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家族性高コレステロール血症患児へのスタチン、成人期の心血管リスク低減/NEJM

 小児期にスタチン治療を開始した家族性高コレステロール血症患者は、成人期の頸動脈内膜中膜肥厚の進行が抑制され、心血管疾患のリスクが低減することが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのIlse K. Luirink氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年10月17日号に掲載された。家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロール値の著しい増加と心血管疾患の早期発症を特徴とする。小児へのスタチン治療の短期的効果は確立されているが、心血管疾患リスクの変動を評価した長期的な追跡研究は少ないという。20年後に、患児を非罹患同胞および罹患親と比較 研究グループは、家族性高コレステロール血症小児患者へのスタチン治療に関する20年間の追跡調査の結果を報告した(オランダAMC Foundationの助成による)。 過去に、プラバスタチンの2年投与の有効性と安全性を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(1997~99年、単施設)に参加した家族性高コレステロール血症患者214例(98%は遺伝学的に確認)に対し、同症に罹患していない同胞95例とともに、追跡調査への参加を依頼した。 参加者は、質問票に回答し、血液検体を提供し、頸動脈内膜中膜肥厚の測定を受けた。家族性高コレステロール血症患者の心血管疾患の発生率を、同症に罹患している親156例と比較した。39歳時の心血管イベント:患者1% vs.罹患親26%、心血管死:0% vs.7% 当初の試験に参加した家族性高コレステロール血症患者214例(平均年齢13.0±2.9歳、男性47%)のうち、試験開始から20年の時点で追跡調査に応じたのは184例(86%)(31.7±3.2歳、48%)で、非罹患同胞は95例(12.9±2.9歳、53%)のうち77例(81%)(31.6±3.0歳、56%)が調査に参加した。 214例の患者のうち、203例(95%)で心血管イベントのデータが、214例(100%)で心血管系の原因による死亡のデータが得られた。追跡調査時に、184例のうち146例(79%)がスタチンを使用していた。 患者の平均LDLコレステロール値は、237.3mg/dLから160.7mg/dL(6.13mmol/Lから4.16mmol/L)に低下し、ベースラインからの低下率は32%であった。治療目標(LDLコレステロール値<100mg/dL[2.59mmol/L])は37例(20%)で達成され、このうち8例は<70mg/dLに低下していた。一方、非罹患同胞の平均LDLコレステロール値は、98.5mg/dLから121.9mg/dL(2.55mmol/Lから3.15mmol/L)に増加し、増加率は24%だった。 全追跡期間における頸動脈内膜中膜肥厚の進行の平均値は、家族性高コレステロール血症患者が0.0056mm/年、同胞は0.0057mm/年であった(性別で補正後の平均差:-0.0001mm/年、95%信頼区間[CI]:-0.0010~0.0008)。 39歳時の心血管イベント累積発生率は、家族性高コレステロール血症患者が、罹患している親よりも低かった(1% vs.26%、性別と喫煙状況で補正後の無イベント生存率のハザード比[HR]:11.8、95%CI:3.0~107.0)。また、39歳時の心血管系の原因による死亡の累積発生率も、家族性高コレステロール血症患者のほうが罹患親よりも低かった(0% vs.7%)。 著者は、「LDLコレステロールは、アテローム硬化性心血管疾患をもたらす経路における主要な因子と考えられ、LDLコレステロール値を低下させる治療は、アテローム硬化性心血管疾患の進行の予防あるいは緩徐化において重要であることが明らかとなった」としている。

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新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)【新型タバコの基礎知識】第10回

第10回 新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?(2)Key Points米国では、電子タバコによる急性肺障害が報告され、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達している。電子タバコがハーム・リダクションとなるために必要な前提条件はまだ揃っていない。電子タバコによる急性肺障害が話題になっています。米国での発見例は氷山の一角だと考えられていますが、2019年10月4日までの米国CDCによる報告1)で、症例数は1,000例を超え、死亡が18例に達しています。病態としては、リポイド肺炎、急性好酸球性肺炎や間質性肺炎、過敏性肺臓炎などが考えられています。電子タバコの多様な使用方法やさまざまなフレーバー、大麻由来成分(Tetrahydrocannabinol;THC)の添加など、患者背景に多くの違いがあり、単一の病態でもないことから、現時点での原因の特定は困難です。NEJM誌では17例(死亡例2例含む)における病理像の報告がなされ2)、外来性の油成分によるリポイド肺炎はほとんどみられなかったとのことです。原因物質は不明ですが、新型タバコに含まれる未知の物質の可能性も示唆されています。日本では電子タバコ使用者は比較的少なく、加熱式タバコを使っている人が非常に多くなっています。新型タバコによる急性健康障害に関する実態把握が必要ですが、研究体制は整備できていません。肺炎や喘息等の呼吸器疾患の臨床研究や観察研究を実施している研究者グループの方々と、新型タバコ研究のセットアップおよび支援・協働をしたいと考えていますので、該当の方がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。さて、今回は、「新型タバコにおけるハーム・リダクションってなに?」のパート2です。今回は新型タバコのなかでも電子タバコに注目します。実は、電子タバコについてだけでも本が一冊書けてしまうぐらい情報が集積してきており、問題も複雑化しています。世界的には、加熱式タバコよりも電子タバコが普及しているのです。日本では、ニコチン入りの電子タバコの販売が許可されていない事情もあり、電子タバコはあまり普及していません。しかし、2018年以降電子タバコブランドBluの積極的な販売キャンペーンが展開されるなど、日本でも普及してくる可能性もあるでしょう。電子タバコは製品間の品質のばらつきが大きく、健康被害を一律に評価するのは難しい状況です。冒頭で言及したような急性影響についても分かっていないことばかりであり、長期使用による健康影響はもちろんわかっていません。一方で、電子タバコでは吸引することとなる有害化学物質が紙巻タバコよりも少ないという点に着目して、“ハーム・リダクション(害の低減)”に電子タバコが活用できると訴えている専門家もいます。タバコ問題の場合のハーム・リダクション戦略としては、どうしてもタバコをやめられない人に対して、タバコの代わりにニコチン入り電子タバコを吸ってもらったら、有害物質への曝露を減らせるのではないか、というものです。しかし、この通りにうまくいくのか、世界的に専門家の間でも意見が割れていて、決着がついていません。なぜなら、ハーム・リダクションとなるためのそもそもの前提事項がまだ分かっていないからです。以下に、まだ決着のついていない前提事項を整理します。(1)電子タバコは、紙巻タバコと比べて害が少ないと確定していない電子タバコでは、有害物質の多くが紙巻タバコよりも少ないことは確かですが、一部の化学物質は紙巻タバコよりも多く、総合した場合の有害性が本当に電子タバコの方が低いのか、製品が新しく追跡期間も短いことから、十分に検証できていません。2015年に英国の公衆衛生専門機関が「電子タバコは喫煙よりも約95%害が少ない」と報告しましたが、これに対してはLancet誌等で根拠が十分でないとの反論が起きるなど、論争が巻き起こっています。現在の米国での事態を受けて、よりいっそう議論は複雑化しています。(2)電子タバコによって紙巻タバコがやめられるのか分かっていない電子タバコに紙巻タバコをやめられるようにする禁煙効果があるのかについて、世界的に論争が起きています。まだ実験的研究の段階で、その効果を検証した研究が少なく、結論が出るには至っていません。多くの現場からの研究結果を統合した研究も実施されてきていますが、禁煙効果を支持する結果と支持しない結果がさまざまな研究グループから報告されており、まだしばらく決着はつきそうにありません。(3)電子タバコによる他の問題も指摘されている世界的にはオシャレでカッコいいデザインの電子タバコが若者を中心として普及してきています。電子タバコがもともとタバコを吸わない人へと広がり、ニコチン依存への入り口(ゲートウエイ)として機能してしまうと懸念されているのです。ほかに、電子タバコのデバイスが爆発して大けがを負った事例や、火災となってしまった事例も報告されています。総合的に比較して電子タバコの導入のメリットがデメリットよりも大きくないと、ハーム・リダクションとはなりえません。もし、導入によってハーム(害)が総合して増えるようなこととなれば、単に問題を増やしただけになってしまいます。分かっていないことが多い中で、われわれの社会は難しい判断を迫られているといえるでしょう。タバコ問題においてハーム・リダクションが可能となるための理論的根拠として、根拠(1):タバコやニコチンを使用し続ける人々がどうしてもいるであろうと考えられること根拠(2):ニコチン依存がほとんどのタバコの使用の根底にある一方で、ほとんどの健康被害を引き起こすのは、タバコ煙のニコチン以外の成分だと考えられていることの2つがよく挙げられます。筆者は根拠(1)については同意します。たとえ、タバコを法律で禁止することができたとしても、タバコを使い続ける人はいるでしょう。ただし、法律で禁止することができれば、タバコを吸う人の数は大幅に減らせるものと考えられ、ゆくゆくはそうなってほしいと願っています。しかし一方で、根拠(2)については同意しません。なぜなら、ニコチン依存の害を軽視した考え方だからです。ニコチン依存症の恐ろしさについては、第9回記事を参照ください。第11回は、「新型タバコの発がんリスク」です。1)US Centers for Disease Control and Prevention (CDC)「Outbreak of Lung Injury Associated with E-Cigarette Use, or Vaping」2)Butt YM,et al. N Engl J Med. 2019 Oct 2. [Epub ahead of print]

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1型DMにはクローズドループシステムが有用/NEJM

 1型糖尿病患者において、クローズドループ型インスリン注入システム(人工膵島)の利用は、リアルタイム持続血糖モニター(CGM)機能付きインスリンポンプ(CSII)の利用と比較して、血糖値が目標範囲内であった時間の割合を増加させることを、米国・バージニア大学のSue A. Brown氏らが、6ヵ月間の多施設共同無作為化試験「International Diabetes Closed Loop trial:iDCL試験」で明らかにした。クローズドループ型インスリン注入システムは、1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善する可能性があり、これまでのメタ解析ではその有効性が示されていた。NEJM誌オンライン版2019年10月16日号掲載の報告。リアルタイムCGM機能付きCSIIと比較、血糖値目標範囲内の達成時間を評価 研究グループは、2018年7月12日~10月9日の期間で、1型糖尿病患者をクローズドループ型インスリン注入システムで治療を受けるクローズドループ群またはリアルタイムCGM機能付きCSIIで治療を受ける対照群のいずれかに、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、CGMで測定される血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)であった時間の割合。intention-to-treat集団を対象として線形混合効果回帰モデルを用いて解析した。 合計168例が無作為にクローズドループ群(112例)、対照群(56例)に割り付けられた。患者の平均年齢は33歳(範囲:14~71)、糖化ヘモグロビン値は5.4~10.6%であった。全168例が試験を完遂した。クローズドループシステムのほうが血糖コントロール良好 血糖値が目標範囲内であった平均(±SD)時間割合は、クローズドループ群でベースライン時61±17%から6ヵ月間で71±12%まで上昇したが、対照群はいずれも59±14%で変化しなかった(補正後群間差:11ポイント、95%信頼区間[CI]:9~14、p<0.001)。 副次評価項目(血糖値が>180mg/dLであった時間割合、平均血糖値、糖化ヘモグロビン値、血糖値が<70mg/dLまたは<54mg/dLであった時間割合)に関しては、いずれも事前に定義した有意差の階層的基準をすべて満たし、クローズドループ群が良好であることが認められた。 6ヵ月間で血糖値が<70mg/dLであった時間割合の補正後群間差(クローズドループ群-対照群)は-0.88ポイント(95%CI:-1.19~-0.57、p<0.001)、6ヵ月時の糖化ヘモグロビン値の補正後群間差は-0.33ポイント(-0.53~-0.13、p=0.001)であった。クローズドループ群において、システムがクローズドループ・モードであった時間の割合(中央値)は、6ヵ月間にわたり90%であった。 両群とも重篤な低血糖イベントの発生は認めなかった。クローズドループ群で糖尿病性ケトアシドーシスが1例報告された。

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NAFLD/NASH患者、リスク因子補正後のAMIや脳卒中リスクとの関連は?/BMJ

 欧州の大規模な4つのデータベースを用いた検討で、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と診断された成人は、年齢、性別、診療情報を適合したNAFLDを有さない成人と比較して、既知の心血管リスク因子補正後、急性心筋梗塞(AMI)や脳卒中の発生リスクに、わずかな増大は認められるが有意差はないことが明らかにされた。英国・GlaxoSmithKlineのMyriam Alexander氏らが計1,770万例を対象とした適合コホート試験の結果で、著者は「NAFLD診断成人の心血管リスク評価は重要だが、一般集団のそれと同様とすべきであろう」と述べている。NAFLDは、メタボリックシンドロームやその他のAMIや脳卒中のリスク因子との関連が認められている。AMIおよび脳卒中リスク増大との関連、および心血管疾患の代用マーカー(surrogate marker)との関連が示されているが、既知のリスク因子補正後の関連性について完全には確立されていなかった。BMJ誌2019年10月8日号掲載の報告。NAFLD/NASH診断例約12万例を追跡 研究グループは欧州4ヵ国の、2015年12月までのプライマリケアの電子データベースを用いて、住民ベースの適合コホート試験を行った。各データベースの患者数は、イタリア154万2,672例、オランダ222万5,925例、スペイン548万8,397例、英国1,269万5,046例だった。 そのうち、NAFLDまたは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断を受け、かつその他の肝疾患のない12万795例を対象に分析を行った。同一データベースから、診断日の年齢、性別、医療機関、受診状況、診断日前後6ヵ月時点の医療記録でマッチングした、NAFLDまたはNASHのない被験者を最大100例選んだ。 主要アウトカムは、致死的または非致死的AMIおよび虚血性/unspecified脳卒中だった。ランダム効果メタ解析により、Coxモデルを用いて複数データベースのプールド・ハザード比(HR)を推計した。年齢や喫煙、血圧、2型DM、総コレステロール値などで補正後、リスク増大なし NAFLD/NASHの診断を受けた12万795例について、診断日からの追跡期間はコホート集団により異なり、中央値2.1~5.5年だった。 年齢と喫煙について補正後、AMI発症に関するHRは1.17(95%信頼区間[CI]:1.05~1.30)だった(イベント数はNAFLD/NASH群1,035件、コントロール群6万7,823件)。より多くのリスク因子情報を含むNAFLD/NASH患者8万6,098例と適合コントロール466万4,988例についての解析では、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン服用の有無、高血圧症で補正後、AMI発症に関するHRは1.01(95%CI:0.91~1.12)だった(NAFLD/NASH群747件、コントロール群3万7,462件)。 年齢と喫煙状況で補正後の、脳卒中発症に関するHRは1.18(同:1.11~1.24)だった(NAFLD/NASH群2,187件、コントロール群13万4,001件)。より多くのリスク因子の情報を含む集団についての解析では、収縮期血圧、2型糖尿病、総コレステロール値、スタチン服用の有無、高血圧症で補正後、脳卒中発症に関するHRは1.04(同:0.99~1.09)だった(NAFLD/NASH群1,666件、コントロール群8万3,882件)。

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医師の認知症リスク~コホート研究

 より良い医療知識を多く有している医師は、認知症リスクが低いのではないだろうか。この疑問を明らかにするため、台湾・Chi-Mei Medical CenterのLi-Jung Ma氏らが検討を行った。Aging Clinical and Experimental Research誌オンライン版2019年8月19日号の報告。 医師2万9,388人、一般集団5万人、医師以外の医療従事者3万446人を含む、全国規模の人口ベース調査を実施した。2006~12年の病歴を追跡し、3群間および医師のサブグループ間で認知症有病率の比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別、頭部外傷、甲状腺機能低下、高血圧、糖尿病、脳卒中、血管疾患、心房細動、高コレステロール血症、うつ病、アルコール依存症で調整した後、医師は、一般集団と比較し、認知症有病率が低かった(調整オッズ比[AOR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.47~0.67)。・医師以外の医療従事者は、一般集団と比較し、認知症有病率が低かった(AOR:0.46、95%CI:0.36~0.60)。・医師と医師以外の医療従事者における認知症有病率に有意な差は認められなかった(AOR:0.98、95%CI:0.71~1.36)。・認知症有病率の高かった医師のサブグループは、高齢、小児科専門医、地方病院およびクリニック勤務であった。 著者らは「医師の認知症有病率は、一般集団よりも低かった。医師の中でも、特定のサブグループにおいて認知症有病率が高いことから、さらなる研究が必要とされる」としている。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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179)患者さんが陥りやすい健康バラエティ番組の落とし穴【糖尿病患者指導画集】

患者さん用:患者さんが陥りやすい健康バラエティ番組の落とし穴説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話患者先生、この前テレビで、「○○は健康にいい」って言ってたんですが。医師ほお。どんな効果があるって言ってましたか?患者△△って番組で、〇〇はダイエットにもいいし、血管も若返るって・・・。医師なるほど。その番組は「健康番組」じゃなくて、「健康バラエティ番組」なので、内容には注意が必要みたいですよ。患者えっ、違いがあるんですか?(驚いた顔)医師健康番組の目的は正しい情報の提供ですが、健康バラエティ番組の目的は視聴率を上げることですからね。患者あ~…、だから、演出が大げさなんですね。医師そうなんです。本当に効果があるものなら、毎週、同じ食品を紹介しているはずですし、司会者やレギュラーは全員、スリムで健康なはずですよね。患者たしかに、よく考えればそうですね。●ポイント健康番組と健康バラエティ番組の違いを、番組の目的を例にして説明します。

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血糖降下薬ピオグリタゾンの肺がん予防効果?

 経口血糖降下薬にがん予防効果があるのか。米国・ロッキーマウンテン地方退役軍人医療センターのRobert L. Keith氏らは、肺がんの発症リスクが高い現喫煙者や元喫煙者において、経口血糖降下薬ピオグリタゾンに肺がんの発症予防効果があるかを検討する第II相無作為化試験を行った。その結果、有意ではないがわずかに効果が期待できる所見や、特異的病変で組織学的改善が認められたという。著者は「さらなる試験を行い、反応性異形成の特徴を明らかにする必要がある」と述べている。これまでに、前臨床試験でチアゾリジン系薬が肺がんを予防することが、また同薬を服用する糖尿病患者で肺がんの割合が低いことが示唆されていた。Cancer Prevention Research誌2019年10月号掲載の報告。 研究グループは、喀痰細胞診で異型性または気管支鏡検査で異形成が認められた、肺がんの発症リスクが高い現喫煙者または元喫煙者において、経口ピオグリタゾンの肺がん発症予防効果を検討する、二重盲検無作為化プラセボ対照試験を行った。 被験者は、試験登録時および6ヵ月の治療完遂後に気管支鏡検査を受け、生検組織スコアが記録された。 主要評価項目は、両群間の最も不良な生検スコア(Max)。副次評価項目は、異形成指標(DI)、平均スコア(Avg)の変化であった。また、炎症スコアも評価した。 主な結果は以下のとおり。・試験には92例(ピオグリタゾン群47例、対照群45例)が参加し、76例が2回の気管支鏡検査を完了した(ピオグリタゾン群39例、対照群37例)。・ベースラインで異形成が認められたのは現喫煙者で有意に多く、同被験者の64%が試験登録時に軽度以上の異形成を有していた。・ピオグリタゾン治療を受けた元喫煙者は、わずかだがMax値の改善が認められた。一方、現喫煙者は、わずかだが増悪が認められた。・Avg値とDI値については、治療群で統計的に有意な変化は認められなかったが、元喫煙者では、両値ともにわずかな低下が観察された。また、現喫煙者では両値についてごくわずかな変化が認められた。・細胞増殖マーカーのKi-67値は、ベースラインで異形成が認められピオグリタゾン治療を受けた元喫煙者で、減少の傾向がみられた。

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糖尿病診療ガイドライン2019を公開~日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝)は、『糖尿病診療ガイドライン2019』を発行し、同会のホームページ上で公開を始めた。 糖尿病診療ガイドラインは、エビデンスに基づく糖尿病診療の推進と糖尿病診療の均てん化を目的に3年ごとに改訂されて、今回の第6版が最新版となる。糖尿病診療ガイドライン2019はCQ・Q方式を踏襲し、付録も充実 糖尿病診療ガイドライン2019の記載方式は2016年版と同様に「CQ・Q方式」とし、推奨グレードも策定委員の投票で決定し、合意率も記載されている。また、今般では、CQ・Qの各項目を適宜見直すとともに、必要に応じ新たなCQ・Qを設定している。 糖尿病診療ガイドライン2019の内容としては、新しい文献をできうる限り引用し、これらの知見を取り上げているほか、付録としてわが国における大規模臨床試験「J-DOIT 1〜3」「JDCP study」「J-DREAMS」を紹介している。とくに食事療法に関しては、従来の標準体重の代わりに目標体重という概念を取り入れ、より個々の症例に対応可能な柔軟な食事療法が示されている。もちろん日本動脈硬化学会や日本高血圧学会の最新のガイドラインを参考に、これらとの齟齬がないような改訂が行われている。糖尿病診療ガイドライン2019は21項目で詳細に診療方針を記載 糖尿病診療ガイドライン2019は「糖尿病診断の指針」から始まり、「糖尿病治療の目標と指針」「食事療法」「運動療法」「血糖降下薬による治療(インスリンを除く)」など大きく21項目に分け、その中にCQまたはQ、その両方が記載される構成である。 たとえば、「血糖降下薬による治療(インスリンを除く)」のQ5-1「血糖降下薬の適応はどう考えるべきか?」に対し、ステートメントとして2項目が詳細に説明されている。 糖尿病診療ガイドライン2019の策定に関する委員会では、「このガイドラインがわが国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、さらに発展を続けていくことを願っている」と糖尿病診療への活用に期待を寄せている。 詳しくは、同学会のホームページを参照されたい。また、糖尿病診療ガイドライン2019の書籍については10月中旬に南江堂より発刊される予定。

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高リスクPCI施行患者の出血、チカグレロル単独vs.DAPT/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた出血・虚血イベントリスクの高い患者において、術後3ヵ月間チカグレロル+アスピリンの併用投与後、チカグレロル単剤投与への変更は併用投与継続の場合と比べて、死亡・心筋梗塞・脳卒中のリスクを上昇することなく臨床的に重大な出血リスクを有意に低下することが示された。米国・マウントサイナイ医科大学のRoxana Mehran氏らが行ったプラセボ対照二重盲検無作為化試験の結果で、NEJM誌オンライン版2019年9月26日号で発表された。これまでP2Y12阻害薬を早期に中断して抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の期間を最短とするアプローチについて、いくつかの試験が行われていたが、概して低リスクの患者が対象で虚血イベントに関する検出力が不足していた。研究グループは、アスピリン投与期間を短縮することで、とくに消化器毒性についてのアスピリンに関連した出血リスクを回避でき、P2Y12阻害薬の効力を長期に受けられる可能性があるとの仮説を立て検討を行った。BARC出血基準タイプ2、3、5の発生リスクを比較 研究グループは、11ヵ国187ヵ所の医療機関を通じ、PCIで薬剤溶出ステントを1ヵ所以上に埋設し、担当医がチカグレロル+アスピリン療法下で退院させることを予定していた、出血または虚血イベントリスクが高い患者を対象に試験を行った。 PCIを施行しチカグレロル+アスピリンを3ヵ月投与した後、大出血イベントまたは虚血イベントのなかった患者を無作為に2群に分け、両群にチカグレロルを継続したまま、一方にはアスピリンを、もう一方にはプラセボを、いずれも1年間併用投与した。 主要エンドポイントは、BARC出血基準タイプ2、3、5の出血とした。また、全死因死亡・非致死的心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイントについても評価。非劣性マージンは絶対差1.6ポイントとした。チカグレロル単剤投与群でBARC出血基準2、3、5発症リスクは0.56倍に  2015年7月~2017年12月に9,006例が試験に登録され、そのうち3ヵ月後に無作為化を受けたのは7,119例(intention-to-treat集団)だった。平均年齢は65歳、女性が23.8%、糖尿病を有していたのは36.8%で、64.8%が急性冠症候群によるPCI施行であった(29.8%が非ST上昇型心筋梗塞)。無作為化後1年間の服薬アドヒアランスはチカグレロル+アスピリン(併用)群、チカグレロル+プラセボ(単剤)群で同等だった(85.9% vs.87.1%)。 無作為化から1年間の主要エンドポイントの発生率は、単剤群4.0%、併用群7.1%で(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.45~0.68、p<0.001)、群間差は-3.08ポイント(95%CI:-4.15~-2.01)だった。BARC出血基準タイプ3または5の発生リスクの群間差も同様だった(発生率は単剤群1.0%、併用群2.0%、HR:0.49[95%CI:0.33~0.74])。 全死因死亡・非致死的心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイント発生率は、両群ともに3.9%だった(群間差:-0.06ポイント[95%CI:-0.97~0.84]、HR:0.99[95%CI:0.78~1.25]、非劣性のp<0.001)。■「DAPT」関連記事ステント留置後のDAPT投与期間、1ヵ月は12ヵ月より有効?/JAMA

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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腎機能低下糖尿病患者にメトホルミンは使用可能か/JAMA

 腎機能が低下した2型糖尿病患者の薬物療法では、メトホルミンはSU薬に比べ、主要有害心血管イベント(MACE)のリスクが低いことが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのChristianne L. Roumie氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年9月24日号に掲載された。従来、安全性に関する懸念から、腎臓病を有する糖尿病患者ではメトホルミンの使用が制限されていたが、2016年4月、米国食品医薬品局(FDA)は軽症~中等症の腎臓病患者におけるメトホルミンの安全性のエビデンスに基づいてガイダンスを変更し、軽度腎機能障害(eGFR:45~60mL/分/1.73m2)および中等度腎機能障害の一部(30~45mL/分/1.73m2)では安全に使用可能としている。一方、腎機能が低下した糖尿病患者の臨床転帰に及ぼすメトホルミンの効果は明らかにされていないという。MACE発生を比較する後ろ向きコホート研究 本研究では、米国の国立退役軍人保健局(VHA)の施設で治療を受けた退役軍人の後ろ向きコホート研究であり、2001~16年のメディケア、メディケイド、National Death Indexと関連付けて補足したデータが用いられた(米国VA Clinical Science Research and Developmentなどの助成による)。 年齢18歳以上で、定期的にVHAのケアを受けている退役軍人の中から、メトホルミンまたはSU薬(glipizide、glyburide[グリベンクラミド]、グリメピリド)の新規使用者を選出することで2型糖尿病患者を特定した。これらの患者を長期的に追跡し、腎機能が低下した患者(eGFR<60mL/分/1.73m2または血清クレアチニン値が女性は≧1.4mg/dL、男性は≧1.5mg/dL)を選出した。 以降は、MACE、治療変更、追跡不能、死亡、試験終了(2016年12月31日)まで追跡を継続した。腎機能低下以降も血糖降下治療を継続したメトホルミンまたはSU薬の新規使用者を解析の対象とした。 主要アウトカムは、MACE(急性心筋梗塞・脳卒中・一過性脳虚血発作による入院、心血管死)とした。傾向スコアで重み付けをして治療群間でMACEの原因別ハザードを比較し、治療変更および心血管系以外の原因による死亡の競合リスクを考慮して累積リスクを推算した。MACEが1,000人年当たり5.8件減少 メトホルミンまたはSU薬の単剤治療を継続した患者は、それぞれ6万7,749例および2万8,976例であった。重み付けコホートは、メトホルミン群が2万4,679例、SU薬群は2万4,799例であり、全体の登録時の年齢中央値は70歳(IQR:62.8~77.8)、4万8,497例(98%)が男性、4万476例(82%)が白人で、eGFR中央値は55.8mL/分/1.73m2(51.6~58.2)、HbA1c中央値は6.6%(6.1~7.2)であった。追跡期間中央値は、メトホルミン群が1.0年、SU薬群は1.2年だった。 追跡期間中における傾向スコア重み付け後のMACE発生率は、メトホルミン群が23.0/1,000人年、SU薬群は29.2/1,000人年であった。共変量で補正後のメトホルミン群のSU薬群に対するMACE原因別補正ハザード比(HR)は、0.80(95%信頼区間[CI]:0.75~0.86)であり、メトホルミン群はSU薬群に比べMACEイベントが1,000人年当たり5.8件(95%CI:4.1~7.3)減少した。 1年後の累積MACE発生率は、メトホルミン群が1.9%、SU薬群は2.5%であり、3年後はそれぞれ3.4%および4.4%、4年後は3.8%および4.9%であった。 MACEの構成要素である急性心筋梗塞・脳卒中・一過性脳虚血発作による入院(補正後HR:0.87[95%CI:0.80~0.95]、補正後群間発生率差:-2.4[95%CI:-3.7~-0.9])および心血管死(0.70[0.63~0.78]、-3.8[-4.7~-2.8])についても、同様の結果であった。また、主要アウトカムから一過性脳虚血発作を除外した副次アウトカムの結果(0.78[0.72~0.84]、-5.9[-7.6~-4.3])も一致していた。 著者は、「FDAは、腎機能の評価はクレアチニンではなくeGFRで行うことを推奨している。eGFRが低下した患者では、頻回のモニタリングと減量により、メトホルミンの使用は可能と考えられるが、30mL/分/1.73m2未満の患者では禁忌である」としている。

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甲状腺機能低下症患者に対する補充療法(解説:吉岡成人氏)-1120

甲状腺機能低下症は頻度が高い疾患 甲状腺機能低下症は、日常の診療の中できわめて高頻度に遭遇する内分泌疾患である。日本においては臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症の頻度は0.50~0.69%、TSHのみが上昇する潜在性甲状腺機能低下症の頻度は3.3~6.1%であり、女性に多い疾患である(志村浩巳. 日本臨床. 2012;70:1851-1856.)。TSHは加齢に伴い上昇することが知られており、潜在性甲状腺機能低下症の頻度は加齢とともに増加する。甲状腺機能低下症の原因としては、慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症が大部分を占める。しかし、最近ではアミオダロン、炭酸リチウムなどの薬剤に加えて、免疫チェックポイント阻害薬によって発症することも、まれならず経験される。 甲状腺機能低下症には、合成T4製剤(レボチロキシンNa、商品名:チラーヂンS)が経口投与される。T4製剤は小腸から吸収され、吸収率は70~80%、空腹時(朝食前や就寝時)に服薬すると吸収が良いことが知られている。T4製剤の維持量は、TSHを正常に保つように調節することが推奨されている。臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症患者にT4製剤を投与することにはなんら異論はないが、潜在性甲状腺機能低下症の場合、妊婦を除いて、治療についてはエビデンスが少なく、慎重に対応すべきであると考えられている。顕性甲状腺機能低下症の患者に補充療法を行った際のTSHの値と予後の関連 英国における1,500万人の患者を対象としたプライマリケアの大規模データベース(The Health Improvement Network)を用いて、1995年1月~2017年12月までに甲状腺機能低下症と診断されTSHを複数回測定された16万439人(平均年齢58.4歳、男性23%、女性77%)を平均6年間にわたって追跡し、T4製剤の補充を行い、TSH値を基準範囲(正常範囲)内に調節した際の、TSH値とさまざまなヘルスアウトカムの関連を検討した後ろ向き解析の論文がBMJ誌に掲載された(Thayakaran R, et al. BMJ. 2019;366:l4892.)。 アウトカムとして、全死亡、心房細動、虚血性心疾患、心不全、脳卒中・一過性脳虚血発作、骨折を取り上げており、それぞれのアウトカムはTSH値が基準範囲内(2~2.5mIU/L)であった場合には、有意な差はなかった。しかし、TSH値が10mIU/Lを超える場合に、虚血性心疾患のハザード比(HR)が1.18(95%信頼区間:1.02~1.38)、心不全ではHRが1.42(95%信頼区間:1.21~1.67)となり、有意なリスク増加が確認された。一方、TSH値が0.1mIU/L未満の場合には心不全に対するリスクが減少し、HRは0.79(95%信頼区間:0.64~0.99)、TSH値が0.1~0.4mIU/LではHRが0.76(95%信頼区間:0.62~0.92)であった。また死亡率に関しては、TSH値が0.1mIU/L未満でHRが1.18、TSH値が4~10mIU/LではHRが1.29と、基準範囲を下回った場合も超えた場合もリスクの増加が確認された。すべての骨折とTSH値との関連はなかったが、脆弱性骨折に関してはTSH値が10mIU/Lを超えた際のHRは1.15(95%信頼区間:1.01~1.31)であったと報告されている。臨床現場での対応を追認 顕性甲状腺機能低下症患者に補充療法を行い、TSH値が基準値の範囲内(2~2.5mIU/L)であれば死亡や心不全などのリスクに影響はないものの、全死亡、虚血性心疾患、脆弱性骨折のリスクは、TSH値が10mIU/Lを超えると1.1~1.4倍増加し、死亡に関してはTSH値が0.1mIU/L未満でもリスクが増加するという。 中高年の臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症患者にT4製剤を投与する際には、TSH値を基準範囲内になるように補充すべきであろうということが再認識された臨床試験といえる。

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新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会

 新薬の登場やエビデンスの蓄積を受けて、約10年ぶりに「夜間頻尿診療ガイドライン」が改訂される。40代で約4割、80歳以上では9割以上でみられる夜間頻尿について、専門医だけでなく一般医に対する診療アルゴリズムを新たに作成し、クリニカルクエスチョン(CQ)を充実させる見通し。第26回日本排尿機能学会(9月12~14日、東京)で、「新・夜間頻尿診療ガイドライン:改定に向けての注目点」と題したセミナーが開催され、作成委員長を務める国立長寿医療研究センター泌尿器科の吉田 正貴氏らが解説した。 本稿では同セミナーのほか、鹿児島大学心臓血管・高血圧内科学の大石 充氏による「循環器疾患と夜間頻尿・多尿」と題した講演の内容を紹介する。改訂版は今後パブコメを含む最終調整を経て、2020年春の発行が予定されている。新・夜間頻尿診療ガイドラインでは29のCQを初めて設定 夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えと定義される。年齢とともに回数は急上昇し、回数が増えるごとにQOLは明らかに低下する1)。本邦では、頻度2回以上の夜間頻尿は70代の男性の約6割(女性では約5割)、80歳以上では約8割(約7割)と報告されている2)。夜間頻尿のリスク因子には糖尿病、高血圧、肥満などがあり、逆に夜間頻尿がうつ、転倒骨折、睡眠障害などのリスク因子となる。 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは、排尿日誌を使用しない場合(主に一般医向け)と使用する場合(主に専門医向け)に分けて、フロー図の形で診療アルゴリズムを整理。新たに29個のCQを設定して、診断、行動療法、薬物療法についてそれぞれ推奨度が明記され、エビデンスが整理される。夜間頻尿診療ガイドラインに弾性ストッキング使用の生活指導 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは診断に関して、夜間頻尿患者に対する排尿記録やQOL評価、残尿測定、尿流動態検査、睡眠障害の検査についてそれぞれCQが設定され、推奨度のほか評価時期や評価手法が解説される。また、泌尿器科、循環器科、睡眠障害専門医への紹介のタイミングや保険診療上の注意点についてもCQが設けられ、アルゴリズムと組み合わせて診断・鑑別が進められるよう構成される。 行動療法に関しては、生活指導(飲水に関する指導、運動療法、禁煙、弾性ストッキング使用、夕方の足の挙上など)と行動療法(生活指導以外)を区別する形でCQを設定。エビデンスは十分ではないものの、非侵襲的であり、生活指導が夜間頻尿治療の第一選択であることは従来どおり。一方の行動療法(生活指導以外)については、過活動膀胱(OAB)の場合は膀胱訓練や定時排尿などの計画療法や、骨盤底筋訓練などの理学療法の有用性が報告され、OABのガイドラインでも推奨されているが3)、睡眠障害を伴った夜間頻尿では有用性のエビデンスは明確でない。新・夜間頻尿診療ガイドラインでのデスモプレシンの位置付けは? 新・夜間頻尿診療ガイドラインでは薬物療法に関して、夜間多尿(夜間多尿指数[夜間尿量/24時間尿量]が高齢者:0.33以上、若年者:0.20以上)の有無、原因疾患(OAB、前立腺肥大症)に応じて選択される。2019年9月19日、「男性における夜間多尿による夜間頻尿」の適応症でV2受容体作動薬デスモプレシンが発売された。エビデンスが充実しており、男性では生活指導および行動療法による効果が得られない患者への第一選択薬として、推奨グレードAとされる見通し。 ただし、同薬の本邦での適応は「夜間多尿指数0.33以上、かつ夜間排尿回数が2回以上」に限定され(排尿日誌の記録が必須)、低ナトリウム血症や心不全の患者、中等度以上の腎機能障害の患者、利尿薬の併用などは禁忌とされる。また、65歳以上で低ナトリウム血症や頭痛などの有害事象が報告されており、年齢・体重・血清ナトリウム値に応じた少量開始、定期的な検査や観察が推奨されるなど、適正使用への留意が必要となっている。OABや前立腺肥大症に伴う夜間頻尿にも、10年間で新薬やエビデンス蓄積 この10年で、OABに対して抗コリン薬のオキソブチニン貼付剤とフェソテロジン、β3受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)が新たに処方可能となっている。各薬剤での夜間頻尿に関するエビデンスも蓄積し、抗コリン薬では前回エビデンスが不十分であったイミダフェナシンで前向き臨床試験が最も多く報告され、夜間排尿回数の減少と夜間1回排尿量の増加、睡眠の質の向上などが確認されている。しかし、OABに関係する夜間頻尿には有効であるが、夜間多尿群では十分な効果が得られない薬剤もある。 ミラベグロンはOABに対するエビデンスが多く蓄積しているものの、夜間頻尿患者に対する第III相試験のpost-hoc解析は行われていない。2018年発売のビベグロンについては本邦で行われた第III相試験から、夜間頻尿患者での回数の減少と夜間1回排尿量の増加が確認されている4)。 前立腺肥大症に伴う症例に対しては、PDE5阻害薬タダラフィルが新たに承認され、前回評価不能だったα1遮断薬シロドシンなどについてエビデンスが蓄積。また、本邦発のGood-Night Studyで、α1遮断薬単独で改善のない夜間排尿2回以上の患者に対する、抗コリン薬(イミダフェナシン)併用の有効性が示されており5)、新たなエビデンスとして加わっている。利尿薬は併存する循環器疾患によって使い分けが必要? 夜間多尿に伴う夜間頻尿、とくにデスモプレシンが使えない女性では、利尿薬が選択肢となる。大石氏は、夜間頻尿診療ガイドライン改訂にあたって実施したシステマティックレビューの結果などから、高血圧と心不全の併存患者における利尿薬の使い方について講演した。 利尿薬×夜間頻尿というキーワードで論文検索を行うと、ループ利尿薬についてはとくにhANP高値例6)や就寝6時間前投与7-9)が有効、サイアザイド系利尿薬についてはα遮断薬抵抗性例に朝投与が有効10)といった報告が確認された。一方で、ループ利尿薬が夜間頻尿を悪化させる11)、高齢者での夜間頻尿を惹起する12)といった報告や、サイアザイド系が排尿症状を悪化させる11)という報告もある。 これらを受け大石氏は、併存する循環器疾患ごとに、夜間頻尿となるメカニズムが異なる可能性を指摘。食塩感受性高血圧患者では、日中の食塩摂取量が過多になると、夜間高血圧となり、塩分排泄のキャリーオーバーで夜間多尿や夜間頻尿につながると考えられる。ループ利尿薬は近位部で作用(水抜き)することから、このような症例で多量に使うとNa+貯留が起こる可能性があり、遠位尿細管で作用(塩抜き)するサイアザイド系が適しているのではないかとした。 一方、うっ血性心不全患者の夜間頻尿は、心臓の機能が落ちることで静脈還流が増加し、臥位になった夜間に水を抜かなければならないことから引き起こされる。すなわち、ループ利尿薬で体液調整をすることでコントロール可能となると考えられるという。会場からは、「女性の食塩感受性高血圧患者の夜間頻尿ではサイアザイド系と考えてよいか」といった質問があがり、同氏は「女性では浮腫がある症例も多い。そういった場合はもちろん水分を抜くことも必要で、必要な薬剤の量を見極めながら、病態に応じて選択・併用していく形が望ましく、循環器医と積極的に連携してほしい」と話した。■「食塩感受性高血圧」関連記事塩分摂取によって血圧が上昇しやすい人と、そうでない人が存在するのはなぜか?―東大 藤田氏らが解明―■参考1)Coyne KS, et al. BJU Int. 2003 Dec;92:948-54.2)Homma Y, et al. Urology. 2006 Aug;68:318-23.3)日本排尿機能学会過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編. 過活動膀胱診療ガイドライン 第2版.リッチヒルメディカル.2015.4)Yoshida, et al. Int J Urol. 2019 Mar;26:369-375.5)Yokoyama O, et al. World J Urol. 2015 May;33:659-67.6)Fujikawa K, et al. Scand J Urol Nephrol. 2001 Sep;35:310-3.7)Pedersen PA, et al. Br J Urol. 1988 Aug;62:145-7.8)Reynard JM, et al. Br J Urol. 1998 Feb;81:215-8.9)Fu FG, et al. Neurourol Urodyn. 2011 Mar;30(3):312-6.10)Cho MC, et al. Urology. 2009 Mar;73(3):549-53.11)Hall SA, et al. BJU Int. 2012 Jun;109:1676-84.12)Johnson TM 2nd, et al. J Am Geriatr Soc. 2005 Jun;53:1011-6.

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高リスク2型糖尿病の心血管リスク、リナグリプチンvs.グリメピリド/JAMA

 心血管リスクが高い比較的早期の2型糖尿病患者の治療において、DPP-4阻害薬リナグリプチンはSU薬グリメピリドに対し、心血管死、非致死的な心筋梗塞・脳卒中の複合のリスクが非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCAROLINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年9月24日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクを増加させる。リナグリプチンの心血管安全性を評価したプラセボ対照比較試験では非劣性が示されているが、実対照薬との比較試験は実施されていなかった。43ヵ国607施設が参加した実薬対照非劣性試験 本研究は、43ヵ国607施設が参加した二重盲検無作為化実薬対照非劣性試験であり、2010年11月~2012年12月の期間に患者登録が行われた(Boehringer IngelheimとEli Lilly and Companyの助成による)。 対象は、HbA1c 6.5~8.5%の2型糖尿病で、心血管リスク因子として、(1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)、(2)2つ以上のリスク因子(2型糖尿病罹患期間>10年、収縮期血圧>140mmHg、喫煙など)、(3)年齢70歳以上、(4)細小血管合併症(腎機能障害、増殖網膜症など)を満たす患者であった。 被験者は、通常治療に加えて、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはグリメピリド(1~4mg、1日1回)を投与する群に無作為に割り付けられた。担当医には、臨床的必要性に応じて、主にメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジンジオン系薬、インスリンを追加または用量を調整することで、血糖降下治療を強化することが奨励された。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合とし、リナグリプチンのグリメピリドに対する非劣性の評価が行われた。両側検定で、ハザード比(HR)の95.47%信頼区間(CI)の上限値<1.3を満たす場合に非劣性と判定した。体重が1.54kg低く、低血糖が少ない 6,033例(平均年齢64.0歳、2,414例[39.9%]が女性、平均HbA1c値7.2%、罹患期間中央値6.3年、大血管疾患42%、メトホルミン単剤療法59%)が解析の対象となった。フォローアップ期間中央値は6.3年だった。 主要アウトカムは、リナグリプチン群が3,023例中356例(11.8%、2.1/100人年)、グリメピリド群は3,010例中362(12.0%、2.1/100人年)で発生し、非劣性の判定基準を満たした(HR:0.98、95.47%CI:0.84~1.14、非劣性のp<0.001)。一方、優越性は認められなかった(p=0.76)。 主な副次アウトカムとして、主要アウトカムに不安定狭心症による入院を加えて解析を行ったところ、リナグリプチン群が3,023例中398例(13.2%、2.3/100人年)、グリメピリド群は3,010例中401例(13.3%、2.4/100人年)で発生していた(HR:0.99、95%CI:0.86~1.14)。 全死因死亡(HR:0.91、95%CI:0.78~1.06、p=0.23)、心血管死(1.00、0.81~1.24、p=0.99)、心血管系以外の原因による死亡(0.82、0.66~1.03、p=0.08)には有意な差はみられなかった。 HbA1c値の平均変化は、当初、リナグリプチン群よりもグリメピリド群で良好であったが、全体では両群間に有意な差はなかった(256週までの補正後平均重み付け平均差:0%、95%CI:-0.05~0.05)。また、グリメピリド群で早期にわずかな体重増加が認められ、その後は増加せずに維持されたが、全体ではリナグリプチン群のほうが体重が低かった(-1.54kg、-1.80~-1.28)。 有害事象は、リナグリプチン群が2,822例(93.4%)、グリメピリド群は2,856例(94.9%)で発現した。重篤な有害事象は、それぞれ46.4%および48.1%にみられた。 審査によって確定された急性膵炎は、リナグリプチン群15例(0.5%)、グリメピリド群16例(0.5%)に認められ、慢性膵炎は3例(0.1%)および0例(0.0%)、膵がんは16例(0.5%)および24例(0.8%)にみられた。また、1回以上の低血糖エピソードは、それぞれ320例(10.6%)および1,132例(37.7%)で発現し(HR:0.23、95%CI:0.21~0.26)、重症低血糖は10例(0.3%)および65例(2.2%)、入院を要する低血糖は2例(0.1%)および27例(0.9%)に認められた。 著者は「心血管へのベネフィットが証明されているメトホルミン治療後に、さらなる血糖降下治療を要する場合は、リナグリプチンなどのDPP-4阻害薬は低血糖や体重増加のリスクが少ない選択肢となる」としている。

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インスリン療法開始時の選択肢にも有用ーゾルトファイ配合注

 インスリン療法時の低血糖回避が血糖コントロール不良を招き、心疾患の発症に影響を及ぼすことがある。このようなジレンマを新たな薬剤が解決してくれるかもしれない-。 2019年9月26日、ノボノルディスクファーマがゾルトファイ配合注フレックスタッチの発売を記念してプレスセミナーを開催。綿田 裕孝氏(順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授)が「インスリン デグルデク/リラグルチド(IDegLira):2型糖尿病治療の新たな選択肢」と題して、新薬の有用性について語った。新たな配合剤の適応やメリットは? 今回発売されたIDegLira(商品名:ゾルトファイ配合注)は、インスリンとGLP-1受容体作動薬を組み合わせた製剤で、インスリン療法が適応となる2型糖尿病に投与可能である。1日1回の用法で2剤が同時投与でき、“注射時刻は原則として毎日一定とする”という条件を守れば、患者のライフスタイルに応じた投与スケジュールを作成できる。これに対し、綿田氏は「患者QOLやアドヒアランス向上にも寄与する」と、コメントした。持効型インスリン/GLP-1配合剤はこれまでの治療不安を払拭できるか 2型糖尿病のインスリン治療には、「低血糖」「体重増加」「血糖コントロール」の3つのアンメットメディカルニーズが存在する。低血糖を起こすと、救急搬送や入院にかかる費用だけではなく、事故や就労不能、業務効率低下といった社会経済にも影響を及ぼし、さらにはHbA1cの目標値達成を阻害する。そして、インスリン治療がもたらす体重増加がHbA1cの目標達成の障壁となり、Basalインスリンを投与する2型糖尿病患者の半数以上はHbA1cの目標値を達成していない。 このような問題が生じることから、インスリン治療に抵抗を示す医師も少なくない。綿田氏が示したデータによると、医師の理想より、実際にインスリン治療を開始する時期は遅れており、患者が実際にインスリン治療を医師から薦められた際の平均HbA1cは9.6%であった1)。GLP-1受容体作動薬との組み合わせで副作用軽減 GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制するため、インスリンと比べても低血糖リスクは少ない。心血管疾患リスク低下や体重減少も報告されていることから、GLP-1受容体作動薬の併用はインスリン治療のデメリット改善につながる。GLP-1受容体作動薬を単独で投与すると胃腸障害(悪心、嘔吐、下痢)の出現頻度は高いが、「IDegLiraは10ドーズにリラグルチドとして0.36mg含有と少量のため、徐々に用量を増加していくと、単独で使用するよりも副作用の出現は低いと考えられる」と、同氏は述べた。 日本人を対象としたIDegLiraの大規模臨床試験(DUAL I JAPAN試験2)、DUAL II JAPAN試験3))結果によると、低血糖リスクや体重増加、悪心などのリスクを回避しながらHbA1cの変化量および平均値の改善を達成した。これを踏まえて同氏は「インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬はそれぞれの課題を有しているが、併用することでお互いを補い合う作用が期待できる治療法である。ほかのインスリン療法と比較しても好ましい治療法であることがメタ解析からも示唆された」と述べ、「IDegLiraはBasalインスリンからの治療強化だけではなく、新規にインスリン療法を開始する際の選択肢にもなる」と締めくくった。

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ビルダグリプチン+メトホルミン早期介入が新規2型DMに有効/Lancet

 新たに診断された2型糖尿病患者において、ビルダグリプチン+メトホルミン併用療法による早期介入は、現在の標準初期治療であるメトホルミン単剤療法と比較し長期的ベネフィットがあることが認められた。英国・オックスフォード大学のDavid R. Matthews氏らが、34ヵ国254施設で実施された無作為化二重盲検比較試験「VERIFY試験」の結果を報告した。初期治療の強化は良好な血糖コントロールの維持につながり、糖尿病合併症の進展抑制に重要とされる。そうした機会が、初期治療として併用療法を導入することで、従来の段階的アプローチよりも多くなることが示唆されていたが、その効果については確定されていなかった。Lancet誌オンライン版2019年9月18日号掲載の報告。ビルダグリプチン+メトホルミン併用群と単剤群に1対1で割り付けて5年間追跡 本試験は2週間のスクリーニング期、3週間のメトホルミン単剤導入期、5年間の治療期(試験期1、2、3に分けられる)から構成された。対象は、登録2年以内に新たに2型糖尿病と診断された18~70歳で、HbA1c値6.5~7.5%、BMI値22~40の患者で、併用群またはメトホルミン単剤群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 試験期1において、メトホルミンの安定用量(1,000、1,500または2,000mg)に加えて、併用群ではビルダグリプチン50mgの1日2回投与を追加し、メトホルミン単剤群はプラセボを追加した。初期治療でHbA1c値が7.0%(53mmol/mol)未満に維持されなかった場合(13週間あけた連続2回の受診で確認)、メトホルミン単剤群ではプラセボの代わりにビルダグリプチンを投与し、全患者に併用療法を行う試験期2に登録した。 有効性の主要評価項目は、無作為化から初期治療失敗(試験期1における無作為化から13週後以降、連続した2回の受診でHbA1c値7.0%以上)までの期間であった。 最大解析(full analysis)は、割り付けられた試験薬を1つ以上服用し、無作為化後の有効性に関する項目の評価を1回以上受けた被験者を対象とした。安全性の解析は、割り付けられた試験薬を1投与量以上服用した全被験者を対象とした。ビルダグリプチン+メトホルミン併用群は単剤群に比べて、初期治療失敗のリスクが半減 登録は2012年3月30日に開始され、2014年4月10日に完了した。4,524例がスクリーニングを受け、このうち2,001例がビルダグリプチン+メトホルミン早期併用群(998例)および単剤群(1,003例)に無作為に割り付けられた。2,001例のうち、ビルダグリプチン+メトホルミン早期併用群および単剤群でそれぞれ811例(81.3%)および787例(78.5%)の計1,598例が5年の治療期を完遂した。 試験期1における初期治療失敗の発生は、ビルダグリプチン+メトホルミン早期併用群429例(43.6%)、単剤群614例(62.1%)であった。初期治療失敗までの期間中央値は、単剤群で36.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:15.3~未到達[NR])であった。一方のビルダグリプチン+メトホルミン早期併用群は61.9ヵ月(IQR:29.9~NR)で、わずかに試験期を越えていた可能性があった。 5年の試験期間中、ビルダグリプチン+メトホルミン早期併用群は単剤群と比較して、初期治療失敗までの期間の相対リスクを有意に低下したことが確認された(ハザード比:0.51、95%CI:0.45~0.58、p<0.0001)。 両群とも、安全性および忍容性は良好であり、予期しないあるいは新たな有害事象の発現はなく、治療に関連した死亡もなかった。

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CKD治療抵抗性高血圧症、patiromer併用でスピロノラクトン服薬率上昇/Lancet

 治療抵抗性高血圧症の慢性腎臓病(CKD)患者に対し、カリウム吸着薬patiromerを用いることで、より多くの患者が高カリウム血症を呈することなくスピロノラクトンによる治療が継続可能なことが示された。米国・インディアナ大学のRajiv Agarwal氏らが、10ヵ国62外来医療センターを通じて行った第II相の国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。スピロノラクトンは、治療抵抗性高血圧症で血圧コントロール不良の患者において、降圧効果があることが示されている。しかし、CKDが併存する患者では高カリウム血症を呈することからスピロノラクトンの使用は制限される場合があることが課題となっていた。Lancet誌オンライン版2019年9月15日号掲載の報告。12週後のスピロノラクトン服薬継続率を比較 研究グループは、10ヵ国(ブルガリア、クロアチア、ジョージア、ハンガリー、ウクライナ、フランス、ドイツ、南アフリカ共和国、英国、米国)、62ヵ所の外来医療センターを通じ、推定糸球体濾過量(eGFR)が25~45以下mL/分/1.73m2のCKDで、コントロール不良の治療抵抗性高血圧症を有する18歳以上を対象に試験を行った。最終スクリーニングですべての適格基準を満たした患者を、血清カリウム値(4.3~4.7未満mmol/Lまたは4.7~5.1mmol/L)と糖尿病歴の有無で層別化した。 被験者を双方向ウェブ応答システムで無作為に1対1の割合で割り付け、非盲検下で投与したスピロノラクトン(25mgを1日1回から開始)とベースラインで服用中の高血圧治療薬に加えて、patiromer(8.4gを1日1回)またはプラセボのいずれかを投与した。patiromerの用量漸増は1週間後、スピロノラクトンは3週間後に可能とした。 被験者、投薬管理と血圧測定を行う試験チーム、および研究者は、割り付け治療群に対してマスキングされた。 主要エンドポイントは、12週後のスピロノラクトン服薬継続率の群間差だった。有効性のエンドポイントと安全性は、無作為化を受けた全被験者(intention-to-treat集団)で評価された。スピロノラクトン服薬継続率、patiromer群86%、プラセボ群66% 2017年2月13日~2018年8月20日にスクリーニングを受けた574例のうち、すべての基準を満たした295例(51%)を対象に無作為化試験を行った。patiromer群147例、プラセボ群148例だった。 12週後、スピロノラクトンを服薬継続していたのは、プラセボ群98/148例(66%)に対し、patiromer群126/147例(86%)と有意に高率だった(群間差:19.5%、95%信頼区間[CI]:10.0~29.0、p<0.0001)。 有害イベントは大半が軽度~中等度で、プラセボ群79/148例(53%)、patiromer群82/147例(56%)で発生した。 これらの結果を踏まえて著者は、「こうしたCKDが進行した患者集団において、治療抵抗性高血圧症の治療のために、スピロノラクトン継続使用が可能となることは、臨床的に意味がある」と述べている。

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EF低下心不全へのダパグリフロジン、心不全増悪・心血管死リスク大幅減/NEJM

 駆出率(EF)が低下した心不全患者に対し、標準治療に加えたSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの投与は、糖尿病の有無にかかわらず、心不全増悪および心血管死のリスクを有意に低下することが示された。英国・グラスゴー大学のJohn J. V. McMurray氏らが、 4,744例の患者を対象に行った第III相プラセボ対照無作為化試験で明らかにした。2型糖尿病(DM)患者では、SGLT2阻害薬が心不全の初発入院リスクを低下することが示されている。その機序はグルコースとは独立していると考えられており、研究グループは、2型DMの有無を問わず、EF低下心不全患者におけるSGLT2阻害薬の作用に関するデータを集めるため本試験を行った。NEJM誌オンライン版2019年9月19日号掲載の報告。心不全増悪または心血管死を比較 研究グループは、NYHA心機能分類II~IVでEFが40%以下の心不全患者4,744例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはダパグリフロジン(1日1回10mg)を、もう一方にはプラセボを、推奨されている治療に加えて投与した。 主要アウトカムは、心不全増悪(心不全の静注療法を要する入院もしくは緊急受診)または心血管死の複合だった。心不全増悪の初回発生リスク、ダパグリフロジン群で3割減 追跡期間中央値18.2ヵ月において、主要アウトカムの発生は、プラセボ群502/2,371例(21.2%)に対し、ダパグリフロジン群は386/2,373例(16.3%)だった(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.85、p<0.001)。 初発の心不全増悪は、プラセボ群326例(13.7%)、ダパグリフロジン群237例(10.0%)だった(HR:0.70、95%CI:0.59~0.83)。心血管死はそれぞれ273例(11.5%)、227例(9.6%)で(同:0.82、0.69~0.98)、全死因死亡は329例(13.9%)、276例(11.6%)だった(同:0.83、0.71~0.97)。 糖尿病の有無による所見の違いはみられなかった。循環血液量減少や腎機能不全、低血糖に関連した有害事象の発現頻度も、両群間で差はなかった。

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第19回 噛む回数を増やすメリットと簡単実践方法【実践型!食事指導スライド】

第19回 噛む回数を増やすメリットと簡単実践方法医療者向けワンポイント解説肥満や糖尿病の予防に対して、「よく噛みましょう」「1口30回噛みましょう」と伝えられることがありますが、早食い癖のついている人にとって「よく噛むこと」は、実行しにくい行動です。よく噛むためには「噛むメリット」を知り、「噛めるメニュー」を選ぶコツが必要です。●噛むメリットとは何か?1)唾液が出て口内が清潔になる噛むことは唾液の分泌を促します。唾液には食べ物のカスや細菌を洗い流す作用があり、虫歯や歯周病予防につながります。2)消化がスムーズ唾液に含まれる消化酵素のアミラーゼには、デンプンを分解し消化吸収を高める働きがあります。また、咀嚼運動により刺激され、胃液の分泌を助けます。3)満腹感が得やすい噛むことにより満腹中枢が刺激されます。また、腸管から分泌されるGLP-1やPYY(ペプチドYY)*による刺激が迷走神経から視床下部へ伝達され、摂食が調整されます。健常人を対象にした実験で、咀嚼回数が多いほど、GLP-1やPYYの血中の濃度が高くなるという結果があります。*:摂食抑制に機能する消化管ホルモン4)肥満や糖尿病のリスク低下消化促進や満腹中枢の刺激などの働きが合わさることで、食べる量が調整され、肥満の予防、糖尿病のリスク低下につながります。5)脳を刺激し活性化咀嚼刺激を与えることにより、脳を刺激し記憶力や集中力を高める働きがあることがわかっています。また、マウスモデルでは成長期における咀嚼刺激の低下が、顎の骨や咀嚼筋の成長を抑制し、海馬をはじめとする脳神経系の発達を妨げることで、記憶や学習機能を障害する可能性もが示唆されています。その結果、記憶や認知症の治療や予防につながり、咀嚼機能の維持や強化に有効であると期待されています。●噛むための簡単実践方法i)箸を使うスプーンやフォークを使うことで、1口の量が大きく、流し込み食べをしやすくなります。箸の動作を意識することでひと口の量が調整され、また、動きがでることで噛む回数を増やすことができます。ii)丼・麺などの単品ものよりも定食スタイルにする丼物や麺類は同じ味が続きやすく、味の変化が少ないことで満足度を下げ、食べる速度を上げがちです。定食スタイルで箸を使うことにより、口中で味の変化が起こり、ゆっくりと味わうことがしやすくなります。iii)いろいろな食材を取り入れる食感の変化のなさ、柔らかさも噛む回数を減らす原因です。単品で食べるより、違う食材をプラスする意識をもてば、噛む回数を増やすことができます。たとえば、「白飯にふりかけを合わせるよりも、しらす干しや納豆をのせる」「唐揚げ単品よりも千切りキャベツを添える、パンで挟む」など、ひと手間で噛む回数と満足度を変えることができます。iv)食材は大きく切る・細かくしない・加工は少なく食材が大きく切られているほうが、当然ながら噛む回数を増やすことができます。また、食感があることが重要です。ハンバーグなどやわらかい料理よりもステーキなどを選ぶことで、噛みごたえを増やすことができます。v)素材のままを1品加える味が濃いと噛まずに飲みこみやすくなりますが、素材のままの味わいのものは、味を感じようと自然と噛む動作が増えます。たとえば、チャーハンは早食いできても、炊いただけの玄米ご飯は早食いできない、といったところです。自然と噛めるメニューを加えることは、実は、栄養バランスが自然と整う方法でもあります。

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