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1.

帯状疱疹ワクチンは心臓の健康も守る

 帯状疱疹ワクチンが、高齢者の心臓の健康を守る可能性のあることが報告された。ワクチン接種者は心臓病のリスクが23%低く、これにはワクチンによる炎症抑制、血液凝固抑制が関与していると考えられるとのことだ。慶熙大学校(韓国)のDong Keon Yon氏らが、約130万人の医療データを解析して明らかにした結果であり、詳細は「European Heart Journal」に5月5日掲載された。ワクチンによる心保護効果は最大8年間続くという。 帯状疱疹は、以前に水痘に感染したことがある人に発症する。水痘の原因ウイルス(帯状疱疹のウイルスでもある)は、神経節の細胞の中に数十年間も潜伏し続け、ある時、再び活動し始めて帯状疱疹を引き起こし、痛みを伴う発疹や水疱を出現させる。「ワクチン接種を受けない場合、生涯で約30%の人が帯状疱疹を発症する可能性がある」とYon氏は解説する。そして、「帯状疱疹は発疹に加えて、心臓病のリスク上昇とも関連のあることが示唆されている。そのため、われわれは、ワクチン接種によって心臓病のリスクが低下するのではないかと考えた」と、研究背景を語っている。 この研究は、2012~2021年の韓国内の50歳以上の成人220万7,784人の医療データを用いて行われた。傾向スコアマッチングにより、127万1,922人(平均年齢61.3±3.4歳、男性43.2%)を解析対象とした。このうち半数が、帯状疱疹ウイルスを弱毒化させた生ワクチンの接種者、残り半数が非接種者だった。 中央値6.0年間追跡した解析により、ワクチン接種群は心血管イベントリスクが低いことが示された。例えば、全心血管イベントは23%低リスク(ハザード比〔HR〕0.77〔95%信頼区間0.76~0.78〕)、主要心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞、心血管死)は26%低リスク(HR0.74〔同0.71~0.77〕)、心不全も26%低リスク(HR0.74〔0.70~0.77〕)だった。ほかにも、脳血管障害(HR0.76〔0.74~0.78〕)、虚血性心疾患(HR0.78(0.76~0.80〕)、血栓性疾患(HR0.78〔0.74~0.83〕)、および不整脈(HR0.79〔0.77~0.81〕)のリスク低下が認められた。 Yon氏は、「われわれの研究は、帯状疱疹ワクチン接種によって、既知の心臓病リスク因子がない人でも、心臓病のリスクが低下する可能性があることを示唆している。これは、ワクチン接種の健康上のメリットが、帯状疱疹の予防にとどまるものではないことを意味している」と述べている。なお、本研究では、男性、60歳未満、不健康な生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)の該当者は、ワクチン接種による心保護効果という恩恵を、特に受けやすいことが示唆された。 帯状疱疹ワクチンが心臓病の発症リスクを軽減し得るメカニズムについてYon氏は、「理由はいくつか考えられる。帯状疱疹ウイルスの感染によって、血管の損傷、炎症、そして心臓病につながる血栓形成が引き起こされることがある。ワクチン接種によって帯状疱疹を予防することで、それらの影響を軽減できるのではないか」と解説している。 ただし研究者らは、「今回の研究はアジア人を対象としたものであり、他の集団には当てはまらない可能性があるため、さらなる研究が必要」と述べている。

2.

口唇ヘルペスウイルスがアルツハイマー病リスクと関連か

 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染がアルツハイマー病(AD)発症リスクと関連しており、抗ヘルペス薬の使用がそのリスクを低減する可能性が、米国の大規模リアルワールドデータを用いた後ろ向き症例対照研究で示された。本研究は、米国・ギリアド・サイエンシズのYunhao Liu氏らにより実施された。BMJ Open誌2025年5月20日号に掲載。 本研究では、米国の大規模民間保険請求データベース「IQVIA PharMetrics Plus」を用い、2006~21年の間にADと診断された50歳以上の患者34万4,628例を特定し、年齢、性別、地域、データベース登録年、医療機関受診回数でマッチングした同数の対照者を1対1の割合で抽出し、後ろ向きマッチング症例対照研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・AD症例群と対照群はともに、平均年齢は73±5歳、女性が65.11%であった。・AD症例群ではHSV-1感染の診断歴がある人の割合が0.44%(1,507例)だったのに対し、対照群では0.24%(823例)であった。・多変量解析で調整後、HSV-1感染の診断歴はAD発症リスクの有意な上昇と関連していた(調整オッズ比[aOR]:1.80、95%信頼区間[CI]:1.65~1.96)。・層別解析ではとくに高齢者で顕著であり、75歳以上の年齢層ではaORが2.10(95%CI:1.88~2.35)であった。・HSV-1感染の診断歴のある患者群(2,330例)において、抗ヘルペス薬を使用した人(931例、40%)は、使用しなかった人と比較してAD発症リスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%CI:0.74~0.92)。・抗ヘルペス薬による同様の保護効果は、AD関連認知症の解析でも認められた。・本研究において、HSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)および水痘・帯状疱疹ウイルス感染の診断歴もADとの関連が認められたが、サイトメガロウイルスでは有意な関連はみられなかった。 著者らは、「これらの知見は、ヘルペスウイルスの予防を公衆衛生上の優先事項として捉えることの重要性をさらに強調するものであり、神経親和性ウイルスの抑制がADおよびAD関連認知症の自然経過を変えるかどうかを判断するためのさらなる研究が必要だ」と結論付けている。

3.

帯状疱疹ワクチンが認知症を予防する:観察研究が質の低いランダム化比較試験を凌駕するかもしれない(解説:名郷直樹氏)

 水痘ウイルスが長く神経系に留まり、認知機能などに影響を及ぼす可能性が疑われているが、ウェールズでの帯状疱疹生ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン:シングリックスではない)と認知症予防の研究1)とほぼ同時に発表された、オーストラリアの6つの州にまたがる65の一般医(general practitioner)の電子レコードを利用した観察研究である2)。 2016年の帯状疱疹生ワクチンの無料接種が開始された時期に、ワクチン接種対象者と非接種対象者を比較し、認知症の発症との関連を見た、ビッグデータを利用したコホート研究である。 研究デザインが準実験的研究と書かれているように、観察研究でありながらさまざまな工夫がなされた研究である。まず曝露群と比較対照群の設定であるが、実際の接種者ではなく、無料の接種が始まる前に80歳の誕生日を迎えた非接種対象者と、開始後に誕生日を迎えた接種対象者を比較し、ランダム化比較試験のITT(intention to treat)を模倣した解析を行っている。 また、ランダム化されていない観察研究の最大の問題点は交絡因子の調整であるが、この研究では接種開始時期周辺2~3週間に誕生日を迎える対象者に限る解析を行うことで、交絡の危険に対処している。実際にベースラインの両群の背景はよくそろっている。さらに、データ内のワクチン接種対象外のより高齢者のうち接種対象群に最も年齢が近いグループ(1918年5月13日~1927年8月1日に出生)を対照群として追加し、この2つの解析の対象者の背景の違いを検討することでも交絡の可能性を見ている。 結果であるが、7.4年の追跡期間における新規の認知症の診断は、接種対象群で3.7%、非接種対象群で5.5%、リスク差と95%信頼区間は-1.8(-3.3~-0.4)と接種対象群で1.8%少ないというものである。この接種対象群の認知症リスクの低下は、使用する統計モデル、解析対象者の組み入れ幅、追跡期間の違いに対しても一貫して示されている。 また観察研究におけるもう1つのバイアスは、曝露時期と追跡開始時期のギャップによって曝露群にイベントが起きない時期が解析に組み入れられることで起こるimmortal time biasであるが、これも追跡開始の猶予期間を考慮した解析で同様の結果が示され、大きな問題はないと考えられる。 曝露開始前後に対象者を限ることで交絡を避け、猶予期間の考慮でimmortal time biasを避け、RCTに準じたITTに近い解析で行われたこの研究結果は、未知の交絡因子の可能性を除外できるわけではないが、質の低いRCTよりも妥当な結果かもしれない。ビッグデータの利用によって、target trial emulationと共に、今後の観察研究のひな型の1つになる研究である。

4.

帯状疱疹ワクチンで認知症の発症リスクを低減できる可能性(解説:小金丸博氏)

 「帯状疱疹ワクチンの接種が、認知症の発症リスクを低減する可能性がある」。この仮説は近年の観察研究で示唆されてきたが、2025年になってそれを強く支持する2つの高品質な準実験的研究がNature誌およびJAMA誌に相次いで報告され、大きな注目を集めている。 まず、先行研究としてウェールズでの研究結果が2025年4月2日号のNature誌に報告された。2013年にウェールズで導入された帯状疱疹ワクチン接種プログラムでは、1933年9月2日以降に生まれた人が接種対象となり、それ以前に生まれた人は対象外とされた。この明確な誕生日による区分を利用し、年齢のみがわずかに違うと推定される2つの集団を比較することで、交絡因子の影響を最小限に抑えた。その結果、ワクチン接種者では、7年間の追跡期間中に認知症と診断されるリスクが20%低下(3.5%ポイントの絶対リスク減少)し、この効果はとくに女性で顕著であった。 続いて今回、オーストラリアでの研究結果がJAMA誌オンライン版2025年4月23日号に報告された。2016年にオーストラリアで導入された帯状疱疹ワクチン(商品名:Zostavax)の無料接種プログラムに基づき、誕生日による接種適格性を利用して接種群と非接種群を比較した。その結果、ワクチン接種適格者では、7.4年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が1.8%ポイント低下した。ワクチン接種者と非接種者の間で、教育歴、既往歴、他の予防医療サービスの利用状況に大きな差がなかったことから、健康意識の違いによるバイアスの影響は最小限と考えられた。また、この研究では、性別による効果の差異は明確に示されなかった。先行研究では女性でより強い予防効果が観察されていることから、今後の研究での検討が期待される。 これら2つの研究の特徴は、どちらも回帰不連続デザイン(regression discontinuity design)を用いている点にある。これは、自然ルールではない人為的なルールによって生まれる境界線を利用した統計的因果推論の手法の1つである。両研究共に、ワクチン接種の適格性を外的要因に基づいて決定することで交絡因子の影響を最小限に抑えており、従来の観察研究よりも因果関係の推定に信頼性が高いと評価されている。 今回の研究の対象となったのは主に生ワクチン(Zostavax)であり、不活化ワクチン(商品名:Shingrix)ではなかった。現在、日本を含む多くの国ではShingrixが主流となっている。Shingrixは免疫応答がより強力であるとされる一方で、Zostavaxと同様の神経保護効果が得られるかは不明である。今後、Shingrixを用いた研究や他国での再現性の確認が進むことで、より確固たるエビデンスが構築されることが期待される。 帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを低減させるメカニズムとして、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化抑制や、ワクチンによる免疫系の調節効果などが考えられている。VZVの再活性化が神経炎症や神経変性を惹起する可能性があり、慢性的な神経炎症が認知機能の低下に関与しているという仮説が考えられている。また、ワクチン接種が免疫老化の進行を遅らせることも、間接的な効果として議論されている。 日本においては、50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンが適用となっており、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の予防目的での接種が徐々に広がりつつある。認知症予防効果が確立されれば、高齢者医療におけるさらなる付加価値として期待される。ただし、現時点では認知症予防を明確な適応とは規定しておらず、あくまで副次的な効果として受け止めるべきである。 高齢化社会の進展と認知症の増加が避けられない中、帯状疱疹ワクチンが神経変性疾患のリスクにも影響を及ぼす可能性を持つことは、予防医療の新たな可能性を提示している。今後のさらなるエビデンスの蓄積が期待される。

5.

マリバビルの重要なポイント【1分間で学べる感染症】第25回

画像を拡大するTake home messageマリバビルは難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する新規抗ウイルス薬。使用に関する重要なポイントを押さえよう。マリバビル(maribavir)は、これまでの治療で反応しない難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対して登場した新しい経口抗ウイルス薬です。臓器移植や造血幹細胞移植後の免疫抑制下の患者において、マリバビルはその治療選択肢の1つとして注目されています。1)適応造血幹細胞移植を含む臓器移植を受けた患者において、既存の抗CMV療法に難治性を示すCMV感染症が適応となります。具体的には、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットなどに効果が乏しい、あるいは副作用により継続困難な状態を指します。2)作用機序UL97遺伝子は、CMVがコードするウイルス特有のプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)を産生します。マリバビルはこのUL97プロテインキナーゼを特異的に阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。これまでの抗ウイルス薬(DNAポリメラーゼ阻害)とは異なる作用点を持ちます。また、重要な点としては、ガンシクロビル、バルガンシクロビルとは拮抗関係にあるため、併用は避ける必要があります。3)用量通常400mgを1日2回経口投与します。4)腎機能調整腎機能による用量調整は原則不要です。ただし、透析患者における有効性や安全性は十分に検証されていないことには留意が必要です。5)副作用味覚異常(37%)が最も多く報告されており、患者への十分な説明が必要です。その他、嘔気(21%)、下痢(19%)などの消化器症状がみられることがあります。一方、ガンシクロビル、バルガンシクロビルにおいて問題となる骨髄抑制、ホスカルネットで問題となる腎機能障害がいずれも少ないのは、マリバビルの優れた点だといえます。6)注意点マリバビルはCYP3A4を介した薬物相互作用に注意が必要です。とくにタクロリムス(タクロリムスの血中濃度上昇)や、リファンピシン(マリバビルの血中濃度低下)などとの併用時はモニタリングを行うことが推奨されます。また、マリバビルの耐性獲得にも注意が必要です。7)ほかのウイルスに対する活性マリバビルは、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットとは異なり、単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)には効果がありません。したがって、マリバビルに切り替える際には、HSV、VZVに対する予防的抗ウイルス薬の内服を追加する必要があるかどうかを、ケースごとに検討しなければなりません。まとめマリバビルは、難治性CMV感染症に対する新しい選択肢として、作用機序、副作用の面で従来の抗CMV薬剤と異なる特徴を有します。薬物相互作用や耐性獲得の懸念はあるものの、これまでのCMV治療の追加の一手として今後期待されていることから、皆さんもマリバビルに関する知識を深めましょう。1)Avery RK, et al. Clin Infect Dis. 2022;75:690-701.

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帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%低下/Nature

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う発疹の予防だけでなく、認知症の発症から高齢者を守る効果もあるようだ。新たな研究で、英国のウェールズで帯状疱疹ワクチンが利用可能になった際にワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者に比べて認知症の発症リスクが20%低いことが示された。米スタンフォード大学医学部のPascal Geldsetzer氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に4月2日掲載された。 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスでもある水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされる。このウイルスは、子どもの頃に水痘に罹患した人の神経細胞内に潜伏し、加齢や病気により免疫力が弱まると再び活性化する。帯状疱疹ワクチンは、高齢者の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫反応を高め、潜伏中のウイルスが体表に現れて帯状疱疹を引き起こすのを防ぐ働きがある。しかし、最近の研究では、特定のウイルス感染が認知症リスクを高める可能性が示唆されていることから、Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチンにも脳を保護する効果があるのではないかと考えた。 このことを検討するためにGeldsetzer氏らは、2013年9月1日に高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの接種が開始されたウェールズに目を向けた。当時はワクチン(Zostavax)の供給量が限られていたため、このときの接種対象者は1933年9月2日以降に生まれた79歳の人に限定され、接種可能な期間も1年間に限られていた。開始時点で80歳以上だった人は、生涯にわたって接種対象外とされた。しかし、この規制が、ワクチンの影響を検証するランダム化比較試験の条件を自ずと生み出したと研究グループは指摘する。Geldsetzer氏らは、帯状疱疹ワクチン接種開始の直後に80歳に達した接種対象者(接種群)とワクチン接種直前に80歳に達した接種対象外の高齢者(1933年9月2日より前に生まれた人、対照群)を7年間追跡し、認知症の発症について比較した。 その結果、接種群では対照群に比べて、追跡期間中に新たに認知症の診断を受ける確率が3.5パーセントポイント低いことが示された。これは、接種群では対照群と比較して、認知症の相対的なリスクが20%低下したことに相当する。この効果は、教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも変わらず認められた。ワクチン接種のこのような保護効果は、男性よりも女性で顕著だった。さらに、イングランドとウェールズの合算人口を対象にした別のデータを使った検討でも同様の結果が確認された。 Geldsetzer氏は、「本研究で確認された兆候は非常に強力かつ明確な上に、持続的でもあった」と話す。ただし、なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかは明らかになっていない。研究グループは、ワクチンが免疫システム全体を強化するか、あるいは特に水痘・帯状疱疹ウイルスが脳の健康に及ぼす未知の影響を防ぐことで、脳を保護する可能性があると推測している。 さらに、研究グループは、現時点では米国でのみ入手可能な最新のワクチンであるShingrixが、今回の研究で検討されたZostavaxと同様の認知症予防効果をもたらすのかどうかも不明だと話す。Zostavaxは弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンであるのに対し、Shingrixはウイルスの特定のタンパク質のみを利用した遺伝子組み換え不活化ワクチンである。研究グループによると、Shingrixは水痘・帯状疱疹ウイルスに対してZostavaxより効果的だが、認知症リスクへの影響はZostavaxと異なる可能性があるという。 Geldsetzer氏は、本研究で得られた知見がきっかけとなって、Shingrixの認知症予防効果を検討する研究が実施されるようになることに期待を示している。同氏は、「少なくとも、今持っている資源の一部を使って帯状疱疹ワクチンと認知症との関連に関して研究を進めることで、治療と予防の面で画期的な進歩につながる可能性がある」と話している。

7.

第252回 定期接種が目前の帯状疱疹ワクチン、3つの悪条件とは

帯状疱疹という病気を知る人は、医療者に限らず神経痛でのたうち回るイメージを持つ人が多いだろう。周囲でこの病気を体験した人からはよく聞く話である。身近なところで言うと、私の父は今から10年ほど前に帯状疱疹の痛みがあまりにひどく、夜中に救急車で病院に運ばれたことがある。私自身は現在50代半ばだが、実は18歳という極めて若年期に帯状疱疹を経験している。当時はアシクロビル(商品名:ゾビラックスほか)さえなかった時代だ。ただ、私の場合は軽い痛みはあったものの騒ぐほどではなかった。おそらく非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方されたと思うのだが、それを服用するとその軽い痛みすらなくなった。受診した皮膚科の看護師からは「痛くない帯状疱疹、いいね」と謎のお褒めをいただいた。さて、帯状疱疹については1990年代以降、アシクロビルをはじめとする抗ウイルス薬や帯状疱疹の神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)などが徐々に登場し、薬物治療上は進歩を遂げている。加えて2020年には帯状疱疹専用の乾燥組換えタンパクワクチン・シングリックスが登場した。シングリックス登場以前は水痘の生ワクチンも帯状疱疹予防として使用されていたが、極端に免疫が低下しているケースなどには使えないので、この点でも進歩である。ちなみに新型コロナウイルスワクチンも含め21種類のワクチンを接種し、従来からワクチンマニアを自称する私は、2020年の発売後すぐにシングリックスの接種を終えている。それまで接種部位疼痛ぐらいしか副反応を経験していなかったが、シングリックスの1回目接種時は38℃を超える発熱を経験した。全身症状の副反応を経験した唯一のワクチンでもある。そして今春からはこの帯状疱疹ワクチンが定期接種化する。私自身はワクチンで防げる感染症は、積極的に接種を推進すべきとの考えであるため、これ自体も喜ばしいことである。だが、この帯状疱疹ワクチンの定期接種化がやや面倒なスキームであることはすでに多くの医療者がご存じかと思う。とにかく対応がややこしいB類疾病今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種は、「個人の発症・重症化予防を前提に対象者内で希望者が接種する」という予防接種法に定めるB類疾病に位置付けられた。疾患特性上、この扱いは妥当と言えるだろう。季節性インフルエンザや肺炎球菌感染症などが該当するB類疾病はあくまで法的に接種の努力義務はなく、接種費用の一部公費負担はあるものの、接種希望者にも自己負担が生じる。まあ、これはこれで仕方がない。しかし、私見ながら国が定期接種と定めながら、市区町村による接種勧奨義務がないのはいただけない。自治体の対応は任意のため、地域によっては勧奨パンフレットなどを個々人に郵送しているケースもある。もちろんそこまではしていなくとも、個別配布される市区町村報などに接種のお知らせが掲載されている事例は多い。とはいえ、市区町村報は制作担当者の努力にもかかわらず、案外読まれないものである。集合住宅に居住する人ならば、郵便ポスト脇に設置されたポスティングチラシ廃棄用のゴミ箱に市区町村報が直行しているのを目にした経験はあるはずだ。しかも、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種スキームは、一般人はおろか医療者にとってもわかりにくい高齢者向け肺炎球菌ワクチンの接種スキームに酷似している。具体的には開始から5年間の経過措置を設け、2025年度に65歳となる人とそこから5歳刻みの年齢(70、75、80、85、90、95、100歳)の人が定期接種対象者になり、2025年度は特例として現時点で100歳以上の人はすべて対象者とする。今後、毎年この65歳とそこから5歳刻みの人が対象となるのだ。これ以外には60~64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な人も対象である。この肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンの定期接種での対象者の5歳刻みは、私の知る限り医師からの評判はあまりよろしくない。「それだったら65歳以上の高齢者を一律接種可能にすべき」という声はたびたび聞くが、この措置はおそらくは公費負担分の予算確保の問題があるからとみられる。とりわけ今回の帯状疱疹ワクチンの場合の予算確保は、国や市区町村担当者にとってかなりの負担だろう。というのも、定期接種では水痘生ワクチンとシングリックスが使われる予定だが、前者は1回接種で全額自己負担の場合は約8,000円、後者は2ヵ月間隔の2回接種で計約4万円。後者は安めの居酒屋で何回たらふく飲み食いできるのだろうという価格である。すでに知られていることだが、今回の定期接種化決定以前に帯状疱疹ワクチンの接種に対して独自の助成を行っている自治体もあり、その多くは接種費用の5割助成、つまり自己負担割合は接種費用の5割である。今回の定期接種化で対象者の自己負担割合がどの程度になるかはまだ明らかになってはいないが、一説には接種費用の3割程度と言われている。この場合、より安価な接種が可能になるが、3割だとしてもシングリックスならば患者自己負担額は2回合計で約1万2,000円と決して安くはない。この(1)5歳刻みの複雑な接種スケジュール、(2)自治体の接種勧奨格差、(3)自己負担額、の3つの“悪”条件は、定期接種という決断を「絵に描いた餅」にしてしまう、いわゆる接種率が一向に高まらないとの懸念を大きくさせるものだ。実際、(1)~(3)がそのまま当てはまる肺炎球菌ワクチンの2019~21年の接種率は13.7~15.8%。この接種率の分母(推計対象人口)には、2019年以前の接種者を含んでいるため、現実の接種率よりは低い数字と言われているものの、結局、累積接種率は5割に満たないとの推計がある。接種率の低さゆえに2014年の定期接種化から設けられた5年間の経過措置は1度延長されたが、事実上対象者の接種率が5割に満たないまま、経過措置は今年度末で終了予定である。接種率向上がメーカーと現場の裁量に任されている?今回の帯状疱疹ワクチンをこの二の舞にしないためには、関係各方面の相当な努力が必要になる。接種率の貢献において一番期待されるのは現場の医師だが、かかりつけの患者であっても全員の年齢を正確に記憶しているわけではないだろうし、多忙な日常診療の中で、まるでA類疾病の自治体配布資料に当たるような説明に時間を割くのは容易ではないだろう。そんな中で先日、シングリックスの製造販売元であるグラクソ・スミスクライン(GSK)が帯状疱疹ワクチンに関するメディアセミナーを開催した。そこで質疑応答の際にこの懸念について、登壇した岩田 敏氏(熊本大学 特任教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授)、永井 英明氏(国立病院機構東京病院 感染症科部長)、國富 太郎氏(GSK執行役員・ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)に尋ねてみた。各氏の回答の要旨は以下の通りだ。「われわれ、アカデミアが積極的に情報発信していくことと、かかりつけ医は専門性によってかなり温度差はあると思うが、やはりワクチンはかかりつけ医が勧めるのが一番有効と言われているので、そこの点をもう少し攻めていく必要があると思う」(岩田氏)「肺炎球菌ワクチンの場合は、啓発活動が十分ではなかったのかもしれない。肺炎球菌ワクチンではテレビCMなども流れていたが、やはり私たち医師や自治体がワクチンのことを知ってもらうツールを考えなければならない。その点で言うと私案だが、帯状疱疹ワクチンも含め高齢者に必要なワクチンの種類と接種スケジュールが記載された高齢者用ワクチン手帳のようなものを作成し、それを積極的に配布するぐらいのことをしないとなかなかこの状況(肺炎球菌ワクチンで現実となったB類疾病での低接種率)を打開でないのではないかと思っている」(永井氏)「疾患啓発、ワクチン啓発、予防の大切さを引き続きさまざまなメディアを使って情報発信を継続していきたい。一方、実施主体となる自治体も難しい内容をどう伝えたらよいか非常に苦慮し、限られた資材の中で住民にいかにわかりやすく伝えるかの相談を受けることも非常に多い。その場合に弊社が有するさまざまな資材を提供することもある」(國富氏)また、永井氏が講演の中で示した別の懸念がある。それは前述のように現時点では自治体が帯状疱疹ワクチンの接種に公費助成を行っているケースのこと。現在、その数は全国で700自治体を超える。そしてこの公費助成はワクチンの適応である50歳以上の場合がほとんどだ。ところが今回の定期接種化により、この公費助成をやめる自治体もある。となると、こうした自治体では今後50~64歳の人は完全自己負担の任意接種となるため、永井氏は「助成がなくなった年齢層の接種率は下がるのではないか?」と語る。もっともな指摘である。定期接種化により接種率が下がるというあべこべな現象がおきる可能性があるのだ。昨今は高額療養費制度の改正が大きな問題となっているが、たとえばその渦中で危惧の念を抱いているがん患者などは、抗がん剤治療などにより帯状疱疹を発症しやすいことはよく知られている。自治体の公費助成がなくなれば、該当する自治体で治療中の中年層のがん患者は、帯状疱疹ワクチンで身を守ろうとしても、これまた自己負担である。これでさらに高額療養費が引き上げられたら、たまったものではないはずだ。もちろん国や市区町村の財布も無尽蔵であるわけではないことは百も承知だ。しかし、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種化は喜ばしい反面、穴も目立つ。せめてB類疾病の自治体による接種勧奨の義務化くらい何とかならないものか?

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹・風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹・風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に定期接種化を了承/厚労省

 12月18日に開催された第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、帯状疱疹を予防接種法のB類疾病に位置付けるとし、帯状疱疹ワクチンの定期接種化が了承された。 2025年4月1日より、原則65歳を対象に定期接種が開始される見込み。高齢者肺炎球菌ワクチンと同様に、5年間の経過措置として、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳時に接種する機会を設ける方針だ。また、60歳以上65歳未満の者であっても、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害を有する者として厚生労働省令で定める者も対象となる。帯状疱疹にかかったことのある者についても定期接種の対象となる。 使用するワクチンは、乾燥弱毒生水痘ワクチン(商品名:ビケン)、または乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用)となる。 接種方法については以下のとおり。【乾燥弱毒生水痘ワクチンを用いる場合】 0.5mLを1回皮下に注射する。【乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを用いる場合】 1回0.5mLを2ヵ月以上7ヵ月未満の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。ただし、疾病または治療により免疫不全、免疫機能が低下している、もしくは低下する可能性がある者については、医師が早期の接種が必要と判断した場合、1回0.5mLを1ヵ月以上の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。 ※接種方法の注意点として、帯状疱疹ワクチンの交互接種は認められない。同時接種については、医師がとくに必要と認めた場合に行うことができる。乾燥弱毒生水痘ワクチンとそれ以外の注射生ワクチンの接種間隔は27日の間隔を置くこととする。 定期接種化に関して、使用ワクチンの1つに定められた「シングリックス筋注用」を生産するグラクソ・スミスクラインは、同日にステートメントを発表した。 ステートメントによると、日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいるとされ、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するという。また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患がある人は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告もあるという。今回の了承について、「さらに多くの人々が帯状疱疹のリスクから守られることに寄与する大きな一歩」としてワクチンの供給に貢献することを示した。

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急性呼吸器感染症が2025年4月から5類感染症に/厚労省

 厚生労働省は、2025(令和7)年4月7日から感染症法施行規則改正により急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)を感染症法上の5類感染症に位置付け、定点サーベイランスの対象とすることを発表した。 ARIは、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)または下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)を指す病原体による症候群の総称で、インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなどが含まれる。 ARIを5類感染症に位置付けた目的として、飛沫感染などにより周囲の人に感染させやすいのが特徴であり、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、次の2点が示されている。(1)流行しやすいARIの流行の動向を把握すること(2)仮に未知の呼吸器感染症が発生し、増加し始めた場合に、迅速に探知することが可能となるよう、平時からサーベイランスの対象とする 厚労省では、今回の5類感染症への位置付けにより、公衆衛生対策の向上につながるとしている。 来年の4月7日以降、ARI定点医療機関および病原体定点医療機関は、多くの5類感染症の定点把握と同様に、1週間当たりの患者数の報告(発生届のように患者ごとに届出を作成・報告する必要はない)が求められ、ARI病原体定点医療機関には、これまでどおり、検体の提出が求められる。また、定点医療機関の指定は都道府県が実施し、指定以外の医療機関に対し、新たに報告を求めることはない。 ARI定点医療機関および病原体定点医療機関が報告する患者または検体を提出する患者は、「咳嗽、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、鼻閉のどれか1つの症状を呈し、発症から10日以内の急性的な症状であり、かつ医師が感染症を疑う外来症例」とされている。提出する検体は、すべての患者から採取するのではなく、一部の患者からのみ採取し、検体の数などは今後公表される予定。 そのほか、今回の位置付けにより特別な患者負担や学業・就業など日常生活での制約はない。 参考までに現在5類感染症に指定されている感染症では、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹、百日咳などがある。

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第225回 新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連

新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連米国の20万例強の記録を英国オックスフォード大学の研究者らが解析したところ、2017年から同国で使用されるようになった新しい組み換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックス接種と認知症を生じ難いことが関連しました1-3)。2006年から使われ始めて7年ほど前まで最も一般的だった別の帯状疱疹ワクチンZostavaxは生きた弱毒化ウイルスを成分とします。何を隠そうZostavaxも認知症が生じ難くなることとの関連が先立つ試験で示されています。しかし今回の新たな結果によると、認知症発現を遅らせるか、ともすると防ぎうるシングリックスの効果はZostavaxに比べて高いようです。帯状疱疹は高齢者の多くに生じる深刻な疾患の1つです。ストレスや化学療法などの免疫を弱らす事態に乗じて体内に潜む水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することを原因とし、痛い皮疹を引き起こし、2次感染や傷跡を残すことがあります。帯状疱疹は加齢につれて生じ易くなることから、高齢者へのそのワクチン接種が必要とされています。米国では50歳、英国では65歳での帯状疱疹ワクチン接種が推奨されています。米国を含む多くの国で帯状疱疹ワクチンは代替わりしてより有効なシングリックスが使われるようになっており、Zostavaxは使われなくなっています。シングリックスは組み換えワクチンであり、病原体のDNAのごく一部を細胞に挿入して作られるタンパク質を成分とします。それらタンパク質が体内で感染予防に必要な免疫反応を引き出します。米国では2017年後半からシングリックスがZostavaxの代わりに使われるようになりました。オックスフォード大学のMaxime Taquet氏らは、その区切り以降にシングリックスを接種した人とそれ以前にZostavaxを接種した人の認知症の生じ易さを比較しました。選ばれた人の数はどちらも10万例強で、平均年齢は71歳です。6年間の経過を追ったところ、シングリックス接種群の認知症の発症率はZostavax接種群に比べて17%低いことが示されました。また、帯状疱疹以外のワクチン(インフルエンザワクチンと3種混合ワクチン)接種群と比べてもシングリックス接種群の認知症発症率は2~3割ほど低く済んでいました。帯状疱疹ワクチンと認知症が生じ難くなることを関連付ける仕組みは不明で、今後調べる必要があります。もしかしたら帯状疱疹の原因ウイルスが認知症を生じ易くし、帯状疱疹ワクチンはそれらウイルスを阻止することで認知症をより生じ難くするのかもしれません2)。または、ワクチン自体が脳に有益な効果をもたらしている可能性もあります。ところで認知症発症率低下との関連は帯状疱疹以外のワクチンでも示されています。結核の予防や膀胱がん治療に使われるBCGワクチンはその1つで、認知症の発症リスクの45%低下との関連が昨年発表されたメタ解析で確認されています4)。BCGワクチンといえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防効果がかつて期待されましたが、プラセボ対照無作為化試験でその効果を示すことができませんでした5)。残念な結果になったとはいえBCGワクチンのCOVID-19予防効果は最終的に無作為化試験で検証されました。その試験と同様のシングリックスの認知症予防効果を検証する大規模無作為化試験の構想を今回の結果は促すだろうとTaquet氏らは論文に記しています。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2024 Jul 25. [Epub ahead of print]2)New shingles vaccine could reduce risk of dementia / University of Oxford 3)Evidence mounts that shingles vaccines protect against dementia / NewScientist4)Han C, et al. Front Aging Neurosci. 2023;15:1243588. 5)Pittet LF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1582-1596.

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第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

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第199回 帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省

<先週の動き>1.帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省2.マイナ保険証利用促進のため、一時金を20万円から40万円に倍増/厚労省3.骨太方針2024、医師偏在解消へ具体策を年内策定へ/内閣府4.電子処方箋の導入促進に向けて新たな支援策を提案/厚労省5.佐世保市の救急病院が負債11億7,000万円で破産/長崎県6.教員採用や推薦入試にも寄付金が影響か/東京女子医大1.帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省厚生労働省は、6月20日に開かれた厚生科学審議会のワクチン評価に関する小委員会で、帯状疱疹ワクチンを定期接種に含め、接種費用を公費で補助する方針を決定した。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)ウイルスが加齢や免疫力の低下により再活性化して発症する皮膚疾患で、50歳以上の患者に多くみられる。症状には痛みを伴う水ぶくれが含まれ、長引く神経痛などの合併症を引き起こす可能性がある。現在、帯状疱疹の予防には生ワクチンや不活化ワクチンが用いられているが、これらは任意接種であり、費用は生ワクチンが約1万円、不活化ワクチンが約4万4,000円と高額で、普及の妨げとなっていた。厚生労働省の専門家会議では、生ワクチンと不活化ワクチンの有効性と安全性が確認され、費用対効果も期待できると評価、これを受け、ワクチンを定期接種に含めることが了承された。今後、接種の対象年齢や具体的な運用方法について専門家会議で議論が行われ、正式に決定される予定。参考1)第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン、定期接種化に異論なし 厚労省小委(MEDIFAX)3)帯状ほう疹のワクチン 接種費用を公費補助の定期接種へ 厚労省(NHK)2.マイナ保険証利用促進のため、一時金を20万円から40万円に倍増/厚労省厚生労働省は、6月21日に社会保障審議会医療保険部会を開き、マイナ保険証の利用促進などについて議論を行った。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の5月時点での利用率は7.73%にとどまっているため、さらに利用の促進を図るため、医療機関や薬局に支給する一時金の上限を倍増し、最大40万円に引き上げる方針を発表した。これにより病院には最大40万円、診療所や薬局には最大20万円が支給される。一時金の支給条件としては、マイナ保険証の利用を促すポスターの掲示や患者への声掛け、チラシの配布が必須となっている。具体的には、2023年10月時点の利用実績と比較して、5~7月のいずれかの月で利用人数が増加した場合に支給される。また、小規模な医療機関や薬局にも対応した区分が設けられており、規模に応じた支援が行われる。マイナ保険証の利用率は過去最高の7.73%に達したものの、依然として低迷しており、とくに富山県(12.52%)や石川県(12.17%)など一部地域で高い利用率がみられる一方、沖縄県(3.42%)や和歌山県(5.02%)などでは低い利用率が続いている。日本医師会からは、一時金の支給を目的に利用率を上げることへの懸念が示され、日本経済団体連合会も利用が少ない医療機関への対策の必要性を指摘している。厚労省では、今後も利用促進策を強化し、マイナ保険証の普及を目指していく。参考1)第179回社会保障審議会医療保険部会 資料(厚労省)2)マイナ保険証利用促進、医療機関への一時金最大20万円→40万円に(朝日新聞)3)マイナ保険証促進で一時金を倍増、最大40万円に 厚労省(CB news)3.骨太方針2024、医師偏在解消へ具体策を年内策定へ/内閣府政府は、2024年の経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」を6月21日に閣議決定した。「骨太方針2024」には、医師の地域間・診療科間の偏在を解消するための包括的な対策が盛り込まれている。厚生労働省は、地方で働く医師の養成を目的とした大学医学部の地域枠の活用や診療科を問わず対応できる総合診療医の育成を推進する方針。これにより、医療過疎地での医療提供体制の強化を図ることを目指している。厚労省は、地方勤務経験を条件とする病院院長の要件を大幅に拡大することも検討している。現行制度では、地域医療支援病院の院長は地方勤務経験が必要だが、これを全国約700施設から1,500施設以上に拡大することが計画されている。この拡大により、地域医療に精通した病院経営者が増え、周辺医療機関との連携が強化される見込みである。厚労省は、この新たな要件を2020年度から導入し、地域医療に貢献した医師が認定される仕組みを整えた。これにより、多くの医師が地域医療の経験を積み、地方での医療提供に寄与することが期待されている。また、地域医療の充実には経済的インセンティブも重要である。特定地域での診療報酬の引き上げや地域医療に貢献する医師に対する補助金の導入が検討されている。この取り組みにより、医師が地方での勤務を選択する動機付けが強化される。さらに、厚労省は都道府県に対し、医療機関ごとの必要医師数を把握する義務を課す制度を検討している。この制度が実現すれば、医師の需給バランスを適切に管理し、地域医療のニーズに応じた効果的な医師配置が可能となる。その他、2024年末までに総合的な医師偏在対策パッケージが策定される予定である。このパッケージには、地域枠の拡大、総合診療医の育成、経済的インセンティブの提供、地方勤務経験のある院長の要件拡大など、多岐にわたる施策が含まれる。日本医師会もこの動きを歓迎しつつ、地域の実情に応じた細やかな支援と、医師が働きやすい環境の整備が重要であると指摘している。また、財務省が提案する診療報酬の地域差設定には慎重な姿勢を示している。医師の地域偏在を解消するためには、インセンティブを中心としたアプローチが必要であり、ディスインセンティブは避けるべきだとの立場である。政府の骨太方針2024は、医師偏在の是正に向けた重要な一歩を踏み出すものであり、これにより、全国各地で質の高い医療が提供されることが期待される。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024(内閣府)2)政府、医師偏り是正へ総合対策 骨太方針、21日に決定へ(共同通信)3)「歳出改革の努力」27年度まで継続、骨太方針 政府が閣議決定、経済・物価動向にも配慮(CB news)4)骨太の方針2024(原案)について(日医オンライン)5)院長条件に「地方経験」拡大 対象の病院2倍以上に厚労省、医師偏在の解消狙う 地域医療知る経営者増へ(日経新聞)4.電子処方箋の導入促進に向けて新たな支援策を提案/厚労省厚生労働省は6月19日、健康・医療・介護情報利活用検討会の「電子処方箋等検討ワーキンググループ」において、電子処方箋の導入促進とチェック機能の拡充に向けた新たな提案を行った。電子処方箋は、2023年1月から運用が開始されたが、導入が進んでいないのが現状。2024年6月時点で全国の医療機関や薬局での導入率はわずか9.3%で、とくに病院での導入は低迷している。岸田 文雄首相は、前日18日のデジタル行財政改革会議で、電子処方箋とリフィル処方の普及を強調し、医療DXプロジェクトのKPI設定と進捗モニタリングを指示した。厚労省は電子処方箋のチェック機能を拡充し、薬剤の併用注意を対象に含めることを提案。併用注意のチェックは重複投薬などと同様に行い、チェック結果を医療機関に返却することを想定している。また、2025年度を目標に、電子カルテ情報共有サービスを通じて薬剤アレルギー情報などをチェックする機能に追加する計画。日本医師会の長島 公之理事は、「電子処方箋導入を希望する医療機関や薬局が円滑に導入できる環境整備が国の責務である」と強調し、システムベンダーへの支援を求めた。さらに、厚労省は電子処方箋の導入補助金の拡充や、都道府県別・病院、診療所、薬局別の導入状況の公表を進め、地域一体での普及を図る方針。とくに導入が低調な都道府県には、関係団体や中核的な医療機関への働きかけを強化する。電子処方箋の利便性向上に向けて、患者が「かかりつけ薬局」を設定し、電子処方箋が自動的に送付される仕組みの実現も検討されている。これにより、患者の待ち時間の短縮が期待されるが、大手薬局チェーンによる抱え込み防止も必要になる。その他、電子処方箋に蓄積されるデータの利活用についても議論されており、感染症流行状況の分析や医薬品流通量の把握などに役立てることが検討されている。厚労省は、こうした取り組みを通じて、電子処方箋の普及と機能改善を進め、医療の質向上と効率化を目指すとしている。参考1)厚生労働分野におけるデジタル行財政改革(厚労省)2)第5回電子処方箋等検討ワーキンググループ資料(厚労省)3)電子処方箋、チェック機能拡充など提案 厚労省(CB news)4)岸田首相「電子処方箋の導入促進、リフィル処方の普及を実行」 KPI設定と進捗モニタリング・改善を(ミクスオンライン)5)電子処方箋、併用注意や院内処方、長期収載品の選定療養への対応など進めるが、「医療機関等への普及促進」が大前提-電子処方箋ワーキング(Gem Med)5.佐世保市の救急病院が負債11億7,000万円で破産/長崎県長崎県佐世保市の医療法人「篤信会」が運営する杏林病院が20日、長崎地裁佐世保支部に破産手続きを申請した。負債総額は約11億7,000万円で、外来患者や入院患者の減少により、資金繰りが悪化したことが原因。杏林病院は1974年に開業し、地域医療の一翼を担ってきたが、今後は約90人の入院患者を他の医療機関に転院させる手続きが進められる。同病院は市内の救急告示病院の1つであり、夜間や休日に患者を受け入れる2次救急輪番病院としても機能していた。そのため、地域医療に与える影響は大きく、佐世保市の保健所長も「地域にとっては非常に大きな影響」と述べ、救急患者の受け入れ態勢の再構築が急務となっている。佐世保市医師会は、スムーズな入院患者の転院が行えるように各病院の受け入れ態勢を調整しており、市民の医療への不安を解消するために努力している。同法人は、1974年に個人経営病院としてスタートし、1982年に杏林病院に改称、2017年には医療法人化したが、経営難により破産に至った。近年、全国で医療機関の破産が増加しており、帝国データバンクによれば2023年度には55件の医療機関が破産している。県内でも昨年、長崎市内の病院が破産しており、地域医療の継続に向けた課題が浮き彫りとなっている。参考1)「180のベッドがこつ然と無くなった…」 地域医療を担った病院の破産に波紋広がる(テレビ長崎)2)杏林病院が破産申請 佐世保市の救急告示病院…入院患者の転院進める(長崎新聞)3)長崎県佐世保市の杏林病院「篤信会」が破産手続き…1974年開業、負債11億7,000万円(読売新聞)6.教員採用や推薦入試にも寄付金が影響か/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)が、推薦入試および教員の採用・昇格において同窓会組織「至誠会」への寄付金を評価対象としていたことが明らかになり、文部科学省は同大学に詳細な報告を求めている。推薦入試では、卒業生や在校生の親族から寄付金を受け取る仕組みがあり、2018~2022年の間に少なくとも3,400万円の寄付金が集まっていた。寄付金は受験生の合格率を左右する「貢献度」として点数化されており、最終的に推薦を受けた生徒の約95%が合格していた。また、教員の採用や昇格においても、寄付金が評価基準に含まれていたことが判明した。至誠会の活動状況報告書には、寄付金や研修会への出席状況が記載され、それらがポイント制で評価されていた。同大学の広報は「至誠会の活動は公益的であり、寄付は社会貢献とみなしていた」と説明し、寄付を強要した事実はないと主張しているが、文科省は運用実態の調査を指示した。一方で、至誠会の幹部からは「金品が絡む対応は倫理的に問題がある」との声が上がっている。さらに、同大学をめぐる不正給与疑惑も浮上し、至誠会元代表理事である岩本 絹子氏の自宅が警視庁により家宅捜索されている。この一連の問題を受け、文科省は私立大学における入試や人事に関する寄付金の収受を禁止する通知を再確認し、同大に対して詳細な調査と報告を求めている。文科省の担当者は「社会の理解を得るためには業績での評価が必要」と述べ、大学側の対応に厳しい目を向けている。今回の問題は、大学の運営や教育機関としての信頼性に大きな影響を及ぼす可能性があり、今後の動向が注目される。参考1)東京女子医科大、推薦入試で受験生の親族から寄付金受ける…文科省が報告求める(読売新聞)2)東京女子医大が卒業生の教員採用で寄付額評価 同窓会組織「至誠会」に 文科省報告求める(産経新聞)3)学内人事、寄付が評価に 教員採用や昇格 東京女子医大 文科省、報告求める(朝日新聞)

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病名変更、定着した疾患は?/医師1,000人アンケート

 疾患の機序や病態、患者さんからの要望などで成人病が「生活習慣病」へ、痴呆症が「認知症」へ病名変更された例がある。現在では、糖尿病の呼称を「ダイアベティス」に変更する提案がなされ、「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」から「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」から「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」への病名変更も予定されている。 そこで、会員医師1,000人にこうした疾患の呼称や病名変更についての考えや病名変更の認知度を聞いた。呼称や病名を変更するなら病態をイメージできるものを 質問1で「『糖尿病がダイアベティス』へ呼称変更、『非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)からMASLD』、『非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)からMASH』」への病名変更される動きについて」を聞いたところ、「両方とも知っている」が1番多く512人、「『糖尿病』のみ知っている」が302人、「両方とも知らない」が142人、「『NAFLD・NASH』のみ知っている」が82人の順で多く、半数以上の会員医師は最近の動きを知っていた。 質問2で「疾患の病名や呼称を変更する理由として、どれが重要か」を聞いたところ、「疾患の機序や病態」が453人、「社会的なイメージや要請」が324人、「疾患認知度の向上」が293人の順で多く、病名で病態が理解できるものが望まれていた。 質問3で「9つの疾患を挙げ、病名・呼称の変更で定着したもの」を聞いたところ、「成人病から生活習慣病」が1番多く886人、「痴呆症から認知症」が842人、「精神分裂病から統合失調症」が819人の順で多かった。一方で、「サル痘からエムポックス」が48人、「先端巨人症から成長ホルモン分泌亢進症」が72人と診療科により定着率の低い疾患もあった。 質問4で「9つの疾患を挙げ、病名・呼称変更でまだ定着したと思われないもの」を聞いたところ、「サル痘からエムポックス」が1番多く704人、「先端巨人症から成長ホルモン分泌亢進症」が621人、「妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群(HDP)」が490人、「不安障害から不安症」が483人の順で多かった。あまりなじみのない疾患の病名変更は浸透しにくい様子がうかがえた。呼称・病名変更に受容的なのは20・30代の医師 以下は20・30代、40代、50代、60代以上の医師と4つの区分ごとにみたものである。 質問1では、20・30代~50代の会員医師の半数以上が、疾患の名称・病名変更の動きを「両方とも知っていた」と回答していた。60代以上の医師では「糖尿病のみ知っていた」の回答が40%を占めていた。 質問2では、すべての年代の医師で「疾患の機序や病態」を変更理由として1番多く挙げているのに対し、60代以上の医師では「社会的なイメージや要請」を挙げる方もほかの年代の医師よりも多かった。 質問3では、20・30代医師では「妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群(HDP)」と「先端巨人症から成長ホルモン分泌亢進症」の認知度が他の年代よりも高かった。また、50代医師では「すべて定着したとは思わない」と回答した数が他の年代の医師よりも多かった。 質問4では、40代医師で「痴呆症から認知症」について「定着していない」の回答数が少なかったことから、この年代では「認知症」という病名が広く浸透していることがうかがえた。また、「すべて定着したと思う」と回答した医師は20・30代で1番多かったことから呼称・病名変更への受容性がうかがえた。誤解されるイメージの病名は変更したほうがよい 質問5で「疾患の呼称や病名について、個別の疾患への思いや考え、疾患名にまつわるエピソード」を募集したところ、以下のようなコメントが寄せられた。・~奇形、~異常などの名称が付く疾患は変更したほうがよい(整形外科・60代)・糖尿病の呼称を「ダイアベティス」に変えるなら、まず尿崩症の名称を変えたほうがよい(糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)・フレイルは、わかりにくいので適当な和訳が望ましい(呼吸器内科・50代)・水ぼうそう(水痘)と水いぼ(伝染性軟属腫)は混同される方が多い(皮膚科・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。疾患の呼称や病名変更に医師はこう考える/医師1,000人アンケート

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医療者へのワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第6回

はじめここでは特定のワクチンではなく、医療機関で働く医療者に対して接種が推奨されるワクチンを一括して扱う。本稿の対象は、医療機関で働き患者と対面での接触がある職員(医師、看護師、各種技師、受付事務員など)に加え、医療現場で実習を行う医療系学生(医学生、看護学生など)である。以降は、まとめて「医療職員」と記載する。医療職員は、常にさまざまな病原体にさらされている。伝染性疾患の患者は、そうと知らずに治療を求めて病院を訪れるし、易感染性状態にある免疫弱者も同じ空間に密集しうる。これら両者に対応する医療職員も、また、常に病原微生物に曝露されている。したがって、医療職員が感染すると、自身が感染症患者になるだけでなく、無関係な来院者や入院患者へ2次感染を起こす原因にもなりうる。これを回避するためにワクチンがある(ワクチンで予防できる)感染症(VPD)については最大限に対策する必要がある。以上の観点から、対象となるのは以下のVPDとなる。1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD2.接触感染または針刺しが原因となるVPD3.一部の医療従事者で必要となるVPD4.曝露後対応を要するVPDワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD1)麻疹、風疹、ムンプス、水痘(1)いずれも代表的なVPDで、飛沫やエアロゾルによる強烈な感染力がある。ムンプス以外は定期接種に指定されているが、海外からの持ち込みなどもあり根絶には程遠い状況にある。(2)近年は医学部などの卒前教育課程でワクチン接種が推奨される医療系学生も増えてきたが、記録の確認は確実に行っておく必要がある。医療資格を持たない事務系職員も忘れずに対応する必要がある。2)季節性インフルエンザ(1)インフルエンザウイルスによる流行性感冒。A型とB型があり、それぞれ流行の度に表面抗原も微妙に異なる。(2)わが国では晩秋から春にかけて流行することが多いが、沖縄を含む熱帯地方では年間を通じて循環している。海外との往来や温暖化により、流行時期は増えている。(3)感染既往やワクチン接種による免疫は発症を予防するほど十分でないため、ワクチンを接種しても罹患するなど個人レベルでは恩恵を実感しにくいが、集団としてはワクチン接種率が高いほど疾病負荷が減るため有益性がある。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)2019年末から世界的パンデミックを起こしたコロナウイルス。2023年現在はオミクロン株派生型が主流で、軽症にとどまることが多いもののエアロゾル感染を起こすため強い感染力がある。4)百日咳(1)飛沫により感染する細菌感染症。成人が感染すると乾性咳が長く続き、新生児が感染すると致死的な経過を取ることがある。以上から、新生児と接触がある成人に免疫付与するコクーニング(cocooning)による新生児感染予防が推奨されている。2.接触感染または針刺しが原因となるVPD1)B型肝炎(1)ヒトのあらゆる体液(汗を除く)から感染するウイルス性疾患で、15年以上の経過で肝硬変や続発する肝がんの原因となる。(2)世界保健機関(WHO)が1992年からuniversal vaccinationキャンペーンを展開して感染抑制が進んだ地域も多い中、わが国は定期接種化が2016年と世界的には後発であり、高齢者の陽性キャリアはいまだ多い。3.一部の医療者のみ考慮の対象となるVPD1)破傷風(1)土中の芽胞菌である破傷風菌が損傷皮膚に感染して起こす疾患で、発症後の死亡率は30%と高い。肉眼で確認できない微細な損傷でも感染が成立する。(2)屋外で転倒する可能性を考えれば全住民に免疫付与が望まれるが、医療機関での業務として考えた場合、土壌に触れる業務がある職員(清掃職員、園芸療法に関わる者など)で接種完遂が求められる。2)髄膜炎菌(1)飛沫感染によって細菌性髄膜炎を起こす。集団生活や人の密集状態で、時に集団発生することが知られている。(2)救急外来や病理検査室のように、曝露を受ける可能性が高い部署では職員に対して接種を勧める。4.曝露後対応を要するVPD(曝露後緊急接種に用いる)1)MR、水痘(1)麻疹と水痘への曝露があった場合、すみやかに追加接種(72時間以内だが早いほど良い)することで、免疫がなくても高い発症阻止効果が期待できる。(2)風疹とムンプスでは曝露後接種の有効性は示されていないが、曝露の時点でワクチン接種歴が明らかでなければ将来利益も考慮して接種を推奨する。2)HBV(B型肝炎ウイルス)(1)接種未完了者がHBV陽性体液に曝露された場合、免疫グロブリンに加えてHBVワクチン1シリーズ(3回)接種を開始することで感染を予防できる可能性がある。3)破傷風(1)屋外での外傷により発症リスクが懸念される場合、追加接種を行う。医療職員が未接種である可能性は低いが、その場合は免疫グロブリン投与も必要となる。ワクチンの概要(効果、副反応、生または不活化、定期または任意・接種方法)1)MR、ムンプス、水痘(1)上記いずれも生ワクチンであり、MRと水痘は現在国の定期接種となっているが、1回接種だった時代もあり、接種回数が不足している可能性がある。2)季節性インフルエンザ(1)4価の不活化ワクチン(A型2価+B型2価)が最も一般的。成人はシーズン前に1回接種。(2)上記の通り、個々人の発症や重症化を予防する効果は高くないが、集団発生の確率を減らすことで疾病負荷を軽減するために接種が推奨される。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)パンデミック対策として各種ワクチンが緊急開発・供給された中、初めて実臨床使用されたmRNAワクチンが、現時点までもっとも安全かつ有効なワクチンである。(2)2023年現在、野生株とオミクロン株の2価ワクチンが流通している。(3)伝統的なワクチンに比べて発熱や疼痛などが強い傾向はあるものの、重篤な副反応はとくに多いとはいえず、安全性は他のワクチンと大差はない。4)百日咳、破傷風(1)3種または4種混合として定期接種化されている不活化ワクチン。(2)免疫能を維持するために10年ごとの追加接種が望ましいとされているが、追加分は定期接種に設定されていないため、可能なら医療機関で職員の接種時期を把握しておき、接種を知らせたい。接種のスケジュールや接種時の工夫いずれのワクチンについても、接種歴を確実に記録し、必要な追加接種が遅れずに実施できるように努める。1)MR、ムンプス、水痘(1)「生後1年以降に2回の接種」が完遂の条件。間隔が長くても問題ない。(2)上記を満たさない・記録が確認できない場合は、不足分を接種する。(3)2回接種が必要な場合、1ヵ月以上時間を空ける。(4)混合ワクチンにより3回以上の接種となる成分があっても問題ない。(5)接種前後での抗体検査は必要ない。2)百日咳、破傷風(1)小児期の基礎免疫が完遂している場合、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(商品名:トリビック)を1回接種する。(2)小児期の基礎免疫が不明なら、基礎免疫として0、1、2ヵ月で3回接種する。(3)破傷風の単独ワクチンを接種していても、百日咳の免疫付与が必要ならトリビックを接種して良い。3)季節性インフルエンザ(1)一般的な4価の不活化ワクチンは、流行前に1回接種する。(2)添付文書上は皮下注とされているが、効果や副作用の観点からは筋注が望ましいため、実臨床では「深い皮下注」を心がけると良い。4)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)院内感染対策の一環として、医療職員は都度すみやかに接種を行うことが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫など)業務上の必要性から職員へ接種を勧める観点から、以下の点に留意したい。職種により事前の説明を調整する接種費用は医療機関が負担する接種記録は人事記録として保管する妊娠や治療などが接種不可の理由になることから、ワクチン接種情報はプライバシー保護の対象として対応する。たとえば、「集団一斉接種をしない」、「接種対象者名簿を公開しない」など。年次健康診断や新人オリエンテーションと一緒に接種するなど、業務への影響を最小限に抑える工夫をする曝露後接種の取り扱いは、あらかじめ院内感染予防マニュアルに手順を明記しておく。そうすることで、発生報告からワクチン接種まで迅速に処理され接種時期を逃さない。参考となるサイト環境感染学会医療者のためのワクチンガイドライン 第2版/第3版こどもとおとなのワクチンサイト講師紹介

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標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」【下平博士のDIノート】第128回

標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」今回は、潰瘍性大腸炎治療薬「ブデソニド腸溶性徐放錠(商品名:コレチメント錠9mg、製造販売元:フェリング・ファーマ)」を紹介します。本剤は、標的部位の大腸にブデソニドが送達され、持続的に放出されるように設計されている1日1回服用の薬剤で、良好な治療効果や服薬アドヒアランスが期待されています。<効能・効果>活動期潰瘍性大腸炎(重症を除く)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはブデソニドとして9mgを1日1回朝経口投与します。投与開始8週間を目安に本剤の必要性を検討し、漫然と投与を継続しないように留意します。<安全性>2~5%未満に認められた副作用として潰瘍性大腸炎増悪があります。2%未満の副作用は、乳房膿瘍、感染性腸炎、乳腺炎、口腔ヘルペス、不眠症、睡眠障害、腹部膨満、口唇炎、ざ瘡、湿疹、蛋白尿、月経障害、末梢性浮腫、白血球数増加、尿中白血球陽性が報告されています。<患者さんへの指導例>本剤は、大腸に送られて持続的に炎症を鎮める潰瘍性大腸炎活動期の薬です。服薬時にかまないでください。生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)を接種する際には医師に相談してください。疲れを残さないよう十分な睡眠と規則正しい生活が重要です。消化の悪い繊維質の多い食品や脂肪分の多い食品、香辛料などを避けて、腸に優しい食事を心がけましょう。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は、活動期には下痢や血便、腹痛、発熱などを伴い、寛解と再燃を繰り返す炎症性腸疾患であり、わが国では指定難病に指定されています。潰瘍性大腸炎の活動期には、軽症~中等症では5-アミノサリチル酸製剤が広く用いられ、効果不十分な場合や重症例にはステロイド薬などが投与されます。ステロイド抵抗例ではタクロリムスや生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬などが使用されます。本剤の特徴は、MMX(Multi-Matrix System)技術を用いた薬物送達システムにあり、pH応答性コーティングにより有効成分であるブデソニドを含むマルチマトリックスを潰瘍性大腸炎の標的部位である大腸で送達し、親水性基剤と親油性基剤がゲル化することでブデソニドを持続的かつ広範囲に放出させます。また、本剤の有効成分であるブデソニドはグルココルチコイド受容体親和性が高いステロイド薬であり、局所的に高い抗炎症活性を有する一方、肝初回通過効果によって糖質コルチコイド活性の低い代謝物となるため、経口投与によるバイオアベイラビリティが低いと考えられ、全身に曝露される糖質コルチコイド活性の軽減が期待されるアンテドラッグ型のステロイドとなります。本剤は1日1回投与の経口薬であることから、良好な服薬利便性や服薬アドヒアランスも期待でき、海外では2023年3月現在、75以上の国または地域で承認されています。なお、本成分を有効成分とする既存の潰瘍性大腸炎治療薬には、直腸~S状結腸に薬剤を送達するブデソニド注腸フォーム(商品名:レクタブル2mg注腸フォーム)がありますが、本剤は大腸全体が作用部位となる点に違いがあります。本剤の主な副作用として、潰瘍性大腸炎の増悪が2~5%未満で報告されています。本剤はほかの経口ステロイド薬と同様に、誘発感染症、続発性副腎皮質機能不全、クッシング症候群、骨密度の減少、消化性潰瘍、糖尿病、白内障、緑内障、精神障害などの重篤な副作用に注意が必要です。本剤投与前に水痘または麻疹の既往歴や予防接種の有無を確認しましょう。製剤の特性を維持するために、本剤を分割したり、乳鉢で粉砕したりすることはできません。患者さんにもかんで服用しないように伝えましょう。潰瘍性大腸炎治療の新たな選択肢が増えることで、患者さんのQOL向上が期待されます。

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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第48回 「全ワクチン拒否」の医師は勤務可能?

新型コロナはともかく麻疹などは?Unsplashより使用某組合消防本部で、新型コロナワクチン接種を受けなかった30代の職員に対し、「接種拒否者」として廊下脇で業務をさせていたことが報道されました。接種したくないということで打たなかった人を「ワクチン拒否者」と表現することは字面としては間違ってはいないのですが、日本語としてはトゲのある言葉だなと感じます。さて、私たち医療従事者においてもワクチン接種率は当然ながら100%ではありません。副反応がかなり強く出てしまい、1回目で終了した人もいれば、アレルギー体質で最初から接種を希望しなかった人もいます。3回目接種以降の接種率は段階的に低下しており、私の知り合いもフルで接種を続けている人は全体の半数くらいです。新型コロナワクチンに限らず、患者さんと接触する以上、そのほかの感染症に対する免疫を有しているかどうかは病院の安全を守る上でも重要になります。具体的には、麻疹、風疹、水痘、ムンプス、B型肝炎です。私が医学生の頃は、これらの接種歴・罹患歴がなければ臨床実習はできなかったと記憶していますが、現在も法的には解釈が難しいところがあります。ワクチン未接種を理由とした不利益は法的に禁止麻疹や風疹など、ありとあらゆるワクチンが未接種の状態で、現場で働きたいという医師がいた場合、法的には可能でも現実的にはちょっと厳しいかもしれません。接種しないと働けないとする法的根拠は明示できず、むしろ雇用者は従業員に対して「ワクチン接種拒否を理由とした不利益がないように」扱われるべきとされています(予防接種法第9条)。―――つまり、話し合いや職場配置転換などで対応するしかないのが現状です。かといって、正当な理由でない「自然派志向」によるワクチン未接種で、それによって患者に感染を広げてしまったような場合、そちらの責任のほうが問われかねません。ただ、その医師から感染したというコンタクトトレースができない場合、そのような責任に至ることもないでしょう。クリニックを経営している医師の中に、新型コロナ以外のワクチンも含めて強固なワクチン反対派もいます。自分が経営者であることから、現状は法的な対応が難しいと思われます。

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第45回 麻疹の接種歴も抗体価も知らぬ医師

茨城県と東京都で成人麻疹8年前から日本は麻疹排除状態になり、麻疹はどちらかといえば輸入感染症としての側面を持つようになっています。茨城県でインドから持ち込まれた麻疹ウイルスに感染した事例が報告され、これと疫学的リンクがある2例が東京都でも発生したことが報道されました。新幹線のグリーン車で感染したらしいので、学会などで移動が増えているこの時期、医師の皆さんもご注意ください。接種歴を知らない医療従事者私は感染制御チームに所属しているので、麻疹の接種歴や抗体価のデータをどのように管理すればよいか日々試行錯誤しているのですが、医療従事者の中には、自分が麻疹にかかったことがあるかどうか・ワクチンを接種したことがあるかどうか・抗体価は十分あるかどうか、知らない人が結構います。意識が高い人は、印刷したデータをネームプレートに入れています。病院実習のときにワクチン接種歴を聞かれて、不十分と判断された大学では接種をすすめていたでしょう。しかし、それすらも記憶にない医師が結構多くて、びっくりします。家族が妊娠したときに、風疹については少し興味を持ってくれる人が多いようですが、麻疹はあまり興味を持たれません。混合ワクチンを接種している世代が増えてきましたが、私のように中途半端な世代もまだまだ多いと思います(表)。アフターコロナで流行国へ渡航することが増えると、麻疹ワクチンを1回のみで接種している人たちが感染するパターンが増えてくるかもしれません。画像を拡大する表. 麻疹ワクチン接種歴(筆者作成1))麻疹には特異的な治療法がなく、対症療法が中心になります。そのため、できるだけ感染しないようワクチンによる予防が重要になります。麻疹による死亡のほとんどは肺炎か脳炎です。まずは接種歴と抗体価の把握をワクチン接種歴や、麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎の抗体価については、ご自身で把握しておくことが望ましいですが、とくに医局人事で病院を転々とする人は、途中でデータが紛失してしまうこともあるため注意してください。参考文献・参考サイト1)一般社団法人日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集

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自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」【下平博士のDIノート】第115回

自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」今回は、抗リウマチ薬「メトトレキサート(MTX)皮下注(商品名:メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL/同10mgシリンジ0.20mL/同12.5mgシリンジ0.25mL/同15mgシリンジ0.30mL)、製造販売元:日本メダック」を紹介します。本剤は、国内初の自己注射可能なMTX皮下注製剤であり、関節リウマチ患者の服薬アドヒアランスの向上に加え、誤投与・過剰投与リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、関節リウマチの適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはMTXとして7.5mgを週に1回皮下注射します。患者の状態や忍容性などに応じて適宜増量できますが、15mgを超えることはできません。4週を目安に患者の状態を十分に確認し、増量は2.5mgずつ行います。<安全性>国内第III相臨床試験(MC-MTX.17/RA試験)において、83.8%(93/111例)に臨床検査値異常を含む有害事象が認められました。5%以上に認められたものは、悪心16.2%、口内炎14.4%、関節リウマチ11.7%、上咽頭炎10.8%、ALT増加9.9%、肝機能異常9.9%、白血球数減少8.1%、上腹部痛5.4%、高血圧5.4%などでした。なお、重大な副作用として、ショック/アナフィラキシー(頻度不明)、骨髄抑制(5%以上)、感染症(0.1~5%未満)、結核、劇症肝炎/肝不全、急性腎障害/尿細管壊死/重症ネフロパチー、間質性肺炎/肺線維症/胸水、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)/皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出血性腸炎/壊死性腸炎、膵炎、骨粗鬆症、脳症(白質脳症を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML)(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、異常な状態となっている免疫反応や炎症反応を抑えることで、関節リウマチによる関節の腫れや痛みを改善します。2.通常、週に1回、特定の曜日に皮下注射してください。3.注射部位は大腿部・腹部・上腕部の毎回異なる部位を選び、短期間に同一部位へ繰り返して投与しないでください。4.この薬を投与している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は医師に相談してください。5.発熱、倦怠感が現れた場合や、口内炎、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れた場合は直ちに医師に連絡してください。6.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を投与中および投与終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。7.(授乳中の女性に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤の投与中は授乳しないでください。<Shimo's eyes> 関節リウマチ(RA)治療の基本は、疾患活動性を低く抑え、早期の臨床的寛解を達成・維持することです。MTXはRAの病態形成に関与する種々の細胞に対して、複数の分子作用機序を介して免疫および炎症性反応を抑制し、抗RA作用を発揮すると考えられています。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインではMTXが第1選択薬として推奨されています。わが国においては、RAに対するMTXはこれまで経口薬のみが発売されていましたが、本剤は週1回の皮下投与のプレフィルドシリンジです。医師の管理・指導のもと、自己注射も可能です。2022年9月時点で、本剤は欧州を中心に世界49の国または地域で承認されており、2019年には欧州医薬品庁はMTXの誤投与の危険性を回避するため、RAなどの治療に対して週1回投与のMTX皮下注製剤を推奨しています。MTX経口薬から切り替えの際の投与初期量は、1週間当たりの投与量を対比させた添付文書の表などを参考に決定されます。安全性プロファイルは、注射部位反応を除いてMTX経口薬と同様と考えられています。主な副作用は白血球数減少、肝機能障害、悪心、口内炎などであり、重大な副作用である骨髄抑制、感染症、結核、劇症肝炎、肝不全、急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー、間質性肺炎、肺線維症、出血性腸炎などに注意する必要があります。2020年10月の「医療安全情報No.167」では、MTXの過剰投与による骨髄抑制の事故が後を絶たないことを注意喚起しています。本剤の普及によって医療現場での投与過誤、あるいは患者さんの服用過誤が減少することを期待します。

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