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心房細動と動脈硬化、MRIで異なる脳血管病変示す/ESC2025

 心房細動(AF)とアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)は、一般集団と比較して脳血管病変の発生率を高める。今回、AF患者は動脈硬化患者と比較して、非ラクナ型脳梗塞、多発脳梗塞、重度の脳室周囲白質病変の発生頻度が高いことが明らかになった。本研究結果はカナダ・マクマスター大学のTina Stegmann氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)の心房細動のセッションで発表し、European Heart Journal誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 本研究は、AF患者と動脈硬化患者の脳MRIによる血管性脳病変の有病率と分布を比較するため、スイスの心房細動コホート研究(Swiss-AF、AF患者を対象)とCOMPASS MIND研究(COMPASS MRIサブ解析、AFのない動脈硬化患者を対象)を実施。ベースライン時点の臨床データと標準化された脳MRIを使用して、ラクナ梗塞と非ラクナ型脳梗塞、脳室周囲および白質高信号(WMH)、微小出血(CMB)の発生率をグループ間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・調査対象は3,508例(AF群:1,748例、動脈硬化群:1,760例)であった。・平均年齢±SDはAF群73±8歳、動脈硬化群71±6歳、女性比率はそれぞれ28%と23%であった。・AF群の90%は抗凝固療法が行われ、動脈硬化群の93%は抗血小板療法が行われていた。・AF群は動脈硬化群と比較し、非ラクナ型脳梗塞の発生率が高く(22%vs.10%、p<0.001)、一方で動脈硬化群ではラクナ梗塞の発生率が高かった(21%vs.26%、p=0.001)。・AF患者では脳室周囲白質病変の重症度が高く(49%vs.37%、p<0.001)、CMBは、動脈硬化群でより多く認められた(22%vs.29%、p<0.001)。・多変量解析では、AF群は動脈硬化群と比較して、非ラクナ型脳梗塞のオッズ比(OR)が高く(OR:2.28、95%信頼区間[CI]:1.86~2.81、p<0.001)、ラクナ梗塞では低かった(OR:0.66、95%CI:0.56~0.79、p<0.001)。また、重度の脳室周囲白質病変はOR1.42と高かった(95%CI:1.22~1.67、p<0.001)。 研究者らは「これらの知見は、心血管疾患患者での血管性脳病変の発症における疾患特異的なメカニズムを裏付けている」としている。

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心不全入院へのダパグリフロジンの効果~DAPA ACT HF-TIMI 68試験/ESC2025

 SGLT2阻害薬は、外来での心不全治療において心血管死または心不全増悪のリスク低減に寄与するが、心不全による入院での投与開始データは限定的である。今回、ダパグリフロジンによるさまざまな臨床研究を行っているTIMI Study GroupがDAPA ACT HF-TIMI 68試験を実施。その結果、ダパグリフロジンを入院中に開始してもプラセボと比較して2ヵ月にわたる心血管死または心不全悪化リスクを有意に低下させなかった。ただし、3試験のメタ解析からSGLT2阻害薬が心血管死または心不全悪化の早期リスクと全死亡リスクを有意に低下させることが明らかになった。本研究結果は米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDavid D. Berg氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)のホットラインで発表し、Circulation誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。 DAPA ACT HF-TIMI 68試験は、米国、カナダ、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国の210施設で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験。今回、心不全入院患者におけるダパグリフロジンの院内投与開始の有効性と安全性を評価する目的で実施された。対象患者は心不全を主訴として入院した18歳以上で、体液貯留の徴候や症状が認められた。試験への組み入れ条件は、初回入院時点でのBNP上昇であった。対象者はダパグリフロジン10mgを1日1回投与する群とプラセボ群に1対1で無作為に割り付けられた。主要有効性アウトカムは2ヵ月間における心血管死または心不全悪化の複合で、安全性アウトカムは症候性低血圧および腎機能低下であった。 なお、入院中の心不全患者に対するSGLT2阻害薬開始の評価において、本試験に加えエンパグリフロジンのEMPULSE試験、sotagliflozin(国内未承認)のSOLOIST-WHF試験を組み入れ、事前に規定されたメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・対象者2,401例の内訳は、年齢中央値69歳(Q1~Q3の範囲:58~77歳)、女性815例(33.9%)、黒人448例(18.7%)、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)1,717例(71.5%)であった。・入院から無作為化までの期間中央値は3.6日であった。・主要有効性アウトカムはダパグリフロジン群で133例(10.9%)、プラセボ群で150例(12.7%)に発生した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.68~1.08、p=0.20)。・心血管死は、ダパグリフロジン群30例(2.5%)、プラセボ群37例(3.1%)に認められ(HR:0.78、95%CI:0.48~1.27)、心不全の悪化は、ダパグリフロジン群115例(9.4%)、プラセボ群122例(10.3%)に認められた(HR:0.91、95%CI:0.71~1.18)。・全死因死亡は、ダパグリフロジン群36例(3.0%)、プラセボ群53例(4.5%)に認められた(HR:0.66、95%CI:0.43~1.00)。・症候性低血圧はダパグリフロジン群で3.6%、プラセボ群で2.2%、腎機能低下はそれぞれ5.9%、4.7%であった。・事前に規定されたメタ解析の結果、SGLT2阻害薬は心血管死または心不全悪化の早期リスク(HR:0.71、95%CI:0.54~0.93、p=0.012)および全死因死亡(HR:0.57、95%CI:0.41~0.80、p=0.001)を低下させた。

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より長く、より速く歩くことが心臓の健康に有益

 毎日の散歩の距離を増やして歩くペースを上げると、高血圧に関連する心臓病や脳卒中のリスクを減らすのに役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。1日の歩数が2,300歩程度の場合と比較して、1,000歩増えるごとに心筋梗塞、心不全、脳卒中のリスクが低下することが明らかになったという。シドニー大学(オーストラリア)マッケンジー・ウェアラブル研究ハブ所長のEmmanuel Stamatakis氏らによるこの研究の詳細は、「European Journal of Preventive Cardiology」に8月6日掲載された。Stamatakis氏は、「これらの研究結果は、たとえ一般に推奨されている目標である1日1万歩を下回る運動量であっても、身体活動を行うことが有益であることを裏付けている」と欧州心臓病学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究でStamatakis氏らは、高血圧を有するUKバイオバンク参加者3万6,192人(平均年齢64歳、男性48%)を対象に、1日の歩数や歩行強度と心血管疾患による死亡および、心不全・心筋梗塞・脳卒中(以下、主要心血管イベント〔MACE〕)との関連を検討した。対象としたUKバイオバンク参加者は、7日間にわたって加速度計を装着し、1日の歩数と歩行強度を測定していた。 平均追跡期間は7.8年であり、その間に1,935件のMACEが発生していた。解析からは、基準とした1日の歩数(2,344歩)を超える歩数はMACEリスクの低下と関連することが示された。具体的には、1日の歩数が1,000歩増えるごとにMACEリスクは17.1%(95%信頼区間10.2〜23.2)、心不全リスクは22.4%(同11.0〜31.7)、心筋梗塞リスクは9.3%(同−2.8〜19.6)、脳卒中リスクは24.5%(同5.3〜39.0)低下していた。ピーク歩行強度(1日の中で最も速く歩いた30分間での平均歩行速度〔歩数/分〕)の中央値76.6歩/分でのMACEのハザード比は0.70(95%信頼区間0.63〜0.79)であり、基準値(38.3歩/分)より速く歩くほどMACEリスクは低くなっていた。 さらに、高血圧のないUKバイオバンク参加者3万7,350人を対象に、歩数が1,000歩増えるごとにMACEおよびMACEの構成要素である心不全・心筋梗塞・脳卒中のリスクがどの程度変化するかが検討された。その結果、MACEリスクは20.2%、心不全リスクは23.2%、心筋梗塞リスクは17.9%、脳卒中リスクは24.6%低下することが示された。 こうした結果を受けてStamatakis氏は、「これらの結果から言えるのは、高血圧の人は、より速いペースでより長く歩くほど、将来、深刻な心血管疾患を発症するリスクが低くなるということだ」と述べている。 さらにStamatakis氏は、「本研究から、1日1万歩未満であっても、心臓の健康に有益な達成可能で測定可能な目標値が示された。高血圧患者に対する今後のウォーキングに関する推奨では、より高い歩行強度の推奨も検討される可能性がある」と話している。

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推奨通りの脂質低下療法で何万もの脳卒中や心筋梗塞を回避可能か

 スタチンなどの脂質低下薬の使用が推奨される米国の患者数と実際にそれを使用している患者数との間には大きなギャップがあり、毎年何万人もの人が、脂質低下薬を服用していれば発症せずに済んだ可能性のある心筋梗塞や脳卒中を発症していることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学教授のCaleb Alexander氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に6月30日掲載された。 Alexander氏らは、まず、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013年から2020年にかけて参加した40〜75歳までの米国成人4,980人のデータを解析した。このサンプルは、同じ年齢層の米国成人約1億3100万人を代表するように統計学的に重み付けされた。解析では、米国およびヨーロッパの脂質低下療法(LLT)に関する薬物治療ガイドラインが完全に実施された場合に、治療状況やアウトカムがどの程度改善されるかが予測された。解析は、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2018年米国ガイドライン)、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン(2019年EUガイドライン)、LDLコレステロール(LDL-C)低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針(2022年米国決定方針)の3種類に基づいて行われた。 研究参加者の心血管リスクは、2018年米国ガイドラインを用いて、以下の順序で評価された;1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、2)重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、3)糖尿病で、LDL-Cが70~189mg/dL、4)現在LLTを実施中、5)糖尿病およびASCVDを伴わず、LDL-Cが70~189mg/dL。最後の項目については、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、臨床的心血管疾患(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)の既往が確認された者は「二次予防コホート」、それ以外は「一次予防コホート」と定義された。2019年EUガイドラインおよび2022年米国決定方針についても、2018年米国ガイドラインと同様の手法で層別化とリスク分類を行った。 NHANESの一次予防コホートに該当する1億1630万人のうち、現在LLTを受けている患者は23%であった。これに対し、LLTの適応基準を満たす患者(以下、適応患者)の割合は、2018年米国ガイドラインで47%、2019年EUガイドラインでは87%、2022年米国決定方針では47%と推定され、実施率は推奨に基づく想定を大きく下回っていることが示された。薬剤別に見ると、スタチンでは適応患者(適応率100%)のうち66%が治療を受けていたのに対し、エゼチミブでは適応患者(適応率31~74%)の4%のみが使用など、全ての治療法において、実施率は適応患者数を大きく下回っていた。 また、2018年米国ガイドライン通りにLLTが実施されていれば回避できたと推定される1年当たりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡で3万9,196件、非致死的な心筋梗塞で9万6,330件、冠動脈血行再建術で8万7,559件、脳卒中で6万5,063件に上った。さらに、ガイドラインごとに推定値に差はあるが、スタチン適応の患者全てが同薬を使用すれば平均LDL-C値は急激に低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは最大で27%低下する可能性や、LLTでこれらのアウトカムを予防すれば、米国の医療費を年間253億~317億ドル(1ドル146円換算で3兆6900億~4兆6300億円)節約できる可能性のあることも示唆された。 研究グループは、患者教育およびスクリーニング方法の改善により、必要な人が確実にスタチンを使用できる体制の構築が重要であると強調している。

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フィネレノン、CKD有するHFmrEF/HFpEFに有効~3RCT統合解析(FINE-HEART)/日本循環器学会

 心不全患者のほぼ半数が慢性腎臓病(CKD)を合併している。心不全とCKDは、高血圧、肥満、糖尿病といった共通のリスク因子を持ち、とくに左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者ではその関連がより顕著である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系の活性化、炎症、内皮機能障害、線維化、酸化ストレスといった共通の病態生理学的経路を有する。したがって、心不全患者、とくにHFpEF患者において、腎保護が治療成功の鍵となっている。 心不全とCKDを合併した約1万9,000例の患者におけるフィネレノンの効果を評価するため、3件の大規模無作為化比較試験(RCT)の統合解析「FINE-HEART試験」が実施され、2024年の欧州心臓病学会で発表された。その結果、心不全とCKDを合併した患者において、原因不明死を含めると、フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させることが示され、腎疾患の進行、全死因死亡、心不全による入院などが有意に減少したことが示された。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 1にて、富山大学の絹川 弘一郎氏によりアンコール発表された。 本試験では、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノンの効果を検証した以下の3件のRCTのデータが統合された。・FINEARTS-HF試験:2型糖尿病を含む左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)/HFpEF患者6,001例を対象とした試験。・FIDELIO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者5,662例を対象とした腎アウトカム試験(左室駆出率が低下した心不全[HFrEF]患者は除外)。・FIGARO-DKD試験:糖尿病性腎臓病患者7,328例を対象とした心血管アウトカム試験(HFrEF患者は除外)。 FINE-HEART試験の対象者の90%以上が、心不全、CKD、2型糖尿病の1つ以上を有する高リスクCKM(心血管・腎・代謝)背景を持っていた。本試験の主要評価項目は心血管死であり、副次評価項目は複合心血管イベント、心不全による初回入院、全死因死亡などが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・FINE-HEART試験は、1万8,991例(平均年齢67±10歳、女性35%)で構成された。参加者の約90%が、推定糸球体濾過量(eGFR)の低下および/またはアルブミン尿のいずれかを伴うCKD進行リスクが高かった。・心血管死について、プラセボ群と比較して、フィネレノン群は、原因不明死を除くと、心血管死の有意ではない減少と関連していた(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。ただし、原因不明死を含めると、フィネレノン群は心血管死を12%有意に減少させた(HR:0.88、95%CI:0.79~0.98、p=0.025)。・原因不明死を含めた場合の心血管死に対するフィネレノンの効果は、患者のCKM負担の程度かかわらず一貫していた。また、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といったベースラインの併用薬の有無にかかわらず、フィネレノンの効果は一貫していた。・フィネレノンは、複合腎アウトカム、心不全による初回入院、心血管死または全死因死亡、心房細動の新規発症を有意に減少させた。・HFmrEF/HFpEF患者7,008例(36.9%)を解析した結果、フィネレノン群ではプラセボ群と比較して、心血管死または心不全による入院が有意に減少した(HR:0.87、95%CI:0.78~0.98、p=0.008)。また、心不全による入院(HR:0.84、95%CI:0.74~0.94、p=0.003)、心房細動の新規発症(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97、p=0.030)を有意に減少させた。・フィネレノンは忍容性が良好であり、プラセボ群より重篤な有害事象の発現率が低かった。MRAの性質上、フィネレノン群で高カリウム血症が多くみられたが、高カリウム血症に関連する死亡は認められなかった。低カリウム血症は少なかった。収縮期血圧低下がよくみられ、血圧への影響は今後さらに検討が必要とされている。急性腎障害の増加は認められなかった。 フィネレノンは、CKMリスクを有する患者に対して、心血管・腎アウトカムを改善し、安全性も高い有望な治療選択肢であることが本試験により示された。絹川氏は「フィネレノンは心血管死を12%有意に減少させた。FIDELIO試験とFIGARO試験では、心血管死は有意に減少しなかったため、これはFINE-HEART試験で新たに得られた知見だ。また、FIDELIO試験とFIGARO試験では、フィネレノンによるeGFRの初期低下が観察されたが、これも今後の検討課題となる」と述べた。(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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渡米7年目でも、Podcastで毎日英語の勉強【臨床留学通信 from Boston】第7回

渡米7年目でも、Podcastで毎日英語の勉強米国に7年もいれば英語は不自由なく話せると思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。確かに臨床留学は研究留学に比べて英語を使う機会が格段に多く、話せないと話になりません。渡米してかなり苦労したのは事実ですが、医師になった後に、英語のシャワーを浴びるように英語漬けの環境に身を置けたのは良い経験でした。英語のレベルは、日本にいるだけでは到達はできなかったであろうところまで来たと思います。仕事をするうえでは、あらかじめ会話の内容を予想できることが多いためとくに問題はありません。ただ、日常会話では同僚が何を言っているのかよくわからないと感じることも時折あります。自宅では子供たちの教育上日本語をメインにしており、米国のニュースは一切流しません。病院でも疲れると「英語デトックス」と称して人があまりいないところで休憩することもあり、同僚と会話を楽しむことも少なかったので、正直なところ、自分の英語レベルは周りと比べてそれほど高くないと感じています。以前こちらの連載で、渡米前は英語の勉強を2~3時間を確保していたとお伝えしました。しかし、実践しようとしても、なかなか日常業務が忙しくて難しいかもしれません。私が最近やっていることは、主に車の通勤時間に、Podcastを活用し、循環器の最新知識を英語で学ぶことで、一石二鳥の時間活用を目指しています。私がとくにおすすめするPodcastは以下のとおりです。【循環器誌】JACC:former editor in chiefのValentin Fuster氏が、毎週すべてのoriginal articleやreviewを解説。ただしスペイン語なまりで、話すスピードは遅めです。1.5倍速で聴くのが良いです。AHAなどの学会に合わせて、著者と他のゲストスピーカーが会話するセッションもあります。網羅的に循環器の最近の流れを把握できます。Circulation on the Run:こちらもeditorたちが毎週いくつか簡単に論文内容を説明し、そのうちの1つの著者とディスカッションするもの。ESC TV today:欧州心臓病学会のPodcast。ホストの先生はアイルランドの方なので英語にややなまりあり。最初にいくつか最近掲載された論文を紹介し、トピックに沿ってディスカッションしています。2週間に1度の配信。JAMA Cardiology:こちらも著者との会話です。月に1度かそれ以下の更新なのが難点。【医学誌】NEJM:NEJM this weekという内容の紹介と、NEJM interviewsの2つが毎週あります。同様に、JAMAもclinical reviewとauthor interviewsがあります。【ACC関連】Eagle’s Eye ViewとACCEL LiteというPodcastが、英語がきれいで内容も最新のものがまとまっています。双方、1回分が10分以下で比較的短いので、いくつかまとめて聴きます。Medscape This Week in Cardiology:John Mandrola氏が、歯に衣着せぬ論調で最新の論文を紹介。英語もきれいです。CardioNerds:これは臨床留学を志す人必聴。米国の有名大学病院のcardiology fellowたちがほぼ毎週の頻度で40~50分ほど症例についてディスカッションし、supervisorがその病態の概説もするというもの。症例提示の仕方は参考になります。【一般的なニュース】 大統領選の前後はPBS News Hourを聴いていました。慣れたら1.5倍で聴き、(運転時は十分注意して)可能な限りシャドーイングをしてみてはいかがでしょうか。電車の時は聴くのに集中し、歩いている時は周りに人がいなければそこでシャドーイングするのが良いでしょう。聴くだけよりは口を動かしたほうが効果は高いと思います。なお科学的なテーマでは、Moment of Scienceがロングランでやっていて、transcriptもあるので、一つひとつの細かい単語を聴く癖を付けるのに効果的でした。科学的なテーマはTOEFL受験などでも必要だったため、このMoment of Scienceを聴いていました。1~2分と短いため、細かい単語の聴き取りや、ディクテーションにも良い教材になります。

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抗凝固薬とNSAIDsの併用は出血リスクを高める

 抗凝固薬を使用している人が、イブプロフェンやナプロキセンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用すると、脳や腸、肺、膀胱での制御不能な出血リスクが2倍以上に上昇することが、新たな研究で明らかにされた。抗凝固薬は通常、脳卒中や心筋梗塞、あるいは脚や肺の血栓を治療または予防するために処方される。一方、NSAIDsには血液を薄める作用のあることが知られている。オーフス大学病院(デンマーク)のSoren Riis Petersen氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に11月18日掲載された。 Petersen氏らは、デンマークの全国レジストリを用いて、抗凝固薬を使用している静脈血栓塞栓症(VTE)患者がNSAIDs(イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン)を使用した際の出血リスクについて検討した。対象は、2012年1月1日から2022年12月31日の間にVTEの治療のために経口抗凝固薬を処方された患者5万1,794人(年齢中央値69歳、女性48%)であった。 その結果、あらゆる出血の100人年当たりの発生率は、NSAIDsを使用していない期間では3.5(95%信頼区間〔CI〕3.4〜3.7)であったのに対し、NSAIDsを使用している期間では6.3(同5.1〜7.9)であった。NSAIDs使用によるあらゆる出血のリスクは、使用していない場合と比べて2倍以上に上昇していた(調整ハザード比〔aHR〕2.09、95%CI 1.67〜2.62)。NSAIDsの種類別に見た場合の出血のaHRは、イブプロフェン1.79(同1.36〜2.36)、ジクロフェナク3.30(同1.82〜5.97)、ナプロキセン4.10(同2.13〜7.91)であった。 一方、出血リスクを部位別に検討した際のaHRは、消化管出血2.24(同1.61〜3.11)、頭蓋内出血3.22(同1.69〜6.14)、胸部および呼吸器系の出血1.36(同0.67〜2.77)、泌尿器系の出血1.57(同0.98〜2.51)、出血による貧血2.99(同1.45〜6.18)であった。これらの結果は、抗凝固薬の種類やVTEのサブタイプ別に検討しても同様であった。 Petersen氏は、「脚や肺の血栓を治療するために抗凝固薬を使用している人では、痛みや炎症の治療のためにNSAIDsの使用を検討する際には注意が必要であることが、われわれの研究で明示された」と欧州心臓病学会(ESC)のニュースリリースの中で結論付けている。同氏は、「NSAIDsと抗凝固薬の併用を考えている人は、事前に医師に相談することをお勧めする」とアドバイスしている。 この論文の付随論評を執筆した、英シェフィールド大学臨床心臓病学教授のRobert Storey氏は、「NSAIDsは広く使用されており、世界中で処方箋の約8%を占めている上に、多くの場合、店頭でも入手可能だ」と指摘する。その上で同氏は、「NSAIDsと抗凝固薬の併用を避けることが、過剰な出血リスクを回避するための最も安全な戦略であることは明らかだ。しかし、それが不可能な場合、どのような緩和策が考えられるのだろうか。NSAIDsの処方は、当然のことながら、可能な限り最低用量とし、使用期間も最短にすべきだ。また、使用するNSAIDsの種類や、内服か外用かなどの投与方法も重要な要素になると考えられる」と話している。

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心筋梗塞へのコルヒチンは予後を改善するか/NEJM

 急性心筋梗塞患者の治療において、発症後すぐに抗炎症薬コルヒチンの投与を開始し、3年間継続しても、プラセボと比較して心血管アウトカム(心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合)の発生率は減少せず、その一方で3ヵ月後には炎症マーカーが有意に低下することが、カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR Investigatorsが実施した「CLEAR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年11月17日号で報告された。14ヵ国の医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験 CLEAR試験は、心筋梗塞発症後におけるコルヒチンとスピロノラクトンの心血管アウトカムの改善効果の評価を目的とする2×2ファクトリアルデザインの医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年2月~2022年11月に14ヵ国104施設で患者を登録した(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞患者をコルヒチンまたはプラセボ、スピロノラクトンまたはプラセボの投与を受ける群に無作為に割り付けた。本論では、コルヒチンに関する結果が報告された。 有効性の主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合とし、time-to-event解析を行った。主要アウトカムの個々の項目にも差はない 7,062例を登録し、コルヒチン群に3,528例、プラセボ群に3,534例を割り付けた。全体の平均年齢は61歳、女性が20.4%であった。9.0%が心筋梗塞の既往歴を有し、10.0%が経皮的冠動脈インターベンションを受けており、18.5%が糖尿病で、95.1%がST上昇型心筋梗塞(STEMI)、4.9%が非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)だった。 追跡期間中央値3年の時点で、主要アウトカムのイベントは、コルヒチン群が322例(9.1%)、プラセボ群は327例(9.3%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.85~1.16、p=0.93)。 主要アウトカムを構成する4つの項目にも差はなかった。心血管系の原因による死亡はコルヒチン群3.3% vs.プラセボ群3.2%(HR:1.03、95%CI 0.80~1.34)、心筋梗塞の再発は2.9% vs.3.1%(0.88、0.66~1.17)、脳卒中は1.4% vs.1.2%(1.15、0.72~1.84)、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術は4.6% vs.4.7%(1.01、0.81~1.26)であった。重篤な有害事象に差はない、下痢が多かった 3ヵ月の時点におけるC反応性蛋白の最小二乗平均(ベースラインの値で補正)はコルヒチン群で低かった(2.98±0.19mg/L vs.4.27±0.19mg/L、群間差:-1.28mg/L、95%CI:-1.81~-0.75)。 有害事象(コルヒチン群31.9% vs.プラセボ群31.7%)および重篤な有害事象(6.7% vs.7.4%)の発生率は両群で同程度だった。また、下痢の頻度がコルヒチン群で高かった(10.2% vs.6.6%、p<0.001)が、重篤な感染症には差がなかった(2.5% vs.2.9%)。 著者は、「下痢の発生率の増加とC反応性蛋白の低下は予想どおりであり、本試験におけるコルヒチンの生物学的効果を支持するものであった」「最近のメタ解析では、コルヒチンによる心血管系以外の原因による死亡の名目上の増加が示されているが、本試験では逆にプラセボ群に比べて発生率が低かった(1.3% vs.1.9%、HR:0.68、95%CI:0.46~0.99)」としている。また、「本試験のデータが提示される前に、欧州心臓病学会は冠動脈アテローム硬化性疾患患者に対するコルヒチンの推奨をクラスIIbからクラスIIaに変更し、米国食品医薬品局は冠動脈疾患の治療薬として本薬を承認している」という。

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肺動脈性肺高血圧症治療剤ユバンシ配合錠が発売/ヤンセン

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2024年11月20日、肺動脈性肺高血圧症治療薬として、エンドセリン受容体拮抗薬マシテンタン10mgとホスホジエステラーゼ5阻害薬タダラフィル40mgとの配合薬「ユバンシ配合錠」を発売した。 マシテンタン/タダラフィルは、国際共同第III相ピボタル試験(A DUE試験)の結果1)に基づき、9月24日に肺動脈性肺高血圧症を効能または効果として国内の製造販売承認を取得した、1日1回服用の配合錠である。 現在、肺動脈性肺高血圧症の治療については、欧州心臓病学会(ESC)および欧州呼吸器学会(ERS)による肺高血圧症治療ガイドライン2022において、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬の併用療法が推奨されている。本薬剤は有効性・安全性プロファイルが示されているマシテンタンおよびタダラフィルの2つを配合錠にすることで、疾患管理の最適化や患者の服薬時の負担軽減などを期待できる可能性がある。<製品概要>商品名:ユバンシ配合錠一般名:マシテンタン/タダラフィル剤形:フィルムコーティング錠効能又は効果:肺動脈性肺高血圧症 用法及び用量:通常、成人には1日1回1錠(マシテンタンとして10mg及びタダラフィルとして40mg)を経口投与する。薬価:1万3,334.90円/錠製造基準収載日:2024年11月20日製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社販売提携先:日本新薬株式会社

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冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

 QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。 FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。 本試験では、複合エンドポイントである死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の発生率はQFR群で6.7%、FFR群で4.2%と報告され、QFR群でのイベント発生率がFFR群より高く、ハザード比は1.63(95%信頼区間:1.11~2.41)でした。イベント発生率の差は、非劣性マージンである3.4%を超えており、FFRが利用可能な場合にはQFRは推奨されないことが示唆されました。 イベント内訳を見ると、死亡は1.4% vs.1.1%、心筋梗塞は3.7% vs.2.0%、緊急血行再建は3.3% vs.2.5%と、一貫してQFR群での発生率が高い傾向でした。また、本試験の症例の約3分の2が安定狭心症であり、残り3分の1が非ST上昇型急性冠症候群またはST上昇型心筋梗塞の残枝でしたが、サブグループ解析ではいずれの群でもQFR群でイベント発生率が高いという結果でした。 FAME試験やFAME 2試験では、中等度の動脈硬化病変に対してFFRを用いた心筋虚血の評価後にPCIを行うことが有効とされています。しかし、FLOWER-MI試験などで示されたように、心筋梗塞の非責任病変においてFFRによる虚血評価が困難であることが示唆されており、適応疾患によって今回の試験結果が変わる可能性もありましたが、そういうわけではないようです。 また、QFR群では54.5%に治療が行われ、FFR群では45.8%に治療が行われました。治療が施されたことで周術期心筋梗塞のリスクが高まる可能性が懸念されますが、治療の影響を除外した1ヵ月以降のランドマーク解析においても、QFR群でイベントが多い傾向が続いていました。 本研究では残念ながらQFRはFFRより劣性であることが示されましたが、実際のところQFRで治療が行われた症例でイベントが多かったのか、それとも逆にFFRで治療が行われなかった症例でイベントが少なかったのかは興味があるところであり、今後の報告が期待されます。 QFR評価は手動での調整が必要であり、トレーニングを受けた評価者でも観察者間および観察者内の測定誤差が問題となる可能性が指摘されています。まだまだ発展途上の技術と考えられ、ソフトウェアの改善により今後の精度向上が期待されます。さらにはFAST III試験やALL-RISE試験など、同様の試験の結果も待たれます。

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冠動脈血行再建術のガイド、QFRは支持されず/Lancet

 中等度の冠動脈狭窄を有する患者の血行再建術を決定するガイドとして、1年後の臨床アウトカム(死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術)に関し、定量的流量比(QFR)は心筋血流予備量比(FFR)に対して非劣性の基準を満たさず、FFRが利用可能な場合はQFRの使用は支持されないことが、デンマーク・オーフス大学のBirgitte Krogsgaard Andersen氏らが実施した「FAVOR III Europe試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年10月30日号で報告された。欧州11ヵ国の無作為化非劣性試験 FAVOR III Europe試験は、侵襲的冠動脈造影中に冠動脈へのプレッシャーワイヤーの留置を要するFFRに対して、これを必要としないQFRの非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2018年11月~2023年7月に欧州11ヵ国34施設で患者を登録した(Medis Medical Imaging Systemsなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上、慢性冠症候群または安定化した急性冠症候群で、少なくとも1つの中等度の非責任病変(肉眼的評価で直径40~90%の狭窄)を有する患者を対象とした。 被験者を、QFRガイドを受ける群またはFFRガイドを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術の複合とした。非劣性マージンは3.4%に設定し、主解析はITT集団で行った。死亡、心筋梗塞、予期せぬ血行再建術も多い傾向 2,000例を登録し、QFR群に1,008例、FFR群に992例を割り付けた。全体の年齢中央値は67.3歳(四分位範囲[IQR]:59.9~74.7)で、462例(23.1%)が女性であった。1,941例中1,300例(67.0%)が慢性冠症候群、641例(33.0%)が急性冠症候群であった。手技成功率はQFR群96.9%、FFR群96.4%で、全体の追跡期間中央値は365日(IQR:365~365)だった。 12ヵ月の時点で、主要エンドポイントのイベントはQFR群の67例(6.7%)、FFR群の41例(4.2%)で発生した(ハザード比[HR]:1.63、95%信頼区間[CI]:1.11~2.41)。イベント発生割合の差は2.5%(90%CI[両側]:0.9~4.2)であり、90%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージン(3.4%)を上回っており、QFRのFFRに対する非劣性の基準は満たされなかった。 死亡は、QFR群14例(1.4%)、FFR群11例(1.1%)で発生した(HR:1.25、95%CI:0.57~2.76)。また、心筋梗塞はそれぞれ37例(3.7%)および20例(2.0%)で発生し(1.84、1.07~3.17)、予定外の冠動脈血行再建術は33例(3.3%)および24例(2.5%)で行われた(1.36、0.81~2.30)。手技関連有害事象は18例ずつに 手技関連の有害事象は各群18例(1.8%)で発現した。最も頻度の高い手技関連有害事象は手技関連心筋梗塞であり、QFR群で10例(1.0%)、FFR群で7例(0.7%)に認めた。QFR群の1例が手技関連の腎不全により死亡した。 著者は、「QFRは、最近、欧州心臓病学会(ESC)のクラス1Bの適応を得たが、本研究の知見では、FFRが使用可能な状況においては、QFRはFFRの合理的な代替法ではない可能性があり、QFRの診断能を改善するためにさらなる開発を進める必要がある」としている。

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新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。 成人の高血圧患者は世界で10億人以上に上り、患者の3分の2は低・中所得国に集中していると推定されている。高血圧は死亡の最大のリスク因子であり、年間1080万人が高血圧が原因で死亡している。 今回の臨床試験は、未治療または単剤の降圧薬を使用中で血圧がコントロールされていない黒人患者300人(女性54%、平均年齢52歳)を対象に、ナイジェリアで実施された。対象者は、6カ月にわたってGMRx2による治療を受ける群と、標準治療を受ける群にランダムに割り付けられた。GMRx2には、テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの4分の1用量(同順で、10/1.25/0.625mg)、2分の1用量(同20/2.5/1.25mg)、標準用量(同40/5/2.5mg)の3種類があり、治療は低用量から開始された。標準治療は、ナイジェリアの高血圧治療プロトコルに従い、アムロジピン5mgから開始された。有効性の主要評価項目は、ランダム化から6カ月後に自宅で測定した平均収縮期血圧の低下、安全性の主要評価項目は、副作用による治療の中止だった。 対象者の試験開始時の自宅で測定した平均血圧は151/97mmHg、病院で測定した平均血圧は156/97mmHgだった。300人中273人(91%)が試験を完了した。ランダム化から6カ月後の追跡調査時における自宅で測定した平均収縮期血圧の低下の幅は、GMRx2群で31mmHgであったのに対し標準治療群では26mmHgであり、両群間に統計学的に有意な差のあることが明らかになった(調整群間差は−5.8mmHg、95%信頼区間〔CI〕−8.0〜−3.6、P<0.001)。研究グループは、ジョージ研究所のニュースリリースの中で、収縮期血圧が5mmHg低下するごとに、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの主要心血管イベントの発生リスクは10%低下することが報告されていると説明している。 また、ランダム化から1カ月後の時点でGMRx2群の81%、標準治療群の55%が医療機関での血圧コントロール目標(<140/90mmHg)を達成していた。この改善効果は6カ月後も持続しており、達成率は、GMRx2群で82%、標準治療群で72%だった。安全性については、副作用により治療を中止した対象者はいなかった。 こうした結果についてOjji氏は、「標準治療は現行のガイドラインに厳密に従い、より多くの通院を必要としたにもかかわらず、3剤配合降圧薬による治療は標準治療よりも臨床的に有意な血圧低下をもたらした」と話す。同氏は、「高血圧の治療により血圧コントロールを達成するのは、低所得国では治療を受けた人の4人に1人未満であり、高所得国でも50〜70%にとどまっている。そのことを考えると、わずか1カ月で80%以上の患者が目標を達成できたことは印象的だ」と付言する。 なお、George Medicines社は、米食品医薬品局(FDA)にGMRx2の承認申請を行ったとしている。

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冠動脈疾患診断後、禁煙で発作リスク半減も減煙では無効

 心臓病と診断された後に禁煙すると、心臓発作や心臓関連の死亡リスクが5年間で44%低下する可能性を示すデータが報告された。ただし、喫煙本数を減らしただけでは、この効果は期待できないという。ビシャ・クロード・ベルナール病院(フランス)のJules Mesnier氏らの研究の結果であり、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 この研究では、安定冠動脈疾患患者の国際レジストリ(CLARIFY)のデータを用いて、冠動脈疾患患者の喫煙状況が、その後の心血管イベントリスクに与える影響が評価された。冠動脈疾患の診断から平均6.5年経過した患者3万2,378人を5年間追跡し、心血管死または心筋梗塞の発症で定義される主要心血管イベント(MACE)の発生率を検討した。登録時点で1万3,366人(41.3%)は喫煙歴がなく、1万4,973人(46.2%)は元喫煙者、4,039人(12.5%)は現喫煙者だった。冠動脈疾患診断時に喫煙していた元喫煙者のうち、72.8%は翌年までに禁煙していたが、27.2%は喫煙を継続していた。 冠動脈疾患の診断後に禁煙していた患者は、禁煙した時期にかかわらずイベントリスクが有意に低下していた。具体的には、喫煙を継続していた患者よりもMACE発生率が44%低かった(調整ハザード比〔aHR〕0.56〔95%信頼区間0.42~0.76〕)。一方、タバコの本数を減らしながらも喫煙を続けていた患者は、タバコの本数を変えずに喫煙を続けていた患者と、MACEリスクに有意差がなかった(aHR0.96〔同0.74~1.26〕)。また、喫煙期間が1年長くなるごとにMACEリスクが8%上昇するという関連が認められた(aHR1.08〔同1.04~1.12〕)。なお、禁煙した患者は前述のようにMACEリスクが急速かつ大幅に低下していたが、喫煙歴のない患者と同程度のリスクレベルには到達していなかった。 Mesnier氏は、「私は自分の患者に対してよく、『禁煙するのが遅すぎるということはないが、早ければ早いほど心血管疾患のリスクは低くなる。しかし、減煙では十分ではない』と話している」という。また、ESC発のリリースの中で、「心臓病の診断後1年以内に禁煙を成功させる重要性を強く伝え、患者をサポートする必要がある」と述べている。 一方、タバコを長年、吸い続けている人の中には、「今からでは禁煙しても遅すぎる」と考えている人が少なくないようだが、今回の研究ではそのような考え方が正しくないことも示された。この点についてMesnier氏は、「心臓病と診断された後での禁煙であっても、心筋梗塞や死亡という重大なリスクをほぼ半分に減らすことができる。この情報は、禁煙に踏み出せずにいる患者に向けた強力なメッセージとなるだろう」と語り、本研究の意義を強調している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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大動脈弁狭窄症の症例は特別扱いが必要か?(解説:山地杏平氏)

 経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)を行う症例において、有意な冠動脈病変がみられた場合、経皮的冠動脈形成術(PCI)を行うべきか否かを検討したNOTION-3試験がESC(欧州心臓病学会)で発表され、NEJM誌に同時掲載されました。 TAVIが必要とされる症例の多くは80歳以上の高齢者であり、動脈硬化のリスクファクターが重なることが多いため、冠動脈病変を合併することも多くみられます。TAVIが必要な、今後の予後が限られていると予想される症例において、合併している冠動脈病変に対し積極的な侵襲的治療を行う意義があるのかが検討されました。 TAVIを行う前後でPCIを行う群と保存的加療を行う群を比較した結果、死亡、心筋梗塞、緊急での冠血行再建の複合エンドポイントにおいて、PCI群で26%、保存的加療群で36%、ハザード比0.71(95%信頼区間:0.51~0.99、p=0.04)と、有意にPCI群でイベントが少ないという結果が得られました。その内訳では、とくに心筋梗塞と緊急冠血行再建において差がみられ、さらにTAVI後1年以降で各群のイベント発生率に差が認められました。 観察研究とは異なり、無作為化比較研究に同意して参加する症例は、比較的健康な方が登録されやすい傾向にあります。また、最近では低リスク群に対するTAVIも増加しており、NOTION-3試験に登録された症例の年齢中央値は82歳、STSスコアは3点と低値であり、比較的低リスクの症例が対象となっています。今回の試験で報告された死亡率は、PCI群で23%、保存的加療群で27%でした。追跡期間の中央値は2年でしたが、Kaplan-Meierカーブによる推定ではおおむね直線的な推移を示しており、これらの数値を5年の死亡率として扱ってもよいと考えられます。 NOTION-3試験はデンマークを中心とした北欧で行われ、本邦と同程度の平均寿命が見込まれます。2013~17年とやや古いデータですが、本邦の実情を反映したOCEAN-TAVIレジストリから石津 賢一先生らが行った報告によれば、STSスコア4点以下の症例の4年死亡率は22.6%、STSスコア4~8点では28.7%、STSスコア8点以上では49.0%であり(Ishizu K, et al. Am J Cardiol. 2021;149:86-94.)、NOTION-3でみられた死亡率とおおむね同等であると考えられます。 日本国勢調査では各年齢の死亡率が報告されており、これから生命表が作成されます。このデータから累乗することで、本邦における各年齢の推定予後を計算することが可能です。CURRENT-ASレジストリから谷口 智彦先生らが行った報告では、重症大動脈弁狭窄症を認めた症例と年齢および性別をマッチさせた場合の5年死亡率は3.2%とされています(Taniguchi T, et al. Ann Thorac Surg. 2023;116:1195-1203.)。これらを踏まえると、TAVIを行ううえでは低リスクとされる症例であっても、5年で4分の1が死亡することは一般人口と比較しても高い死亡率と考えられます。 FAME試験やFAME 2試験の結果を受け、FFR 0.80以下の病変では一般的にPCIを行ったほうが良いとされています。これに対し、NOTION-3試験に登録されたようなTAVIを必要とする、5年死亡率が約4分の1の症例においても、やはりPCIを行ったほうが良いという結果でした。 大動脈弁狭窄症の症例において、心筋虚血の評価やPCIの検討に関するプラクティスは、STSスコアが比較的低値であれば従来と大きく変える必要はないと考えられます。一方で、死亡率がより高いと予想される合併症の多い症例やフレイルな症例には、引き続き慎重なPCI適応検討が求められます。

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高齢者NSTEMI治療における標準的治療法確立の難しさを示した研究(解説:野間重孝氏)

 本研究は英国心臓財団の助成によって行われ、結果は本年9月にロンドンで行われた欧州心臓病学会で発表された。その内容はInterventional Cardiology誌9月号に速報のかたちで掲載された。NEJM誌に掲載の論文が同じ9月に掲載されていること、また本文中にSENIOR-RITAという名称が付いても「はじめに」の部分で簡単に触れられているのみで論文の題名からも外されていることから、戸惑われた方も多かったのではないかと推察する。通常、正式発表の論文は学会発表からいくらか遅れるかたちで出版されるのが普通なのであるが、このあたり、研究グループが本研究成果を大きく報じたいと考えた意図がうかがえる。 急性冠症候群はST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、不安定狭心症に大別される。STEMIの場合は、可能な限り早急なprimary PCIが施行される必要があり、これは超高齢者であっても、大きな禁忌事項がない限り同様の治療方針が取られる。これに対してNSTEMIの治療方針は、年齢に関係なく二通りが考えられ、場合により選択されてきた。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し急性期の侵襲的治療を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。この場合、リスク評価をいかに適切に行うかが重要となるが、近年ではリスク評価うんぬんを論じる以前に、大きな禁忌事項がない限り早期に侵襲的治療を行うべきであるという考え方が一般的となっている。実際、これをお読みの皆さんの関係施設においても、早期の侵襲的対応が可能な施設においては、特別な問題がない限り侵襲的治療が選択されているのではないだろうか。そして、この「特別な問題」として最も頻繁に問題になるのが年齢、それも75歳を超える超高齢の問題なのである。 NSTEMIをどう治療することが適切かについては、多くの研究がなされてきた。しかし、そもそもそういったエビデンスを構築するための研究から高齢者は除外されるのが常だった。このため、高齢者のNSTEMIの治療戦略についてはエビデンスがなく、事実上現場の医師の判断に委ねられてきたのが実態であった。もちろんいくつかの臨床研究はなされたが、どれもサンプル数や患者選択の問題から広く受け入れられる結果を出すには到らなかった。 この問題について初めてまとまった結果を発表したのが、2020年に発表されたSENIOR-NSTEMI試験であった。この研究では超高齢者であったとしても、侵襲的治療戦略のほうが保存的治療戦略よりも優れていると結論された。この論文は2020年8月のLancet誌に掲載され、このジャーナル四天王でも取り上げられたので(「NSTEMI、80歳以上でも侵襲的治療が優位/Lancet」)、ご記憶の向きも多いと思う。ただ、この試験はランダマイズ研究ではなく、日常診療の登録データからプロペンシティ・スコアを用いて解析したものであった。このため、この分野に関心のある医師たちは大規模ランダマイズ研究がなされることを待ち望んでいた。そこに発表されたのが本研究(SENIOR-RITA試験)だったのである。 本研究では患者を完全にランダマイズするとともに、STEMI、不安定狭心症、心原性ショック、余命1年未満の患者、侵襲的冠動脈造影を受けることができないと考えられたもの以外はすべて対象とした。つまり、いわゆる虚弱(フレイル)や認知障害があっても侵襲的検査・治療を受けられないと判断されたもの以外は対象とされた。そして1次複合エンドポイントを心血管死と非致死性心筋梗塞に絞った。これにより、単にランダマイズを行った以上に高齢者NSTEMI治療成績を明確にしようとした。 本試験では1,518例の患者が、侵襲的戦略群753例、非侵襲的治療戦略群765例にランダマイズされたかたちで割り振られた。平均年齢は82歳で、男女比もほぼ等しかった。中央値4.1年の追跡の結果、両群間で1次エンドポイントには差がないことが示された。つまり、NSTEMIの治療は症例の選択を誤ることがなければ、侵襲的、非侵襲的治療戦略で治療成績に差がないことが示された。 本研究はきわめて周到に計画・実行された大規模ランダマイズ試験であり、長年の問題について1つの結論を出したと考えられなくもない。しかし、いくつかの問題点も指摘されなければならないと思う。 上記「症例の選択を誤ることがなければ」と書いたが、この部分が大変に重要で、実際本試験ではスクリーニング対象になった患者の5人に1人だけが登録された。研究の目的から考えてSTEMI、心原性ショックは除外されて当然であるが、この数字からはその他でも多くの患者が高齢者の抱えるさまざまな問題により試験登録が適当ではないと判断されたことが推察される。この中には、高齢による強度の虚弱や認知障害、加えて本人の意向、家族の反対などさまざまな原因が考えられる。実は高齢者のNSTEMI治療において、この患者選択の問題こそが本質的な問題であり、本研究がその点に言及していないのは残念であるとともに、本研究の1つの限界となっていると思う。 また、その後に冠動脈造影や血行再建術を受けた患者数は非侵襲的戦略群で有意に多かった。ただし、この問題は保存的治療を選択した場合、時期を見て侵襲的検査・治療を行うか至適内科治療で経過を見るかという問題で、別途論じられるべき問題だろう。 治療合併症が少なかったことは評価されるべきではあるものの、現在のprimary PCIの技術レベルを考えれば、症例の選択を誤らなければ大きな合併症は起こらないことは当然予想されたと考えるが、合併症の問題は研究の信頼性を高める要因としては評価されなければならないだろう。ただし、ここでも患者選択の問題があることには注意してほしいと思う。 評者の結論を述べるならば、結局今回の研究はNSTEMIをどのように治療すべきかという一般的な問題に、高齢者において個別化医療の重要性を強調したこと、また現在の治療技術レベルにおいては、症例のリスク評価が慎重かつ十分に行われれば、高齢であるというだけの理由で特別な治療方針を考える必要はないことを示したものと考える。一方で、高齢者医療においては極端な虚弱や認知症、合併症のリスク、患者・家族の意向などを十分に考慮する医学的、倫理的視点の重要性が再確認されたといえる。本論文の限界を述べたように思われるかもしれないが、そうではない。さまざまに議論されてきた高齢者NSTEMIの治療を考える場合、保存的治療戦略でも十分な結果が得られることを示したことは十分に価値があると同時に、これだけ周到な準備をしてもこの分野の研究に明解な結論を出すことが困難であることを示したことがむしろ大きな成果であったと思う。

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厳しい寒さは心筋梗塞リスクを高める

 厳しい寒さは短期的に心筋梗塞(MI)リスクを高めることが、新たな研究で明らかになった。低い気温や寒波がMI発症に与える短期的な影響について検討した、米ハーバード大学のWenli Ni氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に9月1日掲載された。Ni氏は、「寒冷ストレスがかかっている間は特に、急性MIが生じやすい可能性がある」と述べている。 研究グループによると、過去の研究では、外気温が心血管に及ぼす負荷は、高温よりも低温の方が大きいことが明らかにされている。今回、Ni氏らは、より寒冷な地域において低温と寒波が心血管に及ぼす影響を検討するために、スウェーデンのSWEDEHEART登録者12万380人の転帰を追跡した。対象者は、2005年から2019年の寒冷期(10〜3月)にMIにより入院していた。機械学習を用いて1km2単位での日平均気温を推定し、同じ自治体に住む人が経験した日々の気温のパーセンタイルに基づいて、それぞれの自治体ごとの寒さに対する適応度を評価した。寒波は、各自治体の気温分布の10パーセンタイル以下の日平均気温が2日以上続く期間として定義された。低温と寒波の影響は、ラグ(低温や寒波の発生からその影響が現れるまでの時間差)0〜1日(即時)とラグ2〜6日(遅延)に分けて検討した。 その結果、低温になってから2〜6日後に外気温パーセンタイルが1単位低下すると、MI、非ST上昇型MI(NSTEMI)、およびST上昇型MI(STEMI)のリスクがそれぞれ有意に増加し、そのオッズ比は同順で、1.099(95%信頼区間1.057〜1.142)、1.110(同1.060〜1.164)、1.076(同1.004〜1.153)であると推定された。また、到来から2〜6日後の寒波もMI、NSTEMI、STEMIの有意なリスク増加と関連し、オッズ比は同順で1.077(同1.037〜1.120)、1.069(同1.020〜1.119)、1.095(同1.023〜1.172)であった。一方、ラグ0〜1日の低温と寒波は、MIのリスク低下と関連していた。これらの結果は、初発のMIであったかや、MIの既往歴の有無を考慮しても変わらなかった。 Ni氏らは、寒くなってすぐの時点ではMIの発生が減少していた理由について、「気温が下がり始めた当初は、人々が用心して屋内で過ごそうとしたためかもしれない。しかし、そのような行動を持続するのは難しく、数日のうちに外出して極寒の気温に身をさらし、それがMIリスクの上昇を招いたのではないか」との見方を示す。 本論文の付随論評を執筆した、米イェール大学公衆衛生大学院疫学分野のKai Chen氏と米ヒューストン・メソジスト病院心臓病学のKhurram Nasir氏は、気候変動により気温は極端に高くなったり低くなったりし続けていることを踏まえ、「医療システムが心血管の健康に対するこれらの課題を管理し、緩和するのに十分な備えを整えるには、両極端の気温に対処する必要がある」と述べている。

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週末の寝だめは心臓病リスクを低下させるか?

 ウィークデーの睡眠不足を週末に補う「キャッチアップ睡眠」は、心臓病のリスクを最大20%低下させる可能性のあることが、UKバイオバンク参加者9万人以上を対象にした研究で明らかになった。阜外病院(中国)の循環器専門家であるYanjun Song氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 睡眠不足に悩まされている人は、休みの日の朝、普段より遅くまで寝て睡眠負債の影響を取り除こうとするものだ。しかし、このようなキャッチアップ睡眠が心臓の健康に役立つのかどうかについては明らかになっていない。 Song氏らは今回、UKバイオバンク参加者9万903人のデータを用いて、週末のキャッチアップ睡眠と心臓病との関連を検討した。参加者の睡眠に関するデータは活動量計で測定されていた。対象者は、キャッチアップ睡眠の時間の長さに応じて、最も少ないQ1(−16.05〜−0.26時間)から最も多いQ4(1.28〜16.06時間)までの4群に分類された(Q1群:2万2,475人、Q2群:2万2,901人、Q3群:2万2,692人、Q4群:2万2,695人)。夜間の睡眠時間が7時間未満と報告した場合を「睡眠負債あり」と見なしたところ、21.8%(1万9,816人)がこれに該当した。さらに、入院記録と死亡レジストリを用いて、虚血性心疾患、心不全、心房細動などさまざまな心臓病の診断歴についても調べた。追跡期間の中央値は約14年だった。 解析の結果、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが19%低いことが明らかになった。睡眠負債ありに分類された人を対象にしたサブグループ解析でも、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが20%低いことが示された。 こうした結果を受けてSong氏は、「十分なキャッチアップ睡眠は心臓病のリスク低下につながる。また、この関連性は、日常的に睡眠負債を抱えている人の間ではさらに顕著になる」と結論付けている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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騒音曝露は心臓の健康に影響を及ぼし心筋梗塞後のMACEリスクを高める

 ドイツとフランスの住民を対象にした2件の研究から、都会の騒音は心臓の健康に悪影響を及ぼす可能性のあることが明らかになった。これらの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 1件目の研究は、ブレーメン心臓血管研究所(ドイツ)のHatim Kerniss氏らが、急性心筋梗塞(MI)によりブレーメン市の心臓センターに入院した50歳以下の患者430人を対象に実施したもの。研究グループが対象者の居住地の騒音レベルを調べたところ、これらの対象者は、同じ地域に居住する一般住民よりも高いレベルの騒音に曝露していることが判明した。また、糖尿病や喫煙などの従来の心血管疾患(CVD)リスク因子に関する評価指標(LIFE-CVD)のスコアから低リスクと判定されるMI患者では、スコアが高い人に比べて騒音レベルが有意に高いことも示された。 Kerniss氏は、「都会の騒音は、CVDのリスク因子として確定している因子が少ない若年層でのMIリスクを有意に増加させる可能性がある」とESCのニュースリリースの中で結論付けている。研究グループは、従来のリスク評価モデルでは、低リスクと考えられる若年層の心血管リスクを過小評価する可能性があると指摘。騒音曝露をモデルに組み込むことで、MIのリスクが高い若年層をより正確に特定でき、予防策や介入をより効果的に行うことができる可能性があるとの見方を示している。 2件目の研究は、ブルゴーニュ大学およびディジョン病院(フランス)のMarianne Zeller氏らが、フランスのMIに関するデータベース(RICO)を用いて、初発のMI後の患者における環境騒音の影響について検討したもの。対象は、急性MIによる入院後28日以上生存していた患者864人で、1年後の追跡調査の結果が分析された。 入院から1年後の時点で、19%の患者に主要心血管イベント(MACE;心臓突然死、心不全による再入院、MIの再発、緊急血行再建、脳卒中、狭心症/不安定狭心症)が生じていた。対象者の自宅の住所を基に騒音レベルを算出すると、平均騒音レベルは24時間を通して56.0dB、夜間で49.0dBと中程度であり、ヨーロッパの大部分の人口を代表する騒音曝露レベルであった。解析の結果、大気汚染や社会経済的レベルなどの他の因子に関わりなく、夜間の騒音レベルが10dB増加するごとにMACEリスクが25%増加することが明らかになった(ハザード比1.25、95%信頼区間1.09〜1.43)。 Zeller氏は、「これらのデータは、騒音曝露がMIの予後に影響を及ぼす可能性に関する初めての洞察となるものだ」と述べている。また同氏は、「より大規模な前向き研究によりこの結果が裏付けられれば、MIから回復した患者に対する治療の一環として、騒音低減に取り組むべきことが支持されるかもしれない」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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CABG後のAF予防、カリウム正常上限値の維持は不要/ESC2024

 冠動脈バイパス術(CABG)後の新規発症心房細動(AF)予防としてのカリウム投与について、濃度が正常下限値を下回った場合にのみカリウム投与することが、正常上限値になるまで定期投与することよりも劣らないことが最新の研究で明らかになった。本研究結果はドイツ・シャリテー-ベルリン医科大学のBenjamin O'Brien氏らが8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインで発表し、JAMA誌オンライン版2024年8月31日号に同時掲載された。 これまで、心臓手術後の心房細動(AFACS)予防のために血清カリウム濃度を正常値に維持するためのカリウム投与が行われていたが、明確な根拠がない上にリスクや費用を伴うため、疑問視されていた。 本研究は、英国とドイツの心臓外科センター23施設で行われた多施設前向き非盲検ランダム化非劣性試験(TIGHT-K試験)。2020年10月20日~2023年11月16日に、CABG手術を予定し、AF既往歴のない患者を登録した。対象患者は、厳格なカリウム管理群(カリウム補充を行う血清カリウム濃度下限値が4.5mEq/L[正常上限値])と緩やかなカリウム管理群(同:3.6mEq/L[正常下限値])に1対1でランダムに割り当てられた。 主要評価項目は、CABG手術後120時間以内または退院までのいずれか早いタイミングで心電図により確認された新規発症AFACS(30秒以上の持続性AF、心房粗動、頻脈と定義)。また、正常下限値群の非劣性は、新規発症AFACSのリスク差と、それに関連する片側97.5%信頼区間(CI)の上限が10%未満であると定義された。副次評価項目には、心拍リズム関連イベント、臨床転帰、介入に関連するコストが含まれた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1,690例は、平均年齢65歳、女性256例(15%)、EuroSCORE IIの平均スコア1.5%であった。・主要評価項目である新規発症AFACSは、正常上限値群の26.2%(n=219)および正常下限値群の27.8%(n=231)に発生し、リスク差は1.7%(95%CI:-2.6~5.9)であった。・携帯型心拍リズムモニターなどで検出されたAFACSの1回以上の発生率、AFACS以外の不整脈、入院患者の死亡率、入院期間については、グループ間に差はみられなかった。・正常下限値群でのカリウム投与回数の中央値(IQR)は0回(0~5)であったのに対し、正常上限値群では7回(4~12)で、カリウムの購入や投与にかかる患者1人当たりのコストは、正常下限値群で有意に低かった(平均差:111.89ドル、95%CI:103.60~120.19ドル、p<0.001)。 研究者らは「厳格なコントロールのためにカリウムを定期投与しても、緩やかなコントロールに比べてメリットはなく、コストが高くなることを示すことができた」と結論付けている。

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降圧薬の服用タイミング、5試験のメタ解析結果/ESC2024

 8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のRicky Turgeon氏が降圧薬の服用タイミングに関する試験のメタ解析結果を報告し、服用タイミングによって主要な心血管イベント、死亡の発生率や安全性に差はみられなかったことを明らかにした。 本研究では、すべての降圧薬の服用タイミング(夕あるいは朝の服用)を比較するすべてのランダム化並行群間比較試験(RCT)の系統的レビューおよびメタ解析を実施。収集基準は、心血管系アウトカムが1つ以上、追跡期間が500患者年以上、追跡期間中央値が12ヵ月以上で、Cochrane Risk of Bias Tool ver.2を使用して評価を行った。主要評価項目は、主要有害心血管イベント(MACE:全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全増悪の複合)で、副次評価項目は、MACEのそれぞれの要因、全入院の原因、特定の安全なイベント(骨折、緑内障関連、認知機能の悪化)であった。 主な結果は以下のとおり。・4万6,606例を対象とした5件のRCTが解析対象となった(BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験、Hygia試験、MAPEC試験)。ただし、BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験は全体的にバイアスリスクが低いと判断された一方で、Hygia試験とMAPEC試験は、ランダム化プロセスに関してバイアスの懸念がいくつかみられた。・MACEの発生率は、5試験すべてにおいて夕方服用と朝方服用による影響を受けなかった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.43~1.16)。・バイアスリスクによる感度分析の結果、バイアスが低いと判断された3つの試験では夕方服用と朝方服用のMACEのHRは0.94(95%CI:0.86~1.03)で、バイアスの懸念がある2つの試験のHRは0.43(95%CI:0.26~0.72)だった。・夕方服用と朝方服用による全死亡に差はみられなかった(HR:0.77、95%CI:0.51~1.16)。同様に、骨折、緑内障、認知機能に関するイベントなど、そのほかすべての副次評価項目においても、服用タイミングによる影響はみられなかった。 本結果から同氏は「本結果は夕方服用と朝方服用に違いがないという決定的な証拠を示す。また、患者は自分の都合に最適な時間に1日1回の降圧薬を服用できる」と結論付けた。

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