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抗体カクテルをトランプ大統領が激賞こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回書いたトランプ米大統領に投与された抗体カクテル、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)社の「REGN-COV2」ですが、退院後、7日にツイッターに投稿した動画において同大統領は「信じられないほど効果があった」と激賞。「私が投与されたものをあなた方にも用意したいと思う。無料にするつもりだ」と語りました。リジェネロン社はこの動画が投稿された直後にアメリカ食品医薬品局 (FDA)に緊急承認を要請しました。米国内では数日または数週間で当局の承認が得られるとの期待が高まっているようです。また、ロイターなどの報道によれば、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も8日、トランプ米大統領の経過について、抗体カクテルに効果があった可能性があるとの見解を示しています。大統領個人の主観が、薬の承認や供給、価格に影響するとしたら問題ではありますが、初期症状や入院するほど症状の重くない患者向けの治療薬として、抗体カクテル・フィーバーはしばらく続きそうです。2021度入試で女子医大1200万円値上げさて、話題変わって今週は9月28日に朝日新聞が報じた「私大医学部 学費値上げの動き」のニュースについて考えたいと思います。同紙は「私立大学の医学部で学費を値上げする動きが出ている」として、東京女子医科大(東京)が2021度の入学生について、6年間で前年度入学生よりも計1,200万円上げ、私立医大で2番目に高くなったと伝えています。この連載では7月に「凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?」と題して、コロナ禍などによる経営難などを背景に、東京女子医大学病院の看護師の退職希望が400人を超えていること、同大が「夏季一時金を支給しない」と労組に回答したことなどについて書きましたが(その後、財源が確保できたとして基本給1ヵ月分が支給されたそうです)、学費値上げを報じた朝日新聞も「コロナ禍による大学病院の経営悪化の影響などが指摘されている」と分析しています。最高額は川崎医大、最低額は国際医療福祉大東京女子医大のホームページに行くと、学費の詳細を見ることができます。それによれば、初年度納入金が1,144万9,000円、2年目以降が695万3,000円で、6年間の学費は計4,621万4,000円となっています。学費のうち「施設整備費」という費目が新たに加わり、これが年間200万円、6年間で計1,200万円増えています。値上げの詳しい理由はホームページ上には記載されておらず、朝日新聞の取材にも回答していません。私立大医学部の2021年度の募集要項をまとめたサイト(医学部受験情報発信サイトなど)によれば、一般選抜など主な選抜方式における6年間学費が最も高いのは川崎医科大(岡山県)の4,736万5,000円。2位が値上げ後の東京女子医大、3位は金沢医科大(石川県)の4,054万3,000円、4位は埼玉医科大の3,957万円、5位は帝京大の3,938万140円です。東京女子医大は昨年度時点では約3,900万円で上から16番目、私立大医学部全体のほぼ真ん中でした。一方、学費総額が最も安いのは国際医療福祉大の1,850万円です。次いで順天堂大の2,080万円、日本医科大の2,200万円、慶応義塾大の2,205万9,500円、東京慈恵会医科大の2250万円と、偏差値が高い、東京の私立大医学部が続きます。2008年度からは値下げトレンドだったが実は、私立大医学部の学費は2000年代後半から低下傾向が続いていました。その先駆けは順天堂大でした。2008年度に順天堂大は6年間の学費をなんと900万円も下げました。その結果、志願者が増え、偏差値も上昇しました。学費値下げによって、ブランド力の向上を図ったわけです。その後、「優秀な学生を確保したい」と考える多くの私立大医学部がこれに追従しました。順天堂ショックに次いで医学部受験界に衝撃を与えたのが、2014年の帝京大の学費値下げでした。帝京大はかつて「日本一学費が高い医学部」として有名でした。その学費を6年間で1,000万円以上も下げたのです。ちなみに10年前、2011年度時点の帝京大の6年間学費は約4,900万円で、2位の川崎医大よりも350万円近くも高額でした。2021年度時点の帝京大学の学費は3,938万円と高額上位5位ではありますが、それでもかつてより1,000万円近く安い水準を保っています。なお、帝京大は学費値下げによって受験者数が増加し、学費の収入減は受験料収入で十分カバーできたと言われています。注目は再来年、2022年度の学費一連の学費改革によって、開業医はじめとした高額所得者の子女しか志望できなかった私立大医学部が一般サラリーマンの子女でも狙えるようになっていたのが、コロナ禍以前のトレンドでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、大学病院の経営状況は悪化、東京女子医大のような6年間で1,000万円超の値上げを行う私立大医学部は今後も出てくる可能性は大きいと考えられます。入試要項が発表済みの今年度ではなく、来年度以降の学費に注目したいと思います。以前、「新型コロナウイルス感染症によって、医療現場を恐れる受験生や親が出てくるかもしれない」と書きましたが(第4回 新型コロナで変わるか、医学部受験事情)、学費面でも医学部は敬遠される存在になっていくかもしれません。コロナ禍で、一般サラリーマンや自営業者の年収だけでなく、開業医の収入も大きな打撃を被っています。そんな中、私立大医学部はごく限られた高収入の家庭の子女しか入れない、”狭き門”になっていくかもしれません。それが果たして日本の医療にとっていいことなのか悪いことなのか…。なかなか悩ましい問題です。