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医療者の不足する地域は死亡率が高い/BMJ

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ―「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」(厚生労働省)―を2030年までに達成するには、健康を促進または改善するさまざまな職業の保健医療人材(Human Resources for Health:HRH)が重要であるが、HRHの不平等は過去30年間で世界的に減少しているものの依然として残っており、全死亡率およびほとんどの死因別死亡率は、医療従事者が限られている、とくにHIV/AIDS・性感染症、母体・新生児疾患、糖尿病、腎臓病といった、優先疾患におけるいくつかの特定のHRHが限られている国・地域で相対的に高いことが、中国・北京大学のWenxin Yan氏らの調査で示された。著者は、「本結果は、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するために、公平性を重視した医療人材政策の策定、医療財政の拡大、不十分なHRHに関連した死亡を減少するための標的型対策の実施に向けた政治的取り組み強化の重要性を浮き彫りにしている」とまとめている。BMJ誌2023年5月10日号掲載の報告。172の国・地域のHRHの傾向と不平等を評価し、全死亡率と死因別死亡率を解析 研究グループは、2019年版の世界疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)のデータベースを用い、172の国・地域を対象として、1990~2019年までの各国・各地域の総HRH、特定のHRH、全死亡率、死因別死亡率に関する年次データを収集するとともに、国連統計(United Nations Statistics)およびOur World in Dataのデータベースから、モデルの共変量として用いる人口統計学的特性、社会経済的状態、医療サービスに関するデータを入手し、解析した。 主要アウトカムは、人口1万人当たりのHRH密度に関連する人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率、副次アウトカムは年齢標準化死因別死亡率とした。HRHの傾向と不平等を評価するため、ローレンツ曲線と集中指数(concentration index:CCI)を用いた。HRHの不平等は過去30年間で減少も、総HRHレベルと全死亡率に負の相関 世界的に、人口1万人当たりの総HRH密度は、1990年の56.0から2019年には142.5に増加した。一方で、人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率は、1990年の995.5から2019年には743.8に減少した。ローレンツ曲線は均等分布線の下にあり、CCIは0.43(p<0.05)であったことから、人間開発指数で上位にランクされている国・地域に医療従事者がより集中していることが示された。 HRHのCCIは、1990~2001年の間、約0.42~0.43で安定していたが、2001年の0.43から2019年には0.38へと低下(不平等が縮小)していた(p<0.001)。 多変量一般化推定方程式モデルにおいて、総HRHレベル(最低、低、中、高、最高の五分位)と全死亡率との間に負の相関が認められた。最高HRHレベル群を参照群として評価すると、低レベル群の発生リスク比は1.15(95%信頼区間[CI]:1.00~1.32)、中レベル群は同1.14(1.01~1.29)、高レベル群は1.18(1.08~1.28)であった。 総HRH密度と死亡率との負の相関は、顧みられない熱帯病やマラリア、腸管感染症、母体および新生児疾患、糖尿病や腎臓病など、いくつかの死因別死亡率でより顕著であった。医師、歯科スタッフ(歯科医師と歯科助手)、薬剤スタッフ(薬剤師、調剤補助者)、緊急援助および救急医療従事者、オプトメトリスト、心理学者、パーソナルケアワーカー、理学療法士、放射線技師の密度が低い国・地域の人々は、死亡リスクがより高くなる可能性が高かった。

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5月17日 高血圧の日【今日は何の日?】

【5月17日 高血圧の日】〔由来〕日常的な血圧測定や定期健診を促すことで、高血圧による疾病リスクを低減するために「世界高血圧デー」に准じ、2007年に日本高血圧学会と日本高血圧協会によって制定された。また、毎月17日は、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐために「減塩の日」として諸活動を行っている。関連コンテンツ降圧目標【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧:脳心血管疾患の危険因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】高血圧の人では、コーヒーと緑茶のどちらが危ない?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】体重増加は糖尿病や高血圧のリスク【患者説明用スライド】降圧薬使用とアルツハイマー病との関連~メタ解析

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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早期妊娠糖尿病への即時治療、児と母体の予後は?/NEJM

 妊娠20週以前の妊娠糖尿病女性において、即時治療は治療を延期または行わない場合と比較して、新生児の有害なアウトカムの複合の発生をある程度は抑制するものの、妊娠関連高血圧や新生児の除脂肪体重には差がないことが、オーストラリア・ウエスタンシドニー大学のDavid Simmons氏らが実施した「TOBOGM試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年5月5日号で報告された。4ヵ国の無作為化対照比較試験 TOBOGM試験は、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、インドの17病院が参加した無作為化対照比較試験であり、2017年5月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、高血糖のリスク因子を有し、2013年のWHO基準で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠4週~19週6日の女性が、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による反復検査の妊娠24~28週時の結果に基づき、妊娠糖尿病に対する即時治療を行う群、または治療を延期あるいは行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは次の3つであった。(1)新生児の有害なアウトカム(妊娠37週未満での出生、分娩外傷、出生体重4,500g以上、呼吸窮迫、光線療法、死産/新生児死亡、肩甲難産)の複合、(2)妊娠関連高血圧(preeclampsia[妊娠高血圧腎症]、eclampsia[子癇]、妊娠高血圧)、(3)新生児の除脂肪体重。新生児の呼吸窮迫に大きな差 793例が解析に含まれ、即時治療群に400例(平均[±SD]32.1±4.8歳)、対照群に393例(32.6±4.9歳)が割り付けられた。初回OGTTは、平均で妊娠15.6±2.5週に実施された。 新生児の有害なアウトカムの複合は、即時治療群では378例中94例(24.9%)で認められ、対照群の370例中113例(30.5%)に比べて発生率が低かった(補正後群間リスク差:-5.6ポイント、95%信頼区間[CI]:-10.1~-1.2)。 妊娠関連高血圧は、即時治療群では378例中40例(10.6%)、対照群では372例中37例(9.9%)で発生した(補正後群間リスク差:0.7ポイント、95%CI:-1.6~2.9)。また、新生児の平均除脂肪体重(副次アウトカムに変更)は、即時治療群が2.86±0.34kg、対照群は2.91±0.33kgだった(補正後群間平均差:-0.04kg、95%CI:-0.09~0.02)。 新生児の呼吸窮迫は、即時治療群では376例中37例(9.8%)で発生したのに対し、対照群では365例中62例(17.0%)で発生した(補正後群間リスク差:-7ポイント、95%CI:-12~-3)。スクリーニングや治療に関連した重篤な有害事象に関しては、両群間に差はみられなかった。 著者は、「WHO基準で早期の妊娠糖尿病と診断された女性の3分の1は反復OGTTで妊娠24~28週時に妊娠糖尿病ではなかったが、この知見は先行の観察研究と一致する」としている。

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日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」【下平博士のDIノート】第120回

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」今回は、肥満症治療薬「セマグルチド(遺伝子組換え)(商品名:ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は肥満症を適応として承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬であり、高血圧などを有し、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者の体重減少効果が期待されています。<効能・効果>肥満症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、あるいはBMIが35kg/m2以上の患者に処方されます。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射します。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射します。患者さんの状態に応じて適宜減量します。<安全性>日本人被験者が参加した第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験、NN9536-4382試験)において、2,008例中1,359例(67.7%)に副作用が発現しました。主なものは、悪心(36.4%)、下痢(23.5%)、嘔吐(19.1%)、便秘(19.0%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎(0.1%)、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が設定されています(発現率の記載のないものは頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬には、脳に作用して食欲を抑えることで、体重を減らす作用があります。2.血糖値を下げる作用があるため、脱力感、倦怠感、高度の空腹感、めまいなどの低血糖症状が現れた場合は糖質を含む食品を取ってください。また、高所作業、自動車の運転などに注意してください。3.1週間に1回、同一曜日に皮下に注射してください。適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんまたはご家族は自己注射することができます。注射は、腹部、ふともも、上腕に行います。注射箇所は毎回変更し、少なくとも前回の場所から2~3cm離して注射してください。4.1回使い切りの注射薬です。5.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などの症状が現れた場合は、使用を中止して速やかに医師の診察を受けてください。6.次回の投与日を忘れないように、カレンダーなどに書き留めることをお勧めします。7.凍結を避けて冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。<Shimo's eyes>本剤は、肥満症治療薬として承認された唯一のGLP-1受容体作動薬です。固定注射針付きシリンジを注入器にセットした単回使用のコンビネーション製品で、週1回皮下投与します。名称の「SD」は、単回投与を意味するSingle Doseの頭文字に由来します。GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンであり、血糖降下作用のほか、中枢における摂食抑制作用を有するため、体重を減少させる効果があります。本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、2型糖尿病を有する患者において両剤が併用された際の有効性および安全性は確認されていません。投与する対象患者については厳しい条件が課せられていて、(1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有していること、(2)食事療法・運動療法を行っても効果が不十分であること、(3-1)BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有していること、または(3-2)BMIが35kg/m2以上であることが求められます。日本人が参加した国際共同第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験)および国際共同第III相試験(NN9536-4382試験)において、投与68週時までの体重変化率および5%以上の体重減少達成率でプラセボに対する優越性を示しました。重大な副作用として、低血糖、急性膵炎が現れることがあります。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、使用を中止して速やかに医師の診察を受けるように指導しましょう。本剤と同じセマグルチドを有効成分とする薬剤として、週1回投与の注射剤であるオゼンピック皮下注が2018年3月に、1回使い切りの同SD製剤が2020年3月に、1日1回投与の経口薬であるリベルサス錠が2020年6月に、それぞれ2型糖尿病を効能・効果として承認されています。自由診療において、これらの薬剤がダイエット・美容目的で適応外処方されることが問題となっています。ウゴービ皮下注の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連する健康障害の参加基準が厳格に定められていたことから、これらの薬剤の不適正使用について日本糖尿病学会から注意喚起されており、健康被害の防止と適正使用の推進が求められています。なお、本剤は「最適使用推進ガイドライン対象品目」であり、処方には条件が付く可能性があります。関連サイトGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

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第163回 GLP-1薬でがん予防? / アルツハイマー病アジテーション治療薬を米国が初承認

GLP-1受容体作動薬は肥満患者のがん予防効果も担いうるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)が肥満患者の体重を減らすことに加えて、ともするとがん予防効果も担いうることが被験者20例の免疫細胞を調べた試験で示唆されました1)。肥満成人は今や世界で6億人を超えます。肥満は2型糖尿病、心血管疾患、多くのがん(乳房・腎臓・大腸がんなど)と関連します。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の害を被りやすくします。ナチュラルキラー(NK)細胞は体内を巡るリンパ球の約10%を占める免疫細胞であり、病原体の侵略を食い止め、がんの発現を防ぐ役割を担います。しかし肥満はどうやらNK細胞を害するらしく、その数を減らし、機能を妨げることが先立つ研究で示されています。たとえばマウスの実験によると肥満のNK細胞は代謝が行き詰まっていて腫瘍と戦えず、腫瘍増殖を食い止めることができません2)。また、肥満小児のNK細胞を調べたところ合図に応じる能力が劣っており、増殖して腫瘍を除去するという本来の働きを全うできませんでした3)。すなわち肥満だとNK細胞は目当ての細胞に取り付いて除去することができなくなるようであり、肥満患者はそれゆえがんや感染症を被りやすいのかもしれません。先立ついくつかの研究でGLP-1薬はマクロファージやT細胞などの免疫細胞に手を加えることが知られています。アイルランドの2人の研究者・Andrew Hogan氏やDonal O’Shea氏などが携わった2016年の報告はそれらの1つで、脂肪組織のインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化作用がGLP-1薬の体重減少効果に寄与しうることが示唆されました4)。その両氏が率いるチームは続いてNK細胞へのGLP-1薬の作用の検討にも乗り出し、体重管理のためにGLP-1薬投与を始める肥満患者を募ってNK細胞の変化を調べました。投与されたGLP-1薬はノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドで、うれしいことに同剤投与はNK細胞のサイトカイン生成や目当ての細胞を壊す効果の向上と関連しました。リラグルチドでNK細胞機能が改善するのは体重減少のおかげというわけではなさそうで、同剤はNK細胞の代謝を底上げすることで体重減少とは関係なく直接的にその働きを回復させるようです。世界保健機関(WHO)の推定によると世界の成人の13%が肥満です5)。上述のとおり肥満は種々のがんを生じやすくし、たとえば米国で毎年診断されるがんの40%が太り過ぎや肥満と関連します6)。今回の発見はGLP-1薬を使う肥満患者を勇気づけるものであり、それら薬剤ががんを生じ難くするという効果さえ担うことを示唆しているとO’Shea氏は言っています7)。アルツハイマー病患者の行動障害治療薬を米国FDAが初めて承認アルツハイマー型認知症患者の暴言、暴力、錯乱などの行動障害(アジテーション)治療のFDA承認を抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が先週11日に取得し、米国でその用途を有する初めてにして唯一の薬剤となりました8)。大塚製薬のアルツハイマー型認知症アジテーション治療の取り組みはブレクスピプラゾールにとどまりません。10年ほど前の2014年に発表されたAvanir社買収で大塚製薬の手に権利が渡った別の薬剤AVP-786のその用途の第III相試験が進行中であり、来年2024年4月に完了する見込みです9)。参考1)De Barra C, et al. Obesity. 2023 May 9. [Epub ahead of print]2)Michelet X, etal. Nat Immunol. 2018;19:1330-1340.3)Tobin LM, et al. JCI Insight. 2017;2:e94939.4)Lynch L, et al. Cell Metab. 2016;24:510-519.5)Obesity and overweight / WHO6)Cancers Associated with Overweight and Obesity Make up 40 percent of Cancers Diagnosed in the United States / CDC7)Maynooth University research reveals cancer-killing benefits of popular obesity treatment / Eurekalert8)FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer's Disease / PRNewswire9)大塚ホールディングス株式会社 2022年度決算説明会

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2型DM長期管理、週1回insulin icodec vs. 1日1回インスリン グラルギン/Lancet

 長期にわたり基礎・追加インスリン(basal-bolus)療法を受けている2型糖尿病(DM)患者において、週1回投与のinsulin icodec(icodec)は1日1回投与のインスリン グラルギン100単位と比較して、血糖コントロールの改善は同等であるが、ボーラス投与量は減り、低血糖の発現率を上昇させないことが示された。ベルギー・ルーベン・カトリック大学のChantal Mathieu氏らが、試験期間26週の第IIIa相無作為化非盲検多施設共同治療目標設定非劣性試験「ONWARDS 4試験」の結果を報告した。結果について著者は、「今回の試験の主な長所は、マスクされた連続血糖モニタリングの使用、高い試験完了率、大規模で多様な国際的集団を対象としている点であるが、比較的短い試験期間および非盲検デザインという点では結果が限定的である」としている。Lancet誌オンライン版2023年5月5日号掲載の報告。9ヵ国80施設で試験 ONWARDS 4試験は、9ヵ国(ベルギー、インド、イタリア、日本、メキシコ、オランダ、ルーマニア、ロシア、米国)の80施設(外来クリニックおよび病院診療部門)で、2型DM(糖化ヘモグロビン[HbA1c]7.0~10.0%)の成人患者を登録して行われた。 被験者は1対1の割合で無作為に、週1回icodecまたは、1日1回インスリン グラルギン100単位+2~4回/日インスリン アスパルトのボーラス注射、いずれかの投与を受けるよう割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから26週目までのHbA1cの変化量(非劣性マージン0.3ポイント)であった。主要アウトカムは全解析セット(無作為化を受けた全被験者)で評価した。安全性は、安全性解析セット(割り付け治療薬を少なくとも1回受けた全被験者)で評価した。26週時点で、血糖コンロトール改善は同等 2021年5月14日~10月29日に、746例が適格性のスクリーニングを受け、582例(78%)が無作為化された(icodec群291例[50%]、グラルギン群291例[50%])。被験者の2型DM罹病期間は平均17.1年(SD 8.4)。 26週時点で、推定HbA1cの平均変化量は、icodec群-1.16ポイント(ベースライン8.29%)、グラルギン群-1.18ポイント(8.31%)で、icodec群のグラルギン群に対する非劣性が示された(推定群間差:0.02ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.11~0.15]、p<0.0001)。 有害事象の発現は、icodec群171/291例(59%)、グラルギン群167/291例(57%)であった。重篤な有害事象は、icodec群22/291例(8%)の35件、グラルギン群25/291例(9%)の33件が報告された。 全体として、低血糖のレベル2および3の複合発生率は、両群で類似していた。icodecに関する安全性の新たな懸念は確認されなかった。

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日本人は低炭水化物食で糖尿病リスクが上がる?下がる?~JACC研究

 低炭水化物食(LCD)スコアと2型糖尿病発症リスクの関連を検討したメタ解析では、LCDスコアが高い(炭水化物が少なくタンパク質と脂質が多い)ほど2型糖尿病発症リスクが高い傾向がみられたことが報告されている1)。しかし、メタ解析の対象となった研究のほとんどがアジア人以外での研究である。今回、日本の大規模な全国コホート研究であるJACC(Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk)研究の約2万人のデータを用いて、北海道大学の八重樫 昭徳氏らが前向きに検討したところ、日本人ではLCDスコアが高い食事で2型糖尿病リスクが上昇する可能性は低いことが示唆された。Journal of Nutritional Science誌2023年4月14日号に掲載。 本研究は、1988~90年にJACC研究に登録した参加者のうち、糖尿病ではない40~79歳の日本人1万9,084人(男性7,052人、女性1万2,032人)を解析対象とした。食事摂取量は食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価した。炭水化物、タンパク質、脂質からの摂取エネルギーの割合により参加者を11カテゴリーに分類し、全体、動物性、植物性のLCDスコアを算出した。動物性LCDスコアは炭水化物、動物性タンパク質、動物性脂質に由来するエネルギーの割合から、また植物性LCDスコアは炭水化物、植物性タンパク質、植物性脂質に由来するエネルギーの割合から計算した。2型糖尿病発症率は自記式質問票を使用して評価した。多変量ロジスティック回帰分析により、各LCDスコアの五分位における2型糖尿病発症のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・5年間に490人(男性247人、女性243人)が2型糖尿病を発症した。・LCDスコアの最低五分位を基準とした最高五分位における2型糖尿病発症の多変量調整ORは、全体LCDスコアでは男性が0.64(95%CI:0.42~0.99)、女性が0.78(同:0.51~1.18)であり、動物性LCDスコアでは男性が0.83(同:0.55~1.27)、女性が0.84(同:0.57~1.24)だった。・植物性LCDスコアは男性において2型糖尿病発症リスクの低下と関連していた(OR:0.51、95%CI:0.33~0.77)。 本研究では、動物性LCDスコアは男女共に2型糖尿病発症リスクと関連せず、植物性LCDスコアは男性で発症率が低いことに関連していた。この結果から、八重樫氏らは「日本人のように魚と肉の摂取量が少ない集団では、炭水化物が少なく脂肪とタンパク質が多い食事で2型糖尿病リスクが上昇する可能性は低いことが示唆される」と考察している。

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早食いは身長が縮みやすい?~日本人での研究

 早食いは体重増加の独立したリスク因子であり、また先行研究で過体重が身長低下の独立したリスク因子であることが報告されている。では、早食いと身長低下は関連するだろうか。今回、大阪健康安全基盤研究所の清水 悠路氏らによる日本人労働者での後ろ向き研究の結果、早食いが過体重と関連し、過体重は身長低下と関連していたが、早食いと身長低下については、過体重の人とそうでない人で異なっていた。すなわち、過体重でない人は食べるのが速い人が、過体重の人では食べるのが遅い人が、身長が低下する確率が高かった。PLOS ONE誌2023年4月26日号に掲載。 本研究の対象は、日本人労働者8,982人で平均年齢は50.6歳(標準偏差8.3歳)だった。過体重はBMI 25.0kg/m2以上、身長低下は1年当たりの身長低下が最高五分位と定義した。 主な結果は以下のとおり。・既知の交絡因子にかかわらず、食べる速度と過体重には正の相関が認められ、遅いグループを基準とした場合、過体重の完全調整後オッズ比(OR)は、中程度に速いグループで1.96(95%信頼区間[CI]:1.54~2.50)、速いグループで2.92(同:2.29~3.72)だった。・過体重でない人は、食べる速度が速い人のほうが身長低下のオッズが高かった(完全調整後OR:1.34、95%CI:1.05~1.71)。一方、過体重の人は、食べる速度が速い人のほうが身長低下のオッズが低かった(完全調整後OR:0.52、95%CI:0.33~0.82)。・過体重は身長低下と有意に関連していた(完全調整後OR:1.17、95%CI:1.03~1.32)。 この結果から、著者らは「早食いの人の身長低下の主な原因が体重増加ではないことを示唆している」とした。また「早食いは過体重と関連し、過体重は身長低下と関連していた。中年期以降の身長低下は心血管疾患による死亡の独立した危険因子であるため、食べる速度を遅くすることは身長低下と心血管疾患の予防に有用な可能性がある」と述べている。

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2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された1)。 この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった2)。また桑島 巖先生(J-CLEAR理事長)がこの論文に対するコメントを執筆しているのでご一読いただきたい3)。 今回の論文の新しい点は、従来治療薬に追加するオプションとして、最近登場したGIP/GLP-1受容体作動薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)の2製剤が加わったことである。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、MR拮抗薬を含む13種類の薬剤の中から追加投与した場合の、死亡や心血管系および腎臓系の有害アウトカムの減少、体重減少などについてシステマティックレビューとネットワークメタ解析が実施された。 解析の結果、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬については全死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全の抑制に有効であることが示されたが、これまでのRCTやネットワークメタ解析の結果と同様であり新規性はない。一方、MR拮抗薬のフィネレノンが全死亡、心不全による入院、末期腎不全の減少に効果的である可能性が示された点は新しい知見である。MR拮抗薬は糖尿病治療薬ではないが、腎臓系の有害アウトカムについてはSGLT2阻害薬より劣るものの効果がある可能性があり、心不全による入院や全死亡も低下させる可能性が示されたため、今後日常診療で使用される頻度が増えるだろう。 今回の解析で、13種類の製剤の中でGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が心血管系および腎臓系の有害アウトカムや死亡の減少、さらにQOLの改善に最も効果があることが確認された。一方、GIP/GLP-1受容体作動薬については、体重減少効果は最も大きかったが、GLP-1受容体作動薬で認められる死亡や心血管・腎イベントの抑制効果は認められなかった。新しい薬剤のため解析対象となった試験が少ないことが影響しているのかもしれない。今後のGIP/GLP-1受容体作動薬の臨床研究に期待したい。 有害事象については、SGLT2阻害薬では性器感染症、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬では胃腸障害、MR拮抗薬では入院を要する高カリウム血症のリスクが高かった。いずれも薬剤クラス固有のものであり、とくに目新しい有害事象の報告はなかった。 近年、ネットワークメタ解析を用いた臨床研究の論文が増えていると感じる。従来のメタ解析では2種類の治療薬の比較しかできないが、今回の論文のように3種類以上の比較を行うことができるのがネットワークメタ解析のメリットである。しかし、このネットワークメタ解析により、新たに大きなエビデンスが生み出されるというわけではないことに注意しなければならない4)。ネットワークメタ解析は、RCTよりエビデンスレベルは下がるものの、今回のように比較したい糖尿病治療薬が多数あるような場合には、治療の「次の一手」を選択する際に参考となるデータを提供してくれる手法である。

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心不全患者とポリファーマシーの本質を考える【心不全診療Up to Date】第8回

第8回 心不全患者とポリファーマシーの本質を考えるKey Pointsポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーへの対策潜在的不適切処方、有害事象を起こす可能性のある薬剤はないか?本気の多職種連携で各施設・地域に合った効率良い対策を考えるはじめにこれまで、心不全患者において、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)を行うことの重要性を詳しく説明してきた。ただ、その際、常に議論となるのが、ポリファーマシー(多剤併用)問題である。この問題の本質は何か、そしてその対策としてすぐにできることは何か、本稿ではこのポリファーマシーを取り上げてみたい。 ポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーを考える上で大切になってくるのが、「質」と「量」という視点である。「質」的なポリファーマシーとは、臨床的に必要とされる以上に多くの薬剤を処方されている状態であり、「量」的なポリファーマシーとは、5種類以上の薬剤内服と定義される。「量」的なポリファーマシーの中でも、10種類以上を内服している場合を“ハイパーポリファーマシー”と呼ぶが、TOPCAT試験(EF≥45%、平均69歳)のサブ解析1)にて、このような症例では入院のリスクが1.2倍であったという報告もあり(図1)、数が多いということも予後に大きく関連することがわかっている。つまり、「質」と「量」の両面から、このポリファーマシーというものをしっかり考えることが、薬剤数を適切に減らすうえで、極めて重要となる。(図1)心不全患者のポリファーマシー画像を拡大するでは、「質」的なポリファーマシーを考えるうえで何が一番重要となるか。それは、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼす疾患・病態をしっかり把握し、薬剤の中でもできる限りの優先順位をつけておくことであろう。この連載のテーマは、心不全診療であるので、今回は、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼすものが心不全である場合を考えていきたい。たとえば、駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者においては、第1回で説明した通り、生命予後・QOL改善のために、原則4剤(RAS阻害薬/ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の投与が推奨されており、どれだけ薬剤数が多くて何かを減らしたいとしても、この4剤は原則最後まで残しておくべきである。もちろん、食事摂取状況やADLなどの患者背景、腎機能などの検査所見などから、この4剤のうちどれかを中止せざるを得ない場面に遭遇することもあるが、安易な中断はかえって予後を悪化させるリスクもあり、注意が必要である。さらに例えて言うと、高カリウム血症よりも心不全予後改善薬を中止するほうが、長期的には予後やQOLを悪化させる可能性もあり2)、一旦中止してもその後に再開できないかを常に検討することが重要と考えられる。そして、もしその4剤の中のどれか1つでも投与開始や再開を見送る場合は、その薬剤を『投与しないリスク』についても患者側としっかり共有しておくことも忘れてはならない。そして、ポリファーマシーを考える上で、もう一つのキーとなる言葉が、『服薬アドヒアランス』である。この大きな原因は、患者自身がなぜその薬剤を飲んでいるか理解していないことが挙げられる。ある研究では、心不全患者の41%において、服薬アドヒアランスの低下を認め、この群では、アドヒアランス良好な群と比較して、心不全入院または死亡のリスクが2.2倍に上昇していたと報告されている3) 。つまり、ポリファーマシー対策を考える上で、患者といかに共同意思決定(Shared Decision Making)を行うか、など服薬アドヒアランス向上のための戦略もセットで、それぞれの施設や地域に適した形で考えることも大変意義のあることである。では少し具体的な対策について考えてみたい。ポリファーマシーへの対策1. 潜在的不適切処方(Potentially inappropriate medications:PIMs)、有害事象を起こす可能性がある薬剤(Potentially harmful drug:PHD)はないか?ポリファーマシー改善の第一歩は、PIMsがないか、適宜、処方されているすべての薬剤の見直しを行うことである。とくに、外来主治医が一人ではない場合、システム上それが漏れてしまうことが多く、年に1回でもよいので、総点検を実施することが大切である(できれば病院のシステムとして)。その際に参考となるプロトコル、アルゴリズムを表と図2に示す。(表)処方中止プロトコル画像を拡大する(図2)処方薬の中止/継続を判断するためのアルゴリズム画像を拡大するこのようなものをベースに、それぞれの施設に合った形で実施していただければ、大変効果的であると考える。そして、もう一つ重要なのが、心不全患者で注意すべき有害事象を起こす可能性がある薬剤(PHD)を服用していないか、ということにも注意を払うことである。その薬剤については、米国のガイドラインに明記されており、(1)抗不整脈薬、(2)Ca拮抗薬(アムロジピン以外)、(3)NSAIDs、(4)チアゾリジン薬(商品名:アクトスほか)である10)。とくに、抗不整脈薬は、加齢に伴い生理・代謝機能が低下することで、体内の薬物動態が変化し、本来の目的ではない催不整脈作用や併用薬の相互作用が顕在化するリスクがあるので、きわめて注意が必要である。また、NSAIDsは、腎臓の血管拡張を抑制(低下)させる腎プロスタグランジンの合成を阻害し、太いヘンレ係蹄上行脚や集合管でのナトリウム再吸収を直接阻害することで、ナトリウムと水分の貯留を引き起こし、利尿薬の効果を鈍らせる可能性がある4-9)。いくつかのコホート研究にて、心不全患者がNSAIDsを使用することで罹患率、死亡率が増加すること、また2型糖尿病患者のデータで、1ヵ月以内の短期のNSAIDsの使用であっても、その後の心不全新規発症率上昇と有意に関連していたという報告も最近されており、たとえ短期の使用であっても定期内服はかなり注意が必要と言える11)。 なお、心不全入院からの退院後90日以内に処方された潜在的有害薬物と再入院・死亡との関連をみた観察研究によると、潜在的有害薬物が実際に処方されていた割合は約12%で、最も頻繁に処方されていた薬剤はNSAIDs(6.7%)であった。次に多かったのが、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(4.7%)で、Ca拮抗薬はその後の再入院とも有意に関連していた12)。これらのことから、とくに高齢心不全患者では、上記4種の薬剤のなかでも、抗不整脈薬、NSAIDsの定期投与は、必要最小限に留め、処方する場合も常に中止を検討することが望ましいと考える。2. 本気の多職種連携で、それぞれの施設、地域に合った効率良い対策を考えるこれまで述べてきたポリファーマシー対策を効率よく実施し、それを長続きさせるには、医師だけでできることは時間的にも大変限られており、薬剤師、看護師、心不全療養指導士の皆さまにも積極的に介入してもらえるようなシステム作りが重要と考える。薬剤師による介入は、高齢者における薬剤有害事象のリスクを軽減することに有用であるという報告もあるし13)、これらのスタッフ全員がうまく役割分担をして、尊重し合い、サポートし合いながら、ポリファーマシー対策を実施することが、高齢心不全患者が増加しているわが国ではとくに必要であり、今後その重要性はますます増してくるであろう。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムの重要性は本邦の心不全診療ガイドラインでも明記されており14)、ぜひ、年に1回は、『処方薬、総点検週間』を設けるなど、積極的なポリファーマシーへの介入を実施していただければ幸いである。1)Minamisawa M, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e008293.2)Rossignol P, et al. Eur Heart Fail. 2020;22:1378-1389.3)Wu JR, et al. J Cardiovasc Nurs. 2018;33:40-46.4)Gislason GH, et al. Arch Intern Med. 2009;169:141-149.5)Heerdink ER, et al. Arch Intern Med. 1998;158:1108-1112.6)Hudson M, et al. BMJ. 2005;330:1370.7)Page J, et al. Arch Intern Med. 2000;160:777-784.8)Feenstra J, et al. Arch Intern Med. 2002;162:265-270.9)Mamdani M, et al. Lancet. 2004;363:1751-1756.10)Yancy CW, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;62:e147-239.11)Holt A, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1459–1470.12)Alvarez PA, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:1862-1871.13)Vinks THAM, et al. Drugs Aging. 2009;26:123-133.14)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

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釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

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糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。Umbrella Reviewの概略 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

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英語で「臨機応変」は?【1分★医療英語】第79回

第79回 英語で「臨機応変」は?I was wondering how much fluid we should give.(補液をどのくらい投与すればよいか悩んでいました)It depends on his urine output, so let’s play it by ear.(それは尿量によるから、臨機応変にやろう)《例文1》I’m not sure what time the round starts, but let’s play things by ear.(回診が何時に始まるかわからないけど、臨機応変にやろう)《例文2》She didn’t know what to do on the first day, but she played things by ear.(彼女は初日に何をすべきかわからなかったが、臨機応変に対応した)《解説》この“play it by ear”というのは、「状況に応じてやることを決めていく」、「臨機応変に対応する」という意味を持つイディオムです。このイディオムは、元々は音楽の世界から来たものです。楽器を演奏する際に、決められた音を予定どおりにきっちり演奏するには、楽譜をしっかりと目で追いかけなければならないでしょう。一方、“by ear”すなわち「耳で演奏する」という場合には、楽譜は見ないということになり、耳で聞こえる音だけを頼りにフレキシブルに演奏することになりますよね。そこから転じて、「状況に応じて臨機応変に対応する」という意味で用いられるようになりました。医療現場でも、物事が全て予定通りに進むわけではなく、患者さんの容態が突然変化した際など、状況に応じた臨機応変な対応が求められることは多いと思います。そんなとき、シンプルに“Let’s play it by ear.”(臨機応変にやろうよ)と、チームに声を掛けられれば、フレキシブルに動く心の準備ができるかもしれません。これは、院内外で耳にすることの多い表現だと思います。TPOに合わせてこのイディオムを使えれば、まるでネイティブのような“音色”を奏でられることでしょう。講師紹介

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モルヌピラビル、高リスクコロナ患者の後遺症リスク低減/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に進行する危険因子を少なくとも1つ有する患者において、感染後5日以内のモルヌピラビル投与は無治療と比較し、ワクチン接種歴や感染歴にかかわらず、急性期以降の罹患後症状(いわゆる後遺症)(post-acute sequelae of SARS-CoV-2:PASC)のリスク低下と関連していた。米国・VA Saint Louis Health Care SystemのYan Xie氏らが、退役軍人医療データベースを用いたコホート研究で明らかにした。著者は、「COVID-19の重症化リスクが高い患者では、SARS-CoV-2感染後5日以内のモルヌピラビル投与がPASCのリスクを低下する有効なアプローチとなりうる」とまとめている。BMJ誌2023年4月25日号掲載の報告。検査陽性後30日以降の死亡、入院、PASCについて無治療と比較 研究グループは、退役軍人医療データベースを用い、2022年1月5日~2023年1月15日の間にSARS-CoV-2陽性と判定され、重症化リスク(年齢>60歳、BMI>30、がん、心血管疾患、慢性腎疾患、慢性肺疾患、糖尿病、免疫機能障害)を1つ以上有し、陽性判定後30日間生存していた患者のうち、陽性判定後5日以内にモルヌピラビルを投与された患者(モルヌピラビル群)1万1,472例と、陽性判定後30日以内にCOVID-19に対する抗ウイルス薬または抗体治療を受けなかった患者(無治療群)21万7,814例、合計22万9,286例を特定し解析した。 評価項目は、急性期以降の死亡、急性期以降の入院、および急性期以降の死亡または入院の複合である。また、事前に規定した13のPASC(虚血性心疾患発症、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知障害、自律神経失調症、息切れ、咳)の発症リスクも検討した。すべての急性期以降のアウトカムは、最初のSARS-CoV-2陽性判定後30日から2023年2月15日(追跡調査終了日)まで調査した。 相対スケール(相対リスク[RR]またはハザード比[HR])および絶対スケール(180日後の絶対リスク減少)のリスクが推定された。陽性後5日以内での投与で、急性期以降の死亡、入院、PASCのリスク低下 無治療群と比較してモルヌピラビル群では、PASCのリスク低下(RR:0.86、95%信頼区間[CI]:0.83~0.89、180日後の絶対リスク低下:2.97%、95%CI:2.31~3.60)、急性期以降死亡のリスク低下(HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、180日後の絶対リスク低下:0.87%、95%CI:0.62~1.13)、急性期以降入院のリスク低下(HR:0.86、95%CI:0.80~0.93、180日後の絶対リスク低下:1.32%、95%CI:0.72~1.92)が認められた。 モルヌピラビルは、13のPASCのうち、不整脈、肺塞栓症、深部静脈血栓症、疲労・倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、神経認知障害の8つのリスク低下と関連していた。また、サブグループ解析の結果、COVID-19ワクチン未接種者、1回または2回のワクチン接種者、ブースター接種者、SARS-CoV-2初感染者および再感染者のいずれにおいても、モルヌピラビル群でPASCのリスク低下が示された。

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英語で「脂っこい食べ物」は?【1分★医療英語】第78回

第78回 英語で「脂っこい食べ物」は?How can I control my cholesterol?(コレステロールをコントロールするにはどうしたらよいですか?)That is a good question. Don't eat greasy food too much.(良い質問ですね。脂っこいものを食べ過ぎないようにしましょう)《例文1》My stomach pain gets worse when I eat greasy food.(脂っこいものを食べると、お腹の痛みが悪化します)《例文2》How often do you eat greasy food?(どれくらいの頻度で脂っこいものを食べますか?)《解説》“greasy”は馴染みのない単語かもしれませんが、「脂っこい」「ギトギトした」という意味の単語で、“greasy food”は「脂っこい食べ物」を表します。発音は「グリースィー」で、“r”の発音に注意して話すと伝わりやすくなります。患者さんへの栄養指導や、食事摂取歴を聞く際によく使います。“oily”や“fatty”も同様に「脂っこい」という意味の単語ですので、一緒に覚えておくとよいでしょう。米国では日本のコンビニのように安くヘルシーな食べ物を入手できる場所が少なく、安い食べ物はピザやハンバーガー、フライドポテトなどの“greasy food”ばかり…。生活水準の差が肥満や糖尿病などの健康問題に直結している印象です。講師紹介

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5月2日 カルシウムの日【今日は何の日?】

【5月2日 カルシウムの日】〔由来〕丈夫な骨を作るために欠かせない「カルシウム」を摂ることの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に、骨(コ[5]ツ[2])の語呂合わせからワダカルシウム製薬が制定。関連コンテンツ高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】カルシウム製剤について【患者説明用スライド】カルシウムを含む食材は何【患者説明用スライド】カルシウムってなあに?【患者説明用スライド】

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5月4日 ゴーシェ病の日【今日は何の日?】

【5月4日 ゴーシェ病の日】〔由来〕非常にまれな疾患であるゴーシェ病を、多くの人に知ってもらうことを目的に同疾患の啓発活動や患者の早期の診療への活動を行っている「日本ゴーシェ病の会」が制定。同会の活動開始日(2015年)と「ゴ(5)ーシ(4)ェ」と読む語呂合わせからこの日になった。関連コンテンツゴーシェ病【ダイジェスト版】ゴーシェ病【希少疾病ライブラリ】早期診断が重症化を遅らせるゴーシェ病

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