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カフェインは、コーヒー、紅茶、緑茶、コーラ、エナジードリンク、チョコレートなど多くの飲食物に含まれている、とても身近な食品成分です。しかし、カフェインには胎盤通過性と母乳移行性があることが知られていて、摂取により子供に重大な転機を招かないか不安に思われる方も多くいらっしゃいます。WHOのホームページを参照すると、300mg/日を超えるカフェインを摂取している妊婦に対しては、妊娠損失(流産、死産、子宮外妊娠、奇胎妊娠など)や低体重出生リスクを減らすため、摂取量を減らすことが推奨されています1)。同ページでいくつかそのエビデンスが紹介されていますが、その中にコクランのシステマティックレビューがあります2)。このレビューには、カフェイン摂取の有無が妊娠転帰に及ぼす影響を調べた2つのランダム化比較試験が組み入れられています。まず、妊娠20週未満の女性を、カフェイン入りインスタントコーヒーを1日当たり3杯以上(1杯当たりのカフェインは85~110mgと想定)飲む群(カフェイン群、568例)と、カフェイン非含有インスタントコーヒーを飲む群(デカフェ群、629例)に無作為に割り付け、カフェイン群では妊娠中期~後期にカフェイン摂取量を平均182mg/日に減らしています。その結果、平均出生体重はカフェイン群3,539g、デカフェ群3,519g(p=0.48)で、相対効果は20.0g(95%信頼区間[CI]:-48.68~88.68)と、出生児の体重へ有意な影響はないという結果でした。早産のアウトカムについて見てみると、カフェイン群4.2%(23/552例)、デカフェ群5.2%(31/601例)で、リスク比は0.81(95%CI:0.48~1.37)となっています。子宮内の胎児発育不全はカフェイン群4.5%(25/552例)、デカフェ群4.7%(28/598例)で、リスク比は0.97(95%CI:0.57~1.64)であり、いずれも300mg/日程度のカフェイン摂取では有意差はないという結果でした。カフェイン摂取量が100mg/日増えるごとに妊娠損失リスクが7%増一方で、高用量カフェインの摂取による児へのリスクを示唆する研究もあります。妊娠期における酒、タバコ、アルコール、カフェインなどの嗜好品摂取と児の致命的転機の関係について検討したシステマティックレビュー3)の中の、カフェインに関する5つの観察研究のメタ解析では、妊娠前のカフェイン摂取量が300mg/日(一般的なコーヒー500mL相当)超の群は、150mg/日未満の群と比較して、妊娠損失のリスク比が1.31(95%CI:1.08~1.58)でした。さらに高用量による観察研究がそれぞれ1件ずつ同レビューに入っており、リスク比はそれぞれ420mg/日超で6.11(95%CI:5.12~7.29)、900mg/日超で1.72(95%CI:1.00~2.96)でした。2016年に発表された妊娠中のカフェイン摂取について検討した14の研究(参加総数13万3,885例)を含むシステマティックレビュー4)でも、高用量のカフェイン摂取(350~699mg/日)で妊娠損失が増えています。まったくあるいはほとんどカフェインの摂取がない群に比べて、高用量摂取群では妊娠損失が40%増加(リスク比:1.4、95%CI:1.16~1.68)し、超高用量摂取群(700mg/日以上)では72%増加(リスク比:1.72、95%CI:1.40~2.13)していました。これは、カフェイン摂取量が100mg/日増えるごとに妊娠損失リスクが7%増えるという計算になります。カフェイン摂取量の推定が不正確だったり、リコールバイアスや発表バイアスが入っていたりする可能性はありますが、妊婦に対する調査での介入研究は倫理的な問題が生じやすいですし、方法論的に限界があるのはやむを得ないでしょう。いずれにしても妊娠中の高用量カフェイン摂取を踏みとどまらせるインパクトはあります。妊婦のカフェイン摂取目安はコーヒー3~4杯/日まで「カフェインを何mg」と言われてもイメージが湧きにくいですが、厚生労働省の『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』では下表のようになっています5)。妊娠中に摂取できるカフェイン量の目安は国によって異なりますが、200~300mg/日以下を目安としている国が多いです。玉露などカフェイン含有量が多い飲料なら200mL/日弱でも上限に達しますが、コーヒーであれば500mL/日までなら許容範囲内であり、WHOの妊婦に悪影響のないコーヒーの最大摂取量はマグカップ3~4杯までとなっています。他のカフェインを含む飲食物との兼ね合いもありますが、目安として知っておくとよさそうです。1)WHO Restricting caffeine intake during pregnancy2)Jahanfar S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;6:CD006965.3)Lassi ZS, et al. Reprod Health. 2014;11 Suppl 3:S6. 4)Chen LW, et al. Public Health Nutr. 2016;19:1233-1244.5)厚生労働省 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~