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腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効

 予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。

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英語で「それでは始めましょう」は?【1分★医療英語】第131回

第131回 英語で「それでは始めましょう」は?《例文1》Let's get the ball rolling with the test.(それでは、その検査から始めましょう)《例文2》Shall we get the ball rolling with your blood pressure check?(それでは血圧の測定から始めましょうか?)《解説》“Let's get the ball rolling”は、何かのプロセスや活動を始めるときに使われる表現です。直訳すると「ボールを転がし始めましょう」となりますが、そこから転じて、「それでは始めましょう」という意味で用いられます。医療現場においても、診察を始めるとき、検査を開始するとき、治療に取り掛かるときなど、さまざまなシチュエーションでこのフレーズを使うことができます。英語では、具体的な行動に移ることを示唆するために、このような動きを連想させる表現がよく用いられます。たとえば、“Let's kick things off”なども何かを始める際に使える表現です。よりシンプルな“Let’s begin”や“Let’s get started”などでもよいですが、“Let's get the ball rolling”のような少し気の利いたフレーズは親しみやすさも兼ね備えており、コミュニケーションをより円滑にすることに役立ってくれるため、レパートリーに加えておくとよいでしょう。講師紹介

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国内初の1日1回投与の低亜鉛血症治療薬「ジンタス錠25mg/50mg」【最新!DI情報】第15回

国内初の1日1回投与の低亜鉛血症治療薬「ジンタス錠25mg/50mg」今回は、低亜鉛血症治療薬「ヒスチジン亜鉛水和物(商品名:ジンタス錠25mg/50mg、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用で亜鉛補充ができ、亜鉛欠乏による味覚障害、皮膚炎、脱毛、貧血などのさまざまな症状を改善することが期待されています。<効能・効果>低亜鉛血症の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得しました。本剤は、食事などによる亜鉛摂取で十分な効果が期待できない患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および体重30kg以上の小児では、亜鉛として1回50~100mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与します。なお、血清亜鉛濃度や患者の状態により、1日1回150mgを超えない範囲で適宜増減します。<安全性>亜鉛投与による重大な副作用に銅欠乏症(頻度不明)があり、銅欠乏まで進展した場合は貧血、白血球減少などを引き起こす恐れがあります。その他の副作用(1%以上)として、消化器症状(下痢、悪心、腹部不快感)、血清膵酵素(リパーゼ、アミラーゼ)上昇、貧血、浮動性めまいなどがあります。本剤投与中は、定期的(数ヵ月に1回程度)に血清亜鉛、銅、鉄を測定します。<患者さんへの指導例>1.亜鉛不足を改善するには、亜鉛を多く含む食事を積極的に摂取する食事療法が行われますが、不十分な場合には薬で補充します。2.必ず食後に服用してください。3.亜鉛を含むサプリメントや健康食品は摂取しないでください。4.亜鉛により銅の吸収が妨げられ、立ちくらみや歩きにくいなどの副作用が起こることがあります。気になる症状が現れたら、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>亜鉛は300種類以上の酵素の活性化に必要な成分で、主な酵素にはDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、炭酸脱水酵素、アルカリホスファターゼ、アルコール脱水素酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、オルニチントランスカルバミラーゼなどがあります。亜鉛は細胞分裂や核酸代謝などに関わっており、欠乏するとタンパク合成全般が低下し、皮膚炎、脱毛、貧血、味覚障害、発育障害、性腺機能不全、食欲低下、下痢、骨粗鬆症、創傷治癒遅延、易感染性などさまざまな症状を引き起こします。低亜鉛血症では亜鉛含有量の多い食品を積極的に摂取するよう推奨しますが、血清亜鉛値が低い場合、食事からの亜鉛摂取では不十分で亜鉛補充療法が必要です。補充療法には、酢酸亜鉛(商品名:ノベルジン)が使用されますが、亜鉛イオンによる悪心・嘔吐などの消化器系副作用が問題となっています。副作用により酢酸亜鉛製剤が使用できない場合は、ポラプレジンク(同:プロマックD錠)も使用されますが、亜鉛含有量が少ない上に適応外です。本剤は、ヒスチジン亜鉛水和物の錠剤であり、亜鉛イオンと錯体化することで亜鉛の吸収を向上させています。ヒスチジン亜鉛水和物は比較的安定な錯体構造であるため、消化管で解離する亜鉛イオンは無機亜鉛塩よりも少なく、酢酸亜鉛製剤に比べて悪心・嘔吐などの消化器系副作用が軽減されています。また、酢酸亜鉛製剤は通常、成人で1日2回の投与回数ですが、本剤は1日1回投与であり、服薬アドヒアランスの改善が期待できます。低亜鉛血症患者を対象とした国内第III相臨床試験(実薬対照非盲検試験)において、投与開始24週間後までに目標血清亜鉛濃度を8週間維持できた患者の割合は、本剤群で86.4%、酢酸亜鉛群で80.4%でした。両群の割合の差は6.0%(95%信頼区間:-4.2~16.3)で非劣性マージンの-15%を上回っているので、酢酸亜鉛群に対する本剤群の非劣性が示されました。なお、酢酸亜鉛製剤と異なり、現在の適応症は低亜鉛血症のみで、「ウィルソン病(肝レンズ核変性症)」の適応は有していません。

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間違った知識を患者さんに伝える先輩、どうしたらいい…?【Dr.大塚の人生相談】

「2人薬剤師」体制で投薬は先輩薬剤師の担当。たまに、間違った知識を患者さんに伝えているのが聞こえてくるのですが、私より一回り年上のため訂正ができません。どうしたらいいでしょうか。(今回の相談者:ニナさん)ご相談ありがとうございます。先輩の間違いをなかなか指摘できない。患者さんにとって不利益となるような間違いなのに、先輩との関係性を考えて言い出しにくい。わかります。ものすごくわかります。ぼくもこういう状況が苦手です。うまく言い出せず、めちゃくちゃモヤモヤします。まず、なぜ先輩の間違いを訂正できないのか……。自分のこととして考えて分析してみます。たとえば、一回り年上の先輩と家族のような関係だった場合、それほどストレスなく間違いを指摘できるはず。父親が相手だったら、ぼくは間違いを指摘できそうです。我が家の愚息は今年大学生になりましたが、彼があなたの立場で、私が先輩上司だった場合、愚息は容赦なくぼくの間違いを指摘してきます。なんなら、「アホちゃうか」のおまけまでつきそうです。そんな血気盛んな息子でも、部活の先輩相手には、ぼくほどキツく言えないはずです。ちなみに、ぼくは基本コミュ障で息子は陽キャなので、彼には間違いを指摘できなくてモヤモヤすることはなさそうですが……。うちの家庭事情はさておき、先輩の間違いをやんわり訂正できない問題に頭を悩ますのは、あなたは(ぼくも)真面目で他人の気持ちを思いやれる人間であるからだと思っています。そう思わないと生きづらいです。おそらくあなたも、日常生活で誰の害にもならない些細な間違いまで訂正したいと思わないでしょう。患者さんにとって不利益になる間違いだからこそ、真面目で優しいあなたは心を痛めているのだと思います。先輩の間違いに目を瞑ってしまっては、あなたの薬剤師の矜持が許さない。多くのプロが同じように思うはずです。ただ、こういうときにモヤモヤだけして、なにも前に進まないのは良くないと思います。あなたもそう思っているから相談してきたんですよね。きっと同じような状況がこの先も訪れるはずです。あなたなりに、先輩を傷つけないような間違いの訂正方法を見つけるのが良いと思います。ちなみに、ぼくなら、「ほかの人が同じような間違いをしたかのように」先輩に話を振ります。「そういえばこの前、後輩の薬剤師が〇〇のような間違いをしていて……」なんて、雑談っぽく話してみます。先輩は、あなたの話を聞いてドキッとするかもしれませんし、反論するかもしれません。もし反論してくれたのなら、しめたもの。しっかりとエビデンスを出して、丁寧に先輩と向き合って話せばいいのです。言い出すまでが怖いのであって、話してみれば案外すんなりいくかも知れません。勇気を振り絞るまでのストレスは大変なものですが、患者さんのためにもぜひ一歩を踏み出してください。

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巻貝を食べて救急搬送、何が原因?【これって「食」中毒?】第1回

今回の症例年齢・性別52歳・男性患者情報飲酒や喫煙歴はない。多発性嚢胞腎による末期腎不全で1年前から週3回の維持透析を施行されていた。東北地方の市場で「真ツブ」や「青ツブ」と表示された巻貝を購入し、自宅の台所で殻付きのまま網の上で炭火焼きにして10個ほど食べた。およそ30分後より激しい頭痛や嘔気が出現した。また、めまい、ふらつき、四肢の脱力により座位の保持が困難となった。横になって様子をみていたが、複視や呼吸困難が出現したため、救命救急センターに搬送された。初診時は気道開通、呼吸数16/分、SpO298%(経鼻カニューラ、酸素1L/分)、血圧158/96 mmHg、心拍数64bpm(整)、意識レベルJCS 10、体温36.4℃であった。呼びかけに開眼し、激しい頭痛、嘔気、めまい、複視、呼吸困難を訴えた。四肢の筋力は低下し、下肢の深部腱反射は減弱していた。検査値・画像所見動脈血ガス(経鼻カニューラ、酸素1L/分)ではpH7.32、PaCO2 48.4mmHg、PaO2 88.4mmHgと軽度の呼吸性アシドーシスを認めた。また、COHb2.4%であった。末梢血および生化学検査所見は慢性腎不全に矛盾しないものであった。頭部CTおよびMRIでは急性期病変を認めなかった。問題

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第215回 高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見

高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見肥満ががんの進展を促すことに寄与しているらしい腸内細菌を中国の研究チームが発見しました。乳がんの新たな治療手段を導く可能性を秘めたその結果によると、高脂肪食はマウスの腸のデスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の細菌を増やし、それが免疫系を抑制してがんの増殖が亢進します。研究成果は中国の広東省の広州にある病院(SunYat-Sen Memorial Hospital)の乳がん外科医Erwei Song氏らの手によるもので、今月始めにPNAS誌に掲載されました1)。Song氏らは、BMI値が高い肥満の乳がん患者の生存率が低いことをまず確認したうえで、乳がん患者の腸内細菌の検討を始めました。同病院の治療開始前の乳がん患者61例の検体を調べたところ、肥満の目安としたBMI値24以上の女性の腸にはBMI値が24未満の女性に比べてデスルホビブリオ細菌がより多く認められました。続いてマウスを使ってデスルホビブリオ細菌とがんを関連付けうる仕組みが調べられました。ヒトの肥満を模すものとしてしばしば使われる高脂肪食マウスには肥満の乳がん女性と同様にデスルホビブリオ細菌が多く、免疫系を抑制することで知られる骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加も認められました。よってデスルホビブリオ細菌が多いことと免疫系の抑制は関連すると示唆され、どうやらその関連にアミノ酸の1つであるロイシンが寄与していることが続く検討で示されました。高脂肪食マウスの腸内微生物叢はロイシンを多く放ち、血中にはロイシンが多く巡っていました。そのロイシンがmTORC1経路を活性化してMDSCの生成を誘うことが突き止められ、デスルホビブリオ細菌を死なす抗菌薬をマウスに投与したところ、ロイシンとMDSCのどちらも正常水準に落ち着きました。ヒトでもどうやら同様なことが乳がん患者から採取した血液検体の検討で示唆されました。その検討の結果、BMI値が24以上の肥満水準であることは高脂肪食マウスと同様にロイシンやMDSCがより多いことと関連しました。以上の結果によると高脂肪食の恩恵にあずかるデスルホビブリオ細菌のせいでロイシンが過剰に作られ、その結果MDSCが急増して免疫系が抑制されてがんの増殖が許されてしまうようです。腸の細菌は地域や食事によって異なり、腸内細菌研究の結果は調べた集団が違うと一致しないことがよくあります2)。よって今回と同様の仕組みが他の集団でも認められるかどうかを今後調べる必要があります。もし高脂肪食が招くがんの進行にデスルホビブリオ細菌を発端とする免疫抑制が確かに関連しているなら、その経路を断ち切る新たな乳がん治療の道が開けそうです。参考1)Chen J, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2306776121.2)Gut microbes linked to fatty diet drive tumour growth / Nature

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遺伝子分析とアンケートを組み合わせた日本人うつ病患者の特徴分析

 うつ病は、さまざまな環境的因子や遺伝的因子の影響を受け発症する、気分障害を特徴とする一般的な精神疾患であるが、その病因は、ほとんどわかっていない。ヤンセンファーマのRyo Takano氏らは、日本人うつ病患者のリスク因子を特定するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年7月号の報告。 対象は、東北メディカル・バンク機構が2021年12月までに募集した2つのコホート参加者(人口ベースコホート、3世代コホート)。社会人口統計学的因子、ライフスタイル、併存疾患、遺伝的因子に焦点を当て、自己申告によるうつ病のプロファイリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・日本人うつ病患者は、日本にまん延している特定の社会文化的特徴、たとえば社会的孤立、神経症、内向性などや年齢や性別などの既知のリスク因子とよく関連していることが明らかとなった。・コホートの特徴として考えられる東日本大震災と関連した環境的因子も、うつ病発症と強い関連が認められた。・全ゲノム配列データのGWAS解析では、日本人のうつ病と関連する染色体21および22に位置する新規の遺伝的リスク変異の候補が特定されたが、これらのリスクバリアントのさらなる検証が求められる。・本研究の限界として、うつ病の評価に自己申告アンケートを使用した点(臨床的関連性との不明確さ)、コホート人口の偏りが認められた点(男性よりも女性の割合が多い)が挙げられる。 著者らは、「日本人のうつ病と関連するいくつかのリスク因子が特定された。日本人のうつ病に対処するうえで、対象を絞った介入と個別アプローチが重要であることが裏付けられた」としている。

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BiTE抗体tarlatamab、進行・再発の進展型小細胞肺がんに申請/アムジェン

 アムジェンはデルタ様リガンド3(DLL3)を標的とするBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体tarlatamabについて、進行・再発の進展型小細胞肺(ED-SCLC)を予定の効能又は効果として、日本国内で製造販売承認申請を行った。 小細胞肺がん(SCLC)は肺がんの約15%を占め、世界で毎年33万例超が新規に診断されている。SCLCは最も悪性度が高い固形がんの1つで、増殖速度が非常に早く早期に転移する。5年相対生存率(全Stage)は10%未満と予後不良である。ED-SCLCに対する現行の1次治療の奏効率は60〜70%と比較的良好だが、ほとんどの症例で治療耐性が生じ、治療後1年以内に再発を認める。 DLL3は85〜96%のSCLCの腫瘍細胞表面に発現する一方、正常細胞での発現はごくわずかであることから、SCLCに対する有望な治療標的とされている。tarlatamabはT細胞上のCD3とSCLC細胞上のDLL3に結合する新規のBiTE抗体であり、T細胞をSCLC細胞に誘導してがん細胞を溶解する。 tarlatamabの申請は、プラチナ併用化学療法後の進行・再発のED-SCLCを対象にした第II相国際多施設共同非盲検DeLLphi-301試験から得られた結果に基づき行ったもの。DeLLphi-301試験では、2ライン以上の前治療が無効であった進行SCLC患者に対して40%の奏効率を示した。主な治験関連有害事象はサイトカイン放出症候群(52〜55%)、発熱(31〜37%)および味覚異常(22〜26%)で、有害事象による投与中止は3〜4%に認められた。 tarlatamabは、2023年12月に米国食品医薬品局(FDA)の優先審査(Priority Review)に指定され、2024年2月9日に厚生労働省から希少疾病用医薬品の指定を受けている。

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T-DM1既治療のHER2+進行乳がん、T-DXdの3年OS率は?(DESTINY-Breast02)/ESMO BREAST 2024

 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)治療歴のあるHER2+の切除不能または転移を有する乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast02試験の全生存期間(OS)を含む最新の解析結果を、韓国・Asan Medical CenterのSung-Bae Kim氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。 DESTINY-Breast02試験の一次解析(データカットオフ:2022年6月30日)において、T-DXd群(3週間間隔で5.4mg/kg、406例)では、TPC群(トラスツズマブ+カペシタビンまたはラパチニブ+カペシタビン、202例)と比較して、無増悪生存期間(PFS)およびOSを統計学的に有意に改善した。今回の発表では、2023年9月29日をデータカットオフ日とする追跡期間中央値26.8ヵ月における最新の有効性と安全性の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・今回のデータカットオフ時点の追跡期間中央値は、T-DXd群30.2ヵ月(範囲:0.8~60.7)、TPC群20.5ヵ月(0.0~60.6)であった。・OS中央値は、T-DXd群35.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:30.9~40.8)、TPC群25.0ヵ月(20.4~31.5)で、ハザード比(HR)は0.69(0.55~0.88)であった。24ヵ月OS率はそれぞれ64.6%(59.6~69.2)および51.9%(44.4~58.9)、36ヵ月OS率はそれぞれ49.2%(44.0~54.3)および36.6%(29.5~43.8)であった。・治験医師判定によるPFS中央値は、T-DXd群16.7ヵ月(95%CI:14.7~19.6)、TPC群5.5ヵ月(4.4~6.8)で、HRは0.30(0.24~0.37)であった。・治験医師判定による奏効率(ORR)は、T-DXd群74.1%(CRは8.6%)、TPC群27.2%(2.0%)であった。奏効期間中央値はそれぞれ19.1ヵ月(95%CI:15.2~25.1)、6.3ヵ月(5.1~8.1)であった。・治療関連有害事象(TRAE)はT-DXd群99.8%(うちGrade3以上が55.4%)、TPC群94.9%(44.6%)に発現した。T-DXd群の主なTRAEは、悪心(72.5%)、倦怠感(62.4%)、嘔吐(38.1%)であった。・T-DXdによる薬剤性間質性肺疾患/肺臓炎は404例中46例(11.4%)に発現し、一次解析のデータカットオフ以降の発現は4例(Grade1が2例、Grade2が2例)であった。

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ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

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抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

 咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が新たな研究で明らかにされた。米ジョージタウン大学医学部家庭医学分野教授のDaniel Merenstein氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Merenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」とジョージタウン大学のニュースリリースの中で述べている。 今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。データには、対象患者の人口統計学的属性や併存疾患、症状、48種類の呼吸器病原体(ウイルス、細菌)に関するPCR検査の結果が含まれていた。 ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。 研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。 研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める」との懸念を示す。論文の上席著者である米ジョージア大学公衆衛生学部教授のMark Ebell氏は、「医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を知ってはいるが、おそらくは過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価していると思われる」と話す。 一方、Merenstein氏は、「この研究は、咳に関するさらなる研究の必要性を強調するものだ。咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で同氏は、「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。

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心電図所見から夜間の自殺企図を予測できる?

 精神疾患と心電図所見の関連については多くの研究が行われている。新たな研究として、自殺企図歴のある日本人の精神疾患患者を対象に、夜間の自殺企図と心電図の波形との関連が検討された。その結果、早期再分極を示す心電図により、夜間の自殺企図を予測できる可能性のあることが示された。東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科の亀山洋氏らによる研究結果であり、「Neuropsychopharmacology Reports」に3月17日掲載された。 早期再分極パターン(early repolarization pattern;ERP)は、心電図におけるQRS-ST接合部(J点)の上昇(スラーやノッチと呼ばれる波形)を特徴とする。ERPは男性に多く、健常人にも見られるが、精神疾患との関連が報告されており、自殺企図などの衝動性と関連する可能性も示唆されている。自殺行動は夜間の時間帯に多いことが知られているため、その危険性を事前に予測することが重要となる。 そこで著者らは、自殺企図歴があり、2015年1月から2023年1月に東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科を受診、または身体科入院中に精神神経科が介入した精神疾患患者で、心電図検査を行った人を対象とする後ろ向き症例対照研究を行い、心電図におけるERPと夜間の自殺企図との関連を検討した。全身状態が悪いなど心電図に影響が及ぶ可能性のある患者、自殺企図の時間帯が不明な患者、夜間(18時~6時)の心電図しか記録されていない患者などは対象から除外し、日中に記録された最初の心電図を用いて評価した。 評価対象者43人(男性17人、女性26人)のうち、ERPのある患者は21人(平均年齢46.9±18.7歳、男性9人)、ERPのない患者は22人(同55.7±19.1歳、同8人)だった。自殺企図が夜間に行われたのは、男性、女性のどちらも11人ずつだった。夜間の自殺企図の割合は、ERPのある患者で76.2%、ERPのない患者で31.8%だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。 自殺企図の行われた時間帯を比較すると、ERPのある患者では早朝5時と夜間21時が最も多かった。一方、ERPのない患者では8時と14時が最も多く、早朝や夜間の自殺企図は少ないという特徴が見られた。また、心電図所見を比較したところ、心拍数、QRS間隔、QTc間隔について、ERPの有無で有意な差は認められなかった。 さらに、夜間の自殺企図との関連を検討するため、ERP、男性、50歳代を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、ERPは夜間の自殺企図に対する有意な予測因子であることが明らかとなった(オッズ比5.25、95%信頼区間1.32~20.8)。一方、男性(同2.50、0.61~10.2)および50歳代(同3.07、0.22~43.3)に関しては、夜間の自殺企図の有意な予測因子ではなかった。 以上の結果について著者らは、単一施設での後ろ向き研究であること、症例数が少なかったことなどから一般化可能性には限界があるとした上で、結論として、「ERPと夜間の自殺企図との関連が明らかになり、ERPから夜間の自殺企図を予測できる可能性が示唆された」と述べている。

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50年代のすでに廃れた治療法に、もう一度光が当たるのか?(解説:野間重孝氏)

 冠状静脈洞減圧術(Coronary Sinus Decompression:CSD)という名称で呼ばれる処置は、奇しくも1950年代のほぼ同時期に、まったく異なった2つの分野で開発された。1つはこの論文の研究対象となっている冠動脈疾患治療目的のCSDであり、もう1つは先天性心疾患の治療目的で開発されたCSDである。混乱を避ける意味でも、まず後者について簡単に解説した後、本題に入りたいと思う。 先天性心疾患治療目的のCSDは冠静脈洞の形態異常や機能障害を有する患者の治療目的で開発されたもので、冠静脈洞型心房中隔欠損症、冠静脈洞閉鎖、冠静脈洞狭窄などを対象としており、そもそもは冠静脈洞型心房中隔欠損症を対象として開発された。もちろん開胸手術であり、当時、施行には高度なテクニックが必要であった。後に、より安全に施行できるデバイスの開発がなされ現在でもまだ行われているが、冠静脈洞型心房中隔欠損症そのものがきわめてまれな疾患のため、一部の専門の方を除いてはおそらくご存じでない方が多いのではないかと推察する。ここでは、とにかく今回の論文の内容とこの先天性心疾患治療手技は、名前は同じでもまったく別のものである点にのみご注意いただければ十分である。 さて、そこで問題の冠動脈疾患治療目的のCSDである。すでにおわかりのとおり、1950年代には経皮的冠動脈形成術はもちろん、バイパス手術も存在しなかった。その代わりに画期的な治療法として注目されていたのが、当時新しく開発されたCSDだった。具体的には開胸の後、冠静脈を露出させ、拡張術や冠静脈洞にバイパス手術が行われた。この治療法のメカニズムについてはいろいろと議論がなされるが、基本的にはわかりやすいもので、血液は高圧領域(つまり動脈領域)から低圧領域(つまり静脈領域)に流れるのだから、両領域の圧格差を大きくし、さらに静脈血をすばやく取り除くことで流れをよくすれば、より多くの血液が流れるであろうというものである。よく心筋灌流再分布であるとか冠微小循環の改善などを挙げる人がいるが、50年代にそのような概念はまだ確立されてはいなかった。 当時の研究法は現在とは違い厳密な統計学を用いた方法ではなかったから、その結果の解釈には一定の限界があるが、胸痛の改善、運動能力の向上、左室機能の改善、死亡率の低下などの利点が数多く報告された一方、当然のことながらプラセボ効果の可能性、研究・評価方法の欠陥、長期的な効果の検証不足などが指摘され、結局決着がつかないまま次の時代に移行していった。つまり、冠動脈バイパスなどの直接的な治療法の時代が訪れたのである。私たち研究者がよくよく反省しなければならない点をあえて挙げると、時代が変わると前の時代に問題になっていたことの究明から驚くほど急速に関心が遠のくことである。これは肺性心のメカニズムが現代に至るまで謎に包まれていることでも理解できるのではないかと思う。CSDの真の効果、メカニズムが解明されないまま次の時代に移行してしまったことが、本論文の解釈にも大きな影響を与えているのである。 今回の研究は冠静脈洞減圧デバイス(CSR)を難治性狭心症患者に経皮的に埋め込み、症状改善効果をRCTにより検証することだった。主要評価項目はアデノシン負荷MRIによる虚血面積減少量、運動耐容量、生活の質であった。重要な点は、CSRというデバイスの開発によって、心臓カテーテル手技に習熟した医師ならば特別なリスクを見込むことなく、経静脈的にデバイスの留置が可能になったという点である。結果は、CSR埋め込み群とプラセボ群で冠動脈血流量に差は見られなかったが、一方CSR群ではプラセボ群に比して日常の狭心症頻度が減少するという、矛盾したとも取れるものとなった。 まず、読者の中にはこの試験デザインに疑問を持った方が多かったのではないだろうか。というのは、研究対象が「従来の治療法である冠動脈バイパスやPCIで十分な症状改善が得られない重症冠動脈疾患患者」となっているからである。しかし、その一方で試験ではトレッドミル負荷なども行われているのである。トレッドミル負荷の対象になる冠動脈疾患患者が、果たして「きわめて重症な冠動脈疾患患者」といえるのかという問題である。しかし、ここは研究者たちの意見に耳を傾ける必要があるようだ。 彼らが今回対象とした患者は、・冠動脈疾患の診断を受けていること。・少なくとも2回の冠動脈バイパス術またはPCIを受けていること。・週に少なくとも1回は狭心症状を経験していること。・運動負荷試験で有意な狭心症を認めること。 とある。 つまり、現在有効といわれている治療法では狭心症状を改善することができない患者を「重症冠動脈患者」と呼んだということである。たとえば左冠動脈主幹部の90%狭窄は重症冠動脈疾患に決まっている。しかし、ほかに狭窄がなければバイパス1本で症状は軽快し、生命予後は確実に延長する。しかしそうした網の目から漏れてしまう難治性の狭心症患者がおり、それを彼らは「重症冠動脈疾患患者」と呼んだのである。これは冠動脈疾患を単に虚血領域の広さや狭窄の重症度とは別の尺度として受け入れられてよいものではないか、と評者は考えるものである。しかし、冠血流の実際の改善が認められない中での症状の軽快のメカニズムが明らかにならないことには、明確な評価を下すことは難しいのではないだろうか。また、長期フォローの結果も示されなければならないだろう。 現段階で評者は本論文を是とも非とも判断しかねるが、冠動脈疾患にはまだわれわれが知らない何かが潜んでいる可能性については考えを巡らせているところである。ただし、このような補助療法の有効性が認められたとしても、現在行われている機械的な血行再建術に取って代わるものではないことは断言しておかざるを得ないだろう。

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年齢や婚姻状況で異なる、「世帯の人数」と心理的苦痛の関係

 日本の全国調査データを活用して、年齢・性別や婚姻状況により、世帯の人数と心理的苦痛の関係が異なるかどうかを調べる研究が行われた。その結果、若い世代や未婚者では、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという関係が認められた。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの冨岡公子氏らによる研究結果であり、「Frontiers in Public Health」に3月11日掲載された。 一人暮らしや少人数の世帯は増加の一途をたどっている。2024年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行され、孤独や孤立への総合的な対策が必要とされている。これまでにも世帯の人数とがんや認知症、幸福感、メンタルヘルスなどとの関連が研究されているが、世帯の人数が及ぼし得る影響は、年齢や性別、配偶者の有無などにより異なる可能性がある。 そこで著者らは、厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査」のデータを用いて、世帯の人数と心理的苦痛との関係を詳細に分析した。「K6」という尺度で評価された「こころの状態」の結果で、合計得点が13点以上の場合を「心理的苦痛が強い」と定義。世帯の人数は5人以上、3~4人、2人、1人に分類し、年齢層、性別、婚姻状況ごとに調査した。 20歳未満の人などを除外した結果、研究対象者は40万5,560人(男性19万3,346人、女性21万2,214人)となった。心理的苦痛が強い人の割合は、男性3.6%、女性4.7%と有意な男女差が認められた。年齢層ごとにみると、男女とも、心理的苦痛が強い人は25~29歳で最も多く、30~60歳で減少、65~74歳で最も少なく、75歳以降で再び増加していた。 次に、世帯の人数と心理的苦痛との関連を検討するため、社会経済状況や生活習慣、現病歴などの影響を調整した上でロジスティック回帰分析を行った。その結果、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという有意な量反応関係が、男性で20~59歳、女性では20~39歳の年齢層で認められた(全て傾向性P<0.001)。すなわち、5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、3~4人、2人、1人世帯の順に、20~39歳の男性では1.09(0.97~1.23)、1.33(1.13~1.56)、1.96(1.64~2.34)、40~59歳の男性では1.02(0.90~1.16)、1.17(1.02~1.36)、1.52(1.28~1.81)、20~39歳の女性では0.98(0.88~1.08)、1.40(1.22~1.60)、1.78(1.50~2.11)だった。一方、これより上の年齢層では、同様の関係は認められなかった。 性別と婚姻状況で層別化すると、男女とも未婚者でのみ、同様に世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多かった(男女とも傾向性P<0.001)。5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、同順に、男性では1.16(0.999~1.35)、1.46(1.22~1.75)、1.89(1.58~2.26)、女性では1.02(0.89~1.17)、1.37(1.16~1.63)、1.64(1.37~1.96)だった。 今回の結果について著者らは、若年層は高齢者と比べて地域社会とのつながりが希薄であり、少人数世帯の場合に孤立や孤独を感じやすいと説明。一方、特に60~74歳の女性は、世帯の人数が2~4人の場合、5人以上や一人暮らしよりも心理的苦痛の強い人が多かったことに言及し、婚姻状況により家事や介護の負担に差が生じやすいことを付け加えている。 以上から著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いことを示す量反応関係が、性別に関係なく、若い世代と未婚者で認められた」と結論。「高齢者だけでなく若年者にも、単身世帯だけでなく少人数世帯にも目を向ける必要がある」と述べている。

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第194回 マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省

<先週の動き>1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省1.マイナ保険証を救急搬送に活用開始、全国展開を目指す実証事業/総務省2024年4月、マイナンバーカードを利用した保険証(マイナ保険証)の利用率が過去最高の6.56%に達したが、利用率の低さが依然として課題となっている。5月17日、総務省消防庁はマイナ保険証を活用した救急搬送の実証事業を開始すると発表した。神奈川、兵庫、宮崎の3消防本部で実施され、救急隊員が現場でマイナ保険証を読み取り、患者の情報を迅速に把握し、医療機関へ搬送する。実証結果を踏まえ、2025年度中に全国展開を目指す。厚生労働省は、データと住民基本台帳情報の突合による「紐付け誤り防止」や動画広報、利用率の高い自治体・医療関係団体の表彰などを実施しているほか、さらに医療機関での利用促進に向けた具体策も進められている。マイナ保険証の利用率は病院で13.73%、医科クリニックで5.87%、歯科クリニックで10.91%、調剤薬局で5.71%とされ、さらなるPRと支援が求められている状況。5月15日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会では、若年者世代へのPR強化や医療機関での声掛けの強化が提案され、専用レーンの設置や国家公務員の率先利用も呼びかけられている。その一方で、マイナ保険証に対する不信感も問題となっている。過去に他人の情報が紐付けられたり、保険診療の窓口負担の割合が誤って表示されたりするトラブルが相次ぎ、2024年4月までに新たに529件の紐付けミスが確認された。政府の点検作業で発覚した同様のミスは合計で9,000件を超えている。政府は、従来の健康保険証の新規発行を2024年12月2日から停止し、マイナ保険証の利用を基本とする方針を強化している。医療機関での利用促進策とともに、妊産婦支援の強化を目指す会議も設立され、正常分娩への保険適用が検討されている。これにより、マイナ保険証の普及と共に、医療サービスの質の向上が期待される。参考1)マイナ救急実証事業の開始(総務省消防庁)2)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)3)「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置-社保審・医療保険部会(1)(Gem Med )4)マイナ保険証、救急搬送に活用 23日から実証第1弾 総務省消防庁(時事通信)5)マイナンバーシステム、機能利用進まず 改善求められるデジタル庁(朝日新聞)2.高齢者施設の服薬は昼1回に統一で安全性向上を/老年薬学会5月17日に日本老年薬学会は、高齢者施設における服薬回数の簡素化を推奨する提言を発表した。この提言では、施設の入居者が多くの薬を服用している現状に対し、服薬回数を減らし、なるべく昼1回にまとめることを求めている。目的は、誤薬リスクを減らし、本人や職員の負担を軽減することである。高齢者施設では、認知機能や運動機能が低下した入居者が多く、複数薬を管理することが困難とされている。これに対し、職員数が多い昼間の時間帯に服薬を集約することで、誤薬のリスクを低減し、職員の負担が軽減できるとされる。具体的には、服薬のタイミングを昼に変更できる薬や効き目が長く続く薬に切り替えることが提案されている。提言の作成に関わった薬剤師の丸岡 弘治氏は、「服薬回数を減らすことは医療安全上のメリットにもつながる」と述べている。学会代表理事である秋下 雅弘氏も、「この取り組みはすべての高齢者に必要であり、今後は医療機関や在宅介護にも呼びかけたい」と語る。ただし、すべての薬が昼の服薬に適しているわけではなく、安全性や効果に影響がないかを慎重に確認する必要がある。提言では、医師や薬剤師が協議し、適切な薬を特定することが求められている。また、本人や家族への理解を得ること、療養場所が変わった際の見直しも重要となる。高齢者施設の服薬管理は、職員の勤務シフトに合わせて朝、昼、夕、眠前に行われているが、この提言に基づき、昼1回の服薬に簡素化することで、誤薬リスクの低下と負担軽減が期待されている。なお、提言は、老年薬学会のウェブサイトで公開されている。超高齢社会を迎えるわが国では、多数の併存疾患を抱える高齢者が増加しており、施設のマンパワー不足やポリファーマシーの問題が深刻となっている。服薬簡素化はこれらの課題に対応するための1つの解決策となり得る。今後も、医療・介護・福祉の専門職が協力し、提言の実施を進めることが求められている。参考1)高齢者施設の服薬簡素化提言(老年薬学会)2)高齢者施設での服薬は「昼1回」に 負担軽減へ老年薬学会が提言(毎日新聞)3)高齢者施設での服薬は昼1回に…飲み間違いや飲み忘れ防止、職員の負担減へ老年薬学会提言(読売新聞)3.医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリストを改訂/厚労省厚生労働省は「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」を2024年度版に改訂した。これにより、サーバへのセキュリティパッチ適用など、2023年度版では参考項目としていた事項が正式なチェック項目として追加された。このチェックリストは、厚労省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づき、優先的に取り組むべきセキュリティ対策をまとめたもの。2024年度版では、サーバへのセキュリティパッチ適用、端末PCでのアクセス利用権限の設定、インシデント発生時のバックアップと復旧手順の確認などが正式なチェック項目となった。また、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定については、今後、参考資料となる手引きを作成する予定。そのほか、このチェックリストには、医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査時に使用されることが明記された。これにより、厚労省への問い合わせが多かった使用用途についての明確化が図られた。また、各チェック項目の末尾には、具体的なチェック内容を解説するマニュアルの章番号が追記されている。今回の改訂により、医療機関はセキュリティ対策の強化を図り、サイバー攻撃からの防御を一層強化することが求められる。厚労省は引き続き、医療機関のセキュリティ対策を支援し、患者情報の保護を進めていく方針。参考1)令和6年度版「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」及び「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~医療機関・事業者向け~」について(厚労省)2)サイバーセキュリティ対策チェックリスト改訂、厚労省 サーバへのセキュリティパッチ適用を正式な項目に(CB news)4.地域医療を支えるため、医学生への修学資金貸与制度の充実を提案/文科省文部科学省は、5月17日に「医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、診療参加型臨床実習の推進と充実を強調する第2次中間取りまとめ案を提示した。この中で、医師の偏在解消を図るための教育上の方策として、地域枠の医学学生に対する修学資金貸与制度の充実が、最も有効であるとする意見が出された。診療参加型臨床実習は、医学生が医師の指導監督の下で実際の医療行為を行うことで、診断・治療に関する思考力や対応力を養うもの。2021年の医師法改正により、一定基準を満たした学生が実習中に医療行為を行うことが可能となり、大学では実習の連続した配属期間を確保する取り組みが進められている。また、医師の地域偏在を解消するため、地域枠の活用が推進されている。特定診療科の範囲を選択する「診療科選定地域枠」や大学特別枠などが導入され、修学資金貸与制度を活用して地域医療への貢献を促すことが有効とされている。奈良県立医科大学の今村 知明教授は、「修学資金貸与制度の充実を求め、地域のニーズに応じた柔軟な運用が必要だ」と指摘するとともに、大学病院の役割として、教育・研究・診療の三役を担うことが強調され、国による後押しが求められている。とくに、大学病院で働く医師の待遇改善やキャリアインセンティブの提供が必要とされ、「大学病院がその役割を果たすためには、文科省や厚労省、自治体の連携が必要だ」と述べる。さらに医学研究の充実も重要な課題とされ、研究医枠の増員や研究環境の整備が求められた。若手研究者のキャリアパスを明確にし、研究を続けるモチベーションを高めるための支援が必要であると指摘されている。文科省は、今回の取りまとめを踏まえて、今後の医学教育に関する施策を進める方針。とくに、医師の地域偏在解消と医学研究の充実を図るため、大学や地域との連携を強化し、持続可能な医療提供体制の確立を目指す。参考1)第10回 今後の医学教育の在り方に関する検討会(文科省)2)第二次中間取りまとめ(案)(同)5.紅麹サプリの健康被害受け、機能性表示食品の安全性の強化を/自民党小林製薬(大阪)の「紅麹」サプリメントによる健康被害を受け、自民党は5月16日に政調、消費者問題調査会・厚生労働部会合同会議を開き、機能性表示食品の安全性を強化する提言案をまとめた。提言案では、健康被害情報の報告ルールの明確化や定期点検の義務化を求めており、安全性強化で消費者保護につなげたいとしている。自民党の消費者問題調査会と厚生労働部会の合同会議で示された提言案には、以下の内容が含まれている。健康被害情報の報告ルールの明確化:行政への報告対象や報告期限を明確にし、企業が報告義務を順守するよう求める。定期点検の義務化:事業者が食品の届け出内容を定期的に点検・自己評価し、その結果を消費者庁に報告しなければ販売できなくすることを提案。GMP認証の義務化:サプリメントの製造において、品質・衛生管理に関する指針「GMP(適正製造規範)」の認証取得を義務付ける。さらに消費者庁の専門家検討会でも、以下の点が議論されている。報告義務の強化:企業が報告の是非を判断せず、症状の重篤度に関わらず健康被害を報告することを義務付ける方向で検討されている。また、情報公開基準を明確にすることで企業の風評被害の懸念を軽減する方策も議論されている。サプリメントの特化規制:成分が濃縮されたサプリメントの安全性を食品と同じ基準で評価できないため、サプリメントに特化した規制を求める声が上がっている。自民党は、この提言案を来週にも政府に提出する予定。これにより、機能性表示食品の安全性が強化され、消費者の健康被害を防ぐ取り組みが進むことが期待される。参考1)届け出後の定期点検義務化 機能性表示食品で自民原案(東京新聞)2)自民 紅麹問題再発防止へ ルール明確化など求め提言案まとめる(NHK)3)機能性表示食品の健康被害情報報告ルールの明確化も議論 消費者庁の検討会の見直しポイント(産経新聞)6.介護保険料の地域差拡大、大阪市の介護保険料は全国最高の9,249円に/厚労省厚生労働省は、各地の自治体など全国1,573の保険者を調査。介護保険の第1号保険料の全国の市町村の動向を取りまとめ、公表した。2024~26年度にかけて65歳以上の高齢者が支払う介護保険料の全国平均は月額6,225円で、最も高いのは大阪市の9,249円、最も低いのは東京都小笠原村の3,374円だった。地域差の原因は、高齢者の割合や介護事業者の参入状況、自治体の財政状況が影響している。大阪市は単身高齢者が多く、保険料が高額な一方、小笠原村は高齢化率が低く、保険料が抑えられている。各自治体は保険料の引き上げを抑えるための対策を講じており、一例として千葉県栄町は、介護予防活動を推進し、保険料を低く抑えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2039年には65歳以上の高齢者が3,900万人を超え、介護サービスの需要が高まり、保険料の上昇が予想されている。厚労省は、所得別の負担見直しやケアプランの有料化を検討している。淑徳大学の結城 康博教授は、「抜本的な制度改革がなければ地域間の格差が広がる」と指摘し、介護保険料は2000年の制度開始時の月2,911円から2040年には9,000円程度に達すると見込まれている。介護保険料の地域差は、今後も続くと予想され、国や各自治体は対応策を講じる必要がある。参考1)全国 介護保険料マップ(NHK)2)介護保険料、月6225円 24~26年度全国平均 65歳以上、3.5%増(日経新聞)3)上昇傾向の介護保険料 目立つ地域差 サービス利用減で引き下げも(朝日新聞)4)介護保険料“格差”今後も拡大か 若い世代にも影響(FNN)【動画】5)第9期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について(厚労省)

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この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください【非専門医のための緩和ケアTips】第76回

第76回 この錠剤、飲みにくいのでつぶしてください私自身、クスリを飲むたび体感するのですが、錠剤って、大きさによっては飲みにくいですよね…。錠剤と水を口に含み、ごっくんとしたけれど、きれいに水だけを飲み込んでいたことが何度もあります。そんな体験が続くと、精神的にも負担です。緩和ケアではとくに嚥下機能の落ちている患者さんが多いので、クスリの飲みやすさは重要です。今回の質問患者さんから「先生に出してもらった痛み止め、よく効いたのですが錠剤は苦手です。つぶして出してもらえますか?」と相談されました。私としては希望に応えようと思って、粉砕で処方したところ、薬局から「この医療用麻薬はつぶせません」と連絡がありました。その時は忙しかったので、粉砕できないことだけ患者さんに説明し、納得してもらったのですが…。ご質問ありがとうございます。医療用麻薬の処方でたまに経験する「ピットフォール」(落とし穴)ですね。がんの鎮痛で処方するオキシコドンの錠剤でよく経験するケースです。オキシコドン錠は、ゆっくりと吸収されることで鎮痛効果が12時間程度持続するようにつくられています。粉砕すると想定以上のスピードで吸収されてしまうため、粉砕した処方はできません。さらに、最近では、オキシコドン錠は乱用防止のための加工がされています。錠剤の強度を上げ、粉砕することが困難な錠剤になっています。また、水に溶かそうとするとゲル状になるよう加工されています。加工の理由は、オピオイド乱用への対策です。米国を中心にオピオイド錠を粉末にして鼻腔から吸う、水に溶かして注射をするといったオピオイドによる薬物中毒問題は深刻化しており、製薬メーカーも対策をせざるを得ない状況になっています。日本では、あまりオピオイドが処方されてこなかったことや、処方や薬局での管理上の厳密さが求められるため、米国ほど大きな問題にはなっていませんが、注意は必要です。処方する側の私たちは、こうした知識を持ったうえで、患者さんの服薬問題にどのように取り組むべきでしょうか? まずは、患者さんへの指導と内服状況の確認に取り組むことが大切です。「飲みにくいクスリ」は飲まなくなります。「最近、痛みが強くなって…」といった訴えがあれば、きちんと服薬できているか、剤形の問題で服薬できないことがないかをチェックしましょう。オキシコドン錠に乱用防止加工がされる前のエピソードです。知り合いの医師が診ていた患者さんで、「オキシコドン錠をかみ砕いて飲んでいる」という方がいたそうです。その患者さんはもともと錠剤の服薬困難があり、ほかの薬剤はすべて散剤で処方されていました。オキシコドンだけが錠剤で処方されていたため、かみ砕いていたのですが、服薬後には非常に眠くなっていたそうです。本来は12時間程かけてゆっくり吸収されるはずの成分が一気に吸収されるのですから、非常に危険な状態です。処方時には、錠剤で処方することについて何らかの説明はあったのでしょうが、問題なく内服できるかといったフォローが十分でなかった可能性があります。患者さんも、あまり気に留めていなかったのかもしれません。オピオイドも散剤、貼付薬、坐薬、注射薬など、さまざまな剤形があります。患者さんごとに使い分け、正しく服薬できるように本人をはじめ、薬剤師さんにも確認するとよいでしょう。今回はオピオイド処方の隠れたピットフォールについてお伝えしました。今回のTips今回のTips粉砕できないオピオイドがあることを理解し、飲みやすさを確認しよう。

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認知症を予防する食品は?栄養、3つの小話【外来で役立つ!認知症Topics】第17回

「フレンチパラドックス」が赤ワインブームに火をつけた知人とレストラン等で食事をするとき、「ではワインでいこう」となることがある。銘柄などに詳しくない人の集まりなら、「赤か白か」程度の選択になる。このような場合、十中八九が赤で決まる。この20年近くはそうなったと思う。それ以前、筆者が20代から40歳頃にかけてはまったく逆だった。渋くて重い赤ワイン好きなどはまず例外的、ほぼ皆が甘く軽やかな味の白を選ぶのが常だった。それが1995年以降に逆転して今に続く赤ワインブームが定着する。その原因がフレンチパラドックスである。パラドックス、矛盾とは? 赤ワインで有名なフランスのボルドー地方などでは、動物性脂肪の摂取が多いのに冠状動脈疾患の発症率が少ないことを指す。加えて認知症の発症も少ないことが一流医学雑誌で報告された。そこに赤ワインが関係する可能性が指摘された。さらに白ワインに比べて赤ワインに多く含まれる抗酸化物質ポリフェノールに鍵があると考えられた。日本のマスコミでは、「みのもんた」による赤ワイン健康法のTV番組などもあって、わが国の赤ワイン人気は一気に爆発した。「まごたちわやさしい」バランスの良い地中海食さて外来で、「認知症にならない、脳に良い食品は何か?」と尋ねられることは多い。そこで筆者は、数年に1度は、認知症、予防、栄養などのキーワードでレビューを探して、読んでいる。最近の結論としては次のようになる。「TVのコマーシャルでやっているようなサプリではありません。食品の個々の栄養素とか成分でもないそうです。食材と栄養の組み合わせ、ここから相乗的に効果が生まれるようです」。つまり「まごたちわやさしい※」のようにまんべんなくバランス食を、ということだ。※「まごたちわやさしい」とは、バランスの良い食事の考え方で、取り入れたい食材の頭文字からできた言葉(ま:豆類、ご:ごま・ナッツ類、た:卵、ち:チーズ・乳製品、わ:わかめ・海藻類、や:野菜、さ:魚、し:しいたけ・キノコ類、い:いも)。そのような食事の代表は地中海食だろう。これについては、少なくとも疫学的に循環器疾患そして認知症の予防効果がある。つまり認知症ではない人における知的低下率を減少させ1)、アルツハイマー病の発症率を低下させるとレビューがなされている2)。このように疫学的に確立した食事パターンは地中海食しかない。この地中海食を患者さんに説明する際は、「動物性脂肪中心のいわば欧米食とは違う。欧米食に、魚や野菜という伝統的な和食風をアレンジ」とその特徴をまとめる。また地中海食の特徴とされる食品のうち、日本人には馴染みが薄い食品として以下を紹介している。精白されていない全粒穀物、豆類、ナッツ、そしてオリーブオイル、これらを摂取するのも良いかもしれないと説明する。なお最近では、地中海食は伝統的に孤食ではないことに注目するものもある。脳に不可欠なオメガ3不飽和脂肪酸を摂れる食品は?さて地中海食も和食も、1つのポイントが必須脂肪酸のオメガ3不飽和脂肪酸にあると思う3)。ヒト脳の60%は脂肪でできている。それだけに脂肪酸は脳の統制と機能を決定する最重要物質と考えられている。とくに必須脂肪酸は、健康維持のために必要であるにもかかわらず、体内では作れないため食事から摂取する必要があるものをいう。必須脂肪酸としては、オメガ6不飽和脂肪酸のリノール酸、オメガ3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が代表である。これらは脳の神経細胞膜の重要成分であるだけでなく、神経伝達物質を合成したり細胞膜の流動性を維持したりすることに関与している。さらに免疫機能の構成分子にも関与する。ヒト脳の成長は5、6歳頃には終了するが、必須脂肪酸のうちオメガ3不飽和脂肪酸は、その後も脳の発達に重要である。とくに食事から摂るDHA(ドコサヘキサエン酸)は網膜と大脳皮質には必要で、これがあって視力と脳の発達が可能になると考えられている。なおアルツハイマー病者では、脳の海馬、大脳皮質、小脳において必須脂肪酸が不足すると症状がさらに悪くなるという報告もある。こうした必須脂肪酸を食事から上手に摂取するなら、DHAやEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富なサンマ、サバ、マグロなど青魚が良いことが知られている。ところがオメガ3不飽和脂肪酸を含む植物油はあまりない。その例外は、シソ油、エゴマ油である。なおエゴマ油は、シソ科の植物“エゴマ”の種子を搾った油、シソ油は、シソの実を搾った油である。図. 脂肪酸の分類画像を拡大する赤ワインの認知症予防効果、現在の評価は?終わりに、赤ワインが認知症予防になるという説への現在の評価は、あまり信憑性がないとしている。酒を称賛する言葉に「酒は百薬の長」があるように、飲み方次第では赤ワインもそうだろう。そこで「赤ワインの適切な飲酒量は?」との質問には、なにかの医学雑誌で読んだTwo glasses of wine(約230mL≒日本酒1合のアルコール)とお答えしている。参考1)Sofi F, et al. Am J Clin Nutr. 2010;92:1189-1196.2)Singh B, et al. J Alzheimers Dis. 2014;39:271-282.3)Dighriri IM, et al. Cureus. 2022;14:e30091.

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心不全の退院後フォローアップ【日常診療アップグレード】第4回

心不全の退院後フォローアップ問題82歳男性。慢性心不全で外来通院中であったが、市中肺炎を契機に心不全が増悪し入院となった。ループ利尿薬の投与で症状は軽快した。明日(入院10日目)、退院の予定である。次回の外来予約を1週間後に設定した。

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