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赤ちゃんへの毎日の保湿剤、アトピー性皮膚炎を予防しない

 生後1年間、赤ちゃんに保湿剤を毎日塗布しても、アトピー性皮膚炎への予防効果は認められなかったことが、英国・ノッティンガム大学のLucy E. Bradshaw氏らが行った無作為化試験「Barrier Enhancement for Eczema Prevention(BEEP)試験」の結果、示された。食物アレルギー、喘息、花粉症への予防効果も認められなかった。保湿剤塗布のアトピー性皮膚炎/湿疹への予防効果については議論が分かれている。Allergy誌オンライン版2022年10月19日号掲載の報告。赤ちゃんに保湿剤を毎日塗布しても31%がアトピーと診断、対照群は28% BEEP試験では、アトピー性皮膚炎およびアトピー性の症状に対する生後1年間の毎日の保湿剤塗布の効果を、5歳まで評価した。 アトピー性疾患の家族歴がある新生児1,394人を、1対1の割合で無作為に2群に割り付け、毎日の保湿剤塗布+標準的スキンケアをアドバイス(保湿剤塗布群:693人)または標準的スキンケアのみをアドバイス(対照群:701人)した。 保護者に対する質問票により、3歳、4歳、5歳時に長期フォローアップを行った。主要評価項目は、保護者の報告に基づくアトピー性皮膚炎および食物アレルギーの臨床診断とした。 アトピー性皮膚炎およびアトピー性の症状に対する生後1年間の毎日の保湿剤塗布の効果を5歳まで評価した主な結果は以下のとおり。・保湿剤塗布群の保護者のほうが、5年間にわたり保湿剤塗布の頻度が高かったと回答した。・生後12~60ヵ月(5歳)にアトピー性皮膚炎と臨床診断されたのは、保湿剤塗布群188/608例(31%)、対照群178/631例(28%)であった(補正後相対リスク:1.10、95%信頼区間[CI]:0.93~1.30)。・保湿剤塗布群でも、3歳時、4歳時時点ですでに前年度の食物反応について報告した保護者がいたが、5歳時までに医師により診断された食物アレルギーの累積発生率は、保湿剤塗布群15%(92/609例)、対照群14%(87/632例)で、同程度であった(補正後相対リスク:1.11、95%CI:0.84~1.45)。・喘息、花粉症の累積発生率も両群で類似していた。

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TSLPを標的とした重症喘息の新たな治療選択肢

 2022年10月24日、アストラゼネカは、都内にて「テゼスパイアによる重症喘息治療への貢献」をテーマにメディアセミナーを開催した。TSLPは喘息の重症化や呼吸機能低下に関与 現在の重症喘息治療における課題は複雑な炎症経路である。ウイルスやアレルゲン、ハウスダストなど環境因子の刺激により、気道上皮から上皮サイトカインが産生され、その結果、アレルギー性炎症や好酸球性炎症、気道のリモデリングなど、複数の経路から喘息が増悪すると考えられている。 上皮サイトカインのなかでも、炎症カスケードの起点となっているのが胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)である。TSLPは、喘息の重症化や呼吸機能低下だけでなく、気道のリモデリングやステロイド反応性の低下、ウイルス感染に対する過剰な2型炎症にも関与していると考えられている。TSLPを標的とした生物学的製剤がテゼスパイア テゼスパイア皮下注210mgシリンジ(一般名:テゼペルマブ[遺伝子組換え]、以下「テゼスパイア」)はTSLPを標的とした生物学的製剤である。セミナーでは第III相国際共同試験(検証的試験)、NAVIGATOR試験について、昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 相良 博典氏が詳しく説明した。 対象は、コントロール不良な重症喘息(国際的な喘息診療指針Global Initiative for Asthma:GINAに基づく)を有する成人および12歳以上の小児患者1,061例。対象患者を地域および年齢によって層別化した後、テゼスパイア群およびプラセボ群に1:1で無作為に割り付け、52週間投与した。 主要評価項目である年間喘息増悪率はテゼスパイア群で0.93、プラセボ群で2.10であり、テゼスパイアの有効性が示された(プラセボ群に対する比:0.44、95%信頼区間[CI]:0.37~0.53、p<0.001)。また、その他の副次評価項目である血中好酸球数、FeNO、血清総IgE値のベースラインからの変化量について、テゼスパイア投与後、早期から低下する傾向が見られた。 安全性に関して、有害事象の発現率はテゼスパイア群で77.1%(407/528例)、プラセボ群で79.5%(422/531例)であった。主な有害事象(発現率>10%)は、テゼスパイア群(528例)で上咽頭炎が112例(21.2%)、上気道感染が58例(11.0%)、プラセボ群(531例)で上咽頭炎が113例(21.3%)、上気道感染が84例(15.8%)、喘息が56例(10.5%)に認められた。TSLPを阻害することでテゼスパイアは複雑な炎症経路を同時に抑制 テゼスパイアは、これまでの喘息治療薬とは異なる作用機序を有するため、新たな治療選択肢となる。「2型喘息患者では、いまだに増悪を来す患者が多く存在する。TSLPはさまざまな病態と関連しており、増悪・呼吸機能低下だけでなく、ステロイド抵抗性の獲得や粘液産生、気道リモデリング、神経炎症と、多岐にわたって影響を及ぼす。テゼスパイアは炎症の起点となるTSLPを阻害することで、複雑な炎症経路を同時に抑制し、優れた臨床的改善効果をもたらすことが期待される」と相良氏はまとめ、セミナーを終了した。

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遺族にNGな声かけとは…「遺族ケアガイドライン」発刊

 2022年6月、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会の合同編集により「遺族ケアガイドライン」が発刊された。本ガイドラインには“がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン”とあるが、がんにかかわらず死別を経験した誰もが必要とするケアについて書かれているため、ぜひ医療者も自身の経験を照らし合わせながら、自分ごととして読んでほしい一冊である。 だが、本邦初となるこのガイドラインをどのように読み解けばいいのか、非専門医にとっては難しい。そこで、なぜこのガイドラインが必要なのか、とくに読んでおくべき項目や臨床での実践の仕方などを伺うため、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会の遺族ケア小委員会委員長を務めた松岡 弘道氏(国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科/支持療法開発センター)を取材した。ガイドラインの概要 本書は4つに章立てられ、II章は医療者全般向けで、たとえば、「遺族とのコミュニケーション」(p29)には、役に立たない援助、遺族に対して慎みたい言葉の一例が掲載されている。III章は専門医向けになっており、臨床疑問(いわゆるClinical questionのような疑問)2点として、非薬物療法に関する「複雑性悲嘆の認知行動療法」と薬物療法に関する「一般的な薬物療法、特に向精神薬の使い方について」が盛り込まれている。第IV章は今後の検討課題や用語集などの資料が集約されている。遺族の心、喪失と回復を行ったり来たり 人の死というは“家族”という単位だけではなく、友人、恋人や同性愛者のパートナーのように社会的に公認されていない間柄でも生じ(公認されない悲嘆)、生きている限り誰もが必ず経験する。そして皮肉なことに、患者家族という言葉は患者が生存している時点の表現であり、亡くなった瞬間から“遺族”になる。そんな遺族の心のケアは緩和ケアの主たる要素として位置付けられるが、多くの場合は自分自身の力で死別後の悲しみから回復していく。ところが、死別の急性期にみられる強い悲嘆反応が長期的に持続し、社会生活や精神健康など重要な機能の障害をきたす『複雑性悲嘆(CG:complicated grief)』という状態になる方もいる。CGの特徴である“6ヵ月以上の期間を経ても強度に症状が継続していること、故人への強い思慕やとらわれなど複雑性悲嘆特有の症状が非常に苦痛で圧倒されるほど極度に激しいこと、それらにより日常生活に支障をきたしていること”の3点が重要視されるが、この場合は「薬物治療の必要性はない」と説明した。 一方でうつ病と診断される場合には、専門医による治療が必要になる。これを踏まえ松岡氏は「非専門医であっても通常の悲嘆反応なのかCGなのか、はたまた精神疾患なのかを見極めるためにも、CG・大うつ病性障害(MDD)・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の併存と相違(p54図1)、悲嘆のプロセス(p15図1:死別へのコーピングの二重過程モデル)を踏まえ、通常の悲嘆反応がどのようなものなのかを理解しておいてほしい」と強調した。医師ができる援助と“役に立たない”援助 死別後の遺族の支援は「ビリーブメントケア(日本ではグリーフケア)」と呼ばれる。その担い手には医師も含まれ、遺族の辛さをなんとかするために言葉かけをする場面もあるだろう。そんな時に慎みたい言葉が『寿命だったのよ』『いつまでも悲しまないで』などのフレーズで、遺族が傷つく言葉の代表例である。言葉かけしたくも言葉が見つからないときは、正直にその旨を伝えることが良いとされる。一方、遺族から見て有用とされるのは、話し合いや感情を出す機会を持つことである。 そのような機会を提供する施設が国内でも設立されつつあるが、現時点で約50施設と、まだまだ多くの遺族が頼るには程遠い数である。この状況を踏まえ、同氏は「医師や医療者には患者の心理社会的背景を意識したうえで診療や支援にあたってほしいが、実際には多忙を極める医師がここまで介入することは難しい」と話し、「遺族の状況によってソーシャルワーカーなどに任せる」ことも必要であると話した。 なお、メンタルヘルスの専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師など)に紹介すべき遺族もいる。それらをハイリスク群とし、特徴を以下のように示す。<強い死別反応に関連する遺族のリスク因子>(p62 表4より)(1)遺族の個人的背景・うつ病などの精神疾患の既往、虐待やネグレクト・アルコール、物質使用障害・死別後の睡眠障害・近親者(とくに配偶者や子供の死)・生前の患者に対する強い依存、不安定な愛着関係や葛藤・低い教育歴、経済的困窮・ソーシャルサポートの乏しさや社会的孤立(2)治療に関連した要因・治療に対する負担感や葛藤・副介護者の不在など、介護者のサポート不足・治療やケアに関する医療者への不満や怒り・治療や関わりに関する後悔・積極的治療介入(集中治療、心肺蘇生術、気管内挿管)の実施の有無(3)死に関連した要因・病院での死・ホスピス在院日数が短い・予測よりも早い死、突然の死・死への準備や受容が不十分・「望ましい死」であったかどうか・緩和ケアや終末期の患者のQOLに対する遺族の評価 上記を踏まえたうえで、遺族をサポートする必要がある。不定愁訴を訴える患者、実は誰かを亡くしているかも 一般内科には不定愁訴で来院される方も多いだろうが、「遺族になって不定愁訴を訴える」ケースがあるそうで、それを医療者が把握するためにも、原因不明の症状を訴える患者には、問診時に問いかけることも重要だと話した。<表5 遺族の心身症の代表例>(p64より一部抜粋)1.呼吸器系(気管支喘息、過換気症候群など)2.循環器系(本態性高血圧症など)3.消化器系(胃・十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群など)4.内分泌・代謝系(神経性過食症、単純性肥満症など)5.神経・筋肉系(緊張型頭痛、片頭痛など)6.その他(線維筋痛症、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など) 最後に同氏は高齢化社会特有の問題である『別れのないさよなら』について言及し、「これは死別のような確実な喪失とは異なり、あいまいで終結をみることのない喪失に対して提唱されたもの。高齢化が進み認知症患者の割合が高くなると『別れのないさよなら』も増える。そのような家族へのケアも今後の課題として取り上げていきたい」と締めくくった。書籍紹介『遺族ケアガイドライン』

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広範な重症喘息患者で一貫して増悪を抑制、テゼスパイア承認/AZ

 アストラゼネカは、2022年9月27日付けのプレスリリースで、テゼスパイア皮下注210mgシリンジ(一般名:テゼペルマブ[遺伝子組換え]、以下「テゼスパイア」)が、既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症または難治の気管支喘息の治療薬として日本で承認を取得したと発表した。 本剤は、上皮サイトカインである胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を標的とすることで喘息の炎症カスケードの起点に対して作用する最初で唯一の生物学的製剤である。テゼスパイアは、血中好酸球数、アレルギーの状態および呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)を含む主なバイオマーカーによらない、広範な重症喘息患者集団を対象とした第II相PATHWAY試験および第III相NAVIGATOR試験全体において、一貫した喘息の増悪抑制が認められた。 相良 博典氏(昭和大学 医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授)は、「重症喘息は、近年の治療の進歩にもかかわらず、多くの患者が頻繁に増悪し、生活の質を著しく低下させる疾患。テゼスパイアは、臨床試験において、幅広い層の重症喘息患者さんに対して効果を示し、このたび承認されたことで、患者さんに症状管理のための重要な新しい選択肢を提供できるようになる」と述べた。 また、Mene Pangalos氏(アストラゼネカ・バイオ医薬品研究開発部門担当エグゼクティブバイスプレジデント)は、「テゼスパイアは、最初で唯一、広範な重症喘息患者に対しバイオマーカーの値によらず一貫して増悪を抑制することを示し、承認された生物学的製剤の喘息治療薬。広範な重症喘息患者集団の転帰を改善する可能性を有しており、当社は本剤を日本の患者さんに可及的速やかにお届けできるよう尽力する」、としている。

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メポリズマブ、好酸球性喘息の小児患者で増悪を低減/Lancet

 都市部の低所得地域に居住する増悪を起こしやすい好酸球性喘息の小児患者において、インターロイキン-5(IL-5)に対するヒト化モノクローナル抗体であるメポリズマブによる表現型指向の治療法は、以前に成人で観察された有効性に比べれば劣るものの、プラセボとの比較で喘息増悪の回数の有意な減少をもたらすことが、米国・ウィスコンシン大学医学公衆衛生大学院のDaniel J. Jackson氏ら国立アレルギー・感染病研究所(NIAID)Inner City Asthma Consortiumが実施した「MUPPITS-2試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年8月13日号に掲載された。米国の都市部9施設の無作為化プラセボ対照比較試験 MUPPITS-2試験は、増悪を起こしやすい好酸球性喘息の小児患者の治療における、ガイドラインに基づく治療へのメポリズマブの上乗せ効果の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、米国の都市部9ヵ所の医療センターが参加し、2017年11月~2020年3月の期間に患者の登録が行われた(米国NIAIDとGlaxoSmithKlineの助成を受けた)。 対象は、年齢6~17歳、社会経済的に恵まれない地域に住み、増悪を起こしやすい喘息(前年に2回以上の増悪と定義)を有し、血中好酸球数≧150個/μLの患者であった。 被験者は、ガイドラインに基づく治療に加え、メポリズマブ(6~11歳:40mg、12~17歳:100mg)またはプラセボを4週ごとに皮下投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、52週の投薬が行われた。患者、担当医、アウトカムの測定値を収集する研究者は、割り付け情報を知らされなかった。 主要アウトカムは、intention-to-treat集団における、52週の投与期間に全身コルチコステロイドによる治療を受けた重度の喘息増悪の数(増悪率/人年)とされた。また、鼻洗浄検体を用いたトランスクリプトミクスによるモジュール解析により、治療効果のメカニズムの評価が行われた。高リスク小児で増悪を回避するための新たな標的を確認 9都市(ボストン、シカゴ、シンシナティ、ダラス、デンバー、デトロイト、ニューヨーク、セントルイス、ワシントンDC)から290例(intention-to-treat集団)が登録され、メポリズマブ群に146例、プラセボ群に144例が割り付けられた。248例が試験を完遂した。全体の年齢中央値は10.0歳(IQR:9.0~13.0)、女性が43%で、人種は黒人/アフリカ系米国人が70%、白人が11%、民族はヒスパニック/ラテン系が25%であった。 52週の試験期間中に発生した喘息増悪の平均回数(増悪率/人年)は、メポリズマブ群が0.96(95%信頼区間[CI]:0.78~1.17)と、プラセボ群の1.30(1.08~1.57)に比べ有意に少なかった(率比:0.73、95%CI:0.56~0.96、p=0.027)。 喘息の初回増悪までの期間は、両群間に差はみられなかった(ハザード比:0.86、95%CI:0.63~1.18、p=0.36)。また、事後解析では、プラセボ群で強力な季節性の増悪パターンが認められたが、このパターンはメポリズマブによって有意に変化し(p=0.0006)、とくに秋の増悪のピークが鈍化した(オッズ比:0.64、95%CI:0.42~0.98、p=0.041)。 試験期間中に発現または悪化した有害事象は、メポリズマブ群が146例中42例(29%)、プラセボ群は144例中16例(11%)で認められた。注射部位反応はそれぞれ19例(13%)および7例(5%)で、皮膚/皮下組織障害は10例(7%)および1例(<1%)で、消化器障害は7例(5%)および3例(2%)で発現した。アナフィラキシーが5件(メポリズマブ群3件、プラセボ群2件)発生したが、いずれも試験薬との関連はなかった。 気道トランスクリプトーム解析では、メポリズマブ群とプラセボ群における喘息増悪リスクの差の促進因子として、好酸球と上皮に関連する複数の炎症経路が同定された。 著者は、「メポリズマブによる補助的治療は喘息の増悪を抑制したが、これ以外の喘息のアウトカムには影響を及ぼさなかった」とまとめ、「気道トランスクリプトーム解析により、これらの高リスクの小児における増悪による疾病負担を正確かつ効果的に軽減する可能性のある新たな標的が確認された。また、臨床試験で十分な数の被験者がおらず、喘息への罹患や死亡のリスクが最も高い都市部の黒人およびヒスパニック系の小児において、生物学的製剤や他の介入への治療反応を評価することの重要性が明らかとなった」としている。

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テオフィリン鼻洗浄でコロナの嗅覚障害は改善するか

 気管支喘息治療薬でおなじみのテオフィリンは、細胞内のcAMP濃度を上昇させることで神経の興奮性を高める作用があり、これを利用した嗅覚の改善効果が以前より立証されている1)。また、最近の研究では生理食塩水鼻洗浄(SNI)にテオフィリンを追加することで、新型コロナウイルス感染後の嗅覚機能障害(OD:olfactory dysfunction)の効果的な治療になり得ることが示唆されている。 そこで、米国・ワシントン大学・セントルイス校のShruti Gupta氏らは新型コロナウイルス関連のODに対し、テオフィリン鼻洗浄の有効性と安全性を評価した。その結果、テオフィリン鼻洗浄の臨床的利点は決定的ではないことが示唆された。JAMA Otolaryngology-Head&Neck Surgery誌オンライン版2022年7月7日号掲載の報告。 本試験は三重盲検プラセボ対照第II相ランダム化試験で、2021年3月15日~8月31日にミズーリ州またはイリノイ州に居住し新型コロナによるODが持続する成人(コロナ感染疑いから3〜12ヵ月が経過した者)を対象に実施された。生理食塩水とテオフィリン400mgのキットを治療群用に、生理食塩水と乳糖粉末500mgのキットを対照群用として用意し、参加者はカプセル内容物を生理食塩水に溶解し、6週間にわたり朝と晩の1日2回の鼻腔洗浄を行った。 主要評価項目は治療群・対照群間で反応した人の割合の差で、CGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)で少なくともわずかに改善を示す反応として定義した。副次評価の測定には、ペンシルベニア大学の嗅覚識別テスト(UPSIT)、嗅覚障害に関する質問、一般的な36項目の健康調査、新型コロナ関連の質問が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・51例が研究に登録され、平均年齢±SDは46.0±13.1歳で、女性は36例(71%)。テオフィリン鼻洗浄群(n=26)とプラセボ鼻洗浄群(n=25)にランダムに割り付けられた。・参加者のうち45例が研究を完遂した。治療後、テオフィリン群13例(59%)はプラセボ群10例(43%)と比較して、CGI-Iスケール(反応した人)でわずかな改善を報告した(絶対偏差:15.6%、95%信頼区間[CI]:13.2~44.5%)。・ベースラインと6週間の嗅覚識別テストUPSITでの中央値の差は、テオフィリン群で3.0(95%CI:-1.0~7.0)、プラセボ群で0.0(95%CI:-2.0~6.0)だった。・混合モデル分析により、UPSITスコアの変化は2つの研究群間で統計学的に有意差が得られなかったことが明らかになった。・テオフィリン群の11例(50%)とプラセボ群の6例(26%)は、ベースラインから6週間までにUPSITスコアで4ポイント以上の変化があった。また、UPSITで反応した人の割合の差は、テオフィリン群で24%(95%CI:-4~52%)だった。

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咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回

第10回 咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例―Key Point―咳は重大な疾患の一つの症状であることがある詳細な問診、咳の持続時間、胸部レントゲン所見から原因疾患を絞り込むことができる慢性咳に対するアプローチを習得しておくと、患者満足度があがる症例:45歳 男性主訴)発熱、咳、発疹現病歴)3週間前、タイのバンコクに出張した。2週間前から発熱あり。10日前に帰国した。1週間前から姿勢を変えると咳がでる。38℃以上の発熱が続くため紹介受診となった。既往歴)とくになし薬剤歴)なし身体所見)体温:38.9℃ 血圧:132/75mmHg 脈拍:88回/分 呼吸回数:18回/分 SpO2:94%(室内気)上背部/上胸部/顔面/頭部/手に皮疹あり(Gottron徴候、機械工の手、ショールサインあり)検査所見)CK:924 IU/L(基準値62~287)経過)胸部CT検査で両側の間質性肺炎ありCK上昇、筋電図所見、皮膚生検、Gottron徴候、機械工の手、ショールサインから皮膚筋炎1)と診断された筋力低下がほとんど見られなかったので、amyopathic dermatomyositis(筋無症候性皮膚筋炎)と考えられるこのタイプには、急性発症し間質性肺炎が急速に進行し予後が悪いことがある2)本症例ではステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったが、呼吸症状が急速に悪化し救命することができなかった◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性の咳(<3週間)では致死的疾患を除外することが重要である亜急性期(3~8週間)の咳は気道感染後の気道過敏または後鼻漏が原因であることが多い慢性咳(>8週間)で最も頻度が高い原因は咳喘息である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】緊急性のある疾患かどうか考えよう咳を伴う緊急性のある疾患心筋梗塞、肺塞栓、肺炎後の心不全悪化重症感染症(重症肺炎、敗血症)気管支喘息の重積肺塞栓症COPD (慢性閉塞性肺疾患)の増悪間質性肺炎咳が急性発症ならば、心血管系のイベントが起こったかをまず考える心筋梗塞や肺塞栓症、肺炎は心不全を悪化させる心筋梗塞や狭心症の既往、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、男性、年齢が虚血性心疾患のリスクとなる3つのグループ(高齢、糖尿病、女性)に属する患者の心筋梗塞は非典型的な症状(息切れ、倦怠感、食欲低下、嘔気/嘔吐、不眠、顎痛)で来院する肺塞栓症のリスクは整形外科や外科手術後、ピル内服、長時間の座位である呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、間質性肺炎、結核)の既往に注意するACE阻害薬は20%の患者で内服1~2週間後に咳を起こす【STEP3-1】鑑別診断:胸部レントゲン所見と咳の期間で行う胸部レントゲン写真で肺がん、結核、間質性肺炎を確認する亜急性咳嗽(3~8週間)の原因の多くはウイルスやマイコプラズマによる気道感染である細菌性副鼻腔炎では良くなった症状が再び悪化する(二峰性の経過)。顔面痛、後鼻漏、前かがみでの頭痛増悪を確認する百日咳:咳により誘発される嘔吐とスタッカートレプリーゼが特徴的である2)【STEP3-2】鑑別診断3):慢性咳か否か8週間以上続く慢性咳の原因は咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏症候群)、逆流性食道炎、ACE阻害薬、喫煙が多い上記のいくつかの疾患が合併していることもある咳喘息が慢性咳の原因として最も多い。冷気の吸入、運動、長時間の会話で咳が誘発される。ほかのアレルギー疾患、今までも風邪をひくと咳が長引くことがなかったかどうかを確認する非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB:non-asthmatic eosinophilic bronchitis)が慢性咳の原因として注目されている3)上気道咳症候群では鼻汁が刺激になって咳が起こる。鼻咽頭粘膜の敷石状所見や後鼻漏に注意する夜間に増悪する咳なら、上気道咳症候群、逆流性食道炎、心不全を考える【治療】咳に有効な薬は少ないハチミツが有効とのエビデンスがある4)咳喘息:吸入ステロイド+気管支拡張薬上気道咳症候群:アレルギー性鼻炎が原因なら点鼻ステロイド、アレルギー以外の原因なら第一世代抗ヒスタミン薬3)逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬<参考文献・資料>1)Mukae H, et al. Chest. 2009;136:1341-1347.2)Rutledge RK, et al. N Engl J Med. 2012;366:e39.3)ACP. MKSAP19. General Internal Medicine. 2021. p19-21.4)Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med. 2021;26:57-64.

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未診断のCOPDを放置しないで!早期診断・治療に質問票の活用も

 先日、アストラゼネカが「世界COPDデー(11月17日)」にセミナーを開催した。室 繁郎氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授)が、要介護の前段階“フレイル”の予防という視点から、COPDの早期診断・治療の重要性についての講演を行った。つづいて、山村 吉由氏(奈良県広陵町町長)が自治体として2014年度から取り組んでいるCOPD対策事業について講演した。また、セミナーの後半では、3年前にTV番組でCOPDの診断を受けた経験のある松嶋 尚美氏をゲストとして、トークセッションが設けられた。COPDによる死亡者は気管支喘息の約14倍 室氏は、はじめに正常肺組織の電子顕微鏡写真を示し、長期の喫煙が正常な肺にどのように影響を及ぼすのかを図示。COPDに生じる肺気腫や慢性気管支炎・細気管支病変などの病態を説明した。正常肺では、肺胞隔壁は弾性繊維を豊富に含み、吸気において肺は横隔膜筋の収縮により主に頭尾方向に伸長し、呼気では肺自身の弾性収縮力により呼気位に戻る。しかし、COPDでは肺の弾力性が失われており、呼気の気道の虚脱も生じるため、「頑張るほど息が吐けない(胸郭内圧が上昇すると気道虚脱を招いて呼出に時間が掛かる)」状態になるという。 また、COPDに罹患すると肺がん、心不全、心筋梗塞・狭心症、高血圧症、骨粗しょう症、糖尿病、不整脈、消化性潰瘍、胃食道逆流症、うつ病などが併存するリスクが上昇することがガイドラインに記載されている。2020年の人口動態統計では、わが国のCOPDによる死亡者数は1万6,125例で、気管支喘息による死亡者の約14倍だった。とくに男性では死亡原因の第10位となっている。 NICE studyで調査された日本のCOPD有病率は、日本人の全人口あたりでは8.6%だが、喫煙歴(過去も含む)のある高齢者を対象としたデータでは、60歳で15~20%、70歳を超えると35~45%がCOPDという報告もある。高齢喫煙者の5人に1人以上がCOPDを発症する一方で、GOLD日本委員会が一般人を対象に実施したCOPD認知度把握調査によると、COPDを「知らない」と答える人は7割を超えている。室氏は「COPDは、主に喫煙によって引き起こされるありふれた疾患であるにも関わらず、(一般社会や患者さんに)あまり認知されていない」と警鐘を鳴らした。COPDもフレイルも進行させないことが重要 続いて、室氏は「COPDは早期診断・早期治療が重要で、放置しておくと“フレイル”に陥ることも考えられるため、社会課題として取り組まなければいけない疾患だ」と説明。COPD患者の呼吸機能(FEV1)の経年低下は、病早期に最も大きいことをグラフで示した。なお、軽症のうちであれば、禁煙することで呼吸機能が回復する余地があるという。COPDの発症年齢の中央値は現喫煙者で55歳、過去喫煙者で65歳という疫学調査データもあるので、日本が長寿社会であることを踏まえると、早めにやめるほど健康上のメリットが大きい。 COPDによる呼吸機能障害は、身体活動性の低下や疲れやすさにつながり、ゆくゆくは筋肉の質・量の低下、栄養障害による体重減少を引き起こすなど、フレイルとの親和性が非常に高く、その進展をくい止めなければならない。室氏は、COPDやフレイルの簡易的なスクリーニングに「COPD-Q」「COPD-PS」「簡易フレイル・インデックス」など、診察室でも使える質問票の活用を勧めた。 COPDの受診勧奨を自治体として行っている山村町長は、「ハイリスクの方と治療中断者を特定し、受診勧奨のはがきを対象者に送付することで、受診率を上げることができた」と、実際の対策事例を紹介。 講演を聞いた松嶋氏は、診断後も本数は減ったものの喫煙は続いており、治療も受けていないことを明かした。「フレイルという言葉を今回初めて知ったので、COPDの治療を早く行うことが大事だと思いました。子供もいて、将来寝たきりになると困るので、すぐに受診します」と語った。また、その場でセルフチェックを行い、COPD-PSで5点だったことを踏まえ、「喫煙経験のある方はぜひ自分でチェックして、COPDの可能性がある場合は受診しましょう!」と呼び掛けた。

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デュピルマブ、中等症~重症喘息児の急性増悪を抑制/NEJM

 コントロール不良の中等症~重症喘息児の治療において、標準治療にデュピルマブ(インターロイキン-4受容体のαサブユニットを遮断する完全ヒトモノクローナル抗体)を追加すると、標準治療単独と比較して、急性増悪の発生が減少し、肺機能や喘息コントロールが改善することが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLeonard B. Bacharier氏らが行った「Liberty Asthma VOYAGE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年12月9日号で報告された。追加効果を評価する国際的な第III相試験 研究グループは、コントロール不良の中等症~重症喘息の小児の治療におけるデュピルマブの有効性と安全性の評価を目的に、国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験を実施した(SanofiとRegeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢6~11歳で、Global Initiative for Asthma(GINA)ガイドラインに基づき、コントロール不良の中等症~重症の喘息と診断された患児であった。 被験者は、デュピルマブ(体重≦30kgは100mg、>30kgは200mg)またはプラセボを、2週ごとに52週間、皮下投与する群に無作為に割り付けられた。すべての患児が、一定の用量の標準的な基礎治療を継続した。 主要エンドポイントは、重度の急性増悪の年間発生率。副次エンドポイントは、12週時の気管支拡張薬投与前の予測1秒量の割合(ppFEV1)と、24週時の質問者記入式の喘息管理質問票7(ACQ-7-IA)のスコアのベースラインからの変化などであった。 エンドポイントは、次の2つの主要有効性解析集団で評価された。(1)喘息の表現型が2型炎症(ベースラインの血中好酸球数≧150/mm3または呼気中一酸化窒素濃度≧20ppb)の患者、(2)ベースラインの血中好酸球数≧300/mm3の患者。有害事象プロファイルは許容範囲 408例が登録され、デュピルマブ群に273例、プラセボ群に135例が割り付けられた。2型炎症の集団は、デュピルマブ群236例(平均年齢8.9±1.6歳、男児64.4%)、プラセボ群114例(9.0±1.6歳、68.4%)であり、好酸球数≧300/mm3の集団は、それぞれ175例(8.9±1.6歳、66.3%)および84例(9.0±1.5歳、69.0%)であった。追跡期間中央値は365日だった。 2型炎症の集団における重度急性増悪の補正後年間発生率は、デュピルマブ群が0.31(95%信頼区間[CI]:0.22~0.42)と、プラセボ群の0.75(0.54~1.03)に比べ有意に低かった(デュピルマブ群の相対リスク減少率:59.3%、95%CI:39.5~72.6、p<0.001)。また、好酸球数≧300/mm3の集団でも、重度急性増悪の補正後年間発生率はデュピルマブ群で良好であった(0.24[95%CI:0.16~0.35]vs.0.67[0.47~0.95]、デュピルマブ群の相対リスク減少率:64.7%、95%CI:43.8~77.8、p<0.001)。 ppFEV1のベースラインから12週までの変化の平均値(±SE)は、デュピルマブ群は10.5±1.01ポイントであり、プラセボ群の5.3±1.4ポイントに比し有意に大きく(平均群間差:5.2ポイント、95%CI:2.1~8.3、p<0.001)、肺機能の改善が認められた。この効果は、2型炎症の集団(プラセボ群との最小二乗平均の差:5.2、95%CI:2.1~8.3)と好酸球数≧300/mm3の集団(同5.3、1.8~8.9)でほぼ同程度であった。 24週時におけるACQ-7-IAスコア(減少幅が大きいほど喘息コントロールが良好)のベースラインからの変化の最小二乗平均(±SE)は、2型炎症の集団ではデュピルマブ群は-1.33±0.05、プラセボ群は-1.00±0.07(プラセボ群との最小二乗平均の差:-0.33、95%CI:-0.50~-0.16)、好酸球数≧300/mm3の集団ではそれぞれ-1.34±0.06および-0.88±0.09(同-0.46、-0.67~-0.26)であり、いずれもデュピルマブ群で有意に優れた(双方ともp<0.001)。 52週の試験期間中に、有害事象はデュピルマブ群83.0%、プラセボ群79.9%で発現した。頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(デュピルマブ群18.5%、プラセボ群21.6%)、上気道感染症(12.9%、13.4%)、咽頭炎(8.9%、10.4%)、インフルエンザ(7.4%、9.0%)などであり、注射部位反応による紅斑がそれぞれ12.9%および9.7%で認められた。重篤な有害事象の発現率は両群で同程度だった(4.8%、4.5%)。喘息の増悪による入院が、デュピルマブ群の4例(1.5%)でみられた。 著者は、「この年齢層における生物学的製剤の上乗せ治療に関する無作為化試験はほとんど行われていないが、今回の研究で、デュピルマブは臨床的に意義のある肺機能の改善効果をもたらすとともに、バイオマーカー主導型のアプローチの効用性が明らかとなった」としている。

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小児アレルギーのトリセツ

「小児トリセツシリーズ」始動!アレルギー診療をマスターせよ小児におけるアレルギー疾患は増加の一途をたどっている。今やアレルギー診療は小児医療にとってコモンスキルといえる。しかし、アレルギー診療は外来のなかで話を聞き、診察と鑑別を繰り返し、対応を考えるということを短時間に行わなければならない非常にタフな分野である。専門性の高い食物アレルギーや気管支喘息の長期管理などは専門医にお任せ、という医師も多いだろう。しかし「誰でも、アレルギーは診れる」。本書は専門医ではないけれど、患者に相談されたときに的確に専門医レベルの対応ができるようになるためのマニュアルである。臨床で知りたいことがすぐわかる!「小児感染症のトリセツREMAKE」に続く、第一線・気鋭の単独著者による小児トリセツシリーズがついに始動。「トリセツ」で小児科医療はもっと面白くなる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    小児アレルギーのトリセツ定価3,960円(税込)判型B6変判頁数240頁発行2021年10月監修笠井 正志編集岡藤 郁夫著者田中 裕也電子版でご購入の場合はこちら

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リサンキズマブ、重症喘息への有効性は?第IIa相試験/NEJM

 重症喘息の治療において、抗インターロイキン-23p19モノクローナル抗体リサンキズマブに有益性はなく、プラセボと比較して初回の喘息悪化までの期間が短く、喘息悪化の年間発生率が高いことが、英国・レスター大学のChristopher E. Brightling氏らの検討で示された。研究の詳細は、NEJM誌2021年10月28日号に掲載された。9ヵ国の第IIa相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、重症喘息の成人患者におけるリサンキズマブの有効性と安全性の評価を目的とする24週間の第IIa相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、9ヵ国48施設が参加し、2015年8月~2018年2月の期間に実施された(AbbVieとBoehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢18~75歳、スクリーニングの少なくとも1年前に喘息と診断され、中~高用量の吸入コルチコステロイドと、1種以上の長期管理薬(controller)の投与を受けている患者であった。 被験者は、リサンキズマブ90mgを4週ごとに皮下投与する群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。治療期間は24週で、観察期間は16週であった。 主要エンドポイントは、24週の治療期間中における初回の喘息悪化までの期間とされた。喘息悪化は、(1)ベースラインから2日以上持続する悪化(朝の最大呼気流量[PEF]の30%以上の減少、または24時間におけるレスキュー薬の噴霧回数のベースラインから50%以上の増加[噴霧回数の4回以上の増加に相当])、(2)重度の喘息増悪、(3)5項目喘息コントロール質問票(ACQ-5)のスコア(0~6点、点数が高いほどコントロールが不良)の0.75点以上の増加のいずれかと定義された。初回喘息悪化までの期間:40日vs.86日 214例が登録され、リサンキズマブ群に105例(平均年齢[±SD]54±11歳、女性65.7%)、プラセボ群に109例(52±13歳、58.7%)が割り付けられた。 初回喘息悪化までの期間中央値は、リサンキズマブ群が40日と、プラセボ群の86日に比べ短かった(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.05~2.04、p=0.03)。 また、喘息悪化の年間発生の率比は1.49(95%CI:1.12~1.99)、重度急性増悪の年間発生の率比は1.13(0.75~1.70)であり、いずれもリサンキズマブ群のほうが不良であった。 喀痰を用いたトランスクリプトーム経路解析では、リサンキズマブによって、ナチュラルキラー細胞と細胞傷害性T細胞の活性化に関与する遺伝子、および1型ヘルパーT細胞と17型ヘルパーT細胞の転写因子の活性化に関与する遺伝子が、ダウンレギュレートされたことが示された。 リサンキズマブ療法に関連する安全性の懸念はなく、有害事象および重篤な有害事象の発生は両群で同程度であった。 著者は、「リサンキズマブは喀痰細胞数に影響を及ぼさなかったが、細胞傷害性T細胞やナチュラルキラー細胞を介する気道免疫に関連する遺伝子経路を減弱させた。これらの知見は、喘息治療の標的としてのインターロイキン-23/17型ヘルパーT細胞連関の役割を弱体化するものである」としている。

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中等症~重症喘息へのitepekimabの有効性と安全性~第II相試験/NEJM

 中等症~重症の喘息患者において、抗IL-33モノクローナル抗体itepekimabはプラセボと比較し、喘息コントロール喪失を示すイベントの発生率を低下させ、肺機能を改善することが、米国・National Jewish HealthのMichael E. Wechsler氏らによる第II相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ比較対照試験で示された。itepekimabは、上流のアラーミンであるIL-33を標的とした新規開発中のモノクローナル抗体である。これまで、喘息患者におけるitepekimab単剤療法、あるいはデュピルマブとの併用療法の有効性と安全性は不明であった。NEJM誌2021年10月28日号掲載の報告。itepekimab単剤またはデュピルマブとの併用をプラセボと比較 研究グループは、吸入ステロイド薬と長時間作用性β刺激薬(LABA)の投与を受けている中等症~重症の成人喘息患者296例を、itepekimab(300mg)群、itepekimab+デュピルマブ併用療法(いずれも300mg)群、デュピルマブ(300mg)群、プラセボ群に、1対1対1対1の割合に無作為に割り付け、いずれも2週ごとに12週間皮下投与した。無作為化後、4週時にLABAを中止し、6~9週に吸入ステロイドを漸減した。 主要評価項目は、喘息コントロール喪失(Loss of asthma control:LOAC)を示すイベント(朝の最大呼気流量が2日連続でベースラインから30%以上減少、電子日誌で報告された短時間作用性β2刺激薬の追加吸入が2日連続でベースラインから6回以上増加、全身性ステロイド投与を要した喘息増悪、直近の吸入ステロイドの投与量が4倍以上増加、または喘息による入院または救急外来受診)で、itepekimab群または併用療法群をプラセボ群と比較した。 副次評価項目およびその他の評価項目は、肺機能、喘息コントロール、QOL、タイプ2バイオマーカー、安全性などであった。itepekimab単剤で喘息コントロール喪失のイベント発生率が低下し、肺機能が改善 12週間におけるLOACのイベント発生率は、itepekimab群22%、併用療法群27%、デュピルマブ群19%、プラセボ群41%であった。プラセボ群に対するオッズ比は、itepekimab群が0.42(95%信頼区間[CI]:0.20~0.88、p=0.02)、併用療法群が0.52(0.26~1.06、p=0.07)、デュピルマブ群が0.33(0.15~0.70)であった。 気管支拡張薬使用前の1秒量は、プラセボ群と比較しitepekimab群ならびにデュピルマブ群では増加したが、併用療法群では増加しなかった。itepekimabの投与により、プラセボ群と比較し喘息コントロールとQOLを改善し、平均血中好酸球数が著明に減少した。 有害事象の発現率は、itepekimab群70%、併用療法群70%、デュピルマブ群66%、プラセボ群70%と、4つの治療群で類似していた。

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閉塞性細気管支炎〔BO:Bronchiolitis obliterans〕

1 疾患概要■ 概念・定義閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis obliterans:BO)の用語は、1901年にLangeによって初めて記述されたが、1973年にGosinkらによって瘢痕性の細気管支閉塞を来す病態として疾患概念が確立された。さまざまな病態を背景に、細気管支粘膜下から周辺の線維化・瘢痕化により細気管支内腔が閉塞し、肺野全体に散在性に広がることにより呼吸不全を来す疾患である。■ 疫学閉塞性細気管支炎は、乳幼児から高齢者までの男女に発症する希少疾患である。世界的にも疫学調査研究はなく有病率は不明であるが、わが国における全国調査では、2003年では287例、2011年では477例と報告されている。■ 病因閉塞性細気管支炎の原因として、有毒ガスの吸入、マイコプラズマやウイルス感染、ならびに薬剤との関連が報告されている。また、膠原病や自己免疫疾患への合併の報告が多く、とくに慢性関節リウマチに多い。特殊な例として、肺内で増殖性に広がる神経内分泌細胞の過形成に合併するもの、植物摂取によるもの(アマメシバ)、腫瘍随伴性天疱瘡への合併などその原因は多様である。原因不明の特発性症例の報告はまれであるが存在する。 近年、骨髄移植や心肺移植が盛んになるにつれ閉塞性細気管支炎の合併が報告され、これらの事実から何らかの免疫学的異常を背景に発症するものと考えられる。とくに心肺移植患者の長期予後を左右する重要な因子である。また、造血幹細胞移植においても長期生存移植患者のQOLを著しく悪化させる合併症である。■ 症状1)無症状期病初期には自覚症状や他覚症状がなく、早期の病変をみつけるには、現時点では肺機能検査のみが唯一の手段である。1秒量(FEV1.0)の低下を認めることから、肺移植患者ではFEV1.0とFEF25-75の低下が重症度の指標とされている。2)自覚症状期病変が広がることにより、乾性咳嗽や労作時呼吸困難が出現する。また、気管支喘息のような強制呼気時の連続性副雑音の自覚症状が現れることがある。3)進行期病勢が進むと細気管支閉塞部位より中枢の気管支拡張や繰り返す気道感染、胸腔内圧の上昇による気胸・縦隔気腫などを合併し、呼吸不全が進行する。■ 予後肺病変は不可逆的変化であるため、一般的に予後不良である。しかし、その経過はさまざまであり、(1)急激に発症し、急速に進行するもの、(2)急激に発症し病初期は急速に進行するが、その後安定した状態で肺機能を保つもの、(3)ゆっくりと発症し、慢性の経過で進行していくものがある。肺移植後5年までの閉塞性細気管支炎合併率は50~60%と報告されており、閉塞性細気管支炎発症後の5年生存率は30~40%と不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)自覚症状や身体所見から診断することは困難である。胸部単純X線画像は、ほぼ正常か、わずかに過膨張を示すに過ぎず、CTにおいても病勢が進行しなければ、異常と捉えられる所見は乏しい。高分解能CT(High-resolution CT:HRCT)の吸気相・呼気相での空気捕らえ込み現象(air-trapping)が診断の助けとなる。肺血流シンチにおける多発性陰影欠損を認めることがあり、肺血栓塞栓症との鑑別が問題になる。しかし、同時に肺換気シンチを実施することにより、肺血流シンチと同一部位の多発性陰影欠損を認める。閉塞性細気管支炎の確定診断には組織診断が必要であるが、肺機能が悪く、外科的肺生検に適さない症例も多い。また、病変が斑紋状分布であることや、病変部位を画像で捉える手段がないことから、不十分な標本のサンプリングや切り出しでは、外科的肺生検でも時に組織診断ができないことがあるので注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性細気管支炎の確立された治療法はなく、治療の目標は、細気管支での炎症を抑制し安定した状態に保つことである。■ 薬物療法骨髄移植や心肺移植、膠原病などの免疫学的背景を有する閉塞性細気管支炎に対しては、ステロイド薬や免疫抑制剤による免疫抑制強化が行われる。呼吸不全に対しては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に準じた治療が選択され、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド薬(ICS)などが、自覚症状に合わせて用いられる。■ 在宅酸素療法労作時の低酸素血症を来たす場合には、慢性呼吸不全に対する保険適用に準じて在宅酸素療法が導入される。■ 手術療法内科的な治療にもかかわらず低酸素血症、高炭酸ガス血症、繰り返す気胸、呼吸機能障害が進行する場合で、年齢が55歳未満(両肺移植)、精神的に安定しており、本人と家族を含め移植医療を支える環境と協力体制が期待できる場合に肺移植の適応を検討する。4 今後の展望閉塞性細気管支炎は希少疾患であるが、骨髄移植や心肺移植をはじめ、移植医療が盛んになるにつれて発症の増加が予想される。また、自己免疫疾患や膠原病への合併症例や特発性症例の診断を確立していく上でも、今後の臨床情報の集積と早期診断・治療・予防に関する前向き研究を期待したい。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 閉塞性細気管支炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業(びまん性肺疾患に関する調査研究班)(医療従事者向けのまとまった情報)1)長谷川好規. 日内会誌. 2011;100:772-776.2)Barker AF, et al. N Engl J Med. 2014;370:1820-1828.3)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」編. 難治性びまん性肺疾患診療の手引き.南江堂:2017.公開履歴初回2021年11月2日

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統合失調症における呼吸器系疾患の有病率~メタ解析

 統合失調症患者は、死亡リスクが高く、その主な原因は呼吸器系疾患であるにもかかわらず、有病率などの調査は十分に行われていない。オーストラリア・クイーンズランド大学のShuichi Suetani氏らは、統合失調症患者における呼吸器系疾患の有病率を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Schizophrenia Research誌オンライン版2021年9月11日号の報告。統合失調症患者の呼吸器系疾患の有病率は有意に高かった 2020年4月27日までに公表された統合失調症患者(可能であれば対照群を含む)の呼吸器系疾患について調査した研究を、主要な電子データベースより検索した。分析では、ランダム効果メタ解析を実施した。 統合失調症患者における呼吸器系疾患の有病率を分析した主な結果は以下のとおり。・引用文献1,569件中21件をメタ解析に含めた。対象数は、統合失調症患者61万9,214例、対照群5,215万9,551例であった。・統合失調症患者は、対照群と比較し、COPD(オッズ比[OR]:1.82、95%CI:1.28~2.57)、喘息(OR:1.70、95%CI:1.02~2.83)、肺炎(OR:2.62、95%CI:1.10~6.23)の発症率が有意に高かった。・統合失調症患者の主な呼吸器系疾患の有病率は、以下のとおりであった。 ●COPD:7.7%(95%CI:4.0~14.4) ●喘息:7.5%(95%CI:4.9~11.3) ●肺炎:10.3%(95%CI:5.4~18.6) ●結核:0.3%(95%CI:0.1~0.8)・出版バイアスで調整した後、統合失調症患者のCOPD有病率は、19.9%(95%CI:9.6~36.7)まで増加した。 著者らは「今回調査した呼吸器系疾患の有病率は、一般集団よりも統合失調症患者において有意に高かった。統合失調症患者の死亡リスクを軽減するためにも、呼吸器系疾患の予防やマネジメントの改善に焦点を当てる必要がある」としている。

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重症化リスクのある外来COVID-19に対し吸入ステロイドであるブデソニドが症状回復期間を3日短縮(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではエビデンスの乏しかった2020年初頭からサイトカインストームによる影響がいわれていたことや、COVID-19の重症例のCT所見では気管支拡張を伴うびまん性すりガラス陰影、いわゆるDAD(diffuse alveolar damage)パターンを呈していたことから実臨床ではステロイドによる加療を行っていた。2020年7月に英国から報告された大規模多施設ランダム化オープンラベル試験である『RECOVERY試験』のpreliminary reportが報告されてからCOVID-19の治療として適切にステロイド治療が使用されることとなった。『RECOVERY試験』では、デキサメタゾン6mgを10日間投与した群が標準治療群と比較して試験登録後28日での死亡率を有意に減少(21.6% vs.24.6%)させた(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704. )。とくに人工呼吸管理を要した症例でデキサメタゾン投与群の死亡率が29.0%と、対照群の死亡率40.7%と比較して高い効果を認めた。ただし試験登録時に酸素を必要としなかった群では予後改善効果が認められず、実際の現場では酸素投与が必要な「中等症II」以上のCOVID-19に対して、デキサメタゾン6mgあるいは同力価のステロイド加療を行っている。 また日本感染症学会に「COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例」のケースシリーズが報告されたことから、吸入ステロイドであるシクレソニド(商品名:オルベスコ®)がCOVID-19の肺障害に有効である可能性が期待され、COVID-19に対する吸入ステロイドが話題となった。シクレソニドはin vitroで抗ウイルス薬であるロピナビルと同等以上のウイルス増殖防止効果を示していたことからその効果は期待されていたが、前述のケースシリーズを受けて厚生労働科学研究として本邦で行われたCOVID-19に対するシクレソニド吸入の有効性および安全性を検討した多施設共同第II相試験である『RACCO試験』でその効果は否定的という結果だった(国立国際医療研究センター 吸入ステロイド薬シクレソニドのCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について. 2020年12月23日)。本試験は90例の肺炎のない軽症COVID-19症例に対して、シクレソニド吸入群41例と対症療法群48例に割り付け肺炎の増悪率を評価した研究であるが、シクレソニド吸入群の肺炎増悪率が39%であり、対症療法群の19%と比較しリスク差0.20、リスク比2.08と有意差をもってシクレソニド吸入群の肺炎増悪率が高かったと結論付けられた。以降、無症状や軽症のCOVID-19に対するシクレソニド吸入は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版』においても推奨されていない。 その他の吸入ステロイド薬としては、本論評でも取り上げるブデソニド吸入薬(商品名:パルミコート®)のCOVID-19に対する有効性が示唆されている。英国のオックスフォードシャーで行われた多施設共同オープンラベル第II相試験『STOIC試験』では、酸素が不要で入院を必要としない軽症COVID-19症例を対象にブデソニド吸入の効果が検証された(Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021;9:763-772. )。本研究ではper-protocol集団およびITT集団におけるCOVID-19による救急受診や入院、自己申告での症状の回復までの日数、解熱薬が必要な日数などが評価された。結果、ブデソニド吸入群が通常治療群と比較して有意差をもってCOVID-19関連受診を低下(per-protocol集団:1% vs.14%、ITT集団:3% vs.15%)、症状の回復までの日数の短縮(7日vs.8日)、解熱剤が必要な日数の割合の減少(27% vs.50%)を認める結果であった。 本論評で取り上げた英国のオックスフォード大学Yu氏らの論文『PRINCIPLE試験』では、65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4,700例を対象に行われた。結果は吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を通常治療群と比較して2.94日短縮した、とのことであった。本研究は英国のプライマリケア施設で実施され、ブデソニド吸入群への割り付けは2020年11月27日~2021日3月31日に行われた。 4,700例の被検者は通常治療群1,988例、通常治療+ブデソニド吸入群1,073例、通常治療+その他の治療群1,639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し、最大14日間投与するという治療で、喘息でいう高用量の吸入ステロイド用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが、通常治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については通常治療群8.8%、ブデソニド吸入群6.8%と2ポイントの低下を認めたが、優越性閾値を満たさない結果であった。 今までの吸入ステロイドの研究では主に明らかな肺炎のない症例や外来で管理できる症例に限った報告がほとんどであり、前述の『STOIC試験』においても酸素化の保たれている症例が対照となっている。本研究ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症を有する症例が対照となっており、高リスク群に対する効果が示されたことは大変期待できる結果であった考えることができる。ただしCOPDに対する吸入ステロイドは新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ、COVID-19の感染予防に効果を示す(Finney L, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;147:510-519. )ことがいわれており、本研究でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。そして吸入薬であり「タービュヘイラー」というデバイスを用いてブデソニドを投与する必要がある特性上、呼吸促拍している症例や人工呼吸管理がなされている症例に対してはこの治療が困難であることは言うまでもない。 また心配事として、重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるという報告がある(Vogelmeier C, et al. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.、Crim C, et al. Ann Am Thorac Soc. 2015;12:27-34. )ことである。この論評で取り上げたYu氏らの論文では重篤な有害事象としてブデソニド吸入群で肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が有害事象として報告されており治療薬とはまったく関係ないものとされ、肺炎リスクの上昇は取り上げられていない。ただもともと吸入ステロイド薬であるブデソニドは、気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPDや増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり、ステロイドの煩雑な使用は吸入剤とはいえ呼吸器内科医としては一抹の不安は拭うことができない。 心配事の2つ目として吸入薬の適切な使用やアドヒアランスの面が挙げられる。この『PRINCIPLE試験』で用いられているブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入、最大14日間であるが、症状の乏しいCOVID-19症例に、しかも普段吸入薬を使用していない症例に対しての治療であるので実臨床で治療薬が適切に使用できるかは考えるところがある。COVID-19症例や発熱症例に対して対面で時間をかけて吸入指導を行うことは非現実的なので、紙面やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に治療選択肢は限られることになるであろう。 最後に本研究が評価されて吸入ステロイドであるブデソニドがコロナの治療薬として承認されたとしても、その適正使用に関しては慎重に行うべきであると考える。日本感染症学会に前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も、一部メディアで大々的に紹介され、一時的に本邦でもCOVID-19の症例や発熱症例に幅広く処方された期間がある。その期間に薬局からシクレソニドがなくなり、以前から喘息の治療で使用していた患者に処方ができないケースが散見されたことは、多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。COVID-19の治療選択肢として検討されることは重要であるが、本来吸入ステロイドを処方すべき気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことは絶対に避けなければいけない。

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atogepant予防的投与で、片頭痛日数が減少/NEJM

 片頭痛の予防治療において、小分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体作動薬atogepantの1日1回経口投与はプラセボと比較して、12週間の片頭痛日数および頭痛日数を減少させ、片頭痛急性期治療薬の使用日数やQOLも良好であり、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・MedStar Georgetown University HospitalのJessica Ailani氏らが実施した「ADVANCE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年8月19日号に掲載された。3用量を評価する米国の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、atogepantの3つの用量の1日1回経口投与の有効性と安全性の評価を目的とする第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年12月~2020年6月の期間に、米国の128施設で患者登録が行われた(Allerganの助成を受けた)。 対象は、年齢18~80歳、初回受診前の3ヵ月間に片頭痛が毎月4~14日発現し、予防治療の対象として適切と見なされた患者であった。また、参加者は、前兆の有無を問わず片頭痛罹患期間が1年以上で、発症年齢が50歳未満とされた。被験者は、atogepant 10mg、同30mg、同60mgを12週間、1日1回経口投与する群またはプラセボ群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 910例(atogepant 10mg群222例、同30mg群230例、同60mg群235例、プラセボ群223例)が登録され、このうち安全性の評価に902例、有効性の評価には873例(修正intention-to-treat[mITT]集団)が含まれた。805例(88.5%)が試験を完了した。 安全性評価集団の平均年齢は41.6歳(範囲 18~73歳)、多くが女性(88.8%)であり、平均BMIは30.6、過去3ヵ月間における片頭痛発現の月平均日数は7.4日だった。スクリーニング時に、99.3%が片頭痛急性期治療薬の使用を、70.3%が過去に片頭痛の予防治療を行ったことを報告した。片頭痛日数/月がプラセボより1.2~1.7日減少 mITT集団の各群におけるベースライン時の片頭痛発現の月平均日数は7.5~7.9日であった。主要エンドポイントである「ベースラインから12週間までの1ヵ月当たりの平均片頭痛日数の変化」は、atogepant 10mg群が-3.7日、30mg群が-3.9日、60mg群が-4.2日であり、プラセボ群は-2.5日であった。ベースラインからの変化のプラセボ群との平均差は、atogepant 10mg群が-1.2日(95%信頼区間[CI]:-1.8~-0.6)、30mg群が-1.4日(-1.9~-0.8)、60mg群は-1.7日(-2.3~-1.2)だった(プラセボ群との比較でいずれもp<0.001)。 副次エンドポイントに関しては、「1ヵ月当たりの頭痛日数」「1ヵ月当たりの片頭痛急性期治療薬の使用日数」「1ヵ月当たりの片頭痛日数の3ヵ月間の平均値がベースラインから50%以上低下した患者の割合」「片頭痛特異的QOL質問票(MSQ ver 2.1)の役割機能制限ドメイン」の結果が、いずれもatogepantの3つの用量群でプラセボ群に比べ有意に良好であった(すべてp<0.001)。また、「片頭痛活動障害・ダイアリー指標(AIM-D)の日常活動実施能力ドメインのスコア」と「AIM-Dの身体障害ドメインのスコア」は、10mg群ではプラセボ群と差がなかったものの、30mg群と60mg群は有意に優れた。 有害事象は、atogepant群では52.2~53.7%に発現し、プラセボ群では56.8%にみられた。atogepant群で最も頻度の高い有害事象は、便秘(3用量群で6.9~7.7%)、悪心(4.4~6.1%)、上気道感染症(3.9~5.7%)であった。atogepant群で認められた重篤な有害事象は、10mg群の気管支喘息発作1例および視神経炎1例であった。 著者は、「片頭痛予防におけるatogepantの効果と安全性を明らかにするには、より長期で大規模な臨床試験が求められる」としている。

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ビソプロロール錠0.625mg供給不足に伴う対応/日本心不全学会

 16日、ビソプロロール錠の供給が多くの地域で不足する事態となっていることを受け、日本心不全学会が提言を公表した。本剤は、左室駆出率が低下した心不全の標準治療薬として重要な役割を果たすものであり、供給が安定するまでの間の対応策として以下が提案された。 (1)供給不足に伴いβ遮断薬の投薬を中止することは避ける。(2)ビソプロロール錠0.625mgを処方する場合、できる限り長期処方を避ける。(3)ビソプロロール錠2.5mgの供給がある場合は、用量に応じて0.25錠(0.625mg)あるいは0.5錠(1.25mg)として同用量を継続する。(4)投与継続が困難な場合、以下を参考にカルベジロール錠へ切り替える。 ただし、下記の対比を参考に気管支喘息/肝障害の合併等の有無には注意を要する。・選択性:ビソプロロールはβ1選択性(β1:β2=75:1)、カルベジロールはαβ(β:非選択性)・陰性変力作用:ビソプロロール>カルベジロール※β1選択性および inverse agonism 作用の相違による・陰性変時作用:ビソプロロール>カルベジロール・気管支喘息:ビソプロロールは慎重投与、カルベジロールは禁忌・重度末梢循環障害:ビソプロロールは禁忌、カルベジロールは慎重投与・排泄:ビソプロロールは腎排泄(中等度以上の腎機能障害で血中濃度上昇あり)、カルベジロールは胆汁排泄型(腎機能障害の影響が少ない)・最大用量:ビソプロロールは5mg/日、カルベジロールは20mg/日・用量対比:ビソプロロール0.625mg/日⇔カルベジロール2.5mg/日・半減期(健康成人):ビソプロロールは8.6時間(5mg単回投与)、カルベジロールは7.72時間(20mg単回投与)(5)ビソノテープへの切り替えにおいては、心不全には適応がなく、本態性高血圧および頻脈性心房細動のみの適応であり、心不全治療薬としてそのまま切り替えることは推奨できない。 ただし、適応があり切り替える場合の用量の対比は以下のとおり。・ビソプロロール錠0.625mg/日⇒ビソノテープ1mg/日・ビソプロロール錠1.25mg/日⇒ビソノテープ2mg/日・ビソプロロール錠2.5mg/日⇒ビソノテープ4mg/日・ビソプロロール錠5mg/日⇒ビソノテープ8mg/日 なお、7月には日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会から、エルデカルシトールおよびアルファカルシドール供給不足に伴う骨粗鬆症患者への対応に関して、同様の提言が発出されている。

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中等症~重症喘息、3剤併用vs.2剤併用/JAMA

 中等症~重症の小児(6~18歳)および成人喘息患者において、吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)に長時間作用型抗コリン薬(LAMA)を併用する3剤併用療法は、2剤併用療法(ICS+LABA)と比較して重度増悪の減少ならびに喘息コントロールの中等度改善と有意に関連し、QOLや死亡に差は認められなかった。カナダ・マックマスター大学のLisa H. Y. Kim氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。中等症~重症の喘息患者に対する3剤併用療法の有益性と有害性は、これまで不明であった。JAMA誌オンライン版2021年5月19日号掲載の報告。無作為化試験20件、合計約1万2,000例について解析 研究グループは、MEDLINE、Embase、CENTRAL、ICTRP、FDA、EMAの2017年11月~2020年12月8日のデータベースから、中等症~重症喘息患者を対象に3剤併用療法(ICS、LABA、LAMA)と2剤併用療法(ICS、LABA)を比較した無作為化臨床試験を、言語を問わず検索した。 2人の研究者が独立して選択し、2人の評価者が独立してデータを抽出しバイアスリスクを評価した。メタ解析には、患者個々の増悪データを含むランダム効果モデルを用い、GRADEに従ってエビデンスの質を評価した。 主要評価項目は、重度増悪、喘息コントロール(7項目の喘息コントロール質問票[ACQ-7]で評価、各項目スコアは0[完全にコントロール]~6[重度のコントロール不良]、最小重要差は0.5)、生活の質(喘息関連QOL質問票[AQLQ]で評価、スコアは1[重度の障害]~7[障害なし]、最小重要差は0.5)、死亡率および有害事象とした。 3種類のLAMAを使用した20件の無作為化臨床試験が解析に組み込まれた。解析対象は、小児および成人喘息患者計1万1,894例(平均年齢52歳、範囲9~71歳、女性57.7%)であった。3剤併用療法により、重度増悪が減少し喘息コントロールが中等度改善 エビデンスの質が高い臨床試験による3剤併用療法vs.2剤併用療法の比較において、重度増悪リスクの減少(9試験[9,932例]、22.7% vs.27.4%、リスク比:0.83[95%信頼区間[CI]:0.77~0.90])、および喘息コントロールの改善(14試験[1万1,230例]、標準平均差[SMD]:-0.06[95%CI:-0.10~-0.02]、ACQ-7の平均差:-0.04[95%CI:-0.07.~-0.01])が有意であることが示された。 一方、喘息関連QOL(7試験[5,247例]、SMD:0.05[95%CI:-0.03~0.13]、AQLQ平均差:0.05[95%CI:-0.03~0.13]、エビデンスの質:中)、ならびに死亡(17試験[1万1,595例]、0.12% vs.0.12%、リスク比:0.96[95%CI:0.33~2.75]、エビデンスの質:高)については、有意差はなかった。 3剤併用療法は、口喝および発声障害の増加と有意に関連していたが(10試験[7,395例]、3.0% vs.1.8%、リスク比:1.65[95%CI:1.14~2.38]、エビデンスの質:高)、治療関連および重篤な有害事象は両群で有意差はなかった(エビデンスの質:中)。

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