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急性期脳梗塞、AI活用臨床意思決定支援で新規血管イベント減少/BMJ

 急性期虚血性脳卒中患者において、脳卒中臨床意思決定支援システム(CDSS)の使用により、通常ケアと比較し3ヵ月後の新規血管イベントの発生が有意に減少したことが示され、脳卒中CDSSによる介入は脳卒中ケアの質の向上と長期的な血管イベントの減少に有効であることが、中国・首都医科大学のXinmiao Zhang氏らが実施した「GOLDEN BRIDGE II試験」で示された。人工知能(AI)を用いた脳卒中CDSSは、脳卒中のアウトカムと医療サービスを改善するための革新的で有望なアプローチであるが、脳卒中医療におけるAIの応用は無作為化比較試験による厳密な評価を受けておらず、脳血管疾患の治療におけるCDSSの使用は現状では限定的であった。BMJ誌2026年3月21日号掲載の報告。中国の77施設でクラスター無作為化試験を実施 GOLDEN BRIDGE II試験は、中国の23省の77施設で実施されたクラスター無作為化臨床試験で、2021年1月~2023年6月に患者を登録した。 対象は、症状発現後7日以内に脳画像検査(MRI)により急性期虚血性脳卒中と確認された18歳以上の患者であった。一過性脳虚血発作、出血性脳卒中などは除外された。 研究グループは、77施設を所在地域(東部、中部、西部)、病院の機能(2次、3次)で層別化し、介入群または通常ケア(対照)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群の施設では、AIを用いた画像解析、脳卒中の原因分類、エビデンスに基づいた治療推奨を含む脳卒中CDSSのサポートが提供され、対照群の施設では通常ケアが提供された。 主要アウトカムは、発症後3ヵ月以内の新規血管複合イベント(虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心筋梗塞、および血管死)。副次アウトカムは、急性期虚血性脳卒中ケアの質に関するエビデンスに基づくパフォーマンス指標の複合指標順守率(実際に実施されたパフォーマンス指標の総数を、実施可能なパフォーマンス指標の総数で割った値と定義)、発症後6ヵ月・12ヵ月時点の新規血管イベント、発症後3ヵ月・6ヵ月・12ヵ月時点での障害(修正Rankin Scaleスコア3~6)および全死因死亡。安全性アウトカムは、中等度または重度の出血イベントおよびすべての出血イベントとした。脳卒中CDSSによる介入、新規血管イベントの発生率が低く脳卒中ケアの質も向上 2万1,689例が登録され、登録後1日以内に同意撤回した86例を除く2万1,603例(介入群1万1,054例、対照群1万549例)が解析対象となった。 発症後3ヵ月以内の新規血管イベントは、介入群で2.9%(320/1万1,054例)、対照群で3.9%(416/1万549例)に発生し、補正後ハザード比(HR)は0.74(95%信頼区間[CI]:0.58~0.93、p=0.01)であり、CDSS介入効果はクラスターレベルの回帰分析においても有意であった(効果量:-0.01、95%CI:-0.02~-0.004、p=0.003)。 副次アウトカムについては、介入群で複合指標の順守率が高く(91.4%[7万7,049/8万4,276]vs.89.8%[7万794/7万8,834]、調整オッズ比1.21[95%CI:1.17~1.26]、p<0.001)、12ヵ月時点の新規血管イベント発生率は介入群で有意に低かった(4.0%[440/1万1,054例]vs.5.5%[576/1万549例]、補正後HR:0.73[95%CI:0.56~0.95]、p=0.02)。 障害および全死因死亡率は、両群で有意差は認められなかった。中等度または重度の出血、ならびにすべての出血は、両群間で有意差はなかった。

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抗コリン薬の使用は心血管イベントリスクの上昇と関連

 抗コリン薬と呼ばれる一般的な薬剤の使用が、心不全などの重篤な心血管疾患のリスク上昇と関連する可能性が新たな研究で示された。抗コリン薬を最も多く使用していた人では、非使用者と比べて心血管イベントリスクが71%高かったという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のHong Xu氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Medicine」に2月28日掲載された。ただし、本研究は観察研究であり、抗コリン薬が心疾患を直接引き起こすことを証明したものではない。 抗コリン薬は、神経伝達物質のアセチルコリンの働きを抑える薬剤で、睡眠補助薬や抗ヒスタミン薬、尿失禁治療薬、一部の抗うつ薬などさまざまな処方薬や市販薬に含まれている。 今回の研究でXu氏らは、ストックホルム在住で主要な心血管疾患の既往がなく、2008年1月1日時点で45歳以上だった50万8,273人を対象とし、2021年12月31日まで心血管イベントの発生を追跡した。抗コリン薬の使用量(抗コリン負荷)は抗コリン薬認知負荷(Anticholinergic Cognitive Burden;ACB)スケールを用いて評価し、規定1日投与量(defined daily dose;DDD)に基づく年間使用量として定量化した。論文の筆頭著者である同研究所のNanbo Zhu氏は、「抗コリン薬を含有する薬剤の多くは、高齢者や複数の疾患を有する人に使用されている。そこでわれわれは、同薬の累積的な使用量が経時的に心血管疾患リスクに影響を及ぼすかどうかを調べたかった」と説明している。 追跡期間中央値14.0年の間に11万8,266件の心血管イベントが発生した。解析の結果、社会人口統計学的特徴、生活習慣、および臨床的リスク因子を調整した後も、抗コリン薬の使用量の増加は心血管イベントリスクの増加と有意に関連していた。具体的には、年間累積使用量が0DDDの群と比較して、365DDD以上の群ではリスクが71%、90~364DDDの群では31%、1~89DDDの群では16%高かった。同薬の使用量が最も多い群で特にリスクが高かった疾患は、心不全(ハザード比2.70)、不整脈(同2.17)、動脈疾患(同1.48)、心筋梗塞(同1.46)、静脈血栓塞栓症と脳血管疾患(いずれも同1.32)であった。 研究グループは、「抗コリン薬の累積負荷が、短期的だけでなく長期的にも心臓の調節機能に影響を与える可能性がある」との見方を示している。また、Xu氏は、「この結果は、これらの薬を常に避けるべきだということを意味するわけではなく、使用量を注意深く管理する必要があることを示している」と述べている。 さらに研究グループは、「抗コリン薬が心臓の健康に直接影響するかどうかを明らかにするには、臨床試験によるさらなる検証が必要だ」としている。

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危険な英語【Dr. 中島の 新・徒然草】(625)

六百二十五の段 危険な英語桜が咲き始めました。今年は例年より開花が早かったので、今週末あたりに満開なのかもしれません。暇を見つけてささやかな花見をしたいものです。さて、先日のこと。オンライン英会話の講師に「英語で喋っていて何か失敗したことはあるか?」と尋ねられて、自分の経験を話したところ、ずいぶん驚かれてしまいました。今回は、その失敗を披露したいと思います。読者の皆さん、ぜひともご自身の英会話に生かしてください。20年以上も前のこと。私は学会出席のために、アメリカのホテルにチェックインしました。その時にフロントで「お連れさまと隣同士のお部屋にされますか?」と尋ねられたのです。別に隣である必要はなかったので、「どちらでもいいですよ」と答えました。いや、そう答えたつもりだったのです。でも私の口から出てきたのは“I don't care.”という言葉。思い出しても冷や汗が出てきます。これ、日本語にすると「知らねえよ」という意味なんですね。当然ながら、ホテルのスタッフはやや呆れた様子でした。これがずいぶん失礼な言い方だったということを知ったのは、何年も後になってからです。いやあ、本当にすみませんでした。あの日に戻ってスタッフに謝りたいくらいです、たぶん相手はとっくに忘れているでしょうけど。じゃあどう言えばよかったのか?今ではAIという便利なツールがあるので、いろいろと尋ねてみました。“It doesn't matter.”でも通じるけれども、場合によっては「そんなこと、どっちでもいいだろ」ととられることもあるのだそうです。“Never mind.” の場合は「気にしないでくれ」と、ちょっとピント外れ。これは間違って足を踏まれて“I'm sorry!”と謝られた時に、すかさず“Never mind.”と答える時などに使うのだとか。代わりにAIが提案してきたのは、“Either is fine.”で、「どちらでも構いません」というもの。また、“I don't mind.”も「私は気にしません」ということでOKだそうです。考えてみれば隣同士の部屋を取ってもらったら何かと捗るはず。それなら、“That would be convenient, thank you.”というのはどうでしょうか。「そうしてもらうと便利です。ありがとう」という意味になるので、相手の配慮に対してきちんと応じていることになります。ということで読者の皆さま。国際学会出席や旅行などで、こうした場面に出くわすことがあることでしょう。その時は“Either is fine.”か“That would be convenient, thank you.”の2択にしておくと無難です。間違っても“I don't care.”などと言わないように。でも、在米中の日常会話でよく耳にしたんですよね、“I don't care.”って。つい使ってしまいました、どうもすみません。最後に1句 桜咲く あの日に戻って 謝りたい

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第55回 認知症予防に「リチウム」が効く? 新たな治療法を探る「パイロット研究」の意味

物忘れが気になり始めた高齢者の認知機能低下を、古くからある気分安定薬「リチウム」で防げるかもしれない。そんな期待を込めた初期段階の臨床試験(パイロット研究)の結果が、医学誌JAMA Neurology誌に発表されました。決定的な「効果あり」という結論には至りませんでしたが、新しい治療法を生み出すために、こうした地道な研究がいかに重要であるかを解説します。認知症の一歩手前「MCI」とリチウムへの期待軽度認知障害(MCI)は、記憶力などに少し低下が見られるものの、日常生活には支障がない状態のことを指し、健康と認知症の中間段階にあたります。近年、アルツハイマー病の発症メカニズムに「脳内のリチウム不足」が関わっている可能性が動物実験で指摘され、リチウムを補うことが脳の神経を保護し、認知機能の低下を遅らせるのではないかと注目を集めてきました。これを検証するため、米国ピッツバーグ大学の研究チームは、MCIの高齢者80例を対象に臨床試験を行いました。参加者を2つのグループに分け、一方には低用量(1日150〜300mg)のリチウムを、もう一方には偽薬(効果のないプラセボ)を2年間にわたって毎日飲んでもらい、記憶力や脳の容積の変化などを詳しく調べました。気になる研究結果は?結論から言うと、あらかじめ設定されていた6つの主要な評価項目(認知機能テスト、海馬の容積、大脳皮質の容積、血液中のバイオマーカーなど)すべてにおいて、統計学的に明確な「効果がある」という厳しい基準を満たすことはできませんでした。脳の海馬や大脳皮質の容積は、リチウムを飲んでも偽薬を飲んでも、時間とともに同じように減少していく経過が観察されました。しかし、希望が見えるデータもありました。言葉の記憶力を測るテストでは、偽薬のグループが1年で平均1.42点スコアが低下したのに対し、リチウムのグループは0.73点の低下にとどまっていたのです。この差は、厳格な統計基準には届かなかったものの、病気の進行を遅らせる可能性を示すデータと言えます。安全性についても重要なデータが得られました。研究期間中、薬が直接の原因と考えられる深刻な副作用は発生しませんでした。ただし、クレアチニン(腎機能の指標)の上昇、下痢、疲労感、手の震えなどが一部の参加者に見られ、高齢者が無理なく服用できる用量には限界があることも指摘されました。なぜ「効果が証明されなかった研究」が重要なのかこれらの結果を見ると、「なんだ、結局効くかどうかわからないのか」とがっかりされるかもしれません。しかし、今回の研究は「パイロット研究」と呼ばれる非常に重要なステップです。新しい治療法を世に出すためには、最終的に数百人、数千人規模の患者さんが参加する大規模な試験で効果を証明しなければなりません。しかし、いきなり大規模な試験を行うのは、患者さんの安全性や莫大な費用の面でリスクが大きすぎます。そのため、まずは少人数で「そもそもこの薬の量は高齢者にとって安全か?」「患者さんは2年間も薬を毎日飲み続けられるか?」「効果を正確に測るためには、どのテストが最適か?」を確かめる必要があるのです。実際、今回のパイロット研究から「高齢者には1日300mgを超えるリチウムは負担が大きい」という教訓が得られ、将来の大規模試験では150〜300mgの用量で行うべきだという方針が立ちました。また、アルツハイマー病の原因となるアミロイドが脳に蓄積している患者さんに絞って試験を行えば、より明確な効果が確認できる可能性が高いこともみえてきました。未来の医療へ向けた冷静な一歩今回のニュースから私たちが知っておくべきことは、「認知症予防のために、今すぐ焦ってリチウムやサプリメントを自己判断で飲んではいけない」という事実です。現時点では、リチウムがMCIの進行を食い止めると証明されているわけではありません。しかし、医学研究はこうして患者さんの安全を第一に守りながら、一つひとつのデータを積み重ねて慎重に進められています。失敗や「効果なし」というデータも含めて、すべてが次の大きな発見のための重要なピースになります。将来、リチウムが安価で身近な認知症の予防薬として確立される日が来るかもしれません。期待を持ちながらも、焦らず見守っていくことが大切です。1)Gildengers AG, et al. Low-Dose Lithium for Mild Cognitive Impairment: A Pilot Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2026 Mar 2. [Epub ahead of print]

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統合失調症におけるLAI抗精神病薬の使用までの期間と入院リスクとの関係

 長時間作用型注射(LAI)抗精神病薬は、統合失調症の初期段階で推奨されることが増加している。韓国・University of Ulsan College of MedicineのSung Woo Joo氏らは、LAI抗精神病薬治療開始時期が初回エピソード統合失調症における治療中止および入院期間にどのような影響を及ぼすかを検討した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2026年2月9日号の報告。 韓国健康保険審査評価院の保険請求データベースを用いて、LAI抗精神病薬による継続治療を受けている初回エピソード統合失調症患者6,380例を特定した。診断からLAI抗精神病薬治療開始までの期間に基づき、6群に分類した(1年未満、1~2年、2~3年、3~4年、4~5年、5年超)。継続的なLAI抗精神病薬使用中の治療中止と精神科入院日数の割合を、Coxモデルと線形回帰モデルを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・初期のLAI抗精神病薬治療は、時間の経過とともに増加した。しかし、継続的治療期間は減少した。・診断後2年超経過してからLAI抗精神病薬治療を開始した患者は、1年以内に開始した患者よりも治療中止リスクが低かった(2~3年:ハザード比[HR]=0.77[0.69~0.87]、3~4年:HR=0.77[0.68~0.86]、4~5年:HR=0.70[0.61~0.79]、5年超:HR=0.66[0.59~0.74])。・LAI抗精神病薬の治療開始時期の遅れは、とくに入院歴のある患者において、精神科入院の増加と関連が認められた(1~2年:β=0.039、p=0.039、3~4年:β=0.057、p=0.010、5年超:β=0.162、p<0.001)。また、5年超経過した患者群では、治療開始時期の遅れが入院日数の増加をさらに引き起こした(β=1.87×10-4、p<0.001)。 著者らは「LAI抗精神病薬の治療開始時期の遅れは、治療順守率の向上と関連していたものの、LAI抗精神病薬の早期使用は入院負担を軽減した。これは、統合失調症におけるLAI抗精神病薬治療の早期導入を推奨するガイドラインを裏付けている」と結論付けている。

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高齢HER2+早期乳がん、術後化学療法省略の判断にHER2DXが有用な可能性(Trans-RESPECT)/日本臨床腫瘍学会

 高齢のHER2陽性早期乳がん患者における長期転帰の予測に、多遺伝子アッセイ「HER2DX」が有用である可能性が示された。また探索的解析の結果、同アッセイによるpCRスコア高値群で術後化学療法の上乗せが有効となることも示唆された。名古屋市立大学臨床研究戦略部の能澤 一樹氏が、RESPECT試験の追加解析「Trans-RESPECT」の結果を、第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)で発表した。 RESPECT試験は本邦で実施された第III相無作為化比較試験で、70~80歳のHER2陽性早期乳がん患者を対象に、術後トラスツズマブ単独療法(H群)とトラスツズマブ+化学療法(H+CT群)を比較。トラスツズマブ単独療法の非劣性は証明されなかったが、3年DFS率は92.4%vs.95.3%であり、トラスツズマブ単独療法が高齢患者における治療選択肢の1つとなりうることが示された。<HER2DXとは> HER2陽性早期乳がんに特化した多遺伝子アッセイ。27遺伝子の発現を解析し、リスクスコアとpCRスコア、ERBB2 mRNAスコアを算出する。本解析では、リスクスコアについてカットオフ値を50とし、低リスク(1~49)および高リスク(50~99)に分類している。 主な結果は以下のとおり。・RESPECT試験の対象者275例のうち、適格患者154例(H群74例、H+CT群80例)についてHER2DXによる評価が行われた。・本解析対象者の患者背景は、平均年齢がH群73.6歳vs.H+CT群73.9歳、ER陽性が41.9%vs.46.3%などおおむねバランスがとれていたが、pN0の症例は90.5%vs.77.5%とH群でより多くを占めていた。・HER2DXリスクスコアにより、40例(H群16例vs.H+CT群24例)が高リスク群、114例(58例vs.56例)が低リスク群に分類された。・10年RFS率はHER2DX高リスク群68.0%vs.低リスク群77.9%(ハザード比[HR]:0.48、95%信頼区間[CI]:0.23~1.01、p=0.05)、10年OS率は69.7%vs.85.9%(HR:0.34、95%CI:0.15~0.80、p=0.01)であった(追跡期間中央値:9.1年)。・感度分析の結果、5、6、7、8、9、10年のすべての時点でRFSとOSのHR推定値は低リスク群において良好であり、一貫して0.50未満であった。・HER2DX pCRスコア(高値/中間~低値)別にみた10年OS率は、pCR高値群ではH群66.4%vs.H+CT群94.4%(HR:0.23、95%CI:0.05~1.08、p=0.04)と化学療法併用群で生存期間の延長が認められたが、中間~低値群では88.6%vs.76.2%(HR:1.68、95%CI:0.50~5.60、p=0.40)と認められず、トラスツズマブ単剤においても良好な全生存期間を示した。 能澤氏は、HER2DX低リスクと判定された患者を中心に、治療方針決定におけるHER2DXの有用性を検証する前向き試験の実施が期待されるとした。

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働く世代の肥満・肥満症への正しい理解を促す取り組み始動/日本糖尿病協会

 3月4日の「世界肥満デー」に日本糖尿病協会(JADEC)は、都内で「肥満アドボカシー活動」のスタートに関して記者発表会を開催した。このセミナーは、糖尿病発症の重要なリスク因子である肥満を「ダイアベティス(糖尿病)の前段階」と位置付け、厚生労働省などと連携し、就労世代を対象とした全国的な「肥満アドボカシー活動」の開始を表明したもの。同協会では、今回の活動によりダイアベティス予防を社会に広げ、予防の入口から環境を変える取り組みに踏み出す。肥満の放置は社会経済に悪影響 初めに「『肥満の解消』によるダイアベティスの発症予防の取り組み」をテーマに清野 裕氏(JADEC理事長/関西電力病院 総長)が、わが国の糖尿病、肥満症の実態とJADECが行ったアンケート調査の結果などを説明した。 厚生労働省の調査によると糖尿病の受診率は改善している一方で30・40代では、依然として7割以上が治療を受けていない状況を示した。次にJADECが行ったアンケート「医師・一般消費者・肥満者を対象にした肥満に関する意識調査結果」について触れ、一般消費者の7割、肥満者の9割が「肥満は自己責任」と考えていることを報告した。肥満は「治療が必要」という人が全体で7割以上回答している一方で、保険診療で治療する場合では、一定の回答者には心理的抵抗があるという結果だった。また、他の調査結果でも「体重について気軽に医師に話すことができるか」と患者に聞くと、「気軽に話せる」という人は約20%で、医師側もあまり真剣に取り組んでこなかったということを指摘した。 肥満は、自己管理ができていない、意志が弱いなど個人の責任であるという「体重スティグマ」が、学校や職場などで差別的な評価につながる。医療の世界でも、医療者が一定の偏見をもって患者に診療にあたることで、気軽に医療者と話し合って減量に取り組むということができなくなり、治療への妨げともなる。さらに肥満者は、いろいろな疾患を併発しやすく、放置したままになると、社会全体の経済損失につながるといわれ、将来的に50兆円の損失になると予想されている。 そこで、JADECでは、とくに就労者に焦点を当て厚生労働省、経済団体・関係団体と協調し、医学的・社会的な観点から肥満や肥満症に介入し、肥満者がスティグマで診療萎縮することがないように社会啓発活動を今回展開すると経緯を説明した。 「厚生労働省の栄養・食生活の改善に向けた取り組み 」について丹藤 昌治氏(厚生労働省 健康・生活衛生局健康課 課長)が、厚生労働省の取り組みを説明した。現在、第3次の「健康日本21」が2024年より行われている。そのビジョンは「すべての国民が健やかで、心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」であり、豊かに生活できる持続可能な社会を示し、「誰一人取り残さない健康づくりを推進する」と記している。とくに生活習慣の改善の中で「栄養食生活」を行うことで、適正体重を維持するという目標を提示し、バランスの良い食生活、減塩食などの励行により生活習慣病の発症予防とともに循環器疾患や糖尿病対策を行うものである。具体的には毎年9月に「食生活改善普及運動」を実施し、バランスのよい食事を摂ることをインターネットなどでも啓発している。そのほか「スマート・ライフ・プロジェクトにおける適切な栄養・食生活の普及」という、国民や企業への健康づくりの新しい施策も行われ、「健康寿命をのばそう」を合言葉に国民運動となることを目指す取り組みも行われる。肥満・肥満症患者に医療者も理解を 「肥満症の成因と病態」について窪田 直人氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 代謝内科学講座 教授)が、肥満症になるメカニズムを説明した。肥満症は生活習慣と遺伝要因の両方の相互作用で成り立っている。とくに20・30代では約7割が遺伝要因であり、その後、環境要因も重なることで肥満が進行する。代謝的に健康な肥満(MHO)と代謝的に不健康な肥満(MUO)を比較すると、脂肪分布、インスリン感受性、アディポカイン分泌などに違いがあることが明らかになってきた。また、MHOはけっして健康ではなく、医療介入の余地があることも最近の研究からわかってきた1)。そのほか、心血管死亡などの合併症を起こさない肥満はどのような肥満かを研究した結果では、収縮期血圧が<130mmHgかつ降圧薬なし、内臓脂肪蓄積がなく、糖尿病ではない肥満者が比較的合併症を起こしにくいということが判明した2)。肥満の概念は、BMIが肥満領域にある人を、どう層別化するかということであり、肥満症(MUHO)であってもMHOであっても全員が健康的生活を基盤に据えるべきであり、MHOでも生活習慣を改善することで代謝的健康を維持・補強することができる。その中には、食事療法や運動療法、行動療法に加えて、場合によっては、薬物療法や外科的な治療の選択肢もあると説明を行った。 「ダイアベティス予防からみた肥満へのアプローチ」について門脇 孝氏(虎の門病院 病院長)が、肥満者の合併症で多いダイアベティスからみた肥満の現状について説明を行った。わが国のダイアベティス患者は1,100万人と推定されており、とくにアジア人は欧米人と比べ、軽度肥満や内臓脂肪蓄積で発症しやすいとされている。以前行われたプレダイアベティスに対する生活習慣介入研究である「虎の門スタディー」では、強力介入群は通常介入群と比較して、約1.8kg体重が減少し、ダイアベティス発症が67%抑制されたという結果がある3)。肥満、肥満症の要因は、先述の説明通り環境と遺伝があるが、自己責任論は大きな誤解と偏見となる。そのような誤解と偏見が「スティグマ」と呼ばれ、社会的偏見による差別へ発展する。肥満のある人と医療スタッフの認知のギャップとそれを埋める必要性に関する調査研究では、多くの肥満者が減量は自己責任と回答する一方で、減量成功の責任は医療スタッフにあると答えている医療スタッフが多かった。また、肥満について患者と医療スタッフの間で話し合わない理由としては、医療スタッフ側に「患者は減量したいという意識に欠ける」「患者が減量できるとは思えない」「患者は減量には関心がない」の回答数が肥満患者の回答数よりも多く、医療スタッフでも社会的偏見があることがわかった。こうした結果からオベシティ・スティグマ(肥満への偏見)に終止符を打つことを目指す合同国際コンセンサスステートメント「肥満への認識」「差別への非難」「肥満患者などへの敬意を持ち、治療を支援すること」などが策定された。また、JADECでは「肥満・肥満症のある人に関するスティグマを解消するアドボカシー活動の提案」として、肥満・肥満症患者が置かれている現状を認識し、正しい診療の認識などを啓発するとしている。わが国では中高年までのダイアベティスでは肥満対策が喫緊の課題となっているほか、肥満のある人の割合は、成人男性で増加しており、肥満の解消はダイアベティスはじめ慢性疾患の発症を予防すると説明を行った。 最後に就労している肥満症患者の声として、患者自身の診療経験や体重減少後の効果が語られ、「肥満は単なる自己責任ではなく、生活や環境、体の状態が影響するものだと身をもって感じた。そして、医療のサポートを受けながら取り組めば体はきちんと応えてくれるということも実感した。今、肥満治療をためらっている方がいれば1人で抱え込まず医師に相談してほしい」と思いを述べた。

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T-DXdが胃がん2次治療に、胃学会がガイドライン速報発表

 第一三共は2026年3月23日、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)の添付文書改訂が行われ、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんの2次治療として使用が可能となったことを発表した。今回の改訂は、2025年6月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)で発表されたDESTINY-Gastric04試験の結果に基づくもの。HER2陽性胃がん/胃食道胃接合部腺がんに対し、T-DXdはそれまでの標準2次治療であるラムシルマブ+パクリタキセル(RAM+PTX)療法と比較して全生存期間(OS)を有意に延長することが示された。これまでHER2陽性胃がんに対するT-DXdは3次治療以降で承認されていたが、より早期での使用が可能となる。 これを受け、日本胃学会のガイドライン委員会は3月24日付で速報を出した。――以下の観点から、トラスツズマブ併用1次化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃/胃食道接合部における二次治療として、T-DXd療法を推奨する。1)日本人を含むDESTINY-Gastric04試験において、RAM+PTX療法と比較してT-DXd療法が有意に長いOSおよびPFSが示されたこと。2)DESTINY-Gastric04試験だけでなく、すでに国内ではT-DXd療法の使用経験が多く、安全性が確認されていること。―― 同時に、胃がんに特徴的な「HER2陰性化」に言及し、再生検や再評価に関連する注意点を挙げている。――・HER2陽性胃では抗HER2療法後にHER2発現が低下し、陽性から陰性へ転じること(HER2陰性化)が報告されており、HER2療法後の陽性率は概ね約3割から7割程度とされている。二次治療前にHER2 statusを確認しない場合には、HER2陰性化した症例における抗HER2療法による治療効果の減弱が危惧されるため、可能であれば一次治療の増悪時点で腫瘍検体を採取し、HER2を再評価したうえで治療選択を行うことが望ましい。・再生検でHER2陰性または判定不能となった集団における二次治療としてのT-DXdの有効性は確立していないため、投与は慎重に考慮すべきである。・ただし、原発巣がない場合には再検は侵襲を伴い、原発巣があっても検査に要する時間や病理体制の制約により治療導入が遅れる場合があるため、採取の難易度、病勢の切迫度、一次治療前のHER2所見等を総合して、再生検実施の適否を個別に判断することが求められる。・再生検が困難な症例では、一次治療前のHER2所見、患者背景と病勢、三次治療でのT-DXd使用の可能性、ならびに間質性肺炎等のT-DXdの毒性リスクを踏まえ、T-DXd投与の適応を総合的に検討する。・また、HER2は腫瘍内で発現のばらつき(腫瘍内不均一性)があり、採取部位や採取量によってHER2判定結果が異なる可能性がある。DG-04バイオマーカー解析における中央判定と施設判定の乖離、ならびに中央判定でHER2陰性となる症例が一定数認められた点は、こうした生物学的要因に加えて、検査手技や判定者の違いが判定結果に影響することも示唆しており、二次治療においてT-DXdの適応の決定に際して、再生検の位置づけや検査・判定の標準化は今後の重要な検討課題である。――

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EGFR変異NSCLC、オシメルチニブ+化学療法の日本人解析結果(FLAURA2)/日本臨床腫瘍学会

 EGFR遺伝子変異陽性の進行・転移非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、オシメルチニブ+化学療法はオシメルチニブ単剤と比較して、日本人集団においても無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)が良好であった。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)において、国際共同第III相無作為化比較試験「FLAURA2試験」の日本人集団の結果を栁谷 典子氏(がん研究会有明病院)が報告した。日本人集団のOSの解析結果は、2025年11月に開催された第66回日本肺学会学術集会でも報告されていたが、今回はさらに詳細な結果が報告された。試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験対象:未治療の局所進行/転移EGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失またはL858R)の非扁平上皮NSCLC成人患者557例試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+化学療法(ペメトレキセド[500mg/m2]+シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 5]を3週ごと4サイクル)→オシメルチニブ(80mg/日)+ペメトレキセド(500mg/m2)を3週ごと(併用群、279例)対照群:オシメルチニブ(80mg/日)(単独群、278例)評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[副次評価項目]OSなど 日本人集団の解析結果は以下のとおり。なお、PFSのデータカットオフは2023年4月、OS・安全性・曝露期間・次治療のデータカットオフは2025年6月であった。・解析対象は併用群47例、単独群47例であった。男性の割合はそれぞれ34%、51%であり、年齢中央値はそれぞれ68歳(範囲:39~83)、65歳(同:33~79)であった。中枢神経系転移を有する割合はそれぞれ38%、40%であった。EGFR遺伝子変異の内訳は、exon19欠失変異/L858R変異が、併用群49%/51%、単独群66%/34%であった。日本人集団はグローバル集団と比較して、年齢が高く、前喫煙者が多いという特徴があった。・PFS中央値は併用群24.8ヵ月、単独群16.4ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.28~0.86)。・1年、2年時のPFS率は、併用群がそれぞれ83%、64%であり、単独群がそれぞれ63%、30%であった。・OS中央値は併用群48.3ヵ月、単独群34.3ヵ月であり、日本人集団でも併用群が良好であった(HR:0.60、95%CI:0.36~1.03)。・2年、3年、4年時のOS率は、併用群がそれぞれ85%、65%、52%であり、単独群がそれぞれ65%、41%、33%であった。・データカットオフ時点(2025年6月)において、試験治療を継続していた患者の割合は併用群28%(オシメルチニブ28%、ペメトレキセド6%)、単独群15%であった。・併用群は化学療法フリー期間が長かった。各薬剤の曝露期間中央値は、併用群はオシメルチニブ28.5ヵ月、ペメトレキセド5.5ヵ月、プラチナ製剤2.8ヵ月であった。単独群のオシメルチニブは16.0ヵ月であった。・次治療を受けた患者の割合は併用群75%、単独群86%であった。最初の次治療の内訳は、併用群では化学療法が多く(プラチナ製剤を含む化学療法40%、プラチナ製剤を含まない化学療法33%)、単独群ではプラチナ製剤を含む化学療法が多かった(71%)。・安全性について、主解析後の2年間の観察期間において、新たな間質性肺疾患の発現はなく、安全性に関する新たなシグナルはみられなかった。 なお、グローバル集団における既報の主要結果1)は以下のとおり。・PFS中央値(併用群vs.単独群)25.5ヵ月vs.16.7ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.49〜0.79、p<0.001)・1/2年PFS率(同上)80%/57%vs.66%/41%・OS中央値(同上)47.5ヵ月vs.37.6ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.61〜0.96、p=0.02)・2/3/4年OS率(同上)80%/63%/49%vs.72%/51%/41% 本結果について、栁谷氏は「オシメルチニブは、EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCの1次治療として確立した推奨治療である。FLAURA2試験では、オシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法がオシメルチニブ単剤と比較してOSを有意に延長し、日本人集団でもOSの改善傾向が示された。これらの結果は、併用療法が1次治療として強く推奨される選択肢であることを支持する」と述べている。

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高血圧診断後の生活習慣改善は心血管リスク低下と関連するか

 高血圧患者約2.6万例を対象とした大規模前向きコホート研究において、生活習慣と心血管疾患および2型糖尿病リスクの関連を検討した結果、健康的な生活習慣の実践は、降圧薬使用の有無にかかわらずこれらのリスク低下と関連しており、高血圧診断後であっても生活習慣の改善度が高いほどベネフィットが大きいことが、米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのZixin Qiu氏らによって示された。JAMA Network Open誌2026年3月2日号掲載の報告。 一般集団では、健康的な生活習慣の順守により心血管疾患の予防が可能であることが示唆されている。しかし、高血圧患者において健康的な生活習慣の長期的な順守や診断後の変化と心血管疾患の発症リスクとの関連を検討した研究は限られている。そこで研究グループは、2つの大規模前向きコホートのデータを用いて、高血圧診断後の生活習慣および診断前後の生活習慣の変化と、心血管疾患および2型糖尿病の発症リスクとの関連を検討した。 解析には、Nurses' Health Study(NHS、1986~2014年)およびHealth Professionals Follow-Up Study(HPFS、1986~2014年)において新たに高血圧と診断された参加者が含まれた。追跡期間は、心血管疾患についてはNHSで2020年6月30日まで、HPFSで2016年6月30日まで、2型糖尿病については両コホートとも2019年12月31日までとした。 健康的な生活習慣とは、(1)質の高い食事(代替健康食指数[AHEI-2010]の上位5分の2)、(2)非喫煙、(3)中~高強度の身体活動(150分/週以上)、(4)節度あるアルコール摂取(男性30g/日以内、女性15g/日以内)、(5)適正なBMI(18.5~24.9)の5項目と定義した。生活習慣要因は2~4年ごとに再評価され、各項目を満たすごとに1点を加算し、生活習慣スコア(範囲:0[最も不健康]~5[最も健康])として評価した。主要アウトカムは心血管疾患(致死性/非致死性の冠動脈疾患と脳卒中)および2型糖尿病の新規発症とした。 主な結果は以下のとおり。・合計2万5,820例の高血圧新規発症者が解析対象となった(平均年齢60.6歳、女性72.6%)。診断時の生活習慣スコアの中央値は3(四分位範囲[IQR]:2~4)であった。・追跡期間中央値24年(IQR:23~25)で、心血管疾患3,300例、2型糖尿病2,529例の発症を認めた。・生活習慣スコアが最も高い群(5)は最も低い群(0~1)と比較して、心血管疾患発症リスクは約51%低く(調整ハザード比[aHR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.39~0.61)、2型糖尿病発症リスクは約79%低かった(aHR:0.21、95%CI:0.14~0.30)。・40歳時点で生活習慣スコアが最も高い群(5)では、最も低い群(0~1)と比較して、平均余命が最大8.2年長いと推定された。・高血圧診断後に生活習慣スコアが低値(0~3)から高値(4~5)に改善した群は、常に低い群と比較して、心血管疾患(aHR:0.88、95%CI:0.79~0.98)および2型糖尿病(aHR:0.56、95%CI:0.48~0.65)の発症リスク低下と関連していた。・逆に、診断後に生活習慣スコアが高値から低値に低下した群では、常に高値を維持した群と比較して、心血管疾患(aHR:1.14、95%CI:1.00~1.30)および2型糖尿病(aHR:1.75、95%CI:1.45~2.10)の発症リスク上昇と関連していた。・生活習慣スコアが1点上昇するごとに、心血管疾患(aHR:0.90、95%CI:0.86~0.95)および2型糖尿病(aHR:0.79、95%CI:0.75~0.83)の発症リスク低下と関連していた。・総合解析では、降圧薬使用の有無にかかわらず、生活習慣スコアが高いほど心血管疾患および2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された。 研究グループは「これらの結果は、健康的な生活習慣を取り入れることで、高血圧の自然経過を大きく変える可能性を示唆している」とまとめた。

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弁疾患と冠動脈疾患の併存、FFRに基づくCABGでアウトカム改善/Lancet

 待機的弁手術が予定されている冠動脈疾患を有する患者において、血管造影によるFFR(冠血流予備量比)に基づく冠動脈バイパス術(CABG)は、冠動脈造影による解剖学的指針に基づくCABGと比較し、周術期複合アウトカムの発生を低下させたことが示された。中国・上海交通大学医学院附属瑞金医院のYunpeng Zhu氏らが、中国の3次医療施設12施設で実施した研究者主導の無作為化三重盲検試験「FAVOR IV-QVAS試験」の結果を報告した。冠動脈疾患を併発している弁手術予定患者に対し、現行ガイドラインでは、冠動脈造影で評価された狭窄の重症度に基づき、解剖学的指針に基づくCABGを行うことが推奨されているが、FFRに基づく戦略がこの患者集団において臨床アウトカムを改善しうるかどうかは検討されていなかった。Lancet誌2026年3月21日号掲載の報告。FFR≦0.80のみCABG実施vs.狭窄率≧50%の血管にCABG実施を評価 FAVOR IV-QVAS試験の対象は、原発性大動脈弁疾患、僧帽弁疾患またはその両方のため待機的弁手術が予定されており、冠動脈造影により直径1.5mm以上で冠動脈バイパス術(CABG)に適した血管において50%以上の狭窄を認める主要冠動脈を1本以上有する18歳以上の成人であった。 研究グループは、適格患者を血管造影によるFFR値が0.80以下の場合のみCABGを実施する群(血管造影FFR群)、または冠動脈造影で狭窄率が50%以上のすべての血管に対してCABGを実施する群(冠動脈造影群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者、フォローアップ担当医師およびアウトカム評価者は割り付けについて盲検化された。 主要アウトカムは、術後30日以内の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外の冠動脈再血行再建術および透析を必要とする新規腎不全の複合であった。重要な副次アウトカムは、1年時および3年時における全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、予定外の冠動脈再血行再建術、不安定狭心症による入院または心不全による入院の複合であった。 主要アウトカムおよび重要な副次アウトカムの主要解析は、無作為化され手術を受け、かつ主要アウトカムのデータが入手可能な患者(修正ITT集団)を対象集団とした。なお、主要アウトカムのデータが欠測率2%以下の場合は完全症例解析、2%を超えた場合は多重代入法を用いて解析することが事前に計画された。主要複合アウトカムの発生は、FFR≦0.80のみCABG実施群で有意に低下 2019年8月4日~2024年8月13日に793例が登録され、396例が血管造影FFR群、397例が冠動脈造影群に無作為に割り付けられた。冠動脈造影群の1例は手術を拒否したため、修正ITT集団から除外された。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:59~70)で、221例(28%)が女性、571例(72%)が男性であった。CABGは、血管造影FFR群で223例(56%)、冠動脈造影群で388例(98%)に施行された。 主要複合アウトカムのイベントは、血管造影FFR群で31例(7.8%)、冠動脈造影群で53例(13.4%)に発生した(絶対群間差:-5.6%ポイント[95%信頼区間[CI]:-9.9~-1.3]、リスク比:0.58[95%CI:0.38~0.89]、p=0.011)。30日全死因死亡は、血管造影FFR群で11例(2.8%)、冠動脈造影群で17例(4.3%)に認められた。 追跡期間中央値27ヵ月(血管造影FFR群28ヵ月[IQR:18~44]、冠動脈造影群27ヵ月[18~42])時点において、重要な副次アウトカムは血管造影FFR群で82例(20.7%)、冠動脈造影群で106例(26.8%)に発生した(ハザード比:0.74、95%CI:0.55~0.98、p=0.036)。

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中等度CKDの腎機能追跡、クレアチニン・シスタチンC併用eGFRが良好/BMJ

 血清クレアチニンとシスタチンCの両方のバイオマーカーを用いた糸球体濾過量(GFR)の推算式は、それぞれの単一バイオマーカーに基づく推算式より、実測GFRの変化との一致率が高いことが、英国・バーミンガム大学のKatie Scandrett氏らによる前向きコホート研究の結果で明らかになった。慢性腎臓病(CKD)のモニタリングはGFRを用いて行われているが、実測GFRはあまり使用されていない。一方、血清クレアチニン値に基づく推算糸球体濾過量(eGFR)が一般的に使用されているが、不正確な場合があるという課題があった。BMJ誌2026年3月19日号掲載の報告。実測GFRと各種推算式によるeGFRで3年後の変化を比較 研究グループは、2014年4月1日~2017年12月31日にイングランドの6施設(プライマリケア、2次および3次医療施設)において、登録前の少なくとも3ヵ月間、クレアチニンに基づくeGFRが30~59mL/分/1.73m2でステージ3のCKDを有する18歳以上の成人1,229例を登録した。 主要解析では、3年間にわたるGFRモニタリングにおける推定式の精度を評価。実測GFR(基準値)とeGFRの年間変化量の差が±3mL/分/1.73m2/年以内の場合を一致とみなした。副次解析では、疾患進行(実測GFRの25%以上低下、かつ病期分類の悪化)に関するeGFRの検出力を評価した。 基準となる実測GFRはイオヘキソールクリアランス法により測定し、eGFRは血清クレアチニンおよびシスタチンC濃度より慢性腎臓病疫学共同研究(Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration:CKD-EPI)および欧州腎機能コンソーシアム(European Kidney Function Consortium:EKFC)の推定式を用いて算出した。実測GFRとの一致率が最も高いのは、クレアチニンとシスタチンCに基づくeGFR 解析対象は、ベースラインおよび3年後の両方で実測GFRおよびeGFRのデータが得られた875例であった。 実測GFRの中央値は、ベースラインの48.1mL/分/1.73m2から、3年後は43.6mL/分/1.73m2に低下した。実測GFR変化量の中央値は、検討したすべての推算式(CKD-EPIcreatinine、CKD-EPIcystatin、CKD-EPIcreatinine-cystatin、CKD-EPI(2021)creatinine、CKD-EPI(2021)creatinine-cystatin、EKFCcreatinine、EKFCcystatin、EKFCcreatinine-cystatin)によるeGFR変化量の中央値を上回った。 eGFR変化量と実測GFRの変化量の一致の程度は良好であった。一致率は72.6~80.2%の範囲であり、2つのバイオマーカーを用いた推算式で実測GFRの変化量との一致率が高かった。一致率は、CKD-EPIcreatinine(73.1%、95%信頼区間:70.1~76.1)との比較において、CKD-EPIcreatinine-cystatin(78.6%、75.8~81.3)、CKD-EPI(2021)creatinine-cystatin(78.1%、75.2~80.8)、EKFCcreatinine-cystatin(80.2%、77.4~82.8)が有意に良好であった(すべてのp<0.001)。 CKDの進行は139例(15.9%)で認められた。すべてのeGFRにおいてCKDの進行に関する感度は低かった(<54.1%)が、特異度は高かった(>90.4%)。 著者らは、「すべての推算式によるeGFRがGFRの経時的低下を過小評価していたことについて、さらなる検討が必要である」としたうえで、「臨床現場において複数マーカーに基づく推算式の活用を拡大することが、疾患モニタリングの改善、ひいては臨床ケアの向上に寄与する可能性がある」とまとめている。

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入院患者の栄養管理とウェルニッケ脳症【医療訴訟の争点】第20回

症例昨今、入院患者の栄養管理の重要性は広く認識されており、多くの医療機関では栄養サポートチーム(NST)などを中心として体系的な栄養評価が行われている。本稿では、入院時の栄養評価および静脈栄養管理の適否が争われた名古屋高裁令和6年9月5日判決を紹介する。<登場人物>患者(P1)直腸切除術後、幽門狭窄により経口摂取困難となった患者(66歳・男性)原告患者P1およびその妻被告県立病院(地方独立行政法人)事案の概要は以下の通りである(なお、いずれも平成27年)。◆入院前経過(体重減少の進行)4月15日患者P1は、直腸がんの疑いで大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を受けるため、本件病院に入院し、この時の体重は62.3kgであった。8月25日P1は胃痛および嘔吐を主訴として本件病院外科・消化器外科を受診し、幽門狭窄症と診断され入院した。この時の体重は55.4kgであり、4月の受診時から約7kgの体重減少がみられていた。9月28日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事は少しずつ時間をかけて取っている旨を述べた。10月26日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事はセーブしている旨を述べた。◆入院時の栄養評価10月30日水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続いたとして受診。幽門狭窄による経口摂取不良疑いの精査のため入院。入院時、病院では栄養状態の評価が行われたが、体重測定は実施されなかった。その結果、患者の栄養状態については「明らかな栄養不良は認められない」と判断された。しかし、その後(入院から6日目の11月4日)の測定で48.1kgであったため、入院当時の体重は約48kg程度であったと推定されている。これは「約6ヵ月で20%以上の体重減少」「約2ヵ月で10%以上の体重減少」に相当する著しい体重減少であった。◆入院後の栄養管理患者は幽門狭窄による嘔吐のため、入院後も十分な経口摂取ができない状態が続いた。そのため病院では静脈栄養による栄養管理が行われたが、その際ビタミンB1の投与は行われなかった。このこともあり「ブドウ糖を含む輸液が継続された」という状況であった。◆ウェルニッケ脳症の発症11月4日頃患者はウェルニッケ脳症を発症した。その後、患者はコルサコフ症候群を発症し、重篤な後遺障害が残存した。 実際の裁判結果名古屋高裁は、病院の栄養管理には過失があったと認定し、患者側の請求を一部認容した。裁判所は、以下の点を指摘し「本件病院は、自ら規定した本件マニュアルに従い、患者P1の体重測定を行い、最近6ヵ月および最近2週間の体重の変化を把握すべきであった」とした。SGA(Subjective Global Assessment)を含む一般に妥当性が承認されている複数の栄養状態評価の方法においては、体重変化が最も重要な指標であるとされていること 本件病院においては、入院患者に対してはSGAに基づく栄養状態評価を行うことを定め、その具体的な内容を本件マニュアルで定めて、これが運用されていたこと患者P1は、本件病院で直腸切除の手術を受け、その後、摂食障害により被控訴病院に幽門狭窄症と診断されて入院し、退院後も通院している中で、時間をかけても十分に食事を摂取することができなくなったことを述べるようになっていたことそして、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1について「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をして、体重測定を行うことなく、重大な栄養障害が生じている可能性が高いことを把握しなかったことは、当時の医療水準を逸脱するものであったと言わざるを得ず、不法行為法上の過失があった」とした。栄養障害が存在するときには、とくに体内貯蔵量の少ないビタミンB1などの水溶性ビタミンの欠乏症が起こりやすく、ビタミンB1は18日から20日間で枯渇することビタミンB1が欠乏すると、死亡または重大な後遺障害を遺す蓋然性の高いウェルニッケ脳症を発症することは、いずれも本件入院時において広く知られていたこと平成27年当時、ビタミン欠乏のおそれのない患者に対して、無条件にビタミン剤を投与することは消極的とされていたことから、本件病院が、摂食不良を訴える患者P1の入院時に体重測定をせず、体重変化を把握しないまま、「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をすれば、ビタミンB1を投与せずにブドウ糖のみを投与することとなり、ビタミンB1が欠乏し、ウェルニッケ脳症を発症する。このことは、患者P1が直腸切除術後であること、摂食障害により幽門狭窄症と診断されて入通院していること、時間をかけても十分な食事摂取ができなくなり、水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続き再入院している患者P1の既往、経過および状態にあることを把握していた本件病院において、予見することが十分に可能であったこと患者P1の妻が本件入院で来院の際、本件病院の外来看護師に対して患者P1の摂食状況が2週間前から極端に悪化していることを伝えていたこと患者P1は、本件病院に着くまでは自ら歩いており、本件病院到着後も立位を保持して検査を受けることが可能であり、本件病院が患者P1の体重を測定することは容易であったこと本件当時も、ビタミンB1があらかじめ添加された栄養輸液製剤は広く普及しており、本件病院においてビタミンB1を投与することも容易であったことその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1に本件入院当初からビタミンB1を投与していれば、ウェルニッケ脳症およびコルサコフ症候群を発症しなかったであろう高度の蓋然性がある」として、過失と損害の因果関係を認めた。患者P1の本件入院時の体重は、同年11月4日の測定結果とほぼ同様の48.1kgと考えられるところ、患者P1は同年4月15日には62.3kg、同年8月25日には55.4kgであったのだから、最近約6ヵ月の体重減少率は20%を超える約22.8%、最近約2ヵ月の体重減少率は10%を超える約13.2%であり、病的な体重減少であったこと本件病院の作成している本件マニュアルに照らせば、重大な栄養障害である可能性があるものに当たるだけでなく、その基準をはるかに超えて体重が減少していることから、体重の増減を把握していれば、患者P1に重大な栄養障害が生じている可能性があるものと判断したはずであること重大な栄養障害が生じている患者にビタミンB1を投与することなくブドウ糖を投与すると、急激にビタミンB1が消費されてウェルニッケ脳症を発症することウェルニッケ脳症は高い割合で重篤な後遺障害が残存しまたは死亡するという重大な疾患である一方で、ビタミンB1の投与による特段の副作用はないとされており、ウェルニッケ脳症は症状が出てから対応する疾患ではなく、予防的に対応する疾患であるとされていることウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏により発症するものであり、コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症の慢性期に発症するものであること注意ポイント解説本判決の特徴は、入院患者の栄養管理に関する医療水準を比較的具体的に示した以下の点にある。第1に、栄養評価において体重変化が基本的指標であることを明確にし、体重測定を行わないまま栄養状態を判断したことを問題視した点第2に、摂食不良患者ではビタミンB1欠乏が生じ得るという医学的知見を前提とし、そのような患者に対するビタミンB1投与の必要性を指摘した点第3に、ビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与がウェルニッケ脳症の発症につながる可能性を踏まえ、予防的なビタミンB1投与を行わないことの不合理性を認めた点また、本判決は、消化管疾患による摂食不良患者や末梢静脈栄養の症例であってもウェルニッケ脳症の発症リスクが生じ得ることを示した点に特徴がある。加えて、本件病院が患者P1の入院時の栄養状態を「明らかな栄養不良がない」としたことにつき、本判決は“本件病院では、「明らかに栄養不良がない」という場合がどのような場合であるのかについては明示されていなかったのであるから、少なくとも、ディティールスクリーニングの項目のいずれかに該当することがうかがわれる場合には、「明らかに栄養不良がない」と判断することは許されない”としており、本件病院に栄養評価に関するマニュアルがあり栄養サポート体制が存在していたにもかかわらず、基本的な栄養評価が十分に行われなかったことが過失認定の背景となっている。この点からすると、本判決は単にビタミンB1投与の問題にとどまらず、入院患者の栄養管理体制そのものの重要性を示したものと評価できる。医療者の視点本判決は、入院契機となった主訴や疾患の治療に注力するだけでなく、栄養状態を含めた「患者全体の全身管理」に目を向けることの重要性を改めて浮き彫りにしました。実際の臨床現場でも、NST(栄養サポートチーム)などを通じて体系的な栄養評価が行われており、体重変化の把握やビタミンB1欠乏への注意喚起は広く認識されているため、裁判所の見解と実臨床の認識は概ね一致しています。一方で、実臨床との相違点や課題もあります。本件では入院時に体重測定を実施しなかったことが過失と認定されました。臨床現場では、患者の全身状態が不良で、立位での体重測定が困難なケースに直面することが多々あります。しかし、本件の患者は自立歩行が可能であり、測定は容易であったと判断されました。状態が悪く測定が困難な場合であっても、ベッドスケールを活用するなど、客観的な指標である体重を可能な限り把握する姿勢が求められます。本件から得られる教訓は、入院契機となった主訴や原疾患の治療にのみ目を奪われるのではなく、患者の栄養状態を含めた全身管理に広く目を向けることの重要性です。実臨床においては、目の前の症状に対処するだけでなく、患者の既往や経過から潜在的なリスクを予測し、予防的な介入を行うという包括的な視点を持つことが、予期せぬ合併症や医療事故を防ぐ上で不可欠といえます。また、実臨床では、短期の末梢静脈栄養においてビタミンB1を含まないブドウ糖輸液を選択する場面も少なくありません。しかし、消化管疾患などで摂食不良の経過がある患者に対しては、ブドウ糖投与がウェルニッケ脳症を誘発するリスクを常に念頭に置き、予防的にビタミンB1を投与することが不可欠です。Take home message栄養評価では体重測定と体重変化の把握が基本である摂食不良患者ではビタミンB1欠乏を想定する必要があるビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与はウェルニッケ脳症を誘発し得るウェルニッケ脳症は予防可能な医療事故であるキーワード体重変化、摂食不良、ビタミンB1欠乏、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群

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桂枝湯~実証と虚証~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第4回

桂枝湯~実証と虚証~感冒初期に使う漢方薬として、葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)を紹介してきました。今回は残った桂枝湯(けいしとう)ですね。桂枝湯は、麻黄湯とは対照的に、虚弱体質の患者に使ってほしい薬です。構成生薬は、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)です。桂皮はシナモンの同属種植物、大棗はナツメ、生姜はショウガですね。割と身の回りにある生薬も入っていることになります。葛根湯や麻黄湯との最大の相違点として、麻黄が含まれていないことが挙げられます(図1)。そのため、虚弱体質の人に使っても動悸を起こして裏目に出るということがないのです。図1 桂枝湯の構成生薬画像を拡大する実証と虚証これまで体が丈夫な人、虚弱体質の人と述べてきましたが、そろそろきちんとした漢方の言葉に直そうと思います。ざっくりと、体が丈夫な状態を実証、体が虚弱な状態を虚証といいます。体が丈夫な実証だと、病気になった時に免疫が強く出るため、熱が出やすく、症状も節々が痛いなど、激しく出やすい。逆に、体が虚弱な虚証だと、そういった症状が比較的出にくいと言えます。漢方の世界では、実証と虚証は体格を基準に判断します。定量的には、肋骨弓の角度が大きい(90度以上)か、小さい(60度未満)かで判断することもあります。ただし、大柄で一見実証に見える方でも、お腹を触った時の押し返してくる力、腹力が弱い場合は虚証と考えることもあります。体格が判断基準の主なものですが、声に力があるか、腹力がしっかりしているかといった他の所見も参考にしています。それで、実証の方は便秘になりやすく、虚証の方は下痢になりやすいという傾向もあります(図2)。図2 実証と虚証の特徴画像を拡大する桂枝湯桂枝湯には、大棗や生姜が含まれます。現代でいうナツメとショウガですが、これらは両方とも胃腸の調子を整えてくれる生薬です。あとは芍薬と甘草も入っています。芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が丸ごと入っている形に一応なっています。芍薬甘草湯を過敏性腸症候群のような腸管蠕動に伴う腹痛に使えるということを第1回で述べましたが、桂枝湯もある程度は腹痛をやわらげてくれます(図3)。図3 桂枝湯の構成生薬の特徴画像を拡大するさきほど述べたとおり、虚証では往々にしてお腹が弱くて下痢をしやすくなります。桂枝湯には胃腸に優しい生薬の組み合わせが複数あるため、そういった患者に使いやすいという話になるわけです。では、ここで古典の条文も読んでみましょう(図4)。図4 桂枝湯の古典条文画像を拡大する「感冒初期で寒気がある」というのは葛根湯や麻黄湯の場合と共通しているのですが、今回は汗が出ているという点が正反対です。悪性リンパ腫などで消耗している患者が盗汗になる、つまり寝汗をかくことをご存じの先生方は多いかもしれないですが、虚弱体質の人は病気に侵されると汗をダラダラかきやすいのです。この患者に麻黄湯や葛根湯を入れてしまうと、麻黄が入っているので、エフェドリンの交感神経作用でもっと汗をかいてしまって、下手をすると脱水症に陥ります。そのため、汗が出ている患者さんには桂枝湯の方がいいという話になってきます。まとめじつは桂枝湯の話はまだまだ続くのですが、こんがらがってしまう方も出てきてしまいそうなため、今回はここでまとめます。感冒初期で虚弱体質の方には桂枝湯を使います。麻黄が入っておらず、汗が出ている患者さんに使っても脱水になる心配がないのが強みです。患者さんの病気に対する抵抗力を示す概念として、実証と虚証という概念があります。おおむね体格で判断できるのですが、声の力強さ、腹力といった要素も判断材料になります。実証の患者さんは便秘になりやすく、虚証の患者さんは下痢になりやすい傾向にあります。このことは次回以降、深堀りしていきます。次回は、桂枝湯の派生処方。第1回から第4回までに散りばめてきた伏線を一気に回収していきます。お楽しみに!

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ASCO GU 2026レポート

レポーター紹介2026年2月26~28日に米国・サンフランシスコで開催された2026 ASCO Genitourinary Cancers Symposium(ASCO GU 2026)における重要演題を、がん研有明病院 先端医療開発科の竹村 弘司氏がレビューする。泌尿器腫瘍領域の薬物療法は新規薬剤の開発や臨床応用の発展が目覚ましく、臨床現場における標準治療も大きく変化している。ASCO GU 2026ではPractice changeとなることが期待される重要演題が複数報告されるとともに、バイオマーカー研究や早期臨床開発中の薬剤における重要な知見が共有された。本稿では、臨床医(泌尿器科医、腫瘍内科医)が知っておくべき重要な演題について、私見を交えながら詳細を解説する。ASCO GU 2026の重要演題 One-slide summaryINDEX【腎がん】LITESPARK-011試験【腎がん】LITESPARK-022試験【尿路上皮がん】KEYNOTE-B15 (EV-304)試験【尿路上皮がん】IMvigor011試験 exploratory analysis【前立腺がん】PEACE-3試験【前立腺がん】PAnTHA試験[腎がん 演題1]LITESPARK-011Belzutifan Plus Lenvatinib Versus Cabozantinib for Advanced Renal Cell Carcinoma After Anti-PD-(L)1 Therapy: Open-Label Phase 3 LITESPARK-011 Study1. 背景転移を有する腎細胞がん(mRCC)において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を含む治療が標準治療となった。現在、ICI治療後の後方ラインで用いられている薬剤は、ICI導入前の時代に確立されたエビデンスであるものも多く、現代の治療シークエンスにおける位置付けは十分に確立されていない。ベルズチファンはHIF-2α阻害薬として新たな作用機序を有し、既治療mRCCにおいて有効性が示されている。LITESPARK-011試験は、ICI治療後の進行例を対象に、ベルズチファンとVEGFR-TKIであるレンバチニブの併用療法について、標準治療の1つであるカボザンチニブと比較して、有効性・安全性を検証した第III相試験である。2. 試験デザインデザイン国際多施設共同、オープンラベル、第III相無作為化比較試験対象抗PD-(L)1抗体治療後に進行した局所進行または転移を有する淡明細胞型腎細胞がん(clear cell RCC)(最大2レジメンまで、VEGFR-TKI既治療も許容)介入併用群ベルズチファン120mg+レンバチニブ20mg対照群カボザンチニブ60mg評価項目主要評価項目無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)副次評価項目奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など3. 結果747例が無作為化され、ベルズチファン+レンバチニブ群371例、カボザンチニブ群376例であった。背景因子は両群でおおむね均衡しており、IMDCリスク分類は中間群が約6割を占めた。主要評価項目であるPFS中央値は、併用群14.8ヵ月、対照群10.7ヵ月であり、ハザード比(HR):0.70(95%信頼区間[CI]:0.59~0.84、p=0.00007)と有意な改善が認められた。PFS改善効果は事前に設定されたサブグループ解析でも一貫していた。OSは中間解析時点で、併用群34.9ヵ月、対照群27.6ヵ月であり、HR:0.85(95%CI:0.68~1.05)と改善傾向を示したが、統計学的有意差には至らなかった。ORRは52.6%vs.40.2%と併用群で高かった。安全性プロファイルは既知の各薬剤の毒性とおおむね一致しており、管理可能な範囲であった。ただし、併用療法群で心機能障害が7%(Grade3以上が4.6%)でみられた。4. 結論ベルズチファン+レンバチニブ併用療法は、抗PD-(L)1治療後の進行clear cell RCCにおいて、カボザンチニブと比較してPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは未成熟ながら改善傾向を示しており、新たな治療選択肢となる可能性が示された。5. 筆者コメントベルズチファンはLITESPARK-005試験の結果を受けて、後方ライン・単剤での有効性が示され臨床実装されているが、Primary PDの割合が比較的高いこと(約3分の1が初回評価で病勢進行)が課題である。HIF-2α阻害薬の臨床開発において、(1)「より前方ライン」での使用がよいのか、(2)「併用薬剤」はどれが最も効果を最大化するか、というのが現在の大きなClinical questionsである。本試験は、レンバチニブとの併用でカボザンチニブと比較してPFSやORRを改善したことから、サルベージ治療として奏効が期待される後方ラインの選択肢として有望である。ただし、OSの統計学的優位性が現時点で証明されておらず、今後の長期フォローアップデータを確認していく必要がある(現時点では、確固とした標準治療とまでは言えないと考える)。[腎がん 演題2]LITESPARK-022Adjuvant Pembrolizumab Plus Belzutifan Versus Pembrolizumab for Clear Cell Renal Cell Carcinoma: The Randomized Phase 3 LITESPARK-022 Study1. 背景腎摘除後の再発高リスクclear cell RCCに対しては、KEYNOTE-564試験によりペムブロリズマブによる術後補助療法が標準治療として確立されている。LITESPARK-022試験は、術後補助療法としてのペムブロリズマブにベルズチファンを上乗せすることで、治療成績の向上が得られるかを検証した第III相試験である。2. 試験デザインデザイン国際多施設共同、二重盲検、第III相無作為化比較試験対象腎摘除後12週以内の再発中間高リスクclear cell RCC(intermediate-high risk、high risk、M1 NED)介入併用群ペムブロリズマブ400mg(約1年間)+ベルズチファン120mg(最大54週)対照群ペムブロリズマブ+プラセボ評価項目主要評価項目無病生存期間(DFS)副次評価項目OS、安全性など3. 結果1,841例が無作為化され、併用群921例、対照群920例であった。リスク分類は中間・高リスクが約85%、M1 NEDが約9%を占め、両群間で背景は均衡していた。主要評価項目であるDFSはHR:0.72(95%CI:0.59~0.87、p=0.0003)と、併用群で有意な改善が認められた。DFS中央値はいずれの群でも未到達であった。2年時点でのDFSは併用群で80.7%、対照群で73.7%であった。OSは中間解析時点でHR:0.78(95%CI:0.55~1.09)と改善傾向を示したが、統計学的有意差には至っておらず、今後のフォローアップが必要である。安全性については、併用群で有害事象による中止率がやや高い傾向がみられたものの、全体として管理可能な範囲であった。4. 結論ペムブロリズマブにベルズチファンを併用する術後補助療法は、再発高リスクclear cell RCCにおいてDFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは未成熟であるが改善傾向を示しており、術後補助療法の新たな選択肢となる可能性が示唆された。5. 筆者コメント臨床現場において標準治療として確立されるためには、OSのフォローアップデータの結果がポジティブであることが必要であると考える。HIF-2α阻害薬が術後療法の領域で有効性があることが示唆されたことは非常に興味深い。腎がん領域ではRAMPART試験(デュルバルマブ+トレメリムマブ)のフォローアップデータも期待されており、複数のレジメンが今後使用可能となった場合の治療戦略は混沌としていく可能性がある。[尿路上皮がん 演題1]KEYNOTE-B15 (EV-304)Neoadjuvant and Adjuvant Enfortumab Vedotin Plus Pembrolizumab for Participants With Muscle-Invasive Bladder Cancer Who Are Eligible for Cisplatin: Randomized, Open-Label, Phase 3 KEYNOTE-B15 Study1. 背景筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する標準治療は、シスプラチンを含む術前化学療法後の根治的膀胱全摘除術である。シスプラチン適格患者においては、ゲムシタビン+シスプラチン(GC療法)による術前化学療法が実施されている。一方で、進行・転移を有する尿路上皮がんの領域では、エンホルツマブ ベドチン(EV)+ペムブロリズマブ併用療法(EVP療法)が高い有効性を示し、治療パラダイムを変えた。KEYNOTE-B15試験は、シスプラチン適格MIBC患者を対象に、EVP療法による周術期治療の有効性と安全性を検証した第III相無作為化比較試験である。2. 試験デザインデザイン国際多施設共同、オープンラベル、第III相無作為化比較試験対象シスプラチン適格のMIBC(cT2-T4aN0M0またはT1-4aN1M0)介入併用群EVP 4コース(術前)→膀胱全摘除術→EV 5コース+ペムブロリズマブ13コース(術後)対照群GC 4コース(術前)→膀胱全摘除術(術後は経過観察、ただし2023年2月以降、病理結果に応じて術後ニボルマブが可となった)評価項目主要評価項目無イベント生存期間(EFS)副次評価項目OS、病理学的完全奏効(pCR)、安全性など3. 結果808例が無作為化され、EV+ペムブロリズマブ群405例、GC群403例であった。背景因子は両群で均衡しており、年齢中央値は66歳、ECOG PS 0が約8割、病期はT2N0が約19%、T3/T4aN0が約72%、N1が約8%であった。追跡期間中央値は33.6ヵ月であった。主要評価項目であるEFSは、EVP群で有意な改善が認められた。EFS中央値は併用群で未到達、対照群で48.5ヵ月であり、HRは0.53(95%CI:0.41~0.70、 片側p<0.0001)と、明確なリスク低減が示された。副次評価項目であるOSについても有意な改善が認められた。OS中央値はいずれの群でも未到達であったが、HRは0.65(95%CI:0.48~0.89、片側p=0.0029)であった。pCR率は55.8%vs.32.5%と、併用群で有意に高かった。安全性については、Grade3以上の有害事象は75.7%vs.67.2%と併用群でやや高頻度であったが、既知の安全性プロファイルとおおむね一致しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。周術期治療の導入による手術完遂率への明らかな悪影響も認められなかった。4. 結論EVP療法による周術期治療は、シスプラチン適格MIBC患者において、従来のシスプラチンベース化学療法と比較してEFS・OSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。周術期治療戦略における新たな標準治療となる可能性が示された。5. 筆者コメント本演題の結果はPractice changeであり、ASCO GU 2026の最重要演題である。EVが合計9コース投与されるため、末梢神経障害が懸念される。今後は術後療法が省略できる可能性がないかの検証が必要である。また、EVP療法のような強力な薬物治療が使用可能となったことにより、膀胱温存療法についての研究も今後検証されていくことが予想される。 [尿路上皮がん 演題2]IMvigor011 exploratory analysisCirculating tumor (ct)DNA-guided adjuvant atezolizumab (atezo) in muscle-invasive bladder cancer (MIBC): Exploratory analysis of ctDNA dynamics in the IMvigor011 trial.1. 背景IMvigor011試験は、膀胱全摘後MIBCに対してctDNA陽性例を選択し、術後アテゾリズマブの有効性を検証した第III相試験であり、既報では主要評価項目のDFSおよび主な副次評価項目のOSを達成している。本発表はその探索的解析であり、ctDNA陽性・陰性という二値評価にとどまらず、ctDNA陽性化のタイミングやctDNA濃度、さらに治療中のctDNA clearanceが予後やアテゾリズマブの効果とどのように関係するかを検討した。2. 試験デザイン膀胱全摘後のMIBC患者を対象に、6週ごとにctDNAを測定し、ctDNA陽性となった患者をアテゾリズマブ1,680mg q4w最大1年とプラセボに2対1で無作為化した。ctDNA陰性を1年間維持した患者は無治療経過観察とされた。本探索的解析では、ctDNAの陽性化時期、ctDNA濃度、ctDNA動態などとDFS/OSといった臨床的アウトカムとの関連を解析した。3. 結果761例がsurveillanceに登録され、379例がいずれかの時点でctDNA陽性、377例がpersistent ctDNA陰性であった。ctDNA陽性379例のうち、初回検査で陽性化したのは225例、追跡中に陽性化したのは154例であった。未治療集団において、ctDNA陽性化のタイミングは予後と強く関連した。DFS中央値は、persistent ctDNA陰性群で未到達、初回検査陽性群で6.0ヵ月(95%CI:5.1~6.6)、追跡中陽性化群で11.1ヵ月(95%CI:9.2~13.5)であった。OS中央値はpersistent ctDNA陰性群で未到達、初回検査陽性群で21.9ヵ月(95%CI:15.0~NE)、追跡中陽性化群で35.1ヵ月(95%CI:24.9~NE)であった。すなわち、早期にctDNA陽性となる症例ほど予後不良であった。また、初回ctDNA濃度別のDFS中央値は、≦0.1 MTM/mLで12.2ヵ月、>0.1~≦3 MTM/mLで7.8ヵ月、>3 MTM/mLで5.3ヵ月であり、OS中央値はそれぞれ35.1ヵ月、29.3ヵ月、21.1ヵ月であり、高濃度ctDNAほど予後不良であった。一方、アテゾリズマブの有効性はctDNA陽性化時期や濃度にかかわらず、おおむね一貫していた。全体コホートでDFS中央値は9.9ヵ月vs.4.8ヵ月、DFSはHR:0.64(95%CI:0.47~0.87)であった。初回陽性例ではHR:0.62、追跡中陽性化例ではHR:0.67であり、濃度別でも≦0.1 MTM/mLで0.81、>0.1~≦3 MTM/mLで0.59、>3 MTM/mLで0.47であった。OSについては全体で32.8ヵ月vs.21.1ヵ月、HR:0.67(95%CI:0.44~1.01)で、各サブグループでも大きな方向性の違いはみられなかった。4. 結論IMvigor011の探索的解析により、MIBC術後のctDNAは単なる陽性・陰性だけでなく、陽性化のタイミングと濃度が追加の予後情報を与えることが示された。早期陽性化および高濃度ctDNAはDFS・OS不良と関連し、一方でpersistent ctDNA陰性例はきわめて良好な転帰を示した。また、アテゾリズマブはctDNA陽性化時期や濃度にかかわらず一貫した有効性を示し、さらにctDNA clearanceを促進した。これらの結果は、ctDNA動態を用いたより精緻な術後リスク層別化および治療最適化の可能性を支持する。5. 筆者コメントIMvigor011試験の結果から、ctDNAは尿路上皮がんにおける術後予後因子のみならず、ICIの効果予測因子としても有用であることが示された。今回の探索的解析ではctDNAの「動態」が臨床的アウトカムに関連することが報告された。本邦ではまだ臨床現場での使用ができていないが、今後の尿路上皮がんのバイオマーカーとして広く用いられることが期待されるため、今後もその有用性の研究に注目する必要がある。[前立腺がん 演題1]PEACE-3Final overall survival results from EORTC 1333/PEACE-3: enzalutamide with or without radium-223 in metastatic castration-resistant prostate cancer1. 背景転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)において、エンザルタミドは1次標準治療の1つである。PEACE-3試験は、骨転移を有するmCRPC患者において、エンザルタミドにRa223を併用することで、エンザルタミド単剤を上回る臨床的有用性が得られるかを検証した第III相試験である。前回の解析では主要評価項目であるrPFS(画像評価PFS)の有意な改善が示されており(ESMO 2024)、本発表では副次評価項目である最終OS解析の結果が報告された。2. 試験デザイン試験デザイン国際多施設共同、無作為化、第III相試験対象骨転移を有するmCRPC、無症候性または軽症候性、WHO PS 0~1、エンザルタミドおよびRa223未治療、内臓転移なし、ADT継続中介入1対1で無作為化治療群エンザルタミド160mg/日+Ra223 55 kBq/kgを4週ごとに6回対照群エンザルタミド160mg/日評価項目主要評価項目rPFS副次評価項目OS、次治療開始までの期間、疼痛進行までの期間、初回症候性骨関連事象までの期間、安全性層別因子  国、疼痛、ドセタキセル既往、骨修飾薬使用、アビラテロン既往※骨修飾薬は試験途中の2018年3月以降、必須となった。3. 結果446例が登録され、エンザルタミド+Ra223群222例、エンザルタミド群224例であった。年齢中央値は両群とも70歳で、PS 0が69%、mHSPC段階でのドセタキセル既往は約30%、骨病変10個以上は約4割、骨外病変を約3分の1に認めた。追跡期間中央値は4.8年であった。最終OS解析では、OS中央値はエンザルタミド+Ra223群38.21ヵ月、エンザルタミド群32.62ヵ月であった。HRは0.76(95%CI:0.60~0.96)で、片側p値はlog-rank 0.0096であり、事前に設定された有意水準(1-sided α=0.0248)を満たした。24ヵ月OS率は71.1%vs.67.7%、36ヵ月OS率は54.2%vs.47.4%であった。なお、生存曲線は18ヵ月付近まで交差がみられたが、その後は併用群で一貫して良好であった。rPFSについても、前回報告と同様に改善が維持されていた。rPFS中央値は19.19ヵ月vs.16.43ヵ月、HR:0.71(95%CI:0.57~0.89)であり、24ヵ月rPFS率は44.1%vs.37.2%であった。安全性について、Grade3~5の試験治療下における有害事象(TEAE)は69.3%vs.57.6%、Grade3~5のdrug-related TEAEは28.9%vs.18.8%であった。発表全体としては、「moderate increase in adverse events」と総括されている。4. 結論PEACE-3試験の最終OS解析により、骨転移を有するmCRPCにおいてエンザルタミドへのRa223追加は、エンザルタミド単剤と比較してOSを有意に改善することが確認された。rPFS改善も維持されており、安全性は一定の上昇を伴うものの管理可能な範囲であった。BPA併用を前提として、エンザルタミド+Ra223はmCRPCの1次治療における有力な選択肢となる可能性が示された。5. 筆者コメントPositive studyであるが、現在の臨床実践ではmHSPCの段階でARSI(新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬)が導入される症例が多く、本試験の適格基準に合致する患者は実際には多くないと思われる。[前立腺がん 演題2]PAnTHAFirst-in-human assessment of actinium-225-PSMA-Trillium (BAY3563254) in mCRPC: dose-escalation results from the phase 1 PAnTHA study1. 背景mCRPCに対する放射性リガンド療法として、β線放出核種である177Lu-PSMA-617の有効性が確立されつつある。一方、α線放出核種である225Acは、より高いlinear energy transferと短い飛程を有し、理論的には強力な抗腫瘍効果と周辺正常組織への影響低減が期待される。PAnTHA試験ではfirst-in-humanである225Ac-PSMA-Trilliumのdose-escalation studyの結果が発表された。2. 試験デザイン試験デザイン第I相、dose-escalation part対象18歳以上、ECOG PS 0~1、mCRPC、PSMA陽性病変を1つ以上有する患者主な適格条件ARPI(アンドロゲン受容体経路阻害薬)既治療、1〜2レジメンのタキサン系薬剤既治療、放射性医薬品(radionuclide therapy)未治療治療225Ac-PSMA-Trilliumを6週ごとに最大4サイクル投与用量75/100/125/150 kBq/kg主要評価項目安全性、有効性、recommended dose for expansion(RDE)の決定3. 結果dose-escalation partでは計50例が登録された。年齢中央値は70.5歳で、骨転移は90%の患者でみられた。追跡期間中央値は7.2ヵ月、80%が4サイクルを完遂し、投与サイクル中央値は4であった。安全性については、全例で何らかのTEAEを認めたが、DLT(用量制限毒性)は全用量レベルで認められなかった。Grade3~4のTEAEは全体で44%に出現し、用量調整は10%、治療中止は6%、治療関連の死亡は認めなかった。発表では「no DLTs or Grade 3 xerostomia」と総括されており、口腔乾燥の重篤例がみられなかった点はα線PSMA治療として注目される。主なGrade3以上の有害事象としてはリンパ球減少と貧血が挙げられた。有効性については、全50例におけるPSA50達成率は62%、PSA90達成率は40%であった。測定可能病変を有する24例におけるORRはCRで42%、DCRで79%であった。用量別では125 kBq/kgが最もバランス良好と判断され、RDEとされた。この125 kBq/kgコホートでは、PSA50達成率83%、PSA90達成率67%、ORRはconfirmed responseのみで43%、confirmed+unconfirmedで71%であった。さらに、ベースラインSUVmeanが高い症例ほど反応率が高く、PSA50達成率はSUVmean ≦6で22%、>6~≦10で57%、>10で93%であった。4. 結論PAnTHA試験は、225Ac-PSMA-TrilliumがmCRPCにおいて良好な忍容性を示し、DLTを認めず、かつ有望な生化学的・画像学的抗腫瘍効果を示すことを初めて報告した。とくに125 kBq/kgは安全性と有効性のバランスに優れ、RDEとして選択された。225Acを用いたPSMA標的α線治療の臨床開発を前進させる重要なfirst-in-humanデータである。5. 筆者コメントPSMA-based therapyは本邦での臨床使用が欧米と比較して遅れをとっている。本試験のように次世代のラジオリガンドが続々と開発されており、今後の動向に注目が必要である。

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第309回 神戸にがん放射線治療装置の共同利用を目的とした地域医療連携推進法人、新たな事業スキームとして注目集まる

「垂直連携型」ではないユニークな連携推進法人制度の活用事例こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンが始まりました。この週末は、BSや地上波でNPB、MLB、そして春の選抜高校野球を楽しみました。西地区ロサンゼルスであったドジャースの開幕戦、中地区ミルウォーキーであったホワイトソックスの開幕戦、東地区トロントであったブルージェイズの開幕戦の3試合を、現地映像ではなくNHKが自らカメラを入れ、アナウンサー、解説者も派遣して生中継していたのには驚きました。NHKニュースでもNPBの結果よりもドジャースの勝敗を先に報じていました。NHKは少しMLBにのめり込み過ぎかもしれない、と感じた週末でした。個人的にはドジャース対ダイヤモンドバックス戦の第2戦と第3戦にクローザーとして登板した新守護神・エドウィン・ディアス投手が見応え、聴き応えがありました。以前も書きましたが、昨シーズンまでメッツに在籍していたディアス投手は、高らかなトランペットの登場曲「Narco」で有名なクローザーです。その「Narco」がドジャースタジアムでも生演奏で流れディアス投手が登場、2試合とも無失点で切り抜けてセーブを記録しました。ディアス投手を知らない方は、ぜひ、接戦の9回の登場場面とその投球を一度見てみてください。ただし、ドジャースタジアム以外では「Narco」は流れないかもしれません。さて、前回(「第308回 地域の医療機関の共倒れを防ぐために、日本病院会会長、元日本医師会長の病院も取り組む地域医療連携推進法人」)は、地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)の認定数が2024年度から急増している原因や背景について書くとともに、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)や、元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も取り組みを始めたことについて書きました。今回は、連携推進法人の定番とも言える、地域の大病院等が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ「垂直連携型」ではない、ユニークな連携推進法人制度の活用事例を紹介します。2025年4月に兵庫県の認可を受けた地域医療連携推進法人・神戸圏域放射線治療共同利用連合(神戸市中央区)の取り組みです。がんの放射線治療の共同利用に特化した連携推進法人を民間医療機関主導で神戸圏域放射線治療共同利用連合は、民間医療機関が主導して設立されたがんの放射線治療の共同利用に特化した連携推進法人です。圏域内でがん治療に携わる公民合わせて10施設が参加して設立されました。神戸中央病院、神戸海星病院、済生会兵庫県病院、甲南医療センター、神戸陽子線センターなどが参加しています。がん医療に取り組む医療機関同士の「水平連携」のケースと言えるでしょう。同連合の設立を主導したのは医療法人・神戸低侵襲がん医療センター(通称KMCC、80床)で、元々は神戸大学病院の放射線治療を補完するために2013年に設立された医療機関です。定位放射線治療装置であるサイバーナイフ、強度変調放射線治療(IMRT)専用のトモセラピー、汎用型のトゥルービームを装備し、神戸大学病院をはじめ、県内のがん診療連携拠点病院などからの治療依頼に対応してきました。「日経ヘルスケア」2025年12月号掲載の「地域医療連携推進法人の現在地」と題する記事によれば、「現在、年間患者数は新規で約900~950人、延べ治療件数は約1,200件」とのことです。地域の経済に及ぼす効果は10年間で約40億円のコスト削減代表理事でKMCC理事長・病院長の藤井 正彦氏は同記事で連携推進法人設立の理由を以下のように語っています。「コロナ禍後の患者数の減少、物価高と円安による放射線治療装置の高騰、損益分岐点となる1台当たりの新規治療患者数がこれまでの年間約250人から350~400人にまで上昇してきたこと、地域における放射線治療機器の効率的活用が喫緊の課題になってきたことなどが連携推進法人を設立した主な理由だ。(中略)放射線治療を集約化することで、当院としては検査件数が増え採算性が上がるので、機器の更新が容易になる。また、症例数の増加に伴い治療精度は確実に向上するし、放射線治療専門医や医学物理士の人材育成体制も整えられる」。藤井氏は同記事で連携推進法人設立が地域の経済に及ぼす効果についても言及、「年間の延べ治療患者数を1,200人と仮定した試算では、6施設に分散して6台の治療装置を設置して治療するより、KMCCに集約して3台で治療する方が、10年間で約40億円のコスト削減が可能になる。今後の物価高を考えると、削減効果はもっと大きくなると見込まれる」とコメントしています。共同利用は地域の医療機関全体のキャッシュアウトを大幅に削減する効果があるというわけです。がん診療連携拠点病院などが無理して放射線治療機器を導入し、検査件数が伸びず赤字に苦しむ例は少なくありません。そうしたことから、2025年8月に厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」が公表した「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ」でも、放射線治療装置の効率的な配置や、高度な放射線療法の集約化が提言されています。神戸圏域放射線治療共同利用連合はこの提言をまさに先取りした取り組みと言えるでしょう。今後全国に広がるか?連携推進法人制度を機器の共同利用に活かすという事業スキームところで、神戸圏域放射線治療共同利用連合が機器の共同利用を展開する兵庫県は、2026年度、県立病院で法定の耐用年数を超えたMRIなどの高額医療機器の更新を計約15億円相当見送る方針を固めています。県直営の全10病院における2025年度決算で大幅な経常赤字が見込まれ、新たな借り入れの金利負担などに対応するためとのことです。3月10日付の神戸新聞は「県病院局によると、物価高騰などを背景に直営10病院の経常収支は24年度決算で過去最大となる約128億円の赤字を計上。収支改善策をまとめて25年度は赤字幅を約51億円に抑える予定だったが、人件費の増加などが響き、約120億円に達する見通しになった。高額医療機器は1台1千万円以上。企業債を追加で借り入れて金利負担が増すのを受け、例年は更新費に30億円程度を充てるが、26年度は15億円に圧縮する。特に高額なMRIは、計画していた淡路医療センターと尼崎総合医療センターの各1台(各約2億円)の更新を延期する」と報じています。がんの放射線治療装置に限らず、医療機器の価格とそのランニングコストの高騰は続いています。また、イラン戦争によって石油関連製品の価格上昇も予想され、医療経営への影響も懸念されています。病院経営の悪化と相まって、兵庫県のように医療機器更新が困難な医療機関は各地で増えています。そうした点からも、連携推進法人制度を機器の共同利用で活かす、という神戸圏域放射線治療共同利用連合の事業スキームは、今後全国に広がっていくかもしれません。

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心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響

 亜鉛欠乏症は心房細動(AF)/心房粗動(AFL)発症の重要な独立した危険因子となる可能性が、台湾・Chi Mei Medical CenterのI-Wen Chen氏らの研究から明らかになった。近年、AF/AFLの有病率が世界的に増加しており、修正可能なリスク因子の特定が喫緊の課題である。また、心血管疾患との関連が示唆されている亜鉛欠乏症について、AF/AFLの発症を関連付けるような大規模なエビデンスは依然として限られていた。Frontiers in Nutrition誌2026年2月20日号掲載の報告。 本研究は、電子健康記録(EHR)のプラットフォームであるTriNetX社のデータベースを用いて実施された多施設共同後ろ向きコホート研究。2010~23年に血清亜鉛の測定記録日(インデックス日)のある40歳以上の患者を解析した。傾向スコアマッチングにより、患者を亜鉛欠乏症群(70μg/dL未満、6万1,732例)と亜鉛正常群(70~120μg/dL、6万1,732例)に1対1に調整した。主要評価項目はインデックス日から2年以内のAF/AFL新規発症とした。副次評価項目は、肺炎(陽性対照)、AF/AFL、虚血性脳卒中リスクとした。アウトカムイベントは、それぞれ1~6ヵ月以内および6~24ヵ月以内に発症するものと定義し、早期発症と晩期発症に層別化した。 主な結果は以下のとおり。・亜鉛欠乏症は、追跡期間の早期(ハザード比[HR]:1.62、95%信頼区間[CI]:1.39~1.90、p<0.001)および晩期(HR:1.42、95%CI:1.29~1.57、p<0.001)の両方において、AF/AFL発症リスクの有意な増加と関連していた。・血清亜鉛濃度別に早期発症ならびに晩期発症の用量反応関係を調べた結果、軽度~中等度亜鉛欠乏症(50~70μg/dL、各群5万6,206例)では、早期発症(HR:1.40、95%CI:1.18~1.67)と晩期発症(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)の両方でAFリスクに対する統計学的有意差がわずかに認められた。対照的に、重度亜鉛欠乏症(50μg/dL未満、各群8,961例)では、リスクが著しく上昇し、早期発症は約3倍(HR:2.79)、晩期発症は2倍(HR:2.04)に増加した。・重度の亜鉛欠乏症(50μg/dL未満)は、対照群と比較して晩期AF/AFLリスクが約2倍であった(HR:2.04、95%CI:1.67~2.49)。一方、軽度~中等度の亜鉛欠乏症(50~70μg/dL)は、対照群と比較し、わずかだが有意な増加を示した(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)。 ・亜鉛欠乏症とAF/AFLの関連は、多様な患者サブグループにおいて、また新型コロナウイルス感染症のパンデミック前(2010~19年)とパンデミック期(2020~23年)のいずれにおいても一貫していた。・肺炎リスク(早期のHR:1.56、晩期のHR:1.40)や虚血性脳卒中リスク(早期のHR:1.19、晩期のHR:1.12)も亜鉛欠乏症患者で上昇した。ただし、心室細動/心室粗動は亜鉛欠乏症と有意な関連を示さず、心房性不整脈に特異的に影響を与えることが示唆された。 研究者らは、「血清亜鉛値を心血管リスク評価に組み込み、亜鉛補給を費用対効果の高い予防戦略として検討することに潜在的な価値がある」としている。

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2つのRCT事後解析からみたカナグリフロジンの尿路感染症発症リスク

 2型糖尿病患者におけるカナグリフロジンの尿路感染症(UTI)発症リスクは尿中白血球エステラーゼ(LE)および亜硝酸塩が異常値であってもプラセボと同程度だったという研究結果が、Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年3月16日号に報告された。 SGLT2阻害薬は心腎系の有益性が確立されているものの、UTIのリスクに対する懸念から、とくに高リスク患者では使用が制限される可能性がある。 大阪大学の土井 洋平氏らは、UTIの診断に有用とされるLEおよび亜硝酸塩1)を指標にカナグリフロジンとUTIとの関連を検証した。 本研究は2型糖尿病患者を対象としたカナグリフロジンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験であるCANVAS試験およびCREDENCE試験の事後解析として行われた2,3)。主要評価項目は初回UTI発症までの時間、副次評価項目は総UTI発症数などである。 主な結果は以下のとおり。・被験者8,614例中、LEの異常は10.7%、亜硝酸塩の異常は3.5%で認められた。・調整後LE陽性率1+、2+、3+の正常群に対するハザード比(HR)はそれぞれ1.72、1.89、2.77と、LE陽性率が高いほど初回UTI発症リスクは増加した。・亜硝酸塩の異常1+、2+のHRは2.28、1.66と、正常群に対して初回UTI発症リスクが上昇していた。・LE陽性率および亜硝酸塩の異常は総UTI発症も増加させた。・全体的にみて、カナグリフロジン投与はプラセボと比べ、初回UTI発症リスク(HR:1.06、95%信頼区間[CI]:0.93~1.21)も総UTI発症リスク(HR:1.01、0.86~1.18)も増加させなかった。・LE正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.17(95%CI:1.00~1.38)、LE異常群におけるHRは0.94(0.73~1.21)であった(交互作用のp=0.10)。・亜硝酸塩正常群におけるカナグリフロジン投与のプラセボに対する初回UTI発症のHRは1.08(95%CI:0.94~1.24)、異常群のHRは0.92(0.59~1.43)であった(交互作用のp=0.45)。・LEおよび亜硝酸塩の変化による初回UTI発症リスクは、カナグリフロジンとプラセボで差がみられなかった。・副次評価項目である総UTIイベントのリスクについて、カナグリフロジンは、LEおよび亜硝酸塩群のいずれの異常群においてもプラセボよりも増加させなかった(各HR:0.76[95%CI:0.58~0.99]、1.18[0.79~1.76])。 LEおよび亜硝酸塩の異常値はUTIのリスク増加と関連していたものの、カナグリフロジン投与によるリスクの増加は確認されなかった。これらの結果は、膿尿や細菌尿の所見がある2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の投与を一律に控えるものではない、という考えを支持している、と筆者らは結んでいる。

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統合失調症、うつ病のガイドライン教育が日本の精神科治療に及ぼす影響は?

 教育的介入は、直接介入を受ける参加者だけでなく、同じ組織内の非参加者にも影響を与える可能性がある。北海道大学の堀之内 徹氏らは、リアルワールドにおける臨床診療ガイドラインの実施において、組織内における教育的スピルオーバー効果が生じるかどうかを検証した。Asian Journal of Psychiatry誌2026年4月号の報告。 2016〜24年に精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDE)プロジェクトに参加した298施設における、統合失調症(2万2,032例)およびうつ病(1万1,207例)の入院患者の退院データを収集した。患者は、精神科医の参加および施設内での参加状況に基づき、グループ1(精神科医:不参加、施設内:不参加)、グループ2(精神科医:不参加、施設内:参加)、グループ3(精神科医:参加、施設内:参加)の3つのグループに分類した。主要アウトカムは、ガイドライン推奨治療の実施率(品質指標:QI)とした。EGUIDEのトレーニング効果は、順序変数(グループ1<グループ2<グループ3)としてモデル化した。年齢、性別、施設の種類を調整したロジスティック回帰分析を用いてオッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では11のQIのうち9つ、うつ病患者では7つのQIのうち5つで有意な正の関連が認められた(例:QI-S1:治療抵抗性統合失調症の診断評価、調整OR:1.98、p<2.78×10-192)。・ガイドライン順守率は、グループ1からグループ3にかけて順次増加が認められた。 著者らは「本研究は、非ランダム化実臨床において、教育的スピルオーバー効果が参加した精神科医だけでなく同じ施設内の参加していない精神科医にも影響を及ぼすことを実証した初めての研究である。これらの知見は、ガイドライン実施戦略において施設レベルのスピルオーバー効果を活用することの重要性を強調している」と結論付けている。

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初の人乳由来母乳強化剤が承認、超早産児の栄養管理に新たな選択肢/クリニジェン

 2026年3月18日、「極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理」を効能又は効果とする、プリミーフォート経腸用液が薬価収載され、2026年4月下旬の発売が予定されている。プリミーフォート経腸用液は、極低出生体重児等の栄養管理を目的とした人乳由来母乳強化剤の医薬品として、本邦で承認された初めての製品となる。クリニジェンは同日「超早産児の新しい栄養管理とNICUの未来~本邦初の完全人乳栄養による経腸栄養の可能性~」と題したメディアセミナーを開催。水野 克己氏(昭和医科大学小児科学講座)が登壇し、超早産児の栄養管理の考え方と同製品の役割について解説した。早産児栄養管理戦略の変遷と人乳由来母乳強化剤の位置付け 超早産児に対する母乳は、量依存性に壊死性腸炎、後天性敗血症、慢性肺疾患、未熟児網膜症、神経発達異常などの罹患率・重症度の低下、NICU退院後の再入院リスクの低下と関連することが報告されており1,2)、母親の母乳が児にとって最適なことは疑う余地がない。しかし、母乳が得られるまで静脈栄養のみを続けることは、腸管粘膜の萎縮や炎症、感染症のリスクとなる3)。一方で、いつでも使用できる人工乳は、腸管透過性、腸管粘膜の炎症、腸内細菌叢の問題から慎重な使用が求められる4)。 こうした背景を踏まえ、2019年、日本小児医療保健協議会(日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会)は、自母乳が得られるまで絶食とするNICU施設が散見される、生後早期からの経腸栄養開始による短期予後の改善が報告されているなどとして、「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」5)において、以下の3項目を提言として発表した:1.早産・極低出生体重児にとって自母乳は最適な栄養であり、NICUにおいても母乳育児を推奨し支援すべきである。2.自母乳が不足する場合や得られない場合、次の選択肢は認可された母乳バンクで低温殺菌されたドナーミルクである。3.将来的には、母乳と人乳由来の母乳強化で栄養するEHMD(完全人乳由来栄養[Exclusive Human Milk Diet])が早産・極低出生体重児に与えられることが望ましい。 提言3で将来的な実現が期待されていたEHMDが、今回初めて承認・発売に至った形となる。母乳強化が必要な理由 胎児において、脳の成長スパートは妊娠28週ころから始まり、おおよそ2歳まで続く6)。水野氏は、「23週と39週では、脳の発達状況に大きな差がある。単に生存退院を目指すのではなく、可能な限り正期産児に近い発達状態での退院を目指すべきである」として、早産児における適切な栄養介入の重要性を指摘した。 母乳強化による効果については、いくつかエビデンスが報告されている。超低出生体重児における母乳栄養下での十分なタンパク強化により、頭囲成長や2歳時の神経発達予後が改善し、静脈栄養期間および入院期間が短縮したという報告7)や、極低出生体重児にEHMDを与えることで網膜症や敗血症、慢性肺疾患が減少したという報告がある8)。 現在、本邦で販売されているのは牛乳由来強化物質のみで、牛乳アレルギーのリスクがあるほか、結石が形成された症例が報告されている。水野氏は、EHMDがとくに必要と考えられるケースとして、消化管手術後の超早産児を挙げた。また、実際の症例として、胎便関連性腸閉塞と高インスリン性低血糖を有する症例で、EHMDを与えることにより体重増加のほか低血糖の改善もみられた症例を提示し、その臨床的有用性について言及した。プリミーフォートの有効性と安全性を評価した第III相試験の結果 JASMINE(JApanese Study of an Exclusive Human MIlk Diet in Premature Neonates)試験9)は、極低出生体重児を対象としたEHMDにおける成長および安全性評価のための多施設共同無作為化比較対照試験。新生児集中治療室に入室している極低出生体重児147例を対象に、EHMD群(プリミーフォートを母乳またはドナーミルクに添加)と標準栄養群(母乳、ドナーミルク、牛乳由来の人工乳および栄養強化剤を使用)の成長速度を比較した。主な結果は以下のとおり。・試験参加者の背景は両群でおおむね同様であったが、在胎期間22~25週で出生した新生児割合は、標準栄養群27.1%に比べ、EHMD群では36.4%と多かった。・主要評価項目である出生から在胎34週0日までの体重増加速度は、標準栄養群に対しEHMD群で有意に速かった(11.96g/kg/日vs.13.44g/kg/日、p=0.0063)。・副次評価項目である出生から経腸栄養確立(160mL/kg/日)までの日数はEHMD群で有意に短く(25.90日vs.20.00日、p=0.03)、身長増加速度(0.67cm/週vs.0.83cm/週、p=0.0016)および頭囲増加速度(0.58cm/週vs.0.66cm/週、p=0.0312)はEHMD群で有意に速かった。・発現頻度の高かった試験治療下における有害事象(TEAE)は感染症で、標準栄養群8.6%、EHMD群10.4%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・重篤な有害事象および死亡に至ったTEAEはそれぞれ標準栄養群2.9%、EHMD群3.9%に認められたが、「母乳強化物質との因果関係はなし」と判断された。・EHMD群で試験中止に至ったTEAEのうち、「母乳強化物質との因果関係あり」とされたのは、胃腸障害関連のTEAE(2例、うち1例が重度)、130mL/kg/日の栄養不耐症(1例)であった。<製品概要>・販売名:プリミーフォート経腸用液6、8、CF・効能又は効果:極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児及び乳児の栄養管理・用法及び用量: 本剤を電子添文の表のとおり母乳と混合して強化乳を調製し、経管又は経口投与する。通常、「強化乳6」を50mL/kg/日から投与開始し、徐々に投与量を増やし、100mL/kg/日に到達後は必要に応じて強化乳の切替えを行う。栄養補給量は160mL/kg/日まで継続的に漸増する。また、必要に応じて160mL/kg/日より増量することもできる。なお、強化乳の投与開始時期、投与経路及び投与速度は、児の在胎期間、体重、症状、栄養状態等を考慮して決定する。また、強化乳の増量及び切替えは、体重増加速度、在胎期間、子宮内発育遅延の有無、補給時間、水分制限の要否、タンパク質及びエネルギーの必要量等を考慮して行う。・薬価:プリミーフォート経腸用液6(15mL1瓶29,171.30円、30mL1瓶58,199.30円)、8(40mL1瓶77,580.50円)、CF(10mL1瓶14,079.50円)・製造販売承認日:2025年12月22日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年4月下旬・製造販売元:クリニジェン株式会社■参考文献・参考サイトはこちら1)Meier PP. Nestle Nutr Inst Workshop Ser. 2019;90:163-174.2)Quitadamo PA, et al. Foods. 2024;13:649.3)Quiroz-Olguin G, et al. Eur J Clin Nutr. 2021;75:1533-1539.4)Rao K, et al. Front Pediatr. 2022;10:902798.5)水野克己ほか. 日本小児科学会雑誌. 2019;123:11086)Dobbing J. Am J Dis Child. 1970;120:411-415.7)Mariani E, et al. Front Public Health. 2018;6:272.8)Assad M, et al. J Perinatol. 2016;36:216-220.9)JASMINE試験(JRCT)

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