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cfDNAでHER2陽性の固形がん、T-DXdの奏効率56.5%(HERALD)/JCO

 抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、前治療歴があり代替の治療手段のない切除不能または転移を有するHER2陽性(IHC 3+)固形がんについて、米国食品医薬品局(FDA)より2024年4月に迅速承認を取得している1)。本承認は、組織検体をもとにHER2陽性(IHC 3+)が認められた患者での有効性が評価されており、リキッドバイオプシー検体でも同様の結果が得られるかは、明らかになっていなかった。そこで、血中遊離DNA(cfDNA)でERBB2(HER2)遺伝子増幅が検出された切除不能固形がん患者を対象に、医師主導治験として、国内多施設共同第II相単群試験「HERALD/EPOC1806試験」が実施された。その結果、対象患者は前治療ライン数中央値3であったが、奏効率(ORR)は56.5%と高率であった。本研究結果は、八木澤 允貴氏(いまいホームケアクリニック)らによって、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年8月1日号で報告された。 本研究は、進行消化器がん患者のリキッドバイオプシー研究「GOZILA Study」2)のスクリーニング対象患者について、cfDNAを用いてHER2遺伝子増幅がみられる患者を抽出した。cfDNAの解析にはGuardant360を用いた。なお、免疫染色によるHER2発現の評価は不要とした。cfDNAでHER2遺伝子増幅がみられた患者に対し、T-DXd(3週ごと、5.4mg/kg)を病勢増悪または許容できない毒性が認められるまで投与した。主要評価項目は、治験担当医師評価に基づくORRとした。副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)などとした。 主な結果は以下のとおり。・cfDNA検査を実施した4,734例中252例にHER2遺伝子増幅がみられた。そのうち、16がん種の62例が対象となった。前治療ライン数中央値は3であった。・13がん種で奏効が認められ、治験担当医師評価に基づくORRは56.5%(35/62例)であった。内訳は以下のとおり。 食道がん50.0%(6/12例) 大腸がん50.0%(5/10例) 唾液腺がん100%(7/7例) 子宮体がん83.3%(5/6例) 子宮頸がん40.0%(2/5例) 胆道がん25.0%(1/4例) 膵がん0%(0/4例) 卵巣がん100%(2/2例) 小腸がん100%(2/2例) 尿路上皮がん50.0%(1/2例) 胃がん(組織検体のHER2遺伝子陰性)50.0%(1/2例) 非小細胞肺がん0%(0/2例) 悪性黒色腫100%(1/1例) 乳房外パジェット病100%(1/1例) 前立腺がん100%(1/1例) 原発不明がん0%(0/1例)・治験担当医師評価に基づくPFS中央値は7.0ヵ月、DOR中央値は8.8ヵ月であった。・ベースラインのHER2遺伝子のコピー数中央値で2群に分けて解析した結果、2群間でORRに有意差はみられなかった。・2サイクル目の1日目のcfDNA検査でHER2遺伝子増幅がみられなくなった患者は、ORRが88.0%(22/25例)と高率であった。・間質性肺疾患は16例(26%)に発現したが、ほとんどが軽度であった(Grade1が14例、Grade2が1例、Grade3が1例)。

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経口コロナ治療薬シェア7割のゾコーバ、入院を37%抑制/塩野義

 塩野義製薬は7月29日の第1四半期決算説明会にて、新型コロナウイルス感染症治療薬のゾコーバ(一般名:エンシトレルビル フマル酸)について、現在流通する3剤の経口コロナ治療薬の中でシェアを拡大し、とくに2024年4月以降は重症化リスク因子を有する患者への処方が多く、7月第3週時点でシェア67.6%に達したことを明らかにした。ゾコーバの重症化リスクのある患者の入院抑制効果など、リアルワールドエビデンスが蓄積されていることについて、以下のとおり説明された。入院リスクを37%減少 本剤が日本で緊急承認された2022年11月22日~2023年7月31日の期間において、国内の18歳以上のCOVID-19来院患者16万7,310例を対象に、レセプトデータベース(JMDC)を用いた入院抑制効果について、ゾコーバ群5,177例と標準対症療法群(抗ウイルス薬治療なし)16万2,133例とを比較して、投与から1ヵ月間の入院率を検証した。本結果は、Infectious Diseases and Therapy誌2024年8月号に掲載された1)。 本試験の結果、主要評価項目である理由を問わない入院イベントに関して、ゾコーバ群は対症療法群と比較して、約37%入院リスクが減少し、有意に入院イベントを抑制した(入院リスク:ゾコーバ群:0.494% vs.対症療法群:0.785%、リスク比:0.629[95%信頼区間[CI]:0.420~0.943]、リスク差:-0.291[-0.494 ~-0.088])。 本結果について同社は、オミクロン流行下でワクチン接種済みの患者が多い環境下においても、早期に本剤を服用することにより重症化を抑制できることを強く示唆するデータが得られたと見解を述べた。症状消失に関するグローバル第III相試験 また、患者1,888例を対象に症状消失およびLong COVIDについてフォローアップしたグローバル第III相試験(SCORPIO-HR試験)の結果について、ドイツ・ミュンヘンで開催された第25回国際エイズ学会(AIDS 2024)で発表された内容の一部についても言及された。本試験では、主要評価項目を、15の症状について症状が完全に消失し2日間以上経過したことと定義し、本剤とプラセボを比較した。本試験の結果、15症状消失までの時間短縮を示したが、統計学的な有意差は認められなかった(ゾコーバ群:12.5日vs.プラセボ群13.1日、p=0.14)。 アジア圏(日本、韓国、ベトナム)における第III相試験(SCORPIO-SR試験)では、5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])について消失して1日以上経過したと定義し、本剤とプラセボを比較した。本試験の結果、ゾコーバ群:10.1日vs.プラセボ群10.9日、p=0.04となり、統計学的に有意な結果が示された。 SCORPIO-HR試験およびSCORPIO-SR試験において、同じ施設でPCRの測定をしたところ、本剤を服用することでプラセボよりも速やかにウイルス量を低下させ、症状を伴うウイルス力価のリバウンドはみられなかったという。 現在、本剤について、国内の小児を対象とした症例集積や、グローバルでの予防効果の試験、グローバルでの入院から早期復帰の試験(STRIVE試験)、国内でのLong COVIDに対する前向き試験なども進行中だ。

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デュピルマブ、11歳以下の好酸球性食道炎に有効/NEJM

 小児(1~11歳)の好酸球性食道炎患者において、デュピルマブはプラセボと比較して有意に高率な組織学的寛解をもたらし、デュピルマブの高曝露レジメンがプラセボと比較して、重要な副次エンドポイントの測定値の改善に結びついたことが示された。米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学Mirna Chehade氏らが第III相無作為化試験の結果を報告した。デュピルマブはIL-4/IL-13経路を阻害するヒトモノクローナル抗体であり、成人および思春期の好酸球性食道炎を含む、2型炎症で特徴付けられる5つの異なるアトピー性疾患で有効性が示されていた。NEJM誌2024年6月27日号掲載の報告。16週時点の組織学的寛解を主要エンドポイントに第III相試験 第III相試験はパートA~パートCの3段階で行われ、本論ではパートAとパートBの結果が報告された。試験は米国26施設とカナダ1施設で行われた。 パートAは16週の無作為化二重盲検プラセボ対照フェーズで、1~11歳のプロトンポンプ阻害薬(PPI)に不応の活動期好酸球性食道炎患者を、デュピルマブの高曝露レジメンまたは低曝露レジメン、および各レジメンの適合プラセボ群(2群)に、2対2対1対1の割合で割り付け投与した。パートBは36週の実薬投与フェーズで、パートAを完了した適格患者をパートBに組み入れ、パートAで割り付けられたレジメンに従いデュピルマブの投与を継続、パートAでプラセボに割り付けられた患者には、無作為化時の適合レジメンに従いデュピルマブを投与した。デュピルマブの各曝露レベルでは、4段階に設定した用量のいずれかをベースラインの体重に応じて投与した。盲検化を確実とするため、全患者にデュピルマブまたはプラセボを2週ごとに投与した。 主要エンドポイントは、16週時点の組織学的寛解(食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり6個以下)とした。重要な副次エンドポイントは(1)食道上皮内好酸球数の最大値が高倍率視野当たり15個未満、(2)食道上皮内好酸球数最大値のベースラインからの変化率、(3)eosinophilic esophagitis histology scoring system(EoE-HSS)のグレードスコアのベースラインからの絶対変化、(4)同ステージスコアの絶対変化、(5)2型炎症遺伝子シグネチャーのnormalized enrichment score(NES)のベースラインからの相対的変化、(6)eosinophilic esophagitis diagnostic panel(EDP)遺伝子シグネチャーのNESのベースラインからの相対的変化、(7)Eosinophilic Esophagitis Reference Score(EREFS)総スコアのベースラインからの絶対変化、(8)Pediatric Eosinophilic Esophagitis Sign/Symptom Questionnaire-Caregiver(PESQ-C)で1つ以上の好酸球性食道炎の症状を認める日数割合のベースラインからの変化の8つで、階層的に検定した。組織学的寛解率は高曝露レジメン群68%、低曝露レジメン群58%、プラセボ群3% パートAで無作為化された患者は102例であった(デュピルマブ高曝露レジメン群37例、同低曝露レジメン群31例、プラセボ群34例)。このうち、パートBでは37例(100%)が高曝露レジメンを、29例(94%)が低曝露レジメンを継続。プラセボ群はパートBでは、18例(53%)が高曝露レジメンを、14例(41%)が低曝露レジメンの投与を受けた。 パートAで、組織学的寛解は高曝露レジメン群25/37例(68%)、低曝露レジメン群18/31例(58%)、プラセボ群1/34例(3%)で認められた。高曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は65%ポイント(95%信頼区間[CI]:48~81、p<0.001)、低曝露レジメン群とプラセボ群の群間差は55%ポイント(37~73、p<0.001)であった。 高曝露レジメン群はプラセボ群と比較して、組織学的測定値(食道上皮内好酸球数の最大値、EoE-HSSグレードおよびステージスコア)、内視鏡的測定値(EREFS総スコア)およびトランスクリプトーム測定値(2型炎症およびEDP遺伝子シグネチャー)が有意に改善した。 また、すべての患者におけるベースラインから52週まで(パートB終了時)の組織学的測定値、内視鏡的測定値、トランスクリプトーム測定値の改善は、パートAでのデュピルマブの投与を受けた患者のベースラインから16週までの改善と、おおむね同程度であった。 パートAでは、デュピルマブ投与(いずれかの用量)を受けた患者がプラセボ投与を受けた患者よりも、新型コロナウイルス感染症、注射部位疼痛、頭痛の発現が、少なくとも10%ポイント以上多かった。重篤な有害事象は、パートAではデュピルマブ投与を受けた患者3例、パートBでは全体で6例に発現した。

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中年期~高齢期の血漿バイオマーカー、認知症発症との関連を解析/JAMA

 米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のYifei Lu氏らは、中年期から高齢期にかけての血漿バイオマーカーの変化とすべての認知症との関連を、米国で行われた前向きコホート試験「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験」の参加者データを用いて後ろ向き解析にて調べた。アルツハイマー病(AD)の神経病理、神経損傷、アストログリオーシスを示す血漿バイオマーカー値は加齢とともに上昇し、既知の認知症リスク因子と関連していた。また、AD特異的バイオマーカーと認知症の関連は中年期に始まり、高齢期のAD、神経損傷、アストログリオーシスの血漿バイオマーカー測定値は、すべてが認知症と関連していた。血漿バイオマーカーは、AD病理と神経変性に関する費用対効果の高い非侵襲的なスクリーニングになると大きな期待が寄せられているが、発症前に関しては十分に解明されておらず、多様な集団や生涯にわたる追加の調査が必要とされていた。JAMA誌オンライン版2024年7月28日号掲載の報告。Aβ42/Aβ40比、p-tau181、GFAPを評価 研究グループは、ARIC試験の参加者1,525例について、参加者全員および地域で暮らすサブグループにおける、血漿バイオマーカーの経時的変化および、それらとすべての認知症との関連を後ろ向き解析にて評価した。 血漿バイオマーカーは、中年期(1993~95年、平均年齢58.3歳)と高齢期(2011~13年、平均年齢76.0歳、フォローアップ:2016~19年、平均年齢80.7歳)に採取された保存検体を用いて測定。中年期のリスク因子(高血圧、糖尿病、脂質、冠動脈性心疾患[CHD]、喫煙、身体活動)を評価し、それらと血漿バイオマーカーの経時的変化との関連を評価した。また、バイオマーカーとすべての認知症発症との関連を、2011~13年に認知症を発症しておらず1993~95年および2011~13年にバイオマーカー測定を受けたサブグループ(1,339例)で評価した。 血漿バイオマーカーは、アミロイドβ(Aβ)42/Aβ40比、phosphorylated tau at threonine 181(p-tau181)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)を、Quanterix Simoaプラットフォームを用いて測定した。 すべての認知症の発症は、2012年1月1日~2019年12月31日の期間に、神経心理学的評価、半年ごとの参加者または情報提供者との接触および医療記録サーベイランスによって確認した。中年期のAD特異的バイオマーカー、高齢期認知症と長期に関連 参加者1,525例(平均年齢58.3歳[SD 5.1])のうち、914例(59.9%)が女性、394例(25.8%)が黒人であった。総計252例(16.5%)が認知症を発症した。 中年期から高齢期にかけて、Aβ42/Aβ40比の減少、p-tau181、NfLおよびGFAPの上昇が観察された。これらバイオマーカーの変化は、アポリポタンパク質Eε4(APOEε4)アレルを持つ参加者でより急速だった。 また、中年期から高齢期のバイオマーカーの変化率は、中年期に高血圧を有する参加者のほうが有さない参加者と比べてより大きかった(NfLの変化率の群間差:0.15 SD/10年など)。中年期に糖尿病を有する参加者は有さない参加者と比べて、NfL(変化率の群間差:0.11 SD/10年)、GFAP(同0.15 SD/10年)の変化が急速だった。 中年期ではAD特異的バイオマーカーのみが、高齢期認知症と長期にわたって関連していた(Aβ42/Aβ40比の1 SD低下当たりのハザード比[HR]:1.11[95%信頼区間[CI]:1.02~1.21]、p-tau181の1 SD上昇当たりのHR:1.15[95%CI:1.06~1.25])。 高齢期のすべての血漿バイオマーカーは、高齢期認知症と統計学的有意に関連しており、NfLとの関連が最も大きかった(HR:1.92、95%CI:1.72~2.14)。

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オリンピック陸上選手のパフォーマンスのピークは何歳か

 オリンピックはしばしば、国際的なスポーツの栄光を手にする一生に一度の貴重な機会だと言われるが、このことは、とりわけ陸上競技選手に当てはまるようだ。走る・跳ぶ・投げる能力を競う陸上選手のパフォーマンスのピーク年齢は27歳であることが、新たな研究により明らかになった。27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%になり、この数字は1年ごとに低下していくことも示されたという。ウォータールー大学(カナダ)データサイエンス分野のDavid Awosoga氏と同大学経済学分野のMatthew Chow氏によるこの研究の詳細は、「Significance」7月号に掲載された。 Awosoga氏は、「オリンピックは4年に1度しか開催されないため、陸上選手は、自分のパフォーマンスがピークを迎える時期に合わせて、オリンピック出場権を獲得する確率を最大化するためのトレーニング方法を慎重に検討するべきだ」と述べている。 Awosoga氏らは、World Athleticsより、1996年のアトランタオリンピックから2020年の東京オリンピックまでの7大会分の陸上競技データを入手し、各選手のキャリアアップに関するデータと組み合わせて分析した。キャリアアップとは、アスリートの競技人生における年ごとのトップパフォーマンスと定義した。分析の際には、性別、国籍、イベントの種類、オリンピックイヤーであるか否か、およびトレーニング年齢(アスリートがWorld Athletics公認の大会に参加し、記録を残した年数)を考慮した。 なお、今回の研究で陸上選手に焦点を当てた理由についてAwosoga氏は、「サッカーやテニスのような他のオリンピック競技は、オリンピック期間以外のときにも注目される大会があるが、陸上選手にとってはオリンピックが最大の舞台だからだ」と説明している。 解析の結果、過去30年間を通してオリンピックの陸上選手の平均年齢は、男女ともに一貫して26.9歳であることが明らかになった(年齢中央値は、女性27歳、男性26歳)。興味深いことに、陸上選手のパフォーマンスがピークを迎える年齢の中央値も27歳であった。また、27歳を超えると、それ以降にピークを迎える可能性は44%に過ぎず、その可能性は年を追うごとに低下していくことが示された。 その一方で、この研究では、アスリートのパフォーマンスのピークに影響を与える因子は年齢だけではないことも示されたとChow氏は説明する。同氏によると、アスリートは年齢に関係なく、次のオリンピックの出場権を争っている年により良いパフォーマンスを発揮する傾向があることが示されたという。 例えば、オリンピックに5回出場した、西インド諸島のセントクリストファー・ネイビスの選手であるキム・コリンズ(Kim Collins)は、40歳のときに、2016年リオデジャネイロオリンピックの出場権をかけた100m走で自己ベストの9秒93を記録した。Chow氏は、「本当に興味深かったことは、オリンピックイヤーであることが、アスリートのパフォーマンスの予測にも役立つことが分かったことだ」と話す。 Awosoga氏らは、彼らの分析が、アスリートが試合でベストパフォーマンスを発揮するのに役立つことを期待している。同氏は、「オリンピックイヤーや、自分の遺伝子、国籍を変えることはできないが、これらの生物学的・外的要因にうまく沿うようにトレーニング方法を修正することはできるだろう」と述べている。 一方Chow氏は、「この結果は、オリンピックを目指すことがいかに大変なことであるかを示すものでもある」と話す。同氏は、「陸上選手の競技を見ているとき、われわれは、身体能力のピークに達しているだけでなく、非常に幸運なタイミングの恩恵を受けているという、統計学的な異常さを目の当たりにしているのだ」と述べている。

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血腫洗浄が再手術の率を下げる効果があるといえる(解説:高梨成彦氏)

 慢性硬膜下血腫に対する手術後は、おおむね10%程度の症例において再手術が必要になることが知られている。再手術を減らすために洗浄とドレナージを行うことが一般的で、さらに血腫腔を酸素や炭酸ガスで置換する方法などが報告されている。ドレナージチューブを留置することの有効性を示したRCT は報告されているが、洗浄自体の意義について検証したのが本研究である。結果としては無洗浄群で再手術が多い傾向が認められた。また、無洗浄群で手術時間が4分間程度短縮したものの他の合併症は差がなかった。再手術を防ぐためには洗浄を行うべきであるといえ、経験則にも沿う結果である。  考察において興味深いことは、本研究の再手術率が同じ北欧で行われた洗浄液の温度に関するSIC!研究と比較して約2倍と高い理由について、6週間後のCT検査を必須としたことが再手術を促した可能性があると述べられていることである。本疾患は発症が緩徐で自然消失することも多く、再手術=再発とはいえないところが研究の難しさにつながっているといえる。

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8月7日 鼻の日【今日は何の日?】

【8月7日 鼻の日】〔由来〕「は(8)な(7)」の語呂合わせから、鼻の病気を減らすことを目的に、1961年に日本耳鼻咽喉科学会が制定。同会では、この日に全国各地で専門医の講演会や無料相談会などを行っている。関連コンテンツ耳鼻科の手技 耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング【一般内科医が知っておきたい他科の基本処置】舌下免疫療法を長続きさせるコツは?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】外傷の処置(5)鼻出血【一目でわかる診療ビフォーアフター】鼻血が出たときの症状チェック【患者説明用スライド】小児の急性副鼻腔炎、鼻汁の色で判断せず細菌検査を/JAMA

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めまい(BPPV)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第17回

今回は施設内でめまいを訴える患者さんを診察した経験を紹介します。めまいを診る機会は多くありますが、どのようなアプローチが必要なのか復習しましょう。内容が多いので2回に分け、前半では良性発作性頭位めまい症(BPPV)を紹介します。<症例>82歳、女性主訴めまい施設入所中の患者。朝ベッドから起き上がるとめまいを訴え、立てなくなった。昼ごろまで様子をみたが改善しないため臨時往診を依頼。アレルギーなし服用薬高血圧の薬、認知症の薬既往歴高血圧、高脂血症、認知症ベッド上で横になっている。血圧:142/82、脈拍:82、体温:36.2℃さて、皆さんならどのようにアプローチしますか? まず重要なのは、患者さんの訴えが医学的な「めまい」であるかどうかを判断することです。なぜなら、一般的には「立ちくらみ」もめまいと表現されることがあるからです。初めにそのめまいが「中枢性/末梢性めまい」か「前失神」かを区別して、調べるべき内容を検討します。この患者さんは認知症がありましたが、自身の症状については正確に訴えており、起き上がらなくてもめまいを感じているようです。この情報から、前失神ではないと判断できます。(1)STANDINGアルゴリズムSTANDINGアルゴリズムを使ってめまいの種類を鑑別していきます。STANDINGアルゴリズムは救急医でも簡易にできる中枢性めまいを否定するアルゴリズムで、陰性的中率は99%(95%信頼区間:97~100)です。図1を見てください1)。図1 STANDINGアルゴリズム画像を拡大するまず初めにするのはNystagmus(眼振の出方)です。何を鑑別しようとしているかといいますと、BPPVとそれ以外のめまいです。BPPVはまったく発症様式が異なり、特定の向きの頭位変換で潜時(5~6秒)を経てめまいが出現し、1分程度持続して止まる、というのが特徴です。私の経験では、一定の体位をとったまま動きたがらず、動かなければめまいがない、というのが特徴と考えます。今回の患者さんは、頭を動かすとめまいが生じ、動かなければ症状がないとのことで、BPPVが強く疑われました。(2)BPPVの鑑別BPPVは三半規管(図2)に耳石が落下して生じるといわれています。三半規管は前半規管、後半規管、外側半規管に分かれ、前半規管は垂直に立っているため耳石は落下しにくいです。図2 三半規管画像を拡大するまれに「頭を振ったらめまいが強くなる」ということでBPPVと診断している医師がいますがそれは違います。めまいがある人が頭を振ると気持ち悪くなるのは普通のことです。BPPVのめまいの特徴は、「特定の頭位変換で数秒した(潜時)後にめまいが出現し、1分以内に消失する」です。めまいが生じた後に吐き気が残存しますが、それは別です。BPPVは外側半規管型と後半規管型に分かれます。頻度としては後半規管型のBPPVの頻度が多いといわれています。私は簡便性から、外側半規管型を否定してから後半規管型のBPPVの診断に移っています(理由は後述)。<外側半規管型BPPV>外側半規管型BPPVは、耳石が外側半規管に落下することにより症状が生じます。頭を左右に動かすと症状が誘発されます。患側の耳側に頭を向けると、患側方向に強い眼振が出現し、反対側を向けると健側に弱い眼振が出現します。端的に言うと、左右に頭を振るとどちらでも床向きの眼振が誘発され、眼振が強いほうが患側です(図3)。この試験をSupine roll test といいます。図3 Supine roll test(右外側半規管型BPPVの眼振の向きと強度) 注:頭だけ振る画像を拡大する私が先に外側半規管型を否定するのは、BPPVの患者はたいてい横になっているので、そのまま仰向けになってもらえればSupine roll testがすぐに実行できるからです。外側半規管型と診断されればBBQ Roll Maneuver (Lampert method)を実施します(図4)2)。図4 BBQ Roll Maneuver画像を拡大するBBQ roll maneuverは臥位になり、1.患側に頭を傾ける、2.健側に頭を傾ける、3.腹ばいになる、4.患側に側臥位になる、5.仰向けになる、を行います。多くの文献でそれぞれの頭位を30~90秒としていますが、私は耳石がしっかりと確実に流れるようにするため、2分ごとにしています。しかし、この患者さんにSupine roll testを実施しましたが、誘発されませんでした。よって外側半規管型BPPVは否定的と判断しました。<後半規管型BPPV>外側半規管型BPPVでなければ、後半規管型BPPVの可能性が高くなります。後半規管型BPPVはDix Hallpike法で診断します(図5)3)。右(または左)45度頸部捻転位から右(または左)45度懸垂頭位に頭位変換し、めまいが誘発されるかをみます。誘発された側が患側です。図5 Dix Hallpike法画像を拡大する患側でめまいが誘発され、床向きの回旋成分がある眼振が出現します。うまく誘発されたらEpley法を実施します(図6)。図6 Epley法画像を拡大する手順としては、1.座位をとり、患側に頭を向ける、2.そのまま後ろへ倒れ、頭を下垂した状態にする、3.健側に頭を傾ける、4.健側向きに側臥位になる(この際頭は床に向いてもらう)、5.座る、となります。Epley法を実施する際に私が工夫していることが2つあります。1つ目は、手順1と2がDix Hallpike法とまったく同じですので、私はDix Hallpike法で明らかに誘発された場合、そのままEpley法に移行して2から開始しています。2つ目は、4の側臥位になった際、頭位を真横にするとかなりの頻度で嘔吐する/しそうになるため、必ず床を向くように意識しています。誤嚥もしにくくなります。この患者さんは、Dix Hallpike法で右側の陽性となりました。そのままEpley法を実施したところ、普通に歩けるようになりました。そして、認知症のため先ほどまで歩けなかったことを忘れ、ご飯を食べに行ってしまいました。しかし、施設職員からは感動され「BPPVをしっかり勉強します」というお言葉をいただきました。以上がBPPVになります。次回はBPPV以外のめまいで、STANDINGアルゴリズムを用いて中枢性と末梢性を鑑別する方法を紹介します。<クプラ結石型>あまり聞きなれない名称かもしれませんが、日本のめまいガイドラインにも記載されており、三半規管の膨大部にあるクプラと呼ばれるゼラチン状の部位で、頭の傾きを感知しています。そこに耳石が付着して頭位変換によりクプラが変位し、めまいが誘発されるといわれています4)。特徴としては持続時間が1分以上と長く、先述したEpley法やBBQ maneuverで治癒しにくいことが挙げられます。英語ではcupulolithiasisと表現されますが、PubMedで検索しても英語の論文ではほとんど触れられておらず、エビデンスは限られているようです。しかし、実際に診療していると、BPPVの病歴だけれど妙に持続時間が長く、治療でも改善しないことがあります。その際はクプラ結石型を疑いましょう。クプラ結石型に対してはエビデンスのある治療はないですが、Gufoni法が効くのではという報告があります5)。<HINTS method>中枢性めまいと末梢性めまいの鑑別にHINTS methodという方法があるのですが、時折BPPVに使用している医師を目撃します6)。前提としてHINTs methodはBPPVには使用できません。HINTsのNである、「方向交代性眼振ありで中枢性の疑い」ですが、BPPVは方向交代性の眼振が特徴です。その点を踏まえてもSTANDINGアルゴリズムの最初にBPPVかどうかを見分けるのは非常に重要と考えます。 1)Vanni S, et al. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2014;34:419-426.2)Hwu V, et al. Cureus. 2022;14:e24288. 3)You P, et al. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2018;4:116-123.4)日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編. Equilibrium Research. 2009;68:218-225. 5)武田 憲. めまいのリハビリテーション 耳石置換法と平衡訓練. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2017;120:9-14.6)Gerlier C, et al. Acad Emerg Med. 2021;28:1368-1378.

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寄り道編(6)マクロライドの苦みと飲み合わせ【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第55回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事62巻6号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(6)マクロライドの苦みと飲み合わせQuestionアジスロマイシンの散剤をオレンジジュースやスポーツ飲料と一緒に内服すると苦くなるのはなぜ?

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第224回 徳田虎雄氏死去、地域医療にもたらしたインパクトとその功績を考える(前編)

徳洲会クラブ所属の岡 慎之介選手が体操男子個人総合で金メダルこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さん、オリンピック観ていますか? 私は今回は野球がないので、今ひとつ興が乗りませんが、それでも柔道(判定を巡っていろいろ物議を醸しましたが)、体操、陸上を中心に深夜、テレビ観戦をしていました。体操の男子個人総合で、初出場の岡 慎之介選手が追い上げる中国の張博恒選手を振り切って優勝、金メダルを獲得したのは観ていてなかなかスリリングでした。その岡選手の所属は徳洲会体操クラブです。神奈川県に本拠を置く体操の実業団で、1998年、アトランタ五輪後に日本体操協会会長に就任した徳田 虎雄・徳洲会前理事長が、体操ニッポンの復活を目指して創部したとのことです。岡選手は岡山の中学を卒業後、親元を離れて同クラブに所属、その技を磨いてきたそうです。8月3日付の日本経済新聞には同クラブ監督の米田 功氏が寄稿しており、そこで岡選手について「派手さはなく、淡々と演技するのでわかりにくいかもしれないが、体操をやっている誰もが『あんな演技をしたい』と思う演技ができる。指導者からすると育てようと思ってもなかなか育てられない選手だ。つまりは、天賦の才に恵まれた逸材である」と書いています。それを証明するかのように、岡選手は8月5日、種目別の鉄棒でも金メダルを獲得しました(平行棒は銅)。それにしても、体操金メダルの陰に、あの徳田氏がいたとは少々驚きです。ということで今回はその徳田氏について書いてみたいと思います。医療界の“ヒール”そのものだった徳田氏20年以上ALSを患い、神奈川県の徳洲会湘南鎌倉病院で療養を続けていた徳洲会グループの創設者で元衆院議員の徳田 虎雄氏が、7月10日に86歳で亡くなりました。私が記者になった1980年代、徳洲会は全国各地に病院をつくろうと、拡大路線の真っ只中でした。「保徳戦争」と言われた鹿児島県奄美群島選挙区での激しい選挙戦にはじまる、全国の病院職員を動員した選挙運動(ただし、医師の動員はなかったと聞いています)も有名でした。新たに病院をつくられる地域の医師会は当然どこも猛反対で、当時、徳田氏は日本の医療界の“ヒール”そのものだったと言えるでしょう。2013年の徳洲会事件でグループの経営徳田家の手を離れる「生命だけは平等だ」をスローガンに、40年近くにわたって「年中無休・24時間オープン」の医療を全国展開してきた徳洲会に大きな転機が訪れたのは2013年でした。虎雄氏の次男、徳田 毅氏の前年の衆院選での公職選挙法違反が発覚、親族や幹部が相次ぎ逮捕・起訴されました(その後、全員有罪判決)。いわゆる徳洲会事件です。当時、徳洲会をはじめとする複数の関連法人の理事長だった徳田氏は辞任に追い込まれ、グループは解体の危機に陥りました。なお、徳田氏自身も選挙運動を把握、指揮したと裁判で認定されましたが、東京地検は2002年から患っているALSの病状を踏まえ、不起訴処分としています。徳洲会グループの経営は次男の公職選挙法違反以降、徳田家の手を離れ、理事長も徳田家以外の人物(徳洲会グループの院長経験者)が務めるようになりました。グループは政治とも決別、徳田家関連の多数のMS(メディカル・サービス)法人との関係も絶ったと言われています。一方、70を超える徳洲会グループの病院は、「生命だけは平等だ」の理念はそのままに、今も独自の地域医療を展開しています。徳田氏がつくった徳洲会とは何だったのでしょうか?徳田氏は日本の医療界にどんなインパクトを与えたのでしょうか――。徳洲会の歴史は徳田氏と医師会、厚労省との“戦い”の歴史徳田氏は奄美群島・徳之島の出身で、苦学して大阪大学医学部を卒業しました。幼い末弟が十分な医療を受けられず急死したことが医師を志した動機と言われています。1973年、34歳で大阪府松原市に徳田病院(現在の松原徳洲会病院)を開設して以降、「生命だけは平等だ」をスローガンに全国で病院を次々と開設していきました。1978年には日経メディカルのインタビューで「年中無休、24時間オープンの病院を全国展開する」と語っています。その後の徳洲会の歴史は、徳田氏と医師会、厚労省との“戦い”の歴史でもありました。この頃はまだ、社会保険病院や済生会病院、日赤病院などの公的病院を除き、都道府県をまたがって、しかも関西から関東へというように、エリアを越えて複数の病院をチェーン展開する民間医療機関はほとんどありませんでした。そのため、徳洲会が進出しようとする地元医師会との軋轢は相当なものでした。そして1985年の医療法の第一次改正を迎えます。このときの医療法改正はいわゆる病床規制が第一の目的でしたが、同時に徳洲会のチェーン展開を狙い撃ちにする内容も盛り込まれました。医療法人の自己資本率20%以上、医療法人の他県進出は厚生省指導課管轄…、などです。徳洲会はそこで新たなビジネススキームを編み出します。医療法人徳洲会としてではなく、厚生省管轄とならない個人立での開設に方針転換したのです。大隅鹿屋病院(鹿児島県)、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)、庄内余目病院(山形県)などは当初、個人立で開設されています(その後医療法人化、徳洲会傘下に)。こうした手法で、80年代後半から90年代にかけ、徳洲会グループは一気に病院数を増やしました。国会議員になったことで90年代後半以降、病院開設のピッチが上がる徳田氏が政界を目指したのは、一連の国や医師会との戦いがその大きな動機と言われています。国会議員になれば徳洲会の全国展開はスムーズにいくと判断した徳田氏は、1983年と86年の2回の落選後、90年に衆議院議員に初当選しました。鹿児島県奄美群島選挙区で争った保岡 興治氏との一連の選挙戦を、マスコミは「保徳戦争」と呼びました。“実弾”(現金)が乱れ飛び、両陣営とも多数の選挙違反による逮捕者を出しました。こうした徳洲会の全国の病院職員を動員しての組織ぐるみの選挙活動はこのころから続き、最終的に次男の選挙での公職選挙法違反を招くことになります。国会議員になったことで、規模拡大はスムーズ進みはじめたようです。90年代後半以降、開設のピッチは上がり、年3~5件程度のペースで病院開設は続きました。しかし、急拡大ゆえの歪みも顕在化、慢性的な医師・看護師不足や、事務系幹部の人材不足などが同グループを苦しめました。自らがALSになったこともあり、2000年代半ばころからは政治の世界は次男に、病院経営を長男に引き継ぐべく準備を進めていた段階で、毅氏の2012年の衆院選での公職選挙法違反が発覚しました。解任した徳洲会の事務総長と徳田ファミリーとの内紛をきっかけに選挙支援関係の内部文書が流出し、東京地検特捜部が動いたと言われています。オーナー経営者が否応なしに直面する永遠の命題、「承継」の失敗徳洲会の破綻は、組織の大小にかかわらず、オーナー経営者が否応なしに直面する永遠の命題である「承継」の失敗と言えるでしょう。親がどれほど“帝王学”を授けても、創業者のハングリー精神や、医療に対する「理念」を100%伝えることはできません。また、親がつくった悪しき慣習(徳洲会の場合は選挙支援システム)を完全否定できる息子(後継者)はいないでしょう。結果として、政治の世界でも医療の世界でも、2代目のボンボンたちは父親のようにはなれず、その遺産を引き継ぐこともできませんでした。しかし一方で、徳洲会が半世紀にわたって育んできた離島をはじめとする僻地医療や、救急をはじめとする地域医療での功績は決して小さくありません。次回は、私自身の取材経験も踏まえながら、その功績について考えてみたいと思います(この項続く)。

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忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?/感染症学会・化学療法学会

 2024年8月2日の政府の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たりの報告数は14.6人で、昨夏ピーク時(第9波)の20.5人に迫る勢いで12週連続増加し、とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり2.16人だった。週当たりの新規入院患者数は4,579人で、すでに第9波および第10波のピークを超えている1)。 大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて発表した。日本ではオミクロン株以前の感染を抑制 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。新型コロナの社会的影響 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている2)。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された3)。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない4)。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない5)。 感染症専門医は2023年12月時点で1,764人であり、次の新興感染症を感染症専門医だけでカバーすることは難しい。また、岡山大学の調査によると、コロナパンデミックを経て、6.1%の医学生が「過去に感染症専門医に興味を持ったことがあるが、調査時点では興味がない」と回答し、3.7%の医学生が「コロナ禍を経て感染症専門医になりたいと思うようになった」、11.0%の医学生が「むしろ感染症専門医にはなりたくない」と回答したという結果となった6)。医療従事者のバーンアウト対策 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている7)。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった8)。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。■参考1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023

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最新のアトピー性皮膚炎治療薬レブリキズマブ、有効性はデュピルマブと同等か

 カナダ・トロント大学のAaron M. Drucker氏らは、アトピー性皮膚炎を効能・効果として新たに承認されたレブリキズマブについて、リビングシステマティックレビューおよびメタ解析により、その他の免疫療法と有効性・安全性を比較した。その結果、成人のアトピー性皮膚炎の短期治療の有効性は、デュピルマブと同等であった。レブリキズマブは臨床試験でプラセボと比較されていたが、実薬対照比較はされていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。 研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Embase、Latin American and Caribbean Health Science Informationデータベース、Global Resource of Eczema Trialsデータベースおよび試験レジストリを用いて、2023年11月3日までに登録された情報を検索した。中等症~重症のアトピー性皮膚炎に対する全身免疫療法を8週間以上評価した無作為化比較試験を適格とし、タイトル、アブストラクト、全文をスクリーニングした。データを抽出し、ランダム効果モデルを用いたベイジアンネットワークメタ解析を実施。薬剤間の差は、臨床的意義のある最小変化量を用いて評価した。エビデンスの確実性は、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムを用いて評価した。最新の解析は2023年12月13日~2024年2月20日に実施した。 有効性アウトカムは、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Patient Oriented Eczema Measure(POEM)、Dermatology Life Quality Index(DLQI)、Peak Pruritus Numeric Rating Scales(PP-NRS)とし、平均群間差(MD)と95%信用区間(CrI)を求めて比較した。安全性アウトカムは、重篤な有害事象、有害事象による試験薬の中止とした。その他のアウトカムは、EASI-50、EASI-75、EASI-90達成率、Investigator Global Assessment(IGA)スコアに基づく奏効率(IGAスコアが2点以上低下し、1点以下を達成)などとし、これらの二値変数のアウトカムはオッズ比と95%CrIを求めて比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、98の適格試験の対象患者2万4,707例が組み込まれた。・最長16週間の治療を受けた成人アトピー性皮膚炎患者において、レブリキズマブはデュピルマブと比較して、EASI(MD:-2.0、95%CrI:-4.5~0.3、エビデンスの確実性:中)、POEM(-1.1、-2.5~0.2、中)、DLQI(-0.2、-2.1~1.6、中)、PP-NRS(0.1、-0.4~0.6、高)のいずれも臨床的に意義のある差はみられなかった。・有効性に関する二値変数のアウトカムのオッズは、デュピルマブがレブリキズマブと比較して高い傾向にあった。・その他の承認済みの全身療法の相対的有効性は、今回のリビングシステマティックレビュー以前のアップデートで示されたものと同様であり、高用量ウパダシチニブおよびアブロシチニブが、数値的に最も高い相対的有効性を示した。・安全性アウトカムは、イベント発現率が低く、有用な比較が制限された。

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日本人高齢者の難聴と認知症との関係

 日本では、高齢者の補聴器装着率が他の先進国より低いといわれている。このボトルネックを特定し、対策を講じることは重要である。広島市立広島市民病院の福増 一郎氏らは、難聴と認知症との関係についての認知向上が、聴力検査や補聴器装着に意義があるかを調査した。Auris Nasus Larynx誌2024年8月号の報告。 総合病院を受診した65歳以上の参加者を対象にアンケート調査を実施し、次の背景因子を調査した。(1)最近の聴力検査歴(2)耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を希望するか(3)難聴と認知症との関係についての認知状況(4)補聴器の装着について 主な結果は以下のとおり。・参加対象患者は517例(平均年齢:78.06±6.97歳)、地域高齢者人口の2.4%を占めた。・5年以内の聴力検査歴は、難聴と認知症との関係についての認知と有意な関連が認められた(調整済みオッズ比[aOR]:2.36、95%信頼区間[CI]:1.49〜3.72)。・耳鼻咽喉科の診療または聴力検査の希望は、難聴と認知症との関係についての認知と有意な関連が認められた(aOR:1.70、95%CI:1.02〜2.85)。・難聴と認知症との関連について認知していた人は、39.3%であった。・有意な関連因子は、女性(OR:2.50、95%CI:1.64〜3.81)、対人関係の趣味(OR:1.66、95%CI:1.11〜2.49)であった。・補聴器装着の有意な背景因子は、高齢(OR:6.95、95%CI:1.90〜25.40)、自己申告による重度の聴覚障害(OR:5.49、95%CI:2.55〜11.80)、独居(OR:2.63、95%CI:1.18〜5.89)であった。・難聴と認知症との関連についての認知は、有意な因子ではなかった。 著者らは「難聴と認知症との関連についての認知を高めることは、自己申告による難聴に対する補聴器装着と関連が認められなかったが、耳鼻咽喉科への受診や聴力検査の希望とは関連している可能性がある。そのため、高齢者に対する聴力スクリーニングなどの手順も不可欠であろう」としている。

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NSAIDの“有害な処方”、とくに注意すべき患者群とは/BMJ

 イングランドでは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の処方は5つの高リスク集団において、回避可能な害(avoidable harm)と医療費増加の継続的な原因であり、とくに慢性疾患を有する集団や経口抗凝固薬を使用している集団において急性イベント誘発の原因となっていることが、英国・マンチェスター大学のElizabeth M. Camacho氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2024年7月24日号で報告された。高リスク集団を対象とするイングランドのコホート研究 研究グループは、イングランドの高リスク集団における問題のある経口NSAID処方に関して、発生率、有害性、英国国民保健サービス(NHS)の費用の定量化を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]の助成を受けた)。 対象は、経口NSAIDを処方された5つの高リスク集団(胃腸保護薬を使用していない高齢者[65歳以上]、経口抗凝固薬の併用者、心不全患者、慢性腎臓病患者、消化性潰瘍の既往歴を有する者)であった。有害な処方によりQALYが失われ、医療費が増加 NSAID処方が有害でなかった場合と比較して、有害な処方により質調整生存年(QALY)の損失と費用の増加を認めた。1例当たりのQALY損失の平均値は、「消化性潰瘍の既往歴」の0.01(95%信用区間[CrI]:0.01~0.02)から「慢性腎障害患者」の0.11(0.04~0.19)までの範囲であった。また、医療費増加の平均値は、「心不全」の14ポンド(=17ユーロ、18ドル)(95%CrI:-71~98、有意差なし)から「経口抗凝固薬の併用者」の1,097ポンド(236~2,542、有意差あり)までの範囲だった。 また、1,000例当たりの有害な処方の発生は、「消化性潰瘍の既往歴を有する者」の0.11から「胃腸保護薬を使用していない高齢者」の1.70までの範囲であった。害を及ぼす可能性が最も高いのは「経口抗凝固薬の併用者」 全体として、有害な処方の頻度が最も高かったのは「胃腸保護薬を使用していない高齢者」であり、1,929(95%CrI:1,416~2,452)QALYが失われ、246万ポンド(95%CrI:65万~468万)の費用を要した。また、有害な処方の影響が最も大きかったのは「経口抗凝固薬の併用者」で、2,143(95%CrI:894~4,073)QALYが失われ、費用は2,541万ポンド(95%CrI:525万~6,001万)であった。 10年間で総計6,335(95%CrI:4,471~8,658)QALYが失われ、イングランドのNHSは3,143万ポンド(95%CrI:928万~6,711万)の費用を要したと推定された。 著者は、「イングランドでは、高リスク集団において問題のあるNSAID処方が蔓延しており、65歳以上の高齢者では、年間10万7,000例が胃腸保護薬なしにNSAIDを処方されている。NSAIDは、経口抗凝固薬を使用している者に処方された場合に、最も害を及ぼす可能性がある」としている。

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排便回数は健康状態に関連

 健康な人において、1日の排便回数(bowel movement frequency;BMF)は、健康に大きな影響を及ぼしていることが、米シアトルにあるシステム生物学研究所のJohannes Johnson-Martinez氏らの研究で明らかになった。BMFにより、腸内細菌叢の属、血中代謝物、および生活習慣因子に違いが認められ、便秘と下痢は、それぞれ腎臓や肝臓の機能に悪影響を及ぼし得る可能性が示唆されたという。この研究の詳細は、「Cell Reports Medicine」に7月16日掲載された。 Johnson-Martinez氏らはこの研究で、1,425人の健康な成人の医療と生活習慣に関するデータを収集して分析した。対象者はBMFに基づき、1)便秘群(週1~2回)、2)低頻度群(週3~6回)、3)高頻度群(1日1~3回)、4)下痢群の4群に分けられた。その上で、BMFと人口統計学的属性、遺伝、腸内細菌、血中代謝物、血漿中の化学物質などの因子との関連を検討した。 その結果、年齢、性別、およびBMIはBMFと有意に関連し、特に、若者、女性、BMIが低い人ではBMFが低い傾向にあることが示された。Johnson-Martinez氏は、BMFが腸のエコシステムの機能に大きな影響を与えることが過去の研究でも示唆されていると指摘。「便が腸内に長くとどまると、腸内細菌が食物繊維を使い尽くして有益な短鎖脂肪酸を作れなくなる。そうなると、腸内細菌はタンパク質の発酵を開始し、それに伴いいくつかの毒素が生成され、それが血流に入り込む可能性がある」と説明する。 実際に、本研究では腸内細菌叢の組成がBMFの特徴を示しており、1日のBMFが1~2回の人では健康と関連付けられることの多い食物繊維を発酵させる腸内細菌が豊富であったのに対し、便秘を報告する人ではタンパク質の発酵に関連する細菌、下痢を報告する人では上部消化管に関連する細菌が豊富に存在する傾向が認められた。また、予想されていたことではあるが、食物繊維の多い食事を摂取し、水をたくさん飲み、定期的に運動している人は、BMFが1〜2回である傾向が強いことも示された。 同様に、いくつかの血液代謝物や血漿中の化学物質はBMFと有意な関連を示した。このことは、腸の健康と慢性疾患リスクの潜在的な関連を示唆している。具体的には、便秘を報告する人の血液中には腎臓にダメージを与えることが知られている、p-クレゾール硫酸やインドキシル硫酸などの腸内細菌由来のタンパク質発酵の副産物が豊富な一方で、下痢を報告した人の血液中では肝臓のダメージと関連する化学物質が増加していることが確認された。さらに精神的な健康状態もBMFに影響を及ぼし得ることも示された。 共同研究者でシステム生物学研究所の准教授であるSean Gibbons氏は、「活動期の疾患がある患者では、慢性的な便秘が神経変性疾患や慢性腎臓病の進行と関連していることは以前から指摘されていた。しかし、排便の異常が慢性疾患や臓器障害の早期段階からの促進因子であるかどうか、あるいはこうした疾患のある患者において後ろ向きに確認された関連が単なる偶然によるものなのかについては、これまで明確になっていなかった」と説明。その上で「今回われわれは、全般的に健康な集団において、とりわけ便秘は、何らかの疾患が診断される前の段階で、臓器障害を引き起こすことが知られている腸内細菌由来の毒素の血中濃度に関連していることを明らかにした」としている。 Gibbons氏は、「全体として、今回の研究ではBMFがいかに全ての身体システムに影響を及ぼし得るか、またBMFの異常がいかに慢性疾患発症の重要なリスク因子となり得るかが示された」と説明。さらに同氏は「これらの知見は心身の健康を最も良い状態に保つためのBMFの管理に向けた戦略に役立つとともに、健康な人の集団における戦略にも有用だと考えられる」と述べている。

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がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割にライフスタイルが関係

 がんによる死亡の半数近くとがん症例の4割に、喫煙や運動不足などのライフスタイルが関係していることが、新たな研究で明らかになった。特に喫煙はがんの最大のリスク因子であり、がんによる死亡の約30%、がん発症の約20%は喫煙に起因することが示されたという。米国がん協会(ACS)がん格差研究のシニア・サイエンティフィック・ディレクターを務めるFarhad Islami氏らによるこの研究結果は、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に7月11日掲載された。 Islami氏らは、米国における2019年のがんの罹患率とがんによる死亡率に関する全国データとそのリスク因子を分析し、ライフスタイルのリスク因子に起因するがんの症例数と死亡数を推定した。その結果、2019年に30歳以上の米国成人に発生した、メラノーマを除くがん症例の40.0%(178万1,649例中71万3,340例)とがんによる死亡の44.0%(59万5,737例中26万2,120例)は、是正可能なライフスタイルのリスク因子に起因することが示された。 それらのリスク因子の中でも、がん罹患とがんによる死亡への寄与度が特に高かったのは喫煙であり、あらゆるがん症例の19.3%、がんによる死亡の28.5%は喫煙に起因すると推測された。この結果についてIslami氏は、「米国での喫煙に起因する肺がん死亡者数は、過去数十年の間に喫煙者が大幅に減少したことを考えると憂慮すべき数だ」と懸念を示す。同氏は、「この知見は、各州で包括的なたばこ規制政策を実施して禁煙を促進することの重要性を強調するものでもある。さらに、治療がより効果的になる早期段階で肺がんを見つけるために、肺がん検診の受診者数を増やす努力を強化することも重要だ」と付け加えている。 そのほかの因子でがん罹患とがんによる死亡への寄与度が高かったのは、過体重(同順で7.6%、7.3%)、飲酒(5.4%、4.1%)、紫外線曝露(4.6%、1.3%)、運動不足(3.1%、2.5%)であった。Islami氏は、「特に、若年層で体重過多と関連するがん種が増加していることを考えると、健康的な体重と食生活を維持するための介入により、米国内のがん罹患者数とがんによる死亡者数を大幅に減少させることができるはずだ」との考えを示している。 さらに本研究では、がん種によってはライフスタイルの選択によりがんの発症を完全に、もしくは大幅に回避できる可能性があることも判明した。例えば、子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンの接種により全て回避できる可能性がうかがわれた。論文の上席著者であるACSのサーベイランスおよび健康の公平性に関する科学のシニアバイスプレジデントを務めるAhmedin Jemal氏は、「同様に、肝臓がん予防も、その原因となるB型肝炎ウイルスに対するワクチンの接種が効果的だ。B型肝炎ウイルスは、肝臓がん以外にも肛門性器や口腔咽頭のがんの原因にもなる」と説明する。その上で同氏は、「推奨されている時期にワクチン接種を受けることで、これらのウイルスに関連する慢性感染、ひいてはがんのリスクを大幅に減らすことができる」と付け加えている。

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一部の糖尿病用薬の処方が認知症リスクの低さと関連

 メトホルミンやSGLT2阻害薬(SGLT2i)と呼ばれる糖尿病用薬の処方が、認知症やアルツハイマー病(AD)のリスクの低さと関連していることが報告された。慶煕大学(韓国)のYeo Jin Choi氏らの研究によるもので、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に5月3日掲載された。 2型糖尿病は多くの国で重大な健康問題となっており、世界中で約5億3000万人が罹患していて、その罹患によって認知機能障害や認知症のリスクが50%以上上昇する可能性が示されている。認知症もまた、高齢化に伴い世界的な健康問題となっており、患者数はすでに4000万人以上に上るとされている。 2型糖尿病がADのリスクを押し上げるメカニズムについて、インスリン抵抗性に伴う慢性炎症、酸化ストレス、血管障害の関与などが考えられており、一部の糖尿病用薬はインスリン抵抗性改善作用などを介してADリスクを低下させる可能性がある。ただし、糖尿病用薬のタイプによって認知症やADのリスクが異なるのかという点は、十分明らかにはなっていない。Choi氏らは、比較されている薬剤の組み合わせが異なる過去の複数の研究データを統合して、多くの薬剤の影響を比較可能とするベイジアンネットワークメタ解析により、この点を検討した。 文献データベースであるCENTRAL、MEDLINE(PubMed)、Scopus、Embaseのスタートから2024年3月までに収載された論文を対象とする検索により、16件の研究報告を抽出。それらの研究参加者数は合計156万5,245人で、7種類の治療レジメン(メトホルミン、SU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬〔α-GI〕、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2i、非薬物治療)が含まれていた。16件中7件は米国、3件はカナダで行われ、そのほかは英国、台湾、中国、香港、韓国などで行われていた。 第一選択薬として用いられていた薬剤のうち最も多くの研究で比較されていたのはSU薬とメトホルミンであり、後者は前者に比べて認知症リスクが有意に低かった(リスク比〔RR〕0.53〔95%信頼区間0.44~0.64〕)。第二選択薬として用いられていた薬剤について、SU薬を基準として比較すると、SGLT2iのみ有意なリスク低下が認められた(RR0.39〔同0.16~0.88〕)。 第一・第二選択薬を区別せずにSU薬を基準として解析すると、メトホルミン(RR0.53〔0.44~0.63〕)とSGLT2i(RR0.41〔0.25~0.66〕)、および非薬物治療(RR0.73〔0.56~0.97〕)でリスクが低く、α-GIはリスクが高かった(RR2.4〔1.2~5〕)。ADリスクについても対SU薬で、メトホルミンとSGLT2iのみ、リスク低下が示された。なお、年齢を75歳未満/以上に二分した層別解析では、SGLT2iによる認知症リスク低下は75歳以上でのみ有意だった。 著者らは、「メトホルミンとSGLT2iが用いられている糖尿病患者は、他の糖尿病用薬が用いられている場合に比較し認知症リスクが低いことが示された。ただし、患者固有の要因がこの関係に影響を及ぼしている可能性がある。例えばメトホルミンは一般的に、合併症が少ない非高齢期に処方が開始される傾向がある。これらの理由により、本研究の結果の解釈は慎重に行われる必要があり、また将来の大規模な臨床試験が必要とされる」と述べている。

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ニルマトレルビル・リトナビルには曝露後予防効果がない(解説:栗原宏氏)

Strong point・実臨床に即した患者層を対象とし、十分なサンプル数を有する二重盲検試験 2024年現在も定期的にCOVID-19の感染拡大が繰り返されている。家庭内や職場等で感染者が出た場合、無症状者に対する有効な予防策が問題となる。重症化リスクを持つ患者の家庭、医療機関や療養施設では大きな関心があると思われる。とくに医療機関や療養施設での患者やスタッフのクラスターの発生は、当該施設だけでなく地域全体にも大きな負担となりうる。 現在、ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッド)5日分の費用は、3割負担でも約3万円とかなり高額である。十分な予防効果があれば高額費用を踏まえてでも使用する意義はある可能性があり、曝露後予防投与の効果に対する本研究は大きな意義があると思われる。 本研究は2021年9月~2022年4月のオミクロンおよびデルタ株が優勢だった時期に実施された。プラセボ群(898例)、5日間投与群(921例)、10日間投与群(917例)での比較が行われている。重症化リスクとしてBMI≧25、喫煙、高血圧、年齢61歳以上、糖尿病、慢性肺疾患が含まれ、重症化リスクのある患者の割合は全体の7割強だった。 関心が高い主な調査結果は以下のとおり。(1)14日目までに症候性感染が確認された割合は、5日間投与群2.6%、10日間投与群2.4%、プラセボ群3.9%で有意差なし(2)重症化リスク群での感染率は、5日間投与群2.0%、10日間投与群1.9%、プラセボ群3.5%で有意差なし(3)無症候性の感染率は、5日間投与群2.0%、10日間投与群1.9%、プラセボ群3.1%で有意差なし(4)デルタ株、オミクロン株間での効果の差なし 本研究の結果からは、ニルマトレルビル・リトナビル投与期間の長さ、重症化リスクの有無、無症候性感染の減少、ウイルス株の種類いずれの面からも予防効果がないことが示された。 著者はニルマトレルビル・リトナビルの独特の味による盲検化への影響、家庭内の他の家族の影響などを本研究の限界として挙げているが、これを踏まえても結果に大きな変化があるとは考えにくく、この結果からはニルマトレルビル・リトナビルが曝露後予防の選択肢に挙がることはないと思われる。

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英語で「腰椎穿刺」は?【1分★医療英語】第142回

第142回 英語で「腰椎穿刺」は?《例文》医師AHow did the spinal tap go?(腰椎穿刺はうまくいきましたか?)医師BI was able to do it on the first attempt.(1回目のトライで成功しました)《解説》今回は「腰椎穿刺」という医療単語を解説します。「腰椎穿刺」を医療用語では“lumbar puncture”といいます。日本でも腰椎穿刺を「ルンバール」とカタカナで表現することがあるかと思いますが、これはドイツ語由来の言葉です。ほかにも日本で当たり前に使われている医療のカタカナ用語は、ドイツ語由来のものが多くあります。たとえば「マーゲンチューブ(胃管)」という用語も、元になっているのはドイツ語です。英語では“G-tube”(Gチューブ)と呼ばれ、こちらは“Gastric”(胃の)の“G”から来ています。英語話者の患者さんの場合、単に“lumbar”(ルンバール)と言ってもまったく伝わりませんので注意が必要です。“lumbar puncture”まで言えばだいたいは伝わりますが、今度はやや仰々しい印象になってしまいます。そこで、医療者間での会話や患者さんに説明するときなどによく使われるのが、“spinal tap”という表現です。“tap”は名詞でいろいろな意味がありますが、そのうちの1つに“the procedure of removing fluid”(液体を取り除く手技)いう意味があります。これに脊椎を意味する“spinal”を付けることで「腰椎穿刺」という意味になるわけです。“spinal tap”はカジュアルな表現で、口語で使われることが大半です。カルテなどに記載する際には“lumbar puncture”のほうが適切ですので、その使い分けも含めて覚えておきましょう。講師紹介

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