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「痛み」の種類に応じた治療の重要性~全国47都道府県9,400人を対象とした実態調査~

 痛みとは本来、危険な外的刺激から身を守ったり、身体の異常を感知したりするなど、生命活動に必要なシグナルである。しかし、必要以上の痛みや原因のない痛みは防御機能として作用しないばかりか、健康や身体機能を損なう要因となるため、原因となる疾患の治療に加えて痛みのコントロールが必要となる。 ところが、日本では痛みに対する認識や治療の必要性が十分に知られていない。そのような実態を踏まえ、47都道府県9,400人を対象とした「長く続く痛みに関する実態調査」が実施され、その結果が2012年7月10日、近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科の宗圓 聰氏によって発表された。(プレスセミナー主催:ファイザー株式会社、エーザイ株式会社)●「痛み」とは 痛み(疼痛)はその病態メカニズムにより、怪我や火傷などの刺激により侵害受容器が持続的に刺激されて生じる「侵害受容性疼痛」、神経の損傷やそれに伴う機能異常によって生じる「神経障害性疼痛」、器質的病変はないものの、心理的な要因により生じる「心因性疼痛」の3つに大別される1)。 これらは疼痛の発生機序や性質が違うため治療法は異なるが、実際にはそれぞれの要因が複雑に絡み合っており、明確に分類することは困難である。とくに神経障害性疼痛は炎症が関与しないため、消炎鎮痛剤が効きにくく難治性であることが知られている。●神経障害性疼痛の特徴と診断 神経障害性疼痛は「知覚異常」、「痛みの質」、「痛みの強弱」、「痛みの発現する時間的パターン」という4つの臨床的な特徴がみられる1)。1.知覚異常: 自発痛と刺激で誘発される痛みの閾値低下(痛覚過敏など)2.痛みの質: 電撃痛、刺すような痛み、灼熱痛、鈍痛、うずく痛み、拍動痛など3.痛みの強弱: 弱いものから強いものまでさまざまである4.痛みの発現する時間的パターン: 自発性の持続痛、電撃痛など 神経障害性疼痛の診断アルゴリズムによると、疼痛の範囲が神経解剖学的に妥当、かつ体性感覚系の損傷あるいは神経疾患を示唆する場合に神経障害性疼痛を考慮する。そのうえで、神経解剖学的に妥当な疼痛範囲かどうか、検査により神経障害・疾患が存在するかどうかで診断を進める2)。●神経障害性疼痛の薬物治療 神経障害性疼痛の治療は薬物療法が中心となるが、痛みの軽減、身体機能とQOLの維持・改善を目的として神経ブロック療法、外科的療法、理学療法も用いられる。日本ペインクリニック学会の「神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン」によると、以下の薬剤が選択されている2)。第1選択薬(複数の病態に対して有効性が確認されている薬物)・三環系抗うつ薬(TCA)  ノルトリプチン、アミトリプチン、イミプラミン・Caチャネルα2δリガンド  プレガバリン、ガバペンチン下記の病態に限り、TCA、Caチャネルα2δリガンドとともに第一選択として考慮する・帯状疱疹後神経痛―ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(ノイロトピン)・有痛性糖尿病性ニューロパチー―SNRI(デュロキセチン)、抗不整脈薬(メキシレチン)、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット)第2選択薬(1つの病態に対して有効性が確認されている薬物)・ノイロトピン・デュロキセチン・メキシレチン第3選択薬・麻薬性鎮痛薬  フェンタニル、モルヒネ、オキシコドン、トラマドール、ブプレノルフィン なお、三叉神経痛は特殊な薬物療法が必要となり、第1選択薬としてカルバマゼピン、第2選択薬としてラモトリギン、バクロフェンが選択されている。●47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識実態調査 調査結果 各都道府県の慢性疼痛を抱える人の考えや行動を明らかにするために、「47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識実態調査」が実施された。 対象は慢性疼痛の条件を満たした20歳以上の男女9,400人(各都道府県200人)で、インターネットを用いて調査が行われた。主な結果は以下のとおり。・「痛みがあってもある程度、自分も我慢するべき」と考える人は74.3%(6,981人)、「痛いということを簡単に他人に言うべきではない」と考える人は55.7%(5,240人)であった。・長く続く痛みへの対処で、病医院へ通院していない人は50.1%(4,707人)であり、そのうち31.2%(1,470人)が「病院へ行くほどでもないと思った」と回答した。・痛みがあってもある程度、自分も我慢するべきと考える割合や、過去5年以内に1回でも通院先を変更した経験があったり、3回以上通院先を変更したりしている人の割合については地域差がみられた。・神経障害性疼痛を判定するスクリーニングテストの結果、20.1%(1,888人)に神経障害性疼痛の疑いがあった。・72.9%(6,849人)が「長く続く痛みの種類」を知らず、76.6%(7,203人)が「長く続く痛みの治療法を知らない」と回答した。 これらの結果より、宗圓氏は、日本では痛みを我慢することが美徳とされてきたが、痛みを我慢するとさまざまな要因が加わって慢性化することがあるため、早めに医療機関を受診することが重要であると述べた。 そして、痛みが長期間続くと不眠、身体機能の低下やうつ症状を併発することもあるため、治療目標を設定し、痛みの種類や症状に合わせて薬物療法、理学療法や心理療法も取り入れ、適切に治療を行う必要があるとまとめた。●プレガバリン(商品名:リリカ)について プレガバリンは痛みを伝える神経伝達物質の過剰放出を抑えることで鎮痛作用を発揮する薬剤であり、従来の疼痛治療薬とは異なる新しい作用機序として期待されている薬剤である。また、現在120の国と地域で承認され、神経障害性疼痛の第一選択薬に推奨されている。 さらに、2012年6月にプレガバリンは「線維筋痛症に伴う疼痛」の効能を取得した。線維筋痛症は全身の広い範囲に慢性的な疼痛や圧痛が生じ、さらに疲労、倦怠感、睡眠障害や不安感などさまざまな症状を合併し、QOLに悪影響を与える疾患である。国内に約200万人の患者がいると推計されるが3)、日本において線維筋痛症の適応で承認を受けている薬剤はほかになく、国内唯一の薬剤となる。国内用量反応試験、国内長期投与試験、外国後期第Ⅱ相試験、外国第Ⅲ相試験および外国長期投与試験において、副作用は1,680例中1,084例(64.5%)に認められた。主な副作用は浮動性めまい393例(23.4%)、傾眠267例(15.9%)、浮腫179例(10.7%)であった。なお、めまい、傾眠、意識消失等の副作用が現れることがあるため、服薬中は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように、また、高齢者では転倒から骨折に至る恐れがあるため注意が必要である。●疼痛治療の今後の期待 慢性疼痛は侵害刺激、神経障害に加え、心理的な要因が複雑に絡み合っている。さらに「長く続く痛みに関する実態調査」によって、疼痛を我慢して治療を受けていない患者の実態が明らかとなり、さまざまな要因が加わって疼痛が慢性化し、治療が難渋することが懸念される。 抗炎症鎮痛薬が効きにくいとされている神経障害性疼痛において、プレガバリンのような新しい作用機序の薬剤の登場により、痛みの種類に応じた薬剤選択が可能となった。患者と治療目標を設定し、適切な治療方法を選択することにより、今後の患者QOLの向上が期待される。

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遠隔健康管理、慢性疾患患者の緊急入院、死亡を減少

 血圧や血糖モニタリングなど遠隔健康管理(telehealth)は慢性疾患患者の、緊急入院および死亡の減少に結びつくことが報告された。英国ヘルスケア指針の独立検証機関であるNuffield TrustのAdam Steventon氏らが、英国保健省による資金提供プロジェクトの無作為化試験「Whole System Demonstrator」を解析した結果による。同試験はtelehealthとtelecareの統合アプローチの有効性について検証することを目的とする、英国保健省プロジェクトの多地域クラスター無作為化試験だった。BMJ誌2012年7月14日号(オンライン版2012年6月21日号)掲載報告より。遠隔健康管理介入群と通常ケア群に無作為化し12ヵ月間追跡試験は、居宅ベースの遠隔健康管理の介入がその後の健康や死亡に及ぼす影響を通常ケアと比較することを目的とし、イングランドの3地域(コーンウォール、ケント、ニューアム)を対象に行われた。介入群または通常ケア(対照)群の無作為化は一般診療所単位で行い、同地域179件が参加。それら診療所を通じて2008年5月~2009年11月の間に、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患または心不全を有する3,230例が集められた。遠隔健康管理群には、患者-医師間の診断と指導管理の一部が遠隔通信で行われ、通常ケア群には遠隔健康管理以外の各居住地域で利用可能な医療サービスが行われた。主要評価項目は、試験期間の12ヵ月間に入院した患者の割合とした。なお、ベースラインでの被験者特徴は両群で類似していた。入院、死亡が有意に低下結果、12ヵ月の追跡期間中の入院の割合は、介入群が対照群と比較して有意に低かった(オッズ比:0.82、95%信頼区間:0.70~0.97、p=0.017)。同12ヵ月間の死亡率も、介入群(4.6%)が対照群(8.3%)と比べて有意に低かった(同:0.54、0.39~0.75、p

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太る!境界性人格障害「MetS有病率2倍」

 境界性人格障害(BPD)患者は拒食症や過食症といった摂食障害を併発することが少なくない。そして、摂食障害はメタボリックシンドローム(MetS)と関係しており、将来の2型糖尿病や冠動脈疾患の発症に影響を及ぼすと考えられる。Kahl氏らはBPD患者のMetS有病率やリスクファクターを検討した。Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci誌オンライン版2012年7月10日号の報告。対象は、DSM-Ⅳ診断基準を満たすBPD患者135名(コントロール群:プライマリケア患者1,009名)。MetSの頻度はAHA/NHLBI基準を用いた。主な結果は以下のとおり。・BPD患者におけるMetS有病率は、コントロール群と比較し2倍以上高かった(23.3% : 10.6% 、p

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障害者総合支援法によって新たに生まれる「制度の谷間」

「フリースペース彩~内部障害・難病当事者ネットワーク~」副代表 白井誠一朗 篠原三恵子2012年7月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。私たちの会では2007年より、障害認定されている内部障害や、国が認定している難病に限定せずに、内部障害や疾病等により生活上で様々な困難を抱えている人たちの、自由な情報交換や当事者同士のサポートなどを行って参りました。この度、6月20日の参議院本会議において、障害者総合支援法が可決、成立し、新たに難病が法の対象として位置付けられました。しかし国会での審議において、「対象となる具体的な範囲については、現在の難病患者等居宅生活支援事業の対象疾患百三十疾患及び関節リウマチを参考にして、難病対策委員会で見直しが議論されている難病対策において設定される希少・難治性疾患の定義を基本に検討していきたい」という答弁がありました。障がい者総合福祉部会が提出した「骨格提言」でも、「制度の谷間におかれている難病や慢性疾患の患者等においても、『その他の心身の機能の障害がある者(改正された障害者基本法と同文)』とし、障害者手帳がなくとも、医師の診断書、意見書、その他障害特性に関して専門的な知識を有する専門職の意見書で補い、入口で排除しないこと」と提言しています。障害者総合支援法の基本理念には、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること」とあります。現在の障害者福祉制度においては、身体障害者のみ福祉サービスの給付に際し、その介護等のニーズ調査を受ける前段階で身体障害者手帳を所持していることが要件となっています。そのため、臓器(脾臓やすい臓等)や疾病(免疫機能障害はHIVのみが対象)によって、身体障害者手帳を取得できない方が介護等の福祉サービスを利用できないばかりか、ニーズ調査すら受けられない実情があります。難病は5000~7000もあるとされており、国に指定された難病+関節リウマチだけが新法の対象に加えられるとすれば、再び「制度の谷間」が生まれることになります。また、難病を一つ一つ追加し、対象となる障害の制限列挙方式では、いつまでたっても「制度の谷間」は解消できません。例えば、現在難病指定されていない筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)、線維筋痛症、1型糖尿病、骨髄性血小板増多症等の障害手帳のない慢性疾患はいつ対象に入ることができるのでしょうか。その他、希少要件等によって、命にかかわるような重症患者までもが切り捨てられてしまうことが危惧されます。国に指定された難病+関節リウマチ以外の慢性疾患を持つ人達の生活状況が、どんなに逼迫しているかをご存知でしょうか。筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)は、日常生活における最小限の活動や簡単な知的作業などによってさえ、著しく急激な身体的及び認知疲労が起こり、身体を衰弱させ、症状の悪化を引き起こしうり、その疲労の回復には24時間以上を要し、何週間もかかることさえある病気です。寝たきりに近い方も多く、多くの方が職を失うほど深刻な病気でありながら、身体障害者手帳を取得出来る方は極めて稀です。慢性疾患を抱える人には、「病的に疲労が激しい」「慢性的な耐えがたい痛みが続く」といった人が多いですが、こういった痛みや疲労といった症状で日常生活に支障をきたしていても、障害者手帳取得の際にほとんど勘案されず、取得は極めて困難だからです。1型糖尿病の方の中には、週2日のアルバイトを続けるために、体調に応じてフレキシブルな勤務が認められているにも関わらず、休日は倦怠感や血糖値による体調の悪さでほぼ終日就床していなければならない方もいます。部屋の掃除は年2回、風呂掃除、洗濯は週1~2回、買い物は週1回インターネットで注文し、近所のスーパーへ買い物に行くのは1~2カ月に1回、自炊は週3~5回でそれ以外は外食等で体力を温存し、辛うじて仕事を続けておられます。身体障害者手帳を取得できず、現在は何の福祉サービスも受けられません。患者の日常生活を支える介護等を提供する福祉サービスと医療費助成、治療研究などの対象は、分けて議論すべきではないでしょうか。まずは、日常生活の介護給付などの福祉サービスの対象として、病名で除外せずに、申請できる仕組みを検討していただきたいと思います。病名で範囲を定め、介護給付などの福祉的支援の必要があっても支援にアクセスすらできない谷間を放置することは、法の下の平等に反するのではないでしょうか。難病の範囲については、病名を制限列挙するのではなく、医師の意見書によって補い、入口規制せず、その上で支給決定のための認定審査を受ける事になれば、「制度の谷間」は解消されます。難病の範囲を国で指定する難病だけに限定せず、障害者手帳のない介護や介助を要するような重度の慢性疾患をもつ人も、必要な支援を受けられるようにしていただきたいと願っています。

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学会総会まるわかり! 第44回 日本動脈硬化学会総会レビュー ガイドライン作成委員が語る今年の総会

執筆:塚本和久先生(福島県立医科大学 会津医療センター準備室 糖尿病・代謝・腎臓内科 教授)7月19日と20日の二日間、「動脈硬化性疾患の包括医療 ―ガイドライン2012―」をメインテーマとして、佐々木淳会長(国際医療福祉大学)のもと、第44回日本動脈硬化学会総会・学術集会が福岡にて開催された。本学会でも、近年他学会でも採用され始めたiPhone・iPad・スマートフォンでのプログラムの検索や予定表の作成が可能な専用のアプリが採用され、さらには抄録集もPDF化されたことにより、従来の重たい抄録集を持ち歩く必要がなくなったのも目新しい試みであった。両日を通じて総数1200名弱の参加があった。1. 新ガイドライン関連セッション今回の学会は、本年6月20日に発表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版」をめぐるセッションがいくつか設けられた。初日午前には、各脂質測定に関する精度に関するワークショップが企画された。日常臨床で、各々の測定値がどのように標準化されているのか、その測定精度がどの程度のものであるのか、を考えることがないのが、ほとんどの臨床家の現状であろう。このセッションにおいて、総コレステロールはその精度管理が優れておりばらつきはほとんどないこと、現在のHDL-C測定法も精度の高い測定法であること、それに対して中性脂肪測定は標準化が十分でなく今後強力な標準化の努力が必要であること、また欧米での中性脂肪測定法と日本のそれとは遊離グリセロールを含めて測定するかどうかの相違が存在しており、値として同等のものと考えることはできないこと、などの解説が行われた。またLDL-C直接法に関しては、現在12メーカー(試薬は8試薬)がキットを出しているが、その測定法の詳細は示されておらず、同じ検体を測定してもキットにより値が異なることがしばしばあり、特に中性脂肪値の高い検体ではBQ法(比重1.006g/mL以上の画分を除いた検体でコレステロールを測定する方法)での測定値よりもかなり高値となるキットがあることが指摘された。それゆえ、今回のガイドラインでは、中性脂肪値が400 mg/dL以上の場合にはnon HDL-Cを指標とすること、中性脂肪値高値例ではLDL-C目標値達成後にnon HDL-C値を二次目標として用いること、が推奨されることとなったとの解説があった。non HDL-Cに関しては、近年の報告からLDL-Cよりも強い冠動脈疾患のマーカーとなる可能性が示されていること、高TG血症・低HDL-C血症ではLDL-Cにnon HDL-Cを加えて用いることによりそのリスク予測能が高まること、ただしnon HDLを指標とした大規模研究や疫学研究はないため、とりあえずLDL-C + 30 mg/dLで基準を定めてはいるものの、今後その閾値の設定が必要になってくることが提言された。二日目の午後には、今回のガイドライン作成の中心的存在として活躍された先生方による、「改訂動脈硬化性疾患予防ガイドライン」のセッションが開かれた。寺本民生先生(帝京大学)からは新ガイドラインの概要と二次予防・高リスク病態における層別化について、枇榔貞利先生(Tsukasa Health Care Hospital)からは脂質異常症の診断基準の元となった日本人でのデータと境界域を設定した根拠、そしてLDL-C直接法の欠点とnon HDL-Cの導入理由が示された。また、岡村智教先生(慶應義塾大学)より、今回のガイドラインで設定された絶対リスクに基づいたカテゴリー分類の基準を設定する際に参考とされた諸外国でのガイドラインの解説と最終的なカテゴリー分類基準の解説が行われ、最後に横出正之先生(京都大学)からは今回の学会のメインテーマである「動脈硬化性疾患の包括的管理」について、詳細な説明がなされた。2. 今回の学会でのセッションの傾向最近の動脈硬化学会の演題内容は、どちらかというと細胞内シグナル伝達やサイトカインのセッションが多い印象があったが、今回はどちらかというとリポ蛋白関連・脂質代謝異常、という概念でのセッションが多かった印象がある。二日目の午前には、「脂質異常症と遺伝子の変異」というセッションで、CETP欠損症、家族性高コレステロール血症、アポEについての講演とともに、今後の脂質異常症の発展につながるであろう「遺伝子変異の網羅的解析とTG異常」、「脂質異常症遺伝子変異データベースの構築」の演題が発表された。また、HDLについては、HDL研究に造詣の深い M John Chapman博士の特別講演が一日目に組まれ、二日目の午後には「How do we deal HDL?」との表題でのワークシップが行われた。そして、一日目の午後には、3年前の学会から継続して開催されている「動脈硬化性疾患の臨床と病理」のセッションが催された。ハーバード大学の相川先生から、近年の動脈硬化イメージングの進歩状況として、FDG PET/CT イメージング、MRI T2シグナルを用いての動脈硬化巣マクロファージのイメージング、特殊な薬物(NIRF OFDI)を用いての分子イメージングについての解説があった。座長の坂田則行先生(福岡大学)からは、現在の画像診断技術の進歩はめざましいが、どうしても臨床医は画像診断のみに頼りがちになっており、今後は画像診断での病変がどのような病理組織像を呈するのか、ということに関して、臨床家と病理家が共同して検討していく必要性が提起された。3. 特別企画、および若手奨励賞一日目の午後、特別企画として、Featured Session「時代を変えた科学者たち」が開催され、松澤佑次博士(内臓脂肪研究)、泰江弘文博士(冠攣縮性狭心症)、遠藤章博士(スタチンの発見)、荒川規矩男博士(アンジオテンシン研究)といった、日本を代表する研究者たちの講演をまとめて拝聴する機会が得られた。各博士の講演内容の詳細はスペースの関係上省略させていただくが、どの先生の話も内容が濃く感慨深いものであり、現在および将来基礎・臨床研究にいそしむ若い先生方の非常によい指南となったと考える。このような中、次世代を担う若手の先生の発表もポスター発表も含め多数行われた。中でも、一日目の午前には、若手研究者奨励賞候補者の発表、そして選考が行われた。スタチンがARH(autosomal recessive hypercholesterolemia)患者に有効に働く機序を安定同位体を用いた代謝回転モデルにて解析した論文(Dr. Tada)、急性冠症候群の血栓成分の相違がどのような臨床像、あるいは心機能回復能と相関するかを調べた臨床研究(Dr. Yuuki)、マクロファージからのコレステロール逆転送に関与するABCA1とABCG1が、ポリユビキチン化されて代謝されること、そしてプロテアゾーム阻害薬でコレステロール逆転送が活性化されることを示した論文(Dr. Ogura)、カルシウム感受性細胞内プロテアーゼであるカルパインは内皮細胞の細胞間接着に関与するVEカドヘリンの崩壊を惹起し、内皮細胞のバリア機能を低下させ、動脈硬化を促進すること、そしてカルパイン阻害薬は動脈硬化を抑制することを示した論文(Dr. Miyazaki)の発表があった。最優秀賞は、Dr. Miyazakiの演題が選出された。4. 特別講演、懇親会さて、このような実りの多い学会をさらに充実させたイベントとして、一日目の夜に開催された懇親会、そして東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督である野村克也氏の講演が挙げられるであろう。懇親会は、いつもの学会懇親会よりも多数の参加者があった。会長および運営事務局・プログラム委員会の諸先生の趣向・ご尽力、そして開催ホテルがヤフードームの隣であったこともあり、福岡ソフトバンクホークスのチアガールによる余興なども行われ、非常に和気藹藹とした雰囲気の中で会員同士の親交が深まったと思われる。また、二日目の野村克也監督の特別講演は、「弱者の戦略」という題名で行われた。南海、ヤクルト、阪神、楽天と、長い選手人生そして監督人生にて経験し、培ってきた考え方・姿勢を拝聴できた。とても内容の濃い講演であったが、中でも、弱者がいかに強者に対応していけばよいのか、組織・あるいはグループの長である監督とはどうあるべきか、部下のものに対する対応はどのようにすべきなのか、など、我々医師の世界にも相通じる内容の話を、ユーモアを交えながら語っていただいた。様々な苦労を乗り越え、その場その場でよく考えて人生を歩まれた監督ならではの講演であったと考えている。5. まとめ来年は、及川眞一会長の下、7月18日・19日に東京・京王プラザホテルにて第45回日本動脈硬化学会が開催される予定である。今年の充実した学会を更に発展させ、基礎および臨床の動脈硬化研究の進歩がくまなく体得できる学会になることを期待する。

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GIP増加が肥満に対しても好影響をもたらす?

 これまでGIPは、齧歯動物において膵β細胞の増殖促進効果と、脂肪細胞における脂肪蓄積効果の両方を発揮することが明らかになっており、そのためGIP受容体アゴニストとアンタゴニストの両方が、2型糖尿病の治療薬になり得るとして検討されてきた。 しかし、今回、Kim SJ氏らの検討から、GIPを過剰発現させたトランスジェニック(Tg)マウスにおいて、膵β細胞機能、耐糖能、インスリン感受性の改善が認められ、さらに食餌誘発性肥満についても減少させたという結果が示された。2012年7月17日、PLoS One誌で公開された報告。この結果から、栄養過多状態におけるGIP過剰発現は、グルコース恒常性の改善とともに、脂肪減少効果をもたらす可能性があることが示唆された。 GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)は、食事によるブドウ糖刺激がもたらすインスリン分泌を促進する消化管ホルモンで、最近では、インクレチンホルモンとして注目されている。 本研究は、「GIPレベルの慢性的増加がグルコース恒常性に対しては改善効果をもたらすが、脂肪蓄積を促進させる」という仮説をトランスジェニック(Tg)マウスモデルを用いて検証したものである。主な結果は以下のとおり。・GIP Tgマウスで、膵β細胞機能、耐糖能、インスリン感受性の改善が認められ、さらに食餌誘発性肥満についても減少させた。・GIP Tgマウスで、高脂肪食により誘導された体脂肪量の減少が認められた。・脂肪組織マクロファージの浸潤と肝脂肪の両方が大きく減少した。・脂質代謝や炎症性のシグナリング経路に関係する多くの遺伝子が、下方制御されていることが明らかになった。・GIP Tgマウスにおける脂肪減少は、視床下部におけるGIP過剰発現がもたらす、エネルギー摂取量の減少と関係していた。

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SGLT2阻害薬「イプラグリフロジン」の、BG薬併用下での安全性は?

 2型糖尿病患者に対する、SGLT2選択的阻害薬「イプラグリフロジン」のメトホルミン(商品名:メトグルコなど)併用下での安全性データが発表された。Veltkamp SA氏らによるClin Ther誌オンライン版2012年7月13日付での報告。 この結果、イプラグリフロジンとメトホルミンの14日間併用投与は、低血糖の発現なく、良好な忍容性を示し、イプラグリフロジンの併用は、メトホルミンの薬物動態(PK)特性には、臨床的変化はもたらさないことが明らかになった。 イプラグリフロジン(ASP1941)は、2012年7月現在、国内において臨床開発段階にある。 本試験の主要評価項目は、メトホルミン併用下におけるイプラグリフロジンの安全性プロファイルおよび忍容性。副次評価項目は、メトホルミンのPK特性に対するイプラグリフロジンの影響であった。 対象は、メトホルミン投与中(850mg、1,000mg、または1,500 mgを1日2回服用)の2型糖尿病患者36例。対象者は、イプラグリフロジン投与群(n=18、300mg/日)、またはプラセボ投与群[メトホルミン単独群](n=18)に二重盲検法で無作為化割り付けされ、それぞれ14日間投与された。 試験期間を通じて、低血糖イベント、試験治療下における有害事象(TEAEs)、実験室測定、バイタルサインを含めた安全性プロファイルが評価された。 また、最大血中濃度およびAUC(0-10)の幾何平均比と90%CIは、メトホルミン+ イプラグリフロジン群(14日目) vs メトホルミン単独群(1日目)で算出された。 薬力学的特性は、24時間尿糖排泄(UGE(0-24))測定によって評価された。 主な結果は以下のとおり。 ・すべてのTEAEsは、1例を除き軽度であった。・TEAEsは、イプラグリフロジン併用群で15回(7例/18例 [38.9%])、プラセボ群で19回(8例/18例 [44.4%])観察された。・治療関連のTEAEsは、イプラグリフロジン併用群で18例中3例(16.7%)、プラセボ群では18例中5例(27.8%)で報告された。・低血糖イベント(血糖値

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なぜ、うつ病患者はアルツハイマー病リスクが高いのか?

アルツハイマー病(AD)にはアミロイドβ(Aβ)に対する自己抗体レベルの減少が関与していると考えられている。また、生涯にわたるうつ病の罹患はADリスクを2倍に上昇させるともいわれていることから、うつ病患者においてAβに対する自己抗体の減少がみられている可能性がある。Maetzler W氏らはうつ病患者におけるADリスクと自己抗体の関係についての検証を試みた。J Alzheimers Dis誌オンライン版2012年7月5日の報告。うつ病患者214名を対象に、Aβ1-42、S100b(AD病態を増悪させるアストロサイト特異的蛋白)、αシヌクレイン(パーキンソン病やレビー小体型認知症などの神経変異疾患の原因物質)に対する血清IgG自己抗体の測定値について、対照群214名と比較検討を行った。 主な結果は以下のとおり。 ・Aβ1-42に対する測定値は、生涯うつ病患者で対照群と比較し低かった(5544.6±389.3 :7208.7±482.4、p=0.048)。・S100b、αシヌクレインに対する測定値は、コホート間で同等であった。・本研究より、うつ病患者における体液性免疫応答によるAD様の機能障害が示唆された。 (ケアネット 鷹野 敦夫) 関連医療ニュース ・うつ病治療“次の一手”は?SSRI増量 or SNRI切替 ・うつ病を合併した糖尿病患者では認知症のリスク上昇 ・アルツハイマーの予防にスタチン!?

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遺伝子タイプで、2型糖尿病リスクを予測?

遺伝子タイプは一生にわたって変化しないため、青年期の時点から2型糖尿病の高リスク例を同定できる可能性がある。Vassy JL氏らは、遺伝子スコアに基づく糖尿病予測モデルが、臨床上の危険因子のみに基づく糖尿病予測モデルを上回る可能性があるとして、検討を行った。この結果、遺伝子スコアに基づく糖尿病予測モデルは、白人および黒人の若年成人における、25年にわたる2型糖尿病の発症を予測するが、臨床上の危険因子に基づく糖尿病予測モデルを超えるには至らない、ということが明らかになった。Diabetologia誌オンライン版2012年7月11日付に報告されたCARDIA研究(The Coronary Artery Risk Development in Young Adults study)の結果。対象は、若年成人(18~30歳、平均年齢:25歳)で、成人期半ばまで経過観察が行われた。38の遺伝子多様体(variant)スコアの有無別に、青年期に評価された臨床上の危険因子(年齢、性別、人種、糖尿病の家族歴、BMI、平均動脈圧、空腹時血糖値、HDLコレステロール、TG)に基づく2型糖尿病の予測モデルを用いてCox回帰分析を行った。これらモデルは、C統計量と連続的な純再分類改善スコア(NRI)とで比較された。 主な結果は以下のとおり。 ・2,439人の参加者のうち、830人(34%)は黒人で、ベースライン時BMI≥30kg/m2が249人(10%)であった。・フォローアップ期間(平均23.9年)の間に、215人(8.8%)の参加者が、2型糖尿病を発症した。・全モデルにおいて遺伝子スコアは、有意差をもって糖尿病発症を予測した。ハザード比は1.08(95%CI:1.04~1.13)であった。・全モデルで遺伝子スコアによる、再分類改善傾向がみられた(連続的NRI:0.285、95%CI:0.126~0.433)。しかし、有意差はなかった(C統計:遺伝子スコアあり0.824、遺伝子スコアなし 0.829)。人種層別解析も同様の結果であった。 (ケアネット 佐藤 寿美) 〔関連情報〕 動画による糖尿病セミナー (インスリンなど)

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テネリグリプチンの日本人での有効性

2012年6月に国内での製造販売承認を取得した、新規DPP-4阻害薬「テネリグリプチン(商品名:テネリア)」の日本人2 型糖尿病患者におけるデータが発表された。テネリグリプチン1日1回投与の安全性および24時間にわたる血糖コントロールを評価したところ、テネリグリプチンが、プラセボと比較して低血糖の発現なく、食後2時間血糖値、24時間平均血糖値、空腹時血糖値を有意に改善することが明らかになった。この結果は、ピーエスクリニックの江藤氏らによりDiabetes Obes Metab誌Early Online Publication 2012年7月10日付で報告された。対象は、食事・運動療法でコントロール不十分な日本人2 型糖尿病患者99例。被験者を無作為にテネリグリプチン10mg群、同20 mg群、プラセボ群に割り付け、4週間、朝食前投与を行った。無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験である。主な結果は以下のとおり。 ・テネリグリプチン投与群は10mg、20mg両群とも、プラセボ群に比べ、食後2時間血糖値、24時間平均血糖値、空腹時血糖値を有意に低下させた。・食後2時間血糖値について、テネリグリプチン10mg群のプラセボ群に対する差は、朝食後:-50.7±7.8 mg/dL、昼食後:-34.8±9.2 mg/dL、夕食後:-37.5±7.5 mg/dLであった(最小二乗平均(LS means)±標準誤差(SE)、すべてp

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統合失調症患者は“骨折”しやすいって本当?

近年、統合失調症患者では骨粗鬆症の罹患率が高いことが明らかになってきているが、著しい骨密度(BMD)の減少にいたる機序や臨床的意味はまだわかっていない。慶応義塾大学の岸本氏(Zucker Hillside Hospital留学中)らは統合失調症患者における骨粗鬆症と骨折リスク、さらに抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症の骨代謝への影響について、最近の知見をもとにレビューを行った。Curr Opin Psychiatry誌オンライン版2012年6月30日付の報告。主な結果は以下のとおり。 ・16報告中15件(15/16:93.8%)において、統合失調症患者は対照群と比較して、低BMDまたは骨粗鬆症の高い罹患率のうち、少なくともいずれかと相関していた。ただし、全体の一貫性はなかった。・高い骨折リスクは、統合失調症と関係し(2/2)、抗精神病薬投与とも関係していた(3/4)。・これらの要因として、運動不足、栄養不足、喫煙、アルコール摂取、ビタミンD不足が示唆された。・抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症とBMD低下との関係を調べた報告(9/15:60.0%)では、高プロラクチン血症の影響が少なからず認められた。・本結果は、サンプルが少なく効果の小さなものが含まれており、またプロスペクティブ研究は2報だけであった。・高プロラクチン血症や不健康な生活による影響はまだ明らかになっていないが、統合失調症患者ではBMD低下や骨折リスクとの関係が示唆されることから、予防や早期発見、早期介入が必要であると考えられる。(ケアネット 鷹野 敦夫)関連医療ニュース ・肥満や糖尿病だけじゃない!脂質異常症になりやすい統合失調症患者 ・せん妄対策に「光療法」が有効! ・厚労省も新制度義務化:精神疾患患者の「社会復帰」へ

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SGLT3は、腎臓におけるNaトランスポーター?

新規糖尿病治療薬として、腎臓のグルコース再吸収に関与する輸送体である、SGLT2選択的阻害薬の開発が進んでいる。一方で、SGLT3については、SGLT2と高い類似性を示すものの、ヒトの腎臓における存在と機能的役割についてはほとんど知られていなかった。今回、Kothinti RK氏らにより、ヒトの腎組織および近位尿細管培養細胞(HK-2)におけるSGLT3の mRNAとタンパク質の発現についての研究結果が発表された。この結果、SGLT3は、ヒトの近位尿細管に発現が認められ、新規のナトリウムトランスポーターとして機能している可能性が示唆された。著者は、糖尿病患者において、近位尿細管でのSGLT3のアップレギュレーションが、腎機能障害や過剰濾過進行中のネフロン部位での、ナトリウム輸送を増加させている可能性があると述べている。Eur J Pharmacol誌オンライン版2012年7月2日付の報告。 主な結果は以下のとおり。 ・ヒトの腎組織(in vivo)、およびHK-2(in vitro)の両方で、ヒトSGLT3(hSGLT3)とタンパク質の発現が示された。 また、hSGLT3の強力なアゴニストである、イミノ糖のデオキシノジリマイシン(DNJ)で処理後のヒトのCOS-7細胞、およびHK-2細胞における、hSGLT3過剰発現に伴うタンパク質活性を調べたところ、結果は以下のとおりであった。 ・COS-7細胞においてhSGLT3を過剰発現させたところ、グルコース輸送に影響を与えることなく、細胞内のナトリウム濃度は3倍まで増加した。・HK-2細胞において、DNJ(50μM)処理により、hSGLT3を過剰発現させたところ、ナトリウム濃度は5.5倍増加したが、この効果はSGLT阻害薬であるフロリジン(50μM)により完全に阻害された。 (ケアネット 佐藤 寿美) 関連情報 ・動画による糖尿病セミナー (インスリンなど)

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糖尿病を有するNSTE-ACSに、侵襲的治療は有効

非ST上昇型急性冠症候群(NSTE‐ACS)患者への早期の侵襲的治療は、ACC/AHAガイドラインで推奨されている。しかし、糖尿病を有するNSTE-ACS患者に対する侵襲的治療が、ベネフィットをもたらすかどうかを主目的に解析した臨床試験は、これまでなかった。今回、この検討結果がO'Donoghue ML氏らにより発表された。この結果、糖尿病患者への早期の侵襲的治療は、非糖尿病患者と比べ、全心血管イベントの相対リスクは同等ではあったが、再発性の非致死的心筋梗塞(MI)リスクを有意に低下させることが明らかになった。著者は、これらの結果は、最新のガイドラインが推奨している糖尿病を有するような高リスクのNSTE-ACS患者に対する、侵襲的治療を支持するものだ、と述べている。本試験は9件の無作為化臨床試験のメタアナリシスの結果。対象はNSTE-ACS患者9,904例。フォローアップ期間は12ヵ月。心血管イベントリスクは、糖尿病の有無と無作為化された治療戦略(侵襲的治療または保守的治療)で層別化され、解析された。相対リスク(RR)比と絶対リスクの減少については変量効果モデルを用いてデータ統合がなされた。 主な結果は以下のとおり。 ・対象者9,904例のうち、1,789例(18.1%)が糖尿病であった。・侵襲的治療の保守的治療に対する、死亡、非致死的心筋梗塞(MI)、または急性冠症候群による再入院のRRは、糖尿病患者(RR:0.87、95%CI:0.73‐1.03)と、非糖尿病患者(RR:0.86、95%CI:0.70‐1.06、交互作用p=0.83)で同等であった。・侵襲的治療は、糖尿病患者に対しては非致死的MIを減少させた(RR:0.71、95%CI:0.55~0.92)が、非糖尿病患者では減少させなかった(RR:0.98、95%CI:0.74~1.29、交互作用p= 0.09)。・侵襲的治療によるMIの絶対リスク減少率は、糖尿病患者の方が非糖尿病患者よりも大きかった(絶対リスク減少率:3.7% vs 0.1%、交互作用p= 0.02)。死亡または脳卒中において、両群間に有意差は認められなかった(交互作用p=0.68、p=0.20) (ケアネット 佐藤 寿美)  〔関連情報〕  ・動画による糖尿病セミナー (インスリンなど)

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危機管理としての原発問題~原発はすべてを止めれば済む問題か~

つくば市 坂根Mクリニック坂根 みち子 2012年7月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 ※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。  話は震災直後にさかのぼる。2011年3月15日、子供の通う高校から一通のメールが保護者に一斉配信された。「念のためですがご連絡します。ただしパニックにならない様に注意しましょう。北風が吹いていますので、できるだけ早く家に戻り室内で待機し、外出を避けた方がいいと思います。特にこれから降る初期降雨を受けないように注意して下さい。外出時に雨に遇ったならば鼻と口をハンカチなどで覆って下さい。髪や皮膚が濡れた場合はお湯などで洗い流し、もし衣服が濡れた場合は入室時に脱いでビニール袋などに入れておいた方がいいと思います。」パソコンの隣のTVでは繰り返し原発は大丈夫だと放送していた。不安定な状態だが何とかなっているというのが、大方の世間のとらえ方だった。いくらなんでも枝野さんがこんなに堂々と嘘をつくはずがない、このメールの内容は杞憂に過ぎない、その時はそうとらえた。もうひとつ、最初は医師である私でも全く放射能についての知識がなかった。原発からはどのような核種が出る可能性があるのか、半減期はどのくらいでどう対処すればいいのか全く分からなかった。花粉症のようなもので、降り注いだものは払えばいいということも、しばらくして知った。 今改めて読んでみると、あの時起こっていたことを的確に把握し、何をすべきかきちんと伝えていた。このメールの配信を促したのは、学校の父母会長で放射線の専門家である医師だった。すでにつくばの空気中に放射性物質が異常に検出されていることを知っていたのである。パニックにならないように配慮して伝えたがために、当時は深刻に受け取らなかった保護者が多かったと思う。その時はまだ、今の時代に大本営発表があるとは思っていなかったのである。たった数日の自宅待機を指示してくれれば、もっとも飛散量が多いときに多くの人が移動することもなかったであろうに。しばらくして高エネルギー研究所のHPで放射性物質の空気中の濃度がわかるようになって事実を知った時、どれだけの親が子供たちがその時どこで何をして過ごしていたか必死に思い出し自責の念に駆られたことだろう。 あれから1年、世間では原発再稼働反対の運動が盛り上がっている。政府は広域災害と大津波を全く想定していなかった。従って、3月11日14時46分から日没までに、水と毛布と燃料を空から届けるという発想がなかった。それがため、どれほどの人が低体温で死に至ったか。また、マスコミは人々が津波に飲み込まれる様子や遺体をただの一度も一体も放映しなかった。外国のメディアが伝えていることが国内ではマスコミの似非人道主義のために、この世の地獄を味わっていた人たちの悲劇がリアルタイムで伝わらなかった。 放射性物質が放出されてから、なにがどこにどれだけ飛んでいるか正しい情報を伝えなかったために、今でも多くの親が多少なりとも被ばくした子供の健康問題を心配している。日本政府のガバナンスの欠如、マスコミの幼稚さ。(東電の組織としての欠陥は監督官庁と一心同体である。)今回の震災では、多くの国民の意識に政府とマスコミに対する深い絶望感と不信感が植え付けられた。政府のやることは全く信用できない、こんな恐ろしい原発を保持するなんて絶対許せないと考えるのも無理もない。でもちょっと待って欲しい。だからといって原発を止めれば済む問題だろうか。西日本は中国から飛んでくる黄砂でさえ問題となっているのに、北朝鮮と中国が原発を持つことのリスクはどう考えるのだろうか。日本で原発を止めるということは、コンパクトで高性能の原発の開発もなくなる。国内の原発は古くて危険なもののみとなる。外国に、より安全な原発を売り込むこともできない。技術の継承もなくなる。いざというときの対処法も相手任せとなる。今回の原発もアメリカの古いタイプのもので、コンセントの形も違ったため対応が遅れたというではないか。しかも国内の原発を止めても大量の使用済み核燃料は残る。問題はむしろこっちである。使用済み核燃料を持っている限り地震大国の日本で放射能に汚染されるリスクは全く減っていない。国内の原発停止にこだわって思考停止状態になると、沖縄の米軍基地を最低でも県外移転と言ったために、逆に最も危険な普天間固定となってしまっている現状と同じ構造となる。 国内の原発を止めるだけなら最悪の事態を想定して備えるという危機管理の基本を放棄することになる。今回の震災での対応がお粗末だったからと言って、日本人より中国や北朝鮮の原発管理の方が信用できるだろうか。「人類のためにすべての核利用を廃絶しよう」という運動が、隣国に通用すると思っているのだろうか。そんな絵空事は考えてはいけない。世界中を見渡しても損得勘定なく最も真摯に原発に向き合えるのは日本人しかいない。交渉が苦手で、征服欲がなく勤勉、心配性。日本人の美徳を認めるより、自らを責め、世界に向けてネガティブな発信しかしない。こんな民族が他にいるだろうか。数年前に宮崎駿監督が「借り暮らしのアリエッティ」という映画で、日本を舞台に「君たちは滅びゆく種族なんだ」を言っていたが、まさしく今の日本人は滅びゆく民族となりつつある。 こういう危機にこそ、原子力関連の分野には理系のトップの学生が進んで欲しい。優秀な人材を集め、日本人が得意とする細かいところまで行き届いた最新鋭のより安全な原発を作り、古いものと順次置き換えて欲しい。使用済み核燃料の処理について英知を集めて欲しい。加えて日本人全員が、個々のレベルで核についての知識を高め、何かあった時自立して動けるようにならなくてはいけない。原子力を一部の人にしかわからない「原子力村」に閉じ込めてしまったことが、災害時のリスクを高めてしまった。多様な専門家集団を育て、地球上のどこのトラブルにもすぐ駆け付け対応できるようにして欲しい。今回政府は「ストレステストで安全性を再確認後再稼働」というパフォーマンスを行っているが、知りたいのはそんなことではない。1992年、時の原子力安全委員会は東電に対して「長時間電源喪失を想定しなくていい理由を作文せよ」という信じられない要求をした。これと同じことが日本中の原発で行われたはずである。私たちが知りたいのは、各地の原発にそのような瑕疵が隠されていないかということである。医療の世界では「人は必ず死ぬ」ということ以外100%確実なことはない。すべての医療行為には必ずリスクが伴う。従って患者さんに100%安全です、と説明することはあり得ない。原発についても同じである。ストレステストをやって、「絶対安全です」といった時点で嘘である。そんなおためごかしをするようでは話にならない。国民も100%の安全を保障しろという要求自体がおかしいと思うべきである。大事なのは何かあった時の対処法である。どんな過酷事故をも想定して対策が練ってあるかである。 今大地震が起きたら、原発のみならず使用済み核燃料が入っているプールの耐震性は大丈夫なのか、万が一水が漏れたらどう対処するのか、北朝鮮のミサイルが打ち上げに失敗してプールが被弾したらどう対応するのか。テロの対象になって、ハイジャックされた航空機が原発に突っ込むことは「想定範囲外」なのか。こういった待ったなしの課題に対して、政府はきちんと説明して欲しいし、大至急予防措置を講じてほしい。 人類はすでに禁断の実に手を出してしまった。どこで何があっても放射能は地球全体に影響を及ぼす。福島の問題があるまで私たちが一番浴びていた環境からの放射線は、ソ連とアメリカが核実験を繰り返してばらまいたものである。ホーキング博士は、20年前の講演で、この宇宙には高度文明を持つ生命体が生まれては、環境を破壊しつくして惑星ごと自滅していると言っていたそうだ。(石原慎太郎「新・堕落論」より)恐ろしいことに、今地球はホーキング博士の予想通りの道を歩んでいる。すでに日本国内の問題ではないのである。日本人が最後の一つの核の後始末が付くまで伴走していくことも責任の取り方の一つである。 願わくば、ヒステリックにならずに良く考え議論を深めてほしい。一人の母親として、次の世代に命をつないでいくという大命題を考えた時、核に反対するだけの選択は、日本のみならず地球全体のリスクを高めてしまうと思う。筆者は政府とマスコミは一切信用しなくなったが、個々の日本人が持つ特質は世界で一番信用できると思っている。 もうひとつ、低量放射線についても少し触れておきたい。今、環境でも作物でも、わずかな放射性物質が検出されるのを一切許さないという風潮があるが、これも日本人が自らの首を絞めている典型である。放射性物質は毒にも薬にもなる。今まで人々はラドン温泉等低量の放射線を有効利用していたはずなのに、今では一切認めないという。自然界にはもともと放射線が存在し、人類も放射線と共存してきた。人間の体には優れた適応能力があり、傷ついたDNAは絶えず修復されている。少量の放射性物質を人類が有効利用してきたことは科学的に認められた事実であるにも拘らず、すべての放射線を悪として扱い、逆にそこで暮らさざるを得ない人々に大きなストレスを与えている。 話は最初に戻る。子供が被曝したかもしれないと思った時、当初筆者も動揺した。自分自身は医療放射線をかなり浴びているので仕方ないが、子供についてはほんの少しでもリスクは避けたいと思った。福島の原発がかなり危ないといううわさになった時、我が家では子供だけ一時東京の祖父母宅に避難させた。その時長女が本当に原発が爆発したら、パパとママはどうするのかと問うた。答えて、私達は医師としてこの地を離れることは出来ない、万が一の時はもう3人で生きていけるでしょうと話した。こう言われた彼女の衝撃は大きかったらしい。しばらくして無事当地に戻ってきたとき、何も知らない妹たちと違って大きな責任と恐怖を背負わされた長女は疲労困憊していた。そして、今後もし原発が爆発しても今度はつくばに残ると宣言した。その時長女は大学受験生で、さらに免疫系の病気で自宅療養中だったが、明らかに放射線そのものより精神的なストレスのほうが全身状態を悪化させていた。 昨年の11/1に「バランス感覚を持とう~放射能とともに生きていくために~」という拙文が配信されたことがきっかけで、元ICRP(国際放射線防護委員会)委員だった中村仁信医師から「低量放射線は怖くない」という本をいただいた。読了後、正直親としてはすこしホッとした。広島、長崎の被ばくで次世代に奇形が増えたというデータは一切ないということ、少量の放射線でがん抑制遺伝子のスイッチが入り、癌の発生そのものが抑えられる可能性があることなど、ICRPの見解も含め過去に世界中で集められたデータが素人にも理解しやすくまとめられていた。 そもそも震災の前から、今の子供たちは小さいころから甘いもの漬けであり、トライ&エラーの体験に乏しく、このままいくと糖尿病やストレスに対する耐性のなさから子供たちが大変なことになるととても危惧していた。世間ではそこに対する反応は今一つだったが、放射能に関しては親たちの恐怖心があっという間に膨れ上がってしまった。 今共存している放射線は毒にも薬にも成り得る。要は量の問題である。ほとんどの地域では放射線より生活習慣病から健康を害する可能性の方がよほど大きいと前回書いたところ、それでは今の福島ではどうなのかと問われた。その頃福島の汚染がどの程度なのかわからず、答えようがなかったが、最近の福島からの内部被曝量の測定結果をみると、幸いにも少ない被曝で済んでいる。食物からの内部被曝を少なくする努力もホットスポットの除去も地道に進めてくれている人たちがいる。やはり福島であっても、子供たちをどう育てればいいのか結論は変わらない。良く寝て良く笑い免疫力を高めること、大人になってもたばこは吸わないこと、子供の頃から甘いものを摂り過ぎると糖尿病になって血管を傷めるので、小さいころから食生活をコントロールすること、人とぶつかることを怖がらないこと。ご飯を作ることや片すことなど人間として生きていくために必要なことは自立して出来るようにすること。これが基本である。 放射線の「低量」がどこからどこまでをいうのか結論が出るのは数十年後である。だが、私たちは今この環境下で子供たちを育てていかなければならない。それならばその中で薬になるよう育てるだけである。少量の放射性物質が体にいいこともあるというデータがあるのなら、そこで生きていかなければいけない人々にとってそれは福音になる。周囲から大音量でヒステリックに否定しないで欲しい。ネガティブにとらえてストレスにさらされるのと、ポジティブにとらえて前向きに生きるのとどちらが体に良いかは解りきったことである。子供たちが健康に生き延びるヒントはそこにある。

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CKDが心筋梗塞発症に与える影響は、糖尿病より大きい

糖尿病患者が、心筋梗塞既往者と同等の心血管イベントリスクを有することはよく知られている。一方で、慢性腎臓病(CKD)と糖尿病が、それぞれ心血管イベントリスクに与える影響を比較した検討はこれまでなかった。今回、Tonelli M氏らによりこの検討がなされ、Lancet誌オンライン版2012年6月18日付に報告された。これにより、CKDが心筋梗塞発症に与える影響は糖尿病よりも大きい、という結果が明らかになった。カナダのアルバータ州の約127万人の住民データベースをもとに行われたコホート研究。本研究では、心筋梗塞や糖尿病の既往のある患者を入院や医療費のデータに基づく検証アルゴリズムにより分類し、検証した。CKDの定義は、ベースライン時のeGFR:15~59.9 mL/min/1.73m2(ステージ3または4)とした。対象者を、「心筋梗塞既往者(糖尿病やCKDの有無を問わない)」と、心筋梗塞既往のない患者のうち、「非糖尿病かつ非CKD患者」、「糖尿病患者(CKDなし)」、「CKD患者(糖尿病なし)」、「糖尿病かつCKD患者」、の5つのリスクグループに分けて、ポアソン回帰分析を使用して、フォローアップ期間中の心筋梗塞の相対発現率と非補正発現率を算出した。主要評価項目は、フォローアップ期間中における心筋梗塞による入院。 主な結果は以下のとおり。 ・フォローアップ期間中央値48ヵ月(四分位範囲[IQR]:25~65ヵ月)の間に、1%(11,340/1,268,029人)が心筋梗塞により病院に入院した。・心筋梗塞非補正発現率は、心筋梗塞既往者で最も高かった(1,000人・年あたり18.5、95%CI: 17.4~19.8)・心筋梗塞既往の無い場合、糖尿病患者(CKDなし)では、CKD患者(糖尿病なし)と比較して心筋梗塞発現率は少なかった (1,000人・年あたり5.4、95%CI:5.2~5.7 vs 1,000人・年あたり6.9、95%CI:6.6~7.2 ; p

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脂質異常症になりやすい統合失調症患者、肥満や糖尿病だけじゃない

統合失調症患者では肥満や糖尿病の罹患率が高く、とくに抗精神病薬の使用でこれらの発生率 が上昇することが問題となっている。脂質異常症もまた、統合失調症患者によくみられる合併症のひとつである。Hsu氏らは台湾の統合失調症患者における脂質異常症の罹患率・発症率を調査し、Gen Hosp Psychiatry誌2012年7月号(オンライン版2012年3月27日号)で報告した。2005年、18歳以上の766,427人の被験者を無作為抽出し、統合失調症の診断を受けた患者、脂質異常症を有する患者または薬物治療を行っている患者 を特定したうえで、統合失調症患者の脂質異常症の罹患率および発症率を一般集団と比較検討した。主な結果は以下のとおり。 ・統合失調症患者における脂質異常症の罹患率は一般集団より高かった(8.15% vs 8.10%、オッズ比:1.17、95%信頼区間:1.04~1.31)。・リスクファクターは、50歳以上、高保険料支払者、台湾北部または中部・都市部の生活者であり、青年期で非常に高い脂質異常症の罹患率であった。・2006年~2008年に第二世代抗精神病薬を使用していた統合失調症患者の脂質異常症平均年間発症率は、一般集団より高かった(1.57% vs 1.29%、オッズ比:1.31、95%信頼区間:1.11~1.55)。(ケアネット 鷹野 敦夫) 関連医療ニュース ・ケアネット 7月の特集「動脈硬化」 ・アルツハイマーの予防にスタチン!? ・精神疾患患者におけるメタボリックシンドローム発症要因は?

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