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突き放したように聞こえているかも?【もったいない患者対応】第17回

突き放したように聞こえているかも?患者さんから希望された検査や治療に関して、医療者が、「うちの病院ではそれはやっていないのでできません」とだけ答えてしまうケースを時に目にします。もちろん、病院ごとに地域における役割分担がありますから、すべての病院が同じ水準で検査や治療を行えるわけではありません。しかし、患者さんは、自分が治療を受けると決めた病院とは、ある意味で“運命共同体”のような気持ちをもっています。「うちではできないのでしない」という答えだけでは、患者さんに「この病院よりもっと良い治療が受けられる病院を選べばよかった」と後悔の念を抱かせてしまうことになります。また、ここで「じゃあ、それができる病院に行きますので紹介状を書いてください」とすんなり医師に言える患者さんも多くはないでしょう。したがって、医師の答え方には十分な注意が必要です。伝えるべきは判断の理由「希望された検査や治療はできないが、そもそも必要なものではなく医学的なアウトカムにも悪影響はない」というケースであれば、その旨をきちんと説明する必要があります。「当院ではその検査(治療)は行っていませんが、現時点の〇〇さんの病状であれば、それは必要ありません。もし病状が変化して、その検査(治療)が必要になることがあれば、適切な病院に紹介することは可能です」というように、理由やその後の対応まで含めて説明するのがよいでしょう。逆に、「希望された検査や治療を行ったほうが医学的に適切である」と考えられるケースでは、その理由を述べるとともに、紹介を検討すべきでしょう。なんとなく病院に不信感をもたれたまま治療を続けていると、治療がうまくいっている間はいいですが、何か問題が起きたとき一気に人間関係が崩れ、患者さんの不満が表出することになります。若手の先生であれば、患者さんからの希望に対する返事はいったん保留にしておき、指導医と十分に相談したうえで改めて説明の機会を設けるのがおすすめです。

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MCIの認知機能改善に、最適な運動とその量は?~ネットワークメタ解析

 軽度認知障害(MCI)は、認知症の前駆段階であり、通常の老化による認知機能低下よりも進行することが特徴である。高齢MCI患者における機能低下の抑制、認知機能向上に対する有望なアプローチとして、運動介入への期待が高まっている。しかし、最適な運動様式とその量(用量反応関係)に関する研究は、十分に行われていなかった。中国・大連理工大学のYingying Yu氏らは、用量反応関係を最適化し、十分な強度を確保し、ポジティブな神経学的適応を誘発することによりMCI患者にとって最適な運動様式を特定するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2024年9月12日号の報告。 対象は、MCI患者に対する運動介入の有効性を評価した研究。2024年4月15日までに公表された研究を、PubMed、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの電子データベースより、システマティックに検索した。主要アウトカムは、全体的な認知機能および実行機能とした。ペアワイズおよびネットワークメタ解析の両方で、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・包括基準、除外基準を適用し、42件(2,832例)の論文をネットワークメタ解析に含めた。・有酸素運動にさまざまな要素を組み合わせた身体活動であるマルチコンポーネント運動は、受動態的対照群と比較し、標準平均差(SMD)が1.09(95%信頼区間[CI]:0.68〜1.51)であり、全体的な認知機能低下を軽減するうえで、良好な有効性が示唆された。・同様に、マルチコンポーネント運動は、実行機能にも有意な影響を示した(SMD:2.50、95%CI:0.88〜4.12)。・30分のセッションを1週間当たり3〜4回実施し、介入期間を12〜24週間、強度を最大心拍数60〜85%で行った場合、全体的な認知機能改善に高い効果が得られることが示唆された。・30〜61分のセッションを25週間以上行った場合、実行機能に対し、優れた効果が認められた。 著者らは「MCI患者の全体的な認知機能および実行機能改善に対し、マルチコンポーネント運動が最も効果的な介入であることが確認された。とくに中程度〜強度の運動を、3回/週以上行うこと最も効果的であると考えられ、より短時間なセッションを頻繁に行うことで、認知アウトカムを最適化する可能性が示唆された」と結論付けている。

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レカネマブかドナネマブか?【外来で役立つ!認知症Topics】第23回

アルツハイマー病治療における新たな選択肢わが国でアルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬として認可されたレカネマブとドナネマブのどっちがいい? 今日、これがAD治療の最前線の話題かもしれない。両者は、ADの原因物質とされてきたアミロイドを標的とする抗アミロイドβモノクローナル抗体である(図1)。図1 抗アミロイドβモノクローナル抗体が作用する仕組み画像を拡大する開発中のAD治療薬:ターゲットの新潮流ところが今日では、ADの新薬開発における主流は、このアミロイド、あるいはもう一つの老舗物質のタウから、ほかのターゲットへと移ってきている。たとえば炎症や免疫、またシナプスの可塑性と神経保護などへの薬である。とはいえ、「アルツハイマー病治療薬開発のPipeline:2024」1)が指摘するように、この種の薬剤が米国食品医薬品局に承認されるまでに、うまくいっても、基礎研究を入れると13年、臨床研究で8年弱かかる。だから当面はアミロイドとタウを標的とする薬剤の効果的な使い方が臨床現場の最大課題になるだろう。歴史的にみると、本疾患の名付け親のアロイス・アルツハイマー博士は、看取ったアウグステという女性の若年性AD患者の死後、脳を剖検した。その結果、この疾患の主要な病理所見は、アミロイドを主成分とする老人斑とタウが主成分の神経原線維変化(NFT)だとした。以来、治療薬開発においてアミロイドとタウが主流にあった。なおAD脳では、老人斑が出現した後に神経原線維変化が現れる。だから理論的には、病初期にアミロイドを消滅させればNFTも生じないはずである。ところが従来の研究的治療では、アミロイドを消してもADは進行した。どうもアミロイドはこの病気の火付け役であって、ほかにも悪役達がいると考えられるようになった。だから炎症や免疫、シナプスの可塑性や神経保護等に注目する創薬へシフトしたと言うこともできる。レカネマブとドナネマブの比較ポイントさて本題のレカネマブかドナネマブかを論じるうえでのポイントは、まずは効果、そして最大の副作用ARIA(脳血管周囲の浮腫と出血)の発生率だろう。またいずれも医療機関で点滴投与するだけに、投与頻度は大きな問題である。さらに作用機序の異同に注目する人も多い。効果の指標は、図2のように症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間に要約されるだろう。レカネマブでは軽減率27%、期間7.5ヵ月2)、またドナネマブでは28.9%、5.4ヵ月3)とされる。ほぼ互角といってよい。副作用ARIAは、レカネマブで脳の浮腫や滲出液貯留(ARIA-E)が12.6%、微小出血(ARIA-H)が17.3%認められた。ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hは31.4%であった。これについてはレカネマブが優れているかもしれない。投与方法はいずれも点滴であり、前者は2週間に1度、後者は4週間に1度である。これについて多くの人はドナネマブを好むだろう。図2 効果の指標:症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間画像を拡大するアミロイドβターゲットの違いレカネマブとドナネマブのターゲットの違いは図3のとおりだ。アミロイド、とくにアミロイドβは、初めは小さなかたまり(凝集体)だが、だんだんと大きな老人斑へと成長する。かたまりの大きさに応じて、モノマーとかオリゴマーなど「プロトフィブリル」と総称される初期の段階を経て、最終的に老人斑として沈着する。レカネマブはプロトフィブリルと、より大きなアミロイド斑とに結合するとされる。一方ドナネマブは、脳に沈着後にある程度の時間が経ち「ピログルタミル化」という修飾がなされたアミロイド斑に選択的に結合する。図3 レカネマブとドナネマブのターゲット画像を拡大するさて、アミロイドが神経細胞に対して持つ毒性は、老人斑にあるのではない。その比較的初期の段階に最も毒性が強いとされる。それならレカネマブのほうがより効果は強いのではないかと思える。ところが実際には、効果はまあ互角である。これに関しては、臨床の場では、まだ知られていない作用や効果の関与があるのかもしれない。今後のAD治療の展望終わりに、AD治療薬の開発もその普及も容易ではない。たとえば、ドネペジルに先んじて1993年にAD治療薬の嚆矢となったコリンエステラーゼ阻害薬tacrineは肝毒性のためすぐに発売後すぐに市場から消えた。また世界初の疾患修飾薬aducanumabは、2024年1月31日、製造も治験も中止になってしまった。これからのAD治療において、疾患修飾薬への一辺倒にはならないだろうと思う。実際、両方の薬剤の治験では、ドネペジルなど既存の対症療法薬も併用されたケースが多かった。既存薬は残存神経細胞にいわば「喝!」を入れ、疾患修飾薬は病気の進行に「歯止め」をかけるものだろう。だから基本方針は、対症療法と病気進行阻止の両者を併用することだろう。心配される併用による副作用だが、両薬剤の治験において、そのような副作用は聞いていない。今後は、臨床の場では、併用による相乗効果をもたらすような投与法のさじ加減が注目されるだろう。参考1)Cummings J, et al. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimers Dement (N Y) . 2024;10:e12465.2)van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.3)Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330:512-527.

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日本人の認知機能にはEPA/DHAに加えARAも重要―脳トレとの組合せでの縦断的検討

 パズルやクイズなどの“脳トレ”を行う頻度の高さと、アラキドン酸(ARA)やドコサヘキサエン酸(DHA)という長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の摂取量の多さが、加齢に伴う認知機能低下抑制という点で、相加的に働く可能性を示唆するデータが報告された。また3種類のLCPUFAの中で最も強い関連が見られたのは、DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)ではなくARAだという。サントリーウエルネス(株)生命科学研究所の得田久敬氏、国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏らの研究結果であり、詳細は「Frontiers in Aging Neuroscience」に8月7日掲載された。 認知機能の維持には、食習慣や運動習慣、脳を使うトレーニング“脳トレ”などを組み合わせた、多面的なアプローチが効果的であると考えられている。ただ、それらを並行して行った場合の認知機能に対する影響を、縦断的に追跡した研究報告は少ない。得田氏らは、栄養関連で比較的エビデンスの多いLCPUFAと脳トレの組み合わせが、加齢に伴う認知機能低下を抑制するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。 この研究は、国立長寿医療研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いて行われた。2006~2008年に登録された認知症のない60歳以上の地域住民から、EPA製剤が処方されておらずデータ欠落のない906人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢70.2±6.7歳、男性50.8%で、認知機能を表すMMSEは30点満点中28.1±1.6点であり、3日間の食事記録(サプリメント摂取も含む)から推計したLCPUFAの1日当たり摂取量の中央値は、ARAが152mg、EPAが280mg、DHAが514mgだった。また、クロスワードパズルや数字パズルなどの脳トレを、週1回以上行っている割合は、35.8%だった。 2年間の追跡で、MMSEが2点以上低下した場合を「認知機能の低下」と定義すると、180人(19.9%)がこれに該当。認知機能が低下した群はそうでない群に比べて、高齢で教育歴が短く、ベースライン時点のMMSEが高いことのほかに、ARA摂取量が少ない(140対154mg/日、P=0.005)という有意差が認められた。EPAとDHAの摂取量は認知機能低下と有意な関連を認めなかった。また、性別の分布、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、BMI、基礎疾患有病率、および脳トレの頻度も有意差がなかった。 脳トレの頻度および3種類のLCPUFAの摂取量について、それぞれの三分位で3群に分け、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、教育歴、収入、基礎疾患、抑うつ傾向、MMSEなど)を調整して、認知機能の低下との関連を検討すると、脳トレの頻度の高さ(傾向性P=0.025)と、ARA摂取量の多さ(傾向性P=0.006)が有意に関連していた。EPAやDHAの摂取量との関連は非有意だった。有意な関連の認められた脳トレ頻度の高低(週1回以上/未満)、および、ARA摂取量の多寡(中央値以上/未満)とで全体を4群に分けて、双方が少ない群を基準として認知機能の低下のオッズ比(OR)を算出した結果、他の3群は全てオッズ比が有意に低く、双方が多い群で最も低いオッズ比(OR0.415)が観察された(傾向性P=0.001)。 ところで、本研究ではEPAやDHAと認知機能低下との関連が非有意だったが、海外からはEPAやDHAも認知機能に対して保護的に働くことを示唆するデータが複数報告されている。この違いの理由として、日本人は魚の摂取量が多いため、EPAやDHAの平均摂取量が海外の報告より約3倍以上高いことの影響が考えられる。そこで、本研究の対象者のうち、EPA、DHAの摂取量が下位3分の1の人に絞り込んで、上記と同様のサブグループ解析を施行した。その結果、DHAについては摂取量が多いほど認知機能低下のオッズ比が低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.023)、かつ、脳トレ頻度と組み合わせた4群での比較でも、双方が多いことによる相加的な影響が認められた(傾向性P=0.025)。一方、EPAに関してはこの対象の解析でも、有意性が見られなかった。 著者らは、「脳トレ頻度の高さとARA摂取量が多いことの組み合わせは、高齢日本人の認知機能低下リスクを相加的に抑制する可能性がある。また、魚介類の摂取量が少ない高齢者では、DHAも同様に作用すると考えられる」と結論付けている。

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早期アルツハイマー病治療薬ケサンラの臨床的意義とは/リリー

 日本イーライリリーは2024年10月29日、「ケサンラ承認メディアセミナー ~早期アルツハイマー病の当事者の方々が、自分らしく生活できる時間を伸ばす~」と題したメディアセミナーを開催した。早期アルツハイマー病(AD)治療薬「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ)は、同年9月24日に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」を効能または効果として日本における製造販売承認を取得している。本セミナーの冒頭では、日本イーライリリーの片桐 秀晃氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が同社の取り組みとして、「世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて」という使命をもとに、認知症への理解促進と治療アクセスの向上に努め、共生社会の実現に向けて尽力していく意向を示した。認知症は診断前から病態が進行している ケサンラの投与対象となるのは軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の患者であるが、こういった患者の病態について古和 久朋氏(神戸大学大学院 保健学研究科)が解説した。ADの進行プロセスにおいては、アミロイドβが脳内に蓄積してアミロイドβプラーク(老人斑)が形成される現象が、MCIの発症前のプレクリニカル期から起こるとされている。その後はタウと呼ばれるタンパク質が蓄積し、神経細胞死、脳萎縮が続けて起こり、最終的に認知症になるということが明らかとなってきているという。ケサンラは、このアミロイドβプラークをターゲットとした抗体で、プラークに結合することで貪食細胞が脳内に蓄積したプラークを除去し、症状の進行を遅らせる薬剤とされる。認知機能低下の進行を抑制する治療薬 続いて、ケサンラの臨床試験結果について小森 美華氏(日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が解説した。国際共同第III相臨床試験であるAACI試験(TRAILBLAZER-ALZ 2試験)は、60~85歳の早期AD患者1,736例が参加した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ケサンラの有効性と安全性を評価した試験である。試験においては被験者を無作為にケサンラ群(860例)とプラセボ群(876例)に分け、4週ごとに72週間静脈内投与した。ケサンラ群においてアミロイドPETでアミロイドβプラークの除去が確認された患者は、盲検下のままプラセボ投与に切り替えられた。患者背景は、平均年齢が約73歳、ADのリスク因子とされるAPOEε4キャリアが約7割、MMSEの平均は約22点であった。主要評価項目は、ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS)スコア(範囲:0~144、スコアが低いほど障害の程度が大きい)の変化量とされ、副次評価項目には臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)スコアの各項目スコアの合計(範囲:0~18、スコアが高いほど認知障害の程度が大きい)の変化量が含まれた。 76週時点のiADRSスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で-10.19、プラセボ群で-13.11であり、進行抑制率は22.3%であった。そのうち、軽度/中等度タウ蓄積集団においては、ケサンラ群で-6.02、プラセボ群で-9.27であり、進行抑制率は35.1%であった。また、CDR-SBスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で1.72、プラセボ群で2.42であり、進行抑制率は28.9%、軽度/中等度タウ蓄積集団では、ケサンラ群で1.20、プラセボ群で1.88であり、進行抑制率は36.0%であった。この結果は、全体集団においては76週の間で5.44ヵ月の症状進行の遅延に相当し、軽度/中等度タウ蓄積集団においては76週の間で7.53ヵ月の症状進行の遅延に相当するという。探索的評価項目であるアミロイドβプラーク除去(アミロイドPETで陰性の基準となる24.1センチロイド未満)を達成した患者の割合は、全体集団では52週で66.1%、76週で76.4%であり、軽度/中等度タウ蓄積集団では52週で71.3%、76週で80.1%であった。さらに、途中でケサンラからプラセボに投与を切り替えた集団においても、背景調整をしていない全体集団のプラセボ群との比較であるものの、76週にかけて継続してCDR-SBスコアの悪化の抑制が認められたという。 安全性については、有害事象の発現割合はケサンラ群で89.0%(759/853例)、プラセボ群で82.2%(718/874例)であった。アミロイド関連画像異常(ARIA)の発現に関して、ARIA関連事象の発現がケサンラ群で36.8%(314例)、プラセボ群で14.9%(130例)に認められた。その中でも、ARIA-E関連事象はケサンラ群で24.0%(205例)、プラセボ群で2.1%(18例)に、ARIA-H関連事象はケサンラ群で31.4%(268例)、プラセボ群で13.6%(119例)に認められた。ARIAの症状としては、頭痛や悪心、錯乱が多く報告されているという。 投与における注意点として、小森氏は「定期的なMRIの撮影や、点滴中や点滴後30分間の経過観察といった安全管理を行うこと」と語った。患者が自分らしく生きていけるための治療を目指して 最後に、古和氏は臨床試験結果からみたケサンラの臨床上の価値について語った。ケサンラの投与により1年で約66%の患者のアミロイドβプラークが除去されたことから、治療を早めに終えることで患者の負担を減らすことができ、さらに「アミロイドβプラークを除去すること」を医師と患者の共通の目標とできることは大きなメリットであるという。また、認知機能低下の進行を抑制できるということは、患者が現在の生活を少しでも長く続け、自分らしく過ごすことが可能になるという希望を与えることにつながるとされる。さらに同氏は、医療現場ではケサンラ投与患者のフォローアップ体制の整備が進んでいるとし、本薬剤について「現在の日本の医療体制であれば、十分に効果と安全性に考慮しながら投与できる薬だろう」と締めくくった。

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脳卒中後の治療で最善の血栓溶解薬とは?

 脳梗塞患者に対する血栓溶解薬のテネクテプラーゼ(TNK)の適応外使用は、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)のアルテプラーゼ(以下、TPA)による治療よりもわずかに効果的である可能性があるとするシステマティックレビューとメタアナリシスの結果が発表された。TNKによる治療の方が、TPAによる治療よりも、脳梗塞の発症から3カ月後に患者が修正版ランキンスケール(modified Rankin Scale;mRS)で症状がない(0点)か、症状があっても明らかな障害はない(1点)に分類される可能性の高いことが示されたという。アテネ国立カポディストリィアコ大学(ギリシャ)神経学分野教授のGeorgios Tsivgoulis氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に10月16日掲載された。 TNKは、脳梗塞の治療薬としてヨーロッパでは承認されているが、米国では未承認。現時点での欧州脳卒中機構(ESO)の緊急推奨では、非劣性を示したメタアナリシスの結果に基づき、発症から4.5時間未満の脳梗塞に対する治療では、TPAの代わりにTNK0.25mg/kgを使用しても良いとしている。これらのガイドラインの発表以降、さらに4件のランダム化比較試験(RCT)が実施され、追加の知見が得られている。 今回の研究では、現時点で入手可能な11件のRCTの結果を用いてシステマティックレビューとメタアナリシスを実施し、発症後4.5時間以内の脳梗塞の治療におけるTNK0.25mg/kgの有効性と安全性をTPAとの比較で検討した。これらのRCTには、TNKにより治療を受けた患者3,788人と、TPAによる治療を受けた患者3,757人が含まれていた。主要評価項目は、脳梗塞から3カ月後の「優れた機能的アウトカム」(mRSスコアが0〜1点)、副次評価項目は、脳梗塞から3カ月後の「良好な機能的アウトカム」(mRSスコアが0〜2点;2点=軽度の障害)、障害の軽減(mRSスコアが1点以上減少)、症候性頭蓋内出血、および死亡であった。 その結果、TNKによる治療を受けた群では、TPAによる治療を受けた群と比べて「優れた機能的アウトカム」を達成する可能性が5%高く(リスク比〔RR〕1.05、95%信頼区間〔CI〕1.01〜1.10、P=0.012)、障害が軽減している可能性も高い(共通オッズ比1.10、95%CI 1.01〜1.19、P=0.034)ことが示された。しかし、「良好な機能的アウトカム」を達成する可能性については、両群間で同等であった(RR 1.03、95%CI 0.99〜1.07、P=0.142)。また、症候性頭蓋内出血(同1.12、0.83〜1.53、P=0.456)、および死亡(同0.97、0.82〜1.15、P=0.727)のリスクについても有意差は認められなかった。 Tsivgoulis氏は、「われわれのメタアナリシスからは、TNKとTPAの両薬剤の安全性は同等で、脳卒中後の良好な回復の可能性を高めるが、TNKは、優れた回復をもたらす効果と障害軽減効果においては、TPAよりも優れている可能性の高いことが明らかになった」と述べている。その上で、「この結果は、脳梗塞患者の治療には、TPAよりもTNKを使用するべきだという主張を裏付ける結果だ」と話している。

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せん妄で認知症リスク5倍~日本の入院患者26万例のデータ

 せん妄は、高齢者、とくに高齢入院患者の意識障害に影響を及ぼすことが多い。近年、せん妄歴と認知症リスク上昇との関連を報告したエビデンスが増加している。しかし、多くの研究は、主に患者数の少ない術後およびICU患者に焦点が当てられており、範囲が限定されているため、適応範囲が広いとはいえない。大阪医科薬科大学の南 博也氏らは、入院患者全体を対象に、せん妄の発生率およびその後の認知症発症リスクを調査した。さらに、入院中のせん妄発現とその後の認知症発症との相関も調査した。Frontiers in Psychiatry誌2024年9月13日号の報告。 大阪医科薬科大学病院の患者26万1,123例を含む10年間の電子カルテデータセットを用いて、レトロスペクティブコホート分析を実施した。主な分析は、2022年10月〜2023年1月に行った。主要アウトカムは、抗認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)の処方により定義した認知症の発症とした。 主な結果は以下のとおり。・1万781例が適格基準を満たした。・認知症発症までの中央値は、せん妄歴のない患者で972.5日、せん妄歴を有する患者で592.5日であり、明らかに短かった。・せん妄発生後の認知症発症のハザード比は5.29(95%信頼区間:1.35〜20.75)であった。 著者らは「本結果は、入院中のせん妄予防の重要性とせん妄発生患者の認知機能低下に対するモニタリングおよび介入の重要性を強調している」としている。

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患者数が5年で5倍!心不全診療で取りこぼせない疾患とは/日本心臓病学会

 心アミロイドーシスは、もはや希少疾患ではないのかもしれない―。9月27~29日、仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会のシンポジウム「心臓アミロイドーシス診療Up to date」において、本疾患の歴史や病理診断、病態~治療に関する現況や最新情報が報告され、これまでの心アミロイドーシスに対する意識を払拭すべき現状が浮き彫りとなった。心不全診療、心アミロイドーシスの除外診断は落とせない 心アミロイドーシスは全身性アミロイドーシスの一症状で、心臓の間質にアミロイド蛋白が沈着し、形態的・機能的異常をきたす進行性かつ予後不良の疾患である。アントニオ猪木氏が闘った病としても世間を賑わしたが、他方で医学界においても見過ごすことができない疾患として、今、注目を浴びている。というのは、心アミロイドーシスが心不全のなかでも治療方法が確立していないHFpEFの原因疾患の1つであること、診断方法や治療薬の進歩により診断件数が直近5年で約5倍にまで急増していることなどに端を発する。 ほんの10年前までは診断に心内膜心筋生検を要し、遺伝性では肝移植を治療法とするなどの高いハードルがあったが、『2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン』の発刊により、心臓99mTcピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)を用いた非侵襲的な病型診断ができるようになり、さらには2019年に入りタファミジス(商品名:ビンダケルCap80mg、ビンマックCap61mg[2022年承認])にATTRアミロイドーシス(遺伝性[ATTRv]および野生型[ATTRwt])が適応追加されたことで状況が一変。現在、国内のATTRアミロイドーシスを基礎とした心不全患者は「5万人に上る」と田原 宣広氏(久留米大学心臓・血管内科循環器病センター 教授)は説明した。診断時に留意する点 心アミロイドーシスは免疫グロブリン性のAL(amyloid light chain)とトランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTR(ATTRvとATTRwt)で98%以上を占め、原因不明の心不全や心肥大、大動脈弁狭窄症、そして強い伝導障害のある患者をみた際に鑑別したい疾患である。 病理医の立場から解説した内木 宏延氏(福井大学分子病理学 教授)は、確定診断を下す際の注意点として、骨シンチグラフィの普及により診断精度が向上したものの、日本では病理診断が必須であることを言及しており、「生検が必要な場合には、アミロイドが蓄積している皮下脂肪深部の細胞を採ることが大切で、その目安は親指の第一関節くらいの深さ」と説明した。 続いて診断時のポイントを解説した久保 亨氏(高知大学医学部老年病・循環器内科 病院准教授)は「心臓外症状に注目してほしい」と強調。病型を推察する際の目安として以下の所見を踏まえて診断を進めていくとともに、「AL、ATTRそれぞれを想定した心臓外症状としてみることが重要」と説明した。<とくにチェックすべき徴候・身体所見>・手根管症候群(とくに両側)・脊柱管狭窄・末梢神経障害・巨舌・自律神経障害・shoulder pain sign・蛋白尿などの腎障害・下血などの消化器症状 このほかに心電図検査や心エコーにてapical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)が認められ、心アミロイドーシス疑いが強まった時点でALかATTRかを判断するが、ALは骨シンチグラフィで偽陽性を示す場合があるため、「予後不良で準緊急対応が必要とされるALの除外は早急に行わなければならない。そこで、われわれはM蛋白の評価と骨シンチグラフィを同時に実施している」とし、「Definite診断(組織生検でのTTR同定が必要[タファミジス使用には必要])が付いていなくても、Probable診断(M蛋白の除外+骨シンチグラフィ陽性)の段階で申請可能であり、2024年度から書式が病型ごとに分かれたため、ATTRのprobable診断が得られれば、組織所見を待たずに遺伝学的検査を実施するほうがスピーディに進められる」と特定疾患申請方法についても説明した。治療薬の現状と将来展望 トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の治療には、心不全治療とアミロイド沈着に対し疾患修飾薬による治療が必要となる。心不全治療について、南澤 匡俊氏(信州大学循環器内科)は「SGLT2阻害薬によりイベント抑制のみならずeGFRやNT-proBNPの増悪抑制効果1)が得られる」と述べ、心機能予防については「DELIVER試験のように左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)への心保護効果に対する薬物療法の検証が活発になってきている。心アミロイドーシスで心機能低下がない場合でも将来を見据えた予防的治療を行い、心保護を行うことが推奨される」と説明した。 疾患修飾薬については、アミロイドの原因となる血中TTRの90%以上が肝臓で産生されるため、治療標的として(1)siRNA製剤による肝臓でのTTR産生抑制、(2)TTR四量体の安定化、(3)アミロイド沈着に対する除去が挙げられる。現在、ATTRv神経症には(1)と(2)が、ATTR-CMには(2)が保険収載されており、(3)は治験段階である。遠藤 仁氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)はATTR-CMの治療介入のタイミングについて「NYHAIII症例へはなるべく早期に安定化薬であるタファミジスを処方したほうがイベント改善効果は得られる。一方、心不全がないATTR-CMであっても早晩に心不全を発症するため、タファミジス投与により予後の改善が期待できる」と説明、さらに高齢ATTR-CM(>80歳)についてのタファミジスの有効性を示した2)。このほか、新たなTTR量体安定化薬acoramidisやsiRNA製剤ブトリシランについての有効性・安全性を紹介し、「ATTR-CMの治療薬として、TTR安定化薬やsiRNA製剤が広く使われていくだろう」と述べ、肝細胞の遺伝子編集、アミロイド線維を除去する抗体医薬NI006などの将来的な治療についても触れた。他科からのコンサルト需要が増加傾向に 近年、整形外科医から心アミロイドーシスを疑う手根管症候群患者の病理診断の依頼件数が増えており、「その数は心筋検査に匹敵するくらい」と内木氏は驚いていた。このように他科にも心アミロイドーシスを疑う視点が浸透しつつある今、循環器医への心アミロイドーシス診療に対するコンサルトが今後ますます増えていくと予想される。

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お茶やベリー類など、フラボノイド摂取が認知症リスクを低下

 ベリー類、お茶(紅茶・緑茶)、赤ワイン、ダークチョコレートなどの食品や飲料に含まれるフラボノイドの摂取量と、認知症リスクの関連について、英国・クイーンズ大学ベルファスト校のAmy Jennings氏らが調査を実施した。本研究は英国の約12万人を対象に実施され、フラボノイドが豊富な食品を日常的に摂取することで、認知症リスクを大幅に低減することが示唆された。JAMA Network Open誌2024年9月18日号掲載の報告。 本研究は、2006~10年のUKバイオバンクのデータを使用し、40~70歳の12万1,986例が対象となった。追跡期間は平均9.2年(標準偏差[SD] 1.5)で、2023年9月にデータ解析が行われた。参加者の食事データについて、206種類の食品と32種類の飲料の消費頻度が、食事評価アンケートを用いて記録され、合計5回の評価が行われた。食事評価データを2回以上有し、食事評価期間に認知症と診断されていない参加者が選出された。 食事評価データから、フラボノイド摂取量が算出された。主なフラボノイド供給源は、お茶、赤ワイン、ベリー類、リンゴ、ブドウ、柑橘類、ピーマン、タマネギ、ダークチョコレートだった。フラボダイエットスコアは、フラボノイドを豊富に含む食品の1日当たりの摂取量(サービング数)とした。認知症リスクとフラボノイド摂取の関連を評価するため、Cox比例ハザード回帰モデルが使用された。 主な結果は以下のとおり。・参加者12万1,986例の平均年齢は56.1(SD 7.8)歳、女性55.6%。中央値9.4年(IQR 9.3~9.8)の追跡期間中に、882例の新たな認知症発症が確認された。・1日当たりのフラボダイエットスコアの中央値は4.3(IQR 2.8~5.9)で、そのうち中央値2.7(IQR 1.0~4.0)はお茶からだった。・参加者をフラボダイエットスコアで5段階に分け、最も高い群(中央値7.3[IQR 0.0~8.1])と、最も低い群(中央値1.4[IQR 0.8~1.9])を比較した。最も高い群のほうが認知症リスクの低下が認められた。調整ハザード比(aHR):0.72、95%信頼区間[CI]:0.57~0.89、傾向のp=0.03。・最も高い群において、お茶、赤ワイン、ベリー類の中央値摂取量は、それぞれ1日当たりお茶5(IQR 4.0~5.6)、赤ワイン0(0.0~1.0)、ベリー類0.5(0.0~1.0)で、これらの摂取量を満たしていない群と比較して、認知症リスクの低下が認められた。aHR:0.62、95%CI:0.46~0.84。・以下のサブグループ解析でも、フラボダイエットスコアが最も高い群は、最も低い群と比較して、いずれも認知症リスクの低下が認められた。 遺伝的に認知症リスクが高い参加者において、aHR:0.57、95%CI:0.42~0.78。 うつ症状がある参加者において、aHR:0.52、95%CI:0.33~0.81。 高血圧のある参加者において、aHR:0.70、95%CI:0.52~0.94。 本結果により、フラボノイドを豊富に含む食事スコアが高いほど認知症リスクが低くなり、とくに、遺伝的リスクが高い人、うつ症状、高血圧症のある人でリスクの低下が顕著に認められた。お茶やベリー類などを日常の食事に取り入れることで、高リスク者でも認知症リスクが低下する可能性が示唆された。

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薬物乱用頭痛に対する薬物療法の比較〜ネットワークメタ解析

 薬物乱用頭痛の治療に対する予防薬の必要性については、議論の余地が残っている。中国・雲南大学のFanyi Kong氏らは、薬物乱用の改善を含む、薬物乱用頭痛の治療に利用可能な薬剤の相対的なベネフィットおよび安全性を評価するため、本研究を実施した。The Journal of Headache and Pain誌2024年10月7日号の報告。 薬物乱用頭痛に対するさまざまな薬剤の効果を比較するため、文献検索を通じて、ランダム化比較試験のシステマティックレビューを実施した。介入効果の比較をランク付けするため、ランダム効果ネットワークメタ解析を行った。アウトカムのベースラインからの改善には、治療反応率(頭痛頻度50%以上の減少)、急性薬物乱用の改善率、1ヵ月当たりの頭痛および急性期治療薬の減少を含めた。エビデンスの信頼性の評価には、Grading of Recommendations, Assessment, Development & Evaluation(GRADE)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした8,248件のうち、28件を分析対象に含めた。・トピラマートは、プラセボと比較し、治療反応率(オッズ比[OR]:4.93)、頭痛頻度(加重平均差[WMD]:−5.53)、急性期治療薬使用(WMD:−6.95)に有益であり、忍容性、有害事象の増加などの安全性(OR:0.20)も良好であった。・フレマネズマブ(OR:3.46〜3.07)、ガルカネズマブ(OR:2.95)、A型ボツリヌス毒素(OR:2.57)は、治療反応率が高かった。・急性薬物乱用の改善は、eptinezumab(OR:2.75 〜2.64)、フレマネズマブ(OR:1.87〜1.57)、A型ボツリヌス毒素(OR:1.55)がプラセボよりも優れていた。・eptinezumab(OR:3.84〜3.70)、フレマネズマブ(OR:2.60〜2.49)、エレヌマブ140mg(OR:2.44)、A型ボツリヌス毒素(OR:2.16)は、エレヌマブ70mgよりも有効性が高く、安全性および忍容性に差は認められなかった。 著者らは「薬物乱用頭痛の治療反応率向上には、フレマネズマブ、ガルカネズマブ、eptinezumabが有望であった。急性薬物乱用の改善には、eptinezumabが最も有効で、次いでフレマネズマブであった。A型ボツリヌス毒素は、治療反応率を中程度で改善し、急性薬物乱用の改善に小さな効果が認められた」と結論付けている。

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難聴は認知機能の低下につながる?

 フランスの大規模研究において、成人の聴覚障害(難聴)は認知症と関連することが明らかにされた。論文の筆頭著者であるパリシテ大学(フランス)のBaptiste Grenier氏は、「認知機能低下がもたらす大きな負担と、認知機能低下を治癒する治療法がないことを考え合わせると、修正可能なリスク因子を特定することが重要だ」との考えを示している。この研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 この研究でGrenier氏らは、2012年1月1日から2020年12月31日の間に募集されたCONSTANCESコホート研究参加者6万2,072人(45〜69歳、平均年齢57.4歳、女性52%)のデータの縦断的解析を行い、客観的に測定された難聴と認知機能との関連を評価した。これらの研究参加者の認知機能は、試験登録時に5種類の検査から成る認知機能評価バッテリーにより評価されていた。主成分分析により算出された認知機能スコアが分布の25パーセンタイル以下である場合を認知機能障害があると判断された。 参加者の49%は正常な聴力であったが、38%(2万3,768人)は軽度難聴、10%(6,012人)は日常生活に支障を来たす難聴(以下、重度難聴)があるが補聴器は未使用、3%(1,668人)は補聴器を使用していた。認知機能障害が認められた参加者の割合は、正常な聴力で16%、軽度難聴で27%、重度難聴で37%であり、難聴の重症度が上がるほど高かった。多変量解析からは、軽度難聴と重度難聴は認知機能障害のリスク増加と関連することが示され、オッズ比は、それぞれ1.10(95%信頼区間1.05〜1.15)と1.24(同1.16〜1.33)であった。重度難聴の人の間では、補聴器の使用の有無により、認知機能障害のリスクに有意差は認められなかった。 感度分析では、うつ病の有無に関わりなく難聴と認知機能障害との間に関連が認められたものの、うつ病がある場合での関連はより強いことが示された。また、補聴器の使用と認知機能障害の関連はうつ病のある参加者においてのみ見られた(オッズ比0.62、95%信頼区間0.44〜0.88)。このことから研究グループは、補聴器はうつ病のある重度難聴患者の認知機能障害リスクを軽減する可能性があるとの考えを示している。 Grenier氏らは、「難聴の人は社会的に孤立するだけでなく、聴覚入力のない期間が長いために思考力が低下する可能性がある」との考えを示している。それでも同氏らは、補聴器の使用と認知機能低下との関連については統一見解が得られておらず、さらなる研究が必要だとして、「重度難聴患者に対する補聴器は、認知機能の低下を緩和するためではなく、生活の質(QOL)に対する潜在的な利益に基づいて処方されるべきだ」と主張している。

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日本人アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール治療

 香川大学の中村 祐氏らは、日本人アルツハイマー病患者におけるアジテーション(攻撃的行動および発言、非攻撃的行動の亢進、焦燥を伴う言動等)の治療に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価した。Alzheimer's & Dementia誌オンライン版2024年10月6日号の報告。 本研究は、第II/III相多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験として実施された。アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する患者は、ブレクスピプラゾール1mg/日群または2mg/日群、プラセボ群に3:4:4でランダムに割り付けられ、10週間投与を行った。主要エンドポイントは、ベースラインから10週目までのCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・CMAI合計スコアの変化は、ブレクスピプラゾール1mg/日群および2mg/日群において、プラセボ群と比較し、統計学的に有意な改善が認められた。【ブレクスピプラゾール2mg/日群】最小二乗平均差:−7.2、95%信頼区間[CI]:−10.0〜−4.3、p<0.0001【ブレクスピプラゾール1mg/日群】最小二乗平均差:−3.7、95%CI:−6.8〜−0.7、p=0.0175・治療関連有害事象の発生率は、ブレクスピプラゾール1mg/日群で76.8%、2mg/日群で84.6%、プラセボ群で73.8%であり、ブレクスピプラゾールの忍容性は、おおむね良好であった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する日本人患者に対するブレクスピプラゾール1mg/日および2mg/日による10日間治療は、有効性および忍容性が良好であることが確認された」と結論付けている。

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2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2iの影響はデュラグルチドと同等

 高齢2型糖尿病患者の認知症リスクに対するSGLT2阻害薬(SGLT2i)の影響は、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のデュラグルチドと同程度ではないかとする研究結果が報告された。推定リスク差の95%信頼区間は-2.45~0.63パーセントポイントだという。成均館大学(韓国)薬学部のBin Hong氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に8月27日掲載された。 SGLT2iとGLP-1RAはいずれも、2型糖尿病に対して血糖降下以外の多面的な作用のあることが知られており、神経保護作用も有する可能性が報告されている。ただし、認知症予防という点での評価は定まっておらず、これら両剤の有効性を比較し得るデータは限られており、臨床上の疑問点として残されている。これを背景としてHong氏らは、リアルワールドデータを用いてランダム化比較試験を模倣する、ターゲット試験エミュレーション研究を行い、SGLT2iとGLP-1RAであるデュラグルチドの認知症リスクを比較検討した。 この研究では、韓国国民健康保険公団から入手した2010~2022年の同国における医療データを用いて、SGLT2iまたはデュラグルチドで治療が開始された60歳以上の2型糖尿病患者を抽出。主要評価項目を、臨床データに基づき推定される認知症とし、その発症は認知症の診断の記録から1年前と仮定した。交絡因子を調整後に、処方開始から5年間のリスク比とリスク差を求めた。 傾向スコアにより背景因子をマッチさせた結果、SGLT2iで治療が開始されていた1万2,489人(ダパグリフロジン51.9%、エンパグリフロジン48.1%)と、デュラグルチドで治療が開始されていた1,075人が解析対象となった。中央値4.4年の追跡期間中に、主要評価項目イベントはSGLT2i群で69人、デュラグルチド群で43人に発生。推定リスク差は-0.91パーセントポイント(95%信頼区間-2.45~0.63)、推定リスク比は0.81(同0.56~1.16)と計算され、いずれも非有意だった。 この結果に基づき著者らは、「われわれのデータから、SGLT2iとデュラグルチドの2型糖尿病患者の認知症リスクに対する影響はほとんど差がないことが分かった」と結論付けている。ただし、本研究の限界点として、HbA1cや糖尿病の罹病期間が調整されておらず、そのほかにも残余交絡が存在する可能性、および、GLP-1RAについては比較的初期に登場したデュラグルチドのみを評価対象としたことなどを挙げている。また、「われわれの研究結果は既報研究と一致するものではあるが、より新しいGLP-1RAを含めた解釈の一般化が可能か否かは不明であり、さらなる研究が求められる」と付け加えている。

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高齢者の転倒は認知症リスクを高める

 高齢者での転倒は、転倒後1年以内に認知症の診断を受けるリスクの上昇と関連することが、高齢の外傷患者200万人以上を対象にした後ろ向きコホート研究により明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院外科・公衆衛生センター副所長のMolly Jarman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に9月30日掲載された。 研究グループは、転倒は高齢者が外傷センターに入院する最も一般的な理由の一つであり、高齢者での主な外傷の原因だと指摘する。近年の研究により、アルツハイマー病および関連認知症(ADRD)の前段階とされる軽度認知障害の高齢者において転倒リスクが増加しているとするエビデンスが増えつつある。しかし、転倒を経験した高齢者において認知症リスクが高まるのかどうかについては明らかになっていない。 この点を調べるために、Jarman氏らは、2014年から2015年の間に外傷を負った66歳以上の高齢者245万3,655人(女性62.1%、平均年齢78.1歳)のメディケア請求データと、1年以上経過した後の追跡データの調査を行った。 外傷の原因としては、50.1%を転倒が占めていた。解析の結果、転倒が原因で外傷を負った高齢者では、それ以外の原因により外傷を負った高齢者と比べて、転倒から1年以内にADRDの診断を受ける者が有意に多いことが明らかになった(10.6%対6.1%、P<0.001)。死亡の競合リスクを考慮したCox比例ハザードモデルによる分析では、患者の人口統計学的属性や併存疾患、外傷の重症度などの調整後も、転倒を経験した高齢者では認知症の診断を受けるリスクが21%有意に増加することが示された(ハザード比1.21、95%信頼区間1.20〜1.21、P<0 .001)。 このような結果を受けてJarman氏は、「転倒の有無を認知機能低下の前兆としてとらえ、さらなる認知機能検査が必要な人を特定できる可能性がある」との見方を示す。また研究グループは、転倒後に治療のために病院に行く高齢者に対し、救急外来や病院で認知機能検査を受けることを推奨している。この点について研究グループは、「検査を受けることで認知機能低下が早期に発見され、必要な治療をより早期に受けられるようになる可能性がある」と補足している。 論文の筆頭著者であり、自身も転倒による入院患者を頻繁に診察しているというブリガム・アンド・ウイメンズ病院のAlexander Ordoobadi氏は、「われわれは、患者の外傷を治療し、リハビリテーションを提供するが、転倒と認知機能低下の関連を示唆するエビデンスが増えているにもかかわらず、転倒につながる根本的なリスク因子を見落としがちだ」と語る。 Ordoobadi氏は、「理想的には、転倒を経験した高齢者は、思考力や長期的な回復を監視できる主治医または老年病専門医によるフォローアップを受けるべきだ。しかし、多くの高齢者は主治医を持たず、老年病専門医へのアクセスもないのが現実だ」と指摘。その上で、「われわれの研究は、高齢者に早期に介入する機会と、総合的なケアを提供できる臨床医を増やす必要性を浮き彫りにしている」と述べている。

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心筋梗塞の血栓溶解療法の時代を思い出す(解説:後藤信哉氏)

 1988年のLancet誌に掲載されたSecond International Study of Infarct Survival (ISIS-2) trialは、心筋梗塞の診療に劇的インパクトをもたらした。抗血小板薬アスピリン、線溶薬ストレプトキナーゼはともに急性心筋梗塞の院内死亡率を25%程度減少させ、両者の併用により死亡率はほぼ半減した。アスピリンはそのまま世界の標準治療になった。ストレプトキナーゼは重篤な出血合併症を増加させたため、出血リスクの少ない薬剤開発が模索された。ストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。体内のフィブリンに結合し、プラスミン産生効果を発揮するt-PAに期待が集まった。フィブリン選択的、1回静注可能など多くの製剤が開発された。しかし、急性心筋梗塞では、薬剤と並行して進歩したカテーテル治療の普及により血栓溶解療法は廃れた。 脳梗塞領域は、1990年代の循環器内科の歴史をたどっている。t-PAフィブリン選択的に作用する線溶薬と期待されていたが、持続静注が必要であった。本研究では1回静注可能なtenecteplaseの非劣性が示された。脳梗塞急性期の再灌流療法により神経学的予後が改善されるインパクトは大きい。線溶薬としては早期に作用するフィブリン選択的薬剤なども開発されるかもしれない。しかし、心筋梗塞と同様に、カテーテル治療も普及するかもしれない。 脳梗塞治療が心筋梗塞治療を後追いしているように見え、今後の治療法の革新が期待される。

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migraine(片頭痛)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第14回

言葉の由来「片頭痛」の英名は“migraine”(マイグレイン)です。元々はギリシャ語の“hemikrania”(半頭痛)から派生した言葉だといいます。この言葉は、“hemi”(半分)と“kranion”(頭蓋)という言葉に由来しており、片側の頭部に強い痛みが集中することを意味します。これが後にフランス語に翻訳されて“migraine”と記述され、現代まで残っているとされます。片頭痛は、古代からさまざまな形で記録されてきましたが、その原因は長らく謎に包まれていました。古代ギリシャの時代には、頭痛は「ケレス」と呼ばれる悪霊によって引き起こされると信じられていたそうです。また、アリストテレスは、「頭が痛みにさらされるのは、胃から発生する悪しき液体が脳を乱すためだ」と述べていたといいます。現代でこそ、より科学的にそのメカニズムが解明されてきていますが、そのような時代から言葉が引き継がれていると思うと、感慨深いものがあります。併せて覚えよう! 周辺単語鎮痛薬analgesic閃輝暗点auraトリプタン療法triptan therapy光過敏photophobia音過敏phonophobiaこの病気、英語で説明できますか?Migraine is a neurological condition characterized by recurrent episodes of moderate to severe headaches often accompanied by nausea, sensitivity to light, and sound. The headache typically affects one side of the head and can last from hours to days.講師紹介

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血管性認知症に対する薬物療法〜ネットワークメタ解析

 血管性認知症は、代表的な認知症の1つであり、負担やコストが大きい。臨床医にとって、薬物療法が第1選択治療となることが多いが、利用可能な複数の治療オプションを比較した情報は、十分ではない。中国・四川大学のChun Dang氏らは、血管性認知症に対する各種薬物療法の有用性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Pharmacology誌2024年8月22日号の報告。 血管性認知症成人患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)を、PubMed、Cochrane Library、EMBASE、Web of Science、OPENGREY、ClinicalTrials.gov、Wanfang Data、CNKIよりシステマティックに検索し、ネットワークメタ解析を実施した。主要アウトカムには、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア、ADLスコア、副作用発生率の変化を含めた。介入戦略の有効性および安全性は、すべてRソフトウェアで生成されたフォレストプロット、累積順位曲線下面積(SUCRA)、ファンネルプロットを使用して包括的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・21種類の抗血管性認知症治療薬とプラセボまたは未治療を比較した194件のRCTを分析に含めた。・MMSEスコアにおいて最も効果的な5つの薬剤は、butylphthalide、huperzine A、エダラボン、リバスチグミン、メマンチンであった。・ADLスコアにおいて有効であった上位5つの薬剤は、huperzine A、butylphthalide、tianzhi granule、ニセルゴリン、idebenoneであった。・薬物有害反応の発生率に関して、良好な安全性プロファイルを示した薬剤は、co-dergocrine mesylate、tongxinluo capsule、butylphthalide、ピラセタム、oxiracetamであった。 著者らは「本結果は、血管性認知症治療に関連する相対的なベネフィットとリスクに対する理解を深め、臨床上の意思決定において参考になるであろう」と結論付けている。

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呼吸機能低下が認知機能低下に関連―SONIC研究

 スパイロメトリーという機器による簡便な呼吸機能検査の結果が、高齢者の認知機能と関連のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の橘由香氏、神出計氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月20日掲載された。著者らは、高齢者対象の保健指導に呼吸機能を鍛えるプログラムの追加を検討する必要性があるとしている。 認知機能低下の主要な原因は加齢だが、喫煙や大量飲酒、糖尿病や高血圧といった生活習慣病など、介入可能なリスク因子も存在する。また、潜在的なリスク因子の一つとして近年、呼吸機能の低下が該当する可能性が指摘されている。ただし、呼吸機能の簡便な検査法であるスパイロメトリーで評価できる範囲の指標が、高齢者の認知機能と関連しているのかという点は明らかになっていない。これを背景として橘氏らは、兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、73±1歳の419人(73歳群)と83±1歳の348人(83歳群)という二つの年齢層の集団。各群ともに約半数が女性であり(73歳群は50.1%、83歳群は51.4%)、認知症と診断されている人は除外されている。認知機能は、教育歴の影響が調整される尺度であるモントリオール認知機能尺度の日本語版(MoCA-J)を用いて評価。MoCA-Jは30点満点で、スコアが高いほど認知機能が良好であると判定する。 解析ではまず、スパイロメトリーによる最大呼気流量(PEF)の実測値と、年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する比(%PEF)から、気流制限の重症度を4段階に分類。ステージ1は%PEFが80%以上、ステージ2は50~80%未満、ステージ3は30~50%未満、ステージ4は30%未満としてMoCA-Jスコアを比較した。すると83歳群では、気流制限の程度が強いほどMoCA-Jスコアが低いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.002)。73歳群でもその傾向があったが有意ではなかった。 次に、MoCA-Jが25点以下で定義した「軽度認知障害(MCI)」を従属変数とし、性別、喫煙歴、飲酒習慣、握力低値(男性26kg未満、女性18kg未満)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、冠動脈心疾患、脳卒中、および気流制限(FEV1/FVCが70%未満)を独立変数としてロジスティック回帰分析を施行。なお、握力低値を独立変数に含めた理由は、呼吸には筋力が必要であり、握力が呼吸機能と独立して関連していることが報告されているためである。 解析の結果、83歳群では気流制限が、唯一の独立した正の関連因子として抽出された(オッズ比〔OR〕3.44〔95%信頼区間1.141~10.340〕)。反対に飲酒習慣は、MCIに対する唯一の保護的因子だった(OR0.37〔同0.189~0.734〕)。73歳群では性別(女性)が唯一の独立した正の関連因子であり(OR2.45〔同1.290~4.643〕)、保護的因子は特定されなかった。 続いて、年齢層と性別とで4群に分けた上で、それぞれの群におけるMCIに独立した関連因子を検討。その際、独立変数として気流制限以外は前記と同様に設定し、呼吸機能に関しては気流制限の有無に変えて、%VC、FEV1/FVC、%PEFという三つの指標を個別に加えて解析した。その結果、4群全てにおいて、%PEFが高いことがMCIのオッズ比低下と関連していた(男性は73歳群と83歳群の両群ともにOR0.98、女性は両群ともに0.99)。%PEF以外では、83歳群の女性において、%VC(年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する肺活量の比)のみ、有意な関連因子だった(OR0.98)。 著者らは、「われわれの研究結果は、%PEFの低下が地域在住高齢者の認知機能低下に関連していることを示唆している。また、喫煙歴はこの関連に影響を及ぼしていなかった。よって喫煙習慣の有無にかかわらず、高齢者の認知機能維持を目的とした保健指導プログラムに、呼吸機能訓練などを組み込むべきではないか」と総括。さらに、本研究ではスパイロメトリーを用いたが、「%PEFのみであれば患者自身が日常生活下で使用可能なピークフローメーターでも測定できる」とし、「%PEFの自己測定を、高齢者の呼吸機能の自己管理に加え、認知機能低下抑止のための行動変容にもつなげられるのではないか」とも付け加えている。

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大田原症候群〔OS:Ohtahara syndrome〕

1 疾患概要■ 定義大田原症候群は、1976年に大田原俊輔らが“特異な年齢依存性てんかん性脳症:The Early-Infantile Epileptic Encephalopathy with Suppression-Burst”として日本小児神経学研究会(現 日本小児神経学会)機関誌に報告し1)、2001年に国際抗てんかん連盟(ILAE)によって公式に“Ohtahara syndrome”と称された。乳児早期(多くは新生児期)に発症し、頻回の強直発作もしくはてんかん性スパズムとサプレッション・バーストとよばれる脳波所見を特徴とする。■ 疫学発生頻度は、ウエスト症候群の約1/40以下と推測され、国内の患者数は数百人と考えられる。■ 病因遺伝素因が最も多く、次いで脳形成異常が多い(表)。2007年に介在ニューロンの発生に関与するARX遺伝子の変異が2家系で同定され、その後、STXBP1、KCNQ2、SCN2A、GNAO1など多数の原因遺伝子が同定されている。脳形成異常では、片側巨脳症や限局性皮質異形成、孔脳症などが多い。ミオクロニー発作主体だが、サプレッション・バーストの脳波所見が共通する早期ミオクロニー脳症は、非ケトン性高グリシン血症、ミトコンドリア異常症、ビタミンB6依存性脳症などの代謝障害が多い(後述の分類の項を参照)。表 大田原症候群の病因画像を拡大する■ 症状新生児期にてんかん発作を来し、その後発達遅滞が現れる。てんかん発作は強直発作とてんかん性スパズムが特徴である。てんかん性スパズムは、群発(シリーズ形成)よりも単発が多い。発作は1日に数〜数十回、時に数百回と頻回で、睡眠・覚醒を問わず認められる。焦点性運動発作が1/3から約半数に認められる。ミオクロニー発作はまれであり、早期ミオクロニー脳症との鑑別点になっている。しかし、同一症例でも経過中にスパズム主体の時期とミオクローヌス主体の時期が前後することもあり、時期によって大田原症候群と早期ミオクロニー脳症の併発もあり得る。てんかん発作の他に、知的障害、運動障害を併発することが多い。また、基礎疾患による併発症状を示す。■ 分類2022年にILAEによるてんかん症候群の分類が大幅に改訂された。新生児期にサプレッション・バーストを示し、ミオクロニー発作を主体とする早期ミオクロニー脳症と強直発作を主体とする大田原症候群が統合され、「早期乳児発達性てんかん性脳症:early infantile developmental and epileptic encephalopathy(EIDEE)」と呼ばれる2)。■ 予後てんかん発作は難治であり、乳児期にはてんかん性スパズムの群発傾向が強くなり、脳波はヒプスアリスミアに変容し、約3/4の症例はウエスト症候群(現在の呼称は「乳児てんかん性スパズム症候群」)に移行する。てんかん発作が抑制された場合でも、知的障害を併発することが多く、その程度も一般に重度である。また、自閉症や多動など併発症も多い。重症例では運動障害を呈し、全介助が必要になる。少数ながら正常発達例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査で最も重要なのは、「サプレッション・バースト」と呼ばれる発作間欠期の脳波パターンである(図)。数秒間のサプレッション(平坦)相と数秒間の150~300μVの不規則な高振幅徐波に棘波が混入するバースト(群発)相が交互に出現する。通常は広汎性であるが、脳梁欠損を伴うアイカルディ症候群などでは左右で非同期性に認められる。ヒプスアリスミアへの移行過程では、平坦相にθ波やδ波が混入し、持続時間が短くなり、ヒプスアリスミアの脱同期desynchronizationと区別が難しくなる。原因検索として頭部MRIと代謝スクリーニングが必須である。代謝異常の鑑別として、ミトコンドリア異常に対する髄液の乳酸/ピルビン酸とグリシン脳症に対する髄液/血漿グリシン濃度比を確認する。MRIと代謝に異常がなければ、遺伝子検査(国内では厚労科研の研究班で実施)が望ましい。図 大田原症候群でみられる脳波のサプレッション・バーストパターン画像を拡大する双極誘導。9秒間の平坦なサプレッション相の前後に3秒間の棘波や徐波のてんかん様放電が群発するバースト相が認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では特定の治療薬はないが、症例によってビタミンB6、フェノバール大量療法、バルプロ酸Na、ケトン食が有効である。片側巨脳症や限局性皮質異形成は、早期に外科手術を考慮する。KCNQ2変異による大田原症候群では、大田原症候群の治療には一般に用いられないカルバマゼピンやフェニトインなどNaチャネルの阻害作用を有する薬剤がてんかん発作の抑制に有効である3)。4 今後の展望原因によって、分子標的治療薬や遺伝子治療、アンチセンスオリゴヌクレオチド治療の開発が行われている4)。5 主たる診療科小児科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 大田原症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病 大田原症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚労科研難治性疾患政策研究事業「稀少てんかんの診療指針と包括医療の研究」班 てんかんの難病ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)1)大田原俊輔ほか. 脳と発達. 1976;8:270-280.2)Zuberi SM, et al. Epilepsia. 2022;63:1349-1397.3)Kato M, et al. Epilepsia. 2013;54:1282-1287.4)Kato M, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2022;9:181-192.公開履歴初回2024年10月24日

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降圧薬を減らすと認知機能の低下が抑制される!?

 中年期の高血圧は認知機能低下のリスクであるという報告があるが1)、日常生活動作(ADL)が低下している高齢者では血圧が高いほうが認知機能の低下が小さいという報告もある2)。このように、高齢者における降圧薬と認知機能の関係は複雑である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のBocheng Jing氏らの研究グループは、長期介護施設に入居する65歳以上を対象として、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、降圧薬の減薬により認知機能の低下が抑制されることが示唆された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年9月23日号で報告された。 研究グループは、2006~19年に長期介護施設へ入所した米国の退役軍人1万2,644例を対象に、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。本研究の適格基準は65歳以上、12週間以上の入所などとし、血圧160/90mmHg超、心不全の既往、入所時に降圧薬の服用なしのいずれかに該当する患者は除外した。対象を降圧薬の使用状況に基づき、減薬群(前週と比較して使用薬剤数の減少または30%以上の用量減少が認められ、その状態が2週以上持続)、継続群に分類して最長2年間追跡した。主要評価項目は、Cognitive Function Scale(CFS、スコア範囲:1[正常]~4[重度障害])に基づく認知機能とした。 主な結果は以下のとおり。・対象1万2,644例(減薬群:1,290例、継続群1万1,354例)の平均年齢は77.7歳、男性の割合は97.4%(1万2,053例)であった。・追跡終了時に認知機能が低下(ベースライン時と比較してCFSスコアが悪化)していた割合は、継続群が12.1%であったのに対し、減薬群は10.8%であり、減薬群で有意な認知機能の低下抑制がみられた(調整オッズ比[aOR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78~0.99、p=0.04、per protocol解析)。・減薬群における認知機能の低下抑制は、認知症を有する集団でも認められた(aOR:0.84、95%CI:0.77~0.98、per protocol解析)。 本研究結果について、著者らは「長期介護施設に入所する高齢者における降圧薬の減薬は、認知機能の低下を抑制することが示唆された。高齢者の薬物療法を最適化することにより、認知機能を維持し、有害事象を最小限に抑えるためには、患者中心のアプローチが重要であることが強調された」とまとめた。

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