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ヘパリン増量では対応できない重症新型コロナウイルス感染症(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染に対して1~2年前よりは医療サイドの対策は進んでいる。肺を守るステロイド、ECMOなどは状況に応じて広く使用されるようになった。しかし、血栓性合併症についての十分な治療が確立されていない。われわれの経験した過去の多くの血栓症ではヘパリンが有効であった。ヘパリンは内因性のアンチトロンビンIIIの構造を変換して効果を発揮するので、人体に凝固系が確立されたころから調節系として作用していたと想定される。心筋梗塞、不安定狭心症、静脈血栓症など多くの血栓症にヘパリンは有効であった。ヘパリンの有効性、安全性については重層的な臨床エビデンスがある。ヘパリンを使えない血栓症は免疫性ヘパリン惹起血小板減少・血栓症くらいであった。 重症の新型コロナウイルス感染症では、わらにもすがる思いで治療量のヘパリンを使用した。しかし、治療量と予防量のヘパリンを比較する本研究は1,098例を登録したところで中止された。最初から治療量のヘパリンを使用しても生存退院は増えず、ECMOなどの必要期間も変化しなかった。 新型コロナウイルス肺炎が注目された当初、ECMO症例の予後改善の一因にヘパリン投与の寄与が示唆された。本試験は治療量のヘパリンへの期待を打ち砕いた。 本研究は比較的軽症の新型コロナウイルス感染症に対する予防量、治療量のヘパリンのランダム化比較試験と同時に発表された。筆者の友人のHugo ten Cate博士が両論文を包括して「Surviving Covid-19 with Heparin?」というeditorialを書いている。Hugo ten Cate博士が指摘するように、重症化した新型コロナウイルス感染では免疫、細胞、など凝固系以外の因子が複雑に関与した血栓になっているのであろう。早期の血栓にはそれなりに有効なヘパリンも複雑系による血栓には無力であるとの彼の考えは、揺らぎの時期とpoint of no returnを超えた時期を有する生命現象の本質を突いていると思う。

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「メインテート」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第63回

第63回 「メインテート」の名称の由来は?販売名メインテート錠0.625mgメインテート錠2.5mgメインテート錠5mg一般名(和名[命名法])ビソプロロールフマル酸塩(JAN)効能又は効果本態性高血圧症(軽症~中等症)狭心症心室性期外収縮次の状態で、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬、利尿薬、ジギタリス製剤等の基礎治療を受けている患者虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全頻脈性心房細動用法及び用量(1)本態性高血圧症(軽症~中等症)、狭心症、心室性期外収縮通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、5 mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。(2)虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、1日1回0.625mg経口投与から開始する。1日1回0.625mgの用量で2週間以上経口投与し、忍容性がある場合には、1日1回1.25mgに増量する。その後忍容性がある場合には、4週間以上の間隔で忍容性をみながら段階的に増量し、忍容性がない場合は減量する。用量の増減は1回投与量を0.625、1.25、2.5、3.75又は5mgとして必ず段階的に行い、いずれの用量においても、1日1回経口投与とする。通常、維持量として1日1回1.25~5mgを経口投与する。なお、年齢、症状により、開始用量は更に低用量に、増量幅は更に小さくしてもよい。また、患者の本剤に対する反応性により、維持量は適宜増減するが、最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。(3)頻脈性心房細動通常、成人にはビソプロロールフマル酸塩として、1日1回2.5mg経口投与から開始し、効果が不十分な場合には1日1回5mgに増量する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日1回5mgを超えないこと。警告内容とその理由1.慢性心不全患者に使用する場合には、慢性心不全治療の経験が十分にある医師のもとで使用すること。2.慢性心不全患者に使用する場合には、投与初期及び増量時に症状が悪化することに注意し、慎重に用量調節を行うこと。禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)1.高度の徐脈(著しい洞性徐脈)、房室ブロック(II、III度)、洞房ブロック、洞不全症候群のある患者〔症状を悪化させるおそれがある。〕2.糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者〔アシドーシスに基づく心収縮力の抑制を増強させるおそれがある。〕3.心原性ショックのある患者〔心機能が抑制され、症状を悪化させるおそれがある。〕4.肺高血圧による右心不全のある患者〔心機能が抑制され、症状を悪化させるおそれがある。〕5.強心薬又は血管拡張薬を静脈内投与する必要のある心不全患者〔心収縮力抑制作用により、心不全が悪化するおそれがある。〕6.非代償性の心不全患者〔心収縮力抑制作用により、心不全が悪化するおそれがある。〕7.重度の末梢循環障害のある患者(壊疽等) 〔末梢血管の拡張を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。〕8.未治療の褐色細胞腫の患者9.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人10.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年8月4日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2013年9月改訂(第12版)医薬品インタビューフォーム「メインテート®錠0.625mg/錠2.5mg/錠5mg」2)田辺三菱製薬:Medical View Pont

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心筋梗塞非責任病変治療においてFFRは有用なガイドか?(解説:上田恭敬氏)

 責任病変のPCIに成功したSTEMI症例で、狭窄度50%以上の非責任病変を有する症例を対象として、非責任病変に対するPCIをアンジオガイドで行うかFFRガイドで行うかの2群に無作為に割り付け、1年間の全死亡、心筋梗塞、入院を伴う緊急血行再建術施行の複合エンドポイントを主要評価項目として、フランスの41病院で実施された多施設研究であるFLOWER-MI試験の結果が報告された。 アンジオガイド群に581症例、FFRガイド群に590症例が割り付けられた。主要評価項目の発生は、アンジオガイド群で4.2%、FFRガイド群で5.5%に認められ、群間に差を認めなかった。全死亡は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で1.5%に認めた。心筋梗塞は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で3.1%に認めた。入院を伴う緊急血行再建術施行は、アンジオガイド群で1.9%、FFRガイド群で2.6%に認めた。 FFRガイド群では、FFR≦0.8の場合にPCIの施行が推奨された。いずれの群においても、完全血行再建が推奨された。対象となる非責任病変の中で、実際にPCIが行われた病変の割合は、アンジオガイド群で90.5%、FFRガイド群で55.7%であった。 統計的に有意な差を認めない本試験の結果からは、アンジオガイドとFFRガイドのいずれが優れているかを結論することはできない。 憶測の域を出ない話にはなるが、本試験のKM曲線において、6ヵ月頃からFFRガイド群でのイベントが増加しているように見え、FFRガイドでPCIされずにdeferされた病変からのイベントが後に増えてきている可能性があると、著者らも指摘している。統計的に有意な差ではないが、心筋梗塞の頻度が3.1%対1.7%とFFRガイド群で多くなっている点も同様に気になるところである。イベントがPCIされた病変からのものか、deferされた病変からのものか、その他の病変からのものかといった情報が欠けている点においても、より深い考察をするための資料として不十分である。 PRAMI試験においては、preventive PCIという概念が提唱され、中等度狭窄病変に対してPCIを施行することで、心筋梗塞の発症が有意に減少している。FFRでdeferした場合のイベント発生頻度が、病変不安定性が高いと考えられるACS症例で、安定狭心症症例よりも高率であることも報告されている。心筋梗塞の発症をFFRで予測することは論理的にも不可能であり、LRP試験でNIRSがイベント予測に有用であったように、「虚血の評価」に加えて「病変不安定性の評価」が重要と思われる。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 循環器

第1回 イントロダクション第2回 急性冠症候群第3回 安定狭心症第4回 末梢動脈疾患・大動脈疾患第5回 不整脈と心電図(1)第6回 不整脈と心電図(2)第7回 心不全・心筋症 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。循環器については、慶應義塾大学循環器内科の香坂俊先生が全7回のレクチャーをします。薬剤とカテーテルインターベンションのどちらも進歩がめざましい循環器。心電図で疾患を素早く見極めるだけでなく、適切な治療を選ぶ力が問われます。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 イントロダクション香坂俊先生が解説する循環器。第1回はシリーズの導入として、問題を解く際に注目すべきキーワードや、2020年現在のタイムリーなトピックを紹介。「労作時に失神」「吸気時に増悪」など、具体的なシチュエーションから疾患のパターンを絞り込み。カテーテルの進歩によって治療できるようになった疾患も頻出です。エコーやCTなど画像から判断する問題の対策も万全に。静止画からイメージしにくい疾患について、動画で心臓の動きを確認します。第2回 急性冠症候群第2回では急性冠症候群(ACS)を取り上げます。まず基本はST上昇型の心筋梗塞。どの誘導のSTが上昇しているかで、心臓のどこに心筋梗塞が起きているかを判断。特徴的な心電図のパターンもよく狙われます。交互脈、PQ低下、巨大陰性T波、aVR誘導でのST上昇など、日常の診療であまり見られない心電図のパターンと、対応する疾患の組み合わせを確認します。薬剤の禁忌と、PCIの合併症の予防策も押さえます。第3回 安定狭心症第3回は、安定狭心症について解説します。治療選択において、バイパス手術かPCIのどちらを行うかの判断は、SYNTAX試験のスコアが決め手。安定狭心症は経過観察できる疾患なので、至適薬物療法(OMT)の導入も極めて重要です。近年、薬剤のエビデンスの蓄積により、投与期間短縮や、併用から単剤使用への変化が見られます。最新のトピックとして、薬剤による保存的治療と血行再建治療を比較したISCHEMIA試験の結果にも注目です。第4回 末梢動脈疾患・大動脈疾患第4回は、冠動脈以外の動脈硬化性疾患。以前は閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれていましたが、最近では、大動脈・頸動脈・腎動脈などを含む、心臓よりも末梢の動脈疾患を、末梢動脈疾患(PAD)と呼びます。冠動脈で行われてきたインターベンションが、ほかの血管にも応用できるようになりました。ただし、冠動脈の治療と微妙に違う部分に要注意。大動脈瘤、大動脈解離について、ステントグラフト内挿術の適応基準を押さえます。第5回 不整脈と心電図(1)循環器の試験で最大の山場となる不整脈。今回は頻脈性の上室性不整脈のポイントを押さえます。不整脈はマクロリエントリー型とミクロリエントリー型に分類。発作性上室性頻拍(PSVT)は薬でコントロール。ただし、WPW症候群合併時の対応は異なるので要注意。PSVTと心房粗動(AF)は、アブレーションの奏効率も非常に良好です。近年、新しい凝固薬が注目されている心房細動(AF)。凝固薬の適応判断はCHADS2スコアを使います。第6回 不整脈と心電図(2)第6回で取り上げるのは、徐脈性不整脈と心室性不整脈。徐脈性不整脈で肝心なのは、まずP波を見つけること。洞不全症候群(SSS)、房室ブロック(A-V block)などの特徴的な波形を確認します。失神や突然死につながる危険な心室性不整脈は、誘因となる所見の見分け方がよく問われます。QT延長、Brugada波形、J波症候群に要注意。心不全と関連する、心臓のイオンチャネルの変異によって起こるチャネル病についても確認しておきましょう。第7回 心不全・心筋症第7回は心不全と心筋症。試験では主に難治性の心筋症が問われる傾向があります。薬剤、手術、カテーテルそれぞれの治療法の適応基準を確認。心臓サルコイドーシスはPET検査による精度の高い診断で、より早期から治療可能に。慢性心不全は複数の薬剤の併用が課題です。左脚ブロックはペースメーカーによる再同期療法の適応となる数値をチェック。最後に循環器のセッションのまとめとして、香坂先生から試験攻略の秘訣をアドバイス。

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「シグマート」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第54回

第54回 「シグマート」の名称の由来は?販売名シグマート®錠2.5mgシグマート®錠5mg※シグマート注は錠剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください一般名(和名[命名法])ニコランジル(JAN)効能又は効果狭心症用法及び用量ニコランジルとして、通常、成人1日量15mgを3回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)(次の患者には投与しないこと)ホスホジエステラーゼ 5 阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者※本内容は2021年6月2日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年2月改訂(第11版)医薬品インタビューフォーム「シグマート®錠2.5mg・5mg」2)PLUS CHUGAI:製品・安全性

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PCI後のDAPT終了後、クロピドグレル単剤が有効/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)として薬剤溶出ステント(DES)留置術を施行され、6~18ヵ月の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を受けた後、抗血小板薬単剤による長期の維持療法を要する患者において、クロピドグレルはアスピリンと比較して、死亡や血栓性疾患、出血を含む複合エンドポイントのリスクが低いことが、韓国・ソウル大学病院のBon-Kwon Koo氏らが実施した「HOST-EXAM試験」で示された。Lancet誌オンライン版2021年5月16日号掲載の報告。韓国37施設の非盲検無作為化試験 本研究は、韓国の37施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2014年3月~2018年5月の期間に患者登録が行われた(韓国・ChongKunDangなどの助成による)。 対象は、年齢20歳以上、DESによるPCI施行後に、臨床的イベントを発症することなく6~18ヵ月のDAPTを終了した患者であった。虚血性および大出血性の合併症を有する患者は除外された。 被験者は、長期維持療法期の抗血小板薬単剤療法として、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)の経口投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。投与期間は24ヵ月間であった。 主要エンドポイントは、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群(ACS)による再入院、BARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3以上の複合とされ、intention-to-treat解析が行われた。血栓関連エンドポイントや全出血も良好 5,530例が登録され、このうち5,438例(98.3%)が無作為化の対象となった。クロピドグレル群に2,710例(49.8%)、アスピリン群に2,728例(50.2%)が割り付けられた。主要エンドポイントの確認は5,338例(98.2%)で完了した。 全体の平均年齢は63.5(SD 10.7)歳で、74.5%が男性であった。PCI施行時の診断名の割合は、安定狭心症が25.5%、不安定狭心症が35.5%、非ST上昇型心筋梗塞が19.4%、ST上昇型心筋梗塞が17.2%だった。 24ヵ月の追跡期間における主要エンドポイントの発生は、クロピドグレル群が152例(5.7%)と、アスピリン群の207例(7.7%)に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.59~0.90、p=0.0035)。 血栓関連複合エンドポイント(心臓死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、ACSによる再入院、ステント血栓症[definite/probable])の発生は、クロピドグレル群が99例(3.7%)、アスピリン群は146例(5.5%)で(HR:0.68、95%CI:0.52~0.87、p=0.0028)、全出血(BARCタイプ2以上)の発生は、それぞれ61例(2.3%)および87例(3.3%)であり(0.70、0.51~0.98、p=0.036)、いずれも有意な差が認められた。 著者は、「これまでの研究で、PCI施行後の長期維持療法期にどの抗血小板薬単剤療法が最良の臨床結果をもたらすかに関して重要な仮説が提起されてきたが、DESによるPCI施行後の安定した同質の患者集団を対象とした今回の研究により、大規模な無作為化試験で初めてこれらの知見を確認することができた」としている。

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「ハーセプチン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第50回

第50回 「ハーセプチン」の名称の由来は?販売名ハ-セプチン®注射用60 ハ-セプチン®注射用150一般名(和名[命名法])トラスツズマブ(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果○HER2過剰発現が確認された乳癌○HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌用法及び用量HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法又はB法を使用する。HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。A法:通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。B法:通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。警告内容とその理由1.本剤を含むがん化学療法は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ実施すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。2.心不全等の重篤な心障害があらわれ、死亡に至った例も報告されているので、必ず本剤投与開始前には、患者の心機能を確認すること。また、本剤投与中は適宜心機能検査(心エコー等)を行い患者の状態(左室駆出率[LVEF]の変動を含む)を十分に観察すること。特に以下の患者については、心機能検査(心エコー等)を頻回に行うこと。アントラサイクリン系薬剤を投与中の患者又はその前治療歴のある患者胸部へ放射線を照射中の患者心不全症状のある患者冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症等)の患者又はその既往歴のある患者高血圧症の患者又はその既往歴のある患者3.本剤投与中又は本剤投与開始後24時間以内に多くあらわれるInfusion reactionのうち、アナフィラキシー、肺障害等の重篤な副作用(気管支痙攣、重度の血圧低下、急性呼吸促迫症候群等)が発現し死亡に至った例が報告されている。これらの副作用は、特に安静時呼吸困難(肺転移、循環器疾患等による)のある患者又はその既往歴のある患者において重篤化しやすいので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年5月5日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年8月改訂(第24版)医薬品インタビューフォーム「ハ-セプチン®注射用60・ハ-セプチン®注射用150」2)PULS CHUGAI:製品・安全性

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高度狭窄なくても脆弱なプラークを持つ脆弱な患者を近赤外分光法‐血管内超音波検査で同定できる(解説:佐田政隆氏)-1373

 急性心筋梗塞の発症原因として、軽度な狭窄しか来さない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞が注目されている。破綻した病変では、脂質コアの増大、被膜の菲薄化、平滑筋細胞数の減少などが認められる。しかしプラーク不安定化の機序などに関しては不明な点が多く、急性冠症候群の発症を予知することは困難であった。 バイオマーカーとして高感度CRP、ペントラキシン3などが急性冠症候群の発症を予測する因子となることが報告されているが特異度が十分とはいえない。一方、冠動脈CT、血管内超音波、MRI、OCT(光干渉断層撮影)など不安定プラークを検出するイメージング技術は開発されてきたが、いまだゴールデンスタンダードとなる方法が存在しないのが現状であった。 本論文は、新しいイメージングモダリティである近赤外分光法‐血管内超音波検査(NIRS-IVUS)を用いた解析で、血管内腔の狭窄を伴わなくても、心血管イベントを起こしそうな「脆弱なプラークを持った脆弱な患者」を同定できたという画期的な研究成果である。NIRSは、近赤外線光を測定対象に照射し、吸光度の変化によって成分を算出する方法である。この近赤外分光法と従来の血管内超音波検査を併せたイメージング法がNIRS-IVUSで、米国のInfraredx社によって開発された。今までの血管内イメージングと違い、NIRSはreal timeに即座にプラークの性状を診断することが可能であり、臨床医学的意義が大きい。 本研究では、北欧の急性心筋梗塞患者898人を対象にして、3,629ヵ所の治療していない非責任病変がNIRS-IVUSでプラークの脂質含量とプラーク断面積が計測され、経過観察が行われた。4年間で被験者898人のうち13.2%の患者で心血管イベント(心不全・心筋梗塞・不安定狭心症・進行性狭心症)が発生したが、そのうちなんと半数以上の8.0%は未治療非責任病変が原因であった。そして、NIRS-IVUSで判定した高度脂質含有プラークと大きなプラークの存在は、非責任病変由来のイベント発症の独立した予測因子であった。 2019年11月の米国心臓病学会で「安定狭心症で中等度以上の心筋虚血が証明された症例に対して、経皮的冠動脈インターベンション治療(PCI)や冠動脈バイパス手術(CABG)などを行った血行再建群と薬物治療のみの保存的治療群で長期予後に差はなかった」というISCHEMIA試験の結果が発表され、循環器内科医、心臓外科医に、大きな衝撃をもたらしたことは記憶に新しい。虚血に関与する高度狭窄病変に血行再建術を施した後、狭窄を来すことはなくても急性冠症候群を起こす可能性の高い脆弱な病変をNIRS-IVUSで同定して、適切な積極的薬物療法を施すことでPCI、CABGの長期予後を改善することができると期待される。

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ハイリスク非責任病変の識別に、NIRS-IVUSが有望/Lancet

 近赤外分光法血管内超音波検査(NIRS-IVUS)で検出した高脂質性で大きなプラークを伴う非閉塞性病変は、将来的な有害心イベントリスク増大を検出することが示された。スウェーデン・ルンド大学のDavid Erlinge氏らが、直近の心筋梗塞患者898例を対象に行った多施設共同前向き自然経過試験「PROSPECT II」の結果を報告した。NIRS-IVUSは、冠動脈関連イベントを引き起こす可能性がある非閉塞性プラークの特定に有望とされる画像診断法である。研究グループは、その検出力が将来的な主要心血管イベント(MACE)のリスクを有する患者を特定しうるのか検討した。Lancet誌2021年3月13日号掲載の報告。発症4週間以内の心筋梗塞患者を対象に試験 PROSPECT IIは、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの14大学病院と2コミュニティー病院で、年齢を問わず直近(4週間以内)に心筋梗塞を発症した患者を集めて行われた。血流制限を認めるすべての冠動脈病変を治療後、3枝冠動脈に対しNIRS-IVUSを行った。IVUSで未治療病変(非責任病変)を識別し、NIRSで脂質量を評価した。 主要アウトカムは、未治療非責任病変に起因する共変量補正後のMACE(心臓死、心筋梗塞、不安定狭心症、進行性狭心症のいずれか)発生率とした。 脂質量の多いプラーク、大プラーク部位、血管内腔が狭い部位と、各部位のイベント発生との関連を検証した。高脂質病変は被験者の59%で検出 2014年6月10日~2017年12月20日に、被験者898例(年齢中央値63歳[IQR:55~70]、女性17%)を対象に試験を開始した。検出した未治療非責任病変は計3,629病変、追跡期間中央値は3.7年(IQR:3.0~4.4)だった。 4年間で被験者898例のうち112例(13.2%、95%信頼区間[CI]:11.0~15.6)にMACEが発生し、66例(8.0%)は検出された78の未治療非責任病変に起因したMACEだった。 高脂質病変(患者520/884例[59%]で851/3,500病変[24%])は、患者レベルの非責任病変関連MACE(補正後オッズ比[OR]:2.27、95%CI:1.25~4.13)、および非責任病変特異的MACE(7.83、4.12~14.89)の独立予測因子だった。大プラーク(患者530/898例[59%]で787/3,629病変[22%])も、非責任病変関連MACEの独立予測因子だった。 IVUSで大プラークを検出し、NIRSで大脂質リッチコアを認めた病変の4年間非責任病変関連MACE発生率は、7.0%(95%CI:4.0~10.0)だった。こうした病変が1つ以上認められた患者では、4年間非責任病変関連MACE発生率は、13.2%(9.4~17.6)だった。

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「エフィエント」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第44回

第44回 「エフィエント」の名称の由来は?販売名エフィエント®錠 2.5mg エフィエント®錠 3.75mg エフィエント®錠 5mg エフィエント®錠 20mg エフィエント® OD錠 20mg一般名(和名[命名法])プラスグレル塩酸塩(JAN)効能又は効果経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される下記の虚血性心疾患○急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)○安定狭心症、陳旧性心筋梗塞用法及び用量通常、成人には、投与開始日にプラスグレルとして20mgを1日1回経口投与し、その後、維持用量として1日1回3.75mgを経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.出血している患者(血友病、頭蓋内出血、消化管出血、尿路出血、喀血、硝子体出血等)[出血を助長するおそれがある。] 2.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年3月24日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年3月改定(第13版)医薬品インタビューフォーム「エフィエント®錠2.5mg・エフィエント®錠3.75mg・エフィエント®錠5mg・エフィエント®錠20mg /エフィエント® OD錠20mg」2)第一三共MedicaL Library:製品一覧

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スタチンの「不必要な」無作為化試験、中国で2千件超/BMJ

 中国で、冠動脈疾患に対するスタチン使用が臨床ガイドラインで強く推奨され始めた翌年以降に、スタチンの効果を検証するとして実施された不必要な(redundant)無作為化比較試験は2,000件超で、これら試験の被験者で対照群に割り付けられ、スタチンを服用しなかった被験者で発生した主要有害心イベント(MACE)は3,000例以上で、うち死亡が約600例だった。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のYuanxi Jia氏らが、2019年までに発表された冠動脈疾患に対するスタチンの無作為化比較試験を再調査し、明らかにした。不必要な臨床試験は資源を浪費し、とくにプラセボ対照試験の設定では、効果的な治療が受けられない患者に害を及ぼす可能性がある。科学出版物の最大の生産国となっている中国本土での臨床試験については、その必要性が深刻な課題になっていることが懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「患者を保護するため不必要な臨床試験を改める早急な改革が必要だ」とまとめている。BMJ誌2021年2月2日号掲載の報告。ガイドライン推奨後2008年以降の試験について検証 研究グループは、中国本土で冠動脈疾患患者を対象に行われたスタチンを評価する不必要な臨床試験を特定し、それらの試験でスタチン治療が行われなかった患者が経験した過剰なMACE発生件数を推定するため断面調査を行った。 2019年12月までの文献データベースを検索し、中国本土で冠動脈疾患の患者を対象に行った、スタチンとプラセボまたは無治療を比較した2,577件の無作為化試験について分析を行った。被験者総数は25万810例で、冠動脈疾患の種別は問わなかった。 「不必要な臨床試験」の定義は、スタチン使用が臨床ガイドラインで強く推奨され始めた翌年2008年以降に、臨床試験が継続中または開始された試験とした。 主要アウトカムは、不必要な臨床試験の被験者で対照群に割り付けられ、スタチン治療を受けられなかったことにより発生した過剰なMACEの発生数、すなわちスタチンを服用していれば回避可能だった過剰なMACEの発生数だった。 また、スタチンの効果の統計的有意性が示された時点を確認するため、累積メタ解析も実施した。回避可能だったMACEは3,470例、死亡は559例 2008~19年に発表された「不必要な臨床試験」は2,045件で、対照群の被験者総数は10万1,486例、スタチン非投与は2万4,638人年だった。 報告された過剰なMACEは、3,470例(95%信頼区間[CI]:3,230~3,619)だった。 内訳をみると、死亡559例(95%CI:506~612)、心筋梗塞の新規発症または再発973例(897~1,052)、脳卒中161例(132~190)、血行再建術83例(58~105)、心不全398例(352~448)、狭心症の再発または悪化1,197例(1,110~1,282)、およびその他のMACEが99例(69~129)だった。

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肺がん放射線、左前下行枝照射量と心臓有害事象の関係/JAMA Oncol

 放射線療法が冠動脈疾患(CHD)のリスクを高めることは知られているが、胸部への照射が避けられない肺がんではどうすべきか。米国・ダナ・ファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院のKatelyn M. Atkins氏らは、最適な心臓線量の制限がCHDの既往の有無で異なる可能性があることを明らかにした。著者は、「心臓リスクの層別化と積極的なリスク軽減戦略を改善するために、今回示された制限についてさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2020年12月17日号掲載の報告。 研究グループは、2003年12月1日~2014年1月27日に、ハーバード大学の関連病院で胸部放射線療法を受けた局所進行非小細胞肺がん患者701例を対象に、後ろ向きコホート研究を実施した。データの解析は、2019年1月12日~2020年7月22日に行われた。 心臓構造は手動で描写し、放射線療法の線量パラメータ(平均値、最大値、5Gy刻みで特定線量を受ける体積[V、%])を計算し、MACE(不安定狭心症、心不全による入院または救急受診、心筋梗塞、冠動脈血行再建術および心臓死)を推算し、ROC曲線およびカットポイント分析を行った。CHDの既往の有無およびその他の予後因子について、Fine-GrayおよびCox回帰分析により補正を行った。主要評価項目は、MACEおよび全死因死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、701例中356例(50.8%)が男性、年齢中央値が65歳であった。・構造別の放射線療法の線量の最適なカットポイント(C-index最高値)は、左前下行枝(LAD)冠動脈がV15Gy 10%以上(0.64)、左回旋枝がV15Gy 14%以上(0.64)、左心室がV15Gy 1%以上(0.64)で、冠動脈への総線量平均値は7Gy以上(0.62)であった。・ベースラインのCHDの状態およびその他の予後因子について調整すると、LADのV15Gy 10%以上照射が、MACE(補正後ハザード比[HR]:13.90、95%信頼区間[CI]:1.23~157.21、p=0.03)、および全死因死亡(1.58、1.09~2.29、p=0.02)のリスク増大と関連していた。・CHDなしの患者では、LAD V15Gy 10%以上(4.9% vs.0%)、左回旋枝V15Gy 14%以上(5.2% vs.0.7%)、左心室V15Gy 1%以上(5.0% vs.0.4%)、および冠動脈への総線量平均値7Gy以上(4.8% vs.0%)は、1年MACEの増加と関連していた(すべてのp≦0.001)。・一方、CHDありの患者では、左心室V15Gy 1%以上(8.4% vs 4.1%、p=0.046)のみで1年MACEのリスクが増加した。・CHDなしの患者では、LAD V15Gy 10%以上照射(51.2% vs.42.2%、p=0.009)、および冠動脈への総線量平均値7Gy以上照射(53.2% vs.40.0%、p=0.01)において、2年全死因死亡率が増大した。

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有害事象にも目をやり、もう一歩進めたPCI適応に関する考察(解説:野間重孝氏)-1332

 評者自身がそうであったのだが、察するに多くの方々が果たしてこの論文のどこが新しくてJAMA誌に掲載されるに至ったのだろうかと、当初いぶかしく思われたのではないだろうか。FFRによって患者を選別することにより、虚血が証明された虚血例と虚血が証明されない非虚血例では血管インターベンション(PCI)の成績が異なり、虚血例では予後改善効果が期待できるのに対して、非虚血例ではそのような結果が期待できない。だから医学的側面からも、対費用効果の側面からもFFRを用いた患者の選別は有効であるということは、すでに結論の出た問題として扱われるべきだと考えられているからだ。この論文の新しい点は、こういう観点から一歩進んで、非虚血例に対してPCIを行うことは効果がないばかりではなく、有害であることを示唆したことにある。 わが国においても、米国におけるAUC(Appropriate Use Criteria)の導入を受け、2018年4月の診療報酬改定で安定狭心症に対する保険算定要件が変わった。従来は安定狭心症であっても一方向からの造影で75%以上の狭窄が認められれば算定されたものが、新たに機能的虚血診断が義務付けられた。この改定は、わが国において大きな意味を持っていた。海外では圧倒的に緊急PCIが多いのに対し、わが国では緊急PCIは15%程度で、85%が安定狭心症に対するものだったからだ。この改定によってそれまで3割程度にしか施行されていなかった虚血評価が急速に普及した。その結果わかってきたことは、一方向で90%に見える狭窄の場合でも機能的虚血評価では陰性を示す例もあれば、50%程度にしか見えなくとも陽性を示す例があるということで、PCIの適応の判断は“見た目”ではできないということだった。実際、日本心血管インターベンション治療学会が2012年から行ってきたCVIT-DEFER registryにおいて、血管造影上の狭窄の程度とFFR計測結果にはミスマッチがあることが明らかにされている。 この領域におけるランドマーク研究としてはDEFER研究、FAME研究、FAME2研究の3つが挙げられる。この論文評は総論ではないので、各研究の詳細について紹介することは控えるが、いずれの研究においても細目は異なるものの、FFR値が一定値以上を示す非虚血群とそれ以下の虚血群に割り付けがなされ、それぞれの群内でさらにPCIが行われた群と行われなかった群に分けられ、その予後が長期フォローされた。これら一連の研究によって、虚血群では心事故の発生頻度の低下が見られるのに対し、非虚血群では効果が見られないことが証明された。これらの結果から対費用効果についても論じられ、非虚血群に対してPCIを行うことは医学的に意味がないばかりでなく、医療経済的に不利益をもたらすことが示された。 こうした研究の背景には、多くの研究により、冠動脈バイパス術(CABG)が虚血性心疾患患者の予後改善をもたらすのに対し、PCIは急性心筋虚血例に対して施行されたものは予後の改善をもたらすものの、安定した虚血性心疾患の予後改善効果はCABGに劣るとする結果が提出され、これに対して反論を試みたいというアンジオグラファーたちの熱意があった。近年の考え方としては、機能的に虚血の存在がはっきり証明された症例において行われるPCIの予後改善効果はCABGに劣るものではないという考えが大勢を占めるに至っている。ただし、意地の悪い言い方をすれば、これは今まで必要のないPCIが多数行われてきたということも意味する。では、非虚血例に対して本来は必要がないPCIを施行するとどうなるのか。その視点で行われたのが本研究である。 これまでの研究では、非虚血例に対するPCIは予後改善をもたらさないという点にとどまっていた。本研究はそれから一歩進んで、非虚血例にたいするPCIは心事故の発生頻度を上げる、つまり、有害であるという結論を提出した。確かに“治療行為”というのは、見方を変えれば血管に傷を付ける行為でもある。であるとするならば、必要のない傷害は避けられるべきだという考え方には説得力がある。 はじめに述べたように、わが国においては安定狭心症に対するPCI施行例が圧倒的多数を占めている。本研究の提示した問題は、わが国においてこそ大いに研究されるべきテーマではないだろうか。予後改善というプラスの側面にばかり注目するのではなく、有害事象の発生というマイナスの側面に注目した研究が行われる必要があることを示したという点で、意義深い研究であったと評価できる。

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高用量オメガ3脂肪酸、高リスク患者のMACE発生を抑制せず/JAMA

 スタチン治療中の心血管高リスクの患者において、通常治療に加えてのEPAとDHAのカルボン酸製剤(オメガ-3CA)の摂取はコーン油摂取と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)の複合アウトカムの発生に有意差はなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のStephen J. Nicholls氏らが多施設共同二重盲検無作為化試験「STRENGTH試験」の結果を報告した。EPAとDHAのオメガ-3脂肪酸が心血管リスクを抑制するかは明らかになっていない。一方で、オメガ-3CAはアテローム性脂質異常症や心血管高リスクの患者の脂質および炎症マーカーに対して好ましい効果があることが文書化されていた。著者は、「今回の結果は、MACE抑制を目的とした高リスク患者でのオメガ-3CAの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月15日号掲載の報告。22ヵ国のスタチン治療中患者を対象に、コーン油と比較 オメガ-3CAまたはコーン油摂取について比較した試験は、北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの22ヵ国・675の大学または地域病院で、スタチン治療中で心血管リスクが高く、高トリグリセライド血症およびHDLコレステロール(HDL-C)が低値の患者を対象に行われた。2014年10月30日~2017年6月14日に登録が行われ、試験は2020年1月8日に終了、最終患者の受診は2020年5月14日であった。 被験者は、スタチン等の通常の治療に加えて、4g/日のオメガ-3CAを摂取する群(6,539例)または不活性比較群として機能することを目的としたコーン油を摂取する群(6,539例)に、無作為に割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠動脈血行再建術・入院を要した不安定狭心症の複合(MACE)であった。有益性の可能性が見込めず試験は早期に中止 1,384例の患者に主要エンドポイントのイベントが発生した時点(計画では1,600件)で行われた中間解析の結果、オメガ-3CAがコーン油よりも臨床的有益性を認める可能性は低いことが示され、試験は早期に中止となった。 治療中であった1万3,078例の患者(平均年齢62.5[SD 9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、LDL-C中央値75.0mg/dL、トリグリセライド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/dL)において、1万2,633例(96.6%)が主要エンドポイント発生に関する試験を完了した。 主要エンドポイントの発生は、オメガ-3CA群785例(12.0%)、コーン油群795例(12.2%)であった(ハザード比[HR]:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.09]、p=0.84)。 消化器系の有害事象の発現が、オメガ-3CA群(24.7%)でコーン油群(14.7%)よりも高頻度に観察された。

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FFR閾値を順守したPCI実施でアウトカム改善/JAMA

 日常診療で1枝血管の血流予備量比(FFR)測定を受けた冠動脈疾患患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施は実施しない場合と比較し、FFR閾値から虚血性病変と判定された患者で主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が低く、非虚血性病変と判定された患者では同イベントの発生率が高いことと有意に関連していた。カナダ・トロント大学のManeesh Sud氏らによる検討の結果で示された。FFRは、冠動脈狭窄が心筋虚血を誘発する可能性を評価し、PCIの適応を判定するために用いられる侵襲的検査である。しかし、PCIの適応に関するFFRの閾値が日常的な介入診療で順守されているか、あるいは閾値の順守が良好な臨床アウトカムと関連しているかはわかっていなかった。著者は、「今回の解析結果は、エビデンスに基づくFFR閾値に従ったPCIの実施を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月13日号掲載の報告。虚血性(FFR≦0.80)vs.非虚血性(FFR>0.80)、PCI実施有無のMACE発生を比較 研究グループは、2013年4月1日~2018年3月31日の期間に、カナダ・オンタリオ州で1枝のFFR評価を受けた冠動脈疾患成人患者(ST上昇型心筋梗塞を除く)を対象に、後ろ向き多施設コホート研究を実施した(2019年3月31日まで追跡)。 FFR閾値に基づき2つのコホートに分け(虚血性≦0.80、非虚血性>0.80)、治療選択のバイアスを考慮して傾向スコアのIPTW(逆確率治療重み付け)法を用い、MACE(死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、または緊急冠動脈血行再建術)に関してPCIありとPCIなしを比較した。虚血性コホート、PCIありはなしより5年アウトカムが有意に良好 解析対象は全体で9,106例(平均[±SD]年齢65±10.6歳、女性35.3%)であった。虚血性FFRコホートは2,693例で、このうち75.3%がPCIを受け、24.7%は内科的治療のみであった。このコホートでは、PCIありはPCIなしと比較して5年後のMACE発生率およびハザード比(HR)が有意に低かった(31.5% vs.39.1%、HR:0.77、95%信頼区間[CI]:0.63~0.94)。 非虚血性FFRコホートは6,413例で、このうち12.6%がPCIを受け、87.4%が内科的治療のみで治療された。このコホートでは、PCIありはPCIなしと比較して5年後のMACE発生率およびハザード比が有意に高かった(33.3% vs.24.4%、HR:1.37、95%CI:1.14~1.65)。

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高齢者の転倒・骨折予防、スクリーニング+介入は有効か/NEJM

 高齢者の転倒による骨折の予防において、郵送での情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングで対象を高リスク集団に限定した運動介入または多因子介入を行うアプローチは、郵送による情報提供のみと比較して骨折を減少させないことが、英国・エクセター大学のSarah E. Lamb氏らが行った無作為化試験「Prevention of Fall Injury Trial」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年11月5日号で報告された。高齢者における転倒の発生は、地域スクリーニングとその結果を考慮した予防戦略によって抑制される可能性があるが、英国ではこれらの対策が骨折の発生、医療資源の活用、健康関連QOLに及ぼす効果は知られていないという。イングランドの63施設が参加した実践的クラスター無作為化試験 本研究は、イングランドの7つの地方と都市部の63の総合診療施設が参加した実践的な3群クラスター無作為化対照比較試験であり、2010年9月~2014年6月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 各地域の保健区域にある3つの総合診療施設が、3つの介入のいずれかに無作為に割り付けられた。参加施設は、自施設の患者登録データを用いて70歳以上の地域居住者に試験への参加を募った。運動介入または多因子転倒予防介入を行う群に割り付けられた施設は、参加者に転倒リスクに関する簡略なスクリーニング質問票を送付した。 郵送による情報提供、転倒リスクのスクリーニング、対象を限定した介入(転倒リスクが高い集団への運動介入または多因子転倒予防介入)を行った群の効果を、郵送による情報提供のみを行った群と比較した。 運動介入にはOtago運動プログラム(筋力、バランス、歩行)などが用いられた。多因子転倒予防介入では、看護師、総合診療医、老年病専門医が、転倒と病歴、歩行とバランス、投薬状況、視力、足と履き物などを評価し、家庭環境に関する聞き取りを実施して、服薬の見直し、運動(運動介入群と同じ)、専門医への紹介などが行われた。 主要アウトカムは、18ヵ月後の100人年当たりの骨折発生率とした。副次アウトカムは、転倒、健康関連QOL、フレイル、経済評価などであった。100人年当たりの骨折発生率:2.76件vs.3.06件vs.3.50件 63施設から70歳以上の9,803例(平均年齢78歳、女性5,150例[53%])が無作為に選出された。このうち3,223例が郵送による情報提供のみを行う群(21施設)、3,279例が郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した運動介入を行う群(21施設)、3,301例は郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した多因子転倒予防介入を行う群(21施設)に割り付けられた。 転倒リスクスクリーニング質問票は、運動群の3,279例中2,925例(89%)と、多因子転倒予防群の3,301例中2,854例(87%)から回答が返送された。これら質問票を返送した5,779例のうち、2,153例(37%)が「転倒リスクが高い」と判定され、介入を受けることが勧められた。 骨折データは9,803例中9,802例で得られた。18ヵ月の時点で、骨折は郵送による情報提供群で133件、運動群で152件、多因子転倒予防群で173件発生し、100人年当たりの発生率はそれぞれ2.76件、3.06件、3.50件であった。運動群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.20(95%信頼区間[CI]:0.91~1.59、p=0.19)、多因子転倒予防群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.30(0.99~1.71、p=0.06)であり、スクリーニングと対象を限定した介入は骨折発生率を抑制しなかった。 転倒、SF-12で評価した健康関連QOL、Strawbridge Frailty Indexスコアで評価したフレイルにも有意な差は認められなかった。また、2万ポンド(2万5,800米ドル)を閾値とした場合、運動介入で費用対効果が優れる確率は70%だった。 試験期間中に、3件の有害事象(狭心症エピソード1件、多因子転倒予防の評価中の転倒1件、大腿骨近位部骨折1件)が発現した。 著者は、「最近のCochraneレビューでは、転倒への多因子介入の効果は限定的でばらつきが大きいと報告されており、骨折については信頼できるエビデンスはないとされる。また、今回の試験では、既報の研究に比べ運動の転倒への効果が低かったが、どの研究よりも追跡期間が長かった」としている。

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「ミオコールスプレー」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第25回

第25回 「ミオコールスプレー」の名称の由来は?販売名ミオコール®スプレー0.3mg一般名(和名[命名法])ニトログリセリン効能又は効果狭心症発作の寛解用法及び用量通常、成人には、1回1噴霧(ニトログリセリンとして0.3mg)を舌下に投与する。なお、効果不十分の場合は1噴霧を追加投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)1.重篤な低血圧又は心原性ショックのある患者[血管拡張作用により更に血圧を低下させ、症状を悪化させるおそれがある。]2.閉塞隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]3.頭部外傷又は脳出血のある患者[頭蓋内圧を上昇させるおそれがある。]4.高度な貧血のある患者[血圧低下により貧血症状(めまい、立ちくらみ等)を悪化させるおそれがある。]5.硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者6.ホスホジエステラーゼ5阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者[本剤とこれらの薬剤との併用により降圧作用が増強され、過度に血圧を低下させることがある。※本内容は2020年11月11日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2014年11月改訂(第10版)医薬品インタビューフォーム「ミオコール®スプレー0.3mg」2)トーアエイヨー:製品情報

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コルヒチンの冠動脈疾患2次予防効果に結論を出した論文(解説:野間重孝氏)-1300

 評者は今回の論文に関連した他論文の論文評を昨年12月にこの欄に掲載しているため(「今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた」)、解説部分が前回と一部重複することを、まずご容赦いただきたい。また、先回の論文評の中で今回の論文のスタディデザイン報告をした論文(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)に言及し、評者の早とちりから彼らがすでに結論を出してしまったような誤解を与える記述をしてしまいました。この点につき、この場をお借りして陳謝させていただきます。 動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は、1976年にRossらが「障害に対する反応」仮説を提出したことに始まる(Ross R, et al. N Engl J Med. 1976;295:369-377.、420-425.、二部構成)。以後さまざまな仮説が提出され、議論が繰り返されたが、結局確定的なメカニズムの解明には至っていない。 コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで、長く痛風の薬として使用されてきた。主な作用として、細胞内微小管(microtubule)の形成阻害、細胞分裂の阻害のほかに、好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。ところが皮肉なことに、ここにコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは、動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ、免疫系細胞には注目するが、好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球、多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は、現在コルヒチン以外に知られていない。結局、今世紀に至るまでコルヒチンが動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。 しかし突破口は意外な方面から開かれた。ニューヨーク大学のリウマチ研究室の研究者たちが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである(Crittenden DB, et al. J Rheumatol. 2012;39:1458-1464.)。 この結果にいち早く注目したのが本論文の著者であるHeart Care Western AustraliaのNidorf SMらのグループだった。彼らは通常の治療に加え、コルヒチン錠を1日当たり0.5mg投与する治療群(282例、66歳、男性率89%)とコントロール群(250例、67歳、男性率89%)の計532例を中央値で3年間フォローアップした結果(主要アウトカムは、急性冠症候群、院外心停止、非心臓塞栓性虚血性脳卒中)、ハザード比(HR)は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.60)、NNT 11で2次予防が可能であるという驚くべき結果を得た(LoDoCo試験、Nidorf SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:404-410.)。この試験は登録数が少ないこと、open labelで検討されていることからあくまでpilot studyだったのだが、一部の関係者の注目を集めるには十分だった。 いち早くLoDoCo pilot studyに注目したのがカナダ・モントリオール心臓研究所のグループであり、前回評者が論文評を担当した論文がこれだった(Tardif JC, et al. N Engl J Med. 2019;381:2497-2505.)。彼らは、登録日前30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受けた症例4,745例を2群に分け、両群にいわゆる内科的至適療法(OMT)を行うとともに、一方の群にコルヒチン0.5mg/日を、もう一方にplaceboを追加投与する二重盲検試験を行った。エンドポイントを心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中、血行再建とし、コルヒチン群で有意に発生率が低いことを証明した。この研究は注目すべきものではあったが、問題点もあった。複合エンドポイントのうち、差が出たのは脳卒中と血行再建だけで、脳卒中ではっきり差が出ていなければかなりきわどい結果になっていた可能性があったからだ。また心筋梗塞後30日以内の患者という対象設定にも問題があった。 一方、先回のpilot studyから確信を得たNidorfらのグループは、LoDoCo2試験を立ち上げた。コルヒチンが安全に投与できることが確かめられた安定狭心症5,522例を対象としてコルヒチン0.5mg/日とplaceboによる二重盲検試験を行った。この試験のデザインは前述したように、昨年別途報告された(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)。そのLoDoCo試験の最終報告となるのが本論文である。この試験にも複合エンドポイントに脳卒中が含まれていたが、31%の発生減を報告できたことには十分な説得力がある(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83、p<0.001)。また、サブ解析でも明らかな心事故発生の減少が報告された。この試験の意味深い点は、臨床的にとくに問題のない安定狭心症を対象として2次予防の成績を提出したことにある。評者が題名に「結論」という文言を使用したゆえんである。 今回の試験で著者らは対象患者の性別に偏りがあったこと、血圧や脂質など他の危険因子のデータ収集が不完全であったことを挙げているが、評者にはこれらが大きな限界とは考えられない。冠動脈疾患は典型的な多因子的疾患であり、2次予防効果をみるためには一つひとつの因子をつぶしていく必要がある。すべての因子を包括した研究が事実上不可能である以上、どれか確定的な因子(もしくは治療法)が証明できればそれは充分な前進であると評価されなければならないと考えるからである。 評者が不満に思うことを挙げるとすれば、前述のカナダのグループにおいても同様なのだが、冠動脈疾患の2次予防の検定になぜ脳卒中を複合エンドポイントに入れなければならないのか、という点である。冠動脈疾患は何度も述べているように典型的な多因子疾患である。一方、脳血管障害は、確かに危険因子は多数指摘できるが、その中において血圧の重要性が圧倒的に高く、同じ多因子疾患といっても冠動脈疾患とはその性格を大きく異にし、その進展過程・機序にも差があるからである。今回の試験においても、前回のカナダのグループの試験においても、コルヒチンは明らかに脳卒中の発生率を低下させている。だから確かに効果があることに異論はないのだが、その機序については別の議論が必要であろう。 このところコルヒチンを用いた研究が各方面で活発化していることは、J-CLEARの論文紹介に目を通していらっしゃる方々はよくご承知ではないかと思う。しかし評者の知る限り、わが国ではあまり関心が持たれていない印象がある。わが国でもこの新しい発見を有効に利用しようという動き(もしくは検証しようという動き)が早く出ることを願うものである。

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NSTEMIは、高齢者だからこそ積極的に治療を!(解説:中川義久氏)-1287

 皆さんもご存じのように、急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は、不安定狭心症(unstable angina:UA)、非ST上昇型心筋梗塞(Non ST-segment elevation myocardial infarction:NSTEMI)、ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の3つに分類される。可能な限り早急なprimary PCIが有効なSTEMIに対して、NSTEMIでは治療のタイミングについて判断が必要である。PCI施行を含む積極的な治療を施行するタイミングは2つに大別される。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンとしての実施を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。TIMIリスクスコアやGRACE ACSリスクモデルなどの、リスク評価法に基づいて治療戦略を決定することが推奨されている。このように選択肢がある中でも、早期に侵襲的治療を施行する有用性が高いとの報告が増加していた。しかし、高齢者はこれらのエビデンスを構築するための臨床試験から除外されることが常であり、明確な方針は明らかではなかった。 80歳以上のNSTEMI患者においても、侵襲的治療が非侵襲的治療と比べて優れていることを示した「SENIOR-NSTEMI試験」の結果が、Lancet誌2020年8月29日号に掲載された。累積5年死亡率は、侵襲的治療で36%、非侵襲的治療55%と、ハザード比:0.68、(95%CI:0.55~0.84)で侵襲的治療戦略が有意に優れていた。さらに、侵襲的治療は、心不全による入院発生頻度も有意に低下させていた。5年時の死亡を3割以上も減少させる意義は大きい。高齢者だからこそ積極的な戦略をとるべきともいえ、高齢者であれば保存的治療が一番という安易な選択を戒めるものであろう。 この試験はランダマイズ研究ではなく、日常の診療のデータを登録した中から、プロペンシティ・スコア(傾向スコア)を用いて解析している。ここでプロペンシティ・スコア解析を復習しよう。多変量解析の1つである、ロジスティック回帰法を用いて全患者に対して、その患者が侵襲的治療を受ける確率を計算する。この確率の値が、「プロペンシティ・スコア」であり0から1の間の数値をとる。侵襲的治療を受ける確率が同じ「0.6」という値であっても、実際には侵襲的治療を受けた患者も存在すれば、非侵襲的治療を受けた患者も存在する。これをペアにして比較することによって、あたかも患者をランダマイズしたかのように背景因子をそろえて比較することができる。「SENIOR-NSTEMI試験」のmethodには興味深い記載がある。侵襲的治療を受ける確率が非常に高い患者と、非常に低い患者は、解析から除外したというのだ。議論の余地なく、誰がみても侵襲的治療が良いと思われる患者が存在することを事前に了解しているのである。逆に、誰がみても侵襲的治療がそぐわない患者の存在も同様に認定している。この試験の結果から侵襲的治療が優れているという結論が導かれたように思う方もいるかもしれないが、この試験を実施するまでもなく、侵襲的治療に適した患者や、適していない患者が存在するのである。 ランダマイズ試験では、いずれかの治療に割り付けられれば従わねばならない。このため、どちらの選択肢に割り付けられても支障の少ない患者が多く参加する。ある治療法が適していると皆が考える患者の参加は少ない。このようにランダマイズ試験の弱点もあることを知る必要がある。高齢者という、ランダマイズ試験の難しい患者であるからこそ、プロペンシティ・スコア解析の意義を感じた「SENIOR-NSTEMI試験」であった。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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