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厚生労働省の「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針{健康日本21(第2次)}」では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の認知度を2011(平成23)年の25%から2022(平成34)年度には80%まで向上させることを目標に掲げている。これにより、今後、国を挙げてCOPDの診断と治療を推し進める方針が示されたといえるであろう。COPD関連の大規模試験は欧米主体のものが多いのは事実であるが、国内でもCOPD関連の研究が集積されつつある。そこで今回、国内外におけるCOPD関連の興味深いテーマをいくつかピックアップし、紹介する。COPDには合併症や併存症が潜んでいるこれまで肺の疾患とされてきたCOPDだが、近年は、全身性の炎症性疾患と考えられており、さまざまな合併症や併存症との関係が報告されている(Fabbri L.M, et al. Eur Respir J. 2008; 31: 204-212.)。米国で行われたCOPDと臨床的に関連のある併存症の有病率の横断的大規模調査であるNHANES(米国全国健康・栄養調査) 1999-2008 (Schnell K, et al. BMC Pulm Med .2012; 12: 26.)においても、COPD患者は、COPDではない患者と比較し、循環器疾患や骨粗鬆症、がんなどを併存する割合が有意に高いことが示された。以下の論文は、そのなかでも、COPDと同様、労作時の息切れが主訴であるため、COPDが見逃される可能性のある“心不全”について取り上げている。【海外】2003年3月から2004年12月までの間に米国の259施設より登録された心不全患者のうち、左心収縮機能障害の患者は2万118例で、このうち25%にあたる5,057例がCOPDを併存していた。Mentz RJ, et al. Eur J Heart Fail. 2012; 14: 395-403.【日本】労作時の息切れの鑑別あるいは手術前検診にて、心エコー検査と呼吸機能検査を同時期に施行された患者1,699例において後ろ向きに検討を行ったところ、左室拡張機能障害を有する患者では26%で閉塞性換気障害を認めた。Onishi K, et al. Therapeutic Research. 2009; 30: 807-812.簡便にCOPD患者の健康状態を把握するには?COPD患者のマネジメントを行ううえで、健康状態を常に把握することは重要である。これまでも、COPD患者に対する質問表はあったが、手間や時間を必要とするものも多かった。このような背景の中、開発されたのがCOPD Assessment TestTM(CAT)である。CATは全8項目の短く簡便な質問票であり、より的確な治療や管理を受けられることを目的に開発された。すでに日本語版(http://adoair.jp/disease_info/cat/index.html)もリリースされている。従来の質問票と比べて、CATに妥当性はあるのか。その検証結果を紹介する。【海外】米国の安定期のCOPD患者において、CATとCOPDに特異的な健康関連QOLの評価指標の一つとして広く用いられてきたSGRQ-C(St George's Respiratory Questionnaire for COPD patients)との間に良好な相関関係が認められた(r=0.80, p<0.0001)。Jones PW, et al. Eur Respir J. 2009; 34: 648-654.【日本】相澤氏はJones氏にCATとSGRQ-Cの提供を依頼し、日本人の安定期のCOPD患者についてもCATとSGRQ-Cの関係を検討したところ、同様に相関性が認められた(r=0.82, p<0.001)。相澤久道ほか. 呼吸. 2010; 29: 835-838.気腫型のCOPDは非気腫型より1秒量(FEV1)の経年的低下が大きいCOPDにおいて、FEV1の経年的低下量はアウトカムを判定するうえで重要な指標となる。しかしながら、気腫型のCOPDか非気腫型のCOPDかで、FEV1の経年的低下量に違いがあるかについては、あまり検討されていなかった。【海外】COPD患者について3年間にわたり気管支拡張薬でマネジメントを行い、FEV1の変化を調べた。その結果、胸部CT検査により気腫型(低吸収領域が10%未満)とされた群では、非気腫型の群と比較して、FEV1が平均で327±21mL低く、経年的低下量も13±4mL低かった。Vestbo J, et al. N Engl J Med. 2011; 365: 1184-1192.【日本】北海道大学病院を中心とした多施設共同のCOPD前向きコホート研究では、COPDのFEV1の経年的変化は必ずしもすべての症例で一様に進行・悪化していなかった。さらに、肺気腫の重症度による病型(気腫型/非気腫型)は呼吸機能検査でみた重症度とは独立して、FEV1の経年的変化に影響を与えていた。Nishimura M, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 185: 44-52.西村 正治ほか. 日内会誌. 2013; 102:463-470.3次元胸部CTでCOPDの診断や治療効果を判断できる可能性COPDを診断する場合や治療の経過をみる場合、呼吸機能の数値や臨床症状から判断することが多かった。しかし、3次元胸部CT で気管支壁厚を計測することも、COPDの診断や経過観察を行ううえで有用であることが報告されている。これまで気管支径の測定は各CTスライスに対して手動による抽出が行われてきた。3次元胸部CTは早期から、わが国で積極的に研究が行われてきた分野であり、早期の臨床応用が期待されている。【海外】気道のリモデリングは喘息やCOPDでは一般的な特徴である。しかし、両者を鑑別することが難しいケースが存在する。このような場合に、気道壁の変化やエアートラッピングの量を3次元胸部CTで測定することにより、潜在的な喘息やCOPDの複雑な病理を明らかにし、治療効果を評価するうえでの手助けとなるかもしれない。Dournes G, et al. Pulm Med. 2012;2012:670414.【日本】COPD患者の気流制限は吸入抗コリン薬により改善されることが知られているが、どの部分の気管支拡張が呼吸機能を改善させているのかについてはあまり知られていなかった。そこで吸入抗コリン薬を投与した後、気道内腔のどの部分で変化が起こり、呼吸機能が改善されるのかを3次元胸部CTにより検討した。その結果、抗コリン薬による気管支拡張はFEV1の改善と比例しており、近位の気道より、遠位の気道の拡張のほうが呼吸機能の改善への寄与が大きいことがわかった。Hasegawa M, et al. Thorax. 2009; 64: 332-338.(ケアネット 鎌滝真次)