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小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~【Dr.伊東のストーリーで語る漢方薬】第6回

小柴胡湯~胸脇苦満と往来寒熱~これまで解説してきた葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)は、いずれも感冒の初期に使うものでした。言い換えると、これらの薬は感冒を患ってから5~6日経った時に使うものではないということです。では、時間が少し経った感冒には何を使えばいいかというのが、今回のお話です。導入として、西洋医学の話をさせてください。感冒に対して西洋医学では、どんな時でも症状に合わせてアセトアミノフェンやデキストロメトルファンなどを使うと思います。つまり、西洋医学では一見すると感冒初期とそれ以降とをそんなに区別していないわけです。しかし、COVID-19の場合はちょっと違いますね。罹患初期には抗ウイルス薬、たとえばレムデシビルなどを使って、ウイルス量を減らしにいきます。少し時間が経ってからは、ウイルスそのものよりも炎症反応によって肺炎が悪化していくため、それを抑えるためにステロイドが重要になってきます。このような感じで、COVID-19では感冒初期とそれ以降を区別します。じつは、漢方薬の考え方もこれにちょっと似ています。葛根湯、麻黄湯、桂枝湯の解説をしている時に、やたら汗の話が出てきたのを覚えているでしょうか(図1)。じつは、感冒初期ではこれらの漢方薬を使うことで発汗を調整して、汗とともに悪いものを体表から体外へと追い出すイメージを昔の人は考えていたんです。図1 感冒初期に対する漢方薬の選び方画像を拡大する一方で、発症してから時間が経ってくると「悪いもの」、要はウイルスのことですね。それが体表や喉のあたりから肺、胃といった横隔膜レベルの臓器まで侵入してしまい、そこでも炎症を起こしてくるわけです。そこまで侵入されると、汗とともに追い出すことができなくなります。そこで、肺や胃のあたりの炎症を鎮静化するために、漢方では柴胡(さいこ)を含む漢方薬を使うことになるわけです。いわゆる柴胡剤。「東洋のステロイド」のイメージです(図2)。図2 COVID-19治療イメージ:西洋医学と漢方医学の比較画像を拡大する柴胡剤柴胡を含む漢方薬を柴胡剤と呼んでいて、その代表格が小柴胡湯(しょうさいことう)です。これを「こしば」なんとかと読まなくなったら、漢方の初心者卒業かなと勝手に思っています。冗談はさておき、小柴胡湯は、柴胡、半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の7種類の生薬で構成されます。大棗と生姜は以前紹介したように、胃腸に優しい生薬ですが、半夏と黄芩は胃のむくみや熱を除いてくれて、人参も胃を温めて支える生薬のため、構成生薬の作用点が胃に集中しているのが特徴的です。また、感冒初期の漢方薬には桂皮(けいひ)が必ずといっていいほど入っていましたが、小柴胡湯ではなくなりました(図3)。桂皮は気逆といって頭のほうに向かう症状を抑えてくれる生薬です。要は頭痛です。感冒初期では頭痛が症状として出やすいですが、少し時間が経つと頭痛はあまり目立たなくなってきますよね。そのため桂皮は要らなくなるのです。図3 小柴胡湯の構成生薬画像を拡大する小柴胡湯は虚実中間の患者に使う漢方薬です。結構幅広い体力の患者さんに使うことができます。一方で、世の中には実証の患者も虚証の患者もいて、その両極に対応する形で柴胡剤の派生処方が存在します。たとえば、実証であれば、便秘を目安に使う大柴胡湯(だいさいことう)、イライラを目安に使う柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)があります。虚証であれば、寒がっているのを目安に使う柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)が該当します。また、症状から桂枝湯と小柴胡湯の中間、つまり過渡期に位置する患者には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)という漢方薬もあります(図4)。たくさん薬が出てきましたが、ここは無理に覚えず、軽く流しておきましょう。図4 柴胡剤の派生処方画像を拡大する胸脇苦満と往来寒熱ここまで柴胡剤というもの紹介しましたが、これらの共通点として「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」というお腹の所見を覚えてください。これは、肋骨弓の下に手を差し入れようとすると強い抵抗がある状態で、柴胡剤を使う目安として重要です(図5)。現代人はストレスを抱えて胃に負担をかけているので、この胸脇苦満が出ている人が結構多いです。ご自身の体に手を入れて確認してみてください。図5 胸脇苦満画像を拡大する日本漢方ではお腹の所見が大事で、個人的には再現性もあるため、学び始めの段階から勉強する価値があると思っています。たとえば、前回まで桂枝湯、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、建中湯(けんちゅうとう)の話をしましたが、こういった「芍薬が要になる漢方薬」が効く人のお腹は腹直筋が張っています。これを「腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)」と呼ぶのですが、昔の人は「お腹に2本の棒を触れる」と表現しています(図6)。図6 腹直筋攣急画像を拡大する最後に、古典で小柴胡湯の話を締めておきましょう。こちらの条文は、長いですね(図7)。図7 小柴胡湯の古典条文画像を拡大する胸脇苦満はさっき出てきましたね。ここで注目してほしいのが「往来寒熱(おうらいかんねつ)」という言葉で、これは潮の満ち引きのように、熱が1日のなかで出たり引いたりすることを指しています。ときどきいませんか? かぜをひいてしばらくたった後に「夜だけ熱が出る」といって受診する方。医者目線だと少し説明に困るものです。これこそが往来寒熱ですね。そういう方は、倦怠感や食欲不振も訴えてくることが多いため、この条文通りの症状になってくるんです。また、この条文にはないですが「口の中が苦い」というのも柴胡剤を使うヒントになります。胃が悪いと舌苔が分厚くなってきて、舌の見た目もちょっと変わってきます。まとめ漢方の世界では感冒初期とそれ以降を区別します。治療のコンセプトも薬の選択肢も異なります。感冒初期が終わってからは、東洋のステロイドこと柴胡剤の出番です。ここでは、小柴胡湯を覚えておきましょう。使用にあたっては、胸脇苦満の存在を確認しておくと、勝率が上がってくると思います。胸脇苦満以外にも往来寒熱という言葉を覚えました。こういう独特の用語を知っていると、漢方の上達が早くなるため、もし余裕があれば、こちらも覚えていってください。次回は、これまでの内容をもう少し俯瞰的におさらいして、漢方の世界ならではの病気の捉え方を一緒にみていきましょう。それでは、お楽しみに!

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COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状発現後72時間以内に、患者の同居家族に対してエンシトレルビルを投与することにより、接触者のCOVID-19発症を抑制できることが示された。米国・バージニア大学のFrederick G. Hayden氏らSCORPIO-PEP(Stopping Covid-19 Progression with Early Protease Inhibitor Treatment for Post-Exposure Prophylaxis) Study Teamが、日本を含む5ヵ国共同で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照試験「第III相SCORPIO-PEP試験」の結果を報告した。エンシトレルビルは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)3CLプロテアーゼの経口阻害薬であり、本邦においては軽症~中等症COVID-19の治療薬として承認されている。これまで、COVID-19患者の同居家族に対する曝露後予防薬として承認された抗ウイルス薬はなかった。NEJM誌2026年5月14・21日合併号掲載の報告。COVID-19発症後72時間以内に、家庭内接触者を無作為化 研究グループは、COVID-19患者(指標患者)の同居家族で試験実施機関においてSARS-CoV-2陰性が確認された12歳以上の家庭内接触者を、指標患者の症状発現後72時間以内にエンシトレルビル(1日目に375mg、2~5日目に125mgを1日1回経口投与)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、修正ITT集団(mITT集団:無作為化され、中央検査機関においてベースラインでSARS-CoV-2のRT-PCR検査が陰性、かつ試験薬を少なくとも1回投与されたすべての参加者)における、試験薬投与後10日以内のCOVID-19発症(中央検査機関でRT-PCR検査が陽性、かつ事前に規定された14のCOVID-19の症状のうち少なくとも1つが48時間以上持続と定義)とした。エンシトレルビル群はプラセボ群と比較しCOVID-19発症リスク67%減 試験は、2023年6月~2024年9月中旬に、米国、アルゼンチン、日本、南アフリカ共和国、ベトナムで行われた。 計2,387例の家庭内接触者が無作為化され(エンシトレルビル群1,194例、プラセボ群1,193例)、このうち中央検査機関においてベースラインでSARS-CoV-2陰性が確認されたエンシトレルビル群1,030例、プラセボ群1,011例が有効性解析対象集団(mITT集団)となった。 試験参加者の平均年齢は42.4歳で、71.1%は指標患者の症状発現後48時間以内に無作為化され、37.0%は重症COVID-19の危険因子(肥満、喫煙、65歳以上など)を少なくとも1つ有していた。 mITT集団における10日目までのCOVID-19発症率は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%であり、エンシトレルビル群で有意に低かった(リスク比:0.33、95%信頼区間:0.22~0.49、p<0.001)。 試験中の有害事象の発現割合は両群で類似しており(エンシトレルビル群15.1%、プラセボ群15.5%)、主な有害事象は頭痛、下痢、鼻咽頭炎、咳、疲労、およびインフルエンザであった。重篤な有害事象の発現割合も同じで(各群0.2%)、COVID-19に関連する入院や死亡は報告されなかった。 なお、著者らは、家庭内感染の可能性には世帯の規模、マスク着用習慣、社会的距離の確保など複数の要因が影響する可能性があるが、これらのデータを収集できなかった点で結果は限定的だとしている。

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第62回 コンゴでエボラ流行、87人死亡。私たちが知らない落とし穴

2026年5月17日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ・コンゴ民主共和国の東部イトゥリ州で発生しているエボラ出血熱の流行を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言しました1)。アフリカ連合によれば、すでに87例が亡くなり、疑い例を含めると336例の感染が判明しているとされています。隣国ウガンダではコンゴ人男性の死亡例もすでに報告されており、周辺国への波及が強く警戒される事態となっています2)。「またエボラ?」と思った方も多いかもしれません。「エボラのワクチンはあるって聞いたけど、どうして今も流行を抑えられないんだろう?」そんな素朴な疑問を抱いた方もいるかもしれません。実は、今回のニュースを少し立ち止まって整理してみると、その「あるはずのワクチン」の話に、知っておきたい大切な落とし穴が隠れています。そもそもエボラとは、どんな病気?エボラウイルス病は、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる感染症です。潜伏期間はおよそ6〜12日(最短2日、最長21日)で、発症後は突然の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、倦怠感など、決して特徴的とはいえない症状から始まります3)。数日のうちに嘔吐や下痢が加わり、大量の体液の喪失をきたすことが、その病態の中心になります。「出血熱」という名前が独り歩きしている感がありますが、実際には出血が目立つ患者さんは少数派で、多くは脱水と臓器の障害、ショックで命を落とします3)。致死率は流行ごとに大きく異なります。1976~2022年までの集計によれば、ザイールウイルスで約66.6%、スーダンウイルスで約48.5%、そして今回コンゴで検出されたブンディブギョウイルスでは約32.8%とされています4)。「3割」と聞くと低く感じるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の致死率が1%前後であったことを思えば、いかに恐ろしい数字かが分かるかと思います。感染は、症状のある患者さんや亡くなった方の血液・体液との直接接触によって起こります。空気感染はしません。つまり、感染拡大の主役となるのは、家族の看病、葬儀での遺体への接触、そして十分な防護具なしで治療にあたる医療者です3)。逆にいえば、「症状のない人」からはうつらない。これも知っておきたい大切なポイントです。なぜ「緊急事態宣言」がそんなに重い意味を持つのかWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言するのは、その感染症が「国境を越える拡大リスクがあり、国際協調的な対応が必要」と判断されたときに限られます。これまでに発令されたのは、新型インフルエンザ(H1N1)、ポリオ、エボラ(西アフリカ流行、東部コンゴ流行)、ジカウイルス、新型コロナウイルス、エムポックスなど、ごく限られた事例です。つまりPHEICは、「世界中で警報を共有しましょう」「物資、人材、検査体制を国際的に動かしましょう」という、最上位レベルの号令です。今回もWHOは、コンゴと国境を接するウガンダや南スーダンへの飛び火を念頭に、検査強化や接触者追跡の必要性を強く訴えています2)。日本に直接的な影響が及ぶ可能性は現時点では高くはないものの、グローバル化した現代において、こうした宣言を「対岸の火事」と片付けるのは適切ではないと、私は考えています。エボラに対する承認済みのワクチンは?実は、エボラに対しては承認済みのワクチンがあります。「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と呼ばれるもので、2019年に欧米で承認され、その後アフリカ複数カ国でも使用が認められました。すでに30万人を超える人に接種されています5)。流行が発生すると、患者の接触者と、そのまた接触者にワクチンを打つ「リング・ワクチネーション」という戦略が用いられ、実際の流行抑制に効果を上げてきました6)。では、なぜ今回はそれができないのでしょうか。実は、承認されているErveboは、エボラウイルスの中の「ザイールウイルス」専用のワクチンであり、今回検出された「ブンディブギョ株」に対する有効性は確立されていないのです5)。エボラウイルス属にはザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレストなど複数の種が含まれ、それぞれ抗原性(ウイルスの顔立ち)が異なります。実験動物のデータでも、ザイールウイルス向けワクチンはスーダンウイルスにはうまく反応しないことが示されており、ウイルスが違えば効果はなくなる、というのが現実です5)。承認されている治療薬(atoltivimab/maftivimab/odesivimab[商品名:Inmazeb]やansuvimab[商品名:Ebanga]など)も同様に、ザイールウイルスにのみ有効性が確認されている薬剤です5)。ではなぜ、ブンディブギョ向けのワクチンが整備されてこなかったのか。理由は単純で、これまでブンディブギョの流行が散発的かつ小規模で、製薬開発の優先順位がどうしても下がってきたからです。2014年の西アフリカ大流行(約2万9,000例感染)が世界を震撼させ、Erveboの開発が一気に進んだことを思えば、対照的な状況といえます5)。これは「市場原理だけにワクチン開発を委ねるとどうなるか」という、グローバルヘルスにおける古くて新しい問題でもあります。流行が起きるまで開発の動機が生まれず、いざ流行すれば「ワクチンがない」と慌てる。この繰り返しを断ち切るために、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)など国際的な枠組みが動いてはいますが、まだ十分とは言いがたいのが実情です。日本に住む私たちが今すぐエボラそのものを過剰に恐れる必要はないでしょう。感染経路は限定的で、症状のない人からは感染しないからです。ただ、海外渡航前後の発熱を安易に放置しないこと、そして「アフリカで起きていることは、いずれ自分たちの問題にもなり得る」という視点を持つことは、パンデミックの時代に大切な姿勢かもしれません。今回のニュースは、感染症が今なお人類にとって克服しきれない相手であること、そして国家間で協力してワクチン開発を進める難しさを、改めて教えてくれているように思います。 1) WHO. Epidemic of Ebola Disease caused by Bundibugyo virus in the Democratic Republic of the Congo and Uganda determined a public health emergency of international concern. 2026 17 May. 2) 共同通信. コンゴのエボラ熱、緊急事態宣言 WHO、東部の州で死者87人. 2026年5月17日. 3) Bray M, et al. Clinical manifestations and diagnosis of Ebola disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 4) Izudi J, et al. Case fatality rate for Ebola disease, 1976-2022: A meta-analysis of global data. J Infect Public Health. 2024;17:25. 5) Chertow DS, et al. Treatment and prevention of Ebola and Sudan virus disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 6) Muyembe JJ, et al. Ebola Outbreak Response in the DRC with rVSV-ZEBOV-GP Ring Vaccination. N Engl J Med. 2024;391:2327.

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インフルエンザmRNAワクチンの予防効果を臨床症状で判定(解説:栗原宏氏)

Strong point・インフルエンザmRNAワクチンの有効性を、実臨床に即した「PCR+臨床症状」を基準として大規模な第III相試験で示した・mRNAワクチンが従来型ワクチンに比して、非劣性にとどまらず優越性まで証明したWeak point・ハイリスク患者に対して従来型ワクチンより有効性が示されている高用量ワクチン、アジュバント添加ワクチンとの比較がなされていない・インフルエンザB型に対しては十分な解析ができていない 本調査は、50歳以上を対象とした4万人規模のインフルエンザmRNAワクチン(モデルナの開発製品mRNA-1010)の第III相試験である。効果判定を抗体価ではなく、RT-PCRでインフルエンザ陽性に加え、全身症状(37.2℃超の発熱、悪寒、発熱感、倦怠感、頭痛、筋肉痛)および呼吸器症状(咽頭痛、咳、喀痰、喘鳴、呼吸困難)を有するという実臨床に即した症候を基準としてその発症予防に設定しており、臨床的な意義が大きいものとなっている。 本論文によれば、従来型ワクチンの症候性インフルエンザ発症率2.8%に比してmRNAワクチンでは2.0%であり、本論文で事前規定された非劣性基準および優越性基準はいずれも達成された。重症化の評価に関しては本調査の主題ではなく、症例数自体も少ないが、医療機関受診を伴うイベント80例(従来型120例)、高次医療22例(同42例)、入院4例(同8例)と全体的にmRNAワクチンのほうが少ない傾向があることが示されている。 一方で副反応も高率に出現し、注射部位の痛み65.8%(従来型29.8%)、倦怠感45.1%(同20.3%)、筋肉痛35.4%(同11.6%)となっている。これらの症状は軽症~中等度であり、多くは1~2日で消失し、重大な有害事象の発生率には差がなかった。 筆者個人としては、統計学的には有意な差が示されたとしてもNNT(治療必要数)は約137と効果自体は大きいとは言い難く、副反応の発生割合が高い点は気になるところである。加えて、インフルエンザワクチンは毎年実施する、対象者数が多い、大多数は軽症で自然軽快する、おそらくワクチンの価格が高いことを踏まえると費用対効果に乏しいと思われる。 今後、すでにメタ解析によって高齢患者を対象として有効性が示されている高用量ワクチン、アジュバント添加ワクチンとmRNAワクチンと罹患予防、重症化予防の直接比較や、年次比較による効果の安定性が明らかになることが期待される。【用語】高用量ワクチン 高齢者・基礎疾患のある患者など、免疫応答が弱い患者に従来型ワクチンより数倍の高用量の抗原を投与する。入院リスクを減少させることが示されている。アジュバント添加ワクチン ワクチンに対する免疫応答を高めるために免疫賦活剤を添加したもの。外来受診、入院リスクを減少させることが示されている。

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第295回 MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省

<先週の動き> 1.MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省 2.備蓄手袋を医療機関向けに供給 18日から申請開始/厚労省 3.がん拠点病院の整備指針見直しへ 2030年度から実績要件を強化/厚労省 4.東京都で麻しん急増、緊急ワクチン接種開始 接触後72時間以内が鍵/JIHS 5.電子カルテ停止で診療一時停止 市立奈良病院、再発防止へ検証/奈良県 6.病院再編に現場反発、4割が退職希望 静岡市立清水病院/静岡県 1.MMRワクチン、約30年ぶり国内使用へ 麻しん拡大下で定期接種化を検討/厚労省厚生労働省は5月11日、第一三共の麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチン「ミムリット皮下注用」を承認した。3疾患を1度に予防するMMRワクチンで、効能・効果は「麻しん、おたふくかぜ及び風しんの予防」。国内でMMRワクチンが使用されるのは約30年ぶりとなる。ミムリットは、現在定期接種の対象となっている第一三共の麻しん・風しん2種混合ワクチンに、世界で広く用いられているおたふくかぜワクチン株を組み合わせた3種混合の弱毒生ワクチンである。添付の溶剤0.7mLで溶解し、その0.5mLを1回皮下に注射する。接種対象は生後12ヵ月以上で、性別や年齢にかかわらず接種可能とされるが、具体的な接種年齢は学会などの最新情報を踏まえ総合的に判断する。明らかな発熱がある人、免疫機能に異常がある人や免疫抑制治療中の人、妊娠していることが明らかな人などは接種不適当者とされる。わが国では1989年に別のMMRワクチンが定期接種に導入されたが、含有されていたおたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎の発生が社会問題となり、1993年に事実上中止された。今回のミムリットについて厚労省は、国内第III相臨床試験で小児約400例に無菌性髄膜炎の発現は認められなかったこと、含まれるムンプスウイルス株がWHOで事前認定された株の1つであること、海外で豊富な使用実績があり、無菌性髄膜炎の発現率が相対的に低いとの報告がある株を選択したことなどを踏まえ、リスクは許容可能と判断した。現在、麻しん・風しんはMRワクチンとして定期接種の対象だが、おたふくかぜワクチンは任意接種で自己負担となっている。おたふくかぜは無菌性髄膜炎、脳炎、難聴などの合併症を起こし得る。2015~16年の流行では成人を含め少なくとも359例がムンプス難聴と診断され、医学系学会が定期接種化を要望してきた。海外では120ヵ国以上で定期接種化されており、ミムリットの承認により、接種回数の削減と保護者負担の軽減、さらにおたふくかぜ対策の前進が期待される。 参考 1) 麻疹・おたふく・風疹のMMRワクチン承認 約30年ぶり使用へ(毎日新聞) 2) MMRワクチン、国内でも使用可能に-第一三共の「ミムリット」承認取得(日本医事新報) 3) 第一三共の3種混合ワクチン承認 はしかと風疹におたふく追加(日経新聞) 4) 厚労省 第一三共のMMRワクチン・ミムリット皮下注用を承認 2つの再生医療等製品も(ミクスオンライン) 2.備蓄手袋を医療機関向けに供給 18日から申請開始/厚労省厚生労働省は、中東情勢悪化による医療用物資の供給不安を踏まえ、国が備蓄する医療用手袋のうち、まず5,000万枚を医療機関向けに放出する。医療用手袋は現時点で全体としてただちに不足する状況ではないが、通常量を超える発注や一般のネット通販で取引が停止されており、歯科診療所など一部の医療機関で確保困難が生じている。国は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、非滅菌手袋などの個人防護具を備蓄しており、今回の放出は需給の偏在を緩和する措置となる。要請は医療機関等情報支援システム「G-MIS」を通じて行う。医療機関は週次調査で在庫量、1週間の想定消費量、1週間の購入見込み量を入力し、あわせて販売業者であるアスクルの専用サイトに施設名、住所、医療機関コード、メールアドレスなどを登録する。都道府県が要請内容と配布要否、枚数を確認し、厚労省が承認した後、対象医療機関のリストが販売業者に送られ、医療機関は案内メールを受けて購入手続きを行う。G-MISでの申請が困難な場合は、都道府県への相談による個別シート対応も用意されている。対象となるのは、在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた量の4週間分」を下回る医療機関である。購入可能数は想定消費量2週間分を基準に1,000枚単位で切り上げ、1セット1,000枚から購入できるほか、セット単位でサイズ指定も可能とされる。第1弾は5月18日午前9時から20日午後5時まで申請を受け付け、以後も毎週水曜午後5時締めで受け付ける予定。感染対策資材の不足は、病院、歯科、在宅、訪問看護など幅広い診療継続に直結する。医療機関には、在庫と使用量を踏まえた適正申請が求められ、国と都道府県には配送状況や追加放出の情報を迅速に示す対応が求められる。 参考 1) 中東情勢を踏まえた医療用手袋の放出について(厚労省) 2) 上野厚労相「国備蓄の手袋5千万枚を放出」 中東情勢影響による医療機関での不足受け(産経新聞) 3) 医療用手袋 5月18日から購入申請受け付け開始 政府備蓄放出分(NHK) 4) 国備蓄の医療用手袋放出発表うけ 看護現場からは安堵の声(日本テレビ) 3.がん拠点病院の整備指針見直しへ 2030年度から実績要件を強化/厚労省厚生労働省は5月14日に「がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、がん診療連携拠点病院などの整備指針見直し案を示した。柱となるのは、がん医療の高度化と人口減少を踏まえた「集約化」と「均てん化」の切り分けである。2026年夏ごろに新たな整備指針を取りまとめ、2027年度から新体制を始める見通し。とくに注目されるのは、がんゲノム医療体制の強化である。厚労省は2026年度の指針改定で、がん診療連携拠点病院などが「がんゲノム医療中核拠点病院」「同拠点病院」「同連携病院」のいずれかに指定されていることを「望ましい要件」とし、2029年度の改定時には必須要件化する方針を示した。がんゲノム医療の進展により、患者ごとに最適な薬物療法を選択する重要性が高まっているためである。ただ、2026年4月1日時点で地域がん診療連携拠点病院357施設のうち、がんゲノム医療中核拠点病院などの指定を受けているのは7割弱にとどまる。別資料でも、2026年3月時点で拠点病院等463施設のうち指定済みは295施設(63.7%)とされ、遺伝カウンセリング体制、C-CATへのデータ登録、エキスパートパネル実施などが課題となっている。手術療法と放射線療法についても、実績要件の厳格化が進む。現行指針では、地域拠点病院の要件として、悪性腫瘍の手術年400件以上、放射線治療の延べ患者年200人以上などの絶対数要件がある一方で、同一がん医療圏に1施設のみの場合は、地域患者の約2割を診療していれば要件を満たす「カバー率要件」も認められている。厚労省は2029年度の見直しでこの緩和要件を廃止し、2030年度から手術年400件以上、放射線治療年200人以上を必須要件とする方向。現在、手術件数を満たさず、カバー率で指定されている施設は13施設、放射線治療の基準を下回る地域拠点病院は38施設ある。また、手術、放射線治療、薬物療法の実績や専門職配置、機器情報などを都道府県に報告し、都道府県がん診療連携協議会の求めに応じて情報提供すること、診療実績をウェブサイトなどで公表することも必須要件とする。協議会には、地域でどの医療を集約し、どの医療を身近に提供するかを議論する役割が期待される。その一方で、ワーキンググループでは、拠点病院が減少した場合の地域医療の質や患者アクセスへの影響を懸念する意見も出た。集約化は質の維持や人材確保には不可欠だが、患者や住民に必要性をわかりやすく説明し、地域がん診療病院や周辺医療機関との連携を強めることが求められる。今回の見直しは、がん医療を「どこでも同じ」から「高度医療は集約し、継続診療は地域で支える」体制へ再編する転換点となる。 参考 1) 第10回がん診療連携拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ(厚労省) 2) がん拠点病院、ゲノム中核指定を「望ましい要件」に 整備指針改定で 29年度からは必須要件化(CB news) 3) がん診療連携拠点病院、2030年度から「ゲノム中核拠点病院等であること」を必須要件へ-がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 4.東京都で麻しん急増、緊急ワクチン接種開始 接触後72時間以内が鍵/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2026年第18週(4月27日~5月3日)の麻しん(はしか)報告数は23例で、年初からの累計は462例となった。過去10年で患者数が最多だった2019年の同時期467例に迫る水準で、感染は首都圏を中心に広がっている。累計では東京都226例が最多であり、神奈川県41例、鹿児島県34例、埼玉県33例、千葉県28例、愛知県25例と続く。東京都では5月14日までに239例の患者が確認され、現在の集計方法となった2008年以降で過去2番目、過去10年では最多となった。麻しんは空気感染する極めて感染力の強い感染症で、免疫を持たない人が同じ空間にいれば、ほぼ感染するとされる。発熱、咳、発疹などを来し、肺炎、中耳炎、脳炎などを合併し、重症化すれば死亡することもある。国内は麻しんウイルスが定着していない「排除状態」とされるが、今年の患者の約7割は国内感染とみられ、海外から持ち込まれたウイルスが国内で連鎖している可能性がある。5月5日には埼玉県所沢市のベルーナドームで野球観戦した来場者の麻しん陽性が判明し、ゴールデンウイーク後の拡大が警戒されている。東京都は感染拡大を受け、保健所が接触者と特定した都民のうち、接触から72時間以内で、麻しんの既往がなく、接種歴が不明または1回以下の人を対象に、5月18日から都内8ヵ所の感染症指定医療機関で無料の緊急ワクチン接種を始める。接触後72時間以内の接種により、発症を予防できる可能性があるためだ。厚生労働省も、子どもの定期接種の徹底に加え、乳幼児や渡航者と接する機会の多い職種で未接種者に接種検討を呼びかけている。医療機関での対応も重要になっている。国立国際医療センターでは、病棟勤務の医療従事者2人と外来受診患者1人の麻しん陽性が判明した。職員2人は麻しん含有ワクチンを複数回接種済みで、修飾麻しんでは典型例より症状や感染性が低い傾向があるとされるが、同院は通常の麻しん発生時に準じ、接触者調査、免疫確認、健康観察を実施している。疑い患者には事前連絡を求め、一般患者と動線や診察時間を分け、医療従事者はN95マスクを着用するなど、院内感染対策の徹底が求められる。背景には、世界的なワクチン接種率の低下がある。新型コロナ禍で接種機会が失われ、医療資源もコロナ対応に偏った。麻しん流行国は2024年に59ヵ国と2022年の1.6倍に増え、集団免疫に必要とされる95%以上の接種率を1回目接種で達成した国・地域は、2019年の84から2024年には69に減少した。わが国でも麻しんワクチン1回目の接種率は2024年度に92%と、2008年度以降で最低となった。ワクチン供給の混乱に加え、否定的な印象の拡大も指摘されており、麻しん対策は国内流行への対応にとどまらず、予防接種への信頼回復を含む公衆衛生上の課題となっている。 参考 1) 世界でワクチン離れ、接種率「コロナ前」遠く はしか流行1.6倍の59カ国(日経新聞) 2) 麻疹報告数462例に、過去10年で最多だった2019年同時期に迫る(日経メディカル) 3) はしか感染者 過去10年で最多の2019年に迫るペースで増加(NHK) 4) 東京都 はしか感染拡大で接触者に無料ワクチン接種の緊急対策(同) 5) はしか患者10年で最多の東京都、ワクチン緊急接種の開始を発表…患者との接触者が対象(読売新聞) 6) 当院職員の麻しん発症に関するご報告(国立国際医療センター) 7) 当院受診患者の麻しん発症に関するご報告(同) 5.電子カルテ停止で診療一時停止 市立奈良病院、再発防止へ検証/奈良県奈良市の市立奈良病院で4月に電子カルテなどのシステムに異常が検知され、外来診療や救急受け入れが一時停止した問題で、市は原因究明と再発防止に向け、情報セキュリティーの専門家らによる第三者委員会を設置する方針を明らかにした。病院では4月21日夜、ネットワーク監視装置が異常な通信を検知。電子カルテなどに関係するサーバーをネットワークから切り離したため、電子カルテの入力や閲覧ができなくなった。これを受け、同病院は翌22日から2日間にわたり、救急患者と一般外来患者の新規受け入れを停止した。外来診療や救急搬送の受け入れは4月24日朝から通常通り再開したが、その後も受付、会計、一部診療、診療報酬関連システムなどで復旧作業が続き、業務に遅れが生じていた。奈良市は5月13日午後、残っていたシステムを含め、すべての復旧作業が完了したと発表した。現時点で、異常の原因は明らかになっていない。サイバー攻撃の疑いも含めて検証が必要とされており、市は6月初めごろにも第三者委員会を開き、病院側の分析の妥当性を外部の専門家が確認する。仲川 げん市長は記者会見で、「日常の病院業務がいとも簡単に止まってしまうリスクを今回感じた」と述べ、原因を分析した上で国に報告し、全国の自治体にも事例を共有できるよう取り組む考えを示した。今回の障害は、電子カルテや会計、診療報酬請求など、病院運営の基盤となる情報システムが停止した場合、地域の救急・外来機能にただちに影響が及ぶことを改めて示した。医療機関では、サイバー攻撃対策だけでなく、異常検知後の初動対応、ネットワーク遮断時の診療継続体制、紙運用への切り替え、復旧手順、自治体や国への報告体制などを含めた事業継続計画の実効性が問われている。第三者委員会の検証結果は、自治体病院を含む全国の医療機関にとっても重要な教訓となりそうだ。 参考 1) サイバー攻撃疑いで診療停止の市立奈良病院 原因究明に向け、奈良市が第三者委員会設置へ(産経新聞) 2) 市立奈良病院のシステム障害 完全復旧し原因解明へ(NHK) 3) 電子カルテシステムの大規模障害、市立奈良病院は全てのシステムが復旧したと明らかに…第三者委員会で検証(読売新聞) 6.病院再編に現場反発、4割が退職希望 静岡市立清水病院/静岡県静岡市は、20年連続で赤字が続く市立清水病院について、清水厚生病院との一体的運用と指定管理者制度の導入により、市立病院としての存続を図る方針を示した。開始目標は2027年4月。市立清水病院は463床、29診療科を持つ総合病院だが、稼働病床は291床にとどまる。2025年度の赤字額は29.5億円、赤字率は29.9%に達する見込みで、市は従来型の改善策では再建困難と判断した。背景には、清水区全体の医療需要の縮小がある。市立清水病院のほか、154床の清水厚生病院、159床の清水さくら病院が存在するが、人口減少下で各病院が同じ機能を維持すれば、患者と症例が分散し、医師確保や若手医師育成にも悪影響を及ぼす。市は「共倒れ」を避けるため、清水厚生病院の入院機能を市立清水病院に集約し、約400床規模で一体運用する計画。清水厚生病院は外来診療所として地域医療を継続し、指定管理者の最有力候補には同院を運営するJA静岡厚生連が挙がっている。その一方で、現場の反発は大きい。労働組合のアンケートでは、指定管理導入後も継続勤務を希望する職員は12.0%にとどまり、「退職したい」が41.4%、「悩んでいる」が44.1%を占めた。退職希望の理由は「給与が下がる可能性」が95.5%、「手当がなくなる可能性」が87.2%と、処遇悪化への不安が中心となっている。職員からは、「説明が突然で、行政から見放されたようだ」との声もある。難波 喬司市長は説明不足を認め、職員説明会や個別相談窓口の設置を表明した。市は、指定管理者への転籍に際して数年間の給与水準保障や、市職員としての配置転換も検討する。病院再編は地域医療を守るための選択肢となり得るが、医療提供体制の根幹である職員の納得と定着を欠けば、かえって診療機能の低下を招きかねない。今回の事例は、再編の成否が病床数の最適化だけでなく、雇用不安への対応と現場との合意形成に左右されることを示している。 参考 1) 静岡市、指定管理で赤字病院の存続図る 清水区の市立・公的病院を一体的運用(CB news) 2) 市立病院で職員の4割が「退職したい」 突然の方針表明に「あまりに突然。行政から見放されたような思い」 指定管理者制度の導入で待遇面の悪化を危惧 不十分な説明に怒りと困惑(FNNプライムオンライン) 3) 民営化待遇低下不安視 「退職したい」4割 職員向け説明会へ 静岡市立清水病院(読売新聞) 4) 市立清水病院・清水厚生病院の一体的運営方針発表の静岡市…病院職員反発に市長“説明不足”を謝罪し詳細説明会開催へ(静岡第一テレビ)

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第61回 クルーズ船で広がったハンタウイルス。「アンデスウイルス」の正体と私たちが知っておきたいこと

2026年4月、アルゼンチンを出港したクルーズ船で発生したハンタウイルスの集団感染が、世界中の関心を集めています。WHOによれば、これまでに少なくとも8人が感染し、うち3人が亡くなっています。原因として同定されたのは、南米で知られる「アンデスウイルス」と呼ばれるウイルスでした。この聞き慣れないウイルスは、これまで知られているハンタウイルスの中で唯一、ヒトからヒトへの感染が確認されているという、少し特殊な存在でもあります。今回はその全体像を整理してみたいと思います。ネズミからヒトへ、そしてヒトからヒトへハンタウイルスは、Hantaviridae科Orthohantavirus属に属するRNAウイルスの総称で、世界に40種以上、そのうち22種ほどがヒトに感染することが知られています。共通しているのは、いずれも野生のげっ歯類を自然宿主としている点です。アンデスウイルスの宿主は、南米南部に生息する「コリラルゴ」と呼ばれる小型のネズミで、アルゼンチンとチリのアンデス山脈周辺に広く分布しているそうです。通常の感染ルートは、ネズミの尿・糞・唾液に含まれるウイルスがエアロゾル化し、それをヒトが吸い込むことです。換気の悪い物置や山小屋の掃除など、屋内での曝露がとりわけ危険とされています。典型的には、ネズミに咬まれたり直接触れたりした記憶がなく、知らないうちに吸入してしまっていたケースが大半のようです。ここで重要になるのが、アンデスウイルスだけが備える「ヒト-ヒト感染」の能力です。アルゼンチンで起きた大規模アウトブレイクでは34人が感染し、11人が亡くなりました。家族内、とくに性的パートナー間での感染リスクが、ほかの同居者の十数倍高いことも疫学研究から報告されています。最も感染伝播しやすいのは発症前後の初期段階で、血液・唾液・呼吸器分泌物・尿からウイルスRNAが検出されるため、症状が出る前から感染源になり得るのです。とはいえ伝播には「濃厚かつ長時間の接触」が必要とされており、新型コロナウイルスのように街中で容易に広がるものではないと報告されています。今回のクルーズ船の事例で問題になっているのも、まさに長期航海という限定された空間で乗員乗客が密に過ごしたという特殊な条件です。WHOは濃厚接触者に対して、1潜伏期分にあたる約45日間の健康監視や隔離を勧告しており、複数の国にまたがる追跡調査が現在も進められています1, 2, 3)。風邪のような症状から数時間で急変する「ハンタウイルス心肺症候群」潜伏期間は感染源への曝露から2〜3週間(中央値14〜18日、最長で7週間)と長く、初期の症状はそれほど特徴的ではありません。発熱・悪寒・激しい筋肉痛(とくに大腿や腰背部)、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった、いわゆる「胃腸症状を伴うインフルエンザのような」経過をたどります。鼻水や咽頭痛など、上気道の症状をほとんど欠くというのが、いわゆる「風邪」との区別のヒントになります。この「前駆期」は2〜8日ほど続きます。問題はその後です。「ハンタウイルス心肺症候群」と呼ばれるこの病態の本質は、血管内皮の機能不全によるびまん性の毛細血管漏出にあります。ウイルスはβ3インテグリンなどを介して血管内皮細胞や血小板に侵入し、サイトカインの放出と血管透過性の亢進を引き起こします。その結果、肺胞内に大量の血漿成分が漏れ出して非心原性肺水腫を生じ、同時に心筋抑制から心原性ショックに陥ります。乾性咳嗽と呼吸困難の出現を皮切りに、数時間という単位で肺水腫、ショック、不整脈、凝固障害へと急速に進行し、亡くなる方の多くは心肺期に入ってから最初の24時間以内に命を落としてしまいます。検査では、血小板減少、白血球増多と幼若球の出現、免疫芽球の増加、血液濃縮、LDHの上昇といった所見が鋭敏な手がかりになります。確定診断は、ELISAによる血清IgM/IgG抗体検出と、PCRによるウイルスRNA検出で行います。致死率は、アンデスウイルスなどの重症型で30〜50%、軽症型でも10〜30%と非常に高いのが特徴です。生存できた場合でも、倦怠感や息切れが数ヵ月にわたって残ることがあり、急性期を乗り越えても回復には時間がかかると報告されています1, 4)。治療の鍵は「早期搬送」、そして私たちにできる予防策ハンタウイルスに対する特効薬は、残念ながらありません。リバビリンは腎症候性出血熱には有効ですが、心肺症候群に対する効果は複数の臨床試験で否定されています。ステロイドの有用性も示されていません。したがって治療の中心は、集中治療による全身管理になります。人工呼吸器、循環作動薬、そして体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた呼吸循環補助が、命を救う鍵を握ります。毛細血管漏出が進む病態のため、敗血症と異なり「輸液は控えめに、昇圧薬は早めに」というのが治療の原則です。実際、ECMOを要する重症例でも救命率は60%を超えると報告されており、「疑った段階で、ECMOが使える施設へ早く搬送する」ことが予後を左右する最重要事項のようです。予防はまず、ネズミとの接触を断つことに尽きますが、アンデスウイルス患者を診る医療従事者には、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋による空気感染予防策が推奨され、濃厚接触者は1潜伏期分(約45日)の健康監視あるいは隔離が求められます。ワクチンは現時点で承認されておらず、曝露を避けることが唯一の現実解と言ってよいでしょう2, 4, 5)。パンデミックに至るリスクをどう見るかここで気になるのが、「ハンタウイルス、とくにアンデスウイルスがパンデミックを引き起こす可能性はあるのか」という点ではないでしょうか。結論からお伝えすると、現時点でその可能性は低いと考えられています。理由は大きく2つあります。1つ目は感染経路の特性です。ハンタウイルスの主たる感染経路は、あくまでネズミからのエアロゾルです。アンデスウイルスは唯一ヒト-ヒト感染を起こしますが、それも「濃厚かつ長時間の接触」が必要で、咳やくしゃみで広がる新型コロナやインフルエンザのような効率の良い飛沫感染ではありません。実際、基本再生産数(R0)は1前後と推定されており、適切な隔離下であれば速やかに収束しやすい性質を持ちます。2つ目は、「重症度の高さ」そのものが拡大の歯止めになっているという点です。30〜50%という致死率はこのウイルスの恐ろしさを示すものですが、感染者は急速に発症し、短時間で歩行すら困難な状態に陥ります。社会の中を動き回って他人に伝播させるという、パンデミックを成立させる動線がきわめて作りにくいのです。ただし、安心しきってよいわけでもありません。発症前から感染伝播する可能性があること、気候変動や森林伐採で宿主となるネズミの分布が変動していること、そして今回のように長期クルーズや国際移動によって、本来「南米南部の風土病」だったウイルスが思わぬ場所に運ばれ得ること。これらは公衆衛生上の警戒シグナルとして決して軽視できません。今後アンデスウイルスの新たな変異の獲得により、効率的な飛沫感染能を獲得すれば、状況は一変する可能性もないわけではありません。だからこそ、WHO・CDC・各国当局による監視と早期対応が欠かせないでしょう2, 3, 5)。クルーズ船という閉鎖空間で起きた今回のアウトブレイクは、本来「南米の風土病」と思われていたウイルスが、国境を越えて広がり得ることを示す出来事です。日本国内での流行リスクは依然として低いと考えられますが、流行地への渡航歴がある発熱患者さん、とくに筋肉痛と血小板減少を伴う症例では、本疾患を鑑別の片隅に置いておきたいところです。早く疑い、早く動くこと。それが、この致死率の高い感染症と向き合うために大切なアクションです。1)Vial PA, et al. Pathogenesis, epidemiology, and diagnosis of hantavirus infections. UpToDate. 2026 May 8.2)World Health Organization. Disease Outbreak News: Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. 2026 May 4.3)Martinez VP, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.4)Harkins M, et al. Hantavirus cardiopulmonary syndrome. UpToDate. 2026 May 8.5)Shmerling RH. Hantavirus explained: What to know after the cruise ship outbreak. Harvard Health Publishing. 2026 May 6.

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ある種の抗うつ薬がLong-COVIDの疲労改善に有効か

 抗うつ薬の一種が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に持続する疲労の改善に有効な可能性が報告された。マクマスター大学(カナダ)のEdward Mills氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に3月31日掲載された。同時に評価された血糖降下薬のメトホルミンに関しては、有効性が示されなかったという。 COVID-19の急性期以降にさまざまな症状が遷延化する、いわゆる「Long COVID」は、いまだ世界中の多くの人の生活の質(QOL)を低下させている。特に疲労は、最も一般的で生活機能に大きな影響を及ぼす症状とされる。Long COVIDの治療手段としてこれまでに、抗うつ薬のフルボキサミンと血糖降下薬のメトホルミンが有効な可能性が、観察研究などで示唆されている。ただし、ランダム化比較試験(RCT)による確固たるエビデンスは確立されていない。これを背景にMills氏らは、Long COVIDに伴う代表的な症状である疲労に焦点を当てRCTを実施した。 研究参加者は、ブラジル国内の医療機関の外来患者のうち、新型コロナウイルスに感染後90日以上経過しても疲労が持続している成人399人だった。フルボキサミン群、メトホルミン群、およびプラセボ群の3群にランダムに割り付けて、各薬剤を60日間投与した。 その結果、フルボキサミン群では、60日後の疲労がプラセボ群より改善しており(疲労重症度尺度〔FSS〕の平均差-0.43〔95%信用区間-0.80~-0.07〕)、優越性の事後確率(プラセボより優れている可能性)は99.0%と計算された。また90日後にもその効果が持続しており(同-0.58〔-0.98~-0.16〕)、優越性の事後確率は99.7%と計算された。 一方、メトホルミンに関しては、60日後のFSSの平均差が-0.03(-0.42~0.37)で優越性の事後確率が56.0%、90日後は-0.04(-0.47~0.38)で同57.8%であり、プラセボとの差が示されなかった。なお、フルボキサミン群の有害事象の発生率は20.0%であり、メトホルミン群の28.8%やプラセボ群の29.7%より低かった。 論文の上席著者であるMills氏は、「本研究はエビデンスに基づく治療法につながる重要な前進だ。フルボキサミンとメトホルミンは、どちらも比較的安価で入手しやすく、かつLong COVIDによる疲労に有効な可能性が報告されていたが、その有効性の検証を目的とした厳格な臨床試験はこれまで行われていなかった」と述べている。 また、論文の責任著者であるブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJamie Forrest氏は、「今回の試験結果はLong COVIDに伴う疲労を軽減する薬物治療に関する初めての有力なエビデンスと言える。患者は今すぐに試すことのできる薬剤を求めており、われわれの発見によってその実現に近づいた」としている。 なお、研究者らは、フルボキサミンが最も有効と考えられる患者の特徴を明らかにすること、および、疲労改善のメカニズムを理解するために、今後のさらなる研究の必要性を強調している。

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第59回 新たな変異コロナウイルス「セミ」について私たちが知っておくべきこと

パンデミックから数年が経過し、私たちの生活はすっかり日常を取り戻しました。いわゆる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のニュースを目にする機会もすっかり減ったと感じている方が多いのではないでしょうか。しかし、ウイルスは私たちの見えないところで今も静かに進化を続けています。そんな中、現在、新しい変異ウイルスが注目を集めています。その名は「BA.3.2」。そして、このウイルスに付けられたニックネームは「Cicada(シカダ)」、日本語で「セミ」です。なぜ、「セミ」という名前が付けられたのでしょうか? そして、このウイルスに対して私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。JAMAの記事をもとに解説します1)。なぜ「セミ」?異例の長き沈黙を破った変異ウイルスコロナの変異ウイルスの多くは、現れては消えるまでのサイクルが非常に短く、通常は数週間から数ヵ月しか流行しません。かつて猛威を振るったオミクロンのBA.1も、数ヵ月で別の変異ウイルスに置き換わりました。しかし、今回の「セミ(BA.3.2)」は、これまでの常識とはまったく異なる変わり種のウイルスです。実はこのウイルス、最初に発見されたのは1年半以上も前の2024年11月、南アフリカでのことでした。その後、モザンビークやヨーロッパなどで散発的・局地的に見つかり、こちらアメリカで最初の感染者が確認されたのは2025年6月のことです。長らく目立った動きを見せなかったこのウイルスですが、2025年12月に世界保健機関(WHO)の「監視下の変異ウイルス(Variant Under Monitoring)」に指定され、2026年に入り、アメリカ各地の排水調査などから検出が報告されるようになりました。何年も土の中でじっと身を潜め、ある時期が来ると一斉に地上へ姿を現す「周期ゼミ」。この変異ウイルスが長期間の沈黙の後に急増した奇妙な振る舞いが、まさに「セミ」に似ていることから、このユニークなニックネームが付けられたのです。免疫を逃れる力と、感染しやすさの「トレードオフ」新しい変異ウイルスと聞くと、「また強い感染の波が来るのでは?」「重症化しやすいのでは?」と不安になるかもしれません。確かにこの「セミ」は、現在のワクチン抗原(例:JN.1など)と比べて、スパイクタンパク質の遺伝子配列に70〜75程度の置換・欠失などの変化があると報告されています。こうした変化のため、これまでの感染やワクチンで得られた抗体による中和が低下しうる(免疫回避の可能性がある)と考えられ、監視が続けられています。しかし、ここで紹介したい興味深い生物学的な現象があります。それは「適応度のトレードオフ」と呼ばれるものです。コロナウイルスが人間の細胞に感染するためには、細胞の表面にある「ACE2」という受け皿にくっつく必要があります。BA.3.2は免疫の監視を潜り抜けるように変異を多く持っているため、スパイクタンパクの構造が大きく変わってしまい、逆にACE2への結合のしやすさや細胞への侵入のしやすさについては、大きく落ちている可能性があると指摘されています。このように、ウイルスの進化では「免疫回避」と「感染のしやすさ」の間で「トレードオフ」が生じることがあるというわけです。少なくとも現時点では、WHOの初期評価などで、この変異ウイルスが重症化や入院、死亡のリスクを明確に増加させるという一貫したデータは見られない、とされています。また、ワクチンについては、抗体による中和が低下し得る一方で、重症化に対する防御は一定程度維持されることが期待されています。したがって、必要以上に恐れる必要はないでしょう。子供たちの間で感染が広がりやすい?ただし、研究者が注視している点の一つとして、BA.3.2の検出が子供に多く見られることが挙げられます。なぜ子供に多いのかについては、現在も専門家の間で議論が続いています。大人のように過去の感染経験がなく、ワクチン接種の回数が多くないため、免疫を持たない子供たちが単に感染しやすいだけだという意見もあれば、ウイルスが持つ特定の変異が子供への感染を有利にしているのではないかと疑う専門家もいます。これについては、今後のさらなるデータの収集が待たれるところです。いずれにせよ、とくに小さなお子さんがいるご家庭では、日頃からお子さんの体調変化に気を配っていただくことが大切です。ウイルスとの共存は続く今回登場した「セミ」ことBA.3.2について、現時点で直ちに大規模な医療逼迫を引き起こすような懸念はされていません。もしかすると、先のトレードオフが実際にあり、感染が広がりにくいかもしれないという楽観的な見方ができる可能性もあります。しかし、流行の度合いや重症度については引き続き監視が必要で、排水調査やゲノム解析などのデータが今後さらに蓄積されていく見込みです。いずれにせよ、コロナウイルスは、決して消え去ったわけではありません。私たちの社会が日常を取り戻した今も、ウイルスは(実際にそのような意思があるわけではありませんが)環境に適応しようと試行錯誤を続けています。過度な不安を抱く必要はありませんが、ウイルスがまだ身近に存在しているという事実は心の片隅に留めておいたほうがいいでしょう。1)Rubin R. What to Know About Cicada, or BA.3.2, the Latest SARS-CoV-2 Variant Under Monitoring. JAMA. 2026 Apr 17. [Epub ahead of print]

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ワクチン接種率向上介入の構成要素ごとの効果を評価(解説:栗原宏氏)

ユニークな点・237RCT、約436万人という大規模データ・介入を要素単位に分解し効果推定Weak Point・米国の研究が約65%・各要素の効果を独立に加算(交互作用を考慮していない) 本研究は、ワクチン接種率向上介入を「構成要素」に分解し、その効果をベイズ型コンポーネントネットワークメタ解析で評価したものである。対象は高・中所得国におけるRCT237件、参加者約436万人である。従来の「介入全体の有効性」ではなく、「どの要素が効果に寄与するか」を定量化した点が特徴である。 本論文では年齢は数値的区分ではなく、小児・青年・成人の3区分で扱われている。解釈の一例として、接種判断主体の観点から、小児=保護者主体、青年=本人と保護者の混在、成人=本人主体と整理すると理解しやすい。ただし、これは本研究の定義ではなく、筆者による補助的解釈である。 解析は加法モデルに基づき、各要素の効果は独立に加算されると仮定されている。このため、要素間の交互作用(組み合わせ効果)は明示的には評価されていない。したがって、単独では効果が小さい、あるいは負の方向を示す要素であっても、他要素との組み合わせにより効果が変化する可能性がある。負の結果は、ただちに無効または逆効果と断定すべきではない。 主要アウトカムは接種率であり、効果指標はオッズ比の比(ratio of odds ratios)で示されている。全体として有効性が示された主な要素は、(1)接種機会拡大(ROR 1.49)、(2)予約支援(1.24)、(3)金銭的インセンティブ(1.26)、(4)費用補填(1.47)、(5)動機付け面接(1.57)である。また提供方法としては、人による介入(1.31)、および医療者と地域住民の共同実施(1.49)が有効であった。これらは主にアクセス、費用、対人接触といった実行可能性に関わる要素である。 一方、一方向型の情報提供(チラシ、メール等)や一部の教育的介入は、効果が限定的、あるいは負の方向を示す結果もみられた。たとえば、成人では一方向型介入が対照より劣る傾向(ROR 0.72)が示されている。ただし、これらの結果は文脈依存性が高く、単純な優劣の判断には注意を要する。 年齢別では効果の差異が明確である。小児では費用補填(ROR 3.01)や意思決定支援(2.73)が有効であり、保護者の負担軽減が主要因と考えられる。青年では社会的要因(2.62)が有効である一方、意思決定支援は負の方向(0.43)を示している。成人では対人介入(1.86)、接種機会拡大(1.63)、予約支援(1.38)が一貫して有効であった。同一要素であっても対象集団により効果が異なる点が重要である。 医療アクセスに障壁の大きい集団では、接種機会拡大や金銭的支援の効果がより大きく、心理的介入よりも物理的・経済的障壁の除去が優先される傾向が示された。またCOVID-19前後で一部要素の効果が変化しており、社会的状況が介入効果に影響する可能性がある。 ワクチン接種率に影響する要因は、多数の要素が関与するため、過度な単純化も過度な細分化も実装上の障害となる。本研究の結果を踏まえると、わが国への示唆として以下が挙げられる。(1)接種機会拡大・予約支援・対人介入は比較的実装可能性が高い。(2)世代別に介入設計を分ける必要がある(とくに青年層)。(3)アクセス障壁の大きい集団では構造的対策を優先する。

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第316回 米国でサイケデリック薬が超速優先審査に

毎年20人に1人以上もの米国成人が生きるのを辛くし、活動を妨げる深刻な精神不調を被ります。その治療を推進する取り組みの一環として、今月18日にドナルド・トランプ大統領がサイケデリック薬(psychedelic drug)の超速優先審査(Commissioner’s National Priority Vouchers:CNPV)を米国FDAに命じました1,2)。大統領からのその通知によると、1,400万例を超える米国成人が深刻な精神不調を患い、およそ800万例にそれらの治療薬が処方されています。精神疾患の最悪の帰結の自殺率は2000~18年に37%も上昇しましたが、トランプ大統領の1期目に精神疾患患者を助ける取り組みが進展し、2018~20年には幸いにも5%低下しました3)。しかし、トランプ大統領曰く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延とバイデン政権下での停滞のせいで進捗は止まり、自殺率は再び上昇して2022年には2018年と同じ最悪の水準に逆戻りしてしまいました。感じ方を変える(perception-altering)とFDAが説明4)するサイケデリック薬は、一通りの標準治療後も不調が続く深刻な精神疾患患者を対象とする試験で有望な成績を上げており、開発中のいくつかはすでに画期性優遇(Breakthrough Therapy)の指定を受けています。トランプ大統領は画期性優遇の指定を得ているサイケデリック薬の目ぼしいものにCNPV権利を付与することを18日に命じました。それを受けてFDA長官Marty Makary氏はLSDやマジックマッシュルームの活性成分のpsilocybinなどが属するセロトニン2A受容体作動薬の3つに権利を付与すると同日の記者会見で述べています5)。いわば大統領の「推し」となり、FDAの厚遇も約束されたサイケデリック薬への投資家の期待は当然ながら一気に膨らみ、AtaiBeckley、Compass Pathways、Enveric BioSciences、GH Research、Definium Therapeutics、Cybinなどのその界隈の会社の株価が軒並み上昇しています6)。そして、大統領命令からおよそ1週間後の先週金曜日24日に、FDAはサイケデリック薬を開発する3社に約束どおりCNPV権利を付与しました4,7)。FDAの発表では具体的な社名は明かされませんでしたが、大統領命令後に株価上昇の恩恵を得た一堂のうちの一社のCompass Pathwaysがその幸運に恵まれたことを明らかにしています8)。Compass社によるとCNPV権利を使うことで承認申請後の審査期間が超速の1~2ヵ月に短縮されます。Compass社はCOMP360という名称の人工のpsilocybinを開発しています。COMP360は治療抵抗性うつ病患者が参加した2つの第III相試験で目標の効果を示しており、先月の同社の発表によるとFDAへの承認申請が今年中に完了する見込みです9)。FDAがCNPV権利を付与したあとの2社の1つは大うつ病へのpsilocybin開発会社、もう1つは心的外傷後ストレス障害(PTSD)へのmethylone開発会社です。Usona InstituteとTranscend Therapeuticsがそれらの治療を開発しており、Reutersからの問い合わせに対してUsona Instituteは権利を得たと回答しています7)。一方、Transcend社はReutersに回答していません。Transcend社が開発しているmethyloneは植物成分のカチノンの類いです。カチノンはアンフェタミン様の作用を求めて使われているアラビア南部やアフリカ東部で育つ植物のカート(Catha edulis)の葉に含まれています10)。Transcend社はTSND-201という名称でmethyloneを開発しており、PTSD患者を対象とした第III相試験が進行中です11)。サイケデリック薬の時代の到来を予想していたのか、わが国の大塚製薬はほかでもないそのTranscend社の買収をつい先月末に発表しています12)。日本でサイケデリック薬が日の目を見ることもそう遠くないうちに実現するかもしれません。参考1)ACCELERATING MEDICAL TREATMENTS FOR SERIOUS MENTAL ILLNESS / THE WHITE HOUSE2)Trump orders FDA to fast-track reviews of psychedelic drugs after lobbying by podcaster / FierceBiotech3)Suicide Data and Statistics / CDC4)FDA Accelerates Action on Treatments for Serious Mental Illness Following Executive Order / FDA5)Trump orders FDA to fast-track reviews of psychedelic drugs after lobbying by podcaster. FierceBiotech.6)Psychedelic drug developers rally after Trump orders FDA to expedite reviews / Reuters7)US FDA moves to fast-track psychedelic drugs after Trump order / Reuters8)Compass Pathways Announces FDA Granted NDA Rolling Review Request and Awarded Commissioner's National Priority Voucher / BusinessWire9)Compass Pathways Announces Fourth Quarter and Full-Year 2025 Financial Results and Business Highlights / BusinessWire10)Effects of Synthetic Cathinones Contained in “Bath Salts” on Motor Behavior and a Functional Observational Battery in Mice NIH11)EMPOWER-1試験(ClinicalTrials.gov)12)大塚製薬のTranscend Therapeutics社買収について

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移植患者に対するワクチン接種/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血幹細胞移植後の患者において、ワクチン接種は感染症予防のための重要な手段となる。しかし、免疫再構築の個別性やワクチン免疫原性の低下、さらには費用・制度面の課題などにより、実臨床における実装状況には施設間差が見られる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「移植患者に対するワクチン接種」をテーマとしたシンポジウムが企画され、国内実態調査、優先度の高い予防接種の科学的根拠、実臨床における運用体制という3つの視点から、移植後ワクチン接種の現状と課題が提示された。造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する国内実態調査より 冒頭、黒澤 彩子氏(伊那中央病院 腫瘍内科)は造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する日本国内の実態を把握するために実施された全国規模のアンケート調査の結果について報告した。本調査は、厚生労働科学研究費補助金による研究班の一環として行われたもので、日本国内の移植認定施設(成人診療科・小児科)を対象に実施され、85%(成人診療科施設86%、小児科施設85%)という非常に高い回答率が得られている。 移植後は免疫が再構築される過程で既存の免疫が失われるため、ワクチン再接種が必要とされるが、その方針や実際の接種状況、さらにワクチンで予防可能な疾患(vaccine-preventable diseases:VPD)の発症状況を把握し、今後の施策や提言につなげることが本調査の目的であった。 まず、ワクチン再接種に対する認識について、同種移植後では成人診療科・小児科ともにほぼ100%の施設がその必要性と重要性を認識しており、約75〜80%の施設で統一した接種方針が定められていた。一方、自家移植後では診療科間で大きな差が見られた。小児科では約70%が必要性を認識し、半数以上が統一方針を有していたのに対し、成人診療科では必要性の認識は24%にとどまり、方針を持つ施設はわずか6%であった。その背景として「有用性が低い」「コストの問題」などが挙げられ、自家移植後の位置付けが十分に共有されていない実態が浮き彫りとなった。 接種されているワクチンの種類にも違いがある。回答した成人診療科の80%以上が“推奨”と回答したものはインフルエンザウイルス、肺炎球菌、麻疹風疹混合(MR)であり、接種率についてはそのうちインフルエンザと肺炎球菌で高い(対象の半数以上に接種という回答が75%超)傾向にあった。一方、小児科ではMR、おたふくかぜ、水痘、ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Hib)、インフルエンザウイルスについて8割を超える施設が“推奨”とし、接種率も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を除いて成人診療科と比較して小児科で高かった。施設体制の面では、すべてのワクチンを院内で接種可能な施設は20〜30%にとどまり、70〜80%の施設ではワクチンの種類や症例によっては接種を他院へ依頼しているという現状が示された。 水痘・帯状疱疹対策では、成人診療科では不活化ワクチンの推奨が進む一方、高額な費用負担が障壁となっている。不活化帯状疱疹ワクチンは18歳未満に適応がなく、小児は水痘に未罹患なことが多いため、小児科では水痘予防として生ワクチンが主に使用されている。また、抗ウイルス薬は移植後1〜2年、あるいは免疫抑制薬終了時まで予防投与されることが多いが、投与のタイミングや中止時期には施設間でばらつきがあった。 VPDの発症経験については、成人診療科・小児科ともに60〜90%の施設がCOVID-19、インフルエンザ、帯状疱疹、肺炎球菌感染症などを経験しており、移植患者が依然として高リスクであることが示された。死亡例は成人診療科では半数以上の施設が経験しており、とくにCOVID-19の影響が大きかった。一方、小児科では80%以上の施設が死亡例なしと回答し、成人診療科と比べて致死的転帰は少ない傾向が見られた。注目すべきは、自家移植後であってもVPD発症は決して少なくなく、軽視できない点である。加えて、COVID-19については、致死率の観点からとくに成人診療科において重要な課題であることが示された。一方で、ワクチン接種率はインフルエンザや肺炎球菌と比較して低く、対象の半数以上に接種しているとの回答は50%未満にとどまっており、この点も本調査より明らかとなった。 ワクチン接種率向上のための課題として、保険収載、自治体等による費用助成、長期フォローアップ(long-term follow-up:LTFU)体制の強化、最新の推奨を反映した資材の整備などが挙げられた。総じて、同種移植後の再接種の重要性は定着している一方で、自家移植後の再接種に関する認識不足や成人領域での接種されるワクチンの種類が限定されていること、さらに自己負担による費用面の問題が大きな障壁となっている。今後は制度的整備と情報の標準化を進め、移植患者をVPDから守る体制の構築が不可欠であると黒澤氏は結論付けた。同種移植患者に対する優先度の高い予防接種に関する研究について 同種造血幹細胞移植後の長期生存例が増加する一方、晩期合併症としての感染症対策は依然として重要な課題となっている。とくに移植後晩期には液性免疫の回復が遅延し、VPDに対する防御能が十分に再構築されない症例が少なくない。このような背景において、冲中 敬二氏(国立がん研究センター東病院 感染症科/造血幹細胞移植科)は、同種造血幹細胞移植患者に対する優先度の高いワクチン接種について、晩期感染症の疾病負荷および再接種戦略の最新エビデンスを整理し講演した。 移植後晩期に問題となるのは、肺炎球菌などの被包化細菌、帯状疱疹・単純ヘルペスを含むヘルペスウイルス群、さらに呼吸器ウイルスなどである。なかでも、移植片対宿主病(GVHD)予防として普及した移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたレジメンでは、CD4陽性T細胞の回復遅延に加え、サイトメガロウイルス(CMV)感染や非CMVヘルペスウイルス感染(HHV-6血症)、呼吸器ウイルス感染などの増加が米国のレジストリ解析によって示唆されている。このように、移植後晩期には液性免疫不全のみならず細胞性免疫の再構築不全も問題となることは少なくない。 海外でのアンケート調査によると、成人患者の40%以上が移植後晩期にVPD(インフルエンザ様疾患、帯状疱疹、子宮頸部細胞診異常など)を経験していることが示されている。小児データベース研究では、VPD発症頻度は7%程度と低いものの、帯状疱疹や侵襲性肺炎球菌感染症、インフルエンザなどの発症中央値は移植後190~300日で、移植から6ヵ月以降に多いことがわかる。すなわち、移植後晩期も感染症のリスクは持続し、長期にわたる免疫学的脆弱性を前提とした管理が必要となる。 同種移植患者の市中肺炎罹患率は一般人口より著明に高く、原因菌として肺炎球菌が約9%と最も頻度が高く、重症化リスクも高いことが海外から報告されている。呼吸器ウイルス感染については、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、COVID-19の米国での罹患後30日以内の寄与死亡率が4~6%とされ、日本からはインフルエンザ罹患後90日以内の寄与死亡率が2.2%とのデータが示されている。日本では約4分の3の症例で発症48時間以内に抗ウイルス薬が処方されているのに対し、米国では同期間内に処方を受ける症例は約4分の1にとどまっており、この差が寄与死亡率の違いの一因と考えられる。呼吸器ウイルス感染症を疑う症状が出現した際には、速やかな受診を促す患者教育の重要性が示唆される。 院内感染で呼吸器ウイルス感染症に罹患した場合はさらに予後が不良であり、院内での伝播は防がなければいけない。このためには外来での呼吸器感染症状スクリーニング、必要に応じた迅速PCR診断、感染判明時の接触・飛沫予防策の徹底が推奨される。また、患者本人のみならず同居家族や医療従事者へのワクチン接種も重要な間接防御策となる。 免疫記憶の消失も見逃せない。国内データでは、麻疹・ムンプス・風疹(MMR)の抗体保有率が移植5年で50%未満に低下しえること、B型肝炎表面(HBs)抗体の陰性化が再活性化リスクに関与することが示されている。つまり、小児期に定期接種歴があっても、移植後の防御免疫は保証されないことになる。このため、移植後のワクチン再接種が重要となり、厚労科研研究班は優先度の高いワクチン再接種に関する研究を通じ、水痘、MMR、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)、肺炎球菌、B型肝炎ウイルス(HBV)などのワクチン再接種戦略をレビューしている。加えて、帯状疱疹ワクチン、RSVワクチン、COVID-19ワクチンなど、新規・更新ワクチンの有効性データも蓄積されつつある。 冲中氏は、同種移植患者では、晩期においても液性免疫不全が残存し、VPDは現実的かつ重篤な脅威となるとし、「免疫再構築の特性、GVHD治療状況、地域流行状況を踏まえ、計画的かつ優先順位を明確にしたワクチン再接種を実装することが、長期予後改善には重要となる」と強調した。同種造血細胞移植患者におけるワクチン接種の実際 移植後の患者では、続発性免疫不全や既存免疫記憶の低下により感染症リスクが高まるため、移植後の再予防接種が重要であることは広く認識されている。しかし、実際にワクチン再接種を確実に実施するためには、院内外での運用体制の整備が不可欠となる。そこで、森 有紀氏(虎の門病院 輸血・細胞治療部/造血細胞移植後長期フォローアップセンター)は、実臨床でワクチン接種を円滑に進める具体例として、虎の門病院における体制整備や役割分担の取り組みを紹介し、移植後ワクチン接種を実装するためのポイントについて解説した。 移植後ワクチン接種の運用体制を整備するには、まず、どこで接種を行うのか(移植施設か他の医療機関か)を明確にする必要がある。そのうえで、どの診療科が中心となって担うのか(血液内科、感染症科、小児科、一般内科など)を決め、さらに看護師や薬剤師を含めた多職種連携を具体的に設計していくことが求められる。 虎の門病院では、LTFU外来で血液内科医が適応と開始時期を判断し、その後臨床感染症科医へ紹介して、詳細説明、スケジュール作成、実際の接種を行う分業体制を構築することで専門性を担保しつつ、マンパワーの軽減にもつながっている。 一方、他の医療機関に接種を依頼する場合、移植施設側が適応判断を行い、紹介状や説明文書、患者手帳などを活用して情報共有を徹底することが重要である。とくにクリニック等に紹介する際には、具体的な日程を記載した接種スケジュールの提案や、無断キャンセル防止に関する事前説明(ワクチンを個別に取り寄せる場合があるため)なども大切なポイントとなる。 接種手順は、適応・開始時期の判断、インフォームド・コンセント、接種スケジュール作成、接種、接種後の注意点説明の流れとなる。ガイドラインでは、不活化ワクチンは、GVHDの増悪がなければ移植後3ヵ月(種別により6ヵ月ないし12ヵ月)を経過した後接種可能となっているが、開始時期が遅いほど免疫応答が得られやすいとされる。生ワクチンは、免疫抑制薬が終了し慢性GVHDを認めなければ移植後24ヵ月以降で接種可能とされるが、十分な免疫回復や輸血および所定の薬剤との間隔などの条件を満たすことが前提となる。いずれにしても、個々の患者の状況に応じた判断が必要となる。 さらに、帯状疱疹ワクチン接種後の抗体価上昇や安全性に関する施設データの提示、情報共有テンプレートの整備などの実践的工夫も紹介された。一方で、多くが任意接種・自費負担であること、自治体助成が限定的であること、接種歴証明の困難さや年齢制限といった制度的課題も残されている。 最後に森氏は「移植後ワクチン接種は、単なる推奨事項ではなく、長期予後を左右する重要な支持療法である。各施設の実情に応じた体制構築と地域連携を通じて、標準化と実装を進めていくことが、今後の移植医療の質向上に直結する」と締めくくった。

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米国のCOVID-19死亡数、過小評価の可能性

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック初期における米国での実際の死亡数は、公式発表よりも大幅に多かった可能性が新たな研究で示唆された。2020年から2021年にかけて、COVID-19関連死亡のうち、最大で約15万5,000人分が見逃されていた可能性が示されたという。同期間に死亡診断書に記録されたCOVID-19による死亡数は約84万人であることから、今回の推計に基づくと、関連死亡の約19%がカウントされていなかったことになる。米ミネソタ大学社会学准教授のElizabeth Wrigley-Field氏らによるこの研究の詳細は、「Science Advances」3月20日号に掲載された。 研究グループによれば、2020年3月から2021年12月にかけてのパンデミック初期には、病院内で死亡した患者のほぼ全例が新型コロナウイルスの検査を受けており、また、この期間の病院内における内因死の超過死亡数は、COVID-19による院内死亡数と概ね一致していた。これらの点を踏まえてWrigley-Field氏らは、機械学習アルゴリズムを用いて病院内で確認されたCOVID-19死亡の特徴を学習させ、そのモデルを肺炎や糖尿病など別の死因として記録された病院外死亡に適用することで、見逃されたCOVID-19による死亡数を推定した。パンデミック初期には、病院外で死亡した多くの人が新型コロナウイルスの検査を受けていなかった。 その結果、この期間におけるCOVID-19による死亡数は、公式発表では84万251人であったが、研究グループの推計では99万5,787人であった。これは、死亡数が公式発表より19%、人数にすると15万5,536人多いことに相当する。また、このような見逃された死亡が多く見られたのは、ヒスパニック系やネイティブ・アメリカン、アラスカ先住民、アジア系、黒人、アラバマ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州などの南部および南西部の地域、さらに世帯収入が低く住民の健康状態が不良な郡であった。 専門家は、こうした差は医療アクセスの問題を反映していると指摘している。本研究には関与していない、米バージニア・コモンウェルス大学、社会・健康センターのSteven Woolf氏は、「社会的に周縁に置かれた人々は、医療にアクセスできないために、依然として不均衡に高い割合で死亡している」とAP通信に語った。 パンデミック初期には、特に病院外での検査体制が限られており、自宅で使える検査キットも普及していなかった。そのため、診断を受けることなく死亡した人もいた。また、地域によっては、死因調査を選挙で選ばれた検視官が担っているが、そうした検視官は法医学専門医と同等の訓練を受けていない場合もある。さらに、家族が死因としてCOVID-19の記載を望まなかったケースや、死後に検査が実施されなかったケースもあった。 論文の上席著者である米ボストン大学グローバルヘルス分野のAndrew Stokes氏は、「特に大都市以外では、時代遅れの死因調査制度が正確な死亡数の把握を妨げた主な要因の一つだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、パンデミックの発生以降、米国でのCOVID-19による死亡数は120万人を超えており、その3分の2以上が2020年と2021年に集中しているという。パンデミックによる正確な死亡数をめぐっては、オンライン上で誤情報が拡散したこともあり、過大評価か過小評価かを含めて広く議論されている。

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第292回 麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省

<先週の動き> 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構によると、2026年の累計患者数は4月12日までに299人となり、2025年1年間の265人をすでに上回った。過去10年では2019年の744人に次ぐペースで、1週間の報告数も今年初めて50人を超えた。前回報じた236人からさらに増加しており、厚生労働省は警戒を強めている。上野 賢一郎厚労相は24日の記者会見で、「新型コロナウイルス感染症の流行以降、最多のペースで感染が拡大している」と述べ、ワクチン接種歴の確認と定期接種の徹底を呼びかけた。発熱、せき、鼻水、発疹など麻しんを疑う症状がある場合は外出を控え、医療機関を受診する際も公共交通機関の利用を可能な限り避けるよう求めた。感染拡大の背景には、海外からのウイルス流入と国内の免疫低下がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から、国内に土着する麻しんウイルスが確認されない「排除状態」と認定されたが、海外からの帰国者や訪日客を起点に感染が広がっている。患者は東京都が100人超と最も多く、神奈川県、千葉県、埼玉県を含む首都圏で過半数を占める。また、愛知県や鹿児島県では、高校などで集団感染も確認されている。麻しんは空気感染し、同じ部屋にいるだけで感染することがある。感染力はインフルエンザの約10倍とされ、発症すると発熱や上気道症状に続き、発疹が出る。脳炎などで重症化し、死亡することもある。対策の柱はMRワクチンの2回接種である。1回接種で93~95%、2回接種で97~99%の予防効果があるとされるが、国内の2回接種率はコロナ禍後に低下し、2024年度は91%まで下がった。流行抑制には95%以上の接種率が必要とされ、専門家は集団免疫の低下に警鐘を鳴らす。とくに20代後半から50代では、未罹患や1回接種のみで免疫が不十分な人も多い。大型連休で海外渡航や人流が増える時期を迎え、国は自治体向け緊急説明会を開き、接種歴確認と早期相談を呼びかけている。 参考 1)麻しん(はしか)の発生状況について(国立健康危機管理研究機構) 2)麻しん累積報告数の推移 2019~2026年(第1~15週)(同) 3)上野厚労相、はしか増に警戒「症状ある場合は外出控えて」 累計で昨年1年間を上回る(産経新聞) 4)はしか感染拡大 厚労相「ワクチン接種を」呼びかけ(日経新聞) 5)ウイルス定着していないはずなのに はしか患者が増えているのは(毎日新聞) 6)はしか患者が増加 ~何が真の脅威なのか~(時事通信) 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」の具体化を進めている。従来の地域医療構想は、2025年の医療需要を前提に病床機能の分化・連携を促す枠組みだったが、今後は人口減少、85歳以上の高齢者の増加、医療・介護の複合ニーズ、医療従事者不足を踏まえ、入院だけでなく外来、在宅、介護連携を含む医療提供体制全体の再編へと対象を広げる。国の方針では、医療機関の連携・再編・集約化を進め、急性期医療を担う「急性期拠点機能」、高齢者救急や2次救急を受ける「高齢者救急・地域急性期機能」、在宅医療を支える「在宅医療等連携機能」、リハビリや慢性期などを担う「専門等機能」など、地域ごとに医療機関の役割を明確化する。急性期拠点は、人口20~30万人に1ヵ所を基本に確保する考え方が示されており、手術や重症救急は集約し、それ以外の高齢者救急は地域急性期病院が担う方向となる。その一方で、政府内では病床削減も重要な論点となっている。一般病床・療養病床で約5.6万床、精神病床で約5.3万床の削減を想定し、厚労省は病床削減を反映したKPIを検討する。年末に改訂される経済・財政新生計画の「改革実行プログラム」やEBPMアクションプランに盛り込む方針。勤務医にとって重要なことは、地域医療構想が単なる病床数調整ではなく、病院の機能や専門性、救急対応のほか、紹介・逆紹介、介護施設との連携を変える政策である点である。 今後は各医療機関が、2028年度までに2040年に向けて担う機能を決定し、2035年度をめどに一定の成果を出すことが求められる。地域の中小病院は、高齢者救急や在宅後方支援へ、大規模急性期病院は高度急性期・専門医療に特化と役割分担が進む可能性が高い。 参考 1)病床削減踏まえ地域医療構想のKPI設定へ、厚労省 年末改訂の「改革実行プログラム」に(CB news) 2)勤務医にとっての「新たな地域医療構想」~病床数等の議論から地域の医療提供体制全体の課題解決の議論へ~(日医) 3)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省財務省は、4月23日の財政制度等審議会で人口減少を踏まえた大学・医師養成の見直しを提起した。18歳人口が減少する一方で大学数は増え続け、半数超の私立大学が定員割れとなっているとして、2024年に624校ある私立大学を2040年までに217~372校へ縮減する目標を示した(少なくとも約4割の削減に当たる)。あわせて、医学部定員についても将来的な医師過剰を理由に「大胆な削減に踏み切るべきだ」と求めた。財務省は、医師需給は2029~32年ごろに均衡し、その後は過剰になることが「確定的」と分析している。医学部定員が現在の9,000人台で推移すれば、人口10万人当たり医師数は2022年の274人から2040年には340人まで増える見通しで、「医療費適正化や人材の最適配分の観点からも定員削減が必要だ」としている。その一方で、医療現場では医師不足の実感が根強い。日本経済新聞の調査では、地域で不足を感じる診療科として産婦人科と小児科が最多で、外科、総合診療科、救急科も多かった。とくに外科は若手医師の敬遠が目立ち、消化器外科医は今後20年で半減するとの推計もある。また、医師の「病院離れ」も進む。2024年末の病院勤務医は約21万9,000人で、2年前より約700人減少した。病院勤務医の減少は1979年以降で初めて。その一方で、診療所医師は約11万1,000人と約4,300人増加した。自由開業制のもと、都市部や負担の少ない外来中心の診療所に医師が流れ、地域・診療科・勤務形態の偏在が強まっている。厚生労働省は、これらの偏在対策として医学部臨時定員の削減を段階的に進める方針。2027年度は医師多数県で原則2割削減を継続し、2028年度からは医師多数県以外にも削減対象を広げる方向で検討する。その一方で、地域枠医師については、県内9年以上勤務などの義務を柔軟化し、離脱を防ぎながら地域定着を促す考えだ。今後の政策は、医師総数を抑えつつ、地域枠、専門研修、勤務環境改善、病院集約化を組み合わせ、限られた医師を効率的に配置する方向へ進む。医師が「余る」とされる一方で、地方病院、外科、救急、産婦人科、小児科などでは不足が続く可能性が高く、単なる定員削減ではなく、偏在是正とキャリア支援を一体で進められるかが焦点となる。 参考 1)医学部の大胆な定員削減を 人口減で医師余り「確定的」に 財政審(時事通信) 2)財政審「私大は40年までに4割減を」 医学部定員も削減要求(毎日新聞) 3)2028年度から医師多数県「以外」でも医学部入学定員を減員へ、地域枠医師の義務履行の柔軟化を検討-医師偏在対策検討会(Gem Med) 4)人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財務省) 5)全国の診療科偏在、日経調査 小児・産婦人科が「不足」最多(日経新聞) 6)医師の病院離れ深刻に 診療所に転出、地域に偏り(同) 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省若年層の献血離れが進み、輸血用血液だけでなく、血液由来医薬品の安定供給にも懸念が広がっている。厚生労働省によると、2024年度の献血者数はのべ約499万人で、全体では近年500万人前後を維持している。しかし、30代以下の献血者は2009年度の283万人から158万人へと15年間で4割以上減少した。その一方で、50・60代の献血者は2倍近くに増え、現在の血液供給は中高年のリピーターに支えられている。背景には、少子化に加え、コロナ禍で学校や企業での集団献血が減り、若者が献血に触れる機会が少なくなったことがある。献血可能年齢である16~69歳の人口は、今後20年間で約1,500万人減少すると推計されており、若年層の協力拡大は急務となっている。とくに深刻なのが、献血血液から作られる血漿分画製剤の供給問題である。献血血液のうち約4割は輸血用血液製剤に、6割弱は血漿分画製剤に使われる。このうち免疫グロブリン製剤は、川崎病、神経疾患、がん治療後の免疫低下、重症肺炎や敗血症など幅広い疾患に用いられ、需要は15年前の約2倍に増加した。川崎病では冠動脈後遺症を防ぐため早期投与が重要で、代替困難な薬剤でもある。その一方で、国内製造は限界に近付いている。血漿分画製剤を製造する国内メーカーは3社に限られ、設備の老朽化や厳しい品質管理、長い製造期間、薬価引き下げによる採算性低下が増産の壁となっている。免疫グロブリン製剤の国内自給率は、15年前の95%から2026年度には54%程度まで低下する見込みで、輸入依存度が高まっている。厚労省は、メーカーの設備投資補助や薬価面での支援を進めるとともに、小中学生への啓発パンフレット配布、学校献血、学生ボランティアによる呼びかけなど、若い世代への働きかけを強める。血液は人工的に作れず、保存期間も限られるために、若者の献血参加は、将来の輸血医療と血液由来医薬品の国内安定供給を支える重要な課題となっている。 参考 1)日本の未来を変える、若者の献血:今、若者の献血が必要な理由(厚労省) 2)若者の献血が変える日本のミライ:高校生が広げる献血の輪(同) 3)若者の献血離れで医薬品安定供給に懸念も 国も対策(NHK) 4)「このままでは輸血できなくなる未来に」献血離れが深刻 学校に献血バスの取り組みも(TBS) 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医医療機関や介護施設が民間の有料職業紹介事業者に支払う紹介手数料が急増している。厚生労働省の2024年度職業紹介事業報告書によると、医師の紹介手数料は約283億円、看護師・准看護師は約598億円、施設・訪問介護職は約257億円で、3職種合計は約1,139億円に上った。10年前の2.4倍で、2年連続で1,000億円を超えた。背景には、医療・介護分野の慢性的な人手不足がある。2026年2月の有効求人倍率は、医師・薬剤師などが2.04倍、看護師などが2.21倍、介護職が3.78倍と、全職種平均を大きく上回る。医療機関や介護施設は人員配置基準を満たさなければ診療報酬・介護報酬を得られないため、退職者が出ると迅速な補充が迫られる。民間紹介サービスは、短期間で採用につながりやすく、求職者側もスマートフォンで条件検索しやすいため利用が広がっている。しかし、紹介手数料の原資は保険料や税金を含む公的財源であり、経営が厳しい医療機関にとっては負担が重い。さらに、採用後の早期離職や、紹介内容と実際の能力との不一致などのトラブルも多い。調査では、医療・介護・保育分野で有料紹介を使った事業者の56.8%が「紹介人材がすぐに辞めた」と回答している。日本医師会と四病院団体協議会は、紹介手数料の上限制、返戻金制度の義務化、定着期間に応じた手数料体系などを厚労省に要望した。日医は、高額な紹介料が中小病院の人材確保を一層困難にし、地域医療提供体制を揺るがす恐れがあると訴えている。その一方で、厚労省は市場への過度な介入には慎重姿勢を示している。公的なマッチング機能の強化も進む。日本医師会はドクターサポートセンターとドクターバンクをリニューアルし、都道府県医師会や行政のドクターバンク、ハローワークとの連携を拡大している。今後は、民間紹介に過度に依存しない採用ルートの整備と、求職者・医療機関双方の意識改革が課題となる。 参考 1)人材紹介料に消える医療費 10年で2.4倍1,000億円超、上限制要望の声(日経新聞) 2)日本医師会ドクターサポートセンターのリニューアル内容を説明(日医) 3)人材紹介料に苦しむ医療機関 経験した医師「ドクターバンクの充実を」(日経メディカル) 4)有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(日本医師会・四病院団体協議会) 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協看護師不足が地域医療の維持を揺るがしている。背景には、看護師を目指す若者の減少と、現場で働き続けることの難しさがある。全国の看護学校では定員割れや募集停止が相次ぎ、埼玉県秩父市の秩父看護専門学校も定員40人に対し、今年度の新入生は9人にとどまり、3年後に閉校する予定となった。関東甲信越では21校・22課程が今後の募集停止を決めている。養成校の縮小は地域医療に直結する。秩父市の中核病院では、この15年間に採用できた新卒看護師は地元看護学校の卒業生に限られ、今年度の新卒採用は1人。その一方で、昨年度は5人が退職した。千葉県銚子市の総合病院では、看護師不足により120床のうち24床を休止。千葉県内では少なくとも7病院で計424床が稼働できなくなっている。現場では、看護師1人が受け持つ患者数が増え、患者と向き合う時間も削られている。検温や血圧測定、清拭などのケアが十分に行えず、カルテ入力や薬剤確認などの業務負担も重い。日本看護協会の調査では、看護職として働き続けたいと答えた人は62.9%にとどまり、前回調査から低下した。新卒看護職員の離職率も8.2%で、休みの取りにくさや夜勤・残業の負担が離職要因となっている。その一方で、看護師確保に向けた取り組みも始まっている。ペットと暮らせる寮や休暇制度を整備して離職防止を図る病院、社会人学生を積極的に受け入れる看護専門学校もある。 准看護師制度については、地域医療を支える役割がある一方で、学生数の減少や看護教育の大学化を背景に、制度のあり方や看護師への一本化を巡る議論も続いている。看護師の就業者数は増えているが、高齢化による需要増には追い付いていない。有効求人倍率は高く、医療機関同士が人材を奪い合う状況にある一方で、賃金は公定価格である診療報酬・介護報酬に左右され、物価高や他産業の賃上げを反映しにくい。看護師不足は単なる人手不足ではなく、病床休止、患者ケアの質低下、地域医療の縮小につながる問題であり、養成制度、処遇改善、勤務環境改革を一体で進める必要がある。 参考 1)“憧れの職業”に何が起きたか 「看護学校」定員割れの衝撃 「不要論」と「新たなニーズ」の間で揺れる准看護師という存在(東洋経済オンライン) 2)相次ぐ募集停止 看護師不足の行く末は…(NHK) 3)看護師になっても...「働き続けたい」は6割、新卒で1割が離職 背景に過酷な労働実態(産経新聞)

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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第307回 2026年4月より定期接種に加わったワクチンは?

INDEX妊婦の7割、「無料であれば接種をする」イレギュラーな定期接種ワクチン妊婦の7割、「無料であれば接種をする」4月1日から2026年度がスタートした。フリーランスの私にとって3月31日と4月1日は、単なる1日違い以上の意味はないのだが、世の中はそうではない。医療業界もこの日を境にいろいろと変わることがある。その1つがワクチンの定期接種である。2026年4月1日から妊婦に対するRSウイルスワクチン接種が予防接種法に基づくA類疾病として定期接種に加わった。これまでは任意接種だったため、約3~4万円の自己負担が必要だったが、これが原則無料となる。国立成育医療研究センターのグループが2024年7月〜2025年8月に出産した1,279例の女性を対象としたオンライン全国調査では、妊娠中のRSウイルスワクチン接種率は約11.6%(95%信頼区間[CI]:9.8〜13.3%)。同ワクチンを公費負担で接種できる米国や英国の接種率の約30〜50%と比べれば、かなり低い水準である。同調査では未接種者にその理由を尋ねているが、「予防効果を知らなかった」(28.9%)、「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)、「自費での支払額が高過ぎる」(18.7%)など。このうち77.5%は「無料であれば接種をする」と回答したことも明らかになっている。また、接種した人でも接種費用について「やや高い」または「とても高い」と回答した人は87.2%に上っており、やはり高額なワクチン接種費用は接種率向上の大きなハードルになっていることは確実と言ってよい。今後は少なくとも前出の11.6%よりは接種率が高くなると考えられる。もっともこの調査で未接種であった人の15.0%が、「無料でも受けたくない」と回答していることのほうが大きな問題かもしれない。イレギュラーな定期接種ワクチンそもそも今回のRSウイルスワクチン自体が既存の定期接種ワクチンの中では異質である。接種対象者が単なる健常者ではなく妊婦限定であることに加え、接種した妊婦の体内で産生された抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、出生直後の乳児のRSウイルス感染を防御するというやや分かりにくいものだからだ。少なからぬ人が経験しているだろうが、妊娠期間中の女性は自身だけでなく胎児の健康を慮るあまり、体内に入る薬や食品などには、平時以上に神経質になりがちである。その意味ではVaccines誌に掲載されたサハラ以南で行われた妊婦の新型コロナウイルスワクチンに関する研究1)が興味深い。同研究はアフリカのサハラ以南というやや特殊な地域で行われ、例数も少ないが、妊婦と非妊婦の年齢マッチングを行ったうえでの研究である。それによると妊婦は非妊婦に比べ有意にワクチンを受ける可能性が低いことがわかっている(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.06~0.27、p<0.001)。また、学歴が低いほど接種率が有意に高く(OR:0.04、95%CI:0.01~0.18、p<0.001)、一時“流行”した新型コロナワクチンにマイクロチップが含まれているという誤情報を信じる人ほどワクチン接種率が有意に低いという結果だ(OR:3.63、95%CI:1.12~11.79、p=0.032)。一瞬、これを読むと頭が混乱するかもしれないが、ここはやや補足が必要だ。まず、この研究では、いわゆる高学歴は被験者全体の92.6%を占め、低学歴者の割合は極端に低い。このため学歴による有意差は表面的な結果と受け止められる。また、たとえば新型コロナワクチンがDNAに変化を与えるという誤情報を信じる割合は、妊婦が79.6%、非妊婦が76.6%で有意差はない。むしろシンプルに妊婦のほうが非妊婦に比べ、何事も慎重になりやすい、考え過ぎるゆえにワクチンに対しても忌避傾向がみられることを示唆していると解釈したほうがいいだろう。一方、ワクチン接種については従来から医療者による推奨などが接種率に大きな影響を与えることが知られている。米国疾病予防管理センター(CDC)の「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2023年9月29日号に掲載された妊婦に関するワクチン接種に関する調査結果2)では、2022年10月~2023年1月の間に妊娠していたと報告した1,814人の女性でのインフルエンザワクチン接種率は47.2%(95%CI:44.4~50.1)に過ぎなかったが、医師による推奨があり、その場で接種が可能だったケースでの接種率は61.4%(同:58.0~64.7)。これに対し、推奨のみでは22.7%(同:15.0~32.0)、推奨なしでは10.8%(同:7.5~14.9)で、各群間では有意差(p<0.05)が認められたとしている。その意味で新たに定期接種に加わったRSウイルスワクチンの接種率向上については、限られた診療時間内で医療者がどのように妊婦に情報提供できるかにかかっているともいえる。もちろんこの点を医療者側も重々承知しているであろうことは、日本産婦人科医会のホームページ3)にRSウイルスワクチン接種に関する医師・患者向け資材が掲載されていることからもうかがい知れる。同時に私たちメディアにもそうした責任は向けられているのだと、新年度を迎え、心新たにもしている。1)Amiebenomo OM, et al. Vaccines (Basel). 2023;11:484.2)Razzaghi H, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023;39:1065-1071.3)日本産婦人科医会:RSウイルスに関するご案内

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心房細動/心房粗動の発症リスク、低亜鉛が影響

 亜鉛欠乏症は心房細動(AF)/心房粗動(AFL)発症の重要な独立した危険因子となる可能性が、台湾・Chi Mei Medical CenterのI-Wen Chen氏らの研究から明らかになった。近年、AF/AFLの有病率が世界的に増加しており、修正可能なリスク因子の特定が喫緊の課題である。また、心血管疾患との関連が示唆されている亜鉛欠乏症について、AF/AFLの発症を関連付けるような大規模なエビデンスは依然として限られていた。Frontiers in Nutrition誌2026年2月20日号掲載の報告。 本研究は、電子健康記録(EHR)のプラットフォームであるTriNetX社のデータベースを用いて実施された多施設共同後ろ向きコホート研究。2010~23年に血清亜鉛の測定記録日(インデックス日)のある40歳以上の患者を解析した。傾向スコアマッチングにより、患者を亜鉛欠乏症群(70μg/dL未満、6万1,732例)と亜鉛正常群(70~120μg/dL、6万1,732例)に1対1に調整した。主要評価項目はインデックス日から2年以内のAF/AFL新規発症とした。副次評価項目は、肺炎(陽性対照)、AF/AFL、虚血性脳卒中リスクとした。アウトカムイベントは、それぞれ1~6ヵ月以内および6~24ヵ月以内に発症するものと定義し、早期発症と晩期発症に層別化した。 主な結果は以下のとおり。・亜鉛欠乏症は、追跡期間の早期(ハザード比[HR]:1.62、95%信頼区間[CI]:1.39~1.90、p<0.001)および晩期(HR:1.42、95%CI:1.29~1.57、p<0.001)の両方において、AF/AFL発症リスクの有意な増加と関連していた。・血清亜鉛濃度別に早期発症ならびに晩期発症の用量反応関係を調べた結果、軽度~中等度亜鉛欠乏症(50~70μg/dL、各群5万6,206例)では、早期発症(HR:1.40、95%CI:1.18~1.67)と晩期発症(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)の両方でAFリスクに対する統計学的有意差がわずかに認められた。対照的に、重度亜鉛欠乏症(50μg/dL未満、各群8,961例)では、リスクが著しく上昇し、早期発症は約3倍(HR:2.79)、晩期発症は2倍(HR:2.04)に増加した。・重度の亜鉛欠乏症(50μg/dL未満)は、対照群と比較して晩期AF/AFLリスクが約2倍であった(HR:2.04、95%CI:1.67~2.49)。一方、軽度~中等度の亜鉛欠乏症(50~70μg/dL)は、対照群と比較し、わずかだが有意な増加を示した(HR:1.26、95%CI:1.14~1.41)。 ・亜鉛欠乏症とAF/AFLの関連は、多様な患者サブグループにおいて、また新型コロナウイルス感染症のパンデミック前(2010~19年)とパンデミック期(2020~23年)のいずれにおいても一貫していた。・肺炎リスク(早期のHR:1.56、晩期のHR:1.40)や虚血性脳卒中リスク(早期のHR:1.19、晩期のHR:1.12)も亜鉛欠乏症患者で上昇した。ただし、心室細動/心室粗動は亜鉛欠乏症と有意な関連を示さず、心房性不整脈に特異的に影響を与えることが示唆された。 研究者らは、「血清亜鉛値を心血管リスク評価に組み込み、亜鉛補給を費用対効果の高い予防戦略として検討することに潜在的な価値がある」としている。

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遠隔診療で医療費が対面診療の約5分の1に

 遠隔診療は単に便利なだけでなく、患者と医療システム双方の医療費削減につながることが、新たな研究で示された。特に頻度の高い症状の診療においては、遠隔診療では対面診療と比べて医療費を約5分の1に抑えられることが明らかになったという。米ペンシルベニア大学戦略的イニシアチブのシニアバイスプレジデントであるDavid Asch氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月9日掲載された。 Asch氏は「この研究を行う前は、遠隔診療は“応急処置”を気軽に受けられる手段の一つに過ぎず、対面診療を先延ばしにするだけで、結果的に全体の医療費を押し上げるのではないかという懸念があった」と説明。その上で、「しかし、われわれの研究から、それが事実ではないことが明らかになった。多くの患者にとって、遠隔診療は応急処置のための一時的な対応となるだけでなく、完全な解決策となり得るのだ」とニュースリリースの中で述べている。 論文の研究背景によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の緊急措置により遠隔診療へのアクセスが拡大し、その利用が急増した。例えば、ペンシルベニア大学ヘルスシステム(UPHS)での遠隔診療の件数は、2020年3月から2021年2月までの1年間で100万件に達し、2019年の1万1,000件から約90倍に増加した。 しかし、遠隔診療の有効性や費用対効果については依然として疑問が残っていたという。論文の上席著者である同大学生物統計学教授のYong Chen氏は、「遠隔診療が万能ではないことは認識している。特に精神および行動の健康問題に対しては、慎重なトリアージやフォローアップ、継続的なケアが依然として重要である。そのため、われわれは、医療資源の効率的な配分が実現されているのかを解明したいと考えた」と述べている。 研究グループは今回、2024年1月1日から4月30日までの4カ月間にわたる16万3,308件の診察データを分析した。データには、対面診療および遠隔診療の両方の診察データが含まれていた。対象はCOVID-19、呼吸器症状、神経発達障害、睡眠障害、不安症など10種類の一般的な症状や疾患の診察とし、初回受診の7日前から30日後まで追跡し、その後の受診の必要性を調べた。 その結果、遠隔診療に関連する請求額は平均で96.60ドル(1ドル158円換算で約1万5,300円)だったのに対し、対面診療では509.21ドル(約8万円)だった。また、その後の受診回数は、遠隔診療で平均3.44回であったのに対し、対面診療では平均4.44回であった。特に呼吸器症状などでは対面診療よりも遠隔診療の方が平均で800ドル(約12万6,400円)以上医療費が少なかった。一方、精神科医療については、対面診療と遠隔診療の医療費はほぼ同額であることが示された。 論文の筆頭著者である同大学応用数学・計算科学のBingyu Zhang氏は、「多くの医療システムでは、すでに精神科医療の大部分を遠隔診療によって提供している。精神科医療は、他の疾患のような検査や処置ではなく、カウンセリングや服薬管理が主体となるからだ。したがって、治療や処方の流れは診療形態にかかわらず同じようなものであり、診療エピソードにかかる費用も同程度になる。ただし、それでも遠隔診療ではその後の受診回数が少ない傾向にある」と説明している。 研究グループはまた、遠隔診療へのアクセスを拡大したコロナ禍の規制を維持するために米議会が対応する必要があると主張している。UPHSのCEOであるKevin Mahoney氏はニュースリリースの中で、「もし遠隔診療がCOVID-19以前のような制限された形に戻れば、今回われわれが明らかにした医療費削減効果は失われる可能性がある」と指摘し、「病院や医療システムが深刻な財政的逆風にさらされている今、このような節減は極めて重要だ。それによって、患者ケアへの再投資やイノベーションの推進が可能になる」と述べている。

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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第308回 地域の医療機関の共倒れを防ぐために、日本病院会会長、元日本医師会長の病院も取り組む地域医療連携推進法人

コロナ禍を経て2024年度から連携法人の認定数急増こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2026年度診療報酬改定の全体像が明らかになり、また新たな地域医療構想策定ガイドラインもまもなく発出されるということで、地域における医療機関の役割分担、棲み分けが活発化していきそうです。とくに今改定では「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」で書いた、「急性期病院一般入院基本料」の新設と「地域包括医療病棟入院料」の再編、「救急患者連携搬送料」の大幅見直し(搬送の受け入れ側も新たに評価)などによって、地域における医療機関連携の様相も大きく変わっていくでしょう。診療報酬による経済的インセンティブの有無に関係なく、自発的に取り組む医療連携も着実に広がっています。そうした動きの1つが「地域医療連携推進法人」(以下、連携推進法人)の設立です。連携推進法人については、本連載でも、「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」、「第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景」などで度々取り上げてきましたが、コロナ禍を経て2024年くらいから認定数が急増しています。これまで59法人が認定、最多は大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人連携推進法人とは、地域での医療機能の分担や連携を進める目的で、母体の異なる複数の医療機関や介護事業者などが参加して共同でさまざまな連携業務を行う事業体です。「競争よりも協調」を重視し、「地域医療構想達成のための一つの選択肢」として2015年の医療法改正で制度化が決まり、2017年4月から認定がスタートしました。制度創設から約9年が経過し、2026年1月末現在、全国でこれまでに59法人が連携推進法人として認定されています。注目されるのは昨年の2024年度から認定数が急増している点です。2023年度はわずか3法人の認定でしたが、2024年度は13法人、2025年度は8法人が認定されました。都道府県別に見ると、一番多いのは大阪府で9法人、次いで北海道と静岡県が4法人、秋田県、滋賀県、高知県が3法人となっています。人口減少、医療人材不足、コロナ禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃この連携推進法人について、日経ヘルスケアは「地域医療連携推進法人の現在地」と題する記事を2025年11月号と12月号に前後編に分けて掲載、急増の理由を分析するとともに最近設立された連携推進法人のトレンドについてレポートしており、参考になります。同記事は、連携推進法人が急増している理由・背景として、「制度が創設された10年前の医療法改正時よりも、医療機関を取り巻く経営環境が厳しさを増したことが挙げられる。人口減少、医療人材不足、新型コロナウイルス感染症禍後の患者数減少に加え、物価高、円安、人件費高騰などが医療機関を直撃している」と分析、「そんな中、地域の医療機関の多くが、単独ではなく、地域の複数の医療機関、介護施設、介護事業所などとともに、機能の分担、集約化、連携強化を図り、この難局を乗り切ろうと考えるようになった。そのためのツールとして、連携推進法人制度に今まで以上に注目が集まっている」と書いています。「経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と日病会長同記事には、地域で高度急性期機能を担う大病院が主導して地域内で患者をシームレスに引き継ぐ仕組みの構築を図る「垂直連携型」のケース、医療機能が同等、あるいは似通った医療機関同士による「水平連携型」のケース、大学病院が取り組むケースなどが紹介されていますが、とくに興味深かったのは、日本病院会会長を務める相澤 孝夫氏が理事長を務める社会医療法人財団慈泉会・相澤病院(長野県松本市、456床)が中心となって、地域の民間病院、診療所、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど6法人を参加法人として2025年10月に設立された「信州松本ヘルスケアネットワーク」です。同記事で相澤氏は「制度ができた当初も設立を検討したが、今ほど医療機関経営の状況も悪くはなく、地域の医療機関経営者の関心を呼び起こすことができず断念した。しかし新型コロナウイルスの感染拡大を経て、経営状況も厳しくなってきたため、周辺の医療機関の要望も聞きながら設立を決断した。まずは経営コストの削減、医療人材の交流・有効活用に重点を置き取り組んでいく」と語っています。“強い”急性期病院が1つだけが生き残っても、慢性期・回復期に入った患者を受け入れる後方病院や介護事業所が地域になければ経営は行き詰まります。相澤氏の言葉からは、地方の民間医療機関が共倒れせず、生き残っていくための最終手段として連携推進法人に早くから着目していたことがわかります。元日本医師会長の病院も連携推進法人の設立準備日本病院会会長自らが連携推進法人設立に動いたということで、同制度に改めて大きな注目が集まることとなったわけですが、今年になって元日本医師会長の横倉 義武氏が理事長を務める、社会医療法人弘恵会・ヨコクラ病院(福岡県みやま市、199床)も、地域の医療法人、診療所、社会福祉法人などとともに連携推進法人の設立準備をしている、というニュースも入ってきています。2015年に連携推進法人の制度化が決まった当時は、一部の県では連携推進法人の設立に県医師会が猛反対し、設立計画が潰されることもありました。制度誕生の元々の発端が、安倍 晋三政権時代の2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に記された「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」だったため、大規模法人が中小を吸収合併していくイメージが先行し、中小病院や診療所の経営者などに警戒感が芽生えたことなどがその背景にはありました。しかし、時代は大きく変わりました。なにせ日本病院会会長や、元日本医師会会長までもが取り組むようになったのですから。ところで、連携推進法人の取り組みには、王道とも言える垂直連携型以外にも、ユニークな事例が数多くあります。次号ではそうしたケースについて紹介します。(この項続く)

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第287回 医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省

<先週の動き> 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省厚生労働省は2026年3月16日、第120回医師国家試験の合格者を発表した。受験者9,980人のうち合格者は9,139人で、合格率は91.6%と前回から0.7ポイント低下した。合格者数は前年より347人減少し、とりわけ新卒合格者は8,716人(合格率94.7%)と313人減少となり、3年ぶりに9,000人を下回った。医師供給動向に変化が生じている可能性が示唆される。試験は2026年2月に実施され、合格基準は必修問題で200点満点中160点以上、一般・臨床問題で300点満点中224点以上、禁忌肢3問以下とされた。近年と同様の基準であるが、合格率の微減と新卒者数の減少が今回の特徴となっている。大学別では、自治医科大学が新卒・既卒ともに合格率100%を達成したほか、北海道大学、京都大学も新卒で100%を記録した。平均合格率は国立93.0%、公立93.5%、私立92.5%と大きな差はないものの、既卒者を含むその他区分では54.8%と低水準にとどまった。男女別では女性92.4%、男性91.1%と女性が上回った。合格者数はコロナ禍以降、回復傾向にあったが、今回の減少は医学生数の変動や受験動向の影響が考えられる。医師偏在や地域医療構想の議論が進む中、今後の医師供給の量と質のバランスが一層重要となる。とくに新卒者数の減少は初期研修医確保にも影響を与える可能性があり、今後もこの傾向が続けば、各医療機関や自治体にとっても注視すべき事態となる。 参考 1)第120回医師国家試験の合格発表について(厚労省) 2)第120回医師国家試験の学校別合格者状況(同) 3)第120回医師国家試験合格者の状況(大学別合格者数)-9,139人が合格、合格率は91.6%(医事新報) 4)医師国家試験、合格率91.6%-新卒合格者は3年ぶりに9千人下回る(CB news) 5)2026年医師国家試験大学別合格率…合格率100%は自治医科大学(リセマム) 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省国内の麻疹(はしか)報告数が増加し、厚生労働省は注意喚起を強めている。2026年第9週までの累計報告数は87例、第10週時点では100例に達し、新型コロナ禍以降で最多となった。前年同期の22例を大きく上回る水準で、感染拡大の兆しがみられる。近年、わが国では土着株による感染は確認されておらず、2015年には世界保健機関(WHO)から排除状態と認定されている。現在の流行は、海外から持ち込まれたウイルスを起点に、国内で2次感染が広がる構図となっている。事例として、愛知県の高校での集団感染をはじめ、各地で散発的な発生が報告されており、都市部を中心に感染が拡大している。患者の約7割は10~30代で、ワクチン接種歴の不十分な層の影響が示唆されている。麻疹は空気感染を起こす極めて感染力の高い疾患であり、同一空間にいるだけで感染する可能性がある。発熱、咳、鼻水に続き発疹を呈し、重症例では脳炎を合併するリスクもある。その一方で、予防の柱であるMRワクチンの接種率は低下傾向にある。2024年度の接種率は1期92.7%、2期91.0%と、目標の95%を下回った。コロナ禍以降の接種控えが影響しているとみられ、集団免疫の維持に懸念が生じている。厚労省は、渡航前の接種歴確認や帰国後の健康観察を呼びかけるとともに、疑わしい症状がある場合は事前連絡のうえ医療機関を受診するよう求めている。感染再拡大を防ぐには、早期診断とワクチン接種率の回復が急務である。 参考 1)麻疹報告数、コロナ禍以降最多 厚労省が注意喚起(MEDIFAX) 2)はしか患者数、2026年累計100人に 25年同期22人を上回る(日経新聞) 3)感染症発生動向調査週報 2026年第9週第9号(国立健康危機管理研究機構) 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省厚生労働省は、脳死下臓器提供の増加を背景に、移植医療の集約化と体制強化に舵を切った。今回の診療報酬改定で、多くの移植手術を担う施設を「拠点病院」として位置付け、人的・設備面の支援を検討する方針を打ち出している。臓器提供数は近年増加し、2025年には150例を超えたが、心臓や肺、肝臓など複数臓器の同時対応が求められるため、実施可能な施設は一部大学病院に限られている。その一方で、突発的な手術対応により手術室や看護師の確保が困難となり、受け入れ断念例も生じている。こうした現場の逼迫は深刻で、東京大学病院では移植件数が年間100例を超える中、ICUベッドに余裕があっても人員不足で受け入れられない状況や、病院経営への負担が指摘されている。実際、移植医療は従来、手術準備や人員確保のコストが大きく、病院側の持ち出しが問題となっていた。このため2026年度診療報酬改定では、臓器移植実施体制確保加算が新設され、手術料の実質4倍相当の評価が行われる。大学病院の試算では、従来は肺移植1例当たり約400万円の赤字だったが、新加算によりほぼ解消可能とされる。また、ドナーコーディネーターの業務も評価対象とし、院内での同意取得体制強化を促す。背景には、体制不足により移植を受けられなかった患者が2024年に延べ662人に上った現状がある。国立大学病院全体でも今回の改定により年間443億円の増収が見込まれ、赤字解消に寄与すると評価されている。しかし、紹介・逆紹介要件の厳格化による減収も予測され、経営改善には引き続き対応が求められる。移植医療は高度化・集約化が不可避な領域であり、今後は拠点化と財政支援を軸に、持続可能な提供体制の構築が問われる局面に入ったと言える。 参考 1)臓器移植支援へ一部病院を拠点化 厚労省、東大病院「経営苦しく」(朝日新聞) 2)脳死者の臓器移植に診療報酬加算へ…ドナーコーディネーターの働きも評価、報酬を手厚く(読売新聞) 3)国立大学病院長会議 26年度診療報酬改定年間443億円増収で赤字解消へ 外科医療確保や臓器移植加算を評価(ミクスオンライン) 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」のとりまとめ案を示し、2028年度末までに各医療機関の「主たる機能」を明確化する方針を打ち出した。従来の病床機能報告に加え、新たに医療機関機能報告を導入し、各病院が担う役割を整理することで、再編・集約化と病床削減を一層進める構えである。新構想では、「医療機関の機能を急性期拠点」「高齢者救急・地域急性期」「在宅医療等連携」「専門等機能」の4区分に整理し、各施設が2040年に向けて担う機能を選択・報告する。複数機能の併存は認めつつも、急性期拠点については手術件数や救急対応などの実績要件を設け、実質的に高度急性期病院の集約を図る。人口20~30万人に1施設程度とする考え方が示され、全国では400~600施設に集約される見通しである。また、人口減少地域では構想区域の広域化を求め、より広い圏域で医療資源を維持する方向性も示された。その一方で、急性期以外の救急医療や夜間手術機能についても集約が検討されており、地域によってはアクセス低下への懸念が指摘されている。病床数の算定では、在宅医療の強化や早期リハビリによる在院日数短縮、医療DXによる効率化を前提に必要病床数を低く見積もる仕組みが採用される。急性期病床の稼働率も78%から84%へ引き上げられ、将来的な病床削減圧力が強まる見通しである。さらに、リハビリテーションでは、入院から在宅までの連続的な提供体制を支える「地域インフラ」として位置付けられ、栄養管理や口腔ケアとの一体的な取り組みも明記された。2026年10月からの機能報告を経て、各都道府県が調整を行い、医療機関ごとの役割分担が具体化する。医療提供体制の再構築が本格化する中、地域医療への影響が注視される。 参考 1)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 2)新たな地域医療構想とりまとめ案 28年度末までに病院の「主な機能」を決定(保団連) 3)「新たな地域医療構想」とりまとめを了承、リハビリテーションは「地域のインフラ」へ(PT-OT-ST.NET) 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省厚生労働省は、2026年3月18日に開催した「医道審議会医師専門研修部会」で、2027年度に専門研修を開始する専攻医の採用上限、いわゆるシーリング数案を了承した。新たに加算対象となった都道府県診療科から提出された指導医派遣実績を踏まえ、日本専門医機構が算定したもので、委員から大きな異論は出なかった。今後、6月下旬以降に都道府県へプログラム情報を提供し、各都道府県知事の意見や厚生労働大臣の要請を反映した修正を経て、11月の募集開始を予定している。今回のシーリングでは、最新の必要医師数と足下の医師数を用いて対象都道府県を設定し、特別地域連携プログラムと都道府県限定の連携プログラムを統合した点に特徴がある。特別地域連携プログラムの受け入れ可能数は全領域で採用上限を上回り、地域偏在是正に向けた受け皿整備は一定程度進んだ。その一方で、通常プログラム加算は実績に応じて付与されるが、加算上限を下回る領域もあり、制度運用はなお調整段階にある。あわせて部会では、2040年を見据えた医療需要の変化に対応する専門医養成も論点となった。85歳以上人口の増加、高齢者救急の拡大、生産年齢人口の減少を踏まえ、各基本領域学会に対し、将来重要となる疾患や患者像、専門医制度上の課題を尋ねるアンケート調査を実施する方針が示された。専攻医以降のキャリアチェンジやリカレント教育の必要性も指摘された。さらに、医師偏在対策では都道府県、大学医学部、大学病院の連携強化が不可欠とされた。地域枠、広域連携型臨床研修、専門研修連携プログラム、総合診療医育成などを医師確保計画に明確に位置付け、地域定着を後押しする方向で議論が進む。専攻医シーリングは、単なる採用枠調整にとどまらず、地域医療を支える医師養成全体を再設計する局面に入った。 参考 1)令和7年度第5回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2)2027年度の専攻医シーリング数が決定、募集開始に向けた調整進む(日経メディカル) 3)医師偏在是正策の強化に向け「都道府県・大学医学部・大学病院の連携」をこれまで以上に強化せよ-医師偏在対策検討会(Gem Med) 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県愛知県の西尾市民病院で診療を受けた70代女性が、薬剤アレルギー既往のある薬を処方・服用後に死亡したとして、遺族が市と調剤薬局を相手取り約2,541万円の損害賠償を求め提訴した。訴状によれば、女性は2025年2月に受診し、処方箋を受け取り、院外薬局で調剤された薬剤を服用後、約41日後に死亡した。遺族側では、医療機関はアレルギー既往歴を把握可能であったにもかかわらず看過したと主張している。その一方で、市側はアレルギー薬剤の処方自体は認めつつも、死亡との因果関係には争いがあるとしている。この事件は単なる確認漏れが原因ではなく、電子カルテおよびオーダリングシステムにおけるアレルギー情報の管理・共有体制が問題の根幹にある。日本医療機能評価機構は、医療安全情報の分析レポートで、アレルギー情報が「登録されているが参照されない」「画面上で視認性が低い」「更新が不十分」といった要因により、処方時に活用されない事例が発生していることを繰り返し指摘している。また、院内で把握されていた情報が院外薬局に十分伝達されないケースや、薬局側での最終確認が機能しなかった事例も報告されている。院外処方が一般化してから、医療機関と薬局の間の情報連携不足は構造的リスクとなっており、患者申告に依存した運用には限界がある。電子カルテ上のアレルギー情報については、入力の標準化、警告アラートの強化、処方時の確認が不可欠である。このためマイナ保険証の活用のほか、2重3重のチェック体制をどのように実効性ある形で運用するかが問われている。今回の訴訟は、医療安全について「情報があること」と「実際に使われること」の乖離を改めて浮き彫りにした。現場での確認フローの見直しなど再発防止策が求められる。 参考 1)「薬のアレルギーで死亡」70代女性遺族、愛知県西尾市などを提訴(中日新聞) 2)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構) 3)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構)

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