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TAVR後の心房細動へのエドキサバン、日本人での解析(ENVISAGE-TAVI AF)/日本循環器学会

 経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)成功後の心房細動患者に対するエドキサバンとビタミンK拮抗薬の有効性と安全性を比較したENVISAGE-TAVI AF試験の日本人サブ解析の結果、臨床アウトカムにおけるエドキサバンとビタミンK拮抗薬の違いはごくわずかだったことを、帝京大学の渡邊 雄介氏が第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11~13日)のLate Breaking Clinical Trialsで報告した。 ENVISAGE-TAVI AF試験は、日本を含む14ヵ国173施設が参加した非盲検無作為化比較試験。TAVR成功後の心房細動患者においてエドキサバン(60mg/日もしくは30mg/日)とビタミンK拮抗薬の有効性と安全性を最大3年間比較した。有効性に関する主要アウトカムは有害臨床イベント(全死因死亡、心筋梗塞、虚血性脳卒中、全身性塞栓イベント、人工弁血栓症、大出血)の複合、安全性に関する主要アウトカムは大出血だった。全体集団ではエドキサバン群がビタミンK拮抗薬群に対し非劣性を示すこと、および大出血発生率が高いことが報告されているが、わが国ではTAVRを受ける患者は小柄な女性が多く、抗血栓療法による出血リスクに影響する可能性がある。そこで、日本人においても全体の結果と一致するか評価するべくサブ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・日本人患者は159例(エドキサバン群82例、ビタミンK拮抗薬群77例)で、エドキサバン群とビタミンK拮抗薬群における平均年齢は84.3±4.7歳と83.4±4.0歳、体重は53.8±10.1kgと53.1±10.3kg、BMIは22.1±3.4と22.3±3.2、投与量を減量した患者の割合は85.4%と85.7%であった。・有害臨床イベントの累積発生率は日本人集団のほうが全体集団より低かった。エドキサバンのビタミンK拮抗薬に対するハザード比(HR)は、全体集団が1.05(95%CI:0.85~1.31)、日本人集団が0.85(同:0.38~1.90)と同様だった。・大出血の累積発生率は全体集団と日本人集団で同程度だった。エドキサバンのビタミンK拮抗薬に対するHRは、全体で1.41(95%CI:1.03~1.91)、日本人集団で1.17(同:0.45~3.05)と日本人集団で若干低かった。・消化管の大出血は、全体集団ではエドキサバン群で多かったが(5.4%/人年vs.2.7%/人年、HR:2.03、95%CI:1.28~3.22)、日本人集団ではエドキサバン群3例(2.8%/人年)、ビタミンK拮抗薬群4例(4.1%/人年)だった。 これらの結果から、渡邊氏は「エドキサバンがTAVR施行後の日本人心房細動患者に対するビタミンK拮抗薬の代替治療となりうることが示唆される」とまとめた。

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中年期女性の血管運動神経症状に関連する不眠症に対するスボレキサントの効果

 神経ペプチドオレキシンは、覚醒促進、温度調節、閉経後に増加、女性に対しエストロゲン療法により正常化することから、血管運動神経症状(VMS)関連の不眠症治療においてオレキシン拮抗作用が重要な役割を果たしていることが示唆されている。米国・ハーバード大学のShadab A. Rahman氏らは、夜間のVMSに関連する慢性不眠症に対するデュアルオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントの有効性について評価を行った。Sleep誌オンライン版2022年1月11日号の報告。 夜間のVMS、不眠症重症度尺度(ISI)スコア15以上、日誌による入眠後覚醒30分超を有する慢性不眠症の女性患者56例を対象に二重盲検プラセボ対照ランダム化試験を実施した。対象患者は、スボレキサント群(10~20mg)27例またはプラセボ群29例にランダムに割り付けられ、4週間就寝前経口投与を行った。個人内のISIスコアの変化についての分析では、ベースライン時のISIと人種を考慮し、調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の平均ISIスコアは、スボレキサント群で18.1(95%信頼区間[CI]:16.8~19.4)、プラセボ群で18.3(95%CI:17.2~19.5)であった(p=0.81)。・スボレキサント群のベースラインから4週間後における個人内の平均ISIスコアの変化(-8.1、95%CI:-10.2~-6.0)は、プラセボ群(-5.6、95%CI:-7.4~-3.9)と比較し、減少が認められた(p=0.04)。・スボレキサント群の夜間VMSの頻度(日誌で評価)は、プラセボ群と比較し、有意な減少が認められた(p<0.01)。・入眠後覚醒と総睡眠時間については、スボレキサント群で改善傾向が認められたが、多重比較の調整後、有意な差は認められなかった。・日中VMSおよびその他の睡眠関連アウトカムについては、両群間で差が認められなかった。・スボレキサント群の忍容性は良好であった。 著者らは「スボレキサントは、VMS関連の不眠症に対し、忍容性が高く、効果的な治療薬であり、夜間VMSを低下させる可能性が示唆された。オレキシン受容体の拮抗作用は、VMS関連の慢性不眠症を有する女性に対する新規治療オプションとなりうる可能性がある」としている。

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添付文書改訂:アクテムラが新型コロナ中等症II以上に適応追加/ジャディアンスに慢性心不全追加/エフィエントに脳血管障害の再発抑制追加/アジルバに小児適応追加/レルミナに子宮内膜症の疼痛改善追加【下平博士のDIノート】第92回

アクテムラ点滴静注用:新型コロナ中等症II以上に適応追加<対象薬剤>トシリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:アクテムラ点滴静注用80mg/200mg/400mg、製造販売元:中外製薬)<承認年月>2022年1月<改訂項目>[追加]効能・効果SARS-CoV-2による肺炎酸素投与、人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと。[追加]用法・用量通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注します。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、同量を1回追加投与できます。<Shimo's eyes>本剤は、国産初の抗体医薬品として、2005年にキャッスルマン病、2008年に関節リウマチの適応を取得して、現在は世界110ヵ国以上で承認されているヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体です。今回、新型コロナによる肺炎の効能が追加されました。これまで中等症II以上の患者に適応を持つ、レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用)、バリシチニブ(同:オルミエント錠)、デキサメタゾン(同:デカドロン)の3製剤に本剤が加わり、新たな治療選択肢となります。新型コロナ患者の一部では、IL-6を含む複数のサイトカインの発現亢進を特徴とする炎症状態により呼吸不全を起こすことが知られており、同剤投与による炎症抑制が期待されています。参考中外製薬 薬剤師向けサイト アクテムラ点滴静注用80mg・200mg・400mgジャディアンス:慢性心不全(HFrEF)の適応追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<承認年月>2021年11月<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。[追加]用法・用量通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬としては、すでにダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が慢性心不全の適応を2020年11月に追加しており、本剤は2剤目の薬剤となります。2022年1月現在、添付文書には「左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者(HFrEF)に投与すること」と記載されていますが、HFpEF患者を対象とした第III相試験においても、2021年8月に良好な結果1)が報告されています。なお、本剤25mg錠には慢性心不全の適応はありません。参考エンパグリフロジンの慢性心不全への承認取得/日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー1)エンパグリフロジン、糖尿病の有無を問わずHFpEFに有効/NEJMエフィエント:脳血管障害後の再発抑制が追加<対象薬剤>プラスグレル塩酸塩(商品名:エフィエント錠2.5mg/3.75mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化または小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)[追加]用法・用量通常、成人には、プラスグレルとして3.75mgを1日1回経口投与する。<Shimo's eyes>『脳卒中治療ガイドライン2021』では、非心原性脳梗塞の再発抑制に対しては抗血小板薬(クロピドグレル、アスピリンまたはシロスタゾール)の投与が勧められていますが、本剤の適応は、「大血管アテローム硬化または小血管の閉塞を伴う虚血性脳血管障害後の再発抑制」に限定されました。なお、適応追加の対象は2.5mg錠および3.75mg錠のみです。今回の改訂で、空腹時は食後投与と比較してCmaxが増加するため、空腹時の投与は避けることが望ましい旨の記載が追記されました。用法に「食後投与」は明記されていないので注意しましょう。既存薬のクロピドグレルは、主にCYP2C19によって代謝されるため、遺伝子多型による影響を受けやすいことが懸念されていますが、本剤は、ヒトカルボキシルエステラーゼ、CYP3AおよびCYP2B6などで代謝されて活性体となるプロドラッグであり、遺伝子多型の影響を受けにくいとされています。参考第一三共 医療関係者向けサイト エフィエント錠アジルバ:小児適応追加、新剤型として顆粒剤が登場<対象薬剤>アジルサルタン(商品名:アジルバ顆粒1%、同錠10mg/20mg/40mg、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2021年9月<改訂項目>[追加]用法・用量<小児>通常、6歳以上の小児には、アジルサルタンとして体重50kg未満の場合は2.5mg、体重50kg以上の場合は5mgを1日1回経口投与から開始します。なお、年齢、体重、症状により適宜増減が可能ですが、1日最大投与量は体重50kg未満の場合は20mg、体重50kg以上の場合は40mgです。<Shimo's eyes>アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるアジルサルタンに、小児に対する用法および用量が追加されました。また、新剤型として顆粒剤も発売されました。顆粒剤は、成人にも小児にも適応がありますが、小児の開始用量である2.5~5mgを投与する際に便利です。参考武田薬品工業 医療関係者向けサイト アジルバレルミナ:子宮内膜症に基づく疼痛改善の適応が追加<対象薬剤>レルゴリクス(商品名:レルミナ錠40mg、製造販売元:あすか製薬)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果子宮内膜症に基づく疼痛の改善<Shimo's eyes>本剤は、経口GnRHアンタゴニストであり、2019年1月に子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善で承認を取得しています。子宮筋腫に続き、子宮内膜症患者を対象とした第III相試験の結果が報告されたことから、今回新たな適応が承認されました。本剤は下垂体のGnRH受容体を阻害することにより、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を阻害します。その結果、エストロゲンおよびプロゲステロンが抑制され、子宮内膜症の主な症状である骨盤痛を改善します。参考あすか製薬 医療関係者向け情報サイト レルミナ錠40mg

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「血圧は高くないのに…」 なぜ妊婦にニフェジピンが?【スーパー服薬指導(4)】

スーパー服薬指導(4)「血圧は高くないのに…」 なぜ妊婦にニフェジピンが?講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説ニフェジピン徐放錠の処方箋を持った患者が来局。妊娠週数を確認した薬剤師は、カルシウム拮抗薬が処方された理由を確認しようとするが…

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転移のない前立腺がん、アビラテロン+エンザルタミドで無転移生存期間延長/Lancet

 転移のない高リスク前立腺がん男性の治療において、アンドロゲン除去療法(ADT)による3年間の標準治療にアビラテロン酢酸エステル(アビラテロン)+プレドニゾロンまたはアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミドを併用すると、標準治療単独と比較して、全生存期間の代替指標とされる無転移生存期間が延長し、前立腺がん特異的生存期間や生化学的無再発生存期間も改善されることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのGerhardt Attard氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年12月23日号で報告された。2つの第III相STAMPEDE試験のメタ解析 研究グループは、非転移性前立腺がん男性の治療における、ADTへのアビラテロン+プレドニゾロンまたはアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミド併用の有効性を評価する目的で、STAMPEDEプラットホームプロトコールに基づく2つの第III相非盲検無作為化対照比較試験のメタ解析を行った(Cancer Research UKなどの助成を受けた)。これら2つの試験は、英国とスイスの113施設が参加し、2011年11月~2016年3月の期間に実施された。 対象は、年齢制限はなく、高リスク(リンパ節転移陽性、または陰性の場合は次の要件のうち少なくとも2つを有する:腫瘍Stage T3/T4、Gleasonスコア8~10点、前立腺特異抗原[PSA]値40ng/mL以上)あるいは、高リスクの特徴(ADTの全期間が12ヵ月以下で治療なしの間隔が12ヵ月以上でありPSA値4ng/mL以上で倍加時間が6ヵ月未満、またはPSA値20ng/mL以上、またはリンパ節再発)を持つ再発の非転移性前立腺がんで、WHO performance statusが0~2の患者であった。放射線療法は、リンパ節転移陰性例では行い、陽性例では推奨された。 2つの試験(第1試験、第2試験)とも、被験者は、ADT単独(手術、黄体形成ホルモン放出ホルモンの作動薬と拮抗薬)による治療を受ける群(対照群)、またはADT+経口アビラテロン酢酸エステル(1,000mg/日)+経口プレドニゾロン(5mg/日)を受ける群(併用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。第2試験の併用群は、さらにエンザルタミド(160mg/日、経口投与)が追加された。ADTは3年間、併用治療は2年間行われたが、放射線療法を受けなかった患者では、病勢が進行するまで治療を継続できることとされた。 主要エンドポイントは無転移生存期間とし、無作為化の時点から全死因死亡または遠隔転移(画像で確定)の発現までの期間と定義された。両群とも期間中央値には未到達だが、併用群で47%延長 1,974例が解析に含まれた。第1試験(2011年11月~2014年1月)では、併用群に459例、対照群に455例が、エンザルタミドを含む第2試験(2014年7月~2016年3月)では、それぞれ527例および533例が割り付けられた。全体の年齢中央値は68歳(IQR:63~73)、PSA中央値は34ng/mL(IQR:14.7~47)であった。また、39%がリンパ節転移陽性で、85%は標準治療として放射線療法を受けていた。 追跡期間中央値は72ヵ月(IQR:60~84)で、この間に無転移生存イベントが併用群で180件、対照群で306件発生した。 無転移生存期間中央値(月)は、両群とも未到達(IQRは併用群が評価不能[NE]~NE、対照群は97~NE)であり、併用群で有意に延長していた(ハザード比[HR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.44~0.64、p<0.0001)。6年無転移生存率は、併用群が82%(95%CI:79~85)、対照群は69%(65~72)であった。 また、全生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群は103~NE、HR:0.60[95%CI:0.48~0.73]、p<0.0001)、前立腺がん特異的生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群はNE~NE、HR:0.49[0.37~0.65]、p<0.0001)、生化学的無再発生存期間(併用群は中央値未到達でIQRはNE~NE、対照群は中央値86ヵ月でIQRは83~NE、HR:0.39[0.33~0.47]、p<0.0001)、無増悪生存期間(両群とも中央値には未到達で、IQRは併用群がNE~NE、対照群は103~NE、HR:0.44[0.36~0.54]、p<0.0001)は、いずれも併用群で有意に長かった。 治療開始から24ヵ月の期間に、Grade3以上の有害事象は、第1試験の併用群で37%(169/451例)、対照群で29%(130/455例)に、第2試験ではそれぞれ58%(298/513例)および32%(172/533例)に認められた。併用群で頻度の高かったGrade3以上の有害事象は、高血圧(第1試験の併用群は5%[23/451例]、対照群は1%[6/455例]、第2試験はそれぞれ14%[73/513例]および2%[8/533例])と、高アラニントランスアミナーゼ血症(第1試験の併用群は6%[25/451例]、対照群は<1%[1/455例]、第2試験はそれぞれ13%[69/513例]および1%[4/533例])であった。 Grade5の有害事象は7件が報告された。第1試験の併用群で3件(直腸腺がん、肺出血、呼吸不全)、第2試験の併用群で4件(敗血症性ショック2件、突然死2件)であり、2つの試験とも対照群では発現しなかった。 著者は、「アビラテロン+プレドニゾロンは、転移のない高リスク前立腺がんの新たな治療法として考慮すべきである」としている。

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心肺停止時にカルシウム投与は無効(解説:香坂俊氏)

ACLSのプロトコールには「低カルシウム血症や高カリウム血症、さらにカルシウム拮抗薬のoverdose」といった、ごく限られた状況でカルシウム製剤の静注投与が推奨されている。今回デンマークで行われたRCTでは、このカルシウム製剤の有効性をより広範囲の一般的な院外心肺停止症例で検証したが、残念ながらその結果はカルシウム製剤側に害がある可能性が高いということで(ROSC[return of spontaneous circulation]がカルシウム製剤投与群で19%であったのに対し、プラセボ群で27%[リスク比:0.72、p=0.09])、途中で試験中止が勧告されるという結果となった。カルシウムは狭心作用があることが知られているが、その一方で細胞内のカルシウム濃度が上昇することで心筋細胞が過収縮してしまうことも知られており、今回の試験の結果はカルシウム製剤がこの悪い方に作用したものと考えられる(ほかに、カルシウムを投与することにより酸化ストレス反応が亢進することも知られている)。心肺停止症例の予後を改善することは容易ではなく、残念ながら今回のカルシウム投与に関しても否定的な結果となったが、それにしても北欧諸国のこの領域でのRCTの取り組みの多様さには恐れ入る。国や自治体レベルでの取り組みが功を奏しているものと思うが、こうした一つひとつの取り組みが心肺蘇生に対する「科学的」アプローチを徐々にひもといていくものと期待したい。

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「頭痛の診療ガイドライン」8年ぶり改訂、ポイントは

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とした新規薬剤の片頭痛予防薬としての相次ぐ承認、2018年の「国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)」の発表等、頭痛診療における重要な変化を反映する形で、8年ぶりの改訂となった「頭痛の診療ガイドライン 2021」1)が10月に刊行された。ガイドライン作成委員会委員長を務めた荒木 信夫氏(よみうりランド慶友病院院長)に、頭痛の診療ガイドライン改訂のポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。 「頭痛の診療ガイドライン 2021」は前回の「慢性頭痛の診療ガイドライン 2013」をもとに改訂が行われているが、二次性頭痛の項目を加え、その記載を大幅に拡充したことから、タイトルは従来の「慢性頭痛」から「頭痛」に変更されている。頭痛の診療ガイドライン2021で慢性片頭痛が頭痛のサブタイプに ICHD-2では慢性片頭痛は片頭痛合併症の1つとして分類されていたが、ICHD-3では片頭痛のサブタイプの1つとして分類され、その概念・診断法が明確に定義された(CQII-1-12)。荒木氏は、「CGRP関連薬剤の慢性片頭痛への有効性が明らかになり、この診断はとても重要」と話す。また、薬物の使用過多による頭痛(MOH)との鑑別において、今版では慢性片頭痛と両方の診断基準を満たす場合は両方の診断名を与えることが可能とされた。MOHについては、頭痛の診療ガイドライン旧版では薬物乱用頭痛とされていたが 「頭痛の診療ガイドライン 2021」では訳語が変更され、そのサブタイプや診断時の基準となる服薬日数などが一部変更されている(CQVI-1)。頭痛の診療ガイドライン2021における片頭痛急性期治療 今回の「頭痛の診療ガイドライン 2021」において、片頭痛の急性期治療におけるトリプタンとNSAIDsを文献から比較・分析した結果、トリプタンで有意に投与2時間後の頭痛消失率が高く、24時間以内の再発率が低いことが示された。一方で有害事象はトリプタンで多かったが、重篤なものはなく、多職種および患者代表も参加したGRADE方式による検討の結果、トリプタンを使用できない症例を適切に除外することで利益が不利益を上回るとされた。なお、推奨文の付帯事項として、片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛でのトリプタンの使用は非推奨となっている(CQII-2-3)。 また、トリプタンにはノンレスポンダーや血管収縮作用のために使用できない症例も存在する。そこで現在、血管収縮作用をもたない選択的5-HT1F受容体作動薬(ditan)やCGRP受容体拮抗薬(gepant)の開発が進められている。今回、米国FDAですでに認可された、ditanのlasmiditan、gepantのubrogepant、rimegepantが片頭痛急性期治療薬としてトリプタンと同じGroup 1(有効)に位置付けられた(CQII-2-1)。頭痛の診療ガイドライン2021で片頭痛予防薬にCGRP関連薬剤 2021年、本邦では抗CGRP抗体ガルカネズマブ、フレマネズマブ、および抗CGRP受容体抗体エレヌマブが片頭痛予防薬として相次いで承認された。「頭痛の診療ガイドライン 2021」でも予防薬としてGroup 1(有効)に位置付けられ(CQII-3-2)、強い推奨/エビデンスの確実性Aとされている(CQII-3-14)。「月に一度の投与で、1週間ほどで改善がみられる患者さんが多い。片頭痛治療においては、トリプタン登場以来のインパクトといえるのではないか」と荒木氏。3剤の効果はほぼ同等といえるが、初回本数の違いによるコストの違い、12週間隔を選択できることによる間隔の違いなどがある。荒木氏は、「医師がそれらの違いをしっかり説明して、合うものを選んでもらえるようにしていくことが望ましい」とした。 なお、日本頭痛学会では、ホームページ上で今回の「頭痛の診療ガイドライン 2021」とは別に「CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)」2)を公開しており、3剤それぞれの使用に関する手順や留意事項をまとめている。投与が可能な医師要件としては、日本神経学会、日本頭痛学会、日本脳神経外科学会の専門医、日本内科学会の総合内科専門医のうちいずれかを有していることなどが挙げられている。 2つのガイドラインについて荒木氏は、適正使用に関しては「CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)」、学問的な根拠については「頭痛の診療ガイドライン2021」としてそれぞれ活用してほしいと話した。 その他、CGRP受容体拮抗薬(gepant)、海外で良好な成績が報告されているA型ボツリヌス毒素、適応外使用が認められた抗うつ薬のアミトリプチリンが予防薬のGroup 1(有効)として今回新たに追加されている(CQII-3-2)。また、ニューロモデュレーションについても新たにCQが設けられ、弱い推奨/エビデンスの確実性Aとされた(CQII-3-18)。荒木氏は「日本では治験も行われていない状況だが、海外ではエビデンスが蓄積してきており、電気刺激療法についても、将来の治療法の選択肢の1つといえるだろう」と期待感を示した。頭痛の診療ガイドライン2021で片頭痛予防療法の対象を改訂 CGRP関連薬剤を含む予防療法の対象について、今回の 「頭痛の診療ガイドライン 2021」では推奨事項が変更されている。頭痛の診療ガイドライン旧版では、「片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に6日以上ある患者」とされていたが、今回「片頭痛発作が月に2回以上、生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者」に改訂された(CQII-3-1)。海外のガイドラインなどを検証した結果、ほとんどの国で3日を超える場合として定義されており、委員会での検討のうえ変更され、より多くの患者が対象となる。頭痛の診療ガイドライン2021は小児・思春期の頭痛を大幅拡充 三叉神経・自律神経性頭痛に関しては、群発頭痛に対して在宅酸素療法(HOT)が保険適用で使えるようになったことが大きいと荒木氏。新たにCQが設けられ、強い推奨/エビデンスの確実性Aとされた(CQIV-7)。 小児・思春期の頭痛については、「頭痛の診療ガイドライン 2021」では記述が大幅に拡充され、「CQVII-7 不登校・不規則登校を伴う頭痛はどのような頭痛か、どう対処すればよいか」が加えられるなど、診療現場で重要な頭痛についてまとめられている。 今回の「頭痛の診療ガイドライン 2021」では、二次性頭痛が新項目として加えられた。頭痛の診療ガイドライン旧版ではくも膜下出血など一部しか掲載がなかったが、今版ではICHD-3の二次性頭痛をほぼ網羅、より細分化して整理している。「例えばRCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)はICHD-2にはなかった新しい概念」と荒木氏。ICHD-3では一次性頭痛でも二次性頭痛でもない3番目の分類に位置付けられているニューロパチーやその他の顔面痛についても、本ガイドラインでは二次性頭痛の項目の1つとして取り上げ、診断・治療法を整理している。

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2型DMの新規発症リスクを低下・増加させる降圧薬は?/Lancet

 降圧治療は2型糖尿病の新規発症予防に効果的な戦略であるが、その効果は降圧薬のクラスにより異なっており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で良好な結果が得られることが、英国・オックスフォード大学のMilad Nazarzadeh氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)のメタ解析で示された。降圧治療は、糖尿病の細小血管および大血管合併症を予防する戦略として確立されているが、糖尿病そのものの予防に寄与するかは不明であった。著者は、「降圧薬のクラスによる差はおそらくオフターゲット作用の違いによるものと考えられる。今回のエビデンスは、糖尿病発症予防のために降圧薬のクラスを選択する必要があることを支持するものであり、個々の臨床的な糖尿病リスクに応じた薬剤選択の改善に結び付くだろう」と述べている。Lancet誌2021年11月13日号掲載の報告。RCT 19件・約14万6千例をメタ解析 BPLTTC研究グループは、降圧治療が新規2型糖尿病の発症リスクに及ぼす影響を評価するとともに、5つの主要なクラスの降圧薬の新規2型糖尿病発症リスクに対する効果の違いを検討する目的で、無作為化試験の参加者個々のデータを用い、1段階法によるメタ解析ならびにネットワークメタ解析を行った。 対象は、1次予防および2次予防の効果について特定クラスの降圧薬とプラセボまたは他のクラスの降圧薬との比較を行い、各群1,000人年以上追跡した無作為化比較試験とした。ベースラインにおいて糖尿病と診断されている患者、および糖尿病既往の患者を対象とした試験はすべて除外した。 1段階法による個人データのメタ解析は層別Cox比例ハザードモデルを、個人データのネットワークメタ解析はロジスティック回帰モデルを用い、薬剤クラスの比較に関して相対リスク(RR)を算出した。 全体では、1973~2008年に実施された22件の臨床試験のデータが解析対象となった。1段階法による個人データのメタ解析には、このうち19件の無作為化比較試験から得られた14万5,939例(男性8万8,500例[60.6%]、女性5万7,429例[39.4%])が組み込まれ、個人データのネットワークメタ解析には全22試験が組み込まれた。全体では収縮期血圧5mmHg低下で2型DMの発症リスクが11%低下 追跡期間中央値4.5年(IQR:2.0)において、9,883例が新たに2型糖尿病と診断された。収縮期血圧が5mmHg低下した場合、追跡期間中の2型糖尿病の発症リスクは、全体で11%低下した(ハザード比:0.89、95%信頼区間[CI]:0.84~0.95)。 5つの主要なクラスの降圧薬の効果に関する検討では、プラセボと比較してACEI(RR:0.84、95%CI:0.76~0.93)、ARB(0.84、0.76~0.92)は、2型糖尿病の新規発症リスクを減少することが示された。一方、β遮断薬(1.48、1.27~1.72)、およびサイアザイド系利尿薬(1.20、1.07~1.35)は2型糖尿病の新規発症リスクを増加することが示され、カルシウム拮抗薬(1.02、0.92~1.13)についてはマテリアルな影響が見つからなかった。

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DAPA-CKD試験の新たなサブ解析結果/AstraZeneca

 AstraZeneca(本社:英国ケンブリッジ)は、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)を対象とした第III相DAPA-CKD試験の3つの新たなサブ解析の結果を発表した。DAPA-CKD試験のサブ解析でダパグリフロジンのベネフィットをさらに裏付け DAPA-CKD試験の新たなサブ解析の結果、2型糖尿病の有無にかかわらず、慢性腎臓病(CKD)患者の治療で、ダパグリフロジンの心腎および死亡率に対するベネフィットが一貫して認められることをさらに裏付けた。また、リアルワールドエビデンス研究となるREVEAL-CKDでは、世界的にステージ3のCKD診断率が著しく低いことが明らとなった。 DAPA-CKD試験は、2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDステージの2~4、かつ、アルブミン尿の増加が確認された4,304例を対象に、ダパグリフロジン10mg投与による有効性と安全性をプラセボと比較検討した国際多施設共同無作為化二重盲検第III相試験。本剤は1日1回、標準治療と併用された。複合主要評価項目は、腎機能の悪化もしくは死亡リスクで、副次評価項目は、腎機能の複合評価項目、心血管死もしくは心不全による入院、および全死因死亡のいずれかの初発までの期間。DAPA-CKD試験は日本を含む21ヵ国で実施された。DAPA-CKD試験での死亡の相対リスク減少率は4地域で30~49% DAPA-CKD試験における腎臓、心血管(CV)および死亡率のアウトカムに関する地域別の解析データから、CKD患者におけるダパグリフロジンの有益性は、北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパおよびアジアを含む事前に規定された地理的地域間においても同程度であることが示された。複合主要評価項目である推定糸球体濾過量(eGFR、腎機能の重要な指標)の50%以上の持続的低下、末期腎疾患(ESKD)の発症および、心血管または腎不全による死亡の相対リスク減少率は、4つの地域で一貫して30~49%(プラセボと比較したダパグリフロジンの絶対リスク減少率は3.3~8.0%)だった。 また、別のDAPA-CKD試験のサブ解析では、ベースラインの心血管系併用薬がCKD患者におけるダパグリフロジンの効果に影響を与えるかが評価され、その結果、さまざまな心血管系併用薬使用の有無にかかわらず、CKD患者における腎臓、心血管評価項目および死亡率に対する本剤の明らかな有益性が示された。 具体的には、主要複合アウトカムの最初のイベント発生までの時間におけるダパグリフロジンの効果は、プラセボとの比較で、ベースライン時にアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用していた患者(ハザード比[HR]0.61、95%信頼区間[CI]0.51-0.74)と使用していない患者(HR0.54、95%CI0.20-1.46;交互作用のp=0.69)で同程度だった。また、利尿薬、カルシウム拮抗薬およびβ遮断薬など、解析された他の心血管系併用薬使用の有無にかかわらず、本剤の一貫した効果が示された。 そのほかのDAPA-CKD試験のサブ解析では、治療開始後早期のeGFRの低下は、ダパグリフロジンで治療した患者により多いことが示された。この早期のeGFRの変化は、本剤の作用機序と関連し、糸球体における好ましい血行動態変化を反映していると考えられる。なお、低下の程度にかかわらず、この早期におけるeGFRの低下は、重篤な有害事象、有害事象による治療中止、腎臓関連事象または体液量減少事象のリスク増加とは関連していなかった。 なお、これらのDAPA-CKD試験の解析データは2021年の米国腎臓学会(ASN)腎臓週間で発表された。

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新しい作用機序で心血管イベントを抑制するHFrEF治療薬「ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第86回

新しい作用機序で心血管イベントを抑制するHFrEF治療薬「ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬「ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、標準治療を受けている左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者に対して、新しい作用機序で心血管イベントリスクを低減させることが期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)の適応で、2021年6月23日に承認され、9月15日に発売されました。なお、左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していません。<用法・用量>通常、成人にはベルイシグアトとして、1回2.5mgを1日1回食後経口投与から開始し、2週間間隔で1回投与量を5mgおよび10mgに段階的に増量します。なお、血圧など患者の状態に応じて適宜減量します。<安全性>国際共同第III相試験(VICTORIA、試験16493)において、副作用は本剤投与群2,519例中367例(14.6%)で報告されました。主な副作用は、低血圧172例(6.8%)、浮動性めまい37例(1.5%)、悪心19例(0.8%)、起立性低血圧、消化不良各14例(0.6%)、疲労11例(0.4%)、頭痛10例(0.4%)などでした。なお、重大な副作用として、低血圧(7.4%)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は心臓や血管の機能を調節し、慢性心不全が悪くなるのを抑えます。2.血管を拡張させる作用によって、めまい・ふらつきが現れることがあります。高い所での作業、自動車の運転や機械の操作には注意してください。3.(女性に対して)本剤を服用中および服用終了後一定期間は確実な方法で避妊してください。妊娠を希望する場合は医師に伝え、今後の方針について相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、慢性心不全の適応で承認された初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬です。既存のsGC刺激薬としてはリオシグアト(商品名:アデムパス)が肺動脈性肺高血圧症などの適応で承認されています。慢性心不全の病態では、内皮細胞機能不全による一酸化窒素(NO)産生の低下やsGCの機能不全により、cGMPシグナルの低下が引き起こり、その結果として心筋および血管の機能不全の一因、さらには心不全の悪化に寄与していると考えられます。本剤は、NO受容体であるsGCを直接刺激する作用と、内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用の2つの機序により、心血管系の重要なシグナル伝達経路であるNO-sGC-cGMP経路を活性化して、慢性心不全の進行を抑制します。日本人を含む国際共同第III相試験(VICTORIA、試験16493)では、慢性心不全の標準的な治療を受けているHFrEF患者に対して本剤またはプラセボが投与されました。前治療として、β遮断薬、ACE阻害薬またはARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の3剤併用療法を受けていた患者が59.7%を占めていました。その結果、本剤群では、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイント発現の相対リスクが10%減少しました(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.82~0.98)。本剤と既存のsGC刺激薬であるリオシグアトは、降圧作用を増強する恐れがあるため併用禁忌であり、シルデナフィルを含むPDE5阻害薬、一硝酸イソソルビドなどの硝酸剤およびNO供与剤も同様の理由から併用注意となっています。なお、本剤投与前の収縮期血圧が100mmHg未満の患者では過度の血圧低下が起こる恐れがあるため血圧の確認も必要です。近年、HFrEFに対する新しい治療薬として、HCNチャネル阻害薬のイバブラジン(商品名:コララン)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のサクビトリルバルサルタン(同:エンレスト)、SGLT2阻害薬のダパグリフロジン(同:フォシーガ)などが使用できるようになりました。本剤は既存の治療薬とは異なる作用機序であり、標準治療が効果不十分な患者であっても心血管イベントリスクが低減する可能性があります。参考1)PMDA 添付文書 ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg

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原発性アルドステロン症〔PA:Primary aldosteronism〕

1 疾患概要原発性アルドステロン症(PA)は治癒可能な高血圧の代表的疾患である。副腎からアルドステロンが過剰に分泌される結果、腎尿細管からのナトリウム・水再吸収の増加による循環血漿量増加、高血圧を呈するととともに、腎からのカリウム排泄による低カリウム血症を示す。典型例では高血圧と低カリウム血症の組み合わせが特徴であるが、近年は、血清カリウムが正常な例も多く経験され、通常の診察のみでは本態性高血圧との区別がつかない。高血圧は頻度の高い生活習慣病であることから、日常診療において常にその診断に配慮する必要がある。頻度が高く、全高血圧の約3~10%を占めることが報告され、わが国の患者数は約100万人とも推計されている。典型例は片側の副腎腺腫が原因となる「アルドステロン産生腺腫」であるが、両側の副腎からアルドステロンが過剰に分泌される両側性の原発性アルドステロン症(「特発性アルドステロン症」と呼ばれてきた)もあり、最近では、前者より後者の経験数が増加している。腺腫による場合は病変側の副腎摘出により、高血圧、低カリウム血症が治癒可能で、治癒可能な二次性高血圧の代表的疾患である。一方、診断の遅れは治療抵抗性高血圧の原因となり、これに低カリウム血症、アルドステロンの臓器への直接作用が加わって、脳・心血管・腎などの重要臓器障害の原因となる。わが国の研究からも通常の高血圧より、脳卒中、心不全、心肥大、心房細動、慢性腎臓病の頻度が高いことが明らかにされていることから、早期診断と特異的治療が極めて重要である1)。腺腫によるPAでは、細胞膜のカリウムチャンネルの一種であるKCNJ5の遺伝子変異などいくつかの遺伝子異常が発見され、アルドステロンの過剰分泌の原因となることが明らかにされている。一方、両側性は肥満との関連が示唆2)されているが、病因は不明である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 自覚症状低カリウム血症がある場合は、四肢のしびれ、筋力低下、脱力感、四肢麻痺、多尿、多飲などを認める。正常カリウム血症の場合では、高血圧のみとなり、血圧の程度に応じて頭痛などを認めることもあるが、非特異的な症状であり、本態性高血圧との区別はつかない。■ どのようなケースで疑うか正常カリウム血症で特異的な症状を認めない場合は本態性高血圧症と鑑別が困難なことから、すべての高血圧患者でその可能性を疑う必要があるが、ガイドラインでは特にPAの頻度が高い高血圧患者を対象として積極的にスクリーニングすることを推奨している(表)3)。表 PAの頻度が高いため、特にスクリーニングが推奨される高血圧患者低カリウム血症合併(利尿薬投与例を含む)治療抵抗性高血圧40歳未満での高血圧発症未治療時150/100mmHg以上の高血圧副腎腫瘍合併若年での脳卒中発症睡眠時無呼吸症候群合併(文献3より引用)■ 一般検査所見代謝性アルカローシス(低カリウム血症がある場合)、心電図異常(U波、ST変化)を認めることがある。典型例では低カリウム血症を認めるが、正常カリウム血症の症例が多い。また、血清カリウム濃度は(1)食塩摂取量、(2)採血時の前腕の収縮・伸展、(3)溶血などのさまざまな要因で変動することから、適宜、再評価が必要である。■ スクリーニング検査血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)を測定し、両者の比率アルドステロン/レニン活性比(ARR)≧200以上かつPAC≧60pg/mLの場合に陽性と判定する。ARRは分母であるPRAに大きく依存することから、偽陽性を避けるためにPACが一定レベル以上であることを条件としている。従来、PACはラジオイムノアッセイにより測定されてきたが、本年4月から化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)に変更され、それに伴ってPAC測定値が大幅に低下した。このためARR100~200の境界域も暫定的に陽性とし、個々の例で患者ニーズと臨床所見を考慮して検査方針を判断することが推奨される。■ 機能確認検査スクリーニング陽性の場合、アルドステロンの自律性・過剰産生を確認するために機能確認検査を実施する。カプトプリル試験、生食負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験がある。カプトプリル試験は外来でも実施可能である。フロセミド立位試験は起立に伴い低血圧を来すことがあるので、前2つの検査が実施困難な場合を除き、推奨されない。一検査が陽性の場合、機能的にPAと診断する。測定法の変更に伴い、陽性判定基準も見直されたため注意を要する。約25%にコルチゾール同時産生を認めるため、明確な副腎腫瘍を認める場合には、デキサメタゾン抑制試験(1mg)を実施する。降圧薬はレニン・アルドステロン測定値に影響するため、可能な限り、Ca拮抗薬、α遮断薬の単独あるいは併用が推奨されるが、血圧コントロールが不十分な場合は、血圧管理を優先し、ARBやACE阻害薬を併用する。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の影響は比較的大きいが、高血圧や低カリウム血症の管理が困難な場合は、適宜使用する必要がある。■ 局在・病型診断病変が片側性か両側性か、片側性の場合、右副腎か左副腎かを明らかにする。副腎摘出術の希望がある場合に実施する。まず副腎腫瘍の有無を確認するため造影副腎CTを実施するが、PAの腺腫は小さいことから、約60%はCTで腫瘍を確認できない。一方、明確な腫瘍を認めても非機能性腺腫の可能性があり、腫瘍の機能評価はできない。このため、確実な局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが最も推奨される。副腎静脈血中のアルドステロン濃度/コルチゾール濃度比の左右差(Lateralized ratio)にて病変側を判定する。侵襲的なカテーテル検査であり、技術に習熟が必要であることなどから、専門医療施設での実施が推奨される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 主たる治療法副腎腫瘍を有する典型的な片側性PAでは腹腔鏡下副腎摘出術が第1選択、両側性や手術希望が無い場合は、MR拮抗薬を主とする薬物治療を行う。片側性PAでは手術による降圧効果が薬物治療より優れることが報告されている。通常の降圧薬のみで血圧コントロールが良好であっても、PAではアルドステロン過剰に対する特異的治療(手術、MR拮抗薬)による治療が推奨される。スクリーニング陽性であるが、機能確認検査を初めとする精査を実施しない場合、臨床所見の総合判断に基づき、MR拮抗薬投与の必要性を検討する。■ 診断と治療のアルゴリズム日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズムを図に示す3)。PAの頻度が高い高血圧患者でスクリーニングを行い、陽性の場合に機能確認検査を実施する。1種類の検査が陽性判定の場合に臨床的にPAとし、CT検査さらには、患者の手術希望に応じて副腎静脈サンプリングを実施する。機能確認検査以降の精査は、専門医療施設での実施が推奨される。局在・病型診断の結果に基づき、手術あるいは薬物治療を選択する。図 日本内分泌学会PAガイドラインにおける診療アルゴリズム3)画像を拡大する(文献3より引用)4 今後の展望局在・病型診断には副腎静脈サンプリングが標準的であるが、侵襲的検査であるため、代替えとなる各種バイオマーカー4)、PETを用いた非侵襲的画像診断法5)の開発が進められている。MR拮抗薬に変わる治療薬として、アルドステロン合成酵素の阻害薬の開発が進められている。PAの多くが両側性PAであることから、その病因解明、適切な診断、治療方針の確立が必要である。5 主たる診療科診断のスタートは高血圧の診療に従事する一般診療クリニック、市中病院の内科などである。スクリーニング陽性例は、内分泌代謝内科、高血圧内科などの専門外来に紹介する。副腎静脈サンプリングの実施が予想される場合は、それに習熟した専門医療施設への紹介が望ましい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)「重症型原発性アルドステロン症の診療の質向上に資するエビデンス構築(JPAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出(JRAS)」研究班(研究開発代表者:成瀬光栄)(医療従事者向けのまとまった情報)「難治性副腎腫瘍の疾患レジストリと診療実態に関する検討」研究班(主任研究者:田辺晶代)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Ohno Y, et al. Hypertension. 2018;71:530-537.2)Ohno Y, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2018;103:4456-4464.3)日本内分泌学会「原発性アルドステロン症診療ガイドライン策定と診断水準向上」委員会 編集.原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021.診断と治療社;2021.p.viii.4)Nakano Y, et al. Eur J Endocrinol. 2019;181:69-78.5)Abe T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:1008-1015.公開履歴初回2021年11月11日

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ozanimodの有用性(解説:上村直実氏)

 選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬ozanimodの潰瘍性大腸炎(UC)に対する有用性を検証した第III相臨床試験の結果、中等度から重度UCの寛解導入および寛解維持に有効性を認めたことがNEJM誌に掲載された。選択的S1P受容体調整薬ozanimodはUC患者の大腸粘膜へのリンパ球の浸潤を抑えることで炎症を抑制する効果が期待されている新規の低分子医薬品である。UCは特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在の患者数は約18万人である。UCに対する薬物治療については、5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されているが、最近、ステロイドの長期投与に伴う副作用や依存性の懸念が強まり、ステロイドからの離脱や減量を目的として生物学的製剤や低分子医薬品の開発が盛んに行われている。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬vedolizumab、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬フィルゴチニブ、今回のozanimodなど新規薬剤の有用性を示す試験結果が報告されて次々と上市されている。今後、さらなる難治性のUCに対しては生物学的製剤と低分子医薬品の併用の有用性と安全性の検証が必要となることも予測される。 ozanimodを含めてUCに対する有用性と安全性を検証する臨床試験の研究デザインは国際間多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験でほぼ一致しているが、最近のアウトカムは、一昔前の下痢や血便回数などの臨床的改善度のみでなく内視鏡を用いた肉眼的な粘膜治癒に加えて生検組織に好中球浸潤を認めないといった厳密なものに代わっている。したがって、試験結果の信憑性は高く、一般診療現場における有用性も十分に期待できるようになっている。 一方、薬剤の効果があればあるほど副作用ないしは安全性に関しては注意が必要となる。UCやリウマチなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られているが、まれなものとして重篤なウイルス性脳疾患である進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されている。さらに市販後数年経過して心血管血栓症や死亡リスクの上昇が判明した事案の報告もあり、観察期間が限定されている臨床試験では検証できない長期使用の安全性については市販後に注意深く検証されるべきであり、今後、市販後の長期安全性に関する精緻な検証体制が重要である。

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浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第7回

第7回 浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!―Key Point―片側性の下腿浮腫は、深部静脈血栓症の可能性を第一に考える突然発症の浮腫はアナフィラキシーや血管浮腫を想起する薬剤が原因で浮腫を起こすことがある症例:73歳女性主訴)左下肢腫脹現病歴)4日前から左下肢が腫れてきた。膝背部や大腿が椅子に座ると痛む。近くの診療所からリンパ浮腫の疑いと紹介があった。胸痛や歩行時の息切れはない。既往歴)特になし身体所見)バイタルサインは体温:36.4℃、血圧111/59mmHg、心拍数63回/分、呼吸数20回/分、SpO2 95%(室内気)。意識清明、左下肢全体に浮腫と発赤があった。経過)鑑別診断として深部静脈血栓症と蜂窩織炎を考えた。骨盤造影CT検査を行い左総腸骨静脈血栓症と診断した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!どの部位に浮腫があるか発症形式(時期)病態生理【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】浮腫の部位、発症形式に注目し、病態生理を考える全身性浮腫心不全、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症、甲状腺機能低下症、薬剤(Ca拮抗薬、NSAIDs、ステロイド、シクロスポリン)局所性浮腫口唇(血管浮腫)、上肢(上大静脈症候群)、片側下肢(深部静脈血栓症、蜂窩織炎、リンパ浮腫)発症形式(時期)突然発症(数分以内)アナフィラキシー、血管浮腫急性発症(数日)深部静脈血栓症、蜂窩織炎、急性糸球体腎炎慢性(数ヵ月)心不全、肝硬変、静脈不全病態生理1)患部を指で圧迫する非圧痕性浮腫甲状腺機能低下症、リンパ浮腫圧痕性浮腫fast edema(40秒以内に圧痕が消失)なら低アルブミン血症、slow edema (40秒経っても圧痕が残る)なら心不全、静脈不全2)血栓の有無や静脈不全を見逃さない血栓片側性下腿浮腫では、深部静脈血栓症→肺塞栓の可能性を第一に考える。悪性腫瘍(とくに腺がん)に伴う過凝固が原因で深部静脈血栓症ができることもある。静脈不全見逃されていることが多い。内果の血管拡張、うっ滞性皮膚炎、静脈瘤、足関節付近の色素沈着、下腿潰瘍があれば疑う。3)浮腫の原因は複合的なことが多い1)[例]薬剤(Ca拮抗薬)+静脈不全+塩分過多+長時間の立位図)正常と静脈不全の下肢2)画像を拡大する【STEP3】治療を検討する● 深部静脈血栓症抗凝固療法● 静脈不全塩分制限、下肢挙上、弾性ストッキング● 薬剤性薬剤の中止<参考文献・資料>1)高橋良. 本当に使える症候学の話をしよう. じほう.2020.p.124-154.2)Thai KE, at al. Fitzpatrick’s Dermatology in General Medicine. 7th. 2007.p.1680.

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肥大型心筋症〔HCM:hypertrophic cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に遺伝的変異を原因として不均一な心肥大を左室や右室に来し、心機能低下をもたらすとされる特発性心筋症であり、わが国では指定難病とされている。臨床的には左室流出路閉塞を来す閉塞性obstructive HCMと来さない非閉塞性non-obstructive HCMに分類され、前者では収縮期に左室内圧較差が生じることが臨床的に問題となることが多いのに対し、後者は予後が比較的安定しているとされている。■ 疫学日本全国に推計患者数が2万1,900人、有病率は人口10万人あたり17.3人と報告されている(1998年の全国疫学調査)。男女比は2.3:1と男性に多い。■ 病因心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常が主な病因であり、2019年時点では11の原因遺伝子と、サルコメアを構成するタンパク質をコードする遺伝子の1,500以上の変異が報告されている。しかし、遺伝子異常が特定されない症例も多くみられ(20~50%)、病因に関しては不明な点も多い。 ■ 症状閉塞性肥大型心筋症では胸部症状(労作時呼吸困難や相対的心筋虚血による胸痛・胸部絞扼感)や神経学的症状(起立時のめまい・ふらつき、眼前暗黒感、失神)が認められる。非閉塞性肥大型心筋症患者は無症候であることも多く、健康診断での心電図などを契機にわが国では発見される場合も多い。■ 分類肥大型心筋症は以下の5つのタイプに分類される:1.閉塞性肥大型心筋症(HOCM)HOCM(basal obstruction):安静時に30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める。HOCM(labile/provocable obstruction):安静時に圧較差は30mmHg未満であるが、運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の圧較差を認める。2.非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM):安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない。3.心室中部閉塞性心筋症(MVO):肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める。4.心尖部肥大型心筋症(apical HCM):心尖部に限局して肥大を認める。5.拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM; D-HCM):肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)を来し、拡張型心筋症様病態を呈する。■ 予後1982年の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%であった。死因として若年者では心臓突然死が多く、致死性不整脈、失神・心停止の既往、突然死の家族歴、左室最大壁厚>30mmのうち2項目以上で突然死リスクが高いとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 心エコー検査心室中隔の肥大、非対称性中隔肥厚(拡張期の心室中隔厚/後壁厚≧1.3)など心筋の限局性肥大、左室拡張能障害(左室流入血流速波形での拡張障害パターン、僧帽弁輪部拡張早期運動速度低下)を認める。閉塞性肥大型心筋症では、僧帽弁の収縮期前方運動、左室流出路狭窄を認める。■ 心臓MRI検査ガドリニウム造影剤を用いた遅延相でのガドリニウム増強効果(Late Gadolinium Effect)は心筋線維化の存在を反映する。■ 心臓カテーテル検査圧測定で左室拡張末期圧上昇、左室−大動脈間圧較差(閉塞性)、Brockenbrough現象(期外収縮発生後の脈圧減少)が認められる。■ 心内膜下心筋生検他の原因による心筋肥大を鑑別する上で重要であり、病理検体で肥大心筋細胞、心筋線維化(線維犯行および間質線維化)、心筋細胞の錯綜配列などが認められる。■ 運動負荷検査心肺運動負荷試験により、肥大型心筋症症例では症状の出現閾値、Peak VO2を評価することで適切な運動制限を設定することが可能となる。■ 遺伝子検査ルーチンでの遺伝子検査は推奨されていないが、左室肥大を引き起こすことが知られている他の遺伝的疾患(ファブリー病、ライソゾーム蓄積病など)の除外診断のため、あるいは患者の一等親血縁者などを対象として希望があれば実施されることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性肥大型心筋症に対する現在の治療は、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジソピラミドなどによる対症療法が中心であるが、後述のマバカムテン(mavacamten)が近い将来使用可能になることが予想される。薬物療法に抵抗性を示す症例では、外科的中隔切除術やアルコールを用いた中隔焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)などの侵襲的中隔縮小療法を検討するが、リスクを伴うことから事前に入念な評価を要する。また、心臓突然死リスクを評価することは重要であり、心停止の既往、持続性心室頻拍、原因不明の失神、左室壁30mm以上、2014ESCガイドライン計算式(HCM Risk-SCD Calculator)でハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)、第1度近親者の突然死、運動時の血圧反応異常などが認められる場合には致死的不整脈による心臓突然死リスクが高く、植込み型除細動器の植え込みを検討する。4 今後の展望肥大型心筋症に対しての根本的治療として世界初の疾患特異的治療薬であるマバカムテンの登場によってパラダイム・シフトを迎えている。マバカムテンは、肥大型心筋症筋組織のアクチン・ミオシンの架橋形成を抑制する低分子選択的アロステリック阻害剤であり、心筋の過剰収縮を低下させ、心筋エネルギー消費を改善するまったく新しい機序の経口薬である。EXPLORER-HCM試験では、症候性の閉塞性肥大型心筋症(左室流出路における圧較差50mmHg以上)の成人患者を対象とし、マバカムテンまたはプラセボに1対1で無作為に割り付け、それぞれを30週間投与し、主要評価項目である(1)最高酸素摂取量(peak VO2)が1.5mL/kg/分以上増加し、かつNYHAクラスが1つ以上低下した場合、または(2)NYHAクラスの悪化を伴わずにpeak VO2が3.0mL/kg/分以上の増加が、プラセボ投与128例中22例(17%)に対し、マバカムテン投与123例中45例(37%)で達成し、有意な改善を認めており、2022年以降米国などで市販が望まれている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥大型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)(医療従事者向けのまとまった情報)2014 ESC HCM Risk-SCD Calculator(医療従事者向けのまとまった情報)1)Maron BJ. N Engl J Med. 2018;379:655-668.2)Ommen SR, et al. Circulation. 2020;142:e533-e557.3)Olivotto I,et al. Lancet. 2020;396:759-769.公開履歴初回2021年10月14日

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新世代ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneは2型糖尿病性腎臓病において心・腎イベントを軽減する(FIGARO-DKD研究)(解説:栗山哲氏)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は心血管リスクを軽減 心・腎臓障害の一因としてミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰発現が知られている。MR拮抗薬(MRA)が心血管系イベントを抑制し、生命予後を改善するとのエビデンスは、RALES(1999年、スピロノラクトン)やEPHESUS(2003年、エプレレノン)において示されている。そのため、実臨床においてもMRAは慢性心不全や高血圧症に標準的治療として適応症をとっている。 2型糖尿病は、長期に観察すると高頻度(約40%)に腎障害(Diabetic Kidney Disease:DKD)を合併し、生命予後を規定する。DKDに対しては、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬が第一選択であるが、この根拠はLewis研究、MARVAL、RENAAL、IDNT、IRMA2など、多くの検証により裏付けされている。一方、RAS阻害薬によっても尿アルブミン低減が十分でない症例も少なからずあり、より一層の腎保護効果、尿アルブミン低減効果を期待できる薬物療法が求められている。ステロイド型MRAであるスピロノラクトンやエプレレノンは、降圧効果だけでなく、ACE阻害薬やARBとの併用で一層の尿アルブミン低減効果が示唆されている。しかし、これらのMRAは、高K血症の誘発や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を引き起こすことが問題視されている。とくにエプレレノンは、DKDや中等度以上のCKDでは禁忌である。 最近、新世代の非ステロイド型選択的MRAとしてエサキセレノンやfinerenoneなどが開発され、本稿で紹介するFIGARO-DKDなどの臨床研究が進んでいる、しかし、はたしてこれら新規薬剤がDKDの心・腎保護において真に「新たな一手」となりうるかは現時点で必ずしも明確でない。FIGARO-DKDの概要 Finerenoneは、MR選択性が高い非ステロイド型選択的MRAである。2015年Bakrisらは、finerenoneの初めてのランダム化試験を行い、DKD患者において尿アルブミン低減効果を報告した(Bakris GL, et al. JAMA. 2015;314:884-894.)。FIGARO-DKDは、2021年8月に開催された欧州心臓病学会(ESC 2021)において米国・ミシガン大学のPittらにより、2型糖尿病と合併するCKD患者においてfinerenoneの上乗せ効果が発表された。本研究は、欧州、日本、中国、米国など48ヵ国が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験である。対象は、18歳以上の2型糖尿病患者とDKD患者7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。対象患者は、最大用量のRAS阻害薬(ACE阻害薬あるいはARB)が受容された患者であり、実薬群でfinerenoneの上乗せ効果を観察した。腎機能からは、持続性アルブミン尿が中等度(尿アルブミン/クレアチニン比[ACR]:30~<300)でeGFRが25~90mL/min/1.73m2(ステージ2~4のCKD)、あるいは持続性アルブミン尿が高度(尿ACR:300~5,000)でeGFRが≧60mL/min/1.73m2(ステージ1~2のCKD)の群について解析された。開始時の血清K値は4.8mEq/L以下であった。 主要エンドポイント(EP)は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の心血管複合アウトカムであり、副次EPとして、末期腎不全(ESRD)、eGFRの40%以上の持続的な低下、腎関連死など、腎複合アウトカムである。結果は、主要EPのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)であり、前者で有意に良好であった(HR:0.87、95%CI:0.76~0.98、p=0.03)。その内訳は、心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で有意に低かった。一方、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中には差異はみられなかった。なお、収縮期血圧は、4ヵ月で-3.5mmHg、24ヵ月で-2.6mmHg低下した。副次EPは腎関連で、ESRDへの進展がfinerenone群(0.9%)でプラセボ群(1.3%)に比し有意に低値であった(HR:0.64、95%CI:0.41~0.995)。さらに、尿ACRは、finerenone群でプラセボ群に比し32%低下した(HR:0.68、95%CI:0.65~0.70)。腎複合アウトカムであるeGFRの基礎値からの57%低下と腎関連死の評価においても、finerenone群(2.9%)はプラセボ群(3.8%)より低値であった(HR:0.77、95%CI:0.60~0.99)。一方、高K血症(5.5mEq/L以上)の発現頻度は、finerenone群はプラセボ群の約2倍であった(10.8% vs.5.3%)。 以上の成績から、RAS阻害薬へのfinerenoneの上乗せ療法は、CKDステージ2~4で中等度のアルブミン尿を呈するDKD患者と、CKDステージ1~2で高度のアルブミン尿を呈するDKD患者の両者において、心血管アウトカムを改善すると結論された。FIGARO-DKDとFIDELIO-DKD FIGARO-DKDに先行し、2020年のNEJM誌に類似の研究FIDELIO-DKDが発表されている。両者の基本的な差異は、(1)主要EP:FIDELIO-DKDは腎複合、FIGARO-DKDは心血管複合、(2)平均eGFR:FIDELIOで44mL/min/1.73m2、FIGAROで68mL/min/1.73m2、(3)追跡期間中央値:FIDELIOで2.6年、FIGAROでは3.4年と、やや長い点である。 FIDELIO-DKDの結果、主要EPは腎複合アウトカムで18%低下、副次EPとして心血管複合アウトカムは14%低下した。このことから、finerenoneの上乗せ療法は、CKDの進展と心血管系イベントを抑制し、心・腎リスクを低下させることが示唆された。ただし、FIDELIO-DKDにおいて高K血症の発現頻度は、finerenone群でプラセボ群(21.7% vs.9.8%)より多く、これはFIGARO-DKDの頻度に比べて約2倍であった。 研究の患者背景や試験デザインに差異はあるものの、2021年のFIGARO-DKDは、2020年のFIDELIO-DKDと同様、finerenoneの心・腎保護作用を追従した結果であった。とくに、腎機能が正常なDKD患者でのFIGARO-DKDにおいて心血管系イベントの抑制効果が再現されたことは、MRAによる早期介入の重要性を示唆するものであり、臨床的意義はある。わが国の新規透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病によるDKDであることから、新規非ステロイド型MRA、finerenoneによる薬物治療は一定の光明をもたらす期待がある。MRAの上乗せはDKD治療として生き残れるか? 振り返ると、2010年ごろまでの状況においては、2型糖尿病を合併するCKD患者では、RAS阻害薬とMRAを併用することが標準治療となる可能性が期待されていた。しかし、2015年から普及したSGLT2阻害薬は、DKD治療に劇的なインパクトを与えた。すなわち、2015年から2019年にかけてEMPA-REG OUTCOME、CANVAS、CREDENCE、DECLARE-TIMI 58でSGLT2阻害薬の心血管イベント改善や腎保護が次々に明らかにされた。さらに、2019年から2021年にはEMPEROR-Preserved、Emperor-Reduced、DAPA-HF、DAPA-CKDなどにより、糖尿病CKDに限らず、非糖尿病CKDの心・腎保護のエビデンスも集積されてきた。これらのSGLT2阻害薬の成績は、血糖降下療法に確実な心・腎保護のエビデンスの報告が少なかった時代を経験してきた著者ら腎臓・糖尿内科医にとっては、まさに青天の霹靂なる大きな驚きであった。GLP-1受容体アゴニスト(GLP-1 RA)についても、SUSTAIN、REWIND、LEADERなどで心血管リスクや腎保護が観察され、DKD治療学の根幹が大きく変わろうとしている。欧米のレスポンスは迅速で、「KDIGOガイドライン2020年版」においては、DKDに対する第一選択としてRAS阻害薬と共にメトホルミンとSGLT2阻害薬の併用が推奨されている。 MRAのDKD治療上の位置付けに関しては、「KDIGOガイドライン2020年版」では、DKD治療の難治例に限り使用が推奨されている。確かに、SGLT2阻害薬やGLP-1 RAがなかった時代を時系列で振り返ると、治療抵抗性DKDの腎保護に対してRAS阻害薬とMRAの2剤によるdual blockadeで腎保護を目指すのは、一戦略ではあった。しかし、上述したごとくSGLT2阻害薬とGLP-1 RAの登場と関連する多くの心・腎保護のエビデンス集積から、MRAを上乗せする選択枝に疑問が生じつつある。その最も大きな問題点は、やはり高K血症であろう。MR阻害によるアルドステロン作用の低下が、高K血症を招来させることは自明である。DKDの病態には、普遍的に低レニン性低アルドステロン症(Hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)が存在する。HRHAの病態下では、アルドステロン作用の低下から高K血症を来しやすい。また、DKDによる腎機能低下は、Kクリアランス低下から高K血症を助長する。RAS抑制薬とMRAのdual blockadeが、DKDでは期待するほどのベネフィットはないと考えるのは、腎臓専門医の立場からの著者の独断と偏見ではないであろう。とはいうものの、DKD治療を離れ循環器専門医の立場から考えると、MRAの慢性心不全への心保護のメリットは決して否定されるものではない。 なお、2019年に日本で開発された非ステロイド型選択的MRA・エサキセレノンもRAS阻害薬との併用療法に期待が持たれている。2型糖尿病で微量アルブミン尿(ACR:45~<300)を呈するDKD患者449例を対象にした第III相ランダム化試験(ESAX-DN試験、Ito S, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2020;15:1715-1727.)において、プラセボに比べ尿ACRの低下は認めるものの、5.5mEq/L以上の高K血症出現率は4倍と高頻度であった。本剤の適応症は高血圧症のみであり、現時点でDKDや慢性心不全への適応拡大は未定である。

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乳がん1次治療でのパルボシクリブ、PPI併用でPFSが悪化/ESMO2021

 パルボシクリブで治療された転移を有する乳がん(mBC)患者の後ろ向き観察研究により、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用していた患者で無増悪生存期間(PFS)が有意に減少していたことがわかった。イタリア・Azienda Ospedaliera Universitaria Santa ChiaraのMarzia Del Re氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 薬剤による上部消化管障害を軽減するため、がん患者ではPPIが広く使用されているが、薬物相互作用により抗がん剤の吸収が阻害され臨床アウトカムに影響を与える恐れがある。パルボシクリブはpH依存性の溶解性を持つ弱塩基の薬剤である。この観察研究では、1次治療でパルボシクリブを投与されたホルモン受容体陽性HER2陰性のmBC患者を後ろ向きに調査した。パルボシクリブ投与中にPPIが投与されていなかった場合は併用なし、パルボシクリブ治療期間の全体または3分の2以上でPPIが投与されていた場合は併用ありと定義した。 主な結果は以下のとおり。・合計112例が登録され、PPIの併用なしと併用ありの患者がそれぞれ56例だった。・内分泌療法感受性の71例ではパルボシクリブ+レトロゾールが、内分泌療法抵抗性の41例ではパルボシクリブ+フルベストラントが投与されていた。・投与されていたPPIは、ランソプラゾール(42例)、オメプラゾール(11例)、pantoprazole(2例)、エソメプラゾール(1例)だった。・PPIを併用していた患者は、併用なしの患者と比べてPFSが短かった(14ヵ月vs.38ヵ月、p<0.0001)。・多変量解析では、PPI併用がPFS短縮の唯一の独立した予測因子であることが確認された(p=0.0002)。・PFSは、PPI併用なしの内分泌療法感受性mBC患者において、PPI併用患者やPPI併用有無にかかわらず内分泌療法抵抗性の患者と比べて、有意に長かった(p<0.0001)。 この結果から、研究者らは「パルボシクリブ投与患者には注意してPPIを処方するか、H2受容体拮抗薬やPPIの投与期間を大幅に短くすることが推奨される」とした。

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エンレストが「高血圧症」の効能追加の承認取得/ノバルティスファーマ

 ノバルティス ファーマは9月27日のプレスリリースで、同社の慢性心不全治療薬であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の「エンレスト」(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)について、「高血圧症」の効能追加の承認を取得したと発表した。本剤は2021年2月にロシアで、同年6月に中国で高血圧症での承認を取得しているが、日本国内におけるANRIの高血圧症に対する承認取得は初めて。エンレストで高血圧症患者に有意な降圧効果 ARNIのエンレストは、ネプリライシン(NEP)とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を同時に阻害する新規作用機序を有する薬剤。日本人の軽症または中等症の本態性高血圧症患者を対象とした国内第III相試験(A1306試験)において、エンレストを1日1回200mg投与したところ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のオルメサルタンに対して有意な降圧効果を示した上、オルメサルタンを上回る24時間持続的な降圧効果を示した。安全性および忍容性については、臨床試験で既存のARBと同等であることが示されている。 エンレストを巡っては、2021年8月30 日に開催された厚労省・薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において、「実質的にアンジオテンシンII受容体拮抗薬およびNEP阻害薬の配合剤とみなしても差し支えない品目であり、オルメサルタンの通常用量を上回る降圧効果が検証されていることなどから、既存の高血圧症治療の第1選択薬と同じ位置付けとすることは不適切」との指摘を踏まえ、継続審議となっていた。その後、添付文書の「効能または効果に関連する注意」の項に「過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として本剤を高血圧治療の第1選択薬としないこと」と記載することなどにより、今回のエンレストの追加承認となった。

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アニフロルマブがSLEに適応承認を取得/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、2021年9月27日付で既存治療にて効果不十分な全身性エリテマトーデス(SLE)の成人患者の治療薬としてI型インターフェロン受容体抗体アニフロルマブ(商品名:サフネロー点滴静注 300mg)がわが国で承認を取得したと発表した。SLEは女性に多く、幅広く全身症状を及ぼす自己免疫疾患 SLEは、免疫系が体内の正常な組織を攻撃する自己免疫疾患で、慢性的にさまざまな臨床症状を伴う複雑な疾患であるため、多くの臓器に影響を及ぼし、疼痛、発疹、倦怠感、関節の腫れ、発熱など幅広い症状の原因となる。SLE患者の50%以上は、本疾患自体あるいは既存の治療薬が原因の恒久的な臓器障害を引き起こし、症状が増悪や死亡リスクの上昇につながるとされる。わが国には約6万人のSLE患者が登録され、その大半は45歳までに診断された女性である。アニフロルマブは米国では中等~重症SLEの適応で承認済み アニフロルマブは、I型IFN受容体のサブユニット1に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、I型IFNの活動を阻害する。I型IFNは、SLEに関与する炎症反応経路に関係するサイトカインで、患者の大多数に疾患活動性と重症度との関連性があるI型IFNのシグナルの増加がみられる。 今回の承認では、2つのTULIP第III相試験と第II相MUSE試験を含むアニフロルマブ臨床開発プログラムの有効性および安全性データに基づいて行われた。これらの試験では標準治療に加えて、アニフロルマブを投与した群の患者は、標準治療にプラセボを加えた群に比べ、皮膚および関節を含む臓器系全体にわたる疾患活動性の低下を示すとともに、経口ステロイド剤(OCS)使用量の持続的な減量を示した。また、TULIP-2試験に登録された日本人患者のサブ解析も、アニフロルマブの承認申請を裏付ける根拠となった。 有害事象として、複数の臨床試験でアニフロルマブ投与群の患者に発現した頻度の高いものは、鼻咽頭炎、上気道感染、気管支炎、注入に伴う反応、過敏症および帯状疱疹が報告されている。 今回のアニフロルマブの承認は、わが国におけるI型インターフェロン(I型IFN)受容体拮抗薬の初めての薬事承認となる。 アニフロルマブは、米国で中等症から重症SLEの適応で承認されており、EUでは薬事審査中。今後、複数の新たな第III試験が、ループス腎炎、皮膚エリテマトーデスおよび筋炎を対象として計画されている。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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新世代MRAのfinerenone、DKDの心血管リスク減/NEJM

 2型糖尿病を合併する幅広い重症度の慢性腎臓病(CKD)患者の治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneはプラセボと比較して、心血管死や非致死的心筋梗塞などで構成される心血管アウトカムを改善し、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・ミシガン大学医学大学院のBertram Pitt氏らが実施した「FIGARO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。標準的な治療への上乗せ効果を評価 本研究は、48ヵ国の施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験であり、2015年9月~2018年10月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Bayerの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、2型糖尿病を伴うCKDで、添付文書に記載された最大用量のレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療で受容できない副作用の発現がみられない患者であった。スクリーニング時に、持続性のアルブミン尿の中等度上昇(尿中アルブミン[mg]/クレアチニン[g]比:30~<300)がみられ、推算糸球体濾過量(eGFR)が25~90mL/分/1.73m2(ステージ2~4のCKD)の患者、または持続性のアルブミン尿の高度上昇(尿中アルブミン/クレアチニン比:300~5,000)がみられ、eGFRが≧60mL/分/1.73m2(ステージ1/2のCKD)の患者が解析に含まれた。 被験者は、finerenone(10mgまたは20mg、1日1回、経口)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の複合とされ、生存時間解析を用いて評価が行われた。副次アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから4週以降における40%以上の持続的な低下、腎臓が原因の死亡の複合であった。主要アウトカム:12.4% vs.14.2% 7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。全体の平均年齢(±SD)は64.1±9.8歳で、69.4%が男性であった。 ベースライン時に、全体の70.5%がスタチン、47.6%が利尿薬の投与を受けていた。また、97.9%が血糖降下薬の投与を受けており、このうち54.3%がインスリン製剤、8.4%がSGLT2阻害薬、7.5%がGLP-1受容体作動薬の投与を受けていた。試験期間中に、15.8%がSGLT2阻害薬、11.3%がGLP-1受容体作動薬の投与を新たに開始した。 追跡期間中央値3.4年の時点で、主要アウトカムのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)で認められ、finerenone群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.76~0.98、p=0.03)。 この主要アウトカムのfinerenone群での利益は、主に心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で低かったためであり、心血管死(5.3% vs.5.8%、0.90、0.74~1.09)、非致死的心筋梗塞(2.8 vs.2.8%、0.99、0.76~1.31)、非致死的脳卒中(2.9% vs.3.0%、0.97、0.74~1.26)に差はみられなかった。 副次アウトカムは、finerenone群が9.5%(350例)、プラセボ群は10.8%(395例)で認められた(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01)。 担当医の報告による全般的な有害事象の頻度は両群で同程度であり、重篤な有害事象はfinerenone群が31.4%、プラセボ群は33.2%で発現した。高カリウム血症は、finerenone群で頻度が高かった(10.8%、5.3%)が、高カリウム血症による死亡例はなく、高カリウム血症による恒久的な投与中止例(1.2%、0.4%)や入院例(0.6%、0.1%)は、finerenone群で多いものの頻度は低かった。 著者は、「患者の60%以上がベースライン時にeGFR≧60mL/分/1.73m2のアルブミン尿を伴うCKD患者であったことから、尿中アルブミン/クレアチニン比によるスクリーニングで早期にCKDを診断し、この心血管リスクが高く認知度が低い患者集団の転帰を改善するための治療を開始する必要性が浮き彫りとなった」としている。

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