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健康高齢男性で筋力アップするテストステロン、運動制限を有する人では?

健康な高齢男性では、テストステロン・サプリメントによって筋量・筋力がアップすることが明らかになっている。米国ボストン大学医療センター内分泌・糖尿病・栄養学部門のShehzad Basaria氏らは、これまで検討されていなかった、運動制限を有する高齢男性を対象にテストステロン補充療法の安全性と有効性について試験を行った。結果、心血管有害事象の増大が認められたと報告した。ただし試験規模が小さかったこと、対象者の特性(慢性疾患有病者が多かった)に留意すべきとコメントもしている。NEJM誌2010年7月8日号(オンライン版2010年6月30日号)掲載より。プラセボ対照試験、有害心血管イベント発生率が有意に高く早期中止に試験は、地域居住の65歳以上男性で、運動制限があり、血清総テストステロン値100~350ng(3.5~12.1nmol/L)もしくは血清遊離テストステロン値50pg/mL(173pmol/L)未満の人を対象に、無作為に、プラセボかテストステロンのゲル剤塗布を毎日、6ヵ月間受けるよう割り付け行われた。有害事象は、MedDRAに基づき分類集計された。試験登録は2005年9月~2009年12月まで。プラセボ投与群に比べテストステロン投与群での有害心血管イベント発症率が有意に高値であることが認められたため、試験データ・安全性モニタリング委員会の勧告で、同年末をもって早期中止となった。筋力、運動機能は改善試験終了までに登録されたのは合計209例(平均年齢74歳)だった。被験者(テストステロン群106例、プラセボ群103例)は、基線で、高血圧(同:85%、78%)、糖尿病(24%、27%)、高脂血症(63%、50%)、肥満(45%、49%)を有している人が多かった。試験中、プラセボ群に比べテストステロン群は、心臓・呼吸器・皮膚に関するイベント発生率が高かった。心血管関連の有害イベント発生は、プラセボ群では5例だったが、テストステロン群は23例で起きた。相対リスクは、6ヵ月の治療期間を通じて一定していた。プラセボ群と比べてテストステロン群は、レッグプレスやチェストプレスの筋力、重しを抱えての階段昇降が改善された。(医療ライター:武藤まき)

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脳卒中の90%は、10のリスク因子に起因:INTERSTROKE試験

脳卒中リスクの約90%が10のリスク因子に起因し、降圧や喫煙制限の実施、身体活動や健康的な食事の推奨といった介入により、脳卒中の世界的負担は実質的に低減しうることが、カナダMcMaster大学地域健康調査研究所のMartin J O’Donnell氏らが実施した症例対照研究で示された。脳卒中は世界第2位の死亡原因であり、ほとんどの地域では成人の後天性身体障害の主要原因である。一方、脳卒中の世界的負担に対して種々のリスク因子がどの程度寄与しているかは不明であり、特に低~中収入国における調査が遅れているという。Lancet誌2010年7月10日号(オンライン版2010年6月18日号)掲載の報告。リスク因子と脳卒中との関連、疾病負担への寄与の程度などを評価INTERSTROKE試験の研究グループは、既知の緊急を要するリスク因子と脳卒中の主なサブタイプの関連を明らかにし、これらのリスク因子が脳卒中の負担にどの程度寄与するかを評価し、さらに脳卒中と心筋梗塞のリスク因子の違いを探索的に検討することを目的に、大規模な標準化症例対照研究を実施した。2007年3月1日~2010年4月23日までに、低~中収入国を中心とする22ヵ国84施設から初回急性脳卒中(症状発現後5日以内、入院後72時間以内)の症例および年齢と性別をマッチさせた脳卒中の既往歴のない対照が登録された。すべての参加者が質問票に回答して身体検査を受け、ほとんどが血液および尿のサンプルを提供した。脳卒中、虚血性脳卒中、出血性脳卒中と個々のリスク因子の関連の指標として、オッズ比(OR)および人口寄与リスク(PAR)を算出した。虚血性脳卒中は10項目すべてが、出血性脳卒中は5項目が有意なリスク因子試験開始からの累積症例数が3,000例[虚血性脳卒中2,337例(78%)、出血性脳卒中663例(22%)]となった時点で、対照3,000人とともに解析を行ったところ、有意差を認めた脳卒中のリスク因子は以下の10項目であった。(1)高血圧の既往歴[OR:2.64、99% 信頼区間(CI):2.26~3.08、PAR:34.6%、99% CI:30.4~39.1](2)喫煙(OR:2.09、99% CI:1.75~2.51、PAR:18.9%、99% CI:15.3~23.1)(3)ウエスト/ヒップ比(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.65、99% CI:1.36~1.99、PAR:26.5%、99% CI:18.8~36.0)(4)脳卒中に関連する食事のリスクスコア(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.35、99% CI:1.11~1.64、PAR:18.8%、99% CI:11.2~29.7)(5)規則的な身体活動(OR:0.69、99% CI:0.53~0.90、PAR:28.5%、99% CI:14.5~48.5)(6)糖尿病(OR:1.36、99% CI:1.10~1.68、PAR:5.0%、99% CI:2.6~9.5)(7)アルコール摂取[月に30杯以上飲酒する者あるいは大酒飲み(月に1回以上、5杯以上飲酒する日がある者)のOR:1.51、99% CI:1.18~1.92、PAR:3.8%、99% CI:0.9~14.4](8)社会心理的ストレス(OR:1.30、99% CI:1.06~1.60、PAR:4.6%、99% CI:2.1~9.6)およびうつ病(OR:1.35、99% CI:1.10~1.66、PAR:5.2%、99% CI:2.7~9.8)(9)心臓の原因(OR:2.38、99% CI:1.77~3.20、PAR:6.7%、99% CI:4.8~9.1)(10)アポリポ蛋白B/A1比(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.89、99% CI:1.49~2.40、PAR:24.9%、99% CI:15.7~37.1)これらのリスク因子を合わせると、全脳卒中のPARの88.1%(99% CI:82.3~92.2)を占めた。高血圧の定義を「高血圧の既往歴あるいは>160/90mmHg」に変更すると、全体のPARは全脳卒中の90.3%(99%CI:85.3~93.7)に達した。虚血性脳卒中ではこれら10項目がいずれも有意なリスク因子であったのに対し、出血性脳卒中の有意なリスク因子は高血圧、喫煙、ウエスト/ヒップ比、食事、アルコール摂取の5つであった。これらのデータをふまえ、著者は「脳卒中リスクの約90%が、10のリスク因子によって起こることが示唆される。降圧や喫煙制限の実施、身体活動や健康的な食事の推奨といった介入により、脳卒中の負担は実質的に低減する可能性がある」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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糖尿病とCAD有する患者への厳格血圧コントロール、心血管アウトカム改善認められず

高血圧治療ガイドラインでは、糖尿病患者の降圧目標は収縮期血圧130mmHg未満とする治療を行うことを提唱しているが、推奨値に関するデータは限られており、特に増大する冠動脈疾患(CAD)を有する糖尿病患者に関するデータは十分ではない。米国フロリダ大学のRhonda M. Cooper-DeHoff氏らは、糖尿病とCADを有する患者コホートにおいて、収縮期血圧コントロール達成と有害心血管アウトカムとの関連を評価することを目的に、「INVEST」試験参加者の観察サブグループ解析を行った。JAMA誌2010年7月7日号掲載より。厳格、通常、非コントロール群の有害心血管アウトカムを評価観察サブグループ解析が行われたのは、「INVEST」試験(International Verapamil SR-Trandolapril Study)参加者2万2,576人のうちの6,400人で、糖尿病とCADを有する50歳以上の人だった。参加者は、14ヵ国862施設から1997年9月~2000年12月の間に集められ、2003年3月まで追跡された。米国からの参加者の追跡評価は、全米死亡統計によって2008年8月まで行われた。INVEST参加者は、収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧85mmHg未満を目標に、降圧薬治療の第一選択薬はCa拮抗薬あるいはβ遮断薬を用い、併用薬として、ACE阻害薬か利尿薬または両剤を服用した。Cooper-DeHoff氏らは、被験者を、血圧コントロールが130mmHg未満を保持している場合は厳格コントロール群に、130~140mmHg未満の場合は通常コントロール群に、140mmHg以上だった場合は非コントロール群に分類し、全死因死亡、非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中の初発を含む、有害心血管アウトカムを主要評価項目に検討した。主要アウトカム、通常群12.6%、厳格群12.7%、補正後ハザード比1.111万6,893患者・年の追跡調査の間、主要アウトカムイベントを呈した患者は、厳格コントロール群286人(12.7%)、通常コントロール群249人(12.6%)、非コントロール群431例(19.8%)だった。通常コントロール群 vs. 非コントロール群の心血管イベント発生率は、12.6%対19.8%だった(補正後ハザード比:1.46、95%信頼区間:1.25~1.71、P<0.001)。一方、通常コントロール群 vs. 厳格コントロール群は、12.6%対12.7%(同:1.11、0.93~1.32、P=0.24)で、ほとんど違いは存在しなかった。全死因死亡率については、厳格コントロール群は11.0%、通常コントロール群は10.2%(同:1.20、0.99~1.45、P=0.06)。延長追跡評価を含むと、同22.8%、21.8%(同:1.15、1.01~1.32、P=0.04)だった。上記結果から、「糖尿病とCADを有する患者における収縮期血圧の厳格なコントロールは、通常のコントロールと比べて心血管アウトカムの改善には関連が認められなかった」と結論した。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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主任教授 森田峰人先生の答え

子宮内膜症と低用量ピルについて子宮内膜症の治療で低用量ピルを使用することもあるかと思いますが、副作用の発現はどうでしょうか?私自身は内膜症を診るわけではないのですが、患者さんから相談を受けることがあるので、症例数が多いであろう大学病院臨床現場での状況を知りたいです。宜しくお願いします。OC(ピル)はエストロゲン+プロゲストーゲンの配合剤であることはご存じと思います。これらのホルモン依存性に副作用が発生すると考えられます。一般的にエストロゲンとしてエチニルエストラジオールが、プロゲストーゲンとしてノルエチステロン、デソゲストレル、レボノルゲストレルがあり、OCの種類によってこれらの組み合わせや1相性、2相性、3相性が存在します。一般的にエストロゲン依存性の副作用としては、悪心・嘔吐、頭痛、水分貯留、帯下増加などが、プロゲストーゲン依存性の副作用としては、倦怠感、抑うつ感、乳房緊満感などが、アンドロゲン依存性(プロゲストーゲンには男性ホルモン活性があります)の副作用として、体重増加、ニキビ、食欲亢進、性欲亢進、男性化兆候などがあります。これらの副作用発現率は各種プロゲストーゲンの種類により異なるとは思いますが、全体的な副作用発現率として、悪心・嘔吐は1.2~29.2%、頭痛は3.4~15.7%、体重増加は0.8~2.2%、乳房緊満感は0.1~20%等となっており、これらのマイナートラブルは、通常、3か月以内で消失するともいわれています。子宮内膜症患者さんの月経痛改善のための効果ですが、ほとんどの場合効果はあると感じています。しかしながら、OCの各種副作用の発現により、継続しての服用が困難になる場合もあります。そのような場合には、OCの種類を変更することで継続服用が可能になる場合が多々あり、1種類のOCがダメであってもあきらめる必要はありません。子宮頸がんワクチンの効果・副反応について最近、子宮頸がんワクチン接種に関して助成金が出るとか出さないとか、何かと話題になっていますが、そもそもこのワクチン、実際の効果は如何なものなのでしょうか?「日本人には合わない」などおっしゃっている先生もいるようです。また、副反応についても現場の見解を知りたいと思っています。差し支えない範囲で結構ですのでご教授お願いします。現在使われているワクチンはHPVの遺伝子型が16と18に対するものです。日本人の子宮頸がんに関連するHPV遺伝子型が16と18であるものは58.8%(16型44.8%+18型14.0%)と報告されています。海外の報告では16/18が70.7%(16型53.5%+18型17.2%)で、その他31,33,35,51,52,53,56,58,59,68の10の型が31.2%に検出され、その他の型が9.0%であったとなっています。日本人の統計で、このワクチンでHPV16/18型の感染による子宮頸がんの発生を予防できる全体に占める割合は60%弱ということになります。よって、16/18による子宮頸がん発生を100%抑制できるとして、ハイリスクHPV感染者の0.15%ががんになるのを防げる場合の、費用対効果がどうなるのかは現在のところはっきりしていません。さらに大切な事として、日本における子宮頸がん検診率は23%程度であり、この健診率を先進国並みの60~82%に持って行く方法を考える必要があると思います。副反応に関しましては、全てのワクチンに言えることですが、何らかの重篤な合併症が引き起こされる可能性は否定できません。一般的な副反応として、局所の疼痛や発赤は90%程度に認められておりますが、当院での接種に際しては、幸いなことに重篤な副反応には遭遇しておりません。今後、これらの副反応に関しましても日本におけるデータが集積されてくるものと思います。研修について産婦人科医を目指している医学生です。産婦人科医になるにあたり、小児科(NICU)を経験した方が良いと聞きます。また、病院によっては一定期間NICUへ行かせてくれるところもあると聞きます。大森病院さんでも、このように小児科(NICU)のことを勉強したり、経験したりする機会はあるのでしょうか?ホームページを拝見しましたが、その辺の情報がなかったので教えて頂ければと思います。東邦大学医療センター大森病院でも小児科(NICU)のことを勉強したり、経験したりすることになります。産婦人科のホームページで「入局希望の方へ」を見て頂くと「後期研修プログラム」として1年目に「産科・周産期」と記載してありますが、この期間に3か月間、新生児科(NICU/GCU)の研修を行うことになります。また、後期研修期間中に、「腫瘍」「生殖内分泌」を専門医レベルまで習得してもらうために、2年目「腫瘍」、3年目「生殖内分泌」を主な研修期間としてトータルで3年間での研修計画をたてています。その後に、さらに新生児科での研修を希望される場合には、適時相談により、更に高度な新生児科での研修を行うことも可能です。産科婦人科の専門領域について初期研修中の者です。最近、産婦人科医に興味を持つようになりました。産婦人科の専門領域を大きく分けると、周産期、婦人科腫瘍、生殖医学の3つと教わりましたが、どれを専門にするのか?を決めるのは、通常どの位のタイミングなのでしょうか?また、森田先生はいつ頃、どんな理由で今の専門(婦人科腫瘍でしょうか?)に決めたのでしょうか?場違いな質問でしたら申し訳ありません。宜しくお願いします。後期研修として産婦人科に進んだ場合、まず目指していただくのは産婦人科専門医です。当院でもまずはそれを第1目標にしています。通常、後期研修3年間(初期研修2年とあわせて卒後5年)が終了した時点で専門医の受験資格ができます。それまでは、「周産期」「腫瘍」「生殖内分泌」の3本の柱をしっかりと研修し、専門医取得を目指します。通常は、その後に専門性のあるサブスペシャリティの各種指導医や認定医取得、および研究などを行うことになります。自分自身の場合は、卒業が27年前ですので、現在のような初期研修、後期研修制度はなく、卒業して直ちに医局に入局し、2年間の研修医、その後2年間の関連病院での研修の後に、卒後5年目に大学に帰局して研究を始めるとともに、当時、黎明期であった婦人科内視鏡に興味を持ち、臨床では生殖医療や関連する子宮内膜症、子宮筋腫などの診療に携わってきました。自身のおかれている環境によっても、これら専門領域選択に適切な時期や場所が大きく異なる可能性もあります。まずは、興味を持ち、かつ、その領域にすすむ事ができる環境にあるかどうかの見極めは大切なことでないかと思います。また、産婦人科としてのジェネラリストを目指すという道もあります。妊娠糖尿病患者を診るときに気をつけること妊娠糖尿病患者を診るときに気をつけていることがありましたらご教授下さい。特に糖尿病専門医との連携方法で気をつけていることや、こうすると上手く行く!といったノウハウをお聞きしたいと思っております。私の病院には糖尿を診れる医師はいないため、いつも他院の先生方との連携になってしまいます。どのように連携するのが良いのか毎日模索している日々です。ご教授お願いします。ご質問いただきました内容に関して、的確にお応えできる回答を持ち合わせておりませんが、他院の先生と連携をとって妊娠糖尿病患者を診ておられるご苦労は大変かと思います。ご存じの対応であるとは思いますが、妊娠糖尿病患者に対しては、食事指導、運動療法からはじまり、妊娠中の運動療法は比較的制限を受けることから、食事療法のみで血糖コントロールが目標に到達しない場合には、迷うことなくインスリン療法を開始する、ということに尽きると思います。男性産婦人科医が気をつけること産婦人科は、女性医師と違って男性医師は色々と気を遣わないといけない科だと思います。先生が男性産婦人科医として気をつけている点を教えてください。産婦人科の診察対象は女性生殖器であることから、最近は、女性医師の診察を希望する患者さんも増加しています。まず、大切なことは、不安を抱いている患者さんに対して、出来るだけその不安を取り除き、適切な診療ができる環境を作り出すことにあります。一言で言い表すのは難しいですが、常に、そのような気持ちで患者さんと接するよう心がけています。また、男性医師は、診察の場面では必ず女性の看護師を同席させることも忘れてはならない事です。日本の産婦人科領域の臨床研究レベルについて海外に比べた時、日本の産婦人科領域の臨床研究はどの位の位置にいるのでしょうか?また、海外への留学は必要なのでしょうか?僕はまだ医学生なのですが、将来は先生のように研究も臨床もでき、多くの患者さんのライフスタイルにあった治療提案ができるドクターになりたいと思っています。日本の産婦人科領域の臨床研究レベルは決して諸外国に劣っているとは思いません。しかし、日本人であるが故の不利な点があります。世界で研究に対する評価を得るためには英文論文の執筆は不可欠です。しかしながら、日本ではやはり主に日本語による論文執筆が先になり、英文は後回しになる傾向があるように思えます。もちろん、英文の論文を多数輩出している優れた日本人研究者もたくさんいらっしゃいますが、大変な努力が必要であることは事実です。海外への留学に関する事ですが、この留学は研究留学のことと理解してコメントします。留学には、研究留学と臨床留学がありますが、現在、大多数を占めるのは大学医局からの研究留学です。しかし、研究留学は目的意識を高く持たないと得るものは少ないと思われます。必ずしも留学が必要である理由は存在しないと思います。臨床遺伝について大森病院さんのホームページで、臨床遺伝についての記載がありますがもう少し教えて頂けないでしょうか?今大学病院では、具体的にどんな研究や取り組みが行われているのか?どのような成果を上げているのか興味あります。是非宜しくお願いします。近年、疾患に限らず生命現象ほとんどが遺伝子によって制御されていることが解明され、注目を浴びています。臨床遺伝学は、基礎遺伝学(いわゆる遺伝学)と臨床をつなぐ重要な分野として発展してきています。さらに最近では、生活習慣病などの多因子疾患も、遺伝子が関与している事が判明しています。しかし、遺伝学的検査を行うときに、十分な説明がなされず、施行されたり、結果を適切に判断することが出来ず、誤った説明などがなされ、時に、患者、その家族に誤解を招く場合があります。大森病院には、日本人類遺伝学会、遺伝カウンセリング学会認定の、臨床遺伝専門医が2名(いすれも産婦人科医)がおり、専門医研修施設に認定されています。産婦人科領域、生殖遺伝(挙児希望、習慣流産など)、周産期遺伝(出生前診断、高齢妊娠など)を中心に、火曜日午後、遺伝相談外来として対応しています。また、内科、外科など他科の担当医と協力し、横断的に、遺伝学的検査施行時、結果説明時など患者、その家族と話し合う機会を設けています。窓口は、産婦人科外来となっており、電話にて担当医と受診の予約についてお話しいただけます。妊娠を控えている慢性腎臓病実臨床にて妊娠を控えている慢性腎臓病の患者に対してどのような降圧剤を選択するのがベストか、臨床研究などの結果があれば教えていただければ幸いです.まず、慢性腎臓病合併妊婦では早期に妊娠高血圧症候群をおこして、母児共に予後が悪い事はよく知られております。したがいまして、妊娠前に十分に腎機能検査を行い、GFR 50ml/分以下、血清クレアチニン1.5mg/dl以上、血清尿酸値6.0ng/ml以上、降圧剤投与での血圧160/110mmHg以上、あるいは腎生検にて活動性病変のある者には妊娠を許可すべきではありません。これらの条件をクリアして、血圧の管理を行い、拡張期血圧を90~100mmHgの範囲に、収縮期血圧155~160mmHgを超えない事を目標に、妊娠が成立しても継続して投与が可能な薬剤を選択する事が望まれます。第1選択はヒドララジンもしくはメチルドパになります。また、妊婦に対してはACE阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗薬は禁忌であり、妊娠前にこれらの薬剤によりコントロールされている場合には薬剤の変更が必要になります。したがいまして、妊娠を目指して降圧剤を使用する場合にはヒドララジンもしくはメチルドパによる良好なコントロールがその後の管理が行いやすい状況にすると思われます。月経か否か性器出血が主訴の患者さんで性成熟期で子宮がある場合、どれが月経なのか不正性器出血なのか分からないと言われます。まず頚部・内膜の細胞診はとり、経膣エコーを見るかと思いますが、産婦人科として出血が月経かどうかを判断する術はあるでしょうか。産後の不正出血などでも(明らかな遺残ではなく)それが月経なのか何なのか判断に迷うことがあります。お教えいただけないでしょうか。 性器出血の様子だけから判断することは困難です。出血の様子に加え経腟超音波所見は重要で、特に子宮内膜の状態は評価に大きく役立ちます。患者さんのもともとの月経周期や体型なども判断材料になる機会は少なくありません。総合的に評価することとなります。総括たくさんの、また様々な内容のご質問をいただきありがとうございました。産婦人科の3本柱は、「周産期」「腫瘍」「生殖内分泌」であり、まだまだ伝えきれないほどの魅力ある診療および研究分野がたくさんあります。少しでも興味を持って、産婦人科の世界に入ってきてくれる人たちが増えてくれることを願っています。主任教授 森田峰人先生「産科婦人科最先端治療は患者個々への対応が決め手」

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ピオグリタゾン対rosiglitazoneのイベントリスク:米国FDA報告

2型糖尿病治療薬のrosiglitazone(国内未承認)は、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)他米国内で販売されているチアゾリジン系薬に比べ、脳卒中リスクを1.27倍、心不全リスクを1.25倍に増加するなど、心血管疾患イベントリスクを増大することが報告された。米国食品医薬品局(FDA)のDavid J. Graham氏らが、約23万人のチアゾリジン系薬の服用者を追跡して明らかにしたもので、JAMA誌オンライン版2010年6月28日号で発表された。被験者の平均年齢は74歳、最長3年間追跡研究グループは、米国の高齢者向け公的医療保険メディケアの被保険者で、2006年7月から2009年6月の間に、メディケアのパートD処方プランでrosiglitazoneまたはピオグリタゾンの服用を開始した22万7,571人について、後ろ向き発端コホート研究を行った。被験者は65歳以上で、平均年齢は74.4歳だった。追跡期間は、服用開始から最長で3年だった。エンドポイントは、急性心筋梗塞、脳卒中、心不全、原因を問わない死亡と、それらすべてを合わせた複合イベントだった。rosiglitazoneの複合イベント発生は1.68/100人・治療年その結果、追跡期間中にいずれかのエンドポイントが発生したのは、8,667人だった。rosiglitazoneのピオグリタゾンに対するイベント発生に関するハザード比は、脳卒中が1.27(95%信頼区間:1.12~1.45)、心不全が1.25(同:1.16~1.34)、死亡が1.14(同:1.05~1.24)、複合イベントが1.18(同:1.12~1.23)だった。なお、急性心筋梗塞については、1.06(同:0.96~1.18)で両群で有意差はみられなかった。また、複合イベント発生に関するrosiglitazoneの寄与危険度は、1.68/100人・治療年(同:1.27~2.08)だった。有害必要数(NNH)は、60人(同:48~79)への1年間投与だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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糖尿病の血管疾患リスクはどの程度? 70万人のメタ解析

糖尿病の存在は、肥満、脂質異常、高血圧など従来のリスク因子とは別個に、血管疾患リスクを約2倍に高めることが、Emerging Risk Factors Collaborationが実施した102もの試験のメタ解析で明らかとなった。糖尿病は冠動脈心疾患や脳卒中のリスク因子として確立されているが、年齢、性別、従来のリスク因子の有無などでリスクの程度はどれくらい変化するのか、致死的心筋梗塞と非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中と出血性脳卒中とでは糖尿病の影響はどの程度は異なるのかという問題は未解決のままだ。さらに、非糖尿病患者における血糖異常の意義についても同様の問題が残されているという。Lancet誌2010年6月26日号掲載の報告。糖尿病の血管疾患リスクを定量的に評価するメタ解析研究グループは、血管疾患リスクに及ぼす糖尿病の影響を定量的に評価することを目的に102のプロスペクティブ試験のメタ解析を行った。Emerging Risk Factors Collaborationが実施した試験から血管疾患の既往のない患者を抽出し、個々の患者の糖尿病、空腹時血糖値およびその他のリスク因子の記録について解析した。個々の試験を年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧、BMIで補正して回帰分析を行い、これらのデータを統合して血管疾患に対するハザード比(HR)を算出した。糖尿病の血管疾患に対するHRは1.73~2.27、空腹時血糖値の関連はわずか102のプロスペクティブ試験から抽出された69万8,782人(5万2,765人が非致死的あるいは致死的血管疾患を発症、849万人・年)が解析の対象となった。糖尿病の冠動脈心疾患に対する補正HRは2.00(95%信頼区間:1.83~2.19)、虚血性脳卒中に対する補正HRは2.27(同:1.95~2.65)、出血性脳卒中は1.56(1.19~2.05)、分類不能の脳卒中は1.84(同:1.59~2.13)、その他の血管死の合計が1.73(同:1.51~1.98)であった。脂質、炎症、腎機能のマーカーでさらに補正しても、HRに明確な変化は認めなかった。冠動脈心疾患に対するHRは男性よりも女性で高く、70歳以上よりも40~59歳で、非致死的疾患よりも致死的疾患で高かった。成人の糖尿病有病率を10%とすると、血管疾患の11%が糖尿病関連と推算された。空腹時血糖値は血管リスクと直線的な関連はなく、3.90mmol/Lと5.59mmol/Lで有意な差はみられなかった。空腹時血糖値3.90~5.59mmol/Lの場合と比較して、空腹時血糖値≦3.90mmol/Lの場合の冠動脈心疾患に対するHRは1.07(95%信頼区間:0.97~1.18)、5.60~6.09mmol/Lの冠動脈心疾患に対するHRは1.11(同:1.04~1.18)、6.10~6.99mmol/Lでは1.17(同:1.08~1.26)であった。糖尿病歴のない集団では、従来のリスク因子のほかに、空腹時血糖値や空腹時血糖異常に関する情報を付加しても、血管疾患の検出基準が改善されることはなかった。著者は、「糖尿病は、他の従来のリスク因子とは別個に、広範な血管疾患のリスクを約2倍に上昇させる。非糖尿病集団では、空腹時血糖値の血管疾患リスクとの関連はわずかであった」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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新規SGLT2阻害薬dapagliflozin、血糖コントロールが不良な2型糖尿病に有効

メトホルミンだけでは十分な血糖コントロールが得られない2型糖尿病患者に対し、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)の選択的阻害薬であるdapagliflozinを追加投与すると、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が有意に改善することが、英国Aston大学のClifford J Bailey氏らが行った無作為化試験で示された。高血糖の是正や糖毒性の発現予防は2型糖尿病の管理における重要な目標とされる。dapagliflozinは、SGLT2を選択的に阻害することで、インスリン非依存性に腎臓でのグルコースの再吸収を抑制するという。Lancet誌2010年6月26日号掲載の報告。dapagliflozinの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照第III相試験研究グループは、メトホルミンだけでは血糖コントロールが不十分な患者においてdapagliflozinの有効性と安全性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。メトホルミン≧1,500mg/日で十分な血糖コントロールが達成されない2型糖尿病患者546例が、3つの用量のdapagliflozin(2.5mg群:137例、5mg群:137例、10mg群:135例)あるいはプラセボ群(137例)に無作為に割り付けられた(いずれも1日1回経口投与)。メトホルミンは、試験開始前と同一の用量を継続投与した。主要評価項目は、24週におけるHbA1cのベースラインからの変化とした。二重盲検下で1回以上の投薬を受け、ベースラインとその後に少なくとも1回の検査を受けた全症例が解析の対象となった。用量依存性にHbA1cが有意に低下、ウエスト周囲長の短縮を伴う体重減少効果も主要評価項目の解析は、534例(dapagliflozin 2.5mg群:135例、5mg群:133例、10mg群:132例、プラセボ群:134例)で行われた。24週の時点で、プラセボ群の平均HbA1cが0.30%低下したのに対し、dapagliflozin 2.5mg群は0.67%(p=0.0002)、5mg群は0.70%(p<0.0001)、10mg群は0.84%(p<0.0001)と用量依存性に低下しており、いずれも有意差を認めた。dapagliflozin群では治療早期から体重減少を認め、この効果は治療期間を通じて持続した。24週には、プラセボ群の体重が平均0.9kg低下したのに対し、2.5mg群が2.2kg、5mg群が3.0kg、10mg群は2.9kg減少した(いずれも、p<0.0001)。ウエスト周囲長も、プラセボ群が平均1.3cm短縮したのに対し、2.5mg群が1.7cm、5mg群が2.7cm、10mg群は2.5cm減少していた。低血糖症状の発現率は、dapagliflozin群が2~4%、プラセボ群は3%と同等であった。性器感染を示唆する徴候、症状などの報告は、プラセボ群の5%(7例)に比べ、dapagliflozin 2.5mg群が8%(11例)、5mg群が13%(18例)、10mg群は9%(12例)と頻度が高い傾向がみられた。重篤な有害事象は17例(dapagliflozinの各用量群が4例ずつ、プラセボ群が5例)に認められた。著者は、「メトホルミン単剤では血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者の治療において、メトホルミンへのdapagliflozin追加療法は新たな選択肢となる」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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65歳以上の肥満や50歳からの体重増で、2型糖尿病リスクが大幅増加

65歳以上の肥満や、50歳からの体重増は、糖尿病発症リスクを増加するという。BMI値の最高五分位範囲の群では、最低五分位範囲の群に比べ、糖尿病発症リスクが4倍以上であったことが報告された。米国ワシントン大学公衆衛生校生物統計学部のMary L. Biggs氏らが、65歳以上の4,000人超を対象とした前向きコホート試験の結果明らかにしたもので、JAMA誌2010年6月23/30日号で発表した。これまで、若者や中年の肥満が2型糖尿病のリスク因子であることは知られていたが、高齢者の肥満と同リスクに関する研究報告はほとんどなかった。肥満について人体測定学と生体インピーダンス法で測定研究グループは1989~2007年にかけて、Cardiovascular Health Studyの被験者で65歳以上の4,193人について、前向きに追跡した。肥満測定は、ベースラインでは人体測定学と生体インピーダンス法を用い、3年後に人体測定学で再測定を行った。主要評価項目とした糖尿病の診断については、糖尿病治療薬の服用や空腹時血中血糖値が126mg/dL以上とした。追跡期間の中央値は12.4年(範囲:0.9~17.8年)だった。その間、糖尿病が確認されたのは、339人だった(7.1/1,000人・年)。糖尿病リスクは、各因子とも最高五分位範囲が最低五分位範囲の約4倍ベースラインのBMI値が、最高五分位範囲の最低五分位範囲に対する、糖尿病発症に関するハザード比は、4.3(95%信頼区間:2.9~6.5)、50歳時点のBMI値については同3.0(同:2.0~4.3)だった。ベースラインの体重が、最高五分位範囲の最低五分位範囲に対する同ハザード比は、4.2(同:2.8~6.4)、体脂肪量は同4.0(同:2.6~6.0)、ウエスト周囲が同4.2(同:2.8~6.2)、ウエスト・ヒップ比が同2.4(同:1.6~3.5)、ウエスト・身長比が同3.8(同:2.6~5.5)だった。ただこれらハザード比の傾向を年齢階層化してみると、75歳以上になるとリスクは、65~74歳と比べておよそ半分であった。また、体重増との関係についてみてみると、本試験登録時の体重について50歳時点から9kg以上増えていた人は、体重の増減が2kg以内の人と比べ、2型糖尿病発症のハザード比が2.8(95%信頼区間:1.9~4.3)、ベースラインから追跡中3回目の測定までに体重が6kg以上増えた人の同ハザード比は2.0(同:1.1~3.7)だった。ベースラインから3回目の測定までに、ウエストが10cm超増えた人の同ハザード比は、ウエスト増減が2cm未満だった人との比較で、1.7(同:1.1~2.8)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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ほんとうに、eGFR、蛋白尿はCKDの指標なのか?

一般住民を対象とした試験のメタ解析により、推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2および尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)≧1.1mg/mmolは死亡リスクの独立の予測因子であり、慢性腎臓病(CKD)の定義やstagingの定量的なデータとして使用可能なことが明らかとなった。Johns Hopkins Bloomberg公衆衛生大学院のJosef Coresh氏ら「Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium」の研究グループがLancet誌2010年6月12日号(オンライン版2010年5月18日号)で報告した。アジアや欧米などでは成人の10~16%がCKDとされ、高血圧や糖尿病などにCKDが加わると全死亡や心血管死、腎不全の進行のリスクが増大する。しかし、CKDの定義やstageの決定にeGFRおよびアルブミン尿を使用することには大きな議論があるという。一般住民におけるeGFR、アルブミン尿と死亡率の関連を評価研究グループは、eGFR、アルブミン尿と死亡率の関連の評価を目的に、一般住民を対象とした臨床試験のメタ解析を行った。1,000例以上を対象としベースラインにおけるeGFR、尿中アルブミン濃度の情報を含む試験を選択し、全死亡および心血管死に関する標準化されたデータを抽出してプールした。Cox比例ハザードモデルを用いて、関連する交絡因子で補正したeGFR、アルブミン尿と全死亡、心血管死のハザード比(HR)を推算した。eGFRとACRが悪化すると死亡リスクが倍数的に増大解析の対象は、ACRの測定値を含む14試験に参加した10万5,872人(73万577人・年)および尿蛋白の試験紙検査値を含む7試験に参加した112万8,310人(473万2,110人・年)であった。ACR測定値を含む試験では、eGFRが75~105mL/分/1.73m2の範囲にあることや、eGFRが低値から上昇することと、死亡リスクとの間には関連は認めなかった。eGFR 95 mL/分/1.73m2との比較における、eGFR 60mL/分/1.73m2の場合の全死亡の補正HRは1.18(95%信頼区間:1.05~1.32)で、45mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは1.57(同:1.39~1.78)、15mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは3.14(2.39~4.13)であり、eGFRが60mL/分/1.73m2以下では値が低下するほど死亡リスクが増大した。ACR 0.6mg/mmolとの比較では、ACR 1.1mg/mmolの場合の全死亡の補正HRは1.20(95%信頼区間:1.15~1.26)で、3.4mg/mmolの全死亡の補正HRは1.63(同:1.50~1.77)、33.9mg/mmolの全死亡の補正HRは2.22(同:1.97~2.51)であり、ACRが1.1mg/mmol以上になると値が上昇するほど死亡リスクが上昇した。eGFRとACRには相互作用のエビデンスはないものの、双方が悪化すると死亡リスクが倍数的に増大した。同様の知見が、心血管死に関する解析でも確認され、蛋白尿試験紙検査を行った試験でも求められた。著者は、「eGFR<60mL/分/1.73m2およびACR≧1.1mg/mmolは一般住民における死亡リスクの独立の予測因子である」と結論し、「本試験は腎機能のリスク評価およびCKDの定義、stagingにおいて定量的なデータをもたらす」としている。(菅野守:医学ライター)

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教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座の教授で、前院長。医局のモットーは総合力と専門性を両方備えた医師育成。一人でも多くを救うこと。加えて先端医療の開発をモットーにしている。最近では、血管機能検査CAVIの開発に参画し、国内から海外にも発信。肥満症治療については脂肪細胞、脂質代謝の基礎研究から心理学まで動員して新しい治療システムを構築中。動脈硬化の分野で新しい治療体制の扉を開く動脈硬化は、地味な分野ですが、ご存知のとおり、脳梗塞、心不全、さらには腎不全をもたらし大きく個人のQOLを低下させ、また社会的損失も大きい疾患です。これに対し、病変動脈、静脈の直接的治療を循環器グループが担う一方、「動脈」が水道管でなく、生きた機能を持った臓器とし見、それに細胞生物学と代謝学を応用して治療・予防法を打ち立てるというのが夢でした。実は、癌は最近の治療学の進歩は著しいのを目の当たりあたりにしますが、30年前には不治の印象が強く、生命現象そのものの解明が必要で、とても自分の能力では歯が立たないと思い避けたのも事実です。動脈硬化なら多少とも代謝学的側面から治療できるのではないかと思ったりもしました。これまで、副院長6年、院長3年と病院の経営面にも携わりましたが、医療現場は人間が担うものであり、かつ科学性を保って運営されるべきもので、根本原則は、病気を見ることと変わらないと思いました。みんなして誠意を尽くし、精一杯がんばれば、経営のほうが、なんだかんだといっても人の作った制度の運用ですから、患者さんがいる限り、道は開けると思います。しかし、対疾病への取り組みは、神が創った摂理と破綻への挑戦ですから、数段難しいと思います。でも、全身全霊、日々、改革、改良に向けやり続けるのが、医師の誠意だと思います。それには、効率よくみんなが取り組めるセンター方式が必要と、糖尿病・内分泌・代謝センターを9年前に立ち上げました。場所、人の問題で、思い立って3年ほどかかりましたが、皆さんの協力でできました。そのころから、病棟と外来が一体となった継続看護治療システムも導入され、看護師も病棟での看護結果が外来でどのように効果が出ているのか確認しあい、フィードバックをかけるシステムが導入、大きかったのは、患者さん全員に、「ヘルスケアファイル」という手書きのファイルをお渡しし、代謝要因の変化と日常生活管理がどのように結びつくかをグラフで表すシステムを導入したことです。患者と医師のみでなく、家族にも分り、医療スタッフも採血者、受付、看護師、栄養士も一目瞭然に個々の病態が把握でき、互いにコミュニケーションが取れやすくなったのがよかったです。若い研修医にとっても数年の治療経過を見れば、病態がわかり最大の教科書にもなっています。診療体制を分りやすく、すっきり整えることは、生活習慣病と呼ばれる一連の疾患にとても有用と思います。若い医師も情熱を持った人たちが幸運にも集まり、地に足をつけ、真に役立つ研究を進めてくれたのも、推進力になってくれました。動脈硬化発生機序の解明とCAVIの開発研究学会のマニュアル、ガイドラインは大切ですが、大学病院の使命はその先を見つめることにあります。その眼は、字づらで覚えたことではなく、自然との対話、すなわち研究の基盤なくして開かれないと思います。ささやかながら病理、細胞培養実験から、動脈硬化とコレステロールの関係は直接ではなく、コレステロール自身が酸化され、オキシステロールになると強力な組織障害性をもち、慢性炎症が引きおこすとしました。これに基づき、強力な抗酸化作用を持つ脂質低下剤プロブコール投与による糖尿病性腎症の抑制効果を見いだしました。結局、末期腎硬化症は動脈硬化と同じような機序で起こると考えたからです。また、動脈硬化の臨床研究には、簡便で経時的に測定できる指標が必要ですが、これまで必ずしも十分なものがなかったわけです。これに対して、血管弾性を直接反映するCAVIという検査法の開発に携わったところ、これまで見えなかった部分がどんどん見えるようになりました。これは、内科の循環器、代謝チーム、それに生理機能検査部が一体となり、精力的に仕事をしてきた結果です。循環動態を把握するうえで、血管抵抗を反映することがわかり、これは血圧計に匹敵する意味を持つわけで、まだまだその妥当性をさまざまな角度から検証する必要がありましたが、循環器、代謝領域の疾患や、薬物治療成績が英文論文となり、世界に向けて発信し始めたところです。今後、日常診療の中から、動脈硬化治療が見出される可能性もあり、楽しみです。肥満・メタボリックシンドロームへの低糖質食、フォーミュラー食の応用を中心に、チーム医療体制を確立動脈硬化診療は診断に加え、予防と治療が究極目標ですが、動脈硬化の主な原因として肥満の意味は大きく、糖尿病、高血圧、脂質異常を伴い、所謂メタボリックシンドロームを引き起こします。すでに当院では15年前から肥満への取り組みをチームで始めており、治療として低糖質食、その極みとして安全で効果のあるフォーミュラー食を実施しています。今、欧米では低糖質がよいとの論文が出始めましたが、当院では、入院時にも低糖質食を用いています。またフォーミュラー食は必須アミノ酸を含むたんぱく質とビタミン、ミネラルをパウダーにしたものを水で溶かして、飲んでもらうものです。それによる減量効果特に、内臓脂肪の減少度が高く、それに伴い代謝改善度も一般通常食より効果があり、そのメカニズムは、動物実験でも検証中です。脂肪細胞自身のインスリン感受性関連分子の発現が上がっていることが確認されました。研究面では脂肪細胞から分泌されるサイトカイン、分子、酵素、さらに脂肪細胞分化に加えて、「人」の行動様式にも興味を持ち、毎月、オベシテイカンファランスを開き、内科医、栄養士、看護師は無論のこと、精神科医、臨床心理士も加わり、症例への総合的アプローチを試みています。肥満が解消できない理由に、ハイラムダー型と呼ばれるパーソナリテイを持つ人が肥満患者さんに多いことも見出されました。また、入院中に、何らかの振り返りができ、周囲との関係も客観化できるようになると、長期予後がよいことも見出しており、メンタルサポートは必須と思われます。このような成功例に遭遇すると、チーム全体が活気づくのも不思議です。これから、これらチームのバックアップで肥満外科治療も始まります。患者さんデータを集約したヘルスケアファイルで真の地域連携の夢を糖尿病を中心とした生活習慣病は、結局、本人の自己努力に大きく依存します。人は決して命令で動くものでなく、自分で納得、わかって初めて真の治療が始まります。その際、さまざまな情報を錯綜させないために、1冊のノートをつくり、なるべくグラフ化、マンガで示す方式で、病態理解をはかっています。これをヘルスケアファイルと呼んでいます。きちんとしたデータの推移をみて、各種職域の人が適切なアドバイスができます。また、もっと重要なことは、患者本人が自分の経過を一覧すると、そこから、自分の特性が分かるというものです。医療者自身にも勉強になり、多職種の方々がのぞきこむことによって、患者さん個々の蓄積データに基づき、最適なアドバイスができるというメリットがあります。これは、病院内の代謝科、循環器、神経内科などにとどまらず、眼科とも共通に使えますが、さらに、これで院外の施設とも、真に患者さん中心の医療ができます。できれば、全国国民全員が持つべきで、これで、医療費削減、効率化、医学教育もでき、これを如何に全国的に広めてゆくか楽しみ考えているところです。若い医師へのメッセージ:自分の医学を打ちたてる現在、各種疾患は、学会がガイドラインなどを決め、医療の標準化が進み、それはそれで、一定のレベルにまであげることでは意味があるでしょう。現場に立てば、ほとんどがそれを基礎に幾つかのバリアンスがあり、物足りないはずです。確かに一杯本もあり、インターネットでも知識はふんだんに得られます。でも、結局医師は、自分の医学を自分で打ち立てるのが原則でしょう。決して独断に走れというのではなく、ささやかでも、自分のデータをまとめ、自分として言えるファイルを作ることです。それは、先輩の先生から呟きとしておそわりました、教えてくれるのを待っていたって本当のところは教えられないし、頭を下げても教えてもらえることは少なく、自分で、縦軸、横軸を引き、そこにプロットさせ因果関係を探れといわれましたが、その通りです。ささやかでも、自分の経験症例をまとめておき、そこから何が発信できるか日夜思考錯誤してください。それが、許される余裕と良き指導者がいるところで、研修はすべきでしょうし、後期研修もそんな環境で自己研鑽することが大切でしょう。専門分野の選考は、社会的にニーズが高いところに向かうべきで、無論雰囲気も大切ですが、はやり、楽というよりは、皆が困っているところに入り込こむ勇気が大切でしょう。そこで、頑張れば、面白く楽しく医師生活をやって行けるでしょう。今後も、佐倉病院でなければ、できないことに向けて頑張ってまいります。お待ちしています。質問と回答を公開中!

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教授 白井厚治先生の答え

最近のゼロカロリージュースについて0キロカロリーのコーラなどが最近は多く売られてますが、代謝内分泌学的には糖尿病の方に自信を持って勧められているのでしょうか?あくまで噂に過ぎないのですが、ああいうゼロカロリー飲料そのものには確かにカロリーがなくても、一緒に他の食事を摂った時に他の糖質の吸収を促進する作用があると聞きました。。。。PS:そもそも、人工甘味料のアスパルテームが身体に良いかどうかわかりませんし、炭酸飲料は身体に悪いのかもしれませんが。。。実際に、カロリーゼロ表示の飲料物を飲んでもらい、30分から120分まで、採血したところ、血糖の増加はほとんど見られないものもありましたが、なかにはあがるものもあり、原因は、カロリーゼロ表示は、糖質0.5%以下で使っているとのことでした。ですから、成分表示で、糖分ゼロと明記しているものは大丈夫でしょうが、それ以外のものは、大量飲めば、血糖は上がる可能性があります。アスパルテームについては、アミノ酸摂取として評価してよいと思われます。極端に、多用しなければ問題ないと思います。高感度CRPについて高感度CRPは動脈硬化の一つのいい指標でしょうが、上気道炎、歯肉炎などの炎症にても上昇すると理解しています。そうすると、風邪の流行している季節などでは動脈硬化の判定ができずらくなるということはないでしょうか?その通りで、CRPは体内でほかに目立った炎症がない場合にのみ、動脈硬化(炎症性反応としての)の指標として意味がありますが、特異性は、高感度CRPを用いてもありません。大規模スタデイで、ある治療の効果などをみるにはよいでしょう。しかし、日常診療で、個々の例に当てはめ、それのみで、あなたは動脈硬化があります、ありませんとの判定に用いるのは、困難と思います。逆に、動脈硬化のためと決め込んで、ほかの炎症、癌などの初期を見逃す可能性もあります。個人には参考にする程度でよいのではないでしょうか。破壊性甲状腺炎の診断動悸、全身倦怠、微熱、軽い咽頭痛の症状で他院受診。FT3 10.4,FT4 4.6 TSH感度以下、 抗体陰性(TPO、TG、TRAb,TSAb)でCRP 1前後、血沈正常からやや亢進、甲状腺エコーでまだら様low echo部位のある患者さんが当院紹介となりました。ヨードuptake 1%以下で破壊性甲状腺炎と診断しましたが、一貫して頸部痛はありません。頸部痛のない亜急性甲状腺炎と判断するのか、咽頭炎併発の無痛性甲状腺炎と迷いました。これでTPO抗体やTG抗体が陽性であればさらに橋本病の急性増悪とも迷うところです。頸部痛のない亜急性甲状腺炎という病態はあると考えて宜しいのでしょうか。また今回のケースではありませんが橋本病の抗体が陽性の場合、無痛性甲状腺炎と橋本病の急性増悪との鑑別についてもご教授いただければ幸いです。甲状腺機能亢進でTSAb、TRAb陰性、さらにヨードuptakeの低下という所見は破壊性甲状腺炎に矛盾しません。破壊性甲状腺炎には、亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎があります。亜急性甲状腺炎は炎症反応があり、low echo部位を認めるととも頸部痛はほぼ必発です。本例では頸部痛なしなので、亜急性甲状腺炎とは言えないでしょう。従って、無痛性甲状腺炎の可能性が強くなります。無痛性甲状腺炎は、多くは橋本病を基盤とした疾患とされており、本例がTPO、TGの抗体が陰性であることから、合致しません。まだ特定されていませんが何らかのウィルスによる甲状腺炎かもしれません。実際、本症例をどうするかですが、私なら経過観察が重要と考えます。ホルモン値を追跡し、下がればそれでよく、もし、炎症反応が強くなったり、頸部痛が出現してきたりすれば、亜急性甲状腺炎と考えて、ステロイド投与も考慮していくべきでしょう (当面はNSAIDでも十分)。甲状腺機能亢進症が長引くようであれば、甲状腺中毒症状に応じて、メルカゾールを適量処方、経過観察します。術前術後の糖尿病コントロール経口糖尿病薬は手術前後は禁忌となっています。手術前後とはどれくらいの期間をいうのでしょうか。その間はインシュリンでコントロールすることになりますが基本的なやりかたをご教示ください。手術の種類、術後の食事摂取の状況からも、ことなり、一律にはいえないと思います。一般に消化管手術は、吸収が不安定なこともあり、最低前1日、後7日間くらいは、血糖測定下でのインスリン治療が望まれます。SU剤を中止してのインスリン量の決定は、個々異なり、試行錯誤ですが、グリペングラマイド(2.5mg)3T/日では、およそ、インスリン必要量は、8-12単位くらいではないでしょうか。当院では、毎食前血糖測定後、血糖(mg/dl)100-120、  120-150、150-200、200-250、250-300 それぞれ、インスリン(レギュラー)2-4、4-6、6-8、8-10、10-12単位打つことを目安にしています。大学病院に足りないもの先生が大学病院の経営のみならず、臨床の現場でもご活躍されている様子、記事で拝見しました。大学病院の上から下までご存知の先生にお聞きしたいことがあります。「今、大学病院に足りないもの」を一つ挙げるとしたら、なんでしょうか?今や大学病院も収入につながる診療に振り回され、臨床研究の機会がどんどん減っているような感があります。周りの若手を見ても、診療に疲れて、「大学病院でバリバリ研究するぞ!」という気概を感じることができません。魅力ある大学病院を作るために何が必要なのか?何が足りないのか、日々悩んでいる状況です。ご教授頂けると幸いです。こんな時代の今こそなぜ、大学病院にいるのか、どのような姿勢をとるのか、原点が問われていると思います。それというのも、いろいろ言われていますが、医療の原点である患者さんの満足度(医療レベルもふくめ)を中心に、医師をきちんと配備し、グループ、科の壁を乗り越え、互いに手を出し合ってゆけば、大学病院は採算的にやってゆけるというのが実感でした。ただそこには、多くの若い医師たちがいるということ、即ち、採算的にみると、薄給でがんばってくれている若手医師がいるからこと成り立つことを忘れてはなりません。それに対して、彼らが大学病院にいる存在意義を見出すには、スタッフが魅力的な医療技能を提示でき、全身全霊をかけて患者さんを診ているすばらしい姿をみせること。若手医師は今の医療を学ぶのみでなく、医療を開拓していくメンバーの1人として、テーマを持ち未解決なものを解決する術を身につけることの充実感とそれによる自信が必要と思います。従って、大学スタッフの責任は重大で(それだけやりがいがあるという意味です)、面白い研究テーマを見つけ、その解決を目指してあらゆる手段を用い(基礎、臨床研究)、しかもそれを楽しみながらやっている姿勢を見せ続けることです。そして、病院の業務に追われ疲れているように見えた時こそ、それらを吹き飛ばす面白い研究テーマを突きつけるべきです。マンネリと疲労から脱出させる最良の方法となります。先生のようなやる気のある上級医師は、遠慮せず、怖がらず若手医師に語りかける続けることでしょう。今の医学教育は研究の面白さ楽しさを感じ取るレセプターを育成していませんから、苦労しますが、でも、わかってくれる日が必ず来ると思います。CAVIの開発についてCAVIにはいつもお世話になっています。お恥ずかしい話、先生が開発に携わっていたこと、知りませんでした。このような新しい技術や検査機械の開発はどのように始まり、進行していくものなのでしょうか?また、このように周りを上手く巻き込んでいく時のポイント、秘訣などありましたらご教授頂きたいです。宜しくお願いします。CAVIは、今次々と新しい事実が見出されています。大切なことは、若い先生方に興味を持ってもらえ、いったん途絶えていた血管機能学が代謝学と連携して再度面白くなり始めたことです。CAVIと巡り合ったいきさつですが、たまたま、開発初期に相談をうけたわけで、私が発想し持ち込んだわけではありません。ただ、血管機能については興味をもち30年前から大動脈脈波速度(長谷川法=血圧補正法)を毎年透析患者さんで10数年にわたり測定していました。そこでPWVの限界と可能性を私なりに理解していたつもりです。今回CAVIの初期のデータとりをする中で、計算式決定まで多少紆余曲折がありましたが、バイオメカニクスの科学と臨床成績から現在の式が最終決定され、以後広い臨床評価が始まりました。そこには、長年血管機能解析に興味を持ち続け誠実にデータを蓄積分析してくれていた施設と人がいたこと、会社も、科学性と臨床データ両面を尊重し互いに納得のいくまで検討できたこと、また脈波感知と分析に高度の技術を発揮した優秀なスタッフがいたことが幸運だったと思います。加えて、全国の大御所というよりは若手研究者の方がCAVIに素直に興味をもってくれ、いわゆる大学の研究室よりは、一般病院で、素養のある先生方が先行して出された研究が多く、現場で開拓心旺盛な医師の存在が大きく浮かび上がりました。新しい世界を開くのは情熱ある若手医師とつくづく思いました。無理に誰かを巻き込もうとしたこともなく、CAVIそのものの原理と測定の安定性が最大の牽引力であったと思います。でもまだまだ、これから多くを検証する必要があります。佐倉病院でないとできないこととある病院で研修医やっている者です。先生の記事を興味深く読ませて頂きました。文末にある「佐倉病院でないとできないことに向けて頑張っていく」という言葉が印象的です。記事を読んでいると、佐倉病院さんはとてもチームワークが良く、ドクターもコメディカルも同じ目標に向かって猛進しているような印象を受けました。(先生のところだけかもしれませんが...。)「佐倉病院にしかできないこと」というのは、そのように「チームワークが良い病院でしかできないこと」なのでしょうか?それともまた何か他とは違う特徴が佐倉病院さんにはあるのでしょうか?基礎も臨床もしっかり行い、しかも全て患者さんのためになっている様子に感銘を受けました。ご回答宜しくお願いします。どこの場にいても、そこを、地球上で一番すばらしいところにしてやろうという気持ちが大切です。恵まれてすべてが整っているところほど、これからの人にとってつまらない場所はないと思います。とにかく、その場での問題点を探し、皆が一番困っているところを見つけ出し、その解決に向けて、できるとところを一歩一歩解決してゆく姿勢を評価、支援しあえる環境が佐倉病院にはあるということです。内科も、外科医に負けないような患者さんに感謝される治療学を確立しようと、研究テーマの根幹は、酸化、再生、免疫制御、栄養の4本柱で、おのおの磨いているところです。たとえば、呼吸器は抗酸化療法で間質性肺炎に挑戦、代謝は、肥満治療を分子から栄養、こころの問題と多面的に捉える治療、特に肥満外科治療が開始されましたがその術前術後のフォロー、フォーミュラー食(低エネルギー低糖質、高たんぱく食)の応用と基礎、糖尿病腎症に対するプロブコールを用いた抗酸化療法で透析療法移行抑制試験、循環器は、インターベンションに加えて、これから、難治性心不全に対する鹿児島大鄭教授の開発した和温療法実施と評価、睡眠時無呼吸と不安定狭心症の関係をみつけその治療システムの確立、消化器は、炎症性腸疾患のメッカとして、顆粒球除去療法、レミケード療法、神経内科は、排尿障害を中心に、パーキンソン病の深部脳刺激治療のバックアップ、再生医療も狙っています。研究は、各グループ専門を超えて互いに連携しています。原則として、できれば自然の法則性を体感するため、医師は基礎研究もする機会を経験してもらいたいものです。研究開発部の協力のもとに細胞培養、酵素学、遺伝子実験をできる体制を敷いています。要するに、病気を多面的にいくつかの独自の視点をもって診、医療を開拓してゆける人の育成がもっとも大切と考え、それには、チーム医療、他コメヂィカルとも力を合わせ、初めてできることと考えています。理想の地域連携とは先生がお考えになる「理想の地域連携」の姿とはどんなものでしょうか?また、その理想の姿になれない、理想の姿になるのを阻んでいる障害はなんでしょうか?(実現されていたら申し訳ないです。)現在、私も地域連携について勉強はしているものの、なかなか思うような形にできません。障害が多すぎて、「理想的」どころが「現実的」な連携フローにもなっていません。宜しくお願いします。地域となるとさまざまな価値観の人がおり、同じ言葉でも受け取り方が違ったり、利益配分に問題が出たりで、そう簡単に理想的な地域連携ができるわけではありません。しかし、今の医療は、個々の医療人が隔離状態で医療行為を行えるほど甘くなく、互いに、助け合って連携せざるをえないと思います。でも問題は、ただ患者さんを送りあえば医療連携になるかといえばそうでもなく、問題は患者さんも含めて、互いにわかりあい納得できることが大切で、それには情報の整理集約が必須です。私どもは、生活習慣病を中心としたヘルスケアファイルと呼ばれるノートを患者さん全員にお渡ししています。そこには、動脈硬化リスク因子、標準体重、BMI、臓器障害の有無、程度、さらに主要な検査値はグラフで提示するシステムを用いています。これで、関わる医師は無論、クラークさん、看護師さんも経過が一目瞭然。するとアドバイスも適切。また家族もわかり、応援しやすくなります。これを地域に広げたいというのが私どもの夢です。ただこのファイルは、血圧、糖尿、脂質、尿酸、体重、一般検査を含んでおり、全部網羅していると思います。わがままかもしれませんが、これ一冊にしていただきたいのです。一般には、00手帳が3つも5つももっておられる方もいますね。でもなんだかわからないというのが実情です。大人版、母子手帳を作るべきだと思います。チームワーク先生、チームをまとめ上げるために必要なものはなんでしょうか?チームワークというと「みんな仲良く」というイメージがありますが、決してそうではないと思います。きっと先生は、今までのご苦労の中から「これが大事!」というもの発見されていると思います。それを教えてください。宜しくお願いします。リーダーは、今自分らの分野で何が問題で、それを解決するために、どう力を互いに出し解決するかを提言し続けること。 即ち、小さなグループミーチングでも、プロジェクトを提示し、その成果がささやかでも出たら皆で確認し、面白がること。プロジェクトは、参加者全員が順に一つずつ持つように絶えず心がけていると、みんなに参加意識と存在感さらい自信が生まれます。すると、とたんに楽しく動き始めます。低糖質食私も低糖質食でメタボを脱却したものですが、抵糖質食の心血管病変に対してrisk reductionあるのでしょうか?食事の内容によっても大きく変化するのでしょうか?低糖質、高蛋白食が減量に効果があるとともに、血圧、血糖、脂質異常などの冠動脈リスク因子を減らすことは、海外のスタデイでも、ほぼ一致して報告されています。インスリン抵抗性解除作用と思います。ただし長期(1年)になると元に戻るとの報告もあり、それを鵜呑みに意味がないという人もいます。しかしその食事調査結果をみると、実際の摂取成分がもとに戻っており、実はそう長くは自己調整を続けられなかたというのが実態で、低糖質、高蛋白食は長期になると効果がなくなるというものではないわけです。御質問の「では実際、心血管イベントを減らせたか」はもっとも重要な点ですが、上述のごとく、通常食で成分調整を長年にわたり継続すること自体がほとんど不可能なため、年余にわたる低糖質、高蛋白食の冠動脈疾患の発生を抑えるかどうかの研究自体ができないのです。本当は、このような基本となる栄養組成の研究こそ、国が、コンプライアンスを保障できる食事の宅配便制度などを利用し、長期にわたる調査を企画運営すべきです。そこにこそ研究費をつぎ込むべきです。薬物のようにメーカー主導のエビデンスベーストメデイシンは、この分野では行われることはないでしょう。現在、ある程度コンプライアンスをよくして低糖質、高蛋白食の効果を見る方法とすれば、フォーミュラ食を一日一回用いるなどの方法が考えられます。また、長期のイベントの発生調査を、より短期に予測しうる方法があれば、即ち、動脈硬化のよいサロゲートマーカーがあれば早期に結論が出せるかもしれません。それには、新しい動脈硬化指標CAVIが使えるかもしれないとの淡い期待を、持っています。教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

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スタチン投与中の糖尿病例において最低限到達しなければならないLDLコレステロール値は?

糖尿病合併例におけるLDLコレステロール値の管理目標値は120mg/dL未満が推奨されているが、アドヒアランス不良のため、コントロールが不十分な例も少なくはない。フルバスタチンが投与された高コレステロール血症合併糖尿病患者の大規模市販後調査の結果より、心イベント発症抑制のためにはLDLコレステロール値を最低限180mg/dL未満に管理することが重要であることが、東京医科大学 小田原雅人氏より第53回日本糖尿病学会学術集会にて発表された。これはフルバスタチンが投与された高コレステロール血症の長期投与時における心イベント発症率とその危険因子を検討した市販後調査Lochol Event Monitoring(LEM) Studyの糖尿病患者におけるサブ解析より得られた知見。3,000例を超える糖尿病と高コレステロール血症の併発例を3年以上追跡 LEM StudyはHMG-CoA還元酵素阻害薬フルバスタチン(販売名:ローコール)20~60mg/日が投与された高コレステロール血症患者を一次予防群で5年、二次予防群で3年追跡した調査。2000年4月1日から2002年3月31日まで中央登録方式で21,139症例が登録され、その内19,084例が安全性評価対象例とされた。LEM Studyの結果は2009年に開催された第41回日本動脈硬化学会学術集会において発表されているが、今回、糖尿病合併の有無で層別解析した結果が発表された。評価対象例のうち、糖尿病患者は3,325例(17.4%)、非糖尿病患者は15,759例(82.6%)であり、高血圧合併例、心疾患合併例は糖尿病患者群で多かった。糖尿病合併の有無にかかわらず、LDLコレステロール値、総コレステロール値、トリグリセリド値はフルバスタチン投与前より有意に低下した。255例に心イベントが発現し、糖尿病患者群で2.1倍多く発現していた(p

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2型糖尿病でメトホルミン服用患者、ビタミンB12値の管理が強く勧められる

2型糖尿病患者へのメトホルミン長期投与は、ビタミンB12欠乏症のリスクを増大すると、オランダ・Academic Medical Center眼科部門のJolien de Jager氏らが、無作為化プラセボ対照試験を行い明らかにした。「ビタミン12欠乏症は予防可能で、試験の結果は、ビタミンB12値の定期的な測定が強く考慮されなければならないことを示唆するもの」と結論している。BMJ誌2010年5月29日号(オンライン版2010年5月10日号)掲載より。無作為化プラセボ対照試験で、メトホルミン長期投与の提供を検証Jager氏らは、2型糖尿病でインスリン治療を受けている患者で、メトホルミン(商品名:メトグルコ、メルビンほか)長期投与によるビタミンB12欠乏症(150pmol/L未満)、ビタミンB12不足(150~220pmol/L)の発症率の影響と、血中葉酸濃度、血中ホモシステイン濃度について検討を行った。被験者は、オランダの3つの非大学病院外来クリニックから、390例が集められ、メトホルミン850mgを1日3回服用群と、プラセボ服用群に無作為化され、4.3年治療を受けた。主要評価項目は、基線から4、17、30、43、52ヵ月時点の、ビタミンB12、葉酸、ホモシステインの各変化%値とした。4.3年でビタミンB12は19%低下プラセボ群と比べてメトホルミン治療群は、ビタミンB12、葉酸の低下との関連が認められた。平均低下%値は、ビタミンB12が-19%(95%信頼区間:-24~-14、P

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中国成人の糖尿病診断、HbA1c値を用いるなら6.3%が適切

糖尿病診断のHbA1c値について、中国での最適な基準値を特定することを目的とした多段階階層断面疫学調査が行われた。上海糖尿病センターのYuqian Bao氏らが、中国人成人4,886例のデータを解析した。BMJ誌2010年5月29日号(オンライン版2010年5月17日号)掲載より。結果、欧米で診断基準として使用されている6.5%以上よりも6.3%が優れていることが明らかになったという。なお、日本では5月末の第53回日本糖尿病学会で、診断基準「6.5%以上」(JDS値6.1%以上)で統一を図っていくことが発表されている。上海住民4,886例のデータから、HbA1c値の感度、特異度を調査調査は、2007年5月~2008年8月の間に上海市内6地点で集められた、糖尿病歴のない20歳以上中国人4,886例(男性1,828例、女性3,058例、平均年齢49.4歳)を対象に行われた。糖尿病診断は、FPG値の基準(1999年版WHO基準)を用い、一方で測定したHbA1c値の診断検出力のパフォーマンス変化が最も高い閾値を検討した。両者の相関にはピアソン相関分析を用い、ROC曲線検定でHbA1c値の糖尿病診断の感度と特異度を調べた。被験者全員を対象に検討された閾値は、標準値(5.8%以下)を上回った値の四分位範囲で4つの値(標準偏差SD値の各中央値をとって5.9%、6.3%、6.7%、7.1%とした)と、欧米での診断基準6.5%以上について行われた。また、6.0%~6.5%だった被験者を糖尿病ハイリスク群(3,639例)とし、6.0%、6.1%、6.2%、6.3%、6.4%、6.5%の閾値についても検討された。6.3%の特異度が最も高く、感度はFPG値7.0mmol/Lと同等ROC曲線検定から、診断未確定の糖尿病の検出力を示すAUC(ROC曲線下面積)は、HbA1c値単独で0.856(95%信頼区間:0.828~0.883)、空腹時血糖値単独は0.920(同:0.900~0.941)で、いずれからも有意差が認められた(P

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カナダの冠動脈性心疾患死亡率低下、医療の進歩とリスク因子の減少が要因

カナダでは1994年以降、冠動脈性心疾患による死亡率が低下傾向にあるが、その要因として、内科・外科治療の進歩と、総コレステロール値の低下などリスク因子の減少にあることが明らかになったという。カナダSunnybrook Health Sciences CentreのHarindra C. Wijeysundera氏らが、地域住民を対象に行った前向きコホート試験で明らかにしたもので、JAMA誌2010年5月12日号で発表した。1994~2005年、冠動脈性心疾患死は35%減少同研究グループは、1994~2005年にかけて、オンタリオ州に住む25~84歳を対象に、試験を行った。急性心筋梗塞や急性冠症候群といった8つの冠動脈性心疾患に対する、エビデンスで裏づけられた治療法と、喫煙や糖尿病といった6つのリスク因子について、それぞれ、冠動脈性心疾患死との関連を分析した。その結果、調査期間中のオンタリオ州の年齢補正後冠動脈性心疾患死亡率は、人口10万人中191人から125人へと、35%減少していた。2005年には、7,585人の冠動脈性心疾患による死亡が削減できたと推定された。死亡率低下要因の43%が治療の進歩、48%がリスク因子の減少同死亡率低下の要因としては、その43%が内科・外科治療の進歩と考えられ、なかでも急性心筋梗塞(8%)、慢性安定冠動脈疾患(17%)、心不全(10%)に対する治療進歩が大きく関与していた。リスク因子の減少傾向も、3,660人の冠動脈性心疾患死を予防または遅らせることができたと推定され、同死亡率低下の要因の48%に関与していた。なかでも、総コレステロール値の低下(23%)、収縮期血圧の低下(20%)の影響が大きかった。一方で、糖尿病罹患率や肥満指数(BMI)の増加は、冠動脈性心疾患死亡率増加の、それぞれ6%と2%に関与していた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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心血管イベント抑制のための費用対効果に優れた戦略は?

心血管疾患予防のため、イギリス政府は40~74歳の全成人を対象としたスクリーニング戦略の実施を推奨している。その戦略と、ルーチンデータを用いて心血管リスクを層別化する(Framinghamリスクスコア、Cambridge diabetesリスクスコア、Finnish diabetesリスクスコアを用いる)戦略とでは、潜在するハイリスク患者を特定・治療することに、どれほどの違いがあるのかが検証された。ケンブリッジ・Addenbrooke's病院メタボリックサイエンス研究部MRC疫学部門のParinya Chamnan氏らによるモデルスタディによる。BMJ誌2010年5月8日号(オンライン版2010年4月23日号)掲載より。政府推奨の全成人対象の戦略と、リスクスコアに基づく戦略の予防効果を比較Chamnan氏らは、イギリス、ノーフォークの40~79歳の住民を対象とする前向き試験EPIC-Norfolk(European Prospective Investigation of Cancer-Norfolk)のデータから、モデルスタディを構築した。被験者は、1993~2007年のデータがあり基線で心血管疾患、糖尿病に罹患していなかった40~74歳の男女16,970例。主要転帰は、新規の心血管疾患1例を予防するのに要したスクリーニングの実施件数、また、予防するための治療介入に要した件数、あるいは予防できた可能性があった新規の心血管疾患に対する件数についても検討された。治療効果による相対リスクの低下は、臨床試験のメタ解析の結果およびNational Institute for Health and Clinical Excellenceのガイドラインから推定した。効果は同一、リスクスコア戦略の方がコストを抑えられる追跡期間中の心血管イベント発生は、18万3,586患者・年超のうち、1,362例だった。新規の心血管イベント抑制に関して、政府が推奨する戦略と簡易リスクスコアを段階的に用いたうえで実施する戦略とに違いはなかった。予防できた件数は、政府戦略で26,789例、リスクスコアを用いた戦略で25,134例だった。リスクスコアを用いた場合、スクリーニングの実施必要者数は、母集団の60%で事足りた。50~74歳でみた場合も、両戦略に相違はなかった。Finnish diabetesリスクスコア調査票、身体測定値による層別化は、効果的ではなかった。Chamnan氏は、「全成人を対象とするスクリーニング戦略も、リスクスコアを用いて行う戦略も、予防効果に相違はなかった。またリスクスコアを用いた方がコスト抑制も期待できる」と結論している。

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併用脂質低下療法の心血管イベント抑制効果:ACCORD

心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者に対するスタチン療法で、併用療法を行っても単独療法と比べて、イベント抑制効果は認められないことが、ACCORD試験から報告された。本論は、3月に行われた米国心臓病学会ACCで発表、NEJM誌2010年4月29日号(オンライン版2010年3月14日号)に掲載された。5,500例を、併用群・単独群に無作為化し4.7年追跡ACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)試験は、心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者10,251例が参加する、厳格な降圧管理あるいは脂質管理が及ぼす影響を検討するために行われている試験。本論は、厳格な脂質管理の検討(ACCORD lipid trial:ACCORD Lipid)について報告したもので、5,518例が参加した。試験登録は、2001年1月~2005年10月に行われた。被験者は、オープンラベル2×2で無作為に、シンバスタチン(商品名:リポバスなど)+fenofibrateの併用療法群(2,765例)か、シンバスタチン+プラセボの単独療法群(2,753例)に割り付けられ追跡された。主要転帰は、非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心血管系死亡の複合。平均追跡期間は、4.7年だった。両群にイベント発生の有意差認められず被験者平均年齢は62歳、女性が31%、37%が心血管イベントの既往があり、約60%が試験登録以前からスタチンを服用していた。結果、主要転帰の年間発生率は、併用群2.2%、単独群2.4%で、有意差は認められなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.79~1.08、P=0.32)。また、副次転帰(主要転帰+うっ血性心不全による入院等、主要な心血管イベント、脳卒中など)も両群で有意差は認められなかった。年間死亡率も、併用群1.5%、単独群1.6%(ハザード比:0.91、95%信頼区間:0.75~1.10、P=0.33)だった。交互作用の可能性はある事前規定のサブグループ解析の結果、脂質低下の強化療法は、男性には有益だが、女性にはかえって有害となるかもしれない結果が示された。主要評価項目について、男性は併用群11.2% vs. 単独群13.3%だったが、女性では同9.1% vs.6.6%と逆転していた(交互作用P=0.01)。また脂質による交互作用の可能性も示され、基線でトリグリセリド値が高く(≧204mg/dL)・HDLコレステロール値が低かった(≦34mg/dL)患者は他のいずれの脂質群とも比べて併用療法が有益であることが示された。研究グループは、「シンバスタチン単独療法と比較して、シンバスタチン+fenofibrateの組合せによる併用療法が、致死的心血管イベント、非致死的心筋梗塞・脳卒中のイベントを抑制することは認められなかった。この結果は、心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者に対し、ルーチンで併用療法を用いることを支持しないものである」と結論している。(医療ライター:武藤まき)

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強化血圧コントロールの心血管イベント抑制効果:ACCORD

心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者に対する降圧療法の目標値を、135~140mmHg未満とする無作為化試験のエビデンスは、まだない。そこで正常収縮期血圧値(120mmHg未満)を目標とする強化血圧コントロール(強化降圧療法)を行ったが、イベント抑制効果は認められなかったことが、ACCORD試験から報告された。本論は、3月に行われた米国心臓病学会ACCで発表、NEJM誌2010年4月29日号(オンライン版2010年3月14日号)に掲載された。4,733例を、血圧目標値120mmHg未満群と140mmHg未満群に無作為化し追跡ACCORD blood pressure trial(ACCORD BP)には、心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者4,733例が参加。収縮期血圧120mmHg未満を目標とする強化降圧療法群(2,362例)か、140mmHg未満を目標とする標準降圧療法群(2,371例)に無作為化され追跡された。主要転帰は、非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・心血管系死亡の複合。平均追跡期間は、4.7年だった。追跡1年時点の平均収縮期血圧は、それぞれ強化療法群119.3mmHg、標準療法群133.5mmHgだった。120mmHg未満としても、主要心血管イベントの発生率を低下しない主要転帰の年間発生率は、強化療法群1.87%、標準療法群2.09%で、強化療法群のハザード比:0.88(95%信頼区間:0.73~1.06、P=0.20)だった。しかし1年間の全死因死亡率は、強化療法群1.28%、標準療法群1.19%で、強化療法による低下は認められなかった(ハザード比:1.07、95%信頼区間:0.85~1.35、P=0.55)。事前規定の副次転帰である脳卒中の年間発生率は、強化療法群0.32%、標準療法群0.53%だった(ハザード比:0.59、0.39~0.89、P=0.01)。高血圧治療に起因する重篤な有害事象の発生は、強化療法群2,362例中77例(3.3%)、標準療法群2,371例中30例(1.3%)だった(P<0.001)。研究グループは、「120mmHg未満を目標値として強化血圧コントロールを行っても、140mmHg未満を目標とする血圧コントロールと比べて、致死的・非致死的主要心血管イベントの複合転帰の発生率は低下しなかった」と結論している。(医療ライター:武藤まき)

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教授 中村正人先生「カテーテルの歴史とともに30年、最先端治療の場で」

名だたる方のカテーテル手術を手がけていることでも有名。日本心血管インターベンション治療学会理事など学会の委員を多数兼務。心臓カテーテルに関する著作は多く、循環器医の中では初めてに近い「末梢血管インターベンションのノウハウをまとめたハンドブック」を作成。現在、東邦大学医療センター大橋病院で心臓血管カテーテルセンター長を務める。カテーテルの世界は進歩早く魅力的東邦大学医療センター大橋病院の外来数は、他病院から紹介などを含め1日あたり約50人ですね。生活スタイル、食生活の変化などから日本人の私たちの体も変化してきていて、患者数はますます増加傾向にあります。自分が大学病院に入った時には心臓にカテーテルを用いた治療がこれからという時でした。まだそれほどカテーテルが主流でなかった時から、ともに約30年を歩んできました。多くの患者さんのための手術をしてきました。10年サイクルで新方式が開発されるカテーテル治療の世界では、最先端治療により、より良好な成績で患者さんの負担の少ない手術が行われるようになりました。最新の冠動脈カテーテルインターベンションを行っています。東邦大学医療センター大橋病院では、年約1,400件の心臓血管カテーテル、うち400件の心血管治療を行っています。冠動脈以外には、経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC)、経皮的中隔焼灼術(PTSMA)、腎動脈、下肢の動脈などのカテーテル治療を行っています。カテーテルの世界はものすごいスピードで進化しており、それは魅力的な世界です。私がこの世界に入った時とは比べ物にならないくらい、多種の病気に対応しており治療自体が違っています。しかし、カテーテルだけの知識だけでは専門域を極めることができません。循環器は体の隅々にまで影響する病気を発症するため、体の細部にわたる知識と専門治療医との連携が患者さんのために必要です。糖尿病とカテーテルの進化の中で60年代まで少なかった糖尿病の患者さんは、現在1000万人以上いると言われ、予備軍を含むと相当数な人数に上りますね。食生活の欧米化、自動車の普及による運動不足など、現代化の波は糖尿病患者を急増させています。虚血性心疾患の患者さんの半分ぐらいまでが糖尿病で、その場合には再狭窄が多く起こることがわかっています。糖尿病対策を早く推し進めていかなければならないでしょう。糖尿病に関しては、まだまだ大きな課題があります。カテーテルはここ約30年で、様々な患者さんに対応するために大きく進化しました。その30年とともに私も歩んできたわけです。この医療に入った時にはここまで進化・進歩するとは思ってもみませんでした。治療に関して、治療方針、患者さんの選択が広がってもきました。しかし、ここで忘れてはならないのが、患者さんの気持ちです。治療ばかりでなく患者さんのためにはどの選択がよいのか。カテーテルの進化により、最先端治療の現場では治療優先になりがちなので注意が必要ですね。あくまでも患者さんのための治療であることを忘れないことです。地域医療、他診療科との連携カテーテル手術の専門域だけでは私たちのこの医療は成立しません。患者さんは全国から来院します。当院以外の病院からの紹介などでカテーテル入院治療をした後、患者さんは今までの生活に戻ってくわけです。その後の治療は、自宅に戻った後も続きます。また、私たちのセンターへ地域医療からの紹介も多く、そういった意味でも地域医療との連携は必須です。また、患者さんの急増とともにカテーテルの進化・進歩してきているわけですが、それに伴い治療、薬剤なども進歩しており、知識を蓄える必要があり、他診療科との連携も重要となります。ここでは今まで自分が学んだものが全てではなく、患者さんのための選択肢を考えていかなくてはいけないわけです。治療知識を蓄えておけば、様々な病気への対応が遅れることなく治療できるようになるでしょう。カテーテル治療の場合、時間との戦い、タイミングが全てとなるケースが多いので連携と判断能力を養うことがポイントとなります。国内各地でカテーテル研修をする日々私の勤務する東邦大学医療センター大橋病院は都内にあり、多数の患者さんが来院するためカテーテル手術の件数も多く症例数は国内でも数多いと思います。これは都心の病院だからでしょう。地域によっては人口密度の関係から、数多い症例の確立が難しい時がありますね。カテーテル治療は知識のみならず経験が必要になります。このため、アプローチの方法なども含めて後輩の方々に伝授したいと考え、各地で研修をしています。研修は、1、豚を使用し実際に治療を行う2、コンピューターシミュレーションをつかうの2種類を主に行っています。何人かの先生と一緒になってカテーテル治療のトレーニングコースを作り、若い先生へ技術を年に数回ほど指導しています。このシミュレーションをするのとしないのでは、随分と技術に違いが出てきます。そしてディスカッションをしつつ理論を展開していく場を作っています。また若い人たちが非常に熱心で、こちらもそういう姿勢を見ていると研修を続けていこうという気持ちにさせられますね。普段治療を行っていて「自分の治療が正しいかどうか」これが一番気になるところだと思いますが、この研修を通じて症例を持ち寄る検討会をしています。治療が正しかったのかどうか、他にも治療方法があったのかなどアプローチ方法を考える理論の展開をしています。学会で発表されるような症例はベストなものを扱う発表の場であり、うまくいかなかった症例がなく、振り返ることがありません。様々な症例でアプローチ方法を探り次回へ活かしていってもらいたいです。アプローチ方法を検討しあい症例を多く集める、これは実際の診療に役立っていると思います。情報を共有して、国内のカテーテル治療の現状アップにつなげていけらと考えます。このような研修は、疑問を持ちつつ地域で医療を展開している人たちにとって得難い機会でもあると私は思います。多くの知識とコミュニケーション能力循環器は体全体の病気に関係しているので、体全体の多岐にわたる知識が必要ですね。それに伴い専門治療医との連携、これが重要になってくるわけです。そして、糖尿病患者さんの急増問題。これは糖尿病専門医だけではなくメタボ関係と並び社会全体の問題です。メタボな患者さんの循環器診察をして糖尿病を防がねばなりません。循環器医でも患者さん減少に取り組まなくてはならないと思います。患者さん、専門治療医、地域医、術後の管理などその後の治療などを含めると多くの医療従事者、患者さんが繋がっていることがわかります。患者さんの情報をお互いにやりとり、その連携が患者さんの術後の生活を支えていきます。コミュニケーション能力は大切、能力を養っておくべきです。ここにはカテーテル治療専門域だけでは対応は難しいですね。専門域だけで診察するのではなく、患者さん「人」を見るということをした方がよいでしょう。カテーテル治療は先端治療なので病巣以外を見逃しがちになりますが、患者さんにとって何がベストな治療であるかを考えなくてはいけません。また、数週間入院している患者さんを診察するとき、私は一週間に一度はカテーテル治療部分の病巣を忘れ全身を診察しています。その病気の別の顔、他への影響、あるいは他の病気が隠れているかもしれないというような気づきがあるかもしれません。同じ治療を施しても、助かる助からないの差が出てきてしまうのはその時のタイミングが大きくものをいうということを肝に銘じておくことも重要です。それは患者さんの命を左右することにもなりかねないからです。患者さんがどこまで治療を望んでいるのか、患者さんのお気持ちを最優先とした治療を心がけることが一番だと考えますね。質問と回答を公開中!

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教授 中村正人先生の答え

循環器内科での後期研修について初期研修1年目の者です。循環器内科に興味を持ち始めたのですが、循環器内科といっても幅が広く、心臓血管カテーテル以外にも多くの専門領域があると思います。大橋病院ではどのような体制で診療や研究を行うのでしょうか?入局してくるレジデントは、ある程度専門領域を決めて来るのでしょうか?少し場違いな質問ですが御教授願います。ご指摘のごとく、循環器の診療はカテーテル検査のみでなく、心臓超音波、心臓CT、核医学など画像評価、不整脈、心不全、リハビリテーションなど幅広い知識、経験が必要です。このため我々の診療科では初年度1年間は、画像診断、不整脈、心臓血管カテーテルをローテーションで勉強するシステムを構築しています。その間は、当該領域専門の医師の指導下で関係する検査、関係する疾患の診療を行います。その後に、自分の専門領域を決定します。従って、最初から自分の専門を決めてこられる人は多くありません。ローテーションで回っている間に興味を覚えさらに勉強したいと思った領域を選択する人が多いと言えます。大学では、主として自分の専門領域の診療、研究を行いますが、大学からの出張先ではオールラウンドな診療を行うこととなります。なお、近年自分の専門領域と他科との関わりの中での研究の必要性も高まっています。なお、我々の診療科は循環器として勉強を始める前に消火器科、腎臓内科、呼吸器科を研修するシステムを採用しています。他診療科との連携について先生のコメントの中に「他診療科との連携も重要となります。」とありますが、最近ではどのような科との連携が増えてきたのでしょうか?また、先生が他診療科との連携において最も重視されていること、ご苦労などございましたら教えて下さい。今日、診療はどんどん専門に特化していく方向ですが、複雑化、重症化すればするほど、また長期成績を見据えた治療を考えれば考えるほど他科の先生との連携は避けられなくなってきます。緊急で冠動脈バイパス術をお願いすることはほとんど皆無となりましたが、大動脈弁疾患、大動脈疾患の合併が増加、心臓血管外科の先生との連携は必須です。冠動脈インターベンションの40%以上は糖尿病症例です。糖尿病における冠動脈インターベンションの成績改善には糖尿病の管理は不可欠です。また、数%は透析症例であり、造影剤を用いる検査であるため、造影剤腎症の問題は避けて通ることはできません。今日、アテローム血栓症の概念が提唱されるようになりました。冠動脈と同様な病変は脳血管、頸動脈、腎動脈、下肢動脈と全身に及び、冠動脈の管理のみでは不十分であると考えられています。冠動脈インターベンションの経験はこれら動脈病変の治療において非常に有益です。しかし、頸動脈の治療においては脳外科の先生との連携が重要ですし、下肢閉塞性動脈硬化症の治療において、とくに重症虚血肢の症例では創傷治癒の診療をお願いする形成外科の先生、foot careチームとの連携が必須となります。たとえ、下肢の血流を再開のみでは本病態の改善が得られないからです。TASCにおいても多診療科の連携の重要性が述べられています。しかし、大学病院など大きな病院ではこれら診療科が縦割であり、横の連携が機能しにくい傾向があると指摘されています。専門化の弊害といえます。幸い、当院ではその垣根が低く、多くの先生に協力を得ながら診療を行っています。研修について記事拝見しました。研修で全国を回っていらっしゃることを初めて知りました。研修の内容をもう少し詳しくお聞きしたいです。(研修日程や内容、参加者数、参加者層、講師の先生のことなど。)また、先生の研修に参加することは可能でしょうか?このような機会はあまりないかと思いますので是非教えて頂きたいと思っております。年2回春と秋に土、日曜日の2日間行っています。場所は、郡山、神奈川、神戸、宮崎の4か所を持ち回りで行っています。井上直人先生、村松俊哉先生、横井宏佳先生、私の4名で実施しています。当初4名で実施しましたが、2回目以降は各地域の近隣の経験豊かな先生方に講師として協力していただき実施しています。これまでに7回行われ、次回は神戸で10月に実施予定です。対象は初心者の先生方。これから冠動脈形成術を始める、始めたばかりの先生方であり、基本的、標準的な実技をトレーニングしようとするものです。開催地区近隣の先生の参加が多いのが実情ですが、全国から参加可能です。参加者は20‐30名程度で4つのグループに分かれていただき、ローテーションで動物を用いたカテーテルのトレーニング(ガイドワイヤーの曲げ方、挿入、ステントの留置、バルーンの挿入、抜去、IVUSの操作)。コンピューターによるシィミレーション、モデルを用いたロータブレーターの手技などのトレーニングが行われます。実技を中心とした研修ですが、講義による座学も行われます。また、夜には困った、悩んだ症例をもちよりみなで議論、親交を深めております。アドバンスコースは年2回、土曜日の一日コースで及川先生、矢島先生、小川先生、濱崎先生と東京の先生に協力していただき、動物モデルで実施しています。10名前後の少数の研修で、人数の関係もあり東京限定で実施しています。これら研修は非常に体力を要し疲労しますが、若い先生の情熱を感じ、昔の自分達を思い出し、終了するたびにやめられないと企画者一同実感しております。薬剤溶出ステントの副作用について以前、薬剤溶出ステントの副作用について話題になったかと思いますが、現在はどのようになっているのでしょうか?欧米に比べると日本の副作用発生率は少ないとの発表もあったようですが、最前線にいらっしゃる先生のお考えをお聞きしたいです。宜しくお願いします。本邦でも、この種のステントが登場して5年を経過しました。この間、多くの成績が報告され、薬剤溶出ステントは揺るぎないものとなっています。しかし、現在のステントの問題点も指摘され、さらなる改善が望まれています。このデバイスの最大の利点は再狭窄を著しく軽減させたことにあります。ステントにても克服できなかった再狭窄の問題が解決に向け大きく前進しました。糖尿病、小血管など従来のステントで成績に限界があった病変、病態におけるインパクトが最大です。一方、従来のステントでは経験しないような留置後1年以降に生じるステント血栓症が新たな問題として浮かび上がりました。このため、チエノピリジン系の抗血小板薬、アスピリンの2剤の抗血小板薬を長期に服薬することが推奨されています。一方、これら薬剤による出血性リスクの懸念もあり、長期服薬の是非が問われています。この合併症の原因は依然として不詳ですが、解決すべく新たなデバイス開発がなされています。薬剤溶出ステントはステント、コーティング、薬剤の3者で構成されていますが、コーティング、最終的にはステントが溶けてなくなるようなデバイスもすでに臨床で試みられています。先生が指摘されたように、上記の合併症は幸いなことに諸外国に比し本邦では極めて低率であることが報告されています。この理由も定かではありません。幾つかの要因が指摘されています。人種差による血小板機能の差異、薬剤コンプライアンスの差異、血管内超音波を用いた治療手技の差異などです。実臨床では個々の症例で原因は異なっているものと考えられ、本邦の成績が良いのは複合的な作用の結果であろうと推測されます。いずれにしても、デバイスは有効性、安全性の両面が重要であり、このテーマは永遠に追求されていくものと思われます。カテーテルを極めるには?医大に通っています。心臓を悪くして亡くなった者がいるので、心臓血管カテーテルに大変興味があります。先生のように、カテーテルを極めるには、どのような進路や経験を積めば良いのでしょうか?心臓血管カテーテルは急速な進歩であり、これは我々の予想を大きく上回るものでした。まさに、成熟期を迎えたと言えます。幸いなことにこれら進歩を眼のあたりにしながら今日まで診療をすることができました。これらかの先生は今日の診療が当たりまえの位置からスタートするわけですから大変であろうと思います。まず、実技に入る前に清書を読むことをお勧めします。歴史を知ることは、今日の問題点が何故あるのか、どのような模索がされてきたかを理解することにつながります。広い視野が重要で、今後非常に参考になるでしょう。絶対的なルールはありませんが、次に大切なポイントはカテーテル検査を好きになることです。この領域は経験がものをいうことは否めませんから一歩、一歩、着実に前進するしかありません。手技は感覚的な要素も含まれるため、見て盗むといった古典的な手法が依然として必要になります。助手、または聴講者としてみているときも、つねに何故?その理論的背景は、自分ならどうするといった心構えが重要と思います。漠然と時間が過ぎていくのではなく、一例一例が重要です。その意味で色々なオプション、引きだしをもつことができるか、それを実践できるかが重要です。良い上司、環境は重要でしょうが、入ってみないと現状はわからないものです。多くの施設を訪問し、多くの先生の意見を聞いてみるのがよいと思います。その中で何か感じるものがあれば、あとは自分の努力で前進は可能です。昔より、勉強する機会、環境は非常に増えたと思います。狭心症患者に「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について説明する時の注意点私はクリニックに勤めている医師ですが、近隣に住む、狭心症で大学病院にかかっている方から「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について相談を受けました。患者の状態によって違うとは思いますが、せめて一般的なメリット、デメリット、再発率などを説明してあげたいと思っております。教科書通りの説明は本を読めばできるのですが、先生の御経験に基づいた注意点やポイントなどありましたら教えて頂ければと思います。両治療の差異は侵襲性と再血行再建の必要性にあります。両者に生命予後の点では差がないことが示されています。冠動脈形成術は、侵襲性が低く1-2時間で手技が終了、2-3日で退院可能です。死亡リスクは1%未満で、社会復帰も早期に可能です。最大のアキレス腱は再狭窄がある一定の頻度で生じることです。しかし、この問題も薬剤溶出ステントが登場して著しく軽減、数%となっています。このため、薬剤溶出ステントが汎用されていますが、この種のステントで治療した場合ステント血栓症を防止するためアスピリン、チエノピリジン系抗血小板薬2剤長期服薬が必須です。服薬アドヒアランスが低い患者さんには不向きと言えます。また、冠動脈形成術は局所の治療であるため、治療部位以外のイベントは回避困難であり、厳格なリスク管理が重要です。一方、冠動脈バイパス術は全身麻酔を要し、初期の侵襲性は高く、死亡リスクは1-3%、脳卒中、開胸に伴う合併症、麻酔に伴いトラブルなどのリスクが若干あります。一回で治療を完結できる可能性が高く、グラフトされた末梢での心血管事故防止効果も期待できます。初期に開存が得られ長期的な開存が期待できます(グラフトの種類により差異がある)。他に両治療戦略を選択する重要なポイントに病変形態、合併疾患の有無があります。病変形態が冠動脈インターベンション治療に向いているか否かの判断が極めて重要です。この事実は最近の臨床試験でも示されています。また、腎機能障害があれば複数回のカテーテル治療は腎機能を悪化させるリスクとなります。高齢者では合併症のリスクが高く、最も重要な病変のみ治療を行い薬物で補完することも戦略となります。穿刺部合併症心臓カテーテル検査を始めて3年目なのですが、穿刺部合併症を最近数例件しました。具体的には浅腸骨回旋動脈の穿孔や、血腫、仮性動脈、動静脈瘻を経験しました。 こういった合併症を防ぐために、普段どういったところに注意されていますか? Femoral Punctureでは穿刺部位は透視で大腿骨頭の位置を確認して刺していますが、シースを挿入する前のワイヤー操作はやはりほとんど透視しながらやった方が良いのでしょうか?仮性動脈瘤はlower punctureで合併しやすく、逆にhigher punctureは腹腔穿刺になるため大腿動脈穿刺において穿刺部位は極めて重要です。これは比較的狭い範囲です。先生が実施しているように透視で大腿骨頭の位置を確認することは重要です。当院では全例実施しています。今後も必ず実施してください。大腿骨頭の下縁以下、上縁以上は避けることになります。穿刺はsingle wall punctureが良いとされています。すなわち、血管の後壁を突き抜けないように動脈の前壁のみを穿刺する手法です。当院では外筒のないアルゴンニードルを使用しています。なお、この穿刺針とラジフォーカスは相性が悪く、スプリングワイヤーを用います。その後穿刺針にガイドワイヤーを挿入します。透視を見ながらの挿入は行っておりませんが、ゆっくり挿入し、抵抗を感じた場合必ず透視で確認を行います。この際にラジフィーカスを用いないのは、迷入しても気づきにくいからです。透視で迷入が確認された場合、検査後造影にて確認を行えば確実です。上記の理由でラジフォーカスを用いる場合は透視下で挿入する方が安全でしょう。静脈は動脈の内側に伴走していますが、血管の蛇行などで上下に重なっていることもあります。止血手技も重要です。Learning curveがあり、ある程度の経験が必要です。とくに高度肥満の人、高齢者、大動脈弁閉鎖不全症など脈圧が高い人は要注意です。皮膚の穿刺点と血管の穿刺点は高さが異なること、拍動を感じながら圧迫することなどが重要であり、single wall punctureが望ましく, lower punctureは止血困難な要因となります。どこに問題があったか、自問してみましょう。しかし、実際には動脈穿刺に伴う合併症はある一定の頻度で合併し得るものです。合併症は早期に見つけること、そのためには疑うことが肝要です。PCIにおけるステントの選択に関してPCIにおけるステントの選択ですが、私は、3mm以上の血管に対してはエンデバースプリント、2mm代の小血管に対してはCypher select、AMIに関してはDriver stentという選択をしております。ザイエンスが登場し、遠隔期の成績の良さはよくわかるのですが、メリットである通過性に関してもエンデバースプリントでことたりますし、ザイエンスのデリバリーバルーンのドッグボーン、コンプライアンスが良すぎるバルーン、ウイギング現象を考えるといまいちザイエンスの使い勝手が悪い気がします。中村先生は、ステント選択に関して何かいいポイントはありませんか?ぜひ教えてください。ステントの成績に関する報告は多数ありますが。これらの報告を実臨床にどのように生かすかが個々の医師に託された仕事であろうと思います。比較試験は限られた対象における検討であり、レジストリーデータは実臨床に近い対象になりますが、バイアスのかかった対象であり、近年はやりのマッチングを行っても比較試験と同等の意味をもたせるには限界があります。最近の臨床試験における各デバイスの差異は数%以内のものであり、基本的に大きな差異はないと言えるでしょう。薬剤の臨床試験と極めて類似して来ました。従って、どのステントを選ぶかは、そのステントの何を生かそうとして選択したかという点に尽きます。抗血小板薬長期服薬困難であるか、ステントのプラットフームが重要な病変であるか、通過性が重要な病変であるかなど個々に適したものを選択すればよいと思います。大切な点は、適切な拡張術で良好なステント拡張を得ることです。この点で、使いなれたステントを用いると予想された結果が得られやすいということは言えるでしょう。さてザイエンスです。ご指摘のごとくコンプライアンスが高く、留意が必要です。特に2.5mmはコンプライアンスが高く、サイズを間違えないことが重要です。また、taper vesselでは近位に合わせたサイズを選択すると危険です。この点先生の意見に賛成です。私は高圧をかけず、低圧で長時間拡張後にステント内を高圧拡張行うようにしています。ステントの特徴はむしろマウントされているバルーンの性能とステントの相性によって決定されるといって過言でありません。従って各ステントにあった拡張を行うことが重要です。それは個々の先生の流儀と相性があるかもしれません。以上のごとく、病変、病態にあったステントを選択し、そのステントにあった拡張術(edge損傷なくステント面積を得る)を行うのが良いと考えています。予後50歳男性心筋梗塞発症15時間後に心カテ施行。1枝は凝固が強く、完全閉塞だが微小な側副血行あり。ヘパリン治療にて24時間経過、バイタルは安定、軽度左室肥大あり。今後の予後予測は?外科適応の指標などあればご教示下さい。ポイントは50歳と若年、1枝病変完全閉塞の2点にあります。本例の梗塞部位は不明ですが、初回梗塞の1枝病変で血行動態が安定しており、高齢でない点から予後は良好、機械的合併症発生のリスクは低いものと予想されます。本例は15時間経過した梗塞例で、側副路の発達が不良な完全閉塞であったとのことから、壊死はすでに完成しているものと推測され、このためこの時点で再灌流による心筋救済のメリットは小さいものと推測されます。結果としての梗塞サイズ、残存心機能が予後を規定します。再灌流が得られていないので梗塞後のリモデリング防止が重要となります。さて、慢性期に1枝完全閉塞であった場合の血行再建の適応は残存虚血の有無、病変部位によって決定されます。虚血がない、または小さい場合は薬物で管理。虚血が残存する場合、バイパス術、PCIなどの血行再建が必要になります。両者の別は病変形態、部位によって決定されます。冠動脈バイパス術は本例が主幹部、LADの近位部にあり、病変形態がPCIに不向きな場合に考慮されます。なお、急性期に完全閉塞であっても自然に再疎通し開存していることが少なくありません。従って、退院前に再造影することをおすすめします。教授 中村正人先生「カテーテルの歴史とともに30年、最先端治療の場で」

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