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特発性間質性肺炎の指定難病・診断基準改訂、外科的肺生検なしでも診断可能に/日本呼吸器学会

 間質性肺疾患は、2022年の日本人の死因の第11位となっており1)、対策の必要な疾患である。特発性間質性肺炎(IIPs)は、特発性肺線維症(IPF)を代表疾患とする原因不明の間質性肺炎の総称で、国の指定難病となっている。2024年4月より、本疾患の厚生労働省の診断基準および重症度分類基準が改訂され、蜂巣肺を伴わないIPFやIPF以外のIIPsでも外科的肺生検なしで認定可能になるなど大きな変更があった。そこで、第64回日本呼吸器学会学術講演会のランチョンセミナーにおいて、千葉 弘文氏(札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 教授)が診断基準および重症度分類基準の改訂のポイントを解説した。外科的肺生検なしでも診断可能、iPPFEも認定可能に これまで、高分解能CT(HRCT)で蜂巣肺が認められるIPFを除き、IIPsの診断には外科的肺生検が必要であった。しかし、外科的肺生検は侵襲が大きく、IIPsの急性増悪の誘因の1つとして挙げられるなどリスクが高い。高齢であったり呼吸機能が低下していたりする患者では、外科的肺生検を行うことができず、指定難病の申請が不能となってしまうということがあった。そこで、このたびの改訂では蜂巣肺のないIPFやIPF以外のIIPsにおいても、外科的肺生検を実施せずに認定可能となった2,3)。 また、特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)や分類不能型IIPsは『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き2022 改訂第4版』でIIPsの1つとして記載されているが、厚生労働省の診断基準に含まれていないという課題もあった。そこで、今回の改訂ではiPPFEの臨床診断基準が設定され、IIPsの診断基準の細分類に「iPPFE」群および「分類不能」群が追加された2,3)。6分間歩行時の最低SpO2が90%未満は安静時PaO2が良好でも重症度分類III度以上 これまでの重症度分類では、動脈血液ガス検査で酸素状態が良好(安静時PaO2 80Torr以上)であれば、6分間歩行試験(6MWT)において低酸素状態であっても重症度分類I度に分類されていた。しかし、予後からみると、旧重症度分類I度のIPF患者の45%はGAPモデル(米国の重症度分類で、予後予測の指標となる)のStageIIまたはIII(肺移植の適応)に該当したことが報告されている4)。また、6MWTで低酸素状態となる重症度分類I度の予後は重症度分類III度の予後に相当するという研究結果も存在する5)。そこで、今回の改訂では安静時PaO2に基づく重症度分類がI度であっても、6MWTにおいて最低SpO2が90%未満であれば公費助成の対象となる重症度分類III度に認定されることとなった2,3)。 しかし、6MWTを多忙な外来のなかで日常的に実施することは難しい。そこで千葉氏は、1分間椅子立ち上がりテストの実施を提案した。この方法であれば、診察室の椅子で実施することができるという。また、この結果は6MWTの結果と非常によく相関することも知られている。この方法の実施タイミングと意義について、千葉氏は「われわれは、3ヵ月に1回などのフォローアップ時に1分間椅子立ち上がりテストを組み入れることで、日常生活における酸素化の悪化を診察室でつかむようにしている。指定難病の申請時に必要な6MWTにおいても、このテストによって最低SpO2が90%未満となることの予想が可能となり有用である」と述べた。患者の難病の制度に関する情報源は主治医 2023年10月に「間質性肺疾患を伴う指定難病:難病法・難病医療費助成制度に関する調査」を日本ベーリンガーインゲルハイムが実施している。この調査結果から、千葉氏は患者の声を紹介した。難病医療費助成制度を利用するうえでの課題として、「制度の変更に関する情報が入りにくい」「制度に関する情報が手に入りにくい」「制度がわかりにくい」という意見が多かった。情報源としては、主治医が圧倒的に多かった(制度利用者の7割超)。この結果を踏まえて、千葉氏は「今回の改訂の内容をしっかりと患者さんに伝えていただきたい。患者さんの生活に直結する制度の変更であるため、われわれもさまざまな手法を用いて情報を伝えていきたいと考えている」と述べた。 最後に、本セミナーの座長を務めた須田 隆文氏(浜松医科大学 内科学第二講座 教授)が「今回の特発性間質性肺炎の診断基準および重症度分類の改訂は非常に大きなものである。これは、確実に患者さんへ適切な医療を届けることにつながるため、多くの先生方に周知いただき、ご対応いただけると幸いである」と述べ、セミナーを締めくくった。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 呼吸器

第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)第3回 咳嗽・喀痰第4回 喘息第5回 肺炎第6回 肺癌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。呼吸器については、島根大学医学部附属病院の長尾大志先生がレクチャーします。ガイドラインの改訂がとくに顕著な呼吸器領域。疾患の概念や治療方針に関する大きな変更点、新たに採用された診断基準に注目します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる慢性閉塞性肺疾患(COPD)。2018年のガイドライン改訂により、炎症だけでなく非炎症性機転も重視され、FEV1の数値と合わせて、各症状の程度を加味した総合的な重症度の判断が求められるようになりました。喘息とCOPDを合併したACOは、COPD全体の10~20%を占め、治療には吸入ステロイドを併用します。増悪した際の治療手順も試験で問われやすいポイントです。第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)特発性間質性肺炎(IIPs)は、明らかな原因を特定できない間質性肺炎の総称。主要6疾患と、その他の希少疾患に分類されます。各疾患名だけでなく、対応する病理組織パターンもしっかり確認しておきましょう。中でも重要なのが特発性肺線維症(IPF)。IPFの診断は、病理診断は必須ではありませんが、アルゴリズムに沿って複数の項目をチェックします。他のIIPsと唯一異なるIPF治療のポイントは、ステロイドを使用しないこと。第3回 咳嗽・喀痰「咳嗽喀痰の診療ガイドライン2019」では、咳嗽と密接に関連している喀痰の項目を新たに追加。咳嗽と喀痰の原因疾患は、急性と慢性に大別されます。狭義の感染性咳嗽、いわゆる風邪には、抗菌薬は不要です。多彩な疾患が鑑別に上がる遷延性・慢性の咳嗽。鑑別診断では、結核や肺癌など危険な疾患を見逃すことなく、後鼻漏の原因となる好酸球性副鼻腔炎や、喘息、胃食道逆流症なども念頭に置きます。※この番組は2020年3月に収録したものです。新型コロナウイルス感染症については取り上げていません。第4回 喘息変動性を持った気道狭窄や咳などの症状を起こす喘息。これまで明確な診断基準は示されていませんでしたが、「喘息とCOPDのACO診断と治療の手引き2018」に、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)値が診断に有効な指標として記載されました。近年の重要な治療方針の変更点は、以前は重症のみに使用されていた抗コリン薬が、比較的初期から吸入ステロイドと併用可能になったこと。重症例に効果的な抗体医薬も増えているので、しっかり押さえておきましょう。第5回 肺炎市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎の3つの肺炎が統合されたガイドラインが2017年に発表されました。終末期の症例が含まれる院内肺炎と医療・介護関連肺炎を1つの診療群とし、市中肺炎と区別した診療プロセスが示され、終末期における患者の意志やQOLを尊重した治療・ケアのあり方が重要なトピックとなっています。肺炎の種別の重症度スコアリング法や、段階別の治療戦略、適応できる薬剤を解説します。第6回 肺癌今回は非小細胞肺癌について詳しく解説します。肺癌については新規薬剤の開発が盛んで、それに伴ってガイドラインもオンラインで頻繁に更新されています。まずTMN分類で、手術、放射線治療、または薬剤治療のどれを採用するか適応判断。キナーゼ阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、生存期間の延長が見込めるようになりました。副作用に耐えられるか、患者さんの体力も考慮しながら使用できる薬剤を選択します。

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吸入treprostinil、間質性肺疾患による肺高血圧症の運動耐容能を改善/NEJM

 間質性肺疾患による肺高血圧症患者の治療において、treprostinil吸入薬はプラセボと比較して、6分間歩行試験で評価した運動耐容能のベースラインからの改善効果が高いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAaron Waxman氏らが行った「INCREASE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年1月13日号に掲載された。肺高血圧症は、間質性肺疾患患者の最大86%で報告されており、運動耐容能の低下や酸素補給の必要性の増大、早期死亡と関連するが、間質性肺疾患患者における肺高血圧症の治療は確立されていないという。treprostinilは、プロスタサイクリンの安定的なアナログであり、肺や全身動脈の血管床の拡張を直接的に促進し、血小板の凝集を阻害する。treprostinil吸入薬は、12週の治療により第1群肺高血圧症患者の運動耐容能を改善すると報告されている。16週投与の安全性と有効性をプラセボ対照無作為化試験で評価 本研究は、間質性肺疾患による肺高血圧症患者におけるtreprostinil吸入薬の安全性と有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2017年2月~2019年8月の期間に93施設で患者登録が行われた(United Therapeuticsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、無作為化前の6ヵ月以内に胸部CTでびまん性肺疾患の所見に基づき間質性肺疾患と診断され、右心カテーテル検査で第3群肺高血圧症と確定された患者であった。 被験者は、treprostinil吸入薬(超音波式ネブライザーで1日4回、最大12吸入、合計72μg)を投与する群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、16週間の投与が実施された。 有効性の主要エンドポイントは、16週の時点における6分間歩行距離のベースラインからの変化の2群間の差とした。有効性の副次エンドポイントは、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のベースラインから16週までの変化および臨床的悪化までの期間などであった。NT-proBNP値や臨床的悪化も良好 326例が無作為化の対象となり、163例がtreprostinil吸入薬群、163例はプラセボ群に割り付けられた。全体の平均年齢は66.5歳(範囲:26~90)、46.9%が女性であった。診断名は特発性間質性肺炎が44.8%と最も多く、ベースラインの平均6分間歩行距離は259.6m、肺血管抵抗は6.2Wood単位、平均NT-proBNP値は1,832.9pg/mLだった。 16週の時点での6分間歩行距離のベースラインからの変化は、treprostinil吸入薬群が21.08±5.12m、プラセボ群は-10.04±5.12mであり、最小二乗平均値の差は31.12m(95%信頼区間[CI]:16.85~45.39)と、treprostinil吸入薬群で有意に優れた(p<0.001)。 NT-proBNP値は、treprostinil吸入薬群がベースラインから15%低下したのに対し、プラセボ群は46%上昇しており、16週時のベースラインとの、両群間の比は0.58(95%CI:0.47~0.72)であり、treprostinil吸入薬群で有意に良好であった(p<0.001)。 臨床的悪化は、treprostinil吸入薬群が37例(22.7%)、プラセボ群は54例(33.1%)で認められ、treprostinil吸入薬群で有意に少なかった(ハザード比:0.61、95%CI:0.40~0.92、p=0.04)。 treprostinil吸入薬群で最も頻度の高い有害事象は、咳嗽(43.6%)、頭痛(27.6%)、呼吸困難(25.2%)、めまい(18.4%)、吐き気(15.3%)、疲労(14.1%)、下痢(13.5%)であった。これらのほとんどが軽度~中等度だった。重篤な有害事象は、treprostinil吸入薬群が23.3%、プラセボ群は25.8%で報告されたが、treprostinil吸入薬群で有意に頻度の高いものはなかった。 著者は、「treprostinil吸入薬の使用による肺機能の低下はみられなかった」としている。

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ニンテダニブ、進行性線維化を伴う間質性肺疾患の国内適応を追加/ベーリンガーインゲルハイム

 ベーリンガーインゲルハイムは、ニンテダニブ(商品名:オフェブ)について、2020年5月29日付で、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(進行性線維化を伴うILD)の効能・効果で国内における製造販売承認を取得した。 今回の承認は、国際共同第III相臨床試験(INBUILD試験)に基づくもので、ニンテダニブは日本で初めて進行性線維化を伴うILDを適応として承認された治療薬となる。海外においては、2020年3月に進行性線維化を伴うILDの唯一の治療薬として、世界で初めて米国で承認された。 進行性線維化を伴うILDには、関節リウマチ関連ILD、全身性強皮症に伴うILD 、混合性結合組織病に伴うILD、特発性非特異性間質性肺炎、分類不能型特発性間質性肺炎、過敏性肺炎、じん肺など職業環境性ILD、サルコイドーシスなど幅広い疾患が含まれる。しかしながら、これら疾患の一つひとつは、患者数が少なく、頑健なエビデンスを基に承認された薬剤がなかった。

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間質性肺疾患にオフェブが適応追加承認/日本ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、チロシンキナーゼ阻害剤/抗線維化剤ニンテダニブ(商品名:オフェブ)につき、2020年5月29日付で、進行性線維化を伴う間質性肺疾患の効能・効果で国内における製造販売承認を取得した。 今回の承認は、国際共同第III相臨床試験(INBUILD試験)1)に基づくもので、ニンテダニブはわが国で初めて進行性線維化を伴う間質性肺疾患を適応として承認された治療薬となる。ニンテダニブに「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」の適応追加 間質性肺疾患(Intersticial lung disease:ILD)は、200を超える肺疾患を包含し、進行性の肺の線維化を来すという共通の特徴がみられる疾患。とくに特発性肺線維症(IPF)は、間質性肺疾患の代表的疾患として知られ、IPF以外のILDでも、IPFに類似した臨床経過、すなわち肺の線維化、肺機能の低下および生活の質(QOL)の悪化を引き起こし、早期死亡につながる。 ILD患者の18~32%に進行性の線維化がみられるとの報告があり2)、ILDでは関節リウマチ関連ILD、全身性強皮症に伴うILD、混合性結合組織病に伴うILDなどの自己免疫性ILD、ならびに特発性非特異性間質性肺炎、分類不能型特発性間質性肺炎(Unclassifiable IIP)などのIIPs、過敏性肺炎、じん肺などの職業環境性ILD、サルコイドーシスなど幅広い疾患が挙げられる。 これらの疾患は、重篤にもかかわらず、効果的な治療選択肢がないというアンメットメディカルニーズの高い疾患であり、ながらく治療薬の開発が望まれていた。今回、INBUILD試験において、進行性線維化を伴うILD患者に対するニンテダニブの有効性が検証され、安全性が確認されたため適応追加承認がなされた。2015年の発売以来ニンテダニブは2015年の発売以降、適応を拡大 ニンテダニブは、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)α、β、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1、2、3および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を標的とする低分子チロシンキナーゼ阻害剤。わが国では、2015年7月に「特発性肺線維症」を効能・効果として、製造販売承認を取得し、2019年12月に「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患」に対して追加適応を取得、使用されている。ニンテダニブはIPFの疾患進行を遅らせることが検証されている抗線維化薬2剤のうちの1剤であり3)、抗線維化薬による治療は国際ガイドラインによってIPF患者への使用が承認・推奨されている薬物治療となっている3)。参考線維化を伴う間質性肺疾患に対する適応追加の承認取得IPFに関する一般の方・患者向けの疾患情報サイト

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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特発性肺線維症治療の現状について(解説:小林英夫 氏)-935

 特発性肺線維症(IPF)は特発性間質性肺炎(IIPs)の中で最多を占め、現在、完治療法が得られておらず、IPF生存中央値は肺がんと同程度の予後が報告されている。なお特発性間質性肺炎とは、原因不明の間質性肺炎“群”の総称である。20年ほど前までは副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬などが抗炎症効果を期待して投与されていたが、明確な効果を実感することは難しかった。 そして、約10年前にピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、3年前にはニンテダニブ(商品名:オフェブ)の2剤が抗線維化薬として登場してきた。ピルフェニドン開発には日本の臨床データが大きく貢献した。ニンテダニブはマルチチロシンキナーゼ阻害薬で、線維芽細胞の増殖・遊走・形質転換を阻害することで効果を発現する。国際共同試験(INPULSISおよびTOMORROW)により努力肺活量の年間減少を抑制し、IPF死亡リスクを低下させる、などの“可能性”が報告されている(特発性肺線維症へのニンテダニブ、有効性、安全性を確認/NEJM)。 シルデナフィルはバイアグラとして有名だが、肺動脈拡張効果を有するため肺動脈性肺高血圧への有効性や(日本では肺動脈性肺高血圧症でなければ保険適用外である)、IPFに対して酸素化、肺拡散能、呼吸困難などを軽減する可能性も報告されている。しかしシルデナフィルもニンテダニブも単剤での治療効果が万全とは言い難い。 そこでシルデナフィルとニンテダニブ併用投与がIPFにどの程度の効果をもたらすかを検討するため、Boehringer Ingelheim助成による二重盲検試験(INSTAGE)が実施された。本報告での主要エンドポイントはQOL(生活の質)と設定された。なおINPULSIS試験ではニンテダニブによるIPF症例のQOL改善効果は明確ではなかった。試験結果は2剤併用によるQOL改善の上乗せ効果は確認されなかったとのことである。 治療効果を評価する臨床試験では、治癒を目指し生存期間をエンドポイントとすることが一般的となっている。しかし、IPF治療の実状は完治に到達するパワーを発揮する治療は登場していないことから、今回のエンドポイントとしてQOLが選択されている。約35年前の間質性肺疾患研究会において故本間日臣先生が、間質性肺炎の治療は単純に治癒を目指すだけではなく、疾患を安定化させ進行を抑制することも目標にしなければならないと発言され、筆者には思いもよらない発想に大きなインパクトを受けたことがある。現状のIPF臨床研究は残念ながら本間先生の見識を乗り越えられていないが、2018年の米国胸部学会にはオートタキシン阻害薬や遺伝子組み換え型ペントラキシン2といった新薬も発表されており、引き続く臨床研究の展開を強く願いたい。

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特発性肺線維症の死亡率は悪性腫瘍よりも高い

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、特定疾患治療研究事業の対象疾患である「特発性肺線維症」(IPF)の治療薬ニンテダニブ(商品名:オフェブ)の製品記者発表会を、8月20日都内において行った。 ニンテダニブは、本年7月に製造販売を取得、今秋にも発売が予定されている治療薬で、特発性肺線維症では初めての分子標的薬となる。特発性肺線維症は特徴的な所見で気付 はじめに本間 栄氏(東邦大学医学部医学科 内科学講座呼吸器内科学分野 教授)が、「特発性肺線維症 -病態・疫学-」と題してレクチャーを行った。 特発性肺線維症は、肺胞壁などに炎症ができるため抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬が効果を発揮しない治療抵抗性の難病である。 画像所見による診断では、X線単純所見で横隔膜の拳上が確認され、HRCT(高分解能胸部断層撮影)で胸膜下に蜂巣肺が確認されるのが特徴となる。また、臨床症状としては、慢性型労作性呼吸困難、乾性咳嗽、捻髪音(ベルクロ・ラ音)、ばち状指、胃食道酸逆流などが認められる。臨床経過で注意するポイントは、本症では急性増悪がみられ、わずか1年で呼吸不全に至る点である。 確定診断では、「特発性間質性肺炎診断のためのフローチャート」が使用され、原因不明のびまん性肺疾患をみたら、特発性肺線維症を疑いHRCT検査の施行、専門施設での診断などが望まれる。特発性肺線維症に喫煙をする高齢の男性は注意 特発性肺線維症の疫学として「北海道スタディ」より有病率は10万人当たり10.0人、わが国での推定患者数は1万3,000人程度と推定されている。男性に多く、中年以降の発症が多いのが特徴で、高齢化社会を背景に患者数は増加している。 予後について5年生存率でみた場合、肺がん(20%未満)に次いで悪く(20~40%未満)、死亡者数も増えている。また、わが国では患者の40%が「急性増悪」で亡くなっているほか、特発性肺線維症は発がん母地ともなり、30%程度の患者が肺がんへと進行する。 特発性肺線維症のリスクファクターは、患者関連因子と環境関連因子に分けられ、前者では、男性、高齢、喫煙、特定のウイルス(例:EBウイルス)、遺伝的素因、胃食道逆流などが挙げられ、後者では動物の粉塵曝露、鳥の飼育、理髪、金属や木材、石などの粉塵が挙げられる。問診などで社会歴も含め、よく聴取することが診断の助けとなる。特発性肺線維症治療の歴史 続いて、杉山 幸比古氏(自治医科大学 呼吸器内科 教授)が、「特発性肺線維症治療の現状と将来展望」と題して、解説を行った。 はじめに特発性肺線維症の病因として慢性的な刺激による肺胞上皮細胞傷害が、傷害の修復異常・線維化を引き起こすという考えに基づき、抗線維化薬の開発が行われた経緯などを説明した。 効果的な治療薬がない中で、吸入薬であるアセチルシステイン(商品名:ムコフィリン)は、導入薬としてながらく、安全かつ有害事象が少ない、安価な治療薬として使用されてきたことを紹介する一方で、経口薬で行われた海外の試験では効果が否定的とされたことと、ネブライザーでの吸入が必要なことで、コンプライアンスに問題があることを指摘した。 次に2008年に初めての抗線維化薬として登場したのが、ピルフェニドン(同:ピレスパ)であり、欧米で広く使用され、無増悪生存期間を延長し、呼吸機能の低下を抑制することが知られていると説明した。本剤の開発がきっかけとなり、世界的に抗線維化薬の開発が進んだ。特発性肺線維症に抗線維化薬で初めての分子標的薬 次に登場したのが、ニンテダニブ(同:オフェブ)である。ニンテダニブは、肺の線維化に関与する分子群受容体チロシンキナーゼを選択的に阻害する分子標的薬で、25ヵ国が参加した第II相試験では、用量依存的に努力性肺活量(FVC)の低下率を68.4%抑制し、急性増悪を有意に低下させたほか、QOLの有意な改善を認めたとする結果が報告された。また、第III相試験では、40歳以上の軽症~中等の特発性肺線維症患者、約1,000例について観察した結果、プラセボとの比較でFVCの年間減少率を約半分に抑える結果となった(-113.6% vs. -225.5%)。また、373日間の期間で初回急性増悪発現までの割合を観察した結果、ニンテダニブが1.9%(n=638)であるのに対し、プラセボでは5.7%(n=423)と急性増悪の発生を抑えることも報告された。 主な有害事象としては、下痢(62.4%)、悪心(24.5%)、鼻咽頭炎(13.6%)などが報告されている(n=638)。とくに下痢に関しては、対症療法として補液や止瀉薬の併用を行うか、さらに下痢が高度な場合は、ニンテダニブの中断または中止が考慮される。 今後は、国際ガイドラインでも推奨されているように広く適用があれば使用すべきと考えられるほか、がんとの併用療法も視野に入れた治療も考える必要がある。 最後に特発性肺線維症治療の展望と課題として、「線維化の機序のさらなる解明、急性増悪因子の解明とその予防、患者ごとに治療薬の使い分けと併用療法の研究、再生医療への取り組みなどが必要と考えられる」とレクチャーを終えた。

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q10

Q10 重症肺炎で抗菌薬を何種類も変更しても改善しない場合には、ステロイドパルス等を施行する場合がありますか? ステロイドバルスを施行するかどうかを考える前に「なぜよくならないのか?」を考えたほうがよいと思います。 もし、器質化肺炎(OP)や非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎のように、ステロイド反応性のある病態を考えた場合は、もちろんステロイド治療を行うべきです。しかし、改善しない理由がステロイドとは無関係の場合には、ステロイドは意味がないばかりか有害ですらあります。実際、敗血症性ショックにおいては、ステロイドの投与量が増えれば増えるほど死亡率が上昇すると報告されています1)。 また、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と診断してステロイドを投与する人がいまだに散見されますが、やはりこれも死亡率を上げる可能性があり、現在では遷延するARDSに対するルーチンのステロイド投与は推奨されていません2)。さらに、ARDS以外にも肺が白くなる病気はたくさんあるため(表1)3)、やはり「なぜ改善しないのか?」を突き詰めるのが大切だと思います。具体的には表2のように整理するとよいと思いますので、詳しくは参考文献4)をご参照ください。 表1:ARDSと紛らわしい10の疾患群3)うっ血性心不全、肺水腫特発性肺線維症(UIP: usual interstitial pneumonia)特発性器質化肺炎(COP)非特異性間質性肺炎(NSIP)多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)びまん性肺胞出血グッドパスチャー症候群急性過敏性肺臓炎急性好酸球性肺炎薬剤性肺疾患表2:治らない肺炎の分類4)(1)治っているようだけど今ひとつ改善に乏しい→自然経過(2)胸水が増える一方/陰影が消えない→肺炎随伴性胸水/膿胸/肺化膿症(3)肺炎の影自体がどんどん増悪する→結核/真菌/耐性菌など一般的ではない起因菌(4)自然経過や肺炎単独だけでは説明できない→非感染性肺病変: 特発性器質化肺炎/特発性間質性肺炎/血管炎/心不全/心筋梗塞/腎不全/肺塞栓症/ARDSなど)(5)呼吸状態はよくなったが発熱だけが続く→肺外の問題: 薬剤熱/Clostridium difficile感染症/偽痛風など)(6)また肺炎になりました→再発性肺炎また、最近、市中肺炎でステロイドを使用すると入院期間が短縮するという、一見魅力的なランダム化比較試験(RCT)が発表されています5)6)。ですが、死亡率改善のようなハードアウトカムの改善は示されておらず、ステロイド投与群はプラセボ群と比べて有意に高血糖の発生が高いと報告されています5)6)。感染症の治療において、適切な治療薬を投与したうえで低用量のステロイドを併用すること自体は、それほど感染症の予後を悪化させないことは以前から言われていますので(明らかな害が示されているのはウイルス性肝炎と脳マラリア)、この結果自体はそれほど驚きません7)。しかし、免疫不全のある患者や重症患者は試験の対象からあらかじめ除外されていること、副作用についても、臨床試験では日常診療よりきちんと管理されているであろうことについて留意しておく必要があります。これらのRCTでは高血糖自体による有害事象はそれほど大きくなかったようですが、これが広く普及して日常診療に入り込んできた場合にはどうなるでしょうか? 高血糖による非ケトン性高浸透圧性昏睡や糖尿病性ケトアシドーシスが増えたり、逆に高血糖に対して使用したインスリンによる低血糖の事故が増えたりしてしまうのではないかと筆者は予想します。死亡率を改善するのならまだしも、入院期間短縮がアウトカムならば、少なくとも日本の医療事情ではもっと改善すべき点があるでしょう。心不全にスピロノラクトンがよいということを示したRALES試験後に、高カリウム血症に伴う入院やそれに伴う不整脈死が増えてしまった8)のと、同じ轍を踏まないようにしないといけないと思います。肺炎が改善しない理由を整理しないまま、とりあえずステロイドというのは、パルスというより“バルス”(アニメ『天空の城ラピュタ』に出てくる滅びの呪文)といったほうが適切だと筆者は思います。本稿執筆中に、成人重症肺炎(ATSの修正基準9)またはPneumonia Severity Index 10)でクラスV)で入院時血清CRPが15mg/dL以上の患者を対象にしたRCTが発表されました11)。初期(0~72時間)治療失敗(ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)と後期(72~120時間)治療失敗(画像悪化、重度呼吸不全の持続、ショック発症、ベースラインで不要だった侵襲性人工換気、死亡)を組み合わせた複合エンドポイントをプライマリーアウトカムとして、ステロイド投与群(メチルプレドニゾロン0.5mg/kgを12時間ごと、5日間)のほうが治療失敗は少なかったという結果でした。ただし、複合エンドポイントで有意差がついた、とされる場合には解釈が必要です。アウトカムの発生が少ない場合は、統計学的な差を検出しにくいので、より大きなサンプルサイズが必要になります。しかし、実行可能性の問題でそこまでたくさんの対象患者をリクルートできないことが予想される場合は、エンドポイントになる状態を組み合わせて、複合エンドポイントで評価することがあります。本試験をよくみると、2群間で最も差がついているのは、後期(72~120時間)の「画像所見の悪化」でした。ステロイドを投与して炎症を抑えれば、一時的に画像はよくなることが多いかもしれませんが、もう少し長いスパンで考えるとどうでしょうか。セカンダリーエンドポイントである入院期間や入院中の死亡割合ではほとんど差がありません。一時的に「画像だけ」がよくなってもなぁ、というのが筆者の正直な感想です。 参考文献 1) Minneci PC, et al. Ann Intern Med. 2004; 141: 47-56. 2) 田中竜馬. ARDSにステロイドは有効か?. In: 田中竜馬編. 集中治療999の謎. メディカル・サイエンス・インターナショナル; 2015. p. 151-152. 3) Guerin C, et al. Intensive Care Med. 2014 Dec 20. [Epub ahead of print] 4) 八板謙一郎、山口征啓. 「よくならない場合」に何を考えるか?. In: 山本舜悟編. jmed28あなたも名医!侮れない肺炎に立ち向かう31の方法. 日本医事新報社; 2013. p. 105-113. 5) Meijvis SC, et al. Lancet. 2011; 377: 2023-2030. 6) Blum CA, et al. Lancet. 2015 Jan 16 [Epub ahead of print] 7) McGee S, et al. Arch Intern Med. 2008; 168: 1034-1046. 8) Juurlink DN, et al. N Engl J Med. 2004; 351: 543-551. 9) Ewig S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 158:1102-1108. 10) Fine MJ, et al. N Engl J Med. 1997; 336: 243-250. 11) Torres A, et al. JAMA. 2015; 313: 677-686.

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特発性肺線維症(IPF)への挑戦

 2014年4月3日(木)都内にて、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社主催のメディアセミナー「呼吸器領域における難病への挑戦~特発性肺線維症(IPF)~」が開催された。当日は、自治医科大学呼吸器内科 教授 杉山幸比古氏、東邦大学医学部呼吸器内科学分野 教授 本間 栄氏が、特発性肺線維症(以下IPF)について、それぞれ疫学・病態、治療の進歩に関して講演した。 杉山氏は、IPFの疫学と病態について紹介した。IPFは特発性間質性肺炎に属するが、その中でも症例数が最も多く、また予後が不良な病態である。本邦におけるIPFの発症率はおおよそ10万人対2人、有病率は10万人対10人であり、全国で1万3,000人以上の患者がいるとされる。杉山氏は実際には、それ以上の患者がいるとも考えられると述べた。 IPFの生存中央値は鑑別診断後35ヵ月であり、予後不良のがんと大きな差はない。とはいえ、進行パターンはさまざまで、緩除に進行するものもあれば急速に進行するケースもある。主な症状は労作時呼吸困難、乾性咳嗽であるが、初期には年齢のせいとされることも少なくないという。IPFの死亡原因は慢性呼吸不全、急性増悪、肺がんが多くを占めるが、重要な問題として挙げられるのが、急性増悪と肺がんの合併といえる。急性増悪では、緩除に進行していたケースが急激に死に至ることも少なくなく、IPF患者では通常の喫煙者に比べ数十倍肺がんを発生しやすいという。 本間氏はIPFの治療について紹介した。IPFは特発性間質性肺炎の中でも最も治療反応性が低く、ほかの病型とは異なった治療戦略がとられる。IPFの治療ゴールは、生存期間の延長、呼吸機能の維持・低下の抑制、急性増悪の予防である。 治療法としては、酸素療法、呼吸リハビリテーション、薬物療法が主なものである。呼吸リハビリテーションについては近年、運動耐容能、症状、健康関連QOLの改善など、その有効性が明らかになってきている。 薬物療法については、従来ステロイドパルス療法が中心であったが、近年N-アセチルシステイン(NAC)、ピルフェニドンの有効性が明らかになってきている。さらに、本年5月に開催されるATS(米国胸部学会)では、INPULSIS試験(チロシンキナーゼ阻害薬)、ASCEND試験(ピルフェニドン)、PANTHER試験(NAC単独療法)などの臨床試験も発表予定であり、IPFの薬物療法に関するエビデンスが一気に充実してくると期待される。

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特発性間質性肺炎の経過中に肺がんを見落としたケース

呼吸器最終判決判例タイムズ 1739号124-129頁概要息切れ、呼吸困難を主訴に総合病院を受診し、特発性間質性肺炎、連発型心室性期外収縮などと診断された75歳男性。当初、右肺野に1.5cmの結節陰影がみられたが、炎症瘢痕と診断して外来観察を行っていた。ところが初診から6ヵ月後、特発性間質性肺炎の急性増悪を契機に施行した胸部CTで右肺野の結節陰影が4cmの腫瘤陰影に増大、骨転移を伴う肺小細胞がんでステージIVと診断された。特発性間質性肺炎の急性増悪に対してはステロイドパルス療法などを行ったが、消化管出血などを合併して全身状態は悪化、治療の効果はなく初診から7ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報75歳男性、1日30本、50年の喫煙歴あり経過1994年3月29日息切れ、呼吸困難、疲れやすいという主訴で某総合病院循環器科を受診。医学部卒業後1年の研修医が担当となる。胸部X線写真:両肺野の微細な網状陰影呼吸機能検査:拘束性換気障害心電図検査:二段脈と不完全右脚ブロック血液検査:肝・胆道系の酵素上昇、腫瘍マーカー陰性4月5日胸部CTスキャン:肺野末梢および肺底部に強い線維性変化、蜂窩状陰影。続発性の肺気腫と嚢胞、右肺の胸膜肥厚。なお、右肺下葉背側(segment 6)に1.0×1.5cmの結節陰影が認められたが、炎症後の瘢痕と読影。慢性型の特発性間質性肺炎と診断した腹部CTスキャン:異常なし4月6日ホルター心電図:連発型の非持続性心室性期外収縮があり、抗不整脈薬を投与開始。以後胸部については追加検査されることはなく、外来通院が続いた11月頃背部痛、腰痛、全身倦怠感を自覚。12月8日息苦しさと著しい全身倦怠感が出現したため入院。胸部X線写真、胸部CTスキャンにより、右肺下葉背側に4.0×3.0cmの腫瘤陰影が確認された(半年前の胸部CTスキャンで炎症瘢痕と診断した部分)。諸検査の結果、特発性間質性肺炎に合併した肺小細胞がん、骨転移を伴うステージIVと診断した。12月20日特発性間質性肺炎が急性増悪し、ステロイドパルス療法施行。ところが消化管出血を合併し、全身状態が急速に悪化。1995年1月13日特発性間質性肺炎の悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.特発性間質性肺炎に罹患したヘビースモーカーの患者に、胸部CTスキャンで結節性陰影がみつかったのであれば、肺がんを念頭においた精密検査を追加するべきであった2.肺がんのような重大な疾患を経験の浅い医師が受け持つのであれば、経験豊かな医師が指導するなど十分なバックアップ体制をとる注意義務があった病院側(被告)の主張1.精密検査ができなかったのは、原告が健康保険に加入していなかったので高い診療費を支払うことができなかったためである2.死因は特発性間質性肺炎の急性増悪であり、肺がんは関係ない。たとえ初診時に肺がんの診断ができていたとしても、延命の可能性は低かった裁判所の判断1.診察当初の胸部CTスキャンで結節性陰影がみつかり、喫煙歴が1日30本、約50年というヘビースモーカーであり、慢性型の特発性間質性肺炎と診断し、肺がんがその後半年間発見されなかったという診断ミスがあった2.直接死因は特発性間質性肺炎の急性増悪であり、肺小細胞がんが直接寄与したとはいえない。しかし、早期に肺小細胞がんの確定診断がつき、化学療法を迅速に行っていれば、たとえ特発性間質性肺炎が急性増悪を来してもステロイドの治療効果や胃潰瘍出血などの副作用も異なった経過をたどり、肺小細胞がんの治療も特発性間質性肺炎の治療も良好に推移したと考えられ、少なくとも約半年長く生存できたはずである。したがって、原告の精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべきである原告側2,200万円の請求に対し、550万円の支払命令考察今回の事件は、ある地方の基幹病院で発生しました。ご遺族にとってみれば、信頼できるはずの大病院に半年間も通院していながら、いきなり「がんの末期で治療のしようがない」と宣告されたのですから、裁判を起こそうという気持ちも十分に理解できると思います。それに対し病院側は、たとえ最初からがんと診断しても死亡とは関係はなかった、それよりも、きちんと国民健康保険に加入せず治療費が高いなどと文句をいうので、胸部CTスキャンなどの高額な検査はためらわれた、と反論しましたが、裁判官には受け入れられず「病院側の注意義務違反」として判決は確定しました。あとから振り返ってみると、多くの先生方は「このような肺がんハイリスクの患者であれば、診断を誤ることはない」という印象を持たれたと思いますが、やはり原点に返って、どうすれば最初から適切な診断ができたのか、そして、その後の定期外来通院中になぜ肺がん発見には至らなかったのか、などについて考えてみたいと思います。1. 研修医もしくは若手医師の指導今回当事者となったドクターは、医学部を卒業後1年、そして、当該病院に勤務してから3ヵ月しか経過していない研修医でした。このような若いドクターが医師免許を取得して直ぐに医事紛争に巻き込まれ、裁判所に出廷させられるなどということは、できる限り避けなければなりませんが、今回の背景には、指導医の監督不十分、そして、当事者のドクターにも相当な思い込みがあったのではないかと推測されます。おそらく、当初の胸部CTスキャンで問題となった「右肺下葉背側(segment 6)に1.0×1.5cmの結節陰影」というのは、放射線科医が作成したレポートをこの研修医がそのまま信用し、結節=炎症瘢痕=がんではない、と半ば決めつけていたのだと思います。しかし、通常であれば「要経過観察」といった放射線科医のコメントがつくはずですから、最初につけた診断だけで安心せず、次項に述べるようなきちんとした外来観察計画を立てるべきであったと思います。そして、指導医も、卒後1年しか経過していないドクターを一人前扱いとせずに、新患のケースでその後も経過観察が必要な患者には、治療計画にも必ず関与するようにするべきだと思います。従来までの考え方では、このような苦い経験を踏まえて一人前の医師に育っていくので、最初から責任を負わせるようにしよう、とされていることが多いと思いますし、実際に多忙をきわめる外来診療で、そこまで指導医が配慮するというのも困難かもしれません。しかし、今回のような医師同士のコミュニケーション不足が原因で紛争に発展する事例があるのも厳然たる事実ですから、個人の力だけでは防ぎようのない事故については、組織のあり方を変更して取り組むべきだと思います。2. 定期的な外来観察計画上気道炎の患者さんなど短期間の治療で終了するようなケースを除いて、慢性・進行性疾患、場合によっては生命を脅かすような病態に発展することのある疾患については、初期の段階から外来観察計画を取り決めておく必要があると思います。たとえば、今回のような特発性間質性肺炎であれば(肺がんの合併が約20%と高率なので)胸部X線写真は6ヵ月おきに必ずとる、血液ガス検査は毎月、血算・生化学検査は2ヵ月おきに調べよう、などといった具合です。一度でも入院治療が行われていれば、退院後の外来通院にも配慮することができるのですが、ことに今回の症例のようにすべて外来で診ざるを得なかったり、複数の医師が関わるケースでは、なおさら「どのような治療方針でこの患者を診ていくのか」という意思決定を明確にしておかなければなりません。そして、カルテの見やすいところに外来観察計画をはさんでおくことによって、きちんと患者さんをフォローできるばかりか、たとえ医事紛争に巻き込まれても、「適切な外来管理を行っていた」と判断できる重要な証拠となります。今回の症例は、やりようによっては最初から肺がん合併を念頭においた外来観察をできたばかりか、けっして軽い病気とはいえない特発性間質性肺炎の経過観察を慎重に行うことで、結果が悪くても医事紛争にまでは至らなかった可能性も考えられます。裁判官の判断は、「がんが発見されていれば別の経過(=特発性間質性肺炎の急性増悪も軽くすんだ?)をたどったかもしれない」ことを理由に、たいした根拠もなく「半年間は延命できた」などという判決文を書きました。しかし、一般に特発性間質性肺炎の予後は悪いこと、たとえステロイドを使ったとしても劇的な効果は期待しにくいことなどの医学的事情を考えれば、「半年間は延命できた」とするのはかなり乱暴な考え方です。結局、約半年も通院していながら末期になるまでがんをみつけることができなかったという重大な結果に着目し、精神的慰謝料を支払え、という判断に至ったのだと思います。呼吸器

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