べ吐きが止められない「過食症」の人たちもいます。なぜなんでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、Netflixのオリジナル映画「心のカルテ」を取り上げます。このドラマを通して、精神医学の視点だけでなく、生物学の視点からも、摂食障害の原因に迫ります。症状は?主人公は、20歳のエレン。極端な食事制限をして、異常にやせています。それを見かねた家族の強い勧めで、彼女はグループホームに入ります。そして、同じ摂食障害のメンバー6人との共同生活をするなかで、自分を見つめ直すようになるのです。まず、エレンをはじめとするグループホームのメンバーたちを通して、摂食障害を「少食タイプ」と「過食タイプ」の大きく2つに分けて、それぞれの特徴を詳しくご紹介しましょう。(1)少食タイプ1つは、少食タイプです。エレンやグループホームのメンバーのパールのように、単純に食べる量を制限する、あまり食べないことでやせ過ぎることです。この正式な病名は、神経性やせ症の制限型です。その症状として、まず当然ながら著しい低体重が挙げられます。エレンがグループホームで体重測定をするシーン。具体的な数値は描かれていませんが、彼女が「さすがにやばい」と漏らし、スタッフがかなり心配していることから、危険な数値であることがうかがえます。実際の診断基準(ICD-11)では、BMIが18.5未満で異常とされ、BMIが14未満で危険とされています。ちなみに、エレンは長らく生理がなく(無月経)、毛深くなっていました(産毛密生)。これらは、電解質、ホルモン、代謝の異常も含め、低体重からの栄養不足に伴う体の変化です。パールは、あまりにもやせてしまったため、鼻からチューブで栄養剤を流し入れる対応(経鼻栄養)が行われていました。そして、その後にエレンから摂取カロリーを明かされたために、動揺していました。これは、太る(体重が増える)ことに強い恐怖を感じる肥満恐怖であり、裏を返せばやせ願望です。エレンは、義母から撮られた自分の全身写真を見せつけられて「きれいだと思う?」と聞かれて、「いいえ」と素っ気なく答えます。そして、「じゃあどうする?」と聞かれても、何も答えません。診察するベッカム先生には「私は不健康だとは思わない」「だってやせてるほうが健康だって言うでしょ」と言います。頭では異常であるとうすうすわかっていても、深刻には受け止めていないのです。これは、ボディイメージの障害であり、病識欠如(否認)です。エレンは、ただでさえ栄養不足で体力がないのに、ベッドの上で隠れて腹筋運動を繰り返します。いわゆる「ダイエットハイ」「拒食ハイ」と呼ばれる過活動です。また、すべての食べ物のカロリーを瞬時に言い当てて、妹(異母妹)から「カロリーの鬼だね」と驚かれます。やせることへのとらわれ(強迫)もみられます。グループホームの唯一の男性メンバーであるルークと中華レストランに行った時、エレンは、食事を噛むだけで飲み込まずに吐き出していました。これは、チューイングと呼ばれます。(2)過食タイプもう1つは過食タイプです。これは、さらに3つのタイプに分けることができます。a. 食べ吐きしてやせ過ぎるタイプこの正式な病名は、神経性やせ症の排出型です。グループホームのメンバーのミーガンは、妊娠が判明したのにもかかわらず、つい食べ吐きを再開してしまい、流産するのでした。ルークについては、食べ吐きの様子が描かれておらず、はっきりとは言えないのですが、もともとバレエダンサーであり、食事をおいしそうに食べている様子から、このタイプであると思われます。食べ吐きによって、胃液中の電解質であるカリウムが不足していきます。すると、低カリウム血症による不整脈のリスクが高まります。驚くべきことに、このタイプの死亡率が20%前後であり、実は精神障害の中で最も高い数値です1)。厳密には、排出型は、食べ吐き(自己誘発性嘔吐)に加えて、下剤・浣腸や利尿薬などの医薬品の使用も含んだ排出行動がある場合を指します。なお、いわゆる「拒食症」とは、先ほどの少食タイプ(神経性やせ症の制限型)とこの過食タイプ(神経性やせ症の排出型)を合わせた俗称です。b. 食べ吐きしてやせ過ぎないタイプこの正式な病名は、神経性過食症です。グループホームのメンバーのトレイシーは「アイスクリームはすぐに吐けるわ。胃液だけになるまでね」「あなたも下剤使ってる?」と話しています。グループホームのメンバーのアナは、ベッドの下に自分の食べ残しを隠し持っていました。これは、ため込みと呼ばれます。そのほかに、どうせ吐いてお金がもったいないからとの理由で、食べ物の万引きをしたり(盗食)、周りに大量に食べているところを見られたくないとの理由で隠れて食べる隠れ食いなどがあります。c. 食べ吐きせずに太るタイプこの正式な病名は、むちゃ食い症です。グループホームのメンバーのケンドラは「私も吐けたらいいんだけど、とにかく食べるだけ」と話しています。彼女はとても大柄です。そして、ピーナツバターを大瓶の容器からそのまま食べていました。なお、食べ吐きしてやせ過ぎないタイプ(神経性過食症)は、食べるのと同じくらい吐くようになると、食べ吐きしてやせ過ぎるタイプ(神経性やせ症の排出型)に移行します。また、食べ吐きせずに太るタイプ(むちゃ食い症)は、食べ吐きができるようになると、食べ吐きしてやせ過ぎないタイプ(神経性過食症)、さらには食べ吐きしてやせ過ぎるタイプ(神経性やせ症の排出型)に移行します。このように、過食タイプは、オーバーラップすることがわかります。また、少食タイプのエレンとパールは病気の自覚(病識)があまりないのに対して、過食タイプであるそのほかのメンバーは病識があるため、治療に前向きです。次のページへ >>

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2型DM新規トリプル作動薬、週1回投与で有望な結果/Lancet

 2型糖尿病治療薬として開発中のLY3437943(グルカゴン、GIP、GLP-1の3つの受容体へのアゴニスト活性を有する単一ペプチド)について、第Ib相試験において安全性プロファイルは許容範囲であることが示され、薬物動態から週1回投与が適していることが示唆されたことを、米国・Eli Lilly and CompanyのShweta Urva氏らが報告した。「この所見は、グルコースと体重の強力な減少の薬力学的所見を示すものであるとともに、第II相試験を支持するものである」とまとめている。高血糖と肥満を有する2型糖尿病患者の治療には、多受容体アゴニストが短期および長期のアウトカムを改善することが示されている。LY3437943は、2型糖尿病および肥満関連の併存疾患の治療薬として開発が進められている。Lancet誌オンライン版2022年10月27日号掲載の報告。LY3437943について、12週間の二重盲検プラセボ対照用量漸増無作為化試験 第Ib相試験は12週間にわたって、2型糖尿病患者におけるLY3437943の安全性、薬物動態および週1回の複数回投与の薬力学的所見を調べた、概念実証二重盲検プラセボ対照用量漸増無作為化試験。米国の4施設で、2型糖尿病の罹病期間が少なくとも3ヵ月以上、HbA1c値7.0~10.5%、BMI値23~50、安定体重(直近3ヵ月の変化が5%未満)の成人(20~70歳)患者を集めて行われた。 参加者を、双方向ウェブレスポンスシステムを用いて、LY3437943週1回皮下投与群、プラセボ投与群、デュラグルチド1.5mg投与群に割り付け、12週間治療を行った。また、5つの用量漸増コホートの検討が行われ、各コホート内で無作為化を行い、各コホートで最低9人の参加者がLY3437943を、3人がプラセボを、1例がデュラグルチド1.5mgを投与。2つの最高用量コホートの上位用量には、段階的用量漸増で到達した。 主要アウトカムは、LY3437943の安全性と忍容性。副次アウトカムは、薬力学および薬物動態特性であった。安全性の解析は、試験薬を少なくとも1回投与された全参加者で行い、薬物動態と薬力学は試験薬を少なくとも1回投与され評価データが入手できた全参加者で解析が行われた。安全性を確認、12週時点で血漿中グルコース、HbA1c値は有意に減少 2019年12月18日~2020年12月28日に、スクリーニングされた210例のうち72例が登録され、試験薬の投与を少なくとも1回受け安全性の解析に包含された。15例がプラセボ、5例がデュラグルチド1.5mg、LY3437943は9例が0.5mg、9例が1.5mg、11例が3mg、11例が3/6mg、12例が3/6/9/12mgの投与を受けた。29例は試験を途中で中止した。 治療に伴う有害事象は、LY3437943群33例(63%)、デュラグルチド1.5mg群3例(60%)、プラセボ群8例(54%)が報告された。最も多く報告された治療に伴う有害事象は胃腸障害であった。 LY3437943の薬物動態は、用量比例で半減期は約6日であった。 12週時点で、プラセボで調整した1日平均血漿中グルコースは、3つのLY3437943最高用量群で、ベースラインからの有意な減少が認められた。最小二乗平均差はLY3437943の3mg群で-2.8mmol/L(90%信頼区間[CI]:-4.63~-0.94)、3/6mg群で-3.1mmol/L(-4.91~-1.22)、3/6/9/12mg群で-2.9mmol/L(-4.70~-1.01)であった。 プラセボで調整したHbA1c値も、3つの最高用量群でベースラインから有意に減少した。最小二乗平均差は3mg群で-1.4%(90%CI:-2.17~-0.56)、3/6mg群で-1.6%(-2.37~-0.75)、3/6/9/12mg群で-1.2%(-2.05~-0.45)であった。 プラセボで調整したLY3437943群の体重減少は用量に依存して認められ、3/6/9/12mg群では最大-8.96kg(90%CI:-11.16~-6.75)であった。

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医療者も実は…?糖尿病のスティグマを見直す/日糖協の活動

 近い将来、「糖尿病」という病名は使用されなくなるかもしれない。 日本糖尿病協会(以下、日糖協)は、都内開催のセミナーにて、「『糖尿病』という言葉を変える必要がある」と問題意識を明らかにした。現在、日糖協では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を推進しており、病名変更もその一環だ。 日糖協理事の山田 祐一郎氏(関西電力病院 副院長)は、「言葉を変える目的は、糖尿病に関するスティグマ(偏見)を減らすことにある。単なる言葉の入れ替えでは意味がない。医療従事者と糖尿病のある方とのコミュニケーションを変えることが重要だ」と述べた。 以下、セミナーの内容を記載する。医療従事者も実は…? スティグマの発生源 世間的に「食べ過ぎ」「長生きできない」などのイメージが先行しやすい糖尿病だが、糖尿病のある人とない人で、総エネルギー消費量や摂取量は、実は変わらない1)。また、治療を受けていれば、平均余命にも有意差はない2,3)。 しかし、高度経済成長期に糖尿病患者数100万人を突破した本邦では、先述のようなスティグマが世間に定着し、今なお存在し続けている。実際、2022年に発表されたデータでも、糖尿病のある人はスティグマを受けている4)ことが明らかになっている。 注目すべきは、スティグマの主な発生源として、家族、友人以外に、本来患者の支援者である医療従事者も含まれる5)ことだ。 日糖協理事長の清野裕氏(関西電力病院 総長)は、「医療従事者は“そんなつもりはないのに”、無意識にスティグマを付与している可能性がある」と述べる。 「今回のHbA1cが上昇している。何か食べ過ぎましたか?」 「あの人は糖尿病だから、全然言うことを聞かない」 といった発言が代表的だ。しかし、糖尿病のある人の生活状況はそれぞれ異なる。実行不可能な治療法を示していないか、悩みを正しく理解しているか、医療従事者も省みる必要があるという。さらに「糖尿病」という病名自体がスティグマとなる可能性もある。病名「糖尿病」への抵抗感や不快感 日糖協が糖尿病のある人に実施した「糖尿病の病名に関するアンケート」の調査結果によると、回答者1,087人のうち、9割が「糖尿病」という病名に何らかの抵抗感や不快感を抱いており、7割が治療を受ける際に病名に対する抵抗を感じている、という。さらに回答者の8割が「糖尿病」の病名変更を希望した。病名変更を希望した人の38.6%が「だらしない」など負のイメージや誤解を受けることを懸念しており、31.8%は「尿」という表記に違和感や羞恥心を抱いていた。さらに、6割が何らかの形で糖尿病を隠して生きていることも明らかになった。日糖協理事の津村 和大氏(川崎市立川崎病院 病態栄養治療部長)は、「糖尿病の治療や予後が大きく改善した現代では、病名の持つ負のイメージを払拭することも必要だ」と述べた。糖尿病にまつわる“ことば”の見直し すでに現在、日糖協では「糖尿病」の病名変更に関する議論が進んでいる。加えて「糖尿病患者→糖尿病のある人」「血糖コントロール→血糖マネジメント(管理)」など、使用すべき医療用語の再考も検討されている。背景として、「糖尿病のある人」には、海外ではpatientを使用せず、person with diabetesという表現を用いること、「血糖マネジメント(管理)」は、コントロールが「こちら(=医療従事者)の意思通りに動かす」意味合いが強いのに対し、英語圏ではcontrolからmanagementへと表現が変わっており、世界的にも主体的表現へ変化しつつあることが挙げられる。ただし、“ことば”を入れ替えるだけでは不十分で、より主体的に糖尿病に関わる意識が重要とされる。関連企業やメディアの参画で医療現場にもインパクトを 日糖協の活動は企業にも広がっており、賛同企業が間接的支援を行う「企業委員会」も立ち上げられた。製薬・医療機器製造・食品関連企業33社が参画中だ。企業の提供する情報量は膨大で、医療現場へのインパクトも大きいと推察される。代表幹事の小山 由起氏(住友ファーマ)、郷田 秀樹氏(ノボ ノルディスク ファーマ)からも、スティグマを理解するための企業研修や日本糖尿病協会年次学術集会での啓発活動などの取り組みが紹介された。今後は、企業作成物の改訂、とくに糖尿病のある人に向けた資料の表現に配慮していくという。言葉の見直しは、今後「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動」の中で協議され、数年以内の提言実現を目指すという。 われわれメディアも“ことば”を多く扱う。病名に対する関心の喚起は「社会を動かす力」になる。最後に、スティグマの存在を正しく理解し、適切な情報発信に努めることを自戒として記載したい。 糖尿病のある人にスティグマを負わせないために、病名も、私たち自身の意識も変えなければいけない。

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高齢化率世界一の日本のコロナ禍超過死亡率が低いのは?/東京慈恵医大

 新型コロナウイルス感染症流行前の60歳平均余命が、コロナ禍超過死亡率と強く相関していたことを、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島 充佳氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2022年10月19日掲載の報告。 新型コロナウイルス感染症は高齢者において死亡リスクがとくに高いため、世界一の高齢者大国である日本ではコロナの流行によって死亡率が高くなることが予想されていたが、実際には死亡率の増加が最も少ない国の1つである。本研究は、なぜ日本が超過死亡率を最も低く抑えることができたかを明らかにするため、コロナ流行以前(2016年など)における健康、幸福度、人口、経済などの50項目の指標と、コロナ流行中(2020年1月~2021年12月)の死亡率の変動との相関を調査した。 研究グループは、超過死亡率の判明している160ヵ国を人口の60歳以上が占める割合で4グループに分け、高齢者率が最も高い40ヵ国について、コロナ流行前の各国公表データとの関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・高齢者率が最も高いグループには欧米諸国、旧ソビエト連邦、東欧諸国、日本、韓国などの40ヵ国が含まれていた。総じて超過死亡率は高かったが、グループ内での開きがあり、超過死亡率がマイナスであった国は、ニュージーランド、オーストラリア、日本、ノルウェーの順であった。ロシアを含む旧ソビエト連邦や東欧諸国の超過死亡率は200を超えるなど桁違いに高かった。・50項目の指標で最も相関の強かった因子は「60歳の平均余命」で、相関係数は-0.91であった。・2番目は「2021年末までのワクチン2回接種率」で、相関係数は-0.82であった。・3番目は「国民1人当たりのGDP」で、相関係数は-0.78であった。国民1人当たりのGDPが大きい国では超過死亡率が低く、この傾向はスペイン風邪のときにも認められた。・上位3因子について多変量解析を行った結果、「60歳の平均余命」だけが有意で、他の「2021年末までのワクチン2回接種率」と「国民1人当たりのGDP」の有意性は失われた。よって、後者2因子は「60歳の平均余命」と超過死亡率との関係に対して交絡因子になっていると考えられる。・「30~70歳の心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患で死亡する人口あたりの割合」は相関係数が0.90と極めて強い相関を示した。・「5歳未満の乳幼児死亡率」との強い相関は示されなかった。 同氏らは、「本調査の結果は、高齢時の長い平均余命が、質の高い医療システムとパンデミックを含む医療脅威からの回復力に関連していることを示唆している」とまとめた。

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妊娠高血圧症候群と長期的な児への影響(解説:三戸麻子氏)

 妊娠高血圧症候群は母児ともにadverse pregnancy outcomeの合併が多く、死亡率も高い代表的な妊娠合併症である。その影響は周産期のみならず出産後長期的な健康にも及び、妊娠高血圧症候群に罹患した女性では、将来高血圧や糖尿病などの生活習慣病や脳心血管病のリスクが高い。またその児においても、メタボリック症候群や免疫系の異常、精神神経疾患のリスクが高いことが報告されている。しかし児の出生後長期的な全死亡についてはほとんど報告がなかった。 本研究によると、妊娠高血圧症候群、なかでも重症妊娠高血圧腎症、HELLP症候群、子癇は、児の出生後長期的な全死亡と関連が認められ、その原因として心血管系疾患や消化器系疾患などが挙げられた。胎内で母体の妊娠高血圧症候群に曝露することが、児のそれらの疾患や死亡とどのように関連するか、詳細な機序は明らかではない。しかし何かしらの関連があるのは確かであると思われる。 妊娠高血圧症候群と将来の脳心血管病のリスク因子は重なる部分が多い。また長期間にわたる縦断的な研究が少ないことなどから、妊娠高血圧症候群が独立して脳心血管病のリスクとなるのか否か、また児への影響は依然として不明な部分も多い。今後は、それらの詳細な機序の解明と、妊娠前または出産後の介入によって、将来の疾病の発症を抑えることができるかどうかのエビデンスが待たれるところである。

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真性多血症(真性赤血球増加症)〔PV:polycythemia vera〕

1 疾患概要■ 定義真性多血症(PV)は、造血幹細胞レベルで生じる遺伝子変異により汎血球増加、特に赤血球数の著増を来す骨髄増殖性腫瘍である。■ 疫学発症率は人口10万あたり年間約2人、発症年齢中央値は65歳、男女比は約1.5:1である。■ 病因エリスロポエチン(Epo)、トロンボポエチン、顆粒球コロニー刺激因子などのサイトカインのシグナル伝達に必須なJAK2の変異により、これらレセプターの下流のシグナル伝達経路が恒常的に活性化して生じる。JAK2変異は95%以上の例に検出されるが、それ以外に、TET2、DNMT3などのエピゲノム関連分子の変異がそれぞれ10~20%、5~10%にみられる。■ 症状頭痛、頭重感、赤ら顔(深紅色の口唇、鼻尖)、発熱、体重減少、倦怠感、掻痒、骨痛などがみられる。皮膚掻痒感は入浴後に悪化することが多い。血小板増加例では、四肢末端に非対称性の灼熱感を伴う発赤腫脹を来す肢端紅痛症がみられる。触知可能な脾腫が15~20%に認められる。■ 分類血栓症の発症リスクに応じて、低リスク群(年齢60未満、かつ血栓症の既往がない)と高リスク群(年齢60歳以上、血栓症の既往の、いずれか、あるいは両方を認める)に分類する。■ 予後生命予後は比較的良好であり、10年総生存率は約85%である。10年の血栓症を生じない生存率、出血を伴わない生存率は、それぞれ約90%である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)多血、骨髄生検所見、JAK2変異の大基準のうち3項目以上、あるいは大基準の多血と骨髄生検所見に加え、小基準である血清Epo値が低値を示すときにPVと診断する。多血はPVを最初に疑う所見である。PVの診断基準では、Hb値が男性>16.5g/dL、女性>16.0g/dL、ヘマトクリット(Ht)値が男性>49%、女性>48%、もしくは循環赤血球量が予測値の25%を超えて増加している場合を多血とする。赤血球数のみならず、PVでは好中球、血小板数も増加することが多い。PVの骨髄生検所見は過形成であり、赤芽球系、顆粒球系、巨核球系細胞の3系統の細胞の増生がみられる。ただし、3系統の細胞数の比は正常と比べてほぼ同等である。巨核球の分化障害も認めない。線維化はあってもごく軽度である。JAK2変異はPVの95%以上の例に認められる。大部分はV617F変異であり、少数例はexon12の変異を示す。大多数のPVにJAK2変異を認めるため、その存在はPV診断に有用であるものの、JAK2変異はPVに特有ではなく、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症の約50%の例にも検出されることに留意が必要である。つまり、JAK2変異を認めない場合のPV診断は慎重に進めるべきであるが、逆にJAK2変異を認めた場合、PV、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症のいずれかであると言ってよい。ただし、JAK2変異の存在だけでPVとは診断できない。血清Epoは低値を示すことが多い。PV診断においてEpo値の低下の特異度は高いものの、感度は中等度である。つまり、血清Epo値が低い場合はPVである可能性が高いが、Epoが高いからといってPVを否定できるわけではない。鑑別すべき主な疾患は、相対性赤血球増加症と2次性赤血球増加症である。相対性赤血球増加症は、循環赤血球量の増大は認めないものの、脱水などによりHt値やHb値が上昇している場合をいう。嘔吐、下痢などの有無、利尿薬の服薬状況の確認が必要である。相対性赤血球増加症に分類されるストレス多血症は、中年の男性に好発し、喫煙者に多い。赤血球数やHb値、Ht値の上昇を認めるが、白血球数や血小板数は正常であり、脾腫も認めない。また、血清Epo値は上昇していることが多い。2次性赤血球増加症は、血清Epo濃度の上昇により生じる赤血球数の増加である。低酸素(高地や慢性閉塞性肺疾患、右左シャントを伴う心疾患など)が続くと、反応性に腎臓からのEpo産生が増加して、また腫瘍性にEpoが産生されると赤血球数増加を来す。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)生命予後は良好であり、治療の基本は血栓症の予防である(図)図 血栓症リスクに基づくPVの治療方針画像を拡大するはじめに心血管系合併症の危険因子(喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症など)の評価を行い、該当する場合は禁煙指導、生活習慣の改善、生活習慣病の治療を行う。増加している赤血球体積を減少させるため、原則として全例に瀉血療法を行う。ヘマトクリット値0.45未満を目標に、血圧、脈拍などの循環動態をみながら1回200~400mLの瀉血を月に1~2度のペースで行う。高齢者や心血管障害を有する例では、循環動態の急激な変化がないように、少量(100~200mL)、頻回の瀉血が望ましい。また、瀉血後に同量の補液を行うと、血行動態の変化を抑えられるだけでなく、ヘマトクリット値が希釈により低下することも期待される。これに加えて、出血や消化器潰瘍症状などの禁忌がなければ低用量アスピリン(商品名:バイアスピリン)投与により血栓症の予防をはかる。血小板数の増加がある場合、von Willebrand 因子(vWF)活性が低下していることがあり(後天性のvWF症候群)、アスピリン投与により出血を来す可能性がある。そのためvWFが30%以下の場合にはアスピリンの投与は行わない。上記に加えて、血栓症の高リスク群(年齢60歳以上、あるいは血栓症の既往がある場合)では、細胞減少療法を行う。細胞減少療法の第1選択薬はヒドロキシカルバミド(同:ハイドレア)、またはロペグインターフェロンα-2b(同:ベスレミ)である。ヒドロキシカルバミドの必要量は症例により大きく異なるため、少量から開始し、Ht<0.45となるように調節する。ロペグインターフェロンα-2bは100μgを開始用量とし、2週間に1回皮下注を行う。増量は50μgずつ行い、最大用量は500μgである。自己注射も可能である。個々の患者に応じた最大量のヒドロキシカルバミドを投与してもHt値0.45以下、白血球数10,000/μL以下、血小板数40万/μL以下にコントロールできない場合をヒドロキシカルバミド抵抗性と、ヒドロキシカルバミド投与によりHb<10g/dL、好中球数<1,000/μL、血小板数<10万/μLと血球減少が生じる場合、あるいはヒドロキシカルバミドによる下肢潰瘍などのためにヒドロキシカルバミド治療が継続できない場合を「ヒドロキシカルバミド不耐容」と呼ぶ。ヒドロキシカルバミド治療を開始された患者の20~40%はヒドロキシカルバミド抵抗性/不耐容となる。このような場合は、JAK1/2阻害剤であるルキソリチニブ(同:ジャカビ)投与により、血球数のコントロールのみならず、血栓症の減少も期待できる。1回10mgを開始用量とし、1日2回経口投与する。最大用量は1回25mg(1日50mg)である。真性多血症の3~6%は2次性の骨髄線維症へと、数%の例は急性骨髄性白血病へと病型進展する。治療が一定であるにもかかわらず経過中に血球数が減少する場合や、末梢血に芽球が出現する場合は、骨髄線維症、急性白血病への移行を疑い、骨髄生検を行う。4 今後の展望PVの生命予後は比較的良好なものの、約10~20%の例が血栓症、出血を合併する。現在用いられている血栓症のリスク分類は、細胞減少療法の適応を決めるためのものであり、標準的な治療法が選択された患者における血栓症、出血の発症リスクが明らかになることが望まれる。またロペグインターフェロンα-2bやルキソリチニブ治療により、一部の症例ではJAK2V617F allele burdenの減少が認められる。JAK2V617F allele burdenが治療前値と較べ50%以上減少した症例は、そうでない症例と較べ主要血栓症、出血、骨髄線維症や急性骨髄性白血病への進展、死亡を認めない生存率が良好であることが報告されており、血栓症の予防のみならず、腫瘍量の減少を目指す治療戦略が現実的になりつつある。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。1)日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン2024年版(第3.1版). 金原出版;2024.2)Harrison et al. WHO Classification of Tumours of Haematolopoetic and Lymphoid Tissues 5th edition. WHO;2022. p.p40-43.公開履歴初回2022年11月10日更新2025年6月30日

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糖毒性glucose toxicityと進行性β細胞機能不全との関係-再考が必要か?-(解説:住谷哲氏)

 1型糖尿病患者のβ細胞機能は診断時に完全に廃絶しているわけではなく、診断後次第に低下していくことが知られている。この進行性β細胞機能不全のメカニズムは明らかではないが、自己免疫および糖毒性glucose toxicityの2つが関与していると考えられている。1型糖尿病診断直後からの抗TNF-α抗体ゴリムマブの投与により、β細胞機能不全の進行が抑制されることが報告されている1)。糖毒性については、高血糖に起因する細胞内酸化ストレスなどを介してβ細胞機能不全が進行するため、診断直後からの厳格な血糖管理がその進行を抑制するために有効である、と考えられてきた。しかしこの考えを支持するエビデンスは実は十分ではない。いくつかの介入試験がこれまでに報告されているが、その結果はcontroversialである。そこで本試験ではHybrid closed loop(HCL)を用いた厳格な血糖コントロールが、診断直後の1型糖尿病患者における進行性β細胞機能不全を抑制するか否かを検討した。 HCL群とMDI(multiple daily injections)群とを比較したRCTであり当然open-labelである。β細胞機能は食事負荷後の血清CPRのAUCで評価した。さらに血糖管理状態をより厳密に比較するためにprofessional CGMであるFreeStyleリブレProを用いたmasked CGMで種々のパラメータを比較した。結果は、12ヵ月後のHbA1cおよびTIR(time in range)はHCL群、MDI群でそれぞれ6.9%および64%、7.3%および54%であった。一方、主要評価項目である12ヵ月後の血清CPRのAUCは両群間で有意差を認めなかった。 この結果をどのように解釈するか? 著者らがDiscussionで指摘しているように、両群間の血糖コントロールの差が試験開始前の設定よりも小さかったため、糖毒性の影響がマスクされてしまったのかもしれない。一方、上述したように抗TNF-α抗体ゴリムマブを12ヵ月投与することでβ細胞機能不全の進行が抑制された。つまり発症直後の1型糖尿病患者における進行性β細胞機能不全に及ぼす糖毒性の影響はわれわれが考えているほど大きいものではなく、むしろ炎症性サイトカインの影響がより大きいのかもしれない。 2型糖尿病患者においてもβ細胞機能不全の進行を抑制することが良好な血糖コントロールを維持するために重要である。1型糖尿病患者と2型糖尿病患者とにおける進行性β細胞機能不全のメカニズムが同一であるとは考えにくいが共通する部分も少なくないと思われる。現時点で2型糖尿病患者の進行性β細胞機能不全を抑制することが証明されている薬剤は存在しない。しかし本試験の結果から想像をたくましくすれば、2型糖尿病患者においても進行性β細胞機能不全に及ぼす糖毒性の影響はそれほど大きくはなく、むしろβ細胞における慢性炎症がより重要かもしれない。そうであれば、抗炎症作用を有する可能性が示唆されている血糖降下薬(ピオグリタゾン、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬)を積極的に選択するのも1つの方法である。

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不眠症患者の死亡リスクに対する睡眠薬の影響~J-MICC研究

 不眠症患者の死亡リスクに関する研究では、一貫した結果が得られていない。不眠症の治療では、睡眠のコントロールよりも、睡眠薬の使用が死亡リスクを高める可能性があるにもかかわらず、死亡リスクに対する睡眠薬の影響については、これまでよくわかっていなかった。佐賀大学医学部附属病院の祖川 倫太郎氏らは、日本の大規模サンプルにおける全死亡リスクと睡眠薬使用との関連を、併存疾患の影響を考慮したうえで評価した。その結果、睡眠薬の使用と全死亡率との間に、性別および年齢による関連性が観察されたことを報告した。Sleep Medicine誌オンライン版2022年9月28日号の報告。 日本多施設共同コーホート研究(Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study:J-MICC study)として35~69歳の9万2,527人を対象に、死亡率に関するフォローアップ調査を実施した。睡眠薬の定期的な使用の評価には、自己記入式アンケートを用いた。がん歴は死亡リスクが高く、睡眠薬による不眠症治療と関連しているため、がん歴を有する患者は除外した。睡眠時間、併存疾患(BMI、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病)などの共変量で調整した後、睡眠薬使用に関連する全死亡率のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間(平均:8.4±2.5年)中の死亡数は1,492人であり、睡眠薬の使用率は4.2%であった。・共変量で調整した後、睡眠薬の使用により、全死亡リスクが有意に上昇することが確認された(HR:1.32、95%CI:1.07~1.63)。・睡眠薬の使用と全死亡率との関連は、男性(HR:1.51、95%CI:1.15~1.96)、60歳未満(HR:1.75、95%CI:1.21~2.54)で強かった。

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世帯所得が低い2型DMの男性は食物繊維が不足気味?

 世帯所得は日本人2型糖尿病(T2DM)患者の男性において、食物繊維摂取量および食事性酸負荷と関連することが報告された。Nutrients誌2022年8月7日号掲載の報告。 世界中で、T2DM患者の人口は増え続けている。教育レベル、職業、生活状況、世帯所得からなる社会経済的地位は、T2DMの有病率に影響を及ぼすことが知られている。京都府立医科大学の高橋 芙由子氏らはT2DM患者における世帯所得と習慣的な食事摂取、とくに食物繊維の摂取と食事性酸負荷との関連について調査した。 2016年1月~2021年2月にかけて338例が本研究に参加し、世帯所得が不明などの理由で137例が除外され、最終的な調査対象者はT2DM患者201例(男性128例、女性73例)であった。世帯所得は自己申告式の質問票により評価し、高所得世帯と低所得世帯に分類された(本研究では500~800万円または800万円以上を高所得世帯、300~500万円または300万円未満を低所得世帯と定義した)。栄養状態は、簡易型自記式食事歴法質問票を用いて評価された。 主な結果は以下のとおり。・低所得世帯の割合は、男性67.2%(86/128例)、女性83.6%(61/73例)であった。・世帯所得が低い男性は世帯所得が高い男性よりも、食物繊維の摂取量は低く(11.3±4.2 vs.13.8±6.0g/日、p=0.006)、食事性酸負荷、推定内因性酸産生量(NEAP)(51.7±10.5 vs.46.8±10.4mEq/日、p=0.014)および潜在的腎臓酸負荷(PRAL)は高かった(9.5±10.7 vs.3.7±14.1mEq/日、p=0.011)。・多変量線形回帰分析の結果、共変量で調整した後、世帯所得が低い男性の対数(食物繊維摂取量)は世帯所得が高い男性よりも低かった(2.35[2.26~2.44]vs.2.52[2.41~2.62]、p=0.010)。さらに、世帯所得が低い男性のNEAPは、共変量で調整すると世帯所得が高い男性より高かった(54.6[51.7~57.4]vs.45.8[42.5~49.2]、p<0.001)。一方、女性では世帯所得と食事の質との間には関連が認められなかった。 著者らは「本研究で、男性では世帯所得が食物繊維摂取量および食事性酸負荷と関連することが示されたが、女性では関連しないことが示された。T2DM患者にとって食事の質の向上は重要である。したがって、臨床医および栄養士は、世帯所得が低い男性の食事の質の低さに注意を払う必要がある」と述べている。

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GRADE試験―比較効果研究(comparative effectiveness research)により示されたGLP-1受容体作動薬の優位性(解説:景山茂氏)

 GRADE試験は著者らが述べているように比較効果研究(comparative effectiveness research)である。糖尿病治療薬については2008年の米国FDAのrecommendation以来、新規に開発される薬物については治験段階から心血管イベントに対する影響が検討されている。これらの成果として、近年はGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の臓器保護効果が検証された。しかし、これらはプラセボを対照とした試験が多く、必ずしも数多くある治療薬の中でどれがよいかを示すものではなく、また、それを目的として行われたわけでもない。 比較効果研究で観察するのは、efficacyではなく、実臨床における効果effectivenessである。そして、対照はプラセボではなく実薬である。GRADE試験はランダム化比較試験 (randomized controlled trial:RCT)であるが、盲検化はされておらず、日常診療に近い形で行われている。また、比較効果研究のスタディ・デザインはRCTに限らず、観察研究やデータベース研究によっても行われる。 さて、GRADE試験は、これまでのプラセボ対照試験で示された成績からある程度推測される結果を示した。本試験は心血管イベントの群間差を把握するようデザインされていないが、GLP-1受容体作動薬の心血管系保護の優位性を示唆している。本試験にSGLT2阻害薬が含まれていないのは残念であるが、これはGRADE試験の計画開始時期によるのかもしれない。 糖尿病治療薬のように数多くの選択肢のある領域においては、何が最善の選択であるかを明確にすることを目的とした比較効果研究が必要であり、この分野の充実が望まれる。

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11月3日 ホルモンの日【今日は何の日?】

【11月3日 ホルモンの日】イラスト・いわみせいじ氏〔由来〕ホルモンや内分泌疾患に関する正しい知識を社会に広め、早期診断・治療につなげることを目的にアドレナリンを発見した高峰譲吉博士の誕生日にちなみ日本内分泌学会が制定。関連コンテンツDr. 坂根のすぐ使える患者指導画集 Part1第128回 承認済のホルモン薬でダウン症候群患者の認知機能が改善【バイオの火曜日】手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会5年間のビタミンD補給により自己免疫疾患のリスク低減/BMJ潜在性甲状腺機能低下症併発の急性心筋梗塞患者、ホルモン療法は有効か/JAMA

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コロナ流行で糖尿病関連死が30%増加、とくに若年で顕著

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、米国における2021年および2022年の糖尿病関連の死亡が、パンデミック以前と比べて30%以上増加したことを、中国・西安交通大学のFan Lv氏らが報告した。糖尿病は新型コロナ感染症の重症化の重大なリスク因子であるとともに、新型コロナウイルス感染は血糖コントロールの悪化につながることが報告されている。同氏らは、パンデミックによって糖尿病患者の治療の提供が混乱したことから、パンデミック中の糖尿病関連の死亡の傾向を調査した。eClinicalMedicine誌9月23日掲載の報告。 調査は、米国人の出生と死亡に関する人口データベース「National Vital Statistics System(NVSS)」を用い、2006年1月1日~2021年12月31日に25歳以上であった死亡者のデータを解析した。糖尿病関連の死亡は、死亡診断書に記載された原死因と関連死因に糖尿病が記録されていた場合とした。超過死亡率は、2006~19年の死亡率より、年齢調整死亡率の観測値と期待値を線形および多項式回帰モデルで比較して推定した。 主な結果は以下のとおり。・2006~21年の間に、25歳以上の糖尿病関連の死亡は424万3,254例あった。その多くは、65歳以上の高齢者グループ(76%)、男性(54%)、非ヒスパニック系白人(71%)であった。・10万例あたりの年齢調整死亡率は、2006年(116.1)から2015年(103.9)にかけて減少し、2019年(106.8)にかけてわずかに増加した後、2020年(144.1)および2021年(148.3)に大きく増加した。・糖尿病関連の死亡の超過死亡率は、2020年が33.3%(95%信頼区間[CI]:30.5~36.2)、2021年が35.3%(同:31.7~39.0%)であった。この超過死亡率の増加は、25~44歳、女性、ヒスパニック系において著しかった。・米国全人口の全死因の超過死亡率は2020年が15.3%(同:13.2~17.4)、2021年が17.8%(同:15.2~20.6)であり、糖尿病関連死の超過死亡率のほうが高かった。・糖尿病関連の超過死亡例の約3分の2が、パンデミック中の新型コロナウイルス感染症に関連していた。

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