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国を滅ぼしかねない(?)ベンゾジアゼピン系、その減らし方(解説:岡村毅氏)

 ビリー・アイリッシュにXannyという曲があるが、これはベンゾジアゼピン系抗不安薬(米国での商品名はXanaxなど)の怖さを歌っている。プリンスやジュース・ワールドといった世界的アーティストの命をも奪ってしまったオピオイドの蔓延は、米国人の平均寿命さえも低下させており、トランプ現象を生み出したともいわれている。オピオイドほどではないにせよ、同時に使用されることも多いベンゾジアゼピン系の蔓延もまた米国の薬物依存の深刻さを表していると言えよう。古くからあるが、いまだに最先端の話題である。 本論文は、睡眠薬として使われているベンゾジアゼピン系薬剤をやめるためのさまざまな方法の効果を比較し、メタ解析したものだ。要するに「ベンゾジアゼピン系薬剤の処方はなるべく避けるべきなのに処方されている。じゃあ、やめるための方法の優劣をここらでまとめておこうじゃないか」ということだ。詳しくない人には、「なんでダメなものを処方するのだ?」という疑問があると思うので説明しよう。 まず、ベンゾジアゼピン系薬剤とはかつては俗にマイナートランキライザーと呼ばれ、睡眠薬の定番であった。ただ、ベンゾジアゼピン系は薬効が複数あり、ややこしいのだ。薬効は、(1)眠らせる(2)不安をとる(3)痙攣を止める(4)筋弛緩を起こす、という複数の効果を持つ。このうち(1)が強いものが睡眠薬として使われる。(2)の不安をとるものとしてはエチゾラム(商品名:デパスなど)が代表的であり、(3)の痙攣を止めるものとしてはジアゼパム(商品名:セルシンなど)が代表的である。ただし(4)が起きてしまうので、肩こりや腰痛にも効いてしまう。過剰に投与すると、あるいは高齢者では、昼間に薬効が残ってふらつくこともある。夜間にトイレに行き、階段から落ちるなんてことも起きる。ややこしいうえに危ないのである。 さらに耐性が生じるので、基本的にはだんだん効かなくなる。効かなくなると増やすしかない。そうするとやはりふらついたり、日中もぼんやりしたりする。 また闇で売られている、いわゆるレイプドラッグといわれるものは、だいたいベンゾジアゼピン系である。処方する側としては、恐ろしや、である。 現代では新たに処方されることはあまりないし、1剤にとどめるべきである。ベンゾジアゼピン系を2剤出していたら、よほどの理由があるか、ダメな医者かのどちらかである。 じゃあ何で処方するのだ、と思うかもしれないが、2つの理由がある。 第1の理由は、患者さんにとっては良い薬と認識されていることがある。切れ味がよいのである。長年ベンゾジアゼピン系てんこ盛りでよく寝ている(と自覚している)患者さんに、「危ないので減薬しましょう」などと言っても、「なんだ、全然眠れなくなったぞ。四の五の言わずにさっさと出せよ!」などとすごまれる、なんてことも起きる。 第2の理由は、かつては精神科の敷居が高く、不眠症程度では専門家が関与することがなかった。精神科にはベンゾジアゼピン系の依存症になってしまった人も来るので、精神科医は自分から処方することは実はあまりない。怖さを知っているからだ。ただ、忙しいかかりつけ医が、「よく効くなあ、患者さんも喜んでいるし」と綿々と処方していることも多かった。 というわけで、今ではさすがに新たに処方されることはあまりないが、ずっとのんでいる人や高齢者に対して、どうやって減らすかというのは臨床的には大問題である。 本論文の結果であるが、徐々に減らす、医師に対する教育、医師と患者双方への教育、認知行動療法、マインドフルネスは残念ながら効果はなさそうである。患者さんへの教育、薬剤師主導の減薬(薬局でパンフレットを見せるなど)、処方検討会議(医師と薬剤師など)は低いながら効果があるようだ。 注意しないといけないのは、この論文が扱っているのは「睡眠薬としての」ベンゾジアゼピン系だということだ。現代では、睡眠薬の第1選択はもはやレンボレキサントなどのオレキシン受容体拮抗薬に移っている。睡眠薬の世界では、もう勝負あった感がある。 ただし問題は抗不安薬としての使用である。生きづらさへの短絡的な解決になっているような場合はなかなかやめられず、依存症になっている事例も多い。このようなケースは単なる睡眠薬のように一筋縄ではいかないことは最後に強調しておこう。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

Immune-mediated adverse events and overall survival with tremelimumab plus durvalumab and durvalumab monotherapy in unresectable hepatocellular carcinoma: HIMALAYA phase 3 randomized clinical trialLau G, et al. Hepatology. 2025 May 16. [Epub ahead of print]<HIMALAYA試験>:肝細胞がんSTRIDE療法、imAEが治療効果の指標となる可能性近年注目される肝細胞がんの複合免疫療法について、HIMALAYA試験ではSTRIDE療法が生存期間を有意に延長することを示しました。本研究では、STRIDE群で免疫介在性有害事象(imAE)を経験した患者に良好な生存が認められ、imAEが治療効果の指標となる可能性が示唆されました。Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated SteatohepatitisSanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.<ESSENCE試験>:MASHへのセマグルチド、肝組織の改善と顕著な体重減少示す世界が注目する第III相試験において、800例のMASH患者を対象にセマグルチドが肝組織の改善と顕著な体重減少を両立させる効果を初めて明確に示しました。セマグルチドは糖尿病や肥満症の患者に広く使用されており、本結果は将来的なMASHへの保険適用取得に向けて大きく前進する意義深い成果です。Multi-zonal liver organoids from human pluripotent stem cellsReza HA, et al. Nature. 2025;641:1258-1267.<iPS細胞から「ミニ肝臓」作製>:3層構造の再現に成功ヒトのiPS細胞から、本物と同様の3層構造を持つ約0.5mmの「ミニ肝臓」を作り出すことに成功しました。肝臓の異なる機能を担う層(Zone)の再現に成功し、重度肝不全ラットへの移植で生存率が改善されました。iPS細胞からミニ臓器を作る技術は、肝臓病の解析や治療法開発への応用が期待されています。The impact of neoadjuvant therapy in patients with left-sided resectable pancreatic cancer: an international multicenter studyE. Rangelova, et al. Ann Oncol. 2025;36:529-542.<切除可能な左側膵がんに対する術前化学療法>:術前化学療法は有意に生存期間を改善左側切除可能膵がんにおいて、術前化学療法は初回手術単独より生存期間を有意に延長し、とくに腫瘍径が大きい例やCA19-9高値例で効果が顕著であり、今後の前向き試験が期待されます。Phase 3 Trial of Cabozantinib to Treat Advanced Neuroendocrine TumorsChan JA, et al. N Engl J Med. 2025;392:653-665.<CABINET試験>:進行性神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブ、PFSを有意に延長カボザンチニブは進行性膵外・膵神経内分泌腫瘍(NET)に対し、プラセボと比べて有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、客観的奏効も一部で認められました。安全性についても、既知の範囲で管理可能と考えられました。

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第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(後編) 「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」に強い反対の声上がるも、「セルフメディケーション=危険」と医療者が決めつけること自体パターナリズムでは?

映画『国宝』は過活動膀胱の行動療法のヒントにもこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、映画『国宝』(監督:李 相日)について書きましたが、一つ書き忘れたことがあります。それは映画の上映時間についてです。『国宝』の上映時間はなんと174分、ほぼ3時間です。ハリウッドも含め、最近の映画ではとても珍しいことです。観る側は“タイパ(タイムパフォーマンス)”を気に掛け、一方で配給会社は観客の回転数も重視するようになった今、よく東宝が3時間の上映時間を認めたものです。とは言え、かつての長尺の傑作映画には、前段の長い前フリ部分が映画全体に深みをもたらしている作品が少なくありません。『ゴッドファーザー』しかり、『ディア・ハンター』しかりです。『国宝』も仮に2時間だったら主人公たちの若い頃のシーンも相当割愛しなければならなかったでしょう。その意味でも174分は必然の上映時間だったのかもしれません。それにしても、中高年の観客が多いはずなのに、上映中、トイレに立つ人がほとんどいなかったのも驚きでした。私も通常、2時間程度しかもたない頻尿なのですが、席を立つこともなくなんとか乗り切れました。何かに集中している時は尿意を忘れるというのは本当ですね。映画『国宝』は過活動膀胱の行動療法のヒントにもなりそうです。さて、今回も前回に引き続き、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025~『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ~」(骨太の方針2025)について書いてみたいと思います。前回は、社会保障関係費について、骨太に「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と明記されたことで、2026年度診療報酬改定からは高齢化による伸びに加え、経済・物価対応による増加分も考慮されるだろう、と書きました。今回は、「骨太の方針2025」のもう一つの注目点であった、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」の内容がどの程度反映されたか(6月6日に公表された「骨太の方針2025(原案)」にどう加筆されたか)について書きます。3党合意で検討の期限と数値目標が明記されたのは「OTC類似薬」「病床削減」「電子カルテ」の3項目自民党、公明党、日本維新の会の3党が6月11日に合意した社会保障改革案には、1.OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し2.新たな地域医療構想に向けた病床削減3.医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現4.地域フォーミュラリの全国展開5.現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底6.生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進の6項目が盛り込まれました。このうち、検討の期限と数値目標が明記されたのは「OTC類似薬」「病床削減」「電子カルテ(医療DX)」の3項目で、具体的な文言は以下のようなものでした。OTC類似薬2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行。セルフメディケーション推進の観点から、夏以降、当初の医師の診断や処方を前提にしつつ、症状の安定している患者にかかる定期的な医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けて、制度面での必要な対応を含め、更なる実効的な方策を検討する。国内でスイッチOTC化されていない医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化病床削減人口減少等により不要となると推定される、約11万床の一般病床・療養病床・精神病床といった病床について、次の地域医療構想までに削減を図る電子カルテ現時点の電子カルテ普及率が約50%であることに鑑み、普及率約100%を達成するべく、5年以内の実質的な実現を見据え電子カルテを含む医療機関の電子化を実現する骨太には3党合意にあった「医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化」、「11万床削減」といった数値目標は盛り込まれずこの3党合意を踏まえ、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」では、「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「2.主要分野ごとの重要課題と取組方針」の中の「(1)全世代型社会保障の構築」に、合意内容が次のように列記されています。持続可能な社会保障制度のための改革を実行し、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現するため、OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しや、地域フォーミュラリの全国展開、新たな地域医療構想に向けた病床削減、医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現、現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底、がんを含む生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進などの改革について、引き続き行われる社会保障改革に関する議論の状況も踏まえ、2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行するそして本文の脚注には3党合意を踏まえ以下のように書かれています。OTC類似薬医療機関における必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮しつつ、個別品目に関する対応について適正使用の取組の検討や、セルフメディケーション推進の観点からの更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策の検討を含む病床削減2年後(2027年)の新たな地域医療構想に向けて、不可逆的な措置を講じつつ、調査を踏まえて次の地域医療構想までに削減を図るただし、3党合意にあった「医薬品(約60成分)を2026年末までにOTC化」、「11万床削減」といった、より具体的な数値目標は脚注にも記されませんでした。その理由は、より大局的な予算編成の方向性を示す「骨太」の性格もありますが、病床数については、地域の実情を踏まえた調査や必要病床数の再精査がこれから行われるためでもあるでしょう。なお、6月11日の3党合意の文書には、11万床削減した場合1兆円程度の医療費削減につながるとした「厚生労働省の調査に基づく日本維新の会の試算」が別紙で添付されていますが、その実現性や根拠に疑問の声が多く上がりました。そうしたことも「11万床削減」が未記載になった理由かもしれません。「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」には医療機関側から反対の声こうした骨太の個別政策に対して、医療機関側から一番反対の声が上がったのは、予想通り「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」でした。日本医師会の松本 吉郎会長は6月18日の定例記者会見で、「骨太の方針2025」について、「歳出改革の中での引き算ではなく、物価・賃金対応分を加算するという足し算の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と評価するコメントを出しました。一方で「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」についてはさまざまな懸念があると説明、「OTC類似薬を保険適用から除外した場合、たとえば院内での処置等に用いる薬剤、薬剤の処方、在宅医療における薬剤使用に影響することが懸念されるが、これは絶対に避けなければならない」と述べるとともに、3党合意や「骨太の方針2025」の脚注に記された、「医療機関における必要な受診を確保し、子供や慢性疾患を抱えている方、低所得の方の患者負担などに配慮しつつ」の一文などを踏まえた慎重な検討が必要であると強調したとのことです。「スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは、自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがある」と日医会長松本会長は6月22日の日本医師会の定例代議員会でも「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」について同じ趣旨の発言を繰り返しました。スイッチOTC化がどんどん進み、かつ処方薬から外される流れが進めば、医師への受診回数が激減することに対する危機感からと考えられます。6月23日付のミクスオンラインなどの報道によれば、松本会長は6月22日の定例代議員会で「スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは、自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがある。特に、高齢者などでは、医師との対話の機会が減少し、病歴や服薬歴の記録が途切れ、診療の精度が落ち健康リスクが高まる」と指摘、「適正使用されず、乱用の増加も懸念される。セルフメディケーションは、セルフケアの一つの手段であり、ヘルスリテラシーと共にあるべき。国においては、国民の安心・安全を第一に考えて進めて行っていただきたい」と述べたそうです。また代表質疑では、宮川 政昭常任理事が「やみくもなセルフメディケーションの推進、社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やスイッチOTC化を進めることは、必要な時に適切な医療を受けられない国民が増え、国民皆保険制度の根幹を揺るがしかねないと危惧している」と話し、問題点として、医療機関の受診控えによる健康被害が増加すること、国民の経済的負担が増加すること、薬の適正使用が難しくなることを挙げたとのことです。 本当に「セルフメディケーション=危険」なのか?「セルフメディケーションを推進すれば、健康被害が増える」というロジックはいかがなものでしょう。そもそも現状、処方箋を発行する医師は薬の説明をほぼ薬局薬剤師に丸投げし、その薬局薬剤師も印刷された薬剤情報提供書を右から左へ受け渡しているだけ、というところが少なくありません(私の近所の薬局も)。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害が頻発している状況をさておいて、「セルフメディケーション=危険」と医療者が決めつけること自体がパターナリズムに近いものを感じます。各種スイッチOTCにしても、薬剤師が店頭できちんと説明しているはずですから、国民のヘルスリテラシーは徐々に向上していてもおかしくないはずですが、それでも向上していないとすれば、それは薬剤師や製薬会社がそこに注力してこなかったことにも責任があるのではないでしょうか。一連のOTC類似薬の議論を聞きながら、医療者はもう少し患者(国民)を信頼・信用してもいいのではと思う今日この頃です。

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多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?【論文から学ぶ看護の新常識】第21回

多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果を検証した研究で、同支援は高い確率で費用対効果に優れることが示された。Romain Collet氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月3日号に掲載された。多職種連携在宅移行支援の費用対効果:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果に関するエビデンスを収集、評価、統合することを目的にシステマティックレビューとメタアナリシスを実施した。Medlineを含む4つのデータベースを、創設時から2024年7月まで検索した。研究対象は、病院に入院し自宅へ退院した成人患者を対象に、多職種による在宅移行支援の費用対効果を通常ケアと比較したランダム化比較試験であり、効果指標として、生活の質(QOL)または質調整生存年(QALY)を報告している研究を対象とした。結果は、経済的な視点と追跡期間によって層別化し、エビデンスの確実性はGRADEアプローチを用いて評価した。主要評価項目は、増分純貨幣便益(INMB)とした。主な結果は以下の通り。13件の試験、4,114例の患者が対象に含まれた。12ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):多職種連携在宅移行支援は、通常ケアと比較して医療費を削減したものの、そのエビデンスの確実性は「低い」ものであった(平均差:−3,452ユーロ、95%信頼区間[CI]:−8,816~1,912)。QALYには両群に差は認められなかった(平均差:0.00、95%CI:−0.03~0.04)。費用対効果の確率は、支払意思額が0ユーロ/QALYの場合で90%であり、支払意思額が高くなっても84%とわずかに減少するのみであった(確実性は「中等度」)。6ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):費用対効果の確率は、支払意思額0ユーロ/QALYの場合で43%、10万ユーロ/QALYで87%の範囲にあり、支払意思額が5万ユーロ/QALYで80%を超えた(確実性は「低い」~「中等度」)。社会的視点:社会的視点では、費用対効果の確率はより低くなった。これは主に、相反する結果を示した研究の数が限られていたためである。多職種連携在宅移行支援は、費用対効果が高い可能性が示された。高齢化が進み、複数の疾患を抱える患者さんが増える中で、病院から自宅へのスムーズな移行を支えるケアの重要性はますます高まっています。とくに退院直後は、患者さんの状態が不安定になりやすく、適切な支援がなければ再入院のリスクも高まります。本研究は、医師、看護師、リハビリ専門職、栄養士、ソーシャルワーカーといった多様な専門職が連携して行う在宅移行支援(多職種連携在宅移行支援)が、費用対効果の観点からみてどうなのかを、質の高い統計手法で包括的に評価したものです。結果の解釈には、質調整生存年(QALY)という指標が鍵になります。「完全に健康な状態で1年間過ごすこと」を「1QALY」として、医療によってどれだけの「健康な時間」が増えたかを測る世界共通の指標です。研究結果として、12ヵ月間の追跡で医療費を削減する可能性が示唆されました。さらに、支払意思額(WTP)が0ユーロ/QALY、つまりQALYの改善という価値をまったく考慮しなかったとしても、費用削減だけで元が取れる確率が90%というのは注目すべき点です。この結果は、質の高い在宅移行支援が、結果的に医療資源の効率的な利用につながる可能性を示しています。一方で、研究チームも指摘している通り、エビデンスの確実性にはまだ課題があり、とくに社会全体の視点からの評価は研究数が少なく、結論を出すには至っていません。また、介入内容の多様性や対象患者、医療システムの差による影響も大きく、どのような状況で、どのような介入が最も費用対効果が高いのかを明らかにするには、さらなる質の高い研究が求められます。しかしながら、この研究は、多職種連携による在宅移行支援の経済的な価値を明らかにする重要な一歩です。今後の政策決定や医療現場での実践において、費用対効果を考慮した質の高いケアモデルの構築を促進する上で、非常に参考になる研究と言えるでしょう。論文はこちらCollet R, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 3. [Epub ahead of print]

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非喫煙者の肺がん、よく料理する人ほどリスク高い?

 家庭内空気汚染が非喫煙者における肺がんの潜在的な原因であるというエビデンスが蓄積され、空気中の粒子状物質、家庭用家具から発生する揮発性有機化合物、調理煙への曝露が肺がんリスクを高める可能性がある。今回、英国・レスター大学のBria Joyce McAllister氏らが、家庭内空気汚染の1つである調理煙への曝露と非喫煙者の肺がんとの潜在的関連について高所得国で検討し、関連性が認められたことを報告した。1日1食調理する女性に対し1日3食調理する女性の肺がんのオッズ比(OR)は3.1と発症リスクが高かった一方、換気フード使用のORは0.49と予防効果が示唆された。BMJ Open誌2025年6月20日号に掲載。 世界では肺がんの10~25%が非喫煙者に発症すると推定されている。低中所得国では、非喫煙者における肺がんの環境リスク因子、とくに暖房や調理用バイオマスの燃焼による家庭内空気汚染が広く調査されてきたが、高所得国においても近年エビデンスが発表され始めている。本研究では、Embase、Scopus、Cochrane library、CINAHLをそれぞれの開始時から2024年3月まで検索し、高所得国における家庭内空気汚染とその非喫煙者の肺がんへの影響に焦点を当てた症例対照研究を対象に系統的レビューを実施した。抽出された研究は、曝露評価や報告方法が異なりメタ解析が不可能であったため、ナラティブシンセシスを行った。 主な結果は以下のとおり。・解析には3件の研究の計3,734人が含まれた。すべての研究は台湾または香港で実施され、伝統的な中華料理の調理法を用いる中国人女性が対象であった。・Chenらの研究では、生涯の調理煙への曝露を測定する「調理時間・年」によって肺がんリスクを評価し、曝露が最高レベルの場合のORは3.17(95%信頼区間[CI]:1.34~7.68)であった。・Yuらの研究では、調理煙への曝露の指標として「調理皿・年」を使用し、曝露が最高レベルの場合のORは8.09(95%CI:2.57~25.45)であった。一方、Koらの研究では、調理年数よりも毎日の調理皿数のほうがリスク指標として重要であることが示され、1日1食調理する女性に対する1日3食調理する女性のORは3.1(95%CI:1.6~6.2)であった。・換気フードは非喫煙者の肺がんの予防効果があり、調整ORは0.49(95%CI:0.32~0.76)であった。 この3件の研究のレビューの結果から、著者らは「高所得国における調理煙への曝露と非喫煙者の肺がん発症リスクに関連がある可能性が示唆された。これは、低中所得国における調理煙曝露と非喫煙者の肺がんとの関連を示す多くのエビデンスを裏付けるものであり、曝露のリスクを明確に裏付けている」とした。

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脂肪性肝疾患の診療のポイントと今後の展望/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 近年登場する糖尿病治療薬は、血糖降下、体重減少作用だけでなく、心臓、腎臓、そして、肝臓にも改善を促す効果が報告されているものがある。 そこで本稿では「シンポジウム2 糖尿病治療薬の潜在的なポテンシャル:MASLD」より「脂肪性肝疾患診療は薬物療法の時代に-糖尿病治療薬への期待-」(演者:芥田 憲夫氏[虎の門病院 肝臓内科])をお届けする。脂肪性肝疾患の新概念と診療でのポイント 芥田氏は、初めに脂肪性肝疾患の概念に触れ、肝疾患の診療はウイルス性肝疾患から脂肪性肝疾患(SLD)へとシフトしていること、また、SLDについても、近年、スティグマへの対応などで世界的に新しい分類、名称変更が行われていることを述べた。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれてきた疾患が、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)へ変わり、アルコールの量により代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MASLD and increased alcohol intake:MetALD)、アルコール関連肝疾患(alcohol-associated[alcohol-related] liver disease:ALD)に変更された。 MASLDの診断は、3つのステップからなり、初めに脂肪化の診断について画像検査や肝生検で行われる。次に心代謝機能の危険因子(cardiometabolic risk factor:CMRF)の有無(1つ以上)、そして、他の肝疾患を除外することで診断される。CMRFでは、BMIもしくは腹囲、血糖、血圧、中性脂肪、HDLコレステロールの基準を1つ以上満たせば確定診断される。とくに腹囲基準の問題については議論があったが、腹囲はMASLD診断に大きく影響しないということで現在は原典に忠実に「男性>94cm、女性>80cm」とされている。 肝臓の診療で注意したいのは、肝臓だけに注目してはいけないことである。エタノール摂取量別に悪性腫瘍の発症率をみるとMASLDで0.05%、MetALDで0.11%、ALDで0.21%という結果だった。アルコール摂取量が増えれば発がん率も上がるという結果だが、数字としては大きくないという。現在は4人に1人が脂肪肝と言われる時代であり、いずれSLDが肝硬変の1番の原因となる日が来ると予想されている。 また、MASLDで実際に起きているイベントとしては、心血管系イベントが多いという。自院の統計では、MASLDの患者で心血管系イベントが年1%発生し、他臓器悪性疾患は0.8%、肝がんを含む肝疾患イベントが0.3%発生していた。以上から「肝臓以外も診る必要があることを覚えておいてほしい」と注意を促した。 その一方で、わが国では心血管系イベントで亡くなる人が少ないといわれており、その理由として健康診断、保険制度の充実により早期発見、早期介入が行われることで死亡リスクが低減されていると指摘されている。「肝臓に線維化が起こっていない段階では、心血管系リスクに注意をする必要があり、線維化が進行すれば肝疾患、肝硬変に注意する必要がある」と語った。 消化器専門医に紹介するポイントとして、FIB-4 indexが1.3以上であったら専門医へ紹介としているが、この指標により高齢者の紹介患者数が増加することが問題となっている。そこで欧州を参考にFIB-4 indexの指標を3つに分けてフォローとしようという動きがある。 たとえばFIB-4 indexが1.3を切ったら非専門医によるフォロー、2.67を超えたら専門医のフォロー、その中間は専門・非専門ともにフォローできるというものである。エコー、MRI、採血などでフォローするが、現実的にはわが国でこのような検査ができるのは専門医となる。 現在、ガイドライン作成委員会でフローチャートを作成しているところであり、大きなポイントは、いかにかかりつけ医から専門医にスムーズに紹介するかである。1次リスク評価は採血であり、各段階のリスク評価で専門性は上がっていき、最後に専門医への紹介となるが、検査をどこに設定するかを議論しているという。MASLDの薬物治療の可能性について 治療における進捗としては、MASLDの薬物治療薬について米国で初めて甲状腺ホルモン受容体β作動薬resmetirom(商品名:Rezdiffra)が承認された。近い将来、わが国での承認・使用も期待されている。 現在、わが国でできる治療としては、食事療法と運動療法が主流であり、食事療法についてBMI25以上の患者では体重5~7%の減少で、BMI25未満では体重3~5%の減少で脂肪化が改善できる。食事療法では地中海食(全粒穀物、魚、ナッツ、豆、果物、野菜が豊富)が勧められ、炭水化物と飽和脂肪酸控えめ、食物繊維と不飽和脂肪酸多めという内容である。米国も欧州も地中海食を推奨している。 自院の食事療法のプログラムについて、このプログラムは多職種連携で行われ、半年で肝機能の改善、体重も3~5%の減少がみられたことを報告した。すでに1,000人以上にこのプログラムを実施しているという。また、HbA1c、中性脂肪のいずれもが改善し、心血管系のイベント抑制効果が期待できるものであった。そして、運動療法については、中等度の運動で1日20分程度の運動が必要とされている。 基礎疾患の治療について、たとえば2型糖尿病を基礎疾患にもつ患者では、肝不全リスクが3.3倍あり、肝がんでは7.7倍のリスクがある。こうした基礎疾患を治療することで、これらのリスクは下げることができる。 そして、今注目されている糖尿病の治療薬ではGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、肝炎の活動性と肝臓の線維化の改善に効果があり、主要評価項目を改善していた。このためにMASLDの治療について、わが国で使われる可能性が高いと考えられている。 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、第II相試験でMASLDの治療について主要評価項目の肝炎活動性の改善があったと報告され、今後、次の試験に進んでいくと思われる。 SGLT2阻害薬について、自院では5年の長期使用の後に肝生検を実施。その結果、「肝臓の脂肪化ならびに線維化が改善されていた」と述べた。最大の効果は、5年の経過で3 point MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)がなかったことである。また、これからの検査は肝生検からエコーやMRIなどの画像検査に移行しつつあり、画像検査は肝組織をおおむね反映していたと報告した。 おわりに芥田氏は、「MASLDの診療では、肝疾患イベント抑制のみならず、心血管系のイベント抑制まで視野に入れた治療の時代を迎えようとしている」と述べ、講演を終えた。

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抗精神病薬による統合失調症患者の死亡リスクを比較

 抗精神病薬は、統合失調症の主要な治療薬であるが、過剰な死亡リスクと関連している。しかし、各抗精神病薬やレジメンに関連する死亡リスクの違いは、明らかになっていない。香港大学のCatherine Zhiqian Fang氏らは、抗精神病薬単剤治療または抗精神病薬レジメンに関連する死亡リスクを比較するため、集団ベースのコホート研究を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年7月号掲載の報告。 時変共変量として、抗精神病薬曝露を用いたCox回帰分析を実施し、すべての原因による死亡、自然死、不自然な死亡のリスクを調査した。対照治療として、抗精神病薬単剤治療ではペルフェナジン、抗精神病薬レジメンでは第1世代抗精神病薬(FGA)による治療を用いた。 主な内容は以下のとおり。・全体的なコホートには、4万1,695例が含まれた。・抗精神病薬単剤治療では、ペルフェナジンと比較し、クロザピンは死亡リスクが最も低かった。【すべての原因による死亡リスク】調整済みハザード比(aHR):0.41、95%信頼区間(CI):0.33〜0.52【自然死リスク】aHR:0.52、95%CI:0.40〜0.69【不自然な死亡リスク】aHR:0.16、95%CI:0.09〜0.27・パリペリドンとリスペリドンの2つの長時間作用型注射剤(LAI)では、パリペリドンLAIの死亡リスクがより低かった。【すべての原因による死亡リスク】aHR:0.51、95%CI:0.36〜0.72【自然死リスク】aHR:0.55、95%CI:0.37〜0.83・オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、amisulprideは、ベルフェナジンと比較し、死亡リスクが低かった。・抗精神病薬レジメン分析では、クロザピンまたはLAI抗精神病薬を含む多剤併用レジメンは、FGA経口単剤療法と比較し、死亡リスクの低下が認められた。・FGA-LAI単剤療法、各抗精神病薬の多剤併用療法、クロザピンを含まない経口抗精神病薬の多剤併用療法は、すべての原因による死亡リスクおよび自然死リスクの上昇との関連が認められた。・インシデントコホート(1万3,283例)においても、おおむね一貫した結果が認められた。 著者らは「各抗精神病薬およびレジメンにより、死亡リスクは異なっている。クロザピンおよびLAI抗精神病薬が超過死亡リスクの軽減において重要な役割を果たしていることが確認された。本研究結果は、統合失調症患者の精神的および身体的アウトカムを最適化するために、クロザピンおよびLAI抗精神病薬への早期アクセスを確保することの重要性を示唆している」としている。

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低リスク分化型甲状腺がん、全摘後のアブレーションは回避できるか/Lancet

 低リスクの分化型甲状腺がん患者の治療において、甲状腺全摘後に放射性ヨウ素治療(アブレーション)を行った場合と比較して、アブレーションを行わない場合でも5年無再発生存期間(RFS)は非劣性であり、有害事象の発現は両群で同程度であることから、この治療は安全に回避可能であることが、英国・Freeman HospitalのUjjal Mallick氏らが実施した「IoN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月18日号で報告された。英国の第III相無作為化非劣性試験 IoN試験は、英国の33のがん治療施設で行われた第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2012年6月~2020年3月に参加者を登録した(Cancer Research UKの助成を受けた)。 甲状腺全摘で根治切除(R0)が達成され、TNM病期分類でpT1、pT2、pT3(TNM7基準)またはpT3a(TNM8基準)で、リンパ節転移がN0、Nx、N1aの病変を有する患者を対象とした。これらの患者を、甲状腺全摘後に1.1GBqアブレーション群または非アブレーション群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは5年RFS率とした。RFSは、構造的な局所・領域再発または遺残病変、遠隔再発、甲状腺がんによる死亡のいずれもが発生しないことと定義された。非劣性マージンは5%ポイントであった。全体ではpT3/pT3a、N1aで再発率が高い 504例(ITT集団)を登録し、非アブレーション群に251例(年齢中央値48歳[範囲:17~77]、女性76%)、アブレーション群に253例(47歳[17~80]、79%)を割り付けた。非アブレーション群の249例が実際にアブレーションを受けず、アブレーション群の231例がアブレーションを受けた(per-protocol集団)。 追跡期間中央値は、非アブレーション群が6.8年、アブレーション群は6.6年で、この間に17例で再発を認めた(非アブレーション群8例、アブレーション群9例)。5年RFS率は、ITT集団では非アブレーション群が97.9%(95%信頼区間[CI]:96.1~99.7)、アブレーション群は96.3%(93.9~98.7)であり(ハザード比[HR]:0.84[90%CI:0.38~1.87])、per-protocol集団ではそれぞれ97.9%(95%CI:96.1~99.7)および96.9%(94.7~99.1)であった(1.03[90%CI:0.44~2.42])。 ITT集団における両群間のRFS率の5年絶対リスク差は0.5%ポイント(95%CI:-2.2~3.2)であり、非アブレーション群のアブレーション群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.033)。 全体(504例)の病期別の再発率はpT3/pT3aの腫瘍を有する患者で高く(pT3/pT3a腫瘍9%[4/46例]vs.pT1/pT2腫瘍3%[13/458例])、リンパ節転移の状態別ではN1aの患者で高かった(N1a 13%[6/47例]vs.N0/Nx 2%[11/457例])。一方、非アブレーション群ではこのような違いはなかった。疲労感、嗜眠、口渇が多かった 有害事象の頻度は両群で同程度であり、多くが一過性であった。最も頻度の高い有害事象は、疲労感(非アブレーション群25%[63/249例]vs.アブレーション群28%[65/231例])、嗜眠(14%[34例]vs.14%[32例])、口渇(10%[24例]vs.9%[21例])だった。治療関連死の報告はなかった。 著者は、「低リスクの分化型甲状腺がん患者では、甲状腺全摘後のアブレーションを安全に回避できることが示された」「これにより、アブレーション関連の有害事象や入院を回避でき、家族や友人、職場の同僚との密接な接触を避ける必要性がなくなるなどの有益な影響がもたらされ、医療費の削減につながると考えられる」としている。

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大手術前のRAS阻害薬の継続/中止、心血管リスク有無での判断は?

 昨年JAMA誌に掲載されたStop-or-Not試験では、非心臓大手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の継続と中止のアウトカムを比較し、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムに差は認められなかった。しかし、術前の心血管リスク層別化がこの介入に対する反応に影響を与えるかどうかは依然として不明である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のJustine Tang氏らはStop-or-Not試験の事後解析を行い、術前の心血管リスクが患者の転帰に影響を与えないことを明らかにした。JAMA Cardiology誌オンライン版2025年6月25日号に短報として掲載された。 本研究は、術前の心血管リスク層別化が非心臓大手術前のRASI管理戦略に影響を及ぼすかどうかを評価するため、Stop-or-Not試験(フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象に行われたランダム化比較試験)の事後解析を行った。主要評価項目は、全死因死亡と術後合併症の複合。副次評価項目は、主要心血管イベント(MACE)および急性腎障害であった。なお、心血管リスク層別化は、ランダム化前に改訂版心リスク指標(revised cardiac risk index:RCRI)、ベイルート・アメリカン大学(AUB)-HAS2心血管リスク指数、および収縮期血圧を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・2,222例(年齢中央値[IQR]:68歳[61~73]、女性:771[35%])のうち、1,107例がRASI継続群に、1,115例がRASI中止群に無作為に割り付けられた。・RCRIでは、592例が低リスク(0点)、1,095例が中低リスク(1点)、418例が中高リスク(2点)、117例が高リスク(3点以上)に分類された。・AUB-HAS2心血管リスク指数では、1,049例が低リスク(0点)、727例が中低リスク(1点)、333例が中高リスク(2点)、113例が高リスク(3点以上)に分類された。・計2,132例が術前収縮期血圧の四分位群に分けられた。・術後合併症およびMACEのリスクはRCRIスコアによって異なったが、RASIの継続と中止戦略は、術後合併症のリスク上昇とは関連していなかった。 研究者らは本結果を踏まえ、「非心臓大手術前のRASI継続/中止の決定は、患者の術前の心血管リスク評価によって左右されるべきではない」としている。

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カロリー制限食は抑うつ気分を高める?

 カロリー計算は単に気が滅入る作業であるだけでなく、実際にうつ病のリスクを高める可能性があるようだ。新たな研究で、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べて抑うつ症状のスコアが高かったことが示された。トロント大学(カナダ)精神医学准教授のVenkat Bhat氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Nutrition Prevention & Health」に6月3日掲載された。 Bhat氏らは今回、2007年から2018年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万8,525人の健康状態を追跡した。参加者は抑うつ症状を評価する質問票であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)に回答していたほか、実践している食事療法の有無についても調査が行われていた。 調査の結果、参加者の7.79%が抑うつ症状のあることを報告していた。参加者を食事パターンに基づき分類したところ、実践している特定の食事法はないと回答した参加者が全体の87.23%を占めていた。残る8.10%はカロリー制限食、2.90%が特定の栄養素の制限を伴う食事(以下、栄養制限食)、1.77%が健康問題の管理を目的とした食事を実践していた。 食事パターンと抑うつ症状の関係について分析した結果、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べてPHQ-9スコアが0.29点高かった。特に、過体重の人では、カロリー制限食はPHQ-9スコアの0.46点の上昇、栄養制限食は同スコアの0.61点の上昇と関連していた。また、何らかの食事法を実践している男性では実践していない男性に比べて身体症状のスコアが高く、さらに、栄養制限食を実践している男性では、食事法を実践していない女性と比べて認知・情動症状スコアが0.40点高いことも示された。 Bhat氏らは、「カロリー制限食が抑うつ症状スコアの上昇と関連することを示した本研究結果は、これまでに報告されている対照研究の結果とは大きく異なっている」と述べている。そして、「このような(結果の)不一致は、先行研究の多くがランダム化比較試験であり、参加者が栄養バランスの取れた、綿密に計画された食事を遵守していたために生じた可能性がある」と付け加えている。 実生活では、カロリー制限食はしばしば栄養不足やストレスを引き起こし、それが抑うつ症状を悪化させることは少なくないとBhat氏らは指摘する。また、このような食事法を実践している人は、減量の失敗や体重のリバウンドを経験することで抑うつ状態に陥る可能性もあるという。さらに同氏らは、グルコースや脂肪酸は脳の健康に不可欠であるが、「炭水化物(グルコース)や脂肪(オメガ3脂肪酸)が少ない食事は理論上、脳の機能を低下させ、認知・感情症状を悪化させる可能性がある。特に、より多くの栄養を必要とする男性ではその傾向が強まるかもしれない」と述べている。 英国のNNEdPro食品・栄養・健康グローバル研究所のチーフサイエンティスト兼エグゼクティブ・ディレクターであるSumantra Ray氏は、この新たな研究によって、「食事パターンとメンタルヘルスの関連を示すエビデンスの蓄積がさらに進んだ。また、認知機能に有益と考えられているオメガ3脂肪酸やビタミンB12といった栄養素が少ない食事制限が抑うつ症状を誘発する可能性についての重要な示唆も得られた」とコメントしている。  ただしRay氏は、この研究で認められた抑うつ症状への影響は比較的小さかった点を指摘し、「今後、食事摂取を正確に把握し、偶然の影響や交絡因子の影響を最小限に抑えた、適切にデザインされたさらなる研究により、この重要な分野の理解を深める必要がある」とニュースリリースの中で述べている。

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睡眠中の脳にカフェインはどう作用するのか

 朝のコーヒーは活力をもたらしてくれるが、夜にコーヒーを飲んで眠りにくくなったことはないだろうか。新たな研究で、カフェインは睡眠中の脳の電気的信号の複雑性を増大させ、「臨界状態」に近付けることが示された。臨界状態とは秩序と無秩序の境目にある状態で、脳が外からの刺激に最も敏感に反応し、最も適応力が高く、情報処理の効率も最大になると考えられている。モントリオール大学(カナダ)のPhilipp Tholke氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications Biology」に4月30日掲載された。 Tholke氏らは40人の健康な成人を対象に、脳波計(EEG)と人工知能(AI)を用いて、睡眠中の脳に対するカフェインの影響を分析した。試験参加者は、就寝前にカフェイン200mg(コーヒー1〜2杯に相当)を含んだカプセルまたはプラセボを摂取した。 その結果、カフェインは脳の電気的信号の複雑性を増大させ、それにより神経活動はより多様で柔軟になることが示された。また、カフェイン摂取により脳活動のパターンは臨界状態に近付き、脳の電気的リズムにも顕著な変化が見られた。具体的には、精神的な集中や覚醒状態に関係するベータ波は増大する一方で、回復に導く深い睡眠に関係するシータ波やアルファ波などのより遅い脳波は抑制されることが明らかになった。こうした変化は、特に、記憶の定着と認知機能の回復に重要なノンレム睡眠中に顕著であった。 さらに、こうしたカフェインの影響は、レム睡眠中の20〜27歳の若年層において、41~58歳の中年層よりも顕著に現れた。この違いは、眠気を引き起こす脳内の神経伝達物質であるアデノシン受容体の変化に起因する可能性があるという。共著者の1人であるカナディアン・スリープ・アンド・サーカディアン・ネットワーク会長のJulie Carrier氏は、カフェインはアデノシン受容体を阻害することで覚醒状態を保つが、若年層はこれらの受容体を多く持っているため、カフェインの刺激作用がより強く現れる可能性があると指摘している。同氏は、「アデノシン受容体は加齢に伴い自然に減少するため、それらを阻害して脳の複雑性を改善するカフェインの作用も弱まる。これが中年層でカフェインの影響が減弱する一因かもしれない」と話している。 Carrier氏は、就寝前のカフェイン摂取により就寝中に脳が臨界状態に近付くことが示された点について、「この状態は日中に集中力を高めるには有用だが、夜間の休息を妨げる可能性がある。脳はリラックスできないため、十分な回復は望めないだろう」と言う。一方、論文の上席著者であるモントリオール大学心理学教授および同大学認知・計算論的神経科学研究所所長のKarim Jerbi氏は、「本研究結果は、睡眠中であってもカフェインの影響下では脳がより活性化し、回復力が低下した状態にあることを示唆している。脳のリズミカルな活動の変化は、カフェインが脳の記憶の処理や夜間の回復効率に影響を与える可能性を説明するのに役立つかもしれない」と述べている。 研究グループは、カフェインが脳の健康に与える長期的な影響についてより深く理解し、年齢層ごとに個別化された推奨を導き出すために、さらなる研究が必要であるとしている。

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就学前までのBMIの変化で将来の肥満リスクを予測可能

 幼少期のBMIの変化の軌跡から、その後の肥満リスクを予測できるとする、米ワシントン州立大学のChang Liu氏らの研究結果が、「JAMA Network Open」に5月22日掲載された。1~6歳の間にBMIが低下しない場合、9歳時点で小児肥満となっている可能性が高く、米国の子どもの約1割がこれに該当するという。 この研究では、米国立衛生研究所(NIH)がサポートしている、小児の健康に関する大規模コホート研究(Environmental influences on Child Health Outcomes;ECHO)の1997年1月~2024年6月のデータが縦断的に解析された。この期間に体重と身長の測定が4回以上行われた1~9歳の子ども9,483人(男児51.9%)を対象として、BMIの変動パターンを検討。その結果、典型的なパターンとそうでない非典型的なパターンの2種類に、明確に分類可能であることが分かった。 典型的なBMI変動パターンは全体の約9割(89.4%)を占めていた。このパターンでのBMIは1~6歳にかけて直線的に低下し6歳時点で最も低値となり、その後は9歳になるまで直線的に上昇。9歳時点のBMIは平均17.33だった。一方、全体の約1割(10.6%)を占める非典型的な変動パターンでは、1~3.5歳までBMIが低下せず横ばいで推移し、3.5歳から9歳にかけては急な傾きで直線的に上昇。9歳時点でのBMIは平均26.2に達していた。このBMI平均値は、米国の9歳児のBMI分布の99パーセンタイルを超えている。 Liu氏は、「3歳半という早い段階でBMIの異常な変動パターンを特定できるという事実は、成長後の肥満を予防するために、幼少期がいかに重要であるかを示している」と述べている。研究者らによると、BMIの高い子どもは成人後に過体重や肥満であることが多く、結果として糖尿病や心臓病などの慢性疾患のリスクが高まる可能性があるという。 この研究では、BMIの変動が非典型的なパターンであることの関連因子の検討も行われた。その結果、女児(オッズ比〔OR〕1.22〔95%信頼区間1.05~1.42〕)、出生体重高値(OR1.40〔同1.21~1.63〕)、および、母親の妊娠前BMI高値(OR1.09〔1.07~1.12〕)、妊娠中の喫煙(OR1.76〔1.31~2.37〕)、妊娠中の体重増加の大きさ(OR1.26〔1.11~1.43〕)などとの有意な関連が認められた。 これらの結果に基づきLiu氏は、「われわれの研究は、妊婦に対し妊娠中の適切な体重増加をサポートすること、喫煙習慣のある妊婦に対しては禁煙を促すこと、および、急激な体重増加の兆候を示している子どもを注意深くモニタリングすることなどが、小児肥満を減らす上で重要な介入となり得ることを示唆している」と述べている。

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経口セマグルチドはASCVDかつ/またはCKDを合併した肥満2型糖尿病患者の心血管イベントを減らす(解説:原田和昌氏)

 GLP-1受容体作動薬の注射剤は、さまざまな異なる患者像において心血管系の有効性が確立しており、メタ解析でも同様の結果が得られている。しかし、経口セマグルチドはPIONEER 6試験にて2型糖尿病(T2DM)かつ心血管リスクの高い患者における安全性は確立されたが、主要有害心血管イベント(MACE)に対する有効性は示されなかった。米国のDarren K. McGuire氏らはSOUL試験により、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)かつ/または慢性腎臓病(CKD)を有する平均BMI 31のT2DM患者において、経口セマグルチドがプラセボと比較してMACEのリスクを有意に減少させることを示した。 SOUL試験は二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIb相試験であり、50歳以上のT2DM(HbA1c値6.5~10.0%)、ASCVDかつ/またはCKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)を有する9,650例(平均年齢66.1±7.6歳、女性28.9%)を対象とした。標準治療に加えてセマグルチド(1日1回)を経口投与する群(4,825例)、またはプラセボ群(4,825例)に無作為に割り付けた。平均追跡期間は47.5±10.9ヵ月で、9,495例(98.4%)が試験を完了した。全体の70.7%に冠動脈疾患、23.1%に心不全、21.2%に脳血管疾患、15.7%に末梢動脈疾患の既往歴があり、42.4%にCKDを認めた。また、26.9%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。主要アウトカムは、プラセボ群で13.8%、経口セマグルチド群では12.0%に発生し(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.77~0.96、p=0.006)、セマグルチド群の優越性が示された。 個々の項目のイベント発生率のHRは、心血管死が0.93(95%CI:0.80~1.09)、非致死的心筋梗塞が0.74(0.61~0.89)、非致死的脳卒中が0.88(0.70~1.11)であった。検証的副次アウトカムのHRは、主要腎障害イベントが0.91(95%CI:0.80~1.05、p=0.19)、主要有害下肢イベントが0.71(0.52~0.96)であった。重篤な有害事象はセマグルチド群で47.9%、プラセボ群で50.3%に発現し(p=0.02)、消化器系の障害は5.0%および4.4%にみられた。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、15.5%および11.6%であった。 GLP-1受容体作動薬は経口投与と皮下注射で血中濃度が異なるためか、主に皮下注製剤でMACEに対する有効性が証明されてきた。本試験によりASCVDかつ/またはCKD合併の肥満T2DMというハイリスク患者では、経口のセマグルチドがMACEを14%有意に抑制することが証明された。実臨床では経口投与を好む患者も多いため重要な試験であると考えられる。また、副次アウトカムで主要有害下肢イベントが抑制されたのはセマグルチド皮下注のSTRIDE試験と同様であるが、GLP-1受容体作動薬の別のメタ解析1)(ほとんどが皮下注製剤)ではマクロアルブミン尿の新規発症に限らない、主要複合腎臓アウトカムの有意な低下が示されていることから、患者像やアウトカムによってGLP-1受容体作動薬の製剤を使い分ける必要があるのかもしれない。

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わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」【最新!DI情報】第42回

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的心筋ミオシン阻害薬「マバカムテン(商品名:カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、肥大型心筋症における左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害や左室流出路狭窄を改善することが期待されています。<効能・効果>閉塞性肥大型心筋症の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得し、5月21日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減します。ただし、最大投与量は1回15mgとします。<安全性>重大な副作用として、収縮機能障害により心不全を起こすことがあります(頻度不明)。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の上昇がみられた場合や、呼吸困難、胸痛、疲労、動悸、下肢浮腫などが発現または増悪した場合は、速やかに心機能の評価を行います。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、疲労、末梢性浮腫、心房細動、動悸、労作性呼吸困難、呼吸困難、筋力低下、駆出率減少(いずれも1~3%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。心臓の過剰な収縮を抑え、血液の送り出しにくさを緩和します。2.1日1回、水やぬるま湯で服用してください。3.この薬には併用してはいけない薬や併用を注意すべき薬や食品もありますので、他の薬を使用している場合や、新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。4.妊娠する可能性がある人は、この薬の投与中および最終投与後4ヵ月間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>肥大型心筋症(HCM)は、高血圧や弁膜症などの基礎疾患がないにもかかわらず、心室の肥大を引き起こす原発性の心疾患です。HCMは、左室拡張機能が低下しており、閉塞性HCMでは左室流出路(LVOT)が閉塞しています。主な原因は、心筋収縮関連タンパクの遺伝子異常とされていますが、未解明の点も少なくありません。初期には無症状または軽微な症状を示すことが多いですが、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難などが現れることがあります。心筋の収縮は、ミオシンヘッドがアクチンと結合し、クロスブリッジ(架橋)を形成することで起こり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費します。HCMは、過剰な数のミオシンがクロスブリッジを形成する(動員される)ことにより心筋の過収縮が生じると考えられています。本剤は、心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的なアロステリック阻害薬です。ミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を抑制することで、HCMにおける左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害やLVOT狭窄を改善します。なお、本剤は2023年6月にHCMに対する希少疾病用医薬品に指定されています。閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした海外第III相試験(MYK-461-005)において、投与30週後の臨床的奏効(「最高酸素摂取量[pVO2]の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のI度以上の改善」または「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合は、マバカムテン群で36.6%、プラセボ群で17.2%でした。プラセボとの差は19.4%(95%信頼区間:8.67~30.13)であり、群間に有意な差が認められたことから、マバカムテン群のプラセボ群に対する優越性が検証されました。同じく閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした国内第III相試験(CV027004)において、ベースラインから30週後までの運動負荷後LVOT圧較差の変化量の平均値は-60.7(平均差:31.56)mmHgであり、運動負荷後LVOT圧較差はベースラインに比べて改善しました。

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PAD疑い例の検査・診断【日常診療アップグレード】第33回

PAD疑い例の検査・診断問題72歳男性。1年前から20分間の歩行で左ふくらはぎが痛くなる。座位になり5分くらい休息すると軽快する。既往歴は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病である。リシノプリル、メトホルミン、アトルバスタチンを内服している。バイタルサインに異常はなく、左膝窩動脈と左足背動脈は脈拍が触れにくい。下肢のCTアンギオグラフィーをオーダーした。

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第273回 GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない

GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない肥満治療で売れているGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)が治療しうる疾患一揃いは終わりがないかのように増え続けています1)。最近発表された小規模試験の結果によると、その果てしない用途候補の一覧に次に加わるのは片頭痛かもしれません。試験はイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学(ナポリ大学)で実施され、GLP-1薬の1つであるリラグルチドが肥満患者の1ヵ月当たりの片頭痛の日数を半分近く減らしました。その結果は先月6月17日にまずHeadache誌オンラインに掲載され2)、その数日後の21日に欧州神経学会(EAN)年次総会でも発表されました。ノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドは、2型糖尿病(T2D)や肥満治療(本邦では適応外)に使われます。同社は肥満治療としてはウゴービ、T2D治療としてはオゼンピックという商品名で売られている別のGLP-1薬セマグルチドも作っています。リラグルチドやセマグルチドは属する薬剤群の名が示すとおり、GLP-1というホルモンの働きを真似ます。GLP-1は血糖調節や食欲抑制に携わることがよく知られていますが、他にも種々の働きを担うようです。それらの多岐にわたる機能を反映してかGLP-1薬も多才で、目下の主な用途である体重管理やT2D治療に加えて、他のさまざまな病気や不調を治療しうることが示されるようになっています。たとえば今年1月にNature Medicine誌に掲載されたT2D患者200万例超の解析3)では、心不全、心停止、呼吸不全や肺炎、血栓塞栓症、アルツハイマー病やその他の認知症、アルコールや大麻などの物質乱用、統合失調症などの42種類もの不調が生じ難いこととGLP-1使用が関連しました4,5)。ナポリ大学の神経学者Simone Braca氏らがリラグルチドの片頭痛への効果を調べようと思い立ったのは、片頭痛の発生にどうやら頭蓋内圧上昇(ICP)が寄与し、ICPを下げうるGLP-1薬の作用がラットでの検討6)で示されたことなどを背景としています。その効果はヒトでもあるらしく、2023年に結果が報告されたプラセボ対照無作為化試験では、GLP-1薬の先駆けのエキセナチドが特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)患者のICPを有意に下げ、頭痛を大幅に減らしています7)。ナポリ大学のBraca氏らの試験では片頭痛と肥満の併発患者が2024年1~7月に連続的に31例組み入れられ、リラグルチドが1日1回皮下注射されました。それら31例は片頭痛予防治療を先立って2回以上受けたものの効き目はなく、片頭痛の日数は1ヵ月当たり平均して約20日(19.8日)を数えていました。先立つ治療とは対照的に12週間のリラグルチド投与の効果は目覚ましく、1ヵ月当たりの片頭痛日数はもとに比べて半分ほどの約11日(10.7日)で済むようになりました。試験でのリラグルチドの用量(最初の一週間は0.6mg/日、その後は1.2mg/日)は欧州での肥満治療用途の維持用量(3.0mg/日)8)より少なく、体重の有意な変化は認められず、BMIが34.0から33.9へとわずかに減ったのみでした。回帰分析したところBMI変化と片頭痛頻度の変化は無関係でした。対照群がない試験ゆえ片頭痛頻度低下のどれほどがプラセボ効果に起因するのかが不明であり、無作為化試験での検証が必要です。頼もしいことに、頭蓋内圧の測定を含む二重盲検無作為化試験が早くも計画されています9)。リラグルチド以外のGLP-1薬に片頭痛予防効果があるかも検討したい、とBraca氏は言っています。 参考 1) Obesity drugs show promise for treating a new ailment: migraine / Nature 2) Braca S, et al. Headache. 2025 Jun 17. [Epub ahead of print] 3) Xie Y, et al. Nat Med. 2025;31:951-962. 4) Quantifying Benefits and Risks of GLP-1-Receptor Agonists for Patients with Diabetes / NEJM Journal Watch 5) GLP-1 Agents' Risks and Benefits Broader Than Previously Thought / MedPage Today 6) Botfield HF, et al. Sci Transl Med. 2017;9:eaan0972. 7) Mitchell JL, et al. Brain. 2023;146:1821-1830. 8) Saxenda : Product Information / EMA 9) From blood sugar to brain relief: GLP-1 therapy slashes migraine frequency / Eurekalert

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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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