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第178回 コロナワクチン廃棄の件、政府が国民に伝えていないこと

報道する側にとって、データとは時に取り扱いが難しいものである。とくに、ある種の公表データの事実関係だけを淡々と伝えるのが良いのか、それとも解釈まで含めて伝えるほうが良いのかはケースバイケースであるが、まさにそう思う報道を目にしたばかりだ。それは今月20日から新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のオミクロン株XBB.1.5対応ワクチン接種の開始に伴い、廃棄される既存の新型コロナワクチンに関する読売新聞の報道である。数字だけを中心に事実関係だけを淡々と書くのは、それはそれで記事の手法としてはある種極めて真っ当なのだが、ことこの件に関してはもう少し解釈も伝えたほうが良いのではないかと考えている。とりわけ、この記事が引用掲載されたYahoo!ニュースのコメント欄やSNSで、かなりとんちんかんな指摘が散見されるのを目の当たりにし、よりその思いが強くなる。しかも、そうしたとんちんかんなコメントの中に、識者と言われる人たちも含まれているのを見ると、やや頭が痛い。少なくとも、見出しと記事本文で共に指摘を受けている「ワクチン1回当たりの購入単価の非公表」というのは、契約上の問題があるとはいえ、税金を投入し、大勢の国民に接種している以上、国としての説明責任を果たしているとは言えず、ただ廃棄見込み数量を示すのはやや誤解を招くのではないかと思う。まず、ファイザー製の武漢株対応1価ワクチンの廃棄数が約880万回という結果については、かなり上出来だったのではないかと思う。武漢株対応ワクチンについては、長らく打つ手がなかったパンデミックの抑え込みの目的がありながら、需要が読み切れず、全国民に2回接種しても余りある量を用意しなければならなかったという事情があるからだ。約880万回分は、大雑把に2回接種分ならば約440万人分、3回接種分ならば約293万人分であり、総人口の占める割合で言えばそれぞれ3.7%、2.4%である。もちろんこの数字には、これまでに有効期限を迎えて廃棄済みのものは含まれていないが、それを含めても10%前後ではないだろうか? 国単位で見れば、これ自体は過剰な廃棄とは言えないと個人的には考えている。一方、オミクロン株対応の2価ワクチンについて言えば、国が供給を受けたのはファイザー製が約1億2,510万回分、モデルナ製が約7,000万回分。こちらは1回接種であり、日本の総人口をやや超える回数となる。しかし、当時は重症化リスクのある人に対して武漢株対応1価ワクチンを応急的に3回目接種で使用したりなど、やや混乱状態にあり、これに加え1、2回目の接種率が思いのほか高かったこと、オミクロン株となってから急速に感染者が増加したことなどを考慮すれば、事前に接種率を読み切るのはやはり困難だったろう。その意味では日本の総人口を上回る供給量を確保しなければならなかったと考えるのが自然である。このうち廃棄見込みはファイザー製が約2,650万回分、モデルナ製が約5,150万回分と公表されている。前述の報道にもあるように供給量に対する廃棄量の割合は、ファイザー製が2割強、モデルナ製に至っては7割強となる。全般的に見れば、オミクロン株対応ワクチンの廃棄量が増えた原因は、度重なる追加接種やオミクロン株出現後のワクチンの感染・発症予防効果の低下で、新型コロナワクチンそのものへの飽きとも言うべき状況が生まれ、接種率が低下したことが大きな要因だろう。もっともファイザー製については、政府や厚生労働省にとっては想定内だったかもしれないが、モデルナ製については確かに廃棄割合が多過ぎる。この点はいくつかの理由が考えられる。モデルナ製ワクチンの廃棄割合が高い理由一つは副反応の問題である。1~2回目接種時からファイザー製よりモデルナ製のほうが副反応出現率は高いと報告され、とりわけ稀とは言え、若年者での心筋炎の副反応はモデルナ製のほうが明らかに頻度は高かった。このため一般人の間では1価ワクチンの段階からファイザー製に比べ、忌避されがちだった。加えて日本でのオミクロン株対応ワクチンの承認はやや“特殊”な経過を辿っている。日本では2022年9月12日に両社のオミクロン株BA.1対応ワクチンを承認したが、すでに当時は世界的に流行株の主流がBA.4/5に移行していた時期。米国食品医薬品局(FDA)は6月末時点で両社にBA.4/5対応ワクチンの製造を求める声明を発表しており、8月中には両社ともこの対応ワクチンの申請を行っていた。結局、アメリカに倣う形で両社とも2022年9月以降に、日本でもBA.4/5対応2価ワクチンの申請を行ったが、とりあえずBA.1対応2価ワクチンでの公費接種が9月20日に開始され、後に承認されたBA.4/5対応2価ワクチンに現場が切り替えていった。このためオミクロン株BA.1対応ワクチンについては廃棄予定ワクチンに一定程度含まれていたのではないかと思われる。また、アメリカではファイザーとモデルナは1日違いで承認申請を行ったが、日本ではモデルナがファイザーに半月遅れで申請を行っているため、これがさらにモデルナ製の廃棄割合の増加に拍車をかけたとみられる。その意味では、日本でのワクチン購入政策に批判的吟味を加えるならば、廃棄量そのものの多寡ではなく、なぜBA.4/5への切り替えが遅れたのか、アメリカでほぼ同時に申請していながら、日本ではなぜモデルナが半月遅れたか、そこに医薬品医療機器総合機構(PMDA)との齟齬がなかったかどうかを検証すべきだ。今回、オミクロン株XBB.1.5 対応1価ワクチンについて、厚労省はファイザー製2,000万回分、モデルナ製500万回分の追加購入で合意に至っており、すでに量的には慎重になっている。今後、この数字がどのくらいに収まっていくのか、これも注目点と言えるだろう。

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認知症患者の意思決定支援【非専門医のための緩和ケアTips】第60回

第60回 認知症患者の意思決定支援「意思決定能力」という言葉がありますが、認知症などを持つ高齢患者さんの場合、どれだけ話を理解して治療方針を決められる状態なのか、それを評価することが最初のポイントになります。そういいつつ、これがなかなか難しいのも事実です。今回は認知症を持つ高齢患者さんの意思決定支援について考えてみます。今日の質問緩和ケアにおいて、ご本人や家族と話し合いながら、望ましいケアを考えることは大変ですが、やりがいを感じます。一方、高齢の方が多く、本人の意向を伺うことが難しく感じることがあります。本当にコミュニケーションが難しいときはご家族と話し合いますが、「話はできるけれど、複雑なことは理解できない」といった状況の場合、どの程度対応をすればよいのか迷います。皆さんは意思決定能力をどのように評価するか、説明できるでしょうか? おそらく、部分的に取り組んでいることもあるでしょうが、網羅的に言語化して説明するのは難しいと思います。意思決定能力とは、以下の4つの機能が統合されたものとされ、2022年に発表された『がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン』(金原出版)でも示されています。1)理解力提供された情報を理解・保持し、自分の言葉で説明できる。診断や治療を理解できる2)認識する能力自分自身の診断や治療、治療の選択により将来起こり得る結果を自分のこととして認識し考える能力3)論理的な思考能力診断や治療に関する情報を参考に、論理的に比較考察する能力4)選択を表明する能力意思決定の内容を明瞭に表明する能力意思決定では、1)自分がどのような医学的状況にあるかを理解し、2)3)自分にとって何が良いかを論理的に考え、4)医療者や周囲の関係者に伝える、ということをしているわけです。そう考えると、これら4つのどれが障害されても医療分野における意思決定は難しくなることがわかります。そして、目の前の患者さんはどのポイントが障害されているのかを判断し、支援する方法を考えます。ここで重要なのが、意思決定能力は「“ある”もしくは“ない”」「“0”もしくは“100”」で判断できるものではない、という点です。多くのケースでは、「言葉で詳細に自身の考えを述べることは難しいものの、感情と共に嫌な様子は見てとれる」といったように、できることとできないことが複雑に混じり合っています。今回の質問の患者さんも、こうした意思決定能力を構成する能力のどこかが障害されているものの、保たれている部分もある、という状況かと思います。まずは「患者さんの意思決定能力を評価する」ことから始めましょう。その後、「説明において医学的・専門的な内容を減らす」、「話すだけでなく文字でも伝える」など、相手が残された機能で対応できるための工夫をしましょう。今回のTips今回のTips認知症の方の意思決定支援、まずは「意思決定能力を評価」し、「話し合いの工夫」をしてみましょう。

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9月22日 ライソゾーム病の日【今日は何の日?】

【9月22日 ライソゾーム病の日】〔由来〕ライソゾーム病の研究・啓発活動を行う「Sakura Network Japan」が、本症の代表的な疾患であるファブリー病の原因遺伝子が、X染色体q22(キュウ・ニー・ニー)という語呂と疾患啓発のシンボルマーク『シルバーウイング』の活動開始が2012年9月22日であることから制定。関連コンテンツライソゾーム酸性リパーゼ欠損症【希少疾病ライブラリ】ファブリー病【希少疾病ライブラリ】ムコ多糖症I型【希少疾病ライブラリ】ニーマンピック病C1型へのHPβCDの可能性/Lancet

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コロナブースター接種、インフルワクチン同時接種の影響は?

 新型コロナウイルス感染症ワクチンのブースター接種と季節性インフルエンザワクチンの同時接種の有効性を調査した前向きコホート研究の結果、コロナワクチン単独接種群と比較して、コロナ+インフルワクチン同時接種群では抗スパイクIgG抗体価は低い傾向にあったものの統計学的な有意差はなく、副反応リスクも同程度であったことを、イスラエル・Sheba Medical CenterのTal Gonen氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2023年9月5日号掲載の報告。 コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種は、単独で接種した場合と比較して有効性および安全性が劣らないという報告があることなどから現在は実施可能となっている。しかし、多くの報告はコロナワクチンの初回接種を評価したものであり、オミクロンBA.4/5変異株対応2価ワクチンのブースター接種でのデータは乏しい。そこで研究グループは、すでにコロナワクチンを接種している集団における反応原性および免疫原性を比較するために前向きコホート研究を行った。 対象は、Sheba Medical Center(イスラエルの大規模3次医療センター)に勤務する医療者で、2022-2023シーズン中のインフルエンザワクチン(アボット)とオミクロンBA.4/5変異株対応2価ワクチン(ファイザー/BioNTech)のどちらか、またはその両方を接種した。反応原性解析としてワクチン接種後の副反応の発現率(局所症状[疼痛、腫脹、発赤など]、全身症状[発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感など])とその持続期間、免疫原性解析として新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価を調べた。ワクチン接種は2022年9月に開始し、2023年1月までデータを収集した。 反応原性解析にはアンケートに回答した588人(コロナワクチン群85人[年齢中央値71歳、女性66%]、インフルワクチン群357人[55歳、79%]、同時接種群146人[61歳、55%])が含まれた。免疫原性解析には血清学的検査を受けた151人(コロナワクチン群74人[年齢中央値67歳、女性61%]、同時接種群77人[60歳、55%]が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種後の局所症状の発現率は、コロナワクチン群で49.4%(95%信頼区間[CI]:38.4~60.5)、インフルワクチン群で34.5%(29.5~39.6)、同時接種群で52.1%(43.6~60.4)であった。・全身症状は、コロナワクチン群で27.4%(95%CI:18.2~38.2)、インフルワクチン群で12.7%(9.5~16.7)、同時接種群で27.6%(20.5~35.6)に発現した。・コロナワクチン群と比較した場合の局所症状および全身症状発現のオッズ比は、インフルワクチン群はそれぞれ0.27(95%CI:0.15~0.47)および0.17(0.09~0.33)、同時接種群は1.02(0.57~1.82)および0.82(0.43~1.56)であった。・同時投与群の抗スパイクIgG抗体価は、コロナワクチン単独投与群の0.84(95%CI:0.69~1.04)倍と推定された。 これらの結果より、研究グループは「本研究の限界として、コロナに対する免疫原性のみを評価し、インフルエンザに対する免疫原性は評価しなかったことが挙げられる」としたうえで、「コロナワクチンの単独接種と比較して、コロナ+インフルワクチン同時接種は免疫反応の大幅な低下や有害事象の頻発とは関連しておらず、これらのワクチンの同時接種を支持するものである」とまとめた。

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スマホゲームで慢性期統合失調症患者の認知機能が改善

 中国・安徽医科大学のShengya Shi氏らは、慢性期統合失調症患者の認知機能改善に対するビデオゲームの有効性を調査し、認知機能に対するビデオゲームのバイオマーカーを評価するため、予備的研究を行った。その結果、ビデオゲーム介入は、慢性期統合失調症患者の認知機能を改善することが示唆され、血清BDNFレベルがこの効果を予測するバイオマーカーである可能性を報告した。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2023年8月18日号の報告。 ゲーム群には、1人用のスマートフォンビデオゲームを1時間/日、週5回プレーを6週間行った。対照群は、1時間/日、週5回のテレビ視聴を6週間行った。認知機能の評価には、神経心理検査アーバンズ(RBANS)およびストループ色彩単語検査(SCWT)を用いた。臨床症状の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、機能の全体的評価尺度(GAF)、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSE)、モバイルゲーム依存アンケート(PMGQ)、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ゲーム群では、試験期間中にRBANS合計スコアの改善が認められた。・すべてのSCWTスコアにおいて、両群間の差は認められなかった。・ゲーム群では、PANSSの陰性症状およびGAFの全体的機能のより大きな改善が認められた。・PMGQスコアは、両群ともにすべての時点において、カットオフスコアよりも低値であった。・PHQ-9およびGSEスコアは、両群間で差は認められなかった。・6週間のビデオゲーム介入後、ゲーム群では、血清BDNFレベルが有意に高かった。・すべての参加者において、血清BDNF レベルとRBANS合計スコアとの正の相関が認められた。

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POTENT試験の探索的解析結果、monarchEの適格基準でも検討

 第III相POTENT試験では、エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性乳がんにおける術後ホルモン療法へのS-1の上乗せ効果が示された。今回、POTENT試験のリスク分類別の探索的解析結果を京都大学の高田 正泰氏らがBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年9月7日号に報告した。POTENT試験でのS-1の上乗せ効果はとくに中リスク群で顕著だった POTENT試験の対象は、StageI~IIIBのER陽性HER2陰性乳がん患者。S-1併用群(S-1[1日2回経口、3週ごと]+標準的ホルモン療法)と標準的ホルモン療法群に無作為に割り付けられた。 再発リスク(複合リスク)は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、グレード、ER発現、Ki-67発現レベルを組み込んだCoxモデルで決定した。複合リスクスコアにより低リスク群(下位四分位数以下、677例)、中リスク群(四分位範囲、767例)、高リスク群(上位四分位数超、453例)に分け、各群におけるS-1の上乗せ効果を評価した。また、monarchE試験の適格基準を満たした患者におけるS-1の上乗せ効果も推定された。 POTENT試験をリスク分類別に解析した主な結果は以下のとおり。・内分泌療法にS-1を追加することで、無浸潤疾患生存(iDFS)イベントは、中リスク群では49%(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.33~0.78)、高リスク群では29%(HR:0.71、95%CI:0.49~1.02)減少した。・低リスク群では、S-1の上乗せ効果は確認できなかった。・monarchEコホート1基準のうちリンパ節転移1~3個の患者(290例)において、S-1上乗せはiDFSの改善を示した(HR:0.47、95%CI:0.29~0.74)。 著者らはS-1の上乗せ効果はとくに中リスク群で顕著だったとし、最適な使用法を探るため、さらなる研究が必要とまとめている。

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がん遺伝子パネル検査、もっと多く、もっと早く/イルミナ

 イルミナは2023年8月31日に、都内でプレスセミナー「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の現状と課題」を開催した。演者からは、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング[CGP]検査)のさらなる活用と、早期適用についての要望が発せられた。一般大衆のがんゲノム医療への認知度は低い 同社メディカルアフェアーズ本部長である猪又 兵衛氏は、2023年5月に同社が一般成人1,000人を対象に行った「がんゲノム医療に対する意識調査」の結果を紹介した。 がんの根本的な原因について問う質問に対し、「喫煙」「遺伝」「飲酒、偏食」という回答が上位を占め、「遺伝子異常」と認識していた人の割合はそれ以下で5割強にとどまった。また、がんゲノム医療を知っているか、との質問に対し、知っていたと回答した割合は7%であった。 猪又氏は、「がん患者やその家族など、がんに関わっている方でさえ、がんゲノム検査の認知度とがんへの正しい理解度はまだ低く、さらなる向上の余地がある」と総括した。今以上に増やせる日本の遺伝子パネル検査の活用機会は 同社ゼネラルマネジャーのArjuna Kumarasuriyar氏は、世界と日本のCGP活用に関する統計データを示した。 日本ではCGP検査が保険承認されているものの、希少がんを除き、標準治療終了後という制限がある。制限の中でCGP検査を受けているがん患者は約1万7,000例で、日本における年間の新規がん罹患数の約100万人から換算すると、58対1の比率である。この比率は韓国では10対1、ドイツでは13対1で、CGP検査を受けているがん患者の比率は日本の4〜5倍多い。Kumarasuriyar氏は、「日本では今以上にCGPの活用機会がある」と述べた。CGPをさらに治療に結び付けるために必要な、基礎・臨床研究の増加 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野 隆志氏は、C-CATの実績について紹介した。 2019年6月以降のC-CATの登録累計は6万人に達する。登録者は増加傾向で、現在は月2,000件程度が新たに登録されている。CGP検査により治療薬が提示された患者は44.5%(1万3,713例)、CGP検査で提示された標的治療薬が投与された患者は9.4%(2,888例)であるという。 河野氏は、「多くの患者で遺伝子変異が見つかっているが、必ずしも薬剤に紐付いているわけではない。今後は遺伝子と薬剤の関係を導き出す基礎研究と、治療につなげる治験の増加が必要だ」と訴えた。CGP活用拡大に欠かせない、医師からの提案と診断初期からの適用 NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島 喜幸氏からは、希少がんと膵臓がん患者のアンケート結果が紹介された。 希少がんでは治療初期からCGP検査が認められている。しかし、医師からがんゲノム医療の説明を受けた希少がん患者は22.5%しかいない。結果、CGP検査を受けた希少がん患者は12%だった。CGP検査を受けなかった理由の第1位は「医師からの説明がなかった」である。眞島氏は、「患者から検査の要望を切り出せる状況には至っていない。医師からの提案が重要」と述べた。 また、同氏はCGPの活用時期についても言及した。膵がんではKRASやBRCAなど代表的な遺伝子変異が多い。米国のNCCNガイドラインでは、進行膵がんに対し治療初期からCGP検査が推奨されているが、日本では、膵がんでのCGP検査適用は標準治療後である。眞島氏は、「膵がんの治療は待ったなし。現在の制限を解除し、米国のように診断時からCGP検査を活用してゲノム医療につなげたい」と訴えた。

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急性期脳梗塞で血管内治療後の急性期血圧管理、厳格vs.標準(OPTIMAL-BP)/JAMA

 主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中患者で血管内血栓除去術(EVT)により再灌流に成功した後、血圧上昇がみられる患者において、24時間の集中的な血圧管理(収縮期血圧の目標140mmHg未満)は従来の血圧管理(同140~180mmHg)と比較し、3ヵ月時点の機能的自立の達成割合が低いことを、韓国・延世大学のHyo Suk Nam氏らが多施設共同無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Outcome in Patients Treated With Intra-Arterial Thrombectomy-Optimal Blood Pressure Control:OPTIMAL-BP試験」の結果、報告した。急性期虚血性脳卒中患者におけるEVTによる再灌流成功後の最適な血圧管理は、不明であった。著者は、「EVTを受けた急性期虚血性脳卒中患者において、再灌流成功後24時間の強化降圧療法は避けるべきである」と述べている。JAMA誌2023年9月5日号掲載の報告。140mmHg未満目標の強化管理群vs.140~180mmHg目標の従来管理群を評価 研究グループは、2020年6月~2022年11月の期間に韓国の脳卒中センター19施設において、EVTを受けた20歳以上の主幹動脈閉塞による急性期虚血性脳卒中患者で、修正Thrombolysis in Cerebral Infarction(TICI)スコアが2b以上(閉塞血管領域の50%以上で再灌流)、再灌流成功後2時間以内に2分間隔で少なくとも2回測定した収縮期血圧が140mmHg以上の患者を登録。登録後24時間の収縮期血圧について、140mmHg未満を目標とする強化管理群と140~180mmHgを目標とする従来管理群に1対1に無作為に割り付けた。 主要有効性アウトカムは、3ヵ月時点の機能的自立(修正Rankin Scaleスコア0~2)とした。主要安全性アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血、3ヵ月以内の脳卒中関連死であった。3ヵ月後の機能的自立の達成割合は、従来管理群が良好 本試験は、ENCHANTED2/MT試験で示された安全性の懸念が確認されたことなどにより、データ安全性モニタリング委員会の勧告に基づき、306例が無作為化された時点で早期中止となった。無作為化された患者のうち、305例が適格基準を満たし、302例(99.0%)が試験を完了した(平均年齢73.0歳、女性122例[40.4%])。 機能的自立を達成した患者の割合は、強化管理群39.4%(61/155例)、従来管理群54.4%(80/147例)、群間リスク差は-15.1%(95%信頼区間[CI]:-26.2~-3.9)、補正後オッズ比は0.56(95%CI:0.33~0.96、p=0.03)であり、強化管理群で達成が有意に低いことが認められた。 症候性頭蓋内出血の発現率は、強化管理群9.0%(14/155例)、従来管理群8.1%(12/149例)であった(群間リスク差:1.0%[95%CI:-5.3~7.3]、補正後オッズ比:1.10[95%CI:0.48~2.53]、p=0.82)。また、3ヵ月以内の脳卒中関連死亡率は、強化管理群7.7%(12/155例)、従来管理群5.4%(8/147例)であった(2.3%[-3.3~7.9]、1.73[0.61~4.92]、p=0.31)。

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転移のある膵がん1次治療、NALIRIFOXがOS・PFS改善(NAPOLI-3)/Lancet

 米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のZev A. Wainberg氏らは、欧州、北米、南米、アジア、オーストラリアの18ヵ国187施設で実施した無作為化非盲検第III相試験「NAPOLI 3試験」の結果、転移のある膵管腺がん(mPDAC)の1次治療としてNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)はnab-パクリタキセル+ゲムシタビンと比較し、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことを報告した。膵管腺がんは依然として、生命予後が最も不良の悪性腫瘍の1つであり、治療選択肢はほとんどないとされている。Lancet誌オンライン版2023年9月11日号掲載の報告。NALIRIFOX群vs.nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群で評価 研究グループは、未治療のmPDACで18歳以上のECOG PS 0~1の患者を、地域(北米vs.東アジアvs.その他の地域)、PS(0 vs.1)、肝転移(ありvs.なし)で層別化し、NALIRIFOX群またはnab-パクリタキセル+ゲムシタビン群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NALIRIFOX群では、28日を1サイクルとして1日目と15日目に、ナノリポソーム型イリノテカン50mg/m2、フルオロウラシル2,400mg/m2、ロイコボリン400mg/m2およびオキサリプラチン60mg/m2を46時間以上かけて持続点滴静注した。nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群では、28日を1サイクルとして1日目、8日目および15日目に、nab-パクリタキセル125mg/m2とゲムシタビン1,000mg/m2を静脈内投与した。 主要評価項目は、intention-to-treat集団におけるOSで、両群において少なくとも543件のイベントが観察された時点で評価した。副次評価項目はPFSなどであった。また、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を解析対象として安全性を評価した。 2020年2月19日~2021年8月17日の期間に、計770例が無作為に割り付けられた(NALIRIFOX群383例、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群387例)。NALIRIFOX群でOSが有意に延長 追跡期間中央値16.1ヵ月(四分位範囲[IQR]:13.4~19.1)において、OS中央値はNALIRIFOX群11.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.0~12.1)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群9.2ヵ月(8.3~10.6)であった(ハザード比[HR]:0.83、95%CI:0.70~0.99、p=0.036)。12ヵ月OS率は、NALIRIFOX群45.6%(95%CI:40.5~50.5)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群39.5%(34.6~44.4)であり、18ヵ月OS率はそれぞれ26.2%(20.9~31.7)、19.3%(14.8~24.2)であった。 また、副次評価項目であるPFSは、NALIRIFOX群7.4ヵ月(95%CI:6.0~7.7)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群5.6ヵ月(5.3~5.8)であった(HR:0.69、95%CI:0.58~0.83、p<0.0001)。 治療関連死は、NALIRIFOX群で6例(2%)、nab-パクリタキセル+ゲムシタビン群で8例(2%)であった。

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コロナ医療費、公費支援を10月から縮小/厚労省

 厚生労働省は9月15日付の事務連絡にて、新型コロナウイルス感染症の10月以降の医療提供体制の移行および公費支援の具体的内容を公表した。2023年5月8日に新型コロナは5類感染症に変更となり、9月末までを目途として特例措置の見直しが行われてきた。これまでの見直しを踏まえ、冬の感染拡大に対応しつつ、通常の医療提供体制への段階的な移行を進めるため、2023年10月~2024年3月を引き続き移行期間として定め、10月以降の取り扱いがまとめられた。 病床確保料や診療報酬上の特例が見直され、10月以降は補助単価の上限や特例加算を引き下げて継続となる。具体的な額面・点数の詳細は「新型コロナウイルス感染症に関する10月以降の見直し等について」の資料を参照されたい。 新型コロナ患者への治療薬や入院医療費など対する公費支援なども見直され、全額公費負担だったコロナ治療薬は、一部自己負担を求めつつ公費支援が継続されることなどが示された。2024年4月の完全移行後は、通常の自己負担となる予定。 患者等に対する公費支援の詳細は以下のとおり。【治療薬】・9月までは、コロナ治療薬の費用は全額公費支援(外来・入院)であった。・10月以降は、他の疾病との公平性の観点も踏まえ、自己負担なしの扱いから、一定の自己負担を求めつつ公費支援を継続。・自己負担の上限額は、医療費の自己負担割合に応じて段階的に、1割の人:3,000円、2割の人:6,000円、3割の人:9,000円とする。3割の人でも、重症化予防効果のあるラゲブリオ等の薬価(約90,000円)の1割程度(9,000円)にとどまるように見直す。【入院医療費】・9月までは、高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額であった。・10月以降は、他の疾病との公平性の観点も踏まえ、入院医療費については、高額療養費制度の自己負担限度額から1万円の減額に見直して公費支援を継続。新型コロナ医療費の自己負担イメージ【外来医療費】2023年5月8日~9月末→10月1日~2024年3月末→完全移行後・1割負担の人:1,390円(うち薬剤費0円)→4,090円(同3,000円)→8,000~10,520円(同9,430円)・2割負担の人:2,780円(うち薬剤費0円)→8,180円(同6,000円)→18,000円(同18,860円)・3割負担の人:4,170円(うち薬剤費0円)→12,270円(同9,000円)→31,570円(同28,290円)【入院医療費】・75歳以上(1割負担)で年収約370万円以下の人が7日間入院した場合、治療薬を除く自己負担額は39,800~47,600円。※完全移行後は高額療養費を適用し、39,800~57,600円。

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漫画『王の病室』がリアル!【Dr. 中島の 新・徒然草】(495)

四百九十五の段 漫画『王の病室』がリアル!「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、本当に彼岸を過ぎたらこの暑さが和らぐのでしょうか? 外来受診をしたタイ人の患者さんが「日本のほうが暑い!」と言っていたくらいですから、まだまだ続くのかもしれません。さて、前々回は『響~小説家になる方法』という漫画を紹介しましたが、今回は『王の病室』(講談社、原作:灰吹 ジジ、漫画:中西 淳)という医療漫画を紹介したいと思います。医学部を卒業して新しく研修医になった赤城くんが主人公。彼が研修をしながら、医療の現実の中で悩みながら成長する物語です。漫画の中の登場人物のセリフがリアル。我知らず感心してしまいました。以下、いくつかの例を紹介させていただきます。ここがリアル! その1まず、赤城くんが担当患者さんのご家族に「少しお伺いしたいことが」と呼び止められる場面。ご家族が赤城くんに尋ねます。「父が治るまでに一体いくらぐらい用意しておけばよろしいのでしょうか」これに対して赤城くんの答えが笑えます。「さあ」何ですか、「さあ」って!でも、開業医の先生はともかく、私を含めて勤務医はあまり医療費のことを考えていません。ましてや赤城くんは卒業したばかりの研修医ゆえ、「さあ」以外の答えがないのは当然です。それにしても、もう少しマシな答えはなかったものでしょうか?ここがリアル! その2先輩の獄門院 聖(ごくもんいん ひじり)先生が赤城くんを慰める場面。「安心しろ赤城。この世に絶対の名医なんて存在しねェ。だから潔く泥仕合に励むんだな」赤城くんはグッドパスチャー症候群に対して血漿交換で挑もうとしていたのですが、いくら繰り返しても改善しない、という経過を予想できていません。泥仕合とは言い得て妙です。ここがリアル! その3指導医の高野 孝太郎(たかの こうたろう)先生に血漿交換の許可をもらいに行ったときのこと。すでに負け戦が見えている高野先生にとって、血漿交換は貴重な医療資源の浪費にしか思えません。でも一生懸命な赤城くんを見てこう言います。「赤城先生のためと思って今回は大目にみましょう…(略)…ここで血漿交換療法を経験した赤城先生が未来で誰かを救うかもしれない」大金をドブに捨てるみたいな治療ではあるけれども若者の教育のため、と思って自分を無理に納得させているのでしょう。ここがリアル! その4腎臓内科の松下 優音(まつした ゆね)先生は獄門院先生や高野先生とは別の考えを持っています。彼女のセリフが私にとっては一番腑に落ちるものでした。ちょっと長いけど引用させてもらいます。「この世で最も平等なものは『病』だと思うんだ…(略)…平等という言葉を使うとき我々は少し歪んだ認識をしてると思うんだけど。『善人が救われる』『悪人が罰を受ける』どこかそんな勧善懲悪をイメージしてない?」見事に我々が無意識に持っている考えを言い当ててくれます。そして松下先生はこう続けました。「本当の平等はもっと残酷だよ。老いも若きも金持ちも貧乏人も善人も悪人も区別なくただただ病は降り注ぐ」まさしく、その通り!「だからこそ私は信じてるんだよね。病と闘う者もまた同じくらい平等が許されると。若者を助けるべきとか誰を優先すべきとか、そういう小賢しい判断は国のお偉いさんにお任せ。与えられた手段全部使って誰でも治すのが私のやり方だから」飲酒喫煙しながら長生きする人が大勢いる一方、清く正しい生活で早死にしてしまう人も少なくありません。まさしく病は平等、そして理不尽です。だからこそ、自分のほうも理不尽に振る舞い、使えるものは何でも使って治療する、という松下先生の考え方には頷かされてしまいます。この漫画には、ほかにも示唆に富むセリフが沢山出てきました。読者の皆さまには、是非ともこの漫画を買って読んでいただきたく思います。きっと「あるある」と笑えることでしょう。ということで最後に1句彼岸すぎ リアルな漫画に 感心す

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交通事故診療で困ることとその対応(2)

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。整形外科医の濱口 裕之です。前回の「交通事故診療で困ることとその対応」はいかがでしたでしょうか?やっぱり交通事故診療は面倒くさいとか言わないでくださいね。それでは、今回も交通事故診療の疑問にお答えしましょう!自分の患者さんが、どのような基準で後遺障害に認定されるのかわかりません。後遺障害診断書をしっかり記載したのに非該当になって、患者さんに愚痴られたことがあります自賠責保険の後遺障害認定基準はブラックボックスであり、詳細は公開されていません。このため、自分の患者さんが後遺障害に認定されるか否かを正確に予測するのはほぼ不可能です。これまで、私たちのグループは、全国から寄せられる数千例に及ぶ事案に取り組んできました。それらの事案を分析した結果、自賠責保険は以下の認定基準にしたがって後遺障害の審査を行っていると推察されます。事故の規模症状の一貫性通院頻度適切な専門科の受診の程度身体所見と画像所見の一致の程度症状固定までの期間患者さんが受傷した部位ごとに細かい認定基準があるため、私たちのように年間約1,000例もの症例に取り組んでいても、正確に後遺障害等級を予測できるわけではありません。このため、自分の患者さんの後遺障害等級を予測するのは困難だと割り切りましょう。事故と症状の因果関係が疑わしい患者さんをときどき見かけます。単なる外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)なのに、めまい、耳鳴、目のかすみなどの訴えは理解できません交通事故での外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)といえば、首の痛みを想像する人が多いと思います。確かに、外傷性頸部症候群の症状として最も多いのは、後頸部から腕にかけての痛みやしびれです。しかし、外傷性頸部症候群では、めまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなど自律神経失調症の症状を併発する症例があります。外傷の影響で交感神経が刺激されて前庭迷路の血流が減少します。これによって、めまいや耳鳴が起きるといわれています。外傷性頸部症候群に自律神経失調症が合併した状態を、バレリュー症候群と呼びます。バレリュー症候群は、整形外科医の間でさえ一般的な傷病とは言い難いです。しかし、交通事故診療では比較的よく見かける傷病です。患者さんがめまい、耳鳴、目のかすみ、目の疲れなどを訴えると、精神疾患や詐病を連想しがちです。しかし、外傷性頸部症候群では、一定の確率で自律神経失調症を併発します。バレリュー症候群である可能性を念頭に置いて診療しましょう。症状固定の時に、治療終了となることに対して患者さんが納得しなくて困っています。症状固定とは、治療してもそれ以上改善しない状態を指します。具体的には、消炎鎮痛剤の服用やリハビリテーションにより一過性に軽快するものの、すぐ元に戻ってしまう状態です。症状が一進一退になれば、症状固定の時期と思って良いでしょう。症状固定は医学的な概念ではなく、損害保険会社や裁判で慣習的に使われている用語です。そのため、患者さんだけでなく医師が症状固定の意味を正確に理解していなくても不思議ではありません。自賠責保険は、すべての交通事故被害者が完治するとは考えていません。治療効果がなくなった時点で治療を終了し、後遺症に対しては後遺障害を認定して救済します。限りある保険料収入を最大限有効活用することで、公的な利益を追求しています。そのため、治療しても根本的に改善する可能性がなくなったにもかかわらず、延々と治療を続けることには問題があります。患者さんの立場では、交通事故に巻き込まれて後遺症を負ったので、完全に治るまで補償して欲しいと思いがちです。症状固定に納得しない患者さんには、自賠責保険の公的な存在意義を説明するしかないと思います。なお、症状固定しても自賠責保険での治療が終了するだけです。健康保険で症状緩和の治療を続けられることは申し伝えましょう。診断書へ絶対に記載してはいけない事項は何でしょうか?自賠責保険は、醜状などの一部を除いて、すべて書類審査です。したがって、医師が作成した診断書は、患者さんの後遺障害認定に極めて大きな影響を及ぼします。そのため、診断書は自賠責保険のルールに則って記載する必要があります。そうは言っても、特別に勉強する必要はなく、普通の感覚で診断書を作成すればよいでしょう。ただし後遺障害診断書の左下にある「障害内容の増悪・緩解の見通し」については、慎重に記載する必要があります。この欄に、症状は改善する見込みがあるなどと記載すると、患者さんは確実に後遺障害非該当になります。そもそも、症状固定の定義は「治療してもそれ以上改善しない状態」です。症状が改善する見込みがあるのなら、まだ症状固定ではありません。症状固定は医学用語ではないので、多くの医師が症状固定の定義を知らないのは当然といえるでしょう。だからといって、患者さんに不利益になることをあえて記載する理由はありません。主治医として、この点だけは知っておいて損はないと思います。自覚症状だけで他覚所見が乏しい場合の対応はどうすればよいのでしょうか?交通事故診療で最も多い外傷性頸部症候群では、他覚所見に乏しい症例が多いです。身体所見や画像所見と比較して症状の訴えの強い患者さんを診ると、どうしても詐病が頭をよぎります。しかし、私たちの数千例に及ぶ経験では、交通事故診療で明らかに詐病と思われる症例は、さほど多くないのが実情です。たしかに、外傷性頸部症候群では自覚症状だけで他覚所見が乏しい症例は多いですが、彼らが全員ウソをついているわけではありません。単に現在の医療水準では、画像検査などで痛みなどの症状の原因を捉えきれていないだけだと考えるべきでしょう。私たち医師ができることは、客観的に診療することだけです。詐病が強く疑われるケースを除けば、粛々と治療を続けることが望まれます。

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第63回 「5類」化は失敗だったのか?学級閉鎖急増

学級閉鎖が急増PAKUTASOより使用私の住んでいる地域でも学級閉鎖が増えてきました。新型コロナだけでなくインフルエンザが再び急増して、完全にダブル流行の状態です。来院する発熱者も、一体どちらに感染しているのかわかりにくい状況です。新型コロナでは、嗅覚障害・味覚障害も以前ほど出現せず、特異度の高い所見がありません。前の波までは新型コロナとインフルエンザの両方を検査していた医療機関が多いと思いますが、今はどうでしょうか。インフルエンザの流行が落ち着いたということで、新型コロナだけ検査している医療機関もあるかもしれません。しばらくは両方検査しておくのが無難でしょうね。さて、秋口からインフルエンザの流行が始まることは、過去に類を見ない現象です。今年度の冬は一体どうなるのでしょうか。日本学校保健会における9月15日時点でのデータ1)では、新型コロナによる1,000クラス当たりの学級閉鎖数が多い都道府県は、埼玉県(11.17)、新潟県(4.96)、島根県(4.91)などが目立ちます。インフルエンザによる1,000クラス当たりの学級閉鎖は埼玉県 1.65、新潟県 0.37、島根県 2.28となっており、どちらのウイルスが原因で学級閉鎖しているのかわかりにくいことから、報告に地域差が大きい状況です。画像を拡大する図. 埼玉県の学級閉鎖クラス数(参考1より引用)学級閉鎖になると、親が大変です。とくに共働きの家では、このまさかの事態に親が休まざるを得ないこともあるでしょう。「5類」化で本当によかったのか?世論に押される形で、新型コロナは5月から「5類感染症」になりました。これまでの「新型インフルエンザ等感染症」という枠組みはとても便利で、感染が拡大したときに対策を締めることができ、ピークが過ぎれば緩和するという、非常に勝手のよいものでした。私個人としては、枠組みは「新型インフルエンザ等感染症」のままで、感染の増減に合わせてガードを上げ下げすればよいのではと思っていました。ただ、ずっとこのままやっていくには国全体の疲弊がひどかったですし、どこかで「5類」に変更する必要があったのでしょう。しかし、「5類」化以降、これまでサポートしてくれていた行政が、いきなり塩対応になりました。緩和ムードの裏で、地域では感染が増えました。入退院も個々の医療機関の地域連携室がマネジメントすることになりました。クリニックも医療機関との個別交渉になるので、なかなか大変です。教育現場ではマスクが緩和されました。それはそれでよいことだと思いますが、これほど学級閉鎖が増えても、行政からメッセージが出ないのは不安になりますね。参考文献・参考サイト1)学校保健ポータルサイト 感染症情報マップ(マップビュー)

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローチャート

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、便通異常症診療ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。新たな慢性便秘症のガイドライン作成が求められていた 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たな慢性便秘症のガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。便通異常症診療ガイドライン2023にフローチャート 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 今回の便通異常症診療ガイドラインの診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023ではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回の便通異常症診療ガイドライン2023で強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回の便通異常症診療ガイドライン2023では「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では便秘症治療薬の使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった便秘症治療薬の使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、便通異常症診療ガイドライン2023の「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。便通異常症診療ガイドライン2023に慢性便秘症の病態評価 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回の便通異常症診療ガイドライン2023にも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。便通異常症診療ガイドライン2023改訂ポイントのまとめ 伊原氏は、今回の便通異常症診療ガイドライン2023改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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緑内障ほか眼科疾患と認知症リスク~メタ解析

 一般的な眼科疾患と認知症との関係を調査するため、中国・Shenzhen Qianhai Shekou Free Trade Zone HospitalのJiayi Feng氏らは、コホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、緑内障などの眼科疾患は、すべての原因による認知症やアルツハイマー病のリスク増加と関連している可能性が示唆された。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版2023年7月29日号の報告。緑内障や白内障はすべての原因による認知症のリスク増加と関連 対象は、眼科疾患を有する患者。2022年8月25日までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Web of Scienceなどのオンラインデータベースより、システマティックに検索した。緑内障、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症(DR)、白内障とすべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症との関連を評価したコホート研究をメタ解析に含めた。ランダム効果モデルを用いてプールし、相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。不均一性の評価には、I2統計を用いた。サブグループ分析および感度分析を実施した。 緑内障などの眼科疾患と認知症との関係を調査した主な結果は以下のとおり。・研究25件、参加者1,141万709例をメタ解析に含めた。・AMD、緑内障、DR、白内障は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病のリスク増加との関連が認められた。それぞれの統合された推定値は、以下のとおりであった。●すべての原因による認知症 【AMD】RR:1.29、95%CI:1.13~1.48 【緑内障】RR:1.16、95%CI:1.03~1.32 【DR】RR:1.40、95%CI:1.21~1.63 【白内障】RR:1.23、95%CI:1.09~1.40●アルツハイマー病 【AMD】RR:1.27、95%CI:1.06~1.52 【緑内障】RR:1.18、95%CI:1.02~1.38 【DR】RR:1.21、95%CI:1.04~1.41 【白内障】RR:1.22、95%CI:1.07~1.38・血管性認知症発症と眼科疾患との関連は、認められなかった。・サブグループ分析では、DRとすべての原因による認知症リスクとのメタ解析の結果と一致しなかった。・メタ回帰分析では、AMDとすべての原因による認知症、AMDとアルツハイマー病、緑内障とすべての原因による認知症、緑内障とアルツハイマー病との関連に、不均一な潜在的な原因として地理的要因が影響していることが示唆された。

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日本におけるSNS上のがん情報、4割超が誤情報

 SNSの普及により、患者はがん情報に容易にアクセスできるようになった。しかし、患者の意思決定に悪影響を与えかねない誤情報や有害情報も大量に発信されている。日本のSNSにおけるがん情報はどの程度信頼できるものなのか。これについて調べた名古屋市立大学病院 乳腺外科の呉山 菜梨氏らによる研究結果がJMIR formative research誌オンライン版2023年9月6日号に掲載された。 研究者らは、Twitter(現:X)上で2022年8~9月に投稿された、日本語の「がん」という言葉を含むツイートを抽出した。1)がんの発生や予後に関する言及、2)行動の推奨・非推奨、3)がん治療の経過や有害事象に関する言及、4)がん研究の成果、5)その他がんに関連する知識・情報、を含むがん関連ツイートを抽出対象とし、「いいね」の数が最も多かった上位100ツイートを選定した。それぞれのツイートについて、日本のがんセンターまたは大学病院で臨床に携わる医師である2名の独立したレビュアーが、情報が事実か誤情報か、有害か安全かを、誤情報と有害なツイートについてはその判断理由とともに評価した。 主な結果は以下のとおり。・抽出されたツイートは計6万9,875件であった。上位ツイート100件のうち、誤情報が含まれていたのは44件(44%)、有害情報が含まれていたのは31件(31%)、誤情報と有害情報の両方が含まれていたのは30件(30%)であった。・誤情報は、証明されていない(38/94、40.4%)、反証されている(19/94、20.2%)、不適切な適用(4/94、4.3%)、エビデンスの強度の誤り(14/94、14.9%)、誤解を招く(18/94、19.1%)、その他の誤情報(1/94、1.1%)に分類された。・有害情報は安全情報よりも「いいね」される頻度が高く、誤情報がリツイートされる頻度は事実に基づいた情報よりも、有害情報がリツイートされる頻度は安全な情報よりも、それぞれ有意に高かった。・正確性と有害性を合わせた分析では、「事実-安全」「事実-有害」「誤情報-安全」「誤情報-有害」と評価されたツイートの割合は、それぞれ55%、1%、14%、30%であった。・「いいね」やリツイートの数が最も多かったのは、「日本では、米国から余った抗がん剤や廃棄される抗がん剤が輸入されているため、がんの死亡率が高い」という誤った情報であった。 著者らは、「日本では、Twitter上でがんに関連する誤った情報や有害な情報が蔓延していることが明らかであり、この問題に関するヘルスリテラシーと意識を高めることが極めて重要である。さらに、行政機関や医療従事者は、患者やその家族が十分な情報を得たうえで意思決定できるよう、正確な医療情報を提供し続けることが重要である」と結論付けている。

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急性脳梗塞、血管内治療後の積極降圧は有益か?(BEST-II)/JAMA

 急性虚血性脳卒中の患者において、血管内治療成功後の収縮期血圧(SBP)目標値について、140mmHg未満や160mmHg未満の設定は、180mmHg以下の設定と比較して、事前規定の無益性は示されなかった。一方で、将来的に大規模試験で比較した場合に、低SBP目標値が高SBP目標値より優越性を示す確率は低い可能性も示唆されたという。米国・シンシナティ大学のEva A. Mistry氏らが、無作為化試験「BEST-II試験」の結果を報告した。急性虚血性脳卒中への血管内治療成功後の中程度のSBP降圧の影響は、明らかになっていなかった。JAMA誌2023年9月5日号掲載の報告。米国の3ヵ所の総合脳卒中センターで120例を対象に検討 研究グループは、2020年1月~2022年3月に米国の3ヵ所の総合脳卒中センターで、血管内療法を受け成功した急性虚血性脳卒中患者120例を登録し、降圧目標の低SBP値(140mmHg/160mmHg未満)が高SBP値(180mmHg以下)と比較して無益であるかを検証する第II相無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。最終フォローアップは2022年6月。 被験者を血管内治療後に無作為に3群に分け、SBP目標値を、40~140mmHg未満、40~160mmHg未満、40~180mmHg以下(臨床ガイドライン推奨値)にそれぞれ設定し、再灌流後60分以内に血圧管理を開始し24時間継続した。 主要解析の無益性検証のために事前に規定した主要アウトカムは、フォローアップ36(±12)時間後の梗塞体積と、90(±14)日時点の実用性加重・修正Rankin Scale(mRS)スコア(範囲:0[最悪]~1[最良])の複合だった。 線形回帰モデルを用いて、血管内治療後のSBP目標値の20mmHg低下ごとの、フォローアップ梗塞体積は10mL増加(傾き:0.5)、または実用性加重mRSスコアが0.10減少(傾き:-0.005)を有害性-無益性の境界として検証した(片側α=0.05)。そのほか無益性に関する事前規定は、将来的にSBP目標を低~中値とする群と高値とする群を比較した優越性試験(実用性加重mRSスコアのアウトカムを最大サンプルサイズ1,500例で検証)で、低~中値群が優越性を示す確率が25%未満であることとした。目標値140mmHg/160mmHg未満、180mmHg以下に対し優越性示す確率は25%・14% 被験者120例は、平均年齢69.6(SD 14.5)歳、女性は69例(58%)で、試験を完了したのは113例(94.2%)だった。 フォローアップ梗塞体積の平均値は、140mmHg未満群が32.4mL(95%信頼区間[CI]:18.0~46.7)、160mmHg未満群が50.7mL(33.7~67.7mL)、180mmHg以下群は46.4mL(24.5~68.2)だった。実用性加重mRSスコア平均値は、それぞれ0.51(0.38~0.63)、0.47(0.35~0.60)、0.58(0.46~0.71)だった。 ベースラインでAlberta Stroke Program Early CT(ASPECT)スコアにより補正後、SBP目標値低下ごとのフォローアップ梗塞体積増加の傾きは、-0.29(95%CI:-0.81~∞、無益性のp=0.99)だった。同じく実用性加重mRSスコアの傾きは、-0.0019(-∞~0.0017、無益性のp=0.93)といずれも無益であることは示されなかった。 一方で、SBP目標の高値群と低~中値群を比較した将来的な優越性試験の予測される成功確率は、140mmHg未満群が25%で、160mmHg未満群は14%だった。

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生殖年齢女性はNSAIDでVTEリスク増、ホルモン避妊薬併用でさらに増/BMJ

 生殖年齢15~49歳の女性において、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用は静脈血栓塞栓症(VTE)と正の関連性があることが示された。また、NSAID非使用時と比較した使用時のイベント数は、低リスク/リスクなしのホルモン避妊薬併用時と比べて、高/中リスクのホルモン避妊薬の併用時に有意に増加したことも示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のAmani Meaidi氏らが、同国在住の女性約203万人を対象に行った全国コホート試験の結果で、著者は「NSAIDとホルモン避妊薬の両者の使用が必要な女性には、適切なアドバイスが必要である」と述べている。BMJ誌2023年9月6日号掲載の報告。デンマーク在住の約203万人を対象にコホート試験 研究グループは、1996~2017年にデンマークに在住しており、静脈・動脈血栓症、がん、血小板増加症、子宮全摘出術、両側卵巣摘出術、不妊手術、不妊治療の病歴がない15~49歳の女性202万9,065人を対象にコホート試験を行い、ホルモン避妊薬とNSAIDの併用がVTEリスクに与える影響を検証した。 主要アウトカムは、下肢深部静脈血栓症または肺血栓塞栓症の初回退院時診断とした。ホルモン避妊薬非使用群4件/10万人、高リスクホルモン避妊薬併用群23件/10万人 202万9,065人の女性を延べ2,100万人年追跡した期間において、VTEイベントの発生は8,710件だった。 NSAID非使用者と比べ、NSAID使用者のVTEの補正後発生率比は、ホルモン避妊薬の非使用者では7.2(95%信頼区間[CI]:6.0~8.5)だったが、高リスクホルモン避妊薬使用者では11.0(9.6~12.6)、中リスクホルモン避妊薬使用者では7.9(5.9~10.6)、低リスク/リスクなしホルモン避妊薬使用者は4.5(2.6~8.1)だった。 NSAID非使用者と比較したNSAID治療開始後1週間における10万人当たりのVTEイベント発生件数は、ホルモン避妊薬非使用群では4件(95%CI:3~5)だったが、高リスクホルモン避妊薬併用群では23件(19~27)だった。中リスクホルモン避妊薬併用群は11件(7~15)、低リスク/リスクなしホルモン避妊薬併用群は3件(0~5)だった。

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高齢者の多枝冠動脈疾患を伴う急性心筋梗塞の冠動脈完全血行再建の有用性は?(解説:青木二郎氏)

 多枝冠動脈疾患を伴う急性心筋梗塞の冠動脈血行再建の責任病変以外の病変に対して、血行再建を行い、完全血行再建を目指すかについては、多くの無作為化比較試験が以前より行われてきた。PRAMI、DANAMI-3-PRIMULTI、COMPARE-ACUTE、COMPLETEといった試験では、非責任病変の有意狭窄病変にも血行再建を行うことにより、完全血行再建を行うほうが責任病変のみを治療するよりも、臨床イベントの発生が少なく望ましいと報告されてきた。しかし、今までの臨床試験では4,041例を登録したCOMPLETE試験でも平均年齢は62歳であり、高齢者でも同様の結果が得られるのかに重きを置いた臨床研究はなかった。今回のFIRE試験では、75歳以上の高齢者でも同様に完全血行再建を行うほうが、予後がいいことが初めて報告された。 FIRE試験では注目すべき点が他にもある。まず初めに、今までの臨床試験はSTEMIを主に対象としておりNSTEMIのエビデンスは乏しかったが、FIRE試験ではNSTEMI患者が約65%と半分以上登録された。サブ解析ではNSTEMI群のほうがSTEMI群より、完全血行再建を行ったほうがより臨床結果が良く、NSTEMI・STEMIに関係なく完全血行再建が望ましいと考えられる。 次に、非責任病変の評価法についても今までいろいろな議論がなされてきた。FLOWER-MI試験では、非責任病変の血管造影の狭窄度の評価(50%以上)と冠血流予備量比(FFR)0.8以下とで比較したが、臨床的な有意差が出なかった。FIRE試験は、非責任病変の評価に血管造影だけではなく、FFRに加えて安時指標(resting index)や血管造影結果から血流予備能を計測するQFRも用いられた初めての無作為化試験であることも注目される。急性期のFFRやresting indexは慢性期と異なるという報告も散見される。今後、非責任病変の評価に何が最適なのかを評価するために、5,100例を登録目標とした大規模無作為化試験であるCOMPLETE-2試験の登録が行われており、結果が待たれている。 最後に、完全血行再建をするほうが望ましいが、いつ非責任病変の血行再建を行ったらいいか、という問題もいまだ解決されていない。同時に治療したほうがいいのか、退院前なのか、退院後なのか? FIRE試験では同時治療が約60%であった。BIOVASC試験では同時が望ましいという結果であったが、今後のさらなる臨床試験の解析が待たれている。

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乾癬の治療法を徹底解説!:日野皮フ科医院 院長 日野 亮介氏

このコンテンツでは、乾癬の治療法について解説していきます。日常診療のアップデートに、ぜひご活用ください。講師紹介多くの乾癬患者さんたちからは、「ずっと同じ薬ばっかりで良くならない」というお声を多く頂きます。乾癬の治療は塗り薬しかない、と思っておられる方も多いかもしれません。しかし、そうではありません。乾癬は治療に苦労する皮膚疾患でありますが、ここ10年ほどで大変多くの治療薬が出てきました。皮膚の症状は大半の方でコントロール可能になりました。今、患者さんの乾癬はどんな状態でしょうか?患者さんのライフスタイルに応じて、適切な治療方針を選ぶための参考にしていただけると幸いです。治療がうまくいかないとき、マンネリ化したときに、次の一手を考えるヒントになってくれると思っております。このページでは、乾癬について保険適用のある治療について解説しています。乾癬には尋常性乾癬、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬、滴状乾癬の5種類があります。薬によって適用が異なりますので、ご注意ください。1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬1-1.ステロイド外用薬ステロイド外用薬は皮膚疾患に幅広く使われていますが、もちろん乾癬にも有効です。今のところ、乾癬に一番多く使われているお薬です。多くの乾癬患者さんは、一度は塗ったことがあると思います。ステロイドは昔からある薬ですが、ここにも進歩があります。ステロイド外用薬の弱点は長期に使うと副作用が出てくる点なのですが、それを和らげるための手だてとしてシャンプーになっている薬が出ました。コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)というもので、15分だけつける、という方法を用いて副作用を減らす工夫がなされています。また、シャンプーは薬を塗りにくい頭という場所の特性を生かした大変興味深い方法です。なお、ステロイドの飲み薬は乾癬には通常使用しません。長期的なステロイド外用薬の副作用を避けるためにも、ステロイド外用薬単体での長期的な治療は避ける必要があります。治療が長引いてきた場合は方法を見直しましょう。1-2.ビタミンD3外用薬乾癬患者さんの塗り薬で、一番大切なのはビタミンD3です。効果が出てくるまで時間がかかりますが、一度改善すると再発しにくいこと、長期間塗っても副作用が出にくいことが大切なポイントです。ただし、大量に塗ると血液中のカルシウムが増え過ぎて二日酔いのような症状(高カルシウム血症)が出る可能性がありますので、注意が必要です。皮膚の増殖を抑えるのが主な効き目ですが、IL-17という乾癬の皮膚症状に重要な役割を果たすタンパクを作りにくくすることにも役立ちます。1日2回塗ることが推奨されています。カルシポトリオール(商品名:ドボネックス):軟膏マキサカルシトール(商品名:オキサロール):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファハイ):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファ):軟膏、ローション、クリーム1-3.配合外用薬配合外用薬も、ここ10年の進歩の1つです。ステロイドとビタミンD3の2つを配合させた薬がデビューし、乾癬の治療に幅広く使われるようになりました。昔は、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬を薬局で混ぜてもらって処方されることが多かったと思います。お薬の性質上、単純に混ぜるだけでは効果が落ちてしまいます。そのため、ステロイドとビタミンD3の両方を使いたい場合は、重ねて塗るか、両方とも特殊な製法で配合した塗り薬を使う必要があります。乾癬の塗り薬が効かない人は、まず混ぜた薬を使っていないか確認する必要があります。国内では、現在2種類の配合外用薬が使用可能です。カルシポトリオール水和物/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(商品名:ドボベット):軟膏、ゲル、フォームゲル剤があるので頭皮の中に塗るのにも向いています。頭皮の中に塗る際は、意外にベタつくことに注意が必要です。また、フォーム剤もデビューしました。フォーム剤は塗りやすさから海外で多く使われているようです。上手に使わないと飛び散るので注意が必要です。マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(商品名:マーデュオックス):軟膏ページTOPへ2.経口薬2-1.アプレミラスト(商品名:オテズラ)PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という酵素をブロックする薬です。頭痛、吐き気、下痢などの副作用が最初に出ることが多いので、お薬に体を慣らしていくためのスターターパックがあります。副作用は使っていくうちに慣れてくることが多いです。長期的に内服すると体重減少の副作用もあります。効果はゆっくり出てくるので、焦らず使用することが大切です。痒みや関節の痛みにも効果があります。注射薬のような劇的な効果ではないですが、症状が軽くなるので塗り薬を塗るのが面倒な方や小さなぶつぶつがたくさん出ている方には向いています。当院では小さなぶつぶつがたくさん出て塗りにくい方、頭のぶつぶつやかさぶたが治りにくい方、少し関節が痛い方、手足に分厚いかさぶたができて治りにくい方などに使っています。また、生物学的製剤の治療が終了した、もしくは何らかの理由で中断せざるを得なかった方にも使用できます。腎機能が低下している方は、半分の量で内服する必要があります。2-2.シクロスポリン(商品名:ネオーラル)乾癬が出てくるのに重要な働きをするT細胞の働きを抑える薬です。効果は比較的速やかで、量を多くすると生物学的製剤に近いくらいの効果を得ることもできます。ただし、血圧上昇などの副作用があることは注意が必要です。長期間内服すると、腎臓にダメージが起こります。海外のガイドラインでは1年程度の服用にとどめるように勧められています。これらの理由もあり、定期的な血液検査を必要としています。2-3.メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)リウマチではよく使われている薬ではありますが、乾癬でも最近保険適用になりました。リウマトレックスだけがジェネリックも含め乾癬に保険適用となっています。日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設でのみ乾癬に使用できます。妊娠計画の少なくとも3ヵ月前から男性、女性とも内服を中断しなければなりません。腎機能障害のある方には使用できません。副作用対策として葉酸製剤を内服することがあります。2-4.エトレチナート(商品名:チガソン)エトレチナートはビタミンA誘導体であり、免疫を落とさないことにより光線療法との併用が可能です。表皮細胞の異常増殖を抑えてくれることで効果を発揮します。唇が荒れる、手足の皮がむける、皮膚が薄くなるなどの副作用があります。催奇形性といって、お腹の赤ちゃんに奇形を起こす副作用が報告されています。そのため女性は服用中止後2年間、男性は半年間避妊することが必要になります。2-5.ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)に適応があります。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬という新しいメカニズムの治療薬です。もともと関節リウマチの治療薬として使用されていました。皮膚にも効果があります。15mg錠を1日1回内服します。帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますので、この治療薬を検討されている方には事前に帯状疱疹ワクチンの接種を強くお勧めしています。深部静脈血栓症、肺塞栓症といった血栓のリスクが高まります。そのための注意が必要になります。また、生物学的製剤と同様に事前に結核の検査をする必要があります。2-6.デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)2022年11月デビューの内服薬です。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。比較的副作用の少ない薬ですが、TYK2という分子をブロックするJAK阻害薬というジャンルに入っているため、日本皮膚科学会の分子標的薬使用承認施設のみで投与可能となっています。成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。ページTOPへ3.光線療法治療の位置付けとしては、寛解導入、すなわち週2~3回程度の細かい間隔で照射し、ぶつぶつをできるだけ消失させるのを最初の目的としています。効果が出て皮膚症状が寛解したら間隔をのばしていく、ないしは中止します。ナローバンドUVBは発がん性が上昇するリスクは今のところ報告されていません。しかし、紫外線であるため、ダラダラと継続して無駄な照射をしないように気を付けることも大切です。ページTOPへ4.顆粒球吸着除去療法アダカラムという特殊な体外循環装置を使い、白血球の一部である、活性化した顆粒球を取り除く方法です。膿疱性乾癬に保険適用があります。薬剤の投与をしないため、妊娠中でも実施できます。ページTOPへ5.生物学的製剤乾癬の治療は、2010年に生物学的製剤が使えるようになってから劇的に変化しました。今までの治療で効果がなかった患者さんも、この薬の投与を開始してから皮膚や関節の症状と無縁の生活を送れるようになってきました。このように非常によく効く薬なのですが、大変高額です。そのため、高額療養費制度の理解や活用も大切になってきます。どんどん薬剤の開発が進み、10年で10種類以上のお薬が乾癬に対して使えるようになってきました。生物学的製剤が使えない方、注意が必要な方活動性の結核を含む重い感染症がある方は使用できませんので、事前にしっかりと検査を行い、必要な対処を行ってから投与する必要があります。また、悪性腫瘍のある方は投与禁忌ではありませんが、投与に当たっては(がん治療の)主治医としっかり相談・確認して慎重に進めなければなりません。現在、乾癬に使える生物学的製剤だけで、こんなにたくさんの種類があります(2023年9月現在)。画像を拡大する(各薬剤の電子添付文書を基にケアネット作成)5-1.TNF-α阻害薬TNF-αというタンパクをブロックする薬です。TNF-αは体のあちこちで作られ、乾癬を悪化させていきます。内臓脂肪からも作られます。メタボ気味の人は内臓脂肪からのTNF-αが増えてきます。すると、インスリン抵抗性といって血糖が上がりやすい状態になってしまうこともあります。これをブロックすることで、全身のさまざまな炎症を抑えてくれることも期待されています。また、関節炎にも効果が高いです。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の症状が進行すると骨びらんという骨へのダメージが来るのですが、TNF-α阻害薬は骨破壊を抑え、回復させてくれる効果が期待できます。インフリキシマブ(商品名:レミケード)唯一、これだけが点滴で投与する薬です。効果不十分時に増量ないし投与期間を短縮することが可能です。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)2週間に1回皮下注射する薬です。効果不十分時に増量することが可能です。シリンジだけでなく、ペン型の注射器具があるため自己注射が簡単に行えます。セルトリズマブ ペゴル(商品名:シムジア)この薬剤は製法が特殊であり、胎盤をお薬が通過しにくいことがわかっています。そのため唯一、妊娠中でも使える生物学的製剤です。TNF-α阻害薬が使えない人うっ血性心不全のある方多発性硬化症などの脱髄性疾患をお持ちの方TNF-α阻害薬はどんな人に向いている?乾癬性関節炎(関節症性乾癬)で、とくに関節の症状が強い人メタボ気味の人炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の既往がある人体重が重い人インフリキシマブは体重1kg当たり5mgの量を投与します。体重がかなり重い方は十分な薬剤量を行きわたらせるためにインフリキシマブを選択することがあります。5-2.IL-23阻害薬IL-12/23 p40阻害薬のウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)が最初に出ました。IL-23はp40とp19というタンパクが合体しているものです。p40はIL-12という別のタンパクにも含まれている構造のため、IL-12/23 p40阻害薬は乾癬に関係のない細胞の働きも弱めてしまいます。そこで、ウステキヌマブ以降に出た次世代型のIL-23阻害薬は、p19をブロックすることでよりピンポイントな効き目を実現させています。すべての薬剤にある特長は、効果が持続しやすい、投与間隔が長いという点、副作用が少ないことです。ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)2011年から使用されている薬剤です。効果不十分な場合に増量できるのが特徴です。グセルクマブ(商品名:トレムフィア)掌蹠膿疱症にも適応があります。維持投与期は8週間に1回の投与を行います。リサンキズマブ(商品名:スキリージ)維持投与期は12週間に1回という長さが魅力です。チルドラキズマブ(商品名:イルミア)尋常性乾癬のみに適応があります。この薬剤も維持投与期は12週間に1回です。IL-23阻害薬はどんな人に向いている?治りにくい尋常性乾癬の方仕事が忙しくて通院が大変な方自分で注射を打つのが怖い方5-3.IL-17阻害薬IL-17とは乾癬を発症させるのに大変重要な役割を果たすタンパクです。IL-17にはIL-17AからFまでの6つのサブファミリーがあります。とくにIL-17ファミリーの中で乾癬の成り立ちに重要な役割を果たすタンパクが、IL-17AとIL-17Fです。治療効果が早く出ること、そして4種類の薬剤それぞれ非常に高い効果が得られることが特長です。セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブは維持投与期に自己注射をすることが可能です。セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)最初の1ヵ月に毎週注射をすることで効果を早く出せることが特長です。完全ヒト型抗体であり、中和抗体が出にくいのが特徴です。成人には300mgを投与しますが、状況により減量が可能です。生物学的製剤の中で唯一小児にも適応があります。通常、6歳以上の小児にはセクキヌマブ(遺伝子組換え)として、体重50kg未満の患者には1回75mgを、体重50kg以上の患者には1回150mgを皮下投与します。なお、体重50kg以上の患者では、状態に応じて1回300mgを投与することができます。イキセキズマブ(商品名:トルツ)IL-17Aを阻害します。薬剤の特長として高い治療効果が早期から出てくることが多いです。効果がいまひとつだったり、安定しなかったりするとき、つまり使用開始後12週時点で効果不十分な場合には、投与期間を短縮することが可能です。乾癬の皮膚や関節症状が強い方、安定しない方に向いています。ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)この薬剤は、乾癬の治療薬ではIL-17の受容体であるIL-17RAをブロックする薬です。そのため、IL-17A、IL-17A/F、IL-17C、IL-17E、IL-17Fが受容体に結合するのをブロックすることができます。皮膚症状に対しては、かなり有効性が期待できる薬剤です。ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)IL-17A、IL-17Fをブロックできる薬剤です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)には適応がありません。今までの治療でうまくいかなかった人でも鋭い効果を出すことが期待されています。IL-17阻害薬が使えない方炎症性腸疾患のある方IL-17は腸管のバリア機能を保つために重要な役割を果たします。炎症性腸疾患のある方は、IL-17をブロックすることで悪化する可能性があります。真菌感染症のある方IL-17は真菌(カビ)の防御に大切な働きをします。そのため、これらの感染症がある方は、IL-17をブロックすることで悪化させてしまう可能性があります。IL-17阻害薬はどんな人に向いている?皮膚の症状がかなり重度な方自分で注射を打てる方素早い効果を期待している方5-4.IL-36受容体阻害薬スペソリマブ(商品名:スペビゴ)抗IL-36受容体抗体であるスペソリマブが主成分です。膿疱性乾癬における急性症状の改善、という適応で保険収載されました。投与開始1週後に有意な膿疱の減少、12週後には84.4%の患者で膿疱が消失という劇的な効果を呈することが知られています。ページTOPへまとめ乾癬の治療薬、治療法はたくさんあることがおわかりいただけたと思います。乾癬の治療に絶対の正解はありませんが、いろいろな治し方を知り、治療方針を決めていく参考になればと思っております。乾癬の治療薬は、まだたくさん開発されています。内服薬(RORγtインバースアゴニスト)、外用薬(アリル炭化水素受容体モジュレーター)などが治験中です。今後も多くの治療選択肢ができることで、乾癬患者さんたちの未来は明るくなっていくのではと期待しています。1)森田明理ほか. 乾癬の光線療法ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:1239-1262.2)佐伯秀久ほか. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版). 日皮会誌. 2022;132:2271-2296.3)各薬剤の電子添付文書

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