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脱中心(分散)型臨床試験の治療効果は、非分散型と異なるか/BMJ

  脱中心(分散)型臨床試験(decentralised trial:DCT)は、試験活動の一部またはすべてを参加者に近い場所で実施するか、完全に遠隔で行うことで試験参加の負担軽減を目指すもので、より優れた患者中心の研究の促進を目的とする。しかし、研究者による監視が減弱するため試験結果に影響が及ぶ可能性があり、従来の非分散型臨床試験(non-DCT)と効果推定値が異なるかは不明とされる。スイス・ベルン大学のLouise Chaboud氏らは、DCTは従来の非分散型の無作為化試験と同様のクリニカルクエスチョンに対する回答を提供し、効果推定値を系統的に過大評価または過小評価することはないものの、結論の相違につながる可能性のあるわずかな絶対偏差が生じることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年11月18日号に掲載された。DCTとnon-DCTの治療効果を比較するメタ疫学研究 研究チームは、DCTまたは従来のnon-DCTとして設計された試験の治療効果を比較するメタ疫学研究を行った(本研究は特定の助成を受けていない)。 PubMedデータベースを用いて、同一のクリニカルクエスチョンに答えるDCTとnon-DCTを系統的に特定した。メタ解析で統合される試験は、同一のクリニカルクエスチョンに答えるものと仮定し、既存の系統的レビューを用いて効果推定値を比較した。 DCTは、参加者が研究目的で研究施設を訪問する必要が一切ない無作為化臨床試験と定義し、次の3つとした。(1)非接触試験:参加者は試験関係者と一切の接触を持たない、(2)在宅試験:参加者は研究目的で自宅を離れることはない、(3)近隣試験:参加者は研究目的で研究施設以外の特定の場所へ移動する。 non-DCTは、参加者が研究目的で研究施設を訪問する必要がある無作為化臨床試験と定義し、次の2つとした。(1)混合試験:DCTの特徴を部分的に有する試験(例:電話による遠隔評価)、(2)純粋試験:DCTの特徴をまったく持たない試験。効果に差異はないが、絶対偏差が1.3倍 11のクリニカルクエスチョンに関する51件のDCT(非接触試験9件、在宅試験20件、近隣試験22件)と86件のnon-DCT(混合試験35件、純粋試験51件)を比較した。バイアスのリスクが低いと判定された試験は、DCTが26件(51%)、non-DCTは51件(59%)であった。参加者の脱落率はDCTで低かった(9%vs.14%)。 non-DCTに比べDCTは試験の規模が大きく、サンプルサイズ中央値はDCTが1,175例(四分位範囲[IQR]:205~5,292)、non-DCTは236例(98~833)であった。平均的に、DCTはnon-DCTの5倍のサンプルサイズを有しており、これは募集プロセスの改善(たとえば、試験参加の募集案内への承諾者の増加)を示唆する。また、DCTは、より近年に行われた試験が多かった(発表年中央値はそれぞれ2012年vs.2007年)。 11のクリニカルクエスチョンのうち9つ(82%)で、DCTとnon-DCTの有意水準が一致した。また、DCTとnon-DCTで、効果に系統的な差異は認めなかった(オッズ比の要約比:1.01、95%信頼区間:0.93~1.09、異質性I2=8.6%)。一方、絶対偏差中央値は1.3倍だった(オッズ比の絶対比:1.30、IQR:1.13~1.51)。DCTが無作為化試験に新たな道をひらく 分散化により、試験は迅速化と低コスト化が可能となり、より大規模で多様性・代表性に富む集団を取り込むことができるため、試験参加者の重要なサブグループに関するエビデンスを提供し、より個別化された意思決定を可能にすると考えられた。 著者は、「試験の分散化は、治療の効果推定値の信頼性を維持しつつ、負担軽減など参加者への直接的な便益に加え、より大規模な試験の実施を可能にするなど、無作為化試験に新たな道をひらくとともに、患者中心のエビデンスの創出を促進すると考えられる」「本研究の知見は、DCTが効果推定値を系統的に過大評価または過小評価しないことを示唆するが、結論の相違を招きうる軽微な絶対偏差が生じているため、さらなる調査が求められる」としている。

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ER+/HER2-進行・転移乳がん、ESR1変異検出時のcamizestrantへの切り替えでPFS延長(SERENA-6)/SABCS2025

 ASCO2025で第III相SERENA-6試験の中間解析結果が報告され、ER+/HER2-の進行または転移を有する乳がんと診断され、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬の併用療法を開始してESR1変異が検出された患者が、次世代経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)および完全ER拮抗薬であるcamizestrant+CDK4/6阻害薬へ切り替えることによって、無増悪生存期間(PFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。今回、SERENA-6試験の最終PFS解析結果とESR1変異血中循環腫瘍DNA(ctDNA)動態の探索的解析の結果を、フランス・Institut CurieのFrancois-Clement Bidard氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で報告した。 SERENA-6試験は、ctDNAによって内分泌療法抵抗性を検出し、病勢進行前に治療の切り替えを実施するアプローチを使用した初の第III相国際共同二重盲検試験。定期的な腫瘍の画像検査時にctDNA検査を行い、内分泌療法抵抗性の初期兆候およびESR1変異を有する患者を特定した。ESR1変異が検出され、病勢進行がない場合は、AI(アナストロゾール、レトロゾール)からcamizestrant(75mg、1日1回経口投与)に切り替えて、同じCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclib)との併用を続けた。camizestrant切替群にはAIのプラセボ、AI継続群にはcamizestrantのプラセボも投与された。 主な結果は以下のとおり。・315例の患者がcamizestrant切替群(157例)とAI継続群(158例)に無作為に割り付けられた。データカットオフ(2025年6月30日)時点での追跡期間中央値は18.7ヵ月であった。・主要評価項目であるPFS中央値は、camizestrant切替群16.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.7~19.4)、AI継続群9.2ヵ月(同:7.2~9.7)であり、中間解析と同様にcamizestrant切替群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.46[95%CI:0.34~0.62]、p<0.00001)。・2次治療開始後のPFS(PFS2)中央値は、camizestrant切替群25.7ヵ月(95%CI:20.3~28.9)、AI継続群19.4ヵ月(同:17.8~21.4)であった(HR:0.56[95%CI:0.39~0.80]、名目のp=0.00153)。・化学療法/抗体薬物複合体(ADC)の投与を開始するまでの期間の中央値は、camizestrant切替群22.7ヵ月(95%CI:20.3~31.5)、AI継続群18.7ヵ月(同:16.7~24.7)であり、camizestrant切替群で長かった(HR:0.69[95%CI:0.49~0.97]、p=0.029)。・8週時点のESR1変異のアレル頻度はcamizestrant切替群で大幅に減少し(ベースラインからの変化の中央値:-100%[IQR:-100~-100])、AI継続群で増加した(同:+66.7%[IQR:-67.9~+465.0])(p<0.00001)。AI継続群では、ESR1変異のアレル頻度がベースラインから500%以上増加した患者は24.4%であったのに対し、camizestrant切替群では0.8%であった。・新たな安全性シグナルは報告されなかった。

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成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

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胃食道逆流症が耳疾患と関連か

 胃食道逆流症(GERD)は、耳鳴り、メニエール病、前庭機能障害、感音難聴のリスク上昇と関連する可能性があるという研究結果が、「Journal of Multidisciplinary Healthcare」に8月20日掲載された。 河北中医薬大学(中国)のWen Zhao氏らは、ヨーロッパ系集団のゲノムワイド関連解析データを用いて、GERDおよびバレット食道(BE)と耳疾患との関連を検討した。3つのメンデルランダム化法を適用し、因果推定は逆分散加重法を用いて算出した。 解析の結果、遺伝学的に予測されたGERDが耳疾患に影響を及ぼす可能性が示された。GERDは、メニエール病(オッズ比1.334)、感音難聴(同1.127)、前庭機能障害(同1.178)、持続性の耳鳴り(同1.019)、ほとんど常時ある耳鳴り(同1.007)、時折ある耳鳴り(同1.014)と関連していた。GERDの程度が高い場合、これらの耳疾患リスクが上昇した。耳鳴りを経験したことのない人では、GERDの程度が高いほど、耳鳴りを全く経験しない可能性が低下した(同0.939)。一方、GERDと中耳炎との間には因果的関連は認められなかった。また、BEと耳疾患リスクとの間にも因果的関連は認められなかった。 著者らは、「メンデルランダム化解析により、GERDがメニエール病、感音難聴、前庭機能障害、耳鳴りのリスクを上昇させる可能性があることが示された。本研究結果は、これらの疾患の予防に貴重な知見を提供し得る」と述べている。

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健康診断から見える、糖尿病予測の未来

 糖尿病は日本人の主要な生活習慣病である一方、予防可能な側面も大きく、発症リスクの理解と適切な介入の実現が課題である。この課題に対し、静岡県の国民健康保険データベースを用いて、健康診断データから2型糖尿病発症リスクを予測する新たなモデルが開発された。Cox比例ハザードモデルを基礎に構築した予測スコアは、検証データセットで良好な識別能を示したという。研究は静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の臼井健氏らによるもので、詳細は10月30日付で「Scientific Reports」に掲載された。 日本では13人に1人程度が2型糖尿病と診断されているが、生活習慣改善や早期介入が発症リスクの低減に寄与し得ることが指摘されている。地域コホートや各種健康診断制度によって大規模な一般住民データが得られている一方、既存の予測モデルは病院データや職域健診を基盤とするものが多く、一般住民の健診データを活用したモデルは十分に整備されていない。このような背景を踏まえ、本研究では一般住民の健診データを用い、発症までの期間や打ち切り症例を考慮したCox比例ハザードモデルで2型糖尿病発症を予測するモデルを開発・検証した。 本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ベースラインの健康診断時点で2型糖尿病(またはHbA1c値6.5%以上)やがんの既往がなく、年1回の健康診断歴を有する40歳以上の成人46万3,248人とした。対象者は2:1の比率で、モデル構築用(30万8,832人)と検証用(15万4,416人)に無作為に分割した。まずモデル構築用コホートにおいて、年齢、性別、BMI、血圧、健診で測定可能な各種血液検査値、喫煙・飲酒・運動習慣などの健康情報を用いてCox比例ハザードモデルにより糖尿病発症に関連する要因を解析し、予測モデルを構築した。続いて、その予測性能を検証コホートにおいてHarrellのc指数を用いて評価した。 モデル構築用データセットでは、中央値5.17年の観察期間中に5万2,152人(16.9%)が2型糖尿病と診断された。このデータセットにおいて、2型糖尿病発症に対する単変量および多変量Cox比例ハザード回帰解析を行った結果、高齢、男性、体格や血圧などの臨床指標、各種血液検査値や肝腎機能の異常、尿蛋白の存在、高血圧・脂質異常症に対する薬物使用、ならびに生活習慣(運動不足や過度の飲酒)が、いずれも発症リスクの上昇と関連していた。次いで、その結果をもとに、2型糖尿病発症を予測するスコアリングモデルを開発した。このモデルではスコアが高いほど発症リスクが高く、モデル構築用データセットではC指数0.652、検証用データセットではC指数0.656と、個人のリスクを良好な識別能をもって判別できることが示された。スコアごとの3年間での累積発症率は、スコア0.5未満で3.0%、スコア2.5以上では32.4%と大きく差があり、健診結果から算出される本スコアを用いることで個人を低リスクから高リスクまで明確に層別化できることが示された。これらの結果は検証用データセットでも同様に確認できた。 著者らは、「今回作成した予測スコアリングモデルは、検証用データセットで良好な識別能を示し、将来的な糖尿病発症リスクの層別化に応用可能である。また、本モデルは日常的に収集される健康診断の変数のみを使用しているため、識別能はやや低下する可能性があるが、実用性は高い」と述べている。さらに今後の展開として、「糖尿病患者では膵臓がんの発症リスクが高いことが報告されている。今後は、糖尿病発症の予防が膵臓がんの発症抑制につながるかといったテーマにも取り組む予定である」としている。 なお本研究の限界については、データベースには静岡県の住民のみが含まれ、一般化には限界があること、参加者を40歳以上に限定しているため若年層への適用が難しいことなどを挙げている。

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アブレーションしたら抗凝固薬やめられる?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は20年以上、発作性心房細動に悩んでいる。臨床エビデンスにかかわらず、患者として直感的に洞調律の維持が予後の改善に役立つことを感じている。長年、抗不整脈薬にて洞調律を維持した。脳卒中予防の重要性はわかるが、ワルファリン、DOAC共に年間3%程度の重篤な出血イベントリスクと考えると、とても抗凝固薬に手は出せなかった。薬による洞調律の維持に限界を感じてカテーテルアブレーションを受けることにした。アブレーションには心タンポナーデなどの重篤な合併症リスクがあることは承知した。アブレーションに内膜障害が起こるので短期間は抗凝固薬が必須と考え、内膜障害が消失するまで数ヵ月はDOACも使用することにした。アブレーションが成功して洞調律に戻れば抗凝固薬はやめられるか? 年間3%の重篤な出血イベントリスクから離れられる価値は、きわめて大きい。本試験の結果には医師としても患者としても注目したい。 アブレーションによる内膜障害が改善すれば、心房細動自体による血栓性の亢進は著しくないと推定される。実際、リバーロキサバンとアスピリンの比較でも、リバーロキサバンによる脳卒中減少効果は、アブレーション成功後1年以上経過した症例では明確ではなかった。リバーロキサバンを世界の標準用量の20mgから15mgに減量したこともあり、重篤な出血リスクは年間3%には達しなかったがリバーロキサバン群にてアスピリン群より多かった。 DOACについては各独占企業の特許が切れるので、出血イベントリスクとの案分における至適使用法の確立を目指す臨床的研究が活発になることを期待したい。

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わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」【最新!DI情報】第53回

わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」ウイルス性疣贅治療薬「カンタリジン(商品名:ワイキャンス外用液0.71%、製造販売元:鳥居薬品)」を紹介します。本剤は伝染性軟属腫(水いぼ)の治療薬として承認されたわが国初の外用薬であり、摘除や液体窒素による凍結に代わり得る新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>伝染性軟属腫の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児に、3週間に1回、患部に適量を塗布します。塗布16~24時間後に、石鹸を用いて水で洗い流します。なお、本剤の8回の投与までに治療反応が得られない場合は、他の治療法を考慮します。<安全性>副作用として、適用部位小水疱(95.7%)、適用部位痂皮(90.2%)、適用部位紅斑(87.9%)、適用部位疼痛(79.7%)、適用部位そう痒感(70.3%)、適用部位びらん(62.5%)、適用部位変色(55.9%)、適用部位皮膚剥脱(35.5%)、適用部位浮腫(22.7%)、適用部位乾燥、適用部位瘢痕、適用部位潰瘍、適用部位湿疹、接触皮膚炎、適用部位腫脹(いずれも1~10%未満)、適用部位丘疹、水疱性皮膚炎、痂皮、皮膚色素過剰、紅斑、化膿、膿痂疹、皮膚感染、細菌感染、膿痂疹性湿疹、発熱、性器水疱(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ウイルス性疣贅治療薬に分類される塗り薬です。2.伝染性軟属腫(水いぼ)の治療に用います。塗布した部位に水ぶくれができ、その水ぶくれが剥がれ落ちるときにウイルスに感染した組織も一緒に取り除かれることで、病変が改善すると考えられています。3.この薬は、医療機関で患部に適量を塗布します。塗布後16~24時間経過したら、石鹸を用いて水で洗い流してください。4.洗い流すまでの間、塗布部位に触れたり、舐めたり、噛んだりしないでください。誤って薬が口に入った場合には、ただちに医師や薬剤師に相談してください。5.他の医療機関を受診する場合や、薬局などで他の薬を購入する場合は、この薬を使用していることを必ず医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>「いぼ」には、ウイルス感染を原因とするものがあり、主な原因ウイルスとしてヒトパピローマウイルス(HPV)と伝染性軟属腫ウイルスが知られています。伝染性軟属腫ウイルスは、ポックスウイルス科に属し、伝染性軟属腫の原因となります。本疾患は主に小児で発症し、体幹や四肢に多発することが特徴で、一般的に「水いぼ」と呼ばれています。病変は直径1~4mm程度の光沢を有する平滑な丘疹であり、周囲に湿疹反応を伴い、そう痒を生じることがあります。掻破によって自己感染が起こり、病変が拡大することもあります。治療として摘除や液体窒素による凍結療法が行われていますが、小児においては疼痛と恐怖心を伴うことが問題となっていました。わが国においては、これまで伝染性軟属腫に対する治療薬は承認されていませんでした。本剤は、有効成分としてカンタリジンを含有する国内初の伝染性軟属腫治療薬です。塗布した部位において、中性セリンプロテアーゼの活性化を介して、表皮のデスモソームを脆弱化し、表皮構造を破壊することで水疱を形成します。この水疱形成により病巣皮膚が剥がれ落ち、ウイルス感染組織が除去されると考えられています。さらに、水疱形成に伴う局所炎症反応や免疫応答の促進が、病変の消失に寄与すると推察されています。製剤は、複数回の使用による交差汚染や揮発性溶媒の濃度変化を最小限に抑えるために、単回使用のアプリケータ形態を採用しています。また、誤飲防止のため、苦味剤として安息香酸デナトニウムを配合しています。2歳以上の日本人伝染性軟属腫患者を対象に、3週ごとに1回、最大4回(本剤はプラセボ対照期終了後を含めて最大8回)塗布した国内第III相臨床試験(208-3-1試験)において、主要評価項目であるすべての治療可能な病変の完全消失が認められた被験者の割合は、本剤群50.0%(95%信頼区間[CI]:41.68~58.32)、プラセボ群23.2%(95%CI:16.83~30.68)であり、本剤群はプラセボ群と比較し統計学的に有意な差が認められ(p<0.001)、プラセボに対する優越性が検証されました。また、群間差(本剤群-プラセボ群)の点推定値は26.8%(95%CI:15.67~37.88)でした。

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白内障手術前の検査【日常診療アップグレード】第45回

白内障手術前の検査問題83歳女性。両眼の白内障手術を1ヵ月後から段階的に予定している。既往歴には高血圧、脂質異常症、甲状腺機能低下症がある。服用薬はアムロジピン、リシノプリル、アトルバスタチン、レボチロキシンである。全身状態は良好で、身体診察では、バイタルサインおよび、その他の所見に異常はない。6ヵ月前の検査では、血清電解質、クレアチニン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常範囲であった。術前チェックとして、心電図検査を行った。

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第297回 パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告

パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告1972年発表のヒット曲「さそり座の女」で有名な歌手の美川 憲一氏がパーキンソン病であることを、同氏の事務所が先月11月13日に公表しました1)。その後、関連するニュースが多く報告されるようになっています。2010年代の終わりに初出して使われるようになった2)新語のパーキンソン病大流行(Parkinson pandemic/Parkinson’s pandemic)が示唆するとおり、理由はどうあれパーキンソン病は増えており、今や世界の実に約1,200万例がパーキンソン病です。先立つたった6年で2倍近く増えました3)。パーキンソン病は脳のドーパミン放出神経の消失やαシヌクレイン(a-syn)の凝集体であるレビー小体を特徴とします。そのa-synを標的とするワクチンACI-7104.056の有望な第II相試験結果が先週11日に発表されました4,5)。ACI-7104.056はスイスのバイオテクノロジー企業AC Immuneが開発しています。a-syn抗原を成分とし、パーキンソン病初期に広まって神経を損なわせる病原性の多量体a-synへの抗体を生み出します。最近になってAC Immune社はワクチン事業という表現をしなくなっており、ACI-7104.056もその方針に沿ってワクチンではなく免疫療法と表現するようになっています。しかしかつてはワクチン事業に含められていました。実際、ClinicalTrials.govへの登録情報にはACI-7104.056がワクチンであると明記されています6)。VacSYnと銘打つ同試験には、初期のパーキンソン病患者34例が組み入れられています。被験者はACI-7104.056かプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り振られました。初回、4週後、12週後、24週後、48週後、74週後にいずれかが投与される運びとなっており6)、少なくとも12ヵ月間(48週間)の投与を経た被験者の中間解析が今回発表されました。20例は74週目の投与に至っています。ACI-7104.056投与群の抗a-syn抗体価は投与するごとに上昇し、全員が血中と脳脊髄液(CSF)中のどちらでも目安の水準に届いていました。一方、当然ながらプラセボ群の抗a-syn抗体は増えず、実質的に一定でした。脳組織のa-synが蓄積し続けるパーキンソン病の進行でCSF中のa-synは減ることが知られます。今回のVacSYn試験でのプラセボ群のCSFのa-syn濃度は低下し続けましたが、ACI-7104.056投与群は低下を免れて一定を保ちました。神経損傷の指標の神経フィラメント軽鎖(NfL)濃度は、CSFのa-synとは対照的にパーキンソン病の神経変性や神経損傷の進行につれて上昇することが報告されています。それゆえVacSYn試験のプラセボ群のNfL濃度は上昇傾向を示しました。しかしACI-7104.056投与群のNfL濃度はそうはならず、CSFのa-syn濃度と同様に一定を保ち、どうやら神経損傷/変性が食い止められていたようです。極め付きは運動症状の進行を食い止めるACI-7104.056の効果も見てとれました。運動症状を調べるMDS-UPDRS Part III検査値がプラセボ群では上昇して悪化傾向を示しました。一方、ACI-7104.056投与群の74週時点のMDS-UPDRS Part III検査値はベースラインに比べて取り立てて変わりなく、実質的な悪化傾向はみられませんでした。VacSYn試験は2部構成で、多ければ150例を募る第2部を始めるかもしれない、とAC Immune社は今夏2025年8月の決算報告に記しています7)。その開始はまだ正式に発表されていないようです。同社は今回の有望な結果を手土産にして、ACI-7104.056の承認申請に向けた今後の臨床試験の段取りを各国と話し合うつもりです4)。VacSYn試験の第2部をどうするかもその話し合いにおそらく含まれるのでしょう。サソリ毒がパーキンソン病に有効美川 憲一氏が歌った「さそり座の女」にも出てくるサソリ毒由来のペプチドに、奇しくもパーキンソン病治療効果があるらしいことが最近の研究で示唆されています8,9)。SVHRSPと呼ばれるそのペプチドは、どうやら腸の微生物を整えることで脳のドーパミン放出神経の変性を防ぐようです10)。「さそり座の女」の女性の毒と情の深さが対照的なように、サソリ毒は命を奪うほどの害がある一方でヒトの健康にも貢献しうるようです。AC Immune社のワクチンやサソリ毒成分などの研究や開発が今後うまくいき、美川 憲一氏をはじめ世界のパーキンソン病患者を救う手段がより増えることを期待します。 参考 1) 美川憲一に関するご報告 2) Albin R, et al. Mov Disord. 2023;38:2141-2144. 3) Dorsey ER, et al. J Parkinsons Dis. 2025;15:1322-1336. 4) AC Immune Positive Interim Phase 2 Data on ACI-7104.056 Support Potential Slowing of Progression of Parkinson’s Disease. 5) ACI-7104 in VαcSYn Phase 2 - Interim results 6) VacSYn試験(ClinicalTrials.gov) 7) AC Immune Reports Second Quarter 2025 Financial Results and Provides a Corporate Update 8) Zhang Y, et al. J Ethnopharmacol. 2023;312:116497. 9) Li X, et al. Br J Pharmacol. 2021;178:3553-3569. 10) Chen M, et al. NPJ Parkinsons Dis. 2025;11:43.

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ブロッコリーやキャベツ摂取量が多いほど乳がんリスク低下/SABCS2025

 ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科野菜の摂取量が多いほど乳がんの発症リスクが低く、とくにER陰性乳がんでその傾向が顕著である可能性を、米国・ハーバード大学医学大学院のAndrea Romanos-Nanclares氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で報告した。 アブラナ科野菜に含まれるグルコシノレート(glucosinolate)は、実験モデルで乳がん細胞増殖抑制作用が示されているが、エビデンスは依然として限定的で一貫性に欠けている。そこで研究グループは、大規模前向きコホート研究のデータを用いて、アブラナ科野菜およびグルコシノレートの摂取量と乳がんリスクとの関連を長期間にわたり検証した。 対象は、Nurses' Health Study(NHS、1984~2019年、7万6,713人)およびNurses' Health Study II(NHSII、1991~2019年、9万2,810人)の約17万人であった。食事はベースラインで半定量的な食物摂取頻度調査票により聴取し、その後4年ごとに更新した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ/コールスロー、芽キャベツ、ケール、からし菜(mustard greens)、フダンソウ(chard)を含むアブラナ科野菜の累積平均摂取量およびエネルギー調整したグルコシノレート摂取量と、浸潤性乳がんおよびそのサブタイプの発症リスクとの関連について、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・30年超のフォローアップにおいて、2コホートで1万2,352件の浸潤性乳がんが確認された。ER陰性は1,703件、ER陽性は7,880件であった。・アブラナ科野菜の摂取量が多い群では乳がんリスクが有意に低かった(5~6サービング超/週vs.1サービング未満/週のHR:0.92、95%CI:0.86~0.97、傾向のp<0.01)。代替健康食指数(AHEI)で調整した後はこの関連はわずかに弱まった。・ER陰性乳がんにおいてリスク低下の傾向が最も強かった(5~6サービング超/週vs.1サービング未満/週のHR:0.87、95%CI:0.74~1.02、傾向のp=0.01)。・グルコシノレート総摂取量が最も多い最高五分位群の参加者は、最低五分位の参加者と比較して、ER陰性を含む乳がんの発症リスクが低かった(乳がん全体のHR:0.92[95%CI:0.87~0.98、傾向のp<0.01]、ER陰性乳がんのHR:0.87[95%CI:0.74~1.02、傾向のp=0.03]、ER陽性乳がんのHR:0.93[95%CI:0.86~1.00、傾向のp=0.01])。 Romanos-Nanclares氏は「これらの結果は、アブラナ科野菜の摂取が乳がんにおける修飾可能な防御因子である可能性を示唆するものである。グルコシノレートが乳がんリスクにどのように関与するかを理解するためにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

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mRNAインフルワクチン、不活化ワクチンに対する優越性を確認/NEJM

 ヌクレオシド修飾メッセンジャーRNA(modRNA)インフルエンザワクチンは、対照ワクチンと比較して相対的有効性に関して統計学的な優越性を示し、A/H3N2株とA/H1N1株に対する免疫応答が顕著である一方、副反応の頻度は高いことが示された。米国・East-West Medical Research InstituteのDavid Fitz-Patrick氏らが、第III相無作為化試験「Pfizer C4781004試験」の結果を報告した。modRNAインフルエンザワクチンは、インフルエンザA型とB型のそれぞれ2つの株(A/H3N2、A/H1N1、B/Yamagata、B/Victoria)のヘマグルチニンをコードする4価のワクチンである。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で報告された。3ヵ国1流行期で実施、承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンと比較 Pfizer C4781004試験は、2022~23年のインフルエンザ流行期に米国の242施設、南アフリカ共和国の5施設、フィリピンの1施設で実施した無作為化試験(Pfizerの助成を受けた)。 年齢18~64歳の健康な成人を、modRNA群、または承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンを接種する群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは相対的有効性とし、modRNAワクチン接種後少なくとも14日の時点でインフルエンザ様症状があり検査でインフルエンザが確認された参加者の割合が、対照群よりも低いことと定義した。相対的有効性の非劣性(両側95%信頼区間[CI]の下限値が-10%ポイント以上)および優越性(同0%ポイント以上)を検証した。 免疫原性は赤血球凝集抑制(HAI)試験で評価した。また、接種後7日以内の反応原性(副反応)、1ヵ月後までの有害事象、6ヵ月後までの重篤な有害事象の評価を行った。相対的有効性34.5%、非劣性・優越性の基準満たす 2022年10月24日~2023年1月30日に1万8,476例(平均年齢43歳、男性41.9%、白人73.6%)を登録し、9,225例をmodRNA群、9,251例を対照群に割り付けた。それぞれ9,191例および9,197例が実際にワクチンの接種を受け、全体の92.9%が6ヵ月間の追跡を完了した。 接種後14日目以降にインフルエンザ様症状が発現し検査でインフルエンザが確認された参加者は、modRNA群で57例、対照群で87例であり、対照群と比較したmodRNA群の相対的有効性は34.5%(95%CI:7.4~53.9)であった。95%CIの下限値は、非劣性および優越性の双方の基準を満たした。 インフルエンザ様症状の原因ウイルス株は、主にA/H3N2株とA/H1N1株であり、B型株が原因のものはごくわずかであった。HAI試験における抗体反応は、インフルエンザA型で非劣性が示されたが、B型では示されなかった。安全性プロファイルは2群でほぼ同様 安全性プロファイルは2つの群でほぼ同様であり、新たな安全性の懸念は確認されなかった。 反応原性(副反応)のイベントは、modRNA群で報告が多かった(局所反応:70.1%vs.43.1%、全身性イベント:65.8%vs.48.7%)。これらは全般に軽度または中等度で一過性であり、重度のイベントに両群間で臨床的に意義のある差は認めなかった。最も頻度の高い局所反応は疼痛で、最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛であった。発熱(≦40.0°C)は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%に発現した。 安全性データのカットオフ日(2023年9月29日)の時点で、ワクチン接種から4週間までの有害事象の報告は、modRNA群で6.7%、対照群で4.9%であった。ワクチン関連の有害事象は、modRNA群で3.3%、対照群で1.4%だった。 重篤かつ生命を脅かす有害事象、重篤な有害事象、試験中止に至った有害事象の頻度は低く、両群で同程度であった。modRNA群の1例で、ワクチン関連の重篤な有害事象(Grade3の接種部位反応とGrade4のアナフィラキシー反応)がみられた。接種後6ヵ月までに、16例に致死的な有害事象が発生した(modRNA群7例、対照群9例)が、いずれもワクチン関連とは判断されなかった。接種後1週間以内の死亡例の報告はなかった。 著者は、「modRNAワクチンプラットフォームが許容可能な安全性を備えた効果的なワクチンを迅速かつ大量に生産する能力は、COVID-19だけでなく、インフルエンザなどの季節性の呼吸器疾患の予防への応用においても重要である」「本試験で確認されたmodRNAワクチンによるインフルエンザの予防効果は、ヘマグルチニンのみをコードするように設計されたワクチンで達成されたが、modRNAワクチンは他のインフルエンザウイルス抗原を標的にできる可能性もある」「modRNAプラットフォームはインフルエンザワクチンの開発において有望であり、既存製品を上回る恩恵をもたらす可能性がある」としている。

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認知症に伴う食欲不振やアパシーに対する人参養栄湯の有用性

 現在、認知症に伴う食欲不振やアパシーに対する有効な薬物療法は明らかになっていない。筑波大学の田村 昌士氏らは、アルツハイマー型認知症(AD)およびレビー小体型認知症(DLB)における食欲不振やアパシーに対する人参養栄湯の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験を実施した。Psychogeriatrics誌2026年1月号の報告。 本研究には、日本の病院およびクリニック16施設が参加した。対象患者は、人参養栄湯群24例または対照群25例にランダムに割り付けられた。主要アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory-12(NPI-12)のサブカテゴリー「摂食行動」における食欲不振スコアの12週間後の変化とした。副次的アウトカムは、食物摂取量、NPI-12スコア、Zarit介護負担尺度日本語版、意欲の指標(Vitality Index)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、前頭葉機能検査(FAB)、体重、赤血球数、ヘモグロビン、アルブミン、CONUTスコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・主要アウトカムである食欲不振スコアの変化は、12週時点で両群間に有意差は認められなかった。・副次的アウトカムのうち、人参養栄湯群において、対照群と比較し、4週目および12週目の食物摂取量の有意な増加が認められた。・人参養栄湯群では、4、8週目のNPI-12スコア、12週目の抑うつ症状、4、8、12週目のアパシー、4、8、12週目の摂食行動の有意な減少が認められたが、対照群との差は認められなかった。・食欲不振スコア6以上の患者を対象としたサブグループ解析では、人参養栄湯群は対照群と比較し、ベースラインから8、12週目におけるスコアの減少に有意な差が認められた。 著者らは「主要アウトカムにおいて、統計学的に有意な差は認められなかったが、サンプル数が少なかったことが影響していると考えられる。しかし、人参養栄湯群において、副次的アウトカムである食物摂取量の有意な改善が示された。また、サブグループ解析では、より重度な食欲不振を有する患者において、人参養栄湯が食欲を改善する可能性が示唆された」とし「これらの知見は、ADまたはDLBにおける食欲改善に対する人参養栄湯の潜在的な有効性を示唆している」と結論付けている。

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大動脈弁逆流症、専用弁によるTAVIが有望/Lancet

 手術のリスクが高いと考えられる中等度~重度または重度の先天性大動脈弁逆流症患者では、本症専用の人工弁を用いた経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)は、事前に規定した安全性と有効性の性能目標を達成するとともに、最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善が得られ、心機能状態の改善と生活の質の向上をもたらすことが示された。米国・Cedars-Sinai Medical CenterのRaj R. Makkar氏らALIGN-AR Investigatorsが、多施設共同試験「ALIGN-AR試験」の結果を報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年11月16日号で発表された。米国の前向き単群試験 ALIGN-AR試験は、米国の30施設で進行中の前向き単群試験であり、2018年6月~2025年7月に参加者のスクリーニングを行った(JenaValve Technologyの助成を受けた)。 年齢18歳以上、症候性の中等度~重度(米国心エコー図学会[ASE]基準の3+)または重度(ASE 4+)の大動脈弁逆流症で、手術による死亡または合併症のリスクが高く、NYHA心機能分類II以上の患者を対象とした。 これらの患者に対し、ブタ心膜弁尖を用いて先天性大動脈弁逆流症の専用に設計された人工弁であるトリロジー弁(Trilogy valve、JenaValve Technology製)を使用したTAVIを施行した。 安全性の主要複合エンドポイントは、術後30日以内の主要有害事象(全死因死亡、脳卒中、生命を脅かす出血または大出血、急性腎障害、主要血管合併症、外科的または経皮的インターベンションの追加の必要性、新規のペースメーカー植込み術、中等度以上の大動脈弁逆流症)の複合とした。 文献に基づく安全性エンドポイントの発生率は30%であり、これに安全性エンドポイントの非劣性マージンである1.35を乗じた40.5%を性能目標とし、検証を行った。また、1年全死因死亡率について、性能目標である25.0%に対する優越性を検証した。解析は、ITT集団で実施した。主要複合エンドポイントの非劣性を確認 700例を登録した。全体の年齢中央値は79.0歳(四分位範囲[IQR]:72.0~84.0)、女性が321例(46%)で、白人が532例(76%)、黒人またはアフリカ系米国人が68例(10%)、アジア系が36例(5%)であった。大動脈弁逆流症の重症度は、379例(55%)が中等度~重度、304例(44%)が重度だった。664例(95%)で技術的成功が達成された。追跡期間中央値は472日(IQR:352~891)。 30日の時点で、安全性の主要複合エンドポイントは700例中168例(24.0%、97.5%信頼区間[CI]の上限値:27.3%)で発生し、性能目標である40.5%に対し非劣性を示した(非劣性のp<0.0001)。 30日時の、安全性の主要複合エンドポイントの個別の構成要素については、全死因死亡が700例中11例(1.6%)、脳卒中が12例(1.7%)、大出血/生命を脅かす出血が19例(2.7%)、急性腎障害(7日目の時点でステージ2または3)が5例(0.7%)、主要血管合併症が17例(2.4%)、デバイスまたは手技関連の手術、インターベンション、主要血管合併症が21例(3.0%)に発生し、新規ペースメーカー植込み術は、すでに装着している患者を除く589例中127例(21.6%)、中等度または重度の大動脈弁逆流症は、30日までに心エコー図の解釈が行われていない患者を除く569例中3例(0.5%)に発生した。1年全死因死亡率は優越性を示した 1年時の全死因死亡は、1年の追跡を完了した492例中38例(7.7%[97.5%CIの上限値:10.4%])で発生し、性能目標である25.0%に対し優越性を示した(優越性のp<0.0001)。また、2年時までに、全死因死亡は53例(13.3%)で発生した。 最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善(2年後に逆流なし/わずかに残存85%、軽度13%)が得られ、心機能状態の改善(2年後のNYHAクラスI 63%、II 29%、III 8%)と生活の質の向上(2年後の平均KCCQ-OSスコア81.8点)をもたらした。 著者は、「これらのデータは、手術後の死亡または合併症のリスクが高い先天性大動脈弁逆流症の患者において、専用に設計されたデバイスを用いたTAVIが実行可能かつ効果的な治療選択肢であるとの見解を支持するものである」「高い技術的成功率(95%)、低い死亡率(30日死亡率1.6%、1年死亡率7.7%)、最小限の残存大動脈弁逆流症(1年および2年時点で発生した中等度以上の残存大動脈弁逆流症は約1%)が確認され、大動脈弁逆流症における手技上の課題を克服した」「これらの知見は、臨床応用と将来のガイドライン策定に必要な、重要なエビデンスを提供する」としている。

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超加工食品は若年成人の糖尿病リスクを押し上げる

 工業的に作られ添加物が多用されている「超加工食品」が、若年成人の糖尿病リスクを高める可能性を示唆するデータが報告された。米南カリフォルニア大学ケック医科大学のVaia Lida Chatzi氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition & Metabolism」に11月10日掲載された。 この研究から、超加工食品の摂取量が多いことが、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなること(インスリン抵抗性)や、2型糖尿病または前糖尿病(初期の高血糖状態であり2型糖尿病のリスクが高い状態)と関連のあることが示された。論文の上席著者であるChatzi氏は、「超加工食品の摂取量が少しでも増えると、肥満リスクのある若年成人の血糖調節が乱れる可能性がある。食生活は修正可能であり、若年者に生じる早期の代謝性疾患を予防する上で速やかに対処すべきターゲットであることを、われわれの研究結果は示している」と話している。 超加工食品は主に、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、自然食品から工業的に抽出された物質で作られ、風味や見た目を整え保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などのさまざまな添加物が含まれている。例えば、個別包装の焼き菓子、砂糖入りのシリアル、ほとんど手をかけずに食べられる加工食品、ハムやサラミなどの加工肉が該当する。 Chatzi氏らの研究では、過体重または肥満に該当する17~22歳の若年者85人を4年間追跡調査した。研究参加者は、食事に関するアンケートに回答したほか、インスリンに対する体の反応や血糖値を調べるための血液検査を受けた。研究参加時点での超加工食品の摂取量(重量)が食事に占める割合は、平均20.40±12.68%だった。 結果に影響を及ぼすことのある因子(年齢、性別、摂取エネルギー量、運動習慣など)を統計学的に調整した解析により、食事に占める超加工食品の摂取割合が10パーセントポイント高いごとに、インスリン抵抗性が生じていることを示唆する状態(耐糖能異常)の該当者が158%多く、2型糖尿病や前糖尿病の該当者は51%多いという関連性が明らかになった。また、研究参加時点での超加工食品の摂取量が多い人ほど、追跡期間中にインスリンの分泌量がより増大するという関連も見つかった。インスリンの分泌量が増えることは、インスリン抵抗性が生じ始めていることを意味する。 論文の筆頭著者である米ダートマス大学のYiping Li氏は、「これらの研究結果は超加工食品の摂取が若年成人の2型糖尿病や前糖尿病のリスクを高めることを意味し、かつ、それらの食品の摂取を減らすことが糖尿病の予防に役立つ可能性を示している」と語っている。研究者らは今後、どのような超加工食品が最も大きなリスクをもたらすのかを明らかにするために、より大規模な集団を対象により詳細な食事調査を行った上で、リスクを追跡する必要があるとしている。

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毎年、極端な暑さや寒さで何千人もの人が死亡

 米国では、1999年から2024年の25年間に6万9,000人以上が極端な暑さや寒さを根本原因または一因として死亡したことが、新たな研究で明らかになった。米マサチューセッツ総合病院心臓血管画像研究センターのShady Abohashem氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に11月18日掲載された。 Abohashem氏は、「これまでの研究の多くは生態学的研究かモデルや予測に基づく研究であり、暑熱関連死と寒冷関連死を別々に調査していた。それに対し本研究は、主要な人口統計学的サブグループ全体における極端な暑さや寒さという両端の非最適気温に関連する死亡について、全国規模で実際に観察された最新の評価を提供している」と述べている。また同氏は、「米国では毎年、暑さや寒さへの曝露により何千人もの命が奪われ続けているが、この研究結果は、その多くが予防可能であることを示している」とも述べている。 Abohashem氏らは、米疾病対策センター(CDC)のWONDER(Wide-ranging Online Data for Epidemiologic Research)のプラットフォームのデータを分析し、医療記録のコードに基づいて、死亡証明書に気温が死因または寄与因子として記録されている症例を特定した。 その結果、1999年から2024年の間の米国での死亡者数は6971万3,971人であり、そのうち6万9,256人(約1,000人に1人)では、極端な気温曝露が根本的または寄与的死因として記録されていた(暑熱35%、寒冷65%)。粗推計では、気温関連死亡率は、近年ほど高くなることも示された。このほか、65歳以上の高齢者は若年成人と比べて極端な気温により死亡するリスクが約4倍高かった。また、男性は女性より同死亡リスクが約2.6倍高かった。さらに、黒人は白人と比べて極端な暑さによる死亡リスクが約2倍高く、極端な寒さによる死亡リスクも他の人種・民族より高いことが示された。 Abohashem氏は、「気温に関連した死亡のほとんどは、依然として寒さへの曝露によって引き起こされているが、気候変動が加速するにつれ、熱に関連した死亡者も増加すると予想される」と述べている。 またAbohashem氏は、「気候変動は深刻な気象現象のリスクを高めている。本研究結果は、極端な気象現象が激化する中で脆弱な人々を守るために、住宅の質の向上、冷暖房へのアクセス、早期警報システムなど、的を絞った適応戦略が必要であることを強調している」との考えを示している。さらに、「この結果は、どの集団が不釣り合いに大きな影響を受けている可能性があるのかを理解する助けとなり、それに応じて公衆衛生戦略を効果的に変更することを可能にする」と付け加えている。

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男性患者のED・LUTSに潜む肝線維化、FIB-4 indexによる包括的アセスメントの重要性

 男性のEDや下部尿路症状(LUTS)は、前立腺やホルモンの問題として扱われることが多い。しかし、新たな研究で、肝臓の状態もこれらの症状に関係している可能性が示された。男性更年期障害(LOH)のある男性2,369人を対象に、肝線維化指標(FIB-4 index)を用いた解析を行ったところ、FIB-4 indexの上昇とEDおよびLUTSの悪化が有意に関連することが明らかになった。研究は順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の上阪裕香氏、辻村晃氏らによるもので、詳細は10月31日付で「Investigative and Clinical Urology」に掲載された。 中高年男性におけるLOHや性機能障害は、代謝異常や動脈硬化と関連することが報告されている。一方、近年の食生活の乱れや飲酒により、男性の肝機能障害が増加しており、早期発見の重要性が高まっている。肝線維化を評価する非侵襲的指標としてFIB-4 indexが注目され、性機能やLUTSとの関連も示唆されているものの、大規模集団を対象とした包括的解析は限られている。こうした背景を踏まえ、本研究ではFIB-4 indexと性機能、LUTS、LOH指標との関係を明らかにするため、診療データを後ろ向きに解析した。 本研究では、2016年5月〜2024年3月に順天堂大学医学部附属浦安病院および関連クリニックを受診したLOH症状のある男性2,369名を後ろ向きに解析した。LUTS、性機能、LOHの評価には、国際前立腺症状スコア(IPSS)と生活の質指数、勃起機能問診票(SHIM)および勃起の硬度スケール(EHS)、男性更年期障害質問票(AMS)をそれぞれ用いた。内分泌・代謝指標としてDHEA-S、IGF-1、総テストステロン、コルチゾール、HbA1c、中性脂肪を測定し、FIB-4 indexは五分位に層別化した。まずFIB-4 indexと各臨床指標との関連をトレンド解析で検討し、続いてFIB-4 indexと有意に関連した内分泌・代謝因子を調整因子として、症状スコアとの関連を多変量解析で評価した。有意であった症状スコアについては、その重症度とFIB-4 indexとの関係も追加で検討した。 患者の平均年齢は50.6歳であった。解析の結果、FIB-4 indexの五分位が上昇するにつれて、年齢や肝酵素値は高くなり、血小板数は低下する傾向が認められた(傾向検定、いずれもP<0.001)。症状スコアについても、FIB-4 indexの上昇に伴い、IPSSおよびAMSは上昇し、SHIMおよびEHSは低下することが示された(同 P<0.001)。 内分泌因子では、DHEA-SおよびIGF-1はFIB-4 indexの上昇に伴い低下し、コルチゾールは上昇した(同P<0.001)。興味深いことに、FIB-4 indexとテストステロン値との間には有意な関連は認められなかった(同P=0.091)。同様に、代謝指標では、FIB-4 indexの上昇に伴いHbA1cは増加した(同P<0.001)が、中性脂肪との関連は見られなかった(同P=0.181)。 さらに、症状スコアをDHEA-S、IGF-1、コルチゾール、HbA1cで補正した多変量回帰解析を実施した。その結果、FIB-4 indexが上昇するにつれてSHIMスコアは低下し(同P<0.001)、重度のEDの場合(SHIMスコアが低い)ではFIB-4 indexも高値を示した(同P<0.001)。同様に、FIB-4 indexが上昇するほどIPSSは増加し(同P<0.001)、LUTSが重い場合(IPSSが高い)ではFIB-4 indexも高値であった(同P<0.001)。 著者らは、「本研究では、大規模コホートでEDやLUTSがFIB-4 indexで評価される肝線維化と密接に関連することを示した。この結果は、症状を呈する男性の評価において潜在的肝線維化も考慮した多職種的アプローチの重要性を示唆している。今後は、縦断的なホルモン測定や画像・組織評価を組み込んだ前向き研究が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界として、後ろ向き研究であるため生活習慣や併存疾患の影響を十分に評価できなかったこと、また前立腺容積や尿流測定などの客観的泌尿器評価や、ホルモンの縦断的測定も行われなかったことを挙げている。

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第273回 2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府

<先週の動き> 1.2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府 2.医師臨床研修制度、都市集中は緩和も大学病院が減少/厚労省 3.OTC類似薬、保険外し見送り 患者に追加負担で医療費抑制へ/厚労省 4.医学部女子41%時代へ、「医学部=男子優位」は過去の話に/文科省 5.医療DXで人手不足に挑む「働きやすい病院」の認定制度創設を検討/厚労省 6.電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬へ モデル課題で工程見直し/厚労省 1.2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府政府の総合経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算案(一般会計18兆3,034億円)は12月11日、衆議院本会議で可決され参議院に送付された。与党に加え国民民主党、公明党などが賛成に回り、会期内成立が確実視される。補正予算は物価高対策(電気・ガス代支援、子供1人当たり2万円給付など)を柱とするが、医療分野では「医療・介護等支援パッケージ」を中心に、病院・診療所の経営を下支えする補助が盛り込まれた。厚生労働省関係は2兆3,252億円で、このうち医療・介護等支援パッケージは1兆3,649億円。医療機関・薬局の「賃上げ・物価上昇」への緊急支援として5,341億円を計上し、診療体制の維持と人材確保を狙う。具体的には、病院に対し1床当たり「賃金分8.4万円+物価分11.1万円」の計19.5万円を基礎的に支給する。さらに救急医療を担う病院には、救急車の受入件数に応じ、1施設当たり500万円から最大1億5,000万円を加算し、3次救急病院には件数にかかわらず1億円を加算する仕組みも設けた。有床診療所は1床当たり8.5万円、無床の診療所(医科・歯科)は1施設当たり32万円を支援する。薬局も店舗数に応じた傾斜配分とし、訪問看護ステーションも対象に含める。また、病床再編を促す「病床数適正化緊急支援基金」として3,490億円を計上し、病院(一般・療養・精神)や有床診療所が病床削減などを行う場合、1床当たり410.4万円(休床は205.2万円)を補助する。さらに、施設整備の資材高騰分などを支援する事業(462億円)や、ICT機器導入など生産性向上を後押しする支援(200億円、1病院当たり上限1億円)も盛り込み、物価高・人件費高騰局面での経営悪化に歯止めをかける構成となっている。予算成立後は交付要綱で要件が示され、現場では申請実務と資金繰りへの速効性が焦点となる。なお、病院向け支援額については下記参考中の計算ツール(東日本税理士法人 長 英一郎氏作成)で概算が試算できる。 参考 1) 医療分野における賃上げ・物価上昇に対する支援 病院向け支援額計算ツール【交付額】 2) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 3) 18兆円の25年度補正予算案、午後の衆院本会議で可決へ…国民民主・公明も賛成の方針(読売新聞) 4) 政府25年度補正予算案を閣議決定 医療機関の賃上げ・物価上昇に5,341億円計上 後発品基金は844億円(ミクスオンライン) 5) 病院経営の危機踏まえ、1床当たり「賃金分8万4,000円、物価分11万1,000円」の緊急補助、救急病院では加算も-2025年度補正予算案(Gem Med) 2.医師臨床研修制度、都市集中は緩和も大学病院が減少/厚労省厚生労働省は2025年12月5日に、医道審議会医師分科会医師臨床研修部会で、2027年度臨床研修医の募集定員上限案を了承した。募集定員倍率は前年度と同じ1.05倍とし、定員上限は約1万1,000人規模となる。地域枠学生の増加などで算出上の乖離が生じたため、上限総数を超過した分(約100人規模)を各都道府県の「基本となる数」に応じて按分する仕組みを初めて導入する。また、前年度比で減少率が1%を超える都道府県への追加配分や、離島人口に加えて離島数も考慮する新たな加算を設け、地域の実情をより反映させる。制度導入以降、研修医の都市部集中は緩和され、大都市6都府県の採用割合は約4割まで低下した。その一方で、募集定員に占める大学病院の割合は減少傾向が続き、教育・研究機能の低下や医局を通じた地域医師派遣への影響を懸念する声が相次いだ。委員からは、大学病院の経営悪化が研修環境を損ねているとして、国による財政的支援やインセンティブの必要性を訴える意見が出された。あわせて、2026年度から開始された医師少数県と多数県を結ぶ「広域連携プログラム」は、初年度からマッチ率約8割と順調な滑り出しをみせた。基礎研究医プログラムも一定の成果を上げており、今後は定員や設置要件の柔軟化が検討されている。反面、医師働き方改革の本格実施から1年超が経過し、地域医療への影響は限定的とされるものの、若手医師の症例経験や研究意欲が制限され、将来の医療の質低下を懸念する声が強まっている。時間規制と人材育成・研究機能の両立が、今後の臨床研修制度と医療政策の大きな課題となっている。 参考 1) 令和9年度の各都道府県の募集定員上限について(厚労省) 2) 27年度臨床研修、定員上限総数を調整 厚労省部会、109人分(MEDIFAX) 3) 臨床研修病院の2027年度募集定員倍率も「1.05倍」、離島数に応じた係数などを新たに設置(日経メディカル) 4) 若手医師等の「もっと症例経験したい、手術に入りたい」等の意欲を阻害しない医師働き方改革の仕組みが必要-全自病・望月会長(Gem Med) 3.OTC類似薬、保険外し見送り 患者に追加負担で医療費抑制へ/厚労省市販薬と成分・効能が類似している「OTC類似薬」をめぐり、政府・与党と日本維新の会は、公的医療保険の適用を維持した上で、患者に追加負担を求める新たな仕組みを導入する方向で調整に入った。維新が主張してきた「保険適用からの原則除外」は見送られることになった。OTC類似薬は、湿布薬や風邪薬、花粉症治療薬など、市販薬でも対応可能とされる一方、医師の処方が必要な医療用医薬品として保険適用され、患者は1~3割の自己負担で入手できる。維新は現役世代の保険料負担軽減を目的に、保険外しによる医療費削減を訴えてきたが、急激な患者負担増への懸念が強く、方針転換に至った。今後は、薬剤費の4分の1や3分の1などを「特別料金」として患者に追加で負担してもらう案が検討されている。対象薬や負担割合は、成分や用量、症状の重さなどで線引きする方向で、子供や慢性疾患患者への配慮も盛り込まれる見通し。この見直しは、医療現場にも影響を及ぼす。軽症患者が自己判断で受診を控え、市販薬へ移行すれば、外来受診の減少につながる可能性がある一方、追加負担を避けるために処方を求める患者との調整が医師の負担になる懸念もある。とくに慢性疾患の患者では、治療継続への影響や薬剤選択をめぐる説明責任が増す可能性が指摘されている。また、立憲民主党などからは、患者への影響を十分に検証しないまま結論を急ぐべきではないとの声が上がっており、負担増による受診控えや治療中断への懸念も根強い。医療費適正化と患者・医療現場への影響をどう両立させるのか、制度設計の丁寧さが今後の焦点となる。 参考 1) OTC類似薬の保険外し見送りへ 政府・与党、利用者に追加負担を要求(日経新聞) 2) 維新、OTC類似薬の保険適用除外を断念 追加負担求める方向で調整(毎日新聞) 3) OTC類似薬、患者に追加負担導入へ 保険適用維持に維新が同調(朝日新聞) 4) OTC類似薬、「患者への影響」検証を 立民、厚労相に要請(MEDIFAX) 4.医学部女子41%時代へ、「医学部=男子優位」は過去の話に/文科省文部科学省は、2025年度の医学部医学科入試において、入学者に占める女性の割合が41.0%となり、過去10年で最高を更新したと発表した。前年度の39.8%から1.2ポイント上昇し、2年ぶりに4割を超えた。入学者数は男性5,438人、女性3,780人で、男性が59.0%、女性が41.0%だった。女性の受験者数は5万3,917人と3年連続で増加し、調査開始以来最多となった。男性の受験者数6万7,480人の約8割に迫っている。合格者数は男性8,286人、女性5,593人で、合格率は男性12.3%、女性10.4%と女性が1.9ポイント低かった。全体の受験者数は12万1,397人、合格率は11.4%だった。大学別にみると、女性入学者の割合が5割を超えたのは女子医大を除いて10大学に上った。北里大(58.5%)をはじめ、埼玉医大、弘前大、聖マリアンナ医大、川崎医大、香川大、杏林大、秋田大、島根大、昭和医大で女性が過半数を占めた。一方、京都大は18.8%にとどまり、東大と阪大はいずれも21.0%と低水準だった。東大などでは女性受験者数自体が少なく、合格率に大きな男女差はなかったとされる。医学部入試をめぐっては、2018年に一部の大学で女性受験者を一律に減点するなどの不適切な運用が社会問題化した。これを受け、文科省は2019年度以降、全国81大学を対象に男女別の受験者数や合格率、入学者数を毎年公表している。今回の結果は、入試の透明化が定着する中で、女性の医学部志向が着実に高まっている現状を示す一方、大学間のばらつきや合格率格差といった課題も浮き彫りにした。医師養成の担い手が多様化する中、入試の公平性に加え、卒後のキャリア形成や就労環境の整備が改めて問われている。 参考 1) 医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る調査について(文科省) 2) 医学部の女性入学者41% 過去10年で最高 25年度(CB news) 3) 医学科の女子受験者、3年連続で増加…文科省調査(Rese Mom) 5.医療DXで人手不足に挑む「働きやすい病院」の認定制度創設を検討/厚労省少子高齢化で医療人材の確保が難しくなる中、政府は医療DXを「人手不足対策」と「職場環境改善」の柱として制度的に後押しする方針が明らかとなった。厚生労働省は、12月8日に社会保障審議会・医療部会を開催し、すでにDXを導入して業務効率化を進めてきた医療機関の取り組みを提示するとともに、未導入・遅れがちな医療機関にも裾野を広げる支援について検討した。2025年度補正予算案では、試行的な取り組みだけでなく幅広い医療機関を対象にDX化を支援する枠として200億円を計上し、効果が出るまで時間を要する点を踏まえ継続的支援のあり方も論点となった。効果検証では、労働時間の変化、医療の質・安全、経営への影響などを統一基準で収集・分析し、医療情報の標準化や医療機関の負担軽減にも配慮する。さらに、業務効率化に資する機器・サービスの価格や機能、効果を透明に把握できる仕組みや新技術開発の推進、都道府県の勤務環境改善支援センターによる伴走支援強化も盛り込んでいる。さらに注目されるのは「業務効率化・職場環境改善に計画的に取り組む病院」を公的に認定し公表する制度案で、医療者の職場選択に影響し、認定病院が人材確保で有利になる可能性がある。その一方で、非認定病院が相対的に不利となり地域格差や医師偏在を助長しないか、財政的に厳しい中小医療機関への支援をどう担保するか慎重論も出た。改正医療法では2030年末までの電子カルテ普及目標が明記されたが、現場では「普及率100%」より、データ利活用の価値提示が重要との指摘が強い。自治体と医療機関が連携し、予防や地域単位の健康施策に活用するモデル事業を示すこと、サイバーセキュリティや制度整備を含め、DXを「負担」ではなく、「定着と質向上」につなげる設計が問われている。 参考 1) 令和7年度補正予算案(保険局関係)の主な事項について(厚生省) 2) 「働きやすい病院」国が認定 AI活用で効率化、生産性も向上(日経新聞) 3) 「業務効率化・職場環境改善に積極的な病院」を国が認定、医療人材確保等で非常に有利となる支援充実も検討-社保審・医療部会(Gem Med) 4) 改正医療法でも強調された医療DX、「電カル普及100%」より大事な議論は(日経メディカル) 6.電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬へ モデル課題で工程見直し/厚労省厚生労働省は、12月10日に開かれた「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループで、医療機関間で診療情報を共有する「電子カルテ情報共有サービス」について、全国での本格運用開始時期を当初想定していた2025年度内から見直し、2026年度の冬ごろを目標とする方針を示した。同サービスは、診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書の「3文書」と、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方など「6情報」を標準化し、必要時に医療機関や患者が閲覧できる仕組み。2025年2月から各地でモデル事業が進み、現在は複数地域・医療機関で運用しているが、臨床情報の登録段階で、医療機関や電子カルテベンダーごとに状況が異なる複数の課題が確認されたという。厚労省は原因の特定と解決を優先し、サービス側と電子カルテ側の双方を改修した上で再検証を行い、支障なく運用できる文書・情報から順次、全国で利用可能にする考え。また、処方情報の取り扱いは方針を転換し、電子カルテ情報共有サービスでは抽出を行わず、電子処方箋管理サービスに1本化する案を示した。医薬品コードの違いにより処方の一部しか抽出できない場合、情報が欠落したまま「すべての処方」と誤認される恐れがあるためとしている。その一方で電子処方箋は院内処方を含む登録が進み、網羅性と即時性の点で活用が見込めるとしている。構成員からは、全国展開時に医療機関の負担が再発しないようメーカーとの連携を求める声や、患者説明が医療機関任せになっている点への懸念、電子処方箋未導入施設では処方情報が拾えない課題が指摘され、今後の検討事項となった。 参考 1) 電子カルテ情報共有サービスに関する検討事項について(厚労省) 2) 電子カルテの普及について(同) 3) 電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬に 処方情報は電子処方箋に1本化 情報利活用WG(CB news) 4) 電子カルテ情報共有サービス、モデル事業での検証・改修経て「2026年度冬頃の本格運用」目指す-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)

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第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?【統計のそこが知りたい!】

第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?コルモゴロフ・スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov test)には1標本と2標本の2種類ありますが、本稿では「2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定」を解説します。2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定とは、カテゴリーデータの場合は選択肢が同じ、数量データの場合は階級幅が同じである2つの項目の度数分布について、確率分布の相違を検定する方法です。■コルモゴロフ・スミルノフ検定を使うにあたっての注意点階級幅(数量データ)が同じ2つの項目の比較には、母平均の比較と確率分布の比較があります。この検定は確率分布の比較であって、母平均の比較ではありません。検定結果がp<0.05だからといって2項目の母平均に有意差があるとはいえません。適合度の検定は次の手順によって行います。(1)帰無仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は同じ(2)対立仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は異なる(3)両側検定・片側検定がある(4)検定統計量を算出する(5)2標本に累積相対度数を作成し、各カテゴリーについて差を求め、その最大値をDとするただし、n1、n2は2項目のサンプルサイズ(6)p値を算出するn1≧40、n2≧40のとき、検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において両側検定は検定統計量の上側確率の2倍、片側検定は上側確率である。p値<有意水準0.05→対立仮説がいえるp値≧有意水準0.05→対立仮説がいえないn1≧40、n2≧40の場合、コルモゴロフ・スミルノフの検定表より、n、有意水準0.05に対応する値を求める。求められた値と検定統計量の比較で有意差判定する。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の結果具体例を基に説明します。膝痛の軽減を目的としたリハビリテーションプログラムを受けた男女100人ずつに、このリハビリテーションプログラムがどの程度好きかを5段階評価で聞きました。表1に男性100人、女性100人の回答結果を集計し、図1に度数分布と確率分布を求めました。その上で、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いが男女で異なるかを調べてみました。表1 事例の男女別回答集計表図1 事例の検定結果p値<0.05より、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いの確率分布は男性と女性で異なるといえます。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の計算方法1)検定統計量の計算方法男性の相対度数と累積相対度数を算出する女性の相対度数と累積相対度数を算出する男性累積相対度数と女性累積相対度数の差分を求める(表2)表2 男女別累積相対度数の差分差分の最大値をDとする。D=0.2検定統計量を算出する。2)p値の計算方法検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において検定統計量の上側確率の2倍である。カイ2乗分布の上側確率はExcelの関数で求めることができます(図2)。図2 カイ2乗分布の上側確率のExcel関数式このように、2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定は、医療データの分布を比較するための強力な統計ツールです。本手法を正しく理解し適用することで、臨床試験結果の解釈がより信頼性の高いものとなります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第21回 カイ2乗検定とは? その1第23回 仮説検定における2つの間違い 第一種の誤りとは?第31回 検定の落とし穴とは?第75回 確率分布とは?「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1

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英語で「尿閉」、患者さんはどう訴える?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第42回

医学用語紹介:尿閉(排尿困難) urinary retention今回は「尿閉(排尿困難)」について説明します。医療現場ではurinary retentionという専門用語が使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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インクレチン製剤がもたらす 肥満合併HFpEFの新たなパラダイム【心不全診療Up to Date 2】第5回

インクレチン製剤がもたらす肥満合併HFpEFの新たなパラダイムKey Points肥満の評価は、BMIでいいのか?HFpEF患者の多くに中心性肥満を認め、これがHFpEF発症の重要な病態因子と考えられるセマグルチドは肥満合併HFpEF患者の症状と運動耐容能を有意に改善し、チルゼパチドは心不全イベントを38%減少させたBMI 25~30程度の軽度肥満患者における有効性の検証が今後の課題であるはじめに左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。本稿では、肥満合併HFpEFに対するインクレチン製剤の臨床エビデンス、作用機序、進行中の臨床試験、そして今後の展望について解説する。HFpEFにおける肥満の重要性HFpEF患者において肥満は極めて高頻度に認められる。従来、BMI≧30kg/m2で定義される肥満はHFpEF患者の60~70%に存在するとされてきた2)。しかし、BMIは骨格筋量や骨量の影響を受けるため、とくに民族差のある集団では脂肪量の正確な評価指標とはならない。より重要なのは内臓脂肪の蓄積である。ウエスト・身長比(≧0.5)で評価した中心性肥満は、HFpEF患者の95%以上に認められることが報告されており、画像診断による脂肪量の定量化でもこの高い有病率が確認されている3)。さらに、複数の前向きコホート研究において、内臓脂肪の蓄積がHFpEF(HFrEFではない)の発症を特異的に予測することが一貫して示されている4,5)。なお、アジア人集団では、欧米に比べてBMIは低いものの内臓脂肪が蓄積しやすい「内臓脂肪型肥満」の表現型が知られている6)。肥満合併HFpEFの病態生理肥満合併HFpEFの病態は多因子的であり、複数の機序が複雑に絡み合っている。内臓脂肪の蓄積が、炎症、循環血漿量の増加、心外膜および胸壁脂肪の増加を促進し、心室の相互依存性を増幅させることで、最終的にHFpEFの発症と進行を促進することを示すエビデンスが蓄積している7)。そのなかでも、最近Packer博士らにより提唱された「アディポカイン仮説」は、肥満合併HFpEFの病態を統一的に説明しようとする試みである(図1)8)。(図1)画像を拡大するこの仮説では、内臓脂肪組織の拡大と機能不全により、脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポカイン)のバランスが崩れることが、HFpEF発症の中心的機序であるとされる。このアディポカイン不均衡が、神経体液性因子の活性化、全身性炎症、心筋肥大・線維化、血漿量増加を引き起こし、HFpEFを発症させるという概念である。アディポカイン仮説は現時点ではあくまで仮説の段階であり、今後のさらなる検証が必要であるが、後述するインクレチン製剤の作用機序を理解する上で、有用な枠組みの一つを提供している。インクレチン製剤の作用機序と期待される効果GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬(GLP-1RAs)は、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチン)の一つであるglucagon-like peptide-1(GLP-1)の作用に基づく2型糖尿病治療薬である。体重減少効果もあることから、2023年に肥満症治療薬としても承認されている。GLP-1RAsは、心血管代謝リスク因子に良好な影響を及ぼすとされ9)、肥満症患者と糖尿病患者のいずれにおいても動脈硬化性疾患や心不全新規発症イベントのリスクを減少させるという報告があり、肥満合併心不全患者への効果も期待されてきた10)。心血管系への作用機序として、次の3つのことが考えられている。第1に、体重減少を介した効果として、循環血漿量の減少、左室充満圧の低下、心臓への機械的負荷軽減が挙げられる。第2に、直接的な心血管保護作用として、心筋細胞のアポトーシス抑制、抗炎症作用、酸化ストレスの軽減、内皮機能改善が報告されている。第3に、代謝改善として、インスリン抵抗性の改善、脂質代謝改善、血糖コントロール改善(糖尿病合併例)がある。さらに、脂肪組織への直接作用として、内臓脂肪の選択的減少(体重減少を上回る)、心外膜脂肪組織の縮小、脂肪組織の炎症抑制、アディポカインプロファイルの改善(抗炎症性アディポカインの増加、炎症性アディポカインの減少)が示されている11)。GIP/GLP-1受容体作動薬もう一つの主要なインクレチンであるglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の受容体にも作用するGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)は、単独のGLP-1作動薬を上回る体重減少効果を示す。GIP受容体を介した追加作用として、脂肪細胞での脂肪分解促進、白色脂肪組織での無駄なカルシウムサイクリング誘導(エネルギー消費増加)、インスリン感受性改善が報告されている11)。持続的なGIP受容体刺激が、大幅な体重減少に大きく寄与すると考えられている。インクレチン製剤の臨床エビデンス肥満合併HFpEF患者に対するGLP-1RA(セマグルチド)の有効性を検証したSTEP-HFpEF試験では、2.4mgのセマグルチド週1回皮下投与が、肥満合併HFpEF(LVEF≧45%かつBMI≧30kg/m2)患者のKCCQ-CSS(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire clinical summary score)により評価される健康関連QOLをプラセボと比較して有意に改善させ、体重も有意に減少させた(図2)12)。(図2)STEP-HFpEF試験:主要エンドポイント画像を拡大するさらに、2型糖尿病を有する肥満合併HFpEFを対象としたSTEP-HFpEF DM試験でも同様の結果が得られている13)。なお、STEP-HFpEF DM試験ではSGLT2阻害薬を併用した症例が33%含まれていたが、SGLT2阻害薬併用の有無にかかわらず、セマグルチドの心不全関連転帰に対する効果は一貫していた。GIP/GLP-1受容体作動薬も、肥満合併HFpEF(LVEF≧50%かつBMI≧30kg/m2)患者を対象にその有効性を検証したSUMMIT試験において、複合心不全イベント(心血管死または心不全増悪イベント)リスクを38%低下させ、KCCQ-CSSで評価された健康関連QOLを有意に改善させたと報告されている(図3)14)。(図3)SUMMIT試験:主要エンドポイント画像を拡大するただし、悪心・嘔吐などの消化器症状や食欲減退といった副作用には注意が必要であり15)、患者ごとの病態や既存の治療との併用状況を考慮した上で投与方針を検討することが求められる。このように、肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤の有効性は確立しつつある一方、わが国に多いBMI 25~30程度の内臓脂肪型肥満を呈する症例において、同薬が有効かどうかは不明であり、今後の試験が期待される16)。次世代インクレチン製剤の開発現在、複数の次世代インクレチン関連薬が開発されている(図4)17)。(図4)現在臨床試験が進行しているインクレチン関連薬画像を拡大するGLP-1/グルカゴン(GCG)受容体二重作動薬(cotadutide、survodutideなど)は、グルカゴン受容体刺激により、肝臓での細胞外分泌因子FGF21産生が増加する。FGF21は脂肪組織の炎症抑制、褐色脂肪活性化、内臓脂肪減少をもたらすため、さらなる代謝改善と体重減少が期待される。代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を対象とした第II相試験ではMASH組織改善効果を認め18)、肥満患者を対象とした第III相試験は現在進行中であり19)、HFpEFへの応用が期待される。GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬(retatrutideなど)は、3つの受容体を同時に刺激し、最大限の代謝改善を目指す薬剤である。肥満患者での第II相試験で顕著な体重減少を示しており20)、HFpEFへの応用が期待される。おわりに肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤は、STEP-HFpEF試験とSUMMIT試験により、症状改善、運動耐容能向上、そして心不全イベント減少という明確なエビデンスが示された。今後、次世代インクレチン製剤(GLP-1/GCG受容体二重作動薬、GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬)の臨床開発や、治療反応性を予測するバイオマーカーの確立により、より個別化された効果的な治療が可能になることが期待される。肥満合併HFpEFの病態理解は急速に進展しており、これらの知見を臨床に活かし、エビデンスに基づいた最適な治療を提供することが、今後の日本のHFpEF診療における重要な課題である。 1) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55. 2) Obokata M, et al. Circulation. 2017;136:6-19. 3) Peikert A, et al. Eur Heart J. 2025;46:2372-2390. 4) Oguntade AS, et al. Open Heart. 2024;11:e002711. 5) Sorimachi H, et al. Eur Heart J. 2021;42:1595-1605. 6) WHO Expert Consultation. Lancet. 2004;363:157-163. 7) Borlaug BA, et al. Cardiovasc Res. 2023;118:3434-3450. 8) Packer M. J Am Coll Cardiol. 2025;86:1269-1373. 9) Kosiborod MN, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:468-478. 10) Ferreira JP, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:1495-1502. 11) Nogueriras R, et al. Nat Metab. 2023;5:933-944. 12) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 13) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407. 14) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 15) Kushner R, et al. JAMA. 2025;334:822-823. 16) 吉池信男ほか. 肥満研究. 2000;6:4-17. 17) Melson E, et al. Int J Obes(Lond). 2025;49:433-451. 18) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2024;391:311-319. 19) Kosiborod MN, et al. JACC Heart Fail. 2024;12:2101-2109. 20) Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:514-526.

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