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コーヒーや紅茶の摂取と認知症リスク~メタ解析

 コーヒー、紅茶、カフェイン摂取と認知症およびアルツハイマー病リスクとの関連性は、限定的で相反する結果が示されている。中国・汕頭大学のFengjuan Li氏らは、これらの関連性を明らかにするため、潜在的な用量反応関係を定量化することを目指し、メタ解析を実施した。Food & Function誌2024年8月12日号の報告。 2024年6月11日までの公表されたコホート研究を、PubMed、EMBASE、Web of Scienceより検索した。ランダム効果モデルを用いて、プールされた相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。用量反応関係の評価には、制限付き3次スプラインを用いた。バイアスリスクの評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment Development and Evaluation)ツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・38件のコホート研究より、合計75万1,824人(認知症:1万3,017人、アルツハイマー病:1万7,341人)の対象者が抽出された。・認知症の場合、紅茶、コーヒー、カフェイン摂取の最低群と比較した最高群のプールされたRRは、次のとおりであった。【紅茶】RR:0.84、95%CI:0.74~0.96、6件、確実性:低い【コーヒー】RR:0.95、95%CI:0.87~1.02、9件、確実性:低い【カフェイン】RR:0.94、95%CI:0.70~1.25、5件、確実性:低い・同様に、アルツハイマー病のプールされたRRは、次のとおりであった。【紅茶】RR:0.93、95%CI:0.87~1.00、6件、確実性:低い【コーヒー】RR:1.01、95%CI:0.90~1.12、10件、確実性:低い【カフェイン】RR:1.34、95%CI:1.04~1.74、2件、確実性:非常に低い・用量反応分析では、コーヒー摂取量と認知症リスクとの間に、非線形関係が認められ(Poverall=0.04、Pnonlinear=0.01)、1日当たり1~3杯のコーヒー摂取と認知症リスクとの保護的な関連が示唆された。・紅茶の摂取量と認知症リスクとの間には、線形関係が認められ、紅茶の摂取量が1日1杯増加するごとに認知症リスクの有意な低下が認められた(RR:0.96、95%CI:0.94~0.99、Poverall=0.01、Pnonlinear=0.68)。 著者らは「紅茶の摂取量増加は、認知症およびアルツハイマー病リスクの低下と関連しており、コーヒーでは非線形の関連が認められた。これは、認知症予防に関する公衆衛生の推奨事項を裏付けている」とまとめている。

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臨床意思決定支援システム導入で、プライマリケアでの降圧治療が改善/BMJ

 中国のプライマリケアでは、通常治療と比較して臨床意思決定支援システム(clinical decision support system:CDSS)の導入により、ガイドラインに沿った適切な降圧治療の実践が改善され、結果として血圧の緩やかな低下をもたらしたことから、CDSSは安全かつ効率的に高血圧に対するよりよい治療を提供するための有望なアプローチであることが、中国・National Clinical Research Centre for Cardiovascular DiseasesのJiali Song氏らLIGHT Collaborative Groupが実施した「LIGHT試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年7月23日号で報告された。中国の94プライマリケア施設でのクラスター無作為化試験 LIGHT試験は、中国の4つの都市部地域の94施設で実施した実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2019年8月~2021年に患者を登録した(Chinese Academy of Medical Sciences innovation fund for medical scienceなどの助成を受けた)。 94のプライマリケア施設のうち、46施設をCDSSを受ける群に、48施設を通常治療を受ける群(対照)に無作為に割り付けた。CDSS群では、電子健康記録(EHR)に基づき、降圧薬の開始、漸増、切り換えについて特定のガイドラインに準拠したレジメンを患者に推奨し、通常治療群では同じEHRを用いるが、CDSSを使用せずに通常治療を行った。 対象は、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬のうち0~2種類のクラスの降圧薬を使用し、収縮期血圧<180mmHg、拡張期血圧<110mmHgの高血圧患者であった。 主要アウトカムは、高血圧関連の受診のうちガイドラインに準拠した適切な治療が行われた割合とした。適切な治療が行われた受診の割合が15.2%高い 1万2,137例を登録した。CDSS群が5,755例(総受診回数2万3,113回)、通常治療群は6,382例(2万7,868回)であった。全体の平均年齢は61(SD 13)歳、42.5%が女性だった。平均収縮期血圧は134.1(SD 14.8)mmHgで、92.3%が少なくとも1種類のクラスの降圧薬を使用していた。 追跡期間中央値11.6ヵ月の時点で、適切な治療が行われた受診の割合は、通常治療群が62.2%(1万7,328/2万7,868回)であったのに対し、CDSS群は77.8%(1万7,975/2万3,113回)と有意に優れた(絶対群間差:15.2%ポイント[95%信頼区間[CI]:10.7~19.8、p<0.001]、オッズ比:2.17[95%CI:1.75~2.69、p<0.001])。<140/90mmHg達成割合も良好な傾向 最終受診時の収縮期血圧は、通常治療群がベースラインから0.3mmHg上昇したのに比べ、CDSS群は1.5mmHg低下し、その差は-1.6mmHg(95%CI:-2.7~-0.5)とCDSS群で有意に良好であった(p=0.006)。また、血圧コントロール率(最終受診時の<140/90mmHgの達成割合)は、CDSS群が69.0%(3,415/4,952回)、通常治療群は64.6%(3,778/5,845回)であり、群間差は4.4%ポイント(95%CI:-0.7~9.5、p=0.07)だった。 患者報告による降圧薬治療関連の有害事象はまれであり、発現頻度は両群間で同程度であった。 著者は、「CDSSは、高血圧に対する質の高い治療へのアクセスと公平性を改善するための、低コストで効率的、かつ拡張性に優れ、持続可能な手段として機能する可能性がある」と述べ、「高血圧の管理にCDSSを用いる戦略は、とくに中国のような心血管疾患の負担が大きく、医療資源に制約のある地域にとって、質の高い高血圧治療を効率的かつ安全に提供する有望なアプローチになると考えられる」としている。

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医師の患者と目線を合わせたコミュニケーションは患者満足度を向上させる

 医師といえば威厳に満ちた印象かもしれないが、新たなレビュー研究によると、患者は、あまり威圧感を感じさせない医師に対しての方が安心感を抱きやすいようだ。医師が、患者と目線を合わせるためにベッドサイドに座ったりしゃがんだりして診断やケアについて話すことで、患者の信頼感や満足度が向上する可能性のあることが明らかになった。米ミシガン大学医学部の Nathan Houchens氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に7月17日掲載された。Houchens氏は、「この研究により、医師が座ることの重要性に対する認識と、医師のそのような態度を患者が評価しているということが広まることを期待している」と話している。 この研究では、論文データベースから抽出した、入院患者と対話する際の医師の姿勢に関する14件の研究結果の分析が行われた。14件のうちの6件はランダム化比較試験、4件は準実験的研究、残る4件は観察研究だった。 その結果、医師の姿勢に関する患者の好みを報告していた4件の研究のうちの1件では、座っている医師と話す方が良いと考えている患者の割合は50.6%に上ったのに対し、立っている医師と話す方が良いと考えている患者の割合は17.3%にとどまることが報告されていた。また、白人と黒人/ヒスパニックの患者を対象にした研究でも、医師と話をする際に、医師が立っているよりも座っている方が良いと答えた患者の割合は、それぞれ60%、58%と半数を超えていた。 別の研究では、患者と一緒に座っている医療従事者は、立っている医療従事者よりも好印象を与えることが報告されていた。例えば、勤務開始時に看護師が患者のベッドサイドに3~5分間座るという実践を3年間実施することで、患者と看護師間のコミュニケーションに関する評価のスコアが大幅に上昇することが示されていた。同様に、座って患者とコミュニケーションを取る医師に対しては、「担当医は自分の話を注意深く聞き、分かりやすく説明してくれる」という設問に対して「常に当てはまる」と評価する患者が多かった。 研究グループは、「患者は、臨床医と話す際には医師が自分と同じレベルに立ってくれることを期待し、またそれを望んでいるものと考えられる。コミュニケーションを取る際に医師が患者に目線の高さを合わせることは、ヒエラルキーを均等にするための方法の一つだ」と述べている。 さらに研究グループは、「このような力の共有は、入院時のようなストレスと緊急性の高い時期に、患者にとって特に重要になるだろう」と推測する。しかし、残念なことに、患者とのコミュニケーションを改善するためのこのシンプルな方法でも、医療従事者にとっては実践が難しい場合もあるようだ。研究グループの説明によると、多くの研究で、医師が患者との同席を定められていても、必ずしもそれが守られているわけではなく、特に、病室に専用の座席がない場合にはその傾向が顕著であることが示されているのだという。 研究グループは、医師の姿勢が患者の信頼感に与える影響についての理解を深めるためには、さらなる研究が必要であると述べている。なお、最近開始されたミシガン大学の研究では、病院を患者の治癒にとってより有益な環境とするための要因の一つとして医師の姿勢に着目し、研究を進めている。この研究では、医師が患者のベッドサイドに座ること、患者を診察室へ温かく迎え入れること、会話中に患者の優先事項や背景について質問することが奨励されている。研究グループは、入院期間、再入院、患者の満足度などに違いがあるかどうかを調べる予定であるという。

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新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

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糖尿病黄斑浮腫へのSGLT2阻害薬使用で注射回数減

 糖尿病黄斑浮腫患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、ステロイド薬のトリアムシノロンアセトニド(TA)注射頻度の減少と関連しており、非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性があるとの研究結果が発表された。君津中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科の石橋亮一氏と千葉大学眼科、糖尿病・代謝・内分泌内科、人工知能(AI)医学による研究チームによる研究であり、「Journal of Diabetes Investigation」に6月14日掲載された。 増殖糖尿病網膜症による失明は、近年減少傾向ではあるが、糖尿病黄斑浮腫は、中高年の社会生活の質を低下させる重要な視力障害の原因となっている。糖尿病黄斑浮腫の第一選択薬は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射だが、眼球への頻回の注射と、高額な医療費が患者の負担となり、また奏功しない患者の存在も次第に明らかとなり、ステロイドテノン嚢下注射(STTA)なども選択される。ただし、TA投与も侵襲的な局所注射療法であり、眼圧上昇などの特有の副作用がある。 一方、2型糖尿病などに広く用いられている経口薬のSGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫への治療効果が報告されている。著者らの過去の研究では、抗VEGF薬投与歴のある糖尿病黄斑浮腫患者において、SGLT2阻害薬の使用が抗VEGF薬の投与頻度の減少と関連することを明らかにした。 著者らは今回の研究では、糖尿病黄斑浮腫へのTA投与に着目し、SGLT2阻害薬の有効性を評価するため、日本の保険請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を行った。糖尿病黄斑浮腫を合併する糖尿病患者を対象とし、他の眼疾患(加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管など)への抗VEGF薬投与歴のある患者などは除外した。2014年以降のSGLT2阻害薬または他の糖尿病治療薬の使用開始日を指標日とし、指標日以降のTAのテノン嚢下または硝子体への投与頻度などを解析した。 傾向スコアマッチングを行い、SGLT2阻害薬使用群1,206人(平均年齢54±9歳、男性63%)と非使用群1,206人(同54±10歳、61%)が選択された。平均追跡期間はSGLT2阻害薬使用群が2.3±1.5年(2,727人年)、非使用群が3.4±2.1年(4,141人年)だった。観察開始時点で糖尿病関連眼疾患を合併していた患者は、SGLT2阻害薬使用群で852人(71%)、非使用群で858人(71%)、抗VEGF薬投与歴のある患者は同順に46人(3.8%)、15人(1.2%)、TA投与歴のある患者は55人(4.6%)、56人(4.6%)だった。 TAの投与頻度は、SGLT2阻害薬使用群で1,000人年当たり63.8回、非使用群で同94.9回だった。生存時間解析を行ったところ、SGLT2阻害薬は、初回のTA投与(ハザード比0.66、95%信頼区間0.50~0.87)、2回目のTA投与(同0.53、0.35~0.80)、3回目のTA投与(同0.44、0.25~0.80)が必要となるリスクをそれぞれ有意に低下させることが明らかとなった。さらに、さまざまな臨床背景によりサブグループ解析を行った結果、SGLT2阻害薬によるTAの投与頻度の減少効果は一貫して認められた。また硝子体手術の頻度も初回は2群間で差はなかったものの、2回目で有意に減少していた(同0.51、0.29~0.91)。 以上の結果から著者らは、「SGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫に対する新たな非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性がある」と結論付けている。SGLT2阻害薬の効果の基礎となるメカニズムとしては、局所代謝の改善、虚血の改善、浮腫の軽減などが考えられると説明した上で、SGLT2阻害薬の併用は糖尿病黄斑浮腫の発症予防などの報告もされていることから、より早期の糖尿病黄斑浮腫でより有効な可能性を指摘し、今後さらなる研究が必要だとしている。

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ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。 ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。 そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。 ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。 PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。 今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。

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最近増加している好酸球性食道炎に生物学的製剤は有効か?(解説:上村直実氏)

 好酸球性消化管疾患は、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸の消化管のいずれかに好酸球が浸潤して炎症を引き起こすアレルギー性疾患の総称であるが、確定診断が難しいことから比較的まれな疾患で厚生労働省の指定難病として告示されている。胸焼け、腹痛、下痢といったさまざまな消化器症状を引き起こすが、一般的には好酸球性食道炎と胃から大腸までのいずれかもしくは複数の部位に炎症の主座を有する好酸球性胃腸炎に大別されているが、最近の診療現場では好酸球性食道炎が増加している。つかえ感や胸焼けを慢性的に自覚する患者に対して行われる上部消化管内視鏡検査で、本疾患に特徴的な内視鏡所見である縦走溝や輪状溝および白苔を認めた際に行う生検組織を用いた組織学的検査により確定診断されるケースが多いが、健康診断や人間ドックなどで受けた内視鏡検査の際に偶然発見される無症状の症例も増加している。本疾患が気管支喘息などのアレルギー性疾患の合併率が高いことも、留意しておくべきである。 わが国における好酸球性食道炎に対する治療は、保険適用になっていないプロトンポンプ阻害薬やステロイド吸入薬の内服が使用される場合が多いが、それでも症状が改善しない場合は、全身性ステロイドの内服や原因として疑われる食材を除去する食事療法が行われている。以上の一般的治療でも症状が難治性の場合、海外では生物学的製剤の開発が進みつつある。難治性のアトピー性皮膚炎や気管支喘息および鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬であるインターロイキンIL-4/IL-13のシグナル伝達を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であるデュピルマブが、好酸球性食道炎に対しても承認されている。すなわち、2022年12月22日号のNEJM誌に掲載された国際共同試験の結果において、12歳以上の好酸球性食道炎患者を対象としたデュピルマブ週1回皮下投与は、組織学的寛解率を改善すると共に嚥下障害症状を軽減することが明らかとなり、さらに11歳以下の小児を対象とした第III相無作為化試験において組織学的所見の改善を認めた結果が、2024年6月27日号のNEJM誌に掲載されると同時に米国などで承認されている。 今回、好酸球を減少させる抗IL-5受容体αモノクローナル抗体であるベンラリズマブの有用性と安全性を検証した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MESSINA試験」の結果も、2024年6月27日号のNEJM誌で報告された。試験の結果、好酸球性食道炎に対し、ベンラリズマブはプラセボと比較して組織学的寛解率が有意に高かったものの、嚥下障害の症状に関しては有意な改善は認められなかった。以前の報告から、ベンラリズマブは血液、骨髄、肺、胃、食道組織における好酸球のほぼ完全な減少をもたらす薬剤であり、好酸球性食道炎の治療薬としても期待されたが、浸潤好酸球の減少が症状の改善につながらなかった結果から、今後、好酸球浸潤と症状発現の機序が残された課題と思われる。 現在、国内においてPPIや生物学的製剤も含めて好酸球性食道炎に対して保険適用となっている薬剤は皆無であるが、今後、増加傾向のあるアレルギー疾患である好酸球性食道炎の新たな知見に注目しておく必要があると思われた。

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第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

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アルツハイマー病、生存期間・悪化速度・入院/入所までの期間は?【外来で役立つ!認知症Topics】第20回

アルツハイマー病(AD)者に関わる臨床医なら、自分の治療は本当にうまくいっているのかと、時に心配になるのではなかろうか? 少なくとも筆者はそうである。たとえば「どんどん進行している」とか「一向に良くならないばかりか悪化した」などの訴えがあると、「むむっ!」と口元がゆがむ。ご家族は、医療者が思うような認知機能テストやADLなど数値化できるものの変化でなく、暴言・暴力、幻覚や妄想、衝動性、BPSDなど出れば、ひどく悪化したと思いがちだ。だから、その訴えと医師側の評価とが乖離することは稀でない。とはいえ、何が臨床経過の客観的な指標であり、それぞれの指標はどの程度の率で変化するかを知っていることは、認知症治療者にとっての素養かもしれない。そこで成書やレビューなどに当たってみた。結果として、生存期間、認知機能の悪化速度、そして入院・入所までの期間が3大ポイントと考えた。認知症と生存期間認知症性疾患全体の生命予後のメタアナリシス1)によれば、認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。認知症全体の平均では、発症年齢が68.1±7.0歳で、診断された年齢は72.7±5.9歳。そして、初発から死亡まで7.3±2.3年で、診断から死亡まで4.8±2.0年との由。ADでは、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年とされる。注目すべきは、いわゆる4大認知症性疾患の中で、ADの生命予後が一番良いことだ。もっともメタアナリシスの対象は、私が対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。それはさておき、ADの診断がついた患者さんやその家族から、余命は何年か?の質問を筆者が受けたなら、以上のメタアナリシスの結果を参考にして4~8年程度と答える。MMSEやADAS-cogで認知症の進行速度を評価認知機能の評価尺度として、ミニメンタルステート(MMSE:30点満点)が最もよく研究されている。ある教科書2)によると、年間の点数変化は1.8から4.2と幅が大きい。その理由は、観察開始時の重症度がどうだったかによる。つまり開始時に軽度なら点数変化は小さく、重度なら大きい。最近の研究で、MMSE、ADAS-cogについて大人数(開始時769例)のMCI者を対象にした報告を読んだ3)。開始時のMMSE得点は平均で27.3±1.9であった。これが3年後には、対象が473例になり、そのMMSE得点は25.3±4.8になった。3年で300例ものドロップアウトがあるが、以上の結果を分析して、MMSEについて低下が小さい群では年間2~3点の低下、中程度低下群では年間6~7点としている。この結果は従来の報告をほぼ支持すると思われる。次にADAS-Cogが注目される。このオリジナル版は11項目により、総合的にADの認知機能を評価する70点満点の尺度であり、問題なしが0点、最重度が70点である。従来のAD治療薬の治験においては、一番よく用いられてきた。ADAS-Cogが公表された頃の中等度のADを対象にした研究によれば、本尺度の年間変化は平均8点前後とまとまっている。なお上記したMCI者を対象にしてMMSE、ADAS-cogを詳細に検討した研究3)では、ADAS-Cogの研究開始時の平均得点は14.1±8.8である。3年の追跡結果から、ADAS-Cogについて、小変化群で年間2点の増加、中程度の群で年間3~4点の増加としている。はじめはゆっくり、途中で加速、再びゆっくり以上より、MMSEとADAS-Cogの成績推移では、当初ADが軽度なら両者における得点変化も少ないが、進行すれば大きくなるとまとめられる。これに関して2点の追記が欠かせない。まずこれらの経時的な変化の仕方(形状)は直線的なものではない。図に示すようなシグモイド、すなわち当初ゆっくりと、途中から直線的に加速し、末期は再度ゆっくりと変化する形状と考えられている。次に臨床経過を考えるとき、Rapid Declinerと言われる悪化速度の速いAD患者の一群が存在することは以前から注目されてきた。そのような患者を捉えるうえで、たとえばMMSEが半年で3点(年間6点)以上の低下をしていくことと提案したものがある。このような進行の予測因子を知ることは、臨床家が患者・家族にアドバイスするうえで重要である2)。まず教育年数が高いと進行が速いと考えられている。次に幻覚や妄想など神経精神医学的な症状があると進行が速くなるとする意見が多い。もっとも、こうした症状自体ではなく症状に対して処方される抗精神薬等が問題ではないかという意見がある。一方で、発症年齢が若いほど進行も速いと考えられがちだが、これは確立していない。性別も確立したものではない。アポリポ蛋白E4(APOE4)があるとAD発症のリスクが高くなり、発症年齢も早まることは有名だが、進行予測の要因としては確立していない。また合併症の脳血管障害も確立していない。なお錐体外路徴候も以前は検討されたが、今日ではレビー小体型認知症(DLB)の疾患概念が浸透してADと鑑別がかなり正確になった。それだけに従来の知見はADとDLBの進行の差異を論じていたのかもしれない。入院・入所までの期間は?入所予測因子について80の報告をレビューしたものによれば、施設入所を予測する因子として、患者要因では認知機能の重篤度、日常生活動作の自立と依存の度合い、BPSD、そしてうつ病が重要であった4)。介護者要因として、情緒的ストレスの高さが指摘されている。系統的な報告ではないが、失禁、焦燥、歩行困難、徘徊と過活動そして夜間の不穏などが、介護者が述べる入所の決定要因として最も多いと述べた報告があった。この意見は臨床の場でわかりやすく、筆者は大いに頷く。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021 Aug;2(8): e479-e488.2)Fleisher AS, Corey-Bloom J. The natural history of Alzheimer’s disease. In Ames D, Burns A, O’Brien J. Dementia 4th ed. Boca Raton:CRC Press;2010.p.405-416.3)Lansdall CJ, et al. Establishing Clinically Meaningful Change on Outcome Assessments Frequently Used in Trials of Mild Cognitive Impairment Due to Alzheimer's Disease. J Prev Alzheimers Dis. 2023;10:9-18.4)Gaugler JE, et al. Predictors of nursing home admission for persons with dementia. Med Care. 2009;47:191-198.

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急性期の血液凝固異常の検査【日常診療アップグレード】第11回

急性期の血液凝固異常の検査問題33歳男性。昨日から左下肢が急に腫れて痛みがある。既往歴や薬剤歴は特記すべき事項なし。外傷や手術の既往もない。母親は45歳の時に肺塞栓症と診断されている。バイタルサインに異常はないが、左下肢全体が腫脹している。下肢エコー検査を行い、左大腿静脈に血栓があることを確認した。抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテイン抗体)を調べた。プロテインC、プロテインS、ATIIIは測定しなかった。

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事例006 「B001-3 生活習慣病管理料」の疑義解釈【斬らレセプト シーズン4】

解説前回は「B001-3 生活習慣病管理料」(以下「管理料」)の算定の流れをお伝えしました。今回は、算定にあたり気を付けなければならない疑義解釈などをお届けします。今後の算定の際にご参照ください。1)「主病」とはの定義が「管理料」に設定されていませんが、B000 特定疾患療養管理料の留意事項(9)を準用すると解釈されました。特定疾患療養管理料算定対象の傷病名(胃炎など)を含む複数の傷病名を主病とした場合は、いずれかの主病1つに該当する管理料などを算定します。その選定根拠と指導内容などの診療録への記載は必須です。2)「管理料(I)」、「管理料(II)」を算定した同月別日に他の疾患の診療を行った場合、他の疾患にかかる指導料や検査料などは算定できます(疑義解釈 1-問136、137)。ただし、同月に重複算定が認められていない指導料などは算定できません。3)診療ガイドラインを参照して治療にあたることが必要ですが、製薬会社など発行の診療ガイドラインを盛り込んだ「患者さん向け資材」の活用ができます(調剤報酬)。4)「管理料(II)注6情報通信機器」を用いて行った場合、電子的な署名が必須とされました(疑義解釈 その1-問140)。遠隔診療を望まれる患者がいる場合、2回目以降の計画書には自書を省略してもよいとされています。初回管理料算定にかかる自書の署名まで対面で行い、その後から情報通信機器を使用した管理に移行することも可能です。5)200床未満の医療機関において「管理料(I)」などを算定できる高血圧症を主病とする場合には、「高血圧治療補助アプリ適正使用指針」を参照して「特定保険医療材料227 高血圧症治療補助アプリ」を使用した管理ができます(疑義解釈 その1 材料 問1)。

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脂肪性肝疾患の日本語病名が決定/日本消化器病学会・日本肝臓学会

 日本消化器病学会と日本肝臓学会は8月22日、NAFLD/ NASHに変わる新たな分類法での日本語病名を公表した。<日本語病名>・Steatotic Liver Disease(SLD):脂肪性肝疾患・Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease(MASLD):代謝機能障害関連脂肪性肝疾患・Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis(MASH):代謝機能障害関連脂肪肝炎・Alcohol Associated (Related) Liver Disease(ALD):アルコール関連肝疾患・MetALD:代謝機能障害アルコール関連肝疾患・Cryptogenic Steatotic Liver Disease:成因不明脂肪性肝疾患・Specific Aetiology Steatotic Liver Disease:特定成因脂肪性肝疾患 2023年6月24日に欧州肝臓学会が米国肝臓病学会、ラテンアメリカ肝疾患研究協会と合同で、病名によるスティグマ(偏見・差別)を解消する目的でNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)や NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の病名と分類法を変更することを発表1)。これを受け、日本消化器病学会と日本肝臓学会が賛同し今回の変更に至った。病名変更自体は同年9月29日に両学会のホームページで発表していたが、適切な日本語病名の決定のために、日本消化器病学会のNAFLD/NASH診療ガイドライン作成委員会と日本肝臓学会の企画広報委員会が合同で議論を続けていた。 ただし、MASLD、MetALD、ALDの診断に際して利用する心血管イベントのリスク因子基準およびアルコール摂取量に関しては、本邦におけるメタボリックシンドロームないしアルコール性肝障害の基準とは異なる部分があるという。その整合性についてNAFLD/NASH診療ガイドライン作成委員会などが検討を継続していくため、現段階で分類のための診断基準は明らかにされていない。

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昏睡・植物状態の患者、25%はfMRIまたはEEGで脳活動あり/NEJM

 昏睡、植物状態または最小意識状態マイナスの患者において、約4例に1例は言葉による指示に対するfMRIまたは脳波(EEG)上の活動、すなわち認知と運動の解離(cognitive motor dissociation:CMD)が認められたという。米国・Spaulding Rehabilitation HospitalのYelena G. Bodien氏らが国際共同前向きコホート研究の結果を報告した。一方、意識障害を有するが言葉による指示に対して観察可能な反応があった患者において、CMDが認められたのは約3例に1例であった。脳損傷により指示に反応しない患者が認知課題を行い、fMRIやEEGで検出される場合がある。CMDとして知られるこの現象については、これまで意識障害患者の大規模コホートにおいて体系的な研究はなされていなかった。NEJM誌2024年8月15日号掲載の報告。言葉による指示に対する脳活動をfMRIならびにEEGで評価 研究グループは、6施設が参加するResearch Electronic Data Capture(REDCap)データベースを用いて、2006~23年における意識障害を有する18歳以上の成人478例の臨床、行動、task-based fMRIおよびEEGのデータを収集した。 解析対象は、少なくとも1回以上Coma Recovery Scale-Revised(CRS-R)で評価され、かつCRS-R評価の前後7日以内にtask-based fMRIまたはEEGで言葉による指示(たとえば、「テニスをすることを想像する」、「手を開いたり閉じたりすることを想像する」、「手を開いたり閉じたりする」)に対する反応の評価を受けた患者とした。 対象患者を、CRS-Rに基づき、言葉による指示に対して観察可能な反応がなかった患者(すなわち、昏睡、植物状態、最小意識状態マイナス)と、反応があった患者に分け、言葉による指示に対するtask-based fMRIまたはEEGの反応を評価した。言葉による指示に対する観察可能な反応がなかった患者のうち25%はCMDを認める データが収集された478例中、CRS-Rスコアあるいはtask-based fMRIまたはEEGのデータが得られなかった125例が除外され、解析対象は353例となった。fMRIまたはEEGのいずれかのみで評価された患者が231例(65%)、fMRIとEEGの両方が実施された患者が122例(35%)であった。患者背景は、年齢中央値37.9歳、脳損傷からCRS-R評価までの期間の中央値は7.9ヵ月(受傷後28日以内にCRS-R評価を受けた患者の割合は25%)、病因の50%は脳外傷であった。 CRS-Rに基づき昏睡、植物状態または最小意識状態マイナスと診断された患者は241例で、このうち60例(25%)において、言葉による指示に対して観察可能な反応はなかったにもかかわらずtask-based fMRIまたはEEGに対する反応、すなわちCMDが検出された。60例のうち11例はfMRIのみ、13例はEEGのみ、36例は両方で評価された。 CMDは、年齢が若いこと、受傷からの時間が長いこと、脳外傷が病因であることと関連していた。 対照的に、課題に基づくfMRIまたはEEGでの反応は、言語による命令に対して観察可能な反応を示した参加者112例中43例(38%)にみられた。

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心筋梗塞既往の糖尿病患者へのキレーション療法、有効性は?/JAMA

 50歳以上の心筋梗塞既往の糖尿病患者において、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)キレーション療法はプラセボと比較し、血中鉛濃度が有意に低下したが、心血管イベントは減少しなかった。米国・マウントサイナイ医療センターのGervasio A. Lamas氏らが、米国とカナダの88施設で実施した「Trial to Assess Chelation Therapy 2:TACT2試験」の結果を報告した。2013年には、心筋梗塞既往患者1,708例を対象とした「TACT試験」で、EDTAキレーション療法により心血管イベントが18%有意に減少したことが報告されていた。JAMA誌オンライン版2024年8月14日号掲載の報告。主要エンドポイントは全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、不安定狭心症による入院の複合 研究グループは、登録の少なくとも6週間前に心筋梗塞の既往がある50歳以上の糖尿病患者を、2×2要因デザイン法を用いて、EDTAキレーション療法群とプラセボ点滴静注群(いずれも週1回3時間の点滴静注を計40回)、または高用量マルチビタミン・ミネラル経口投与群とプラセボ経口投与群(1日2回60ヵ月間経口投与)に無作為に割り付けた。本論文ではキレーション療法群とプラセボ点滴静注群の比較について報告されている。 EDTAキレーション溶液は、推定クレアチニンクリアランスに基づきEDTA-二ナトリウム最大3g、ならびにアスコルビン酸、塩化マグネシウム、プロカイン塩酸塩、未分画ヘパリン、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、パントテン酸、チアミン、ピリドキシンおよび注射用水で構成された。 主要エンドポイントは、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、不安定狭心症による入院の複合であった。 2016年10月27日~2021年12月31日に、1,000例がキレーション療法群(499例)またはプラセボ群(501例)に無作為に割り付けられた。最終追跡調査日は2023年6月30日であった。追跡期間4年の主要エンドポイント発生、キレーション療法群35.6% vs.プラセボ群35.7% 解析対象は、少なくとも1回試験薬の投与を受けた959例(キレーション療法群483例、プラセボ群476例)で、年齢中央値67歳(四分位範囲:60~72)、女性27%、白人78%、黒人10%、ヒスパニック20%であった。 追跡期間中央値48ヵ月において、主要エンドポイントはキレーション療法群で172例(35.6%)、プラセボ群で170例(35.7%)に発生した(補正後ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.76~1.16、p=0.53)。Kaplan-Meier法による主要エンドポイントの推定5年累積発生率は、キレーション療法群45.8%(95%CI:39.9~51.5)、プラセボ群46.5%(39.7~53.0)であった。 主要エンドポイントの各イベントの発生率も治療群間で差はなかった。心血管死、心筋梗塞または脳卒中のイベントはキレーション療法群で89例(18.4%)、プラセボ群で94例(19.7%)に認められた(補正後HR:0.89、95%CI:0.66~1.19)。全死因死亡は、キレーション療法群で84例(17.4%)、プラセボ群で84例(17.6%)であった(0.96、0.71~1.30)。 血中鉛濃度中央値は、キレーション療法群ではベースラインの9.0μg/Lから、40回が終了した時点で3.5μg/Lに低下し(p<0.001)、プラセボ群ではそれぞれ9.3μg/L、8.7μg/Lであった。 重篤な有害事象は、キレーション療法群で81例(16.8%)、プラセボ群で79例(16.6%)にみられた。

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成人のうつ病や不安症と関連する幼少期の要因とは

 うつ病および不安症の発症率について、子宮内・周産期・幼児期の発達段階における5つの人生早期の因子(母乳育児、出産前後の母親の喫煙、出生体重、多児出産、養子縁組)との長期的な関連性を明らかにするため、中国・Medical College of Soochow UniversityのRuirui Wang氏らが40~69歳の成人を対象に調査を行った。Translational Psychiatry誌2024年7月20日号の報告。 UK Biobankのデータを用いて、2006~10年に40~69歳の50万2,394例を募集した。ベースライン時にタッチスクリーンアンケートまたは口頭でのインタビューを通じて、参加者より幼少期の情報を収集した。主要アウトカムは、うつ病および不安症の発症とした(ICD-10に従って定義)。各因子のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値13.6年の間に、うつ病の発症は1万6,502例(3.55%)、不安症の発症は1万5,507例(3.33%)であった。・潜在的な交絡因子で調整後、5つの人生早期の因子はうつ病リスクの有意な増加と関連していることが示唆された。【非母乳育児】HR:1.08、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.19、95%CI:1.14~1.23【多胎児】HR:1.16、95%CI:1.05~1.27【低出生体重】HR:1.14、95%CI:1.07~1.22【養子】HR:1.42、95%CI:1.28~1.58・不安症リスクの増加も5つの人生早期の因子と関連が認められた。【非母乳育児】HR:1.09、95%CI:1.04~1.13【出産前後の母親の喫煙】HR:1.11、95%CI:1.07~1.16【多胎児】HR:1.05、95%CI:0.95~1.17【低出生体重】HR:1.12、95%CI:1.05~1.20【養子】HR:1.25、95%CI:1.10~1.41・用量反応関係も観察され、人生早期のリスク因子の数が増えると、うつ病および不安症のリスクが高まる可能性が示唆された。 著者らは、「5つの人生早期の因子は、それぞれが成人期のうつ病および不安症発症に対する独立したリスク因子であると考えられる」とし、「これら人生早期の因子を考慮することは、その後の人生のメンタルヘルスに対する感受性を理解するうえで不可欠である」とまとめている。

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モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

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糖類控えめの食生活は生物学的年齢の若さと関連

 添加糖類の摂取は老化を早める可能性があると、新たな研究が警告している。この研究では、食生活が健康的でも、添加糖類の摂取が1g増加するごとに生物学的年齢が上昇する可能性がある一方で、ビタミンやミネラル、抗酸化物質、抗炎症作用のある栄養素が豊富な食事は、生物学的年齢の若さと関連することが示されたという。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)精神医学・行動科学分野教授のElissa Epel氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に7月29日掲載された。 この研究では、National Heart, Lung, and Blood Institute Growth and Health Study (NGHS)への参加女性342人(黒人と白人がそれぞれ171人、平均年齢39.2歳)を対象に、食事パターンとエピジェネティック年齢(細胞や組織、臓器などの生物学的年齢)との関連が検討された。NGHSは研究開始時に9〜10歳だった白人または黒人の女児を登録して1987〜1999年にかけて心代謝の健康とその関連因子を調査した研究で、2015〜2019年に追跡調査が行われていた。 Epel氏らは、対象者の食事摂取記録から栄養と食品の平均摂取量を計算し、全体的な食事の質を評価した。この評価には、既存の代替地中海食(Alternate Mediterranean Diet;aMED)スコア、代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index;AHEI)とともに、研究グループが考案したエピジェネティック栄養指数(ENI)が用いられた。さらに、3日間の食事摂取記録から添加糖類の平均摂取量を、唾液のDNAメチル化プロファイルから第二世代のエピジェネティック時計の指標とされるGrimAge2を算出した。 対象者は、1日平均61.5gの添加糖類を摂取していたが、範囲は2.7gから316.5gと個人差が大きかった。解析の結果、aMEDスコア、AHEI、ENIが高いほどGrimAge2が低くなり、特にaMEDスコアとGrimAge2の関連は強いことが明らかになった。地中海食は、一般的に新鮮な野菜と果物、ナッツ類、豆類、全粒穀物、主な脂肪源としてのオリーブオイルを重点的に摂取する一方で、魚介類、赤肉、加工食品、砂糖を多く使った菓子の摂取を制限する。一方、添加糖類の摂取量が増えるほどGrimAge2も高くなり、添加糖類の摂取量が1g増加するごとにGrimAge2は0.02増加する可能性が示唆された。 Epel氏は、「食事因子の中でも添加糖類を大量に摂取すると代謝の健康が損なわれ、疾患の早期発症につながることが明らかにされている。今回の研究により、添加糖類と疾患発症との関連の背景にはエピジェネティック年齢の加速が関係していることが示された。過剰な添加糖類の摂取は、健康的な長寿を妨げる多くの要因の一つである可能性がある」と話している。 論文の上席著者である、米カリフォルニア大学バークレー校食品・栄養・集団健康学教授のBarbara Laraia氏は、「エピジェネティックな変化は可逆的であるように見えることを考えると、長期にわたって継続的に添加糖類を1日10g控えることは、エピジェネティック時計を2.4カ月戻すことに近いのかもしれない」と言う。同氏はさらに、「重要な栄養素を多く含み、添加糖類の少ない食品に焦点を置く食事法は、長生きを目指して体に良い食生活を心がけようとする人の意欲を高める新たな方法になる可能性がある」と付け加えている。 一方、論文の筆頭著者であるUCSF、Osher Center for Integrative HealthのDorothy Chiu氏は、「われわれが調査した食事内容は、疾病予防と健康増進のための既存の推奨内容と一致しており、特に、抗酸化作用と抗炎症作用のある栄養素の効力が強調されている。ライフスタイル医学の立場から言えば、これらの勧告に従うことで、暦年齢に比べて生物学的年齢が若くなる可能性があるということは、心強いことだ」と述べている。

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妊娠中のチーズ摂取が子どもの発達に好影響?

 日本の大規模研究データを用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、子どもの3歳時点の発達との関連を調べる研究が行われた。その結果、妊婦の発酵食品の摂取量が多いことは子どもの発達の遅れのリスク低下と関連し、この関連は、特にチーズで強いことが明らかとなった。富山大学医学部小児科の平井宏子氏らによる研究であり、「PLOS ONE」に6月21日掲載された。 母親の腸内細菌叢は、新生児の腸内細菌叢の構成に影響し、さまざまな微生物が産生する神経伝達物質の作用を通じて、神経系に影響を及ぼすと考えられる。著者らは過去の研究で、妊娠中に母親が摂取する発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルト、チーズ)と、子どもの1歳時点の発達との関係を調査し、妊娠中の発酵食品の摂取が子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性を報告している。 今回の研究で著者らは、日本全国規模の出生コホート研究である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータ(リクルート期間:2011年1月から2014年3月)を用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、3歳時点の子どもの発達との関係を調査した。「食事摂取頻度調査票」を用いて、妊娠中の味噌、納豆、ヨーグルト、チーズの摂取量を算出した。子どもの3歳時点の発達は、「ASQ-3」という指標を母親に回答してもらい、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)を評価した。解析対象者は、母子6万910組だった。 妊娠中の発酵食品の1日当たりの摂取量を四分位で4群(Q1~Q4)に分類し、妊婦の背景因子を調整した上で、3歳時点の発達との関連を多変量ロジスティック回帰で解析した。その結果、チーズの摂取量は、Q1群(0~0.7g)と比べ、Q2群(1.3~2.0g)、Q3群(2.1~4.3g)、Q4群(5.0~240.0g)で、5つの領域全てにおいて、発達の遅れのリスク低下と関連していた。また、味噌のQ4群(147~2,063g)とヨーグルトのQ4群(94~1,440g)は、コミュニケーション領域でのみ、発達の遅れのリスク低下と関連していた。これらの関連については、摂取していた母親から生まれた子どもでは、リスクが低いという有意な傾向が認められた。一方、納豆については、摂取量と発達との関連は認められなかった。 今回の研究の結論として著者らは、「妊娠中にチーズを摂取することと、子どもの3歳時点における発達の遅れのリスクが逆方向の関連を有することが明らかになった」としている。また、発酵食品の種類により異なる結果が得られたことに関しては、栄養成分などが発酵食品ごとに異なり、健康促進効果も異なると考えられることなどに言及。今後さらなる研究が必要とした上で、「発酵食品の摂取により妊婦の腸内環境を改善することは、子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

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STEMIの“非”責任病変の治療はいつやる? 今でなくても? そもそもやるべき?(解説:山地杏平氏)

 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)または高リスク非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)症例において、非責任病変の治療を検討したFULL REVASC試験が発表されました。この試験では、責任病変に対するPCI施行後、入院中にFFRガイド下で非責任病変へのPCIを行う群と、入院期間中は追加のPCIを行わない群に無作為に割り付けられました。その結果、ハザード比は0.93(95%信頼区間:0.74~1.17)で、p=0.53と有意差は認められませんでした。 この結果は、過去の多くの研究とは異なるもので、最近行われた大規模研究であるCOMPLETE試験やFIRE試験では、いずれも責任病変へのPCI後に非責任病変の治療を行ったほうが、イベントリスクを低減するという結果が示されました(表)。 FULL REVASC試験の特徴は、FFRガイドに基づいて非責任病変の治療適応を決定した点にあります。FFRガイド下でのPCIにおけるカットオフ値である0.80は、FAME試験・FAME2試験などにおいて、安定狭心症の患者に対する検討結果から設定されており、0.80以上では治療によるリスク増加、0.75以下では治療によるベネフィットが示されています。急性心筋梗塞における非責任病変のFFR値が慢性期と同等であるとの報告も少数例ながら存在し、急性期のFFR測定に関して大きな問題はないと考えられます。一方で、STEMIやNSTEMIの過半数は、不安定プラークの破裂による発症とされており、そのような症例では非責任病変にも不安定プラークが存在する可能性が高いと考えられます。PREVENT試験で示されたように、不安定プラークが存在する可能性が高い症例では、心筋虚血の有無ではなく、不安定プラークの有無に基づいて治療適応を検討することが望ましいのかもしれません。 一方で、STEMIやNSTEMIといった高リスク症例において、不安定プラークを伴う非責任病変が認められた場合、その治療をいつ行うべきかという問題があります。この点に関しても、さまざまな臨床試験が実施されています。多くの研究では、時間を分けて治療するよりも、急性期のPCIと同時に非責任病変を治療したほうが良好な結果が得られることが示されています。 しかし、ここで注意が必要なのは、主に差が見られたのは緊急での血行再建に関するものであり、試験の性質上ブラインド化が困難であった点です。非責任病変が存在するにもかかわらず、研究のプロトコルに従って治療を待機することは、患者や医師にとって行いにくかった可能性があります。 急性心筋梗塞の急性期に行うPCIは、安定狭心症に対するPCIと比較して、死亡、血栓症、出血といった合併症のリスクが高くなるため、非責任病変の治療を同時に行う場合は十分な注意が必要です。とくに、CULPRIT-SHOCK試験が示したように、血行動態が不安定な症例では、責任病変の治療のみとし、ショックや心不全の管理を優先したほうがよいかもしれません。

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第225回 令和のカネミ油症事件、小林製薬に創業家を斬る覚悟はあるのか?

紅麹サプリでの健康被害が報告された小林製薬が4ヵ月ぶりに開催した記者会見。会見で明らかにされた8月4日時点での健康被害状況は、死亡に関連して詳細調査対象となった事例が107件。その内訳は調査完了21件、調査継続中が32件、詳細調査の同意取得ができないなどで調査困難なケースが54件。そのほかに入院が467件、検査入院を含む通院が1,819件。今回も前回に続き、小林製薬の記者会見での質疑応答から感じたことをお伝えしたい。あの事件を彷彿とさせる健康被害会見の質疑では、調査完了21件について「(サプリ摂取との)関係性があり/なしのどちらとも言えないというレベルのものも含まれる」(同社執行役員/信頼性保証本部本部長・渡邊 純氏)とのことだった。これらがすべて小林製薬の紅麹サプリが原因と仮定した場合、製造過程での過失を原因とした食品健康被害事件としては、1968年に発覚したPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入した米ぬか油による健康被害「カネミ油症事件」(2024年3月末の累計認定患者2,377人)に匹敵する事案となる。会見で同社は健康被害を訴えた消費者に対しては、医師の診断書内容などを総合的に勘案し、相応の因果関係が認められれば、医療費・交通費、慰謝料、休業補償、後遺障害による逸失利益も含めて補償する方針を説明した。摂取により死亡が疑われる事例に関しては別途対応するという。すでに原因究明は厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所に委ねられているため、補償認定をどのように行うかも会見で質問が出たが、「最後の判断は当社でやっていく。社内の薬剤師も含めて会議体を設定し、医師、弁護士など知見に富んだ外部有識者の監修による(判定)基準を策定している。ただ、それでも判断が難しい部分もあり、CROを通じた主治医の詳細調査、その結果に対する(監修)医師の解釈も踏まえ、間違いないかの判断を突き詰めてやっていきたい」(同社執行役員/補償対応本部本部長・佐藤 圭氏)とのことだ。会見は同社側の説明が39分超、そこから会場、オンラインそれぞれからの参加記者との質疑に入った。前回書いたように、開始前に広報・IR部の担当者から「1人2問まで」との情報を得ていたので、私の中で優先順位が高いと考えた2問に絞り込み、質問の挙手を続けた。私が指名されたのは質疑開始から41分過ぎ、最初の質問者から8番目だった。私が用意した質問は、以前、本連載でも触れた同社の事実検証委員会報告書で感じた疑問だった。質疑応答その1:調査の遅さ、所轄官庁への相談の有無【村上】健康被害の公表と製品回収の基準について、社内でいろいろ検討されて特定保健用食品の基準を援用されたようですが、規制の多いヘルスケア業界では、判断が悩ましい場合は所轄官庁に問い合わせるのが一般的だと思います。今回の件で事前の所轄官庁への問い合わせの有無、あった場合はどのような回答を得ていたのか、ない場合はなぜ問い合わせなかったのかを教えていただきたいと思います。【渡辺】監督官庁の方へのご相談はこの時に行っておりません。今思えばですが、われわれの中で自ら考え、こういった方向性で考えられるというか、物事を捉えることができるんじゃないかと少し内向き、自分たちで解決しようとする意識が強すぎたと反省しております。今であれば監督官庁にご相談に行き、前向きにやることが必要であると理解しております。【村上】事実検証委員会の調査報告書を見ると、2月5日に信頼性保証本部で健康被害の原因についてシトリニン説、モナコリンK説、コンタミネーション説の3つを検証する方針を決定していますが、原因特定、3つの仮説の絞り込みのためには症例を報告した医師からのヒアリングが非常に重要だと思われます。しかし、御社では医師に連絡を取ったのは2月5日のかなり後で、わざわざ御社から月末の面談候補日を医師に提示しています。これがなぜだったのかをお伺いしたいんですが。【渡辺】確かにおっしゃる通りで、それぞれの患者様に起こっていることは、その主治医が一番わかっておりますので、速やかにその情報を取ることが必要であったと今は感じております。この時は、その点が十分に速やかにできていなかったことは現在、反省するところでございます。面談候補日をわざわざ月末に設定した件は、準備に一定の時間がかかったためと私は理解していますが、細かな理由は、今、確認が取れておりません。この回答を得ても私が前述の事実検証委員会に関する記事を執筆した時に書いた「過度な悪意はない危機感の欠如」との印象は変わらないどころか、むしろ確信に近いものにすら感じた。質疑応答その2:青カビに対する問題意識について小林製薬が公表した事実検証委員会の調査報告書の中で、多くの人が驚いたであろうと思われるのが、紅麹原料の培養タンクの蓋内側に青カビが付着していたことを確認した同社旧大阪工場の現場担当者が、その事実を品質管理担当者に伝えたところ「青カビはある程度は混じることがある」旨を告げられたという点だ。この点についての直接的な質疑応答は2回あった。【記者】現場が青カビを認識していながら問題視しなかったという証言は、いつ頃のことだったのでしょうか?【山下】大変申し訳ございませんが、本日時点ではいつのことであったかという詳細はまだ判明しておりませんので、お答えできない状況でございます。【記者】青カビの件ですが、健康被害の訴えがあってから事実を公表した3月22日まで製造現場を積極的に調べていれば、もっと早くわかった可能性もあると思いますが。【山下】初期段階の原因究明でシトリニン、モナコリンK、コンタミネーションを疑いましたが、その時点で製造記録や品質管理担当者への確認の結果、過去と大きな変化はなかったという事実だけを受け止め、そこを信じてしまったことが問題だったと考えております。青カビの件の質問がこれだけに留まった背景には会見の時間制限に加え、記者側も呆れを通り越しているのではと思われた。創業家を排除する覚悟があるような、ないようなそして今回、最も質問が多かったのが、今後の経営体制と創業家である小林家との関係だった。今回の記者向け配布資料の中で私が一番驚いたのは「経営体制の抜本的改革」との項目で「同質性の排除」と明記していた点だ。小林製薬が同族企業である以上、同質性の排除とは率直に読めば、創業家中心の雰囲気を打破するということになる。しかし、「排除」という言葉はあまりにも意味、語感ともに強すぎる。このため「同質性の排除」は同族企業特有の社風を排除することと別の意味で使っているのかと思っていたが、そうではなかった。前回、山根氏が会見冒頭で述べた「他者を慮る想像力を見失っていた、弱くしてしまっていた」について「なぜ弱くしてしまっていたのか?」と質疑で問われた際の理由の1つにこの同質性を挙げ次のように語った。「やはり同質性の問題があったと思います。われわれは創業家中心の同族会社で同質性は良い時は一枚岩で強く回りますが、悪い時は負の方向に回ります。これが想像力の弱体化と連動し、今回の事態を招いたのではないかと思います」山根氏自身は1983年入社の生え抜きだが、私の印象では冒頭の謝罪の弁も質疑応答も用意された原稿を読むわけでもなく、本人なりの言葉で話していた印象がある。その中で「同質性の排除」もかなりの覚悟で盛り込んだのだろうと感じたが、同時に創業家に関する質問では、ある意味揺れ動いていると感じられる部分もあった。とりわけ今回代表取締役会長を辞任し、特別顧問に就任した一雅氏について記者から問われた際がそうだ。ちなみに一雅氏の特別顧問報酬が月額200万円であることが明らかになり、世間の批判の的にもなっている。以下、関連質疑応答を紹介する(複数の記者とのやり取りを抜粋)。質疑応答その3:特別顧問の一雅氏、報酬が月額200万円について【記者】先日、経済同友会の新浪 剛史代表幹事が、“これだけ社会に迷惑をかけた会社で前会長が月収200万円の特別顧問に就任し、小林前社長が取締役で残留する甘い体制を是とした理由を説明すべきだ”と公に発言しています。【山根】ご批判は承知しています。新浪さんのコメントを読み、正直自分も恥ずかしかったし、ショックでした。一雅氏が辞任意向を示した際に特別顧問として事業に貢献したいと申し出がありました。新製品開発、マーケティングで当社に貢献されたのは事実で、われわれの気付かない着眼点などもあり、それを与えていただく前提で取締役会は合意しました。【記者】創業家は今もまだ大株主である以上、無視することは困難です。先ほど創業家に忖度しないとの発言がありましたが、そう言い切れる根拠をご説明ください。【山根】大株主の考え方にわれわれが耳を傾けるのは当然ですが、われわれの考え、あるべき姿や方向に基づき主張すべきは主張し、皆さんが納得する良いアイデアが(創業家から)あったら受け入れる。是々非々の姿勢を貫きたいと私は思っています。【記者】一雅氏が特別顧問として関わりたいと申し出たから特別顧問としたとの説明自体が既に忖度しているとの解釈もあると思います。【山根】当然そう思われる方もいるでしょう。一方でわれわれはこれからもメーカーとしてさまざまなアイデア・事業を作っていくわけで、この点で知見があるならば生かすことが会社にとっても意味があることじゃないかと思い、取締役会では決断しました。【記者】再発防止に注力しなければならない中、新製品やマーケティングに対する知見があるから力を貸して欲しいというのは拙速と受け止められかねませんが。【山根】そこはやはり先ほど触れましたが、品質・安全に対する今までの考え方はわれわれがさらに強くしなければならないと思いますので、そのフィルターの上に新しいアイデア・知見をどう構築するかが今後求められます。これはもう新体制で判断するのがわれわれの権利ですから、何でも採用するという判断は一切いたしません。【記者】3月、今回の会見共に小林前会長がいらっしゃらない理由を教えてください。【山根】3月の会見は執行サイドのトップである社長が出るという判断だったと思います。今回、本人はもう辞任済みで同席できなかったのだと思います。【記者】辞任しても特別顧問として残られますし、山根社長がおっしゃった同質性の問題にも深く関わってる方です。何らかの説明責任はあると思いますが。【山根】これも本人にそれをどう決断していただくかも当然あると思います。私は1つの考えとしては説明責任を果たすべきだと思います。【記者】一雅氏の特別顧問の月額報酬が200万円は適切とお考えですか?【山根】捉え方はさまざまあると思います。この額は本人より提示のあったもので、取締役会で議論して、合意しました。先ほど少しも触れましたが、われわれにない視点やアイデアを提供していただく前提でこの金額で合意したものです。何度も申し上げますが、われわれの顧問でありますから助言があったとしても、われわれは是々非々で判断し、すべて言いなりになるわけではありません。同社関係者をして“天皇”とも呼ばれ、山根氏の入社時点で社長の任にあった一雅氏のことについては、どうしても奥歯にものが挟まった言い方になるのだろう。そして会見中、ある関西ローカル局の記者が「この問題について質問のため電話をしても、電話での質問は一切答えられませんと言われ、広報部長さんにも何度も電話しても、1回も折り返しがありません。正しい報道をしたいという私達の考えと相いれない。改善してほしい」との発言まであった。ちなみに私個人は2度電話で問い合わせ、いずれも回答をもらえているので「?」と思ってしまった。答えようのない質問だったのかもしれないが、「1回も折り返しがない」は対応としていかがなものだろう? この時は会見前の控室での出来事が頭に浮かんでしまった。これも強力な創業家によって運営されてきた社風の一端だろうか? 同社の改革とは絶壁を切り崩すかのごとき難易度に思えてしまう。

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