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第284回 終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案

<先週の動き> 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案救急・集中治療領域における生命維持治療の終了・差し控えを巡り、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、合同ガイドライン改訂案を公表した。2014年策定の指針から約11年ぶりの改訂となる。改訂案では「終末期」をあえて定義せず、人工呼吸器などの生命維持治療を開始しない、または終了する際の判断手順を具体化した点が特徴となっている。患者本人の価値観や意思を中心に、家族および医療チームが協議して方針を決定する「共同意思決定」を原則とした。また、1度治療を開始すると中止できないという臨床現場の萎縮を防ぐため、期限を区切って治療効果を評価する「タイム・リミテッド・トライアル」の考え方を明記。治療を差し控え、または終了した場合の緩和ケアについても、苦痛緩和の具体的手順や家族支援の在り方を詳細に示した。これまで、法的責任への懸念や指針のあいまいさから、患者が望まない治療が継続される事例も少なくなかった。今回の改訂案は、現場での判断を支える実践的指針として、患者の尊厳を尊重した医療の実現につながることが期待される。3月27日までパブリックコメントを実施している。 参考 1) 終末期医療の指針、救急など4学会改訂案 意思決定やケアの手順示す(朝日新聞) 2) 延命治療終了の手順具体化 学会指針案、11年ぶり改定(共同通信) 3) 延命治療終了の手順明記 4学会が指針案、患者の意思尊重 医療者・家族の協議求める(日経新聞) 4) 「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」パブリックコメント募集のお知らせ(日本救急医学会) 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議政府の規制改革推進会議は2月26日、規制改革に関する中間答申を公表し、「全国がん登録情報および院内がん登録情報の利活用拡大」を最重要項目に位置付けた。がん登録に含まれる死亡日や死因情報は、遺族の個人情報に該当する可能性から、現行制度では第三者提供が厳しく制限されている。その一方で、多施設共同研究などでは生存確認や死亡情報の活用ニーズが高く、「研究に使えない」との指摘が相次いでいた。中間答申では、死亡日を5日単位でグループ化するなど、個人特定リスクを抑えた加工を施したうえでの第三者提供を検討すると明記。死因についても、がん死亡では部位が判別可能な情報、非がん死ではICD中間分類レベルの提供を可能とする方向性が示された。2026年の制度実施を目指す。これにあわせて、全国がん登録の届け出項目拡充も進められる。厚生労働省は、2027年診断症例から「死亡場所」を登録項目に追加する方針を了承。終末期医療や在宅看取りの実態把握に資する狙いだ。さらに、2028年以降はUICCのTNM分類(腫瘍径、リンパ節転移、遠隔転移)の追加も予定されている。また、院内がん登録とNDB(レセプト・特定健診情報)など公的データベースの連結解析を可能とし、本人同意を不要とする第三者提供の対象に院内がん登録を含める方針も示された。AYA世代や希少がんでは、国際標準分類に基づく情報提供を拡充する。その一方で、議論が続く自治体がん検診の「医師1人+AI読影」解禁は、今回の中間答申には盛り込まれなかった。政府は、今夏に規制改革実施計画を策定し、がん研究基盤の強化を急ぐとしている。 参考 1) がん登録情報の利活用、死亡日など提供方法を検討 中間答申 規制改革推進会議(CB news) 2) がん登録に「死亡場所」も 27年症例から項目追加 厚労省(同) 3) 規制改革推進に関する中間答申(規制改革推進会議) 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省厚生労働省は、2月25日に開かれた「第13回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、都道府県を対象に実施したアンケート結果を公表し、医師確保が特に必要な診療科として「小児科」を挙げた自治体が最多の41都道府県に上ったと明らかにした。次いで産科・産婦人科が40、総合診療科が34となり、生命予後に直結しやすく、24時間対応や当直負担の重い診療科で人材不足が深刻である実態が改めて浮き彫りとなった。特定診療科の医師確保に向けた支援策は44都道府県で実施しており、主な手法は(1)診療科を特定した地域枠の設定、(2)人件費や医師派遣費など医療機関への財政支援、(3)大学への寄附講座設置などであった。その一方で、都道府県が養成過程での対策を進めるために国に求める支援としては、財政支援の拡充、制度に関する情報提供や協議の場の設置、臨床研修・専門研修での採用上限設定など制度的関与の強化が多く挙げられた。この検討会において、第8次医師確保計画(後期、2027年度~)に反映する「医師養成過程の取組に係る議論の整理(案)」を大筋で了承した。整理案では、地域枠は原則として恒久定員内で設置する方針を明確化し、医師少数県や離島・豪雪地帯など、やむを得ない事情がある場合に限って臨時定員の活用を例外的に認めるとした。また、医学部段階だけでなく、臨床研修・専門研修を通じた偏在是正を重視し、若手医師の流出入や研修修了後の定着状況、地域枠医師の義務年限終了後の勤務実態を継続的に把握・検証することを都道府県に求めた。大学医学部・大学病院に対しては、地域医療を担う診療科への誘導や研修プログラムの魅力向上など、教育機能と地域医療政策の一体的運用がより強く求められることになる。 参考 1) 医師確保が特に必要な診療科、最多は「小児科」 厚労省の都道府県調査で(CB news) 2) 地域枠は原則「恒久定員内」に設置へ 医師多数県以外も 厚労省検討会が整理案(同) 3) 特に医師確保が必要な診療科として、41都道府県が「小児科」と回答(日経メディカル) 4) 医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程の取組に係る議論の整理案(厚労省) 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害や不適切な勧誘の増加を受け、医師の診療録の記載ルールを見直す省令改正案を公表し、パブリックコメントを実施している。意見募集は3月17日まで。改正案では、美容医療を提供する場合の診療録の記載事項に「患者の主訴」「患者が希望する治療内容」が含まれることを明確化し、保健所などの立入検査・指導で診療実態を確認できるようにする。これまでは医師法違反などが疑われる事案でも、診療録の記載自体が不十分で根拠が追えず、指導の実効性が上がらないケースがあったためであり、厚労省は監督強化の一環として2026年4月の施行を予定している。今回の医師法施行規則の改正は、美容医療の消費者相談の件数増加を受け、2024年に厚労省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」での議論をもとに、同年11月の取りまとめで「診療録記載の徹底」を安全確保の柱に位置付けた経緯がある。わが国の美容医療はSNS拡散とコロナ禍の「特需」を追い風に急拡大し、推計では2024年に市場規模は6,310億円に達している。クリニック数は、2020年の1,404施設から2023年に2,016施設へと増加し、施術件数も2017年約160万件から2024年約306万件に伸長、自由診療の高収益性を背景に研修後すぐ美容医療に進む「直美」医師も2012年の16人から2022年には198人と急増している。その一方で、経験不足や合併症対応の脆弱さを不安視する声があり、国民生活センターへの相談件数も2022年度3,798件から2024年度1万736件へと急増している。自由診療は保険診療と異なり、診療内容について保険審査の枠外で、価格設定や運営の自由度が高い。クリニックによっては、カウンセラーにノルマを課して高額な施術へ誘導するほか、術後の合併症の対応能力不足、未承認の薬剤や医療機器を使用した施術での重篤な被害の発生も繰り返されている。SNSでは「痛みゼロ」「必ず小顔」など断定的表現や根拠不明の肩書が拡散しやすく、広告規制が届きにくい「グレーゾーン」も課題となっている。厚労省では、患者の「主訴」「希望する治療」の記録を明確化して、診療の妥当性や説明・同意の検証、トラブル時の事後検証を可能にし、行政指導につなげたい考え。2025年12月には美容医療機関に安全管理措置や相談先などの報告を年1回程度求める制度整備も進んでおり、今回の省令改正と併せ、統一的な指針整備、若手教育・倫理、広告監視の実効性をどう高めるかが焦点となる。厚労省は、パブリックコメントで記載項目の具体性や運用負担、立入検査での活用方法などへの意見を求めており、4月以降は現場での真摯な対応が求められる。 参考 1) 医師法施行規則及び歯科医師法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について(政府) 2) 美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書(厚労省) 3) 美容医療、診療録の記載事項に「患者の主訴」「希望する治療内容」も 省令改正へ(CB news) 4) 美への欲望につけこみ高額な課金、死亡事故も…専門医は「過剰営業」を懸念(日経メディカル) 5) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省厚生労働省が公表した人口動態統計速報(外国人を含む)によると、2025年の出生数は70万5,809人で、1899年の統計開始以降で過去最少を更新し、10年連続減少した。前年差は1万5,179人減(2.1%減)で、2022~24年の約5%減に比べ減少幅は縮小した。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計(中位推計)では出生数が70万人台となるのは2042年と見込まれており、想定よりも約17年早いペースで少子化が進んでいる。死亡数は160万5,654人で0.8%減と5年ぶりに減少へ転じたが、出生数との差である自然減は89万9,845人と過去最大に拡大した。団塊の世代が全員75歳以上となる中、人口減の加速が改めて示された。婚姻数は50万5,656組で1.1%増、2年連続の増加。ただしコロナ禍前(2019年の59万組台)には戻っていない。離婚は18万2,969組で3.7%減だった。地域別では45道府県で出生数が減少する一方、東京都は8万8,518人(1.3%増)と速報値で9年ぶりに増加し、石川県も6,515人(128人増)と増加に転じた。全国出生数の約3割を首都圏1都3県が占め、地域差も鮮明となった。東京都は、現金給付や保育料無償化の拡大、無痛分娩助成など子育て支援を進めており、周辺自治体から転居希望の増加を指摘する声もある。上野 賢一郎厚生労働大臣は、若年層の所得向上や共働き・共育て支援を進める考えを示し、「婚姻増は良い傾向」と述べている。もっとも、出生数の下振れが続けば、年金・医療・介護の前提となる人口見通しが揺らぎ、給付と負担の再設計を迫る可能性がある。なお日本人のみの出生数・合計特殊出生率は6月公表予定で、出生数は60万人台となる見通しが示されている。政府は2030年までが少子化反転の「ラストチャンス」として、こども未来戦略を推進し、財源として公的医療保険に上乗せする支援金制度を段階的に運用する方針も示している。 参考 1) 人口動態統計速報(厚労省) 2) 2025年の出生数70万人、10年連続で最少更新…東京・石川が増加に(読売新聞) 3) 出生数過去最少の70万人 推計より17年早い少子化 25年速報値(毎日新聞) 4) 2025年の出生数70.5万人 少子化は推計より17年早く、人口減も進行(日経新聞) 5) 2025年、出生数は70万5,809人で10年連続減少、死亡数が160万5,654人で、自然増減は「マイナス89万9,845人」-厚労省(Gem Med) 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市北海道室蘭市は、経営悪化が続く市立室蘭総合病院について2027年度をめどに閉院し、高度急性期・急性期機能を製鉄記念室蘭病院へ統合する方針を正式に決定した。市内3病院(市立室蘭総合病院、製鉄記念室蘭病院、日鋼記念病院)の再編を巡り、地域医療連携再編等推進協議会が最終合意に達した。背景には、室蘭市および西胆振地域で進む人口減少と急性期医療需要の縮小がある。3病院が同様の急性期機能を維持し続ければ、病床過剰や症例分散により医療の質低下や医師確保難を招き、病院経営の持続性が失われるとの判断が示された。市立病院は1872年開設、517床・22診療科を有し、約720人が勤務する基幹病院だが、2024年度末で約85億円の負債を抱え、市の一般会計からの多額の繰り出しが市の財政を圧迫していた。再編後、東室蘭地域では製鉄記念室蘭病院が2次医療圏の救命救急・高度急性期拠点を担い、蘭西地域では日鋼記念病院を中心に急性期から回復期、在宅医療までを支える体制とする。道内初の結核患者収容モデル病室の稼働など、政策医療の集約も進める。その一方で、500人超の市立病院職員は公務員の身分を失うため、再就職支援が課題となる。北海道知事の鈴木 直道氏は、患者の受け皿確保や職員雇用について市と連携し、丁寧に対応する考えを示している。今回の閉院は、人口減少地域における公立病院再編の先行事例として、全国の地域医療に大きな影響を与える可能性がある。 参考 1) 室蘭市地域医療連携・再編等推進について(室蘭市) 2) 市立室蘭総合病院、27年度めどに閉院へ 製鉄記念室蘭病院へ機能統合 3病院再編で合意(CB news) 3) 市立室蘭総合病院を閉院へ 北海道室蘭市、70億円超の財政支出も(朝日新聞) 4) 150年の歴史がある市立病院が閉院へ…新年度に23億円支出方針の室蘭市の財政は「危機的水準」(読売新聞)

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「月経」と「生理」、英語ではどう言い換える?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第51回

医学用語紹介:月経 menses今回は「月経」について説明します。医療現場ではmensesまたはmenstruationという専門用語が使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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高齢乳がん診療の課題とGA活用【高齢者がん治療 虎の巻】第7回

講師紹介<今回のPoint>乳がんは比較的若年者の多いがん種であるが、高齢者の罹患が増えている。高齢乳がん患者の治療方針決定に当たっては、年齢のみで評価せず、身体・認知機能や社会的背景を含めた高齢者機能評価(GA)に基づいて治療方針を決定する。GAに基づくレジメン選択や用量調整は有害事象を減らし、Fit(適格)な高齢者には標準治療を積極的に適用する。乳がんの発症年齢も欧米化近年、乳がんの治療開発は速度を増しており、毎年新たな標準治療が導入されています。転移乳がんを対象とした臨床試験でも、生存期間が延長を示すものが少なくない。日本の乳がん患者は40代後半と60代後半に2つの罹患ピークがありますが、発症年齢は欧米化しており高齢乳がん患者は増加しています。高齢者には臓器機能低下、複数の併存症、認知機能低下、社会的支援の不足など、年齢特有の生物学的・生理学的・社会的変化が重なり合い、すべての患者への標準治療の適用や、適切な毒性管理が難しい状況にあります。また臨床試験への高齢者の参加が少なく、治療選択の根拠となるデータが不足しています。これらの課題に対し、近年注目されているのが高齢者機能評価(geriatric assessment:GA)です。GAは患者の身体機能、認知機能、栄養状態、心理状態、社会的支援、併存症などを多面的に評価し、治療選択や用量調節の指針とするものです。欧米のガイドラインや本邦の乳がん診療ガイドラインでも、GAを用いて高齢患者の予後やレジリエンスを評価し、それらを元に患者の価値観や治療目標を共有し、治療計画を立てることが推奨されています。そのためには、高齢患者全例に簡易ツール「G8」でスクリーニングを行い、14点以下となった患者には詳細なGAを実施します。また、薬物療法の有害事象予測としてはCARGスコアやCRASHスコアなどのリスク指標を用います。これらの指標に基づき、若年患者と同じ標準治療を導入するか、用量を減量して導入するか、あるいはがん薬物療法は行わずに症状緩和を行うかといった判断が可能となります。国内外での乳がん患者に対するGA実施結果当院では、試験的に2024年10月から入退院支援センターで面談を受けた65歳以上の全がん患者(すなわち入院患者)にG8を施行しています。その結果、高齢がん患者の中でも身体機能や生活状況は大きく異なり、単純な年齢区分だけでは適切な治療方針を決められないことが確認されました。たとえば、G8評価で良好なスコアを示した75歳の転移乳がん患者であっても、若年者と同様にCDK4/6阻害薬併用内分泌療法を実施し、十分な効果と有害事象の管理が得られました。一方、G8で脆弱と判定された患者では、化学療法の開始前に栄養・運動介入や社会支援の導入を行うことで、有害事象の発生を抑えながら治療を完遂することができました。海外の臨床研究でも、GAに基づく介入が化学療法関連毒性を有意に減らし、治療完遂率やQOLを改善することが示されています。GAを活用しない場合はどうでしょう。一見元気そうな高齢患者の問題が見落とされ、後々になって治療強度が保てなかったり、重篤な副作用につながったりします。一方、高齢患者を年齢のみで判断して標準治療を避けると、治療機会を失い生存期間が短縮する可能性があります。逆にPS良好だからといって高用量の化学療法を選択すると、隠れた認知機能障害や栄養不良により重大な毒性が生じることがありますし、根拠を欠いたまま減量や中止を行えば、治療効果が十分に得られず患者のQOL低下を招くことになります。こうした過剰治療と過少治療のリスクを避けるためにも、GAを実施して患者の全体像を把握し、主観によらない評価で治療を調整することが不可欠です。がん治療対象のfit/unfit、老年医学と異なる観点で意識を高齢者がん診療の実践において、私が医師の皆さまに伝えたいことは、「年齢を唯一の基準とせず、患者個々の機能と価値観を尊重した治療を提供する」ことです。fitな高齢者(fit[適格]とvulnerable[プレフレイル])には若年者と同じ標準治療を行い、unfitな患者(frail)には早期から多職種チームによる栄養・リハビリ・薬学的支援を導入しながら適切な減量や支持療法を組み合わせるべきです。また、患者と家族の希望や生活目標を共有する共有意思決定(shared decision making:SDM)を実践し、治療の利点と不利益をわかりやすく説明することが重要です。がん治療の進歩により寿命が延びる一方、高齢者の多様性も増しています。令和のがん治療を実践する医師には老年腫瘍学の知識とコミュニケーションスキルを磨き、チーム医療の一員として高齢者のがん治療を支える姿勢が求められています。乳がんの試験から見えた、治療強度とIADLの意外な関係私が研究事務局を担ったJCOG1607試験(高齢者HER2陽性転移乳がんに対するペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル[HPD]療法vs. T-DM1)は、毒性の強い標準治療HPD療法に対する毒性の低い治療T-DM1の非劣性を示すことを目的として実施した。その際、HPD療法は毒性が強いために高齢者では治療強度が保てずに、結果として予後が悪化するのではないかと考えた。しかしながらT-DM1の非劣性は示されず、更には探索的なサブグループ解析でG8や手段的日常生活動作(IADL)が”低い”ほうがHPD療法のメリットが大きかった(SABCS2023、ASCO2024)。この結果は逆説的であるが、“疾患によって”全身状態が悪化している患者には、しっかりと有効性が高い治療を行うことが結果的に全身状態の改善につながるということを示しているのかもしれない。1)Culakova E, et al. J Clin Oncol. 2023;41:835-846.2)Biganzoli L, et al. Lancet Oncol. 2021;22:e327-e340.3)Morita M, et al. Breast Cancer. 2022;29:498-506.4)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology - Older Adult Oncology Version 1.2026.5)高齢者がん診療ガイドライン作成委員会編. 高齢者がん診療ガイドライン 2022年 修正・増補版. 2025.6)JCOG Breast Cancer Study Group:JCOG1607

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膀胱がんへの周術期EV+ペムブロリズマブ、EFS・OS改善(KEYNOTE-905/EV-303)/NEJM

 筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)でシスプラチンベース化学療法適応外の患者において、エンホルツマブ ベドチン(ネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体)+ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)併用療法による周術期治療は、手術単独と比較して2年時の無イベント生存率(EFS)が有意に優れ、全生存率(OS)も改善することが示された。ベルギー・Integrated Cancer Center GhentのChristof Vulsteke氏らKEYNOTE-905/EV-303 Investigatorsが、「KEYNOTE-905/EV-303試験」の結果を報告した。MIBCの標準治療は、シスプラチンベースの術前化学療法と骨盤リンパ節郭清+根治的膀胱全摘除術であるが、ほぼ半数の患者が腎機能障害、高齢、併存疾患などの理由で適応外となり、手術単独による治療を受ける。これらの患者は、術前・術後の周術期治療により、アウトカムの改善の可能性が示唆されていた。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年2月18日号に掲載された。無イベント生存を評価する無作為化第III相試験 KEYNOTE-905/EV-303試験は、日本を含む27ヵ国242施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(Merck Sharp and Dohmeの助成を受けた)。シスプラチンベースの化学療法が適応外、あるいはこれを希望しないMIBC(臨床病期:T2~T4a N0M0、またはT1~T4a N1M0)の成人(年齢18歳以上)患者を対象とした。 今回は、2020年12月~2024年6月の期間に登録した344例の初回中間解析の結果を報告した。 被験者は、周術期治療としてエンホルツマブ ベドチン(術前3+術後6=9サイクル)+ペムブロリズマブ(術前3+術後14=17サイクル)の投与を行う群(EV-Pembro群:170例、年齢中央値74.0[四分位範囲:47~87]歳、男性80.6%)、または手術のみを行う群(対照群:174例、72.5[46~87]歳、75.3%)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目はEFSとし、盲検下独立中央判定で評価した。EFSは、無作為化から以下のいずれかが最初に発生するまでの期間と定義した。(1)手術不能と判断される画像上の病勢進行、(2)手術を受けなかった参加者における生検で確認されたMIBCの残存、(3)切除不能な腫瘍または新たに発見された転移性病変により、外科医が根治目的の手術を完遂できなかった場合、(4)画像診断または生検によって検出された、術後の局所または遠隔再発、(5)全死因死亡。 手術が行われなかったこと自体はイベントとはみなさず、手術を受けなかった参加者でも、EFSを評価するために定期的な画像診断による追跡調査を継続した。病理学的完全奏効率も大きく改善 追跡期間中央値は25.6ヵ月であった。シスプラチンベースの化学療法を希望しなかった参加者は、EV-Pembro群が16.5%、対照群は20.1%だった。手術は、それぞれ87.6%および89.7%で行われた。 2年時点のEFS率は、EV-Pembro群74.7%(66.9~80.8)、対照群39.4%(95%信頼区間[CI]:31.0~47.9)であった(ハザード比[HR]:0.40、95%CI:0.28~0.57、両側p<0.001)。EFS中央値は、EV-Pembro群が未到達(95%CI:37.3~NR)、対照群は15.7ヵ月(10.3~20.5)であった。 2年OS率は、EV-Pembro群79.7%(95%CI:72.5~85.3)、対照群63.1%(54.7~70.4)であった(HR:0.50、95%CI:0.33~0.74、両側p<0.001)。OS中央値は、EV-Pembro群未到達(95%CI:NR~NR)、対照群41.7ヵ月(31.8~NR)だった。 また、病理学的完全奏効(手術で採取された切除標本に、生存腫瘍が認められない状態[T0N0])は、EV-Pembro群97例(57.1%、95%CI:49.3~64.6)、対照群15例(8.6%、95%CI:4.9~13.8)で達成された(推定群間差:48.3%ポイント、95%CI:39.5~56.5、両側p<0.001)。術前補助療法は手術の実施可能性を毀損しない 有害事象は、EV-Pembro群で全例に、対照群では64.8%に発現し、Grade3以上はそれぞれ71.3%および45.9%、重篤な有害事象は58.1%および40.9%で発現した。EV-Pembro群で最も頻度の高い有害事象はそう痒(47.3%)と脱毛(34.7%)で、Grade3以上では尿路感染症(12.0%)の頻度が高かった。また、有害事象による死亡は、EV-Pembro群で13例(7.8%:術前補助療法期 2例、手術期[手術時から術後30日まで]4例、術後補助療法期 7例)、対照群で9例(5.7%:手術期 9例)に認めた。 EV-Pembro群における薬剤関連有害事象は、Grade3以上が45.5%、重篤な有害事象が19.8%に発生し、試験薬の投与中止が62例(37.1%)、試験薬関連死が2例(1.2%)にみられた。とくに注目すべき有害事象は、エンホルツマブ ベドチン関連のGrade3以上が16.2%、ペムブロリズマブ関連のGrade3以上が18.0%で発現した。 著者は、「手術を受けた参加者の割合は2つの治療群で同程度であり、これは術前補助療法としてのエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブが根治的膀胱全摘除術の実施可能性を損なわなかったことを示唆する」「手術の遅延はまれであり、手術遅延件数は両群で同程度だった」としている。 本試験の結果に基づき、米国食品医薬品局は、シスプラチン適応外のMIBCの成人患者に対する新たな治療選択肢として、膀胱全摘除術の術前および術後補助療法としてのエンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブを承認している。

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高齢者の術後せん妄の予防に有効な薬物療法とは/BMJ

 術後せん妄の予防に鎮静薬デクスメデトミジンが有効であり、エビデンスの質は高くないもののコルチコステロイド、メラトニン受容体作動薬、parecoxib、経鼻インスリン、オランザピンにも潜在的な有益性があることが、英国・オックスフォード大学のMatthew Luney氏らの検討で示された。手術後に急激な意識障害や注意力の低下を来す術後せん妄は、認知症発症のリスクを高めるだけでなく、多大な医療コストの要因ともなっており、高齢化社会における重大な課題とされるが、有効な薬物療法は確立されていない。BMJ誌2026年2月12日号掲載の報告。158試験4万1,084例のネットワークメタ解析 研究グループは、高齢者の術後せん妄に有効な薬剤を特定し、罹患率や死亡率への影響を評価する目的で、既報の無作為化対照比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]のdoctoral research fellowshipの助成を受けた)。 2024年3月4日の時点で、医学関連データベースに登録された関連文献を検索した。対象は、参加者の年齢が60歳以上で、全身または区域麻酔を要する手術後のせん妄の予防を目的に1つ以上の薬剤を投与し、妥当性の検証が済んでいるせん妄評価ツールをアウトカムの評価に用いた無作為化対照比較試験とした。局所麻酔のみの試験、術前に患者が機械換気を受けていた試験、せん妄の治療介入に関する試験は除外した。ベイズ法に基づくネットワークメタ解析を用いて介入法の比較を行った。 52種類の薬物介入を比較した158件の試験(参加者4万1,084例)を特定した。1件の試験の参加者数中央値は120例(四分位範囲:80~259、範囲:16~7,507)で、単施設試験が135件、多施設共同試験が23件だった。これらの試験の結果はすべて1999~2024年に発表され、87件(55%)は2021~24年に報告されていた。17件の試験を、バイアスのリスクが高いと判定した。術後せん妄は14.5%(5,957例)に発現した。術後の悪心・嘔吐の抑制効果も デクスメデトミジンは、外科領域全体(オッズ比[OR]:0.45、95%信用区間[CrI]:0.36~0.56)、胸部手術を除く各専門領域(非心臓手術のOR:0.41[95%CrI:0.31~0.54]、心臓手術:0.52[0.31~0.82]、大腿骨近位部骨折修復手術:0.35[0.17~0.63]、腹部手術:0.38[0.17~0.81]、整形外科手術:0.35[0.20~0.60]、待機的手術:0.47[0.37~0.59]、緊急手術:0.22[0.08~0.46])のいずれにおいても、プラセボに比べ術後せん妄の予防効果が高く、バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析(OR:0.46、95%CrI:0.36~0.57)でも高い効果を示した。 また、デクスメデトミジンの術後せん妄の予防効果は、手術時の麻酔法を問わず優れた(全身麻酔のOR:0.45[95%CrI:0.35~0.57]、区域麻酔:0.28[0.11~0.64])。 デクスメデトミジンは、低血圧(OR:1.40、95%CrI:1.08~1.81)と徐脈(1.60、1.32~2.00)の頻度が高かった一方で、術後の悪心・嘔吐(0.67、0.49~0.87)を抑制した。重症度軽減はコルチコステロイドのみ バイアスのリスクが高い試験を除外した感度分析で、デクスメデトミジンのほかに優れた術後せん妄予防効果を認めた介入として、コルチコステロイド(OR:0.53、95%CrI:0.31~0.87)、メラトニン受容体作動薬(0.54、0.34~0.85)、parecoxib(0.34、0.16~0.74)、オランザピン(0.27、0.07~0.94)、経鼻インスリン(0.13、0.04~0.34)が挙げられたが、これらの試験のエビデンスの質は中~非常に低いであった。 penehyclidineは、プラセボに比べ術後せん妄を有意に増加させた唯一の介入であった(外科領域全体のOR:6.20、95%CrI:1.19~35.37)。 Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)を用いた評価で、プラセボと比較してせん妄の重症度をわずかとはいえ軽減した薬剤は、コルチコステロイド(平均群間差:-2.42、95%CrI:-4.72~-0.12)のみであった。ほとんどの介入は、入院期間、死亡率、術後合併症、生活の質、術後の認知機能に影響を及ぼさなかった。また、コルチコステロイドにより感染症関連合併症が増加することはなかった(OR:0.97、95%CrI:0.66~1.65)。 著者は、「術後せん妄への介入が、せん妄の重症度、精神的苦痛(患者が重視しているにもかかわらず報告がほとんどない)、生活の質、認知機能、自立度、医療資源の消費量に及ぼす影響を評価し、医療経済分析に資する情報を得るために、厳格に実施される試験が必要なことは明らかである」としている。

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コーヒーは片頭痛のリスク因子か?

 コーヒー摂取と頭痛との関連性については、依然として議論が続いている。カフェインは、鎮痛作用と血管収縮作用を有しているが、過剰摂取は頭痛の有病率上昇と関連しているといわれている。台湾・高雄医学大学のPin-Rong Chen氏らは、台湾の大規模コホートにおいて、コーヒー摂取と頭痛の関連性を調査するため、横断研究を実施した。International Journal of Medical Sciences誌2026年1月1日号の報告。 台湾バイオバンクより30〜70歳の2万7,109例の参加者からデータを取得した。頭痛の状態とコーヒー摂取パターン(種類、頻度、1日当たりの摂取量など)は、構造化質問票を用いて評価した。関連性の評価には、多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な内容は以下のとおり。・参加者のうち、頭痛を訴えた例は19.7%であった。・コーヒーの摂取は、頭痛のオッズ比増加と有意な関連が認められた(オッズ比:1.21、95%信頼区間:1.14〜1.29、p<0.001)。・ブラックコーヒー、ノンデイリークリーマー入りコーヒー、ミルク入りコーヒーを含むすべての種類のコーヒーは、頭痛リスクの上昇と関連していた。・1日1杯、2杯、3杯以上のコーヒーの摂取も、頭痛のオッズ比増加と関連していた。・コーヒーの頻繁な摂取(毎日または毎週)は、頭痛のオッズ比増加と関連していたが、毎月の摂取は関連していなかった。・サブグループ解析では、65歳以上、糖尿病、高血圧、うつ病、アルコールや紅茶の摂取歴のある例において、コーヒーの摂取と頭痛の間に有意な関連は認められなかった。 著者らは「コーヒーの摂取量と頻度の両方が頭痛の発症率増加と関連していることが示唆された。とくに、頭痛を起こしやすい例にとっては、個別のカフェイン摂取の推奨が重要である」としている。

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ペムブロリズマブの術前投与が線維形成性黒色腫の生存率を改善

 すでに米食品医薬品局(FDA)に承認されている免疫療法薬のペムブロリズマブが、悪性黒色種(メラノーマ)の亜型の一つである線維形成性黒色腫を劇的に縮小させ、場合によっては完全に消失させることが、第2相臨床試験で示された。線維形成性黒色腫は悪性黒色腫全体の4%を占めるに過ぎないが、組織の奥深くまで成長し、神経に沿って広がることもあるため、手術が難しく、患部の変形リスクがあることが指摘されている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ジョンソン総合がんセンター腫瘍免疫学プログラム所長のAntoni Ribas氏らによるこの研究結果は、「Nature Cancer」に1月29日掲載された。 抗PD-1抗体のペムブロリズマブは、がん細胞が免疫系からの攻撃を回避するメカニズムを阻害することで作用する。FDAは2014年に、切除不能悪性黒色腫の治療薬として同薬を承認し、その後、さまざまながんの治療薬としても適応が拡大している。 線維形成性黒色腫に対する標準治療は、広範囲の外科的切除と放射線療法であるが、進行例では、化学療法や免疫療法にほとんど反応しないことが多いという。ただし、過去の研究では、進行した切除不能の線維形成性黒色腫患者にペムブロリズマブを投与したところ、約90%で腫瘍が縮小したことが報告されている。 今回の研究では、外科的に切除可能な線維形成性黒色腫に対するペムブロリズマブの安全性と有効性が評価された。対象とされた28人の線維形成性黒色腫患者は、手術前に、ペムブロリズマブ(200mg)を3週間に1回、合計3回、静脈投与で受けた。また、治療前、治療開始後3〜5週間後、および手術時に組織採取も行った。 その結果、手術時に採取したサンプルで腫瘍が完全に消失したことが確認された患者の割合(病理学的完全奏効率)は71%に達することが明らかになった。安全性に関しては、2人(7%)でグレード3(重度)の治療関連有害事象が認められた。3年後の追跡調査時に、4人が死亡したが、いずれも線維形成性黒色腫や治療の副作用によるものとは確認されていない。さらに、手術を受けた27人の患者における3年間の無再発生存率は74%であり、線維形成性黒色腫による死亡を回避できた割合(疾患特異的生存率)は95%と推定された。 Ribas氏は、「手術前にペムブロリズマブを投与することで、非常に高い腫瘍消失率が得られ、重篤な副作用も少なく、これまで治療が難しいとされてきたこのがんに対して優れた3年生存率が示された。進行期の患者を対象にした過去の研究結果と合わせると、これらの結果は、線維形成性黒色腫に対する治療が、繰り返しの手術や放射線治療から、単一の治療によって持続的な腫瘍の制御、改善された生存率、より良い生活の質(QOL)を提供するアプローチへと確実に移行しつつあることを示している」と述べている。

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アセトアミノフェンの乳児への処方は安全

 乳児期にアセトアミノフェン(パラセタモール)を使うと、湿疹や喘鳴のリスクが上昇することが、これまでの観察研究で報告されている。こうした中、新たな臨床試験により、アセトアミノフェンとイブプロフェンはいずれも、生後1年以内の乳児にも安全に使えることが示された。これらの市販の鎮痛薬と湿疹や細気管支炎との間に関連は認められなかったという。オークランド大学(ニュージーランド)のStuart Dalziel氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Child & Adolescent Health」に1月27日掲載された。 アセトアミノフェンと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は主要な鎮痛薬の一部であり、世界中で小児の発熱や痛みに対して最も頻繁に処方され、市販薬としても広く購入されている。NSAIDsは強い抗炎症作用を持つが胃腸障害を起こしやすい。イブプロフェンはNSAIDsの一種である。一方、アセトアミノフェンには抗炎症作用はほとんどないが、胃腸への負担が少ないという特徴がある。なお、アセトアミノフェンとパラセタモールは、いずれも同じ成分の薬剤だが、国によって呼び名が異なる。 Dalziel氏らは今回、アセトアミノフェンの使用と湿疹や喘鳴のリスク上昇との関連を示した研究結果を踏まえ、ニュージーランドで出生した生後8週間未満の乳児3,908人(女児49.0%)を対象に、アセトアミノフェンとイブプロフェンのどちらを使用した場合に、湿疹や細気管支炎リスクがより高くなるのかを評価した。児は、1歳になるまで必要に応じてアセトアミノフェンのみを使用する群(1,985人)と、イブプロフェンのみを使用する群(1,923人)にランダムに割り付けられた。 その結果、湿疹の発生率は、アセトアミノフェン群で16.2%(322人)、イブプロフェン群で15.4%(296人)であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった(差0.8%、95%信頼区間−1.5〜3.1)。一方、細気管支炎による入院の発生率は、アセトアミノフェン群で4.9%(98人)、イブプロフェン群で4.3%(82人)であり、同様に有意な差は認められなかった。17人に19件の有害事象が確認されたが(アセトアミノフェン群8人、イブプロフェン群9人)、処方薬剤に関連した事象は認められなかった。 Dalziel氏は、「この結果によって、親も医療従事者も、これらの重要な薬を引き続き安心して使えるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、対象とした児童が6歳になるまで追跡し、アセトアミノフェンやイブプロフェンが原因とされてきた他の健康問題が現れないかを確認する予定だとしている。Dalziel氏は、「3歳で喘鳴を呈する小児の3分の2は、6歳時点で喘息を発症していないことが分かっている。そのため、生後1年間におけるアセトアミノフェン使用が喘息を引き起こすかどうかを最終的に判断するには、学齢期まで待つ必要がある」と説明している。さらに、この追跡調査では、自閉症や注意欠如・多動症(ADHD)の発症率についても調べる予定だという。これらの疾患は、ある程度成長してからの方が正確に診断されるためだ。 論文の筆頭著者であるオークランド大学のEunicia Tan氏は、「最終的には、アセトアミノフェンの使用と喘息、湿疹、花粉症、さらには自閉症やADHDといった発達障害との関連について、重要な証拠を提供できるはずだ」とニュースリリースで述べている。

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早朝シフトワーカーの覚醒状態の維持に覚醒促進薬が効果

 覚醒促進薬のsolriamfetol(商品名Sunosi)が、早朝シフトワーカーにとって、目覚めの1杯のコーヒーの代わりになる可能性を示した臨床試験の結果が報告された。同試験の対象となった早朝シフトワーカーのうち、solriamfetolを使用した人は、プラセボを使用した人と比べて眠気が少なく、より覚醒した状態を維持していたという。米マス・ジェネラル・ブリガム睡眠・サーカディアン医学部門長のCharles Czeisler氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「NEJM Evidence」に1月27日掲載された。 Czeisler氏は、「今回認められた改善は、臨床的に意義のあるものだった。solriamfetolを使用した労働者は、8時間の勤務時間を通じて覚醒した状態で注意力を保つことができていた。これは、業務のパフォーマンスや安全性、そして生活の質(QOL)の面で重要な意味を持つ」とニュースリリースの中で述べている。 米食品医薬品局(FDA)は2019年、閉塞性睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーの患者の日中の覚醒度を改善するための薬剤としてsolriamfetolを承認した。同薬を製造するAxsome Therapeutics社によると、solriamfetolは覚醒や注意力に関与する脳内化学物質であるドパミンとノルエピネフリン(ノルアドレナリン)の活性を高めることで作用する。 Czeisler氏らによると、solriamfetolは従来の刺激薬とは異なる作用を持ち、数時間にわたって覚醒状態を維持しつつも、その後の睡眠には影響しにくいという。このことからCzeisler氏らは、この薬剤が早朝シフトワーカーの助けにもなるのではないかと考えた。マス・ジェネラル・ブリガム同部門のKirsi-Marja Zitting氏は、「午前3時から7時の間に勤務を開始する人は、脳が睡眠状態となるよう生物学的にプログラムされている時間帯に目覚めている。そのため、たとえ意欲はあっても覚醒状態を保つことは極めて困難だ。こうした労働者は、勤務時間中に強い眠気に襲われ、さらに、休息時間があっても十分な睡眠を取りにくいという二重の負担を抱えている」とニュースリリースの中で述べている。 臨床試験では、午前3時から7時の早朝勤務が原因で過度の眠気に悩んでいる早朝シフトワーカー78人を対象に、4週間にわたって勤務日にsolriamfetolを使用する群とプラセボを使用する群に割り付け、眠気に対するsolriamfetolの有効性を評価した。 その結果、日中の眠気を測定するMSLT検査(反復睡眠潜時検査)において、solriamfetol群の入眠潜時は、プラセボ群に比べて9.4分有意に延長した。また、自己申告に基づく評価と健康状態のモニタリングを担当している医師による評価のいずれにおいても、solriamfetol群では眠気改善の可能性が約4倍高いことが示された。さらに研究グループは、solriamfetol群では全般的な機能や仕事の生産性の向上が報告されたと説明している。 Czeisler氏は、「早朝のシフトワークは最も一般的なシフトスケジュールであるにもかかわらず、早朝シフトワーカーを対象にシフト勤務障害の治療法を検証した臨床試験はこれまでなかった」と指摘した上で、「今回の臨床試験は、多くの人がまだ眠っている時間帯に1日が始まる労働者に焦点を当てることで研究上の大きな空白を埋めることに寄与した」と付け加えている。同氏は、「シフトワーカーは、われわれの社会を機能させる上で不可欠な存在だが、それは目に見えにくい彼らの生物学的な代償のもとで成り立っている。今回の臨床試験は、彼らのためにより良い支援が可能であることを示している」と話している。 なお、この臨床試験はAxsome Therapeutics社の資金提供を受けて実施された。

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タケノコが血糖管理などの健康維持に役立つ可能性

 タケノコが血糖コントロールをサポートするように働く可能性のあることが報告された。英アングリア・ラスキン大学のLee Smith氏らの研究によるもので、血糖コントロールのほかにも、タケノコには炎症抑制や消化促進、抗酸化作用などの働きがあるという。この研究結果の詳細は「Advances in Bamboo Science」2025年11月発行号に掲載されるとともに、1月14日に同大学からニュースリリースが発行された。 竹は地球上で最も成長の速い植物と考えられていて、種類によっては1日で3フィート(約90cm)近く成長することもある。その豊富さや軽さなどのため、建築や家具製造などに広く用いられている。さらにアジア諸国では、竹の芽(ごく若い竹の茎)であるタケノコが食されていて、一部の地域では食卓に欠かせない食材となっている。 タケノコは脂肪分が少なく、タンパク質、必須アミノ酸、食物繊維が豊富に含まれていて、カリウムやセレンなどのミネラル、および、チアミンやナイアシン、ビタミンB6、A、Eなどのビタミンの含有量も多い。このような特徴に着目して、タケノコの健康効果を検討した研究結果が既に複数報告されている。ただし、それらの報告を統合した解析はまだ行われていない。これを背景にSmith氏らは、タケノコの健康効果に関する現時点のエビデンスを、システマティックレビューによって総括することを試みた。 Medline/PubMedとWeb of Scienceという二つの文献データベースを用いた検索を行い、16件の研究報告を抽出した。ヒトを対象に行われていた4件の研究では、タケノコは糖尿病の管理(血糖コントロールの改善)や心臓病リスクの抑制(コレステロールの低下)につながる可能性が報告されていた。例えば血糖コントロールについては、糖尿病患者にタケノコを加えた食事を食べてもらったところ、食後の血糖値の上昇が穏やかになったことが報告されていた。ほかにも、実験室レベルの検討からは、タケノコには腸の機能を改善する食物繊維が含まれていること、腸内の有益な細菌を増やすこと、体内の抗酸化作用や抗炎症作用を高めることなども示されていた。 これらの健康に対する潜在的なメリットが見られた一方で、研究者らは、タケノコを正しく調理する必要があることを警告している。竹の種類によってはシアン配糖体という毒性のある物質を含むものがあり、生または加熱が不十分なタケノコを食べると、体内でシアン化物が放出されることもあり得るという。また、タケノコは甲状腺ホルモンの生成に影響を及ぼし、不適切な摂取によって甲状腺腫のリスクが高まる可能性を示唆する研究報告もあった。研究者らは、タケノコを食べる際にはまずゆでておき、それから調理することで、こうしたリスクを回避できると述べている。 論文の上席著者であるSmith氏は、「アジアで広く食べられているタケノコは、世界中の人々の健康的で持続可能な食生活の維持に利用できる可能性を秘めている。ただし、正しく調理する必要がある」としている。また、「今回のレビューでは、ヒトを対象とした研究はわずか4件だった。よって、タケノコ摂取に関する確かな推奨を提示する前に、ヒトを対象とした質の高い研究をさらに行う必要がある」と付け加えている。

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日本発、期待の新薬をどう使うか?(解説:岡慎一氏)

 islatravirは、世界初のエイズ治療薬AZTを開発した満屋 裕明博士が開発した日本発の新薬である。満屋氏は、これまでにも数多くの抗HIV薬を世に送り出し、抗HIV薬創薬の世界的権威であるが、その満屋氏が「この薬剤はすごい!」と話している。どうすごいかというと、とにかく試験管内での抗HIV効果がきわめて強いことと、細胞毒性が見られないらしい。要するに、「よく効いて安全である」ということになる。 本臨床試験であるが、現在の非常に強力な3剤併用療法と、ドラビリンとの2剤の合剤1日1回服用を無作為割り付けで比較し、非劣性が証明されている。現在最もよく用いられる3剤併用療法のkey drugは、ビクテグラビル(インテグラーゼ阻害薬)であるが、1日投与量は50mgである。これに対し、islatravirの1日投与量は、わずか0.25mgである。抗HIV効果が強力であるため、少量で済み、錠剤も小さくできる。ちなみに数年前まで主流であった、プロテアーゼ阻害薬の1日投与量は1,000mg前後もあったので、ビクテグラビルの進歩もたいしたものであった。 islatravirのもう1つの特徴は、半減期がきわめて長いことである。実は、月1回60mgでの予防投与の臨床試験も行われていたが、総リンパ球数が数%低下したということで中止になってしまった。60mgでは少し投与量が多すぎたようである。米国の学会をのぞくと、islatravirの週1回の治験も進んでいるようである。半減期の長い薬剤による治療が主流になりつつある現在、週1回経口服用での治療というのはきわめて魅力的である。 1日1回投与がこの新薬のゴールではなさそうである。今後、この新薬をどう使っていくのか、目が離せない。

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IgA腎症〔IgA nephropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgA腎症は、糸球体性血尿や蛋白尿などの検尿異常が持続し、腎生検で腎糸球体メサンギウム領域を中心としたIgA優位の免疫グロブリン沈着を認め、全身性疾患や慢性疾患など明らかな原因疾患を伴わない原発性糸球体腎炎である。確定診断には腎生検が必須である。■ 疫学IgA腎症は、世界で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、わが国を含む東アジアでとくに多いとされる。わが国では学校検尿や健康診断が普及しているため、無症候性血尿・蛋白尿を契機に若年~中年で診断される例が多い。一方、欧米では症候性の症例や腎機能障害を伴って初めて診断される例が多いとされる。■ 病因病因としては、「粘膜免疫異常により過剰産生された糖鎖異常IgA1が、自己抗体や補体と免疫複合体を形成し、糸球体メサンギウムに沈着して炎症と線維化を惹起する」というマルチヒット仮説が提唱されている。遺伝的素因も関与しており、HLA領域や粘膜免疫関連遺伝子の関連が報告されている。■ 症状多くは自覚症状に乏しく、持続する顕微鏡的血尿・軽度蛋白尿のみである。上気道感染や消化管感染の数日後に肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)を来す例が典型的である。進行例では浮腫、高血圧、倦怠感など慢性腎臓病(CKD)としての症状が出現する。■ 分類組織学的には腎糸球体メサンギウム増多所見が主体であるが、半月体形成、分節性硬化、全節性硬化など多彩な像をとる。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する。■ 予後かつての長期追跡では、診断後20年で約4割が慢性腎不全に至ると報告され、決して良性の腎炎ではないことが明らかとなった。近年では、早期発見・レニンアンギオテンシン(RA)系阻害薬の普及などにより予後は改善しつつあるが、蛋白尿が持続する例や腎機能障害を伴う例では依然としてCKD進行のリスクが高い。国際IgA腎症予測ツール(International IgAN Prediction Tool)により、臨床所見とMEST-Cスコアを組み合わせた予後予測も行われている。2 診断■ 検査1)尿検査持続する顕微鏡的血尿(尿定性検査に加え、尿沈査分析が必要。しばしば赤血球円柱がみられる)程度の異なる蛋白尿(しばしば0.3~1g/日程度から始まり得る)急性上気道炎や消化管感染後の一過性肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)2)血液検査血清クレアチニン、推算糸球体ろ過量(eGFR)で腎機能を評価する。血清IgA値はしばしば高値だが、診断的特異性は高くない。補体価は通常正常であり、低補体血症では他疾患を考慮する。3)腎生検IgA腎症の確定診断には腎生検が必要である。腎生検は、確定診断のみならず予後や治療反応性を予測する上でも重要である。光顕でメサンギウム増殖性糸球体腎炎を示し、免疫蛍光法でメサンギウム優位のIgA沈着(しばしばC3が共に沈着)を認める(図1、2)。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する(表)。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、IgA腎症が疑われる成人で蛋白尿0.5g/日以上が持続する場合、腎生検を考慮することが推奨されている。図1 IgA腎症の代表的な光顕所見画像を拡大する画像を拡大するa:メサンギウム細胞増多(↑)とメサンギウム基質増生(*)b:メサンギウムへの半球状沈着物(↑)c:管内細胞増多を示す糸球体糸球体毛細血管内の細胞数が増加し、管腔が狭小化している(↑)d:係蹄壊死この糸球体では毛細血管基底膜が断裂し(↑)、フィブリンの析出(*)がみられるe:細胞性半月体この糸球体の半月体は、ほとんどが細胞成分で占められているf:線維細胞性半月体この半月体は細胞成分10%以上50%未満で、細胞外基質は90%未満であるg:線維性半月体この半月体は細胞成分10%未満で、細胞外基質が90%以上を占めているh:分節性硬化点線で囲まれた部分に硬化がみられ、硬化はすべての係蹄には及んでいない(参考文献1、2より引用)図2 蛍光抗体法(IgA)画像を拡大する主にメサンギウム領域にIgAが高度に沈着している(参考文献1より引用)表 IgA腎症Oxford分類画像を拡大する■ 鑑別診断IgA腎症と類似する状態として、以下の疾患などと鑑別する必要がある。菲薄基底膜病、アルポート症候群など遺伝性血尿疾患IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病):紫斑、腹痛、関節痛など全身症状を伴う。感染関連糸球体腎炎(とくにMRSA感染に伴うIgA優位の感染関連糸球体腎炎)ループス腎炎など他の自己免疫性腎炎慢性肝疾患に伴う二次性IgA沈着症家族歴を含む臨床背景、血清学的検査、腎生検での所見を総合して診断する。3 治療■ 治療の基本方針治療の第1目標は、蛋白尿をできるだけ低く抑え(目標0.5g/日未満、理想的には0.3g/日未満)、腎機能低下速度を生理的なレベル(年間eGFR低下1mL/分/年未満)に近付けることである。■ 腎保護療法すべての患者に以下の腎保護療法が基本となる。生活習慣介入:減塩(食塩<6g/日が目安)、適正体重の維持、禁煙、適度な運動。血圧管理:目標<130/80mmHg(蛋白尿が多い例ではさらに厳格に)。RA系阻害薬:ACE阻害薬またはARBは蛋白尿減少と腎保護効果のエビデンスがあり、IgA腎症でも第1選択である。SGLT2阻害薬:糖尿病の有無にかかわらずCKD進行抑制効果が示されており、蛋白尿を伴うIgA腎症では追加投与が推奨されている。■ 免疫抑制療法腎保護療法を十分に行っても蛋白尿が持続し、腎機能低下が進行する例では免疫抑制療法を検討する。副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド):わが国のガイドラインでは、中等度以上の蛋白尿や組織学的重症例で、一定期間のステロイド療法が推奨されている。ただし、糖尿病、肥満、感染など副作用リスクが高い症例では慎重な適応判断が必要である。扁摘+ステロイドパルス療法:わが国では、口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用が長年行われており、蛋白尿の寛解や長期予後改善を示す国内データが蓄積している。その他の免疫抑制薬:シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などについては一定の効果報告もあるが、エビデンスは限定的であり、難治例や特別な状況に限って専門医のもとで検討されるべきである。■ 高リスク例・特殊病型急速進行性糸球体腎炎像(半月体多数、急激なeGFR低下)を示す例では、ステロイド大量療法にシクロホスファミドなどを併用する血管炎に類似した治療が行われるが、エビデンスは限られている。ネフローゼ症候群を呈する微小変化病合併IgA腎症などでは、ステロイド単独でも反応性が良い場合が多い。4 今後の展望■ 新たな診断・予後マーカー血中の糖鎖異常IgA1(galactose-deficient IgA1)やそれに対する自己抗体、補体関連マーカーなどがIgA腎症に特異的なバイオマーカー候補として研究されているが、現時点では診断や治療選択に用いる標準検査としては確立していない。国際IgAN予測ツールや病理MEST-Cスコアを活用したリスク層別化が進み、今後は個々の患者に応じた治療強度の決定に応用されることが期待される。■ 新規治療薬近年、IgA腎症の病態(粘膜免疫・補体・腎保護)を標的とした新規薬剤の開発が急速に進んでいる。標的放出型ブデソニド(Nefecon):回腸末端の腸管関連リンパ組織に到達するよう設計された経口ステロイドで、病的IgA1産生の抑制を目的とする。海外第III相試験では蛋白尿減少とeGFR低下抑制が示され、欧米などで承認されているが、わが国ではまだ使用できない。デュアルET-A/AT1受容体拮抗薬(sparsentan):ARB作用に加えエンドセリン受容体拮抗作用を併せ持ち、蛋白尿減少とeGFRスロープ改善を示している。補体阻害薬:経口補体因子B阻害薬iptacopanをはじめ、C5、C3、レクチン経路などを標的とした薬剤がIgA腎症で検証されており、一部は海外で承認されつつある。B細胞/BAFF・APRIL経路阻害薬:自己抗体産生抑制を目的としたataciceptや他の抗BAFF/APRIL抗体が臨床試験段階にある。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、「病的IgA産生と免疫複合体形成を抑える治療」と「すでに生じたネフロン喪失に伴うCKDの進行を抑える治療」を並行して行う2本立ての治療戦略が提案されている。わが国でも、支持療法にSGLT2阻害薬などを組み合わせつつ、新規薬剤が順次導入されれば、より早期から蛋白尿を強力に抑え、長期腎予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター IgA腎症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病治験ウェブ(難病に関する治験情報を簡単検索、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎障害に関する調査研究班 編集. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン 2020. 2020:東京医学社.2)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業:進行性腎障害に関する調査研究班報告 IgA腎症分科会 IgA診療指針-第3版-補追 IgA腎症組織アトラス.日腎会誌. 2011;53:655-666.3)KDIGO 2025 Clinical Practice Guideline for the Management of Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN) and Immunoglobulin A Vasculitis (IgAV).公開履歴初回2026年2月27日

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第302回 老父に認知症治療薬は必要か、医療ジャーナリストの葛藤

INDEX父のMCIが進行認知症治療薬、服用させるべき?抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血医療知識を持っているがゆえの悩み父のMCIが進行「病にかかった患者とその家族は時に藁にもすがりたい思いを持つ」医療者ならば、こうしたことは数多く経験しているだろう。私自身は医療者ではないものの、医療者の傍らで何度か経験している。そのため、上記の思いを念頭に一般向けの記事執筆では患者と家族の期待値を過度に高めないよう気を配っている。むしろ、過度に期待値を下げるように記事を執筆していることがほとんどかもしれない。しかし、やはり当事者になると気持ちがざわざわする。何のことかと言えば、以前から本連載で触れている、認知機能低下と慢性心不全を抱える父親のことである。実は老老介護をしている母親の負荷軽減も考え、一昨年末から私は地元・仙台と東京の2拠点生活に移行した。私の主な役目は、父親の通院介助と娯楽のための外出に付き合うこと、母親の愚痴聞き役になることだ。昨年の真夏、私は母親とともに父親の通院に付き添った。2024年春に発症した脳梗塞の1年フォローアップ外来のためだった。脳神経内科医からは脳梗塞のほうは現時点で問題なしと言われたが、私だけが診察室に残り、ある相談をした。この時、父親はMRIを撮像していたため、今の父親の認知機能低下がどの水準にあるかを知りたかったのだ。父親が認知機能に関連した画像診断を受けたのは約7年前。この時にアルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)と診断された。しかし、昨今の本人の症状を考えれば、もうその段階は過ぎているはず。私も含め家族はその後、半ば暗黙の了解のように検査を受けずに過ごしていた。むしろ診断を避けていたと言えるかもしれない。だが、今回MRIを撮像していたこともあり、この機しかないと思い、私はこれまでの事情を話したのだった。主治医はディスプレイ上でMRI画像をクリックしながら数分間眺めていた。そのうえでこう言った。「端的に言えば、そこ(MCI)からは一歩進んでいますね」「軽度アルツハイマー病という認識で良いですか?」「はい、そうなります」もともと覚悟していたため、「ああやっぱりか」という以上の感想はなかった。母親にも伝えたが、「まあ、そうだろうね」という反応だった。認知症治療薬、服用させるべき?この直後から私の頭に浮かび始めた命題が「コリンエステラーゼ阻害薬などの認知症治療薬の使用を検討すべきか」というもの。正直、これは悩ましい問題だった。もちろん私自身は、2004年のLancet誌に掲載されたドネペジル(商品名:アリセプト)のプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験AD20001)のことなども一応は頭に入っている。ちなみに2年間のドネペジル投与の効果を評価した同試験の結果は、ドネペジル投与群でミニメンタルステート検査(MMSE)やブリストル日常生活動作スケール(BADLS)のスコアでプラセボ群に比べ有意差はあったものの、施設入所や障害進行では有意差は認められなかったというものだ。もっとも私個人からすると、施設入所はハードエンドポイントとは言い難いのだが…。父親が日常的に服用している抗凝固薬やSGLT2阻害薬はかかりつけの内科医から処方されており、その近傍には親戚の薬剤師が経営する保険薬局がある。私はまずこの薬剤師に相談してみた。身内だけに率直な意見が聞けると思ったからだ。彼は直截(ちょくせつ)にこう言った。「いやいや、飲まんほうが良いと思います。いつぞや聞いた、認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲だと」まあ、そういう考えもあるだろう。コリンエステラーゼ阻害薬では消化器症状の副作用で食が細ることがあるとも伝えられた。まあ、それも承知済みである。この時点でまだ腹落ちしてはいなかったので、かかりつけ医に相談してみることにした。かかりつけ医の法人は老人保健施設も運営しており、認知症治療薬の処方についても一定の経験があるのは間違いなかったからだ。親戚の薬剤師もこれに同意してくれた。抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血ところが先月下旬、母親から「最近、父親の鼻血の頻度が多い」と連絡があった。すでに抗凝固薬の1日量は最低用量になっているとはいえ、その副作用を疑わねばならない。そこで私が何とか時間の都合をつけ、かかりつけ医へと連れて行った。かかりつけ医はやや耳が遠くなっている父親に対し、やや大きな声で「最近お加減はいかがですか?」と話しかける。父親は「まあまあです」と返した。そこでかかりつけ医と父親が軽く笑った後に、私から鼻血のことを伝えた。かかりつけ医から「両方の鼻の穴から? それとも片方の鼻の穴?」と尋ねられた。一瞬、何のことだろうと思いつつ、具体的な発症状況を母親に確認していなかったことに気付く。すると父親が「こっちから」と右の鼻の穴を指した。認知症になると、こうした本人の話が正しいのかどうか判別がしにくい(後に母親に確認したところ、これは正しかったらしい。しかも時折、鼻ほじりもしていたとのこと)。かかりつけ医からは「抗凝固薬の副作用が鼻血の主な原因ならば、両方の鼻の穴から出血していることも少なくないですね。片方からということは、鼻の粘膜が炎症を起こし、そこに抗凝固薬が影響している可能性があるので、一度、耳鼻科を受診してみる必要があるでしょう」と説明を受けた。そのうえで、服用中の抗凝固薬については、「一旦休薬する」「当面は現在のまま最低用量で服用を続け、早めに耳鼻科を受診する」の2つを提案された。今の認知機能レベルでこの選択ができない父親に代わり、私は後者を選択した。心房細動がある父親に対して、現状で抗凝固薬を休薬するほうがリスキーだと考えたからだ。これで鼻血の件はとりあえず決着。そのうえで私から相談があると切り出し、これまでの経緯を一通り説明し、「認知症治療薬の服用を検討すべきなのか?」を伝えた。かかりつけ医は「まあ、服用を始めて大きなデメリットが発生するとは考えにくい。本来ならばエーザイやリリーの…」と言いかけたので、私から「抗アミロイドβ抗体ですよね。でも父親はまさに脳梗塞をやっていますし」と返した。脳梗塞既往歴がある以上、当然、アミロイド関連画像異常(ARIA)の副作用リスクは高いと想定しなければならず、さらに本人は抗アミロイドβ抗体の慎重投与対象の高血圧症もある。そもそも90歳近い父親にあの高額な薬剤を使うことには、息子である私ですら相当な疑問を持つ。かかりつけ医は「そうなんだよね」と言うと、一呼吸置いてこう続けた。「最終的にはデメリットがないとしても、ご家族の期待値に応えられるほどなのかという話に尽きちゃうんだよね」まさに一番難しいところを突き付けられた。ちなみに母親はなるべく服用薬は最低限にしたいと常々言っている。私一人がこの場で決めることはできない。結局、まずは耳鼻科の受診を優先することで答えは先延ばしにした。医療知識を持っているがゆえの悩み診療所を出て父親の車いすを最寄り駅まで押しながら、ついつい「中途半端に医療のことを知らなかったほうが幸せだったかもしれない」「よく『正しく恐れよ』と言うが、今は『正しく迷っている』ということなのか?」などの思いがグルグル脳内を駆け巡る。当初耳にした時は何だか適当だなと思った、親類の薬剤師が言った「認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲」もまんざら外れていないのかも…と思ったりもする。そんなことを考えて目的地に着くと、SGLT2阻害薬を服用中でもある父親はトイレに行きたいと言い出した。もうこれには慣れっこになった。トイレの入り口まで連れて行き、父親を車いすから立たせて自力歩行でトイレに向かわせる。ふと時間を見ると、実家の最寄り駅までの電車の到着まであと5分。これを逃すと、次の電車まではしばし待たねばならなくなる。とはいえ、父親を急かすこともできない。「あー、早く戻ってこないかな」と思っていたところ、1分前にトイレから出てきた。幸い乗車ホームはトイレに面していた。慌てて左手に折りたたんだ車いすを持ち、右手で父親の体を支えながら目の前の乗車口へ無事に間に合った。が、実家に帰宅したら、父親がぶら下げていたはずのポシェットがない。「あれ?」と思い、とっさに「お父さん、カバンどこに置いてきた?」と尋ねると、脇にいた母親から肘で軽く小突かれた。ああ、もうそれを聞いても無駄なのだ。結局、四方八方に連絡を取り、最終的にかかりつけ医の最寄り駅の駅員がトイレで見つけて回収していたことがわかった。やれやれ。すっかりスローモーションになってしまった父親を自分の時間軸で行動させたことが失敗の最大の原因である。介護はかくも難しいものかと改めて思う。こう思ったのは何度目だろうか?しかし、私以上にそのことに直面している母親は、口頭やLINEメッセージで愚痴を言う一方で、その苦労を冗談交じりに笑い飛ばして話すこともかなり多い。父親の介護で私がため息をつきたくなる時、そんな母親がLINEで送ってきたメッセージを思い起こし、時には口ずさんでいる。「介護は続くよ。どーこまでも」参考1)Howe I, et al. Lancet. 2004;364:1214-1215.

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飲酒と大腸がん、リスクの高い頻度と量は?

 飲酒は大腸がんリスクの上昇と関連していることが示されているが、生涯飲酒に関する研究は限られている。米国国立がん研究所のCaitlin P. O'Connell氏らは、生涯飲酒と大腸腺腫および大腸がんの発症との関連性を推定することを目的とした研究を行った。Cancer誌2026年2月1日号掲載の報告。 前立腺がん、肺がん、大腸がん、卵巣がん検診の効果を評価するPLCO試験に参加した米国成人を対象とした。参加者はビール、ワイン、蒸留酒の摂取頻度について、4つの事前定義された年齢層(18~24歳、25~39歳、40~54歳、55歳以上)ごとに、10段階の頻度カテゴリー(飲酒経験なし~1日6杯以上)を用いて回答した。また、過去1年間のビール・ワイン・蒸留酒摂取量も報告した。参加者を「非飲酒者」「元飲酒者」「現飲酒者」に分類し、生涯平均飲酒量(週1杯未満、1~7杯未満、7~14杯未満、14杯以上)でも分類した。 ベースライン時の検診で陰性であった1万2,327例のうち、812例が2回目の検診で腺腫と診断された。腺腫発症のオッズ比(OR)を推定するためにロジスティック回帰分析を用いた。20年間の追跡調査期間中、8万8,092例の参加者において1,679件の大腸がん発症が確認された。Cox比例ハザード回帰を用いて、大腸がんのハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の大半が現飲酒者であった(73.4%)。ベースライン年齢は、非飲酒者群が飲酒者群よりわずかに高かった。飲酒頻度が最も低い群(週1杯未満)と比較し、生涯飲酒量が最も多い群(週14杯以上)では、男性(89.8%vs.24.2%)、非ヒスパニック系白人(90.7%vs.90.2%)、現喫煙者(18.3%vs.6.4%)、過体重(48.1%vs.38.2%)である傾向が強く、大学卒業者の割合は低かった(34.7%vs.37.6%)。・一貫して大量飲酒している現飲酒者は、少量飲酒者と比較して、大腸がんリスクが91%高かった(HR:1.91、95%信頼区間[CI]:1.17~3.12)。・現飲酒者において、生涯平均飲酒量が最多の群と最少の群を比較すると、大腸がんリスクとの間に正の関連が認められた(週14杯以上vs.週1杯未満、HR:1.25、95%CI:1.01~1.53)。とくに直腸がんリスク(HR:1.95、95%CI:1.17~3.28)が顕著に上昇した。・少量飲酒者と比較して、元飲酒者は非進行性腺腫のオッズが低かった(OR:0.58、95%CI:0.39~0.84)。・一方、週7~14杯未満の中程度の飲酒者は、週1杯未満の飲酒者と比較して、大腸がんリスクが低下し(HR:0.79、95%CI:0.64~0.97)、とくに遠位結腸がん(HR:0.64、95%CI:0.42~1.00)リスクが低下傾向を示した。 研究者らは「本前向き研究において、継続的な多量のアルコール摂取と生涯平均飲酒量の増加は、とくに直腸がんのリスクを高めることが観察された。また、元飲酒者では非進行性腺腫リスクが低いことも確認され、禁酒が大腸がんリスクを低下させることを示唆している」とした。

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現在の認知症診断、その費用対効果は?

 アルツハイマー病および認知症は、世界において臨床的および経済的に大きな負担となっている。早期診断や介入は、疾患の進行を遅らせる可能性がある。現在の診断ガイドラインでは、臨床評価と併せて画像診断およびバイオマーカー分析を検討することが推奨されている。しかし、医療資源は限られているため、資源配分の指針として診断技術の費用対効果を検証する必要がある。カナダ・Western UniversityのMunira Kashem氏らは、アルツハイマー病または認知症の診断および/または進行フォローアップのための神経画像診断、バイオマーカー、その他の診断、スクリーニング戦略に関する経済評価研究をシステマティックにレビューした。Alzheimer's Research & Therapy誌2026年1月23日号の報告。 国、言語、出版期間を問わずMedline、Embase、PsycINFO、CINAHL、EconLitより網羅的に検索し、関連研究を抽出した。研究の質の評価には、医療経済基準に関するコンセンサス拡張版(Consensus on Health Economic Criteria-Extended:CHEC-Extended)チェックリストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・6,804件中21件の研究が適格基準を満たした。・これらの研究には、PET、SPECT、CT、MRIなどの神経画像技術(10件)、脳脊髄液および血液バイオマーカー(7件)、スクリーニングプログラム、機械学習に基づくモデル、多職種連携ケアアプローチなどの代替診断戦略(4件)の評価が含まれた。・画像技術を評価した研究のうち、6件は、費用対効果が高いとは認めなかった。・対照的に、脳脊髄液および血液バイオマーカーの研究では、これらの技術は費用対効果が高いと結論付けられたが、結果には多少のばらつきが認められた。・方法論的質スコアは、15〜95%の範囲であり、低品質から高品質の研究が混在していることが示された。・研究デザインと報告されたアウトカムの異質性のため、直接比較はできなかった。 著者らは「多くの研究は高品質であったが、研究目的、デザイン、アウトカムの異質性により、エビデンスの統合が制限された。今後の研究では、方法論の一貫性、透明性のある費用報告、新たな治療枠組みの統合を確保し、アルツハイマー病診断における経済的エビデンスの政策的妥当性および信頼性を向上させる必要がある」と結論付けている。

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米国「食事ガイドライン」改訂――初の超加工食品制限に評価も、専門家から批判も相次ぐ

 米国の「食事ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans:DGA)」は、学校給食などをはじめとした国民の栄養摂取の指針となるもので、米国農務省(USDA)と米国保健福祉省(HHS)が5年ごとに改訂している。2026年1月7日に最新版(2025~2030年版)が発表され、大きな内容変更が話題となっている。 改訂版の中心となるメッセージは、「Eat real food(本物の食物を食べよう)」で、全体を通じて「ホールフード」(加工されていない/加工が最小限の食品、全粒粉穀物など)の摂取が推奨されている。従来のDGAは、基本的に塩分や糖分といった1日の栄養目標値の範囲内であれば、あらゆる食品の選択肢が許容されるものとしてきたが、この方針を大きく転換した。主な改訂点は以下のとおり。1)超加工食品・精製炭水化物・添加糖類:初の制限推奨避けるべき、あるいは制限すべき食品として、「高度に加工された食品(highly processed foods)」(化学添加物が添加された肉などで、一般に「超加工食品」と呼ばれるもの)や精製炭水化物(クッキー、白パン、シリアルなど)が明記された。添加糖類の制限も強化され、出生~4歳は「添加糖類を避ける」、5~10歳は「一切推奨しない」という内容が盛り込まれた。2)脂質:飽和脂肪10%上限は維持飽和脂肪は総エネルギーの10%を超えないという推奨は前版から継承された一方で、「healthy fats(健康的な油脂)」として、オリーブ油に加えてバターや牛脂も選択肢として例示された。3)乳製品:小児で「全乳」を明確に推奨小児の1歳以降では「whole milk(全脂肪乳)」がエネルギーや脳発達に重要と明記。これに基づいて「学校給食を低脂肪・無脂肪乳から全脂肪乳を戻す運動(Whole Milk for Healthy Kids Act)」の関連法が提出されている。4)タンパク質の増強食事におけるタンパク質の摂取量を、従来の推奨である体重1kg当たり0.8g/日から1.2~1.6g/日に引き上げた。 一方、本ガイドラインが発表されると、医療や栄養の専門家から批判の声が上がった。  JAMA誌はオンライン版2026年1月14日号の「Perspective1)」でガイドラインの概要を紹介、ホールフード推奨や超加工食品の制限に対しては一定の評価をしつつ、突然の方針転換を「科学ではなく政治によるもので一貫性がない」とし、タンパク質の増加推奨もエビデンスに基づいておらず特定の業界を利するものだとし、実際の学校給食などの変革プロセスも不確実である点などを批判している。 Lancet誌はオンライン版2026年2月16日号の「Correspondence2)」「Comment3)」で、DGAが従来の栄養学の蓄積やエビデンスの扱いから外れており、「政策(予算・制度)と推奨内容の組み合わせが、結果的に健康を悪化させかねない」と警鐘を鳴らしている。 米国心臓病学会(ACC)も2026年1月27日付で解説記事4)を発表し、タンパク質の摂取量の推奨が大きく上がったが、これは独立組織である「食事ガイドライン諮問委員会(DGAC)」が事前にまとめた報告に含まれていないなど、エビデンスとの不一致や策定プロセスの不透明性に対する疑問を表明している。 CareNet.comのコラム「NYから木曜日」でこれまでの多くの米国の医療・健康問題を取り上げてきた米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏に今回のガイドラインの問題点について聞いた。「正しさ」と「問題」が混在するゆえの「タチの悪さ」 ――今回の改訂ガイドラインの主な推奨事項として、以下が挙げられます。・「リアルフード」の重視(自然食品を推奨し、超加工食品を徹底的に排除する)・タンパク質の増量(体重1kg当たり1.2~1.6g/日という、従来の推奨量を上回る目標値を設定)・脂肪の質の再定義(全脂肪乳製品を推奨、調理油としてオリーブオイルに加え、バターや牛脂の使用を肯定)・添加糖と添加物の排除(1食当たりの添加糖を10g以下に制限。着色料、保存料、人工甘味料などの化学添加物を避けるよう警告) 確かに、「超加工食品の過剰摂取是正」や「添加糖の削減」という点では公衆衛生的にも正しい方向を向いています。しかし、脂質に関するアドバイスでは矛盾があったり、過剰なタンパク質推奨がされていたりするなど、科学と政治の混同といった問題がみられます。 この正しさと問題の「混在」が一般の人が見抜くのを難しくしていて、「タチが悪い」と思います。 たとえば、脂質に関するアドバイスの矛盾として、ガイドラインは「飽和脂肪酸の摂取は総カロリーの10%未満に抑えるべき」と従来の基準を踏襲する一方で、「バターや牛脂」を調理油の選択肢として推奨し 、「全脂肪乳製品」を推奨しています。 バターや牛脂は飽和脂肪酸の主要な供給源であり、これらを積極的に推奨しながら「10%未満」という目標を達成することは、一般消費者にとって極めて困難です。多くの質の高いシステマティックレビューは、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(植物油など)に置き換えることで心血管疾患リスクが低減することを示唆していますが、ガイドラインでは植物性種子油への言及を避け、動物性脂肪を肯定するバイアスがかかっています。これは現在の栄養疫学のコンセンサスとは異なり、国内産業支援の色が見え隠れします。 タンパク質に関しては、一般成人に対して「体重1kg当たり1.2~1.6g」の摂取を推奨しています。参考までに現在の米国の推奨量は0.8g/kgです。確かに、1.2~1.6g/kgという数値は、アスリートや高齢者のサルコペニア予防には有益であるエビデンスが存在しますが、一般人口全体に対する一律の推奨としては多過ぎる可能性があります。 とくに慢性腎臓病の未診断者も多い状況下で、高タンパク食を無差別に推奨することは一定数の人をリスクにさらすことになる可能性があります。また、この目標を達成するために赤肉摂取が増加した場合、大腸がんや心血管疾患のリスクとの関連も考慮すべきでしょう。「人々の健康と地球の健康」を両立させるアプローチとも逆行しています。赤肉や全脂肪乳製品の推奨は、温室効果ガス排出量の観点から環境負荷が高く、現代の栄養ガイドラインが考慮すべきグローバルな課題を無視しています。 通常、米国の食事指針は、外部の委員会による数年にわたるシステマティックレビューを経て策定されますが、本ガイドラインは「トランプ政権のリーダーシップの下、常識を取り戻す」 と明記されており、政治的意図が前面に出ています。エビデンス以上に「国内農業支援」を進めたい狙いが透けて見えるガイドラインです。――

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乳がん診断後の飲酒、予後との関係~メタ解析

 飲酒は乳がん罹患率に影響を及ぼすと考えられる一方で、乳がん診断後の予後との関連については十分に確立されていない。イタリア・University of GenovaのLuca Arecco氏らによる、約250万例を対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、飲酒は用量依存的な乳がんリスク増加と関連していた一方で、乳がん診断歴を有する患者においては飲酒と予後悪化の間に関連はみられなかった。Breast誌オンライン版2026年2月5日号に掲載の報告。 2025年5月1日までの文献が系統的に検索され、飲酒歴のある女性における乳がんの罹患率、再発率、および生存転帰を報告した、前向きおよび後ろ向き研究が対象とされた。アルコール摂取レベル(少量[≦10g/日または最小摂取群]、中程度[軽度と重度の閾値間の値]、多量[>20g/日または最大摂取群])に応じて解析が行われた。主要評価項目は、乳がんの罹患率、再発率、乳がん特異的生存期間(BCSS)、および全生存期間(OS)とした。統合相対リスク(RR)およびハザード比(HR)を、95%信頼区間(CI)とともに算出した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた5,208件の文献のうち、256万5,920例の女性を含む37件の研究が解析対象とされた。・乳がん罹患率について報告した17件の研究において、摂取レベルを問わず飲酒は乳がん罹患率の増加と関連していた(RR:1.17、95%CI:1.09~1.26、p<0.001)。・乳がん罹患率はアルコール摂取レベルに比例して増加し、少量でRR:1.13(95%CI:1.05~1.23、p=0.002)、中程度でRR:1.28(95%CI:1.18~1.39、p<0.001)、多量でRR:1.52(95%CI:1.38~1.67、p<0.001)であった。・乳がんの転帰について評価した20件の研究において、飲酒と乳がん再発率(RR:1.02、95%CI:0.93~1.11)およびBCSS(HR:0.93、95%CI:0.87~1.00)との間に関連は認められなかった。・少量および中程度の飲酒は、わずかにOSの改善と関連していた(それぞれHR:0.85[95%CI:0.78~0.92、p<0.001]およびHR:0.84[95%CI:0.75~0.94、p=0.002])。ただし、この結果について著者らは、残余交絡因子やその他のバイアスが影響している可能性があるとし、慎重な解釈が必要と考察している。

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