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IgG monoclonal抗体製剤はワクチンの代替薬になりえるか?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本論評では、遺伝子組み換えIgG monoclonal抗体治療の基礎をなす回復期血漿治療の変遷を考慮しながらmonoclonal抗体治療の臨床的意義について考察する。コロナ感染症に対する回復期血漿治療-無効かつ有害? 長年、インフルエンザ肺炎に対して古典的回復期血漿治療が施行されてきた。また、2002~03年のSARSに対しても回復期血漿治療が試みられたが満足いく結果が得られず、抗体依存感染増強(ADE:antibody-dependent enhancement of infection)を呈した症例が少なからず存在した。新型コロナに対しても回復期血漿治療が試行錯誤されたが、今年になって発表された2つの論文は新型コロナに対する回復期血漿治療が無効、あるいは、逆に、病態を悪化させる可能性があることを指摘した。RECOVERY Trialでは、ランダム化から28日目までの死亡率、機械呼吸導入率、腎透析導入率など重要な指標は血漿投与群と対照群の間で有意差を認めず、回復期血漿治療は無効であることが示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet 2021;397:2049-2059.)。Begin氏らの報告によると、ランダム化から30日以内の気管挿管と死亡の比率は血漿投与群と対照群の間で有意差はなく、さらに、重要な知見としてADEに相当する重篤な副反応の頻度が血漿投与群で高いことが示された(Begin P, et al. Nat Med. 2021 Sep 9. [Epub ahead of print])。 回復期血漿はコロナ以外の微生物などに由来する種々の抗原に対するIgG、IgA、IgMなどの抗体を含有する。たとえば、IgAはIgGと拮抗しHIVワクチン接種時にHIV感染を増悪させることが報告されている(Haynes BF, et al. Engl J Med. 2012;366:1275-1286.)。また、回復期血漿が含有するS蛋白に対するIgG抗体には中和作用を有さない“非機能的(不完全)IgG抗体”が含まれる。非機能的IgG抗体のFc(fragment crystallizable)部位と免疫細胞/食細胞に発現しているFc受容体(FcγR)との結合は不完全で、ウイルスは免疫細胞/食細胞内で完全に処理されず、その一部は感染性を有したまま細胞外に排出される(回復期血漿投与時のADE発生)。一方、S蛋白を構成する種々なる抗原決定基(epitope)に対するIgG monoclonal抗体はウイルスに対する中和作用が強く、非機能的IgG抗体は基本的に存在しない。それ故、IgG monoclonal抗体投与時にはADEが発生し難い。以上の考察を支持する知見として、S蛋白に対するIgG monoclonal抗体に関する複数の治験においてADE発症の報告がない事実を強調しておきたい。半減期が短いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬 現在、米国では6種類のIgG monoclonal抗体が緊急使用の許可を得ている。その中の2種類ずつを併用する2つの抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ[REGEN-COV]とbamlanivimab+etesevimab[BEカクテル])の緊急使用をFDAは承認している。本邦においても2021年7月19日、REGEN-COVが特例承認された(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)。 カシリビマブとイムデビマブ(REGEN-COV)はウイルスが生体に侵入する際生体細胞のACE2と結合するRBD-motif(RBM)に存在する互いに重なりがない複数のepitopeと非競合的に結合し抗ウイルス作用を発現する(Baum A, et al. Science 2020;369:1014-1018.)。本論評で取り上げたコロナ感染患者と濃厚接触した家族を対象としたREGN-COV 2069治験において(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)、対照群の全感染リスクが14.2%であったのに対しREGEN-COV群では4.8%と有意に低かった。さらに、感染者の症状持続期間もREGEN-COV群で2週間短縮されるなど抗ウイルス薬として高い効果が示された。この治験で特記すべき事項はREGEN-COVを従来の点滴投与ではなく皮下注で投与しても何ら問題となる不都合が観察されなかったことである。以上の結果はIgG monoclonal抗体を簡便な皮下注で投与できる可能性を示した点で臨床的に価値がある。 Monoclonal抗体治療の最も魅力的側面はDelta株を中心とする変異株に対する抗ウイルス作用である。変異株における免疫回避作用を発現するS蛋白遺伝子変異の主たる部位は417位(Beta株、Gamma株)、452位(Delta株)、478位(Delta株)、484位(Beta株、Gamma株)である(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38,)。REGEN-COVにあって、カシリビマブは417位、478位、484位をepitopeとして認識するがイムデビマブはこれら部位を認識しない。両monoclonal抗体ともDelta株にあって最も重要な452位を認識せずREGEN-COVはDelta株に対して高い中和作用を示すことが示唆された(Corti D, et al. Cell. 2021;184:3086-3108.)。 REGEN-COVを構成する2つのmonoclonal抗体の血中半減期は約30日で抗ウイルス薬としては十分な期間有効性が持続する(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)。しかしながら、以下に提示するIgG monoclonal抗体をワクチン代替え療法として考えていく場合には30日という半減期は短過ぎる。 REGEN-COV使用に関する本邦の指針は米国FDAの指針に追従したもので、本薬剤の投与対象が“重症化リスク因子を有する酸素投与を要しない患者(軽症~中等症-I)”となっており、“重症例”は基本的に対象外とされた(厚生労働省. Aug. 13, 2021)。この記述は、回復期血漿治療で認められるADEがIgG monoclonal抗体投与時にも発生する可能性を配慮したものであるが、monoclonal抗体薬投与に起因するADEの発生が非常にまれであることが判明しつつある現在、REGEN-COVの投与対象を重症例にも広げていくべきであろう。さらに、ワクチン接種で中和抗体価が上昇しない免疫不全患者のコロナ感染時の治療にはIgG monoclonal抗体治療が最優先されるべきことも明記されるべきである(米国FDA. Press Release Aug. 12, 2021)。 BEカクテルにあってbamlanivimabはRBDの452位、484位を、etesevimabは452位近傍をepitopeとして認識するため(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)、BEカクテルはBeta株、Gamma株、Delta株に対する中和作用が弱く、変異株抑制を目的とした抗ウイルス薬としてはREGEN-COVよりも劣る。REGEN-COVと同様BEカクテルの半減期も短い。半減期が長いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬、ワクチン代替え薬 2021年9月6日、グラクソ・スミスクラインは単剤で使用できるIgG monoclonal抗体ソトロビマブの特例承認を厚生労働省に申請し、9月27日に承認された(商品名:ゼビュディ点滴静注液500mg)。この製剤は他のmonoclonal抗体製剤と異なり、変異が発生しやすいRBMではなく変異が起こり難く多くのコロナウイルスでアミノ酸配列が普遍的に保存されている部位(S蛋白の332~361位)を抗体の標的として設計されている(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)。すなわち、ソトロビマブが認識するepitopeはDelta株を中心とする変異株を特徴付ける種々なる変異とは無関係な部位に位置する。それ故、ソトロビマブは現状の変異株のみならず今後形成されることが予想される新たな変異株に対しても高い中和作用を発揮するものと考えられる(Gupta A, et al. medRxiv. 2021 May 28.)。ソトロビマブのもう一つの特徴はIgGの分解を抑制し血中IgG抗体価の半減期を延長させるためにIgG抗体のFc領域に人工的変異が挿入されていることである(Cathcart AL, et al. bioRxiv. 2021 Aug 6.)。その結果、ソトロビマブは投与後少なくとも6~8ヵ月間は抗ウイルス作用を持続するものと考えられ、ワクチン接種が困難な人、あるいは、免疫不全でワクチンによる抗体産生が期待できない人に対するワクチン代替え療法になりえるものと期待できる。ただし、IgG monoclonal抗体治療の費用はワクチン2回接種の100倍に達する高額治療であることに留意する必要がある。 AstraZenecaの抗体カクテル(AZD7442:AZD1061+AZD8895)も注目に値する製剤である。AZD7442を構成する2つのIgG monoclonal抗体のFc領域には人工的変異が挿入されておりソトロビマブと同様にIgGの半減期が延長する(抗ウイルス作用:約1年持続)。それ故、AZD7442もソトロビマブと同様にワクチン代替え療法として期待できる。

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事例035 加味逍遙散エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説不定愁訴を訴えていた64歳男性が更年期障害と診断され、投与された加味逍遙散エキスがC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。医師は査定事由に思い当たることがないとのことで、査定された理由を調べるために、当該医療機関が使用している加味逍遙散エキスの添付文書をみてみました。効能または効果の欄には、「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく(中略)、時に便秘の傾向がある次の諸症」とあり、諸症の中に更年期障害も含まれていました。傷病名の適用はあると考えましたが、文の前段に「婦人」と表現されています。主に女性に対して使用される漢方薬であって、男性への投与は適用外として判断されたものであろうと推測しました。複数他社の添付文書を参照したところ、同じ加味逍遙散エキスでも男女の区別がない場合もあるなど効能および効果の差が確認できました。男女が異なっていても加味逍遙散エキスは複数社が販売しています。添付文書の証と事例の身体状況が特徴的に一致しており、診断病名も添付文書に表示されていたため、適用があるものと考え、著効があったことを加えて再審査請求をしましたが、原審通りでした。保険診療における医薬品の使用は、療養担当規則第19条に、厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止が定められています。この表現の中には、医薬品ごとに承認された効能・効果・用法・用量なども含まれます。「など」には、性差や年齢も含まれるとして、規則が厳格に適用されたものと考えられます。薬剤システムとレセプトシステムに、男性への投与時に注意が表示されるように設定変更をして査定対策としました。(※ 販売元社名は割愛しました)

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キッズ・オールライト(その2)【そのツケは誰が払うの? その「不都合な真実」とは?(生殖ビジネス)】Part 1

今回のキーワード出自を知る権利(子どもの権利条約7条)人格的自律権(憲法13条)子どもへの支配ドナー確保認知の請求遺産相続のトラブル前回(その1)では、映画「キッズ・オールライト」を通して、精子提供によって生まれた子どもの心理、精子を提供された親の心理、さらには精子ドナーの心理を掘り下げました。今回(その2)では、彼らのぞれぞれの心理から、その子どもにその事実やそのドナーを知る権利(出自を知る権利)がなかなか認められない原因を突き止めます。そして、生殖ビジネスの、ある「不都合な真実」を明らかにします。さらに、出自を知る権利が認められたら顕在化する法的な問題も考えてみましょう。なんで精子提供によって生まれた子どもに出自を知る権利がなかなか認められないの?すでにその1でもご説明しましましたが、精子提供によって生まれた子どもの心理は、真実をきちんと教えてほしい(信頼関係)、自分のもう半分のルーツを知りたい(アイデンティティ)、生みの親にも自分の存在を認めてほしい(自尊心)という3つの思いです。つまり、子どもが精子を提供された事実やそのドナーを知る権利は、出自を知る権利(子どもの権利条約7条)として、そして人格的自律権(憲法13条)として極めて重要なことであることが分かります。実際に、海外の多くの先進国でこの権利が認められています。にもかかわらず、日本では、この出自を知る権利がなかなか認められません。それは、なぜでしょうか? ここから、精子を提供された親と精子バンクの2つの立場に分けて、その原因を突き止めます。そして、その「不都合な真実」を明らかにしてみましょう。(1)精子を提供された親が反対する-子どもへの支配すでにその1でもご説明しましましたが、精子を提供された親の心理は、精子提供はなかったことにしたい(保守的な認知)、その事実を伝えたとしても精子ドナーを知らないでほしい(親アイデンティティ)、精子ドナーを知ったとしても関わって欲しくない(子育ての私物化)という3つの思いです。実際に、日本での彼らへの調査(2001)において、そもそも真実告知をしないと答えた人は夫と妻ともに80%以上でした。1つ目の原因は、精子を提供された親が反対するからです。親の心理は、出自を知りたいと思う子どもの心理に真っ向から対立しています。よって、出自を知る権利が法的に明文化されずにうやむやになっている限り、とりあえず親は真実告知の責務から解放されます。しかし、それはあくまで親のエゴイスティックな視点です。子どもの視点に立った時、まったく違って見えてきます。それは、子どもは親のペットではないということです。出自を知りたいという子どもの気持ち(人権)をないがしろにする親は、やはり子どもを支配していると言えます。そして、そんな親が日本ではいまだに多いということです。(2)精子バンクが反対する-ドナーの確保すでにその1でもご紹介しましましたが、精子ドナーの心理は、楽して儲かる(外発的動機づけ)、人の役に立てる(利他性)、自分の遺伝子を残せる(生殖心理)という3つの思いです。しかし、現在は、日本産婦人科学会が「プライバシー保護のため精子ドナーは匿名とする」としつつも、「ただし精子ドナーの記録を保存するものとする」との見解を出したことで、専門の医療機関の精子バンクでドナーが激減し、ほとんどで精子提供が休止の状態になっています。この見解は、精子ドナーが将来的に自分の生物学的な子どもによって身元を辿られる可能性をほのめかしており、ドナーたちは、人の役に立てて自分の遺伝子を残せるとしても、まったく「楽」なわけではなくなったからです。その代わりに、SNSを介して、精子の譲り渡しを匿名で行う自称「精子バンク」のボランティアが増えており、危うい状況になっています。2つ目の原因は、精子バンクが反対するからです。精子バンクとしては、ドナーの確保は切実です。出自を知る権利が法的に明文化されずにうやむやになっている限り、とりあえず民間の精子バンクは匿名を条件にドナーを確保することができます。また、そのほうが「闇取引」をする事態になるよりまだマシである(被害を減らせる)という理屈(ハームリダクション)に後押しされている面もあるでしょう。実際に、海外の精子バンクでは、匿名のドナーと非匿名のドナー(オープンドナー)を選べるようになっています。日本でも、2021年5月に国内初の民間の精子バンクの運営が始まりましたが、同じ方式をとっています。映画の中の精子バンクも、ポールに「当バンクはドナーの同意なしに身元について明かすことはありません」「あなたの精子で生まれた女性が連絡を取りたいと言っていますが」と伝えています。つまり、最初にポールに同意を得る形をとっています。逆に言えば、ポールが同意しなかったら、ジョニとレイザーは出自を知る権利が得られなかったことになります。つまり、子どもの出自を知る権利は、親のあえてのオープンドナーの選択と真実告知に委ねられており、必ずしも保障されていないことが分かります。しかし、これはあくまで精子バンクのビジネスとしての視点です。生まれてくる子どもの視点に立った時、まったく違って見えてきます。それは、精子提供は、ただの献血とは違い、新しい人間(人格)が生まれるということです。精子バンクは、ドナー確保を優先するあまり、この点をないがしろにすることで、一大ビジネスになっています。つまり、生殖ビジネスの「不都合な真実」とは、精子を提供される親と精子提供を斡旋する精子バンクの利害がきれいに一致していることです。そして、精子提供によって生まれる子どもが、そのビジネスのツケを払わされていることです。次のページへ >>

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キッズ・オールライト(その2)【そのツケは誰が払うの? その「不都合な真実」とは?(生殖ビジネス)】Part 2

出自を知る権利が認められたら顕在化する法的な問題は?出自を知る権利が認められた場合、精子提供から約20年の時を経て、その子どもは精子ドナーを特定できることになります。ということは、親も精子ドナーを知る可能性があります。さらに、精子ドナーがその子どもや親を知る可能性もあります。すると、ある法的な問題が顕在化します。ここから、映画の登場人物を通して、起こりうるトラブルを大きく3つ挙げてみましょう。(1)子どもが精子ドナーに認知を求めるポールは、もともと家庭を持つ気がなく、独身の人生を楽しく送ってきました。精子バンクから連絡があった時も、面倒にはかかわりたくないという思いから、最初は戸惑っていました。ところが、生物学的な子どもであるジョニとレイザーとかかわっていくうちに、ポールは変わっていきます。普通の父親のように、子どもたちの生き方にあれこれ口出しするようになるのです。そして、子どもたちもまんざらでもない様子なのです。1つ目のトラブルは、子どもが精子ドナーに認知を求めることです。これは、精子を提供された親が受け入れないでしょう。日本では、生殖補助法が成立したとは言え、あくまで理念にすぎず、精子ドナーが法的な親になれないとする規制は明文化されていません。さらに、精子ドナーの死後に認知が請求された場合には、精子ドナーから生まれた子どもと遺族の間に遺産相続のトラブルを引き起こす可能性もあるということです。(2)精子ドナーが子どもの認知を求めるポールは、やがてジョニの母親であるニックから「口出ししないで」と言われてしまいます。さらにややこしいことに、ポールはレイザーの母親のジュールスと不倫関係になるのでした。実は、ジュールスはバイセクシャルであり、ニックとは倦怠期を迎えていたからです。やがて、ジュールスはニックに不倫がばれてしまい、2人は離婚の危機を迎えます。そんな中、ポールは、ジュールスに「一緒になろう。俺が子どもたちを引き取るから」と言い出し、勝手に家に押しかけてくるのです。2つ目のトラブルは、精子ドナーが子どもの認知を求めることです。これも、精子を提供された親が受け入れないでしょう。先ほどにも触れた規制が日本にはないため、精子ドナーの気が変わった場合、認知を請求し、親権を求めるトラブルに発展する可能性があるということです。厳密には、親権は、ジョニのように成人した子どもへはないですが、レイザーのように未成年の子どもへはあります。(3)精子を提供された親が精子ドナーに子どもの認知を求める精子を提供されたニックとジュールスは、精子ドナーであるポールと関わりたいとは思ってきませんでした。これは、生まれたジョニとレイザーが健康で優秀であるという前提があります。もしもジョニやレイザーが遺伝疾患を発症したり知的障害が判明したら、どうでしょうか? その治療や養育に多額の費用がかかるとしたら、どうでしょうか? その遺伝的な原因となっている精子ドナーに責任を問いたくならないでしょうか?3つ目のトラブルは、精子を提供された親が精子ドナーに子どもの認知を求めることです。これは、精子ドナーが受け入れないでしょう。なお、精子バンクは、障害の発症については免責事項を設けています。先ほどにも触れた規制が日本にはないため、障害の発症によって多額の治療費や養育費がかかる場合、精子を提供された親の気が変わって、その費用を負担してもらうために、精子ドナーに認知を請求するトラブルに発展する可能性があるということです。<< 前のページへ

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HR+/HER2+早期乳がん、de-escalateした術前補助療法に適した症例は?(ADAPT TP)/ESMO2021

 ホルモン受容体陽性HER2陽性(HR+/HER2+)早期乳がんに対するT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)でのde-escalateした術前補助療法において、治療前の腫瘍免疫原性が高いほど病理学的奏効(pCR)率が高く予後良好なことが、ドイツ・West German Study Group(WSG)によるADAPT triple positive(TP)試験で示された。WSGのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 ADAPT TP試験はWSGによる第II相試験で、ADAPTアンブレラ試験の一部である。すでに主要評価項目であるpCR率はT-DM1投与群で40%を超え、副次評価項目の生存アウトカムも良好だったことが報告されている。今回は、もう1つの副次評価項目であるトランスレーショナルリサーチについて、治療前の生検で分析されたバイオマーカーにより検討された。・対象:HR+/HER2+早期乳がん 375例・試験群A:T-DM1(3週ごと)12週 119例・試験群B:T-DM1(3週ごと)+内分泌療法12週 127例・試験群C:トラスツズマブ(3週ごと)+内分泌療法12週 129例術後または12週の生検後(pCRが得られない場合)は標準化学療法が推奨され、pCRが得られた場合は化学療法の省略が許容された。・評価項目[主要評価項目]pCR率(ypT0/is/ypN0)[副次評価項目]安全性、5年無浸潤疾患生存(iDFS)率、5年全生存率、トランスレーショナルリサーチ 早期奏効は、3週時点の生検でKi67が治療前の30%以上減少または低細胞密度(腫瘍細胞数が500個未満)の場合とした。腫瘍浸潤リンパ球とIHCの免疫マーカー(CD8、PD1、PDL1)、PIK3CA変異の有無、遺伝子(RNA)発現を治療前の検体で評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療前におけるCD8発現やPD-L1発現が良好なpCRと関連し、また、良好なiDFSとより強い関連がみられた。iDFSのハザード比(HR)は、CD8A発現で0.61(95%信頼区間[CI]:0.36~1.01)、CD8 mRNA発現で0.66(95%CI:0.47~0.92)、免疫細胞PD-L1発現で0.32(95%CI:0.10~1.07)だった。・PIK3CA変異は16.32%に認められ、pCR率および5年iDFS率の低下と関連していた。すべての患者で予後が悪化したが、とくにT-DM1投与患者では5年iDFS率に22%の差があった(野生型90.2%、変異型68.4%、p=0.007)。・本試験における分子サブタイプは、luminal Aタイプが55.9%、luminal Bタイプが22.69%、HER2-enrichedタイプが21.3%、basal-likeタイプが0.93%であった。pCR率はHER2-enrichedタイプが最も高かったが、5年iDFS率はluminal Aタイプが89.8%と最も高く、HER2-enrichedタイプは80.9%と低かった。 Harbeck氏は、「HR+/HER2+早期乳がんにおいて、治療前における腫瘍免疫原性はde-escalateした術前補助治療後の高いpCR率と予後良好に関連していた。PIK3CA変異がある患者は、T-DM1を投与し術後に化学療法とトラスツズマブを投与しても予後不良であった。luminal Aタイプの患者は、HER2標的治療後にpCR率が低くても最も予後が良好だった」と結果をまとめ、「今後のde-escalation戦略については、luminal AタイプではpCR率と生存率、HER2-enrichedタイプではpCRによるアプローチが有望」とした。

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うつ病患者の自殺リスク予測因子

 自殺の原因はさまざまであり、自殺リスクのある人を正確に特定することは困難である。米国・ボストン大学のTammy Jiang氏らは、機械学習を用いて、うつ病患者の自殺予測を試みた。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年8月11日号の報告。 本研究は、1995~2015年にデンマークにおいて実施されたケースコホート研究である。対象は、デンマークで自殺により死亡したすべてのうつ病患者2,774例。比較サブコホートは、ベースライン時のデンマーク人の5%ランダムサンプルであり、研究期間中にうつ病と診断された患者1万1,963例。自殺予測には、決定木およびランダムフォレストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・うつ病男性では、他の解熱鎮痛薬の使用(アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬)、催眠鎮静薬の使用、中毒症と診断された患者において自殺リスクが高かった(96例、リスク:81%)。・うつ病女性では、他の解熱鎮痛薬、抗不安薬、催眠鎮静薬が使用された患者で自殺リスクが高かったが、中毒症や脳血管疾患と診断された患者では関連が認められなかった(338例、リスク:58%)。 著者らは「精神障害とそれに関連する薬物療法は、自殺リスクとの関連が示唆された。とくに、慢性疼痛や疾患治療に用いられる抗炎症薬(アセトアミノフェンなど)の使用は、うつ病患者の自殺リスクとの関連が認められた」とし「機械学習は、自殺による死亡を予測する精度を向上させる可能性がある」としている。

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転移のあるホルモン感受性前立腺がん対するエンザルタミド+ADT療法はOSを改善(ARCHES)/ESMO2021

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対するエンザルタミドとアンドロゲン遮断療法(ADT)の併用は、ADT単独療法より全生存期間(OS)を延長することが示された。 これは国際共同の大規模臨床試験であるARCHES試験の結果で、米国・Duke Cancer Institute CenterのAndrew J. Armstrong氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)にて発表された。同試験は日本も参加した二重盲検無作為化比較第III試験。・対象:画像上で確認されたmHSPC 1,150例(3ヵ月以内のADTの先行と6ヵ月以内のドセタキセルの先行投与は許容)・試験群:エンザルタミド+ADT群 574例(Enza群)・対照群:プラセボ+ADT群 576例(Pla群)・評価項目[主要評価項目] 中央判定による画像評価を用いた無増悪生存期間(rPFS)[副次評価項目] OS、PSA増悪期間、次治療移行までの期間、奏効率、安全性など 主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はEnza群の有意な延長が、2018年に報告された(ハザード比[HR]0.39(95%信頼区間[CI] 0.30~0.50)、P<0.001)。それ以降、試験の盲検化が解かれ、Pla群へのエンザルタミドのクロスオーバー投与が認められた。今回はOSの最終解析報告である。 主な結果は以下のとおり・登録症例の年齢中央値は70歳、ドセタキセル治療歴有りが18%、診断時のグリソンスコア8以上が65~67%を占めた。・Pla群576例中、180例がエンザルタミド+ADTのクロスオーバー投与(Cross群)を受けた。・観察期間中央値44.6ヵ月時点でのOS中央値は両群ともに未到達であったが、OSのHRは0.66(95%CI:0.53~0.81)、p<0.0001とEnza群で有意に良好であった。・2年時OS率はEnza群が86%、Pla群が82%、3年時OS率はEnza群が78%、Pla群が69%、4年時OS率はEnza群が71%、Pla群が57%と、4年時点で14%の差があった。・治療期間中央値はEnza群で40.2ヵ月、Pla群で13.8ヵ月であり、Cross群では23.9ヵ月であった。・後治療が施行されたのは、Enza群131例Pla群221例であり、後治療施行までの期間中央値は、Enza群は未到達、Pla群は40.5ヵ月でHR0.38(95%CI:0.31~0.48)であった。・後治療の主な薬剤は、Enza群ではドセタキセル48例とアビラテロン26例、Pla群ではドセタキセル71例とエンザルタミド61例であった。・安全性における新たな徴候は見られなかった。両群ともに治療関連死はなかったが、治療中止はEnza群で13.8%、Pla群で5.6%あった。グレード3/4の主な有害事象は、高血圧でEnza群が5.1%Pla群が2.3%、骨折はEnza群で3.5%Pla群で1.6%であった。

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二尖弁大動脈弁狭窄症へのTAVR、三尖弁狭窄症と転帰は同等/JAMA

 手術リスクが低い二尖弁大動脈弁狭窄症の患者に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)は三尖弁大動脈弁狭窄症と比較して、30日および1年後の死亡、30日および1年後の脳卒中の発生に有意な差はなく、1年後の大動脈弁圧較差や中等度~重度の人工弁周囲逆流の頻度にも差はないことが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年9月21日号で報告された。米国のレジストリベースのコホート研究 研究グループは、手術リスクの低い二尖弁大動脈弁狭窄症と三尖弁大動脈弁狭窄症の患者における、第3または4世代のバルーン拡張型人工弁(Sapien 3、Sapien 3 Ultra、米国・Edwards Lifesciences製)のアウトカムの比較を目的に、レジストリを用いたコホート研究を行った(Edwards Lifesciencesの助成による)。 参加者のデータは、米国で実施されたすべてのTAVR手技が含まれる米国胸部外科医学会(STS)/米国心臓病学会(ACC)の経カテーテル的人工弁療法(TVT)レジストリから得られた。手術リスクは、STSの予測死亡リスク(STS-PROM)のスコア(0~100%、数値が高いほど術後30日以内の死亡リスクが高い)が3%未満の場合に「低い」と定義された。 主要複合アウトカムは、30日および1年後の死亡、脳卒中とされた。副次アウトカムは手技関連合併症などであった。1年後の死亡:4.6% vs.6.6%、1年後の脳卒中:2.0% vs.2.1% 2015年6月~2020年10月の期間に米国の684施設で、大動脈弁狭窄症の15万9,661例(二尖弁大動脈弁狭窄症7,058例、三尖弁大動脈弁狭窄症15万2,603例)がバルーン拡張型人工弁を用いたTAVRを受けた。このうち、傾向スコアでマッチングされた手術リスクの低い二尖弁狭窄症3,168例と三尖弁狭窄症3,168例が解析に含まれた(全体の平均年齢69歳、男性69.8%、平均STS-PROMスコア[SD]:二尖弁狭窄症1.7[0.6]%、三尖弁狭窄症1.7[0.7]%)。 二尖弁狭窄症と三尖弁狭窄症で、30日後の死亡(0.9% vs.0.8%、ハザード比[HR]:1.18、95%信頼区間[CI]:0.68~2.03、p=0.55)、1年後の死亡(4.6% vs.6.6%、0.75、0.55~1.02、p=0.06)、30日後の脳卒中(1.4% vs.1.2%、1.14、0.73~1.78、p=0.55)、1年後の脳卒中(2.0% vs.2.1%、1.03、0.69~1.53、p=0.89)の発生は、いずれにも有意な差は認められなかった。 また、二尖弁狭窄症と三尖弁狭窄症で、1年後の弁血行動態(大動脈弁圧較差:13.2mmHg vs.13.5mmHg、絶対リスク差[RD]:0.3mmHg、95%CI:-0.9~0.3、p=0.33)や、中等度~重度の人工弁周囲逆流(3.4% vs.2.1%、1.3%、-0.6~3.2、p=0.14)にも有意差はみられなかった。さらに、院内死亡(0.6% vs.0.4%、p=0.22)や院内脳卒中(1.1% vs.0.9%、p=0.31)の発生にも差はなく、重篤な手技関連合併症は二尖弁狭窄症、三尖弁狭窄症ともまれだった。 著者は、「本研究は選択バイアスの可能性があり、二尖弁大動脈弁狭窄症に対し外科的治療を行う対照群を欠いていることから、手術リスクが低い二尖弁大動脈弁狭窄症に対するTAVRの有効性と安全性を適切に評価するには、今後、無作為化試験の実施が求められる」としている。

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mRNAワクチン有効率、基礎疾患の有無で差なし/NEJM

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクがある集団や、COVID-19の世界的大流行の影響を過度に受けている人種/民族集団を含む米国の医療従事者において、実臨床下でのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製])の接種は、症候性COVID-19の予防に関して高い有効性を発揮し、年齢や基礎疾患、感染者との接触の程度が異なる集団でも有効率に差はないことが、米国疾病予防管理センターのTamara Pilishvili氏らVaccine Effectiveness among Healthcare Personnel Study Teamの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年9月22日号に掲載された。米国50万人以上の医療従事者の症例対照研究 研究チームは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受けた米国の医療従事者を対象に、COVID-19の発症予防におけるmRNAワクチン接種の有効性の評価を目的に症例対照研究を実施した(米国疾病予防管理センターの助成を受けた)。本研究には、2020年12月28日~2021年5月19日の期間に、米国25州の33施設で50万人以上の医療従事者が参加した。 医療従事者の定義は、職場で感染者と直接接触する可能性がある、または感染した医療器具に間接的に接触する可能性のある、すべての有給または無報酬で医療に携わる者とされた。 症例は、COVID-19様の症状が1つ以上認められ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査や他の核酸増幅検査、または抗原ベースの検査でSARS-CoV-2が陽性の集団とされた。対照は、症状の有無を問わず、PCRまたは検査室での他の核酸増幅検査でSARS-CoV-2陰性の集団であった。検査を行った週に各参加施設において、症例1人に対し対照3人の割合を目標にマッチングが行われた。 年齢、人種/民族、基礎疾患、COVID-19感染者との接触で補正した条件付きロジスティック回帰を用い、ワクチン非接種者との比較において、部分接種者(初回接種後14日~2回目接種後6日までに評価)および完全接種者(2回目接種後7日以降に評価)のワクチン有効率が推定された。ワクチン有効率:77.6~96.3%、基礎疾患などのリスク因子で差はない 症例群1,482人(年齢中央値37歳、女性82%)および対照群3,449人(37歳、83%)が解析に含まれた。全体の69%が急性期病院(緊急治療部を設置)、31%は外来または専門診療施設の医療従事者であった。 症例群の76%、対照群の75%が、重症COVID-19のリスク増加と関連する基礎疾患を1つ以上有していた。最も頻度の高い基礎疾患は肥満(症例群36%、対照群31%)であり、次いで過体重(29%、28%)、喘息(14%、18%)、高血圧(15%、14%)の順だった。症例群には妊婦が62人含まれた。 ワクチン非接種者と比較した部分接種者のワクチン有効率は、BNT162b2ワクチンが77.6%(95%信頼区間[CI]:70.9~82.7)、mRNA-1273ワクチンは88.9%(78.7~94.2)であり、完全接種者ではそれぞれ88.8%(84.6~91.8)および96.3%(91.3~98.4)と、いずれも高値を示した。 年齢(50歳未満、50歳以上)、人種/民族、基礎疾患、感染者との接触の程度別のサブグループ間で、ワクチン有効率は同程度であった。また、14週の追跡期間を2週ごとに分けてワクチン有効率の推移を解析したところ、2回目接種後3~4週が96.3%と最も高く、その後徐々に低下した。3~8週よりも9~14週のほうがワクチン有効率は低かったが、9~14週はCIの範囲が広く、この2つの期間でCIはほぼ重複していた。 著者は、「これらの結果は、一般集団を対象とした2つのワクチンの第III相試験(C4591001試験[BNT162b2ワクチン]、COVE試験[mRNA-1273ワクチン])の結果と一致するとともに、これまでの観察研究で得られたエビデンスをさらに裏付けるものである」としている。

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先生の大切な人に知らせませんか、乳がん啓発のクラウドファンディング開始

 YouTubeを中心に、ブレスト・アウェアネスや乳がんに関する情報発信を行っている一般社団法人BC Tubeが、「あなたの手紙で、大切な人にもブレスト・アウェアネスを」と題したクラウドファンディングのプロジェクトを開始させた。プロジェクトを通して、参加者が大切な人への手紙を送ることで、“手紙を受け取った人が自分の健康へ目を向けるきっかけをつくる”ことを目指している。 一般社団法人BC Tubeは、有志の乳腺科医が集まり、乳がんに関する理解しやすい適切な医療情報を広めることで、人々の乳がんに関する意識を高め、人々の健康と福祉に寄与することを目的として、2020年11月に設立。症状や検査、治療法等についての解説動画をYouTubeに投稿している。 今回のプロジェクトでは支援者への返礼品として、・「大切な人に送るための手紙とブレスト・アウェアネスカード」もしくは・医療機関、企業、団体等で使用可能な「ブレスト・アウェアネスに関するリーフレットやこれまでのBC Tube動画をまとめたDVD」が送付される予定。 このプロジェクトの背景には、いかにして“無関心層”へブレスト・アウェアネスや乳がんのことを知ってもらうかという課題認識があり、多くの人にとって関心の乏しい情報は心に響きにくい一方で、身近な人から言われた一言には、その人の行動を変える大きな力を持つのではないかという想いがある。 プロジェクトで集まった資金はブレスト・アウェアネスをさらに広めるための活動に活用される予定で、下記の到達目標がそれぞれ設定されている。1stゴール(100万円達成):リーフレット・DVD作成費用、全国の医療機関にリーフレット・DVD配布費用など2ndゴール(300万円達成):全国の公共施設にリーフレット・DVD配布費用など3rdゴール(500万円達成):BC Tubeの継続的な活動費、教育資材作成費(医療従事者向け・教諭向け・小中高生向け)など

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ポンぺ病の新治療薬が製造販売承認を取得/サノフィ

 サノフィ株式会社は、2021年9月27日にポンペ病の効能または効果でアバルグルコシダーゼアルファ(商品名:ネクスビアザイム点滴静注用100mg)が製造販売承認を取得したと発表した。同社では、ポンペ病(糖原病II型)において、乳児型ポンペ病および遅発型ポンペ病の新たな標準治療となる可能性に期待を寄せている。ポンペ病は呼吸や運動機能に影響を及ぼす遺伝性の難病 ポンペ病は、ライソゾーム酵素の1つである酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の遺伝子の異常によりGAA活性の低下または欠損が原因で生じる疾患で、複合多糖(グリコーゲン)が全身の筋肉内に蓄積する。このグリコーゲンの蓄積が、不可逆的な筋損傷を引き起こし、肺を支える横隔膜などの呼吸筋や、運動機能に必要な骨格筋に影響を及ぼすことで運動機能や呼吸機能の低下をもたらす希少疾患。世界でのポンペ病の患者数は5万人と推定され、乳児期から成人後期のいずれの時期においても発症する可能性がある。ポンぺ病の新治療薬ネクスビアザイムは歩行距離を延長 ポンぺ病の新治療薬となるネクスビアザイムは、筋細胞の中にあるライソゾームにGAAを送り届けてグリコーゲンの分解を促すことで、ポンペ病がもたらす重大な症状である呼吸機能、筋力・身体機能(運動能力など)をアルグルコシダーゼアルファよりも改善させる目的で開発された。ポンペ病で生じるグリコーゲン蓄積を低下させるためには、筋細胞の中にあるライソゾームにGAAを送り届ける必要がある。そのため筋細胞内のライソゾームにGAAを送り届ける効率を高めるための手段として、GAAの輸送に大きな役割を果たすマンノース6リン酸(M6P)受容体を標的とする研究が行われ、ネクスビアザイムが開発された。ネクスビアザイムは、アルグルコシダーゼアルファと比較してM6Pレベルを約15倍増加させた分子として設計され、細胞内への酵素の取り込みを向上、標的組織において高いグリコーゲン除去効果を得る目的で開発された。 今回の承認では、2つの臨床試験で得られた肯定的な結果に基づき行われ、ピボタル第III相二重盲検比較試験である「COMET試験」では、遅発型ポンペ病の患者を対象としてネクスビアザイムの安全性と有効性を標準治療薬であるアルグルコシダーゼアルファと比較した。また、第II相Mini-COMET試験では、アルグルコシダーゼアルファの投与経験のある乳児型ポンペ病患者を対象にネクスビアザイムの安全性を主に評価するとともに、探索的に有効性の評価を行った。 その結果、COMET試験では、ネクスビアザイムが、アルグルコシダーゼアルファに比べ、第49週時点における努力肺活量(%FVC)が2.4ポイント改善し、主要評価項目である非劣性が示された。また、6分間歩行試験では、ネクスビアザイム投与群は、標準治療薬であるアルグルコシダーゼアルファ群に比べ、歩行距離が30m延長した。一方、重篤な副作用については、ネクスビアザイム投与群に高頻度、頭痛、そう痒(かゆみ)、悪心、蕁麻疹と疲労が認められた。 なお、ネクスビアザイムは、日本では2020年11月27日に希少疾病用医薬品に指定され、米国食品医薬品局は2021年8月に承認したほか、英国の医薬品・医療製品規制庁はネクスビアザイムを有望な革新的医薬品に指定している。

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12~17歳でのmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を考える(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 COVID-19の小児例は成人例に比べ症例数も少なく、ほとんどが無症状や軽症例であることがわかっている。COVID-19の臨床像を小児も含めた年齢層別に検討したイタリアからの報告では入院率、重症例の割合は年齢を重ねるごとに増加し、無症状例や軽症例は年齢とともに減少していた。3,836例の小児例の解析では約40%が無症状であり、ごく軽症や軽症を含めると95%以上という結果であった。ここで報告されている4例の小児死亡例は全例が6歳以下で、心血管系や悪性腫瘍の基礎疾患を併存している症例のみであり、新型コロナウイルスが原因とは考えられていなかった(Bellino S, et al. Pediatrics. 2020;146:e2020009399. )。本邦でも国立成育医療研究センターと国立国際医療研究センターの共同研究『COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)』を利用したCOVID-19の小児例が報告されている(Shoji K, et al. J Pediatric Infect Dis Soc. 2021 Sep 6. [Epub ahead of print] )。1,038例の18歳未満のCOVID-19例では約30%が無症状であり、症状を認めた730例のうち酸素投与まで必要となってしまう小児は15例(2.1%)であったとの報告である。 新型コロナワクチンの小児に対する報告はすでにファイザー製mRNAワクチンBNT162b2において安全性や有効性が示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250. )。この研究では12~15歳の若年者2,260例が試験に参加しており、そのうち1,131例がBNT162b2ワクチンを接種している。副反応は一過性かつ軽度~中等度であり、注射部位の疼痛(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%)の頻度が高かったとの結果であった。またワクチン2回目接種後にCOVID-19を発症した症例はプラセボ群では1,129例中16例で認めたのに対し、BNT162b2ワクチン接種群では1例も認められずワクチン有効率は100%とされ、小児においても新型コロナワクチンの高い効果が示された結果となった。 本論評で取り上げた米国DM Clinical ResearchのAli氏らの論文『Teen COVE試験:Teen Coronavirus Efficacy trial』は2020年12月9日~2021年2月28日における12~17歳の健康な若年者3,732例を対象にモデルナ製新型コロナワクチンmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を確認するために行われた試験の中間解析結果を報告した。結果は12~17歳の若年者においても良好な安全性と18~25歳の若年成人と非劣性の免疫反応を示したとのことであった。 本研究に参加した若年者3,732例はmRNA-1273ワクチン接種群2,489例とプラセボ接種群1,243例に2対1でランダムに割り付けられ、28日間隔で2回接種された。主要評価項目は安全性と18~25歳の若年成人を対象にした臨床試験との免疫反応の非劣性を示すこととされ、副次評価項目としてはCOVID-19の発症予防やコロナウイルスの無症候性感染に対する有効性などが調査された。 まずワクチン接種の安全性としては局所の副反応として注射部位の疼痛が1回目の接種後93.1%、2回目の接種後92.4%、全身性のさまざまな副反応全体としては1回目の接種後68.5%、2回目の接種後86.1%が報告され、なかでも頭痛(1回目44.6%、2回目70.2%)、疲労感(47.9%、67.8%)、筋肉痛(26.9%、44.6%)、悪寒(18.4%、43.0%)が頻度の高い副反応として挙げられた(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021 Aug 11. [Epub ahead of print])。ワクチン接種群の局所および全身性の副反応は約4日続き、1週間を越える局所での副反応はワクチン群でより高く、1回目接種後のほうが2回目接種後よりも頻度が高かった。また『COVE試験』(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416. )での18~25歳の若年成人と比較して、局所および全身性の副反応の頻度はほぼ同等の結果であったが、皮膚の紅斑は若年者のほうが高かった。本研究では小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や死亡、そして心筋炎や心膜炎など特記すべき有害事象は認められなかった。 ワクチンの効果は若年成人に対する血清中和抗体の幾何平均力価比、応答率の差で評価され、それぞれ1.08(95%信頼区間:0.94~1.24)、0.2%(若年群98.8%、若年成人群98.6%)であり若年成人と同等の免疫原性が示された形となった。 Ali氏らは若年者に対する新型コロナワクチン接種は若年成人と同様の安全性を示し、免疫原性も非劣性であると述べているが、小児は重症化率や死亡者数が少なく正確な有効性を評価することは困難だとしている。小児では重症化率や死亡者数が少なく、無症状や軽症例が多いことは上記の本邦の報告でも同様の結果であり、小児に対するワクチンのメリットは成人者のそれとは異なることを理解する必要がある。また本研究が行われたのは2020年12月~2021年2月であり、現在本邦で問題になっているデルタ株を含めた変異株に対する有効性は評価することができない。 今回論評で取り上げたAli氏らの論文が解析された時点では、心筋炎・心膜炎の副反応は報告されていない。しかしながら英国ではBNT162b2ワクチン100万回接種当たり2.6件の心筋炎、2.0件の心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり8.2件の心筋炎や心膜炎の発症が報告されている(厚生労働省「副反応疑い報告の状況について」 2021年7月21日)と発表している。本邦においてもBNT162b2ワクチン100万回接種当たり0.5件の心筋炎・心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり0.6件の心筋炎・心膜炎の発症が報告されている。いずれもmRNAワクチン接種との因果関係は現時点では不明とされているが、年齢別にはmRNA-1273ワクチンでは10代の男性が症例は限られているものの100万回接種当たり17.1件と最も頻度が高い結果となっている(第68回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会「副反応疑い報告の状況について」)。BNT162b2ワクチン接種後の小児で心筋炎を発症した15例のケースシリーズでは、93%が男性、全例で胸痛と血清トロポニン値の上昇を認め、20%で心エコー上の心拍出量の低下を認めたが、死亡例は認められず良好な経過をたどったと報告している(Dionne A, et al. JAMA Cardiol. 2021 Aug 10. [Epub ahead of print] )。 現在2021年9月末で第5波は収束しつつある状況にあるが、学校における児童を発端としたクラス内感染や児童間での感染伝播の報告が散見された。またデルタ株流行下においては小児から家庭内に感染が広がるケースも認められた。ワクチンに対する感染予防効果や発症予防効果を考えれば、小児で影響の強いCOVID-19パンデミック下でのストレスや学校閉鎖などを防ぐために重要と捉えることができる。ただし成人のCOVID-19と比べると圧倒的に無症状や軽症例の多い小児において、きわめてまれなワクチン接種後の副反応であったとしても慎重に対応せざるを得ないと考える。

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第77回 岸田総裁が主張する医療・社会保障制度のバランス感は?

自民党総裁選が9月29日に行われ、元外務大臣で同党の元政務調査会会長(政調会長)だった岸田 文雄氏が新総裁に選出された。2012年の安倍 晋三氏の就任以降、悪く言えばほぼ出来レースの総裁選が続いていた中では、一政党の総裁選に過ぎないとはいえ、久々に白熱した選挙となった。1回目投票から1位だった岸田氏だが、その時は2位の河野 太郎氏にわずか1票差。それが決選投票では岸田氏は257票、河野氏は170票と一気に差がついた。もっとも比較的世論を反映しやすいと言われる1回目の党員票分では岸田氏が110票、河野氏が169票、決選投票に反映された都道府県連票では岸田氏がわずか8票、河野氏が39票ということを考えれば、国会議員票は「世論」とやや異なる動きをしたことは明らかである。さて、前回は総裁選候補者4人の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策を比較したが、岸田氏が新総裁、そして事実上次期総理大臣が確定したことを考えると、岸田氏自身の医療あるいは社会保障政策の中身を検討して見なければならない。まず岸田氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社刊)を読むと、高齢化社会の進展に伴う社会保障政策の根幹の考え方について、「全員で全員を支え合う社会保障への転換」と提示している。端的に言うならば、現役世代と高齢者世代という二元化ではなく、65歳以上でも能力と意欲とそれに伴う経済力次第では一定の負担をし、一方的な社会保障の受益者になるのではなく、むしろ支える側にまわると主張している。ちなみに私見だが、以前から財務省の良く使う「高齢者1人を現役世代〇人で支える」という硬直した思考に「???」と思っていたこともあり、これ自体は今後人口減少に伴う高齢化率上昇を考えると、極めて妥当な考え方と思える。そのうえで岸田氏はその実現のために必要な3つの視点を提示している。1つ目の視点は制度の縦割りを可能な限り排すること。これはすなわち医療保険での国保と社保、年金での国民年金と厚生年金の垣根を成るべく取り払うということだ。2つ目の視点として提示されているのが民間活力の導入である。具体的には医療保険、年金ともに公的仕組みでは必ずしも十分な給付はできないとして、屋上屋として民間の保険などを活用しても良いのではないかというもの。3つ目は地域、利用者の視点だ。地域での医療や社会保障の人材的リソースが枯渇している中では、それを補うために外国人労働者の活用やICT、AIの導入などでより効率化して、地方でのサービス維持に努めようというもの。このうち1や3については、やや形が違うもののほぼ中身が同じ主張を河野氏もしている。そして2だが、岸田氏はこの考えの背景について単に医療費を抑制するだけでは、医療技術の高度化に十分対応できないためとしている。もっともこの考えは一部高度な医療を受ける際には民間保険での償還を軸にするというもので、岸田氏は低所得者への配慮や民間保険会社による疾病リスク毎の保険料設定が過度になることへの注意も必要としている。より平たく言えば、現在の高度先進医療的な扱いの医療行為の範囲をより広くし、そこに一定の制約を設けて民間保険会社により医療保険事業に参入をしてもらい、所得が高い人はこの民間保険の枠組みでサービスを利用してもらおうということである。まあ、混合診療をより推し進めるとも言えるかもしれない。この辺はたぶん現状の医療をめぐる各ステークホルダーがどの程度許容するかは相当微妙なラインと言える。また、岸田氏が社会保障ではなく経済政策の一環として、「成長と分配の好循環」の形成を検討している。たとえば、看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士などのように賃金が公的に決まる(厳密には公的な報酬から経営母体の方針によって決まるということ)にも関わらず、仕事内容に比して報酬が十分でない労働者の収入を思い切って増やすための「公的価格評価検討委員会(仮称)」を設置し、公的価格を抜本的に見直すと主張している。要は公的に賃金体系に影響が及ぶ職種は賃上げを誘導し、それによって消費を喚起して、この消費力を軸に企業が次なる成長への投資につなげていくという考えだ。一方、前回紹介した新型コロナ対策での病床確保について岸田氏は「平素から診療報酬等の上乗せで優遇を与える『感染症危機中核病院』のようなものを設置し、危機の際には国のコントロールによって 半強制的にこうした病院に病床を提供してもらい、それに応じない場合はペナルティも考えていく仕掛けも必要」と主張している。これらを併せて考えると、岸田氏の医療・社会保障に関する主張は経済面、制度面での公的関与、より突っ込んで言えば統制を圧倒的に強め、加えて財源上の問題から給付範囲は絞り込もうというもの。あまりにも政府の独善性が強すぎるものに思えてしまう。まあ、もっとも総裁選で掲げる政策というのはある意味割引いて見なければならないので、当面はお手並み拝見というところか。

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現場で使う「型」を身に付けろ!【医療者のための英語学習法】

「正しい文法・キレイな発音でないと伝わらない」と思っていませんか?こんにちは。山田 悠史と申します。医学部を卒業し、日本各地の病院の総合内科・診療科に勤務し、2015年からは米国ニューヨークのマウントサイナイ大学関連病院で内科医として勤務しています。米国の医療状況のほか、英語の勉強法についても発信しています。今回は、私がこれまでの米国勤務経験で学んできた、医療英語の習得法をお伝えできればと思います。 医療現場で必要となる英語の能力は、これまで高校や大学で学んできた英語のスキルとは大きく異なります。たとえば、日本の英語教育では「文法」の重要性が強調されますが、実際には基本的なルールを守ることさえできれば、コミュニケーションを取るうえで、あまり強く文法や構文を意識し過ぎる必要はありません。これは真面目に学べば学ぶほど強く意識してしまうもので、私自身もどうしても文法が気になってしまい、「文法が間違っていて意味が通じないのではないか」という先入観から、うまく話せないことがよくありました。しかし、本当は自分が気にし過ぎているだけなのです。実際、米国に住んでみてわかったのは、ネイティブを含む周囲の人も案外適当に話をしていることです。これは、「発音」についても言えることです。多種多様な背景を持つ人が共存する米国では、多くの人に何かしらの訛りがあります。自分の訛りを気にしているのは自分だけだったりするかもしれません。実際、医療現場で私たちに求められるのは、医療者としてのスキルや信頼感であり、英語の正しい文法やキレイな発音ではありません。そして、もうひとつ大切なことは、言語でのコミュニケーションがうまくいかなくても、非言語的なコミュニケーションによって伝わることはとても多い、という点です。このように、まずは「正しい文法・キレイな発音でないと伝わらない」という先入観を捨て、不要な不安を取り除くところが医療英語学習スタートの第一歩です。「医療英会話から」のスタートが理にかなう英会話学校では、初級レベルの「日常英会話」クラスから始まり、上級者になると「ビジネス英会話」のクラスに進む、という形式になっていることが多いので、何となく、「日常会話もできないのに、医療現場での会話なんてとんでもなく難しいのだろう」と尻込んでしまうと思います。それも英語学習がおっくうになる原因かもしれません。しかし、実際に難しいのは日常英会話のほうなのです。著者の私は米国の医療現場に立って5年目になりますが、医療現場での会話にあまり難しさは感じなくなってきたものの、日常英会話はいまだに難しいと感じます。これは私に限った話ではなく、ほかの日本人医師に聞いても同様です。なぜなら、私たちは医療のプロフェッショナルですから、使う単語は日本の医療現場と変わりませんし、思考過程も変わりません。初めは慣れない単語に戸惑うかもしれませんが、使われる言葉は限られています。このため、慣れてしまえば、言葉がわからないことはすぐになくなります。また、シチュエーションが助けてくれることも多いでしょう。日本での臨床経験がある医療者であれば、「このシチュエーションではこんな会話をするよね」という記憶があるので、言葉の端々が聞き取れなくても、シチュエーションからの理解がそれを補ってくれるのです。一方で、日常英会話では、そういった経験による助けがありません。話題も政治、経済、スポーツなどさまざまで、無数の知らない単語が出てきます。米国で生まれ育った人なら当たり前に知っているような有名人の名前もわからないことがほとんどです。背景知識がない場合には、言葉の端々まで聞き取れないと、あるいは完全に聞き取れたとしても、何を言っているかさっぱりわからない…、ということになります。そもそも日本語で知らないことは、英語でわかるわけがないのです。こうしたことから、医療者が仕事で英語を使いたいのであれば、「日常英会話学習から」ではなく「医療英会話から」始めるほうが、ハードルが低く理にかなっているのです。現場で使う「型」を身に付ける実際の医療英会話、回診やカンファレンスでのプレゼンテーションは「文章も長いし、専門用語ばかりなので難しそう」と感じられるかもしれませんが、実際には「型」を覚えてしまえば、簡単にできるようになります。英語自体のレベルというより、型に慣れているかどうかのほうが問題なのです。型の習得は、日常会話よりもよっぽど早くできるはずです。実際、私も米国に来て間もないころは、回診での長いプレゼンテーションはできるのに、サブウェイでは満足にサンドイッチが注文できない、という状態でした。少し注意が必要なのは、カンファレンスでのフォーマルなプレゼンテーション回診における新入院患者のプレゼンテーション前日からすでに入院している既知の患者のプレゼンテーションこのそれぞれで、求められる「型」が異なるという点です。このあたりをフレキシブルにできるようにするには、少しスキルや慣れが必要でしょう。例を挙げてみます。Mr. Anderson is a 70-year-old man who presented with chest pain. Chest pain started two hours prior to the presentation. He described his chest pain as pressure-like, persistent, and 7/10 on a pain scale. He denied any nausea or vomiting. Past medical history includes type 2 diabetes and hypertension. Physical Exam was significant for…これはある新入院患者のプレゼンテーションです。みんなが知らない患者ですから、患者の状況を詳細まで伝えることが求められます。これ対して、既知の患者であったらどうでしょう?Mr. Anderson is a 70-year-old man with PMH of type 2 DM and HTN who was admitted for STEMI, now status post PCI to RCA. 既知の患者のプレゼンテーションは、“one liner”や“two liner”で、と言われます。聴衆はすでに前日にhistoryの詳細を聞いて患者の状態を把握しているわけですから、ここでいちいちchest painがどうだったというような詳細を繰り返す必要はなく、1行か2行で済むような端的な説明が求められます。こうした「型」を身に付けてしまえば、あとはそこに各症例の情報を当てはめていくだけです。型に慣れることに加えて、英語独特の慣習になじむ必要もあるでしょう。たとえば、カルテ上ではステント留置の計画を‘Plan is to place a stent’と正確な表現で記しますが、回診での会話では指導医が‘Let’s stent him’や‘Let’s cath him’(心臓カテーテル=cardiac catheterがcathと略されます)などと言ってくるかもしれません。名詞を動詞として使う現代風の表現が好まれているのです。有名な‘Google it’(グーグルを使って調べなさい)と同様の表現です。「言葉は生き物」ですので、それぞれの時代に合う新しい表現を医療の世界でも多く耳にすると思います。こういった表現は英語の教科書や医学書ではどこにも見当たらないもので、現場で慣れていくしかないものだといえるでしょう。臨床留学を目指している方であれば、コロナ禍でハードルが高くなってしまいましたが、現地でのObservership(一定期間、研修先の米国の病院で医療行為を見学する制度)などを活用するのが近道だと思います。あとは仕事をしながら慣れる、に尽きるでしょう。4スキルの現状把握にはTOEFLが便利「留学前にどのくらい英語を勉強しておけばいいですか?」という質問をよく受けますが、必要な勉強量は帰国子女かそうでないか、これまで英語をどの程度勉強してきたか、語彙力はどのくらいあるか、などによってかなり差が出るので、一概に答えを論じるのは難しいのです。とはいえ、やってやり過ぎることはありません。とくに語彙力は多ければ多いほど苦労が減るでしょう。先ほど紹介したように、実際には現場で働いてみないとわからない表現が数多く存在することも事実ですが。多くの非帰国子女の方は、「リーディングが得意で、スピーキングが苦手」という傾向があると思います。学校での英語教育がどうしても読み書きに偏るので、口語コミュニケーションが苦手な傾向が出るのでしょう。そうした意味で英語学習は「話す」「聞く」に重心を置く、という意識が重要です。そして、多くの場合、その上達は英語に触れる量や頻度に依存しています。日本にいる間には、できるだけ毎日英語に触れるようにする、留学のチャンスがあれば積極的に参加して、英語を毎日話すようにする。当たり前ですが、使用頻度が増えれば増えるほど上達のカーブは急になります。英語学習の目標設定や学習計画を立てるのが難しいと感じられる方もいるかもしれませんが、幸い語学力を数値化してくれる試験がいくつか存在します。たとえば、TOEFL。米国での臨床医としての就職活動にTOEFLの点数が求められることはありませんが、依然として、大学院留学などの場面ではTOEFLスコアの提出を求められます。TOEFLの良いところは、「リスニング・リーディング・ライティング・スピーキング」の4スキルが同じ重さで評価される点です。4スキルの現在値を測り、成長曲線を描き、目標設定に用いるという目的には非常に有効です。あなたの4スキルのバランスを見て、得点の低いスキルから集中的にトレーニングする戦略を立てましょう。もちろん医療英語の力は評価できませんが、求められるボキャブラリーが学術的、専門的というところが良い点です。一般的に一流大学の大学院がTOEFL 100点程度を求めるので、たとえば100点を最終目標に勉強を開始し、TOEFLを3ヵ月ごとに受け、初回が60点なら、次の3ヵ月でまず70点を目指そう、といったやり方になるでしょう。そうやって一定期間での目標と成長を知ることで、自分に必要な勉強量を測ることができます。私たち「めどはぶ」では、医療英語学習の「きっかけ」づくりから、個々人の学習の目標設定までをお手伝いし、グローバルに活躍する医療者の輪を広げる取り組みをしています。ご関心をお持ちの方は、ぜひこちらをご覧ください。<執筆者>

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エンレストが「高血圧症」の効能追加の承認取得/ノバルティスファーマ

 ノバルティス ファーマは9月27日のプレスリリースで、同社の慢性心不全治療薬であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の「エンレスト」(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)について、「高血圧症」の効能追加の承認を取得したと発表した。本剤は2021年2月にロシアで、同年6月に中国で高血圧症での承認を取得しているが、日本国内におけるANRIの高血圧症に対する承認取得は初めて。エンレストで高血圧症患者に有意な降圧効果 ARNIのエンレストは、ネプリライシン(NEP)とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を同時に阻害する新規作用機序を有する薬剤。日本人の軽症または中等症の本態性高血圧症患者を対象とした国内第III相試験(A1306試験)において、エンレストを1日1回200mg投与したところ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のオルメサルタンに対して有意な降圧効果を示した上、オルメサルタンを上回る24時間持続的な降圧効果を示した。安全性および忍容性については、臨床試験で既存のARBと同等であることが示されている。 エンレストを巡っては、2021年8月30 日に開催された厚労省・薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において、「実質的にアンジオテンシンII受容体拮抗薬およびNEP阻害薬の配合剤とみなしても差し支えない品目であり、オルメサルタンの通常用量を上回る降圧効果が検証されていることなどから、既存の高血圧症治療の第1選択薬と同じ位置付けとすることは不適切」との指摘を踏まえ、継続審議となっていた。その後、添付文書の「効能または効果に関連する注意」の項に「過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として本剤を高血圧治療の第1選択薬としないこと」と記載することなどにより、今回のエンレストの追加承認となった。

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新規の抗HER2抗体薬物複合体、複数の治療歴のあるHER2+乳がんのPFSを延長 (TULIP)/ESMO2021

 複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対し、新規の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)であるtrastuzumab-duocarmazine (SYD985)は、従来の標準治療に比較し、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが示唆された。これは国際共同第III相比較試験であるTULIP試験の結果で、スペイン・Hospital Universitari Vall d’HebronのCristina Saura Manich氏より、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表された。SYD985はトラスツズマブにアルキル化剤であるduocarmazineを結合したADC薬である。・対象:T-DM1または2レジメン以上の抗HER2の治療歴のあるHER2陽性の局所進行または転移を有する症例 437例・試験群:SYD985(1.2mg/kg)を3週ごとに投与(SYD群 291例)・対照群:主治医の選択治療(PC群 146例)治療レジメンはラパチニブ+カペシタビン、トラスツズマブ+カペシタビン、トラスツズマブ+ビノレルビン、トラスツズマブ+エリブリンから選択・評価項目[主要評価項目]中央判定によるPFS[副次評価項目]主治医評価による無イベント生存期間(EFS)と全生存期間(OS)、奏効率、QOL 主な結果は以下のとおり。・症例の前治療ライン数の中央値はSYD群が4、PC群が5であった。内訳は、86~89%がトラスツズマブかT-DM1、58~61%がペルツズマブ、1~7%がtucatinib、margetuximab、T-DXdであった。・年齢中央値はSYD投与群が56歳、PC群は58歳であった。・中央判定によるPFS中央値は、SYD群が7.0ヵ月、PC群が4.9ヵ月で、ハザード比(HR)は0.64(95%信頼区間[CI]:0.49~0.84)、p=0.002と統計学的に有意であった。・主治医判定によるPFS中央値は、SYD群が6.9ヵ月、PC群が4.6ヵ月で、HRは0.60(95%CI:0.47~0.74)、p<0.001であった。・初回中間解析でのOS中央値は、SYD群が20.4ヵ月、PC群が16.3ヵ月、HRは0.83(95%CI:0.62~1.09)、p=0.153であった。・奏効率はSYD群27.8%、PC群29.5%と、両群間に有意な差はなかった。・頻度の高い治療関連有害事象は、SYD群では結膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:5.6%)、角膜炎(全Grade:38.2%、Grade3以上:12.2%)であった。PC群では、下痢(全Grade:35.8%、Grade3以上:2.2%)、好中球減少(全Grade:24.1%、Grade3以上:18.2%)であった。・さらに、SYD群で間質性肺炎/肺臓炎が7.6%(Grade3以上:2.4%)に認められた。間質性肺炎/肺臓炎により治療中止となったのは5.2%、減量が行われたのは2.1%の症例であった。 最後に演者は「SYD985は、複数の治療歴のある転移を有するHER2陽性乳がんに対する新しい治療オプションとなり得る」と結んだ。

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セルペルカチニブがRET陽性非小細胞肺がんに国内承認/イーライリリー

 日本イーライリリーは、2021年9月27日、セルペルカチニブ(製品名:レットヴィモ)について、厚生労働省より「RET融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」に対する治療薬として、製造販売承認を取得したと発表。  今回の承認は、国際共同第I/II相試験であるLIBRETTO-001試験に基づいたもの。 セルペルカチニブは、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して世界で初めて承認された、RETのキナーゼ活性を選択的に阻害する低分子チロシンキナーゼ阻害薬である。 RETの活性化は、RETのキナーゼドメインとパートナータンパク(CCDC6、KIF5B、NCOA4 等)の二量体化ドメインが融合することで、リガンドに依存せず恒常的にキナーゼが活性化した状態になる染色体再構成(RET融合遺伝子)により起こると考えられている。セルペルカチニブは、活性化されたRETを選択的に阻害することで、腫瘍の増殖を阻害すると考えられている。

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アニフロルマブがSLEに適応承認を取得/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、2021年9月27日付で既存治療にて効果不十分な全身性エリテマトーデス(SLE)の成人患者の治療薬としてI型インターフェロン受容体抗体アニフロルマブ(商品名:サフネロー点滴静注 300mg)がわが国で承認を取得したと発表した。SLEは女性に多く、幅広く全身症状を及ぼす自己免疫疾患 SLEは、免疫系が体内の正常な組織を攻撃する自己免疫疾患で、慢性的にさまざまな臨床症状を伴う複雑な疾患であるため、多くの臓器に影響を及ぼし、疼痛、発疹、倦怠感、関節の腫れ、発熱など幅広い症状の原因となる。SLE患者の50%以上は、本疾患自体あるいは既存の治療薬が原因の恒久的な臓器障害を引き起こし、症状が増悪や死亡リスクの上昇につながるとされる。わが国には約6万人のSLE患者が登録され、その大半は45歳までに診断された女性である。アニフロルマブは米国では中等~重症SLEの適応で承認済み アニフロルマブは、I型IFN受容体のサブユニット1に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、I型IFNの活動を阻害する。I型IFNは、SLEに関与する炎症反応経路に関係するサイトカインで、患者の大多数に疾患活動性と重症度との関連性があるI型IFNのシグナルの増加がみられる。 今回の承認では、2つのTULIP第III相試験と第II相MUSE試験を含むアニフロルマブ臨床開発プログラムの有効性および安全性データに基づいて行われた。これらの試験では標準治療に加えて、アニフロルマブを投与した群の患者は、標準治療にプラセボを加えた群に比べ、皮膚および関節を含む臓器系全体にわたる疾患活動性の低下を示すとともに、経口ステロイド剤(OCS)使用量の持続的な減量を示した。また、TULIP-2試験に登録された日本人患者のサブ解析も、アニフロルマブの承認申請を裏付ける根拠となった。 有害事象として、複数の臨床試験でアニフロルマブ投与群の患者に発現した頻度の高いものは、鼻咽頭炎、上気道感染、気管支炎、注入に伴う反応、過敏症および帯状疱疹が報告されている。 今回のアニフロルマブの承認は、わが国におけるI型インターフェロン(I型IFN)受容体拮抗薬の初めての薬事承認となる。 アニフロルマブは、米国で中等症から重症SLEの適応で承認されており、EUでは薬事審査中。今後、複数の新たな第III試験が、ループス腎炎、皮膚エリテマトーデスおよび筋炎を対象として計画されている。

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