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脊髄性筋萎縮症、治療の進歩と新生児スクリーニング

 2022年6月20日、「マススクリーニングが変える脊髄性筋萎縮症(SMA)の未来」と題して、都医学研都民講座が開催され、齋藤 加代子氏(東京女子医科大学 ゲノム診療科 特任教授)から、SMAの概要と治療の進歩、新生児スクリーニングの必要性について、水野 朋子氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)から、新生児スクリーニングの現状・課題について講演が行われた。小児科に求められる役割 SMAは、脊髄の運動神経細胞の変性により、全身の筋肉が萎縮し、筋力低下、嚥下障害、呼吸障害などを来す進行性の疾患である。病型は、胎児期に発症する0型、6ヵ月ごろまでに発症するI型、18ヵ月ごろまでに発症するII型、それ以降に発症するIII型、成人期に発症するIV型に分類される(0型とIV型はまれ)。I型は、最重症で進行が速く、気管切開と人工呼吸器なしでは2歳までに90%以上が死亡するとされている。II型は、成長に伴い脊柱変形や関節拘縮がみられるようになり、やがて車いすでの生活を余儀なくされる。比較的軽症なIII型であっても、X脚や外反足などの症状がみられ、転びやすくなり、多くの患者さんで車いすが必要となるケースが多いという。発症年齢は、大部分が小児期であり、生後2ヵ月前後までに20%、2歳未満までに82.7%、16歳未満までに97%が発症することが全国調査の結果から明らかになっており、齋藤氏は、「SMAでは、小児科が診断において重要な役割を担う」と述べた。進歩した治療、開始のタイミングがカギ SMAは、SMN1遺伝子の変異によって引き起こされることがわかっている。このSMNを標的とした薬剤の有効性が相次いで報告され、現在日本国内では3剤(ヌシネルセン、オナセムノゲン、リスジプラム)が使用可能となっている。ヌシネルセンは、アンチセンス核酸医薬(SMN1とよく似た構造を持つ遺伝子であるSMN2をスプライシング修飾)であり、全年齢に対して髄腔内投与が可能である。オナセムノゲンは、遺伝子治療薬(アデノ随伴ウイルスを利用してSMN遺伝子を導入)であり、2歳未満に対して静脈点滴、リスジプラムは、低分子薬(SMN2をスプライシング修飾)であり、生後2ヵ月以上に対して経口投与が可能な薬剤である。このうち、ヌシネルセンとオナセムノゲンは、未発症の投与が可能となっている。 SMAに対する治療効果は、治療を開始した時期と患者さんに残されている運動ニューロンの割合に依存するといわれており、治療は早ければ早いほど効果が高く、発症前における有効性も報告されている。一方で、症状が進んだ状態で投与しても効果が限定的ともいわれている。こういったことから「可能な限り早期に診断し、早期に治療を開始することが極めて重要、“Time is Neuron”だ」と齋藤氏は訴えた。早期発見、早期治療のため、新生児スクリーニングを SMAのI型は、発症後神経の変性が急激に進行するため、本来であれば、生後1週間以内に治療を開始することがベストだが、一般診療では、生後6ヵ月ごろ(運動ニューロンが急速に消失し、ほぼ残されていない状態)に診断されることが多いという。これは、SMAが希少疾患であるために、医療者であっても認識が低いことや、病初期は症状がわかりにくく、とくにII型やIII型は、呼吸障害がなく緩徐に進行するため経過観察になりやすいことなどが理由として挙げられる。こうしたことからも、「新生児スクリーニングを行い、早期発見を目指すことが重要である」と、水野氏は強調した。 新生児スクリーニングは、先天性の疾患を早期に発見し、早期管理・治療することで発症を防ぎ、正常な成長発達を獲得することを目的としている。現在、米国では新生児の95%がSMAの新生児スクリーニングを受け、治療が受けられるようになっているが、日本ではまだ一部の自治体しか実施できていないのが現状であるという。SMAの新生児スクリーニングを普及させるためには、現行のスクリーニング検査に組み込む必要があるため、各自治体や検査機関などへの協力依頼や、分娩施設への協力依頼、産科医、小児科医への周知と理解、検査費用の公費負担化、診断後のフォロー体制などの課題が挙げられている。これに対し、日本小児神経学会では、SMAの新生児スクリーニング検討ワーキンググループを立ち上げ、対策を講じている。 水野氏は、「SMAは、適切なスクリーニング検査や確定診断方法、目覚ましい進歩を遂げた治療法により、早期発見、早期治療が可能な環境が整いつつある。だからこそ、診断後の疾患・治療説明や遺伝カウンセリング、新生児スクリーニングの普及といった課題を各団体と協力して解決していくことが重要だ」と述べ、講演を締めくくった。

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世界の健康維持に必要な人的資源、医師は640万人不足か/Lancet

 2019年の世界の医師密度は人口1万人当たり約17人、看護師・助産師の密度は約39人と、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC:すべての人が適切な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)の達成に要する、健康のための人的資源(HRH)としては不十分で、医師は640万人、看護師・助産師は3,060万人が足りておらず、今後、世界の多くの地域で保健人材の拡充を進める必要があることが、米国・ワシントン大学のAnnie Haakenstad氏らGBD 2019 Human Resources for Health Collaboratorsの調査で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年5月23日号で報告された。GBD研究の一環の系統的解析 研究グループは、比較可能で標準化されたデータ源を用いて世界のHRH密度を推定し、HRHの中核となる最小限の保健人材とUHCの有効なカバレッジの遂行能力との関係を評価する目的で、「世界の疾病負担(GBD)研究」の一環として系統的な解析を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成を受けた)。 国際労働機関(ILO)とGlobal Health Data Exchangeのデータベースを用いて、労働力調査から1,404ヵ国年のデータと、国勢調査から69ヵ国年のデータが特定され、医療関連の雇用に関する詳細なマイクロデータが収集された。また、世界保健機関(WHO)のNational Health Workforce Accountsから2,950ヵ国年のデータが同定された。 すべての職業コーディングシステムのデータを、国際標準職業分類1988(ISCO-88)にマッピングすることで、全時系列で医療従事者の16項目のカテゴリーについて、その密度の推定が可能となった。 204の国と地域のうち196(GBDの7つの広域圏と21の地域を網羅)の1990~2019年のデータを用い、時空間ガウス過程回帰(ST-GPR)を適用することで、1990~2019年のすべての国と地域のHRH密度がモデル化された。 また、UHCの有効カバレッジインデックスと、持続可能な開発目標(SDG)の指針3.c.1のHRHにかかわる保健人材の4つのカテゴリー(医師、看護師・助産師、歯科医師等[歯科医、歯科衛生士等(dental assistants)]、薬剤師等[薬剤師、pharmaceutical assistants])の密度との関係が、確率的フロンティアメタ回帰(SFM)でモデル化された。 UHCの有効カバレッジインデックスに関して、特定の目標の達成(100のうち80)に要する保健人材の最小限の密度の閾値が同定され、これらの最小閾値に関して国ごとの保健人材の不足分が定量化された。過小評価の可能性を考慮 2019年に、世界には1億400万人(95%不確実性区間[UI]:8,350万~1億2,800万)の保健人材が存在し、このうち医師が1,280万人(970万~1,660万)、看護師・助産師が2,980万人(2,330万~3,770万)、歯科医師等が460万人(360万~600万)、薬剤師等は520万人(400万~670万)であった。 2019年の世界の医師密度は、人口1万人当たり平均16.7人(95%UI:12.6~21.6)で、看護師・助産師は1万人当たり38.6人(30.1~48.8)であった。日本は人口1万人当たり、それぞれ23.5人(17.8~30.1)および119.2人(94.7~148.8)で、高所得国(それぞれ33.4人[26.9~41.0]および114.9人[94.7~137.7])の中では医師密度が低かった。 GBDの7つの広域圏のうち、サハラ以南のアフリカ(人口1万人当たりの医師密度2.9人[95%UI:2.1~4.0]、看護師・助産師密度18.3人[13.6~24.0])、南アジア(6.5人[4.8~8.5]、9.7人[7.3~12.8])、北アフリカ/中東(10.8人[8.0~14.3]、25.8人[19.6~33.5])でHRH密度が低かった。 UHC有効カバレッジインデックスの100のうち80の目標を達成するのに要する最小限の保健人材は、人口1万人当たり、医師が20.7人、看護師・助産師が70.6人、歯科医師等が8.2人、薬剤師等は9.4人であった。2019年に、この最小限の閾値の達成に不足していた保健人材数は各国の合計で、医師が640万人、看護師・助産師が3,060万人、歯科医師等が330万人、薬剤師等は290万人だった。 著者は、「中核となる保健人材の最小限の閾値は、人的資源を最も効率的にUHCの達成に結び付ける保健システムを基準としているため、実際のHRHの不足は推定よりも大きい可能性がある。この過小評価の可能性を考慮すると、UHCの有効カバレッジを向上させるには、多くの地域で保健人材の拡充を進める必要がある」としている。

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口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第10回

第10回 口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置《解説》今回は幸いキズモンスターの発生前に正しい処置をすることができました。詳細は後述しますが、歯牙損傷がある場合は先に歯科受診を勧めることもあります。口腔内の傷について、食物が残留しやすい場所であることを考えると、目安として2cm以上の創は縫合を検討しましょう。2cm以下の場合、止血が得られていれば自然治癒が期待できます。それでは、部位による処置について簡単に解説していきます。(1)舌損傷浅い創でも出血が持続することがあります。粘膜と筋層を大きめに4−0、5−0の吸収糸で緩めに縫合しましょう。縫合糸を締め込むと舌浮腫になり、断裂や壊死の原因となります。(2)頬粘膜損傷必ず耳下腺管、顔面神経損傷の有無と、異物の有無を確認しましょう。耳下腺管の損傷を疑う所見自覚症状に乏しいとしても、創部からの唾液とおぼしき滲出液を持続的に見て、滲出液のアミラーゼ値を調べて高値であるかどうかを確認します。顔面神経の損傷を疑う所見顔面神経頬枝は耳下腺管とほぼ平行に走行しています。口角や上口唇を引き上げる動作を担っており、損傷している場合は口唇が下垂して鼻唇溝が消失したり、口笛を吹くように口をすぼめたときに左右差があったりするので、確認しましょう。上記を疑う場合は可及的速やかに形成外科へ紹介すべきです。粘膜のみの損傷であれば4−0、5−0の撚り糸の吸収糸を大きめにかけて最小限の縫合を行います。貫通創の場合は、筋層を含む皮下組織と表皮を縫合し、口腔内はまばらに縫合しましょう。縫合時に耳下腺の開口部(乳頭部)を損傷しないように注意しましょう(下図参照)。硬口蓋、軟口蓋損傷は上皮化良好な場合が多いです。口蓋刺創の場合、外見上の傷はわずかでも頭蓋内などに達している可能性を常に念頭に置く必要があります。図:耳下腺周囲の解剖図(3)歯牙損傷欠けたり抜けたりした歯がある場合は、捨てずに元の場所に整復した後、隣接歯牙とワイヤーなどで応急的な固定処置を行っておき、歯科処置を依頼しましょう。受診相談時に歯牙損傷を疑う場合は、その時点で歯科のある病院を勧めるのが良いでしょう。永久歯が完全脱臼した場合、予後は歯槽骨外に置かれていた条件と時間に直接相関します。乳歯が脱落した場合、発育中の後継永久歯が損傷される危険性があれば再植はしないのですが、判断は歯科口腔外科でしてもらいましょう。脱落歯は保存溶液に入れて、できるだけ早く歯科口腔外科を受診してもらいましょう!保存溶液は、望ましい順に、1.移植臓器輸送用溶液2.細胞培養用培地3.冷たいミルク(ロングライフミルクや低脂肪乳を除く)4.生理食塩水となっています1)。参考1)日本外傷歯学会. 歯の外傷治療ガイドライン 改訂版. 2012.波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.Frank H. Netter著, 相磯 貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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第101回 「ダヴィンチ」操作ミスで大動脈損傷、患者死亡/吹田市民病院

<先週の動き>1.「ダヴィンチ」操作ミスで大動脈損傷、患者死亡/吹田市民病院2.デルタ株による影響で2021年は超過死亡が発生か/厚労省3.日医、次期会長選に中川氏は不出馬、松本常任理事が有力候補か4.かかりつけ医制度の整備などを骨太2022に記載へ/内閣府5.過去10年で勤務医15%増、若手美容外科医が増加傾向/日医総研6.臓器移植提供体制の整備進み、移植希望登録者数も増加傾向/厚労省1.「ダヴィンチ」操作ミスで大動脈損傷、患者死亡/吹田市民病院大阪府・吹田市民病院は19日、同院にて実施されたロボット手術後に患者が死亡したことを明らかにした。同院によると、2020年10月27日に手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った60代男性の肺がんの内視鏡手術中に、外科医が誤って胸部大動脈を損傷したため大量出血し、患者は同年11月13日に低酸素脳症で死亡した。病院側は遺族に対しミスを認め、謝罪して和解金を支払い今年1月に示談が成立。再発防止策として、手術チームの再教育など医療安全のために体制強化に取り組むとしている。(参考)ロボット手術で患者死亡、外科医が遠隔操作を誤り大動脈損傷(読売新聞)市立吹田市民病院 手術中の医療ミスで患者死亡 遺族と和解(NHK)2.デルタ株による影響で2021年は超過死亡が発生か/厚労省厚生労働省の研究班による分析で、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年は国内の全死者数が予測よりも少なかった一方で、デルタ株などで大規模な感染がみられた21年は死者数が予測よりも多かったことが明らかになった。研究班は、例年に比べて死者数がどれほど増えたかの指標である「超過死亡」を、47都道府県で1週間ごとに算出して公開している。先月掲載されたデータによると、2020年は例年よりも死者が約6,000~5万人を下回る「過少死亡」を記録していたが、2021年は約1~6万の超過死亡がみられた。時期と地域別にみると、第4波の時期には関西で、第5波では首都圏で多かった。(参考)2021年の国内死者、想定超える 新型コロナによる医療逼迫影響か(朝日新聞)日本の超過および過少死亡数ダッシュボード(国立感染症研究所)3.日医、次期会長選に中川氏は不出馬、松本常任理事が有力候補か日本医師会の会長選が5月20日に公示された。立候補は6月4日に締め切られる。会長選は6月25日に予定され、当初、中川 俊男会長は再選を目指していたが、支持拡大が見込めないと考え、出馬を断念したと見られる。中川会長に対しては、2022年度診療報酬改定でリフィル処方箋の導入が決まるなど、反対していた開業医などから批判が集まっていた。有力な候補として、常任理事の松本 吉郎氏が出馬すると見られており、24日にも立候補が表明される見込み。松本氏は浜松医科大学を卒業した後、1988年には松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長を務め、2016年6月から日本医師会の常任理事となっている。(参考)日医会長、求心力失う 2期目立候補断念 「言行不一致」高まる批判 医療費圧縮容認、反発も(毎日新聞)日本医師会長選、中川会長が不出馬の意向 松本常任理事が有力候補に(朝日新聞)日医会長選 松本吉郎常任理事が24日に立候補で決意表明へ 副会長候補の茂松氏、角田氏、猪口氏も同席(ミクスオンライン)4.かかりつけ医制度の整備などを骨太2022に記載へ/内閣府17日、「第2回 全世代型社会保障構築本部」が内閣府で開催され、議論の中間整理が行われた内容が公表された。案には、厚生年金や健康保険の加入対象を広げる「勤労者皆保険」の実現、育児休業制度の推進などが盛り込まれているほか、今回のコロナ禍により、かかりつけ医機能などの地域医療の機能が十分に作動せず総合病院に大きな負荷がかかったため、かかりつけ医制度の整備を含め、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制の改革を求めている。政府はこの案を盛り込み、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を6月上旬の閣議決定を目指す。(参考)全世代型社会保障構築会議が議論の中間整理示す(Economic News)かかりつけ医機能の制度整備、骨太2022に記載へ 全世代型社会保障構築会議が中間報告で明記(CB news)全世代型社会保障構築会議 議論の中間整理(内閣官房)5.過去10年で勤務医15%増、若手美容外科医が増加傾向/日医総研日医総研は、厚労省が2年ごとにまとめる「医師・歯科医師・薬剤師統計」を基に、2010~2020年にかけての医師数の推移をまとめたリサーチ・レポートを公表した。これによれば、医学部入学定員は2008年の7,793人から2022年度の9,374人まで増加しており、増えた医師数のうちの8割は病院で働いていると考えられる。一方、診療所の医師は若干増加したのみで、10年間で数がほぼ変わらないまま年齢が上がっていた。診療科別では、内科・外科の医師が減少し、専門分化した臓器別の内科・外科が増えていた。また、若手医師では小児科を専門とする医師が減少し、形成外科・美容外科が増加する傾向が見られた。(参考)外科医が10年間で2割超の減、日医総研 病院・診療所の医師は15%増(CB news)医師養成数増加後の医師数の変化について(日医総研)令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚労省)6.臓器移植提供体制の整備進み、移植希望登録者数も増加傾向/厚労省厚労省は、「臓器移植の実施状況等に関する報告書」を公表した。臓器提供を行うために必要な体制を整えている施設数は全国で449施設(2022年3月31日現在)と前年度に比べて13施設増加しており、新型コロナウイルス流行下であっても、移植医療を行うことができる体制整備が進められている。また、移植希望登録者数も併せて掲載されているが、全国で心臓917名(前年度921名)、肺489名(前年度472名)など、前年度に比べて増加傾向を見せている。(参考)臓器提供体制整備、前年比13施設増の449施設 厚労省が報告書を公表(CB news)臓器移植の実施状況等に関する報告書(厚労省)

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audible(オーディブル)について【Dr. 中島の 新・徒然草】(424)

四百二十四の段 audible(オーディブル)についてゴールデンウィークも、早や後半に突入。皆さん、ゆっくり休めていますか?私はインドア派なので、Amazon Kindleでもっぱら読書。でも、最近になってスマホやパソコンの画面を見ていると、目が疲れやすくなりました。というわけで、もっぱら耳を活用しております。YouTubeを聴くほかに、最近はaudibleも聴くようになりました。audibleというのはAmazonが提供する朗読サービス、いわゆるオーディオブックです。12万タイトルを月額1,500円で聴き放題。なんといっても、目を使わないので楽です。ただし、聴きたい本に限って12万タイトルに入っていなかったりします。このような場合には、別に料金を支払って購入しなくてはなりません。ちょっと残念ですね。さて、これまで私が聴いて良かった、外れのない小説を紹介しておきましょう。『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂 冬馬)先日、この欄で紹介した独ソ戦についての小説ですが、もうaudibleに収録されています。すでに活字で読んでいたので、冒頭だけ聴きました。『パッとしない子』(辻村 深月)かつての教え子だった男性アイドルが、母校を訪ねてくるという物語。楽しいというよりも怖い話です。『コンビニ人間』(村田 沙耶香)コンビニでのアルバイトと、自分の人生が一体化してしまった人の話。第155回の芥川龍之介賞受賞作ですが、難解なところがまったくなく、週刊誌の記事を読むみたいに楽しめます。『ジョーカー・ゲーム』(柳 広司)昭和12年の日本を舞台にしたスパイ小説で、第30回吉川英治文学新人賞と第62回日本推理作家協会賞を受賞しています。スピード感のあるところがいいですね。『密封 奥右筆秘帳』(上田 秀人)奥右筆(おくゆうひつ)というのは江戸幕府の役職の1つで、公文書の作成や管理をするお役人です。その役職にある立花併右衛門(たちばなへいえもん)の身にふりかかる事件を通して江戸時代を描く小説ですが、この奥右筆シリーズは聴き出したらやめられません。なんと著者の上田 秀人先生の本業は歯科医師だそうです。私はもっぱら自動車通勤の行き帰りにaudibleを聴いています。よかったら読者の皆さんも試してみてください。最後に1句春霞 小説聴きつつ 運転す

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リブレ(血糖測定器)の保険適用拡大で糖尿病学会が見解/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2017年に発表した「間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM):FreeStyle リブレ(以下「リブレ」と略す)に関する見解」の内容を改訂し、4月1日に第4版を公表した。 今回の改訂は、「2022年4月より、リブレの使用に関する保険請求上の「C150-7」の対象者が『入院中の患者以外の患者であって、インスリン製剤の自己注射を1日に1回以上行っているもの』に拡大されたことを踏まえ、現在の医療環境に合わせた」と趣旨を示している。同時に「リブレは、糖尿病の日常の自己管理に有用であるが、必要時には血糖自己測定(SMBG)を行って血糖値を確認する必要がある。本品が有効かつ安全に用いられるよう、適正な使用方法について示す」としている。リブレ(血糖測定器)保険適用拡大の主な内容や改訂点【1.リブレを使用することが考慮される患者像】〔継続使用が考慮される患者像〕(1)インスリン療法でも血糖変動が大きい患者(2)生活が不規則で血糖が不安定な患者(3)スポーツや肉体作業など活動量が多く血糖が動揺しやすい患者(4)低血糖対策の必要度が高い患者、など〔短期的または間歇的に使用する患者像〕(1)インスリンを新規に開始する患者(2)治療内容の変更(薬剤の追加・変更、薬剤用量の増減など)を行う患者(3)食事や運動などが血糖変動に及ぼす影響を理解させて生活習慣改善に向けて教育的指導を行いたい患者(4)手術や歯科処置などで短期間に血糖を改善すべき患者(5)シックデイの場合、など【2.SMBGとの併用】 SMBGとの併用について、「リブレは糖尿病の日常の自己管理に用いることができる機器であるが、必要に応じてSMBGを行って血糖値を確認しなければならない」としている。 また、SMBGを行う場合として、添付文書に記載されている通り、(1)グルコース値が急速(1分間に2mg/dL以上)に変化している場合(2)センサーにより得られた低血糖または低血糖の可能性について確認する場合(3)リブレの測定結果と一致しない症状がある場合、または測定値の正確性に疑問がある場合 などが挙げられている。【3.保険適用】 2022年4月より、「C150-7」の対象者が「入院中の患者以外の患者であって、インスリン製剤の自己注射を1日に1回以上行っているもの」に拡大されたことで、インスリン注射を行っているすべての患者に適用される。【4.安全性と有効性の担保】 実際の使用では、「機器自体の特性、データ乖離などの解釈、SMBGが必要な状況の指導、食事・運動療法・薬物治療へのフィードバック、など糖尿病治療の専門的な知識が必要である」と明記。また、「リブレはSMBGと相補的に使用することにより糖尿病患者の血糖管理を向上させる有用なツールであり、日本糖尿病学会はリブレの安全かつ有効な利用を今後も推進する」としている。【5.結果の評価方法について】 結果の評価方法について、とくに「 time in range(TIR)の目標値が、国外のCGMデータに基づいて設定されており、日本人糖尿病患者における適切な目標値とは異なっている可能性がある。今後、日本人におけるCGMデータを用いて、適切な目標値を検証していくことが重要」としている。

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第95回 「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン 第1版」公表/厚労省

<先週の動き>1.「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン 第1版」公表/厚労省2.急性期充実体制加算取得に「敷地内薬局」はNG、疑義解釈と訂正通知3.不正受給問題で医療法人が負債20億円を抱え破産/金沢市4.社会保障に医療介護分野でもデジタル技術の活用を/内閣府5.サイバー攻撃対策を盛り込んだ医療情報システムGL第5.2版/厚労省1.「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン 第1版」公表/厚労省厚労省は、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、制度施行に向けて議論が一通り完了したことから、『医師労働時間短縮計画作成ガイドライン 第1版』を1日に公表した。24年4月からすべての医師に時間外労働の上限規制が適用される。医師の時間外・休日労働等の上限については、「36協定上の上限および、36協定によっても超えられない上限をともに、原則年960時間(A水準)・月100時間未満(例外あり)」とした上で、「地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(連携B・B水準)および集中的に技能を向上させるために必要な水準(C水準)」として、年1,860時間・月100時間未満(例外あり)の上限時間数を設定する。医療機関全体として医師の働き方改革を進めていくことが重要とし、年960時間を超える医師(=A水準超の時間外・休日労働を行う医師)が勤務する医療機関に対して、23年度末までにガイドラインに基づいた医師労働時間短縮計画の作成を努力義務とした。また、連携B・B・C水準の指定を目指す医療機関に対しては、医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価を受審する前に、2024年度以降の計画案(取り組み実績と24年度以降の取り組み目標など)の作成を義務付けている。(参考)医師労働時間短縮計画作成ガイドライン及び医療機関の医師の労働時間短縮の取組に関するガイドライン(評価項目と評価基準)の公表について(厚労省)医師の働き方改革推進検討会、2024年度への準備整う C-2水準の審査組織の大枠固まる(日経メディカル)2.急性期充実体制加算取得に「敷地内薬局」はNG、疑義解釈と訂正通知厚労省は、22年度の診療報酬改定の疑義解釈資料(その1)を31日に公表した。医科診療報酬点数表関係257項目、不妊治療に関して90項目、DPCに関して15項目、費用請求に関して28項目など、歯科診療報酬と調剤報酬、訪問看護療養費についても同資料にまとめられている。また、同日に通知された「令和4年度診療報酬改定関連通知及び官報掲載事項の一部訂正について」では、急性期充実体制加算に関する施設基準として、特定の保険薬局との間で不動産取引等その他の特別な関係がないことが求められることとなった。要は、「急性期充実体制加算をする病院に対して敷地内薬局を設けることを認めない」ということ。今年度の改訂内容だけでなく、追加資料の更新にもしばらくは注視が必要だろう。(参考)急性期充実体制加算の緊急手術・看護必要度II・敷地内薬局NG等の考え方整理―疑義解釈1【2022年度診療報酬改定】(Gem Med)令和4年度診療報酬改定について(厚労省)3.不正受給問題で医療法人が負債20億円を抱え破産/金沢市石川県金沢市で旧藤井病院を経営していた医療法人社団 博洋会が、負債総額約20億円を抱え、先月16日に自己破産を東京地裁に申請し、受理されたことが明らかになった。一般病床40床、回復期リハビリ25床、医療療養40床の計105床を有し、ピーク時の06年9月期には売上高約17億9,000万円を計上していた。当院は20年9月、入院基本料の不正請求などの問題が発覚し、21年2月には東海北陸厚生局から、過去5年にわたって看護師らの勤務実態を偽って診療報酬約1億5,900万円を不正受給していたことを公表された。保険医療機関の指定が取り消されることになっていた今年1月に先立ち、21年8月に竜山会へ病院事業を譲渡していたが、債権者は1,000人を超え、負債総額はおよそ20億円を超える見通し。(参考)(医)社団博洋会~2021年2月に診療報酬不正受給を公表されていた~(東京商工リサーチ)負債総額は“約20億円超”か…金沢市で藤井病院を運営していた医療法人・博洋会が自己破産を申請(石川テレビ)診療報酬不正の医療法人が破産 負債総額20億円以上(北陸放送)4.社会保障に医療介護分野でもデジタル技術の活用を/内閣府社会保障のあり方を見直す「全世代型社会保障構築会議」の第3回が29日に開かれ、本格的に討論が開始された。医療・介護・福祉サービスについては人材の確保・育成のためにデジタル技術の活用や高齢・地域人材の活用を検討するほか、子育て支援や勤労者皆保険の実現のため、パート労働者やフリーランスの社会保障の適用などを取り組む対象に加えた。また、家庭における介護の負担軽減策としては、今後の介護ニーズが急増する首都圏や大都市での対策や介護離職の防止策、ヤングケアラーへの支援策についても論点として取り上げた。(参考)全世代型社会保障会議が「議論の整理」 医療・介護で「ICT活用による人材配置の効率化」を明記(JOINT)全世代型社会保障の当面の論点に係る議論の整理について(全世代型社会保障構築会議)5.サイバー攻撃対策を盛り込んだ医療情報システムGL第5.2版/厚労省厚労省は、30日に「健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催し、外部ネットワークを利用する上で医療機関等が負うべき管理内容を明示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5.2版」が了承された。近年、医療機関等の医療情報システムに対するサイバー攻撃の多様化・巧妙化が進み、診療業務に大きな影響が生じるような被害が増えている。万が一障害が発生しても速やかに回復するためにはバックアップが重要であり、安全対策を行う上での具体的な方法などを記載している。(参考)医療情報システムガイドライン改訂を決定、ランサムウェアなどサイバー攻撃対策強化を―医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)相次ぐ医療機関へのサイバー攻撃でガイドライン見直し 厚労省 バックアップデータでも“トリアージ”が必要(CB news)

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第101回 ウクライナ侵攻の打撃は歯科医療にも、止まらないパラジウム高騰に緊急声明

ロシアによるウクライナ侵攻の影響が、日本の医療界にも及んでいる。西側諸国の経済制裁に対し、ロシアが報復としてレアメタル(希少金属)の輸出禁止措置を取る懸念から、歯科材料に使われるパラジウムの価格が急騰し、歯科医療に悪影響を及ぼしているのだ。歯科医療機関の経営と、患者・国民の口腔の健康を守るため、全国保険医団体連合会(保団連)は3月14日、国に対して状況への対応を講じるよう要望した。パラジウムの約4割をロシアから輸入する日本パラジウムはプラチナの仲間である白金族金属と呼ばれる元素群の1つで、自動車の排ガス浄化触媒や燃料電池に不可欠なレアメタルだ。歯科医療では、金(および銀)とパラジウムの合金は、耐食性や強度、延性が高いため、銀歯の材料の一部として使われている。金銀パラジウム合金(金パラ)の金属組成や成分は、金12%、パラジウム20%とJIS規格(日本産業規格)で定められており、このほかに銀や銅なども含まれる。つまり、金やパラジウムなどの市場価格が歯科医の利益のプラス・マイナスに直結するわけだ。とくに金パラはここ数年、材料費が高騰している。背景には、金の価値の安定性やレアメタルの希少性から、中国マネーやオイルマネーなどが市場へ流れ込み、値上がりしやすくなっている。パラジウムは年間200t前後が世界に供給されており、供給量はロシアが約4割を占め、次に南アフリカ共和国が続く。日本は、パラジウムの約4割をロシアから輸入しているため、ロシア情勢による影響は大きい。市場価格が保険償還価格を上回る「逆ザヤ」問題そのような背景があるため、歯科の診療報酬は半年ごとに改定されているが、2020年4月からは、3ヵ月ごとの見直しへとさらに期間が縮まった。それでも、金パラの診療報酬上の保険償還価格と市場価格が大きくかけ離れ、診療報酬の改定が追い付かないのが実情のようだ。市場価格が保険償還価格を上回る「逆ザヤ」問題も起きており、歯科医の間から「健康保険の治療対象に価格が変動するものを使うのはおかしい」との声が上がっている。パラジウムの市場価格は、2021年12月から3ヵ月足らずで倍増し、金の市場価格も過去最高に上昇した。金パラの保険償還価格は30g当たり8万8,530円であるのに対し、市場価格は12万円を超える状況になり、「逆ザヤ」は約25%に達している。保団連の調査では、今年1月に金パラの市場価格と保険償還価格が逆転して以降、「逆ザヤ」は拡大し続けている。4月の診療報酬改定で、保険償還価格は30g当たり9万4,470円に引き上げられるが、なお市場価格とは大きな乖離がある。「逆ザヤ」解消を求める声を受け、4月から価格改定制度の改善が図られるが、保団連は「この改善は、市場価格を後追いする現行制度について、改定頻度などを見直し、後追いのタイムラグにより生じる価格乖離を緩和するもの。抜本解決策とは言えない」と指摘。素材価格の変動が緩やかな状況であれば、一定の効果が期待できるものの、現状は紛れもなく非常事態であり、先行きの見通しも極めて不透明な状況であるとの認識を示した。保団連は緊急対応と抜本解決を厚労相に要望そのうえで、「コロナ禍で悪化した歯科医療機関の経営を守るためには、平時の対応に留まらず、特例的な対応も含めた喫緊の判断も必要。また、材料の異常な高騰による患者負担の増加が、患者・国民の暮らしと口腔の健康に悪影響を及ぼすこともあってはならない」と主張。歯科医療機関の経営と患者・国民の口腔の健康を守るため、後藤 茂之・厚生労働大臣に以下の対応を要望した。(1)2022年1月以降の金パラ実勢価格と保険償還価格の差を補填する緊急対応を行うこと。(2)対応においては、患者負担増とならない手立てを併せて講じること。(3)2022年4月以降の制度改善にとどまらず、抜本改善へのさらなる検討を進めること。緊迫する国際情勢下、どれも現在の歯科医療において必要な策であろう。東京歯科保険医協会はロシアのウクライナ侵略に非難声明ちなみに、東京歯科保険医協会は3月4日、「ロシアのウクライナ侵略を断固非難する」との声明を発出し、在日ロシア大使館宛に送付した。「主権国家に対する武力による侵略は国連憲章、国際法を踏みにじる行為であり、いかなる理由であれ許されるものではない」「唯一の被爆国として、人の命を奪う戦争や核兵器使用で世界の諸国を威嚇するいかなる行動にも断固として反対する」──。ロシアのウクライナ侵略が、どれだけ世界の人々や医療に迷惑を及ぼし、医療人の不安を募らせたか。国際情勢が激変する中で、一団体が発した声明だが、「一灯破闇」の心意気を感じた。

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口唇(口腔)のけがに対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第9回

第9回 口唇(口腔)のけがに対する縫合処置《解説》図1今回は顔面外傷の中でも、口唇と口腔内の創傷についての対応を説明していきます。口唇は特殊な構造であり、外傷の際は適切な処置を施さないと傷跡が非常に目立ってしまう部位です。診察では、まず創部を観察しましょう。創傷の範囲、程度を推測するのに受傷機転は重要なので、処置の前に状況をしっかり聞き取ります。その上で、創がどんな状態か見て縫合が必要なのか判断します。知覚や表情に異常がないか(ある場合は顔面神経の損傷を疑う)を確認し、耳下腺管の損傷についても確認します(図1参照)。疑われる場合は造影が必要になることもあります。また、異物の有無も確認しましょう。場合によって単純X線、CT検査を検討します。口唇部の解剖と傷の程度による縫合処置口唇部の解剖の特徴としては、赤唇と白唇と呼ばれる皮膚と粘膜の境界があることと、遊離縁を形成し、皮膚・口輪筋の筋層・粘膜の3層構造になっていることです。(1)口唇の擦過創、浅いびらん口唇・口腔部に創傷被覆材は使いにくいため、白色ワセリンや口内炎用軟膏などの塗布で保存的に診ていけばよいです。(2)筋層に達する裂創口唇部の外傷の多くが外力と歯による損傷であり、筋層深くまでの損傷または貫通創であることが多いです。とくに口唇は遊離縁になっており組織欠損しやすい部分です。粘膜や舌は感染に強く治癒しやすい部位ではありますが、しっかり洗浄し縫合後も自宅で清潔に保ってもらうよう指示することが大切です。図2欠損がほぼない場合ズレないように縫合開始しましょう(基本は粘膜~筋層~皮膚の3層縫合)。糸は皮膚側6−0、角針の非吸収糸、粘膜側4−0、5−0、丸針の吸収糸などを選びます。エピネフリン入りの麻酔薬を注射すると、赤唇の赤みがなくなって境界がわからなくなるので先にマーキングしておくことが重要です!(図2参照)それでは、縫合を始めましょう!まずは口腔粘膜と赤唇(乾燥唇)の境界部を縫合します。次に、口輪筋の全層縫合を赤唇と白唇の境界部が一致するように行います。そして、赤唇と白唇の境界部に真皮縫合を行います。その後、赤唇と白唇の境界部から表皮縫合を開始します(できればルーペを使用)。最後に、口唇下縁が下垂しないよう粘膜部をラフに縫合します。組織欠損がある場合瘢痕が目立ちにくい縦方向に縫縮していくことが多いです。その際、白唇の長さが変化すると2次修正が困難になってしまいます。縫合に自信がない時は、洗浄・軟膏処置を行い、形成外科(または歯科口腔外科)外来へ依頼しましょう。(3)動物咬傷や高度な汚染創の場合洗浄、デブリードマンのみ、大まかな縫合にとどめて形成外科に紹介しましょう。最後に、後療法についても説明します。口唇周囲は摂食や発語で動きがある部位なので、瘢痕の炎症が遷延しやすく、肥厚性瘢痕やケロイドを起こしやすいです。トラニラスト内服や可能な範囲で傷を安静にするためのテーピングを行います。患者さんにはあらかじめ説明しておきましょう。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.2)安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.3)Frank H. Netter著, 相磯貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)【知って得する!?医療略語】第7回

第7回 口の中が燃えるように痛い!?口腔内灼熱症候群(BMS)最近、口の中が燃えるように痛い病気があると聞きました。本当にそんな病気があるのですか?そうなんです、本当にあるんです!文字通り、口の中の灼熱感を特徴とする口腔内灼熱症候群(BMS)という疾患があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】BMS【日本語】口腔内灼熱症候群【英字】burning mouth syndrome【分野】脳神経【診療科】耳鼻科・歯科口腔外科・疼痛治療科・心療内科【関連】一次性BMS・二次性BMS・舌痛症※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。口腔内のヒリヒリ、ピリピリした不快な灼熱感を訴える患者さんは、口腔内灼熱症候群(BMS:Burning mouth syndrome)を想定する必要があるかもしれません。恥ずかしながら、筆者が最近まで知らずに過ごしてしまった疾患の1つです。BMSは、幅広い診療科の医師が遭遇する可能性があるため、今回紹介いたします。BMSは国際頭痛分類第3版において、「3ヵ月を超えて、かつ1日2時間を超えて連日再発を繰り返す、口腔内の灼熱感または異常感覚で、臨床的に明らかな原因病巣を認めないもの」と定義されており、口腔粘膜は外見上正常、感覚検査を含めた臨床診察は正常とされています。BMSの原因は、歯科処置や口内炎などの局所的異常が原因とされていますが、発症契機が不明な場合も多いようです。また、BMSは心理社会課題や精神疾患の合併が多いことを指摘する研究報告がある一方、BMS患者の舌生検で粘膜上皮の神経線維に器質的変化を認めたことが報告され、近年はfMRIによる研究も進められています。さらに近年、BMSは一次性BMSと二次性BMSに区別される傾向にあります。二次性BMSの原因は、全身疾患と局所疾患に分類され、全身疾患に伴う二次性BMSの基礎疾患には薬剤誘発性、貧血(Plummer Vinson症候群)、シェーグレン症候群、糖尿病が挙げられており、BMS患者の診療では、血液検査による貧血、ビタミンB12、葉酸、微量金属(亜鉛・銅)のスクリーンニングの必要性が指摘されています。なお、BMSの口腔内疼痛症状は、日内変動も報告され午前より午後に強くなる傾向があるそうです。筆者が遭遇したBMS患者さんも同様の傾向が見られ、灼熱感を和らげるため冷水の多飲がみられたことを付記します。近年、増加傾向が指摘されているBMS。お時間が許せば、以下の論文をご一読ください。1)羽藤 裕之他. 1次性burning mouth syndrome患者の臨床的検討. 日口内誌. 2020;26:8-15.2)山村 幸江. 口腔灼熱症候群・舌痛症の診療. 耳鼻臨床. 2018;111:148-149.3)任 智美. 舌痛症の取り扱い. 日耳鼻. 2016. 119-144.4)日本頭痛学会:国際頭痛分類第3版(第3部)

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第96回 医学部入試差別が解消しても、解決しない女性医師の「二重負担」問題

2021年度の医学部入試では、女性受験者の合格率が男性を上回った。男女別の合格率の公表を始めた2013年度以降、初めてとなる。東京医科大学をはじめとした医学部入試差別の社会問題化や、文部科学省が男女別合格率の毎年公表に踏み切ったことなどが、女性差別のない公正な入試の実施を後押ししたと思われる。医学部入試差別に潜む性別役割分業意識ただ、入試差別の要因である出産・育児による女性医師離職の背景には、過労死ラインを超えるような医師の過酷な働き方や、日本社会に根強い「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業がある。入試差別が解消されても、女性医師の働き方が改善されたり性別役割分業が解消されたりしない限り、根本的な解決にはなり得ない。医学部入試差別問題が発覚した際、「女性医師が増えると(産休・育休・時短勤務が増えて)現場が回らない」という声があった。仕事と家事の「二重負担」を抱えている女性医師にとっては、理不尽で無慈悲な言葉に聞こえたことだろう。家事は女性医師が2時間以上、男性医師は30分未満全国保険医団体連合会(保団連)は医師・歯科医の開業会員を対象に「開業医の実態・意識基礎調査」を実施、約2,600人から回答を得た。2月9日に公表された調査結果によると、女性医師では半数が平日でも2時間以上の家事・育児・介護を行っていたのに対し、男性医師は半数が「0~30分未満」だった。実労働時間を見ると、9時間以上の割合は男女で差はなく、夫婦共に医師または歯科医師の場合でも、平日家事時間は女性のほうが圧倒的に多いという結果が出た。調査結果を詳しく見てみる。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方については、医科・歯科共に反対意見が賛成意見を上回った。男女別に見ると、女性は医科で70.9%、歯科で62.8%が反対だったが、男性は医科で41.5%、歯科で37.6%にとどまった。1日の家事・育児・介護時間(平日)は、男性は医科で46.6%、歯科で39.5%が「0~30分未満」で最多だったのに対し、女性は医科で45.2%、歯科で38.8%が2時間以上だった。夫婦共に医師・歯科医師の場合、家事・育児・介護時間(平日)を見ると、男性は「0~30分未満」が34.2%で最多、女性は「2~4時間未満」が39.3%と最も多く、同じ医師・歯科医師でも男女で家事などの時間に大きな差があることがわかった。女性医師は「二重負担」に耐えるか、低評価に甘んじるかの二者択一実労働時間を男女別に見ると、女性は「7時間未満」の割合がやや高いが、「9時間以上」は医科・歯科共に差はなかった。一方、フルタイム勤務(実労働時間7時間以上)での家事などの時間(平日)を見ると、男性は医科で47.0%、歯科で39.2%が「0~30分以内」とそれぞれ最多だったのに対し、女性の最多は医科で「2~4時間」(37.8%)、歯科で「1~2時間」(28.3%)だった。家事と仕事の時間を合わせると、女性に多くの負担がかかっていると言える。女性に家事などの負担がのしかかる状況では、女性医師は過酷な医師の仕事と家事労働の二重負担に耐えるか、「男並みの仕事ができない」という評価に甘んじるかの、悪しき二者択一になってしまっている。この結果に対し、保団連女性部は「男女共に人間らしく働ける医療現場の実現を目指して、医師数の増員と、医療界の性別役割分業意識の解消を求める」との声明を発表した。男女格差、世界120位の恥ずかしい現状世界経済フォーラムの「男女格差報告書(ジェンダー・ギャップ指数)2021」では、日本はなんと156ヵ国中120位で、下から数えたほうが早いくらいの順位だった。主要7ヵ国(G7)では最下位だ。1位は12回連続でアイスランド。2位フィンランド、3位ノルウェーと北欧諸国が上位を占めた。米国は30位、アジアでは韓国が102位、中国は107位だった。ちなみに最下位はアフガニスタンだ。ようやく医学部受験を巡る性差別にメスが入った段階の日本。ただ、医学部が変わるだけでなく、現場の医師や社会全体の意識も変わらなければ、医療界における女性差別の解消はまだまだ遠い道のりだろう。

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新型コロナ、スーパースプレッダーとなりうる人の特徴/東京医科歯科

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、すべての患者が等しく感染を広げるのではなく、高いウイルスコピー数をもつ特定の患者がとくに感染を広げていくことが知られる。東京医科歯科大学の藤原 武男氏らによるRT-PCR検査によるウイルスコピー数を用いたCOVID-19入院患者の後ろ向き解析の結果、3つ以上の疾患の既往歴および、糖尿病、関節リウマチ、脳卒中の既往がスーパースプレッダーのリスク因子となることが示唆された。Journal of Infection誌オンライン版2021年12月30日号にレターとして掲載の報告より。 2020年3月~2021年6月に、中等症から重症のCOVID-19で東京医科歯科大学病院に入院し、少なくとも1回以上RT-PCR検査が行われた患者が解析対象とされた。入院患者の電子カルテの情報を基に、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・関節リウマチ・がん・慢性腎不全・脳卒中・心疾患・呼吸器疾患・アレルギーといった基礎疾患の有無とウイルスコピー数について関連が調査された。 主な結果は以下の通り。・計379例が適格となり、解析対象とされた。年齢中央値は59歳で、約33%が女性だった。・PCRテスト回数の中央値は2(1~26)回。複数回PCRテストを実施した患者の90%以上で、ウイルス量は1回目または2回目でその個人の最大値を示した。・約59%に基礎疾患があり、約21%に3つ以上の基礎疾患があった。・基礎疾患について詳細は、高血圧症が38.5%、糖尿病が21.6%、がんが18.7%、脂質異常症が18.5%、呼吸器疾患が10.8%、心疾患が9.0%、高尿酸血症が7.7%、慢性腎臓病が6.6%、脳卒中が5.0%、関節リウマチが2.1%だった。・1人を除きワクチンは未接種だった。・性別、年齢、喫煙状況について調整後の多変量回帰分析の結果、上記基礎疾患を3つ以上重複して有する患者では、基礎疾患のない患者と比較して、ウイルスコピー数が87.1倍(95%信頼区間[CI]:5.5~1380.1)高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・また、関節リウマチ患者では1659.6倍(95%CI:1.4~2041737.9)、脳卒中患者では234.4倍(95%CI:2.2~25704.0)倍、糖尿病患者では17.8倍(95%CI:1.4~ 223.9)ウイルスコピー数が高く、ウイルスコピー数の多さと有意に関連していた。・入院時の血液検査結果における血小板数とCRPレベルの低さも、ウイルスコピー数の多さと関連していた。 著者らは、軽症患者が解析に含まれていない点、変異株による影響が不明な点等の本研究の限界を挙げたうえで、基礎疾患の有無や検査値などの入院時に得られる情報に基づき、スーパースプレッダーとなる可能性の高い患者に対しては、とくに感染の初期において注意深い感染管理措置が必要なことが示されたとまとめている。

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第93回 公平さ欠いた恣意的な数字が見え隠れする「医療経済実態調査」

2022年度の診療報酬改定率は、本体がわずかながらプラスとなったものの、医療界はモヤモヤが解消していないようだ。診療報酬改定の基礎資料となる医療経済実態調査(実調)に対し、医療機関の経営実態を反映していないのではと疑問視する声が上がっている。調査対象数の少なさや偏りにより、全体が把握できていないというのだ。とくに個人診療所の多い歯科は、医科と比べて不利な評価を得やすく、なおさら不信感が強い。実調は、中央社会保険医療協議会(中医協)が2年ごとに実施している。抽出された約8,000の医療機関から、自費診療分を含む収入や給与、医材費、設備費など医業経費に関わる経営報告書を提出させるものだ。集計結果は各種医療機関の損益の代表値となり、診療報酬改定率の根拠として使われている。自費率の調査施設数が極端に少ない個人立の診療所では、開設者の報酬に相当する部分は「給与費」ではなく「医業損益差額」に含まれる。これには、借り入れ返済金、建物や設備更新のための引当準備金などのほか、退職金のない自身の引退後の生活費用も含まれる。開業医自身が自由に使える収入ではないが、診療報酬改定率は損益差額に左右される。歯科診療所は、自費収入が損益差額に含まれるため、改定率が抑えられがちだ。東京歯科保険医協会は、1月14日のメディア懇談会でこの問題に言及。歯科は医科に比べて自費診療が多いと言われるが、2020年度の歯科と医科の自費診療の構成比率を比較すると、歯科は13.5%。医科は、内科が7%、精神科が5.9%、外科が2.3%などと歯科より低いが、小児科は23.2%と高くなっている。一般的に自費というと、予防接種や健康診断などが含まれると思われるが、実調の調査項目の中で、予防接種や健康診断などは「その他の医業収益」に含まれており、自費診療などの金額である外来診療収益の「その他の診療収益」には含まれていない。小児科の自費率が高いことに疑問を持った同会が厚生労働省に確認したところ、「予防接種」「健康診断」「文書料」は含まれていないため、その他の自費診療にどのようなものがあるかは不明だとの回答を得たという。7施設の調査では実態はわからない対象施設について言えば、歯科は158施設、内科は111施設だったが、小児科はわずか14施設。精神科や外科にいたっては、いずれも7施設にすぎなかった。「7施設程度で実態調査とはいかがなものか。対象施設数が少なく特殊な医療機関に当たれば、それだけで自費率は大きく変動する。そうなると、どのようにして施設を選んだのか疑問が生じる。こういった数字を基に診療報酬の改定が行われるのはおかしい」と同会は疑問を呈する。次をにらんだ財源ありきの方針と恣意的な調査の布石2年後の診療報酬改定に向け、早くも財源ありきの方針や恣意的な調査の布石が打たれているのではないかと勘繰ってしまう。財務省の財政制度等審議会では、診療報酬を下げても高齢化社会で受診者が増えているので、医療機関の報酬自体は増えているとの論法を展開。また、2024年度改定では医療法人の全調査結果を使うという。前述の通り、歯科の場合は個人立診療所が多く法人調査の対象から外れるため、歯科経営の実態を掴みにくくなるだろう。これに対し、同会は「歯科では1日に診られる患者数は限られている。医療機関の報酬を増やすために、勤務する歯科医師の数を増やしたり診療時間を延ばしたりすればいいという話ではない。治療費である診療報酬が下げられると、経営的にはマイナスになる。財務省の論理は乱暴だ」と反論する。また、医療法人の全調査については、「歯科でも法人が増えており、都内でも二極化している。収入が高い医療法人が調査対象となると、歯科は経営的に問題がないと分析されてしまう。歯科については個人立診療所を主体に調査すべきでは」との見解だ。医療の実態を把握するというのであれば、しっかりしたデータに基づいて説明をしてもらいたい。コロナ・パンデミック以降、さんざんに引っ掻き回された医療機関の多くはシビアな経営を余儀なくされており、大きな不満を抱えている状況だ。公平さを欠く恣意的なデータを示されて、誰が納得できるというのだろう。

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継続の必要性を評価してトラマドールカスケードを解決【うまくいく!処方提案プラクティス】第44回

 今回は、トラマドールの漫然服用に疑問を持ち、情報収集やモニタリングを行い、減薬につなげた事例を紹介します。トラマドールは弱オピオイドとしてオピオイド受容体に作用するものの、医療用麻薬としての規制を受けないことから、強い鎮痛効果を期待して整形外科や歯科領域で汎用されています。長期継続されている場合もあるため、処方目的や治療効果などから薬剤師の視点でも継続の必要性を評価する必要があります。患者情報70歳、女性(施設入居)基礎疾患高血圧症、認知症、過活動膀胱介護度要介護2服薬管理施設職員処方内容1.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後2.ドンペリドン錠10mg 3錠 分3 毎食後3.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後4.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 分1 朝食後5.ソリフェナシン錠5mg 1錠 分1 朝食後6.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後7.ゾルピデム錠5mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、施設入居前からトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を服用していました。初回の訪問診療に同行した際、鎮痛効果の評価のため、どこが痛むのか確認しました。しかし、とくに痛みの訴えはなく、体動時や就寝中の痛みもないことから、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の継続の必要性に疑問が湧きました。施設看護師に確認しても、入居時の申し送りでは触れられなかったそうでわかりませんでした。一方で、患者さんも施設スタッフも服薬する錠数が多くて負担になっていることを聞き取ることができました。さらに気になったことは、制吐薬のドンペリドンも同様に継続されていることでした。トラマドール導入時に嘔気対策として追加されたと推測できますが、お薬手帳を見ると半年以上も処方されていました。トラマドールの副作用である嘔気は数日程度で耐性ができて軽減するため、多くの場合は1~2週間で減量・中止に至ります。また、このまま継続した場合、ドパミン受容体遮断作用の弊害である錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム)や内分泌調節異常などのリスクも懸念されます。そこで、処方契機を調べるため、施設で保管されている診療情報提供書や退院時サマリー、多職種情報共有シート(フェイスシート)などを調査しました。過去の診療情報提供書によれば、約1年前に腰椎圧迫骨折の既往があり、手術後の疼痛コントロールを目的としてトラマドール・アセトアミノフェン配合錠が開始され、退院後は近医でそのまま継続されていたことがわかりました。処方提案と経過手術は1年以上前で経過もよく、現時点では痛みの訴えもないことから、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中止は可能ではないかと考え、後日の訪問診療後に、医師にトラマドール・アセトアミノフェン配合錠からアセトアミノフェン単剤(900mg/日)への切り替えを提案しました。それに合わせてドンペリドンの中止も相談したところ、両方とも承認を得ることができました。その後、処方変更後の疼痛悪化や嘔気はなく、不安や不眠などの退薬症候の出現などもありませんでした。そのため、アセトアミノフェンを600mg/日(分2、朝夕食後)→300mg/日(分1、朝食後)と徐々に減らし、最終的に中止することを提案して、そのように処方調整していくことになりました。疼痛の出現などの評価は施設看護師にお願いしましたが、とくに問題はなく、患者さんは鎮痛薬から卒業することができました。今回の事例ではうまく減薬ができましたが、長期継続薬を減薬する際は、治療効果や中止の可否を評価するために、薬剤師から医師および多職種への積極的な介入が必要だと感じました。

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2022年度改定でリフィル処方箋がいよいよ本格導入か【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第81回

明けましておめでとうございます。昨年は、最初から最後まで新型コロナに翻弄され続け、さらに医薬品の流通問題も勃発するなど、忙しい1年だったのではないでしょうか。残念ながら半分以上は解決していないという気もしますが、本年は薬剤師が腰を据えて前向きに業務に取り組める1年になればいいなと思います。さて、2022年は診療報酬の改定があるため、年末から議論が本格化しています。まずは、診療報酬全体および医科・歯科・調剤の改定率が決定しました。鈴木俊一財務相と後藤茂之厚生労働相は12月22日、予算をめぐる大臣折衝で22年度の診療報酬改定率を正式に決定した。診療報酬本体は0.43%増(国費300億円程度)。看護の処遇改善に0.20%増、不妊治療の保険適用に0.20%増を確保しつつ、リフィル処方箋の導入・活用促進による再診の効率化で▲0.10%、小児の新型コロナウイルス感染防止対策にかかる加算措置(医科分)の期限到来で▲0.10%を計上したため、実質的な改定率は0.23%増となる。(中略)本体の0.23%分をパイとした各科ごとの改定率は医科0.26%増、歯科0.29%増、調剤0.08%増。医科を1とした場合の配分比率「1:1.1:0.3」は名目上、維持した。(2021年12月23日付 RISFAX)調剤はわずか0.08%増ですが、財源が乏しいなかで減らなくてよかったなという印象です。注目すべきは、リフィル処方箋の導入・活用促進が再診の効率化という目的で突如盛り込まれたことでしょう。これに関しては、この翌日に日本医師会から「議論が必要」という実質的に異議を申し立てるような意見が出ているため、まだ予断を許さない状況ですが、おそらく部分的にであっても導入されるのではないかと思います。その他、薬価の引き下げ、OTC類似品や湿布薬の保険給付の見直し、後発医薬品関連の加算、薬剤師によるフォローアップへの評価などが今回の論点になりそうです。毎回のことですが、薬局に影響があり、かつ始まってからでは遅いのが薬価の引き下げへの対応です。4月1日になった瞬間に薬価が下がってしまうので、早めに薬局の在庫が適正かどうかを確認し、もし過剰であれば他店への譲渡や返品などをおすすめします。薬剤師のフォローアップを患者・医師ともに評価この報酬改定の議論の中で、薬剤師の業務に対する喜ばしい評価がありましたので紹介します。2021年12月1日の中央社会保険医療協議会(中医協)の議論において、2020年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の結果が報告されました。本調査の目的は、2020年度の調剤報酬改定の影響やかかりつけ薬剤師・薬局の取り組み状況などを検証することです。ちなみに、2020年度改定のトピックスとしては、重複投薬解消の取り組みの評価や地域体制加算の要件の見直し、同一薬局利用促進などの評価の見直し、薬剤師による調剤後のフォローアップの評価、調剤基本料の適正化などがありました。その報告の中で、以下のような結果が示されています(一部抜粋)。服薬期間中のフォローアップを受けた患者は、かかりつけ薬剤師指導料などの同意状況にかかわらず、「よかった」という回答が100%であった(患者への調査結果より)糖尿病患者のフォローアップを薬局に指示した場合、保険医療機関が感じるメリットとして、「患者が正しく服用できるようになった」が82.5%、「アドヒアランスが向上した」が67.5%であった(診療所への調査結果より)吸入薬指導を薬局に指示した場合、保険医療機関が感じるメリットとして、「患者が正しく吸入できるようになった」が94.0%、「アドヒアランスが向上した」が69.3%であった(病院への調査結果より)これは、何ともうれしい結果ですね。これらは報酬改定の議論で正式に提出されている資料ですので、報酬への好影響を期待せずにはいられません。もし今回の報酬に反映されなかったとしても、目の前の患者さんや医師が認めてくれているというやりがいを噛みしめつつ、さらにメリットを感じていただけるように服薬指導やフォローアップの質を高めていってもらえればいいなと思います。本コラムでは、患者さんのため、地域のために薬剤師が活躍することを願って、本年も話題のニュースをピックアップしてお届けしていきます。2022年もどうぞよろしくお願いいたします。参考1)「令和2年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(令和3年度調査)の報告案について」(中医協 検-5-23.12.1)2)「かかりつけ薬剤師・薬局の評価を含む調剤報酬改定の影響及び実施状況調査報告書(案)<概要>(中医協 検-6-13.12.1)

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第90回 「患者の利便性」「医療の効率化」の御旗の下に進む医療機関の締め付け

2022年度診療報酬の改定率は、本体が0.43%増(国費約300億円)、薬価・材料価格は1.37%減となり、全体で0.94%のマイナス(国費約1,600億円)となった。前回2020年度の本体改定率は0.55%増なので、前回より低い。また全体の改定率も、薬価引き下げ分の本体への振替がなくなってから、5回連続のマイナスだ(2014年度は消費税対応を除き実質ネットマイナス)。日本医師会の中川 俊男会長は、昨年末の記者会見で「(本体の)改定率については、必ずしも満足するものではないが、厳しい国家財政の中、プラスになったことについては、率直に評価したい」と述べたが、医療界からは「コロナ以前の医療水準への回復も困難で、疲弊した医療現場の抜本的改善には程遠い」との声が上がっている。「看護の処遇改善」の対象医療機関は限定的改訂の詳細を見てみる。まず本体引上げ部分の内訳は、看護の処遇改善で0.2%増、不妊治療の保険適用で0.2%増などと、小幅なプラスだった。看護の処遇改善については10月以降、収入を3%程度(月平均12,000円相当)引き上げる仕組みを創設するというが、その他の医療従事者への配分も認めているので、看護職員への実際の引き上げ幅は低くなる。しかも、対象となるのは地域コロナ医療など一定の役割を担う医療機関(救急医療管理加算を算定する救急搬送件数が年間200台以上の医療機関および3次救急を担う医療機関)に勤務する看護職員に限定されている。これに対し、全国保険医団体連合会(保団連)は「すべての医療機関が一体となり地域を面として支えている。すべての医療従事者の抜本的な賃金引上げにつながる財源を確保すべき」と提言している。「リフィル処方箋導入」が意図する外来医療費の抑制また、反復利用できるリフィル処方箋の導入・活用促進による効率化で、本体は0.1%減とされた。中央社会保険医療協議会(中医協)の議論では、分割調剤の算定回数が増えない現状を踏まえ、日本薬剤師会常務理事の委員からリフィル処方箋の導入が提案され、支払い側委員が賛成したのだった。本来、リフィル処方箋の使用が想定されるのは慢性疾患の患者で、医師による診察やきめ細かな指導管理が必要なことから、大阪府保険医協会は「事実上、医師の診察を薬局に委ねる形となるリフィル処方箋の導入は、患者の健康確保上から極めて問題が多い」と指摘。導入された場合、患者の“利便性”と称し、オンライン診療の拡大と相まって外来医療費の抑制を図ると共に、医療関連ビジネスの収益拡大を進める狙いが見える。ましてや、コロナ禍で電話再診の増加や処方の長期化も進み、患者の病態管理が難しくなっている状況下、同会は「患者・国民のいのち・健康を守るという視点からの議論が第一」と提言している。患者の“利便性”と共に眉唾なのが、医療の“効率化”だ。大病院受診時定額負担の拡大に関し、保険給付の範囲から一定額(初診時2,000円、再診時500円)を減額する一方、同額以上を強制的に保険外併用療養費として患者から追加徴収する仕組みが検討されるなど、 制度改悪が中医協で議論されているのも憂慮すべき点だ。歯科診療所の経営の現状を見ていない改定率本体の改定率を各科別に見ると、医科の0.26%増に対し、歯科は0.29%とわずかに上回る。しかし、東京歯科保険医協会は「このような改定率は歯科の現状を見ていないばかりか、歯科軽視の結果」と指摘する。医療経済実態調査では、歯科診療所(個人)の損益率は前年度比1.2%減で、コロナ補助金を加えても医業収入の落ち込みは明らかだ。歯科材料費は前年度よりも6.8%増加し、衛生材料をはじめ院内感染防止対策に関わる資材、金銀パラジウム合金などの高騰が医院経営の重荷となっている。それに加え、飛沫による感染リスクが高い職種と言われ、医療従事者の離職や患者離れが発生。患者減はいまだに改善できず、閉院に追い込まれた医院も相次いでいる。医療の質低下や地域医療の混乱を招きかねない方針診療報酬改定の基本方針として、コロナ感染対応を重点課題に位置付けているにもかかわらず、小児の感染防止対策に係る特例(医科)は廃止。厚生労働省は、7対1看護病床の削減を進める「入院医療の評価の適正化」、DPC制度などによる「更なる包括払いの推進」、高齢者や慢性疾患患者のADL低下なども危惧される「湿布薬の処方の適正化」などを着実に進めるとしている。今回の改定率や、国が掲げる改革は、コロナ感染防止対策を弱体化させるだけでなく、医療の質の低下や地域医療の混乱・疲弊も招きかねない。概算要求で示された社会保障費の自然増約6,600億円も約4,400億円に抑えようとしているが、財源ありきの“逆算的”政策で国民の生命や健康は本当に守れるのだろうか。

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試験継続率向上に、クリスマスカード送付は有効?/BMJ

 無作為化比較試験の参加者へクリスマスカードを送っても、試験継続率は増加しなかったが、複数の無作為化比較試験内で同時に研究を行うstudy within a trial(SWAT)の実施は可能であることが示唆された。英国・ヨーク大学のElizabeth Coleman氏らが、幅広い領域の8つの主試験で同時に実施した“無作為化SWAT”の結果を報告した。多くの試験継続戦略が有効性のエビデンスなく使用されていることを受けて、著者は「研究の無駄を避け有効な戦略を確認するため、エビデンスに基づく戦略の評価が必要だ」と今回の検討の意義を述べている。BMJ誌2021年12月14日号クリスマス特集号の「TRADING PLACES」より。8つの無作為化試験で、参加者をクリスマスカード送付群と非送付群に無作為化 研究グループは、整形外科、消化器外科、泌尿器科、歯科、禁煙などさまざまな領域の無作為化試験8件において、これら主試験の参加者を、クリスマスカード送付群と非送付群に1対1の割合で無作為に割り付けた(各主試験が個別に割り付けを実施し、参加者は盲検化された)。 8試験は、「腹腔鏡下胆嚢摘出術と観察/保存的管理の比較」「妊娠中の禁煙支援に関するインセンティブの比較」「デュピュイトラン拘縮に対するコラゲナーゼ注射と手術の比較」「難治性膀胱症状を有する女性の管理における包括的臨床検査と侵襲的な尿流動態検査併用との比較」「65歳以上の上腕骨近位部骨折患者における3種類の手術の比較」「腎下極結石に対する経皮的腎砕石術、体外衝撃波結石破砕術および軟性尿管鏡下レーザー砕石術の比較」「高リスク高齢者における虫歯の予防・治療のためのフッ素入り歯磨き粉処方と通常ケアの比較」「術後創の二次治癒に対する陰圧閉鎖療法とドレッシングの比較」。 主要評価項目は、主試験における次回の追跡調査を完了した参加者の割合(試験継続率)、副次評価項目は追跡調査完了までの期間、カード送付1枚当たりの介入費用(人件費、印刷・郵送費など)とした。 2019年12月に、主試験8件において計3,223例が無作為化され、2020年3月31日までに追跡調査が行われた1,469例が解析対象となった。当初、試験期間は2020年12月までであったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行のため早期中止となった。クリスマスカード送付、試験継続戦略としての効果は認められず 解析対象1,469例の患者背景は、年齢16~94歳、女性が70%(1,033例)、白人が96%であった。 試験継続率は、主試験ごとの個別解析および統合解析のいずれにおいても、クリスマスカード送付群と非送付群で差は認められなかった。統合解析での試験継続率は、送付群85.3%(639/749例)、非送付群85.4%(615/720例)、オッズ比[OR]は0.96(95%信頼区間[CI]:0.71~1.29、p=0.77)であった。 クリスマスカード受領後30日以内に追跡調査がある参加者を比較した場合でも、両群間で差はなかった(OR:0.96、95%CI:0.42~2.21)。追跡調査完了までの期間も、群間差は確認されなかった(ハザード比[HR]:1.01、95%CI:0.91~1.13、p=0.80)。これらは、事後感度解析でも同様の結果が得られた。 介入費用は参加者1例当たり0.76ポンド(0.91ユーロ、1.02ドル)、カーボンフットプリントではカード1枚当たり約140gのCO2(二酸化炭素)排出量に相当した。

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第84回 次期診療報酬改定は「躊躇なくマイナス」、コロナ禍で疲弊した現場からは猛反発

財務省は11月8日の財政制度等審議会・財政制度分科会で、2022年度診療報酬改定について「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」として、財務省が求める提供体制再編に沿わなければ診療報酬の引き上げに応じない姿勢を見せた。これに対し、全国保険医団体連合会(保団連)は11月11日、「低医療費政策とコロナ禍で疲弊した医療提供体制全体を立て直すためにも、診療報酬の抜本的引上げが必要だ」と反論した。10回中8回のマイナス改定とコロナ禍で経営悪化また、財務省が「診療報酬本体部分(技術料)はプラス改定が続いてきた」「躊躇なくマイナス改定すべき」と主張していることに対して、保団連は「薬価引き下げ分を技術料に振り替える慣行が崩れている下で、診療報酬全体は大幅なマイナスになっている」と反論。2000年の改定を基準にすると、2020年改定までに8回のマイナス改定が行われ、診療報酬が10%以上引き下げられている苦境を示した。こうした低医療費政策の下、医療機関はぎりぎりの経営を迫られていたところに、新型コロナウイルス感染症が拡大。患者は減る一方、感染防止対策費用などが増加。その結果、2020年度の国民医療費は対前年度比で1.4兆円減となり、多くの医療機関が診療報酬の減収で疲弊している。基本診療料の10%以上の引き上げなどを要望保団連は、2022年度の診療報酬改定では、国民に安全・安心で必要な医療を提供するため、これまでの低医療費政策とコロナで疲弊したすべての医療機関・医療従事者を立て直し、新興感染症に強い医療体制を確立する必要があるとした。同時に、国民や患者の負担も限界にきており、受診抑制を招かないよう患者負担を軽減すべきと主張。2022年度診療報酬改定に向けて、以下の要望を公表した。国民に必要な医療を安定して提供するため、基本診療料(初・再診料、入院基本料など)と算定頻度の高い診療行為を中心に、診療報酬を10%以上引き上げる。新型コロナ感染症への対応に係る診療報酬である医科・歯科・入院の感染症対策実施加算(2021年9月末で廃止)、乳幼児感染予防策加算(2021年10月より評価半減)についての評価を引き上げ、基本診療料に包括して恒久化することを含め、改定に盛り込む。患者窓口負担を軽減する。初診からのオンライン診療解禁は止めること。処方薬剤や処方日数制限などのルールが守られておらず、現時点では対面診療に変わり得るものとは到底言えない。「単一建物診療患者」の概念を廃止し、在医(施設)総管(在宅時医学総合管理料および施設入居時医学総合管理料)の評価を高い点数で一本化すること。在宅医療を担う医療機関が増えない原因の一端に、医療機関が「同じ建物に管理料を算定する患者が多い」という理由で低い診療報酬を算定せざるを得ないという不合理な報酬体系がある。改定周知期間わずか2ヵ月、関連書類3,000枚超の改善をまた、診療報酬の個別改定項目の発出(1月下旬)から新点数の運用(4月1日)まで2ヵ月間しか周知期間がないことも問題視した。この間、A4で3,000枚以上にもなる膨大かつ複雑な点数表や告示・通知、疑義解釈などを把握しなければならないため、医療機関の大きな負担となっている。そのため、6ヵ月以上の周知期間を設けることを求めた。財務省や厚生労働省は、医療費の数合わせや医療機関をコントロールするための“テコ”に診療報酬改定を使うのではなく、現場の実情を踏まえた改定を心掛けてほしい。新型コロナで疲弊しきった医療界に、これ以上鞭打つようなやり方はあまりに酷である。

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第83回 医師臨床研修マッチング結果公表、東大マッチ者数105人、フルマッチでも自大学出身者15.2%の意味

病院のチーム編成の基礎、医師臨床研修マッチングこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、MLBのワールドシリーズはアトランタ・ブレーブスの26年振りの優勝で幕を閉じました。ブレーブスの優勝を牽引したのは、エディ・ロザリオ外野手、ホルヘ・ソレア外野手、ジョク・ピダーソン外野手ら、トレード期限である今年7月30日に新規加入した野手たちであったのはなかなか興味深いところです。7月初めの前半終了時点で負け越し(44勝45敗)だったチームが、ワールドシリーズで優勝したのは史上2チーム目だそうです。米国メディアでは、チーム構成の権限を持ちこれらの選手の獲得を行ったアレックス・アンソポロス GM(ゼネラル・マネージャー)の仕事ぶりを称える記事が数多く上がりました。一方、日本では、北海道日本ハムファイターズの新庄 剛志監督の就任会見インタビューが大きな話題となりました。見た目の派手さとは裏腹に、采配などに関する手堅い発言は、ひょっとしたら、と期待を抱かせるものでした。稲葉 篤紀GMとどのような新チームをつくるのか、楽しみです。ということで今回は、病院のチーム編成の基礎(プロ野球ならドラフトでしょうか)とも言える、医師臨床研修マッチングについて書いてみたいと思います。研修先内定8958人、内定率91.7%厚生労働省は10月28日、2021年度の医師臨床研修マッチングの結果を公表しました。医学生などの2022年度の臨床研修先を決める今回のマッチングで、研修先が内定した人数は8,958人(20年度比89人増)でした。マッチングの募集定員は1万904人(同103人減)、希望順位登録者数は9,768人(同142人増)でした。希望順位を登録した研修希望者のうち、臨床研修を受ける病院が内定した人の割合(内定率)は91.7%(20年度92.1%)でした。医師臨床研修マッチングは、2004年度に医師の臨床研修が義務化されたことにあわせて導入されました。臨床研修を受けようとする者と臨床研修を行う病院の研修プログラムを、お互いの希望を踏まえて、一定のアルゴリズムに従って、コンピュータにより組み合わせを決定するシステムです。 臨床研修を行う病院等の団体で構成される医師臨床研修マッチング協議会により行われています。臨床研修病院にマッチした医学生は63.3%で大学病院の倍厚労省のサイト、同協議会のサイトに「2021年マッチ結果発表資料」が掲載されています。それらのデータを基に独自集計した分析記事が、いくつかの医療専門媒体に掲載されました。「日経メディカル」は、大学病院希望者数と臨床研修病院(市中病院)希望者数の割合を出しています。それによれば、臨床研修病院にマッチした医学生は63.3%、大学病院の36.7%の倍となりました。大学病院と臨床研修病院の内定者数の差は2009年から拡大しているとのことです。多様で魅力的な研修内容や、待遇改善を打ち出す市中の臨床研修病院の人気は、今後も衰えないと見られます。大学病院本院81校中、定員充足率100%は14校発表資料には、「大学病院(施設別)における自大学出身者の比率」のデータがあり、大学病院別の定員充足率や、マッチ者に対する自大学出身者数の割合を見ることができます。大学病院本院81校中、定員充足率100%(フルマッチ)となったのは、東京大学(マッチ者数105人)、東京医科歯科大学(94人)、京都大学(76人)、京都府立医科大学(63人)、大阪医科薬科大学(55人)、奈良県立医科大学(54人)、関西医科大学(46人)、東海大学(46人)、聖マリアンナ医科大学(45人)、川崎医科大学(39人)、昭和大学(36人)、東京慈恵医科大学(35人)、藤田医科大学(32人)、産業医科大学(11人)の計14校でした。関西医大は7年連続、昭和大は5年連続でフルマッチを達成しています。なお、今回フルマッチを達成した中で、奈良県立医大、聖マリアンナ医大は昨年は30位以下(32位、36位)で、大躍進と言えます。逆に、定員充足率の低い大学病院本院を見ていくと、下位から弘前大学(マッチ者数4人、8.9%)、熊本大学(6人、14.0%)、岩手医科大学(7人、17.5%)、信州大学(12人、26.7%)、福島県立医科大学(12人、27.3%)となっています。地方の国立大学医学部が多いです。マッチ者の自大学出身割合が高い地方国立大医学部大学病院本院では、東京大学のマッチ者数105人、東京医科歯科大学94人、京都大学76人が際立っていますが、これを自大学出身者数の割合で比較すると、また違った風景が見えてきます。マッチ者の9割以上を自大学の出身者が占めた大学は17校あり、中でも高知大学(21人)、鳥取大学(15人)、島根大学(7人)、弘前大学(4人)はマッチ者の全員が同大の卒業生でした。こちらも地方の国立大学医学部にこの傾向が強いようです。ちなみに昨年、マッチ者全員が自大学出身者だったのは、旭川医大、山梨大学、金沢医科大学、香川大学、岩手医科大学でした。金沢医大、岩手医大以外はやはり地方国立大医学部です。地方の大学医学部は、うかうかしていると初期研修医を十分に集められない、というのが現状のようです。自大学出身者に残ってもらうため、研修内容の充実やアピールに毎年腐心している姿が浮かび上がってきます。”ブランド”大学医学部の自大学出身者率は低い傾向一方、自大学出身者 30%未満だったのは、東京慈恵会医科大学(14.3%)、東京大学(15.2%)、横浜市立大学(17.8%)、慶應義塾大学(22.0%)、順天堂大学(24.4%)、名古屋市立大学(25.0%)、神戸大学(25.9%)、北海道大学(29.4%)の8大学でした。自大学出身者の割合が低いのは、関東の”ブランド”大学医学部によく見られる傾向です。これらの大学では、初期研修では出身大学には進まず、市中の有名病院で腕を磨き、後期研修で出身大学の医局に戻ってくるケースが多いようです。慶應大学の場合は8割近くが戻ってくる、という話を聞いたこともあります。東大のようにいわゆる「ジッツ」(関連病院)が圧倒的に多い大学は、OBが多いジッツの有名病院で研修を受けるのがトレンドのようです。数年前に東大医学部を卒業した友人の息子も、研修先には東京の国立国際医療研究センター(今年の定員は32人で充足率100%)を選んでいました。自大学出身者が少なくても、定員充足率が100%近くにできるのは、”ブランド”大学医学部の強みと言えます。大都会という立地に加え、東大や慶應というブランドで、研修医を呼び込んでいるわけです。研修医としても、「研修先は東大でした」と後々周囲に言えるわけです。特に医師ではない一般人への効果は結構大きいと言えます(「東大王」というクイズ番組もあるほどですから)。「学歴ロンダリグ」とまでは言えませんが、自分の経歴に相応の箔を付けておきたい研修医は少なからずいることでしょう。一方、大学側としても、自大学出身者に加え、他大学からやってきた初期研修医も自分たちの”手駒”として将来使える可能性も出てくるわけで、双方にメリットがあることだと言えます。もちろん、医師臨床研修マッチングは、大学医学部だけではなく、市中病院にとっても貴重な若手戦力を確保する重要な機会です。各病院で、初期・後期の臨床研修を担当する責任者は、病院の将来のチーム編成の要の機能を果たしているわけで、そうした意味では、プロ野球チームのGMに近い存在と言えるかもしれません。

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第80回 保険医協会が各党に要請した「現場・患者目線」のコロナ政策

19日に公示された衆議院選挙。続くコロナ禍の中で、各政党が掲げる医療政策などの主張が報道されているが、医療者側が発信する要望はあまり報じられていない。10万人の医師・歯科医師が加入する全国保険医団体連合会のうち、近畿ブロックに加盟する8つの医科・歯科の保険医協会は、衆議院解散(10月14日)前の10月8日、新型コロナウイルス感染症に対する医療提供体制と公衆衛生行政の拡充を求める要請書を、各政党に送付した。要望は6つの大項目からなっており、以下で詳しく紹介する。1.新興感染症から人々の生命・健康を守る国の「公的責任」をより発揮していただきたい新興感染症という生命と健康の危機に人々が見舞われる今日、人々を守るのは国の義務。「自助・共助」であってはならない。新型コロナウイルス感染症が生じさせるあらゆる危機(疾患自体によるものに止まらず、雇用・経営・保育・福祉等生活上の危機も含む)に対して、常に公的責任を発揮した政治の実現を望む。2.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の謳う「良質かつ適切な医療」をすべての新型コロナウイルス感染症患者に保障していただきたい(1)1床でも多く、病床が確保できるように―日常から空床で準備しておく病床数を増やす。―感染拡大期には一般病床でも感染症患者を受け入れることになるため、一般病床の運営基準を見直す。―2次医療圏内の各医療機関の感染拡大時における役割分担をあらかじめ想定しておく。連携の中心は公立・公的病院が担えるようにする。―地域医療構想を活用した病床数コントロール策を抜本的に見直す。とりわけ、高度急性期・急性期を減らし、回復期へ移行させる方針はやめる。―医師数抑制策を転換し、医師数全体をOECD(経済協力開発機構)諸国並みに増員する。研修過程において、すべての医師に標準的な感染症対策の知見を身につけさせると共に、感染症専門医の育成を強化する。―第6波に向け、各都道府県における臨時医療施設の設置に対し、国として財政補助を行う。療養環境を可能な限り病院に近づける。(2)病床逼迫時の地域における医療・福祉・生活の保障が行えるように―診療所を含めたすべての医療機関が参加する感染症対策の体制を日常から構築しておく。構築する体制はせめて行政区単位、可能であれば日常生活圏域単位とする。―自宅療養の患者に対する医学管理は行政機関と地区医師会を窓口とした地域の医療機関が連携して担う。―宿泊療養施設は可能なまでに病院に近い療養環境と医療の提供を可能にし、すべての都道府県で中和抗体療法も行えるようにする。―自宅療養、宿泊療養を支える地域の医療機関に対し、休業補償も含めた十分な支援体制と、必要に応じた検査の実施を公費で保障する。3.保健所の危機を克服し、地域住民の生命を守る体制を再構築する(1)保健所と地域の医療者が連携して自宅療養者・入院待機者の生命を守る体制が確立できるよう、財政的・人的保障を行う。(2)自宅療養者への生活支援は、市町村が担えるよう財政的・人的保障を行う。(3)政令市保健所のうち、行政区保健所を統合した自治体において、当面、感染症対策機能を行政区単位で担えるようにする。4.PCR検査体制の拡充について(1)人々が自ら感染を拡げないために、主体的に気軽に無料で検査を行える仕組みを構築する。5.インフルエンザとの同時流行に備え、ワクチン接種の啓発と確保を(1)希望する人にワクチンが行き渡るように確保する(2)地域の医療機関において簡便に季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の鑑別・診断が行えるよう、同時迅速診断キットの供給を推進する。6.新型コロナワクチンについて、第16クール以降の供給見通し、供給スケジュールの全体像を早急に示すこと(1)いつまでに供給が行われるのか全体の見通しを供給スケジュールとして提示するとともに、第16クール以降のワクチン供給量を早急に明示する。(2)ワクチンを接種できない人たちに対する差別的取り扱いがなされないようにする。とりわけワクチン接種証明を、社会福祉をはじめとした公共サービスの利用条件とすることがないようにする。要請はいずれも切実な医療者の声を反映した内容である。与野党に関係なく、コロナ政策においてはぜひとも医療現場の願いと声に真摯に耳を傾け、本当に求められている政策を実現してほしい。

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