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脳卒中の診断、年齢の左桁バイアスはあるか

 人間には、年齢などの連続変数の左端の桁の数字に基づいて判断する傾向(left-digit bias:左桁バイアス)がある。このバイアスが医師の意思決定にも影響するのだろうか。最近の研究1)では、80歳の誕生日直前の患者より、直後の患者に冠動脈バイパス術を行う可能性が低かったことが示されている。今回、京都大学の福間 真悟氏らは、脳卒中に対する画像検査のオーダーに年齢の左桁バイアスが影響するかを検討した。その結果、男性患者に対してのみ、40歳前後でオーダーの不連続的な増加がみられ、医師の脳卒中リスクの推定に認知バイアスが存在することが示唆された。Social Science & Medicine誌2023年8月26日号に掲載。 本研究は、回帰不連続デザイン(RDD)によるコホート研究で、日本における全国的な労働年齢の健康保険の請求データベースから、2014年1月~2019年12月に時間外受診をした患者を解析対象とした。初診時、医師が脳卒中診断のために画像検査(CTまたはMRI)をオーダーしたかどうかを、患者年齢別に調査した。 主な結果は以下のとおり。・総受診数29万3,390件のうち、40歳からデータに基づいた最適バンド幅である6.0歳以内の4万8,598件を解析対象とした(平均年齢40.8歳[標準偏差3.4]、女性50.5%)。・脳卒中に対する画像検査を受ける基準の確率は0.9%であった。・40歳未満の患者より40歳以上の患者で、医師が画像検査をオーダーする可能性が高かった(調整後の差:+0.51パーセンテージポイント[pp]、95%信頼区間[CI]:+0.13~+1.07pp、p=0.01)。・脳卒中に対する画像検査のオーダーにおいて、男性患者では40歳で有意な非連続的変化がみられた(+0.84pp、95%CI:+0.24~+1.69pp、p=0.009)が、女性患者ではみられなかった。

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がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。 主な見どころは以下のとおり。<代表理事講演>10月1日(日)13:00~13:30「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)<ガイドラインセッション>9月30日(土)14:00~15:30座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)   朝井 洋晶氏   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)   庄司 正昭氏   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)15:40~17:10座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)<シンポジウム>9月30日(土)9:00~10:30「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」10月1日(日)9:00~10:30「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画10:40~11:50「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画13:40~15:10「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」15:20~16:50「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画15:20~16:50「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画<Keynote Lecture>9月30日(土)11:20~12:10「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>10月1日(日)10:50~11:50「がん合併脳卒中の治療をどうするか」 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

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モデルナXBB対応コロナワクチン、BA.2.86「ピロラ」にも有効

 米国・Moderna社は9月6日付のプレスリリースにて、同社のXBB対応の新型コロナワクチンが、高度な変異のある新たな変異株のBA.2.86(通称:ピロラ)に対して、中和抗体をヒトで8.7倍増加させることを、同社の臨床試験データで確認したことを発表した。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、BA.2.86は、新型コロナワクチンを以前接種した人でも感染する可能性があり、新たなXBB対応ワクチンは重症化や入院を減らすのに有効な可能性があるという。 同社のXBB対応ワクチンは、日本を含む全世界で現在主流となっているEG.5系統1)や、FL.1.5.1に対する有効性も確認されている。BA.2.86は、以前のオミクロン株と比較して30以上の変異を持つ高度な変異株であることから、公衆衛生当局により厳重に監視されている2)。9月7日に、日本でも初めてBA.2.86が検出されたことがGISAIDに報告された3,4)。一部の国では、BA.2.86が過去の新型コロナワクチン接種または感染による保護免疫を逃避する可能性があることから、ワクチンの接種開始時期を早めようとする動きもあるという。日本では、本ワクチンは9月20日以降の秋開始接種で使用される予定。今回のBA.2.86に対するワクチンの臨床試験データは、規制当局と共有され、査読付き論文として提出されている。

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多枝病変を有するSTEMIのPCI、即時vs.段階的/NEJM

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と多枝冠動脈病変を有し、血行動態が安定した患者の治療では、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、脳卒中、予定外の虚血による血行再建術、心不全による入院の複合リスクに関して、即時的な多枝経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行は段階的な(staged)多枝PCIに対して非劣性であるとともに、優越性をも示したことが、スイス・チューリッヒ大学病院のBarbara E. Stahli氏らが実施した「MULTISTARS AMI試験」の結果、報告された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年8月27日号に掲載された。欧州37施設の医師主導型無作為化非劣性試験 MULTISTARS AMI試験は、欧州の37施設が参加した医師主導の非盲検無作為化非劣性試験であり、2016年10月~2022年6月に患者のスクリーニングが行われた(Boston Scientificの助成を受けた)。 対象は、症状発現から24時間以内の急性期STEMIで、多枝冠動脈病変を有し、少なくとも1つの冠動脈の非責任病変を持ち、責任動脈へのPCIが成功した後の血行動態が安定した患者であった。 これらの患者を、1回の手技中に、責任病変の血行再建術を行った後、即時に非責任病変に対し多枝PCIを施行する即時完全血行再建術群(即時群)、または責任病変に対しPCIを行った後、19~45日目に非責任病変に対し段階的に多枝PCIを施行するstaged完全血行再建術群(staged群)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、1年後の全死因死亡、非致死的心筋梗塞、脳卒中、予定外の虚血による血行再建術、心不全による入院の複合とした。大出血の頻度には差がない 840例を登録し、即時群に418例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:58~74]、男性76.8%、白人97.8%)、staged群に422例(64歳[55~73]、80.8%、98.6%)を割り付けた。 1年の時点で、主要エンドポイントのイベントはstaged群が68例(16.3%)で発生したのに対し、即時群は35例(8.5%)であり、即時群のstaged群に対する非劣性とともに優越性が示された(リスク比:0.52、95%信頼区間[CI]:0.38~0.72、非劣性検定のp<0.001、優越性検定のp<0.001)。 1年後の非致死的心筋梗塞(即時群2.0% vs.staged群5.3%、ハザード比[HR]:0.36[95%CI:0.16~0.80])と予定外の虚血による血行再建術(4.1% vs.9.3%、0.42[0.24~0.74])の発生は即時群で良好であった。一方、全死因死亡(2.9% vs.2.6%、1.10[0.48~2.48])、脳卒中(1.2% vs.1.7%、0.72[0.23~2.26])、心不全による入院(1.2% vs.1.4%、0.84[0.26~2.74])の発生は両群で同程度だった。 大出血(BARC タイプ3または5)は、即時群が13例(3.1%)、staged群は21例(4.8%)で発生した(HR:0.65、95%CI:0.32~1.31)。重篤な有害事象は、即時群が104例、staged群は145例で認められた。 著者は、即時多枝PCIの利点として、「造影剤の総量と放射線被曝を低減し、動脈穿刺の追加、後の段階での血行再建術、2回目の入院の必要性を回避する可能性がある」とし、「非責任病変の治療を遅らせることは患者にとって不安であるため、即時の多枝PCIが好まれる場合もある」と指摘している。

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第163回 コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省

<先週の動き>1.コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省2.コロナ病床確保料504億円過大支給、医療機関に返還要求/厚労省3.新型コロナ治療薬の自己負担、10月より最大9,000円へ/厚労省4.2022年度、医療費の高騰続く、高額薬の影響で「高額レセプト」過去最多更新/健保連5.出産費用、全国平均で2万円増加、456施設が値上げ/厚労省6.医師の過労自殺問題、日医会長と遺族が働き方改革を訴える1.コロナワクチン接種、来年度も高齢者向けは無料、一般は自己負担に/厚労省来年度の新型コロナウイルスワクチンの接種に関する方針が明らかになった。厚生労働省は、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を9月8日に開き、来年度のコロナウイルスワクチン接種について、65歳以上の高齢者や重症化リスクの高い人を対象に、年1回とする案を議論した。これまで「臨時接種」の位置付けで行われていた無料接種は、今年度をもって終了し、2024年度からは原則自己負担となる見込み。なお、高齢者らは公費助成の「定期接種」として、無料または低額での接種が検討されている。一方、65歳未満の人々は「任意接種」としての扱いとなり、自己負担が必要となる可能性が高い。今回の方針変更の背景には、新型コロナの変異株オミクロンの重症化率の低下や感染症法上の「5類」への移行、さらに抗ウイルス薬の普及などが影響しており、厚労省は接種の目的を「重症化予防」と位置付け、接種時期を「秋・冬」とする案も示している。参考1)第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(厚労省)2)高齢者接種、年1回で調整 来年度コロナワクチン 厚労省(時事通信)3)コロナワクチン、国費での無料接種終了へ 65歳未満は原則自己負担(毎日新聞)4)新型コロナワクチン、無料接種は今年度限りで終了…高齢者らには助成も検討(読売新聞)2.コロナ病床確保料504億円過大支給、医療機関に返還要求/厚労省厚生労働省は2020年度と2021年度の2年間で、新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、病床を確保した医療機関に支払われる「病床確保料」に関して、計約504億円を過大に支給していたと発表した。この過大交付は、岩手と徳島を除く45都道府県の延べ1,536の医療機関で発生。原因として、退院日を空き病床と誤判断して病床確保料を申請した医療機関が多数確認され、その95%以上が制度の誤認識によるものとされている。また、医師や看護師の不足により患者を受け入れられないにもかかわらず、誤って申請していたケースも見受けられた。会計検査院は昨年、病床確保料の過大支給が約55億円発生していたとの報告を公表。これを受け、厚労省は全国の医療機関に対する調査を進めていた。厚労省は、これらの医療機関に対して全額返還を求めている。参考1)病床確保料 国が504億円過大支給…医療機関に全額返還求める(読売新聞)2)コロナ病床確保料、500億円過大交付 医療機関からの返還求める(朝日新聞)3)コロナ患者の病床確保料、過大交付500億円超 制度の認識誤りか(毎日新聞)3.新型コロナ治療薬の自己負担、10月より最大9,000円へ/厚労省新型コロナウイルス治療薬に関する政府の支援策の変更により、10月以降、高額治療薬の費用に自己負担が導入されることが明らかになった。これまで治療薬の費用は全額公費で賄われていたが、今後、窓口負担が3割の患者には最大9,000円、2割の患者では6,000円、1割の患者では3,000円の自己負担が求められる方向で調整が進められている。今回の方針変更では、治療1回当たりの患者負担に上限額を設け、それを超えた分は公費でカバーされる予定。高額な治療薬には、米メルクのモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)や米ファイザーのニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッドパック)があり、これらの薬価は9万円以上となっている。さらに入院費用の補助も公費支援自体は継続されるものの、10月以降については減額される方針で、これは他の5類感染症との公平性を踏まえて重症患者に重点化される見通し。新型コロナの法的な位置付けが5月に「5類」に移行して以降、医療対応は平時に近付いており、8月時点での新型コロナウイルスに対応する外来は4.9万ヵ所、入院対応可能な病院も7,300病院となっていることが明らかにされた。参考1)コロナ薬、患者負担9,000円 10月以降、低所得者は軽減(東京新聞)2)コロナ治療薬自己負担 “最大”9,000円 来月から(FNN)3)コロナ治療薬、3割負担なら上限9,000円に 厚労省調整(日経新聞)4.2022年度、医療費の高騰続く、高額薬の影響で「高額レセプト」過去最多更新/健保連健康保険組合連合会(健保連)が9月7日に発表した2022年度のデータによれば、1ヵ月の医療費が1,000万円以上となる「高額レセプト」が前年度比275件増の1,792件となり、過去最多を記録したことが明らかになった。この増加の背景には、高額な医薬品の保険適用が大きく影響している。とくに、脊髄性筋萎縮症の治療薬オナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ)や白血病など治療薬チサゲンレクルユーセル(同:キムリア)の利用が目立つ。ゾルゲンスマは1億6,708万円で、国内で保険適用されている薬の中で最も高額。上位9位までの患者は主に脊髄性筋萎縮症の治療薬利用者であり、1億円超の医療費を記録している。健保連では、このような高額薬の増加による医療費の膨張を受け、医療の効率化や合理化の推進が必要であると指摘している。参考1)令和4年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要 (健保連)2)医療費月1,000万円以上過去最多 22年度、高額薬利用が増加 健保連調査(時事通信)3)高額レセプト件数8年連続で過去最多 22年度1,792件、健保連集計(CB news)4)2022年度の1か月医療費上位1-9位は脊髄性筋萎縮症患者で各々1億7,000万円程度、1,000万円超レセは1,792件で過去最高-健保連(Gem Med)5.出産費用、全国平均で2万円増加、456施設が値上げ/厚労省厚生労働省は、9月7日に社会保障審議会医療保険部会を開き、出産費用の見える化について議論した。この中で、令和5年7月時点で分娩を取り扱っている分娩取扱施設を対象に行ったアンケート調査の結果、出産育児一時金が2022年12月に原則42万円から50万円に増額された後、出産費用を値上げした医療機関が全国で456施設に上ることが明らかになった。2023年5月時点の出産費用の平均は50万3,000円となり、昨年と比べて約2万円増加していた。値上げの主な理由として、「光熱費などの高騰」が約9割、「一時金の増額で妊産婦の自己負担への影響が少ないと考えた」という回答が半数以上であった。厚労省は、出産費用の「見える化」を目的として、施設ごとの費用内訳を公式ホームページで公開する予定。参考1)出産費用の見える化等について(厚労省)2)出産費用、半数近くが値上げ 「出産育児一時金の増額」も理由に(朝日新聞)3)出産費値上げ、医療機関の26.5% 一時金の増額後に(日経新聞)4)出産費用4月までに増額4割超、厚労省調べ 医療保険部会で、「一時金引き上げに伴い上昇」(CB news)5)出産育児一時金引き上げ後に出産費用値上げは456施設 厚労省(NHK)6.医師の過労自殺問題、日医会長と遺族が働き方改革を訴える神戸市東灘区の甲南医療センターで2022年に26歳の専攻医・高島 晨伍さんが自殺し、この問題では西宮労働基準監督署が、長時間労働が原因として労災認定を行った。そして、高島さんの過去1ヵ月の時間外労働が、国の基準を超える207時間50分だったことが明らかになった。8月31日、高島さんの母・淳子さんは、厚生労働省にて嘆願書を提出し、医師の働き方改革を求め、「医療、行政、社会が協力してほしい」と訴えた。日本医師会の松本 吉郎会長は9月6日の記者会見でこの件を重く受け止め、医師の労働環境改善と再発防止の取り組みを強化するとの考えを示した。参考1)医師の自殺 労災認定 “再発防止に力尽くす” 日本医師会会長(NHK)2)松本日医会長、兵庫県の勤務医過労自殺「大変重く受け止めている」-会見で弔意を表明(日本医事新報)3)「息子の死を教訓に」医師の働き方改革を 甲南医療センター過労自殺の遺族、厚労省に嘆願書(神戸新聞)

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拡張型心筋症の遺伝子構造はアフリカ系と欧州系患者とで異なっている(解説:原田和昌氏)

 次世代シークエンスを用いた網羅的な心筋症遺伝子解析による心筋症の病態解明とそれを用いたプレシジョン・メディシンに期待が集まっている。米国・DCMコンソーシアムのDCM Precision Medicine Studyのこれまでの調査によれば、拡張型心筋症(DCM)患者の約30%が家族性DCMであり、黒人のDCM患者は白人のDCM患者よりも家族性DCMのリスクが高くアウトカムが不良であった。しかし、DCMのゲノムデータの大半は白人患者のものであった。 米国・オハイオ州立大学のJordan氏らは、DCMに関係する36の遺伝子について、アフリカ系、欧州系、ネイティブ・アメリカンの患者を対象に、ゲノム祖先ごとに変異遺伝子構造を比較した。アフリカ系のゲノム祖先を持つDCM患者は、欧州系のゲノム祖先を持つDCM患者と比較し、病原性/病原性の可能性と判定できる、臨床的に治療標的として介入が期待される変異遺伝子(バリアント)を有する割合が低かった。 アフリカ系DCM患者は、タイチン(TTN)遺伝子や、病気を引き起こすメカニズムとして機能欠失が予測されるその他の遺伝子について、欧州系患者に比べ、臨床的に治療標的として介入が期待されるバリアントの割合が低かった。しかし、病原性/病原性の可能性/意義不明のいずれかに判定されたバリアント数は、アフリカ系患者と欧州系患者で同程度であった。これは、アフリカ系患者には主にミスセンス変異による、非TTN遺伝子の予測されない機能欠失バリアントで意義不明のものが多く認められたためであった。 DCMの40~50%にこれまで30種類以上の遺伝子変異が同定されているが、原因遺伝子としてはTTN変異が最多であり全体の25%を占める。さらにMYH7、TNNT2、心筋トロポニンC(TNNC1)など心筋サルコメアの関連遺伝子がこれに続く。TTN変異を有するDCMの表現型は比較的軽度であり、標準的心不全治療が奏効し左室リバースリモデリングが高率に起こる。これに対し、ラミンA/C(LMNA)は核膜内膜の構成分子であるが、LMNA変異を有するDCMでは心筋障害に加えて肢体型筋ジストロフィーやEmery-Dreifuss型筋ジストロフィーなどの骨格筋障害を合併し、予後不良であることが知られている。このようにDCMは心筋サルコメア、細胞骨格、核骨格、ミトコンドリア、細胞内カルシウム調整に関する遺伝子などに多様な遺伝子変異を有する疾患である。 一方、日本におけるDCMの有病率は10万人に対して14.0人であり、DCMの20~35%が家族性といわれている。家族性DCMの80~90%が常染色体優性であるが、まれにX連鎖性や常染色体劣性の形式をとる場合もあるという。 本論文ではゲノム祖先ごとに遺伝子構造が異なる、また、アフリカ系DCM患者の臨床データが不足していると結論しているが、次世代シークエンスを用いたプレシジョン・メディシンを推進するためには、欧州系白人におけるゲノムデータや疾患の治療反応性との関係の情報だけでは不十分であり、(アジア人を含む)異なるゲノム祖先を持つ患者における遺伝子データベースの蓄積が必要であると考えられる。

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第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?【統計のそこが知りたい!】

第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?今回はロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)におけるオッズ比(Odds ratio)について解説します。ロジスティック回帰分析のオッズは、回帰式の回帰係数から算出されます。前回の事例で求められた回帰式を示します。図1回帰係数は、変数が1変化したときの目的変数に及ぼす影響の程度を表します。値が大きいほど目的変数への影響度が高くなりますが、この事例の場合、データの単位が飲酒は日数、喫煙は本数というように、異なる場合は変数相互の比較はできません。この回帰係数を変換した数値を「調整したオッズ比」と言います。統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。(第11回を参考にしてください)オッズは競馬などのギャンブルで使われている確率を示す数値であり、「ある事象が起こる確率P/ある事象が起こらない確率P」で定義されます。割合と似ていますが、以下の点で違いがあります。【割合】割合=任意の数/全体:(0~1)例:がんである人25人/調査した全体人数100人=0.25【オッズ】オッズ=起こる確率/起こらない確率:(0~∞)例:がんが起こる確率0.25/がんが起こらない確率0.75=0.333そして、2つのオッズを比較して示す尺度が統計学の基礎「オッズ比」です。図2調整したオッズ比はロジスティック回帰で求められるもので、統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。オッズ比は2群データ、調整したオッズ比は数量データに適用され、調整したオッズ比は回帰係数を変換した数値になります。調整したオッズ比は、説明変数の値が1つ増加した場合のオッズ比を表します。図3オッズ比が1より大きい場合は事象が第1群で起こりやすく、1より小さい場合は第2群で起こりやすいということになります。図4この事例では、飲酒日数のオッズ比は1.11で、飲酒日数が1ヵ月間で1日増えたときのがんになる危険度は1.11倍で、オッズ比は1より大きく、飲酒量が多いほど「がんである」が起こりやすいと言えます。喫煙本数のオッズ比は1.2で、喫煙本数が1日で1本増えたときのがんになる危険度は1.2倍で、オッズ比は1より大きく、喫煙本数が多いほど「がんである」が起こりやすいといえます。ここで注意したいことに、データの単位が異なる場合、オッズ比の比較はできません。オッズ比は飲酒日数(日/1ヵ月間)は1.11、喫煙本数(本/1日)は1.20で、がんへの影響度は飲酒日数の方が喫煙本数より低いと言えません。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5(続き) リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問21 ロジスティック回帰分析の説明変数の選び方は?質問22 ロジスティック回帰分析の事例

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日焼けの外用薬(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q83

日焼けの外用薬(1)Q83某南国の島の診療所での日直バイト中、20代の男性が全身に痛みを伴う日焼け様の紅斑を主訴に受診した。どうやら観光客で、前日から海で海水浴を楽しんでいた様子。とくに既往はなく、皮疹は露光部に一致しており水疱はない。過去にも夏に日光曝露後に同様の皮疹があり、表皮剥離とともに自然消退していたとのこと。対応を希望され、受診している。どうしようか?

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事例31 ベタニス錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例では、頻尿の患者にミラベグロン(商品名:ベタニス)錠50mg(以下「ベタニス」)を投与したところ、C事由(医学的理由による不適当)で査定となりました。ベタニスは、「選択的β3アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤」に分類されて後発品はありません。添付文書には、「生殖可能な年齢の患者への本剤の投与はできる限り避けること」との警告が表示されている以外は特段の留意事項はありません。効能または効果には、「過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁」とあります。効能または効果に関連する注意の表示には、類似の症状を呈する疾患の除外診断を行った後に投与することが記載されています。ベタニスは、過活動膀胱用剤であることがわかります。傷病名をみると「夜間頻尿症」と状態を表す病名しか表示されていません。「夜間頻尿」だけでは「過活動膀胱」におけるものなのかどうか判別がつかないために、保険診療上適当でない投与として査定になったものと推測できます。査定の原因はレセプトチェックシステムで指摘があったにもかかわらず、「過活動膀胱」を追加しなくても査定はないだろうと修正せずに提出されたことによります。電子的な審査においては、本事例のような場合も厳密に審査されます。従来のように「これぐらいなら」が、通用しなくなっていることにご留意ください。ところが電子カルテ標準病名には「過活動膀胱における頻尿」がありません。「過活動膀胱」と「夜間頻尿」の2つの病名が必要となります。査定対策として、ベタニス投与時には処方システムに「過活動膀胱」に加えて「尿意切迫感」、「頻尿」および「切迫性尿失禁」の病名が必要な旨を表示させて医師による傷病名の確認を促し、レセプト担当には、レセプトチェックシステムで指摘があった場合には、必ず修正もしくはコメントを頂戴することを行うように説明して査定対策としました。

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たこ焼きを食べて発症、疑うべき原因は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第9回

たこ焼きを食べて発症、疑うべき原因は?講師富山大学医学部 小児科学教室 加藤 泰輔 氏【今回の症例】21歳の大学生。自宅にあったミックス粉を使ってサークル仲間とたこ焼きパーティーを開催した。たこ焼きを3個食べた後に、鼻汁、呼吸困難、全身の蕁麻疹、意識レベルの低下を認めた。今でも時々軽い喘息発作があるが、これまで食物アレルギーと診断されたことはない。今回のエピソードで最も考えられる原因は?1.小麦2.鶏卵3.タコ4.ダニ

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ER+/HER2-早期乳がんの細胞増殖抑制効果、giredestrant vs.アナストロゾール(coopERA BC)

 エストロゲン受容体(ER)+、HER2-の早期乳がんの術前化学療法として、経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)のgiredestrantまたはアロマターゼ阻害薬のアナストロゾールを投与した第II相coopERA BC試験の結果、giredestrantはより有意な細胞増殖抑制効果を示し、忍容性は良好であったことを、米国・David Geffen School of MedicineのSara A. Hurvitz氏らが報告した。Lancet Oncology誌2023年9月号の報告。 coopERA BC試験は、2週間のgiredestrant治療がアナストロゾールよりも強い細胞増殖抑制効果を示すかどうかを検証するためにデザインされた非盲検無作為化対照第II相試験。世界11ヵ国59ヵ所の病院または診療所で実施された。2021年の欧州臨床腫瘍学会で中間解析が報告され、今回は主要解析と最終解析が報告された。 対象は、cT1c~cT4a-c、閉経後、ER+、HER2-、未治療の早期乳がんで、ECOG PS 0/1、Ki67≧5%の患者であった。参加者は、window of opportunity phaseとして1~14日目にgiredestrant 30mgを1日1回経口投与する群と、アナストロゾール1mgを1日1回経口投与する群に無作為に1対1に割り付けられた。層別化はTステージ、ベースライン時のKi67値、プロゲステロン受容体の状態によって行われた。その後、16週間の術前化学療法として、同じレジメンに加えてパルボシクリブ125mgが1日1回、28日サイクルの1~21日目に経口投与された。主要評価項目は、ベースラインから2週間(window of opportunity phase)のKi67値の変化率であった。 主な結果は以下のとおり。・2020年9月4日~2021年6月22日の間に221例の患者が、giredestrant+パルボシクリブ群(112例、年齢中央値62.0歳)とアナストロゾール+パルボシクリブ群(109例、62.0歳)に無作為に割り付けられた。うち194例(88%)は白人であった。・主要解析(データカットオフ:2021年7月19日)において、Ki67値の平均変化率はgiredestrant群で-75%(95%信頼区間:-80~-70)、アナストロゾール群で-67%(-73~-59)であり、主要評価項目を達成した(p=0.043)。・最終解析(データカットオフ:2021年11月24日)において、最も多かったGrade3/4の有害事象は好中球減少症(giredestrant+パルボシクリブ群26%[29例]、アナストロゾール+パルボシクリブ群27%[29例])と好中球数の減少(15%[17例]、15%[16例])であった。・重篤な有害事象はgiredestrant+パルボシクリブ群で4%(5例)、アナストロゾール+パルボシクリブ群で2%(2例)に発現した。治療関連死はなかった。 これらの結果より、研究グループは「giredestrantは有望な抗増殖・抗腫瘍活性を示し、単剤でもパルボシクリブとの併用でも忍容性は良好であった。この結果は、現在進行中の試験でさらなる検討を行うことを正当化するものである」とまとめた。

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中国のゼロコロナ政策終了直後、超過死亡が急増か

 中国では、コロナパンデミックの開始から厳格なゼロコロナ政策によって罹患率と死亡率は低く抑えられていた。しかし、2022年12月のゼロコロナ政策の解除により、以降2ヵ月間、中国全土の30歳以上において推定187万人の超過死亡が発生したことが、米国・シアトルのFred Hutchinson Cancer Research CenterのHong Xiao氏らの研究チームによる調査で確認された。JAMA Network Open誌2023年8月25日号掲載の報告。 本調査では、北京市の北京大学と精華大学、黒竜江省のハルビン工業大学の2016年1月1日~2023年1月31日までの職員の公開された訃報記事データが用いられた。訃報記事は、年齢、性別、役職、雇用形態(現職、退職)に関係なく、死亡したすべての職員が含まれ、掲載のプロセスはCOVID-19の流行前も流行中も一貫して行われていた。本データから30歳以上の死亡率の相対的変化を推定した。前COVID-19期(2016年1月~2019年12月)、ゼロコロナ政策期(2020年1月~2022年11月)、ポスト・ゼロコロナ政策期(2022年12月~2023年1月)の3つの期間に分け、負の二項回帰モデルを使用した。また、中国のインターネット検索エンジンBaiduにて、総検索量に対する死に関連するワード(葬儀社、火葬、埋葬など)の検索の頻度(Baidu指数:BI)の相対的変化も推計し、大学における30歳以上の死亡率との相関関係も分析した。さらに、これらの数値を基に、中国のその他の地域における超過死亡率を算出した。 主な結果は以下のとおり。・北京市と黒竜江省ともに、死亡数は2022年12月第4週にピークに達した。それと同時期の12月25日に、中国のほとんどの省で、死に関連するワードのネット検索のBIが最も高くなった。・ゼロコロナ政策の終了後、北京の2つの大学における死亡数は、予想死亡数に比べて大幅な増加を示し、2022年12月と2023年1月にそれぞれ403%(95%CI:351~461)と56%(95%CI:41~73)の増加を示した。ハルビン工業大学における死亡数は、2022年12月(12 vs.3、p<0.001)と2023年1月(19 vs.3、p<0.001)の両方で、予想された死亡数よりも統計的に有意に高かった。・ポスト・ゼロコロナ政策期の北京の大学での死亡のうち、男性は75.6%(95%信頼区間[CI]:65~84)、85歳以上は80.0%(95%CI:70~87)だった。85歳以上の死亡の割合は、前COVID-19期(51.9%)およびゼロコロナ政策期(62.3%)よりも高かった(p<0.001)。ハルビン工業大学でも同様のパターンがみられ、ポスト・ゼロコロナ政策期の死亡は、男性82.1%、85歳以上69.0%だった。・ポスト・ゼロコロナ政策期(2022年12月~2023年1月)では、中国全土で30歳以上の推定187万人(95%CI:71万~443万、1,000人当たり1.33人)の超過死亡が発生した。・チベットを除くすべての省で統計学的に有意な死亡率の増加が推計され、増加範囲は広西チワン族自治区の77%増(95%CI:24~197)から寧夏回族自治区の279%増(95%CI:109~658)であった。・超過死亡数は中国政府の公式推計値である6万人をはるかに上回ったが、超過死亡のパターンは、COVID-19に関連した病院での入院と死亡が2022年12月末にピークに達したという中国政府の報告と一致していた。 中国には包括的で一般に入手可能なデータが存在しないために、超過死亡数を推定するために行われた本研究において、中国のゼロコロナ政策の突然の解除が、全死因死亡率の有意な上昇と関連していることが明らかになった。著者は本結果について、COVID-19の集団への突然の伝播が集団死亡率に与える影響を理解するうえで重要だとまとめている。

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筋肉痛はタンパク質摂取で抑えられない

 レジスタンス運動(筋肉に繰り返し負荷をかける運動)の前後にタンパク質を摂取することは、運動後の回復とトレーニング効果を高める一般的な戦略である。一方、タンパク質摂取が運動誘発性筋損傷(EIMD:いわゆる筋肉痛)を抑制できるのかについて調査した、英国・ダーラム大学のAlice G. Pearson氏らによるシステマティックレビューの結果が、European Journal of Clinical Nutrition誌2023年8月号に掲載された。筋肉痛はタンパク質摂取群と対照群で有意差はなかった 研究者らはPubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceで2021年3月までの関連論文を検索し、運動後の各時点(24時間未満、24時間、48時間、72時間、96時間)におけるタンパク質摂取の効果と、EIMDを計る間接的マーカーのヘッジズ効果量(ES)を算出した。 タンパク質摂取が筋肉痛を抑制できるのかについて調査した主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューに含まれた29の研究は45の試験からなり、うち26の研究と40の試験が1つ以上のメタアナリシスに含まれた。計763例が対象となり、うち94%が若年男性であった。・等尺性随意最大筋力は96時間後(ES:0.563、95%信頼区間[CI]:0.232~0.894)および、等速性随意最大筋力は24時間後(0.639、95%CI:0.116~1.162)、48時間後(0.447、95%CI:0.104~0.790)、72時間後(0.569、95%CI:0.136~1.002)の各時点において、タンパク質摂取による筋力低下の抑制効果が認められた。・クレアチンキナーゼ濃度は、48時間(0.836、95%CI:-0.001~1.673)および72時間(1.335、95%CI:0.294~2.376)時点において、タンパク質摂取群は対照群よりも低下していた。・一方、筋肉痛については、タンパク質摂取群と対照群に有意差はなかった。 著者らは「運動前後のタンパク質摂取は、最大筋力の維持とクレアチンキナーゼ濃度の低下に役立つが、筋肉痛を軽減することはできなかった」としている。

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血友病A/Bのconcizumab予防投与、年間出血回数が大幅減/NEJM

 concizumabは、組織因子経路インヒビター(TFPI)に対するモノクローナル抗体で、血友病の全病型で皮下投与の予防治療薬として検討が進められている。名古屋大学病院の松下 正氏ら「explorer7試験」の研究グループは、インヒビターを有する血友病AまたはBの患者において、concizumabの予防投与はこれを行わずに出血時補充療法(on-demand treatment)のみを行う場合と比較して、年間出血回数(ABR)が大きく減少し、長期的なアウトカムを改善する可能性があることを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌2023年8月31日号に掲載された。4群の非盲検第IIIa相試験 explorer7試験は、2つの無作為化群(グループ1、2)と2つの非無作為化群(グループ3、4)から成る非盲検第IIIa相試験である(Novo Nordiskの助成を受けた)。バイパス製剤による出血時補充療法を受けているインヒビターを有する血友病AまたはBの患者133例(血友病A患者80例、血友病B患者53例)を対象とした。 このうち52例を、少なくとも24週間は出血の予防治療を行わず、出血時補充療法を継続する群(グループ1[非予防治療群]、19例)、またはconcizumabの予防投与を32週間以上行う群(グループ2、33例)に無作為に割り付けた。 残りの81例のうち、21例はexplorer4試験でconcizumabの投与を受けていた患者(グループ3)で、60例はバイパス製剤の予防投与を受けている患者または出血時補充療法を受けている患者(グループ4)であり、いずれのグループにもconcizumabの予防投与を24週間以上行った。 進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した(4週の時点でのconcizumabの血漿中濃度に基づき用量は調節可能)。 主要エンドポイントは、治療の対象となった自然出血および外傷性出血のエピソードであり、グループ1とグループ2で比較した。投与再開後に血栓塞栓イベントの報告はない 主要エンドポイントの年間出血回数(ABR)の推定平均値は、グループ1の11.8回(95%信頼区間[CI]:7.0~19.9)と比較して、グループ2は1.7回(1.0~2.9)と有意に低かった(率比:0.14、95%CI:0.07~0.29、p<0.001)。また、concizumabの予防治療を受けた全患者(グループ2、3、4)のABRの中央値は0回だった。 自然出血、関節出血、標的関節出血のABRも、グループ1に比べグループ2で低く、率比はいずれも主要エンドポイントとほぼ同様であった(率比:自然出血0.14[95%CI:0.06~0.30]、関節出血0.15[0.07~0.32]、標的関節出血0.12[0.02~0.84])。また、治療の対象となった出血と治療を必要としなかった出血を合わせた全出血の解析でも、ABRはグループ2で低かった(率比:0.33、95%CI:0.17~0.64)。 血友病の病型別の解析では、これらの知見と同様の傾向を認めたが、病型別の優位性を示すほどの検出力はこの試験にはなかった。 concizumab投与の再開後に血栓塞栓イベントの報告はなかった。また、血漿中concizumab濃度は経時的に安定して推移した。 患者報告アウトカムのうちSF-36 v2の「体の痛み」、「身体機能」や「日常役割機能(身体)」はグループ1に比べグループ2で良好な傾向を認めたものの有意な差はなかったが、「全体的健康感」や「活力」はグループ2で優れた。また、Hemophilia-Patient Preference Questionnaireに回答した83例のうち77例(93%)が、前の治療よりもconcizumabが好ましいと答えた。 著者は、「本試験は非盲検デザインで、投与中断期間が結果に測定不能な影響を及ぼした可能性があり、患者報告アウトカムに関する十分なデータの収集が困難であったことなどから、統計学的な検出力が低く、バイアスの可能性がある点に留意する必要がある」としている。

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多枝病変の高齢心筋梗塞、完全血行再建術vs.責任病変のみ/NEJM

 心筋梗塞と多枝病変を有する75歳以上の患者の治療において、生理学的評価ガイド下(physiology-guided)完全血行再建術は、責任病変のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して、1年後の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術の複合アウトカムのリスクが低下し、安全性アウトカムの指標の発生は同程度であったことが、イタリア・フェラーラ大学病院のSimone Biscaglia氏らが実施した「FIRE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月7日号で報告された。欧州3ヵ国の医師主導無作為化臨床試験 FIRE試験は、欧州3ヵ国(イタリア、スペイン、ポーランド)の34施設が参加した医師主導の無作為化臨床試験であり、2019年7月~2021年10月に患者のスクリーニングを行った(イタリア・Consorzio Futuro in Ricercaの助成を受けた)。 対象は、年齢75歳以上、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)で入院し、責任病変へのPCIが成功し、冠動脈に1つ以上の非責任病変が存在する多枝病変を有する患者であった。 被験者を、責任病変のPCIに加えて生理学的評価ガイド下完全血行再建術を行う(完全血行再建術)群、または責任病変以外への血行再建術は行わない(責任病変のみ血行再建術)群に無作為に割り付けた。完全血行再建術群では、プレッシャーワイヤーまたは血管造影で機能的に重要な非責任病変を特定し、そのすべてにPCIを施行した。 主要アウトカムは、1年時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、虚血による血行再建術の複合とした。完全血行再建術群で予後改善、心血管死と心筋梗塞の複合も良好 1,445例を登録し、完全血行再建術群に720例、責任病変のみ血行再建術群に725例を割り付けた。全体の年齢中央値は80歳(四分位範囲[IQR]:77~84)、528例(36.5%)が女性、509例(35.2%)がSTEMIによる入院患者であった。入院期間中央値は5日(IQR:4~8)で、責任病変のみ血行再建術群(5日[IQR:3~7])に比べ完全血行再建術群(6日[4~8])で長かった。 主要アウトカムのイベントは、責任病変のみ血行再建術群が152例(21.0%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は113例(15.7%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.01)。この有益性は、4つの項目のうち脳卒中を除く3項目の減少によってもたらされた。1つのイベントを防止するための治療必要数(NNT)は19例であった。 主な副次アウトカムである心血管死と心筋梗塞の複合は、責任病変のみ血行再建術群では98例(13.5%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は64例(8.9%)と低い値を示した(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。NNTは22例だった。 安全性のアウトカム(造影剤関連の急性腎障害、脳卒中、出血[BARCタイプ3、4、5]の複合)の発現は、完全血行再建術群では162例(22.5%)、責任病変のみ血行再建術群では148例(20.4%)で認め、両群間に有意な差はなかった(HR:1.11、95%CI:0.89~1.37、p=0.37)。 著者は、「待機的な侵襲性の冠動脈手術は、若年患者に比べ高齢患者では施行される可能性が低いが、今回の試験では、先行試験と一致して、高齢患者における生理学的評価ガイド下完全血行再建術によるリスクの低減を認めた。最初の1年間のKaplan-Meier曲線では経時的に2群間の乖離が進み、完全血行再建術の有益性の増加が観察された」としている。

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日本人高齢者の歩行速度と軽度認知障害リスクとの関係

 これまでの研究では、歩行速度の低下と認知機能低下との関連が示唆されている。しかし、この関連が高齢者集団の年齢および性別の影響を受けるかは、よくわかっていない。慶應義塾大学の文 鐘玉氏らは、年齢、性別の影響を考慮し、軽度認知障害(MCI)と歩行速度との関連について調査を行った。Psychogeriatrics誌オンライン版2023年8月2日号の報告。 本横断研究には、2016~18年に65歳以上の日本人高齢者8,233人が登録された。性別、年齢により層別化した後、対象者の歩行速度を5分位に分類し、それぞれのMCI有病率の差を算出した。歩行速度別のMCI有病率、年齢および性別の影響を評価するため、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・多変数調整モデル2ロジスティック回帰分析では、歩行速度が最も遅い群と最も早い群との比較におけるMCIのオッズ比は、女性で2.02(95%信頼区間[CI]:1.47~2.76)、男性で1.75(同:1.29~2.38)であった。・層別分析では、歩行速度とMCIの関連性において、男性では年齢依存的な増加が認められたが、女性ではいずれの年齢層でも同様であった。 著者らは、その結果を踏まえて「歩行速度の低下とMCI有病率の増加との関連が確認され、この関連は性別や年齢により異なる可能性がある。したがって、年齢および性別を考慮した歩行速度の評価は、MCIのスクリーニングツールとして機能する可能性が示唆された」と述べている。

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日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第241回

日本発祥の疾患「Hikikomori」が国際的に認知Unsplashより使用2022年に米国精神医学会が発行した『DSM-5-TR』に「Hikikomori」が掲載されました。日本語の「ひきこもり」が国際的に認知されつつあるということを意味しています1)。私は一介の呼吸器内科医なので、これを知らず、結構衝撃的でした。さて、九州大学病院における「ひきこもり」に関する研究を紹介したいと思います。Kyuragi S, et al.High-sensitivity C-reactive protein and bilirubin as possible biomarkers for hikikomori in depression: A case-control study.Psychiatry Clin Neurosci. 2023 Aug;77(8):458-460.九州大学における気分障害ひきこもり外来、および関連精神科医療機関を通じて行われたパイロット研究です。被験者は、現在大うつ病エピソードを有する患者121例で、ひきこもり群である「6ヵ月以上」「ほとんど自宅で過ごす」患者45例、非ひきこもり群である「週に4日以上外出する」患者76例で構成されています。血中バイオマーカーとして、過去に精神症状と関連が示されている血清FDP、フィブリノゲン、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、ビリルビン、尿酸、高感度CRPを測定しました。結果、高感度CRP値はひきこもり群で有意に高く、ビリルビン値は有意に低いことが示されました。ただし、高感度CRPの平均(±標準偏差)は、非ひきこもり群2.4±0.5μg/mL、ひきこもり群2.6±0.6μg/mLと、一見それほどの差はないように思われます(統計学的には有意差あり、p<0.05)。とはいえ、高感度CRPは、複数の研究グループによって、自殺企図のバイオマーカーである可能性が示唆されています2,3)。とくに直近で自殺企図を持っている人においてCRPが高くなるとされており、厳密な機序は不明ですが、何らかの炎症性機序が作用している可能性が考えられています。1)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, 2022.2)Courtet P, et al. Increased CRP levels may be a trait marker of suicidal attempt. Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Oct;25(10):1824-1831.3)Loas G, et al. Relationships between anhedonia, alexithymia, impulsivity, suicidal ideation, recent suicide attempt, C-reactive protein and serum lipid levels among 122 inpatients with mood or anxious disorders. Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:296-302.

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第176回 大阪府薬剤師会が狭間氏の薬局改革に賛同?その一部始終を公開

以前の本連載で触れた調剤業務の一部外部委託の実証事業に関して9月6日、大きく進展した。同日の定例会見で大阪府知事の吉村 洋文氏が、大阪府と大阪市、「薬局DX推進コンソーシアム」(代表:狭間 研至氏)と共同で国家戦略特区制度に基づく調剤業務の一部外部委託事業の提案を行ったと表明。同日、ほぼ同時並行で定例会見を行っていた大阪府薬剤師会もその場で同コンソーシアムにオブザーバーとして参加することを表明した。これで“役者”は揃ったことになる。改めて、今回の調剤業務の一部外部委託というものが何かについて解説しておきたい。まず、薬局では患者が処方箋を持参すると、それに基づき薬剤師による調剤、鑑査を経て、患者に服薬指導を行う。これが在宅業務になると、「患者宅への薬の配送」という業務も加わる。昨今では薬機法改正により、薬剤師は服薬後のフォローアップも義務化された。この辺りは近年、厚生労働省(以下、厚労省)が薬剤師業務に関して何かにつけて使う「モノからヒトへ」「対物業務から対人業務」へという流れを受けた政策である。もっともこれは言葉で言うのは簡単だが、現実はなかなか難儀だ。毎日、大量の処方箋を応需する保険薬局の現場では、どうしても処方薬の取り揃えなどモノに関わる必須の業務に忙殺される時間は多い。たとえば調剤室を完全機械化すれば、モノに関わる時間を減らすことができる。実際、そうした取り組みを行っている薬局は一部にはある。しかし、その投資金額は膨大になるため、中小薬局にとっては「絵に描いた餅」だ。そこで出てきた構想が調剤業務の一部外部業務委託である。要は処方箋を受け付ける薬局とその調剤業務を委託する薬局が別に存在し、薬は処方箋を受け付けた薬局経由か、調剤業務を委託された薬局経由で患者に届けられる仕組み。処方箋を受け付ける薬局では調剤業務の負荷が軽減されるため、その分だけ患者への服薬指導や多職種との連携などの対人業務に時間を割くことができるというスキームである。このように説明すると、「処方箋を持ってきた患者は薬もないまま窓口で服薬指導を受けるだけなのか?」「調剤業務を委託された先からの配送時間分だけ、患者が窓口で待たされるだけではないか?」との指摘もあるだろう。だが、そもそもこの構想は、主に昨今増加している薬剤師による在宅服薬指導を念頭に置いたものだ。この場合、前述のような指摘はほぼ問題なくなる。また、調剤報酬は処方箋を受け付けた薬局が受け取る形になり、調剤業務を委託される薬局は委託元からの業務委託料が収入となる。もちろんこのスキームは現行法ではNGである。当初この構想は、前述のコンソーシアム代表を務める狭間氏が経営するファルメディコの運営薬局内での分業のような形で、狭間氏が内閣府の国家戦略特区制度を利用した事業として提案された。ちなみに冒頭から「一部」とただし書きをつけているが、この提案では調剤業務のうち高齢者向けなどを中心に行われる複数の内服薬の一包化のみを対象としている。一包化は服用者側にとっては簡便な分だけ、薬局側がその作業に一定の時間を取られるからだ。特区への提案事業は、内閣府から所管省庁に検討要請が行われるが、これに対して厚労省は実施が同一の三次医療圏内であることに加え、委託先、委託元への監視指導が必要になることから特区措置の創設段階から事業参加薬局が所在する地方公共団体、つまり都道府県や市区町村の参加が前提と回答した。狭間氏自身は薬局・薬剤師業界では著名人だが、大阪府、兵庫県で複数の薬局を経営し、自身が代表取締役を務めるファルメディコは、はっきり言えば自治体からは無名に近い。そのファルメディコがこの条件をクリアするのは、当初はかなり困難と思われた。より端的に言えば、この特区事業に対して厚労省はゼロ回答、そうした意図があるかどうかは別にして「罷り成らぬ」と宣言したに等しい。本来ならばここで万事休すなのだが、狭間氏側は国内調剤チェーンのトップ3社など合計21社を正会員とした前述のコンソーシアムを形成。そこに大阪府、大阪市が乗っかる形で、瞬く間にこのハードルをクリアしてしまった。地方公共団体の参加という最も困難なハードルをクリアできたのは、たぶん大阪府、大阪市の「特殊事情」があったと思われる。それはこうした規制緩和的なものに最も頑強に抵抗するのは、多くの場合、政府与党の中核にいる自由民主党とその支持団体の関係者である。ところが大阪府、大阪市はご存じのように規制緩和を主要政策に掲げる政党である日本維新の会の牙城。大阪府政、大阪市政の与党が自民党ならば、おそらくこうした特区申請の要請があった場合には内々に大阪府薬剤師会に打診が行き、そこで「ノー」と言われれば終わりだ。あるいはこうした要請が行われた段階で、府庁、市役所の役人が忖度して事前にふるい落としてしまうことさえある。結局、大阪府、大阪市、コンソーシアムが組んでしまったことで、地元の大阪府薬剤師会(以下、府薬)は、事実上包囲網を敷かれた形となった。ちなみに府薬は、この提案が表面化してから、表向きに見える限りでは反対の急先鋒だった。しかし、当の狭間氏のほうは自身が率いる日本在宅薬学会の会見で「府薬の席は用意している」とラブコールを送り続けていた。そして結局、今回、府薬は参加することになったのだが、その会見での説明は何とも隔靴掻痒なものだった。6日、府薬の会館で行われた定例会見に赴いたが、私は定例会見での定例参加メンバーではないこともあり、府薬会長で元日本薬剤師会副会長だった乾 英夫氏自身が「なんか見かけない人いるね」と言いながら近づいてきて名刺交換することになり、挙句の果てに会見冒頭で並居る府薬役員や他社の記者の前で自己紹介をさせられる羽目になった。さてその会見、配布された資料には「保険調剤業務の一部外部委託について(国家戦略特区関係)」との記載があったが、会見では乾氏が「これは最後に私が説明します」と意味深な言い方をし、後回しにされた。会見開始から約40分、ついに乾氏がこの話題を切り出した。その内容は「(特区提案事業について)今でも非常に違和感がある」「解決し難い課題を改善するのが特区制度。調剤業務に大きな課題があるとの認識はない」「本当に患者さんにメリットになるかが一番疑問」と、従来の府薬あるいは日本薬剤師会のスタンスを並べ始めた。ところが、この後には「暫定版ガイドラインが公表され、今後は厚労省も実証事業を行う」「ただし、コンソーシアムが厚労省の実証事業よりも先行的に実施することになる」「特区事業は厚労省も管理すると思われ、患者さんの安全・安心を守る立場から関与したい」といきなり急旋回で“舵”を切った。まるで厳冬の札幌に向かっていた航空機が、いつの間にか赤道を超え、真夏の南半球の空港に着陸したかのような展開だ。府薬側の説明によると、コンソーシアムには安全性検討委員会、有効性検討委員会、経済性検討委員会の3委員会があるが、この各委員長と狭間氏との定期的なミーティングが開催されており、そこに出席してこの事業に関する意見を表明するという参加形態だ。簡単に言ってしまえば、オブザーバー参加ということだ。参加人数は最低1名だが、それ以上の場合もありうる。会長である乾氏自身の参加や正式会員参加の可能性は否定した。参加開始時期も現時点では未定という具合だ。しかしながら府薬としては調剤の一部外部業務委託に反対という姿勢は堅持するという何ともわかりにくいもの。会見に出席した役員からは、「コンソーシアムは賛同者の集まりで、中から聞こえるのは良いことが中心。批判的に検討できるか否かは中に入らないとわからない。まったく情報が入ってこない状況で見ていても、府薬としては『わからない』としかコメントできない」との説明もあった。今回の玉虫色の決定については、府薬理事会での承認も経ているが、その内部も割れていると伝わっている。実際、周辺取材をすると、断固反対という役員もいれば、この提案が表面化した直後からコンソーシアム関係者に内々の賛同を伝えた役員、外では反対と唱えながらコンソーシアム関係者には「実は賛成」と伝えた役員もいるなど、完全に同床異夢の状態である。乾氏自身は「反対だが、単に現状を確保したい『抵抗勢力』と捉えられるのも良くない」との認識を示すとともに、ほかの都道府県薬剤師会や府薬内から出てくるであろう「手のひら返し」批判については、「そこは丁寧に説明して理解していただくしかない」と語った。今回の展開は個人的にはある意味、日露戦争の終盤で日本の勝利を決定づけた日本海海戦で日本海軍が取った、敢えて敵の砲撃が近づく距離で方向転換して進路を塞いだ「敵前大回頭」も彷彿とさせる。もっとも、今回の件に関して、府薬とコンソーシアム側がこれを契機にドンパチを繰り広げる可能性はほぼないだろう。とはいえ、今回の府薬の舵取りが吉と出るか凶と出るかはまだわからない。願わくは互いにうまく伴走してほしいと個人的には思っている。

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がん患者におけるせん妄の診断と評価【非専門医のための緩和ケアTips】第59回

第59回 がん患者におけるせん妄の診断と評価緩和ケアを実践するうえで、非常に多いのが「せん妄」の患者さんです。とくに終末期には、回復困難なせん妄のケースに対応することがあります。今回はそうした場合の対応について考えてみましょう。今日の質問終末期が近いと思われる患者さんの訪問診療を担当しています。意識障害が悪化し、何度も起き上がろうとしたり、つじつまの合わない話をしたりするため、家族も「どうしてこんなことに…」とつらそうです。こうした場合、何に気を付けてケアすればよいでしょうか?緩和ケアを実践していると、せん妄って本当に多い症状なんですよね。それだけ身体状況が悪化した方が多い分野だともいえます。緩和ケア領域において、せん妄は「精神症状」として扱うことが多いですが、身体疾患を契機として発症するものでもあり、緩和ケアに関わる以上は「精神科の先生にお任せ」ではなく、ある程度の対応スキルを持つ必要があります。とはいえ、せん妄は診断するのが難しい症状です。今回のケースのように「つじつまの合わない言動」や「興奮」といった思考障害があれば気付きやすいでしょう。一方、「睡眠覚醒のリズム障害」などは気付きにくい例で、元々寝たきりの高齢の方が日中ボーッとしていても、なかなかせん妄だとは思い至らないでしょう。このように、医療者や家族からみた患者さんの状況の多様さが、せん妄の診断を難しくしている要因の1つです。一般に「終末期」とされる、死が近い状況で発生するせん妄は、原因疾患の改善が見込めず、予後も限定されることが予想されます。こうした「終末期せん妄」と呼ばれる状態には明確な定義があるわけでなく、医療者間でも曖昧な概念のままに議論されていることがよくあります。実際の診療では、「予後が週単位から日単位となった状況で生じているせん妄」であれば、「終末期せん妄」とみなされることが多いでしょう。「終末期せん妄」と診断したら、関係する医療スタッフ、とくに看護師と共有することが重要です。そして、ご家族にも終末期せん妄と、予後が限られる可能性が高いことを共有しましょう。本人の症状緩和やご家族に対する支援体制などについて、お看取りが近いと判断したこのタイミングでしっかりと見直すことが重要です。今回のTips今回のTips不可逆的な病態が基礎にあるせん妄は、終末期せん妄として対応しましょう。

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摂食障害に対する精神薬理学的介入~メタ解析

 神経性やせ症(AN)、神経性過食症(BN)、過食性障害(BED)といった、主な摂食障害の精神薬理学に関連する体重変化および感情の精神病理学的アウトカムを評価するため、イタリア・University of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、摂食障害ごとに薬剤の有効性が異なることが確認された。著者は、今後、体重以外のさまざまな精神病理学的および心臓代謝系のアウトカムを記録する研究、とくに確立された心理療法の介入を検証する研究が求められる、としている。Journal of Affective Disorders誌2023年10月1日号の報告。 対象は、検証済みの基準で診断された摂食障害に対するあらゆる精神薬理学的介入を文書化し、体重および精神病理学的変化を報告したRCT。キーワードを「神経性やせ症」「神経性過食症」「過食性障害」「抗うつ薬」「抗精神病薬」「気分安定薬」とし、2022年8月31日までに公表された研究をPubMed、Scopus、ClinicalTrials.govより検索した。言語制限は設けなかった。 主な結果は以下のとおり。・特定された5,122件のうち、203件の全文レビューを行った。・質的統合を行った62件(AN:22件、BN:23件、BED:17件)のうち、22件(AN:9件、BN:10件、BED:3件)をメタ解析に含めた。・ANにおけるBMIの増加について、オランザピンはプラセボよりも良好であったが(Hedges'g=0.283、95%CI=0.051~0.515、I2=0%、p=0.017)、fluoxetineでは効果が確認されなかった(Hedges'g=0.351、95%CI=-0.248~0.95、I2=63.37%、p=0.251)。・BNに対するfluoxetineの使用では、体重の有意な変化は認められず(Hedges'g=0.147、95%CI=-0.157~0.451、I2=0%、p=0.343)、過食(Hedges'g=0.203、95%CI=0.007~0.399、I2=0%、p=0.042)やパージングエピソード(Hedges'g=0.328、95%CI=-0.061~0.717、I2=58.97%、p=0.099)の減少が認められた。・BEDに対するリスデキサンフェタミンの使用では、体重(Hedges'g=0.259、95%CI=0.071~0.449、I2=0%、p=0.007)および過食(Hedges'g=0.571、95%CI=0.282~0.860、I2=53.84%、p<0.001)の減少が認められた。 著者は本研究の限界について、サンプル数の少なさ、短期間であること、信頼できる操作的定義の欠如が、本解析に含まれたスポンサードRCTへ影響を及ぼした可能性があると述べている。

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