サイト内検索|page:319

検索結果 合計:35150件 表示位置:6361 - 6380

6361.

ルスパテルセプトが骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血に承認取得/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは2024年1月18日、ルスパテルセプト(商品名:レブロジル)について、骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血を効能又は効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得した。 ルスパテルセプトは低リスクMDS患者の貧血治療に高い効果示す ルスパテルセプトは、赤血球成熟促進薬として造血幹細胞から赤血球への分化過程の後期段階における分化を促進し、成熟した赤血球数の増加を誘導する新規作用機序の治療薬である。  今回のルスパテルセプト承認は、低リスクMDS患者を対象とした国際共同第III相試験(COMMANDS試験)、海外第III相試験(MEDALIST試験)、および赤血球輸血非依存の低リスクMDS患者を対象とした国内第II相試験(MDS-003試験)の結果にもとづいている。これらの試験から、ルスパテルセプトは赤血球造血刺激因子製剤の治療歴の有無ならびに赤血球輸血依存・非依存に関わらず、低リスクMDS患者の貧血の治療として、臨床的意義の高い効果を示した。ルスパテルセプトの安全性については、いずれの試験でも低リスク MDS患者に対して忍容性があり、 十分に管理可能な安全性プロファイルであることが示された。

6362.

コロナ第10波、今のXBB.1.5対応ワクチン接種率は?/厚労省

 2024年1月26日付の厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染は、1月15~21日の1定点当たりの報告数が12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍増加している。都道府県別で多い順に、福島県(18.99人)、茨城県(18.33人)、愛知県(17.33人)となっている。COVID-19による入院患者数は3,462人で、すでに第9波のピーク時(2023年8月21~27日)の水準を上回っており1)、第10波が到来したと考えられる。 一方、首相官邸サイトの1月30日付の発表によると、新型コロナワクチンの令和5年秋開始接種(XBB.1.5対応ワクチン)の接種率について、65歳以上の高齢者では51.6%、全年代では21.5%と、低い水準にとどまっている2)。全額公費負担の特例臨時接種は2024年3月末で終了し、4月以降は、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳を対象に、秋冬に自治体による定期接種が原則有料で行われる。対象者以外の接種希望者は、任意接種として、時期を問わず全額自費で接種することとなる。 厚労省は1月26日に、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・医薬品等安全対策部会安全対策調査会が実施した、「オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの初回接種および追加接種にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)」の結果を発表した3)。本調査では、ファイザーおよびモデルナのXBB.1.5対応ワクチンについて、最終接種から4週間後までの安全性を評価する前向き観察研究であり、順天堂大学、国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)が共同で実施した。 主な結果は以下のとおり。・ファイザーのワクチンは、2023年9月29日~2024年1月5日に1,943人が追加接種した。モデルナのワクチンは、2023年10月13日~2024年1月5日に237人が追加接種した。・ファイザーのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた1,751人では、37.5℃以上の発熱が16.5%(38.0℃以上は6.5%)にみられ、局所反応は疼痛が87.5%にみられた。・モデルナのワクチンの追加接種後1週間(Day8)の日誌が回収できた971人では、37.5℃以上の発熱が39.9%(38.0℃以上は21.7%)にみられ、局所反応は疼痛が93.4%にみられた。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチンは、2回目から令和4年秋開始接種に比べて発熱の頻度が低く、倦怠感、頭痛は2回目から4回目接種より頻度が低かった。1回目接種に比べて発熱、倦怠感、頭痛は頻度が高く、局所の疼痛は1回目から4回目接種よりも頻度が低かったが、全体的に大きな違いは認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチンは、3回目接種に比べて頭痛の頻度が低く、令和4年秋開始接種より発熱、倦怠感、頭痛の頻度が高かったが、局所疼痛の頻度は全体的に大きな違いは認めなかった。・ファイザーのXBB.1.5対応ワクチン接種者862人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗ヌクレオカプシドタンパク質抗体(抗N抗体)価が陰性者は接種前7,821U/mL、接種1ヵ月後1万7,971U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前2万3,860U/mL、接種1ヵ月後4万6,106U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・モデルナのXBB.1.5対応ワクチン接種者307人の接種前および接種後の抗S抗体価は、接種前の抗N抗体価が陰性者は接種前6,749U/mL、接種1ヵ月後2万1,797U/mLであった。抗N抗体陽性者は接種前1万9,851U/mL、接種1ヵ月後3万8,136U/mLであった。年齢階層別には大きな違いを認めなかった。・ファイザーとモデルナのXBB.1.5対応ワクチンのいずれも、PMDAへの副反応疑い報告は認められていない。ファイザーのワクチンにおいては因果関係を問わない重篤な有害事象(SAE)は認められていない。モデルナのワクチンにおいて3件の因果関係を問わないSAEが認められている。 なお、現在主流となっているオミクロン株JN.1に対しても、XBB.1.5対応ワクチンは入院や死亡といった重症化の予防に有効だとする見解が、JAMA誌オンライン版2024年1月12日号で示されている4)。

6363.

植物性食品ベースの食事で糖尿病リスク24%減

 植物性食品をベースとする健康的な食習慣によって、2型糖尿病の発症リスクが大きく低下することを示唆する研究結果が報告された。ウィーン大学(オーストリア)のTilman Kuhn氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes and Metabolism」1月号に掲載された。遺伝的背景や肥満などの既知のリスク因子の影響を調整後に、最大24%のリスク差が認められたという。 植物性食品ベースの食事スタイルは、健康に良く、かつ環境負荷が少ないことを特徴とする。またそのような食事スタイルは、2型糖尿病のリスク低下と関連のあることも知られている。Kuhn氏らは、健康的な植物性食品ベースの食事スタイルが2型糖尿病リスクを押し下げる、潜在的なメカニズムを探る研究を行った。 研究には、40~69歳の一般成人を対象とした英国の大規模コホート研究であるUKバイオバンクのデータが用いられた。11万3,097人の研究参加者を12年間前向きに追跡したところ、2,628人が新たに2型糖尿病を発症。食生活が健康的な植物性食品ベースか否かを評価する指標(healthful plant-based index;hPDI)の第1四分位群(スコアの低い下位4分の1)を基準として、年齢や肥満、身体活動量、遺伝的背景などの既知の2型糖尿病リスク因子を調整した上で発症リスクを検討した。なお、hPDIは新鮮な果物や野菜、全粒穀物の摂取量が多いほどスコアが高くなる。 多変量Cox回帰モデルでの解析の結果、第4四分位群(スコアの高い上位4分の1)は、2型糖尿病発症リスクが24%低いことが明らかになった〔ハザード比(HR)0.76(95%信頼区間0.68~0.85)〕。媒介分析からは、BMIがこの関連性の28%を媒介し、ウエスト周囲長も28%媒介していることが示された。そのほかに、糖代謝の指標のHbA1cが11%、脂質代謝の指標の中性脂肪が9%、肝機能の指標のALTが5%、γ-GTが4%を媒介。また、炎症の指標であるC反応性蛋白、腎機能の指標のシスタチンC、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、尿酸がそれぞれ4%ずつ媒介していた。このことは、体重や内臓脂肪の管理および糖代謝や脂質代謝が良好であること以外に、肝臓や腎臓の機能が良好であることも、2型糖尿病発症リスクの低さに関与していることを意味している。 hPDIとは反対に、精製穀物の摂取量が多いなどの非健康的な食事スタイルを評価する指標(unhealthful PDI;uPDI)を用いた検討からは、第1四分位群に比べて第4四分位群は2型糖尿病発症リスクが37%高いことが明らかになった〔HR1.37(同1.22~1.53)〕。また媒介分析から、ウエスト周囲長が17%、中性脂肪が13%、BMIが7%、この関連性を媒介していることが示された。 Kuhn氏によると本研究は、「植物性食品ベースの食事スタイルの健康への影響を、代謝関連指標と臓器機能のバイオマーカーを媒介因子として設定し、それらの関連の程度を明らかにした初の研究」だという。結果として、「植物性食品ベースの食事スタイルは、単に体重や内臓脂肪の増加を抑制するにとどまらず、炎症の抑制、腎臓や肝臓の機能の維持・改善を介して、2型糖尿病リスクを低下させることが示された」と、結論付けられている。

6364.

心臓カテーテル検査前に絶食は必要か

 鎮静下で実施する心臓カテーテル検査では、検査前に長時間、絶食する必要はない可能性が、新たな研究で示唆された。米パークビュー心臓研究所の看護部長であるCarri Woods氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に1月1日掲載された。 心臓カテーテル検査は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓まで通して心臓の圧を測定したり、心臓の機能や血管の状態を調べるための検査である。この検査を受ける患者は通常、検査前の午前0時以降は何も口にしないように言われる。Woods氏は、「麻酔ガイドラインでは何十年も前から、意識下鎮静法を要する処置では、処置を受ける全ての患者に6時間以上の絶食を求めてきた」と説明する。絶食は患者に、不快感やイライラ感、脱水、喉の渇きと空腹感の増加、低血糖症などの悪影響をもたらす。しかし、低度から中等度のリスクの患者に対する心臓カテーテル検査で絶食が必要なことを裏付けるエビデンスはない。 今回の研究では、同心臓研究所で待機的心臓カテーテル検査を受ける197人の成人患者を対象に、検査前の絶食の必要性が検討された。対象者は、検査前に心臓に良い食事(脂肪やコレステロール、ナトリウムの含有量が低く酸性食品の少ない食事)を摂取してもよい群(食事摂取群、100人)と、検査前の深夜以降は飲食物を何も口にしない群(絶食群、97人)にランダムに割り付けられた。絶食群は、薬を飲む際には少量の水を飲むことができた。食事摂取群と絶食群との間で検査の安全性を比較するとともに、検査に対する患者の快適さや満足度についても評価した。 処置後に肺炎、低血糖、誤嚥が生じたり気管挿管が必要になった患者はいなかった。また、血糖値、胃腸の問題、疲労度、抗血小板薬の投与量も両群間で同等であった。その一方で、絶食群に比べて食事摂取群では、処置前の食事に関する満足度が有意に高く、また、処置前後で喉の渇きや空腹感を覚えた人も少なかった。 こうした結果を受けてWoods氏は、「われわれが得た結果は、心臓カテーテル検査を受ける全ての患者に絶食が必要なわけではないことや、検査においては患者の満足度を第一に考えても安全性は確保されることを示している」とパークビュー心臓研究所のニュースリリースで述べている。 この研究結果を受けて、同心臓研究所では、意識下鎮静前の患者にも食事を摂取させるように心臓外科手術のプロトコルを更新したという。

6365.

一人暮らしの高齢者は調理技術が低いと死亡リスクが高まる

 一人暮らしの高齢者は、調理技術が低いと死亡率が高まる可能性のあることが、東京医科歯科大学大学院国際健康推進医学分野の谷友香子氏らによるコホート研究から示された。一人暮らしの高齢者では、調理技術が高い人と比べて、低い人では死亡リスクが2.5倍に上ったのに対し、同居をする高齢者では調理技術と死亡リスクに関連は見られなかった。研究結果の詳細は「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に11月10日掲載された。 調理技術が低く、自炊する機会が少ない人は健康リスクが高まる可能性があり、一人暮らしの高齢者ほど、その傾向は強いと考えられている。そこで、谷氏らは今回、自立して生活する日本人高齢者を対象にコホート研究を実施し、参加者を同居の有無別に分け、調理技術が死亡率と関連するか否かを調べた。 この研究は、2016年から2019年に実施された住民ベースのコホート研究である日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study;JAGES)に参加した、全国23市町在住の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者1万647人(女性54.5%、80歳以上が19.8%)を対象に、3年間追跡調査したものだ。調理技術は、ベースライン時に、「野菜や果物の皮をむくことができる」「野菜や卵をゆでることができる」「焼き魚を作ることができる」など7項目について6段階で自己評価(1~6点)してもらい、その合計点の平均点によって「高(4点以上)」「低」の2つのグループに分けた。 参加者のうち4人に1人(25%)は調理技術が低いと分類された。また、一人暮らしは14%だった。参加者を同居の有無で層別し、それぞれ傾向スコアを用いて学歴や世帯年収、配偶者の有無、高次生活機能、近隣の食料品店の有無などをマッチさせた調理技術が高いグループと低いグループ(一人暮らしの高齢者171組、同居の高齢者2,161組)で、調理技術と全死亡リスクの関連を分析した。 平均3.7年の追跡期間中に、計520人が死亡した。解析の結果、傾向スコアをマッチさせた後では、一人暮らしの高齢者では、調理技術が低いと高い場合に比べて全死亡リスクが2.5倍(ハザード比2.50、95%信頼区間1.10~5.68)有意に上昇したのに対し、同居する高齢者では1.05倍(同1.05、0.82~1.33)と有意な関連は見られなかった。また、調理技術の低さは、調理頻度の低さ、野菜や果物の摂取量の少なさ、外出頻度の低さや身体活動時間の短さと関連しており、これらが調理技術と死亡との関連を一部説明していることも分かった。 以上から、著者らは「調理技術の低さは死亡リスクと関連し、この関連は同居の有無によって異なることが分かった。つまり、料理技術の高い高齢者は、たとえ一人暮らしであっても死亡リスクは上昇しないとも言える」と結論付けている。また、調理をする人は外出や立位などの身体活動が増えるほか、献立を考えることなどは認知機能の維持に働き、結果として死亡リスクの低減につながっている可能性があると考察。その上で、「高齢化が進む中、一人暮らしの高齢者は今後も増加が見込まれる。高齢者の調理技術を高めるための支援や介入などは公衆衛生上、重要な課題だ」と述べている。

6366.

GLP-1受容体作動薬の処方された患者さんへのライフスタイル指導【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第45回

■外来NGワード「きちんと注射しなさい!」(食事療法や運動療法については説明せず)「この注射をすれば、痩せますよ」(副作用について説明せず)■解説GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療薬であり、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進するGLP-1(Glucagon-like peptide-1)に基づいています。このクラスの薬物は血糖改善だけでなく、減量効果も期待されます。わが国では2010年に初めてリラグルチド(商品名:ビクトーザ)が上市され、その後にエキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)、デュラグルチド(同:トルリシティ)、セマグルチド(同:オゼンピック)など、現在では5つの注射製剤が利用可能です。あと、GIPも加えたGIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(同:マンジャロ)もあります。ただし、GLP-1受容体作動薬を使用する際には、開始直後に嘔気や嘔吐などの消化器症状がよくみられます。これらの症状は通常、時間が経つと軽減する傾向がありますが、患者さんに対しては、事前に十分な説明が必要です。なぜなら、突然の症状に驚いて治療アドヒアランスが低下する可能性があるからです。重大な有害事象としては、腸閉塞が挙げられます。腹部手術の既往がある患者さんや腸閉塞のリスクを抱える患者さんでは、慎重な投与と定期的なモニタリングが必要です。また、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(同:ウゴービ皮下注)は、肥満症治療薬としても認可されています。臨床試験では、セマグルチドを使用した群では平均で体重が13.2%減少したことが示され、その効果は脳の中枢を刺激して食欲を抑え、胃の運動を制御することによるものです。最大投与量が2.4mgまでできるため、強力な効果が期待される一方で、吐き気、下痢、便秘などの副作用には慎重に対処する必要があります。患者さんには副作用を十分に説明し、ライフスタイルの改善により最小限の用量で管理するように指導することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者食事や運動に気を付けているんですが、血糖がなかなか下がりません。医師それでは、この週1回の注射薬を試してみましょうか。患者注射薬ですか、毎日、注射できるかな…(心配そうな顔)。医師大丈夫です。これは週に1回の注射なので、休みの日などゆっくりとした日に試してみてください。患者それなら、できそうです。医師この薬は血糖値が高いときには膵臓を刺激してインスリンを出して血糖値を改善するんですが、脳にも働いて食欲を抑えることで減量効果も高めます(薬の作用について説明)。患者えっ、それなら私にもピッタリですね。医師ただし、副作用については注意してください。注射してからすぐに、吐いてしまうことがあります。とくに、このくらいならいけると余分なものを食べたり、食べ過ぎたりするのは禁物です。患者了解しました。食べ過ぎは禁物ということですね。医師そうです。薬も少なめから徐々に増やしていこうと思っています。その方が、副作用がでにくいので…。患者それは安心です。それで、お願いします。医師この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり、お菓子類を目につかない所に置く、ヘルシープレートを使うなどのダイエット作戦を併用しておくといいですよ。ここにパンフレットがありますので、是非、試してみてください。患者はい。ありがとうございます(嬉しそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「この薬の副作用を予防するには、余分なものを食べない、食べ過ぎたり飲みすぎたりしないことが大切ですよ」「この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり(セルフモニタリング)、お菓子類を目につかない所に置く(刺激統制法)、ヘルシープレートを使う(ポーションコントロール、などのダイエット作戦を一緒にやるといいですよ!」 1)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.2)Capehorn MS, et al. Diabetes Metab. 2020;46:100-109.

6367.

英語で「これが現実です」は?【1分★医療英語】第115回

第115回 英語で「これが現実です」は?《例文》医師AThe symptoms of this patient aren't improving, are they?(この患者の症状はなかなか改善しないですね)医師BYes, that's right. We've tried all available treatments, but it is what it is.(そうですね。すべての治療法を試しましたが、これが現実です)《解説》“It is what it is.”という表現についてお伝えします。直訳すると「それは、それだ」となってしまいますが、本来の意味としては「仕方がない」「それが現実だ」などと理解するのがよいでしょう。この表現は、「受け入れ難いかもしれないが、現実的に変えることができない状況」を認めて受け入れるときに使われます。日常表現としても「仕方がない」という意味合いとして頻用される表現の1つです。医療現場においては上記の例文のように、「ネガティブな状況に対して現状では打つ手がない。これが現実だ」と言いたい場合に使われます。“It is what it is.”、シンプルな英語でありながら、日本ではあまり習うことのない表現ではないでしょうか。さらっと使いこなせるとすてきですね。講師紹介

6368.

第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

6369.

入院リスクが高い主訴は?

 救急外来(emergency department:ED)で疲労感などの非特異的な訴え(non-specific complaints:NSC)をする高齢患者は、入院リスクならびに30日死亡率が高いことが明らかになった。この結果はスウェーデン・ルンド大学のKarin Erwander氏らがNSCで救急外来を訪れた高齢者の入院と死亡率を、呼吸困難、胸痛、腹痛など特定の訴えをした患者と比較した研究より示唆された。加えて、NSC患者はEDの滞在時間(length of stay:LOS)が長く、入院率が高く、そして入院1回あたりの在院日数が最も長かった。BMC Geriatrics誌2024年1月3日号掲載の報告。 本研究は2016年にRegion HallandのEDを1回以上受診した65歳以上の患者1万5,528例のうち、NSCおよび特定の主訴(呼吸困難、胸痛、腹痛)を抱えて救急外来を訪れた4,927例を対象とした後ろ向き観察研究。NSCとして疲労、意識障害、全身の脱力感、転倒の危険性を定義付けた。主要評価項目は入院と30日死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・4,927例の主訴の内訳は胸痛1,599例(32%)、呼吸困難1,343例(27%)、腹痛1,460例(30%)、NSC525例(11%)であった。なお、本施設全体におけるEDを受診する主訴TOP10は外傷、胸痛、腹痛、呼吸困難、骨格筋系の痛み、感染症、神経内科領域、不整脈、めまい、NSCの順であった。・NCS患者の平均年齢は80歳であった。・入院率は呼吸困難(79%)、NSC(70%)、胸痛(63%)、腹痛(61%)の順に高かった。・NSC患者の平均LOSは4.7時間で、これは胸痛、呼吸困難、腹痛を訴えた患者と比較して有意に高かった(p<0.001)。また、72時間以内に再入院する割合も高かった。・全集団の平均病床日数が4.2日であったのに対し、NSC患者では5.6日であった。・NSCおよび呼吸困難を訴えた患者は30日死亡率が最も高かった。 本研究では、NSCを有する高齢患者を評価することの難しさなどを示し、EDのスタッフが患者一人ひとりに対し最適なケアを行うためには、さらなる研究が必要としている。

6370.

PD-L1陽性乳がん、nab-PTXにtoripalimab上乗せでPFS改善(TORCHLIGHT)

 再発または転移を有するトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療として、nab-パクリタキセルに抗PD-1抗体toripalimabを上乗せした第III相TORCHLIGHT試験の結果、PD-L1陽性集団において無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性プロファイルは許容可能であったことを、中国・Fifth Medical Center of Chinese PLA General HospitalのZefei Jiang氏らが明らかにした。Nature Medicine誌2024年1月号掲載の報告。 TORCHLIGHT試験は、再発または転移を有するTNBCで、全身療法を受けていない18~70歳の女性患者を対象に、1次治療としてnab-パクリタキセル+プラセボ群(178例)と比較して、nab-パクリタキセル+toripalimab群(353例)の有効性と安全性を評価することを目的とする多施設共同無作為化二重盲検試験。主要評価項目は、PD-L1陽性集団およびITT集団における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSで、副次評価項目は全生存期間(OS)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・PD-L1陽性患者は、toripalimab群で200例、プラセボ群で100例であった。・PD-L1陽性集団において、PFS中央値はtoripalimab群8.4ヵ月、プラセボ群5.6ヵ月であり、toripalimab群で統計学的に有意な改善が示された(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.47~0.906、p=0.0102)。・OS中央値は、toripalimab群32.8ヵ月、プラセボ群19.5ヵ月であった(HR:0.62、95%CI:0.414~0.914、p=0.0148)。・治療に起因する有害事象(AE)はtoripalimab群99.2% vs.プラセボ群98.9%に発現した。うちGrade3以上のAEは56.4% vs.54.3%、致死的AEは0.6% vs.3.4%であった。

6371.

疲労と日中の過度な眠気、どちらがよりうつ病と関連しているか

 一般集団における疲労と日中の過度な眠気のどちらが、うつ病とより密接に関連しているかを明らかにするため、韓国・蔚山大学校のSoo Hwan Yim氏らは、調査を行った。Sleep & Breathing誌オンライン版2023年12月14日号の報告。 韓国の15の地区で本調査を実施した。日中の過度な眠気、疲労、うつ病の評価には、それぞれエプワース眠気尺度(ESS)、疲労症状の評価尺度(FSS)、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いた。うつ病はPHQ-9スコア10以上と定義し、疲労ありはFSSスコア36以上、日中の過度な眠気ありはESSスコア11以上とした。日中の過度な眠気と疲労との組み合わせにより、4群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・調査参加者は2,493人(女性の人数:1,257人)、平均年齢は47.9±0.3歳であった。・うつ病、疲労、日中の過度な眠気の割合は、それぞれ8.4%(210人)、30.8%(767人)、15.3%(382人)であった。・各群におけるうつ病の有病率は、対照群と比較し、以下のとおりであった。【疲労あり、日中の過度な眠気あり】67人、31.9% vs. 7.3%(p<0.001)【疲労あり、日中の過度な眠気なし】71人、33.8% vs. 20.3%(p<0.001)【疲労なし、日中の過度な眠気あり】16人、7.6% vs. 5.8%(p=0.294)【疲労なし、日中の過度な眠気なし】56人、26.7% vs. 66.6%(p<0.001)・共変量で調整した後、疲労なし、日中の過度な眠気なし群を参照としたうつ病のオッズ比は、それぞれ以下のとおりであった。【疲労あり、日中の過度な眠気あり】8.804(95%信頼区間[CI]:5.818~13.132)【疲労あり、日中の過度な眠気なし】3.942(95%CI:2.704~5.747)【疲労なし、日中の過度な眠気あり】2.812(95%CI:1.542~5.131)・2群におけるロジスティック回帰分析では、疲労なし、日中の過度な眠気あり群(参照)と疲労あり、日中の過度な眠気なし群との間におけるうつ病との関連に有意な差は認められなかった(OR:1.399、95%CI:0.760~2.575)。 著者らは「疲労と日中の過度な眠気は、どちらがよりうつ病と密接に関連しているかは不明であったものの、それぞれが独立してうつ病と関連していることが示唆された」としている。

6372.

ハイゼントラ、プレフィルドシリンジの剤形追加承認を取得/CSLベーリング

 CSLベーリングは1月22日付のプレスリリースで、人免疫グロブリン製剤「ハイゼントラ20%皮下注」について、新剤形としてプレフィルドシリンジ製剤に対する医薬品製造販売承認を取得したことを発表した。 ハイゼントラは、効能・効果として2013年9月に「無又は低ガンマグロブリン血症」が承認され、2019年3月には「慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)」が追加された。2023年12月時点で米国、欧州を含む67以上の国と地域で承認されている。 同社の代表取締役社長である吉田 いづみ氏は、「このたびのプレフィルドシリンジ製剤の承認により、本剤を使用される患者さんおよび医療従事者の利便性向上と投与時の負担軽減につながることが期待されます。当社は、血漿分画製剤と免疫グロブリン補充療法のグローバル・リーダーとして、希少・難治性疾患の患者さんのアンメットニーズを満たし、患者さんの人生をより豊かなものにできるよう、これからも全力で取り組む所存です」としている。

6373.

HIV感染妊婦のマラリア予防、間欠的予防療法の追加が有効/Lancet

 スルファドキシン/ピリメタミン耐性が高度で、通年性のマラリア感染がみられる地域において、ドルテグラビルをベースとする抗レトロウイルス薬の併用療法(cART)を受けているHIV感染妊婦に対するマラリアの化学予防では、コトリモキサゾール連日投与による標準治療への、dihydroartemisinin-piperaquine月1回による間欠的予防療法の追加は、これを追加しない場合と比較して、分娩までのマラリア原虫(Plasmodium属)の活動性感染のリスクが有意に低下することが、ケニア中央医学研究所のHellen C. Barsosio氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年1月12日号で報告された。アフリカ6施設のプラセボ対照無作為化試験 本研究は、ケニア西部の3施設とマラウイの3施設で実施した二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2019年11月~2021年8月の期間に参加者を登録した(European and Developing Countries Clinical Trials Partnership 2などの助成を受けた)。 ドルテグラビルベースのcARTを受けており、妊娠期間が16~28週で、単胎妊娠のHIV感染妊婦904例を登録し、コトリモキサゾール連日投与+dihydroartemisinin-piperaquine月1回投与を行う群(追加群)に448例(平均年齢29.2歳)、コトリモキサゾール連日投与+プラセボ月1回投与を行う群(対照群)に456例(平均年齢29.2歳)を無作為に割り付けた。NNTは7 dihydroartemisinin-piperaquineまたはプラセボの初回投与から2週間以降、分娩までの母体のマラリア感染(主要エンドポイント)の割合は、対照群が15%(70/452例)であったのに対し、追加群は7%(31/443例)と有意に低かった(リスク比:0.45、95%信頼区間[CI]:0.30~0.67、p=0.0001)。 妊娠中から分娩までの100人年当たりのマラリア感染の発生率は、対照群が77.3であったのに比べ、追加群は25.4であり有意に低下していた(発生率比:0.32、95%CI:0.22~0.47、p<0.0001)。1回の妊娠当たりの1回のマラリア感染を防止するための治療必要数(NNT)は7(95%CI:5~10)だった。有害妊娠アウトカム、重篤な有害事象の頻度は同程度 忍容性は両群とも良好であった。投与開始から4日以内の悪心は、対照群に比べ追加群で多かった(7%[29/446例]vs.3%[12/445例])が、すべて一過性(≦2日)であり、患者の自己申告でほとんどが軽度であった(97%[28/29例]vs.100%[12/12例])。 有害妊娠アウトカム(低出生時体重児、在胎不当過小児、早産、胎児消失[死産、流産]、新生児死亡)(追加群25% vs.対照群27%、p=0.52)と、その個々の要素の発生率は、いずれも両群間に差を認めなかった。また、重篤な有害事象の発生率も、母親では100人年当たり追加群が17.7(23件)、対照群は17.8(25件)、新生児(生後6週まで)では100人年当たりそれぞれ45.4(23件)および40.2(21件)と、いずれも両群で同程度だった。 著者は、「この追加レジメンは、ドルテグラビルベースのcARTを受けているHIV感染妊婦のマラリア化学予防を大幅に改善する可能性があり、施策としての検討に値する。今後は、実臨床における実行可能性と費用対効果を評価する研究が求められる」としている。

6374.

膵臓の治療が自閉症の子どもの症状を改善か

 意外に思うかもしれないが、自閉症がある子どもの膵臓に対する治療が、行動面の問題の軽減に有効である可能性が、米テキサス大学(UT)ヘルス・マクガバンメディカルスクールの精神医学および行動科学教授のDeborah Pearson氏らによる研究で示された。この研究結果は、「JAMA Network Open」に2023年11月30日掲載された。 研究グループは、食事からのタンパク質摂取とセロトニンやドーパミンなどの重要な神経伝達物質との関連がこの結果の重要ポイントだと説明している。これらの神経伝達物質がうまく働かないと、子どもの行動に影響が及ぶ。自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもの多くはパスタやパンなどの炭水化物の多い食品を好む一方、タンパク質の多い食事には抵抗を示す。しかし、神経伝達物質の合成に必要なアミノ酸はタンパク質からしか得ることができない。 そこで研究グループは、膵酵素の補充により膵臓でのアミノ酸の産生量を増加させることが子どもの脳に有用であり、脳の神経伝達物質の不足に関連する問題行動の軽減につながるのではないかと考えた。Pearson氏は、「ASDのある子どもには、しばしば易刺激性(怒りっぽさ)などの不適応行動が併発する。そのような場合に、副作用のリスクが低い介入で対処できるかどうかを明らかにしたかった」と説明する。 研究は、3~6歳のASDがある子ども190人(平均年齢4.5歳、男児79%)を対象に実施された。まず、12週間にわたって実施された第一段階の研究では、ランダムに選ばれた92人の子どもの食事に1日3回、豚由来の高プロテアーゼ膵酵素(900mg、以下、膵酵素)をふりかけた。一方、残る98人の食事には偽の酵素(プラセボ)をふりかけた。この研究期間中、研究者や子どもの親には、どの子に何が与えられているのかは明かされなかった。 その結果、膵酵素を摂取した子どもでは、親の報告に基づいた子どもの易刺激性や多動性、従順性のなさ、不適切な発言が有意に減少したことが明らかになった。これに対し、プラセボを摂取した子どもでは、このような変化は認められなかった。 次の段階の研究では、24週間にわたって全員に毎日膵酵素が投与された。その結果、この期間も、子どもの親の報告に基づいた易刺激性や多動性、不適切な発言が有意に減少したほか、無気力、引きこもりの程度も低下していた。全研究期間を通じて、膵酵素投与と関連/無関連の重大な有害事象は1件も報告されなかった。 Pearson氏は、「今回の研究では、神経伝達物質の合成に必要なアミノ酸の産生を促すと考えられている膵酵素の補充がASDの未就学児の行動面の機能の改善に関連することと、その副作用は極めて少ないことが示された」と説明している。 なお、本研究は、研究で使用された膵酵素補充剤を開発しているCuremark社の資金提供を受けて実施された。

6375.

抑うつ症状と仮面高血圧に関連あり

 大規模な横断研究から、診察室の血圧は正常でも家庭で測定した血圧は高値を示す「仮面高血圧」と抑うつ症状には関連があることが分かったと、東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門の寳澤篤氏らが「Hypertension Research」に10月31日発表した。抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性が示されたとしている。 高血圧の中でも仮面高血圧の患者は、正常血圧の人と比べて心血管疾患リスクが高く、仮面高血圧は心血管疾患の危険因子の一つだとされている。しかし、その診断には家庭血圧測定が必要なため、見過ごされやすく、適切な治療を受けていない可能性が高い。また、これまでの研究で、仮面高血圧のリスク因子として、男性、喫煙習慣、糖尿病、治療中の高血圧、診察室血圧で正常高値などが挙げられている。さらに、不安や抑うつ、ストレスなどの精神状態も血圧に影響を与える可能性が報告されている。そこで、寳澤氏らは今回、抑うつ症状と仮面高血圧の関連を評価する横断研究を実施した。 この研究は、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査から2013~2016年に宮城県で実施したベースライン調査データを用い、研究センターで測定した血圧が正常血圧〔収縮期血圧(SBP)140mmHg未満かつ拡張期血圧(DBP)90mmHg未満〕だった成人男女6,705人(平均年齢55.7±13.7歳、女性74.9%)を対象に行われた。参加者には、自宅で1日2回(朝・晩)血圧と心拍数を2週間測定してもらった。抑うつ症状の評価には、うつ病自己評価尺度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)日本語版を用いた。仮面高血圧は、研究センターでは正常血圧かつ家庭高血圧の基準(SBP 135mmHg以上またはDBP 85mmHg以上)を満たす場合と定義した。 参加者のうち、男性では18.4%(1,685人中310人)、女性では27.7%(5,020人中1,384人)が抑うつ症状を有していた。男女別に、年齢を調整した上で抑うつ症状の有無と血圧の関連を解析したところ、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループに比べて朝および晩の家庭血圧が有意に高かった(男性:朝のSBP 129.0mmHg対127.0mmHg、晩のSBP 126.0mmHg対124.0mmHg、女性:同順に121.0mmHg対119.5mmHg、117.7mmHg対116.2mmHg)。研究センターで測定した血圧には、男女とも抑うつ症状の有無で差は見られなかった。 また、解析の結果、男女ともに、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループと比べて仮面高血圧の有病率が高いことが分かった。多変量解析によるオッズ比は、男性では1.72(95%信頼区間1.26~2.34)、女性では1.30(同1.06~1.59)と、その傾向は男性の方が強かった。 以上から、著者らは「抑うつ症状と仮面高血圧には関連があり、抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性がある。このことから、抑うつ症状がある人では、家庭血圧測定を行うことで仮面高血圧の早期発見、早期治療に有用な可能性が示唆された」と結論。ただ、今回は横断研究だったため、今後、さらなる研究で因果関係を検証していきたいと付言している。

6376.

第179回 コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省

<先週の動き>1.コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省2.診療報酬改定、医療従事者の処遇改善とともに入院基本料・初診料を引き上げへ/厚労省3.岸田首相、認知症施策推進本部で認知症対策の強化を指示/政府4.小児とAYA世代のがん患者の10年後の生存率が明らかに/国立がん研究センター5.新型コロナ後も続く少子化、2023年出生数が大幅減/厚労省6.労災認定された過労死自殺の遺族が病院に2億円超の賠償請求/兵庫1.コロナ第10波とインフルエンザが同時流行、警戒を呼びかける/厚労省厚生労働省の発表によると、新型コロナウイルスの新規感染者数が9週連続で増加していることが明らかになった。1月15日~21日の間に約5,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は計6万268人で、1定点当たり12.23人となり、前週の8.96人から約1.36倍に増加した。入院患者数も昨年末の約2倍に増加している。都道府県別では、福島県が最多で18.99人、茨城県が18.33人、愛知県が17.33人と続いている。東京都は8.33人、大阪府は7.96人、福岡県は10.40人。新規入院患者数は3,462人で、前週から600人増加したが、集中治療室(ICU)に入院している患者数は115人で、前週より21人減少。季節性インフルエンザの新規感染者数も増加しており、1定点当たり17.72人となっている。専門家は「新型コロナはすでに冬の流行期に入っており、『第10波』入り」を指摘している。参考1)「コロナ第10波に入った」の声…インフルと同時流行(読売新聞)2)全国のコロナ感染者数、9週連続で増加 入院患者は昨年末の2倍に(朝日新聞)3)新型コロナ インフルエンザ ともに患者数増加 感染対策徹底を(NHK)2.診療報酬改定、医療従事者の処遇改善とともに入院基本料・初診料を引き上げへ/厚労省厚生労働省は、1月26日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、来年度の診療報酬改定で入院基本料の引き上げを決定した。今回の改定の主な目的は、40歳未満の勤務医や事務職員の賃上げを実現すること。また、医療従事者の処遇改善や日常的な感染防止対策の原資として、初診料や再診料の引き上げも含んでいる。入院基本料の見直しでは、栄養管理体制の基準の明確化、患者意思決定支援の推進、身体的拘束の最小化などが求められている。今回の改定により、国費ベースで約800億円の財源が確保され、医療行為の対価に当たる本体部分が0.88%引き上げられる。そのうち、0.61%分の財源は看護職員や病院薬剤師、コメディカルの賃上げに充てられ、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップが行われる。また、40歳未満の勤務医や薬局に勤務する薬剤師、事務職員らの賃上げに0.28%分程度の財源が回される予定。急性期入院医療に関しては、急性期充実体制加算や総合入院体制加算の要件が厳格化され、急性期病棟のリハビリテーション、口腔管理、栄養管理の充実に向けた新加算が評価される。同時に、DPC(診断群分類)参加基準も厳格化され、基礎係数の見直しが行われる。参考1)個別改定項目(その1)について(厚労省)2)入院基本料引き上げへ、若手勤務医らの賃上げで 初・再診料もアップ 24年度診療報酬改定(CB news)3)急性期充実・総合入院体制加算の要件厳格化、急性期病棟のリハ・口腔・栄養管理を新加算で評価、DPC参加基準厳格化-中医協総会(1)(Gem Med)4)若手勤務医や事務員等の処遇改善は「入院料や初再診料アップ」で対応、「点数増が処遇改善につながったか」の検証は?-中医協総会(2)(同)3.岸田首相、認知症施策推進本部で認知症対策の強化を指示/政府2024年1月26日、政府は認知症対策に関する国の基本計画を策定するため、「認知症施策推進本部」の初会合を開催した。岸田 文雄首相は、認知症の当事者やその家族から意見を聞き、今秋に計画を策定することを目指している。岸田首相は、認知症になり得るすべての人々が尊重され、支え合いながら共生する活力ある社会の実現を強調した。この基本計画では、認知症の人々が尊厳と希望を持って暮らせるようにするための基本理念を定めている。政府は、認知症の人々と共生できる社会環境の整備、認知症の予防、治療薬の開発などについて議論し、関連施策をまとめる予定。また、岸田首相は、認知症と共に希望を持って生きる新しい認知症観の理解促進の重要性を指摘し、高齢者の生活課題への取り組みに生かすことを強調した。参考1)岸田首相 認知症対策強化へ “政府一丸で必要な取り組みを”(NHK)2)認知症基本計画、今秋策定へ 推進本部が初会合-政府(時事通信)3)認知症の人との共生、今秋めどに基本計画策定 施策推進本部が初会合(朝日新聞)4.小児とAYA世代のがん患者の10年後の生存率が明らかに/国立がん研究センター国立がん研究センターは、2011年にがんと診断された小児(0~14歳)とAYA世代(15~39歳)の患者の10年後の生存率を初めて集計し、公表した(この結果は全国341施設の約36万例のデータを基にしている)。小児がんの生存率は比較的高く、とくに白血病の10年生存率は86.2%、脳腫瘍は71.5%で、5年生存率と比べて大きな低下はみられなかった。AYA世代では、がんの種類によって生存率に差があり、乳がんの10年生存率は83.5%、脳・脊髄腫瘍は77.8%となった。子宮頸部・子宮がんの10年生存率は87.2%で、大きく低下していないことが確認された。全体のがん患者の10年生存率は実測で46%、がんの影響を直接的に計算した生存率は53.5%だった。研究者は、「小児がん患者の長期の予後が良いことを示すデータが乏しかったが、この研究で裏付けられた」と指摘している。また、「AYA世代のがん患者には、がんの種類や年齢に応じたきめ細かいケアが必要である」と強調している。参考1)院内がん登録2022年登録例集計 公表 2022年のがん診療連携拠点病院等におけるがん診療の状況(国立研究開発法人 国立がん研究センター)2)がん診断の0~39歳 10年後の生存率を初集計 “実感”裏付け(毎日新聞)3)小児がん、10年生存70~90% 初の集計、大人より高い傾向(日経新聞)4)小児・「AYA世代」 がん患者 10年後の生存率 初公表(NHK)5.新型コロナ後も続く少子化、2023年出生数が大幅減/厚労省厚生労働省がまとめた人口動態統計速報によると、2023年1月~11月までの日本の出生数が69万6,886人に減少し、前年同期比で5.3%の減少を記録したことが明らかになった。これは2004年以降で初めて70万人を下回る数値であり、2023年通年の出生数は過去最少となる見通し。同期間の婚姻件数も前年比5.6%減の45万1,769組と減少し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による出会いの機会減少が一因とされる。しかし、COVID-19が感染症法上の5類に移行した後も婚姻件数の回復はみられない。一方で、死亡数は1.4%増の144万4,146人となり、自然増減はマイナス74万7,260人に達した。出生数の減少と高齢化の進行により、わが国の人口減少が進んでいる。政府は2024年度から3年間で少子化対策を強化し、出生減に歯止めをかける計画を立てている。これには児童手当や育児休業給付の拡充が含まれ、26年度までに年3.6兆円の予算が確保される予定。参考1)2023年の出生数、過去最少か 1~11月出生数69万6千人(産経新聞)2)23年1~11月までの出生数が70万人割れ(CB news)3)23年1~11月の出生数、69.6万人 前年同期比5.3%減(日経新聞)6.労災認定された過労死自殺の遺族が病院に2億円超の賠償請求/兵庫2024年1月27日、兵庫県神戸市の甲南医療センターに勤務していた26歳の医師、高島 晨伍さんが自殺した事件に関して、遺族が病院の院長らに対し、2億3,000万円余りの損害賠償を求める民事訴訟を起こすことが報道で明らかになった。高島さんは亡くなる直前まで100日間連続で勤務し、亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働は207時間余りだった。西宮労働基準監督署は「極度の長時間労働により精神障害を発症し自殺した」として、すでに労災認定をしている。遺族によると、高島さんの両親は運営法人「甲南会」と具 英成院長を相手取り、過重労働を知っていたにも関わらず是正措置をとらなかったため自殺したと主張している。また、この事件の発生前に他の若手医師も過酷な勤務状況を訴えていたが、病院幹部は「僕ら昔の世代の人間やから…意識が違う」と述べ、適切な対応がなされていなかったことも明らかになっている。参考1)100連勤・月200時間超の時間外労働で若手医師が自殺 病院の院長らに2億3,000万円余りの損害賠償求め来週にも提訴へ(MBS)

6377.

膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法【見落とさない!がんの心毒性】第28回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・女性既往歴虫垂炎術後服用歴テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン配合OD錠T20)(2錠分2 朝夕食後)、クエン酸第一鉄Na錠50mg(1錠分1 朝食後)、ランソプラゾールOD錠15(1錠分1 朝食後)喫煙歴なし現病歴X年10月に食欲不振と食後嘔吐を主訴に消化器内科を受診した。腹部骨盤部造影CTで十二指腸水平脚の圧排を伴う膵鈎部がんおよび多発肝転移を認め、上部消化管内視鏡で十二指腸水平脚に腫瘍の直接浸潤に伴う潰瘍性病変を認めた(写真1、2)。画像を拡大する進行膵鈎部がん(T4,N1,M1 StageIVb)と診断し、十二指腸ステントを挿入し、同年11月に化学療法(ゲムシタビン[GEM]単剤)を開始した。その後、食欲は改善し、同年12月に退院した。外来で同化学療法計4クールを施行したが、X+1年3月にはPD判定となり、同月よりTS-1単剤での化学療法に変更となった(Performance Status[PS]3)。同年5月に、突然の呼吸困難を主訴に救急外来を受診し、バイタルは体温36.5℃、脈拍数111/分、血圧93/56mmHg、SpO2 94%(室内気)で、左下腿浮腫を認めた。血液検査でDダイマー46μg/mL、BNP 217pg/mLと上昇し、心エコー図検査で右室拡大によるD-shapeを認めた。造影CTで両側肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)、両下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と診断し、入院となった(写真3)。画像を拡大する循環器内科と連携し、入院時Hb 8.3mg/dLと貧血を認めたことから、出血リスクを考慮し、未分画ヘパリン10,000単位/日の低用量で抗凝固療法を開始した。入院2日目に明らかな吐下血は認めなかったものの、Hb 6.7mg/dLと貧血の悪化を認めた。【問題】下記のうち、この患者の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)管理の方針や膵がん患者に合併するVTEに関する文章として正しいものはどれか。a.日本において膵がん患者におけるVTE予防目的に、低分子ヘパリン(LMWH)皮下注や直接経口抗凝固薬(DOAC)の予防投与が保険承認されている。b.本症例におけるVTEの初期治療として、DOAC単剤による抗凝固療法がより適切である。c.本症例では抗凝固療法の開始後、貧血の悪化を認めたが、明らかな出血事象が確認されない限り、抗凝固療法は継続すべきである。d.進行膵がんは診断後、3ヵ月以内のVTE発症が多く、定期的なDダイマー測定がVTEの診断に有用である。まとめ膵がん患者では予防的抗凝固療法による生存期間延長の利益について、一定の見解は得られていない。自施設の日本人の膵がん患者432名を対象とした検討では、膵がん診断後の生存期間は、VTE群と非VTE群で有意差はなかった。膵がん自体の予後が不良で、VTEの発症は予後悪化に寄与しない可能性がある5)。しかし、VTEはひとたび発症すると致命的な病態となり得ることや、他臓器のがんではVTE発症により生存期間が短縮するという研究が多いため、今後、膵がん治療・患者管理の進歩により、VTE発症の生命予後への影響が明確化する可能性ある。1)Khorana AA, et al. Cancer. 2013;119:648-655.2)Schunemann HJ, et al. Lancet Haematol. 2020;7:e746-755.3)Wang Y, et al. Hematology. 2020;25:63-70.4)Maraveyas A, et al. Eur J Cancer. 2012;48:1283-1292.5)Suzuki T, et al. Clin Appl Thromb Hemost. 2021;27:1-6.講師紹介

6379.

花粉症重症化を防いで経済損失をなくす/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 花粉飛散が気になる季節となった。今後10年を見据えた花粉症への取り組みについて、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(理事長:村上 信五氏)は、都内で「花粉症重症化ゼロ作戦」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、花粉症重症化の身体的、経済的、社会的弊害と鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂内容、花粉症重症化ゼロ作戦の概要などがレクチャーされた。アレルギー性鼻炎の経済的損失は年19万円 はじめに村上氏が挨拶し、花粉症は現在10人に4人が発症する国民病であること、低年齢での発症が増加していること、花粉症により経済的損失も多大であることなどを語り、同学会が取り組む「花粉症重症化ゼロ作戦」の概要を説明した。 続いて岡野 光博氏(国際医療福祉大学耳鼻咽喉科学 教授)が「花粉症重症化の意味するもの」をテーマに花粉症による社会・患者の損失について説明した。 2023年に政府は花粉症は国民病として関係閣僚会議を立ち上げ「発生源対策」「飛散対策」「発症等対策」の3本柱で対策を施行することを決定した。具体的には、診療ガイドラインの改訂や舌下免疫療法(SLIT)の推進、リフィル処方箋の活用推進などが予定されている。 花粉症の主な症状である鼻、眼、全身、のど症状について述べ、1日にくしゃみと鼻かみが各11回以上、鼻閉による口呼吸が1日のうちでかなりを占める場合は「重症」と評価し、花粉症が重症化するとQOLが著しく悪化すると説明した。QOLの評価指標であるEQ-5D-5Lを用いた値では、重症花粉症のQOLは糖尿病や骨折、乾癬よりも悪いことが報告された。一例としてアレルギー性鼻炎(AR)の研究ではあるが、重症化が患者の健康状態と労働生産性に重大な影響を与え、とくに労働生産性についてみると平均収入日額で1万5,048円、労働時間で年12.74時間、経済的損失で年19万1,783円と見込まれるとする報告を紹介した1)。 また、重症スギ花粉症患者では、抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイド薬の標準治療を受けていても症状ピーク期には労働や勉強の能率が約35~60%低下するという報告もあり、社会に影響を与える事態を避けるためにも花粉症重症化には対策をするべきと説明を終えた。オマリズマブなどの作用機序の図など追加 大久保 公裕氏(日本医科大学耳鼻咽喉科学 教授)が、「鼻アレルギー診療ガイドラインの改訂点:最新の治療を教えます」をテーマに今年発行が予定されているガイドラインの内容を説明した。 本ガイドラインは、1993年に初版が発行され、不定期ではあるが最新の診療エビデンスを加え改訂され、最新版は改訂第10版となる。 今版では次の内容の改訂が主に予定されている。【第1章 定義・分類】・鼻炎を「感染性」「アレルギー性」「非アレルギー性」に分類・LAR血清IgE陰性アレルギー性鼻炎を追加 【第2章 疫学】・スギ花粉症の有病率は38.8%・マスクが発症予防になる可能性の示唆【第3章 発症のメカニズム】・前段階として感作と鼻粘膜の過敏性亢進が重要・ARはタイプ2炎症【第4章 検査・診断法】・典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にARと診断し早期治療開始・皮膚テストに際し各種薬剤の中止期間を提示【第5章 治療】・各治療薬の作用機序図、免疫療法の作用機序図、スギSLITの効果を追加 この中で大久保氏は、とくに治療について厚く触れ、治療目標として「症状がないか軽度、日常生活に支障がない」「症状が安定し、急性の増悪がない」「抗原誘発反応がないか軽度」の状態に患者をもっていくことが必要と語った。また、ARの治療アドヒアランスについて、患者の69%が不良であり、その一因として抗ヒスタミン薬の眠気などの作用を上げ、理想的な抗ヒスタミン薬の要件として「速効性、効果持続」「眠気など副作用が少ない」「安全で長期間投与」「1日1~2回」などを提示した。また、重症花粉症では、抗ヒトIgE抗体オマリズマブについて、症状ピーク時に有意に鼻症状のスコアを改善したことを紹介した2)。 そのほか、アレルゲン免疫療法について、症状を改善し、薬用量が減少しうること、全身的・包括的な臨床効果が期待できること、治療終了後にも効果が期待できることを示し、スギSLITについて、3年継続することで治療終了後2年間の効果持続があったことなどを説明した3)。しかし、SLITでは、即効性がなく、長期治療が必要であること、不安定喘息などには禁忌であること、アナフィラキシーの副反応など注意が必要と短所も示した。 最後に治療法の選択を示し、「主治医とよく相談し、自分に合った治療法を決めて欲しい」と述べ、レクチャーを終えた。花粉症重症化の知識を啓発してゼロにする 川島 佳代子氏(大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉・頭頸部外科 主任部長)が、「花粉症重症化ゼロ作戦2024:我々がこの春の花粉症で行うべきこと」をテーマに今年から始まる「花粉症重症化ゼロ作戦」について説明を行った。 先述のように花粉症では重症患者が多く、間接費用も含めると経済損失など多大な額に上るほか、患者個人にも就業や学業で大きな負担を強いるものとなっている。また、患者もありふれた疾患ゆえに自己流の対処を行っているケースが多く、重症であっても適切な治療がなされていないこともあり、こうしたことが社会的損失を起こす一因となっている。こうした背景から、学会として花粉症の正しい病態、治療について発信することが重要との認識に立ち、今回の取り組みが行われることになったと説明した。 花粉症重症化ゼロ作戦2024の診療の柱としては、・初期療法の重要性を周知・重症化したら併用療法や抗IgE抗体療法にスイッチ・根本治療としてアレルゲン免疫療法などを説明し、実践などが掲げられている。 今後、この取り組みのために特設サイトが開設され、「花粉症重症化とは」「重症化度チェック」「患者の声」などのコンテンツ公開が予定され、市民講座やポスター掲示、地元医師会との連携などを実施、2030年までには目標として「花粉症の重症化ゼロを目指す」と説明を終えた。

6380.

北海道を舞台にマイクロRNA検査を用いた肺がん前向き観察研究を開始/Craif

 遺伝子調整機能を有し、がんの診断マーカーとして期待されるマイクロRNA(miRNA)1)を活用した肺がんのスクリーニング検査が北海道を舞台に始まる。がんの早期発見に対する次世代検査などを開発する名古屋大学発のベンチャー企業Craifが、北海道大学病院と共同研究契約を締結した。 北海道は広大な土地という条件に加え、過疎と高齢化が進むことで、検診率が全国で最も低い2)。とくに寒さの厳しい冬期は検診受診率が下がる。前向き観察研究を行う地域の1つである岩内地区は、北海道の中で、最も肺がん死亡率の高い地域である。死亡率の高さの理由として、同地区における、高い喫煙率と極端に低い検診受診率が考えられている。 このような背景の中、Craifは2023年2月に、北海道の最先端医療機関等と連携して、がん早期発見に向けたコンソーシアム「CRUSH-Cancer(クラッシュキャンサー)」を設立した。コンソーシアム活動の一環として、医療技術協力を受けている北海道大学と地域医療を担う岩内病院と共に新たなプロジェクトを行う。 プロジェクトの主要な取り組みとして、尿中miRNAをAIで分析するがんリスク検査「マイシグナル・スキャン」を用いた、今回の肺がんスクリーニングの前向き観察研究が行われる。研究では、岩内町、余市町の肺がん高リスク住民(喫煙者など)を対象に、肺がんの診断率を評価する。さらに、追跡調査を行い、肺がんの罹患率や予後に関連する因子を特定する予定。 Craifは「マイシグナル・スキャン」を100セット無償提供する。 研究責任医師である北海道大学病院呼吸器外科の加藤 達哉氏は、「尿中miRNAによる検診法は、自宅でも施行できる尿検査であることから、高齢化・過疎化がさらに進む北海道や日本全体においても、検診活動に革命を起こす可能性があると期待している」と述べる。

検索結果 合計:35150件 表示位置:6361 - 6380