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5~11歳へのファイザーワクチン、オミクロン株への有効性/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン変異株(B.1.1.529)流行中における5~11歳へのmRNAワクチンBNT162b2(ファイザー製)の2回接種により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院リスクは低下したことが、シンガポール・シンガポール大学のSharon H. X. Tan氏らによる検討で示された。2021年11月初旬に初めて確認されて以来、オミクロン変異株は多くの国で急速に拡大し、デルタ変異株(B.1.617.2)に置き換わり、優勢株となっている。これまで、小児におけるオミクロン変異株に対するワクチンの有効性に関するデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2022年7月20日号掲載の報告。2022年1月21日~4月8日における25万5,936例のデータを解析 研究グループは、オミクロン変異株が急速に拡大した2022年1月21日~4月8日におけるシンガポールの5~11歳の小児のデータを解析した。シンガポール保健省に報告され同省が保持している公式データに基づく解析である。 対象小児をワクチン未接種群、部分接種群(ワクチン1回目接種後1日以上、2回目接種後6日まで)、完全接種群(2回目接種後7日以上)に分け、報告されたすべてのSARS-CoV-2感染(PCR検査、迅速抗原検査、またはその両方で確認)、PCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染、およびCOVID-19関連入院の発生率を評価項目とし、ポアソン回帰法を用いて各評価項目の発生率比からワクチンの有効性を推定した。 解析対象集団は計25万5,936例で、このうち17万3,237例(67.7%)が完全接種群、3万656例(12.0%)が部分接種群、5万2,043例(20.3%)が未接種群であった。2回接種でCOVID-19関連入院に対する有効性は約83% 報告されたすべてのSARS-CoV-2感染、PCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染、およびCOVID-19関連入院の粗発生率(100万人日当たり)は、ワクチン未接群がそれぞれ3,303.5、473.8、および30.0、部分接種群では2,997.3、391.2、および19.1、完全接種群では2,770.3、111.8、および6.6例であった。 部分接種群のワクチン有効率は、すべてのSARS-CoV-2感染に対しては13.6%(95%信頼区間[CI]:11.7~15.5)、PCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染に対しては24.3%(19.5~28.9)、およびCOVID-19関連入院に対しては42.3%(24.9~55.7)であった。 完全接種群のワクチン有効率はそれぞれ36.8%(95%CI:35.3~38.2)、65.3%(62.0~68.3)、82.7%(74.8~88.2)であった。

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第119回 「加点による合格は賄賂」、東京医大入試裁判で文科省元局長に有罪判決

第7波の今の混乱は政治の責任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスのBA.5株が猛威を振るっています。ここにきて、政府は4回目のワクチン接種の促進、濃厚接触者の待機期間を7日間から5日間に短縮、抗原検査キットの無料配布など、新しい対策を続々と打ち出し始めています。しかし、どれも付け焼き刃的で、医療機関や保健所の業務の逼迫度合いは増すばかりです。第5波、第6波で問題となったことが再び繰り返されているわけで、もうこうなると明らかに政治の責任と言えるでしょう。第6波収束後に、風邪やインフルエンザと同様、健康で重症化しなさそうな人や自力で治そうと思う人は、検査は不要かつ医療機関を受診しなくてもいい、というルールに変えて国民に周知しておけば、今回の現場の混乱を多少は防げたはずです。あるいは、第4回目のワクチン接種を早めに進めておいたり、抗原検査キットを事前に国民に配布しておいたりすることもできたはずです。第6波収束後、感染症法上の扱いを「5類並み」に変更するチャンスも十分にあったと思います。しかし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないですが、参議院選挙を前にして、その検討を真剣に行わなかった岸田 文雄首相の責任は重いと言えます。感染症ですから患者が増えていること自体は仕方ありませんが、以前と同じように医療現場があたふたとしている状況を見ると、この2年余りのあいだ国は一体何をしていたんだ、と思います。私の周囲の“医療提供の仕組み”がわかった友人の中には、「重症化はほぼしないのだから、もし罹っても医療機関には行かず自力で治す。それが世のため」という人もいます。そもそも風邪やインフルエンザは、医療機関を受診しても療養期間がそう短くならない病気です。「熱っぽい時は医者へ」という日本人の固定観念自体も、今後変えて行く必要がありそうです。さて、今回は事件発覚から実に4年、先週やっと判決が出た、東京医大入試裁判について書いてみたいと思います。元局長に懲役2年6カ月、執行猶予5年の判決文部科学省の私立大学支援事業で東京医科大に便宜を図る見返りに、自分の息子を東京医科大に合格させてもらったとして、受託収賄罪に問われた同省の元科学技術・学術政策局長、佐野 太被告(62)ら4人の判決公判が7月20日、東京地裁でありました。東京地裁(西野 吾一裁判長)は「入試の公平性をないがしろにする甚だしい利益を収受した。賄賂に該当するのは明らか」として、佐野被告に懲役2年6ヵ月、執行猶予5年(求刑懲役2年6ヵ月)を言い渡しました。佐野被告の退職金の支払いが差し止められるなど社会的制裁も受けている点を考慮し、判決は執行猶予付となりました。一方、贈賄罪に問われた東京医科大元理事長の臼井 正彦被告(81)は懲役1年6ヵ月、執行猶予4年(同1年6ヵ月)、元学長の鈴木 衛被告(73)は懲役1年、執行猶予2年(同1年)、受託収賄ほう助罪などに問われた医療コンサルタント会社元役員、谷口 浩司被告(51)は懲役2年、執行猶予5年(同2年)としました。「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜判決によると、佐野被告は官房長だった2017年5月、臼井被告から、独自色がある私大を支援する「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜を図ってほしいと依頼され、医療コンサルタント会社元役員だった谷口被告を通して事業計画書の書き方などを助言。その謝礼として、臼井、鈴木両被告から、2018年2月に同大を受験した息子の試験結果に加点してもらい合格させてもらったとのことです。佐野被告は「不正をしてまで息子を合格させてもらおうと思ったことは一度もない」として無罪を主張。臼井、鈴木両被告らも起訴事実を否認していました。判決は、佐野被告と臼井被告が2017年5月に会食した際の音声データを基に、臼井被告が「来年は、絶対大丈夫だと思いますので」などと発言したと認定。佐野被告が、息子に加点などの優遇措置がとられることを認識した上で私大支援事業への助言などの依頼を受け、承諾したと判断しました。ちなみに東京医大は「私立大学研究ブランディング事業」の対象校に選ばれ、2017年度に3,500万円が交付されています。判決では「事業の公平性や補助金の適正な交付を妨げてはならないという職務に反した」と佐野被告を強く非難しています。「加点による合格は賄賂」と結論付ける公判では、不正に得点を加えた大学側の優遇措置が佐野被告への賄賂に当たるかどうかが争点でした。佐野被告の息子は、2018年2月に実施されたマークシート方式の1次試験(400点満点)で大学側から本来の得点に10点の加算を受けたことで、2次試験の小論文や面接を踏まえた最終順位が74位となり、75人の正規合格の枠に入り、合格しました。佐野被告側は公判で「加点がなくても補欠として合格でき、賄賂にはあたらない」と訴えていました。判決理由も「加点がなくても補欠合格していた」ことを認めていますが、「補欠合格は正規合格者の辞退という偶然の事情に左右される。早期に正規合格者の地位を得ることは、他の大学への高額な入学金の納付を避けられ、経済的な利益もある」と指摘。会食の録音データなども踏まえ、佐野被告は「加点などの優遇措置が講じられ、正規合格の地位を受ける可能性を認識していた」として、加点による合格が賄賂に当たると結論付けました。判決後、佐野被告は弁護人を通じ「不当な判決」などとコメントし、控訴する意向を示しました。医学部入試の透明性改善のきっかけとなった事件2018年7月に発覚したこの事件は、日本の医学部入試にも多大な影響を及ぼしました。当初は一般的な贈収賄事件として扱われていましたが、その後の東京医大の内部調査で、同大が行っていた点数操作が佐野被告の息子だけでなく、女性や3浪以上の男性にも一律に不利になるように行われていたことが判明、事件は一気に社会問題化しました。文科省は医学部医学科がある全国81大学の入学者選抜の過去6年間の実態を緊急調査し、2018年9月に2013年〜2018年度の男女別の合格率を公表しました。これらの調査結果と各大学へのヒアリングを基に、東京医大を含む10大学の医学部医学科においても「不適切である可能性が高い」選抜や「疑惑を招きかねない」選抜が行われていた事実が明らかになったのです。同省は2019年6月、「大学入学者選抜実施要項」を見直し、差別を禁止する具体的なルールを設定。各大学では受験生の名前や性別、年齢を伏せて合否を決めたり、女性面接官を増やしたりする対策がとられるようになりました。元受験生による集団訴訟も継続中実際、こうした対策の効果は大きく、本連載の「第94回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が『An Unsuitable Job for a Woman』でなくなる日は本当に来るか」でも詳しく書いたように、国公私立81大学における2021年度の医学部入試での女性の平均合格率は13.60%と、男性の13.51%を上回り、データのある2013年度以降で初めて男女の合格率が逆転しています。もしこの事件が発覚しなかったら、女性や複数年浪人生への不当な差別がその後も続いていたと思うと、恐ろしいことです。ちなみに、文科省の調査で不適切入試が指摘された大学については、元受験生が損害賠償を求めて提訴する動きも広まりました。東京医大のほか昭和大や聖マリアンナ医科大などに対する集団訴訟が続いています。2022年5月には、東京地裁が順天堂大に対し、医学部で不合格となった元受験生の女性13人に計約805万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。順大については判決が確定し、元受験生と大学側は和解しています。いくつかの集団訴訟はまだ続いており、佐野元被告も控訴する方針なので、今回の有罪判決もまだ確定しません。東京医大入試事件をきっかけに全国の医学部を揺るがせた不正入試の余波は、まだまだ収まりそうにありません。

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インフルとの鑑別を更新、COVID-19診療の手引き8.0版/厚労省

 7月22日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第8.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知を行った。 今版の主な改訂点は以下の通り。第8版の主な改訂点【1 病原体・疫学】・(1)病原体、(3)国内発生状況、(4)海外発生状況の情報を更新【2 臨床像】・(1)臨床像を更新(とくにオミクロン株の知見、インフルエンザとの鑑別を更新)・(2)重症化リスク因子、(3)胸部画像所見、(4)合併症を更新・(5)小児例の特徴で小児の重症度、小児における家庭内感染率について更新・(5)小児例の特徴で「小児における死亡例」を追加・(6)妊婦例の特徴を更新【3 症例定義・診断・届出】・(1)症例定義を更新・(4)届出を更新【4 重症度分類とマネジメント】・(1)重症度分類、(2)軽症、(3)中等症II 呼吸不全あり、(4)重症の中のECMO、血液浄化療法、血栓症対策、図を更新・「高齢者における療養のあり方について」を追加・「医療提供体制と自宅療養について」を参考から追加【5 薬物療法】・(1)抗ウイルス薬のモルヌピラビルを更新・(2)中和抗体薬のソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブを更新・(4)妊婦に対する薬物療法で「禁忌」を追加・(参考)の「日本国内で開発中の薬剤」を更新【6 院内感染対策】・序文、換気を(2)環境整備に統合し更新・(4)患者寝具類の洗濯を更新・(7)職員の健康管理を更新・(8)妊婦および新生児への対応を更新・【参考】感染予防策を実施する期間の表を追加【7 退院基準・解除基準】・(1)退院基準を更新

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コロナ・インフルワクチン同時接種可、オミクロン株対応ワクチン秋以降に導入へ/厚労省

 これまで新型コロナワクチンの接種は他のワクチン接種と13日以上の間隔を空けて実施することとされていたが、知見等の蓄積をふまえ、インフルエンザワクチンに関しては同時接種も可能とすることが、7月22日に開催された第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で了承された。同会ではそのほか、オミクロン株対応ワクチンの接種や4回目接種の対象者拡大等についても議論された。各社のコロナワクチンとインフルワクチン同時接種の有効性・安全性<同時接種の有効性>ファイザー社・アストラゼネカ社:2回目接種において、ファイザー社またはアストラゼネカ社ワクチン単独接種と比べ、新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価は有意差がなかった。さらにファイザー社ワクチンとの同時接種においてインフルエンザの一部の株に対するHI抗体価の上昇がみられた。モデルナ社:追加接種において、インフルエンザワクチン単独またはモデルナ社ワクチン単独接種と比べて、インフルエンザHI抗体価、新型コロナウイルス抗スパイクIgG抗体価共に低下はなく、免疫干渉はないと報告された。武田社:初回接種において、インフルエンザワクチン単独接種と比べて、インフルエンザHI抗体価は同程度に上昇した。また、両ワクチンの同時接種による新型コロナウイルス感染症発症予防効果は87.5%と、武田社ワクチン単独接種の89.8%と同程度であった。<同時接種の安全性>ファイザー社・アストラゼネカ社:観察期間を通じた全身副反応報告割合は非同時接種群と比較して、同時接種群でも同程度であり、同時接種での安全性の懸念は認められなかった。モデルナ社:接種後21日間に報告された有害事象は同時接種群17.0%、モデルナ群14.4%、インフルエンザ群10.9%であり、同時接種での安全性の懸念は認められなかった。武田社:接種後21日以内に報告された有害事象は同時接種群18.4%、ノババックス群17.6%、インフルエンザ群:14.5%で同時接種により安全性の懸念が増すことはなかった。 米国ではインフルエンザワクチンを含めて、他のワクチンと新型コロナワクチンは同時接種可能とされており、2021年9月~2022年5月のデータにおけるmRNAワクチンの追加接種とインフルエンザワクチンの同時接種後7日間の全身反応の調整オッズ比は、mRNAワクチン追加接種の単独接種と比較し、ファイザー社ワクチンとの同時接種で1.08、モデルナ社ワクチンとの同時接種で1.11であったと報告されている。英国では2022年5月26日にインフルワクチンとコロナワクチンの同時接種は安全であるという基本方針が示されており、同会ではこれらの知見と諸外国の対応等考慮して、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンについては、間隔の規定を廃止し同時接種を認める一方、インフルエンザ以外のワクチンとの同時接種については、13日以上の間隔を開けることとし、引き続きエビデンスを収集しながら検討することとされた。 なお、委員からは同時接種を積極的に推奨するのか? という質問が上がり、厚労省では、積極的に推奨するということではなく、1つの選択肢として同時接種も可能となるという位置づけと回答した。「オミクロン株対応ワクチン」今秋以降に導入の方向で検討 ファイザー社およびモデルナ社では、「オミクロン株対応ワクチン」の開発を進めており、ともにオミクロン株(BA.1)の成分を含んだワクチンの臨床試験結果を発表し、BA.1に対する中和抗体価が従来ワクチンと比較して優越性を示したことが報告されている。FDAでは製造販売業者に対して、オミクロン株(BA.4/5)の成分を含む2価の追加接種用ワクチンを開発するよう、COVID-19ワクチンを改良することを検討するよう勧告しており、これにより、改良されたワクチンが2022年秋の初めから中頃に利用できるようになる可能性がある。 本邦でも「オミクロン株対応ワクチン」を予防接種に導入していく方向が了承され、「オミクロン株対応ワクチン」の構成(オミクロン株の成分のみを含んだ単価ワクチンとするか従来型ワクチンを含んだ2価ワクチンとするか、オミクロン株の構成亜系統[BA.1またはBA.4/5])について専門的に議論する場を設けることで一致した。 なお、厚労省では同日7月22日付けで「オミクロン株に対応した新型コロナワクチンの接種体制確保について」と題した事務連絡を発出し、「オミクロン株対応ワクチン接種は、少なくとも新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高い高齢者等を対象とすることが考えられるが、今後得られるデータや諸外国の動向等を踏まえて、高齢者等以外の者も対象とする可能性があるため、現時点では、初回接種を完了した全ての住民を対象に実施することも想定して準備を進める」ことを要請している。4回目接種対象者、医療従事者に拡大 3回目接種から4ヵ月以上経過した60歳以上において、オミクロン株流行期におけるファイザー社ワクチン4回目接種による感染予防効果は、4回目接種後22~28日後には約50%であったが、50~56日後には約9%である一方、重症化予防効果は4回目接種後36~42日後においても77%であったと報告されている。また18歳以上の医療従事者を対象とした前向き臨床研究では、オミクロン株流行下においてファイザー社またはモデルナ社ワクチン4回目接種の感染予防効果は、3回目接種と比較してそれぞれ30.0%および10.8%であり、発症予防効果についてはそれぞれ43.1%および31.4%であったとの未査読の研究報告がある。 これらいくつかの論文データからは、4回目接種の感染予防効果は限定的とのエビデンスに特段変わりはないものの、新規感染者が急速な増加傾向にあることから、重症化リスクの高い者が多数集まる医療機関・高齢者施設等において従事者を通じた集団感染が生じることを懸念し、60歳未満の医療機関・高齢者施設等の従事者に対する4回目接種を、予防接種法に基づく予防接種として位置付けることを了承した。 同時接種可能とすることおよび4回目接種対象者の拡大については、同日公開された「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(8.2版)」にも反映されている。

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第122回 コロナは細胞間“トンネル”を伝って脳で広まるのかもしれない

すでによく知られている通り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は脳のもやもや(brain fog)や混乱などの種々の神経症状と関連し、どうやら脳に直接影響するらしく、感染者の死後脳からウイルスが検出されています。SARS-CoV-2は感染の取っ掛かりでACE2受容体に結合することが知られますが、ACE2受容体がおよそ非常に乏しい脳でSARS-CoV-2がどうやって広まるのかはよく分かっていません。フランスの研究者による新たな実験の結果、SARS-CoV-2は感染細胞から伸ばした細い管を伝ってACE2受容体なしでも別の細胞に乗り移りうることが示されました1)。いわばトンネルのようなその仕組みのおかげでSARS-CoV-2は脳内で広まるのかもしれません。同国のパスツール研究所のチームはACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)とACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)それぞれとSARS-CoV-2をまずは一緒にしてみました。すると予想通りSARS-CoV-2は上皮細胞には感染し、神経細胞には感染できませんでした。しかしSARS-CoV-2感染上皮細胞と神経細胞を一緒にしたところ神経細胞へのSARS-CoV-2の感染が認められました。とりわけ高性能の顕微鏡で観察したところ細胞間を繋ぐ細い管が見て取れ、細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube;TNT)と呼ばれるその管の中にSARS-CoV-2のタンパク質やRNAがありました。また、ウイルスRNAを量産する二重膜小胞も認められました。すなわちSARS-CoV-2は感染細胞にTNTを作らせ、TNTと連結したよその非感染細胞にTNTを伝ってまんまと侵入しうることが裏付けられました。TNTがウイルスの通り道になることを示したのは今回が初めてではありません。酸素不足や感染などで負荷がかかった細胞が伸ばしたTNTが別の細胞と繋がり、ウイルス粒子がその通路を介して細胞間を行き来しうることがこれまでの研究で示されています。たとえばインフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルスはTNTを使って己のゲノムを非感染細胞へ輸送可能であり、その経路であれば免疫や抗ウイルス薬は手出しできそうにありません。今回の研究でTNTはSARS-CoV-2結合の足場がない細胞への侵入ルートになりうることが示されましたが、足場がある細胞間のSARS-CoV-2伝播さえも促しているかもしれません。TNTを構成するアクチンの重合や脱重合は素早く、ウイルスは他の経路よりTNTを介した方がより早く広まれる可能性があるからです。今後の課題として動物やヒトの脳内でTNTを介したSARS-CoV-2細胞感染が存在するかどうかを検討する必要があります2,3)。もしヒトの脳内やその他の体内でTNTを介したSARS-CoV-2感染があるならウイルスの広まりを早くに封じて感染の重症化を防ぐのにTNT形成阻止薬が役立つかもしれません。今のところTNTに限って阻害する化合物は存在しませんがパスツール研究所のチームはその同定を目指して化合物の選別に取り組んでいます3)。参考1)Pepe A, et al. Sci Adv. 2022 Jul 22;8:eabo0171. 2)SARS-CoV-2 Could Use Nanotubes to Infect the Brain / TheScientist3)Coronavirus may enter the brain by building tiny tunnels from the nose / NewScientist

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第109回 サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省

<先週の動き>1.サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省2.放火事件やわいせつ事件で、医師11名、歯科医6名に行政処分/厚労省3.岸田首相に日本医師会長が面会、新型コロナウイルス「第7波」に、休日診療の充実を4.新型コロナウイルス、感染症患者の入院診療加算は9月末まで延長/厚労省5.新型コロナウイルスワクチン接種、医療者・介護従事者にも4回目の接種を承認/厚労省6.薬剤師の過剰を懸念、薬学部の新設を2025年以降は抑制/文科省1.サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省世界保健機関(WHO)は、7月23日に動物由来のウイルス感染症「サル痘」について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言をした。アフリカ以外の欧米諸国でも感染が急速に広がっており、各国に対して、感染対策の強化を促す目的。日本国内での感染者はまだ確認されていないが、政府は海外での感染拡大を受けて、ワクチンや治療薬の配備や医療機関での受け入れ態勢について検討を開始しており、発症予防効果があるとされている天然痘のワクチンの承認についても、今月29日に専門家部会で検討する。(参考)感染拡大のサル痘にWHOが「緊急事態」を宣言 71ヵ国で1万人超(朝日新聞)WHO、サル痘に緊急事態宣言 感染拡大防止へ対策強化(日経新聞)「サル痘」に備え 薬やワクチンなど整備進める 厚労省(NHK)2.放火事件やわいせつ事件で、医師11名、歯科医6名に行政処分/厚労省厚生労働省は、7月21日に医道審議会医道分科会の答申を受けて、刑事事件で有罪が確定したとして、医師11人と歯科医師6人に対して免許取り消しや業務停止などの行政処分を行うこととした。発効は8月4日。このうち免許取り消しとなったのは、自身のクリニックに放火して非現住建造物等放火罪で有罪が確定した小児科医が1名、業務停止で3年となったのは女性宅に侵入してわいせつな行為をした福岡市の医師が含まれている。(参考)医師と歯科医17人処分 放火やわいせつ行為など 厚労省(時事通信)放火や準強制わいせつ 17人を医師免許取り消しなどの処分 厚労省(朝日新聞)3.岸田首相に日本医師会長が面会、新型コロナウイルス「第7波」に、休日診療の充実を日本医師会の松本吉郎会長は、首相官邸において岸田総理に面会し、新型コロナウイルスの第7波の感染拡大に対応するため会談を行った。発熱外来の患者増に対応するために、希望する患者に対して検査キットを配布し、自主検査の態勢の構築を説明し、協力を要請した。さらに、週末などに対応できる医療機関を増やすことを求めた。(参考)首相 日本医師会長と面会 休日診療の発熱外来増など協力求める(NHK)首相、抗原検査キットの配布意向説明 日医会長と面会(日経新聞)希望者への検査キット配布に協力する意向を伝える(日本医師会)4.新型コロナウイルス、感染症患者の入院診療加算は9月末まで延長/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大により、新規感染者数が全国的に上昇している中、必要な医療提供体制を確保していくため、臨時の診療報酬の加算のうち、感染患者の初診で行う入院診療加算(250点)について、7月末までであった臨時措置を9月30日まで延長するとした。また、新型コロナウイルス感染症に罹患して自宅療養や宿泊療養中の患者を、医師が電話などを用いて、診療を行った場合も同様に147点の算定を引き続き、9月30日まで認めるとした。(参考)新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その72)(厚労省)5.新型コロナウイルスワクチン接種、医療者・介護従事者にも4回目の接種を承認/厚労省厚生労働省は7月22日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において新型コロナウイルスの4回目のワクチン接種を医療・介護従事者にも拡大することを了承した。これによって、7月22日から接種可能となる。また、この秋以降の、新型コロナワクチンについては、ファイザー社およびモデルナ社が開発中のオミクロン株対応の改良型を導入し臨時接種を行うこととした。また、インフルエンザワクチンとの同時接種も可能とすることとした。(参考)ワクチン4回目接種の対象拡大 医療・介護従事者600万人にも(毎日新聞)今秋以降の接種、オミクロン株対応の改良型導入へ…インフルワクチンと同時接種も了承(読売新聞)新型コロナワクチンの接種について(第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会)6.薬剤師の過剰を懸念、薬学部の新設を2025年以降は抑制/文科省文部科学省は7月22日、大学の6年制薬学部の新設について、2025年度から新設や定員増を原則として認めない方針を決めた。これは平成15年度から平成20 年度にかけて28学部が増加し、最近も平成30年度に1学部(公立)、令和2年度に2学部(私立)、令和3年度に2学部(公立1、私立1)が新設されており、入学定員は、平成20年度に1万2,170人と最大となり、その後、令和3年度には1万1,797人若干減少している。一方、私立大学の薬学部の入学定員充足率、志願倍率、入学志願者数は減少傾向が続いており、入学定員充足率が80%以下となる私立大学は、約3割に達している状況や、私立大学の卒業生の標準修業年限内の国家試験合格率(令和2年度)が、18~85%までばらつきがあるものの中央値57%と低迷していることなどを鑑みて、今後、質の高い薬剤師を養成するためには、6年制の薬学部の新設や定員の増加を原則として認めない方針をまとめた。(参考)薬学部新設、抑制へ 供給過剰を危惧 25年度以降(毎日新聞)“薬剤師過剰” 薬学部の新設・定員増抑制へ 文科省専門家会議(NHK)6年制課程における薬学部教育の質保証に関するとりまとめ(案)(薬学部教育の質保証専門小委員会)

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若年層での3回目接種、オミクロン株流行下も感染率低下/JAMA

 若年層での新型コロナウイルスワクチンのブースター接種の有効性を検討するため、米国の医療情報コンサルティング企業のIQVIAは、全米プロバスケットボール協会(NBA)の選手およびスタッフにおいて、ブースター接種者と未接種者の感染発生率を調査した結果、オミクロン株流行期でも、ブースター接種が感染率を有意に低下させることが示された。本結果は、JAMA誌2022年6月2日号オンライン版のリサーチレターに掲載された。 本研究では、2021年12月1日~2022年1月15日の期間に、有症状や濃厚接触、チーム内での感染発覚を契機に、核酸増幅法による検査を1回以上受けた選手およびスタッフを対象とした。被験者のワクチン接種状況について、調査開始時にはブースター接種を受けていなくても、調査終了までにブースター接種完了者の割合が増加しているため、被験者の接種状況の変化に応じて人日数で計上し、Andersen-Gill Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。 対象となった2,613例(男性88%、年齢中央値33.7歳[IQR:27.3~45.2])のうち、45日間追跡できたのは67%だった。ファイザー製ワクチン、またはモデルナ製ワクチンの初回シリーズを2回完了、もしくはジョンソン・エンド・ジョンソン製の単回接種用ワクチンを1回接種したブースター未接種群が1万890人日(715例)、ブースター接種を受けて14日経過したブースター接種群は7万4,165人日(2,164例)だった。調査期間の開始から終了までに、ブースター接種を受ける資格がある人の割合は、26%(682例)から8%(205例)に減少し、ブースター接種完了者の割合は49%(1,282例)から85%(2,215例)に増加した。 主な結果は以下のとおり。・ブースター未接種群では127例、ブースター接種群では608例が感染し、調整ハザード比(aHR)は0.43(95%信頼区間[CI]:0.35~0.53、p<0.001)となり、ブースター未接種群よりブースター接種群のほうが、感染率が著しく低かった。・有症状感染を評価する2次解析でもaHRは0.39(95%CI:0.30~0.50、p<0.001)となり、ブースター未接種群よりブースター接種群のほうが、感染率が低いことが示された。・入院や死亡は発生しなかった。・ゲノム解読できた339の感染例のうち、オミクロン株が93%を占めていた。 本研究のブースター接種群は、2021年12月1日時点でブースター接種からの経過日数の中央値が20日であり、時間とともに有効性が低下するというワクチンの性質を反映していない可能性がある。しかし、本研究により、健康な若年層でワクチン接種率の高いコホートにおいて、ブースター接種を受けることで、オミクロン株流行期でも、有症状感染と無症状感染共に、感染率を有意に低下させることが示された。

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BA.4/BA.5感染者の症状は?

オミクロン株BA.4/BA.5感染者でみられた症状(BA.1感染者との比較)76%BA.156%58%51%BA.4/BA.558%52%48%51%43%41% 40%38%31%26%18%7%18%12%17%9%17%8%15% 15%9%6%8%2%0%1% 0%1%対象:フランスで2022年4~5月にBA.4/BA.5に感染した288例(年齢中央値:47歳)と2021年11月~2022年1月にBA.1に感染した281例(同:35歳)[フランス公衆衛生局による2022年6月15日発表データより] 倦怠感、せき、発熱、頭痛などが多く報告されています BA.1感染者と比べると、鼻水、吐き気、下痢、味覚・嗅覚障害が多い傾向がみられました 症状が続いた期間はBA.1感染者が4日間(2~7日)だったのに対し、BA.4/BA.5感染者では7日間(3~10日)と長い傾向がみられました 無症状者はBA.1感染者では10.9%だったのに対し、BA.4/BA.5感染者では3%でしたCopyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第118回 記者も唖然…塩野義コロナ薬の承認審議で識者が発したガチ発言

2時間にわたる王者対挑戦者のボクシング・タイトルマッチ。1ラウンド目に挑戦者は王者の軽いジャブの後、アッパーカットをくらいおもむろにダウン。2~4ラウンドは挑戦者のストレートパンチが王者の顔面を捉え、一旦持ち直したかに見えたが、5ラウンド目は王者のジャブが軽く決まりよろける。その後はほぼ王者の一方的な連打がさく裂し、最終12ラウンドまで持ちこたえたものの、3人のジャッジの判定は大差で王者に-。ボクシングにたとえるとそんなところだろうか?何かというと、7月20日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議で行われた塩野義製薬の新型コロナ治療薬候補の3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認審議だ。結論から言うと第III相試験を待って議論すべきということで、委員ほぼ全員が一致して継続審議を決定した。過去の連載記事から繰り返しになって恐縮だが、エンシトレルビルに関しては今年5月の薬機法改正で新設された緊急承認制度を使った承認申請が行われている。塩野義製薬が申請に当たって提出したデータは第II/III相試験のうち、軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果。主要評価項目は鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量の2つ。前者については低用量(125mg)群、高用量(250mg)群、ともにプラセボ群と比べて有意な減少を示したものの、後者は有意差が認められなかった。ちなみに塩野義製薬側は、後者については現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状に限定して解析すると有意差が認められたことを強調している。すでに6月に行われた医薬品第二部会では、緊急承認に否定的な意見が多かったものの、緊急承認制度では薬事分科会の審議も必要になるため、この日に持ち越した。そして今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。事務方からの一通りの説明とそれを受け、審議の方向性について医薬品第二部会長の清田 浩氏(井口腎泌尿器科・内科新小岩副院長、元東京慈恵会医科大学教授)に意見が求められた。「まず付け加えたいのは、医薬品第二部会の臨時部会が開かれたのは6月22日。ちょうどコロナの患者数が下げ止まっていた時期です。現在の第7波が来ることもある程度予感していたかもしれませんが、現実にこうなるとは予想し得なかった時期なので、多少議論に危機感が欠けていた印象を持っております。その後、追加の有効性として、Long COVIDの率が減る、ウイルスの再拡散を抑えるというデータがあり、そういったポジティブなデータをどう解釈するかも議論の材料としていただければと思います」これに対して医薬品第二部会委員で山梨大学学長の島田 眞路氏から横やりが入った。「6月22日は確かに感染状況はひどくはなかったですが、諸外国でも出てましたし、日本でも来るんじゃないかという危機感を持って私達は審議したと思っております。清田部会長がどう考えたか知りませんが、危機感がなかったとおっしゃっているのにはびっくりしました。先ほどのいくつかの実験データが追加されたとのことですが、これはすでに塩野義さんは提出されてましたよ。(症状の)期間が短くなるんじゃないかとか。Long COVIDだけは出してなかったかもしれませんけど、あとのデータはだいたい示されていました。しかも、これはエンドポイントが修正されたりしたようなものです。たとえば12症状(合計スコア)ではまったく効果が認められなかったわけなので、われわれとしては効果は認められないと判断したのであって、それが呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って。それをわざわざされて、有効性があるというところをピックアップしてやるのは、臨床試験としてはやっちゃいけないことだと思いますけどね」司会が引き取り、委員ではない独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原 康弘氏が補足的な意見を求められた。この状況を収めようとしたのだろう。藤原氏は、公開された審査報告書内の第IIb相試験でのエンシトレルビル125mg、250mg、プラセボ投与後120時間までの12症状スコアのグラフを参照するように呼び掛けて次のように語った。「この推移を見ていただいたらわかりますが、私も元々呼吸器専門医なので普通にパッと見ると、これ差がないんじゃない? と見えます。PMDAとしても普通の感覚で見たのでしょう。先ほど説明がありましたように確かにRNA量は有意差をもって下がっているものの、臨床効果はこのぐらいかなというのが正直な判断であったと私は類推いたします。また、話題に上がった後付け解析ですが、途中の(事務局の)説明で多重性というお話がありました。今回、塩野義さんが何度も何度も事後解析をしていますが、そうするとby chanceで有意になることはよくあります。p値(統計学的有意差)が0.05ならば、20回に1回は間違った結果になるのは自明の理なので、繰り返し統計解析する時はp値はすごく小さくするとか、事務局が説明した多重性の調整をきちんとやらなければいけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析してどこかで有意差が出たから良いんじゃないのと言ってるのが塩野義さんかな、と私は理解しております」さすがにこの発言には驚き、メモを取っていた手を止め、リモート参加していた藤原氏の様子が映し出されたディスプレイを凝視してしまった。周囲を見回すと、数人がやはり目を見開いてディスプレイを見ている。藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人環視の中でここまで製薬企業をディスる(若者言葉で失礼)とは思いもしなかった。このあとエンシトレルビルの治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田 敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石 和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点で有効性の推定は可能という立場を取った。しかし、この後、前述の島田氏が再び異議を唱えた。参考人3人のうち2人が塩野義製薬との利益相反があり、なおかつ全員がPMDAの審査に対する塩野義製薬の反論に即した主張をしていると批判し、利益相反なしと申告していた大石氏にも利益相反がないかの確認を求めたのだ。大石氏が「利益相反がない」と伝えると、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。事務方からは「感染症の専門家からのご意見としてこちらからお呼び…」と発言しかけるも、島田氏が遮り、「感染症の専門家なんてごまんといるわけです。にもかかわらず3人中2人が塩野義製薬との利益相反がある方を呼ぶのは。もうちょっとフェアな方を呼んでいただかないと議論がかみ合わない」と苦言を呈した。その後は全体の空気がネガティブになり始める。この空気が完全にネガティブに転換したのは、それまで日本医師会常任理事として薬事分科会委員を務めていた松本 吉郎氏が日本医師会の新会長に就任したことに伴う交代で、今回から薬事分科会委員として出席した日本医師会常任理事の神村 裕子氏の発言だった。過去の本連載でも触れたように、エンシトレルビルには催奇形性があることがすでに報じられており、今回の審議で示された審査報告書にはその詳細が記述されている。それによると、ラットでの胎児の骨格変異、ウサギでの胚・胎児死亡、胎児の軸骨格の奇形・変異、外表に奇形所見で短尾と二分脊椎が認められたという。PMDA側の見解では潜在的な催奇形性リスクがあり、ラットとウサギの無毒性量は、ヒトでの血漿中曝露量基準でそれぞれ約3.8倍と約2.4倍で十分な安全域を有しておらず、承認時には、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とすることが適切というものだった。この点を踏まえて神村氏が次のように述べた。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、既に同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)があるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました。またCYP3A阻害作用が強いということを考えれば、やはり慢性疾患にかかっていらっしゃる高齢の患者さんたちにも使えない。となると、非常に使える幅が狭くなる。第III相試験ではっきりした結果が出るまで、手を出せないと思っています」この率直な意見は新任委員ならではとも言えるのかもしれない。それ以上に実臨床に携わる医師の意見は非常に臨場感のあるものだった。審議の雰囲気はここで一気に最終結論の方向に傾いたように感じた。神村氏が触れたCYP3A阻害作用については、すでにPMDAから冒頭にニルマトレルビル/リトナビル同様に併用禁忌が多くなる見込みと説明された。かつ、PMDAの審査報告書では、仮に緊急承認するとしても「有効性が示されていない状況で、本剤が承認される場合には、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、治療薬の投与が必要と考えられる患者を対象とし、禁忌等に該当する場合や供給量の関係で入手できない場合等で他の治療薬が使用できない場合に限り本剤を使用することが妥当である」との医薬品第二部会委員の意見が付記されていた。平たく言えば、重症化リスク因子を有し、既存の治療薬が使えない場合のみをエンシトレルビルの適応とすべしというものである。ちなみに今回提出された資料の中で私個人が目を引いたのは、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が提出した資料の中にあった7月19日現在までに使われた新型コロナ治療薬別の患者数である。それによると、モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)が23万5,900例、ソトロビマブ(同:ゼビュディ)が15万例、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が1万4,100例という数字である。治療必要数の比較で最も抗ウイルス効果が高いと言われているニルマトレルビル/リトナビルはもともとの供給量が少ないと言われているものの、2月の承認から5ヵ月間でこの程度しか使われていないのである。この背景には当然併用禁忌の多さもあるだろう。となると同じように併用禁忌が多くなる見込みで、既存薬が使えない場合のみにエンシトレルビルを使うならば、必要となる患者は極めて少数ではないだろうか? しかも、この日、すでにエンシトレルビルの第III相パート結果は11月中に明らかになるという見通しも示された。この点にも委員の質問が相次いだ。最終的に審議時間終了の午後8時直前、ちょっとした動きがあった。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田 易範氏が、医薬品第二部会委員で神村氏と同じ日本医師会常任理事である宮川 政昭氏に近づき耳打ちした。その直後、薬事分科会長である和歌山県立医科大学薬学部教授の太田 茂氏が「ほかの委員からどなたかご発言がありますでしょうか? よろしいようでしたら、本日の議論を取りまとめたいと思いますので、少しお時間をいただければ」と言いかけた瞬間、宮川氏が口を開いた。「今までの議論をお聞きして、先ほどPMDAの方からありましたように第III相試験の組み入れが全部終わったということですから、たぶん第III相試験は、大体時期的に言えば11月初旬(ここで事務方から『11月に総括報告書が提出されるということで聞いております』との声)…。はい。ですからそういうところをしっかりと見定めるということ、つまり緊急承認の枠組みというものが、ここである程度否定されたというわけではないものの、そういうものではないということであれば、第III相試験を待ってしっかりとした薬事としての承認体制を組んでいくというようなことも重要と思いますので、そういうことも含め、お考えいただければと思います」ここで件の島田氏が「宮川先生の意見に賛成です」と発言。これを受けて太田氏が委員に継続審議を打診。オンライン参加の委員も含め次から次に「異議なし」「賛成します」「賛成です」という声が相次ぎ、2時間強の長いようで短い議論は終結した。しかし、あの塩野義製薬を思いっきりディスった藤原氏は、今回の審議公開に同意した塩野義製薬に感謝の意を表していたが、これは私も同感である。ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている。参考薬事分科会・医薬品第二部会 合同会議 資料

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コロナ疑い熱中症患者への最新対応法/日本救急医学会

 日本救急医学会は『新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)』発刊に関する記者会見を7月15日に行った。初版が発刊されてから2年、今回はとくに“熱中症とマスク着用の関係性”と“蒸散冷却法の使用有無”に焦点が当てられて改訂が行われ、神田 潤氏(帝京大学医学部附属病院 高度救命救急センター/新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ タスクフォース長・編集長)がこれらの根拠などについて解説した。マスク着用が熱中症の危険因子となる根拠はない 第2版は初版のクリニカルクエスチョンを継承し、新たに報告された論文結果を踏まえて検討が行われた。第2版におけるQ1~7とその回答は以下のとおり。―――Q1:マスクを着用すると、体温が上がるか?A:暑熱環境における1時間程度の軽度の運動、あるいは20分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用が体温に及ぼす影響はない。Q2:マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?A:健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない。Q3:COVID-19の予防で「密閉」空間にしないようにしながら、熱中症を予防するためには、どのようにエアコンを用いるべきか?A:職場や教室等、人の集まる屋内では、密閉空間を避けるため、自然な風の流れが生じるように2方向の窓を開ける換気を適宜行い、室温を測定しながら、エアコンの温度設定を調節する。Q4:熱中症とCOVID-19は臨床症状から区別できるか?A:熱中症とCOVID-19はいずれも多彩な全身症状を呈するため、臨床症状のみから鑑別は困難である。Q5:血液検査は熱中症とCOVID-19の鑑別に有用か?A:両者の鑑別に有用な血液検査の項目はない。Q6:高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の胸部CT検査はCOVID-19の鑑別診断に有用か?A:確定診断と除外診断に用いるには、不適切である。Q7:COVID-19の可能性がある熱中症患者の場合、蒸散冷却法を用いて、患者を冷却するべきか?A:通常の感染対策を行ったうえで蒸散冷却法を用いた積極的冷却を行ってもよいが、各施設で迅速に使用できる冷却法を選択するのが望ましい。―――マスク、呼吸困難感に影響及ぼす1)も熱中症リスクではない マスク着用時の体温上昇について、神田氏は「健常成人のボランティアの実験2)などでは、マスクを着用したとしても、熱中症のリスクは増大しなかった。ただし、高齢者や小児、既往のある人は、健常成人と同じ結果が出るかわからないため注意が必要。また、マスクをしていないからといって、熱中症のリスクが小さくなるわけではない」と強調した。蒸散冷却法にエアロゾルを介した感染リスクはない 熱中症患者に蒸散冷却法を用いると、発生するエアロゾルによって体表のウイルスが拡散するのではないか、と指摘されていた。そこで、同氏らはそれを検証するために人形を用いて実験を行い、その結果、人形表面の冷却効果を認めるも体表からの水分蒸発に伴うエアロゾルの発生は認めなかったことを明らかにした。これについて「蒸散冷却法による体表からの水分蒸発に伴うエアロゾルを介した感染のリスクはないものの、ほかの冷却法と同様に、患者がコロナ罹患者であった場合には会話や咳などによる感染のリスクが残存するため、感染対策を継続する必要がある」と述べ、「 一方で、どの冷却法を実施するかについては、蒸散冷却法を特別に推奨するものではなく、各施設で迅速に使用できる方法を選択するのが望ましい」と説明した。 このほか、同氏は「シャワー後の扇風機・うちわの使用は、蒸散冷却法そのものであるが、エアロゾルを介した感染リスクはないため、エアコン以外の熱中症対策(とくに停電時)として有効である。同様に、屋外のミストシャワーも蒸散冷却法そのものなので有効だ。エアロゾルの発生については検討していないが、シャワー自体にウイルスが存在しないので、エアロゾルを介した感染リスクは少ない。ただし、まわりに人がいる場合はマスクの着用が必要」と解説した。

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mRNAワクチン後の心筋炎、予防に有効な接種間隔は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチン接種後の心筋炎のリスクが最も高いのは、思春期および若年成人の男性であり、これらの集団ではモデルナ製よりファイザー製のワクチンを用い接種間隔は30日以上が望ましいこと、5~11歳の小児での心筋炎発症は非常に稀でエビデンスの確実性は低いことなどを、カナダ・アルバータ大学のJennifer Pillay氏らが、システマティック・レビューの結果、報告した。著者は、「mRNAワクチンに関連した心筋炎は良性と思われるが、長期追跡データは限られており、生検や組織形態学等の適切な検査を用いた前向き研究によりメカニズムの解明が進むだろう」とまとめている。BMJ誌2022年7月13日号掲載の報告。大規模研究、観察研究、サーベイランスデータ、症例シリーズなど46件の研究を解析 研究グループは、Medline、EmbaseおよびCochrane Libraryを用い、2020年10月6日から2022年1月10日までに発表された論文(参考文献リストおよび灰色文献は2021年1月13日まで)を検索し、システマティック・レビューとエビデンスの統合を行った。 適格基準は、1万例超または地域住民を対象とした大規模研究または多施設の観察研究、およびCOVID-19 mRNAワクチン接種後に確認された心筋炎または心膜炎について報告しているサーベイランスデータ(発症率およびリスク要因)、症例シリーズ(5例以上、臨床症状、短期的な臨床経過および長期アウトカム)、オピニオン、レター、レビューおよび仮説的メカニズムに焦点を当てた原著とした。 評価者1人がスクリーニングし、他の1人が機械学習プログラムを用いて優先順位付けを行い除外の50%を検証した。2番目の評価者は、全文、抽出データ、および修正Joanna Briggs Institute toolを用いたバイアスリスク評価について、すべての除外を検証した。GRADEを用い発症率やリスク因子についてのエビデンスの確実性の評価をチームのコンセンサスで決定した。 解析に組み込まれた研究は46件であった(発症率に関する研究14件、リスク因子7件、特徴および短期経過11件、長期転帰3件、メカニズム21件)。mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクは12~29歳男性、モデルナ製で高い mRNAワクチン接種後の心筋炎発症率は、100万人当たり12~17歳では50~139例(エビデンスの確実性:低)、18~29歳では28~147例(エビデンスの確実性:中)と、思春期の男性および若年成人男性で最も高かった。5~11歳の少年少女と18~29歳の女性では、BNT162b2(ファイザー製)ワクチン接種後の心筋炎発症率は100万人当たり20例未満と思われた(エビデンスの確実性:低)。 mRNAワクチン3回目接種後の発症率については、エビデンスの確実性は非常に低かった。 18~29歳の心筋炎発症率は、mRNA-1273(モデルナ製)ワクチン接種後のほうがファイザー製と比較しておそらく高いと思われた(エビデンスの確実性:中)。12~17歳、18~29歳、18~39歳では、mRNAワクチン2回目接種後の心筋炎/心膜炎発症率は、1回目接種から31日以上経過後に2回目を接種したほうが、30日以内に2回目を接種した場合と比較して低い可能性があった(エビデンスの確実性:低)。18~29歳の男性に限定したデータでは、心筋炎/心膜炎の発症率を大きく低下させるためには、接種間隔を56日以上にする必要があることが示唆された。 臨床経過および短期転帰は、5~11歳については小規模な症例シリーズ1件(8例)のみであった。思春期および成人については、心筋炎発症例のほとんど(>90%)が年齢中央値20~30歳の男性で、2回目接種後2~4日に症状が発現した(71~100%)。ほとんどの人(≧84%)が短期間(2~4日)入院した。 心膜炎に関してはデータが限られていたが、患者の年齢、性別、発症時期、入院率は心筋炎よりばらつきがあった。 長期追跡調査(3ヵ月、38例)を行った症例シリーズ3件において、50%超の患者で心エコー所見異常の持続、症状あるいは薬物治療の必要性や活動制限の継続も示唆された。 メカニズムの仮説を記述した研究は16件で、エビデンスを直接支持または反論するものはほとんどなかった。 なお、本レビューは現在進行中であり(Living evidence syntheses and review)、今後のアップデートはCOVID-19 Evidence Network to support Decision-making(COVID-END)のウェブサイトに掲載される予定だという。

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ノババックス製ワクチン、12歳以上の接種を承認/添付文書改訂

 厚生労働省は7月21日、ノババックス製新型コロナウイルスワクチン「組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン」(商品名:ヌバキソビッド筋注)について添付文書を改訂し、初回免疫(1回目・2回目)の接種対象者の年齢を、18歳以上から12歳以上に引き下げたことを発表した。なお、本ワクチンの3回目の追加接種は、従来どおり18歳以上が対象となっている。また、初回免疫でほかのメーカーのワクチンを接種した者に対しては、ノババックス製ワクチンを3回目に使用した際の有効性と安全性は確立していないとしている。 今回の改訂は、本ワクチンの海外第III相臨床試験「2019nCoV-301試験」の12~17歳の被験者を対象としたパートの試験成績を踏まえたものとなる。ワクチン接種群1,491例とプラセボ群756例が参加した本試験の結果、2回目接種後の追跡期間中央値がワクチン接種群で64日、プラセボ群で63日において、ワクチン効果(VE)が79.54%(95%信頼区間:46.83~92.13)であることが示された。 12~17歳における本ワクチンの安全性については、少なくとも1回接種した2,232例で評価し、発現頻度が10%以上、もしくは日常生活を妨げるほど重症の副反応として、圧痛、疼痛、頭痛、疲労、筋肉痛、倦怠感、悪心/嘔吐、発熱、関節痛が報告された。副反応の大部分は、接種後1~2日以内に発現し、持続期間の中央値は1~2日であったという。 ワクチンの添付文書における主な改訂は以下のとおり。7.1 初回免疫7.1.1 接種対象者12歳以上の者。7.1.2 接種回数本剤は2回接種により効果が確認されていることから、原則として、他のSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく2回接種するよう注意すること。7.1.3 接種間隔1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施すること。7.2 追加免疫7.2.1 接種対象者18歳以上の者。SARS-CoV-2の流行状況や個々の背景因子等を踏まえ、ベネフィットとリスクを考慮し、追加免疫の要否を判断すること。7.2.2 接種時期通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができる。7.2.3他のSARS-CoV-2ワクチンを接種した者に追加免疫として本剤を接種した際の有効性、安全性は確立していない。

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オミクロン株流行時期における5~11歳児に対するBNT162b2ワクチンの有効性(解説:寺田教彦氏)

 本研究はBNT162b2ワクチンのオミクロン株流行時期における5~11歳を対象にした研究である。 オミクロン株の流行中に新規のワクチン接種を受けた小児におけるBNT162b2ワクチンの有効性を推定するため、イスラエル最大の医療組織であるクラリット・ヘルス・サービス(CHS)のデータを用いて2021年11月23日以降にワクチン接種を受けた5~11歳児と未接種の対照をマッチさせてSARS-CoV-2感染の予防、有症状のCOVID-19患者を比較しており、和文要約は「オミクロン株流行中の5~11歳へのワクチン接種、実際の有効性は?/NEJM」に記載がある。 2022年7月中旬の現況としては、海外では5~11歳のワクチン接種で3回目を実施している国もあり、本邦も厚生労働省が3回目の接種について議論開始を検討している状況である。しかし、本邦では5~11歳の小児の接種率は低いままであり、2022年7月17日の首相官邸公式サイトを参考にすると、小児接種率は、2回接種完了者は17.6%、1回以上接種者は19.0%である(首相官邸公式サイト「新型コロナワクチンについて」)。本文では今回の研究を参考に、小児におけるBNT162b2ワクチン2回接種の意義について考察をする。 本研究のデータによると、BNT162b2ワクチンの推定有効率は感染予防については2回接種後7~21日で51%(95%CI:39~61%)であり、症候性COVID-19の予防効果は48%(95%CI:29~63%)だった。年齢サブグループ別に見た傾向としては10~11歳の高年齢グループに比較して5~6歳の低年齢グループのほうがワクチンの有効性は高かった。 本研究ではこのワクチンの効果を中等症の予防効果と評しており、私も適切な評価であると考える。 ワクチン接種の是非を論じる際は、接種によるメリットとデメリットを勘案する必要があるが、直接的なメリットとしては「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」があり、デメリットとしては「接種後の副反応」があるだろう。 これらについては、同様の話題で執筆の機会を頂き、CLEAR! ジャーナル四天王「小児期および青年期におけるオミクロン株に対するファイザー製ワクチン(BNT162b2ワクチン)の予防効果-1520」で論じた。当時は、5~11歳の予防効果のエビデンスを待ちたいとしたが、本研究から判明したエビデンスを用いて再度検討してみよう。感染と発症の予防効果は、成人のオミクロン株で低下しているように小児でも低下は認めるが、中等症程度の予防効果は期待できる。新型コロナウイルス感染症が流行した初期は小児の感染例は少なかったが、最近の本邦では、むしろ5~11歳が流行の中心となっている(第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード[令和4年7月13日])。また、5~11歳でも重症化する患者の報告や本邦でもCOVID-19罹患後の死亡例の報告があることを考えると、一概に小児は軽症であると断定することもしづらくなってきている。 以上より、5~11歳は現時点では新規COVID-19患者数で比較的多くの割合を占める年代であり、ワクチン2回接種では中等度とはいえ感染予防効果と重症化予防効果が期待できるメリットがあり、接種後の副反応は、成人などと比較し軽度で、重篤な副反応は増加していないことを考えると、2回接種によるメリットはデメリットを上回ると考える。 また、上記のようなワクチン接種の直接的なメリットではないが、ワクチン接種により、小児のCOVID-19流行を防ぐことは、これらの年代の学習や共同生活の機会が失われるリスクを下げることが期待できるだろう。それは、小児でもCOVID-19の流行が起これば、学級閉鎖や学校閉鎖の対応が実施されるからである。 さて、ここからはエビデンスとは離れ、臨床現場の感覚を記す。 小児症例では、一般に入院を要したり、重篤化する症例は少ないと考えられているが、入院を要するほどでないと医療従事者が判断する場合でも、食事摂取が不良だったり、頭痛や咽頭痛の訴えが強い場合に医療機関の受診を希望される両親が多い。このようなケースでは、医療機関を受診し、医師から「大丈夫ですよ」と声を掛けてもらうことで安心できることが多いようだが、COVID-19患者の受け入れには医療機関も十分な感染対策をしなければならず、医療逼迫の一因になっている感は否めない。 しかし、咽頭痛や倦怠感などによっては、数日間食事や水分摂取が難しくなり、入院が必要と判断されうる小児もいることを考えると、一概に医師の診察は不要とすることはできないだろう。 小児でのCOVID-19における致死率は高いとはいえないが、ある程度症状が悪化する症例があることは確かであり、ワクチン未接種により小児患者のCOVID-19患者が増加すると、一定数の医療機関受診が必要な患者が発生し、小児医療に逼迫が起こりかねず、受診が必要な小児患者の受診ができないという事態を起こすことも懸念される。また、病院職員などのCOVID-19陽性者の感染経路を調査すると児童からの感染と考えられる事例が増加しており、小児患者の増加は、エッセンシャルワーカーの濃厚接触者や感染者が増加することにもつながると考えられ、医療機関の負担となる可能性がある。 以上より、総合的に勘案すると5~11歳のワクチン接種は本人にとっても社会にとっても、実施するメリットのほうがデメリットより現時点では大きいと私は考えている。

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第3回 「新型コロナを5類へ」の声

肺炎を起こしにくいBA.5COVID-19の感染症法上の扱いを見直そう、という声はコロナ禍でメディアで頻繁に取り上げられています。アルファ株、デルタ株と比べてオミクロン株以降は弱毒化が継続しています。現時点では、BA.5は確かに肺炎をほとんど起こしていません。「5類へ」それゆえ、新型コロナを「季節性インフルエンザと同等の5類感染症相当」に引き下げるべき、あるいは完全に「5類感染症」にすべきという議論が高まっています。表は1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症をまとめたものです。なお、「〇:可能」というのは、そういう措置が可能というだけで、そうしなければならないわけではありません。画像を拡大する表.1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症の主な措置(筆者作成)「5類にすべきかどうか」という議論は、医学的にはナンセンスだと思っています。新型コロナは継続的な対応が必要と考えられ、「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みに移行しました。行政上、さまざまな措置を弾力的に運用しやすい枠組みだったためです。柔軟な骨抜きができるからこそ、この枠組みにしたはずなので、あえて「5類感染症にしましょう」と提言する必要はなさそうです。全数報告が不要であれば、現在の「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みの中で把握をやめればよいですし、5類感染症に近づけたいなら、「新型インフルエンザ等感染症の5類相当」を目指せばよいのです。6月にはCOVID-19の発生届を簡素化し、症状や感染経路などを記載するところはなくなりました。また、当初すべての陽性者に入院勧告が行われていた制度はすでに廃止され、現在は自宅療養、ホテル療養が可能です。そして、もう濃厚接触者については各自で把握している現状があります。これほど5類相当まで骨抜きダウングレードが進んでいる中、あえて動きにくい「完全5類感染症」にカテゴライズするメリットは多くありません。「5類感染症」にした場合、高齢者施設クラスターが発生しても、自治体はそこに公費を投下することが難しくなります。また、BA.5の次のウイルスがアルファ株やデルタ株のように厄介な場合、法的なハードルになり、手続きに時間がかかってしまいます。そのため、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで自由にモディファイするほうが、何かとやりやすいのです。ただ、「もう5類感染症です」と政府がステートメントを出すことによって、国全体のマインドが上向くというのであれば、そういう施策もありかもしれません。しかし、また、どういった分類であっても、手を挙げてくれる医療機関が急増しない限り、おそらく発熱外来は逼迫します。そのため、感染が急拡大している現在の第7波の局面においては、「5類」かどうかという議論よりも、どのように医療逼迫をコントロールしていくかという議論のほうが重要に思います。

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異種ワクチンでのブースター接種、安全性は?/BMJ

 新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について、「ChAdOx1-S」(アストラゼネカ製)によるプライマリ接種とmRNAワクチン(「BNT162b2」[ファイザー製]または「mRNA-1273」[モデルナ製])によるブースター接種(異種ワクチン接種)は、プライマリ+ブースターをすべてmRNAワクチンで接種した場合(mRNA同種ワクチン3回接種)と比べて、重篤な有害イベントリスクの増大は認められなかったことを、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らが報告した。同国内でワクチン接種をした成人を対象に行ったコホート試験の結果で、これまで異種ワクチンの安全性に関する情報は不十分だった。BMJ誌2022年7月13日号掲載の報告。ワクチン2/3回接種後28日の重篤な心血管・出血/血栓性有害イベントを比較 研究グループは、2021年1月1日~2022年3月26日にかけて、デンマーク国内を対象にコホート試験を行った。COVID-19ワクチンの初回接種に、「ChAdOx1-S」を接種し、その後ブースター接種としてmRNAワクチン(「BNT162b2」または「mRNA-1273」)を1~2回接種した成人(18~65歳)と、「BNT162b2」または「mRNA-1273」のみを2~3回接種した成人について比較検討した。 主要アウトカムは、ワクチン2回または3回接種後28日以内の、広範にわたる心血管・出血/血栓性有害イベント(虚血心イベント、脳血管イベント[梗塞または頭蓋内出血]、動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症[脳静脈血栓塞栓症または肺塞栓]、心筋炎/心膜炎など)による病院受診の発生だった。ポアソン回帰法で、特定の交絡因子を補正し発生率比を推算し評価した。24時間以上入院を要する重篤な有害イベント、両群で同等 計2回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA)接種者は13万7,495人、同種ワクチン(mRNA、mRNA)接種者は268万8,142人だった。また、計3回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA、mRNA)接種者は12万9,770人、同種ワクチン接種者(mRNA、mRNA、mRNA)は219万7,213人だった。 異種ワクチン群の同種ワクチン群に対する、ワクチン2/3回接種後28日の、心血管・出血/血栓性有害イベントの補正後発生率比は、虚血心イベントは2回接種群で1.22(95%信頼区間[CI]:0.79~1.91)、3回接種群で1.00(0.58~1.72)であった。また、脳血管イベントはそれぞれ0.74(0.40~1.34)と0.72(0.37~1.42)、動脈血栓塞栓症は1.12(0.13~9.58)と4.74(0.94~24.01)、静脈血栓塞栓症が0.79(0.45~1.38)と1.09(0.60~1.98)、心筋炎/心膜炎が0.84(0.18~3.96)と1.04(0.60~4.55)、血小板減少症と血液凝固障害が0.97(0.45~2.10)と0.89(0.21~3.77)、その他出血イベントが1.39(1.01~1.91)と1.02(0.70~1.47)だった。 24時間超の入院を要する重篤な有害イベントに限定した場合も、あらゆるアウトカムとの関連について有意差はなかった。 結果を踏まえて著者は、今回の試験結果は安心を与えるものだとしながらも、稀な有害事象もあるため、関連性を排除するものではないとしている。

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第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ

オールスターゲーム後に気がかりなことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルス感染症の第7波が到来、各地で感染者が急増しています。政府は現時点ではまん延防止措置等重点措置のような行動制限は必要ないとの方針ですが、このまま学校が夏休みに入り、帰省や観光等で人々の動きが活発になると、さらなる患者数の増加が予想されます。実際、街に出てみると、コロナ禍以前のような賑わいで、人々は普通に飲んで騒いでいます。昨年夏のように、医療提供体制が逼迫する恐れも出てきました。米国では、MLBでポストシーズンへの進出が絶望的となったロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手のトレード交渉が、今週開かれるオールスターゲーム後に本格化するのではと、マスコミが騒いでいます(8月2日の米東部時間午後6時、日本時間3日午前7時が今季のトレード期限)。仮にエンジェルスから放出されるとしたら、大谷選手はどのチームに行くのか。ワールドシリーズ進出を狙う強豪チームに行くのか…。その行き先がとても気がかりです。一方、日本においては、プロ野球のオールスターゲームが終わる7月末頃には、コロナ患者激増でまん延防止措置等重点措置が再び出されるのではないか、あるいは感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げる議論が本格化するのではないか……。こちらもとても気がかりです。さて今回は、新型コロナウイルス“ではない”ウイルス、相変わらず各地の病院で被害が頻発している、コンピュータウイルスについて書いてみたいと思います。増える病院のサイバー攻撃報道6月20日、徳島県鳴門市の医療法人久仁会・鳴門山上病院にサイバー攻撃があり、 電子カルテや院内のLANシステムが使えなくなったことが判明し、各紙が報じました。各紙の報道によれば、感染したのは身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」で、 19日午後にパソコンが勝手に再起動し、 プリンターから紙が大量に印刷されたのに職員が気付き、 被害が判明したとのことです。なお、同病院は患者のデータをバックアップしており、22日から通常診療を再開しています。また、7月4日には岐阜市の医療法人幸紀会・安江病院が外部から不正アクセスを受け、病院のコンピュータシステムに保管していた患者や職員、計約11万人分の個人情報が流出した可能性がある、と発表しました。各紙報道によると、流出した可能性があるのは、患者や新型コロナウイルスのワクチン接種者延べ11万1,991人と、職員715人分の名前や住所、電話番号や病歴などで、職員が5月27日朝、電子カルテのシステムが使えないことに気付き、不正アクセスが判明したそうです。翌28日には復旧したものの、29日まで救急患者の受け入れを停止しました。同病院は岐阜県警や厚生労働省に報告し、専門機関に調査を依頼したとのことです。全面復旧まで2カ月かかった徳島県つるぎ町の町立半田病院コンピュータウイルスによる病院の被害については、本連載でも「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」、「第91回 年末年始急展開の3事件、『アデュカヌマブ』『三重大汚職』『町立半田病院サイバー攻撃』のその後を読み解く」でも取り上げ、ランサムウェアが病院経営に与えるダメージについて書きました。第86回で詳しく書いた、徳島県つるぎ町の町立半田病院の被害はとくに深刻でした。2021年10月31日、病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗る国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受け付けがができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのはなんと2ヵ月後の2022年1月でした。セキュリティ対策ソフトをわざと稼働させずつるぎ町と同病院は、今年6月7日に「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」を公表しています。調査報告書によれば、電子カルテシステムにアクセスするパソコンの端末が古く、新しいセキュリティ対策ソフトを入れると、システムの動作が遅くなる恐れがあったため、電子カルテの販売事業者の指示で、このソフトの稼働が止められていたとのことです。具体的には、院内にあるパソコン(約200台)のうち、電子カルテシステムに接続する端末について、ウイルス対策ソフト(トレンドマイクロ社のウイルスバスター、マイクロソフト社のウィンドウズ・ディフェンダー)の動作のほか、ウィンドウズの定期更新、電子カルテシステムの動作に必要なマイクロソフト製プログラム(シルバーライト)の最新版への更新などが意図的に無効化されていました。報告書は「電子カルテの動作を優先しセキュリティ対策をないがしろにした」と厳しく指摘しています。さらに、電子カルテのメンテナンス目的で販売業者側が設置したVPN(仮想プラベートネットワーク)装置についても、2019年の設置後、修正プログラムが一度も適用されていませんでした。VPNの提供元であるフォーティネット社は2019年に脆弱性について注意喚起していますが、販売事業者はこれについても病院に説明していませんでした。「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」調査報告書は、同病院にランサムウェアを仕掛けたサイバー犯罪集団により、「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた事案と判断するのが適当」と結論付けています。閉域網とは、外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワークのことです。かつては医療機関のネットワークはインターネットと切り離された閉域網を前提として構築されていました。しかし近年は、医療機関同士が患者情報をネットで共有したり、今回のケースのようにVPN装置を用いて、外部から操作したりと、閉域網ではなくなっているのが実情です。閉域網でないとしたら、それ相応の厳重なセキュリティ対策が必要になるわけですが、そこまでの対応をしている医療機関はまだ多くはありません。なお、事故発生当時は、同病院にはシステム担当者が1人しかおらず、セキュリティ対策に取り掛かる状況ではなかったとのことです。調査報告書は「起きるべくして起きてしまったインシデント」と総括、販売事業者側に対してもセキュリティソフトの停止を伝えず、VPNの修正ソフトも適用しないなど「事業者として責任を果たしていない」と、その問題点を強く非難しています。半田病院の「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」は、同病院のホームページにアップされており、誰でも閲覧し、ダウンロードすることができます1)。調査報告書の本編に加え、「調査報告書-技術編-」と「情報システムにおけるセキュリティ・コントロール・ガイドライン」も掲載されており、ホームページには、病院事業管理者である須藤 泰史氏の次のような言葉もあります。「この報告書には、我々の対応不足な点もたくさん指摘されていますが、広く日本の電子カルテシステムにおける問題も提起されています。本来なら、今後当院が電子カルテシステムをどのようにするのかの具体的な対策も提示して、皆様にご報告するべきだったと思いますが、まずはこれらを世に出して、全国の病院や事業所のセキュリティ強化に貢献できればと考え公開するものです」。同病院の事案で得られた教訓やノウハウを、全国の医療機関でも参考にしてほしいという強い気持ちが伝わってきます。全国の病院や診療所の院長は、この調査報告書の本編だけでも目を通されることをお勧めします。「一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃する」と「LockBit3.0」ところで、半田病院を襲ったランサムウェア「LockBit2.0」ですが、7月8日付の読売新聞の報道によれば「LockBit」は6月下旬、ダークウェブと呼ばれる闇サイトに開設しているホームページを一新。グループ名を「LockBit2.0」から「LockBit3.0」と改めたとのことです。このホームページでは一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃すると宣言。医療機関については、「死者が出る可能性がある」ところは避け、それ以外は、民間で収益を上げていれば攻撃対象にすると明記されているとのことです。ランサムウェアの被害多発を背景に、厚生労働省は今年3月に改定したばかりの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」を今年度内に再改定する予定です。また、厚生労働省の協力の下、日本医師会など医療・製薬分野の関係団体が、サイバー情報を平時から独自に収集・分析する新組織を年内にも発足させる方向で作業が進んでいるとのことです。リアルの世界だけではなく、サイバー空間においても、“ウイルス”は収まるどころかその威力をさらに増しているようです。参考1)徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書について

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テオフィリン鼻洗浄でコロナの嗅覚障害は改善するか

 気管支喘息治療薬でおなじみのテオフィリンは、細胞内のcAMP濃度を上昇させることで神経の興奮性を高める作用があり、これを利用した嗅覚の改善効果が以前より立証されている1)。また、最近の研究では生理食塩水鼻洗浄(SNI)にテオフィリンを追加することで、新型コロナウイルス感染後の嗅覚機能障害(OD:olfactory dysfunction)の効果的な治療になり得ることが示唆されている。 そこで、米国・ワシントン大学・セントルイス校のShruti Gupta氏らは新型コロナウイルス関連のODに対し、テオフィリン鼻洗浄の有効性と安全性を評価した。その結果、テオフィリン鼻洗浄の臨床的利点は決定的ではないことが示唆された。JAMA Otolaryngology-Head&Neck Surgery誌オンライン版2022年7月7日号掲載の報告。 本試験は三重盲検プラセボ対照第II相ランダム化試験で、2021年3月15日~8月31日にミズーリ州またはイリノイ州に居住し新型コロナによるODが持続する成人(コロナ感染疑いから3〜12ヵ月が経過した者)を対象に実施された。生理食塩水とテオフィリン400mgのキットを治療群用に、生理食塩水と乳糖粉末500mgのキットを対照群用として用意し、参加者はカプセル内容物を生理食塩水に溶解し、6週間にわたり朝と晩の1日2回の鼻腔洗浄を行った。 主要評価項目は治療群・対照群間で反応した人の割合の差で、CGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)で少なくともわずかに改善を示す反応として定義した。副次評価の測定には、ペンシルベニア大学の嗅覚識別テスト(UPSIT)、嗅覚障害に関する質問、一般的な36項目の健康調査、新型コロナ関連の質問が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・51例が研究に登録され、平均年齢±SDは46.0±13.1歳で、女性は36例(71%)。テオフィリン鼻洗浄群(n=26)とプラセボ鼻洗浄群(n=25)にランダムに割り付けられた。・参加者のうち45例が研究を完遂した。治療後、テオフィリン群13例(59%)はプラセボ群10例(43%)と比較して、CGI-Iスケール(反応した人)でわずかな改善を報告した(絶対偏差:15.6%、95%信頼区間[CI]:13.2~44.5%)。・ベースラインと6週間の嗅覚識別テストUPSITでの中央値の差は、テオフィリン群で3.0(95%CI:-1.0~7.0)、プラセボ群で0.0(95%CI:-2.0~6.0)だった。・混合モデル分析により、UPSITスコアの変化は2つの研究群間で統計学的に有意差が得られなかったことが明らかになった。・テオフィリン群の11例(50%)とプラセボ群の6例(26%)は、ベースラインから6週間までにUPSITスコアで4ポイント以上の変化があった。また、UPSITで反応した人の割合の差は、テオフィリン群で24%(95%CI:-4~52%)だった。

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コロナPCR検査等の誤判定、日本での要因は?

 新型コロナウイルス感染症の診断において、PCRをはじめとする核酸検査には高い信頼性が求められており、厚生労働省では、その測定性能や施設の能力の違いの実態把握と改善を目的として、2年にわたり「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等にかかる精度管理調査業務」委託事業を行っている。今回、令和3年度調査結果について報告書がまとめられ、日本臨床検査薬協会(臨薬協)と日本分析機器工業会(分析工)がメディア勉強会を開催。同調査を実施、報告をとりまとめた宮地 勇人氏(新渡戸文化短期大学 副学長)が講演した。<外部精度管理調査の概要>実施期間:2021年11月7~25日参加施設(1,191施設):病院74.1%、衛生検査所14.7%、診療所3.8%、保健所3.1%、地方衛生研究所2.0%、検疫所1.6%など(自費検査の実施は、診療所 [93.3%]および臨時衛生検査所[80%]で多く、陰性証明書の発行を行っている施設は診療所[88.9%]で多い傾向がみられた。測定原理はリアルタイム PCR 法 が73.9%と最も多く、その他LAMP法、SmartAmp法などさまざまな等温核酸増幅法が用いられていた。プール法の実施施設は6.4%だった)。評価方法:陰性を含む濃度の異なる6試料について正答率を評価し、施設カテゴリーや測定法(機器・試薬およびその組み合わせで10施設以上で実施されていた21パターン)ごとに解析、誤判定要因の特定を行った。PCR等の偽陰性は医療機関で多い傾向、要因として挙がったのは 全体として、試料別にみた正答率は93.0~99.4%と総じて良好だったが、98施設(延べ139検体)で誤判定(偽陽性・偽陰性)があり、主に医療機関(病院・診療所)であった。試料別正答率を施設カテゴリー別にみると、地方衛生研究所や検疫所(100%)、保健所(96.7~100%)で高かったのに対し、病院(91.9~99.7%)や診療所(83.3~100%)で低かった。とくに診療所では、PCR検査等の偽陰性結果が比較的多くみられた。 偽陰性結果について詳細をみると、測定機器に依存する傾向がみられ、SmartGene(19施設)、TRCReady(26施設)、ミュータスワコーg1(19施設)使用施設に多く認められた(計64施設)。その他の要因を検討するため、上記測定機器を使用していた64施設を除く34施設で特性をみると、測定者に臨床検査技師や認定微生物検査技師等の認定資格なしの施設の割合が高く、導入時の性能評価未実施の施設の割合が高かった。 さらに34施設に対して誤判定要因についてヒアリング調査を行ったところ、「検出限界の未確認・再現性不良の可能性」といった試薬・機器に依存するものが22施設と最も多かった一方、測定前後の作業手順等に関わる下記5点も要因となっていることが明らかになった。・試料の取り違い(5施設15件)・陽性/陰性の判定指標の不適切さの可能性(3施設4件)・キャリーオーバー汚染(2施設2件)・測定試薬の管理の不適切さの可能性(1施設2件)・判定結果の転記ミスの可能性(1施設1件) 上記のうちとくに試料の取り違いについて、宮地氏は「1つの取り違いで必ず複数の誤判定が生じてしまう。今回の調査のように、事前に準備をしている状況でも起きているということは、大量検体が舞い込むような状況下ではさらに誤判定リスクが増していると懸念される」と指摘した。 そのほか今回の調査では、輸送培地に含まれる塩酸グアニジンが偽陰性リスクにつながりうることが示された。検査の拡大により、輸送培地として塩酸グアニジン溶液を含有して感染リスクを最小化した製品(SARS-CoV-2不活化試薬、PCRメディアSG、輸送用スワブキットなど)が使用されるようになっており、塩酸グアニジンが残存しているとPCR反応阻害による偽陰性リスクがあるため、使用している核酸抽出法がその影響を除外することを確認する必要がある。コロナ誤判定にスワブの種類は日本では影響なし スワブの素材により、ウイルス回収量が異なるということが世界的に指摘されている。今回の調査では、ウイルス回収量が最も高く臨床的感度が高いと報告されているナイロン製をはじめ、ポリアミド製、ポリウレタン製、ポリエステル製などの多様な素材の綿球が使用されていたが、明らかな差は認められなかった。宮地氏はこの結果から、「日本で一般的に使われているものは広く支障なく使えることが明らかになった。サプライ停滞時には、代替製品を使うことが可能」とした。 プール法の精度については、54施設を対象に3試料(5プール)の外部精度管理調査が実施された。正答率は94.4~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。プールの個別試料の正答率は96.1~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。計6施設で誤判定があり、その施設カテゴリーとしては病院等が多く、要因としては、・測定性能の確保(検出限界、再現性)・作業手順(検体の取り違い)・測定システム(ダイレクトPCRの使用)のほか、上述の6試料についての外部精度管理調査での誤判定ありの施設と、プール法での誤判定ありの施設に重複がみられた。 厚労省では、令和2年度調査の結果を踏まえて「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等における精度管理マニュアル」を公開しているが、今回の調査で同マニュアルを利用していると答えた施設は39.2%と低く、とくに病院(32.6%)、診療所(28.9%)で低かった。マニュアルは今回の調査結果も反映して改訂されており、誤判定要因とその対策についてもまとめられている。

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1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」【下平博士のDIノート】第102回

1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」今回は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組換えアデノウイルスベクター)(商品名:ジェコビデン筋注、製造販売元:ヤンセンファーマ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目として承認されたウイルスベクターワクチンであり、1回の接種で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を予防することが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2022年5月30日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。本剤の接種は18歳以上が対象です。<用法・用量>通常、1回0.5mLを筋肉内に接種します。追加免疫については、本剤の初回接種から少なくとも2ヵ月経過した後に2回目の接種を行うことができます。<安全性>主な副反応として、注射部位疼痛(57.9%)、疲労(46.1%)、頭痛(44.7%)、筋肉痛(40.4%)などが報告されています。また、重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症等)、ギラン・バレー症候群(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.このワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.1回の接種で予防できるワクチンです。初回接種から2ヵ月以上経過した後に2回目の接種(追加免疫)を受けることができます。追加免疫の要否は医師により判断されます。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.ワクチン接種後に、鼻血、青あざができる、出血が止まりにくい、ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛みなどが起こった場合には、血栓症の恐れがありますので、すぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で5番目の新型コロナウイルスワクチンとして承認された1回接種で予防効果が期待できるワクチンです。これまで承認されているワクチンは、mRNAワクチンであるコミナティ筋注/同5~11歳用、スパイクバックス筋注と、アデノウイルスベクターワクチンであるバキスゼブリア筋注、および組み換えスパイクタンパクを抗原としたヌバキソビッド筋注がありました。本剤はバキスゼブリア筋注に続く2剤目のウイルスベクターワクチンです。本剤は新型コロナウイルスワクチンとして初めての1回接種型です。ワクチンを1回接種した場合、中等症や重症になるリスクを、未接種群と比較して約66%低減させたと報告されています。なお、予防効果を高めるために、2ヵ月以上経過してからの追加免疫が認められています。ただし、ほかのワクチンとの交互接種についての有効性および安全性は評価されていません。1回接種は0.5mLで、本剤1バイアルには5回接種分が含まれています。特徴としては、発熱の副反応の頻度が少ないことが挙げられます。一方、「重要な基本的注意」に血小板減少を伴う血栓症(TTS)について注意喚起されています。本症の多くは接種後3週間以内に発現し、致死的転帰の症例も報告されているため、血栓塞栓症もしくは血小板減少症のリスク因子を有する者への接種には注意が必要です。なお、本剤について現時点では公費負担での接種とはならないため、接種希望者は自費での接種が想定されています。参考1)PMDA 添付文書 ジェコビデン筋注

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第121回 脳の不調が続くCOVID-19患者に高圧酸素投与が有効

高圧室で100%の酸素を吸う高圧酸素治療(HBOT;hyperbaric oxygen therapy)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)後の不調(post-COVID-19 condition)に有効なことがプラセボ対照二重盲検無作為化試験で示されました1-4)。老化と関連する認知や身体機能の衰えの治療に取り組み、人が持てる力をHBOTを頼りに最大限に引き出すことを目指す病院Aviv Clinicsが試験を手掛けました。Aviv Clinicsの本拠は米国フロリダ州で、試験はイスラエルにあるその研究所Shamir Medical Centerで実施されました。集中できない、頭がもやもやする(brain fog)、忘れっぽくなった、目当ての単語や考えを思い出すのが困難といった認知症状(cognitive symptom)がSARS-CoV-2感染後3ヵ月超続く患者73人が試験参加に同意し、その約半数の37人がHBOTを受ける群、残り36人がプラセボ群に割り振られました。試験ではドイツのHAUX社製の高圧室(Starmed-2700 chamber)が使われ、HBOT実施群は2絶対気圧(2ATA)の環境でマスクから100%の酸素を吸う所要時間90分間の治療を週に5日の頻度で合計40回受けました。プラセボ群の患者は高圧室には入るもののHBOT群のような高圧にはせずいつもの気圧(1.03 ATA)で普段の酸素濃度(21%)の空気を吸いました。40回が済んでから1~3週間後に検査したところ、HBOT群の方がプラセボ群に比べて認知機能全般、注意、遂行機能がより改善していました。活力(energy)、睡眠、うつや不安などの精神症状、嗅覚、痛み指標も改善しました。それら体調の改善はMRIで調べた脳血流の改善と関連しました。また、HBOTに伴う脳前方領域の神経新生も認められました。神経新生が認められた領域は注意、精神状態、遂行機能を担います。HBOTの安全性懸念は認められず、副作用の発現率にプラセボ治療との有意差はありませんでした。副作用のせいで治療を止めた患者はいませんでした。研究者は今後取り組むべき課題を幾つか挙げています。1つはより大規模な試験を実施してHBOTが最も有効な患者特徴を割り出すことです。また、今回の試験の治療回数は40回でしたが、それが果たして最適な回数かどうかは不明であり、今後調べる必要があります。それに、今回の試験での効果は治療を終えてから1~3週間後のものであり、より長期の経過を調べなくてはなりません。なお今回の試験で使われたプロトコールや手順はAviv Clinicsや試験実施研究所Shamir Medical Centerから入手可能です2)。参考1)Zilberman-Itskovich S,et al. Sci Rep. 2022 Jul 12;12:11252.2)Effective treatment is now available for millions suffering with long COVID symptoms / GLOBE NEWSWIRE3)High-pressure oxygen treatment may help long COVID / Reuters4)Better brain function, fewer long-COVID symptoms after hyperbaric oxygen / University of Minnesota

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