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抗凝固療法下の抗血小板療法DAPTよりもクロピドグレル単剤が出血リスクが低い:WOEST試験

心房細動(AF)など、抗凝固療法が必要な患者にステント留置を行う場合、抗血小板療法はアスピリン・クロピドグレル併用(DAPT)よりもクロピドグレル単剤のほうが、心血管系イベントを増加させることなく出血性合併症を有意に抑制することを、WOEST (What is Optimal antiplatelet and anticoagulant therapy in patients with oralanticoagulation and coronary stenting) 試験が明らかにした。この点を検討した初の無作為化試験である。8月28日の「ホットラインIII」セッションにて、聖アントニオ病院(オランダ)のWillem Dewilde氏が報告した。WOEST試験の対象は、抗凝固療法を1年以上継続し、無作為化後すぐに経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が予定されていた18歳以上の563例である。重篤な出血既往例は除外されている。平均年齢は70歳、約8割が男性だった。抗凝固療法を必要とする疾患の70%近くをAFが占めた。また抗凝固薬は7割がワルファリンだった。PCIの内訳は、薬物溶出ステントDES(ベアメタルステント [BMS]との併用含む )が70%弱、BMS単独が30%となっていた。これら563例は抗凝固療法を継続のうえ、DAPT群(284例)とクロピドグレル単剤群(279例)に無作為に割り付けられた。DAPT群ではアスピリン80mg/日+クロピドグレル75mg/日、クロピドグレル単剤群では75mg/日を服用した。抗血小板薬の服用期間は、BMS留置例では最低1ヵ月間(最大でも1年間)、DES留置例では最低1年間とした。その結果、一次評価項目である「1年間の全TIMI出血」は、DAPT群:44.9%に対しクロピドグレル単剤群では19.5%と有意に低値となっていた(ハザード比:0.36、95%信頼区間:0.26~0.50;p

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安定冠動脈疾患に対するFFRガイド下のPCI、薬物療法を上回る予後改善作用:無作為化試験FAME 2

心筋血流予備量比(FFR)を用いて心筋虚血を確認できれば、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の予後改善作用は薬物治療単独を著明かつ有意に上回ることが、無作為化試験FAME 2の結果、明らかになった。8月28日の「ホットライン III」セッションにてOLVクリニック(ベルギー)のBernard De Bruyne氏が報告した。COURAGE試験以来、疑問視されてきた「安定冠動脈疾患に対するPCIの有用性」だが、面目を一新した形だ。FFRは、冠動脈狭窄に起因する心筋虚血の良い指標である。FFRガイドを加えたPCIはすでに、従来の冠動脈造影に基づき行うPCIに比べ、急性虚血性心疾患亜急性期からの虚血性心イベントを有意に抑制することが報告されている(FAME試験)。FAME 2試験に登録されたのは、冠動脈造影所見から薬物溶出ステント(DES)の適応と考えられた安定冠動脈疾患1,220例(1~3枝病変)である。うち、FFR(≦ 0.80)にて心筋虚血が確認された888例が、「薬物治療+PCI」群(PCI群:447例)と「薬物治療」単独群(441例)に無作為に割り付けられた。なお、FFR>0.80の332例は、薬物治療のみで観察した(非虚血薬物治療群)。本試験はPCI群における早期の優位性が明らかになったため、早期中止となった。追跡期間平均値は各群ともおよそ200日だった。まず一次評価項目である「死亡、心筋梗塞、緊急冠血行再建術施行」 だが、PCI群で薬物治療単独群に比べ相対的に68%有意に減少した(ハザード比 [HR]:0.32、95%信頼区間 [CI]:0.19 ~0.53;p

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震災後の心血管系イベント発症、疾患によりタイムコースが異なる:東日本大震災

2011年3月11日、未曾有の大地震と津波がわが国を襲った。東日本大震災の被災地では、医療従事者、消防など関係者は激務の中であっても、詳細な記録を残すことを厭わなかった。その結果、震災・津波という大きなストレス後の、各種疾患の発症パターンは必ずしも一様ではないことが明らかになった。28日の「ホットライン III」セッションにて、東北大学循環器内科教授の下川宏明氏が報告した。これまでも、大地震後の突然死,心筋梗塞や肺炎の発症増加を観察した報告は存在する。しかし、今回下川氏らが企図したのは、「より大規模」、「より長期の経過観察」、「より幅広い心血管系疾患を対象」とする調査である。同氏らは、宮城県医師会とともに、2008年~2011年の2月11日~6月30日(15週間)における疾患発症情報を集めるため、県下12の広域消防本部から救急搬送に関するデータの提供を受けた。調査対象とした疾患は「心血管系全般」とし、「心不全」、「急性冠症候群(ACS)」、「脳卒中」、「心肺停止」が挙げられた。加えて、「肺炎」についても調査した。まず、上記疾患はいずれも、大震災後,著明な発症増加が認められた。下川氏は、今後同様の大ストレス下では、上記疾患全てに、医療従事者は備える必要があると述べた。また肺炎を除き、発症リスクに対し、年齢(75歳以上、75歳未満)、性別(男、女)、居住地(内陸部、海岸部)で有意な差は認められなかった。肺炎発症リスクは、海岸部で有意に増加していた。津波の影響が原因と、下川氏は考察している。興味深いのは、震災後急増したこれら疾患発症率が、正常に戻るパターンである。3つの類型が観察された。すなわち、1)速やかに発症数が低下する(ACS)、2)速やかに発症数が減少するも,余震に反応して再び増加する(脳卒中、心肺停止)、3)発症数増加が遷延し、長期にわたり発症が減少しない(心不全、肺炎)──の3つである。特にACSは震災発生3ヶ月後、震災前3年間の同時期に比べても発症率は著明に低くなっていた。震災によりACS発症が前倒しになった可能性があると、下川氏は指摘している。記者会見において、脳卒中とACSのパターンが異なる理由について質問が出た。同じくアテローム血栓症を基礎にするのであれば、同様の正常化パターンが予測されるためである。これに対し下川氏は、機序については今後の課題であると述べている。当初同氏らは、震災後に脳卒中が増加したのは、ストレスによる昇圧が脳出血を増やしたためだろうと考えていた。しかしデータを解析すると、地震に反応して増加していたのはもっぱら脳梗塞であり、脳出血の増加は認められなかった。ストレスによる凝固能亢進が示唆される。最後に下川氏は、宮城県の医師会、消防本部,そして日本循環器学会に謝意を示し発表を終えた。指定討論者であるルードイッヒ・マキシミリアン・ミュンヘン大学(ドイツ)のGerhard Steinbeck氏は、東日本大震災のようなストレスが心血管系疾患に及ぼす影響が、発生直後の数日間のみならず、数週間、数ヵ月持続する点に大いに注目していた。関連リンク

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心房細動例においてワルファリンを上回るアピキサバンの有用性──、腎機能低下例でも維持される;ARISTOTLEサブ解析

新規Xa阻害薬アピキサバンは心房細動(AF)例において、腎機能の高低にかかわらず「脳卒中・全身性塞栓症」をワルファリンよりも抑制し、ワルファリンと比較した「大出血」リスクは、腎機能が低下するほど減少する可能性が示された。28日の「クリニカルトライアル&レジストリー・アップデートIII」セッションにて、J.W.ゲーテ大学(ドイツ)のStefan H. Hohnloser氏が、大規模試験ARISTOTLEのサブ解析として報告した。ARISTOTLE試験の対象は、脳卒中リスク因子を有する心房細動患者18,201例である。「血清クレアチニン(Cr)値>2.5mg/dL」あるいは「クレアチニン・クリアランス<25mL/分」の腎機能低下例は除外されている。これら18,201例は アピキサバン群(9,120例)とワルファリン群(9,081例)に無作為化され、二重盲検法で追跡された。アピキサバンの用量は5.0mg×2/日を基本としたが、「血清クレアチニン(Cr)値≧1.5mg/dL+他危険因子」などの出血高リスク例では、2.5mg×2/日に減量した。ワルファリン群の目標INRは、一律「2~3」である。今回の解析では、腎機能の高低別にアピキサバンの有効性と安全性が評価された。腎機能の評価には推算糸球体濾過率(eGFR)を用い、「50 (mL/分/1.73m2)以下」、「50~80 (mL/分/1.73m2)」、「80 (mL/分/1.73m2)超」の3群に分けて比較した。まず有効性として、一次評価項目である「脳卒中・全身性塞栓症」リスクを検討した。全例での検討ではワルファリン群に比べ相対的に21%、アピキサバン群で有意な減少が認められたイベントである。その結果、Cockroft-Gault式、CKD-EPI式、シスタチンCから推算したいずれのeGFRで評価しても、腎機能の高低はアピキサバンによる「脳卒中・全身性塞栓症」作用に有意な影響を及ぼしていなかった。「総死亡」で検討しても同様だった。一方、安全性については、腎機能低下例でアピキサバンがより優れる可能性が示された。Cockroft-Gault式、CKD-EPI式いずれのeGFRで評価しても、アピキサバン群における「大出血」リスクはeGFRが低値となるほど、ワルファリン群に比べ減少する有意な傾向が認められた。そこでCockroft-Gault式、CKD-EPI式で求めた「eGFR」と「大出血リスク」をそれぞれ連続変数としてプロットしてみると、いずれのeGFRも、低下に伴う大出血リスクの増加傾向は、アピキサバン群に比べワルファリン群で有意に大きかった。ただし、シスタチンCから推算したeGFRの高低は、アピキサバン群における大出血リスクに有意な影響を与えなかった。アピキサバン群ではeGFRの高低にかかわらず一貫して、ワルファリン群に比べ有意なリスク減少が観察された。Hohnloser氏は「腎機能の低下したAF例に対し、アピキサバンはワルファリンよりも有効かつ安全かもしれない」と結んだ。関連リンク

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どうやって信頼性を確保するか! 臨床試験成績の読み方!?

7月14日(土)NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)が主催する「第3回 J-CLEARセミナー」が、東京大学医学部附属病院において開催された。当日は全国より会員、関係者など約60名が参加した。今回のテーマとして「臨床試験成績の読み方-信頼性の観点から-」が掲げられ、巷間で問題となっている医学論文の信頼性や研究データの解析手法の問題点など、テクニカルな面も含め講演が行われた。特別講演臨床研究のmisconduct特別講演として山崎茂明氏(愛知淑徳大学 人間情報学部 教授)を講師に迎え、「臨床研究のmisconduct」というテーマで講演が行われた。講演では、「misconduct(不正行為・違法行為)」をキーワードに、論文やトライアルの問題を「点」として捉えるのではなく、さまざまな要因に起因する「線」によるミスと捉え、理解していこうというものであった。Misconductといかに向き合うかについては、これを「病気」になぞらえ、防ぐためには個人や環境への介入と予防のための教育が重要だと述べた。次にmisconductの定義について、「科学におけるmisconduct」とは、「捏造、改ざん・偽造、盗用」のことを指し、その他の逸脱行為として「資金の不正流用、各種ハラスメント」等があると説明した。そして、misconductの発生率について、1997年には1万件あたり約5件(0.05%)であったが、2005年のある調査では、3,247名に調査した結果、うち33%がmisconductに何らかの関与をしたとのレポートを紹介した。次にmisconductを防止する鍵は、「発表倫理」を考えることであり、発表倫理はさらに2つに分けられると説明した。それは「オーサーシップ」と「レフェリーシステム」である。まず、「オーサーシップ」の種類4つとそれぞれ考え得るリスクを述べた。ギフトオーサーシップ:儀礼的に名前が共著として載るリスク→撤回論文になった場合、不名誉な記録が残る名誉オーサーシップ:慣例で名前が共著として載るリスク→撤回論文になった場合、不名誉な記録が残るゴーストオーサーシップ:著者資格があるのに著者に記載されないリスク→EBMの情報源でなくなるゲストオーサーシップ:著者資格はないがゲストの肩書などを利用して意図的に信頼性を高める。メーカの記事等で散見されるリスク→論文の信頼性の著しい低下その上で、たとえばこれからのオーサーシップは、貢献度に応じて、映画のエンドクレジットのように名前を表出させてはどうかと提案が行われた。次にレフェリーシステムについて、従来は“Peer Review”が信頼性を維持してきたことに触れ、最近ではこのやり方が揺らいできていること、そこで“Open Peer Review”が採用されるようになってきたと述べた。そこでは審査論文は親展文書として送られ、ライバル研究者への審査依頼禁止を要望できるなど、編集システムの段階でさらにmisconductを防止できるようにシステムが築かれていると説明し、講演を終えた。わが国の臨床試験の課題1)オープン試験における問題点はじめに、植田真一郎氏(琉球大学大学院 薬物作用制御分野 教授)が「オープン試験における問題点」と題して問題提起を行った。オープン試験は、元来、治療方針の比較(例.生活習慣指導の臨床試験)に適した試験であり、薬効の比較にはむかない試験である。薬剤の比較試験は二重盲検で行うべきであるが、わが国では治験を除いて、そのほとんどがオープン試験で行われているのが現状。また、本来エンドポイントは、試験の目的によって決まるはずであるが、現状は症例集積性と検出力から決まっている。その結果、複合エンドポイントが採用されることが多い。複合エンドポイントのコンポーネントとして、時に主観的なものが設定されることが多い。例えば、狭心症の発症、心不全による入院、経皮的冠動脈インターベーション(PCI)の施行などである。問題なのはオープン試験の複合エンドポイントのコンポーネントとして主観的なエンドポイントが含まれてしまっていることである。オープン試験では主治医は、患者がどちらの治療を受けているかを知っているので、対照群で主観的なエンドポイントがより多く発生することで結果に影響を及ぼすと指摘。また、イベント元(主治医)からデータセンターへの報告が担保されていないなど問題があると言及した。そこであるべき研究試験体制としての組織を説明後、OCTOPUS研究による質の保証を述べた。すなわち、「ランダム化は最小化法で、CRC(治験コーディネーター)を派遣し第三者によるデータ転記、独立したモニタリング委員会とイベント評価委員会、そして試験事務局の独立が担保されなければならない」と説明した。そして、わが国で多く実施されているオープン試験の質を担保する方策として、「研究目的の整合性、適正なモニタリング・監査、アウトカムの評価の厳密化、データ管理とトレーサビリティ、公的研究での資金サポートが重要だ」とのべ、発表を終えた。2)Spinについて桑島巌氏(東京都健康長寿医療センター 顧問)が、「Spinについて」と題して臨床試験の目的と結果の齟齬について説明した。「Spin」とは「回転させる」から転じた用語で、臨床試験において「主要なエンドポイントに関して統計学的には有意でなかったにも関わらず、試験薬が有効であったかのように印象付ける、あるいは有意でなかったことから注意を逸らせるような報告内容」であり、 2010年にJAMA誌に発表され、この報告によるとspin率は37.5%、本文の考察部分でのspin率は43.1%であったと紹介した(参考記事「RCT論文、『有意差なし』なのにタイトル曲解18%、要約結論曲解58%」)。次に2つの循環器系の臨床試験を例にspinの具体例を説明した。ある試験では、1次エンドポイントにおいて結果が出なかったために、2次エンドポイントを強調して発表した例や、別の試験では、有意差が得られなかった結果に対し、仮説が成立していた患者群だけの後付け解析を別の研究論文として発表された例等があると解説した。そして、「臨床研究論文は、プライマリエンドポイントを主眼に発表し、読者を惑わすことがあってはならない」と発表を終えた。3)オープン試験における信頼性保証の方策景山茂氏(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 薬物治療学研究室 教授)が、「オープン試験における信頼性保証の方策」と題して、わが国における心血管イベントを対象とした最近の自主臨床試験の特徴を中心に説明を行った。一つは、「複合エンドポイントの採用」で、利点として多重性を避け、サンプルサイズを小さくし、追跡期間を短くすることができる半面、結果の解釈が難しく、オープン試験に適さない情報が採用される場合もあると指摘した。もう一つは、「PROBEデザインの採用」であり、はじめにPROBEデザインで行われた欧米、日本の主な研究を例示。次に、PROBEデザインの課題として(1)適切なエンドポイントの選択、(2)エンドポイント委員会の機能強化、(3)第三者の介入(CRCのサポート)、(4)CONSORT声明の改善(オープン試験では責任医師の症例数を申告させるなど)、(5)モニタリングと監査の5つを挙げ、今後の改善すべき点を示した。また、医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)についても触れ、その目的は「被験者の人権、安全、福祉の保護」と「治験の科学的な質とデータの信頼性の確保」にある。両方を実現するためにも「臨床研究に関する倫理指針」へのデータの信頼性保証の方策の記載、試験機関でのモニタリングと監査部門の設置、ガイドラインに基づく不正行為告発等の受付体制の整備などを提起した。総合討論続いて総合討論となり、会場からさまざまな質問や問題提起が行われた。一例として「トライアル研究の問題点は何か」という質問に対して、「薬効の厳密評価と治療法の評価の方法は違う研究。前者は治験、後者は標準治療と厳格治療を比較したUKPDSに代表されるようなもの」という回答がなされた。また、「研究試験の外的妥当性を高める方策は?」と問われたところ「RCTそのものに制限があるので、例外を考える。現場で評価が出ない時は、それ以外で考えることも必要。検討される結果の事前確率を考えて、具体的には事前統計を見積もって、事後確率も考えていく」や「外的妥当性の向上として、サブブロック解析をした方がよい。層別解析で行う」など複数の回答が寄せられていた。最後に代表の桑島氏が「3時間半の盛り上がる研究会となった。今後も、今回の発表内容などを日ごろの研究試験の際に参考にしてもらいたい」と挨拶し、セミナーを終了した。※NPO法人 臨床研究適正評価教育機構とは、2010年に発足した臨床研究を適正に評価するために必要な啓発・教育活動を行い、我が国の臨床研究の健全な発展に寄与することをめざした組織。毎年セミナー、シンポジウムなどの勉強会が開催され、出版物の刊行も行っている。●詳しくはNPO法人 臨床研究適正評価教育機構まで http://j-clear.jp/

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第5回 損害の評価、素因減額:医師の責任を金銭にすると?

■今回のテーマのポイント1.身体損害の金銭への評価は、〔1〕治療費等積極的損害 +〔2〕逸失利益(消極的損害) + 〔3〕慰謝料で求められる2.不法行為の被害者が疾患を有する場合の損害額の減額方法として、逸失利益の減額(損害額の算定)と素因減額の方法がある3.良性疾患等回復可能な疾患においては、素因減額の方法をとる必要がある事件の概要患者(X)(48歳男性)は、平成12年5月23日、勤務中に右膝を負傷し、A病院にて局所麻酔下で異物(右膝の皮下組織と筋膜間に針金と砂様の異物、脛骨粗面付近の皮下組織内に鉛筆の芯用の異物)を除去しました。創部の痛みが強かったため、2日後の同月25日にXは、A病院に入院することとなりました。右膝の経過は順調であったものの、同月30日頃より、胸部不快感が生じるようになり、6月1日午前5時半頃、トイレから帰室する際に意識消失。すぐに意識を取り戻したものの、胸部不快感及び呼吸苦を訴えたことから、酸素投与及びニトロ舌下を行ったところ、胸部不快感及び呼吸苦は改善しましたが、心電図上、「II,III,aVF,V1,2 negative T,V3,4,5軽度ST上昇」を認めたため、Y1医師は、急性冠不全症又は急性心筋梗塞疑いと診断して精査加療のため、B病院に転院を指示しました。B病院転院後、医師Y2は、午前11時20分頃に冠動脈造影検査を施行したところ、器質的狭窄は認めなかったものの、エルゴノビン負荷テストにおいて、左前下行枝に90%狭窄を認め、同日朝の胸部不快感と同様の症状を認めたこと、ニトロール注入にて症状及び狭窄が改善したことから、冠攣縮性狭心症と診断しました。しかし、Xは、同日夜10時頃と翌午前3時頃に胸部不快感を訴え、翌朝午前6時50分頃、再び意識消失しました。同時点での血圧は80台、心拍数が48回/分、心電図上、右脚ブロック及びV2~4でST上昇を認めました。Y2医師は、心エコーを施行したところ、著明な右室の拡張及び心室中隔の奇異性運動を認めたことから、肺塞栓症を疑い、肺動脈造影検査を施行しようとXをベッド移動したところ、Xは、呼吸停止、高度除脈となりました。Y2医師は、心肺蘇生を行うと同時に、肺動脈造影を行ったところ、肺動脈内に血栓を認めたことから、肺塞栓症と診断し、血栓溶解剤の投与を行いましたが、6月4日午前6時24分に死亡確認となりました。原審(熊本地裁)では、Y1医師、Y2医師が肺塞栓症を疑わなかったことに過失は認められないとして、Xの遺族の請求を棄却しました。これに対し、福岡高裁は、Y1医師、Y2医師の過失を認め、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(48歳男性)は、平成12年5月23日、勤務中に右膝を負傷したため、同日勤務終了後、近医を受診しました。レントゲン写真上、右膝に異物が認められたことから、異物の摘出を試みるも、うまくいかなかったため、A病院に紹介しました。同日夕方、A病院にて局所麻酔下で異物(右膝の皮下組織と筋膜間に針金と砂様の異物、脛骨粗面付近の皮下組織内に鉛筆の芯用の異物)を除去し、ペンローズドレーンを留置し、外来フォローアップとしました。しかし、創部の痛みが強く、2日後の同月25日に患者X希望にてA病院に入院することとなりました。右膝の経過は順調であったものの、同月30日頃より、胸部不快感が生じるようになり、6月1日午前5時半頃、トイレから帰室する際に意識消失。すぐに意識を取り戻したものの、胸部不快感及び呼吸苦を訴えたことから、心電図を施行し、酸素投与及びニトロ舌下を行ったところ、胸部不快感及び呼吸苦は改善しました。同日午前9時頃に内科(医師Y1)紹介受診したところ、先に施行した心電図上、「II,III,aVF,V1,2 negative T,V3,4,5軽度ST上昇」を認めたことから、急性冠不全症又は急性心筋梗塞疑いにて精査加療のため、B病院に転院することとなりました。同日午前10時頃にB病院に到着。医師Y2は、午前11時20分頃に冠動脈造影検査を施行したところ、器質的狭窄は認めなかったものの、エルゴノビン負荷テストにおいて、左前下行枝に90%狭窄を認め、同日朝の胸部不快感と同様の症状を認めたこと、ニトロール注入にて症状及び狭窄が改善したことから、冠攣縮性狭心症と診断しました。しかし、Xは、同日夜10時頃と翌午前3時頃に胸部不快感を訴え、翌朝午前6時50分頃、再び意識消失しました。同時点での血圧は80台、心拍数が48回/分、心電図上、右脚ブロック及びV2~4でST上昇を認めました。Y2医師は、心エコーを施行したところ、著明な右室の拡張及び心室中隔の奇異性運動を認めたことから、肺塞栓症を疑い、肺動脈造影検査を施行しようとXをベッド移動したところ、Xは、呼吸停止、高度除脈となりました。Y2医師は、心肺蘇生を行うと同時に、肺動脈造影を行ったところ、肺動脈内に血栓を認めたことから、肺塞栓症と診断し、血栓溶解剤の投与を行いましたが、6月4日午前6時24分に死亡確認となりました。事件の判決判決では、遅くとも6月1日午前5時半頃の意識消失時(前医であるA病院入院時)には、Xが肺塞栓症を発症していたと認定し、「Y1医師が、Xの6月1日の意識消失等を虚血性心疾患によるものであると診断したのは、客観的には誤りであったものといわなければならない」とした上で、「もっとも、症状や心電図のみでは、肺塞栓症とその他の疾患、特に心疾患と鑑別診断することは極めて困難であるというのであるから、Y1医師が、6月1日午前9時ころまでにXにかかる上記のような所見を得ていたからといっても、Xが肺塞栓症に罹患していると診断することまで期待するのは無理である。とはいえ、急性肺血栓塞栓症においては、診断がつかず適切な治療が行われない場合には死亡の確率が高いこと、他方で、適切な治療がなされれば死亡率が顕著に低下することが知られていたのであるから、Y1医師としては、上記時点で、少なくとも肺塞栓症に罹患しているのではないかとの疑いを持つことが必要であり、それは十分可能であったといわなければならない」として、Y1が肺塞栓症を疑わず、その結果B病院転院時の診療情報提供書に肺塞栓症疑いと記載しなかったことを過失としました。Y2についても、「6月1日午後10時ころに至り、再び胸痛を訴えるに及び、また、その際行われた心電図検査の結果は、搬送された際に実施したものと同様に、肺塞栓症と考えても矛盾しないものであったということからすれば、遅くともこの時点では肺塞栓症を疑うべきであったといわなければならない」「しかるに、Y2医師は、上記Y1医師の診断結果を認識した後、もっぱらその疑いを念頭に置いて冠動脈造影検査、エルゴノビン負荷テストを施行したものであり、また、胸痛が持続する場合にはニトロペンを舌下投与すべき旨を指示しただけで、肺塞栓症を鑑別対象に入れることは6月2日朝に至るまでなかったというのであるから、この点につき、Y2医師には上記注意義務に違反した過失があるというべきである」として過失を認めました。その上で、「このような事情を考慮するならば、上記のとおり、Y1医師及びY2医師がともに過失責任を免れないとしても、直ちに全責任を負わしめるのはいかにも酷というべきである。そうであれば、結果に寄与したXの素因ないしは被害者(患者)側の事情として上記の諸事情を考慮し、上記不法行為と相当因果関係を有する損害額を一定の割合で減額するのが相当である」と判示し、過失相殺の法理を類推適用し、損害額の4割を控除し、約4,080万円の損害賠償責任を認めました。(福岡高裁平成18年7月13日判タ1227号303頁)ポイント解説不法行為責任が成立した場合、加害者は、当該過失によって生じた損害を金銭に評価した額を賠償する責任を負います。(1) 過失(2) 損害(3) (1)と(2)の間の因果関係↓不法行為責任成立↓生じた損害を金銭に評価↓当該評価額を賠償する責任を負う医療過誤訴訟においては、通常、「患者の死傷」が損害となります。この「人の死傷」という損害の金銭的評価は難しく、各国によって異なっているのですが、わが国においては、〔1〕積極的損害:入院・治療費、看護費用、交通費、葬祭費、弁護士費用等〔2〕消極的損害:逸失利益(被害者が生存していれば得たであろう利益(収入))〔3〕精神的損害:慰謝料の3つが認められることとなっています。この中で、最も高額となりがちなのが〔2〕の逸失利益であり、産科医療訴訟の賠償額が高額化する原因はここにあります(被害者の就労可能期間が最も長いため)。しかし、病院に治療に来る患者は、何らかの疾患を抱えています。したがって、たとえ医療過誤が発生し、患者が死亡した場合であっても、当該疾患により、就労不能であった場合には、逸失利益は“0”になります(損害額の算定の問題)。また、交通事故と被害者の疾患が競合して死亡という結果が生じた事案において、裁判所は、「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定※1を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解するのが相当である。けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」(最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁)と判示しています。これは、「素因減額」と言われている考え方です。被害者が疾患を有していた場合の損害額の減額方法はこれら2つの方法がありますが、医療過誤訴訟においては、多くの場合、損害額の算定の方法で処理されています。たとえば、がん患者が医療過誤によって死亡した場合には、損害額の算定による方法では、「医療過誤がなかったとしても余命は○年であり、その間、就労することは不可能であるので逸失利益は認められない」となり、素因減額の方法では、「医療過誤とがんがともに原因となって死亡という損害を発生させており、加害者に損害の全部(健康な同年代と同額の逸失利益等損害)を賠償させることは公平を失するので、過失相殺の規定を類推適用して、損害額を減額する」となり、どちらの方法をとっても、結果として、同程度の損害額の減額が認められることとなります。しかし、進行がんなどの治療困難な疾患については、どちらの方法でも同程度の結果となりますが、本件のように、うまく治療がなされれば根治可能な良性疾患等に関しては結果が異なってきます。すなわち、「医療過誤がない」=「肺塞栓症と早期に診断」ができていれば、健康な状態で長期就労可能となりますので、損害額の算定の方法では、減額ができないからです。本判決では、Y1、Y2に過失があるといえるかはともかく、このような場合には、素因減額の方法をとり、損害額を減額することができるということを示した判決です。世界中で、民事医療訴訟を原因とした医療崩壊が生じており、その対応のため、無過失補償制度を各国が導入してきています。無過失補償制度を導入するにあたり、最大の鍵となるのが、補償額の多寡であり、訴訟を行った場合に得られる金額に近い額の補償額を給付しなければ、結局、訴訟が選択されてしまいます。逆相続※2を認めるわが国においては、損害賠償額が高額となるため、無過失補償制度の運営が困難といわれています。また、そもそも、医療提供体制においては、低額の皆保険制度をとっているにもかかわらず、紛争が生じると、他の一般民事事件と同様に高額な損害賠償額となるのは公平を失するといえます。今後、医療過誤訴訟は増加の一途をたどることが予想されます。訴訟による医療崩壊が生ずる前に速やかに無過失補償制度を作る必要があり、その前提として、素因減額の適用拡大が必要となるものと思われます。 ※1民法第722条2項:被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。※2子供が不法行為により死亡した場合に、子供の逸失利益を親に相続させること。子供が生存していた場合、親が子の財産を相続することは通常ないこと等から、EU諸国では認められていない。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)福岡高裁平成18年7月13日判タ1227号303頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁

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最新版QRISK2、高い心血管疾患リスク予測能を確認

心血管疾患の10年リスクの予測において、英国で開発されたQRISK2は、従来から同国で使用されてきた米国のFraminghamモデルの修正版に比べ予測能が優れることが、オックスフォード大学のGary S Collins氏らの調査で示された。最近まで、英国では国立医療技術評価機構(NICE)による修正版Framinghamモデルが用いられてきたが、リスクの過大評価が指摘されていた。QRISK2は自国の大規模コホートのデータに基づいて開発され、2008年の発表後、2010年、2011年と改訂が進められているが、診断能を客観的に評価するには改訂リスク予測モデルの外的妥当性の検証が必要とされる。BMJ誌2012年7月28日号(オンライン版2012年6月21日号)掲載の報告。QRISK2-2011の予測能を前向きコホート試験で評価研究グループは、英国のプライマリ・ケア受診患者コホートにおける心血管疾患の10年リスクを予測する最新版QRISK2(QRISK2-2011)の予測能を評価し、QRISK2の旧版(QRISK2-2008、QRISK2-2010)およびNICE版Framingham方式との比較を行うプロスペクティブなコホート試験を実施した。英国の364のプライマリ・ケア施設が参加するThe Health Improvement Network(THIN)データベースに、1994年6月27日~2008年6月30日までに登録されたデータから、30~84歳の208万4,445人(1,186万2,381人・年)、9万3,564件の心血管イベントを抽出した。主要評価項目は、診療録に記載された心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、冠動脈心疾患、脳卒中、一過性脳虚血発作)の初回診断とした。良好な予測能、高リスク検出能、キャリブレーションを確認QRISK2-2011に関する独立の外的妥当性の検証では、NICE版Framingham方式に比べ良好な予測能を示した。QRISK2-2011は、NICE版Framingham方式よりも心血管疾患の高リスク者の検出能が優れていた。キャリブレーション(心血管疾患の予測された10年リスクと実際の10年リスクの一致)は、QRISK2-2011では75~85歳でわずかに予測リスクが実際のリスクを上回っていたものの全体としてはほぼ一致していたのに対し、NICE版Framingham方式には明らかな過大予測がみられ、35~74歳の男性で約5%過大に予測し、女性では全年齢を通じて予測リスクが上回っていた。QRISK2-2011とQRISK2-2008の間に、心血管疾患リスクの予測能やキャリブレーションに大きな差はなかった。これら2つのモデルは閾値(>20%を高リスクと定義)のベネフィットも同等であり、いずれもNICE版Framingham方式に比べ優れていた。著者は、「QRISK2-2011は、NICE版Framingham方式に比べ識別能やキャリブレーションが優れる有用なモデルと考えられる」と結論し、「現行のNICE版Framingham方式による高リスクの閾値は、男性、女性ともに臨床的ベネフィットはないと考えられる」と指摘している。

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学会総会まるわかり! 第44回 日本動脈硬化学会総会レビュー ガイドライン作成委員が語る今年の総会

執筆:塚本和久先生(福島県立医科大学 会津医療センター準備室 糖尿病・代謝・腎臓内科 教授)7月19日と20日の二日間、「動脈硬化性疾患の包括医療 ―ガイドライン2012―」をメインテーマとして、佐々木淳会長(国際医療福祉大学)のもと、第44回日本動脈硬化学会総会・学術集会が福岡にて開催された。本学会でも、近年他学会でも採用され始めたiPhone・iPad・スマートフォンでのプログラムの検索や予定表の作成が可能な専用のアプリが採用され、さらには抄録集もPDF化されたことにより、従来の重たい抄録集を持ち歩く必要がなくなったのも目新しい試みであった。両日を通じて総数1200名弱の参加があった。1. 新ガイドライン関連セッション今回の学会は、本年6月20日に発表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版」をめぐるセッションがいくつか設けられた。初日午前には、各脂質測定に関する精度に関するワークショップが企画された。日常臨床で、各々の測定値がどのように標準化されているのか、その測定精度がどの程度のものであるのか、を考えることがないのが、ほとんどの臨床家の現状であろう。このセッションにおいて、総コレステロールはその精度管理が優れておりばらつきはほとんどないこと、現在のHDL-C測定法も精度の高い測定法であること、それに対して中性脂肪測定は標準化が十分でなく今後強力な標準化の努力が必要であること、また欧米での中性脂肪測定法と日本のそれとは遊離グリセロールを含めて測定するかどうかの相違が存在しており、値として同等のものと考えることはできないこと、などの解説が行われた。またLDL-C直接法に関しては、現在12メーカー(試薬は8試薬)がキットを出しているが、その測定法の詳細は示されておらず、同じ検体を測定してもキットにより値が異なることがしばしばあり、特に中性脂肪値の高い検体ではBQ法(比重1.006g/mL以上の画分を除いた検体でコレステロールを測定する方法)での測定値よりもかなり高値となるキットがあることが指摘された。それゆえ、今回のガイドラインでは、中性脂肪値が400 mg/dL以上の場合にはnon HDL-Cを指標とすること、中性脂肪値高値例ではLDL-C目標値達成後にnon HDL-C値を二次目標として用いること、が推奨されることとなったとの解説があった。non HDL-Cに関しては、近年の報告からLDL-Cよりも強い冠動脈疾患のマーカーとなる可能性が示されていること、高TG血症・低HDL-C血症ではLDL-Cにnon HDL-Cを加えて用いることによりそのリスク予測能が高まること、ただしnon HDLを指標とした大規模研究や疫学研究はないため、とりあえずLDL-C + 30 mg/dLで基準を定めてはいるものの、今後その閾値の設定が必要になってくることが提言された。二日目の午後には、今回のガイドライン作成の中心的存在として活躍された先生方による、「改訂動脈硬化性疾患予防ガイドライン」のセッションが開かれた。寺本民生先生(帝京大学)からは新ガイドラインの概要と二次予防・高リスク病態における層別化について、枇榔貞利先生(Tsukasa Health Care Hospital)からは脂質異常症の診断基準の元となった日本人でのデータと境界域を設定した根拠、そしてLDL-C直接法の欠点とnon HDL-Cの導入理由が示された。また、岡村智教先生(慶應義塾大学)より、今回のガイドラインで設定された絶対リスクに基づいたカテゴリー分類の基準を設定する際に参考とされた諸外国でのガイドラインの解説と最終的なカテゴリー分類基準の解説が行われ、最後に横出正之先生(京都大学)からは今回の学会のメインテーマである「動脈硬化性疾患の包括的管理」について、詳細な説明がなされた。2. 今回の学会でのセッションの傾向最近の動脈硬化学会の演題内容は、どちらかというと細胞内シグナル伝達やサイトカインのセッションが多い印象があったが、今回はどちらかというとリポ蛋白関連・脂質代謝異常、という概念でのセッションが多かった印象がある。二日目の午前には、「脂質異常症と遺伝子の変異」というセッションで、CETP欠損症、家族性高コレステロール血症、アポEについての講演とともに、今後の脂質異常症の発展につながるであろう「遺伝子変異の網羅的解析とTG異常」、「脂質異常症遺伝子変異データベースの構築」の演題が発表された。また、HDLについては、HDL研究に造詣の深い M John Chapman博士の特別講演が一日目に組まれ、二日目の午後には「How do we deal HDL?」との表題でのワークシップが行われた。そして、一日目の午後には、3年前の学会から継続して開催されている「動脈硬化性疾患の臨床と病理」のセッションが催された。ハーバード大学の相川先生から、近年の動脈硬化イメージングの進歩状況として、FDG PET/CT イメージング、MRI T2シグナルを用いての動脈硬化巣マクロファージのイメージング、特殊な薬物(NIRF OFDI)を用いての分子イメージングについての解説があった。座長の坂田則行先生(福岡大学)からは、現在の画像診断技術の進歩はめざましいが、どうしても臨床医は画像診断のみに頼りがちになっており、今後は画像診断での病変がどのような病理組織像を呈するのか、ということに関して、臨床家と病理家が共同して検討していく必要性が提起された。3. 特別企画、および若手奨励賞一日目の午後、特別企画として、Featured Session「時代を変えた科学者たち」が開催され、松澤佑次博士(内臓脂肪研究)、泰江弘文博士(冠攣縮性狭心症)、遠藤章博士(スタチンの発見)、荒川規矩男博士(アンジオテンシン研究)といった、日本を代表する研究者たちの講演をまとめて拝聴する機会が得られた。各博士の講演内容の詳細はスペースの関係上省略させていただくが、どの先生の話も内容が濃く感慨深いものであり、現在および将来基礎・臨床研究にいそしむ若い先生方の非常によい指南となったと考える。このような中、次世代を担う若手の先生の発表もポスター発表も含め多数行われた。中でも、一日目の午前には、若手研究者奨励賞候補者の発表、そして選考が行われた。スタチンがARH(autosomal recessive hypercholesterolemia)患者に有効に働く機序を安定同位体を用いた代謝回転モデルにて解析した論文(Dr. Tada)、急性冠症候群の血栓成分の相違がどのような臨床像、あるいは心機能回復能と相関するかを調べた臨床研究(Dr. Yuuki)、マクロファージからのコレステロール逆転送に関与するABCA1とABCG1が、ポリユビキチン化されて代謝されること、そしてプロテアゾーム阻害薬でコレステロール逆転送が活性化されることを示した論文(Dr. Ogura)、カルシウム感受性細胞内プロテアーゼであるカルパインは内皮細胞の細胞間接着に関与するVEカドヘリンの崩壊を惹起し、内皮細胞のバリア機能を低下させ、動脈硬化を促進すること、そしてカルパイン阻害薬は動脈硬化を抑制することを示した論文(Dr. Miyazaki)の発表があった。最優秀賞は、Dr. Miyazakiの演題が選出された。4. 特別講演、懇親会さて、このような実りの多い学会をさらに充実させたイベントとして、一日目の夜に開催された懇親会、そして東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督である野村克也氏の講演が挙げられるであろう。懇親会は、いつもの学会懇親会よりも多数の参加者があった。会長および運営事務局・プログラム委員会の諸先生の趣向・ご尽力、そして開催ホテルがヤフードームの隣であったこともあり、福岡ソフトバンクホークスのチアガールによる余興なども行われ、非常に和気藹藹とした雰囲気の中で会員同士の親交が深まったと思われる。また、二日目の野村克也監督の特別講演は、「弱者の戦略」という題名で行われた。南海、ヤクルト、阪神、楽天と、長い選手人生そして監督人生にて経験し、培ってきた考え方・姿勢を拝聴できた。とても内容の濃い講演であったが、中でも、弱者がいかに強者に対応していけばよいのか、組織・あるいはグループの長である監督とはどうあるべきか、部下のものに対する対応はどのようにすべきなのか、など、我々医師の世界にも相通じる内容の話を、ユーモアを交えながら語っていただいた。様々な苦労を乗り越え、その場その場でよく考えて人生を歩まれた監督ならではの講演であったと考えている。5. まとめ来年は、及川眞一会長の下、7月18日・19日に東京・京王プラザホテルにて第45回日本動脈硬化学会が開催される予定である。今年の充実した学会を更に発展させ、基礎および臨床の動脈硬化研究の進歩がくまなく体得できる学会になることを期待する。

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タダ(無料)ほど高い物はない~医療の無駄について~

つくば市 坂根Mクリニック坂根 みち子 2012年6月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 ※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 福島県が独自に18歳以下の子供の医療費を無料にするという。これについて全国保険医団体連合会や著名人たちが中心となって福島の子供たちの医療費をタダにすべしと国にも訴えている。大変言いにくいが反対である。一見聞こえのいいスローガンだが、タダほど高い物はない。結局子供たちのためにならない。ただには多くの無駄がもれなくセットで付いてくる。これから先、福島原発に関連してお金は果てしなく掛かる。貴重な財源は本当に必要な時に必要な人に届くような制度設計にしなくていけない。医療に携わっている者なら、ただ(無料)の分野にいかに無駄が多いか知っているはずである。右肩上がりの社会ならば無駄も含めて許容することもあるだろう。だが現実を見て欲しい。今の日本にそのゆとりはない。結局必要な人に使われるべき財源が無駄な部分に使われ、真に必要な人に医療が届かなくなる。今回と同じように子供の医療費無料をうたう自治体や政治家が多い。選挙民の受けはいいがコンビニ受診を誘発している。時間外の医療費は通常の1.2倍から1.5倍掛かるがタダだと使う方にもその認識がない。自分の懐が痛まなければ、仕事を早く切りあげて時間内の病院に行こうというインセンティブが働かない。税金の無駄使いである。過重労働の勤務医対策としても逆行する。時間外のコンビに受診は医療者をとても疲労させる。まして福島県は医師や看護師が足りず四苦八苦している。どうしてもやるなら子供の時間内の医療費無料とすべきである。身体障害者の1級は医療費が掛からない。例えば心臓弁膜症で手術を受けた場合やペースメーカーを入れた場合は、現在では手術前より元気になってまったく普通に暮らせる人が多いが、術後は無条件で身体障害者1級となる。以後の医療費は生涯すべて無料である。疾患に関連する部分のみ無料とか、元気になって普通に暮らせるようになるまで無料という制度ではない。一度1級になると生涯無条件に更新される。一見誰も困らないのでこちらもずっとおかしいと言われながら放置されたままである。透析患者についても同様のことが言える。 以前は腎炎からの透析が多く、透析導入されると田畑を売ってお金を工面しなければいけない時期があった。多くの先人たちの苦労の末、透析はお金の心配をしなくても受けられるようになった。ところが、現在の透析導入理由は糖尿病が一位である。外来もしくは入院で食事や運動療法の指導をしても、まったく聞く耳を持たずに結局最後は透析導入、心筋梗塞、脳梗塞となっていく人もいる。この方々も透析となった時点で身障者1級、医療費はほぼ無料となるが、糖尿からの透析は様々な合併症が出てくるために一人当たりの医療費がと突出して多くなる。生活保護の人たちは医療費が掛からない。最近ようやく統計的にも明らかにされたが、軽症でも繰り返し病院に掛かる人たちがいる。病院側でも確実にお金が取れるので、外来のみならず、入院させて隅々まで検査を繰り返し、3カ月毎に転院してまた繰り返すといういわゆる貧困ビジネスに手を染める病院が後を絶たない。そこまでいかずとも、経営的に苦しい病院では阿吽の呼吸で生保の人たちに少しずつ余分な検査をして稼ぐのは日常茶飯事である。取りっぱぐれがなく、一見誰の懐も痛まないのでこの制度には付け入る隙があるのである。国は医療に営利化を促す点数をつけている。民間の医療機関は赤字になるくらいなら点数の取れる検査や治療をするのは当たり前である。不安定狭心症で心臓カテーテル治療をした人がいた。治療して元気になったがその間一旦職を失ってしまった。同時にやる気も失ってしまったらしい。本人は職探しをするより生活保護を申請した。こちらは労務の可否欄に当然可と書いた。面談に来た役所の人にも、生保より仕事を斡旋して欲しいと話した。すると、役所では話はするが自分でハローワークに行って仕事を捜す以外斡旋はできないと言われた。結局その人は生保をもらい続け、日がな一日テレビを見て糖尿病は悪化していった。健康に不安を持つ人は多い。病院に来てあれもこれも調べて欲しいという方はよくいる。それが病院にとっても利益となり患者の負担にもならなければ、いったい誰がそれを拒むというのだろう。そこで訴訟のリスクも負ってまで余分な検査はすべきでないと患者を説得する医師がどれほどいるだろうか。大学病院をはじめとする公立病院では働く方のコスト意識も低い。大学病院のような高度医療を提供するところに対して医療の内容を吟味するには、相当の専門的力量が要る。従って支払基金も高度医療提供病院の医療内容に関してはかなり素通りが多い。だが、レセプト上位 1%の人が総医療費の30%近くを消費し、レセプト上位 10%の人が総医療費の実に7割を占めているという。総額の医療費が事実上決まっている中で、高額医療費を使い続ける人が増えれば、一方で必要な医療が届かない人たちがでる。問題は目の前の患者に医療費という観点からは無自覚に医療を提供し続ける医療者側にもあるし、枝葉末節にばかり目を向けて、本来その医療が必要かどうかチェックする体制を作ってこなかった支払基金や厚労省にもある。聖域は要らない。すべて公開して欲しい。本質的な点検をやるには支払い側も専門的知識が必要になり、そうなると医療者側にも緊張感がもたらされる。書類さえ整っていれば素通りで、貧困ビジネスにも無料の医療分野にも踏み込まない、枝葉末節にばかり神経を使う今の支払い基金はない方がましである。同時に厚労省の不作為ぶりも目に余る。保険は互いの支え合いのシステムである。医療費の無料という大きな権利を手に入れる時には、医療費は謙抑的に大事に使わなくてはならないという義務も一緒に知って頂かなくてはならない。小学生の頃から社会保障のシステムと使い方を繰り返し教育しなくてはいけない。医療費は無料の人でも明細書を受け取りいくらかかったのか知らなくてはいけない。自分の医療が皆の保険料と税金に支えられていることを理解しなければならない。厚労省は、権利ばかり教えて守らなければいけないルールについて周知する努力はしているのだろうか。まさかそれは文科省の仕事と考えているわけではあるまいか。作家の曽野綾子氏が著書「老いの才覚」の中で、健康保険を出来るだけ使わないようにすることが目標の一つです。幸い健康なら、保険を使わずに病気の方におまわしできてよかったなと思うと述べられていた。この精神が医療保険を維持するために不可欠だが、残念ながらこう考えられる人はとても少ない。先日99才でペースメーカーを入れている人の家族から間接的に相談があった。もうすぐペースメーカーの電池が切れる可能性があるが電池交換に主治医が難色を示していると、家族は希望しているのにどうしたらいいでしょう、ということだった。なんといっていいのか返答に詰まった。セーフティーネットとしての保険の意味を理解していない。電池交換は、最低でも100万円かかる。身体障害者1級なので本人と家族の負担はない。保険は助け合いのシステムです。ペースメーカーのおかげで99歳まで心臓が止まらずに生きてこられたのならもう十分でしょう。どうぞそのお金は後進に譲ってください。そこまで言わないといけないか。この場合自費なら交換してくれと言うだろうかという意地悪な考えも浮かんでくる。罹る疾患によって医療格差が大きくなっている。特定疾患の指定を受けていない難病や高価な抗がん剤を毎月飲み続けなければいけない人にとって、医療費の工面が死活問題となっている。子供たちのワクチン接種も先進国の中で大きく後れを取っているが、財源がネックとなっている。一方、身障者の認定や生保など医療費が無料となる制度では、医療の進歩や相互扶助の精神が制度に反映されず、結果として一部の人たちは野放図に医療費が使えることになっている。透析や身障者であっても払える方には払っていただきたい。生保の人にも一旦払っていただきたい。身体障害者の認定は今の時代に合ったものに改定し本当に必要な人だけに出してほしい。今、医療費は決定的に足りない。医療機関は原価計算をしない公定価格のために慢性の赤字体質であり、医療費のかなりの部分が医療機関を通り越して営利企業に行っている。連続勤務の夜勤を寝ている扱いにして労働基準法違反からも賃金面からもスルーされている勤務医の労働環境もいつまで経っても手当てされない。健康保険は助け合いのシステムであるという啓蒙もなく、無料の医療費を使うときのチェック体制もなく、施された医療の内容を検証する体制がない今のシステムのままでこれ以上無料を増やしてはいけない。モラルハザードが増え大切な医療費が垂れ流されている。今の日本は生活保護者が200万人を越え、団塊の世代は退職し、子供が減って高齢者が増え、若者は就職できずにいる。つまり無産層が増え税金を払う人が減っているということである。その少ない納税者にとってほぼ恒久化した復興増税を含め、近年は実質増税が続き可処分所得は減り続け生活は真綿で首を絞めるように苦しくなっている。東電の賠償金も廻り回って納税者が払うことになるだろう。国に請求するということは、納税者全員で分担しましょうと同意義語である。国も自治体も安易に無料をうたってはいけない。口にする方は気持ちがいいかもしれないが、それはあなた達のお金ではない。本当は子供たちの借金である。今、福島の子供たちの未来を考えてすることは医療費を無料にすることではない。必要な人にはあとから還付すればいい。そこに必ずセットで付いてくる無駄がもったいない。結局子供たちのつけを大きくしてしまう。今の日本にそれだけのゆとりはない。子供たちの未来を考えるからこそ、1円たりとも無駄にしてはいけないのである。

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第3回 相当程度の可能性:治療と患者の死亡

■今回のテーマのポイント1.高度の蓋然性をもって因果関係の立証ができなかったとしても、「相当程度の可能性」の存在が証明できれば、不法行為による損害賠償責任を負う2.この法理は、結局は、因果関係の証明を緩和することと同じ効果をもつ3.「相当程度の可能性」さえ認められれば、過失の軽重を問わず損害賠償責任を負うこととなり得るのは問題である事件の概要56歳の男性(X)。午前4時半頃に突然の背部痛により目を覚まし、しばらくして背部痛は軽快したものの、妻の強い勧めもありY病院の救急外来を受診しました。医師Aは、心窩部に圧痛を認め、胸部聴診上心雑音、不整脈は認められなかったことから、第一に急性膵炎を、第二に狭心症を疑い、急性膵炎に対する点滴加療を開始しました。しかし、その5分後(診察開始から15分後)にXは、突如呼吸停止に至り、医師Aが蘇生処置を行うも2時間後に死亡しました。Xの死因は不安定狭心症からの急性心筋梗塞と考えられました。死亡後Xの妻と子らが、Y病院に対し診断、治療上の過失があるとして損害賠償請求を行いました。原審(高裁)では、適切な治療を行ったとしてもXが救命できたということはできないとして、Xの死亡との関係では、因果関係がないとしましたが、「患者が適切な医療を受ける機会を不当に奪われたことによって受けた精神的苦痛を慰藉すべき責任がある(期待権侵害)」として、200万円の損害賠償責任を認めました。これに対し、最高裁は、原審とは異なる判示をした上で、原審を維持しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過56歳の男性(X)。午前4時半頃に突然の背部痛により目を覚まし、しばらくして背部痛は軽快したものの、妻の強い勧めもありY病院の救急外来を受診しました。Xは、医師Aに対し、上背部痛及び心窩部痛があり、現在痛みは軽減していること、7、8年前にも同様の痛みがあり、その時は尿管結石であったことを伝えました。医師Aの診察では、心窩部に圧痛を認め、胸部聴診上心雑音、不整脈は認められなかったこと、尿検査では潜血を認めなかったことから、第一に急性膵炎を、第二に狭心症を疑い、診察室の向かいの部屋でペンタジンの筋注及びガベキサートメシル酸塩(商品名:FOY)の点滴静注を開始しました。Xは、点滴のため部屋を移った5分後(診察開始から15分後)に、突如「痛い、痛い」と言い、大きく痙攣した後、すぐに意識を消失しました。付き添いに来ていたXの子の知らせで医師Aが駆け付けたところ、ほどなく呼吸停止に至りました。医師Aらが蘇生処置を行うも奏効せず、診察開始から2時間後にXは死亡しました。Xの死因は、不安定狭心症からの急性心筋梗塞と考えられました。事件の判決本件のように、疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである(最判平成12年9月22日民集54巻7号2574頁)。ポイント解説本判決は、医療バッシングが苛烈を極めた時期に出された判決であり、大きな問題(鬼の子)として民事医療訴訟において、いまだに禍根を残していますし、法理論的にも様々な問題が指摘されています。この判決が、混乱を導く原因となっているのは、判示において「右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるとき」というように因果関係の立証を緩和しているかのように受け取られたからです。しかし、前回(第2回 因果関係:不作為と患者の死亡)述べましたように、因果関係の証明は、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」であり、それが認められない場合には、因果関係が「ない」こととなります。つまり、民事訴訟においては、あくまで因果関係は「ある」か「ない」かであり、「ありそう」というだけでは「ない」とみなされるのです。それでは、本判決が示した「相当程度の可能性」というのは一体民法709条※1におけるどの要件を示しているのでしょうか。本件判決では、上記判示の後、「生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである」と示しており、この「相当程度の可能性」は、民法709条における「法律上保護される利益」に該当すると述べています。したがって、本判決に従うと、(1)過失:医療水準に満たない診療(2)損害:「相当程度の可能性」(3)因果関係:(1)と(2)の間の因果関係ということとなります。しかし、理論上はそのように説明ができるとはいえ、(2)と(3)は結局、同じ立証となりますので、結論としては、(1)と「相当程度の可能性」(一般的に20%程度と考えられています)さえ立証できればよいということになり、ぐるっと回って因果関係の証明の程度が緩和されたことと同じになります※2。本判決のもう一つの問題点としては、「相当程度の可能性」自体が民法709条の要件である「法律上保護される利益」であるとしてしまったため、別の要件である過失の程度、すなわち医療水準からの解離の程度、悪質性を問わずに、独立して「相当程度の可能性」が認められることとなり得るということです。つまり、期待権の議論は、癌などの重篤な疾患において、病院側弁護士が、「確かに医療者に重大な過失はあったが、その過失とは関係なく癌により死亡していた」と主張してきた場合に、患者側が、因果関係を高度の蓋然性をもって証明することは困難であり、その結果、敗訴するという事案がしばしば認められたことから出てきたものであり、重大な過失がある場合にまで、まったく損害賠償責任を負わないとすることが「損害の衡平な分担」という不法行為法の基本理念からみて適切かという指摘は理解できます。しかし、本判決により、過失の重大性を問わず、たとえ軽微な過失であったとしても、「相当程度の可能性」が認められれば、損害賠償責任が認められるということとなると、救済の範囲が過剰となりすぎ、大きな問題となります(「二重の緩和」問題)。突然の家族の死亡で困窮している家族を救済すべきという感覚は理解できますし、そうあるべきと考えますが、それは社会保障制度や生命保険でカバーすべきものであり、医療機関や医師を違法とそしることでカバーすべきものではありません。また、因果関係の緩和には紛争促進効果があります。裁判による紛争解決の限界を理解し、すべての救済について過失認定を前提とした司法によるのではなく、社会保障制度の充実等によりカバーできる範囲は、司法の外にゆだねる必要があるといえます。※1民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされており、不法行為の要件には、(1)過失(又は故意)、(2)損害、(3)((1)と(2)の間の)因果関係があります(第1回ポイント解説参照)※2ただし、因果関係を「相当程度の可能性」までしか立証できない場合には、損害が患者の死亡等から「相当程度の可能性」を侵害されたこととなるため、賠償額が大きく減額されます(10分の1以下)。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます(出現順)。最判平成12年9月22日民集54巻7号2574頁

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医師やケースマネジャーへの教育で、ACSのエビデンスに基づく治療実施率が増大

ブラジルの公立病院で、急性冠症候群(ACS)の治療に関し、医師向けの教育資料やケースマネジャーの訓練といった質改善プログラムの介入を行うことで、エビデンスに基づく治療を受ける患者の割合は、有意に増大することが明らかにされた。ブラジル・Research Institute HCorのOta’vio Berwanger氏らが行った、BRIDGE-ACS(Brazilian Intervention to Increase Evidence Usage in Acute Coronary Syndromes)試験の結果で、JAMA誌2012年5月16日号で発表した。先行研究から、ACSの患者は、特に低・中所得国の医療現場でエビデンスに基づく治療を受けていない現状が明らかになっていた。医師向け教育資料やリマインダー、処理手順などで介入研究グループは、ブラジル34ヵ所の公立病院を通じたクラスター無作為化試験で、ACSの患者1,150人について、2011年3月15日~11月2日に調査を開始し、2012年1月まで追跡した。試験対象病院を無作為に2群に分け、一方に対しては、医師向けの教育資料、リマインダー、アルゴリズム(治療手順)、ケースマネジャーの訓練などを行い、エビデンスに基づく治療の実施を促した。もう一方のコントロール群は通常ケアが行われた。主要エンドポイントは、来院24時間以内にエビデンスに基づく治療(アスピリンやクロピドグレル、抗凝固薬、スタチンの投与など)を受けた適格患者の割合とした。被験者の平均年齢は62歳(標準偏差:13)、うち男性は68.6%、ST上昇型心筋梗塞は40%、非ST上昇型心筋梗塞は35.6%、不安定狭心症は23.6%だった。エビデンスに基づく治療、介入群で約7割、コントロール群で5割結果、24時間以内にエビデンスに基づく治療を受けた人の割合は、コントロール群が49.5%に対し、介入群が67.9%と高率だった(母集団平均オッズ比:2.64、95%信頼区間:1.28~5.45、p=0.01)。また、エビデンスに基づく治療を、24時間以内と、退院時にも受けた人の割合は、コントロール群が31.9%に対し、介入群は50.9%と高率だった(母集団平均オッズ比:2.49、同:1.08~5.74、p=0.03)。全体の複合遵守スコアは、コントロール群が81.4%に対し介入群は89%と、平均格差は8.6%(同:2.2~15.0)だった。院内心血管イベント率は、介入群5.5%に対しコントロール群7.0%(同:0.72、0.36~1.43)、30日時点の全死因死亡率は、7.0%対8.4%(同:0.79、0.46~1.34)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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高血圧・狭心症・不整脈治療剤「インデラル」不整脈に対する小児等の用法・用量の追加承認を取得

アストラゼネカは25日、高血圧・狭心症・不整脈治療剤「インデラル錠10mg/20mg(一般名:プロプラノロール塩酸塩)」に関し、公知申請を行っていた、不整脈における小児の用法・用量の追加について、同日付で承認を取得したと発表した。インデラルは、1964年に英国で開発され、世界で初めて臨床的に応用された交感神経β受容体遮断剤。同剤は、1966年に日本に導入された後、狭心症、各種不整脈の治療剤として製造・承認され、その後高血圧に対する効果も確認された。国内外において多数の研究報告が発表され、最も長い臨床経験を有する代表的なβ遮断剤として、現在も、高血圧、狭心症、不整脈の治療に用いられている。また、インデラルは「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」での検討結果を受け、期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動(徐脈効果)、洞性頻脈、新鮮心房細動、発作性心房細動の予防に対する小児用法・用量の追加について、2011年5月13日付で、厚生労働省より同社に対して開発要請がなされたという。さらに、2011年11月7日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において、事前評価が行われ、公知申請が実施可能と判断されたことから、同社は2011年12月5日に申請を行っていた。詳細はプレスリリースへhttp://www.astrazeneca.co.jp/activity/press/2012/12_5_25.html

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バレニクリン、心血管重大有害イベントの有意な増大との関連認められず:メタ解析

米国・カリフォルニア大学のJudith J Prochaska氏らによるメタ解析の結果、禁煙補助薬バレニクリン(商品名:チャンピックス)服用による、心血管系の重大有害イベントの有意な増大は認められなかったとの報告が発表された。解析にはこれまで発表された全データが含まれ、服用中に起きたイベントに焦点を絞り、4つの要約推定値(summary estimates)を用いて行われた。バレニクリンをめぐっては、心血管系の深刻な有害事象リスクが議論になっているが、その解析手法が適切ではないのではとの指摘があり、米国FDAがさらなる解析を行うことを求めていた。BMJ誌2012年5月12日号(オンライン版2012年5月4日号)掲載報告より。二重盲検プラセボ比較対照試験22試験をメタ解析Prochaska氏らは、Medline、Cochrane Library、オンライン臨床試験レジストリならびに特定論文参照リストをデータソースとして、メタ解析を行った。試験適格としたのは、現に喫煙中の成人を対象にバレニクリン投与と非投与を比較し、有害事象について報告をしていた無作為化試験とした。試験治療下での心血管系の重大有害事象の発現との定義は、薬物療法中または中断後30日以内に起きたもので、虚血性または不整脈性の有害な心血管イベント(心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血管再生、冠動脈疾患、不整脈、一過性脳虚血発作、脳卒中、突然死または心血管関連死、うっ血性心不全)とした。解析対象となったのは22試験で、すべてが二重盲検プラセボ比較対照試験だった。そのうち2試験は現に心血管疾患を有する被験者を対象としたもので、また11試験は心血管疾患の既往があり登録された被験者を含んでいた。イベント発生率の差、臨床的にも統計学的にも有意ではない結果、試験治療下での発現率、心血管重大有害イベントは、バレニクリン群0.63%(34/5,431)、プラセボ群0.47%(18/3,801)だった。全22試験に基づくリスク差の要約推定値は0.27%(95%信頼区間:-0.10~0.63、P=0.15)で、臨床的にも統計学的にも有意ではなかった。1つ以上のイベント発生が認められた14試験に基づく、相対リスク比(1.40、0.82~2.39、P=0.22)、マンテル-ヘンツェル・オッズ比(1.41、0.82~2.42、P=0.22)、ピート・オッズ比(1.58、0.90~2.76、P=0.11)の結果も、バレニクリン群とプラセボ群に有意差は認められなかった。Prochaska氏は、これまで発表された全試験を含み、服薬曝露期間中に起きたイベントに焦点を絞り、4つの要約推定値を使用した所見を分析したメタ解析の結果、バレニクリン服用による心血管系の重大有害イベントと有意な増大は認められなかったと結論した上で、希少アウトカムには絶対効果に基づく要約推定値が推奨され、ピート・オッズ比に基づく推定は無効とすべきであると述べた。

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高齢者の心電図異常、冠動脈性心疾患イベントリスクを40~50%増

高齢者の心電図異常は、その程度にかかわらず、冠動脈性心疾患イベント発生リスク増大と関連することが明らかにされた。軽度の場合は約1.4倍に、重度では約1.5倍に、それぞれ同リスクが増大するという。また、従来のリスク因子による予測モデルに、心電図異常の要素を盛り込むことで、同イベント発生に関する予測能が向上することも示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のReto Auer氏らが、高齢者2,000人超について約8年間追跡して明らかにしたもので、JAMA誌2012年4月11日号で発表した。心血管疾患のない70~79歳、試験開始時と4年後に心電図測定研究グループは、「健康と加齢、身体計測スタディ」(Health, Aging, and Body Composition Study)の参加者の中から、基線で心血管疾患のない70~79歳2,192人を追跡し、心電図異常と冠動脈性心疾患イベントとの関連を検討した。追跡は、1997~1998年と2006~2007年との8年間にわたって行われた。試験開始時点と4年後に心電図測定を行い、ミネソタ分類により軽度・重度別に分け分析した。またCox比例ハザード回帰モデルを用いて、従来のリスク因子に心電図異常を追加することによる、冠動脈性心疾患イベントの予測能が改善するかどうかも検証した。試験開始時の心電図異常、冠動脈性心疾患イベントリスクを軽度で1.35倍、重度で1.51倍にその結果、試験開始時点で心電図異常が認められたのは、軽度が276人(13%)、重度が506人(23%)だった。追跡期間中、冠動脈性心疾患イベントが発生したのは、351人(冠動脈性心疾患死:96人、急性心筋梗塞:101人、狭心症または冠動脈血行再建術による入院:154人)だった。試験開始時点の心電図異常が軽度でも重度でも、従来のリスク因子補正後の冠動脈性心疾患イベントリスクの増大と関連しており、正常群の同イベント発生率が17.2/1,000人・年に対し、軽度異常群の同発生率は29.3/1,000人・年(ハザード比:1.35)、重度異常群の同発生率は31.6/1,000人・年(ハザード比:1.51)だった。また、従来のリスク因子に心電図異常を盛り込み、予測モデルをつくったところ、従来のリスク因子のみのモデルより、その予測能は向上することが認められた。試験開始4年時点で、新たに心電図異常が認められたのは208人、初回測定時に続き異常が認められたのは416人で、いずれの場合も、冠動脈性心疾患イベント発生リスクは増大した(それぞれ、ハザード比:2.01、同:1.66)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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ACC 2012 速報 自己骨髄単核球移植、虚血性心疾患例の心機能を改善せず:FOCUS-CCTRN試験

虚血性心不全〔左室機能障害〕に対する薬物治療の限界を受け、自己骨髄単核球(BMC)移植の有用性に期待が寄せられている。しかし残念ながら、Late Breaking Clinical Trialsセッションにて報告された第II相無作為化試験 "FOCUS-CCTRN" では、心内膜への投与による虚血改善、心機能改善のいずれも確認されなかった。ただし、有用性が期待できるサブグループも示唆されており、米国テキサス・ハート・インスティチュートのEmerson C Perin氏は、今後に期待するとの姿勢を示した。本試験の対象は、症候性の左室機能低下(左室駆出率≦45%〕を認める安定冠動脈疾患92例である。全例、最大用量での薬物治療を受けている。平均年齢は63歳、NYHA心不全分類II度とIII度が90%以上を占めた。CCS狭心症分類は、Class IIが分類者の40%強と最も多かった。これら92例は、BMC群(61例)とプラセボ群(31例)に無作為化され、二重盲検法にて6か月間追跡された。BMC群では、腸骨上縁から採取した骨髄を自動化されたプロセス(Sepax)で純化し、100×106を心内膜に注入した。注入箇所は15箇所。いずれも、電気機械的マッピング(NOGAシステム)を用いて、"viable"と判断された部位である。6か月後、3つ設定されていた一次評価項目──「左室収縮末期容積(LVESV)」、「心筋酸素消費量(MVO2)」と「心筋SPECT上虚血」──はいずれも、BMC群とプラセボ群の間に有意差を認めなかった。ただし、試験前から定められていたサブ解析から、BMCが有用であるサブグループが浮かび上がった。すなわち、血管内皮前駆細胞(Endothelial Colony Forming Cell)濃度が中央値よりも高い群において、MVO2の有意な改善が認められた。また後付け評価項目だが「左室駆出率(LVEF)」も、CD34陽性細胞、CD133陽性細胞の血中濃度と有意な正の相関を示した。いずれも、内皮前駆細胞のマーカーとなり得る細胞だという。このような患者ではBMC移植が有用な可能性があると、Perin氏は述べた。ただし、年齢の中央値である「62歳未満」でもEFは有意に改善していたため、年齢とこれら細胞数の相関が気になる。しかしその点に関するデータは、現時点では持ち合わせていないとのことだった。なお、パネルディスカッションでは、採取骨髄の自動純化プロセスに問題はなかったのかとの指摘もあった。本試験は、今後、より詳細なデータが報告される予定だという。

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ACC 2012 速報 CCTAを用いてACS鑑別改善:ROMICAT II

最終日のLate Breaking Clinical Trialsセッションでは、昨日のACRIN PA 4005試験に続き、急性冠症候群(ACS)鑑別におけるマルチスライス冠動脈CT造影(coronary CT angiography : CCTA)の有用性が示された。1,000例登録の無作為化試験 "ROMICAT II" である。CCTAを用いた結果、転帰を増悪させることなく、救急外来受診例の院内滞在時間は有意に短縮した。米国マサチューセッツ総合病院(MGH)のUdo Hoffmann氏が報告した。ROMICAT IIの対象は、ACRIN PA 4005と同じく「救急外来にて胸痛を訴え、ACSを確定も除外もできない」1,000例である。心電図上で虚血が確認された例、血中トロポニンT濃度上昇例、冠動脈疾患既往例などは除外されている。平均年齢は54歳、女性が45%強を占めた。これら1,000例は、501例がCCTA群に、499例が「通常診断」群に無作為化された。CCTA群では64列(以上)CCTAを施行、通常診断群ではストレステストなど、各施設が必要と判断した検査が行われた。ACSの有無は、参加施設が独自に判断する。なお参加9施設に、救急外来でCCTAをACS鑑別に用いた経験はない。CCTA読影者は本試験のために新たに教育を受けた。その結果、一次評価項目である「院内滞在時間」は。CCTA群:23.2時間、通常診断群:30.8時間と、CCTA群で有意(p=0.0002)に短縮していた。内訳を見ると、最終的にACSと診断された75例では両群間の滞在時間に有意差はなく、確定診断でACSが除外された例で著明に低値となっていた(CCTA群:17.2時間、通常診断群:27.2時間、p<0.0001)。背景には、CCTA群の46.7%が救急外来からそのまま帰宅したという事実がある(通常診断群:12.4%)。ちなみに、冠動脈造影を施行された患者は、CCTA群の12.0%、通常診断群の8.0%に過ぎなかった。さらに、CCTAによるACS除外の正確性も示唆された。全例の記録を研究グループが検証したところ、ACS偽陰性例は両群とも1例も認めなかった。また、診断後28日間の「死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、緊急血行再建術施行」の発生率は、CCTA群で0.4%、通常診断群で1.0%と、有意差はなかった。本試験は米国国立心肺血液研究所(NHLBI)により実施された。

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ポーランドのCHD死低下、リスク因子低減とEBMの寄与が大

ポーランドでは、2005年の冠動脈心疾患(CHD)による死亡数が1991年に比べて半減し、その要因は主要なリスク因子の低減とEBMの進展による治療法の進歩であることが、グダニスク医科大学のPiotr Bandosz氏らの検討で示された。ポーランドでは、1980年代にみられた若年層の心血管死の急増傾向が、市場経済導入後の1990年代初頭には急速に減少したという。社会経済的な変革によって、ライフスタイルの大きな変化や医療システムの実質的な改善がもたらされたと考えられる。BMJ誌2012年2月4日号(オンライン版2012年1月25日号)掲載の報告。CHD死低下の要因をモデル研究で評価研究グループは、1990年代初頭の政治的、社会的、経済的な変革を経たポーランドにおけるCHD死の急激な低下が、薬物療法や手術、心血管リスク因子の変化でどの程度説明が可能かを評価するために、モデルを用いた研究を行った。1991~2005年における25~74歳の地域住民を対象とし、解析には対照比較試験やメタ解析、全国調査、公式の統計解析などのデータを使用した。女性では血圧低下が、男性では喫煙率低下が良好な影響示すポーランドにおけるCHDによる死亡率は1991~2005年の間に半減し、2005年には25~74歳の集団のCHD死が2万6,200件減少した。このうち約91%(2万3,715件)が使用したモデルで説明可能だった。このCHD死低下の約37%は、心不全治療(12%)、急性冠症候群の初期治療(9%)、心筋梗塞や血行再建術後の2次予防治療(7%)、慢性狭心症治療(3%)、その他(6%)によるものであった。また、約54%はリスク因子の変化によるもので、総コレステロール値の低下(39%)と余暇の身体活動の増加(10%)が主であった。BMIや糖尿病の発症率は増加しており、死亡率には悪い影響を及ぼしていた(それぞれ-4%、-2%)。女性では、死亡率低下の約29%が血圧低下によるものであったが、男性の血圧は上昇しており、死亡率は増加していた(-8%)。男性では、観察された死亡率低下の約15%が喫煙率の低下に起因していたが、女性における喫煙の影響はわずかであった。著者は、「ポーランドでは、2005年のCHDによる死亡率が1991年に比べて半減し、その要因として主要なリスク因子の低減が半分以上を占め、約3分の1はEBMの進展による治療法の進歩に起因していた」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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CHDの診断能は、心血管MRがSPECTよりも良好

冠動脈心疾患(CHD)の診断では、マルチパラメトリックな心血管核磁気共鳴法(CMR)が、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)に比べ高い正確度(accuracy)を有することが、英国・リーズ大学のJohn P Greenwood氏らが行ったCE-MARC試験で確認された。近年、CHD疑い患者における心筋梗塞の評価では、トレッドミル運動負荷試験に代わりSPECTが最も頻用されているが、診断正確度の報告にはばらつきがみられ、電離放射線曝露の問題もある。CMRは被曝がなく、高い空間分解能を持つほかに、1回の検査で複数の病理学的パラメータ(心機能、心筋血流、心筋生存能、冠動脈の解剖学的形態など)の評価が可能だという。Lancet誌2012年2月4日号(オンライン版2011年12月23日号)掲載の報告。CMRとSPECTの診断正確度を比較する前向き無作為化試験CE-MARC試験の研究グループは、CHD疑い患者において、X線冠動脈造影を標準対照としてマルチパラメトリックCMRプロトコールの診断正確度を評価し、CMRとSPECTを比較するプロスペクティブな無作為化試験を実施した。対象は、狭心症疑いおよび心血管リスク因子を1つ以上有する患者であり、CMR、SPECT、侵襲的なX線冠動脈造影が施行された。CMRは、安静時とアデノシン負荷時、シネ画像、ガドリニウム造影遅延画像、3次元冠動脈MRAを撮像した。アデノシン負荷時と安静時の心電図同期SPECTには99mTc tetrofosminを使用した。主要評価項目はCMRの診断正確度とした。感度と陰性予測値が有意に優れる2006年3月~2009年8月までに、イギリスの2施設から752例が登録され、39%がX線冠動脈造影でCHDと診断された。CMRの感度は86.5%、特異度は83.4%、陽性予測値は77.2%、陰性予測値は90.5%であった。これに対し、SPECTの感度は66.5%、特異度は82.6%、陽性予測値は71.4%、陰性予測値は79.1%であった。CMRはSPECTに比べ、感度および陰性予測値が有意に優れた(いずれもp<0.0001)が、特異度(p=0.916)と陽性予測値(p=0.061)に差は認めなかった。著者は、「CE-MARC試験は実臨床におけるCMRの評価に関する大規模な前向き試験であり、CMRによるCHDの高い診断正確度が示され、そのSPECTに対する優位性が確認された」と結論し、「CHDの研究では、今後、よりいっそう広範にCMRを使用すべきである」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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聖路加GENERAL 【Dr.香坂の循環器内科】

第1回「階段がつらいのは歳のせい ? 」第2回「夜間の呼吸困難は花粉症のせい ? 」第3回「心雑音と言われたのですが元気なんです」第4回「ためらってはいけないCAB」 第1回「階段がつらいのは歳のせい ? 」地下鉄階段昇降時などに胸部圧迫感を感じるようになった50歳男性。他の領域の胸痛疾患に比べてリスクの高い場合が多い循環器疾患。まずは、この患者が循環器疾患かどうかを確かめることが重要です。胸痛の鑑別において大切なのは、1にも、2にも問診です。問診は、3つのポイントをおさえればOK。このような典型的な狭心症患者の他、顎が痛い、歯が痛いと訴えてくる患者さんも放散痛によるもので、実は心筋梗塞や狭心症だった、という非典型的な例もOPQRST3Aを使って解説していきます。また、胸痛においては、ACS(急性冠動脈症候群)という概念が重要になってきます。その診断方法についても詳しくお伝えします。第2回「夜間の呼吸困難は花粉症のせい ? 」数年前から動悸を自覚していた44歳の男性。夜間に呼吸困難が出るようになり、起き上がってもすぐには改善しなくなってしまいました。呼吸困難の原因はさまざまですが、起き上がっても改善しないなど心疾患が疑われます。特に、発作性夜間呼吸困難や起座呼吸は、心不全である確からしさが高い症状です。頚静脈、心音などの身体所見、X線、心エコーなどの画像診断、血液検査として有用性の高いBNPによって心不全であるかどうかを確認した結果、この男性は心不全であることがわかりました。そして、その原因については驚くべき事実が・・・。III音の聞き分け方、薬剤の使い方については「北風と太陽」を引用するなど、香坂先生ならではのユニークな講義が展開されます。第3回「心雑音と言われたのですが元気なんです」長い間微熱が続いたため、病院を訪れた62歳の男性。健診で「心雑音がある」と言われましたが、スポーツもこなし元気に過ごしていました。心雑音をみたときには、まず経過観察でよいものか、それともすぐに処置が必要なものかを見分ける必要があります。最強点がどこにあるのか、収縮期か拡張期か、収縮期であれば駆出性か逆流性かという鑑別が重要になります。この患者は2年後に症状が出始め、重症のMRと診断され、手術を受けることになりました。重症のMRは、10年以内に死亡、または手術を実施する確率が90%と高く、フォローが重要となります。ポイントは、重症度によってスパンを短くして、心不全症状やEFの低下がないかなどを慎重に観察することです。また、僧帽弁、大動脈弁治療に関して、最新の弁膜症手術も紹介していきます。第4回「ためらってはいけないCAB」最近動悸がするということで診療所を訪れた32歳男性。待合室で診察を待っている時、突然倒れて心肺停止状態になってしまいました。今まで心肺停止というと、まずA(気道確保)、続いてB(人工呼吸)の後、C(心臓マッサージ)という手順が常識でしたが、ACLSのプロトコル改訂により、ABCからCABと変わってきました。すなわち、なにはなくとも即座に心臓マッサージを!ということです。そこで、本来求められる心肺蘇生法に対し、病院外で行われるCPRの現状や、心臓マッサージの基本原理をしっかりと見直していきます。また、改訂で変更された薬剤、その効果や投与のタイミングについても具体的に紹介します。心肺蘇生後は患者の状態をよくみて判断していくことが重要となりますが、具体的に何をすべきか、また、突然死を防ぐための方法、心電図から突然死の確率が高い疾患の読み方についてもご紹介します。

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術後輸血戦略は制限的輸血が妥当

術後輸血戦略について、非制限的に行う輸血(自由輸血)が制限的輸血と比較して、術後の死亡率を低下したり回復を促進はしないことが、股関節手術を受けた心血管リスクの高い高齢患者を対象とした無作為化試験の結果、明らかにされた。また被験者の特性の一つでもあった心血管疾患の院内発生率も抑制できなかったことも示された。術後輸血については、ヘモグロビン閾値が論争の的となっている。そこで米国・ニュージャージー医科歯科大学のJeffrey L. Carson氏らは、より閾値の高い輸血者のほうが術後回復が促進されるかどうかについて検証した。NEJM誌2011年12月29日号(オンライン版2011年12月14日号)掲載報告より。術後患者をヘモグロビン閾値8g/dL未満と10g/dLに無作為に割り付け試験は2004年7月~2008年2月の間に、米国とカナダの47の医療機関で被験者を登録して行われた。被験者は、心血管疾患の既往歴またはリスク因子のいずれかを有し、股関節骨折で手術を受け、術後ヘモグロビン値が10g/dL未満の50歳以上の患者2,016例(平均年齢81.6歳、年齢範囲:51~103歳)であった。研究グループは被験者を無作為に、自由輸血戦略群(ヘモグロビン閾値10g/dL)または制限的輸血戦略群(貧血症状があるか医師の裁量でヘモグロビン閾値<8g/dL)に割り付け追跡した。主要転帰は、追跡調査60日後の死亡または人の介助を受けずには部屋の端から端まで歩くことができない(自由歩行不能)の割合とした。副次転帰は、院内心筋梗塞・院内不安定狭心症・すべての院内死亡の複合とした。輸血自由戦略群、いずれの指標も改善できず輸血赤血球単位の中央値は、自由輸血戦略群で2単位、制限的輸血戦略群は0単位であった。主要転帰の発生率は、自由戦略群35.2%、制限戦略群34.7%で、自由戦略群のオッズ比は1.01(95%信頼区間:0.84~1.22、P=0.90)、絶対リスク差は0.5ポイント(95%信頼区間:-3.7~4.7)だった。オッズ比は男女差が認められ(P=0.03)、男性(オッズ比:1.45)が女性(同:0.91)よりも有意であった。追跡調査60日後の死亡率は自由戦略群7.6%、制限戦略群6.6%で(絶対リスク差:1.0%、99%信頼区間:-1.9~4.0)だった。また、副次転帰の発生率は、自由戦略群4.3%、制限戦略群5.2%(絶対リスク差:-0.9%、99%信頼区間:-3.3~1.6)であった。その他の合併症の発生率は両群で同程度だった。結果を踏まえてCarson氏は、「我々の所見は、貧血症状がない場合やヘモグロビン値が8g/dL以下に減少していない場合、さらには心血管疾患やリスク因子を有する高齢患者では、術後患者での輸血は控えることが妥当なことを示唆する」と結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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