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有病率の高い欧州で小児1型糖尿病発症とコロナ感染の関連を調査(解説:栗原宏氏)

特徴・新規に出現したウイルスと自己抗体の関連を示した・追跡期間が長く、感染と自己抗体の発現の前後関係を区分できている・SARS-CoV-2抗体以外に、その他の呼吸器感染代表としてインフルエンザ抗体も調査・インフルエンザは著減しており、SARS-CoV-2の影響がメインと考えられる限界・対象は遺伝的ハイリスク群。かなり特殊で結果が一般化しづらい・日本国内での発症率は調査地域である欧州よりも格段に低い・因果関係が逆である可能性:自己抗体が発現する子供がコロナに感染しやすい? 本研究で対象となっている小児1型糖尿病は、発症率に人種差があり白人に非常に多い。欧州全般に発症者は多く、とくに多い北欧諸国、カナダ、イタリアのサルディニアでは年間約30/10万人と日本(1.4~2.2/10万人)に比して10倍以上の違いがある。1歳ごろに膵島細胞への自己抗体が発生するピークがあり、10年以内に臨床的な糖尿病を発症する。自己抗体の発生原因は不明ながら、呼吸器系ウイルス感染が関与している可能性があるとされている。 本研究はPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータが使用されている。2018年2月~2021年3月のCOVID-19拡大前からパンデミック期にかけて、欧州5ヵ国の複数施設で、遺伝的に1型糖尿病リスクが高い乳児(4~7ヵ月)1,050人を対象として、SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体の発現の時間的関係を明らかにするために実施されたコホート研究である。このうち、実際に対象となったのは885人である。 本研究は、SARS-CoV-2という新規に出現した疾患と自己抗体の出現との関連を自己抗体発現の可能性が高い乳児を対象として調査した点が特徴である。性別、年齢、国に調整後のSARS-CoV-2抗体陽性例における膵島自己抗体陽性のハザード比は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、P=0.002)となっており、遺伝子的ハイリスク群ではSARS-CoV-2感染はリスク因子であることが示されたことは意義が大きいと思われる。 SARS-CoV-2抗体出現後に自己抗体が発現する割合が有意に高いことが示された。一方、他のウイルス感染評価目的に実施されたインフルエンザA(H1N1)抗体では自己抗体発現はなかった。少なくともこの対象群においては、呼吸器系ウイルス全般で自己抗体が出現するわけではないことが示唆された。 自己抗体の出現がすぐさま臨床的1型糖尿病発症を意味するわけではない点には留意が必要である。SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体出現には関連があるが、感染後の短期間での急激な糖尿病発症率の増加には影響しない可能性が高い。将来的な1型糖尿病発症率については当該地域でフォローが必要である。 前述のとおり、小児1型糖尿病は遺伝子的な問題で人種差が大きい。本研究はその中でもさらに遺伝子的なハイリスク群を対象としており、その結果は広く一般化できるものではない。日本国内では比較的まれな疾患であり、SARS-CoV-2感染の影響は非常に小さいと推測されるが、否定しうるものでもない。今後の本邦での小児1型糖尿病の発症率の推移をみていく必要がある。

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肥満を合併したEFの保たれた心不全に対するGLP-1受容体作動薬の効果―STEP-HFpEF試験(解説:加藤貴雄氏)

 週1回、2.4mgのセマグルチド皮下注射(GLP-1受容体作動薬)は、長期体重管理薬として承認されており、過体重または肥満の患者において大幅な体重減少をもたらし、心代謝リスク因子に良好な影響を及ぼすことがこれまでに示されている(Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002., Kosiborod MN, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:468-478.)。 今回、ESC2023で発表され、NEJM誌に掲載されたSTEP-HFpEF試験は、BMI≧30.0kg/m2で心不全症状(NYHA class II-IV)があり、かつ、左室駆出率(LVEF)≧45%で、糖尿病の既往がない患者を対象に、週1回のセマグルチド(2.4mg)またはプラセボを52週間投与した二重盲検無作為割り付け試験である。主要評価項目は、心不全患者のQOLを評価する指標であるカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)の点数のベースラインからの変化と体重のベースラインからの変化。副次評価項目に、複合心血管イベント、6分間歩行距離やCRPの変化が設定されていた。 結果は、セマグルチド投与群でKCCQの点数の改善を認め、体重はセマグルチド投与群 -13.3%、プラセボ群-2.6%と有意な低下、6分間歩行距離は21.5m改善と1.2m改善、CRPの低下も-43.5%と-7.3%であり、また、探索的に設定されたNT-proBNPも-20.9%と-5.3%(ぞれぞれ、セマグルチド投与群・プラセボ群)であった。以上の結果から、心不全のサロゲートマーカーの改善を伴って、体重減少・自覚症状の改善・6分間歩行距離の延長が得られており、CRPの減少など内臓脂肪の減少を示唆する機序も推測される結果であった。 多彩な表現型を持つHFpEFであるが、1つの表現型(肥満+HFpEF)の患者群に有用性が示唆される結果である。今後の、アウトカム研究の結果が待たれるところである。本研究の平均BMIは37kg/m2であった。WHOの肥満の基準が組み入れ基準のBMI≧30.0kg/m2であるが、日本人の肥満の基準が25kg/m2であり、本試験を日本の臨床に当てはめた場合、どのくらいの肥満のHFpEF患者に有効な可能性があるかについても、研究が待たれるところである。

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早期静脈栄養なしのICU患者、厳格な血糖コントロールは有用か?/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験 TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。 早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。 主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。 9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い 非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。 ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。 事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。 著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。

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連載100回記念!執筆陣が選んだ「とっておきのフレーズ」【1分★医療英語】特別回

2021年から連載をスタートした「1分★医療英語」。原則毎週火曜日に公開しており、今月に連載100回を迎えました。100回記念として、執筆陣が選んだ100回の中の「とっておき回」を紹介。ぜひ復習にお役立てください。執筆陣が選んだ「とっておきのフレーズ」 ( )氏

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抗コリン負荷の増大が、心血管イベントのリスクと関連/BMJ

 急性心血管イベントで入院した65歳以上の患者においては、抗コリン薬による抗コリン作用の総負荷(抗コリン負荷)が、最近増加した集団で急性心血管イベントのリスクが高く、負荷の増加の程度が大きいほどリスクがより高いことが、台湾・国立成功大学のWei-Ching Huang氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年9月27日号に掲載された。心血管イベントで入院した高齢患者の症例-症例-時間-対照研究 本研究は、台湾の全国的な健康保険研究データベースを用いた症例-症例-時間-対照研究(case-case-time-control[CCTC]study)であり、2011~18年に急性心血管イベントで入院した65歳以上の患者31万7,446例を対象とした(台湾・国家科学技術委員会などの助成を受けた)。 CCTCは、適応症による交絡および潜在的なprotopathic bias(因果の逆転)の克服を目指した研究デザインであり、2つの自己対照分析(症例クロスオーバー分析と、将来の症例からなる対照クロスオーバー分析)で構成される。急性心血管イベントには、心筋梗塞、脳卒中、不整脈、伝導障害、心血管死を含めた。 主要アウトカムは、抗コリン負荷(Anticholinergic Cognitive Burden Scaleによる個々の薬剤の抗コリン作用スコアの合計)とし、3つの段階(0点[抗コリン作用なし]、1[軽度抗コリン作用]~2点[高度抗コリン作用]、3点[高度抗コリン作用]以上)に分類した。 ハザード期(心血管イベント発生前の-1~-30日)の抗コリン負荷のレベルを、レファレンス期(-61~-180日)から無作為に選択した30日間(-61~-90日、-91~-120日、-121~-150日、-151~-180日の4つから1つを選択)と比較し、急性心血管イベントと抗コリン負荷の最近の増加との関連を評価した。感度分析でも主解析と同様の結果 クロスオーバー分析には24万8,579例を含めた。イベント発生の時点(指標日)での平均年齢は78.4(SD 0.01)歳、53.4%が男性だった。最も頻度の高い併存疾患は、高血圧症(62.2%)、糖尿病(32.3%)、脂質異常症(24.0%)であった。抗コリン作用を有する薬剤として最も多く処方されていたのは、抗ヒスタミン薬(68.9%)、胃腸鎮痙薬(40.9%)、利尿薬(33.8%)であった。 ハザード期とレファレンス期で抗コリン負荷のレベルが異なっていた患者では、レファレンス期よりもハザード期で、負荷レベルが高い患者が多かった。たとえば、抗コリン負荷がハザード期は1~2点、レファレンス期は0点の患者は1万7,603例であったのに対し、ハザード期は0点、レファレンス期は1~2点の患者は8,507例だった。 現状の抗コリン負荷が1~2点の場合の0点の場合と比較した(1~2点vs.0点)心血管イベント発生のオッズ比(OR)は、症例クロスオーバー分析では1.86(95%信頼区間[CI]:1.83~1.90)、対照クロスオーバー分析では1.35(95%CI:1.33~1.38)であり、CCTCのORは1.38(1.34~1.42)だった。 同様に、3点vs.0点のCCTCのORは2.03(95%CI:1.98~2.09)、3点vs.1~2点のCCTCのORは1.48(1.44~1.52)であり、現状の抗コリン負荷が大きいほど心血管イベントのリスクが高い傾向を認めた。 感度分析として、抗コリン負荷カテゴリーのカットオフ値の再定義をしたり、抗コリン負荷の測定に別のスケールを使用した評価を行ったが、一貫して主解析と同様の結果が得られた。 著者は、「これらの知見は、観察研究の結果を解釈する際には、protopathic biasを考慮する必要があることを強調するものである」としている。

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肥満の指標で死亡率と相関するのはBMIでも体脂肪率でもなく…

 BMIとは、ご存じのとおり肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数1)である。しかし、同じBMIを持っていても体組成と脂肪分布によって個人間でばらつきがあるため、“死亡リスクが最も低いBMI”については議論の余地がある。そこで、カナダ・Vascular and Stroke Research InstituteのIrfan Khan氏らが死亡率に最も強く相関する肥満に関する指数を検証するため、全死因死亡および原因別(がん、心血管疾患[CVD]、呼吸器疾患、またはその他原因)の死亡率とBMI、FMI(脂肪量指数)、WHR(ウエスト/ヒップ比、体型を「洋なし型」「リンゴ型」と判断する際に用いられる)2)の関連性を調査した。その結果、WHRはBMIに関係なく、死亡率と最も一貫性を示した。ただし、研究者らは「臨床上の推奨としては、質量と比較した脂肪分布に焦点を当てることを考慮する必要がある」としている。JAMA Network Open誌2023年9月5日号掲載の報告。肥満に関する指標で死亡率に最も強く相関したのはWHR 本研究は、英国全土の臨床評価センター22施設のデータを含む、英国バイオバンク(UKB)に登録された2006~22年における死亡者データ(38万7,672例)を発見コホート(33万7,078例)と検証コホート(5万594例:死亡2万5,297例と対照2万5,297例)にわけて調査が行われた。発見コホートは遺伝的に決定付けられた肥満度を導出するために使用され、観察分析およびメンデルランダム化(MR)解析が行われた。 死亡率に最も強く相関する肥満に関する指標を検証した主な結果は以下のとおり。・観察分析の対象者は平均年齢[±SD]56.9±8.0歳、男性17万7,340例(45.9%)、女性21万332例(54.2%)、MR解析の対象者は平均年齢[±SD]61.6±6.2歳、男性3万31例(59.3%)、女性2万563例(40.6%)だった。・BMIおよびFMIと全死因死亡との関係はJ字型であった一方で、WHRと全死因死亡との関係は直線的だった(WHRのSD増加あたりのHR:1.41、95%信頼区間[CI]:1.38~1.43)。・遺伝的に決定付けられていたWHRは、BMIよりも全死因死亡と強い関連を示した(WHRのSD増加あたりのオッズ比[OR]:1.51[95%CI:1.32~1.72]、BMIのSD増加あたりのOR:1.29[95%CI:1.20~1.38]、異質性のp=0.02)。・この関連は女性よりも男性のほうが強く(OR:1.89[95%CI:1.54~2.32]、異質性のp=0.01)、BMIやFMIとは異なり、遺伝的に決定付けられていたWHRと全死因死亡の関連はBMIに関係なく一貫していた。

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カテーテルアブレーションは心房細動を伴う末期心不全の予後を改善する(解説:原田和昌氏)

 心房細動(AF)を伴う心不全にカテーテルアブレーションを行うと、AF burdenが減少し、左室の逆リモデリングが起こり、死亡率が下がることが知られている。AFを伴う末期心不全患者においても、カテーテルアブレーション+薬物療法は薬物療法単独に比べ、死亡、左心補助人工心臓(LVAD)の植え込み、緊急心臓移植の複合イベント発生を低下させることが、ドイツ・ルール大学ボーフムのSohns氏らによる非盲検無作為化比較試験(CASTLE-HTx試験)により示された。対象者は、心臓移植か人工心臓かの評価のためBad Oeynhausenの心臓・糖尿病センター(心臓移植年間約80例)に受診した、症候性AFを有する末期心不全患者である。 アブレーション群において、51例は肺静脈隔離のみ、30例は他の部位にもアブレーションを行った。処置関連合併症はアブレーション群3件、薬物療法群1件で、アクセス部位の血管合併症であった。追跡期間中央値18.0ヵ月において、主要エンドポイントはアブレーション群8例(8%)、薬物療法群29例(30%)で発生した(HR:0.24、95%CI:0.11~0.52、p<0.001)。内訳は、死亡がアブレーション群6例(6%)、薬物療法群19例(20%)(HR:0.29、95%CI:0.12~0.72)で、LVADの植え込みがアブレーション群1例、薬物療法群10例、緊急心臓移植がアブレーション群1例、薬物療法群6例であった。また、AF burdenが減少し、EFが改善した。 近年、重症心不全のハートチームに不整脈治療専門医を加えることが一部の施設で行われている。2021年改訂版の植込型補助人工心臓治療ガイドラインには、「薬物治療抵抗性の心房性頻脈性不整脈に対してはアブレーションを考慮し、治療抵抗性の持続性心室頻拍・心室細動については両心室補助も検討すべき」とあるが、これらの場合AFのアブレーションのみならずLVADのアウトレット周囲を起源とするVTのアブレーションなども含まれる。本試験の結果はある意味予想通りではあるが、手技の不成功がLVADの植え込みや緊急心臓移植(?)につながる可能性も否定できないため、わが国で一般的に推奨できるかどうかは明らかでない。

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第31回 施設入所中の高齢者の失神、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神では食事との関連を意識しよう!2)高齢者の失神では食後低血圧も疑い、再発を防止しよう!【症例】82歳男性。施設入所中。午前9時半頃に椅子に座った状態で反応が乏しく救急要請。救急隊到着時にはほぼ普段通りの状態へと改善していた。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧118/68mmHg脈拍72回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温36.3℃瞳孔3/3 +/+失神の原因失神の原因は大きく心血管性失神(心原性失神)、起立性低血圧、反射性失神の3つに大別されます。そのうち、心血管性失神、出血に伴う起立性低血圧は常に意識し、対応する必要があります。心血管性失神の代表的なものは“HEARTS”と覚えるのでしたね。この辺りは「第13回 頭部外傷 その原因は?」で取り上げているのでそちらを参考にしてください。今回は頻度の高い反射性失神を取り上げます。緊急度、重症度の高い心血管性失神を常に意識して失神患者を対応することは大切ですが、やはり頻度が高い原因をきちんと意識して、対応することも合わせて行わなければ的確な診療はできません。意外に多い食後低血圧反射性失神のうち最も頻度が高いのは排尿失神ですが、食事関連の失神をご存じでしょうか?正確な機序は明らかでない部分もありますが、食事を摂取することによって内臓血流の増加、インスリンや胃腸管ペプチドによる血管拡張に加え、交感神経の適切な代償が行われないことなどが影響していると考えられています1)。食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか、普段から100mmHg以上ある血圧が90mmHg未満となる場合に食後低血圧と定義されます。高齢者における食後低血圧の頻度は高く、たとえば、施設入所者の高齢者の3~4人に1人は食後低血圧を認めることが報告されています2,3)。しかし、食後低血圧は軽視されていることが多く、失神の原因として意識するようにしましょう4)。食後低血圧の診断食後低血圧は前述の通り食後の血圧の程度を診て判断するわけですが、実際にはどのように評価するのでしょうか?食前に1回、食後2時間内は15分毎に1回の計9回の測定をして評価することとなっていますが、これは大変ですよね5)。そのため、食前に1回、食後75分後に測定を行い、収縮期血圧が10mmHg以上低下するかをまずは確認するのがオススメです(感度82%、特異度91%)6)。まずは疑い、そして簡便な方法でチェックし、疑わしければ詳細な評価を行うとよいでしょう。高齢者、とくに糖尿病、パーキンソン病などの基礎疾患のある方、利尿薬など多数の薬剤を内服している方では頻度が高いため、そのような患者さんでは積極的に疑い評価しましょう。食後低血圧と外傷60歳以上(平均80歳)の高齢者において、食後の収縮期血圧が20mmHg以上低下する方では失神や転倒の頻度が有意に高くなります7)。食後にフッと気を失うだけであればよいですが、それによって外傷を伴い、大腿骨近位部骨折や頭部や頸部の外傷を伴ってしまっては大変です。そのようなことが起こらないために、食後の意識消失を軽視しないようにしましょう。さいごに失神の鑑別として食後低血圧も意識しておきましょう。起立性低血圧との合併も珍しくなく、原因を1つみつけて安心してはいけません。高齢者では常に食事との関連も気にかけてくださいね。1)Son JT, et al. J Clin Nurs. 2015;24:2277-2285.2)Aronow WS, et al. J Am Geriatr Soc. 1994;42:930-932.3)Vaitkevicius PV, et al. Ann Intern Med. 1991;115:865-870.4)Luciano GL, et al. Am J Med. 2010;123:281.5)Jansen RW, et al. Ann Intern Med. 1995;122:286-295.6)Abbas R, et al. J Frailty Aging. 2018;7:28-33.7)Puisieux F, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55:M535-540.

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肥満につながる炭水化物の種類は?/BMJ

 長期的な体重管理において、とくに過体重や肥満の人では、摂取する炭水化物の品質と供給源が潜在的に重要であることが、大規模前向きコホート試験で浮き彫りにされたという。米国・ハーバード公衆衛生大学院のYi Wan氏らが報告した。一方で、添加糖、砂糖入り飲料、精製穀物、果物、非でんぷん質の野菜は、体重コントロールへの取り組みを後押しする可能性も示唆された。体重の増加および肥満に果たす炭水化物の役割については議論の的になっている。これまで、炭水化物の摂取量の経時的変化と体重の長期的変化との関連を評価した研究は、ほとんど行われていなかった。BMJ誌2023年9月27日号掲載の報告。4年ごとの炭水化物摂取量の変化と体重変化との関連を検証 研究グループは、Nurses' Health Study(1986~2010年)、Nurses' Health Study II(1991~2015年)、Health Professionals Follow-Up Study(1986~2014年)を基に、4年ごとの炭水化物摂取量の変化と体重変化との関連を総合的に検証した。 被験者は、ベースラインで糖尿病、がん、心血管疾患、呼吸器疾患、神経変性疾患、消化器症状、慢性腎臓病、全身性エリテマトーデスの認められない、65歳以下の男女13万6,432人だった。 主要アウトカムは、4年ごとの体重変化とした。でんぷん摂取量100g/日の増加、4年間で1.5kgの体重増 Nurses' Health Studyの女性4万6,722人、Nurses' Health Study IIの女性6万7,186人、Health Professionals Follow-Up Studyの男性2万2,524人を対象に分析を行った。 被験者の4年ごとの体重増加は、平均1.5kg(5~95パーセンタイル:-6.8~10.0)で、24年間では平均8.8kgだった。 男女共に、血糖値上昇指数と血糖負荷の増加は体重増と関連しており、でんぷんや添加糖の摂取量100g/日の増加は、4年間でそれぞれ1.5kg、0.9kgの体重増と関連していた。一方で、食物繊維の摂取量10g/日の増加は、0.8kgの体重減と関連していた。 摂取量の増加と体重減の負の相関関係が認められたのは、全粒穀物からの炭水化物(摂取量100g/日の増加につき体重0.4kg減)、果物(同1.6kg減)、非でんぷん質の野菜(同3.0kg減)だった。 摂取量の増加と体重増の正の相関関係が認められたのは、精製穀物(摂取量100g/日の増加につき体重0.8kg増)、でんぷん質の野菜(同2.6kg増)だった。 代替分析では、精製穀物やでんぷん質の野菜、砂糖入り飲料を、同量の全粒穀物、果物や非でんぷん質の野菜に置き換えることで、体重減となることが認められた。こうした関連性は、過体重や肥満の被験者のほうが標準体重の被験者に比べ強く(相互作用のp<0.001)、ほとんどが女性で強く認められた。

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動物咬傷(犬、猫)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第7回

今回は動物咬傷の処置を紹介します。一概に動物といっても種類は無数にあり、Review報告の頻度が高いのは想像どおり犬や猫ですが、それ以外にも蛇やげっ歯類、馬、クモ、サメ、アリゲーター/クロコダイルなどが報告に挙がっています1)。私は医師3年目のときに、アメリカの救急医向けの著書「Tintinalli's Emergency Medicine」でアナコンダにかまれたときの対処法を学びましたが、「人生で遭遇する機会はないだろうなぁ」と思いながら読んでいました2)。実際に私が経験する機会の多い咬傷の第1位は犬で、次いで猫、そして人です。蛇咬傷については第5回をご参照ください。今回は犬咬傷で、創が比較的小さく(3cm未満)、四肢をかまれた場合の処置に限定します。犬と猫は基本的には治療は変わりませんが、しいて言えば猫のほうが歯が細くて鋭く、創が小さく深い傾向にあります。創が大きい、もしくは美容的に縫合が必要な場合(顔面など)はアプローチが別になります。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。内科外来をしていると上記のようなことを偶然聴取することがあります。さて、これは「そうなんだ。大変だったね~」とこのまま帰してよいのでしょうか?報告によると、犬咬傷は咬傷全体の80%を占め、若い男性に多く、餌を取り上げるなど犬に不快感を与えたときにかまれることが多いそうです3)。私が小さいころ、田舎の犬が食事をしていたときに、いつもは喜ぶ頭なでなでをしたら吠えられて驚いた記憶があります。この患者さんはとくに理由もなくほぼ毎日かまれているそうですが、ここまで深くかまれたのは初めてだったとのことです。ちなみに、犬咬傷の次に多いのが猫咬傷で全体の10%程度、若い女性に多いようです1)。咬傷で危険なのは、かみ傷が神経や血管を損傷することですが、感染も同等に危険です。口腔内には多種多様な菌がいて、感染のリスクが高いです。動物にかまれた後1~2日してから病院を受診した患者では、入院や外科的処置が必要になるリスクが3.5~7倍高くなるという報告があります4)。早期に適切な処置をして感染を防ぐことが重要ですので、治療をステップに分けて説明します。(1)鎮痛、創の深さ・異物の有無の確認創に対して処置を行うのでしっかりと鎮痛しましょう。動物咬傷は感染リスクが高いため可能な限り縫合は避けます。縫合しない場合は、私は鎮痛薬としてキシロカインの注射剤ではなく、ゼリー剤を用います。塗布してガーゼで覆い、5分ほど待ってから創の深さと異物の有無を確認しましょう。私はこういった小さな創に対しては眼科用ピンセットを用いて深さや異物の有無を確認しています。創部内の観察が困難な場合もありますが、動物咬傷で異物となるのは歯ですので、疑わしい場合はレントゲンを撮影しましょう。本症例は眼科攝子を入れたところ創は浅く、可視範囲に異物はないと判断しました。(2)洗浄、消毒この患者が自宅で行った処置は創に消毒液を塗ったことだけでした。非医療者はこういった処置で終わることが非常に多い印象があります。しかし、咬傷は創の入口が狭くて深いことが多く、唾液などの汚染物質が創部内に残ります。ですので、表面だけを洗ったり消毒したりするだけでは十分な処置とはいえません。汚染された創を洗浄するためには、8psi(Pound per Square Inch)の圧が理想とされていて、図1のように20mLのシリンジの先に20ゲージの静脈留置針の外套を付けるとちょうどよい値になります5)。図1 20mLのシリンジに20G静脈留置針を装着画像を拡大する私は創が小さい場合、眼科用ピンセットがあればピンセットで入り口を広げ、シリンジを用いて圧をかけながら外から洗浄します。創の入り口を広げるのが難しい場合は、そのまま外から圧をかけて洗浄します。この際に「針を創に入れて洗浄すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、かけた圧力の逃げ場がないため、皮下に大きな死腔を作ってしまうことがありますので控えてください(図2)。洗浄の量は傷1cm当たり100~200mLが推奨されています6)。図2 入り口が狭い創に圧をかけると皮下に死腔ができる画像を拡大する創の消毒に関して有効性が示唆された報告はなく、ポピドンヨードや次亜塩素酸ナトリウムは組織障害性が強いこともあり、すべて症例に積極的な推奨はされていません7)。しかし、創の汚染が強いときに消毒することを否定する根拠もありませんので、状況に合わせて消毒を行うことをお勧めします。私は、「創の汚染が強いとき」「初回のみ」消毒しています。水道水や生理食塩水の代わりに、消毒液を用いて洗浄することは効果的ではないので控えましょう。次に必要になるのは創の処置です。口腔内には嫌気性菌を含めた細菌が多数いるため、動物咬傷では口腔内の汚染物質が創に入り込みます。入り口を塞ぐと、(1)空気に触れない、(2)創内のドレナージができない、という事態が生じて感染リスクが上がるとされているので、可能であれば縫合しません。もし美容的に問題がある場合はリスク・ベネフィットを説明して縫合します。今回のような小さく深い創の場合は、ナイロン糸を用いたドレナージが有効です。私は1-0から3-0の太さのナイロン糸1本を図3のように先端が輪っかになるように結び、輪っか側の先端を創に挿入してテープで固定します。図3 ドレナージ用のナイロンの作り方とドレナージの方法画像を拡大する創には抗菌薬入りの軟膏を塗ったガーゼを被せ、1日1回水道水で洗浄してから軟膏ガーゼを交換するように指導しています。若手医師からドレナージ抜去のタイミングに関して聞かれることがありますが、私は受傷2~3日して感染兆候がなければ除去しています。ガーゼを頻回(1日2回以上)交換しなければならないほど浸出液が多い場合は留置を継続しますが、長くても1週間としています。本症例は、嫌気性菌のカバーを目的に、アモキシシリン・クラブラン酸配合剤250mg+アモキシシリン単剤250mgを3錠ずつ5日分処方して帰宅としました。また、破傷風の予防接種を受けたことがなかったため、破傷風トキソイドも投与しました。患者には3日後に来院してもらい創を観察したところ、ナイロン糸は残っており、浸出液は少量で感染兆候がなかったため、糸ドレナージを除去しました。抗菌薬は飲み切り終了し、毎日のガーゼ交換は継続してもらったところ、1週間後の診察で創はきれいになっていたため、咬傷に対する通院は終了としました。軟膏ガーゼは浸出液が付かなくなるまで継続してもらい、何かあれば再診を指示しましたが、次の定期受診までとくに問題はありませんでした。患者さんは相変わらず毎日犬にかまれているものの、「犬と接する際はなるべく手袋、長袖を着るようにした」と工夫していました。そもそも犬にかまれないようにする何かよい方法はないのかなと思いましたが、私は犬を飼ったことがないため何もアドバイスできませんでした…。軽症の動物咬傷は患者自身が処置して感染症を引き起こすことがあり、より大きな処置が必要になることがあります。適切な診断・加療が必要ですので参考にしてください。動物咬傷の豆知識感染してしまったとき今回の症例で、もし残念ながら感染してしまった場合はどうしましょうか? この場合、ドレナージが十分にできていない可能性があります。そのため、糸ドレナージは抜去して、創内を十分にドレナージできる程度に切開する必要があります。自信がなければ専門科に相談しましょう。十分なドレナージと抗菌薬でほとんどの動物咬傷の感染は改善します。感染が関節にかかっている場合感染が関節にかかっている場合は、化膿性関節炎の可能性や手の咬傷でカナベルの4徴(屈筋腱に沿った圧痛、患指の腫脹、患指の軽度屈曲位、受動的に患指を伸展すると激痛を訴える)を認める場合は化膿性屈筋腱炎の可能性があり、専門的な処置が必要なためコンサルトしましょう8)。1)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.2)Tintinalli JE, et al. Tintinalli’s Emergency Medicine: A Comprehensive Study Guide 8th edition. McGraw-Hill Education;2016.3)Basco AN, et al. Public Health Rep. 2020;135:238-244.4)Speirs J, et al. J Paediatr Child Health. 2015;51:1172-1174.5)Shetty R, et al. Indian J Plast Surg. 2012;45:590-591.6)Moscati RM, et al. Acad Emerg Med. 2007;14:404-409.7)Chisholm CD, et al. Ann Emerg Med. 1992;21:1364-1367.8)Kennedy CD, et al. Clin Orthop Relat Res. 2016;474:280-284.

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第181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省「今後の医学教育の在り方に関する検討会」中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?

大学病院、と言えば『白い巨塔』こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月29日、NHKBSプレミアムで映画『白い巨塔』を放映していました。山崎 豊子が1965年に発表した小説『白い巨塔』を原作に、山本 薩夫監督が1966年に映画化した日本の医療映画の金字塔とも言うべき名作です。国立浪速大学付属病院第一外科助教授、財前 五郎を演じたのは今はなき亡き田宮 二郎。録画して久しぶりに観直したのですが、圧倒的な存在感を放つ田宮 二郎の財前のほか、東教授(東野 英治郎)、鵜飼医学部長(小沢 栄太郎)、船尾教授(滝沢 修)、財前の義父(石山 健二郎)ら希代の名優たちの演技を改めて堪能できました(石山 健二郎演じる大阪の開業医が笑えます)。『白い巨塔』と言えば、唐沢 寿明主演のフジテレビのドラマ『白い巨塔』(それでも20年前、2003年の作品です)も有名ですが、俳優の存在感では映画版が一枚も二枚も上手ですね。小説発表から60 年近くの時が経ち、手術の術式や病院のありようなど大きく様変わりしている部分があるとはいえ、根底に流れる医療問題は現代とあまり変わっていません。大学病院の持つ閉鎖性・独善性、大学教授の持つ権力、医局制、医師と患者関係、がん告知の問題……など、半世紀以上も前に『白い巨塔』が提示した医療問題のほとんどが今でもそのまま残っていることに驚かされました。ということで今回は大学病院の改革について書いてみたいと思います。来年から始まる医師の働き方改革が、医学部の教育・研究や、大学病院のあり方にも大きな影響を及ぼすであろうことなどを背景に、今年5月から検討を進めてきた文部科学省の「今後の医学教育の在り方に関する検討会」(座長=永井 良三・自治医科大学長)が9月11日、第5回の会合を開き、大学病院改革に向けた議論の「中間取りまとめ案」を大筋で了承、9月29日に文科省は「中間取りまとめ」として正式に公表しました1)。診療、教育、研究機能を維持するための「改革プラン」策定求める「中間取りまとめ」では、医師の働き方改革が始動しても診療、教育、研究の各機能を維持していくために、個々の大学病院の実情に応じた「改革プラン」を策定する必要性が明記されました。総務省が進める公立病院改革のように、近い将来、国が大学病院に対しても改革プランの策定を義務付けることになるのです。1973年、第2次田中 角栄内閣の元で閣議決定された「一県一医大構想」から半世紀、加速度的に進む人口減少や来年度から本格実施となる医師の働き方改革などを背景に、近い将来に「一県一医大」という枠組みすらなくなってしまうかもしれません。今後、改革プラン策定のガイドラインが作られますが、その具体的な内容は年明け頃から議論が再開される予定、とのことです。「国は支援の方策を検討し、大学病院の魅力をさらに高める取り組みを後押しすることが必要」「中間取りまとめ案」は、大学病院が、働き方改革を進めながら、医師派遣を含めた診療機能を確保しつつ、教育・研究機能の維持に取り組むことが課題だとして、1)診療規模の拡大と経常利益率の低減、2)教育・研究時間の減少、3)医師の時間外・休日労働の上限規制の適用、の3点を指摘、「国は、大学病院が医学教育・研究を牽引し、高度で専門的な医療を提供し続けるために、支援の方策を検討することが必要。また、国は若手医師が大学病院で働きたいと思えるような、大学病院の魅力をさらに高める取り組みを後押しすることが必要」としました。「地域の実情に応じて改革を進め、その機能を発揮できる持続可能な大学病院経営に取り組む必要」改革の全体の方向性としては、医師の働き方改革の推進と大学病院の機能を両立させるため、「自治体や地域の医療機関とも連携し、大学病院の運営、人員、教育・研究・診療、財務など、その実情に応じた改革」、「国は、大学病院に大学本部とも一体となった改革プランの策定を促すとともに、プランの内容に応じた支援を行うこと」、「高度で専門的な医療の提供や医師派遣等による地域の医療提供体制への貢献など、大学病院の機能を適切に評価し支援すること」などを挙げています。その上で、「具体的な取り組みの方向性」として、1)運営に関する項目(地域の医療機関との役割分担・機能分化、など)、2)人員に関する項目(大学病院の医師の勤務環境の改善、など)、3)教育・研究・診療に関する項目(研究マインドの醸成の取り組みや創薬・医療機器開発など起業家教育を推進、など)を具体的に提示し、持続可能な大学病院経営のため、「大学病院は、地域の実情に応じて上記のような改革を進め、その機能を発揮できる持続可能な大学病院経営に取り組む必要」があるとしています。病院収益増や、大学教官のポスト増産を第一目的 に“暴走”する大学病院も以上は、「中間取りまとめ案」の「概要」の内容を紹介したものですが、9月29日に公表された「中間取りまとめ」の本編(19ページもある)を読んだところ、総花的で大学病院に対して少々「甘い」印象を持ちました。本編前段には、「未曽有の困難に直面する中であっても、大学病院は、その機能を将来にわたって維持していかなければならない。国は、大学病院を取り巻く状況が危機的であり、一刻の猶予も許されないこと、また、仮に大学病院がその機能を維持できない事態が生じれば社会的損失は計り知れず、我が国の医療そのものの崩壊を招来しかねないことを十分に認識する必要がある」と、大仰な言葉が並んでいます。しかし、実際、未曾有のコロナ禍にあって、当初、コロナ患者をまったく受け入れようとしなかった大学病院があったことを考えると、ちょっと言い過ぎでは、と感じてしまいます。加えて、「中間取りまとめ」では、国立、公立、私立など設立母体の違いや、大学病院本院と分院の違いについてはほとんど言及されていない点も気になりました。私立医大の中には、積極的な分院展開を行っているところがあります。多数の付属病院をつくり、トータルの病床数や教授ポストを増やす戦略です。同じことは公立の大学病院についても言えます。たとえば名古屋市立大学は、名古屋市立の病院を同大学の付属にすることで、現在、本院の名古屋市立大学病院と合わせて計5病院、2,173床という国公立大学病院では最大規模の病院群を形成するまでになっています。規模拡大による病院収益増や、大学教官のポスト増を第一目的に、傍から見て“暴走”とも取れる拡大戦略を図る大学病院が、地域の民間病院の経営に深刻な影響を及ぼしつつあるとも聞いたことがあります。研究・教育は二の次に、自分の大学や関連病院のことだけしか考えない大学病院は、果たして「その機能を維持できない事態が生じれば社会的損失は計り知れず、我が国の医療そのものの崩壊を招来しかねない」存在なのでしょうか。「自治体や地域の医療機関等の関係者による合意の下で、地域の医療機能の集約化等に取り組むことが重要」かつてある病院経営者が、「地域医療構想調整会議に大学病院は出てこないんだよね」と不満を漏らしているのを聞いたことがあります。医療圏において患者供給の最上流に位置するにもかかわらず、地域医療構想には無関心、かつほぼ“無縁”だった大学病院ですが、これからはさすがに地域医療を意識した経営が求められることになるでしょう。「中間取りまとめ」では、そうした唯我独尊でやってきた大学病院への反省からか、これからの大学病院と地域医療との関わりについて、次のように地域の医療機関や行政との積極的な対話の必要性を指摘しています。「2025年問題以降は、ほとんどの地域で高度急性期病床及び急性期病床の需要は減少する見込みであり、大学病院が担う役割等に鑑みれば、(中略)今後、大学病院が担う診療規模の拡大は現実的ではない」、「今後の医療需要が減少していく地域においては、大学病院をはじめ自治体や地域の医療機関等の関係者による合意の下で、地域の医療機能の集約化等に取り組むことが重要であるが、その際、大学病院において教育・研究に従事する人材を確保し、教育・研究機能を維持・発展させるために、都道府県の意見も聴きながら大学病院がその中核的な役割を果たすことを通じて、地域の医療提供体制の再構築を進めることも検討すべきである」。確かに、これまで大学病院と地域の医療機関との対話の機会は少なかったようです。医師や患者の“供給元”でもあることから、地域の医療機関が大学病院に対して強くモノを言えない、という事情もあるようです。そう考えると、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」で、大学病院の在り方や、改革プラン策定の検討を行う際には、地域医療構想の担当官庁である厚生労働省も入るべきだと思うのですが、皆さんどう考えますか?大学の教授は財前教授のころと比べると相当割に合わない仕事になったところで、映画『白い巨塔』が描くのは、「一県一医大構想」が推し進められる以前、旧帝国大学医学部が権勢を誇り、医学部教授の権力も凄まじく大きかった時代の医学部の姿です。医学部教授の数が大幅に増え、製薬企業等から大学への研究費や奨学寄付金の給付が厳格化され、さらにはパワハラ、アカハラがすぐに事件化される現在、教育、研究だけではなく大学病院の経営にまで目を配らなければならない大学病院の教授は、財前教授のころと比べると相当割に合わない仕事になったと言えるでしょう。それでも、「教授を目指す!」という若手医師がいなくならないのはなぜでしょう。「教授」という肩書が魅力的なのか、はたまた昔より小さくなったとはいえ「権力」に惹かれるのか。そのあたり、人間の欲望自体は『白い巨塔』公開時からほとんど変わっていないようです。参考1)今後の医学教育の在り方に関する検討会 中間取りまとめについて/文部科学省

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世界共通語「ダイアベティス」へ「糖尿病」の呼称変更を目指す/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会

 9月22日、日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所])と日本糖尿病協会(理事長:清野 裕氏[関西電力病院])は都内でメディアセミナーを合同で開催した。セミナーでは、以前から活動が続けられている糖尿病のアドボカシー活動の現状や今後の展望、新たな呼称候補の発表などが語られた。糖尿病の呼称変更がスティグマ払拭の一歩に 門脇 孝氏(IDF-WPR※議長[虎の門病院])は、「糖尿病医療におけるアドボカシーの重要性」をテーマに講演した。糖尿病の病態解明や治療が進んでいる一方で、過去の負のイメージが社会に定着し、患者の不利益になっていることを指摘。糖尿病患者の生命予後も改善されている現在、病気への誤解や偏見を当てはめる「スティグマ」は医学的、社会的にも解消されるべきと説明した。こうした課題に対応するために2019年にアドボカシー委員会を立ち上げ、活動の1つとして1907年から使用されている「糖尿病」の病名・呼称の変更があると説明した。「糖尿」という言葉が病態を正確に表すものではなく、国際的にも通用しなくなっていることから呼称を「ダイアベティス」に変更することを提案した。また、門脇氏は私見としながら周知のために「ダイアベティス(糖尿病)」と一定期間使用していく必要があるとも語った。 清野氏は「糖尿病協会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同協会のアンケートによれば「糖尿病は生活の乱れによる病気」や「糖尿病は遺伝する」など誤ったイメージが今も持たれていること、糖尿病患者は社会的な不利益(たとえば生命保険契約や住宅ローンなど)があること、糖尿病というスティグマを多くの患者が感じていることが報告された。そこで、同協会では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を実施し、「血糖コントロール」を「血糖マネジメント(管理)」や「療養指導」を「治療支援、治療アドバイス」などに変更する改革を行っていると説明した。また、「糖尿」という言葉は侮蔑的であり、わが国の辞典・辞書には糖尿病に関し「尿」という言葉が必ず入っていることを指摘。海外では「尿」ではなく「血糖」が使用されており、清野氏は「国際的にみてもきちんと病態を表す正しい命名にするべき」と語った。 植木氏は「日本糖尿病学会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同学会では、「糖尿病への誤解・偏見の除去」、「有効で負担の少ない治療の普及」、「根治・寛解療法の開発」、「患者の経済的負担の軽減」を主な活動として行い、とくに「誤解・偏見の除去」では、糖尿病患者の生命予後の改善に伴い生命保険会社への契約制限の撤廃に向け働きかけを行っていると説明した。また、新しい治療法(例:スリープ状胃切除手術、SAP療法など)の導入で、これらの保険収載や症例の蓄積を行う一方で、医療費が過大な負担とならないように厚生労働省へ1型糖尿病の指定難病認定への働きかけなどを行っていると説明した。 矢部 大介氏(IDF-WPR※理事[岐阜大学大学院])が「アドボカシー活動に関するアジアの動向」をテーマに、アジアの糖尿病患者の動向やわが国の団体・患者との連携活動について報告した。アジアでは、約2億9,600万人の糖尿病患者が推定され、糖尿病患者は結婚や就職で不利とされ、とくに1型糖尿病の患者が幼稚園や学校に入れない例もあるという。IDF-WPRの主な活動は、医療にアプローチできない患者の支援や糖尿病予防への取り組みを行っているほか、患者が差別されないための社会発信やICTを活用したアドボカシー活動を実施しているという。矢部氏は「呼称変更だけでなく、アジアにおける糖尿病の正確な知識の普及・啓発にも関心を高めてほしい」とメディアに要望を語った。時間をかけ社会と対話し、呼称変更を啓発していく 津村 和大氏(学会・協会合同アドボカシー委員会委員/糖尿病の呼称案検討WGリーダー[川崎市立川崎病院])は「糖尿病の新たな呼称の提案」をテーマに、呼称変更の意義やその背景を説明した。学会・協会合同アドボカシー委員会の取り組みとして、社会への啓発や医療者への教育、政府などへの情報提供・働きかけ、「糖尿病の新たな呼称検討」が行われている。糖尿病の呼称案検討ワーキンググループ(WG)が新呼称提案をした背景には、糖尿病の社会的な誤解を払拭するうえで重要であり、「社会全体に正確な理解が進まないとスティグマ払拭につながらない」と説明する。また、WGでは「学術的」「国際的」「略称」「診療科名」「新規性」の5つの観点から呼称案を選定し、「ダイアベティス」を候補にしたと語った。津村氏は「これらはいずれも強要するものではなく、メディアも参画者として活動に賛同してほしい」と要望を述べた。 山田 祐一郎氏(学会協会合同アドボカシー委員会長[関西電力病院])は、「普及啓発に向けた協会の今後の取り組み」について説明した。同協会では、さまざまな糖尿病に関する啓発活動を行っているが、とくに医療者への啓発活動では、糖尿病のスティグマのアンケート報告や先述の言葉の見直しで啓発動画の配信・普及などを実施している。最近では、製薬企業を中心とする企業委員会とスティグマ払拭に向けたアドボカシー活動で定期的な意見交換を行っていると説明した。 山内 敏正氏(学会協会合同アドボカシー委員会委員)[東京大学大学院])は、「普及啓発に向けた学会の今後の取り組み」について説明した。「糖尿病を巡る『言葉』の問題」について、医療者が診療で言葉を意識し、慎重に選んでいる欧米の事例を挙げ説明した。今後の取り組み・進め方として、糖尿病のスティグマの存在を社会に対し説明する場を設け、正しい知識の普及・啓発を行うために糖尿病患者などの当事者、医療者、企業関係者などの議論の場を設け、オープンなディスカッションを行うという。また、山内氏は「呼称変更実施の検討も含め、今後1年をかけて広く話し合いたい」と展望を語った。※IDF-WPR:International Diabetes Federation Western Pacific Region

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英語で「気を付ける」は?【1分★医療英語】第100回

第100回 英語で「気を付ける」は?You may experience some mild side effects after getting vaccinated.(ワクチン接種後に軽い副反応があるかもしれません)You may experience some mild side effects after getting vaccinated.(ワクチン接種後に軽い副反応があるかもしれません)What symptoms should I watch out for?(どんな症状に気を付けるべきですか?)《例文1》Please watch out for your sodium intake.(塩分摂取量に気を付けてください)《例文2》Watch out for the slippery floor!(床が滑りやすいので気を付けて!)《解説》「気を付ける」「注意する」という一般的な表現は“watch out (for)”を使います。文字通り、「よく見て、観察する」というニュアンスです。“for”の後には人、モノ、事柄などが入り、さまざまな場面で使えます。“watch out!”(危ない! 注意して!)と、とっさに注意を促すときにも使います。また、ネガティブな内容だけでなく、“look for”と同じように、ポジティブな内容にも使えます。“She has been watching out for opportunities.”(彼女はチャンスを待ち望んでいます)といった表現です。医療現場で、患者さんに注意を促すことは多いと思いますので、そんな状況で使ってみてください。“Watch out for the situations!”講師紹介

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第64回 これから「糖尿病」をどう表記するのか?

英語病名は定着しにくいジンクスUnsplashより使用もう皆さんご存じの話だと思いますが、「糖尿病」の新しい呼称として「ダイアベティス」が提案されたというニュースが話題です。日本糖尿病協会と日本糖尿病学会で進められてきたプロジェクトで、いくつかヒアリング等を経て呼称としてはこれに着地するということのようです。何人かの医師インフルエンサーから「糖代謝異常症」「高血糖症」のほうがよかったのでは…と声が上がっています。確かに、「ダイアベティス」が定着しやすいかと問われると、難しいかもしれません。痴呆→認知症、精神分裂病→統合失調症のように成功した事例も多いため、漢字混じりの日本語表記のほうが定着しやすいかもしれません。実際、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームなど、とにかくカタカナの名称啓発は難航しております。とはいえ、メタボリックシンドロームのように成功した事例もあるので、ダイアベティスが馴染む可能性もゼロではありません。スティグマは病名のせい?この名称変更、糖尿病に対する偏見と差別をなくすことが目的なのですが、本当に病名が悪いのでしょうか。この疾患そのものの啓発がうまくいっていないことが背景にあって、決して病名のみが悪いわけではありません。病名を変更することも確かに1つの策ですが、疾患に関する正確な情報を社会に発信する施策のほうが重要なのではないかと考えます。病名に含まれる狭義をできるだけ排して、一般的な病名にすることで、逆に啓発が阻害されるという現象はよくみられます。たとえば、肺気腫というのは、「肺」「気」「腫」という言葉がそれぞれ何となく意味を発していて、身体に害のあるものを吸ってはいけないんだなという啓発がしやすいのですが、「慢性閉塞性肺疾患」だと、ふわっとしすぎて何の病気かわかりません。アンケートについてアンケートで5件法を適用する場合、たとえそれが定量化できない項目であっても、項目間の定量値をできるだけ「等間隔にする」というのが原則だと理解しています。リッカート尺度では、両極に位置する「1点」「5点」の選択肢の間に「2~4点」の選択肢を配置します。このとき、2~4点が極端に5点に偏った選択肢にならないよう注意しなければ、恣意的なアンケートとなってしまいます。今回の「ダイアベティス問題」で使われたアンケートは、以下のようなものです1)。Q1 「糖尿病」という病名をどう思いますか?(1)何とも思わない(2)少し気になる(3)抵抗がある(4)とても抵抗がある(5)不愉快であるたとえばこのアンケート調査のすべてが(1)~(5)に均等に分散した場合、(2)~(5)が「深い・抵抗感がある」と定義された場合、8割の人がこれに該当することになります。中立の立場でアンケート調査を行うなら、(3)に「何とも思わない」を配置したほうがよかったかもしれません。まとめ―――いずれにしても、もし病名が変更になってもしばらくは「ダイアベティス(糖尿病)」のように併記しなければ伝わらないでしょう。TwitterがXに変わって久しいですが、いまだに「X(旧Twitter)」という並列表記が当たり前になっています。コピーライターの糸井 重里氏は「俺はもう、ひとまず決めたね。『旧』とか付けずに『ツイッター』って呼ぶわ。『X』になったのはわかってるけど、『ツイッター』で通じるうちは『ツイッター』でいく」とおっしゃっており、私も共感しました。両者、非常に似ている問題だと思います。参考文献・参考サイト1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動:「糖尿病」病名に関するアンケート

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第180回 宮城の病院でレジオネラ症集団感染、病院利用がない地域住民への感染はなぜ起こった?

入院患者、外来患者だけでなく病院利用が全くなかった地域住民にも感染広がるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球は、オリックス・バファローズがパ・リーグ三連覇を決めました。阪神、オリックスがこのままの勢いで行けば、今年の日本シリーズは大阪と兵庫の球場だけで行われる関西シリーズになります。関東在住者としては少々寂しいです。一方、米国のMLBでは、藤浪 晋太郎投手が所属するボルチモア・オリオールズと、前田 健太投手が所属するミネソタ・ツインズが、それぞれアメリカン・リーグの東地区、中地区の優勝を決めました。シーズン後半になって持ち直してきた両投手のポストシーズンでの活躍に期待したいと思います。さて、今回は東北の地方都市にある民間病院で起こった、レジオネラ症の集団感染について書きます。7月に発覚したこの事件、その後の調査で、入院や外来など病院を利用した人の感染だけではなく、病院利用がまったくなかった地域住民にも感染が広がっていました。温泉入浴施設での集団感染事例が多いレジオネラ症ですが、どうして病院で起こったのでしょうか。また、どうして病院利用者以外にも広がってしまったのでしょうか…。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院宮城県は9月11日、県内の病院で、今年6~7月にかけて病院の利用者6人がレジオネラ症に感染し、80代と40代の男女2人が死亡した問題で、病院の利用歴のない近隣住民ら11人も感染していた、と発表しました。県は「病院の集団感染と関連があるとみられる」として、詳しい因果関係を調べているとのことです。宮城県の発表によると、ことの経緯は以下のようなものでした。6月下旬~7 月中旬、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づくレジオネラ症患者の届け出があった6人について、届け出を受理した大崎保健所が調査を行いました。その結果、同一医療機関を利用していたことが判明、健康被害拡大防止と重症化防止のため、7月19日に施設名の公表を行いました。集団感染を起こしたのは、宮城県大崎市の医療法人永仁会・永仁会病院です。一般病床80床、透析病床60床を有する地域の急性期病院で、Webサイトによれば、消化器、腎臓、糖尿病、乳腺疾患などを専門としています。その後、同病院の施設調査が行われ、空調設備(空調冷却塔2基の拭取検体)からレジオネラ属菌が検出。1基は安全とされる目安の97万倍、もう1基は68万倍の菌が検出されたとのことです。菌を含んだ水がエアロゾル状となり冷却塔外に舞い散る空調の冷却は冷却塔内のファンを回して行うため、菌を含んだ水がエアロゾル状となって冷却塔外に舞い散り、新型コロナ対策の換気で開放されていた病室の窓などから入り感染につながったとみられています。コロナ予防のための換気対策が逆にレジオネラ症の感染拡大につながったわけです。皮肉なものです。また、遺伝子検査により、6人の患者のうち4人の患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株との遺伝子パターンが一致したため、8月4日にはその事実も公表されました。県はこの事実に基づいて、近隣医療機関に対する注意喚起を行い、併せて同病院に対して、厚労省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」1)に基づき指導を行いました。半径3km以内に住む住民も感染3回目となる9月11日の宮城県の発表では、さらなる感染拡大が明らかになりました。7月に公表された患者6人に加え、7月下旬にレジオネラ症患者の届け出があった1人についても同病院を利用していたことが判明、遺伝子検査でこの患者由来菌株と病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンの一致が確認されました。ちなみに、計8人の患者の年齢は40〜90代、入院5人、通院3人でした。死亡したのは40代と80代の2人で、残り6人は入院加療により軽快したとのことです。この時の発表では意外な事実も明らかにされました。病院の利用歴がない近隣住民らの感染です。大崎保健所の管内では、同病院を利用していた患者8人とは別に、利用歴がない13人のレジオネラ症患者の届け出が出ていました。これは、大崎管内の例年のレジオネラ症発生状況と比較しても多い数字であったことに加え、13人のうち11人については、自宅や勤務先が同病院に近接(半径3km以内)している事実が判明、うち4人については患者由来菌株と同病院の空調冷却塔由来菌株の遺伝子パターンが一致していました。宮城県は、「当該医療機関の冷却塔が感染源であることは科学的に完全には証明できておりませんが、同種事案の再発防止や県民の健康を守る観点から、県内において冷却塔を有する施設管理者に対し注意喚起を行う」と発表しました。なお、永仁会病院は県の指導の下、7月23日に清掃業者が空調冷却塔2基の清掃と薬品による化学的洗浄を実施、8月以降はこの冷却塔との関連性が疑われるレジオネラ症患者の発生はないとのことです。温泉入浴施設での集団感染が多いレジオネラ症レジオネラ症は感染症法上の4類感染症に分類されており、全数報告対象です。よくニュースになるのは、温泉入浴施設などでの感染です。最近の大きな集団感染事例は、2017年3月に発生した広島県内の温泉入浴施設で起きたもので、入浴客の中から58人の患者が発生し、1人が死亡しています。なお、2002年7月に宮崎県内の温泉入浴施設で起きた集団感染では295人が感染し、7人が死亡しています。厚生労働省のWebサイトによれば、レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症で、その病型は劇症型の肺炎と、肺炎は起こさない一過性のポンティアック熱があるとのことです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、エアロゾルを発生させる人工環境(ビル屋上に立つ空調冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した風呂などが菌の増殖を促し、感染機会を増やしているとされています。レジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルを吸入すること等で感染し、潜伏期間は2~10日間、ヒトからヒトへ感染することはない、とされています。もっとも、菌に曝露しても誰もが発症するわけではなく、細胞性免疫能の低下した高齢者やがん患者、透析患者などで肺炎を発症しやすいとされています。今回の永仁会病院のケースも、病院屋上の空調冷却塔でレジオネラ属菌が増殖し、それを含んだエアロゾルが拡散、免疫の落ちた患者らが吸引し、感染したと考えられます。同病院は透析病床も多く抱えているので、そのあたりも感染拡大の一因かもしれません。病院の空調設備だけでなく給水設備も汚染源に調べてみると、院内感染によるレジオネラ症は決して珍しいことではなく、世界的にも問題になっているようです。原因は今回問題となった病院の空調設備だけでなく、給水設備も汚染源になり得るようです。たとえば、神奈川県衛生研究所の研究者らが、2015年に神奈川県内の3病院(200床以上)を対象に給水設備(病衣内の蛇口水及びシャワー水と、蛇口及びシャワーヘッドのスワブ)のレジオネラ属菌による汚染を遺伝子の検出と培養により調査した文献によれば、3病院でのレジオネラDNAの検出は水試料では6.7~93.8%、スワブ試料では0~7.1%、培養によるレジオネラ属菌の検出は水試料では26.7〜66.7%、スワブ試料では0~14.3%だったそうです。著者らはこの結果を踏まえ、「医療機関においては高リスクグループに配慮し、感染防止対策と給水設備の管理の徹底が必要である」と結んでいます2)。「藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」と病院それにしても、病院利用者以外への感染はどう考えたらいいのでしょうか。宮城県はその後、調査結果を公表しておらず想像するしかありませんが、空調冷却塔からレジオネラ属菌で汚染されたエアロゾルが風などに乗って相当広範囲に飛んだのが原因だと考えられます。空調冷却塔は通常、気温が上がり始めた5~9月頃まで使用されます。同病院の場合、冷却塔の洗浄を十分にしないで今シーズンを迎えたのかもしれません。7月20日付の朝日新聞の報道等によれば、病院は「これまで、毎年1回換水し、冷房を使い終わる10月と、使い始める5月ごろに病院職員がデッキブラシなどで清掃していた」と説明し、「今年も5月に清掃した」とのことです。しかし、「冷却塔の動作確認を毎月する際、塔内に藻が生えているのが目視で分かっても放置することがあった」そうです。安全とされる目安の100万倍近い菌が棲み着いたエアロゾルが、風に乗って病院から半径3キロ内に飛び散っていたわけです。まさにモダンホラーです。これでは病院の近くにはおちおち住めませんね。駅弁で大騒動のセレウス菌も過去には医療機関で集団感染先週、青森県の駅弁メーカーの弁当で起きたセレウス菌による食中毒もそうですが、集団感染や院内感染は忘れた頃に突然起きます。医療機関以外での集団感染が一般的な感染症も、時として病院などで起こるので注意が必要です。ちなみに、セレウス菌については、病院のリネン類(外部に洗濯を依頼していた清拭タオルなど)を介した集団感染が時折起きています。大きく報道されたところでは、2006年の自治医科大学附属病院、2013年の国立がん研究センター中央病院の事例が有名です。いずれも死亡例が出ています。病院管理者の皆さん、病院が思わぬ菌の感染源とならないためにも、MRSA対策だけでなく、レジオネラ属菌やセレウス菌にも気を付けて下さい。参考1)レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針/厚労省2)大屋日登美ほか.医療機関の給水設備におけるレジオネラ属菌の汚染実態.感染症誌.2018;92:678~685.

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コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA

 コントロール不良の高血圧患者の治療において、経口アルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatはプラセボと比較して、優れた降圧効果をもたらす可能性があることが、米国・クリーブランド・クリニック財団のLuke J. Laffin氏らが実施した「Target-HTN試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月10日号で報告された。米国の無作為化プラセボ対照用量設定試験 Target-HTN試験は、米国の43施設で実施された無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、2021年7月~2022年6月に参加者の無作為化を行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、自動診察室血圧(AOBP)測定による収縮期血圧が130mmHg以上で、2剤以上の降圧薬を最大耐用量で少なくとも4週間使用している患者を対象とした。血漿レニン値が抑制され(血漿レニン活性[PRA]≦1.0ng/mL/時)、かつ血清アルドステロン値が上昇(≧1.0ng/dL)している患者をコホート1として、PRA>1.0ng/mL/時の患者をコホート2として登録した。 コホート1は、プラセボまたは5つの用量のlorundrostat(12.5mg、50mg、100mgを1日1回、12.5mg、25mgを1日2回)、コホート2は、プラセボまたはlorundrostat(100mg、1日1回)を経口投与する群に、それぞれ無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、収縮期AOBPのベースラインから8週目までの変化量とした。 コホート1に163例、コホート2に37例を割り付けた。全体の平均年齢は65.7(SD 10.2)歳、女性が60%であり、48%がBMI値30超、40%が2型糖尿病、42%が3剤以上の降圧薬の投与を受けていた。ベースラインの平均血圧は、コホート1が収縮期血圧142.2(SD 12.5)mmHg、拡張期血圧81.5(9.7)mmHgで、コホート2はそれぞれ139.1(8.7)mmHg、79.1(9.7)mmHgだった。50mg群と100mg(1日1回)で有意な降圧効果 コホート1における治療開始から8週の時点での収縮期血圧の変化量は、lorundrostatの1日1回投与では100mg群が-14.1mmHg、同50mg群が-13.2mmHg、同12.5mg群が-6.9mmHgで、プラセボ群は-4.1mmHgであり、同1日2回投与では25mg群が-10.1mmHg、12.5mg群は-13.8mmHgであった。 収縮期血圧のプラセボ群とlorundrostat群の最小二乗平均群間差は、50mg群(1日1回投与)が-9.6mmHg(90%信頼区間[CI]:-15.8~-3.4、p=0.01)、100mg(1日1回投与)が-7.8mmHg(-14.1~-1.5、p=0.04)と有意な差を認めた。 コホート2では、lorundrostat100mg(1日1回投与)で収縮期血圧が11.4(SD 2.5)mmHg低下し、コホート1の同一用量の群と同程度の降圧作用がみられた。 lorundrostat群の6例(3.6%)で血清カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇したが、減量または投与中止によって正常化した。コルチゾール分泌不全は発生しなかった。 著者は、「lorundrostatによるアルドステロン合成酵素の阻害は、基礎治療となる降圧療法を問わず、コントロール不良な高血圧患者に降圧効果をもたらす可能性が示された。これらの結果は、コントロール不良の高血圧患者の治療法としての本薬のさらなる検討を支持するものである」としている。

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阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第64回

第64回 阪神タイガースのアレを祝福し、マウスと野球を哲学する2023年9月14日に阪神タイガースが18年ぶり6度目の“アレ”を決めました。そうです、プロ野球セ・リーグ優勝です。阪神ファンの皆さま、おめでとうございます。この18年間に何度も優勝が現実味を帯びたことがありました。『阪神V』という雑誌が出たり、「あかん、阪神優勝してまう!」といったTV特番が放送されたりするほど2位以下を引き離すのですが、その度に歴史的な連敗を喫して優勝を逃してきたのです。そのため「優勝」という言葉を口にすることが憚られる雰囲気がファンや選手の間に浸透したのです。2022年秋に岡田 彰布が阪神監督に就任した際に、優勝のことをアレと呼び続けると宣言しました。公式には、アレではなく、「A.R.E.」でAim・Respect・Empowerの頭文字からくる阪神の2023年シーズンの公式スローガンです。18年間もの間を待ちに待った優勝が決まった瞬間の甲子園球場の盛り上がりは熱狂的でした。阪神タイガース優勝や、WBCでの「侍ジャパン」優勝からも伝わってくるように、日本人は野球が大好きです。甲子園の高校野球の中継には皆が釘付けなります。日本の国技は相撲ではなく野球であるという意見もあるほどです。この野球人気の背景について、「論文・見聞・いい気分」的に解析してみます。医学領域の研究活動は、基礎研究と臨床研究に大別されます。基礎研究は、病気の原因や治療効果を調べるための学問です。主に細胞やマウスなどを用いて実験室で行われます。臨床研究は、実際の患者さんに協力いただいて、病気の予防・診断・治療の改善などのために行う研究です。基礎医学の進歩は臨床医学の発展の土台となります。ヒトを使ってできる実験は限られるため、基礎医学研究者の多くは、ヒトそのものではなく、マウスなどのモデル生物を使って研究を行います。マウス以外の実験動物としては、ラット、モルモット、ハムスター、フェレット、ウサギ、イヌ、ミニブタ、サルなどが挙げられますが、圧倒的にマウスが用いられます。保健所などからの払い下げの動物や、捕獲された犬や猫が実験に使用されることは絶対にありません。なぜ「マウス」が実験に使われるのか考えてみましょう。飼育コストがかからないマウスはヒトと同じ哺乳類で、全ゲノム塩基配列の解読によりヒトの遺伝子の99%はマウスにも保存されていることが明らかにされています。マウスは体重40gほどと哺乳類のなかでも最小クラスの動物で、狭い空間と少ない食料で多くを飼育することができます。研究に要する人的・経済的な負担がほかの動物より有利です。近交系が確立し遺伝子改変しやすい実験で用いられているマウスは近親交配で作られた「近交系」で行われることが通常です。近交系は遺伝子が99.9%同じ個体で、ほぼ同一の個体(クローン)とみなされます。10匹のマウスで実験するとして、10匹の遺伝子がバラバラであれば、個々の遺伝的要因の差異が結果に影響を与える可能性があります。10匹が同じ遺伝子の近交系マウスで実験すれば、どの部分に変化や問題が起こったのか、検証が容易となります。個体差による実験のブレを最小限にできるのです。長年にわたる遺伝学実験の応用により、がん、糖尿病、神経疾患、動脈硬化などを特徴とする多くの近交系マウスが作成されています。また、マウスは遺伝子改変しやすいことも特徴です。遺伝子破壊(ノックアウト)マウスや遺伝子導入(ノックイン)マウスなど、さまざまなタイプの遺伝子改変マウスを作製することが可能です。繁殖力が高く世代交代期間が短いハツカネズミの改良から生まれた実験用マウスは、一度に6~8匹の子供を産み、1ヵ月ほどで成体になり、寿命は1~2年です。子沢山で、成長が早く寿命が短いことが最大の特徴です。12ヵ月齢(1歳)のマウスはヒトでは30歳くらい、24ヵ月齢(2歳)は60歳くらいに相当します。DNAの損傷、免疫能の低下、骨格筋の萎縮、動脈硬化などの加齢性変化が、マウスではヒトの約30倍の速さで起こるのです。ヒトで実験することには倫理面は問題もありますが、時間が掛かり過ぎます。ヒトがヒトを用いて実験することは、究極的には人生で1回しか実験できない理屈になります。ヒトより世代交代が早く代謝サイクルが短いマウスで実験すれば、短い期間で複数世代を観察できます。これがマウスを実験に利用する最大の理由です。プロ野球選手のスポーツ競技者としての職業人生を考えてみましょう。日本野球機構(NPB)の公表では、2022年シーズンで戦力外・現役引退した145名の選手(外国人選手除く)の平均在籍年数は7.7年、平均引退年齢は27.8歳です。在籍期間は短期化し引退年齢は低下する傾向にあり、キャリアは短命化しているそうです。アスリートの世界では、世代交代が一般的な社会よりも早いことになります。これが、日本人が野球を楽しむ一つの側面ではないかと私は考えます。ある企業の代表取締役社長が交代しても、その手腕が決算に表出されるには短くても数年を要するでしょう。阪神タイガースの岡田 彰布監督は、就任から1年を待たずに優勝という結果をもたらしました。新人を採用し人材育成に注力する方針の企業もあれば、完成された優秀な人材をリクルートして即戦力とする方針の企業もあるでしょう。その方針の違いを結果として総括するには、一般企業であれば長い時間を要します。プロ野球であれば、その着手から結果までを短い時間軸で観察することができます。この過程に評論家のように論じながら参画できることに、日本人の野球の楽しみがあるのです。野球を社会的な実証実験の舞台として捉え楽しむのです。今回の原稿から執筆者ある私が、阪神タイガースのファンであると誤解しないでください。私は子供の頃からブレることのない読売巨人軍のファンです。巨人軍は、完成したビッグプレーヤーを金に物言わせて集めてチーム作りをしているようです。この方針では優勝できないという事実から、「世の中は金だけでは成功しない!」というメッセージを知らしめる壮大な実証実験と教育活動を具現化している読売巨人軍を敬愛し、心から応援しています。がんばれジャイアンツ!

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「デルマクイック爪白癬」は技術や検査時間も不問で誤診も防ぐ

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。「デルマクイック爪白癬」で視診による誤診予防も そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」の検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

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1型糖尿病リスクの高い小児、コロナ感染で発症しやすいか/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の時期に、小児で糖尿病の増加が観察されている。ドイツ・ドレスデン工科大学のMarija Lugar氏らは、「GPPAD試験」において、1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体が検出されなかった場合と比較して、検出された集団は膵島自己抗体の発生率が高く、とくに生後18ヵ月未満でリスクが増大していることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月8日号に掲載された。生後4~7ヵ月の幼児を追跡した欧州のコホート研究 GPPADは、欧州の5ヵ国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン、ベルギー、英国)の施設が参加した進行中の縦断的コホート研究である(米国・Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustなどの助成を受けた)。 この研究では、2018年2月~2021年3月に、1型糖尿病発症の遺伝的リスクが10%以上の生後4~7ヵ月児1,050人(女児517人)を登録したPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータを用いた。 SARS-CoV-2の感染は、2018年4月~2022年6月に、被験児が2歳になるまでに2~6ヵ月の間隔で行われた追跡調査の受診時にSARS-CoV-2抗体の発現を特定することで確認した。 主要アウトカムは、2つの連続した検体または単一の検体における2つ以上の膵島自己抗体の発現と、1型糖尿病の発症であった。 生後6ヵ月からの抗体測定について、血液検体を保管するバイオバンクの同意が得られた885人(女児441人)を解析の対象とした。膵島自己抗体陽性者の33.3%が1型糖尿病発症 年齢中央値18ヵ月(範囲:6~25)の時点で、170人にSARS-CoV-2抗体の発現を認めた。膵島自己抗体は60人(6.8%)で発現し、このうち6人はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に、6人はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察時に、膵島自己抗体陽性であった。これら60人の小児は最終受診時まで膵島自己抗体が陽性で、このうち20人(33.3%)が1型糖尿病を発症した。 SARS-CoV-2抗体陽性時の膵島自己抗体発現の、性・年齢・国で補正したハザード比(HR)は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、p=0.002)であった。また、膵島自己抗体発現の累積リスクは、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は2.9%(95%CI:1.8~4.8)であったのに対し、陽性の場合の6ヵ月以内の累積リスクは7.3%(4.2~12.7)だった(p=0.01)。 膵島自己抗体の発生率は、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は100人年当たり3.5(95%CI:2.2~5.1)であったのに対し、陽性の場合は同7.8(5.3~19.0)と有意に高かった(p=0.02)。 さらに、SARS-CoV-2抗体陽性の幼児における膵島自己抗体が陽性となるリスクは、生後18~24ヵ月と比較して、生後18ヵ月未満で有意に高かった(HR:5.30、95%CI:1.50~18.30、p=0.009)。 著者は、「膵島自己抗体の発現が、COVID-19の世界的流行の初期における1型糖尿病発症率の急激な上昇の原因とは考えにくいが、将来の1型糖尿病の発症率に関連すると考えられる」とし、「生後12ヵ月ごろに膵島自己抗体の発現がピークに達したが、これは糖尿病原性障害の原因への初期曝露が相対的に多いか、またはこの年齢での膵島自己免疫に対する脆弱性の増加のいずれかを反映すると推測され、本研究はこれらの仮説の評価に道を開くものである」と指摘している。

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第164回 新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉1.新型コロナの医療体制、10月から大幅見直し/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスに関する複数の新たな方針を発表した。10月から専用病床の「病床確保料」が2割減少し、2024年3月までの適用が予定されている。また、新型コロナ治療薬の患者の自己負担割合について、9,000円を上限とすることが決定された。これまで全額公費であった治療薬について、一部自己負担が求められるようになる。入院医療費の補助は、最大2万円から最大1万円に減少する。医療機関の支援に関しても見直しが行われ、新型コロナの患者の受け入れのための「病床確保料」の支給が感染状況が一定の基準を超えるまで行われない方針となった。専門家は、医療機関の労力の大きさと、適切な支援策の必要性を指摘している。参考1)コロナ病床確保料、10月から2割減に 重点医療機関の補助区分を廃止、厚労省(CB news)2)新型コロナの患者支援 10月から見直し 治療薬の一部自己負担に(NHK)3)10月以降のコロナ感染症対応、「重点的・集中的な入院医療体制」確保目指し診療報酬特例や病床確保料などを縮減して継続(Gem Med)2.過労死ライン超える医師、労災未認定。兵庫4病院も違法残業で是正勧告/厚労省東京都内の大学病院に勤務していた50代の男性医師が、過労によるくも膜下出血で寝たきりの状態となり、労働基準監督署に労災申請を行ったが、宿日直許可を理由に宿直業務を労働時間から除外する扱いとされ、労災認定されなかったことが明らかとなった。男性は緩和医療科の唯一の臨床医として働いており、発症前の時間外労働は「過労死ライン」とされる月80時間を大きく超えていた。代理人弁護士の川人 博氏は、「宿直中に仕事をしていたことが事実であり、一切の労働時間を否定する事案は初めて。関係法令にも反している」と厳しく批判した。労基署は、宿直業務のうち、仮眠6時間を除く9時間15分を労働時間として認めたが、厚生労働省東京労働局の審査官は、宿直時間のすべてを労働時間から除外した。男性の妻は、「宿日直業務のすべてが『労働時間ではない』と否定されることは理解に苦しむ」と述べている。一方、兵庫県立の4病院が、労使協定に基づく上限を超える違法な時間外労働を医師にさせていたとして、労基署から是正勧告を受けたことも報じられた。勧告対象となった期間中に、月190時間の残業をしていた医師もいた。2024年度からは医師に時間外労働の規制が適用されるが、このような過労死の問題が続く中、改革の方向性やその取り組みが十分であるのかという疑問が浮上してきており、来年の4月以降も、過労死防止についてさらに議論が求められる。参考1)医療機関の宿日直許可申請に関する FAQ(全日本病院協会)2)医師の宿直を労働時間から除外、労災認められず 「ここまでやるか」(毎日新聞)3)病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断(朝日新聞)4)医者の宿直、労働時間「ゼロ」扱いで労災認定されず 月100h超の残業でくも膜下出血発症…妻「理解に苦しむ」(弁護士ドットコムニュース)5)医師らに最大月190時間の違法残業させる 兵庫県立4病院 労基署が是正勧告(神戸新聞)3.インフルエンザが異例の早期流行、ワクチン接種を推奨/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で異例の早さで進行中であることが明らかとなった。厚生労働省のデータによれば、全国約5,000の医療機関からの報告で、1医療機関当たりの感染者数が前週の4.48人から7.03人へと急増した。とくに沖縄県では20.85人と最も多く、千葉、愛媛、佐賀と続く。首都圏でも東京都が11.37人と増加し、7都道府県で「注意報」の基準値10人を超えた。この背景には、14歳未満の若い世代での感染が目立ち、学級閉鎖や休校が増えている事情がある。一方、新型コロナウイルスの感染は前週比0.87倍と減少傾向にあるが、ピークを越えたかどうかは注視が必要との見解が出されている。厚労省は、インフルエンザについて「流行のピークが早まる可能性がある」とし、ワクチン接種の早期予約を呼びかけている。参考1)インフルエンザ、異例の早さで流行拡大…感染者数が前週比1・57倍(読売新聞)2)インフルエンザ、東京都内でも「流行注意報」 9月の発令は異例(朝日新聞)3)新型コロナとインフルエンザ 最新の感染状況(NHK)4.電子カルテ情報共有、健診結果や患者サマリーを統合して2024年度稼働へ/厚労省厚生労働省は、健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを9月11日に開催し、電子カルテ情報の共有と活用に関して、新たな方針を明らかにした。2024年から稼働を開始する電子カルテ情報共有サービスでは、患者に「傷病名、検査、処方」の情報と「医師からの療養上の指導・計画」の情報をセット提供する予定となっており、患者自身がその情報を常時確認できるようにする見込み。また、厚労省側は電子カルテ情報共有サービスに新たに「健康診断結果報告書」を組み込み、特定の健診や高齢者健診、人間ドックの結果などの閲覧が可能になるよう提案を行なっており、今後のワーキンググループでの議論を通じて詳細が詰められる予定。今回新たに提案された「患者サマリー」には、外来受診の記録も含まれ、患者が自分の病態を理解しやすくなるよう整理される予定。このほか、救急医療現場で必要となる「医療情報」を全国で確認できる仕組みも検討されており、患者の緊急時の診療情報のアクセスに関するガイダンスやガイドラインの作成も提案されており、カルテ情報の共有化に向け、詳細を検討していく見込み。参考1)第18回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスに健診結果の実装目指す サービス稼働時に 「患者サマリー」も、厚労省(CB news)3)患者に「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供する新サービス―医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.糖尿病の名称変更、新呼称「ダイアベティス」提案/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病の新しい呼称として「ダイアベティス」とする提案を発表した。この提案は、糖尿病に関する誤解や偏見を解消するためのアドボカシー活動として去年より取り組みとして行ってきた一環。国内には現在約1,000万人の糖尿病患者が存在し、現行の病名には不正確な表現や不潔なイメージを持たれる問題があると指摘されてきた。この新しい呼称は、英語の病名に基づいており、学術的にも国際的にも受け入れられると期待されている。日本糖尿病協会が行ったアンケートによると、回答者の約9割が現行の病名に抵抗感や不快感を持っており、約8割が病名の変更を望んでいた。この新しい呼称「ダイアベティス」は、まず啓発活動などで使用され、将来的には正式な病名としての変更も検討されている。参考1)日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同 アドボカシー活動(日本糖尿病協会)2)糖尿病の負のイメージ、払拭へ 新呼称案は「ダイアベティス」(朝日新聞)3)糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」とする案発表(NHK)6.国立がん研究センター元医長、医療機器をめぐる賄賂疑惑で逮捕/千葉国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の肝胆膵内科の元医長(47歳)が、医療機器の選定・使用に関連して賄賂を受け取ったとして警視庁に逮捕された。逮捕された医師は、同院で医長になって以降、手術で使用する「ステント」について、医療機器メーカー「ゼオンメディカル」社の製品を優先的に使用した見返りとして、2021年におよそ170万円の賄賂を受け取った疑い。また、ゼオン社の元社長、柳田 昇容疑者(67歳)も贈賄の疑いで逮捕された。国立がん研究センターは、この事件を受け、公式サイトを通じて謝罪。「誠に遺憾」とし、「厳正に対処する」との声明を発表した。警視庁は、メーカーが製品の安全性などを確認する市販後調査に協力する契約をこの医師と結び、ほかの医師の使用分も加算していた可能性があるとして、さらに詳しい実態を調べている。事件の背後に、医療機器メーカーと医師との不透明な取引が浮かび上っており、業界の信頼性が再び問われることとなる。参考1)当センターの元職員の逮捕について(国立がん研究センター)2)医療機器「1本使えば対価1万円」…選定や使用巡り170万円贈収賄容疑 がん研元医長と販売会社前社長逮捕(東京新聞)3)国立がん研究センター東病院元医長 収賄容疑で逮捕 警視庁(NHK)4)贈賄容疑のゼオンメディカル、ほかのがんセンター医師の機器使用分も元医長に「謝礼」(読売新聞)5)業者と癒着、後絶たず 高齢化で相次ぐ参入 競争激化が背景に(日経新聞)

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