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第241回 今だから言える!? 村上氏が明かすコロナ感染の変遷

従来から本連載で私がワクチンマニアであることは何度も触れている(第107回、第204回など参照)。にもかかわらず、昨年は季節性インフルエンザワクチン接種を逃してしまっていた。ということで、今年はかかりつけ医療機関でしっかり接種してきたが、そろそろ効力も落ちてきただろうということで日本脳炎と腸チフスのワクチンも追加接種。さらにこうした機会に私はいつも新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の抗体検査用の採血も行っている。ご存じのように新型コロナの抗体検査は、感染の有無がわかるヌクレオカプシドタンパク質抗体(N抗体)とワクチン接種により獲得したスパイクタンパク質抗体(S抗体)の2種類を調べるもの。私は新型コロナに限らず、ワクチン接種の際にこの2種類の抗体検査を行っている。検査時期はかなりランダムだが、これまでN抗体は6回、S抗体は5回の検査を行っている(共にロシュ・ダイアグノスティックス社のECLIA法)。回数が違うのは、N抗体は新型コロナのmRNAワクチンが登場し、2021年6月に1回目接種する直前に試しに受けてみたのである。この1回目の検査結果は、私がキャンセル待ちで急遽獲得した1回目のワクチン接種後のアナフィラキシー・チェックの待機時間中にA医師から第1報としてメールで受け取った。本当の私のコロナ感染変遷今だから話すが、このとき、A医師から検査結果用紙の写真とともに「陽性です」とのメッセージが送られてきた。1回目のワクチン接種に辿り着けたと、安堵感に満ち溢れていた中で、過去の感染歴とは言え「陽性」という事実にかなり戸惑った。しかもコロナ禍からまだ約1年半という時期。後にオミクロン系統で爆発的に感染者が増加したような時期ではなく、感染者はまだそう多くない時期なのである。実際、それまでにA医師のクリニックでN抗体検査を受けた人の中で陽性者は初だったという。この時、写真に記載されていた数値「COI(Cut off index)」は陰性が1未満に対し、私の検査結果は194.00。完全な陽性なのだが、私は間抜けにも「偽陽性ってことはないですよね? うー、いつ感染したのだろう? 覚えがないです」と返信し、A医師からは「この抗体価は偽陽性ではないですね」と断言された。この直前に感染を疑う症状はまったくなかった。当時は感染者での味覚・嗅覚障害の割合が高いことが報告されており、感染時にいち早く気付けるよう一日一食は納豆を食べていたのに。納豆は私の好物なのだが、毎日食べるほどではなかった。もっともこの時の習慣が定着し、現在は毎日食べるようになった。ちなみに、この時の感染源は後におおよそ特定できた。この検査から過去7ヵ月間に家族以外でノーマスクでの会話を伴う接触をした人は3人しかおらず、全員に私の感染の事実を伝え、3人とも検査を受けた結果、そのうちの1人が陽性だったからだ。その結果、私の感染時期として濃厚なのは2020年12月。α株が感染主流株だった時期である。その後も検査は続けていたが、N抗体は一貫して右肩下がりとなっていった。一方、S抗体はというと、1回目の検査が新型コロナワクチン2回接種の初回免疫終了から約4ヵ月後で、数値は4,583.0U/mL。A医師から「僕の10倍くらいある」と感心された。自然感染とワクチン接種のハイブリッド免疫であるがゆえだったのだろう。その後の推移は、3回目接種(モデルナ製)直前(初回免疫終了から約7ヵ月後)の2022年2月が2,785.0 U/mL、4回目接種(モデルナ製)直前(3回目接種終了から約11ヵ月後)の2022年12月が4,521.0 U/mL 、5回目接種(第一三共製)直前(4回目接種終了から15ヵ月後)の2024年3月が6,252.0 U/mLだった。ちなみにこの間、N抗体のCOIは194.00から51.60 → 27.60 → 13.10 → 7.73と順調に低下していった。直近のS抗体価にがっかり、N抗体価にビックリ!さて今回の抗体検査の結果は2日後に判明した。5回目接種から約8ヵ月後のS抗体は9,999.9 U/mLと上限値オーバー。子供っぽい言い方をすれば「とにかくたくさん」と言うことだ。この結果の感想を言うならば、「ホッとする反面、正確な数値がわからず、ワクチンマニアとしてはちょっとがっかり」というところ。そろそろ6回目の完全自費の新型コロナワクチン接種をしようと思っていた矢先だけに、接種後どれだけ抗体価が上昇したかが正確にわからないのでは、ややつまらない。どこかより厳格な検査結果を示してくれるところはないだろうかと思案している(臨床研究を実施している先生方がいればいつでも協力します 笑)。だが、問題はN抗体のほうだ。今回のCOIは25.50。3回前の検査結果に近い数値まで再上昇していたのである。すなわちこの約8ヵ月間に再感染していたことになる。「え?」「は?」という感じだ。今回も約8ヵ月間に咽頭痛などの自覚症状は記憶がない。数値を見ると、1回目の無症候感染時ほどCOIは高くないので、好意的に解釈すればワクチン接種の恩恵があったとも言えそうだ。しかし、無症候であっても再感染は嬉しくない。ちなみに2023年7月のnature誌に米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループが、アメリカ骨髄バンク登録ドナーのうちヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のデータが利用できる約3万人について、無症候感染者と有症状感染者のHLAを比較した研究1)を行い、HLAのバリアントの1つであるHLA-B*15:01を有する人は無症候者に多いと報告されている。もちろん自分がこれに該当するのかはわからない。そして余談を言えば、前回触れた消費者向け遺伝子検査の結果では、私の新型コロナ感染時の重症化リスクは「大」の判定である。まあ、いずれにせよ今もこの感染症は油断がならないことを、なかば身をもって証明したのかもしれない。参考1)Augusto DG, nature. 2023;620:128-136.

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HEPAフィルターによる空気清浄、急性呼吸器感染症の予防効果は?

 高齢者居住施設において、HEPA-14フィルターを使った高性能空気清浄が急性呼吸器感染症(ARI)の発生率に及ぼす影響について、オーストラリア・ニューカッスル大学のBismi Thottiyil Sultanmuhammed Abdul Khadar氏らの研究チームがランダム化臨床試験を実施した。その結果、HEPA-14フィルターを用いた場合とそうでなかった場合で、ARI発生率に有意差は認められなかった。JAMA Network Open誌2024年11月11日号に掲載。 本研究では、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州にある高齢者居住施設3ヵ所において、2023年4月7日~10月26日の6ヵ月間、135人の個室居住者を対象に、多施設共同二重盲検クロスオーバーランダム化臨床試験が行われた。第1フェーズでは、対象者を介入群と対照群に割り付け、介入群の部屋にはHEPA-14フィルター付きの空気清浄機が設置され、対照群の部屋にはHEPA-14フィルターのない空気清浄機が設置された。試験開始から3ヵ月後に、1週間のウォッシュアウト期間を設け、両群を入れ替えて第2フェーズの試験が行われた。ロジスティック混合モデル回帰分析によりARI発生率が評価された。主要評価項目は感染または感染なしの2値で評価したARI発生率で、咳嗽、咽頭痛、息切れ、鼻炎の少なくとも1つが突然発症し、臨床医が感染症によるものであると判断したものと定義された。 主な結果は以下のとおり。・第1フェーズの参加者135人の年齢中央値は86.0歳(範囲 59.0~103.0)、平均年齢は85.2歳(SD 8.6)、女性が57.8%だった。介入群に70人、対照群に65人が割り付けられた。このうち113人が、入れ替え後の第2フェーズに参加した(介入群:55人、対照群58人)。・全参加者における解析では、介入群(125人)のARI発生率は24.8%(95%信頼区間[CI]:17.8~32.9)、対照群(123人)のARI発生率は34.2%(26.2~42.9)であり、ARI発生率に有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.57、95%CI:0.32~1.04、p=0.07)。・104人の参加者(77.0%)が全試験を完了し、対照群と介入群の両方に曝露した。全試験を完了した参加者におけるサブグループ解析では、介入群(104人)のARI発生率は24.0%(95%CI:16.7~32.9)、対照群(104人)のARI発生率は35.6%(95%CI:26.8~45.1)であり、介入群のARI発生率が有意に少なかった(OR:0.53、95%CI:0.28~1.00、p=0.048)。・病原体が特定されたARI 36件のうち、SARS-CoV-2が19件(52.8%)、RSウイルスが16件(44.4%)、ライノウイルスが1件(2.8%)だった。・介入群は対照群と比較して、初回のARI感染までの時間を短縮しなかった。90日以内の感染までの制限平均時間では、介入群では78.1日(SE 2.1)、対照群では74.2日(SE 2.3)であり、有意差はなかった(ハザード比:0.67、95%CI:0.42~1.07、p=0.09)。 著者らは本結果について、全体の解析では統計学的に有意な結果は得られなかったが、全試験を完了した参加者ではARIが有意に減少したことが確認され、HEPAフィルターを備えた空気清浄機がARI予防に有用である可能性を示唆し、今後の大規模研究の基盤になるだろう、との見解を示した。

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日本人の主な死因、10年間の変化

日本人の主な死因、10年間の変化350悪性新生物(腫瘍)300死亡率(人口10万対)250心疾患(高血圧性を除く)200老衰150100脳血管疾患肺炎誤嚥性肺炎新型コロナ腎不全不慮の事故5002014201520162017201820192020アルツハイマー病202120222023 [年]厚生労働省「人口動態統計」2023年(確定数)保管統計表 死亡(年次)「第5表-11 死因順位別にみた年次別死亡率(人口10万対)」「第5表-13 死因(死因簡単分類)別にみた性・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」より集計Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第242回 病院経営者には人ごとでない順天堂大の埼玉新病院建設断念、「コロナ禍前に建て替えをしていない病院はもう建て替え不可能、落ちこぼれていくだけ」と某コンサルタント

埼玉県がさいたま市に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院の建設計画が頓挫こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。俳優で歌手の中山 美穂さんの急死には驚きました。検視の結果、事件性はないことが確認され、「入浴中に起きた不慮の事故」と公表されました。朝日新聞等の報道によれば、事件性が疑われる場合に行われる「司法解剖」ではなく、「調査法解剖」が行われたとのことです。調査法解剖は、2013年に施行された「死因・身元調査法」に基づいて実施される比較的新しい解剖の制度です。犯罪捜査の手続きが行われていなくても、警察等が法医等の意見を踏まえて死因を明らかにする必要があると判断した場合に、遺族への事前説明のみで実施が可能とのことです。死亡推定時刻は12月6日午前3時~5時頃で「入浴中に起きた不慮の事故」ということは、飲んで浴槽で寝てしまったのかもしれません。私もぐでんぐでんに酔っ払い、家に帰って浴槽で寝てしまい、お湯が冷めて寒さを感じやっと起きたという経験や、ぶくぶくと溺れそうになって起きた経験があります。飲んでからのお風呂はいろいろな意味で危険ですね。忘年会シーズン、皆さんもお気を付けください。さて今回は、埼玉県がさいたま市の浦和美園地区に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院の建設計画が頓挫したニュースについて書いてみたいと思います。建築費などの高騰がその理由とのことですが、建て替えに悩む多くの病院経営者は人ごととは思えなかったのではないでしょうか。総事業費が当初予想した規模の2.6倍、2,186億円に達することが明らかに順天堂大学は11月29日、埼玉県がさいたま市の浦和美園地区に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院について、建設費高騰などを理由に計画を中止すると県に伝えました。東京新聞などの報道によれば、順大は11月27日の理事会で中止を決定、29日に代田 浩之学長、天野 篤理事らが県庁を訪れ、大野 元裕知事に報告したとのことです。代田学長は取材に「県民の皆さまにご期待をいただいたが、残念ながら断念することになった。大変申し訳なく思う」と謝罪、大野知事は、「これまでも大学からの申し出に対し、期限を延長するなどの措置をしてきた。その上でのこの報告は、大変遺憾だ」と述べたとのことです。順大は同日、同大のウェブサイトに「埼玉県浦和美園地区病院の整備計画中止について」と題するニュースリリースを発信、中止の主な理由について、「建築業界の急激な需要増や資材の高騰に加え、深刻な人手不足などの要因も重なり建築費が大幅に高騰し、さらにその他の費用も上昇した結果、総事業費が当初平成27年に予想した規模の2.6倍にあたる2,186億円に達することが明らかになりました」と記しています。800床で、建設予定地は約7万7,000m2、県は土地取得に55億5,000万円かける新病院は、県内の医師確保困難地域への医師派遣などを条件に、2015年の県医療審議会で順大による開院計画が採択されました。当初計画の病床数は800床で、建設予定地は約7万7000m2。県有地とさいたま市有地からなり、県は土地取得に55億5,000万円をかけていました。県が2018年に順大側と交わした確認書では、病院整備費用の2分の1を上限に補助することになっていました。度重なる延期の末、最終的に2027年11月の開院予定となっていましたが、今年7月末に順大から県に対し、2,186億円の総事業費、開院を20ヵ月延期する工期とともに「事業計画の見直しが必要との結論に至った」との通知が届けられていました。県は計画変更を希望する場合には申請書を速やかに提出するよう要請したものの申請書が提出されなかったことから、10月25日付で12月2日までに変更申請書を提出するよう求めていました。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍に順大のWebサイトには、当初2015年1月に予想した総事業費が2024年7月には2.6倍まで膨らんだ状況が棒グラフで示されています。それによれば、2015年時点の総事業費は建設費709.5億円、機器・備品・システム124.3億円で合計834億円。それが2024年時点では建設費1640.3億円、機器・備品・システム546.2億円で合計2,186億円となっています。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍になっており、医療機器やシステム(電子カルテ等)の方が高騰していることがわかります。ちなみに、建設費は昨年2023年11月予想では936.2億円とその時点までは漸増程度でしたが、その後8ヵ月余で704億円も増加している点も目を引きます。「6つの医学部附属病院を抱える本学は、かつてないほどの厳しい財政状況」と順大順大はWebサイトで次のように大学病院経営自体の苦境も吐露しています。「現在、新型コロナウイルス感染症の流行による病院運営への負の影響や、先進的な医薬品・診療材料の価格高騰などが原因で、多くの国立大学病院や都立病院では収支が赤字となり、その赤字幅が拡大する厳しい状況にあります。この厳しい状況は本学にとっても例外ではなく、令和6年4月から施行された医師の働き方改革への対応も含め、6つの医学部附属病院を抱える本学は、かつてないほどの厳しい財政状況に直面しています」。そして、「現在の診療報酬の下では急速な大幅増益が見込めないことから、当該事業に充当する予定の準備資金の確保及び開設後の運営資金の捻出することが難しい事態」となったため、病床規模を800床から500床程度に縮小するなどの検討も行ったが、「埼玉県民の皆様に貢献することができるための最先端医療機能を備え、かつDXを活用した未来型基幹病院の開設は到底困難」と判断した、としています。“未来型基幹病院”を目指したとしても、2,186億円はやや法外か?800床の病院で総事業費2,186億円(建設費1,640億円)というのは、“未来型基幹病院”を目指したとしても、やや法外な(あるいは相当ふっかけられた)金額と言えなくもありません。ちなみに、福祉医療機構のデータによれば、病院の「定員1人当たり建設費」は2023年度には2,387万2,000円でした。仮に800床だと約190億円になります。順大の新病院の建設費は昨年、2023年11月予想では936億円でしたから、この時点でも実に普通の病院の5倍の建設費だったことになります。もちろん、福祉医療機構のデータは回復期機能を中心とする民間病院の割合が比較的多く、超急性期病院や大学病院と単純比較はできませんが、当初計画において、病院の規模や装備面で相当“背伸び”をし過ぎていた感は否めません。順大医学部は学費下げの戦略などが奏功し、偏差値も上昇、私立医大の新御三家(慶應大、慈恵医大、順大)と呼ばれるほどになっています。また、関東に本院含む6病院を経営、その附属病院の展開戦略は、大学病院経営の“お手本”と言われたこともありました。しかし、コロナ禍、戦争、人口減、物価高、医師の働き方改革など、さまざまな要因が絡み合って起きている病院の経営環境の悪化が、イケイケだった順大の”未来型基幹病院”の夢を打ち砕いてしまったわけです。公立と民間の医療機関の再編・統合事例が増えていく可能性は高いとは言え、順大の撤退は、多くの病院経営者にとって人ごとではないでしょう。順大は総事業費が当初考えていた金額の2.6倍になったことを撤退の理由に挙げていますが、そうした厳しい状況はこれから建て替えを考える病院共通の問題だからです。2ヵ月ほど前に会ったある医療経営コンサルタントは、「病院の建設費が10年前の3〜4倍にもなっている。コロナ禍とウクライナ戦争の前に建て替えを行っていなかった病院は、もう実質建て替えは不可能。公立病院と統合するなどよほど大胆な手を打たないと、これからは落ちこぼれていくだけ」と話していました。実際、建築費などの高騰は、病院の再編・統合にも影響を及ぼしはじめています。民間病院と公立病院の再編事例が各地で増えていることもその表れです。代表的なのは2021年4月に兵庫県で設立された川西・猪名川(いながわ)地域ヘルスケアネットワーク(川西市)です。連携の目玉として市立川西病院(250床)と医療法人協和会の協立病院(313床)が合併、2022年9月に新たな場所で川西市立総合医療センター(405床)としてスタートを切りました。新病院は川西市が設立し、医療法人協和会は指定管理者として管理運営を担うことになりました。赤字続きだった市立川西病院の移転計画に、建物の老朽化などで同じく移転を計画していた医療法人協和会が乗るかたちで実現しました。再編・ネットワーク化を伴う公立病院のケースでは、病院事業債(特別分)の元利償還金の40%が普通交付税措置(通常25%)される、というスキームを活用しての再編です。事業費の相当部分を交付税で賄うことができるメリットは大きいと言えます。民間病院が独自で巨額の建設費を調達することが困難になってきた現在、こうしたスキームを活用した、公立と民間の医療機関の再編・統合事例が増えていく可能性は高いと考えられます。

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COVID-19罹患で自己免疫・炎症性疾患の長期リスクが上昇

 COVID-19罹患は、さまざまな自己免疫疾患および自己炎症性疾患の長期リスクの上昇と関連していることが、韓国・延世大学校のYeon-Woo Heo氏らによる同国住民を対象とした後ろ向き研究において示された。これまでCOVID-19罹患と自己免疫疾患および自己炎症性疾患との関連を調べた研究はわずかで、これらのほとんどは観察期間が短いものであった。著者は「COVID-19罹患後のリスクを軽減するために、人口統計学的特性、重症度、ワクチン接種状況を考慮しながら、長期的なモニタリングと管理が重要であることが示された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月6日号掲載の報告。 研究グループは、Korea Disease Control and Prevention Agency-COVID-19-National Health Insurance Service(K-COV-N)コホートを対象に、COVID-19罹患後の長期における自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクを調べた。対象は、2020年10月8日~2022年12月31日にCOVID-19罹患が確認された住民(COVID-19罹患群)、2018年に一般健康診断を受けた住民(対照群)とした。 主要アウトカムは、COVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の発症率とリスクとした。逆確率重み付け法を用いて、人口統計学的特性、一般的な健康データ、社会経済的状況、併存疾患などの共変量を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・観察期間180日超のCOVID-19罹患者314万5,388例、対照376万7,039例の計691万2,427例(男性53.6%、平均年齢53.39[SD 20.13]歳)が解析に含まれた。・COVID-19罹患群でリスクが高かった疾患(調整ハザード比、95%信頼区間)は以下のとおりであった。 円形脱毛症(1.11、1.07~1.15) 全頭脱毛症(1.24、1.09~1.42) 尋常性白斑(1.11、1.04~1.19) ベーチェット病(1.45、1.20~1.74) クローン病(1.35、1.14~1.60) 潰瘍性大腸炎(1.15、1.04~1.28) 関節リウマチ(1.09、1.06~1.12) 全身性エリテマトーデス(1.14、1.01~1.28) シェーグレン症候群(1.13、1.03~1.25) 強直性脊椎炎(1.11、1.02~1.20) 水疱性類天疱瘡(1.62、1.07~2.45)・人口統計学的特性(男性/女性、40歳未満/以上)別のサブグループ解析では、COVID-19罹患による自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクは、性別や年齢によって異なることが示された。・とくに、ICU入室を要する重症COVID-19罹患、デルタ株優勢期の感染、ワクチン未接種はCOVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクが高かった。

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麻疹ワクチン、接種率の世界的な低下により罹患者が増加

 麻疹ワクチン接種率の低下により、2022年から2023年にかけて、世界中で麻疹罹患者が20%増加し、2023年には1030万人以上がこの予防可能な病気を発症したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が共同で実施した研究により明らかになった。この研究の詳細は、「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月14日号に掲載された。 CDC所長のMandy Cohen氏は、「麻疹罹患者が世界中で増加しており、人命と健康が危険にさらされている。麻疹ワクチンはウイルスに対する最善の予防策であり、ワクチン接種の普及拡大に向けた取り組みに引き続き投資する必要がある」とCDCのニュースリリースで述べている。 一方、WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「麻疹ワクチンは過去50年間で、他のどのワクチンよりも多くの命を救ってきた。さらに多くの命を救い、この致死的なウイルスが最も影響を受けやすい人に害を及ぼすのを阻止するためには、居住地を問わず、全ての人がワクチンを接種できるように投資しなければならない」と話している。 WHOとCDCによると、2023年には2220万人の子どもが2回接種の麻疹ワクチンの1回目さえ受けていなかったという。これは、2022年から2%(47万2,000人)の増加であった。2023年の世界全体での子どもの麻疹ワクチンの1回目接種率は83%であったが、2回目を接種したのはわずか74%であった。保健当局は、麻疹のアウトブレイクを防ぐために、麻疹ワクチン接種率を95%以上に維持することを推奨している。また、CDCは、麻疹ウイルスに感染した人がウイルスに対する免疫を保持していない場合、周囲の人の最大90%にウイルスが広がる可能性があるとしている。 麻疹のアウトブレイクが報告された国は、2022年の36カ国から2023年には58%増加の57カ国となった。57カ国中27カ国(47%)はアフリカであった。2023年の麻疹罹患者(1034万1,000人)は、2000年(3694万人)と比べると72%減少していたが、2022年(罹患者864万5,000人)からは20%増加していた。一方、麻疹による2023年の死者数(10万7,500人、主に5歳未満)は、2020年(死亡者80万人)からは87%、2022年(11万6,800人)からは8%減少していた。WHOとCDCは、2022年と比べて2023年に死亡者がわずかに減少したのは、子どもが麻疹に罹患しても、医療環境が整っていて死亡する可能性が低い地域で最大の感染拡大が起きたことが主な理由だと述べている。CDCによると、米国では、2024年の11月21日時点で、すでに31州とワシントンDCで麻疹のアウトブレイクが16回発生し、280症例が報告されている。2023年には、わずか4回のアウトブレイクしか発生していなかった。 麻疹の症状には、高熱、咳、結膜炎、鼻水、口内の白い斑点(コプリック斑)、頭からつま先まで広がる発疹などがある。WHOは、乳幼児は肺炎や脳の腫れなど、麻疹による重篤な合併症のリスクが最も高いとしている。なお、麻疹のワクチン接種率は、新型コロナウイルス感染症パンデミック中に世界的に低下し、2008年以来最低の水準に達した。

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味覚異常の2割は口腔疾患が主因で半数強に亜鉛以外の治療が必要―歯科外来調査

 歯科における味覚障害患者の特徴を詳細に検討した結果が報告された。患者の約2割は口腔疾患が主因であり、半数強は亜鉛製剤処方以外の治療が必要だったという。北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座の坂田健一郎氏、板垣竜樹氏らの研究によるもので、「Biomedicines」に論文が9月23日掲載された。 近年、味覚異常の患者数が増加傾向にあり、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックで顕著に増加した。味覚異常の原因として古くから亜鉛欠乏が知られており、治療として通常まず亜鉛製剤の投与が行われる。しかし、亜鉛製剤が無効な症例も少なくない。また味覚障害の原因に関する研究は、耳鼻咽喉科で行われたものや既に何らかの基礎疾患を有する患者群での報告が多くを占めている。これらを背景として坂田氏らは、北海道大学病院口腔科の患者データを用いた後ろ向き研究を行った。 2007~2018年に同科を受診し味覚障害と診断された患者は322人であり、平均年齢66.3±13.1歳、女性73.3%、平均罹病期間15.2±20.0カ月だった。味覚障害の診断および原因の探索は、口腔外科専門医による問診、舌・口腔・鼻腔の観察、味覚検査、血液検査(亜鉛、銅、鉄、ビタミンB12)、唾液分泌検査、口腔カンジダ培養検査、うつレベルの評価(自己評価に基づくスクリーニングツール〔self-rating depression scale;SDS〕を使用)などにより行われた。 味覚検査は、舌の4領域に4種類の味質を使用して味を感じる閾値を特定し、年齢を考慮して判定するろ紙ディスク法、または、口の中全体で味を感じ取れるか否かで診断する全口腔法という2種類の検査法を施行し、量的味覚障害または質的味覚障害と診断された。これら両者による診断で、年齢、性別の分布に有意差はなかった。また血清亜鉛濃度も、量的味覚障害の患者群が73.1±16.3μg/dL、質的味覚障害の患者群が73.4±15.8μg/dLであり、有意差がなかった(血清亜鉛濃度の基準範囲は一般的に80μg/dLが下限)。ただし、味覚障害の主因については、心因性と判定された患者の割合が、量的味覚障害群に比べて質的味覚障害群では約1.5倍多いという違いが見られた。 全体解析による味覚障害の主因は、心因性が35.1%、口腔疾患(口腔カンジダ症、口腔乾燥症など)が19.9%、亜鉛欠乏が10.2%、急性感染症が5.0%、全身性疾患が5.0%、医原性(薬剤性以外)が2.5%、薬剤性が1.9%、特発性(原因が不明または特定不能)が20.5%だった。 この結果から、歯科で味覚障害と診断された患者では、亜鉛欠乏が主因のケースはそれほど多くなく、むしろ心因性や口腔疾患による味覚障害が多いことが明らかになった。また、実際に行われていた治療を見ると、半数以上の患者が亜鉛製剤処方以外の処置を要していた。これらを基に著者らは、「味覚異常を訴え歯科を受診した患者の場合、血清亜鉛値から得られる情報は参考程度にとどまる。臨床においては、低亜鉛血症を認めた場合は亜鉛製剤を処方しながら味覚障害の原因探索を進めるという対応がベストプラクティスと言えるのではないか」と述べている。また、心因性の味覚障害が多数を占めることから、「診断のサポートとしてSDSなどによるうつレベルの評価が有用と考えられる」と付け加えている。

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ワクチン同時接種、RSV+インフルエンザ/新型コロナの有効性は?

 高齢者における呼吸器疾患、とくにRSウイルス(RSV)、インフルエンザ、新型コロナ感染症は重症化リスクが高く、予防の重要性が増している。mRNA技術を用いたRSVワクチンとインフルエンザワクチン(4価)または新型コロナワクチンの同時接種の安全性と免疫原性を評価した研究結果が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月25日号に掲載された。 本研究は、50歳以上の健康な成人を対象とし、2部構成でそれぞれ下記の3群に分けて接種した。主要評価項目は同時接種群の単独接種群に対するRSVの免疫反応(Geometric Mean Ratio:GMRの95%信頼区間[CI]>0.667、血清反応率の差の95%CI>-10%)と安全性の非劣性だった。【パートA】2022年4月1日~6月9日:1,623例1)RSVワクチン(mRNA-1345:モデルナ)+インフルエンザワクチン(4価):685例(42%)2)RSVワクチン+プラセボ:249例(15%)3)インフルエンザワクチン+プラセボ:689例(42%)【パートB】2022年7月27日~9月28日:1,681例1)RSVワクチン+新型コロナワクチン(mRNA-1273.214:モデルナ):564例(34%)2)RSVワクチン+プラセボ:558例(33%)3)新型コロナワクチン+プラセボ:559例(33%) 主な結果は以下のとおり。・【パートA】RSV-Aに対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.81(95%CI:0.67~0.97)、血清反応率の差は-11.2%(95%CI:-17.9~-4.1)であった。・【パートB】RSV-A に対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.80(95%CI:0.70~0.90)、血清反応率の差は-4.4%(95%CI:-9.9~1.0)であった。・同時接種の安全性プロファイルは、単独接種の場合とおおむね一致した。・接種後7日以内の局所反応(注射部位の痛みなど)や全身反応(倦怠感、頭痛など)は軽度から中等度が大半だった。深刻な副反応や接種に関連した死亡例は報告されなかった。 研究者らは「RSVワクチン+インフルエンザワクチン、またはRSVワクチン+新型コロナワクチンの同時接種は、50歳以上の成人において、各ワクチンの単独接種と比較して許容できる安全性プロファイルを示し、ほとんどの場合で免疫反応は非劣性だった。ただし、RSVワクチン+インフルエンザワクチンにおける血清反応率の差は、非劣性の基準を満たさなかった。全体として、これらのデータは、この集団における同時接種を支持するものであり、本研究の継続でより長期の評価がされる」とした。

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日本人の主な死因(2023年)

日本人の主な死因その他食道 2.8%21.0%前立腺 3.5%肺および気管・気管支19.8%大腸(結腸・直腸)13.9%悪性リンパ腫3.8%アルツハイマー病1.6%その他悪性新生物(腫瘍)25.0%24.3%乳房 4.1%膵胃胆のう・胆道 4.5%10.5%10.1%肝・肝内胆管 6.0%n=38万2,504人腎不全 1.9%心疾患新型コロナウイルス感染症 2.4%不慮の事故2.8%誤嚥性肺炎3.8%(高血圧性を除く)心疾患14.7%老衰脳血管疾患 12.1%6.6%肺炎慢性リウマチ性4.8%心筋症 1.5%0.8%慢性非リウマチ性心内膜疾患5.2%くも膜下出血n=157万6,016人10.7%31.3%n=10万4,533人20.6%心不全42.9%急性心筋梗塞13.4% 不整脈および伝導障害15.6%その他 2.9%脳内出血その他n=23万1,148人脳梗塞55.1%厚生労働省「人口動態統計」2023年(確定数)保管統計表 都道府県編 死亡・死因「第4表-00(全国)死亡数,都道府県・保健所・死因(死因簡単分類)・性別」より集計注:死因順位に用いる分類項目(死因簡単分類表から主要な死因を選択したもの)による順位Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第239回 「遺伝子治療」を正しく説明できる?~コロナワクチンを遺伝子組み換えと呼ぶなかれ

SNS上では相も変わらず新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、まあどこをどう突けばそんな話が出てくるのかと思うような言説が飛び交っている。その中で結構目立つのがmRNAワクチンを“遺伝子組み換えワクチン”と呼ぶことである。遺伝子組み換えとは、厳密に言えば「ある種の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」ことを指すため、まったく的外れな呼称である。多くの人がご存じのように、遺伝子組み換え技術はすでに食品などで使用されている。これまで農作物などでは人にとって好ましい新品種を交配で作り出してきたが、遺伝子組み換え技術により、新品種を作り出す期間が短縮されたのである。しかし、今でもこうした食品は危険だと主張する人は一部にいる。そして最近公開されたある調査を見て、どうやら人は「遺伝子」という言葉にやや過敏に反応するのではないかと思いつつある。調査とはファイザー社が2024年9月に国内の20代以上の男女(スクリーニング調査1万人、本調査829人)に行った遺伝子治療に関する一般向け意識調査である。結果を要約すると、▽「遺伝子治療」という言葉を聞いたことのない人は30% (n=10,000)▽ 遺伝子治療への「誤解や理解不足がある人」は98.4% (n=829)▽遺伝子治療に対し、「怖い、危険、不安」というネガティブな印象を持つ人は46%(n=829)、というものだ。ちなみ2番目の「誤解や理解不足がある人」とは、アンケートで用意された遺伝子治療に関する質問6つを1つでも正答できなかった、あるいはわからなかった人を指し、これは一般向けにはなかなか厳しいと感じる。むしろ「怖い、危険、不安」が5割弱という結果がやや驚きだった。釈迦に説法は承知で、ここで遺伝子治療について簡単に整理しておきたい。遺伝子治療とは「治療用遺伝子をベクターに乗せて標的細胞内に導入する治療法」だが、概論的な作用機序は(1)治療遺伝子を病的細胞内で働かせて細胞を改変(2)治療用遺伝子が宿主細胞内に取り込まれタンパク質を発現し、それらが分泌・全身を循環して遺伝子の欠損や異常を補完、に大別される。また、この標的細胞の遺伝子導入法は、標的細胞を体外に取り出してベクターで遺伝子を導入し、品質チェックをしながら培養して患者の体内に戻す体外法(ex vivo法)、治療遺伝子を乗せたベクターを直接体内に投与して遺伝子導入を起こさせる体内法(in vivo法)の2つがある。私自身は遺伝子治療に拒否感はないが、記者2年目の1995年にアデノシンアミナーゼ(ADA)欠損症に対して北海道大学が行った日本初の遺伝子治療以降は、昨今のCAR-T細胞療法(商品名:キムリア、イエスカルタ、ブレヤンジ)や脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するオナセムノゲンアベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ)まで知識も記憶も抜け落ちている。ということで、日本遺伝子細胞治療学会理事の山形 崇倫氏(栃木県立リハビリテーションセンター 理事長/自治医科大学小児科学講座 客員教授)に遺伝子治療の現在地について聞いてみた。医師でも「遺伝子治療が怖い」と思う理由山形氏は前任の自治医科大学小児科教授時代の2015年、小児神経難病の1種である芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症を対象にAADCを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を国内で初めて行った経験を有する。前述のファイザーによる一般向けアンケートの結果に講評も寄せている山形氏だが、正直結果はやや意外だったようで、「十分に情報が伝わっていない現実は否定しがたいと思う。結局は『知らないから怖い』という心理ですね。実際に遺伝子治療が対象になる可能性がある患者やその家族が遺伝子治療の効果を知ると、『ぜひやってほしい』と積極的な姿勢に変わることが多い」と語る。これを裏付けるかのように、遺伝子治療について「怖い、危険、不安」と回答した人(381人)でも、「もしあなたが遺伝子が原因の疾患に罹患して、治療法の選択肢の1つとして遺伝子治療があった場合、遺伝子治療を受けてみたいと思いますか」との問いに、「ぜひ受けてみたい」「やや受けてみたい/受けてみてもよい」の回答合計は3分の1の33.6%に上る。要は背に腹は代えられぬということなのだろう。もっとも山形氏は、1990年代に遺伝子治療が行われた患者では、後に副作用として白血病の発症に至った例があることなどから、医師の中でもその時代の認識で止まっていることも少なくないと考える。「現時点で最先端の遺伝子治療の対象は小児の難病・希少疾患が多く、これらは医師でも診療経験がある人は少ない。結果的に遺伝子治療に関して教科書的な知識はあるものの、それ以上はあまり知らないことも多い。先日、医師向けに遺伝子治療の講演をしたが、反応の大半は『難しそうだね』と。私が示したAADC欠損症患者の治療後の動画を見せたら『すごいな』とは思ったようですが」と同氏はコメントした。昨今の医学部教育ではカリキュラムに組み込まれるようになっているものの、山形氏は「すべての大学がきちんとした講義を行っているかはわからない。基礎医学や病態生理学の一部で触れられる程度のところもある」との認識を示す。さて国立医薬品食品衛生研究所遺伝子治療部がまとめた日本国内での遺伝子治療薬の開発状況1)を見ると、後期開発品はin vivo法ではほぼ単一遺伝子疾患、ex vivo法では血液がんで占められている。これは標的が絞り込みやすいからだと思われる。もっとも、標的が決定しても遺伝子導入方法が今も大きな課題として残る。同氏が取り組んだAADC欠損症の場合は局所投与という形で行ったが、「ほとんどの遺伝性疾患の場合は、全身的な細胞への遺伝子導入が必要になるのが実際」と語った。現時点で明らかになっているウイルスベクターの安全性ここで問題になるのがベクターの効率性と安全性である。ベクターに関しては、使われるウイルスベクターが初期のガンマレトロウイルスからレンチウイルス、さらに現在ではAAVへと変化してきた。そもそもガンマレトロウイルスの場合、マウスで白血病を起こすウイルスということ自体が問題だったが、AAVはヒトでの病原性はないため、かなり安全性は改善されたと言える。ただ、静注での全身投与が必要な場合は要注意だという。同氏は「静注による大量投与では、細胞に取り込まれずに循環するベクターが肝細胞表面や血管内皮に結合し、そこで起きる免疫反応で肝障害・血管内皮障害などの副作用を起こすことがわかり、絶妙な投与量の調節が求められることがわかった」と指摘する。この問題を解決するため、現在では(1)遺伝子治療薬の投与時に免疫抑制薬の併用、(2)肝細胞に結合親和性の低いベクターを開発、(3)免疫発達途上の乳幼児期に発症する疾患ではできるだけ早期に治療開始、が考えられるという。とりわけ(3)は副作用だけではなく、治療効果の面からも重要なファクターだ。たとえば、前述のSMAでのオナセムノゲンアベパルボベクによる治療は、治療開始時期が早いほど健常者との運動機能発達レベルの差が少ないことがわかっている。そこでカギとなるのが、まず現時点で先天代謝異常20疾患が対象となっている新生児マススクリーニングの徹底とその拡大である。現状では新生児の親が支払う費用負担が地域によって異なることが影響してか、受診率に地域格差が存在する。また、新たに治療法が登場したSMAや造血幹細胞移植により治癒の可能性がある重症複合免疫不全症に関しては、2023年からこども家庭庁の旗振りにより国と都道府県・指定都市の折半による全額無料検査の実証事業が決定した。2024年10月時点で27都府県・10政令指定都市が事業に参加したが、「財政基盤の弱い県などは参加を控えている」(山形氏)と、ここでも地域格差が生まれている。同氏は「いっそ新生児に一律でスクリーニングの遺伝子検査をすればいいという意見もあるが、実はそれのみでは発見しにくい疾患もある。その意味ではマススクリーニングの受診率向上、対象疾患の拡大とともに、学会などの協力の下、乳幼児の健診などを担う一般内科医の知識向上に尽力して総出で臨床的な異常を早期に発見していくというアナログな対応も現状では必要」とも語る。一方で遺伝子治療に関しては、日本では必ずしも研究開発が活発ではないとの指摘もある。実際、「The Journal of Gene Medicine」の調べ2)による2023年3月時点での世界各国の遺伝子治療の臨床試験数で日本は世界第6位の55件。1位であるアメリカの2,054件、2位の中国の651件と比較して大きく水をあけられている。山形氏は自身が遺伝子治療に取り組んだ際、「高い基準を満たしたベクター製造が必要かつその費用が非常に高額で、研究費を得るために厚生労働省に何度も足を運んだ」と振り返る。この経験を踏まえ、日本での遺伝子治療の進展のためには、国が旗振り役となり、資金調達を中核としたエコシステムの構築が必要だと主張する。また、「新型コロナワクチンでは変異株対応でmRNA部分以外はプラットフォームとみなして審査を簡略化する措置が常態化しているが、これと同じように遺伝子治療では、対象疾患や導入遺伝子の違いがあってもベクターが同一の場合は、ベクター部分の審査を簡略化する仕組みは導入できるはず」と提言する。新型コロナの治療薬・ワクチンで世界に遅れをとった日本。岸田前政権の末期には日本発の創薬エコシステム確立を声高に掲げ、どうやら石破政権でもこの方針を引き継ぐと言われている。そこを基軸に遺伝子治療分野で勝ち目を見いだせるのだろうか?参考1)国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部ホームページ:国内企業あるいは日本で臨床開発中の主な遺伝子治療製品(2024年11月20日更新)2)Ginn SL, et al. J Gene Med. 2024;26:e3721.

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鼻腔ぬぐい液検査でCOVID-19の重症度を予測できる?

 鼻腔ぬぐい液を用いた検査が、新型コロナウイルスに感染した人のその後の重症度を医師が予測する助けとなる可能性のあることが、新たな研究で示された。この研究結果を報告した、米エモリー大学ヒト免疫センター(Lowance Center for Human Immunology)およびエモリー・ワクチンセンターのEliver Ghosn氏らによると、軽度または中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患者の70%以上で特定の抗体が作られており、これらの抗体が、症状の軽減や優れた免疫応答、回復の速さに関連していることが明らかになったという。この研究の詳細は、「Science Translational Medicine」11月6日号に掲載された。 これらの抗体は身体を攻撃する自己抗体で、一般に関節リウマチや炎症性腸疾患(IBD)、乾癬などの自己免疫疾患に関連しているという。論文の上席著者であるGhosn氏は、「自己抗体は一般に病的状態や予後不良と関連しており、より重篤な疾患であることを示す炎症の悪化原因となる」と説明している。COVID-19患者を対象とした先行研究では、血液中の自己抗体は、生命を脅かす状態の兆候であることが示されている。しかし、こうした研究は、実際の感染部位である鼻ではなく血液を調べたものであったとGhosn氏らは言う。 Ghosn氏らは、鼻腔内で局所的に生成される抗体をより正確に測定するために、FlowBEATと呼ばれる新しいバイオテクノロジーツールを開発した。FlowBEATは、標準的な鼻腔ぬぐい液を用いて数十種類のウイルス抗原や宿主抗原に対する全てのヒト抗体を高感度かつ効率的に同時測定できる。このツールを用いれば、鼻腔内の自己抗体も検出できるため、COVID-19の重症度を予測することも可能なのだという。 研究グループは、このツールを用いて、129人から収集した気道および血液サンプルを解析した。その結果、軽度から中等度のCOVID-19患者の70%以上で、感染後に鼻腔内のIFN-αに対するIgA1型自己抗体が誘導され、この抗体が新型コロナウイルスに対する免疫応答の強化、症状の軽減、回復の促進と関連していることが明らかになった。また、これらの自己抗体は、宿主のIFN-α産生のピーク後に生成され、回復とともに減少することが示され、IFN-αと抗IFN-α応答の間でバランスが調整されていることも示された。一方、血液中のIFN-αに対するIgG1型自己抗体は、症状悪化と強い全身炎症を伴う一部の患者で遅れて現れることが確認された。 これは、新型コロナウイルスに対する鼻腔内での免疫応答は、血液中の免疫応答とは異なっていることを示唆している。鼻腔内の自己抗体はウイルスに対して防御的に働くのに対して、血液中の自己抗体はCOVID-19を重症化させるのだ。Ghosn氏は、「われわれの研究結果の興味深い点は、鼻腔内の自己抗体の作用が、COVID-19では、通常とは逆だったことだ。鼻腔内の自己抗体は感染後すぐに現れ、患者の細胞によって産生される重要な炎症分子を標的としていた。また、おそらく過剰な炎症を防ぐために、これらの自己抗体は炎症分子を捉え、患者が回復すると消失した。このことは、身体がバランスを保つために、これらの自己抗体を利用していることを示唆している」とエモリー大学のニュースリリースの中で説明している。 論文の筆頭著者であるエモリー大学のBenjamin Babcock氏は、「現時点では、われわれは、感染が起こる前の感染リスクを調べるか、回復後に感染経過を分析するかのどちらかしかできない。もし、クリニックでリアルタイムに免疫応答をとらえることができたらどうなるかを想像してみてほしい。ジャスト・イン・タイムの検査によって、医師や患者は、より迅速でスマートな治療の決定に必要な情報をリアルタイムで得られるようになるかもしれない」と期待を示している。

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コロナ禍を経て高知県民の飲酒行動が変わった?

 お酒好きが多いことで知られる高知県から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが終息した後も、人々が羽目を外して飲酒する頻度は減ったままであることを示唆するデータが報告された。同県での急性アルコール中毒による搬送件数を経時的に解析した結果、いまだ2019年の水準より有意に少ない値で推移しているという。高知大学医学部附属病院次世代医療創造センターの南まりな氏らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health and Preventive Medicine」に10月8日掲載された。 COVID-19パンデミック中は、外出自粛、飲食店の時短営業などの影響を受け、高知県において急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に低下したことを、南氏らは既に報告している。その後、2023年5月にWHOが緊急事態の終息を宣言し、国内でも感染症法上の位置付けが5類となって、社会生活はほぼパンデミック前の状態に戻った。それによって、高知県民の飲酒行動が元に復した可能性があることから、南氏らは最新のデータを用いた検証を行った。 この研究は、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータを用いて行われた。2019~2023年の救急搬送のデータから、解析に必要な情報がないもの、および急性アルコール中毒の記録が存在しない9歳以下と80歳以上を除外した10万7,013人を解析対象とした。このうち1,481人(1.4%)が、急性アルコール中毒による救急搬送だった。 救急搬送者数に占める急性アルコール中毒による搬送者の割合を経時的に見ると、パンデミック前の2019年は1.8%、パンデミック初期に当たる2020年は1.3%であり、その後、2021年と2022年は1.2%で、2023年は1.3%と推移していた。 2019年を基準として、年齢、性別、救急要請場所、消防管轄区域(高知市か高知市以外)、および重症度を調整し、救急搬送のオッズ比(OR)を算出すると、以下に示すように2020年以降はすべて有意に低値であり、2023年にわずかに上昇する傾向が認められた。2020年はOR0.79(95%信頼区間0.68~0.93)、2021年はOR0.74(同0.63~0.87)、2022年はOR0.72(0.61~0.84)、2023年はOR0.77(0.66~0.90)。 著者らは、「COVID-19パンデミックが終息し人々の生活パターンがある程度元に戻ったにもかかわらず、高知県での急性アルコール中毒による救急搬送は、若干増加しているとはいえ、いまだパンデミック以前のレベルに至っていない。この結果は、パンデミックを経て飲酒行動が変化したことを示唆している」と結論付けている。また、そのような変化が生じた背景として、特に急性アルコール中毒のハイリスク集団である若年世代の娯楽の多様化で、アルコール離れが生じた影響ではないかとの考察を加えている。

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第242回 脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい

脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい体重を減らして代謝をよくし、体重絡みの不調をなくすことが肥満治療の主な目標です。しかし減った体重を維持するのは容易ではありません。治療で落ちた体重のおよそ30~35%は1年もすると復活(リバウンド)し、2人に1人は体重減少から5年目までにもとの体重に戻ってしまいます1)。米国疾病管理センター(CDC)の調査で、10%以上の体重減少を少なくとも1年間維持できたことがある太り過ぎや肥満の人の割合は、ほんの6人に1人ほど(約17%)に限られました2)。ヒトの体は体重が減っても持続する肥満時の特徴、いわば肥満記憶を維持していて、それがリバウンドに寄与しているようです。チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のLaura C. Hinte氏らのヒトやマウスの新たな研究3)によると、そのような肥満記憶は脂肪細胞の核内のDNAの取り巻きの変化(後成的変化)によってどうやら支えられているようです。Hinte氏らは肥満の20例の肥満手術直前と手術の甲斐あって体重が少なくとも4分の1減った2年後の脂肪組織を解析しました。また、正常体重の18例の脂肪組織も検討しました。脂肪細胞のRNAの推移を調べたところ、肥満者では正常体重者に比べて100を超えるRNAが増えるか減っており、肥満手術で体重が減った2年時点も同様でした。その変化は体重を増えやすくすることと関連する炎症を促進し、脂肪の貯蔵や燃焼の仕組みを損なわせるらしいと研究を率いたFerdinand von Meyenn氏は言っています4)。そういうRNAの変化が体重のリバウンドに寄与するかどうかがマウスを使って次に検討されました。まず、体重を減らした肥満マウスにヒトに似たRNA変化が持続していることが確かめられました。続いて、体重を減らしたかつて肥満だったマウスと非肥満マウスに高脂肪食を1ヵ月間与えました。すると、非肥満マウスの体重増加は5gほどだったのに対して、かつて肥満だったマウスの体重は14gほども増加しました。かつて肥満だったマウスの脂肪細胞を取り出して調べたところ、脂肪や糖を非肥満マウスに比べてより取り込みました。そして、マウス脂肪細胞の肥満に伴うDNA後成的変化は体重が減ってからも維持されていました。その後成的変化が肥満と関連するRNA変化を生み出し、後の体重増加の火種となるようです。マウスのDNA後成的変化がヒトにも当てはまるのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。また、脂肪細胞が肥満の記憶をどれほど長く維持するのかも調べる必要があります。Hinte氏によると脂肪細胞は長生きで、新しい細胞と入れ替わるのに平均10年もかかります5)。肥満の記憶を保持するのは脂肪細胞だけとは限らないかもしれません。脳、血管、その他の臓器の細胞も肥満を覚えていて体重リバウンドに寄与するかもしれません。研究チームは次にその課題を調べるつもりです。細胞の核内の体重関連後成的変化を薬で手入れし、肥満の後成的記憶を消すことは今のところ不可能です5)。しかし、やがてはそういう薬ができて肥満治療に役立つようになるかもしれません。参考1)Sarwer DB, et al. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2009;16:347-352.2)Kraschnewski JL, et al. Int J Obes (Lond). 2010;34:1644-1654.3)Hinte LC, et al. Nature. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print] 4)We're starting to understand why some people regain weight they lost / NewScientist5)Cause of the yo-yo effect deciphered / ETH Zurich

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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第218回 医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省

<先週の動き>1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省11月20日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師不足地域での開業や勤務を促すための経済的支援策と、医師過剰地域での開業規制などを検討する案を有識者検討会に提示した。医師不足地域では、開業や勤務に対する経済的支援を強化するほか、医師派遣を行う医療機関への支援も検討される。その一方で、医師過剰地域では、都道府県が必要な医療機能を要請し、応じない場合は勧告や公表を行うことができるようにする案が示された。医師不足地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大する案も提示され、地域医療支援病院だけでなく、公立病院や公的医療機関も対象とする方針。日本病院会は、強制的な配置ではなく、医師の意欲や情熱を高める対策を重視するよう提言している。今後、医師の地域偏在是正に向け、厚労省は規制強化と経済的支援を組み合わせた総合的な対策パッケージを年内に策定する。参考1)第12回新たな地域医療構想等に関する検討会 医師偏在是正対策について(厚労省)2)医師不足地域で診療所開業支援など 医師の偏在に対策案 厚労省(NHK)3)医師過剰地域の診療所、開業に要件 厚労省案(日経新聞)4)医師少数地域での勤務要件、対象拡大を提案 厚労省、勤務期間は「1年以上」に延長(Gem Med)2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省厚生労働省は、11月19日に電子処方箋を導入した施設が全国で18.9%に止まっており、政府が推進する医療DXの進捗に遅れが生じていることを明らかにした。調剤薬局では導入率は5割を超えているものの、病院や診療所では導入が遅れている。電子処方箋は、薬の処方箋を電子化し、医療機関や薬局間で共有するシステム。政府は、医療情報の共有による重複投薬の防止や医療の質向上などを期待して導入を進めているが、システム改修の費用や時間などが課題となっている。福岡 資麿厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修費の負担や周囲の施設への普及状況を様子見する医療機関が多いことが要因だ」と説明し、普及拡大に努める姿勢を示した。一方、マイナ保険証の利用率も低迷している。11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、今年10月の利用率は15.67%と、前月から増加したものの、目標には到達していない。12月2日には現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証が基本となるが、混乱を避けるために政府は、現行の健康保険証も1年間は使用できる措置を設けている。政府は、これまで電子処方箋の導入とマイナ保険証の利用を進めてきた。来年度からは介護保険証もマイナンバーカードに一体化されるなど、今後も普及を促進していく方針だが、医療・介護事業者への支援や国民への丁寧な説明など、さらなる取り組みが必要とみられる。参考1)第186回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)マイナ保険証の利用率 10月なのに15.67% 病院27.96%、医科診療所12.91%(CB news)3)マイナ保険証を活用 電子処方箋導入の医療機関などは18.9%(NHK)3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省11月22日に厚生労働省は、2023年の医療施設(静態・動態)調査・病院報告を公表した。これによると美容外科を標榜する診療所が2,016施設となり、3年間で43.6%増加したことが明らかになった。その一方で、産婦人科・産科を有する一般病院は前年比17施設減の1,254施設、小児科を有する一般病院は29施設減の2,456施設となり、それぞれ30年以上減少が続いている。近年は少子化による需要低下に加え、出産数そのものが大幅に減少していることが背景にある。今年1~9月の出生数は前年比5.2%減の54万人で、通年で70万人を割る見通し。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のレポートによると、美容外科医の増加が顕著で、2020年には診療所の35歳未満の医師の15.2%が美容外科で勤務していることが明らかになった。こうした状況について、山形大学大学院の村上 正泰教授は、医局の影響力低下や給与の低さ、長時間労働などが、若手医師の美容外科流出の要因になっていると指摘している。政府は、医師の働き方改革や待遇改善、キャリア支援などを進めることで、若手医師が保険診療の現場で働き続けられる環境を整備する必要がある。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況2)産婦人科・産科が33年連続で最少更新 小児科のある一般病院も30年連続減 厚労省調査(産経新聞)3)診療所の美容外科が急増、3年間で4割増 厚労省調査、小児科は減少(朝日新聞4)美容外科3年で4割増 厚労省調査、伸び率首位 医師偏在助長の指摘も(日経新聞)5)1~9月出生数54万人 通年で70万人割れ公算大(東京新聞)4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会日本医師会は、2025年1月から医療機関や医療従事者を対象とした「SNS等における誹謗中傷相談窓口」の運用を開始する。この窓口は、SNSや口コミサイト上での誹謗中傷や悪意ある書き込みに対処するための支援を目的としており、背景には医療機関に対する誹謗中傷が深刻化している状況がある。総務省は11月21日、SNS事業者に対し、誹謗中傷への対応を義務付ける改正プロバイダ責任制限法の施行に向け、月平均利用者数が1,000万人超のSNSを対象とする方針を示した。これにより、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなどが規制対象になるとみられる。改正法は2025年5月までに施行される予定で、SNS事業者には投稿削除の申し出に対し、迅速な判断と結果通知が義務付けられる。10月に日医が実施したアンケートでは、回答者の77%が誹謗中傷を経験し、そのうち削除を求めた投稿の8割が削除されていないことが判明。また、「相談したい」と答えた医療従事者は82%に達した。この結果を受け、相談窓口では電話とWebでの相談を受け付け、対応策を提示するほか、必要に応じて弁護士の紹介も行う。さらに、口コミサイトやSNSにおける「ペイシェントハラスメント」への関心が高まり、法的アドバイスを求める声も多い。相談窓口の開設により、医療現場の負担軽減と情報共有の場の構築が期待されている。日医の取り組みは、医療従事者と患者間の信頼関係を守る一助となるだけでなく、医療機関の社会的信用を保つ重要なステップとなる。今後の運用状況に注目が集まっている。参考1)SNS等における誹謗中傷相談窓口開設について(日本医師会)2)口コミサイトの誹謗中傷、日医が相談窓口開設へ 25年1月ごろ運用開始 法的アドバイスも(CB news)3)中傷対応義務、利用者1,000万人超のSNS対象 Xなど念頭(日経)5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が合同で行った病院経営調査によると、2023年度の病院経営は、新型コロナウイルス関連の補助金減少や収入減の影響を受け、深刻な赤字に転落したことが明らかになった。調査対象となった967病院の2023年度の経常利益率は、100床当たりマイナス1.3%で、前年度のプラス4.9%から赤字に転落した。これは、新型コロナ関連の補助金などが大幅に減少したことに加え、本業の医療収入も減少したことが主な要因。2024年6月単月のデータでは、国の病院、自治体の病院、医療法人など、5つの開設主体のすべてで赤字を計上した。とくに、自治体病院の赤字幅が大きく、100床当たりマイナス9.2%に達した。病床区分別にみると、一般病院の赤字幅が最も大きく、100床当たりマイナス5.8%だった。療養・ケアミックス病院と精神科病院は黒字を維持したものの、前年同月からは悪化している。3団体では、2024年度の病院経営はさらに厳しさを増すと予想しており、病院経営の大きな転換点を迎えたと指摘している。また、医療機関の人材不足や人件費の高騰、医療材料費の高騰なども経営悪化に拍車をかけている。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療提供体制の縮小に繋がりかねないと懸念されている。政府は、病院経営の安定化に向けた抜本的な対策を早急に講じる必要がある。参考1)2024年度 病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-(病院3団体)2)病院の経常収支、5つの開設主体全て赤字に 6月単月、3団体の病院経営定期調査で(CB news)3)967病院の経常利益率マイナス1.3%に 23年度 3団体調査「24年度はさらに厳しさ増す」(同)6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連近年、国内においてジェネリック医薬品を中心に医療用医薬品の供給不安が続き、とくに咳止め薬や解熱鎮痛剤の不足が深刻化し、小児科や薬局で患者対応に苦慮する現場が広がっている。中でもジェネリック(後発薬)医薬品を中心に薬局や医療機関で不足が深刻化している。日本製薬団体連合会が行った今年9月の調査では、医療用医薬品の18.5%に当たる3,103品目が出荷調整の対象となり、その6割以上がジェネリック医薬品だった。咳止め薬や解熱鎮痛剤、抗生物質の不足は、小児科や薬局ではとりわけ深刻で、代替薬への対応や粉薬が足りない場合に錠剤をすり潰す処方も行われている。冬季には、インフルエンザなど感染症の流行による患者の増加が予想され、薬不足が患者や医療現場にさらなる負担をかける懸念が高まっている。薬不足の背景には、複数のジェネリックメーカーによる品質不正がある。2020年以降、小林化工や日医工、業界最大手の沢井製薬で重大な不正が発覚した。これらの企業では、試験結果の捏造などの不正行為を防ぐ体制が機能しなかった。わが国のジェネリック市場は約1.4兆円で190社が参入しており、1社当たりの平均売上高はわずか70億円強と小規模。少量多品目生産による非効率な状態の中、シェア獲得のためにメーカーは価格競争を激化させ、さらに薬価の引き下げもあり、コスト競争がメーカーの収益を圧迫しているため、後発品の製造から撤退するメーカーも相次いでいる。安定供給のためには、医薬品の品質管理強化や生産体制の改革が急務とされているが、ジェネリック医薬品の生産効率を高めるための仕組み作りが求められている。今後の見通しとしては大手製薬会社による増産で、半年後に改善が見込まれている。薬不足は、患者や医療従事者に深刻な影響を与えており、政府と業界が一体となって安定供給に向けた取り組みを加速する必要がある。参考1)「医薬品供給状況にかかる調査(2024年10月)」 について(日薬連)2)医薬品 依然約2割が供給に支障 せき止め薬や解熱鎮痛剤も(NHK)3)薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編#1(ダイヤモンドオンライン)4)第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬…国内製薬大手が、処方薬の8割を占めるジェネリック市場から軒並み撤退した理由(同)

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第238回 若い社員の退職理由、「コロナ後遺症」は本当なのか?

国立感染症研究所が発表する最新の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の2024年第45週(11月4~11日)の定点当たり報告数は1.47人。第34週(8月19~25日)の8.8人から現在のところ11週連続で低下している。もっともここ最近、個人的には気になることがあった。一般に新型コロナは若年者では重症化しないと言われているが、今春頃から「うちの若い社員が後遺症でかなり苦しんでいる」という話を3人の知人から別々に聞いていたからだ。ちなみにこの3人同士はまったく面識がない。そして先週、また別の知人と会食していた際に「うちの会社ではすでに今年に入って新人が2人、新型コロナの後遺症がつらいということで相次いで退職した」と聞かされた。まあ、昨今は入社早々、退職代行業者を使って勤務先を辞めてしまうという事例も増えているので、私は当初、「辞める言い訳にでも使っているのではないか?」ぐらいに考えていたのだが、こうも立て続くとさすがに尋常ではないと感じ始めた。しかも、いずれのケースも若い社員が訴えるのは「集中力の極端な低下」や「ブレインフォグ」。会食した友人の話によると、辞めた新人のうちの1人は、感染後、勤務先で「PCのディスプレイに向かっても、表示されている文章が頭に入ってこない」と言っていたという。ということで、ちょっと論文検索をしてみたところ、以下の2件の論文が気になった。1つは中国・清華大学のグループによる研究1)。新型コロナ軽症者185人の感染前後での安静時脳波(EEG)を比較し、補足的に行った認知症状などに関するアンケート結果も含めてまとめた研究である。感染前後のEEGのデータがある点について、ふと不思議に思ってしまったが、論文によると元々の本研究の対象者は、さまざまな年齢層での長期的EEG追跡を目的とした研究の被験者で、たまたまこうしたデータが取れてしまったということらしい。研究では年齢別に成人(26歳以上)、若年成人(20~25歳)、思春期若年者(10~19歳)、小児(4~9歳)に分けて感染前後の影響を調査しているが、若年成人で、記憶、言語、感情処理の機能に関与する側頭葉領域で顕著な脳波の乱れや認知機能の低下が認められたという。もう1つの研究2)はコロンビア大学アービング医療センター放射線科グループによるもの。これも新型コロナパンデミック前から健常ボランティアを対象に行っていた神経画像研究に関連し、ワクチン登場前の新型コロナ感染者(5人)と非感染者(15人)の比較研究である。サンプルサイズは小さいが、新型コロナに関して高齢者に関する研究が多い中で、対象者の年齢中央値が37歳とかなり若い点が特徴的と言える。それによると、前頭葉領域で神経細胞の喪失や炎症を伴う損傷を示唆する組織学的変化が確認された。ちなみに神経認知データの結果では感染者群では悪化傾向はあったものの、非感染者群との有意差は認められなかったという。もっとも2つの研究がかなりの制約の中で行われたものであり、しかも結果に一貫性があるとは言い切れない以上、現時点では数々の示唆の1つに留まる。とはいえ、冒頭で紹介したような偶然にしては似たような状況が重なり過ぎると、どうしても気になってしまうのだ。一応、日本国内でも一部で後遺症に関する研究は行われているようだが、概観すると高齢者などに着目したものや概論的なものがほとんどのようだ。昨今は新型コロナに対する世間の危機感が薄れつつある。とりわけ重症化しにくい若年者では、どうしても高齢者よりは新型コロナをなめがちになる可能性は否めない。しかも、若年者の場合、ワクチンも任意接種で費用は1万5,000円前後となれば、余計のこと感染対策から遠ざかってしまう。このような状況を踏まえると、新型コロナの感染対策を前進させるためには、こうした若年者での正しい知識に基づく危機感の醸成の一環として、後遺症の実態も必要ではないかと思うのだが…。参考1)Sun Y, et al. BMC Med. 2024;22:257.2)Lipton M.L, et al. Heliyon. 2024;10:e34764.

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前糖尿病の肥満へのチルゼパチド、糖尿病発症リスク93%減/NEJM

 前糖尿病状態の肥満患者において、3年間のチルゼパチド投与はプラセボと比較して、体重を持続的かつ有意に減少し、2型糖尿病への進行リスクも有意に低減した。米国・イェール大学医学校のAnia M. Jastreboff氏らが、第III相無作為化二重盲検比較試験「SURMOUNT-1試験」の結果を報告した。同試験の早期解析では、チルゼパチドは72週間にわたって肥満患者の体重を大幅かつ持続的に減少させることが報告されていた。本報告では、チルゼパチド投与3年間の安全性アウトカムと、肥満と前糖尿病状態を有する患者の体重減少と2型糖尿病への進行遅延に対する有効性の解析結果を報告した。NEJM誌オンライン版2024年11月13日号掲載の報告。176週までの体重の変化率、193週時の2型糖尿病発症について解析 SURMOUNT-1試験は、非糖尿病の肥満(BMI値30以上、または27以上で糖尿病以外の肥満関連合併症を有する)患者2,539例を、週1回のチルゼパチド5mg群、10mg群、15mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で割り付け、ベースラインで前糖尿病状態ではない患者には72週間、前糖尿病状態の患者には176週間投与した。 今回の解析は、肥満かつベースラインで前糖尿病状態の患者1,032例を対象とした。全例、定期的な生活指導を受け、食事療法(1日当たり500kcal削減)および運動療法(週150分以上)に加えて、チルゼパチドまたはプラセボを176週間投与した。その後、17週間の休薬期間(安全性追跡調査期間)を設け、試験期間は193週間とした。 72週時の主要アウトカムの解析結果についてはすでに報告されている。今回は、重要な副次アウトカムであるベースラインから176週までの体重の変化率(チルゼパチド10mg群、15mg群、プラセボ群について評価)、ならびに176週時および193週時の2型糖尿病発症(チルゼパチド群統合とプラセボ群の比較)について解析した。176週時に平均体重が最大約20%減少、2型DM発症リスクは93%低下 176週時におけるベースラインからの体重の平均変化率は、チルゼパチド5mg群-12.3%、10mg群-18.7%、15mg群-19.7%に対し、プラセボ群では-1.3%であった(いずれもp<0.001)。 176週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で10例(1.3%)(5mg群4例[1.5%]、10mg群5例[2.0%]、15mg群1例[0.4%])、プラセボ群で36例(13.3%)に認められ、チルゼパチド群においてプラセボ群と比較し2型糖尿病の発症リスクが93%低かった(ハザード比[HR]:0.07、95%信頼区間[CI]:0.0~0.1、p<0.001)。 193週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で18例(2.4%)、プラセボ群で37例(13.7%)であった(HR:0.12、95%CI:0.1~0.2、p<0.001)。 主な有害事象(新型コロナウイルス感染症以外)は胃腸障害で、ほとんどは軽度~中等度であり、主に最初の20週間の用量漸増期間中に発現した。新たな安全性の懸念は確認されなかった。

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第123回 集団感染相次ぐ、結核の4年連続低蔓延国化は厳しいか

各地で結核の集団感染今年は結核の集団感染の報道が多いです。厚労省では「20人」というのが集団感染の1つの目安になっています。日本医療研究開発機構(AMED)の「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」による『結核集団発生調査の手引』1)では、集団感染ではなく集団発生という用語が使われており、20人という規定はなく、当該地域の結核罹患率を有意に超えて増加したものと定義されています。いずれにしても現時点では20人を目安に報告されているため、「30人が集団感染」と報道されると、エエーッ!と驚いてしまうかもしれません。たとえば、9月には足立区で、11月には島根県で集団感染事例の報告がありました。いずれも初発患者1例から、複数人へ感染させたというシナリオが想定されています。ただ、注意いただきたいのは、同じ結核菌株が感染したという証明をしているわけではなく、あくまで疫学的リンクからの推定に基づくという点です。高齢者の場合、インターフェロンγ遊離アッセイ(IGRA:クォンティフェロンやT-SPOT)がもともと陽性という方もいるので、潜在性結核感染症の新規同定の多くは、推定に基づいています。潜在性結核感染症は、発病しないための予防的治療を行う感染症です。生活に何ら制限もありません。ですから、こういった報道を耳にしたとき「多くの人が肺結核を発症している」という誤解を持たないようにしないといけません。日本の保健所の初動は非常に優れているので、先んじて報道しているのです。新型コロナやインフルエンザのようにきわめて感染率が高いわけではなく、トータルでみると多くが発病しません(図)。イメージとしては「1割が発病する」という理解でよいでしょう。画像を拡大する図. ヒト結核菌感染の自然史(種々の文献をもとに筆者作成)今年の結核報告数は大きなリバウンド国立感染症研究所の集計によると、第43週(10/27)までのデータでは、結核の報告数はすでに1万2,672人となっています2)。2021年の年間の結核報告数が現時点と全く同じくらいで、このときの罹患率が10万人当たり10.3人ということでした。となると、このままだと日本の罹患率が再び2ケタになる可能性があり、3年連続低蔓延国化したにもかかわらず、それを返上しなければならないかもしれません(低蔓延国の基準は10万人当たり10人を下回っていること)。参考文献・参考サイト1)日本医療研究開発機構(AMED)新興再興感染症研究「結核低蔓延化に向けた国内の結核対策に資する研究班」太田分担. 結核集団発生調査の手引(Ver. 2.05). 2023年3月17日. 2)国立感染症研究所. IDWR速報データ 2024年第43週(2024年11月5日)

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インフル・コロナワクチン接種、同時vs.順次で副反応に差はあるか

 インフルエンザワクチンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンを同時に接種した場合、1~2週間空けて両ワクチンを順次接種した場合と比較して、中等度以上の発熱、悪寒、筋肉痛などの発生状況に差はみられないことが、無作為化プラセボ対照臨床試験の結果示された。米国・Duke University School of MedicineのEmmanuel B. Walter氏らがJAMA Network Open誌2024年11月6日号に報告した。これまで、両ワクチンの同時接種の安全性に関する無作為化臨床試験データは限定的であった。 本試験は、2021年10月8日~2023年6月14日に米国の3施設で実施された。参加者は5歳以上で妊娠しておらず、4価インフルエンザ不活化ワクチン(IIV4)とCOVID-19のmRNAワクチンの両方を接種する意思のある者であった。1回目には、COVID-19 mRNAワクチンと同時にIIV4または生理食塩水を、反対側の腕に筋肉内投与した。1~2週間後、2回目として1回目に生理食塩水を投与された参加者にはIIV4を、1回目にIIV4を投与された参加者には生理食塩水を投与した。 主要な複合接種後反応(reactogenicity)アウトカムは、1回目および/または2回目の接種後7日以内に、発熱、悪寒、筋肉痛、および/または関節痛の中等度以上の症状がみられた参加者の割合で、非劣性マージンは10%とされた。副次アウトカムは、各接種後7日間の注射部位反応イベントと注射部位以外の有害事象(AE)、および1回目接種後の健康関連QOL(HRQOL)で、EuroQoL 5-Dimension 5-level(EQ-5D-5L)を用いて評価した。重篤な有害事象(SAE)ととくに注目すべき有害事象(AESI)は、121日間評価された。 主な結果は以下のとおり。・全体で335人(平均[SD]年齢:33.4[15.1]歳)が登録され、無作為に割り付けられた(同時併用群:169人、順次併用群:166人)。・63.0%が女性、57.0%が登録時点でCOVID-19感染歴ありまたはIgG抗体陽性であり、76.1%がファイザー製のBNT162b2(2価)を接種した。・同時併用群における主要な複合接種後反応アウトカムの発生率は25.6%(43人)で、順次併用群(31.3%[52人])に対し非劣性であった(補正後群間差:-5.6%ポイント、95%信頼区間:-15.2~4.0%ポイント)。・主要な複合接種後反応アウトカムの発生率は、接種回別にみても同様であった(1回目接種後:23.8% vs.28.3%、2回目接種後:3.0% vs.5.4%)。・同時併用群と順次併用群では、AE(12.4% vs.9.6%)、SAE(ともに0.6%)、およびAESI(11.2% vs.5.4%)の発生率に有意な群間差は認められなかった。・重篤な反応を示した参加者において、EQ-5D-5L Indexの平均(SD)スコアは、ワクチン接種前の0.92(0.08)~0.92(0.09)から2日目までに0.81(0.09)~0.82(0.12)に減少したものの、3または4日目までにはベースラインレベルに回復した。 著者らは今回の結果について、インフルエンザとCOVID-19の流行が予想される期間中に高いワクチン接種率を達成するための戦略として、これらのワクチンの同時接種を支持するものだとしている。

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日本の新型コロナワクチン接種意向、アジア5地域で最低/モデルナ

 モデルナ・ジャパンは11月13日付のプレスリリースで、同社が日本およびアジア太平洋地域のシンガポール、台湾、香港、韓国(アジア5市場)において実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と新型コロナワクチンに対する意識調査の結果を発表した。その結果、日本は、新型コロナワクチンの接種意向、新型コロナとインフルエンザのワクチンの同時接種意向共に、アジア5地域で最低となった。 2024年9月13日~10月9日の期間に、8歳以上の5,032人(シンガポール:1,001人、香港:1,000人、台湾:1,000人、韓国:1,003人、日本1,028人)を対象に調査実施機関のDynataによってインターネット調査が行われた。 主な結果は以下のとおり。・日本は、新型コロナワクチンの接種意向が5地域で最も低く、「接種する」と回答したのは28.5%、「しない」と回答したのは41.3%だった。アジア5地域全体で「接種する」と回答したのは45.3%、 最も接種意向が高かったシンガポールは約60%だった。・日本は、新型コロナとインフルエンザのワクチンを同時に接種する意向についても最も低く、「同時に接種する」と回答した人が13.3%だった。アジア5地域の平均は32.9%、最も高い香港は46.5%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンを接種した人は、日本では13.6%と最も低く、5地域平均は22.2%だった。新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの両方を接種した人も、日本は11.2%でアジア5地域最低。アジア5地域平均は18.5%。両方を接種した人が最も多かったのは、台湾の23.3%だった。・過去12ヵ月で、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した人は、日本では58.4%と最も多かった。アジア5地域平均は40.8%、最も少ないのは台湾で31.6%だった。・60代以上の高齢者においても、日本では44.9%が新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンのどちらも接種をしていないと回答した。・接種意向がない理由について、「副反応が心配」「新しい変異株に対応したワクチンは効果がない」が多く選ばれ、「接種費用」を上回った。・新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、肺炎球菌の各ワクチン接種を重要と考えるかについて質問したところ、インフルエンザワクチンを重要と答えた人が最も多く、次に新型コロナワクチンが続いた。この傾向はどのアジア5地域でも同じだった。各ワクチン接種を「どれも重要ではない」と回答した人は、日本が37.3%と最も多く、他地域より18ポイント以上高かった。・新型コロナワクチンを接種する動機について、「ワクチン効果についての情報が得られた時」「安全性について保証が得られる時」「流行についての報道を見聞きした時」の選択肢を挙げた質問では、日本は「新型コロナワクチンを接種する動機となる項目が一つもない」と答えた人が最も多かった。・COVID-19とインフルエンザのリスクに対する認識について、COVID-19はインフルエンザより重症化率や入院率が高いが、COVID-19はインフルエンザと比較して脅威度が低く評価されていた。 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会は10月17日付で「COVID-19の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨します」との声明を発表し1)、接種意向が低く接種が進んでいない現状に警鐘を鳴らしている。今回の調査では、日本人の接種意向がアジア地域の中でも低いことが、改めて浮き彫りとなっている。

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