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2型糖尿病に対する週1回インスリン製剤の検討 (解説:小川大輔氏)

 週1回投与のインスリン製剤インスリン イコデクが2025年1月に発売され、現在日本で使用されている。これとは別の週1回注射のinsulin efsitora alfa(efsitora)の2型糖尿病患者を対象とした第III相試験の結果が発表された1)。これまでにインスリン治療を行ったことのない2型糖尿病患者において、1日1回投与のインスリン グラルギンと比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善について非劣性であることが確認された。 インスリン治療歴のない成人2型糖尿病患者795例を、efsitoraを週1回投与する群とインスリン グラルギンを1日1回投与する群に無作為に割り付け、52週間投与した。その結果、ベースラインから52週目までのHbA1cの変化量は両群に差がなく、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が確認されたが、優越性は認められなかった。 efsitoraの第III相試験(QWINT)は5つの試験から構成されている。QWINT-1~4は2型糖尿病、QWINT-5は1型糖尿病を対象とした臨床試験である。QWINT-1と2はインスリン治療歴のない2型糖尿病患者、QWINT-3と4はインスリン治療歴のある2型糖尿病患者を対象としている。今回発表された論文はQWINT-1で、対照薬がインスリン グラルギンであるのに対し、昨年発表されたQWINT-22)は対照薬がインスリン デグルデクという違いがある。 1型糖尿病患者を対象としたQWINT-5では、1日1回投与のインスリン デグルデクと比較し、重症低血糖の頻度はむしろ増えることが示されたが3)、今回の試験では対象が2型糖尿病患者という違いもあり重症低血糖の発現頻度は低かった。週1回投与のインスリン イコデクは日本で上市されてから日が浅く、efsitoraはまだ承認されていない。週1回投与のインスリン製剤は患者の負担を軽減することが期待されており、効果的な使用方法など実臨床でのエビデンスの集積を待ちたい。

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酷暑の紆余曲折【Dr. 中島の 新・徒然草】(591)

五百九十一の段 酷暑の紆余曲折昭和の夏も暑かった記憶がありますが、それでも日傘を差している人はごく少数でした。令和の今、日傘や携帯扇風機を持っている歩行者の多いこと。中には両方を持ったうえにスマホで電話している人もいて、2本しかない手をどう使っているのだろうか、と思わされます。通院の皆さんも汗だく。さて、今回登場するのは開頭手術後の高齢女性。ある日の外来で、色の変わった親指を見せられました。 患者 「先生、昨日からこんなんやけど、放っといていいの?」 中島 「どれどれ」 なぜ脳外科外来で変色した親指を診ることになるのか。それは謎です。でも、取りあえず何でも診るのが私の方針。確かに右手の親指の末節部が紫色になっています。虚血というよりは、出血で色が変わっている印象。この変色部分を押すと痛いのだとか。スマホで写真撮影しましたが、正体がわかりません。親指に限らず、中指や薬指でも時々こういうことが起こり、自然に治るのだそうです。 中島 「他のお医者さんにも写真を見せて知恵をもらいましょう」 患者 「ぜひお願いします」 というわけで、その日はそれで終わりました。次の日、たまたま病院でプライマリケアの講演会があったので、その後で外部講師に写真を見てもらいました。 講師 「わからんなあ。出血傾向があるとか凝固異常があるとか?」 中島 「いや、とくにそういうのはないんですよ」 講師 「その写真をChatGPTに入力したら診断してくれるかもしれん」 中島 「そんな裏ワザがあるんですか!」 早速、ChatGPTに写真を入力してみます。すると鑑別診断として以下の疾患が出てきました。末節骨の骨折爪下血腫ヘバーデン結節の炎症期感染血管性病変(血腫、紫斑病など)骨折といわれても、この患者さんはとくに外傷の記憶はありません。爪は普通……というか、変色部は手掌側です。炎症とか感染だったら熱感がありそうですが、普通の皮膚温でした。別の日に、総合診療科のカンファレンスで出席者たちに写真を見てもらいましたが、皆さん「??」といった表情。もうヤケクソで、グーグルに「親指 皮下出血」と入力して画像検索すると……出るわ、出るわ、そっくりの写真が大量に!なんと、アッヘンバッハ症候群という名前まで付いています。で、改めてChatGPTに「アッヘンバッハ症候群の可能性はないでしょうか?」と尋ねてみると、しれっと「ご指摘のとおり、アッヘンバッハ症候群の可能性も十分に考慮すべきです」と返ってきました。おい、知ってるんなら最初から言ってくれよ!さらにアッヘンバッハ症候群の特徴として、以下の特徴があるとのこと。突発的な指の紫斑や腫脹激しい圧痛や灼熱感多くは中年以降の女性に好発外傷歴なし、突然の発症が特徴自然に軽快することが多い(数日以内)血管の脆弱性や軽微な毛細血管出血が原因とされる通常、検査(血液検査・X線)では異常を認めないもう、そのものじゃないですか!ということで、患者さんには「アッヘンバッハ症候群だと思います。自然に治るそうなので、参考のために時々写真を撮って送ってくれませんか」と連絡しました。「ご連絡ありがとうございます!」という文言とともに送られてきた写真を見ると、すでにかなり色が薄くなっていました。この調子なら、次の外来受診日までにはすっかり治っていそうです。ということで、あまり知られていないアッヘンバッハ症候群。読者の皆さまも、1度は写真を見ておくことをお勧めします。知ってさえいれば、誰でも一発診断間違いなし。かのプライマリケア講師にも「アッヘンバッハ症候群というらしいですよ」と連絡すると、激しく感謝されました。いろいろあって最後に1句炎天下 アッヘンバッハ 迷走す

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第21回 タバコを吸わないのになぜ? 見えてきた肺がんの「真犯人」―大規模ゲノム解析が暴く肺がんの身近なリスク

「タバコは吸わないから、肺がんの心配はない」。そう考えている人は少なくないかもしれません。しかし近年、喫煙経験のない人、とくに女性やアジア人での肺がんが世界的に増加しており、大きな謎とされてきました。なぜ、最大の原因であるタバコを避けてきた人々の肺が蝕まれるのでしょうか。この長年の疑問に、ゲノム科学の力で迫った画期的な研究1)がNature誌に発表されました。世界4大陸28地域から集められた871例の非喫煙者肺がん患者の「がんゲノム(がん細胞の全遺伝情報)」を解読。その設計図に刻まれた無数の傷跡から、がんを引き起こした「犯人の指紋」を探し出すという、前例のない規模の研究です。この研究は、これまで原因として疑われてきた大気汚染や受動喫煙の影響をDNAレベルで初めて検証し、私たちの常識を覆すような数々の事実を明らかにしました。発見1:大気汚染PM2.5は、がんの「種を蒔き、育てる」二重の脅威だった研究チームはまず、大気汚染の指標である微小粒子状物質「PM2.5」とがんゲノムの関係に着目しました。PM2.5は工場や自動車の排ガスなどに含まれるきわめて小さな粒子で、吸い込むと肺の奥深くまで到達します。また、血管の壁まで通過し、血液中からも検出されることが知られています。患者が住む地域のPM2.5濃度で「高汚染」と「低汚染」のグループに分けてゲノムを比較したところ、意外な結果がみられました。高汚染地域の患者のがん細胞では、DNAの変異(遺伝子の傷)の総量が明らかに増加していたのです。さらに、PM2.5濃度が高いほど変異の数も比例して増える「用量反応関係」も確認されました。これは、因果関係に迫る上で大切な知見です。とくに重要だったのが、「変異シグネチャー」の解析です。これは、がんゲノムに残された変異のパターンを分析し、その原因(紫外線、タバコ、特定の化学物質など)を特定する技術で、いわば「犯行手口を示す指紋」のようなものです。この解析により、高汚染地域の患者からは、主に2つの特徴的な「指紋」が検出されました。1.シグネチャー「SBS4」の増加これは本来、タバコ喫煙者のがんに典型的な指紋です。この「指紋」が非喫煙者から見つかったことは、大気汚染物質の中に、タバコの煙に含まれるような発がん性物質が含まれており、それがDNAに直接傷をつけている(イニシエーターとして機能している)可能性を強く示唆します。2.シグネチャー「SBS5」の増加これは「時計様シグネチャー」と呼ばれ、細胞が分裂するたびに一定の割合で刻まれる、加齢に伴う自然な傷です。この「時計」の進みが速いということは、大気汚染が肺に慢性的な炎症を引き起こし、傷ついた細胞の修復のために細胞分裂を異常に活発化させていることを意味します。これにより、がんの元となる細胞の増殖が促されている(プロモーターとしても機能している)と考えられます。つまり、PM2.5はDNAを直接傷つけてがんの“種”を蒔くだけでなく、細胞分裂を促してその“芽”を育てるという、二重の役割を担っている可能性が考えられたのです。発見2:受動喫煙の意外な事実――ゲノムに残る「指紋」は薄かったこれまで非喫煙者肺がんの有力な原因とされてきた受動喫煙。しかし、今回のゲノム解析では、意外な結果が出ました。受動喫煙にさらされた患者とそうでない患者の間で、ゲノム上の変異の量やパターンに明確な差はみられなかったのです。タバコ由来の「SBS4」の指紋も、受動喫煙との関連は認められませんでした。これは、受動喫煙にリスクがないという意味ではありません。むしろ、「受動喫煙による発がんのメカニズムは、これまで考えられていた直接的なDNA変異誘発とは異なる可能性がある」ことを示唆しています。たとえば、DNAを傷つけるのではなく、主に炎症を介してがんの発生を促進しているのかもしれません。この発見は、今後のリスク評価に新たな視点をもたらすものです。発見3:世界各地で異なるリスク――台湾で見つかった「漢方薬」の影この研究のもう一つの大きな成果は、非喫煙者肺がんの原因が世界共通ではないことを示した点です。とくに台湾の患者のがんゲノムからは、「アリストロキア酸」という化学物質に特徴的な変異シグネチャー「SBS22a」が多数見つかりました。アリストロキア酸は、かつて一部の漢方薬などに含まれていた強い発がん性を持つ物質です。この発見は、台湾などの地域で非喫煙者肺がんが多い一因を解明する手がかりとなり、地域に根差した公衆衛生や予防策の重要性を浮き彫りにしました。暮らしの中のPM2.5対策――最も身近な発生源「家庭料理」に注意大気汚染やPM2.5と聞くと環境破壊の話、屋外の話で個人レベルでは防ぎようがないと考えがちですが、実は私たちの暮らしの中で最も高濃度のPM2.5にさらされる瞬間の一つが「料理」です。とくに、油を使った炒め物や揚げ物では、屋外の汚染レベルをはるかに超えるPM2.5が発生します2)。では、なぜ料理でPM2.5が発生するのでしょうか。鍵を握るのは「油の種類と温度」です3)。1.植物油(サラダ油、ごま油など)これらに多く含まれる不飽和脂肪酸は、化学構造が不安定で熱に弱い性質があります。高温で加熱されると酸化・分解しやすく、その過程で有害なアルデヒド類などと共に、油の微粒子としてPM2.5を大量に発生させます。2.動物性脂肪(ラード、バターなど)こちらに多い飽和脂肪酸は構造が安定しており、比較的高温に強いため、植物油に比べてPM2.5の発生量は少なくなります。だからといって動物性脂肪を使うのは、心臓病など別の健康問題につながるため、重要なのは換気です。以下にできる対策をまとめます。料理中は換気扇をつける調理開始前から終了後しばらくまで回し続けるのが理想です。窓を開けて換気する可能なら窓も開け、空気の通り道を作りましょう。低PM2.5調理法を選ぶ炒め物や揚げ物より、「蒸す」「茹でる」「煮る」といった調理法や、エアフライヤーの活用はPM2.5の発生を大幅に抑制できます。空気清浄機の活用HEPAフィルター付きの空気清浄機を稼働させるのも有効かもしれません。ただし、これらが直接発がんリスクなどの低下につながるかについては、追加の研究が必要です。今回ご紹介した研究は、非喫煙者肺がんという病気の複雑な全体像を初めて描き出しました。その原因は一つではなく、大気汚染のようなグローバルな要因、地域特有の環境要因、そしてまだ解明されていない内なる要因が複雑に絡み合っているようです。 1) Diaz-Gay M, et al. The mutagenic forces shaping the genomes of lung cancer in never smokers. Nature. 2025 Jul 2. [Epub ahead of print] 2) Tang R, et al. Impact of Cooking Methods on Indoor Air Quality: A Comparative Study of Particulate Matter (PM) and Volatile Organic Compound (VOC) Emissions. Indoor Air. 2024 Nov 25. [Epub ahead of print] 3) Torkmahalleh MA, et al. PM2.5 and ultrafine particles emitted during heating of commercial cooking oils. Indoor Air. 2012;22:483-491.

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揚げ物はやはり糖尿病や高血圧リスクに~兄弟比較の前向き試験

 揚げ物は健康に悪影響を与える可能性があるが、腸内細菌叢との関連や、それが心代謝性疾患に及ぼす影響は十分に明らかになっていない。中国・浙江大学のYiting Duan氏らは、2つの大規模前向きコホートを用いた解析により、揚げ物の摂取に関連する腸内細菌叢は糖尿病や高血圧リスクの増大と関連し、その関連は遺伝的・環境的背景を共有する兄弟姉妹間の比較においても同様の関連性が確認されたことを報告した。American Journal of Clinical Nutrition誌2025年7月2日号掲載の報告。 研究グループは、WELL-Chinaコホート(ベースライン:2016~19年、6,637人)と蘭渓コホート(ベースライン:2017~19年、3,466人)を分析し、揚げ物の摂取と腸内細菌叢の組成に関係があるかどうか、揚げ物に関連する腸内細菌叢は肥満や体脂肪の分布および心代謝性疾患の発症率と関連しているかどうかを調査した。 揚げ物(揚げパン、油淋鶏、フライドポテトなど)の摂取頻度を食物摂取頻度調査(FFQ)で聴取し、月1回未満、月1〜3回、月4回以上の3グループに分類した。ベースライン時に便サンプルを採取して腸内細菌の種類とバランスを解析し、揚げ物摂取と有意に関連した腸内細菌属の相対量をもとに構成された腸内細菌スコア(FMI:fried food consumption-related microbiota index)として数値化した。BMI、ウエスト・ヒップ比、体脂肪量、血圧、血糖値、HbA1cなども測定した。参加者はベースラインから心代謝性疾患の発症、死亡、または2024年6月24日のいずれか早い日まで追跡された。 多変量線形回帰を用いてFMIと肥満および脂肪分布との関係を調査し、Cox比例ハザードモデルを用いてFMIと糖尿病や主要心血管イベントなどの心代謝性疾患の発症との関連性を検証した。Between-Withinモデルを用いて兄弟姉妹で比較することで、遺伝や家庭環境の影響を最小限に抑えて検証した。 主な結果は以下のとおり。・揚げ物の摂取頻度が高い群と低い群を比較すると、両コホートともに特定の細菌属の構成比に差が認められ、25種の微生物属が揚げ物の摂取頻度と有意な関連を示した。・揚げ物の摂取頻度が月1回未満の参加者よりも、摂取頻度が高い参加者ほど高いFMIを示し、特定の細菌属の構成比に差があった。・両コホートのメタアナリシスでは、FMIは、BMI、ウエスト・ヒップ比、内臓脂肪などとの間に正の相関関係が認められた。兄弟姉妹間の比較でも同様の傾向が認められた。・FMIが高い群では、糖尿病(オッズ比[OR]:1.28)、メタボリックシンドローム(OR:1.21)、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)(OR:1.21)、脂質異常症(OR:1.12)、高血圧(OR:1.09)の有病率が高かった。兄弟分析では、高血圧(OR:1.37)、メタボリックシンドローム(OR:1.27)、糖尿病(OR:1.48)で同様の関連が確認された。・FMIが増加するごとに糖尿病発症リスク(ハザード比[HR]:1.16、95%信頼区間[CI]:1.07~1.27)および主要心血管イベント発症リスク(HR:1.16、95%CI:1.06~1.26)の増大が認められた。

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子供の自殺念慮に至る2つの経路が明らかに

 自殺念慮は、若者の間で大きな問題となっている。発達過程における軌跡と関連するメンタルヘルス症状については、これまで十分に解明されていなかった。カナダ・McGill UniversityのMarie-Claude Geoffroy氏らは、思春期初期から若年成人期における自殺念慮の軌跡を調査し、最適な予防策を検討するため、先行または併発するメンタルヘルス症状の特定を試みた。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年7月2日号の報告。 参加者、保護者、教師を含む最新の縦断的コホート研究であるカナダ・ケベック州児童発達縦断研究(QLSCD)のデータを用いて検討を行った。QLSCDは、同州で1997〜98年に生まれた2,120人の単胎児を対象とした人口ベースの出生コホート研究で、2023年(25歳)までフォローアップ調査が行われている。データ分析は、2024年9月〜2025年2月に実施した。主要アウトカムは、過去12ヵ月間の重篤な自殺念慮の有無とし、参加者への質問票により評価した(13、15、17、20、23、25歳時)。調査対象は、親および教師によるメンタルヘルス症状の報告(内向性、外交性など)、検証済み質問票を用いた自己報告とし、5つの発達段階(就学前:3〜5歳、児童期:6〜12歳、思春期前期:13歳、思春期中〜後期:15〜17歳、若年成人:20〜25歳)で標準化した。 主な結果は以下のとおり。・参加者は1,635人(女性:845人[51.7%]、選択的脱落を考慮し重み付け)、自殺念慮について回答し、重み付けが適用された。・次の3つの経路が特定された。 ●自殺念慮が最小限/まったくない:1,433人(87.6%) ●思春期前期に出現:117人(7.1%) ●若年成人期に出現:86人(5.2%)・自殺念慮が思春期前期に出現した群は、最小限/まったくない群と比較し、小児期から成人期にかけて、ほぼすべてのメンタルヘルス症状の上昇との関連が認められた。・思春期前期の自殺念慮の出現には、児童期の抑うつ症状などの内向性症状(リスク比[RR]:1.75、95%信頼区間[CI]:1.45〜2.05)、児童期の破壊的症状などの外交性症状(RR:1.60、95%CI:1.29〜1.91)、母親の反社会的症状(RR:1.39、95%CI:1.11〜1.66)が関連していた。・対照的に、若年成人期における自殺念慮の出現には、思春期中〜後期の抑うつ症状などの思春期にみられる内向性症状(RR:1.84、95%CI:1.28〜2.39)、若年成人期の精神的苦痛の悪化が関連していた。 著者らは「本研究により、若者の自殺念慮に至る2つの経路が明らかとなった。1つは思春期前期に出現し、児童期の内向性/外交性症状が持続する経路、もう1つは若年成人期に出現し、それまでの苦痛を伴わず児童期に内向性症状がみられる経路である。これらの結果は、メンタルヘルス症状への適切な対応と発達段階に応じた予防策の必要性を示唆している」と結論付けている。

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うつ病の維持期治療:患者さんの視点から/日本うつ病学会

維持療法にも目を向けて 2025年、うつ病診療ガイドラインが改訂され、うつ病の維持期治療について新しく取り上げられることになった。寛解の後、どのように治療を継続するか、あるいは治療を終了するのかは非常に重要である。 2025年7月11日、第22回日本うつ病学会総会共催シンポジウムにて「うつ病の維持期治療~患者さんの声とともにリカバリーの課題について考える~」と題したセッションが開催され、うつ病の経験を持つ林 晋吾氏が患者さん本人の視点から講演を行った。うつ病患者の回復と家族の視点~残遺症状とEmotional Bluntingの理解~ 林氏は2010年にまずパニック障害を発症し、その後うつ病を発症した。現在は寛解状態にあり、うつ病などの精神疾患を持つ患者さんの家族向けのコミュニティサイトの運営を行っている。当事者としての経験と家族支援を通して見えた維持期における課題として、残遺症状とEmotional Blunting、そして患者家族を含めた環境整備を挙げた。 林氏は寛解後も残遺症状である倦怠感や気分の落ち込み、集中力の低下を感じており、自己否定が強まり、人に相談できない状態に陥ることがあると述べた。また、Emotional Bluntingの影響についても自身の経験をもとにどのような状況になるかを説明した。 Emotional Bluntingとは感情の麻痺や平坦化、無関心、感情的な反応が低下している状態を指し、ポジティブな感情もネガティブな感情も感じにくくなる。Emotional Bluntingによって他人だけでなく自分自身へも関心が持てなくなり、結果として社会との繋がりを避けるようになり、自分自身を矮小な存在と感じてしまうことがあった、と林氏自身の経験を語った。 さらに患者家族の支援を通した活動から、Emotional Bluntingは本人だけでなく、患者家族にも影響を与ることがわかった。感情の麻痺や平坦化、無関心、反応の低下により、患者家族が戸惑いや無力感、悲しみ、患者との距離感などを感じることがあるという。必要とされるサポートとは これらのことから、林氏は2つの観点からサポートの必要性を指摘する。 1つ目は医療者からの情報提供である。患者さん自身、そして患者家族も「この状態は病気の一部である」と理解することで戸惑いは軽減される。そのため、パンフレットなどを活用した情報提供によって理解を支えることが望ましい。 2つ目は患者さんが安心して話せる環境づくりである。「以前興味があったことに関心が持てないことはありませんか?」など、感情の変化に気づけるような問いかけがあると、患者さんも話しやすくなる。つまり、何かおかしいと感じたときに伝えられる環境を作ることが重要である。 うつ病の維持期に見られる残遺症状やEmotional Bluntingは患者さん本人だけでなく、家族にも大きな影響を与える。そのため、これらの症状に対する理解と支援のためには、正確な情報提供と安心して話せる場の整備が欠かせない、と自らの経験を通して維持期の治療で注目すべき点について林氏は語った。

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混合性尿失禁、ボツリヌス療法vs.スリング術/JAMA

 中等度~重度の混合性尿失禁を有し、保存的治療が奏効しなかった女性患者において、onabotulinumtoxin Aと中部尿道スリング手術は、6ヵ月時のUrogenital Distress Inventory(UDI)総スコアの改善に差はなかったことを、米国・ペンシルベニア大学のHeidi S. Harvie氏らが米国の7施設で実施した無作為化優越性試験「MUSA試験」の結果で報告した。腹圧性尿失禁(SUI)と切迫性尿失禁(UUI)が併存している混合性尿失禁は、生活の質を低下させ、管理が困難な場合が少なくない。これまで手技的治療の比較研究は不足していた。著者は、「今回の結果は、患者の好みと臨床医の推奨に基づく治療決定に役立つだろう」とまとめている。JAMA誌2025年5月5日号掲載の報告。6ヵ月後のUDI総スコアの変化量を比較 研究グループは、SUIとUUIの中等度~重度の症状を3ヵ月以上有し、咳テスト陽性、3日間の排尿日誌に記録されたUUIエピソードが4回以上で、保存的治療および経口薬物療法の効果が得られなかった21歳以上の女性患者を、onabotulinumtoxin A群または中部尿道スリング手術群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 onabotulinumtoxin A群では、100単位を膀胱筋層内に単回注入し、3~6ヵ月後に単回追加投与を可能とした。中部尿道スリング手術群では、介入を標準化するため単一切開は行わないこととした。また、両群とも割り付けられた介入以外の尿失禁治療は6ヵ月間行わず、6~12ヵ月後にクロスオーバーまたは他の治療を開始することができた。 主要アウトカムは、UDI総スコア(範囲:0~300点、高スコアほど症状の重症度が高い、臨床的に意義のある最小群間差[MCID]:26.1)で測定した6ヵ月時の混合性尿失禁症状の変化量であった。副次アウトカムは、3ヵ月時のUDI総スコアの変化量、および6ヵ月時のUDIストレススコアならびに刺激スコアの変化量とした。UDI総スコアの改善、-66.8点vs.-84.9点で有意差なし 2020年7月~2022年9月に150例が無作為化され、このうち治療を受けかつベースライン後のデータを有していた137例が主要解析対象集団となった(平均[SD]年齢:59.0[11.5]歳)。最終フォローアップ日は2023年12月29日。 両群とも6ヵ月後にUDI総スコアの改善が認められたが、有意な群間差は認められなかった(onabotulinumtoxin A群-66.8点[95%信頼区間[CI]:-84.9~-48.8]vs.中部尿道スリング手術群-84.9点[-100.5~-69.3]、平均群間差:18.1点[95%CI:-4.6~40.7]、p=0.12)。 副次アウトカムでは、UDIストレススコアは中部尿道スリング手術群(-45.2点[95%CI:-53.7~-36.8])でonabotulinumtoxin A群(-25.1点[-34.1~-16.1])より有意な改善がみられたが(p<0.001)、UDI刺激スコアは有意な群間差は認められなかった(onabotulinumtoxin A群-32.9点[95%CI:-40.3~-25.6]vs.中部尿道スリング手術群-27.4点[-34.6~-20.3]、p=0.27)。 onabotulinumtoxin A群では、6ヵ月後に12.7%、12ヵ月後に28.2%が2回目の注射を受けた。また、12ヵ月後に中部尿道スリング手術群の30.3%がonabotulinumtoxin Aを、onabotulinumtoxin A群の15.5%が中部尿道スリング手術を受けた。 有害事象は、両群間に差はなかった。

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米国の国際援助打ち切り、世界の死亡率に及ぼす影響/Lancet

 米国国際開発庁(USAID)の資金援助は、過去20年間で低所得国および中所得国(LMICs)における成人および小児の死亡率低下に大きく貢献しており、2025年前半に開始された突然の資金削減が撤回されない場合、2030年までに驚くべき数の回避可能な死亡が発生する可能性があることを、ブラジル・Federal University of BahiaのDaniella Medeiros Cavalcanti氏らが明らかにした。USAIDは人道支援および開発援助における世界最大の資金提供機関であるが、その活動が世界の健康に与える影響、ならびに資金削減がもたらす影響を評価した研究はほとんどなかった。Lancet誌2025年7月19日号掲載の報告。133の国・地域のデータを用い分析 研究グループは、USAIDの資金援助レベルが「なし」~「非常に高い」の133の国または地域(LMICsを含む)のパネルデータを用い、予測分析を統合した後ろ向きインパクト評価を実施した。 まず、人口統計学的、社会経済的および医療関連の要因を補正したロバスト標準誤差(robust SE)を用いた固定効果多変量ポアソンモデルにより、2001~21年の全年齢層および全死因死亡率に対するUSAID資金の影響を推定した。次に年齢別、性別および死因別にその影響を評価した。 さらに、複数の感度分析と三角測量分析を実施し、最後に後ろ向き評価と動的マイクロシミュレーションモデルを統合して2030年までの影響を推定した。援助打ち切りで2030年までに全体で約1,400万人、5歳未満で約450万人が死亡 USAID資金援助レベルの向上(主にLMICs、とくにアフリカ諸国に向けた)は、年齢標準化全死因死亡率の15%減少(率比[RR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.78~0.93)、および5歳未満死亡率の32%減少(0.68、0.57~0.80)と関連していた。これは、USAIDの資金援助により21年間に、全年齢で9,183万9,663人(95%CI:8,569万135~9,829万1,626)、5歳未満で3,039万1,980人(2,602万3,132~3,548万2,636)の死亡が回避されたことを意味していた。 USAIDの資金援助は、HIV/AIDSによる死亡率の65%減少(RR:0.35、95%CI:0.29~0.42)、マラリアによる死亡率の51%減少(0.49、0.39~0.61)、および熱帯病による死亡率の50%減少(0.50、0.40~0.62)と関連しており、それぞれ2,550万人、800万人および890万人の死亡が回避された。 結核、栄養障害、下痢症、下気道感染症および周産期異常による死亡率の有意な減少も観察された。 予測モデルでは、現在の大幅な資金削減は2030年までに、5歳未満の453万7,157人(不確実性区間:312万4,796~591万791)を含む全年齢で計1,405万1,750人(847万5,990~1,966万2,191)超の死亡を追加でもたらす可能性が示唆された。

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乳がんT-DXd直後の抗HER2療法、効果が期待できる患者は?(EN-SEMBLE)/ESMO Open

 再発または転移を有するHER2陽性乳がん患者を対象に、日本の実臨床下においてトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の中止直後に実施した治療レジメンの分布、有効性、間質性肺疾患(ILD)の発現率を検討したEN-SEMBLE試験の結果を、名古屋市立大学の能澤 一樹氏がESMO Open誌2025年8月号で報告した。その結果、患者の73%がT-DXd中止直後の治療として別の抗HER2療法をベースとした治療を受けており、有害事象(AE)のためにT-DXdを中止した患者や奏効を得られた患者では抗HER2療法を逐次的に行うことで利益を得られる可能性があることを明らかにした。 対象は、特定使用成績調査に登録し、再発または転移を有するHER2陽性の乳がんに対して、2020年5月25日~2021年11月30日にT-DXdの投与を開始したものの中止し、後治療を開始した患者であった。評価項目は、T-DXd中止直後の治療レジメンの分布、リアルワールドにおける無増悪生存期間(rwPFS)、治療成功期間(rwTTF)、後治療までの期間(rwTTNT)、全生存期間(OS)、ILD発現率などであった。追跡期間中央値は12.0(範囲:0.3~36.2)ヵ月。 主な結果は以下のとおり。・解析には664例の患者が含まれた。・T-DXdによる治療の前に受けた全身治療は、トラスツズマブ(93.4%)、ペルツズマブ(90.5%)、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)(91.3%)などであった。前治療ライン数中央値は3であった。・T-DXdの投与期間中央値は8.1ヵ月であった。T-DXd中止理由は病勢進行が67.5%、ILDが22.0%、その他のAEが5.1%であった。・T-DXd直後の後治療開始時点の患者背景は、年齢中央値60歳、ECOG PS 0/1が86.9%、内臓転移ありが79.8%、脳転移ありが23.0%であった。・T-DXd直後の後治療として、抗HER2療法を受けたのは73.2%であり、内訳は抗HER2抗体が54.4%、HER2チロシンキナーゼ阻害薬(HER2-TKI)が17.0%、T-DM1が1.8%であった。・後治療としての(1)全体、(2)抗HER2抗体、(3)HER2-TKI、(4)T-DM1の主な結果は以下のとおり。 【rwPFS中央値】(1)4.1ヵ月、(2)4.1ヵ月、(3)4.3ヵ月、(4)2.6ヵ月 【rwTTF中央値】(1)3.8ヵ月、(2)3.9ヵ月、(3)4.2ヵ月、(4)2.0ヵ月 【rwTTNT中央値】(1)5.0ヵ月、(2)5.1ヵ月、(3)5.3ヵ月、(4)3.0ヵ月 【OS中央値】(1)16.2ヵ月、(2)17.2ヵ月、(3)16.3ヵ月、(4)9.3ヵ月 ・抗HER2抗体vs.HER2-TKIのrwPFSとOSの結果に有意差は認められなかった。・全体集団におけるT-DXdの中止理由別の転帰は、ILDを含むAEによりT-DXdを中止した患者は、病勢進行によりT-DXdを中止した患者よりも良好であった。 【病勢進行による中止】rwPFS中央値:3.5ヵ月、OS中央値:12.0ヵ月 【全AEによる中止】rwPFS中央値:7.3ヵ月、OS中央値:32.4ヵ月 【ILDによる中止】rwPFS中央値:7.2ヵ月、OS中央値:32.4ヵ月 【ILD以外のAEによる中止】rwPFS:10.2ヵ月、OS中央値:未到達・T-DXd直後の後治療でILDは664例中10例(1.5%)に発現した。T-DXd治療中にILDが発現し、後治療でILDが再発/増悪したのは155例中5例(3.2%)であった。

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無害と考えられていたウイルスがパーキンソン病に関与か

 かつては人間には無害だと考えられていた一般的なウイルスが、パーキンソン病(PD)に関連している可能性のあることが新たな研究で明らかになった。PD患者の剖検脳の半数から、C型肝炎と同じフラビウイルス科に属する血液媒介性ウイルスであるヒトペギウイルス(HPgV)が見つかったのに対し、PDではない人の脳からは検出されなかったという。米ノースウェスタン・メディシンで神経感染症およびグローバル神経学部門長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「JCI Insight」に7月8日掲載された。 Koralnik氏は、「HPgV感染症は珍しいものではなく、症状も現れないが、脳への感染が頻繁に起こることはこれまで知られていなかった。PD患者の脳でこれほど高頻度にHPgVが認められたのに対し、PDではない人では認められなかったことには驚かされた」と話している。 PDは、ドパミンと呼ばれる脳の重要な神経伝達物質を産生する脳細胞が変性・減少することで発症する。ドパミンレベルが減少すると、手足の震え(振戦)や筋肉のこわばり(筋硬直)などの運動症状が現れ、バランス維持や協調運動が障害される。米国でのPD罹患者数は100万人以上に上り、年間約9万件の新規症例が報告されている。ほとんどのPD症例は遺伝とは関連がない。そのため、ドパミンを産生する神経細胞の減少を引き起こす原因は何なのかという疑問が投げかけられている。 この研究では、PD患者10人と、年齢と性別を一致させた非PDの対照14人の扁桃体、後部被殻、および上前頭皮質の剖検脳を、全ウイルス叢を対象としたシーケンシングツールであるViroFindと定量PCRを用いて評価した。 その結果、PD患者の10例の剖検脳中の5例でHPgVが検出されたのに対し、対照群の脳では検出されなかった。またPD患者では、脊髄液からもウイルスが検出されたが、対照群の脊髄液からは検出されなかった。さらに、HPgV陽性のPD患者では、PDの病理学的変化を分類するBraakステージとシナプス関連タンパク質であるComplexin-2のレベルが高く、神経病理がより進行していることが示された。 Koralnik氏らは次に、PD研究に利用可能なバイオサンプルライブラリであるPD進行マーカーイニシアチブ(PPMI)の参加者1,393人のベースライン時の全血RNAデータを取得し、HPgV感染と免疫応答、および遺伝的背景との関連を解析した。その結果、HPgV陽性PD患者では、脳と血液の両方で重要な上流の免疫調節因子であるIL-4のシグナルが対象群と比較して低下していることが明らかになった。さらにこの傾向は、PDに関連する遺伝子LRRK2の変異の有無により異なることも示された。具体的には、LRRK2遺伝子変異を有するHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルが低下するのに対し、変異を有さないHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルも上昇していた。 Koralnik氏は、「HPgVは、われわれがまだ把握していない方法で体と相互作用する環境要因なのかもしれない。無害だと思われていたウイルスがPD患者に対して重要な影響を及ぼし、特に、特定の遺伝的背景を持つ人では、PDの発症や進行に関与している可能性がある」と述べている。 研究グループは、PD患者の間でHPgVがどの程度見られるのか、また、それがどのようにして脳障害を引き起こし得るのかを、今後も追跡調査する予定だとしている。Koralnik氏は、「われわれは、HPgVと遺伝子がどのように相互作用するかを理解することを目指している。こうした知見は、PDの発症メカニズムを解明し、将来の治療法開発に役立つ可能性がある」と話している。

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加熱式タバコの使用が職場における転倒発生と関連か

 運動習慣や長時間座っていること、睡眠の質などの生活習慣は、職場での転倒リスクに関係するとされているが、今回、新たに「加熱式タバコ」の使用が職場における転倒発生と関連しているとする研究結果が報告された。研究は産業医科大学高年齢労働者産業保健センターの津島沙輝氏、渡辺一彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月6日掲載された。 転倒は世界的に重大な公衆衛生上の懸念事項である。労働力の高齢化の進む日本では、高齢労働者における職場での転倒の増加が深刻な安全上の問題となっている。この喫緊の課題に対し、政府は転倒防止のための環境整備や、労働者への安全研修の実施などの対策を講じてきた。しかし、労働者一人ひとりの生活習慣の改善といった行動リスクに着目した戦略は、これまで十分に実施されてこなかった。また、運動習慣や睡眠などの生活習慣が職場での転倒リスクと関連することは、複数の報告から示されている。一方で、紙巻タバコや加熱式タバコなどの喫煙習慣と転倒リスクとの関連については、全年齢層を対象とした十分な検討がなされていないのが現状である。このような背景を踏まえ、著者らは加熱式タバコの使用と職業上の転倒との関連を明らかにすることを目的として、大規模データを用いた全国規模の横断研究を実施した。 本研究では、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータを用いた。主要評価項目は過去1年間の職場における転倒、副次評価項目は転倒関連骨折とした。発生率と95%信頼区間(CI)は、ロバスト分散を用いた2階層のマルチレベル・ポアソン回帰モデルにより推定された。 本研究の解析対象は18,440人(平均年齢43.2歳)であり、女性は43.9%含まれた。全体のうち、7.3%が過去1年間に職場における転倒を経験し、2.8%で転倒関連骨折を報告していた。年齢や性別などの交絡因子、喫煙状況、飲酒習慣、睡眠といった行動因子を調整した結果、職場における転倒発生率は、現在喫煙している人の方が、非喫煙者より高かった(IR 1.36、95%CI 1.20~1.54、P<0.05)。この傾向は、加熱式タバコのみ使用している人(IR 1.78、95%CI 1.53~2.07、P<0.05)、紙巻きたばこと加熱式タバコの両方を使用している人(IR 1.64、95%CI 1.40~1.93、P<0.05)で顕著だった。転倒関連骨折においても同様の傾向が示された。その他の生活習慣では、極端な睡眠時間(0~5時間または10時間以上)、併存疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病)、睡眠薬または抗不安薬の常用、などが転倒発生率の上昇と関連していた。年齢別にみると、喫煙と転倒および転倒関連骨折との関連は若年労働者(20~39歳)で顕著だった。特に加熱式タバコを使用している若年層でこの傾向がより強くみられた。 本研究について責任著者である財津將嘉氏は、「本研究では、若年労働者においても加熱式タバコを含む喫煙が職場での転倒や関連骨折と関連していることが明らかとなった。実際に観察された転倒の半数以上は若年層で発生しており、従来高齢者に焦点が当てられてきた転倒予防策を、若年層にも広げる必要性が示唆された。若年労働者は転倒リスクの高い職場に配属されやすく、年齢や職場環境の影響を考慮することが重要である。また、禁煙を促すナッジ戦略も有効と考えられる」と述べている。

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第36回 重症熱中症には“Active Cooling”を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識レベルと体温に注目し、重症度を瞬時に見極めよう!2)重症熱中症では、まず「冷やす」ことが最優先! 3)冷却しながら、見逃してはいけない背景病態にも目を向けよう!【症例】74歳女性。自宅の庭で倒れているのを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであった。●受診時のバイタルサイン意識200/JCS血圧108/54mmHg脈拍128回/分呼吸25回/分SpO296%(RA)体温40.5℃既往歴不明内服薬不明熱中症2025今年は昨年を上回る勢いで熱中症が発生しています。梅雨がいつ明けたのかわかりませんが、とにかく暑く、気温の乱高下が激しく大変ですよね。電車内や屋内は、冷房の影響で寒く、外はうだるような暑さ、この差にも身体が堪え、これまで以上に身体に負担がかかっていることと思います。救急外来にも6月後半から熱中症患者が来院し、日に日に増加しています。多くの方は帰宅可能ですが、中には入院を要する重篤な転帰を辿る方もいます。暑熱順化が大切であり、熱中症を発症しないことが何よりも大切ですが、起こってしまった場合には然るべき対応を淡々と行うしかありません。そのためには、熱中症を早期に見抜き、重症度を見誤ることなく対応することが必要不可欠です。熱中症の重症度について「第33回 熱中症、初動が大事!」でも取り上げましたが、熱中症の重症度分類は従来の3段階から4段階へと変更されました(表1、2)1)。重要なポイントは、発生場所などの病歴から熱中症を早期に疑い、重症度の高いIV度やqIV度の症例に対して、迅速に介入することです。表1 熱中症の重症度分類画像を拡大する表2 熱中症の重症度分類(最重症群)画像を拡大する“Cool First,Transport Second!”重症度の高い熱中症に対しては、何よりも冷却が重要です。もちろん、バイタルサインを安定させることが最優先ですが、それと並行して積極的に冷却を行う必要があります。冷やした輸液を投与しただけで安心してはいけません。重症例では“Active cooling”が推奨されており、冷却輸液のような“Passive cooling”では効果が不十分とされています。最も効果的な冷却手段を選択し、迅速に実施することが求められます。冷却方法『熱中症診療ガイドライン2024』(日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会編)には、「CQ3-02:熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か?」というClinical Question(CQ)が提示されています。選択肢として、以下の10の方法が挙げられています。1)冷水浸水 (Cold water immersion)2)蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)3)胃洗浄(Cold water gastric lavage)4)膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)5)血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)6)体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation:ECMO)7)腎代替療法 (Renal replacement therapy)8)ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system)9)クーリングブランケット(Cooling blankets)10)局所冷却(Ice packs)このCQに対して、ガイドラインでは「熱中症診療における特定の冷却法について、明確な推奨は提示しない」と記載されています。その理由としては、特定の冷却法を支持する明確な根拠が乏しく、エビデンスの強さも十分ではないこと、また、それぞれの方法における有益性と有害性のバランスが明確でないと判断されたためです。では、どの冷却法を選べばよいのでしょうか。大切なのは、「安全に実施できること」および「自施設で対応可能であること」です。そうした手段を用いて最善を尽くすことが望ましいと考えられます。 私のお勧めは冷水浸潤(Cold water immersion:CWI)です。冷却効果が最も高く、スタッフが協力すれば安全に実施可能です(治療の詳細は後述します)。 たとえ体外式膜型人工肺(ECMO)や腎代替療法が理論的に有効であっても、すぐに準備できるわけではありませんし、これらは保険適用外である点も考慮が必要です。また、血管内体温管理療法は徐々に普及しつつあるものの、中心静脈穿刺が必要であり、治療コストも高いため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。CWIの実際みなさんの施設では、CWIを実施しているでしょうか。手技自体はシンプルに見えますが、導入には意外と多くの準備や配慮が必要です。CWIとは、患者さんを水風呂のような冷水に浸し、体温を下げる方法です。 意識のはっきりしている若年者であれば、比較的容易に施行できますが、重症度の高い熱中症、とくに本症例のような高齢者の場合には、いくつか注意すべき点があります。(1)場の確保通常の診察室内での実施は困難です。CWIには専用のプールのような設備が必要であり、当院では空気で膨らませるタイプの介護用浴槽を使用しています。また、大量の水と氷を使用するため、水回りの環境も重要です。当院では、スペースと水の確保がしやすい除染室を使用しています。(2)人手の確保CWIが必要となるのは、重症度III~IV度の重篤な熱中症であり、気道管理を含む全身管理が必要となることが多く、人手を要します。医師や看護師を数名ずつ確保することが望ましいですが、手技の流れを理解しているスタッフであれば、医療職以外の協力も可能です。(3)深部体温のモニタリングqIV度では深部体温による重症度評価は必須ではありませんが、CWI中に過冷却を起こすリスクがあるため、深部体温(たとえば膀胱温など)をモニターしながらの介入が望まれます。(4)氷の確保水道水の温度は季節によっては高く、単独では十分な冷却効果が得られないことがあります。そのため、氷を用いて水温を下げる必要があります。あらかじめ準備手順を整備し、速やかに対応できるようにしておきましょう。クーラーボックスなどを常備しておくと便利です。(5)シミュレーションの実施CWIを年間に何十例も施行する施設はまれであり、個人単位でみると経験はごく少数に止まることが想定されます。そのため、実施機会に備えて事前にチーム全体でシミュレーションを行っておくことが重要です。毎年実施していても、その年の最初の1例目では混乱しやすいものです。新規スタッフの教育も兼ねて、定期的なトレーニングをお勧めします。※なお、当院ではCWIの実施に備えて定期的にシミュレーションを行っており、その様子を収めた簡易的な動画もあります。詳細な手技の解説までは含まれていませんが、実際の雰囲気をつかむには十分かと思いますので、ぜひご参考になさってください。早期に意識すべき3つの原因熱中症を疑うこと自体は比較的容易ですが、意識障害や体温の上昇が必ずしも熱中症だけを原因とするとは限りません。熱中症単独であれば、体温管理と輸液によって症状の改善が期待できますが、そもそも熱中症に至った背景に他の原因がある場合には、当然ながらその病態への介入が不可欠となります。 原因は多岐にわたりますが、まずは以下の3つを早期に意識しておくことが重要です。1)敗血症2)脳卒中3)外傷たとえば、敗血症により体動が困難となり熱中症を併発したケース、脳卒中を発症して動けなくなり熱中症を来したケース、あるいは熱中症による症状で転倒し、外傷を負った(あるいはその逆)ケースなど、救急外来ではしばしば遭遇します。これらのケースでは、抗菌薬の投与をはじめとした、それぞれの病態に応じた適切な対応が必要となります。 とはいえ、「原因検索を行ってから冷却を開始する」のでは遅すぎます。重症度の高い熱中症では、こうした原因を意識しつつも、冷却を迅速に開始することが求められます。CWIを実施することができれば、数十分のうちに目標体温に到達することも可能です。ぜひ実践してみてください。 1) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024

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発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(2)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第7回

発作性上室頻拍(PSVT)を理解しよう(2)Question以下の心電図波形の方にベラパミルが投与され、瞬間的に以下の波形となりました。頻脈性不整脈(心房頻拍、心房粗動、房室回帰性頻拍[AVRT]、房室結節回帰性頻拍[AVNRT]のいずれか)の可能性はあるでしょうか?画像を拡大する

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第274回  文科省「今後の医学教育の在り方」検討会と厚労省「特定機能病院あり方検討会」の取りまとめから見えてくる大学病院“統廃合”の現実味(後編)

病院の建物は新しいが臨床研究棟はボロボロの大学医学部こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3ヵ月ほど前になりますが、ある取材で私立の医科大学を3大学ほど訪れました。中部地方2大学、九州地方1大学です。驚いたのは医学部の教室が入っている建物(いわゆる臨床研究棟と呼ばれているもの)がどこもボロボロだったことです。ある大学など築50年近く経っていたのではないでしょうか。いずれの医科大学も患者が訪れる病院の建物は比較的新しく、医療機器も最新機器に更新されているようですが、教授陣以下、医学部で研究する人々の環境は“昭和”の時代のまま止まっているようでした。それだけ、医科大学の経営が厳しいということなのでしょう。加えて、どこの大学の教授室にも何のチェックもなくスルスルと辿り着けたのも気になりました。経費削減のためと思われますが、企業の取材ではほぼあり得ないことです。大学医学部は研究面だけでなく、防犯面でも課題がありそうだと感じた次第です。さて、前回、国立大学病院長会議が7月9日に発表した2024年度の決算(速報値)について書きました。全国42国立大学病院のうち、減価償却などの費用を含む2024年度経常損益では29病院が赤字であり、42大学の経常損益の合計額は過去最大の285億円マイナスという驚くべき数字でした。そして、東京科学大学病院や筑波大学附属病院など赤字の国立大学病院が、病床稼働率の向上や手術件数の増加といった、涙ぐましい経営努力をしている現状も紹介しました。そんな中、文部科学省は7月14日、「今後の医学教育の在り方に関する検討会」による「第三次取りまとめ」1)を公表しました。同検討会は2023年5月から15回にわたって議論を行い、これまでに「第一次中間取りまとめ」(2023年9月)、「第二次中間取りまとめ」(2024年6月)を公表しています。「第一次中間取りまとめ」をきっかけに、文科省は2024年3月に「大学病院改革ガイドライン」を策定、国立・私立ともに今後6年間に取り組む「改革プラン」の策定を各大学に求めました。今回の「第三次取りまとめ」は、医師の働き方改革をきっかけに激変した大学病院の経営環境を踏まえ、どう医学部・大学病院の教育研究環境を確保し、同時に大学病院の経営改善を図っていくかについて、今後の方向性を取りまとめたものです。大学病院を全国一律に捉えず、それぞれ必要とされる分野で機能・役割分化を促していく、というなかなか興味深い内容になっています。「全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」「第三次取りまとめ」でまず気になったのは、「II.医学部・大学病院を巡る状況と今後の方向性について」の章にある「大学病院の役割・機能として、診療だけでなく、教育や研究も欠かすことができないが、所在する地域の状況や医師の働き方改革等大学病院を取り巻く様々な環境の変化によって、全ての大学病院が一様に同じ役割・機能を同程度持ち続けることは難しいといった指摘がある」の一文です。その上で、「文部科学省が各大学病院の病院長と行った意見交換では、全ての大学病院が教育・研究・診療を担うことは重要と考えている一方で、全ての役割を一様に最大限に取り組むことには限界があり、地域の医療提供体制や各病院の財政状況、組織体制等に応じて、担うべき役割のエフォート配分を検討する必要があるとの意見も多くあった」と書かれています。つまり、「大学病院=教育・研究・診療が揃っているもの」という一律的な捉え方はもはや古く、教育に重点を置く大学病院、研究に重点を置く大学病院、診療に重点を置く大学病院というように、機能分化せざるを得ない状況だと断言しているのです。実際、今年2月に開かれた「第11回 今後の医学教育の在り方に関する検討会」で配布された「医師の働き方改革施行後の大学病院の現状と課題について」と題された資料を見ると、臨床医学分野の論文数・Top10%補正論文数や、競争的研究費の新規獲得状況などで全国の大学医学部には大きな開き、格差があることがわかります。現状、「研究」が行われているのは旧帝大や一部の私大に集中しており、それ以外の大学は教育(人材養成)と診療(地域医療)に注力しろ、というのが文科省の本音と言えそうです。「第三次取りまとめ」、地域医療構想と特定機能病院見直しにも言及そうした意味から、「第三次取りまとめ」では地域医療構想と特定機能病院見直しにも言及しています。まず、地域医療構想については、「厚生労働省の『新たな地域医療構想に関するとりまとめ』において、大学病院本院が担う『医育及び広域診療機能』を含む医療機関機能を、新たに位置付けることとしているなど、人口減少や高齢化が急速に進む中で地域の医療提供体制を維持していくために、大学病院は、都道府県に対し、地域医療構想の推進に関して様々な形で協力・貢献することが一層求められており、大学病院における組織的かつ主体的な取組が求められる」と、積極的に関わっていくことを求めています。「大学病院は、全ての診療科をそろえた総合的な医療提供体制の確保や、地域医療構想とも整合した地域貢献といった機能を担っている」「特定機能病院見直し」とは、厚生労働省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」で議論が進む、特定機能病院の要件見直しのことです。同検討会では、特定機能病院について、全大学病院本院が満たすべき「基礎的基準」を設定すると共に、個々の大学病院が地域の実情も踏まえて自主的に実施している取り組みを「発展的(上乗せ)基準」によって評価する案が検討中です。文科省の「第三次取りまとめ」はこの案について、「大学病院は、地域によっては、高難度の外科手術や難治性疾患の治療のような高度な医療のほか、全ての診療科をそろえた総合的な医療提供体制の確保や、地域医療構想とも整合した地域貢献といった機能を担っているものがある。このことも踏まえ、国は、大学病院の在り方の検討等を含めた取組について、特定機能病院の見直しや本取りまとめの趣旨に留意しながら、引き続き進めることが重要である」としています。つまり、大学病院は高度医療も重要だが、地域医療構想に即してほかの医療機関とも連携して地域の医療提供体制の構築に貢献することも重要な役割、と言っているのです。2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」は大学病院のリストラも迫るものとなると、これからとくに500床以上あるような地域の基幹病院と大学病院との差別化が問題となってきそうです。新たな地域医療構想では、さらなる病床の機能分化が進められ、なおかつ人口規模が小さ過ぎる構想区域は統合されることになります。人口減が急速に進む中、病院の統廃合は今まで以上に加速することになるでしょう。そうした統廃合の流れから大学病院だけが守られるとは考えられません。「構想区域の統合」はやがて「大学病院の統廃合」にもつながっていくでしょう。医師の養成機能はどうするんだ、と言われそうですが、そもそも人口減で医師の需要も減っていくわけですから(専門医の需要はとくに)、医学部の統廃合のほうが先になるかもしれません。文科省の「第三次取りまとめ」の中の「III.大学病院の機能等別の課題と対応方策等」の章の「1.運営、財務・経営改革」の項目では、持続可能な大学病院運営のため、大学全体だけではなく病院単独の貸借対照表を作成するなど、詳細な資産状況を把握する取り組みを促すことが重要だと提言しています。これは、うがった見方をすれば、「将来起こるであろう統廃合や買収の準備をしておけ」ということかもしれません。田中 角栄が50年以上も前に唱え実現した「一県一医大」は、今となっては国にとって大きな財政負担、お荷物になってきています。2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」は大学病院、医学部のリストラも迫る政策だということを、大学医学部関係者はしっかりと肝に銘ずるべきでしょう。参考1)今後の医学教育の在り方に関する検討会 第三次取りまとめ/文部科学省

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帯状疱疹、発生率が高まる時期は?/MDV

 帯状疱疹ワクチンの65歳以上への定期接種が2025年4月よりスタートした。同年3月に「帯状疱疹診療ガイドライン2025」の初版が発刊されたほか、海外での新たな研究では、帯状疱疹ワクチン接種による認知症リスクの低下1,2)や心血管疾患リスク抑制3)も示唆されており、今注目されている疾患領域である。 その帯状疱疹の国内患者推移について、メディカル・データ・ビジョンは自社の保有する国内最大規模の診療データベースから抽出した317施設の2019年1月~2025年3月のデータを対象に調査を行い、7月15日にプレスリリースを公表した。7~10月、患者増の可能性 調査結果によると、毎年2月は患者数が減少し、3月から春先にかけて増加する傾向がみられた。また、7月から10月にかけても患者数が増加する傾向にあり、夏から秋にかけて発症が増える季節性が認められた。一方、11月から翌年1月にかけては患者数がやや横ばい、あるいは減少傾向であった。同社はこれらの理由として、気温や湿度の変化、夏季の疲労蓄積、免疫力の低下などとの関連を挙げた。さらに男女・年齢別の傾向としては、年齢とともに増加傾向となり、70代の患者数が最も多く、女性のほうがやや多い結果を示した。PHNの発症率、治療薬の処方動向 帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)の発症率については、年齢とともに増加する傾向がみられ、とくに80代が最も高く、全体を通じて男性でわずかに高い傾向であった。治療薬は、アシクロビル、バラシクロビルの順に処方量が多かったが、全体的には各薬剤とも大きな変動はなく安定した使用状況を維持。アシクロビルに関しては2021年以降やや増加傾向であったという。

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統合失調症患者の認知機能改善に対するメトホルミンのメカニズム

 認知機能低下は、統合失調症の長期予後に悪影響を及ぼす病態であるが、効果的な臨床治療戦略は依然として限られている。トリカルボン酸(TCA)回路の破綻と海馬における脳機能異常が認知機能低下の根底にある可能性が示唆されているが、これらの本質的な因果関係は十分に解明されていない。とくに、ビグアナイド系糖尿病薬であるメトホルミンは、統合失調症患者のさまざまな認知機能領域を改善することが示されており、TCA回路を調節する可能性がある。中国・The Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのJingda Cai氏らは、以前、研究において、メトホルミン追加投与が統合失調症患者の認知機能を改善することを報告した。本研究では、認知機能改善とTCA回路代謝物および脳機能との関連を調査した。BMC Medicine誌2025年7月1日号の報告。 対象は、同様の状態にある統合失調症患者58例。メトホルミン1,500mgを24週間追加投与したメトホルミン群と対照群に割り付けた。液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて統合失調症患者の血中における主要なTCA回路代謝物の濃度を検出し、MRIスキャンを実施した。臨床症状の評価には陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、認知機能の評価にはMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)中国語版を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メトホルミン投与24週間後、TCA回路におけるアップストリームの乳酸(24週目:−80.81μg/mL[−96.85〜−64.77])、ピルビン酸(24週目:−17.51μg/mL[−20.52〜−14.49])レベルが低下した。一方、他の7つのダウンストリームの代謝物レベルは上昇した(各々、p<0.001)。・左海馬尾部と右内腹側後頭葉皮質(12週目の群間差:−0.334)、右海馬尾部と右中前頭回(24週目の群間差:0.284)との間の機能的連結性は両群間で有意な差が認められた(p<0.001)。・メトホルミンによる認知機能(ワーキングメモリー/言語学習)および海馬機能連結性(右海馬尾部と右中前頭回)の改善は、TCA回路代謝物の変化と関連していた。 本研究の限界として、サンプル数やフォローアップ期間が不十分な点、メカニズムの詳細は検討が不十分な点が挙げられる。 著者らは「統合失調症患者に対するメトホルミン追加投与は、エネルギー代謝を調節することで、認知機能を改善する可能性が示唆された」と結論付けている。

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血液病理認定医が直面している難渋するリンパ腫診断/日本リンパ腫学会

 2025年7月3~5日に第65回日本リンパ腫学会学術集会・総会/第28回日本血液病理研究会が愛知県にて開催された。 7月5日、竹内 賢吾氏(公益財団法人がん研究会 がん研究所)を座長に行われた学術・企画委員会セミナーでは、「How I diagnose lymphoma」と題して、5名の病理認定医より、日常診療で直面している具体的な診断の揺らぎや分類の曖昧さに対する自身の対応や見解について共有および議論がなされた。 診断の揺らぎは、解析データの不足、診断者の力量に起因することもあるが、WHO分類におけるさまざまな病型定義や診断基準の曖昧さによる影響が大きいと考えられる。そもそも分類とは、その制定までに理解可能となった定型例により構成されており、その曖昧さは、明瞭な記載が不可能だという消極的な理由のほかに、非定型例について将来の研究に委ねたいとの観点から積極的に設けられた緩衝地帯といえる。このような緩衝地帯においては、現在の知見のみで、誰かが決断を下さなければ治療に向かうことができないことからも、知見の共有は重要である。 本セミナーでは、大石 直輝氏(山梨大学大学院総合研究部医学域人体病理学講座)、加藤 省一氏(佐賀大学医学部 病因病態科学講座 診断病理学分野)、加留部 謙之輔氏(名古屋大学 大学院医学系研究科 臓器病態診断学)、佐藤 康晴氏(岡山大学学術研究院 分子血液病理学)、百瀬 修二氏(埼玉医科大学総合医療センター 病理部)の5名の病理認定医より講演が行われた。今回は、そのうち3つの演題を取り上げる。確定診断には血液内科医と病理医の連携は不可欠 形質芽球性リンパ腫(PBL)の診断について、大石氏は発表された。PBLは、形質芽球/免疫芽球の形質、B細胞の最終分化段階の免疫学的形質を有する大細胞異常B細胞の増殖からなる高悪性度リンパ性腫瘍であり、主に節外臓器に発生する。PBLの鑑別診断は多様かつ複雑であり、情報が限られているため確定診断が難しく、形質細胞腫にとどめざるを得ないこともあるため、とくに病理医と血液内科医のチームワークが求められる。そのうえで「丁寧な臨床病理相関を検討することが必要とされる」と述べている。また「そもそも形質芽球は概念上の細胞なのか、実在するのか」「形質芽球リンパ腫はリンパ腫なのか、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)との整合性は」「形質芽球リンパ腫が形質細胞腫と診断された場合の臨床的インパクトは」「EBV陽性形質細胞腫からEBV陽性PBLへの進展はあるのか」などの疑問が今後明らかになっていくことが期待されるとしている。ダブルヒットリンパ腫とBL/DLBCL境界例診断のコツは ダブルヒットリンパ腫(DHL)を含む高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)の診断について、加留部氏が発表された。MYCとBCL2転座を有するDHLは予後不良であり、その多くはバーキットリンパ腫(BL)/びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)境界例に含まれているが、BL/DLBCLの多くがDHLというわけではなく、DHL以外のBL/DLBCLはHGBL,NOSに分類される。これらはいずれも予後不良であり、適切な治療に結びつけるためにも、正確な診断が求められる。一方で、加留部氏は「HGBL,NOSの診断は乱発するものではなく、形態診断は異なっているが、他の所見も併せて判断したほうが無難である」と述べている。また、HGBLのなかでも11qを伴う場合には、予後は良好であるため、HGBL,NOSとの鑑別は重要となる。そのため、BLが強く疑われるにも関わらずMYC転座が認められない場合には、11qのFISHを行う価値が高いと考えられる。BLとDLBCLとの鑑別は、その後の治療選択においても重要であるが、境界例ではとくに慎重な診断が求められることとなる。最後に、ダブルヒット濾胞性リンパ腫(FL)の診断は、現状DHLではなくFLとして考えるとされており、FLに準じた診断治療を行うべきであるが、形質転換により悪性度が急激に上昇するため、より慎重に検索すべきであり、広い範囲での摘出生検の必要性を強調した。LBCLで低悪性度コンポーネントをどこまで考慮すべきか 百瀬氏は、LBCLにおける低悪性度コンポーネントの存在をどこまで追求すべきかについて、考えを述べられた。LBCLの背景には、マントル細胞リンパ腫(MCL)、FL、辺縁帯リンパ腫(MZL)などの低悪性度コンポーネントがあるかどうか、標本上LBCLのみである場合にどこまで追求すべきなのであろうか。LBCLでは、最終的にCCND1陽性MCLとなる頻度は1/300〜500であり、LBCLのMCL、pleomorphicの抽出にCD5発現は向いていない。cyclin D1の発現による抽出は有効ではあるものの、cyclin D1陰性例の取りこぼしが生じる可能性があることから、SOX11での拾い上げが有効かもしれないと述べている。しかし、自験例においてもSOX11陰性MCLが一定頻度で見られる可能性があるとした。これらを踏まえ、百瀬氏は「現時点でLBCLにおけるMCLスクリーニングではcyclin D1を用いることが良いと考えている」と本発表をまとめた。

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心停止ドナー心の新たな摘出・保存法/NEJM

 米国・ヴァンダービルト大学医療センターのAaron M. Williams氏らの研究チームは、循環が停止したドナー(DCD)から移植用の心臓を摘出する際に、従来のnormothermic regional perfusion(NRP)やdirect procurement and perfusion(DPP)を必要としない方法として、rapid recovery with extended ultraoxygenated preservation(REUP)法を開発した。本論文では、従来法の問題点、REUP法を適用した最初の3例の治療成績、この手法が今後の心臓移植に及ぼす影響について解説している。研究の詳細は、NEJM誌2025年7月17日号で短報として報告された。DPPは複雑で高価、NRPには倫理的問題 DCDからの心臓移植における心臓摘出では、通常、DPPまたはNRPのいずれかが行われる。 DPPでは、ドナーの循環停止を確認後に心臓を摘出する。市販の体外装置を使用して心臓蘇生を行うが、この装置は複雑で大きな労力を要するうえに高価で、移植心臓の機能障害のリスクが増加する可能性もある。 NRPでは、死亡宣告後に膜型人工肺などを装置し、灌流を再開して体内で心臓蘇生を行い、心機能を評価して移植の適否を決める。DPPに比べ操作が容易で、臓器の回収率が高く、心臓と腹部臓器の移植において優れたアウトカムが示されている。 その一方で、NRPは主に次の2つの倫理的な問題を抱えており、これを理由に使用を禁じる国、病院、臓器調達組織も多い。(1)ドナーの心臓を体内で蘇生させるのは、循環死の定義を否定することではないか(DPPは体外なので心臓死後の臓器摘出と判断)、(2)大動脈弓部分枝をクランプして脳循環を防止しているが、側副路を介する脳循環の再開の可能性は残るのではないか(脳が蘇生した状態での心臓摘出の可能性)。6ヵ月後も両心室機能は正常、拒絶反応は認めない REUP法は、DCDの大動脈をクランプし、平均大動脈基部圧80mmHgにコントロールされた状態で、超酸素化された冷温保存液(濃厚赤血球、del Nido心保護液などを含む)2リットルを約10~12分間で投与する方法である。この手法は簡便で安価であり、体内で心臓蘇生を行わないためNRPが許可されない状況でも使用可能とされる。 REUP法を受けた最初の3例の患者はいずれも順調に回復し、ICU入室中に合併症は発現しなかった。移植後1週目に、患者の心係数は2.8~4.4L/分/m2の範囲で推移し、3例とも移植から7日目までに強心薬の点滴から離脱した。術後の心エコー検査で、すべての患者の両心室の機能は正常であった。また、周術期に有害事象の報告はなかった。 一時的な持続的腎代替療法を行った後に間欠的血液透析を受けた1例は、その後に完全な腎機能の回復を果たした。全例がprednisone、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスを含む標準的な免疫抑制療法を受けた。移植から6ヵ月の時点で、すべての患者は両心室機能が正常な状態を維持しており、急性細胞性拒絶反応や抗体関連型拒絶反応は認めなかった。移植へのアクセスが拡大する可能性 これら3例の良好なアウトカムは、次の2点を示唆すると考えられた。(1)循環停止後から始まる細胞死のプロセスには可逆性の時間帯が存在するとの既報のトランスレーショナル研究の知見を支持する、(2)NRPまたはDPPによるドナー心臓の自己心拍の再開および生理学的評価は不要である可能性がある。 著者は、「NRPに関連した倫理的ジレンマと、市販のDPPの過大なコストを回避できることから、REUP法は、これまでDCDからの心臓移植にアクセス不能であった施設や地域において、適切に選択された心臓の摘出と移植を成功裏に行うことを可能にするとともに、提供可能であるにもかかわらず活用されない心臓を減らすことができると考えられる」としている。

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SGLT2阻害薬がCKD患者の入院リスクを総合的に低減

 SGLT2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)の進行や心血管イベントを抑える効果はこれまでに報告されているが、あらゆる原因による予定外の入院リスクの低減効果については体系的に評価されていない。今回、大島 恵氏(オーストラリア・シドニー大学/金沢大学)らの研究により、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無、腎機能やアルブミン尿の程度にかかわらず、CKD患者の予定外の入院リスクを低減したことが明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年7月14日号掲載の報告。 これまでのCREDENCE試験では、SGLT2阻害薬カナグリフロジンが、CKDを合併する2型糖尿病患者の心・腎イベントを抑制することが明らかになっている。今回、研究グループはCREDENCE試験の事後解析を実施し、Cox比例ハザードモデルを用いてカナグリフロジンの予定外の初回および2回目以降の入院への影響を評価した。また、CKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の3つのプラセボ対照試験について逆分散法によるメタ解析を実施し、全体およびサブグループ(糖尿病・腎機能・アルブミン尿)における効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・CREDENCE試験では、中央値2.6年の追跡期間中に、4,401例中1,543例(35%)が3,015回の入院を経験した。・カナグリフロジンは、プラセボと比較して、予定外の初回の入院リスクを12%低減させ(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.80~0.98、p=0.02)、初回および2回目以降の入院リスクを14%低減させた(HR:0.86、95%CI:0.76~0.96、p=0.007)。・CKD患者を対象とした3つのプラセボ対照試験のメタ解析では、SGLT2阻害薬はあらゆる原因による初回および2回目以降の入院リスクを15%低減させた(HR:0.85、95%CI:0.78~0.95、p<0.001)。この効果は、糖尿病の有無、ベースライン時の腎機能、アルブミン尿の程度にかかわらず一貫した。・とくに減少がみられた入院の原因は、感染症、心疾患、腎・尿路疾患、代謝・栄養障害であった。・SGLT2阻害の使用により、CKD患者1,000人年当たり36件(95%CI:13~56)の予定外の入院を予防すると推定された。

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REM睡眠中の無呼吸は記憶固定化と関連する脳領域に影響を及ぼす可能性

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に関連した低酸素血症は、前頭頭頂葉脳血管病変と関連し、この病変は内側側頭葉(MTL)の統合性低下や睡眠による記憶固定化の低下と関連するという研究結果が、「Neurology」6月10日号に掲載された。 米カリフォルニア大学アーバイン校のDestiny E. Berisha氏らは、認知機能に障害のない高齢者を対象に、実験室内での終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)および睡眠前後の感情記憶識別能力を実施し、それらを評価する観察研究を行った。PSGから導出したOSAの変数には、無呼吸低呼吸指数、総覚醒反応指数、最低酸素飽和度が含まれた。研究の早期時点で、MRIを用いて脳全体および脳葉の白質高信号域(WMH)の体積とMTLの構造(海馬体積、嗅内皮質〔ERC〕の厚さ)を評価した。 研究対象となったのは、高齢者37人(年齢72.5±5.6歳)であった。解析の結果、低酸素血症の測定値は脳全体のWMH体積を有意に予測した。この関係はREM睡眠中の低酸素血症の重症度に強く関連しており、前頭葉および頭頂葉のWMH体積も予測した。REM睡眠中の低酸素血症とERCの厚さとの関係は、前頭葉のWMH体積増加により間接的に媒介された。また、ERCの厚さ減少は夜間の記憶識別能力の悪化と関連した。 共著者であり同大学のBryce A. Mander氏は、「総合すると、われわれの研究結果は、OSAが、睡眠中の記憶固定化を支える脳領域の変性を通して、加齢およびアルツハイマー病と関連する認知機能低下にどのように寄与するのかを部分的に説明している可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、バイオ製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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