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ESMO2025 レポート 乳がん(早期乳がん編)

レポーター紹介2025年10月17~21日にドイツ・ベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、3万7,000名を超える参加者、3,000演題弱の発表があり、乳がんの分野でも、現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の画期的な試験結果が発表された。とくに、抗体薬物複合体(ADC)、CDK4/6阻害薬、およびホルモン受容体陽性乳がんに対する新規分子標的治療に関する発表が注目を集めた。臨床的影響が大きい主要10演題を早期乳がん編・転移再発乳がん編に分けて紹介する。[目次]早期乳がん編ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.monarchEHER2陽性乳がん2.DESTINY-Breast053.DESTINY-Breast11トリプルネガティブ乳がん4.PLANeTその他5.POSITIVEホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん1.monarchE:HR陽性/HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の全生存期間の改善効果monarchEは、高リスクホルモン受容体陽性(HR+)、HER2陰性早期乳がん患者における術後療法の有効性を評価する第III相ランダム化試験である。5,120例が内分泌療法単独または2年間のアベマシクリブと内分泌療法の組み合わせにランダム割付された。高リスク患者は、腋窩リンパ節≧4個陽性、または1~3個陽性で組織学的グレード3および/または腫瘍径≧5cm、あるいはKi67≧20%と定義された。中央値76ヵ月のフォローアップで、アベマシクリブ+ホルモン療法はホルモン療法単独と比較して、死亡リスクを15.8%低下させた(ハザード比[HR]:0.842、p=0.0273)。7年時点での無浸潤疾患生存(iDFS)イベントリスクの低下は26.6%(名目上のp<0.0001)、無遠隔再発生存(DRFS)イベントリスクの低下は25.4%(名目上のp<0.0001)であった。約7年追跡時点で、標準内分泌療法+アベマシクリブ群の全生存(OS)率は86.8%、内分泌療法単独群は85.0%であり、絶対差は1.8%であった。これらの成績は、アベマシクリブ中止後も長期間持続し、乳がん術後内分泌療法におけるCDK4/6阻害薬併用が微小転移性疾患を持続的に抑制する可能性を示している。術後治療でHR陽性HER2陰性乳がんのみに限定して、全生存期間の改善を示した臨床試験は限られており、その意味でも非常に意義深い結果である。HER2陽性乳がん:T-DXdの“治癒可能”病期への本格進出2.DESTINY-Breast05:HER2陽性乳がん再発高リスク患者における術前薬物療法後に残存病変を有する症例に対するトラスツマブ デルクステカンの追加効果の検証DESTINY-Breast05は、術前薬物療法後に非pCR(残存浸潤病変を有する)の高リスクHER2陽性早期乳がん患者を対象とした、第III相ランダム化試験である。本試験では、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と、標準治療であるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した。1,635例が登録され、3年iDFS率はT-DXd群92.4%(95%信頼区間[CI]:89.7~94.4)に対し、T-DM1群83.7%(95%CI:80.2~86.7)であった。浸潤性再発または死亡のリスクはT-DXd群で53%減少した(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.0001)。Grade3以上の有害事象発生率は両群でほぼ同等であった(T-DXd群50.6%、T-DM1群51.9%)。ただし、薬剤性間質性肺疾患(ILD)はT-DXd群でより多く報告され(9.6%vs.1.6%)、2例の致死例(Grade 5)が認められた。左室機能障害は低率であった(1.9%)。これらの結果は、T-DXdが治癒を目指す術前療法領域に進出しうることを示唆しており、高リスク残存病変例における新たな標準治療候補として位置付けられる。さらに、本試験結果を実臨床で運用する上でのILDの評価と早期介入が必要であることを示唆した。DB-05とKATHERINEの患者対象の違いは以下のとおり。画像を拡大する3.DESTINY-Breast11:HER2陽性乳がんにおける術前抗がん剤治療におけるアントラサイクリン除外戦略DESTINY-Breast11は、高リスクHER2陽性早期乳がんに対し、アントラサイクリン非使用戦略を評価した第III相試験である。T3以上、リンパ節転移陽性、または炎症性乳がんを対象に、640例がT-DXd-THP(T-DXd単独→パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ)群またはddAC-THP(ドキソルビシン+シクロホスファミド→THP)群に割り付けられた。pCR(病理学的完全奏効)割合はT-DXd-THP群で67.3%、ddAC-THP群で56.3%(差:11.2ポイント、95%CI:4.0~18.3、p=0.003)であった。ホルモン受容体状態にかかわらず一貫した傾向を示した。無イベント生存期間(EFS)ではT-DXd-THP群に有利なトレンドがみられた(HR:0.56、95%CI:0.26~1.17)。有害事象(Grade≧3)はT-DXd-THP群で37.5%、ddAC-THP群で55.8%と低率で、左室機能障害も少なかった(1.9%vs.9.0%)。ILDの発生は両群で低頻度かつ同等であった。この結果から、HER2陽性乳がんの周術期治療としてアントラサイクリンの使用が必須ではないことが示唆され、T-DXdを基盤とする新術前療法が高い奏効割合と毒性の低減を両立しうることが検証された。とくに海外においては、アントラサイクリン系抗がん剤の使用に対する忌避が強く、カルボプラチンとドセタキセル併用のレジメンが中心となってきているが、今回の結果はアントラサイクリン系の省略に向けたさらなる示唆を提示した。早ければ来年度中に、本邦でもDB05、DB11レジメンが適応拡大される可能性がある。先のDB05と相まって、いずれも選択可能となった場合に、術前療法でT-DXdを使用するのか、EFSなど長期成績がT-DXd群で改善することが証明されてからDB11が運用されていくべきなのか、pCR割合の改善をもって標準治療としてよいと考えるか、現在議論になっている。画像を拡大するトリプルネガティブ乳がん4.PLANeT:TNBCの周術期治療における低用量ペムブロリズマブの併用PLANeTは、インド・ニューデリーのがん専門施設単施設において実施された第II相ランダム化試験である。StageII~IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して、標準的術前化学療法に「低用量ペムブロリズマブ(50mg/6週間ごと×3回)」を併用する群vs.化学療法単独群(dose dense AC療法とdose denseパクリタキセル療法)の比較であった。主要評価項目は術前化学療法+低用量ペムブロリズマブ併用群と化学療法単独群のpCR割合の比較であり、副次評価項目にiDFSやQOLが含まれていた。すでに、TNBC患者に対する周術期治療におけるペムブロリズマブの通常用量(200mg/3週間ごとなど)の併用は、KEYNOTE-522試験においてpCR割合、EFS、OS改善が証明されており、標準治療となっている。一方で、低〜中所得国・医療資源制限環境では高額薬剤/免疫療法アクセスが課題となっており、“低用量併用”戦略がコスト・アクセス面で代替案になりうる可能性が検討されている。本試験では、157例が各群に割り付けられ(低用量併用群78例、対照群79例)、治療が実施された。ITT解析でのpCR割合は低用量併用群53.8%(90%CI:43.9~63.5)、対照群40.5%(90%CI:31.1~50.4)、絶対差:13.3%(90%CI:0.3~26.3、片側p=0.047)であり、ペムブロリズマブ低用量併用による、統計学的有意なpCR割合の改善が示された。また、有害事象としても、Grade 3以上の有害事象は低用量併用群50%、対照群59.5%で、重篤毒性はむしろ低率であった。とくにirAEとして、甲状腺機能障害は低用量併用群10.3%と、KEYNOTE-522試験よりも低めであった。ただし、低用量併用群で1例の治療関連死亡(中毒性表皮壊死症)が報告された。本試験はフォローアップ期間・無病生存データ・最終OSデータなどはまだ不十分で、「仮説生成的(hypothesis‐generating)」段階であるものの、コスト・アクセス改善(低用量による医療経済性改善)を重視した設計であり、とくに資源制約のある地域で免疫療法併用治療を普及させる可能性が示唆された。ただ、問題としてはペムブロリズマブ50mgという投与量が十分か? という科学的根拠はほとんどない様子であり、KEYNOTE-522試験レジメンが使用可能な国における標準治療に影響を与えるものではない。その他5.POSITIVE:妊娠試みによる内分泌療法中断の予後や出産児に与える影響の検討POSITIVE(Pregnancy Outcome and Safety of Interrupting Therapy for young oNco‐breast cancer patients)は、若年HR+乳がん患者において、術後内分泌療法を一時中断して、再発リスクを増やさずに妊孕(妊娠を試みること)可能かを検証した前向き試験である。ESMO Congress 2025では、5年フォローアップ成績が報告されており、“妊娠試みによる内分泌療法中断”が少なくとも5年時点では再発リスクを有意に増加させていないという結果が報告された。518例のHR陽性 StageI~III乳がん患者が、術後18~30ヵ月内分泌療法を継続した後、最大2年間の内分泌療法中断で妊娠を試み、その安全性と妊孕性、再発への影響を評価された。登録時の平均年齢は35~39歳が最多。対象の75%は出産歴がなく、62%が化学療法も受けていた。5年乳がん無発症割合(BCFI)は、POSITIVE群12.3%、外部対照のSOFT/TEXT群13.2%と差は−0.9%(95%CI:−4.2%~2.6%)であった。5年無遠隔再発率(DRFI)はPOSITIVE群6.2%、SOFT/TEXT群8.3%(差:−2.1ポイント%、95%CI:−4.5%~0.4%)で、内分泌療法一時中断による再発・転移リスク増加は認められなかった。HER2陰性のサブ解析でも同様の結果。年齢やリンパ節転移、化学療法歴などで層別しても有意差なしだった。試験期間中、76%が少なくとも一度妊娠し、91%が少なくとも一度生児出産。365人の子供が誕生した。出生児の8.6%が低出生体重、1.6%が先天性欠損だったが、これは一般母集団と同等であった。また、ART(胚・卵子凍結など)を利用した女性でも再発リスクは非利用者と同等であり、母乳育児も高率で実現し、安全であることも確認された。内分泌療法中断後、82%が内分泌療法を再開した。POSITIVE試験は、妊娠希望のHR陽性乳がん女性が、内分泌療法を最大2年中断して妊娠・出産しても短期再発リスクは増加しないこと、妊娠やART、母乳育児の成績・安全性も良好で、安心材料となるエビデンスを提供しており、患者さんへのShared decision makingに非常に役立つ結果であった。

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治療法、どこまでの説明が必要?【医療訴訟の争点】第16回

症例患者の罹患する疾患に対して複数の治療法が存在するも、患者の状態から選択が困難と考えざるを得ない治療法が存在することもある。そのような治療法についても医師は説明義務を負うのか。本稿では、医師が“選択は困難”と考えた治療法の説明義務が争点となった東京地裁令和4年12月9日判決を紹介する。<登場人物>患者女性(87歳)原告患者の子(次男)被告基幹病院、脳神経内科担当医、脳神経内科部長事案の概要は以下の通りである。平成24年2月29日午前10時頃コンビニエンスストアの駐車場で倒れているところを発見午前10時45分頃被告病院に救急搬送。救急医の診察時、(1)失語の状態で発語はまったく見られない、(2)痛み刺激に対し、左上下肢は動くが、右上下肢に動きは見られない、(3)左共同偏視(両目が左を向いて固定された状態)、(4)右バビンスキー反射(足の裏をこすると足の親指が上を向いてしまう状態)陽性の所見。救急医は脳神経内科にコンサルト。神経内科医(被告医師)が診療を担当し、(1)右注視麻痺、(2)右顔面筋力低下、(3)右上下肢動きなし、(4)失語の状態にある旨の所見を確認した。頭部CTで出血所見はなく、脳梗塞と診断された。被告医師は、患者が87歳と高齢であり、広範な脳のダメージが示唆され重症例であることから、アルテプラーゼによる静注血栓溶解(rt-PA)療法の施行は困難と判断した。また、血液検査の結果、クレアチニンは0.95mg/dL(基準値0.47mg/dLないし0.79mg/dL)、血中尿素窒素は17mg/dL(基準値8mg/dLないし22mg/dL)であり、腎機能障害が認められたことから、腎障害や高齢者における致死的副作用の報告が多いエダラボンの適応ではないと判断した。被告医師は、患者の長男に対し、患者の病状説明を行い、診断は脳梗塞と考えること、治療は、抗凝固療薬の点滴によるが、出血の危険性が高いと判断されれば使用しないこと等を説明した。なお、長男から、被告医師に対し、rt-PA療法やエダラボン投与に関する質問やこれらの治療の要望はなかった。MRI検査にて深部白質にDWI高信号が認められるとの所見であったことから、被告医師は、本件患者はアテローム血栓性脳梗塞である可能性が高いと判断し、アルガトロバンの投与による抗凝固療法を行うことを決定した。4月25日本件患者は要介護5の認定5月7日リハビリテーション病院へ転院令和元年12月23日老衰により死亡実際の裁判結果本件では、(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反および説明義務違反、(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反および治療義務違反が争点となったが、裁判所は以下の判断をし、原告の請求をいずれも棄却した。(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反及び説明義務違反について原告は、本件患者にはrt-PA療法の適応があったことから、被告医師はその実施に向けて、未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断といった問診・診断を行い、原告らに対し同療法について説明する義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は以下の点を指摘し、「未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断を行うまでもなく、本件患者に対しrt-PA療法を実施しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件患者が、当時87歳であり、本件当時の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針(2005年10月)」において慎重投与とされる基準(75歳)を大きく上回っていたこと。被告医師が本件患者を診察した際の状態は、右注視麻痺、右顔面筋力低下、右上下肢動きなし、失語の状態にあるというものであり、NIHSSによる評価はともかく、前頭葉、頭頂葉並びに側頭葉に関連し得る広い範囲に及ぶ脳のダメージが示唆され、脳梗塞の中でも重症と評価できるものであったこと。治療指針のチェックリストの1項目でも慎重投与とされる基準に該当すれば、適応の可否を慎重に判断することとされ、とくに高齢、重症例では治療成功率は低く、症候性頭蓋内出血の危険性も高くなると考えられるとされていること。その上で、原告らがrt-PA療法の実施可能性等について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しrt-PA療法について説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反及び治療義務違反について原告は、本件患者に対しエダラボンを投与することが可能であり、被告医師は、本件患者の腎機能の評価を行ってエダラボンを投与し、原告らに対しエダラボンについて説明する注意義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「87歳という高齢で、高度に近い中等度の腎機能障害が認められた本件患者に対しエダラボンを投与しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件当時87歳、体重は48kgであり、血液検査の結果、クレアチニンの値は0.95mg/dLであるなど、高度に近い中等度の腎機能障害を来していたといえること。エダラボンは、腎機能障害、高齢者には慎重投与とされていること。とくに80歳以上の高齢者においては、致命的な経過をたどる例が多く報告され、製薬会社が緊急安全情報を発していること。その上で、原告らがエダラボンの投与について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しエダラボンについて説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。注意ポイント解説本件は、高齢脳梗塞患者における急性期治療の選択と説明義務の範囲が争われた事案であり、裁判所は、当時の診療指針や添付文書に示された「慎重投与」基準を踏まえ、rt-PA療法やエダラボン投与といった積極的治療は、副作用リスクが高いとされる高齢・重症例では、医学的裁量に基づく非実施が正当とされ得るとして、医師の判断を尊重する判断をした。また、説明義務の発生についても、患者や家族らがその治療法に強い関心を示し、それを医師に伝えていたわけではないことを指摘し、医師が「適応がないと判断した治療」については説明義務が生じないとした。これは、説明義務の範囲があくまで医療水準に照らした「実施を検討すべき治療」に限られることを示すものといえる。もっとも、本件は、いずれの治療を選択するにしても直ちにその適応を判断しなければならないものであったため、時間をかけた検査の要否や、治療法の採否につき、医師の裁量が認められたとの要素があると考えられる。患者の状態・症状等から「慎重投与」の基準をわずかに逸脱するにとどまっていたり、副作用リスクが高いとの報告がされていなかったりすれば、医師の裁量は狭まることとなり、ほかにありうる治療法としてrt-PA療法やエダラボン投与につき、説明をする義務があったとされる可能性がある点に留意する必要がある。また、今回問題となったrt-PA療法は、本件当時(平成24年=2012年)は、75歳以上は慎重投与とされていたが、その後、慎重投与は80歳以上となるなど、年齢の点は緩和されるなど変化が生じている。同様に、エダラボンの投与についても、本件当時よりも報告例の集積がされた結果、投与に対する考え方にも変更がありうるところである。このため、本判決の判断が現在も同様に当てはまるとは限らず、いずれにしても診療時の医学的知見を踏まえ、患者の状態を考慮した上での判断となることに留意が必要である。医療者の視点今回の裁判所の判断は、臨床現場における医師の判断プロセスを尊重したものであり、実臨床の感覚に近いものと言えます。本件の87歳というご高齢の患者さんのように、複数のリスクを抱えている方への治療方針の決定は、常に難しい判断を迫られます。とくに脳梗塞急性期のrt-PA療法は、有効性が期待される一方で、重篤な出血のリスクを伴います。当時のガイドラインで75歳以上が慎重投与とされていた中、87歳で、かつ臨床症状から重症と判断される患者さんに対して、治療の利益よりも不利益が上回る可能性を重くみて治療を実施しない、という判断は、多くの医師が同様の結論に至る可能性のある、医学的合理性に基づいたものと考えられます。エダラボン投与に関しても、腎機能障害や高齢者への慎重投与が求められており、医師の判断は妥当なものであったと判断されたのでしょう。一方で、裁判所が「家族が強い関心を示していなかったため、説明義務はなかった」と判断した点については、実臨床では注意が必要です。訴訟上の義務は発生しないとしても、患者さんやご家族との信頼関係を築く上では、たとえリスクが高く実施が難しいと判断した治療法であっても、そのような選択肢が存在すること、そしてなぜそれを選ばないのかを丁寧に説明することが望ましいからです。後から「なぜあの治療法の説明をしてくれなかったのか」という不信感につながることを避けるためにも、積極的な情報提供が重要になる場面は少なくありません。医療技術やガイドラインは日々更新されるため、常に最新の情報を収集し続ける姿勢が不可欠です。その上で、個々の患者さんの状況に応じた最善の選択肢を、ご本人やご家族と共に考えていく丁寧な対話こそが、訴訟リスクを低減し、より良い医療を実現する鍵となるでしょう。Take home message治療選択においては、ガイドラインや添付文書において慎重投与とされているケースについて、その選択をしない医師の裁量的判断が尊重される場合もあるため、これらの記載内容を常にアップデートしておく必要がある。医師の裁量に基づく非実施が医学的合理性を有する治療法については、患者や家族らがその治療法に強い関心を示してない場合には、説明義務違反はないとされることもある。

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尿路感染症の第1選択薬は?使える薬剤は?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第15回

Q15-1 尿路感染症の第1選択薬はニューキノロン?尿路感染症でニューキノロン系の経口抗菌薬を出す先生が多いですが、本当に第1選択薬でいいのでしょうか?Q15-2 尿路感染症に使える?ミノサイクリンは尿路感染症に使用できますか?

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11月12日 皮膚の日【今日は何の日?】

【11月12日 皮膚の日】 〔由来〕 日本臨床皮膚科医会が、11月12日(いい・ひふ)の語呂合わせから1989年に制定。日本皮膚科学会と協力し、皮膚についての正しい知識の普及や皮膚科専門医療に対する理解を深めるための啓発活動を実施している。毎年この日の前後の時期に一般の方々を対象に、講演会や皮膚検診、相談会などの行事を全国的に展開している。関連コンテンツ お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦い【Dr.デルぽんの診察室観察日記】 急に湿疹が出たときの症状チェック【患者説明用スライド】 中等症~重症の尋常性乾癬、経口IL-23受容体阻害薬icotrokinraが有望/Lancet 乳児期の保湿剤使用でアトピー性皮膚炎の発症率低下、非高リスク集団ほど 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

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第289回 「会社の寿命は30年」、では病院の“寿命”は?(中編)経営者の代替わりを円滑に行い、医療環境の変化に常に柔軟に対応していかなければ、どんなブランド病院も“寿命が尽きる”

財政制度等審議会分科会が診療所の経常利益率の高さを強調、恒例のバトルが今年もスタートこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この季節恒例のバトルが今年も始まりました。財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の分科会は11月5日、2026年度予算の編成に向けた秋の初会合を開き、社会保障分野について、病院の経常利益率が0.1%に留まるのに対し、開業医などの診療所は6.4%と中小企業平均よりも高く、診療報酬改定の対応にメリハリが必要と指摘しました。11月6日付の日本経済新聞などの報道によれば、分科会長代理を務める増田 寛也氏は記者会見で「『診療所は経営余力があり、そこでメリハリをつけて改革していく必要がある』との意見が共通して出たと紹介した」とのことです。これに対し、日本医師会会長の松本 吉郎氏は11月6日の記者会見ですぐさま反論を行いました。同日付のm3.comなどの報道によれば、財務省資料における「病院に比べ、診療所が高い利益率を維持している現状を踏まえ、病院への重点的な支援のため、診療所の報酬の適正化が不可欠」との記載について、「怒りでしかない」と切り捨てると共に、「このままでは人材流出と経営悪化により医療・介護提供体制が維持できなくなるという危機感が全く感じられないことは、極めて遺憾であり、強く抗議する」と反論、医療費や保険料などの「総論」、かかりつけ医機能の評価などの「各論」に対して、それぞれ5点を挙げて批判を行ったとのことです。恒例行事とも言える財務省と日本医師会のバトルですが、今年は日本維新の会が自民党との連立政権に加わったことで、診療所院長が主な構成員である日本医師会にとってはいつになく厳しい状況となっています。日本維新の会の吉村 洋文代表も、 4日までに公開したYouTube動画の中で、中央社会医療協議会の委員構成について 「医師会がすごく力を持っている」とし、委員構成を多様化することで 「診療報酬の在り方自体を変えていくべきだ」と述べ、日本医師会を強く牽制しています。高市 早苗政権下における診療報酬改定では、これまでなかなか手が付けられなかった診療所の診療報酬にメスが入るのでしょうか……。今後の方向性については、財政制度等審議会がまもなくまとめる「秋の建義」が出てから改めて書いてみたいと思います。「対等合併」のはずが市主導で話が進み母恋側に不信感さて、前回に引き続き、日鋼記念病院や札幌市東区の天使病院を運営する社会医療法人母恋(室蘭市)が一般社団法人徳洲会(東京都千代田区)の傘下に入ったニュースを取り上げます。母恋の有賀 正理前理事長は、徳洲会入りを発表した記者会見の席で、日鋼記念病院と市立室蘭総合病院の統合協議の中で、地域経済活性化支援機構が提示した統合案について「(母恋から)ガバナンスが取り上げられ、人員削減も行われると読み取った。従えなかった」と述べたとのことです。今回の統合案、「対等合併」と表向きは言われていたものの、どうやら室蘭市主導で話が進み、そうした動きに対し、母恋側が強い不信感を抱いていたようです。その不信感が徳洲会の傘下入りにつながったわけですが、それは一方で、市立室蘭総合病院の存続にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。日鋼記念病院の徳洲会傘下入りによって、市立室蘭総合病院は一転、廃院の可能性高まる日鋼記念病院側としては徳洲会の傘下になったことで、資金面や人材面での不安が解消され、かついろいろな経営ノウハウも導入できます。統合計画そのものがまだなくなったわけではありませんが、その緊急性は薄らいだと言えるでしょう。一方の市立室蘭総合病院としては、統合が長引けば経営悪化のまま病院経営を続けなければならず、市の財政はどんどん悪化していきます。市と母恋の立場は一気に逆転したわけです。何やら、日本ハムファイターズと、札幌ドームを経営していた札幌市との軋轢(結局、札幌市は日ハムに逃げられ、赤字必至のドームを抱えることに)を思い出します。10月17日付の読売新聞の記事は、「市が発表した25年度予算案で、市立病院の赤字が過去最大の19億8,000万円に上り、年度末には約38億円の資金不足になる見通しが示された(中略)。市立病院と組合側は医師を除く職員・看護師の賃金を9%カットすることで合意。これにより年度末までに5億8,500万円の経費削減が見込まれる(中略)。さらに市は9月定例市議会で、市立病院の赤字が現状のまま続けば市の全会計の実質赤字比率が早期健全化基準の17%を超える見通しを明らかにした。基準を超えると市独自の施策ができず、市民生活に大きな影響が出る」と書いています。日鋼記念病院の徳洲会傘下入りによって、市立室蘭総合病院は一転、廃院の可能性が極めて高くなったと言えるかもしれません。カリスマ的経営者、故・西村氏がさまざまな経営改革を敢行した日鋼記念病院ところで、一昔前の病院経営者にとって日鋼記念病院は全国区のいわゆるブランド病院でした。それはカリスマ的経営者、故・西村 昭男氏がさまざまな経営改革を敢行した病院だったからです。西村氏は、1978年に北海道大学医学部から室蘭に赴任し、経営が厳しかった日本製鋼所病院を立て直し、1980年には医療法人社団日鋼記念病院として独立させました。同病院は3次救急まで対応する北海道内トップクラスの医療機関に成長、その経営手法は1980~90年代に多くの医療経営誌などで紹介されました。さらに西村氏は、北海道家庭医療学センターを設立し家庭医の育成をスタートさせたり、道内初の緩和ケア病棟を開設したりするなど、地域医療の質向上にも尽力しました。医療法人社団カレス アライアンスと経営母体の名称を変えた後、2007年に西村氏は内紛でカレスを追われましたが、その後も札幌市に本拠を置く特定医療法人社団カレスサッポロの理事長として、北光記念病院、時計台記念病院などの経営に携わりました。そんなカリスマ的経営者が礎を作った日鋼記念病院が徳洲会傘下になるとは、時代の変化を感じざるを得ません。前述した室蘭市の3病院のうち、「高度急性期・急性期医療」を担うことになったのが、社会医療法人 製鉄記念室蘭病院だという事実からも日鋼記念病院がかつての輝きを失っていたことがうかがい知れます。ちなみに、製鉄記念室蘭病院は2026年度採用の初期臨床研修医の研修先を決める医師臨床研修マッチングで道内2位、14名の定員枠を充足し、9年連続フルマッチという超人気病院となっています。病院にも当てはまる「会社の寿命は30年」説ここで、「会社の寿命は30年」という有名なフレーズについて簡単に説明しておきます。その起源は、1983年に経済誌『日経ビジネス』が特集記事「企業は永遠か」の中で使った言葉とされています。その意味するところは、「創業から30年で会社が倒産・消滅する」ということではなく、多くの企業には成長・成熟・衰退のライフサイクルがあり、その周期は概ね30年ほどだということです。100年間の日本の上位企業100社ランキングに基づく分析で、ランキングに入り続けた期間が平均30年未満だったという調査結果に基づいています。「会社の寿命は30年」というフレーズはまた、「一つの会社・事業は永遠には続かない」「企業の存続には不断の革新が不可欠」という教訓的意味合いでも使われています。同じことは病院にも言えそうです。1990年代に栄華を誇った日鋼記念病院が、約30年の時を経て徳洲会傘下になるとは、誰が予想できたでしょう。経営者の代替わりを円滑に行い、社会や医療環境の変化に常に柔軟に対応していかなければ、どんなブランド病院であってもその経営は瞬時に行き詰まり、”寿命が尽きる”ということを日鋼記念病院のケースは教えてくれます。かたや日鋼記念病院を傘下に収める徳洲会は「第225回 徳田虎雄氏死去、地域医療にもたらしたインパクトとその功績を考える(後編)」でも書いたように、徳田 虎雄氏亡き後も着実に成長・拡大を続けています。徳洲会は地域医療の展開には定評があります。ひょっとしたら、日鋼記念病院はこれまでとはまったく違ったコンセプトの病院として生まれ変わるかもしれません。全国の多くの病院が苦境に陥っている中、比較的“筋”がいい病院は、徳洲会のような巨大病院グループの傘下になる、というケースはこれから増えていくでしょう。筆者の下にも最近、「ある大病院と徳洲会の交渉が進んでいるようだ」という話が飛び込んできました。まだ噂話の段階ですが、確証が得られたら本連載でもいずれ紹介したいと思います。次回は、「 『会社の寿命は30年』、では病院の“寿命”は?」最終回として、やはり栄華を極めた西日本のある医療機関のケースを取り上げます。(この項続く)

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ミッドラインカテーテルはPICCと同等?CRBSIと合併症発生率を比較【論文から学ぶ看護の新常識】第38回

ミッドラインカテーテルはPICCと同等?CRBSIと合併症発生率を比較新たな末梢挿入デバイスであるミッドラインカテーテル(MC)。末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)との比較研究により、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の発生率は同等であった一方、長期間留置時のカテーテル関連合併症発生率はMCの方が高い可能性が示された。Simon L Thomsen氏らの研究で、JAMA Network Open誌2024年2月13日号に掲載の報告。静脈内治療を受ける成人患者におけるミッドラインカテーテルvs.末梢挿入型中心静脈カテーテルの安全性と有効性:ランダム化比較試験研究チームは、MCとPICCの安全性と有効性を比較することを目的に、並行2群、非盲検、ランダム化比較試験(RCT)を行った。デンマークの三次医療センターで、2018年10月から2022年2月に実施され、成人入院患者および外来患者を、MC群またはPICC対照群のいずれかに1:1の比率でランダムに割り当てた。主要評価項目はCRBSI、副次評価項目は、症候性カテーテル関連血栓症およびカテーテル不全(機械的原因、静脈炎、浸潤、薬剤または輸液投与に関連する疼痛、穿刺部位からの漏出を含む)とした。主な結果は以下の通り。合計304名の患者(平均年齢:64.6歳[標準偏差:13.5]、女性130名[42.8%])が解析に含まれ、各カテーテル群に152名が割り付けられた。CRBSIの発生率は低く、MC群で0件、PICC対照群で1件であった(p>0.99)。MC群はPICC対照群と比較してカテーテル関連合併症発生率が高く(20件[13.2%]vs.11件[7.2%])、合併症の発生率比(IRR)は2.37(95%信頼区間[CI]:1.12~5.02、p=0.02)であった。カテーテル留置期間で層別化した事後解析では、留置期間が16日未満のカテーテルにおいて、2群間で合併症発生率に有意な差は見られなかった(IRR:1.16、95%CI:0.50~2.68、p=0.73)。中期間から長期間の静脈内治療を受けた患者を対象とした本RCTにおいて、CRBSIの発生率は低く、MCとPICCの間で差は認められなかった。MCの使用は、PICCの使用と比較してカテーテル関連合併症の発生率が高かった。この知見は、個々の患者レベルで使用するカテーテルの種類を決定する際に考慮されるべきである。ミッドラインカテーテル(MC)は、末梢静脈カテーテルと末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)の中間的なデバイスとして位置づけられます。末梢静脈カテーテルよりも長く、約8〜20cmほど留置され、血管外への漏出を避けることができます。一方で、中心静脈までは達しないため、高カロリー輸液の投与はできません。MCは「高カロリー輸液は不可だが、数日間確実に薬剤を投与したい患者」に活用できるデバイスです。このMCがPICCと比較して本当に安全に使えるのか、という疑問に答えるのが今回の論文です。研究の結果、主要評価項目であるCRBSIには統計的有意差は認められませんでした。これは、MCもPICCも熟練した看護師による厳格な無菌操作で挿入・管理された場合、血流感染のリスクは両群のともに極めて低いことを示しています。一方でカテーテル関連合併症の発生率は、PICC群(7.2%)に比べて、MC群(13.2%)の方が有意に高い結果でした(IRR:2.37、p=0.02)。ただし、合併症の内容は生命に関わるものではなく、軽度の合併症(リーク、偶発的抜去、閉塞、注入時の疼痛など)と定義されています。また、留置期間が16日未満の場合、両群間に合併症率の有意差は見られませんでしたが、16日以上の留置ではMC群で合併症や早期抜去が増加しました。すなわち、治療期間が概ね2週間(約15日)までと想定される患者、特に末梢ルート確保が困難な患者や特定の抗菌薬投与などでは、MCはPICCと同等の安全性を有する優れた代替手段になり得ます。PICCよりも短い時間で挿入できるケースも多く、新たな選択肢として広がりをみせています。論文はこちらThomsen SL, et al. JAMA Netw Open. 2024;7(2): e2355716.

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朝食とメタボ各要素の関連~メタ解析

 朝食を食べない人では、食べる人と比べてメタボリックシンドローム(MetS)、腹部肥満、高血圧症、高脂血症、高血糖のリスクが有意に高いことが、中国・Ningxia Medical UniversityのBowen Yang氏らによって報告された。Nutrients誌2025年10月3日号掲載の報告。 これまで多くの研究で特定の食品や食習慣とMetSとの関連が検討されてきたが、朝食など食事頻度に関するエビデンスは一貫していなかった。そこで研究グループは、一般集団を対象に、朝食を食べない人と食べる人との間でMetSおよびその構成要素(腹部肥満、高血圧症、高脂血症、高血糖など)の発生・有病リスクを比較するシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceをデータベースの開始から2025年4月7日まで検索し、朝食抜きとMetSまたは個々の構成因子のリスクを検討した観察研究(横断研究およびコホート研究)を抽出した。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)はランダム効果モデルで算出した。 主な結果は以下のとおり。・基準を満たす9件の研究(11万8,385人)が解析対象となった。・プール解析により、朝食抜きはMetSおよびその構成要素のリスク上昇と有意に関連していることが示された。ORと95%CIは以下のとおり。 -MetS:1.10(95%CI:1.04~1.17) -腹部肥満:1.17(95%CI:1.01~1.34) -高血圧症:1.21(95%CI:1.10~1.32) -高脂血症:1.13(95%CI:1.04~1.23) -高血糖:1.26(95%CI:1.16~1.37) 研究グループは「朝食を抜くことはMetSおよびその構成要素のリスク増加と関連していた。バランスの取れた朝食を定期的に摂取することは、とくに高リスク集団では心血管代謝疾患の予防と管理のための費用対効果の高い介入の1つとなる可能性がある」とまとめた。

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摂食障害を誘発する9つの薬剤を特定

 摂食障害の誘発因子としての薬剤の影響は、心理社会的影響に比べ、十分に認識されていないのが現状である。中国・南昌大学のLiyun Zheng氏らは、米国食品医薬品局の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、摂食障害と関連する可能性のある薬剤を特定するため、本研究を実施した。Eating Behaviors誌2025年12月号の報告。 2004年1月~2024年12月にFAERSに報告された摂食障害に関連するデータを抽出した。不均衡なシグナルを検出するために報告オッズ比(ROR)を算出し、多重比較の調整にはフィッシャーの正確確率検定とボンフェローニ補正を適用した。100件以上の報告があり、有意な正のシグナル(RORの95%信頼区間下限値が1超、調整済みp値が0.01未満)を示した薬剤をLASSO回帰分析の対象とした。年齢、性別、報告者タイプで調整したロジスティック回帰分析を用いて、誘発因子となる薬剤を特定した。 主な結果は以下のとおり。・2万145件の報告のうち、女性の割合は62.7%であり、年齢中央値は59歳(四分位範囲:42~71歳)であった。・30種類の薬剤において有意な正のシグナルが認められた。・LASSO回帰分析とロジスティック回帰分析により、オクトレオチド、ribociclib、スニチニブ、リバスチグミン、エベロリムス、クエチアピン、パルボシクリブ、エソメプラゾール、プレガバリンを含む9種類の薬剤が潜在的な誘発因子として特定された。 著者らは「これらの薬剤は、とくに中高年層において、潜在的な摂食障害の誘発因子となる可能性が高かった。臨床医は、食欲や体重に影響を与える薬剤、乱用される可能性のある薬剤について、とくに摂食障害患者や高リスク集団においては、有害事象を防ぐためにも注意深くモニタリングする必要がある」と結論付けている。

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がん研有明病院、病床数を削減し、外来機能を拡充

 公益財団法人がん研究会 有明病院(東京都江東区、病床数644床)は、「病院機能・フロア見直しプロジェクト」の第1弾として、5階西病棟の42床を閉鎖し、外来治療センターを移転・拡充した。2025年9月に新センターが稼働を開始し、10月20日には報道向け説明会・見学会が行われた。入院日、稼働率減の一方で、外来化学療法件数は増加 説明会では渡邊 雅之副院長が登壇し、プロジェクトの背景を説明した。「診療報酬の伸び悩み、人件費・薬剤費の上昇などにより、2024年度は4分の3の病院が医業利益で赤字となっている。当院においてもコロナ禍から順調に収支を回復してきたものの、ここ数年の人件費、薬剤・材料費の高騰が大きく響き、2025年度は赤字の見込みとなっている」とした。 同院においては、低侵襲手術の普及などにより平均在院日数は直近の10年間で13日から11日に短縮、病床稼働率も80%台前半まで低下した。一方、外来薬物療法の実施数は約3万件から3万7,000件へ増加、治験の受託件数も約2,800件(2019年)から4,300件(2023年)へと拡大している。渡邊氏は「今後も病床稼働率の改善は見込めない。外来薬物療法の強化を軸とした改革が不可避だ」とし、今回の外来治療センター改修はこの改革の中核施策に位置付けられるものだとした。同フロアに調剤室を配置し、導線を改善 新たな外来治療センターは、これまで1、2階に分散していた外来機能を5階に統合し、延床面積を約620m2から1,073m2へ拡張。リクライニングチェアとベッドの合計数を75床から83床に増やし、個室ブースも整備。患者が快適に過ごせるよう、ゆったりとした待合室と治療後に利用できるパウダーコーナーを新設した。調剤室を地下から同じフロアに移設することで、薬剤師、看護師を中心としたスタッフの動線が短縮し、投与前確認や副作用対応も迅速化したという。 説明会で登壇した副院長・消化器化学療法科部長の山口 研成氏は「免疫チェックポイント阻害薬やADC(抗体薬物複合体)などの新薬が増え、患者の予後が改善される一方で、治療期間は長期化している。副作用対応や多職種連携を行うためには、外来の専用空間をより充実させることが不可欠になっている」と説明。外来化学療法部長の陳 勁松氏も「以前行った当院の調査では、患者さんの63%が外来治療を希望していた。今後も多くの診療科で外来治療件数の増加が予測されており、今回の新治療センターは患者と医療者双方のニーズに合致するものだ」と述べた。2026年春には「トータルケアセンター」も集約 プロジェクト第2弾として、2026年春には2階に「トータルケアセンター」が移設される予定だ。同センターは医療連携部と患者・家族支援部で構成され、地域連携室、がん相談支援センター、就労・サバイバー支援機能などをワンストップで提供し、がん患者の治療から社会復帰までを包括的に支援する体制を整える。 渡邊氏は、「外来薬物療法の拡充は患者の希望にも合致するものだ。しかし、今の診療報酬体系では外来より入院に重きが置かれ、薬剤費の高騰の影響もあって外来診療の採算が見合っていない現状がある。この点は政府に改善を求めつつ、外来主体の医療モデルに転換し、限られた資源の中で持続可能ながん医療を提供していきたい」と述べた。

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手術・TEER非適応の僧帽弁逆流症、経カテーテル僧帽弁置換術が有効/Lancet

 米国・Mayo Clinic College of Medicine and ScienceのMayra E. Guerrero氏らENCIRCLE Trial Executive Committee and Study Investigatorsは、国際的なpivotal試験「ENCIRCLE試験」において、外科手術および経カテーテル的edge-to-edge修復術(TEER)の適応とならない僧帽弁逆流症患者では、SAPIEN M3システム(Edwards Lifesciences製)を用いた新規の経皮・経中隔的なカテーテル僧帽弁置換術(TMVR)により、僧帽弁逆流が効果的に軽減し、合併症や死亡の割合も低下することを示した。Lancet誌オンライン版2025年10月27日号掲載の報告。6ヵ国の前向き単群試験 ENCIRCLE試験は、6ヵ国(米国、カナダ、英国、オランダ、イスラエル、オーストラリア)の56施設で実施した前向き単群試験であり、2020年6月~2023年10月に、外科手術およびTEERが適応でない、症候性の中等度~重度、または重度の僧帽弁逆流症の成人(年齢18歳以上)患者を登録した(Edwards Lifesciencesの助成を受けた)。 主要エンドポイントは、1年後の時点での実際に治療を受けた集団における全死因死亡と心不全による再入院の複合とし、事前に規定した性能目標値(45%)と比較した。1年後の主要エンドポイント推定発生率は25.2% 299例が、SAPIEN M3システムによるTMVRを受けた。年齢中央値は77.0歳(四分位範囲[IQR]:70.0~82.0)で、152例(51%)が男性、147例(49%)が女性と自己申告した。僧帽弁置換術のSociety of Thoracic Surgeonsの予測30日死亡リスクスコアの平均値は6.6%であり、213例(71%)がNYHA心機能分類IIIまたはIVで、左室駆出率中央値は49.5%(IQR:38.7~58.1)だった。 追跡期間中央値は1.4年(IQR:1.0~2.1)であり、30日時の追跡データは283例(95%)で、1年時の追跡データは243例(81%)で得られた。手技に伴う死亡例、左室流出路閉塞による血行動態の悪化例、外科手術への転換例の報告はなかった。 Kaplan-Meier法による1年後の主要エンドポイントの推定発生率は25.2%(95%信頼区間[CI]:20.6~30.6)であり、事前に規定した性能目標値である45%に比べ有意に良好であった(p<0.0001)。1年後の全死因死亡率は13.9%(95%CI:10.4~18.5)、心不全による再入院率は16.7%(12.8~21.6)だった。NYHA心機能分類、QOLも改善 NYHA心機能分類およびQOL(カンザスシティ心筋症質問票の全体の要約スコア[KCCQ-OS])は、30日後には有意な改善が得られ、この効果は1年後も持続していた。また、全例で、1年後に僧帽弁逆流症のクラスの改善が達成された。 左室駆出率中央値は、ベースラインの49.5%から1年後には41.8%となった。1年後の心血管疾患による入院は38.5%であり、1年後の脳卒中の発生率は9.3%、後遺障害を伴う脳卒中の発生率は3.9%であった。 著者は、「これらの知見は、外科手術およびTEERが適応とならない僧帽弁逆流症の治療選択肢として、SAPIEN M3システムを用いた経皮的TMVRの有用性を示すもの」「この新規の経皮的TMVRデバイスは、TEERと同等の手技の安全性を保ちつつ、僧帽弁逆流の持続的な改善効果を示した初めての治療法である」「この方法は、構造的な弁の劣化が生じた場合に再介入が可能であるため、僧帽弁逆流症の生涯管理において重要な役割を担うと期待される」としている。

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隠れ肥満は心筋梗塞や脳卒中リスクを高める

 たとえ健康的な体重であっても、腹部や肝臓の奥深くに脂肪が蓄積すると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが静かに高まる可能性があるようだ。内臓脂肪(visceral adipose tissue;VAT)と、VATほどではないが肝脂肪(hepatic fat;HF)は、頸動脈のアテローム性硬化リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。マクマスター大学(カナダ)保健科学部のSonia Anand氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に10月17日掲載された。 BMIが正常範囲内の人でも、このような隠れ肥満である可能性はある。Anand氏は、「見た目だけで必ずしもVATまたはHFの有無を判断できるわけではない」とマクマスター大学のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「VATやHFは代謝的に活発で危険だ。太り気味でないことが明らかな人でも、この種の脂肪は炎症や動脈損傷と関連している。だからこそ、肥満と心血管リスクの評価方法を見直すことが非常に重要なのだ」と付け加えている。 今回の研究でAnand氏らは、Canadian Alliance for Healthy Hearts and Minds(CAHHM)研究への参加者6,760人(平均年齢57.1歳、女性54.9%)を対象に、VATとHFが、従来の心血管リスク因子の影響を考慮した上でも頸動脈のアテローム性硬化と関連しているかを検討した。参加者は、MRIでVAT量、HF含有量(HFF)、および頸動脈壁の体積(CWV)を測定された。その結果、VAT量が1標準偏差(SD)増加するごとに、CWVは6.16mm3増加することが示されたが、HFFとの関連は認められなかった。 次に、UKバイオバンク参加者2万6,547人(平均年齢54.7歳、女性51.9%)のデータを用いて、この結果の再現性を検討した。UKバイオバンク参加者では、VAT量および肝脂肪量(プロトン密度脂肪分画〔PDFF〕)と超音波で測定した頸動脈内膜中膜厚(CIMT)の関連が評価された。 その結果、VAT量が1SD増加するごとにCIMTは0.016±0.0009mm増加、PDFFが1SD増加するごとにCIMTが0.012±0.0010mm増加することが示された。しかし、心血管リスク因子で調整すると、これらの関連はやや弱まった。 CAHHMとUKバイオバンクを統合した解析では、VATとHFFは、性別を問わず頸動脈の前臨床段階のアテローム性硬化と正の関連があることが示された。ただし、HFFの影響は、VATと比べるとやや弱かった。 論文の筆頭著者であるマクマスター大学健康研究方法論・エビデンス・影響評価学分野のRussell de Souza氏はニュースリリースの中で、「この研究は、コレステロールや血圧といった従来の心血管リスク因子を考慮しても、VATとHFが依然として動脈損傷の一因となっていることを示している」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は、医師がBMIにのみ頼るのではなく、患者の脂肪分布を画像診断に基づいて評価することを検討する必要があることを示している」との見方を示している。また中年成人は、見た目が極端に太っていなくても、隠れた脂肪が健康を害している可能性があることも考慮すべきだと付言している。 なお、米クリーブランド・クリニックは、VATは、活動的な生活、健康的な食事、十分な睡眠、ストレスの軽減、飲酒の制限によって取り除くことができるとしている。

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緑内障リスクがある患者の特定でAIが人間を上回る

 人工知能(AI)は、医師が緑内障のスクリーニングをより広く実施できるようにする手助けとなるかもしれない。新たな研究で、機械学習のアルゴリズムは、訓練された人間の評価者よりも緑内障のリスクがある患者を正確に特定できることが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン眼科学研究所教授のAnthony Khawaja氏らによるこの研究結果は、米国眼科学会議(AAO 2025、10月18〜20日、米オーランド)で発表された。 緑内障は、視神経の乳頭が障害を受けて視野に欠損(盲点の拡大)が生じ、最終的には失明に至る疾患で、多くの場合、眼圧の上昇が原因となる。緑内障は通常、眼圧を下げる点眼薬で治療されるが、手術が必要になることもある。 Khawaja氏は、「緑内障は依然として、世界的に見て回復させることのできない視力喪失の主要な原因の一つである。現状では、緑内障の検査は高額過ぎる。AIソリューションに遺伝的リスクに基づくターゲット設定などの他のアプローチを組み合わせることが、その解決策になると期待している」とニュースリリースの中で述べている。 Khawaja氏らは、人口ベースの大規模コホート研究「EPIC-Norfolk Eye Study」で収集された6,304枚の眼底写真を用いて、機械学習アルゴリズムと人間の評価者との間で、緑内障の重要な指標である垂直Cup/Disc比の評価に対する正確さを比較した。垂直Cup/Disc比とは、視神経乳頭(Disc)に対する視神経乳頭陥凹(Cup)の大きさの割合のことで、値が0.7以上だと緑内障が疑われる。 その結果、機械学習アルゴリズムは緑内障患者を88~90%の確率で正しく識別したのに対し、人間の判定者の場合は79~81%にとどまっていた。ただし、このアルゴリズムは、緑内障確定患者と緑内障の可能性がある患者を区別することはできなかった。 Khawaja氏らは、「研究対象者の中で緑内障が疑われたのはわずか11%であり、これは通常の検査で発見される割合と一致することから、この結果は心強い」と述べている。さらに同氏らは、「眼圧など緑内障リスクの他の指標も考慮に入れることで、精度がさらに向上する可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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都市と地方で違う?高齢者の健康に影響する「歩きやすさ」

 「歩きやすい街」は高齢者に優しいのか?今回、日本全国の高齢者を対象にした調査で、都市と地方でその効果に違いがあることが分かった。地域の歩きやすさ(ウォーカビリティ)は都市部では歩行の増加に寄与する一方、地方部ではウォーカビリティが必ずしも健康にプラスの影響を与えないことがあるという。研究は千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の河口謙二郎氏らによるもので、詳細は9月21日付けで「Health & Place」に掲載された。 高齢化社会では、日常生活空間の環境が高齢者の健康や生活の質に大きな影響を与えることが注目されている。特にウォーカビリティは、歩道や交差点、施設へのアクセスなど複数の要素を含み、身体的活動や心理・社会的健康に関係するとされる。しかし、ウォーカビリティが都市・地方に与える影響の違いや、身体・心理・社会面から総合的に評価した研究は限られる。そうした背景を踏まえ、著者らは、日本の65歳以上の高齢者を対象に、ウォーカビリティと健康・生活関連アウトカムの長期的関連を都市・地方別に分析し、その包括的影響を明らかにすることを目的とした。 解析には、地域在住の65歳以上を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)データベースより、2013年(プレベースライン)、2016年(ベースライン)、2019年(フォローアップ)の3時点で全国18の自治体において実施されたデータを用いた。2013・2016年調査データから不備や異常値を除外し、残った参加者を2019年追跡調査データと連結した「質問票ベースサンプル(2万7,354名)」と、2016~2019年の介護保険データベース(LTCI)と連結した「介護保険ベースサンプル(4万111名)」の2種類の解析サンプルを作成した。ウォーカビリティは、人口密度、最寄りの小売店および公園までの距離、道路密度(1km2あたりの道路の総距離〔m〕)から算出した複合指標を用いて評価した。7つの領域にわたる42のアウトカムについて、都市・地方別に層別した多層回帰モデルで解析し、それぞれの有意性判定に対してボンフェローニ補正(有意水準α=0.0012)を適用した。 都市部では、ボンフェローニ補正後、ウォーカビリティの高い地域ほど歩行時間が増加していることと有意に関連していた(回帰係数β=0.04、95%信頼区間〔CI〕 0.02~0.07、P<0.001)。ボンフェローニ補正後は有意ではないが、ウォーカビリティの高い地域は死亡リスクの低下(リスク比RR=0.87)、抑うつ症状の減少(β=-0.02)、趣味グループ(β=0.03)・スポーツグループ(β=0.03)・外出頻度(β=0.04)の増加とも関連していた。 一方地方では、ボンフェローニ補正後、ウォーカビリティの高い地域は要介護認定(要介護度2以上)の増加(RR=1.20、95%CI 1.06~1.31、P<0.001)、趣味グループ(β=0.04、95%CI 0.02~0.06、P<0.05)、スポーツグループ(β=0.04、95%CI 0.03~0.07、P<0.05)、外出頻度(β=0.07、95%CI 0.04~0.10、P<0.01)の増加、座りがちな生活リスクの増加(RR=1.29、95%CI 1.13~1.47、P<0.001)、互恵性の低下(β=-0.04、95%CI -0.07~-0.02、P<0.001)と有意に関連していた。ボンフェローニ補正後は有意でないが、ウォーカビリティの高い地域は残存天然歯が少ない割合の低下(RR=0.80)、自己評価健康の改善(RR=1.01)、自己申告高血圧の低リスク(RR=0.98)、自己申告の糖尿病(RR=1.05)・脂質異常症(RR=1.08)の減少とも関連していた。また、ウォーカビリティの高い地域と歩行時間増加との関連は認められなかった(β=0.01)。 本研究について著者らは、「ウォーカビリティの高い都市部では、死亡リスクの低下など一貫した利益が認められた。一方、地方では利益と課題が併存しており、趣味などの社会参加は多いものの、要介護認定や孤独感、座りがちな生活のリスクも高かった。これらの結果は、都市部では歩行を中心とした都市設計、地方では交通手段の整備や社会的つながりの促進、活動機会の拡充など、場所に応じた複合的な戦略の重要性を示している」と述べている。

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抗肥満薬としての経口セマグルチド25mgの可能性(解説:住谷哲氏)

 わが国で承認されている抗肥満薬には経口薬としてマジンドール(商品名:サノレックス)、注射薬としてセマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)がある。しかしマジンドールはほとんど使用されていないので実際は2種類の注射薬しかないのが現状である。当然注射薬よりも経口薬のほうがより多くの患者に投与できるので、製薬会社としては抗肥満薬としての経口セマグルチドの承認を目指している。しかし経口セマグルチドの問題点はその吸収に個人差がかなりあることで、その結果として注射薬と比べて有効血中濃度にかなりのばらつきがあることが報告されている1)。 そこで血糖降下薬としての最大投与量である14mgを50mgまで増量して、抗肥満薬としての有効性を検討したOASIS 1試験が2年前にすでに報告されている2)。今回その投与量を25mgまで減量して実施されたのが本試験OASIS 4である。なぜ50mgで製造承認を目指さずに半分の25mgの試験を再度実施したのかの詳細は論文に記載がないので不明であるが、筆者の勝手な想像では50mgではコストがかかり過ぎてビジネスとして成立しなかったからだろうと思われる。 結果は25mgでも抗肥満薬として十分に有効であることが示された。主要評価項目である試験終了時のプラセボと比較した体重減少率は、本試験での経口セマグルチド25mg、OASIS 1での経口セマグルチド50mg、STEP 1試験3)でのセマグルチド注2.4mgはそれぞれ11.4%、12.7%および12.4%でありほとんど差がなかった。安全面でも経口セマグルチド50mgとほぼ同様であったが、OASIS 1で13%の患者に認められた異常感覚(dysesthesia)の発現率は本試験では4.9%と少なかった。 筆者の病院の肥満外来にも地域のクリニックから患者さんが紹介されてくる。しかし、コストの点で抗肥満薬の投与を諦める患者さんも散見される。おそらく近いうちにわが国でも経口セマグルチド25mgが抗肥満薬として承認申請されるだろう。どれほどの薬価になるのかに注目したい。

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第37回 ありふれた転倒が引き起こす「見逃せない頭部外傷」【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)転倒は「ありふれた外傷」ではない! 2)初診時のCT所見が正常でも油断は禁物!3)慢性硬膜下血腫は予後良好とは限らない!【症例】80歳男性。施設職員が部屋を訪れると、ベッド上で普段と様子が異なる状態を発見した。しばらく様子をみていたが、症状が改善しないため、職員の付き添いのもと車椅子で外来を受診した。●受診時のバイタルサイン意識E4V4M5/GCS血圧142/90mmHg脈拍78回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.6℃瞳孔3.5/3mm +/+頭部外傷の現状救急外来では外傷患者を診療する機会が多いですが、その多くは激しい交通事故ではなく、高齢者の自己転倒です。自宅や路上でつまずいて転倒し、体動困難のため受診し、精査の結果、大腿骨近位部骨折と診断される症例は非常に多いと思います。そして、それ以上に多いのが頭部外傷です。外傷症例の約3分の1が頭部外傷であり、とくに75歳以上の高齢者ではその頻度が非常に高いのが現状です1)。高齢者が平地で転倒し、頭部を打撲して救急外来を受診するケースは日常的に見られます。その多くは軽症頭部外傷(Glasgow Coma Scale [GCS]14~15)です。頭部外傷の診療では、Canadian CT Head Rule(CCHR)などを参考に頭部CT検査の必要性を判断することが一般的です。しかし、CCHRはもともと「意識障害、意識消失、健忘を認める症例」を対象としており、それに満たない症例では個別の判断が求められます。わが国ではCT機器が広く普及し、また初療を担当する医師が研修医や非専門医であることも多いため、頭部CT検査が比較的多くオーダーされているのが現状です。もちろん、検査の必要性を常に考慮することは重要ですが、患者自身が画像検査を希望する場合も少なくありません。そのため、「不要だから撮らない」と突き放すよりも、検査の意義や限界を丁寧に説明し、納得のうえで方針を決定することが望ましいといえます。中等症以上の頭部外傷(GCS≦13)*ではCT検査後に入院管理となることが多いですが、軽症頭部外傷の場合には帰宅となるケースが多いでしょう。その際、今後起こり得る合併症として慢性硬膜下血腫(CSDH)の可能性を説明することが多いと思いますが、どのような点を意識して説明しているでしょうか。具体的な数値とともに整理しておきましょう。*わが国では頭部外傷のうちGCS14~15点を軽症頭部外傷と定義しますが、海外では13~15点を軽症と分類しています。軽症頭部外傷後の頭蓋内出血リスクとその経過軽症頭部外傷患者で頭部CT検査を行い、とくに異常所見が認められなかった場合、その後に頭蓋内出血を新たに認めることは、どの程度あるのでしょうか。慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後数週間を経て発症するものと定義されていますが、それより早期に頭蓋内出血を生じる場合があります。外傷直後のCT検査で異常を認めないにもかかわらず、数時間から数日後に新たに出血を呈する病態を「遅発性頭蓋内出血」と呼びます。この遅発性出血の発生率はおおむね0.3%程度であり、発症までの期間は3~5日が一般的な数字です。抗血栓薬服用の有無で発生率に有意差はなく、これらの結果からルーティンの入院や再CT検査は不要とされています2)。一方、初診時に急性硬膜下血腫(ASDH)を認めた患者(平均71.4歳、男性56.7%)では、慢性硬膜下血腫への移行率は約5.5%と報告されています。抗凝固薬の使用や、初回入院時に穿頭ドレナージを受けたか否かは有意な関連を示しませんでした3)。さらに、慢性硬膜下血腫に対して穿頭ドレナージを施行した症例を対象とした解析では、急性硬膜下血腫の約12~13%が慢性硬膜下血腫へ移行していたと報告されています4)。また、慢性硬膜下血腫症例のうち、画像上で急性硬膜下血腫を先行していたものは37%に過ぎず、残り63%は急性期出血を伴わず発生しているとの報告もあります5)。すなわち、初診時の頭部CTで異常を認めない場合、早期に出血を生じることは極めてまれです。しかし、その後に慢性硬膜下血腫へと移行するか否かは、初期血腫量や抗血栓薬使用、基礎疾患などの要因により異なり、経過を丁寧に追わなければ判断が難しいといえるでしょう。慢性硬膜下血腫の実像慢性硬膜下血腫と聞くと、高齢者が頭部外傷後に意識変容や歩行障害を認め来院し、穿頭ドレナージ術を行い帰宅。比較的予後が良い疾患に感じるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?わが国の慢性硬膜下血腫の現状をお伝えしておきましょう。平均年齢は76歳、男性が68%と多くを占めます。70歳以上が78%を占め、とくに80歳代が37%と最多です。90%以上が穿頭ドレナージを受け、開頭術を要したのは1.5%でした6)。意識障害は54%に認められ、加齢とともに頻度が増加します。高齢者の意識障害の原因として脳卒中などを含めた神経救急の割合は20%程度ですが、急性経過の意識障害では慢性硬膜下血腫も重要な鑑別疾患の1つです。高齢化が進むわが国においては、「なんとなく普段と違う」といった訴えであっても、慢性硬膜下血腫を念頭に置く必要があります。もちろん、症状を説明しうる他の原因がある場合には過度に懸念する必要はありませんが、外傷歴がない、あるいは確認できないからといって安易に否定してはいけません。退院時に予後良好(mRS**0~2)であったのは全体の72%にとどまり、すなわち約3割は介助を要する状態です。けっして「予後良好」とは言えず、年齢とともに悪化傾向を示します。自宅退院率は70歳未満では90%以上ですが、80歳代では約30%に低下します6)。**modified Rankin Scale(mRS):脳卒中などの後遺症による日常生活動作の自立度を0~6の7段階で評価するスケールです。0は「症状なし」、6は「死亡」を意味します。1~2は軽度の後遺症で自立生活が可能、3~5は介助を要する段階を示します。最後に「頭部外傷の経過観察は丁寧に」慢性硬膜下血腫は、けっして「軽い病気」ではありません。高齢化の進行とともに、その発症頻度は今後さらに増加していくと考えられます。高齢者は筋力や視力の低下に加え、基礎疾患や多剤内服を抱えていることが多く、転倒リスクが常に存在します。転倒後の対応はもちろん重要ですが、そもそも転倒を防ぐための予防的な取り組みこそが最も効果的です。医療現場では、頭部CT検査の撮影閾値がやや低くなることは止むを得ませんが、受傷機転を丁寧に確認し、CT検査で異常を認めなくても「時間を味方につけた対応」を意識することが大切です。小さな転倒が大きな転帰を左右することがあります。だからこそ、「ありふれた外傷」を軽視せず、経過を丁寧に見守る姿勢が求められます。 1) Shibahashi K, et al. World Neurosurg. 2021;150:e570-e576. 2) Chenoweth JA, et al. JAMA Surg. 2018;153:570-575. 3) Wasfie T, et al. Am Surg. 2022;88:372-375. 4) Liebert A, et al. Neurosurg Rev. 2024;47:247. 5) Edlmann E, et al. J Neurotrauma. 2021;38:2580-2589. 6) Toi H, et al. J Neurosurg. 2018;128:222-228.

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異物除去(9):外耳道異物(2)虫の除去【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q153

異物除去(9):外耳道異物(2)虫の除去Q153山奥の診療所で夜勤のバイト中、生来健康な10歳男児が急患で受診した。主訴は右耳痛と耳鳴で、耳鏡で確認すると小さい蟻が動いている。手元にはオイルやリドカインなどの殺虫できる液体がない。どのように除去しようか。

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第292回 歯の防御の最前線のエナメルを再生させるゲルの臨床試験がまもなく始まる

歯の防御の最前線のエナメルを再生させるゲルの臨床試験がまもなく始まる歯のエナメル質は自ずと回復せず、多くの人が虫歯で痛い思いをします。定期検査で虫歯が見つかることに怯え、歯を再生する治療の実現を願う人は少なくないでしょう。そんな願いを叶えてくれるかもしれないエナメル質修復ゲルが唾液の働きに学んで開発されました1-3)。来年2026年の早くに始まる臨床試験に成功して実用化されれば、エナメル欠損はたいてい元どおりに治るちょっとした切り傷のように手軽に治療できるようになるかもしれません。エナメルは歯の表面を薄く覆っており、脆い内側の層がすり減ったり裂けたりすることや、酸や細菌で損なわれるのを防いでいます。エナメルは防御の最前線を担い、それが破られ始めると虫歯は一気に進行します。エナメルの自然回復は見込めず、フッ素コートや再石灰化液などの今ある治療はせいぜい悪化を食い止めて症状を緩和させるのが関の山です。エナメル欠損などがもたらす歯の病気は世界のおよそ2人に1人を悩ませ、2015年の記録の解析では5,440億ドルもの負担を強いたと推定されています4)。エナメル欠損がたたって歯を失えば糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患を生じやすくもなります。たとえば就労年齢の米国成人を調べた最近の試験では、歯を失うことと複数の持病を有することの関連が示されています5)。ゆえにエナメル欠損を修復する治療が実現すればそれらの慢性疾患をも減らすことに貢献しそうです。脊椎動物の組織の中で最も硬いエナメルは、幼少期にアメロゲニン(amelogenin)タンパク質が形成する秩序立った構造を基礎とします。英国のノッティンガム大学のAlvaro Mata氏らは、アメロゲニンの構造や機能をまねてエナメルの石灰化を促す高分子入りのゲルを開発しました。ゲルはブラッシングしても数週間保たれる薄膜で歯を覆い、穴や割れ目を埋めます。その薄膜が足場の役目を担って溶液中のカルシウムとリン酸を集め、エピタキシャル結晶化と呼ばれる生来と同様の運びで新たなエナメル質が形成されるのを促します。内側の象牙質が顕わになるほど深い穴や割れ目でもエナメル質は作られました3)。10μmにも達する新たなエナメル質はその土台の生来の組織と統合して生来のような構造や特徴を再構築します。研究者によると、エナメルは一週間足らずで形成し始めます。人工的な溶液ではなく、カルシウムとリン酸をもともと含むヒトの唾液を使った検討でもゲルは同様の働きをしました3)。来年早々にヒトを対象とした臨床試験が始まる見込みです2)。Mata氏は同僚のAbshar Hasan氏とともにMintech-Bioという会社を立ち上げており、来年2026年末までに最初の製品を出すつもりです。 参考 1) Hasan A, et al. Nat Commun. 2025;16:9434. 2) New gel restores dental enamel and could revolutionise tooth repair / Eurekalert 3) Cavities could be prevented by a gel that restores tooth enamel / NewScientist 4) Righolt AJ, et al. J Dent Res. 2018;97:501-507. 5) Mohamed SH, et al. Acta Odontol Scand. 2023;81:443-448.

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小細胞肺がん2次治療、タルラタマブの安全性(DeLLphi-304)/ESMO2025

 DLL3を標的とするBiTE製剤タルラタマブの小細胞肺がん(SCLC)2次治療DeLLphi-304試験における、有害事象(AE)の追加分析結果が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法±抗PD-1/PD-L1抗体薬による1次治療を受けたSCLC患者(無症候性の脳転移は治療歴を問わず許容)・試験群(タルラタマブ群):タルラタマブ(1日目に1mg、8・15日目に10mgを点滴静注し、以降は2週間間隔で10mgを点滴静注) 254例・対照群(化学療法群):化学療法(トポテカン、アムルビシン、lurbinectedinのいずれか)※ 255例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[主要な副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、患者報告アウトカム[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など※:日本はアムルビシン 主な結果は以下のとおり。・DeLLphi-304試験において新たな安全性のシグナルは特定されなかった。・タルラタマブ群は化学療法群に比べ、血液毒性および感染症の発生率が低かった。・タルラタマブの治療関連有害事象(TRAE)は多くがGrade1/2で、時間経過とともに発現割合は減少した。・同剤のTRAEで最も多いのものはサイトカイン放出症候群(CRS)であった。CRSの発現は1ヵ月未満56%、1〜3ヵ月3%、3ヵ月超0%でほとんどが1ヵ月未満であった。・CRS発現はサブグループ(PS、年齢、肝転移、脳転移、PD-[L]1投与歴、腫瘍量)間で差はみられなかった。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は6%で認められたが、ほとんどはGrade1/2で、93%が回復した。・神経学的TRAEとして書字障害が23%でみられた。書字障害のほとんどはGrade1/2で、全例回復、投与中止になった症例はなかった。

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統合失調症のステージ別抗精神病薬治療戦略、どう使い分けるべきか

 スイス・ジュネーブ大学のMarco De Pieri氏は、統合失調症における抗精神病薬の戦略的および戦術的な使用について、現在の使用慣行に関する考察を報告した。Discover Mental Health誌2025年9月30日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・抗精神病薬は、統合失調症治療においてきわめて重要なツールであり、幻覚、妄想、思考障害などの精神症状を軽減する。・抗精神病薬は、錐体外路症状や過鎮静を引き起こす可能性があり、長期使用を困難にする。その一方で、急性期の管理には必要不可欠である。・抗精神病薬によるメタボリックシンドロームは、平均寿命短縮の主な因子であるが、短期治療においては、その懸念は最小限である。・抗精神病薬の有効性に関する研究結果はさまざまであり、試行錯誤により使用されている。・メタ解析では、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、amisulprideは、急性期において有効であり、オランザピンやハロペリドールは、統合失調症に伴う興奮状態に有効であることが示唆されている。・経験的な観察では、オランザピンやハロペリドールのような高力価の抗精神病薬は、急性期においてより効果的であり、zuclopenthixolも鎮静作用の点で有用であることが示唆されている。・ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール、ルラシドン、低用量amisulpride、cariprazineは、良好な副作用プロファイルを有し、陰性症状に対して有効である可能性が示唆されている。 統合失調症を再発寛解型の疾患と捉え、急性期と維持期で異なる薬物療法アプローチが必要であると著者は考えている。「初期段階では、症状を迅速にコントロールするため、高用量、高力価、増量しやすい抗精神病薬(例:ハロペリドール、オランザピン、リスペリドン、高用量amisulpride、zuclopenthixol)を使用すべきであり、これを『戦術的』抗精神病薬治療と定義し、急性期症状が落ち着いたら、副作用(メタボリックシンドローム、錐体外路症状、高プロラクチン血症など)リスクが少なく、陰性症状や社会機能に対する効果が期待できる薬剤(例:ブレクスピプラゾール、アリピプラゾール、ルラシドン、低用量amisulpride、cariprazine)に徐々に切り替え、長期的に継続すべきであり、これを『戦略的』抗精神病薬治療と定義できる」としている。このアプローチは、これまでの経験的な観察結果と一致しており、病期に応じた抗精神病薬の使用を通して、統合失調症治療をさらに改善することを目的としている。本アプローチの有効性を検証するためには、さらなる研究が求められる。

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高リスク筋層非浸潤性膀胱がん、デュルバルマブ併用でDFS改善(POTOMAC)/Lancet

 BCG未治療の高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)患者において、BCG導入・維持療法+1年間のデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)の併用は標準治療であるBCG導入・維持療法単独と比較して、無病生存期間(DFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能であることが、ドイツ・Charite Universitatsmedizin BerlinのMaria De Santis氏らPOTOMAC Investigatorsが行った第III相試験「POTOMAC試験」の結果で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年11月8日号に掲載された。3群を比較する国際的な無作為化試験 POTOMAC試験は、日本を含む12ヵ国116施設で実施した非盲検無作為化試験であり、2018年6月~2020年10月に参加者の適格性を評価した(AstraZenecaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、高リスクのNMIBCと診断され、無作為化前の4ヵ月以内に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を受け、3年以内にBCG膀胱内注入療法を受けていない患者1,018例を登録した。高リスク腫瘍の判定は、欧州泌尿器科学会(EAU)の基準に準拠した。 被験者を、デュルバルマブ(1,500mg、4週ごとに静脈内投与、13サイクル)+BCG導入(週1回、6週間)・維持(3、6、12、18、24ヵ月目に、週1回、3回)療法群(339例)、デュルバルマブ+BCG導入療法群(339例)、BCG導入・維持療法群(340例、比較群)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、試験担当医師評価によるDFSとし、ITT集団においてデュルバルマブ+BCG導入・維持療法群と比較群を比較した。DFSは、無作為化から高リスク病変の初回再発または全死因死亡までの期間と定義した(再発前の試験薬の投与中止の有無、他のがん治療薬の投与の有無は問わない)。全生存率には差がない 追跡期間中央値60.7ヵ月(四分位範囲:51.5~66.5)の時点で、DFSのイベントは、比較群で98件(29%)発生したのに対し、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群では67件(20%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.50~0.93、log-rank検定のp=0.015)。 また、デュルバルマブ+BCG導入療法群で発生したDFSのイベントは105件(31%)で、比較群との間に有意差を認めなかった(HR:1.14、95%CI:0.86~1.50、p=0.35)。 この間に、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で41例(12%)、比較群で52例(15%)が死亡し、群間で全生存率に有意差はなかった(0.80、95%CI:0.53~1.20)。両群とも全生存期間中央値には未到達だった。 EORTC QLQ-C30の総健康度/QOLスコアのベースラインからの補正後平均変化量は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群が-7.6(SE 0.79、95%CI:-9.19~-6.07)、比較群は-4.9(0.78、-6.46~-3.41)であり、推定群間差は-2.7(95%CI:-4.85~-0.54)であった。排尿障害が最も高頻度 試験薬の投与を少なくとも1回受けた患者において、Grade3または4の治療関連有害事象は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で336例中71例(21%)、デュルバルマブ+BCG導入療法群で337例中52例(15%)、比較群で339例中13例(4%)に発現した。全群を通じて最も頻度の高い全Gradeの治療関連有害事象は排尿障害(それぞれ33%、18%、32%)であった。 重篤な治療関連有害事象は13%、11%、4%に発現し、治療関連有害事象による死亡例は認めなかった。 治療関連有害事象により試験薬の投与中止に至った患者は、デュルバルマブ+BCG導入・維持療法群で27%、デュルバルマブ+BCG導入療法群で16%、比較群で17%であった。BCGの投与中止に至ったあらゆる原因による有害事象は、それぞれ21%、7%、20%で報告された。 また、免疫介在性有害事象は27%、34%、1%に発生し、ほとんどが軽度で、Grade3または4は8%、8%、<1%だった。 著者は、「これらの結果は、PD-1/PD-L1経路の阻害とBCG膀胱内注入療法の併用が早期膀胱がんのアウトカムを改善するとの仮説を支持する」「デュルバルマブ+BCG導入療法とBCG導入・維持療法の間でDFSに有意差を認めなかったことは、BCG未治療の高リスクNMIBCの治療におけるBCG維持療法の重要性を強調するものである」「本試験の知見は、この患者集団における、デュルバルマブ1年投与とBCG導入・維持療法の併用の、新たな治療選択肢としての可能性を支持する」としている。

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