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術前療法後の高リスクHER2+早期乳がん、T-DXd vs.T-DM1(DESTINY-Breast05)/ESMO2025

 術前療法後に乳房および/または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する再発リスクの高いHER2陽性(+)の早期乳がん患者を対象に、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の有効性と安全性を直接比較したDESTINY-Breast05試験の中間解析結果を、米国・University of Pittsburgh Hillman Cancer CenterのCharles E. Geyer氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。その結果、T-DXd群において無浸潤疾患生存期間(iDFS)および無病生存期間(DFS)で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことが明らかになった。・第III相多施設共同無作為化非盲検実薬対照試験・対象:タキサン系化学療法と抗HER2療法による術前療法後に乳房および/または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する再発リスクの高い※HER2+の早期乳がん患者 1,635例※「高リスク」は、(1)術前療法前にT4 N0~3 M0またはcT1~3 N2~3 M0で手術不能と判断された症例、または(2)術前療法後に手術可能であったが(cT1~3 N0~1 M0)、腋窩リンパ節転移が陽性(ypN1~3)であった症例 のいずれかと定義・試験群(T-DXd群):T-DXd(5.4mg/kg)を3週間間隔で14サイクル投与 818例・対照群(T-DM1群):T-DM1(3.6mg/kg)を3週間間隔で14サイクル投与 817例・評価項目:[主要評価項目]iDFS[重要な副次評価項目]DFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、無遠隔再発生存期間(DRFS)、無脳転移期間(brain metastasis-free interval)、安全性・データカットオフ:2025年7月2日 主な結果は以下のとおり。・試験期間中央値はT-DXd群で29.9(範囲:0.3~53.4)ヵ月、T-DM1群で29.7(範囲:0.1~54.4)ヵ月であった。・ベースライン時の患者特性は、65歳以下がT-DXd群89.9%およびT-DM1群90.1%、アジア人が47.9%および46.5%、HER2ステータス IHC3+が82.6%および82.0%、HR+が71.0%および71.4%、手術不能が52.7%および51.9%、術前療法後のリンパ節転移陽性が80.7%および80.5%であった。・主要評価項目であるiDFSイベントの発生は、T-DXd群51例(6.2%)、T-DM1群102例(12.5%)であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.34~0.66、p<0.0001)。T-DXdによるベネフィットはすべてのサブグループで同様であった。・3年iDFS率は、T-DXd群92.4%(95%CI:89.7~94.4)、T-DM1群83.7%(95%CI:80.2~86.7)であった。・DFSイベントの発生は、T-DXd群52例(6.4%)、T-DM1群103例(12.6%)であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.0001)。・3年DFS率は、T-DXd群92.3%(95%CI:89.5~94.3)、T-DM1群83.5%(95%CI:79.9~86.4)であった。・DRFSイベントは、T-DXd群42例(5.1%)、T-DM1群81例(9.9%)に発生した(HR:0.49、95%CI:0.34~0.71)。・中枢神経系転移は、T-DXd群17例(2.1%)、T-DM1群26例(3.2%)に発生した(HR:0.64、95%CI:0.25~1.17)。・OSイベント(成熟度2.9%)は、T-DXd群18例(2.2%)、T-DM1群29例(3.5%)に発生した(HR:0.61、95%CI:0.34~1.10)。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、T-DXd群408例(50.6%)、T-DM1群416例(51.9%)に発現した。死亡に関連するTEAEは3例(0.4%)および5例(0.6%)であった。新たな安全性の懸念は認められなかった。・薬剤関連と判断された間質性肺疾患は、T-DXd群77例(9.6%)、T-DM1群13例(1.6%)に発現し、そのほとんどがGrade1または2であった。Grade5は2例(0.2%)および0例であった。  これらの結果より、Geyer氏は「術前療法後に浸潤性残存病変を有するHER2+早期乳がんにおいて、T-DXdが新たな標準治療となる可能性が示された」とまとめた。

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たとえ少量でも飲酒は認知症リスクを高める

 どんな量であっても飲酒は認知症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。予防効果がある可能性が指摘されていた少量のアルコール摂取でさえ、認知症リスクを下げる可能性は低く、リスクは摂取量に応じて増加することが示されたという。英オックスフォード大学のAnya Topiwala氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に9月23日掲載された。 研究グループは、「この研究結果は、軽度の飲酒が認知症予防に効果的である可能性を示した過去の研究に疑問を投げかけるものだ。われわれの研究結果は、種類を問わず、飲酒が認知症リスクに有害な影響を及ぼすことを裏付けており、これまで示唆されていた適度な飲酒の予防効果を裏付けるエビデンスは認められなかった」と述べている。 この研究では、米国(US Million Veteran Programme)と英国(UKバイオバンク)で行われた2つの大規模研究に参加した総計55万9,559人(試験開始時の年齢56〜72歳)のデータを用いて、飲酒と認知症との関連が検討された。平均追跡期間は、米国コホートで4年、英国コホートで12年であった。 追跡期間中に1万4,540人が認知症を発症し、4万8,034人が死亡していた。まず、対象者のアルコール摂取量と認知症との関連を見たところ、U字型の関連が認められた。具体的には、アルコールを摂取しない人、大量摂取者(1杯=エタノール約14gとした場合、週40杯以上)、およびアルコール使用障害のある人は、軽度摂取者と比べて認知症リスクが有意に高く、大量摂取者ではリスクが41%、アルコール使用障害のある人では51%、それぞれ増加していた。 しかし、対象者の認知症とアルコール摂取に関する遺伝的リスクを考慮すると、アルコール摂取量に関係なく、摂取量が増えるにつれてリスクは着実に上昇することが示された。具体的には、対数変換した1週間当たりのアルコール摂取量が1標準偏差増えるごとに、認知症リスクは15%増加し、遺伝的にアルコール使用障害になるリスクが2倍の人では認知症リスクは16%増加していた。 研究グループは、「アルコール使用障害の人口罹患率を半減させることで、認知症の症例を最大16%減らすことができる可能性がある。この結果は、認知症予防政策においてアルコール摂取量の削減が戦略となり得ることを明示している」と記している。 さらに、認知症を発症した人では、診断前の数年間はアルコール摂取量が少なかったことも明らかになった。このことから研究グループは、過去の研究では、適度な飲酒に認知症の予防効果があることが示唆されていたが、実際には、早期の脳機能低下がアルコール摂取量の減少につながっていたのであり、観察された効果は因果の逆転に陥っていた可能性が高いとの見方を示している。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「本研究で観察された認知症診断前のアルコール摂取量の減少パターンは、特に高齢者集団において、観察データから因果関係を推測することの複雑さを強調している」と記している。この研究結果は、アルコール摂取と認知症に関する研究では逆因果関係と残余交絡を考慮することの重要性を浮き彫りにしており、アルコール摂取量を減らすことが認知症予防の重要な戦略となる可能性があることを示唆している」と結論付けている。

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血栓溶解療法は脳梗塞発症後4.5~24時間経過した患者に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 HOPE試験は、救命しうる脳組織があり血栓回収療法を予定していない、発症後4.5~24時間経過した脳梗塞患者にアルテプラーゼの静注療法が有効かどうかを検討した、中国で行われたPROBEデザインの無作為化比較試験である。372例が無作為割り付けされたが、アルテプラーゼ投与群では標準的内科治療群と比べて、36時間以内の症候性頭蓋内出血は多かったものの、3ヵ月後の自立可能例が有意に多かった。この結果は、このような条件を満たす患者では、発症後24時間までアルテプラーゼが適応となりうることを示唆している。 これまでに行われた臨床試験では、発症後24時間までのアルテプラーゼ静注療法の効果は大血管閉塞例に限定されている一方、中等大以遠の血管では血栓回収療法の効果がないことが示されており、アルテプラーゼ静注療法がこれらの穴を埋める治療法になることが期待される。ただし、海外では血栓溶解療法はアルテプラーゼからtenecteplaseに切り替えられつつあり、日本でもtenecteplaseの導入に向けてT-FLAVOR試験が進行中であり、今後はtenecteplaseでも同様なエビデンスの構築が求められるであろう。

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第265回 呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省

<先週の動き> 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省全国でインフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった複数の呼吸器感染症が同時期に急増し、医療現場と地域社会で警戒が強まっている。厚生労働省は10月17日、2025年10月6~12日の1週間におけるインフルエンザの感染者報告数が、全国の定点医療機関当たり2.36人に達したと発表した。これは前週の約1.5倍で、8週連続の増加。総患者報告数は9,074人を超え、昨年の同時期と比較して2倍以上、流行のペースも昨年より約1ヵ月早い状況となっている。都道府県別では、沖縄県(14.38人)が突出して多いほか、東京(4.76人)、神奈川(4.21人)、千葉(4.20人)といった首都圏でも感染が拡大している。この影響で、全国の小学校や中学校など合わせて328ヵ所の学校・学級閉鎖の措置が取られ、厚労省では手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。また、激しい咳が続く百日咳の流行も深刻である。国立健康危機管理研究機構によると、今年に入ってからの累計患者数(10月5日時点の速報値)は8万719人に達し、現在の集計法となった2018年以降で初めて8万人を突破した。これは、過去最多だった2019年の約4.8倍という異例の多さとなっている。コロナ対策中に病原体への曝露機会が減り、免疫が弱まったことが一因と指摘されている。感染は10代以下の子供を中心に広がっており、乳児は肺炎や脳症を併発する重症化リスクがあるため、とくに警戒が必要とされる。さらに、マイコプラズマ肺炎も5週連続で増加しており、9月29日~10月5日の定点当たり報告数は1.36人となっている。秋田、群馬、栃木、北海道などで報告が多く、この秋は複数の感染症が同時に拡大する「トリプル流行」の様相を呈している。 参考 1) 2025年 10月17日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ感染者数 前週の1.5倍に 8週連続で増加 1医療機関あたり「2.36人」 厚生労働省(TBS) 3) インフル定点報告2.36人、前週の1.5倍に 感染者数は9,074人に(CB news) 4) マイコプラズマ肺炎の定点報告数、5週連続増 前週比6.3%増 JIHS(同) 5) インフルエンザ患者 昨年同期の2倍超 日ごとの寒暖差が大きいため体調管理に注意を(日本気象協会) 6) 百日ぜきが初の8万人超 2025年患者数、18年以降の最多更新続く(日経新聞) 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省厚生労働省は10月10日、「がん検診のあり方に関する検討会」を開き、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正する方針を固めた。最新の医学的エビデンスに基づき、肺がん検診の方法を抜本的に見直すほか、乳がん検診のガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼する。最も大きな変更は、重喫煙者を対象とした「胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法」の公費検診からの削除。これは、喫煙率の低下に伴い、喀痰細胞診で見つかる肺門部扁平上皮がんが減少し、現在ではこの検査による追加的な効果が極めて小さい(ガイドラインで「推奨しない:グレードD」)と評価されたためである。厚労省は2026年4月1日の指針改正で同検査を削除する方針。ただし、喀痰などの有症状者に対しては、検診ではなく医療機関での早期受診を促す指導を指針に追記する方向とされる。一方、「重喫煙者に対する低線量CT検査」については、死亡率を16%程度低下させるという高い有効性(グレードA)が認められたため、新たに住民検診への導入を目指す。この導入に向け、2026年度から希望する自治体でモデル事業を実施し、実施マニュアルの作成と課題整理を行う予定。その結果を踏まえ、早ければ2027年以降に指針に追加し、全国で導入される見通しである。また、乳がん検診についても、現在のガイドラインが2013年度版で古いことから、最新の医学研究成果を反映させるため、ガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼した。高濃度乳房で有用性が期待される「3Dマンモグラフィ」や「マンモグラフィ+超音波検査の併用」などの知見を整理し、今後の対策型検診への導入可能性が検討される。厚労省は、これらの検診方法の見直しを通じて、死亡率減少効果が高い検査に重点を置く「エビデンスに基づいたがん検診」への転換を加速させる。今後は、低線量CT導入に必要な実施体制の整備や、受診率の向上、住民への適切な情報提供などが課題となる。 参考 1) 第45回がん検診のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 肺がん検診について(同) 3) 胸部X線と喀痰細胞診の併用法、肺がん検診から削除 指針改正へ(MEDIFAX) 4) たん検査、肺がん検診除外 喫煙率低下で効果小さく(共同通信) 5) 最新医学知見踏まえて乳がん検診ガイドライン更新へ、肺がん検診に「重喫煙者への低線量CT」導入し、喀痰細胞診を廃止-がん検診検討会(Gem Med) 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会総会(中医協)を10月17日に開き、2026年度改定に向けて、2025年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」に関して、制度の背景や今後のスケジュールを説明するとともに、地域医療体制および診療報酬制度との関係を整理するための論点提示を行った。「かかりつけ医機能」の報告は、ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対して、2026年1~3月に(1)かかりつけ医機能を有するかどうか、(2)対応可能な診療領域・疾患、(3)在宅医療・介護連携・時間外対応の可否について、報告を求める。1号側(支払い側)の委員からは、「かかりつけ医機能報告制度」の項目(1次診療で対応可能な領域・疾患のカバー状況、研修医受け入れなど)と、機能強化加算などの施設基準・算定要件を整合させ、わかりやすい仕組みに再設計すべきと主張する意見が挙げられた。2号側(診療側)の委員からは、2040年像を見据えた制度を1年後の改定に直結させるのは「論外」と反発する意見が出た。改定の論点には、「大病院→地域医療機関」への逆紹介の実効性向上(2人主治医制の推進、情報連携の評価である「連携強化診療情報提供料」の要件緩和)や、外来機能分化の徹底も含まれている。厚労省の提案には、かかりつけ医側に(1)一次診療対応領域の明確化と提示、(2)地域の病院との双方向連携(紹介・逆紹介、共同管理)の定着、(3)データ提出の拡大・標準化が求められている。とくに機能強化加算は、報告制度の実績(対応疾患カバー、ポリファーマシー対策、研修体制など)とリンクした見直しが俎上に上がっており、基準の再整理や算定要件の具体化が想定される。開業医に対しては「対応可能領域・疾患の可視化」「紹介・逆紹介の運用記録」「連携書式・電子共有の整備」などの対応と提出するデータに根拠が求められる。一方で、情報連携加算の要件が緩和されれば、地域のかかりつけ医は大学病院などとの共同管理で報酬評価を得やすくなる可能性がある。全体として「報告制度による見える化」と「診療報酬での評価」をどの程度リンクさせるかで、支払側と診療側の主張が対立し、年末まで引き続き協議が続く見通し。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」報告、診療報酬と「整合を」支払側が主張 日医委員は「あり得ない」(CB news) 3) 大病院→地域医療機関の逆紹介をどう進めるか、生活習慣病管理料、かかりつけ医機能評価する診療報酬はどうあるべきか-中医協総会(Gem Med) 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省厚生労働省は10月10日、2023年度の国民医療費が48兆915億円に達し、前年度比3.0%増で3年連続の過去最高を更新したと発表した。1人当たりの医療費も38万6,700円と過去最高を記録している。医療費増加の主な要因は、高齢化の進展と医療の高度化に加え、コロナ禍後の反動やインフルエンザなどの呼吸器系疾患が増加したことが背景にあるとされる。とくに、医療費の負担は高齢者層に集中し、65歳以上が国民医療費全体の60.1%を占め、75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の39.8%にあたる19兆円超となった。人口の大きなボリュームゾーンである団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に到達し始めている影響が顕著となり、2025年度に向けてこの傾向は続くとみられる。財源は、保険料が24.1兆円、公費が18.3兆円、患者負担が5.6兆円で構成されているが、患者負担額が前年度から4.5%増と最も高い伸びを示した。また、1人当たりの国民医療費には依然として大きな地域格差が残っており、最高額の高知県(49.63万円)と最低額の埼玉県(34.25万円)との間で1.44倍の開きがある。医療費の高い地域ではベッド数が多い傾向が指摘され、地域医療構想に基づく病床の適正化が課題として改めて浮き彫りとなった。厚労省は、国民皆保険制度の維持・継承のため、社会経済環境の変化に応じた医療費の適正化と改革を積み重ねる重要性を訴えている。 参考 1) 令和5(2023)年度 国民医療費の概況(厚労省) 2) 国民医療費、3年連続最高 23年度3%増(日経新聞) 3) 2023年度の国民医療費、3.0%増の48兆915億円…3年連続の増加で過去最高を更新(読売新聞) 4) 2023年度の国民医療費は48兆915億円、1人当たり医療費に大きな地域格差あり最高の高知と最低の埼玉とで1.44倍の開き―厚労省(Gem Med) 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道全国の医療機関の経営環境が急速に悪化し、地域医療に直接影響を及ぼす段階に入っている。東京商工リサーチによると、2025年1~9月の病院・クリニックの倒産は27件と高水準で推移し、とくに病床20床以上の中堅病院の倒産が前年同期比1.5倍の9件に急増した。負債10億円以上の大型倒産も増加し、地域の基幹医療を担う施設が深刻な苦境に立たされている。この経営危機は、物価高、人件費上昇、設備投資負担といったコストアップ要因に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足という構造的な課題が重なり発生している。また、自治体が運営する公立病院も約8割が赤字であり、医療業務のコストと診療報酬のバランスの崩壊が、医療機関全体を採算悪化に追い込んでいる。再編の動きは加速し、とくに北海道では江別谷藤病院(負債25億円)が、給与未払いの事態を経て、札幌の介護大手「ライフグループ」への経営譲渡が決定し、未払い給与が肩代わりされた。また、室蘭市では、日鋼記念病院を運営する法人が、経営難の市立病院との統合協議を棚上げし、国内最大級の徳洲会グループ入りを選択した。これは、公立病院の巨額赤字(年間約20億円)と人口減がネックとなり、民間主導での集約が進んでいるとみられる。こうした倒産・統合の波は、診療科の再配置、当直体制・人事制度の統一、電子カルテや検査体制の共有など、医師や医療者の勤務環境やキャリア設計に直接的な変化をもたらす。地域の医療提供体制を維持するため、再編の移行期における診療体制の維持と、地域住民・自治体との合意形成が、医療従事者にとって重要な課題となる。診療報酬の見直しやM&Aといった手段による医療機関の存続に向けた取り組みが急務となる。また、病院再編にあたっては、移行期の診療体制の維持や、患者の混乱を避けるため、地域住民への情報提供と、自治体との合意形成が鍵となる。 参考 1) 1-9月「病院・クリニック」倒産 20年間で2番目の27件 中堅の病院が1.5倍増、深刻な投資負担とコストアップ(東京商工リサーチ) 2) 負債額約25億円の江別谷藤病院 札幌の「ライフグループ」に経営譲渡(北海道テレビ) 3) 室蘭3病院、再編協議難航 市立病院の赤字ネックに…「日鋼」、徳洲会の傘下模索(読売新聞) 4) 赤字続きの兵庫県立3病院、入院病床130床休止へ…収支改善が不十分ならさらに減床も(同) 5) 突然の来訪、室蘭市に衝撃 日鋼記念病院の徳洲会入り検討、市立総合病院との統合に黄信号(北海道新聞) 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁全国で100以上のクリニックを展開する「麻生美容クリニック(ABC)グループ」が、大阪国税局など複数の国税局による大規模な税務調査を受け、2023年までの5年間で計約62億円の巨額な申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。追徴税額は、重加算税などを含め約12億円に上るとみられている。申告漏れの主な原因は、グループ内の基幹法人「IDEA」と傘下の6医療法人の間で、医療機器などの仕入れ価格を約47億円分過大に計上していたと判断されたためである。これにより、各医療法人の課税所得が不当に圧縮されていた。また、患者から受け取った前受金(手付金)約10億円の計上漏れも指摘された。さらに、基幹法人IDEAが得た収入のうち約3億円が、売上記録の偽装など悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しと認定され、重加算税の対象となった。法人の資金を個人的な用途に流用したとして、グループ関係者にも約2億円の申告漏れが指摘されている。グループ側は報道機関の取材に対し、税務調査の事実を認め、「見解の相違もあったが、当局の指導により修正申告と納税は完了している」とコメントしている。背景には、SNSの普及などで美容医療の市場が急拡大する一方、新規開設費や広告費がかさみ、収益性の低い法人の倒産・休廃業が増えるなど、美容医療業界の過当競争が激化している現状がある。また、グループを率いる医師やその息子が、自家用ジェットや高級車などの豪華な私生活をSNSで積極的に公開していたことが、税務当局による異例の大規模調査のきっかけの1つになった可能性も指摘されている。 参考 1) 美容医療グループが62億円申告漏れ(朝日新聞) 2) 麻生美容クリニックグループ、60億円申告漏れ 大阪国税局など指摘(日経新聞) 3) 「19歳で3,000万円のフェラーリを乗り回し…」 62億円申告漏れの美容外科医と息子が自慢していた豪遊生活(週刊新潮)

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第90回 カプランマイヤー曲線 なぜn数が減っていくのか?【統計のそこが知りたい!】

第90回 カプランマイヤー曲線 なぜn数が減っていくのか?カプランマイヤー曲線は、医療研究において広く使用される生存分析の手法です。この生存曲線を通じて、治療後の患者の生存率や生存時間を視覚的に表現することができます。カプランマイヤー曲線における対象者数(n)が時間とともに減少する理由についてよくある疑問です。今回はカプランマイヤー曲線が時間とともになぜn数が減少していくのかについて解説します。■カプランマイヤー曲線の基本カプランマイヤー曲線は、時間とともに生存している患者の割合を示すグラフです。初めは全参加者が生存している状態からスタートし、時間が経過するにつれて、イベント(多くの場合は死亡や疾患の再発)が発生するたびに生存率が更新され、曲線は下降していきます。■n数が時間とともに減少する理由1)イベントの発生カプランマイヤー曲線において時間とともに対象者数が減少する最も直接的な理由は、定義されたイベントの発生です。末期の疾患の診断後の生存を追跡する研究では、イベントは通常、死亡がそれに該当します。2)打ち切りn数の減少は、関心のあるイベントの発生だけが原因ではありません。「打ち切り」とは、研究の終了とは関連しない理由で、最終観察期間前にある対象者のデータが分析から除外されることを指します。これは、参加者が研究から離脱したり、追跡不能になったり、研究の終了前にイベントが発生しなかった場合に起こります。3)時間間隔カプランマイヤー曲線で報告される対象者数は、考慮される時間間隔によって変わる場合があります。より長い間隔では、より多くのイベントが発生する可能性があり、したがって急激な減少がみられることがあります。■カプランマイヤー曲線図に学習用に作成したカプランマイヤー曲線を示します。このグラフは、重症心不全患者への治療薬の臨床試験を想定し、治療後の患者の生存率を時間とともに追跡したものです。グラフは全参加者が生存している点から始まり、時間が経つにつれてイベントの発生と打ち切りにより生存率が減少していく様子を描いています。画像を拡大する(「わかる統計教室 第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価する」より引用)NYHA class III以上の重症心不全患者1,251例を対象に、従来の標準治療に加えて、製品Aまたはプラセボを投与し、36ヵ月間の経過観察を行いました。この臨床試験の目的は、重症心不全に対する薬剤の治療効果を、治療後の生存期間の延びで確認することです。この図は、製品A群(640例)とプラセボ群(611例)の観察開始から36ヵ月間(3年間)の生存率をカプランマイヤー法で求め、折れ線グラフで表したものです。この折れ線グラフを「生存曲線」と言います。この結果から、製品A群ではプラセボ群に比べて総死亡率が26ポイント減少し、従来の標準治療への製品A群の追加により生命予後の改善がみられたことが理解できます。カプランマイヤー曲線は、臨床試験における治療の効果や介入後の患者の生存期間を理解するのに非常に有用なツールです。対象者数が減少する理由を理解することは、曲線の読み解きとデータの解釈において大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」わかる統計教室 第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価する【統計のそこが知りたい!】第13回 カプランマイヤー法、Cox比例ハザードモデルとは?第18回 カプランマイヤー生存曲線 ログランク検定と一般化ウィルコクソン検定の使い分けは?第19回 カプランマイヤー生存曲線がクロス、Cox比例ハザードモデルは使える?第20回 カプランマイヤー法を用いない生存曲線はあるのか?

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英語でも「臍」と「おへそ」を使い分け!【患者と医療者で!使い分け★英単語】第36回

医学用語紹介:臍 umbilicus「臍(へそ)」のことを医学用語ではumbilicusといいますが、日常会話では別の一般用語が用いられます。さてそれは何でしょうか? ヒントは、臍を何かに例えて「おなかの〇〇」と呼びます。講師紹介

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10月20日 頭髪の日【今日は何の日?】

【10月20日 頭髪の日】〔由来〕日付の「10=とう」「20=はつ」の語呂合わせから、髪や頭皮に関する知識を広め、髪の健康を考えてもらおうと、日本毛髪科学協会が制定。この日に合わせて多くの企業が頭髪・頭皮に関する知識や、お悩み解決のための商品をコンシェルジュするサービスやキャンペーンをリリースしている。関連コンテンツ円形脱毛症【患者説明用スライド】ブレイクダンスで頭髪が薄くなる?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】AGA治療薬ミノキシジル、経口vs.外用喫煙で男性型脱毛症リスク1.8倍、重症化もバリシチニブ、円形脱毛症の毛髪再生に有効か/NEJM

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片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」【最新!DI情報】第49回

片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」今回は、経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬「リメゲパント(商品名:ナルティークOD錠75mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めての片頭痛の急性期治療および発症抑制の両方を適応とする治療薬です。<効能・効果>片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>片頭痛発作の急性期治療:通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与します。片頭痛発作の発症抑制:通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与します。<安全性>重大な副作用として、過敏症(頻度不明)があります。その他の副作用として、便秘(1%以上)、浮動性めまい、悪心、下痢、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加(いずれも0.5~1%未満)、上気道感染、尿路感染、単純ヘルペス、前庭神経炎、白血球減少症、好中球減少症、鉄欠乏性貧血、貧血、食欲亢進、うつ病、不眠症、易刺激性、異常な夢、錯乱状態、不安、傾眠、片頭痛、頭痛、錯感覚、頭部不快感、味覚不全、ドライアイ、回転性めまい、動悸、高血圧、潮紅、呼吸困難、腹痛、嘔吐、腹部不快感、胃食道逆流性疾患、肝機能異常、脂肪肝、発疹、そう痒症、ざ瘡、多汗症、蕁麻疹、頚部痛、背部痛、頻尿、疲労、倦怠感、口渇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、体重増加、肝酵素上昇、血中クレアチニン増加、糸球体濾過率減少、肝機能検査値上昇、血圧上昇、心電図QT延長、サンバーン(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛発作の急性期治療および発症抑制に用いられます。「前兆のない片頭痛」および「前兆のある片頭痛」のどちらにも使用できます。2.発作時には、頓用で服用します。ただし、1日に1錠を超えての服用はできません。3.発症を予防するには、隔日(2日に1回)、決まった時間に服用します。この薬を服用した日は、急性期治療として追加服用はできません。服用前であれば、急性期治療のために頓用で服用できますが、同日中に発症予防のための追加服用はできません。服用日以外の日に発作が生じた場合は、1日1錠まで服用ができます。<ここがポイント!>片頭痛は代表的な一次性頭痛の1つで、本邦における年間有病率は約8%(前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%)と報告されています。片頭痛は、日常生活に大きな支障を来す疾患であり、多くの患者が家事や仕事の生産性低下に悩まされています。片頭痛の主な誘因としてはストレスが最も多く、その他に女性ホルモンの変動、空腹、天候の変化、睡眠不足または過眠、特定の香水やにおいなどが挙げられます。片頭痛の発症機序は完全には解明されていませんが、「三叉神経血管説」が広く受け入れられています。この説では、何らかの原因で三叉神経を構成する無髄線維(C線維)からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、脳血管の拡張や神経の炎症を引き起こすことで痛みが生じると考えられています。リメゲパントは、CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPによる血管拡張や神経原性炎症の誘導を阻害することで、片頭痛に伴う痛みや諸症状を軽減します。本剤の特徴は、わが国で初めて片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の両方に適応を有する点です。急性期治療には片頭痛発作時に頓服で服用し、発症抑制には隔日で服用します。また、本剤は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)を誘発する可能性が低いと考えられているため、MOHの発症リスクを有する患者、またはMOHの既往のある患者について、添付文書上で特別な注意喚起をしていません。急性期治療に関しては、中等度または重度の片頭痛を有する日本人患者を対象とした国内第II/III相試験(BHV3000-313/C4951022試験)において、主要評価項目である投与2時間後の疼痛消失割合は、本剤75mg群で32.4%、プラセボ群で13.0%でした。群間差(本剤群-プラセボ群)は、19.4%(95%信頼区間[CI]:12.0~26.8)で本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.0001、Mantel-Haenszel検定)。一方、発症抑制に関しては、日本人患者を対象に片頭痛の予防療法を評価した国内第III相試験(BHV3000-309/4951021試験)において、主要評価項目である二重盲検期の最後の4週間(Week 9~12)での1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量は、本剤群で-2.4日(95%CI:-2.93~-1.96)、プラセボ群で-1.4日(95%CI:-1.87~-0.91)でした。両群間の差は-1.1日(95%CI:-1.73~-0.38)であり、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.0021、反復測定線形混合効果モデル)。

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日本人男性の遅漏有病率/日本性機能学会

 日本性機能学会 臨床研究促進委員会が実施した、日本全国の一般男性を対象にした大規模インターネット調査で、性交経験のある男性における遅漏(Delayed Ejaculation:DE)の有病率は5.16%であることが報告された。有病者の58.18%が治療を望む一方、実際に医療機関を受診したのは11.88%に留まり、潜在的ニーズとの乖離が明らかになった。順天堂大学医学部附属浦安病院・泌尿器科の白井 雅人氏らによる本研究結果はSexual Medicine誌2025年8月号に掲載された。 研究者らは2023年5月29日~6月24日、20~79歳の日本人男性を一般パネルからリクルート、有効回答6,228例のうち性交歴のある5,331例を解析した。DEは「遅漏に関する苦痛の自覚がある」場合と定義し、多変量ロジスティック回帰で関連因子を同定した。 主な結果は以下のとおり。・DEの有病率は5.16%(275/5,331例)であった。このうち1.73%(n=92)が軽度遅延射精に分類され、3.43%(n=183)が重度遅延射精の基準を満たした。・DEの有病率は年齢とともに有意に減少した。・DEに関連する苦痛を訴えた参加者のうち、58.18%が治療を希望したが、実際に医療専門家へ相談したのはわずか11.88%にとどまった。・遅漏リスクにおける、独立関連因子は以下のとおりだった。 -向精神薬使用/オッズ比(OR):2.41(95%信頼区間:1.68~3.47) -骨盤外傷/OR:2.39(1.18~4.84) -パートナー関係満足度の低さ/OR:2.27(1.57~3.29) -勃起障害(ED)/OR:2.04(1.53~2.70) -神経疾患/OR:2.02(1.10~3.69) -肥満/OR:1.51(1.15~2.00) -自慰頻度の高さ/OR:1.24(1.15~1.33) -性交頻度の高さ/OR:1.17(1.10~1.24)・子供がいることは遅漏リスク減少に関連した(OR:0.57)。・遅漏有病者の内訳は生涯性遅漏(LDE)1.73%、後天性遅漏(ADE)3.43%で、サブ解析の結果、LDEはADEより若年で自慰頻度が高く、ADEはED合併、パートナー関係満足度の低さ、主観的性欲低下がより目立つ傾向を示した。 研究者らは「DEは心理・関係性・身体要因が交錯する多因子性の障害であり、EDとの併存や向精神薬、神経疾患、肥満、骨盤外傷などの医学的背景に留意が必要となる。問診では薬剤歴(とくにSSRI等)と外傷歴、関係満足度を系統的に確認し、ED評価を含む包括的アセスメントを行うべきである。若年層での有病率の高さは、挙児希望に伴う苦痛の顕在化や性活動様式の影響が示唆される。治療希望者は多いが実際の受診は少ないため、啓発と受療行動の促進、相談しやすい導線づくりが課題である。薬剤調整、カップル介入、性行動の再学習(自慰スタイルの修正を含む)など、多職種・個別化アプローチが推奨される」とまとめている。

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肥満症への胃バイパス手術の長期的効果は良好

 肥満症の治療に胃や腸の外科的手術が登場し半世紀以上が経った。術後の患者の健康状態や効果などに違いはあるのだろうか。このテーマについて、米国・ブリガムヤング大学運動科学部のTaggert J. Barton氏らの研究グループは、胃バイパス手術の健康への長期的な効果について評価を行った。その結果、術後10年を経てもBMIの低下が維持されていたことが判明した。この研究結果はObesity誌オンライン版2025年10月8日号に掲載された。代謝・肥満手術群は身体活動により体力を維持する必要がある 研究グループは、代謝・肥満手術(MBS)関連の減量が健康に及ぼす長期的な影響を探るために前向き試験「the Utah Obesity Study」の一部から、MBS患者群(82例)と対照となる非手術群(88例)のデータを収集した。フィットネスは修正ブルースプロトコルを用いた最大・亜最大トレッドミル試験で評価した。亜最大運動試験は手術前(ベースライン)および11.5年後に実施した。170例の参加者から抽出したサブグループ(97例)は、ベースラインから2年後および6年後に最大トレッドミルテストも実施した。体重とBMIは各訪問時に記録した。群間比較におけるトレッドミル走行時間は、性別と体重で調整した。 主な結果は以下のとおり。・事前の推測のとおり、全フォローアップ時点で手術群は非手術群よりBMIおよび体重が低かった(p<0.0001)。・性別、ベースライン時のトレッドミル時間、体重で調整した11.5年間のトレッドミル時間は、全フォローアップ時点で手術群が非手術群より有意に長かった(p<0.01)。・しかし、手術群の体力面での優位性は時間の経過とともに徐々に低下した。 以上の結果から、研究グループは「MBS患者において、当初は体重減少によって劇的な体力面でのメリットが得られたが徐々に低下した。しかし、10年以上経過しても非手術群よりも高い値を維持した。身体活動を重視することは、肥満手術後の体力改善を維持するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。

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日本の大学生の過度な飲酒とうつ病との関連性は

 アルコール摂取とうつ病との関連性は、いまだ明らかになっていない。また、アジアの大学生を対象とした大規模研究で、この関連性の検証は行われていない。筑波大学の斉藤 剛氏らは、日本の大学生を対象に、過度な飲酒とうつ病との関連性を検証するため横断的研究を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年9月号の報告。 2019年4月〜2020年1月に、日本の2つの大学で定期健康診断を受けた20歳以上の学部生および大学院生を対象に調査を実施した。自記式質問票を用いて、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、過去1ヵ月間の過度な飲酒、うつ病自己評価尺度(CES-D)スコア、人口統計学的データの評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は学生4,535例。内訳は、男性2,775例(61.2%)、女性1,760例(38.8%)。・過度な飲酒者は、男性で1,076例(66.3%)、女性で548例(33.7%)であった。・1,474例(32.5%)がうつ病を有しており、そのうち528例(35.8%)は過度な飲酒者であった。・ロジスティック回帰分析では、複数の変数で調整した後でも、うつ病は大量飲酒との逆相関が認められた(オッズ比:0.59、95%信頼区間:0.36〜0.98)。 著者らは「アジアの大学生において、過度な飲酒とうつ病の負の相関が確認された。年齢や人種別に、アルコール摂取とうつ病との関係をより詳細に調査する必要がある」としている。

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雪崩遭難者の窒息を新たな携帯型安全装置が防ぐ/JAMA

 雪山で雪崩に巻き込まれ埋没すると通常35分以内に窒息死に至り、適時な救助が不可能となる場合が多い。生存率向上のため窒息を遅らせる新たな戦略の開発が求められている中、イタリア・Eurac ResearchのFrederik Eisendle氏らは、酸素補給やマウスピースを必要とせず、雪崩によって堆積した雪(デブリ)から遭難者の気道へ空気を送り込む新たな携帯型雪崩安全装置の有効性を、介入的無作為化二重盲検臨床試験で調べた。模擬埋没の間、致命的となる低酸素血症や高炭酸ガス血症を遅延させたことが示されたという。JAMA誌オンライン版2025年10月8日号掲載の報告。無作為化試験で、50cm以上の雪に覆われた状態の雪崩シミュレーションを受け評価 試験は2023年1月~3月に、イタリアの4機関で組織され1地点で実施された。18~60歳の健康なボランティアが登録された。 被験者は、安全装置群(Safeback SBXを使用)または対照群(シャム装置使用)に無作為に割り付けられ、うつ伏せで50cm以上の雪に覆われた状態の、命の危険がある雪崩シミュレーションを受けた。Safeback SBXはノルウェー・Safeback SEの製品で、欧州連合(EU)においてレベルIIの個人用保護具として分類されている。 安全装置群では、35分経過後も埋没状態だった被験者は直ちにシャム装置群に移行し、非盲検対照フェーズを完了した。シミュレーション中、被験者の安全確保と生理学的データを集めるためにバイタルパラメーターが継続モニタリングされた。 主要アウトカムは、介入群と対照群を比較した、35分間のモニタリング中の、パルスオキシメーターで測定した酸素飽和度(SpO2)が80%未満(イベント)になるまでの時間。副次アウトカムは、雪の中での異なる距離(エアポケットからエアポケットまたはバックパックの空気排出口までが25cmまたは50cm)での酸素濃度や二酸化炭素濃度などであった。SpO2が80%未満になったことにより試験終了となるリスクが有意に低下 36例が無作為化され、24例が試験を完了し最終解析に含まれた。被験者は年齢中央値27(四分位範囲[IQR]:25~32)歳、13例(54%)が男性であった。 安全装置群では、埋没時間中央値35.0(IQR:35.0~35.0)分においてイベントの報告はなかった。対照群では埋没時間中央値6.4(4.8~13.5)分において7件のイベントが報告された。 安全装置群は、SpO2が80%未満になったことにより試験終了となるリスクが有意に低かった(log-rank・Breslow検定によるp<0.001)。 安全装置群と対照群の同一ポイントにおいて、エアポケット内の二酸化炭素濃度は1.3%(95%信頼区間:1.0~1.6)vs.6.1%(5.1~7.1)であり、酸素濃度は19.8%(19.5~20.1)vs.12.4%(11.2~13.5)であった。

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未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

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心血管疾患は依然として世界で最多の死因

 心血管疾患(CVD)は依然として世界で最も多い死因であり、CVDによる死亡は世界中での全死亡の3分の1を占めていることが、新たな研究で明らかになった。米ワシントン大学心血管健康指標プログラムのディレクターを務めるGregory Roth氏らによるこの研究は、「Journal of the American College of Cardiology」に9月24日掲載された。 同誌の編集者である米イェール大学医学部教授のHarlan Krumholz氏は、「この報告は警鐘だ。CVDは依然として世界の主要な死因であり、その負担はCVDに対する対応力が最も低い地域で急速に増加している」と指摘している。その一方で同氏は、「ただし、CVDのリスクとその対策法については明らかになっている。各国が効果的な医療政策と制度をすぐにでも実行すれば、何百万もの命を救うことができる」と述べている。 この研究では、世界疾病負担研究(GBD 2023)で対象とされた375種類の疾患の中でCVDに焦点を当て、1990年から2023年までの間に、世界の204の国と地域におけるCVD全体の負担を評価した。また、虚血性心疾患、脳出血、脳卒中などのCVDの主要なサブ疾患や、CVDに影響を与える高血圧、喫煙、肥満、血糖異常、食事に関連するリスク(複数の食品・栄養素の不足や過剰摂取を総合した食事リスク要因)、大気汚染などの12種類の変更可能なリスク因子についても分析した。 その結果、CVDによる障害調整生存年(DALY)は、1990年の3億2000万から2023年には4億3700万と1.4倍増加した。DALYとは、早期死亡による失われた年数と障害を抱えて生きた年数を合算した、疾患によって失われた健康な年数を示す指標である。また、CVDによる死亡者数も1990年の1310万人から2023年には1920万人に達していた。CVDによるDALYの79.6%(3億4700万)は生活習慣に関連するリスク因子に起因することも判明した。内訳は、肥満や空腹時高血糖などの代謝リスク因子が67.3%、喫煙や飲酒、偏食などの行動リスク因子が44.9%、大気汚染や鉛曝露などの環境・職業リスク因子が35.8%であった。 さらに、2023年には世界でのCVD罹患者数は6億2600万人に達し、中でも虚血性心疾患(2億3900万人)と末梢動脈疾患(1億2200万人)の罹患者が多いと推定された。このほか、多くの地域で男性のCVDによる死亡率は女性よりも高いことや、リスクは50歳を過ぎると急激に上昇すること、CVDによるDALYの最も低い国と最も高い国の間には16倍の差が認められることも判明した。 Roth氏は、「最も重要で予防可能なリスク因子に焦点を当て、効果的な政策や実証済みで費用対効果の高い治療を組み合わせることで、非感染性疾患による早期死亡を減らすことができる」と指摘する。同氏はさらに、「各国はわれわれの研究結果から、心血管の健康状態を改善するための信頼できるエビデンスと政策立案に向けた一種の提言を見つけることができる」と付言している。 さらにRoth氏は、「本研究により、所得レベルだけでは説明できないCVDの負担の大きな地域差が明らかになった。こうした差を踏まえれば、地域ごとに最も関連性の高いリスク因子をターゲットにした健康政策を立てることが可能になる」と話している。

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カンガルーケアが早産児の脳の発達を促す

 出生後の肌と肌のふれあいは、早産児の脳の発達を促す助けとなる可能性のあることが、新たな研究で示された。この種のケアは、カンガルーなどの有袋類が子どもをお腹の袋に入れて育てる様子にちなんで「カンガルーケア」とも呼ばれている。この研究では、32週未満で生まれた早産児において、カンガルーケアの時間が長ければ長いほど感情やストレスの調節に関わる脳の領域で著しい発達が見られたという。米バーク神経学研究所言語発達・回復研究室のKatherine Travis氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に9月24日掲載された。 Travis氏は、「早産児のカンガルーケアには多くの利点があることが示されている。先行研究では、早産児のカンガルーケアは親子の絆の強化、睡眠や心肺機能、発達の改善、さらには痛みやストレスの軽減に関連することが示されている」と言う。同氏はまた、「極早産児に関するわれわれの研究は、カンガルーケアが初期の脳発達の形成にも影響を与える可能性があることを示しており、生後最初の数週間に早産児に提供されるケアの潜在的な重要性が浮き彫りになった」と米国神経学会(AAN)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、平均在胎週数29週の早産児88人(女児49%)の発達を調査した。早産児の平均体重は約2.7ポンド(約1.2kg)で、入院期間は平均2カ月だった。入院中の早産児に対するカンガルーケアの時間の長さ(1回当たりの時間と1日当たりの合計時間を含む)を調べた。家族の1日当たりの訪問回数は平均1回、1回当たりのカンガルーケアの時間は70分程度(30分〜2時間弱の間)で、ケアの73%は母親によるものだった。入院期間全体を通じて実施されたカンガルーケアの時間は1日当たり平均24分だった。 早産児は退院前、正期産に相当する40週前後に当たる時期に脳画像検査を受けた。脳画像検査は、脳の特定の領域をつなぐ通信ネットワークとして機能する白質に焦点を当てて行われた。 その結果、カンガルーケアの時間が長ければ長いほど、注意力や感情の調節をサポートする帯状束と、感情処理や記憶に関わる領域をつなぐ前視床放線の2つの重要な脳領域の活動が上昇していることが明らかになった。また、この関連は出生時の在胎期間、脳画像検査を実施した時点での週齢、社会経済的状況、家族の訪問頻度といった脳の発達に影響を与え得る他の要因の調整後も有意であった。 Travis氏は、「カンガルーケアは、早産児に親との絆を通じた家族としてのつながりをもたらすだけでなく、脳内での新たな接続を促して赤ちゃんの全体的な脳の健康状態を改善している可能性がある」と考察している。 しかし残念ながら、多くの新生児集中治療室(NICU)ではカンガルーケアをサポートできる体制が整備されていないと、付随論評の著者らは指摘している。著者の一人であるウェスタン大学(カナダ)児童心理学分野のEmma Duerden氏は、「多くのNICUでは、物理的なスペース、スタッフの体制、同時に求められるケアへの対応、家族が長時間付き添うための限られたリソース、現行のケアのルーチンの変更に伴う問題が依然として障壁となっている」と論評の中で述べている。 Travis氏らは、この研究の規模や観察研究の性質から、カンガルーケアと脳の発達の間に直接的な因果関係を示すことはできず、今回示されたのは関連性にとどまると述べている。また、今後の研究では、生後間もない時期に提供されるケアの経験が、どのように脳の発達を形作り、子どもの健やかな成長をサポートするのか、さらに解明を進めるべきであるとの見解を示している。

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直腸異物はどの年齢に多いか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第292回

直腸異物はどの年齢に多いか?私は普段直腸異物を診ていないのですが、直腸異物に関する論文はたぶん消化器科医よりたくさん読んでいると思います。それはそれでコワイな…。高位まで移行した物体では直腸穿孔や腹膜汚染を伴うことがあり、これらは出血や敗血症性ショックに至る重篤な合併症を引き起こしかねません。Bhasin S, et al. Rectal foreign body removal: increasing incidence and cost to the NHS. Ann R Coll Surg Engl. 2021;103:734-737.これは、イギリスにおいて2010~19年で直腸内異物除去のために病院で処置を受けた患者を対象とした研究です。イギリス国内で合計約3,500例、1年間で約389例に相当するとされています。国内では、年間約348ベッド日が使用されたと報告されています。直腸異物の患者さん、約85%が男性であり、年齢分布は20代前半と50代前半にピークがありました。10代から20代に変わるタイミングで爆増しているので、性的嗜好が大きく影響していることが推察されます。50代で多くなる理由はちょっとわかりません…。高齢化とともに便秘などの問題が増えることで、排便困難を解決しようとする過程で意図せず異物が挿入されてしまう、といったことが推測されますが、これも想像の域を出ません。小児(10~14歳)の小さなピークも観察されており、もしかすると虐待なども含まれているのかなと邪推しますが、これも理由は不明です。医療資源への財政負担もこの論文では提示されており、著者らは年間の保守的な推計で約34万ポンド(約6,800万円)と算出しています。公衆衛生的観点では、著者らは本事象の増加はインターネット上でのポルノの普及や多様な性具の入手と関連している可能性があるとしています。ただ、この統計データは手術コードに依存するため、因果まで推定できるわけではありません。確実なのは、20代で急に増えるということくらいでしょうか。

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第284回 医療界にも逆風か、連立解消で揺れる自民党のお相手探し

INDEX聞いてないよ公明党の手腕新たなカップル成立は医療界のリスクか聞いてないよ予想もしなかった「下駄の雪」*が牙をむいた。自公連立からの公明党の離脱のことである。前回の本連載を読んでいただければわかるが、私自身はまったくこのことを予想していなかった。最終的には自民党も公明党も互いにしがみつくと思っていたし、公明党が連立離脱を公にした後に会ったある自民党議員も「寝耳に水だった」と話していた。*下駄の裏にくっついた雪のように、力ある者に付いていく者を指す政界用語この離脱は医療政策にも一定の影響を及ぼすと個人的には考えている。公明党は「福祉の党」「平和の党」を金看板に掲げているが、私自身はこれを真に受けるつもりはない。以前からも国政選挙の政策比較時に言及しているが、私の端的な公明党の評価は1999年の小渕 恵三政権下で行われた地域振興券に始まる「元祖バラマキ政党」である。バラマキは商品券や給付金だけでなく、行政サービスの場合もある。そして行政サービスのバラマキでは、医療界にとっては前向きなものもある。その代表格がワクチン接種である。公明党の手腕同党は自民党、共産党と並んで地方の都道府県議会や市区町村議会に議員を送り込んでおり、その総数は2024年末時点で2,855人。野党第1党である立憲民主党でさえ839人で、その3分の1弱に過ぎない。この豊富な地方議員を使って、公明党議員が地方議会での質問、予算要求、陳情などで自治体の独自助成を勝ち取る。これを広げながら地方→都道府県→国への「上げ潮」型アプローチで定期接種化を求めていく。実例を挙げれば、2006年の東京都千代田区と北海道名寄市で高齢者向け肺炎球菌ワクチン接種費用の助成、2023年度から東京都が帯状疱疹ワクチンの接種費を助成する区市町村への補助事業を開始した時なども公明党が活発に動いている。後に両ワクチンとも国の定期接種化が実現した。また、現時点で定期接種化は実現していないが、昨今登場したRSウイルスワクチンについても、一部の自治体では接種の助成が始まっている。このうち愛知県大府市で2025年8月から始まった妊婦・高齢者での接種費用助成も公明党が盛んに議会で要望したものだ。これらは公明党のバラマキ政策の中でも功罪の「功」に属するものである。さらに、多くの医療者にとって記憶に新しいであろう今年3月の高額療養費の負担上限引き上げ凍結にも、公明党は一役買っている。この時は全国がん患者団体連合会が各方面に要望活動を展開し、凍結への大きな流れを作ったことはよく知られている。この凍結決定直後、同連合会理事長の天野 慎介氏に、私が理事を務める日本医学ジャーナリスト協会で講演してもらったことがある。その際に天野氏らはこの活動で数多くの与野党議員に会った時のことを語っている。「さまざまな法律・政策が通る時は、与党が自らそれを提案し、それに野党から批判の声が上がることがありますが、最後は結局、与党が一番強い。どれだけ野党が厳しく追及して、どれだけ世論が盛り上がろうとも、与党がその気にならなければ絶対に動かない。これは私が今まで約15年、患者団体を通じた要望活動をしてきて学んだこと。最後は与党が動いてくれないと絶対ダメ。与党が動くパターンは2つあり、1つは自民党の中から声が上がること。今回の場合は“このままじゃダメだ、参議院議員選挙に負ける”という声が上がったことが大きかった。もう1つのパターンは連立を組んでいる公明党から自民党に声がいくこと。今回の場合は斉藤 鉄夫代表が複数回にわたって総理と会って、“高額療養費を変えるべきだ、あるいは凍結すべきだ”と言っていただいたことが決定打になっている」。天野氏のこの発言は、まさに患者の命を守るために最前線で闘った人の言葉で、かつ経験と覚悟に裏打ちされた内容である。少なくともそこに嘘やごまかしが入り込む余地はないと私は考えている。このような事実を見る限り、医療関連では一定の役割を果たしてきたと言えるだろう。世間では「下駄の雪」「政教一致政党」と揶揄され、私も前述のように「元祖バラマキ政党」と批判的に捉えている部分もあるが…。新たなカップル成立は医療界のリスクかそして最新のニュースを見る限り、自民党は公明党に代わって日本維新の会に触手を伸ばしていると報じられている。日本維新の会は高額療養費の負担上限引き上げに反対はしていたものの、そもそも政策として「国民医療費総額の年間4兆円削減」を公言している。その1つがOTC類似薬の保険外しである。私自身はこの政策自体を否定はしないが、さすがに一律で対応するのは問題ありと考えている。ちなみに、日本維新の会が先日の参院選で掲げたマニフェスト内で「社会保険料を下げる改革」として記述していたものを箇条書きすると、以下のようになる。OTC類似薬の保険適用除外費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進人口減少等により不要となる約11万床の病床を、不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)電子カルテ普及率100%達成電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現診療報酬体系の再構築後発医薬品の使用原則化医薬分業制度の見直し職種間の役割分担の見直し・タスクシフト地域フォーミュラリの導入高齢者の医療費窓口負担を原則「7割引」に見直しこども医療費の無償化さて、これらがどう動くのか? 国政から目が離せない状況になっている。

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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アルツハイマー病の隠れた危険因子、「てんかん」との密接な関係【外来で役立つ!認知症Topics】第34回

アルツハイマー病(AD)や認知症の予防因子、とくに介入可能性のあるものについては、近年のLancet誌の特集が最も有名であることは、本連載ですでに紹介した。その作業部会では、危険因子に関する論文を蓄積してレビューし、重要因子を確認する作業を行い、最新情報が発信されている。さて筆者は、介入可能な危険因子として、「てんかん」が遠からず注目されるのではないかと思う。今回は、この「てんかん」とADの関係を述べる。高齢者のてんかんは見過ごされやすいてんかんは長年、子供の病気と思われてきた。また、高齢者のてんかんでは、痙攣を伴わないことも多いので、それと気付かれにくい。最も多い「焦点意識減損発作(旧名:複雑部分発作)」では、以下のような症状がみられる。心ここにあらずといった様子で、ぼーっとしている口をもごもごさせる奇妙な動作を繰り返すこのようなてんかん発作や、発作後もうろう状態下でも、ある程度複雑な行動ができることは記憶に留めたい。たとえば、赤信号では止まって、青になると歩き出せる。入浴中の発作なら、風呂を出て服を着ることもある。誰かと会話中の発作なら、会話内容がとんちんかんになっても続く。こうしたてんかんでは、意識が完全に回復するまで数十分程度かかる。そして、その間のことを覚えていない。なお臨床研究からは、こうしたてんかんを伴うAD患者では、認知機能低下が加速することがわかっている。互いに影響し合うADとてんかん高齢者のてんかんとADの関係に注目する最大の理由は、併発率が非常に高いことにある。AD患者は、健康成人に比べて、てんかんのリスクが3.1倍高まり、逆にてんかん患者におけるADの発症率は1.8倍高いことが、メタ解析から示されている1)。また、病理学的にADと確定診断された446例のうち17%が、AD診断後に新たなてんかん発作を生じ、その89%が全般性強直間代発作だったとされる2)。さらに、長期に繰り返した脳波測定からは、ADの前臨床期という早い段階で、意識障害を伴う局所性のてんかんが高頻度にみられることも報告されている3)。一方、子供の頃に発症したてんかんとADに関しては、動物実験から、認知機能低下やアミロイドの沈着がまだみられない若い時期でも、神経回路の過剰な興奮と「てんかんの準備状態」を確認した報告がある。またヒトの研究でも、常染色体顕性のAD遺伝子を持つ者、APOE4遺伝子を持つ者、晩発性ADの危険性の高い者では、無症状期であっても、認知課題を負荷した時、てんかんとの関係が深い「海馬」の過剰活動を認めることが知られる。実験レベルでは、アミロイドβとタウは、神経の過剰活動を起こすことで、てんかん性の活動を惹起する。逆に、てんかんに関わる神経ネットワークの過剰興奮は、アミロイドβとタウの比率を崩し、AD病理の端緒になるとされる。以上のように、基礎研究と疫学研究の両面から、ADとてんかんとの双方向関係が示唆されている。診断の鍵は「脳波」にありてんかんの診断根拠は、「発作間欠期てんかん性放電(IED)」の確認にある。24時間連続脳波計の記録によれば、AD患者の22~53%が臨床的な発作はないにもかかわらず、こうしたてんかん性放電を示したとされる。この存在率は一般の健康成人よりも明らかに高い。このような脳波の異常は、実際のてんかん発作を引き起こさないが、一過性の認知機能障害につながると考えられている。既述のように、近年、脳波上のてんかん活動は、ADによくみられる併存症でありながら、しばしば見過ごされてきたと強調されている4)。なお、以上に述べた臨床的、基礎的知見は、レビー小体型認知症(DLB)でも同様の傾向がみられる。臨床現場でみられる特徴的な「物忘れ」筆者は、認知症を心配して受診された新規患者では、原則として脳波検査を施行する。個人的な経験として、全患者の約5%でてんかん性の異常脳波所見と臨床症状を確認し、治療をしている。こうした患者さんの物忘れに関する訴えは特徴的なので、診断にとても役立つ。訴えには2種類ある。記憶が「プツン」と途切れて、まったく思い出せないこの多くは焦点意識減損発作など、発作そのものだろう。「プツン」がない時でも、本来10あった記憶能力が8か9に下がっているという自覚があるこの訴えは興味深い。実はIEDは、認知機能に対して慢性の悪影響を及ぼすが、動物実験によれば、この放電は海馬と大脳皮質との間の情報伝達を阻害し、記憶障害をもたらす。この現象が「記憶力が8か9に下がっている」という主観的表現になるのだろう。治療に関しては、てんかんと認知症との合併例では、抗てんかん薬により多くのてんかん発作は消失する。それに伴い、少なからぬ例でQOLの改善が自覚される。もっとも、認知機能の改善については、経験上、てんかんが治ると良くなるケースもあるが、メタアナリシスレベルの評価では、まだ肯定的な結論は示されていない。なお、新世代の抗てんかん薬には、こうした合併例での認知機能低下を抑える効果が期待されている。終わりに、ADやDLBが疑われる患者で脳波検査が行われることは少ないようだ。しかし、診断の精度を高め、治療の効率を上げるためにも、脳波は取っておきたい。また、若い頃に発症したてんかんのある人が、認知機能の評価を受ける機会も多くない。若い頃からてんかんのある人が50代以降になられた際には、一度は認知機能のチェックをすることをお勧めしたい。参考文献1)Dun C, et al. Bi-directional associations of epilepsy with dementia and Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Age Ageing. 2022;51:afac010.2)Mendez MF, et al. Seizures in Alzheimer's disease: clinicopathologic study. J Geriatr Psychiatry Neurol. 1994;7:230-233.3)Vossel KA, et al. Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease. JAMA Neurol. 2013;70:1158.4)Chen TS, et al. .The Role of Epileptic Activity in Alzheimer's Disease. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2024;39:15333175241303569.

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