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多剤耐性結核の家庭内感染予防、レボフロキサシンは有効か/NEJM

 ベトナムの多剤耐性(MDR)結核患者の家庭内接触者の感染予防において、プラセボと比較してレボフロキサシンの連日投与は、30ヵ月の時点での結核の発生率が低いものの、その差は有意ではなく、有害事象はレボフロキサシンで多かったがGrade3/4の頻度は同程度であることが、オーストラリア・シドニー大学のGreg J. Fox氏らが実施した「VQUIN MDR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年12月19・26日合併号に掲載された。ベトナムの無作為化対照比較試験 VQUIN MDR試験は、ベトナムの都市部と農村部を含む10の省で行われた二重盲検無作為化対照比較試験であり、2016年3月~2019年8月に参加者のスクリーニングを実施した(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]の助成を受けた)。 対象は、細菌学的に確認されたリファンピシン耐性またはMDRの結核菌(Mycobacterium tuberculosis)感染患者(過去3ヵ月以内に治療開始)の家庭内接触者であった。ツベルクリン皮膚検査陽性または免疫機能が低下している接触者を、年齢を問わず適格とした。 被験者を、レボフロキサシンまたはプラセボを1日1回、180日間経口投与する群に無作為に割り付けた。錠剤は4週ごとに調剤され、1日の投与量は成人が体重1kg当たり10~15mg、小児は15~20mgで、最大投与量は750mgであった。 主要エンドポイントは、30ヵ月以内に細菌学的に確認された結核とした。副次エンドポイントにはGrade3または4の有害事象、全死因死亡、薬剤耐性の獲得などが含まれた。per-protocol集団でも差はない ITT集団として2,041例を登録し、レボフロキサシン群に1,023例、プラセボ群に1,018例を割り付けた。全体の年齢中央値は40歳(四分位範囲[IQR]:28~52、範囲:2~87)、36.0%が男性であり、1世帯当たりの接触者数中央値は1例(IQR:1~2、最大:13)だった。1,995例(97.7%)が30ヵ月の追跡を完了し、6ヵ月の試験レジメンを完遂したのはプラセボ群の82.9%に比べ、レボフロキサシン群は68.4%と低率であった(群間差:-14.5%ポイント、95%信頼区間[CI]:-19.4~-9.6)。 30ヵ月の追跡期間中に、ITT集団ではレボフロキサシン群で6例(0.6%)、プラセボ群で11例(1.1%)に、細菌学的に確認された結核が発生した。発生率比は0.55(95%CI:0.19~1.62)であり、両群間に有意な差を認めなかった。また、臨床的に結核と診断された患者はレボフロキサシン群で1例、プラセボ群で2例であった(発生率比:0.49、95%CI:0.04~5.46)。 per-protocol集団では、細菌学的に確認された結核がレボフロキサシン群で3例、プラセボ群で6例に発生し、発生率比は0.60(95%CI:0.15~2.40)だった。 両群とも、結核性病変の発生率は、試験レジメンを完遂した患者よりも完遂しなかった患者で高かった。耐性の獲得は認めない Gradeを問わない1つ以上の有害事象の報告は、プラセボ群で125例(13.0%)であったのに対し、レボフロキサシン群では306例(31.9%)と有意に多かった(リスク差:18.9%ポイント、95%CI:14.2~23.6、p<0.001)。 重度(Grade3/4)の有害事象は、レボフロキサシン群で29例(3.0%)、プラセボ群で19例(2.0%)に発生した(リスク差:1.0%ポイント、95%CI:-0.3~2.4、p=0.14)。 有害事象による恒久的な投与中止は、プラセボ群の11例(1.1%)に比べ、レボフロキサシン群は71例(7.4%)と有意に頻度が高かった(リスク差:6.3%ポイント、95%CI:4.3~8.2、p<0.001)。 両群とも最終投与から21日以内の死亡の報告はなく、30ヵ月の追跡期間中に発生した7件の死亡(レボフロキサシン群4例、プラセボ群3例)は、専門家の臨床評価委員会によっていずれも結核とは関連がないと判定された。また、フルオロキノロン耐性の獲得は観察されなかった。 著者は、「レボフロキサシンによる結核発生率の数値上の低下は、家庭内接触者における結核感染予防に、この薬剤が役割を持つ可能性を示唆しているが、推定される効果は明確ではなかった」「プラセボ群での結核発生率(1.1%)は、サンプルサイズ推定の根拠とした数値(3%)よりも低く、先行のコホート研究やメタ解析で報告された値よりもかなり低かった」「本試験で得られた知見を他の試験環境で得られた知見と組み合わせることで、さらに理解が深まるであろう」としている。

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ヘモクロマトーシス、HFE C282Yホモ接合体は糖尿病リスク高い/BMJ

 トランスフェリン飽和度またはフェリチンが正常、あるいはこれら両方が正常のヘモクロマトーシス患者は、ほとんどのガイドラインでHFE遺伝子型の判定が推奨されていないという。デンマーク・コペンハーゲン大学のMathis Mottelson氏らが、HFE遺伝子C282Yホモ接合体を有するヘモクロマトーシス患者は糖尿病のリスクが増加しており、糖尿病でC282Yホモ接合体の非保有者と比較して、糖尿病でC282Yホモ接合体の保有者は死亡率が高く、この集団の死亡の3割近くは糖尿病に起因する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2024年12月9日号で報告された。デンマークの3つの集団の前向きコホート研究 研究グループは、血漿中の鉄、トランスフェリン飽和度、フェリチン濃度が正常であっても、HFE遺伝子C282Yホモ接合体を保有するヘモクロマトーシス患者は、糖尿病、肝疾患、心疾患のリスクが高いか否かを検証し、これらの疾患を持つC282Yホモ接合体の非保有者と比較して、保有者は死亡率が高いか否かについて検討する目的で、前向きコホート研究を行った(Capital Region of Denmarkなどの助成を受けた)。 解析には、デンマークの3つのコホート研究(Copenhagen City Heart Study、Copenhagen General Population Study、Danish General Suburban Population Study)のデータを用いた。 HFE遺伝子のC282Y変異およびH63D変異の有無を評価した13万2,542例(このうち422例がC282Yホモ接合体)を対象とし、研究への登録から最長27年間、前向きに追跡した。トランスフェリン飽和度、フェリチンが正常でも糖尿病リスクが高い C282Yホモ接合体の非保有者と比較した保有者の疾患別罹患率のハザード比(HR)は、糖尿病が1.72(95%信頼区間[CI]:1.24~2.39、p=0.001)、肝疾患が2.22(1.40~3.54、p<0.001)で、心疾患は1.01(0.78~1.31、p=0.96)であった。 年齢層別の5年間の糖尿病絶対リスクは、C282Yホモ接合体を保有する女性で0.54~4.3%、非保有女性で0.37~3.0%、保有男性で0.86~6.8%、非保有男性で0.60~4.8%であった。 試験登録時に得られた1回の血液サンプルの鉄、トランスフェリン飽和度、フェリチン濃度の値に基づく解析では、C282Yホモ接合体を有する集団は、トランスフェリン飽和度が正常(HR:2.00、95%CI:1.04~3.84)、またはフェリチンが正常(3.76、1.41~10.05)であっても糖尿病のリスクが上昇しており、フェリチンとトランスフェリン飽和度の両方が正常(6.49、2.09~20.18)でも糖尿病リスクが高かった。糖尿病による死亡の人口寄与割合は27.3% 糖尿病でC282Yホモ接合体を保有する集団では、糖尿病で非保有の集団よりも全死因死亡のリスクが高かったが(HR:1.94、95%CI:1.19~3.18)、糖尿病のないC282Yホモ接合体保有集団では死亡率は増加しなかった。 C282Yホモ接合体を保有する集団の死亡のうち、特定の疾患を有する集団における超過死亡を除外した場合に理論的に予防が可能な死亡の割合(人口寄与割合)は、糖尿病で27.3%(95%CI:12.4~39.7)、肝疾患で14.4%(3.1~24.3)であった。 一方、糖尿病や肝疾患のリスクは、H63Dヘテロ接合体、H63Dホモ接合体、C282Yヘテロ接合体、C282Y/H63D複合ヘテロ接合体を保有する集団では増加しなかった。 著者は、「これらの結果は、将来の遺伝性ヘモクロマトーシスの診療ガイドラインでは、C282Yホモ接合体を保有する集団においては糖尿病の発見と治療を優先することが重要となる可能性を示すものである」としている。

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運動による脳の活性化は翌日まで続く

 運動による脳の機能に対する急性効果は、従来考えられていたよりも長く続く可能性を示唆するデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMikaela Bloomberg氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に12月10日掲載された。 これまでに、運動後の数分から数時間ほどの間、認知機能に対する急性効果が生じることが報告されてきている。しかし、その効果が運動を行った翌日まで持続するのか、また、睡眠不足などの影響はあるのかという点はよく分かっていない。Bloomberg氏らは、加速度計を用いて身体活動量や睡眠時間、睡眠の質を把握し、翌日の認知機能との関連性を検討した。 研究参加者は、認知機能障害や認知症の兆候のない50~83歳の成人76人で、8日間にわたり加速度計を装着して生活。注意力、記憶力、精神運動速度(思考・判断およびそれに基づく身体反応の速さ)などの認知機能を評価するためのテストが毎日実施された。加速度計のデータは、中~高強度身体活動(MVPA)、軽強度身体活動、座位行動、睡眠時間、レム睡眠(脳は覚醒状態に近く、体動はほとんどない睡眠)、徐波睡眠(深い睡眠である一方、体動が生じることもある睡眠)の時間の把握に用いられた。 解析の結果、前日のMVPAの時間が30分長いと、エピソード記憶(ある出来事とその時間や場所の記憶)のスコア(P=0.03)と作業記憶(何かの作業をするための短期的な記憶)のスコアが(P=0.01)有意に高いという関連が認められた。反対に、座位行動時間が30分長いと、作業記憶スコアが有意に低下していた(P=0.03)。前夜の睡眠時間や睡眠の質を調整しても、これらの結果は変わらなかった。 他方、前日のMVPAの時間とは関係なく、前夜の睡眠時間が6時間以上の場合、6時間未満と比較してエピソード記憶のスコアが有意に高く(P=0.008)、精神運動速度が有意に速い(P=0.03)という関連が観察された。また、前夜のレム睡眠が30分長いごとに注意力スコアが有意に高く(P=0.04)、徐波睡眠が30分長いごとにエピソード記憶スコアが高い(P=0.008)という関連も認められた。 MVPAの具体的な運動としては、Bloomberg氏によると、「心拍数が上がるような運動のことであり、早歩き、ダンス、階段を上がることなど」であって、「計画的な運動である必要はない」という。そして同氏は、「われわれの研究は、このようなMVPAの認知機能に対する効果発現時間はこれまで考えられていたよりも長く、運動後の数時間だけでなく翌日まで続く可能性があることを示唆している」と述べている。 この関連のメカニズムについて論文には、「運動は脳への血流を増加させ、さまざまな認知機能をサポートする神経伝達物質の放出を刺激することで、脳を活性化させることが知られている。神経伝達物質に対する影響は運動後少なくとも数時間は持続することが報告されているが、運動に伴う他の影響は、より長期間持続するのではないか」という考察が加えられている。ただし、論文の上席著者であるUCLのAndrew Steptoe氏は、「本研究のみでは、運動による脳に対する急性効果が、脳の長期的な健康に寄与するかどうかは分からない。運動が認知機能の低下を遅らせ、認知症のリスクを抑制する可能性を示唆するエビデンスは少なくないが、いまだ議論の余地が残されている」と、慎重な姿勢を取っている。

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過去30年間の世界の糖尿病有病率と治療率の推移(解説:住谷哲氏)

 2024年に国連が発表した世界人口は約82億人で、今世紀中には100億人を突破するようだ。今から30年ほど前の1990年の世界人口は約53億人だったので、この30年間に約30億人増加したことになる。そこで、この30年間に世界の糖尿病患者数と治療率がどう推移したかを検討したのが本論文である。 世界中から収集した18歳以上の1億4,100万人のデータに基づく解析であるから、現時点での最も詳細な疫学データと思われる。従来実施された同様の研究では糖尿病の診断に主としてFPGが用いられたが、本解析ではHbA1cまたは糖尿病治療歴の有無も使用されているので精度の点でも優れている。 結果は、2022年の糖尿病患者数は8億2,800万例で有病率は女性13.9%、男性14.3%であった。これは1990年と比較すると約6億3000万例増加しており、過去30年間に世界の糖尿病患者数は約4倍以上増加したことがわかる。問題は中・低所得国での増加が著しく、その傾向がますます強くなっている点である。治療率の推移をみても同様の傾向であり、中・低所得国では患者数の増加に比較して治療率の上昇が認められていない。 健康の社会的決定要因(SDOH:social determinants of health)と糖尿病とが深く関係することは、すでに明らかとなっている1)。これは本論文が示す世界規模でも、われわれの日常臨床においても同様である。糖尿病患者一人ひとりが置かれた社会的環境を考慮したマネジメントが、ますます重要となっている。 

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医師による腺腫検出率が大腸がんリスクに影響する(解説:上村直実氏)

 大腸内視鏡検査の精度は施行医の力量に大きく左右されるものであるが、内視鏡医の技量を比較するための明確な尺度に関して信頼できるものがあるわけではなく、消化器内視鏡学会の認定専門医の有無や経験年数などに頼っているのが現状と思われる。欧米では、大腸内視鏡医の力量の尺度として、一般的に大腸内視鏡検査における腺腫検出率であるAdenoma Detection Rate(ADR)が用いられている。今回、ポーランドにおける大腸がん検診プログラム受診者の検査後の大腸がん発生率と検査施行医のADRとの関連を比較した研究結果が、2024年12月のJAMA誌に発表された。 この研究では、医師789人のADRについて暦年ごとに、腺腫または大腸がんを検出した大腸内視鏡検査数/大腸内視鏡検査の総数で算出して、ADRの実数値およびADRの変化と検査後に発見された大腸がん発生率との関連を検討した結果、ADRが改善した医師の患者では大腸内視鏡検査後の大腸がんリスクが有意に低下することが示されている。 当然の結果のように思われるが、日本では医療保険制度の違いもあり、内視鏡医の技術や力量を数字で評価することはなく、上述したように学会の専門医かどうかや町の評判に頼っているのが現状であろう。各医師や施設間における技術レベルの違いに関する問題は、内視鏡診療のみでなく外科系手術などの技術力の差は確かに存在するのであるが、この技術・能力の違いが患者の予後に及ぼす影響に関する研究は乏しく、統計学的に明らかになるようなエビデンスを創出することは大変難しいものと思われる。 確かに、大腸内視鏡検査は医師の技術力により苦しい検査になったり楽な検査になったりすることは、ちまたでよく聞かれるところである。患者さんが上手な内視鏡医による検査を望むのは当然であるが、日本の国民皆保険制度の下では医者を選ぶことは難しいのが現状である。各内視鏡医の技術力を向上するために、学会および各施設における教育プログラムの充実が企画されていると同時に、人工知能(AI)のサポートによる検査の精度向上が期待されている。今後、各医師の技術・能力が数値で評価される時代が来るのかもしれない。

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第225回 インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省2.インフル治療薬不足が深刻化「過剰発注控えて」協力要請/厚労省3.2040年、医師の高齢化で自治体2割が「診療所なし」/厚労省4.高齢化社会の岐路、2040年の介護について検討開始/厚労省5.病院船で災害医療を強化、推進計画案パブコメ開始/政府6.看護師による不適切処置示唆のSNS投稿疑惑 病院が内部調査/千葉大1.インフルエンザ猛威! 過去最多の感染者数で救急搬送困難事例が多発/厚労省年末年始にかけて、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者が急増し、医療現場が逼迫している。とくに、救急搬送の困難事例が増加しており、患者の受け入れ先がみつからないケースが相次いでいる。厚生労働省によると、昨年12月23~29日の1週間に報告されたインフルエンザの患者数は、1医療機関当たり64.39人と、過去10年で最多を記録した。全国的に警報レベルを超えており、専門家はさらなる感染拡大を懸念している。COVID-19も増加傾向にあり、昨年12月23~29日の新規感染者数は、1定点当たり7.01人と、5週連続で増加している。感染拡大の影響で、発熱などを訴える患者が急増し、救急要請が殺到している。名古屋市では、12月の救急出動件数が過去最多を更新。救急車の稼働率が80%を超える「救急隊逼迫アラート」が頻繁に発令され、1月6日には稼働率が一時的に100%に達し、出動可能な救急車がない時間帯もあったという。救急搬送の困難事例が増加している背景には、医療従事者不足や病床不足など、医療体制の脆弱さがある。インフルエンザやCOVID-19だけでなく、他の疾患や怪我など、救急搬送が必要な患者は常に発生している。医療現場の逼迫を解消するためには、政府による医療体制の強化、国民一人ひとりの感染予防対策の徹底、そして、救急車の適切な利用などが求められる。参考1)全国インフルエンザ患者数 統計開始以来最多に(NHK)2)全国インフル定点報告64.39人、現行統計で最多 感染者数は30万人超え 厚労省(CB news)3)インフルエンザ流行、全国の感染者数が過去最多…タミフル後発薬は生産追いつかず供給停止(読売新聞)4)「救急搬送困難事案」も急増 ひっきりなしに鳴り続ける119番通報 名古屋(名古屋テレビ)5)インフルエンザの流行状況(東京都 2024-2025年シーズン)2.インフル治療薬不足が深刻化「過剰発注控えて」協力要請/厚労省インフルエンザの流行拡大を受け、治療薬の供給が逼迫し、各社が対応に追われている。沢井製薬は1月8日、インフルエンザ治療薬オセルタミビル(商品名:タミフル)の後発薬の供給を一時停止すると発表した。12月からの急激な流行拡大で需要が想定を上回り、生産が追いついていないためだ。カプセルは2月上旬、ドライシロップは1月下旬に供給を再開する予定という。厚生労働省は8日、タミフル後発薬の供給停止を受け、医療機関や薬局に対し、過剰な発注を控え、他社製品や代替薬への処方変更などを検討するよう要請した。中外製薬も9日、タミフルの先発品の一部を限定出荷すると発表した。昨年末以降、増産を続けてきたものの、製造が追いつかない状況だという。原料の入手が難しくなっていることなどから、増産分が今シーズンに間に合うか現時点では不明だという。塩野義製薬も9日、インフルエンザ治療薬バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)の供給調整を始めると発表した。他社製品の供給状況などを踏まえ、限定出荷などの措置を講じることで、過剰発注を防ぎ、市中での適正在庫の維持を目指す。インフルエンザは12月中旬頃から感染が急拡大しており、治療薬の供給不足が長期化すれば、患者の治療に影響が出る可能性もある。参考1)オセルタミビルリン酸塩製剤の適正な使用と発注について(厚労省)2)厚労省が「過剰発注控えて」と協力要請 タミフルのジェネリック一時供給停止で(産経新聞)3)中外製薬のタミフル、一部で限定出荷に インフルエンザの急激な流行拡大うけ(産経新聞)4)塩野義、インフルエンザ治療薬の供給調整 過剰発注防ぐ(日経新聞)3.2040年、医師の高齢化で自治体2割が「診療所なし」/厚労省2025年は「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者となる年であり、医療現場では大きな変化が予想されている。高齢化の進展に伴い、在宅医療や救急搬送の需要増加が見込まれる一方で、医師不足が深刻化し、地域医療の維持が困難になる可能性が高まっている。厚生労働省の推計によると、75歳以上の患者数は2025年には1日当たり7万9,000人と、2020年と比べて1万人以上増加する見通しだ。救急搬送される75歳以上の高齢者も、2025年には1ヵ月当たり28万人と、2020年と比較し4万2,000人増加すると予測されている。また、医師の高齢化も進み、2040年には市区町村の2割で診療所がゼロになる可能性があるという。厚労省の試算では、医師が75歳で引退すると仮定した場合、診療所のない自治体数は2040年に342となり、全国約1,700自治体の2割に相当する。医師不足は、とくに地方部で深刻化している。青森県佐井村や埼玉県東秩父村のように、常駐医師のいない状態が続く地域も少なくない。医師不足が解消されなければ、高齢者が住み慣れた地域で医療を受け続けることが難しくなり、医療崩壊につながる可能性もある。地域医療を維持するためには、医師の確保が急務である。国は、地域医療構想に基づき、在宅医療や高齢者救急への対応強化、医療機関と介護施設の連携強化などを推進しているが、医師不足は深刻であり、抜本的な対策が必要とされている。参考1)高齢化 “2025年問題” 在宅医療や救急搬送の体制構築が課題に(NHK)2)自治体2割が「診療所なし」 2040年試算、医師高齢化響く(日経新聞)4.高齢化社会の岐路、2040年の介護について検討開始/厚労省厚生労働省は1月9日、「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会を立ち上げ、初会合を開いた。2040年に高齢者数がピークを迎える中、地域の実情に応じた介護サービスの提供体制や人材確保策を検討するのが狙い。検討会では、都市部、中山間地域、一般市といった地域特性に応じたサービス提供モデルの構築、介護人材の確保・定着、テクノロジー活用による生産性向上、経営支援、介護予防など、幅広い論点について議論が行われる。具体的には、中山間・人口減少地域では、介護ニーズの減少と人材不足に対応するため、介護報酬や人員基準の柔軟化、補助金などの財政支援の必要性が指摘されている。一方、都市部では増加する介護ニーズに対応するために新たなサービス提供体制の構築が課題となっている。今後不足するとみられる介護人材の確保・定着には、処遇改善の強化として、介護職員の賃金向上、キャリアアップ支援、働きがいのある職場環境作りなどが課題として、検討される。さらに外国人材の活用やICT・AIなどのテクノロジー活用による生産性向上も重要なテーマとなる。そのほか介護事業所の経営支援のほか、事業者間の連携、事業所の大規模化、職場環境改善などを促進するためのインセンティブや相談窓口の設置など具体的な支援策を検討する。検討会は今後、先進的な取り組みを行う自治体や事業者へのヒアリングなどを実施しながら、2025年春頃をめどに中間取りまとめを行う予定。この中間取りまとめは、今後の介護保険制度改正や2027年度の介護報酬改定に活用される。参考1)第1回「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会(厚労省)2)2040年の介護制度を議論 厚労省が検討会(日経新聞)3)「2040年問題」議論開始 高齢者数ピークも介護人材不足 厚労省(朝日新聞)4)少子高齢化が地域ごとにバラバラに進む「2040年」見据え、介護サービス提供や介護人材確保などの在り方を考える-厚労省検討会(Gem Med)5)介護の大規模化インセンティブ付与へ 春ごろ中間まとめ 厚労省・新検討会(CB news)5.病院船で災害医療を強化、推進計画案パブコメ開始/政府政府は1月8日、災害時などに海上で医療活動を行う「病院船」の活用に向けた推進計画案を公表し、パブリックコメントの募集を開始した。締め切りは1月20日。病院船は、大規模災害発生時に被災地で医療を提供する船舶のことで、昨年6月に施行された「病院船の活用促進に関する法律」に基づき、政府は年内をめどに病院船の整備計画を策定する方針。推進計画案では、病院船の役割として、被災地における医療提供機能の補完、医療従事者や物資の輸送、被災者の避難などを挙げている。また、船舶の確保については、当面の間、民間事業者の協力を得て、民間の既存船舶を活用する方向性を示している。具体的には、民間船舶に医療機材を積み込み、災害時に被災地へ派遣する。政府はDMAT(災害派遣医療チーム)や日本赤十字社救護班、JMAT(日本医師会災害医療チーム)などと連携し、医療従事者の確保や保健医療福祉調整本部への支援を行うとしている。病院船の活用は、東日本大震災以降、たびたび議論されてきた。大規模災害発生時に、陸上の医療機関の被災やアクセスが困難になった場合でも、海路を通じて医療を提供できるという利点がある。具体的な活用イメージは以下の通り。発災直後~72時間:沖合で活動し、被災地から脱出する透析患者や入院患者などを搬送する「脱出船」としての役割を担う。発災後1週間~1ヵ月:被災地付近の港に接岸し、現地で救護活動を行う「救護船」としての役割を担う。亜急性期・慢性期:陸上機能の回復に伴い、船舶での医療活動ニーズが低下する。課題としては、被災地から離れた場所への移送に対する患者の同意取得、救護船へのアクセス確保などがある。一方で、病院船の建造・維持費や医療従事者の確保、平時における活用方法などが問題点として挙げられている。政府は、これらの問題点を解決しながら、病院船の活用を進めていく方針。今回のパブリックコメント募集では、推進計画案に対する意見を広く国民から募り、計画に反映させることで、より実効性の高いものにすることを目指している。参考1)災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する計画(案)に関する意見募集について(内閣府)2)船舶活用医療推進本部(内閣官房)3)病院船、体制整備推進計画案でパブコメ 政府(MEDIFAX)4)病院船、25年度に運用開始へ 岸田首相が計画づくり指示(日経新聞)6.看護師による不適切処置示唆のSNS投稿疑惑 病院が内部調査/千葉大千葉大学医学部附属病院(千葉市中央区)の看護師が、患者への不適切な処置を示唆する内容をX(旧ツイッター)に投稿していた疑惑が浮上し、病院が内部調査に乗り出している。問題の投稿は2023年秋頃から確認されていたとされ、「インシデントを隠蔽している」「薬を捨てている」「褥瘡を発生させた」など、患者の安全を脅かすような内容が含まれていた。また、所属する科の医師への暴言もあったという。これらの投稿は、看護師を名乗る匿名アカウントから発信されていた。アカウントは現在削除されているが、投稿内容から同病院の看護師によるものと疑われている。病院側は1月6日に不適切な投稿を把握し、事実関係の確認を開始。8日には大鳥 精司病院長名で「現在、事実関係などを調査中です。今後、調査結果を踏まえ、病院として適切に対応してまいります」とのコメントをホームページに掲載した。10日には、調査対象となっている職員に自宅待機を命じたことを明らかにした。病院は、SNSでの個人的な情報発信を禁止していないものの、院内ガイドラインで責任ある投稿を求めている。今回の件を受け、病院側は改めて職員への注意喚起を行うとともに、再発防止に向けた対策を検討する方針。この問題は、患者の安全確保や病院への信頼に関わる重大な事態であり、調査の行方が注目される。参考1)当院に関する「X」の投稿について(第2報)2)患者への不適切な処置を示唆するSNS投稿? 千葉大病院が内部調査(朝日新聞)3)千葉大学病院 “不適切処置”投稿の可能性ある職員 自宅待機に(NHK)4)千葉大医学部附属病院めぐる看護師のX不適切投稿疑惑、調査対象の職員に「自宅待機を命じた」「まだ断定できる事実はなく」(ZAKZAK)5)「薬を患者に飲ませず捨てている」千葉大病院関係者がXに不適切投稿か 内部調査を実施(産経新聞)

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第81回 臨床研究におけるバイアスとは?【統計のそこが知りたい!】

第81回 臨床研究におけるバイアスとは?ヒトは、何らかの要因によって疾病などの結果(アウトカム)が発生します。臨床研究の目的は、この2つの間に真の関係を証明することです。バイアスとは、要因と結果(アウトカム)の関係の強さを系統的に歪めてしまうものであり、一般的に「選択バイアス」、「情報バイアス」、「交絡バイアス」に分類されます。今回はこのバイアスについて学習します。■選択バイアス(selection bias)臨床研究の第1段階は、研究の対象となる目的母集団(target population)を設定し、目的母集団の中から標本(sample)をランダムに抽出することです。選択バイアスの原因は、目的母集団から標本の対象を選択する過程で起こります。抽出がランダムに行われなかった場合、目的母集団と標本の間にズレが生じてしまいます。対象の選択をランダムに行っているランダムサンプリングの場合は、ズレを自然誤差とみなします。選択バイアスには、さまざまな種類が存在しますので、下記にその一部を紹介します。生存期間が長い症例ほど、治療介入を受けやすい(Survivor Treatment Selection Bias)予後不良例や治療抵抗例が専門施設に集積する(Referral Filter Bias)疾患罹患期間の長い症例(=予後良好症例)が研究対象にされやすい(Length-Bias Sampling)■情報バイアス(information bias)臨床研究の第2段階は、目的母集団からランダムに抽出された標本のデータを収集することです。情報バイアスの原因は、データをとるときの過程で起こります。情報バイアスが存在すると、収集されたデータにズレが生じてしまいます。情報バイアスもさまざまな種類が存在しますので、下記にその一部を紹介します。対象症例の要因やアウトカムの情報が先入観となり、データ収集に影響を与えてしまう(Observer/Interviewer Bias)飲酒歴や喫煙歴の自己申告は、過小申告の傾向がある(Reporting Bias)スクリニーング群の方が、疾患が早期発見されるため、非スクリニーング群よりも疾患罹患期間が長くなる[=予後良好である](Lead-Time Bias)■交絡バイアス(confounding bias)臨床研究の第3段階は、収集されたデータを解析することによって、要因とアウトカムの関係の強さを評価することです。交絡バイアスは、要因とアウトカムの双方に関連し、片方の集団に偏って存在する交絡因子の存在によって生じます。したがって、交絡因子の存在を考慮しなければ、要因とアウトカムの関係を過大評価あるいは過少評価してしまいます。たとえば、図の解析の結果、飲酒(要因)と不整脈症状(アウトカム)の間に強い関連性が認められたとします。しかしながら、飲酒習慣のある人には、喫煙している人が多いため、不整脈症状を起こしやすいかもしれません。あるいはメタボリックシンドロームの人が多いため、不整脈症状を起こしやすいのかもしれません。喫煙とメタボリックシンドロームは、飲酒とも不整脈症状とも関連している交絡因子なので、飲酒(要因)と不整脈症状(アウトカム)の関係を検証するためには、交絡因子である喫煙とメタボリック因子の存在を考慮しなければなりません。図 要因と結果の関連事例■バイアスの調整方法バイアスを調整するための方法は、研究デザインを立案する時点で制御する方法とデータ収集が終了した後に統計学的手法を用いて制御する方法があり、表のようにバイアスの種類によって異なります。表 バイアスの種類と調整方法選択バイアスと情報バイアスは、研究デザインを立案する時点で制御しなければならず、データが収集された後に調整することはできません。一方、交絡バイアスは、研究デザインを立案する時点で制御する、あるいは統計解析の時点で調整する事も可能です。したがって、バイアスを調整するために最も重要なことは、データ収集を開始する前段階である研究計画を立案する時点で、バイアスを考慮した研究デザインを立てることです。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その1)質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その2)統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第32回 推定の落とし穴とは?

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高ナトリウム血症の治療【日常診療アップグレード】第21回

高ナトリウム血症の治療問題82歳男性。頻回の下痢による高ナトリウム血症のため、3日前に入院となった。生理食塩水を3L点滴した。意識混濁があり、経口で水分を摂取することはできない。今日の血圧は132/76mmHg、脈拍は82/分である。他のバイタルサインには異常はない。血液検査所見はNa 157mEq/L、K 3.3mEq/Lである。胃管を挿入して水分を補給した。

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事例015 急性胃炎へのロキサチジン酢酸エステル塩酸塩が査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の患者に「ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩徐放カプセル」(以下「同カプセル」)を投与したところD事由(算定要件に合致していないと認められるもの)が適用されて査定となりました。査定理由を調べるために添付文書を読み返してみました。用法・用量の欄に、「次記疾患の胃粘膜病変(中略)の改善:急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期には、1回75mgを1日1回」と記載がありました。傷病名は合致していますが、用量が添付文書の記載より多く投与されていることがわかります。したがって、過剰ではなく他の用量と見誤った算定要件誤りとしてD事由が適用されたものと推測できます。また、レセプトチェックシステムでもアラートが表示されていました。過去には胃炎の発症が類推できる傷病名なしの佐薬として投与が可能でした。そのため、アラートは出ているが、保険請求が認められるものと判断して、そのまま提出されてしまったようです。審査機関のコンピュータ審査では、傷病名と用法・用量の不一致は厳格に判定されます。医師とレセプト担当にはこのことに留意されるように伝えて、査定対策としました。

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アカラブルチニブ、フィルムコーティング錠の登場で胃酸分泌抑制薬との併用が可能に/AZ

 アストラゼネカは、2024年12月27日、アカラブルチニブのフィルムコーティング錠(商品名:カルケンス錠)が、成人慢性リンパ性白血病(CLL)(小リンパ球性リンパ腫[SLL]を含む)患者を対象とした治療薬として、製造販売承認を取得したと発表。 同承認は、消化管のpH条件にかかわらず薬物がすべて溶出するように改善した溶解性プロファイルを有するアカラブルチニブのフィルムコーティング錠に対するもので、海外の健康被験者を対象に行ったD8223C00013試験の結果に基づくものである。 既存のアカラブルチニブカプセルは、pH4を超える条件下では溶解性が低いことに関連して、国内添付文書では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬および制酸薬とは併用注意となっていた。しかし、血液がん患者の20〜40%は、胃内pHを変化させる薬剤の投与を受けていると推定されており、同カプセル剤の使用は制限されていた。 今回の承認で錠剤が胃酸分泌抑制薬とともに服用できるようになり、アカラブルチニブの服薬レジメンの簡素化が期待できるという。・製品名:カルケンス錠100mg・一般名:アカラブルチニブマレイン酸塩水和物・効能又は効果:慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)・用法及び用量:通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

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片頭痛の引き金となる食べ物は?

 片頭痛は、激しい頭痛と一時的な運動および感覚障害を呈する神経疾患である。片頭痛の誘因には、発作に影響を及ぼす可能性のある内的および外的因子が関連している。片頭痛患者の中には、特定の食品摂取により発作が発現する患者も存在するが、アイスランドではこれらの関連は、これまで調査されていなかった。アイスランド・Landspitali National University HospitalのHadda Margret Haraldsdottir氏らは、アイスランドにおける片頭痛の症状と特定の食品摂取との関連を示す患者の割合を推定するため、本検討を実施した。Laeknabladid誌2024年12月号の報告。 アイスランドのFacebookグループ「Migreni」のメンバー(Facebook群)395人(回答率:Facebook群の19.6%)および神経内科医から治療を受けている患者(神経内科治療群)108人(回答率:神経内科治療群の65%)を対象に、電子アンケートを実施した。アンケートでは、特定の食品が片頭痛発作の引き金となる可能性があると思うかを調査した。アンケート回答の選択肢は、「全く/滅多にない」、「時々ある」、「頻繁にある」、「常にある」とした。その他の質問には、片頭痛の種類、薬物治療の有無、背景などを含めた。 主な結果は以下のとおり。・参加者466人中354人(76%)は、特定の食品摂取により片頭痛を引き起こすことが「頻繁にある」または「常にある」と回答した。・この割合は、Facebook群のほうが神経内科医治療群よりも高かった(78% vs.66%、p=0.007)。・最も一般的な食物関連の引き金は、赤ワインおよび食事を抜くこと(空腹)であり、50%以上で「頻繁にある」または「常にある」と回答した。・その他の食物関連因子として、白ワイン、リコリス、燻製肉などが報告され、参加者の20〜50%が回答した。 著者らは「これまで行われた他の研究と同様に、食物摂取は片頭痛の引き金となっている可能性が示唆された。しかし、これまでの研究では、食物関連因子としてリコリスの報告はなく、燻製肉はより一般的な因子であることが明らかとなった」と結論付けている。

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1回の肺CT検査でCNNがCOPDを正確に診断

 人工知能(AI)を活用した新しい肺検査によって、呼吸困難のある人が慢性閉塞性肺疾患(COPD)であるかどうかを確認できる可能性のあることが、新たな研究で示された。通常のCOPDの診断では、患者が完全に息を吸い込んだときと吐き出したときの2回のCT検査が必要であるが、新しい検査では、息を吸いこんだときに撮影したCT画像のみからCOPDを正確に診断できるという。米サンディエゴ州立大学数学・統計学分野のKyle Hasenstab氏らによるこの研究結果は、「Radiology: Cardiothoracic Imaging」に12月12日掲載された。 COPDは、細気管支炎や肺気腫などを含む進行性の肺疾患の総称であり、気流に制限が生じて呼吸能力が障害される病態を指す。現状ではCOPDには治療法がなく、世界で死亡原因としては3番目に多い。COPDの主な診断方法は、息を吸う力や吐く力を通じて肺機能を測定する検査(スパイロメトリー)であるが、Hasenstab氏によると、CTスキャンにより呼吸を妨げている可能性のある肺の損傷を検出して、COPDの診断に役立てている病院もあるという。しかし、「この種のプロトコルは、医療機関全体で、臨床的に標準化されているわけではない」と同氏は指摘する。その理由の一つは、医療スタッフがCT画像の撮像技術と読影力を身に付けるには、追加のトレーニングが必要な点にあるという。 今回の研究でHasenstab氏らは、AIがCT画像を解釈できればスタッフをトレーニングする必要性が減り、COPDのCT検査をより多くの人に提供できるかもしれないとの仮説を立てた。そして、2007年11月から2011年4月の間に吸気と呼気のCTを撮影し、スパイロメトリーも受けた8,893人(平均年齢59.6歳、男性53.3%)の検査データを用いて、この仮説を検証した。 Hasenstab氏らは、データから直接学習をするディープラーニングの手法の一つである畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて、臨床データ、および単一時相または多時相CT画像を基に、スパイロメトリーの測定値(1秒間の努力呼気量〔FEV1〕、予測FEV1%、および努力肺活量〔FVC〕に対するFEV1の比〔FEV1/FVC〕)を予測するモデルのトレーニングを行った。その後、予測されたスパイロメトリーの値から、COPDに関する世界的イニシアチブ(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease;GOLD)が定めた基準に基づきCOPDの重症度(ステージIからIVの4期)を予測した。 その結果、CNNモデルが予測したスパイロメトリー測定値と実測値との一致度は、中程度から良好であることが示された。この一致度は、臨床データを加えることで改善することも判明した。また、このモデルは単一時相CT画像のみからでも重症度を正確に予測することも示された。重症度が実際GOLDのステージと完全に一致、またはその誤差が1ステージ以内で一致した割合は59.8~84.1%であった。 Hasenstab氏は、「われわれの研究は、1回のCT検査と関連する臨床データに基づき、COPDを診断し重症度のステージを分類できることを示した」と述べている。同氏はまた、「CT検査を呼気時の1回に減らすことで、この診断法が現在よりも利用しやすくなり、また、患者の医療費、不快感、電離放射線への被曝量も軽減できる」と話している。

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糖尿病と腎臓病の併発は心臓病発症を大幅に早める

 2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)は、ともに心臓病のリスク因子だが、両者が併存していると、心臓病発症が大幅に早まるとする研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学および同ボストン大学のVaishnavi Krishnan氏らが、米国心臓協会(AHA)の科学セッション(AHA Scientific Sessions 2024、11月16~18日、シカゴ)で発表した。 Krishnan氏らの研究には、AHAが構築した心血管疾患(CVD)イベント予測ツール「Predicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)」が用いられた。PREVENTは、2011~2020年の米国国民健康栄養調査のデータに基づき開発されたもので、糖尿病やCKD、または喫煙習慣の有無、降圧薬や脂質低下薬の服用などの情報を基に、向こう10年間のCVDイベントの発症リスクを予測できる。通常、リスクが7.5%以上の場合に「CVDハイリスク」状態と判定する。 このPREVENTを使い、30~79歳の各年齢の人が、推定糸球体濾過量44.5mL/分/1.73m2以下(CKDステージ3に該当)のCKDのみを有する場合、2型糖尿病のみを有する場合、および、それら両者を有する場合、両者とも有さない場合に、CVDハイリスクと判定される年齢を割り出した。 その結果、2型糖尿病とCKDをともに有さない場合にCVDハイリスクと判定される年齢は、女性68歳、男性63歳だった。それに対して、CKDのみを有する場合、女性は60歳、男性は55歳でハイリスクと判定され、女性・男性ともに8年早くリスクが高まると予測された。また、2型糖尿病のみを有する場合は、女性は59歳、男性では52歳でハイリスクと判定され、女性は9年、男性は11年早くリスクが上昇すると予測された。 そして、CKDと2型糖尿病が併存している場合は、女性は42歳、男性は35歳でハイリスクと判定されることが分かった。つまり、2型糖尿病とCKDを有さない人に比べて、女性は26年、男性は28年も早く、CVDリスクが高い状態になると予測された。 Krishnan氏は、「われわれの研究により、CVDリスク因子が組み合わさることによる影響の大きさが明らかになり、実際に何歳からハイリスク状態になるのかを分かりやすく理解することが可能になった」と述べている。また、「例えば、血圧や血糖値が境界域まで上昇し腎機能がやや低下しているものの、高血圧、糖尿病、CKDとは診断されていない状態では、本人は自分のCVDリスクの高さを認識していないことが少なくない。そのような場合に、本研究のような手法によってリスクをはっきり自覚することは、その後の疾患管理に役立つだろう」と付け加えている。 ただし、研究者らは、この結果が一般人口のデータに基づきシミュレーションされたものであることを、解釈上の留意点として挙げている。本研究を主導した米ノースウェスタン医科大学のSadiya Khan氏も、「今回の報告は、疾患リスクモデルがどのくらい有用かを理解する最初のプロセスに当たる」としている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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デジタルワークにストレスを感じているのはあなただけではない

 労働者は、デジタル技術が普及し、常に相手とオンラインでつながっていなければならないという状況に大きな負担を感じていることが、英国の調査で明らかになった。研究グループは、これは世界的な問題だとの考えを示している。論文の筆頭著者である英ノッティンガム大学心理学分野のElizabeth Marsh氏は、「われわれの研究で分かったのは、デジタル技術を活用した仕事(以下、デジタルワーク)には潜在的な負の側面があるということだ。そのような環境で求められる業務上の要求や激しさは労働者に過度の負担を与え、疲労やストレスを引き起こしている可能性がある」と述べている。この研究結果は、「Frontiers in Organizational Psychology」に12月17日掲載された。 Marsh氏は、「オンライン状態を常に保ってメッセージをチェックしなければならないというプレッシャーを感じると、仕事から離れることが心理的に難しくなる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究でMarsh氏らは、14人(男性43%、年齢中央値41歳)の労働者を対象に、デジタル技術を活用した21世紀の職場環境が労働者のウェルビーイングに与える影響について検討した。研究参加者には、ストレスや過負荷などデジタルワークの負の側面に焦点を当てた質問を用いた半構造化面接(平均34分間)を実施し、参加者のデジタルワーク環境での経験を探った。 その結果、人々の性格や傾向に基づく5つのテーマが特定された。一つ目は、「ハイパーコネクティビティ」である。これは、常にテキストメッセージや電子メールなどで連絡が取れる状態を保ち、顧客や同僚からの連絡に迅速に対応しなければならないというプレッシャーを感じている状態を指す。研究参加者の1人は、「常にそこにいなければならないように感じる。まるで、常に前進を意味する青信号を点灯させていなければならないような感じだ」と語ったという。 二つ目は、デジタルワークの中で発生するメッセージやアプリケーション、ミーティングなどへの対応が認知的過負荷を引き起こし、感情的な負担や注意の対立が生じる状態を意味する「テクノロジー関連の過負荷」。三つ目は、不安定なインターネット環境や新しいアプリの使いにくさなど、オンラインでの業務で遭遇する技術上の問題を意味する「デジタルワークのわずらわしさ」。四つ目は、情報や同僚との関係を構築する機会を見逃すことなどへの不安を意味する「見逃しに対する恐れ」。五つ目は、デジタルワークにより発生する健康上の問題を意味する「テクノロジーに起因するストレス」である。 参加者からは、「全てがオンラインになり、昼夜を問わずいつでも仕事に取り掛かれるようになったら、仕事を私生活から切り離すのが難しくなる」、「メールを受信したら〔……〕すぐに返信しなければならないというプレッシャーを感じる。そうしないと、『彼女は家で何をしているのだろう』と思われるかもしれないから」などの意見も聞かれたという。 Marsh氏は、労働者は、仕事と私生活の境界が曖昧になり、「勤務時間外」にも働かなければならないというプレッシャーを感じていることが多過ぎると指摘する。同氏は、「この調査結果は、デジタルワーカーのウェルビーイングを守るために、研究者と専門家の両方がデジタルワークの職務上の要求を特定し、理解し、緩和する必要があることを強調している」と結論付けている。

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チームスポーツは子どもの脳に大きな効果をもたらす

 小児期のチームスポーツへの参加には、子どもの頭脳に明晰さをもたらす特別な力があるかもしれない。サッカーやバレーボールのチームに所属している子どもは、スポーツをしない子どもや個人スポーツしかしない子どもに比べて、実行機能のテストスコアが高いことが新たな研究で示された。実行機能とは、組織化や物事の記憶、決断、集中力の維持に必要な思考スキルのことをいう。フローニンゲン大学医療センター(オランダ)のLu Yang氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月17日掲載された。 米ウィスコンシン大学マディソン校整形外科学教授のAlison Brooks氏は、今回の研究に関する付随論評の中で、「科学的データは、サッカーなどのチームスポーツをすることが、最も重要な生きる力の一つである実行機能を向上させることを示している」と述べている。 Yang氏らは今回、880人の子ども(女子470人、実行機能測定時の平均年齢11.1歳)を2006年4月から2017年12月まで追跡したデータを調べた。子どもは5~6歳に身体機能、10~11歳に実行機能の評価を受けていた。子どもが定期的に行っていたチームスポーツは、サッカーやバレーボールなど、個人スポーツは武術やスイミング、体操などであった。 その結果、5~6歳時の中高強度の身体活動は、10~11歳時の実行機能に有意な影響を与えないことが示された。しかし、10~11歳時にチームスポーツを行っていた子どもでは、個人スポーツを行っていた子どもに比べて全体的な実行機能(スコアの平均群間差−3.03)、行動調整機能(同−3.39)、およびメタ認知能力(同−2.55)が優れていることが示された。また、個人スポーツのみを行っていた子どもに比べて、個人スポーツとチームスポーツの両方を行っていた子どもは、実行機能のスコアがより高かった(同−2.66)。 では、チームスポーツを行うことは、どのように子どもの意思決定や組織化などの能力を高め得るのだろうか。Yang氏らは、「チームスポーツでは、チームメイトや対戦相手と予測のつかないやりとりが発生するため、子どもに高い認知的要求を課すことになる」と話す。これにより、選手には素早く柔軟な対応を取る必要性が生じ、それが実行機能を高める練習の場となっている可能性があると推測している。 一方、Brooks氏は付随論評の中で、オランダの子どもはチームスポーツへの参加率が高く、この研究の対象となった子どものうち、全くスポーツに参加していなかった子どもの割合はわずか6.3%であったことを指摘している。ただし、米国の子どももチームスポーツから同じような認知面への恩恵を受けられるとBrooks氏は考えている。同氏は、2019年に米国小児科学会(AAP)が発表した、子どもの組織化されたスポーツの価値に関する報告書を紹介している。この報告書ではチームスポーツが、「前向きな自尊心と仲間との関係、不安や抑うつの軽減、良好な骨の健康状態」に加え、「より健康的な心臓や肥満度の低下」、「認知能力と学業成績の向上」にも効果のあることが明らかにされているという。 残念ながら、このようなメリットを享受できる米国の子どもは極めて少ない。Brooks氏はその理由を、「2022年の全米小児健康調査によると、6~17歳の小児のうち、スポーツチームに参加しているのは53.8%に過ぎないからだ」と述べている。同調査のデータからは、米国では13歳になると、スポーツを全くしない子どもの割合は70%に上ることも明らかにされている。 また、この数値は貧困層の家庭やマイノリティーの家庭の子どもではさらに高いことが示されており、スポーツに参加するための費用が大きな要因となっている可能性があるとBrooks氏は指摘している。さらに、青少年のスポーツの「プロ化」を求める圧力が強まりつつあり、スポーツへの参加が魅力を失いつつある。Brooks氏は、「スポーツを始めること、また継続的にスポーツに参加することを阻む障壁を設けることで、われわれは子どもから、人間が持つ本来の潜在能力を発揮する機会を奪ってしまっているのかもしれない」と述べている。

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MRIで膵臓がんの前駆病変を検出可能か

 膵臓がんは、膵臓自体が体の奥深くに位置しているため、生命を脅かすようになる前の早期段階で検出することは難しいことから、サイレントキラーと呼ばれている。しかし、拡散テンソル画像法(DTI)と呼ばれるMRI画像技術の一種が、膵臓がんのより早期の発見に役立つ可能性のあることが新たな研究で明らかになった。シャンパリモー臨床センター(ポルトガル)の放射線科医であるCarlos Bilreiro氏らによるこの研究結果は、「Investigative Radiology」に12月13日掲載された。研究グループは、これらの結果は膵臓がんリスクがある人の早期診断につながる可能性があると述べている。 膵臓がんは、米国ではがん関連死の第3位の原因である。膵臓がんの5年生存率は、早期に発見できれば44%だが、他臓器に転移すると約3%にまで急落する。残念なことに、膵臓がんの症状は、原因不明の体重減少、糖尿病の発症、黄疸など、他の病気の症状と混同されやすい。 研究グループの説明によると、膵臓がんの約95%は膵管腺がん(PDAC)と呼ばれるものであり、その多くは膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)と呼ばれる前駆病変から発生するが、これらの病変は、通常のスキャン方法では検出が容易ではない。しかし、研究グループは、DTIを使えばその検出が可能になるのではないかと考えた。論文の上席著者で、シャンパリモー・リサーチのNoam Shemesh氏は、「DTIは、組織内の水分子の拡散を利用する方法だ。これにより放射線科医は組織の微細構造を観察できる」と説明する。DTIは30年前に開発され、主に脳の画像診断に使用されている。Shemesh氏は、「DTIは新しい方法ではない。ただ、これまで膵臓がんの前駆病変の検出には使われていなかっただけだ」と話している。 この研究では、実験用マウス(PanINモデルマウス4匹、PDACモデルマウス6匹、対照6匹)のDTI画像によりPanINの検出とその特徴を識別できるかが検証された。まず、生体内でDTIを実施した後、膵臓組織を用いて超高磁場のMR顕微鏡でDTIおよびT2強調画像を取得し、組織学的な検証を行った。 その結果、DTIによりPanINとPDACを正確に検出できることが明らかになった。具体的には、拡散異方性の程度を表すFA(fractional anisotropy)、および主軸に垂直な方向への拡散性を表すRD(radial diffusivity)による判別能力を示す曲線下面積(AUC)は0.983(95%信頼区間0.932〜1.000)であった。また、平均拡散能を表すMD(mean diffusivity)および主軸方向への拡散性を表すAD(axial diffusivity)によるAUCは1.000(同1.000〜1.000)であった。さらに、MR顕微鏡と組織学的解析からは、MR画像で観察されるコントラストが、膵臓の微細構造の特徴に由来することが判明した。一方、DTIとT2強調画像との相関の検討では、特にADが病変の広がりや重症度と強い相関を示した。最後に、この結果を人に適応する可能性を検討するために、5人のヒトの膵臓組織を用いて観察を行った。その結果、マウスでの結果と同様に、PanINと正常膵臓との間に顕著なコントラストが確認された。 Shemesh氏は、「われわれは、患者から膵臓組織のサンプルを入手して調査し、マウスで得られた結果が人間にも当てはまることを確認した」と述べている。一方、Bilreiro氏は、「この研究は、膵臓がんの前駆病変の研究における画期的な出来事だと考えている」と話している。 ただし研究グループは、「人間の膵臓がんの検査にこの技術を適用できるようになるまでには、さらなる研究を行い、技術を磨く必要がある」との見方を示している。Shemesh氏は、「これは概念実証研究であり、すでに基本手段として用いられている方法を活用して実際に人間や患者を対象に試験を行うための基礎を提供したに過ぎない」と述べている。

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乳がん手術におけるセンチネルリンパ節生検の省略、全身治療選択への影響は?(解説:下村昭彦氏)

 現在、臨床的にリンパ節転移陰性(cN0)の患者の手術の際には、センチネルリンパ節生検(SNB)を実施し腋窩リンパ節郭清の要否を判断している。INSEMA試験は、腫瘍径がcT1またはcT2かつcN0(かつ画像上もN0)の乳がん患者を対象として、SNB省略がSNB実施に対して非劣性であることを検証した試験である。 対象の患者が腋窩操作省略群とSNB群に1:4にランダムに割り付けられた。SNBで陽性だった症例は、さらに腋窩リンパ節郭清実施と非実施に1:1にランダムに割り付けられた。本報告ではSNB実施、非実施の結果が報告された。主要評価項目は無浸潤疾患生存(iDFS)で、ITTではなくper-protocol解析が実施されている。対象期間に5,502例がランダム化され、うち4,858例が解析対象となった(腋窩操作省略962例、SNB 3,896例)。主要評価項目の5年iDFSは腋窩操作省略群91.9%(95%CI:89.9~93.5)、SNB群91.7%(90.8~92.6)、ハザード比(HR)0.91(95%CI:0.73~1.14)であった。非劣性マージンの1.271を下回っており、腋窩操作省略のSNBに対する非劣性が示された。 本研究の結果から、今後臨床的に低リスクと考えられる症例(50歳以上のホルモン受容体陽性HER2陰性で、腫瘍グレード1または2)の患者に対してSNB省略が実施される可能性はある。一方、かつてリンパ節郭清の代替手段として腋窩リンパ節への放射線照射の非劣性を証明したAMAROS試験では、リンパ浮腫などの有害事象が軽減するにもかかわらず世界中で広く実施されているとは言い難い。少なくとも日本国内では治療選択肢の1つと考えられてはいるが、標準治療とはなっていない。『乳診療ガイドライン』でもFRQの扱いである。 腋窩リンパ節郭清の省略については代替治療手段、放射線治療の場合の最適な照射野など、まだ解決しなければならない課題が多いが、腋窩操作そのものの省略は薬物療法の選択にも大きな影響を及ぼす。腋窩操作の省略は臨床的にリスクが低い患者を対象として行われるが、実臨床ではcN0と評価していても術後に多数のリンパ節転移が見つかる症例もまれではない。リンパ節転移の個数は化学療法を実施するかどうかの判断(Kalinsky K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2336-2347.)、あるいは内分泌療法のエスカレーションの判断(Johnston SRD, et al. J Clin Oncol. 2020;38:3987-3998.、Toi M, et al. Lancet Oncol. 2021;22:74-84.)、遺伝性乳がん・卵巣がんの術後のPARP阻害薬使用の判断(Tutt ANJ, et al. N Engl J Med. 2021;384:2394-2405.)など、多くの薬物療法における重要なリスク因子となっている。腋窩操作省略が一般化されるには、エスカレーションの対象とならない患者を正確に診断できる画像診断技術の進歩が不可欠であろう。

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母と一緒に食べたバラの枝が起こした悲劇【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第273回

母と一緒に食べたバラの枝が起こした悲劇なんか情報量が多いタイトルで申し訳ないのですが、そのまんまの論文を紹介したいと思います。2024年12月にパブリッシュされたばかりの、新しい異物論文です。いかん、定期的に異物論文を検索していることがバレてしまう。Pirzirenli MG, et al. Hemoptysis and rose branch.Turk Gogus Kalp Damar Cerrahisi Derg. 2024 Oct 30;32(4):465-466.66歳の男性患者が、30年以上も続く咳嗽と、ここ2年間続く喀血を主訴に来院しました。呼吸器内科では、10年以上続く「スーパー慢性咳嗽」の患者さんに出会うことはありますが、四半世紀以上も咳嗽が続くケースはさすがにまれです。「もっと早く来院してくれていたら…」と思わずにいられません。さて、胸部CTでは右下葉の入口部に浸潤影が認められました。不思議なことに、PET-CTも撮影されており、SUVmax値は2.5という結果でした。ですが、気管支鏡検査では病変がよくわからない状況…。次の一手として、外科手術が検討されることになりました。持続する喀血に対応するため、右下葉切除術を実施。その結果、なんと手術標本から全長7cmの木の枝が右下葉気管支に沿う形で発見されました。しかも、その枝にはトゲがあり、どうやらバラの枝だったようです。「バラの枝を誤嚥した」という驚きの診断ですが、どうしてそんなことが起こったのでしょうか?患者さんに詳しく問診してみると、次のような話が返ってきました。「実は、私の母親が精神疾患を抱えており、幼少期にバラの枝などを口に入れていたことがあります」論文には実際にこのバラの枝の写真も掲載されています。その大きさに驚くばかりですが、幼少期の誤嚥が原因と考える以外に説明がつきませんでした。ところで、気管支鏡検査で枝が見つからなかった理由ですが、誤嚥から時間が経ち過ぎると肉芽形成が進み、異物が肺実質に取り込まれる現象が知られています。体を守るための反応ですね。これにより、病変が気管支内から長期的に浸潤影としてカチコチになっていきます。今回の症例から学べるのは、長引く咳嗽や喀血がある場合、詳細な問診がいかに重要かということ。患者さんの過去に潜む思いがけない出来事が、診断の鍵を握ることもあるのです。

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第244回 レプリコンワクチン懐疑派に共通することは?

2025年、本年もよろしくお願いいたします。さて年内最後の本連載でも触れたが、通称レプリコンワクチンと呼ばれるMeiji Seikaファルマの新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン「コスタイベ」に関して、同社は12月25日付で、立憲民主党の衆議院議員・原口 一博氏に対して名誉棄損に基づく1,000万円の損害賠償を求める提訴に踏み切った。原口氏がX(旧Twitter)、YouTube、ニコニコ生放送、著書「プランデミック戦争 作られたパンデミック」で、コスタイベに関し事実に基づかない情報を発信・拡散していることを同社に対する名誉棄損と捉え、法的措置に踏み切ったものだ。同社はすでに2024年10月9日に原口氏に警告書を送付したものの、それに対して原口氏からは「衆院選挙後の国会で論点を明らかにしたい」という旨の回答しか得られず、その後も同様の発信を続けていることから提訴に踏み切ったとしている。今回の名誉毀損にあたる発言の類型同日開催された記者会見では、今回の提訴を担当する三浦法律事務所の弁護士・松田 誠司氏より、名誉棄損と考える発言の類型について、(1)Meiji Seikaファルマを731部隊になぞらえた発言、(2)コスタイベの審査過程を不公正とする発言、(3)コスタイベを生物兵器とする発言、(4)Meiji Seikaファルマが人体実験を行っているとの発言、の4つが挙げられた。軽く解説すると、731部隊とは旧帝国陸軍の関東軍防疫給水部の通称名であり、同部隊は生物兵器の研究開発と一部実戦使用を行い、その過程で捕虜などを利用した生体実験を行っていたことで知られる。類型(4)の人体実験とは、いわゆる臨床試験のことではなく、731部隊の生体実験のようなネガティブな意味での発言を指す。また、松田氏はMeiji Seikaファルマが被った損害は、有形損害が迷惑電話対応(損害120万円)、推定のコスタイベ利益損害(同55億6,000万円)、無形損害が原口氏のSNS上での発信による会社の名誉侵害と説明。「無形損害は1,000万円を下らない」(松田氏)とも語り、これら損害の一部として1,000万円を請求するとした。推定損害額に対して請求額がかなり低いことについて、同社代表取締役社長の小林 大吉郎氏は「今回の訴訟の目的は金銭ではない。あくまで意見・論評を超えた発言を法廷でつまびらかにして、名誉回復を図りたいというのが主な目的」と語った。さてこの会見では、小林氏よりコスタイベに懐疑的な人たちが行う抗議と称した活動の一端が明らかにされた。ワクチン懐疑派が行った具体的な抗議活動明らかにされたのは、懐疑派がX上にアップした治験施設一覧を基にしたと思われる6施設に対する嫌がらせのメール送付、電話、封書投函、Googleマップへの書き込み。そして、コスタイベの接種実施をホームページ(HP)上で明らかにした3医療機関に対する嫌がらせや誹謗中傷の電話殺到、SNSでの誹謗中傷の拡散、Googleマップへの低評価入力による診療への悪影響やHP閉鎖など。また、同社の本社前では頻繁に抗議活動が行われているが、同社の看板に「明治セイカファルマ、死ね バーカ!!」「殺人ワクチン ふざけるな」(原文ママ)などの付箋が張られた写真も示された。なお、原口氏はコスタイベの治験について具体的に「殺人に近い行為」とまで表現している。今回、提訴に至った経緯について小林氏が次のように説明した。長くなるが全文掲載する。なお、発言内の( )は私個人による補足である。「コロナワクチン開発に関わった医学専門家・研究者、接種に当たる多くの善意の医師、真摯に業務に取り組む社員、これはもう一般市民なんですよ、国民なんですよ。原口氏は相当な影響力があって、何十万人という(SNS)フォロワーがいる中で、こういったことを繰り返し拡散しているんですね。ワクチン反対派の活動のリーダー役となっているわけですけれども、そういったことによって実際こういった人たちは業務を妨げられ、精神的に大きな打撃を受けている。百歩譲って何か不正があったとか、データに瑕疵があったとかならば、何か言われるのは理解できますが、まったく瑕疵のない開発行為について、こういったことが繰り返される。実は承認を取ったときに若い研究者、開発者が本当に喜んだんですよ。情熱をもってやった行為ですから。ところが、殺人行為だとか原爆だと言われて、その人たちにも家族がいるわけですね。そういうことも考えますと、このまま放置できないというところまで来てしまったと。提訴をすることについては、極めて消極的だったんです。当初は。」個人的な印象を率直に言うと、SNS上でコスタイベに懐疑的な発信をする人の中には、その情報の審議は別にして強い信念に基づくと見受けられる人もいる反面、野次馬感覚でこのムーブメントに乗っかっていると思われる人も見受けられる。そうした“野次馬”は10年後には、コスタイベのことなど忘れて、ほかのことにかまけて、自分たちの行動によって傷付けられた人たちのことなぞ、おそらく忘れているだろう。私がそう思うのは実体験があるからだ。ワクチン懐疑派の一部は「何かを批判していたい」だけかつて「放射能瓦礫」なる言葉が流布されたことを覚えている人はいるだろうか?東日本大震災の時、主要な被災地域である岩手県、宮城県、福島県では津波被害などに伴い膨大な瓦礫が発生した。そしてご存じのように同震災では、東京電力・福島第一原発事故が起こり、同原発から漏れ出た放射性物質が風によって広範な地域に降り落ちた。こうした放射性物質の量は、地域によって濃淡があり、岩手県や宮城県の大部分の自治体では大きな問題になるほどではなかった。しかし、一部の人達は被災地で発生した瓦礫の多くもこうした放射性物質で濃厚に汚染されたと主張し、一部の人が「放射能瓦礫」と呼んだのである。この件は被災により廃棄物処理能力が大きく低下した被災自治体の支援策として、他の地域でその一部を焼却処分する広域瓦礫処理策が浮上すると、問題として顕在化した。東京都をはじめ実際に瓦礫処理を受け入れた自治体もあったが、一部では反対派が瓦礫を運搬する車両の通行をブロックするなどの妨害行為も発生した。被災自治体出身者の私はこの件に怒りと悔しさを覚え、当時一部の反対派とXでやり合ったことがある。あれから10年以上が過ぎたが、この間、瓦礫処理を請け負った被災地外の自治体で何か問題が起きたであろうか? 答えは否だ。最近、当時やり合った複数のXアカウントを覗いてみたが、あの時のことなぞどこ吹く風である。しかも、その一部は今コスタイベ批判を行っている。率直に言って、呆れるほかない。彼らはあの当時、私が感じた怒りと悔しさ、そして今回の小林氏が訴えた精神的打撃を受けた関係者のことを何と思っているのだろう?そして野次馬感覚とまでは言えないものの、コスタイベについてシェディングなる現象を訴え、それを証明するデータがないと主張する医師の一部では、自院のHPでほかのワクチン接種は行っていることがわかるケースもある。既存のワクチンでは承認に際し、彼らが主張するようなシェディングが起きないことを証明するデータ提出を製薬企業は行っていないし、規制当局もそのようなデータは求めていない。にもかかわらず、コスタイベのみにそれを証明せよなどと言うのは、もはや“信念”ではなく狂気である。言葉は悪いのを承知で言うならば、今回の件でコスタイベの危険性を声高に主張する面々は、私には“知ったかぶりの自己顕示”にしか映らないのである。

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20%の努力で80%の成果を掴む!? 医師が選ぶべき資産形成術とは【医師のためのお金の話】第88回

資産形成には、株式投資、不動産投資、外国為替証拠金取引(FX)、貴金属、そして仮想通貨などの多様な投資ジャンルがあります。それぞれの分野に一流の投資家がいますが、すべての分野で一流の人はほとんど存在しません。資産形成で成功するためには、自分に合った投資ジャンルを選び、その道を極めるのが良いのでしょうか。それとも、満遍なくすべてに取り組み、そこそこの成績を上げるのが良いのでしょうか。たとえば、株式投資や不動産投資。それぞれの分野で成功している有名人は、ほんの一握りの超一流の人です。このため、資産形成で成功するためには、1つの分野を深く極める必要があると思いがちです。しかし本当にそうなのでしょうか。私事で恐縮ですが、株式投資や不動産投資だけでなく、貴金属投資や起業による事業投資まで幅広く取り組んでおり、それぞれ一定の成果をあげています。その経験を基にして、資産形成で成功するコツを考えてみましょう。資産形成にも「80対20の法則」が適用される「80対20の法則」をご存じでしょうか。80対20の法則とは、少数の原因や努力が、大部分の結果や報酬を生み出すという法則です。1897年にイタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートによって発見されたため、パレートの法則とも呼ばれます。この法則のすごい点は、20%の努力で一流の人の80%の実力を得られることです。たった20%の努力で80%の実力を得られるのはコスパ最高ですね。しかし、80%を超えて100%の一流に近づくには、莫大な努力と才能が必要です。そして、資産形成において、一流の人の80%の実力というのは微妙なラインです。それでも、株式投資や不動産投資において、一流の人の80%の実力があれば、大きく負けることはありません。もちろん、一流の人のように大きく勝つことは難しいですが、100%に近づくためにかける膨大な努力を考えるとコスパが悪いかもしれません。私は、株式投資、不動産投資、起業による事業投資を満遍なく実施しており、それぞれでそれなりの成果を出しています。まさに絵に描いたようなジェネラリストです。当然のことながら努力が分散しているため、それぞれのジャンルのスペシャリストには到底かないません。しかし、そこそこの努力で80%ぐらいの成果をあげているのでコスパは最高です。資産形成の世界では、20%の努力さえしない人が大半です。このため、20%の努力をするだけでも、その投資ジャンルで上位に食い込めるというのが1つのTIPSではないかと感じています。そこそこの努力でコスパ良く資産形成しよう!確かに、株式投資や不動産投資で、純資産数十億円から数百億円に到達できる一流の人はかっこいいし、羨ましいです。彼らと比較すると、自分がちっぽけな人間に思えてしまいます。しかし、一流の領域に到達するには、ある程度の才能が必要です。努力だけでは一流になるのは難しいです。自分にその分野の才能があるかどうかは、やってみないとわかりません。もし才能がなければ、そこに費やした努力は無駄になってしまいます。そのようなリスクを負うぐらいであれば、20%の努力ですべての領域でそこそこの成果を得るのが得策ではないでしょうか。ちなみに私は、株式投資と不動産投資でそれぞれ10億円程度の純資産を保有しており、一流ではないもののそこそこの成果を出しています。もちろん、一流の人にはまったく歯が立ちませんが、努力の量と成果のバランスを考えると、まあまあな感じで納得しています。このように資産形成では、ジェネラリスト戦略とスペシャリスト戦略がありますが、私はジェネラリスト戦略を推したいです。そこそこの努力でサクッと資産形成して、残った時間を本業や余暇に使う。そのような楽な人生なら、超一流の人の20%の努力で十分なのです。ただし、数%程度の努力ではダメです。世の中の大半の人は、ゼロ~数%の努力しかしていないことを忘れてはいけません。

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