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第50回 「また接種券が届いたが接種すべき?」にどう答える

新型コロナワクチンの推奨が相次いで追補Pixabayより使用最近、「6回目の接種券が届いたんですけど…接種したほうがよいでしょうか?」と患者さんから質問を受けることが増えました。今日も外来だったのですが、10人以上に質問を受けました。これまでは、接種券が届いたら周囲に相談することなく接種していた患者さんのほうが多かったのですが、最近は「本当に接種し続ける意味があるのか」と疑問を持っている人が増え、躊躇しておられる印象です。そんな国民の逡巡を見越してか、日本感染症学会と日本小児科学会から相次いでワクチンに関する提言が追補されました。■日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して1)「わが国での流行はまだしばらく続くためワクチンの必要性に変わりはありません。COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性を慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています。」■日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)2)「国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在することから、これを予防する手段としてのワクチン接種については、日本小児科学会としての推奨は変わらず、生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨します。」新型コロナワクチンのエビデンスは驚異的なスピードで積み上げられていて、パンデミック初期の頃と比べると不明な点が減りました。患者さんを相手に診療をしていると、リスクとベネフィットを天秤にかける瞬間というのは何度か経験しますが、新型コロナワクチンについてはほぼエビデンスは明解を出しているので接種推奨の意見を持つ人のほうが多いはずですが、なぜか医療従事者でも接種しなくなった人が増えている現状があります。EBM副反応がしんどいというのは1つの理由です。「しんどい思いをしてまで接種する理由がない」というのはまっとうな理由ですし、私もそれに否定的な見解は持っていません。そのほかの理由として、「もういいや」といワクチン疲れしている人が増えていることです。ワクチン接種に懐疑的な報道やSNSのコメントがあるという理由で、「もう接種しなくていいと思う」と患者さんに持論を伝える医療従事者も次第に増えてきました。さすがに政府や学会が上記のような推奨を出しているさなか、それはまずいなと思います。私は対象の集団が多いほどエビデンスの威力は大きいと思っていて、たとえば喘息の初期治療にロイコトリエン受容体拮抗薬単剤を使うより吸入ステロイドを使うほうが患者さんのQOLは向上しますし、市中肺炎のエンピリック治療ではテトラサイクリン系抗菌薬よりもβラクタム系抗菌薬のほうがおそらく多くの人を救えます。普段の診療でわりとEBMを重視するのに、対象の集団が多いワクチンについてEBMを軽視するというのが、私にはよく理解できないです。まとめ繰り返しますが、個々でワクチンを接種しないと決めるのは個人の自由です。ただ、医療機関に勤務している人については通常の推奨度よりも高く、また基礎疾患のある患者さんに対しては学会も接種を推奨しているということは、納得できないとしても「医療従事者として理解しておく」必要があります。おそらく次第に接種間隔を空けていくことになるでしょうが、ひとまず9月以降はXBB対応ワクチンを接種することになります。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して2)日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)

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米FDAが治療困難な細菌性肺炎の治療薬を承認

 米食品医薬品局(FDA)は5月23日、Acinetobacter baumannii-calcoaceticus complex(以下、A. baumannii)に起因する細菌性の院内肺炎および人工呼吸器関連細菌性肺炎に対する新しい治療薬として、Xacduro〔一般名sulbactam for injection(スルバクタム静注用);durlobactam for injection(デュロバクタム静注用)〕を承認した。投与対象は18歳以上で、静脈内投与される。 グラム陰性球桿菌であるアシネトバクター属には多くの菌種が存在するが、医療機関で肺炎などの感染症の原因菌となることが最も多いのがA. baumanniiである。A. baumanniiは、互いに区別することが困難な4菌種の総称で、体のさまざまな部位に感染を引き起こす。A. baumanniiはまた、薬剤耐性を獲得しやすい。現状では、薬剤耐性A. baumannii感染に対する治療法は限定的である。 Xacduroは、ペニシリンに似た構造を持つ薬剤であるスルバクタムと、デュロバクタムで構成されている。スルバクタムはA. baumanniiを殺す作用を持ち、デュロバクタムはA. baumanniiが産生する可能性がある酵素によりスルバクタムが分解されるのを防ぐ作用を持つ。 Xacduroの安全性と有効性は、カルバペネム系抗菌薬に対して耐性を示すA. baumanniiによる肺炎で入院した成人患者177人を対象とした、多施設共同アクティブコントロール、オープンラベル(医師非盲検、評価者盲検)非劣性試験に基づいている。対象者は、Xacduroまたは対照抗菌薬としてコリスチンを最長14日間投与された。その結果、治療から28日以内にあらゆる原因で死亡した患者の割合は、Xacduro投与群での19%に対し、コリスチン投与群では32%に上った。Xacduro投与群で最も頻繁に生じた副作用は、肝機能検査での異常だった。 FDA医薬品評価研究センター(CDER)抗感染症部門でディレクターを務めるPeter Kim氏は、「FDAは、A. baumanniiなどの細菌を原因とする治療困難な感染症に対する安全で効果的な治療法の開発への支援に精力を傾けている。米国の重症の細菌性肺炎患者の一部に新たな治療選択肢を提供した今回の承認は、医療に関する高いアンメットニーズに応えるものだ」と述べている。 なお、Xacduroの承認は、Entasis Therapeutics社に対して付与された。

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事例025 レボフロキサシン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説再燃を繰り返す尿路感染症の患者に抗菌薬のレボフロキサシン錠(一般名:レボフロキサシン水和物、以下「同錠」)を処方したところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。同錠の添付文書をみてみると、必ず1日量を1回で投与することが求められているのみで、投与日数は適宜増減と記載されています。カルテをみると、初診時以降は細菌感受性検査などが行われておらず、再来時には同錠7日分が繰り返し処方されていました。「再燃」のコメントも入っています。投与日数の適宜増減から考えると問題が無いようにみえます。しかしながら、抗菌薬の使用目的は炎症を鎮めるためであり、耐性菌を防ぐために最小限の使用が求められます。過去の事例を見返したところ、ある返戻の理由に「尿路感染症に対する抗生剤・抗菌剤の算定は、診療開始日から2週間程度が基本となります。尿路感染症を繰り返す症例については診療開始日にご留意ください」と注意喚起されていたものをみつけました。今回の事例では、診療開始日が古いにもかかわらず、検査もなく繰り返し同一の抗菌薬が処方されていたため、「再燃」がコメントされていたとしても漫然投与とみなされ査定になったものと推測できます。今後の対応として医師には、今回のような投与を行った場合には、病名開始日を新しくしたうえで、病名に「増悪」「再燃」などを付けること、もしくはコメントを追加していただくようにお願いして査定対策としました。

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肺炎への抗菌薬、静注から経口に早期切り替えで入院期間短縮か

 肺炎により入院した患者は、通常、状態が安定するまで静脈注射(IV)用の抗菌薬(以下、IV抗菌薬)を投与される。しかし、市中肺炎に罹患した患者の多くでは、もっと早い段階でIV抗菌薬から経口抗菌薬に切り替えた方が早期退院につながる可能性のあることが新たな研究で示された。米クリーブランドクリニック・コミュニティーケアのAbhishek Deshpande氏らによるこの研究結果は、「Clinical Infectious Diseases」に4月3日掲載された。 米国での肺炎による入院患者数は毎年100万人以上に上り、5万人以上が肺炎により死亡している。Deshpande氏によると、市中肺炎は、入院と抗菌薬使用の主要な原因であるという。同氏は、「長期にわたる抗菌薬の投与は、薬剤耐性菌の増加と医療関連感染(院内感染)につながる可能性があるため、抗菌薬投与を最適化することは重要だ」と述べる。 今回の研究では、2010年から2015年の間に米国の642カ所の病院で市中肺炎により入院した37万8,041人の成人患者のデータが分析された。これらの患者は、最初にIV抗菌薬による治療を受けていた。入院3日目までにIV抗菌薬から経口抗菌薬に切り替えられた場合を、「早期切り替え患者」として対象患者を分類し、入院期間、14日間での院内死亡率、症状悪化によるICU(集中治療室)入室率、入院費を比較した。 37万8,041人のうち2万1,784人(6%)が「早期切り替え患者」に該当し、切り替えられた経口抗菌薬で最も多かったのはフルオロキノロン系薬剤であった。「早期切り替え患者」では、それ以外の患者に比べて、IV抗菌薬による治療日数、入院中の抗菌薬による治療期間、および入院期間が短く、入院費が低かった。しかし、両群間で、14日間での院内死亡率とICU入室率に有意差は認められなかった。死亡リスクの高い患者では、経口抗菌薬への切り替えが行われにくかった。しかし、経口抗菌薬への切り替え率が比較的高かった医療機関においてでさえ、死亡リスクの低い患者のうち実際に経口抗菌薬に切り替えられた患者の割合は15%に満たなかった。 米国胸部学会(ATS)/米国感染症学会(IDSA)の現行のガイドラインでは、患者が臨床的に安定した時点で、IV抗菌薬投与から経口抗菌薬投与に切り替えることを推奨している。このガイドラインに従うと、IV抗菌薬を3日間ほど投与した後に、経口抗菌薬に切り替えることになるが、実際にそのような治療が行われることは少ないという。 研究グループは、「医療機関は、臨床的に安定している市中肺炎患者に対する治療法を変更するよう臨床医を促すことで、抗菌薬の使用によりもたらされるさまざまな弊害を軽減することができる」と述べている。

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抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加

 近年の研究で、抗菌薬によるマイクロバイオーム異常および腸と肺の相互作用が肺がん発症の引き金になる可能性が指摘されている。今回、韓国・ソウル国立大学のMinseo Kim氏らが抗菌薬の長期使用と肺がんリスクの関連を調べたところ、抗菌薬の累積使用日数および種類の数が肺がんリスク増加と関連することが示された。Journal of Infection and Public Health誌2023年7月号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、韓国国民健康保険サービスのデータベースから2005~06年に健康診断を受けた40歳以上の621万4,926人について調査した。抗菌薬の処方累積日数と種類数で層別し、多変量Cox比例ハザード回帰を用いて、抗菌薬使用に対する肺がんリスクの調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬処方累積日数が365日以上の参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高く(aHR:1.21、95%CI:1.16~1.26)、1~14日の参加者よりも有意に高かった(aHR:1.21、95%CI:1.17~1.24)。・5種類以上の抗菌薬を処方されていた参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高かった(aHR:1.15、95%CI:1.10~1.21)。

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経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」【下平博士のDIノート】第121回

経口投与が可能になったALS治療薬「ラジカット内用懸濁液2.1%」今回は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「エダラボン懸濁液(商品名:ラジカット内用懸濁液2.1%、製造販売元:田辺三菱)」を紹介します。本剤は、これまで点滴静注薬しかなかったエダラボン製剤の内服薬であり、ALS患者の通院・入院負担が軽減することで、在宅移行の支援となることが期待されています。<効能・効果>ALSにおける機能障害の進行抑制の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得し、2023年4月17日より発売されています。なお、ALS重症度分類4度以上の患者、努力性肺活量が理論正常値の70%未満に低下している患者での有効性や安全性は確立していません。<用法・用量>通常、成人には1回5mL(エダラボンとして105mg)を空腹時に1日1回経口投与します。本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとして、これを繰り返します。第1クール:14日間連日投与し、その後14日間休薬第2クール以降:14日間のうち10日間投与し、その後14日間休薬<安全性>国際多施設共同第III相試験(MT-1186-A01試験)において、日本人に認められた臨床検査値異常を含む副作用の発現は65例中3例(4.6%)でした。内訳は、下痢1例(1.5%)、肝機能異常1例(1.5%)、倦怠感1例(1.5%)でした。なお、重大な副作用として、急性腎障害、ネフローゼ症候群、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、血小板減少、顆粒球減少、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性肺障害、横紋筋融解症、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、運動神経細胞などの酸化による傷害を防ぐことで、ALSによる機能障害の進行を抑制します。2.抗菌薬を服用することになった場合は、主治医に連絡してください。3.頭痛やめまい、吐き気、口や喉の渇き、肌の乾燥などが現れた場合は脱水症状の可能性があります。脱水症状があると腎機能障害が起こりやすくなるため、主治医に相談してください。<Shimo's eyes>筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、運動神経が選択的に変性・脱落し、四肢、顔、呼吸筋などの全身の筋力低下と筋萎縮が進行的に起こる原因不明の神経変性疾患で、発病率は10万人に2人程度といわれています。これまで、エダラボン製剤の点滴静注薬(商品名:ラジカット注30mg、ラジカット点滴静注バッグ30mg)が脳梗塞急性期およびALSの治療薬として承認されています。点滴静注薬では、ALS進行による筋萎縮に伴い血管の確保が難しくなるとともに、注射による痛みや通院・入院などの治療負担が課題でした。本剤は投与が容易で、より利便性の高いエダラボンの経口薬であるため、これらの負担軽減が期待されています(現時点での適応はALSのみ)。本剤は、既存のエダラボン静注薬とエダラボン未変化体のAUC0-∞が生物学的同等性の基準を満たしていることにより、静注薬と同等程度の有効性と考えられます。なお、ALSに使用される既存の経口薬としては、グルタミン酸遊離阻害薬のリルゾール(同:リルテック錠50mgほか)があります。ALS患者は嚥下困難を伴うことが多いため、誤嚥リスクを考慮して、本剤はとろみを持たせた製剤となっています。使用前にボトルを振ってボトルの底に固着物の付着がないことを確認してから、専用の経口投与用シリンジで薬剤を量り取ってから直接投与します。なお、経鼻胃管または胃瘻チューブを用いて経管投与することもできます。本剤は食事の影響により血漿中濃度が低下するため、起床時など8時間絶食後に服用し、服用後少なくとも1時間は水以外の飲食は避けます。ボトル開封前は冷蔵(2~8℃)で保存し、開封後は密栓して室温で保存し、ボトル開封後15日以内に使用します。ALSは長期にわたる継続的な治療が必要であることから、エダラボンの経口薬の登場は、患者、介護者および医療者にとって朗報であり、エダラボン製剤が必要な患者の在宅治療移行が増えることが期待されます。

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女性の尋常性ざ瘡、スピロノラクトンが有効/BMJ

 尋常性ざ瘡の女性患者の治療において、カリウム保持性利尿薬スピロノラクトンはプラセボと比較して、12週時の尋常性ざ瘡特異的QoL(Acne-QoL)の症状スコアが良好で、24週時にはさらなる改善が認められ、標準的な経口抗菌薬の代替治療として有用な可能性があることが、英国・サウサンプトン大学のMiriam Santer氏らが実施した「SAFA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年5月16日号に掲載された。イングランド/ウェールズの実践的な無作為化試験 SAFAは、イングランドおよびウェールズの10施設で実施された実践的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年6月~2021年8月の期間に参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、顔面のざ蒼が6ヵ月以上持続し、担当医によって経口抗菌薬による治療を要すると判定され、担当医の全般的評価(IGA)が2(軽症または悪化)の女性患者であった。 被験者は、スピロノラクトン(50mg/日)またはプラセボを6週間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。忍容性が確認された場合は、100mg/日に増量し、24週まで投与が継続された。両群とも、通常の外用薬の使用は容認された。 主要アウトカムは、12週の時点でのAcne-QoLの症状サブスケールスコア(0~30点、点数が高いほどQoLが良好)であった。副次アウトカムには、24週時のAcne-QoL症状サブスケールスコア、患者の自己評価による改善度、IGAに基づく治療成功、有害事象などが含まれた。患者自己評価による改善度も、24週には有意に良好 410例(平均[SD]年齢29.2[7.2]歳、軽症46%、中等症 40%、重症 13%)が登録され、スピロノラクトン群に201例、プラセボ群に209例が割り付けられた。主要アウトカムのデータは342例(スピロノラクトン群176例、プラセボ群166例)で得られた。 平均Acne-QoL症状スコアは、スピロノラクトン群がベースラインの13.2(SD 4.9)点から12週後には19.2(6.1)点に、プラセボ群は12.9(4.5)点から17.8(5.6)点にいずれも上昇し、ベースラインの変量で補正後の平均差は1.27点(95%信頼区間[CI]:0.07~2.46)と、スピロノラクトン群で改善度が大きかった。 24週時には、スピロノラクトン群が21.2(SD 5.9)点、プラセボ群は17.4(5.8)点へとそれぞれ上昇し、補正平均差は3.45点(95%CI:2.16~4.75)と、12週時よりも差が大きくなり、スピロノラクトン群で改善度が高かった。 患者の自己評価による全般的改善度(6段階Likert scaleの3~6点の達成率)は、12週時がスピロノラクトン群72%、プラセボ群68%(補正後オッズ比[OR]:1.16、95%CI:0.70~1.91)と両群間に有意差はなかったが、24週時にはそれぞれ82%、63%(2.72、1.50~4.93)となり、統計学的に有意な差が認められた。 12週時の治療成功(IGA分類)の割合は、スピロノラクトン群が19%(31/168例)、プラセボ群は6%(9/160例)だった(補正後OR:5.18、95%CI:2.18~12.28)。 有害事象の頻度(64% vs.51%、p=0.01)はスピロノラクトン群で高く、とくに頭痛(20% vs.12%、p=0.02)とめまい(19% vs.12%、p=0.07)が多かったが、ほとんどが軽度であった。試験薬に関連した重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「スピロノラクトンは、第1選択の局所治療で効果がない持続性のざ蒼を有する女性において、経口抗菌薬に代わる有用な選択肢となる可能性がある」とまとめ、「スピロノラクトンは妊娠に注意を要し、参加者は受診時に避妊に関する助言を受けたが7件の妊娠が報告された。スピロノラクトンは、若年女性で頻用されているテトラサイクリン系の経口抗菌薬に比べ催奇性は低いと考えられ、通常の治療ではとくに避妊以外の制限は必要ないだろう」と指摘している。

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膵頭十二指腸切除後の手術部位感染予防、TAZ/PIPCが有用/JAMA

 適応症を問わず、開腹による膵頭十二指腸切除術後の手術部位感染(SSI)の予防において、セフォキシチン(国内販売中止)と比較して、広域スペクトラム抗菌薬ピペラシリン・タゾバクタムは、術後30日の時点でのSSIの発生率を有意に抑制し、術後の敗血症や膵液瘻の発生頻度も低いことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのMichael I. D'Angelica氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年5月9日号に掲載された。北米のレジストリ連携型非盲検多施設無作為化第III相試験 本研究は、レジストリ連携の実践的な非盲検多施設無作為化第III相試験であり、2017年11月~2021年8月の期間に、米国とカナダの26施設(外科医86人)で患者の登録が行われた(米国NIH/NCIがんセンター研究支援助成などの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、適応症を問わず待機的な開腹膵頭十二指腸切除術を受けた患者が、ピペラシリン・タゾバクタム(各施設の基準に従い3.375または4.5g、静脈内投与)またはセフォキシチン(2g、静脈内投与、対照)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。試験薬は、切開開始から60分以内に初回投与が行われ、手術終了まで2~4時間ごとに追加投与され、術後は24時間以内に投与を終えることとされた。 主要アウトカムは、術後30日以内のSSIの発現であった。30日死亡率、臨床的に重要な術後の膵液瘻、敗血症の発生などが、副次アウトカムに含まれた。 本試験は、事前に規定された中止基準に従い、2回目の中間解析により有効中止となった。30日死亡率には差がない 778例が登録され、ピペラシリン・タゾバクタム群に378例(年齢中央値66.8歳、男性61.6%)、セフォキシチン群に400例(68.0歳、55.8%)が割り付けられた。456例(58.6%)が術前に胆管ステントを留置され、273例(35.1%)が術前化学療法もしくは放射線療法を、488例(62.7%)が膵がんの切除術を受けていた。 30日の時点におけるSSIの発生率は、セフォキシチン群が32.8%(131/400例)であったのに対し、ピペラシリン・タゾバクタム群は19.8%(75/378例)と有意に低かった(絶対群間差:-13.0%[95%信頼区間[CI]:-19.1~-6.9]、オッズ比:0.51[95%CI:0.38~0.68]、p<0.001)。 術後の敗血症(4.2% vs.7.5%、群間差:-3.3%[95%CI:-6.6~0.0]、p=0.02)および臨床的に重要な術後の膵液瘻(12.7% vs.19.0%、-6.3%[-11.4~-1.2]、p=0.03)の発生率は、いずれもピペラシリン・タゾバクタム群で有意に低かった。 一方、30日死亡率(1.3% vs.2.5%、群間差:-1.2%[95%CI:-3.1~0.7]、p=0.32)には、両群間に有意な差はみられなかった。 著者は、「術後SSIリスクの低減は、術前の胆道ステント留置の有無にかかわらず認められた。本試験の結果は、開腹膵頭十二指腸切除術後のSSI予防における標準治療としてのピペラシリン・タゾバクタムの使用を支持する」としている。

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誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第234回

誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?Unsplashより使用咳嗽を誘発するものは、誤嚥性肺炎に対して予防的に働くことが知られています。ACE阻害薬は、副作用の咳嗽が誤嚥性肺炎を予防する効果があるとされています。さて今回紹介する論文で検証されたのは、黒こしょうです。黒こしょうは咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることによって、嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが示されています。山口 学ほか.療養型病棟における黒胡椒を用いた誤嚥性肺炎予防.日本気管食道科学会会報. 2018;69(1):13-16.この研究では、療養型病床群に入院している患者32例を2群に分け、60日ごとに黒こしょうを使用する群と非使用群にクロスオーバーして黒こしょうを使用し、誤嚥性肺炎の発生率を調べました。研究期間中に37.5℃以上の発熱があった症例は28例で、2日以上の発熱と誤嚥性肺炎があり、抗菌薬を使用した症例は11例でした。黒こしょうを使用した群は、発熱例11例、抗菌薬使用例は2例であり、有意に抗菌薬の使用頻度および治療日数を抑制することが示されました。これと同じメカニズムで、黒こしょうオイルを吸入してもらうことで、脳卒中後遺症の105例に嚥下反射の改善がみられたという報告があります1)。なんかクシャミ出そうなので、個人的には、あまり黒こしょうは吸いたくない気もしますが…。1)Ebihara T, et al. A randomized trial of olfactory stimulation using black pepper oil in older people with swallowing dysfunction. J Am Geriatr Soc. 2006 Sep;54(9):1401-1406.

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重症アルコール性肝炎に抗菌薬予防投与は有効か?/JAMA

 重症アルコール性肝炎の入院患者に対する抗菌薬の予防的投与のベネフィットは明らかになってないが、フランス・Lille大学のAlexandre Louvet氏らが292例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、60日全死因死亡率を改善しないことが示された。著者は、「今回示された結果は、重症アルコール性肝炎で入院した患者の生存改善に対して抗菌薬の予防的投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年5月9日号掲載の報告。Maddrey機能スコア32以上、MELDスコア21以上の患者を対象 研究グループは2015年6月13日~2019年5月24日に、フランスとベルギーの医療センター25ヵ所で、生検で確認された重症アルコール性肝炎の患者292例を対象に試験を開始した。被験者のMaddrey機能スコアは32以上、末期肝疾患モデル(MELD)スコアは21以上だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはプレドニゾロン+アモキシシリン・クラブラン酸(145例)、もう一方にはプレドニゾロン+プラセボ(147例)をそれぞれ投与した。追跡期間は180日で、最終フォローアップは2019年11月19日だった。 主要アウトカムは、60日時点の全死因死亡率だった。副次アウトカムは、90日、180日時点の全死因死亡率、60日時点の感染症、肝腎症候群、MELDスコア17未満のいずれも発生率、および7日時点のLilleスコア0.45未満の患者の割合だった。60日全死因死亡率、アモキシシリン群17%、プラセボ群21%で有意差なし 被験者292例の平均年齢は52.8歳、女性80例(27.4%)で、284例(97%)が解析に含まれた。 60日死亡率は、アモキシシリン群17.3%、プラセボ群が21.3%で統計的有意差はなかった(補正前絶対群間差:-4.7ポイント[95%信頼区間[CI]:-14.0~4.7]、ハザード比[HR]:0.77[95%CI:0.45~1.31]、p=0.33)。 60日時点の感染症発生率は、アモキシシリン群(29.7%)がプラセボ群(41.5%)より有意に低かった(補正前絶対群間差:-11.8ポイント[95%CI:-23.0~-0.7]、サブHR:0.62[95%CI:0.41~0.91]、p=0.02)。その他の副次的アウトカムは、両群で有意差はなかった。 最も多くみられた重篤有害イベントは、肝不全関連(アモキシシリン群25例、プラセボ群20例)、感染症(同23例、46例)、胃腸障害(同15例、21例)だった。

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RA系阻害薬やアンピシリン含有製剤など、使用上の注意改訂

 厚生労働省は5月9日、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB含有製剤、直接的レニン阻害薬)、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウムを除く)の添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。RA系阻害薬-妊娠する可能性のある女性への注意事項を追加 RA系阻害薬の添付文書には「9.4 生殖能を有する者」の項が新設され、“妊娠する可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨、及び妊娠する可能性がある女性に投与が必要な場合の注意事項”を以下のように追記した。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。 ・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。 ・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。[妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている] 今回、妊娠中の調査対象医薬品の曝露による児への影響が疑われる症例(児の副作用関連症例)の集積状況を評価した結果、添付文書で妊婦に投与しないよう注意喚起しているにもかかわらず症例の報告が継続していることが明らかとなり、妊娠する可能性のある女性への使用に関する注意が必要であると判断された。抗菌薬のアンピシリンなどは肝機能障害に注意 また、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤については、投与後の肝機能検査値の最悪値が有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)Grade3以上に該当する肝機能障害関連の国内症例を評価し、本剤と肝機能障害との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、以下のように使用上の注意を改訂することが適切と判断された。1.「重要な基本的注意」(新記載要領)又は「重大な副作用」(旧記載要領)の項に定期的な肝機能検査を行う旨を追記する。2. 「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を追記する。

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小児への抗菌薬処方、多面的介入で減らせるか/BMJ

 急性咳嗽および呼吸器感染症(通常はウイルス性疾患)の小児は、プライマリケアにおいて最大の患者集団であり、半数近くが抗菌薬治療を受けている。そのような現状を背景に、英国・ブリストル大学のPeter S. Blair氏らは、抗菌薬適正使用支援の多面的介入の効果を無作為化試験で検証した。小児への無分別な抗菌薬使用の重大要因として、予後不良に関する不確実性があることなどを踏まえて介入効果を検証したが、全体的な抗菌薬投与を減らしたり、呼吸器感染症関連の入院を増やしたりすることもなかったことを報告した。BMJ誌2023年4月26日号掲載の報告。呼吸器感染症で受診していた0~9歳児への抗菌薬の処方調剤率と入院率を評価 研究グループは、呼吸器感染症でプライマリケアを受診した小児について、使いやすい多面的介入が、呼吸器感染症関連の入院を増やすことなく抗菌薬の処方調剤率を減らすかどうかを、効率的実臨床クラスター2アーム(介入vs.通常診療)非盲検無作為化試験で評価した。定性的および経済的評価を伴う日常的なアウトカムデータを用い、イングランドのEMIS電子医療記録システムを使用している一般診療所に、COVID-19パンデミック前および期間中に呼吸器感染症で受診していた0~9歳児をクラスター化して評価した。 介入は、(1)診察中に保護者の懸念を誘発、(2)受診した小児の30日以内の入院リスク(極めて低い、標準、高い)を予測するための臨床医向け診療アルゴリズムと抗菌薬処方ガイダンスの提供、(3)セーフティネットのアドバイスなどが示された介護者向けリーフレットの提供であった。 主要アウトカムは2つで、12ヵ月の試験期間中に処方されたアモキシシリンおよびマクロライド系抗菌薬の処方調剤率(比較群との優越性を評価)、呼吸器感染症による入院率(比較群との非劣性を評価)であった。介入の効果はみられず 一般診療所310ヵ所のうち、イングランドの全登録0~9歳児の5%が受診していた294ヵ所(95%)が無作為化された(介入群144ヵ所、対照群150ヵ所)。このうち12ヵ所(4%)は、その後に退いた(6ヵ所はパンデミックによる)。診療所当たりの介入利用中央値は70であった(臨床医中央値9人による)。 介入診療所(155[95%信頼区間[CI]:138~174]剤/年/1,000児)と対照診療所(157[140~176]剤/年/1,000児)で、抗菌薬の処方調剤率が異なるというエビデンスは認められなかった(率比:1.011、95%CI:0.992~1.029、p=0.25)。 事前規定のサブグループ解析において、処方看護師が少ない介入診療所で処方調剤の減少が示唆された。この示唆は単施設(多施設との比較において)で、社会経済的貧困レベルは低い地域の診療所でみられ、さらなる調査が必要である可能性があった。 事前規定の感度解析では、介入診療所の年齢の高い小児において処方調剤率の減少が示唆された(p=0.03)。 事後解析では、パンデミック前の介入診療所のほうが処方調剤率は低いことが示唆された(率比:0.967、95%CI:0.946~0.989、p=0.003)。 介入診療所の呼吸器感染症に関する入院率(13[95%CI:10~18]の入院/1,000児)は、対照診療所の同入院率(15[12~20]の入院/1,000児)に対して非劣性であった(率比:0.952、95%CI:0.905~1.003)。 結果を踏まえて著者は、「いくつかのサブグループとシチュエーション(たとえば非パンデミック下)で、介入によりわずかに処方調剤率の減少がみられたが、介入が臨床的に妥当な手法といえるものではなかった」とまとめている。

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釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

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第161回 糞から集めた細菌が中身の経口薬を米国が承認

適格なヒトの糞から集めた細菌を成分とするクロストリジオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症(CDI)の再発予防経口薬・Vowst(SER-109)が米国FDAに承認されました1,2)。米国でCDIは最も一般的な医療関連感染症の1つで、毎年1万5,000人~3万人がそのために亡くなっています。人の腸には数百万種もの微生物がいます。抗菌薬の服用などによってその共存の均衡が崩れてはびこったC. difficileが分泌する毒素が下痢、腹痛、発熱、果ては臓器不全や死をもたらします。CDIはひとたび回復しても再発することがあり、再発が増えるごとに再発しやすさも上昇するという悪循環があり、残念ながら再発CDIの治療は限られています。先週4月26日に承認されたVowstのような糞中微生物の補給は腸微生物の均衡回復を助けてCDIの再発を予防すると考えられています。米国のバイオテクノロジー企業であるSeres Therapeutics社が開発したVowstはヒトの糞から集めた生きた細菌を含むカプセル剤です。1日1回4カプセルを3日間連続して服用することでCDI再発を予防します。その効果は先立つ1年間にCDIを3回以上経験し、標準的な抗菌薬治療でひとまず症状が収まっている患者を募った第III相試験3)で裏付けられています。試験には182例が参加し、Vowst投与群89例の8週間のCDI再発率は12%でした。すなわち9割近い88%が8週時点を再発なしで迎えることができました。一方、プラセボ群では半数近い40%が8週後までに再発し、無再発患者の割合は60%でした。よってVowst投与群の無再発率は差し引きでプラセボ群を28%上回りました。Vowst投与群の再発率はその後も低いままで、6ヵ月経っても約8割(79%)の被験者が無再発を保っていました。プラセボ群では半数を超える53%が6ヵ月後までに再発しています。Vowstの原料である糞やその糞の提供者に伝染性病原体一揃いが含まれていないことは検査されますが、感染源の混入の恐れはあります。また、食物アレルギー源を含んでいるかもしれません。とはいえ幸いなことに試験でVowstと関連する重篤な有害事象は認められていません。世界に名立たる食品メーカーNestlé(ネスレ)の栄養科学事業Nestlé Health ScienceがSeres社と協力してVowstを米国で販売します。排泄物から作るとはいえ開発費や製造などの諸々の手間を考慮すると安上がりとは言えないらしく、3日間の同剤治療の値段は1万7,500ドル(240万円ほど)です4)。ヒトの糞から集めた微生物が成分の薬の承認はVowstが初めてではありません。スイスのFerring社のCDI再発予防薬Rebyotaが昨年の暮れに米国承認に至っています5,6)。ただしRebyotaは浣腸薬であり、経口薬のVowstの方が使いやすいかもしれません。また、第III相試験での単回のRebyota浣腸の8週間無再発率は71%でプラセボとの差し引きの効果増分は13%であり7)、間接比較なのであまり頼りになりませんが上述したVowstの第III相試験での効果増分28%の方が見栄えします。参考1)FDA Approves First Orally Administered Fecal Microbiota Product for the Prevention of Recurrence of Clostridioides difficile Infection / PRNewswire2)Seres Therapeutics and Nestl? Health Science Announce FDA Approval of VOWSTTM (fecal microbiota spores, live-brpk) for Prevention of Recurrence of C. difficile Infection in Adults Following Antibacterial Treatment for Recurrent CDI / BUSINESS WIRE3)Feuerstadt P, et al. N Engl J Med. 2022;386:220-229.4)Seres and Nestl? take on Ferring in C diff / Evaluate5)FDA Approves First Fecal Microbiota Product / PR Newswire6)Ferring Receives U.S. FDA Approval for REBYOTA®(fecal microbiota, live-jslm) - A Novel First-in-Class Microbiota-Based Live Biotherapeutic / BusinessWire7)Khanna S, et al. Drugs. 2022;82:1527-1538.

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重症市中肺炎、ヒドロコルチゾンが死亡を抑制/NEJM

 集中治療室(ICU)で治療を受けている重症の市中肺炎患者では、ヒドロコルチゾンの投与はプラセボと比較して、全死因死亡のリスクを有意に低下させ、気管挿管の割合も低いことが、フランス・トゥール大学のPierre-Francois Dequin氏らCRICS-TriGGERSepネットワークが実施した「CAPE COD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年3月21日号で報告された。フランスの無作為化プラセボ対照第III相試験 CAPE COD試験は、フランスの31施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2015年10月~2020年3月の期間に患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 重症の市中肺炎でICUに入室した年齢18歳以上の患者が、ヒドロコルチゾンの静脈内投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 ヒドロコルチゾンは、200mg/日を4日間または8日間投与した時点で、臨床的改善度に基づき、その後の総投与日数を8日間または14日間と決定し、用量を漸減した。すべての患者が、抗菌薬と支持療法を含む標準治療を受けた。 主要アウトカムは、28日時点で評価した全死因死亡であった。 予定されていた2回目の中間解析の結果に基づき患者の登録が中止された時点で、800例が無作為化の対象となり、このうち795例のデータが解析に含まれた。400例がヒドロコルチゾン群(年齢中央値67歳、男性70.2%)、395例がプラセボ群(67歳、68.6%)であった。ICU内感染、消化管出血の頻度は同程度 28日目までに、死亡の発生はプラセボ群では395例中47例(11.9%、95%信頼区間[CI]:8.7~15.1)であったのに対し、ヒドロコルチゾン群は400例中25例(6.2%、3.9~8.6)と有意に少なかった(絶対群間差:-5.6ポイント、95%CI:-9.6~-1.7、p=0.006)。 90日時点での死亡率は、ヒドロコルチゾン群が9.3%、プラセボ群は14.7%であった(絶対群間差:-5.4ポイント、95%CI:-9.9~-0.8)。また、28日時点でのICU退室率はヒドロコルチゾン群で高かった(ハザード比[HR]:1.33、95%CI:1.16~1.52)。 ベースラインで機械的換気を受けていなかった患者のうち、28日目までに気管挿管が導入されたのは、ヒドロコルチゾン群が222例中40例(18.0%)、プラセボ群は220例中65例(29.5%)であった(HR:0.59、95%CI:0.40~0.86)。 ベースラインで昇圧薬の投与を受けていなかった患者では、28日目までに昇圧薬の投与が開始されたのは、ヒドロコルチゾン群が359例中55例(15.3%)、プラセボ群は344例中86例(25.0%)であった(HR:0.59、95%CI:0.43~0.82)。 ICU内感染(ヒドロコルチゾン群9.8% vs.プラセボ群11.1%[HR:0.87、95%CI:0.57~1.34])と消化管出血(2.2% vs.3.3%[0.68、0.29~1.59])の頻度は両群で同程度であった。一方、ヒドロコルチゾン群では、治療開始から1週間のインスリン1日投与量(35.5 IU/日vs.20.5 IU/日、群間差中央値:8.7 IU/日[95%CI:4.0~13.8])が多かった。 著者は、「先行試験やメタ解析では、グルココルチコイドの薬力学的作用と一致する高血糖の発生率の増加が報告されている。この高血糖の増加は通常、一過性のものだが、今回の試験では確認していない」としている。

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SJS/TENの28%が抗菌薬に関連、その内訳は?

 抗菌薬に関連したスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)は、全世界における重大なリスクであることを、カナダ・トロント大学のErika Yue Lee氏らがシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかにした。抗菌薬関連SJS/TENは、死亡率が最大50%とされ、薬物過敏反応のなかで最も重篤な皮膚障害として知られるが、今回の検討において、全世界で報告されているSJS/TENの4分の1以上が、抗菌薬関連によるものであった。また、依然としてスルホンアミド系抗菌薬によるものが主であることも示され、著者らは「抗菌薬の適正使用の重要性とスルホンアミド系抗菌薬は特定の適応症のみに使用し治療期間も限定すべきであることがあらためて示唆された」とし、検討結果は抗菌薬スチュワードシップ(適正使用)、臨床医の教育と認識、および抗菌薬の選択と使用期間のリスク・ベネフィット評価を重視することを強調するものであったと述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年2月15日号掲載の報告。 研究グループは、全世界の抗菌薬に関連したSJS/TENの発生率を調べるため、システマティックレビューを行った。著者によれば、初の検討という。 MEDLINEとEmbaseのデータベースを提供開始~2022年2月22日時点まで検索し、SJS/TENリスクを記述した実験的研究と観察研究を抽出。SJS/TENの発症原因が十分に記述されており、SJS/TENに関連した抗菌薬を特定していた試験を適格とし抽出した。 2人の研究者が、各々試験選択とデータ抽出を行い、バイアスリスクを評価。メタ解析は、患者レベルの関連が記述されていた試験についてはランダム効果モデルを用いて行い、異質性を調べるためサブグループ解析を行った。バイアスリスクは、Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いて、エビデンスの確実性はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて評価した。 抗菌薬関連SJS/TENの発生率(プール割合)を95%信頼区間(CI)とともに算出した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューで64試験が抽出された。メタ解析は患者レベルの関連が記述された38試験・2,917例(単剤抗菌薬関連SJS/TEN発生率が記述)が対象となった。・抗菌薬関連SJS/TENのプール割合は、28%(95%信頼区間[CI]:24~33)であった(エビデンスの確実性は中程度)。・抗菌薬関連SJS/TENにおいて、スルホンアミド系抗菌薬の関連が最も多く、32%(95%CI:22~44)を占めていた。次いで、ペニシリン系(22%、95%CI:17~28)、セファロスポリン系(11%、6~17)、フルオロキノロン系(4%、1~7)、マクロライド系(2%、1~5)の順であった。・メタ解析において、統計学的に有意な異質性が認められた。それらは大陸別のサブグループ解析で部分的に説明がついた。Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いてバイアスリスクを評価したところ、全体的なリスクは低かった。

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治療前の抗菌薬で免疫チェックポイント阻害薬の有効性が低下/JCO

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療前の抗菌薬曝露は、腸内細菌叢の変化を通じて転帰に悪影響を及ぼす可能性があるが、大規模な評価は不足している。ICI開始前の抗菌薬が全生存期間(OS)に与える影響を評価したカナダ・プリンセスマーガレットがんセンターのLawson Eng氏らによるレトロスペクティブ・コホート研究の結果が、 Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年2月24日号に掲載された。 著者らは、カナダのオンタリオ州で2012年6月~2018年10月にICIによる治療を開始した65歳以上のがん患者を、全身療法投与データを用いて特定した。このコホートをICI治療の1年前と60日前の両方における抗菌薬の処方請求データを得るためにほかの医療データベースとリンクし、多変量Coxモデルにより曝露とOSの関連性を評価した。患者のがん種は肺がんが最多(53%)、メラノーマ(34%)、腎臓がん、膀胱がんがそれに続いた。ICIはニボルマブとペムブロリズマブが一般的だった。 主な結果は以下のとおり。・ICIを投与されたがん患者2,737例のうち、ICI治療の1年前に59%、60日前に19%が抗菌薬を投与されていた。・OSの中央値は306日であった。ICI投与前1年以内のあらゆる抗菌薬への曝露はOSの悪化と関連していた(調整ハザード比[aHR]:1.12、95%信頼区間[CI]:1.12~1.23、p=0.03)。・抗菌薬のクラス解析では、ICI投与前1年以内(aHR:1.26、95%CI:1.13~1.40、p<0.001)または60日以内のフルオロキノロン系抗菌薬への曝露(aHR:1.20、95%CI:0.99~1.45、p=0.06)はOSの悪化と関連しており、1年間の総被曝週数(aHR:1.07/週、95%CI:1.03~1.11、p<0.001)および60日(aHR:1.12/週、95%CI:1.03~1.23、p=0.01)に基づいて用量効果がみられた。 著者らは「ICI治療前の抗菌薬、とくにフルオロキノロン系抗菌薬への曝露が高齢のがん患者のOS悪化と関連していた。ICI治療前の抗菌薬への曝露の制限、もしくは腸内細菌叢を変化させ免疫原性を高めることを目的とした介入が、ICIを受ける患者の転帰を改善するのに役立つ可能性がある」としている。

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尿路感染症疑い高齢者への抗菌薬、医師への適正使用支援で6割減/BMJ

 尿路感染症が疑われる70歳以上のフレイル高齢者について、医療者に対して適切な抗菌薬使用決定ツールの提供や教育セッションなどの多面的抗菌薬管理介入を行うことで、合併症や入院の発生率などを上げずに、安全に抗菌薬投与を低減できることが示された。オランダ・アムステルダム自由大学のEsther A. R. Hartman氏らが、ポーランドやオランダなど4ヵ国の診療所などで行ったプラグマティックなクラスター無作為化試験の結果を報告した。ガイドラインでは限定的な抗菌薬使用が推奨されているが、高齢患者においては、処方決定の複雑さや異質性のため推奨使用の実施には困難を伴うとされていた。BMJ誌2023年2月22日号掲載の報告。38クラスターを対象に7ヵ月追跡 研究グループは2019年9月~2021年6月にかけて、ポーランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの一般診療所(43ヵ所)と高齢者ケア組織(43ヵ所)のうち、1ヵ所以上を含む38クラスターを対象に、ベースライン期間5ヵ月、追跡期間7ヵ月のプラグマティックなクラスター無作為化試験を行った。 被験者は70歳以上のフレイル高齢者1,041例(ポーランド325例、オランダ233例、ノルウェー276例、スウェーデン207例)で、追跡期間は411人年だった。 介入群の医療者には、多面的抗菌薬管理介入として、適切な抗菌薬使用の決定ツールや教材の入ったツールボックスを提供。参加型アクションリサーチ・アプローチのほか、教育・評価セッションや、介入の地域に即した変更を行った。対照群では、医療者が通常の治療を行った。 主要アウトカムは、尿路感染症疑いのある患者への抗菌薬処方数/人年だった。副次アウトカムは、合併症率、全原因による紹介入院、全原因による入院、尿路感染症疑い後21日以内の全死因死亡、全死因死亡などだった。尿路感染症疑いへの抗菌薬投与、介入で0.42倍に 尿路感染症が疑われた患者への抗菌薬処方数は、介入群54件/202人年(0.27/人年)、対照群121件/209人年(0.58/人年)だった。介入群の被験者は、対照群の被験者と比べて尿路感染症疑いで抗菌薬の処方を受ける割合が低く、率比は0.42(95%信頼区間[CI]:0.26~0.68)だった。 合併症率(介入群0.01未満/人年vs.対照群0.05/人年)、紹介入院率(0.01未満/人年vs.0.05/人年)、入院率(0.01/人年vs.0.05/人年)、尿路感染症疑い後21日以内の死亡(0/人年vs.0.01/人年)、全死因死亡(両群とも0.26/人年)は、両群で差はみられなかった。

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ChatGPTが医師の代わりに?抗菌薬処方の助言を求めると…

 人工知能(AI)言語モデルを用いたチャットサービス『ChatGPT』は、米国の医師免許試験において医学部3年生に匹敵する成績を収めるなど、注目を集めている。そこで、抗菌薬への耐性や微生物の生態、臨床情報を複合的に判断する必要のある感染症への対応について、8つの状況に関する質問をChatGPTへ投げかけ、得られる助言の適切性、一貫性、患者の安全性について評価した。その結果、ChatGPTは質問の状況を理解し、免責事項(感染症専門医へ相談することを推奨)も含めて一貫した回答を提供していたが、状況が複雑な場合や重要な情報が明確に提供されていない場合には、危険なアドバイスをすることもあった。本研究は英国・リバプール大学のAlex Howard氏らによって実施され、Lancet infectious diseases誌オンライン版2023年2月20日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 臨床医がChatGPTに助言を求めるという設定で、以下の8つの状況に関する質問を投げかけた。・第1選択薬で効果不十分な蜂窩織炎・腹腔内膿瘍に対する抗菌薬による治療期間・カルバペネマーゼ産生菌に感染した患者の発熱性好中球減少症・複数の薬剤が禁忌の患者における原因不明の感染症・院内肺炎に対する経口抗菌薬のステップダウン・カンジダ血症の患者の次の管理ステップ・中心静脈カテーテル関連血流感染症の管理方法・重症急性膵炎の患者に対する抗菌薬の使用 主な結果は以下のとおり。・ChatGPTによる回答は、スペルや文法に一貫性があり、意味も明確であった。・抗菌スペクトルとレジメンは適切であり、臨床反応の意味を理解していた。・血液培養の汚染などの問題点を認識していた。・基本的な抗菌薬スチュワードシップ(細菌感染の証拠がある場合のみ抗菌薬を使用するなど)が盛り込まれていた。・治療期間については、一般的な治療期間は適切であったが、治療期間の延長の根拠とされる引用が誤っていたり、無視されたりするなど、ばらつきがみられた。・抗菌薬の禁忌を認識していなかったり(Tazocin[本邦販売中止]とピペラシリン/タゾバクタムを同一薬と認識せずに重度のペニシリンアレルギー患者に提案する、カルバペネム系抗菌薬とバルプロ酸ナトリウムの相互作用を認識していなかったなど)、患者の安全性に関する情報を見落としたりするなど、危険なアドバイスが繰り返されることがあった。 本論文の著者らは、ChatGPTを臨床導入するための最大の障壁は、状況認識、推論、一貫性にあると結論付けた。これらの欠点が患者の安全を脅かす可能性があるため、AIが満たすべき基準のチェックリストの作成を進めているとのことである。また、英国・リバプール大学のプレスリリースにおいて、Alex Howard氏は「薬剤耐性菌の増加が世界の大きな脅威となっているが、AIによって正確かつ安全な助言が得られるようになれば、患者ケアに革命を起こす可能性がある」とも述べた1)。

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第149回 今の日本の医療IoT、東日本大震災のイスラエル軍支援より劣る?(後編)

2月6日に発生したトルコ・シリア大地震のニュースを見て村上氏は東日本大震災時のイスラエル軍の救援活動を思い出します。後編の今回は、現在の日本が顔負けのIoTを駆使したイスラエル軍の具体的な支援内容についてお伝えします。前編はこちら 仮設診療所エリアには内科、小児科、眼科、耳鼻科、泌尿器科、整形外科、産婦人科があり、このほかに冠状動脈疾患管理室(CCU)、薬局、X線撮影室、臨床検査室を併設。臨床検査室では血液や尿の生化学的検査も実施できるという状態だった。ちなみにこうした診察室や検査室などはそれぞれプレハブで運営されていた。一般に私たちが災害時の避難所で見かける仮設診療所は避難所の一室を借用し、医師は1人のケースが多い。例えて言うならば、市中の一般内科クリニックの災害版のような雰囲気だが、それとは明らかに規模が違いすぎた。当時、仮設診療所で働いていたイスラエル人の男性看護師によると、これでも規模としては小さいものらしく、彼が参加した中米・ハイチの地震(2010年1月発生)での救援活動では「全診療科がそろった野外病院を設置し、スタッフは総勢200人ほどだった」と説明してくれた。この仮設診療所での画像診断は単純X線のみ。プレハブで専用の撮影室を設置していたが、完全なフィルムレス化が実行され、医師らはそれぞれの診療科にあるノートPCで患者のX線画像を参照することができた。ビューワーはフリーのDICOMビューアソフト「K-PACS」を使用。検査技師は「フリーウェアの利用でも診療上のセキュリティーもとくに問題はない」と淡々と語っていた。実際、仮設診療所内の診療科で配置医師数が4人と最も多かった内科診療所では「K-PACS」の画面で患者の胸部X線写真を表示して医師が説明してくれた。彼が表示していたのは肺野に黒い影のようなものが映っている画像。この内科医曰く「通常の肺疾患では経験したことのない、何らかの塊のようなものがここに見えますよね。率直に言って、この診療所での処置は難しいと判断し、栗原市の病院に後送しましたよ」と語った。ちなみに東日本大震災では、津波に巻き込まれながらも生還した人の中でヘドロや重油の混じった海水を飲んでしまい、これが原因となった肺炎などが実際に報告されている。内科医が画像を見せてくれた症例は、そうした類のものだった可能性がある。診療所内の薬局を訪問すると、イスラエル人の薬剤師が案内してくれたが、持参した医薬品は約400品目にも上ると最初に説明された。薬剤師曰く「持参した薬剤は錠剤だけで約2,000錠、2ヵ月分の診療を想定しました。抗菌薬は第2世代ペニシリンやセフェム系、ニューキノロン系も含めてほぼ全種類を持ってきたのはもちろんのこと、経口糖尿病治療薬、降圧薬などの慢性疾患治療薬、モルヒネなども有しています」と説明してくれ、「見てみます?」と壁にかけられた黒いスーツカバーのようなものを指さしてくれた。もっとも通常のスーツカバーの3周りくらいは大きいものだ。彼はそれを床に置くなり、慣れた手つきで広げ始めた。すると、内部はちょうど在宅医療を受けている高齢者宅にありそうなお薬カレンダーのようにたくさんのポケットがあり、それぞれに違う経口薬が入っていた。最終的に広げられたカバー様のものは、当初ぶら下げてあった時に目視で見ていた大きさの4倍くらいになった。この薬剤師によると、イスラエル軍衛生部隊では海外派遣を想定し、国外の気候帯や地域ブロックに応じて最適な薬剤をセットしたこのような医薬品バッグのセットが複数種類、常時用意されているという。海外派遣が決まれば、気候×地域性でどのバッグを持っていくかが決まり、さらに派遣期間と現地情報から想定される診療患者数を割り出し、それぞれのバッグを何個用意するかが即時決められる仕組みになっているとのこと。ちなみに同部隊による医療用医薬品の処方は南三陸町医療統轄本部の指示で、活動開始から1週間後には中止されたという。この時、最も多く処方された薬剤を聞いたところ、答えは意外なことにペン型インスリン。この薬剤師から「処方理由は、糖尿病患者が被災で持っていたインスリン製剤を失くしたため」と聞き、合点がいった。ちなみにイスラエルと言えば、世界トップのジェネリックメーカー・テバの本拠地だが、この時に持参した医薬品でのジェネリック採用状況について尋ねると、「インスリンなどの生物製剤、イスラエルではまだ特許が有効な高脂血症治療薬のロスバスタチンなどを除けば、基本的にほとんどがジェネック医薬品ですよ。とくに問題はないですね」とのことだった。この取材で仮設診療所エリア内をウロウロしていた際に、偶然ゴミ集積所を見かけたが、ここもある意味わかりやすい工夫がされていた。感染性廃棄物に関しては、「BIO-HAZARD」と大書されているピンクのビニール袋でほかの廃棄物とは一見して区別がつくようになっていたからだ。大規模な医療部隊を運営しながら、フリーウェアやジェネリック医薬品を使用するなど合理性を追求し、なおかつ患者情報はリアルタイムで電子的に一元管理。ちなみにこれは今から11年前のことだ。2020年時点で日常診療を行う医療機関の電子カルテ導入率が50~60%という日本の状況を考えると、今振り返ってもそのレベルの高さに改めて言葉を失ってしまうほどだ。

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