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インフルエンザなどの気道感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染が主であると考えられている。接触による感染の伝播防止には手洗いが有効であり、新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミック期には、世界保健機関(WHO)は手洗いを推奨した。手洗いの教育がもたらす感染予防効果について、小児を対象とした質の高い研究があるものの、非貧困地域における成人を対象とした質の高い研究は、今まで存在しなかった。 本研究は、インターネットを介した手洗いの奨励が、気道感染症をどれくらい防止できるかを検討した無作為化比較試験である。イギリスのgeneral practitioner(GP)の患者リストから、年齢18歳以上、同居家族が1人以上いる者を抽出し、ウェブベースの介入を受ける介入群(1万40例)と、受けない対照群(1万26例)に割り付けた。ウェブベースのセッションは週1回×4週実施され、インフルエンザの重要性や手洗いの役割に関する情報提供が行われた。また、手洗い行動の動機付け、モニタリング、個人へのフィードバックなども行われた。プライマリアウトカムは、16週の追跡調査を完了した参加者の気道感染症の発症件数とした。 16週の追跡調査を完了したのは、1万6,908例(介入群8,241例、対照群8,667例)だった。16週間後、介入群の51%(4,242例)で1回以上の気道感染症発症の報告があったのに対し、対照群では59%(5,135例)であり、介入群で有意に感染予防効果を認めた(多変量リスク比:0.86、95%信頼区間:0.83~0.89、p<0.0001)。同居者の気道感染症、インフルエンザ様疾患、消化管感染症の発症数も、介入群で有意に抑制された。また、介入により同居者からの感染も抑制された。 本研究では、インターネットによる手洗いの奨励によって手洗いの回数が増加し、結果として気道感染症の発症を抑制できることが示された。統計学的有意差が得られたのは、試験登録者数の多さによるところが大きいと思われるが、気道感染症の感染予防に対する手洗いの重要性を再認識できる結果である。 先進国においては、インターネットへのアクセスは容易であり、多くの人が情報収集の手段として利用している。感染予防の啓発や研究の手段として、インターネットの利用は有用であると考える。