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CVD患者のフレイルと「アクティブな趣味」の関係

 心血管疾患(CVD)で入院した患者のうち、入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、退院時のフレイルのリスクが低いという研究結果が発表された。一方で、入院前に趣味があったとしても、その趣味がアクティブなものでなければ、リスクの低下は見られなかったという。これは飯塚病院リハビリテーション部の横手翼氏らによる研究であり、「Progress in Rehabilitation Medicine」に2月22日掲載された。 趣味を持つことと死亡や要介護のリスク低下との関連を示す研究はこれまでに報告されており、入院中の運動不足で身体機能が低下しやすいCVD患者でも、趣味を持つことが身体機能の維持やフレイルの予防に役立つと考えられる。そこで著者らは、入院前に行っていた趣味と退院時のフレイルとの関連について、趣味の内容にも着目して検討した。 研究対象は、2019年1月~2023年6月に飯塚病院に入院し、その後自宅に退院したCVD患者のうち、入院前から日常生活の介助を要する患者などを除いた269人(平均年齢68.4±11.5歳、男性72.2%)。対象患者のCVD・手術には、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈グラフト置換術が含まれた。 患者の状態が安定した後、入院前の趣味に関する情報を入手し、身体活動を伴う趣味(スポーツ、買い物、旅行など)を「アクティブな趣味」、それ以外の趣味(テレビ・映画鑑賞、スポーツ観戦、楽器演奏など)を「非アクティブな趣味」、趣味のない場合は「無趣味」に分類した。フレイルについては退院前日に、日本語版フレイル基準(J-CHS基準)の5項目(筋力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、身体活動低下)により評価。3項目以上に該当する人を「フレイル」、1~2項目に該当する人を「プレフレイル」に分類した。 その結果、無趣味群(77人)ではプレフレイルの割合が61.4%、フレイルの割合が22.9%、非アクティブな趣味群(64人)では同順に53.2%、37.1%、アクティブな趣味群(128人)では同順に57.4%、13.9%だった。 次に、患者背景の差(年齢、性別、BMI、疾患、入院期間、就労状況、入院時の左室駆出率、入院前のフレイル)を調整して解析すると、アクティブな趣味群は、プレフレイルまたはフレイルのオッズ低下と有意に関連していることが明らかとなった(無趣味群と比較したオッズ比0.41、95%信頼区間0.17~0.90)。一方、非アクティブな趣味群ではこの関連は認められなかった(同1.56、0.52~4.64)。また、アクティブな趣味群では無趣味群と比べて、J-CHS基準の5項目のうち、歩行速度低下、疲労感、身体活動低下のオッズが有意に低かった。 以上から著者らは、「入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、趣味のない患者と比べて退院時にフレイルとなるリスクが低かった。一方で、非アクティブな趣味を持っていた患者では、リスクの低下は認められなかった」と結論。また、アクティブな趣味と疲労感の低下が関連していたことの説明の一つとして、アクティブな趣味を持つことが、入院中のリハビリテーションや理学療法への動機付けとなり、身体機能の維持に寄与する可能性があるとしている。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(2)――米国の医療費削減方法、プライマリケアがゲートキーパーに【臨床留学通信 from NY】第58回

第58回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(2)前回に引き続き、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考えます。医療費削減のために米国で行われていること米国の医療費は、高い人件費や薬物などの物品を賄うため、救急外来を経由して1泊なんてするものなら、ざっと100万円ほどかかってしまうことも珍しくありません。そのため、政府保険であるMedicaid(メディケイド)、Medicare(メディケア)は、医療費削減のために不必要な薬や手技を減らすことに目を光らせ、プライベート保険もプランによってカバーする薬の範囲が変わるという仕組みです。高くて良い薬にはCo-pay(自己負担)が多くかかってしまい、自然と安い薬を使うように仕向けられます。たとえばアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は心不全に有効な薬で、日本ではそれを高額であるにもかかわらず高血圧にも処方できるように国が承認していますが、米国では心不全の病名なしには処方できません。また循環器疾患の狭心症。心筋梗塞とは違い、致命的ではないことがほとんどですが、まれに不安定狭心症かな、とこちらが思うものであっても、負荷心筋シンチグラフィなどの事前検査をなくして外来から直接カテーテル検査・入院はできないことがあります。その際はやむを得ず、救急外来を経由して入院した体裁にすることもあります。なお医療費削減のため、カテーテル治療も簡単なものはThe Same Day Discharge(同日退院)となり、それをすることで病院にメリットがあるように金額が決まっています。そのため、カテーテル室専用のリカバリールームがあり、朝6~7時に患者さんが来て、7時過ぎにはPCI開始、その後数時間観察して、午後には退院することや、12時くらいにPCI開始であっても、夜11時までスタッフを配置してモニターして退院、なんてことがあります。予約を取るのも一苦労、プライマリケアがゲートキーパーに外来では、簡単な薬の処方のみの人は(たとえば高血圧のみ)、プロブレムが少ないためあまりお金にならず、半年後にしか予約が取れないようになっていて、3ヵ月の処方を電子的に薬局に送信し、リフィルを3回出して1年分の処方を出すことがあります。予約を取るのも一苦労です。患者によって保険がさまざまなため、医師から直接予約を取れず、大半はいちいち事務に電話などをして、うまくいって10~20分かけてなんとか予約を取る形です。医師がカルテ上3ヵ月後と言えば、どんなに受診したくても、病状が落ち着いていれば予約が取れないようになっています。プライマリケアがゲートキーパーとなり、好き勝手に循環器内科、腎臓内科、内分泌内科など専門医に受診できないようになっており、いわゆる紹介状(きちんとした手紙でなくとも1文程度でも)が必要にもなります。また、専門医を受診するには、保険にもよりますがCo-payを支払わなければなりません。私の保険の場合は50ドルほど払わなければならず、不用意に何となく気になるからという理由で患者が受診することを制限しています。インフルエンザなどで受診するUrgent Careは私の保険は75ドル。ちょっとした風邪で病院にかかることはありません。なお、いわゆる一般外来は発熱患者はお断り。その分薬局で購入できる薬は日本より充実しています。Emergency Department(救急外来)は150ドルで、簡単に受診しようとする意思を抑制しています。以前私が針刺事故未遂のようなほぼかすっていない程度で救急外来を受診した時、採血と問診で3,000ドル(約45万円)の請求書が来てたまげました。幸い職員なので医療費はかからず、問題ありませんでしたが…。1泊入院すると1万ドル前後かかってしまうとはいえ、基本的に保険から下りると思いますが、どのくらいカバーされるかはまちまちです。裏を返せば、この莫大な医療費によって医療従事者の給料が保証されていることにもなります。これらの折衷案として、日本では何ができるか、次回は私なりの提案をしたいと思います。

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心臓病患者の “ニーズ見える化”へ、クラウドファンディング開始/日本循環器協会

 日本循環器協会は、心臓病に関わる患者・家族、医療者、企業を繋ぐホームページ作成を実現させるため、3月12日にクラウドファンディング『心臓病患者さんの声を届けたい 心臓病に関わる方々を繋ぐHP作成へ』を開始した。本協会は患者と医療者が持つ双方のニーズの“見える化”を目指すことを使命とし、この取り組みを始めた。  “心臓病は複雑かつ、年齢層もさまざま。関係者も多岐にわたり、患者の悩みやニーズが共有されにくい”という循環器領域の現状を踏まえ、本協会は「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」の第1弾として、心臓病患者の声を集めるためのホームページ作成に動き出した。今回はこのホームページを通じて患者ニーズを集め、心臓病のより良いケアを探求する医療者や企業に情報を届けるのが狙いだ。なお、本プロジェクトは All or Nothing 方式を採用しているため、第1目標金額に満たない場合、支援金は全額、支援者へ返金となる。 「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」への支援はこちらから。女性に起こりやすい循環器疾患とその対処法 このほかにも、日本循環器協会は新たな取り組みとして、女性特有の循環器疾患の啓発にも注力すべく、「Go Red for Women JAPAN」(ワーキンググループ委員長 東條 美奈子氏[北里大学医療衛生学部 教授])の活動を開始した。「Go Red for Women」とは “心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、日本でもこの活動のキックオフとなる公開セミナー「健康セミナー 女性のココロと心臓のはなし」を2月2日に行ったことを皮切りに、今後も国内独自のイベントを企画していく予定だという。 上述の健康セミナーにおいて、「女性のこころとからだの話」について講演した高尾 美穂氏(女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道)は、「社会的性差は解決可能も生物学的性差は縮めていくことはできない。骨格が異なることで病気にも性差が生じる。たとえば、男性には高尿酸血症、糖尿病、心筋梗塞が起こりやすい一方で、女性ではQOLに直接的に影響するような骨格筋の痛み・変化、うつ病の発症率の多さが課題として挙げられる。このように疾患にも性差があることから、双方の病態を理解し合うことが必要」と性差による疾患リスクを指摘するとともに、「女性の生殖器は期間限定であることを社会に出る前に知っておくことが必要」と、女性自身が自身の身体のことを学ぶ機会の少なさについても訴えた。 また、坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科分子生理学)は女性に多い循環器疾患として、微小血管狭心症、心筋梗塞(閉経後女性)、不整脈、たこつぼ型心筋症、肺高血圧症、心不全(高齢女性)などを挙げ、「たこつぼ型心筋症の場合、男性は外傷が影響するのに対し、女性はストレスで生じやすい。自律神経を整え、有酸素とレジスタンスの両方を兼ね備えた運動であるヨガを行うことで、ストレス軽減効果、心拍や血圧を健康に維持する効果が期待できる」と発症原因の1つを示し、その予防策を解説した。

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減量で糖尿病が寛解すると心臓病と腎臓病のリスクが下がる

 減量によって2型糖尿病が寛解すると、心臓と腎臓の状態にもメリットがもたらされる可能性のあることが明らかになった。寛解期間が限られたものであっても心臓病のリスクは40%、腎臓病のリスクは33%低下し、寛解期間がより長ければ、より大きなリスク低下につながる可能性があるという。アイルランド王立外科医学院(RCSI)のEdward Gregg氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetologia」に1月18日掲載された。同氏は、「本研究は、糖尿病の寛解と糖尿病関連合併症のリスクとの関連を検討した初の介入研究の結果であり、糖尿病の寛解を達成可能な状態にある人たちにとって心強いニュースだ」と話している。 この研究には、5,145人の2型糖尿病患者を、生活習慣への強力な介入を行う群と、教育的サポートのみを行う群に二分して合併症リスクを検討した「Look AHEAD研究」のデータが用いられた。Look AHEAD研究の参加者から、データ欠落者や減量・代謝改善手術が施行された患者、ベースライン時点で既に寛解状態にあった参加者を除外し、4,488人(平均年齢59歳、女性58%、BMI35.8、糖尿病罹病期間6年)を解析対象とした。 血糖降下薬を用いずにHbA1c6.5%未満を達成した場合を「寛解」と定義すると、12年間にわたる追跡期間中に全体の12.7%、強力な介入が行われた群では18.1%が、いずれかの時点で寛解の基準を満たしていた。寛解の達成は、糖尿病罹病期間が短く、ベースラインのHbA1cが低く、減量幅が大きい患者で高い傾向が観察された。 解析結果に影響を及ぼし得る交絡因子〔糖尿病罹病期間、ベースラインのHbA1c、血圧、心血管疾患(CVD)の既往〕を調整後、一度でも寛解に到達した患者は、その記録のない患者に比べて、慢性腎臓病(CKD)発症リスクが33%低く〔ハザード比(HR)0.67(95%信頼区間0.52~0.87)〕、複合CVDイベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、狭心症による入院)リスクは40%低かった〔HR0.60(同0.47~0.79)〕。また、寛解期間が4年以上にわたっていた患者では、CKD発症リスクは55%低く〔HR0.45(0.25~0.82)〕、CVDイベントリスクは49%低かった〔HR0.51(0.30~0.89)〕。 一方、寛解の維持が困難であるという実情も示され、研究開始から8年目まで寛解が維持されていた患者は、全体のわずか約3%、強力な介入が行われた群でも約4%にすぎなかった。ただし、寛解の維持期間が短くても、CVDイベントリスクは有意に低下することも明らかになった。具体的には、寛解期間が1年未満であっても、一度も寛解に至らなかった患者に比べてリスクが34%低かった〔HR0.66(0.46~0.94)〕。なお、寛解期間が1年未満の場合のCKD発症リスクに関しては、交絡因子未調整モデルでは有意なリスク低下が観察されたが、交絡因子調整後は非有意だった。 Gregg氏は、「われわれの研究結果は、減量や糖尿病の寛解状態を維持することの困難さを再確認させるものだ。しかしその達成が、健康上のメリットにつながることを示すものでもある」とRCSI発のリリースで述べている。

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冠攣縮性狭心症の特効薬は、ニトロではなく猫です【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第69回

外来の診察室での患者さんとのやり取りです。中川「本当に長い時間お待たせして申し訳ございません」患者「調子が良かったので、待ち時間もまったく気になりませんでした」中川「前回の診察からお身体の具合はいかがでした?」患者「1回もニトロを使いませんでした、調子は良かったです」明るい表情で答えてくれます。冠攣縮性狭心症と診断されている40代の男性です。狭心症は、冠動脈の血流が低下し心筋に十分な血液が供給されなくなる病気です。通常の狭心症の原因は、動脈硬化性のプラークによって冠動脈に狭窄が生じることです。冠攣縮性狭心症では、胸痛のない非発作時には狭窄はありませんが、発作時にだけ冠動脈が痙攣するように縮み上がり狭窄を生じることで誘発されます。冠攣縮性狭心症は、狭心症としての胸痛発作だけでなく、急性冠症候群・突然死・不安定狭心症・心室頻拍/心室細動などの致死的不整脈や原因不明の心不全などにも関与している注意を要する病態です。虚血性心疾患の発症頻度は欧米人に多く、日本人では少ないとされています。しかし、冠攣縮性狭心症は日本人でより発症率が高いことが知られています。冠攣縮性狭心症では自覚症状に特徴があり、胸痛発作は深夜から早朝にかけてピークを有する日内変動がみられます。狭心症発作の特効薬としてニトログリセリンの舌下錠が有名です。ニトログリセリンは、冠動脈の拡張による酸素供給の増加と、静脈拡張による前負荷軽減と動脈拡張による後負荷軽減の両面から酸素消費を抑制し、狭心症の治療効果を発揮します。この患者さんも、2~3日に1回ほどの頻度で深夜から早朝に胸痛発作があり、ニトログリセリンの使用に頼っている状態でした。難治性の冠攣縮性狭心症の患者として対応に苦慮していました。それが、この1ヵ月余り発作が1度もなく、ニトログリセリンの使用もないというのです。中川「発作が起こらなくなって良かったですね」患者「本当にありがたいことです」患者さんも嬉しそうです。中川「調子が良くなったのは何が理由だと思いますか?」患者「普段の内服薬も同じですし、生活もとくに変わったと意識することはないですね」中川「何年間も発作が続いていたのに良かったですね」急に思い当たったことがあったのか、大声で患者さんが話しはじめます。患者「猫を飼いはじめたんです。妻が仕事帰りに寒さに震える子猫を見つけて、連れて帰ってきたんです。手のひらに乗るほど小さかったんです」この時点で私の外来診察は予定よりも相当遅れていました。10時の診察予約時間が、今は11時を過ぎています。調子が良いと言ってくれているのだから、早々に診察を終了する方向にもっていくこともできました。予定よりも遅れるほど、「待たせて申し訳ないので丁寧に診療しなきゃ!」と考えてしまい、さらに診察時間が長時間化して、その後の患者さんたちを一層待たせてしまうということがあります。私は、これを「負のスパイラル現象」と名付けています。ここから、診察とは名ばかりの猫談義を患者さんと私のあいだで続けてしまいました。要約は以下です。保護した子猫は弱々しく、放っておくことはできません。妻と一緒にスマホで対応を調べて頑張ったそうです。猫を温め、猫用ミルクをスポイトで与え、ティッシュでお尻をポンポンと刺激して排泄を促すなど尽くしたのです。毎日毎晩続けた甲斐があって、今では元気に家の中を走り回るまでになったそうです。可愛くてたまらないと語ってくれました。患者「先生、子猫を見てくれませんか」中川「ぜひとも!」スマホに保存された幾枚もの写真や動画を一緒に拝見させていただきました。さらに外来が遅れるのですが、今さらやめられません。閲覧を堪能するに値する美猫ぶりです。診察とうそぶきながら猫動画を楽しみました。さらに待つことになった患者さんにお詫び申し上げます。その日の晩に、家の猫を撫でながら考えました。この患者さんの冠攣縮性狭心症の症状が改善したことと、患者さんが子猫を招き入れたことの因果関係についてです。偶然かもしれませんが、私には偶然とは思えませんでした。もし子猫をレスキューしていなければ同様の発作が持続していたように思われます。精神的な情動ストレスは、冠攣縮性狭心症のリスクを高める要素の1つとなるからです。たとえば、過呼吸、不安や緊張、過労、睡眠不足などは、冠攣縮性狭心症の発作増悪の可能性を高めます。そのため、治療に当たっては、ストレスを避けて規則正しい生活を送ることが重要とされています。セラピーキャットとは、猫たちとの触れ合いを通じて人に癒しを施すことです。この患者さんが子猫と出会い触れ合うことで、猫から「癒し」というお返しをいただいたのです。「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す」これは中国の古い言葉で、優れた医師は病気だけでなく国までも治すことができるという趣旨です。このような大事は私にはできるはずもありません。循環器内科医として心臓血管疾患に立ち向かう小医としての役目だけで精一杯です。しかし、この子猫は、患者さんの心に癒しを与えて「人」を治し、さらに冠攣縮性狭心症の発作を抑えて「病」を治したのです。すでに中医の域に到達しています。世間は空前の猫ブームです。テレビや雑誌、ネットや新聞で猫を見ない日はありません。猫に関連した商品が飛ぶように売れる経済効果から「ネコノミクス」という言葉も使われるほど、猫は注目されています。猫がもたらす幸せは、経済界から医療領域まで波及するようです。猫が大医として「国」を治す日も近いかもしれません。膝の上に乗ったわが家の愛猫レオが、大きなアクビをしました。猫は期待されることを望まないようです。では床に就くことにします。おやすみなさい。

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ED治療薬、心臓病の薬との組み合わせは危険な場合も

 心疾患の治療目的で硝酸薬を使用中の男性が、バイアグラ(一般名シルデナフィルクエン酸塩)やシアリス(一般名タダラフィル)といった勃起障害(ED)治療薬を併用すると、死亡リスクや心筋梗塞、心不全などのリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDaniel Peter Andersson氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」1月23日号に掲載された。Andersson氏は「医師が、心血管疾患のある男性からED治療薬の処方を求められることが増えつつある」とした上で、「硝酸薬を使用している患者がED治療薬を併用することで、ネガティブな健康アウトカムのリスクが高まる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 バイアグラやシアリスなどのED治療薬はPDE5阻害薬と呼ばれ、動脈を広げて陰茎への血流を増加させる働きがある。また、硝酸薬にも血管を拡張する作用があり、狭心症による胸痛の治療や心不全の症状を緩和するために使用される。 PDE5阻害薬と硝酸薬はいずれも血圧低下の原因となり得るため、ガイドラインでは、これらを併用すべきではないとの推奨が示されている。それにもかかわらず、実際にはPDE5阻害薬と硝酸薬の両方が処方されている患者の数は増加しつつある。しかし、これらを併用した場合にどのような影響があるのかについてのリアルワールド(実臨床)のデータはほとんどない。 Andersson氏らは、2006年から2013年の間に心筋梗塞を発症するか血行再建術を受け、硝酸薬が最大18カ月の間隔を空けて2回以上処方されていた18歳以上の患者6万1,487人(平均年齢69.5±12.2歳)を選び出し、その医療記録を分析した。硝酸薬の2回目の処方前6カ月間にPDE5阻害薬が処方されていた患者は除外された。対象者のうち5,710人(9%)にはED治療薬としてPDE5阻害薬も処方されていた。追跡期間中央値は5.9年だった。 解析の結果、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方されていた男性では、硝酸薬のみが処方されていた男性に比べて、全死亡リスクが39%、心血管疾患による死亡リスクが34%、心血管疾患以外の原因による死亡リスクが40%、心筋梗塞リスクが72%、心不全リスクが67%、冠動脈血行再建術を受けるリスクが95%、主要心血管イベントの発生リスクが70%高いことが示された。ただし、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方された男性でも、PDE5阻害薬の使用開始から28日以内では、死亡や心筋梗塞、心不全といったイベントの発生数は少なく、即時性の高いリスクは低~中程度であることが示されたとAndersson氏らは説明している。 Andersson氏は、「われわれの目標は、硝酸薬による治療を受けている患者にPDE5阻害薬を処方する前に、患者中心の視点で慎重に考慮する必要性を明確に示すことだ」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースで述べている。その上で、「ED治療薬が心血管疾患のある男性に与える影響は現時点では不明瞭だが、今回の結果は、この影響に関するさらなる研究を正当化するものだ」としている。 一方、米ベイラー大学心臓病学教授のGlenn Levine氏は付随論評で「体調管理が行き届いている軽度の狭心症の男性であれば、ED治療薬はそれなりに安全だ。しかし、硝酸薬の継続的な処方が必要な状態でED治療薬を併用するのは、賢明とは言えない」との見解を示している。同氏は、「EDと冠動脈疾患の組み合わせは高頻度に見られる不幸な組み合わせだ。しかし、適切な予防策とケアを行うことで、これらは何年にもわたって共存できる」と述べている。

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冠動脈CT血管造影による冠血流予備量比は安定狭心症の3年転帰を予測

 安定狭心症患者において冠動脈CT血管造影から得た冠血流予備量比(FFR)は、3年間の全死亡または非致死的心筋梗塞のリスクを予測するという研究結果が、「Radiology」9月号に掲載された。 南デンマーク大学病院(デンマーク)のKristian T. Madsen氏らは、新規発症の安定狭心症の患者において、冠動脈CT血管造影から得られたFFR検査の結果による3年間の臨床転帰の予測能を評価した。解析対象は、デンマークの3 施設で2015年12月~2017年10月に登録され、30%以上の冠動脈狭窄を1カ所以上有し、冠動脈CT血管造影によるFFR検査の結果を取得できた連続症例900人(平均年齢64.4歳、男性65%)であった。 冠動脈CT血管造影から得られた狭窄部から遠位部2cmまでのFFR値が0.80以下の場合を異常と判定した。主要エンドポイントは全死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合、副次エンドポイントは心血管死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合とした。全ての対象者はFFR検査後3年間または死亡まで追跡された。エンドポイントの発生率は1標本の二項モデルにより推定し、FFRが正常だった群と異常だった群との間で相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、カイ二乗検定またはフィッシャーの直接確率検定を用いて比較した。 ベースライン時の冠動脈CT血管造影によるFFRは、対象者のうち377人が異常、523人が正常であった。追跡の結果、主要エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の2.1%で発生した(RR 3.1、95%CI 1.6~6.3、P<0.001)。副次エンドポイントはFFR異常群の5.0%、正常群の0.6%で発生した(RR 8.8、95%CI評価不能、P=0.001)。 こうしたFFR異常群におけるリスク上昇は、狭窄の重症度(50%以上または50%未満)と冠動脈石灰化(CAC)スコア(400以上または400未満)で調整後も認められた(主要エンドポイントの調整RR 2.5、95%CI 1.2~5.2、P=0.02、副次エンドポイントの調整RR 8.0、95%CI 2.1~30.2、P=0.002)。さらに、CACスコア高値(400以上)のサブグループ解析を実施したところ、主要エンドポイントはFFR異常群の9.0%、正常群の2.2%で発生し(RR 4.1、95%CI 1.4~11.8、P=0.001)、副次エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の0.5%で発生した(RR 12.0、95%CI評価不能、P=0.01)。 冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測能を評価したところ、ベースライン時のリスク変数(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)、CACスコア、狭窄の重症度にFFRを追加することにより、主要エンドポイントと副次エンドポイントの診断能が向上した〔ROC曲線下面積はそれぞれ0.62から0.74(P<0.001)、0.66から0.81(P=0.02)〕。 Madsen氏は、「本研究から、CACスコアの高い患者における冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測の可能性を示すエビデンスが示された。患者のベースラインリスクやCACにより測定された冠動脈疾患の程度にかかわらず、冠動脈CT血管造影によるFFRの結果が正常であれば予後良好である」と述べている。 なお、複数人の著者が医療機器企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

50.

寝溜めの健康リスクへの影響は?

 睡眠不足は心血管疾患(CVD)の発生や認知機能の低下、うつ病などさまざまな疾患のリスクとなる。週末の寝溜め(キャッチアップ睡眠)は、週末に長時間の睡眠をとることで平日の睡眠不足を補うものであるが、この寝溜めがCVD発生のリスク因子である肥満、高血圧などの発生リスクを低下させたことが報告されている。そこで中国・南京医科大学のHong Zhu氏らの研究グループは週末の寝溜めとCVDの関連を検討した。その結果、平日の睡眠時間が6時間未満の集団において、週末の寝溜めが2時間以上であると、CVD発生のリスクが低下した。本研究結果は、Sleep Health誌オンライン版2023年11月23日号で報告された。寝溜めをしている人で心血管疾患の有病率が低下 本研究は、2017~18年に実施された米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)に参加した20歳以上の3,400例を対象とし、週末の寝溜めとCVDの関連を検討した。週末の寝溜めは、週末の睡眠時間が平日より1時間以上長いことと定義した。 週末の寝溜めとCVDの関連を検討した主な結果は以下のとおり。・対象3,400例(男性:1,650例、女性:1,750例)のうち、333例(9.8%)がCVDを有していた。・CVDを有している参加者は、CVDを有さない参加者と比べて週末の寝溜めが短かった(p<0.01)。・週末の寝溜めがある参加者は、寝溜めのない参加者と比べてCVDの有病率が低かった(p<0.01)。・多変量解析において、週末の寝溜め時間は狭心症(p=0.04)、脳卒中(p<0.01)、冠動脈性心疾患(p=0.01)の有病率と関連していた。・平日の睡眠時間が6時間未満の集団では、週末の寝溜めがCVDの有病率の低下と関連し(p<0.01)、この集団において週末の寝溜めの時間とCVDの有病率の関連を検討した結果、週末の寝溜めの時間が2時間以上であるとCVDの有病率が低下した(p=0.01)。

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現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

 この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。 ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。 こうした議論のそもそもの背景には、2007年にNEJM誌に発表されたCOURAGE試験があった。この試験により、安定狭心症に対するPCIは薬物療法に比して心筋梗塞や死亡の発生率を減らすことができないことが示されたのである。以後、PCIはもっぱら症状の改善を目的として行われるようになっていた。ところがORBITA試験は、PCIでは肝心の症状の改善すら明確には望めないと断じたのである。 ただし、こうした結果を重症虚血症例にまで拡大適応してはならないことは、他ならぬCOURAGE試験のサブ解析によって示された。サブ解析については紙面の関係から深入りしないが、これはORBITA試験についてもいえることで、この試験では重症虚血例は除外されていた。 ORBITA試験の研究グループは、今回大きく視点を変えてPCI単独の効果の検討を試みた。抗狭心症薬による治療をほぼ受けておらず、かつ客観的虚血が認められる安定狭心症の患者に対してPCIを施行し、PCIにより狭心症症状スコアが有意に改善することを無作為化検定で証明したのである。発想の転換というか、「では薬物の影響を極力排除した場合、PCIは本当に単独で症状改善効果を期待できるのか?」という設問を立てたもので、PCIに対して疫学的観点から評価を与えたものといえるだろう。しかし、ORBITA試験の結果との関係を論じるとなると、難しいものがあるのが事実である。PCIが単独で症状改善効果を持つとして、ではなぜ薬物治療下では追加的な効果が期待できないのか? この疑問には何も答えていないからである。 本試験の問題点としてまず指摘されるのは、前回と同様に、重症患者が試験対象から除外されていることだろう。論文中には明記されてはいないが、血小板機能阻害薬とスタチン以外のすべての薬剤を中止することが医学的にも倫理的にも許容される安定狭心症とはどの程度の重症度であるかは、臨床に携わる医師ならば誰でもわかることである。 しかし、そうした除外規定を容認するとしても残るのが、症状を主要エンドポイントに据えたことであると思う。PCIを実際に施行されたグループでは、複数ある狭窄を含めてすべてを完全に治療されたのである。それでもプラセボ群と大きな差がついたとはいえ、無視できない数の患者が症状を訴えているのである。 こうした現象を評者はよく狭心症・心筋梗塞と脳虚血の違いを例にとって説明している。脳虚血発作の症状は傷害部位によって特徴的かつ明確であり、また発症時期も明らかである。それに対して虚血性心疾患の場合は、心筋梗塞の場合といえども症状は必ずしも典型的なものとは限らず、また発症時期も明らかにすることは難しい。心筋梗塞の治療成績の検討にdoor-to-balloon timeが用いられ、onset-to-balloon timeが用いられないのはonset timeが明確に決められないからである。狭心症についてはさらに難しい。狭心症状はある意味、大変に主観的なものなのである。虚血の発生を客観的に明示できる方法を用いない限り、この種の研究には常に限界が付きまとうのである。これはORBITA試験についてもいえることで、運動時間といっても息切れの発生や動悸の発生で運動を止めているのか、明確なST-T変化によって運動を止めているのかで意味はまったく異なってくる。両論文には、少なくとも明確なST-T変化が見られるまで続行したという、はっきりした記述は見られない。 PCIはすでに成熟した治療法である。一時は確かに業績欲しさに不必要なPCIが行われた嘆かわしい時期があったことは事実であるが、それは過去のことである。現在、冠動脈の形態は造影CTで無侵襲で見ることができ、虚血の評価はMRIだけでなく、最近はFFR-CTなどの技術も実用化している。ワイヤを冠動脈内に入れれば病変形態は冠動脈エコーにより観察できるし、OCTを用いれば石灰化の厚さ・形態、粥腫の安定性の評価も可能である。さらに、治療の必要性についてはFFR/iFRにより的確に判断できる。評者は、当たり前のことであってもきちんと証明することには常に価値があると、日頃より発言してきた。その意味からこの研究を評価するかと聞かれたとするなら、残念ながら現代の技術レベルを無視した研究には、どれだけ多くの人が関わり手間をかけたとしても、評価することはできないとお答えするしかない。この論文評を書いている2023年現在、PCIの効果をこうした疫学的手法から検討しようという時代は終わっているとしかいえないと考えるからである。

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パルスフィールドアブレーションは心房細動治療のゲームチェンジャーになりうるか(解説:高月誠司氏)

 日本では2024年に、新しい不整脈に対するアブレーション法として3種類のパルスフィールドアブレーションが導入される。ADVENT試験は、心房細動に対して従来の高周波カテーテルアブレーションとパルスフィールドアブレーションを比較した初めてのランダム化比較試験で、ほぼ同等の治療成績であった。 組織に500~1,000V/cmの高電圧のパルスを与えると、細胞には小さな穴が瞬間的に多数形成され、閾値以上のエネルギーでパルスを与えると細胞が壊死する。この閾値は組織ごとに異なり、心筋細胞は周囲の食道や神経組織よりも閾値が低く、選択的なアブレーションが可能で、合併症が少なくなることが期待されている。また、肺静脈隔離のdurabilityが高い、つまり遠隔期の肺静脈の再伝導が少ないことが報告されており、心房細動アブレーションのゲームチェンジャーとして大いに期待されている。ただし、心房粗動の治療として、右房の三尖弁輪下大静脈間の解剖学的峡部でパルスをかけると、その心外膜側の右冠動脈で冠動脈スパズムが誘発されることも知られている。静注のニトログリセリンの前投与はこれを予防しうるということだが、冠攣縮性狭心症が多い本邦では冠動脈スパズムに対して十分な注意が必要であろう。

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狭心症薬非服用の安定狭心症、PCIは有効か?/NEJM

 抗狭心症薬による治療をほぼ受けていない、またはまったく受けていない、客観的虚血を認める安定狭心症の患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)はプラセボ処置と比較して、狭心症症状スコアを有意に改善し、狭心症関連の健康状態を良好とすることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのChristopher A. Rajkumar氏らが、301例を対象に行った二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。PCIは、安定狭心症の症状軽減を目的に施行される頻度が高いが、抗狭心症薬治療を受けていない患者への有効性については明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2023年11月11日号掲載の報告。 施行後12週間追跡し、対プラセボの狭心症症状スコアを比較 試験は、研究者主導にて英国の14施設で行われた。被験者はすべての抗狭心症薬の服用を中止し、無作為化前の2週間は症状評価期間とされた。その後、被験者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、一方にはPCIを、もう一方にはプラセボ処置を施行し、12週間追跡した。 主要エンドポイントは狭心症症状スコアで、特定の日に発生した狭心症エピソードの回数、その日に処方された抗狭心症薬の数、臨床イベント(許容できない狭心症のための非盲検化や急性冠症候群の発生もしくは死亡)を基に算出された。スコア範囲は0~79点で、高いほど狭心症関連の健康状態の悪化を示した。狭心症症状の平均スコア、PCI群2.9、プラセボ群5.6で有意差 2018年11月12日~2023年6月17日に、最終的に301例が無作為化された(PCI群151例、プラセボ群150例)。平均年齢(±SD)は64±9歳で、男性は79%だった。 虚血を認めたのは、1ヵ所が242例(80%)、2ヵ所が52例(17%)、3ヵ所が7例(2%)だった。 標的血管において、血流予備量比(FFR)の中央値は0.63(四分位範囲[IQR]:0.49~0.75)、瞬時拡張期冠内圧比(iFR)の中央値は0.78(IQR:0.55~0.87)だった。 追跡期間12週時の狭心症症状の平均スコアは、PCI群2.9、プラセボ群5.6だった(オッズ比:2.21、95%信頼区間:1.41~3.47、p<0.001)。 プラセボ群の1例が、許容できない狭心症のため非盲検化となった。急性冠症候群は、PCI群4例、プラセボ群6例で発生した。

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肝臓と腎臓の慢性疾患の併存で心臓病リスクが上昇する

 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(IHD)のリスク抑制には、肝臓と腎臓の病気の予防が肝腎であることを示唆する研究結果が報告された。代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)と慢性腎臓病(CKD)が併存している人は、既知のリスク因子の影響を調整してもIHD発症リスクが有意に高いという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の宮森大輔氏、田中希尚氏、古橋眞人氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に7月8日掲載された。 MAFLDとCKDはどちらも近年、国内で患者数の増加が指摘されている慢性疾患。MAFLDは、脂肪肝とともに過体重/肥満、糖尿病もしくはその他の代謝異常(血糖や血清脂質、血圧の異常など)が生じている状態で、最近では動脈硬化性疾患の新たなリスク因子と位置付けられている。一方、CKDは腎機能の低下を主徴とする疾患だが、腎不全のリスクというだけでなく、動脈硬化性疾患のリスクとしても重視されている。肝臓と腎臓はともに生体の恒常性維持に重要な役割を担っており、動脈硬化性疾患に関しても、MAFLDとCKDが存在した場合にはリスクがより上昇する可能性がある。ただし、そのような視点での研究はこれまで報告されていない。古橋氏らの研究グループは、健診受診者のデータを用いた縦断的解析により、この点を検討した。 解析対象は、2006年に渓仁会円山クリニック(札幌市)で定期健診を受けた人のうち、2016年までに1回以上、再度健診を受けていて追跡が可能であり、ベースライン時(2006年)にIHDの既往がなく、解析データに欠落のない1万4,141人(平均年齢48±9歳、男性65.0%)。このうち、ベースライン時点でMAFLDは4,581人(32.4%)、CKDは990人(7.0%)に認められ、両者併存は448人(3.2%)だった。 平均6.9年(範囲1~10年)の追跡で、479人がIHDを発症。1,000人年当たりの発症率は、男性6.3、女性2.4だった。IHD発症リスクとの関連の解析に際しては、年齢と性別の影響を調整する「モデル1」、モデル1に現喫煙とIHDの家族歴を追加する「モデル2」、モデル2に過体重/肥満(BMI23以上)、糖尿病、脂質異常症、高血圧を追加する「モデル3」という3通りで検討した。なお、モデル3で追加した調整因子は、一般的にIHD発症に対して調整される必要があるが、MAFLDの診断基準と重複していることにより多重共線性の懸念(有意な関連を有意でないと判定してしまうこと)があるため、最後に追加した。 ベースライン時点でMAFLDとCKDがともにない群を基準とすると、MAFLDのみ単独で有していた群のIHD発症リスクは、モデル1〔ハザード比(HR)1.42〕とモデル2(HR1.40)では有意な関連が示された。ただし、モデル3では非有意となった。ベースライン時点でCKDのみを有していた群は、全てのモデルで関連が非有意だった。それに対して、MAFLDとCKDの併発群は、モデル1〔HR2.16(95%信頼区間1.50~3.10)〕、モデル2〔HR2.20(同1.53~3.16)〕、モデル3〔HR1.51(1.02~2.22)〕の全てで、IHD発症リスクが高いことが示された。 なお、性別の違いは上記の結果に影響を及ぼしていなかった(モデル3での交互作用P=0.086)。また、モデル3において、MAFLDの有無、およびCKDの有無で比較した場合は、いずれもIHDリスクに有意差がなかった。 続いて、IHDリスクの予測に最も適したモデルはどれかを、赤池情報量規準(AIC)という指標で検討した。AICは値が小さいほど解析に適合していることを意味するが、モデル1から順に、8585、8200、8171であり、モデル3が最適という結果だった。 次に、IHDの古典的なリスク因子(年齢、性別、現喫煙、IHDの家族歴)にMAFLDとCKDの併存を追加した場合のIHD発症予測能への影響をROC解析で検討。すると、古典的リスク因子によるAUCは0.678であるのに対して、MAFLDとCKDの併存を加えると0.687となり、予測能が有意に上昇することが分かった(P<0.019)。 著者らは本研究の限界点として、食事・運動習慣やがんの既往などが交絡因子に含まれていないこと、脂肪肝の重症度が考慮されていないことなどを挙げている。その上で、「日本人一般集団においてMAFLDとCKDの併存は、それらが単独で存在している場合よりもIHD発症リスクが高いことが示された」と結論付け、「MAFLD、CKD、IHDの相互の関連の理解を進めることが、IHDの新たな予防戦略につながるのではないか」と述べている。

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STEMI、中医薬tongxinluoの上乗せで臨床転帰改善/JAMA

 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのYuejin Yang氏らは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)におけるガイドライン準拠治療への上乗せ補助療法として、中国伝統医薬(中医薬)のTongxinluo(複数の植物・昆虫の粉末・抽出物からなる)は30日時点および1年時点の両方の臨床アウトカムを有意に改善したことを、大規模無作為化二重盲検プラセボ対照試験「China Tongxinluo Study for Myocardial Protection in Patients With Acute Myocardial Infarction(CTS-AMI)試験」の結果で報告した。Tongxinluoは有効成分と正確な作用機序は不明なままだが、潜在的に心臓を保護する作用があることが示唆されている。中国では1996年に最初に狭心症と虚血性脳卒中について承認されており、心筋梗塞についてはin vitro試験、動物実験および小規模のヒト試験で有望であることが示されていた。しかし、これまで大規模無作為化試験では厳密には評価されていなかった。JAMA誌2023年10月24・31日合併号掲載の報告。対プラセボの大規模無作為化試験でMACCE発生を評価 CTS-AMI試験は2019年5月~2020年12月に、中国の124病院から発症後24時間以内のSTEMI患者を登録して行われた。最終フォローアップは、2021年12月15日。 患者は1対1の割合で無作為化され、STEMIのガイドライン準拠治療に加えて、Tongxinluoまたはプラセボの経口投与を12ヵ月間受けた(無作為化後の負荷用量2.08g、その後の維持用量1.04g、1日3回)。 主要エンドポイントは、30日主要有害心脳血管イベント(MACCE)で、心臓死、心筋梗塞の再発、緊急冠動脈血行再建術、脳卒中の複合であった。MACCEのフォローアップは3ヵ月ごとに1年時点まで行われた。 3,797例が無作為化を受け、3,777例(Tongxinluo群1,889例、プラセボ群1,888例、平均年齢61歳、男性76.9%)が主要解析に含まれた。30日時点、1年時点ともMACCEに関するTongxinluo群の相対リスク0.64 30日MACCEは、Tongxinluo群64例(3.4%)vs.プラセボ群99例(5.2%)で発生した(相対リスク[RR]:0.64[95%信頼区間[CI]:0.47~0.88]、群間リスク差[RD]:-1.8%[95%CI:-3.2~-0.6])。 30日MACCEの個々のエンドポイントの発生も、心臓死(56例[3.0%]vs.80例[4.2%]、RR:0.70[95%CI:0.50~0.99]、RD:-1.2%[95%CI:-2.5~-0.1])を含めて、プラセボ群よりもTongxinluo群で有意に低かった。 1年時点でも、MACCE(100例[5.3%]vs.157例[8.3%]、ハザード比[HR]:0.64[95%CI:0.49~0.82]、RD:-3.0%[95%CI:-4.6~-1.4])および心臓死(85例[4.5%]vs.116例[6.1%]、HR:0.73[0.55~0.97]、RD:-1.6%[-3.1~-0.2])の発生は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも依然として低かった。 30日脳卒中、30日および1年時点の大出血、1年全死因死亡、ステント内塞栓症(<24時間、1~30日間、1~12ヵ月間)など、その他の副次エンドポイントでは有意差はみられなかった。 薬物有害反応(ADR)は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも有意に多く(40例[2.1%]vs.21例[1.1%]、p=0.02)、主に消化管症状であった。 今回の結果を踏まえて著者は、「STEMIにおけるTongxinluoの作用機序を確認するため、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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慎重に評価する必要がある論文。さらなるフォローアップが望まれる(解説:野間重孝氏、下地顕一郎氏)

 この論文評は通常は野間単独で記述するものであるが、今回の論文の扱う内容を考慮して、当院の循環器内科診療科長であり、カテ斑チーフの下地君との共同執筆のかたちを取らせていただいた。 本研究(ILUMIEN IV試験)はOCTガイドとアンギオガイドのPCIを比較、2年間追跡したものである。これまでIVUSで証明されてきた優位性をOCT単独で検証した大規模なRCTであり、18ヵ国80施設が参加、2,487症例が組み入れられた。 結果は、OCTガイド群でminimum stent areaが大きく(5.72±2.04mm2 vs.5.36±1.87mm2、95%CI:0.21~0.51、p<0.001)、ステント血栓症が少なかったものの(0.5% vs.1.4%、ハザード比:0.36、95%CI:0.14~0.91、p=0.02)、TVFでは差がみられなかった、というものである(7.4% vs.8.2%、ハザード比:0.90、95%CI:0.67~1.19、p=0.45)。OCTガイドは周術期に良好なステント開大を得たことに加え、アンギオガイドでは同定できない短い未治療病変、解離やステント圧着不良、組織のprotrusionを抑制、またステント血栓症も抑制した。一方、急性期の良好な結果にもかかわらず、TVF(心臓死、標的血管MI、ischemia-driven TVRの複合エンドポイント)では有意差をつけられなかった。慢性期の結果は、これまでIVUSで行われたほとんどの研究の結果から逸脱するものであった。 IVUSガイドとアンギオガイドを比較したメタ解析(Zhang Q, et al. J Interv Cardiol. 2021;2021:6082581.)では、術後30日で、アンギオガイド群で主にMIやステント血栓症が足を引っ張り、全死亡・心臓死で有意差をもってIVUSガイド群が優位、1年以降ではTVRも増加、3年の追跡期間でMACEsのオッズ比0.45(95% CI:0.31~0.65)と、そのままIVUSガイド群の優位性を示している。またLMT病変のサブ解析でも0.42(95%CI:0.26~0.67)と優位性を示している。 本ILUMIEN IV試験の結果と過去のIVUSガイドの研究の結果との相違点を以下に挙げる。●まず、ステント血栓症の頻度である。本研究ではステント血栓症がアンギオ群においても1.4%と、Zhang Qらの報告(2年でIVUS群31/886[3.5%]、アンギオ群75/1,237[6.1%])に比べて著明に改善している。これも原因となってTVFの差につながらなかった可能性はあるが、両群における低い発生率はnew generation DESの使用によるものと考えられる。ただし、計23例のステント血栓症症例のうち実に22例が死亡やMIに至っており、ステント血栓症をOCTガイドで抑制できたことは特筆すべきことである。●次に本ILUMIEN IV試験ではLMT病変やRCAの入口部病変を除外している点を挙げたい。実臨床においてLMT病変こそ、その治療においてはイメージングデバイスのガイドは必須である。再狭窄の多いRCA入口部も然りである。ステントの拡張や側枝ガイドワイヤの通過するストラットの確認、rotablator、OAS、DCAなどのデバルキングなど、その有用性は枚挙にいとまがなく、あくまで憶測ではあるが、これらの病変を組み入れていれば結果が変わっていた可能性がある。●最後にdiscussionにもあるように、本研究の複合エンドポイントのうちischemia-driven TVRが両群ともに非常に低い点であり(5.6% vs.5.6%、ハザード比:0.99、95%CI:0.71~1.40)、これはCOVID-19のパンデミック下で狭心症の再発があっても患者が受診を控えたり、医療者側も医療資源を温存するために待機的PCIを控えたりした影響があるかもしれない。これに関してはPIのZiad Aliが興味深い解析を行っている。これによると、パンデミック前にenrollされた患者のハザード比は0.70と想定された値と合致しており(476例、7.2% vs.10.1%、95%CI:0.37~1.32)、その一方で、パンデミック下にenrollされた患者ではその差がなくなり、ischemia driven-TVRの発生率は半減した(2,020例、7.5% vs.7.7%、ハザード比:0.96、95%CI:0.69~1.32)。これもあくまで憶測であるが、パンデミックがなければ結果が変わっていた可能性は十分にある。 実臨床において、イメージングデバイスの使用がPCIの質を高めることは論を待たないと思われる。本研究でも少なくとも急性期の良好な結果は十分に証明できており、先述した理由から慢性期の優位性を示すことができる可能性は十分にあると考えられる。上述したように、IVUSの研究でもはっきりした差は3年目以降に現れており、今回の2年という追跡期間は十分でなかった可能性も考慮されなければならないだろう。この追跡は今後も続けられると考えるので、5年追跡の結果が発表されることを期待している。逆に言えば、臨床家の方々には、今回の結果のみを見てOCTなど不要だなどと、軽々な判断は慎んでいただきたいと思う。

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睡眠時無呼吸へのCPAP、MACEイベントの2次予防に有効か/JAMA

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と心血管疾患の双方を有する患者の治療において、持続陽圧呼吸療法(CPAP)はこれを行わない場合と比較して、主要有害心脳血管イベント(MACCE)の2次予防に全般的には有効ではないものの、CPAPのアドヒアランスが良好な患者ではMACCEのリスクを低減することが、スペイン・リェイダ大学のManuel Sanchez-de-la-Torre氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年10月3日号で報告された。MACCE再発リスクへのCPAPの影響をIPDメタ解析で評価 研究グループは、OSAに対するCPAPによる治療がMACCEのリスクに及ぼす影響を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(スペイン・カルロス三世保健研究所などの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2023年6月22日までに発表された論文を検索した。対象は、心血管疾患とOSAの双方を有する成人患者において心血管アウトカムおよび死亡に及ぼすCPAPの治療効果を評価した無作為化臨床試験であった。 選択された3つの研究(SAVE[2016年]、ISAACC[2020年]、RICCADSA[2016年])の論文の著者に、個別被験者データ(IPD)の提供を求めた。1段階および2段階のIPDメタ解析により、混合効果のCox回帰モデルを用いてMACCEの再発リスクに及ぼすCPAPの影響を評価した。また、CPAPの良好なアドヒアランス(≧4時間/日)の効果についても検討した。 主要アウトカムは、初発MACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術、心不全による入院、不安定狭心症による入院、一過性脳虚血発作による入院)であった。1段階と2段階解析の双方で同様の結果 3研究の参加者4,186例を解析に含めた。82.1%が男性、平均BMIは28.9(SD 4.5)、平均年齢は61.2(SD 8.7)歳で、平均無呼吸低呼吸指数は31.2(SD 17)イベント/時であり、71%が高血圧を有し、50.1%がCPAPを受けており(平均アドヒアランス:3.1[SD 2.4]時間/日)、49.9%はCPAPを受けていなかった(通常治療)。平均追跡期間は3.25(SD 1.8)年。 主要アウトカムであるMACCEは691例(16.5%)で発生した(CPAP群349例、非CPAP群342例)。1段階解析によるITT解析では、MACCEの発生に関して両群間に統計学的に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.87~1.17、p=0.94)。 2段階解析は1段階解析の結果を裏付けるもので、両群間に有意差はみられなかった(HR:0.99、95%CI:0.82~1.19、p=0.32)。 一方、on-treatment解析では、CPAPのアドヒアランスが不良な患者(<4時間/日)と比較して良好な患者(≧4時間/日)では、MACCEのリスクが有意に低下した(HR:0.69、95%CI:0.52~0.92、p=0.01)。 著者は、「OSA患者における心血管疾患の2次予防では、CPAPのアドヒアランスが重要な因子であることが示唆された」とまとめ、「このメタ解析の結果は、OSAと心血管疾患を有する患者のうち、CPAP治療が最も有益である可能性が高い患者を特定するための厳格な根拠を提供し、患者の異質性が治療効果にどのように影響するかに関するより広範な議論に寄与する」と指摘している。

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国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」【下平博士のDIノート】第129回

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」今回は、人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」を紹介します。本剤は、国内で初めて承認された経口の人工妊娠中絶薬であり、中絶を望む女性にとって身体的にも精神的にも負担が少ない薬剤と考えられます。<効能・効果>子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶の適応で、2023年4月28日に製造販売承認を取得し、5月16日より販売されています(薬価基準未収載)。本剤を用いた人工妊娠中絶に先立ち、本剤の危険性および有効性、本剤投与時に必要な対応を十分に説明し、同意を得てから本剤の投与を開始します。なお、異所性妊娠に対しては有効性が期待できません。<用法・用量>ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。30分後も口腔内に錠剤が残っている場合は飲み込みます。ミフェプリストン投与後に胎嚢の排出が認められた場合、子宮内容物の遺残の状況を踏まえてミソプロストールの投与の要否を検討します。<安全性>国内第III相試験において1%以上に認められた副作用は、下腹部痛、悪心、嘔吐、下痢、発熱、悪寒でした。重大な副作用として、重度の子宮出血(0.8%)のほか、感染症、重度の皮膚障害、ショック、アナフィラキシー、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、妊娠9週以下の人に対する人工妊娠中絶の薬です。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬剤と、子宮収縮作用により子宮内容物を排出させる薬剤を組み合わせたパック製剤です。2.この薬の投与後は下腹部痛や子宮出血が現れて一定期間継続します。まれに重度の子宮出血が生じて貧血が悪化することがあるため、自動車の運転などの危険を伴う機械操作を行う場合は十分に注意してください。3.服用後、2時間以上にわたって夜用ナプキンを1時間に2回以上交換しなければならないような出血が生じた場合、発熱、寒気、体のだるさ、腟から異常な分泌物などが生じたときは速やかに医師に連絡してください。4.授乳中に移行することが知られているので、授乳をしている場合は事前にお伝えください。5.子宮内避妊用具(IUD)またはレボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS)を使用中の人はこの薬の投与を受ける前に除去する必要があります。<Shimo's eyes>本剤は、国内で初めて承認された人工妊娠中絶のための経口薬です。これまで妊娠初期の中絶は掻把法や吸引法によって行われてきましたが、今回新たに経口薬が選択肢に加わりました。ミフェプリストンとミソプロストールの順次投与による中絶法は、世界保健機関(WHO)が作成した「安全な中絶−医療保険システムにおける技術及び政策の手引き−」で推奨されており、海外では広く使用されています。使用方法は、1剤目としてミフェプリストン錠1錠を経口投与し、その36~48時間後にミソプロストール錠4錠をバッカル投与します。ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬であり、プロゲステロンによる妊娠の維持を阻害する作用および子宮頸管熟化作用を有します。ミソプロストールはプロスタグランジンE1誘導体であり、子宮頸管熟化作用や子宮収縮作用を有します。両剤の作用により妊娠の継続を中断し、胎嚢を排出します。国内第III相試験では、投与後24時間以内の人工妊娠中絶が成功した患者の割合は93.3%で、安全性プロファイルは認容できるものでした。本剤投与後に、失神などの症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合があります。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では敗血症や中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、異常が認められた場合に連絡を常に受けることができる体制や、ほかの医療機関との連携も含めた緊急時に適切な対応が取れる体制で本剤を投与することが求められています。併用禁忌の薬剤として、子宮出血の程度が悪化する恐れがあるため、抗凝固薬(ワルファリンカリウム、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、EPA製剤など)があります。また、ミフェプリストンの血漿中濃度が低下し、効果が減弱する恐れがあるため、中~強程度のCYP3A誘導剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)も併用禁忌となっています。本剤の承認申請が行われた2021年12月以降、社会的に大きな関心を集めました。厚生労働省が承認にあたってパブリックコメントを実施したところ1万1,450件もの意見が寄せられ、そのうち承認を支持する意見が68.3%、不支持が31.2%でした。欧米では経口薬による人工妊娠中絶法は30年以上前から行われていて、先進国を中心に主流になりつつあります。中絶を望む女性は、健康上の懸念がある、性的暴力を受けた、若すぎる、経済的に困窮している、パートナーの協力を得られないなどさまざまな背景があります。わが国では現在、薬局やインターネットで購入することはできませんが、多くの議論を経て、中絶を望む人たちにとって、医学的にも精神的にも寄り添うことのできるシステムが構築されることが望まれます。

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分岐部病変のPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/NEJM

 複雑な冠動脈分岐部病変を有する患者では、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較して、2年時点の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が低いことを、デンマーク・オーフス大学病院のNiels R. Holm氏らが、欧州の38施設で実施された多施設共同無作為化非盲検試験「European Trial on Optical Coherence Tomography Optimized Bifurcation Event Reduction(OCTOBER)試験」の結果、報告した。OCTガイド下PCIは、血管造影ガイド下PCIと比較してより良好な臨床アウトカムに関連することが知られているが、冠動脈分岐部を含む病変に対するPCIにおいても同様の結果が得られるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2023年8月27日号掲載の報告。主要エンドポイントは、2年時の主要有害心血管イベント(MACE) 研究グループは、18歳以上で、安定狭心症、不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞を有し、PCIの臨床適応があり、冠動脈造影で複雑な分岐部病変(主幹:対照血管径2.75mm以上で狭窄率50%以上、側枝:対照血管径2.5mm以上、側枝入口部から5mm以内の狭窄が50%以上)が特定された患者を、OCTガイド下PCI群または血管造影ガイド下PCI群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、追跡期間中央値2年時点のMACE(心臓死、標的病変の心筋梗塞、または虚血による標的病変の血行再建術の複合)とした。MACE発生率は、OCTガイド下PCIで10.1%、血管造影ガイド下PCIで14.1% 2017年7月~2022年3月に計1,201例(平均±SD年齢66.3±10.2歳、女性21.1%)が登録され、OCTガイド下PCI群に600例、血管造影ガイド下PCI群に601例が割り付けられた。227例(OCTガイド下PCI群111例18.5%、血管造影ガイド下PCI群116例19.3%)が左冠動脈主幹部に病変を有し、231例が他の標的病変も治療された多枝病変であった。 主要エンドポイントの2年時点のMACEイベントは、OCTガイド下PCI群で59例(10.1%)、血管造影ガイド下PCI群で83例(14.1%)が確認され、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.035)であった。 手技関連合併症は、OCTガイド下PCI群41例(6.8%)、血管造影ガイド下PCI群34例(5.7%)に発現した。

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HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。HIV感染者約7,800例において、主要有害心血管イベントの発生を評価 研究グループは2015年3月26日~2019年7月31日に、抗レトロウイルス療法を受けている心血管疾患リスクが低~中等度の40~75歳のHIV感染者7,769例を登録し、ピタバスタチン群(ピタバスタチンカルシウム1日4mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。過去90日以内のスタチン使用歴があり、アテローム性動脈硬化症が認められた患者は除外した。 主要アウトカムは、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈虚血、冠動脈・頸動脈・末梢動脈の血行再建術、原因不明の死亡の複合と定義)とし、出生時の性別およびスクリーニング時のCD4数で層別化したCox比例ハザードモデルを用いたtime-to-event解析を行った。ピタバスタチンで心血管イベントが35%低下 7,769例(ピタバスタチン群3,888例、プラセボ群3,881例)の年齢中央値は50歳(四分位範囲[IQR]:45~55)、CD4数の中央値は621個/mm3(IQR:448~827)であった。また、HIV RNA量は、利用可能なデータを有する5,997例中5,250例(87.5%)で定量未満であった。 本試験は、追跡期間中央値5.1年(IQR:4.3~5.9)時点の2回目の中間解析の結果、有効性が認められ安全性の懸念はなかったことから早期に打ち切りとなった。 主要有害心血管イベントの発生頻度は、ピタバスタチン群が1,000人年当たり4.81、プラセボ群は1,000人年当たり7.32で、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.48~0.90、p=0.002)であった。 有害事象については、Grade3以上または治療変更を要した筋肉痛またはミオパチーがピタバスタチン群で91例(2.3%)、プラセボ群で53例(1.4%)、糖尿病がそれぞれ206例(5.3%)、155例(4.0%)に認められ、いずれもピタバスタチン群では発現率が高かった。 なお、著者は、「今回はピタバスタチンを用いた結果ではあるが、LDLコレステロールを低下させる他の戦略も同様に有用である可能性があり、さらなる大規模臨床試験においてスタチン療法単独で得られた結果と比較検証する必要がある」とまとめている。

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