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脳内出血生存例への抗血小板療法は安全か/Lancet

 脳内出血の生存例は、出血性および閉塞性の血管疾患イベントのリスクが高いが、これらの患者で抗血小板薬が安全に使用可能かは明らかでないという。英国・エジンバラ大学のRustam Al-Shahi Salman氏らRESTART試験の研究グループは、抗血栓療法中に脳内出血を発症した患者への抗血小板療法は、これを行わない場合と比較して脳内出血再発率が低い傾向にあり、安全性は保持されることを示した。研究の詳細はLancet誌オンライン版2019年5月22日号に掲載された。再発リスクが閉塞性血管イベント抑制効果を上回るかを検証 研究グループは、脳内出血の再発予防における抗血小板薬の有効性を評価し、再発のリスクが閉塞性血管イベントの抑制効果を上回るかを検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験を行った(英国心臓財団の助成による)。 対象は、抗血栓療法中に脳内出血を発症したため治療を中止し、その後、発症から24時間以上生存し、閉塞性血管疾患の予防のために抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の投与を受けている年齢18歳以上の患者であった。 被験者は、抗血小板療法を行う群と行わない群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、最長5年の症候性脳内出血の再発とした。再発率:4% vs.9%、閉塞性血管イベント発生率:15% vs.14% 2013年5月~2018年5月までに、脳内出血生存例537例(発症からの期間中央値76日[IQR:29~146])が登録された。抗血小板療法群に268例、非血小板療法群には269例(1例が脱落)が割り付けられた。追跡期間中央値は2.5年(IQR:1.0~3.0、追跡完遂率:99.3%)だった。 ベースラインの全体の平均年齢は76歳、約3分の2が男性で、92%が白人であった。62%が脳葉出血で、88%に1ヵ所以上の閉塞性血管疾患(ほとんどが虚血性心疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作)の既往があり、割り付け時に約4分の3が高血圧、4分の1が糖尿病や心房細動を有していた。 脳内出血再発率は、抗血小板療法群が4%(12/268例)と、非血小板療法群の9%(23/268例)に比べ低い傾向がみられたものの、有意な差はなかった(補正後ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.25~1.03、p=0.060)。 主な出血イベント(再発性症候性脳内出血[主要アウトカム]、外傷性頭蓋内出血など)の発生率は、抗血小板療法群が7%(18例)、非血小板療法群は9%(25例)であり、有意差は認めなかった(補正後HR:0.71、95%CI:0.39~1.30、p=0.27)。また、主な閉塞性血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜虚血、末梢動脈閉塞、深部静脈血栓症など)の発生率は、それぞれ15%(39例)および14%(38例)と、こちらも両群に有意差はみられなかった(1.02、0.65~1.60、p=0.92)。 著者は、「脳内出血例における閉塞性血管疾患の予防ための抗血栓療法では、抗血小板療法による脳内出血の再発リスクの増加はきわめてわずかであり、おそらく2次予防において確立された抗血小板薬の有益性を超えるものではない」とまとめ、「現在、別の無作為化試験が進行中であり、本試験と合わせたメタ解析や、適切な検出力を持つ信頼性の高い無作為化試験が求められる」としている。

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学会員のゲノム解析から成果を発信

日本人のアンチエイジングのために学会員の遺伝子解析に乗り出した日本抗加齢医学会。本学会の理事長である堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)に研究目的やアンチエイジングの展望について聞いた。遺伝子研究はアンチエイジングの第一歩老化のメカニズム解明は、この10年で飛躍的な進化を遂げています。われわれの課題は、その成果を老化予防に活用できる医療へ変換していくことです。性格や骨格、顔貌などは、ゲノムによって支配されています。テクノロジーによってゲノムに介入できれば、根本的なアンチエイジングが達成できるはずですが、そのためにはゲノム医療を「使える医療へ発展させていく」ことが求められます。アンチエイジングにおけるゲノム医療の発展を目指すため、日本抗加齢医学会はジェネシスヘルスケア株式会社と提携し、「アンチエイジング全ゲノム解析」臨床研究プロジェクトを立ち上げました。20年前、1人の全ゲノムをシークエンスするためには、200億円もの費用と10年の歳月が必要でした。それが今では10万円、約1日で解析が可能なところまできました。半導体開発の高速化と低価格化が寄与しています。この研究では、加齢度の生理データと病歴・食事・運動習慣などの加齢調査票を組み合わせて解析することで、アンチエイジングと関連する遺伝子群を探索します。また、全ゲノム解析に加えて、エピゲノム(遺伝子修飾)による日本人の遺伝子年齢時計も作成していきます。このプロジェクトのユニークな点は、学会員自らの全ゲノムを解析することです。本学会員はさまざまな医療従事者が約9,000人加入していますが、この研究プロジェクトには主に医師が参加する予定です。抗加齢に関する指標を推定した後に、自身の遺伝子情報が含まれたデータを解析します。およそ1,000人のゲノム解析を行うことで、「ハツラツ」とした健康長寿を国民が享受し、社会貢献できる人口の増大と医療費抑制に貢献することを目標としています。抗加齢医学にテストステロンは不可欠アンチエイジングに関係するホルモンの1つにテストステロンがあり、もともとは獲物を取る意欲を高めるために必要なホルモンでした。現代で言えば、社会で活躍し健康に楽しく暮らすために必要な物質ですが、テストステロンとその受容体は加齢に伴い減少していきます。生活習慣病や加齢による筋力低下を防ぐために運動療法が推奨されますが、テストステロンが減少している状態で運動を行っても筋肉はつかず、むしろ転倒してけがの原因になってしまいます。テストステロンを補充してから運動してこそ筋肉がつき、運動の価値も高まるわけです。現在、テストステロンの低下は病気と判断されず、テストステロン補充療法は保険上認められていません。しかし、このような背景をしっかり踏まえた上でテストステロン補充の保険収載が認められるべきだと考えています。近年、遺伝子の老化度を示すものとして、テロメアの長さが注目されています。テロメアは染色体のなかでタンパク質をコードしていない部分で、細胞分裂により長さが変化します。テロメアは生まれたときから短い人もいれば生活環境や病気などで長短が変動する場合もあり、寿命に影響を及ぼします。テロメアは、テロメアーゼという逆転写酵素の働きによって伸長することが明らかになっており、驚くことに、テストステロンにはテロメアーゼを活性化させる効果があります。テロメアの長さを遺伝子解析と同時に調べて、テストステロンを含む最も効果的な延伸方法を考えるのが、遺伝子のアンチエイジングではないでしょうか。「人間とはなんだ」という根底にある考え方に基づきアンチエイジングを理解し、実践していくことが本学会の役割であると考えています。今回の学術総会では、理事長提言の場で学会員の遺伝子研究についてお話する予定です。ぜひ、学会員以外の方もお越しください。メッセージ(動画)

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食塩摂取と肥満の関連~日本と中国・英国・米国

 食塩摂取が過体重や肥満の独立した危険因子である可能性が、いくつかの研究で報告されている。しかし以前の研究では、1日食塩摂取量を推定するために24時間蓄尿ではなく単回尿や食事思い出し法を用いていること、単一国や単施設のみの集団でのサンプルといった限界があった。今回、中国・西安交通大学のLong Zhou氏らは、International Study of Macro-/Micro-nutrients and Blood Pressure(INTERMAP研究)のデータから、日本、中国、英国、米国における、2回の24時間蓄尿で推定した食塩摂取量とBMI(kg/m2)および過体重/肥満の有病率の関係を調査した。その結果、日本、中国、英国、米国のすべてで、食塩摂取量がBMIおよび過体重/肥満の有病率と関連することが示された。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2019年5月21日号に掲載。 本研究は、日本(1,145人)、中国(839人)、英国(501人)、米国(2,195人)における40~59歳の男女4,680人の横断研究のデータを用いた。食塩摂取量とBMIの関連における回帰係数(β)の計算は一般線形モデルを使用した。食塩摂取量が1日当たり1g多い場合の過体重/肥満のオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて調べた。 主な結果は以下のとおり。・エネルギー摂取量を含む潜在的な交絡因子を調整した場合、食塩摂取量が1日当たり1g多いとBMIは日本で0.28、中国で0.10、英国で0.42、米国で0.52高かった。・食塩摂取量が1日当たり1g多いと、過体重/肥満のオッズは日本で21%、中国で4%、英国で29%、米国で24%高く、すべてp<0.05であった。

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第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)Q1 腎機能低下を考慮した薬剤選択・切り替え(とくにメトホルミンの使用法)について教えてくださいeGFR 30mL/分/1.73m2未満の腎機能低下例では、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬は使用しないようにします。腎機能の指標としては血清クレアチニン値を用いたeGFRcreがよく用いられますが、筋肉量の影響を受けやすく、やせた高齢者では過大評価されてしまうことに注意が必要です。このため、われわれは筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC (cys)を用いたeGFRcysにより評価するようにしています。メトホルミンの重大な副作用として乳酸アシドーシスが知られており、eGFR 30mL/分/1.73m2未満でその頻度が増えることが報告されています1)。したがって、本邦を含めた各国のガイドラインでは、eGFR 30未満でメトホルミンは禁忌となっています。しかし30以上であれば、高齢者でも定期的に腎機能を正確に評価しながら投与することで、安全に使用できると考えています。各腎機能別のメトホルミンの具体的な使用量は、eGFR 60以上であれば常用量を投与可能、eGFR 45~60では500mgより開始・漸増し最大1,000mg/日、eGFR 30~45では最大500mg/日とし、eGFR 30未満では投与禁忌としています。なお、重篤な肝機能障害の患者への使用は避け、手術前後やヨード造影剤検査前後の使用も中止するようにします。心不全に関しては、メトホルミン使用の患者では死亡のリスクが減少することが報告されており、FDAでは禁忌ではなくなっています。ただし、本邦ではまだ禁忌となっているので注意する必要があります。また腎機能は定期的にモニターし、eGFRが低下するような場合には、上記の原則に従って減量する必要があります。また経口摂取不良、嘔気嘔吐など脱水のリスクがある場合(シックデイ時)には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが重要です2)。SGLT2阻害薬については、次のQ2で解説します。Q2 高齢者でのSGLT2阻害薬の適否の考え方は?近年、心血管リスクの高い糖尿病患者に対する、SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制作用や腎保護作用が相次いで報告されています。SGLT2阻害薬は腎機能が高度に低下しておらず(eGFR≧30 mL/分/1.73m2が目安)、肥満・インスリン抵抗性が疑われる患者には適しており、これらの患者には、メトホルミンと同様に治療早期から使用しているケースも多いです。ただし、下記に挙げるさまざまな注意点があり、通常は75歳まで、最高でも80歳前後までの患者への投与を原則とし、80歳以上の患者にはとくに慎重に投与しています。75歳未満の患者では下記に留意し、対象患者を定めています:1.脱水や脳梗塞のリスクがあるため、認知機能やADLが保たれており飲水が自主的に十分できる患者かどうか(利尿薬投与中の患者ではとくに注意が必要)2.性器・尿路感染のリスクがあるため、これらの明らかな既往がないかどうか3.明らかなエビデンスはないが、筋肉量減少の懸念があるため、サルコペニアが否定的で定期的な運動を行えるかどうかそのほか、メトホルミンと同様に、シックデイ時には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが非常に重要です3)。Q3 認知症で服薬アドヒアランスが低下、投薬の工夫があれば教えてください認知症患者の服薬管理においては、認知機能の評価とともに、社会サポートがあるかどうかの確認が重要です。家族のサポートが得られるか、介護保険の申請はしてあるか、要支援・要介護認定を受けているかを確認し、服薬管理のために利用できるサービスを検討します。実際の投薬の工夫としては、以下に示すような方法があります。1.服薬回数を減らし、タイミングをそろえるたとえば食前内服のグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)にあわせて、他の薬剤も食直前にまとめる方法がありますが、そもそも1日3回投与薬の管理が難しい場合は、1日1回にそろえてしまうことも考えます。最近、DPP-4阻害薬で週1回投与薬が登場しており、単独で投与する患者にはとくに有用ですが、他疾患の薬剤も併用している場合にはむしろ服薬忘れの原因となることもあるので、注意が必要です。なお、最近ではGLP-1受容体作動薬の週1回製剤も利用できますが、これはDPP-4阻害薬よりも血糖降下作用が強く、さらに訪問や施設看護師による注射が可能なため、われわれは認知症患者に積極的に使用しています。2.配合薬を利用するDPP-4阻害薬とメトホルミンなど、複数の成分をまとめた薬剤が次々登場しています。配合薬は、服薬錠数を減らし、服用間違いや負担感を減らすと考えられますが、たとえば経口摂取不能時や脱水時などシックデイの状態のときにSU薬やメトホルミンなど特定の薬剤だけを減量・中止したいときに扱いづらいという欠点があり、リスクの高い患者にはあえて使用しないこともあります。3.一包化する服薬タイミングごとの一包化も服薬忘れの軽減に有用ですが、配合薬と同様、シックデイ時にSU薬などを減量・中止することが難しくなるため、リスクの高い患者には当該薬剤だけを別包にするケースもあります。2、3ともに、シックデイ時にどの薬剤を減量・中止するのか、医療機関に連絡させ受診させるのか、という点について、介護者を含めて事前に話し合い、伝えておくことが重要です。4.配薬、服薬確認の方法を工夫するカレンダーや服薬ボックスにセットする方法が一般的であり、家族のほか、訪問看護師や訪問薬剤師にセットを依頼することもあります。しかしセットしても患者が飲むことを忘れてしまっては意味がありません。内服タイミングに連日家族に電話をしてもらい服薬を促す方法もありますが、それでも難しい場合、たとえば連日デイサービスに行く方であれば、昼1回に服薬をそろえて、平日は施設看護師に確認してもらい、休日のみ家族にきてもらって投薬するという方法も考えられます。 1)Lazarus B et al. JAMA Intern Med. 2018; 178:903-910.2)日本糖尿病学会.メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)3)日本糖尿病学会.SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)

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第20回 腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第20回:腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ~続編~ゴールデンウイークも終わり、時代は「令和」となりましたが、皆さん“五月病”になっていませんか? さて、前々回の心電図クイズが予想以上に好評で、休み中にもかかわらず、2019年最大の閲覧数をいただきました。実は、当初Dr.ヒロはもう2症例を用意しており、“お蔵入り”にするのも忍びなく、今回“おさらいクイズ~続編~”としてお届けすることにしました。では、さっそくチャレンジしてみましょう!症例提示175歳、女性。僧帽弁・三尖弁形成術、慢性AFに対するメイズ手術の既往あり。糖尿病、高血圧症にて内服加療中。数日前にインフルエンザAと診断。その後、食事が取れず、夜間の呼吸苦も出現した。徐々に下腿・顔面の浮腫が増悪、息切れでトイレ歩行も不可能となり救急受診し、感染を契機とした心不全増悪にて緊急入院となった。来院時36.3℃、血圧112/78mmHg、脈拍107/分・不整、酸素飽和度92%。入院時の心電図を示す(図1)。(図1)緊急入院時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図(図1)の自動診断は「上室三段脈」となっている。調律に関して正しいものはどれか。1)正常洞調律2)心房期外収縮3)洞頻脈4)心房粗細動5)異所性心房調律解答はこちら4)解説はこちら「三段脈」(trigeminy)はまだ取り上げていませんが、「3心拍で1セット」の様式が周期的にくり返されるもので、典型的には「洞収縮-洞収縮-期外収縮」のように三拍ごとに期外収縮が出現するパターンです。当然ながら、この場合の基本調律はあくまでも「洞調律」です。この心電図も、油断すると肢誘導などは「洞収縮-洞収縮-心房期外収縮」と、「上室三段脈」のように見えます。…でも、これは間違い。自動診断は“悪魔のささやき”です(笑)。いつも“洞調律ありき”で見てしまうと、このようなミスをしてしまいます。胸部誘導では、このパターンは崩れていますし、第一、これは「洞調律」じゃないのです。R-R間隔も不整ですし、なんといっても“イチニエフの法則”が成り立っていません(第2回)。「非洞調律」を疑った時に注目すべきは…、そうV1誘導(第4回)。今回のV1誘導をみると…あるわあるわ、P波の乱れ打ち(図2)。(図2)V1誘導を抜粋画像を拡大する橙色の枠内だけでもコンスタントかつレギュラーな高頻度P波が確認できますし、QRS波に重なる「?」の部分にも、P波があると読みたいところです(ほかと若干QRS波形が異なる)。”2nd best”だった下壁誘導を見ても、II誘導ではわかりにくいですが、III、aVF誘導だと、それなりにノコギリ状の波(鋸歯状波)が見えなくもありません。この方のように開心術歴があるような場合、非典型的な「心房粗動」と呼ぶのが好まれますし、“細動混じり”ととらえて“粗細動”という表現も悪くありません。よって、「心房粗細動」(atrial flutter-fibrillation)を正解とします。【参考レクチャー】第2回『洞調律を知る』第4回『エイエフ(AF)診断できます?』【問題2】心電図(図1)の心拍数について、具体的な数値で述べよ。解答はこちら心拍数:約70/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導[10秒])解説はこちら数値自体は“検脈法”で一目瞭然ですね(第3回)。R-R間隔が不整の場合には、左端から右端まで、肢誘導+胸部誘導の10秒間で検脈法をしたほうが正確です。「細動」と捉えれば「中等度の心室応答(ventricular response)を伴う」となりますし、「粗動」なら「房室伝導比2~4:1」という表現になります。“粗細動”を生かすのなら、『心拍数は約70/分と中等度の心室応答を伴う心房粗細動です』と表現できれば、ボク的には“満点”です。【参考レクチャー】第7回『心房細動の“心拍数”どう議論する?』症例提示284歳、男性。4日前に39.5℃の発熱で受診、肺炎と診断され入院となった。本日夜間の検温時に頻脈、酸素飽和度の低下(82%)があり、胸部圧迫感と呼吸苦も訴えたため、当直医にコールがなされた。胸部CT検査では、浸潤影悪化および心拡大・胸水貯留を認めた。以下に、急変コール時に記録された心電図(図3)および入院時の心電図(図4)を示す。(図3)急変コール時の心電図画像を拡大する(図4)入院時の心電図画像を拡大する【問題3】入院時心電図(図4)の心拍数と電気軸を求めよ。解答はこちら心拍数:84/分(検脈法:肢誘導[5秒]または肢誘導+胸部誘導[10秒])QRS電気軸:-70°(トントン法Neoによる)解説はこちらこれも簡単ですね。心拍数は“検脈法”(第3回)、QRS電気軸は“トントン法”(第9回、第11回)で、求めることができます。心拍数はR-R間隔が整なら左右どちらか5秒間の情報で十分です(もちろん10秒間数えてもOKです)。QRS電気軸は、aVR誘導を“トントン・ポイント”と考えるなら「-60°」(通常の教科書なら、これで正解でしょう)ですが、やや上向き波が優勢(-aVR誘導なら下向き波)に見えませんか? 肢誘導の円座標を思い浮かべれば、QRS波の向きの上下が転換するのは、Iと-aVRの間で、強いて言えば“-aVR寄り”(+20°)と考えるのがミソでしたね(“トントン法Neo”)。結果、求める軸は「-70°」と、見事に自動計測値とも一致します。【参考レクチャー】第3回『心拍数を求めよう』第9回『QRS電気軸で遊ぼう~トントン法の魅力~』第11回『QRS電気軸(完結編)~進化したトントン法は無敵!~』【問題4】入院時心電図(図4)の所見として正しくないものを2つ選べ。1)左軸偏位2)完全右脚ブロック3)第1度房室ブロック4)異常Q波5)右房拡大解答はこちら3)、5)解説はこちら“急変コール時”ではなく、“入院時”の心電図の読みを尋ねています(波形が違いますよね)。1)○:QRS波の向きが、I誘導:上向き、aVF(II)誘導:下向きなのでOKです。強い左軸偏位を伴っており、「左脚前枝ブロック」の合併と診断できます。2)○:QRS幅がワイド(0.12秒[120ms]以上)かつV1誘導(「RR’型」)、V6誘導(スラーを伴う「RS型」)が典型的な波形ですから「完全右脚ブロック」の診断に相違ありません。3)×:V1誘導などPR(Q)間隔が若干長めに見える誘導もありますが、明らかに“延長”と呼ぶレベル(目安:0.24秒[240ms])には届きません。4)○:V1~V3誘導は原則として下向き(陰性)波から始まってはいけません。V2、V3誘導の「q波」は幅が狭く、深さが浅くても異常Q波と考えられたらステキです。ほかにaVL誘導の幅広い「Q波」も指摘したいところです。もちろん「陳旧性心筋梗塞」を疑っても良いですが、ワンランク上の読み方をすれば、他所見との組み合わせで、V1ないしV2誘導で見られる「qR型」は右心系(多くは「右室」)負荷を示す所見と考えるべきかもしれません。鑑別は…そう、心エコーでね!5)×:下壁誘導(II、III、aVF)のP波高はいずれも普通で「右房拡大」ではありません。むしろ、II誘導で幅広の“2コブラクダ”的な2つのP波は「左房拡大」を疑わせますが、V1誘導のP波で後半の波が“深掘れ”でなく、診断基準には該当しません。【問題5】急変時心電図(図3)の解釈・対応について、正しくないものを2つ選べ。1)「S1S2S3パターン」であり、肺疾患や高度右室負荷を疑う2)不整脈などの心疾患の病歴の有無、投薬内容を確認する3)心電図の再検を指示する4)右胸心を疑って胸部X線画像をチェックする5)換気補助を行いつつ、ベラパミル点滴を指示する解答はこちら1)、4)解説はこちら急変コール時の心電図(図3)のみを見て「頻脈性心房細動」とだけ診断して動こうとする人には“真実”が見えていません。最も目立つ所見(R-R間隔の不整)だけ診断して、ほかを見落とす…そんな状態からの“脱却”サポートがDr.ヒロの真骨頂です。緊急時のように焦っている時こそ“基本”に忠実であるべき。常に全体を眺めるクセをつけましょう。調律もそうですが、4日前の“入院時”とQRS波形が全然違いますよね。AFのためP波を欠き、T波も見えない点がやや難しいですが、I誘導のネガティブQRS波にはピンと来て欲しいですね~。しかも“陽性aVR”、これは普通、まず出会わない所見でしたよね…(第5回、第6回)。そして、“おかしいと思ったら過去と比較せよ”。どんなに“しつこい”と言われてもボクは言い続けますよ(笑)。そういう意味では、過去にAFがあったか無かったか、病歴や薬剤、そのほかの治療歴も大事です(選択肢2)。冷静になって、その目で2つの心電図を比べたら、(1)I誘導がサカサマ、(2)II⇔III(入れ換わり)、(3)aVR⇔aVL(4)aVFは(ほぼ)不変、という条件を満たすではないですか!この4つの条件を覚えていますか? こんな時、最も高頻度なのは「電極の左右つけ間違い」です。肢誘導の上肢(右手・左手)のね(第5回)。これに悩んだら、もう一度自分の目で心電図を再検すべきです(選択肢3)。この症例患者は、不慣れなのか慌てたのか、ナースが電極の左右を誤っていました。鑑別すべき「右胸心」については、胸部誘導でQRS波形の“振幅”がV1からV6誘導に向かうにつれて漸減する典型パターンとは異なりますし、入院時心電図(図4)が強烈な否定材料です(選択肢4)。また、選択肢1に関して、「肺塞栓」などの右心系負荷などは否定しがたいところですが、やはりこの心電図を見てしまうと積極的には考えにくいでしょう。右室負荷を疑う「S1S2S3パターン」も正しく記録してこその所見です。普段から何でもむやみに人を疑うべきではありませんが、患者さんのためと思えば、常に厳しい眼力でいることは診断・治療を考える上で大切だと思います。“デキドク”(デキるDr.)なら、速やかに正しい心電図を記録し直して、同時に頻脈性AF、そして低酸素状態への対処を考えるべきです(選択肢5)。その際、もちろん心機能のチェックも必要ですね。【参考レクチャー】第5回『心電図、正しくとれてる?(前編)~鏡の中のマボロシ~』第6回『心電図、正しくとれてる?(後編)~自動診断の「側壁梗塞」にご用心!~』さて、“おさらい”クイズ続編の2症例・計5問、いかがだったでしょうか?おおむね、これまでの“ドキドキ心電図マスター”内で取り上げた内容でしたが、臨床に即した形式で作問したつもりです。高得点だった人は、だいぶ心電図に慣れ親しんできたのではないでしょうか? 今後、このような復習問題をときどき取り上げるつもりです。次回は、通常形式で「期外収縮」を再びピックアップしたいと思います。乞うご期待!【古都のこと~三室戸寺~】宇治市にある西国第十番札所、三室戸寺(山号:明星山)は、1200年以上前(宝亀年間)に光仁天皇の勅願で建立されました。“花の寺”とも称され、春~夏には、ぜひとも訪れたいスポットの一つです。4~5月はツツジやシャクナゲ、そして6月にはアジサイが庭園で満開となり、7~8月は本堂前にハスが花を咲かせます。この時期、京都市内では蹴上浄水場のツヅジが有名ですが、今回、ボクは元号が令和となって数日後にこちらを訪れました。山門を入ってすぐ、有名所に勝るとも劣らぬツツジ園が甘い香りを放っていました。花々に囲まれ茶屋で昼食をとり、思わず昼寝したくなるような最高の晴天のもと、お参りを済ませたのでした。

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早期乳がん患者の心血管疾患リスク、運動で低下/JAMA Oncol

 がんサバイバーの心血管疾患による死亡は重大な懸念となっている。米国・南カリフォルニア大学のKyuwan Lee氏らによる前向き無作為化臨床試験の結果、16週間の監視型有酸素運動およびレジスタンス運動の介入により、過体重または肥満の早期乳がん患者におけるFraminghamリスクスコア(FRS)で予測された10年間の心血管疾患発症リスクが、低下することが示された。FRSは、10年間の心血管疾患発症リスクを予測する有効な方法として知られる。早期乳がんで過体重の患者では、同年齢の健康な女性と比較してFRSが高いことが報告されているが、これまでこの患者集団において運動介入によりFRSが低下するかどうかはわかっていなかった。JAMA Oncology誌オンライン版2019年3月28日号掲載の報告。 研究グループは、過体重または肥満の早期乳がん患者のFRSに及ぼす、有酸素運動およびレジスタンス運動介入の影響を調べるため、単一施設無作為化臨床試験を実施した。 対象は、登録前6ヵ月以内にがん治療が終了した、過体重または肥満(BMI≧25.0または体脂肪≧30%)で運動不足のStageI~IIIの乳がん患者100例。運動群と通常ケア(対照)群に無作為に割り付け、運動群では監視型有酸素運動を週3回、16週間実施した。 主要評価項目はFRSで、6項目(年齢、収縮期血圧、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、糖尿病の有無、喫煙の有無)から算出し、混合モデル反復測定解析を用い、両群における平均変化量の差を評価した(intention-to-treat解析)。 主な結果は以下のとおり。・100例(運動群50例、対照群50例)の患者背景は、55例(55%)がヒスパニック系白人で、平均年齢が53.5歳であった。・16週後のFRSスコア(平均±SD)は、運動群で2.0±1.5、対照群で13.0±3.0であった。・16週後のFRSスコアは、対照群と比較し運動群で有意に減少した(平均群間差:-9.5、95%CI:-13.0~-6.0)。これはFRSで予測される10年間の心血管疾患発症リスクの11%低下(95%CI:-15.0~-5.0)に相当した。

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老いないカギは「あいだ」にある

第19回日本抗加齢医学会総会の大会長である伊藤 裕氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授)が、今提唱しているのが「幸福寿命」。本大会でも、その考え方に沿って数々の新機軸を打ち出す。その内容とは?抗加齢医学を捉え直す時期に来ています。これまでアンチエイジングというと、どうしても見た目を若く見せるために、シワをなくすとか、シミをとる、といった小手先の医療をイメージしがちだったと思います。もちろんそれも抗加齢医学の一部です。しかし、人生100年時代と言われるようになり、もっと本質的な抗加齢というものを学会として提唱していかなくはならないタイミングだと感じています。6月に横浜で開催される日本抗加齢医学会総会で大会長を務めさせていただきますが、テーマを「異次元のアンチエイジング」としたのは、そういう意図です。これまでのアンチエイジングの活動を拡充、拡大するのではなく、まったく違う次元に行く。ある意味、医学の一分野という枠を越えて、心身だけでなく、環境や社会全体をアンチエイジングという観点から捉え直したい。そう考えています。“幸せ感”を持ち続けることが究極のアンチエイジング昨年「幸福寿命」という本を出版させていただきました。「幸福寿命」とは何なのか? たとえば、100歳まで生きた人に「幸せですか」と尋ねると、皆さん「幸せです」とおっしゃいます。でも、それは100歳まで生きられたから幸せ、という結果ではなく、ずっと幸せだったから、100歳まで生きられた、という過程の話なのだと思います。つまり、健康で長生きするには、常に“幸せ感”を持ち続けていることが重要であって、それこそが究極のアンチエイジングだと私は考えています。では、どうしたら、幸せ感を持ち続けられるのか?ということなりますが、そのカギは「あいだ」にあります。自分一人で幸せを感じることはなかなかできません。ほかの人との間。夫婦、家族、職場、地域、いろいろな場面での人と人の「あいだ」こそが、幸せ感を醸成するのです。もう少し医学的な話をしますと、最近、腸内細菌叢が抗加齢に関係しているということが科学的にわかっていますが、これも「あいだ」なんですね。細菌はわれわれの腸の中にすんでいるわけで、彼らとわれわれは共生関係にある。いわばペットを飼っているようなものです。ペットを飼っている人が、ペットをかわいがっているとき、飼い主は幸せを感じているのではないでしょうか。ストレスが和らいで、柔らかな、いい気分になっていると思いませんか?そういうときは、実際、“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンが脳から分泌されているわけです。腸内細菌をペットのようにかわいがる腸内細菌も同じです。腸内細菌をかわいがってあげればいいんです。ペットにするのと同じように、腸内細菌が喜ぶようなことをする。具体的に言えば、彼らが好きな食物繊維をたくさん取る、いつも同じものでは飽きるでしょうから、バラエティーに富んだ食材を食べる、バランスよく規則正しく食事を取る、といったことです。すると、彼らはホルモンやサイトカインを介してわれわれが幸せを感じるように働きかけてくれるのです。幸せを感じるメカニズムも、そういうふうに物質レベルで科学的に説明できるようになってきています。今年の学会では、特別講演として、マーティン・J・ブレイザー先生を招き、腸内細菌とアンチエイジングについて話していただきます。微生物学の世界的権威であり、彼の話が日本で生で聞けるというのは本当にすごいことです。私自身、とても楽しみにしています。ほかの目玉としては、Presidential Symposium で「スマートシティ」「ロボット」「AIとビッグデータ」「美しさ」という4つのテーマを設定しました。ロボットやAIで高齢者をどう介護するか、といった話ではなく、これからロボットやAIがわれわれの生活にどんどん入ってきたとき、人間の健康、幸福感、エイジングがどう変化していくのか?そういうもっと大きな枠組みでディスカッションしていただくようにシンポジストの先生方にはお願いしています。それではもう「医学会」ではないじゃないか、と言われそうですが、最初にお話ししたように、アンチエイジングは今そのくらい大きな動きがある、エキサイティングな分野なのです。加齢というのはそもそも誰にとっても身近な問題でもありますから、医療に関わるすべての人に興味を持ってもらえればと思っています。メッセージ(動画)

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「ソーダ税」導入、販売量への効果は?/JAMA

 2017年1月、ペンシルベニア州フィラデルフィア市は、砂糖あるいは人工甘味料入り飲料の消費を減らすために、1オンス(約30mL)当たり1.5セントの加糖飲料税(いわゆるソーダ税)を米国で2番目に導入した。米国・ペンシルベニア大学医学大学院のChristina A. Roberto氏らは、課税導入後の飲料価格と販売量について、フィラデルフィアと非課税のメリーランド州ボルティモア市を比較し、課税商品の購入を避けるための越境ショッピングの可能性を評価した。解析の結果、フィラデルフィアでは加糖飲料の価格が有意に上昇し、課税飲料の販売量は半減したことが認められたが、その一部は、近隣地域での販売量増加によって相殺されることが明らかになったという。JAMA誌2019年5月14日号掲載の報告。課税導入のフィラデルフィアと非導入地域で、価格、販売量を比較・解析 研究グループは、差分の差分法(difference-in-differences)を用い、2016年1月1日(課税前)~2017年12月31日(課税後)の期間の販売データを解析し変化を比較した。店の形態、飲料の甘味料の種類、飲料の大きさごとの違いを検証。小売業者の販売データには、フィラデルフィア、ボルティモア(非課税の対照都市)、フィラデルフィア近隣地域(フィラデルフィア市境界から約3マイル以内のバックス郡、デラウェア郡、モンゴメリー郡)にある大規模チェーン店の販売データも組み込まれた。これらのデータは、フィラデルフィアにおける課税飲料の販売量(オンス)の約25%に相当した。 主要評価項目は、課税飲料の価格と販売量の変化であった。近隣地域の増加分を差し引くと課税都市フィラデルフィアの販売量低下は38% 計291店(スーパーマーケット54店、大型小売店20店、薬局217店)のデータが解析に組み込まれた。 フィラデルフィアでは、ボルティモアと比較して加糖飲料の価格が有意に上昇し、課税導入後の課税飲料の販売量が有意に低下した。 すなわち、フィラデルフィアとボルティモアにおいて、加糖飲料1オンス当たりの平均価格は、課税導入後にすべての形態の店で上昇した。フィラデルフィアでは、スーパーで5.43セント(2016年)から6.24セント(2017年)に、大型店で同5.28→6.24セントに、薬局で同6.60→8.28セントに上昇した。ボルティモアではそれぞれ、5.33→5.50/6.34→6.52/6.76→6.93セントに上昇した。両都市間の1オンス当たりの平均価格上昇分の差は、スーパー0.65セント(95%信頼区間[CI]:0.60~0.69)、大型店0.87(0.72~1.02)、薬局1.56(1.50~1.62)で有意差があった(すべてのp<0.001)。 また、両都市とも4週間当たりの加糖飲料の販売量には、すべての形態の店での減少が認められた。フィラデルフィアでは、スーパーで485万→199万オンスに、大型店で298万→172万オンスに、薬局で16万→13万オンスに減少した。ボルティモアではそれぞれ、283万→281万/105万→100万/14万→13万オンスに減少した。両都市間の減少分の差は、スーパーが-285万オンス(95%CI:-410万~-160万、p<0.001)で、ボルティモアと比較しフィラデルフィアのスーパーでは58.7%低下した。同じく、大型店は-120万オンス(-204万~-36万、p=0.001)、40.4%低下、薬局は-2万オンス(-3万~-1万、p<0.001)、12.6%の低下であった。 フィラデルフィアにおける課税飲料の販売総量は、課税導入後に12億6,100万オンス(2016年:24億7,500万→2017年:12億1,400万)、51.0%の低下が認められた。一方で、近隣地域における販売量が3億820万オンス(7億1,310万→10億2,100万)増加していた。これは、フィラデルフィアにおける販売量低下の24.4%を相殺し、フィラデルフィアでの実質販売量低下は38%と考えられた。

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第12回 呼吸困難 意外に多い呼吸困難の原因とは?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)呼吸数に注目し、帰してはいけない患者を見逃さないようにしよう!2)バイタルサインは必ず普段のADLで評価しよう!3)検査は事前確率に応じて、適切な検査を提出・実施しよう!【症例】70歳男性。来院当日、奥さんと買い物中に呼吸困難を自覚した。途中、近くのベンチで休み症状は改善傾向にあったが、心配となり帰宅途中にかかりつけのクリニックを受診した。原因は何が考えられるか? どのようにアプローチするべきだろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/98mmHg脈拍100回/分(整)呼吸24回/分SpO295%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(51歳~)、2型糖尿病(54歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、メトホルミン(メトホルミン塩酸塩)「意識障害」の後は、救急外来や一般の外来で出会う頻度の多い主訴のうち、時に重篤な場合がある症候を、順に取り上げていこうと思います。今回は「呼吸困難」です。X線やCT検査をすれば大抵の診断はつきますが、画像で異常が認められない場合やそもそも重症度を見誤り、適切な画像検査を行わず見逃してしまうことがあるため注意が必要です。高齢者の呼吸困難の原因呼吸困難の患者を診たら、(1)心不全などの心疾患、(2)肺炎などの肺疾患、(3)上部消化管出血などの貧血、(4)過換気症候群などの心因性の4つに分類し、考えて対応しています。若年者が急性の呼吸困難を訴えた場合には、気胸や喘息が鑑別の上位にあがりますが、高齢者ではどうでしょうか? 原因は多岐にわたりますが、頻度を考慮し、[1]心不全、[2]肺炎、[3]COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪、[4]肺血栓塞栓症の4つをまずは念頭に鑑別を進めるとよいでしょう1)。初療時の鑑別のポイント:やはり“Hi-Phy-Vi”が大切!細かいことは抜きにして、[1]~[4]の鑑別ポイントを改めて理解しておきましょう。●病歴(History):発症様式に注目!一般的に肺炎やCOPDの急性増悪が突然発症することはありません。数日前、最低でも数時間前から咳嗽や発熱などの症状を認めるはずです。それに対して、後負荷がドカッと上がるびまん性肺水腫を主病態とする心不全や、肺血栓塞栓症は急激な発症様式を呈することが多く、救急外来でもしばしば出会います。真のonsetをきちんと聴取し、いつから症状を認めているのかを正確に把握しましょう。心不全の既往、発作性夜間呼吸困難は、心不全らしい所見であり、既往歴やいつ(就寝中、労作時など)症状を認めるかなども忘れずに聴取しましょう。就寝前までおおむね問題なかった患者が、夜間に突然呼吸が苦しくなった場合には、素直に考えれば肺炎よりも心不全らしいですよね。●身体所見(Physical):左右差に注目!呼吸音、心音、頸部所見(頸静脈怒張の有無)、下肢の浮腫や左右差などの身体所見は、ごく当然にとる必要があることは言うまでもありませんが、発症初期では聴取が難しい、III音は聴く努力をしながらもやっぱり難しいし、足の浮腫もいつからなんだか…など実際の現場では悩ましいことが多いのも事実です。最も簡単な方法は、左右差に注目することです。呼吸音に左右差があれば、肺炎らしく(初期では全吸気時間で聴取:holo crackles)、両側に喘鳴を聴取すれば心不全らしいでしょう。当たり前ですが、何となく聴診していると明らかな喘鳴の聴取は容易でも、わずかな場合や肺炎の初期の副雑音をキャッチできないことは珍しくありません。下腿の浮腫は、両側性の場合には心不全を示唆しますが、左右差を認める場合には、肺血栓塞栓症の原因の大半を占める深部静脈血栓症の存在を示唆します(エコーを当てれば瞬時に判断できます)。Thinker's sign(Dahl's sign)は、呼吸困難を軽減させるための姿勢によって生じた所見であり、慢性の呼吸不全の存在を示唆します2)。気管短縮や呼吸音の減弱、心窩部心尖拍動とともに患者の肘や膝上の皮膚所見も確認する癖を持ちましょう。●バイタルサイン(Vital signs):脈圧に注目!「呼吸困難を訴えるもののSpO2の低下がない」これは逆に危険なサインです。頻呼吸で何とか代償しようとしている、もしくは気道狭窄を示唆し、異物や喉頭蓋炎、アナフィラキシーの可能性を考え対応するようにしましょう。SpO2の低下を認め、[1]~[4]を鑑別する場合には、脈圧がヒントになります。肺炎など感染症が関与している場合には、通常脈圧は開大します。それに対して心機能が低下しているなどアウトプットが低下している場合には、脈圧が低下します。両者が混在する場合や、普段の患者背景にもよりますが、脈圧が低下している場合には、虚血に伴う心不全、submassive以上の肺血栓塞栓症など重篤な病態を早期に見抜く手掛かりになります。呼吸困難患者の脈圧が低下している場合には、早期に心電図を確認することをお勧めします(ST変化などの虚血性変化、洞性頻脈・SIQIIITIIIなどの肺血栓塞栓症らしい所見をチェック)。普段のADLと比較!初療時には酸素を必要としていた患者さんの中には、精査中にoffにすることができる場合があります。そのような場合には安心しがちですが、もう一歩踏み込んでバイタルサインを確認しましょう。ストレッチャー上のバイタルサインではなく、普段と同様のADLの状態でのバイタルサインを評価してほしいのです。本症例の原因は肺血栓塞栓症でしたが、安静時には酸素を要さず、呼吸回数は落ち着いてしまいました。しかし、帰宅前に歩行をしてもらうとSpO2が低下し、呼吸困難症状の再燃を認めたのです。肺血栓塞栓症は、過換気症候群や原因不明として見逃されることがあり、私は普段と同様のADLで(1)他に説明がつかない頻呼吸、(2)他に説明がつかない低酸素、(3)他に説明がつかない頻脈の場合には、疑って精査するように努めています3)。さいごに呼吸困難を訴える患者では、胸部X線、CT検査ですぐに確認したくなりますが、それのみではなかなか確定診断は難しく、また、肺炎と心不全は両者合併することも珍しくありません。D-dimerも役には立ちますが、それのみで肺血栓塞栓症や大動脈解離を診断・除外するものではありません。“Hi-Phy-Vi”を徹底し、鑑別疾患を意識して検査結果をオーダー、解釈することを常に意識しておきましょう。1)Ray P, et al. Crit Care. 2006;10:R82.2)Patel SM, et al. Intern Med. 2011;50:2867-2868.3)坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社;2015.p.216-230.

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第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)Q1 低血糖リスクを考慮した薬剤選択の原則について教えてください高齢者の糖尿病治療では、まずは患者ごとに適正な血糖コントロール目標値を設定することが重要です(第4回参照)。そのうえで、低血糖リスクを考慮しつつ各薬剤をどのように使い分けるか、考え方を以下にご紹介します。DPP-4阻害薬は、単独では低血糖リスクがきわめて低く、腎障害があっても使用できる薬剤があります。またSU薬に加えることで、SU薬の減薬や中止をする際に非常に有用です。また、同じインクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬の使用も考慮されることがあります。フレイルの高齢者で、SU薬以外の内服薬±GLP-1受容体作動薬が、SU薬やインスリンを中心とした場合に比べ低血糖の発症が1/5になったというデータもあります(図)1)。画像を拡大するメトホルミンは高齢者で唯一投与できるビグアナイド薬です。高齢者でもメトホルミンの使用は心血管疾患、死亡のリスクを減らし、サルコペニア、フレイルなどへの好影響を及ぼすという報告があります。したがって、海外のガイドラインでは高齢者でもメトホルミンは第一選択薬とされており、低血糖リスクを考慮すると、DPP-4阻害薬とともに高齢者でまず選択すべき薬剤の1つとなります。メトホルミンはeGFR 30mL/分/1.73m2以上を確認して使用します(第10回、Q1で詳述)。DPP-4阻害薬、メトホルミンでも血糖コントロールが不良の場合には、少量のSU薬、SGLT2阻害薬、グリニド薬、αグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)、チアゾリジン薬のいずれかを選択します。SU薬は高用量で投与すると低血糖の重大なリスクとなるため、SU薬使用者では血糖コントロール目標値に下限値が設けられています(第6回参照)。したがって、SU薬はなるべく使わず、使用したとしても少量の使用にとどめることにしています。グリクラジドで20mg(できれば10mg)/日、グリメピリドで0.5mg(できれば0.25mg)/日以下にとどめます。肥満がなくインスリン分泌が軽度低下している場合、少量のSU薬が血糖コントロールに有用なケースもあります。この場合の投与量は空腹時血糖が低血糖にならないレベルに設定するべきであり、可能であればCGM(Continuous Glucose Monitoring)を行って、夜間・空腹時低血糖がないことを確認することが望まれます。なお、グリニド薬はSU薬に比べ重症低血糖のリスクは少ないものの、やはり注意が必要です。α‐GIは腸閉塞など腹部症状のリスクがあり、開腹歴のある患者では使用を控えます。チアゾリジン薬は浮腫・心不全、またとくに女性において骨折のリスクが知られており、心不全患者には投与しないようにします。女性では少量(たとえば7.5 mg)から開始し、慎重に投与します。Q2 SU薬の減量と他剤への切り替えのポイントは?SU薬は腎排泄なので、腎機能低下例(eGFR<45mL/分/1.73m2)では減量、 eGFR<30では原則中止して、DPP-4阻害薬などの他剤へ切り替えます。しかし、SU薬をDPP-4阻害薬にいきなり切り替えると高血糖になることが少なくありません。そのため、まずはSU薬の用量を半分に減らし、DPP-4阻害薬を追加することをおすすめします。さらに、腎機能低下が軽度にとどまる場合は、メトホルミン、また肥満・インスリン抵抗性が疑われる場合はSGLT2阻害薬へ切り替えるケースもありますが、それぞれ第10回で後述する注意点があります。このほか、グリニド薬、α‐GI、チアゾリジン薬などのいずれかを追加することで、徐々にSU薬を減らしていくといいと思います。しかし、これらの薬剤のアドヒアランス低下がある場合や使用できない場合は、DPP-4阻害薬をGLP-1受容体作動薬に変更するとうまくいく場合があります(第10回、Q3)。食事量にムラがある場合は、インスリン分泌に影響のある薬剤を投与すると低血糖を起こしやすいため、やはりDPP-4阻害薬を中心としたレジメンとなります。また、中等度以上の認知症で食事量が不規則な場合、体重減少が著しい場合、HbA1c値が目標下限値を下回った場合(たとえばHbA1c 6.0%未満または6.5%未満)には低血糖リスクが高い薬剤から減薬を試みます。1)Heller SR, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20:148-156.

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エンドセリン受容体拮抗薬は糖尿病腎症の新しい治療アプローチとなるか?(解説:小川大輔氏)-1049

オリジナルニュースエンドセリン受容体拮抗薬の糖尿病性腎症への効果は?:SONAR試験/国際腎臓学会(2019/4/18掲載) 糖尿病腎症の治療において血糖のコントロールは基本であるが、同時に血圧や脂質、体重などを適切に管理することも重要である。そして早期の糖尿病腎症であれば多面的かつ厳格な管理により腎症の進展を抑制することが示されている。ただひとたび腎障害が進行すると、集約的な治療を行っても腎不全への進展を阻止することが難しい。 今年4月に開催された国際腎臓学会(ISN-WCN 2019)において、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが顕性アルブミン尿を呈する糖尿病腎症患者の腎アウトカムを有意に改善するという結果(CREDENCE試験)が報告され注目を集めている。実はこの学会でもう1つ、糖尿病腎症に対する薬物療法の試験結果(SONAR試験)が発表された。この試験も顕性腎症患者を対象としており、エンドセリン受容体拮抗薬atrasentanの有効性と安全性が検討された。 この試験の特徴は、試験デザインが通常の二重盲検法ではなく、まず本試験の前に6週間atrasentanの投与を行い(著者らはこの期間を“enrichment period”と称している)、アルブミン尿が30%以上低下し、かつ体液貯留の認められなかった症例(“responders”)を選び出し、それから2群に分けて試験を開始している点である。 エンドセリン受容体拮抗薬はアルブミン尿減少効果や血圧低下作用と同時にナトリウム貯留作用がある。以前に糖尿病患者を対象とした別のエンドセリン受容体拮抗薬の試験で体液貯留により心不全が増加したため、その反省を踏まえ副作用を回避しつつ効果を最大限に発揮させるためにこれまでの臨床試験にはなかった試験デザインになっている。 中央値2.2年の観察期間で、主要評価項目の「クレアチニンの2倍化あるいは末期腎不全への移行」はプラセボ群と比較しatrasentan群で有意に抑制されたが、それに寄与したのはクレアチニンの2倍化であった。またatrasentan群で末期腎不全への移行や心血管イベントの抑制は認められなかった。懸念される有害事象の心不全はプラセボ群とatrasentan群とで有意差はなかったが、体液貯留と貧血はatrasentan群で有意な増加を認めた。 本試験前に6週間atrasentanを投与された症例の約35%が“non-responders”であった点を踏まえると、糖尿病腎症患者すべてがこの薬剤の適応とはならないだろう。もしエンドセリン受容体拮抗薬を糖尿病腎症患者に投与するならば、著者らが行ったように投与開始初期の蛋白尿の減少効果を確認し、継続か中止を判断するのが妥当と思われる。また継続投与する際には体液貯留の出現や貧血の進行に注意し、場合によっては利尿薬を追加・増量する必要があると考えられる。 エンドセリン受容体拮抗薬の効果が期待できる症例の選択方法や、適正な使用方法についてはさらに検証する余地があると思われるので、今後の検討に注目したい。

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経口セマグルチドは注射薬と同様にHbA1cを改善し体重を減少させる(解説:住谷哲氏)-1050

 注射薬であるGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、心血管イベントを増加しない新規血糖降下薬としてわが国以外の多くの国ですでに販売されている。とくにCVOTであるSUSTAIN-6において3-point MACEを減少させることが報告されたので、今後も使用量は増加すると考えられる。経口セマグルチドは、ペプチドホルモンを消化管から吸収させる新たな方法を採用することで開発が進められてきた(「経口semaglutideがもたらした血糖降下薬のパラダイムシフト」)。第II相臨床試験の結果はすでに報告されていたが、シタグリプチンを対照薬として実施された第III相臨床試験の結果が本論文である。 1,864例が無作為に4群に割り付けられ、経口セマグルチド1日1回3mg(466例)、7mg(466例)、14mg(465例)またはシタグリプチン100mg(467例)がそれぞれ投与された。その結果、HbA1cおよび体重は26週後に7mg/日群と14mg/日群においてシタグリプチン群に比べ有意な減少が認められた。しかし3mg/日群においては、シタグリプチン群に対するHbA1c減少の非劣性は示されなかった。経口セマグルチド群およびシタグリプチン群ともに最も多い有害事象は消化器症状であったが、その頻度は両群で差を認めなかった。 効果の同じ週1回注射薬と経口薬のどちらかを選べ、といわれて注射薬を選ぶ患者は多くはない。週1回注射のセマグルチドと経口セマグルチドの場合も、おそらく経口セマグルチドを希望する患者が多いのではないかと思われる。しかし注射薬は週1回1mg投与に対して、経口セマグルチドは7mg/日としても49mg/週になり注射薬の投与量の約50倍になる。経口セマグルチドがどのような薬価になるかは現時点で不明であるが、有用な薬剤であるので多くの2型糖尿病患者に投与できるように適切な薬価設定がなされることを期待したい。

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認知症は運動で予防できない?(解説:岡村毅氏)-1045

 運動不足は認知症発症リスクではないという報告だ。認知症予防について、無垢な時代が終わり、新たな時代の号砲を告げる論文かもしれない。はじめに私の立場をはっきりさせておくと、予防が完成すれば認知症は駆逐されるという楽観主義でも、予防なんて無意味だからすべて受け入れようという悲観主義でもない。私の立場は、真実は中庸にありというものだ。 論文にはこうある。認知症になる前(前駆期)、活動性は低下している。したがって運動もしなくなっている。ある段階で運動をしている人、していない人に分けると、していない人には前駆期の人が含まれる。彼らはしばらくすると認知症を発症する。すると「運動をしなかったから認知症になった」と第1種過誤が起きる。短期間の観察では必ずこうなるが、乗り越えることはできる。前駆期の長さ以上の観察期間をとればよいのだ。 本論文はメタアナリシスであるが、すべてのケースで認知症発症リスクを見ると、確かに運動をしていないとリスクは高い(1.4倍くらい)。ところが、10年以上経過を見たケースに限定すると、あら不思議、リスクは消えてしまう。 個人的見解だが、認知症予防に関しては○○が効いたという報告があり、しばらくしてメタアナリシスで疑問が呈される、ということが繰り返されているように思う。最初の報告はセンセーショナルで、話題になる。そして後の疑問は、もはや話題にならない。 つまり人は見たいものを見る、聞きたいことを聞く、ということだ。この現象は、正常性バイアスみたいなものだろう。命題(1)認知症は予防できるはずだ、命題(2)予防は健康的な生活習慣と関係する、と人は考えるのだ。 私は何もこのネガティブデータを見て、「予防なんて無意味だ」「ほら見たことか」と言いたいわけではない。予防研究は非常に重要だ。私が言いたいことは、予防に重心が置かれ過ぎると、認知症になった場合に「きちんと予防しなかった自分が悪い」「予防させなかった家族が悪い」と、怒りと絶望に苛まれる人がしばしばいるということだ。なるときはなる、と考えたほうがいい場合もある。だって人間だもの。 言うまでもなく(そしてこの論文にも書いてあるが)、糖尿病や冠動脈疾患は、運動で予防できる。それに運動すると気持ちいいではないか。認知症になったとしても運動する習慣があったほうが、運動を続けられるだろう。認知症を予防できるかどうかまだわからないが、楽しく運動しましょう。

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SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用がRAS抑制薬以来初めて示される:実臨床にどう生かす?(解説:栗山哲氏)-1039

オリジナルニュースSGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用が示される:CREDENCE試験/国際腎臓学会(2019/04/17掲載)本研究の概要 SGLT2阻害薬の腎保護作用を明らかにしたCREDENCE研究結果がNEJM誌に掲載された。この内容は、本年4月15日(メルボルン時間)にオーストラリアでの国際腎臓学会(ISN-WCN 2019)において発表された。これまでにSGLT2阻害薬の心血管イベントに対する有効性や副次的解析による腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58の3つの大規模研究で示されてきた。本試験は、顕性腎症を有する糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)の症例に対して腎アウトカムを主要評価項目とし、その有効性を明らかにした大規模研究である。 対象としたDKD患者背景は67%が白人で、平均年齢は63.0歳、平均HbA1c 8.3%、平均BMI 31%、平均eGFR 56.2mL/min/1.73m2、また尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)の中央値は927mg/gCrの顕性腎症を呈するDKD例であった。併用薬は、99.9%にRAS抑制薬、69%にスタチンが投与されていた。対象の4,401例はカナグリフロジン100mg/日群(2,202例)とプラセボ群(2,199例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された。主要評価項目は「末期腎不全・血清クレアチニン(Cr)倍増・腎/心血管系死亡」の腎・心イベントである。2018年7月、中間解析の結果、主要評価項目発生数が事前に設定された基準に達したため、試験は早期中止となった。その結果、追跡期間中央値は2.62年(0.02~4.53年)である。主要評価項目発生率は、カナグリフロジン群:43.2/1,000例・年、プラセボ群:61.2/1,000例・年となり、カナグリフロジン群におけるハザード比(HR)は、0.70(95%信頼区間[CI]:0.59~0.82)の有意低値となった。カナグリフロジン群における主要評価項目抑制作用は、「年齢」、「性別」、「人種」に有意な影響を受けず、また試験開始時の「BMI」、「HbA1c」、「収縮期血圧」の高低にも影響は受けていなかった。「糖尿病罹患期間の長短」、「CV疾患」や「心不全既往」の有無も同様だった。副次評価項目の1つである腎イベントのみに限った「末期腎不全・血清Cr倍増・腎死」も、カナグリフロジン群における発生率は27.0/1,000例・年であり、40.4/1,000例・年のプラセボ群に比べ、HRは0.66の有意低値だった(95%CI:0.53~0.81)。また、サブグループ別解析では、HRはeGFRの低い群(30 to <60mL/min/1.73m2、全体の59%)、尿ACRの多い群(>1,000、全体の46%)であり、進展したDKDでリスクが低値であった(Forest plotで有意差はなし)。同様に副次評価項目の1つである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(CVイベント)も、カナグリフロジン群におけるHRは0.80(95%CI:0.67~0.95)となり、プラセボ群よりも有意に低かった。なお、総死亡、あるいはCV死亡のリスクは、両群間に有意差を認めなかった。 有害事象のリスクに関しても、プラセボ群と比較した「全有害事象」のHRは0.87(95%CI:0.82~0.93)であり、「重篤な有害事象」に限っても、0.87(95%CI:0.79~0.97)とカナグリフロジン群で有意に低かった。また、「下肢切断」のリスクに関しては、発生率はカナグリフロジン群:12.3/1,000例・年で、プラセボ群:11.2/1,000例・年との間に有意なリスク差は認めなかった(HR:1.11、95%CI:0.79~1.56)。また、「骨折」の発生リスクにも、両群間に有意差はなかった。CREDENCE:何が新しいか? SGLT2阻害薬が心血管イベントを減少させるだけではなく、腎保護作用があることは、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58においても、すでに明らかにされている。本試験の新規性は、「中等度に腎機能低下した顕性腎症を呈するDKD患者においてもSGLT2阻害薬の腎保護が確認された」との点に集約される。たとえば、EMPA-REG OUTCOME試験においてはeGFRが60mL/min/1.73m2以下の症例は26%でRAS抑制薬は81%に使用されていたが、CREDENCEにおいては59%の症例がeGFR 60mL/min/1.73m2と腎機能低下例が多い背景であった。従来、SGLT2阻害薬は、eGFRを急激に低下させるため腎機能悪化に注意する、eGFR低下例では尿糖排泄も減少するため使用の意義は低い、とされてきた。CREDENCEの結果は、DKDで腎機能が中等度に低下し慢性腎不全と診断される症例において早めにSGLT2阻害薬を開始すると長期予後改善が期待される、と解釈される。CREDENCEの結果を実臨床にどう生かす SGLT2阻害薬が登場する前には、腎保護作用のエビデンスが知られる唯一の薬剤は、RAS抑制薬であるACE阻害薬(Lewis研究)とARB(RENAAL研究とIDNT研究)であった。CREDENCEの結果から、糖尿病治療薬では初めてSGLT2阻害薬が腎機能低下例においても腎機能保護作用が期待されることが示唆された。 SGLT2阻害薬の薬理学的作用機序は、腎尿細管のSGLT2輸送系の抑制によるNa利尿と尿糖排泄である。本剤は、DKDに対してのTubulo-glomerular Feedback改善作用や腎間質うっ血の改善効果は、他の糖尿病薬や利尿薬とはまったく異質のものであり、Glomerulopathy(糸球体障害)のみならずTubulopathy(尿細管障害)やVasculopathy(血管障害)の改善などで複合的に腎保護に寄与すると考えられる。 さて、CREDENCEの結果を受け、実臨床において、腎機能が低下したDKDにおいてSGLT2阻害薬を使用する医家が増えるものと予想される。しかし、現状では腎機能低下例での安全性が完全に払拭されているわけではない。本研究の患者背景は、大多数が60代、白人優位、高度肥満者、腎機能は約半数でeGFRが60mL/min/1.73m2以上に保たれている患者での成績であり、中等度以上の腎機能低下例や高齢者ではやはり十分な配慮が必要となる。一般に、SGLT2阻害薬有効例は、食塩感受性やインスリン感受性の高い患者群と想定される。わが国に多い2型糖尿病患者群は、中高年、肥満傾向、比較的良好な腎機能、食塩摂取過剰、などの傾向があることから、本剤に対する効果は大いに期待される。一方、現時点ではCREDENCEの結果をDKD患者に普遍的に適応するのは、いまだ議論が必要である。日本糖尿病学会の「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2016年)においては、同剤の適正使用に対して慎重になるべきとの警鐘を鳴らしている。とくに75歳以上の高齢者においては、脱水、腎機能悪化、血圧低下、低血糖、尿路感染、また、利尿薬併用例、ケトアシドーシス、シックデイ、などに注意して慎重に薬剤選択することが肝要であるとしている。結局、本邦においてSGLT2阻害薬の腎機能低下例における今後の評価は、各医家の実臨床における経験に裏付けされることが必要と思われる。

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認知症への運動不足の影響、発症前10年から?/BMJ

 運動不足(physical inactivity)と認知症の関連についての観察研究は、逆の因果関係バイアスの影響が働く可能性があるという。フィンランド・ヘルシンキ大学のMika Kivimaki氏らIPD-Work consortiumは、このバイアスを考慮したメタ解析を行い、運動不足はあらゆる原因による認知症およびアルツハイマー病との関連はないのに対し、心血管代謝疾患を発症した集団では、運動不足により認知症リスクがある程度高い状態(1.3倍)にあることを示した。研究の詳細はBMJ誌2019年4月17日号に掲載された。無作為化対照比較試験では、運動による認知症の予防および遅延のエビデンスは得られていない。一方、観察コホート研究の多くはフォローアップ期間が短いため、認知症の発症前(前駆期)段階における身体活動性の低下に起因するバイアスの影響があり、運動不足関連の認知症リスクが過大評価されている可能性があるという。19件の前向き研究を逆の因果関係バイアスを考慮して解析 研究グループは、運動不足は認知症のリスク因子かを検討するために、この関連における心血管代謝疾患の役割および認知症発症前(前駆期)段階の身体活動性の変化に起因する逆の因果関係バイアスを考慮して、19件の前向き観察コホート研究のメタ解析を行った(NordForskなどの助成による)。 19件の研究は、Individual-Participant-Data Meta-analysis in Working Populations(IPD-Work) Consortium、Inter-University Consortium for Political and Social Research、UK Data Serviceを検索して選出した。 曝露は運動不足であり、主要アウトカムは全原因による認知症およびアルツハイマー病とし、副次アウトカムは心血管代謝疾患(糖尿病、冠動脈性心疾患、脳卒中)であった。変量効果によるメタ解析で要約推定量を算出した。運動不足は、発症前10年では関連あり、10年以上前では関連なし 認知症がなく、登録時に運動の評価が行われた40万4,840例(平均年齢45.5歳、女性57.7%、運動不足16万4,026例、活発な身体活動24万814例)について、電子カルテの記録で心血管代謝疾患および認知症の発症状況を調査した。認知症の平均フォローアップ期間は14.9年(範囲:9.2~21.6)だった。 600万人年当たり、2,044例が全認知症を発症した。認知症のサブタイプのデータを用いた研究では、アルツハイマー病は520万人年当たり1,602例に認められた。 認知症診断前の10年間(認知症の発症前段階)の運動不足は、全認知症(ハザード比[HR]:1.40、95%信頼区間[CI]:1.23~1.71)およびアルツハイマー病(1.36、1.12~1.65)の発症と有意な関連が認められた。一方、認知症発症の10年以上前の身体活動を評価することで、逆の因果関係を最小化したところ、活動的な集団と運動不足の集団に、認知症リスクの差はみられなかった(全認知症:1.01、0.89~1.14、アルツハイマー病:0.96、0.85~1.08)。これらの傾向は、ベースラインの年齢別(60歳未満、60歳以上)および性別(男性、女性)の解析でも同様に認められた。 また、認知症発症の10年以上前の運動不足は、糖尿病(HR:1.42、95%CI:1.25~1.61)、冠動脈性心疾患(1.24、1.13~1.36)および脳卒中(1.16、1.05~1.27)の新規発症リスクの上昇と関連し、診断前10年間では、これらのリスクはさらに高くなった。 認知症に先立って心血管代謝疾患がみられた集団では、運動不足の集団は認知症のリスクが過度な傾向がみられたものの、有意ではなかった(HR:1.30、95%CI:0.79~2.14)。心血管代謝疾患がみられない認知症では、運動不足と認知症に関連はなかった(0.91、0.69~1.19)。 著者は、「これらの知見は、運動不足を対象とする介入戦略だけでは、認知症の予防効果には限界があることを示唆する」としている。

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添付文書改訂:スーグラ、フォシーガ/ゾフルーザ、タミフル/セロクエル、ビプレッソ、タケキャブほか【下平博士のDIノート】第24回

スーグラ錠25mg/50mg、フォシーガ錠5mg/10mg画像を拡大する<用法・用量>【イプラグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mgを1日1回まで増量可能です。【ダパグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mgを1日1回まで増量可能です。<使用上の注意>1.本剤はインスリン製剤の代替薬ではありません。インスリン製剤の投与を中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こる恐れがあるので、本剤の投与にあたってはインスリン製剤を中止しないでください。2.本剤とインスリン製剤の併用にあたっては、低血糖リスクを軽減するためにインスリン製剤の減量を検討します。ただし、過度な減量はケトアシドーシスのリスクを高めるので注意してください。なお、臨床試験では、インスリン製剤の1日投与量の減量は、イプラグリフロジン錠では15%、ダパグリフロジン錠では20%以内とすることが推奨されました。<Shimo's eyes>選択的SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジン錠(商品名:スーグラ)とダパグリフロジン錠(同:フォシーガ)の効能・効果に、1型糖尿病が追加されました。これまで、成人1型糖尿病患者で、インスリン療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合に使用できる経口薬はα-グルコシダーゼ阻害薬のみでしたが、今回の適応追加で、イプラグリフロジン錠またはダパグリフロジン錠による良好な血糖コントロールの維持や合併症の予防ができると期待されています。SGLT2阻害薬は、インスリン非依存的な血糖降下作用を示しますが、併用にあたっては低血糖やケトアシドーシスの発現に注意しましょう。ゾフルーザ錠10mg/20mg、タミフルカプセル75/タミフルドライシロップ3%画像を拡大する<重要な基本的注意>出血が現れることがあるので、患者およびその家族に以下を説明してください。1.血便、鼻出血、血尿、吐血、不正子宮出血などが現れた場合には医師に連絡すること。2.投与数日後にも現れることがあること。<併用注意(併用に注意すること)>ワルファリン:併用後にプロトロンビン時間が延長した報告があります。併用する場合には、患者の状態を十分に観察するなど注意しましょう。<Shimo's eyes>抗インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(商品名:タミフル)とバロキサビル(同:ゾフルーザ)において、これらとの因果関係が否定できない出血に関する副作用が複数報告されたことを受け、厚生労働省医薬・生活衛生局が「使用上の注意」改訂の指示を出しました。また、「併用注意」としてワルファリンが追記されたため、抗凝固療法を行っている患者さんでは、慎重な観察が必要となります。セロクエル錠25mg/100mg/200mg、細粒50%、ビプレッソ徐放錠50mg/150mg、タケキャブ錠10mg/20mgほか画像を拡大する<重大な副作用>中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、多形紅斑が現れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行ってください。<Shimo's eyes>薬疹の中では最も重症であるTENの死亡率は20~30%と考えられています。TENとSJSは重症多形滲出性紅斑と呼ばれる1つの疾患群に含まれ、水疱、びらんなどで皮膚がむけた部分が体表面積の10%未満の場合はSJS、10%以上の場合はTENと称されています。原因となる薬剤は多種多様で、ラモトリギン、ゾニサミド、カルバマゼピン、フェノバルビタールなどの抗てんかん薬やアロプリノール、各種解熱鎮痛薬などが挙げられます。発熱(38℃以上)を伴う皮膚や口唇、眼球結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における発疹やただれ、破れやすい水ぶくれのような症状が現れた場合、ただちに医師または薬剤師に相談するように指導しましょう。

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英国で食品中の砂糖20%削減へ、関連疾患は抑制されるか/BMJ

 2017年3月、英国政府は、食品製造および小売業界との協働で、シリアルや菓子類など特定の食品群の砂糖含有量を2020年までに20%削減する計画を発表した。イングランド公衆衛生庁(Public Health England)は、砂糖摂取目標を1日摂取カロリーの5%までとすることで摂取カロリーを11%削減し、これによって年間砂糖関連死を4,700件減らし、医療費を年間5億7,600万ポンド抑制するとのモデルを打ち出した。今回、同国オックスフォード大学のBen Amies-Cull氏らは、砂糖減量計画の潜在的な健康上の有益性について予測評価を行い、BMJ誌2019年4月17日号で報告した。砂糖減量計画の肥満、疾病負担、医療費への影響を検討 研究グループは、英国政府による砂糖減量計画が子供および成人の肥満、成人の疾病負担、医療費に及ぼす影響の予測を目的にモデル化研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 全国食事栄養調査(National Diet and Nutrition Survey:NDNS)の2012~13年度と2013~14年度におけるイングランドの食品消費と栄養素含有量データを用いてシミュレーションを行い、砂糖減量計画によって達成される体重およびBMIの潜在的な変化を予測するシナリオをモデル化した。 シナリオ分析は、個々の製品に含まれる砂糖の量の20%削減(低砂糖含有量製品へ組成を変更または販売の重点の転換[砂糖含有量の多い製品から少ない製品へ])または製品の1人前分量の20%削減について行った。イングランドに居住する4~80歳のNDNS調査対象者1,508例のデータを用いた。 主要アウトカムは、子供と成人の摂取カロリー、体重、BMIの変化とした。成人では、質調整生存年(QALY)および医療費への影響などの評価を行った。10年で、糖尿病が15万4,550例減少、総医療費は2億8,580万ポンド削減 砂糖減量計画が完全に達成され、予定された砂糖の減量がもたらされた場合、1日摂取カロリー(1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)は、4~10歳で25kcal(95%信頼区間[CI]:23~26)低下し、11~18歳も同じく25kcal(24~28)、19~80歳では19kcal(17~20)低下すると推定された。 介入の前後で、体重は4~10歳で女児が0.26kg、男児は0.28kg減少し、これによってBMIはそれぞれ0.17、0.18低下すると予測された。同様に、11~18歳の体重は女児が0.25kg、男児は0.31kg減少し、BMIはそれぞれ0.10、0.11低下した。また、19~80歳の体重は女性が1.77kg、男性は1.51kg減少し、BMIは0.67、0.51低下した。 全体の肥満者の割合は、ベースラインと比較して、4~10歳で5.5%減少し、11~18歳で2.2%、19~80歳では5.5%減少すると予測された。 QALYについては、10年間に、女性で2万7,855 QALY(95%不確定区間[UI]:2万4,573~3万873)、男性では2万3,874 QALY(2万1,194~2万6,369)延長し、合わせて5万1,729 QALY(4万5,768~5万7,242)の改善が得られると推算された。 疾患別のQALY改善への影響は、糖尿病が圧倒的に大きく、10年間に女性で8万9,571例(95%UI:7万6,925~10万1,081)、男性で6万4,979例(5万5,698~7万3,523)、合計15万4,550例(13万2,623~17万4,604)が減少すると予測された。また、10年で大腸がんが5,793例、肝硬変が5,602例、心血管疾患は3,511例減少するが、肺がんと胃がんの患者はわずかに増加した。総医療費は、10年間に2億8,580万ポンド(3億3,250万ユーロ、3億7,350万米ドル、95%UI:2億4,970万~3億1,980万ポンド)削減されると推定された。 3つの砂糖減量アプローチ(製品組成の変更、1人前分量の削減、販売の重点の転換)のうち、1つで摂取カロリー削減に成功しなかった場合、疾病予防への影響が減衰し、健康上の有益性が容易に失われる可能性が示唆された。 著者は、「英国政府による砂糖減量計画では、砂糖の量および1人前の分量の削減が、摂食パターンや製品組成に予期せぬ変化をもたらさない限り、肥満および肥満関連疾患の負担の軽減が可能と考えられる」としている。

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5α-還元酵素阻害薬による2型糖尿病発症リスクの増加(解説:吉岡成人氏)-1033

5α-還元酵素阻害薬と前立腺肥大症、男性型脱毛症 前立腺肥大症や男性型脱毛症は中高年以降の男性が罹患する代表的疾患であるが、発症の要因の1つとしてジヒドロテストステロン(DHT)の関与が知られている。テストステロンは5α-還元酵素によってより活性の強いDHTに変換され、前立腺においてはテストステロンの90%がDHTに変換されている。そのため、5α-還元酵素に対して競合的阻害作用を持つ5α-還元酵素阻害薬が、前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療薬として使用されている。 5α-還元酵素には2種類のアイソフォームがあり、type 1は肝臓、皮膚、毛嚢などに分布し、男性化に関与するtype 2は外陰部の皮膚、頭部毛嚢、前立腺などに分布している。type 1、type 2の双方を阻害する薬剤がデュタステリド(商品名:アボルブ、ザガーロ)であり、type 2のみを阻害する薬剤がフィナステリド(商品名:プロペシア)である。フィナステリドはRCTであるProstate Cancer Prevention Trial(PCPT)により、前立腺がんの発症リスクを低下させることが知られており、最近では、前立腺がんによる死亡リスクも低下させる可能性が示唆されている(Goodman PJ, et al. N Engl J Med. 2019;380:393-394.)。5α-還元酵素阻害薬の副作用としては性機能不全(勃起不全、射精障害)や女性化乳房があり、1%前後の割合で発症する。5α-還元酵素阻害薬によるインスリン抵抗性の増強 10~20例と少数例ではあるが、ヒトを対象とした臨床研究においてtype 1、type 2の双方の5α-還元酵素を阻害するデュタステリドはインスリン抵抗性を増強させ、肝臓での脂肪蓄積を引き起こすことが報告されている(Upreti R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:E1397-E1406.、Hazlehurst JM, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:103-113.)。しかし、type 2の5α-還元酵素のみを阻害するフィナステリドにおけるインスリン抵抗性の増強作用は確認されていなかった。5α-還元酵素阻害薬と糖尿病の発症 このような背景の下で、大規模臨床データベースを用いて5α-還元酵素阻害薬の投与と2型糖尿病の発症についての関連を検討した成績がBMJ誌に掲載された(Wei L, et al. BMJ. 2019;365:l1204.)。英国の大規模臨床データベース(Clinical Practice Research Datalink:CPRD 2003-14)と台湾の医療保険請求に基づくデータベース(Taiwanese National Health Insurance Research Database:NHIRD 2002-12)を用いて解析が行われている。 英国におけるCPRDでは、デュタステリド投与群8,231例、フィナステリド投与群3万774例、対照としてα1遮断薬であるタムスロシン(商品名:ハルナール)を投与した1万6,270例を抽出して、プロペンシティースコアマッチングを行い、各群1,251例、2,445例、2,502例として2型糖尿病の発症についてCox比例ハザードモデルを用いて検討されている。追跡期間中央値5.2年の間における2型糖尿病の発症率は1万人年当たりで、デュタステリド群76.2(95%信頼区間:68.4~84.0)、フィナステリド群76.6(95%信頼区間:72.3~80.9)、タムスロシン群60.3(95%信頼区間:55.1~65.5)であり、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.32、1.26と2型糖尿病の発症リスクが増大することが確認された。 台湾におけるNHIRDの結果もCPRDに一致するもので、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.34、1.49であり、2型糖尿病の発症リスクが高まるという。 日本においては、男性型脱毛症における5α-還元酵素阻害薬の使用は保険診療ではないため、どの程度の人たちに使用されているのかはわからないが、前立腺肥大症の患者には一定の割合で使用されており、5α-還元酵素阻害薬の副作用として耐糖能障害や脂肪肝などインスリン抵抗性に基づく病態が惹起されることを再認識すべきではないかと思われる。

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