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“早期乳”の定義を変更、「乳取扱い規約 第19版」臨床編の改訂点/日本乳学会

 2025年6月、7年ぶりの改訂版となる「乳取扱い規約 第19版」が発行された。第33回日本乳学会学術総会では委員会企画として「第19版取扱い規約の改訂点~臨床編・病理編~」と題したセッションが行われ、各領域の改訂点が解説された。本稿では、臨床編について解説した静岡がんセンターの高橋 かおる氏による講演の内容を紹介する。腫瘍占居部位の略号表記、T4所見について再整理 日本の取扱い規約で用いられている腫瘍の局在を示すA~Eの略号について、日本独自の略号のため海外では通じず、不要ではないかという議論が以前から行われてきた。今回の改訂でも議論されたが、日本では長く使われており、簡潔で記載にも便利なことから引き続き規約に掲載することとし、対応する英語表記(UICCのAnatomical Subsites)を明記、ICDコードと齟齬のあったC‘~E‘が修正され、E、E’の区別がわかる記載も追加された(下線部分が変更点):C‘:腋窩尾部(C50.6/Axillary tail)E:中央部(C50.1/Central portion)  乳頭乳輪の下に位置する乳房中央部E‘:乳頭部および乳輪(C50.0/Nipple)  乳頭乳輪部の皮膚 臨床所見については、第18版まではT4の定義について解釈が分かれる記載となっていた。そこで今版では、「T4所見は浮腫、潰瘍、衛星皮膚結節の3つであり、皮膚固定や発赤はT4に入らない」ということがわかるような記載に変更された。またT4所見としての潰瘍について、クレーター形成の有無は問わないという意図で「潰瘍(皮膚が欠損して病変が露出した状態)」と追記された。病理編でPaget病の定義が変更、臨床医も注意が必要 臨床T因子の表について変更はなく、注釈の表現が下記のとおりいくつか整理された。・原発巣の評価方法(注1):T因子の判断材料として、従来の視触診、画像診断に、針生検を追加・Tis(注4):病理編のPaget病の定義が「乳頭・乳輪部および周囲表皮に限局したものをPaget病と主診断、乳房内に連続性に非浸潤を伴う場合は非浸潤と主診断し、Paget病の存在は所見に記入する」と変更されたことを受け、臨床編の注釈も「Paget病のほとんどはTisに分類される。まれに乳頭・乳輪部の真皮に微小浸潤もしくはそれを越える浸潤を伴うものがあり、その場合は浸潤径に応じたT分類を採用する」と変更された。・T0(注5):「視触診、画像診断で原発巣を確認できない場合。腋窩リンパ節転移で発見され乳房内に原発巣を認めない潜在性乳などがこれに相当する」と記載を整理・T4(注7):臨床所見と同様、T4の定義をわかりやすくするために、「真皮への浸潤のみではT4としない、T4b~T4d以外の皮膚のくぼみ、乳頭陥没、その他の皮膚変化は、T1、T2またはT3で発生してもT分類には影響しない」というUICCの注にある内容が追加された。・T4d(注8):第18版までの注釈では冒頭に「炎症性乳は通常腫瘤を認めず」とあったことから、腫瘤を認めないことが炎症性乳の必須要件のように読めてしまうという指摘があったため、「炎症性乳は、皮膚のびまん性発赤、浮腫、硬結を特徴とし、その下に明らかな腫瘤を認めないことが多い」と表現を変更 高橋氏はPaget病の定義の変更について、これまでPaget病と診断していた病変のうち、多くが今後は非浸潤性乳管(Paget病変を伴う)と診断されることとなり、Paget病の診断は減るであろうと指摘し、病理編の変更について臨床医も一度は目を通してほしいと話した。 臨床N因子についても表の変更はなく、T因子と同様に、判定材料として、従来の視触診、画像診断に、細胞診や針生検が追加されたほか、内胸リンパ節について第何肋間かを表記する場合の簡略な方法として、「Imの次に()で数字を記載する」こととした。「早期乳は切除可能乳(Stage 0~IIIA)を指す」と定義 第18版までは「Stage 0・Iを早期乳とする」と定義していた。これは、検診等における早期発見の概念には適していたと思われるが、国際的な臨床試験や乳診療ガイドラインとの整合性を考慮し、第19版では「早期乳は切除可能乳(Stage 0~IIIA)を指す」と定義が変更された。高橋氏は私見として「検診が目的とする“早期発見”は、“早期乳の発見”ではなく、乳を0期やI期などの早い段階で見つけることだと考えればよいのではないか」と話した。ただし、検診成績の評価などの際には、“早期乳の比率”といった表現は誤解を招く恐れがあり、今後は“0期・I期の比率”などの表現に変えていく必要があるとした。治療の進歩に合わせて第2章を変更 第2章の治療の記載法については、乳房の術式の1つとして新たに保険適用されたラジオ波焼灼術(RFA)が追加された。 リンパ節の切除範囲の表については、英語表記を追加するなど整備し、新たな項目として腋窩リンパ節サンプリング(AxS)を加えた。また、「Rotterリンパ節は郭清しない場合でもレベルIIまで郭清、Ax(II)としてよい」という注釈が加わり、新たな手法であるTargeted Axillary Dissection(TAD)およびTailored Axillary Surgery(TAS)についても、“付記”という形で追加されている。 再建の術式については、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の用語委員からの助言を受けて、再建方法として腹直筋皮弁(有茎)、腹直筋皮弁(遊離)、深下腹壁動脈穿通枝皮弁、大腿深動脈穿通枝皮弁を加え、英語表記も追加された。 手術以外の治療法では、免疫療法が、薬物療法の一項目として追加された。

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ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

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母体HIVウイルス量、母子感染に与える影響は?/Lancet

 米国・マサチューセッツ総合病院のCaitlin M. Dugdale氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析において、母体HIVウイルス量(mHVL)が50コピー/mL未満の場合、周産期感染は全体で0.2%以下であり、とくに妊娠前から抗レトロウイルス療法(ART)を受け出産直前にmHVLが50コピー/mL未満の女性では感染は認められなかったが、授乳期の感染リスクはきわめて低いもののゼロではなかったことを示した。持続的なウイルス学的抑制状態にある人からの性行為によるHIV感染リスクはゼロであることを支持するエビデンスは増加傾向にあり、「U=U(undetectable[検出不能]= untransmittable[感染不能])」として知られるが、これが垂直感染(母子感染)にも当てはまるかを判断するにはデータが不十分であった。著者は、「妊娠と出産におけるU=Uを支持する結果が示されたが、現在のデータは主に、頻回のmHVLモニタリングや最新の1次ARTレジメンを実施していない研究から得られたものであり、授乳中のU=Uを評価するには不十分である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年7月10日号掲載の報告。mHVLと母子感染リスクに関するシステマティックレビューとメタ解析 研究グループは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Cumulative Index of Nursing and Allied Health Literature、WHO Global Health Library、ならびに国際エイズ学会およびレトロウイルス・日和見感染症会議(2016~24年)の抄録を検索し、1989年1月1日~2024年12月31日に発表された、出生直後(出生後6週以内の周産期感染リスクを推定するため)または授乳中(過去6ヵ月間のmHVLに基づく月間感染リスクを推定するため)のmHVLと母子感染の関連について報告した研究を検索した。 事前に定義したmHVLカテゴリーごとに周産期および出生後の感染リスクを統合した。また、ポアソンメタ回帰を用いて比較分析を行い、mHVL別の感染の補正後相対リスク(aRR)も算出した。mHVL<50コピー/mLで周産期感染の統合リスクは0.2% 147件の研究が解析に組み入れられた。138件が周産期解析に、13件が出生後解析に寄与した。全体で8万2,723組の母子データが含まれた。 周産期感染の統合リスクは、mHVLが<50コピー/mLで0.2%(95%信頼区間[CI]:0.2~0.3)、50~999コピー/mLで1.3%(1.0~1.7)、≧1,000コピー/mLで5.1%(2.6~7.9)であった。周産期感染のaRRは、mHVL<50コピー/mLとの比較において、mHVLが50~999コピー/mLで6.3(95%CI:3.9~10.3)、≧1,000コピー/mLで22.5(13.9~36.5)であった。 サブグループ解析では、妊娠前からARTを受け、出産直前のmHVLが50コピー/mL未満の女性4,675例を対象とした5件の研究において、周産期感染はゼロ(0%、95%CI:0.0~0.1)であった。 授乳期の月間感染リスクは、直近のmHVLが<50コピー/mLで0.1%(95%CI:0.0~0.4)、≧50コピー/mL以上で0.5%(0.1~1.8)であった。

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経尿道的高周波治療が間質性膀胱炎患者の骨盤痛を緩和

 経尿道的高周波治療(transurethral fulguration;TUF)が間質性膀胱炎(IC)患者の骨盤痛緩和に有効であるという研究結果が、「Neurourology and Urodynamics」に4月3日掲載された。 ソウル大学校医科大学(韓国)のHyun Ju Jeong氏らは、2005年10月~2019年12月までのIC管理の結果を分析するため、骨盤痛を主訴として外来受診したIC患者の電子カルテを後ろ向きに解析した。疼痛管理のため、膀胱潰瘍に対するTUFを用いた膀胱鏡手術が行われ、難治性の骨盤痛に対しては膀胱全摘除術が行われていた。 解析の結果、IC患者275人のうち240人が1回目の膀胱鏡手術を受け、中央値21.0カ月の追跡期間中に受けたTUFの回数は、全体として平均1.0回であった。膀胱鏡手術を受けた患者240人のうち71人(29.6%)では、それ以上の外科的治療を必要としなかったが、64人(26.7%)では骨盤痛が再発したため2回目のTUFが必要となった。再発までの期間の中央値は12.0カ月であった。2回目のTUFを受けた64人のうち15人(23.4%)は、中央値12.0カ月後に3回目のTUFを受けた。3回目のTUFを受けた15人のうち5人は、疼痛の再発により4回目のTUFを受けた。1人の患者は7回目のTUFを受けていた。全体として、TUFによる疼痛管理に成功したのはIC患者240人のうち168人(70.0%)であった。18人(7.5%)は膀胱全摘除術を受けた。 著者らは、「本研究の結果により、TUFを用いた膀胱鏡手術は、IC患者の骨盤痛を管理するための効果的な基本治療であることが示された」と述べている。

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バレット食道の悪性度リスク層別化に対する非内視鏡的検査法の有用性:日本と欧米の大きな違い(解説:上村直実氏)

 食道がんには主に扁平上皮がんと腺がんがあるが、日本を含む東アジアと欧米における両者の有病率は大きく異なっている。わが国では、食生活の欧米化や肥満の増加に伴って食道腺がんが増加傾向を示す報告が多くなってきたが、飲酒・喫煙と強い関連を認める扁平上皮がんが90%以上を占めるのに対して食道腺がんはせいぜい6〜7%であり、食道腺がんが60%以上を占める欧米とは決定的な違いがある。さらに、医療保険制度の違いにより、欧米では内視鏡検査の待機時間が数ヵ月間と長いことや医療費(コスト)および費用対効果に対する考え方がまったく違っている。さらには、バレット食道に関しては疾患の定義に関する違い(CLEAR!ジャーナル四天王「新たな擦過細胞診法によるBarrett食道の診断の有用性」)が存在することも念頭に消化器領域の研究論文を読む必要がある。 胃食道逆流症に伴って発生することが多いバレット食道は食道腺がんの前駆病変とされているが、欧米ではバレット食道のサーベイランスに関して内視鏡検査による早期発見が、きわめて難しいと報告されている。このような背景から内視鏡検査に代わる新たなサーベイランス法が模索されている英国で、今回、臨床マーカー(年齢と性別およびバレット食道の長さ)とオフィスベースの手順で看護師主導によるカプセルスポンジ検査法で得られたバイオマーカーの組み合わせにより、バレット食道の悪性度リスクを低・中・高の3つに層別化する新たな方法の有用性が2025年6月のLancet誌に報告された。バレット食道の経過観察中である910例を対象としたコホート研究の結果、低リスクに分類された場合は悪性度リスクがきわめて低く、バレット食道のサーベイランスとしての内視鏡検査の期間を柔軟に変更できる可能性を示唆する成績が得られている。 欧米では、この新たな非内視鏡的な悪性度評価法が、食道腺がんの早期発見に大きな革命をもたらす可能性が期待されている。しかし、日本の消化器専門医からみると、確かに本検査法はバレット食道の悪性度分類に対する有用性を示しているが、わが国で圧倒的に多い扁平上皮がんを検出できない弱点とバレット食道から食道腺がんへ進行する頻度がきわめて低い点から、本邦の日常診療における本検査法の有用性は低いと思われる。 現時点において、内視鏡診療体制が充実しているわが国では狙撃生検により正確な診断ができる可能性が高い。しかしながら、ピロリ菌感染率の著明な低下に伴う胃酸分泌の亢進により胃食道逆流症が増加しつつある現況を考慮すると、今後、食道腺がんに進展する可能性を秘めたShort Segmentバレット食道に対するサーベイランス法の確立が必要と思われる。さらには、今後、欧米に倣って内視鏡検査以外のサーベイランス法を模索することも重要と思われた。

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レントゲンは誰のため?【Dr. 中島の 新・徒然草】(590)

五百九十の段 レントゲンは誰のため?ついにやって来ました、蝉の鳴く日本の夏!あまりにもうるさいので、来日した外国人が驚くのだとか。でも、蝉の声がなかったら物足りないですよね。さて先日の外来にやって来たのは、80代の女性です。名前を仮に渡辺 絹江(わたなべ きぬえ)さんとでもしておきましょう。絹江さんはしっかりしているのですが、やはり高齢者には違いありません。話が回りくどいのです。彼女は最近、近所のクリニックで胸部レントゲンを撮ったとのこと。患者「2~3ミリの影があるって言われたんです」中島「なるほど」患者「クリニックの先生がね、あまり自信がなさそうなんで……」そもそも2~3ミリの影というのが、胸部単純レントゲンで判別できるものなのかどうか。少なくとも私には「わからない自信」があります。患者「その先生が『国立ではレントゲンを撮ってくれないのかなあ』って言ってましてね」絹江さんの気持ちを私はズバリと言いました。中島「渡辺さん、要するにクリニックじゃ頼りないから、こちらでレントゲンを撮ってくれってことですか?」すると、絹江さんは困ったような顔になって「いや、頼りないとは言ってないんですけど……」という曖昧な返事。中島「でも、そういうことですよね。わかりました、撮影しましょう」こうしてようやく、結論にたどり着くことができました。ところが、ウチの病院で前回いつレントゲンを撮っているのかなと、電子カルテで確認すると、思わぬ事実が出てきました。なんと、毎年8月に外科で胸部レントゲンと血液検査を受けているのです。がんの手術後に、外科の先生が定期的にフォローしていました。この外科の先生にも、名前を付けておいたほうがいいですね。がんを治療しているので、玩地 凌(がんち りょう)先生とでもしておきましょう。中島「あれ、渡辺さん。毎年8月にレントゲンを撮ってますよ。玩地先生の外来で」患者「えっ、そうなんですか?」中島「そうですよ。ちゃんと血液検査とレントゲンをやってます。玩地先生が、毎年ちゃんと診てくれていてるじゃないですか」患者「知らなかったです」いやいやいや、それはないでしょう。中島「知らなかったって……服を脱いで機械の前に立って『はい、息止めて』ってやつ、あれですよ。あれがレントゲンですけど」患者「え、ええ……」中島「玩地先生がこのことを聞いたら泣いてしまいますよ。せっかく時間かけて診てるのに、患者さんが『知らなかった』って言うんだから」患者「そんなあ、先生が泣くだなんて」中島「今度、玩地先生の顔を見たら言っておきましょうか。『レントゲンを撮ってくれないって、渡辺さんが文句言ってました』って」患者「やめてください、玩地先生は本当にいい先生なんです!」絹江さんはビョーンと椅子から飛び上がって、電子カルテの前に立ちはだかります。もうキーボードも打てません。中島「だったら、ちゃんと覚えておきましょうよ、レントゲンを撮ってるってことを。クリニックの先生にも『国立で定期的に診てもらってます』って伝えないと……」患者「わかりました」中島「ほんとにわかりましたか。診察室を出て30分もしたら、全部忘れてしまうのでは?」患者「そんなことありません。次はちゃんと覚えておきます」高齢者の「わかりました」くらい当てにならないものはありません。だから私は念押しをしました。中島「じゃあ、こうしましょう。8月に玩地先生の外来があるから、9月にもう一度私の外来に来てください。ちゃんとレントゲンの結果を聞いたのか、クリニックには報告したのか、それを確認します」患者「わかりました。お願いします」そう言って、絹江さんはホッとした表情で診察室を出ていきました。さて、次の外来はどうなるやら。絹江さんは本当に玩地先生の話を覚えているのでしょうか。また、クリニックの先生には「国立で定期的にレントゲンを撮っています」と伝えてくれているのでしょうか。それに加えて、指摘されたという2~3ミリの影とやらも気になります。果たして画像診断AIはどう診断するのか、前年と比べてどうなっているのか、場合によってはCTを追加したほうがいいのか。興味は尽きません。それにしても、高齢者の思い込みというのは恐ろしいものです。常に疑ってかかったほうが良さそうですね。「そういうお前も立派な高齢者じゃないか!」と言われたら、私も返す言葉がないのですけど。ということで最後に1句蝉が鳴き 事実はいずこ 高齢者

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ST合剤処方の際の5つのポイント【1分間で学べる感染症】第30回

画像を拡大するTake home messageST合剤、特徴的な副作用を理解して、慎重に使用しよう。ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は、幅広い抗菌スペクトラムを持つ重要な抗菌薬です。便利な反面、使用方法や副作用について十分理解しておくことが重要です。今回は、ST合剤処方で重要な5つのポイントを一緒に勉強していきましょう。成分ST合剤は、「トリメトプリム80mg」と「スルファメトキサゾール400mg」を含有しています。1対5の固定比率で調整されており、これに基づいて用量を計算します(後述)。スペクトラムメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むグラム陽性菌およびグラム陰性桿菌に対して有効です。また、ニューモシスチスやトキソプラズマ、サイクロスポラなどもカバーします。適応疾患ST合剤は、MRSA感染症、膀胱炎、尿路感染症、ニューモシスチス肺炎(予防・治療)などに適応があります。ステロイド長期使用患者ではニューモシスチス肺炎の予防で使用されることも多いため、なじみのある方が多いかもしれません。また、リステリア感染症、ノカルジア症に対する選択肢として検討されることもあります。副作用見掛け上のクレアチニンの上昇が報告されていますが、これは実際の腎機能悪化を反映していない場合もあります。ST合剤の成分のうち、トリメトプリムは尿細管上皮細胞の「有機アニオントランスポーター」を阻害します。これにより尿細管クレアチニンの分泌が阻害され、血清クレアチニンが上昇するといわれています。しかし、ST合剤は真の急性腎障害(AKI)を来すこともあり注意が必要です。機序としては間質性腎炎や急性尿細管壊死などが報告されています。また、カリウムの上昇も認められ、とくにACE阻害薬やARBを併用している患者、重度腎障害がある患者では、高カリウム血症のリスクが高まるために注意が必要です。そのほか、食思不振、皮疹、消化器症状がみられることもあります。用量計算ST合剤の用量はトリメトプリムの含有量を基準に計算されます。感染症の重症度や患者の腎機能に応じて調整が必要です。たとえば、ニューモシスチス肺炎に対する治療として用いる場合、トリメトプリム換算で15~20mg/kgを1日に3~4回に分けて投与するため、体重65kgの患者さんの場合であれば、65kg×15mg=975mg(80mg×12錠=960mg)が必要です。以上、ST合剤は一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、副作用を含めた上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Gleckman R, et al. Pharmacotherapy. 1981;1:14-20.2)Cockerill FR 3rd, et al. Mayo Clin Proc. 1987;62:921-929.3)Nakada T, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2018;33:103-110.4)Fralick M, et al. BMJ. 2014;349:g6196.5)UpToDate. Trimethoprim-sulfamethoxazole: An overview. (last updated: Apr 25, 2025.)

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー

今回のキーワードポストトラウマティック・プレイミラーリング象徴機能心の理論(社会脳)心理的ディブリーフィングPTG(心的外傷後成長)[目次]1.なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化2.子供のPTSDにどうすればいいの?3.プレイセラピーとは?4.「心の傷を癒すということ」とは?前回(その1)、子供の演じる心理の発達から、地震ごっこをするのは、子供たちが地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからであることがわかりました。それでは、なぜトラウマ体験のごっこ遊び(ポストトラウマティック・プレイ)は子供に普遍的に見られる現象なのでしょうか? 言い換えれば、なぜ地震ごっこは「ある」のでしょうか? そして、どう接したらいいのでしょうか?この謎の答えを解くために、今回は、引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、人類の演じる心理の進化を明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げます。そこから、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)への真の対応のヒントを導きます。さらに、子供への心理療法の1つであるプレイセラピーをご紹介します。なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化子供の演じる心理の発達は、まず目の前の人の動きをそのまま演じる(まね遊び)、次に目の前にいない人の動きを演じる(ふり遊び)、最後に周りの人とのかけ合いによって演じる(ごっこ遊び)であることがわかりました。ここで、進化心理学の視点から、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を、体だけでなく心(脳)にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測します。さらに、人類が演じる心理をどう進化させたのかを明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げてみましょう。大きく3つの段階に分けられます。(1)目の前の相手の動きを演じる―ミラーリング約700万年前に人類が誕生し、約300万年前には男性は女性と一緒に生活して子育てに参加するようになりました。当然ながら、当時はまだ言葉を話せません。そのため、男女がお互いの唸り声や動きをまねすることで、一緒にいたい気持ちを伝え合っていたでしょう。同時に、このようにまねをすることで、相手への親近感(共感性)が高まるように進化したでしょう。1つ目は、ミラーリングです。これは、目の前の相手の動きをそのまま演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のまね遊びに重なります。なお、ミラーリングの起源の詳細については、関連記事1の後半をご覧ください。(2)目の前にいない人の様子を演じる―象徴機能約300万年前に、人類はさらに部族集団をつくるようになりました。まだ言葉を話せないなか、メンバーの誰かがけがをして助けが必要であることや猛獣が近くに来ていてみんなで追い払う必要があることなどを何とか身振り手振りや表情などの非言語的コミュニケーション(サイン言語)で伝えたでしょう。2つ目は、象徴機能です。これは、目の前にいない人やものの様子を体全体で演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のふり遊びに重なります。なお、象徴機能の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―心の理論約300万年前以降、人類は、かつて部族のメンバーがどうやってけがをして助けられたか、近くに来ていた猛獣をどうやって追い払ったかをメンバー同士で演じて再現すること(ごっこ遊び)で伝え合ったでしょう。名付けるなら、「救助ごっこ」「猛獣撃退ごっこ」です。そして、地震が起きたあとは、そのエピソードを伝える「地震ごっこ」もやっていたでしょう。こうして、人類は相手の気持ちを推し量り、周りと助け合ってうまくやっていく能力を進化させていったでしょう。3つ目は、心の理論(社会脳)です。これは、周りの人とのかけ合いによって演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のごっこ遊びに重なります。なお、心の理論(社会脳)の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。その後、約20万年前に現生人類(ホモサピエンス)が言葉を話すようになると、その状況を言葉によって次世代に伝えるようになりました(伝承)。こうして、もはや演じること(ごっこ遊び)によって伝える必要が日常的にはなくなったのでした。約10万年前に原始宗教が誕生してから、演じることは、神の教えという儀式(宗教的祭祀)として残り、紀元前5世紀ごろには古代ギリシアで演劇という娯楽として発展していきました。以上より、地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからと言えます。つまり、トラウマ体験のごっこ遊びは、人類の心の進化の歴史のなかで、生存のために必要な原始的な機能であり能力であったというわけです。この進化の産物は、言葉を話す現代の社会では必要がなくなったのですが、その名残りが子供に見られるのです。だから、子供に普遍的なのです。なお、現代の社会で大人はトラウマ体験のごっこ遊びをしなくなりましたが、実は好んで見ています。それが、人気コンテンツである災害映画(ディザスタームービー)です。これは、大がかりで壮大な「災害ごっこ」と言えるでしょう。ちなみに、トラウマ体験のごっこ遊びと同じように、その1でご紹介したそのほかの子供のPTSDの症状であるフラッシュバックや赤ちゃん返り(解離)も、進化の歴史で獲得した機能であると説明することができます。たとえば、言葉や文字によって時間の概念がなく、その瞬間だけを生きていた原始の時代、二度と同じような危険な目(トラウマ体験)に遭わないようにするために唯一頼りになったのは、フラッシュバックだったでしょう。つまり、フラッシュバックという現象は、記憶を強化するために必要な能力(心理機能)だったと言い換えられます。また、常に死と隣り合わせの原始の時代、自力で生き残れない幼児は、危険な目(トラウマ体験)に遭ったあとに、ほかのきょうだいよりも親の目をかけてもらうために唯一できることは、無意識に赤ちゃんを演じることでしょう。つまり、赤ちゃん返りという現象は、保護者から援助行動をより引き出すために必要な能力(心理戦略)だったと言い換えられます。なお、PTSD(トラウマ)の起源の詳細については、関連記事4をご覧ください。子供のPTSDにどうすればいいの?地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからであることがわかりました。そして、フラッシュバックも赤ちゃん返りも、進化の歴史で獲得した機能であることがわかりました。この点を踏まえて、子供のPTSDにどうすればいいでしょうか? その対応を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ただ一緒にいるその1でも触れましたが、「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」というフラッシュバックの症状を訴えた小学生の男の子に対して、安先生は、「大丈夫や。揺れてへん」と力強くも温かく言います。そして、一緒に荷物を運ぶのです。1つ目の対応は、ただ一緒にいることです。そして、助け合うことです。これは、原始の時代に進化した社会脳に通じます。逆に言えば、何か特別なことをする必要はありません。安静にすることでもありません。一番大事なことは、なるべく普段と変わらない日常生活のなかで、体が安全であること、そして心が安全であることを、時間をかけて感じてもらうことです。(2)自然な気持ちを促す安先生は、その男の子に「ちゃんと眠れてるんか?」「何か話したいことあったら、何でもいいな」と問いかけると、「ええわ、僕よりつらい目に遭うた人いっぱいおるし」と返されます。すると、安先生は「お~我慢して偉いな…って言うと思ったら大間違いや。こんなつらいことがあった。こんな悲しいことがあった。そういうこと、話したかったら、遠慮せんと話してほしいねん」「言いたいこと我慢して飲み込んでしもうたら、ここ(子供の心臓を指して)、あとで苦しくなんで」と言います。男の子から「おじいちゃんに男のくせにそんなに弱いかって笑われる」と漏らされると、安先生は「弱いってええことやで。弱いから、ほかの人の弱いとこがわかって助け合える。おっちゃんも弱いとこあるけど、全然恥ずかしいと思うてへん」と力強く言います。2つ目の対応は、我慢せずに自然な気持ちを促すことです。この点で、地震ごっこに対しては、やはりまず見守ることです。実際に、東日本大震災のあとに観察された多くの地震ごっこでは、子供たちが楽しんでやっていることがわかっています1)。もちろん、けがや暴力になりそうなら止める必要がありますが、基本的には見守るだけで十分です。逆に言えば、話したくないのに、話すように促すことはしないことです。これは、心理的ディブリーフィングと呼ばれ、トラウマ体験をできるだけ早い時期に語らせて、気持ちを吐き出させることで、かつてアメリカの9.11の同時多発テロによるトラウマ体験への治療として注目されました。しかし、その後に実際には有効ではないという研究結果が相次いで報告され、トラウマ反応を強化させる可能性までも指摘されました1)。これは、PTSDを心の進化における機能として捉えたら、当然でしょう。これは、子供だけでなく、大人にも当てはまります。安全が確認されていないのに避難訓練をやらないのと同じように、心の安全(心の準備)が保たれていないタイミングで、語らせたり、演じさせたりは絶対にしないようにする必要があります。この点を踏まえて、東日本大震災の被災地の学校で、震災当時の絵を描かせたり、作文を書かせたり、語りをさせるなどの震災体験の表現の取り組み(防災教育)が行われましたが、それにあたって、少なくとも震災から1年が経っていること、事前に生徒たちに伝えて心の準備をしてもらうこと、嫌だったらやらなくていい(ほかにやりたいことをしてもいい)という選択肢を示すことなどのきめ細かい配慮がなされました1)。(3)楽しめることを促すその後、小学校の避難所でのまとめ役でもある校長先生が、安先生に「子供らの遊ぶ場所、作られへんかなと思てな」「毎日、枕元で地震ごっこされたらかなわんからな」と笑いながら、「キックベース、どうですか?」と誘います。なんと、校長先生が、子供たちのために、キックベースのイベントを開いたのでした。3つ目の対応は、楽しめることを促すことです。これは、地震ごっこだけでなく、子供が楽しめるポジティブなことなら何でもありです。なぜなら、何もしないと、トラウマ体験の記憶が頭のなかを占めてしまい、フラッシュバックをより引き起こしてしまうからです。そうではなくて、代わりに楽しい記憶を頭のなかに占めて、フラッシュバックを起こしにくくするのです。なお、大人のPTSD(トラウマ)への対応の詳細については、関連記事4をご覧ください。プレイセラピーとは?もしも、子供が1人で地震ごっこをやっている場合は、どうでしょうか? もちろん、見守ることができます。さらに、PTSDへの対応の観点から、セラピスト、さらには家族や親しい人たちがその遊びに加わり、自然な気持ちを促し、一緒に楽しむことができます。これは、プレイセラピー(遊戯療法)と呼ばれています。たとえば、子供が「地震だー」と言い、体を揺らしていたら、一緒にいる人は「逃げろー」と合いの手を入れ、一緒に走り回ります。一通り走り回ったら、最後は「逃げれたー。助かったー。良かったねー」というセリフを言うのです。途中で、近所の人を助ける演技を入れるのもいいでしょう。こうして、助け合っていることを一緒に喜び合うことで、地震があっても助かったストーリーを一緒につくることができます。ただし、あくまで子供が自然に遊んでいる状況に乗っかるのがポイントです。逆に、「地震ごっこをしよう」などと最初から誘導しないことです。これは、先ほどの心理的ディブリーフィングと同じく、トラウマ反応を強化させるリスクがあります。また、ごっこ遊びのテーマとなるトラウマ体験が、災害ではなく、虐待・誘拐・殺人などの犯罪の場合はより専門的な介入が必要になり、場合によっては止める必要があります2)。その理由は、「虐待ごっこ」「誘拐ごっこ」「殺人ごっこ」になってしまうからです。これは、災害の環境と同じように、虐待・誘拐・殺人などの環境に子供が無意識に適応しようとするわけなのですが、相手に傷つけられるまたは傷つけるという不適切なコミュニケーションの練習をしてしまうおそれがあるからです。これは、子供が傷つけられる人を繰り返し演じることで自己肯定感を低くして、さらに傷つける人を繰り返し演じることで攻撃性を高めるリスクがあります。「心の傷を癒すということ」とは?ラストシーンで、安先生が「心のケアって何かわかった。誰も、ひとりぼっちにさせへん、てことや」と悟ったように言うシーンがあります。このセリフから私たちは、子供にしても大人にしても、PTSDの症状は、単に困ったネガティブなものではなく、お互いの援助行動を引き出し、連帯感を促すポジティブな機能であり、能力であると捉え直すことができます。そうして、子供も大人もトラウマを乗り越えて成長した状態は、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれます。じつは、このドラマは実話をもとにしたストーリーです。実在した人物である故・安 克昌先生のドキュメンタリーでもあり、なんと阪神淡路大震災で実際に被災した人たちがこのドラマの避難所のエキストラとして出演していました。このドラマに関連した番組3)では、エキストラに参加したある元被災者の女性について、「自らの記憶をたどり、心の奥にしまっていた感情に気づき、折り合いをつける。ドラマ作りに参加することが心の傷を癒す小さなきっかけになったのかもしれません」とナレーションで説明されていました。このように、大人もトラウマ体験を再演することで、PTGになることができるでしょう。人類が長らく演じることでコミュニケーションをしてきた進化の歴史を踏まえると、その子孫である現代の私たちは、言葉によって普段抑制している感情(演じる心理)を体全体でもっと自由に解放することができるのではないでしょうか? つまり、私たち大人も、子供と同じようにもっと「ごっこ遊び」(演技)を生活のなかで生かすことができるのではないでしょうか?なお、演技の効果(機能)の詳細については、関連記事5をご覧ください。1)「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」p.19、p.126、p.212:冨永良喜ほか、誠信書房、20182)「子どものポストトラウマティック・プレイ」p.27:エリアナ・ギル、誠信書房、20223)「100分de名著 安克昌 “心の傷を癒すということ” (4)心の傷を耕す」:宮地尚子、NHKテキスト、2025年1月■関連記事映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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緑茶摂取量が多い日本人は認知症リスクが低下

 緑茶は、コーヒーと同様、認知症を予防する可能性が示唆されているが、それを裏付けるエビデンスは不十分である。新潟大学のRikuto Kaise氏らは、日本人中高年における緑茶摂取と認知症リスクとの独立した関連性および緑茶とコーヒー摂取の相互作用を明らかにするため、12年間のコホート研究を実施した。The Journal of Nutrition誌2025年8月号の報告。 同研究は、加齢性疾患に関する村上コホート研究の12年間フォローアップ調査として実施した。対象は、地域在住の40〜74歳の日本人1万3,660人(男性:6,573人[48.1%]、平均年齢:59.0±9.3歳)。ベースライン調査は、2011〜13年に行った。自己記入式質問票を用いて、性別、年齢、婚姻状況、教育、職業、体格、身体活動、喫煙、アルコール摂取、紅茶・コーヒーの摂取、エネルギー摂取量、病歴などの予測因子と関連する情報を収集した。緑茶摂取量は、検証済み質問票を用いて定量的に測定した。認知症発症は、介護保険データベースを用いて特定した。 主な結果は以下のとおり。・緑茶摂取量が多いほど、認知症のハザード比(HR)の低下が認められた(多変量p for trend=0.0178)。最高四分位群のHRは、最低四分位群よりも低かった(調整HR:0.75)。・緑茶1杯(150mL)摂取による認知症の調整HRは0.952(95%信頼区間:0.92〜0.99)であり、1杯増加するごとに4.8%の減少が認められた。・緑茶とコーヒーの両方の摂取量が多いことと認知症リスク低下との関連性は認められなかった(p for interaction=0.0210)。 著者らは、「緑茶摂取量の多さと認知症リスク低下は、独立して関連していることが示唆された。緑茶の有益性は示されたが、緑茶とコーヒーの両方を過剰に摂取することは、認知症予防に推奨されないと考えられる」と結論付けている。

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次世代技術が切り拓くリンパ腫の未来/日本リンパ腫学会

 2025年7月3日~5日に第65回日本リンパ腫学会総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月4日、遠西 大輔氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)、島田 和之氏(名古屋大学医学部附属病院 血液内科)を座長に行われたシンポジウム1では、国内外の最新の解析手法を用いたリンパ腫研究に携わる第一線の研究者であるClementine Sarkozy氏(Institut Curie, Saint Cloud, France)、杉尾 健志氏(Stanford University, Division of Oncology)、冨田 秀太氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)、中川 雅夫氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)より、次世代技術が切り拓くリンパ腫の未来と題し、最新の研究結果について講演が行われた。形質転換FLにおける悪性B細胞とTMEのco-evolution 濾胞性リンパ腫(FL)の形質転換は、予後不良と関連している。しかし、遺伝的進化や表現型との関係はほとんどわかっておらず、形質転換が変換遺伝子型を有する既存の遺伝子から発生するのか、診断時には存在しない遺伝的および表現型の形質転換によるものなのかは不明である。これらの課題を明らかにするために、単細胞トランスクリプトーム(scWTS)と全ゲノムシーケンシング(scWGS)を用いて、変換中の悪性B細胞のクローナルおよび表現型転換を特徴付け、腫瘍微小環境(TME)内における相互作用の解明が試みられた。 scWGSを用いた系統解析は、形質転換FLペア全体で不均一な進化パターンが認められ、scWTSデータを用いた形質転換FLペアからの悪性B細胞のクラスタリングは、FLとびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)サンプルの転写類似性が、以前の治療歴とは無関係に、サンプリング間の時間と逆相関していることが示唆され、Sarkozy氏は、とくに重要なのは、FLクラスターとDLBCLクラスターが十分に分離されたペアでは、一部のFL細胞が常にDLBCLクラスター(DLBCL様細胞)内にあり、その逆も同様である可能性が示された点であるとしている。 scWGSとscWTSの統合は、クローン腫瘍転換中にアップレギュレートされた悪性細胞経路を識別可能であるが、形質転換プロセスのすべての形質転換FLペアに当てはまるわけではない。実際、悪性B細胞表現型の変化と共進化(co-evolution)する、新たなTMEランドスケープも発見されている。これらの結果は、悪性B細胞とTMEの間の転換とシフトクロストーク中の悪性細胞のゲノムと表現型を組み合わせた新たな包括的な手法の可能性を示唆している。TCLの正確な病勢モニタリングのためのリキッドバイオプシー リキッドバイオプシーは、血液や体液を採取して得た検体を解析して、遺伝子異常の有無や種類などを調べる検査技術である。近年、cfDNA(cell-free DNA)を用いた病勢モニタリングの有用性が進展し、DLBCLに対するNCCNガイドラインにも記載されるようになった。DLBCLに限らず、ctDNA(circulating tumor DNA)を用いた病勢モニタリングの有用性は、多くのがんでも報告されている。杉尾氏らは、遺伝子変異だけでなく、コピー数異常、エピジェネティック変化、免疫レセプター解析を組み合わせたマルチモーダル解析を開発し、単なる病勢モニタリングにとどまらず、治療抵抗性や免疫逃避のメカニズムを包括的に評価する試みを進めている。本発表では、主にT細胞リンパ腫(TCL)におけるcfDNA/cfRNA解析の結果について報告した。 TCLに対するcfDAN解析用パネルを開発し、さまざまな解析手法を用いて530検体の解析を行った。その結果、TCL患者において、腫瘍組織のみの解析では腫瘍性TCRクロノタイプを同定できなかった症例の約30%において、cfDNA解析による同定が可能であった。また、治療終了時に血漿cfDNAから遺伝子変異や腫瘍性クロノタイプが検出されなかった症例では1年以上無再発生存率が100%であった。PET CR達成患者においても、ctDNAで予後の層別化が可能であった。さらに、ベースライン時のctDNA量も予後と関連しており、とくに未分化大細胞リンパ腫(ALCL)以外のTCLサブタイプでは化学療法後の予後との有意な関連が認められた。杉尾氏は「新たな病勢評価の手法は、とくにgermlineサンプルやtumorサンプルが利用できないまたはパネル検査においてマーカー遺伝子を特定できない場合、病勢をより正確に評価するための補助的役割を果たすと考えられる」と結論付けている。革新的な進展を遂げるデジタル空間プロファイリング解析技術 がんやリンパ腫などの疾患研究において、GeoMxやVisiumなどのデジタル空間プロファイリング(DSP)解析技術が革新的な進展を遂げている。この技術は、従来の網羅的な遺伝子発現プロファイリング(RNA-seq)解析、免疫組織化学染色解析、単一細胞RNAシーケンスでは困難であった。組織内の位置情報を保持したまま網羅的な遺伝子プロファイルを取得できる点において、従来の解析手法とは一線を画している。 岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センターでは、いち早く空間解析プラットフォームGeoMxを導入し、さまざまな疾患やがん種の解析を通して、データ取得からデータ解析までの環境の整備、構築を進めてきた。冨田氏らはGeoMxのメリットとして「任意の場所からトランスクリプトームの情報が取得できる点」「形態学的マーカーで染色できる点」などを挙げている。Yixing Dong氏らの報告によると、いずれのDSPでも高品質な再現性の高いデータが得られているとしながらも、腫瘍の不均一性と潜在的な薬物ターゲットの発見においてGeoMxよりもVisiumおよびChromiumがより優れていることが示唆されており、GeoMxではより専門的な作業が必要となる可能性があるとしている。これら各手法の長所、短所などがより明らかとなることで、精度の高い治療の推進に役立つことが期待される。解明が進むTCLにおける治療標的分子 複数の新規治療薬が導入されているにもかかわらず、TCLは依然として予後不良であり、その分子病態のさらなる理解と新規治療標的の探索は課題である。一方、近年のゲノム編集技術の進展により、疾患特異的な分子メカニズムや治療応答性の基盤解明が飛躍的に進んでいる。 これまで北海道大学では、genome-wide CRISPR library screeningを活用し、TCLにおける治療標的分子の解明に取り組んできた。その結果、最も予後不良なTCLである成人T細胞白血病/リンパ腫(ALTT)におけるPD-L1発現メカニズムを解明し、CRISPRスクリーニングによりPD-L1の発現が特定の分子ネットワークにより制御されていることを報告した。 さらに、CD30陽性TCLにおける抗CD30モノクローナル抗体の感受性メカニズムを解明し、CRISPRスクリーニングによる感受性に寄与する遺伝子として有糸分裂チェックポイント複合体(MCC)の阻害因子であるMAD2L1BPおよびANAPC15を同定した。加えて、これらの遺伝子による感受性調節メカニズムを解明し、MCC-APC/Cを標的とする新規治療戦略の可能性を明らかにした。 中川氏らは「これらの研究成果は、難治性疾患であるTCLにおける未解明の分子メカニズムを明らかにし、臨床応用に向けた新たな方向性を示すものである」とまとめている。

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高リスク早期TN乳がんへの術前・術後ペムブロリズマブ追加、日本のサブグループにおけるOS解析結果(KEYNOTE-522)/日本乳学会

 高リスク早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、ペムブロリズマブ+化学療法による術前療法およびペムブロリズマブによる術後療法は、術前化学療法単独と比較して、病理学的完全奏効(pCR)割合および無イベント生存期間(EFS)を統計学的有意に改善し、7回目の中間解析報告(データカットオフ:2024年3月22日)において全生存期間(OS)についてもベネフィットが示されたことが報告されている(5年OS率:86.6%vs.81.7%、p=0.002)。今回、7回目の中間解析の日本におけるサブグループ解析結果を、がん研究会有明病院の高野 利実氏が第33回日本乳学会学術総会で発表した。・対象:T1c、N1~2またはT2~4、N0~2で、治療歴のないECOG PS 0/1の高リスク早期TNBC患者(18歳以上)・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後療法としてペムブロリズマブを3週ごとに最長9サイクル投与(ペムブロリズマブ群)・対照群:術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・日本で登録されたのは76例で、ペムブロリズマブ群に45例、プラセボ群に31例が割り付けられた。・ベースラインの患者特性は、全体集団と比較してPD-L1陽性の患者が若干少なく(日本:ペムブロリズマブ群71.1%vs.プラセボ群74.2%/全体集団:83.7%vs.81.3%)、毎週投与のカルボプラチンの使用割合が高かった(日本:80.0%vs.77.4%/全体集団:57.3%vs. 57.2%)。また日本では、T3/T4の症例(24.4%vs.16.1%)およびリンパ節転移陽性の症例(53.3%vs.41.9%)がペムブロリズマブ群で多い傾向がみられた。・5年EFS率は、ペムブロリズマブ群84.4%vs.プラセボ群73.2%、ハザード比(HR):0.54、95%信頼区間(CI):0.20~1.50であった(全体集団では81.2%vs.72.2%、HR:0.65、95%CI:0.51~0.83)。・5年OS率は、ペムブロリズマブ群88.9%vs.プラセボ群86.5%、HR:0.82、95%CI:0.22~3.04であった(全体集団では86.6%vs.81.7%、HR:0.66、95%CI:0.50~0.87)。・5年EFS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%(24例)vs.プラセボ群100%(15例)、pCRが得られなかった症例では71.4%(21例)vs.46.7%(16例)であった。・5年OS率について、pCRが得られた症例ではペムブロリズマブ群95.8%vs.プラセボ群100%、pCRが得られなかった症例では81.0%vs.73.7%であった。・Grade3~4の治療関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群82.2%vs.プラセボ群76.7%(全体集団では77.1%vs.73.3%)、うち治療中止に至ったのは24.4%vs.16.7%であった。プラセボ群と比較して多くみられたのは(全Grade)、貧血(75.6%vs.63.3%)、味覚障害(44.4%vs.23.3%)、皮疹(40.0%vs.10.0%)などであった。・Grade3~4の免疫関連有害事象の発現率は、ペムブロリズマブ群20.0%vs.プラセボ群3.3%であった(全体集団では13.0%vs.1.5%)。 高野氏は、日本のサブグループ解析結果について、症例数が少ないためこの結果をもって統計学的な判断はできないが、OSはグローバルの全体集団と同様にペムブロリズマブ群で良好な傾向を示したとし、EFSについても6年以上のフォローアップで引き続き有効な傾向を示しているとまとめた。また安全性についても、既知のプロファイルと同様の結果が確認されたとしている。

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18歳未満の嘔吐を伴う急性胃腸炎、オンダンセトロンは有益か/NEJM

 胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児において、救急外来受診後のオンダンセトロン投与はプラセボ投与と比べて、その後7日間の中等症~重症の胃腸炎リスクの低下に結び付いたことが示された。カナダ・カルガリー大学のStephen B. Freedman氏らPediatric Emergency Research Canada Innovative Clinical Trials Study Groupが、二重盲検無作為化優越性試験の結果を報告した。オンダンセトロンは、救急外来を受診した急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児への単回投与により、アウトカムを改善することが報告されている。症状緩和のために帰宅時に処方されることも多いが、この治療を裏付けるエビデンスは限られていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。嘔吐への対応として6回投与分を処方、中等症~重症の胃腸炎発生を評価 研究グループは、カナダの3次医療を担う6施設の小児救急外来で、急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する生後6ヵ月~18歳未満を対象に試験を行った。 救急外来からの帰宅時に、被験者には経口オンダンセトロン液剤(濃度4mg/5mL)またはプラセボ液剤が6回分(それぞれ0.15mg/kg、最大投与量8mg)提供された。介護者には0.1mL単位で調整された投与量が伝えられ、投与後15分以内に嘔吐が再発した場合は再投与し、試験登録後48時間で液剤は廃棄するよう指示された。介護者は7日間の試験期間中、液剤投与および関連した症状を日誌に記録した。 主要アウトカムは、中等症~重症の胃腸炎(試験登録後7日間における修正Vesikariスケール[スコア範囲:0~20、高スコアほどより重症であることを示す]のスコア9以上の胃腸炎発生で定義)。副次アウトカムは、嘔吐の発現、嘔吐の持続期間(試験登録から最終嘔吐エピソードまでの期間で定義)、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数、試験登録後7日間の予定外受診、静脈内輸液の投与などであった。中等症~重症の胃腸炎はオンダンセトロン群5.1%、プラセボ群12.5%、有害事象発現は同程度 2019年9月14日~2024年6月27日に合計1,030例の小児が無作為化された。解析対象1,029例(1例はWebサイトエラーのため無作為化できなかった)は、年齢中央値47.5ヵ月、女児521例(50.6%)、体重中央値16.1kg(四分位範囲[IQR]:12.2~22.5)、ロタウイルスワクチン接種済み562/782例(71.9%)、ベースラインでの嘔吐の持続期間13.9時間(IQR:8.9~25.7)、修正Vesikariスケールスコア中央値9(IQR:7~10)などであった。 主要アウトカムの中等症~重症の胃腸炎は、オンダンセトロン群5.1%(データが入手できた452例中23例)、プラセボ群12.5%(同441例中55例)であった(補正前リスク差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.2~-3.7)。試験地、体重、欠失データを補正後も、オンダンセトロン群はプラセボ群と比べて中等症~重症の胃腸炎のリスクが低かった(補正後オッズ比:0.50、95%CI:0.40~0.60)。 嘔吐の発現や持続期間中央値について、あらゆる意味のある群間差は認められなかったが、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数は、オンダンセトロン群がプラセボ群と比べて低減した(補正後率比:0.76、95%CI:0.67~0.87)。予定外受診および試験登録後静脈内輸液の投与は、試験群間で大きな差はなかった。 有害事象の発現も試験群間で意味のある差は認められなかった(オッズ比:0.99、95%CI:0.61~1.61)。

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去勢抵抗性前立腺がん、タラゾパリブ+エンザルタミドがOS改善(TALAPRO-2)/Lancet

 転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者において、タラゾパリブ+エンザルタミドの併用療法はエンザルタミド単独療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に改善し、この併用療法が標準的な1次治療の選択肢として支持されることが示された。米国・ユタ大学のNeeraj Agarwal氏らが第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TALAPRO-2試験」の最終解析結果を報告した。本試験の主要解析では、相同組換え修復(HRR)遺伝子変異の有無を問わないmCRPC患者において、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法が、画像上の無増悪生存期間(rPFS)を有意に改善したことが示されていた。OSは、同解析時点ではデータが未成熟であった。本稿では、事前に規定されたOSの最終解析結果、rPFSの最新の記述的分析結果およびHRR遺伝子変異未選択コホートにおける安全性が報告された。Lancet誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。タラゾパリブ+エンザルタミドvs.エンザルタミド+プラセボ TALAPRO-2試験は、北米、欧州、イスラエル、南米、南アフリカ、アジア太平洋地域の26ヵ国にある200施設(病院、がんセンター、医療センター)で無作為化された遺伝子変異未選択コホートの患者を対象とした。 18歳以上(日本は20歳以上)、無症候性または軽度症候性のmCRPCで、アンドロゲン除去療法を継続中かつCRPCに対する延命目的の全身療法歴のない患者を、mCRPCの1次治療として、タラゾパリブ0.5mg+エンザルタミド160mgまたはエンザルタミド+プラセボを1日1回経口投与する群に無作為に1対1で割り付けた。HRR遺伝子変異の状態(欠損vs.非欠損または不明)、去勢感受性に対する治療歴(ありvs.なし)で層別化した。 試験の資金提供者、患者および試験担当医師は、タラゾパリブまたはプラセボ投与については盲検化され、エンザルタミド投与は盲検化されなかった。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるrPFSであり、重要な副次評価項目はOS(無作為化から全死因死亡までの期間)であった(OSの最終解析時点のα閾値は0.022[両側])。いずれもITT集団で評価した。 OSの追跡調査は、計画された最終解析まで継続が予定されていた。安全性は、試験薬を少なくとも1回投与された患者を対象に評価された。OS中央値、タラゾパリブ群45.8ヵ月、対照群37.0ヵ月 2019年1月7日~2020年9月17日に、993例が適格性について評価を受け、そのうち188例(19%)が除外され、805例(81%)が無作為化された(タラゾパリブ+エンザルタミド群402例[タラゾパリブ群]、エンザルタミド+プラセボ群403例[対照群])。 追跡期間中央値52.5ヵ月(四分位範囲:48.6~56.0)の時点で、OSはタラゾパリブ群が対照群と比べて有意に改善した(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.66~0.96、p=0.016)。OS中央値は、タラゾパリブ群45.8ヵ月(95%CI:39.4~50.8)、対照群37.0ヵ月(34.1~40.4)であった。 OSは、HRR欠損患者(169例)ではタラゾパリブ群が対照群よりも改善が大きかったが(HR:0.55[95%CI:0.36~0.83]、p=0.0035)、HRR非欠損患者(636例)でその程度は低かった(HR:0.88[0.71~1.08]、p=0.22)。 rPFSもタラゾパリブ群が優れており(HR:0.67[95%CI:0.55~0.81]、p<0.0001)、rPFS中央値はタラゾパリブ群33.1ヵ月、対照群19.5ヵ月であった。 タラゾパリブの安全性プロファイルは既知のものと一貫しており、タラゾパリブ群で多くみられたGrade3以上の有害事象は、貧血(195例[49%]vs.18例[4%])、好中球減少症(77例[19%]vs.6例[1%])であった。

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ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ふくらはぎが細くなったら筋量減少のサインかも?

 骨格筋量の減少は中年期から始まり、加齢とともに進行する。筋量の低下は、高齢者における転倒やさまざまな疾患の発症リスクにつながるため、早期の発見と予防が重要である。今回、ふくらはぎ周囲長の変化で筋量の変化を簡易評価できるとする研究結果が報告された。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化は筋量の変化と正の相関を示したという。研究は公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによるもので、詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に5月28日掲載された。 ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされているが、その変化と筋量変化との関連を直接検討した縦断研究は存在しない。そこで著者らは、日本人成人を対象に、2回のコホート研究のデータを用いて両者の関連を検証する縦断研究を行った。 解析対象は、2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Studyに参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)とした。ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測し、その平均値を解析に用いた。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕両脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を解析した。ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との相関を評価するため、ピアソンの相関係数を算出した。さらに、年齢および肥満の影響を評価するため、対象者を年齢(中年〔60歳未満〕と高齢〔60歳以上〕)および体脂肪率(非肥満と肥満)で二分し、サブグループ解析を行った。 解析対象の平均年齢は男性が55±10歳、女性が51±7歳で、平均追跡期間は8.0±0.4年だった。ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgだった。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は男性および女性の両方で正の相関を示した(それぞれ相関係数r=0.71)。主要解析と同様に、年齢および肥満に基づくサブグループ解析においても、ふくらはぎ周囲長と四肢筋量との間に正の相関が示された(中年、高齢、非肥満、および肥満成人でそれぞれr=0.70、0.67、0.69、および0.72)。 本研究について著者らは、「本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した研究である。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化には正の相関が確認された。ふくらはぎ周囲長のモニタリングにより、誰でも簡便に筋量の減少に気づける可能性が示唆され、サルコペニアの早期発見・予防につながる。筋量や筋力の低下はQOLの低下を招くが、年齢を問わず改善は可能であり、本研究は健康寿命の延伸に大きく貢献する知見となるだろう」と述べている。 本研究の限界については、解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限られており、人口全体を代表していない可能性があること、サブグループ解析においては対象数が少なかったことなどを挙げている。

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妊婦の有害転帰、心血管の健康と社会的孤立が複合的に影響か

 有害な妊娠転帰(APO)は妊婦の約20%に発生し、その発生率は年々増加傾向にある。今回、妊娠中の心血管健康(CVH)はAPOに影響を及ぼす、とする研究結果が報告された。研究は東北大学大学院医学系研究科の大瀬戸恒志氏、石黒真美氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月29日掲載された。 APOは、妊娠中や分娩中、または産褥期に起こる好ましくない事象や合併症のことを指す。APOの病態は心血管疾患(CVD)との類似性が指摘されており、将来のCVD発症を予測することから「妊娠はストレステスト」とも表現される。そのため、CVDに対する予防策がAPOの発症予防にも有効かどうかの注目が高まっている。2022年、米国心臓協会はCVHを評価するための指標「Life’s Essential 8(LE8)」を提案した。LE8はCVDの予防のため、危険因子を管理し、人々の健康向上に寄与すると期待される。しかし、LE8を使用した包括的なCVH評価が出生前のケアで有益かどうかは依然として不明である。また、CVHの低さは抑うつ症状や社会的孤立と関連することが報告されている。しかし、これまでの研究では、精神的健康や社会的決定要因がCVHとAPOとの関係にどのような影響を与えるかは十分に検討されていない。このような背景から、著者らは日本人妊婦を対象に、LE8を用いて評価したCVHがAPOに及ぼす影響を評価する前向きコホート研究を実施した。さらに、心理的ストレス、社会的孤立、および収入における影響が加わることで生じる変化についても検討した。 本研究では、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査に参加した妊婦1万4,930人のデータを解析した。妊娠中のCVHの状態はLE8の8つの項目(食習慣・身体活動・喫煙・睡眠・Body mass index・血清脂質・血糖・血圧)を用いて評価した。APOは、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、在胎不当過小児を含む複合アウトカムと定義した。 研究参加者のCVHを評価した結果、「高」が2,891人(19.4%)、「中等度」が1万1,498人(77.0%)、「低」が541人(3.6%)だった。そのうちAPOを発症した妊婦は、CVHが「高」、「中等度」、「低」の妊婦でそれぞれ、380人(13.1%)、1,772人(15.4%)、162人(29.9%)含まれた。「高」CVHを基準としたロバスト誤差分散を用いたポアソン回帰分析では、「中等度」CVH(相対リスク〔RR〕1.15、95%信頼区間〔CI〕1.03~1.28)および「低」CVH(RR 2.14、95%CI1.78~2.58)がAPOと関連していた(P<0.001〔傾向検定〕)。 心理的ストレス、社会的孤立、収入のサブグループ解析では、社会的孤立を報告した参加者においては、CVHレベルの低さがAPOとより強く関連することが示されたが、相互作用は統計的に有意ではなかった(P=0.247)。「低」CVHの妊婦のうち、社会的孤立を報告していた妊婦では、報告しなかった妊婦よりも出産時のAPOの有病率が高かった(36.4% vs. 27.4%)。この傾向は「高」CVHの妊婦では認められなかった(13.6% vs. 13.1%)。 本研究について著者らは、「今回の研究では、CVHレベルの低さとAPOの有病率の間に正の関連が認められた。また、社会的孤立を感じている妊婦では、そうでない妊婦と比較して、CVHレベルの低さとAPOとの関連が顕著であることが示された。これらの結果は、LE8がAPOのリスク評価に有用である可能性を示唆するとともに、社会的孤立を感じている低CVHの妊婦に対する支援策の必要性を示している」と述べている。 本研究は先行研究の約5倍の症例数が含まれているが、限界点として、CVH計測のタイミングが参加者間で異なっていたこと、妊娠経過が妊娠中の行動に影響を与えていた可能性があることなどを挙げている。

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周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第8回

Q8 周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?周術期の予防的抗菌薬について教えてください。 術創と離れた場所から耐性菌が検出されている患者、たとえば「膀胱留置カテーテルからMRSAが分離されているが、尿路感染ではなく、頸部の手術を予定している」ような場合に、予防的抗菌薬はセファゾリン系以外に抗MRSA薬を選択すべきでしょうか?

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発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(1)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第6回

発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(1)Question心電図波形(1)~(4)は、次の選択肢のなかでどの頻脈性不整脈の可能性があるでしょうか?選択肢:心房頻拍、心房粗動、房室回帰性頻拍(AVRT)、房室結節回帰性頻拍(AVNRT)画像を拡大する

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第273回  国立大学病院、42病院中29病院が赤字と発表、文科省「今後の医学教育の在り方」検討会と厚労省「特定機能病院あり方検討会」の取りまとめから見えてくる大学病院“統廃合”の現実味(前編)

参院選、与党惨敗で社会保障政策が大混迷の時代へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。参議院選挙で自民、公明の与党は非改選を合わせても参院全体の過半数(125議席)を割り込む大敗を喫し、衆院に続き参院でも少数与党となりました。野党各党が公約に掲げた消費税減税や歳出拡大が実現する可能性が強まり、財政健全化はこれまで以上に遠のきそうです。仮に消費税減税が行われれば、医療をはじめとする社会保障への影響は甚大です。石破 茂首相は20日夜のNHK番組で消費税について「社会保障がこれから先、ますます重要になってくる。それを支える貴重な財源である」と強調したとのことですが、消費税減税の圧力に耐えることができるかどうか……。社会保障でもう1点気になるのは「子ども・子育て支援金」です。少子化対策の財源で、2026年度から医療保険料に上乗せして徴収が始まります。岸田 文雄前首相時代、2023年末に閣議決定された「こども未来戦略」に基づく政策で、2028年度時点で年3.6兆円が少子化対策に割かれる予定です。そのうち支援金で1.0兆円を賄われる計画ですが、政府は、一部高齢者の窓口負担の見直しなどで保険料の上昇を抑えることで実質的な負担増にはならないと説いてきました。その「子ども・子育て支援金」について、立憲民主党、国民民主党などが廃止を訴えています。仮に廃止となればこの部分でも財源が足りなくなり、社会保障費の圧縮は夢のまた夢となってしまいます。この他、本連載の「第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(後編) 『OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し』に強い反対の声上がるも、『セルフメディケーション=危険』と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?」などで度々書いてきた、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」に盛り込まれたOTC類似薬の見直しや病床削減についても、与党惨敗で今後の展開(厳格に進めるのか、当面はゆるゆるでお茶を濁すのか)が読めません。2026年度診療報酬改定を含めた来年度予算編成や、今後の医療政策の行方を注視したいと思います。全国42国立大学病院、経常損益の合計額は過去最大の285億円のマイナスさて、昨今、ありとあらゆる種類の病院の経営が苦しいという報道ばかりですが、日本の高度医療を牽引してきた国立大学病院もその例に漏れません。国立大学病院長会議は7月9日、全国にある国立大病院の2024年度の決算(速報値)を発表しました。それによると、全国42国立大学病院のうち、減価償却などの費用を含む2024年度経常損益では29病院が赤字となったことがわかりました。42大学の経常損益の合計額は過去最大の285億円のマイナスとなりました。収益面では対前年度比547億円の増収を確保したものの、費用は対前年度比772億円増加となり、経常損益は前年度実績のマイナス60億円から大幅に悪化しました。日経メディカルなどの報道によれば、記者会見で大鳥 精司会長(千葉大学医学部附属病院長)はいわゆる「増収減益」傾向となっている理由について、「23年度途中のコロナ補助金の廃止、働き方改革対応による人件費増加、急激な物価高騰の影響」を挙げたとのことです。2018年度と比べると、2024年度は医薬品費が45%増、診療材料費が28%増だったほか、水道光熱費が39%増、委託費が34%増、人件費が16%増など、コストが増えていました。大鳥会長はまた、国立大学病院は人件費負担が増えているものの、ほかの病院と比べて医師の給与水準が低いことを紹介。国立大学病院で働く教授クラスの2023年度の年間給与(給与+賞与)は国立独立行政法人病院群の医師と比べて596万円低く、医員クラスでは736万円低かったとしました。その一方で国立大学病院は、医療費率(医薬品費+給食用材料費+診療材料費・医療消耗器具備品費を医業収益で割って算出)が42%とほかの医療機関に比べて高い(医療機関全体の医療費率は22.1%)点も指摘、高度治療に必要な医薬品と治療材料の高額化が経営に深刻な影響を及ぼしている、としました。以上を踏まえ、大鳥会長は「赤字病院が大半を占め、とくに大きいところではマイナス60億円以上と非常に危機的な状況だ。国立病院であってもこのまま支援がなければ間違いなく潰れる」と述べ、補正予算での措置や診療報酬上の手当てを強く求めたとのことです。病床稼働率増、手術件数増、人間ドック事業開始など涙ぐましい経営努力の赤字国立大学病院こうした厳しい状況下の国立大学病院の経営戦略を、日経メディカルは「大学病院クライシス 再生の一手」と題するPDF版記事(週刊日経メディカル2025年7月11日号)で特集しています。同記事によれば、国立大学病院の中で最も赤字額が大きかった東京科学大学病院は、「病床稼働率を90%まで高め、在院日数を短縮することで入院患者の単価を上げ、年間9億9,000万円の増益につなげ」るとともに、カテーテルアブレーションの治療枠を増やす、手術室を増設して手術件数を増やすなどの対策を取っているとしています。また、同じく赤字に直面する筑波大学附属病院は、算定漏れの加算を見直したり、やはり病床稼働率を90%まで上げたり、医療機器の更新頻度の見直し、清掃委託費の見直しなどを行っているとしています。このほか、千葉大学医学部附属病院が新しい収益源として2026年度を目標に人間ドック事業を計画していることや、2024年度に赤字転落した東北大学病院は手術枠を増やすことで収入増を目指していることなどが紹介されています。文科省「大学病院改革ガイドライン」で大学病院に「改革プラン」の策定を求める国立大学病院の経営が苦しいのはわかりますが、個々の病院が位置する地域の実情や医療需要などをさておいて、全体として苦しいので「診療報酬で手当てしてくれ」と国立大学病院長会議が要望するのは少々乱暴に思えます。そして、個々の国立大学病院が、病床稼働率の向上や、手術件数の増加など、大学病院に限らずどこの病院でも取り組んでいる当たり前の手段(人間ドックなどはどちらかと言えば古典的な手段)、いわば“正攻法”でしか攻めようがないのももどかしいところです。文部科学省は2024年3月に「大学病院改革ガイドライン」を策定、国立・私立ともに今後9年間に取り組む「改革プラン」の策定を各大学に求めました。2024年4月スタートの医師の働き方改革を受けたもので、 運営改革、教育・研究改革、診療改革、財務・経営改革の4つの視点で大学病院改革プランを策定するよう求め、各大学病院は2024年6月までにプランを策定済みです。ちなみに、公立病院の経営危機が叫ばれ始めた2007年12月、総務省は「公立病院改革ガイドライン」を策定、全国の公立病院に経営改善を求めましたが、その後も経営悪化を止められず、ガイドラインも度々の改訂を迫られ現在に至っています。「大学病院改革ガイドライン」もその例に倣ったものと思われますが、「大学病院の自主性・自律性」を重んじている点や、進捗状況の確認が4年目の2027年度となっている点など、まだまだ甘さが残る内容です。「全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」と文科省検討会というわけで、しっかりと改革プランを策定しているはずなのに、改革どころか「増収減益」傾向から脱することができない国立大学病院の状況は、働き方改革と昨今の物価高のダメージが想定外の大きさだったことが影響しているのでしょう(あと、コロナ補助金で一時的に経営がよくなり、少々浮かれた面もあったかもしれません)。こうした状況で病床稼働率、手術件数の増加を目指すのはいいですが、ますます医師が研究離れをせざるを得なくなるのではないでしょうか?また、今後は人口減と共に患者減も続くのですから、病床稼働率、手術件数の増加でいつまでも対応できるとは思えません。そんな中、文科省は7月14日、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」による「第三次取りまとめ」を公表しました。取りまとめでは、現在、大学病院が抱える課題として、危機的な経営状況にある点や、すべての大学病院が教育・研究・診療に最大限取り組むことには限界がある点、地域医療構想の推進に向けて組織的かつ主体的な取り組みが求められる点などを挙げています。そして、「様々な環境の変化によって、全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」と、なかなか微妙な表現で、大学病院の未来についても言及しています。時期を同じくして厚労省では「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」が開かれており、こちらもまもなく取りまとめが公表される予定です。これらからうっすらと見えてくるのは、公立病院改革でも強力に推進されてきた病院の“統廃合”です。(この項続く)

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