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TTF-1陰性Non-Sq NSCLCに対するアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(LOGIK2102)/日本臨床腫瘍学会

 非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とペメトレキセドを含む化学療法の併用療法が広く用いられている。しかし、TTF-1陰性の非扁平上皮(Non-Sq)NSCLCでは、ペメトレキセドの治療効果が乏しいことも報告されている。そこで、ペメトレキセドを含まないレジメンとして、アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する国内第II相試験「LOGIK2102試験」が実施された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)において、白石 祥理氏(九州大学病院 呼吸器内科)が本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国内第II相単群試験・対象:TTF-1陰性(IHC)で、化学療法による治療歴のないStageIII/IVまたは再発Non-Sq NSCLC患者52例・試験群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(4サイクル)→アテゾリズマブ(病勢進行まで)・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、治療継続期間、安全性など・解析計画:PFS中央値の期待値を6.7ヵ月とし、80%信頼区間の下限値が4.5ヵ月を上回った場合に主要評価項目達成とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は68歳(範囲:41~81)、男性の割合は79%、PS0/1の割合は31%/69%であった。組織型は、腺がん/非腺がん(扁平上皮がんを含まない)の割合が63%/37%であった。臨床病期は、StageIII/StageIV/再発の割合が4%/85%/12%であった。PD-L1の発現状況は、1%未満/1~49%/50%の割合が42%/35%/21%であった。・主要評価項目のPFSについて、PFS中央値は4.9ヵ月(80%信頼区間[CI]:4.3~5.9、95%CI:4.2~6.1)であり、主要評価項目は達成されなかった。・PFSのサブグループ解析において、PS0の集団、非腺がんの集団で良好な傾向にあった。PFS中央値は、PS0の集団が6.6ヵ月(95%CI:4.3~推定不能)、PS1の集団が4.4ヵ月(同:3.6~5.9)であり、非腺がんの集団が7.2ヵ月(同:5.6~9.3)、腺がんの集団が4.2ヵ月(同:2.7~5.6)であった。・OS中央値は12.9ヵ月(95%CI:9.7~推定不能)であった。・組織型別にみたOS中央値は、非腺がんの集団が未到達(95%CI:10.3~推定不能)、腺がんの集団が10.7ヵ月(同:7.3~推定不能)であった。・ORRは56.9%(いずれもPR)であり、DOR中央値は4.4ヵ月であった。・カルボプラチン+nab-パクリタキセルを4サイクル実施した患者の割合は66%であり、アテゾリズマブを8サイクル以上実施した患者の割合は35%にとどまった。・本試験における有害事象発現状況は、既報のアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルによる治療成績と同様であった。 本結果について、白石氏は「本試験は、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者を対象とした初の前向き試験であったが、主要評価項目は達成されなかった。TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者の予後は不良であり、治療法の開発が必要である。今後については、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者に対するプラチナ製剤+ペメトレキセド+抗PD-1/L1抗体のリアルワールドでの治療成績と、本試験の治療成績を比較する研究を計画・実施中である」とまとめた。なお、新規治療法の開発について、TTF-1陰性の進行・再発Non-Sq NSCLCに対するデュルバルマブ+トレメリムマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する第II相試験(WJOG17223L、TURNING試験)などが、進行中である。

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「善玉」コレステロールは緑内障リスクを高める?

 心臓の健康に良いとされるHDLコレステロール(HDL-C)は緑内障のリスクを上昇させる一方で、心臓の健康に悪いとされるLDLコレステロール(LDL-C)は緑内障リスクを低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。中山大学(中国)中山眼科センターのZhenzhen Liu氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Ophthalmology」に2月4日掲載された。 Liu氏は、「HDL-Cは70年間にわたり『善玉コレステロール』と考えられてきた。しかし、この研究では、高レベルのHDL-Cが必ずしも良好なアウトカムと関連しているわけではないことが示された」と述べている。 米国心臓協会(AHA)によると、LDL-Cは肝臓から組織にコレステロールを運ぶ働きを持つが、血管内に過剰に存在すると血管壁に沈着してプラークを形成し、最終的には心臓病、心筋梗塞、脳卒中を引き起こす可能性がある。一方、HDL-Cは、余分なLDL-Cを回収して肝臓に戻し、分解を促すことで、動脈硬化を予防する働きを持つ。 研究グループによると、これまでの研究で、脂質異常症は加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症と関連付けられているものの、緑内障との関連については一貫した結果が得られていないという。緑内障は、多くの場合は眼圧の上昇により視神経が損傷を受けることで視野が欠けていく進行性の眼疾患である。 今回の研究でLiu氏らは、UKバイオバンク参加者40万229人(試験参加時の平均年齢56.40歳)のデータを分析して、一般的な血中脂質の指標(LDL-C、HDL-C、総コレステロール〔TC〕、トリグリセライド〔TG〕)と緑内障との関連を評価した。対象者は、試験開始時に脂質レベルを測定されていた。 平均14.44年間の追跡期間中に6,868人(1.72%)が緑内障を発症していた。解析の結果、HDL-Cの値が最も高いグループは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクが10%高いことが示された(ハザード比〔HR〕1.10、95%信頼区間〔CI〕1.02〜1.20、P=0.014)。HDL-Cの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは1.05(95%信頼区間1.02〜1.08、P=0.001)であった。これに対して、LDL-CとTGの値が最も高いグループでは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクがそれぞれ8%(HR 0.92、95%CI 0.85〜0.99、P=0.030)と14%(同0.86、0.80〜0.93、P<0.001)低かった。TCと緑内障との関連は、統計学的に有意ではなかった。LDL-C、TC、TGの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは、それぞれ0.96(95%CI 0.94〜0.99、P=0.005)、0.97(同0.94〜1.00、P=0.037)、0.96(同0.94〜0.99、P=0.008)であった。さらに、年齢層別に分けて解析を行うと、コレステロール値と緑内障とのこのような関連は55歳超の対象者でのみ認められ、40〜55歳の年齢層での関連は統計学的に有意ではなかった。 研究グループは、それぞれのコレステロールが緑内障のリスクに異なる影響を及ぼす理由は明らかになっていないと述べている。それでも、「これらの研究結果は、目の健康に関連した善玉コレステロールと悪玉コレステロールに関する既存のパラダイムに疑問を投げかけるものだ」と結論付けている。 さらに研究グループは、追跡調査でこれらの結果が裏付けられれば、緑内障リスクを持つ患者に対するコレステロール低下薬の使用について再評価する必要が生じるかもしれないと付言している。

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症状を電子的に報告するシステムががん患者の症状管理やQOLを改善

 電子機器を通じて週に1回、自分の症状をケアチームに知らせた進行がんの患者では、通常ケアを受けた患者に比べて生存期間の延長にはつながらなかったものの、身体機能の低下、症状の進行、健康関連QOLの低下、救急外来の初回受診までの期間が有意に遅延し、救急外来の受診回数も減少したとする研究結果が報告された。米ノースカロライナ大学(UNC)医学部教授で腫瘍内科学部長のEthan Basch氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に2月7日掲載された。 今回の研究で検討された患者報告アウトカム(patient-reported outcome;PRO)による症状のモニタリングは、電子的に提供される分かりやすいチェックリストを用いて患者が痛みや運動能力などの日常的な問題の程度を評価するもので、患者はコンピューターやスマートフォンを使って自宅にいながらケアチームにフィードバックを送ることができる。 しかし、こうしたテクノロジーは本当に患者の役に立っているのだろうか。それを明らかにするためにBasch氏らは、米国の26州、52カ所のがん治療施設を、PROによる症状モニタリングを実施する群(PRO実施群)と通常のケアを行う群(通常ケア群)に割り付ける、クラスターランダム化比較試験を実施した。試験には、転移性がん患者が計1,191人登録された(PRO実施群593人、通常ケア群598人)。これらの患者は、年齢中央値が63歳で女性が58.3%、白人が79.5%を占め、26.6%は地方に住んでいた。また、16.9%にはインターネットを利用した経験が全くなかった。 その結果、全生存期間については、PRO実施群と通常ケア群の間で統計学的に有意な差は認められなかったが、PROは患者の健康関連QOLを向上させる可能性が示唆された。以下は、研究結果の一部だ。・身体機能の低下:身体機能が低下し始めるまでの期間の中央値は、PRO実施群で12.6カ月だったのに対し通常ケア群では8.5カ月だった(ハザード比0.73、P=0.002)。・健康関連QOL:健康関連QOLが維持された期間の中央値はPRO実施群で15.6カ月、通常ケア群で12.2カ月であり、PRO使用により健康関連QOLの悪化リスクが28%有意に低下した(同0.72、P=0.001)。・救急外来の受診回数:試験登録から12カ月後までに救急外来を受診した患者の割合は、PRO実施群で48.7%、通常ケア群で54.8%であり、PRO実施群の方が6.1%少なかった。また、1人当たりの受診回数も、PRO実施群で平均1.02回、通常ケア群で平均1.30回と、前者の方が有意に少なかった。さらに、初回の救急外来受診までの期間も、PRO実施群では通常ケア群に比べて有意に延長された(同0.84、P=0.03)。・満足度:PRO実施群では、自分のケアをコントロールできていると感じた人が84%、PROによってケアチームとのコミュニケーションが改善したと答えた患者の割合も77%に上った。また、ほとんどの患者(91.4%)が他の患者にもPROを勧めたいとの考えを示した。 Basch氏は、この研究で使用されたPROシステムは、事務処理に追われることの多い医師には依存しないものであったと説明している。「PROは、症状の管理やケアのコーディネートを担うことの多い看護師や患者ナビゲーターにより管理されるシステムで、医師が介在することはほぼない。また、技術的に見ても患者にとって極めて使いやすいものであることが証明された」と同氏はUNCのニュースリリースの中で述べている。 Basch氏は、「PROシステムは、さまざまながん種で優れた成果を示した。今回の研究は進行がん患者を対象としたものであったが、将来的には早期がん患者を対象とした臨床試験が行われることが望まれる」と話している。

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うつ病歴は慢性疾患の発症を早める

 過去にうつ病と診断されたことがある人は、同年代のうつ病歴がない人に比べて中高年期に慢性疾患に罹患している可能性が高く、また、より早いペースで新たな慢性疾患を発症する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。英エディンバラ大学の統計学者であるKelly Fleetwood氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に2月13日掲載された。Fleetwood氏は、「うつ病歴のある人は、ない人に比べて心臓病や糖尿病などの慢性疾患を発症しやすい」と述べている。 この研究では、UKバイオバンク参加者から抽出した17万2,556人を対象に、UKバイオバンク参加当時および追跡期間中のうつ病歴と慢性疾患との関連が検討された。対象者は、2006〜2010年にUKバイオバンクに参加し(参加時の年齢は40〜71歳)、評価を受けていた。追跡期間は平均6.9年だった。慢性疾患については、血液がん、固形がん、心筋炎、冠動脈性心疾患、脳卒中、1型および2型糖尿病、高血圧、勃起不全、アレルギー性・慢性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、認知症など69種類を対象とした。対象者の17.8%に当たる3万770人がうつ病歴を持っていた。 解析の結果、うつ病歴がある人はうつ病歴がない人と比べて、UKバイオバンク参加時に有していた身体疾患の数が多く(平均2.9個対2.1個)、また年間の新たな疾患の発症数も多いことが明らかになった(平均0.20個/年対0.16個/年)。最も発生頻度の高かった疾患は、変形性関節症(うつ病歴ありの患者15.7%、うつ病歴なしの患者12.5%)、高血圧(12.9%対12.0%)、胃食道逆流症(13.8%対9.6%)であった。年齢、性別、社会経済状況を調整した上でも、うつ病歴のある人ではない人に比べて1.3倍の速さで新たに慢性疾患を発症することが示唆された(率比1.30、95%信頼区間1.28〜1.32)。さらに、試験参加時の疾患数や生活習慣なども調整して解析すると、この差はやや縮まったものの、それでも依然としてうつ病歴のある人の方が有意に発症の早いことが確認された(同1.10、1.09〜1.12)。 こうした結果を受けて研究グループは、「これらの結果は、うつ病を『全身』の病気として捉え、それに応じて治療する必要があることを意味している」と結論付けている。 研究グループはまた、「既存の医療制度は、複数の症状を抱える個人ではなく、個々の症状を治療するように設計されている」と指摘。「うつ病と慢性疾患の両方を抱える人をケアするために、総合的なアプローチを取る医療サービスが必要だ」と述べている。

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EBウイルスが腎移植後のリンパ増殖性疾患に関与

 腎移植は命を救うことにつながり得るが、移植を受けたレシピエントの中には、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)のリスクの高い人のいることが、新たな研究で示唆された。リスクを高める元凶は、伝染性単核球症の原因ウイルスとして知られているエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)であるという。米ペンシルベニア大学病院腎電解質・高血圧部門のVishnu Potluri氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月28日掲載された。 PTLDは、臓器移植後などに免疫抑制療法を受けている患者に発生する異常なリンパ増殖性疾患の総称である。EBVは、PTLDのほかにもいくつかのがんのリスクに関連することが示されている。米国では、EBVに感染しているか感染歴を持つ成人の割合は90%以上に上る。過去の研究では、EBV感染歴のないレシピエントがEBV感染ドナーからの臓器を移植された場合、1〜4%がPTLDを発症する可能性のあることが示唆されている。しかし、この推定値は詳細なデータが不足した限られた情報に基づいたものであった。 Potluri氏らはこの研究で、米国の大規模移植センター2施設のデータを分析した。対象として、ドナーがEBV陽性でレシピエントがEBV陰性(EBV D+/R−)のケースと、ドナー、レシピエント、および移植の特徴が類似したドナーとレシピエントの双方がEBV陽性(EBV D+/R+)のケースを1対3の割合で選び出した(EBV D+/R−レシピエント104人、EBV D+/R+レシピエント312人、平均年齢42歳)。 EBV D+/R−レシピエントの48.1%(50人)が移植から中央値で198日後にEBV DNAemia(EBVのDNAが血中で検出される状態)を発症し、22.1%(23人)は移植から中央値で202日後にPTLDを発症していた。また、同レシピエントでは、あらゆる原因による生着不全率が有意に高く(ハザード比2.21、95%信頼区間1.06~4.63)、死亡率も高かったが、統計学的に有意ではなかった(同2.19、0.94~5.13)。 研究グループは、これらのデータに基づくと、成人の腎移植症例の最大5%、年間1,200人に上る患者がPTLDを発症する可能性があることになり、この値は、全米の登録データに基づく従来の推定値よりも5~10倍高いと指摘している。Potluri氏は、「臓器のドナーやレシピエントのウイルス曝露歴の追跡において不完全な報告やミスがあるため、全米登録データではPTLDの発症率が過小評価されている可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 共同研究者の1人で、論文の上席著者である米ピッツバーグ大学腎電解質部門のChethan Puttarajappa氏は、「PTLDがレシピエントの生存にもたらす重大な脅威、さらに今回の研究の結果と先行データの間に大きな開きが存在することを考慮すると、われわれの研究は、この脆弱な移植患者集団の安全性と生存率を向上させるためのさらなる研究を優先して行うことを喚起する役割を果たすものだといえる」と話している。 この研究結果は、腎移植患者のEBVとPTLDのモニタリングのあり方を変える時期に来ていることを示唆している。論文の共著者の1人である、ペンシルベニア大学医学部のEmily Blumberg氏は、「われわれは、患者のEBV感染のモニタリング方法と、これらの高リスク患者に対する免疫抑制の管理方法を再考する必要がある。これには、早期からルーチンでEBV検査を行うこと、個別化した免疫抑制療法の調整を検討することが含まれる」と述べている。 米国ではEBVのスクリーニング率は施設によって異なり、多くの施設は腎移植後のEBVスクリーニングをルーチンで実施していない。

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活動性ループス腎炎に対する新しいタイプの抗CD20抗体の治療効果(解説:浦信行氏)

 活動性ループス腎炎(LN)は全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症病態の1つであり、LN患者の約20%が15年以内に末期腎不全に至る。B細胞はSLE発症の重要なメディエーターであるが、この病原性B細胞の減少を来すことがSLEの治療となりうる可能性が以前から指摘されていた。 CD20はB細胞の表面に存在するタンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与する細胞表面マーカーである。この病態に対する治療的アプローチとして、当初はタイプI抗CD20モノクローナル抗体(mAb)であるリツキシマブ(RTX)が検討された。しかし、臨床試験においてその評価は無効とするものもあり、有効とするものでも反復投与例に、B細胞の枯渇が不完全な二次無効が存在することが報告されている。 今回は、タイプIIヒト化CD20mAbのオビヌツズマブの臨床試験の成績が報告された。その結果は2025年2月20日配信のジャーナル四天王に詳しく紹介されているので詳細はここでは述べないが、大変良好な効果を示す成績であった。タイプI抗体は、CD20と結合後Fc受容体IIBを介して細胞内移行するためCD20発現低下となり、部分的にRTXの作用を免れてB細胞が残ってしまうため効果が減弱し、二次無効を来すことが知られている。タイプII抗体のオビヌツズマブのCD20の細胞内移行率は低く、より効果的にB細胞枯渇を達成できることが両者の差異である。少数例の研究ではあるが、SLEに対するRTXの二次無効例に対してオビヌツズマブ投与が著効を示したとの報告もある。

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肺機能に有利なビタミンはどれ?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第277回

肺機能に有利なビタミンはどれ?ここで、問題です。肺機能に最も有利なビタミンは何でしょうか。「うーん、ビタミンCかビタミンBかなあ…」……違います!Chen YC, et al. Associations between vitamin A and K intake and lung function in the general US population: evidence from NHANES 2007-2012. Front Nutr . 2024 Sep 20;11:1417489.1つ目の研究は、ビタミンAとKの摂取と肺機能の関係を評価することを目的としたものです。この横断的研究は、20~79歳の成人を対象とし、2007~12年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用しました。肺機能は、1秒量(FEV1)、努力肺活量(FVC)、そしてこれらの比である1秒率(FEV₁/FVC)を測定することで評価しました。ビタミンAとKの摂取と結果の関連性を判断するために回帰モデルが用いられました。1万34人の参加者(米国の成人1億4,296万5,892人)のデータが分析された。関連する交絡因子を調整した後、多変量解析により、ビタミンA摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1が0.03mL増加(p=0.004)し、FVCが0.04mL増加すること(p<0.001)と関連していることが明らかになりました。さらに、ビタミンK摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1の0.11mL増加と有意に関連していました(p=0.022)。1秒率や気道閉塞とは関連していませんでした。以上のことから、アメリカの比較的健康な集団では、ビタミンAまたはKの摂取量が多いと、スパイロメトリーで評価した肺機能の向上と独立して関連していることが示されました。Mongey R, et al. Effect of vitamin A on adult lung function: a triangulation of evidence approachThorax. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2つ目の研究は、観察データと遺伝子データの両方から得たエビデンスから、成人の肺機能に対するビタミンAの影響を調査することを目的とした、UKバイオバンクの解析です。食事によるビタミンA摂取量(総ビタミンA、カロチン、レチノール)とFVC、1秒率との関連性を調査しました。次に、メンデルランダム化を使用してこれらの関連性の因果関係を評価し、ビタミンAに関連する39の遺伝子が成人の肺機能に与える影響と、ビタミンA摂取量との相互作用を調査しました。その結果、観察分析では、カロチン摂取量とFVCのみ(100µg/日増加ごとに13.3mL、p=2.9×10-9)の間に正の相関が見られ、喫煙者では相関が強いものの、レチノール摂取量とFVCまたは1秒率との相関は見られませんでした。メンデルランダム化でも同様に、血清βカロチンがFVCのみに有益な効果を示し、血清レチノールがFVCにも1秒率にも影響を与えないことが示されました。―――というわけで、上記2つの研究からは、ビタミンAのカロチンが最も肺にイイ!ということになりますね。

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第252回 定期接種が目前の帯状疱疹ワクチン、3つの悪条件とは

帯状疱疹という病気を知る人は、医療者に限らず神経痛でのたうち回るイメージを持つ人が多いだろう。周囲でこの病気を体験した人からはよく聞く話である。身近なところで言うと、私の父は今から10年ほど前に帯状疱疹の痛みがあまりにひどく、夜中に救急車で病院に運ばれたことがある。私自身は現在50代半ばだが、実は18歳という極めて若年期に帯状疱疹を経験している。当時はアシクロビル(商品名:ゾビラックスほか)さえなかった時代だ。ただ、私の場合は軽い痛みはあったものの騒ぐほどではなかった。おそらく非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方されたと思うのだが、それを服用するとその軽い痛みすらなくなった。受診した皮膚科の看護師からは「痛くない帯状疱疹、いいね」と謎のお褒めをいただいた。さて、帯状疱疹については1990年代以降、アシクロビルをはじめとする抗ウイルス薬や帯状疱疹の神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)などが徐々に登場し、薬物治療上は進歩を遂げている。加えて2020年には帯状疱疹専用の乾燥組換えタンパクワクチン・シングリックスが登場した。シングリックス登場以前は水痘の生ワクチンも帯状疱疹予防として使用されていたが、極端に免疫が低下しているケースなどには使えないので、この点でも進歩である。ちなみに新型コロナウイルスワクチンも含め21種類のワクチンを接種し、従来からワクチンマニアを自称する私は、2020年の発売後すぐにシングリックスの接種を終えている。それまで接種部位疼痛ぐらいしか副反応を経験していなかったが、シングリックスの1回目接種時は38℃を超える発熱を経験した。全身症状の副反応を経験した唯一のワクチンでもある。そして今春からはこの帯状疱疹ワクチンが定期接種化する。私自身はワクチンで防げる感染症は、積極的に接種を推進すべきとの考えであるため、これ自体も喜ばしいことである。だが、この帯状疱疹ワクチンの定期接種化がやや面倒なスキームであることはすでに多くの医療者がご存じかと思う。とにかく対応がややこしいB類疾病今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種は、「個人の発症・重症化予防を前提に対象者内で希望者が接種する」という予防接種法に定めるB類疾病に位置付けられた。疾患特性上、この扱いは妥当と言えるだろう。季節性インフルエンザや肺炎球菌感染症などが該当するB類疾病はあくまで法的に接種の努力義務はなく、接種費用の一部公費負担はあるものの、接種希望者にも自己負担が生じる。まあ、これはこれで仕方がない。しかし、私見ながら国が定期接種と定めながら、市区町村による接種勧奨義務がないのはいただけない。自治体の対応は任意のため、地域によっては勧奨パンフレットなどを個々人に郵送しているケースもある。もちろんそこまではしていなくとも、個別配布される市区町村報などに接種のお知らせが掲載されている事例は多い。とはいえ、市区町村報は制作担当者の努力にもかかわらず、案外読まれないものである。集合住宅に居住する人ならば、郵便ポスト脇に設置されたポスティングチラシ廃棄用のゴミ箱に市区町村報が直行しているのを目にした経験はあるはずだ。しかも、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種スキームは、一般人はおろか医療者にとってもわかりにくい高齢者向け肺炎球菌ワクチンの接種スキームに酷似している。具体的には開始から5年間の経過措置を設け、2025年度に65歳となる人とそこから5歳刻みの年齢(70、75、80、85、90、95、100歳)の人が定期接種対象者になり、2025年度は特例として現時点で100歳以上の人はすべて対象者とする。今後、毎年この65歳とそこから5歳刻みの人が対象となるのだ。これ以外には60~64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な人も対象である。この肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンの定期接種での対象者の5歳刻みは、私の知る限り医師からの評判はあまりよろしくない。「それだったら65歳以上の高齢者を一律接種可能にすべき」という声はたびたび聞くが、この措置はおそらくは公費負担分の予算確保の問題があるからとみられる。とりわけ今回の帯状疱疹ワクチンの場合の予算確保は、国や市区町村担当者にとってかなりの負担だろう。というのも、定期接種では水痘生ワクチンとシングリックスが使われる予定だが、前者は1回接種で全額自己負担の場合は約8,000円、後者は2ヵ月間隔の2回接種で計約4万円。後者は安めの居酒屋で何回たらふく飲み食いできるのだろうという価格である。すでに知られていることだが、今回の定期接種化決定以前に帯状疱疹ワクチンの接種に対して独自の助成を行っている自治体もあり、その多くは接種費用の5割助成、つまり自己負担割合は接種費用の5割である。今回の定期接種化で対象者の自己負担割合がどの程度になるかはまだ明らかになってはいないが、一説には接種費用の3割程度と言われている。この場合、より安価な接種が可能になるが、3割だとしてもシングリックスならば患者自己負担額は2回合計で約1万2,000円と決して安くはない。この(1)5歳刻みの複雑な接種スケジュール、(2)自治体の接種勧奨格差、(3)自己負担額、の3つの“悪”条件は、定期接種という決断を「絵に描いた餅」にしてしまう、いわゆる接種率が一向に高まらないとの懸念を大きくさせるものだ。実際、(1)~(3)がそのまま当てはまる肺炎球菌ワクチンの2019~21年の接種率は13.7~15.8%。この接種率の分母(推計対象人口)には、2019年以前の接種者を含んでいるため、現実の接種率よりは低い数字と言われているものの、結局、累積接種率は5割に満たないとの推計がある。接種率の低さゆえに2014年の定期接種化から設けられた5年間の経過措置は1度延長されたが、事実上対象者の接種率が5割に満たないまま、経過措置は今年度末で終了予定である。接種率向上がメーカーと現場の裁量に任されている?今回の帯状疱疹ワクチンをこの二の舞にしないためには、関係各方面の相当な努力が必要になる。接種率の貢献において一番期待されるのは現場の医師だが、かかりつけの患者であっても全員の年齢を正確に記憶しているわけではないだろうし、多忙な日常診療の中で、まるでA類疾病の自治体配布資料に当たるような説明に時間を割くのは容易ではないだろう。そんな中で先日、シングリックスの製造販売元であるグラクソ・スミスクライン(GSK)が帯状疱疹ワクチンに関するメディアセミナーを開催した。そこで質疑応答の際にこの懸念について、登壇した岩田 敏氏(熊本大学 特任教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授)、永井 英明氏(国立病院機構東京病院 感染症科部長)、國富 太郎氏(GSK執行役員・ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)に尋ねてみた。各氏の回答の要旨は以下の通りだ。「われわれ、アカデミアが積極的に情報発信していくことと、かかりつけ医は専門性によってかなり温度差はあると思うが、やはりワクチンはかかりつけ医が勧めるのが一番有効と言われているので、そこの点をもう少し攻めていく必要があると思う」(岩田氏)「肺炎球菌ワクチンの場合は、啓発活動が十分ではなかったのかもしれない。肺炎球菌ワクチンではテレビCMなども流れていたが、やはり私たち医師や自治体がワクチンのことを知ってもらうツールを考えなければならない。その点で言うと私案だが、帯状疱疹ワクチンも含め高齢者に必要なワクチンの種類と接種スケジュールが記載された高齢者用ワクチン手帳のようなものを作成し、それを積極的に配布するぐらいのことをしないとなかなかこの状況(肺炎球菌ワクチンで現実となったB類疾病での低接種率)を打開でないのではないかと思っている」(永井氏)「疾患啓発、ワクチン啓発、予防の大切さを引き続きさまざまなメディアを使って情報発信を継続していきたい。一方、実施主体となる自治体も難しい内容をどう伝えたらよいか非常に苦慮し、限られた資材の中で住民にいかにわかりやすく伝えるかの相談を受けることも非常に多い。その場合に弊社が有するさまざまな資材を提供することもある」(國富氏)また、永井氏が講演の中で示した別の懸念がある。それは前述のように現時点では自治体が帯状疱疹ワクチンの接種に公費助成を行っているケースのこと。現在、その数は全国で700自治体を超える。そしてこの公費助成はワクチンの適応である50歳以上の場合がほとんどだ。ところが今回の定期接種化により、この公費助成をやめる自治体もある。となると、こうした自治体では今後50~64歳の人は完全自己負担の任意接種となるため、永井氏は「助成がなくなった年齢層の接種率は下がるのではないか?」と語る。もっともな指摘である。定期接種化により接種率が下がるというあべこべな現象がおきる可能性があるのだ。昨今は高額療養費制度の改正が大きな問題となっているが、たとえばその渦中で危惧の念を抱いているがん患者などは、抗がん剤治療などにより帯状疱疹を発症しやすいことはよく知られている。自治体の公費助成がなくなれば、該当する自治体で治療中の中年層のがん患者は、帯状疱疹ワクチンで身を守ろうとしても、これまた自己負担である。これでさらに高額療養費が引き上げられたら、たまったものではないはずだ。もちろん国や市区町村の財布も無尽蔵であるわけではないことは百も承知だ。しかし、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種化は喜ばしい反面、穴も目立つ。せめてB類疾病の自治体による接種勧奨の義務化くらい何とかならないものか?

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成人CAR-T療法を最大限生かすために【Oncologyインタビュー】第47回

出演:京都大学医学部付属病院 血液内科 北脇 年雄氏CAR-T療法は今や造血器腫瘍治療に欠かせないものとなった。その一方、複雑な治療工程や有害事象の管理など紹介元施設にとって押さえておくべき情報は多い。成人CAR-T療法の治療準備、有害事象管理、紹介・逆紹介のポイントなどを京都大学附属病院の北脇年雄氏に解説いただいた。参考CAR-T細胞療法のトリセツ(中外医学社)血液内科治療のトリセツ(中外医学社)

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Dr.光冨の肺がんキーワード解説「EGFR変異 Part2」【肺がんインタビュー】第113回

第113回 Dr.光冨の肺がんキーワード解説「EGFR変異 Part2」肺がんではさまざまなドライバー変異が解明されている。それに伴い、種々の標的治療薬が登場する。それら最新の情報の中から、臨床家が知っておくべき基本情報を近畿大学の光冨 徹哉氏が解説する。

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治療抵抗性強迫症に対するSSRI+ブレクスピプラゾールの有用性

 強迫症(OCD)は、重大な機能障害を伴う慢性疾患である。OCDの治療では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)により、一部しか症状が改善しないことも少なくない。このような場合、一般的に確立された治療法として、抗精神病薬併用によるSSRI増強療法が多くの患者で行われている。イタリア・ミラノ大学のLuca Giacovelli氏らは、治療抵抗性OCD患者におけるSSRIとブレクスピプラゾール併用療法の有効性および忍容性を評価するため、予備的レトロスペクティブ観察研究を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2025年2月6日号の報告。 対象は、治療抵抗性OCDと診断された患者10例。12週間のブレクスピプラゾール併用療法を行った。ブレクスピプラゾールの用量は、1mg/日から開始し、臨床判断に基づき調整した。治療反応の評価は、ベースラインから12週目までのYale-Brown強迫尺度(Y-BOCS)合計スコアの変化により行った。有害事象は、システマティックに記録した。 主な結果は以下のとおり。・12週間のブレクスピプラゾールにより、Y-BOCS合計スコアの有意な改善が認められた。・ベースライン時と比較した12週間後のY-BOCS合計スコアが25%以上低下した患者は7例(70%)、35%以上低下した患者は5例(50%)であった。・鎮静および体重増加などの軽度の副作用は、2例(20%)で報告された。 著者らは「治療抵抗性OCDに対するSSRI+ブレクスピプラゾール併用療法の有効性および忍容性プロファイルが確認された。治療抵抗性OCDのマネジメントにおいて、ブレクスピプラゾールは有望な併用薬である可能性が示唆された」と結論付けている。

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新規作用機序の潰瘍性大腸炎治療薬オザニモド、その特徴は?/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2024年12月27日にオザニモド(商品名:ゼポジア)について、「中等症から重症の潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の適応で、厚生労働省より製造販売承認を取得した。そこで潰瘍性大腸炎およびオザニモドへの理解を深めることを目的として、2025年2月25日にメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、仲瀬 裕志氏(札幌医科大学医学部 消化器内科学講座 教授)が、潰瘍性大腸炎の概要、潰瘍性大腸炎患者を対象としたアンケート調査の結果、オザニモドの特徴や臨床成績などについて解説した。再燃への不安が大きな負担 指定難病として認定される潰瘍性大腸炎は、若年で発症することも多く、患者数が年々増加傾向にある。難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班が2014年に実施した調査では、潰瘍性大腸炎の患者数は約22万例と推計されており、令和5年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は14万6,702例となっている。 潰瘍性大腸炎は寛解と再燃を繰り返すことが特徴であり、仲瀬氏は「再燃があると思うだけで患者はすごく不安になり、日常生活にも大きな影響を及ぼす」と述べる。そこで、30代以上の潰瘍性大腸炎患者106例を対象に、インターネットによるアンケート調査が実施された。本調査の対象患者は、罹病期間5年以上の割合が71%、中等症から重症の割合が63%であった。再燃に関して、再燃経験を有する患者の割合は71%であり、再燃に対する不安を有する患者の割合は89%にのぼった。これについて、仲瀬氏は「さまざまな治療薬が使用可能となった時代においても、患者の89%が再燃の不安を感じているというのは、非常に重要なデータである。こうした不安を取り除くために、医療者は治療に取り組む必要がある」と述べた。S1P受容体調節薬オザニモドの登場 仲瀬氏は「潰瘍性大腸炎はヘテロな疾患である」と述べる。つまり、潰瘍性大腸炎の病態にはさまざまなサイトカインが関与するため、個々の患者で炎症のパターンが異なり、治療への反応も異なる。そのため、さまざまな作用機序の治療薬が開発されているが、それでも治療効果が不十分な患者が存在するのが現状であり、アンメットメディカルニーズが存在するといえる。 そこで新たに登場したのがオザニモドである。オザニモドは、S1P(スフィンゴシン-1-リン酸)受容体を調節するという新しい作用機序を有する※。オザニモドの特徴は、リンパ球上に発現するS1P1受容体に結合し、内在化および分解を誘導することにより、リンパ球がリンパ節から循環血中へ移動するのを抑制することで、結果的に大腸内の炎症を抑制するという点にある。また、1日1回投与の経口薬であることから、患者の負担を軽減することも期待される。※同様の作用機序を有する薬剤として、多発性硬化症治療薬のシポニモドが存在する日本人患者198例を対象とした臨床試験で有用性を検証 オザニモドは、欧米では中等症から重症の潰瘍性大腸炎を適応として2021年に承認を取得しているが、本邦では未承認であった。そこで、日本人の中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者198例を対象とした国内第II/III相試験「J-True North試験」が実施された。 本試験の主要評価項目である投与12週時の完全Mayoスコアに基づく臨床的改善率は、プラセボ群が32.3%であったのに対し、オザニモド0.92mg群は61.5%であり、オザニモド0.92mg群が有意に改善し(p=0.0006)、プラセボ群に対する優越性が検証された。オザニモド0.92mg群の完全Mayoスコアに基づく臨床的改善率は長期にわたって維持され、投与52週時ではプラセボ群16.9%、オザニモド0.92mg群49.2%であった(名目上のp値=0.0001)。 副次評価項目の臨床的寛解率、内視鏡的改善率、粘膜治癒率もオザニモド0.92mg群がプラセボ群と比べて改善する傾向にあり、いずれの項目も投与52週時のほうが投与12週時よりも良好な傾向にあった。 安全性について、投与52週時までの副作用発現割合は、プラセボ群が13.8%、オザニモド0.46mg群が20.6%、オザニモド0.92mg群が32.3%であった。オザニモド0.92mg群の主な副作用は、ALT増加(4.6%)、γ-GTP増加、AST増加、肝機能検査値上昇、肝機能異常、帯状疱疹、回転性めまい(各3.1%)であった。また、オザニモド0.92mg群の投与中止に至った副作用は4例に発現した(ALT増加・AST増加2例、薬剤性肝障害1例、黄斑浮腫1例)。死亡に至った副作用は報告されなかった。副作用報告数としては少ないが、帯状疱疹をはじめとする感染症や黄斑浮腫には注意を払う必要がある。 また、オザニモドの特徴としてリンパ球数の減少がある。これについて、仲瀬氏は「減少が大きければ休薬を考えないといけないが、リンパ球数の減少と治療効果は相関するという側面もあるため、リンパ球数の絶対値をフォローしながら、上手に使っていく必要がある」と述べた。<J-True North試験の概要>・対象:経口5-アミノサリチル酸製剤またはステロイドの投与歴がある中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎患者198例・方法:プラセボ群、オザニモド0.46mg群、オザニモド0.92mg群に1:1:1の割合で無作為に割り付け、オザニモド0.92mg群には1~4日目は0.23mg、5~7日目は0.46mg、以降は0.92mgを1日1回12週まで経口投与。12週時点のレスポンダーは維持期に移行し、導入期と同じ治験薬を52週まで1日1回経口投与・評価項目[主要評価項目]投与12週時の完全Mayoスコアに基づく臨床的改善率(完全Mayoスコアがベースラインから3ポイント以上かつ30%以上低下、かつ直腸出血サブスコアがベースラインから1ポイント以上低下または絶対値が1ポイント以下)[副次評価項目]投与12週、52週時の臨床的寛解率(直腸出血サブスコアが0ポイントで、排便回数サブスコアが1ポイント以下で[かつ排便回数サブスコアがベースラインから1ポイント以上低下]、かつ内視鏡所見サブスコアが1ポイント以下)、内視鏡的改善率、粘膜治癒率など<製品概要>販売名:ゼポジアカプセルスターターパック、ゼポジアカプセル0.92mg一般名:オザニモド塩酸塩製造販売承認取得日:2024年12月27日効能又は効果:中等症から重症の潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法及び用量:通常、成人にはオザニモドとして1~4日目は0.23mg、5~7日目は0.46mg、8日目以降は0.92mgを1日1回経口投与する。製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

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抗PD-L1抗体薬、GLP-1薬などに重大な副作用追加/厚労省

 2025年3月5日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、該当医薬品の副作用の項などに追記がなされる。 対象医薬品は以下のとおり。抗PD-L1抗体薬アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)アベルマブ(同:バベンチオ)セミプリマブ(同:リブタヨ)<重大な副作用>免疫性血小板減少症免疫性血小板減少症関連症例を評価した結果、アテゾリズマブ、アベルマブにおいて、免疫性血小板減少症との因果関係が否定できない症例が集積した。また、セミプリマブにおいては、現時点では因果関係の否定できない症例の集積はないものの、海外添付文書の記載状況等を考慮し、それぞれの使用上の注意を改訂することが適切と判断された。持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ)<重大な副作用>肝機能障害肝機能障害関連の症例等を評価した結果、本剤と肝機能障害関連事象との因果関係が否定できない症例が集積した。BRAF阻害薬ダブラフェニブ(商品名:タフィンラー)MEK阻害薬トラメチニブ(同:メキニスト)<重大な副作用>好中球減少症、白血球減少症現行、「11.副作用」の「11.2その他の副作用」の項で好中球減少症、白血球減少症を注意喚起しているが、好中球減少症および白血球減少症関連症例を改めて評価した。その結果、ダブラフェニブメシル酸塩およびトラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物と好中球減少症および白血球減少症との因果関係が否定できない重篤症例が集積した。そのため、重要な基本的注意の項にも「好中球減少症、白血球減少症があらわれることがあるので、本剤投与中は定期的に血液検査を実施するなど観察を十分に行うこと」と追記される。

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GLP-1受容体作動薬、自殺リスクと関連せず/BMJ

 英国の大規模コホート研究において、2型糖尿病患者のGLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬またはSGLT-2阻害薬の使用と比較し、自殺傾向のリスク増加とは関連していないことが示された。カナダ・Lady Davis InstituteのSamantha B. Shapiro氏らが報告した。GLP-1受容体作動薬と自殺傾向との関連性が懸念されており、これを調査する観察研究がいくつか実施されているものの、結論には至っていなかった。BMJ誌2025年2月26日号掲載の報告。2型糖尿病患者の使用者について、DPP4阻害薬、SGLT-2阻害薬と比較 研究グループは、英国の一般診療所2,000施設以上、患者6,000万例を網羅する大規模プライマリケアデータベース「Clinical Practice Research Datalink(CPRD)AurumおよびGOLD」のデータを用いた。このデータベースは、英国の国民保健サービス(NHS)の入院記録「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care」および国家統計局の死亡登録データベース「Office for National Statistics(ONS)Death Registration」と連携している。 対象は2型糖尿病患者で、次の2つのコホートを特定した。(1)2007年1月1日~2020年12月31日にGLP-1受容体作動薬またはDPP-4阻害薬の服用を開始し継続した患者(コホート1)、(2)2013年1月1日~2020年12月31日にGLP-1受容体作動薬またはSGLT-2阻害薬の服用を開始し継続した患者(コホート2)。いずれも、2021年3月29日まで追跡した。 主要アウトカムは自殺傾向(自殺念慮、自傷行為および自殺の複合と定義)とし、副次アウトカムはこれらの各イベントとした。傾向スコアによる層別化および重み付けCox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出し、治療を受けた患者における平均処置効果を推定した。GLP-1受容体作動薬は、自殺念慮、自傷行為、自殺のリスク増加と関連なし コホート1には、GLP-1受容体作動薬使用者3万6,082例(追跡期間中央値1.3年)とDPP-4阻害薬使用者23万4,028例(追跡期間中央値1.7年)が含まれた。粗解析では、GLP-1受容体作動薬の使用はDPP-4阻害薬と比較して、自殺傾向の発生率増加と関連していた(粗発生率1,000人年当たり3.9 vs.1.8、HR:2.08、95%CI:1.83~2.36)。しかし、交絡因子補正後は、関連は認められなかった(HR:1.02、95%CI:0.85~1.23)。 コホート2には、GLP-1受容体作動薬使用者3万2,336例(追跡期間中央値1.2年)とSGLT-2阻害薬使用者9万6,212例(追跡期間中央値1.2年)が含まれた。同様に、粗解析では、GLP-1受容体作動薬の使用はSGLT-2阻害薬と比較して、自殺傾向のリスクが高かったが(粗発生率1,000人年当たり4.3 vs.2.7、HR:1.60、95%CI:1.37~1.87)、交絡因子補正後は、関連は認められなかった(HR:0.91、95%CI:0.73~1.12)。 両コホートとも、自殺念慮、自傷行為、自殺を個別に解析した場合も、同様の結果であった。

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脳出血既往AFに対する脳梗塞予防、DOACは有用か?/Lancet

 直接経口抗凝固薬(DOAC)は、心房細動を伴う脳内出血生存者の虚血性脳卒中予防に有効ではあるが、その有益性の一部は脳内出血再発の大幅なリスク増加により相殺されることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのRoland Veltkamp氏らPRESTIGE-AF Consortiumが、欧州6ヵ国75施設で実施された第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「PRESTIGE-AF試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「これら脆弱な患者集団における脳卒中予防を最適化するには、さらなるエビデンスと無作為化データのメタ解析が必要である。特定の患者に対しては、より安全な薬物療法または機械的代替療法の評価も求められる」と述べている。DOACは、心房細動患者において血栓塞栓症の発症頻度を低下させるが、脳内出血生存者に対するベネフィットとリスクは不明であった。Lancet誌オンライン版2025年2月26日号掲載の報告。脳内出血発症後14日~1年のAF患者をDOAC群と抗凝固薬非投与群に無作為化 研究グループは、脳内出血発症後14日~12ヵ月(当初は6ヵ月)以内で、心房細動を有し、抗凝固療法の適応があり、修正Rankinスケール(mRS)スコアが4以下の18歳以上の患者を、脳内出血の部位と性別によって層別化し、DOAC群または抗凝固薬非投与群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血管奇形または外傷に起因する脳内出血、左心耳閉鎖デバイスによる治療予定または既治療患者などは除外した。 DOAC群では、各地の試験担当医師の判断によりアピキサバン、ダビガトラン、エドキサバンまたはリバーロキサバンが投与された。抗凝固薬非投与群では、試験担当医師の判断で抗血小板薬(例:アスピリン100mg 1日1回)を投与または非投与した。 主要エンドポイントは2つで、初回虚血性脳卒中と脳内出血の初回再発とし、ITT集団で優越性と非劣性に関する階層的検定を実施した。脳内出血に関する非劣性マージンは、ハザード比(HR)の90%信頼区間上限が1.735未満とした。安全性についても、ITT集団を対象に解析した。DOAC群で虚血性脳卒中リスクは減少、脳内出血再発リスクは増大 2019年5月31日~2023年11月30日に319例が登録され、DOAC群(158例)および抗凝固薬非投与群(161例)に無作為に割り付けられた。患者背景は、年齢中央値が79歳(四分位範囲[IQR]:73~83)で、女性113例(35%)、男性206例(65%)であった。 追跡期間中央値1.4年(IQR:0.7~2.3)において、初回虚血性脳卒中の発症頻度は、DOAC群が抗凝固薬非投与群より低かった(HR:0.05、95%CI:0.01~0.36、log-rank検定p<0.0001)。すべての虚血性脳卒中イベントの発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群で0.83(95%CI:0.14~2.57)に対し、抗凝固薬非投与群では8.60(5.43~12.80)であった。 脳内出血の初回再発については、DOAC群は事前に規定された非劣性マージン(<1.735)を満たさなかった(HR:10.89、90%CI:1.95~60.72、p=0.96)。すべての脳内出血の発症頻度(100患者年当たり)は、DOAC群5.00(95%CI:2.68~8.39)に対し、抗凝固薬非投与群は0.82(95%CI:0.14~2.53)であった。 重篤な有害事象は、DOAC群で158例中70例(44%)、抗凝固薬非投与群で161例中89例(55%)に発現した。DOAC群では16例(10%)、抗凝固薬非投与群では21例(13%)が死亡した。

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硬膜外ステロイド注射は慢性腰痛に効果あり?

 特定のタイプの慢性腰痛患者において、痛みや障害の軽減を目的とした硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)の効果は限定的であることが、米国神経学会(AAN)が発表した新たなシステマティックレビューにより明らかになった。このレビュー結果は、「Neurology」に2月12日掲載された。 ESIは、脊柱の硬膜外腔と呼ばれる部分にステロイド薬や局所麻酔薬を注入して炎症を抑え、痛みを軽減する治療法である。このレビューの筆頭著者である米ロマリンダ大学医学部のCarmel Armon氏は、「慢性腰痛は一般的だが、動作や睡眠、日常的な活動を困難にして、生活の質(QOL)に悪影響を及ぼし得る」とAANのニュースリリースで述べている。 今回のシステマティックレビューでは、2005年1月から2021年1月の間に発表された90件のESIに関するランダム化比較試験を対象に、神経根症および脊柱管狭窄症に対するESIの痛み軽減効果に焦点を当てて分析が行われた。神経根症は、主に頸椎や腰椎の変性により神経根が圧迫されることで、脊柱管狭窄症は脊柱管(背骨の中の神経の通り道)が狭くなって脊髄や神経が圧迫されることで生じ、いずれも痛みやしびれなどが生じる。分析結果は、研究ごとに有効性の指標が大きく異なるため、短期的(治療後3カ月まで)および長期的(治療後6カ月以上)に見て、ESIを受けた患者(ESI群)において治療により良好な転帰を達成した割合がESIを受けていない対照群と比べてどの程度多いか(success rate difference;SRD)に基づき報告された。 その結果、頸部または腰部神経根症の場合、ESI群では対照群と比較して短期的に痛みが軽減した人の割合が24%(SRD −24.0%、95%信頼区間−34.9〜−12.6)、障害が軽減した人の割合が16%(同−16.0%、−26.6〜−5)多いことが示された。また長期的に見ても、ESI群では障害が軽減した人の割合が対照群より約11%多い可能性が示された(同−11.1%、−25.3〜3.6)。ただし、対象研究の多くは腰部神経根症の人が中心であり、頸部の疾患に対する治療については十分な研究がなかった。そのため、頸部の神経根症に対するESIの効果は不明であるという。 一方、脊柱管狭窄症の場合、ESI群では対照群と比較して、短期的にも長期的にも障害が軽減した人の割合が、それぞれ26%(SRD −26.2%、95%信頼区間−52.4〜3.6)と12%(同−11.8%、−26.9〜3.8)多い可能性が示唆されたが、統計学的な有意性は確認されなかった。また、短期的に痛みを軽減する効果については、統計学的に有意な差は確認されず(同−3.5%、−12.6〜5.6)、長期的に痛みを軽減する効果については、エビデンスが十分ではなく不明とされた。全ての研究が腰部脊柱管狭窄症の人を対象にしていたため、頸部脊柱管狭窄症に対するESIの効果は不明であった。 共著者の1人である、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのPushpa Narayanaswami氏は、「われわれの研究は、特定の慢性腰痛に対するESIの短期的な効果は限定的であることを裏付けている」とニュースリリースで述べている。同氏はまた、「治療を繰り返すことの有効性や、治療が日常生活や仕事復帰に及ぼす影響について検討した研究は見当たらなかった。今後の研究では、こうしたギャップを解消する必要がある」と付言している。

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日本人の4人に1人がコロナ陰謀論を信じている!?

 日本人の約4人に1人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する何らかの陰謀論を信じているとする調査結果が報告された。旭川医科大学社会医学講座の佐藤遊洋氏、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田淵貴大氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS One」に12月30日掲載された。収入や保有資産が多い人、正規雇用されている人に陰謀論を信じている人が多いという、海外とは異なる傾向が観察されたとのことだ。 COVID-19パンデミック以降、製薬会社が利益を得るためにウイルスを作成した、世界人口を減らすためにウイルスがばらまかれたといった、さまざまな陰謀論が拡散された。そのような陰謀論、または不正確な情報の流布と支持の高まりのために、社会不安の拡大、あるいは公衆衛生対策への悪影響が生じ得ることが指摘されている。例えば国内では、陰謀論とは異なるが、偏った報道の影響でヒトパピローマウイルスワクチンの積極的勧奨一時中断に至り、子宮頸がん対策が遅延した。よってCOVID-19陰謀論についても、今後への備えとして、国内でそれを信じる人の割合や特徴の傾向を明らかにしておく必要がある。 以上を背景に佐藤氏らは、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)」のデータを用いた解析を行った。JACSISは、インターネット調査会社のパネル登録者対象のweb調査として、パンデミック発生以降継続的に行われている。今回の研究では、2021年9~10月に行った調査で得られた2万8,175人(年齢範囲16~81歳)の有効回答を解析対象とした。 英オックスフォード大学での先行研究に基づき、1. 大手製薬会社が、ワクチンで利益を上げるために新型コロナウイルス感染症を作った、2. 新型コロナウイルス感染症は、全ての人々にワクチン接種を余儀なくさせるために作られた、3. このワクチンを使って、大規模な不妊化を実行しようとしている――という3項目を、COVID-19陰謀論として採用。これらについて、「強く賛成する」、「多少賛成する」、「どちらでもない」、「多少反対する」、「強く反対する」の五つから選択してもらい、前二者を選択した場合に「その説を信じている」と判定した。このほかに、COVID-19に関する情報源、行政発情報への信頼の強さなども調査した。 その結果、全体の10.2%は前記の陰謀論のうち一つを信じており、6.5%は二つ、7.3%は三つ全てを信じていた。年齢や性別、居住地、婚姻状況、世帯収入、教育歴などを日本の人口構成に一致させて調整すると、日本人の約4人に1人(24.4%)が何らかの陰謀論を信じていることが分かった。信じている陰謀論の数と背景因子との関連を線形回帰モデルで検討した結果、教育歴、世帯収入、資産額、雇用状況、行政発情報への信頼などと、以下のような有意な関連が認められた。 教育歴については高校卒を基準として、教育歴が長い場合(修士または博士課程修了でΒ=-0.066)と短い場合(中学卒でΒ=-0.089)の双方で、信じている陰謀論が少ないという負の関連が見られた。世帯収入については高収入者において、信じている陰謀論が多いという正の関連が見られた(400~500万円を基準として800万円以上でΒ=0.069)。資産については100万円未満を基準として900~2000万円(Β=0.060)で正の関連が見られた(2000万円以上では非有意)。雇用状況については正規雇用者を基準として、失業・退職者(B=-0.078)、専業主婦・主夫(B=-0.086)、パートタイム(B=-0.051)、自営業(B=-0.102)のいずれも、負の関連が見られた。 COVID-19の情報源に関しては、政府機関のウェブサイトの利用者は非利用者よりも、信じている陰謀論が少なかった(B=-0.109)。一方、X(旧Twitter)以外のSNS(Facebook、Instagram、YouTube、LINE)利用者は非利用者に比べて、信じている陰謀論が多かった(B値は0.053~0.093の範囲)。このほか、日本政府を信頼している人はそうでない人に比べて、信じている陰謀論が多いことも分かった(B=0.175)。 以上の結果に基づき著者らは、「日本においてCOVID-19陰謀論は24.4%の人に支持されている」と推定している。また本調査で明らかになった特筆すべき点として、海外での先行研究とは逆の傾向が示されたことを指摘している。即ち、高収入、高資産、正規雇用が陰謀論の支持と正の関連があり、一方、高学歴とともに教育歴が短いことも、陰謀論の支持と負の関連が認められたことから、「このような日本特有の傾向の根底にあるメカニズムの解明が求められる」と付言している。

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第1回 FDAが承認した革新的「非オピオイド鎮痛薬」の衝撃、疼痛管理に新たな選択肢

米国食品医薬品局(FDA)は先日、バイオ医薬品企業バーテックス・ファーマシューティカルズが開発した新しい非オピオイド鎮痛薬suzetrigine(商品名:Journavx)を承認しました1,2)。これは中等度から重度の急性疼痛を対象とした経口剤で、約20年ぶりに承認された新しい作用機序を持つ鎮痛薬です。オピオイド乱用の背景承認の背景には、米国で深刻化するオピオイド系鎮痛薬乱用の問題があります。オピオイド系鎮痛薬は本来、強い痛みを効果的に抑える薬剤として処方されてきましたが、その強力な鎮痛作用ゆえに依存や乱用が社会問題化し、過去20年余りで約50万人が過剰摂取によって死亡したと報告されています3)。このため、たとえば著者の私が仕事をするニューヨーク州では、オピオイドの処方はすべて厳格に監視されており、処方制限が本当に必要な患者さんの入手を難しくするなど、近年はむしろ過度とも言えるほどの規制強化が行われています。しかし、その代替として違法薬物に手を染める人も少なくありません。その解決策になると安易には言えませんが、このような状況も相まって、非オピオイド系の新たな鎮痛薬の選択肢を求める声が医療従事者や保険当局の間でありました。suzetrigine(Journavx)の特徴と今後の課題発売元の2024年1月30日付のリリースによると、今回承認されたsuzetrigineは、痛みを伝える神経のナトリウムチャネルを選択的に阻害する新しいメカニズムを持った鎮痛薬で、依存症リスクや中毒性を大幅に低減できる点が期待されています。先に行われた第III相試験では、外反母趾などの術後の疼痛をプラセボと比較して有意に改善することが示されています。12時間ごとに服用する経口剤で、副作用として、かゆみ、筋痙攣、CPK上昇、皮疹などが報告されています2)。発売元によると、米国内での卸売価格は1錠当たり15.50ドル(約2,400円)と設定されました4)。新薬として画期的ではあるものの、既存のジェネリック医薬品や低価格のオピオイド鎮痛薬と比較するとコスト面に不安が残るため、保険会社、医療機関がどの程度この新薬を採用するかが今後の課題となります。一方、賞賛の声が聞かれているのも事実です。非オピオイド系鎮痛薬の選択肢が増えることで、依存症リスクを避けつつ適切な痛みのコントロールを図れるようになる可能性があります。今後は実臨床での効果と安全性がより詳しく検証され、薬価や保険適用の状況次第では、オピオイドクライシスの克服に向けても大きな一歩となることが期待されます。また、日本においても、新たな鎮痛薬の選択肢として期待されるものになるでしょう。このように今回のFDA承認は、痛みの治療における選択肢を広げ、オピオイド乱用が深刻化する米国で新たな光となるかもしれません。今後は医療経済面の検討、慢性疼痛への効果の有無や長期使用時の安全性データの蓄積を踏まえながら、どのように実際の患者ケアに組み込まれていくのかが大きな注目点となるでしょう。参考文献・参考サイト1)Smith G. New Pain Drug Gets FDA Nod as Safer Alternative to Addictive Opioids. Bloomberg. 2025 Jan 31.日本語版:米FDA、オピオイドに代わる鎮痛剤を承認-依存症リスク抑制2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain. 2025 Jan 30.3)CDC. Drug overdose deaths - Health, United States. 2024 Aug 2.4)Harrison C. Vertex’s opioid-free drug for acute pain wins FDA approval. Nat Biotechnol. 2025 Feb 17.

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前代未聞の怒鳴り合い【Dr. 中島の 新・徒然草】(570)

五百七十の段 前代未聞の怒鳴り合い先日のこと。急に「ケーキ食べたい発作」に襲われた私は、近所のケーキ屋に行きました。何となく店内が華やかだと思ったら、3月3日の桃の節句だったのです。ショーケースに飾られていたのは「ひな祭りスペシャル」みたいな名前のショートケーキ。イチゴが2つ載っている上にお雛様の顔も付いていて、普通のショートケーキの倍近い値段が付いていました。「すごい値段じゃわい!」と驚いていたら、お母さんに連れられて店に入ってきた3歳くらいの女の子、まんまと「ひな祭りスペシャル」にトラップされてしまいました。もうショーケースの前に取り付いて離れません。お母さんもあの高価なショートケーキを買う以外の選択肢はなくなってしまいました。いやあ、資本主義社会の世の中、微笑ましい光景ですね。さて、この1週間のニュースというと、トランプとゼレンスキーの怒鳴り合い会談がありました。2025年2月28日(現地時間)、ホワイトハウスに招かれたウクライナのゼレンスキー大統領。最初の40分ほどは和やかな会談だったのですが、徐々に場の雰囲気がヒートアップし、最後は怒鳴り合いの末に物別れ(Full Meeting between President Trump, VP Vance and Ukrainian President Zelensky in Oval Office)。会談後に予定されていた昼食会も、鉱物資源協定の署名も、共同記者会見もすべてキャンセルされてしまいました。まさか首脳会談がこういう形で終わるとは!私なんかは当事者でも何でもないのにビビってしまいました。何でまたこんなことになってしまったのでしょうか?つらつら考えてみるに、通常の首脳会談と違うところが3つありました。1つ目は通訳がいなかったこと。ゼレンスキー大統領は非常に上手な英語でしゃべっていましたが、彼の母語はロシア語とウクライナ語です。いくら英語が上手でも、相手の土俵に乗ってしまったら話になりません。口論になった時には英語話者に簡単に揚げ足を取られてしまいます。それに通訳を間に挟んでいれば、お互いにあそこまで感情的になることもなかったでしょう。2つ目は1対2だったこと。首脳会談なら普通は1対1だと思いますが、なぜかバンス副大統領も同席していました。1対2の口論では最初から勝負は見えています。3つ目はメディアの前だったこと。テレビカメラの前だと、お互いに引くに引けない状態になってしまいます。また、メディアの人たちも会談の影響を心配するよりも「いい絵が撮れたわい」と思ってしまうので、ヒートアップする材料ばかりが揃っていました。結局、鉱物資源協定に署名がされなかったばかりか、アメリカはウクライナに対する軍事支援を一時停止してしまいます。果たして、アメリカの支援なしでウクライナがロシアの攻勢に持ちこたえることができるのでしょうか。この会談については、多くのYouTube動画でさまざまな論評が加えられていました。「なるほど、自分と同じ意見だ」というのもあれば「こういう見方もあるのか」と思わされるものもあります。いくつか紹介しましょう。まず、あるアメリカ人ユーチューバーの動画(Zelensky's English Isn't Good Enough / English for IELTS and TOEFL)。ゼレンスキー大統領の英語はなかなか上手で、カフェでコーヒーを注文するには十分だけど、首脳会談で使うにはいささか心許ない、というもの。会談のビデオの中からいくつか例を挙げて説明しており「こういう言い方をすると相手を怒らせてしまう」という指摘をしています。とはいえ、ゼレンスキー大統領にとって英語は母語ではないわけですからねえ。アメリカ側にも多少の配慮があってもいいのでは、と思うのは私が日本人だからでしょうか?次にある日本人英語教師の動画(【英語ニュース】アメリカ実力主義全開!ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談)。彼女にとっては恐怖の首脳会談だったようです。あえて英語で首脳会談に臨んだゼレンスキー大統領の勇気を褒めるとともに、これが現実だ、とも言っていました。私にも経験がありますが、何か論争になった時にアメリカ人に英語で一方的にまくし立てられるというのはしばしばあることです。“●●●●●●○●●●●●☆●●●●☆●●●●●, OK?” みたいな感じですね。そんなもん、“OK?” とか聞かれても、そもそも何を言っているのかがわからないのだから答えようがありません。こちらが沈黙していると同意したと相手に取られてしまう、それが現実なんですね。少なからぬアメリカ人は、英語の不自由な外国人を「頭が悪いからしゃべれないんだ」と思っています。英語が世界中で通じるので、外国語で苦労している人たちの状況を想像することが難しいのでしょう。逆に、アメリカ人の中にも立派な人はいて、こちらに合わせて話をしてくれることもありました。どちらかといえば教育水準の高い人ほど、そういう傾向があるように感じます。別の動画では、日本とウクライナのハーフであるボゴダンさんがしゃべっていました(米ウクライナ首脳会議決裂!トランプ&ゼレンスキーが全世界のメディアの前で大激論!鉱物資源交渉は破綻、ウクライナへの安全保障発言ゼロ、米ウ関係に深刻な亀裂…そして会談条件に通訳禁止が含まれていた事が判明)。ボゴダンさんはそのバックグラウンドもあって、もっぱらゼレンスキー大統領の肩を持っています。驚くのはそのタイトルで「会談条件に通訳禁止が含まれていた事が判明」とありました。アメリカ側は最初から英語で一方的な話をしようと目論んでいたのでしょうか。この辺は真偽不明ではありますが……あとは、いろいろな人が会談決裂の原因を「ゼレンスキー大統領の準備が足りなかった」とか「アメリカの横暴だ」とか言っていますが、私自身はどちらかに与するわけではありません。単に「正義の反対は悪ではなく、別の正義だ」という言葉を噛みしめるだけです。さて……私が首脳会談に臨むなどということは起こり得ませんが、もし自分が今回のゼレンスキー大統領の立場に置かれたとしたら、どうすればいいのでしょうか。ちょっと想像してみました。まず思い出すべきことは「ハンディキャップは克服するものではなく、利用するものである」という格言です。「私は英語が不自由なんで」と言って通訳を頼みましょう。そして、トランプ大統領が英語で何か言ったら、その時点で内容を理解できるわけですから、その発言が通訳される時間を利用してこちらの回答を準備することができます。一方、トランプ大統領のほうは、通訳された英語を聴いて即座に返さなくてはならないので、時間的な制約が大きくのしかかってきます。いかにトランプ大統領が有能であっても、考える時間が半分しか与えられなければゼレンスキー大統領との間に差が付いてしまうのは当然のこと。また、話が意図しない方向に行きそうになった場合、ゼレンスキー大統領は「今の翻訳はちょっとおかしくなかったか?」とか「それは俺の言いたいことじゃない」とか言って、通訳のせいにしつつ軌道修正を図ることも可能です。まさしくハンディキャップを利用するわけですね。とはいえ、われわれみたいな一般人が首脳会談の心配をしても仕方ありません。もっとありそうなこととして、異国の路上において英語でやり込められそうになるという状況が考えられます。どうやって切り抜けるか、ですね。これには2つの対策が考えられます。1つは、思い切って日本語で言い返すこと。とくに関西人の場合は「なんでやねん!」という必殺技があります。相手がひるんだ隙に「なに言うとるんじゃ、ボケ!」とカマしてやれば、意味が通じなくても、一気に局面を変えることができるかもしれません。もう1つは、さりげなく自分が医師であると告げること。アメリカでは医師の社会的地位が日本よりかなり高いので、こちらが「医師だ」と言うと相手は「え、え、え?」と怯むことが期待できます。とくに脳神経外科医というのは一般アメリカ人に対してハッタリがきくみたいで、自分自身の経験で言えば、まるで「私はメジャーリーグプレイヤーであるぞよ」と言ったくらいのインパクトがありました。もっとも「それなら金を持っているだろう、置いていけ」とか言われたら逆効果なので、状況次第ではありますが。ということで、前代未聞の首脳会談から思いついたことを述べさせていただきました。読者の皆さんに、笑いと活力をもたらすことができれば幸いです。最後に1句ひなまつり 英語の口論 覚悟せよ

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クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─【とことん極める!腎盂腎炎】第13回

クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─Teaching point(1)クランベリーが尿路感染症を予防するという研究結果はたしかに存在するが、確固たるものではない(2)本人の嗜好と経済的事情が許すならクランベリージュースを飲用してもらってもよい(3)クランベリージュース以外の尿路感染症の予防方法を知っておく《症例》28歳女性、独身、百貨店の販売員。これまでに何度も排尿時痛や頻尿などの症状で近医受診歴があり、「膀胱炎」と診断され、その都度、経口抗菌薬の処方を受け治療されている。昼前から排尿時痛があり、「いつもと同じ」膀胱炎だろうと思って経過をみていたところ、夕方にかけて倦怠感とともに37.5℃の発熱を認めるようになったため当院の時間外外来を受診した。来院時38.0℃の発熱あり。左肋骨脊柱角に圧痛(CVA叩打痛)を認める。血液検査:WBC 12,000/μL(Neu 85%)、CRP 3.5mg/dLと炎症反応上昇あり。尿検査:WBC(+++)、亜硝酸塩(+)。一般的身体所見、血算・生化学検査では、それ以外の特記所見に乏しい。1.クランベリーとは?クランベリーとはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属(Oxycoccos)に属する常緑低木の総称であり、Vaccinium oxycoccus(ツルコケモモ)、V. macrocarpon(オオミツルコケモモ)、V. microcarpum(ヒメツルコケモモ)、V. erythrocarpum(アクシバ)の4種類がある。北米原産三大フルーツの1つである酸味の強い果実は、菓子やジャム、そしてジュースによく加工され食用される。古くから尿路感染症予防の民間療法として使用されており、1920年代にはその効果は尿路の酸性化による結果と考えられていたが、クランベリーに含まれるA型プロアントシアニジンという物質がどうやら尿路上皮への細菌の付着を阻害しているらしいということが1980年代に明らかにされた1)。またクランベリーに含まれるD-マンノースもまた、細菌と結合することで尿路上皮への菌の付着を抑制することが知られている。2.クランベリーは尿路感染を予防するのか?クランベリーが尿路感染やその再発を予防するのかというテーマについては、これまで数多くの研究がなされてきた。まず、有効成分の1つである先述のD-マンノースを内服することが再発性尿路感染症の発生率が低下させると、ランダム化比較試験で証明されている2)。クランベリーそのものに関しては、プラセボに比して予防に効果的という結果が得られた研究もあれば、影響を与えないとする研究結果もあり、議論が分かれているところである。系統的レビューによるメタアナリシスでも報告によって異なった結論が得られており、たとえば2012年に合計1,616例の研究結果をまとめたメタアナリシスではクランベリー製品は有意に尿路感染の再発を減らすと報告している3)。半年間の飲用によるリスク比0.6、治療必要数(NNT)は11と推算されている。一方で、同じ2012年にアップデートされたコクランレビューでは4,473例が対象になっているが、プラセボや無治療に比してクランベリー製品は尿路感染症を減らすことはしないとし、尿路感染症予防としてのクランベリージュース飲用は推奨しないと結論づけられた4)。しかし2023年にアップデートされたバージョンでは、50件の研究から合計8,857例がレビューの対象となり、メタ解析の結果、クランベリー製品の摂取によって尿路感染リスクが有意に低減する(相対リスク:0.70、95%信頼区間:0.58~0.84)ことが明らかにされた。とくに、再発性尿路感染症の女性、小児、尿路カテーテル留置状態など尿路感染リスクを有する患者において低減するとされ、逆に、施設入所の高齢者、妊婦などでは有意差は得られなかった5)。わが国で行われたクランベリージュースもしくはプラセボ飲料125mLを毎日眠前に24週間内服して比較した多施設共同・ランダム化二重盲検試験の結果では、50歳以上の集団を対象としたサブ解析では有意な再発抑制効果がクランベリージュースに認められた(ただし、若年層の組み入れが少なかったためか全体解析では有意差が出なかった)6)。尿路感染症の再発歴がある患者が比較的多く含まれたことも有意差がついた要因の1つと考えられ、そうしたことを踏まえると、再発リスクが高い集団においてはクランベリージュースの感染予防の効果がある可能性があると思われる。米国・FDAも、尿路感染既往がある女性が摂取した際に感染症の再発リスクが低下する可能性があるとクランベリーサプリの製品ラベルへ掲載することを2020年に許可しており、日本の厚生労働省公式の情報発信サイトにもそのことが掲載されている7)。再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことは、プライマリ・ケア医の重要な役割である。3.クランベリー摂取の副作用大量に摂取した場合、とくに低年齢児では嘔気や下痢を招く可能性がある。また、シュウ酸結石を生じるリスクになるともいわれている。しかし一般的には安全と考えられており7)、日本の研究でもクランベリー飲用の有害事象としては107人中1人のみ、初回飲用後の強いやけど感を自覚しただけであった6)。先に紹介したレビューでも、最頻の副作用は胃もたれなどの消化器症状であったが、対照群に比較して有意に増加はしなかった5)。クランベリー摂取により問題となる副作用はあまりないと思われ、そうすると、クランベリーを尿路感染再発予防目的で飲用するべきかどうかは、本人の嗜好や経済的余裕などによって決まると思われる。4.クランベリー以外での再発予防とくに女性では尿路感染症を繰り返す症例があるが、そうした再発例に対しては、飲水励行の推奨や排便後の清拭方法の指導(肛門部に付着する細菌の尿路への移行を防ぐために尿道口から肛門に向けて拭く)に代表される行動療法が推奨される(第11回参照)。それでも無効な場合は予防的抗菌薬投与の適応になりえ、数ヵ月から年単位で継続する方法と、性交渉後にのみ服薬する方法が一般的である。性交渉後に急性単純性膀胱炎を起こすことはよく知られており、抗菌薬の連日投与でなくても、セファレキシン、ST合剤、フルオロキノロンなどを性交渉後の単回内服するだけでも尿路感染症の予防に有効であることが示されている8)。再発性尿路感染症を呈する高齢者においても、予防的抗菌薬の内服が尿路感染症の発症予防に効果があるとされている9)。また、閉経後の女性では局所エストロゲン療法が尿路感染の再発予防に有効であるといわれている10)。《症例(その後)》腎盂腎炎と診断し、血液・尿培養採取のうえで、点滴抗菌薬加療を開始して入院とした。翌日には解熱、入院5日後に血液検査での炎症反応のpeak outと血液培養からの菌発育がないことを確認でき、尿培養から感受性良好な大腸菌(Escherichia coli)が同定されたため、内服抗菌薬にスイッチして退院とする方針とした。これまでに何度も膀胱炎になっているとのことで、再発性の尿路感染症と考えてリスク因子がないか確認したところ、販売員をしているため日中の尿回数を減らすべく、出勤日は飲水量を減らすように心がけているということであった。尿量・尿回数の減少が尿路感染症のリスクになるため飲水励行が勧められること、度重なる抗菌薬加療が将来的な耐性菌の出現を招くことによる弊害、会陰部を清潔に保つことが重要であることの説明に加え、排便後の清拭方法の一般的な指導を退院時に行った。クランベリージュースは話題には出してみたものの、ベリー系果実はあまりお好きではないとのだったので強くお勧めはしなかった。それでもなお尿路感染を繰り返すようであれば、さらなる予防策を講じる必要があると判断して、3ヵ月後に確認したところ、その後、膀胱炎症状はなく経過しているということであり終診とした。1)Howell AB, et al. Phytochemistry. 2005;66:2281-2291.2)Kranjcec B, et al. World J Urol. 2014;32:79-84.3)Wang CH, et al. Arch Intern Med. 2012;172:988-996.4)Jepson RG, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD001321.5)Williams G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023;4:CD001321.6)Takahashi S, et al. J Infect Chemother. 2013;19:112-117.7)厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト):「クランベリー」8)日本排尿機能学会, 日本泌尿器科学会 編. 女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]. リッチヒルメディカル;2019.9)Ahmed H, et al. Age Ageing. 2019;48:228-234.10)Chen YY, et al. Int Urogynecol J. 2021;32:17-25.

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