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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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糖尿病患者の残薬1位は?-COVID-19対策で医師が心得ておきたいこと

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の実態が解明されるなか、重症化しやすい疾患の1つとして糖尿病が挙げられる。糖尿病患者は感染対策を行うのはもちろん、日頃の血糖コントロール管理がやはり重要となる。しかし、薬物治療を行っている2型糖尿病患者の血糖コントロール不良はコロナ流行以前から問題となっていた。今回、その原因の1つである残薬問題について、亀井 美和子氏(帝京平成大学薬学部薬学科 教授)らが調査し、その結果、医療者による患者への寄り添いが重要であることが明らかになった。 このアンケート結果は、9月30日に開催されたメディア勉強会『処方実態調査の結果にみる、糖尿病患者さんの課題~新たな日常で求められるシンプルな治療、服薬アドヒアランスの向上~』の「服薬アドヒアランスと患者支援 2型糖尿病患者の処方実態調査結果より」で報告され、同氏が血糖コントロールに不可欠な残薬問題解決の糸口について語った。このほか、糖尿病患者のCOVID-19への影響を踏まえ、門脇 孝氏(虎の門病院 院長)が「服薬アドヒアランス向上のために医師ができること」について解説した(主催:日本イーライリリー)。糖尿病患者の残薬1位、α-グルコシダーゼ阻害薬 残薬が生じる原因には、薬物の服用回数の多さ、服用タイミングなどの問題が挙げられる。2013年2月、残薬による日数調整の対象となりやすい薬剤について薬局薬剤師3,001人に調査した結果によると、第1位に挙げられた薬剤はα-グルコシダーゼ阻害薬、消化性潰瘍治療薬、下剤などであった。これは、「薬の効果を感じにくい」「症状があるときだけ使用する薬(自己調節が可能)」「用法が食前」などの理由が原因とされる。また、糖尿病患者の残薬理由を尋ねた調査では、「飲み忘れ」「持参し忘れ」などが特徴付けられた。 このような結論をより具体的にするために亀井氏らは2型糖尿病患者の服薬アドヒアランスと治療の負担感について調査を行った。  本調査は、日本在住で20歳以上の電子お薬手帳サービス「harmo」利用者のうち、2020年4月30日時点でID登録がされており、過去3ヵ月間(2020年1月1日~4月10日)に2型糖尿病の経口薬を処方されていた患者5,504 例の人口統計的変数、治療状況、経口薬の服薬状況、ライフサイクル(起床/就寝時間)に関する情報を収集した横断的観察研究。調査期間は2020年4月30日~5月10日、調査方法はスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどを用いたインターネット・アンケートだった。 主な結果は以下のとおり。・実際に回答を得られたのは675例で、男性は499例、女性は176例だった。・平均2.1剤の経口糖尿病薬を服用し、1日あたりの服薬回数は平均2.0回であった。・糖尿病薬を服薬するタイミングで最も多かったのは朝食後74.4%であった。・32.4%の患者さんで服薬アドヒアランスが不良であった。・服薬アドヒアランス良好の患者さんに比べ、不良の患者さんのほうが1日あたりの服薬回数が多かった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんはHbA1cの値が高い傾向であった。・服薬アドヒアランス不良の患者さんの38.4%が服薬に負担を感じていた。患者が服薬しないのは、情報不足・認識の低さ・副作用経験から この結果を踏まえ、亀井氏は「服薬アドヒアランス不良の患者では直近のHbA1cが高い傾向にあることから、合併症予防の観点からも治療の負担感を軽減し、服薬アドヒアランスを高めていく必要がある」と述べ、「残薬が発生するに原因には、薬自体や処方の特徴、そして患者の特徴が影響している。これを解決できていないのは患者と医療者とのコミュニケーション不足が原因」と話した。 そこで、質的研究として同氏らは個々に向かい合い、“服薬しない”行動原理を探索した。そこには“理解不足”はもちろんのこと、「複数の情報による混乱」「情報を都合よく解釈」「副作用への不安」「受け身の治療」などの個々の考えが大きく影響していることが示唆された。このような患者の考えには、「さまざまな情報や適切な情報の不足、病気の認識が低い、自他の副作用経験が影響し、意図的に(時には意図的ではなく)服用しない、という行動に結びつく」と同氏はコメント。実際に個別に応じた対応を行った結果、改善したと回答した薬局が97.6%にものぼっていた。医師による服薬アドヒアランス向上が糖尿病のCOVID-19重症化を防ぐ 続いて、門脇氏は糖尿病患者のCOVID-19対策時における注意点を説明。「外出自粛に伴う運動量の減少、食習慣の変化による体重増加や高血糖を防止するため、積極的な活動を心がけ、食事の取り方に十分注意する必要がある。また、外出自粛を理由に糖尿病患者が医療機関への受診を極端に控えることは、血糖コントロールや病状の悪化につながる可能性があるため、個々の糖尿病患者の状態に応じて適切な間隔での受診・検査・投薬が必要である」と強調した。 この注意点を解決していくためにはやはり患者とのコミュニケーションが重要となる。同氏は血糖コントロール管理の上で欠かせない医師と医療者のコミュニケーションが日本では世界と比べ不足していることを指摘し、「この原因は診療時間が十分に取れない環境にあるが、医療者は患者のQOLアウトカム(日常生活・社会生活の制限、自由の剥奪感、精神的負担など)を留意する必要がある。そのためには、医師自身がベストと考える治療法を説明し患者さんの同意を得るInformed Consentと、患者へ結果に大きな差のない複数の治療法について説明して患者が選択するInformed Choiceを取り入れていくことが必要である。これが“糖尿病患者の治療意欲とアドヒアランスを高める”ことにつながる」と述べ「糖尿病患者が治療に向き合っていること、糖尿病患者がスティグマ(社会的偏見)に苦しんでいることも医療者は理解しなければならない」と締めくくった。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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「フラジール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第15回

第15回 「フラジール」の名称の由来は?販売名フラジール®内服錠250mg一般名(和名[命名法])メトロニダゾール(JAN)[日局]効能又は効果◯ トリコモナス症(腟トリコモナスによる感染症) ◯ 嫌気性菌感染症 <適応菌種>本剤に感性のペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属、フソバクテリウム属、クロストリジウム属、ユーバクテリウム属<適応症>深在性皮膚感染症外傷・熱傷及び手術創等の二次感染骨髄炎肺炎、肺膿瘍骨盤内炎症性疾患腹膜炎、腹腔内膿瘍肝膿瘍脳膿瘍◯ 感染性腸炎<適応菌種>本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル<適応症>感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)◯ 細菌性腟症<適応菌種>本剤に感性のペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス・フラジリス、プレボテラ・ビビア、モビルンカス属、ガードネラ・バジナリス<適応症>細菌性腟症◯ ヘリコバクター・ピロリ感染症胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALT リンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎◯ アメーバ赤痢◯ ランブル鞭毛虫感染症用法及び用量<トリコモナス症(腟トリコモナスによる感染症)>通常、成人にはメトロニダゾールとして、1クールとして、1回250mgを1日2回、10 日間経口投与する。<嫌気性菌感染症>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回500mgを1日3回又は4回経口投与する。<感染性腸炎>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mgを1日4回又は1回500mgを1日3回、10~14日間経口投与する。<細菌性腟症>通常、成人にはメトロニダゾールとして、1回250mgを1日3回又は1回500mgを1日2回7日間経口投与する。<ヘリコバクター・ピロリ感染症>アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン及びプロトンポンプインヒビター併用によるヘリコバクター・ピロリの除菌治療が不成功の場合通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びプロトンポンプインヒビターの3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。<アメーバ赤痢>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回500mgを1日3回10日間経口投与する。なお、症状に応じて1回750mgを1日3回経口投与する。<ランブル鞭毛虫感染症>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mgを1日3回5~7日間経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由1.既往に本剤の成分に対する過敏症を起こした患者2.脳、脊髄に器質的疾患のある患者(脳膿瘍の患者を除く)[中枢神経系症状があらわれる ことがある。]3.妊娠3ヵ月以内の女性(有益性が危険性を上回ると判断される疾患の場合は除く)※本内容は2020年9月2日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年7月改訂(改訂第17版)医薬品インタビューフォーム「フラジール®内服錠250mg」2)塩野義製薬:製品情報一覧

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血圧コントロール不良を契機に漫然投与のNSAIDsを卒業【うまくいく!処方提案プラクティス】第25回

 今回は、血圧上昇を理由にNSAIDsの中止を提案したケースを紹介します。高齢者では、骨折や転倒などによる受傷、手術を契機にNSAIDsが開始となり、そのまま漫然と投薬を続けていることは少なくありません。薬剤師は服薬開始日や理由を薬歴などに記録し、長期的に服用を続ける必要があるかどうかを医師と共同モニタリングしましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患高血圧症、不眠症既往歴75歳時に大腿骨頸部骨折、60歳時に鼠径ヘルニア手術訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理施設看護師が管理処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.エナラプリル錠5mg 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠 500mg 2錠 分2 朝夕食後4.セレコキシブ錠100mg 2錠 分2 朝夕食後5.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんは、普段から穏やかでおとなしい性格で、訪問診療時の血圧は140〜150/80〜90くらいで推移していました。セレコキシブが処方されていますが、日中や夜間の疼痛の訴えはなく、疼痛コントロールは安定していました。長期的にNSAIDsを服用すると、腎機能低下や胃潰瘍などのリスクがあるため、いつからセレコキシブを服用していて、いつまで服用しなければならないのか気になっていました。そのさなか、訪問診療時に血圧が158/96と高めの日があり、医師より降圧薬を追加するのはどうかと相談がありました。そこで、いくつか懸念事項があったので下記のように考えをまとめました。血圧上昇のアセスメント降圧薬を単に追加するのではなく、現行の治療薬で何か血圧に影響しているものはないかを検証することが先決です。そこで、真っ先にNSAIDsであるセレコキシブによる影響を考えました。セレコキシブは、過去の骨折の際に処方が開始となり、変更なくそのまま服用していることをお薬手帳や施設看護師から情報収集しました。通常、NSAIDsはアラキドン酸からプロスタグランジンへの産生を抑制し、水やNaの貯留と血管拡張抑制による影響から血圧を上昇させる可能性があります。血圧への影響や長期的な腎機能障害への影響については、COX-2選択的阻害薬でも非選択的NSAIDsと効果は同等といわれています。さらに、セレコキシブは長期間にわたって酸化マグネシウムと併用されていますが、AUCこそ変動はないものの、併用によってCmaxが低下するため、薬効低下が生じて十分な治療効果が得られていない可能性もあります。そこで、現在疼痛コントロールも安定していることと、血圧上昇の影響も考慮して、セレコキシブを中止する提案をすることにしました。処方提案と経過医師より降圧薬追加の相談を受けて、セレコキシブを中止することで血圧が安定する可能性があることを上記の考察を添えて回答しました。医師が長期間使っていた治療薬を中止することで患者さんの状態が変化することを懸念したため、セレコキシブを中止する代わりにアセトアミノフェン錠500mg 1錠/回 疼痛時の頓用を提案し、承認を得ることができました。セレコキシブと胃粘膜障害を防ぐために併用されていたレバミピドを中止した後も疼痛増悪はなく、アセトアミノフェン錠を服用することなく経過しました。血圧も130〜140/70〜80で落ち着いて推移しているため、その後も降圧薬を追加することなく患者さんは安定した状態を維持しています。1)セレコックス錠100mg/200mg 添付文書2)北村和雄. 宮崎医学会誌. 2008;32:1-5.

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不安感増悪の原因がデュロキセチンかプロピベリンか見極めて変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第24回

 複数の薬剤を服薬している患者さんでは、有害事象の原因薬剤の特定が困難なことが多くあります。しかし、症状や時期を聴取し原因を推論することで、必要な薬剤が削除されたり、不要な薬剤が追加されたりすることが回避できることがあります。今回は、有害事象を早期に察知して、影響の少ない薬剤に変更したケースを紹介します。患者情報90歳、男性(在宅)基礎疾患:高血圧症、過活動膀胱訪問診療の間隔:1週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、訪問スタッフが声掛け処方内容1.アムロジピン5mg 1錠 分1 朝食後2.テプレノンカプセル50mg 1カプセル 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠250mg 1錠 分1 朝食後4.プロピベリン塩酸塩錠10mg 2錠 分1 朝食後5.デュロキセチン塩酸塩カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 便秘時7.経腸成分栄養剤(2−2)液 250mL 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは5年前に奥様が亡くなってから独居で生活されていて、家族との交流はほとんどありません。日常的に不安感が強く、うつ病の診断でデュロキセチンが開始されると同時に、薬剤師の訪問介入が開始となりました。その際、服薬アドヒアランスは不良で、ほとんど薬に手を付けていない状況でした。認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で 25点と正常であったものの、薬剤と服薬回数の多さを負担に感じていたようです。そこで、当初は朝と夕に服用する薬剤が処方されていましたが、服薬を確実に行うことを優先して朝1回の服用に用法をまとめることを提案し、今回から上記の処方となりました。薬剤はカレンダーに1週間分をセットし、毎日の訪問スタッフ(訪問介護員、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネジャー)が協力して声掛けを行うことで服薬アドヒアランスが安定しました。しかし、1週間後に口渇と不安感が増強したため、医師より新規開始薬のデュロキセチンが影響している可能性はないかという電話相談がありました。ここで、私が考えたアセスメントについてまとめると下記のようになります。服薬アドヒアランスが良好になったことによる有害事象アドヒアランスが安定することで初めて薬剤の本来の治療効果が生じることは多くありますが、今回は効果よりも有害事象が現れたのではないかと考えました。口渇および不安感増強で評価すべきポイントは、(1)新規開始薬のデュロキセチンによる影響、(2)プロピベリンの抗コリン作用による影響の2点です。デュロキセチンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、投与開始2週間以内や増量後に賦活症候群1)2)が生じやすいことが知られています。この患者さんはアドヒアランスが安定したことで同じような状態になり、不安や焦燥感が増悪したとも考えられました。しかし、賦活症候群の診断基準は曖昧であり、ほかの代表的な症状である不眠や攻撃性、易刺激性、アカシジアなどはなく、口渇が同時期に出ていることから可能性は低いと考えました。むしろ、口渇こそが患者さんに苦痛を与えており、これが不安につながっていると考えるのが自然だと感じました。そこで、アドヒアランスが改善したことで、プロピベリンの抗コリン作用の影響が強く出てしまっているのではないかと考えました。現在の排尿障害について患者さんに確認すると、昼間の頻尿はなく、夜間の尿意で起きることは1〜2回/日であり、それほど苦痛には感じていないとのことでした(過活動膀胱スコア[OABSS]3)は3点と軽症)。それよりも、「とにかく喉が渇いてしょうがない、口の中が気持ち悪い、変な病気になったんじゃないかと不安」と聴取し、プロピベリンがきっかけとなっていることがうかがえました。また、抗コリン薬は長期的には認知機能低下や便秘、嚥下機能低下、転倒4)などの懸念があり、変更が望ましいと考えました。処方提案と経過医師に電話で折り返し、患者さんとの上記のやりとりを含めて報告し、今回の不安感増大はプロピベリンによる口渇が原因となっている可能性を伝え、過活動膀胱治療薬をミラベグロン錠25mg 1錠へ変更することを提案しました。提案根拠としては、ミラベグロンは膀胱のβ3受容体刺激作用から蓄尿期のノルアドレナリンによる膀胱弛緩作用を増強することで膀胱容量を増大させるという蓄尿作用を示しますが、抗コリン作用がないからです。その結果、医師よりプロピベリンを中止し、ミラベグロンを開始するよう指示がありました。また、患者さんが服用錠数の多さを負担に感じていましたが、胃炎や胃潰瘍などの明白な病歴や症状を聴取できなかったため、テプレノンの必要性を医師に確認したところ、飲み切り終了の指示もありました。その後、ミラベグロンへの変更から7日目には口渇は消失し、不安や焦燥感も軽減していました。また排尿障害もOABSSは3点と変動はなく、代替薬への変更が奏効しました。1)浦部晶夫ほか編集. 今日の治療薬2020. 南江堂;2020.2)サインバルタカプセル20mg/30mg インタビューフォーム3)日本老年医学会ほか編集. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015;2015.4)日本排尿機能学会 過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編集. 過活動膀胱診療ガイドライン第2版;2015.

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第37回 味覚障害に対する亜鉛の有効性と必要用量は?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 味覚障害は実に多くの原因によって起こります。少し古いデータですが、「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」で紹介されている味覚障害の原因別頻度によると、薬物性味覚障害が最も多く(21.7%)、特発性(15.0%)、亜鉛欠乏性(14.5%)、心因性(10.7%)と続き、嗅覚障害、全身疾患性、口腔疾患、末梢神経障害、中枢性神経障害による味覚障害も報告されています1)。直近では、SARS-CoV-2感染による軽症COVID-19患者では味覚や嗅覚に異常を来すケースが64.4%あることが報告されているため、より不安を覚える患者さんもいるかもしれません2)。今回は、比較的頻度が高い亜鉛欠乏性味覚障害の治療に関する研究を紹介します。試験は多くありますが、コクランのシステマティックレビューがあるので、こちらを読めばまとめて概要がつかめます3)。ここでは、10試験(581例)が対象で、そのうち9試験(566例)を解析に含めています。このレビューでは、特発性か亜鉛欠乏、または慢性腎不全に起因する味覚障害に関する研究のみを対象として、9試験544例の味覚障害患者に対して、亜鉛サプリメントとプラセボで比較しています。2試験の参加者は平均年齢10歳と11.2歳の小児と青少年で、残りの7試験の参加者は成人です。システマティックレビューはアウトカムごとに評価しますが、いくつかアウトカムを取り上げましょう。1つ目にVAS質問紙を用いて味覚障害の改善を評価し、平均3ヵ月間の追跡調査期間中にVASスコアが5%以上改善したと定義した場合の2試験119例における味覚改善の患者報告アウトカムは、亜鉛群ではプラセボ群と比較して40%味覚改善が相対的に増えています。これは1,000人当たりにすると407人の改善が569人に増えたという結果です(リスク比:1.40、95%信頼区間[CI]:0.94~2.09)。ただし、ランダム化が不明瞭であったり、脱落があったりするなどエビデンスの質としてはとても低いとされています。2つ目に、特発性および亜鉛欠乏性味覚障害患者で、ろ紙ストリップ法とろ紙ディスク法で評価した味覚の改善度合いを平均3ヵ月間追跡調査した3試験366例の客観的アウトカムでは、標準化平均差(SMD):0.44、95%CI:0.23~0.65です。ただし、出版バイアス、選択バイアスおよび信頼区間が広く不精確であることから、エビデンス総体の質はとても低いとされています。なお、ろ紙ディスク法は、舌の測定部位に甘味、塩味、酸味、苦味の4つの味の溶液を浸した小さなろ紙を置き、感じた味を答えてもらうという比較的一般的に行われている試験です。実臨床では亜鉛の用量も気になるところですので、2つ目のアウトカムで引用されているわが国のSakagamiの論文を見てみましょう4)。こちらは、亜鉛含有製剤であるポラプレジンクの多施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験です。血清亜鉛値が低い患者を含む特発性味覚障害患者の治療における亜鉛含有化合物の有効性と安全性を評価するため、味覚障害患者109例をプラセボ群と亜鉛用量の異なる3つの治療群に割り付けています。各群の患者は、プラセボ(28例)、ポラプレジンク製剤17mg(27例)、同34mg(26例)、同68mg(28例)のいずれかを12週間毎日服用しました。亜鉛の1日の平均摂取推奨量は成人男性で11mg、成人女性で8mgですので5)、亜鉛摂取量はいずれもそれを大きく上回る量です。主観的な症状のスコアは、34mg群と68mg群でプラセボ群よりも改善しました。ポラプレジンクの適応症は胃潰瘍ですが、添付文書にはフリーラジカルに対する作用や創傷治癒促進作用の記載もあり、味覚障害、嗅覚障害、皮膚障害のほか、顆粒はがん治療に伴う口内炎にうがい薬として使われることもあるので併せて押さえておくとよいでしょう6)。効果の程度や検査方法など背景を知ったうえで、患者さんに安心してもらえる説明をするための参考になれば幸いです。1)「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」, 厚生労働省.2)Spinato G, et al. JAMA. 2020 Apr 22. [Epub ahead of print]3)Kumbargere Nagraj S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;12:CD010470.4)Sakagami M, et al. Acta Otolaryngol. 2009;129:1115-1120.5)厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』6)小林敦. 日口診誌. 2016;29:8~12.

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第14回 治療編(1)薬物療法【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第14回 治療編(1)薬物療法今回は、治療編として薬物療法に焦点を当てて解説していきたいと思います。「痛み」の原因の分類で、炎症性疼痛があります。何らかの原因で炎症症状が発現し、それによって発痛物質が作り出されると、それが神経の痛み受容器を刺激する結果として、患者さんは痛みを訴えて受診されます。末梢性炎症性疼痛に対する治療薬として使用されるのが、NSAIDs、ステロイド性抗炎症薬です。アセトアミノフェンはNSAIDsとは異なる作用機序ではありますが、比較的よく用いられております。痛み治療第1段階の薬物療法3種まず、痛み治療の第1段階で頻繁に用いられているNSAIDsから説明しましょう。NSAIDs(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)1)作用機序アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)系の働きを抑制することで、プロスタグランジン(prostaglandin:PG)E2の生産を減少させ、抗炎症作用、血管収縮作用などにより鎮痛作用を示します。末梢性に効果を発揮するため、炎症や腫脹が見られる時に、とくに効果があります。2)投与上の注意COXには、全身の細胞に常在する構成型酵素のCOX-1と、炎症によって生じるサイトカインの刺激によって炎症性細胞に発現する誘導型酵素のCOX-2が存在します。COX-1由来のPGが胃粘膜の血流維持や粘液産生増加、腎血流維持に働いており、通常のNSAIDsを使用する場合には、COX-1阻害作用によって胃潰瘍や消化管出血、腎血流障害などを生じる可能性があります。一方、選択的COX-2阻害薬は、COX-2由来の血小板凝集阻止作用を有するプロスタサイクリン産生を減少させ、トロンボキサン(thromboxane:TX)A2の産生を維持するため、血圧上昇や動脈硬化、血栓形成を促進させる可能性があります。そのため、活動性の動脈硬化病変がある不安定狭心症、心筋梗塞、脳血管虚血症状を有する患者さんに投与する場合は、できるだけCOX-2阻害薬を避けることが望ましいです。以下、主なNSAIDsと投与量を示します(図)。画像を拡大するステロイド性抗炎症薬1)作用機序ステロイドはリポコルチンの生合成を促進して、ホスホリパーゼA2の作用を阻害するによって、最終的にCOX-2やサイトカインの生成を抑制し、鎮痛効果を発揮します。2)投与上の注意局所炎症、神経圧迫や神経損傷による急性疼痛に対しては有用ではありますが、慢性疼痛に対する効果の持続は限定されます。経口投与では、プレドニゾロン20~30mg/日で開始し、1週間程度で治療効果が得られなければ、漸次減量していきます。硬膜外腔投与にはデキサメタゾン2~8mg、関節内投与には同0.8~2mgを投与します。アセトアミノフェン1)作用機序NSAIDsとは異なり、中枢系プロスタノイドの抑制、内因性下行性疼痛抑制系の活性化、内因性オピオイドの増加などによる鎮痛機序が推測されています。本薬には末梢性消炎作用は存在しないために、炎症性疼痛に対してはNSAIDsの短期間投与が推奨されています。2)投与上の注意最近、安全性の高さから1日最大投与量が4,000mgと規定されました。しかしながら、最大量のアセトアミノフェンを長期投与する場合には、肝機能への影響が懸念されるため、経時的な肝機能のモニタリングに留意する必要があります。通常開始量は325~500mg を4時間ごと、500~1000mgを6時間ごとに最大量4,000mgとして投与します。高血圧や心筋梗塞、虚血性心疾患、脳卒中、などの心血管疾患系のリスクを有する患者さんで筋骨格系の痛み治療が必要になった場合には、アセトアミノフェンやアスピリンが薦められています。これらが無効な場合にはNSAIDsを考慮します。その際は、プロトンポンプインヒビターなど胃粘膜保護薬を消化管出血の予防に使用します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べました。読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S152-1532)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S1543)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S167

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急性上部消化管出血の内視鏡検査、最適な施行時期とは/NEJM

 急性上部消化管出血を発症し、再出血または死亡のリスクが高い患者では、消化器科コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査と比較して、30日死亡率を抑制しないことが、中国・香港中文大学のJames Y.W. Lau氏らの検討で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年4月2日号に掲載された。International Consensus Groupのガイドラインでは、急性上部消化管出血患者には、受診後24時間以内に内視鏡検査を行うよう推奨されている。一方、24時間より短い時間枠内に施行される内視鏡検査の役割は、十分に明らかではないという。緊急と早期施行で、30日死亡率を比較する無作為化試験 研究グループは、再出血や死亡のリスクが高いと予測される急性上部消化管出血患者では、コンサルテーション後6時間以内の内視鏡検査は、6~24時間の検査に比べ、再出血を未然に防ぎ、転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で無作為化試験を実施した(香港特別行政区食品衛生局保健医療基金の助成による)。 対象は、上部消化管の急性の顕性出血(吐血、下血、これら双方)が認められ、Glasgow-Blatchfordスコア(0~23点、点数が高いほど、再出血または死亡のリスクが高い)が12点以上の患者であった。 被験者は、消化器科コンサルテーション後6時間以内に内視鏡検査を受ける群(緊急内視鏡群)、または6~24時間に検査を受ける群(早期内視鏡群)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、無作為化から30日以内の全死因死亡とした。30日死亡と再出血の双方が、緊急施行で多い傾向 2012年7月~2018年10月の期間に516例が登録され、緊急内視鏡群に258例(平均年齢69.6±16.0歳、男性60.9%)、早期内視鏡群にも258例(71.4±14.9歳、65.1%)が割り付けられた。消化性潰瘍が出血源の患者は、緊急内視鏡群61.2%(158例)、早期内視鏡群61.6%(159例)で、食道胃静脈瘤が出血源の患者はそれぞれ9.7%(25例)および7.3%(19例)であった。 救急診療部受診から消化器科コンサルテーションまでの平均時間は、緊急内視鏡群7.4±6.2時間、早期内視鏡群8.0±7.1時間であり、コンサルテーションから内視鏡検査施行までの平均時間は、それぞれ2.5±1.7時間および16.8±6.8時間であった。したがって、受診から内視鏡検査施行までの平均時間は、緊急内視鏡群9.9±6.1時間、早期内視鏡群24.7±9.0時間となった。 30日死亡率は、緊急内視鏡群8.9%(23/258例)、早期内視鏡群6.6%(17/258例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.35[95%信頼区間[CI]:0.72~2.54]、p=0.34、群間差2.3ポイント[95%CI:-2.3~6.9])。 30日以内の再出血率は、緊急内視鏡群10.9%(28例)、早期内視鏡群7.8%(20例)であり、有意差はなかった(HR:1.46[95%CI:0.83~2.58]、群間差:3.1ポイント[95%CI:-1.9~8.1])。 消化性潰瘍患者では、活動性出血または露出血管を伴う潰瘍は、緊急内視鏡群の66.4%(105/158例)と早期内視鏡群の47.8%(76/159例)で認められた。また、内視鏡的止血術は、緊急内視鏡群の60.1%(155例)と早期内視鏡群の48.4%(125例)で行われた。 著者は、「緊急内視鏡群では、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が多かったため、内視鏡治療の頻度が高かったが、これは再出血や死亡の抑制には結び付かなかった。一方、早期内視鏡群は1晩の酸分泌抑制薬治療を受けており、内視鏡検査までの期間が長く投薬期間が長いほど、活動性出血や大きな出血斑を伴う潰瘍が少なかった。内視鏡検査前の酸分泌抑制薬治療は、内視鏡治療を必要とする患者を減少させる可能性がある」としている。

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ICUにおける予防的なPPI投与はH2RAと比べて死亡抑制効果があるのか?(解説:上村直実氏)-1204

 ICUに入院して人工呼吸器を装着される患者の多くに対して、致死的な出血性ストレス潰瘍の発症を予防する目的でプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)が使用されている。従来、上部消化管出血予防に対する有用性はH2RAに比べてPPIのほうが優ることが報告されている。しかし、PPIによる予防戦略が院内死亡率の低下についてもH2RAに比べて有用性が高いかどうかは明確になっていない。今回、オーストラリア、カナダ、英国、アイルランド、ニュージーランドの5ヵ国50施設のICUが参加したRCTの結果、上部消化管出血の予防には従来通りH2RAよりPPIが有効であるが、院内死亡率に関しては両者に差がないことがJAMA誌オンライン版に報告されている。 本研究で使用された研究デザインは「非盲検クラスター・クロスオーバー無作為化試験」であり、日本ではなじみの薄いものである。すなわち、本試験では、地域別ないしは施設ごとに使用する薬剤であるPPIとH2RAの使用する順番をランダムに決定し、さらにはその両薬剤をスイッチする時期に関して担当医師の裁量を加味するという複雑なデザインである。 研究結果として、地域ごとの治療反応に統計学的に有意な不均一性が存在することが明らかとなり、PPIとH2RA両薬剤の上部消化管出血予防に対する有用性がそれぞれの地域や施設において異なる結果となっていることは、本研究結果の解釈を難しいものとしている。さらには参加した国々における人種や医療に対する姿勢などの違いによるバイアスの存在が示唆されるなど、本研究自体の信頼性に疑問を呈する臨床論文になったように思われた。日本国内や国際臨床試験に参加する場合には、得られる結果を見越して研究デザインを十分に練ることが重要であることを学んだ論文である。

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出血ハイリスクの重症患者に対する予防的なPPI・H2RAは有用か?(解説:上村直実氏)-1177

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)など酸分泌抑制薬は胃食道逆流症に対する有用性により世界中で頻用されている一方、長期投与による肺炎や骨折のリスク、腸内細菌叢の変化に伴うClostridium difficile(CD)感染症のリスク増加などを危惧する報告が散見されている。このように酸分泌抑制薬の有用性と安全性のバランスは臨床現場で最も注目されている課題の1つである。 重症患者が主体のICUにおいて消化管出血の予防処置としてPPIやH2RAが当然のように投与されているが、薬剤のリスクを考慮した有用性に関する確実なコンセンサスが得られていないのが現状である。今回、この予防投与の有用性を検証するために、研究デザインの質やバイアスリスクを詳細に吟味したシステマティックレビュー/ネットワークメタ解析の結果がBMJ誌に掲載された。選択された72研究1万2,660例について検討した結果、消化管出血のハイリスク患者ではPPIやH2RAの予防投与は臨床的に消化管出血を減少する成績が示された一方、リスクの低い患者においては出血予防の有用性は統計学的には少ないものとされている。 ICUでは抗菌薬の使用が多く、PPI併用によるCD感染症の増加が危惧されるが、本研究の結果からCD感染症は予想より少ないと思われた。一方、酸分泌抑制薬により肺炎を惹起するリスクが増加することは確かなようであり、医療現場ではさらなる注意が必要である。 最も高いレベルの『エビデンス』とされるメタ解析やシステマティックレビューの評価には、選択された研究論文の質はもとより結果の解釈が大切であり、さらに選択論文のアウトカムのみでなく各研究の調査因子の違いにも注意が必要であること、調査因子が多くなると研究結果が不均一になる傾向にあること等、本研究論文から得られる教訓は多かった。EBM全盛時代となっているが、エビデンスレベルを研究デザインにより設定することが適切であるのか、また実際の診療現場では『エビデンス』を参考資料として個々の患者に対する最善の対処を行っているのか考えさせられた次第である。

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機械的換気によるICU患者の死亡率、胃薬で抑制される?/JAMA

 侵襲的機械換気を要するICU患者におけるストレス潰瘍の予防戦略としてのプロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)には、院内死亡率に関して大きな差はないことが、ニュージーランド医学研究所のPaul J. Young氏らが行った無作為化試験「PEPTIC試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年1月17日号に掲載された。ICUでは、ストレス潰瘍の予防法としてPPIやH2RAが使用されるが、これらの薬剤が死亡率に及ぼす影響は知られていないという。90日院内死亡率を評価するクラスター無作為化試験 本研究は、5ヵ国(オーストラリア、カナダ、英国、アイルランド、ニュージーランド)の50のICUが参加した非盲検クラスター・クロスオーバー無作為化試験であり、2016年8月~2019年1月の期間に患者登録が行われた(ニュージーランド保健研究会議などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ICU入室から24時間以内で、侵襲的な機械換気を要し、院内で最長90日間のフォローアップを受けた患者であった。 ストレス潰瘍の予防法として、PPIを優先的に使用した後H2RAを投与する戦略と、H2RAを優先的に使用した後PPIを投与する戦略を比較した。個々のICUが、2つの戦略を行う群に無作為に割り付けられた。25のICUは通常治療としてPPIを投与し、その後H2RAを投与する群(PPI群)に、残りの25のICUは通常治療としてH2RAを投与し、その後PPIを投与する群(H2RA群)に割り付けられた。2つの薬剤の投与期間は6ヵ月とし、クロスオーバー時にウォッシュアウト期間は設けなかった。 主要アウトカムは、初回入院中における90日以内の全死因死亡とした。副次アウトカムは、臨床的に重要な上部消化管出血、Clostridioides difficile感染、ICU入室および入院の期間(生存退院までの日数)であった。上部消化管出血はPPI群で良好 2万6,828例(平均年齢58[SD 17.0]歳、9,691例[36.1%]が女性、PPI群1万3,436例、H2RA群1万3,392例)が登録され、2万6,771例(99.2%、PPI群1万3,415例、H2RA群1万3,356例)が死亡率の解析に含まれた。 PPI群のICU患者のうち実際にH2RAの投与を受けたのは4.1%、H2RA群のICU患者のうちPPIの投与を受けたのは20.1%であった。 90日院内死亡率は、PPI群が18.3%(2,459/1万3,415例)、H2RA群は17.5%(2,333/1万3,356例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(リスク比[RR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.00~1.10、絶対リスク差:0.93%ポイント、95%CI:-0.01~1.88、p=0.054)。 臨床的に重要な上部消化管出血の発生率は、PPI群が1.3%と、H2RA群の1.8%に比べ有意に低かった(RR:0.73、95%CI:0.57~0.92、絶対リスク差:-0.51%ポイント、95%CI:-0.90~-0.12、p=0.009)。 Clostridioides difficile感染の発生率(PPI群0.30% vs.H2RA群0.43%、RR:0.74、95%CI:0.51~1.09、絶対リスク差:-0.11%ポイント、95%CI:-0.25~0.03、p=0.13)およびICU入室期間中央値(3.6日vs.3.3日、退院[または抜管]までの期間中央値の比[ROM]:1.00、95%CI:0.97~1.03、p=0.85)/入院期間中央値(12.2日vs.12.0日、ROM:1.01、95%CI:0.98~1.03、p=0.66)には、両群間に有意差はみられなかった。 有害事象は、PPI群の1例でアレルギー反応が認められ、別のPPIに変更された。 著者は、「割り付け薬剤のクロスオーバーを行っているため、研究結果の解釈は限定的なものとなる可能性がある」としている。

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高出血リスク重症例への予防的PPI・H2RAは有用か/BMJ

 出血リスクの高い成人重症患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)およびH2受容体拮抗薬(H2RA)の予防的投与は非投与群と比較して、消化管出血について臨床的に意味のある減少をもたらす可能性が示された。中国・首都医科大学のYing Wang氏らがシステマティックレビューとメタ解析を行い明らかにしたもので、リスクの低い患者ではPPIおよびH2RAの予防的投与による出血の減少は意味のないものであり、また、これらの予防的投与は、死亡率や集中治療室(ICU)滞在期間、入院日数などのアウトカムとの関連は認められなかった一方、肺炎を増加する可能性が示されたという。消化管出血リスクの高い患者の大半が、ICU入室中は胃酸抑制薬を投与されるが、消化管出血予防処置(多くの場合ストレス性潰瘍の予防とされる)については議論の的となっている。BMJ誌2020年1月6日号掲載の報告。システマティックレビューとメタ解析、GRADEシステムでエビデンスの質も評価 研究グループは、重症患者に対するPPI、H2RA、スクラルファートの投与、または消化管出血予防(あるいはストレス潰瘍予防)未実施のアウトカムへの相対的影響を患者にとって重要であるか否かの観点から明らかにするため、Medline、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、試験レジスタおよび灰色文献を2019年3月時点で検索し、システマティックレビューとメタ解析を行った。 成人重症患者に対し、PPI、H2RA、スクラルファートあるいはプラセボまたは予防的投与未実施による消化管出血予防について比較検討した無作為化試験を適格とした。2人のレビュアーがそれぞれ適格性について試験をスクリーニングし、データの抽出とバイアスリスクの評価を行った。また、パラレルガイドライン委員会(BMJ Rapid Recommendation)がシステマティックレビューの監視を行い、患者にとって重要なアウトカムを同定するなどした。 ランダム効果ペアワイズ/ネットワークメタ解析を行い、GRADEシステムを用いて、各アウトカムに関するエビデンスの質を評価。バイアスリスクが低い試験と高い試験の間で結果が異なった場合は、前者を最善の推定であるとした。高出血リスク群では、患者に恩恵をもたらす? 72試験、被験者合計1万2,660例が適格として解析に組み込まれた。 出血リスクが最高リスク(8%超)の患者と高リスク(4~8%)の患者については、PPIおよびH2RAの予防的投与は、プラセボまたは非予防的投与に比べて、臨床的に意味のある消化管出血を減少する可能性が示された。PPIのオッズ比(OR)は0.61(95%信頼区間[CI]:0.42~0.89)で、最高リスク患者では同リスクは3.3%減少、高リスク患者では2.3%減少した(確実性・中)。また、H2RAのORは0.46(0.27~0.79)で、最高リスク患者では4.6%減少、高リスク患者では3.1%減少した(確実性・中)。 一方でPPI、H2RA投与はいずれも、非予防的投与と比べて肺炎リスクを増加する可能性が示された(PPIのOR:1.39[95%CI:0.98~2.10]、5.0%増加)(H2RAのOR:1.26[0.89~1.85]、3.4%増加)(いずれも確実性・低)。また、死亡率との関連は認められないと考えられた(PPIのOR:1.06[0.90~1.28]、1.3%増加)(H2RAのOR:0.96[0.79~1.19]、0.9%減少)(いずれも確実性・中)。 そのほか予防的投与による、死亡率、クロストリジウム・ディフィシル感染症、ICU滞在期間、入院日数、人工呼吸器装着期間への影響を支持する結果は、エビデンスがばらついており示されなかった。

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中止されたPPIを胃潰瘍リスクで評価して復活【うまくいく!処方提案プラクティス】第10回

 今回は、既往歴や患者情報からプロトンポンプ阻害薬(PPI)が「処方されていない」ことに疑問を持ったところから始まった処方提案です。ポリファーマシーの問題や副作用などから中止対象となることが多いPPIですが、服用継続すべき場合もあります。今回は、PPIが必要な状態について整理し、追加提案に至るまでのポイントの整理と実際の提案方法について紹介します。患者情報84歳、男性(施設入居中)、元住職基礎疾患:慢性心不全、陳旧性心筋梗塞既 往 歴:出血性胃潰瘍(81歳時)、心筋梗塞のため薬剤溶出性ステント(DES)留置(82歳時)、完全房室ブロックのためペースメーカー挿入(年齢不明)往  診:月2回処方内容1.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠40mg 2錠 分1 朝食後3.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後4.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 分1 夕食後5.ピコスルファートナトリウム内用液0.75% 便秘時頓用 適宜調節本症例のポイントこの患者さんは陳旧性心筋梗塞の基礎疾患があり、動脈硬化性疾患の2次予防のために低用量アスピリンが処方されています。アスピリンを長期的に服用すると、消化性出血や潰瘍のリスクがあるため、PPIやH2受容体遮断薬が予防投与されることがあります。とくに、この患者さんのように出血性胃潰瘍の既往がある場合では、PPIの予防投与が国内外のガイドラインで推奨されています。しかし、上記の処方内容のとおり、胃潰瘍の既往があり、アスピリンが処方されているにもかかわらず、PPIの投与がありませんでした。お薬手帳などを確認したところ、以前はPPIが処方されていましたが、施設入居前の処方整理でPPIが中止されたようです。<陳旧性心筋梗塞とアスピリンと潰瘍>陳旧性心筋梗塞(DES留置後)では、禁忌がない場合は低用量アスピリンを2次予防として永続投与することが推奨されている。しかし、アスピリンは低用量であっても長期服用することで、粘膜への影響により胃などに潰瘍を起こすリスクが懸念されている。とくに、出血既往歴がある患者では消化管合併症の発症率が高まることが報告されているため、PPIの併用が推奨されている。PPIが併用されておらず、出血性胃潰瘍を再発し出血性ショックをきたした一例報告もある1)。PPIを服用することのリスクとして、骨折、慢性腎臓病、クロストリジウムディフィシル感染症(CDI)、肺炎など多くの深刻な副作用がありますが、その絶対リスクは患者1人当たり年間約0.1〜0.5%増加させる程度と報告されています2)。以上の点から、出血性胃潰瘍の既往があるこの患者さんにおいてはアスピリンによる胃潰瘍再燃のリスクのほうが重要であり、今後も安全にアスピリンを服用継続するためにPPIの復活を提案することにしました。処方提案とその後の経過回診前のカンファレンスと往診同行時に、出血性胃潰瘍の既往があるのにPPIが併用されておらず、アスピリン服用に伴う出血性胃潰瘍再燃のリスクがあることを医師に相談しました。また、今回の提案の際に参考とした文献も提示し、PPI追加の妥当性について医師と検討しました。施設入居前に薬剤整理が行われたため、医師もPPIが中止になった経緯を把握していませんでしたが、既往歴と現疾患を整理すると、潰瘍リスクを捨て置くわけにはいかないという結論に至りました。そこで、往診翌日からアスピリンと併用してランソプラゾール口腔内崩壊錠30mgを朝食後に追加することになりました。患者さんは、今もアスピリンおよびランソプラゾールを併用していますが、胃部不快感や食道逆流症状、上腹部痛、嘔気などの徴候はなく経過してます。1)Platt KD, et al. JAMA intern Med.2019;179:1276-1227. 2)Vaezi MF, et al. Gastroenterology.2017;153:35-48.

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ピロリ除菌療法は慢性蕁麻疹患者に有益?

 ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori:HP)が慢性特発性蕁麻疹(CSU)の発生および症状の持続と関連する可能性を示唆する知見が、韓国・高麗大学校医科大学のHyun Jung Kim氏らによるメタ解析の結果、示された。CSU症状を抑制するうえでHP除菌療法の影響が重要な意味を持つ一方、CSU寛解は除菌の成功とは関連しないことなどが明らかになったという。結果を踏まえて著者は「HPとCSUの関連メカニズムを評価するためには、さらなる研究が推奨される」とまとめている。これまでHP感染症がCSUの病因に関与していると考えられてはいたが、CSU症状改善に関するHP除菌療法の効果は明らかにされていなかった。Helicobacter誌オンライン版2019年9月15日号掲載の報告。 研究グループは、HP感染症とCSUの関連を明らかにし、HP除菌療法がCSU患者に有益であるかどうかを評価するため、メタ解析を行った。 2018年10月に、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Library、SCOPUS、Web of Scienceを検索し、CSU患者に対するHP除菌療法の効果を検討した研究を特定した。ランダム効果モデルを用い、プール解析でリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・22試験がメタ解析に包含された。CSU患者は計1,385例であった。・HP陽性患者とHP陰性患者の比較において、蕁麻疹様症状の自然寛解はHP陰性患者で有意に高率であった(RR:0.39、95%CI:0.19~0.81)。・HP陽性CSU患者において、HP除菌療法成功群は別として、HP除菌療法を受けた患者群では受けなかった患者群より、CSUの寛解が多い傾向があった(RR:2.10、95%CI:1.20~3.68)。・しかしながら、CSUの寛解に、抗菌薬によるHP除菌療法が成功したか否かにおいての有意な差はみられなかった(RR:1.00、95%CI:0.65~1.54)。

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腎機能を考慮したファモチジンの変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第1回

 千葉県柏市にある在宅医療特化型薬局「つなぐ薬局」の鈴木です。私は現在、施設往診同行や在宅訪問などで積極的に医師とコミュニケーションを取り、処方提案を行っています。これまの学びを処方提案という形でアウトプットすることで、薬剤師の立場と視点による薬物治療の適正化を推進し、患者さんがより良い状態になっていくことを実感しています。このコラムでは、薬学的管理の質を向上させる処方提案の重要性とともに、薬局薬剤師の視点での提案のコツをお伝えしたいと思います。処方提案する際には、ご家族からの訴えが重要な手掛かりとなることがあります。認知症様の症状が生じていると聞き取り、検査値や処方薬を見直したところ、高齢者では注意が必要な薬剤がありました。今回は腎機能を起点に処方提案した症例についてご紹介します。患者情報75歳、女性、身長:140cm、体重:45kg現病歴:脳梗塞、認知症同居の家族から、最近話が通じにくいことが多いと訴えあり。処方内容アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後マニジピン錠10mg 1錠 分1 朝食後プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 朝食後ファモチジン錠20mg 2錠 分2 朝夕食後酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後メマンチン錠20mg 1錠 分1 夕食後前月の検査値(L/D)Scr:1.02mg/dL、eGFR:40.63mL/min/1.73m2、Mg:2.0mg/dLHDL:45mg/dL、LDL:118mg/dL本症例の着眼点この患者さんは、脳梗塞の2次予防のために低用量アスピリンを服用継続していて、その消化性潰瘍予防のためファモチジンを服用していました。処方箋の受付時に家族から聴取した「会話のつじつまが合わないことが多い」という訴えは、認知症に伴う周辺症状の可能性もありますが、ファモチジンによるせん妄や意識障害の可能性も示唆されます。腎機能が低下している場合、腎排泄型のH2受容体拮抗薬であるファモチジンの血中濃度が持続して過量投与となることがあります。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』において、「すべてのH2受容体拮抗薬は可能な限り投与を控える。とくに入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」ということが記載されています。腎機能を正しく評価して薬剤投与設計を行うために、下記の評価を行いました。腎機能の評価Cockcroft-Gaultの式を用いて推算CCrを算出することができます。計算するために必要なパラメータはScr(血清クレアチニン)、年齢、体重、性別で、女性は筋肉量が少ないため、係数の0.85を乗じます。<Cockcroft-Gaultの式>男性:CCr(mL/min)=(140-年齢)×体重(kg)/(72×Scr)女性:CCr(mL/min)=(140-年齢)×体重(kg)/(72×Scr)×0.85通常は上記の簡易式が用いられるが、身長が考慮されていないので、肥満患者では腎機能を過大評価してしまう可能性がある。そのため、実体重ではなく標準体重や理想体重を用いて計算することもある。<標準体重(男女共通)>身長(m)×身長(m)×22(係数)<理想体重>男性=50+{2.3×(身長-152.4)}/2.54女性=45+{2.3×(身長-152.4)}/2.54今回の患者さんの場合、CCr(Cockcroft-Gaultの式にて推算):33.9mL/min、体重未補正eGFR:30.5mL/minであり、60mL/min>CCr>30mL/minの場合のファモチジンの推奨投与量は、20mg 1日1回あるいは10mg 1日2回となります。本症例において、ファモチジンは過量投与です。なお、腎機能が低下している場合、マグネシウムの蓄積に伴う高Mg血症を評価することも重要ですが、検査結果は基準値内であり、自覚症状の面からも高Mg血症は否定的です。処方提案と経過腎機能を評価したところ、ファモチジンが過量投与となっており、減量が望ましいと判断しました。また、せん妄のような症状も現れており、H2受容体拮抗薬が影響していることも考えられます。そこで、処方医に電話で、ファモチジンを1日1回に減量あるいは肝代謝型のPPI(プロトンポンプ阻害薬)に変更してみるのはどうか提案しました。その結果、ファモチジンは中止となり、ランソプラゾールOD錠15mgが開始となりました。後日家族に確認したところ、会話のつじつまが合わないということは減ったと聴取しました。本症例のポイント・定期的に血液検査の結果と身長・体重を聴取する。・薬物投与設計のための腎機能評価を正しく理解する。・H2受容体拮抗薬は腎排泄型薬剤が主であり、高齢者においてはせん妄や意識障害のリスク因子となる。「透析患者に対する投薬ガイドライン」, 白鷺病院,(参照:2019年6月24日)日本老年医学会ほか 編. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. メジカルレビュー社;2015.

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ピロリ除菌、親が失敗なら子の失敗リスク高い

 クラリスロマイシン(CAM)耐性Helicobacter pylori(H. pylori)とCYP2C19多型は、何世代にもわたって受け継がれる可能性があり、H. pylori除菌失敗の危険因子として知られている。しかし、親がCAM3剤併用療法による除菌失敗歴を有する患者における失敗リスクを評価した研究はなかった。今回、出口 尚人氏(京都大学/武田薬品工業)らの横断研究により、CAM3剤併用療法での親の除菌失敗歴が子孫の除菌失敗の危険因子であることが示された。Journal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2019年7月1日号に掲載。 本研究は、被保険者310万人の大規模な診療報酬請求データベースを使用。2005年1月~2018年2月に、1次除菌のCAM3剤併用療法の記録と親の記録の両方を有する404例を同定した。父親または母親のCAM3剤併用療法の失敗を、親のCAM3剤併用療法の失敗歴とした。オッズ比は、年齢・性別・真性糖尿病・消化性潰瘍で調整したロジスティック回帰モデルを用いて推定した。 その結果、CAM3剤併用療法の除菌失敗率は22.5%(91/404)であった。単変量解析では、オッズ比が1.90(95%信頼区間:1.10~3.29)、多変量解析ではオッズ比1.93(同:1.10~3.39)であり、親のCAM3剤併用療法の失敗歴は子孫のCAM3剤併用療法の失敗に関連していた。

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抗精神病薬使用と胃がんリスクとの関係

 台湾・桃園長庚紀念病院のYi-Hsuan Hsieh氏らは、抗精神病薬使用と胃がんの発症率との関連を明らかにするため、検討を行った。これまで、抗精神病薬の使用と胃がんリスクとの関連は、明らかとなっていなかった。Cancer Medicine誌オンライン版2019年6月10日号の報告。 ネステッド・ケース・コントロール研究を用いて、1997~2013年の台湾全民健康保険研究データベースより、胃がん患者3万4,470例および非胃がん患者16万3,430例を抽出した。交絡因子の可能性を調整するため、条件付きロジスティック回帰モデルを用いてデータ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の使用は、潜在的な交絡因子(収入、都市部、薬剤、身体疾患、アスピリン使用、NSAIDs使用、3剤併用療法)で調整した後、胃がんリスクと独立した逆相関が認められた。・さらに、胃がんリスクに対する各種抗精神病薬(thioridazine、ハロペリドール、スルピリド、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、amisulpride、リスペリドン)の用量依存的傾向も示された。・感度分析では、消化性潰瘍疾患の有無にかかわらず、胃がんリスク減少に対し、第2世代抗精神病薬の有意な用量依存的作用が認められた。 著者らは「抗精神病薬の使用は、胃がんリスクと逆相関が認められた。また、いくつかの抗精神病薬において、胃がんリスクに対する用量依存的作用が認められた」としている。■「スルピリド」関連記事スルピリドをいま一度評価する

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