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双極性障害に対するリチウムの国際的な使用傾向と臨床的相関

 双極性障害治療において、リチウムによる治療は依然として重要な治療選択肢の1つである。シンガポール・Nanyang Technological UniversityのYao Kang Shuy氏らは、国際的なリチウム使用の薬理学的疫学的パターンを経時的に特徴づけ、双極性障害に関連する臨床的相関を解明するため、スコーピングレビューを実施した。Brain Sciences誌2024年1月20日号の報告。 Arksey and O'Malley(2005)による方法論的枠組みを用いて、スコーピングレビューを実施した。2023年12月までに報告された双極性障害に対するリチウム使用と臨床的相関を調査した研究を、各種データベースより収集した。 主な結果は以下のとおり。・1967~2023年に報告された55件の研究をレビューに含めた(北米:24件[43.6%]、欧州:20件[36.4%]、アジア:11件[20.0%])。・全体でのリチウム使用率は、3.3~84%(中央値:33.4%[カットオフ前]、30.6%[カットオフ後])の範囲であった。・時間の経過とともに、北米、欧州のリチウム使用が減少、アジアでは緩やかな増加が認められた。【北米】2010年以前:27.7%→2010年以降:17.1%【欧州】2003年以前:36.7%→2003年以降:35.7%【アジア】2003年以前:25.0%→2003年以降:26.2%・リチウム使用は、特定の人口統計学的因子(たとえば、年齢、男性)や臨床的因子(たとえば、自殺リスクの低下)と関連が認められた。 著者らは「リチウム使用は、欧米で減少している傾向が確認された。特定の臨床的相関は、リチウム使用の継続に関する臨床上の意思決定をサポートするうえで有用であろう」とまとめている。

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肺がんコンパクトパネルにBRAF、KRAS、RET追加

 DNAチップ研究所は2024年1月26日、次世代シークエンス技術による遺伝子パネル検査「肺がん コンパクトパネルDxマルチコンパニオン診断システム」(肺がんコンパクトパネル)の承認事項一部変更を発表した。 今回の承認で、2022年12月16日に開示した従来の4遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、MET)に加え、3遺伝子(BRAF、KRAS、RET)が新たに承認されたことになる。 肺がんコンパクトパネルは、検体として生検採取のFFPE組織、未固定組織に加え、細胞診も対象となる。

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固形がん治療での制吐療法、オランザピン2.5mgが10mgに非劣性/Lancet Oncol

 オランザピンは効果的な制吐薬であるが、日中の傾眠を引き起こす。インド・Tata Memorial CentreのJyoti Bajpai氏らは、固形がん患者における催吐性の高い化学療法後の低用量オランザピン(2.5mg)と標準用量オランザピン(10mg)の有効性を比較することを目的に、単施設無作為化対照非盲検非劣性試験を実施。結果をLancet Oncology誌2024年2月号に報告した。 本試験はインドの3次医療施設で実施され、固形がんに対しドキソルビシン+シクロホスファミドまたは高用量シスプラチン投与を受けているECOG PS 0~2の13~75歳が対象。患者はブロックランダム化法(ブロックサイズ2または4)により2.5mg群(1日1回2.5mgを4日間経口投与)または10mg群(1日1回10mgを4日間経口投与)に1:1の割合で無作為に割り付けられ、性別、年齢(55歳以上または55歳未満)、および化学療法レジメンによって層別化された。研究スタッフは治療の割り当てを知らされていなかったが、患者は認識していた。 主要評価項目は、修正intent-to-treat(mITT)集団における全期間中(0~120時間)の完全制御(催吐エピソードなし、制吐薬追加なし、悪心なしまたは軽度の悪心で定義)。日中の傾眠は関心のある安全性評価項目とされた。非劣性は治療群間における完全制御割合の差の片側95%信頼区間(CI)の上限値が非劣性マージン10%未満の場合と定義された。 主な結果は以下のとおり。・2021年2月9日~2023年5月30日に、356例が適格性について事前スクリーニングを受け、うち275例が登録され、両群に無作為に割り付けられた(2.5mg群:134例、10mg群:141例)。・267例(2.5mg群:132例、10mg群:135例)がmITT集団に含まれ、うち252例(94%)が女性、242例(91%)が乳がん患者であった。・2.5mg群では132例中59例(45%)、10mg群では135例中59例(44%)が全期間において完全制御を示した(群間差:-1.0%、片側95%CI:-100.0~9.0、p=0.87)。・全期間において、2.5mg群では10mg群に比べ、Gradeを問わず日中の傾眠が認められた患者(65% vs.90%、p<0.0001)および1日目に重篤な傾眠が認められた患者(5% vs.40%、p<0.0001)が有意に少なかった。 著者らは、催吐性の高い化学療法を受けている患者においてオランザピン2.5mgは10mgと比較して制吐効果が非劣性で、日中の傾眠を減少させることが示唆されたとし、新たな標準治療として考慮されるべきとしている。

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医療者の体重減少、1年以内のがん罹患リスク高い/JAMA

 過去2年以内に体重減少がみられなかった集団と比較して、この間に体重減少を認めた集団では、その後の12ヵ月間にがんに罹患するリスクが有意に高く、とくに上部消化管のがんのリスク増大が顕著なことが、米国・ハーバード大学医学大学院のQiao-Li Wang氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2024年1月23/30日号に掲載された。米国の医療従事者を対象とする前向きコホート研究 研究グループは、米国のNurses’ Health Study(NHS)に参加した40歳以上の女性看護師(追跡期間1978年6月~2016年6月)と、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)に参加した40歳以上の男性医療従事者(追跡期間1988年1月~2016年1月)のデータを用いた前向きコホート研究を行った(NHSとHPFSは米国国立衛生研究所[NIH]の助成を、今回の解析はSwedish Research Councilなどの助成を受けた)。 体重の変化は、両研究の参加者が2年ごとに報告した体重から算出した。また、減量の意思の強度を、減量促進行動としての身体活動の増強と食事の質の改善の有無で、高(両方の行動あり)、中(いずれか一方の行動あり)、低(両方の行動ともなし)の3つに分類した。10万人年当たりの1年がん罹患率:体重減少群1,362人vs.非減少群869人 15万7,474人(年齢中央値62歳[四分位範囲[IQR]:54~70]、女性11万1,912人[71.1%])を解析の対象とした。164万人年の追跡期間中に1万5,809人のがん罹患を同定した(罹患率964人/10万人年)。平均追跡期間は28(SD 10)年だった。 体重の変化を報告してから12ヵ月間のがん罹患率は、体重減少を認めなかった集団が869人/10万人年であったのに対し、10.0%を超える体重減少がみられた集団では1,362人/10万人年と有意に高かった(群間差493人/10万人年、95%信頼区間[CI]:391~594人/10万人年、p<0.001)。早期がん、進行がんのいずれも体重減少の可能性 減量の意思が低い集団における12ヵ月間のがん罹患率は、体重減少を認めなかった集団が1,220人/10万人年であったのと比較して、10.0%を超える体重減少がみられた集団では2,687人/10万人年であり、有意に高率だった(群間差1,467人/10万人年、95%CI:799~2,135人/10万人年、p<0.001)。 とくに上部消化管(食道、胃、肝臓、胆道、膵臓)のがんが、体重減少を認めた集団で多く、最近の体重減少がない集団では36人/10万人年であったのに対し、10.0%を超える体重減少がみられた集団では173人/10万人年であった(群間差:137人/10万人年、95%CI:101~172人/10万人年、p<0.001)。 著者は、「体重減少が0.1~5.0%および5.1~10.0%の集団でも、がん罹患率が有意に高かったが、10.0%超の減少がみられた集団でより顕著であり、減量の意思が“高”の集団よりも“低”の集団で高い傾向がみられた」と述べるとともに、「乳房、生殖器系、泌尿器のがん、脳腫瘍、悪性黒色腫などは体重減少との関連がなく、10.0%超の体重減少との関連を認めたのは、上部消化管のほか、血液、大腸、肺のがんであった」としている。 また、「体重減少の量は早期がんと進行がんで同程度であり、いずれのがんでも体重減少を認めると示唆された。年齢60歳以上で、体重が10.0%を超えて減少し、減量の意思が低い集団では、その後12ヵ月間にがんと診断される確率は3.2%であった」としている。

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インフルエンザウイルスを中和する新たな抗体を同定

 手ごわい敵との闘いで新たな武器の入手につながりそうな研究結果がこのほど明らかになった。米ピッツバーグ大学医学部のHolly Simmons氏らは、複数のインフルエンザウイルス株を中和できる可能性のある、これまで見つかっていなかったクラスの抗体を同定したことを発表した。この抗体は、現在よりも幅広いインフルエンザウイルス株に対して有効なワクチンの開発につながる可能性があるという。研究の詳細は、「PLOS Biology」に12月21日掲載された。 インフルエンザウイルスがヒトに感染する際には、ウイルス表面の糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)が重要な役割を果たす。インフルエンザワクチンは、免疫システムにHAと結合する抗体を作らせて、HAがヒトの細胞に侵入するのを阻止する。しかし、抗体が結合するHAの部位は抗体ごとに異なることに加え、ウイルス自体も変化することから、作られた抗体を回避できる新たなウイルス株が生まれる。 インフルエンザワクチンは、毎年、専門家がそのシーズンに流行する可能性のある主な株を予測し、それに基づき製造される。予測は的中することもあるが、その確率はそれほど高くない。研究グループは、「インフルエンザウイルスの変異に対応するためには、毎年、インフルエンザワクチンを作りかえる必要がある。しかし、われわれの研究から、より広範な防御免疫を誘導するための障壁は驚くほど低い可能性のあることが示唆された」と話している。 現在、さまざまな研究によって、複数のインフルエンザウイルス株に対して予防効果を発揮するワクチンの開発が模索されている。その多くは、HAの2つの型であるH1とH3の両方に防御効果を発揮する抗体に焦点を当てている。H1とH3にもさまざまな亜型が存在するため、広範に感染を引き起こす。 これに対して、今回の研究は、いくつかのH1株に見られる小さな変化に着目したものだ。Simmons氏らの説明によると、H1株表面のHAに「133a挿入」と呼ぶアミノ酸の挿入があると、タンパク質の立体構造に変化が生じて抗体が結合できなくなり、中和効果がなくなるのだという。 Simmons氏らは、4人の患者から採取した血液検体を用いて一連の実験を行い、133a挿入の有無にかかわらず、一部のH3株と一部のH1株を中和できる新たなクラスの抗体を同定した。これらの抗体は、他の抗体とは異なる分子的特徴を持っており、H1株とH3株を異なるメカニズムで交差中和するという。 Simmons氏らは、「今回の研究によって、ウイルスに対するより広範な防御効果を持つワクチンの開発に寄与し得る抗体のリストが増えた」と説明。また、「インフルエンザワクチンの製造のあり方を変えることを裏付けるエビデンスが増える中、今回の研究結果もその一つとなるものだ」と付け加えている。

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妊娠中期のEPA/DHA摂取量が少ないと低出生体重児の割合が高い

 日本人女性では、妊娠中期の食事やサプリメントから摂取するエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)といったn-3系脂肪酸の摂取量が少ないと、低出生体重(low birth weight;LBW)児の割合が高いという研究結果を、山形大学大学院看護学専攻の藤田愛氏、吉村桃果氏らの研究グループが「Nutrients」に11月18日発表した。妊娠中期までのn-3系脂肪酸の摂取不足は、LBWの危険因子の一つだとしている。 これまでの研究から、妊娠中の母親の栄養不足はLBWの危険因子であり、中でも食事中のEPAやDHA不足はLBWリスクの上昇と関連することが報告されている。ただし、これまでの解析では、EPA、DHAの摂取量は食事からのものに限られており、サプリメントによる摂取量は考慮されていなかった。そこで、研究グループは、The Japan Pregnancy Eating and Activity Cohort Study(J-PEACH Study、代表:春名めぐみ氏)の一環として、妊娠中期(妊娠14~27週)におけるEPA/DHAの摂取量とLBWとの関連を検討する前向きコホート研究を実施した。 J-PEACH Studyは、妊娠中の食事摂取や身体活動などのライフスタイルと、妊娠中および産後1年間の健康状態との関連を明らかにすることを目的とした多施設共同の前向きコホート研究だ。今回は、2020年2月から10月までに、J-PEACH Studyに参加した504人の妊婦から収集した妊娠中期(妊娠14~27週)と分娩時のデータを用いて分析した。 研究では、まず、参加者に2種類の質問票に回答してもらった。一つは、簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いて58種類の食品や飲料の摂取量を尋ね、EPA/DHAの摂取量を算出した。もう一つは、自記式質問票を用いて、過去1カ月以内のDHAおよび/またはEPAサプリメントの摂取頻度(毎日、週に5~6回、3~4回、1~2回、時々、まったく摂取しない)を尋ねた。さらに、医療記録から、分娩時のアウトカムに関する情報を得た。参加者を、食事とサプリメントからのEPA/DHA総摂取量に基づき、低摂取群(172.3mg未満)、中摂取群(172.3mg以上374.9mg未満)、高摂取群(374.9mg以上)の3つに分けた上で、EPA/DHA摂取量とLBWとの関連を分析した。 分娩時の母親の平均年齢は34.2歳、妊娠中の体重増加は平均9.9kg、妊娠週数は平均38.9週だった。生まれた児は男児が47.0%、平均出生体重は3068.6gで、33人(うち男児8人)はLBW(2500g未満)だった。解析の結果、妊娠中期のEPA/DAH総摂取量が低い群ではLBW児の割合が高かった(P=0.04)。LBW児の割合には、男児、女児ともに有意な傾向は認められなかった。 以上の結果を踏まえ、研究グループは「妊娠中期までにn-3系脂肪酸の摂取量が少ない妊婦では、LBW児の割合が高くなる可能性がある。妊娠後期に十分量のEPAとDHAを胎児に移行するためにも、妊娠中期のうちにこれらを十分に摂取し、蓄積しておくことが重要ではないか」と強調。「そのためには、少なくとも妊娠中期までには食習慣を改善し、EPAやDHAなどの必要な栄養素を自ら摂取できるようにするため、妊婦一人ひとりの生活習慣や考え方に合わせた栄養指導を行うことが必要だ」と述べている。

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ERCP後膵炎の予防におけるインドメタシン坐剤の役割は?(解説:上村直実氏)

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆道および膵臓疾患にとって重要な診断法・治療法である。厚生労働省の2007年から2011年のアンケート調査によると、ERCP後の膵炎発症頻度は0.96%、重症例は0.12%と報告されており、重症膵炎の発症頻度は低いが、一度生ずると患者負担が大きいため膵炎の予防法が課題となっている。今回、米国とカナダで行われた無作為化非劣性試験の結果、ERCP後膵炎の高危険群における膵炎の予防に関して、欧米の標準治療である非ステロイド性抗炎症薬インドメタシン直腸投与+予防的膵管ステント留置の併用と比較して、インドメタシン単独投与は予防効果が劣ることが2024年1月のLancet誌に掲載された。 わが国のERCP後膵炎ガイドラインを見ると、膵炎高危険群に対する予防策として最も強く推奨されているのは一時的膵管ステント留置であるが、本邦では、治療目的以外の予防的膵管ステントとしての保険適用を取得していないことが大きな課題となっている。一方、インドメタシンなどNSAIDsの抗炎症作用が膵炎の発生を抑えることができる可能性と多くの臨床試験の結果から「ERCPの検査前もしくは直後の直腸内投与」が提案されているが、膵管ステント留置とNSAIDs併用に関するエビデンスが不足していることから両者の併用に関する記載はない。わが国の胆膵内視鏡診療は世界でも最高峰のレベルと思われるが、この分野で日本発のレベルの高いエビデンスが輩出されることが期待される。 わが国の臨床研究における大きな問題は、エビデンスレベルの高い研究デザインでの臨床試験を施行するための財源や人材も含めた体制がきわめて不十分な点である。一般の臨床現場において、欧米と異なる国民皆保険制度により最善と思われる診療を享受できることから、プラセボを用いた臨床試験や新たな薬剤を用いた臨床研究を施行する場合、被験者としてエントリーしてもらうこと自体が困難であることが多く、今後、レベルの高い臨床研究を推進するために産官学で協力した体制の確立が必要であろう。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

いきなり!多変量解析?臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかD(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究S(セッティング):単施設外来P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)2)糸球体濾過量(GFR)低下速度われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures"という小見出しで以下のように記載しました。"Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT 40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively)."「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.2)Hasegawa T, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38:2713-2722.3)日本透析医学会編集.2015 年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.

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ようやくドイツで災害医療向けのガイドラインが完成【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第33回

2024年、日本は大変なスタートとなってしまいました。連日、能登半島地震の被害状況がメディアで報道され、痛ましい映像が流されている状況です。毎年50億円くらいの予算を投じて作成されている地震ハザードマップでは、能登半島はむしろ「安全」な地域になっていました。と、言いますか新潟県中越地震(2004年)、熊本地震(2016年)のときもハザードマップでは、危険が低い地域になっていたと思います。うーん、どうやら地震の予測はまだまだ難しそうです。日本に住んでいる限りは、本当に明日はわが身と思っておかなければいけないことを痛感しています。災害の多い日本は、災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)をはじめてとして、災害医療のレベルが本当に高いですよね。大きな災害のたびに、何かしらの課題が指摘されて、次にはちゃんと修正されています。避けることができない災害なら、被害を最小限にするための努力を諦めない、そういった強い意志を感じます。自然災害が少ないドイツもやっと救急医療の整備を始めたドイツはほとんど地震がありません。近年は気候変動による河川の氾濫など、自然災害は増加傾向にありますが、わが国と比べると自然災害の頻度は低くなっています。実はドイツには救急に関して専門医制度が確立しておらず、大きな病院でも救急部門がありません。救急に関して遅れている国と言えます。救急認定医みたいな制度がありますが、医師会が実施している講習会を受けて、ちょっと実習するだけで取れるみたいです。以前、実習をさせてもらっていた開業医の先生が取っていましたが、「結局、救急のことはよく知らない」と言っているレベルでした。そんなドイツですが、最近、麻酔科学会と集中治療学会が中心となって、28個の学会が共同して災害医療のガイドラインの作成が行われました。ドイツの「災害医療のプレホスピタルガイドライン」です。画像を拡大する右上に作成日が書かれていますが、「2023年4月」と本当に最近作成されています。これまでなかったことにも驚きです。どちらかと言えば内容は自然災害よりもバイオテロなどへ意識を向けている印象となっています。自然災害が少ない代わりに、戦争や大規模テロのリスクが高いとされるヨーロッパ。一口に「災害医療」と言っても、国によってニーズがまちまちであることを感じます。

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便通異常症 慢性便秘(5)小腸閉塞の診断に有用な身体所見【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q103

便通異常症 慢性便秘(5)小腸閉塞の診断に有用な身体所見Q103『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』では器質性便秘症を鑑別するための身体所見も紹介されている。

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メンタル不調者に対する、「復職面談」のコツ【実践!産業医のしごと】

産業医に求められる業務の1つに、メンタル不調者の復職面談があります。メンタル不調者への対応は、企業の求める必須のスキルであり、産業医として適切に復職面談ができるようになっておく必要があるでしょう。復職面談で確認したい点は、「復職しようとする従業員が働けるかどうか」です。少し解像度を上げると、「労働契約で定められた従前の業務を前提とし、以前と同程度に業務に従事したとしても症状が悪化せず安定している」ことが確認できればよいわけです。しかし、産業医が事前に得られる情報には限りがあり、また限られた面談時間内で判断しなければなりません。そのような状況において、復職面談はどのような点に留意して行うのがよいのでしょうか。復職面談で産業医が確認すべき項目を表にまとめました。各項目について解説していきましょう。復職面談で産業医が確認すべき項目画像を拡大する柊木野一紀編著. 佐々木規夫ほか共著. メンタルヘルス不調による休職・復職の実務と規程. 日本法令;2022.より一部改変1)生活習慣は、復職の際に最も基本となる項目です。規則正しく起床し、規則正しく食事や睡眠が取れているか、また基礎的な体力や意欲が回復して日中活動できているかなど、回復の程度を確認します。とくに睡眠の問題が残っていると復職後の再休職のリスクを有意に高めるとされており、安定した睡眠が取れていることはとても重要な要素です。できることなら、生活記録表を記載してもらい、その内容とも照らし合わせながら評価するとよいでしょう。2)体調管理は、精神症状や身体症状の回復の程度を確認します。すでに主治医からの復職可能の診断書の提出があることから、心身の症状が一定程度に回復していると考えられます。しかし、時には焦って復職を急いでいる場合や、復職を前にして症状が再燃している場合など、疾病の回復が不十分と判断せざるを得ないこともあります。勤務ができる状態ではないと疑うときは、再度主治医に病状の確認を取ります。3)業務遂行能力とは、業務に必要な判断力や集中力、合理的思考などが該当します。これらが病前に近い程度まで回復していることが、職場復帰を成功させる大きな要素となります。リワークや試し勤務の制度などがあれば、積極的に活用するのも1つの手でしょう。業務に関連したPC作業、または業務に関連する本や新聞の記事を読むなど、集中力や判断力を必要とする行動が一定時間続けられることは、復職後の業務遂行能力を評価するうえでの重要な情報となります。しかし、そのような復職準備性を評価することが制度上は困難な場合は、これらの回復の程度を産業医面談だけで正確に評価するのはきわめて困難です。4)コミュニケーションの点についてです。程度の差はあれ、業務を円滑に遂行するうえで他者とのコミュニケーションは必要不可欠です。産業医は、本人のみならず管理監督者からも従前の状況や業務遂行上必要とされる程度を確認できる立場にあります。精神症状が回復していても、コミュニケーション上で同僚や顧客との良好な関係が構築できなければ、職務への影響が発生し、ひいては病状の再発リスクが高まります。職場での受け入れや支援の程度によっては、異動等を含めた環境調整を必要とすることもあります。5)健康管理では、本人が通院や服薬などの治療継続の重要性を十分に理解できているか、薬の副作用を理解しているか、主治医と復帰後の治療計画がきちんと話し合われているかどうかなどを確認します。心身の症状が残存する場合はその対処方法を確認し、症状を自分なりに取り扱うことができていることも重要です。一方、治療や通院の継続には職場の協力も不可欠であり、復職後に通院等を継続できるよう職場にも調整を依頼します。6)再発防止は、職場復帰後に安定して就労継続するために重要となる項目です。再発予防のためには本人が病気について理解し、不調になる初期サインに気付き、その際の対処法を整理できることが重要です。また、体調不良の引き金となった状況を振り返り、再度同じようなことが起きた際には、どのように対処するのか、自らの中で整理できていることが望ましいでしょう。本人が十分に整理できていない場合は、産業保健スタッフが関与し、一緒に整理する時間を取るのがよいでしょう。以上、メンタル不調者の復職面談で確認すべき点についてまとめました。復職面談を実施し、産業医として「復職可能」と意見しても、未来を予測することは困難であり、時に再休職となるケースもあります。しかし、失敗はあっても状況をできるだけ正確に把握し、復職判断の精度を上げるように努めることが、産業医として求められる姿勢です。また、復職面談では、産業医が適切な面談を実施することに加えて、職場関係者(産業医、人事労務担当者、管理監督者など)の合議によって復帰可否を判断する場を用意することも重要です。関係者が連携して、状況を適切に情報共有し、就業に関する判断や復職後の受け入れ態勢を調整する。私は、こうした丁寧なプロセスが復職を成功させるのだと考えています。参考文献・参考サイト柊木野一紀編著. 佐々木規夫ほか共著. メンタルヘルス不調による休職・復職の実務と規程. 日本法令;2022. p.102-106.

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