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第143回 アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」FDA迅速承認を聞いて頭をもたげたある疑問、「結局高くつくのでは?」

満を持してエーザイが放つレカネマブは成功するか?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年末年始は愛知県の実家に帰省し、少々ボケてきた91歳の父親のマイナポイント申請と、買い与えたiPhoneの使い方指導を行って来ました。マイナポイントの申請はiPhoneを使ってなんとかできたのですが、超高齢者がスマホを使いこなすのはなかなかハードルが高いなと実感した次第です。最大の障壁はタッチパネルです。スマホに電話がかかってきても、タッチパネルをタップしてうまく受けられないのです。指の爪の部分でタッチしてしまったり、押す部分がズレてしまったり。ある日などは指先を怪我したとかで絆創膏を貼った指でタッチしようとしていました。電話を正しく取れる成功率は4割ほど。ま、認知症にもならず、90歳を超えてスマホを使ってみようという意欲だけは買いますが、この先どこまで使えるようになるか。ちなみに父親は万歩計代りにもなる「フィットネス」アプリ(何も操作しなくても歩いた距離と歩数が記録される)だけはいたく気に入ったようでした。さて、今回は1月6日(現地時間)に米食品医薬品局(FDA)が迅速承認した、エーザイと米国バイオジェン社が共同開発しているアルツハイマー病治療薬・レカネマブ(LEQEMBI)について書いてみたいと思います。2021年6月に米国で承認されたアデュカヌマブについては、本連載でも、「第62回 アデュカヌマブFDA承認、効こうが効くまいが医師はますます認知症を真剣に診なくなる(前編)」、「第63回 同(後編)」、「第91回 年末年始急展開の3事件、『アデュカヌマブ』『三重大汚職』『町立半田病院サイバー攻撃』のその後を読み解く」などで何度か取り上げました。薬価が高額だったことや治験データの不十分さなどから、保険適用が治験参加者に限られることとなり、普及は失敗に終わっています。アデュカヌマブの挫折を乗り越え、満を持してエーザイが放つレカネマブは果たして成功するのでしょうか。18ヵ月の治療で27%の進行抑制レカネマブは、アルツハイマー病(AD)の原因物質とされるアミロイドβプラークに対するヒト化IgG1モノクローナル抗体で、アミロイドβの脳内への蓄積を抑制する効果があったとされています。今回の迅速承認は、レカネマブがADの特徴である脳内に蓄積したアミロイドβプラークの減少効果を示した臨床第II相試験(201試験)の結果に基づくものです。なお、昨年NEJM誌に掲載された早期ADを対象とした臨床第III相Clarity AD検証試験の結果1)では、レカネマブ投与は、投与18ヵ月時点における認知機能・全般症状の評価項目について、プラセボに対して悪化抑制を示し(18ヵ月の治療でCDR-SB[Clinical Dementia Rating Sum of Boxes]において27%の進行抑制など)、一方で有害事象は想定の範囲内だったとのことです。なお迅速承認が下りたその日のうちに、FDAに対し完全承認に向けた申請を行っています。Aβ検査がボトルネックに今回承認された適応症は、早期のアルツハイマー病(AD)の治療です。治療開始前にアミロイドβの病理所見が確認された患者に対し、10mg/kgを推奨用量として2週間に1回点滴静注するとしています。米国では「LEQEMBI(レケンビ)」の商品名で1月23日の週に発売を始めるとのことです。1月7日午後に東京で開かれたエーザイの投資家説明会で内藤 晴夫最高責任者は「MCI(MCI due to AD:アルツハイマー病による軽度認知障害)と軽度ADのうち、実際の医療機関で早期ADとの診断を受け、さらにアミロイドPET検査またはCSF腰椎穿刺検でアミロイドβ陽性と判定された患者が投与対象となる。米国では今後3年間で10万人が対象。2030年までに世界で250万人が対象になる」と述べました。内藤氏は同薬の普及にあたってはアミロイドβ検査がボトルネックになるとの見解を示し、「より簡便な血液検査の開発・普及に期待する」と話していました。年間卸業社購入価格を2万6,500ドル(約350万円)に設定この日の説明会で内藤氏は、米国における価格設定についてその考え方を説明しました。それによれば、レカネマブの米国における治療を受ける患者1人当たりの社会的価値は年間3万7,600ドルと見積もる一方、年間卸業社購入価格(WAC:Wholesale Acquisition Cost)を2万6,500ドル(約350万円)と1万ドル以上安価に設定したとのことです。内藤氏は「より幅広い当事者様アクセスの促進、経済的負担の軽減、医療システムの持続可能性への貢献を目指しての設定」と話していました。米国の高齢者向け公的保険メディケア加入者の実質的な自己負担額は1日あたり数ドル〜14.5ドルだそうです。QALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)などを使った算出式は複雑過ぎて私にはよく理解できませんでしたが、アデュカヌマブの価格設定においては米国のアルツハイマー病の支援団体から批判が噴出したことから、相当神経を使って価格設定を行ったということは伝わってきました。日本でも「一日も早い申請」を目指す気になる日本での発売時期の見込みについて内藤氏は明言を避けました。ただ、PMDAとの話し合いはすでに進めているとのことで、「一日も早い申請」を目指すとのことでした。仮に日本で承認されたとしても、やはりPET検査や腰椎穿刺検などによる病理所見の確認が大きな障壁になりそうです。また、米国ではADによるMCIと軽度ADが対象ですが、日本でもMCIが保険適用になるかも注目ポイントとなります。日本の保険診療上、MCIは疾患ではなく現状使用できる薬剤はありません(MCIはドネペジルも保険で使えません)。そう考えると、承認後も広く使われる薬になるには、それなりの時間がかかりそうです。患者対応やケアはこれまで以上に後回しにされる危険性さて、アデュカヌマブが米国で承認された1年半前、私はこの連載の「第63回 アデュカヌマブFDA承認、効こうが効くまいが医師はますます認知症を真剣に診なくなる(後編)」で、「アデュカヌマブが承認されたとしても、医師たちは『どういう患者に使えるか』『アミロイドβの蓄積はどうか』といった診断面ばかりに目が行き、患者対応やケアはこれまで以上に後回しにされる危険性があります。『患者を診ず病気しか診ない』どころか、『患者を診ず検査値しか見ない』というわけです」と書きました。この心配はレカネマブについても当てはまります。患者の症状や行動を見ず、糖尿病のHbA1cのようにアミロイドβの値ばかり気にする医師が増えそうです。そしてさらに、内藤氏の「レカネマブの米国における治療を受ける患者1人当たりの社会的価値は年間3万7,600ドル」との発言を聞いて、新たな疑問も頭をもたげてきました。ADの罹患期間を長くしてしまい最終的に医療費・介護費は高くつくのではそれは、「ADの進行を遅らせるということは、結果その人のADの罹患期間を長くしてしまい、最終的にその人にかかる医療費は高くついてしまうのではないか」ということです。軽度ADの人のレカネマブ投与中の社会的価値は確かに上がるかもしれませんが、いずれ中等度・重度に移行し、上がった分は結局はチャラになってしまい、罹患期間が長くなることでむしろトータルの医療費・介護費はかさむ結果になると思うのですが、皆さんいかがでしょう。この疑問を、医薬品開発に詳しい知人の記者にぶつけたら、「アミロイドβをターゲットとした治療薬はそもそも根本治療ではないのだから、そうした疑問は昔からある。でも、今できるのはそこしかないので、次のAD治療薬のステージに行くためにもレカネマブ承認の意味はある」と話していました。全体として、投資家含め、医薬品産業畑の人たちはレカネマブ登場に好意的過ぎる印象です。私は父親のボケ抑制のために、せいぜいスマホ訓練を地道に続けようと思いました。参考1)H van Dyck C, et al. N Engl J Med. 2023;388:9-21.

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アラーム付き間歇スキャンCGM vs. SMBG-試合前から勝負あり?(解説:住谷哲氏)

 持続グルコース測定器(continuous glucose monitoring:CGM)は大きく分けて3種類ある。現在わが国で使用できる機器も併せて記載すると、(1)リアルタイムCGM(real-time CGM[rtCGM]):そのときの血糖値が常に測定表示されるもの(Dexcom G6、ガーディアン コネクト)、(2)間歇スキャンCGM(intermittently scanned CGM[isCGM]、flash glucose monitoring[FGM]とも呼ばれる):患者がセンサーをスキャンしたときにのみグルコース値が表示されるもの(フリースタイルリブレ)、(3)professional CGM(pCGM):患者はグルコース値を装着中に見ることができず検査終了後に解析するもの(フリースタイルリブレPro)、になる。最も汎用されているのはフリースタイルリブレであるが、欧米ではすでに低血糖・高血糖アラーム付きのフリースタイルリブレ2にほぼ移行しており、他の新規医療機器と同じくわが国は周回遅れの状況である。 現在の糖尿病診療においてCGMの活用は血糖管理に必要不可欠のものとなりつつある。2019年にCGMデータ解釈に関するコンセンサスステートメントが報告されてから、TIR(time in range)やGMI(glucose management indicator)などの指標も次第に普及してきた1)。新規薬剤と同じく、その普及にはCGMの市場を広げたい企業の競争も大きく影響している。現時点ではrtCGMのDexcomとisCGMのAbbottが火花を散らしているが、アラーム付きのrtCGMであるDexcom G6が血糖管理においてはAbbottのフリースタイルリブレを一歩リードしている2)。そこにAbbottが送り込んだのがアラーム付きのフリースタイルリブレ2(本邦未発売)である。本来であればDexcom G6 vs.フリースタイルリブレ2の直接比較試験が望ましいが、本論文FLASH-UKは残念ながらフリースタイルリブレ2 vs.SMBGの比較試験である。その結果は、フリースタイルリブレ2群が24週後のHbA1cの低下度および<70mg/dLの低血糖時間に関してSMBG群に比較して優れていた。これまでのCGMの有効性に関する報告からこの結果は試験前から当然予想されたように筆者には思われるが、きちんとしたRCTで証明した点がNEJM誌に掲載された理由だろう。 2022年4月の診療報酬改定で、フリースタイルリブレがインスリン使用中のすべての糖尿病患者に対して保険診療で使用可能となった。さらに同年12月にはDexcom G6も保険診療上はフリースタイルリブレと同じ扱いとなり、今後は使用患者の増加が予想される。またCGMのデータをApple Watchに代表されるsmart watchで読み取ることも可能となりつつあり、血糖管理のハイテク化はまだまだ続きそうである。

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慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの有用性(解説:小川大輔氏)

 SGLT2阻害薬による糖尿病患者の腎保護効果については数多くの報告があるが、糖尿病以外の慢性腎臓病に対する効果はまだ報告が少ない。2021年にSGLT2阻害薬ダパグリフロジンが慢性腎臓病の進行を抑制するという試験結果が発表され1)、ダパグリフロジンは日本において慢性腎臓病の保険適用を取得した。今回、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの慢性腎臓病に対する試験の結果が報告された2)。 この試験では、推算糸球体濾過量(eGFR)が20~45mL/分/1.73m2未満、またはeGFR 45~90mL/分/1.73m2未満で尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が200(mg/g・CRE)以上の慢性腎臓病患者、合計6,609例をエンパグリフロジン(10mg・1日1回)投与群、またはプラセボ投与群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、腎臓病の進行(末期腎不全、eGFRが持続的に10mL/分/1.73m2未満、eGFRがベースラインから40%以上持続的に低下、腎臓病による死亡)または心血管系による死亡の複合アウトカムであった。結果は追跡期間中央値2.0年の間に、主要アウトカムの発生がエンパグリフロジン群3,304例中432例(13.1%)、プラセボ群3,305例中558例(16.9%)であった(p<0.001)。また糖尿病の有無にかかわらず、またeGFR値によるサブグループ別でも結果は一貫していた。重篤な有害事象の発生率は両群間で有意差はみられなかった。 今回の報告で、腎不全の進行するリスクが高い慢性腎臓病の患者において、エンパグリフロジンはプラセボと比較し、腎不全の増悪や心血管疾患による死亡のリスクを抑制することが示された。ただ、慢性腎臓病患者を対象としたSGLT2阻害薬の有効性を検証した試験としては、2021年に腎アウトカムや心血管アウトカムに対するダパグリフロジンの有効性がすでに報告されている。今回の試験は、慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬のクラスエフェクトとしての有効性を示した内容であるとも言えよう。 SGLT2阻害薬は糖尿病や慢性心不全だけでなく、慢性腎臓病に対しても有効であることが示され、今後臨床において使用される機会がますます増えるだろう。ただ安易な処方は有害となることもあり、厳に慎まなければならない。2022年11月29日に日本腎臓学会から、「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」が発表された3)。SGLT2阻害薬投与開始前や投与開始後の注意点について詳しく解説されている。慢性腎臓病に対してSGLT2阻害薬の処方を検討される先生はぜひ全文を一読してほしい。

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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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若年発症2型DMは世界的な健康問題-30年で1.5倍超に/BMJ

 1990年以降、若年発症2型糖尿病は、世界的に増大している青少年・若年成人(15~39歳)の健康問題であり、とくに社会人口統計学的指標(SDI)低中・中の国で疾病負担は大きく、また30歳未満の女性で疾病負担が大きいことを、中国・ハルピン医科大学のJinchi Xie氏らが世界疾病負担研究2019(Global Burden of Disease Study 2019)のデータを解析し報告した。これまで若年発症2型糖尿病の世界的疾病負担や長期傾向、および性別やSDI分類別にみた違い、さらに国別の若年発症2型糖尿病寄与リスク因子の違いなどは調査されていなかった。BMJ誌2022年12月7日号掲載の報告。1990~2019年の204ヵ国15~39歳のデータを解析 研究グループは、青少年・若年成人(15~39歳)の2型糖尿病の世界的負担を推計するため、1990~2019年に204ヵ国の15~39歳が参加した世界疾病負担研究2019のデータを用いてシステマティックな解析を行った。 主要評価項目は、1990~2019年の15~39歳2型糖尿病者の年齢標準化罹患率、年齢標準化障害調整生存年(DALY)率、年齢標準化死亡率、および各リスク因子の寄与率(因子別寄与DALY÷総計DALYで算出)であった。罹患率、DALY率、死亡率とも有意に増加 1990~2019年に、青少年・若年成人の2型糖尿病の年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率は、有意に増加していた(p<0.001)。年齢標準化罹患率(10万人当たり)は、1990年の117.22(95%信頼区間[CI]:117.07~117.36)から2019年は183.36(183.21~183.51)に、年齢標準化DALY率は同106.34(106.20~106.48)から149.61(149.47~149.75)へとそれぞれ増加していた。年齢標準化死亡率は、同0.74(95%CI:0.72~0.75)から0.77(0.76~0.78)へとわずかだが有意に増加していた(p<0.001)。 SDIでグループ化した国別では、2019年では、SDI低中・中の国で年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率が最も高く、SDI低の国は年齢標準化罹患率が最も低い一方で年齢標準化死亡率が最も高かった。 性別では、30歳未満では女性が男性よりも概して死亡率とDALY率が高かった。30歳以上では、SDI低の国以外は男女差が逆転していた。 若年発症2型糖尿病DALYの主な寄与リスク因子は、すべてのSDI分類地域でBMI高値であった。その他のリスク因子の寄与率は地域によって異なっており、SDI高の国では、室外環境中の粒子状物質による大気汚染および喫煙の割合が高く、SDI低の国では、室内の固形燃料による大気汚染や果物が不足気味の食事の割合が高かった。 これらの結果を踏まえて著者は、「若年発症2型糖尿病の負担の軽減には体重管理が欠かせないが、この問題へのより効果的な対応には、各国で個別に政策を確立する必要がある」と述べている。

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第142回 帚木蓬生氏の新作『花散る里の病棟』を読んで医師という仕事について考える

九州で四代百年続く「医家」の物語こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2023年が始まりました。年始年末は愛知の実家に帰っていたのですが、帰省する直前の年末、セ・リーグのY軍本社で働く(選手ではありません)知人と、パ・リーグのS軍本社で働く知人(同)を呼んで、その他野球好きを交えての野球飲みを行いました。いろいろ興味深い話ばかりだった中、特に話題となったのは、日本ハムからソフトバンクに移籍した近藤 健介選手の年俸(1年あたりだと村上 宗隆選手の方が安い)の妥当性と、オリックスからMLBのレッドソックスに移籍した吉田 正尚選手は活躍できるか、そしてマスコットキャラクターたちの年俸についてでした。ちなみに、一部のマスコットキャラクターは、この年末も各地のディナーショーに引っ張りだこだったようです。最後に、来年の各リーグの優勝チームを予想して飲み会を終えたのですが、Y軍、S軍両者とも自軍を優勝候補にせず、最後に「まじか」と思った次第です。さて、今回は年末に読んだある本を紹介します。それは、帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の『花散る里の病棟』(新潮社、2022年刊)です。九州で四代百年続く「医家」のそれぞれの世代の医師の医療に携わる姿を短編で描きながら、全体を通して読むと日本の医療の歴史が浮かび上がってくるという、とても凝ったつくりの短編集です。4代目がパンデミックに遭遇し至る結論とはご存知の方も多いと思いますが、帚木氏は福岡で精神科のクリニックも営む医師兼作家です。本の帯には「この小説では、時代と人の営みを凝縮しようと試みました。こうした小説は1、2年では書けず、やはり10年かかったという重みを感じます」という著者の言葉があります。本書は短編集で、小説新潮に2012〜2021年まで連載した短編10作品が収められています。登場する医師は、1代目公立病院副院長を経て野北医院を開業、蛔虫治療で評判を取り「虫医者」と呼ばれる2代目軍医としてルソン島の兵站病院で従事、戦後は町立病院や山あいの診療所に勤務3代目市立病院勤務を経て内科医院を開業、老健施設も開設し高齢者医療に注力4代目米国で糖尿病治療の最先端を学び、帰国して市立病院で肥満症外科手術を手掛ける――の4人です。それぞれの時代の医師が、その時代、その時代の医療問題に真摯に取り組む姿が描かれています。最後の短編、「パンデミック」は開業医である3代目と、勤務医の4代目が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中、それぞれの現場で奮闘する姿が描かれています。最後の場面で4代目はある”結論”に至ります。その“結論”は、現役の医師である帚木氏だからこそ書けることであり、一連の連作で読者(そして日本の医師たち)に伝えたかったことではないかと思いました。さまざまな立場・診療科の医師が登場する「風花病棟」もお薦め帚木氏の作品で本書と同類とも言える短編集に『風花病棟』(新潮社、2009年刊)があります。こちらには、さまざまな立場・診療科の医師が登場します。イソミタール・インタビュー(短時間麻酔薬で半眠状態に置き、被験者の本音を聞き出す手法)を行った精神科医と被検者、乳がんを患い抗がん剤治療を受ける女性医師、田舎の父親の診療所を継がず都会で働く眼科医、治療費を払えない婦人科患者に遭遇する後期研修中の女性医師、古希を迎えクリニックを閉院する医師など、そこに描かれている等身大の医師の姿は、とかくヒーローとして描きがちな医療ドラマに辟易している医師(や一般の人)の共感を呼ぶのではないでしょうか。限りなくノンフィクションに近く、事件の記録的な側面も強い作品ところで、帚木氏の作品で私が個人的に好きなのは、『悲素』(新潮社、2015年刊)、『沙林 偽りの王国』(新潮社、2021年刊)などの実際の事件を題材にした小説です。この2作はそれぞれ、和歌山毒物カレー事件、松本サリン事件・地下鉄サリン事件の実像について、限りなくノンフィクションに近い手法で、医学的観点から全体像をわかりやすく解き明かした小説です。どちらも主人公は化学物質中毒症研究の第一人者である九州大学医学部衛生学教室の沢井 直尚教授(架空の人物です)。「報告書」ではなく、あえて「小説」というスタイルを取っているため、沢井教授の考えや主観がダイレクトに伝わってきます。ちなみに、沢井教授のモデルとなったのは神経内科医で中毒学が専門の井上 尚英・九州大名誉教授です。井上名誉教授は、和歌山毒物カレー事件、松本サリン事件・地下鉄サリン事件などで被害者の症状分析などを行い、捜査や裁判に関わった人物です。帚木氏は、井上名誉教授への取材や論文、裁判記録などに基づいて、この2作を完成させています。小説ではありますが、事実に基づいた記述は説得力もあり、事件の記録的な側面も強い貴重な作品だと言えるでしょう。以上、冬休みも終わってしまいましたが、今後の休暇の読書の助けになるよう、帚木氏のいくつかの作品を紹介しました。

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性への関心と健康や寿命は関係があるのか/国内前向き研究

 性的関心が薄れることは、健康や寿命に関係するのであろうか。山形大学の櫻田 香氏らの研究グループは、性的関心の欠如と全死因死亡率との関連性について、山形県における前向き観察研究を行った。この研究は、山形県内の40歳以上の被験者2万969人を対象に行ったもので、性的関心を持たなかった男性では、全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇した。PLoS One誌2022年12月14日号の報告。性的関心がない男性では全死亡率およびがん死亡率が有意に上昇 山形県内の年次健康診断に参加した40歳以上の被験者2万969人(男性8,558人、女性1万2,411人)を対象。性的興味は自己報告式の質問紙で評価した。性的関心と全死亡、心血管疾患死亡、がん死亡の増加との関連をCox比例ハザードモデルにより検討。 性的関心が健康や寿命に関係するかを研究した主な結果は以下のとおり。・追跡期間中(中央値:7.1年)、503人が死亡した(心血管疾患死亡:67人、がん死亡:162人)。・カプランマイヤー解析の結果、性的関心がない男性では、全死亡率(p<0.0001)およびがん死亡率(p<0.05)が有意に上昇した。・年齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒状況、BMI、教育、配偶者の有無、笑いの頻度、心理的苦痛を調整したCox比例ハザードモデル解析では、性的関心がない男性では、性的関心がある男性より全死亡のリスクが有意に高かった(ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.17~2.44)。

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過体重・肥満の膝OA疼痛、食事・運動療法は有効か/JAMA

 過体重または肥満の変形性膝関節症患者では、18ヵ月間の食事療法と運動療法を組み合わせたプログラムは生活指導のみの場合と比較して、わずかだが統計学的に有意な膝痛の改善をもたらしたものの、この改善の臨床的な意義は不明であることが、米国・ウェイクフォレスト大学のStephen P. Messier氏らが実施した「WE-CAN試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年12月13日号に掲載された。米国の1州3郡での無作為化臨床試験 WE-CAN試験は、米国ノースカロライナ州の3つの郡(都市部1郡、農村部2郡)で行われた無作為化臨床試験であり、2016年5月~2019年8月の期間に参加者の登録が行われた(米国国立関節炎・骨格筋/皮膚疾患研究所[NIAMS]の助成を受けた)。 対象は、年齢50歳以上、過体重または肥満(BMI値≧27)の変形性膝関節症(米国リウマチ学会基準で判定)の患者であった。被験者は、地域の施設で18ヵ月間の食事・運動介入を受ける群(介入群)またはattention control(生活指導)を受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、18ヵ月の時点におけるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の膝痛スコア(0[痛みなし]~20[重度の痛み]点)の差(臨床的に意義のある最小差[MCID]1.6点)であった。有意差はあるが、MCIDに達せず 823例が登録され、介入群に414例(平均年齢64.5歳、女性320例[77.3%]、平均体重100.7kg、平均BMI値36.7)、対照群に409例(64.7歳、317例[77.5%]、101.1kg、36.9)が割り付けられた。658例(80%)(介入群336例、対照群322例)が試験を完遂した。 18ヵ月の時点での補正後平均WOMAC膝痛スコアは、介入群が5.0点と、対照群の5.5点に比べ有意に改善した(補正後群間差:-0.6点、95%信頼区間[CI]:-1.0~-0.1、p=0.02)。 7項目の副次アウトカムのうち次の5項目で、介入群が対照群に比べ有意に改善した(ベースラインから18ヵ月後までの変化量)。体重(-7.7kg vs.-1.7kg、平均群間差:-6.0kg、95%CI:-7.3~-4.7、p<0.001)、ウエスト周囲長(-9cm vs.-4cm、-5cm、-7~-4、p<0.001)、WOMAC機能障害スコア(0~68点、点数が高いほど機能障害が重度、MICD:6点)(-9.2点vs.-5.5点、-3.3点、-4.9~-1.7、p<0.001)、6分間歩行距離(41m vs.-4m、43m、31~55、p<0.001)、SF-36身体機能スコア(0~100点、点数が高いほど身体機能が良好、MICD:5点)(6.7点vs.2.1点、3.8点、2.5~5.2、p<0.001)。 重篤な有害事象が169件(介入群70件、対照群99件)発現したが、試験と明らかに関連するものはなかった。729件の有害事象のうち32件(4%)が試験と関連し、身体の負傷が10件(介入群9件、対照群1件)、筋挫傷(肉離れ)が7件(6件、1件)、つまずき/転倒が6件(6件、0件)などであった。 著者は、「食事療法と運動療法による7.7kg(8%)の減量と、ウエスト周囲長の9cmの短縮は、変形性膝関節症の高齢者に健康上の利益をもたらす可能性がある」としている。

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降圧薬使用とアルツハイマー病との関連~メタ解析

 高血圧は認知症のリスク因子として知られているが、高血圧患者のアルツハイマー病リスク軽減に対する降圧薬使用の影響についてのエビデンスは、決定的であるとは言えない。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン薬学部のM. Adesuyan氏らは、認知機能が正常な高血圧症の成人患者における降圧薬使用とアルツハイマー病発症率との関連を調査した。その結果、降圧薬の使用とアルツハイマー病発症率低下との関連が認められた。とくに、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の使用は、降圧薬の中でも最大のベネフィットをもたらす可能性が示唆された。このことから著者らは、降圧が認知機能保護の唯一のメカニズムではない可能性があり、認知機能に対するアンジオテンシンIIの影響についてさらなる調査が求められるとしている。The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease誌2022年号の報告。 2022年2月18日までに公表された文献をOvid MEDLINE、Ovid Embase、Ovid PsycINFO、Web of science、Scopusより検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。対象は、認知機能が正常な40歳以上の高血圧患者。2つのメタ解析(降圧薬未使用患者との比較研究、降圧薬の比較研究)を個別に行い、調整済み相対リスク(RR)をプールした。 主な結果は以下のとおり。・9件の研究(152万7,410例)をメタ解析に含めた。・降圧薬未使用患者との比較研究におけるメタ解析では、降圧薬使用はアルツハイマー病発症リスク低下と関連していることが示唆された(RR:0.94、95%CI:0.90~0.99、p=0.01)。・降圧薬の比較研究におけるメタ解析では、ARB使用患者は、他の抗うつ薬使用患者と比較し、アルツハイマー病のリスク低下との関連が認められた(RR:0.78、95%CI:0.68~0.88、p<0.001)。

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トリグリセライドの新基準と適切なコントロール法/日本動脈硬化学会

 今年7月に発刊された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』。今回の改訂点の1つとして「随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値」が設定された。これらの基準をもとに動脈硬化性疾患のリスクとしての高TG血症を確認するが、トリグリセライド値の低下だけではイベントを減らせないため、高トリグリセライド血症の原因となる生活習慣を改善させ適切な治療介入により動脈硬化を抑制するという観点から複合的に行う必要がある。今回、日本動脈硬化学会プレスセミナーにおいて、増田 大作氏(りんくう総合医療センター循環器内科部長)が「高トリグリセライド血症とその治療」と題し、日本人疫学に基づいたトリグリセライドの適切なコントロール法について解説した。動脈硬化抑制のためには、脂質異常値だけをコントロールするのは不十分 「動脈硬化」は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患の引き金になる。だからこそ、生活習慣病の改善を行う際には動脈硬化の予防も視野に入れておかねばならならない。本ガイドライン(GL)では脂質異常症の診断基準値の異常をきっかけに「動脈硬化が増えるリスク状態」であることをほかの項目も含めて“包括的リスク評価”を行い動脈硬化がどの程度起こるかを知ることが重要とされる。それに有用なツールとして、増田氏はまず、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』を紹介。「これまではLDLコレステロール(LDL-C)など単独の検査値のみで患者への注意喚起を行うことが多く、漠然とした指導に留まっていた。だが、本アプリを用いると、予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが“同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる”ことが示されるため、説得力も増す」と説明した。また、「単に“〇〇値”が高い、ではなくアプリへ入力する際に患者個人が持っているリスク(冠動脈疾患、糖尿病などの既往があるか)を医師・患者とも見直すことができ、治療介入レベルや管理目標などの目指すゴールが明確になる」とも話した。トリグリセライドの基準値に随時採血の基準も採用 今回のガイドライン改訂でトリグリセライドの基準値に随時採血(175mg/dL以上)の基準も採用された。これは、「トリグリセライドは食事によって20~30mg/dL上昇する。食後においてこれを超えてトリグリセライドが高いことが心血管疾患のリスクになっていることが本邦の疫学研究1)でも明らかになっている。コレステロール値が正常であっても、随時トリグリセライド値が166mg/dL以上の参加者は84mg/dL未満の者と比較すると、その相対リスクは冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞は3.14倍、狭心症は2.67倍、突然死は3.37倍に上昇することが報告された。海外のガイドラインでの基準値も踏まえてこれが改訂GLにおける非空腹時トリグリセライドの基準値が設けられた」と日本人に適した改訂であることを説明。また、今の日本人の現状として「肥満に伴い耐糖能異常・糖尿病を罹患し、トリグリセライドが上昇傾向になる。単にコレステロールの管理だけではなく複合的に対応していくことが求められている」と述べ、「糖尿病患者ではLDL-C上昇だけでなくトリグリセライドの上昇もリスクが上昇する(1mmol/L上昇で1.54倍)。糖尿病患者における脂質異常症を放置することは非常に危険」とも強調した。高トリグリセライドは安易に下げれば良い訳ではない そこで、同氏は本GLにも掲載されている動脈硬化性疾患の予防のための投薬として、LDL-Cの管理目標値を目指したコントロール後のトリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールを以下のように挙げた。●高リスク(二次予防や糖尿病患者)+高トリグリセライドの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合にイコサペント酸エチルの併用●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチン投与有無に関わらずトリグリセライド低下療法(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチンにさらにフィブラート系/選択的PPARαでのトリグリセライド低下療法 なお、以前は横紋筋融解症を助長させる可能性からスタチンとフィブラート系の併用は禁忌とされていたが、多くのエビデンスの蓄積の結果平成30年より解除されている。また、選択的PPARαモジュレータにおける腎障害の禁忌も同様に本年8月に解除されているので、処方選択肢が広くなっている。 最後に同氏は「高トリグリセライドの人はさまざまな因子が絡んでいるので、安易に下げれば良い訳ではない。漫然処方するのではなく、血糖や血圧などの管理状態を見て、適切な治療薬を用いてコントロールして欲しい」と改めて強調した。

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映画「二つの真実、三つの嘘」(後編)【重症のミュンヒハウゼン症候群とは?】Part 1

今回のキーワード病院に居場所を求める注目の的自作自演身体症状のねつ造前編では、1つの真実として、メラニーがミュンヒハウゼン症候群であることを説明しました。後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てからここに戻って来ていただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。もう1つの真実とは?もう1人の主人公であるエスターは、妊娠中で、出産間近でしたが、街中で何者かに暴行され、胎児は死んでしまいます。彼女は、死産になってしまい悲しみに暮れているように見えました。しかし、衝撃的なことに、実はこれは彼女自身が望んで仕組んだものだったことが徐々に明らかになります。つまり、もう1つの真実とは、エスターもミュンヒハウゼン症候群であったということです。その根拠を5つ挙げてみましょう。(1)病院に居場所を求めようとしているシーンがあるエスターは、入院中に刑事やソーシャルワーカーなどのさまざまな人との関わりがありました。しかし、退院すると、一気に何もなくなり、家で独りぼっちで、うつうつとしています。そして、夜中にふらふらと病院に戻っていき、院内をさまよいます。看護師に呼び止められると、「ほかに行き場がなくて」「帰らなきゃだめ?」と言うのです。1つ目の根拠は、病院に居場所を求めようとしているシーンがあることです。これは、エスターの心情をよく描いています。なぜなら、病院は必ず誰かが助けてくれる場所だからです。(2)エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見えるエスターにはアニカという恋人がいます。その人が女性であることから、エスターは実はレズビアンであることがわかります。ベッドで話すシーンで、アニカは「浮気しないでね」「あんたのために私は危険を冒したんだから(私があんたにやったことのあとにはね※英語直訳)」「私にはとうてい理解できなかったけど、あんたの頼みだからやった」「ほかの奴がやると思う?」「あんたを愛しているのは私だけだから」と言っています。2つ目の根拠は、エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見えることです。しかし、このシーンの時点で、私たちはさすがにそのようにはぴんと来なくて、アニカが何を言っているのかがはっきりわからないままストーリーが進みます。(3)妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見えるエスターは手当てを受けた病院で「精子バンクで妊娠した」と刑事に言っていました。退院後に傷が治ると、彼女はバーに行き、こなれた感じで目が合った男性を誘惑します。しかし、セックス中、エスターは無表情で機械的です。セックスをしたくてしているのではなく、ただ妊娠するためにセックスをしているように見えます。「精子バンクで妊娠」も、実は同じように行きずりの男性とセックスしたからではないかと思えてきます。3つ目の根拠は、彼女がレズビアンで子どもを望んでいるとしても、妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見えることです。この点も、私たちは理解できないまま、またストーリーは進みます。(4)エスターは母親になりたくないと言っているエスターは、メラニーに「妊娠中は楽しかった。妊婦だってわかると、みんなが優しくしてくれた。これまで道を歩いてても、誰も気にしない。まるで存在しないみたい。私が注目の的に。知らない人がお腹を触ってくれたり、笑いかけてくれたり。私がいると、周りが幸せに」と話します。しかし、メラニーから「ママになることは楽しみだった?」と聞かれて、エスターは「私は一度もママになりたいと思ったことはないの」と答えるのです。4つ目の根拠は、エスターは母親になりたくないと言っていることです。メラニーが「理解できない」と言ったように、私たちも理解できません。まるで、初めから妊娠している状態だけを望み、暴行されたことは好都合であったかのように見えてきます。そう考えると、冒頭の妊婦健診のシーンで、エスターが「赤ちゃんの性別を知りたくない」と発言した真意もわかります。(5)エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしているエスターは、メラニーに「(死んでいるはずの)あなたの息子を見たわよ」と伝え、メラニーに自作自演がバレていることを気づかせます。エスターは、メラニーから「二度と私に近づかないで」と言われてしまうのですが、その数日後、エスターはメラニーの家に行き、なんとメラニーの息子を溺死させます。その時、エスターはメラニーに「あなたのためにやったのよ」「あなたの代わりにやってあげたの」「これで一緒になれるね」「もう嘘はだめよ」「私たちは同類でしょ」と言うのです。この時、ようやくすべてが繋がります。5つ目の根拠は、エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしていることです。そして、ためらいなく殺人ができている点から、エスターはメラニー以上に反社会的な行動への罪悪感がないことがうかがえ、胎児殺しをアニカに頼むことができたと考えることができます。なお、アニカも顔にタトゥーを彫るような反社会的なキャラクターとして描かれているため、その頼みを引き受けることができたと考えることができます。さらに、エスターはレズビアンであったことから、「同類」であるメラニーに親近感を抱いて好きになってしまったと考えることができます。なお、エスターは、その時にメラニーの夫が同じ家にいるのがわかっていたのに、犯行に及んでいました。この点については、エスターは、後先をあまり考えないくらい知能は低いことが考えられます。次のページへ >>

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映画「二つの真実、三つの嘘」(後編)【重症のミュンヒハウゼン症候群とは?】Part 2

3つの嘘とは?2つの真実とは、主人公の2人がそれぞれミュンヒハウゼン症候群であるということがわかりました。厳密に言えば、メラニーは精神症状をねつ造しており、エスターはけが(身体症状)をねつ造しているという違いはあります。エスターのほうが体を張っている点で、より重症であると言えるでしょう。ちなみに、身体症状のねつ造で多いのが、採血や採尿の検体への異物混入、インスリンやワーファリンなどの過剰内服、瀉血による貧血、意図的な外傷など、比較的手軽にできることです。それでは、タイトル後半部分の「3つの嘘」とは何でしょうか? この映画には、たくさんの嘘があります。その中で、一大事である殺しについての嘘がちょうど3つあります。その嘘を1つずつ挙げてみましょう。(1)エスターの胎児を殺したのは通り魔であるという嘘エスターは、刑事から「こういう犯罪は身近な人が犯人である可能性が高い」「通り魔とは考えにくい」「恨まれてる人は?」と聞かれても、「麻薬中毒者やホームレスじゃないの?」「赤ちゃんを殺されるほど恨まれたことはない」と言っていました。1つ目は、エスターの胎児を殺したのは通り魔であるという嘘です。実は、エスターがアニカにお願いして仕組んだものでした。(2)メラニーは息子が殺されて悲しんでいるという嘘メラニーは、息子を失い、悲しみにくれているように見えました。しかし、1ヵ月経つと、うつ状態になっている夫に「子どもはまたつくれるわ」と笑顔で言うのです。また、息子が殺されたことを報道するニュースを録画しており、その中でリポーターが「子どもの母親はひどくショックを受けて、今は話をできる状態ではないということです」とコメントする映像をうっとりとした表情で見ています。ここで、メラニーが以前に言っていた不可解なセリフに繋がります。それは、「自助グループで知ったけど、母親にとって最悪なのは誘拐よ。誘拐は、生きてるかどうかずっとわからないから一番つらいそうよ。でも、私だったら辛過ぎて、いっそのこと殺されてしまったほうがいいと思うかも。親なら当然子どもが無事に戻ってきて欲しいと思うんだろうけど」というセリフです。メラニーは、エスターほど子どもに死んで欲しいと積極的には思っていませんが、殺されたらそれはそれで同情されるという「ご褒美」があるので構わないくらいの感覚でしょう。「同類」であるエスターは、この心理については的確に読み取っていたのでした。2つ目は、メラニーは息子が殺されて悲しんでいるという嘘です。つまり、なんと彼女が悲しむのは、悲しいからではなく、注目されたいからであったということです。自分本位であり、息子が死んだことを心から残念に思っているのではなかったのでした。(3)メラニーの夫はアニカに殺され、メラニーは正当防衛でアニカを殺したという嘘アニカは、エスターがメラニーの夫に射殺されたと知って、その敵討ちのために、メラニーの家に押しかけます。アニカはメラニーを縛りますが、直後になんと今度はメラニーの夫が射殺されているのを発見します。その訳は、メラニーの夫が、息子が死んで1ヵ月経って自助グループに初めて参加したところ、実はメラニーは数年前から来ていたことを知り、メラニーに問いただし、出て行こうとしたからでした。アニカがメラニーの夫を発見した直後、メラニーは縛られていた紐をほどき、ショットガンをアニカに向けて構えるシーンでこの映画は終わります。3つ目は、メラニーの夫はアニカに殺され、メラニーは正当防衛でアニカを殺したという嘘です。厳密には、アニカも金槌を持って反撃しようとしており、そこで映画が終わり、決着はついていませんが、メラニーにとってとても都合の良い展開で、見ている私たちをハラハラさせます。この映画のタイトル伏線とは?この映画のもともとの英語タイトルは“PROXY”です。これは「身代わり」という意味で、実はタイトル伏線になっています。何が何の身代わりかと言うと、胎児殺しについては通り魔(実際はアニカ)がエスターの身代わり、息子殺しについてはエスターがメラニーの身代わり、夫殺しについてはアニカがメラニーの身代わりであるということです。これは、先ほどの3つの嘘に重なります。この3つの嘘によって、「身代わり」の意味の伏線を回収しています。なお、この“PROXY”は、代理ミュンヒハウゼン症候群の「代理」(by proxy)を連想します。前編でも説明した通り、自分の代理として誰かの症状をねつ造している訳ではないため、代理ミュンヒハウゼン症候群の伏線ではありません。この映画の唯一惜しかった点は、メラニーの夫はエスターを射殺したのですが、彼の恨みからの空想として、その数日後に地下室でエスターを拷問していることをほのめかすシーンがあります。これは、私たちから見ると、空想なのか現実なのかがそのシーンの時点ではわかりにくく、混乱を招いていたと思われます。ただ、ミュンヒハウゼン症候群をより深く理解していると、この映画のキャラ設定、展開、そして謎解きがとても楽しめます。もっと高い評価が付けられても良い映画であると思われました。1)病気志願者―「死ぬほど」病気になりたがる人たち:マーク・D・フェルドマン、原書房、19982)うその心理学:こころの科学、日本評論社、20113)特集「うそと脳」:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号4)「隠す」心理を科学する:太幡直也/佐藤拓/菊池史倫、北大路書房、20215)平気でうそをつく人たち:M・スコット・ペック、1996<< 前のページへ■関連記事映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1

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脂質管理目標値(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q47

脂質管理目標値(2)Q47Q45で取り上げたように、「一次予防」においては、既往やスコアリングによりリスクの層別化を行い、管理目標値を設定する。糖尿病があると高リスクとなるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から、糖尿病に合併症があると高リスク群でもさらに目標値が変わる。合併症としてあげられる病態、病歴と目標値は?

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認知症の根本治療薬により認知症の人は減るか?(解説:岡村毅氏)

 人類史に残る論文ではないか。人類はとうとう認知症の進行を遅らせるエビデンスを得たようだ。この領域は日本のエーザイがとてつもない情熱をもって切り開いてきた。またこのlecanemab論文のラストオーサー(日本人)は、さまざまな不条理にも負けることなく一流の研究を進めてきた。最大限の敬意を表したい。 そのうえで、認知症を専門とする精神科医として、この偉大な一歩を解説しよう。神経学ではなくあくまで精神医学の視点であることを先に言っておく。 まず、主要アウトカムはCDR-SBで評価している。CDRは、臨床家ならわかると思うがかなり実生活に即した評価だ。この総点で、進行が緩やかになっているということは、確かに生活障害においても効果があるといえる。ちなみに変化量の差は、18ヵ月でおよそ3割であった。 つまり、アミロイドへの効果→認知機能低下への効果→生活障害への効果、という図式で見て最後の段階、つまり生活レベルできちんと効いている。大したものである。 今後さまざまな疾患修飾薬がどんどん出てくるに違いない。より安価で、より安全なものが出てくるだろう。 近未来には、こうなるかもしれない。あなたが50歳で検診を受けると(アミロイドペットという仰々しい検査を受けることなく)「コレステロールが高いです」「骨密度が低いです」のように「脳内のアミロイドが溜まってます」と書かれてしまう。すると専門外来を受診し、毎朝(あるいは月に1回とか)認知症の薬をのむ。あなたは、本来は70歳で認知症を発症していたかもしれない。しかし75歳までは認知症を発症しない。75歳になると、あなたは認知症を発症し、ゆっくりと認知機能そして身体機能が低下を始める。 素晴らしい科学の進歩だということをまず押さえよう。そのうえで以下を問い掛ける。 第一の疑問は、あなたは主観的に認知症予防効果を感じられるであろうか、というものだ。答えはイエスでありノーでもある。なぜなら人生は1回きりなので、あなたは結局のところ「高齢期に認知症になった」という1回きりの人生において1回きりの体験をしている。それは科学的には有意に遅くなっているのだろうが、あなたの実存においてはあまり関係ない。個人の体験と、集団での有意差は別の話である。 第二の疑問は、認知症に伴う不安は解消されるかというものだ。今回の対象者は軽度認知障害などであるが、進行が遅らされている(繰り返し言うが、それ自体は素晴らしいことだ)。しかし臨床家として言えるのは、不安な時期が延びたとも言えるな、ということだ(繰り返すが、早く進行してしまえばよいという意味では決してない)。 認知症になっても不安や孤独に陥ることなく、一回きりのかけがえのない人生を希望と尊厳をもって生きることができるようにするのは、薬ではなく、社会変革だろう。問題は人々が、薬が出たらすべてがバラ色だという思い込みをしていたら、大間違いだということである。ただ、人々のリテラシーは向上しているように感じる。ドネペジルが出たころは思い込みが多く見られたが、aducanumabやlecanemabに関する報道を見ていても基本的に抑制されてると思う。 第三の疑問は、認知症の人は本当に減るのかということだ。認知症の薬というとなぜか人々は「認知症が根絶される」ということを意味すると勘違いする。認知症になる人はこの先もずっといる。糖尿病や高血圧の良い薬はたくさんあるが、患者さんは増えている。おそらく、平和な社会、医学の発展、経済的繁栄が続く限り長寿化はまだ止まらないのだから、認知症の人は今後しばらくは増えるだろう(なお、人口は減少局面にあり絶対数は今後は減少に転じると思われるが、その時は青壮中年の人々も減少しているだろう)。 最後にまとめてみると、病態生理に直結し、進行を遅らせる薬剤が出たことを素直に喜びたい。一方で臨床家なら誰もが知っているし、そもそも製薬会社の人も十分にわかっていると思うが、年を取れば認知症になるということは変わらない。時を止めることができないのと同じだ。認知症になることを遅らせること(予防)と認知症になっても楽しく生きること(共生)は対立概念ではなく、別の次元の話なのだ。わが国から予防のイノベーションを起こす方々を尊敬しつつ、共生のイノベーションも起こしていきたい。

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読みやすくて診療に集中しやすい紹介状【紹介状の傾向と対策】第3回

<あるある傾向>紹介の目的や意図がわからない、または文末に書かれている<対策>紹介目的や先方の医師にして欲しいこと(検査、診療引継ぎなど)は冒頭に明示!多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ今回は上記の留意点の中の「冒頭に紹介の目的を明示する」について解説します。2022年2月にケアネットが実施した紹介状についてのアンケートで、不満の1つに「紹介の目的が不明」を挙げる医師が多くいらっしゃいました。筆者自身も時折、紹介の目的がわかりにくい紹介状に遭遇します。紹介目的の書かれていない紹介状は、こちらが何をすればわからず大変困ります。詳細に書かれているのに、結局こちらに何をして欲しいのかわからない紹介状は困ります。患者さんにどうして、こちらに紹介されたか聞いてみても、患者さん自身もわからないことが多く、検査の依頼なのか、診療そのものを引き継いでほしい依頼なのかなど、紹介状の送り主に確認に電話を入れなければならないこともあります。とにかく、「紹介の目的、相手の医師に依頼したいこと」は紹介状の冒頭に明記すべきです。しかし、惜しい紹介状も時々見かけます。それは、依頼内容が文末に書かれている紹介状です。冒頭部分に依頼目的を記載せず、臨床経過の詳細から記載が始まり、文章の最後に依頼事が書かれている紹介状です。このような場合、紹介状の最後まで読んで初めて、依頼の目的がわかる書き方になっています。バイタル情報を事前に知ると、診察も変わる少し紹介状の話からそれますが、患者さんのバイタル情報を知ってから診察するのと、診察してからバイタル情報を知るのでは、診察の仕方や注意深さが変わってくると思いませんか? 仮にバイタル情報で“発熱がある”という情報を知らされない状況では、漫然とした診察になってしまう可能性が高いと思います。しかし、先に“発熱がある”というバイタル情報があれば、熱源を探すことを意識し全身を注意深く診察するはずです。たとえば、感染性心内膜炎を疑う際には「心雑音はあったか」あるいは「ツツガムシ病を疑う皮膚の刺し口はあったか」「脾腫の有無は?」といったようにです。つまり、先に発熱の情報を知っておくことで、最初から発熱を伴う疾患を鑑別診断として挙げながら診察ができますので、後から発熱を知って、もう一度丁寧な診察をやり直すという無駄を減らすことができます。このように、頭にインプットされる情報の順番により人の思考や行動は変化します。このため情報インプットの順番はとても大切なのです。紹介状の話に戻しますと、冒頭部分に紹介が目的を明示された紹介状は、読み手が紹介目的を認識した上で、そのあとに書かれた文書の内容を読むことができます。同じ文章でも依頼内容がわかっている状態で読むのと、依頼内容がわからないで読むのでは、読み手の思考や理解がまったく変わってきます。前者では二度の読み直しが不要になります。これは紹介状に限らず、院内の他科依頼(コンサルテーション)でもまったく同様のことが言えます。よりスムーズな情報伝達のために、一度ご自身の紹介状のスタイルをご確認いただければ幸いです。

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