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加糖飲料を毎日摂取、肝がんリスク・肝疾患による死亡を増大/JAMA

 閉経後女性において、砂糖入り飲料の1日1杯以上摂取者は1ヵ月3杯以下の摂取者と比べ、肝がん罹患率および慢性肝疾患死亡率が高率であることが示された。一方で人工甘味料入り飲料の摂取量については、両リスク共に増大はみられなかったという。米国・サウスカロライナ大学のLonggang Zhao氏らが、約10万人規模の50~79歳の閉経後女性からなる前向きコホートを追跡し明らかにした。米国では成人の約65%が砂糖入り飲料を毎日摂取しているという。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究で今回示された所見を確認し、その関連性について生物学的経路を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA誌2023年8月8日号掲載の報告。肝がんと慢性肝疾患死亡の発生率を比較 研究グループは米国40ヵ所の臨床施設で、1993~98年にWomen's Health Initiativeに登録された50~79歳の閉経後女性9万8,786例からなる前向きコホートを、2020年3月1日まで追跡した。砂糖入り飲料、人工甘味料入り飲料の摂取と、肝がん罹患率および慢性肝疾患死亡率との関連を調べた。 砂糖入り飲料摂取は、ベースラインで行った食品摂取頻度質問票で評価し、通常のソフトドリンクとフルーツドリンク(フルーツジュースは含まない)の合計で定義した。人工甘味料入り飲料摂取は、3年フォローアップ時に測定が行われた。 主要アウトカムは、(1)肝がん罹患率、(2)慢性肝疾(非アルコール性脂肪性肝疾患[NAFLD]、肝線維症、肝硬変、アルコール性肝疾患、慢性肝炎で定義)による死亡だった。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、肝がん罹患率と慢性肝疾患死亡率に関するハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出。人口統計学的因子およびライフスタイル因子などの潜在的な交絡因子は補正した。追跡期間中央値20.9年、6.8%が1日1杯以上の砂糖入り飲料を摂取 追跡期間中央値20.9年間において、207例が肝がんを呈し、148例が慢性肝疾患で死亡した。ベースラインでは被験者の6.8%が1日に1杯以上の砂糖入り飲料を摂取しており、3年フォローアップ時では13.1%が1日1杯以上の人工甘味料入り飲料を摂取していた。 砂糖入り飲料摂取量が1日1杯以上の人は同摂取量が1ヵ月3杯以下の人と比べて、肝がんリスク(18.0 vs.10.3/10万人年[傾向のp=0.02]、補正後HR:1.85[95%CI:1.16~2.96]、p=0.01)、慢性肝疾患死リスク(17.7 vs7.1/10万人年[p<0.001]、1.68[1.03~2.75]、p=0.04)がいずれも有意に高かった。 一方で人工甘味料入り飲料摂取については、1日1杯以上の人は1ヵ月3杯以下の人と比べて、肝がんリスク(11.8 vs.10.2/10万人年[p=0.70]、補正後HR:1.17[95%CI:0.70~1.94]、p=0.55)、慢性肝疾患死亡リスク(7.1 vs.5.3/10万人年[p=0.32]、0.95[0.49~1.84]、p=0.88)のいずれも有意な増加がみられなかった。

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コロナ2価ワクチンのブースター接種、安全性が示される/BMJ

 50歳以上の成人において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する4回目ブースター接種ワクチンとしてのオミクロン株対応2価mRNAワクチンは、事前規定の27種の有害事象に関するリスク増大との関連は認められなかったことが、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らによる同国の50歳以上の接種者を対象に行った試験で示された。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。接種後28日間の27種の有害事象による病院受診率を評価 研究グループは2021年1月1日~2022年12月10日に、COVID-19ワクチンを3回接種した50歳以上の成人222万5,567人を対象とするコホート試験を行った。 主要アウトカムは、オミクロン株対応2価mRNAワクチンの4回目ブースター接種後28日間(主要リスク期間)の27種の有害事象による病院受診率で、同ワクチン3回目あるいは4回目接種後29日以降(参照期間)の同受診率と比較した。27種の有害アウトカムいずれも増大せず 2価mRNAワクチンの4回目接種者は、174万417人(平均年齢67.8[SD 10.7]歳)だった。 2価mRNAワクチンの4回目接種は、参照期間と比較して、主要リスク期間の全27種の有害アウトカムの統計学的に有意な増大と関連していなかった。たとえば、虚血性心イベントの発生件数は、主要リスク期間で672件、参照期間では9,992件で、発生率比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.87~1.04)だった。 年齢や性別、ワクチンタイプに基づく解析や、別の解析手法を用いた場合でも、同様の結果が得られた。 ただし事後分析で、心筋炎のリスクが検出されたが(女性被験者では統計学的に有意に関連)、発現はまれで少数の症例に基づく所見だった。また、脳梗塞リスクの増大はみられなかった(主要リスク期間644件vs.参照期間9,687件、発生率比:0.95、95%CI:0.87~1.05)。

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統合失調症薬物治療ガイドラインの順守と治療成績との関係~EGUIDEプロジェクト

 臨床医が統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守することは、患者の良好なアウトカムにとって重要である。しかし、ガイドラインの順守が患者の治療アウトカムと関連しているかどうかは明らかではない。東京慈恵会医科大学の小高 文聰氏らは、統合失調症薬物療法ガイドラインへの適合度を可視化するツールindividual fitness score(IFS)計算式を開発し、統合失調症患者におけるIFS値と精神症状との関連を調査した。その結果、IFS計算式で評価した統合失調症薬物治療ガイドラインの推奨事項を順守する取り組みは、統合失調症患者の臨床アウトカム改善につながる可能性が示唆された。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2023年6月29日号の報告。 治療抵抗性統合失調症(TRS)患者47例と非TRS患者353例を対象に、IFS計算式を用いて、現在の処方がガイドラインの推奨事項に準拠しているかを評価した。IFS値と陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアおよび5つの下位尺度のスコア(陽性症状、陰性症状、思考解体/認知、敵意/興奮、不安/抑うつ)との関連を調査した。さらに、一部の患者(77例)については、2年にわたる長期的なIFS値と精神症状それぞれの変化の関連も調査した。 主な結果は以下のとおり。・全体の統合失調症患者(400例)において、IFS値とPANSS合計スコアとの間に有意な負の相関が認められた(β=-0.18、p=0.000098)。・非TRS患者(Spearman's rho=-0.15、p=0.0044)およびTRS患者(rho=-0.37、p=0.011)のいずれにおいても、IFS値とPANSS合計スコアとの有意な負の相関が確認された。・また、非TRS患者およびTRS患者のいずれにおいても、IFS値と陰性症状、抑うつスコアなどのいくつかの因子との間に、負の相関が確認された(各々、p<0.05)。・IFS値の変化は、PANSS合計スコアおよび陽性症状、抑うつスコアの変化と負の相関が認められた(p<0.05)。

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臨床試験の結果が非有意のときは尤度比を活用してみましょう(解説:折笠秀樹氏)

 結果の信ぴょう性はよく統計学的有意性で判定します。つまり、結果のP値が0.05(5%)より小さければ統計学的有意と判定します。これはネイマン・ピアソン流の方法です。もう1つの流派にベイズ流というのがあります。ベイズ流ではP値の代わりに、尤度比(ベイズ流ではベイズ因子と呼ぶ)を用います。本論文は、この尤度比を使えば、とりわけ非有意の結果の程度がつかめることを示しました。 差がないという仮説(帰無仮説HN)と、差があるという仮説(対立仮説HA)があるとします。HNの可能性をHAの可能性で割った値、それが尤度比(LR)です。LR=1であれば、どちらも五分五分、LR<1ならHAの可能性のほうが高く、LR>1ならHNの可能性が高いわけです。臨床試験の結果数字から、このLRは算出できます。Web上に電卓も用意されています(https://medresearch.shinyapps.io/Bayesian_re-analysis/)。結果指標は、比(ハザード比など)でも差(平均差など)でも大丈夫です。 169件の非有意だった臨床試験で計算してみたようです。その結果、LR<1が15件(8.9%)もありました。結果は非有意なのに、LR値からは差があると思われたのです。それはなぜかというと、結果は差ありの方向だが、症例数不足で非有意になったと想像されます。 P=0.5とP=0.1の結果がどれだけ違うのか、正直よくわかりません。この尤度比を使うと、差はないのか、それとも差はあるのか、どちらがもっともらしいかがわかります。尤度比LRは(差なし÷差あり)の可能性の比なので、LR=1,000だと差なしの可能性が1,000倍も高く、まったく見込みなしとわかります。LR=10であれば、わずか10倍高いだけなので、惜しい結果だとわかります。先験研究なども加味すると、差があるというのが正しいかもしれないとも考えられるのです。この先験情報(事前情報ともいいます)を加味できるのも、ベイズ流の特徴です。ちなみに、先験情報では90%の差はあるだろうということなら、LR=10でも結果は五分五分という計算になります。まだ見捨てるのは早いわけです。 この尤度比ですが、通常のP値とはほとんど関係ないことも示されました。解釈が難しいP値に代わるこの尤度比ですが、とくに非有意の結果のとき、活用の余地があると思います。先験情報を加味してもこの結果では先に進めそうもないのか、それとも先へ進めてよいか、これを判断する一助となるのです。

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第174回 兵庫で起こった2つの“事件”を考察する(後編) 300床・三田市民病院と268床・済生会兵庫県病院の再編・統合計画の“白紙撤回”は撤回するのが正解か?

三田市民病院の神戸移転を“白紙撤回”と訴えた候補が新市長にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、大学時代の山仲間と、久しぶりに北アルプスに行って来ました。百名山ハンターの仲間が、まだ立山(雄山)を登っていないというので付き合ったのです。普通に室堂バスターミナルから日帰りで登ったのでは芸がないので、黒部ダム湖畔から御山谷を遡行することにしました。沢中テント一泊の沢登りです。滝がないのはラッキーでしたが、激しい夕立の中での源流部の沢遡行は、コロナで足腰が弱ってしまった中高年には相当堪えました。2日目、一の越山荘に到着すると雄山はすごい人でした。日本人だけではなく、外国人の登山者も結構いました。室堂バスターミナルや雷鳥沢キャンプ場から眺める雄大な風景(氷河の跡も見られる)は、個人的には世界に誇れるものだと思います。日本の山を登りたいという外国人には、激混みかつ単調でつまらない富士山登山よりも、雷鳥沢をベースに、雄山から別山(剱岳が間近に見えます)までをぐるっと縦走するコースを私なら薦めます。さて、先週に引き続き、今回も7月に兵庫県で起こったある“事件”を取り上げます。前回は神戸市垂水区にある医療法人徳洲会・神戸徳洲会病院で起こったカテーテル事故について書きました。今回は神戸市の北に隣接する、三田市で起こったもう一つの“事件”、三田市民病院と済生会兵庫県病院の再編・統合計画が白紙撤回になるかもしれない、という問題について書いてみたいと思います。「病院は三田市内に」という時代遅れとも言える市民のこだわりが勝つ7月23日に行われた兵庫県の三田市長選で、政党や団体の支援を受けなかった元銀行員の田村 克也氏(57)が、対立候補の無所属現職、無所属新人を破って初当選しました。市長選の最大の争点は三田市民病院の再編・統合問題でした。経営状態の悪化や施設の老朽化などから、三田市民病院と神戸市北区にある済生会兵庫県病院を統合して、神戸市側に新しい病院を建設する計画が進んでいたのですが、「市民病院の神戸移転は白紙撤回」と訴えた田村氏が当選したことで、計画の全面見直しの可能性が出てきました。交付税をしこたま使い、済生会のお金も使い、しかも今よりも充実した体制、設備の病院ができるはずだったのに、「病院は三田市内に」という時代遅れとも言える市民のこだわりが勝ってしまいました。果たしてこれは正しい選択だったのでしょうか…。選挙後、「再編・統合は必要」と話した神戸市長に対し三田市民が激怒と、ここまでは先週書いた話ですが、早速“場外乱闘”が始まっていました。8月8日付のNHKの報道では、同日に田村市長が初登庁し、争点となった三田市民病院と済生会兵庫県病院の再編・統合計画について、「複数の関係者と協定を結んでいる関係上、三田市単体でできることとできないことがある。白紙撤回に至る前に、まずは関係者に会い、どの部分を白紙撤回するのか含めて改めて報告する」と述べたとのことです。記者団から「白紙撤回」という公約から後退したのではないか、との質問が出ましたが、「公約がトーンダウンしたということはない。公約は変わらない」と述べたとのことです。関係する予算については今後執行するものは凍結する考えも示しました。一方、8月9日付のサンテレビニュースは、田村市長が当選したことを受けて、神戸市の久元 喜造市長が、7月28日の定例記者会見で「再編・統合は必要」と改めて指摘したことについて、三田市民が激怒したというニュースを報じています。三田市民病院の存続を求める「三田市民病院をまもる会」など3つの市民団体は9日、「三田市政への介入的発言を撤回するよう」申し入れ書を神戸市に提出したとのことです。申し入れ書は「神戸市長が三田市の地域医療の基本政策に関わる内容に介入する発言は許されない」などとし、久元市長に発言の撤回と市民への謝罪を要求しています。「単独では将来に渡って急性期医療の提供が困難であると考え」た済生会兵庫県病院三田市民病院と済生会兵庫県病院の再編統合が“決定”するまでの経緯については、三田市、神戸市、済生会兵庫県病院、それぞれのWebサイトに詳しく書かれています。三田市立の三田市民病院(300床)は毎年度10億円前後の医業収支赤字が続いており、老朽化に加え医師確保難など、さまざまな経営課題を抱えていました。三田市は2017年12月に「市民病院の継続的な経営に関する審議会」を設置、経営の現状と課題の整理に取り掛かりました。再編・統合に向けての議論の実質的なスタートです。一方、済生会兵庫県病院(268床)で再編・統合の検討が開始されたのは、今から3年前の2020年8月でした。背景には、三田市民病院と同様、病院の老朽化や経営状況(入院・外来患者減)がありました。同病院での検討の結果、「人口減少、少子高齢化の進展、医師の継続的な確保への懸念、築30年を経過した現病院の建て替えなど様々な課題について整理し、将来の方向性を院内で検討しました。結果、当院単独では将来に渡って急性期医療の提供が困難であると考え、地域医療を守るため、神戸市の協力を得ながら、三田市民病院との統合を目指すことを決定」(同病院Webサイトより)したとのことです。「北神・三田地域の急性期医療の確保に関する検討委員会」は「統合が最善の方策である」と結論その後、神戸市と三田市は、2021年6月に「北神・三田地域の急性期医療の確保に関する検討委員会」を設置、再編統合に向けての議論を本格化させました。2022年3月には、「将来的にこの地域の急性期医療を確保するためには、済生会兵庫県病院と三田市民病院の統合が最善の方策である」という趣旨の最終報告書が取りまとめられました。報告書には、新病院の場所について「その際には、現在の利用者にとって交通アクセスの利便性が生じるため、両病院の中間地点が望ましい」と書かれていました。2022年6月には神戸市、三田市、済生会の三者合意に至りました。その主な内容は、新病院設置者:三田市新病院運営者:済生会兵庫県病院(指定管理方式)病床規模:400床~450床建設場所:両病院の中間地点付近(神戸市域)整備費・運営費の負担スキーム今後の想定スケジュールというものでした。整備費については、三田市が再編統合新病院の整備費の3分の2を、社会福祉法人恩賜財団済生会支部兵庫県済生会が3分の1を負担することになりました。ただ、三田市については総務省の公立病院の再編・ネットワーク化に関する病院事業債(特別分)の措置に該当するため、整備費全体の約40%について普通交付税措置となる予定とされました。再編・統合後の新病院の用地確保は神戸市が行い、運営費については運営者が済生会兵庫県病院となるため、概ね済生会が負担することとなりました。その後、選挙約4ヵ月前の2023年3月には済生会兵庫県病院、神戸市、三田市、三田市民病院の四者で基本協定書の締結が行われています。三田市は整備費全体の約4割を負担するだけ、運営管理も委託する計画元々経営状態の悪い300床と268床の急性期病院が統合し、病床を減らして400床~450床クラスになる、というのはとても理に適った選択だと言えます。整備費も割安です。三田市の立場に立てば、済生会が3分の1を出してくれることに加え、公立病院の再編・ネットワーク化に該当するため、三田市が負担する整備費全体の約40%については普通交付税措置となります。つまり、三田市は整備費全体の約4割を負担するだけで新しい病院を持つことができるのです。さらに、済生会兵庫県病院が指定管理者になり、管理運営も担当してくれるのですからこんなうまい話はありません。医師確保や病院経営は丸投げで、市民の健康を守れるからです。気になるのは病院が神戸市にできることぐらいでしょうか。しかし、今どきの病院の再編・統合では、少々の距離的不便には目をつぶるのが当たり前です。三田市民にとって少し遠くはなりますが、それでもドクターヘリを飛ばすほどの遠さではありません(三田市民病院と済生会兵庫県病院は直線距離で9.4km、新病院はその中間あたりに建てる計画だそうです)。市の財政についてきちんと理解しようとしない地域住民のエゴ?三田市としては、赤字垂れ流しの病院経営から脱却できる、まさに渡りに船の計画だと言えるのではないでしょうか。しかし、病院経営の実情にはまだ疎い、再編・統合に反対する新市長の登場で、時代は逆戻りしそうな気配です。 「病院をおらが町に!」。そんな公約を掲げ、幾多の自治体で首長や議員が当選を果たし、多くの公立病院が作られて来ました。しかし、人口減、患者減、医師不足などによってその多くが赤字に陥っている状況です。公立病院を管轄する総務省は、公立病院の経営改革や、再編・統合を長年に渡って推し進めてきましたが、なかなか思うようには進んでいません。そこには政治家や行政のエゴもありますが、町や市の財政についてきちんと理解しようとしない地域住民のエゴも少なからず影響しているようです。仮に田村市長が白紙撤回を断行したところで、三田市に今の病院を再建し、医師を集め、そこそこの急性期医療を提供し続けていくだけの余力はあるのでしょうか。また、300床という今の中途半端な病床規模のままだとするなら、前回(第173回 兵庫で起こった2つの“事件”を考察する(前編) 神戸徳洲会病院カテーテル事故と「脳外科医 竹田くん」)も書いたように、慢性期、回復期の病院への転換を早晩余儀なくされるかもしれません。300床規模の急性期病院は、医師集めの面でも医業経営の面でも効率が悪過ぎます。“白紙撤回”を掲げて当選した田村市長は、1年以内には“白紙撤回”のさらなる撤回を余儀なくされる公算が大きいと思います。私は三田市、神戸市、済生会とはまったく利害関係はありませんが、統合こそが、三田市民や神戸市の北神地域の住民にとってベストの選択に思われます。

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ネモリズマブ、6~12歳のアトピー性皮膚炎にも有用

 ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎(AD)に伴うそう痒を有し、外用薬や経口抗ヒスタミン薬で効果不十分な6~12歳の小児患者にとって、新たな治療選択肢となる可能性が示された。いがらし皮膚科東五反田院長(前NTT東日本関東病院 皮膚科部長)の五十嵐 敦之氏らが、6~12歳の日本人AD患者を対象に行った第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。ヒト化抗IL-31受容体Aモノクローナル抗体ネモリズマブは、13歳以上のAD患者において外用薬との併用でそう痒を軽減し、QOLを改善することが示されていたが、13歳未満のAD患者における有効性および安全性に関するデータは不足していた。British Journal of Dermatology誌オンライン版2023年7月31日号掲載の報告。ネモリズマブによるそう痒の改善は投与2日目から観察された 研究グループは、ADに伴う中等度~重度のそう痒を有し、外用薬や経口抗ヒスタミン薬で効果不十分な6~12歳の日本人小児患者を対象とした試験を2020年9月より実施し、外用薬との併用投与によるネモリズマブの有効性と安全性を評価した。 被験者を1対1の割合で無作為にネモリズマブ30mgを投与する群(ネモリズマブ群)またはプラセボを投与する群(プラセボ群)に割り付け、4週ごとに投与し、16週間追跡比較した。 ネモリズマブの有効性の主要エンドポイントは、かゆみスコア(範囲:0~4、点数が高いほどそう痒が重度、3点以上を効果不十分と定義)の週平均値のベースライン時から16週時までの変化とした。ネモリズマブの有効性の副次エンドポイントは、そう痒(かゆみスコアのベースライン時から2週時までの変化、16週時における1点以下の達成率など)、AD指標(Eczema area and severity index[EASI]のベースライン時から16週時までの変化など)およびQOLであった。安全性は、有害事象および臨床検査値によって評価した。 ネモリズマブの有効性と安全性を評価した主な結果は以下のとおり。・合計で89例が無作為化され試験を完了した(ネモリズマブ群45例、プラセボ群44例)。・ベースライン時のネモリズマブ群とプラセボ群の患者特性は類似していた。被験者の平均年齢(標準偏差[SD])は9.1歳(1.9)、AD平均罹病期間(SD)は8.5年(2.7)であった。・かゆみスコアのベースライン時から16週時までの変化は、ネモリズマブ群-1.3点、プラセボ群-0.5点であり、ネモリズマブ群がプラセボ群と比較して有意に改善した(最小二乗平均差:-0.8、95%信頼区間[CI]:-1.1~-0.5、p<0.0001)。・ネモリズマブによるそう痒の改善は、投与2日目から観察された。・副次エンドポイントについても、ネモリズマブ群が良好であった。・投与中止に至った有害事象は報告されなかった。また、6~12歳のAD患者における安全性プロファイルは、13歳以上のAD患者におけるものと一貫していた。

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アルツハイマー病、早発型と遅発型の臨床的特徴の違い~メタ解析

 認知症で最も一般的な病態であるアルツハイマー病は、発症年齢による比較検討が多くの研究で行われているが、その違いは明らかになっていない。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのPaige Seath氏らは、アルツハイマー病の早発型(65歳未満、early-onset:EO-AD)と遅発型(65歳以上、late-onset:LO-AD)の臨床的特徴を比較するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、EO-AD患者はベースライン時の認知機能、認知機能低下速度、生存期間においてLO-AD患者と異なる特徴を有しているが、それ以外の臨床的特徴は同様であることが示唆された。International Psychogeriatrics誌オンライン版2023年7月11日号の報告。 Medline、Embase、PsycINFO、CINAHLのデータベースをシステマティックに検索し、EO-AD患者とLO-AD患者における診断までの時間、認知機能スコア、1年当たりの認知機能低下、ADL、神経精神症状、QOL、生存期間を比較した研究を抽出した。変量効果モデルを用いた逆分散法により、各アウトカムへの全体的な影響の推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には42研究(EO-AD:5,544例、LO-AD:1万6,042例)を含めた。・EO-AD患者は、LO-AD患者と比較し、ベースライン時の認知機能が著しく低く、認知機能低下の速度が速かったが、生存期間は長かった。・EO-AD患者は、発症から診断までの期間、ADL、神経精神症状について、LO-AD患者との違いは認められなかった。・EO-AD患者とLO-AD患者のQOLの違いへの全体的な影響の推定には、データが不十分であった。 結果を踏まえて著者は、「アルツハイマー病における発症年齢の影響をより理解するため、臨床症状に焦点を当てた標準化された質問票を用いた大規模研究が必要である」としている。

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成人の胸腺摘出、全死亡・がんリスクが増加/NEJM

 胸腺摘出を受けた患者は摘出を受けなかった対照群よりも、全死因死亡およびがんリスクが高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKameron A. Kooshesh氏らによる検討で示された。また、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を除外した解析では、胸腺摘出は自己免疫疾患のリスクを増大すると思われる関連性もみられたという。成人における胸腺の機能は明らかになっていないが、さまざまな外科手術でルーチンに摘出が行われている。研究グループは、成人の胸腺は、免疫機能と全般的な健康の維持に必要であるとの仮説を立て、疫学的・臨床的・免疫学的解析評価で検証した。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。胸腺摘出vs.非摘出の死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価 研究グループは、胸腺摘出術を受けた成人患者と人口統計学的にマッチさせた胸腺摘出術を受けずに類似の心臓胸部手術を受けた成人患者を比較し、死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価した。患者サブグループで、T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度も比較した。 Mass General Brigham(MGB)Research Patient Data Registryを用いて、1993年1月1日~2020年3月1日にマサチューセッツ総合病院で胸腺摘出術を受けた全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、また術後5年以内に非腹腔鏡下心臓手術を受けた患者は除外した(胸腺摘出群)。同様に2000年1月1日~2019年12月31日に非腹腔鏡下で心臓手術を受けた胸腺摘出術歴のない全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、術前心不全を呈した患者、術後5年以内に2度目の心臓手術を受けた患者は除外した(対照群)。 データは2022年3月1日まで収集された。死亡の相対リスク2.9倍、がん相対リスク2.0倍 レジストリの探索で、胸腺摘出群1,470例、対照群1万6,679例が特定され、除外後にそれぞれ1,420例と6,021例が試験に包含された。このうち主要コホートは、対照とのマッチが少なくとも1つ以上あった胸腺摘出群1,146例(81%)と、その年齢・人種・性別でマッチさせた対照群1,146例で構成された。 術後5年時点で、全死因死亡率は胸腺摘出群(8.1%)が対照群(2.8%)より2倍超高く(相対リスク:2.9[95%信頼区間[CI]:1.7~4.8]、p<0.001)、がんリスクも同様に胸腺摘出群(7.4%)が対照群(3.7%)より高かった(2.0[1.3~3.2])。自己免疫疾患リスクは、主要コホート全体では実質的な群間差は認められなかったが(1.1[0.8~1.4])、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を解析から除外すると、群間差が認められた(12.3% vs.7.9%、相対リスク:1.5[95%CI:1.02~2.2])。 追跡期間5年超の全患者(マッチした対象の有無を問わず)の解析では、全死因死亡率は、胸腺摘出群(9.0%)が米国一般集団(5.2%)よりも高く、がん死亡率も同様であった(2.3% vs.1.5%)。 T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度が測定された患者のサブグループ(胸腺摘出群22例、対照群19例、平均追跡期間14.2術後年[範囲:8~26])では、胸腺摘出群のほうが対照群よりもCD4+、CD8+リンパ球の新生量が少なかった。signal joint T-cell receptor excision circle(sjTREC)解析で測定した平均CD4+リンパ球数は、胸腺摘出群1,451/μg DNA vs.対照群526/μg DNAであり(p=0.009)、同平均CD8+リンパ球数はそれぞれ1,466/μg DNA vs.447/μg DNAであった(p<0.001)。血中の炎症性サイトカイン濃度も胸腺摘出群で高かった。

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双極I型障害のうつ再発予防の抗うつ薬、52週vs.8週/NEJM

 うつ病エピソードの寛解から間もない双極I型障害患者に、エスシタロプラムまたはbupropionの徐放性製剤(bupropion XL)による抗うつ薬の補助的投与を52週間継続しても、8週間の投与と比べて、あらゆる気分エピソードの再発予防について有意な有益性は得られなかった。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLakshmi N. Yatham氏らが、多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。双極I型障害患者の急性うつ病の治療には抗うつ薬が用いられるが、寛解後の維持療法としての抗うつ薬の効果については十分に検討されていなかった。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。エスシタロプラムまたはbupropion XLの補助的投与の継続戦略を評価 本試験では、カナダ、韓国、インドで、うつ病エピソードから寛解して間もない双極I型障害患者を対象に、気分安定薬または第2世代抗精神病薬(あるいは両薬)に加え、エスシタロプラムまたはbupropion XLを補助的に投与する継続戦略が評価された。 研究グループは被験者を、寛解後52週間抗うつ薬治療を継続する群(52週群)または寛解後抗うつ薬の使用を漸減して8週時点でプラセボに切り替える群(8週群)に、1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムはtime-to-event解析で評価したあらゆる気分エピソードで、軽躁(YMRSスコア16以上)、中等度うつ病(MADRSスコア20以上)、躁/うつ病(CGI-S-BDスコア4以上)、気分症状での入院、出現した気分症状に対する追加の薬物療法、MADRS自殺項目スコア4以上(スコア範囲:0~6、高スコアほど自殺リスクが高いことを示す)、自殺企図または自殺既遂で定義した。主要アウトカムイベントは、CGI-BD、YMRS、MADRSの各スコアと試験施設の研究者の評価に基づき、躁/軽躁、うつ病、混合型(躁/うつ)に分類された。 主な副次アウトカムは、躁/軽躁あるいはうつ病エピソードまでの期間などであった。 本試験は、2019年のCOVID-19パンデミックで被験者募集が低調となる中、研究費が使用期限を迎え、募集人員に達する前に打ち切りとなった。あらゆる気分エピソード、両群で有意差なし 2009~19年に計238例が適格性についての評価を受け、209例が非盲検治療フェーズに登録され、うつ病エピソードの治療としてエスシタロプラムまたはbupropion XLの補助的投与を受けた。このうちうつ病が寛解した150例と、追加で登録された27例の計177例が二重盲検フェーズに登録され、52週群に90例が、8週群に87例が割り付けられた。 52週時点で主要アウトカムイベントを有したのは、52週群28例(31%)、8週群40例(46%)で、52週群の8週群に対するあらゆる気分エピソードまでの期間に関するハザード比(HR)は0.68(95%信頼区間[CI]:0.43~1.10、log-rank検定のp=0.12)であった。 躁/軽躁のイベントは8週群の5例(6%)に対して52週群では11例(12%)が有し(HR:2.28、95%CI:0.86~6.08)、うつ病の再発は8週群35例(40%)に対して52週群は15例(17%)であった(0.43、0.25~0.75)。 有害事象の発現は、両群で同程度であった。 なお、著者は、被験者の募集が計画された規模となる前に終了したことや、被験者の大半がインドの施設で募集され、文化的・人種的および医療ケアシステムの違いから一般化可能性が低いことなどを挙げ、得られた所見は限定的だと述べている。

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機能性ディスペプシア、食物を見るだけで脳の負担に/川崎医大

 全人口の約10%が、機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩まされているとされ、不登校や休職など日常生活に支障を来すケースも多い。また、血液検査や内視鏡検査、CT検査などで異常が見つからず、病気であることが客観的に示されないために、周囲の人に苦しみが理解されにくいといった問題がある。精神的ストレスや脂肪分の多い食事が原因とされるものの、メカニズムの解明は進んでおらず、客観的診断法は確立されていない。そこで、川崎医科大学健康管理学教室の勝又 諒氏らは、FD患者、IBS患者に40枚の食物の画像を見せ、食物の嗜好性や脳血流の変化を調べた。その結果、FD患者は健康成人やIBS患者と比較して、脂肪分の多い食物を好まなかった。また、FD患者は、食物を見たときに左背側前頭前野の活動が亢進していた。本研究結果は、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2023年8月12日号で報告された。 FD患者(13例)、IBS患者(12例)、健康成人(16例)に、脂肪分の多い(こってりした)食物、脂肪分の少ない(あっさりした)食物、その中間の食物の画像を計40枚、7秒ずつ見せ、表示された食物に対する嗜好性を0~100点で評価させた。また、測定場所を選ばず容易に脳活動が測定でき、導入コストもMRIに比べて低い機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて、脳血流測定も実施した。 主な結果は以下のとおり。・全体の食物に対する嗜好性(平均値±標準偏差[SD])は、健康成人群69.1±3.3点であったのに対し、FD群54.8±3.8点、IBS群62.8±3.7点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。・脂肪分の多い(こってりした)食物に対する嗜好性(平均値±SD)は、健康成人群78.1±5.4点であったのに対し、FD群43.4±6.3点、IBS群64.7±6.1点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。脂肪分の少ない(あっさりした)食物、中間の食物については、3群間に有意差は認められなかった。・FD群は健康成人群およびIBS群と比較して、食物の画像を見たときに左背側前頭前野の脳活動が有意に亢進していた(平均Zスコア:健康成人群-0.077点、FD群0.125点、IBS群-0.002点、p<0.001)。 著者らは、本研究結果について「FD患者は脂肪分の多い食物を食べるとすぐに症状が誘発されることから、脂肪分の多い食物に対する苦手意識が生じていると考えられる。また、とくに左背側前頭前野で血流量が増加したことから、特定の食事後に腹痛を何度も経験したことで、どの食物の画像を見てもストレスを感じるようになったことが推定される」と考察している。また、今後の展望として「FD患者の脳には負担がかかっていることが広く認知されることで、これまで客観的な指標がなく、その苦しみが周囲に理解されにくかったFD患者が生きやすい環境作りに役立つことが期待される。さらに、食物の画像を見せ、脳血流を測定する客観的かつ簡便な方法は、臨床現場でFD患者を見分ける新たな診断法の開発につながることも期待される」とまとめた。

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オズウイルス感染症に気をつけろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、前回その1では、世界初のオズウイルス感染症の事例についてご紹介しました。症例を簡単に説明しますと、「茨城県在住の70代女性が、マダニ刺咬後に発熱を呈し、血小板減少、肝障害、腎障害、CK上昇、フェリチン高値、凝固障害などがみられ、最終的には心筋炎によると思われる心室細動で亡くなられてしまった」という事例でした。オズウイルスはどこにいるか?このオズウイルスですが、すでにヒトと動物について血清疫学調査が行われています1)。まず、2013~2019年にかけて山口県の猟師24人と野生動物240頭(ニホンザル40頭、イノシシ124頭、ニホンジカ76頭)から血清サンプルを採取し、猟師2人、そしてサル47.5%、イノシシ60.5%、ニホンジカ73.7%に中和抗体が確認されました。動物における陽性率の高さは驚きですね。そして、ヒトでも抗体陽性例がみつかっていることから、他にも診断されずに感染している事例が潜在しているものと推測されます。さらにこの研究では、確立したELISA法を用いて、他の都道府県のニホンザル、イノシシ、ニホンジカのオズウイルス感染も調査しています。2007~2019年に山口県、和歌山県、三重県、大分県、岐阜県、富山県、岐阜県、千葉県で捕獲された動物の血清陽性率は以下の通りでした。ニホンザル山口県47.5%、和歌山県33.3%、三重県6.3%イノシシ山口県55.8%、和歌山県34.8%、岐阜県10.5%、大分県10.3%、富山県・栃木県ともに0%ニホンジカ山口県37.8%、千葉県30%、和歌山県11.1%、岐阜県8.3%富山県、栃木県からはオズウイルスの抗体陽性の動物はみつかっていませんが、それ以外の山口県、和歌山県、三重県、岐阜県、大分県、千葉県からは割合の違いはあれど抗体陽性の動物がみつかっています。このことからは、オズウイルスは世界初の症例が報告された茨城県、そしてマダニからウイルスがみつかった愛媛県だけでなく、より広範囲に分布していると考えられます。また、元々ウイルスがみつかったマダニがタカサゴキララマダニというマダニであったことから、このタカサゴキララマダニの分布と同じく関東以南にオズウイルスも分布している可能性があります(基本的にマダニ媒介感染症の流行地域は、媒介するマダニの分布する地域に規定されます)。ということで、今後新たなオズウイルス感染症の症例がみつかる可能性は高いと考えられます。オズウイルスの検査に困ったらでは、「どのようなときにオズウイルス感染症を疑うか」について、アプローチとしては2つあると考えられます。1つはマダニ媒介感染症が疑われるけれども原因不明の場合、もう1つは原因不明の心筋炎を診た場合です。マダニ媒介感染症が疑われる場合(たとえばマダニ刺咬歴がある、フォーカス不明で肝障害を伴う発熱があるなど)は、その地域で流行しているマダニ媒介感染症、たとえばツツガムシ病、日本紅斑熱、SFTSなど保健所を介して地方衛生研究所で検査をしてもらいます。それでも診断がつかない場合は、オズウイルス感染症が鑑別に挙がってくるかもしれません。オズウイルスの検査は国立感染症研究所で行えるはずですが、お願いすれば全例検査をしてもらえるかはわかりません。参考までに、私忽那は、日本医療研究開発機構(AMED)の海老原班「新興ダニ媒介性ウイルス重症熱に対する総合的な対策スキームの構築」の分担研究において、ダニ媒介感染症が疑われるものの診断が不明な発熱患者の症例を集積し、新興ウイルスの検査や未知の病原体の探索をするためのレジストリを構築するプロジェクトを実施しています。研究班は国立感染症研究所の先生方と行っているものですので、このレジストリに登録していただき、オズウイルスの検査に回すというフローは可能ですので、疑わしい症例があればぜひ忽那までお問い合わせください。(お問い合わせ先アドレス:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp)基本的には「地方衛生研究所で検査できるマダニ媒介感染症が除外されている症例」が対象になります。時はマダニ戦国時代ッ!図2 日本国内のマダニからみつかっている新興ウイルス画像を拡大する(筆者作成)さて、オズウイルスが注目を集めていますが、実はオズウイルスだけでなく、他にもわが国にはマダニ媒介性ウイルス感染症が潜在しています。オズウイルスが、ヒトでの感染例が報告される前から存在が知られていたように、わが国のマダニから、まだヒトでの感染例が報告されていないウイルスがたくさんみつかっているのです。その1でも触れましたがSFTSの発見以降、ヒトでの感染例がみつかる前からマダニの持っているウイルスを先に調べるという手法が行われるようになりました。オズウイルス以外にも、日本国内のマダニからは、Tarumizu tick virus2)、Muko virus3)、Kabuto Mountain virus4)、Okutama tick virus5)、Mukawa virus6)などさまざまなウイルスがみつかっています。垂水…奥多摩…甲山(かぶとやま)…そう、これらはすべて日本の地名です。日本のいろんなところに、まだヒトでの感染例が報告されていないマダニ媒介ウイルス感染症が存在しているのです…ちなみにヒトでの病原性があるのかどうかについても現時点では不明です。もちろん、これ以外にも未知のマダニ媒介ウイルスも存在しているでしょう。原因不明の発熱疾患をみた場合に、こうしたマダニ媒介感染症の可能性についてもぜひ頭の片隅に置いておいていただけましたら幸いです。1)Tran NTB, et al. Emerg Infect Dis. 2022;28:436-439.2)Fujita R, et al. Virus Res. 2017;242:131-140.3)Ejiri H, et al. Arch Virol. 2015;160:2965-2977.4)Ejiri H, et al. Virus Res. 2018;244:252-261.5)Matsumoto N, et al. J Vet Med Sci. 2018;80:638-641.6)Matsuno K, et al. mSphere. 2018;3.

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英語で「難しい天秤です」は?【1分★医療英語】第93回

第93回 英語で「難しい天秤です」は?I wonder if we should stop anticoagulation given recent GI bleeding.(最近あった消化管出血を考えると、抗凝固薬をやめるべきなのか悩んでいます) It is a difficult balancing act between risks and benefits.(それはリスクとベネフィットの難しい天秤ですよね)《例文1》The decision to proceed with the surgery requires a careful balancing act.(手術に進むかの決断には注意深いバランスが必要です)《例文2》We need to think about a delicate balancing act between pain control and sedation.(疼痛コントロールと鎮静の間で繊細な天秤を考える必要があります)《解説》医療現場では、相反する2つの事実を天秤に掛け、バランスを取らなければならないことはしばしばです。治療の益と害、手術をすべきかどうか。そんなときに、「対立する2つの間でバランスを取らなければならない=難しい天秤に掛けなければならない」という状況に置かれます。そういった際、患者さんへの説明、あるいは医療者同士の議論の場で有用な表現が、この“balancing act”です。“balancing act”は、本来は「曲芸における綱渡り」を意味する言葉だそうです。綱渡りは、絶妙なバランスを取りながら綱の上を渡る曲芸。医療者にも医療上の絶妙なバランスを求められることがありますが、そのようなバランスを取って決断していくことを“balancing act”という言葉で表現し、「両立させること」「バランスを取ること」という意味を持ちます。たとえば、冒頭の会話のシチュエーションはこのような感じです。心房細動の既往があり、血栓症のリスクが高い患者に消化管出血が起こった。血栓のリスクも、出血のリスクも高く、今後の抗凝固薬をどうすべきか…。この血栓リスク、出血リスクの両者は難しい天秤だと思いますが、それらを慎重に測りながら、どこかに線引きをして決断をしなければなりません。そんなシチュエーションを表現するのに、この“It is a balancing act”は最適な表現です。一般英会話の教科書で見ることは少ないかもしれませんが、医療現場ではよく登場する表現ですので、そのまま覚えてしまうとよいでしょう。講師紹介

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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薬の中止・開始理由、紹介先が安心する書き方【紹介状の傾向と対策】第7回

<あるある傾向>この薬の服用している理由がわからない。この薬を中止して良いかわからない。<対策>紹介するときは、できるだけ薬の開始理由、減量・中止の可否を明記する多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。今回は「処方薬の継続要否、中止の可否は明記」についてお話したいと思います。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ筆者は患者さんが使用するすべての薬剤には、処方開始に至った症状や病名があると考えています。言い換えれば、紹介されてきた患者さんの処方内容は、紹介状の病名やプロブレム、既往歴から説明可能であるべきです。しかし、現実はそうではありません。しかし、患者さんが紹介されてきたとき、内服理由がわからないということは日常茶飯事です。しかも比較的に重要度の高い薬剤の服用理由がわからないこともあります。処方意図が不明なアスピリン先日、筆者に紹介されてきた70代後半の患者さんは、アスピリンを服用していました。しかし、冠動脈疾患の既往はなく、脳梗塞イベントや血管狭窄の既往も確認されませんでした。患者や家族に聴取しても服用理由はわかりませんでした。紹介元の病院にも問い合わせましたが、紹介元も処方理由は把握しておらず、アスピリンの服用が必要な既往歴は、確認できないとのことでした。血圧コントロールが良くない患者さんでしたので、そのままアスピリンを継続する際には、きちんとした血圧管理下で服用しなければ脳出血を助長する可能性も想定され、中止しても良いかどうかの判断に非常に困りました。このように処方理由がわからないことで、中止判断ができない薬剤もあります。紹介元やさらにその紹介元まで遡って問い合わせることは、多忙な医療現場では限界があるため、結局は、紹介されてきた患者さんの「薬をそのまま継続するのが無難」という判断になってしまうことが少なからずあります。その上、自身の病院で新たな処方をすることもあり、患者さんの使用薬剤が増えてしまう問題が生まれてしまいます。血圧に影響する薬、どれから減量するか…また、別の紹介患者さんのケースですが、心筋梗塞後の低心機能状態でした。紹介されてきたときから収縮期血圧は80台です。そして、ときどき70台にまで低下するようになりました。前医の処方には血圧降下に影響を与える薬剤5種類が処方されていたので、前医に問い合わせて、血圧を改善させるために減量や中止可能な薬剤と減量してほしくない薬剤を確認しました。このようなときも、すでに低血圧の状況を把握していた前医が、紹介状に薬剤の詳細を記載していれば、問い合わせは発生しなかったでしょう。その患者さんに生じうる状況を想定し、紹介状には「この状況のときは、この薬剤から中止・減量してください」と、薬剤に関する申し送りもきちんと書いておくことは、紹介された医師の負担軽減にとても有効だと考えます。ポリファーマーシーの問題が叫ばれるようになって久しいですが、本来は中止可能な薬剤を安心して中止できるようにするには、その薬剤が開始された経緯をわかっていることが一番重要です。そのためにも患者さんを他医に紹介し、その後の診療を依頼するときは、紹介状に薬剤の開始経緯と減量、中止の可否を明記し、その後に引き継いだ医師が適切な判断ができるように情報提供できることが望ましいです。

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第176回 バラなどの芳香と共に眠ることと記憶の改善が関連

バラなどの芳香と共に眠ることと記憶の改善が関連香りで嗅覚を刺激することで頭の働きがよくなることが先立つ試験で示されています。パーキンソン病患者70例が参加した試験では数種の香りを毎日しばし嗅ぐことで言語の流暢さが改善しました1)。50~84歳の成人91例の試験ではエッセンシャルオイル4種を毎日2回嗅ぐことで言語機能が改善し、うつ症状も緩和しました2)。認知機能低下の恐れがある高齢成人68例を募った試験では9つの香りを嗅ぐことと認知症症状の抑制の関連が示されています3)。認知症をすでに発症した患者の香りを豊かにすることも認知機能に有益なようです。認知症成人65例が参加した試験の結果、40種類の香りに毎日2回接することで記憶、うつ症状、注意、言語機能などが改善しました4)。早速実践に移せればよいですが、認知症の患者が平素に40種類の香りを毎日2回嗅ぐのはおそらく容易ではありません。認知症患者が40種類のボトルを毎日2回、すなわち80回も手にとって開け閉めして嗅ぐことはおよそ非現実的ですし、認知症でなくとも手に負えるものではなさそうです。そのような込み入った手段だと長続きしません。普段の生活の中で続けてもらうにはできるだけ容易な手段にする必要があります。そこで考え出されたのがよい香りと共に眠るというおよそ苦もなく実践できそうな手段です。香りの種類もせいぜい数種類に限定しました。それらの香りを1つずつ順繰りに毎晩寝るときに部屋に漂わせる効果を少人数の試験で検討したところ願ったりかなったりの結果が得られました。試験には記憶が損なわれていない60~85歳の男女43例が参加し、よい香りと共に眠る群とそうでない対照群に無作為に振り分けられました。よい香りと共に眠る群の20例は芳香油を2時間拡散させて眠ることを毎晩繰り返しました。同様の日課を対照群の23例は実質的に香りがしない蒸留水を使って繰り返しました。芳香は7種類で、バラ、オレンジ、ユーカリ、レモン、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダーの芳香油が1つずつ毎晩順繰りに使われました。半年をそうして過ごしたところ、よい香りと共に眠る群では言語の学習や記憶の検査であるRey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT)成績が向上しました5)。対照群のRAVLT成績は逆に悪化しました。また、老化やアルツハイマー病で支障を来す脳領域である鉤状束の機能の改善が画像検査で示されました。香りを豊かにすることは脳の調子を改善する効果的で手軽な方法となりうるようであり、より大人数の試験でその効果の検討が進むことを著者は望んでいます。どうやら香りの効果は多岐にわたり、高齢者や認知機能に限ったものではなさそうです。最近発表された試験結果ではペパーミント油の香りが心臓手術後の患者の痛みを和らげ、睡眠の質を改善したことが示されています6)。ペパーミント油の主成分であるカルボン、リモネン、メンソールが痛み緩和効果の多くを担うようであり、ペパーミントの香りを漂わせるアロマセラピーを手術後に施すことを著者は勧めています。さかのぼること20年ほど前に発表された試験結果では早産児の無呼吸を減らすバニラの香り(バニリン)の効果が認められています7)。参考1)Haehner A, et al. PLoS One. 2013;8:e61680.2)Birte-Antina W, et al. J Geriatr Psychiatry Neurol. 2017;33:212-220.3)Oleszkiewicz A, et al. Behav Neurosci. 2021;135:732-740.4)Cha H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2022;22:5-11.5)Woo CC, et al. Front Neurosci. 2023;17:1200448.6)Maghami M, et al. BMJ Support Palliat Care. 2023 Aug 3. [Epub ahead of print] 7)Marlier L, et al. Pediatrics. 2005;115:83-88.

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国試対策はいつから始めればよいのでしょうか【医学生お悩み相談ラヂオ】第4回

動画解説第4回は、医学部4年の女性からの「国試対策」に関するお悩み。医学生全体的に国試対策を始める時期が早まっていると感じ、いつから始めればよいのか、焦ってしまうとのこと。長年にわたり医学生を見てきた民谷先生が思う、国試対策を始める時期とは?

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統合失調症におけるブレクスピプラゾール切り替えが成功しやすい患者の特徴

 高用量の抗精神病薬で治療中の統合失調症患者に対するドパミンパーシャルアゴニスト作用を有するアリピプラゾールへの切り替えは、とくに急速な切り替えを行う場合、切り替え失敗や精神症状の悪化リスクが高まる可能性があると、いくつかの研究において報告されている。このような切り替え失敗には、ドパミン過感受性状態が関連していると推測される。アリピプラゾールと同様にドパミンパーシャルアゴニスト作用を有するブレクスピプラゾールへの切り替えのリスクについては、これまで報告されていない。 千葉大学の山崎 史暁氏らは、ブレクスピプラゾールへの切り替えの成功または失敗と関連する因子を特定するため、日本人統合失調症患者106例をレトロスペクティブに分析した。その結果、統合失調症患者における切り替えは、アリピプラゾールと比較し、ブレクスピプラゾールがより安全である可能性が示唆された。ただし、著者らは、治療抵抗性統合失調症患者では、失敗リスクが高まるため、難治性の患者にブレクスピプラゾール治療を開始する際には十分なモニタリングが必要である、としている。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2023年7月3日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・ドパミン過感受性の統合失調症患者44例とそうでない患者62例を比較したところ、6週間後の切り替え失敗に有意差は認められなかった。・切り替えが成功した患者80例と失敗した患者26例を比較したところ、治療抵抗性統合失調症患者では失敗する可能性が有意に高かった。・ロジスティック回帰分析では、過去にアリピプラゾールへの切り替えに失敗した患者では、ブレクスピプラゾールへの切り替えが成功する可能性が高かった。・ブレクスピプラゾールへの切り替えに成功した患者の2年間のフォローアップで、一時的ではあるが、機能の全体的評価尺度(GAF)および臨床全般印象度の重症度(CGI-S)スコアのいくつかの改善がみられた。

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転移乳がんへのT-DXd、有効性に関わる因子はあるか(DAISY)

 HER2発現レベルに従って転移乳がん患者におけるT-DXdの有効性を評価し、複数時点での腫瘍検体のバイオマーカー分析を通じて治療反応と治療耐性に関わる因子を調査することを目的とした第II相DAISY試験の結果を、フランス・Gustave RoussyのFernanda Mosele氏らがNature Medicine誌オンライン版2023年7月24日号に報告した。 参加者はベースライン時のバイオプシー結果に基づき、HER2高発現群(IHC 3+またはISH+、72例)、HER2低発現群(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+、74例)、およびHER2陰性群(IHC 0、40例)に割り付けられた。 主要評価項目は奏効率(ORR)で、副次評価項目には安全性などが含まれた。その他探索的解析として、HER2発現パターンと治療反応、T-DXdの作用機序および耐性機序が調べられた。 主な結果は以下のとおり。・ORRはHER2高発現群では70.6%(95%信頼区間[CI]:58.3~81)、HER2低発現群では 37.5%(95%CI:26.4~49.7)、HER2陰性群では29.7%(95%CI:15.9~47)だった。・HER2陰性群の患者において、ERBB2発現が中央値未満であった患者(14例中5例[35.7%]、95%CI:12.8~64.9)は、ERBB2発現が中央値を上回っていた患者(10例中3例[30%]、95%CI:6.7~65.2)と比較して奏効率に差はみられなかった。 またベースライン検体を外部の病理学者が検査した結果、15例(48%)でHER2発現が確認された。・治療中、HER2発現腫瘍(4例)では強いT-DXd反応が示された一方、HER2陰性腫瘍(3例)ではT-DXd反応がまったくまたはほとんど示されなかった(ピアソン相関係数r=0.75、p=0.053)。・ベースライン検体におけるドライバー変異には耐性と有意に関連しているものはなかった(FDR補正p>0.54)。ただし、ベースライン時の89例中6例(7%)にERBB2ヘミ接合型欠失が検出され、うち4例はT-DXdに反応がなかった。・T-DXd耐性となった検体の21例中3例(14%)にSLX4変異が検出された。・新たな安全性シグナルは確認されていない。 著者らは、HER2発現レベルはT-DXdの有効性の決定要因と言えるが、本研究ではそれ以外のメカニズムも関与している可能性が示唆されたとまとめている。

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コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。コロナ患者に葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回投与 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。コロナウイルス感染症の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症Iのコロナウイルス感染症患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。 コロナウイルス感染症患者に対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与した主な結果は以下のとおり。・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、コロナワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。・少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。コロナワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。コロナワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。コロナワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症Iのコロナウイルス感染症患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のコロナウイルス感染症患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

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