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GLP-1受容体作動薬は気候変動対策にも有益

 肥満症治療薬として使用されているオゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬は、単に体重を減らすだけでなく、地球環境の保護にも役立っている可能性のあることが、新たな研究で示された。これらの薬が心不全患者の減量目的で使用されると、温室効果ガス排出量の削減につながるという。米Lahey病院・医療センターのSarju Ganatra氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Ganatra氏らは、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者(GLP-1受容体作動薬を投与された患者1,914人、プラセボを投与された患者1,829人)を対象とした4件の臨床試験のデータを統合して解析した。HFpEFとは、心臓の収縮機能は保たれているものの、心筋が硬いために十分に拡張できず、血液を十分に取り込めない状態を指す。米国心臓病学会(ACC)によれば、心不全患者のほぼ半数がこのタイプに分類される。 心不全悪化イベントの発生数は、GLP-1受容体作動薬を投与された患者では54件であったのに対し、プラセボを投与された患者では86件だった。心不全悪化イベントには入院と病院の往復を伴うと仮定して二酸化炭素(CO2)排出量を推算すると、GLP-1受容体作動薬を使用したHFpEF患者の年間CO2排出量は1人当たり9.45kgと推定され、プラセボ群の9.7kgと比べて少ないことが示された。 Ganatra氏は、「この数値をGLP-1受容体作動薬による治療の対象となる何百万人もの患者に当てはめると、20億kg以上のCO2換算量の削減につながる」と言う。同氏らによると、20億kgのCO2は、満席のボーイング747型機の長距離フライト2万便にほぼ相当し、また、この量のCO2を吸収するには、植えられてから10年が経過した約3,000万本の木が必要になるという。 Ganatra氏はさらに、ESCのニュースリリースの中で、医療廃棄物の発生量や水の使用量についても、同様の規模の削減が見られた」と述べている。その上で同氏は、「今回の研究は、個々の小さな改善の積み重ねが、集団全体として大きなインパクトをもたらすことを明確に示している」と説明している。 さらに、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では食物の摂取量が減り、そのことが気候にも良い影響を与えると推定された。Ganatra氏らの推計によると、プラセボ群と比べてGLP-1受容体作動薬群では1日当たりの摂取カロリーが減少したことで年間およそ695kg分のCO2排出量の削減につながったという。 今回の研究結果についてGanatra氏は、「薬物治療から患者の健康状態の改善と地球環境の健全化という2つのメリットを得られる可能性を示した結果だといえる」と述べ、「将来的には政策立案者が医療技術の評価や医薬品の保険適用の決定、医薬品調達の枠組みなどにサステナビリティの指標を組み込むことを期待している」と付け加えた。 Ganatra氏らは次の段階として、実際の排出データと臨床アウトカムを用いてモデルを検証する予定だ。同氏は、「将来的には、臨床試験のデザインや医薬品の規制プロセス、処方の決定に環境への影響が組み込まれ、医療システムがプラネタリーヘルス(地球環境と人類の健康の両立)に関する目標と連携できるようになることを期待している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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アルドステロンの心血管系に対する直接作用は?(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎臓におけるNa再吸収亢進作用などにより体液量増大、Na貯留、昇圧作用などを介して心臓を含む臓器障害を発症・増悪させる。重症腎機能障害を有さない症例において、スピロノラクトンを中心とした鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は心不全や心血管死を有意に減少させることが、いくつかの臨床試験で明らかになっている。 一方、透析療法を受けている症例での心保護作用は明らかではなく、安全性も確立されていない。本年8月号のLancet誌では同一研究グループの2つの論文が掲載された。1つは3,689例を対象とし、スピロノラクトン25mg使用群と対照群に2分したRCTのACHIEVE試験(Walsh M, et al. Lancet. 2025;406:695-704.)で、もう1つはこの試験を含む4,349例を対象としたメタ解析(Pyne L, et al. Lancet. 2025;406:811-820.)である。この2論文の解説はCareNet.com(ジャーナル四天王2025年8月28日配信、9月3日配信)に詳述されており、ぜひ一読願いたいが結果はいずれも有意な効果を示さなかった。また、安全性に関しては実薬群で高K血症と女性化乳房が有意に多かった。 腎作用を期待できない症例ではMRAの心保護効果は証明できなかったわけであるが、この研究グループは2016年に先行メタ解析研究(Quach K, et al. Am J Kidney Dis. 2016;68:591-598.)の結果を報告している。その結果は、実薬群の高K血症は有意に多かったが、心血管死や全死亡が対照群の34~40%に有意に抑えられていた。しかし採用された9試験の合計症例は829例にとどまっており、またバイアス・リスクが低いものは5〜6試験で、かつ半数以上の試験が1年以内の短期試験であり、著者らも小規模試験で質が高くないものであることから、より十分な試験期間と規模の大きい質の高い試験で再度検討する必要があるとの考察であった。 今回のACHIEVE試験は大規模で質の高い試験であり、メタ解析もACHIEVE試験に644症例で検討したALCHEMIST試験が加わっており、症例数や質の部分でも高い試験の解析であったが、MRAの有意性は示されなかった。MRは腎臓のみならず、心筋や血管にもあり、また心筋局所からアルドステロン生成・分泌が明らかとなっており、心肥大や線維化などの作用が報告されている。腎作用が期待できない透析例では心作用の意義は大きくないとの解釈もできるが、これらの成績はステロイド骨格を有するMRAでの検討である。これらのMRAは他のステロイド受容体への作用が無視できない。事実、女性化乳房の発症が有意に多かった。 また、ACHIEVE試験での1次エンドポイントは女性ではHR:1.23(0.91~1.67)、男性では0.81(0.66~0.99)で性差があり、かつ、男性では19%有意なイベント抑制効果の可能性も示された。今後は非ステロイド骨格MRAでの検討や、性別での検討も必要になろう。また、透析例の心機能の評価も、より厳密な評価条件が必要であろう。UCGでの評価は体液量の変化でEFは大きく異なる。2群間比較試験では、群分けの段階で一定の条件下での評価が必要である。

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米国ドラマ「24」【その1】なんでショックで記憶喪失になるの? なんで恐怖で腰が抜けるの?-「解離=ローカルスリープ」説

今回のキーワード全生活史健忘迷走神経反射ポリヴェーガル理論離人感・現実感消失症ローカルスリープ解離性神経学的症状症[目次]1.記憶喪失の特徴とは?2.なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論3.なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説ショックで自分が誰で今までどう生きてきたかの記憶すべてを急に思い出せなくなる…いわゆる記憶喪失は何とも不思議です。なぜショックで記憶喪失になるのでしょうか? また、恐怖で腰が抜けて立てなくなるのも、よくよく考えると、腰には医学的な問題はなく、脳の問題です。どうなっているのでしょうか?これらの謎を解き明かすために、今回は米国ドラマ「24(トゥエンティ・フォー)」のあるシーンを取り上げ、記憶喪失の特徴を説明します。そして、脳科学の視点から、ある仮説をこの記事で提唱し、記憶喪失や腰抜けをはじめとして意識から精神機能や身体機能が分離する病態(解離症)のメカニズムを解き明かします。さらに、進化医学の視点から、これらの病態の起源に迫ります。なお、記憶喪失の正式名称は解離性健忘です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、よく使われる通称の「記憶喪失」で表記します。記憶喪失の特徴とは?主人公は、米国の連邦捜査官ジャック・バウアー。彼が、テロリストと戦う24時間を毎回1時間ずつのドラマに分けて、時間軸に沿ってそれぞれの登場人物の視点からリアルタイムで展開していくつくりになっています。毎回のエピソードではらはらさせられて「次はどうなるの?」と気になり、私たちも視聴者という立場で「24」になってしまいそうになります。そのなかのあるシーンで、彼の妻テリーが記憶喪失になりますが、とてもリアリティがありました。そこで、彼女の言動から、記憶喪失の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)直前にトラウマ体験がある-重度ストレステリーは、娘と一緒にテロリストの隠れ家に人質として誘拐されていました。そんななか、2人で脱出して山道を車で逃走するのですが、テリーは追っ手をまいたか確かめるために、途中で車を止めて出ます。その直後、まだ娘を乗せている車が崖から滑り落ちてしまい、爆発して炎に包まれるのです。テリーは、その瞬間、テリーは娘が死んだと思い、あまりのショックで気を失います。1つ目の特徴は、直前にトラウマ体験があることです。精神医学的には、重度ストレスと言い換えられます。実際に、記憶喪失の先行要因として、災害や戦争などが指摘されています1)。(2)自分についてすべて思い出せない-全生活史健忘テリーは、数分後に目を覚まし、車道をふらふらと歩き出します。たまたま車で通りがかった女性から不審がられて、「ねえ、大丈夫? どうしたの?」と声をかけられますが、テリーは何も言えません。「名前は?」と聞かれても、「思い出せない」としか答えないのです。こうして、近くの病院まで送ってもらうことになります。2つ目の特徴は、自分についてすべて思い出せないことです。精神医学的には、全生活史健忘(全般性健忘)と呼ばれます。自分の名前や生い立ちをすべて思い出せなくなるのですが、言葉自体や一般常識は覚えていて、話は通じます。つまり、記憶障害になるのは、エピソード記憶のみであり、意味記憶は保たれています。なお、すべてのエピソード(全生活史)ではなく、特定のエピソード(トラウマ体験)だけが思い出せない場合は、選択的健忘と呼ばれます。(3)ぼうっとしている-「美しき無関心」テリーは、車に乗せてくれた女性から、「記憶喪失の人、初めて見たわ」「つらいでしょ?」と言われても返事をせず、心ここにあらずです。3つ目の特徴は、ぼうっとしていることです。精神医学的には、従来から「美しき無関心」(もうろう状態)と呼ばれてきました。自分の記憶がないことに対して、戸惑うというよりも、むしろ無関心なのです。「ここはどこ? 私は誰?」とあわてふためくことは実はなく、むしろ清々しくも見えてしまうのです。なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論テリーは、「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」と思い、そのショックから気を失いました。このような失神は、実は私たちにも身近で、歯の治療や採血などでの痛みから極度の恐怖を感じた時にも見られます。これは、迷走神経反射(神経原性ショック)と呼ばれています。それでは、なぜショックで失神するのでしょうか?このメカニズムは、ポリヴェーガル理論(多層迷走理論)から説明することができます2)。この理論を簡単に言うと、私たちの体は、恐怖がなければ、副交感神経系(主に腹側迷走神経複合体)が働いて心拍や血圧が安定して、低活動の状態です。しかし、恐怖(ストレス)があれば、交感神経系(交換神経幹)が働いて心拍や血圧が上がり、過活動になります。そして、絶体絶命なほどの極度の恐怖(重度ストレス)になると、今度は副交感神経系(背側迷走神経複合体)がより働くように切り替わり、逆に心拍や血圧が下がり、不活性化します。このように、「第3の自律神経」(背側迷走神経複合体)を含んだ自律神経系は多層的に機能していると考えられています。イメージとしては、副交感神経優位は安静モード、交感神経優位は興奮モード、そして迷走神経反射は絶体絶命モードと言えます。とくに、興奮モードと絶体絶命モードは合わせて、「戦うか逃げるか、または固まるか(”fight, flight, or freeze”)」と呼ばれています。この現象は、体の反応であると同時に、その体をコントロールする脳の反応でもあります。体だけでなく脳も全体的に不活性化するので、意識レベル(覚醒水準)はやや下がり、低覚醒の状態になります。すると、五感や体感の感度が鈍くなり、現実感がなくなった病態(離人感・現実感消失症)になるでしょう。これは、先ほどの「美しき無関心」の症状にも重なります。実際の画像研究では、この離人感・現実感消失症の人は、嫌悪感を刺激する画像への反応において、扁桃体などがある大脳辺縁系の活動性の低下が確かめられています3)。なお、厳密には右前頭葉の一部(腹側前頭前野)は逆に活動性が亢進することも確かめられています。迷走神経反射は、脳全体の活動性が低下するイメージではあるのですが、この部位に限っては、扁桃体と拮抗関係にあることから、扁桃体の活動性が低下した結果、二次的にこの部位の活動性が亢進してしまったと理解することができます。そして、この部位は自己意識を司る脳領域であることから、この二次的な影響は、自分を俯瞰して上から見ているという離人感が出てくるメカニズムを説明することができます。さらには、同じく極限状態である臨死体験でいわゆる幽体離脱をしている感覚になるメカニズムも説明することができます。つまり、極限状況では、迷走神経反射によって逆説的にも変に冷静になってしまうのです。なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説テリーが記憶喪失になったのは、明らかに「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」という重度ストレスです。それでは、実際にどのようにして記憶喪失になるのでしょうか? また、どのようにして腰抜けになるのでしょうか?先ほどのポリヴェーガル理論から、意識からすべての精神機能と身体機能が不活性化する病態(離人感・現実感消失症)のメカニズムは説明できました。しかし、意識から特定の精神機能または身体機能だけが分離して不活性化する病態のメカニズムは説明できません。これを説明できる理論がさらに必要です。そこでご紹介したいのが、ローカルスリープという概念です。これを簡単に言うと、睡眠は脳全体で一様ではなく局所で多様に行われうるということです。実際の研究では、起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることがわかっています4)。今回の記事で、このローカルスリープの概念を使って、以下の仮説を提唱します。それは、このローカルスリープによって、重度ストレス後に特定の脳領域のニューラルネットワークが文字どおり眠ってしまい完全に不活性化してしまう(機能不全になってしまう)ということです。名付けるなら、「解離=ローカルスリープ」説です。この不活性化という点で、先ほどのポリヴェーガル理論の局所モデルがローカルスリープであると言い換えることができます。たとえば、それぞれの体の部位を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、腰を抜かす(脱力発作)、声が出なくなる(失声)、聞こえなくなる(突発性難聴)、喉にボールがあるように感じる(ストレス球)などのさまざまな病態(解離性神経学的症状症または変換症)になるでしょう。これが、腰抜けになるメカニズムです。同じように、記憶を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、特定のエピソード(トラウマ体験)だけを思い出せない(選択的健忘)、または自分の名前や今まで自分がどう生きてきたかというすべてのエピソードを思い出せない(全般性健忘)という病態になるでしょう。そしてその後に、何かのきっかけで、または何のきっかけもなく、ようやくそのニューラルネットワークがローカルスリープから脱して(再活性化して)、トラウマ体験を含めて思い出すことができると説明することができます。これが、記憶喪失になるメカニズムです。ちなみに、起きている最中に脳が局所的に不活性化してしまうローカルスリープとは対照的に、深く眠っている最中(ノンレム睡眠中)に、脳が局所的に活性化してしまう「ローカル・アウェイクニング(局所覚醒)」の状態は、睡眠サイクルを含め脳がまだ未発達な子供に見られる「夜泣き」(睡眠時驚愕症)や「夢遊病」(睡眠時遊行症)が当てはまります。 1) DSM-5-TR、p330、p352:日本精神神経学会、医学書院、2023 2) ポリヴェーガル理論入門、p23:ステファン・W・ポージェス、春秋社、2018 3) 心の解離構造、p192、p198:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020 4) 睡眠科学、p10:三島和夫、化学同人、2016

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ChatGPTでロールプレイを行う【タイパ時代のAI英語革命】第6回

ChatGPTでロールプレイを行う学んだ英語を「使えるスキル」へと昇華させるためには、もう一歩進んだトレーニングが不可欠です。それが「ロールプレイ」です。ロールプレイは、特定の役割になりきって対話する練習法で、これにより、学んだ単語や表現を実際の文脈の中で使う練習ができ、英語での思考回路と瞬発力を効果的に鍛えることができます。何より、AIが相手であれば、失敗を恐れる必要はありません。納得がいくまで、何度でも同じ場面の練習を繰り返すことができます。ここでは、テキストベースで行う「チャット機能でのロールプレイ」と、より実践的な「音声モードでのロールプレイ」の2つの方法について、具体例を交えて解説します。チャット機能でロールプレイを行うまずは、キーボードで文字を打ち込みながら行う、テキストベースのロールプレイです。こちらは、自分のペースでじっくり考えながら、正確な語彙や文法を使って応答する練習に適しています。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。すると、以下のようなロールプレイが可能です。ServerGood evening, and welcome! My name is Jamie, and I’ll be taking care of you tonight. Can I start you off with something to drink ― perhaps still or sparkling water, or would you like to see our wine list?自分Hi, Jamie. We would like to have still water.ServerAbsolutely, still water it is. I’ll bring that right out for you.In the meantime, would you like a few more minutes to look over the menu, or are you ready to hear about our chef’s specials for the evening?自分We'll look over the menu, thanks.ServerOf course ― take your time. If you have any questions about the menu or dietary preferences, just let me know.I’ll be back shortly with your water.このようにして会話を続けることで、よく使われる表現をインプット・アウトプットすることができます。もし、自分の返答に詰まったり迷ったりしたときは日本語で「答え方の例を教えてください」と質問したり、「『何がお勧めですか』と聞きたいのですが、英語で何と言えばいいですか?」と質問したりすれば、すぐに適切な表現を教えてくれます。また、前回紹介した“Read Aloud”の機能を使えば、ChatGPTが作成した英文を音読してくれるので、リスニング強化につながります。また、“Dictation”の機能を利用すれば音声で入力することができるため、スピーキングの練習を行うこともできます。さらに、一通りの会話が終わった後に、「文法ミスや、より適切な表現があればフィードバックしてください」と入力すれば、復習ができます。このようなやりとりを繰り返し、まずはよく使われる表現に慣れていきましょう。音声モードでロールプレイを行うテキストでのロールプレイに慣れてきたら、次はぜひ「音声モード」でのロールプレイに挑戦してみてください。前回紹介した音声会話機能を使うことで、よりリアルな会話に近い状況で瞬発力を鍛えるトレーニングが可能です。音声モードでのロールプレイは、その場で即座に聞き取り、応答する必要があるため、リスニング力とスピーキング力が同時に、そしてより実践的に鍛えられます。テキストベースで行っていたチャット画面で、音声モードのアイコンをタップし「最初から英語でロールプレイをしてください」などと話し掛けると、音声モードでの会話が可能です。英語のレベルを設定する音声モードで英会話の練習をすると、ChatGPTがネイティブスピーカーのペースで話すため、「英語が速すぎて聞き取れない」「話している途中に割り込まれる」といったストレスを感じることが少なくありません。そうした場合には、あらかじめ英語のレベルや話すスピードを指定しておくことをお勧めします。たとえば、「なるべくゆっくり話してください」「簡単な英語で話してください」などと伝えると、より自分に合ったペースで会話を進めることができます。また、自分の練習したい英語レベルについては、より客観的かつ明確に難易度を示すために、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)の基準を活用することをお勧めします。CEFRでは、英語力をA1(初心者)からC2(熟練者)まで6段階に分類しており、各レベルに応じた語彙や表現の難易度が定められています。現在の自分の実力に近いレベル、あるいは1つ上のレベルを指定することで、無理なく効率的に学習を進めることができます。以下にCEFRのレベルを簡単にまとめました。表:CEFRのレベル画像を拡大する以下は、音声モードでの練習時に活用できるプロンプトの例です。プロンプト例#役割あなたはレストランの店員です。#命令レストランの客である私と、英語でロールプレイを行ってください。#制約条件CEFR A2レベルの英語を使用してください。できるだけゆっくり、はっきり話してください。私が話し終わるまでは返答せず、待ってください。話が止まっている場合は相づちだけ打ってください。このように、役割やレベル、話す速度、会話のタイミングなどの詳細な指示をあらかじめ設定することで、より自分に合った練習ができる音声会話モードになります。ストレスなくリスニングやスピーキングのトレーニングを続けるために、ぜひ積極的に活用してください。

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急性期こそ、漢方!【急性期漢方アカデミア】第1回

急性期に漢方を応用するというと、何の冗談!? と思われるかもしれない。しかし、急性期こそ漢方は劇的な効果を実感でき、それが今後の日本の医療の光明となるという信念をもって活動するグループが存在する。今回から3回にわたって、急性期における漢方の有効性と可能性を啓発・研究するグループである急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)の活動と、展望について紹介したい。急性期こそ漢方漢方(漢方薬・鍼灸)というと、不定愁訴や慢性疾患の部分症状に使われているというイメージかもしれない。しかし、江戸時代までの日本では漢方が正式な医学であり、現在の西洋医学が対応している疾病や病態こそ漢方も挑み続けてきた歴史がある。とくに、医療のニーズがまずは急性期の対応であることは洋の東西は問わない。したがって、漢方の多くの方法論は急性期の対応の中から確立してきたものである。もちろん、現代の急性期診療において、循環・呼吸器管理や組織の再建、病巣の切除、病原体の排除のための薬物療法は西洋医学が優先されることは論を待たない。一方で、漢方には西洋医学が未だ届かない生体反応の調整や、回復の促進などのさまざまな方法が存在している。AKAの始動漢方を急性期に応用すると、その劇的な効果が実感され、さらなる予後の改善が十分に期待される。また、漢方は安全性が高く、安価な治療法であり、現在の医療の最大の課題である医療費の高騰に対して、最も医療資源が集中投下されている急性期領域において医療経済的なメリットがある可能性が示唆される。このような急性期における漢方の叡智の活用を啓発・普及するため、急性期での漢方活用のエキスパートである加島 雅之(熊本赤十字病院 総合内科部長)、中永 士師明(秋田大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学講座 教授)、鍋島 茂樹(福岡大学医学部 総合診療学 教授)、熊田 恵介(岐阜大学医学部附属病院医療安全管理室 室長・教授/高次救命治療センター)、入江 康仁(聖隷横浜病院救急科 部長)、吉永 亮(飯塚病院漢方診療科 診療部長)(敬称略)の6名が結集した。急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia:AKA)と銘打って、2023年から活動開始。2024年12月に初めてのOn Lineでの公開セミナーを開催した。急性期の“むくみ”急性期の“むくみ”の西洋医学的病態第1回AKAセミナーでは、ゲスト講師に日本の総合診療・総合内科領域で著名な徳田 安春先生(群星沖縄臨床研修センター長)を迎えて、急性期の浮腫の西洋医学的病態と、その臨床診断のポイント、また治療法の概説と問題点をセミナーの冒頭でレクチャーしていただいた。そこで問題となったのは、急性期の浮腫の治療薬は利尿剤が主体になるが、電解質異常や腎機能への影響、さらに血管透過性亢進などによって起こる血管内脱水を伴う浮腫の治療の難しさであった。急性期の“むくみ”の漢方薬医療用漢方製剤の148処方の内で、急性の“むくみ”に応用できる処方は数多くある。その中でもとくに急性期病院でも使用しやすい五苓散(ごれいさん:17)、柴苓湯(さいれいとう:114)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)、真武湯(しんぶとう:30)の4処方に絞って、処方の基本的な作用と使用上の注意点について、以下のとおり解説する。(1)五苓散漢方では最も頻用される浮腫の処方全身・局所のいずれでも使用可能単独では、急性の浮腫で、血管内脱水と間質の浮腫の混在、血管透過性の亢進がある場合に最も適合する腸管の浮腫や脳・神経系の浮腫にも応用できるアクアポリンの阻害作用が確認されている慢性化した浮腫では他の漢方薬との併用が効果的甘草が含まれていない(2)柴苓湯五苓散と小柴胡湯の合方五苓散の適応症で発症後4~5日程度経過した炎症の合併例で効果がある黄芩含有:肝炎・間質性肺炎に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(3)越婢加朮湯浮腫を呈している部位の熱感・発赤が強い場合に適合とくに皮膚・関節・眼・口などの体表の局所浮腫に向く(肺/気道にも効果的)麻黄含有:消化管粘膜障害・エフェドリン作用に注意甘草含有:偽アルドステロン症に注意(4)真武湯末梢循環不全があり、手足が冷えている全身の浮腫/消化管の浮腫を伴う場合に効果的弁膜症などがある心腎症候群などに向く単独では利尿効果が弱いため、利尿効果をはかる場合は少量の利尿剤または五苓散との併用が効果的甘草が含まれていない

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第281回 ターミナルケア・ビジネスの危うさ露呈、「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」、調査結果の解釈はシロなのかグレーなのか?(後編)

「批判を受けるに値する」としつつも「架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」と報告書こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週9月11日木曜の東京の豪雨、すごかったですね。私は所用で大阪に行かなければならず、羽田空港にいました。14時搭乗予定が、「空港近辺に雷雲がある」との理由で15時搭乗に、乗ってからは「雷雲が近づいているので飛び立てない」ということで、結局2時間ほど機内に待機し、離陸したのは17時過ぎでした。今の世の中は便利なもので、スマホで「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」に行けば、ほぼリアルタイムで雨の状況が把握できます。14時の段階でチェックしたら、雨雲はまだ空港の北西5キロほどのところにあって30分以上は大丈夫そうでした。実際、空港が暴風雨の状態になったのは15時過ぎでした。管制が14時の段階から離陸を全面的にストップしていたのは果たして妥当だったのか、素人ながら疑問に感じました。その後の羽田空港の大混乱を考えると、暴風雨になる前に飛行機をもう少し飛ばしておけなかったのかと思った次第です。ちなみに、「国土交通省 川の防災情報」サイトの「レーダー雨量」は民間が提供する類似のアプリ(これらも国交省の同じデータを使っている)よりも正確で、とても役立ちます。自分のいる場所が何分後に雨になるか、どれくらい激しい雨になるかがかなり正確にわかります。ご存じない方は、一度覗いてみることをお勧めします。さて、前回に続いて、アンビスホールディングス(東京都中央区、代表取締役CEO柴原 慶一)の子会社のアンビス(東京都中央区)が運営する末期がん患者や難病患者向けのホスピス型住宅「医心館」で発覚した「実態ない診療報酬請求」事件について書いてみたいと思います。アンビスホールディングスが8月8日に公表した特別調査委員会の報告書は、「本件通知(厚労省通知)に定める訪問看護時間に比して明らかに短時間であると認められる事例や、複数名訪問の同行者を欠いたと認められる事例が存した。また、勤怠記録と訪問看護記録の齟齬並びに確定時期の異常値に照らせば、訪問実態に疑義を呈さざるを得ない事例も存した」として、さまざまな記録の不備、営利優先の発想の存在、法令遵守の意識の低さ、業務遂行を確保する組織体制の不十分さなど、さまざまな問題点を指摘、「批判を受けるに値する」としつつも「多額の診療報酬を受けるために架空の事実をねつ造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない」としました。「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断された」とアンビスが見解報告書を受けた後、アンビスホールディングスは「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」を公表しました。「お知らせ」では「本件調査での影響額としては63 百万円あまり(調査対象期間売上総額の0.05%程度)と僅少なもの」と報告、この金額について「訪問看護記録を検証した場合に、看護実態を示す記載が不十分であると認定されたものであり、看護実態がないと認定されたものではございません」とするとともに、「訪問看護における医療行為が実態のあるものと特別調査委員会により判断されたものと認識」「看護実態について根拠資料の記載が不十分であると認定されたケースは、記録の登録ミス及び記載不足などによる形式的なエラーがその大部分を占めるものと認識」など、意図的な不正請求はなかった点を強調しています。報告書は、端的に言えば“上場企業にもかかわらず運営体制はグダグダでひどすぎる”という内容でした。「批判を受けるに値する」という厳しい指摘もありました。しかし当のアンビスホールディングスは「訪問看護には実態があった。不正請求はなかったと判断された」と少々ズレた受け止め方をしていることに強い違和感を覚えたのですが、同様の違和感はマスコミの報道でも感じました。マスコミ報道も「実態ない診療報酬の請求」を問題視するグレー派と完全シロ派に二分特別調査委員の調査報告書が出ると、共同通信や全国紙の多くは、6,300万円という金額にフォーカスしてその内容を報じました。たとえば、最初にこの件をスクープした共同通信は8月8日付で「実態ない診療報酬の請求判明 医心館、訪問看護で6,300万円」と題する記事を発信、「医療保険が適用される訪問看護は原則30分の訪問が必要だが、報告書は数分程度の短時間の訪問が9,900件あったと指摘。『複数のスタッフで訪問した』と加算報酬を請求していたが、実態が認められないケースも約1,300件あった」と「実態ない診療報酬の請求」を強調する内容となっています。一方、8月11日付の現代ビジネスは「【結果はシロだった】ホスピス最大手・医心館「不正請求疑惑」…スクープ報道と『違いすぎた』調査報告書の内容」と題する記事を発信しています。この記事は、「特別調査委員会による報告書が公表された。その結果は『診療保険請求の要件を満たしていない可能性が高い案件は全体の0.05%程度であり、それ自体も、記録の不整備等に起因する事案であって、架空の事実を捏造したような悪質な不正請求の事案とまでは認められない』というものだった」と不正請求ではなく「シロ」だった点を強調、同社の看護職員の「報道があってから、(私たちが)悪人扱いされることも多くありました。正直、辛かったです。裏どりが甘い、放火的な報道に振り回された4ヵ月でしたが、報告書が『不正は認められない』と発表したことに心の底から安心しています」という言葉を紹介しつつ、「社内では、独自調査として報道を続けてきた共同通信社に対する訴訟も求める声も高まっているようだ」と、共同通信がまるで完全な”誤報”を放ったかのような、アンビス寄りの内容となっています。共同通信は報告書公表後に「会社の見解に社員反発」と続報普通に考えれば、不正請求は意図的にやろうが、記録の不備やミスで起ころうが、「不正」に変わりはありません。「不正請求の指示」が確認されなかったとしても、記録の不備など社内体制の未熟さによってルールを逸脱した請求が行われていたのは確かなわけで、あの調査報告書をもってして「シロ」と断言するのは言い過ぎではと思っていたら、8月27日付の共同通信が続報を放ちました。「コンプライアンス部長が改ざん指示、でも「組織的不正はない」 ホスピス住宅最大手「医心館」、会社の見解に社員反発」と題された記事は、報告書公表後に取材に応じた社員の声を報じています。同記事は、「『会社の発表を見て、びっくりしました』。医心館で働く看護師、尾形 里佳さん(仮名)はそう話す。『調査報告書を読めば、「不正がなかった」と言い切るのは無理があると思う』」という声を紹介するとともに、「アンビス社の複数の現・元社員は取材に対し、こう証言した。『必要ない人まで1日3回の訪問予定表が30分単位で組まれ、短時間で済んだ場合でも、予定表通りすべて30分実施したと記録していた』『複数人での訪問対象者の中には、必要ない人もいて、1人でやった場合でも、2人で訪問したことにしていた』」と単純な記載ミスではなかったと報じています。さらに同記事は、「尾形さんら複数の現・元社員は『社長が知らなかった』とする説明に『納得できない」と口をそろえる。(中略)今も医心館で働く尾形さんはこう話した。『社長は全社員向けに『反省している』というメールを送ってきたが、『不正はなかった』と言っている時点で、とてもそうは思えない。私たち社員は大切にされていないと以前から感じていた。私を含め、辞めようと思っているスタッフは多い。経営陣が交代して、会社を変えてほしい』」と続け、報告書に対する社の対応に不満を抱いている社員の存在を報じています。現代ビジネスも共同通信も、社員の声を持ってきて、それぞれ「シロ」「グレー(あるいはクロ?)」と言わせているのが対照的で非常に興味深いです。果たして、どちらが真実なのでしょうか。有料老人ホームの経営コンサルタントがIRに記載された「医心館」の経営概要を分析ホスピス型住宅は施設のカテゴリーとしては「住宅型有料老人ホーム」に位置付けられます。住宅型とは、施設内のスタッフによってではなく、外部から(といっても併設した訪問看護ステーション、訪問介護事業所からですが)訪問するスタッフによって看護・介護を提供するビジネスモデルです。2000年に介護保険制度が創設され、特定施設入所者生活介護という外付けのサービス提供の仕組みができて急増した施設カテゴリーですが、そもそも訪問看護や訪問介護の「不正請求」を生みやすい事業形態として、当初から問題視されてきました。有料老人ホームの経営コンサルティングに長年携わってきたタムラプランニング&オペレーティング社長の田村 明孝氏は、同社のWebサイトに連載しているコラムの4月10日公開分(タイトル「アンビス社IRから見た「医心館」の経営とは」)に、「『医心館』の経営はどのように行われていたか、密室性が高く分かりづらい。というのは、マスコミの取材や筆者のような外部からの見学は基本的に断られるからだ。そこで、同社が発表する決算報告書などのIRから、どのような運営が行われているか窺ってみることとする」と書き、IRに記載された「医心館」の経営概要を分析した上で次のように記しています。「一般的な住宅型有料老人ホームより高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は訪問看護」「通常、有料老人ホーム事業を開設するには、(中略)どんなに急ピッチで急いでも、年に2から3ホームが限界だ。この10倍のピッチとなり、かなり荒い運営が想像される。『医心館』が、このような、なんとも恐ろしいピッチで開設されていることに驚いた。さらに驚くのは、毎月1,000名もの入居者(退院患者?)を病院や医療機関から受け入れ、800人以上の末期患者を新規入居させ、その後約1月で亡くなるということだ。残りの200人未満は末以外の入居者で、1ヵ月以上の生存率なのだろう。この入居者は別表7や8(訪問看護において「特別な取扱いの対象」となる利用者を定めた表)に該当する難病指定患者などが多いだろうかと、邪推が働く。1室あたり売上高=年間売り上げ予想額/定員数/12カ月/稼働率この計算結果は77万円となる。一般的な住宅型有料老人ホームの売り上げ(居住費・食費・光熱費等・介護報酬)が48万円(厚労省調べ)に対して、はるかに高い売り上げとなる。この売上の差は診療報酬で、高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は、訪問看護だと納得できる。驚異的なスピード感で人の死を看取ることに、怖さを感じるのは筆者だけだろうか」。6,300万円は「調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定」と田村氏田村氏はさらに調査報告書が公表された後、9月8日にも新しいコラム(タイトル「アンビス報告書による不正請求額は6,300万円?63億円の間違いでは?」)を公開、6,300万円という金額の低さに対し「調査委員会が示しているように、本来の不正請求の実調とはかけ離れた、調査委員会が勝手に決めた独自の推定による判断基準に基づいた甘い算定となっている。通常、看護記録がなかった、看護実態と記録が合致しないなどの事項は、不正請求とされるのが一般的であることから鑑みると、こんな低い不正請求金額で済むはずもない。本年2月、同様に訪問看護不正請求を報道されたサンウェルズの調査委員会による不正請求額が約28億円であることから鑑みても、アンビスの不正請求額が6,300万円では社会が納得するはずもない」と強い疑義を呈しています。その上で、前述した「お知らせ」について「一連の報道に対する、上場企業としての社会的責任を負った企業の回答とは程遠く、報告書をも曲解して自己弁護に走るアンビスの姿勢からは、反省するどころか、調査委員会の再発防止策の提言を受け入れる気配も見て取れない。(中略)多死化の時代を迎えて、ホスピス住宅の適切な在り方を社会全体で考えていく必要があることからも、一連の報道に基づく事実関係をはっきりさせ、社会的信用を取り戻すべくホスピス住宅の新たな制度の創設の必要がある」と、ホスピス住宅業界の健全化を強く訴えています。有料老人ホームをはじめとする高齢者住宅業界の発展と健全化に長年携わってきた田村氏だからこそ言い切れる「正論」だと感じました。多死社会はこれから本格化します。2040年まで死亡数は増加傾向でピーク時には年間170万人になると推計されています。それに伴い、ホスピス型住宅のニーズも高まっていくでしょう。サンウェルズやアンビスの不正請求や「実態ない診療報酬請求」が顕在化してくる状況は、支払基金や地方厚生局(つまり国)のチェックの甘さと、業界の自浄作用のなさの表れとも言えます。田村氏が指摘するように、ホスピス住宅の新たなレギュレーションを早急に整備する必要がありそうです。

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看護師の感情と家族への認識が、ケアの抜け漏れと関係【論文から学ぶ看護の新常識】第31回

看護師の感情と家族への認識が、ケアの抜け漏れと関係看護師の感情と家族への認識が、ケアの提供にどのような影響を与えるかを調べた研究が行われ、その関係性が明らかになった。Mirit Cohen氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年8月15日号に掲載。社会的情報の手がかりとしての感情:看護師の患者家族に対する認識が、患者の「看護ケアの未実施」経験にどう影響するかを説明するマルチソースダイアリー研究研究チームは、感情の社会情報(EASI)モデルを用いて、看護師の感情と患者家族に対する認識が、患者から報告される看護ケアの未実施にどのように影響するかを調査する目的で、マルチソース・ネスト化・ダイアリー研究を実施した。638組の看護師-患者ペア(正看護師142名、患者638名)が対象となった。3〜5回の日勤シフトにわたり、看護師は「家族への認識」と「自身の感情」を、患者は「経験した看護ケアの未実施」をそれぞれ記録し、データは線形混合モデルで分析された。主な結果は以下の通り。以下において、有意な交互作用が見られた。看護師が高いポジティブな感情を持ち、家族を「資源」と認識した場合、看護ケアの未実施は増加した(β=0.028、p<0.05)。看護師が高いネガティブな感情を持ち、家族を「負担」と認識した場合、看護ケアの未実施は増加した(β=0.086、p<0.05)。看護師が高いネガティブな感情を持ち、家族を「自分自身の資源」と認識した場合、看護ケアの未実施は減少した(β=−0.235、p<0.01)。この研究結果は、医療機関が看護師の感情管理を支援し、家族の関与を最適化することで、ケアの提供と患者満足度を高める必要性を強調している。安心感を生むはずのポジティブな感情が、思わぬケアの抜け漏れの引き金になり得ることを示している点が、本研究の興味深いところです。和やかな場面で「この家族なら大丈夫だろう」と家族にケアを任せる範囲が広がると、基本ケアの確認や記録が抜けるリスクがあります。一方、看護師がネガティブな感情を持っていても、家族を「自分を助けてくれる存在」と認識した場合には、看護ケアの未実施が減少したという結果が示されています。適度な緊張感と、どちらがケアを行うかを明確にした役割分担は手順遵守を促し、ケアの抜け漏れを防ぐと考えられます。家族はケアの提供者でありながらも自律した当事者であり、「任せるケア」と「看護師が責任をもって実施するケア」を事前に言語化して共有する姿勢が重要といえるでしょう。とくに高齢患者では口腔ケアや体位変換といった、外から見えにくい基本ケアが抜けやすいため、看護師も意図的にこの点は気を付ける必要があります。ネガティブ感情はよくないですが、“親しき仲にも礼儀あり”も忘れずに関わりましょう。論文はこちらCohen M, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Aug 15. [Epub ahead of print]

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20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

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慢性流涎治療にA型ボツリヌス毒素が登場/帝人ファーマ

 パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの日常症状として「流涎(よだれ)」が患者のQOLを低下させるために問題となっている。これまで、この流涎に効果的な治療法が少なかったが、2025年6月、帝人ファーマは、インコボツリヌストキシンA(商品名:ゼオマイン筋注用)について、慢性流涎の効能または効果の追加承認を取得した。そこで、同社はインコボツリヌストキシンAの追加承認について、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、パーキンソン病などの疾患と流涎の関係や治療薬の効果、投与での注意点などが解説された。 同社では、「成人の流涎は、一般にあまり知られていない症状であり、患者さんに届いていない可能性もあるので、医療機関に相談をしてもらうように啓発していきたい」と抱負を語った。医師の関心も低い慢性流涎 セミナーでは、「おとなのよだれ 慢性流涎とは ~その困りごとと本邦初の治療薬~」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部神経学講座 特任教授/順天堂大学 学長補佐)が、慢性流涎の疾患概要、患者の声、新しい治療法、今後の展望などについて講演した。 唾液は、通常耳下腺から65%、顎下腺から23%が分泌されている。1日の分泌量は1~1.5L分泌されるが、無意識に飲み込んでいるために口からあふれることはない。しかし、パーキンソン病(症候群)、ALS、筋ジストロフィー、脳性麻痺などの患者では、唾液が意図せずに慢性的に口からあふれ出ることがある。これを「慢性流涎」という。 わが国の推定患者は最大で約38万例と推定され、脳神経内科などでは診療機会が多い。とくにパーキンソン病では、進行期(診断後10~15年)に出現することが知られている。 慢性流涎は、大量のティッシュやハンカチなどの消費、衣服や寝具の汚れや肌荒れなど、患者・家族のQOLを著しく低下させるだけでなく、社会的孤立を招き、介護者の負担も増加させる。 「全国パーキンソン病友の会」が行ったアンケート調査(回答:4,173例)によると回答者の約65%が「流涎を問題」と回答していた。具体的な問題点として患者からは「他人との会話でよだれが垂れる」「デスクワークで机などが汚れる」「他人の目が気になる」などの声が寄せられ、患者家族からは「着替えの最中にも服が汚れる」「頻繁な寝具の交換が大変」などの声が寄せられた。同じく欧州のパーキンソン病患者382例に行ったアンケートでは、88%が「流涎」を経験し、そのうちの45%は医療ケアチームに相談していなかった。患者などからみた医療従事者の慢性流涎に対する関心度では、5点満点で老年科(1.9)、耳鼻咽喉科(1.6)、脳神経内科(1.5)の順で高かったが、全体の関心が薄いことがうかがえた。患者さんのQOLを改善する新しい流涎治療 流涎の治療は、嚥下障害などの危険性がある場合や本症のために社会的・日常的に制限がある場合に、患者などから要望があれば開始される。 治療では、(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)、(2)放射線治療・外科治療、(3)薬物治療が行われている。(1)リハビリテーション治療(言語訓練・嚥下訓練)では、言語聴覚士が行う構音訓練や嚥下訓練などが行われるが、長期的な効果についてはいまだ不明である。(2)放射線治療・外科治療は、リハビリテーションや薬物療法で流涎がコントロールできない場合に行われる。放射線治療は効果の持続期間が数ヵ月~5年とさまざまである。外科治療は、顎下腺または耳下腺の摘出または結紮などの手術が行われるが、その数は少ない。(3)薬物治療では、抗コリン薬の投与ができるが、幻覚・幻聴など精神症状、尿閉などの副作用のためにほぼ投与されていない(2025年6月時点で保険適用なし)。また、ボツリヌス毒素製剤は、唾液腺に約4ヵ月に1回、ボツリヌス毒素を唾液腺に注射することで唾液の量を減らす治療法であり、今回追加承認された製剤である。 ボツリヌス毒素製剤は、現在、上下肢の痙縮、斜視などの10以上の適応で承認されている製剤であり、本症では、アセチルコリン放出を阻害することで副交感神経へのシグナルを抑え、唾液の分泌を減少させる。投与ではエコー下で確認しながら、左右の顎下腺・耳下腺4ヵ所に、約4ヵ月に1回の間隔で注射する。 投与後の注意点としては、唾液の量が減ることでの口渇感や喉へのつかえ感が約1~5%で現れることが報告されている。また、投与にあたっては、口腔内の衛生の保持が重要であるほか、重症筋無力症などの全身性の筋肉脱力疾患の患者や過去に同じ薬剤でアレルギー症状のあった患者には使用はできない。そのほか、すでに唾液分泌抑制作用の薬剤を使用している人、妊婦・授乳中の人には注意が必要とされている。 服部氏は最後に「医師などから流涎患者への積極的な声かけと新しい治療薬での治療を期待したい」と述べ、講演を終えた。

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食事の頻度とうつ病との関係

 これまでの研究において、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病と関連していることが示唆されているが、一定の限界や矛盾も示されていた。中国・ハルビン医科大学のYan Chen氏らは、1日の食事回数や夜間の絶食期間とうつ病との関連を検証するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2025年12月15日号の報告。 対象は、2005〜18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)より抽出した2万9,035人。うつ病の定義は、こころとからだの質問票(PHQ-9)総スコア10以上とした。1日の食事回数で定量化し、夜間の絶食期間は1日の最後の食事と最初の食事を調査することで評価した。重み付けロジスティック回帰モデル、制限付き3次スプライン(RCS)、媒介分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1日の食事回数が3.6〜4.0回の場合と比較し、3回以下の場合(オッズ比[OR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.11〜1.49)および4.6回以上の場合(OR:1.17、95%CI:1.01〜1.34)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・夜間の絶食期間が12.1〜13.3時間の場合と比較し、10.8時間以下の場合(OR:1.32、95%CI:1.14〜1.52)および14.9時間以上の場合(OR:1.37、95%CI:1.19〜1.59)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・関連性を示すU字型の平滑化曲線により、これらの知見はさらに裏付けられた。・この関連性において、血中尿素窒素とグロブリンが媒介的な役割を果たしていることが示唆された。・1日のエネルギー摂取量が少ない人は、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病に及ぼす影響がより有意であった(pinteraction<0.05)。 著者らは「1日の食事回数が3回以下および4.6回以上、夜間の絶食期間が10.8時間以下および14.9時間以上は、うつ病の独立したリスク因子であることが示唆された」と結論付けている。

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中等症以上の潰瘍性大腸炎へ新たな経口治療薬が登場/ファイザー

 ファイザーは、2025年9月12日に中等症~重症の潰瘍性大腸炎に対するスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P1,4,5)調節薬エトラシモド(商品名:ベルスピティ)を発売した。 潰瘍性大腸炎は、大腸におけるびまん性および連続性の粘膜炎症性病変を特徴とし、寛解と再燃を繰り返す慢性炎症性腸疾患で、主な症状として粘血便、下痢、腹部不快感、腹痛などがあり、倦怠感や貧血なども現れる。 潰瘍性大腸炎の治療薬は近年増えているが、2次無効で再燃を繰り返す患者がいる。 エトラシモドは、S1P1,4,5に対して選択的に活性を示すよう設計されたS1P受容体調節薬であり、潰瘍性大腸炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)に対して1日1回経口投与する。本剤は、潰瘍性大腸炎に対する効能・効果で、2023年10月の米国での承認以降、欧州連合、英国、カナダ、オーストラリアなど38ヵ国と地域で承認されている。 中等症~重症の活動期にある潰瘍性大腸炎患者を対象としたELEVATE UC 12試験で12週間投与を完了した日本人患者を対象に、ELEVATE UC 12試験と同じ投与群に割り付け、エトラシモド2mgまたはプラセボを1日1回、40週間投与し、有効性および安全性を評価した国内第III相ELEVATE UC 40 Japan試験では、主要評価項目である40週間(ELEVATE UC 12試験での投与期間を含めると52週間)治療後の臨床的寛解率で、プラセボに対して高い寛解率を示し、安全性プロファイルも良好だった。【エトラシモド製品概要】一般名:エトラシモド販売名:ベルスピティ効能または効果:中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法および用量:通常、成人にはエトラシモドとして2mgを1日1回経口投与する。用法および用量に関連する注意:感染症のリスクが増大する恐れがあるため、本剤と免疫抑制剤(タクロリムス、アザチオプリンなど)、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬などとの併用を避けること。本剤とこれらの薬剤を併用した臨床試験は実施していない。本剤の投与開始後12週時点で治療反応が得られない場合は、他の治療への切り替えを考慮すること。薬価:4792.8円/錠製造販売承認取得日:2025年6月24日薬価収載日:2025年8月14日発売日:2025年9月12日製造販売元:ファイザー

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LVEF軽度低下の心筋梗塞、β遮断薬の有用性は?/Lancet

 左室駆出率(LVEF)が低下した(<40%)心筋梗塞患者では、β遮断薬の有効性を強く支持するエビデンスがあるが、LVEFが低下していない(≧40%)心筋梗塞患者へのβ遮断薬療法に関しては、最近の4つの無作為化試験の結果は一致せず(有益性を認めたのは1試験のみ)、LVEFが軽度低下した(40~49%)サブグループにおける治療効果についてはどの試験も検出力不足であった。スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III(CNIC)のXavier Rossello氏らは、LVEF軽度低下の心筋梗塞入院患者におけるβ遮断薬の有効性の評価を目的に行った個別の患者データを用いたメタ解析を実施。心不全の既往歴や臨床徴候がないLVEF軽度低下を伴う急性心筋梗塞患者において、β遮断薬療法は全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合エンドポイントの発生を減少させたことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年9月13日号で発表された。LVEFが40~49%の患者、4試験・1,885例を解析 研究チームは、心不全の既往歴や臨床徴候がなく、LVEFが軽度低下した(40~49%)心筋梗塞患者を対象に含め、発症後14日以内に無作為化を行い、経口β遮断薬療法の長期効果(追跡期間中央値1年超)を検討した無作為化対照比較試験の論文(2000年1月1日以降に発表)を調査した(本研究はCNICなどの助成を受けた)。 LVEF≧40%の心筋梗塞患者を対象とした4つの試験(REBOOT、BETAMI、DANBLOCK、CAPITAL-RCT[日本の67施設の試験、801例])に参加したLVEFが40~49%の患者1,885例(全体1万4,418例の13%)を解析に含めた。 主要エンドポイントは、全死因死亡、新規心筋梗塞、心不全の複合とした。 β遮断薬群が991例(年齢中央値63歳[四分位範囲[IQR]:55~71]、男性791例[80%]、LVEF中央値45.0%、PCI 95%)、非β遮断薬群が894例(同62歳[55~71]、735例[82%]、45.0%、96%)であった。追跡期間中央値は3.5年(IQR:2.3~4.5)。主要複合エンドポイントが有意に優れる 主要複合エンドポイントの発生率は、非β遮断薬群が14%(129/894例、43.0/1,000人年)であったのに対し、β遮断薬群は11%(106/991例、32.6/1,000人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75[95%信頼区間[CI]:0.58~0.97]、p=0.031)。4つの試験間(交互作用のp=0.95)、および患者を登録した5ヵ国間(スペイン、イタリア、デンマーク、ノルウェー、日本)(p=0.98)で、治療効果の異質性は認めなかった。 5つの主な副次エンドポイントはいずれも、両群間に有意差はみられなかった。(1)全死因死亡(β遮断薬群6%[58例]vs.非β遮断薬群8%[69例]、HR:0.78[95%CI:0.55~1.11])、(2)新規心筋梗塞(4%[39例]vs.5%[46例]、0.77[0.50~1.18])、(3)心不全(3%[30例]vs.4%[39例]、0.71[0.44~1.14])、(4)心臓死(2%[14例]vs.3%[23例]、0.55[0.28~1.06])、(5)予期せぬ冠動脈血行再建術(4%[35例]vs.4%[38例]、0.83[0.52~1.31])。2つの安全性エンドポイントに差はない 2つの安全性のエンドポイントにも両群間で差はなかった。(1)脳卒中による入院(β遮断薬群1%[13例]vs.非β遮断薬群1%[7例]、HR:1.70[95%CI:0.68~4.25])。(2)症候性進行性(第2度または3度)房室ブロック(1%[12例]vs.1%[11例]、1.00[0.44~2.27])。 著者は、「これらの結果は、LVEFが低下した心筋梗塞患者におけるβ遮断薬療法の既知の有益性を、軽度に低下した患者サブグループにまで拡張するものである」「今後の研究は、LVEFが保持された(LVEF≧50%)患者に焦点を当てるべきである」としている。

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低リスク急性心筋梗塞、PCI後1ヵ月でアスピリンは中止可能か/NEJM

 低リスクの急性心筋梗塞で、血行再建術を受けた後、合併症の発現なく1ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した患者では、1年後(無作為化から11ヵ月後)の心血管・脳血管イベントの発生に関して、P2Y12阻害薬単剤療法はDAPTに対し非劣性であり、出血イベントの発生率は低減したことが示された。イタリア・University of Padua Medical SchoolのGiuseppe Tarantini氏らTARGET-FIRST Investigatorsが、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験「TARGET-FIRST試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月31日号で発表された。欧州40施設で1,942例を登録 TARGET-FIRST試験は、最新の薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い急性心筋梗塞患者の抗血小板療法において、DAPTを1ヵ月間行った時点でのアスピリン早期中止の、DAPT継続に対する非劣性を検証する目的で、2021年3月~2024年3月に、欧州の40施設で参加者を登録して行われた(フランス・MicroPortの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性心筋梗塞発症から7日以内に生体分解性ポリマーを用いたrapamycin(和名:シロリムス)溶出性ステント(MicroPort製)による血行再建術が成功し、その後1ヵ月間、虚血イベントや大出血イベントの発現なしにDAPT(P2Y12阻害薬[プラスグレル、チカグレロル、クロピドグレルから選択]+アスピリン)を完了した患者であった。 被験者を、アスピリンの投与を中止してP2Y12阻害薬単剤に移行する群、またはDAPTを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、11ヵ月間投与した。 1,942例を登録し、P2Y12阻害薬単剤群に961例、DAPT継続群に981例が無作為化された。PCI施行から無作為化までの期間中央値は37日であった。全体の平均(±SD)年齢は61.0(±10.6)歳、78.4%が男性で、14.5%が糖尿病、38.7%が高血圧、27.8%が高コレステロール血症を有していた。 無作為化の時点で、P2Y12阻害薬は74.0%でチカグレロル、20.9%でプラスグレル、5.1%でクロピドグレルが処方されていた。また、97.0%がスタチン、79.1%がβ遮断薬、76.7%がACE阻害薬またはARBの投与を受けていた。主要複合アウトカムは非劣性 主要アウトカムは、無作為化から11ヵ月の時点での全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、大出血(BARC出血基準タイプ3または5)の複合とした。非劣性マージンは1.25%ポイントと定義した。 11ヵ月後の主要アウトカムのイベントは、P2Y12阻害薬単剤群で20例(2.1%)、DAPT継続群で21例(2.2%)に発現し(群間差:-0.09%ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.39~1.20、非劣性のp=0.02)、P2Y12阻害薬単剤群のDAPT継続群に対する非劣性が示された。 主要アウトカムの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)全死因死亡(P2Y12阻害薬単剤群0.4%vs.DAPT継続群0.2%、ハザード比[HR]:2.04[95%CI:0.37~11.14])、(2)心筋梗塞(0.7%vs.1.1%、0.72[0.27~1.88])、(3)ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.1%vs.0%)、(4)脳卒中(0.3%vs.0.2%、1.53[0.26~9.18])、(5)大出血(0.7%vs.0.7%、1.02[0.36~2.91])。BARCタイプ2、3、5の出血イベントが有意に改善 主な副次アウトカムであるBARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベントは、DAPT継続群で54例(5.6%)に発生したのに対し、P2Y12阻害薬単剤群では25例(2.6%)と有意に少なく(HR:0.46、95%CI:0.29~0.75、優越性のp=0.002)、P2Y12阻害薬単剤群の優越性を確認した。 重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であり、P2Y12阻害薬単剤群で108例(11.2%)に144件、DAPT継続群で122例(12.4%)に157件が報告された。 著者は、「今回得られた知見は、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い患者を慎重に選択した集団における、早期の解剖学的に完成度の高い血行再建術という特定の条件下で解釈すべきであり、広範で異質性の高い患者集団に直接的に一般化できるものではない」としている。

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小型NSCLC、STAS陽性は術式にかかわらず予後不良(JCOG0802/WJOG4607L)/WCLC2025

 臨床病期IA期で最大腫瘍径2cm以下の肺野末梢小型非小細胞肺がん(NSCLC)において、Spread Through Air Spaces(STAS)陽性は予後不良因子であることが示された。肺野末梢小型NSCLC患者を対象に、区域切除と肺葉切除を比較した無作為化非劣性検証試験「JCOG0802/WJOG4607L試験」の付随研究の結果を、谷田部 恭氏(国立がん研究センター中央病院 病理診断科 科長)が世界肺がん学会(WCLC2025)で報告した。 JCOG0802/WJOG4607L試験は、臨床病期IA期の肺野末梢小型NSCLC患者(最大腫瘍径2cm以下かつC/T比0.5未満)を対象に、区域切除の肺葉切除に対する全生存期間(OS)の非劣性を検証することを目的として実施された試験である。本試験において、区域切除の肺葉切除に対するOSの非劣性が検証されただけでなく、区域切除の優越性も示されたことが報告されている1)。 STASは、肺胞腔内に腫瘍細胞の分離性増殖を認める浸潤形態の1つであり、とくに縮小手術において、STAS陽性例は局所再発が多く予後が不良であることが報告されている。しかし、縮小手術例と肺葉切除例の両者を含む集団でSTASの影響を検討した研究は乏しい。そこで、JCOG0802/WJOG4607L試験の登録患者を対象として、本研究が実施された。 本研究の主な結果は以下のとおり。・646例の病理検体が評価され、評価可能であった640例(区域切除群318例、肺葉切除群322例)のうち35%(227/640例)がSTAS陽性であった。・STASの有無別に無再発生存期間(RFS)をみると、STAS陽性例はRFSが不良であった(p<0.0001、log-rank検定)。5年RFS率はSTAS陽性83.7%、STAS陰性92.5%で、10年RFS率はそれぞれ67.1%、84.6%であった。多変量解析においてもSTAS陽性はRFS不良の独立した予測因子であった(ハザード比[HR]:1.880、95%信頼区間[CI]:1.347~2.625、p=0.0002)。・STAS陽性例はOSも不良であった(p<0.0001、log-rank検定)。5年OS率はSTAS陽性92.0%、STAS陰性94.7%で、10年OS率はそれぞれ73.1%、86.7%であった。多変量解析においてもSTAS陽性はOS不良の独立した予測因子であった(HR:1.692、95%CI:1.181~2.424、p=0.004)。・術式別にRFSとOSをみると、RFSはSTAS陽性例が術式にかかわらず不良であり、OSは肺葉切除群でSTAS陽性例が不良であった。術式別の再発率は以下のとおり(STAS陽性vs.STAS陰性を示す)。 -10年RFS率(区域切除):69.4%vs.85.1%(HR:1.962、95%CI:1.212~3.175) -10年RFS率(肺葉切除):64.8%vs.84.0%(HR:1.976、95%CI:1.204~3.242) -10年OS率(区域切除):80.0%vs.88.4%(HR:1.560、95%CI:0.911~2.671) -10年OS率(肺葉切除):66.9%vs.84.9%(HR:1.858、95%CI:1.109~3.114)・局所再発はSTAS陽性例が術式にかかわらず多く、遠隔再発は区域切除群でSTAS陽性例に多くみられた。術式別の再発率は以下のとおり(STAS陽性vs.STAS陰性を示す)。 -局所再発(区域切除):17.6%vs.6.2%(p=0.004) -局所再発(肺葉切除):16.7%vs.6.2%(p=0.001) -遠隔再発(区域切除):9.3%vs.2.4%(p=0.006) -遠隔再発(肺葉切除):9.2%vs.4.9%(p>0.05)・非粘液性肺腺がんの組織学的Grade3の集団はSTAS陽性例が多く、Grade3の集団はGrade1/2の集団と比較して、RFSおよびOSが不良であった。 本結果について、谷田部氏は「STAS陽性はRFS不良、OS不良の独立した予測因子であった。また、STAS陽性例は区域切除と肺葉切除のいずれでも局所再発が多かった。これらの結果は、STASの有無にかかわらず、区域切除が肺葉切除に対して非劣性であることを示している」とまとめ、「縮小手術でSTAS陽性であったとしても、肺葉切除への変更は必要ないかもしれない。むしろ、STAS陽性のStageIAのNSCLCという予後不良な集団に対して、術後補助療法を検討することを支持する結果である」と考察した。

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透析患者におけるアルドステロン拮抗薬の位置付けを再考する―ALCHEMIST試験の結果から(解説:石上友章氏)

 アルドステロンは副腎皮質球状帯より分泌される鉱質コルチコイドであり、その主要な作用部位は腎臓遠位尿細管に属するアルドステロン感受性遠位ネフロン(aldosterone-sensitive distal nephron:ASDN)である。アルドステロンは核内因子である鉱質コルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)と結合し、アルドステロン誘導性タンパク(aldosterone-inducible protein:AIP)の遺伝子発現を活性化することにより、ナトリウム再吸収およびカリウム排泄を促進する。この作用特異性は、11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11βHSD2)によって担保される。血中に高濃度に存在し、かつMR親和性においてアルドステロンを凌駕するコルチゾールが、11βHSD2により不活性型のコルチゾンへ変換されることで、MR結合がアルドステロンに選択的に保証されているのである。この点において、アルドステロンは生理的に特異的なシグナル伝達を遂行するホルモンと位置付けられる。 一方で、腎臓以外の臓器においてアルドステロンは線維化、炎症、血管硬化を誘導しうることが知られ、心血管・腎保護的な観点からMR拮抗薬の臨床応用が注目されてきた。小規模試験や観察研究では、心血管イベント抑制効果を示唆する報告も散見されたが、バイアスや症例数の制約から解釈には限界があった。こうした背景の下に実施された大規模二重盲検無作為化試験が、今回Lancet誌に報告されたALCHEMIST試験である。 ALCHEMISTは血液透析中の腎不全患者で、かつ心血管リスクを有する症例を対象に、スピロノラクトン25mg/日とプラセボを比較した多施設共同試験である。主要複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全入院)の発症率は両群で同等であり(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.73~1.36)、有意差は認められなかった。さらに、既報の無作為化比較試験を統合したメタ解析においても、MR拮抗薬は全死亡あるいは心血管死亡を減少させないことが明らかとなった。安全性の面でも高カリウム血症の発症率に有意差はなく、臨床的便益を裏付ける根拠は得られなかった。 本試験の結果は、透析患者においてアルドステロン拮抗薬の腎外臓器保護効果が臨床的アウトカムの改善に結び付かないことを明確に示している。腎不全透析患者に特徴的な病態、すなわちRAAS活性やアルドステロン作用の修飾が背景にある可能性は否定できないが、いずれにしても現時点で「腎外保護」を目的としたMR拮抗薬の透析患者への投与は支持されない。 以上より、アルドステロンの生理的特異性を再確認するとともに、その腎外作用を臨床応用へと展開するには、病態特異的なメカニズム解明と適格集団の同定が不可欠であることを示唆する結果と解釈される。

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緊急避妊薬の市販化が了承、処方箋なしで購入可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第158回

これまで医師の処方箋が必要だった緊急避妊薬を、処方箋なしで薬局やドラッグストアで購入可能とする方針を厚生労働省が了承しました。長らく議論が重ねられてきた緊急避妊薬の市販化にようやく決着がつきそうです。厚生労働省の専門部会は8月29日、緊急避妊薬(アフターピル)の市販薬としての販売を了承した。医師の処方箋なしで夜間や休日も入手しやすくなり、避妊の失敗や性暴力などによる意図しない妊娠から女性の心身を守りやすくなる。悪用や乱用を懸念する慎重意見があり、検討開始から8年を要した。(2025年8月30日付 日本経済新聞社)8年もかかったのですね。2023年11月から調査研究として16歳以上の女性を対象に、一部の薬局で試験販売が始まっていました。その結果、安全性が確立したことを受け、年齢制限を設けずに一般販売可能となります。ようやくという感じです。今回、緊急避妊薬「ノルレボ錠(一般名:レボノルゲストレル)」1品目についてスイッチOTC化が了承され、「要指導医薬品」として薬局での販売が可能になります。要指導医薬品で販売可能と言っても、いくつか注意点がありますので確認していきましょう。まず、2つの承認条件がついています。1.承認後、少なくとも3年間の安全性などに関する製造販売後調査を実施すること。2.適正使用を確保するため、必要な条件を満たした薬局または店舗販売業の店舗において、緊急避妊薬の取り扱いに係る研修を修了した薬剤師によってのみ販売または授与されるよう、特別な措置を講じること。1については、販売する製薬会社に課されている調査です。薬剤師には、服用した患者さんに副作用などが疑われる場合は、速やかにメーカーや厚生労働省に報告する責務が生じます。3年間の調査結果により、また新たに安全対策が講じられる可能性があるので、そこにも注意が必要です。2については、9月19日からオンライン研修が実施されるとのことです。薬剤師がその研修を修了して厚生労働省に申告することで、研修が修了した薬局名や開局時間、研修を修了した薬剤師の情報などを同省のホームページに掲載する予定としています。また、販売する薬局などの設備や体制について、以下の要件が求められています。1.研修修了薬剤師が販売する。2.プライバシーに十分な配慮ができる体制を整備している。3.近隣の産婦人科医などとの連携体制を構築している。悪用の懸念があることを受け、用法・用量は「性交後72時間以内に本剤1錠を薬剤師から受け取り、その場で服用する」となりました。そのため、配慮ができる設備が必要になります。一般的にスイッチOTC化された要指導医薬品はオンライン服薬指導での販売ができますが、ノルレボ錠はその対象にはなりませんので注意が必要です。今回は2023年の調査研究時に設けられた16歳以上という年齢制限もなくなり、全女性が購入できます。親の同意に関わらず予期せぬ妊娠を希望しない若者を支援するため、親の同意も不要となりました。間口が広げられ、よかったなと思います。薬剤師の面前服用を含む販売方法のあり方については厚生労働省において検討し、一定期間を経た後に見直しを行う予定とされています。

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異物除去(5):鼻腔異物(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q149

異物除去(5):鼻腔異物(1)Q149外勤先の診療所での外来中。4歳男児が右鼻腔にビーズを入れてしまい、取れなくなったと外来を受診した。連れて来た母親によると「入れてしまったビーズは間違いなく1つである」とのこと。鼻腔内に肉眼的に異物が見えており、異物除去を試みようと考えた。安全に除去するべく「mother’s kiss」を指導しようとしたが、母親はmouth to mouthに躊躇いがあるようだ。次の手はどうしようか。

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透析患者が被災したら?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第6回

透析患者が被災したら?豪雨の後の水害で多くの家屋が浸水し、停電、断水のため医療機関も機能不全になっています。避難所のスタッフから、維持透析を週3回行っていて明日が透析日という避難者がいて、対応について相談を受けました。どうすればよいでしょうか?血液透析には、1人当たり1回の透析で100L以上の大量の水が必要であり、装置を動かすには当然電気が必要です。大災害で施設や設備が損傷したり、断水や停電が起きたりすると血液透析ができなくなり、透析患者の生命は危険にさらされます。事実、東日本大震災では、一時は数百施設が透析不能となり、1,300名以上の患者さんが一時的に被災県外に移動しました。熊本地震でも約30施設で透析ができなくなったことが報告されています。普段からの備え透析施設は、支援透析施設が使えるように、患者カードや手帳、透析記録のコピーなど災害時に必要な情報を患者に提供します。他施設で透析をするうえで必要な情報ドライウェイト氏名・年齢アレルギーがあればその内容感染症の有無(慢性肝炎など)処方されている薬の種類とその飲み方人工血管の場合血流の向き普段透析を受けている施設の連絡先普段から患者さんに対して、災害時は透析時間が短くなったり、次の透析までの間隔が長くなったりする場合があることを説明し、自分で自分の身を守ることの大切さを強調しましょう。避難所に避難した場合は、透析患者であることを自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師に申し出るよう指導をしておくことが必要です。また、透析スタッフもしっかり訓練しておくことも重要です。災害時には、基本的には各自治体が透析災害対策本部のネットワークを利用して、行政・透析関連企業および該当都道府県下のすべての透析施設間の連絡ができるようになっています。日本透析医会の災害時情報ネットワークのウェブサイトも参考にしてください1)。アメリカでは、ハリケーンに備え、前もって透析をしておくことで透析患者の予後を改善することに成功しています。台風など、あらかじめ災害が起こることが予期できる場合には、前倒しをして透析をしておくことも考慮してもいいかもしれません2,3)。避難所での対応【食事】避難所では、非常食や配給食が提供されることが多く、透析患者にとっては平常時よりも尿素窒素やカリウムの数値が高くなる危険性があります。避難所では、水分は日常の3分の2程度に減らすように指導されている患者さんが多いですが、過度な脱水は血栓症の原因にもなります。水分制限は食事摂取の低下の原因にもなります。一方で、食事量が不足してカロリーが減ると、体内のタンパク質が壊れて尿素窒素やカリウムが上昇するため、栄養は十分に摂る必要があります。災害時に透析患者が食事面で留意すべき点食塩、タンパク質、カリウム、リンを平時より大幅に制限する1日の水分量は「尿量+300~400mL以下」に抑えるエネルギー(カロリー)をしっかり確保するカロリー確保には、白米、麺類、パンなど炭水化物が有効です。ただし、麺類やパンには意外に多くの塩分が含まれているため注意が必要です4)。そこで、「カロリーメイト」のようなバランス栄養食品が勧められます。カロリーメイトは、十分なカロリーが摂れ、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多く含む一方、塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取量を比較的抑えやすいというメリットがあります。参考カロリーメイト(ブロックタイプ:1箱4本入り)の場合、カロリー400kcal、カルシウム200mg、食物繊維2g、タンパク質8~9g、カリウム90~100mg、リン80~100mg、食塩相当量約0.7~0.9gです(大塚製薬「カロリーメイト」サイトより)。【応急処置】避難所の医療資源と環境でできることは限られていますが、透析患者の生命を奪うのは主にうっ血性心不全と高カリウムです。危険な高カリウム血症に対しては、内服薬としては陽イオン交換樹脂製剤のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)が使われることがあります。陽イオン交換樹脂製剤は大腸でナトリウムとカリウムを交換しますが、カルシウムも吸着するため、カリウムに対する選択性は乏しいといわれています。ケイキサレート30gを20%ソルビトール50mLに溶解して内服してもらいます。非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤であるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)は、胃で吸収され、カリウムに対する選択性が比較的高いのですが、災害時の使用については即効性の面を考慮し、薬剤師や製造元への確認が必要です。避難所では難しいかもしれませんが、血糖値を測定しながらインスリン+グルコース療法を行い、透析までの緊急回避を行う場合もあります。ヒューマリンR注10単位+50%ブドウ糖550mLを静脈注射し、その後は10%ブドウ糖液を50mL/hで投与する方法が提唱されています5,6)。災害時要配慮者である透析患者の被災時の対応について概説しました。災害医療は、あくまで日常の救急医療の延長であり、普段から「もしも」のことを意識しておくことが必要なことは言うまでもありません。 1) 日本透析医会 災害時情報ネットワーク 2) Lurie N, et al. Early dialysis and adverse outcomes after Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66: 507-512. 3) Foster M, et al. Personal disaster preparedness of dialysis patients in North Carolina. Clin J Am Soc Nephrol. 2011;6:2478-2484. 4) Inoue T, Nakao A, Kuboyama K, Hashimoto A, Masutani M, Ueda T, Kotani J. Gastrointestinal symptoms and food/nutrition concerns after the great East Japan earthquake in March 2011: survey of evacuees in a temporary shelter. Prehosp Disaster Med. 2014;29:303-306. 5) Fadel E, et al. Scoping Review of Kidney Patients and Providers Perspectives on Disaster Management. Kidney Int Rep. 2025;10:1346-1359. 6) Lempert KD, et al. Renal failure patients in disasters. Disaster Med Public Health Prep. 2019;13:782-790.

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第284回 抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防

抗ヒスタミン薬アゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス感染を予防抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)のアゼラスチン点鼻液が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を減らしました1,2)。ドイツの病院で募った健康な18~65歳の成人が参加したプラセボ対照第II相試験の結果です。アゼラスチンの効果はもっと幅広いかもしれず、なんなら風邪として知られるライノウイルス感染を減らしうることも示唆されました。アゼラスチンはアレルギー性鼻炎を治療する点鼻薬として海外では広く店頭販売されていますが、2022年に報告された前臨床研究で抗SARS-CoV-2活性が示唆されています3)。その研究では販売されている承認薬一揃いからSARS-CoV-2に効く薬を探すことが試みられ、アゼラスチンに白羽の矢が立ちました。細胞で検討したところ、市販の点鼻液の400分の1ほどの濃度のアゼラスチンの抗SARS-CoV-2活性が示されました。また、市販の点鼻液を5倍に薄めた0.02%のアゼラスチンが鼻組織のSARS-CoV-2の複製を72時間以内にほぼ完全に阻止しました。その前臨床検討結果を頼りにドイツで実施された無作為化試験CARVINで、まずはアゼラスチンのSARS-CoV-2感染治療効果が示されます。同国のUrsapharm Arzneimittel社が主催の同試験では、2021年3~4月にかけて募ったSARS-CoV-2感染患者90例が、鼻組織検討で有効だった0.02%のアゼラスチン、市販品と同一の0.1%のアゼラスチン、プラセボのいずれかを1日3回点鼻しました。その結果、11日間の投与期間のアゼラスチン0.1%群のウイルスがプラセボ群に比べて有意により減少しました4)。また、アゼラスチン0.1%群の症状は最も改善しました。その結果を受けてインドでより多くの被験者を募って実施された無作為化試験CARVIN-IIでも同様に有望な結果が得られています。CARVIN-II試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施され、抗原検査でSARS-CoV-2感染が判明した294例が参加しました。CARVIN試験と同様にアゼラスチン0.1%が1日3回点鼻された患者のウイルスがプラセボ群に比べてより減少しました5)。また発熱、虚弱、低酸素症がプラセボに比べてより改善しました。それら2つの試験結果や作用機序を踏まえるに、アゼラスチンの感染予防効果を調べることは理にかなっているようです。そこでドイツのザールラント大学(Saarland University)のRobert Bals氏らは、アゼラスチン点鼻のSARS-CoV-2やその他の呼吸器病原体の感染予防効果を無作為化試験で調べてみることにしました。同試験もUrsapharm Arzneimittel社からの資金で実施されました。健康な成人がザールラント大学で募集され、最終的に450例が1日3回のアゼラスチンかプラセボの点鼻に割り振られました。約2ヵ月(56日)間の感染率はアゼラスチン群のほうがプラセボ群より有意に低く、それぞれ2.2%と6.7%でした(オッズ比:0.31)。意外にも、SARS-CoV-2以外で最も多かった感染のライノウイルス感染率もアゼラスチン群がプラセボ群より同様に低く、それぞれ1.8%と6.3%でした。ただし、その差が有意かどうかは検討されていません。より大規模な多施設での無作為化試験でのさらなる検討が必要ですが、アゼラスチン点鼻は思い立ったらすぐに実行可能な手軽な手段として既存の予防対策を補完する役割を担えるかもしれません。脆弱な人、感染率が高い時期、旅行する人にはとくに有益かもしれません。 参考 1) Lehr T, et al. JAMA Intern Med. 2025 Sep 2. [Epub ahead of print] 2) Clinical study shows that nasal spray containing azelastine reduces risk of coronavirus infection by two-thirds / Eurekalert 3) Konrat R, et al. Front Pharmacol. 2022;13:861295. 4) Klussmann JP, et al. Sci Rep. 2023;13:6839. 5) Meiser P, et al. Viruses. 2024;16:1914.

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