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mRNAワクチン、無症候性感染リスクも低下/大規模調査

 新型コロナウイルスワクチンは無症候性感染にも有効なのか。米国・メイヨークリニックのAaron J. Tande氏らによる大規模調査によって、ワクチン接種によって 無症候性の感染リスクも低下することがわかったという。Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2021年3月10日号掲載の報告。 該当地域においてワクチン接種が始まった2020年12月17日から2021年2月8日の間に、処置/手術前にSARS-CoV-2検査を受けた無症状の患者(3万9,156例)の検査4万8,333件を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。 mRNAワクチン(ファイザーもしくはモデルナ社製)を1回以上接種した群(接種群)と、同じ期間内に接種しなかった群(未接種群)の間でSARS-CoV-2検査の陽性率を比較し、相対リスク(RR)を算出した。RRは混合効果log-binomial回帰を用いて、年齢、性別、人種/民族、病院と居住地の相対位置(医療アクセス)、地域の医療システム、反復検査について調整した。 主な結果は以下のとおり。・患者の年齢中央値は54.2(SD:19.7)歳で、2万5,364例(52.5%)が女性だった。接種群の検査数は3,006件(6.2%)、未接種群は4万5,327件(93.8%)だった。・接種群の初回接種から検査までの日数の中央値は16(四分位範囲:7~27)日だった。・接種群の検査3,006件中、陽性は42件(1.4%)、未接種群の検査4万5,327件中、陽性は1,436件(3.2%)だった(RR:0.44、95%CI:0.33~0.60、p<0.0001)。・接種群が未接種群と比較して調整後RRが低かった検査時期は、ワクチンの初回接種後11日以降2回目の接種前(RR:0.21、95%CI:0.12~0.37、p<0.0001)、および2回目の接種翌日以降(RR:0.20、95%CI:0.09~0.44、p<0.0001)だった。 研究者らは、mRNAワクチンは症候性の感染同様に無症候性感染のリスクも減らすことが裏付けられた、としている。

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第47回 要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン

<先週の動き>1.【要申請】市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ1.要申請、市町村へアドレナリン製剤の無償提供/マイラン厚生労働省は、4月12日から開始される高齢者の新型コロナワクチン接種に必要となる予診票などの情報提供を開始している。抗血小板薬や抗凝固薬を内服している患者については、接種前の休薬は必要なく、接種後は2分間以上しっかり押さえるようにと具体的な記載がされている。また、ワクチン接種の際にアナフィラキシーショックなどを発現した場合に必要となるアドレナリン製剤(商品名:エピペン注射液0.3mg)については、製造販売元であるマイランEPD合同会社より無償提供について、各市町村(特別区を含む)へ告知されるなど準備が進んでいる。なお、無償提供を希望する市町村は、専用のWEBサイト(https://med.epipen.jp/free/)を通じて申請を行うこと。受付は、18日より開始されている。(参考)新型コロナワクチンの予診票・説明書・情報提供資材(厚労省)予防接種会場での救急対応に用いるアドレナリン製剤の供給等について(その2)(同)マイランEPD 自治体向け「エピペン」無償提供の受付開始 コロナワクチン接種後のアナフィラキシー対応で(ミクスオンライン)2.緊急事態宣言の解除後、感染対策に「5つの柱」菅総理大臣は18日夜、東京都を含む1都3県の緊急事態宣言について、21日をもって解除することを明らかにした。1都3県の新規感染者数は、1月7日の4,277人と比較して、3月17日は725人と8割以上減少しており、東京では、解除の目安としていた1日当たり500人を40日連続で下回っていた。宣言解除に当たり、感染の再拡大を防ぐための5本の柱からなる総合的な対策を決定し、国と自治体が連携して、これらを着実に実施することを発表した。第1の柱「飲食の感染防止」大人数の会食は控えて第2の柱「変異ウイルス対応」第3の柱「戦略的な検査の実施」第4の柱「安全 迅速なワクチン接種」第5の柱「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」また、ワクチンについては、今年6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しを示し、医療従事者と高齢者に行きわたらせるには十分な量だと述べた。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見(首相官邸)【菅首相会見詳報】“宣言”解除へ 再拡大防ぐ「5つの柱」示す(NHK)3.勤務医の働き方改革など、医療法改正法案が審議入り長時間労働が問題となっている勤務医などの働き方改革を目指し、2024年度から、一般の勤務医は年間960時間、救急医療を担う医師は年間1,860時間までとする時間外労働規制を盛り込んだ医療法の改正案が、18日に衆議院本会議で審議入りした。今回の法案には、各都道府県が策定する医療計画の重点事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」が追加された。このほか、医師養成課程の見直しであるStudent Doctorの法的位置付けや地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編支援、外来医療の機能の明確化・連携といった2025年問題と、今後の地域医療の提供体制にも大きな影響が出ると考えられる。(参考)勤務医などの働き方改革を推進へ 医療法改正案 衆院で審議入り(NHK)地域医療の感染症対策を強化、医療法改正案を閣議決定(読売新聞)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案(厚労省)4.高齢者ワクチン、医師確保が間に合わない自治体2割4月12日から開始される65歳以上の高齢者対象の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚労省が全国1,741の自治体を対象に行った調査の結果、約2割の自治体が接種を担う医師を確保できていないことが明らかになった。調査は3月5日時点の各自治体の状況についてたずね、各接種会場で1人以上の医師を確保できているとする自治体は1,382(79.3%)だが、残り約2割の自治体では「0人」だった。地元医師の調整に時間がかかっている自治体や医師不足のため近隣自治体と調整中の自治体もあるため、体制の確立には時間を要するとみられる。また、各自治体より高齢者分の接種券の配送時期については4月23日が最も多く、次いで4月12日とする自治体が多かった。(参考)医師確保「0人」が2割 高齢者ワクチン接種(産経新聞)資料 予防接種実施計画の作成等の状況(厚労省)5.ワクチン優先接種、精神疾患などの患者も対象に厚労省は、18日に第44回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、新型コロナウイルスワクチン接種の接種順位、対象者の範囲・規模について議論した。接種の対象については、接種実施日に16歳以上とし、一定の順位を決めて接種を進める。4月12日から高齢者への接種を始め、基礎疾患のある人などに優先して接種を行う。(1)医療従事者等(2)高齢者(2021年度中に65歳に達する、1957年4月1日以前に生まれた方)(3)高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方(4)それ以外この会議において、優先接種に「重い精神疾患」や「知的障害」がある人も加えることになった。具体的には精神疾患で入院中の患者のほか、精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を持っている人などが対象で、合わせておよそ210万人と見積もられている。(参考)資料 接種順位の考え方(2021年3月18日時点)(厚労省)6.科学的介護情報システム「LIFE」を訪問・居宅支援に活用へ厚労省は、2021年の介護報酬改定により、科学的介護情報システム「LIFE」の運用を始め、科学的なエビデンスに基づいた自立支援・重度化防止の取り組みを評価する方向性を打ち出した。今回の介護報酬改定で新設される「科学的介護推進体制加算」をはじめ、LIFEの取り組みには多くの加算が連携しており、対応を図る介護事業者にとってはデータ提出などが必須だ。さらに、改定では「訪問看護」にも大きなメスが入った。訪問看護ステーションの中には、スタッフの大半がリハビリ専門職で「軽度者のみ、日中のみの対応しか行わない」施設が一部あり、問題視されていたが、今回の改定ではリハビリ専門職による訪問看護の単位数を引き下げる、他職種と連携のために書類記載を求めるなど対策が行われている。(参考)2021年度介護報酬改定踏まえ「介護医療院の実態」「LIFEデータベース利活用状況」など調査―介護給付費分科会・研究委員会(Gem Med)リハビリ専門職による訪問看護、計画書や報告書などに「利用者の状態や訪問看護の内容」などの詳細記載を―厚労省(同)介護報酬の“LIFE加算”、計画の策定・更新が必須 PDCA要件の概要判明(JOINT)資料 訪問看護計画書及び訪問看護報告書等の取扱いについて(厚労省)

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マスクと認知症【コロナ時代の認知症診療】第1回

診察室でまずマスクをはずす患者さん、背後にある特有の事情新型コロナウイルス感染症(以下:コロナと略)の問題は、高齢者全般に関わるものである。けれども認知症の高齢者には特有の問題がある。それはテレビなどの報道を見てこれが恐ろしい感染症だとその瞬間は分かっても、コロナ禍全体が把握できないことである。致死性が高い感染症と言われても、自分を守る、咳エチケットを守るといった現実的な行動がとれない。たとえばマスクをすぐに外してしまう、人前で咳をしても平気である。筆者がよく経験するのは、診察室に入って着席するなり「(先生の前で)失礼ですから」、とマスクを外す人である。家族が大慌てで、「だめだめ、今はマスクをしないのが失礼なの」などと言ってもキョトンとするか、逆に何が悪いのだ、という表情を浮かべるかのいずれかである。時には、「マスクをして喋ると苦しいから、ここでは外させていただく」と述べる患者さんもいる。また素手でどこでも触ってしまう。ご家族からいくら注意されても改めることは難しい。また失敗しても沁みない。あるいは強制と受けとめ怒りを炸裂させてしまうこともある。このように指摘されて、そのときはそうかなと思っても、それが覚えられず古いルールに固執してしまうのは認知症の主症状の一つかもしれない。それだけに感染症予防の基本理解が簡単ではない、まして対応策は容易でない。数字が示す認知症患者の新型コロナ感染リスクの高さところで2021年になって認知症患者のコロナ感染に関する実証的な報告がなされたが、ここでマスク問題に言及がなされている。以下に概要を説明する。アメリカの成人6,190万人のデータから、認知症患者が新型コロナウイルスに感染するリスクは一般集団より高く(オッズ比:2.0)、認知症性疾患の中でも脳血管性認知症の患者のオッズ比が3.17と最も高かった。さらに認知症ではない感染者と比べて、入院率は3倍弱、死亡率4倍とも報告されている。こうした背景に何があるかが重要である。まず認知症が、マスクを着用したり、人と距離を保ったり、手を頻繁に洗ったりする能力を妨げている可能性が指摘されている。また心血管疾患や糖尿病、肥満、高血圧症などの疾患は、認知症と新型コロナウイルスの両方に共通するリスク要因であり、それが転帰不良を招いているとも考えられている。さらにクラスターという観点からは、認知症患者の多くが長期療養施設に滞在している点も注目されている。というのは長期療養施設における新型コロナウイルス死亡者数は、米国全体の死亡者のほぼ半数を占めているのである。いずれもこの1年あまり見聞きしてきたことがなるほどと数字として納得できる。さて、何と声をかけるのが有効か?さてそこでどう対応するか? が問題だ。たとえば、外出に際してご家族がマスクを装着させた上で、マスクをつけた周囲の人々を指して「怖いばい菌にやられないよう、今は誰でもやるの」などとうまく常識として諭すご家族がある。要は、個人に対する否定や命令でなく「今時はこうするものよ」という一般化した言い方が望ましいことにある。またそうしてもらったら「さすが! 今風がわかっている」といった誉め言葉がさらなる効果をもたらすだろう。もっとも忘れてしまうのが認知症だから、この諭しと褒めは繰り返す必要があるだろう。マスクに限らず、感染から自身や社会を守る自粛とは、結局は行動制限だから認知症の当事者にとっては息が詰まり、愉快なものでない。そこで、ご家族には、気分転換を計画的にはかることが大切になる。たとえば、人のいない早朝や夕方の時間帯に公園に出かける、女性なら開店間もないデパートを歩いてみるのもいい。また休日、人の少ない時間帯に電車に乗り1時間以内の小旅行をしてみるのも面白い。さらにはお孫さんとお子さん、それに老夫婦が庭園に集って季節の美しさを楽しみながらのお弁当会も良さそうだ。月に1度の通院は電車利用をやめて、家族数人のドライブにすることが、まさに望外の喜びになることもある。以上はすべて私の周囲の方々の経験だが、このような非日常的な活動は、たとえ認知症があっても、多くの人が小さな生きがいを楽しめ、効果的な息抜きになる。参考文献・参考情報1)Wang Q, et al. et al.Alzheimer’s Dement 2021 Feb 9. [Epub ahead of print]

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専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話

忽那賢志氏が解説する新型コロナの正体と正しい対処法「新興再興感染症に気を付けろッ!」や「診療よろず相談TV」、最近ではYAHOOニュースでもお馴染みの忽那 賢志氏の新刊です。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。症状はどんな経過をたどり、どんな治療が行われるのか?他の感染症と比べてどんなところが怖く厄介か? 感染はどうしたら防げるか? ワクチンはどのぐらい有効なのか? そもそも感染症とは何か?新型コロナの日本上陸直後から最前線で治療にあたる感染症専門医が、自身の現場での経験と最新の科学データをもとにやさしく解説。新型コロナの正体と正しい対処法に加えて、コロナ禍を乗り切り、次のパンデミックに備えるための知識も身につく、必読の教科書です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話定価900円 + 税判型新書判頁数264頁発行2021年3月著者忽那 賢志Amazonでご購入の場合はこちら

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mRNAワクチン後のアナフィラキシー、医療者で報告多い?/JAMA

 Pfizer-BioNTech社およびModerna社のmRNA新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、米国の医療従事者約6万5,000人を対象に、初回接種後の急性アレルギー反応発生状況について調査が実施された。マサチューセッツ総合病院のKimberly G. Blumenthal氏らによる、JAMA誌オンライン版2021年3月8日号リサーチレターでの報告。 2020年12月16日~2021年2月12日(フォローアップは2月18日まで)に、mRNA COVID-19ワクチンの初回投与を受けたMass General Brigham(MGB;ボストンを拠点とする非営利の病院および医師のネットワーク)の従業員が前向きに調査された。ワクチン接種後3日間、従業員は電子メール、テキストメッセージ、電話、スマートフォンアプリケーションのなどを通じて症状を報告した。 報告が求められた急性アレルギー反応の症状には、接種部位以外の発疹またはかゆみ、じんましん、口唇・舌・目・顔の腫脹、喘鳴・胸部圧迫感または息切れが含まれた。報告された症状は、Brighton Criteria2および国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)/食物アレルギー・アナフィラキシーネットワーク(FAAN)基準を使用して評価され、2つのうち少なくとも1つの基準を満たした場合にアナフィラキシーと判定された。 主な結果は以下の通り。・ワクチン初回接種を受けた6万4,900人のうち、2万5,929人(40%)がPfizer-BioNTech社、3万8,971人(60%)がModerna社のワクチンを接種した。・5万2,805人(81%)が1回以上回答した。・自己申告の急性アレルギー反応は、全体で1,365人から報告され(2.10%[95%CI:1.99~2.22%])、Pfizer-BioNTech社と比較してModerna社のワクチンでより頻繁に報告された(2.20%[2.06~2.35%] vs.1.95%[1.79~2.13%]、p=0.03)。・アナフィラキシーは16人で確認された(0.025%[95%CI:0.014~0.040%])。Pfizer-BioNTech社ワクチンでは7例(0.027%[0.011~0.056%])、Moderna社ワクチンでは9例(0.023%[0.011~0.044%])報告された(p=0.76)。・アナフィラキシーが確認された人の平均年齢は41(±13)歳、94%(15人)が女性だった。63%(10人)はアレルギー歴があり、31%(5人)はアナフィラキシー歴があった。・アナフィラキシー発症までは平均17(±28、1~120)分であった。・1人が集中治療室に入り、9人(56%)がエピネフリンの筋肉内投与を受け、全員がショック療法または気管挿管なしで回復した。 著者らは、本コホートで得られたアナフィラキシー発生率(2.47回/1万回ワクチン接種)は、CDCによる受動的サーベイランス(自発的報告)による報告(0.025~0.11回/1万回ワクチン接種)と比較して高いことに言及。それでも、mRNA COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの全体的なリスクは非常に低く、他の一般的な医療行為と同等としている。また、 本コホートの参加者は主に医療従事者であったため、自己申告データの信頼性は高い可能性があると考察している。 また、成人の約5%が重度の食物アレルギー歴、約1%が重度の薬物アレルギー歴を有していることを考慮すると、安全にワクチン接種された人のうち重度の食品または薬物アレルギー歴を持つ約4,000人が含まれている可能性があるとしている。

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COVID-19疑いへのアジスロマイシン追加の臨床的意義/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の市中感染疑い例の治療において、アジスロマイシンを通常治療に追加するアプローチは通常治療単独と比較して、回復までの期間を短縮せず、入院リスクを軽減しないことが、英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らPRINCIPLE Trial Collaborative Groupが行った「PRINCIPLE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年3月4日号に掲載された。アジスロマイシンは、抗菌作用と共に抗ウイルス作用や抗炎症作用が期待できるためCOVID-19の治療に使用されているが、市中の無作為化試験のエビデンスは不足しているという。英国のプライマリケアの適応的プラットフォーム試験 本研究は、英国のプライマリケアをベースとし、合併症のリスクの高い市中COVID-19疑い例の治療における複数の薬剤の有用性を同時に評価する、非盲検無作為化適応的プラットフォーム試験である(英国研究技術革新機構[UKRI]と同国保健省の助成による)。本研究ではこれまでに、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、吸入ブデソニドの検討が行われており、今回はアジスロマイシンのアウトカムが報告された。 対象は、年齢65歳以上または1つ以上の併存症を有する50歳以上で、直近の14日以内にCOVID-19(確定例、疑い例)による症状(発熱、新規の持続的な咳嗽、臭覚または味覚の変化)がみられる患者であった。被験者は、通常治療+アジスロマイシン(500mg/日、3日間)、通常治療+他の介入、通常治療のみを受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。 無作為化から28日以内に2つの主要エンドポイントの評価が行われた。1つは患者の自己申告による初回の回復(ベイズ区分指数モデルで評価)、もう1つはCOVID-19関連の入院または死亡(ベイズロジスティック回帰モデルで評価)であった。 2020年4月2日にPRINCIPLE試験の最初の参加者が登録され、アジスロマイシンの試験には、2020年5月22日~11月30日の期間に英国の1,460の総合診療施設から2,265例が登録された。このうち2,120例(94%)で追跡データが得られ、500例がアジスロマイシン群、823例が通常治療単独群、797例は他の介入群だった。 11月30日、予定されていたデータ監視・安全性審査委員会による中間解析において、事前に規定された無益性基準を満たしたため、PRINCIPLE試験運営委員会によりアジスロマイシン試験への患者の割り付けの中止が勧告された。28日回復割合:80% vs.77%、入院/死亡割合:3% vs.3% アジスロマイシン試験(1,388例、アジスロマイシン群526例、通常治療単独群862例)の全体の平均年齢は60.7(SD 7.8)歳、女性が57%で、88%が併存症を有し、無作為化前の罹病期間中央値は6日(IQR:4~10)、83%がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受け、全体の31%が陽性だった。アジスロマイシン群の87%がアジスロマイシンの1回以上の投与を受け、71%は全3回の投与を受けた。 28日以内に回復したと報告した患者の割合は、アジスロマイシン群が80%(402/500例)、通常治療単独群は77%(631/823例)であった。初回回復の報告までの期間に関して、アジスロマイシン群は通常治療単独群と比較して意義のある有益性は認められず(ハザード比[HR]:1.08、95%ベイズ信用区間[BCI]:0.95~1.23)、初回回復までの期間中央値の有益性の推定値は0.94日(95%BCI:-0.56~2.43)であった。回復までの期間が臨床的に意義のある有益性を示すとされる1.5日以上の短縮を達成する確率は0.23だった。 入院は、アジスロマイシン群が3%(16/500例)、通常治療単独群も3%(28/823例)で認められた(絶対有益性割合:0.3%、95%BCI:-1.7~2.2)。死亡例は両群ともみられなかった。入院/死亡が臨床的に意義のある有益性を示すとされる2%以上の低下を達成する確率は0.042であった。 また、安全性アウトカムは両群で同程度だった。試験期間中に、COVID-19と関連しない入院が、アジスロマイシン群で1%(2/455例)、通常治療単独群で1%(4/668例)に認められた。 著者は、「抗菌薬の不適切な使用は抗菌薬耐性の増加につながるため、今回のCOVID-19の世界的大流行中は抗菌薬の適正使用の支援が重要な意義を持つことを、これらの知見は示している。他の研究により、今回の世界的大流行中の英国におけるアジスロマイシン使用の増加のエビデンスが報告されている」とまとめ、「これまでのエビデンスと今回の知見を統合すると、市中でも病院でも、アジスロマイシンはルーチンの使用を正当化する十分な有効性を持つ治療ではないことが示唆される」と指摘している。

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第49回 新型コロナ変異株報道が悲劇を生む前に伝えたいこと

最近、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関して、ワクチンと並んで報道量が多いのが、変異株関連である。すでに多くの方がご存じのように日本国内では英国型(B.1.1.7系統:VOC 202012/01)、南アフリカ型(B.1.351系統:VOC 501Y.V2)、ブラジル型(P.1系統)が確認されている。これに加え、最近ではフィリピン型、PCR検査で検出しにくいと言われる仏・ブルゴーニュ型などの報告もある。ただ、先日この変異株に関連したある報道を見て、私はかなり違和感を覚えてしまった。その違和感を紹介する前に、これら変異株についての現時点までの情報を改めて整理しておきたい。現在、日本で一定数の感染者が報告されているのは英国型、南アフリカ型、ブラジル型の3つである。いずれもが感染力が増強するN501Y変異、加えて南アフリカ型、ブラジル型では免疫逃避のE484K変異を持っていることがわかっている。感染性については英国型では最大40%、南アフリカ型では最大50%、ブラジル型では1.4~2.2倍、増強していると報告されている。死亡率に関しては英国型で64%上昇するとの報告があるものの、その他の変異株については不明である。厚生労働省の発表では3月16日時点で、26都道府県の399人の変異株感染事例が判明しており、変異株別では英国型が374人、南アフリカ型が8人、ブラジル型が17人。都道府県別の報告数を見ると、多くの都道府県が英国型のみの報告で兵庫県が94人、大阪府が72人、新潟県が32人、京都府が24人、東京都が14人、北海道が13人、広島県が12人など。また埼玉県は57人が報告され、うち英国型が42人、ブラジル型が15人。神奈川県は28人で、うち英国型が24人、南アフリカ型が4人。岐阜県が南アフリカ型のみ4人、山梨県がブラジル型のみ2人となっている。さて私が疑問に思った報道とは、昨今神奈川県が発表した変異株感染者2人の死亡事例に関してである。国内で初の変異株感染者の死亡例であるため、各紙が一斉に報じた。「コロナ変異株で国内初の死者 神奈川の50代と70代」(朝日新聞)「変異ウイルスに感染、初の死亡事例…神奈川の70代と50代男性」(読売新聞)「コロナ変異株で男性2人死亡 国内で初確認 神奈川県が発表」(毎日新聞)「変異株で国内初の死者 神奈川の男性2人」(産経新聞)「変異ウイルス感染の2人死亡 神奈川県、国内初確認」(日本経済新聞)「変異株で国内初の死者、神奈川 70代と50代の男性」(共同通信)いつもと違い共同通信を加えたのは、地方紙各社などがこの記事を掲載することが多いためだ。さて私見で恐縮だが、この中で私が報じ方として不合格と考えるのが読売新聞と毎日新聞であり、一番高く評価できるのは日本経済新聞。この評価の軸は、死亡した感染者の医学的なバックグラウンドをどれだけ丁寧に報じたかどうかにある。より具体的に説明すると、読売新聞、毎日新聞では報じなかった、死亡者の50代男性は高血圧・脂肪肝の基礎疾患あり、70代男性は基礎疾患なし、さらに日本経済新聞で記述している70代男性は新型コロナの症状で入院に至っていたという情報はいずれも極めて重要である。端的に言ってしまえば、この情報からは、そもそもこの2人は野生株での感染でも重症化や死亡のリスクが高い事例と分かるからである。前述のように変異株での致死性に関しては、英国型で高いとのBMJに掲載された報告があるものの、それ以外は目立った報告はなく、現時点でほぼ不明と言わざるを得ない。ところが新聞報道で基礎疾患の有無などの情報がなければ、「変異株に感染したから死亡した=変異株はただただ恐ろしい」という誤解を与えかねない。この誤解が問題なのは、差別・偏見の温床になるからである。新型コロナパンデミックが始まった当初、感染者や感染者に接する医療従事者に対する差別・偏見事例が数多く報告されたことは記憶に新しい。今でも同様の差別・偏見はなくなっていないが、徐々に減っていると私は感じている。その根拠の一つは例えば匿名性の低いSNSのFacebookでは、最近は感染をカミングアウトする人が増えていることである。それだけ市中感染が広がったということでもあり、誰かが新型コロナウイルスに感染したという事実だけならば、かなりの人が慣れ始めている。ところがそうした状況では、新たに登場した異質なものに多くの人はギョッとする。まさに「変異株」はそうした存在である。余談になるが、慣れっこの世界で新たに感じた異質さは時に悲劇を生む。今は一時休業しているが、私は戦争現場の取材もしている。その中でも最も取材期間が長かった「ボスニア内戦」がまさに新たに感じた異質さが生み出した悲劇の典型である。旧ユーゴスラビアの一構成共和国だったボスニア・ヘルツェゴビナは1992年に独立を宣言するが、その直後から国内では血で血を洗うかのような過酷な内戦が始まった。ボスニア国内の民族宗教に基づく人口構成が、イスラム教徒のボスニャック人が5割強、キリスト教正教徒のセルビア人が3割強、カトリック教徒のクロアチア人が1割という民族宗教のモザイク状態であったため、この3民族が三つ巴戦を繰り広げたというのが内戦に関する通説である。この通説は間違いではないが、私の口からより具体的に説明するならば、「独立を巡って権力闘争を繰り広げた政治家たちが、たまたま民族・宗教の違いを持っており、それぞれが自らを有利にさせるためにその違いを利用して自らの勢力確保と敵対勢力への憎悪をあおり、殺し合いが始まった」となる。短くまとめるなら、民族という皮をかぶった政治家同士の権力闘争である。そしてその実相は、従来はとくに民族や宗教の違いなど意識せずに暮らしてきた者同士が、突如互いが違う、しかも相手は怖いやつらだと宣伝され、顔の見える者同士で殺し合った戦争なのである。私はこの戦争の取材を通じて、「違い」の気づき方次第で人は取り返しのつかない結果を招くという現実を学んだ。話を元に戻すと、変異株については感染性が増強していることはほぼ確実視されている。そのことは正確に伝えなければならず、それだけでも今後感染者の中でも変異株感染者を危険視する風潮が起こる可能性は高い。だが、だからこそ致死性に関しては、意図しなかったものだったとしても過剰な印象を与えるような報道をしてはならない。そのことが実態以上に変異株を危険視させ、差別・偏見を助長させる可能性が高いからである。今回紹介したような「変異株感染者が死亡した」というだけの一部の報道は誤報ではない。しかし、時として解釈のない事実のみを報じることは、正確性を欠く典型事例である。自分もこの報道に接して改めて気を引き締め始めている。最後にこの件に関する地元紙・神奈川新聞の報道は、地元紙という特性も影響したのか、かなり丁寧で正確かつ不安を助長させないよう心がけていると感じた。

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COVID-19、英国変異株は死亡リスクが高い/BMJ

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の英国変異株variant of concern 202012/1(VOC-202012/1)は、感染により死亡リスクが増加する可能性が高いことを、英国・エクセター大学のRobert Challen氏らがマッチングコホート研究の結果、明らかにした。VOC-202012/1は、2020年秋にイングランド南東部で初めて検出されたが、これまで流行している変異株より感染力があり、この変異株の出現は病床稼働率の上昇と死亡率の増加に関連することが知られていた。著者は、「今回の結果が他の集団に対して一般化できるなら、これまで流行している変異型と比較して、VOC-202012/1の感染は著明な死亡率増加の原因となる可能性がある」と指摘している。BMJ誌2021年3月9日号掲載の報告。地域住民を対象とした検査において、約10万人について解析 研究グループは、2020年12月に懸念のある変異株(variant of concern)に指定されたSARS-CoV-2の新しい変異株VOC-202012/1への感染が、他のSARS-CoV-2変異株と比較して死亡率に差があるかを検証する目的で、マッチングコホート研究を行った。対象は、2020年10月1日~2021年1月29日の期間に、TaqPathアッセイ(VOC-202012/1感染の代理測定)を使用している地域のCOVID-19検査センターにてSARS-CoV-2陽性が確認されたVOC-202012/1感染者5万4,906例、ならびにVOC-202012/1感染者と年齢、性別、民族性、貧困指標(index of multiple deprivation)、居住地域、検体採取日を一致させた従来株感染者(対照)5万4,906例であった。VOC-202012/1感染群と対照群は、スパイク蛋白遺伝子の検出有無のみが異なっていた。 主要評価項目は、最初にSARS-CoV-2陽性が確認された日から28日以内の死亡で、2021年2月12日まで追跡した。感染確認後28日以内の死亡リスクは英国変異株VOC-202012/1で1.64倍 追跡期間中における感染確認から28日以内の死亡は、全体で0.3%(367/10万9,812例)に発現した。VOC-202012/1感染群の227例に対し、対照群では141例であり、感染確認から28日以内の死亡のハザード比は1.64(95%信頼区間:1.32~2.04)であった。これは、死亡リスクが比較的低い地域住民集団において、1,000人当たりの死亡が2.5例から4.1例に増加することに相当した。 著者は、「今回の結果を受けて、医療供給体制および国内や国際的な感染管理政策はCOVID-19による死亡を減少させるため、さらに厳格な対策をとるべきと考えられる」とまとめている。

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第49回 日本の科学者が見いだしたイベルメクチンは、コロナ治療の新たな希望か

新型コロナウイルスのワクチンを巡り、不安材料が浮上してきた。世界的なワクチン争奪戦の影響などで、米ファイザー製のワクチンが計画通りに供給されない可能性が出てきたり、英アストラゼネカ製のワクチンにおける副反応疑いが報じられたりしているからだ。翻って、ノーベル医学生理学賞受賞者(2015年)の大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)の研究を基にした抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、日本発の新型コロナウイルス感染症治療薬として期待する声が上がっている。新型コロナ治療薬としては未承認だが、中南米やアフリカ、中東でオンコセルカ症(河川盲目症)や類縁の感染症の治療薬として毎年約3億人が服用し、約30年間、副作用の報告がほとんどないという。イベルメクチンは2012年から、さまざまなウイルスに対する効果が多数報告されている。ヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)やデング熱ウイルス、インフルエンザウイルス、仮性狂犬病ウイルスなどだ。世界25ヵ国が新型コロナ治療薬に採用北里大学では2020年9月から、新型コロナウイルスに対する治療効果を調べる臨床試験を行っている。すでに医薬品として承認されているため、第I相を飛ばし、第II相の治験が実施されている。日本を含め、世界27ヵ国で91の臨床試験が行われており(2021年1月30日現在)、25ヵ国がイベルメクチンを新型コロナ感染症対策に採用している(2021年2月26日現在)。米国FLCCC(Front-Line COVID-19 Critical Care)アライアンスの会長Pierre Kory氏が2020年12月8日、上院国土安全保障と政府問題に関する委員会に証人として登壇した際は、イベルメクチンを新型コロナに対する「奇跡の薬」と評し、「政府はイベルメクチンの効果を早急に評価し、処方を示すべきだ」と訴えた。強力な支持、一方で効果を問う最新論文も…FLCCCは、2020年春以降、新型コロナ治療薬としてのイベルメクチンに関する臨床試験情報を収集・分析し、Webに公開している。これまでの臨床試験から可能性が示唆されているのは以下の通りだ。(1)患者の回復を早め、軽~中等症の患者の悪化を防ぐ。(2)入院患者の回復を早め、集中治療室(ICU)入室と死亡を回避させる。(3)重症患者の死亡率を低下させる。(4)イベルメクチンが広く使用されている地域では、新型コロナ感染者の致死率が著しく低い。さらにKory氏は、WHOがイベルメクチンを「必須医薬品リスト」に入れたことを強調。NIHやCDC、FDAに対し、イベルメクチンの臨床試験結果を早急に確認のうえ、医療従事者らに処方ガイドラインを示すように求めた。一方で、イベルメクチンが新型コロナ軽症患者に対して改善効果が認められなかったという無作為化試験の結果が今月、JAMA誌に掲載された1)。新型コロナを巡っては、ワクチンも治療薬も現在進行形で研究・開発が進み、エビデンスの蓄積と医療者や世間の期待とのバランスが非常に難しい。イベルメクチンが、コロナ治療における新たな希望になり得るのか、今後の研究の行方を注視したい。参考1)イベルメクチン、軽症COVID-19の改善効果見られず/JAMA

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「腫瘍内科専門医」は新専門医制度で何が変わる?/日本臨床腫瘍学会

 日本臨床腫瘍学会の専門医制度は、新専門医制度の中で主に内科を基本領域とする「サブスペシャルティ領域専門医」として日本専門医機構より認定された。名称は「腫瘍内科専門医」とされ、今秋・遅くとも来春からの研修開始を目指して最終調整が進められている。第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO Virtual2021)ではこの新専門医制度についてシンポジウムが開催された。本稿では、その概要について解説した田村 研治氏(島根大学医学部附属病院先端がん治療センター)の講演内容を紹介する。「腫瘍内科専門医」への名称変更に紆余曲折 2018年、日本専門医機構は「がん薬物療法専門医」を新専門医制度における「サブスペシャリティ領域専門医」として承認した。しかし2019年に厚生労働省・医道審議会医師分科会・医師研修部会が発足し、同新制度の問題点を指摘。サブスペシャリティ領域の承認基準や整備指針に不十分な点があるのではないかということで、見直しが図られた。 その結果、最終的に「がん薬物療法専門医」は「腫瘍内科専門医」に名称が変更され、内科のサブスペシャリティ領域の1つとして承認された。腫瘍内科と呼吸器内科で異なるサブスぺ領域の類型とは? サブスペシャリティ領域は、研修実施の時期や考え方に応じて以下の3類型が設けられている。1)連動研修を行い得る領域:内科(ほか基本領域)の3年間の研修中に、いくつかの症例について連動して研修可能(消化器内科、呼吸器内科、血液内科など)2)連動研修を行わない領域:内科(ほか基本領域)の3年間の研修後に開始(腫瘍内科、アレルギー、感染症など)3)少なくとも1つのサブスペシャリティ領域を修得した後に研修を行う領域:(消化器内科→肝臓内科、消化器内視鏡など) このうち、腫瘍内科は2)連動研修を行わない領域に位置づけられ、3年間の基本領域研修中にがんの症例を経験したとしても、研修経験は共有できない。また、複数のサブスペシャリティ領域の同時登録はできないため、例えば連動研修として呼吸器内科の研修を開始していた場合に、同時期に腫瘍内科での研修を開始することはできない。 しかし、サブスペシャリティ領域どうしの症例のオーバーラップは可能であり、田村氏は「例えば呼吸器内科領域で肺がんの症例を診ていて、2つめのサブスぺ領域として腫瘍内科を選択した場合には、双方の学会の同意のもと、腫瘍内科での症例としても認められることとなっている」と説明した。また、新専門医制度は5年をめどに制度が見直されることとされており、「将来的には、腫瘍内科についても連動研修が可能となるよう目指して体制の整備含め動いていきたい」と展望を示した。腫瘍内科専門医は日本内科学会を基本領域とする 旧専門医制度での「がん薬物療法専門医」取得にあたっては、内科のほか外科、産婦人科、泌尿器科など14学会の専門医資格を基本資格としている。しかし、新専門医制度では、「腫瘍内科専門医」は日本内科学会を基本領域とする。この背景には、新制度では多くのサブスペシャリティ領域専門医の取得が実質的に難しいこと(原則として2領域)、「がん薬物療法専門医」取得者の基本領域は86%を日本内科学会が占めることがある。ただし、日本外科学会を基本領域としている医師も10%ほどおり、田村氏は「とくに乳がん領域で多く、今後日本外科学会については基本領域としての追加を検討していきたい」と話した。 なお、この変更は旧専門医制度「がん薬物療法専門医」取得者の更新には影響せず、例えば皮膚科を基本領域として「がん薬物療法専門医」を取得している医師の資格は失われない。腫瘍内科専門医が2024年度頃に誕生の見通し 新専門医制度における内科専門研修1期生は、2018年から3年間の基本領域プログラムを受けており、本来であれば、2021年4月から腫瘍内科等のサブスペシャリティ領域の研修がスタート予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症等の影響で遅れが出ており、基本領域の試験は2021年7月4日に予定されている。「腫瘍内科専門医のモデルカリキュラムは9月頃にはホームページ上で公開予定となっており、J-OSLERの開始も遅くとも来春までには整えたい」と田村氏は説明した。なお、2021年4月からの症例については、さかのぼって実績に含めることができる。 今後数年は旧制度と新制度が並行する形となるが、2024年度頃におそらく最初の腫瘍内科専門医が誕生し、その後最終的には、旧制度は終了する予定との見通しを同氏は示した。参加者からは、「外科などの内科以外を基本領域とするがん薬物療法専門医は腫瘍内科専門医へ移行可能か?」という質問が寄せられた。同氏は、旧制度のがん薬物療法専門医は順次更新が行われるので、新専門医制度による影響は受けないことを説明。名称については今後更新の際に「がん薬物療法専門医」→「腫瘍内科専門医」と変更される可能性はあるが、資格としては変わらず更新が可能とした。

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