サイト内検索|page:124

検索結果 合計:4912件 表示位置:2461 - 2480

2461.

経口セマグルチドは注射薬と同様にHbA1cを改善し体重を減少させる(解説:住谷哲氏)-1050

 注射薬であるGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、心血管イベントを増加しない新規血糖降下薬としてわが国以外の多くの国ですでに販売されている。とくにCVOTであるSUSTAIN-6において3-point MACEを減少させることが報告されたので、今後も使用量は増加すると考えられる。経口セマグルチドは、ペプチドホルモンを消化管から吸収させる新たな方法を採用することで開発が進められてきた(「経口semaglutideがもたらした血糖降下薬のパラダイムシフト」)。第II相臨床試験の結果はすでに報告されていたが、シタグリプチンを対照薬として実施された第III相臨床試験の結果が本論文である。 1,864例が無作為に4群に割り付けられ、経口セマグルチド1日1回3mg(466例)、7mg(466例)、14mg(465例)またはシタグリプチン100mg(467例)がそれぞれ投与された。その結果、HbA1cおよび体重は26週後に7mg/日群と14mg/日群においてシタグリプチン群に比べ有意な減少が認められた。しかし3mg/日群においては、シタグリプチン群に対するHbA1c減少の非劣性は示されなかった。経口セマグルチド群およびシタグリプチン群ともに最も多い有害事象は消化器症状であったが、その頻度は両群で差を認めなかった。 効果の同じ週1回注射薬と経口薬のどちらかを選べ、といわれて注射薬を選ぶ患者は多くはない。週1回注射のセマグルチドと経口セマグルチドの場合も、おそらく経口セマグルチドを希望する患者が多いのではないかと思われる。しかし注射薬は週1回1mg投与に対して、経口セマグルチドは7mg/日としても49mg/週になり注射薬の投与量の約50倍になる。経口セマグルチドがどのような薬価になるかは現時点で不明であるが、有用な薬剤であるので多くの2型糖尿病患者に投与できるように適切な薬価設定がなされることを期待したい。

2462.

認知症は運動で予防できない?(解説:岡村毅氏)-1045

 運動不足は認知症発症リスクではないという報告だ。認知症予防について、無垢な時代が終わり、新たな時代の号砲を告げる論文かもしれない。はじめに私の立場をはっきりさせておくと、予防が完成すれば認知症は駆逐されるという楽観主義でも、予防なんて無意味だからすべて受け入れようという悲観主義でもない。私の立場は、真実は中庸にありというものだ。 論文にはこうある。認知症になる前(前駆期)、活動性は低下している。したがって運動もしなくなっている。ある段階で運動をしている人、していない人に分けると、していない人には前駆期の人が含まれる。彼らはしばらくすると認知症を発症する。すると「運動をしなかったから認知症になった」と第1種過誤が起きる。短期間の観察では必ずこうなるが、乗り越えることはできる。前駆期の長さ以上の観察期間をとればよいのだ。 本論文はメタアナリシスであるが、すべてのケースで認知症発症リスクを見ると、確かに運動をしていないとリスクは高い(1.4倍くらい)。ところが、10年以上経過を見たケースに限定すると、あら不思議、リスクは消えてしまう。 個人的見解だが、認知症予防に関しては○○が効いたという報告があり、しばらくしてメタアナリシスで疑問が呈される、ということが繰り返されているように思う。最初の報告はセンセーショナルで、話題になる。そして後の疑問は、もはや話題にならない。 つまり人は見たいものを見る、聞きたいことを聞く、ということだ。この現象は、正常性バイアスみたいなものだろう。命題(1)認知症は予防できるはずだ、命題(2)予防は健康的な生活習慣と関係する、と人は考えるのだ。 私は何もこのネガティブデータを見て、「予防なんて無意味だ」「ほら見たことか」と言いたいわけではない。予防研究は非常に重要だ。私が言いたいことは、予防に重心が置かれ過ぎると、認知症になった場合に「きちんと予防しなかった自分が悪い」「予防させなかった家族が悪い」と、怒りと絶望に苛まれる人がしばしばいるということだ。なるときはなる、と考えたほうがいい場合もある。だって人間だもの。 言うまでもなく(そしてこの論文にも書いてあるが)、糖尿病や冠動脈疾患は、運動で予防できる。それに運動すると気持ちいいではないか。認知症になったとしても運動する習慣があったほうが、運動を続けられるだろう。認知症を予防できるかどうかまだわからないが、楽しく運動しましょう。

2463.

SGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用がRAS抑制薬以来初めて示される:実臨床にどう生かす?(解説:栗山哲氏)-1039

オリジナルニュースSGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護作用が示される:CREDENCE試験/国際腎臓学会(2019/04/17掲載)本研究の概要 SGLT2阻害薬の腎保護作用を明らかにしたCREDENCE研究結果がNEJM誌に掲載された。この内容は、本年4月15日(メルボルン時間)にオーストラリアでの国際腎臓学会(ISN-WCN 2019)において発表された。これまでにSGLT2阻害薬の心血管イベントに対する有効性や副次的解析による腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58の3つの大規模研究で示されてきた。本試験は、顕性腎症を有する糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)の症例に対して腎アウトカムを主要評価項目とし、その有効性を明らかにした大規模研究である。 対象としたDKD患者背景は67%が白人で、平均年齢は63.0歳、平均HbA1c 8.3%、平均BMI 31%、平均eGFR 56.2mL/min/1.73m2、また尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)の中央値は927mg/gCrの顕性腎症を呈するDKD例であった。併用薬は、99.9%にRAS抑制薬、69%にスタチンが投与されていた。対象の4,401例はカナグリフロジン100mg/日群(2,202例)とプラセボ群(2,199例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された。主要評価項目は「末期腎不全・血清クレアチニン(Cr)倍増・腎/心血管系死亡」の腎・心イベントである。2018年7月、中間解析の結果、主要評価項目発生数が事前に設定された基準に達したため、試験は早期中止となった。その結果、追跡期間中央値は2.62年(0.02~4.53年)である。主要評価項目発生率は、カナグリフロジン群:43.2/1,000例・年、プラセボ群:61.2/1,000例・年となり、カナグリフロジン群におけるハザード比(HR)は、0.70(95%信頼区間[CI]:0.59~0.82)の有意低値となった。カナグリフロジン群における主要評価項目抑制作用は、「年齢」、「性別」、「人種」に有意な影響を受けず、また試験開始時の「BMI」、「HbA1c」、「収縮期血圧」の高低にも影響は受けていなかった。「糖尿病罹患期間の長短」、「CV疾患」や「心不全既往」の有無も同様だった。副次評価項目の1つである腎イベントのみに限った「末期腎不全・血清Cr倍増・腎死」も、カナグリフロジン群における発生率は27.0/1,000例・年であり、40.4/1,000例・年のプラセボ群に比べ、HRは0.66の有意低値だった(95%CI:0.53~0.81)。また、サブグループ別解析では、HRはeGFRの低い群(30 to <60mL/min/1.73m2、全体の59%)、尿ACRの多い群(>1,000、全体の46%)であり、進展したDKDでリスクが低値であった(Forest plotで有意差はなし)。同様に副次評価項目の1つである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(CVイベント)も、カナグリフロジン群におけるHRは0.80(95%CI:0.67~0.95)となり、プラセボ群よりも有意に低かった。なお、総死亡、あるいはCV死亡のリスクは、両群間に有意差を認めなかった。 有害事象のリスクに関しても、プラセボ群と比較した「全有害事象」のHRは0.87(95%CI:0.82~0.93)であり、「重篤な有害事象」に限っても、0.87(95%CI:0.79~0.97)とカナグリフロジン群で有意に低かった。また、「下肢切断」のリスクに関しては、発生率はカナグリフロジン群:12.3/1,000例・年で、プラセボ群:11.2/1,000例・年との間に有意なリスク差は認めなかった(HR:1.11、95%CI:0.79~1.56)。また、「骨折」の発生リスクにも、両群間に有意差はなかった。CREDENCE:何が新しいか? SGLT2阻害薬が心血管イベントを減少させるだけではなく、腎保護作用があることは、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 58においても、すでに明らかにされている。本試験の新規性は、「中等度に腎機能低下した顕性腎症を呈するDKD患者においてもSGLT2阻害薬の腎保護が確認された」との点に集約される。たとえば、EMPA-REG OUTCOME試験においてはeGFRが60mL/min/1.73m2以下の症例は26%でRAS抑制薬は81%に使用されていたが、CREDENCEにおいては59%の症例がeGFR 60mL/min/1.73m2と腎機能低下例が多い背景であった。従来、SGLT2阻害薬は、eGFRを急激に低下させるため腎機能悪化に注意する、eGFR低下例では尿糖排泄も減少するため使用の意義は低い、とされてきた。CREDENCEの結果は、DKDで腎機能が中等度に低下し慢性腎不全と診断される症例において早めにSGLT2阻害薬を開始すると長期予後改善が期待される、と解釈される。CREDENCEの結果を実臨床にどう生かす SGLT2阻害薬が登場する前には、腎保護作用のエビデンスが知られる唯一の薬剤は、RAS抑制薬であるACE阻害薬(Lewis研究)とARB(RENAAL研究とIDNT研究)であった。CREDENCEの結果から、糖尿病治療薬では初めてSGLT2阻害薬が腎機能低下例においても腎機能保護作用が期待されることが示唆された。 SGLT2阻害薬の薬理学的作用機序は、腎尿細管のSGLT2輸送系の抑制によるNa利尿と尿糖排泄である。本剤は、DKDに対してのTubulo-glomerular Feedback改善作用や腎間質うっ血の改善効果は、他の糖尿病薬や利尿薬とはまったく異質のものであり、Glomerulopathy(糸球体障害)のみならずTubulopathy(尿細管障害)やVasculopathy(血管障害)の改善などで複合的に腎保護に寄与すると考えられる。 さて、CREDENCEの結果を受け、実臨床において、腎機能が低下したDKDにおいてSGLT2阻害薬を使用する医家が増えるものと予想される。しかし、現状では腎機能低下例での安全性が完全に払拭されているわけではない。本研究の患者背景は、大多数が60代、白人優位、高度肥満者、腎機能は約半数でeGFRが60mL/min/1.73m2以上に保たれている患者での成績であり、中等度以上の腎機能低下例や高齢者ではやはり十分な配慮が必要となる。一般に、SGLT2阻害薬有効例は、食塩感受性やインスリン感受性の高い患者群と想定される。わが国に多い2型糖尿病患者群は、中高年、肥満傾向、比較的良好な腎機能、食塩摂取過剰、などの傾向があることから、本剤に対する効果は大いに期待される。一方、現時点ではCREDENCEの結果をDKD患者に普遍的に適応するのは、いまだ議論が必要である。日本糖尿病学会の「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2016年)においては、同剤の適正使用に対して慎重になるべきとの警鐘を鳴らしている。とくに75歳以上の高齢者においては、脱水、腎機能悪化、血圧低下、低血糖、尿路感染、また、利尿薬併用例、ケトアシドーシス、シックデイ、などに注意して慎重に薬剤選択することが肝要であるとしている。結局、本邦においてSGLT2阻害薬の腎機能低下例における今後の評価は、各医家の実臨床における経験に裏付けされることが必要と思われる。

2464.

認知症への運動不足の影響、発症前10年から?/BMJ

 運動不足(physical inactivity)と認知症の関連についての観察研究は、逆の因果関係バイアスの影響が働く可能性があるという。フィンランド・ヘルシンキ大学のMika Kivimaki氏らIPD-Work consortiumは、このバイアスを考慮したメタ解析を行い、運動不足はあらゆる原因による認知症およびアルツハイマー病との関連はないのに対し、心血管代謝疾患を発症した集団では、運動不足により認知症リスクがある程度高い状態(1.3倍)にあることを示した。研究の詳細はBMJ誌2019年4月17日号に掲載された。無作為化対照比較試験では、運動による認知症の予防および遅延のエビデンスは得られていない。一方、観察コホート研究の多くはフォローアップ期間が短いため、認知症の発症前(前駆期)段階における身体活動性の低下に起因するバイアスの影響があり、運動不足関連の認知症リスクが過大評価されている可能性があるという。19件の前向き研究を逆の因果関係バイアスを考慮して解析 研究グループは、運動不足は認知症のリスク因子かを検討するために、この関連における心血管代謝疾患の役割および認知症発症前(前駆期)段階の身体活動性の変化に起因する逆の因果関係バイアスを考慮して、19件の前向き観察コホート研究のメタ解析を行った(NordForskなどの助成による)。 19件の研究は、Individual-Participant-Data Meta-analysis in Working Populations(IPD-Work) Consortium、Inter-University Consortium for Political and Social Research、UK Data Serviceを検索して選出した。 曝露は運動不足であり、主要アウトカムは全原因による認知症およびアルツハイマー病とし、副次アウトカムは心血管代謝疾患(糖尿病、冠動脈性心疾患、脳卒中)であった。変量効果によるメタ解析で要約推定量を算出した。運動不足は、発症前10年では関連あり、10年以上前では関連なし 認知症がなく、登録時に運動の評価が行われた40万4,840例(平均年齢45.5歳、女性57.7%、運動不足16万4,026例、活発な身体活動24万814例)について、電子カルテの記録で心血管代謝疾患および認知症の発症状況を調査した。認知症の平均フォローアップ期間は14.9年(範囲:9.2~21.6)だった。 600万人年当たり、2,044例が全認知症を発症した。認知症のサブタイプのデータを用いた研究では、アルツハイマー病は520万人年当たり1,602例に認められた。 認知症診断前の10年間(認知症の発症前段階)の運動不足は、全認知症(ハザード比[HR]:1.40、95%信頼区間[CI]:1.23~1.71)およびアルツハイマー病(1.36、1.12~1.65)の発症と有意な関連が認められた。一方、認知症発症の10年以上前の身体活動を評価することで、逆の因果関係を最小化したところ、活動的な集団と運動不足の集団に、認知症リスクの差はみられなかった(全認知症:1.01、0.89~1.14、アルツハイマー病:0.96、0.85~1.08)。これらの傾向は、ベースラインの年齢別(60歳未満、60歳以上)および性別(男性、女性)の解析でも同様に認められた。 また、認知症発症の10年以上前の運動不足は、糖尿病(HR:1.42、95%CI:1.25~1.61)、冠動脈性心疾患(1.24、1.13~1.36)および脳卒中(1.16、1.05~1.27)の新規発症リスクの上昇と関連し、診断前10年間では、これらのリスクはさらに高くなった。 認知症に先立って心血管代謝疾患がみられた集団では、運動不足の集団は認知症のリスクが過度な傾向がみられたものの、有意ではなかった(HR:1.30、95%CI:0.79~2.14)。心血管代謝疾患がみられない認知症では、運動不足と認知症に関連はなかった(0.91、0.69~1.19)。 著者は、「これらの知見は、運動不足を対象とする介入戦略だけでは、認知症の予防効果には限界があることを示唆する」としている。

2465.

添付文書改訂:スーグラ、フォシーガ/ゾフルーザ、タミフル/セロクエル、ビプレッソ、タケキャブほか【下平博士のDIノート】第24回

スーグラ錠25mg/50mg、フォシーガ錠5mg/10mg画像を拡大する<用法・用量>【イプラグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mgを1日1回まで増量可能です。【ダパグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mgを1日1回まで増量可能です。<使用上の注意>1.本剤はインスリン製剤の代替薬ではありません。インスリン製剤の投与を中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こる恐れがあるので、本剤の投与にあたってはインスリン製剤を中止しないでください。2.本剤とインスリン製剤の併用にあたっては、低血糖リスクを軽減するためにインスリン製剤の減量を検討します。ただし、過度な減量はケトアシドーシスのリスクを高めるので注意してください。なお、臨床試験では、インスリン製剤の1日投与量の減量は、イプラグリフロジン錠では15%、ダパグリフロジン錠では20%以内とすることが推奨されました。<Shimo's eyes>選択的SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジン錠(商品名:スーグラ)とダパグリフロジン錠(同:フォシーガ)の効能・効果に、1型糖尿病が追加されました。これまで、成人1型糖尿病患者で、インスリン療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合に使用できる経口薬はα-グルコシダーゼ阻害薬のみでしたが、今回の適応追加で、イプラグリフロジン錠またはダパグリフロジン錠による良好な血糖コントロールの維持や合併症の予防ができると期待されています。SGLT2阻害薬は、インスリン非依存的な血糖降下作用を示しますが、併用にあたっては低血糖やケトアシドーシスの発現に注意しましょう。ゾフルーザ錠10mg/20mg、タミフルカプセル75/タミフルドライシロップ3%画像を拡大する<重要な基本的注意>出血が現れることがあるので、患者およびその家族に以下を説明してください。1.血便、鼻出血、血尿、吐血、不正子宮出血などが現れた場合には医師に連絡すること。2.投与数日後にも現れることがあること。<併用注意(併用に注意すること)>ワルファリン:併用後にプロトロンビン時間が延長した報告があります。併用する場合には、患者の状態を十分に観察するなど注意しましょう。<Shimo's eyes>抗インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(商品名:タミフル)とバロキサビル(同:ゾフルーザ)において、これらとの因果関係が否定できない出血に関する副作用が複数報告されたことを受け、厚生労働省医薬・生活衛生局が「使用上の注意」改訂の指示を出しました。また、「併用注意」としてワルファリンが追記されたため、抗凝固療法を行っている患者さんでは、慎重な観察が必要となります。セロクエル錠25mg/100mg/200mg、細粒50%、ビプレッソ徐放錠50mg/150mg、タケキャブ錠10mg/20mgほか画像を拡大する<重大な副作用>中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、多形紅斑が現れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行ってください。<Shimo's eyes>薬疹の中では最も重症であるTENの死亡率は20~30%と考えられています。TENとSJSは重症多形滲出性紅斑と呼ばれる1つの疾患群に含まれ、水疱、びらんなどで皮膚がむけた部分が体表面積の10%未満の場合はSJS、10%以上の場合はTENと称されています。原因となる薬剤は多種多様で、ラモトリギン、ゾニサミド、カルバマゼピン、フェノバルビタールなどの抗てんかん薬やアロプリノール、各種解熱鎮痛薬などが挙げられます。発熱(38℃以上)を伴う皮膚や口唇、眼球結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における発疹やただれ、破れやすい水ぶくれのような症状が現れた場合、ただちに医師または薬剤師に相談するように指導しましょう。

2466.

英国で食品中の砂糖20%削減へ、関連疾患は抑制されるか/BMJ

 2017年3月、英国政府は、食品製造および小売業界との協働で、シリアルや菓子類など特定の食品群の砂糖含有量を2020年までに20%削減する計画を発表した。イングランド公衆衛生庁(Public Health England)は、砂糖摂取目標を1日摂取カロリーの5%までとすることで摂取カロリーを11%削減し、これによって年間砂糖関連死を4,700件減らし、医療費を年間5億7,600万ポンド抑制するとのモデルを打ち出した。今回、同国オックスフォード大学のBen Amies-Cull氏らは、砂糖減量計画の潜在的な健康上の有益性について予測評価を行い、BMJ誌2019年4月17日号で報告した。砂糖減量計画の肥満、疾病負担、医療費への影響を検討 研究グループは、英国政府による砂糖減量計画が子供および成人の肥満、成人の疾病負担、医療費に及ぼす影響の予測を目的にモデル化研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 全国食事栄養調査(National Diet and Nutrition Survey:NDNS)の2012~13年度と2013~14年度におけるイングランドの食品消費と栄養素含有量データを用いてシミュレーションを行い、砂糖減量計画によって達成される体重およびBMIの潜在的な変化を予測するシナリオをモデル化した。 シナリオ分析は、個々の製品に含まれる砂糖の量の20%削減(低砂糖含有量製品へ組成を変更または販売の重点の転換[砂糖含有量の多い製品から少ない製品へ])または製品の1人前分量の20%削減について行った。イングランドに居住する4~80歳のNDNS調査対象者1,508例のデータを用いた。 主要アウトカムは、子供と成人の摂取カロリー、体重、BMIの変化とした。成人では、質調整生存年(QALY)および医療費への影響などの評価を行った。10年で、糖尿病が15万4,550例減少、総医療費は2億8,580万ポンド削減 砂糖減量計画が完全に達成され、予定された砂糖の減量がもたらされた場合、1日摂取カロリー(1kcal=4.18kJ=0.00418MJ)は、4~10歳で25kcal(95%信頼区間[CI]:23~26)低下し、11~18歳も同じく25kcal(24~28)、19~80歳では19kcal(17~20)低下すると推定された。 介入の前後で、体重は4~10歳で女児が0.26kg、男児は0.28kg減少し、これによってBMIはそれぞれ0.17、0.18低下すると予測された。同様に、11~18歳の体重は女児が0.25kg、男児は0.31kg減少し、BMIはそれぞれ0.10、0.11低下した。また、19~80歳の体重は女性が1.77kg、男性は1.51kg減少し、BMIは0.67、0.51低下した。 全体の肥満者の割合は、ベースラインと比較して、4~10歳で5.5%減少し、11~18歳で2.2%、19~80歳では5.5%減少すると予測された。 QALYについては、10年間に、女性で2万7,855 QALY(95%不確定区間[UI]:2万4,573~3万873)、男性では2万3,874 QALY(2万1,194~2万6,369)延長し、合わせて5万1,729 QALY(4万5,768~5万7,242)の改善が得られると推算された。 疾患別のQALY改善への影響は、糖尿病が圧倒的に大きく、10年間に女性で8万9,571例(95%UI:7万6,925~10万1,081)、男性で6万4,979例(5万5,698~7万3,523)、合計15万4,550例(13万2,623~17万4,604)が減少すると予測された。また、10年で大腸がんが5,793例、肝硬変が5,602例、心血管疾患は3,511例減少するが、肺がんと胃がんの患者はわずかに増加した。総医療費は、10年間に2億8,580万ポンド(3億3,250万ユーロ、3億7,350万米ドル、95%UI:2億4,970万~3億1,980万ポンド)削減されると推定された。 3つの砂糖減量アプローチ(製品組成の変更、1人前分量の削減、販売の重点の転換)のうち、1つで摂取カロリー削減に成功しなかった場合、疾病予防への影響が減衰し、健康上の有益性が容易に失われる可能性が示唆された。 著者は、「英国政府による砂糖減量計画では、砂糖の量および1人前の分量の削減が、摂食パターンや製品組成に予期せぬ変化をもたらさない限り、肥満および肥満関連疾患の負担の軽減が可能と考えられる」としている。

2468.

5α-還元酵素阻害薬による2型糖尿病発症リスクの増加(解説:吉岡成人氏)-1033

5α-還元酵素阻害薬と前立腺肥大症、男性型脱毛症 前立腺肥大症や男性型脱毛症は中高年以降の男性が罹患する代表的疾患であるが、発症の要因の1つとしてジヒドロテストステロン(DHT)の関与が知られている。テストステロンは5α-還元酵素によってより活性の強いDHTに変換され、前立腺においてはテストステロンの90%がDHTに変換されている。そのため、5α-還元酵素に対して競合的阻害作用を持つ5α-還元酵素阻害薬が、前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療薬として使用されている。 5α-還元酵素には2種類のアイソフォームがあり、type 1は肝臓、皮膚、毛嚢などに分布し、男性化に関与するtype 2は外陰部の皮膚、頭部毛嚢、前立腺などに分布している。type 1、type 2の双方を阻害する薬剤がデュタステリド(商品名:アボルブ、ザガーロ)であり、type 2のみを阻害する薬剤がフィナステリド(商品名:プロペシア)である。フィナステリドはRCTであるProstate Cancer Prevention Trial(PCPT)により、前立腺がんの発症リスクを低下させることが知られており、最近では、前立腺がんによる死亡リスクも低下させる可能性が示唆されている(Goodman PJ, et al. N Engl J Med. 2019;380:393-394.)。5α-還元酵素阻害薬の副作用としては性機能不全(勃起不全、射精障害)や女性化乳房があり、1%前後の割合で発症する。5α-還元酵素阻害薬によるインスリン抵抗性の増強 10~20例と少数例ではあるが、ヒトを対象とした臨床研究においてtype 1、type 2の双方の5α-還元酵素を阻害するデュタステリドはインスリン抵抗性を増強させ、肝臓での脂肪蓄積を引き起こすことが報告されている(Upreti R, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:E1397-E1406.、Hazlehurst JM, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:103-113.)。しかし、type 2の5α-還元酵素のみを阻害するフィナステリドにおけるインスリン抵抗性の増強作用は確認されていなかった。5α-還元酵素阻害薬と糖尿病の発症 このような背景の下で、大規模臨床データベースを用いて5α-還元酵素阻害薬の投与と2型糖尿病の発症についての関連を検討した成績がBMJ誌に掲載された(Wei L, et al. BMJ. 2019;365:l1204.)。英国の大規模臨床データベース(Clinical Practice Research Datalink:CPRD 2003-14)と台湾の医療保険請求に基づくデータベース(Taiwanese National Health Insurance Research Database:NHIRD 2002-12)を用いて解析が行われている。 英国におけるCPRDでは、デュタステリド投与群8,231例、フィナステリド投与群3万774例、対照としてα1遮断薬であるタムスロシン(商品名:ハルナール)を投与した1万6,270例を抽出して、プロペンシティースコアマッチングを行い、各群1,251例、2,445例、2,502例として2型糖尿病の発症についてCox比例ハザードモデルを用いて検討されている。追跡期間中央値5.2年の間における2型糖尿病の発症率は1万人年当たりで、デュタステリド群76.2(95%信頼区間:68.4~84.0)、フィナステリド群76.6(95%信頼区間:72.3~80.9)、タムスロシン群60.3(95%信頼区間:55.1~65.5)であり、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.32、1.26と2型糖尿病の発症リスクが増大することが確認された。 台湾におけるNHIRDの結果もCPRDに一致するもので、デュタステリド、フィナステリドのいずれの投与群でもハザード比で1.34、1.49であり、2型糖尿病の発症リスクが高まるという。 日本においては、男性型脱毛症における5α-還元酵素阻害薬の使用は保険診療ではないため、どの程度の人たちに使用されているのかはわからないが、前立腺肥大症の患者には一定の割合で使用されており、5α-還元酵素阻害薬の副作用として耐糖能障害や脂肪肝などインスリン抵抗性に基づく病態が惹起されることを再認識すべきではないかと思われる。

2469.

第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!【実践型!食事指導スライド】

第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!医療者向けワンポイント解説タンパク質摂取の必要性と手軽に食べられる高タンパク質の食品について、前2回(第12回、第13回)でお伝えしてきました。食事バランスの中で、摂取が最も過多になりがちな栄養素は、手軽に食べられる米飯、パン、麺類などの「炭水化物」です。一方で、不足しがちな栄養素の中で多くの方が意識しているのは、ビタミンやミネラル、食物繊維が摂取できる「野菜」です。しかし、タンパク質が豊富な肉や魚、卵、大豆製品などは、食べる習慣のある方とない方に大きく分かれるため、食習慣によって摂取を進めるのか、脂質過多に気をつけてもらうべきかが分かれてきます。それほど不足していない場合でも、「肥満があり、摂取量を調整したい」など、ダイエットを目的とする場合でも、良質なタンパク質を見直すことは、食欲を正常化させ、脂質量を抑えることにも役立ちます。今回は、コンビニやスーパーなどで手軽に買える豆腐の簡単アレンジについて、ご紹介します。種類豊富な豆腐の中でも、コンビニなどで多く見かける3連パックの豆腐は、水切り不要なものが多く、手軽にサラダなどとも組み合わせることができる便利で良質なアイテムです。しかし、豆腐というと、そのまま冷奴として食べることが多くなり、毎日は飽きる、冷たいのでカラダが冷えるという意見もよく聞かれます。豆腐や納豆などは良質なタンパク質であるほか、大豆ペプチドには、血圧を下げる効果や大豆ファースト(食事の最初に大豆を食べること)により血糖値の上昇を抑制する効果があることもわかっていますので、積極的に食べたい食品です。「コンビニ食材のみで作ることができ、1)調理不要、2)器1つ、3)レンチン*でできる」手軽で満足感のある上手な豆腐の食べ方を3つご紹介しますので、ぜひ、毎日のメニューに加えてみてください(*電子レンジでチンするという意)。大きなポイントは、豆腐を温める「温奴」にすることです。これは、湯豆腐ではなく、電子レンジなどで温めるだけで大丈夫です。温かい食材は、冷たい食材よりも同じカロリーでも食べた満足度がぐっと上がります。◎スープ耐熱カップに、豆腐、市販のスープのもと(今回は、お吸い物のもと)、刻み青ネギ、レトルトのもち麦を加え、湯を注ぎ入れる。電子レンジで30秒ほど加熱すると、満足度の高いスープ雑炊の完成です。スープのもとはお好みで変えてもらうことで、毎日でも飽きずに食べることができます。◎副菜耐熱皿に、豆腐、冷凍野菜、チーズや明太子、しらすなどをふりかけて電子レンジで50秒ほど加熱します。ボリュームアップでき、食べたときの満足度が上がります。低脂肪にしたいけれど、ボリュームが欲しい方にもオススメです。◎デザート深めの耐熱皿に、豆腐、豆乳をかけ、電子レンジで30秒加熱をします。あんこをのせれば、ヘルシーなデザートのでき上がりです。黒蜜やシロップ、バニラアイスなどでも美味しく食べることができます。いかがでしたでしょうか? 手軽に購入できる3連豆腐パックを活用して、手軽に栄養バランスアップをしてみましょう。

2470.

第17回 意識の異常〜意識障害と意識消失発作-1【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は意識レベルの異常を来した患者さん2例を紹介します。「意識障害」と「意識消失発作」はともによく耳にする言葉ですが、これらの違いはご存じでしょうか?2つの症例を通して学びたいと思います。患者さんDの場合◎経過──182歳、男性。施設入所中の方です。杖をついて歩くことができ、施設内でのレクリエーションにも積極的に参加しています。生活習慣病として高血圧症・糖尿病・脂質異常症があり、主治医からは降圧薬・経口血糖降下薬処方されています。普段は元気に過ごされていますが、2日前から発熱・嘔吐・下痢があり、ウイルス性胃腸炎との診断で嘱託医から胃粘膜保護薬と整腸薬が処方されました。本日、あなたが施設に行くと、職員があわただしく動き回っている光景を見ました。「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」見ると、いつも元気で過ごしているEさんが、ベッド上にぐったりとして意識がないようです。一方で、他の職員は嘱託医に電話連絡しているところでした。意識と、意識の中枢と、意識障害意識という言葉は、医学だけでなくいろいろな分野でいろいろな意味合いで使われているようですが、一般的には「目が覚めていて(覚醒)、自分や周囲の状況が認識できている(認知)状態」と定義されます。これらが障害された状態を意識障害といいます。ヒトは覚醒しているとき、脳幹にある「脳幹網様体」と呼ばれる部分に身体の感覚が入り、それが脳の視床という部分を介して大脳皮質に伝わります(上行性網様体賦活系といいます)〈図〉。この脳幹網様体が障害された時、または、両側の大脳が広範に障害された時に意識障害を生じます。意識障害の状態は表1のJapan Coma Scale(JCS)を参考にしてください。スライドを拡大する◎経過──2意識がないEさんを目の当たりにして、あなたは少し動揺してしまいました。(先生には連絡が行っているはずだから、こういうときこそ落ち着いて、基本に立ち返って...)あなたは一度深呼吸をして、バイタルサインを確認しました〈表2〉。Eさんはぐっしょりと全身に汗をかいています。(意識レベル以外にあまり異常はないわ...。どうしよう)意識障害の原因前述の通り、脳幹網様体や、両側大脳が広範に障害されると意識の状態が悪くなります(=意識障害を来します)。これらが障害されるのは、脳出血・脳梗塞といった頭蓋内疾患の場合もありますし、脳幹や大脳に影響を及ぼすような脳以外の疾患の場合もあります。意識障害の原因を検索するとき、表3のような「アイウエオチップス」という覚え方があります。表3を見ていただくと、実は脳の疾患に伴う意識障害よりも、脳以外の疾患を原因とする意識障害の方が多いことに気がつきます。ですから、「意識障害=脳の疾患」という訳ではありません。意識障害の鑑別には、その場のバイタルサインだけでなく、意識障害に至った病歴、既往歴、服用歴、身体診察、さらに血液検査、血液ガス分析、頭部CTを含めた画像診断が必要となります。この観点から、意識障害の患者さんは必ず病院の受診が必要ですが、意識障害の原因疾患の中でも緊急度の高いのは、バイタルサインに異常を来している場合(呼吸や循環にも異常がある場合)と低血糖です。スライドを拡大する◎経過──3(そういえばEさん、糖尿病の薬を内服している!)そう思ったとき、嘱託医が到着しました。医師が診察を始めるのと同時に、看護師は医師の指示で血糖を測定しました〈写真〉。「血糖『20未満』です」看護師が言うと、医師は静脈路確保の後、50%ブドウ糖液を40mL静注し、まもなくEさんの意識レベルは改善しました。最近の嘔吐・下痢で食事があまり摂れないのに、経口血糖降下薬は継続していたため、低血糖になったと考えられました。内服薬の効果の持続する時間を考えると、低血糖が遷延する可能性があり、提携している病院に入院することとなりました。医師はEさんを搬送するため、救急車に同乗していきました。

2471.

第18回 腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第18回:腕試し! 心電図クイズで“おさらい”だ皆さん、かつてない大ゴールデンウイークをどうお過ごしですか? ボクは基本的には家でゆっくりの“インドア派”、時にバイトをしています(笑)。せっかくのお休みですから、あまり込み入った話はやめて、今までの“振り返り”はどうでしょう? Dr.ヒロが選んだ心電図問題にチャレンジしつつ、過去のレクチャーを見直してみましょう。では、スタートです!症例提示149歳、男性。肥大型心筋症でフォロー中。定期外来時の心電図を示す(図1)。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題1】これは「正常洞調律」と言って良いか? また、心拍数はいくらか?解答はこちらNo:(理由)洞不整脈のため心拍数:78/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導 [10秒] )解説はこちらいつ・どんな時も「系統的判読」が大事です。この問題は“レーサー(R3)・チェック”に関するもの(第1回)。つい「R-R間隔はレギュラー(整)で…」と始めてしまいそうですが、否です。肢誘導の最初と最後ではR-R間隔がだいぶ違います。立派に「R-R間隔:不整」なんです。こういう場合の心拍数は“検脈法”の独壇場です。肢誘導に6個、胸部誘導に7個のQRS波があり、ともに5秒、5秒で計10秒間の記録だということを意識すると、13✕6=78/分 と求まります(第3回)。3つ目の“R”は「調律」でした。これは“イチニエフの法則”で洞性P波の満たす「向き」を確認します。QRS波の直前に明瞭なP波がコンスタントにあって、向きはイチニエフ・ブイシゴロで上向き(陽性)、アールで下向き(陰性)ですから、“サイナス”(洞調律)でいいんです(第2回)。しかし、このようにR-R不整を伴う場合を「洞不整脈」(sinus arrhythmia)といい、主に呼吸による影響とされます。“変わり種”の洞調律ですから、「正常」の枕詞はとりましょうね。【参考レクチャー】第1回『心電図の読み“型”伝授します』第2回『洞調律を知る』第3回『心拍数を求めよう』【問題2】QRS電気軸は何度か? 定性的評価も加えよ。解答はこちらQRS電気軸:+70°(トントン法Neoによる)正常軸解説はこちら(QRS)電気軸は、前額断(冠状断)にて電気が心室内を進む方向を反映するものでした。定性的には、I誘導とaVF(またはII)誘導のQRS波の向きに着目します。この例はすべて「上向き」(陽性)ですから、「正常軸」でいいでしょう(第8回)。具体的に数値で「何度」と求める方法について、詳しく解説している教科書は少ないですが、Dr.ヒロ流“トントン法”、あるいはその進化版の“Neo”ならおおむね可能です。注目すべき肢誘導の中に“トントン”なQRS波がないですから、そういう時は肢誘導界の円座標を思い浮かべ、「aVL(-30°)→ I(0°)→-aVR(+30°)→ II(+60°)→ aVF(+90°)→III(+120°)→-aVL(+150°)」の順番にQRS波の向きをチェックしていきます(第11回)。この心電図(図1)では、はじめのaVLとIの間で向きの逆転が起こっており、この場合の“トントン・ポイント(TP)”は両者の中間(-15°)、ないし“aVL寄り”(-20°)でしょう。これに直交し、Iは「上向き」なので、ボク的には「+70°」を正解とします(「+75°」でも可)。【参考レクチャー】第8回『QRS電気軸イロハのイ』第11回『QRS電気軸(完結編)~進化したトントン法は無敵!~』【問題3】心電図(図1)の所見として正しくないものを選べ。1)ST低下2)左室高電位3)完全左脚ブロック4)右房拡大5)陰性T波解答はこちら3)解説はこちら1)◯:II、III、aVF、V4~V6誘導で「ST低下」(水平/下行型)があります。2)◯:V5、V6誘導のR波高は、さほどではないのですが、「SV1(V1誘導のS波の深さ)+RV5(V5誘導のR波の高さ)>35mm」という基準は満たすので、「左室高電位」でOKです。これと側壁誘導(I、aVL、V [4] 5~6)のST-T変化との“合わせ技”で「左室肥大」と診断します。この方は「肥大型心筋症」ですので、相応の心電図ということになります。3)×:「脚ブロック」はQRS“幅”がワイドな時に考えます。この例では、やや“太め”ですが(「左室肥大」のため)、許容範囲内といえます。4)◯:II誘導のP波がツンッと立っています。II、III、aVF誘導のいずれかでP波高が2.5mm超の場合、「右房拡大」と診断します。5)◯:絶対にT波が下を向いてはいけない“イチニエフ・ブイシゴロ”(これも“イチニエフの法則”です)以外に、この例ではIII誘導でも「陰性T波」を認めますね。症例提示270歳、男性。糖尿病、高血圧で治療中。数日前から倦怠感が出現。本日、咳嗽著明、意識レベル低下もあり救急搬送。諸検査から肺炎が疑われ、即日入院となった。体温37.8℃、血圧107/54mmHg、脈拍89/分・整、酸素飽和度91%。入院時の心電図を示す(図2)。(図2)入院時心電図画像を拡大する【問題4】心電図(図2)の調律と心拍数について述べよ。解答はこちら調律:(正常)洞調律心拍数:84/分(検脈法:肢誘導 [5秒] )90/分(検脈法:肢誘導+胸部誘導 [10秒] )解説はこちらR-R間隔:整で“イチニエフの法則”から「洞調律」でOK、心拍数は“検脈法”で求めますが、R-R整なら肢誘導または胸部誘導どちらか5秒間の情報で計算可能です(第2回)、(第3回)。ややトリッキーかもしれませんが、たとえば、II誘導の2、4拍目でS波が“オン・ザ・ライン”(オレンジ太線上)ですよね? この間が7マス(太枠7個)で、“300の法則”かつ2拍分のR-R間隔であることに注目して「300÷7✕2≒86/分」と算出すると、自動計測値により近づきます(第3回)。【参考レクチャー】第2回『洞調律を知る』第3回『心拍数を求めよう』【問題5】心電図(図2)の電気軸をどう表現するのがよいか?解答はこちら不(確)定軸解説はこちらIとaVF(またはII)誘導のQRS波の向きを見ましょう。アレッ? どれも“トントン”ですね。このような“煮え切らない”状況ではQRS電気軸は決定できず、「不定軸」(indeterminate axis)という診断になります。正式には、標準肢誘導(I、II、III)のいずれでも上下“トントン”な場合が「不定軸」の定義です。なお、時折、IもaVF(またはII)誘導も下向きの状況を「不定軸」と称しているケースに出会いますが、個人的には賛同できません。Dr.ヒロ流は「高度(の)軸偏位」ないし「北西軸」と呼んで欲しいです。【参考レクチャー】第8回『QRS電気軸イロハのイ』【問題6】心電図(図2)のST部分は(A)女性型、(B)男性型、(C)不定型のいずれか?解答はこちら(B)男性型解説はこちらこれは「ST部分」の男女差を扱った時に述べたものです。ポイントはV1~V4誘導の「J点」と「ST角度」でしたね(第15回)。この男性は、V2、V3誘導で明らかなJ点(ST)上昇があり、かつ「ST角度」も急峻(20°以上)なパターンです。病歴的には元気がなくても、心電図は若年男子に特徴的な猛々しい「男性型」のST部分を示しています。こうした例での「STEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)」の診断には注意が必要だったことも復習しておきましょう(第14回)。【参考レクチャー】第14回『“若さ”って心電図に表れる?』第15回『アナタの心電図は“男女”どっち?』さて、2症例、計6問の腕試しクイズでしたが、いかがだったでしょうか? 心電図の知識は“臨床に生かせてなんぼ”。そんなボクのモットーが体験できる問題となるよう、今までに“ドキドキ心電図”のレクチャーで扱った内容を中心に症例形式で出題しました。できなかった問題については、該当回をもう一度読み直してみてくださいね。それでは、素敵な連休を! 「令和」元年からも引き続きDr.ヒロの熱血講義をお楽しみ下さい。【古都のこと~平野神社~】京都には多くの桜の名所がありますが、連載の間隔的になかなか紹介できないのは残念です。今回は平野神社(北区)。北野天満宮から徒歩数分の立地で、観桜期には数多くの屋台や桜茶屋で賑わいます。2018年9月の台風21号で拝殿が倒壊、自慢の木々も甚大な被害を受けた影響もあり、例年より悲壮感が漂っていました。が、やはり門前の「魁(さきがけ)桜」、そして桜苑には心奪われました。逆境にも負けぬ健気さにエネルギーをもらい、「開運さくら湯」を飲み干してから職場に向かうのでした。

2473.

SGLT1/2阻害薬sotagliflozin、1型糖尿病の転帰改善/BMJ

 sotagliflozinは、ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)1とSGLT2を、ともに阻害する経口薬。イタリア・Humanitas University Gradenigo HospitalのGiovanni Musso氏らは、1型糖尿病患者において、この新規SGLT1/2阻害薬のメタ解析を行い、血糖値および非血糖値関連のアウトカムの改善をもたらし、低血糖や重症低血糖の発現を抑制することを明らかにした。研究の成果は、BMJ誌2019年4月9日号に掲載された。1型糖尿病患者では、血糖目標値(HbA1c<7%)の達成率は30%にすぎず、インスリンによる低血糖や体重増加がみられ、とくに重症低血糖は至適な血糖コントロールを妨げる主要な因子とされる。sotagliflozinは、グルコースの腸管吸収だけでなく腎臓での再吸収を阻害する。この作用機序により、食後の血糖変動が抑制され、最終的にボーラスインスリン追加の補正の必要性や、低血糖リスクを低下させる可能性があるという。6つの無作為化プラセボ対照比較試験の参加者3,238例の解析 研究グループは、1型糖尿病に対するsotagliflozinの無作為化対照比較試験のメタ解析を行った(研究助成は受けていない)。 医学データベース、国際学会抄録、海外および国内の臨床試験、米国・欧州・日本の規制当局ウェブサイトなどを検索して、2019年1月10日までに公表された論文を選出した。年齢18歳以上の1型糖尿病患者を対象に、実薬またはプラセボ対照でのsotagliflozinの効果を評価した無作為化対照比較試験を解析に含めた。 3人のレビュアーが、試験参加者の背景因子、関心アウトカム、バイアスのリスクのデータを抽出した。主要アウトカムは、変量効果モデルを用いて統合した。 6つの無作為化プラセボ対照比較試験(3,238例、試験期間4~52週)が解析の対象となった。主な有害事象はケトアシドーシス、リスク最小化は可能 sotagliflozinはプラセボに比べ、HbA1c(加重平均の差:-0.34%、95%信頼区間[CI]:-0.41~-0.27、p<0.001)、空腹時血糖値(-16.98mg/dL、-22.1~-11.9[1mg/dL=0.0555mmol/L])、食後2時間血糖値(-39.2mg/dL、-50.4~-28.1)を有意に低下させ、1日の総インスリン量(-8.99%、-10.93~-7.05)、基礎インスリン量(-8.03%、-10.14~-5.93)、追加インスリン量(-9.14%、-12.17~-6.12)をいずれも有意に低下させた。 また、sotagliflozinにより、目標血糖範囲内時間の割合(加重平均の差:9.73%、95%CI:6.66~12.81)や他の持続血糖モニタリングのパラメータが改善し、非血糖値関連アウトカムでは体重(-3.54%、-3.98~-3.09)、収縮期血圧(-3.85mmHg、-4.76~-2.93)、アルブミン尿(アルブミン/クレアチニン比:-14.57mg/g、-26.87~-2.28)が低下した。さらに、低血糖(加重平均の差:-9.09イベント/人年、95%CI:-13.82~-4.36)の発生が抑制され、重症低血糖(相対リスク[RR]:0.69、95%CI:0.49~0.98)のリスクも低下した。 一方、ケトアシドーシス(RR:3.93、95%CI:1.94~7.96)、生殖器感染症(3.12、2.14~4.54)、下痢(1.50、1.08~2.10)、体液量減少イベント(2.19、1.10~4.36)のリスクが増加したが、尿路感染症(0.97、0.71~1.33)のリスクは増加しなかった。初回HbA1c値と基礎インスリン量の調整が、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクと関連した。また、用量については、400mg/日は200mg/日に比べ、血糖値関連および非血糖値関連のほとんどのアウトカムをより改善し、有害事象のリスクは増加しなかった。 エビデンスの質は、ほとんどのアウトカムに関して高~中程度であったが、主要有害心血管イベントおよび全死因死亡に関しては低かった。また、相対的に短期間の試験が、長期アウトカムの評価の妨げとなっていた。 著者は、「主な有害事象は糖尿病性ケトアシドーシスであったが、そのリスクは適切な患者選択および基礎インスリン量を漸減することで最小化が可能と考えられる」としている。

2474.

コレステロール過剰摂取、卵の食べ過ぎは心血管疾患および全死因死亡を増やす?(解説:島田俊夫氏)-1028

 コレステロールの取り過ぎは体に悪い? これまでの欧米においては概して虚血性心疾患による死亡率がわが国と比較し圧倒的に多いことから、欧米からのエビデンスに基づき悪玉コレステロール高値は心血管疾患のリスク因子だとの考えが定着していた1,2)。もちろん家族性高コレステロール血症はとりわけハイリスクであるが、このような症例を一般化する解釈の根拠は必ずしも十分とは言えない。一方で高齢者の高コレステロール血症はむしろ健康状態が良いことが多く、スタチンを使用して下げている症例を時々みかけるが、個人的にはいらんお世話をしているのではと懸念している。コレステロールは細胞膜に不可欠な構成成分であり、卵から孵化する動物はヨークサックのコレステロールにより孵化までの期間の栄養を供給されており、バランスの取れた栄養食と考えられてきた。コレステロールの70~80%は体内で合成され、20~30%程度が食事由来と考えられている。2019年3月19日にJAMA誌に掲載された、米国・ノースウェスタン大学Victor W. Zhong氏らがLifetime Risk Pooling Projectの6つのコホートデータを統合のうえで解析し、食事由来コレステロールまたは卵の摂取量増加は、用量反応的に心血管疾患発症、全死因死亡リスク上昇に有意に関連していると報告した。いまだ議論の多い問題に一石を投じた論文であり論評に値すると考え、私見をコメントする。論文要約 1985年3月25日~2016年8月31日の期間に集められた米国の6つの前向きコホート研究の個々のデータを統合のうえで解析を行った。自己申告食事摂取に関するデータは標準的プロトコールを用いて調整のうえ、食事由来コレステロール(mg/日)または卵摂取量(個/日)を算出した。 主要評価項目は人口統計学的、社会経済的および行動的要因を調整のうえで、CVD発症と全死因死亡に関する全追跡調査期間のハザード比および絶対リスク差(ARD)により、コホートを層別化した原因別ハザードモデルおよび標準比例ハザードモデルを用いて解析された。 2万9,615例を解析対象とした。ベースライン時の研究対象者の平均年齢は51.6±13.5歳、男性1万3,299例(44.9%)、女性9,204例(31.1%)であった。 1日当たりの食事由来コレステロール摂取が300mg増えるとCVD発症(補正後HR:1.17[95%CI:1.09~1.26]、補正後ARD:3.24%[95%CI:1.39~5.08])および全死因死亡(補正後HR:1.18[95%CI:1.10~1.26]、補正後ARD:4.43%[95%CI:2.51~6.36])のリスク上昇と有意相関を認めた。 卵の1日当たりの摂取量が半個増えるか、または週に卵の摂取が3~4個増えた場合にも同様に有意な関連を認めた(CVD発症に関しては補正後HR:1.06[95%CI:1.03~1.10]、補正後ARD:1.11%[95%CI:0.32~1.89]、全死因死亡に関しては補正後HR:1.08[95%CI:1.04~1.11]、補正後ARD: 1.93[95%CI:1.10~2.76])。 しかし、食事由来コレステロール摂取量補正後は、卵摂取量とCVD発症(補正後HR:0.99[95%CI:0.93~1.05]、補正後ARD:-0.47[95%CI:-1.83~0.88])および全死因死亡(補正後HR:1.03[95%CI:0.97~1.09]、補正後ARD:0.71%[95%CI: -0.85~2.28])との間に、有意な関連を認めなかった。筆者コメント 本論文はあくまで前向きコホート研究であり、因果関係を証明するための研究デザインでないためにエビデンスレベルは必ずしも強固とはいえない。しかも、コレステロールを多く含む食材の過剰摂取、とくに卵は言われているほど悪くないとのエビデンスがある中でこのような結論を妄信することは控えたほうがよい3,4)。その一方でコレステロールは細胞膜にとり不可欠の構成要素であり、重要なステロイドホルモン、胆汁酸の原料でもある。食事由来のコレステロールは体内で合成されるコレステロールの1/3に満たない程度であり、本論文の結果をうのみにするのは危ない。とくに高齢者では高コレステロール血症をもはや危険因子(むしろ逆では)として受け止めることに個人的には疑問を感じている。まだ未解決な点も多くあり、本論文の結果を記憶にとどめておくだけでよいと考える。

2475.

家族性アミロイドポリニューロパチー〔FAP: familial amyloid polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、代表的な遺伝性全身性アミロイドーシスである1,2)。組織の細胞外に沈着したアミロイドは、コンゴレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を生じる。電子顕微鏡で観察すると、直径8~15nmの枝分かれのない線維状の構造物として観察される。現在までに、36種類以上の蛋白質がヒトの体内でアミロイド沈着を形成する蛋白質として同定されている3)。FAPを生じるアミロイド前駆蛋白質として、トランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポリポ蛋白質A-Iが知られているが、大部分のFAP患者は、TTRの遺伝子変異によるため、以下はTTRを原因とするFAP(TTR-FAP)に関して概説する。近年、国際アミロイドーシス学会は、TTR-FAPに代わる病名として「遺伝性TTR(ATTRv)アミロイドーシス」の使用を推奨しているが3)、わが国ではFAPの病名が現在も使用される場合が多いため、本稿ではFAPの病名を用いて概説する。本疾患の原因分子であるTTRは、主に肝臓から産生され血中に分泌される血清蛋白質である。その他のTTR産生部位として、脳脈絡叢、眼の網膜色素上皮、膵臓ランゲルハンス島のα細胞が知られている。血中に分泌された本蛋白質は、127個のアミノ酸から構成されるが、豊富なβシート構造を持つことにより、アミロイド線維を形成しやすいと考えられている。TTR遺伝子には150種類以上の変異型が報告されており、その大部分がFAPの病原性変異として同定されてきた。TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が、最も高頻度に認められる1,2)。生体内では、通常TTRは四量体として機能し、四量体の中心部には1分子のサイロキシン(T4)が強く結合し、T4の運搬を担っている。また、TTRはレチノール結合蛋白質との結合を介して、ビタミンAの輸送も担っている。■ 疫学以前はFAP ATTR Val30Metの大きな家系が、ポルトガル、スウェーデン、日本(熊本県と長野県)に限局して存在すると考えられていたが、近年、世界各国からFAP ATTR Val30Met患者の存在が確認されている1,2)。また、明確な家族歴がなく高齢発症のFAP が日本各地から報告されており4)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄症などの非遺伝性末梢神経障害の鑑別疾患として本症を考えることが重要である。スウェーデンでは、FAP ATTR Val30Met遺伝子保因者の3~10%しか発症しないことが知られているが、わが国においても、TTR遺伝子に変異を持ちながら、終生FAPを発症しない症例も存在する。Val30Met以外の変異型TTRによるFAPもわが国から多く報告されている(図1)。わが国の疫学調査の結果では、国内の推定患者数は約600人であるが、的確に診断されていない症例が多く存在する可能性がある。画像を拡大する■ 病因TTRに遺伝子変異が生じると、TTR四量体が不安定化し、単量体へと解離することが、アミロイド形成過程に重要であると、in vitroの研究で示されている。しかし、アミロイドがなぜ特定の部位に沈着するのか、どのように細胞や臓器の機能を障害するのかは、明らかにされていない。アミロイド線維を形成するTTRの一部は断片化されており、アミロイド線維形成への関与が議論されている。■ 症状1)神経症状末梢神経障害は、軸索障害が主体で神経軸索が細胞体より最も遠い両下肢遠位部の症状が初発症状となる場合が多い。また、神経症状は一般に自律神経、感覚(温痛覚低下)、運動(両側末梢優位)の順で症状が出現することが多い。これは、アミロイド沈着により小径無髄線維から大径有髄線維の順に障害が進行するためと考えられている。病初期には、下肢末梢部である足首以下で、温痛覚の低下を認めるが触覚は正常である解離性感覚障害を認める場合が多い。温痛覚障害のため、足の火傷や怪我に患者本人が気付かない場合がある。筋萎縮、筋力低下など運動神経障害は、感覚障害より2~3年遅れて出現する場合が多いが、まれに運動神経障害が主体で感覚障害が軽い症例もある。進行期には、高度の末梢神経障害による四肢の感覚障害と筋力低下や呼吸筋麻痺などを呈する。アミロイド沈着による手根管症候群を呈する場合がある。とくに家族歴が明らかでない症例では、病初期にCIDP、糖尿病性ニューロパチー、腰部脊柱管狭窄症などと誤診されることが多く、注意が必要である。症例によっては、脳髄膜や脳血管のアミロイド沈着による意識障害や脳出血など中枢神経症候を呈する場合がある。2)消化器症状重度の交代性下痢便秘や嘔気などの消化管症状が出現する。末期には持続性の下痢となり、吸収障害や蛋白質の漏出も生じる。3)循環器系障害早期より自律神経障害による起立性低血圧や、アミロイド沈着による房室ブロック、洞不全症候群、心房細動などの不整脈が生じる。心筋へのアミロイド沈着により心不全を生じ、心室の拡張障害が収縮障害に先行すると考えられている。TTR変異型により心症候が主体で、末梢神経障害が目立たないタイプがある。4)眼症状変異型TTRは肝臓のみならず網膜からも産生されており、アミロイド沈着による硝子体混濁はFAP患者に多く認められる。硝子体混濁が本症の初発症状である症例もある。前眼部へのアミロイド沈着による緑内障を来し、進行すると失明の原因となる。また、涙液分泌低下によるドライアイも生じる。5)腎障害アミロイド沈着によるネフローゼ症候群や腎不全を呈するが、症例によりその程度は異なる。病初期には目立たない場合が多い。■ 分類TTR変異型により症候が異なる場合がある。アミロイドポリニューロパチー(末梢神経障害)が主体となるタイプ(Val30Metなど)、心アミロイドーシスにより不整脈や心不全が主体となるタイプ(Ser50Ile、Thr60Alaなど)、脳髄膜・眼アミロイドーシスにより一過性の意識障害や脳出血、白内障や緑内障が強く生じるタイプ(Ala25Thr、Tyr114Cysなど)がある。また、同じATTR Val30Metを持つFAP患者でも、ポルトガルでは若年発症(20~30代で発症)が多く、スウェーデンでは高齢発症(50歳以降)が多い。わが国でも、本疾患の集積地である熊本や長野のFAP患者は若年発症が多いが、他の地域では高齢発症で家族歴が確認できない症例が多く、70歳以降の発症も少なくない。■ 予後未治療の場合は、発症からの平均余命は若年発症のFAP ATTR Val30Metは約10~15年1)、高齢発症のFAP ATTR Val30Metは約7年4)である。進行期には、呼吸筋麻痺、重度の起立性低血圧、心不全、致死的な不整脈、ネフローゼ症候群、腎不全、蛋白漏出性胃腸症、重度の緑内障などを呈する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断基準を表に示す。病初期に各治療法の効果が高いため、早期診断、早期治療が重要である。臨床症候や各種の臨床検査により本症が疑われる場合には、生検によりアミロイド沈着を検索すること、および専門施設に依頼し、免疫組織化学染色や質量分析法でTTRがアミロイドの構成成分であることを確認する必要がある(図2)。生検部位は、侵襲度の比較的低い消化管(胃、十二指腸、直腸)、腹壁脂肪、口唇の唾液腺、皮膚などが選択されるが、病初期にはアミロイド沈着が検出されない場合もある。本症の疑いが強い場合は、繰り返し複数部位からの生検を行うことが重要である。また、前述の部位からアミロイド沈着が確認できない場合は、障害臓器である末梢神経や心筋からの生検も考慮する必要がある。TTRがアミロイド原因蛋白質として同定された場合は、野生型TTRが非遺伝性に生じる老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(野生型TTR[ATTRwt]アミロイドーシス)との鑑別のため、遺伝子検査や血液中TTRの質量分析によりTTR変異の解析を必ず行う(図3)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAPに対する治療は、近年、劇的に進歩している。長く実施されてきた肝移植療法に加えて、TTR四量体の安定化剤であるタファミジス(商品名: ビンダケル)が、国内でも2013年9月に希少疾病用医薬品として承認され、現在、本疾患に対し広く使用されている。また、核酸医薬によるTTR gene silencing療法の国際的な臨床試験が終了し、良好な結果が得られている。図4にFAPに対する治療法を研究中のものを含めて示した。画像を拡大する■ 肝移植療法本疾患の病原蛋白質である変異型TTRの95%以上が肝臓で産生されていることから、1990年にスウェーデンで本疾患に対する治療法として肝移植が初めて行われ、その有効性が示されてきた5)。FAP患者の血液中の変異型TTRは、正常肝が移植された後に速やかに検出感度以下まで低下する。しかし、肝移植で本疾患が完全に治癒するわけではなく、末梢神経障害を含めて、症候の大部分は移植後も残存する。また、発症から長期間経過し、病態が進行した症例や、高齢患者、BMIが低値(低栄養状態)であると、移植後の予後が不良であるため、肝移植が実施できない場合も少なくない。そして、症例によっては、肝移植後も症候(とくに心アミロイドーシス)が進行するケースもある。眼の網膜色素上皮細胞や脳脈絡叢からは、肝移植後も継続して変異型TTRが産生され続けているため、眼や脳・脊髄では、肝移植後も変異型TTRによるアミロイドが形成され、症候も悪化する症例が報告されている。他の治療法が開発されたことにより、本症に対する肝移植の実施数は減少傾向にある。■ TTR四量体安定化剤(タファミジス)TTR四量体が不安定となり単量体へと解離することが、TTRのアミロイド形成過程に重要な過程と考えられている。TTR四量体の安定化作用を持つ薬剤が、本症の新たな治療薬として研究開発されてきた。非ステロイド系抗炎症薬の1つであるジフルニサルなどにTTR四量体の安定化作用が確認され、本症の末梢神経障害に対する進行抑制効果が確認された6)。ジフルニサルには、非ステロイド系抗炎症薬が元来持つCOX阻害作用があり、腎障害などの副作用が出現する可能性が想定されたため、COX阻害作用を持たずにTTR四量体のより強い安定化作用を示す新規化合物としてタファミジスが新たに開発された。本薬剤の国際的な臨床治験が実施され、生体内でもTTR四量体を安定する作用が確認されるとともに、末梢神経障害の進行を抑制する効果が確認されている7)。また、心症候に対する効果も報告された8)。わが国では2013年9月に本症による末梢神経障害の進行抑制目的で承認されている。■ 核酸医薬(TTR gene silencing療法)9, 10)Small interfering RNA(siRNA)9) やアンチセンスオリゴ(ASO)10) を用いて、肝臓におけるTTRの発現抑制を目的としたgene silencing療法の開発が行われ、強いTTR発現抑制効果と良好な治療効果が確認されている9, 10)。これらのgene silencing療法では、変異型TTRに加えて、野生型TTRの発現抑制も標的としている。これらの治療法は、今後、本疾患に対する標準的な治療法となることが期待されている。■ その他の研究段階の治療法前述のごとく、肝移植療法の実施やTTR四量体安定化剤の臨床応用、gene silencing療法によるTTR発現抑制法の開発など、本疾患に対する治療法は近年急激に発展しているが、いずれもアミロイド原因蛋白質であるTTRの発現抑制および安定化を標的としており、沈着したアミロイドを除去する治療法は確立していない。さらなる治療法の改善を目指して、図4に示した方法をはじめとした多くの治療法の開発が精力的に行われている。■ 対症療法本症では、心伝導障害の進行は必発であるため、I度房室ブロックの段階でペースメーカーの植え込みを考慮する場合がある。致死的な不整脈が発生する場合には、植込み型除細動器を積極的に検討する必要がある。起立性低血圧に対して、弾性ストッキングや腹帯の使用を考慮する。手根管症候群に対しては、手術療法を考慮する。眼アミロイドーシスによる白内障や緑内障に対しても手術療法が必要となる。そのほかにも、自律神経症状や消化管症状、心不全などに対して内服薬による対症療法を試みるが、十分な効果が得られない場合が少なくない。4 今後の展望肝移植療法がFAPに対して実施され始めて28年以上が経過し、その有効性とともに治療法としての限界や関連する問題点が明らかになってきた。TTR四量体の安定化剤が臨床応用され、広く使用されるにつれて、本症に対する肝移植実施数は減少傾向にある。また、肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬によるgene silencing療法の臨床治験で良好な結果が得られ、わが国でも承認が待ち望まれる。これらの治療法の長期的な効果に関しては、まだ不明な点が多く残されているため、長期予後に関する調査が必要である。さらに、すでに組織に沈着したアミロイド線維を除去できる根治療法の研究開発が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、循環器内科、眼科、移植外科、消化器内科、腎臓内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(日本神経学会)(医療従事者向け診療情報)難病情報センター:全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 大学院生命科学研究部 脳神経内科学分野(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)信州大学 医学部第3内科 アミロイドーシス診断支援サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(Pub Med)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)GeneReviews(日本語版)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)FAP WTR(FAPに対する肝移植に関する国際的レジストリ)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)THAOS(TTRアミロイドーシスの自然経過に関する国際的調査)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)The Registry of Mutations of Amyloid Proteins(TTR変異の国際的レジストリ)(医療従事者向けの研究情報)OMIM(医療従事者向けの診療・研究のレビュー情報)日本アミロイドーシス学会(医療従事者向けの研究情報)国際アミロイドーシス学会(ISA)(医療従事者向けの研究情報)厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究」班(医療従事者向けの研究情報)患者会情報道しるべの会 second step あゆみ ブログ(患者のブログ)1)Ando Y, et al. Arch Neurol. 2005;62:1057-1062.2)Ueda M, et al. Transl Neurodegener. 2014;3:19.3)Benson MD, et al. Amyloid. 2019 [Epub ahead of print]4)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83:152-158.5)Yamashita T, et al. Neurology. 2012;78:637-643.6)Berk JL, et al. JAMA. 2013;310:2658-2667.7)Coelho T, et al. Neurology. 2012;79:785-982.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med, 2018;379:1007-1016.9)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.10)Benson MD, et al. N Engl J Med. 2018;379:22-31.公開履歴初回2013年08月08日更新2019年04月23日

2476.

糖尿病性腎臓病におけるエンパグリフロジンの複合腎・心血管アウトカム/国際腎臓学会

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)によるEMPA-REG OUTCOME試験における、ベースライン時の顕性アルブミン尿を伴う糖尿病性腎臓病(DKD)患者での複合腎・心血管アウトカムの結果が、4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019にて公表された。日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と日本イーライリリー株式会社が発表した。 EMPA-REG OUTCOME試験では、心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者において、標準治療にエンパグリフロジンを上乗せ投与した結果、プラセボ群と比較して、主要評価項目である複合心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)のリスクが14%減少し、心血管死リスクが38%減少したことが報告されている。さらに同試験の副次評価項目では、腎症の初回発現もしくは悪化を評価した複合腎イベントの相対リスクが39%低下したことも示されている。 今回、EMPA-REG OUTCOME試験のさらなる解析として、腎イベントのリスクが高い、ベースライン時の顕性アルブミン尿を伴うDKD患者(30≦eGFR<90mL/分/1.73m2かつUACR>300mg/g)と、その他の患者(eGFR≧90mL/分/1.73m2またはUACR≦300mg/g)における複合腎・心血管アウトカム(末期腎不全[腎代替療法の開始またはeGFR<15 mL/分/1.73m2の持続]、血清クレアチニン値の倍加、腎疾患による死亡または心血管死のいずれかとして定義)の解析が行われた。また、その他の評価項目として、複合心血管アウトカム(心不全による入院または心血管死)、心血管死、複合腎アウトカム(末期腎不全、血清クレアチニン値の倍加、腎疾患による死亡)および全死亡について解析が行われた。 その結果、全体集団において、エンパグリフロジン群はプラセボ群と比較し、複合腎・心血管イベントリスクが43%低下した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.46~0.70)。また、腎イベントリスクが高い集団であるベースライン時の顕性アルブミン尿を伴うDKD患者においては54%低下し(HR:0.46、95%CI:0.31~0.68)、その他の患者においても41%低下した(HR:0.59、95%CI:0.46~0.75)。 これらの複合腎・心血管イベントでの一貫した効果は、複合心血管イベント、心血管死、複合腎イベント、全死亡においても示された。

2477.

高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標の変更は?

 本邦における高血圧有病者は約4,300万人と推計される。このうち、治療によって良好なコントロールが得られているのは30%以下。残りの70%は治療中・未治療含め血圧140/90mmg以上のコントロール不良の状態となっている。2014年以来5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では、一般成人の降圧目標値が引き下げられ、より早期からの非薬物治療を主体とした介入を推奨する内容となっている。 4月25日の「高血圧治療ガイドライン2019」発表を前に、日本高血圧学会主催の記者発表が4月19日に行われ、平和 伸仁氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター)が改訂点やその作成経過について解説した。家庭血圧 vs.診察室血圧、厳格治療 vs.通常治療などCQ方式で推奨度を明記 高血圧治療ガイドライン2019では、初めてClinical Question(CQ)方式、Systematic Review(SR)方式が採用され、エビデンスに基づく17のCQが作成された。また、エビデンスが十分ではないが、医療者が実臨床で疑問を持つ課題として9のQ(クエスチョン)を設定。コンセンサスレベルでの推奨が解説されている。 作成されたCQは、「成人の本態性高血圧患者において、家庭血圧を指標とした降圧治療は、診察室血圧を指標とした治療に比べ、推奨できるか?(CQ1)」、「降圧治療において、厳格治療は通常治療と比較して心血管イベントおよび死亡を改善するか?(CQ3)」、「高血圧患者における減塩目標6g/日未満は推奨されるか?(CQ4)」など。推奨の強さが3段階、エビデンスの強さが4段階でそれぞれ評価されている。 Qについては、2021年以降製造・輸出入が禁止される水銀血圧計に代わって何を推奨するか(Q1)、家庭血圧はいつ/何回/何日間の測定を推奨するか(Q2)などの項目が設けられた。基準値は変更なし、ただし120/80mmHg以上は定期的な再評価と早期介入を推奨 高血圧治療ガイドライン2019での高血圧の基準値は、2014年版と同じく140/90mmHg以上。一方で、正常域血圧の名称と拡張期血圧の範囲が、一部変更された:・至適血圧:120/80mmHg未満→正常血圧:120/80mmHg未満・正常血圧:120~129/80~84mmHg→正常高値血圧:120~129/80mmHg未満・正常高値血圧:130~139/85~89mmHg→高値血圧:130~139/80~89mmHg 背景には、120~139/80~89mmHgでは生涯のうちに高血圧へ移行する確率が高く、120/80mmHg未満と比較して脳心血管リスクが高いというデータがある。そのため、高血圧治療ガイドライン2019では基準値以下である高値血圧あるいは正常高値血圧の段階から、早期介入が推奨されている。2014年版では、I度高血圧以上のみ年齢や合併症の有無によって層別化されていた脳心血管病リスクが、高値血圧についても低~高リスクに分類された(表3-2)。また、高血圧管理計画は、高値血圧や正常高値血圧についてもフローチャートの形で整理され、初診時の血圧レベルに応じた再評価時期、治療法選択の考え方が示されている(図3-1)。なぜ高血圧治療ガイドライン2019で降圧目標が10mmHgずつ引き下げられたか 合併症のない75歳未満の成人および脳血管障害患者、冠動脈疾患患者については、高血圧治療ガイドライン2019では130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者については140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられた。この背景には、日本人対象のJATOS、VALISH、HOMED-BPなどを含む介入試験のメタ解析結果(CQ3)と、EPOCH-JAPANや久山町研究などのコホート研究結果があるという。 厳格治療群と通常治療群を比較したRCTのメタ解析では、厳格治療群で複合心血管イベントおよび脳卒中イベントリスクが有意に低く、130/80mmHgを目標とする厳格治療のメリットが示された。またEPOCH-JAPANでは、120/80mmHg未満と比較して血圧レベルが上昇するにつれ脳心血管死亡リスクが高まることが示されている。 高血圧治療ガイドライン2019では、高齢者は130 mmHg未満への降圧による腎障害などに注意を要するため、140/90mmHg未満とされたが、「忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満を目指す」とされている。高血圧治療ガイドライン2019で従来より厳格な薬物治療が求められる患者とは? とはいえ、「この目標値は、すべての患者における降圧薬による降圧目標ということではない」と平和氏は重ねて強調。初診時あるいは降圧薬治療中で130/80mmHg台、低・中等リスクの患者では、生活習慣修正の開始・強化が推奨されている。脳心血管病や糖尿病などの合併症のある高リスク患者でのみ、「降圧薬治療の開始/強化を含めて、最終的に130/80mmHg未満を目指す」とされた。 2014年版と比較して、高血圧治療ガイドライン2019で生活習慣修正の上で薬物による降圧強化が新たに推奨された病態としては、下記が挙げられている:◇130~139/80~89mmHgで、以下のいずれか・75歳未満の高リスク患者※・脳血管障害患者(血管狭窄なし)・冠動脈疾患患者※高リスク患者の判定: ・脳心血管病既往 ・非弁膜症性心房細動 ・糖尿病 ・蛋白尿陽性のCKD ・65歳以上/男性/脂質異常症/喫煙の4項目のうち、3項目以上がある ・上記4項目のうちいずれかがあり、血圧160/100mmHg以上 ・血圧180/110mmHg以上◇75歳以上で、収縮期血圧140~149mmHg

2478.

LDL-コレステロール低下療法後の残余リスクは?(解説:平山篤志氏)-1027

 スタチン、コレステロール吸収阻害薬、そしてPCSK-9阻害薬と、これまではLDL-コレステロール(LDL-C)を低下させることにより心血管イベントが低下することが明らかにされてきた。しかし、それでもまだゼロにならないので、残余リスクと呼ばれている。その1つが、中性脂肪、トリグリセライド(TG)である。TGが高くなるのは、リポプロテインリパーゼ(LPL)活性の低下により中性脂肪が分解されず、結果としてHDL-コレステロールが低値になる病態で、インシュリン抵抗性とも関連しており糖尿病患者に多いパターンである。ただ、これまでの中性脂肪を低下させるという薬剤であるフィブラートを用いた大規模臨床試験では、心血管イベントを有意に低下させることができなかった。 本論文では中性脂肪値が低い遺伝的欠損を持つ群とLDLコレステロール受容体変異のためLDL-C値が低値群のイベントを比較し、TGの低下とLDL-Cの低下がともに心血管イベントを低下させることを示している。ただ、両者の効果をアポリポプロテインB(ApoB)の低下効果で表すと独立性がなくなってしまうことから、TGによるイベント低下効果もApoB低下によるLDL-C低下効果であることを示唆している。コレステロールは血中では溶解しないためリポ蛋白と結合している。ApoBはコレステロール受容体と結合し、コレステロール含有量が最も多いリボ蛋白であり、酸化されることで動脈硬化を惹起する。TGにはコレステロールが5分の1含まれているため、TGを低下させてもApoBの低下効果は低い。 本論文では、これまでのフィブラートが大規模臨床試験で有効性を示せなかったのは、ApoB低下効果、すなわちLDL-C低下が不十分であったからと指摘している。遺伝的変異からの解析では、残余リスクとしてのTGもLDL-Cではないかとの示唆である。確かに、TG高値はsmall dense LDL-C値が高くなることから、さらにLDL-Cを低下させることが必要であるとされている。しかし、JELIS試験やREDUCE-IT試験で示されたエイコサペンタ酸の効果は、LDL-C値とは関連がないとされている。この点では、エイコサペンタ酸でのイベント低下効果はLDL-Cでは低下しないResidual Riskを示した試験といえるであろう。ただ、TGへの介入がLDL-Cだけなのかどうかは、現在進行中の大規模臨床試験(PROMINENT試験)の結果を期待して待つのみである。

2479.

国際腎臓学会で患者中心の透析医療を目指した「SONGイニシアチブ」

 4月12~15日にオーストラリアで開催された国際腎臓学会(ISN)-World Congress of Nephrology(WCN)2019で、4日間にわたり取り上げられた話題は多岐にわたるが、ここでは「患者を中心とした腎臓病治療」について紹介したい。 まず国際腎臓学会12日のセッション、「患者中心の慢性腎臓病(CKD)管理」では、患者の立場から、現在の臨床試験における評価項目の妥当性を問う、“SONGイニシアチブ”という取り組みが報告された。患者目線で見た場合、CKD治療で最重要視されるのは必ずしも生命予後や心血管疾患ではないようだ。CKD患者の「人生」を良くするために、医療従事者は何を指標にすればよいのか―。Allison Tong氏(オーストラリア・シドニー大学)の報告を紹介する。臨床試験は患者の疑問に答えているのか 現行の臨床試験は、当事者であるCKD患者が持つ疑問に答えているのだろうか。たとえば、透析例を対象にした介入試験326報を調べると、臨床評価項目で最も多かったのは「死亡」(20%)、次いで「心血管疾患」(12%)、「QOL」(9%)である1)。しかし、透析患者が自らの治療に当たり重要視しているのはむしろ「旅行の可否」や「透析に拘束されない時間」であり、医療従事者に比べ「入院」や「死亡」は重要視していないことも明らかになっている2)。つまり現在の臨床試験は必ずしも、透析患者の知りたい項目に答えていない。臨床試験に向け患者と医師がコラボ、SONGイニシアチブ このような現状を改善すべく、Tong氏らにより立ち上げられた運動が、Standardized Outcomes in Nephrology(SONG:腎症における標準評価項目)イニシアチブである。医療従事者と患者が、双方にとって意味のある評価項目を確立すべくコラボレーションする。現在、SONGイニシアチブは6つの腎疾患分野で進められているが、その中で先導的役割を果たしているのが、血液透析を対象としたSONG-HDである。以下の手順で、患者、医療従事者双方にとって意味のある評価項目を探った。 まず、医療従事者からなる運営委員会が文献をレビューし、これまでに報告された、血液透析例への介入試験で用いられた評価項目を抽出した。次に世界100ヵ国、患者・医療従事者6,400名からなるSONGイニシアチブ参加者から、参加施設ごとにフォーカスグループを選出。それら評価項目をそれぞれの立場から重要と思われる順に位付けし、加えてその理由をまとめた。これにより、患者と医療従事者間の相互理解促進が期待できる。そして最終的に、抽出評価項目に関する、イニシアチブ参加者全員を対象としたアンケート調査とフィードバックを繰り返し(デルファイ法)、全員にとって「重要と思われる」評価項目を絞り込んだ。その結果は最終的に、患者・医療従事者の代表からなるコンセンサス・ワークショップで議論され、決定された。「生きているだけ」の生活に患者は必ずしも満足していない フォーカスグループ・ディスカッションの結果は、血液透析における、患者と医療従事者の視点の差を浮き彫りにした。医療従事者が「死亡(生命予後)」を最重要視し、続いて「腹膜透析関連(PD)感染症」、「疲労」、「血圧」、「PD脱落」を重要な項目としたのに対し、患者が最も重要視していたのは「PD感染症」だった。次いで「疲労」、「死亡」となり、4番目に重視するのは「時間の自由さ」、そして「就労の可能性/経済的影響」だった。Tong氏は、ある患者による「時間の自由が利かず、エネルギーや移動の自由がなければ、何もせずに家で座っているのと同じだ」という旨の発言を紹介した。「単に生きているだけ」の状態に、患者は決して満足していないということだという。血液透析臨床研究に必須の4評価項目を提唱 これらの過程を経てSONG-HDコンセンサス・ワークショップは、「疲労」、「心血管疾患」、「バスキュラーアクセス」、「死亡」の4項目が、透析医療に関係する全員にとって重要であり、すべての臨床試験で検討すべき中核評価項目であると決定した。またそれに加え、一部の関係者にとって臨床的な意味を持つ中間層評価項目、臨床的な意味を持たない外殻評価項目も示された。 これら4項目中、「疲労」と「心血管疾患」の2項目については次に記すように、患者と医療従事者間に意思疎通の齟齬が生じないことよう、さらに踏み込んだ研究が報告された。「疲労」とはどのような状態を指しているのか? SONG-HDにおいて必須の評価項目とされた「疲労」だが、この言葉で表される、あるいはこの単語から想起される体調は人により千差万別であろう。この曖昧さは、臨床試験の評価項目として適切さを欠く。そこでAngelo Ju氏(オーストラリア・シドニー大学)らは「疲労」の客観的評価に取り組み、国際腎臓学会13日のポスターセッションで報告した。 まず、専門家グループがこれまでの研究で用いられていた「疲労」の評価法をレビュー。その結果を送付されたSONG-HD参加者(60ヵ国、658名)が、適切と思うものから順に序列をつけ返信。その結果を受け、患者と医療従事者からなるコンセンサス・ワークショップで議論し、以下に示す「3つの問い×4通りの答え」という「疲労」評価モデルを提唱。少人数を対象とした予備試験を実施し、適切さについてアンケートを実施した。 その結果、「疲れを感じますか?」、「元気がありませんか?」、「疲れのせいで日常生活に支障が出ますか?」―という3つの問いに、「まったくない」(0点)、「若干」(1点)、「かなり」(2点)、「ひどく」(3点)―の4回答が対応するモデルが完成した。これをどのように用いるか(組み合わせるのか、単独でも使えるのか、など)、現在、より多数を対象とした実証研究で検討中だという。「心血管疾患」とは何を指している? 使う人により意味が異なるという点では、「心血管疾患」という言葉も同じである。そこでEmma O'Lone氏(オーストラリア・シドニー大学)らは、字義を統一すべく、アンケート調査を行った。 アンケートの対象はSONG-HDに参加している、世界52ヵ国の患者・医療従事者481名である。血液透析に対する介入試験における「心血管疾患」で、重要と考えている個別疾患を順に挙げてもらった。 その結果、うまい具合に、患者、医療従事者とも「心臓突然死」を最重要と評価し、次いで「心筋梗塞」、「心不全」の順となった。今後は、これらイベントの適切な定義付けが必要だとO’Lone氏は考えている。本研究も国際腎臓学会13日のポスターセッションで報告された。患者がまず試験参加を決定し、主治医をリクルート さらに米国では「患者主導型」ともいえる臨床試験が、すでに始まっている。国際腎臓学会12日のセッション、「CKD研究におけるイノベーション」から、Laura M. Dember氏(米国・ペンシルベニア大学)の報告を紹介する。 Dember氏が挙げた「患者主導型」臨床試験の実例は、“TAPIR”試験3)である。対象は、腎疾患ではなく慢性肉芽腫症だが、寛解後低用量プレドニゾロン6ヵ月継続が転帰に及ぼす影響を、寛解時中止群と比較するランダム化試験である。 プレドニゾロンの有効性の検討に先立ち、試験実施センターが主導的役割を果たす「従来型」登録と、以下の「患者主導型」登録の間で、登録状況に差が生じるかが検討された。 「患者主導型」登録では、まず参加患者をウェブサイトで募る。参加に同意した患者はウェブで同意書を提出し、医師向けの臨床試験資料を受け取る。そして主治医受診時、その資料を提示して自らの臨床試験参加意思を表明、医師に対し協力を要請する。医師はプロトコールが適切であると判断すれば、患者に協力して臨床試験に参加する。その際は、ランダム化された治療を順守し、試験で求められる患者データを提出することになる。 その結果、患者登録数は3.3例/月の予定に対し、「従来型」群は1.8例/月、「患者主導型」群は0.4例/月といずれも振るわなかったが、「導入率」など、集まった患者の質には両群間で有意差を認めなかった。Dember氏はこの結果から、「患者主導型」登録を実行可能と評価したようだ。 ただし「患者主導型」の登録が実行可能となるためには、いくつか条件もある。同氏は実例として「患者の意識が高い」、「医師にやる気がある」、「理論的背景が明らかになっている必要がある」、「試験治療について担当医に高度な経験と実績がある」―などを挙げた。 このような「患者主導型」臨床試験はうまくいけば、医師が治療したい病変だけではなく、患者がなんとかしたいと苦しんでいる問題の掘り起こしにもつながる。また、本試験の臨床転帰が明らかになった時点で、「従来型」群と「患者主導型」群に、脱落率など、何か差が生じる可能性もあるだろう。 今後を注視していきたい。

検索結果 合計:4912件 表示位置:2461 - 2480