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Vol. 1 No. 2 CGM(continuous glucose monitoring)からみた薬物療法

西村 理明 氏東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科米国ピッツバーグ大学公衆衛生大学院はじめに糖尿病の治療目標は、糖尿病をできるだけ早期に発見し、かつ血糖値をできる限り正常に近づけ、糖尿病の合併症の発症を阻止すること、さらに合併症がすでにある場合はその進展を止めることである。現在、糖尿病患者における血糖コントロール指標として主にHbA1cと血糖値が用いられている。しかし、HbA1cは基本的に、長期にわたる血糖変動の平均値を反映する指標である1)。従って、日々の細かな血糖変動をあまり反映しない2)。現在、糖尿病患者の血糖変動を把握するための一般的な手段は、血糖自己測定(self monitoring of blood glucose:SMBG)である。しかし、SMBGは測定時点の血糖値を把握することはできるが、あくまでも測定時点における血糖値であり、測定時点の血糖値がはたして上昇傾向にあるか、変化がないのか、下降傾向にあるのかを推測することは困難である。本項では、CGMの原理ならびにわが国で使用可能な機器に触れ、次にCGMから見た各経口血糖降下薬の薬効に触れる。CGM(continuous glucose monitoring)とは1990年代後半に、前述したSMBGが抱える問題を連続測定により解決することを可能にした持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)機器が開発された。CGM機器は、皮下組織に留置したセンサー(専用の穿刺具により挿入する)を用いて、間質液中のグルコース濃度を連続して測定する。測定方法は、センサー中に含まれる酵素であるglucose oxidaseと、皮下組織間質液中のグルコースを連続的に反応させて電気信号に変換することによる。この間質液中のグルコース濃度の測定値と血糖値との間には乖離が生じるため、現時点では、すべての機器でSMBGを1日に1~4回程度行いその値を入力、もしくは利用することによる補正が必須である。この補正を行うことでCGMの測定値は血糖値に近似した値を連続して示すことが可能となる3)。いずれのCGMも、血糖値が上下するときの追随性、特に低血糖からの回復時の追随性が遅れるという問題を抱えている4,5)。厳密にいえば、CGM機器が実際に測定しているのは間質液中のグルコース濃度であり、血糖値ではない。しかし、CGM機器の測定値はSMBGの値に従って補正され血糖値に近似した値を示すことから、便宜上、本項ではCGM機器による測定値も血糖値と呼称する。現在、日本で使用が承認されているCGM機器は、Medtronic社が1999年にアメリカで販売を開始したメドトロニック ミニメド CGMS-Gold (以下CGMS)(図1)である6,7)。CGMSは10秒ごとに測定を行い、5分ごとの平均値を記録する。従って、1日288回の測定値が記録されるため、血糖の日内変動を把握するために十分な情報を得ることができる。本機器は、欧米より実に約10年遅れで日本における使用が正式に認可された。しかしながら、本機器は本体が大きく、防水でないため入浴時等の取り扱いに手間がかかり、穿刺したセンサーと本体をワイヤーで接続するため、装着時の被検者の負担が大きいという問題を抱えていた。最近、この問題を解決する、非常に小型のメドトロニックiPro®2(日本メドトロニック)が日本でも認可され、発売が開始された(図2)8)。本機器は、穿刺したセンサーと500円玉大の記録機器のみで構成されるため、装着時の負担がCGMSと比較し格段に軽減されており、かつ防水である。この機器により、CGMの使い勝手が格段に向上すると思われ、CGM機器の普及促進につながると信じている。図1 メドトロニック ミニメド CGMS-Gold(日本メドトロニック)(文献6,7より)画像を拡大する図2 メドトロニック iPro®2(日本メドトロニック)(文献8より)画像を拡大する薬物療法とCGM1. スルホニル尿素薬スルホニル尿素(SU)薬は、膵臓のβ細胞に存在するSUレセプターに長時間結合することでインスリンを放出する。SU薬は、この作用機序により強力に血糖値を下げ、結果としてHbA1cも低下することにより、わが国における糖尿病診療では今なお多用されている。しかしながら、膵臓からのインスリン分泌能が欧米人と比較して低いことが指摘されている日本人を含むアジア人に対して、SU薬を漫然と投与することは、膵臓のβ細胞の疲弊をもたらす可能性がある。CGMからみたSU薬の問題点は、食後の高血糖を抑制せず、主に夜間と夕食前に血糖値が低下する血糖値の谷を形成してしまうことである。SU薬高用量使用例における、典型的な血糖変動を示す。HbA1c(JDS値)が8.4%のため入院された77歳女性で、入院時グリベンクラミド(商品名:オイグルコン)を1日6.25mg内服(朝2.5mg、昼1.25mg、夕2.5mgの3回内服)されている方である。CGMを施行してみると、朝食後の血糖上昇が制御できず、朝食後には300mg/dLを超える血糖上昇が認められ、朝食後の血糖値のピークから夕食前まで血糖値は低下し、その低下幅は約150 mg/dLにもなること、さらには、夜間には無自覚の低血糖が観察された(本誌p33の図3を参照)9)。本症例は、(1)朝食後の血糖上昇を制御できないこと(2)夕食前に血糖が低下し、食欲が増加して結果として空腹感が増してしまい体重増加につながる可能性があること(3)HbA1cが高くても夜間に低血糖を起こす可能性があることという、SU薬の問題点を示している。2. 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)速効型インスリン分泌促進薬は、内服後短期間のみ膵臓のβ細胞を刺激しインスリンを分泌させる薬剤である。SU薬との薬効の差が顕著にみられた症例を示す。症例は55歳男性で、HbA1c(JDS値)が8%台を推移し、改善を認めないため入院された方である。入院前から内服していたミチグリニド(商品名:グルファスト)10mg 各食直前内服時の血糖変動をCGMにて評価した。その結果、食後の血糖上昇を含めた血糖変動幅はコントロールされているが、夜間ならびに各食前血糖値は200mg/dL前後と高い値を推移していることが判明した。この2日間における具体的な平均血糖値±SDは入院後2日目が210±23mg/dL、入院後3日目が211±27mg/dLである(本誌p33の図4を参照)。本症例では、内服回数を減らすべく、グリメピリド(商品名:アマリール)0.5mg朝1錠の内服に切り替え後2~3日目の血糖変動をCGMで評価している(本誌p33の図4を参照)。両者の血糖変動を比べると、グリメピリド内服時のほうが、ミチグリニド内服時と比較して、180mg/dL未満の部分の幅も180mg/dL以上の部分の幅も増加していることがわかる。180mg/dL未満の部分の増加に貢献している要因(つまり血糖値が改善している部分)に着目すると、ミチグリニド内服時と比較して、グリメピリド内服時には夕食前と夜間の血糖値が低下している。前項で示したSU薬高用量を使用している症例のCGMパターンと同じ時間帯の血糖値が低下している。一方、180mg/dL以上の部分が増加している要因に着目すると、グリメピリド内服時における食後の血糖上昇が、ミチグリニド内服時より顕著になっていることが明らかである。この2日間における、平均血糖値±SDは切り替え2日目が208±49mg/dL、切り替え3日目が202±35mg/dLであり、ミチグリニド内服時よりも平均血糖値が低下しているが、血糖変動幅(SD)は大きくなってしまう(夜間と夕方は血糖が低下するが、食後の血糖値が上昇してしまう)ことが明白である10)。本症例では、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)で肝障害の既往があるため、グリニド薬とビグアナイド薬であるメトホルミン(商品名:メトグルコ)と組み合わせたところ、血糖変動幅は変化しないまま平均血糖値が劇的に低下したため退院となった。3. α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)α-GIは炭水化物を分解する酵素の1つであるα-グルコシダーゼを阻害して炭水化物の吸収を遅らせることにより、食後の血糖上昇を抑制する薬剤である。その効果を示す症例を示す。52歳男性、HbA1c(JDS値)5.7%の方で、入院後にCGMを施行したところ食後の高血糖が著しいため(特に夕食後の血糖上昇のピーク値は300mg/dLに達している)、α-GIであるミグリトール(商品名:セイブル)50mg各食前投与を開始した。処方前3日間の血糖変動を処方直後の3日間の180mg/dLを超える部分の曲線下面積と比較すると、ミグリトール投与後には、180mg/dLを超えている面積が大幅に減少していることがわかる(本誌p34の図5を参照)9)。4. ビグアナイド薬ビグアナイド薬の代表はメトホルミンである。メトホルミンは、欧米のガイドラインにおいては2型糖尿病の薬物療法における第1選択薬とされている。ビグアナイド薬は主に、肝臓での糖新生の抑制、消化管からの糖吸収の抑制、末梢組織でのインスリン抵抗性の改善などの多彩な作用により血糖コントロールを改善する。それでは、メトホルミンの単独投与がどのように血糖変動を改善するのか、その1例を示す(図3)。39歳男性で入院時のBMIは28.8、HbA1c(JDS値)は9.3%であった。メトホルミン内服前の食事療法のみの時における平均血糖値±SDは、230±54mg/dLであった。メトホルミン750mg開始後7日目のCGMをみると、夜間ならびに食後血糖値すべてが改善していることがわかる。この日の平均血糖値±SDは、132±28mg/dLであった。本症例ではメトホルミンの内服により、平均血糖値は約100mg/dL、SDは半分程度にまで改善していた。本症例より、メトホルミンの効果発現は1週間程度でみられること、夜間ならびに食後血糖値も改善することが示されている。メトホルミンの食後血糖上昇抑制作用に関しては、インクレチン分泌作用による可能性が近年示されている11)。図3 2型糖尿病患者におけるメトホルミン投与前後の血糖改善効果(39歳男性)画像を拡大する5. チアゾリジン薬チアゾリジン薬は、インスリン抵抗性の改善を介して血糖コントロールを改善する。わが国で処方可能なチアゾリジン薬はピオグリタゾン(商品名:アクトス)のみであるが、ピオグリタゾンには心血管イベントの2次予防のエビデンスがあるため、インスリン抵抗性の改善ならびに心血管疾患の2次予防目的に頻用されている。ピオグリタゾンが奏効した方の血糖変動を示す(本誌p35の図7を参照)。症例は48歳男性で、すでに45歳時に心筋梗塞を発症している。糖尿病に関しては、2年前から循環器科でピオグリタゾン15mgが処方されていた。しかしながら、HbA1c(JDS値)が7.4%と十分に改善せず、心筋梗塞の再発予防のために入院となった。ピオグリタゾン15mg内服下で測定されたSMBGの値は極めて良好な値を示したため、血糖変動を検証するためにCGMを施行した。すると、食後の血糖上昇は抑制され、血糖変動は70~180mg/dLの範囲をほぼ推移していることが示された。この方のCGM施行中の平均血糖値±SDは145±22mg/dLであった9)。ピオグリタゾン単剤の投与前投与後のデータは、残念ながら持ち合わせていないが、おそらく、メトホルミンと同じような効果が見られると思われる。また、ピオグリタゾンの食後の血糖上昇抑制作用については明確な機序は示されていないが、肝臓のインスリン抵抗性の改善が影響している可能性がある。6. DPP-4阻害薬DPP-4阻害薬は、インスリン分泌を促進するホルモンであるインクレチン(GLP-1、GIP)の分解酵素であるDPP-4の働きを阻害することにより、血中のインクレチン濃度を高め、血糖降下作用を発揮する薬剤である。わが国において最初に販売されたDPP-4阻害薬であるシタグリプチン(商品名:ジャヌビアもしくはグラクティブ)の効果をCGMで観察した症例を示す。2型糖尿病の39歳男性で、入院時のHbA1c(JDS値)は6.8%の方である。食事療法のみの時の血糖変動と、シタグリプチン50mg開始後8日目のCGMデータを比較検討した(本誌p36の図8を参照)。シタグリプチンの内服にて、各食後の血糖上昇が抑制され、夜間の血糖値の推移が食事療法時は上昇傾向であったのが、平坦化していることが一目瞭然である12,13)。おわりに糖尿病患者の血糖変動パターンは極めて多彩である。従って、HbA1c値の低下のみを目指した杓子定規な薬物の選択によって、糖尿病患者の血糖変動を制御し、耐糖能正常者の血糖変動パターンに近づけることは極めて困難であると思われる。CGMからみた、理想的な経口血糖降下薬の組み合わせは、低血糖を起こしにくいα-GI、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬を中心に組み立て、必要であれば、グリニド薬を追加し、SU薬がどうしても必要であれば少量のみ使用するのが望ましいと個人的には考えている。糖尿病症例における血糖変動パターンにはおそらく個人差があり、将来的には糖尿病患者全員にCGMを施行し、このパターンをソフトウェアが解析して、ここで示したような各薬剤のCGMデータを元に最適な薬物療法、さらには薬物の組み合わせが提案され、主治医と患者が相談しながら治療法を選択する、テーラーメイド医療の時代が来ると思われる。文献1)Nathan DM, Kuenen J, Borg R, et al. A1c-Derived Average Glucose Study Group. Translating the A1c assay into estimated average glucose values. Diabetes Care 2008; 31(8): 1473-14782)Del Prato S. In search of normoglycaemia in diabetes: controlling postprandial glucose. Int J Obes Relat Metab Disord 2002; 26 Suppl 3: S9-173)Boyne MS, Silver DM, Kaplan J, et al. Timing of changes in interstitial and venous blood glucose measured with a continuous subcutaneous glucose sensor. Diabetes 2003; 52(11): 2790-27944)Cheyne EH, Cavan DA, Kerr D. Performance of a continuous glucose monitoring system during controlled hypoglycaemia in healthy volunteers. Diabetes Technol Ther. 2002; 4(5): 607-6135)Wolper t H A . Use of continuous glucose monitoring in the detection and prevention of hypoglycemia. J Diabetes Sci Technol 2007; 1(1): 146-1506)http://www.medtronic.com/country/japan/hcp/secure/diabetes/productinfo/cgms-gold.html7)http://www.medtronic.com/newsroom/content/1100187878655.low_resolution.jpg8)http://www.medtronic-diabetes.co.uk/productinformation/ipro-2.html9)西村理明. CGM 持続血糖モニターが切り開く世界 改訂版. 医薬ジャーナル社(東京), 201110)西村理明. CGM を用いた入院中の血糖管理. レジデント 2010; 3(11) : 104-11211)Migoya EM, Bergeron R , Miller JL , et al. Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors administered in combination with metformin result in an additive increase in the plasma concentration of active GLP-1. Clin Pharmacol Ther 2010; 88(6): 801-80812)Sakamoto M. Analysis of 24-hour antihyperglycemic effect in type 2 diabetes mellitus treating with dipeptidyl peptidase-4 (DPP4) inhibitor (sitagliptin) compare to alphaglucosidase inhibitor (voglibose): A case report using continuous glucose monitoring (CGM). Infusystems Asia 2010; 5: 31-3213)西村理明. 持続血糖モニター(CGM)機器とその血糖変動指標. 糖尿病レクチャー 糖尿病診断基準2010; 1(3): 533-539

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患者自身による「きめ細やかな基礎インスリンの用量調節」がカギ!

 2013年7月9日(火)、サノフィ株式会社による「2型糖尿病の最適な血糖コントロール」をテーマとしたメディアセミナーが開催された。演者の東京医科大学内科学第三講座 主任教授の小田原 雅人氏は、6月21日~25日に米国シカゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)年次学術集会において発表されたATLAS(Asian Treat to target Lantus Study)の意義について語り、「血糖コントロールが不十分な患者自身が基礎インスリンの用量調節を行った場合でも、良好な血糖コントロールが得られることが明らかになった」と述べた。インスリン療法の現状 インスリンは固定用量で投与する薬剤ではなく、血糖コントロールや病態に合わせて適切な用量に調節する必要がある。しかし、血糖コントロールが不十分であるにもかかわらず、初期投与量のまま増量していなかったり、専門医が設定した用量のまま漫然と継続していたりすることが多い。 今年、ADA年次学術集会で発表されたATLASは、基礎インスリンの用量調節に関する試験である。本試験はアジア人を対象とした試験ということもあり、今回のエビデンスは、わが国の2型糖尿病患者におけるインスリンの用量調節のあり方について、少なからず影響を与えるものと考えられる。ATLASの概要 ATLASは日本人を含むアジア人552例を対象に、インスリン グラルギンの新規導入時に医師主導もしくは患者主導で用量調節を行った場合の有効性を比較した試験である。両群とも同じアルゴリズムを用いて、空腹時血糖値が110mg/dLとなるようにインスリンの用量調節を行った。試験の結果、血糖値の相対的な低下度は、患者主導群の方が大きかった。また、重症低血糖の発現率は、患者主導群と医師主導群で差を認めなかった。夜間低血糖、症候性低血糖の発現率はいずれも患者主導群で高かったが、患者教育を行うことで対処が可能であった。まとめ 基礎インスリンの適切な用量調節を阻む要因は大きく分けて、「治療目標の認識不足」、「用量調節の指標がないこと」、そして「低血糖への恐れ」の3つであるという。現在は日本糖尿病学会のガイドラインにおいて、国内外における状況やエビデンスをふまえた血糖コントロール目標値が設定されているため、それぞれの患者に合った目標値を目指して治療を行うことが可能である。 また、ATLASの結果から、患者自身が簡易なアルゴリズムを用いて基礎インスリンの用量調節を行っても医師主導の治療に劣らない血糖コントロール効果が得られること、重症低血糖の発現率も差がないことが明らかになった。今後は基礎インスリンの積極的な用量調節を行い、患者のHbA1cをできるだけ健常人に近づけることが、合併症の発症・進展抑制、健常人と変わらない寿命・QOLの確保につながるのではないだろうか。

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糖尿病ケトアシドーシスの輸液管理ミスで死亡したケース

糖尿病・代謝・内分泌最終判決平成15年4月11日 前橋地方裁判所 判決概要25歳、体重130kgの肥満男性。約2週間前から出現した体調不良で入院し、糖尿病ケトアシドーシス(初診時血糖値580mg/dL)と診断されてIVHによる輸液管理が始まった。ところが、IVH挿入から12時間後の深夜に不穏状態となってIVHを自己抜去。自宅で報告を受けた担当医師は「仕方ないでしょう」と看護師に話し、翌日午後に再度挿入を予定した。ところが、挿入直前に心肺停止状態となり、翌日他院へ転送されたが、3日後に多臓器不全で死亡した。詳細な経過患者情報昭和49年9月3日生まれの25歳、体重130kgの肥満男性経過平成12年3月16日胃部不快感と痛みが出現、その後徐々に固形物がのどを通らなくなる。3月28日動悸、呼吸困難、嘔気、嘔吐が出現。3月30日10:30被告病院受診。歩行困難のため車いす使用。ぐったりとして意識も明瞭でなく、顔面蒼白、ろれつが回らず、医師の診察に対してうまく言葉を発することができなかった。血糖値580mg/dL、「脱水、糖尿病ケトアシドーシス、消化管通過障害疑い」と診断、「持続点滴、インスリン投与」を行う必要があり、2週間程度の入院と説明。家族が看護師に対し付添いを申し入れたが、完全看護であるからその必要はないといわれた。11:15左鎖骨下静脈にIVHを挿入して輸液を開始。約12時間で2,000mLの輸液を行う方針で看護師に指示。18:00当直医への申し送りなく担当医師は帰宅。このとき患者には意識障害がみられ、看護師に対し「今日で入院して3日目になるんですけど、管は取ってもらえませんか」などと要領を得ない発言あり。20:30ひっきりなしに水を欲しがり、呼吸促迫が出現。ナースコール頻回。17:20水分摂取時に嘔吐あり。22:45膀胱カテーテル自己抜去。看護師の制止にもかかわらず、IVHも外しかけてベッドのわきに座っていた。22:55IVH自己抜去。不穏状態のため当直医はIVHを再挿入できず。看護師から電話報告を受けた担当医師は、「仕方ないでしょう」と回答。翌日3月31日14:00頃に出勤してからIVHの再挿入を予定し、輸液再開を指示しないまま鎮静目的でハロペリドール(商品名:セレネース)を筋注。3月31日03:00肩で大きく息をし、口を開けたまま舌が奥に入ってしまうような状態で、大きないびきをかいていた。11:00呼吸困難、のどの渇きを訴えたが、意識障害のため自力で水分摂取不能。家族の要望で看護師が末梢血管を確保し、点滴が再開された(約12時間輸液なし)。14:20担当医師が出勤。再びIVHを挿入しようとしたところで呼吸停止、心停止。ただちに気管内挿管して心肺蘇生を行ったところ、5分ほどで心拍は再開した。しかし糖尿病性昏睡による意識障害が持続。15:30膀胱カテーテル留置。17:20家族から無尿を指摘され、フロセミド(同:ラシックス)を投与。その後6時間で尿量は175cc。さらに明け方までの6時間で尿量はわずか20ccであった。4月1日10:25救急車で別の総合病院へ搬送。糖尿病ケトアシドーシスによる糖尿病性昏睡と診断され、急激なアシドーシスや脱水の進行により急性腎不全を発症していた。4月4日19:44多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張糖尿病ケトアシドーシスで脱水状態改善の生理食塩水投与は、14~20mL/kg/hr程度が妥当なので、130kgの体重では1,820~2,600mL/hrの点滴が必要だった。ところが、入院してから47時間の輸液量は、入院注射指示簿によれば合計わずか2,000mLで必要量を大幅に下回った。しかも途中でIVHを外してしまったので、輸液量はさらに少なかったことになる。IVHを自己抜去するような状況であったのに、輸液もせずセレネース®投与を指示した(セレネース®は昏睡状態の患者に禁忌)だけであった。また、家族から無尿を指摘されて利尿薬を用いたが、脱水症状が原因で尿が出なくなっているのに利尿薬を用いた。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ、糖尿病患者が健康で長生きできることは公知の事実である。被告病院が適切な治療を施していれば、死亡することはなかった。病院側(被告)の主張入院時の血液検査により糖尿病ケトアシドーシスと診断し、高血糖状態に対する処置としてインスリンを適宜投与した。ただし急激な血糖値の改善を行うと脳浮腫を起こす危険があるので、当面は血糖値300mg/dLを目標とし、消化管通過障害も考えて内視鏡の検査も視野に入れた慎重な診療を行っていた。原告らは脱水治療の初期段階で1,820~2,600mL/hrもの輸液をする必要があると主張するが、そのような大量輸液は不適切で、500~1,000mLを最初の1時間で、その後3~4時間は200~500mL/hrで輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると、体重が平均人の2倍あるから2倍の速度で輸液を行うことができるというものではない。しかもIVHを患者が自己抜去したため適切な治療ができなくなり、当時は不穏状態でIVHの再挿入は不可能であった。このような状況下でIVH挿入をくり返せば、気胸などの合併症が生じる可能性がありかえって危険。セレネース®の筋注を指示したのは不穏状態の鎮静化を目的としたものであり適正である。そもそも入院時に、糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシスによる昏睡状態であったから、短期の治療では改善できないほどの重篤、手遅れの状態であった。心停止の原因は、高度のアシドーシスに感染が加わり、敗血症性ショックないしエンドトキシンショック、さらには横紋筋融解症を来し、これにより多臓器不全を併発したためと推測される。裁判所の判断平成12年当時の医療水準として各種文献によれば、糖尿病ケトアシドーシスの患者に症状の大幅な改善が認められない限り、通常成人で1日当たり少なくとも5,000mL程度の輸液量が必要であった。ところが本件では、3月30日11:15のIVH挿入から転院した4月1日10:25までの47時間余りで、多くても総輸液量は4,420mLにすぎず、130kgもの肥満を呈していた患者にとって必要輸液量に満たなかった。したがって、輸液量が大幅に不足していたという点で担当医師の判断および処置に誤りがあった。被告らは治療当初に500~1,000mL/hrもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあり危険であると主張するが、その程度の輸液を行っても急性心不全や肺水腫を起こす可能性はほとんどないし、実際に治療初日の30日においても輸液を160mL/hr程度しか試みていないのであるから、急性心不全や肺水腫を起こす危険性を考慮に入れても、担当医師の試みた輸液量は明らかに少なかった。さらに看護師からIVHを自己抜去したという電話連絡を受けた時点で、意識障害がみられていて、その原因は糖尿病ケトアシドーシスによるものと判断していたにもかかわらず、「仕方ないでしょう」などといって当直医ないし看護師に対し輸液を再開するよう指示せず、そのまま放置したのは明らかな過失である。これに対し担当医師は、不穏状態の患者にIVH再挿入をくり返せば気胸が生じる可能性があり、かえって危険であったと主張するが、IVHの抜去後セレネース®によって鎮静されていることから、入眠しておとなしくなった時点でIVHを挿入することは可能であった。しかもそのまま放置すれば糖尿病性昏睡や急性腎不全、急性心不全により死亡する危険性があったことから、気胸が生じる可能性を考慮に入れても、IVHによる輸液再開を優先して行うべきであった。本件では入院時から腹痛、嘔気、嘔吐などがみられ、意識が明瞭でないなど、すでに糖尿病性昏睡への予兆が現れていた。一方で入院時の血液生化学検査は血糖値以外ほぼ正常であり、当初は腎機能にも問題はなく、いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていた。ところが輸液が中断された後で意識レベルが悪化し、やがて呼吸停止、心停止状態となった。そして、転院時には、もはや糖尿病性昏睡の症状は治癒不可能な状態まで悪化し、死亡が避けられない状況にあった。担当医師の輸液に関する過失、とりわけIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した過失と死亡との間には明らかな因果関係が認められる。原告側合計8,267万円の請求に対し、合計7,672万円の判決考察夜中に不穏状態となってIVHを自己抜去した患者に対し、どのような指示を出しますでしょうか。今回のケースでは、内科医にとってかなり厳しい判断が下されました。体重が130kgにも及ぶ超肥満男性が、糖尿病・脱水で入院してきて、苦労して鎖骨下静脈穿刺を行い、やっとの思いでIVHを挿入しました。とりあえず輸液の指示を出したところで、ひととおりの診断と治療方針決定は終了し、あとは治療への反応を期待してその日は帰宅しました。ところが当日深夜に看護師から電話があり、「本日入院の患者さんですが、IVHを自己抜去し、当直の先生にお願いしましたが、患者さんが暴れていて挿入できません。どうしましょうか」と連絡がありました。そのような時、深夜にもかかわらずすぐに病院に駆けつけ、鎮静薬を投与したうえで再度IVHを挿入するというような判断はできますでしょうか。このように自分から治療拒否するような患者を前にした場合、「仕方ないでしょう」と考える気持ちは十分に理解できます。こちらが誠意を尽くして血管確保を行い、そのままいけば無事回復するものが、「どうして命綱でもある大事なIVHを抜いてしまうのか!」と考えたくなるのも十分に理解できます。ところが本件では、糖尿病ケトアシドーシスの病態が担当医師の予想以上に悪化していて、結果的には不適切な治療となってしまいました。まず第一に、IVHを自己抜去したという異常行動自体が糖尿病性昏睡の始まりだったにもかかわらず、「せっかく入れたIVHなのに、本当にしょうがない患者だ」と考えて、輸液開始・IVH再挿入を翌日午後まで延期してしまったことが最大の問題点であったと思います。担当医師は翌日午前中にほかの用事があり、午後になるまで出勤できませんでした。そのような特別な事情があれば、とりあえずはIVHではなく末梢の血管を確保するよう当直スタッフに指示してIVH再挿入まで何とか輸液を維持するとか、場合によってはほかの医師に依頼して、早めにIVHを挿入しておくべきだったと考えられます。また、担当医師が不在時のバックアップ体制についても再考が必要でしょう。そして、第二に、そもそもの輸液オーダーが少なすぎ、糖尿病ケトアシドーシスの治療としては不十分であった点は、標準治療から外れているといわれても抗弁するのは難しくなります。「日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2000」によれば、糖尿病ケトアシドーシス(インスリン依存状態)の輸液として、「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」と明記されているので、体重が130kgにも及ぶ肥満男性であった患者に対しては、1時間に500mLのボトルで少なくとも2本は投与すべきであったことになります。ところが本件では、当初の輸液オーダーが少なすぎ、3時間で500mLのボトル1本のペースでした。1時間に500mLの点滴を2本も投与するという輸液量は、かなりのハイペースとなりますので、一般的な感触では「ここまで多くしなくても良いのでは」という印象です。しかし、数々のエビデンスをもとに推奨されている治療ガイドラインで「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」とされている以上、今回の少なすぎる輸液量では標準から大きく外れていることになります。本件では入院当初から糖尿病性ケトアシドーシス、脱水という診断がついていたのですから、「インスリンによる血糖値管理」と「多めの輸液」という治療方針を立てるのが医学的常識でしょう。しかし、経験的な感覚で治療を行っていると、今回の輸液のように、結果的には最近の知見から外れた治療となってしまう危険性が潜んでいるので注意が必要です。本件でも、ひととおりの処置が終了した後で、治療方針や点滴内容が正しかったのかどうか、成書を参照したり同僚に聞いてみるといった時間的余裕はあったと思われます。最近の傾向として、各種医療行為の結果が思わしくなく、患者本人または家族がその事実を受け入れられないと、ほとんどのケースで紛争へ発展するような印象があります。その場合には、医学書、論文、各種ガイドラインなどの記述をもとに、その時の医療行為が正しかったかどうか細かな検証が行われ、「医師の裁量範囲内」という考え方はなかなか採用されません。そのため、日頃から学会での話題や治療ガイドラインを確認して知識をアップデートしておくことが望まれます。糖尿病・代謝・内分泌

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テレモニタリング+薬剤師による管理で血圧改善/JAMA

 患者の自宅からの家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療の有用性が、米国・HealthPartners Institute for Education and Research(ミネアポリス市)のKaren L Margolis氏らが行ったHyperLink試験で確認された。多くの有効な治療薬が開発されているにもかかわらず、米国では血圧が推奨値以下に管理されている成人高血圧患者は約半数にとどまる。最近の系統的レビューは、血圧の改善には診療体制を再編し、医師以外の医療従事者の主導で降圧治療の調整を行う必要があると結論づけており、遠隔治療と看護師、薬剤師主導のチーム医療を組み合わせた介入の有効性を示唆する研究結果もあるという。JAMA誌2013年7月3日号掲載の報告。多彩な患者に対する効果をクラスター無作為化試験で評価 HyperLink試験は、降圧治療における家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による患者管理を組み合わせた介入の有用性を検証するクラスター無作為化試験。ミネアポリス市およびセントポール市の16のプライマリ・ケア施設が、介入を行う群(8施設)または通常治療を行う群(8施設)に無作為に割り付けられた。 患者選択基準は収縮期血圧(SBP)≧140mmHgもしくは拡張期血圧(DBP)≧90mmHgとし、糖尿病や慢性腎臓病を併発する患者(基準値:SBP≧130mmHgもしくはDBP≧80mmHg)も含めた。介入群の患者は自宅で測定した家庭血圧のデータを薬剤師に送信し、薬剤師はデータに基づいて降圧治療の調整を行った。治療期間は1年であった。 主要アウトカムは、治療開始から6ヵ月、12ヵ月時のSBP<140/DBP<90mmHg(糖尿病、慢性腎臓病を併発する場合はSBP<130/DBP<80mmHg)の達成とし、18ヵ月時(治療終了後6ヵ月)の血圧管理、患者満足度などの評価も行った。塩分摂取制限や患者満足度も良好 2009年3月~2011年4月までに介入群に228例、通常治療群には222例が登録された。全体の平均年齢は61.1歳、女性が44.7%、白人が81.8%で、平均SBPは147.9mmHg、平均DBPは84.7mmHgだった。また、このうち糖尿病が19.1%、慢性腎臓病は18.6%にみられた。 主要アウトカムの治療開始6ヵ月時の達成率は、介入群71.8%、通常治療群45.2%(p<0.001)、12ヵ月時はそれぞれ71.2%、52.8%(p=0.005)、18ヵ月時は71.8%、57.1%(p=0.003)であり、いずれも介入群で有意に良好であった。 6ヵ月と12ヵ月の両時点で主要アウトカムが達成された患者は介入群57.2%、通常治療群30.0%(p=0.001)、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月のすべてで達成された患者はそれぞれ50.9%、21.3%(p=0.002)であり、有意な差が認められた。 介入群のSBPは、ベースラインから治療開始6ヵ月時までに21.5mmHg低下し、12ヵ月時には22.5mmHg、18ヵ月時には21.3mmHg低下した。DBPの低下はそれぞれ9.4、9.3、9.3mmHgであった。通常治療群のSBPはそれぞれ10.8、12.9、14.7mmHg低下し、DBPは3.4、4.3、6.4mmHg低下した。 SBPの低下は、いずれの時点でも介入群が有意に良好で、両群間の降圧の差は6ヵ月時が10.7mmHg(p<0.001)、12ヵ月時が9.7mmHg(p<0.001)、18ヵ月時は6.6mmHg(p=0.004)であった。DBPの低下も介入群が良好で、それぞれ6.0(p<0.001)、5.1(p<0.001)、3.0mmHg(p=0.07)の差が認められた。 介入群では、降圧薬の種類の増加、服薬遵守、塩分摂取制限、患者満足度なども良好で、安全性も許容可能なものであった。 著者は、「家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療は、通常治療に比べ降圧達成率が良好であり、効果は治療終了6ヵ月後も持続していた」とまとめ、「今後、費用対効果や長期効果が確かめられれば、このモデルは高血圧や他の慢性疾患の管理法として普及すると考えられる」と指摘している。

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中断機能が付いたインスリンポンプ、夜間低血糖イベントを37.5%減少/NEJM

 低血糖の閾値を感知する機能が付いたインスリンポンプは、毎日複数回を要するインスリン注射に匹敵する血糖管理の利点を有するが、重篤な夜間低血糖リスクを有意に低下するかについては明らかではなかった。そこで米国・Park Nicollet国際糖尿病センターのRichard M. Bergenstal氏ら研究グループは、あらかじめ設定した血糖値でインスリン注入が一時的に停止する中断機能(最長2時間)を加えて、その有用性を検証する無作為化試験を行った。その結果、同機能を加えることで、夜間低血糖が有意に低下したことを報告した。NEJM誌オンライン版2013年6月22日号掲載の報告より。インスリンポンプ中断機能あり群となし群で安全性、有効性を比較 閾値感知機能付きインスリンポンプについて、中断機能有無別にみた低血糖リスク低下の有用性を検証した多施設共同無作為化対照オープンラベル試験は、夜間低血糖記録のある1型糖尿病患者(適格条件:16~70歳、罹病期間2年以上、HbA1c値5.8~10.0%)を対象に行われた。試験期間は3ヵ月間だった。 被験者247例が無作為に、中断機能あり群(121例)と中断機能なし(対照)群(126例)に割り付けられた。主要安全性アウトカムは、HbA1c値の変化であり、主要有効性アウトカムは、平均曲線下面積(AUC)で評価した夜間低血糖イベント発生の有無であった。インスリンポンプ中断機能あり群の平均感知血糖値は92.6±40.7mg/dL 主要安全性アウトカムは両群で同程度だった。 夜間低血糖イベントに関する平均AUCは、中断機能あり群(980±1,200mg/dL×分)が対照群(1,568±1,995mg/dL×分)より、有意に37.5%小さかった(p<0.001)。 夜間低血糖イベントの発生は、中断機能あり群(1.5±1.0回/患者・週)が対照群(2.2±1.3回/患者・週)より、有意に31.8%低かった(p<0.001)。 中断機能あり群の夜間血糖感知の割合は、50mg/dL未満で57.1%、50~60mg/dL未満で41.9%、60~70mg/dL未満は26.8%、それぞれ有意に低かった(いずれもp<0.001)。 夜間2時間のポンプ中断中に示された1,438例の感知血糖値の平均値は、92.6±40.7mg/dLだった。 試験期間中に重篤な低血糖イベントは4例で発生したが、すべて対照群だった。糖尿病性ケトアシドーシスを呈した被験者はいなかった。

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クロピドグレル追加、TIA患者の脳卒中を予防/NEJM

 一過性脳虚血発作(TIA)および軽症虚血性脳卒中の患者において、クロピドグレル(商品名:プラビックス)+アスピリン併用療法はアスピリン単独療法に比べ脳卒中再発の予防効果が有意に優れることが、中国・首都医科大学附属北京天壇病院のYongjun Wang氏らが実施したCHANCE試験で示された。懸念された出血リスクの増加は認めなかった。中国では毎年、約300万人が新規に脳卒中を発症し、その約30%が軽症脳卒中であり、TIAの発症は毎年200万人以上に上るという。脳卒中は、TIAや軽症脳卒中から数週間以内に発症することが多く、パイロット試験ではクロピドグレル+アスピリン併用はアスピリン単独よりも脳卒中再発の予防効果が高い可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2013年6月26日号掲載の報告。再発予防効果を無作為化プラセボ対照比較試験で評価 CHANCE試験は、TIA、軽症脳卒中患者の脳卒中予防におけるクロピドグレル+アスピリン併用療法とアスピリン単独療法の有用性を比較する二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験。高リスクTIAまたは軽症急性虚血性脳卒中を発症後24時間以内の40歳以上の患者を対象に実施した。 併用群はクロピドグレル初回用量300mgを投与後、75mg/日を90日間、アスピリンは75mg/日を21日間投与した。単独群にはプラセボとアスピリン75mg/日を90日間投与した。両群とも、第1日目に非盲検下にアスピリン75~300mg(用量は担当医が決定)が投与された。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における90日以内の脳卒中(虚血性、出血性)の発症とした。脳卒中発症を32%抑制 2009年10月~2012年7月までに中国の114施設に5,170例が登録され、クロピドグレル+アスピリン併用療法群に2,584例、アスピリン単独療法群には2,586例が割り付けられた。 全体の年齢中央値は62歳、女性が33.8%で、イベントはTIAが27.9%、軽症脳卒中が72.1%、発症から割り付けまでの時間中央値は13時間であり、高血圧が65.7%、糖尿病が21.1%にみられ、喫煙経験者は43.0%であった。 90日以内の脳卒中発症率は併用群が8.2%(212/2,584例)と、単独群の11.7%(303/2,586例)に比べ有意に低下した(ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.57~0.81、p<0.001)。致死的あるいは回復不能な脳卒中は、併用群の5.2%(135/2,584例)、単独群の6.8%(177/2,586例)にみられた(0.75、0.60~0.94、p=0.01)。 副次的評価項目のうち、脳卒中・心筋梗塞・心血管死の複合アウトカム(8.4 vs 11.9%、HR:0.69、95%CI:0.58~0.82、p<0.001)および虚血性脳卒中(7.9 vs 11.4%、0.67、0.56~0.81、p<0.001)の発症率が、併用群で有意に少なかった。心血管死(0.2 vs 0.2%、1.16、0.35~3.79、p=0.81)や全死因死亡(0.4 vs 0.4%、0.97、0.40~2.33、p=0.94)は両群で同等だった。 中等度~重度の出血の発症率は併用群が0.3%(7/2,584例)、単独群も0.3%(8/2,586例)であった(p=0.73)。出血性脳卒中は両群とも8例ずつに認められ、発症率はいずれも0.3%だった(p=0.98)。 著者は、「発症後24時間以内の高リスクTIA、軽症虚血性脳卒中患者において、クロピドグレル+アスピリン併用療法はアスピリン単独療法に比べ90日脳卒中リスクを32%抑制し、懸念された出血リスクの増加は認めなかった」と結論している。

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今、学ぶ 『小児1型糖尿病の実態』

 2013年7月2日(火)都内にて、「小児1型糖尿病の実態」をテーマにセミナーが開かれた(サノフィ株式会社開催)。演者である駿河台日本大学病院の浦上 達彦氏(小児科 准教授)は、インスリンポンプやBBTが治療の主流になっている現状に触れたうえで、「子どもでも、ライフスタイルや血糖値の動きを見ながら、患者さんに合わせて注射法を選択する時代がきている」と述べた。 講演前半は、本年10月に開催予定の国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)にて会長を務めるRagnar Hanas氏から小児1型糖尿病患者の治療ガイドラインについての内容が語られた。 以下、内容を記載する。【小児1型糖尿病を取り巻く状況】 糖尿病への関心は高まっているが、「小児1型糖尿病」の認知はいまだ高くないのが現状ではないだろうか。しかし、小児1型糖尿病は小児特有の治療ニーズがあり、生涯続く小児疾患の中では比較的高頻度であることから、治療においても改善の余地が大きい。この背景を踏まえ、国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)では治療の円滑化を目的に、治療ガイドラインをインターネット上で公開し(www.ispad.orgからダウンロード可能)、血糖コントロールや低血糖、シックデイ対策を紹介するといった積極的な情報発信を行っている。【小児1型糖尿病の治療について】 小児1型糖尿病の治療目標は、患者が、健常な子どもと同等の成長、発育を認め、同じような生活を送れるようにすることである。治療においても、食事の摂取カロリーや運動を制限しない、など2型糖尿病とは異なるアプローチがとられる。また、血糖管理目標値は大人よりも高く、HbA1c値7.5%である。これは、子どもの場合、運動量や食事量が不規則になりがちなことから、低血糖リスクを考慮して定められている。【わが国の治療成績は高まっている】 日本における小児1型糖尿病の治療成績をみると、血糖コントロールは改善傾向にあり、重症低血糖の頻度も減少傾向にあることが、日本小児インスリン治療研究会(JSGIT)における平均HbA1c値の推移から明らかになっている。その要因として、国際的ガイドラインの制定や研究会等による啓発活動のほか、インスリン製剤自体の改良が考えられる。インスリン製剤については、速やかな吸収と短時間の消失を実現できる超速効型インスリンや24時間にわたり安定して血糖値をコントロールできる持効型インスリンの登場が、血糖管理の向上に一役買ったといえるだろう。【治療の主流は、BBTとインスリンポンプ】 インスリンの投与法としては、Basal-Bolus療法(BBT)が主流である。浦上氏は、自施設におけるインスリン治療の内訳を紹介し、1日に4~5回の注射、またはインスリンポンプによる治療割合が多いことを示した。インスリンポンプは一見難しそうにみえるが、その利便性から使用満足度が高いとされる。子どもが幼稚園に行っている時間帯にはあらかじめインスリン量を増やしておく、といった調整が可能な点が評価されている。今はまだ開発段階だが、「低血糖状態になるとインスリンの注入が自動的に止まる」、「血糖値の変動データから自動的にインスリン注入量を決める」といった、さながら人工膵臓のような機器の開発も進んでいるとのことであった。浦上氏は「対象が子どもであっても、ライフスタイル、血糖値の動きを見ながら注射法を選択する時代がきている」と講演をまとめた。【編集後記】 日本における小児1型糖尿病の発症率は小児10万人に対し1.5~2.0人と、北欧と比べると少ない。しかし、インスリンポンプを治療の主体とする北欧と比べ、日本におけるインスリンポンプの普及率は低い。その理由として、指導能力のある医師がいる施設が少ないことや、保険診療上、条件が限定される点が指摘されている。現状では、保険診療でカバーされる北欧のように、すべての患者がインスリンポンプを選択することは難しいわけだが、今後の新しい機器の開発や制度改革などで、少しでも多くの患者の治療選択肢が増えることを期待したい。

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過体重・肥満の2型糖尿病患者、生活習慣介入強化では心血管リスクは低下しない/NEJM

 過体重・肥満の2型糖尿病患者に対し、生活習慣介入を強化し体重減少を図っても、心血管イベントの発生率は減少しなかったことが明らかにされた。米国・ブラウン大学ワーレンアルパートメディカルスクールのRena R. Wing氏ら「Look AHEAD研究グループ(糖尿病健康アクション)」が報告した。過体重・肥満の2型糖尿病患者には体重減少が推奨されているが、これまで体重減少が心血管疾患へ及ぼす長期的な影響について明らかではなかった。NEJM誌オンライン版2013年6月24日号掲載の報告より。生活習慣介入強化群と糖尿病支援・教育群のアウトカムを比較 研究グループは、過体重もしくは肥満である2型糖尿病患者に対して、生活習慣介入を強化し体重減少を図ることで心血管疾患罹患率および死亡率が低下するかどうかを調べた。 試験は米国の医療施設16ヵ所を通じて行われた。2001年8月~2004年4月の間に5,145例が被験者として登録され、生活習慣介入強化群(2,570例、介入群)もしくは糖尿病支援・教育を受ける群(2,575例、対照群)に無作為に割り付けられ追跡を受けた(最大13.5年)。 主要アウトカムは、追跡期間中の心血管系が原因の死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・狭心症による入院の複合とした。試験は追跡期間中央値9.6年で打ち切り 試験は、追跡期間中央値9.6年で、介入の無益性が明らかになったとして早期打ち切りとなった。 体重減少は、本研究全体を通して、対照群より介入群で大きかった(1年時点:8.6%対0.7%、試験終了時6.0%対3.5%)。 また、生活習慣介入の強化は、初期においては、血糖値(糖化ヘモグロビン)を大きく低下させ、また身体活動度および全心血管リスク因子を大きく改善した。ただし、LDLコレステロール値は除外された(対照群のほうが低値)。 主要アウトカムの発生は、介入群403例、対照群418例であった。発生率はそれぞれ、100人・年につき1.83件、1.92件で、介入群のイベントハザード比は0.95(95%の信頼区間:0.83~1.09、p=0.51)であり有意差は認められなかった。

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Vol. 1 No. 2 糖尿病患者におけるPCIのエビデンス

大塚 頼隆 氏福岡和白病院循環器内科はじめに糖尿病(DM)および境界型糖尿病(IGT)患者の罹患数は、今後も全世界で増加の一途をたどると推測されている1)。現在、日本のDM有病率は全世界の第6位であり1)、また、厚生労働省のDM実態調査からもDM患者数は年々増加傾向にあり、2007年時点でDMかDMの可能性が否定できない人数は2,210万人に達すると報告されている2)。日本人において、DM(特に2型DM)患者は非DM患者に比べて心血管疾患、特に冠動脈疾患の発症のリスクが2~4倍に増加することが、久山町研究3)やJapan DiabetesComplications Study(JDCS)4)などの疫学調査から明らかである。また、舟形町研究からも、DMばかりでなく、IGTも心血管病のリスクファクターであることは明らかである3)。DMやIGTは、高血糖や酸化ストレスの増大ばかりでなく、インスリン抵抗性、高血圧、脂質代謝異常などの合併により複合的な病態を呈し、動脈硬化が進展すると考えられている。特に、食後過血糖(glucose spikes)は炎症・酸化ストレス増加により動脈硬化進展およびプラークの不安定化を招き、血管不全を起こす重要な因子と考えられている5)。事実、DM患者を長期観察したDiabetes Intervention Study(DIS)により、食後過血糖が心筋梗塞症の発症を増加させることが明らかとなり6)、食後過血糖が動脈硬化の強い促進因子であることも報告されている7)。本稿では、日本でも今後も増加し、他のリスクファクターよりも未だ解決されていないことが多いDMやIGTを有する患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)のエビデンスについて概説する。1)糖尿病合併の虚血性心疾患患者の冠動脈の特徴欧米の報告によると、DM患者の死因の約80%が動脈硬化性疾患によるものであり、その約7割以上が冠動脈疾患によるものである。DM患者の冠動脈疾患の死亡率が高い原因として、(1)無症候性であることがしばしばあり、発見が遅れる(2)多枝病変、重症左主幹部病変、びまん性病変であることが多く、重症かつ治療難治性である(3)心機能低下症例(拡張能障害を含めた)が多い(4)経皮的冠動脈形成術後の再狭窄率が高い(5)多数のリスクファクター合併や他の合併症が多いなどの特徴があるなどが考えられる8)。また、2型DM患者における心血管病発症率や死亡率は、非DM患者に比し、男性の場合約2倍、女性の場合は約4倍で、特に女性においてDMと非DMとの差は顕著である9)。われわれは、耐糖能異常患者の冠動脈病変の特徴を明らかにするために、冠動脈造影を施行しOGTTを施行した534名の冠動脈の定量的冠動脈解析を行い、平均血管径および平均狭窄病変長を算出した10)。また、その2つの冠動脈指標に寄与している因子も同時に解析した。その結果、平均血管径は「正常耐糖能」「IGT」「preclinical DM」「treated DM」の順に小さくなり、平均狭窄病変長もその順に長くなることが証明された(本誌p21の図1を参照)。つまりこの結果は、耐糖能の病状が進むほどプラーク増加に伴い血管径が細くなり、びまん性の病変になることを示している。また、血管径および狭窄病変長に食後過血糖が強く関与していることがこの検討からは示唆された。このような特徴は、血管内超音波で調べられた研究におけるプラーク量が、非DM患者に比しDM患者において有意に多いことと一致するデータと考えられる11)。2)PCI後の予後上記のような冠動脈の特徴を持つDM患者は、PCI後の再狭窄率が高く、長期的な心血管イベント率が高いことが以前から知られている。われわれは、この冠動脈の特徴と耐糖能異常が、PCI後の長期の予後にどのように関与しているかを検討した12)。PCI対照血管径を、2.5mm以上と未満で大血管径、小血管径とに分け、「小血管径+耐糖能異常グループ」「小血管径+正常耐糖能グループ」「大血管径+耐糖能異常グループ」「大血管径+正常耐糖能グループ」の4群に分類し、PCI後の長期予後を検討した。小血管径+耐糖能異常グループは早期から心血管イベントが多く予後は不良であるが、大血管径であっても耐糖能異常があるグループは特に5年後より心血管イベントが増加し、長期的に予後不良であることが判明した(本誌p22の図2を参照)。また、多変量解析により、耐糖能異常が心血管イベントおよび死亡に大きく関与することが示され、PCI後の患者において長期的な予後に耐糖能異常そのものが大きな因子であることが明らかとなった。最近のimaging modalityを用いた研究では、急性冠症候群患者において、DM患者は非DM患者に比べて、不安定プラークを意味するTCFA(thincap fibroatheroma)が多く存在していることが明らかとなった13)。また、DMの罹病歴が長い患者ほどプラーク量が多く、TCFAの比率が高いことも証明されている14)。つまり、耐糖能異常をもつ患者は血管性状も悪く、“質も悪い”ということになる。局所治療のPCIのみでは、血管全体が悪いDM患者の長期予後の改善効果には結びつかないのである。このことはPCI(局所治療)を行った後も、DM患者においてはよりintensiveな動脈硬化治療を長期に行わなければならないことを意味している。3)PCIまたはCABG経皮的バルーン血管形成術(POBA)およびベアメタルステント(BMS)時代のDM患者は、非DM患者に比べて再狭窄率が高く、治療に難渋する症例も多々存在した。しかし、薬剤溶出性ステント(DES)の登場により再狭窄率は激減し、再狭窄率が高かったDM患者においても再狭窄率は激減している15)。DESを用いたPCIが標準治療となった現在、複雑病変や多枝病変についても良好な成績が示されている。しかしながら、DMが合併した多枝病変の治療において、血行再建の選択は難しい問題である。POBA時代のBARI研究においては、DMを有する患者において、冠動脈バイパス術(CABG)の方がPOBAによるPCI治療に比べて、長期的に死亡率が有意に低いことが示されている16)。POBA(6 trials)およびBMS(4 trials)を用いたPCI治療とCABGを比較したメタ解析によると、約5年予後において全体では死亡、心筋梗塞の発生率に両群間に差はなく、再血行再建率はCABGが有意に低いという結果であった17)。一方、DM患者のみのサブ解析では、BARI研究と同様にPCI治療群において死亡率が有意に高いという結果であった17)。再狭窄の問題とは別に、PCIがlesion treatmentであるのに対して、CABGはvessel treatmentであるため、血管全体が悪いDM患者においてCABGの方が血管保護的に働く(バイパスされている血管にイベントが生じても、心血管イベントに繋がらない)のではないかと推測される。一方、薬物療法が発達した現在、DM患者に対してDESを用いたPCIとCABGを比較した最近の研究においては、短期から中期予後において、少なくとも死亡・心筋梗塞・脳卒中の発生率において両群間に差がないことが示されている(本誌p23の図3を参照)18-20)。CARDia試験においてはDESまたはBMS vs. CABGが、SYNTAX試験のサブグループにおいてはpaclitaxel-eluting stent vs. CABGが比較検討されている(本誌p24~25の図4を参照)。これらの報告からは、DM患者における血行再建において未だ再血行再建率はPCI群が高いが、脳血管イベントに関してはCABGが高いことが示されている。また、SYNTAX scoreを用いた解析で、冠動脈が重症な患者ほどCABGの心血管イベントが低いことが報告されており(本誌p24~25の図4を参照)21)、DM患者の治療選択の際に冠動脈の重症度は大きな因子である。われわれも、多枝病変を有するDM患者に対するoff-pump CABGとDES(sirolimus-eluting stent)を用いたPCIの3年予後を検討しており、3年の死亡、心筋梗塞を含めた総心血管イベントに両群間で差は認めないが、PCIは再血行再建率が有意に高く、CABGは脳血管イベントが有意に高いという結果が得られた(本誌p26の図5を参照)22)。また、SYNTAX scoreはCABGで有意に高値であった。このデータはrandomized controlled trialではないので、すべての多枝病変を有するDM患者にこの結果を当てはめることはできない。しかし、内科医・外科医が患者背景および冠動脈の重症度からPCIまたはCABGの選択を適切に判断すれば、DM合併多枝病変患者においてもDESを用いたPCIで良好な成績が期待できると思われる。また、PCIとCABGの直接比較試験ではないが、DM合併の虚血性心疾患患者を対象に、「早期血行再建+積極的薬物療法」と「積極的薬物療法単独」とを比較したBARI-2D研究では23)、積極的薬物療法単独群の42%が血行再建へ移行したが、両群間に死亡率の差はなく、より重症冠動脈病変が多いCABG群のほうが薬物療法群より心筋梗塞発症率が少ないことが報告された。つまり、血行再建を行う上で積極的薬物療法は不可欠であるのは間違いなく、重症冠動脈病変にはCABGがより有効であることが示唆される。長期のイベントにおいては、未だ十分なデータの蓄積はないが、RAS系降圧薬、スタチンや抗血小板薬などの内科的治療が発達した現在、多枝病変をもつDM患者におけるPCI治療の位置づけが今後のデータによりはっきりするのではないかと考えられる。特に、第1世代のDESに比べ、安全性および有効性が良好な第2・第3世代のDESでのデータが待たれる。現状では、DM合併の虚血性心疾患患者は予後不良と認識し、積極的薬物療法を行いつつ、個々の患者背景、冠動脈病変の重症度を十分評価した上で、心臓血管外科医との適切な検討のもと治療戦略を立てて治療に当たるべきであると考えられる。4)再狭窄への対応DMは、ステント留置後のステント内再狭窄において最も重要なリスク因子の1つである。ステント留置後の再狭窄の原因は新生内膜の増生であるが、DM患者へのステント留置後のステント内新生内膜の増生は、非DM患者へのステント留置後に比べて多いことが知られている。それは、DM患者の血管性状(4つの重要な因子)が大きく関与している(本誌p27の表1を参照)24)。DMでは、高血糖、インスリン抵抗性だけでなく、先にも述べたように高血圧や脂質代謝異常の合併により複合的な病態を有しており、DM患者に合併した多数のリスク因子の合併が新生内膜の増生や動脈硬化進展に寄与しているところが大きい。DMは慢性高血糖状態によりprotein kinase Cの活性化に伴う酸化ストレスの産生亢進や、NF-κBの活性化を介した炎症性サイトカインや増殖因子の分泌を促進し、内皮障害、血管拡張障害および動脈硬化進展を引き起こしている25)。しかし、血糖を下げる糖尿病治療薬において、現在のところ、再狭窄を予防できる確立したエビデンスはない。また、転写調節因子のperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)-γは、インスリン抵抗性の改善や脂肪細胞の分化誘導、および抗炎症作用などと関連していることが報告され、それにより動脈硬化進展や再狭窄予防に作用することが知られている25)。PPAR-γのアゴニストでインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン薬は、炎症反応、LDLコレステロール、中性脂肪などの減少効果を持ち合わせ、動物実験により平滑筋細胞の増殖抑制や再狭窄予防効果が確認されている26)。また、いくつかの臨床研究において、チアゾリジン薬がステント内再狭窄を抑制することが報告されており27-29)、最近のメタアナリシスでもチアゾリジン薬がDM患者の再狭窄を予防するばかりでなく30)、非DM患者においても再狭窄予防効果があることが報告されている31)。このことは、チアゾリジン薬が血糖降下作用ばかりでなく、他の多面的効果により再狭窄を予防する可能性が示唆されるデータと考えられる。また、PERISCOPE試験におけるスルホニルウレア(SU)薬との比較では、チアゾリジン薬が動脈硬化進展抑制(むしろ退縮)する可能性を示した32)。一方、SU薬やインスリンに比べ、心筋梗塞症および死亡の減少に効果があることがUKPDS 80において報告されたメトホルミンが33)、PCI後のDM患者の心筋梗塞症や再血行再建術の発生を減らすことがいくつかの臨床試験で報告されており34, 35)、現在のところ、チアゾリジン薬、メトホルミン、後述するDPP-4阻害薬は、再狭窄を予防する糖尿病治療薬として期待できる薬剤であり、PCIを施行したDM患者に選択すべき薬剤ではないかと考える(本誌p27の表2を参照)。5)2次予防このように、長期的に予後不良なDMおよびIGT患者は、血行再建を行うと同時に長期的予後改善を目指して、厳重なる2次予防が重要である。DM患者を対象としたSteno-2 試験では、厳格かつ集学的な治療(血糖コントロールばかりでなく、厳密な脂質コントロールや血圧コントロールなど)を行うと、特に長期的に心血管イベントを有意に抑制できることや、legacy effect(遺産効果)を認めることが証明されている36)。従来療法群に比較して、強化療法群では心血管死、非致死性心筋梗塞および脳卒中を含めた複合1次エンドポイントが50%低下している。現在のところ、虚血性心疾患患者の2次予防としてエビデンスがあるのはピオグリタゾンのPROactive研究である37)。PROactive研究の中で心筋梗塞症の既往のあるサブグループ解析では、placeboに比べピオグリタゾンは急性冠症候群の発症を有意に(37%)減少させている。また、先にも述べたPERISCOPE研究において、SU薬のグリメピリドでは冠動脈プラークの進展が認められたが、ピオグリタゾンでは冠動脈プラークがむしろ退縮させることが確認され、抗動脈硬化作用があることが証明されている32)。また、新規DM患者を対象としたUKPDS 80では、SU薬とインスリンによる厳格な血糖コントロールを行った群の方が、通常治療群よりも心筋梗塞症の発症率や死亡率を減少させることが証明され、特にメトホルミンを使用した群では、さらに心筋梗塞症の発症率や死亡率を低下させることが証明されている33)。メトホルミンは、血糖コントロール以外にも心血管保護作用があることが報告されており、虚血性心疾患の2次予防にも期待できる薬剤である。インクレチン(GLP-1)の働きを利用する薬剤として、最近使用可能となったDPP-4阻害薬が注目されている。GLP-1受容体は心筋細胞や血管内皮細胞に存在しているため、DPP-4阻害薬は心血管保護作用をもつのではないかと推測されている。最近の動物実験により、DPP-4阻害薬はApo Eノックアウトマウスの内皮機能改善効果および動脈硬化進展予防が確認されている38)。また、この論文では、虚血性心疾患のない患者の血中活性型GLP-1濃度は、虚血性心疾患のある患者の血中活性型GLP-1濃度よりも有意に高値であることが示され、それは非DM患者においても同様であることが報告されている。このことは、血糖コントロールによる動脈硬化進展予防効果以外に、活性型GLP-1上昇による抗動脈硬化作用がDPP-4阻害薬には期待できる可能性を示唆している38, 39)。よって、DPP-4阻害薬も虚血性心疾患患者の2次予防に期待できる薬剤と考えられる。また、IGT患者に対しては、STOP-NIDDM研究40)や日本人のVICTORY研究41)においてα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)が有意に新規DM発症を予防することが報告されており、STOP-NIDDMにおいては、心血管イベントを49%低下させることが報告されている42)。特に、心血管イベントの中で、急性心筋梗塞症の発症を有意に低下させていることは注目すべき点である。このことは、DM患者を対象にしたメタ解析のMeRIA7における、α-GIが心血管イベント特に心筋梗塞症の発症リスクを有意に減少させるとした結果と一致しており43)、食後過血糖を抑制するα-GIは、虚血性心疾患患者の2次予防に期待できる薬剤であるといえる。現在のところ、虚血性心疾患の2次予防という観点において、DM患者にはチアゾリジン薬、メトホルミン、DPP-4阻害薬、IGT患者にはα-GIまたはDPP-4阻害薬が期待できる薬剤ではないかと考えられる。最後にDM患者に対するPCIは、DESの登場により再狭窄は激減しているが、未だDM患者はPCI後のハイリスク因子であることに変わりはない。DM患者を治療する上での留意点としては、上記のようなDM患者の冠動脈の特徴を理解しつつ、血管(狭窄)のみを診て治療するのではなく、患者全体を診て、長期的な予後改善の観点に立ちインターベンション治療と同時に積極的薬物的なインターベンションも考慮して治療を行わなければならないと考えている。また、早期の耐糖能異常の検索も重要である。われわれは急性心筋梗塞症患者に対して退院前に75g OGTTを施行している44)。その結果、正常耐糖能の 25%に対し、IGT 33%、preclinical DM 16%、DM 26%という割合であり、いわゆる“隠れ耐糖能異常”の存在が多いことが明らかとなった。これは、欧米からの報告45)とまったく同じ結果であり、虚血性心疾患患者における隠れ耐糖能異常の存在は日本人にとっても“対岸の火事”ではない。また、虚血性心疾患発症後は耐糖能異常を発症するリスクが高まることも報告されている46)。このように、虚血性心疾患を発症した患者には耐糖能異常が多く存在することを認識し、また、耐糖能異常の発症リスクが高いことも理解し、早期からの検索および治療介入を行う必要があるのではないか。そのためにも、日本人におけるDMまたはIGT合併の虚血性心疾患患者に対する検索の意義および治療介入のエビデンスがさらに必要である。さいたま医療センターの阿古潤哉先生、神戸大学の新家俊郎先生らとともに、糖尿病専門医の先生方も交えて心疾患と糖尿病に関する研究会「Cardiovascular Diabetology meeting」を発足し、日本人におけるエビデンス構築に一役買いたいと考えている。興味のある方は、ぜひともご参加いただきたい。文献1)http://www.eatlas.idf.org/media/2)http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1225-5.html3)Tominaga M, Eguchi H, Manaka H, et al. 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4271.

新種のMERSコロナウイルスの院内ヒト間感染を確認/NEJM

 重篤な肺炎を引き起こす新種の中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome; MERS)コロナウイルス(MERS-CoV)の、医療施設内でのヒト間感染の可能性を示唆する調査結果が、サウジアラビア保健省のAbdullah Assiri氏らKSA MERS-CoV調査団により、NEJM誌オンライン版2013年6月19日号で報告された。 2003~2004年のSARSパンデミック以降、呼吸器感染症の原因となる2種類の新規ヒトコロナウイルス(HKU-1、NL-63)が確認されているが、いずれも症状は軽度だった。一方、2012年9月、世界保健機構(WHO)に重篤な市中肺炎を引き起こす新種のヒトコロナウイルス(β型)が報告され、最近、MERS-CoVと命名された。現在、サウジアラビアのほか、カタール、ヨルダン、英国、ドイツ、フランス、チュニジア、イタリアでヒトへの感染が確認されているが、感染源などの詳細は不明とされる。院内アウトブレイクの実態を調査 調査団は、サウジアラビアの医療施設で発生したMERS-CoV感染症の院内アウトブレイクの実態を調査した。 医療記録を精査して臨床的、人口学的情報を収集し、感染者および感染者と接触した可能性のある者を同定して面接調査を行った。潜伏期間および発症間隔(感染者とこの感染者と接触した者の症状発現の時間差)について検討した。 2013年4月1日~5月23日までに、サウジアラビア東部で23例のMERS-CoV感染者が報告された。年齢中央値は56歳(24~94歳)、男性が17例(74%)、50歳以上が17例(74%)、65歳以上が6例(26%)であり、基礎疾患は末期腎疾患が12例(52%)、糖尿病が17例(74%)、心疾患が9例(39%)、喘息を含む肺疾患が10例(43%)に認められた。15例(65%)が死亡、21例(91%)はヒト間感染 症状としては、発熱が20例(87%)、咳嗽が20例(87%)、息切れが11例(48%)、消化管症状が8例(35%)にみられ、腹部または胸部X線画像上の異常所見が20例(87%)に認められた。 6月12日の時点で15例(65%)が死亡し、6例(26%)が回復、2例(9%)は入院中であった。潜伏期間中央値は5.2日、発症間隔は7.6日であった。 23例中21例(91%)が、透析室、集中治療室、病室などの入院施設内でのヒト間感染であった。感染者と接触のあった家族217人(成人120人、小児97人)のうち成人5人(3人は検査で確定)、および感染者と接触のあった200人以上の医療従事者のうち2人(2人とも検査で確定)が感染した。 著者は、「医療施設内におけるMERS-CoVのヒト間感染が示唆され、重大な感染拡大に結びついた可能性がある」と結論している。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD: duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義筋ジストロフィーは、骨格筋の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性の筋疾患の総称である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はその中でも最も頻度が高く、しかも重症な病型である。■ 疫学欧米ならびにわが国におけるDMDの発症頻度は、新生男児3,500人当たり1人とされている。有病率は人口10万人当たり3人程度である。このうち約2/3は母親がX染色体の異常を有する保因者であることが原因で発症し、残りの1/3は突然変異によるものとされている。まれに染色体転座などによる女児または女性のDMD患者が存在する。ジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失により発症するベッカー型筋ジストロフィー(BMD:becker muscular dystrophy)はDMDと比べ、比較的軽症であり、BMDの有病率はDMDの1/10である。■ 病因DMDはX連鎖性の遺伝形式をとり、Xp21にあるジストロフィン遺伝子の異常により発症する。ジストロフィン遺伝子の産物であるジストロフィンは、筋形質膜直下に存在し、N端ではF-アクチンと結合し、C端側では筋形質膜においてジストロフィン・糖タンパク質と結合し、ジストロフィン・糖タンパク質複合体を形成している(図1)。ジストロフィン・糖タンパク質複合体に含まれるα-ジストログリカンは、基底膜のラミニンと結合する。したがって、ジストロフィンは、細胞内で細胞骨格タンパク質と、一方ではジストロフィン・糖タンパク質複合体を介して筋線維を取り巻く基底膜と結合することにより、筋細胞(筋線維)を安定させ、筋収縮による形質膜のダメージを防いでいると考えられている。DMDではジストロフィンが完全に欠損するが、そのためにジストロフィン結合糖タンパク質もまた形質膜から欠損する。その結果、筋線維の形質膜が脆弱になり、筋収縮に際して膜が破綻して壊死に陥り、筋再生を繰り返しながらも、徐々に筋線維組織が脂肪組織へと置き換わっていく特徴を持っている。画像を拡大する■ 症状乳児期に軽度の発育・発達の遅れにより、処女歩行が1歳6ヵ月を過ぎる例も30~50%いる。しかしながら、通常、異常はない。2~5歳の間に転びやすい、走るのが遅い、階段が上れないなど、歩行に関する異常で発症が明らかになる。初期より腰帯部が強く侵されるため、蹲踞(そんきょ)の姿勢から立ち上がるとき、臀部を高く上げ、次に体を起こす。進行すると、膝に手を当て自分の体をよじ登るようにして立つので、登はん性起立(Gowers徴候)といわれる。筋力低下が進行してくると脊柱前弯が強くなり、体を左右に揺するようにして歩く(動揺性歩行:waddling gait)。筋組織が減少し、結合組織で置換するため、筋の伸展性が無くなり、関節の可動域が減り、関節の拘縮をみる。関節拘縮はまず、足関節に出現し、尖足歩行となる。10~12歳前後で歩行不能となるが、それ以降急速に膝、股関節が拘縮し、脊柱の変形(脊柱後側弯症:kyphoscoliosis)、上肢の関節拘縮もみるようになる。顔面筋は初期には侵されないが、末期には侵され、咬合不全をみる。10代半ばから左心不全症状が顕性化することがあり、急性胃拡張、イレウス、便通異常、排尿困難などを呈することもある。外見的な筋萎縮は初期にはあまり目立たないが、次第に躯幹近位筋が細くなる。本症では、しばしば下腿のふくらはぎなどが正常よりも大きくなる。これは一部筋線維が肥大することにもよるが、主に脂肪や結合組織が増えることによるもので、偽(仮)性肥大(pseudohypertrophy)と呼ばれる。知能の軽度ないし中等度低下をみることがまれでなく、平均IQは80前後といわれている。しかし、病理学的に中枢神経系に異常はない。最終的に呼吸障害や心障害を合併するが、近年の人工呼吸器の進歩により40歳位まで寿命を保つことが可能となっている。■ 分類X連鎖性の遺伝形式をとる筋ジストロフィーとしては、DMDやジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失によって発症するBMDのほかにX染色体長腕のエメリン遺伝子異常によって発症するエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD:emery-dreifuss muscular dystrophy)がある。■ 予後発症年齢は2~5歳、症状は常に進行し10~12歳前後で歩行不能となる。自然経過では20代前半までに死亡する。わが国では呼吸不全、感染症などに対する対策が進み、40歳以上の生存例も増えている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断本症が強く疑われる場合は、遺伝子検査を遺伝カウンセリングの下に行う。MLPA(Multiplex ligation-dependent probe amplification)法では、比較的大きな欠失/重複(DMD/BMD患者の約70%)が検出できる。微細な欠失/重複・挿入・一塩基置換による変異(ミスセンス・ナンセンス変異)の検出には、ダイレクトシークエンス法が必要となる。遺伝子検査で異常がみつからない場合も、筋生検で免疫組織学的にジストロフィン染色の異常が証明されれば診断できる。■ 検査1)一般生化学的検査血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase: CK)が中程度~高度上昇(そのほか、ミオグロビン、アルドラーゼ、AST、ALT、LDHなども上昇)する。発症前に高CK血症で気付かれるケースがある。そのほか、血清クレアチンの上昇、尿中クレアチンの上昇、尿中クレアチニンの減少をみる。2)筋電図筋原性変化(低振幅・単持続・多相性活動電位、干渉波の形成)を確認する。3)骨格筋CTおよびMRI検査4歳以降に大臀筋の脂肪変性、引き続き大腿、下腿の障害がみられる。大腿直筋、薄筋、縫工筋、半腱様筋は比較的保たれる。4)筋生検筋線維の変性・壊死、大小不同像、円形化、中心核線維の増加、再生筋線維、間質結合組織増加、脂肪浸潤の有無を確認する(図2(A))。ジストロフィン抗体染色で筋形質膜の染色性の消失(DMD)(図2(B))、低下がみられる。また、骨格筋のイムノブロット法で、DMDでは427kDaのジストロフィンのバンドの消失、BMDでは正常より分子量の小さい(もしくは大きい)バンドが確認される。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DMDに対するステロイド治療以外は、対症的な補助治療にとどまっているが、医療の進歩と専門医の努力、社会的なサポート体制の整備などにより、DMDの寿命は平均で約10年延長した。このことはQOLや社会への参加など、患者の人生全体を見据えた取り組みが必要なことを強く示唆している。1)根本治療開発の状況遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療など精力的に基礎・臨床研究が進められている。モルフォリノや2'O-メチルなどのアンチセンス化合物を用いたエクソン・スキップ薬の開発に期待が集まっている。2011年初頭から、エクソン51スキップ薬開発のための国際共同治験に日本も参加し、これ以外のエクソンをターゲットにした治療も開発研究が進んでいる。また、リードスルー薬、遺伝子治療や幹細胞移植治療も北米・欧州を中心に、臨床研究がすでに始まっており、早期の臨床応用が望まれる。2)ステロイド治療DMDにおいてステロイド治療は筋力、運動能力、呼吸機能の面で有効性を認める。一般に5~15歳の患者に対して、プレドニゾロンの投与を行う。事前に水痘ワクチンを含む予防接種は済ませておくように指導する。ADL(日常生活動作)や運動機能、心機能、呼吸機能の評価と共に、ステロイドの副作用(体重増加、満月様顔貌、白内障、低身長、尋常性ざ瘡、多毛、消化器症状、精神症状、糖尿病、感染症、凝固異常など)についても十分評価を行う。ステロイドの投与量は必要に応じて増減する。なお、DMDに対するプレドニゾロンの効能・効果については、2013年2月に公知申請に係る事前評価が終了し、薬事承認上は適応外であっても保険適用となっている。3)呼吸療法DMDの呼吸障害の病態は、一義的には呼吸筋の筋力低下や側弯などの骨格変形による拘束性障害である。肺活量は9~14歳でプラトーに達し、以降低下する。深呼吸ができないため肺・胸郭の可動性(コンプライアンス)の低下によって肺の拡張障害と、さらに排痰困難のため気道閉塞による窒息のリスクが生じる。進行に応じ、呼吸のコンプライアンスを保つことが重要である。(1)舌咽頭呼吸による最大強制呼吸量の維持訓練に加え(2)気道クリアランスの確保(徒手的咳介助、機械的咳介助、呼吸筋トレーニングなど)を行うことは、換気効率の維持や有効な咳による喀痰排出につながる(3)車いす生活者もしくは12歳以降に車いす生活になった患者は定期的に(年に2回)呼吸機能評価を行う(4)必要に応じ、夜間・日中・終日の非侵襲的陽圧換気療法の導入を検討する4)心合併症対策1970年代には死因の70%近くが呼吸不全や呼吸器感染症であったが、人工呼吸療法と呼吸リハビリテーションの進歩により、現在では60%近くが心不全へと変化した。心不全のコントロールがDMD患者の生命予後を左右する。特徴的な心臓の病理所見は線維化であり、左室後側壁外側から心筋全体に広がる。進行すると心室壁は菲薄化、内腔は拡大し、拡張型心筋症様の状態となる。定期的な評価が重要で、身体所見、胸部X線、心電図、心エコー(胸郭の変形を念頭におく)、血漿BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)測定、心筋シンチグラフィー、心臓MRIなどを行う。薬物治療としては、心筋リモデリング予防効果を期待してACE阻害薬、β遮断薬の投与が広く行われている。5)栄養幼少期から学童初期は、運動機能低下と骨格筋減少によるエネルギー消費の低下、偏食による栄養障害の助長、ステロイド治療などによる肥満が問題となることが多い。体重のコントロールがとくに重要であり、体重グラフをつけることが推奨される。呼吸不全が顕著化する時期に急激な体重減少を認める場合、努力呼吸によるエネルギー消費量の増加、摂食量の減少など複数の要因の関与が考えられる。咬合・咀嚼力の低下に対しては、栄養効率の良い食品(チーズなど)や濃厚流動食を利用し、嚥下障害が疑われる場合は、嚥下造影などを行い状態を評価して対応を検討する。経鼻経管栄養は、鼻マスク併用時にエアーリークや皮膚トラブルの原因になることがある。必要に応じて経皮内視鏡的胃瘻造設術などによる胃瘻の造設を検討する。6)リハビリテーション早期からのリハビリテーションが重要である。筋力の不均衡や姿勢異常による四肢・脊柱・胸郭変形によるADLの障害、座位保持困難や呼吸障害の増悪、関節可動域制限を予防する。適切な時期にできる限り歩行・立位保持、座位の安定、呼吸機能の維持、臥位姿勢の安定を目指す。7)外科治療病気の進行とともに脊柱の側弯と四肢の関節拘縮を呈する頻度が高くなる。これにより姿勢保持が困難になるのみならず、心肺機能の低下を助長する要因となる。脊柱側弯に対して外科治療の適用が検討される。側弯の発症早期に進行予防的な外科手術が推奨され、Cobb角が30°を超えると適応と考えられる。脊柱後方固定術が一般的で、術後早期から座位姿勢をとるように努める。関節拘縮に対する手術も、拘縮早期に行うと効果的である。8)認知機能DMD患者の平均IQは80~90前後である。学習障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動障害(ADHD)など、軽度の発達障害の合併が一般頻度より高い。健常者と比較して言語性短期記憶の低下がみられる傾向があり、社会生活能力、コミュニケーション能力に乏しい傾向も指摘されている。精神・心理療法的アプローチも重要である。4 今後の展望DMDの根本的治療法の開発を目指し、遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療などの基礎・臨床研究が進められているが、ここではとくに2013年現在、治験が行われているエクソン・スキップとストップコドン・リードスルーについて取り上げる。1)エクソン・スキップエクソン欠失によるフレームシフトで発症するDMDに対し、欠失領域に隣接するエクソンのスプライシングを阻害(スキップ)してフレームシフトを解消し、短縮形ジストロフィンを発現させる手法である。スキップ標的となるエクソンに相補的な20~30塩基の核酸医薬品が用いられ、グラクソ・スミスクライン社とProsensa社が共同開発中のDrisapersen(PRO051/GSK2402968)は2'O-メチル製剤のエクソン51スキップ治療薬として、現在日本も含め世界23ヵ国で第3相試験が進行中である。副作用として蛋白尿を認めるが、48週間投与の結果、6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://prosensa.eu/technology-and-products/exon-skipping)また、Sarepta therapeutics社が開発中のEteplirsen(AVI-4658)はモルフォリノ製剤のエクソン51スキップ治療薬で、現在米国で第2a相試験が進行中である。これまで投与された被験者数はDrisapersenより少ないものの臨床的に有意な副作用は認めず、74週投与の時点で6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://investorrelations.sareptatherapeutics.com/phoenix.zhtml?c=64231&p=irol-newsArticle&id=1803701)2)ストップコドン・リードスルーナンセンス点変異により発症するDMDに対し、リボゾームが中途停止コドンだけを読み飛ばす(リードスルー)ように誘導し、完全長ジストロフィンを発現させる手法である(http://www.ptcbio.com/ataluren)。アミノグリコシド系化合物にはこのような作用があることが知られており、PTC therapeutics社のAtaluren(PTC124)は、世界11ヵ国で行われた第2b相試験の結果、統計的に有意ではないもののプラセボよりも歩行機能の低下を抑制する作用を示した。現在欧州での条件付き承認を目的とした第3相試験が計画されている。なお、日本ではアルベカシン硫酸塩のリードスルー作用を検証する医師主導治験が計画されている。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科、循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児科学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本小児神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部(研究情報)国立精神・神経医療研究センター TMC Remudy 患者情報登録部門(一般利用者向けと医療従事者向けの神経・筋疾患患者登録制度)筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク(一般利用者向けと医療従事者向けの筋ジストロフィー臨床試験に向けてのネットワーク)患者会情報日本筋ジストロフィー協会(筋ジストロフィー患者と家族の会)

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患者主導のインスリン用量調節はQOL,患者満足度も良好

グラルギンを用いたRCT・ATLASサブ解析[MT Pro 2013年6月25日記事を転載]ロンドン大学のNick Freemantle氏らは,持効型インスリン製剤インスリングラルギン(以下,グラルギン)の用量調節に関するランダム化比較試験(RCT)ATLASの結果から,患者主導のインスリン投与量調節が,健康関連QOL(HRQOL)と患者満足度を低下させずに実施可能であることを,第73回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA 2013;6月21~25日,シカゴ)で発表した。同試験はアジア人2型糖尿病患者を対象にしたもので,主解析である患者主導の投与量調節の有効性と安全性についても,同学会で報告されている。患者主導,医師主導ともに開始前に比べ患者満足度が高まるATLASはアジア人2型糖尿病患者552例を対象に,グラルギンの用量調節を患者主導群と医師主導群で比較したもので,主解析では,患者主導の調節でも医師主導と同様にHbA1cを良好に改善し,重症低血糖を増加させないことが示された。Freemantle氏らが発表したのは,HRQOLと患者満足度の観点からのサブ解析である。患者満足度は,糖尿病治療満足度質問票(DTSQ)のstatus version(DTSQs:範囲0~36)およびchange version(DTSQc:範囲-18~18)により評価した。その結果,24週後のDTSQs合計値の最小二乗平均は,両群とも治療開始時と比べ有意に上昇した(図1)。DTSQcに関しても同様の上昇が認められた(最小二乗平均の変化は患者主導群12.92,医師主導群13.19;いずれもP<0.001 vs. 治療開始時)。これらの結果は,治療開始時と比べ両群とも治療満足度が高まったことを示している。健康関連QOLの評価には国による差異,日本は総じて良好一方,HRQOLは,EuroQol(EQ-5D)※で評価された。治療開始時の健康状態は,インスリン導入が必要にもかかわらず総じて良好で,EQ-5Dスコアは両群とも治療開始時と24週後で有意差が認められなかった(最小二乗平均の変化は患者主導群0.021,医師主導群0.018)。これらのことから,インスリン導入は臨床的に重要なHRQOL低下を来さないことが示唆された。また,両群間でも差はなかった。興味深いのは,EQ-5Dスコアに,インスリンの用量調節法ではなく国による差異が認められたことである。治療開始時の値はロシア(平均0.73)で最も低く,日本(平均0.94)で最も高かった。24週後,ロシアとインド,パキスタンでは,両用量調節法間で差が認められたが,いずれも有意ではなかった。一方,日本と中国では,両用量調節法のEQ-5Dスコアは同等であった(図2)。24週後も最も高いのは日本であった(患者主導群平均0.95,医師主導群平均0.97)。Freemantle氏らは「今回の知見は,多様な文化的背景を有するアジアの国々で,HRQOLや治療満足度を損なうことなく,患者主導による基礎インスリン投与量調節が実施可能であることを示している」と指摘した。(ADA 2013取材班)※現在の健康状態を移動,身の回りの管理,普段の活動,痛み・不快感,不安・ふさぎ込みの5項目で評価(範囲-0.594~1.00)この記事に対するご意見・お問い合わせは,mtpro-info@medical-tribune.co.jpまでお願いします。関連リンク

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持効型インスリンの用量調節,アジア人でも“患者主導”が有用

ADA 2013でATLASの結果発表[MT Pro 2013年6月24日記事を転載]米コロラド大学のSatish Garg氏は,持効型インスリン製剤インスリングラルギン(以下,グラルギン)の用量調節に関するランダム化比較試験(RCT)ATLASの結果について,1次評価項目であるHbA1cの変化を中心に,第73回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA 2013;6月21~25日,シカゴ)で発表。患者主導のインスリン用量調節法が,アジアの2型糖尿病患者でも血糖値改善に有用であることを示した。アジア・太平洋地域の6カ国で500例以上をランダム化世界の糖尿病人口の60%を占めるアジアの患者には若齢者が多く,長期の合併症リスクを有している。患者主導によるグラルギン用量調節が,目標血糖値の達成・維持に効果的であることはAT.LANTUS試験(Diabetes Care 2005; 28: 1282-1288)で示されているが,同試験は,対象がインスリン初回治療患者ではなく,アジアでの患者登録が少なかった。そこで,今回のATLASでは,一定用量の経口血糖降下薬2剤を使用しても血糖コントロールが目標(HbA1c 7.0%以上11%以下※)に達しない,インスリン未使用で40~75歳の2型糖尿病患者552例を日本,中国,インド,パキスタン,フィリピン,ロシアの6カ国で登録し,グラルギン新規導入時の用量調整を医師主導で行う群(277例)と,医師による厳格な管理の下に患者主導で行う群(275例)にランダム化し,有効性と安全性を評価した。患者主導の用量調節で安全かつ効果的に血糖コントロール達成HbA1cの最小二乗平均は,両群とも12週後には治療前と比べ有意(P<0.001)に低下し,24週後もその効果は維持され,患者主導群では-1.40%,医師主導群では-1.25%であった。両群間のHbA1c平均変化の差は0.15%(95%CI -0.29~-0.00,P=0.04)で,1次評価項目である患者主導による用量調節法の非劣性が示されただけでなく,むしろ患者主導群で有意に良好であった。24週後の平均HbA1cとHbA1c 7.0%未満達成率も両群で同等であった(患者主導群が7.32%と32.0%,医師主導群が7.49%と26.0%)。24週後のグラルギン1日平均投与量は,患者主導群で有意に多かった(図1)。重篤な有害事象はわずかで,夜間低血糖と症候性低血糖の発生率は患者主導群で有意に高かったが,重症低血糖の発生率は両群間で同等であった(図2)。今回の結果から,Garg氏らは「アジアの2型糖尿病患者も,適切な指導を受ければ,欧米の患者と同様に効果的かつ安全に持効型インスリンの用量調節を行えることが示された」と結論付けている。(ADA 2013取材班)※MT Proでは2013年4月からHbA1cのNGSP値単独表記を実施していますこの記事に対するご意見・お問い合わせは,mtpro-info@medical-tribune.co.jpまでお願いします。関連リンク

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加算導入後1年超、半数以上の医師は現在も”一般名処方”を行っていない

2012年4月に新設された“一般名処方加算”。導入後1年以上が経過した今、実施率はどんな状況なのでしょうか?行わない先生、その理由は?「一般名は長い!覚えられない!書けない!」「後発品の銘柄をいちいち覚えられない、いっそ全て一般名で」といった“名前問題“から、「成分が同じでも効果はどうなの?」「どの製品が出されるのかわからないのに責任持てないよ」などの“後発品って…問題”まで、一般名処方をめぐるあれこれを伺ってみました!コメントはこちら結果概要昨年より比率は高まったものの、半数以上の医師は現在も一般名処方を行っていない一般名処方の実施有無について前回調査(2012年6月)と同様に尋ねたところ、『行っている』との回答が17.4%(前回15.1%)、『一部行っている』が25.4%(同19.3%)であり、何らかの形で行っている医師は全体で42.8%(同34.4%)。診療報酬改定前後で17.2%→34.4%と倍増した前回結果と比較すると実施率はゆるやかな伸びに留まった。『行っていない』とした医師を施設別に見ると、診療所・クリニックでは39.4%、一般病院では62.9%、大学病院では71.4%に上った。(回答医師単位の集計であり、処方箋枚数および金額は加味していません)行っていない医師、最大の理由は「一般名を調べるのが手間」。煩雑さに加え、処方ミスを不安視『行っていない』とした医師に理由を尋ねると、『一般名を調べる手間がかかるため』で42.1%、『電子カルテに一般名処方のサポート機能がなく煩雑』29.7%、『紙カルテで煩雑』10.1%と、一般名の長さ・複雑さによる処方(事務作業含む)の手間を挙げた回答が多く見られた。その点に関連して『処方ミスを起こす不安がある』も24.0%に上り、「一般名は"うろ覚え"が現実。いつでも・どこでも事故が起こる可能性がある」「専門外では覚える余裕はない」などのコメントが寄せられた。「後発品の効果・供給体制に懸念」、「処方はするがどれでも良いわけではない」後発品に対して懸念点がある医師からは『後発品の効果に疑問があるため』24.0%、『供給体制に不安があるため』8.2%といった回答が挙がった。その他『後発品も銘柄指定で処方するため』21.0%との意見があり、「後発品にも良いものや粗悪なもの、作用の強いもの弱いもの様々で、成分では怖くて(処方箋を)書けない」といったコメントが寄せられるなど、既に後発品を処方している医師にとっても、製品を指定できない一般名処方へのハードルは高いことが明らかとなった。設問詳細一般名処方についてお尋ねします。2012年4月の診療報酬改定で“一般名処方加算”が新設されるなど、医療費削減策の一環として、後発医薬品の使用促進策がさまざまな形で検討・実施されています。厚労省は今年4月5日、「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を公表。普及に関する目標値の算出方法をこれまでの“全ての医療用医薬品に占める後発品のシェア”から“後発品に置き換え可能な医薬品(長期収載品と後発品を含める)に占める後発品のシェア”に変更し、2018年3月末までにシェア60%(現在約45%)を達成するという数値目標を掲げました。そこで先生にお尋ねします。Q1.先生は一般名処方を行っていますか?行っている一部行っている行っていないQ2.Q1で「行っていない」と回答した先生にお尋ねします。一般名処方を行わない理由として当てはまるものを全てお選びください。(複数回答可)後発品に関しても銘柄指定で処方するため後発品の効果に疑問があるため後発品の供給体制に不安があるため後発品を患者が嫌がるため慣れた薬が変更となるのを患者が嫌がるため一般名を調べる手間がかかるため処方ミスを起こす不安があるため紙カルテで処方が煩雑なため電子カルテだが一般名処方のサポート機能がなく煩雑なため院内処方のためその他Q3.コメントをお願いします。2013年6月6日(木)~7日(金)実施有効回答数1,000件調査対象CareNet.com会員コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「専門外領域の一般名処方は、調べることが多く面倒だ。」(一般病院,内科,60代)「後発薬には、明らかに効果に疑問符のつくものがある。思いもかけない副作用が出ることもあり、 後発薬なら何でもOKというわけにはいかないのが実情。一般名とする場合、慣れるまで相当に処方に余計な時間を要し、診療にも支障が出る。事務・薬局の混乱も避けられない。何が何でも後発薬に・・という風潮はいただけない。」(診療所・クリニック,内科,40代)「間違いのない処方をおこなうためには、慣れた、性質、データの良くわかった先発品が優先になります。後発品はやはりばらつきがあり、副作用データもよくわからず使いにくいです。」(診療所・クリニック,内科,40代)「ジェネリックの場合はジェネリック可としてその薬剤名を書いています」(診療所・クリニック,耳鼻咽喉科,50代)「まだコンピューターのシステムが対応していないので難しい。個人的には一般名でかまわないが・・・」(診療所・クリニック,精神科,40代)「一般名処方が基本だと思う。同じ薬剤で異なる商品名を覚えること、同じ薬剤で違った名前があることは安全管理の面から好ましくない。しかし、当院では一般名処方がサポートされておらず残念」(大学病院,麻酔科,60代)「一般名が多すぎて、他院で処方されている薬の手帳を 見せてもらっても、何の薬か分からない。調べる手間がかかり迷惑以外のなにものでもない。いかにも現場のわかっていない役人が考えた事だというのがよくわかります」(診療所・クリニック,皮膚科,70代以上)「一般名で処方することは医師の義務と考えており、厚労省の方針は妥当と思う。」(一般病院,消化器内科,50代)「一般名にすると、胃腸薬など処方ごとに薬が変わり患者に不信感を与えたことがある。効果に私自身も疑問がある。」(一般病院,小児科,60代)「後発品のエビデンスがはっきりしないのにそっちへ強引に切り替えさせようとする厚労省の方針には呆れます」(診療所・クリニック,循環器内科,40代)「専門領域では商品名と一般名の両方を憶えられますが、専門外ではそんな余裕はありません」(一般病院,糖尿病・代謝・内分泌内科,30代以下)「ただでさえ忙しい中、いちいち一般名を調べていたら堪りません」(診療所・クリニック,内科,70代以上)「一般名で処方しても薬局から先発品が出ることもある。意味がないような気がする」(診療所・クリニック,皮膚科,50代)「後発品も先発品と同じPK/PDの試験が義務付けられ、同等と判断できれば積極的に使います。最大の欠陥はこれが行われていないこと。試薬ではないので、同一成分同一効果ではない。有効成分に添加剤や賦形剤などを加えている。例えるなら、同じ材料で料理を作っても、味も栄養の吸収も料理人の腕で変わるということと同じ」(一般病院,呼吸器内科,40代)「商品名で入力して、自動的に一般名になるようなシステムがあれば一番良いのでは」(診療所・クリニック,呼吸器内科,40代)「後発薬の名前が長すぎて処方箋に記載するのが大変。(当院は手書きのため)また、覚えていないものもある」(一般病院,泌尿器科,30代以下)「当初は行っていたが、薬局が患者さんの希望を聞かず処方し、大混乱になり中止した。また、処方した薬をきちんと報告する薬局としない薬局まちまちで カルテがメチャメチャになってしまった」(診療所・クリニック,心療内科,50代)「後発品の臨床成績を、先発品から独立して示してほしい」(診療所・クリニック,内科,50代)「一般名のほうが判りやすいし、迷わない」(一般病院,麻酔科,50代)「後発品にも良いもの、粗悪なものと様々で、mgをそろえても作用の強いものや弱いものもある。処方に関して責任を医師に求めるならば成分では怖くて書けない。副作用が出てから動いても遅い。チェックは厚労省主導でないと何も始まらないので粗悪なジェネリックを締め出してほしい」(診療所・クリニック,内科,50代)「先発品は純度99.5~99.9%に対して、後発品の純度は98%前後です。不純物の比較だと、4~20倍 の差があります。私自身も、ある日突然、病院の方針で抗生剤が後発品に変わっていて、心肺停止を起こした症例を経験しています。余程患者が望まない限り、後発品は使用しません」(診療所・クリニック,糖尿病・代謝・内分泌内科,50代)「後発薬の名前が、他の成分の先発品などと似ていた為 誤処方、誤薬が起きかけたことが何度かある。後発品の商品名はリスク要因である」(診療所・クリニック,内科,40代)「電子カルテに一般名処方の機能がなくできません」(大学病院,呼吸器内科,50代)「レセコン(電カル)なので、設定すればストレスなし」(診療所・クリニック,内科,60代)「ジェネリックを積極的に採用、使用している」(大学病院,泌尿器科,40代)「医師免許を取得した20年以上前には今ほど後発品は無く、当時の厚生省としても、一般名処方に関しては何の方針も有していなかったと思うが、先発品の一部は複数社から異なる薬品名で販売されており、『同一成分なのに複数の製品名を知っておかねばならない」ことに煩わしさを感じていたので、当時から『処方は一般名で良い」と思っていた。その考えは今も変わらないが、後発品の中には薬効が不確かな製品もあり、流通する製品の効果・副作用や安全性に対する保証が不十分なまま、医療費削減を動機に政策を推進しようとする厚労省の姿勢はいただけない。」(一般病院,整形外科,50代)「後発品の選択については患者が望むならそうすべき。効果の同等性については一般医が結論づけることは困難。厚労省が推進するかぎり、齟齬が生じた場合には厚労省が責任をとるのだろう」(一般病院,麻酔科,50代)「後発品はメーカーにより品質がまちまちで、全く先発品に劣ってしまっているものも多い。でも薬局は後発品比率を上げるために必死で質の良くない後発品を勧めてしまっている。患者が迷惑だと思う」(診療所・クリニック,内科,40代)「一般名処方は考え方としては妥当であろうが、医療現場で実際に対応するには甚だしく準備不足であると考えます。実務上、最大の障害は電子カルテの対応が追いつかないことにありますが、そもそも後発薬一般について、基剤成分が先発薬と違うのか否か等の情報が不十分であると感じてもいます」(診療所・クリニック,放射線科,40代)「薬局でジェネリックに変更された際にこちらに届く、処方変更の書類の束の処理が困る」(大学病院,血液内科,50代)「やらなければいけないのか、やらなくても良いのか、中途半端な方針が多すぎる。監督省庁として適切な方針を責任を持って立てて頂きたい。明確に出されないと、システム更新のための予算手配もできない」(大学病院,その他,40代)「一般名処方をしても院外薬局に先発薬を出されるケースが多く困っています」(診療所・クリニック,内科,40代)「医師も混乱するが、看護師はほとんど一般名を知らないので全銘柄覚えられるとは思えない。外来時は先発品を、入院後は後発品を投与していた患者がいたが、同一成分薬とは知らず重複投与していたということに。」(一般病院,泌尿器科,50代)「成分が同じだけで、効果は明らかに違うように実感している。目先の安さに飛びつき、効果不十分であれば結局医療費は長期的には増大するし、また先発の製薬会社を窮地に追いやることで新薬の開発が鈍ると危惧している。ジェネリックが素晴らしいように煽るCMなど、やめてほしい」(大学病院,精神科,30代以下)「電子カルテで、商品名を入力すれば、一般名に変換できるシステムがあれば、先発品・後発品にはこだわらない。手書き処方箋の場合は厳しい」(一般病院,精神科,40代)「一時期混乱致しましたが、現在ではもう慣れました」(一般病院,整形外科,40代)「商品名:エコリシン点眼液 一般名:エリスロマイシンラクトビオン酸塩・コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム点眼液。こんな長い薬名、処方箋に書けるわけがない」(診療所・クリニック,皮膚科,60代)「抗アレルギー薬の後発品にアレルギーを起こした症例を見ました。他の薬に対するアレルギーならまだしも、抗アレルギーに対するアレルギーは少し後発品の怖さを感じます」(一般病院,呼吸器内科,30代以下)「後発品を使うことで後発品の品質向上がもたらされることはいいことです。先発メーカーの利益が損なわれることによる創薬へのマイナス面が気になります」(診療所・クリニック,小児科,50代)「後でどこの会社の薬を処方したか確認しないといけないから大変!」(診療所・クリニック,消化器内科,40代)「厚労省がジェネリックや一般名処方を強力に推進する意図は、唯一「医療費の削減」ですが、それによって果たして医療費の削減がなされているかのしっかりしたデータはあるのでしょうか?その処方をする事により、病状がかえって改善するのに時間が掛かり服薬期間が長くなったり、本来なされない検査が追加される事になったり、本来の効能が十分発揮されなかったりした事例が数多く臨床現場で発生しているのを聞きますし、それで来院した症例も数多く経験しています」(診療所・クリニック,循環器内科,60代)「医療費が0割の方には、後発薬がある薬剤に関してはその使用を義務化して頂きたい」(大学病院,神経内科,30代以下)「レセコンの性能の問題かもしれませんが、一般名処方も覚えなくてはならないのが困ります。後でカルテを見る時に、この薬は何の薬?と思ってしまう事が多々あり、いずれ医療事故を招きかねない感じがします」(診療所・クリニック,内科,50代)「どんな後発品でも良いから変更させて医療費削減しか考えない厚労省、突然『その薬剤はうちでは生産中止になりました』という製薬会社、自分に都合の良いように処方を変える調剤薬局。病院(医師)側だけが面倒な一般名処方をする必要はない」(一般病院,内科,50代)「処方箋に一般名を書くのは、調べるのと書くのに手間がかかる。また覚えにくいので歓迎できない。仕方なく実施している」(診療所・クリニック,内科,60代)「推進したいのであれば『自己負担のない方は、原則的に後発品処方』くらいの姿勢が必要と思います」(一般病院,循環器内科,30代以下)「一般名の管理番号(厚労省のコード)が振り当てられていないものが多く、一般名処方が適宜、状況に応じてになってしまっている」(診療所・クリニック,耳鼻咽喉科,50代)「門前薬局と事前に打ち合わせて、一般名だが先発品を使うもの、後発品でも構わないものを分けている。何が出されているか分からないのは避けるようにしている。降圧剤等循環器系の薬は出来るだけ先発を使っているが、痛み止め、胃薬などはゾロでも構わないかもと考えている」(診療所・クリニック,腎臓内科,40代)「後発品は多くの会社が生産しているが、調剤薬局では一般名だとどこの会社が選ばれているのかが分からない。後発品の一般名がまだ手書き処方をしているため、一診察に時間がかかっている」(診療所・クリニック,内科,40代)「長い名前を書くのが大変なので最初の4文字だけにして欲しい。錠とかの材形は省略可にして欲しい。余計な手間がかかって診療に集中できない」(一般病院,整形外科,40代)「合剤やらいろいろ出ている中、一般名で全て済ませるのは無理がある」(大学病院,膠原病・リウマチ科,40代)「医療費抑制のため後発品を推進するのは仕方ないとしても、生活保護受給者が『どうせお金がかからないから先発品で』と言ったり、生活保護こそ後発品にすべきだという意見に『差別するのか』と言うのはけしからんと思う。厚労省は強い態度で臨んでほしい」(一般病院,外科,50代)「後発品は使用したくないが、点数のためにしています。やむをえず・・・」(診療所・クリニック,皮膚科,30代以下)「後発品使用についてはやむをえないと思うが、ころころ政策を変えすぎで混乱しやすい」(診療所・クリニック,整形外科,40代)「厚労省の方針や後発薬について思うこと 1)抗痙攣薬では、先発品と後発品の間で明らかに効果に差があります。2)医師のみならず、レセコン入力の事務職員、薬局のレベルでも仕事が煩雑となり、ミスが起きやすくなります。3)医療費の削減に際しては、根幹の、終末期医療をどうするのか、先端医療の費用は、国民皆保険制度はどうするのかを議論せず、後発薬の普及は枝葉末節の話だと思っています」(診療所・クリニック,小児科,50代)「このたびの一般名処方加算は、なんとも下らないものである。後発品への移行を促すならば、もっと抜本的なインセンティブを考えるべきである」(診療所・クリニック,糖尿病・代謝・内分泌内科,40代)「後発品の名称は、先発品名の後ろに後発品であることがわかる記号や製造会社名を付加する形式にすれば良かったのです。なぜこんなに単純なことが素直にできなかったのか。また後発品メーカーには、医薬品費低減目的のためにも広告は一切禁止すべき」(一般病院,内科,50代)「すべて一般名処方とするのがふさわしいと思う」(一般病院,精神科,30代以下)「院内で先発薬を処方するのと、処方箋を出し後発薬を薬局で処方してもらうのとでは、患者からみたトータルコストはほぼ変わらない。こんな薬局寄りの保険点数配分はおかしい」(診療所・クリニック,内科,40代)「ほとんどの医師は一般名は"うる覚え"が現実です。いつでも・どこでも事故が起こる可能性があります、が、事故が起こっても厚労省は隠す(積極的な公表はしない)でしょうが…」(一般病院,小児科,30代以下)「今後発売する後発品はいわゆる商品名はつけず、すべて一般名での発売としてもらいたい。先発品ならいざ知らず、売れなければいつ撤退し手に入らなくなるかも知れない後発品にまで商品名がつけられ、それをその都度覚え直すという全く価値のない作業にこれまでどれほどの労力を割いたことか」(一般病院,整形外科,50代)「①後発品使用を推進するのは、財政上もっともかと思います。一部の循環器系薬などは、後発品が先発品と同等の効果を持っていないようですが、私が関係する領域では概ね『後発品で効かなくなった』『効き方が先発品と違う』等のクレームは経験していません。②そもそも日本では先発品の薬価が高すぎるのが問題。日本の薬剤費の高さは異常です」(一般病院,精神科,50代)「医療費削減のために後発品を推奨するなら、先発品の特許が切れたのち先発品の値段を後発品並みに下げればよいと思う」(一般病院,消化器内科,60代)「後発薬の有無が分かりにくいときがある」(一般病院,呼吸器内科,40代)「後発品の中にはいまだ品質などが安定しないものも多く、基本的には先発品の使用を行いたいが、受けてくれている薬局などに対し後発品の使用割合による支払額の差などがつくため『やむを得ず』一般名処方を行っているのが本心である」(診療所・クリニック,小児科,50代)「しくみをよくわからず、電子カルテのなすがままに任せています。今のところ、トラブルはないようですが・・・」(大学病院,産婦人科,30代以下)「先発品と後発品の保険適応を一致させるべき」(一般病院,内科,40代)

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MTX無効の関節リウマチへのDMARDs 3剤併用、MTX+エタネルセプトに非劣性/NEJM

 メトトレキサート(MTX)単剤療法の効果が十分でない関節リウマチ(RA)患者に対し、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の3剤併用療法(MTX+サラゾスルファピリジン+ヒドロキシクロロキン)の効果は、MTX+エタネルセプトの2剤併用療法に対し非劣性であることが、米国・ネブラスカ大学医療センターのJames R. O’Dell氏らが実施したCSP 551 RACAT試験で示された。本試験は、欧州リウマチ学会(EULAR、スペイン・マドリード市)で報告され、NEJM誌オンライン版2013年6月11日号に掲載された。RAの治療はMTXで開始されることが多いが、MTX単剤で疾患活動性が低下する患者は約30%にすぎない。MTXの効果が不十分な場合に使用可能な生物学的製剤やDMARDsはいくつかあるが、RAは現在、糖尿病よりも治療コストの高い疾患となっており、その費用の大部分を生物学的製剤が占めるという。(※ヒドロキシクロロキンは国内未承認)非劣性を二重盲検無作為化試験で検証 CSP 551 RACAT試験は、MTX単剤療法が無効なRAの治療における、MTXへのサラゾスルファピリジン+ヒドロキシクロロキン追加3剤併用療法の、MTXへのエタネルセプト追加2剤併用療法に対する非劣性を検証する二重盲検無作為化試験。 MTX単剤療法の効果が不十分であったRA患者が3剤併用群または2剤併用群に無作為に割り付けられ、48週の治療が行われた。治療24週の時点で効果が得られなかった患者は、二重盲検下にもう一方の治療群へ切り替えられた。 主要評価項目は、48週後の疾患活動性スコア(DAS28)の変化とした。3剤から2剤併用への切り替えが費用対効果に優れる可能性 2007年7月~2010年12月までに353例が登録され、3剤併用群に178例(平均年齢:57.8歳、女性:43.3%、平均DAS28スコア:5.8)、2剤併用群には175例(56.0歳、48.6%、5.9)が割り付けられた。 両群ともに、治療24週時にDAS28の有意な改善効果が認められ(いずれもベースラインとの比較でp=0.001)、治療の切り替えを要した患者はいずれの群も27%であった。 両群ともに、治療切り替え例は切り替え後にDAS28が有意に改善し(いずれもp<0.001)、切り替え後の効果に群間差はみられなかった(p=0.08)。 ベースラインから治療48週までに、DAS28は3剤併用群で2.1低下し、2剤併用群では2.3低下した(p=0.26)。DAS28の変化の差の95%信頼区間[CI]上限値は0.41であり、非劣性のマージンである0.60よりも低かったことから、3剤併用群は2剤併用群に対し非劣性であることが示された(非劣性検定:p=0.002)。 X線画像上の疾患進行、疼痛、健康関連QOLなどの副次的評価項目や、主な治療関連有害事象の発現頻度に群間差は認めなかった。 著者は、「3剤併用療法の臨床的ベネフィットは2剤併用療法に対し非劣性であることが示された」と結論し、「MTXが無効なRAでは、まずMTXに従来のDMARDs 2剤を追加した3剤併用療法を施行し、効果が十分でない場合にMTX+エタネルセプトによる2剤併用療法に切り替える戦略が、費用対効果に優れる治療法となる可能性がある」と指摘している。

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軽度~中等度肥満の2型糖尿病患者への胃バイパス術vs.生活習慣+薬物治療/JAMA

 軽度~中等度肥満の2型糖尿病患者について、生活習慣および薬物治療に加えて胃バイパス術を行うことで、目標血糖値・LDL-C・収縮期血圧がより達成可能であることが、米国・ミネソタ大学のSayeed Ikramuddin氏らによる無作為化試験の結果、示された。糖尿病患者にとって血糖・血圧・コレステロールのコントロールは重要であるが、そのベストな目標値達成方法は明らかになっていなかった。米国糖尿病学会の治療ガイドラインでも、直近の無作為化試験結果を踏まえて、胃バイパス術は推奨に見合わないものとされているという。JAMA誌2013年6月5日号掲載の報告より。HbA1c値<7.0%、LDL-C値<100mg/dL、収縮期血圧<130mmHgの複合達成を評価 研究グループは、2型糖尿病患者のリスク因子である血糖・血圧・コレステロール値のコントロール達成について、胃バイパス術(Roux-en-Y gastric bypass)と、生活習慣および強化薬物治療とを比較する無作為化試験を行った。 試験は米国と台湾の4つの教育病院で、2008年4月に開始され、12ヵ月間にわたって行われた。被験者は120例で、HbA1c値8.0%以上、BMI値30.0~39.9、血中Cペプチド値1.0ng/mL超で、2型糖尿病と診断されてから6ヵ月以上経過していた。 主要評価項目は、HbA1c値7.0%未満、LDL-C値100mg/dL未満、収縮期血圧130mmHg未満の複合達成とした。胃バイパス術群の生活習慣・薬物治療群に対する達成オッズ比4.8 被験者は全員、生活習慣・薬物治療の強化療法を受けた後、60例が無作為に胃バイパス術群に割り付けられた。 12ヵ月後、主要エンドポイントを達成したのは、胃バイパス術群28例(49%、95%信頼区間[CI]:36~63)、生活習慣・薬物治療群は11例(19%、同:10~32)だった。オッズ比は4.8(95%CI:1.9~11.7)だった。 また、必要とした薬物が、胃バイパス術群は生活習慣・薬物治療群と比べて3分の1に減っていた(平均1.7対4.8、95%CI:2.3~3.6)。初期の体重減少率は、胃バイパス術群26.1%に対し生活習慣・薬物治療群は7.9%だった(格差:17.5%、95%CI:14.2~20.7)。 回帰分析の結果、複合エンドポイントの達成は主として体重減少に起因することが示された。 重篤な有害事象の発生は、胃バイパス術群で22例みられた。1例は心血管イベントだった。一方、生活習慣・薬物治療群は15例であった。なお、周術期合併症例は4例、術後に起きた合併症は6例だった。 胃バイパス術群は、生活習慣・薬物治療群よりも栄養不足の頻度が高かった。 以上を踏まえて著者は、「糖尿病のベストな生活習慣・薬物治療に胃バイパス術を追加する戦略はベネフィットがある可能性があり、重度有害イベントリスクに対して重視すべき戦略である」と結論している。

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Vol. 1 No. 2 緒言

阿古 潤哉 氏自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科糖尿病の有病率は増加の一途をたどっている。すでにわが国では2,000万人以上が糖尿病であるか、あるいはその予備軍であるという深刻な状況になっている。糖尿病は動脈硬化の強い危険因子であり、動脈硬化性疾患患者に占める糖尿病の割合は高い。実は欧米諸国と比較しても、わが国における動脈硬化性疾患内に占める糖尿病の割合は高いことが知られるようになってきた。ステントの臨床試験であるRESET(Xience VステントとCypherステントとの比較を行う臨床試験)においては、実に45%もの割合の患者がすでに糖尿病であると診断されている(本誌p7の表を参照)。その他のレジストリーなどでも、わが国の動脈硬化性疾患患者内に占める糖尿病の割合はおしなべて35%から40%以上という割合となっており、わが国での動脈硬化危険因子の中では特に大きな位置を占めているといってよい。糖尿病は動脈硬化のリスクファクターであると同時に、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の予後不良の大きな因子である。PCI後の再狭窄も多く、さらに血栓症の発症の危険因子でもある糖尿病をいかに扱うかということは、PCIに携わる人にとって一番大きな課題であるといっても過言ではない。糖尿病によってPCIの長期予後が不良となっているため、血行再建の方法を選択する際にも糖尿病の有無が問題となっている。 さて、このような状況の中で、私のような循環器内科医が糖尿病に対してアプローチしようとすると、さまざまな障壁に突き当たることになる。まず、糖尿病患者のイベントを抑制するための1次予防のアプローチとしては何がよいのだろうか?何を基準にどこまでのコントロールが要求されるのだろうか?どのような薬剤を用いてコントロールを行うのがよいのだろうか?海外での結果は日本の糖尿病患者にも当てはまるのだろうか?ACCORD、ADVANCE、VADTなどの厳格血糖コントロールによるイベント抑制を目指した臨床試験の結果によると、タイトなコントロールを目指したことによって、かえってイベントが上昇することが示唆されている。このような結果はどのように読み解き、また臨床現場にどのように還元する必要があるのだろうか?血糖コントロールのやり方は、最近になって臨床応用されたインクレチン関連薬によりどのような変化を遂げる可能性があるのだろうか?continuous glucosemonitoring(CGM)はどの程度まで日常診療に取り入れていく必要があるのだろうか? 糖尿病患者の血行再建も、もちろん循環器内科にとって難問である。薬剤溶出性ステント(DES)が全盛の今、それでも糖尿病の存在はバイパス術とPCIとは以前のように問題となっているのだろうか?DESの間でも、糖尿病の存在により臨床成績に差が出る可能性が示唆されている。どのようなステントを選択していけばよいのだろうか?さらに2次予防においてもどの程度までの糖尿病のコントロールが望まれるのか。また、糖尿病患者は2次予防においては通常の2次予防よりもさらに厳格な血圧、脂質代謝異常のコントロールが必要になっているのだろうか?抗血小板療法は? 明らかに高リスク群である糖尿病治療に対して、あまりにデータが不足しているのが現状であろうと考えられる。本特集では、この循環器領域における糖尿病という大きな敵に対して、各専門家からの視点で解説していただいた。各方面からの切り口はそれでもこの大きな敵の一断面を示しているだけかもしれない。しかし、いくつかの断面を組み合わせることにより、完全とはいえないまでも、大まかな問題の全体像をあぶり出していくことが可能になるかもしれない。糖尿病は、一冊の雑誌の特集で編集しきれるような大きさの問題でないことは明らかである。しかし、それでも本特集が皆様の臨床上の疑問の解決に対する糸口となるようであれば、編集者として望外の喜びである。

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