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サル痘に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、2年ぶりに連載が再開した「気を付けろッ!」ですが、いつの間にか私の所属も大阪大学に変わってしまいました(まあ変わったのもすでに1年前なんですが…)。冨樫義博先生(漫画家)が『HUNTER×HUNTER』(週刊少年ジャンプ)の連載再開に向けて動き出しているということで、私も頑張らなあかんな~と思い、筆を取った次第です。この連載とは別に『ちょっくら症例報告を書いてみよう』という連載も開始しましたので、こちらの連載の方はCareNet.comの担当者からは「最後に1つ書いて終わってください」と言われていますが、「いやいや、くつ王、連載やめへんで! CareNet.comの連載2本持ちをしている文豪(&遅筆)としてこれからも邁進してまいります」ということで今回は「サル痘」についてです。サル痘はアフリカ由来サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。天然痘ウイルスやワクシニアウイルスと同じオルソポックスウイルスに属するサル痘ウイルスによる感染症であり、アフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことがわかっています。これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、同様に近年、アフリカでサル痘患者が増えているとナイジェリアやコンゴ民主共和国などから報告されております。その理由として、天然痘の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加してきているのではないかと懸念されています。アフリカ以外でも、まれに旅行や動物の輸入に関連したサル痘患者がアメリカ、イギリス、シンガポール、イスラエルなど海外でも散発的に報告されていました。ほかの感染症との鑑別とサル痘の主症状そんな中、2022年5月からイギリスを発端としてアフリカ以外の地域でサル痘の患者が急増しています。2022年6月2日現在、600人を超えるサル痘患者が30ヵ国から報告されています。これまでにわかっている確定例は大半が男性患者であり、20代~40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。また、今回の感染者のうち、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性、いわゆる男性同性間性的接触者(MSM)の間で発生したケースが多いことが指摘されています。表 サル痘、天然痘、水痘の特徴の違い画像を拡大する(文献5と6をもとに筆者が作成)サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難だと言われています。しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。ヒトがサル痘ウイルスに感染すると約12日の潜伏期の後に発熱や発疹などの症状がみられます。アメリカにおける2003年のアウトブレイクの際にサル痘と診断された34人の患者では、以下の症状がみられました。●サル痘の主な症状発疹(97%)発熱(85%)悪寒(71%)リンパ節の腫脹(71%)頭痛(65%)筋肉痛(56%)この報告では発熱が発疹よりも2日ほど先行し、発熱は8日間、発疹は12日間続いたとのことです。通常、全身に発疹がみられますが、今回のアウトブレイクでは性器や肛門周辺にのみ発疹がみられた事例も報告されているようです。アフリカにおけるサル痘患者の致死率は約1〜10%とされていますが、先進国ではこれまでに死亡者は確認されていません。サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱がみられることが特徴です。同様に水疱がみられる水痘では、水疱の時期、痂皮になった時期などさまざまな時期の皮疹が混在しますが、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴です。天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。診断は水疱内容物や痂皮などを検体として用いたPCR検査を行うことになります。サル痘が疑われた場合は、最寄りの保健所を経由して国立感染症研究所で検査が実施されます。サル痘の治療は治療は原則として対症療法となります。海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認され、実際に投与も行われている国もありますが、わが国ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。感染経路は、接触感染(サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する、サル痘に感染した人の体液・発疹部位)と飛沫感染(サル痘に感染した人の飛沫を浴びる)の2つと考えられています。今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことから、性交渉の際の接触が感染の原因になっているのではないかと疑われています。種痘(天然痘ワクチン)はサル痘にも有効です。コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。院内感染対策については、サル痘患者における科学的研究はほとんどなく、そのほとんどがアフリカで実施されたものです。サル痘ウイルスの人から人への感染は、天然痘と同じメカニズム、すなわち飛沫または接触によって起こると考えられていますので、天然痘と同様に考え、標準予防策、接触予防策、飛沫予防策を行うことになります。なお、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)は、サル痘ウイルスが空気感染する理論的なリスクがあるということで、可能な限り陰圧個室隔離の上で空気感染予防策を適用することを推奨しています。1)Rimoin AW, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107:16262-16267.2)Traeger MW, et al. Lancet Infect Dis. 2022;S1473-3099.3)Sklenovská N,et al. Front Public Health. 2018;6:241.4)Huhn GD, et al. Clin Infect Dis. 2005;41:1742-1751.5)McCollum AM,et al. Clin Infect Dis. 2014;58:260-267.6)Frey SE, et al. N Engl J Med. 2004;350:324-327.

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2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」【下平博士のDIノート】第99回

2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」提供:ユーシービージャパン(2022年4月現在)今回は、ヒト化抗ヒトIL-17A/IL-17Fモノクローナル抗体製剤「ビメキズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、乾癬の症状の原因となる炎症性サイトカインIL-17AとIL-17Fを選択的かつ直接的に阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年1月20日に承認され、同年4月20日から発売されています。なお、次のいずれかを満たす患者に投与されます。光線療法を含む既存の全身療法(生物製剤を除く)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者。難治性の皮疹または膿疱を有する患者。<用法・用量>通常、成人にはビメキズマブ(遺伝子組換え)として、1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射します。なお、患者の状態に応じて16週以降も4週間隔で皮下注射可能です。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、口腔カンジダ症(13.2%)、鼻咽頭炎(5.1%)、毛包炎(1.7%)、上気道感染(1.5%)、中咽頭カンジダ症(1.2%)、咽頭炎・結膜炎(1.1%)などでした。また、重大な副作用として、重篤な感染症、好中球数減少(各0.5%)、炎症性腸疾患(0.1%未満)、重篤な過敏症反応(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の症状の原因となる炎症性物質の働きを抑えることで皮膚の炎症などの症状を改善します。2.薬の使用により感染症にかかりやすくなる場合があるので、発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合には、医師にご連絡ください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.口腔内や舌の痛み、白い苔のようなものが付着する、味覚がおかしく感じるなどの症状が現れた場合には、医師にお申し出ください。5.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選びましょう。高温や長時間の入浴によりかゆみが増すことがあるので、温度はぬるめにして長い入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売され乾癬に適応を持つ生物学的製剤は、本剤と同様にIL-17Aの作用を阻害するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)、イキセキズマブ(同:トルツ)およびブロダルマブ(ルミセフ)、IL-23阻害薬のグセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ)、ウステキヌマブ(ステラーラ)、チルドラキズマブ(イルミア)、TNF阻害薬のアダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード)およびセルトリズマブ ペゴル(シムジア)などがあります。本剤の特徴は、IL-17Aに加えてIL-17Fにも結合することです。乾癬の病態において、IL-17AとIL-17Fはそれぞれ独立して炎症を増幅すると考えられているため、両方を直接阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待できます。また、16週以降の投与間隔は8週間隔、患者さんの状態に応じて16週以降も4週間隔を選択することができます。安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。投与に際しての安全上の留意点については、日本皮膚科学会「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2018年版)」「ビメキズマブ使用上の注意」等で参照できると思います。本剤には2種類の剤形(シリンジ、オートインジェクター)が存在しますが、2022年6月時点においては医療機関で投与が行われます。薬局では感染症や口腔カンジダ症の兆候がないか聞き取り、必要に応じて生活上のアドバイスを伝えるなど、治療中の患者さんをフォローしましょう。参考1)PMDA 添付文書 ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/ビンゼレックス皮下注160mgオートインジェクター2)UCB Japan 医療関係者向けサイト

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サル痘とは?

サル痘とは?患者さんからの質問に答える出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘とは? サル痘は、サル痘ウイルス感染による急性発疹性疾患である。 感染症法では4類感染症に位置付けられている。 主にアフリカ中央部から西部にかけて発生しており、自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われているが、現時点では不明である。稀に流行地外でも、流行地からの渡航者等に発生した事例がある。 症状は発熱と発疹を主体とし、多くは2~4週間で自然に回復するが、小児等で重症化、死亡した症例の報告もある。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘ウイルスの感染経路は? 動物からヒトへの感染経路は、感染動物に咬まれること、あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触による感染が確認されている。 ヒトからヒトへの感染は稀であるが、濃厚接触者の感染や、リネン類を介した医療従事者の感染の報告があり、患者の飛沫・体液・皮膚病変(発疹部位)を介した飛沫感染や接触感染があると考えられている。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘の流行地は? サル痘は1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めて報告されて以降、アフリカ中央部から西部にかけて主に発生してきた。 日本国内では感染症発生動向調査において、集計の開始された2003年以降、輸入例を含めサル痘患者の報告はない。 2022年5月、海外渡航歴のないサル痘患者が英国より報告されまた、欧州、米国でも患者の報告が相次いでおり、調査が進められている。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘の症状・致命率は? サル痘の潜伏期間は5~21日(通常7~14日)とされる。 潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が出現する。 発疹は、典型的には顔面から始まり、体幹部へと広がる。 発症から2~4週間で治癒する。 致命率は0~11%と報告され、とくに小児において高い傾向にある。ただし、先進国では死亡例は報告されていない。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘の治療方法は? 対症療法が行われる。 一部の抗ウイルス薬について、in vitroおよび動物実験での活性が証明されており、サル痘の治療に利用できる可能性がある。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.家庭・市中での感染対策は? 発熱、皮疹がありサル痘が疑われる場合、マスク着用を行い、咳エチケットを守り、手指衛生を行う。 患者が使用したリネン類や衣類は、手袋などを着用して直接的な接触を避け、密閉できる袋に入れて洗濯などを行い、その後手洗いを行う。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.病院での感染対策は? 確定患者および疑い患者に対しては飛沫予防策、接触予防策を取る必要がある。 サル痘の主な感染経路は接触感染や飛沫感染であるが、水痘、麻疹等の空気感染を起こす感染症が鑑別診断に入ること、サル痘に関する知見は限定的であること、他の入院中の免疫不全者における重症化リスク等を考慮し、現時点では、医療機関内では空気予防策を実施することが推奨される。 診療行為に伴うエアロゾル感染の可能性が否定できないため、N95マスクなど空気予防策を取る事を検討する。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.Q.サル痘のワクチンは? 天然痘のワクチンである痘そうワクチンがサル痘予防にも有効であるが、日本では1976年以降、痘そうワクチンの接種は行われていない。 サル痘ウイルス曝露後4日以内に痘そうワクチンを接種すると感染予防効果があり、曝露後4~14日で接種した場合は重症化予防効果があるとされている。出典:国立感染症研究所ホームページ(2022年5月20日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.htmlCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第89回

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「アブロシチニブ(商品名:サイバインコ錠50mg/100mg/200mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、全身療法が可能な経口剤であり、既存治療で効果不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)の適応で、2021年9月27日に承認され、同年12月13日に発売されました。なお、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与します。患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することもできます。なお、中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)では50mgまたは100mgを1日1回投与し、重度の腎機能障害(eGFR<30)では50mgを1日1回経口投与します。本剤投与時も保湿外用薬は継続使用し、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。なお、投与開始から12週までに治療反応が得られない場合は中止を考慮します。<安全性>AD患者を対象に本剤を投与した臨床試験の併合解析において、発現頻度2%以上の臨床検査値異常を含む有害事象が確認されたのは3,128例中2,294例でした。主な副作用は、上咽頭炎、悪心、アトピー性皮膚炎、上気道感染、ざ瘡、筋骨格系および結合組織障害などでした。なお、重大な副作用として感染症(単純ヘルペス[3.2%]、帯状疱疹[1.6%]、肺炎[0.2%])、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症[0.1%未満]、深部静脈血栓症[0.1%未満])、血小板減少(1.4%)、ヘモグロビン減少(ヘモグロビン減少[0.9%]、貧血[0.6%])、リンパ球減少(0.7%)、好中球減少症(0.4%)、間質性肺炎(0.1%)、肝機能障害、消化管穿孔(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚バリア機能を低下させたり、アレルギー炎症を悪化させたりするJAKという酵素の産生を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。2.本剤には免疫を抑制させる作用があるため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの感染症の症状に注意し、気になる症状が現れた場合は、すみやかにご相談ください。3.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。4.(女性に対して)この薬を服用中、および服用中止後一定期間は適切な避妊をしてください。5.これまで使用していた保湿薬は続けて使用してください。<Shimo's eyes>近年、ADの新しい治療薬が次々と発売されており、難治例における治療が大きく変化しつつあります。本剤と同じ経口JAK阻害薬のほかにも、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体製剤や外用JAK阻害薬などがすでに発売されています。本剤は、ADの適応を得た経口JAK阻害薬として、バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)、ウパダシチニブ水和物(同:リンヴォック錠)に続く3剤目となります。また、12歳以上のアトピー性皮膚炎患者に使用できる製剤としてはウパダシチニブに続いて2剤目となります。相互作用については、フルコナゾール、フルボキサミンなどの強力なCYP2C19阻害薬、あるいはリファンピシンのような強力なCYP2C19および CYP2C9誘導薬との併用に注意が必要です。これらの薬剤と併用する場合、可能な限りこれらの薬剤をほかの類薬に変更する、または休薬するなどの対応を考慮します。経口JAK阻害薬は、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症や結核の顕在化および悪化への注意が警告に記載されています。生ワクチンの接種は控え、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化にも注意する必要があります。調剤時の注意に関しては、抗うつ薬/慢性疼痛治療薬デュロキセチン(商品名:サインバルタカプセル)と販売名が類似していることから、取り違え防止案内が発出されています。薬剤の登録名や調剤棚の表示などを工夫して、取り違えを防ぎましょう。本剤は、米国においてブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査品目に指定されています。参考1)PMDA 添付文書 サイバインコ錠50mg/サイバインコ錠100mg/サイバインコ錠200mg

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第69回 コロナワクチン接種者の74%がブレークスルー感染!一体どんな状況だった?

現在、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の変異株であるデルタ株。従来の新型コロナウイルスの基本再生産数が1.4~3.5と言われるなか、米国疾患予防管理センター(CDC)がデルタ株に関しては水痘と同程度の5~9.5との内部資料を作成していたことが明らかになった。日本でも東京都をはじめとする首都圏を中心に過去最高を更新する感染者数の報告が続いているが、国立感染症研究所によると7月27日時点で新型コロナ陽性検体に占めるデルタ株の割合は関東地方で75%を占めると推定されている。現在、アメリカでもデルタ株による感染は急増中と伝わってきているが、そんな最中、ぎょっとする以下のようなニュースを目にした。多くの皆さんも目にしていると思われる。「米東部クラスター、ワクチン接種者が74% 当局分析 「重症化防ぐ」接種は推奨」(日本経済新聞)まず、記事から読める事実関係を箇条書きする。マサチューセッツ州バーンスタブル郡でクラスターが発生同郡では7月初旬、数千人の観光客が訪れた大規模イベントを開催報告された感染者は469人感染者のうち74%(346人)がワクチン接種を終えたブレークスルー感染ブレークスルー感染者346人のうち79%(274人)はせき、頭痛、のどの痛み、筋肉痛、熱といった通常のコロナ感染と同じ症状27日時点で死者はいないブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が46%、モデルナ製が38%、J&J製が16%デルタ型に感染したワクチン接種者からは、未接種者と同等のウイルス量これらから、CDCは「ワクチン接種完了者も屋内でマスクを着用するよう推奨」をしたという。正直、私も一瞬は見出しにあった「74%」という数字の大きさにぎょっとした。そしてSNS上ではワクチン忌避者を中心に「それみたことか」とばかりにこの記事の引用が目についた。しかし、どうにもすっきりしない。そこで実際、CDCのホームページを訪れたら詳細な報告が掲載されていた。新たに分かった情報を以下に箇条書きで追記する。イベント開催は7月3~17日感染者133人から採取した検体の遺伝子解析ではデルタ株関連が89%入院者5人のうち4人はワクチン接種完了者ワクチン接種完了者の入院4人は20~70歳、うち2人は基礎疾患あり死亡例なしワクチン接種完了者127人、ワクチン未接種者・部分接種者・ワクチン接種状況不明者84人の各リアルタイムPCR(RT-PCR法)の Ct値(中央値)は22.77、21.54でほぼ同様感染者はバー、レストラン、ゲストハウス、レンタルホームなどで行われる屋内外の密集したイベントに参加症例の多くは男性(85%)で年齢中央値は40歳感染者の半数近い199人(42%)がバーンスタブル郡の町に居住ブレークスルー感染者のうち87%は男性で、年齢中央値は42歳ブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が159人、モデルナ製が131人、J&J製が56人ブレークスルー感染者でのワクチン接種完了14日後以降から発症するまでの期間の中央値は86日(範囲:6~178日)ただ、そこはやはりCDCと言うべきか、この報告にはリミテーションが4つ記述されていた。 簡単に要約して記述すると(1)集団レベルでのワクチン接種率が上昇すればブレークスルー感染が新型コロナ感染者のより大きな割合を占めるようになる、(2)検出バイアスのために無症候性のブレークスルー感染が過小評価されている可能性がある、(3)成人男性を対象としたイベントで感染者の属性は一般的な市中感染の属性を反映していない、(4)RT-PCR法で得られたCt値はサンプル中に存在するウイルス量との粗い相関関係を示す可能性があり、ウイルス量以外の要因にも影響される可能性がある、というものだ。まず、私は(1)の要素は見逃せないと考える。今回、クラスターでの全感染者報告数の約4分の3(346人)がブレークスルー感染者という数字だけを見て驚いたのは私だけではないと思う。しかし、確かにワクチン接種が進むほど見かけ上のブレークスルー感染者数の絶対値が大きくなるのは確かだ。そこでこのブレークスルー感染がどの程度の頻度で起きるかだが、最近、イスラエルから報告された日本でのコミナティ筋注、すなわちファイザー製のワクチン接種完了14日後以降、PCR検査で追跡が可能だった医療従事者1,497例での研究からは、ブレークスルー感染(無症候を含む)発生率は2.6%と分かっている。もっともこの2.6%は、一般人よりも感染対策がソフィストケートされている医療従事者での数字あり、しかもアルファ株流行時のもの、さらにファイザー製に限定した結果という点は注意する必要がある。それでも仮としてこの確率を使うと、ワクチン接種完了者が100人ならばブレークスルー感染者は2~3人発生することになるが、1万人ならば260人。つまり母集団の規模によって評価は変わる。前述のように今回のマサチューセッツ州のクラスターではファイザー製ワクチン接種者でのブレークスルー感染者は159人で、ブレークスルー感染率2.6%を援用すれば、母集団のワクチン接種完了者が6,115人以上ならば何も問題はない数字である。では今回のクラスター事案は母集団がどれくらいになるかだが、前述のように全米から観光客だけで数千人が集まったことが明らかになっている。開催地のマサチューセッツ州バーンスタブル郡の人口は約21万6,000人だが、調べていくうちにこのイベントの開催地は人口約3,000人のプロビンスタウンと判明した。この町に全米から数千人が押し寄せたことになるわけで、ほぼ町全体を巻き込んだイベントだろうと考えられた。そこでまず数千人を5,000人と仮定し、ワクチン接種完了率をマサチューセッツ州の約70%、全米の約50%という数字を使って計算すると、ワクチン接種完了者はプロビンスタウン住民で2,100人、参加者で2,500人、合計4,600人となる。この数字から逆に今回のブレークスルー感染率を逆算すれば約10%となる。やや高めにも思えるが、一般人では医療従事者ほど日常的な感染対策が徹底されていない、基本再生産数から見るデルタ株の感染力が従来株の3倍弱、アルファ株との比較でデルタ株の感染力が約1.6倍と言われていること、J&J製はファイザー製やモデルナ製と比べ、有効率が低いことなどを考慮すればあり得ない数字ではない。もっともブレークスルー感染率が仮に10%だったとしても、その他大勢はワクチンによって守られていることになるし、入院以上を重症と考えた場合、今回のブレークスルー感染者での重症化率は1.2%という計算になり、一般的な新型コロナの重症化率の20%からはかなり低く、重症化予防効果は十分にある。ワクチン接種のメリットはまだまだ高いと言えるだろう。そんなこんなを考えながら、そもそもこのイベントとは何なのだという疑問が浮かんできた。答えはインターネット上の検索で容易に判明した。すでに前述した発生地の地名を見て気づいていた人もいるかもしれない。私は検索でようやく知ったのだが、プロビンスタウンは世界的にも有名なゲイ・タウンで同性婚も認められており、感染者多発の原因になったイベント自体がゲイ向けのもの。全米から駆け付ける参加者も例年は1万人超で、前述の数千人=5,000人という設定も過少かもしれない。過去の同様のイベント写真なども見つけたが、肩が触れ合うほど密集した場所で連日ダンスなどをして楽しむなど、誤解を恐れずに言えば三密・濃厚接触前提。ワクチン接種完了者全員が同一のブレークスルー感染率ならば、当然三密状態にある人はそうでない人に比べ、感染リスクは高まる。もっともCDCがリミテーションで指摘しているように無症候感染者が十分にカウントされていないため、そこまで補足すればさらにブレークスルー感染率は上昇するだろう。だが、いずれにせよこれまで指摘した諸条件から考えれば今回のクラスター発生そのものは特段不思議なものではないし、ワクチンの信頼性を低下させるようなものではないと考えられるだろう。

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第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性

首都圏に緊急事態宣言再発令も手詰まり感、ロックダウン法制化も現実味こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。オリンピックの競技が佳境に入る中、新型コロナ感染症の新規感染者数もうなぎ登りになって来ました。首都圏の病床の逼迫具合も深刻さを増しており、菅 義偉首相が繰り返し国民に約束してきた「安全、安心」のオリンピック開催は既に破綻状態と言えます(オリンピック関係者の陽性者も増えています)。7月28日、東京都の新規感染者数が初めて3,000人を超え、3,177人と発表された日、テレビ朝日系列の報道ステーションは興味深い指摘をしていました。約1ヵ月前に厚生労働省が発表したシミュレーションでは、緊急事態宣言を出した場合、東京都の7月の新規感染者数は1,000人程度のピークで留まり、その後は減少していく、という予測だったそうです。一方、緊急事態宣言を出さずに人流も減らなかった場合は、28日の段階で3,000人規模になり、その後も上昇する、という予測でした。つまり、現在の東京の感染状況は、「緊急事態宣言を出さなかった場合の予測」とほぼ同じになっているのです。それにも関わらず、8月2日から埼玉、千葉、神奈川の各県と大阪府に再び緊急事態宣言が発令されました。もはや感染拡大を抑える効果がほとんどない緊急事態宣言は、国が国民に感染拡大の責任の一部を押し付けるためのエクスキューズのようにも見えます。政府が首都圏での緊急事態宣言発令を決定する前日の7月29日には、日本医師会、日本病院会など9つの医療関係団体が、緊急事態宣言の対象を全国にすることも検討するよう、政府に求める緊急声明を発表しています。年初から散々、コロナ対応病床不足や地域での連携不足を指摘され、その反省のもと医療体制を整えてきたはずなのに、この慌てぶりは何なのでしょう。政府も日医をはじめとする医療関係団体も、ワクチン接種に過大な期待をかける一方で、デルタ株の恐ろしさ(7月末に明らかになった疾病対策センターの内部資料では「デルタ株はより重篤な症状を引き起こし、水痘と同じくらい容易に蔓延するとみられる」とされています)を甘く見ていたのではないでしょうか。7月30日の政府の基本的対処方針分科会では、将来的にはロックダウン(都市封鎖)を可能とする法整備の検討を求める声も出たようです。菅首相はこの時点では否定的な考えだったとのことですが、このまま感染拡大が収まらなければ、日本でもロックダウンの法制化があるかもしれません。8月2日に開かれた関係閣僚会議では、重症患者や重症化リスクの高い人には、必要な病床を確保するとともに、それ以外の人は自宅療養を基本とし、症状が悪化すれば、すぐに入院できる体制を整備する方針が示されました。自宅などを医師が往診した場合、診療報酬が950点増額されるとのことですが、これで新たに往診を始めよう、件数を増やそうという医療機関がそれほど出てくるとは思えません(往診に取り組んでいるところはもうやっているでしょう)。むしろ、コロナ患者の往診や訪問診療に慣れておらず感染対策も不十分な医師の新規参入は、逆に地域で感染を拡大させる危険性すらあります。「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」をフィーチャーさて、前回に続き、政府が臨時閣議で決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)について、気になったことを書いていきます。「骨太の方針2021」では、感染症拡大の緊急時の対応を、より強力な体制と司令塔の下で推進する考えが示されました。中でも医療提供体制については、感染症に対応するため、医療定休体制の「平時」と「緊急時」の体制を迅速・柔軟に行うべき、としています。そのための具体的方策としては「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」がフィーチャーされています。前回は日本医師会が頑なに制度化を反対する「かかりつけ医」について書きました。今回はもう一つの要となりそうな制度、地域医療連携推進法人について考えてみたいと思います。連携推進法人制度を活用し、病院の連携・機能強化と集約化進める「骨太の方針2021」では、地域医療連携推進法人について「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の中で、「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」と明記されました。地域医療連携推進法人制度がスタートして4年、当初は「単なる医療機関の統廃合の促進策」「経済的なメリットがほとんどなく手を挙げるところは少ないのでは」などと医療関係者の多くから揶揄され、認定される数も全国で年数法人程度と超スローペースでした。しかしここに来て、コロナ禍の中、地域医療連携推進法人に参加している病院・施設間で、コロナ患者の重症度による患者振り分けを行っているところも出てきており、より有機的な医療連携のモデルとして改めて着目されています。コロナ禍にあっても設立を検討する医療法人や自治体が増えていると聞きます。制度ができる前から、各地で地域医療連携推進法人の設立をサポートしてきた知人の医療コンサルタントは、閣議決定直後、「雌伏4年、やっと連携法人の時代がやって来る!」とわざわざ連絡してきたくらいでした。危機感を持つ医療法人同士が連携と効率化を自発的に進める仕組みでは、地域医療連携推進法人とはいったいどんな制度なのでしょうか。簡単におさらいしておきましょう。この制度は、「医療機関相互の機能の分担および業務の連携を推進し、地域医療構想を達成するための一つの選択肢」として、2015年の医療法改正で創設が決まり、2017年4月から制度がスタートしました。「競争よりも協調を進め、地域において質が高く効率的な医療提供体制を確保」するため、それまで個々の経営理念、方針に基づき運営されてきた複数の病院などを一つの方向性に導き、より良い機能分担や連携、経営効率化を進めるための仕組みが制度に盛り込まれています。元々は「ホールディングカンパニー型」を提案もっとも、国は当初、違った思惑と目的を持って制度化を検討していました。今から8年前の2013年8月、「社会保障制度改革国民会議報告書」は、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である」とし、制度改革の一例としてホールディングカンパニー型を提案しました。そもそも医療法人には、合併制度はあるもののハードルが高く、一方、公的病院は合併制度自体が存在しません。こうした状況を踏まえての提案でした。その後、2014年6月に閣議決定した「日本再興戦略(改訂2014)」で、「複数の医療法人や社会福祉法人等を、社員総会等を通じて統括し、一体的な経営を可能とする『非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)』を創設する」として新制度創設に向けて議論が本格的に動き出しました。しかし、紆余曲折を経て、最終的には現行の医療法の枠組みの中で「新型法人」として検討が進み、地域の医療機能の連携強化や資源効率化のための手段、という役割が全面に出された今の制度に落ち着いたわけです。「地域医療構想を達成するための一つの選択肢」という役割も付与されています。地域医療連携推進法人の3つの業務地域医療連携推進法人の主な業務内容は、1)統一的な医療連携推進方針の決定2)医療連携推進業務等の実施3)参加法人の統括の3つです。1)の「統一的な医療連携推進方針」とは、複数の医療機関で、診療内容や病床機能、在宅復帰への流れなどについて統一した方針を定めるということです。核となる2)の「医療連携推進業務」は、診療科・病床の再編、医療従事者らの共同研修、医師の配置換え、医薬品等の共同交渉・共同購入、医療機器の共同利用等、かなり幅広い業務が認められています。なお、診療科・病床の再編に関しては、参加法人内の病院間の病床の融通も可能です。ある病院で産科病床を閉めて病床が余った場合、他の病院のがんの病床の増床に振り向ける、といったこともできるわけです。経営者のセンスが試される「医療連携推進業務等の実施」つまり、参加した医療法人が有する病院間で、診療科や医療機能の棲み分けを行い、より効率的に地域医療を展開するためのツールが地域医療連携推進法人なのです。医師ばかりでなく、看護師や診療放射線技師などの医療スタッフを必要に応じて法人間で融通したり、地域フォーミュラリーを策定して薬剤を共同購入したりしている地域医療連携推進法人もあります。参加法人の了解を取り、「医療連携推進業務」をどこまで広げられるかが活用のポイントであり、経営者のリーダーシップやセンスが試される制度と言えるでしょう。北海道から鹿児島県まで28法人が認定2021年7月1日現在、北は北海道から南は鹿児島県まで28法人が地域医療連携推進法人として認定されています。厚生労働省のサイトには、その一覧が掲載されています。各都道府県の当該サイトでは、個々の地域医療連携推進法人の詳細を見ることもできます。大病院を核に中小病院や介護保険施設などが集まり、地域包括ケアシステムの構築を視野に入れるもの(山形県の日本海ヘルスケアネットなど)から、へき地において医師の確保に主眼を置くもの(広島県の備北メディカルネットワークなど)、県立病院と民間病院の統合をスムーズに進める前段階として認可を受けたもの(兵庫県のはりま姫路総合医療センター整備推進機構)まで、制度の活用の仕方はさまざまです。大学病院が主導して地域医療連携推進法人をつくる例もあります。愛知県の藤田医科大学が中心となってつくった尾三会や、大阪府の関西医科大学が主導してつくった北河内メディカルネットワークなどがそれに当たります。大学病院から退院する患者の受け皿整備が狙いとみられます。各地の地域医療連携推進法人に共通するのは、将来への危機感を持つ病院が生き残りをかけて集まっていることです。国や都道府県が進める地域医療構想では医療機能の棲み分けや、経営効率化が進まないことから、リーダーシップのある病院経営者が地域の医療機関を説得し、地域医療連携推進法人の設立を考えるケースもあるようです。日医は「株式会社の参入につながる」と懸念を表明地域医療連携推進法人は、医療法において5年ごとに制度見直しを行うことが決まっており、2022年度から厚労省は制度見直しに着手する予定です。政府の「成長戦略フォローアップ工程表」では、国は2021年度中に資金融通等の制度面・運用面の課題を把握し、2022年度から検討を踏まえ措置する、とされており、地域医療連携推進法人の取り組みに対しインセンティブが働くような制度に改善されるでしょう。そうなると、生き残りをかける地域の医療機関にとっては、なくてはならない制度になる可能性もあります。もっとも、「骨太」で脚光を浴び、制度も改善の方向で動き始めた一方で、日本医師会はこの制度の普及・発展にはあまり乗り気ではないようです。中川 俊男会長は6月23日の定例記者会見で「骨太の方針2021」に明記された事項に対する日医の見解を説明しましたが、地域医療連携推進法人については、国や都道府県主導M&Aの推進、更には病院経営への株式会社の参入につながることへの懸念を表明したとのことです。医療機関が自主的に連携を強化し、機能の役割分担をしようという動きをも牽制するとは、相変わらずの守旧派ぶりと言えるでしょう。そう言えば、この制度がスタートしたばかりの2017年、九州のある県の医療審議会に、乳がん専門病院と泌尿器科の専門病院同士が地域医療連携推進法人を設立しようと認定を申請したことがありました。しかし、結果は「認定見送り」でした。書類等は完全に揃っていたにもかかわらず「見送り」となった理由は、「地元の医師会への事前の挨拶がなかったなど、医師会への配慮不十分だったため」(乳がん専門病院理事長の話)とのことでした。前回のかかりつけ医の制度化だけでなく、地域医療連携推進法人にまで横槍を入れる日本医師会。未曾有の医療危機にあっても変革をことごとく嫌うその姿勢には、正直呆れるほかありません。

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皮膚病変からコロナ重症度もわかる?その具体的な症状とは

 新型コロナ患者での皮膚病変が報告されているが、具体的にはどのような症状なのだろうか。福田 知雄氏(埼玉医科大学総合医療センター皮膚科 教授)がメディアセミナーにおいて、「皮膚は健康のバロメーター ~意外と多いコロナの皮膚症状、爪からわかる健康状態~」と題し、皮膚病変が新型コロナ重症度判定にも有用な可能性を示唆した(主催:佐藤製薬)。蕁麻疹などの皮膚症状でコロナ重症度も判別できる 福田氏はまず、昨年3月にイタリアの皮膚科医が報告した論文1)を挙げ、「彼らは“新型コロナ(以下、COVID-19)病棟の多くの患者に皮膚症状が出ていた”ことに注目し調査を実施した。その結果、20.4%(18/88例)に皮膚症状(紅斑性皮疹、広範囲の蕁麻疹、水痘様皮疹など)が認められたことを報告した」と説明。しかし、この段階ではCOVID-19と重症度の相関関係は認められておらず、その後9月に発表されたドイツの研究者の論文2)で、COVID-19のリスク層別化などに役立つ可能性が示唆された。これを踏まえ同氏は、「ある症状はより軽度のCOVID-19の経過を示す臨床的徴候であり、別の症状はより重度の経過を示す赤旗であることが示された。つまり、どんな皮膚症状から何がわかるのか、皮膚症状の理解を深めておくことがCOVID-19の指標確認にもなる」とコメントした。 そこで、同氏はCOVID-19患者での注意すべき皮膚症状3)のパターンとして、斑状丘疹状皮疹、蕁麻疹、水痘様皮疹、点状出血、しもやけ、そして網状皮斑(リベド)を提示。なかでも“網状皮斑パターン”が見られる患者には新型コロナ重症例が多いことから、「皮膚病変からコロナを疑ったら血液検査にて凝固亢進などのチェックも必要」と注意を促した。 以下に新型コロナ重症度別の主な皮膚病変を示す。(軽症例)・凍傷様の浮腫および紅斑状の皮疹(Chilblain-like eruptions on fingers and toes) 若年層の軽症例に観察、平均して2週間後に消失。 手指より足趾/足裏に出現。・点状出血/紫斑を伴う皮疹(Rash with petechiae/purpuric rash) 鑑別診断には薬疹、他の細菌/ウイルス感染に伴う発疹など。・多形紅斑様皮疹(Erythema multiforme‐like rash) 軽症の経過をとる傾向がある。小児に多く見られる。 鑑別診断には単純ヘルペス感染症に伴う多形紅斑など。(重症例)・水痘様皮疹(Chickenpox-like rash) 中年患者の体幹に認められた。 イタリアの症例では、重症患者88例のうち1例で水痘様皮疹が観察された。・蕁麻疹様皮疹(Urticarial rash) 発熱を伴う蕁麻疹様皮疹は新型コロナと判断してよい。広範囲で見られるとCOVID-19が重症化する傾向。 蕁麻疹も重症ならCOVID-19も重症になる傾向。・斑状丘疹状皮疹(Maculopapular rash) 最も頻度が高い皮疹で、新型コロナの重篤な経過と関連。 小児ではまれ、成人では重篤な経過をたどる指標になる可能性がある。 鑑別診断には、はしか、EBウイルス感染症、薬疹、移植片対宿主病など・男性型脱毛症(Androgenetic alopecia) 男性ホルモンであるアンドロゲンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を促進するTMPRSS2プロテアーゼに関与するだけではなく、免疫抑制作用を持っている。男性型脱毛症の特徴的な症状である前頭部-側頭部および頭頂部の退行とCOVID-19による肺炎の発症に対し、関連性が示唆されている。 これらを総括し、「COVID-19の皮膚症状は、早期診断、陽性患者のトリアージおよびそのリスク層別化に役立つ可能性がある。凍傷様の肢端の皮疹、紫斑・多形紅斑様の皮疹は、無症状あるいは軽症の小児や若年成人の患者に認められる。対照的に、先端部の虚血性病変や斑状皮疹は、より重篤な経過をたどる成人患者に多く見られる。発熱を伴う蕁麻疹は、COVID-19が確認されていない場合の初期症状であるため、診断上の意義がある」とまとめた。 このほか、爪による健康状態の判別にも触れ、「健康な人の爪はきれいなピンク色で、艶があり、滑らかで押すとうっすら白くなる。爪は年齢、生活週間、基礎疾患など、爪に影響を与える因子は極めて多い」と患者の爪の健康状態の確認も重要であることを述べ、締めくくった。

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アトピー性皮膚炎に正しい理解を―患者1,000人への意識調査

 アトピー性皮膚炎は、罹患率だけでなく認知度も高い疾患でありながら、その疾患特性、患者に及ぼす影響、治療法などについての理解は十分ではない。 4月16日、アッヴィ合同会社は、『アトピー性皮膚炎による患者さんの生活や対人関係への影響~患者さん1,000人を対象にした疾病負荷 調査結果を発表~』と題したセミナーを開催した。 本セミナーでは、片岡 葉子氏(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 副院長兼主任部長 アトピー・アレルギーセンター長)と江藤 隆史氏(東京逓信病院皮膚科客員部長、あたご皮フ科副院長)が、アトピー性皮膚炎の正しい理解をテーマに講演を行った。単純なアレルギー反応? 薬は塗り続ける? 疾患への誤解 片岡氏は「成人アトピー性皮膚炎 疾患の理解・社会の理解」と題して講演を行った。同氏は、疾患に関するさまざまな誤解が、アトピー性皮膚炎を治りにくくする可能性があることを語り、病態、病気、患者の全体像についてポイントを解説した。1)病態:アトピー性皮膚炎は、単純なアレルゲン除去で治る疾患ではなく、患者の遺伝的因子に環境因子が刺激を与えて引き起こされる疾患である。遺伝的因子としては、皮膚のバリア機能障害や免疫学的素因などがあり、とくにTh2型リンパ球の増殖とそれに伴うIgE抗体産生の促進が、炎症の悪循環を引き起こすポイントとなる。2)病気:抗炎症外用薬の使用で、見た目には炎症が抑えられても、Th2型リンパ球は増殖した状態であることが多い。そのため、薬を早期に中止することで再び炎症が現れ、症状を繰り返す患者が多い。3)患者の全体像:成長とともに寛解する小児患者もいるが、全例が寛解するわけではない。また、セルフケアが適切に出来ていないために、寛解に至らない患者も多い。 アトピー性皮膚炎は増悪・軽快を繰り返す慢性の疾患だが、疾患の特性を正しく理解し、適切に治療することで症状のない状態を長く保つことが期待できる。片岡氏は「(適切な治療で症状を抑えることで)患者の疾病負荷を減らし、今まで理解されていなかった患者を救い出すことが可能になる」と語った。アトピー性皮膚炎の「疾病負荷」 日常生活へのさまざまな影響 アッヴィ合同会社が実施した『アトピー性皮膚炎が生活に与えている影響に関する意識調査』の結果について、片岡氏が紹介した。この結果から、疾病が患者の生活に大きな負荷をかけており、社会の正しい理解が求められることが明らかになった。・7割以上の患者が「症状が繰り返されること」に対して不安や悩みを抱えており、「治らないと諦めている」患者が約5割であった。・3割以上の患者が「アトピー性皮膚炎に由来する、日常生活での負担やストレス」について周囲の理解が十分ではないと感じると回答した。・患者の約10人に1人が「アトピー性皮膚炎が原因で学業や仕事を中断、断念せざるを得なかった経験」があると回答した。・5割以上の患者が「周囲から掛けられた言葉に傷ついた、または嫌な思いをした経験」があると回答した。その時期については「社会人時代」(53.5%)が最も多かった。・6割以上の患者が「アトピー性皮膚炎が原因で、恋愛・結婚・子供を持つことに対し不安・悩みを感じる、または感じたこと」があると回答した。ステロイドは怖い薬? 治療への誤解 江藤氏は「患者さんの苦しみや患者さんとの関わり方を体験談から学ぶ」と題して講演を行った。同氏は、自身が顧問を務めるNPO法人 日本アレルギー友の会に寄せられた患者の体験談を通して、眼合併症やカポジ水痘様発疹症などを解説した。 これらの合併症の背景には、誤った治療の選択、とくにステロイドに対する誤解があるという。「ステロイドはなるべく使わないほうがいい」「ステロイドは効かない」と考える患者は少なくない。治療を続けてもらうためには、患者会など、正しい知識を持ち、相談できる人が周囲にいることも重要となる。江藤氏は「患者さんにとっては適切な治療にたどり着くこと、周囲の人にとっては正しい疾患の知識を持つことが、引き続き課題である」と締めくくった。

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患者が訴えるこの「めまい」症状は危険なサインか!? 【Dr.山中の攻める!問診3step】第1回

第1回 患者が訴えるこの「めまい」症状は危険なサインか!?―Key Point―回転性めまい、前失神、平衡障害、めまい感の分類は重要でない患者の訴えは経過中に変化する「めまい」を訴える患者はとても多いです。起床後にトイレに行く途中、天井が回り出しびっくりして救急車をコールする人がいます。雲の上を歩いているような浮遊性めまいが続くと内科外来を訪れる人もいます。小脳梗塞などの重大な中枢性めまいは見逃したくないですね。椎骨脳底動脈領域の障害を示唆するめまい以外の症状や心血管系リスクファクターを考慮すると、鑑別診断をかなり絞り込むことができます。症状や神経所見から脳梗塞を強く疑う場合には、当日のMRI検査で異常がなくても経過観察入院で経過を確認する慎重な姿勢が大切です。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき疾患はコチラ!【中枢性めまいを起こす疾患】椎骨脳底動脈領域の脳梗塞(小脳梗塞、脳幹梗塞)、片頭痛、中枢神経感染症、脱髄疾患(多発性硬化症)が鑑別診断となる片頭痛に伴うめまい(前庭性片頭痛)の頻度はかなり高い。めまいの持続は数分から数日。片頭痛の既往や家族歴、光過敏、スピンする運動が苦手である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】中枢性めまいを見逃さないめまいを訴える患者の約10%は中枢性めまいである心血管系リスクを評価し、めまい以外の脳神経症状が出ていないかを確認する。しかしながら、椎骨脳底動脈系の脳梗塞を起こした患者の20%はめまい症状だけであるHINTS(Head Impulse test、Nystagmus、Test of Skew)で中枢性めまいか末梢性めまいかを確認する1)垂直性眼振、方向交代性眼振は中枢性めまいを示唆する歩くことがまったくできなければ中枢性めまいの可能性が高い【STEP3】中枢性めまいではなさそうなら、末梢性めまいの診察へ頭位変換(寝返り、臥床)でめまいが誘発され、持続時間が1分程度なら、良性発作性頭位めまい症(BPPV: benign paroxysmal positional vertigo)の可能性が高い。耳鳴と聴力低下はない。末梢性めまいで最多の原因Dix-Hallpike法で誘発し、Epley法で治療を行う(85%に有効)2)末梢性めまいの他の原因として前庭神経炎、内耳炎、メニエール病、Ramsay-Hunt症候群、薬剤性がある前庭神経炎ではウイルス感染が先行することが多い。めまいは数日続き、眼振は方向固定性かつ急速相は健常側へ向かう水平性である。耳鳴なし。難聴なし内耳炎は前庭神経炎と症状が似ている。聴力低下ありメニエール病の3徴は回転性めまい、耳鳴、聴力低下である。症状は発作的に何度か繰り返す。めまいの持続は数分~数時間。聴力検査は重要である。メニエール病を疑えば、専門的な治療が必要なので耳鼻科へ紹介するRamsey-Hunt症候群では水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)により顔面神経麻痺と耳介の発赤・水疱、めまい、難聴、耳痛を起こすめまいに伴う症状(嘔気嘔吐、不安神経症など)を改善するための治療薬(抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬、制吐薬)は、めまいに対する代償作用を損なうので漫然と使ってはいけない <参考文献・資料>1)ステップ ビヨンド レジデント6. 羊土社. 2016. p.55.2)BPPV(良性発作性頭位めまい症)に対するエプリー法(YouTube)プライマリ・ケア 外来診療目利き術50. 南山堂. 2020. p.10-11.MKSAP18. General Internal Medicine. 2018.p.55-59.Kim J-S, et al. N Engl J Med. 2014;370:1138-1147.Kaski D, et al. BMJ. 2019;366:I5215.

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コロナ流行下で小児のライノウイルス感染リスクが2倍超

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が1年以上続き、マスクや手洗いなどのコロナ感染予防はいまや一般常識レベルに浸透している。この対策はCOVID-19のみならず、あらゆる感染症予防に有用と考えられる。東京大学の河岡 義裕氏(医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野教授)は、共同研究グループと共にCOVID-19流行下の呼吸器感染症ウイルス検出状況を調査したところ、全年齢層においてインフルエンザをはじめとする代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出率は低下していた一方、10歳未満の小児では、風邪を引き起こすライノウイルスの検出率が著しく上昇していたことを発見した。研究結果は、Influenza and Other Respiratory Viruses誌オンライン版2021年3月15日号に掲載された。ライノウイルス検出率はCOVID-19流行期に著しく上昇 本研究では、COVID-19流行前後における呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較するため、2018年1月~2020年9月の期間、横浜市で2,244例の呼吸器疾患患者(COVID-19患者を除く)から採取された呼吸器検体(鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、鼻汁、唾液、気管吸引液、喀痰)を解析し、代表的な呼吸器感染症ウイルス(インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルスA/B、エコーウイルス、エンテロウイルス、ヒトコロナウイルス229E/HKU1/NL63/OC43、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1/2/3/4、パレコウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス、パルボウイルスB19、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス)の検出を行った。 COVID-19流行前後におけるインフルエンザウイルスやライノウイルスなど呼吸器感染症ウイルスの検出状況を比較した主な結果は以下のとおり。・2,244例の内訳は、男性1,197例(53.3%)、女性1,044例(46.5%)、性別不明3例(0.1%)。年齢分布は、10歳未満1,119例(49.9%)、10歳以上1,105例(49.2%)、不明20例(0.9%)。・全検体のうち、最も多く検出されたのはインフルエンザウイルス(592例)で、次いでライノウイルス(155例)だった。475例からは、その他の呼吸器感染症ウイルスが検出された。・インフルエンザウイルスやその他の呼吸器感染症ウイルスの検出率は、全年齢層でCOVID-19流行後に低下していた。対照的に、ライノウイルス検出率はCOVID-19流行期に著しく上昇し、例年の2倍以上だった。 本研究では、インフルエンザ症例数の増加期にはライノウイルス感染数が減少しており、インフルエンザウイルスがライノウイルスに何らかの干渉作用がある可能性が示唆された。著者らは、SARS-CoV-2出現後、感染対策が奏功し市中のインフルエンザ感染者が減少したことが、10歳未満の小児におけるライノウイルス感染増加と関連しているのではないかと指摘している。ライノウイルスは、コロナウイルスやインフルエンザウイルスと異なり、ノンエンベロープウイルスであるため、アルコール消毒よりも石鹸と水を使った手洗いが有効だという。

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流行性耳下腺炎(ムンプス)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第3回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ムンプスもしくは流行性耳下腺炎は、ワクチンで予防できる疾患Vaccine Preventable Diseaseの代表疾患である。1)ムンプスの概要感染経路:飛沫感染潜伏期:12~24日周囲に感染させうる期間:耳下腺腫脹の7日前から発症後9日頃まで感染力(R0:基本再生産数):11~14注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。感染症法:5類感染症(小児科指定医療機関による定点観測、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種感染症(耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで)2)ムンプスの臨床症状(表)ムンプスは、多彩な経過や合併症に特徴がある1)。ムンプスは主に唾液による飛沫によりヒト-ヒト感染を起こす。感染から発症までの潜伏期間は典型例で17~18日と非常に長いうえ、発症する6日前から唾液や尿中にウイルスが排泄され感染性がある。さらに、感染しても平均30%は不顕性感染で終わる。不顕性感染は低年齢者に多く,年齢があがるほど症状が現れやすく腫脹も長期化する傾向にある。ただし,無症状でも唾液中のウイルスには感染性がある。耳下腺の腫脹は最も有名かつ高頻度の症状で,発症者のうち90~95%に出現するとされる。しかし、前述の通り感染者全体では70%前後にすぎず、腫脹も両側とは限らない。ここで重要な点として,耳下腺や顎下腺の腫脹は他のウイルス感染症でも起こるため、発熱と耳下腺腫脹だけでムンプスとは確定診断できない。したがって「熱と耳下腺腫脹があった」だけではムンプス罹患といえず、ワクチン不要と判断すべきでない。耳下腺腫脹に続いて多い症状は、思春期以降の男性に起こる睾丸炎で、感染者の1/3に起こるほど多い。片側性の腫脹が多く、睾丸が萎縮し精子数も減少するが、完全な不妊に至ることはまれとされる。女性では感染者の5%に卵巣炎が起こるが,不妊との関連はいまだ証明されていない。このほか無菌性髄膜炎から脳炎、乳腺炎、膵炎といった症状も知られている。無症候の髄液細胞数増多は感染者の50%に認められるとの報告もある。このようにムンプスは潜伏期間が長く、無症候性感染が多いうえ、発症前からウイルスを排泄する。つまり、発症者や接触者を隔離しても伝搬は防げない。表 自然感染の症状とワクチンの合併症1)画像を拡大する3)ムンプスの疫学4~5年おきに大きな流行があり、年間報告数は4~17万例で推移している。ここ数年では、2016年に比較的大きな流行が確認されており、2020年の再流行が懸念されていた(図1)。合併症として問題になる難聴について日本耳鼻咽喉科学会が実施した調査によると2)、上記2年間の流行中に少なくとも335例がムンプス難聴と診断されていた。調査デザインの限界から考えると、症例はもっと多いことが推定される。図1 ムンプスウイルス診断名別分離・検出報告数の推移(2000年1月~2019年9月)画像を拡大するワクチン概要単味の生ワクチンであり、年齢を問わず0.5mLを皮下注する。正確には、ワクチンキットに付属している溶解液0.7mLをバイアル瓶に注入したうち0.5mLを吸い出して接種する。ワクチンで一般にみられるアレルギー反応、接種部位の腫脹、短時間の発熱、といった副反応のほかに特異的なものはない。弱毒化した病原性ウイルスそのものを接種する生ワクチンであり、妊娠中の女性には接種は禁忌である。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるべきである。同様にステロイドを含む免疫抑制薬を投与中、もしくは免疫抑制状態にある患者も接種禁忌である。現時点では任意接種に位置付けられており、自治体などの補助がなければ接種費用は自己負担となる。なお、先進国の中で日本だけが定期接種化されていない(図2)。図2 世界のムンプスワクチンの接種状況画像を拡大する(From data reported to WHO by 193 WHO Member States as of February 2015より引用)国内では、鳥居株を用いたタケダと星野株を用いた第一三共の2製品が流通している。両者とも無菌性髄膜炎の発生頻度は同様(鳥居株が1/1,600、星野株が1/2,300)。国際的に広く流通しているJeryl-Lynn株は、国産品に比べて免疫獲得能がやや低い一方で無菌性髄膜炎の発症は少ない。接種スケジュール「1ヵ月以上の間隔で2回以上の接種」が原則となる。添付文書では生後24ヵ月~60ヵ月の間に接種することが望ましいとされているが、妊娠中などの禁忌がなければ成人でも接種可能である(図3)。画像を拡大するその他の注意事項は以下の通りである。他の生ワクチン接種:27日以上空ける(4週目の同じ曜日から接種可能)不活化ワクチン接種:6日以上空ける(翌週の同じ曜日から接種可能)輸血およびガンマグロブリン製剤の投与:投与3ヵ月以降に接種ガンマグロブリンを200mg/kg以上の大量投与:投与6ヵ月以降に接種ワクチン接種後14日以内にガンマグロブリン製剤投与:投与後3ヵ月以降に再接種ステロイドや免疫抑制剤:投与中止後6ヵ月以降に接種罹患歴については前述の通り、医療機関でムンプスウイルス感染を証明された場合のみ意義ありとして、臨床症状のみで罹患歴としないことが望ましい。ムンプス成分を3回以上接種しても医学的には問題はない。Jeryl-Lynn株ワクチンを採用している先進国によってはむしろ、10年程度で抗体価が低下することによる“Secondary vaccine failure”への対策として追加接種を検討している。また、ウイルス曝露の早期にワクチン接種することで発症を予防する曝露後緊急接種について、麻疹や水痘では有効性が確認されているが、ムンプスワクチンでは無効と考えられてきた。しかし、2017年に“The New England Journal of Medicine”で一定の効果が報告されるなど3)、近年ムンプスワクチンの接種戦略は世界的に見直しが検討されつつある。ただし、この研究で用いられたのはJeryl-Lynn株を含むMMRワクチンであり、日本製品とは素性が異なる。また、日本のムンプスワクチンには曝露後接種の適応はない。日常診療で役立つ接種ポイント(例.ワクチンの説明方法や、接種時の工夫)外来などでは、おおむね以下の点について説明することが望ましい。「いわゆる『おたふく風邪』を予防するワクチンです。1回接種の予防効果は75~80%で、確実な予防のために2回接種しましょう」「『おたふく風邪』で死亡することはまれですが、多様な合併症が起きます。特に難聴は、年間300人前後も発症している可能性があるうえ、もし発症すると回復不能です」「感染から発症まで2週間以上と長いことや、感染しても1/3は無症状のままウイルスを広げている、といった特性から発症者の隔離は意味がなく、確実な予防法はワクチンだけです」「接種間隔を伸ばすメリットはないので、幼稚園などの集団生活を始める前に2回接種を済ませましょう」「海外へ移住する方は、お子さんだけでなく大人も接種を検討しましょう。幼少時に耳下腺が腫れた、というだけではムンプスとは限りませんし、追加接種しても問題ありません」今後の課題・展望ワクチンギャップ解消の機運を受け、厚生労働省の厚生科学審議会は2012年に「広く接種を促進することが望ましい」と7つのワクチンを提示した4)。これら7つのうち、2020年現在いまだに定期接種化を果たしていないのはムンプスだけになった。これには、1989年のMMR統一株ワクチンによる無菌性髄膜炎が大きく影響している。それまで積極的だったワクチン行政を決定的に転回させ、日本にワクチンギャップが生まれる遠因ともなった渦中のムンプスワクチンが、その影響を最後まで受けているともいえる。しかし、そもそも自然感染に比べれば現行ワクチンでも無菌性髄膜炎の発症率は1/20以下であるし、さらに1歳前後で早期接種すると無菌性髄膜炎の発生率が減ることが明らかになってきた。そして、現在、無菌性髄膜炎の発生率は、MMR統一株ワクチン当時の1/10にまで減っている。ムンプスワクチン定期接種化のメリットは感覚的にも明らかだが、医療経済学的な試算でも有効性は示されており5)、学術団体からも繰り返し要望が出ている。しかしながら、無菌性髄膜炎が減ったことでワクチン接種の効果を自然感染と比較する調査のハードルは高くなっており、承認申請のために治験を通過する必要がある輸入ワクチンの導入やワクチン株の新規開発を一層難しくなっている。一方、諸外国では、Jeryl-Lynn株ワクチン2回接種後の感染が問題となっており、不活化ワクチンの新規開発や曝露後接種の検討なども始まっており、日本と世界の現状は乖離しつつある。2020年1月の厚生科学審議会の評価小委員会では、ムンプスワクチンについて審議が行われたが、明確な方針決定には至らなかった6)。 参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)おたふくかぜワクチンに関するファクトシート2)2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査3)Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.4)予防接種制度の見直しについて(第二次提言)5)大日康史、他. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析.厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究(研究代表者:岡部信彦)」、平成15年度から平成17年度総合研究報告書.p144-154:2006.6)厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)第37回講師紹介

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Dr.長門の5分間ワクチン学

第1回 ワクチンの基礎第2回 接種の実際第3回 被接種者の背景に応じた対応第4回 接種時期・接種間隔第5回 予防接種の法律・制度第6回 Hibと肺炎球菌第7回 麻疹・風疹・おたふく第8回 水痘・BCG・4種混合第9回 肝炎・日本脳炎第10回 インフルエンザ・ロタウイルス第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン第12回 トラブルシューティング CareNeTV総合内科専門医試験番組でお馴染みの長門直先生が、自身の専門の1つである感染症について初講義。医療者が感じているワクチンにまつわる疑問を各テーマ5分で解決していきます。テーマは「ワクチンの基礎」をはじめとした総論5回と「麻疹・風疹・おたふく」など各論7回。全12回で完結のワクチン学を、CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよくご覧いただけます。第1回 ワクチンの基礎医療者でも意外と知らなかったり、間違って覚えていることが多いのがワクチン接種。第1回は「ワクチンの基礎」として、まず最初に押さえておきたい、「ワクチンの種類」と「ワクチンを取り扱う上で覚えておきたいこと」をまとめました。ワクチンの種類の違いは?アジュバントの意味は?ワクチンの保存方法で気を付けたいことは?「ワクチン学」の講義時間はたったの5分。CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよく解説していきます。第2回 接種の実際今回の「ワクチン学」のテーマは「ワクチン接種の実際」。医療者からよく質問に出る「ワクチンの接種方法」と「ワクチン接種後の対応」について確認していきます。ワクチン接種方法では、皮下注射と筋肉注射の具体的な方法を確認していきます。接種部位は?使用する針の太さは?長さは?角度は?そして、ワクチン接種後の対応については、意外と知られていないことや、間違って覚えてしまっていることを解決していきます。第3回 被接種者の背景に応じた対応被接種者が抱える背景によって、ワクチン接種の可否や気を付けておきたいことを確認していきます。今回「ワクチン学」で取り上げる被接種者の背景は8つ。(1)早産児・低出生体重児(2)妊婦・成人女性(3)鶏卵アレルギーがある人(4)発熱者(5)痙攣の既往歴のある人(6)慢性疾患のある小児(7)HIV感染症の人(8)輸血・γ-グロブリン投与中の人。それぞれに応じた対応をポイントに絞り、解説していきます!第4回 接種時期・接種間隔接種時期・接種間隔は予防接種ごとに決められています。今回は、原則と被接種者からよく聞かれる質問、そしてその対応を確認します。小児の場合、不活化ワクチンの第1期接種では、なぜ複数回接種する必要があるのか?成人や高齢者の場合は?生ワクチンで押さえておきたいポイント。被接種者からよく聞かれる質問は「感染症潜伏期間の予防接種は可能かどうか」など、3つをピックアップしました。第5回 予防接種の法律・制度法律・制度の観点から定期接種、任意接種を確認します。近年の法改正の流れ、それぞれの費用負担の違い、現在の対象疾病の種類。副反応に関する制度では、報告先と救済申請先を確認。また、医療者の中でも賛否が分かれるワクチンの同時接種についても言及します。第6回 Hibと肺炎球菌今回から各論に入ります。まずはHibワクチンと肺炎球菌ワクチン。よくある質問とそれぞれの特徴を見ていきます。よくある質問は「Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンは中耳炎の予防になるの?」「肺炎球菌ワクチンは2つあるけどどう違うの?」。それぞれの特徴では、Hibワクチンは接種スケジュールのパターン、肺炎球菌ワクチンは2種類の成分、接種対象者と接種方法を確認していきます。第7回 麻疹・風疹・おたふく今回は生ワクチンシリーズ。麻疹、風疹、MR、ムンプスを確認します。内容は、それぞれの接種時期をはじめ、2回接種する理由、非接種者が感染者と接触した場合の対応について。そして2018年に大流行した風疹についてはより具体的に「ワクチン接種者からの感染はあるのか?」「ワクチン接種した母親の母乳を飲んだ乳児への影響」「妊娠中の女性への風疹ワクチン対応」など、よくある疑問を解決していきます!第8回 水痘・BCG・4種混合今回は水痘・BCG・4種混合ワクチン。それぞれの接種回数、接種時期をはじめ、注意すべき点について触れていきます。水痘ワクチンでは2回接種する理由を確認します。そして、医療現場で課題となりやすいBCGワクチンの懸濁の仕方については、均一に溶かすポイントを紹介。さらに、4種混合ワクチンの追加接種を忘れた場合の対応、ポリオワクチンの現状について学んでいきます。第9回 肝炎・日本脳炎今回は、肝炎、日本脳炎。肝炎は渡航ワクチンとして使われる任意接種のA型肝炎ワクチンと定期接種のB型肝炎ワクチン、そして医療保険適用となる母子感染予防のB型肝炎ワクチンについて見ていきます。それぞれの接種スケジュールとB型肝炎ワクチンの現場で迷うことを解決します。日本脳炎は、接種スケジュールの確認に加え、日本小児科学会が言及している標準的接種時期以前の発症リスクについて紹介します。 第10回 インフルエンザ・ロタウイルス今回は冬から春にかけて流行するインフルエンザ、ロタウイルス。それぞれのワクチンを接種するタイミングとおさえておきたいポイントを確認します。インフルエンザワクチンは定期接種対象者、卵アレルギーの被接種者の方への対応、予防効果について。ロタウイルスワクチンは1価と5価、それぞれの有効性、接種スケジュールの違い、接種する時期、期間を学んでいきます。第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン今回は、女性のHPV関連疾患を予防する2種類の子宮頸がんワクチンと海外渡航者に気を付けてほしい渡航ワクチンについて触れていきます。子宮頸がんワクチンは2種類の違いとそれぞれの接種スケジュール、日本における接種率激減に対するWHOの見解を確認します。渡航ワクチンは数ある中から黄熱ワクチン、狂犬病ワクチン、髄膜炎菌ワクチンの有効性と接種推奨地域を見ていきます。第12回 トラブルシューティングワクチンは通常、定期接種ですが、不慮の事態で至急打たなければならない場合があります。最終回はそのようなワクチンの“トラブルシューティング”を取り上げます。具体的には、感染者と接触した際の緊急ワクチン接種、外傷時の破傷風トキソイド接種、針刺し時の対応です。さらに、ワクチンの接種間隔に関する規定の改正など、2019年から2020年の大きなトピックを3つ取り上げてワクチン学をまとめていきます。

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皮膚科医デルぽんのデルマな日常

連載でおなじみのデルぽん先生が放つ、笑いありタメになる話ありのコミックエッセイ!!皮膚科といえば、医療界いちのジミ(?)な存在。いまだテレビドラマの主役になったことはなく、命のやり取りをすることもほぼなし。そんな脇役に甘んじていた皮膚科ですが、ここに笑撃の一冊が誕生しました。著者のデルぽん先生は CareNet.comの連載でもおなじみの現役の女医さん。大の漫画好きが高じて、「医療あるある」をテーマにブログを始めたところ、大人気になりました。そんな4年にわたるブログ漫画を「皮膚科医vs.患者さん」「皮膚科のお仕事」「華麗なる(!?)医者の世界」「皮膚科医からのアドバイス」の章に分けて再構成し、新たにエッセイや漫画を書き下ろしたのが本書。皮膚科のみならず、他科のお医者さんや看護師さんにもぜひ読んでいただきたい一冊!著者・デルぽんより発刊のご挨拶皮膚科外来のオモシロ事件簿や、医療業界あるある話、皮膚科女医の日常と妄想など、患者さんに馴染みの深い皮膚科の世界を赤裸々に綴る、業界初(?)4コマコミックエッセイ本。日常診療に役立つ皮膚科豆知識や、患者さんによく訊かれる話題もとりあげています! エッセイあり、実用あり、笑いながらためになる(?) 外来の片隅に一冊、いかがでしょうか?画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。 皮膚科医デルぽんのデルマな日常定価1,300円 + 税判型A5判頁数128頁 発行2020年7月著者デルぽんAmazonでご購入の場合はこちら

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水痘、帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第2回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)の第2回のテーマとして、「水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹」を取り上げる。医療者の多くにとって、水痘と帯状疱疹は気にも留めないようなありふれた疾患かもしれない。しかし、水痘は、時に重症化し、しかも空気感染によって容易に伝播する。成人、中でも妊婦にとっては最も避けたい感染症の1つである。また、同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって発症する帯状疱疹は、神経痛によりQOLを大きく低下させてしまう。このような水痘・帯状疱疹を予防するには、ワクチンが有効かつ重要である。現在、VZVに対してわが国で使用できるワクチンは2種類ある。従来の水痘生ワクチンと、2020年1月に発売された、帯状疱疹予防に特化した不活化ワクチンである。本稿では、水痘と帯状疱疹の特徴と疫学、そしてワクチンの活用法と注意点について取り上げたい。水痘、帯状疱疹の概要1)水痘(1)水痘の概要感染経路:空気感染、飛沫感染潜伏期:約14日間周囲に感染させうる期間:水疱が痂疲化するまで感染力(R0:基本再生産数):8-101)学校保健法:第2種(出席停止期間:すべての発しんがかさぶたになるまで)感染症法:5類(入院例に限る)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。(2)水痘の臨床症状全身性の水疱性発疹と発熱を来たし、多くは軽症で自然に軽快する。しかし成人では、肺炎などの皮膚外病変により重症化しやすく、成人の死亡率は小児の約8倍にもなる2)。成人の中でも最もハイリスクなのは、妊婦である。妊娠第1・2三半期の初感染では先天性水痘症候群(胎児水痘症候群)のリスクとなり、妊娠第3三半期の初感染では10~20%で水痘肺炎を併発し、時に致死的となる3)。さらに分娩5日前から48時間後では重篤な新生児水痘を生じうる3)。そのため、水痘未感染の妊婦への感染予防は、極めて重要である。しかしながら、水痘は感染が広がりやすく、1人の感染者から平均8~10人に感染させうる。家庭や職場での空気感染対策は困難であり、ワクチン接種は重要な感染予防策である。(3)水痘の疫学水痘の罹患率は、ワクチンの定期接種化により激減している(図)。ワクチンギャップや、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)への曝露機会の減少により、水痘の抗体を獲得しないまま成人する層が一定数いると思われる。現在、水痘の報告者数のほとんどは小児だが、今後は成人の水痘例が増加するかもしれない。図 水痘の年間患者数の推移画像を拡大する2)帯状疱疹について(1)帯状疱疹の概要と臨床症状感染経路:接触感染、空気感染周囲に感染させうる期間:皮疹が痂疲化するまでVZVは水痘罹患後に仙髄・腰髄の後根神経節に潜伏感染し、宿主の加齢や免疫力低下に伴う細胞性免疫の低下により再活性化し、帯状疱疹を起こす。発症すると皮膚分節に沿ったチクチクとした痛みに続いて、水疱を伴う皮疹を生じる。多くの場合は片側性であるが、免疫抑制者では全身に広がる汎発性帯状疱疹となりうる。皮疹は7~15日前後で痂疲化し、感染性がなくなる。合併症としては帯状疱疹後神経痛(Post herpetic neuralgia:PNH)が最も多く、ほかにラムゼイ・ハント症候群、脊髄炎、遅発性の脳梗塞などがある。(2)帯状疱疹の疫学帯状疱疹は、約3人に1人が一生のうちに1度以上経験するとされる5)。小豆島における50歳以上の成人を対象とした前向きコホートによると、帯状疱疹の罹患率は4~10人/1,000人年、PHNは2.1/1,000人で、いずれも年齢が上がるにつれて罹患率も上がる6)。帯状疱疹の罹患率は、水痘ワクチン導入後に増えており7,8)、水痘の流行規模の縮小により、自然感染によるブースターの機会が減ったことが原因ではないかと考えられている。実際に、水痘を発症した小児と暮らす成人では、10~20年後に帯状疱疹が発症するリスクは約30%減ると報告されている9)。ワクチンの概要(効果、副反応)と接種スケジュール水痘の予防には水痘生ワクチンが、帯状疱疹の予防には、水痘生ワクチンと帯状疱疹不活化ワクチンの2種類が使用される。1)水痘の予防(表1)画像を拡大する(1)効果発症予防効果は、1回接種で約80%、2回接種で93%である。重症化は、1回接種で約99%、2回接種で100%予防する1)。(2)副反応ワクチン接種により一般的な副反応のほか、水痘ワクチンに特異的な副反応としては、接種後1~3週間後に発熱、3~5%に水痘様発疹がみられることがある。(3)禁忌妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人(4)注意事項生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。2)帯状疱疹の予防2種類のワクチンを使用することができる(表2)。発症予防効果は不活化ワクチンでより高い。費用が高額であること、副作用が多いことを許容できるならば、不活化ワクチンを活用したい。画像を拡大する以下、不活化ワクチンについて述べる。(1)効果帯状疱疹の発症予防効果は、水痘生ワクチンより不活化ワクチンで高いことが知られている。不活化ワクチン2回接種による帯状疱疹の発症予防効果は50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%、帯状疱疹後神経痛は50歳以上で100%、70歳以上で85.5%である10)。一方の水痘生ワクチンでは、50歳以上における帯状疱疹発症抑制率は51%、帯状疱疹後神経痛の減少率は66%である 。ただし、いずれも免疫原性の持続が証明されているのは10年未満11,12)であり、今後は追加接種などが議論になる。(2)副作用不活化ワクチンの方が、生ワクチンよりも副作用の頻度が高い。生ワクチンの臨床試験の結果では、局所性(注射部位)の副反応が80.8%に認められ、主なものは疼痛(78.0%)、発赤(38.1%)、腫脹(25.9%)であった。全身性の副反応は64.8%に認められ、主なものは筋肉痛(40.0%)、疲労(38.9%)、頭痛(32.6%)であった。他のワクチンに比較して局所性副反応の頻度は高いが、いずれも3日前後で消失することがわかっている10)。(3)禁忌両者とも、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人。水痘生ワクチンでは妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人。(4)対象対象は慢性疾患をもつ50歳以上の成人で、とくに慢性腎不全、糖尿病、関節リウマチ、慢性呼吸器疾患をもつ人に推奨される13)。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠を希望する女性に対する、水痘ワクチン先に述べたように、妊婦の水痘は重症化のリスクが高い。妊娠中の水痘は何としても防ぎたい。水痘の罹患歴がなく、かつ水痘ワクチンの接種歴のない女性が妊娠を希望する際には、プレコンセプションケアの1つとして水痘ワクチンを接種しておきたい。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるように伝える必要もある。2)50歳以上に対する帯状疱疹予防のワクチン水痘の罹患歴がある50歳以上の成人には、帯状疱疹不活化ワクチンの2回接種もしくは水痘ワクチンの1回接種を勧めたい(免疫抑制者など生ワクチンが禁忌とされる場合には、帯状疱疹不活化ワクチンを選択する)。帯状疱疹は高齢者ほどリスクが高く、帯状疱疹後神経痛を発症すると著明にQOLが低下する。なお、帯状疱疹は約6.4%に再発が認められる14)ため、帯状疱疹の罹患歴がある場合の再発予防としても有効である。今後の課題・展望小児における水痘ワクチンの定期接種化により、水痘の発症者は今後も減り続けるだろう。一方で、水痘の罹患歴のある者のブースター機会も減るため、今後しばらく帯状疱疹の罹患率は上昇することが予測される。水痘はR0が8-101)と非常に感染力が強く、ワクチン接種による予防が重要である。妊婦の水痘を予防し、帯状疱疹後神経痛を予防するために、妊娠を希望する女性、また、50歳以上の高齢者へのワクチン接種を忘れないようにしたい。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト国立成育医療センター プレコンセプションケアセンター1)水痘ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)国立感染症研究所.2)Meyer PA, et al. J Infect Dis. 2000;182:383-390.3)日本産婦人科学会、日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン-産科編2017.p.374-376.4)Morino S, et al. Vaccine. 2018;36:5977-5982.5)Schmader K, et al. Ann Intern Med. 2018;169:ITC19-ITC31.6)Takao Y et al. J Epidemiol. 2015;25:617-625.7)病原微生物検出情報(IASR).2018;39.p.139-141.8)Leung J,et al. Clin Infect Dis. 2011;52:332-340.9)Forbes H, et al. BMJ. 2020;368:l6987.10)帯状疱疹ワクチンファクトシート(平成29年2月10日版)国立感染症研究所.11)Cook SJ, et al. Clin Ther. 2015;37:2388-2397.12)Shwartz TF, et al. Hum Vaccin Immunother. 2018 ;14:1370-1377.13)David K Kim DK,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:115-118.14)Shiraki K, et al. Open Forum Infect Dis. 2017;4:ofx007.講師紹介

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」【下平博士のDIノート】第51回

JAK1を強く阻害する関節リウマチ治療薬「リンヴォック錠7.5mg/15mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ウパダシチニブ水和物(商品名:リンヴォック錠7.5mg/15mg、製造販売元:アッヴィ合同会社)」を紹介します。本剤は、中等度から重度の関節リウマチ患者において、メトトレキサート(MTX)などとの併用の有無にかかわらず、1日1回の投与で臨床的寛解を達成することが期待されています。<効能・効果>本剤は既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2020年1月23日に承認され、4月24日に発売されました。なお、2021年5月に「既存治療で効果不十分な関節症性乾癬」、同年8月に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはウパダシチニブとして15mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態に応じて7.5mgを1日1回投与することもできます。免疫抑制作用の増強により感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とほかのJAK阻害薬や生物学的製剤、タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビンなどの免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<安全性>関節リウマチ患者を対象とした本剤のプラセボ対照第III相試験において、本剤が投与された1,035例中275例(26.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、悪心23例(2.2%)、上気道感染、頭痛、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加各19例(1.8%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加17例(1.6%)、気管支炎16例(1.5%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、肺炎(0.1%未満)、帯状疱疹(0.7%)、結核(頻度不明)などの重篤な感染症(日和見感染症を含む)、消化管穿孔(頻度不明)、好中球減少(1.4%)、リンパ球減少(0.8%)、ヘモグロビン減少(貧血:0.7%)、ALT上昇(1.8%)、AST上昇(1.4%)、間質性肺炎(頻度不明)および静脈血栓塞栓症(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬はJAKという酵素を強く阻害することで、関節リウマチの症状を改善します。2.薬の成分が少しずつ出るようにコーティングされているので、かみ砕かないでください。3.本剤の服用を長期間続けると、免疫力が低下する可能性があります。持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感、水疱、痛みを伴う皮疹などが現れた場合は、すぐにご連絡ください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および最終服用後一定の期間は、適切な避妊を行ってください。なお、国内治験においては、最終投与から30日まで避妊を行うよう定められていました。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。通常、発症初期はMTXをはじめとする従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)が使用されますが、十分量用いても効果が不十分な場合には、生物学的製剤、もしくは本剤のようなJAK阻害薬が選択されます。本剤は、関節リウマチに適応を持つ4番目のJAK阻害薬です。JAKには4種類のサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2)があり、本剤は炎症性サイトカインシグナルの伝達においてとくに重要な役割を持つJAK1を強く阻害することで、TNFαやIL-6の働きを遮断し、炎症性サイトカインの産生を抑制すると考えられています。本剤は、MTXで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とした第III相無作為化二重盲検比較試験で、12週時のACR50改善率、患者による疼痛評価およびHAQ-DIのベースラインからの変化量において、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)に対する優越性が示されました。また、ウパダシチニブ+MTX群では、プラセボ+MTX群およびアダリムマブ+MTX群と比較して、有意に高い臨床的寛解達成率が示されました。安全性に関する留意事項としては、警告欄で結核、肺炎などの重篤な感染症について注意喚起されています。また、トファシチニブ(同:ゼルヤンツ)、ペフィシチニブ(同:スマイラフ)と同様に、重度の肝機能障害患者には禁忌となっています。本剤は徐放性フィルムコーティング錠であり、調剤時に半割・粉砕することはできません。患者に対しても、割ったりかみ砕いたりしないように伝えましょう。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA添付文書 リンヴォック錠7.5mg/リンヴォック錠15mg

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アトピー性皮膚炎を改善する世界初の外用JAK阻害薬「コレクチム軟膏0.5%」【下平博士のDIノート】第48回

アトピー性皮膚炎を改善する世界初の外用JAK阻害薬「コレクチム軟膏0.5%」今回は、外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「デルゴシチニブ軟膏(商品名:コレクチム軟膏0.5%、製造販売元:日本たばこ産業)」を紹介します。本剤は、20年ぶりに登場した外用アトピー性皮膚炎治療薬で、世界初の外用JAK阻害薬です。免疫細胞および炎症細胞の活性化を抑制することで、皮膚の炎症とかゆみを改善することが期待されています。<効能・効果>本剤はアトピー性皮膚炎の適応で、2020年1月23日に承認され、2020年6月24日に発売予定です。<用法・用量>通常、成人には、1日2回、1回当たり最大5gまでの適量を患部に塗布します。なお、治療開始4週間以内に皮疹の改善が認められない場合は使用を中止します。症状が改善した場合には、継続投与の必要性について検討して、漫然とした長期使用を避ける必要があります。<安全性>軽症、中等症または重症のアトピー性皮膚炎患者352例を対象とした第III相長期試験(QBA4-2試験)において、副作用は69例(19.6%)に認められました。主な副作用は、適用部位毛包炎11例(3.1%)、適用部位ざ瘡10例(2.8%)、適用部位刺激感9例(2.6%)、適用部位紅斑7例(2.0%)でした。なお、重篤な副作用として、カポジ水痘様発疹が1例(0.3%)に認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚の炎症とかゆみを抑えることで、アトピー性皮膚炎を改善します。2.大人の人さし指の先端から第1関節まで出した量(1FTU=約0.5g)で、手のひら2枚分くらいの面積に塗ることができます。塗った部分にティッシュが付く、または皮膚がテカテカする程度が適切な使用量の目安です。3.粘膜や皮膚の損傷、ただれている部位は避けて塗ってください。4.この薬を塗ったところに吹き出物ができるなど、気になる症状が現れた場合は、医師または薬剤師に相談してください。5.万が一、眼に入った場合はただちに水で洗い流してください。<Shimo's eyes>本剤は、アトピー性皮膚炎に適応を有する世界初の外用JAK阻害薬です。従来、アトピー性皮膚炎治療は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(免疫抑制薬)が中心となっています。しかし、ステロイド外用薬には皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡などの副作用、タクロリムス軟膏には皮膚刺激性などの副作用や投与条件の制約などの課題があるため、長期的な使用ができないこともあります。本剤は、JAK/STAT経路の活性化を阻害することで、種々のサイトカイン刺激により誘発される免疫細胞および炎症細胞の活性化を抑制し、アトピー性皮膚炎を治療する薬剤です。国内臨床試験において、抗炎症作用および抗そう痒作用による皮疹改善作用が確認されています。副作用としては、刺激感や紅斑などが報告されていますが、皮膚萎縮および血管拡張は認められていません。適用部位刺激感は、投与初期(0~4週後)に発現する傾向があるので、とくに初回の服薬指導時は注意を忘れないようにしましょう。なお、現在は16歳以上の患者が適応であり、ステロイド外用薬を併用する場合には、患者の状態を踏まえて部位によって使い分けるなど慎重に判断する必要があります。外用のアトピー性皮膚炎治療薬として、新たな治療選択肢になりうると期待されますが、世界で初めてわが国で承認された薬剤ですので、今後の安全性情報には注意しておきましょう。参考1)PMDA コレクチム軟膏0.5%

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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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