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国が進める医療DX、診療や臨床研究の何を変える?~日本語医療特化型AI開発へ

 内閣府主導の国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、分散したリアルワールドデータの統合とデータに基づく医療システムの制御を目指し、日本語医療LLM(大規模言語モデル)や臨床情報プラットフォームの構築、患者・医療機関支援ソリューションの開発などを行っており、一部はすでに社会実装が始まっている。2025年9月3日、メディア勉強会が開催され、同プログラム全体のディレクターを務める永井 良三氏(自治医科大学)のほか、疾患リスク予測サービスの開発および受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発を目指すグループの代表を務める鈴木 亨氏(東京大学医科学研究所)・佐藤 寿彦氏(株式会社プレシジョン)が講演した。厚労省主導の医療DXとの関係、プログラムの全体像 厚生労働省主導の医療DXが、診療行為に必要最低限の3文書(健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)6情報(傷病名、感染症、薬剤アレルギーなど、その他アレルギーなど、検査、処方)に絞って広く全国規模で収集・利活用(全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX)を目指すものであるのに対し、本プログラムではデータ取得対象は限定されるものの電子カルテデータに加えPHR、介護データ、医療レセプトや予後データなど含めたデータを収集し、臨床情報プラットフォーム構築や医療機関支援ソリューションの開発などを行うことを目的としている。2つのプロジェクトは、将来的には相互に連携していくことが期待される。 具体的には、SIPでは大きく以下の5つの課題が設定されており、医療機関・大学・関連企業からそれぞれ研究開発責任者が選任されている1)。課題A:研究開発支援・知識発見ソリューションの開発(臨床情報プラットフォーム構築と拠点形成、PHRによる突然死防止・見守りサービス開発など)課題B:患者・医療機関支援ソリューションの開発(受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発、症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援など)課題C:地方自治体・医療介護政策支援ソリューションの開発課題D:先進的医療情報システム基盤の開発(ベンダーやシステムの垣根を超えた医療情報収集、僻地診療支援のためのクラウド型標準電子カルテサービスの開発など)課題E:大容量リアルタイム医療データ解析基盤技術の開発(大規模医療文書・画像の高精度解析基盤技術の開発) 同プログラムは2023年からの5年計画で進められており、可能なものから随時社会実装を進めつつ、今後は医療データプラットフォームの中核的病院への導入などを目指している。医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMを構築 さらに令和5年度補正予算により生成AIの活用プロジェクトが開始され、日本語医療LLMの開発が進み、上記の各プロジェクトにおける応用が始まっている。現在世界中で使われている主なLLMでは、たとえばOpenAIのGPT-3の学習に使われた言語として日本語は0.11%に過ぎず、これらのLLMをベースに医療LLMを構築・利用した場合、・診断を行うLLMにおいて、日本人の症例や日本の疫学ではなく、英語圏の症例や疫学がベースに出力される・治療法を推奨するLLMにおいて、日本の医療/保険制度や法律に合わない出力がされるといった問題が生じうる。また、データ主権の観点からも、現在各国で政府主導の自国語LLM開発が進んでいる背景がある。 国立情報学研究所の相澤 彰子氏らは、さまざまな実臨床での利用に展開するためのベースモデルとして、医療テキスト800億トークンを学習させた日本語医療LLMのプレビュー版をすでに構築、医師国家試験で77~78%のスコア(注釈:尤度ベースと呼ばれる正解の算出方法に基づく)を達成した。開発したモデルは、推論時に利用するパラメータ数が220億と比較的軽量であるにも関わらず、700億クラスの海外モデルに匹敵する性能を示した。 この医療LLMはSIPの各プロジェクトへの組み入れが始まっており、診療現場の会話からカルテを下書きし鑑別疾患を提示するシステムや、感染症発生届の下書き支援システムなどの開発が行われている。また、計算機科学者と医師がタッグを組む形で、循環器用医療LLM、がん病変CT画像用医療LLM、健診支援医療LLMの開発がそれぞれ進められているという。電子カルテを活用した臨床情報プラットフォームや診断困難例サーチシステムがすでに始動 電子カルテには、診療録、検査データ、手術レポートなどの多くの情報が集積しているが、それらを匿名化・統合した状態で臨床研究に活用するには人的・時間的に大きな負担がかかっていた。SIPの課題A1として取り組まれている「臨床情報プラットフォーム構築による知識発見拠点形成」では、CLIDAS研究2)と称して多施設から複数のモダリティの診療データを標準化・収集するシステムを構築。国内11大学・2ナショナルセンターの電子カルテはすでに統一・連携されている。循環器領域では、PCI後のスタチン強度と予後の関係について3)など、CLIDASデータを用いた研究成果がすでに発表、論文化されているものもあり、今後も本データの臨床研究への活発な活用が期待される。 鈴木氏が責任者を務める課題A-3「臨床情報プラットフォームと連携したPHRによるライフレコードデジタルツイン開発」グループでは、NTTグループ約10万人の健診データ・約15年の追跡データを活用し、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータで疾患リスク予測モデルのアルゴリズム構築に着手。健診データを元に将来の疾患リスク(糖尿病・高血圧症・脂質異常症・心房細動)、検査や予防法の推奨などを提示する疾患リスク予測サービスの開発を行っている。将来的には、AIを用いた保健指導への展開も視野に開発中という。 佐藤氏が責任者を務める課題B-2「電子問診票とPHRを用いた受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発」グループでは、日本内科学会地方会のデータ化された症例報告(約2万5千例)を基に、鑑別診断の際に参考となる疾患や病態を検索できるシステム(診断困難例ケースサーチ J-CaseMap)をすでに社会実装済で、日本内科学会会員は無料で利用できる。そのほか、電子カルテと連携した知識支援チャットボット(富士通と連携)や、再診時電子問診票、医療特化AI音声認識システムが開発中となっている。

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平均寿命が100歳になることはない?

 100歳まで生きたいと願う人にとっては悪いニュースだが、近い将来、人々の平均寿命が100歳を超えることはないようだ。新たな研究で、20世紀前半に高所得国において達成された平均寿命の延長ペースが大幅に鈍化し、その結果、1939年以降に生まれた世代の平均寿命が100歳に達することはないと予想されたのだ。米ウィスコンシン大学マディソン校ラ・フォレット公共政策学部のHector Pifarre i Arolas氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に8月25日掲載された。 Pifarre i Arolas氏は、「20世紀前半に達成した前例のない平均寿命の延長は、当面の間は再び達成される可能性が低い現象のようだ。人間の寿命を大幅に延長させる飛躍的な進歩が成し遂げられない限り、成人の生存率がわれわれの予測の2倍の速さで改善したとしても、平均寿命が20世紀初頭に見られたように急速に延びることはないだろう」と述べている。 研究グループによると、1900年から1938年にかけて、平均寿命は世代ごとに約5カ月半ずつ延びた。1900年に裕福な国で生まれた人の平均寿命は62歳であったが、1938年までに80歳にまで急上昇したという。しかし、この平均寿命の直線的な延長傾向が今後も続くのか、あるいは近い将来、鈍化するのかについては不明である。 この疑問に答えるために、今回Pifarre i Arolas氏らは、最近開発されたものも含めた既存の死亡率予測手法を適用して、1939年から2000年の間に23の高所得国で生まれた出生コホートの平均寿命を推定した。 その結果、どの予測手法を用いた場合でも一貫して、1939年から2000年の間に生まれたコホートの平均寿命の延びは鈍化することが明らかになった。具体的には、これまで観察されていたコホート当たり0.46歳という平均寿命延長ペースは、使用する手法によって37%から52%の幅で減少していた。 論文の筆頭著者であるマックス・プランク人口研究所(ドイツ)のJose Andrade氏は、「1980年生まれの人の平均寿命が100歳になることはないと予測された。本研究で対象とされた世代の全てがこの節目を迎えることはないだろう。このような平均寿命延長ペースの鈍化は、過去の寿命の急激な改善が非常に若い年齢での顕著な生存率改善によって引き起こされたという事実によるものだ」とウィスコンシン大学のニュースリリースで指摘している。 研究グループによると、20世紀初頭には医学の進歩と生活の質(QOL)の向上により乳児死亡率が急速に低下し、それが平均寿命の延長に大きく貢献したという。しかし、現在の乳児死亡率は非常に低いため、平均寿命の延長ペースは鈍化し、高齢者の医療の向上だけでは、これまでの寿命延長ペースを維持するのに十分ではないとの見方を研究グループは示している。 研究グループは、予期せぬパンデミックや医学の進歩、社会や経済の激変などが予想外の形で平均寿命に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、このような予測を鵜呑みにしないよう慎重な解釈を求めている。その一方で、こうした予測は、貯蓄や退職、長期計画に関する個人的な決定を下すのに役立つ可能性があるとも述べている。

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トイレでのスマホ使用は痔のリスクを高める

 トイレにいる間にスマートフォン(以下、スマホ)でニュースや電子メール、ソーシャルメディアをチェックしている人は、注意した方が良いようだ。トイレでのそのような行動は、痔の発症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。トイレでスマホを使う人は使わない人に比べて、痔の発症リスクが46%高いことが示されたという。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのTrisha Pasricha氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に9月3日掲載された。 研究グループは、トイレでスマホを使用していると、無意識のうちに滞在時間が長くなって肛門への圧力が高まり、それが痔の原因になる可能性があると説明している。Pasricha氏は、「スマホと現代の生活様式が健康に及ぼすさまざまな影響については、まだ全てが判明しているわけではない。トイレの中での使用など、スマホの使い方や使う場所によっては予期せぬ結果をもたらす可能性がある」と話している。 痔は肛門または直腸周辺の静脈が腫れた状態であり、しばしば痛みや出血を伴う。痔は妊娠中、過体重、または排便時のいきみによる圧力の上昇が原因で発生すると考えられている。 今回の研究でPasricha氏らは、同医療センターで大腸内視鏡検査を受けた成人125人を対象に、トイレでのスマホ使用と痔の有病率との関連を検討した。対象者のスマホの使用習慣を調査するとともに、Rome IV診断質問票による便通・排便症状の評価、排便時のいきみ、食物繊維の摂取量、運動習慣などを確認した。また、痔の有無を内視鏡で確認した。 その結果、対象者の66%にトイレでスマホを使用する習慣があり、痔の有病率は43%であることが明らかになった。トイレでのスマホ使用の内容は、ニュース閲覧(54.3%)とSNS(44.4%)が特に多かった。トイレでのスマホ使用習慣がある人は、ない人に比べて年齢が有意に若く(平均年齢55.4歳対62.1歳、P=0.001)、トイレでの滞在時間も有意に長く、1回当たり5分以上滞在する人の割合は、前者で37.3%に上ったのに対し、後者では7.1%にとどまっていた(P=0.006)。さらに、年齢、性別、BMI、運動習慣、排便時のいきみ、食物繊維の摂取量を調整して解析しても、トイレでのスマホ使用は痔の発症リスクを46%増加させることが示された(調整オッズ比1.46、P=0.044)。 Pasricha氏は、「スマホをスクロールしていると、信じられないほど簡単に時間を忘れてしまう。人気アプリは、まさにそのためだけに設計されているのだ。しかし、スマホに気を取られて便座に座っている時間が長くなると、痔の発症リスクが高まる可能性がある」と話す。 さらにPasricha氏は、「スマホをトイレの中に持ち込まず、排便は数分以内に済ませるように心がけるべきだ。トイレでの滞在時間がもっと長い人は、本当に排便自体に時間がかかったのか、それとも他のことに気を取られていたからなのかを自問してみてほしい」と助言している。

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メトホルミンの使用が過体重・肥満成人の認知症・死亡リスク低下と関連

 メトホルミンが処方されているBMI25以上の過体重または肥満の成人では、BMIカテゴリーにかかわらず、認知症および全死亡のリスクが低いことを示すデータが報告された。台北医学大学(台湾)のYu-Liang Lin氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes, Obesity and Metabolism」に8月6日掲載された。 メトホルミンは多くの国で2型糖尿病の第一選択薬として古くから使用されており、血糖降下以外の副次的作用に関するエビデンスも豊富。同薬の副次的作用の一つとして、認知症のリスクを抑制する可能性が示唆されている。Lin氏らは、メトホルミンが処方されることの多い過体重または肥満を有する患者における、認知症罹患率および全死亡率に関する長期的なデータを解析し、同薬の使用がそれらのリスク低下と関連しているか否かを検討した。 この研究には、世界各地の医療機関の電子医療記録を統合したリアルワールドのデータベース(TriNetX global federated health research network)が用いられた。過体重・肥満に該当する患者をBMIに基づき後述の4群に分類。BMIカテゴリーごとに、傾向スコアマッチングにより患者特性の一致するメトホルミン使用群とメトホルミン非使用群を設定し、カプランマイヤー法を用いて10年間の追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率を比較した。 解析対象者数は、BMI25~29.9のカテゴリーが13万2,920人、同30~34.9が14万2,723人、35~39.9が9万4,402人、40以上が8万2,732人だった。解析の結果、追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率は、全てのBMIカテゴリーでメトホルミン使用群の方が有意に低いことが示された。具体的には、認知症罹患のハザード比(95%信頼区間)は前記のBMIカテゴリーの順に、0.875(0.848~0.904)、0.917(0.885~0.951)、0.878(0.834~0.924)、0.891(0.834~0.953)であり、全死亡については0.719(0.701〜0.737)、0.727(0.708〜0.746)、0.717(0.694〜0.741)、0.743(0.717〜0.771)であった。 著者らは、「多施設の大規模なデータを統合したコホート研究において、メトホルミンの使用は過体重・肥満者における認知症および全死亡リスクの低下と関連していた。この保護効果は全てのBMIカテゴリーで有意だったが、カテゴリー間に差が認められた」と結論付けている。また、「これらの結果は、メトホルミンが過体重・肥満者の認知症リスクを抑制する可能性を示唆している。その根底にあるメカニズムを探るために、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。

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複数種類のがんを調べる血液検査、有用性を判断するには時期尚早

 血液サンプルを用いて複数種類のがんの有無を検査する多がん検出(multicancer early detection;MCD)検査(以下、MCD検査)は、目に見えない腫瘍を発見できる可能性があるため、大きな注目を集めている。しかし、MCD検査によるスクリーニングのベネフィットを評価した、完了した対照試験は存在せず、この検査法の有効性を判断するには時期尚早であるとする研究結果が発表された。米RTI-ノースカロライナ大学Evidence-based Practice Centerの最高医療責任者代理であるLeila Kahwati氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に9月16日掲載された。 MCD検査は、未検出の腫瘍から血液中に放出されたDNAやタンパク質、その他の生化学物質を検出することで、がんの有無を判定する。MCD検査のいくつかは、医師の診断書があれば製造元からオンラインで注文できる。ただし、いずれも米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない。 研究グループは、がんによる死亡の最大70%は、スクリーニング検査が存在しない悪性腫瘍によって引き起こされていることを考慮すると、このような検査が注目を集めるのは不思議ではないと話す。本研究の付随論評を執筆した、米フォックス・チェイスがんセンターの医学部長であるDavid Weinberg氏によると、検査費用は通常、保険ではカバーされず、約950ドル(1ドル148円換算で約14万円)かかるという。 Kahwati氏らは今回、無症状の人を対象にMCD検査の有効性を調べた20件の対照研究(対象者の総計10万9,177人)を基に、MCD検査の有益性、正確性、有害性について評価した。これらの研究では、19種類のMCD検査の正確性について報告されていた。20件のうち7件の研究(バイアスリスク:高5件、不明2件)は、無症状者を1年間追跡して将来のがん発症に対する予測精度を評価していた。残りの研究は、臨床的に確定したがん患者と健康な対照者を比較する症例対照研究でMCD検査の診断精度を評価したもので、いずれもバイアスリスクは高かった。 解析の結果、検査の正確性はがんの種類や参加者、研究デザインにより大きく異なり、感度は0.095〜0.998、特異度は0.657〜1.0、総合的な診断精度の指標であるROC曲線下面積(AUC)は0.52〜1.0の幅があった。有害性について報告していた研究は1件のみであり、その情報も限定的であった。 Kahwati氏らは、「このシステマティックレビューでは、MCD検査によるスクリーニングががんの検出、死亡率、生活の質(QOL)に与える影響を検討した、完了した対照研究は確認されなかった。研究の限界と不明確または矛盾した結果が主な原因で、MCD検査の正確性と有害性に関するエビデンスは不十分であることが分かった」と述べている。 さらにKahwati氏らは、「最も重大な限界点は、MCD検査の直接的なベネフィットを評価する、完了した対照研究がないことだ」と指摘している。これは、検査によるベネフィットが、偽陽性の結果によりもたらされる潜在的な有害性を上回るかどうかが明らかではないことを意味する。例えば、健康な人に偽陽性の結果が出た場合、がんではないとの確認が取れるまで、誤った検査結果によって引き起こされた恐怖や不安に耐えながら、より侵襲的な検査を受ける必要が生じる。同氏らは、「MCD検査によりがんの種類を正確に特定できる可能性はあるが、正確性のエビデンスだけでは、この検査が現在推奨されているスクリーニング検査よりも大きなメリットがあることを示したことにはならない」と記している。 研究グループとWeinberg氏は、MCD検査が広く推奨される前にその有用性を確認するさらなる研究が必要だとの見解を示している。またWeinberg氏は、「疾患による死亡率は着実に減少しているにもかかわらず、がんは依然として、米国成人の死因として2番目に多い。MCD検査のがん予防効果には期待を持てるが、真の臨床的有用性を示すデータは不十分であり、その有用性と潜在的な有害性のバランスをどのように評価すべきかが課題となっている。迅速な対応を求める市場からの圧力はあるが、最善の判断を下すにはそのようなデータが必要であり、それが得られるまでは研究環境以外での試験を正当化することは困難だ」と述べている。

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がん手術後の遠隔モニタリングは患者の回復を助ける

 手術後のがん患者に対する遠隔モニタリングは、機能回復や症状改善に有効であることが新たな研究で示された。医療チームが遠隔で症状を追跡した患者は、手術からより早く回復したという。米マイアミ大学シルベスター総合がんセンターのTracy Crane氏らによるこの研究結果は、「npj Digital Medicine」に8月28日掲載された。Crane氏は、「退院後の最初の2週間は極めて重要だ。遠隔ケアは、病院と自宅の間の溝を埋め、問題を早期に発見し、回復をサポートするのに役立つ」と話している。 この研究では、消化器がん、泌尿・生殖器がん、婦人科がんに対する大規模な腹部または骨盤手術を受ける患者293人を対象にランダム化比較試験を実施し、周術期の遠隔モニタリングの有効性を検討した。対象患者は、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリによる遠隔モニタリングを受ける群と、手術のみを受ける群(対照群)にランダムに割り付けられた。両群とも手首に活動量計を装着して歩数などの機能的活動量を測定するとともに、手術前と退院後7・14・30・60・90日目にモバイルアプリを通じて症状を報告したが、遠隔モニタリング群では、トリアージ看護師が患者の症状と歩数データを追跡し、問題があると判断した際には患者に連絡を取った。一方、対照群では、基準値を外れた場合には病院に電話するよう促す自動メッセージが患者に送られた。 Crane氏は、「この研究は、現実世界の状況を反映するように設計されている。われわれの目標は、介入が患者と医療提供者にとって実行可能で有意義なものであることを保証することだった」と述べている。 その結果、遠隔モニタリング群では対照群と比べて、手術後2週間までの機能回復率が6%程度高いことが示された。また、遠隔モニタリング群では、症状の重症度スコアの変化が手術後90日で統計的に有意に改善したほか、日常生活への症状の影響も14日と90日で有意に改善し、主要な術後合併症も有意に少なかった。 Crane氏は、自宅で回復する患者のバイタルサインを追跡できる機器が現在では数多く利用可能になっていることを指摘した上で、本研究結果を「革新を呼びかける呼びかけ」と表現している。同氏は、「未来の医療提供者は、接続されたデバイスからのデータストリームを自在に活用し、分野を超えた専門家と連携し、あらゆる意思決定において患者を最優先に考えるべきだ。テクノロジーは、こうしたことを実現するのに役立つ」と述べている。 研究グループは、今後の研究では、特定の種類の外科手術やがんに対する最適なモニタリングに焦点を当てるべきだとの考えを示している。

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アスピリンでも安易な追加は良くない:抗凝固薬服用中の慢性冠動脈疾患の場合(解説:後藤信哉氏)

 慢性冠動脈疾患一般は、アスピリンによる心血管イベントリスクの低減が期待できる患者集団である。しかし、慢性冠動脈疾患でもさまざまな理由により抗凝固療法を受ける症例がいる。抗凝固薬の使用により出血イベントリスクが増加したところにアスピリンを追加すると、出血イベントリスクがさらに増加すると想定される。本研究では、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患を対象としてアスピリンとプラセボのランダム化比較試験を施行した。 慢性冠動脈疾患一般ではアスピリンによる心血管死亡リスクの低減が期待される。しかし、抗凝固薬を服用している慢性冠動脈疾患にアスピリンを追加すると、心血管死亡、心筋梗塞、脳梗塞、全身塞栓症、冠動脈再灌流療法、下肢虚血などは増加した。重篤な出血イベントリスクと出血死亡率も増加している。慢性冠動脈疾患でも抗凝固薬を服用している症例には安易にアスピリンを追加すべきでないことを示唆する結果であった。 心筋梗塞などの心血管イベントは血栓イベントなので抗血栓薬を使うべきとの方向性から、抗凝固薬などを使用している出血リスクの高い症例では安易な抗血栓薬の追加は避ける方向に世の中が動いている。

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第283回 「公務員給与は物価スライド方式」も医師の給与が上がらない理由

INDEX新総裁、高市氏が選出医療界の危機に寄り添う救世主か「鉄壁」財務省が譲歩するなら真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示新総裁、高市氏が選出前回触れた自民党総裁選は高市 早苗氏が決選投票を勝ち抜き、新総裁に選出された。このまま順当に行けば、高市氏が新首相に指名され、日本史上初の女性首相になると思われる。あえて“思われる”と書いたのは、ここにきて連立を組む公明党が極めて保守色の強い高市氏への警戒感から、連立維持のために高いボールを投げ始めたからである。もっとも現在、衆参両院で過半数を占める野党各党がまとまりに欠くこと、さらには高市氏の過去の政党渡り歩き、言い換えれば目的のためには手段を選ばないことをうかがわせる経歴をみれば、最終的に公明党の要求を受け入れ、連立を維持することになるだろうと個人的には踏んでいる。ちなみに私見の余談だが、率直にいうと今回の結果はやや意外だった。何が意外だったかというと、昨年の総裁選でも思ったことだが、地方の自民党員が高市氏に高い支持を与えていることである。これは自民党に限らないことだが、政党党員は年々高齢化が進んでいる。中でも高齢の自民党員はかなり保守的である。この保守的には男尊女卑的な思考も含まれる。しかも、高市氏はもともと旧新進党出身の“外様”である。にもかかわらず、これだけ高い支持を獲得したのは、党員が持つ極度の危機感の表れとも解釈できる。ただ、党の刷新性を考えるならば、小泉氏という選択肢もあり得たはずだ。しかし、地方党員たちの選択がそうはならなかったのは、入閣3回・党三役経験なしの小泉氏よりも、入閣7回・政調会長経験者の高市氏の実績を評価したからなのだろうと推測できる。そうならば自民党員は新旧の考えが入り交じる複雑な思いで高市氏を選んだということだ。医療界の危機に寄り添う救世主かさてその高市氏は、10月4日の記者会見で「病院、介護施設は、今、大変な状況になっている。病院は7割が深刻な赤字。介護施設の倒産は過去最高になった」「診療報酬改定は年末にあるが、それを待っていられない状況。地域にある医療機関がどんどん倒産していくことになると大変。介護報酬は改定年がまだ先であり、そこまで待っていられない。ここは補正予算を使って支援できる形を検討してもらいたいと思っている」と述べたという。ちなみに総裁選中は「補正予算を措置し、診療報酬については過去2年分の賃上げ・物価上昇分を反映して前倒しで改定、介護報酬についても同様に前倒しで改定することも検討する」とも発言していた。現在、物価高により経営環境が悪化する医療機関・介護施設にとって、この発言への期待は高まっているかもしれない。だが、来春に向けて改定議論が進行中の今、それが可能かと問われれば、常識的に考えて否だ。しかも、高市氏は野党との連立を視野にガソリン暫定税率廃止や給付付き税額控除制度導入まで主張している。税収が減り、歳出が増加する高市氏のこの方針に、官庁の中の官庁である財務省が同意するはずもない。また、繰り返しになるが、現在、中央社会保険医療協議会では、ようやく具体的な診療報酬改定項目の議論が始まったばかりであり、個別項目の前倒し引き上げなどできるはずがないのは明らかだ。この状況下では、高市氏が財務省の抵抗を抑え込めたとしても、診療報酬・介護報酬の個別項目の詳細な検討はほぼ不可能で、打てる方策は限られる。考えられるのは、「条件付きの補助金給付」「物価スライド方式的な引き上げ」の2つぐらいではないだろうか?「鉄壁」財務省が譲歩するなら一番簡単なのは後者かもしれないが、これこそ財務省は認めないだろう。というのも、これまでの状況を考えれば“簡単なのに、あえてやっていない”からである。ご存じのように財務官僚も含む公務員の給与は物価スライド方式が導入されている。ここから考えれば、診療報酬・介護報酬も物価スライド方式の導入は理論上可能である。それをやらないのは、財務省が診療報酬、ひいては医療費を財政調整弁と考えているからにほかならない。もし臨時特例的であっても物価スライド方式を導入すれば、彼ら官僚の口癖である「前例」を望まない形で導入する形となり、かつ将来的に政治の側から“悪用”される可能性もある。このように考えれば、もし高市氏が何か手を打てたとしても条件付き補助金の支給ということになる。「条件付き」としたのも、少子高齢化で膨張する社会保障関連費に頭を悩ませている財務官僚が、医療機関や介護施設に無条件で大盤振る舞いをするはずはないだろうという読みだ。もちろん、これとてできないということも十分あり得る。真綿で首を締めるよう…新たな要件を提示さて、現在の世界的物価高と日本国内での賃金上昇トレンドは、従来から診療報酬が有する構造的な問題である▽損税▽物価スライドのない2年に1度の政治決着の改定▽資本コスト分が考慮されない低単価をフレームアップしている。そんな最中、10月8日の中央社会保険医療協議会総会では、厚生労働省側は入院医療の急性期一般入院料1(通称・7対1看護)について、さらに病院単位の緊急搬送件数や全身麻酔手術件数を要件化することを示唆する論点を提示してきた。これが現実になれば、とりわけ地方の病院はさらに苦境に追いやられることになる。このような状況を“高市政権”はどのように解決するのか? まずはお手並み拝見である。

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東京大学医科学研究所附属病院 腫瘍・総合内科【大学医局紹介~がん診療編】

朴 成和 氏(教授・診療科長)馬場 啓介 氏(助教)藤澤 剛太 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴すべての医療行為の実施に際して根拠を明確に持ち、標準治療に満足せず「さらなる工夫」を考案するように心がけています。また、多施設共同の臨床試験グループに参加して、中心的な役割を担っているだけでなく、チームとして支持療法に積極的に取り組んでおり、多施設共同の比較試験を実施中です。さらに、ポストゲノム時代の新規治療法の開発を目指して、リン酸化プロテオミクスを用いた基礎研究も行っています。地域のがん診療における医局の役割エビデンスに基づいた標準治療を精密に行うだけでなく、がん診療の専門家として、ほかの施設で治療に難渋している患者さんを受け入れ、unmet needsへの対応策を考案し提供しています。今後医局をどのように発展させていきたいか、医師の育成方針医局にとどまることなく、また日本だけでなく世界で活躍できる人材を輩出するベースでありたいと考えています。当教室では、がん領域の診療および研究を担う腫瘍内科医の育成を目標としていますが、その在り方は、基礎研究、新薬開発、治療の最適化、それらのエビデンスに基づく実地医療など、多様です。若い先生方には、「3年後のなりたい自分の姿をイメージしてください」と伝えており、その目標を達成するためのお手伝いをしたいと考えています。診療科科内ワークカンファレンス(左)と内科カンファレンス(右)の様子これまでの経歴2011年東北大学医学部卒業、埼玉県のみさと健和病院で初期研修(総合診療含む)、後期では青森県立中央病院で緩和医療および呼吸器内科の研修を経て、弘前大学でORNi-PCR法によるEGFR遺伝子変異の検出に関する研究で医学博士号を取得しました。その後国立がん研究センターで胸部悪性腫瘍の診療を中心に学んだのち、現職です。現在学んでいること消化器がんを中心とした多様な悪性腫瘍の医療、都内中心部の地域医療、臨床研究やtranslational researchの実施について学んでいます。当院は本邦唯一の国立研究所附属病院であり、研究・臨床を高レベルで実践することは当たり前で、日々より良い結果を得るため、所内が一丸となって取り組む姿勢があります。当科が関わる研究は、S-1の薬物血中濃度から導かれた計算式に基づいて胃がん患者さんごとに適切な増量投与を行う特定臨床研究、学内外で開発された新規治療法を用いた複数の治験、大規模データベースに基づくリアルワールドデータ研究、当院薬剤部が開発を進めるカペシタビンの手足症候群予防に関する多施設共同第III相試験などがあります。今後のキャリアプランこれまでの経験を活かし、総合的で多面的ながん診療および臨床研究を両輪とした医療を実践していきたいと思います。消化器キャンサーボードこれまでの経歴2013年に東京大学医学部を卒業後、公立昭和病院での初期研修、東京警察病院消化器科での後期研修を経て、2018年より主に東京大学医学部附属病院消化器内科で勤務してきました。同院では消化管グループの一員として診療に従事するとともに、DPCデータを用いた臨床研究で2022年に医学博士を取得しました。2025年より現職に着任しました。同医局を選んだ理由東大病院では進行消化管がんの薬物療法や、キャンサーボード、がん遺伝子パネル検査のエキスパートパネルへの参加なども行い、幅広い経験を積んできました。これらの経験を通じてがん薬物療法への興味が深まり、胃がん領域をはじめ、数多くの臨床試験を主導されてきた朴先生のもとで、がん薬物療法の専門性をさらに高めたいと考えました。より深い知識と技術を学べる環境で研鑽を積みたいと思っています。現在学んでいること臨床試験のエビデンスを実臨床でいかに活用し、個々の患者さんに最適な治療を提供するかという実践的なアプローチを学んでいます。また、臨床試験の立案や運営についても学び、将来的には自ら新たな治療開発に貢献できる医師を目指しています。東京大学医科学研究所附属病院 腫瘍・総合内科住所〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1問い合わせ先nboku@ims.u-tokyo.ac.jp医局ホームページ東京大学医科学研究所附属病院 腫瘍・総合内科専門医取得実績のある学会日本内科学会日本臨床腫瘍学会日本消化器病学会日本呼吸器学会研修プログラムの特徴消化器悪性腫瘍を中心とした診断から治療全般(抗がん剤治療、支持医療)に至るまで、一人ひとりの方と向き合いながら、エビデンスと経験に基づいた幅広い医療を学び、実践できるようになる。本邦唯一の国立の研究所附属病院であり、基礎研究から直結した治験や国内の臨床グループとともに臨床試験に参加しながらエビデンスの構築について学ぶことができる。都内有数の立地でありながら周辺の医療機関とともに地域医療に携わることができる。

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糖尿病性足壊疽の治療期間【1分間で学べる感染症】第35回

画像を拡大するTake home message糖尿病性足壊疽の治療期間は、外科的介入の有無とその程度により決定する。糖尿病性足壊疽(Diabetic Foot Infection)は、糖尿病患者において一般的かつ重要な合併症です。感染が深部まで波及し、骨髄炎を合併するケースもあり、適切な治療期間の判断は臨床経過と予後に直結します。実際の治療期間は、感染の深さ、外科的処置の内容、組織の血流状態、病原体の同定、宿主因子など、複数の要素を加味して決定されます。糖尿病性足壊疽の抗菌薬治療期間については、明確なエビデンスは限られていますが、これまでの研究と専門家のコンセンサスを基に、柔軟かつ個別性のある判断が求められます。ここでは、主に感染の深さと外科的介入の有無に基づいて、抗菌薬治療期間の目安を整理していきましょう。パターン1)骨髄炎あり・手術介入なし(6週間)骨髄炎(osteomyelitis)が存在しながら、手術やデブリードマンが行われていない場合、原則として6週間の抗菌薬治療が推奨されます。これは、骨組織への薬剤到達が困難であり、完全に感染を除去するためには長期間の治療が必要とされるためです。培養感受性に基づいた適切な抗菌薬の選択が必要です。パターン2)骨髄炎あり・デブリードマン介入あり(切断なし)(3~6週間)外科的デブリードマンにより感染組織が部分的に除去されているが、根治的切断には至っていない場合は、3~6週間の治療が推奨されています。近年、3週間と6週間の治療を比較したランダム化比較試験において、明確な差を認めなかったことから、感染制御状況や創部の治癒経過によっては短縮可能な症例があることが示唆されています。ただし、治療期間の短縮には慎重な判断と十分な経過観察が必要です。パターン3)骨髄炎なし・皮膚軟部組織感染症のみ(10~21日)感染が骨に波及しておらず、皮膚や皮下組織・筋膜などの軟部組織感染症のみである場合、10~21日間の抗菌薬治療が標準的とされています。2021年の研究では、10日間と21日間の治療を比較したところ、重症でない症例においては10日間の短期療法でも良好な臨床成績が得られたことが報告されています。ただし、感染の重症度や全身状態、創部の大きさによって、柔軟に調整する必要があります。パターン4)皮膚軟部組織感染症あるいは骨髄炎・根治的足切断あり(0~48時間)感染部位が完全に切除された、いわゆる根治的切断(definitive amputation)が行われた場合、抗菌薬の投与期間はきわめて短く、0~48時間で済むことがあります。これは、感染源の除去が完全であると判断された際の周術期抗菌薬投与に相当し、治療というよりも予防的意味合いが強いケースに該当します。ただし、術中の所見や培養結果、病理検査に基づいて再評価が必要です。感染が残存している可能性がある場合には、より長期間の治療が必要になるため、術中診断が鍵を握ります。糖尿病性足壊疽の治療期間は一律ではなく、感染の深さ、外科的介入、病態の安定性に応じて個別化されたアプローチが求められます。抗菌薬の使い過ぎによる耐性菌出現や、逆に短すぎる治療による再発のリスクを避けるためにも、これまでの臨床試験と専門家のコンセンサスを理解したうえで、治療方針を柔軟に調整することが大切です。1)Lipsky BA, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:e132-e173.2)Rossel A, et al. Endocrinol Diabetes Metab. 2019;2:e00059.3)Tone A, et al. Diabetes Care. 2015;38:302-307.4)Gariani K, et al. Clin Infect Dis. 2021;73:e1539-e1545.5)Pham TT, et al. Ann Surg. 2022;276:233-238.6)Cortes-Penfield NW, et al. Clin Infect Dis. 2023;77:e1-e13.

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歯肉炎の改善に亜鉛が影響?

 歯周病は心血管疾患や糖尿病、脳梗塞などの疾患リスクに影響を及ぼすことが示唆されている1,2)。今回、トルコ・Cukurova UniversityのBahar Alkaya氏らは、歯周病の初期段階とされる歯肉炎の管理において、歯科用の亜鉛含有ステント(マウスピース型器具)が機械的プラークコントロールの補助として有益であることを示唆し、歯肉炎が亜鉛によって改善したことを明らかにした。 本研究は、歯肉炎患者での歯肉の炎症、出血、歯垢の再増殖に対する亜鉛含有ステントの効果を調査したもの。Cukurova Universityにおいて、全身的に健康な18~30歳の歯肉炎患者42例を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。参加者は試験群(亜鉛含有ステント)または対照群(プラセボステント)に割り付けられ、歯石除去後4週間、毎日12時間以上にわたって器具を装着するよう指示された。評価項目は歯肉炎指数(GI)*1、プラーク指数(PI)*2、プロービング時の出血(BOP)*3などで、ベースライン時、2週目、4週目、8週目に評価が行われた。統計解析にはIBM SPSSおよびRStudioの統計ソフトウェアが用いられた。*1:歯肉の炎症度を数値化した指標*2:歯の表面へのプラーク付着状態を数値化した指標*3:探針による歯周ポケットの深さを測定した指標(歯茎からの出血の有無を調べる) 主な結果は以下のとおり。・両群とも、時間の経過とともに歯肉の健康状態が統計学的に有意に改善したが、亜鉛含有ステント群はすべての時点でGIスコアが統計学的に有意に低下し、歯肉の炎症がより大きく軽減された。・PIスコアとBOPスコアは両群で改善したが、両群間に統計学的有意差は認められなかった。 亜鉛による抗菌作用および抗炎症作用は、歯肉の健康改善に寄与する可能性が高いといわれており、本研究結果は亜鉛含有ステントが機械的プラーク除去単独実施に加えて、歯肉炎の軽減にさらなる効果をもたらすことを示唆している。ただし、研究者らは「より広範な臨床応用を確認するためにさらなる長期研究が必要」としている。

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9種類の第2世代抗精神病薬に関連する血清プロラクチン上昇パターン

 抗精神病薬に伴うプロラクチン上昇は、統合失調症患者の服薬アドヒアランスおよび長期治療アウトカムに重大な影響を及ぼす。現在入手可能なデータでは、抗精神病薬を服用している患者におけるプロラクチン上昇のモニタリングとマネジメントを実践するには、不十分である。中国・上海交通大学のLei Zhang氏らは、実臨床における9種類の第2世代抗精神病薬(SGA)に関連するプロラクチン上昇パターンを調査し、プロラクチン上昇リスクを比較するため、本研究を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年8月19日号の報告。 2007〜19年の中国の大規模メンタルヘルスセンターの入院患者における電子カルテのデータを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。対象は、統合失調症と診断され(ICD-10基準)、SGA治療を行い、血清プロラクチン値を測定した患者。9種類のSGA(amisulpride、リスペリドン、パリペリドン、ziprasidone、オランザピン、ペロスピロン、クエチアピン、クロザピン、アリピプラゾール)の多剤併用療法および単剤療法を含む投与量を収集した。主要アウトカムは、入院患者におけるプロラクチン上昇の発現率とした。9種類のSGAにおけるプロラクチン上昇のハザード比(HR)を比較するために、調整層別Cox比例ハザード回帰分析を用いた。さらに、これらのSGAについて、規定1日用量(DDD)法を用いて用量反応解析を実施した。用量区分は、0.6DDD/日未満(低用量)、0.6~1.1DDD/日未満(中用量)、1.1DDD/日以上(高用量)とした。 主な結果は以下のとおり。・分析対象者数は、統合失調症患者6,489例(平均年齢:35.1±14.2歳、男性患者数:3,396例[52.3%])。・非曝露群と比較し、プロラクチン上昇リスクと最も高い関連性が認められたSDAは、amisulpride(HR:2.76、95%信頼区間[CI]:2.12〜3.59)、リスペリドン(HR:2.70、95%CI:2.30〜3.16)、パリペリドン(HR:1.84、95%CI:1.37〜2.46)、ziprasidone(HR:1.36、95%CI:1.06〜1.76)であった。・対照的に、クエチアピン(HR:0.73、95%CI:0.61〜0.87)、クロザピン(HR:0.59、95%CI:0.46〜0.76)、アリピプラゾール(HR:0.30、95%CI:0.23〜0.37)は、リスクが低かった。・男性患者ではamisulprideが最もリスクが高く、女性患者ではリスペリドンが最もリスクが高かった。・7種類のSGAにおいて、異なるタイプの用量反応関係が検出された。 著者らは「入院患者を対象とした本コホート研究により、SGAに関連するプロラクチン上昇の異なるリスクと、それぞれの用量反応曲線が明らかになった。SGA治療を行なっている統合失調症患者におけるプロラクチン上昇の分析においては、性別と年齢を考慮する必要がある」とまとめている。

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肥満者の約半数は肥満の相談を医療機関にしたくないと回答/ノボ

 ノボノルディスクファーマは、2021年度より実施している日本人9,400人(20~75歳)を対象とした、「肥満」と「肥満症」に関する意識実態調査の2025年度版を発表した。その結果、肥満症の認知率は13.0%と大きく進展した一方で、自身の肥満について「(医療機関へ)相談したくない」と回答した人は50.5%と、医療機関への相談意向は高くないことが判明した。医療機関に「肥満」を相談した人は1割に満たず【調査概要】調査期間:2025年6月23~26日調査対象:日本全国のBMI25以上の20~75歳の男女調査人数:9,400人調査方法:インターネット調査集計方法:47都道府県男女100ss(サンプルサイズ)となるようにウェイトバック集計を実施【調査結果の主なポイント】・肥満症の認知率は、前年比で4.3ポイント増の13.0%と、今までの推移(2024年度8.7%、23年度8.3%)の中で最も大きく進展した。「肥満症疑いあり」層における認知率は2025年度で13.5%、2024年度で10.8%、2023年度で10.2%と比較的認知率が高い層だったが、本年度は「肥満症疑いなし」層で前年度比5.4ポイント増の12.6%の認知率を獲得したことが全体の認知率を高めた要因と考えられる。・肥満症の「認知」には至らないものの、肥満と肥満症の違いを「聞いたことがある」と回答した人は33.7%と、過去調査(24年度25.6%、23年度25.4%)の中で最も高いスコアと伸び率を記録。・自身の肥満について「医療機関で相談したい」と回答した人は15.2%、「相談したくない」と回答した人は50.5%と、自身の肥満に関して医療機関への相談意向は高くなかった。肥満度別の医療機関への相談意向では、肥満度が1~3度へ高まるほど「かなり相談したい」と回答した人の率が高くなる一方、肥満4度(BMI40以上)では「まったく相談したくない」が31.3%となり、肥満区分の中で最も高いことが判明した。肥満4度の人の傾向として、肥満1~3度の人よりも肥満症の認知率が低く、医療機関に相談をしたくない理由として、肥満1~3度の人と比較して「相談しても無駄だと思ったから」「医療機関に行くとお金がかかるから」を挙げた人が多くみられた。・医療機関への相談意向が高くない原因として、自己責任感や病状の軽視などの心理面に加え、情報不足が相談のバリアになっていると考えられる。医療機関へ自身の肥満に関して相談した経験がない理由として高いスコアを獲得した項目は、「肥満は自己責任だと思うから」が29.1%と最も多く、次いで「医療機関へ行くとお金がかかるから」が23.1%、「相談するほどの肥満だと思っていないから」が20.3%だった。・全体の中で「自身の肥満の悩みを医療機関へ相談したことがある」と回答した人は9.0%で、病院受診・医師への相談のきっかけになったことを聞いたところ、「健康診断で勧められたから」が最も多く45.8%、次いで「肥満に伴う健康障害が心配だったから」が39.3%、次に「専門家の意見を聞きたかったから」が23.5%だった。また、「肥満症を認知している」層に、肥満症治療について調べる際に信頼する情報源を聞いたところ、「かかりつけ医・主治医」が36.4%、「専門家や医療機関のウェブサイト」が22.1%、「身近で肥満症を治療した経験がある人」が11.4%と、治療に関しては医療機関や専門家、または経験者からのアドバイスが重視されていることが判明した。 同社では、今回の調査結果を受けて「肥満症の疾患としての認知をさらに高めるとともに、調査でも明らかになったように、『相談フェーズ』における支援を強化することが求められる。今後も肥満症に取り組む企業として、患者さんが孤立することなく、医療機関とつながりながら適切な支援を受けられる環境の整備を目指していきたい」と語っている。

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世界のがん発症や死亡、2050年に6~7割増/Lancet

 がんは世界の疾病負担の大きな要因であり、2050年まで症例数と死亡数の増加が続くことが予測され、とくに資源の乏しい国との負担格差が大きくなることが見込まれること、また、がんの年齢標準化死亡率は低下するものの、国連による2030年の持続可能な開発目標(SDG)の達成には不十分であることが、米国・ワシントン大学のLisa M. Force氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Cancer Collaboratorsの解析で示された。がんは世界的に主要な死因の1つで、政策立案には正確ながん負担情報が欠かせないが、多くの国では最新のがんサーベイランスデータがない。著者は、「世界的ながん負担に効果的かつ持続的に対処するには、予防、診断、治療の全過程にわたるがん対策戦略の策定と実施において、各国の医療システムや開発状況を考慮した包括的な国内外の取り組みが必要である」と提言している。Lancet誌オンライン版2025年9月24日号掲載の報告。1990~2023年の204の国と地域のデータを解析、2050年のがん負担を予測 研究グループは、GBD 2023の枠組みを用い、204の国と地域別および年齢別、性別による、「1990~2023年における47種またはグループのがん負担」「1990~2023年における特定の危険因子に起因するがん負担」、ならびに「2050年までのがん負担予測」を推計した。 GBD 2023におけるがん負担の推計には、がん登録、出生登録、口頭による死因調査のデータを使用した。がん死亡率はCause of Death Ensembleモデルを用いて推定し、罹患率は死亡率推定値と死亡率/罹患率比(MIR)に基づいて算出した。有病率は生存率モデルから推定し、障害加重を乗じて障害生存年数(YLD)を推定し、年齢別がん死亡数に死亡年齢時のGBD標準余命を乗じて損失生存年数(YLL)を推定した。障害調整生存年数(DALYs)は、YLLsとYLDsの合計として計算された。 また、GBD 2023比較リスク評価フレームワークを用い、44の行動、環境、職業および代謝リスク因子に起因するがん負担を推定するとともに、GBD 2023予測フレームワークを用いて2024年から2050年までのがん負担を予測した。この予測フレームワークには、関連リスク因子曝露の予測が含まれており、社会人口統計指数を共変量として、これらのリスク因子の影響を受けない各がんの割合を予測した。 国連のSDG3.4に掲げられた「非感染性疾患による死亡を2015年から2030年の間に3分の1減少させる」という目標に向けた進捗状況について、がん関連の進捗を推定した。2050年には新規発症やがん死亡が増加、低所得国~中所得国でとくに顕著 2023年は、非黒色腫皮膚がんを除き、世界全体で1,850万人(95%不確実性区間[UI]:1,640万~2,070万)のがん新規症例と、1,040万人(95%UI:965万~1,090万)の死亡が発生し、DALYは2億7,100万(95%UI:2億5,500万~2億8,500万)であった。このうち、世界銀行の所得分類に基づくと、新規症例の57.9%(95%UI:56.1~59.8)およびがん死亡の65.8%(95%UI:64.3~67.6)が低所得国~上位中所得国における発生であった。 2023年において、がんは心血管疾患に次いで世界第2位の死因であった。また、2023年には、世界全体で433万人(95%UI:385万~478万)のリスク因子に起因するがん死亡があり、これは全がん死亡の41.7%(95%UI:37.8~45.4)を占めた。リスク因子起因がん死亡は1990年から2023年にかけて72.3%(95%UI:57.1~86.8)増加し、世界全体のがん死亡は同期間に74.3%(95%UI:62.2~86.2)増加した。 最も可能性の高い基準予測では、2050年には世界全体でがん新規発症例が3,050万人(95%UI:2,290万~3,890万)、がん死亡が1,860万人(95%UI:1,560万~2,150万)と推定され、これは2024年と比較し、それぞれ60.7%(95%UI:41.9~80.6)および74.5%(95%UI:50.1~104.2)の増加であった。 このうち死亡数増加の予測は、高所得国(42.8%、95%UI:28.3~58.6)より、低所得国および中所得国(90.6%、95%UI:61.0~127.0)で大きかった。これらの増加のほとんどは人口動態の変化に起因するものと考えられ、年齢標準化死亡率は2024年から2050年の間に世界全体で-5.6%(95%UI:-12.8~4.6)減少すると予測された。また、2015年から2030年の間に、30~70歳の年齢層におけるがんによる死亡確率は、相対的に6.5%(95%UI:3.2~10.3)減少すると予測された。

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診断1年未満の中~高リスク肺高血圧症、ソタテルセプト追加が有効/NEJM

 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の診断から1年未満の成人において、基礎療法へのソタテルセプト追加により、プラセボと比較し臨床的悪化のリスクが低下した。米国・University of Michigan Medical SchoolのVallerie V. McLaughlin氏らが、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「HYPERION試験」の結果を報告した。アクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプトは、長期にわたりPAHの悪化および死亡率を低下させることが示唆されているが、診断後1年未満のPAH患者における有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年9月30日号掲載の報告。診断後1年未満の中~高リスクPAH患者が対象、主要エンドポイントは臨床的悪化 研究グループは、WHO機能分類クラスIIまたはIIIのPAH患者で、診断後1年未満、死亡リスクが中~高リスク(REVEAL Lite 2リスクスコア≧6またはCOMPERA 2.0スコア≧2)で、90日以上安定した2剤または3剤併用療法を受けている18歳以上の患者を、ソタテルセプト群(初回0.3mg/kg、2回目以降0.7mg/kgまで増量、21日ごとに皮下投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け上乗せ投与した。 主要エンドポイントは臨床的悪化(全死因死亡、PAHの悪化による24時間以上の予定外の入院、心房中隔欠損作成術、肺移植、またはPAHに起因する運動負荷試験成績悪化の複合)で、初回イベント発生までの時間を評価した。 なお、本試験は2022年4月8日より登録が開始されたが、先行するZENITH試験で有意な有効性が確認されたことから2025年1月30日に早期終了となり、その後233例が非盲検継続投与試験「SOTERIA試験」に移行した(最終移行日2025年4月3日)。ソタテルセプトの上乗せで、プラセボと比較して臨床的悪化のリスクが76%低下 321例が無作為化され、うち1例は無作為化後に同意撤回し治験薬の投与を受けなかったことから、320例が解析対象集団となった(ソタテルセプト群160例、プラセボ群160例)。 追跡期間中央値13.2ヵ月において、主要エンドポイントのイベントが少なくとも1回発生した患者は、ソタテルセプト群17例(10.6%)、プラセボ群59例(36.9%)であった(ハザード比:0.24、95%信頼区間:0.14~0.41、p<0.001)。 PAHによる運動負荷試験成績悪化はソタテルセプト群8例(5.0%)、プラセボ群46例(28.8%)、PAH悪化による予定外の入院はそれぞれ3例(1.9%)および14例(8.8%)、全死因死亡はそれぞれ7例(4.4%)および6例(3.8%)が報告された。心房中隔欠損作成術ならびに肺移植が行われた患者はいなかった。 ソタテルセプト群の主な有害事象は、鼻出血(31.9%)および毛細血管拡張症(26.2%)であった。

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実験段階のデバイスが筋肉のパフォーマンスをリアルタイムでフィードバック

 実験段階にあるワイヤレスデバイスが、アスリートの筋肉の断裂や捻挫、筋損傷からの回復の一助となる可能性があることを示唆する新たな研究の結果が明らかになった。米デューク大学機械工学・材料科学分野のXiaoyue Ni氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」9月3日号に掲載された。 このデバイスは体表面に音波を送り、それによって生じた振動を検出することで、組織の硬さを測定できるという。Ni氏らは、「ちょうど、絵を壁に掛けるときに、間柱を探そうとして壁をたたくのと同じだ。間柱のない所をたたくと低い音がするが、間柱のある所をたたくとより高い音がする」と話す。同氏らによると、組織の硬さは医師にとって重要な情報であり、がんの診断や蘇生、筋肉損傷など、さまざまな問題の把握に役立つという。しかし現状では、組織の硬さを測定するには大型で高価な超音波装置が必要である。 試作段階のデバイスは、重さ4.9gのMAW〔Mechano-Acoustic Wave〕センサーと直径26.5mm、重さ10gで円盤型の振動アクチュエーターで構成されており、皮膚の上なら体のどこにでも貼り付けることができる。デバイスはバッテリーで作動し、Bluetoothデバイスとワイヤレスで通信可能である。このデバイスは、50Hz(雷鳴のような低音)から800Hz(救急車のサイレンのような高音)までの周波数を走査して組織の硬さを測定し、皮膚とその下の組織を識別することが可能である。 このデバイスをスポーツウェアに組み込めば、筋肉のパフォーマンスについてリアルタイムでフィードバックを得られる可能性があると研究グループは説明している。それによってアスリートはトレーニングセッションを最適化し、疲労への対策を講じ、負傷からの回復に向けてうまく調整できるかもしれない。Ni氏は、「将来的には、この技術をスポーツギア、医療用の包帯、日常着、あるいは支援用ロボットに組み込み、身体の内部の状態を持続的に把握できる『ヘルス・ダッシュボード』を作るというビジョンを描いている」と今後の展望について話している。さらに同氏は、「それはスマートウォッチのように簡単に身に着けられ、しかもはるかにパワーを持ったものになるだろう」とニュースリリースの中で付け加えている。 論文の筆頭著者でNi氏の研究室の博士課程の学生であるChenhang Li氏は、「この自動化された二層モデルによる解析を構築し、それをシステム全体の設計に組み込むことが、このプロジェクトで最も困難な部分だった。信号処理をリアルタイムで行う方法を見つけ、数多くの検証テストを完了する必要があった。ここまで来るのは長い道のりだった」とデューク大学のニュースリリースの中で述べている。 このデバイスの概念が実証された今、研究グループはその最も有望な用途について調べる計画を立てている。Ni氏は、「私は最近、初めての出産を経験したが、自分の母乳の供給量をリアルタイムで把握するのにこのデバイスを使えることが分かった。これまで、このような組織の硬さを測定するモニターは作られたことがなかった。したがって、その応用の可能性は無限に広がっている」と述べている。

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将来的には点眼薬で老眼を改善できるかも?

 1日に2~3回使用する点眼薬が、将来的には老眼鏡に取って代わる老眼対策の手段となる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。点眼薬を使用した人のほとんどが、視力検査で使用されるジャガーチャート(以下、視力検査表)を2、3行以上余分に読めるようになっただけでなく、このような視力の改善効果が2年間持続したことが確認されたという。老眼先端研究センター(アルゼンチン)センター長であるGiovanna Benozzi氏らによるこの研究結果は、欧州白内障屈折矯正手術学会(ESCRS 2025、9月12~16日、デンマーク・コペンハーゲン)で発表された。 この点眼薬には、瞳孔を収縮させ、近見の焦点を調節する筋肉を収縮させるピロカルピンと、ピロカルピン使用に伴う炎症や不快感を軽減するNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)のジクロフェナクという2種類の有効成分が含まれている。研究グループは、766人(平均年齢55歳、男性393人、女性373人)を対象に、異なるピロカルビン濃度(1%、2%、3%)の点眼薬を投与する3つのグループに分けて、その有効性を調べた。対象者は、最初に点眼薬を投与されてから1時間後に老眼鏡なしで視力検査表をどの程度読めるかをテストし、その後2年間にわたって追跡調査を受けた。 その結果、ピロカルピン1%群(148人)の99%が最適な近見視力に達し、視力検査表で読むことができる行数が2行以上増えたことが示された。また、ピロカルピン2%群では69%、ピロカルピン3%群では84%が3行以上多く読むことができた。点眼薬によるこのような視力の改善効果は、最長で2年間、中央値で434日、持続した。副作用は概ね軽度であり、患者の32%が一時的な視界の暗さやぼやけを経験し、3.7%が点眼時の刺激感、3.8%が頭痛を報告したが、使用を中止した患者はおらず、眼圧の上昇や網膜剥離などの深刻な目の問題は見られなかった。 Benozzi氏は、「これらの結果は、老眼の重症度に応じて異なる濃度の点眼薬を処方できる可能性があることを示唆している。老眼が軽度の患者は1%の濃度で最もよく反応したが、老眼がより進んだ患者では、視力の大幅な改善を達成するために2%または3%のより高い濃度が必要だった」と述べている。 この研究結果をレビューしたボーフム大学(ドイツ)眼科病院の眼科部長Burkhard Dick氏は、「この研究結果は、老眼手術を受けられない人にとっては特に重要な可能性がある」と話す。ただし同氏は、ピロカルピンとNSAIDを長期使用すると、望ましくない副作用が生じる可能性があると指摘し、「この治療法が広く推奨される前に、安全性と有効性を確認するためのより広範で長期にわたる研究が必要だ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

658.

頭部への衝撃で若いアスリートのニューロンが喪失

 新学期を迎え、若いアスリートが再び学校や大学のグラウンドに出る季節となった。こうした中、身体の接触を伴うコンタクトスポーツへの参加で若いアスリートたちの貴重な脳の力が犠牲になり得ることが、新たな研究で示された。アメリカンフットボールやサッカー、アイスホッケーなどのスポーツをしている若いアスリートでは、頭部衝撃を繰り返し受けることでニューロン(脳神経細胞)の減少や炎症、脳血管の損傷が引き起こされる可能性のあることが明らかになったという。米国立衛生研究所(NIH)などの資金提供を受けて米ボストン大学CTEセンターのJonathan Cherry氏らが実施したこの研究の詳細は、「Nature」に9月17日掲載された。 Cherry氏らによると、反復的な頭部衝撃(repetitive head impact;RHI)によって引き起こされる慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy ;CTE)を発症していない選手にも、そのような影響が及ぶ可能性があるという。Cherry氏は、「この結果は、コンタクトスポーツに対するわれわれの見方を大きく変える可能性がある。RHIを受けることはニューロンを死滅させ、CTEとは無関係に長期的な脳損傷を引き起こす可能性があることが示唆された」とニュースリリースの中で述べている。 これまでも、RHIによりCTEが現れる何年も前から脳に変化が生じる可能性が疑われていたが、CTEは死後にしか確定診断できないため、その証明は困難だった。Cherry氏らは今回の研究で、51歳以下の男性28人から採取された凍結ヒト脳組織標本を分析した。そのうち9個はCTEの診断歴がないがRHIを受けていたアメリカンフットボール選手またはサッカー選手から、11個は軽度のCTEがあったコンタクトスポーツ選手から、残る8個はコンタクトスポーツをしていなかった男性(対照群)から採取された標本だった。 その結果、RHIを受けた経験のある人では対照群と比べて、CTEの有無にかかわらず、大脳皮質の浅層(第2・3層)の特定の興奮性ニューロンが平均で56%も失われていることが明らかになった。また、コンタクトスポーツをプレーしていた期間が長いほど脳の免疫細胞であるミクログリアが活性化していることや、脳内の血管にも重大な変化が起きていることも判明した。このことから、CTEが明らかになるはるか前から炎症や脳損傷の土台が作られている可能性が考えられる。 Cherry氏は、「若いアスリートは、一般的には健康であるため、脳にニューロンの喪失や炎症があるとは思わないだろう。今回の研究結果は、RHIがこれまで考えられていたよりもはるかに早い段階から脳損傷を引き起こすことを示している」と述べている。 コンタクトスポーツによってもたらされるこうしたリスクは注視すべき問題である。Cherry氏は、「CTEのリスクはコンタクトスポーツでのRHIへの曝露と直接関係している」と指摘した上で、「今回の研究結果は、CTEと診断されていない選手でも脳に大きな損傷が生じる可能性があることを示している。こうした変化がどのように起こるのか、そして生きている間にどのようにそれを検出できるのかを明らかにすることは、若いアスリートを守るためのより良い予防策や治療法の開発に役立つだろう」と述べている。 NIH傘下の米国立老化研究所(NIA)所長でこの研究には関与していないRichard Hodes氏は、「CTEが検出されなかった若いアスリートにおいても、特定の部位でのニューロンの大幅な喪失など、劇的な細胞レベルでの変化が見られたことは、特に注目すべきだ」とNIHのニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「こうした初期の変化について解明を進めることは、現在の若いアスリートを守るだけでなく、将来的な認知症リスクの抑制にもつながる」と話している。

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若年2型糖尿病に対するチルゼパチドの検討(解説:小川大輔氏)

 若年発症の2型糖尿病は、成人発症と比べて早期に糖尿病合併症を発症することが知られている。そのため食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて適切な糖尿病治療を行うことが必要とされる。今回、10歳から18歳までに2型糖尿病を発症した患者99例を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの効果を検討した第III相試験の結果が発表された1)。従来の治療で血糖コントロール不十分であった若年発症の2型糖尿病患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、血糖コントロールや肥満を改善することが報告された。 若年発症の糖尿病といえば1型糖尿病やMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)、ミトコンドリア糖尿病など遺伝性糖尿病が知られているが、今回の試験では対象が2型糖尿病に限定されている。患者背景を確認すると、BMIの平均値が35.4であり、高度の肥満を合併している症例が多く含まれていたことがわかる。試験前の治療としては、メトホルミンが92%、インスリンが31%の症例で使用されていた。しかしベースラインのヘモグロビンA1c値は8.04%とコントロール不十分の状態で、チルゼパチドあるいはプラセボを30週間投与し効果を検討した。その結果、チルゼパチド投与群では30週時のヘモグロビンA1c値変化量は-2.23%、BMI変化率は-9.3%であり、プラセボ群より有意な減少を認めた。主な有害事象は胃腸障害であったが軽度から中等度であった。 若年発症2型糖尿病患者の治療法を比較検討した研究(TODAY2追跡試験)の参加者では、2型糖尿病診断後15年以内に60%が糖尿病関連合併症を発症し、約3分の1が複数の合併症を発症していたと報告された2)。つまり若年発症例は成人発症例と比べてより早期に複数の糖尿病合併症を発症することが明らかになり、合併症の予防や進行抑制のために発症時から厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆された。今回の研究により、チルゼパチドが若年2型糖尿病に対する治療の選択肢の1つとなりうることが報告された。今後さらにGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の検討が進むことを期待したい。

660.

急性心筋梗塞に対するPCI後1ヵ月でアスピリンを中止してDAPTからSAPTへ変更することは問題なし(解説:上田恭敬氏)

 急性心筋梗塞に対して7日以内にPCIによる完全血行再建に成功し、1ヵ月の時点までイベントがなかった1,942症例を、アスピリン中止によってDAPTからSAPTへ変更する群(P2Y12阻害薬単剤群961症例)とDAPTを継続する群(DAPT群981症例)に無作為化し、12ヵ月までのイベントを比較した欧州40施設での多施設無作為化試験(TARGET-FIRST試験)の結果が報告された。 主要評価項目である全死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中・BARK type3/5出血の複合エンドポイントは、P2Y12阻害薬単剤群で2.1%、DAPT群で2.2%と差がなく、非劣性が証明された(p=0.02)。さらに、BARK type2/3/5出血はDAPT群で5.6%であったのに対して、P2Y12阻害薬単剤群で2.6%と有意に少なかった(p=0.002)。ただし、PCIは全例でDESを留置しており、造影上の有意狭窄をすべて治療することを完全血行再建としている。 以上により、急性心筋梗塞に対してPCIによる完全血行再建が施行された症例では、1ヵ月の時点でアスピリンを中止してDAPTからSAPTへ変更することによって、12ヵ月までの上記主要評価項目の発生頻度はDAPTを継続する場合と同等であり、出血性イベントは減少することが示された。 STOPDAPT-2 ACS試験では示されなかった1ヵ月DAPTの12ヵ月DAPTに対する非劣性が本試験では示された理由の1つとして、筆者らは早期の解剖学的完全血行再建を挙げている。PCI後のイベントは、主にステント留置部位からではなく、非治療部位から発生することから、解剖学的完全血行再建によってそのリスクを低減できたのではないかと考えている。よって、リスクの高い症例の場合にも1ヵ月DAPTが12ヵ月DAPTと同等とは限らず、症例ごとにDAPTの期間を考える必要があるだろうと指摘している。

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