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心房細動合併安定CAD、リバーロキサバン単剤 vs.2剤併用/NEJM

 血行再建術後1年以上が経過した心房細動を合併する安定冠動脈疾患患者の治療において、リバーロキサバン単剤による抗血栓療法は、心血管イベントおよび全死因死亡に関してリバーロキサバン+抗血小板薬の2剤併用療法に対し非劣性であり、大出血のリスクは有意に低いことが、国立循環器病研究センターの安田 聡氏らが行ったAFIRE試験で示された。研究の成果は2019年9月2日、欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日のNEJM誌オンライン版に掲載された。心房細動と安定冠動脈疾患が併存する患者における最も効果的な抗血栓治療の選択は、個々の患者の虚血と出血のリスクの注意深い評価が求められる臨床的な課題とされている。日本の294施設が参加、単剤の非劣性を検証する無作為化試験 本研究は、日本の294施設が参加した多施設共同非盲検無作為化試験であり、2015年2月23日~2017年9月30日の期間に患者登録が行われた(バイエル薬品との契約を介して循環器病研究振興財団の助成を受けた)。 対象は、年齢20歳以上、心房細動と診断され、登録の1年以上前に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス手術(CABG)を受けた患者、または冠動脈造影で血行再建術の必要がない冠動脈疾患(狭窄≧50%)と判定された患者であった。 被験者は、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬であるリバーロキサバン(クレアチニンクリアランス15~49mL/分の患者は10mgを1日1回、同≧50mL/分の患者は15mgを1日1回)の単剤療法を受ける群、またはリバーロキサバン+抗血小板薬(治療医の裁量でアスピリンまたはP2Y12阻害薬から選択)の2剤併用療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を要する不安定狭心症、全死因死亡の複合とし、非劣性の評価が行われた(非劣性マージンは1.46)。安全性の主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血とし、優越性の評価が行われた。 なお、本研究は、併用群で全死因死亡のリスクが高かったため、独立データ安全性監視委員会の勧告により2018年7月、早期中止となった。事後解析では有効性の優越性を確認 2,215例(修正intention-to-treat集団)が登録され、単剤群に1,107例が、併用群には1,108例が割り付けられた。全体の平均年齢は74歳、男性が79%であった。1,564例(70.6%)がPCI、252例(11.4%)がCABGを受けていた。 ベースラインのCHADS2スコア中央値は2、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、HAS-BLEDスコア中央値は2であった。併用群の778例(70.2%)がアスピリン、297例(26.8%)はP2Y12阻害薬の投与を受けていた。治療期間中央値は23.0ヵ月(IQR:15.8~31.0)、フォローアップ期間中央値は24.1ヵ月(17.3~31.5)だった。 有効性の主要エンドポイントは、単剤群が89例、併用群は121例で発生し、人年当たり発生率はそれぞれ4.14%および5.75%であり、単剤群の併用群に対する非劣性が確認された(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.55~0.95、非劣性のp<0.001)。 また、安全性の主要エンドポイントの人年当たり発生率は、単剤群が1.62%(35例)と、併用群の2.76%(58例)に比べ有意に優れ(HR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.01)、単剤群の優越性が確証された。 副次エンドポイントである全死因死亡の人年当たりの発生率は、単剤群は1.85%であり、併用群の3.37%と比較して有意に良好であった(HR:0.55、95%CI:0.38~0.81)。このうち、心血管死(1.17% vs.1.99%、0.59、0.36~0.96)および非心血管死(0.68% vs.1.39%、0.49、0.27~0.92)のいずれにおいても、単剤群が有意に優れた。 事前に規定されたサブグループ(性別、年齢、脳卒中リスク、出血リスク、腎機能など)の解析では、有効性の主要エンドポイントは全般に単剤群で一致して良好な傾向が認められ、大出血イベントに関しても、同様の効果が観察された。 著者は、「事前に規定されていない解析では、有効性の主要エンドポイントに関して、単剤群の併用群に対する優越性が確認された」としている。

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適応拡大に向けた朗報!〜論文を読み解く上で重要な“国民性”〜(解説:西垣和彦氏)-1062

 明らかな原因が見当たらない脳梗塞である塞栓源不明脳塞栓症(Embolic Stroke of Undetermined Source:ESUS)に対する、ダビガトランの再発予防効果を検証する国際共同臨床試験RE-SPECT ESUS試験が発表された。さらに日本脳卒中学会2019で、RE-SPECT ESUS日本人サブグループ解析も発表され、この分野は大変注目されている。ESUSを巡る経緯 脳梗塞は世界各国の死因の上位を占める重篤な疾患である。とくに日本を含めた東アジアでの罹患率が高く、わが国の死因順位第4位が脳血管疾患である。脳梗塞の最も重要な問題点は、脳梗塞後遺症のため介護が必要となる可能性が高いことであり、超高齢社会を迎えるわが国の最重要疾患と位置付けられる。 脳卒中の4分の3は脳梗塞であり、内訳はラクナ梗塞が25%、アテローム血栓性脳梗塞が25%、心原性脳塞栓症が20%であり、そのほか動脈解離、血管炎など特定の原因による脳梗塞が5%に認められる。一方、原因疾患の明らかでない脳梗塞が全体の25%程度あり、潜因性脳卒中(Cryptogenic Stroke)と呼ばれてきたが、2014年Hart氏らは潜因性脳卒中のうちの原因不明な塞栓性梗塞をESUSと称することを提唱した。 ESUSに対する有効な薬物治療法は現在確立していないが、2006年に発表されたアスピリンとワルファリンで比較したWARSS試験のESUSに関するサブ解析で、有効性に差がなく、ワルファリンに重大な出血性合併症が多かった結果から、アスピリンが推奨されてきた。近年の研究から、ESUSの原因として最も頻度が高く重要と考えられるのが潜在性発作性心房細動であることから、心原性脳血栓塞栓症予防に用いられる直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬などの直接経口抗凝固薬が有効かもしれないとの仮説が立てられ、検証されることとなった。RE-SPECT ESUS試験の結果 ESUS患者の多施設共同無作為化二重盲検試験で、ダビガトラン150mgまたは110mgの1日2回投与と、アスピリン100mgの1日1回投与とを比較。主要転帰は脳梗塞の再発、主要安全性転帰は大出血。564施設で5,390例が登録され、ダビガトラン群(ダビ群:2,695例)とアスピリン群(ASA群:2,695例)に無作為に割り付けられた。中央値19ヵ月の追跡期間中に、脳梗塞の再発はダビ群177例(6.6%、4.1%/年)とASA群207例(7.7%、4.8%/年)に発生し、ダビガトランのアスピリンに対する優越性は示せなかった(HR:0.85、95%CI:0.69~1.03、p=0.10)。また大出血は、ダビ群77例(1.7%/年)とASA群64例(1.4%/年)に発生し、ダビ群とASA群は同等であった(HR:1.19、95%CI:0.85~1.66)。RE-SPECT ESUS試験の意義 本試験は、一見すると失敗と思える。しかし、昨年発表されたリバーロキサバンのNAVIGATE ESUSでは、脳梗塞の再発予防についてはダビガトランと同様にリバーロキサバンでも優越性は認められなかったが(リバーロキサバン群(リバ群)172例:5.1%/年、ASA群160例:4.8%/年、HR:1.07、95%CI:0.87-1.33、p=0.52)、大出血発症率はダビガトランと異なりリバ群のほうがASA群より有意に高かった(リバ群62例:1.8%/年、ASA群23例:0.7%/年、HR:2.72、95%CI:1.68-4.39、p<0.001)。 ダビガトランとリバーロキサバンの大出血発症率の違いは、両薬剤の性質で理解できるが、なぜ両剤ともアスピリンに対してESUSの再発予防で優越性を示せなかったのか? その一因がRE-SPECT ESUSの日本人サブグループ解析で明らかとなった。 RE-SPECT ESUSには、わが国からは594例(11%)が登録されている。この日本人データを解析したものが日本人サブグループ解析である。解析の結果、脳梗塞の再発はダビ群294例中20例(4.3%/年)とASA群300例中38例(8.3%/年)に発生し、試験全体の解析結果と異なり、ダビ群で有意に低い結果であった(HR:0.55、95%CI:0.32~0.94)。一方、大出血はダビ群294例中10例(2.5%/年)、ASA群300例中15例(3.8%/年)で同等という全体の解析と一貫した結果であった(HR:0.73、95%CI:0.32~1.62)。 試験全体で有意差のない大規模試験において、n数を約10分の1にして有意差が出ることは通常期待できないものであるが、なぜ日本人サブグループ解析で有効性が証明されたのか? この要因として、日本人という均一性と、わが国の脳卒中治療に携わる医師がESUSの定義をかなり厳密に考える国民性にある。ESUSは、頭部CTまたはMRI、12誘導心電図、経胸壁心エコー、心電図モニター(24時間以上)、頭蓋内外動脈の画像検査などを用いて、(1)ラクナ梗塞でない病巣の検出、(2)虚血病巣を灌流する頭蓋内外の血管に50%以上の狭窄性病変がない、(3)高リスク塞栓源心疾患がない、(4)脳梗塞を来す他の特異的な疾患(血管炎、動脈解離など)がない、の4項目すべてに該当する場合をESUSと定義する。したがって、ESUSが基本的には原因疾患が明らかな脳梗塞を除外する必要性のある診断である以上、種々のモダリティーを用いて除外診断を丁寧に行い、いかに登録患者を純化したのかにかかっている。これらの検査をきちんと行ってESUSと診断できた患者だけを登録する国民性は、世界に誇れるものである。最後に これまでの大規模試験でも、世界全体の結果と日本人だけを集めた結果とが大きく異なっていることは多々あった。これには、人種差、日本人集団という均一性だけでなく、試験医師の国民性も影響することを知るべきである。RE-SPECT ESUS試験から、ESUSと診断した患者に対するダビガトラン投与は、今後わが国でのESUSの標準治療となる。ダビガトランのESUS適応拡大に導く朗報であり、早急な適応拡大を望む。

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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第1回 耳鼻科の手技 その2【一般内科医が知っておきたい他科の基本処置】

第1回 耳鼻科の手技今回の耳鼻科編では、「耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング」と「鼻出血の止血処置」の2つの手技を学習します。「耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング」では、おなじみの耳の解剖図をもとに診察時にどのように、どこを診るか、処置するときに気を付けるポイント、処置時のコツなど臨床の最前線で活躍する医師の知恵満載でお届けします。一見簡単そうな「鼻出血の止血処置」では、世間で言われている間違った方法に警鐘を鳴らし、本当に止血できる処置の手技をコンパクトに解説します。解説は飯塚 崇氏(高野台いいづか耳鼻咽喉科 院長)、監修はへき地・離島医療の助っ人ゲネプロ。【耳鼻科編2】鼻の診かたと鼻出血止血

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第1回 耳鼻科の手技 その1【一般内科医が知っておきたい他科の基本処置】

第1回 耳鼻科の手技今回の耳鼻科編では、「耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング」と「鼻出血の止血処置」の2つの手技を学習します。「耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング」では、おなじみの耳の解剖図をもとに診察時にどのように、どこを診るか、処置するときに気を付けるポイント、処置時のコツなど臨床の最前線で活躍する医師の知恵満載でお届けします。一見簡単そうな「鼻出血の止血処置」では、世間で言われている間違った方法に警鐘を鳴らし、本当に止血できる処置の手技をコンパクトに解説します。解説は飯塚 崇氏(高野台いいづか耳鼻咽喉科 院長)、監修はへき地・離島医療の助っ人ゲネプロ。【耳鼻科編 1】耳道の診察と耳垢・異物のクリーニング

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添付文書改訂:スーグラ、フォシーガ/ゾフルーザ、タミフル/セロクエル、ビプレッソ、タケキャブほか【下平博士のDIノート】第24回

スーグラ錠25mg/50mg、フォシーガ錠5mg/10mg画像を拡大する<用法・用量>【イプラグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mgを1日1回まで増量可能です。【ダパグリフロジン錠】1型糖尿病:インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与します。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mgを1日1回まで増量可能です。<使用上の注意>1.本剤はインスリン製剤の代替薬ではありません。インスリン製剤の投与を中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こる恐れがあるので、本剤の投与にあたってはインスリン製剤を中止しないでください。2.本剤とインスリン製剤の併用にあたっては、低血糖リスクを軽減するためにインスリン製剤の減量を検討します。ただし、過度な減量はケトアシドーシスのリスクを高めるので注意してください。なお、臨床試験では、インスリン製剤の1日投与量の減量は、イプラグリフロジン錠では15%、ダパグリフロジン錠では20%以内とすることが推奨されました。<Shimo's eyes>選択的SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジン錠(商品名:スーグラ)とダパグリフロジン錠(同:フォシーガ)の効能・効果に、1型糖尿病が追加されました。これまで、成人1型糖尿病患者で、インスリン療法を行っても血糖コントロールが不十分な場合に使用できる経口薬はα-グルコシダーゼ阻害薬のみでしたが、今回の適応追加で、イプラグリフロジン錠またはダパグリフロジン錠による良好な血糖コントロールの維持や合併症の予防ができると期待されています。SGLT2阻害薬は、インスリン非依存的な血糖降下作用を示しますが、併用にあたっては低血糖やケトアシドーシスの発現に注意しましょう。ゾフルーザ錠10mg/20mg、タミフルカプセル75/タミフルドライシロップ3%画像を拡大する<重要な基本的注意>出血が現れることがあるので、患者およびその家族に以下を説明してください。1.血便、鼻出血、血尿、吐血、不正子宮出血などが現れた場合には医師に連絡すること。2.投与数日後にも現れることがあること。<併用注意(併用に注意すること)>ワルファリン:併用後にプロトロンビン時間が延長した報告があります。併用する場合には、患者の状態を十分に観察するなど注意しましょう。<Shimo's eyes>抗インフルエンザ治療薬のオセルタミビル(商品名:タミフル)とバロキサビル(同:ゾフルーザ)において、これらとの因果関係が否定できない出血に関する副作用が複数報告されたことを受け、厚生労働省医薬・生活衛生局が「使用上の注意」改訂の指示を出しました。また、「併用注意」としてワルファリンが追記されたため、抗凝固療法を行っている患者さんでは、慎重な観察が必要となります。セロクエル錠25mg/100mg/200mg、細粒50%、ビプレッソ徐放錠50mg/150mg、タケキャブ錠10mg/20mgほか画像を拡大する<重大な副作用>中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、多形紅斑が現れることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行ってください。<Shimo's eyes>薬疹の中では最も重症であるTENの死亡率は20~30%と考えられています。TENとSJSは重症多形滲出性紅斑と呼ばれる1つの疾患群に含まれ、水疱、びらんなどで皮膚がむけた部分が体表面積の10%未満の場合はSJS、10%以上の場合はTENと称されています。原因となる薬剤は多種多様で、ラモトリギン、ゾニサミド、カルバマゼピン、フェノバルビタールなどの抗てんかん薬やアロプリノール、各種解熱鎮痛薬などが挙げられます。発熱(38℃以上)を伴う皮膚や口唇、眼球結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における発疹やただれ、破れやすい水ぶくれのような症状が現れた場合、ただちに医師または薬剤師に相談するように指導しましょう。

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心房細動アブレーションに対するエドキサバン継続 vs.ワルファリン継続(ELIMINATE-AF)【Dr.河田pick up】

 エドキサバンはFXa(活性化血液凝固第X因子)を選択的に阻害することにより、心房細動患者において脳梗塞を予防する。心房細動アブレーションを受ける患者に対するエドキサバンの継続療法に関しては、これまで試験が行われていない。 ELIMINATE-AF試験は、多国籍、多施設共同、オープンラベルの無作為化並行群間比較試験。カテーテルアブレーションを受ける心房細動患者における、ワルファリンと比較したエドキサバン(1日1回60mg、減量投与が必要な患者には30mg)の安全性と有効性を評価するために行われた。ドイツのStefan H. Hohnloser氏、チェコのJosef Kautzner氏らヨーロッパのグループによる、European Heart Journal誌オンライン版4月11日号への報告。プライマリーエンドポイントは全死亡、脳卒中、大出血イベント 患者は2:1の割合でエドキサバン群とワルファリン群に無作為に割り付けられた。プライマリーエンドポイントは、アブレーション終了から治療終了まで(90日)の、全死亡、脳卒中、国際血栓止血学会が定めた大出血の最初の発生までの期間とされた。ヨーロッパ、アジア、カナダの11ヵ国の58施設から全体で632例が組み入れられ、614例が無作為化された。553例が割り当てられた薬剤を投与され、アブレーションを受けた。そのうち177例は、無症候性の脳梗塞を評価するために頭部MRIを受けている。プロトコールを遵守して最終的な解析(パー・プロトコール解析)を受けたのは417例(エドキサバン316例、ワルファリン101例)であった。 アブレーション前の抗凝固療法は、ガイドラインに準じて21~28日間行われた。また、アブレーション前に経食道エコーが行われ心内血栓が見つかった場合、手技は中止された。内因性のXa因子の阻害を保つため、最後のエドキサバン投与からアブレーションまでの時間は最大で18時間とした。プライマリーエンドポイントの発生はエドキサバン群2.7%、ワルファリン群1.7% プライマリーエンドポイント(大出血のみ発生)は、エドキサバン群で0.3%(1例)、ワルファリン群で2.0%(2例)であった(ハザード比:0.16、95%信頼区間:0.02~1.73)。アブレーションを受けた患者において(アブレーション患者を含む修正intention-to-treat[ITT]解析集団)、プライマリーエンドポイントは、アブレーション開始から治療終了時までの間にエドキサバン群で2.7%(10例)、ワルファリン群で1.7%(3例)に発生した。虚血性脳梗塞、脳出血による脳梗塞が1例ずつ発生し、ともにエドキサバン群であった。微小脳梗塞はエドキサバン群で13.8%(16例)、ワルファリン群で9.6%(5例)に認められた(名目上のp=0.62)。 全期間を通しての大出血イベントはエドキサバン群(1日1回60mg)2.5%であり、これはRE-CIRCUIT試験におけるダビガトラン(1日2回150mg)での1.6%、とAXAFA試験におけるアピキサバン(1日2回5mg)での3.1%と同様であったとしている。 また、ワルファリン群とエドキサバン群の間で大出血に統計学的な有意差は認められなかったが、臨床経過中に認められた非大出血はエドキサバン群で多い傾向にあり、これらのほとんどが術後48時間以内に起こったものであった。エドキサバンとワルファリン、プライマリーエンドポイントで有意差は認められず 結論として筆者らは、心房細動アブレーションを受ける患者においてエドキサバンの継続はワルファリンの継続の代替となりうるとしている。また、これまでの研究結果と同様、DOAC投与群で術後のMRIで無症候性の微小脳梗塞が高頻度で認められていたことも重要であろう。

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チカグレロルの中和薬、第I相試験で有効性確認/NEJM

 チカグレロルの特異的中和薬であるPB2452について、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らは、健常ボランティアにおいて、チカグレロルの抗血小板作用を迅速かつ持続的に中和し、毒性は軽度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月17日号に掲載された。チカグレロルは経口P2Y12阻害薬で、急性冠症候群の患者や心筋梗塞の既往のある患者において、虚血性イベントのリスクを抑制するために、アスピリンとの併用で使用される。しかし他の抗血小板薬と同様、チカグレロルも大出血や緊急の侵襲的手技に伴う出血が懸念され、その抗血小板作用には、血小板輸血による可逆性はなく、出血の抑制には速効型の中和薬が有用とされる。複数の検査法で血小板機能を評価するプラセボ対照第I相試験 本研究は、健常ボランティアを対象に、単施設で行われた二重盲検プラセボ対照無作為化第I相試験であり、2018年4月3日~8月23日に参加者の登録が行われた(PhaseBio Pharmaceuticalsの助成による)。 PB2452は、チカグレロル中和薬として、チカグレロルに高い結合親和性を有するモノクローナル抗体フラグメントである。健常ボランティア(年齢18~50歳、体重50~120kg、BMI 18~35)において、48時間のチカグレロルによる治療の前後およびPB2452またはプラセボを投与後に血小板機能の評価を行った。 血小板機能の評価には、透過光血小板凝集検査法、P2Y12血小板反応性のポイント・オブ・ケア検査、血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質検査が用いられた。中和作用は投与開始5分以内に発現、20時間以上持続 64例が登録され、PB2452群に48例(平均年齢30.5歳、男性48%)、プラセボ群には16例(34.0歳、69%)が割り付けられた。 PB2452群では、17例に27件の有害事象が認められた。主なものは注射部位内出血(4件)、医療機器部位反応(3件)、血管穿刺部位出血(2件)、注入部位血管外漏出(2件)であった。用量制限毒性や輸注反応はみられず、死亡や試験薬中止を要する有害事象、および入院を要する有害事象もみられなかった。 48時間のチカグレロル治療後には、血小板凝集能が約80%抑制された。迅速な中和を得るためにPB2452を静脈内ボーラス投与後、中和を持続させるために注入時間を8、12、16時間と延長すると、3つの測定法のすべてで、血小板機能がプラセボ群に比べ有意に上昇した。 チカグレロルの中和作用は、PB2452の投与開始から5分以内に発現し、20時間以上持続した(3つの測定法のすべての測定時点の値をBonferroni法で調整後のp<0.001)。薬剤投与終了後の血小板活性には、リバウンドの証拠はなかった。 著者は、「PB2452によるチカグレロルの抗血小板作用の中和は、出血患者に対し、より迅速な止血をもたらすか、また緊急の侵襲的手技を施行された患者において、出血を予防するかについては、まだ不明である」としている。

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第8回 肝硬変で同時施行の検査が査定/脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限/アムロジンの添付文書外処方で査定/筋筋膜性腰痛症の治療で査定【レセプト査定の回避術 】

事例29 肝硬変で同時施行の検査が査定肝硬変で、「プロトロンビン時間(PT)」と「トロンボテスト」の検査を請求した。●査定点「トロンボテスト」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「プロトロンビン時間(PT)とトロンボテストを同時に施行した場合は、主たるもののみ算定する」となっています。併用での2検査の請求はできないので注意が必要です。事例30 脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限心不全の診断目的で、脳性Na利尿ペプチド(BNP)を月2回で請求した。●査定点脳性Na利尿ペプチド(BNP)1回分が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「脳性Na利尿ペプチド(BNP)は、心不全の診断又は病態把握のために実施した場合に月1回に限り算定する」となっています。なお、心不全の診断目的時には、他の検査として心電図や胸部画像診断も行われていないと査定の対象になります。事例31 アムロジンの添付文書外処方で査定高血圧症で、アムロジピン(商品名:アムロジン錠)10mg 1日2錠(朝・夕)で請求した。●査定点アムロジン錠10mg 1日1錠が査定された。解説を見る●解説添付文書の「用法・用量」には、「通常、成人にはアムロジピンとして2.5~5mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減するが、効果不十分な場合には1日1回10mgまで増量することができる」となっています。アムロジン錠10mg 1日2錠は、過剰投与として査定されました。事例32 筋筋膜性腰痛症の治療で査定筋筋膜性腰痛症で、「消炎鎮痛等処置(1日につき)マッサージ等の手技による療法」と「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」を請求した。●査定点「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「腰部又は胸部固定帯固定」に、「同一患者につき同一日において、腰部又は胸部固定帯固定に併せて消炎鎮痛等処置、低出力レーザー照射又は肛門処置を行った場合は、主たるものにより算定する」となっています。同日に、両処置の請求はできませんので注意が必要です。

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第11回 循環の異常がある時2 ショックの徴候?直ちに医師・看護師に連絡【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は脈拍と血圧の異常について考えてみます。脈拍と血圧の異常からは循環の異常を察知します。バイタルサインに加え、患者さんを観察することにより循環の異常に気付くことがあるでしょう。循環の異常がある時、患者さんにはどのような変化が起こるのでしょうか。症例を通して考えたいと思います。患者さんBの場合経過──4「特に具合が悪くなったのは、今朝からでしたね」ショックと判断したあなたは、バイタルサインを記したメモを片手に、直ちに医師に連絡しました。連絡し終わった後、CRTを測定してみると、約3秒にまで延長していました。到着した訪問医師・看護師は、家族から今回の病歴を聴取し、バイタルサインを測定し、短時間で診察を終えた後、家族に説明し同意を得て救急車を要請しました。「循環」の3要素 プラス 「心臓外」の1要素ところで、循環に影響する要素は3つあります。それは「心臓」と「血液」と「血管」です。これらの3つは循環の3要素といわれていますが、さらにもう1つ「心臓外」の要素を加えると、ショックを4つに分類することができます。これら4つのいずれかまたは複数に異常を来すとショックとなるわけです。心臓:心原性ショック心臓のポンプ機能に何らかの異常があれば、循環動態は悪くなります。例:急性心筋梗塞血液:循環血液量減少性ショック心臓から送られる血液量が高度に減少すれば、いくら心臓のポンプ機能がよくても重要臓器には血液が行き渡りません。例:外傷による出血、消化管出血、熱中症による脱水血管:血液分布異常性ショック何らかの原因で血管が病的に拡張すると血圧は低下します。また、血管透過性が亢進して血管内にある水分が血管外に出てしまえば循環血液量が減少して循環不全となります。例:敗血症、アナフィラキシー心臓外:心外閉塞・拘束性ショック(閉塞性ショックともいわれます)心タンポナーデ※1など心臓の外から心臓の拡張が障害されたり、緊張性気胸※2など肺の異常により静脈灌流が障害されたりすると、循環動態が悪くなります。※1 心タンポナーデ心膜炎や急性心筋梗塞後の心破裂、外傷などにより心臓と心臓を覆う心外膜の間に体液・血液が貯留して心臓を圧迫し、血液を送り出す心機能が損なわれる状態。血圧低下、心拍動微弱、呼吸困難などの症状が現れる。※2 緊張性気胸肺胞の一部が破れて呼気が胸腔に漏れ出し、反対側の肺や心臓を圧迫している状態。呼吸しても息が吸えない。血圧低下、閉塞性ショックなどの重篤な状態に陥る。私たち(医師ら)は、一見して重症そうな患者さんを前にした時、バイタルサインのチェックとともにショックの徴候がないかをまず確認します。そして目の前の患者さんがショックであると察知した時、循環の3要素プラス心臓外の1要素(すなわちショックの分類です)を考えながらショックの原因を探り、ショックの状態から脱するように直ちに治療を開始します。経過──51週間後、訪問診療の医師と話をする機会がありました。「出血性胃潰瘍による、出血性ショック(循環血液量減少性ショック)でしたよ」あの日、救急車内で吐血したそうです。救急病院への搬送後、緊急内視鏡検査で大きな胃潰瘍から多量の出血が認められ、内視鏡を用いた止血術が行われました。いったんは集中治療室に入室しましたが、現在は一般病棟で落ち着いているそうです。みぞおちのあたりの痛みは胃潰瘍によるものだったのでしょう。黒色便は消化管出血の時にみられる所見です。抗血小板薬を内服中だったので、自然には出血が止まりにくかったと考えられました。エピローグ2週間後、退院の知らせを聞いてあなたが訪問すると、顔色の良くなった患者さんが笑顔で迎えてくれました。嬉しいひとときでした。ショックの徴候かも?と思ったら直ちに医師・看護師に連絡しましょう。とにかく、一人で判断しないこと、待たないことです。

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血液凝固の難しいところ(解説:後藤信哉氏)-1011

 血液凝固、血栓の非専門医は、Xa阻害はトロンビン阻害の上流程度の認識をしている。Xa阻害薬とトロンビン阻害薬が商業的にNOAC、DOACなどと包括されたことも誤解を増した。実際にはトロンビン阻害薬とXa阻害薬には本質的な差異がある。Xaは活性化血小板などの細胞膜上にて、他の凝固因子、リン脂質とプロトロンビナーゼ複合体を形成してトロンビン産生速度を上昇させる。トロンビン阻害薬の効果を阻害するためには、液相のトロンビンの酵素阻害作用を解除させればよかった。Xaは、液相に存在するものよりも、細胞膜上にてプロトロンビナーゼ複合体を構成している役割のほうが大きい。トロンビン阻害薬の効果は抗体により阻害できた。Xa阻害薬では、細胞膜上のプロトロンビナーゼ複合体中のXaの機能も阻害されているため液相のXa阻害の中和に加えて細胞膜上のXa阻害の中和の工夫が必要である。 andexanet alfaはXa阻害薬の効果を中和する薬剤であるが、トロンビン阻害薬の効果を阻害する抗体とはまったく異なる。トロンビン阻害薬の中和薬の効果は凝固マーカーの計測により臨床効果を予測できた。しかし、Xa阻害薬の中和薬であるandexanet alfaの出血イベント予防効果は血液凝固マーカーにより予測できないことが本研究により示唆された。Xa阻害薬の中和薬としてXaのおとりを使用するとのコンセプトは科学的に革新的であった。しかし、血液凝固マーカーにより臨床イベント予測ができないことは当初から懸念された。本研究は当初の懸念が事実であることを示唆した。凝固マーカーにより臨床イベントを予測できないとなると、イベント発症率を比較するランダム化比較試験が必要となる。 本研究は重要である。血液凝固における「cell based coagulation」まで考慮すると薬剤の効果予測が困難となる。andexanet alfaの臨床開発が困難との解釈もできるし、これまで血液凝固マーカーを指標に薬剤スクリーニングを行ってきたが、意外なところに血栓イベントを予防可能な「cell based coagulation」阻害薬が隠れている可能性も示唆している。比較的単純な生体現象である「血液凝固の難しいところ」を示す貴重な研究であった。

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C型肝炎へのDAA、実臨床での有効性を前向き調査/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療に広範に使用されてきたが、その実臨床における有効性の報告は十分でなく、投与例と非投与例を比較した調査はほとんどないという。今回、フランス・ソルボンヌ大学のFabrice Carrat氏らの前向き調査(French ANRS CO22 Hepather cohort研究)により、DAAは慢性C型肝炎による死亡および肝細胞がんのリスクを低減することが確認された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年2月11日号に掲載された。ウイルス蛋白を標的とするDAA(NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬)の2剤または3剤併用療法は、HCV感染に対し汎遺伝子型の有効性を示し、95%を超える持続的ウイルス陰性化(SVR)を達成している。DAAの有無でアウトカムを比較するフランスの前向きコホート研究 研究グループは、DAA治療を受けた患者と受けていない患者で、死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生率を比較するコホート研究を実施した(INSERM-ANRS[France Recherche Nord & Sud Sida-HIV Hepatites]などの助成による)。 フランスの32の肝臓病専門施設で、HCV感染成人患者を前向きに登録した。慢性B型肝炎患者、非代償性肝硬変・肝細胞がん・肝移植の既往歴のある患者、第1世代プロテアーゼ阻害薬の有無にかかわらずインターフェロン-リバビリン治療を受けた患者は除外された。 試験の主要アウトカムは、全死因死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生の複合とした。時間依存型Cox比例ハザードモデルを用いて、DAAとこれらアウトカムの関連を定量化した。 2012年8月~2015年12月の期間に、1万166例が登録された。このうちフォローアップ情報が得られた9,895例(97%)が解析に含まれた。全体の年齢中央値は56.0歳(IQR:50.0~64.0)で、53%が男性であった。補正前は高リスク、多変量で補正後は有意にリスク低下 フォローアップ期間中に7,344例がDAA治療を開始し、これらの患者のフォローアップ期間中央値(未治療+治療期間)は33.4ヵ月(IQR:24.0~40.7)であった。2,551例は、最終受診時にもDAA治療を受けておらず、フォローアップ期間中央値は31.2ヵ月(IQR:21.5~41.0)だった。 DAA治療群は非治療群に比べ、年齢が高く、男性が多く、BMIが高値で、過量アルコール摂取歴のある患者が多かった。また、DAA治療群は、肝疾患や他の併存疾患の重症度が高かった。さらに、DAA治療群は、HCV感染の診断後の期間が長く、肝硬変への罹患、HCV治療中、ゲノタイプ3型の患者が多かった。 試験期間中に218例(DAA治療群:129例、DAA非治療群:89例)が死亡し、このうち73例(48例、25例)が肝臓関連死、114例(61例、53例)は非肝臓関連死で、31例(20例、11例)は分類不能であった。258例(187例、71例)が肝細胞がん、106例(74例、32例)が非代償性肝硬変を発症した。25例が肝移植を受けた。 未補正では、DAA治療群のほうが非治療群に比べ、肝細胞がん(未補正ハザード比[HR]:2.77、95%信頼区間[CI]:2.07~3.71、p<0.0001)および非代償性肝硬変(3.83、2.29~6.42、p<0.0001)のリスクが有意に高かった。 これに対し、年齢、性別、BMI、地理的発生源、感染経路、肝線維化スコア(fibrosis score)、HCV未治療、HCVゲノタイプ、アルコール摂取、糖尿病、動脈性高血圧、生物学的変量(アルブミン、AST、ALT、ヘモグロビン、プロトロンビン時間、血小板数、α-フェトプロテイン)、肝硬変患者の末期肝疾患モデル(MELD)スコアで補正したところ、DAA治療群では非治療群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.48、95%CI:0.33~0.70、p=0.0001)および肝細胞がん(0.66、0.46~0.93、p=0.018)のリスクが有意に低下し、未補正での非代償性肝硬変のリスクの有意差は消失した(1.14、0.57~2.27、p=0.72)。 また、全死因死亡のうち、肝臓関連死(0.39、0.21~0.71、p=0.0020)と非肝臓関連死(0.60、0.36~1.00、p=0.048)のリスクは、いずれもDAA治療群で有意に低かった。 著者は、「DAA治療は、あらゆるC型肝炎患者において考慮すべきである」と結論し、「今回の結果は、重症度の低い患者へフォローアップの対象を拡大し、DAAの長期的な臨床効果の評価を行うことを支持するものである」としている。

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andexanet alfa、第Xa因子阻害薬による大出血に高い止血効果/NEJM

 andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の使用により急性大出血を来した患者において、抗第Xa因子活性を著明に低下させ、良好な止血効果をもたらすことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らが行ったANNEXA-4試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年2月7日号に掲載された。andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の中和薬として開発された遺伝子組み換え改変型ヒト第Xa因子不活性体で、2018年、米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認プログラムの下、アピキサバンまたはリバーロキサバン治療中に出血を来し、抗凝固薬の中和を要する患者への投与が承認を得ている。本試験は2016年に中間解析の結果が発表され、現在、エドキサバン投与例を増やすために、継続試験としてドイツで患者登録が続けられ、2019年中には日本でも登録が開始される予定だという。andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化と止血効果を評価 本研究は、北米および欧州の63施設が参加した非盲検単群試験であり、2015年4月~2018年5月の期間に、中間解析の対象となった67例を含む352例が登録された(Portola Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、第Xa因子阻害薬投与から18時間以内に急性大出血を発症した患者であった。被験者には、andexanet alfaが15~30分でボーラス投与され、その後2時間をかけて静脈内投与された。 主要アウトカムは2つで、(1)andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化率、(2)静脈内投与終了から12時間後の止血効果が、事前に規定された基準で「きわめて良好」または「良好」と判定された患者の割合であった。 andexanet alfaの有効性の評価は、大出血が確認され、ベースラインの抗第Xa因子活性が75ng/mL以上(エノキサパリン投与例では0.25IU/mL以上)のサブグループで行った。andexanet alfaの止血効果は82%で良好以上、活性低下は効果を予測せず 対象の平均年齢は77歳で、48例(14%)が心筋梗塞、69例(20%)が脳卒中、67例(19%)が深部静脈血栓症、286例(81%)が心房細動、71例(20%)が心不全、107例(30%)が糖尿病の病歴を有していた。 また、128例(36%)がリバーロキサバン、194例(55%)がアピキサバン、10例(3%)がエドキサバン、20例(6%)がエノキサパリンの投与を受けていた。主な出血部位は、頭蓋内が227例(64%)、消化管が90例(26%)だった。254例(72%)が有効性評価の基準を満たした。 有効性評価では、アピキサバン群(134例)は抗第Xa因子活性中央値がベースラインの149.7ng/mLからandexanet alfaのボーラス投与終了時には11.1ng/mLへと、92%(95%信頼区間[CI]:91~93)低下し、リバーロキサバン群(100例)は211.8ng/mLから14.2ng/mLへと、92%(88~94)低下した。また、エノキサパリン群(16例)は0.48IU/mLから0.15IU/mLへと、75%(66~79)低下した。3剤とも、この効果が静脈内投与終了時まで、ほぼ維持されていた。 andexanet alfaの静脈内投与終了から4、8、12時間後の抗第Xa因子活性中央値のベースラインからの変化率は、アピキサバン群がそれぞれ-32%、-34%、-38%、リバーロキサバン群が-42%、-48%、-62%だった。 andexanet alfaの止血効果の評価は249例で行われた。このうち204例(82%)が、「きわめて良好」(171例)または「良好」(33例)と判定された。これには、アピキサバン群の83%、リバーロキサバン群の80%、エノキサパリン群の87%が含まれ、頭蓋内出血の80%、消化管出血の85%が該当した。 30日以内に49例(14%)が死亡し、34例(10%)に血栓イベントが認められた。全体として、抗第Xa因子活性の低下は止血効果を予測しなかった(AUC:0.53、95%CI:0.44~0.62)が、頭蓋内出血の患者ではある程度の予測因子であった(0.64、0.53~0.74)。 著者は、82%というandexanet alfaの止血効果は、ビタミンK拮抗薬治療に伴う大出血に対するプロトロンビン複合体製剤の試験で観察された72%に匹敵するとした。一方、抗第Xa因子活性低下は頭蓋内出血での臨床効果を予測したとはいえ、抗第Xa因子活性の測定は難しく、実臨床において有用となる可能性はほとんどないだろうと指摘している。

154.

血友病〔Hemophilia〕

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疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

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抗凝固薬の選択~上部消化管出血とPPIの必要性(解説:西垣和彦氏)-985

抗凝固薬の宿命 “出血しない抗凝固薬はない”。もともと抗凝固薬自体に出血をさせる力はないが、一旦出血したら止血するのに時間がかかるために出血が大事をもたらすこととなる。そもそも出血傾向をもたらすことが抗凝固薬の主作用であるので至極自明なことではあるのだが、直接経口抗凝固薬(DOAC)だけでなくビタミンK依存性凝固因子の生合成阻害薬であるワルファリンを含めて、“凝固薬自体が出血を起こさせた”と理解している方がいかに多いことか。 近年、わが国だけでなく欧米においても、心房細動により生成される心内血栓が遊離して塞栓となる心原性脳血栓塞栓症には多大な配慮を行っている。この理由として、この心原性脳血栓塞栓症の発症自体は年間3~4%と低い発症率と推定されてはいるが、脳梗塞の他の病態であるアテローマ性やラクナ梗塞と同程度の頻度があり決して少なくないという点、さらに一旦発症すると非常に大きな血栓塊であることが多いため、2割が急死、4割が要介護4以上という悲惨な病状に追い込まれ、由緒正しい重度の寝たきりとなる危険性があるためである。このことは、わが国だけでなく国際的にも医療費の膨大に頭を悩ませている関係者においても、由々しき疾患であることは間違いない。そこで、抗凝固薬をなるべく多くの心房細動患者に投与し、少しでも寝たきりとなる症例を減らそうということになるが、すべからく前述の消化管出血への適切な対応が問題として浮上してくる。この、抗凝固薬の宿命ともいえる命題に対して、(1)最も上部消化管出血が少ない抗凝固薬はどれか?(2)上部消化管出血をプロトンポンプ阻害薬(PPI)は本当に予防できるのか? の2点をコホートで検証したのが本論文である。本論文のポイントは? 本論文は、2011年1月1日~2015年9月30日までにおけるメディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究である。比較した抗凝固薬は、アピキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン、そしてワルファリンの4剤で、上部消化管出血の頻度を比較し、PPI併用あるいはPPIなしで上部消化管出血の予防効果も比較している。主要評価項目は、上部消化管出血による入院とし、抗凝固療法1万人年当たりの補正後発生率およびリスク差(RD)、発生率比(IRR)を算出。解析対象は、新規に抗凝固薬が処方された171万3,183件、164万3,123例(平均76.4歳、追跡65万1,427人年、女性56.1%、心房細動患者74.9%)。 PPI併用のなかった75万4,389人年で、上部消化管出血の発生は7,119件、補正後発生率115件/1万人年であった。薬剤別では、リバーロキサバン144件/1万人年、アピキサバン73件/1万人年、ダビガトラン120件/1万人年、ワルファリン113件/1万人年であり、上部消化管出血発生率はリバーロキサバンが最も高率、アピキサバンはダビガトラン、ワルファリンよりも有意に低かった。 PPI併用のある26万4,447人年では、上部消化管出血の発生は2,245件、補正後発生率は76件/1万人年であり、PPI併用なしと比較して上部消化管出血による入院を大きく減らした(IRR:0.66)。このことは、抗凝固薬の種類によらず(アピキサバン[IRR:0.66、RD:-24]、ダビガトラン[IRR:0.49、RD:-61.1]、リバーロキサバン[IRR:0.75、RD:-35.5]、ワルファリン[IRR:0.65、RD:-39.3])、いずれにもPPIは有効であった。本論文の意義と読み方 本論文の結論は、以下の2点である。(1)上部消化管出血による入院率は、リバーロキサバンで最も高く、アピキサバンで最も低い。(2)各抗凝固薬いずれもPPIは有効であり、上部消化管出血による入院率を低減させる。 メディケア受益者のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究は、これまでも抗凝固薬に関連した多くの報告をしており、抗凝固薬の特性から到底割り付け困難と思われるワルファリンとの大規模無作為比較試験の結果を補正するリアルワールドの実臨床に則したデータを示してきた。DOAC間ではリバーロキサバンがアピキサバンに比べて明らかに大出血率が高い(HR:1.82)ことは以前にも報告されており1)、同じデータベースに基づくだけに結論が同じとなることは必定、新鮮味がないことは否めない。メディケアは、65歳以上の高齢者と障害者のための米国医療保険であり、国が運営する制度であるが、メディケアを受給できる人は一定の条件を満たす特別な米国人であることを忘れてはならない。あくまでも、保険請求のあった主観的な事後報告のコホート試験である。医師の薬剤選択によるバイアスや他の雑多な患者選択特性をプロペンシティ・スコア・マッチングでそろえて比較した試験であるので、エビデンスレベルとしてはお世辞にも決して高くはない。また何よりも抗凝固薬に対する大規模比較試験では、人種差や医療レベルの違いが副作用としての消化管出血の頻度に大きく影響することもすでに指摘されており、この論文の結果そのものがわが国でも当てはまるとは限らないことを強調したい。PPIの強力な上部消化管出血予防効果には既存の報告からも疑問の余地はないが、果たして万人に必要か否か、どのような患者に必要なのかという命題が依然残ることは致し方ない。最後に 確かに、近年報告される抗凝固薬を比較した大規模試験においては、リバーロキサバンの易出血性を結論付けている報告が多く、ある意味人種差を超越している。このことから、ある程度リバーロキサバンの持つ薬剤特性を捉えている可能性はあるが、DOAC相互を直接比較した無作為比較試験はいまだないことから、今なお断言できない。この命題から答えを導き出すには、わが国での製薬業界が定めた自主規制という名の行き過ぎたレギュレーションが大きな弊害となっていると憂慮するのは、私だけだろうか。

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至適用量って、わからないのね?(解説:後藤信哉氏)-944

 ワルファリン以外の抗凝固薬としてトロンビン阻害薬、Xa阻害薬が開発された。ワルファリンと異なり「用量調節不要!」と当初宣伝された。しかし、心房細動の脳卒中予防以外の適応拡大においてリバーロキサバンでは「節操がない」ほど各種用量が選択された。2.5mg×2/日の用量は急性冠症候群(ATLAS TIMI 51)、冠動脈疾患・末梢血管疾患(COMPASS)では有効性が示された(重篤な出血合併症は増加したが…)。同一用量が心不全では有効性を示せなかった(COMMANDER HF)。 今回は、COMMANDER HFのような収縮機能の阻害された心不全を含む内科疾患の入院症例における、症候性静脈血栓塞栓症・静脈血栓塞栓が疑われる死亡の複合エンドポイントとした試験が、リバーロキサバン10mg/日とプラセボにて比較された。1万2,024例を対象としたランダム化比較試験にてリバーロキサバン群では重篤な出血は多く、血栓イベントは少なめだったが1次エンドポイントとしてはプラセボ群と差がなかった。「適応拡大」のための用量設定根拠が明確とはいえない試験の繰り返しの結果、Xa阻害薬を追加すれば血栓イベントは予防するっぽく、出血は増えることがわかった。ランダム化比較試験は本来普遍的な科学としての仮説検証試験であったはずではあるが、用量が揺らげば普遍性も揺らぐことがあらためてわかった。

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第4回 DICへのアンスロビンP500の査定/セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定/腫瘍マーカー検査の査定/C型慢性肝炎検査の査定【レセプト査定の回避術 】

事例13 DICへのアンスロビンP500処方の査定アンチトロンビンIII低下を伴うDICで乾燥濃縮人アンチトロンビンIII(商品名:アンスロビンP)500注射用3瓶を点滴静注した。●査定点アンスロビンP500注射用3瓶が査定された。解説を見る●解説アンスロビンP500注射用の添付文書に「アンチトロンビンIII低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)→アンチトロンビンIIIが正常の70%以下に低下した場合は、通常成人に対し、ヘパリンの持続点滴静注のもとに、本剤1日1,500単位(又は30単位/kg)を投与する」と記載があります。アンチトロンビンIII検査が先月末に行われ、アンスロビンP500注射用投与時の月にはアンチトロンビンIII検査が施行されていませんでした。このケースでは、アンスロビンP500注射用投与時の月に症状詳記に「〇月〇日+検査数値」を記載することが必要でした。事例14 セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定統合失調症で、クエチアピン(商品名:セロクエル錠)を25mg 2T投与し、HbA1cの検査を請求した。●査定点HbA1c検査が査定された。解説を見る●解説セロクエル錠の添付文書の副作用に「著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと」と警告されているため、HbA1c検査を施行しました。しかし、その場合でも、「糖尿病の疑い」の病名がないと査定されます。ここでは処方のつど、病名を追記するよりも、症状詳記での記載が求められます。事例15 腫瘍マーカー検査の査定初診月の病名で胃潰瘍、胃がんの疑いでCEA、CA19-9の検査を請求した。●査定点CEA、CA19-9が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の腫瘍マーカーに、「診療及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者に対して、腫瘍マーカーの検査を行った場合に、1回に限り算定する」となっています。他の検査が施行されていない場合でCEA、CA19-9だけを請求すると査定の対象になります。また、他院からの紹介の場合では、「〇〇医療機関から〇月〇日に紹介された」と記載することが求められています。事例16 C型慢性肝炎検査の査定C型慢性肝炎でHCV核酸検出とHCV核酸定量の検査を請求した。●査定点HCV核酸定量が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の微生物核酸同定・定量検査に、「HCV核酸検出とHCV核酸定量を併せて実施した場合には、いずれか一方に限り算定する」と通知があるため、両検査の請求は認められません。

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冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果(COMMANDER HF)検証すべき仮説だったのか?(解説:高月誠司氏)-927

 本研究は、冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果を検証する二重盲検の多施設ランダム化比較試験である。プラセボ群とリバーロキサバン2.5mgを1日2回投与群の2群に分け、主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントである。なぜ洞調律の冠動脈疾患の心不全例にリバーロキサバンを投与するのか、という疑問をまず持たれると思う。リバーロキサバンは非弁膜症性の心房細動の脳梗塞予防、深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の予防・治療薬である。本研究の背景には慢性心不全増悪後に心不全の再入院や死亡を起こすことが多く、その原因としてトロンビン関連の経路により惹起された、炎症や内皮機能不全や動脈・静脈血栓症が考えられると記載されている。思い切った仮説を検証しに行ったものである。確かに重症心不全例は心房細動や深部静脈血栓症を合併しやすく、本研究では登録時に心房細動例は除外されたものの、その後に発症した隠れ心房細動例には、若干の効果があるかもしれない。 5,022例の患者がランダム化され、フォローアップの中央値は21.1ヵ月であった。結果は、主要アウトカムの1年あたりの発症率は、リバーロキサバン群で25.0%、プラセボ群で26.2%で、有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。本研究では冠動脈疾患患者が対象で、93.1%の患者が抗血小板薬を内服し、34.8%の患者は2剤の抗血小板薬を内服していた。当然、出血性の合併症が危惧される。結果、致死的な大出血は両群間で差がなかったが、ISTHによる大出血がリバーロキサバン群でプラセボ群よりも多かった(年間発症率2.04% vs.1.21%、HR:1.68、95%CI:1.18~2.39、p=0.003)。また、プロトコールからの脱落率はリバーロキサバン群で年間あたり16.3%、プラセボ群で13.6%。理由の内訳は出血イベントがリバーロキサバン群で多かった。 本研究の結果はある意味予想どおりのnegative studyである。それを研究者が正直に発表すること、そしてnegative studyであっても雑誌がしっかり評価し公表することはきわめて大事である。ただ本研究の仮説、冠動脈疾患で洞調律の慢性心不全に抗凝固療法が有効か、これが検証すべき仮説だったかどうか、皆さんはどう感じられるだろうか。

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合成カンナビノイド関連凝固障害が米国で集団発生/NEJM

 2018年3~4月に、米国イリノイ州で合成カンナビノイドの使用に関連する凝固障害の患者が集団発生した。予備検査で抗凝固薬の混入の可能性が示されたため、確認検査を行い、患者データを再検討したところ、数種のスーパーワルファリンの混入が確かめられた。多くの患者は、ビタミンK1補充療法で症状が抑制されたが、合成カンナビノイド化合物の詳細は判明していないという。米国・University of Illinois College of Medicine at PeoriaのAmar H Kelkar氏らが、NEJM誌2018年9月27日号で報告した。45件の入院中に34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定 2018年3~4月に、150例以上の患者が、凝固障害および出血性素因でイリノイ州の病院を受診した。地域の医師と公衆衛生機関は、凝固障害と合成カンナビノイドの使用との関連を確認した。患者の血清と薬剤のサンプルの予備検査では、抗凝固薬brodifacoumの混入の可能性が示唆された。 そこで、研究チームは、2018年3月28日~4月21日にイリノイ州ピオリアのSaint Francis医療センターに入院した患者について、医師から報告されたデータを再検討した。ケースシリーズには、合成カンナビノイド関連凝固障害の診断に用いられる判定基準を満たした成人患者を含めた。確認として行われた抗凝固薬中毒の検査は、担当医の判断で指示された。 45件の入院中に、34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定された。年齢中央値は37歳(IQR:27~46歳)、24例(71%)が男性で、32例(94%)が白人であった。合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入により臨床的に重大な凝固障害の可能性 受診時に最も頻度の高かった出血症状は肉眼的血尿(19例、56%)であり、非出血症状では腹痛(16例、47%)の頻度が高かった。合成カンナビノイドの使用頻度は、毎日(16例、47%)から初めて(4例、12%)まで、大きなばらつきが認められた。集団発生に関連した合成カンナビノイドの詳細は明らかではないが、いくつかの市販品が報告されている。 重度の腹痛または側腹部痛がみられる患者の出血状況を評価するために、画像検査が行われた。最も多い異常所見は、CTが施行された23例中12例にみられた腎臓の異常であった(腎周囲線状陰影[perinephric stranding]、充血、びまん性肥厚など)。 抗凝固薬の確認検査は34例中15例で行われ、15例でスーパーワルファリン中毒が確認された。brodifacoumが15例(100%)、difenacoumが5例(33%)、bromadioloneが2例(13%)、ワルファリンが1例(7%)で陽性であった。 ビタミンK1(フィトナジオン)が、34例全例に経口投与された。23例(68%)には静注投与も行われた。赤血球輸血が5例(15%)に、新鮮凍結血漿輸注が19例(56%)に施行され、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤が1例に使用された。治療により、入院中に死亡した1例を除き、出血は止まった。 この死亡例(37歳、女性)は、特発性頭蓋内出血の合併症で死亡した。集団発生中に全州で4例が死亡したが、死亡と関連した出血症状が認められたのは、本症例のみであった。この症例は、合成カンナビノイドとアンフェタミンを使用しており、受診時に頭部外傷は確認されておらず、凝固障害の既往歴や家族歴がなく、抗凝固薬は処方されていないことが確認された。 著者は、「これらのデータは、合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入は、臨床的に重大な凝固障害を引き起こす可能性があることを示すもの」としている。

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リバーロキサバン、 非心房細動・冠動脈疾患併発の心不全増悪に有効か/NEJM

 心不全は、不良な予後が予測されるトロンビン関連経路の活性化と関連する。フランス・Universite de LorraineのFaiez Zannad氏らCOMMANDER HF試験の研究グループは、慢性心不全の増悪で入院し、左室駆出率(LVEF)の低下と冠動脈疾患がみられ、心房細動はない患者の治療において、ガイドラインに準拠した標準治療に低用量のリバーロキサバンを追加しても、死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生を改善しないことを示した。リバーロキサバンは、トロンビンの産生を抑制する経口直接第Xa因子阻害薬であり、低用量を抗血小板薬と併用すると、急性冠症候群および安定冠動脈疾患の患者において、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発生が低減することが知られている。NEJM誌オンライン版2018年8月27日号掲載の報告。32ヵ国628施設で、心不全増悪患者約5,000例を登録 本研究は、32ヵ国628施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Janssen Research and Development社の助成による)。対象は、3ヵ月以上持続する慢性心不全がみられ、LVEF≦40%、心不全増悪(インデックスイベント)による入院後21日以内で、冠動脈疾患を有し、ガイドラインに準拠した適切な薬物療法を受け、抗凝固療法は受けていない患者であった。心房細動がみられる患者は除外された。 2013年9月~2017年10月の期間に、5,022例(ITT集団)が登録され、リバーロキサバン(2.5mg、1日2回)+標準的抗血小板療法を施行する群に2,507例、プラセボ+標準的抗血小板療法を施行する群に2,515例が割り付けられた。追跡期間中央値は21.1ヵ月であった。 有効性の主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合であり、安全性の主要アウトカムは、致死的出血と、後遺障害が発生する可能性がある重要部位(頭蓋内、髄腔内、眼内など)の出血の複合であった。脳卒中は抑制、大出血リスクが高い 平均年齢はリバーロキサバン群が66.5±10.1歳、プラセボ群は66.3±10.3歳で、女性がそれぞれ22.0%、23.8%含まれた。心筋梗塞が76.2%、75.2%、脳卒中が8.3%、9.7%、糖尿病が40.8%、40.9%、高血圧が75.7%、75.0%に認められた。 有効性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が25.0%(626/2,507例)、プラセボ群は26.2%(658/2,515例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。項目別にみると、全死因死亡はリバーロキサバン群:21.8% vs.プラセボ群:22.1%(HR:0.98、95%CI:0.87~1.10)、心筋梗塞3.9 vs.4.7%(0.83、0.63~1.08)、脳卒中は2.0 vs.3.0%(0.66、0.47~0.95)であった。 安全性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が0.7%(18/2,499例)、プラセボ群は0.9%(23/2,509例)と、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.80、95%CI:0.43~1.49、p=0.48)。項目別にみると、致死的出血(リバーロキサバン群:0.4% vs.プラセボ群:0.4%、HR:1.03、95%CI:0.41~2.59、p=0.95)および後遺障害が発生する可能性のある重要部位の出血(0.5 vs.0.8%、0.67、0.33~1.34、p=0.25)について両群間の有意差はなかったが、大出血リスクはリバーロキサバン群のほうが有意に高かった(3.3 vs.2.0%、1.68、1.18~2.39、p=0.003)。 著者は、「リバーロキサバンが心血管アウトカムを改善しなかった最も可能性の高い理由は、トロンビン介在性イベントは、心不全で入院したばかりの患者における心不全関連イベントの大きな要因ではないことである」とし、「事実、本試験で最も頻度の高い単一のイベントは心不全による再入院であり、アテローム血栓性イベントよりもむしろ心不全が、実質的な死亡割合に寄与している可能性がある」と指摘している。

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