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ヘム鉄摂取が2型糖尿病のリスクを高める

 ヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連しているとする研究結果が、「Nature Metabolism」に8月13日掲載された。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のFenglei Wang氏らの研究によるもの。未加工の赤肉を好む食事パターンが2型糖尿病のリスクを高めるとされているが、その関連性の多くは、ヘム鉄の過剰摂取で説明可能と考えられるという。 これまでにも、食事からのヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連していることが示唆されてきているが、血液バイオマーカーなどを絡めた検討は十分に行われていない。Wang氏らはこの点について、米国内で実施されている観察期間が最長36年間におよぶ3件の大規模コホート研究のデータを用いた検討を行った。 解析対象者数は計20万4,615人で女性が79%であり、この対象全員のデータから、鉄(ヘム鉄と非ヘム鉄)の摂取量と2型糖尿病リスクとの関連が調査された。また、この対象のうち3万7,544人(女性82%)のサブセットでは血漿代謝バイオマーカー、9,024人(同84%)のサブセットではメタボロームプロファイルの評価も施行した。 解析の結果、ヘム鉄の摂取量が多いことと2型糖尿病リスクとの間に有意な正の関連が認められた(摂取量の最高五分位群と最低五分位群を比較した多変量調整ハザード比が1.26〔95%信頼区間1.20~1.33〕、傾向性P<0.001)。その一方、非ヘム鉄の摂取量については、2型糖尿病リスクとの有意な関連が見られなかった。 この研究では、未加工の赤肉を多く摂取するといった特定の食事パターンに関連する2型糖尿病リスク増大のかなりの部分を、ヘム鉄の摂取量の多さで説明できる可能性も示された。また血漿代謝バイオマーカーなどとの関連の解析から、ヘム鉄摂取量が多いことと、高インスリン血症や炎症、脂質代謝異常などの2型糖尿病リスクに関連する好ましくない血漿プロファイルとの相関が認められた。ヘム鉄と2型糖尿病との関連を媒介する可能性がある代謝物としては、L-バリンや尿酸などが特定され、これらが2型糖尿病の病因に大きな影響を及ぼしている可能性が考えられた。 著者らは、「われわれの研究結果は、2型糖尿病予防のためのガイドライン策定に際して、ヘム鉄を多く含む食品、特に赤肉を毎日摂取するような食事パターンの制限を推奨すべきであることを意味しており、公衆衛生上の重要な意味を持っている」と述べている。また、「植物性食品由来の代替肉に、風味の調整などのためにヘム鉄を添加することに関しても懸念がある」と付け加えている。 なお、1人の著者が、Vinasoy社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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世界で年間約700万人が脳卒中により死亡、その数は増加傾向に

 気候変動と食生活の悪化によって、世界の脳卒中の発症率と死亡率が劇的に上昇していることが、オークランド工科大学(ニュージーランド)のValery Feigin氏らのグループによる研究で示された。2021年には世界で約1200万人が脳卒中を発症し、1990年から約70%増加していたことが明らかになったという。詳細は、「The Lancet Neurology」10月号に掲載された。 本研究によると、2021年には、脳卒中の既往歴がある人の数は9380万人、脳卒中の新規発症者数は1190万人、脳卒中による死者数は730万人であり、世界の死因としては、心筋梗塞、新型コロナウイルス感染症に次いで第3位であったという。 専門家は、脳卒中のほとんどは予防可能だとの見方を示す。論文の共著者の1人である米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のCatherine Johnson氏は、「脳卒中の84%は23の修正可能なリスク因子に関連しており、次世代の脳卒中リスクの状況を変える大きなチャンスはある」と述べている。脳卒中のリスク因子は、大気汚染(気候変動によって悪化)、過体重、高血圧、喫煙、運動不足などであり、研究グループは、これらのリスク因子は全て、低減またはコントロール可能であると指摘している。 脳卒中に関連する死亡者数は何百万人にも上る一方で、脳卒中を起こした後に重度の障害が残る患者も少なくない。今回の研究からは、脳卒中によって失われた健康寿命の年数(障害調整生存年;DALY)は、1990年から2021年にかけて32.2%増加していたことも明らかになった。 では、なぜ脳卒中がここまで増加したのだろうか。研究グループの分析によると、多くの脳卒中のリスク因子に人々がさらされる頻度が上昇し続けていることが原因である可能性があるという。本研究では、1990年から2021年までの間に、高BMI、気温の上昇、加糖飲料の摂取、運動不足、収縮期血圧高値、ω-6多価不飽和脂肪酸が少ない食事に関連してDALYが大幅に増加したことが示された(増加の幅は同順で、88.2%、72.4%、23.4%、11.3%。6.7%、5.3%)。 Johnson氏らは、気温の上昇は、もう1つの脳卒中のリスク因子である大気汚染の悪化を意味していると説明する。同氏らは、「暑くてスモッグの多い日が脳卒中リスクに与える影響を最も強く受けるのは貧しい国である可能性が高く、その影響は気候変動によってさらに悪化し得る」と指摘する。実際、出血性脳卒中のリスクに関しては、現在、汚染された空気を吸い込むことは、喫煙と同程度のリスクをもたらすと考えられているという。脳卒中全体に占める出血性脳卒中の割合は約15%で、虚血性脳卒中(脳梗塞)と比べると大幅に低いにもかかわらず、世界のあらゆる脳卒中に関連した死亡や障害の5割が出血性脳卒中に起因するという。 「脳卒中に関連した健康被害は、アジアやサハラ以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)で特に大きい。こうした状況は、管理されていないリスク因子、特にコントロール不良の高血圧や、若年成人における肥満や2型糖尿病の増加といった負担の増大と、これらの地域における脳卒中の予防およびケアサービスの不足によって生まれている」とJohnson氏は指摘する。 しかし、こうした状況を変えることは可能であるとJohnson氏は主張する。例えば、大気汚染は気温上昇に密接に関連するため、「緊急の気候変動対策と大気汚染を減らす取り組みの重要性は極めて高い」と言う。さらに同氏は、「高血糖や加糖飲料の多い食事などのリスク因子にさらされる機会が増えているため、肥満やメタボリックシンドロームに照準を合わせた介入が急務である」と述べている。

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DPP-4i既存治療の有無で腎予後に有意差

 2型糖尿病患者の腎予後がDPP-4阻害薬(DPP-4i)処方の有無で異なるとする研究結果が報告された。同薬が処方されている患者の方が、腎機能(eGFR)の低下速度が遅く、末期腎不全の発症リスクが低いという。東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広氏、同大学医学部内科学第三(腎臓内分泌内科)教室の橋本英明氏らが行ったリアルワールド研究の結果であり、詳細は「Diabetes, Obesity & Metabolism」に7月31日掲載された。 インクレチン関連薬であるDPP-4iは、国内の2型糖尿病治療薬として、プライマリケアを中心に最も多く処方されている。同薬は、基礎研究では血糖降下以外の多面的な効果が示唆されており、腎保護的に作用することが知られているが、臨床研究のエビデンスは確立されていない。過去に行われた臨床研究は、参加者が心血管疾患ハイリスク患者である、またはDPP-4i以外の血糖降下薬の影響が調整されていないなどの点で、結果の一般化が困難となっている。これを背景として佐藤氏らは、医療情報の商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いて、実臨床に則した検討を行った。 2014~2021年のデータベースから、透析や腎移植の既往がなく、eGFR15mL/分/1.73m2超の30歳以上でデータ欠落のない2型糖尿病患者を抽出。eGFRが45mL/分/1.73m2以上のコホート(6万5,375人)ではeGFRの変化、eGFR45mL/分/1.73m2未満のコホート(9,866人)では末期腎不全への進行を評価アウトカムとして、ベースライン時点でのDPP-4iの処方(既存治療)の有無で比較した。 傾向スコアマッチングにより、患者数1対1のデータセットを作成。eGFR45以上のコホートは1万6,002のペア(計3万2,004人)となり平均年齢68.4±9.4歳、男性59.6%、eGFR45未満のコホートは2,086のペア(計4,172人)で76.5±8.5歳、男性60.3%となった。ベースライン特性をDPP-4i処方の有無で比較すると、両コホートともに年齢、性別、eGFR、各種臨床検査値、併存疾患、DPP-4i以外の血糖降下薬・降圧薬の処方などはよく一致していたが、DPP-4i処方あり群はHbA1cがわずかに高く(eGFR45以上は6.9±0.9対6.8±0.9%、eGFR45未満は6.8±1.0対6.7±0.9%)、服薬遵守率がわずかに良好だった(同順に84.1対80.4%、83.9対77.6%)。 解析の結果、eGFR45以上のコホートにおける2年後のeGFRは、DPP-4i処方群が-2.31mL/分/1.73m2、非処方群が-2.56mL/分/1.73m2で、群間差0.25mL/分/1.73m2(95%信頼区間0.06~0.44)と有意であり(P=0.010)、3年後の群間差は0.66mL/分/1.73m2(同0.39~0.93)に拡大していた(P<0.001)。ベースライン時に標準化平均差が10%以上の群間差が存在していた背景因子を調整した解析でも、同様の結果が得られた。 eGFR45未満のコホートでは、平均2.2年の観察期間中にDPP-4i処方群の1.15%、非処方群の2.30%が末期腎不全に進行し、カプランマイヤー法により有意差が認められた(P=0.005)。Cox回帰分析から、DPP-4iの処方は末期腎不全への進行抑制因子として特定された(ハザード比0.49〔95%信頼区間0.30~0.81〕)。 著者らは、「リアルワールドデータを用いた解析から、DPP-4iが処方されている2型糖尿病患者の腎予後改善が示唆された」と結論付けている。同薬の腎保護作用の機序としては、本研究において同薬処方群のHbA1cがわずかに高値であり、かつその差を調整後にもアウトカムに有意差が認められたことから、「血糖改善作用のみでは説明できない」とし、既報研究を基に「サブクリニカルに生じている可能性のある腎虚血や再灌流障害を抑制するなどの作用によるものではないか」との考察が述べられている。ただし本研究ではDPP-4i処方後の中止が考慮されていない。また、既存治療者を扱った研究デザインのため残余交絡の存在が考えられることから、新規治療者を対象とした研究デザインによる再検証の必要性が述べられている。

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医師の飲酒状況、ALT30超は何割?年齢が上がるほど量も頻度も増える?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省は2024年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」1)を発表し、国民に向けて、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を推進している。こうした状況を踏まえ、日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについて、CareNet.com会員医師1,025人を対象に『医師の飲酒状況に関するアンケート』で聞いた。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。本ガイドラインの認知度や、自身の飲酒量や頻度、飲酒に関する医師ならではのエピソードが寄せられた。「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度 Q1では、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度について4段階で聞いた。全体では、認知度が高い順に「内容を詳細に知っている」が7%、「概要は知っている」が27%、「発表されたことは知っているが内容は知らない」が23%、「発表されたことを知らない」が43%であり、約60%が本ガイドラインについて認知していた。各年代別でもおおむね同様の傾向だった。診療科別でみると、認知度が高かったのは、外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器科、精神科、循環器内科/心臓血管外科、内科、腎臓内科の順だった。ALT値が30U/L超の医師は16% Q2では、医師自身の直近の健康診断で、肝機能を示すALT値について、基準値の30U/L以下か、30U/L超かを聞いた。日本肝臓学会の「奈良宣言」により、ALT値が30U/Lを超えていたら、かかりつけ医を受診する指標とされている2)。「ALT値30U/L超」は167人で、全体の16%を占めていた。年代別の結果として、30U/L超の人の割合が多い順に、50代で22%、60代以上で21%、40代で17%、30代で14%、20代で7%となり、年齢が上がるにつれて30U/L超の人の割合が多くなる傾向にあった。年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加 Q3では、1回の飲酒量について、単位数(1単位:純アルコール20g相当)を聞いた。お酒の1単位の目安は、ビール(5度)500mL、日本酒(15度)180mL、焼酎(25度)110mL、ウイスキー(43度)60mL、ワイン(14度)180mL、缶チューハイ(5度)500mL3)。 年代別では、「飲まない」と答えたのが、多い順に50代で32%、40代で30%、30代で26%、60代で22%、20代で15%だった。各年代で最も多く占めたのは、20代、30代、60代では「1単位未満」で、それぞれ36%、36%、32%であった。40代と50代では「1~2単位」が多くを占め、それぞれ32%と26%だった。 ALT値が30U/L超の人の場合では、「飲まない」と答えたのが、多い順に30代で33%、50代で23%、40代で22%、60代で9%、20代で0%だった。また、1回に「5単位以上」飲む人の割合は、30 U/L以下と30 U/L超を合わせた全体では5%だったが、30U/L超の人のみの場合では2倍以上の12%となり、顕著な差がみられた。30U/L超の人では、年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加する傾向がみられた。年齢が上がるにつれて、飲酒頻度が増加 Q4では、現在の飲酒頻度を7段階(毎日、週に5・6回、週に3・4回、週に1・2回、月に1~3回、年に数回、飲まない)で聞いた。全体で最も割合が多かったのは「飲まない」で22%であり、次いで「月に1~3回」で16%であった。ALT値が30U/L超の人の場合では、最も割合が多かったのは「週に3・4回」で19%、次いで「飲まない」と「毎日」が同率で16%だった。 全体の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「月に1~3回」で37%、次いで「週に1・2回」が20%、30代では「飲まない」が21%、「年に数回」が19%、40代では「飲まない」が25%、「週に5・6回」と「週に3・4回」が同率で15%、50代では「飲まない」が29%、「週に1・2回」が15%、60代以上では「毎日」が24%、「飲まない」が21%であった。とくに60代以上の頻度の高さが顕著だった。 ALT値30U/L超の人の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「週に1・2回」と「月に1~3回」で同率の36%、30代では「週に3・4回」と「飲まない」が同率の23%、40代では「週に3・4回」が25%、50代では「毎日」と「飲まない」が同率で23%、60代では「毎日」が28%、次いで「週に1・2回」が21%であった。20代と60代以上では「飲まなない」の割合の低さがみられ、30代と50代では「飲まない」が23%となり節制する人の割合が比較的多く、50代と60代以上で「毎日」の人の割合が20~30%となり、飲酒頻度が上がっている状況がみられた。 ALT値30U/L超の人においてQ3とQ4の結果を総合的にみると、20代は飲まない人の割合が低いものの、飲酒量と飲酒頻度は比較的高くない。また、30代は量と頻度を共に節制している人の割合が高い。60代以上と50代で、量と頻度が共に高い傾向がみられた。30~40代は飲酒の制限に積極的 Q5では、現状の飲酒を制限しようと思うかを聞いた。全体では、「制限したい」は21%に対し、「制限しない」は49%で2倍以上の差が付いた。ALT値30U/L超の人では、「制限したい」は28%に対し、「制限しない」は53%であった。ALT値30U/L超の人で「制限したい」が高かったのは、40代で42%、次いで20代で36%だった。また、30代はすでに飲酒していない人が37%で、年代別で最も多かった。 Q6では、Q5で「飲酒を制限したい」と答えた217人のうち、どのような方法で飲酒を制限するかを4つの選択肢から当てはまるものすべてを選んでもらった。人気が高い順に、「飲酒の量を減らす」が56%、「飲酒の頻度を減らす」が55%、「ノンアルコール飲料に代える」が36%、「低アルコール飲料に代える」が27%となり、量と頻度を減らすことを重視する人が多かった。自身が経験した飲酒のトラブルなど Q7では、自由回答として、飲酒に関するご意見や、自身が経験した飲酒のトラブルなどを聞いた。多くみられるトラブルとして、「記憶をなくした」が最多で15件寄せられ、「二日酔いで翌日に支障が出た」「屋外で寝た」「転倒してけがした」「嘔吐した」「暴れた」「救急搬送された」「アルコール依存症の治療をした」などが年齢にかかわらず複数みられた。自身の飲酒習慣について、「なかなかやめられない」「飲み過ぎてしまう」といった意見も複数あった。そのほか、医師ならではの飲酒に関するエピソードや社会的な側面からの意見も寄せられた。【医師ならではのエピソード】・研修医の時に指導医と潰れた(30代、その他)・医師でアルコール依存になる人が多いため、飲まなくなりました(30代、皮膚科)・アルコール依存症の患者さんをみているととても飲む気にはなれない(30代、麻酔科)・正月の救急外来は地獄(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・科の飲み会の際に病院で緊急事態が発生すると、下戸の人間がいると非常に重宝されます(40代、循環器内科)・飲酒をすると呼び出しに対応できない(60代、内科)・雨の中、帰宅途中、転倒し意識がなくなり、自分の病院に搬送され大騒ぎでした(60代、脳神経外科)・勤務医時代は飲まないと仲間が働いてくれなかったが、開業して、健康に悪いものはもちろんやめた(70代以上、内科)【社会的な側面や他人への影響】・喫煙があれだけ批判されるなら飲酒も同じぐらい批判されるべきと考える(20代、臨床研修医)・日本では以前は飲酒を強要されることがあったが、米国留学中は飲酒を強要されることはなく、とても快適な時間だった(40代、病理診断科)・日本人は酔っぱらうことが多く、見苦しいし、隙もできる。グローバルスタンダードではありえない(50代、泌尿器科)・テレビCMでアルコール飲料が放映されていることに違和感がある(60代、神経内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の飲酒状況/医師1,000人アンケート

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糖尿病合併症があると歯周病がより起こりやすい

 糖尿病でその合併症がある場合、歯周病のリスクがより高まることを示すデータが報告された。オーフス大学(デンマーク)のFernando Valentim Bitencourt氏らの論文が「Journal of Dental Research」に8月5日掲載され、また欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 糖尿病が歯周病のリスク因子であることはよく知られている。しかし、糖尿病の細小血管合併症(網膜症や神経障害など)を有する場合に、歯周病のリスクがより高まるのかについては、これまでに行われた研究は研究対象者数が少なく、調整されていない交絡因子が存在するといった限界点があり、結論が得られていない。Bitencourt氏らはこれらの点について、デンマークの大規模疫学研究(Health in Central Denmark study)のデータを用いた検討を行った。 解析対象は2型糖尿病患者1万5,922人。社会人口統計学的因子、生活習慣関連因子、健康状態などの潜在的な交絡因子を調整した統計解析の結果、網膜症(オッズ比〔OR〕1.21〔95%信頼区間1.03~1.43〕)および神経障害(OR1.36〔同1.14~1.63〕)の存在が、中等度から重度の歯周病と有意な関連のあることが明らかになった。また、網膜症と神経障害が併存している場合はそのオッズ比がより高かった(OR1.51〔1.23~1.85〕)。脂質異常症がある場合に、重度の歯周病が増加することも示された。 歯周病は自覚症状が乏しい病気だが、その影響について研究者らは、「治療せずに放置すると、歯を支えている組織が破壊され、最終的には歯を失う結果につながる」と解説。また論文の筆頭著者で歯科医師であるBitencourt氏は、「歯を失うと、噛む、話すといった基本的な機能に影響するだけでなく、自尊心にも影響する可能性がある。その結果として生活の質(QOL)が著しく低下してしまい、社会的交流に支障を来すこともある。よって、歯周病のリスクがより高い集団の特徴を見いだし、早期介入することが非常に重要だ」と、本研究の背景を語っている。 今回の結果について研究者らは、糖尿病によって生じる細小血管のダメージと、中等度から重度の歯周病との明確な関連を示すものと解釈している。両者の関連のメカニズムについてBitencourt氏は、「糖尿病が適切にコントロールされていない場合、高血糖によって炎症が起こり、時間の経過とともに目にも炎症が波及して網膜症を引き起こしたり、足などの神経に波及して神経障害を引き起こしたりする。そのような過程で、歯周組織にも炎症が起こり、歯周病の発症につながる可能性がある」と解説。また、「歯周病の所見を口の中の健康問題として考えるのではなく、全身の炎症反応が亢進している人や糖尿病細小血管合併症のリスクが高い人を特定するのに役立てることが重要だ」と追加している。 さらに同氏は、「われわれの研究結果は、歯科医師が糖尿病患者の口腔状態に細心の注意を払う必要があることを示している。歯科と内科の医療従事者が協力することで、2型糖尿病患者、特に糖尿病合併症のリスクが高い患者が、より包括的な口腔ケアを受けられるようになり、その結果、口腔と全身の健康の双方が改善されるのではないか」と述べている。

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医師は普段どのくらいお酒を飲んでいる?/医師1,000人アンケート

2024年2月、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表し、飲酒が健康に与える影響についての関心が高まっています。日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについてお聞きしました。

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第236回 GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしい

GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしいマウスはよく走ります。回転車を与えると活動期である夜に10~12kmも毎日走ります1)。しかし糖尿病や肥満症の治療薬・オゼンピックやウゴービの成分であるセマグルチドをマウスに与えるとどうやら走る意欲が減るようで、プラセボ群の半分ほどしか走らなくなりました2)。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は今や信仰にも似たよすがとなっており、医療情報を提供するKFFが今年5月に結果を発表した調査では、米国の成人の実におよそ8人に1人(12%)がGLP-1薬を使ったことがあると回答しました3)。また、およそ17人に1人(6%)は使用中でした。セマグルチドはインスリン生成を促し、胃が空になるのを遅らせ、満腹感がより長続きするようにするGLP-1に似た働きを担います。過去20年ものあいだ調べられてきたGLP-1の代謝調節の仕組みはかなり詳しく判明しています。一方、最近になってGLP-1の代謝調節領域を超えたより広範な働きや脳への作用が明らかになりつつあります。そのような秘めたGLP-1の働きのいくつかが今月初めの米国・シカゴでの神経科学会(Society for Neuroscience)年次総会(Neuroscience 2024)で発表されました。セマグルチドがマウスの走る意欲をどうやら減退させることを示したイエール大学の上述の研究成果はその1つです。GLP-1の作用は食べ物、アルコール、コカイン、ニコチンと関連する快楽のほどを変えます。ネズミにGLP-1やその模倣薬を与えるとそれらの摂取意欲が下がることが示されています。セマグルチドを使う人の食べる楽しみが使い始める前ほどではなくなるのは、同剤が快楽や渇望に携わる脳領域の活性を抑えることに起因するようです。また、その働きのおかげでセマグルチドが薬物依存の治療の助けになりうることも示唆されています。イエール大学のRalph DiLeone氏らは運動などの気持ちよくなる行動にもセマグルチドの影響が及ぶかもしれないと考えました4)。そこで、根っからの運動好きで、それがどうやら楽しいらしいマウスを使ってセマグルチドの運動意欲への影響が調べられました。DiLeone氏らは14匹のマウスの半数7匹にセマグルチド、もう半数の7匹にはプラセボを1週間投与しました。それらマウスが回転車で毎日どれだけ走るかを調べたところ、セマグルチド投与群の走る距離は同剤投与前に比べて4割ほど(37.9%)減っていました2)。一方、プラセボ投与群ではそのようなことはなく、どうやらセマグルチドはマウスの走る意欲を減衰させたようです。続いて実際に走る意欲が低下しているのかが別のマウスを使って調べられました。その検討ではマウスが走っている最中に回転車がときどき強制停止(ロック)されます。マウスは鼻でレバーを押すこと(押下)でそのロックを解除することができます。ロックはその回数が多くなるほどレバーをより多く押下しないと解除できないようになっており、最終的にマウスはロックの解除を諦めます。諦めた時点でのレバー押下回数は回転車を走る意欲がどれだけ高いかを反映する指標となります。5日間のセマグルチド投与期間中のマウスのレバー最大押下回数はプラセボ投与群に比べて平均25%少なく、肥満マウスを使った検討でも同様の結果となりました4)。すなわちセマグルチドは食べ物や薬物への渇望を減らすのと同様に運動意欲も減らすようです。ヒトでの同様の作用は示されていません。オゼンピックやウゴービのヒトのデータのほとんどが運動を含む他の手当てを伴ったものであることがその理由かもしれません。とはいえ、セマグルチドのようなGLP-1薬が負の行動のみならず有益な振る舞いも妨げてしまう恐れがあることを今回の結果は示唆しています。Neuroscience 2024では他にもセマグルチドやGLP-1の類いの興味深い中枢神経系(CNS)作用の報告がありました。韓国のGachon Universityの研究者らはGLP-1受容体に結合するアンタゴニストexendin 9-39の断片の1つexendin 20-29の痛み緩和作用を示したマウス実験結果を報告しています5)。その研究ではexendin 20-29が痛み信号の伝達に携わる受容体TRPV1に結合し、GLP-1受容体機能には手出しすることなく痛みを緩和することが示されました。また、フランスの研究受託会社Neurofitのチームはセマグルチドのアルツハイマー病治療効果を示すマウスやラットの実験結果を報告しています6)。その効果の検討は臨床試験でも大詰め段階に入っており、Novo Nordisk社は初期アルツハイマー病患者へのセマグルチドの第III相試験2つ・EVOKE7)とEVOKE Plus8)を2021年に開始しています。結果は来年判明する見込みです9)。参考1)The Unexplored Effects of Weight-Loss Drugs on the Brain / TheScientist2)Semaglutide administration reduces free running as well as motivation for wheel access as measured by progressive ratio in mice / Neuroscience 20243)KFF Health Tracking Poll May 2024: The Public’s Use and Views of GLP-1 Drugs / KFF4)Weight-loss drugs lower impulse to eat - and perhaps to exercise too / NewScientist5)Glp-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct trpv1 inhibition without affecting thermoregulation / Neuroscience 2024 6)Semaglutide's cognitive rescue: insights from rat and mouse models of alzheimer's disease / Neuroscience 20247)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE)8)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE Plus) 9)Atri A, et al. Alzheimers Dement. 2022;18:e06415.

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大手術前のRAS阻害薬は中止すべき?/JAMA

 非心臓大手術を受ける患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の投与を手術の48時間前に中止する方法と比較して、手術当日まで投与を継続する方法は、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムの発生率が同程度で、術中の低血圧の発現を増加させ、低血圧持続時間も長いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏らStop-or-Not Trial Groupが実施した「Stop-or-Not試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年9月24日号に掲載された。フランスの医師主導型無作為化試験 Stop-or-Not試験は、非心臓大手術前のRASIの継続投与が48時間前の投与中止と比較し、術後のアウトカムを改善するかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験であり、2018年1月~2023年4月にフランスの40施設で参加者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 年齢18歳以上、待機的非心臓大手術が予定され、術前の少なくとも3ヵ月間、RASIの長期投与を受けている患者を対象とした。大手術は、切開から皮膚閉鎖まで2時間以上を要し、術後の入院期間が3日以上と見込まれる手術と定義した。 被験者を、手術当日までRASIの使用を継続する群、または手術の48時間前にRASIの使用を中止する(手術の3日前が最終投与日)群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、術後28日以内の全死因死亡と主要術後合併症の複合とした。主要術後合併症には、術後主要心血管イベント(急性心筋梗塞、血栓症、脳卒中、急性腎障害など)、敗血症または敗血症性ショック、呼吸器合併症、予期せぬ集中治療室(ICU)入室または再入室、急性腎障害、高カリウム血症、術後28日以内の外科的再介入を要する病態が含まれた。主要アウトカムは、RASI中止群22% vs.RASI継続群22% 2,222例を登録し、RASI継続群に1,107例、RASI中止群に1,115例を割り付けた。ベースラインの全体の平均年齢は67(SD 10)歳、65%が男性で、98%が高血圧の治療を受けており、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、6%が心不全であった。46%がACE阻害薬、54%がARBを使用していた。 術後28日の時点で、全死因死亡と主要術後合併症の複合の発生率は、RASI中止群が22%(245/1,115例)、RASI継続群も22%(247/1,107例)であった(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。 主な副次アウトカムである術中の低血圧エピソード(昇圧薬投与を要する病態)の発生率は、RASI中止群が41%(417例)、RASI継続群は54%(544例)と、継続群で高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.19~1.44)。 また、術中低血圧(平均動脈圧<60mmHg)の持続時間中央値は、RASI中止群が6分(四分位範囲:4~12)、RASI継続群は9分(5~16)であり、継続群で長かった(平均群間差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。他のアウトカムにも差がない 主要アウトカムを構成する個々の項目や、術中低血圧以外の副次アウトカム(術後臓器不全、術後28日間の入院期間およびICU入室期間など)にも両群間に差を認めなかった。 著者は、「RASI継続群で術中低血圧の発生率が高かったことが、全死因死亡や主要術後合併症のリスクの増加に結び付かなかった理由は、術中に高血圧が迅速に改善したことと、低血圧の持続時間が全体として短かったためと考えられる」とし、「これらの結果は、今後のガイドラインに影響を与える可能性がある。術後のアウトカムに差がないことから、RASI継続と中止のどちらも容認でき、安全である」と述べている。

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長期的な運動は脂肪の健康的な蓄積に役立つ

 長い間、定期的に運動しているのに、いまだにぽっこりと出たお腹を見て苛立つことはないだろうか。そんな人にとって心強い研究結果が報告された。たとえ腹筋が割れた状態にならなくても、運動によって脂肪の蓄積としてはより健康的な皮下脂肪の蓄積が促進され、長期的には健康に良い影響を及ぼすことが明らかになった。研究論文の上席著者である、米ミシガン大学運動学部運動科学分野のJeffrey Horowitz氏は、「数カ月から数年にわたる定期的な運動は、カロリー消費の手段となるだけでなく、加齢に伴い体重が増加した場合でも、脂肪をより健康的に蓄えることができるように脂肪組織を変化させるようだ」と述べている。この研究の詳細は、「Nature Metabolism」に9月10日掲載された。 この研究では、肥満、または過体重の男女8人ずつで構成された2つのグループが対象とされた。1つのグループは、少なくとも2年間、週に4回以上運動していることを(運動群)、もう1つのグループは定期的な運動をした経験のないことを報告していた(座位群)。Horowitz氏らは、対象者から腹部皮下脂肪組織を採取し、構造や代謝機能を調べて比較した。なお、研究グループによると、腹部は、身体が脂肪を蓄える上で最も健康的な場所と考えられており、皮下脂肪は、臓器の周囲や内部に蓄積された内臓脂肪に比べて健康上の問題を引き起こす可能性が低いという。 その結果、運動群では座位群と比べて、構造的および生物学的な特徴があり、それが脂肪の蓄積能力を高めていることが明らかになった。具体的には、運動群では、毛細血管やミトコンドリアの数、代謝を助ける有益なタンパク質の量が多く、代謝を妨げる可能性のあるコラーゲンの一種(Col6a)の量が少なく、炎症に関与するマクロファージの数も少ないことが示された。 研究グループは、「この結果は、脂肪を最も健康的に蓄積できる場所が皮下脂肪組織であることを踏まえると、重要だ」と話す。なぜなら、運動により皮下での脂肪の蓄積能力が増すことで内臓脂肪を蓄積する必要性が低下し、それが健康リスクの低下につながるからだ。Horowitz氏はこの点について、「これは、たとえ体重が増加しても、余分な脂肪は臓器の周りや肝臓などの臓器自体に蓄積するのではなく、皮下のこの領域(皮下脂肪組織)に、より『健康的に』蓄えられることを意味する」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。 Horowitz氏はまた、「3カ月間のトレーニングが脂肪組織に与える影響を調べた以前の研究と比較すると、長期にわたって定期的に運動している人と運動をしていない人を対象にした今回の研究では、このような違いがより顕著であることが分かった」とも話している。 研究グループは今後の研究で、運動群と座位群から採取して培養した脂肪組織が、それぞれに異なる機能を持つかどうか、また、脂肪組織やそのサンプル提供者の健康に関連する他の違いがあるかどうかについても調べる予定だと話している。

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いよいよ多変量解析 その1【「実践的」臨床研究入門】第48回

対数変換を行い、新たな変数を作成する前回まで、仮想データ・セットを用い、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順も交えて、変数の型とデータ・セット記述方法の使い分け(連載第46回参照)、表1(患者背景表)の作成方法(連載第47回参照)について解説しました。今回からは、いよいよ多変量解析の実践的な手法について、EZR(Eazy R)の操作手順を含めて解説していきたいと思います。これまでに、われわれのResearch Question(RQ)の交絡因子として下記の要因を挙げることにしました(連載第45回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値これらの要因のうち、蛋白尿定量(UP)は連続変数データですが、その分布は右に裾を引いたような歪んだ分布であることを、ヒストグラム(度数分布図)を描いて示しました(連載第46回参照)。このような分布が歪んだデータは、対数変換を行って正規分布に近似させることができます。多変量解析において、対数変換は重要な前準備の1つです。変数を必要に応じて対数変換することにより、外れ値の影響を減らし多変量解析モデルが安定化する、などの意義があります。ここでは、EZRを用いて1.対数変換を実行2.新たな変数を作成3.対数変換後のデータ分布を比較する方法について説明します。はじめに、オリジナルの仮想データ・セットを以下の手順でEZRに取り込みます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に「アクティブデータセット」→「変数の操作」→「連続変数を対数変換する」を選択そうすると下記のポップアップウィンドウが開きます。「変数(1つ以上選択)」では「UP」を選択します。「対数変換の底」は「自然対数(底はe)」を選んでください(詳細は省略しますが、生物統計学の領域では常用対数より自然対数を用いることが多いようです)。「新しい変数名または複数の変数に対する接頭文字列」には、たとえば「Loge_UP」と入力してみましょう。そして、「OK」ボタンをクリックすると、下図の出力ウィンドウで、新しい変数として「Loge_UP」が作成されたことが示されます。Rコマンダーの画面(下図)からデータセットの「表示」をクリックし、「Loge_UP」が追加されたことも確認してみてください。それでは、歪んだ分布であったUPを対数変換したLoge_UPのヒストグラムをEZRの以下の手順で比較してみましょう(連載第46回参照)。「グラフと表」→「ヒストグラム」を選択下記のポップアップウィンドウが開きますので、「変数(1つ選択)」はそれぞれ「UP」と「Loge_UP」を、「群別する変数(0~1つ選択)」は「treat」を指定してください。その他はデフォルト設定のままで「OK」をクリックしてみましょう。画像を拡大する下のようなUP、Loge_UPのヒストグラム(比較群分けごと)が描けたでしょうか。右に裾を引いたような歪んだUPの分布が、対数変換(Loge_UP)することにより正規分布に近似したものとなりました。画像を拡大する

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ステロイド薬の使用で糖尿病のリスクが2倍以上に

 ステロイド薬の全身投与により糖尿病の発症リスクが2倍以上高くなることを示唆するデータが報告された。英オックスフォード大学のRajna Golubic氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表した。 ステロイド薬は強力な抗炎症作用があり、喘息や関節リウマチなどの多くの疾患の治療で用いられていて、特に自己免疫性疾患の治療では欠かせないことが少なくない。ステロイド薬にはさまざまな副作用があり、そのうちの一つとして、血糖値の上昇、糖尿病リスクの増大が挙げられる。副作用リスクを下げるために、症状が現れる部位が呼吸器や皮膚などに限られている場合には、吸入や外用による局所投与が優先的に行われるが、局所投与では疾患コントロールが十分できない場合や全身性疾患の治療では、内服や注射などによる全身投与が必要となる。 今回の研究の背景としてGolubic氏は、「ステロイド薬による治療を受けている患者において、糖尿病の新規発症リスクがどの程度増大するかという点に関する既存の情報は、比較的小規模な研究に基づくものに限られていた。われわれは、この臨床疑問の正確な答えを得るために、よりサンプルサイズの大きなデータを用いた研究を行いたいと考えた」と述べている。そして、得られた結果は、「ステロイド薬が血糖値に及ぼす影響が、糖尿病のリスクを高める可能性があるという従来からの疑いを裏付けるものとなった」と述べている。 この研究では、2013年1月~2023年10月にオックスフォード大学病院に入院した成人患者45万1,606人(年齢中央値52歳、女性55%、白人69%)が解析対象とされた。これらの患者は全員、入院時点では糖尿病でなく、ステロイド薬の全身投与を受けていなかった。多くの患者は1週間以内に退院していた。 この患者群のうち1万7,258人(3.8%)に対して、入院中にステロイド薬(プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンなど)の全身投与が行われていた。ステロイド薬の使用目的は主に、自己免疫疾患や炎症性疾患、感染症などの治療だった。 ステロイド薬の全身投与を受けた1万7,258人のうち316人(1.8%)が、入院中に糖尿病を発症していた。それに対して、ステロイド薬の全身投与を受けていなかった43万4,348人の中で糖尿病を発症したのは3,430人(0.8%)だった。年齢と性別の影響を調整後、ステロイド薬の全身投与を受けた患者の糖尿病発症リスクは2.6倍高いことが明らかになった。 Golubic氏は医療従事者に向けて、「われわれの研究データによって、ステロイド薬の全身投与による糖尿病発症リスクをより正確に予測できるようになった。これにより、ステロイド薬の全身投与を要する患者に対して、より計画的なケアを進められるようになるのではないか」とコメント。また、ステロイドの内服薬が処方されることのある喘息や関節炎などの患者に対しては、「糖尿病のモニタリングを受けるべきだ」と助言している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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糖尿病患者は喘息リスクが2倍近く高い可能性

 2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性がほぼ2倍であり、一方で喘息患者の糖尿病リスクも高いことを示唆する研究結果が報告された。台北医学大学(台湾)のNam Nguyen氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表した。 糖尿病や喘息は、世界規模で重大な健康課題となっているが、両者の関連性については十分研究されていない。Nguyen氏らは、2型糖尿病と喘息の関連の実態と、その関連の潜在的な原因やメカニズムの探求を目指すステップとして、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMed、EMBASE、Scopus、Web of Scienceという4件の文献データベースに2023年10月31日までに収載された論文を対象として、このトピックに関する報告を検索。ヒットした3万8,861報から重複削除後の3万2,707報をスクリーニングし、81報に絞り込み全文精査を行い、14件の研究報告をレビュー対象として抽出。そのうち11件をメタ解析の対象とした。研究対象者数は合計約1700万人だった。なお、糖尿病の病型が明確でない報告は除外した。 解析の結果、両者に強固な相関が認められ、いずれかの疾患を診断した際には、もう一方の疾患のスクリーニングと予防的な介入を行うことの重要性が示された。 具体的には、2型糖尿病患者における喘息リスクを検討していた5件の研究は全て有意な結果を報告しており、メタ解析からは、2型糖尿病患者ではそうでない人よりも喘息のオッズが83%高いことが示された(オッズ比〔OR〕1.83〔95%信頼区間1.08~3.10〕)。また、喘息患者における2型糖尿病リスクを検討していた6件の研究のうち4件が有意な結果を報告しており、メタ解析からは、喘息患者はそうでない人よりも2型糖尿病のオッズが28%高いことが示された(OR1.28〔同1.00~1.63〕)。 Nguyen氏は、「2型糖尿病や喘息の患者、およびそれらの患者に接する医療従事者の双方が、この関連性に対する認識を深めるべきだ」と述べている。研究グループでは、「明らかになったこの事実は、喘息と糖尿病に同一の原因があるか、または共通の修飾因子が関係している可能性がある。両者の潜在的な関連について、今後より深く研究を進める必要がある」としている。 またNguyen氏は、「喘息患者の2型糖尿病リスクを下げるための予防戦略を探るべきだ。例えば、喘息患者が2型糖尿病を発症してしまう前に、前糖尿病の検査や予防的介入を速やかに行うことが推奨される。ほかにも、喘息管理のためにステロイドを全身投与することは、一時的な高血糖だけでなく2型糖尿病リスクの上昇にもつながるため、慎重に検討すべきだろう」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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レジリエンスの高さは長寿と関連

 困難に対処する能力の高い人ほど長生きする可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。50歳以上の1万人以上を対象にしたこの研究では、レジリエンス(精神的回復力)のレベルが最も高い人は最も低い人に比べて、今後10年以内に死亡するリスクが53%低いことが示されたという。中山大学公共衛生学院(中国)疫学分野のYiqiang Zhan氏らによるこの研究は、「BMJ Mental Health」に9月3日掲載された。 レジリエンスは、性別やホルモン、身体のストレス反応を制御する遺伝子など、さまざまな要因の影響を受ける動的で活発なプロセスであることが示唆されている。また、レジリエンスはライフサイクルのさまざまな時期にわたって進化し、変化すると考えられている。Zhan氏らは、「保護要因の観点からレジリエンスが議論されることが多いように、レジリエンスが備わっている人では、大きな混乱を引き起こす出来事に直面しても、相対的な安定を維持することができる」と説明する。 高齢者では、適切なコーピングスキル(ストレスに対処する能力)が、長期的な健康問題やそれに伴う障害の影響を軽減する助けになることがある。また、病気や外傷から身体的に回復する能力は、老化の遅延や死亡リスクの低下に関連していることが知られている。しかし、レジリエンスにも同様の効果があるのかどうかは明らかになっていない。 そこでZhan氏らは、50歳以上の人を対象とした米国の「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)」のデータを用いて、レジリエンスとあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連を検討した。HRSは1992年に開始された研究だが、本研究では、調査内容にレジリエンスが含められた2006年以降の2回分(2006〜2008年)の調査データが用いられた。調査参加者は、忍耐力、冷静さ、目的意識、自立心などの資質を測定する尺度により評価されたレジリエンスのスコアに応じて、最も低いQ1群から最も高いQ4群の4群に分類された。解析は、調査データが全てそろった1万569人(平均年齢66.95歳、女性59.84%)を対象に行われた。対象者の死亡については、2021年5月まで追跡された。 追跡期間中に確認された全死亡件数は3,489件だった。解析の結果、レジリエンスと全死亡はほぼ線形関係にあることが明らかになった。10年間の生存率は、Q1群で61.0%、Q2群で71.9%、Q3群で77.7%、Q4群で83.9%であった。到達年齢、性別、人種、BMIを調整した解析からは、Q4群ではQ1群に比べて全死亡リスクが53%有意に低いことが示された(ハザード比0.473、95%信頼区間0.428〜0.524、P<0.0001)。交絡因子に糖尿病や心臓病、がん、高血圧などの基礎疾患を含めて解析すると、この関連は弱まって46%の低下に、さらに喫煙状況や運動習慣、婚姻状況も含めた場合には38%の低下となった。 研究グループは、「この研究は、交絡因子を考慮した後でも、高齢者や退職者のレジリエンスと全死亡リスクとの間に統計学的に有意な関連を認めた点でユニークだ」と述べている。また、「得られた結果は、死亡リスクを軽減するためのレジリエンスの促進を目的とした介入の潜在的な有効性を明示するものだ」との見方を示している。

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長期間のSU薬使用が低血糖の認識力の低下と関連

 SU薬が長期間処方されている2型糖尿病患者は、低血糖の認識力が低下した状態(impaired awareness of hypoglycemia;IAH)の頻度が高いとする研究結果が報告された。国立成功大学(台湾)のHsiang-Ju Cheng氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Family Medicine」の7・8月号に掲載された。 IAHに関する研究は一般的にインスリン使用者、特に1型糖尿病患者を対象に行われることが多いため、インスリン分泌促進薬(主としてSU薬)を使用中の2型糖尿病患者におけるIAHの実態は不明点が少なくない。これを背景としてCheng氏らは、台湾でインスリンまたはSU薬による治療を受けている2型糖尿病患者を対象として、薬剤の使用期間とIAHの有病率との関係を調査した。 薬局や診療所などを利用している2型糖尿病患者898人が研究登録された。このうちインスリン使用者が41.0%、SU薬使用者が65.1%であり、平均年齢は59.9±12.3歳、女性が50.7%、罹病期間14.0±9.8年だった。IAHの有無は、Goldらにより開発された質問票(Gold-TW基準)、およびClarkeらにより開発された質問票(Clarke-TW基準)の中国語版を用いて判定。そのほかに、社会人口統計学因子、治療歴、健康状態などの情報を収集し、多重ロジスティック回帰モデルにて、薬剤使用期間とIAHとの関係を検討した。 インスリン使用者におけるIAHの有病率は、Gold-TW基準では41.0%(95%信頼区間37.0~45.0)、Clarke-TW基準では28.2%(同24.6~31.8)であった。一方、SU薬使用者では同順に65.3%(60.4~70.2)、51.3%(46.2~56.4)であった。SU薬使用者では、使用期間が長いほど有病率が上昇していたが、インスリン使用者では反対に、使用期間が長いほど有病率が低下していた。 潜在的な交絡因子を調整後、5年以上のSU薬の使用は、IAHのオッズ比(OR)の有意な上昇と関連していた(Gold-TW基準でOR3.50〔2.39~5.13〕、Clarke-TW基準でOR3.06〔同2.11~4.44〕)。なお、定期的な血糖検査や眼底検査の施行は、インスリン使用者およびSU薬使用者の双方において、オッズ比の低下と関連していた。 著者らは、「2型糖尿病患者においてSU薬の使用期間の長さはIAHのリスク上昇と関連していた。一方で定期的な検査を受けている患者ではIAHのリスクが低いことが示され、医療モニタリングの遵守が有益な影響を及ぼす可能性のあることが示唆された」と総括。また、「インスリンとSU薬とでなぜIAHリスクが異なるのかという点を明らかにするとともに、2型糖尿病患者の低血糖認識力を改善するための介入法を確立するため、医師の治療方針とIAHリスクとの間にある因果関係を証明し得るデザインでの研究が必要とされる」と述べている。

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高齢者の便秘症放置は予後不良のリスクに/ヴィアトリス

 ヴィアトリス製薬は、「『便通異常症診療ガイドライン』改訂1年を踏まえた慢性便秘症治療の新しい当たり前」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、とくに高齢者に多い慢性便秘症についてガイドラインの作成に携わった専門医が便秘症の概要と高齢者に多い便秘症とその介護についてレクチャーを行った。便秘は循環器疾患や脳血管疾患のリスク 「慢性便秘症」をテーマに伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学 准教授)が、便秘症の疾患概要、排便の仕組み、診療ガイドラインの内容、最新の慢性便秘症の治療について説明した。 最新の研究では、便秘は循環器や脳血管疾患などの重篤な疾患とも関連があり、排便回数が4日に1回以下の場合、そのリスクが上昇することが報告されている1)。便秘の有訴率は、60歳以下の女性に多いが、高齢者ではその性差はなくなり、高齢者の25%は便秘に悩んでいる。 排便は、消化管の蠕動運動と腸の水分調節が大きな因子となり、この両方に胆汁酸が関連することが知られている。そして、結腸からの通過時間と直腸の排便機能のどちらかに問題があると便秘となる。便の形状も重要であり、ブリストル便形状スケールの4(表面なめらか、やわらかいソーセージ様)が理想的な形状であり、これ以外の形状では排便で弊害をもたらす。こうした仕組みで、高齢者では先述の水の調整機能の低下や結腸蠕動の低下、直腸・肛門排便機能の低下により便秘になりやすいことが知られている2)。新しい診療ガイドラインのポイント 次に診療ガイドラインの改訂ポイントについて触れ、「便秘症と慢性便秘症の定義の改訂」、「新しい慢性便秘症治療薬を含めた診療フローチャートの作成」、「オピオイド誘発性便秘症の治療方針の提示」の3項目が大きく改訂、追加されたことを述べた。 とくに慢性便秘症では「長期生命予後に関連する」ことが追加記載されたほか、慢性便秘症診療のフローチャートが作成され、機能性便秘症とオピオイド誘発性便秘などの診療が区別された。 慢性便秘症の治療目的は、排便回数や症状改善、QOLの向上から「残便感のないスッキリ便」と「便形状の正常化」へシフトしている。また、診療では、まず大腸がんが隠れていないか鑑別診断を行い、「便が出ないか、出せないのか」の診断へと進んでいく。 通常の原因は結腸の運動が弱くなることで排便に問題があるケースが多く、治療では食事療法(3食摂取/適度な水分/食物繊維を多く、脂肪分を少なくなど)と生活習慣改善(生活のリズム/十分な睡眠/便意を我慢しない/適度な運動と休息など)がまず指導される。 これらで改善しない場合に内服薬治療として、酸化マグネシウム薬(腎臓機能低下者には使用しない)などの腸に水を引く治療薬が第1選択薬として使用される。  さらに改善しない場合には、新しい便秘薬として、上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬の使用が考慮され、ケースによっては短期間頓用として刺激性下剤の追加も考慮される。とくに刺激性下剤は、「頻用することで大腸などの蠕動運動を低下させ、さらなる便秘を誘発するリスクがあるため短期間で止めるべき」と伊原氏は注意を促す。 最後に伊原氏は「生活習慣改善・食事療法に非刺激性下剤で改善せず、刺激性下剤を使用しないと排便できないケースでは、医療機関を受診することを勧める。消化管を中心に体のバランスは維持されるので、便秘治療は重要」と述べ、講演を終えた。高齢者の便秘は、時に死亡のリスクへつながる 「たかが便秘? 高齢者便秘とその介護者の“便秘介護”」をテーマに、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)が高齢者の便秘診療について講演を行った。 高齢者は加齢による排便機能の低下などにより70歳以上で男女ともに便秘症の患者が増加する。とくに高齢者では、基礎疾患の治療に伴う「薬剤性の便秘」が問題となっており、糖尿病や消化器疾患の治療薬での便秘症状が多いという。また、高齢者では便の形状も重要で、ブリストル便形状スケール(4の正常便が理想)の1~3の硬い便だと排便時のいきみなどで血圧上昇が起こり心血管系疾患を誘発するリスクとなる。一方、便スケール5~6の軟便だと本人も不快であるばかりでなく、介護状態では介護者にも負担をかけると指摘する3)。そのほか、高齢者はトイレで心停止などを起こすリスクがあり、その際家人などに発見される確率も低いという4)。また、排便頻度と循環器系疾患の死亡リスクも相関するとされ、排便のいきみが血圧の変動に影響することも指摘されているほか、近年の研究から便秘がパーキンソン病の発症前駆期にみられる症状であることや、慢性腎臓病の累積発症では便秘がリスクの1つになっている可能性が示唆されていることから、高齢者の便秘(慢性便秘症)はきちんと治療する必要があると指摘する。在宅患者の便秘ケアでは介護者のQOLも視野に 2017年時点で在宅医療を受けている患者は約18万人に上り、年々増加しており、在宅医療を受診している56.9%に便秘がみられるというレポートがある5)。在宅患者が慢性便秘症になる要因としては、先述の加齢に伴う身体変化に加え、四肢機能障害や自室からトイレまでの距離、自力での排便の困難さなど複合的な要因で起こることが知られている。 そして、緩和ケア領域でのマネジメント目標として「快適かつ満足のいく排便習慣の確保」、「排便習慣の自立維持」、「腹痛などの便秘関連症状の予防」の3項目が掲げられている。また、便秘の予防として「プライバシーが保たれ排便が行えるように配慮すること」、「水分や食物繊維を無理のない範囲で摂取すること」、「運動を無理のない範囲で行うこと」、「(禁忌などでない場合)腹部マッサージを行うこと」の4つが提案されている6)。 そのほか、排便管理は、患者家族などの介護する側にも身体的、心理的、社会・経済的負担をかけることにもつながるので、介護者のQOLも視野に入れた排便管理が望まれるという。 慢性便秘症の治療薬としては、浸透圧性下剤が推奨されているが、マグネシウムを含む塩類下剤の使用では定期的なマグネシウム測定が推奨されている。2020年に厚生労働省からもマグネシウム血症へのリスクを考慮した適正使用の文書も発出され、注意喚起がされている。また、中島氏は「刺激性下剤については、有効ではあるものの、日常的に使うと依存性になり、効果減弱となるため、できるだけ必要最小限の使用に止め、頓用か短期間の使用が望ましい」と提唱した。 最後に中島氏は「高齢者の便秘対策は生活指導・食事療法が基本であり、薬物療法では、用量調節が可能な薬剤の考慮が必要。患者の特性に応じた薬剤選択を行い、患者だけでなく、介護者のQOLも視野に便秘治療を行うことが重要」と語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:822-832.2)伊原栄吉. 日本臨床. 2023;81:242-249.3)Ohkubo H, et al. Digestion. 2021;102:147-154. 4)Inamasu J, et al. Environ Health Prev Med. 2013;18:130-135. 5)Komiya H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019;19:277-281. 6)馬見塚勝郎. 診断と治療. 2018;106:833-838.

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肥満小児へのリラグルチド、BMIが改善/NEJM

 肥満の小児(年齢6~<12歳)において、生活様式への介入単独と比較してリラグルチドによる56週間の治療+生活様式介入は、BMIの低下が有意に大きく、体重の変化も良好であることが、米国・ミネソタ大学のClaudia K. Fox氏らSCALE Kids Trial Groupが実施した「SCALE Kids試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年9月10日号に掲載された。9ヵ国の無作為化プラセボ対照第IIIa相試験 SCALE Kids試験は、9ヵ国23施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIa相試験(スクリーニング期間[2週間]、導入期間[12週間]、治療期間[56週間]、追跡期間[26週間]で構成)であり、2021年3月に開始し2024年1月に終了した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢6~<12歳の肥満小児(年齢と性別で補正したBMIパーセンタイル値が95パーセンタイル以上を肥満と定義)82例を登録した。リラグルチド(3.0mgまたは最大耐用量)を1日1回皮下投与する群に56例、プラセボ群に26例を無作為に割り付けた。全例が導入期間から試験終了まで生活様式への介入を受けた。 主要エンドポイントは、BMIの変化量とした。確認的副次エンドポイントは、体重の変化量およびBMIの5%以上の低下であった。56週時にBMIが5.8%低下 全体の平均(±SD)年齢は10(±2)歳で、男児が44例(54%)とわずかに多かった。72%が白人だった。 56週の時点で、BMIのベースラインからの変化量は、プラセボ群が1.6%の増加であったのに対し、リラグルチド群は5.8%低下し有意に改善された(推定群間差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.6~-3.2、p<0.001)。 副次エンドポイントの優越性を検証する検出力はなかったが、56週時までの体重の平均変化量はプラセボ群が10.0%増加したのに比べ、リラグルチド群は1.6%の増加にとどまり良好であった(推定群間差:-8.4%ポイント、95%CI:-13.4~-3.3、p=0.001)。また、5%以上のBMI低下を達成した小児の割合は、プラセボ群の9%(2/23例)と比較して、リラグルチド群は46%(24/52例)と優れていた(補正後オッズ比:6.3、95%CI:1.4~28.8、p=0.02)。最も多い有害事象は胃腸障害 有害事象は、リラグルチド群が89%(50/56例)、プラセボ群は88%(23/26例)で発現した。これらのほとんどが軽度または中等度で、明らかな後遺症を残すことなく消失した。最も多かった有害事象は胃腸障害で、リラグルチド群が80%(45/56例)、プラセボ群は54%(14/26例)で発生した。 治療期間中に、重篤な有害事象はリラグルチド群で7例(12%)、プラセボ群で2例(8%)に発現した。担当医がリラグルチド投与に関連する可能性(possiblyまたはprobably)があると判断した重篤な有害事象は、嘔吐が2例、大腸炎が1例であった。有害事象によりリラグルチドの投与を中止した患者は6例(11%)で、このうち3例は胃腸障害が原因だった。 著者は、「3歳の時点で肥満のある小児のほぼ90%が青年期に過体重または肥満であることが示されており、肥満の青年では2~6歳の間に最も急激な体重増加が起きているとされることから、肥満の管理では治療開始の最も適切な時期を考慮し、生涯にわたり継続すべきと考えられる」としたうえで、「小児におけるリラグルチドの有効性と安全性、成長パターンへの潜在的影響を評価する長期的な研究が必要である」と述べている。

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1型糖尿病への週1回efsitora、HbA1cの改善でデグルデクに非劣性/Lancet

 成人1型糖尿病患者における糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善に関して、insulin efsitora alfa(efsitora)の週1回投与はインスリン デグルデク(デグルデク)の1日1回投与に対し非劣性を示すものの、レベル2と3を合わせた低血糖とレベル3の重症低血糖の発生率が高いことが、米国・HealthPartners InstituteのRichard M. Bergenstal氏らが実施した「QWINT-5試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月21日号に掲載された。国際的な第III相無作為化非劣性試験 QWINT-5試験は、6ヵ国(アルゼンチン、日本、ポーランド、スロバキア、台湾、米国)の82施設で実施した52週間の第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2022年8月~2024年5月に参加者を登録した(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 HbA1c値が7.0~10.0%(53.0~85.8mmol/mol)の成人(年齢18歳以上)1型糖尿病で、スクリーニング前の少なくとも90日間、基礎および追加インスリンの1日複数回注射療法による治療歴を有する患者を対象とした。被験者を、基礎インスリンとしてefsitora(500単位/mL)またはデグルデク(100単位/mL)を皮下投与する群に無作為に割り付けた。両群とも追加インスリンとしてインスリン リスプロを併用投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週目までのHbA1c値の変化量とし、非劣性マージンは0.4%に設定した。重症低血糖の64%は最初の12週間に発生 692例を無作為化し、efsitora群に343例(平均年齢44.4歳、女性44%)、デグルデク群に349例(43.6歳、45%)を割り付けた。全例が少なくとも1回の試験薬の投与を受け、efsitora群の314例(92%)とデグルデク群の314例(90%)が予定の試験薬投与を完遂した。 平均HbA1c値は、efsitora群ではベースラインの7.88%から26週目には7.41%へ、デグルデク群では7.94%から7.36%へとそれぞれ低下した。この間の平均変化量は、efsitora群が-0.51%、デグルデク群は-0.56%(推定群間差:0.052%、95%信頼区間[CI]:-0.077~0.181、優越性のp=0.43)であり、非劣性マージン(0.4%)を満たしたことからデグルデク群に対するefsitora群の非劣性を確認した(非劣性のp<0.0001)。 0~52週目におけるレベル2(患者報告による自己測定の血糖値<54mg/dL)の低血糖と、レベル3(低血糖の治療のために他者の支援を必要とする精神的または身体的状態)の重症低血糖を合わせた曝露人年当たりの発生頻度は、デグルデク群が11.59件であったのに対し、efsitora群は14.03件と有意に高かった(推定率比:1.21、95%CI:1.04~1.41、p=0.016)。 また、0~52週目におけるレベル3の重症低血糖の発生率は、デグルデク群に比べefsitora群で高かった(10%[343例中35例で44件のイベント]vs.3%[349例中11例で13件のイベント])。efsitora群では、44件の重症低血糖のうち28件(64%)は試験期間の最初の12週間に発生した。重篤な有害事象が多い、注射部位反応はほとんどが軽度 試験治療下での有害事象は、efsitora群で247例(72%)、デグルデク群で234例(67%)に発生した。重篤な有害事象は、デグルデク群の24例(7%)に比べefsitora群は45例(13%)と発現頻度が高く、これはレベル3の重症低血糖が多かったためと考えられた。デグルデク群で1例が死亡したが、試験治療との関連はなかった。 糖尿病性ケトアシドーシスはデグルデク群で2例(1%)に発現した。注射部位反応は、efsitora群で9例(3%)に12件、デグルデク群で1例(<1%)に1件認め、efsitora群の11件は軽度、1件は中等度だった。注射部位反応による試験治療の中止はなかった。 著者は、「1型糖尿病患者において、efsitoraの週1回投与により低血糖のリスクを軽減しつつ有効性を維持するには、efsitoraの投与開始の評価と、基礎・追加インスリンの投与量の最適化についてさらに検討を進める必要がある」としている。

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セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。 2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。 本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。 解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、特にインスリンとの比較において最も差が大きかった(ハザード比〔HR〕0.68〔95%信頼区間0.63~0.74〕)。一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較では最も差が小さかったが、統計学的に有意だった(HR0.88〔同0.81~0.96〕)。また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。 著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。その上で、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。 これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論には至らず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。

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