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「抗生物質ください!」にはどう対応すべき?【もったいない患者対応】第6回

「抗生物質ください!」にはどう対応すべき?登場人物<今回の症例>28歳男性。生来健康今日からの37℃台の発熱、咳嗽、喀痰、咽頭痛あり身体所見上、咽頭の軽度発赤を認める<診察の結果、経過観察で十分な急性上気道炎のようです>やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。抗生物質は風邪には効きませんよ?でも以前、抗生物質を飲んだら次の日にすっきり風邪が治ったことがあったんです。今日は抗生物質をもらいに来たんです。処方してください。…わかりました。では処方しましょうか。【POINT】若くて生来健康な患者さんの、受診当日からの上気道症状と微熱。上気道炎として、まずは対症療法のみで経過観察してもよさそうな症例です。患者さんから抗菌薬の処方を希望された唐廻先生は、それが不要であることを伝えますが、患者さんに強く迫られて根負けしてしまいました。このようなケース、どう対応すればよかったのでしょうか? デメリットをきちんと説明していますか?患者さんのなかには、何か目に見える形で治療してもらわないと満足できない、という方が一定数います。「治療の必要なし。経過観察可能」と判断されると、「医師は何もしてくれなかった」と思ってしまうのです。なかには、今回のケースのように「風邪には抗菌薬が効く」という間違った医学知識を自らの体験から信じている患者さんも多くいます。こういう方に、無治療経過観察が望ましいことはなかなか理解してもらえません。今回の唐廻先生のように、早々と患者さんの希望どおりに対応してしまうほうが医師にとっては楽です。しかし、医学的に不要な治療を患者さんの希望に合わせて行ってしまうと、患者さんに副作用リスクだけを与えることになります。また、必要のない治療を行うことにより、かえって病態が修飾されるので、精査が必要なまれな病気が隠れていたとき、その発見が遅れるリスクもあるでしょう。もちろん、不要な医療行為は医療経済的な観点からも望ましくありません。唐廻先生のように安易に処方せず、まずは治療が不要であることをきちんと説明することが大切です。一方で、十分な説明なしに処方を断ってしまうのも問題です。満足できなかった患者さんは、自分が望む治療を提供してくれるところを探し、結局別の病院を受診するかもしれないからです。これは、患者さんにとって有益とはいえません。では、治療が不要であることをどのように伝えればよいでしょうか?「なぜ処方できないのか」を明確に伝えようまず、医学的根拠を可能な限りわかりやすく伝えるよう努力すべきです。たとえば今回の抗菌薬に関する説明であれば、まず、風邪の原因はほとんどがウイルス感染である。抗菌薬は細菌をやっつける薬であって、ウイルスをやっつける薬ではないので、風邪には効果がないこと抗菌薬には吐き気や下痢、アレルギーのようなリスクがあり、効果が期待できないうえに副作用のリスクだけを負うのは割に合わないことを説明します。あくまでも個人的な意見“ではない”こともポイント次に、「治療は必要ない」という結論が「個人の主観的判断」によって得られたものではなく、ガイドライン上の記載や学会・公的機関の見解、過去の大規模な臨床試験のデータなど、客観的なエビデンスに基づくものであることを伝えるのがよいでしょう。風邪に抗菌薬を使用することは、メリットよりデメリットのほうが圧倒的に大きいため、厚生労働省が発行した「抗微生物薬適正使用の手引き」に「感冒に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されていることをかいつまんで説明する、という形がおすすめです。もっと簡単に説明したい場合は、「近年は○○をするのが一般的です」「〇〇されています」「多くの医師が○○しています」のように、自分の主観“以外”のところに拠り所があるというニュアンスを伝えると効果的です。かかりつけの患者さんなど、長年の付き合いで信頼関係ができている場合とは違って、患者さんが医師と初めて会うときは「目の前の医師を本当に信頼していいだろうか」と不安になるものです。そのため、客観的な知見を拠り所にしたほうが、患者さんは安心する可能性が高いはずです。こうした根拠をわかりやすく説明できるよう、準備しておきましょう。もちろん、風邪から肺炎に発展するなど、本当に抗菌薬が必要な病態に発展する可能性はあります。こうしたケースで、患者さんが「抗菌薬を使用しなかったことが原因ではないか」と疑うことのないよう、今後の見通しや再受診のタイミングを伝えておくことも大切です。点滴やうがい薬も誤解が多い風邪は誰もが何度もかかる病気なので、「こういう風に治したい」という強い希望をもつ患者さんは多いと感じます。たとえば、「風邪は点滴で治る」と思い込んでいる人もいますし、ヨード液(商品名:イソジンなど)のうがい薬が風邪予防につながると信じている人もいます。患者さんにこうした希望がある場合、完全に否定するのではなく、それぞれのデメリットや拠り所となるエビデンスを説明したうえで判断してもらいます。点滴であれば、デメリットとして末梢ルート確保に伴う感染リスクや神経障害などのリスク長時間病院に滞在することによる体調悪化のリスク補液に伴う循環器系への負担をきちんと説明する必要があります。ヨード液については、「ヨード液よりも水うがいのほうが風邪予防や症状の緩和につながる」といった客観的なエビデンス1)があることを説明するとよいでしょう。これでワンランクアップ!やっぱり風邪でしょうか?そうですね。風邪だと思います。そうですか。仕事が忙しくて、風邪をひいている場合じゃないんです。とにかく早く治したいので、抗生物質をください。風邪の原因はほとんどが細菌ではなくウイルスです。抗生物質は細菌をやっつける薬なので、ウイルスをやっつけることはできません※1。風邪に効果は期待できないうえに副作用のリスクもある※2ので、今回は使わないほうがいいと思います。風邪に抗生物質を希望する患者さんが多いので、厚労省からも「風邪に対して抗生物質を使わないことを推奨する」という通達が出ているんですよ※3。抗生物質なしで一旦経過をみませんか※4。もちろん症状が悪化したときは風邪とは異なる別の病気を併発している可能性もありますので、そのときは必ずもう一度受診してくださいね。※1:ここを誤解している患者さんは多い。※2:あくまで患者さんの不利益になることを強調する。※3:客観的な意見を伝えると納得してもらいやすい。※4:一度猶予をもらうのも手。参考1)Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005;29:302-303.

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第213回 新規開業の落とし穴(後編) ドクター・ショッピングのあげく、足専門の重装備クリニックで不正請求を体験して実感した開業のダークサイド

収益がなかなか出ないと不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところもこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLB、サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ 有投手が、5月19日(現地時間)のアトランタ・ブレーブス戦で勝利、日米通算200勝(NPB93勝、MLB107勝)をあげました。7回無失点、奪三振9という好投でした。ダルビッシュ投手といえば、東北高校時代に出場した夏の甲子園では、マウンドで常にイライラしていた姿が印象に残っています。また、北海道日本ハムファイターズに入団直後は、未成年にもかかわらずパチスロ店での喫煙を写真週刊誌に撮られています。“ヤンチャ”なイメージでスタートしたダルビッシュ投手のプロのキャリアですが、20年を経た現在は、身体のケアやトレーニング、栄養管理などに真摯に取り組む“聖人”のイメージが定着しています。パドレスのマイク・シルト監督は200勝をかけた大一番の試合の前、「驚くべき伝説的な節目。自分をしっかりと管理し、準備を怠らない。若い時代からそうやってきたことが報われている。野球にすべてをささげている」と同投手をたたえたそうです。なお、勝利後のインタビューでダルビッシュ投手は、「NHKさん、生中継、大谷くんのやつを止めてまでやってくださっているので、今日はなんとか決めたいという気持ちはありました」と殊勝なことを言ってました。人は成長し、変わる、ということを野球の世界で体現しているダルビッシュ投手。防御率零点台を続けるシカゴ・カブスの今永 昇太投手とともに、今年のオールスターにもぜひ選ばれてほしいと思います。さて、前回は新規開業の最近のトレンドや、金融機関や開業コンサルタント側が新規開業に力を入れる背景、さらには医師側が騙されてしまうケースについて書きました。今回は、大型化・重装備化や、複数医師による開業のダークサイドについて書いてみたいと思います。大型化・重装備化は開業費がかかり、複数医師開業は医師の人件費が2倍、3倍となります。収入は増えますが、支出もその分当然増えます。患者数をこなしてもこなしても収益がなかなか出ないとなると、不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも出てきます。地元の整形外科に愛想を尽かしドクター・ショッピング以下は私の個人的な体験です。昨年の秋、普通にランニングをしていて、突然左足の甲(中足骨)付近に激しい痛みが走りました。ちょっとした不具合ですぐに痛みも消えるだろうと思い、歩いて自宅に帰ったのですが、帰宅してからも歩くと痛く、しかも腫れてきました。これは骨折ではないかと考え、翌日、数年前、四十肩(肩関節周囲炎)のときに一度通った近所の整形外科を受診しました(「第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?」参照)。地元の高齢者がサロン代わりに電気治療に訪れているクラシカルなクリニックで、医師は院長だけです。X線を撮ってもらったのですが、院長は「折れてない。ただの炎症だから、ジクロフェナクと湿布を出しておくね」と、前回同様、今回もなんとも心もとない診療で終わりました。しかし、1週間たっても歩くと痛み、歩きすぎた夕方にはぱんぱんに腫れる状態は改善しませんでした。その後何回かこの整形外科を受診しても、ジクロフェナクと湿布の処方が続くだけです。自分で「中足骨疲労骨折」と見立て、ここの整形外科ではちゃんとした治療は受けられないと考えた私は“ドクター・ショッピング”をしてみることにしました。ネットで「足」専門のクリニックを検索、整形外科医、形成外科医が複数人勤務しており、骨折などの整形外科的疾患はもちろん、リウマチ、足の潰瘍など、総合的に足を診察しているという触れ込みのクリニックを見つけました。サイトを見る限り、きちんと診療してくれそうだったので、受診してみることにしました。ただの骨折疑いなのに治療用インソールを勧められ、初診なのに慢性疼痛疾患管理料も算定そのクリニックは、都心の一等地のビルのワンフロアで診療を行っていました。足専門の診察台、立ったまま足を撮影するX線装置、フットケア室、リハビリ室なども備わっていました。しかし、診察前、待合室で待っていると、ただの骨折疑いで受診しているのに、治療用インソール(足底装具)作成を勧めるパンフレットをいきなり渡されたのには「???」と思いました。また、ある女性の患者が窓口で「再診で来たのですが、私、リハビリもやるんですか?リハビリのことはまだ何も聞いていないのですが」と大声で話しているのも聞こえました。こちらも「???」です。診察前にX線装置で足を撮影、しばらく待ってから40代とおぼしき医師の診察を受けました。ここでも、「明確な骨折は確認できませんが、ちょっとこの部分がおかしいかも」と言われ、「念のためエコーも撮っておきましょう」と超音波検査をその場で受けることになりました。しかし、超音波でも明確な骨折は確認できず(X線で写らないのだからまあそうでしょう)、「とりあえず湿布だけ出しておきます。次回からリハビリもしますので、予約していってください。インソールも考えたほうがいいかもしれません」と言われ、診療は終了しました。X線にも写らない急性期の微小な骨折に過ぎないかもしれないのに、「リハビリ?インソール?」と頭が混乱、「ここは相当な悪徳クリニックかもしれない」と恐れを抱きつつ、再診もリハビリの予約もしないでクリニックを後にしました。ちなみに診療報酬明細書の合計は1,512点。超音波350点は話の流れで受けてしまった私にも非がありますが、初診でかかっただけなのに、なんと慢性疼痛疾患管理料130点も算定されていたのには驚いてしまいました。慢性疼痛疾患管理料は、「変形性膝関節症、筋筋膜性腰痛症等の疼痛を主病とし、疼痛による運動制限を改善する等の目的でマッサージ又は器具等による療法を行った場合に算定することができる」と定められています。骨折による疼痛は対象ではありません。しかも初診でかかっただけなのに慢性疼痛とは。「マッサージ又は器具等による療法」も、もちろん受けていません。これは明らかに不正請求です。保険診療ではリハビリ、自費診療ではインソール作成を患者に勧めるこのクリニック、足を総合的に診察するとうたっているわりに診療はおざなり、検査をたくさん行って、軽症でもリハビリ、インソール作成を患者に勧め、売上を伸ばそうという経営方針のようでした。治療用インソールのパンフレットには、「作成には保険診療で自己負担約5,000円、インソール作成代金で約5万円かかるが、インソール代は健康保険組合に申請することにより自己負担額を差し引いた額(3割自己負担なら7割)が療養費払いとして戻って来るので安価に作れる」と説明されていました。これだけ勧めるのだから、義肢装具会社となんらかのつながりがあるのかもしれません。クリニックのWebサイトを見ると、このクリニックの開業は最近ということではなく、既に10年近くの診療実績があり医療法人化もされていました。さらに、関東圏の医科大学の教授が顧問医師となっていました。私が診療に訪れた日に限ってのことかもしれませんが、外来患者は中高年の女性が多い印象でした。外反母趾やリウマチ足で受診しているのかもしれません。それにしても、強引なリハビリ導入、インソール作成勧奨、慢性疼痛でもないのに慢性疼痛疾患管理料の算定は明らかに異常です。医師やスタッフの多さや、最先端の医療機器導入、一等地でのビル診療の家賃などを理由に、経営者(理事長、もしくはパトロン企業)がそうした診療単価をとにかく上げる診療を無理強いしているのかもしれません。医師、そして医療提供をする側にも患者を食い物にする“悪”はいる私はもちろん良識ある国民なので、このクリニックの情報をGoogleマップの「口コミ」に投稿もしませんでしたし、関東信越厚生局にタレ込んだりもしませんでした。しかし、過剰な診療がこれ以上目立ってくると何らかの対応が取られる可能性もありそうです。私が1日、初診で受診しただけでこれですから……。前回(第212回 新規開業の落とし穴(前編) 診療所の大型化・重装備化、複数医師開業というトレンドの背後にあるもの)には、東 謙二氏の著書からの引用で、「医師をはじめ、医療従事者はほとんどが『性善説』の中で仕事をしているが、世の中には『性悪説』を基本に対処していかないとすぐに騙されてしまう世界もあるのである」と書きましたが、医師、そして医療提供をする側にも知識の少ない患者を食い物にする“悪”はいるということですね。ということで、開業費が高額で月々の返済が多額だったり、診療体制を過剰にするあまり人件費などのランニングコストがかかりすぎたりする場合、医療機関は“不正請求”というダークサイドに陥りがちです。金額の多寡はさておいて、私は患者を騙して、税金が投入されている診療報酬(インソールの療養費払いも)を不正請求するのはとくに罪が重いと思います。皆さんも重々気を付けてください。ところで、「中足骨疲労骨折」と自己診断していた私の左足ですが、これはもう整形外科に行っても仕方ないと考え、「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」でも書いた、近所の零売薬局でロコアテープを購入、自力で治すことにしました。痛みがほとんど消え、歩行に支障がなくなるのに約2ヵ月、長距離歩いても患部が腫れなくなるのに約3ヵ月を要しました。どう考えても「骨折」でした。

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高齢者が住むのに死亡リスクが低いのは持ち家か賃貸か/東京大・千葉大

 私たちの生活で欠かせないものの1つに住宅がある。都市部では、持ち家よりも賃貸住宅が多くなるが、賃貸住宅も民間のもの、公団や公社、都営・市営などの公的賃貸住宅に分かれる。 賃貸住宅居住者は、持ち家居住者よりも社会経済的に不利な立場に置かれる傾向があるにもかかわらず、これまで持ち家居住者と比較した民間と公的賃貸住宅居住者の死亡リスクは不明のままであった。 そこで古賀 千絵氏(東京大学先端科学技術研究センター)と花里 真道氏(千葉大学予防医学センター)からなる研究チームは、9市町村の4万4,007人の高齢者を2010年から約9年間追跡し、居住住宅の種類と死亡リスクの関連を検証した。その結果、持ち家居住者が最も死亡リスクが低く、賃貸住宅の中では公的賃貸住宅に住む高齢者で最も死亡リスクが低いという結果だった。これらの結果はScientific Reports誌2024年3月30日号に掲載された。賃貸住宅に住むなら公的賃貸住宅のほうが死亡リスクは低い 研究グループは、わが国の自立した65歳以上の高齢者を対象としたコホート研究である日本老年学的評価研究(JAGES)を利用し、回答者4万4,007人について、2010~19年まで9年間追跡調査を行い、死亡率を分析した。居住期間は質問票により定義し、死亡率のハザード比の算出はCox回帰モデルを用いた。また、賃貸住宅間の多重検定のためにボンフェローニ補正を用いた。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に全体で1万638例(24.2%)の死亡があった。・持ち家居住者と比較し、すべての賃貸住宅居住者群で死亡リスクが有意に高かった。・人口統計的変数、健康状態、社会的地位、環境で調整した後でも、賃貸住宅居住者の中では公的賃貸住宅に住んでいた人の死亡リスクが最も低かった。・ボンフェローニ補正を用いた賃貸住宅居住者の多重検定では、公的賃貸住宅居住者は民間賃貸住宅居住者よりも死亡リスクが0.80倍(95%信頼区間:0.72~0.89)であることが示された。・公的賃貸住宅居住の高齢者の死亡リスクは持ち家居住者よりも高かったが、このリスクは民間賃貸住宅居住者よりも低かった。 これらの結果から研究グループは「計画的な都市開発に基づく良好な近隣環境が、この結果に寄与した可能性がある。計画的な都市開発がわが国の賃貸住宅居住の高齢者の死亡リスクを低下させる」と考察している。

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日本における統合失調症に対する薬物療法の変化~クロザピン導入前後12年間の調査

 日本における統合失調症に対する精神科薬物療法は、多剤併用療法が行われてきた長い歴史がある。これは、世界的にまれではあるが、依然として重大な問題である。その理由の1つとして、日本では2009年までクロザピンが使用できなかったことが挙げられる。岡山県精神科医療センターの北川 航平氏らは、統合失調症に対する薬物療法がクロザピン導入により、どのように変化したのかを明らかにするため、クロザピン導入前後の12年間にわたる統合失調症に対する精神科薬物療法の変化を調査した。Asian Journal of Psychiatry誌2024年6月号の報告。 岡山県精神科医療センターで統合失調症と診断された入院患者のカルテからレトロスペクティブにデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の投与量は、クロルプロマジン換算で2009年の1276.6mg/日から2020年の613.9mg/日へ減少が認められた。・1日投与量/規定1日投与量(PDD/DDD)は、2009年の3.0から2020年の1.2へ減少していた。・単剤療法の割合は、2009年の24.4%から2020年の74.6%へ増加していた。・岡山精神科医療センターでは、2010年からクロザピンが導入されており、2020年までにクロザピン使用率は、37.3%まで増加が認められた。・4種類以上の抗精神病薬の使用率は、2009年の27.8%から2020年の0.8%へ減少していた。 著者らは、「クロザピン使用率の増加は、抗精神病薬単剤療法を増加させ、多剤併用の改善に寄与しており、統合失調症に対する薬物療法の最適化の促進につながっていた。治療抵抗性統合失調症に対する多剤併用療法をできるだけ少なくするために、日本におけるクロザピン処方をさらに推進すべきである」としている。

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医師の燃え尽き防止、同僚のコーチングは役立つか?

 4月から医師の働き方改革がスタートし、労働時間の制約が強まるなか、医師の仕事における過度なストレスや燃え尽き症候群(バーンアウト)への対策は依然として課題であり、よりエビデンスに基づいたアプローチが求められている。医師がコーチングの訓練を受け、同僚に働きかけることで燃え尽き症候群を予防できるのかを検証した、米国・マサチューセッツ総合病院のStephanie B. Kiser氏らによる研究結果が発表された。JAMA Network Open誌2024年4月12日号掲載の報告。 研究者らは、2021年8月5日~12月1日にMass General Physician Organization(マサチューセッツ総合内科医機構)に所属する医師のうち、希望者を対象とした単一施設無作為化臨床試験を行った。データ解析は2022年2~10月にかけて行われた。 138人の参加者は3ヵ月間にわたってピアコーチによる6回のコーチングセッションを受ける介入群と、心身の健康に関する標準的な組織資源を使う対照群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、Stanford Professional Fulfillment Indexで測定した燃え尽き症候群の発生数であった。副次評価項目は職業的充実感、仕事が個人的関係に及ぼす影響、QOL、仕事への関与度、自己評価などであった。 主な結果は以下のとおり。・登録された医師138人のうち、67人が介入群に、71人が対照群に割り付けられた。参加者の多くが31~60歳(128人[93.0%])、女性(109人[79.0%])、既婚(108人[78.3%])、キャリア初~中期(平均12.0[SD 9.7]年)であった。・介入群のうち、コーチとマッチングした52人が少なくとも1回のコーチングセッションを受けた。セッションの3ヵ月後には、介入群は対照群と比較して、燃え尽き症候群、対人関係の断絶、専門職としての充実感、仕事への関与度において統計的に有意な改善がみられた。・対人関係の断絶は、介入群で平均30.1%減少し、対照群で4.1%増加した(絶対差-0.94、95%信頼区間[CI]:-1.48~-0.41、p=0.001)。・燃え尽き症候群は、介入群で平均21.6%減少し、対照群で2.5%増加した(絶対差-0.79、95%CI:-1.27~-0.32、p=0.001)。・専門職としての充実感は、対照群では変化がなかったのに対し、介入群では10.7%増加した(絶対差0.59、95%CI:0.01~1.16、p=0.046)。・仕事への関与度は、介入群で6.3%増加し、対照群で2.2%減少した(絶対差0.33、95%CI:0.02~0.65、p=0.04)。・自己評価は両群で増加したが、有意差はなかった。 研究者らは、「専門的訓練を受けた仲間による個別コーチングが医師の燃え尽き症候群と対人離脱を減少させ、同時に専門家としての充実感と仕事への関与を向上させる効果的な戦略であることを示している」としている。

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AI耐性HR+進行乳がんへのカピバセルチブ上乗せ、長期的ベネフィット(CAPItello-291)/ESMO BREAST 2024

 第III相CAPItello-291試験において、アロマターゼ阻害薬(AI)耐性のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)進行乳がんに対するフルベストラントへのAKT阻害薬カピバセルチブの追加は、PIK3CA、AKT1、またはPTEN遺伝子変異を有する患者および全体集団において無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが報告されている。米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏は欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で、同試験のPFS2(無作為化から2次治療開始後の増悪または死亡までの期間)およびTFSC(無作為化から最初の化学療法開始または死亡までの期間)のデータを報告した。・対象:閉経前/後の女性もしくは男性のHR+/HER2-の進行乳がん患者(AI投与中/後に再発・進行、進行がんに対して2ライン以下の内分泌療法・1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容、SERD・mTOR阻害薬・PI3K阻害薬・AKT阻害薬の治療歴は不可、HbA1c 8.0%未満)・試験群(capi群):カピバセルチブ(400mg1日2回、4日間投与、3日間休薬)+フルベストラント(500mg) 355例(AKT経路に変異あり:155例)・対照群(プラセボ群):プラセボ+フルベストラント 353例(AKT経路に変異あり:134例)・評価項目:[主要評価項目]全体集団およびAKT経路(PIK3CA、AKT1、PTENのいずれか1つ以上)に変異のある患者集団におけるPFS[主要な副次評価項目]全体集団およびAKT経路に変異のある患者集団における全生存期間(OS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]PFS2[事前規定された探索的評価項目]TFSC 主な結果は以下のとおり。・PFS2およびTFSCについての解析のデータカットオフは2022年8月15日であった。・試験薬の中止後何らかの治療を開始していたのは、全体集団でcapi群67.0% vs.プラセボ群74.8%、AKT経路に変異のある患者集団でcapi群69.0% vs.プラセボ群78.4%であった。化学療法が最も多く(43.1% vs.47.9%、43.2% vs.50.0%)、ホルモン療法(22.3% vs.23.5%、23.9% vs.25.4%)、分子標的治療薬(13.0% vs.18.1%、11.6% vs.21.6%)と続き、両群でバランスがとれていた。・PFS2中央値は、全体集団でcapi群14.7ヵ月vs.プラセボ群12.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.57~0.86)、AKT経路に変異のある患者集団でcapi群15.5ヵ月vs.プラセボ群10.8ヵ月(0.52、0.38~0.71)であった。・TFSC中央値は、全体集団でcapi群11.0ヵ月vs.プラセボ群6.8ヵ月(HR:0.63、95%CI:0.52~0.75)、AKT経路に変異のある患者集団でcapi群11.0ヵ月vs.プラセボ群6.0ヵ月(0.56、0.42~0.74)であった。 Rugo氏は、フルベストラントへのカピバセルチブの追加は、全体集団およびAKT経路に変異のある患者集団においてPFS2を改善し、後治療としての化学療法の開始を遅らせたとし、長期的なベネフィットを示したと結論付けている。

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PSA検査の勧奨は前立腺がん死亡を減らすか?~40万人超・15年間追跡/JAMA

 50~69歳の男性に前立腺特異抗原(PSA)のスクリーニング検査の勧奨を1回行うと、これを行わない通常の診療と比較して、15年後の前立腺がんによる死亡が有意に減少するもののその差はわずかであり、全生存への効果は認めないことが、英国・ブリストル大学のRichard M. Martin氏らが実施した「CAP試験」の2次解析で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2024年5月7日号で報告された。イングランド/ウェールズの573施設のクラスター無作為化試験 本研究では、PSAスクリーニング検査の勧奨から追跡期間中央値10年の時点においては前立腺がん死を抑制しないことが示されており、研究グループは今回、追跡期間中央値15年の結果を報告した(英国王立がん研究基金などの助成を受けた)。 2001年9月~2007年8月に、イングランドとウェールズの573のプライマリケア施設(クラスター)を2つの群に無作為化し、2002年1月~2009年1月までにこれらの施設を受診した年齢50~69歳の男性を解析の対象とした。 介入群では、参加者はPSAスクリーニング検査の勧奨を1回受け、検査でPSA値が3.0~19.9ng/mLの場合は経直腸的超音波ガイド下生検(10コア)を提示された。対照群の参加者は、標準的な管理を受け、PSA検査の勧奨は行われなかった。 主要評価項目(10年時の前立腺がん特異的死亡率)と8つの副次評価項目のうち4つの結果はすでに報告済みであり、今回は、追跡期間中央値15年の時点での前立腺がん特異的死亡率、全死因死亡率、診断時の前立腺がんのステージ(T1/T2、T3、T4/N1/M1)とGleasonグレード(低:Gleasonスコア[GS]≦6、中:GS=7、高:GS≧8)の結果が示された。前立腺がん特異的死亡率、わずか0.09%の差 41万5,357例(平均年齢59.0[SD 5.6]歳)の参加者のうち、今回は40万8,721例(98%)を解析に含めた。介入群が18万9,326例、対照群は21万9,395例だった。 介入群のうち1万2,013例、対照群のうち1万2,958例が前立腺がんの診断を受け、15年累積リスクはそれぞれ7.08%(95%信頼区間[CI]:6.95~7.21)および6.94%(6.82~7.06)であった。 追跡期間中央値15年の時点で、前立腺がんで死亡したのは、対照群が1,451例(0.78%、95%CI:0.73~0.82)であったのに対し、介入群は1,199例(0.69%、0.65~0.73)と有意に少なかった(率比[RR]:0.92、95%CI:0.85~0.99、p=0.03)が、その差はわずか0.09%であった。 また、対照群と比較して、介入群では低グレードの前立腺がん(GS≦6:2.2% vs.1.6%、p<0.001)と限局病変(T1/T2、3.6% vs.3.1%、p<0.001)の検出率が有意に高かったが、中グレード(GS=7)、高グレード(GS≧8)、局所浸潤(T3)、周囲臓器浸潤・遠隔転移(T4/N1/M1)病変の発生率には差を認めなかった。前立腺がん死の0.7%と0.5%が、生検/治療関連 15年時の全死因死亡は、介入群が4万5,084例(23.2%、95%CI:23.0~23.4)、対照群は5万336例(23.3%、23.1~23.5)であり、両群間に有意な差はなかった(RR:0.97、95%CI:0.94~1.01、p=0.11)。 また、前立腺がん死のうち、介入群の8例(0.7%)と対照群の7例(0.5%)が、診断的生検または前立腺がんの治療に関連した有害事象によるものであった。 著者は、「前立腺がんのスクリーニング検査を検討する政策立案者は、前立腺がんの過剰診断や過剰治療に関連する潜在的な有害作用との比較で、このわずかな死亡の減少を考慮する必要がある」としている。

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65歳未満の心房細動患者は想定よりも多い

 心房細動と呼ばれる危険な心臓のリズム障害が中高年に増えつつあることを警告する研究結果が発表された。米ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)で過去10年間に心房細動の治療を受けた患者の4分の1以上が65歳未満であったことが明らかになったという。UPMCの心臓電気生理学者であるAditya Bhonsale氏らによるこの研究結果は、「Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology」に4月22日掲載された。 これは、高齢者以外の患者における心房細動の有病率とされている2%よりはるかに高い数値である。Bhonsale氏は、「循環器医の間では、65歳未満の人に心房細動が生じることはまれであり、発症してもそれほど有害ではないというのが常識である。しかし、それを裏付けるデータはこれまで存在しなかった」と話す。同氏はさらに、「UPMCでは近年、若年の心房細動患者を診察することが増えていることから、これらの患者の実際の臨床経過を理解することに興味があった」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2010年1月から2019年12月までの間にUPMCで心房細動の治療を受けた患者6万7,221人(平均年齢72.4±12.3歳、女性45%)の電子カルテを用いて、65歳未満での心房細動と全死亡リスクとの関連が検討された。対象患者の26%近く(1万7,335人)が65歳未満であり、その大半が男性だった(男性の割合は50歳未満で73%、50〜65歳で66.3%)。 65歳未満の患者には、現喫煙者、肥満、高血圧、糖尿病、心不全、冠動脈疾患、脳卒中の既往歴などの心血管疾患のリスク因子を有している人が多かった。これらの患者の入院理由としては、心房細動、心不全、心筋梗塞が多く、50歳未満では同順で31%、12%、2.7%、50〜65歳では38%、19%、4.7%を占めていた。平均5年超に及ぶ追跡期間中に、50歳未満で204人(6.7%)、50〜65歳で1,880人(13.1%)の計2,084人が死亡していた。 解析の結果、心房細動のない内部患者コホート(91万8,073人)と比べて、心房細動のある65歳未満の患者では死亡リスクの増加が有意であった。死亡のハザード比は、50歳未満の男性で1.49(95%信頼区間1.24〜1.79)、女性で2.40(同1.82〜3.16)、50〜65歳の男性で1.34(同1.26〜1.43)、女性で1.75(同1.60〜1.92)であり(全てP<0.001)、女性のリスクの方がはるかに高いことが示された。 論文の上席著者であるUPMC心血管研究所のSandeep Jain氏は、「本研究で得られた知見が今後、心房細動患者に対する最適な治療法を評価する研究の実施を促すものと期待している」と話している。

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腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効

 予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。

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英語で「それでは始めましょう」は?【1分★医療英語】第131回

第131回 英語で「それでは始めましょう」は?《例文1》Let's get the ball rolling with the test.(それでは、その検査から始めましょう)《例文2》Shall we get the ball rolling with your blood pressure check?(それでは血圧の測定から始めましょうか?)《解説》“Let's get the ball rolling”は、何かのプロセスや活動を始めるときに使われる表現です。直訳すると「ボールを転がし始めましょう」となりますが、そこから転じて、「それでは始めましょう」という意味で用いられます。医療現場においても、診察を始めるとき、検査を開始するとき、治療に取り掛かるときなど、さまざまなシチュエーションでこのフレーズを使うことができます。英語では、具体的な行動に移ることを示唆するために、このような動きを連想させる表現がよく用いられます。たとえば、“Let's kick things off”なども何かを始める際に使える表現です。よりシンプルな“Let’s begin”や“Let’s get started”などでもよいですが、“Let's get the ball rolling”のような少し気の利いたフレーズは親しみやすさも兼ね備えており、コミュニケーションをより円滑にすることに役立ってくれるため、レパートリーに加えておくとよいでしょう。講師紹介

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国内初の1日1回投与の低亜鉛血症治療薬「ジンタス錠25mg/50mg」【最新!DI情報】第15回

国内初の1日1回投与の低亜鉛血症治療薬「ジンタス錠25mg/50mg」今回は、低亜鉛血症治療薬「ヒスチジン亜鉛水和物(商品名:ジンタス錠25mg/50mg、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用で亜鉛補充ができ、亜鉛欠乏による味覚障害、皮膚炎、脱毛、貧血などのさまざまな症状を改善することが期待されています。<効能・効果>低亜鉛血症の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得しました。本剤は、食事などによる亜鉛摂取で十分な効果が期待できない患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および体重30kg以上の小児では、亜鉛として1回50~100mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与します。なお、血清亜鉛濃度や患者の状態により、1日1回150mgを超えない範囲で適宜増減します。<安全性>亜鉛投与による重大な副作用に銅欠乏症(頻度不明)があり、銅欠乏まで進展した場合は貧血、白血球減少などを引き起こす恐れがあります。その他の副作用(1%以上)として、消化器症状(下痢、悪心、腹部不快感)、血清膵酵素(リパーゼ、アミラーゼ)上昇、貧血、浮動性めまいなどがあります。本剤投与中は、定期的(数ヵ月に1回程度)に血清亜鉛、銅、鉄を測定します。<患者さんへの指導例>1.亜鉛不足を改善するには、亜鉛を多く含む食事を積極的に摂取する食事療法が行われますが、不十分な場合には薬で補充します。2.必ず食後に服用してください。3.亜鉛を含むサプリメントや健康食品は摂取しないでください。4.亜鉛により銅の吸収が妨げられ、立ちくらみや歩きにくいなどの副作用が起こることがあります。気になる症状が現れたら、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>亜鉛は300種類以上の酵素の活性化に必要な成分で、主な酵素にはDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、炭酸脱水酵素、アルカリホスファターゼ、アルコール脱水素酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、オルニチントランスカルバミラーゼなどがあります。亜鉛は細胞分裂や核酸代謝などに関わっており、欠乏するとタンパク合成全般が低下し、皮膚炎、脱毛、貧血、味覚障害、発育障害、性腺機能不全、食欲低下、下痢、骨粗鬆症、創傷治癒遅延、易感染性などさまざまな症状を引き起こします。低亜鉛血症では亜鉛含有量の多い食品を積極的に摂取するよう推奨しますが、血清亜鉛値が低い場合、食事からの亜鉛摂取では不十分で亜鉛補充療法が必要です。補充療法には、酢酸亜鉛(商品名:ノベルジン)が使用されますが、亜鉛イオンによる悪心・嘔吐などの消化器系副作用が問題となっています。副作用により酢酸亜鉛製剤が使用できない場合は、ポラプレジンク(同:プロマックD錠)も使用されますが、亜鉛含有量が少ない上に適応外です。本剤は、ヒスチジン亜鉛水和物の錠剤であり、亜鉛イオンと錯体化することで亜鉛の吸収を向上させています。ヒスチジン亜鉛水和物は比較的安定な錯体構造であるため、消化管で解離する亜鉛イオンは無機亜鉛塩よりも少なく、酢酸亜鉛製剤に比べて悪心・嘔吐などの消化器系副作用が軽減されています。また、酢酸亜鉛製剤は通常、成人で1日2回の投与回数ですが、本剤は1日1回投与であり、服薬アドヒアランスの改善が期待できます。低亜鉛血症患者を対象とした国内第III相臨床試験(実薬対照非盲検試験)において、投与開始24週間後までに目標血清亜鉛濃度を8週間維持できた患者の割合は、本剤群で86.4%、酢酸亜鉛群で80.4%でした。両群の割合の差は6.0%(95%信頼区間:-4.2~16.3)で非劣性マージンの-15%を上回っているので、酢酸亜鉛群に対する本剤群の非劣性が示されました。なお、酢酸亜鉛製剤と異なり、現在の適応症は低亜鉛血症のみで、「ウィルソン病(肝レンズ核変性症)」の適応は有していません。

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間違った知識を患者さんに伝える先輩、どうしたらいい…?【Dr.大塚の人生相談】

「2人薬剤師」体制で投薬は先輩薬剤師の担当。たまに、間違った知識を患者さんに伝えているのが聞こえてくるのですが、私より一回り年上のため訂正ができません。どうしたらいいでしょうか。(今回の相談者:ニナさん)ご相談ありがとうございます。先輩の間違いをなかなか指摘できない。患者さんにとって不利益となるような間違いなのに、先輩との関係性を考えて言い出しにくい。わかります。ものすごくわかります。ぼくもこういう状況が苦手です。うまく言い出せず、めちゃくちゃモヤモヤします。まず、なぜ先輩の間違いを訂正できないのか……。自分のこととして考えて分析してみます。たとえば、一回り年上の先輩と家族のような関係だった場合、それほどストレスなく間違いを指摘できるはず。父親が相手だったら、ぼくは間違いを指摘できそうです。我が家の愚息は今年大学生になりましたが、彼があなたの立場で、私が先輩上司だった場合、愚息は容赦なくぼくの間違いを指摘してきます。なんなら、「アホちゃうか」のおまけまでつきそうです。そんな血気盛んな息子でも、部活の先輩相手には、ぼくほどキツく言えないはずです。ちなみに、ぼくは基本コミュ障で息子は陽キャなので、彼には間違いを指摘できなくてモヤモヤすることはなさそうですが……。うちの家庭事情はさておき、先輩の間違いをやんわり訂正できない問題に頭を悩ますのは、あなたは(ぼくも)真面目で他人の気持ちを思いやれる人間であるからだと思っています。そう思わないと生きづらいです。おそらくあなたも、日常生活で誰の害にもならない些細な間違いまで訂正したいと思わないでしょう。患者さんにとって不利益になる間違いだからこそ、真面目で優しいあなたは心を痛めているのだと思います。先輩の間違いに目を瞑ってしまっては、あなたの薬剤師の矜持が許さない。多くのプロが同じように思うはずです。ただ、こういうときにモヤモヤだけして、なにも前に進まないのは良くないと思います。あなたもそう思っているから相談してきたんですよね。きっと同じような状況がこの先も訪れるはずです。あなたなりに、先輩を傷つけないような間違いの訂正方法を見つけるのが良いと思います。ちなみに、ぼくなら、「ほかの人が同じような間違いをしたかのように」先輩に話を振ります。「そういえばこの前、後輩の薬剤師が〇〇のような間違いをしていて……」なんて、雑談っぽく話してみます。先輩は、あなたの話を聞いてドキッとするかもしれませんし、反論するかもしれません。もし反論してくれたのなら、しめたもの。しっかりとエビデンスを出して、丁寧に先輩と向き合って話せばいいのです。言い出すまでが怖いのであって、話してみれば案外すんなりいくかも知れません。勇気を振り絞るまでのストレスは大変なものですが、患者さんのためにもぜひ一歩を踏み出してください。

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巻貝を食べて救急搬送、何が原因?【これって「食」中毒?】第1回

今回の症例年齢・性別52歳・男性患者情報飲酒や喫煙歴はない。多発性嚢胞腎による末期腎不全で1年前から週3回の維持透析を施行されていた。東北地方の市場で「真ツブ」や「青ツブ」と表示された巻貝を購入し、自宅の台所で殻付きのまま網の上で炭火焼きにして10個ほど食べた。およそ30分後より激しい頭痛や嘔気が出現した。また、めまい、ふらつき、四肢の脱力により座位の保持が困難となった。横になって様子をみていたが、複視や呼吸困難が出現したため、救命救急センターに搬送された。初診時は気道開通、呼吸数16/分、SpO298%(経鼻カニューラ、酸素1L/分)、血圧158/96 mmHg、心拍数64bpm(整)、意識レベルJCS 10、体温36.4℃であった。呼びかけに開眼し、激しい頭痛、嘔気、めまい、複視、呼吸困難を訴えた。四肢の筋力は低下し、下肢の深部腱反射は減弱していた。検査値・画像所見動脈血ガス(経鼻カニューラ、酸素1L/分)ではpH7.32、PaCO2 48.4mmHg、PaO2 88.4mmHgと軽度の呼吸性アシドーシスを認めた。また、COHb2.4%であった。末梢血および生化学検査所見は慢性腎不全に矛盾しないものであった。頭部CTおよびMRIでは急性期病変を認めなかった。問題

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第215回 高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見

高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見肥満ががんの進展を促すことに寄与しているらしい腸内細菌を中国の研究チームが発見しました。乳がんの新たな治療手段を導く可能性を秘めたその結果によると、高脂肪食はマウスの腸のデスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の細菌を増やし、それが免疫系を抑制してがんの増殖が亢進します。研究成果は中国の広東省の広州にある病院(SunYat-Sen Memorial Hospital)の乳がん外科医Erwei Song氏らの手によるもので、今月始めにPNAS誌に掲載されました1)。Song氏らは、BMI値が高い肥満の乳がん患者の生存率が低いことをまず確認したうえで、乳がん患者の腸内細菌の検討を始めました。同病院の治療開始前の乳がん患者61例の検体を調べたところ、肥満の目安としたBMI値24以上の女性の腸にはBMI値が24未満の女性に比べてデスルホビブリオ細菌がより多く認められました。続いてマウスを使ってデスルホビブリオ細菌とがんを関連付けうる仕組みが調べられました。ヒトの肥満を模すものとしてしばしば使われる高脂肪食マウスには肥満の乳がん女性と同様にデスルホビブリオ細菌が多く、免疫系を抑制することで知られる骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加も認められました。よってデスルホビブリオ細菌が多いことと免疫系の抑制は関連すると示唆され、どうやらその関連にアミノ酸の1つであるロイシンが寄与していることが続く検討で示されました。高脂肪食マウスの腸内微生物叢はロイシンを多く放ち、血中にはロイシンが多く巡っていました。そのロイシンがmTORC1経路を活性化してMDSCの生成を誘うことが突き止められ、デスルホビブリオ細菌を死なす抗菌薬をマウスに投与したところ、ロイシンとMDSCのどちらも正常水準に落ち着きました。ヒトでもどうやら同様なことが乳がん患者から採取した血液検体の検討で示唆されました。その検討の結果、BMI値が24以上の肥満水準であることは高脂肪食マウスと同様にロイシンやMDSCがより多いことと関連しました。以上の結果によると高脂肪食の恩恵にあずかるデスルホビブリオ細菌のせいでロイシンが過剰に作られ、その結果MDSCが急増して免疫系が抑制されてがんの増殖が許されてしまうようです。腸の細菌は地域や食事によって異なり、腸内細菌研究の結果は調べた集団が違うと一致しないことがよくあります2)。よって今回と同様の仕組みが他の集団でも認められるかどうかを今後調べる必要があります。もし高脂肪食が招くがんの進行にデスルホビブリオ細菌を発端とする免疫抑制が確かに関連しているなら、その経路を断ち切る新たな乳がん治療の道が開けそうです。参考1)Chen J, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2306776121.2)Gut microbes linked to fatty diet drive tumour growth / Nature

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遺伝子分析とアンケートを組み合わせた日本人うつ病患者の特徴分析

 うつ病は、さまざまな環境的因子や遺伝的因子の影響を受け発症する、気分障害を特徴とする一般的な精神疾患であるが、その病因は、ほとんどわかっていない。ヤンセンファーマのRyo Takano氏らは、日本人うつ病患者のリスク因子を特定するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年7月号の報告。 対象は、東北メディカル・バンク機構が2021年12月までに募集した2つのコホート参加者(人口ベースコホート、3世代コホート)。社会人口統計学的因子、ライフスタイル、併存疾患、遺伝的因子に焦点を当て、自己申告によるうつ病のプロファイリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・日本人うつ病患者は、日本にまん延している特定の社会文化的特徴、たとえば社会的孤立、神経症、内向性などや年齢や性別などの既知のリスク因子とよく関連していることが明らかとなった。・コホートの特徴として考えられる東日本大震災と関連した環境的因子も、うつ病発症と強い関連が認められた。・全ゲノム配列データのGWAS解析では、日本人のうつ病と関連する染色体21および22に位置する新規の遺伝的リスク変異の候補が特定されたが、これらのリスクバリアントのさらなる検証が求められる。・本研究の限界として、うつ病の評価に自己申告アンケートを使用した点(臨床的関連性との不明確さ)、コホート人口の偏りが認められた点(男性よりも女性の割合が多い)が挙げられる。 著者らは、「日本人のうつ病と関連するいくつかのリスク因子が特定された。日本人のうつ病に対処するうえで、対象を絞った介入と個別アプローチが重要であることが裏付けられた」としている。

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BiTE抗体tarlatamab、進行・再発の進展型小細胞肺がんに申請/アムジェン

 アムジェンはデルタ様リガンド3(DLL3)を標的とするBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体tarlatamabについて、進行・再発の進展型小細胞肺(ED-SCLC)を予定の効能又は効果として、日本国内で製造販売承認申請を行った。 小細胞肺がん(SCLC)は肺がんの約15%を占め、世界で毎年33万例超が新規に診断されている。SCLCは最も悪性度が高い固形がんの1つで、増殖速度が非常に早く早期に転移する。5年相対生存率(全Stage)は10%未満と予後不良である。ED-SCLCに対する現行の1次治療の奏効率は60〜70%と比較的良好だが、ほとんどの症例で治療耐性が生じ、治療後1年以内に再発を認める。 DLL3は85〜96%のSCLCの腫瘍細胞表面に発現する一方、正常細胞での発現はごくわずかであることから、SCLCに対する有望な治療標的とされている。tarlatamabはT細胞上のCD3とSCLC細胞上のDLL3に結合する新規のBiTE抗体であり、T細胞をSCLC細胞に誘導してがん細胞を溶解する。 tarlatamabの申請は、プラチナ併用化学療法後の進行・再発のED-SCLCを対象にした第II相国際多施設共同非盲検DeLLphi-301試験から得られた結果に基づき行ったもの。DeLLphi-301試験では、2ライン以上の前治療が無効であった進行SCLC患者に対して40%の奏効率を示した。主な治験関連有害事象はサイトカイン放出症候群(52〜55%)、発熱(31〜37%)および味覚異常(22〜26%)で、有害事象による投与中止は3〜4%に認められた。 tarlatamabは、2023年12月に米国食品医薬品局(FDA)の優先審査(Priority Review)に指定され、2024年2月9日に厚生労働省から希少疾病用医薬品の指定を受けている。

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T-DM1既治療のHER2+進行乳がん、T-DXdの3年OS率は?(DESTINY-Breast02)/ESMO BREAST 2024

 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)治療歴のあるHER2+の切除不能または転移を有する乳がん患者に対する、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast02試験の全生存期間(OS)を含む最新の解析結果を、韓国・Asan Medical CenterのSung-Bae Kim氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2024、5月15~17日)で報告した。 DESTINY-Breast02試験の一次解析(データカットオフ:2022年6月30日)において、T-DXd群(3週間間隔で5.4mg/kg、406例)では、TPC群(トラスツズマブ+カペシタビンまたはラパチニブ+カペシタビン、202例)と比較して、無増悪生存期間(PFS)およびOSを統計学的に有意に改善した。今回の発表では、2023年9月29日をデータカットオフ日とする追跡期間中央値26.8ヵ月における最新の有効性と安全性の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・今回のデータカットオフ時点の追跡期間中央値は、T-DXd群30.2ヵ月(範囲:0.8~60.7)、TPC群20.5ヵ月(0.0~60.6)であった。・OS中央値は、T-DXd群35.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:30.9~40.8)、TPC群25.0ヵ月(20.4~31.5)で、ハザード比(HR)は0.69(0.55~0.88)であった。24ヵ月OS率はそれぞれ64.6%(59.6~69.2)および51.9%(44.4~58.9)、36ヵ月OS率はそれぞれ49.2%(44.0~54.3)および36.6%(29.5~43.8)であった。・治験医師判定によるPFS中央値は、T-DXd群16.7ヵ月(95%CI:14.7~19.6)、TPC群5.5ヵ月(4.4~6.8)で、HRは0.30(0.24~0.37)であった。・治験医師判定による奏効率(ORR)は、T-DXd群74.1%(CRは8.6%)、TPC群27.2%(2.0%)であった。奏効期間中央値はそれぞれ19.1ヵ月(95%CI:15.2~25.1)、6.3ヵ月(5.1~8.1)であった。・治療関連有害事象(TRAE)はT-DXd群99.8%(うちGrade3以上が55.4%)、TPC群94.9%(44.6%)に発現した。T-DXd群の主なTRAEは、悪心(72.5%)、倦怠感(62.4%)、嘔吐(38.1%)であった。・T-DXdによる薬剤性間質性肺疾患/肺臓炎は404例中46例(11.4%)に発現し、一次解析のデータカットオフ以降の発現は4例(Grade1が2例、Grade2が2例)であった。

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ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

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抗菌薬は咳の持続期間や重症度の軽減に効果なし

 咳の治療薬として医師により抗菌薬が処方されることがある。しかし、たとえ細菌感染が原因で生じた咳であっても、抗菌薬により咳の重症度や持続期間は軽減しない可能性が新たな研究で明らかにされた。米ジョージタウン大学医学部家庭医学分野教授のDaniel Merenstein氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of General Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Merenstein氏は、「咳の原因である下気道感染症は悪化して危険な状態になることがあり、罹患者の3%から5%は肺炎に苦しめられる」と説明する。同氏は、「しかし、全ての患者が初診時にレントゲン検査を受けられるわけではない。それが、臨床医がいまだに患者に細菌感染の証拠がないにもかかわらず抗菌薬を処方し続けている理由なのかもしれない」とジョージタウン大学のニュースリリースの中で述べている。 今回の研究では、咳または下気道感染症に一致する症状を理由に米国のプライマリケア施設または急病診療所を受診した患者718人のデータを用いて、抗菌薬の使用が下気道感染症の罹患期間や重症度に及ぼす影響を検討した。データには、対象患者の人口統計学的属性や併存疾患、症状、48種類の呼吸器病原体(ウイルス、細菌)に関するPCR検査の結果が含まれていた。 ベースライン時に対象患者の29%が抗菌薬を、7%が抗ウイルス薬を処方されていた。最も頻繁に処方されていた抗菌薬は、アモキシシリン/クラブラン酸、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリンであった。このような抗菌薬を処方された患者とされなかった患者を比較した結果、抗菌薬に咳の持続期間や重症度を軽減する効果は認められないことが示された。 研究グループはさらに、検査で細菌感染が確認された患者を対象に、抗菌薬を使用した場合と使用しなかった場合での転帰を比較した。その結果、下気道感染症が治癒するまでの期間は両群とも約17日間であったことが判明した。 研究グループは、「抗菌薬の過剰使用は、危険な細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するリスクを高める」との懸念を示す。論文の上席著者である米ジョージア大学公衆衛生学部教授のMark Ebell氏は、「医師は、下気道感染症の中に細菌性下気道感染症が占める割合を知ってはいるが、おそらくは過大評価しているのだろう。また、ウイルス感染と細菌感染を区別する自身の能力についても過大評価していると思われる」と話す。 一方、Merenstein氏は、「この研究は、咳に関するさらなる研究の必要性を強調するものだ。咳が深刻な問題の指標になり得ることは分かっている。咳は、外来受診の理由として最も多く、年間の受診件数は、外来では約300万件、救急外来では約400万件以上に上る」と話す。その上で同氏は、「重篤な咳の症状とその適切な治療法は、おそらくはランダム化比較試験によりもっと詳しく研究される必要がある。なぜなら、今回の研究は観察研究であり、また、2012年頃からこの問題を研究したランダム化比較試験は実施されていないからだ」と述べている。

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