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FDA初承認の糞便微生物叢製品が細菌感染症に有効

 米食品医薬品局(FDA)は11月30日、再発性のクロストリディオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile infection;CDI)に対する治療として、糞便微生物叢製品Rebyotaを承認したことを発表した。FDAによる糞便微生物叢製品の承認は今回が初めてである。対象は、抗菌薬による治療を終えた18歳以上の再発性CDI患者で、投与方法は、直腸への単回投与である。 CDIはクロストリディオイデス・ディフィシルを原因菌とする感染症で、抗菌薬の使用により腸内の微生物叢が変化し、クロストリディオイデス・ディフィシルが増殖して毒素を放出し、これにより発熱や下痢、腸炎などが生じる。重症の場合には臓器不全が生じて致死的となることもある。AP通信によると、米国では年間1万5,000~3万人がCDIで死亡しているという。また、いったん回復しても再発する可能性が高く、感染を繰り返す人も多い。CDIのリスク因子は、65歳以上であること、入院、免疫系の低下、CDIの既往などである。 今回の承認が下りるまで、CDIの治療には健康なドナーが提供する糞便検体が用いられていた。これは、糞便移植と呼ばれる方法で、ドナーの腸内の健康な細菌を移植することにより病状改善を狙うものだ。フェリングファーマ社が販売するRebyotaも、同じくヒトの糞便から調製される。ドナーはさまざまな伝染性病原体の検査を受けているが、FDAは、感染症のリスクはゼロではないとしている。 Rebyotaの安全性は、CDIの1回以上の再発歴がある患者978人を対象とした2件のランダム化二重盲検試験および複数の非盲検試験により評価された。対象者には、抗菌薬による治療完了から24~72時間後に、CDIがコントロールされた状態でRebyotaまたはプラセボのいずれかが1回以上投与された。1件の試験では、プラセボ群(87人)に比べてRebyota群(180人)に特によく生じた副作用として、腹痛、下痢、腹部膨満、鼓腸、悪心が確認された。 有効性については、ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験のデータを分析して評価された。対象者はRebyota1回投与群が177人、プラセボ1回投与群が85人であった。さらに、Rebyotaおよびプラセボを各1回投与した群39人、プラセボを2回投与した群43人から成る別のプラセボ対照試験の奏効率も分析に組み込まれた。両試験の結果から、8週間でのCDI再発予防における全体の奏効率はRebyota群で70.6%、プラセボ群で57.5%と推定された。 FDA生物製剤評価研究センター(CBER)のPeter Marks氏は、「この承認は、再発性CDI患者の治療にとって前進を意味する。再発性CDIは生活の質(QOL)に影響を及ぼし、生命に関わることもある。糞便微生物叢製品が初めてFDAに承認されたことで、再発性CDIを予防する承認済みの選択肢が新たに1つ増えた。この承認は、再発性CDIの治療にとって重要な節目となるものだ」と話している。

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誤嚥性肺炎と緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第42回

第42回 誤嚥性肺炎と緩和ケア誤嚥性肺炎は、主に高齢者を中心に誤嚥を契機とした肺炎を繰り返す病態です。プライマリ・ケアや在宅医療では必ず遭遇するでしょう。病院勤務をしていると、繰り返し入院してくる患者さんもいます。こうした誤嚥性肺炎に対する緩和ケアにはどのようなポイントがあるのでしょうか?今日の質問訪問診療で長年診ている患者さん。ここ1年で誤嚥性肺炎を2回発症し、入院しています。ときどき発熱もあり、そうした時に肺炎を起こしていたのかもしれません。すでに90歳、終末期の話し合いが必要かとも感じているのですが、何に注意するとよいでしょうか?球麻痺を来す神経難病や、脳血管障害のようにさまざまな病態が誤嚥性肺炎の原因となります。頭頸部がんや手術の影響で嚥下機能が障害されることもあります。ただ、今回のような訪問診療では、認知症とフレイルが進行した高齢者が、栄養摂取が困難となっている中での誤嚥性肺炎に最も多く遭遇するでしょう。「発熱の度に絶食し、抗菌薬の点滴治療」というのが、よくある対応でしょう。ただ、発熱の度に絶食をしていると栄養状態はどんどん悪化していきます。これは難しい問題ですよね。さて、ここで皆さんに質問です。あなた自身が、「食べたら肺炎を起こすかもしれないので、経口摂取は止めておきましょう」と言われたとしたら、どのように感じますか?「肺炎はつらいので食べるのは我慢します」と言う方もいれば、「いやいや、肺炎は気になるけど、できるだけ口から食べたいです」と言う方もいるでしょう。それはさまざまな経験や状況によっても変わるでしょう。嚥下機能の改善が難しい状況や、終末期を視野に入れた誤嚥性肺炎の緩和ケアでは、こうした「何を目指すか」を考えることが大切です。一言で言えば「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大切です」といった感じですが、これってなかなか実践するのが難しいですよね。とくに、在宅医療の現場だと、言語聴覚士などの専門職の意見を参考にすることも難しい場面が多いでしょう。ここでは、急性期病院に入院した際の話し合いを在宅退院する際に共有する、などの工夫が求められます。そうした話し合いの先に、患者さんごとに、「この方の場合は、在宅での点滴加療が最善だろう」と関係者間で共有されます。誤嚥性肺炎の緩和ケアは、増悪を繰り返し、時に入院も要する疾患の特性上、医療機関を超えた地域レベルでの連携が求められる分野なのです。今回のTips今回のTips誤嚥性肺炎の緩和ケアは、複数の医療機関の多職種で連携しながら取り組むことがポイント。

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英語で「私なら~します」は?【1分★医療英語】第59回

第59回 英語で「私なら~します」は?What do you think is the best next step in this case?(この症例で、次のステップとして何が最善だと思いますか?)I would order an abdominal CT.(私なら、腹部CTをオーダーします)《例文1》I would start empiric antibiotics.(私なら、経験的な抗菌薬治療を開始します)《例文2》What medication would you choose?(あなたなら、どの薬を選択しますか?)《解説》今回ご紹介するのは、「私なら」「あなたなら」という仮定法を用いた表現です。「仮定法」というと、“if”を使うイメージかもしれませんが、日常会話では、“if”を使わずに仮定法が使われることがよくあります。“I would order an abdominal CT.”という文頭の文章の前に、“If I were you~”(もし私があなたなら)が省略されている、と考えるとわかりやすいかもしれません。結果として、「私なら、腹部CTをオーダーします」という意味になります。ここで注意が必要なのは、“I will do it.”と“I would do it.”では、「音は似ていても、意味は大きく異なる」ということです。たとえば、指導医との会話で、指導医が“I will do it.”と言った場合、それをやるのは指導医であり、下級医は任せておけばよい状況です。一方で、指導医が“I would do it.”と言ったのであれば、指導医は「私なら、それをやる」と言っているだけで実際に指導医がやるわけではなく、上下関係の中での発言であれば、少し丁寧に「それをやってください」と言っているのに近く、命令に近いニュアンスです。実は私も渡米したばかりの頃に、この聞き間違いをしたことがあります。指導医が“I would order…”と言っていたのを“I will order…”と勘違いして、「指導医がやってくれるのか」と思い込んでいたら、後で、「やっておいてと言ったのに、なんでオーダーしていないの?」と怒られたのです。その時、“I would…”の恐ろしさを知りました。一語の違いで意味が180度変わってしまうのです。“if”が登場しない仮定法、聞き間違いをするとこんな風に大きく意味が変わってしまうので、ぜひ注意して聞くようにしてください。講師紹介

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黄色ブ菌、大腸菌などの感染症関連死は依然多い/Lancet

 2019年の世界の感染症関連死は推定1,370万人で、うち黄色ブドウ球菌、大腸菌など33の細菌属・種が原因の死亡は770万人だった。また、同細菌による年齢標準化死亡率はサハラ以南アフリカのスーパーリージョンで最も高かった。米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏ら、薬剤耐性の世界疾病負担(Global Burden of Antimicrobial Resistance)に関する研究グループ「GBD 2019 Antimicrobial Resistance Collaborators」が解析結果を報告した。先行研究により、薬剤耐性感染症と敗血症関連の死亡数が推定され、感染症が依然として世界の主要な死因を占めることが明らかになっている。公衆衛生上の最大の脅威を特定するためには、一般的な細菌(抗菌薬への耐性あり/なしの両者を含む)の世界的負荷を理解することが求められている中、本検討は、33の細菌属・種による11の重大感染症と関連する死亡について世界的な推算値を求めた初となる研究で、Lancet誌オンライン版2022年11月18日号で発表された。204の国と地域の33の細菌属・種による死亡数を推定 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019のメソッドと、薬剤耐性の世界疾病負担2019で記述されている特定条件を満たした部分集合データを用いて、2019年に発生した33の細菌属・種による11の感染症に関連する死亡数を推算した。本検討には、1万1,361調査地域年にわたる3億4,300万人の記録と分離株が包含された。 各病原体に関連した死亡数を3段階モデル(感染による死亡、感染症に起因する死亡のうち特定の感染症による死亡割合、感染症に起因する死亡のうち特定の病原体による死亡割合)を用いて推定した。推定値は、2019年における204の国と地域、全年齢、男女について算出。標準的なGBDメソッドに従って、対象の各数量の事後分布から1,000の2.5パーセンタイルと97.5パーセンタイルを抽出し、33の細菌属・種に関連する死亡と感染の最終推定値について95%不確実性区間(UI)を算出した。33細菌属・種の関連死、世界全死亡の約14% 2019年の感染症関連死は推定1,370万人(95%UI:1,090万~1,710万)で、そのうち33の細菌属・種(抗菌薬への耐性あり/なしの両者を含む)による11の感染症関連死は、770万人(570万~1,020万)だった。 2019年の33細菌属・種の関連死は、世界全死亡の13.6%(95%UI:10.2~18.1)を占め、敗血症関連の全死亡の56.2%(52.1~60.1)を占めると推定された。なかでも黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎球菌、肺炎桿菌、緑膿菌の5種の病原菌が、調査対象とした細菌による死因の54.9%(52.9~56.9)を占めた。 死因となった感染症や病原菌は、地域や年齢により異なった。また、調査対象細菌による年齢標準化死亡率は、サハラ以南アフリカのスーパーリージョンで最も高く230人/10万人(95%UI:185~285)だった一方、高所得のスーパーリージョンで最も低く52.2人/10万人(37.4~71.5)だった。 黄色ブドウ球菌は、135ヵ国において細菌による死亡の最大の原因で、また、世界的にみて15歳超で最も多く死亡と関連していた。5歳未満の小児では、肺炎球菌が細菌による死亡の最大の原因だった。 2019年に、600万人以上が3種の細菌感染症で死亡しており、200万人超が死亡した感染症は下気道感染症(400万人)と血流感染症(291万人)の2種で、100万人超の死亡は腹膜・腹腔内感染症(128万人)によるものだった。 著者は、「今回調査した33細菌属・種は、世界的な健康ロスの実質的な原因であるが、感染症や地域によって分布にかなりのばらつきがあった。GBDレベル3の根本的な死因と比較すると、これら細菌関連死は2019年の世界で2番目に多い死因に分類される」と述べ、国際保健コミュニティで緊急に介入を優先すべき事項とみなすべきで、対応戦略として、感染予防、抗菌薬の最適使用、微生物学的分析能力の改善、ワクチン開発・改良、利用可能なワクチンのより広範な使用などを提言している。

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大腸手術前の予防的抗菌薬、経口・静注併用で手術部位感染減少/BMJ

 大腸手術を受ける患者では、予防的な抗菌薬の静脈内投与と経口投与の併用により手術部位感染が低下することが、最近の研究で示唆されている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Clermont-FerrandのEmmanuel Futier氏らは、「COMBINE試験」において、待機的大腸手術を受ける成人患者では、術前に抗菌薬静脈内投与に加え経口ornidazoleの1g用量を単回投与すると、プラセボと比較して術後の手術部位感染が有意に減少し、術後の重度合併症も少ないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2022年11月3日号に掲載された。フランスの無作為化プラセボ対照試験 COMBINE試験は、フランスの11施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、2016年5月~2019年8月の期間に患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、待機的に腹腔鏡または開腹による大腸手術を受ける成人患者であった。被験者は、術前の抗菌薬静脈内投与による感染予防処置の補助として手術の12時間前に、経口ornidazole 1gを単回投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、術後30日以内に手術部位感染(表層切開創、深部切開層、臓器/体腔)を発症した患者の割合とされた。副次アウトカムは、術後30日以内の手術部位感染の個々の感染の種類および重度の術後合併症(Clavien-Dindo分類のGrade3以上)などであった。縫合不全、敗血症/敗血症性ショックも低下 926例(平均年齢63歳、男性60%)が解析に含まれた。ornidazole群が463例、プラセボ群も463例だった。64%が結腸切除術、36%が直腸切除術を受け、74%は腹腔鏡手術だった。 術後30日以内の手術部位感染は、ornidazole群が463例中60例(13.0%)で発生し、プラセボ群の463例中100例(21.6%)に比べ有意に少なかった(絶対群間差:-8.6%[95%信頼区間[CI]:-13.5~-3.8]、相対リスク:0.60[95%CI:0.45~0.80]、p=0.001)。 手術部位感染のうち、深部切開層感染(4.8% vs.8.0%、絶対群間差:-3.2%[95%CI:-6.4~-0.1、相対リスク:0.54[95%CI:0.31~0.92]、p=0.03)と、臓器/体腔感染(5.0% vs.8.4%、-3.4%[-6.7~-0.2]、0.53[0.31~0.91]、p=0.02)はornidazole群で患者の割合が有意に低かったが、表層切開創感染(3.2% vs.5.2%、p=0.09)は両群間に有意な差は認められなかった。 術後30日以内の重度合併症(9.1% vs.13.6%、絶対群間差:-4.5%[95%CI:-8.6~-0.5]、相対リスク:0.63[95%CI:0.41~0.97]、p=0.03)もornidazole群で少なく、術後縫合不全(4.8% vs.8.0%、相対リスク:0.59[95%CI:0.36~0.99]、p=0.046)や、敗血症/敗血症性ショック(5.6% vs.9.1%、0.62[0.39~0.99]、p=0.046)にも臨床的に意義のある差がみられた。 死亡には差がなかった(30日時:0.4%[2例]vs.1.1%[5例]、p=0.27、90日時:1.1%[5例]vs.2.2%[10例]、p=0.20)。また、試験薬による重篤な有害事象は両群とも報告がなかった。 著者は、「これらの知見により、予防的経口抗菌薬投与の効果は、主に深部切開層感染と臓器/体腔感染の発生率の低減に起因すると示唆された」としている。

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2型糖尿病のCOPD重症化、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬が有効か/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で2型糖尿病(DM)の患者において、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬は、スルホニル尿素(SU)薬と比べ、COPD増悪による入院リスクを約30~38%低減することが示された。また、GLP-1受容体作動薬は、中等度増悪リスクを37%低減した。一方でDPP-4阻害薬は、COPD増悪リスクの明らかな低減は認められなかったという。カナダ・マギル大学のRicheek Pradhan氏らが、英国国民保健サービス(NHS)データを基に行った住民ベースの3種実薬比較新規使用者デザインコホート試験の結果で、BMJ誌2022年11月1日号で発表した。3種の新規血糖降下薬vs.SU薬を評価 研究グループは、英国の全NHS病院入院データ「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care and Office for National Statistics」とリンクした、大規模プライマリケアデータ「Clinical Practice Research Datalink」を基に住民ベースコホート試験を行った。 被験者は、試験薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬)のいずれか、またはSU薬を、新たに服用開始したCOPD既往の2型DM患者だった。 第1コホートにはGLP-1受容体作動薬の服用を開始した1,252例とSU薬服用を開始した1万4,259例が、第2コホートにはDPP-4阻害薬服用を開始した8,731例とSU薬服用を開始した1万8,204例が、第3コホートにはSGLT-2阻害薬服用を開始した2,956例とSU薬服用を開始した1万841例がそれぞれ含まれた。 主要アウトカムはCOPDの重症増悪(COPDによる入院と定義)で、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬それぞれについて、傾向スコア層別化重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)値を推算して評価した。また、これら3つの試験薬が中等度増悪(同日に、COPD急性増悪の外来診断と、経口コルチコステロイドと抗菌薬の同時処方と定義)のリスク減少と関連するかどうかも検証した。COPD重症増悪リスク、GLP-1受容体作動薬は30%、SGLT-2阻害薬は38%低減 SU薬と比較して、GLP-1受容体作動薬はCOPD重症増悪リスクを30%低減した(100人年当たり3.5 vs.5.0、HR:0.70、95%CI:0.49~0.99)。また中等度増悪リスクも37%低減した(0.63、0.43~0.94)。 同様にSGLT-2阻害薬も、COPD重症増悪リスクを38%低減した(100人年当たり2.4 vs.3.9、HR:0.62、95%CI:0.48~0.81)。一方で、中等度増悪リスクの低減は認められなかった(1.02、0.83~1.27)。 DPP-4阻害薬は、COPD重症増悪リスク、中等度増悪リスクともに低減はわずかだった(それぞれHR:0.91[95%CI:0.82~1.02]、0.93[0.82~1.07])。

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「知らんけど」の謎【Dr. 中島の 新・徒然草】(451)

四百五十一の段 「知らんけど」の謎だんだん寒くなってきました。11月というのは秋だと思っていましたが、もう立派な冬ですね。ところで、今年の新語・流行語大賞候補の1つが「知らんけど」だとか。「オミクロン株」「キーウ」「メタバース」などとともに、30語の中に入っています。関西発の言葉ですが、全国的に使われ始めたということかもしれません。確かに、「知らんけど」はよく使います。3日に1回くらいは言ってるかな。でも関西以外で正しく使われているのでしょうか。いささかの疑問がありますね。なので、自分自身の感覚を説明したいと思います。よくある誤解として、「知らんけど」は責任逃れだ、という説があります。でも決して無責任で言っているわけではありません。100%の確信があるとは言えないけど、80%くらいの自信はある時に使います。また、似た響きの言葉に「知らんがな」というのがありますが、これはまったく別。「知らんがな」は「そもそも興味がない」という意味です。話を「知らんけど」に戻します。「知らんけど」を決してシリアスな場面で使わないようにしましょう。万一、使ってしまったら責任逃れにしか聞こえません。たとえば大臣が国会答弁で「我が国といたしましては国民の生命、身体、財産を守るために最善を尽くす所存であります……知らんけど」と言ったりしたらクビになることでしょう。また、病状説明で「現在、重症感染症に罹患しておられますが、抗菌薬で回復するものと信じています……知らんけど」などと言うと大変なことになります。「つい言ってみた」ということのないように注意しておきましょう。さらにネットで調べてみると、私自身も知らなかった詳細な情報が飛び交っています。関西では「なんでやねん!」と「知らんけど」は双璧だ。→ いやいや、使用頻度からもインパクトからも、前者の存在感のほうが大きいです。「そうなん?」と言われたら「知らんけど」と返してしまい、「結局知らんのかい!」と締めくくられる。→ これは高度過ぎますね、かなり練習しないと使えません。ムチャクチャ詳しく説明したあとで「知らんけど」ってボケるのが正しい使い方やぞ。→ そうそう! 無意識にこういう使い方をしています。まあ言葉というのは生き物なので、全国区になったら使い方も変わってしまうかもしれません。それはそれで楽しむことにいたしましょう。最後に1句霜月は ホントは冬だ 知らんけど

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2歳児の陰茎が絞扼されていたまさかの原因【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第220回

【第220回】2歳児の陰茎が絞扼されていたまさかの原因pixabayより使用知り合いの小児科医に原稿を見てもらったところ、この連載の日本語タイトルだけで疾患を当ててしまいました。小児の陰茎絞扼の原因として絶対に押さえておかないといけない疾患ですね。アレですよ、アレ。Baarimah A, et al.Penile Hair Tourniquet Syndrome (PHTS): A Case Report of a Two-Year-Old Boy.Case Rep Urol. 2022;2022:8030934.2歳の男児が3日前から陰茎の腫脹と痛みを訴えていました。近くの小児科医は抗菌薬入りの軟膏と鎮痛剤を処方しましたが、症状は改善しませんでした。次第に尿閉が悪化していたことから、母親と共に救急外来を受診しました。陰茎は浮腫と圧痛がひどく、壊死には至っていないものの、変色が進んでいました。陰茎の基部に、ひどく絞扼されている部位があったそうです。拡大したところ、どうやら髪の毛が巻き付いているのでは…という結論に至りました。紛れもない、「ヘアーターニケット」です。これを読んでいる医師の皆さんは、ヘアーターニケットについてはもうご存じかと思いますが、一応確認しておきましょう。髪の毛や糸が、指先、場合によっては陰茎に巻き付いて、血行を阻害する状態のことです。濡れた髪の毛が体の一部に巻き付いて、乾くことでそれがギュっと引き締まって、このような病態になります。最初は、リンパと静脈の逆流が影響を受け、陰茎遠位部の浮腫と腫脹を引き起こします。これが進行し、最終的には動脈流に影響を及ぼし、陰茎の患部の虚血、最悪の場合、壊死、切断に至ります。陰茎切断はマジ勘弁です。この2歳児のヘアーターニケットの原因となっていた毛髪は、顕微鏡下で切断されました。8Frのカテーテルが通され、尿道が無事であることが確認されました。やれやれ、一安心です。この症例もそうでしたが、一般的にヘアーターニケットの原因となるのは母親の毛髪です。陰茎のヘアーターニケットの場合、赤ちゃんのおむつに毛髪が入り込んで、中で陰茎に巻き付いてしまうことが原因とされています1)。とくに子育て世代の読者の皆さんは、おむつの中に長い髪の毛を落とさないよう、注意が必要です。1)Rawls WF, et al. Case report: penile strangulation secondary to hair tourniquet. Frontiers in Pediatrics. 2020;8(8):477.

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フルオロキノロン系抗菌薬で自殺念慮リスクが増大?/BMJ

 2016年、米国食品医薬品局(FDA)は、フルオロキノロン系抗菌薬の枠囲み警告(boxed warning)の改訂において、自殺念慮のリスク増大との関連を示唆した。米国・ハーバード大学医学大学院のJunyi Wang氏らは、この関連について検討し、フルオロキノロン系抗菌薬の使用は、自殺念慮のリスクを実質的に増加させないことを確認した。研究の成果は、BMJ誌2022年10月4日号で報告された。肺炎、尿路感染症を対象とする米国のコホート研究 研究グループは、フルオロキノロン系抗菌薬の投与開始と、自殺傾向による入院または救急診療部受診との関連の評価を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(米国・ブリガム&ウィメンズ病院などの助成を受けた)。 解析には、米国のIBM MarketScan databaseのデータが用いられた。対象は、年齢18歳以上、2003年1月~2015年9月の期間に、抗菌薬投与開始前の3日以内に肺炎または尿路感染症(UTI)と診断され、6ヵ月以上の抗菌薬の持続投与が予定されており、経口フルオロキノロン系抗菌薬または比較対象の抗菌薬の投与が開始された患者であった。 フルオロキノロン系抗菌薬は、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、gemifloxacin、オフロキサシン、ガチフロキサシン、ノルフロキサシン、ロメフロキサシン、besifloxacinが使用され、比較対象薬は、肺炎患者がアジスロマイシン、UTI患者はトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)であった。 傾向スコアマッチング法を用いて、肺炎およびUTIコホートの2つの抗菌薬群に、1対1の割合で参加者をマッチさせた。 主要アウトカムは、治療開始から60日以内の自殺念慮または自傷による入院または救急診療部受診とされた。入院・受診に至らない自殺念慮への影響は排除できない 肺炎患者55万1,042例(フルオロキノロン系抗菌薬群27万5,521例[平均年齢51.44歳、男性48.6%]、アジスロマイシン群27万5,521例[51.69歳、48.7%])と、UTI患者220万5,226例(フルオロキノロン系抗菌薬群110万2,613例[43.66歳、8.4%]、TMP-SMX群110万2,613例[43.76歳、8.1%])が、解析に含まれた。 60日の追跡期間中に、肺炎コホートで181件(フルオロキノロン系抗菌薬群91件[0.03%]、アジスロマイシン群90件[0.03%])、UTIコホートで966件(フルオロキノロン系抗菌薬群491件[0.04%]、TMP-SMX群475件[0.04%])の自殺傾向による入院または救急診療部受診が認められた。 自殺傾向による入院または救急診療部受診に関するフルオロキノロン系抗菌薬群の補正後ハザード比(HR)は、肺炎コホートではアジスロマイシン群との比較で1.01(95%信頼区間[CI]:0.76~1.36)、UTIコホートではTMP-SMX群との比較で1.03(0.91~1.17)であり、いずれも有意な差はみられなかった。 傾向スコアマッチングを行う前の全体のコホート(肺炎コホートの補正後HR:1.06[95%CI:0.84~1.35]、UTIコホート0.98[0.88~1.09])、および高次元傾向スコアマッチング法による解析(肺炎コホート1.02[0.76~1.38]、UTIコホート1.05[0.92~1.19])でも、主解析と一致した結果であった。また、性別、年齢層別、精神疾患の既往歴の有無別のサブグループ解析でも、結果は同様だった。 著者は、「フルオロキノロン系抗菌薬が自殺傾向による入院または救急診療部受診のリスクを実質的に増加させることはなかったが、リスクのわずかな増加や、入院・救急診療部受診に至らない自殺念慮への影響を排除することはできない」としている。

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50歳未満でのがんの発症が世界中で増加

 50歳未満で発症するがんの増加は世界的な問題であり、そこには質の悪い食生活や肥満、運動不足などの要因が関連している可能性が高いとするレビュー論文が、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびハーバード大学医学大学院の荻野周史氏らにより、「Nature Reviews Clinical Oncology」に9月6日発表された。 この研究ではまず、1990年代以降、50歳未満の成人で、14種類のがんの発症率が世界的に上昇傾向にあることが述べられている。14種類のがんとは、乳房、大腸、子宮内膜、食道、肝外胆管、胆嚢、頭頸部、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、前立腺、胃、甲状腺のがんである。また増加が見られた国は、米国、カナダ、スウェーデン、イギリス(イングランドとウェールズ)、エクアドル、ウガンダ、韓国などである。さらに、これらのがん発症率の増加傾向は、Global Cancer Observatoryのデータ(2000〜2012年)を用いた分析でも確認されたという。 このような増加の原因としては、乳がんや大腸がんなどの一部のがんでのスクリーニング検査数の増加が考えられる。しかし、「50歳未満でのがんの発症率の上昇は、ほとんどの場合、がん検出例の増加から予測される数字を超えている」と荻野氏は述べる。また、増加しているがんの多くは消化管に沿って発生するものだという。同氏は、「これは、腸内細菌叢ががんの発生に影響している可能性を示唆している」と話す。 腸内細菌叢は、体内の、主に消化管に生息する膨大な数の細菌のことである。免疫系に影響を及ぼし、慢性的な炎症を抑えるなどの重要な機能を持つ腸内細菌叢が健康にとっていかに重要であるかを明らかにした研究結果が、近年、相次いで報告されている。 腸内細菌叢の構成は、部分的には遺伝に依存する。しかし荻野氏は、「食事、アルコール摂取、喫煙、運動、抗菌薬の使用などの環境要因も重要だ」と述べ、「こうした環境要因への曝露の状況は、ここ数十年で大幅に変化した」と説明する。その例として同氏が挙げるのが、「西洋型の」食生活だ。西洋型の食生活とは、加工度の高い食品、砂糖、赤肉の摂取量が多く、果物、野菜、食物繊維、「良質な」脂肪の摂取量が少ない食事を指す。西洋型の食生活は、大腸がんなどの特定のがんリスクの増加と関連付けられている。 50歳未満での大腸がんの増加は、特に注目を集めている。米国立がん研究所によると、大腸がんの発症率は、65歳以上では減少傾向にあるのとは対照的に、50歳未満では増加傾向にあり、1990年代から2倍以上になっているという。 早期発症型の大腸がんに腸内細菌叢が果たす潜在的な役割について研究を進めている、米MedStarジョージタウン大学病院のBenjamin Weinberg氏は、「50歳未満の人に生じる大腸がんは、腫瘍に対して免疫系がうまく機能できていないことを示唆している。免疫系の機能は、腸内細菌叢の多様性によりサポートされていることを示すエビデンスもある」と話す。 もちろん、小児や若年成人で近年急増している肥満の影響も、50歳未満での大腸がんの増加に関連していることが考えられる。しかしWeinberg氏は、「確かに人口レベルで見ると、肥満と大腸がんリスクとの間に関連は認められるが、大腸がんの診断を受けた若年成人の多くは肥満ではない。そのため、このがんの発症率上昇の背後にある理由は、単一の要因では説明できないのではないか」との見方を示している。 Weinberg氏は、「がんの発症を抑えるためには、栄養豊かなホールフードの多い食生活、定期的な運動、禁煙、アルコールの制限、必要に応じた抗菌薬の使用といった、これまで専門家たちが長きにわたって助言してきたことを守るのが賢明だろう」と話す。 一方、荻野氏は、「健康的な生活習慣は、人生の早期の段階で身に付けるようにするべきだ。今回の研究から導き出せる最も重要なメッセージは、将来の子どものがんリスクは、親の今の行動にかかっているというものだ」と話す。ただし同氏は、ジャンクフードの摂取やスクリーンタイムが当たり前になった現代では、親自身も助けを必要としているとし、「健康的な食事、定期的な運動、健康的な睡眠パターンなどを優先させられるかどうかは社会にかかっている」と結論付けている。

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第125回 学会提言がTwitterで大炎上、医療崩壊にすり替えた国産コロナ薬への便宜では?

土曜日の朝、何気なくTwitterを開いたらトレンドキーワードに「感染症学会」の文字。何かと思って検索して元情報を辿ったところ、行き着いたのが日本感染症学会と日本化学療法学会が合同で加藤 勝信厚生労働大臣に提出した「新型コロナウイルス感染症における喫緊の課題と解決策に関する提言」だった。提言は4つだが、そのすべてをひっくるめてざっくりまとめると、「現在の第7波に対応するには早期診断・早期治療体制の確立がカギを握る。そのためには重症化リスクの有無に関係なく使える抗ウイルス薬が必要であり、その可能性がある国産抗ウイルス薬の一刻も早い承認あるいは既存の抗ウイルス薬の適応拡大が必要」というものだ。どうやら発表された9月2日に厚生労働省内にある記者クラブで記者会見をしたらしいが、フリーランスの私は当然それを知る由もない。この点がフリーランスのディスアドバンテージである。国産抗ウイルス薬とは、塩野義製薬が緊急承認制度を使って申請した3CLプロテアーゼ阻害薬のエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことだ。同薬の緊急承認審議の中身についてはすでに本連載で触れた通り。連載では文字数の関係上、ある程度議論をリードした発言を抜粋はしているが、本格議論の前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)側から緊急承認に否定的な審査報告書の内容が説明されている。その意味で、連載に取り上げた議論内容は少なくとも感情論ではなく科学的検討を受けてのもので、結果として継続審議となった。両学会の提言はそうした科学的議論を棚上げしろと言っているに等しい。もっとも両学会の提言は一定のロジックは付けている。それについて私なりの見方を今回は記しておきたいと思う。まず、4つの提言のうち1番目を要約すると「入院患者の減少や重症化の予防につながる早期診断・早期治療の体制確立を」ということだが、これについてはまったく異論はない。提言の2番目(新規抗ウイルス薬の必要性)は一見すると確かにその通りとも言える。念のため全文を引用したい。「現在使用可能な内服薬は適応に制限があり、60歳未満の方のほとんどは診断されても解熱薬などの対症療法薬の処方しか受けられません。辛い症状、後遺症に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。また、自宅療養中に同居家族に高率に感染が広がることが医療逼迫の大きな原因になっています。こうした状況を打開するためにも、ハイリスク患者以外の軽症者にも投与できる抗ウイルス薬の臨床現場への導入が必要です」私はこの段階でやや引っかかってしまう。確かに現時点で高齢者や明らかな重症化リスクのある人以外は解熱鎮痛薬を軸とする対症療法しか手段がない。しかも、現在の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の重症度判定は、酸素飽和度の数値で決められているため、この数字が異常値でない限りは40℃近い発熱で患者がのたうち回っていても重症度上は軽症となり、解熱鎮痛薬処方で自然軽快まで持ちこたえるしかない。それを見つめる医療従事者は隔靴掻痒の感はあり、何とかしてあげたいという思いに駆られるだろう。それそのものは理解できる。しかし、私たちはこの「思い」が裏目に出たケースを経験している。いわゆる風邪に対する抗菌薬乱用による耐性菌の増加、眠れないと訴える高齢者へのペンゾジアゼピン系抗不安薬の乱用による依存症。いずれも根本は医療従事者の“患者の苦痛を何とかしたい”という「思い」(あるいは「善意」)がもたらした負の遺産である。結果として、提言の2番目は言外に「何ともできないのは辛いから、まずは効果はほどほどでも何とかできるようにさせてくれ」と主張しているように私は思えてしまう。ちなみに各提言では、「説明と要望」と称してより詳細な主張が付記されているが、2番目の提言で該当部分を読むと、その主張は科学的にはやや怪しくなる。該当部分を抜粋する。「感染者に対する早い段階での抗ウイルス薬の投与は、重症化を未然に防ぎ、感染者の速やかな回復を助けるだけではなく、二次感染を減らす意味でも大切です」これは一般の人が読めば、「そうそう。そうだよね」となるかもしれない。しかし、私が科学的に怪しいと指摘したのは太字にした部分である。その理由は2つある。第1の理由は、まず今回の新型コロナは感染者の発症直前から二次感染を引き起こす。発症者が抗ウイルス薬を服用しても二次感染防止は原理的に不可能と言わざるを得ない。服用薬に一定の抗ウイルス効果が認められるならば、感染者・発症者が排出するウイルス量は減ると考えられるので、理論上は二次感染を減らせるかもしれないが、それが服用薬の持つリスクとそのもののコストに見合った減少効果となるかは、はなはだ疑問である。第2の理由は、提言が緊急承認を求めているエンシトレルビルの作用機序に帰する。エンシトレルビルは新型コロナウイルスの3CLプロテアーゼを阻害し、すでに細胞に侵入したウイルスの増殖を抑制することを意図した薬剤である。ヒトの体内に侵入したウイルスが細胞に入り込む、すなわち感染・発症成立を阻止するものではない。たとえばオミクロン株ではほぼ無効として、現在はほぼ使用されなくなった通称・抗体カクテル療法のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と結合し、細胞そのものへの侵入を阻止する。もちろんこれとて完全な感染予防効果ではなく、厳密に言えば発症予防効果ではあるが、原理的には3CLプロテアーゼ阻害薬よりは二次感染発生の減少に資すると言える。現にオミクロン株登場前とはいえ、カシリビマブ/イムデビマブは、臨床試験で家庭内・同居者内での発症予防効果が認められ、適応も拡大されている。これに対してエンシトレルビルと同じ3CLプロテアーゼ阻害薬で、国内でも承認されているニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)では、家庭内感染リスク低下を評価するべく行った第II/III相試験「EPIC-PEP」でプラセボ群と比較して有意差は認められていない。これらから「二次感染を減らす意味でも大切です」という提言内容には大いに疑問である。そして提言の3番目(抗ウイルス効果の意義)では次のように記述している。「新しい抗ウイルス薬の臨床試験において、抗ウイルス効果は主要評価項目の一つです。新型コロナウイルスの変異株の出現に伴い、臨床所見が大きく変化している今、抗ウイルス効果を重視する必要があります」今回の話題の焦点でもあるエンシトレルビルの緊急承認審議に提出された同薬の第II/III相試験の軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果では、主要評価項目の鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量は、前者で有意差が認められたものの、後者では有意差が認められなかった。この結果が緊急承認の保留(継続審議)に繋がっている。提言の言いたいことは、ウイルス力価の減少、つまり抗ウイルス効果が認められたと考えられるのだから、むしろそれを重視すべきではないかということなのだろう。実際、3番目の提言の説明と要望の項目では、デルタ株が主流だった第5波の際の感染者の重症化(人工呼吸器管理を必要とする人)率が0.5%超だったのに対し、オミクロン株が主流の第6波以後では0.1%未満であるため、重症化阻止効果を臨床試験で示すことは容易ではないと指摘している。それは指摘の通りだが、エンシトレルビルの第IIb相パートはそもそも重症化予防効果を検討したものではない。あくまで臨床症状改善状況を検討したものである。しかも、この説明と要望の部分では「ウイルス量が早く減少することは、臨床症状の改善を早めます」とまるで自家撞着とも言える記述がある。ところがそのウイルス量の減少が臨床症状の改善を早めるという結果が出なかったのがエンシトレルビルの第IIb相パートの結果である。両学会は何を主張したいのだろう。一方で今回のエンシトレルビルの件では、時に「抗ウイルス薬に抗炎症効果(臨床症状改善)まで求めるのは酷ではないか」との指摘がある。しかし、ウイルス感染症では、感染の結果として炎症反応が起こるのは自明のこと。ウイルスの増殖が抑制できるならば、当然炎症反応にはブレーキがかからねばならない。それを臨床試験結果として示せない薬を服用することは誰の得なのだろうか?前述のように作用機序からも二次感染リスクの減少効果が心もとない以上、この薬を臨床現場に投入する意味は、極端な話、それを販売する製薬企業の売上高増加と解熱鎮痛薬よりは根本治療に近い薬を処方することで医師の心理的負荷が軽減されることだけではないか、と言うのは言い過ぎだろうか?さらにそもそも論を言ってしまえば、現在エンシトレルビルで示されている抗ウイルス効果も現時点では「可能性がある」レベルに留まっている。というのも前述の第IIb相パートは検査陽性で発症が確認されてから5日以内にエンシトレルビルの投与を開始している。この投与基準そのものは妥当である。そのうえで、対プラセボでウイルス力価とRNA量の減少がともに有意差が認められたのは投与開始4日目、つまり発症から最大で9日目のもの。そもそも新型コロナでは自然経過でも体内のウイルス量は発症から5日程度でピークを迎え、その時点を境に減少するのが一般的である。この点を考慮すると、第IIb相パートの試験で示された抗ウイルス効果に関する有意差が本当にエンシトレルビルの効果のみで説明できるかは精査の余地を残している。ちなみに緊急承認に関する公開審議では委員の1人から、この点を念頭にエンシトレルビル投与を受けた被験者の投与開始時点別の結果などが分かるかどうかの指摘があったが、事務局サイドは不明だと回答している。さらに指摘するならば同試験は低用量群と高用量群の2つの群が設定されているが、試験結果を見る限りでは高用量群での抗ウイルス効果が低用量群を明らかに上回っているとは言い切れず、用量依存的効果も微妙なところである。総合すれば、エンシトレルビルの抗ウイルス効果と言われるものも、現時点では暫定的なものと言わざるを得ないのだ。また、3番目の提言の説明と要望の項目では「オミクロン株に感染した際の症状としては呼吸器症状(鼻閉・咽頭痛・咳)、発熱、全身倦怠感が主体でこれ以外の症状は少なくなっています」とさらりと触れている。これは主要評価項目の12症状合計スコアで有意差が認められなかった点について、塩野義製薬がサブ解析でこうした呼吸器症状のみに限定した場合にプラセボに対してエンシトレルビルでは有意差が認められたと主張したことを、やんわりアシストしているように受け取れる。これとて緊急承認の際の公開審議に参加した委員の1人である島田 眞路氏(山梨大学学長)から「呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って」とかなり厳しく指摘された点である。そしてこうしたサブ解析で有意差が出た項目を主要評価項目にして臨床研究を行った結果、最終的に有意差は認められなかったケースは実際にあることだ。いずれにせよ私個人の意見に過ぎないが、今回の提言は科学的に見てかなり破綻していると言わざるを得ない。そしてなにより今回の提言の当事者である日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)は、エンシトレルビルの治験調整医師であり、明確に塩野義製薬と利益相反がある。記者会見ではこの点について四柳氏自身が「あくまでも学会の立場で提言をまとめた」と発言したと伝わっているが、世間はそう単純には受け止めないものだ。それでも提言のロジックが堅牢ならばまだしも、それには程遠い。まあ、そんなこんなで土曜日は何度かこの件についてTwitterで放言したが、それを見た知人からわざわざ電話で「あの感染症学会の喧々諤々、分かりやすく説明してくれ」と電話がかかってきた。「時間かかるから夜にでも」と話したら、これから町内会の清掃があって、その後深夜まで出かけるとのこと。私はとっさに次のように答えておいた。「あれは例えて言うと…町内会員らで清掃中の道路に町内会長が○○○したようなもの」これを聞いた知人は「うーん、分かるような、分からないような。また電話するわ」と言って会話は終了した。その後、彼からは再度問い合わせはない。ちなみに○○○は品がないので敢えて伏字にさせてもらっている。ご興味がある方はTwitterで検索して見てください。お勧めはしません(笑)。

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第29回 患者を帰す前の一工夫:病状や処方の説明を十分しよう【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)病状説明は、患者さんが陥りがちな点を踏まえた上で、具体的に、わかりやすく行おう!【症例】71歳男性。高血圧以外の特記既往なく、ADLは自立している。来院前日から喉の痛みを自覚した。来院当日起床時から倦怠感、発熱を認めた。別棟に住む孫が2日前に近医小児科で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性診断を受けており、濃厚接触はしていないものの心配になり受診。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧148/91mmHg脈拍90回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温38.1℃所見全身状態は良好で、流行状況も考慮しCOVID-19迅速抗原検査を施行したところ陽性。飲食も可能であり、解熱薬のみの処方で帰宅の判断となった。〔初診外来での会話〕医師「コロナ陽性だったので、薬を出しておきますので、それで対応してください。保健所から連絡があると思うので、あとはその指示に従ってくださいね。お大事に」患者「あ、はい…」翌日、喉の痛みは改善傾向にあるものの、発熱が持続しているため再度受診したが…。COVID-19禍での外来診療みなさん、体調を崩してはいないでしょうか? 私が勤務する救急外来にも連日多くの患者さんが来院し、「コロナ疑いの患者さんもたぁくさん」という、そんな毎日です。なるべくなら自宅で経過をみることが可能な方への受診は控えてもらいたいと思いながらも、その判断って私たちが思っているほど簡単ではありません。まして子を持つ親であれば、子どもの体調には自分以上に心配になりますし、家族内感染の場合には自宅内隔離を実践しようとするも現実は難しく、日毎に症状を認める家族の対応に悩むことが多いでしょう。日本感染症学会、日本救急医学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本臨床救急医学会の4学会から「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」が8月2日に提出され、国民一人一人がこの内容を理解することも大切ですが、受診した患者さんに対しても意識させる必要があります1)。再受診患者を防ぐことはできないか救急外来で帰宅可能と判断した患者さんが数日内に再度受診することは、避けたいところですが珍しくありません。現在、ベッド事情が厳しい病院も多いことから、本来入院で経過をみることが望ましい患者さんを外来でフォローすることも増えているかもしれません。このようなケースは致し方ない部分もあるとは思いますが、なかには再度受診したものの、帰宅可能の判断となる患者さんもいます。その多くがちょっとしたことで防ぐことができるものであり、今回の事例ではその辺りを取り上げたいと思います。ちなみに、状態の悪化によって数日内に救急外来を再受診する患者さんは、そうでない患者さんと比較し、初診時に呼吸数が上昇していることが多く、呼吸数は臨床的悪化の独立した危険因子です2)。帰宅可能と最終判断する前に、呼吸数に着目することをお勧めします。バイタルサインは普段の状況で評価を最近は、呼吸困難を主訴に来院する患者さんが多いように感じます。その際、安静時のバイタルサインのみで帰宅の判断をしていないでしょうか。以前にもこの点は取り上げましたが(第12回 呼吸困難)、バイタルサインは「普段の状況」でも確認することを忘れないようにしましょう。普段歩行可能な方であれば、歩行してもらい、それでも症状の再燃が認められないかを確認しましょう。安静時、SpO2が問題ないから帰宅可能、それではダメですよ。歩いてもらったら、呼吸困難の訴えあり、呼吸数上昇、SpO2低下、そんな場合には再度精査が必要かもしれませんし、入院が必要かもしれませんから。帰宅の判断、その前に高齢者が多い救急外来では、特に表の内容を意識しましょう3)。肺炎や圧迫骨折、診断が正しく安静時に状態は落ち着いていたとしても、自宅では管理が難しいことはいくらでもあります。病気の重症度のみで帰宅or入院の判断ができないことを忘れてはいけません。表 帰宅の判断、その前に-高齢者がERから帰る前に必ず確認すべき8つのこと-画像を拡大するまた、救急外来で診断、治療介入し、その後の治療、経過観察をかかりつけの病院や診療所でフォローしていただくことも少なくありません。その場合も、このように対応する理由を患者さん、家族に理解してもらい、治療方針(ケアプラン)をかかりつけ医と共有する必要があります。紹介状は必須とは思いませんが、患者さんや家族が伝えることが難しい状態であれば、一筆でも簡潔に記載し、その助けとしてもらうのが望ましいでしょう。これを面倒くさいなどと思ってはいけません。薬の説明、ちゃんとしていますか?肺炎に対する抗菌薬や解熱薬、なんらかの痛みに対する鎮痛薬など、救急外来や一般の外来で処方することは日常茶飯事です。その際、薬の説明をどの程度行っているでしょうか?医療者に対して処方する場合には、薬の名前のみ伝えればよいかもしれませんが、一般の患者さんへ処方する際には、当然ながら十分な説明が必要です。みなさんが処方している薬を、患者さんは十分理解しないまま内服していることは少なくないのです。救急外来では、抗血栓薬や利尿薬を内服している患者さんに多く出会いますが、内服理由を確認すると「わからない」と返答されることもしばしばです(みなさんもそんな経験ありますよね?)。表にも「(5)新しい処方箋があれば、薬の相互作用について再確認して理解できているか?」という項目がありますが、救急外来では特に処方に関しては注意が必要です。初診の患者さんも多く、定期内服薬の詳細が把握できないこともあるかもしれません。また、アレルギーの確認を怠ってしまうかもしれません。しかし、それでは困ります。当たり前のことではありますが、きちんと把握する努力を怠らないようにしましょう。解熱鎮痛薬処方の際のポイントは?COVID-19の診断を受けた患者さんや家族から頻繁に相談されるのが、「熱が下がらない」、「喉の痛みが辛い」、「薬が効かない」といった内容です。外来診療中にも電話がかかってくることも多いです。そのような場合に、よくよく話を聞いてみると、病状の悪化というよりも薬の内服方法が不適切なことが少なくありません。薬が効かない? 本当は効いているんじゃない?患者さんが訴える「薬が効かない」、これはまったく効果がないというわけでは必ずしもなく、飲めば熱は下がるけれどもまた上がってきてしまう、その意味合いで使用していることもあるのです。これは薬が効いていないのではなく、薬効が切れただけですよね。つまり、薬の具体的な効果を説明していない、もしくは患者さんが理解していないが故に生じた訴えといえます。薬が効かない? 飲むタイミングの問題では?また、こんなこともあります。頭痛や喉の痛みを訴える患者さんが「薬が効かない」と訴えるものの、よくよく聞いてみると、「薬はあまり飲まない方がよいと思って、なるべく使用しないようにしていた。どうしても痛みが辛いから使用したがあまり効かない」と訴えるものです。なんでもかんでも薬を飲むのはお勧めできませんが、痛みに関してはピークに達してから内服するよりも、痛くなりかけている際に内服した方がピークを抑えることができ、症状はコントロールしやすいでしょう。片頭痛に対する鎮痛薬の内服のタイミングなど有名ですよね。さいごに今回の症例のように、COVID-19で予期される症状に関しては、具体的にいつどのように解熱鎮痛薬を使用するのかをわかりやすく説明する必要があります。「頓服」、この言葉も意外と伝わっていないので要注意です。薬剤師さんが丁寧に教えてくれる場合には問題ないかもしれませんが、市販薬や院内処方の場合には十分な説明がなされないこともありますよね。私は、解熱鎮痛薬を処方する際は、まずは毎食後に定期内服してもらい、症状が改善したら頓服へ切り替えていただくようにお話することが多いです。「今日、明日あたりは食後にこの薬を飲みましょう。朝起きて痛みがない、熱が下がって楽、そのような場合には、朝食後には飲まず、症状が出てきたら飲むようにしましょう」とこんな感じで説明しています。COVID-19の診断は、急性腹症や骨折診療に比べればすぐにつきます。診断に時間がかからないぶん、説明には十分時間をかけ、可能な限り患者さんの不安を取り除きつつ、不要な再受診を防ぐ努力をしていきましょう。1)「国民の皆さまへ 限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」2)Mochizuki K, et al. Acute Med Surg. 2016;4:172-178.3)Southerland LT, et al. Emerg Med Australas. 2019;31:266-270.

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病院排水のオゾン処理で細菌と残留抗菌薬の不活化に成功

 病院内の排水貯留槽に含まれる一般細菌や、代謝により尿・便として排泄される残留抗菌薬をオゾン処理によって不活化するシステムの有効性が報告された。1m3の試験排水に対して20分の処理で多くの細菌が不活化され、40分の処理でほぼ全ての抗菌薬についても不活化可能であるという。東邦大学医学部一般・消化器外科/医療センター大橋病院副院長の渡邉学氏、大阪医科薬科大学の東剛志氏、国立感染症研究所の黒田誠氏らによる共同研究の成果が、国際科学誌「Antibiotics」に6月27日掲載された。 感染症治療には抗菌薬が使用されるが、抗菌薬に対する耐性(antimicrobial resistance;AMR)を獲得した細菌が生まれ、治療困難な感染症の拡大が懸念され、世界中でAMR対策が推進されている。その手段としてこれまで、一般市民へのAMR対策の重要性の啓発活動や、医療現場での抗菌薬適正使用の推進などの措置がとられてきた。しかし、適正使用された抗菌薬であっても一部は薬効を持ったまま体外に排泄され、排水を経由して環境中に拡散している。 また、国内の水質汚濁防止に関する法律では、大腸菌群については下水道に流す前に排出量(濃度)を一定レベル以下に処理することを定めているが、その他の細菌や抗菌薬の濃度については定めがない。現状では、下水を介して環境中に排泄される薬剤耐性菌や抗菌薬が生態系に影響を及ぼし得るのかというリスク評価のデータは乏しく、今後の調査が重要である。また、環境に放出された薬剤耐性因子をそのままにしておくことで、新たな薬剤耐性菌を生み出してしまう懸念も警鐘されている。 医療機関からの排水中の細菌や抗菌薬の濃度は、一般家庭などからの排水よりも高い傾向にあり、下水道に流入する前の処理によりそれらを取り除くことが可能であれば、新たなAMR対策手段となり得る。渡邉氏らはこのような背景のもと、東邦大学医療センター大橋病院の下水処理システムにオゾン処理装置を増設し、予備実験で排水中の細菌や抗菌薬を不活化する試みを実施した。病院施設に高度な排水処理システムを応用し、細菌や抗菌薬の不活化効果について科学的な評価を行った成果の報告は、本事業が初めてとのことだ。 排水中の細菌や抗菌薬を不活化する方法は複数存在する。その中から、同院ではオゾン処理という方法に着目した。この方法には、化学薬品の添加が不要で細菌の不活化や環境汚染物質の除去が可能であり、脱色や脱臭効果にも優れているという特徴がある。ただし、その効果は実験室レベルでの小規模な検討にとどまっていて、病院の排水処理への適用はこれまで検討されていなかったという。 オゾン処理後の排水を解析した結果、大半の細菌が20分で処理前の0.02%程度のレベルに不活化されることが明らかになった。ただし、病原性の低い環境細菌と想定されるRaoultella ornithinolyticaやPseudomonas putidaなどの一部の細菌は80分のオゾン処理後も若干検出され、オゾンに対する低感受性が認められた。著者らは、「これら一部の細菌は細菌自体が有する特徴としてオゾンに対する抵抗性を持っていると考えられ、環境中でAMRリザーバー(貯蔵庫)としての役割を果たす可能性があるかもしれず、今後注意深く見ていく必要がある」と述べている。 抗菌薬については、国内での使用量の多い15種類についてオゾン処理の効果が検討され、40分のオゾン処理によって対象とした全ての抗菌薬の96~100%が除去された。セフジニル、レボフロキサシン、クロルテトラサイクリン、バンコマイシンについては10分以内に90%が除去された。また、アンピシリンとクラリスロマイシンは、20分後にも20〜22%検出されたが、40分後には96〜99%が除去された。 以上の結果から著者らは、「ろ過や生物学的な前処理を行わず、病院排水に直接的なオゾン処理を行うことで、薬剤耐性菌と残留抗菌薬が同時にかつ効率的に不活化されることを明らかにした。どの病院からもある一定数の耐性菌が一般下水へ排出されていると推察され、社会的な対策の必要性が求められつつある。東邦大学医療センター大橋病院として排水浄化の取り組みを世界に先駆けて実施し、オゾン処理が効果的であることを実証した。これらの成果をもとに社会実装を視野に入れ、病気の治療にとどまらず、人々の健康や安全に責務のある病院としてさらなるクリーンな環境作りに貢献したい」と述べている。

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この患者紹介は常識?非常識?【紹介状の傾向と対策】第1回

より良い患者紹介とは―患者紹介を深く考える現代医療は1つの医療機関のみで完結することがほとんどありません。患者を高次医療機関に紹介することもあれば、逆紹介されることもあります。また、院内でも他科に診療を依頼することもあれば、されることもあります。皆さまもご経験のとおり、臨床現場では、紹介状のやり取りを筆頭に、患者紹介に関する困り事やストレスを感じる場面は少なくありません。また、大学で私たちが受けた医学教育には、患者紹介のエチケットやマナー、診療情報提供書(以下、紹介状)の書き方などの実務的な講義はありませんでした。私が知る限り、患者紹介に関するルールやガイドラインも存在しません。そのためか、紹介状の質は非常に不均一だと感じています。しかし、患者紹介の仕方をルールやガイドラインで縛ることは、業務の柔軟性を損ないかねません。出来る限り、現場医師の自主努力に任されるのが理想だと考えていますが、最低限の患者紹介のエチケット・マナーに対し共通の認識を持つべきではないでしょうか。医師の7割が不満を抱えている、その理由は…本連載では患者紹介に関する医師同士のやり取り、診療科間の患者紹介をより円滑にするための方法を模索します。筆者が考える良い患者紹介とは、「最低限、紹介先の医師を困らせない」ことだと考えています。医師同士のやり取りの不調和は、最終的に患者さんの不利益につながります。そのためこの連載では患者を紹介するにあたり「すべきこと」「すべきでないこと」「留意すべきこと」をご提案していきたいと思います。第1回はその前段階として、勤務医、開業医の双方が各診療科の立場で何に困り、何にストレスを感じているか、現状を共有します。2022年2月にケアネットが「紹介状で困っていること」についてアンケートを実施しました。このアンケートには多くのフリーコメントが寄せられたので、その一部のコメントを見てみましょう。 「勤務医が感じる開業医への不満」併存疾患が多い患者は内科に丸投げ紹介先の診療科が不適切時間外・休日前の夕方ギリギリの紹介開業医の診療時間が過ぎると問い合わせても電話に出ない患者の言いなりで紹介してくる紹介についての患者説明と同意が不十分名刺に依頼を書く前医と患者間に生じたトラブルの情報を伝えない悪い情報を伏せている培養検体を取らず抗菌薬を開始してから患者を送ってくる処方理由が不明で問い合わせても不明のまま「開業医の勤務医への不満」必要な情報が記載されていない当該臓器以外の情報がない診断結果が分からない返信が遅い画像・採血データが添付されていない何も解決なく返される紹介の意図が不明患者への説明と紹介状の内容が食い違う抗血小板薬の継続期間の指示がない添付された画像を読み出せない<アンケート概要>内容  紹介状のやり取りで開業医/勤務医それぞれが困っていること、良かったと感じたことを調査実施日 2022年2月24日(木)調査方法インターネット対象  30代以上の会員医師 1,000人(開業医:500人、勤務医:500人)次回、具体的にどのような患者紹介をすればよいか、どのように紹介状を記載していけばよいか、考えていきたいと思います。

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新型コロナのパンデミックで薬剤耐性菌対策が後退

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、それまで前進していた米国の薬剤耐性菌対策を後退させたことが、米疾病対策センター(CDC)がまとめたCOVID-19による薬剤耐性菌への影響に関する報告書から明らかになった。薬剤耐性とは、通常の治療に用いられている抗菌薬や抗ウイルス薬、抗真菌薬などに対して細菌やウイルス、真菌、寄生虫が耐性を獲得し、これらに感染した場合の治療が難しくなる現象のことをいう。 CDCのグループは今回、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大がピークに達した後の薬剤耐性について分析した。その結果、7種類の病原体で薬剤耐性菌の院内感染例が有意に増加しており、2019年から2020年までに全体で15%増加していたことが明らかになった。病原体の種類別の薬剤耐性菌感染の増加率は、カルバペネム耐性アシネトバクターが78%、多剤耐性緑膿菌が32%、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が14%、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が13%だった。 また2020年には、抗真菌薬に対して耐性を示す真菌(抗真菌薬耐性菌)による院内感染例も増加していた。例えば、カンジダ・アウリス(Candida auris)は60%増加し、それ以外のカンジダ属の真菌も26%増加していた。なお、2012年から2017年にかけては、薬剤耐性菌の院内感染例は27%減少していたという。 CDCは、抗菌薬の使用が増加したことや、感染の予防と管理に関するガイドラインの遵守が難しくなったことが、今回明らかになった薬剤耐性菌の感染例の増加をもたらしたのではないかとの見方を示している。また、COVID-19のパンデミックが原因で、こうした医療関連の薬剤耐性菌への感染例が増加した可能性が高いとも指摘している。 CDCの抗菌薬耐性調整・戦略ユニット長のMichael Craig氏は、「この後退は一時的なものである可能性があり、また一時的なものにとどめなくてはならない。われわれが対策を怠れば、薬剤耐性菌の拡大は止まらないことをCOVID-19のパンデミックははっきりと示した。われわれには無駄にできる時間はない」と強調している。そして、「薬剤耐性菌の感染拡大を阻止する最善の方法は、米国民の安全を守るために必要な予防策が不十分な部分を特定し、そこに投資することだ」と主張している。 今回のCDCの報告を受け、米国感染症学会(IDSA)会長のDaniel McQuillen氏は、緊急に対策を講じる必要があると主張する。同氏はIDSAが発表した声明で、「これは、もはや将来の危機ではない。目の前にある危機であり、すぐに対応する必要がある。入院率が高い状況下では常に、対策を講じない限り薬剤耐性菌に関わる感染率と死亡率は上昇する可能性が高い」と指摘している。また、米連邦議会に対して、新たな抗菌薬の開発や抗菌薬の適正使用に向けた取り組みへの資金提供を行う超党派の法案PASTEUR Actを可決するよう求めている。 CDCの報告書によると、COVID-19のパンデミックが始まった年の1年間に、2万9,400人以上の人が医療関連の薬剤耐性菌の感染が原因で死亡していた。しかし、COVID-19パンデミックを受けて医療機関が提供するサービスや診療する患者の数を絞ったりしたことなどから、この点に関しては限定的な情報しか得ることができなかった。このため、実際の薬剤耐性菌感染による死亡例はさらに多い可能性があるという。 研究グループはまた、抗菌薬の適正使用に向けた前進についても、COVID-19のパンデミック初期に、医師たちが発熱や息切れで苦しむ患者たちの治療に、ウイルスに対しては効果のない抗菌薬を用いていたことが原因で阻まれたと説明している。2020年3~10月に入院したCOVID-19患者の約80%に抗菌薬が投与されていたという。 なお、多くの医療機関に薬剤耐性プログラムがあったが、その多くはCOVID-19患者の治療による負担を理由に停止された。特に介護施設ではその傾向が顕著であったという。

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尿路感染症を撃退する鍵は膀胱内の乳酸菌?

 抗菌薬が効かないスーパー耐性菌が増える中、科学者らは体内に生息する善玉菌を利用した対処法に関心を向けている。抗菌薬に代わる新たな尿路感染症(UTI)の治療法を模索する新たな研究で、膀胱内の善玉菌である乳酸菌の力を利用して、UTIの原因菌を撃退する実験の結果が報告された。米アラバマ大学微生物学分野のTatyana Sysoeva氏らが実施したこの研究の詳細は、「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」に6月23日掲載された。 再発性UTIは世界で最も頻発している細菌感染症で、特に高齢者は男女を問わず罹患しやすい。今回の研究結果をレビューした米シダーズ・サイナイの泌尿器専門医Karyn Eilber氏は、「UTIはとても大きな問題だ。医師による抗菌薬の過剰な使用から、多剤服用のみならず、耐性菌の問題も生じていることから、UTIに対する予防治療の取り組みは重要だ」と説明する。 UTIは高齢になるほど罹患しやすく、症状も重くなりやすい。若年者で生じる不快感や灼熱感などのUTIの症状が、高齢者では高熱やせん妄、その他の重篤な合併症を伴って現れ、入院を要することもある。そこで研究者らが注目しているのが、体内や体表面に生息する細菌、真菌、原虫、ウイルスなどの集合体である微生物叢を利用することである。Eilber氏は、「微生物叢が健康であれば、その力を借りて自力でUTIを回避できる。しかし、微生物叢は抗菌薬を使用するごとに変化し、健康な状態を維持することが難しくなる」と話す。 Sysoeva氏も、「抗菌薬を使い過ぎると、薬が効かなくなるだけでなく、微生物叢を壊して自己治癒力を妨げる可能性もある」と指摘。「さまざまな病原菌に作用する広域スペクトラム抗菌薬ではなく、特定の細菌にのみ作用する狭域スペクトラム抗菌薬を用いるか、微生物叢を調整して病原菌に対抗できるようにするのが理想だ」と述べている。 今回の研究でSysoeva氏らは、一般的に女性の尿路に最も多く生息し、病原体への感染を防ぐことが知られている乳酸菌の一種のラクトバチルス属(Lactobacillus)に焦点を当てた。まず、閉経後の健康な女性およびUTIが確認された女性の膀胱の細菌群のリポジトリを作成した。ここには、ラクトバチルス属の8つの異なる種が含まれていた。その上で、これらのラクトバチルス属のうちのいくつかの種が、大腸菌や肺炎桿菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)などの典型的なUTI原因菌の増殖を阻害する能力も持つのではないかと仮定し、それを試験管内で実験した。 その結果、再発性UTIの女性から採取したラクトバチルス属は、大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性菌を攻撃するが、グラム陽性菌であるエンテロコッカス・フェカリスに対する攻撃力は弱いことが観察された。また、一部の患者では、ラクトバチルス属とUTI病原菌の共存が認められたという。この点についてEilber氏は、「この理由については不明だ。さらに研究を重ねて、細菌がどのように生存をかけて競い合ったり相手を殺したりするのかを調べる必要がある」と付け加えている。 Eilber氏は、「自分の微生物叢を武器にする研究は比較的新しいが、考え方は以前からあるものだ」と話す。同氏は、「腸内細菌のバランスを整えるためにプロバイオティクスを補充する手段としてヨーグルトがよく用いられるが、尿路の微生物叢にまでその効果が及ぶとは考えにくい」とし、「尿路にプロバイオティクスを届けるためには、膣座剤やローションを利用できる可能性がある」との見方を示す。一方、Sysoeva氏は、「いずれ微生物叢が、疾患の治療だけでなく、新たな刺激に対する体の反応をベースにした診断にも利用できるようになるかもしれない」との期待を示している。

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原因不明の小児急性肝炎、英国44例の臨床像/NEJM

 2022年1月~3月に、英国・スコットランドの中部地域で小児の原因不明の急性肝炎が10例報告され、世界保健機関(WHO)は4月15日、Disease Outbreak Newsでこれに言及した。WHOはさらに、4月5日~5月26日までに33ヵ国で診断された同疾患の可能性例が少なくとも650例存在するとし、このうち222例(34.2%)は英国の症例であった。同国・Birmingham Women’s and Children’s NHS Foundation TrustのChayarani Kelgeri氏らは、今回、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎44例の臨床像、疾患の経過、初期のアウトカムについて報告した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年7月13日号に掲載された。3つのカテゴリーの臨床アウトカムを評価 研究グループは、2022年1月1日~4月11日の期間に、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎の小児について後ろ向きに検討を行った。 対象は、年齢10歳以下で、英国健康安全保障庁(UKHSA)による確定例の定義(2022年1月1日以降に10歳以下の小児で発症し、A~E型肝炎ウイルスや代謝性・遺伝性・先天性・機械的な原因に起因しない肝炎で、血清アミノトランスフェラーゼ値>500 IU/L)を満たした急性肝炎の患児であった。 これらの患児の医療記録が精査され、人口統計学的特性や臨床的特徴のほか、肝生化学検査、血清検査、肝臓指向性およびその他のウイルスの分子検査の結果と共に、画像上のアウトカムと臨床アウトカムが記録された。 治療は、同施設の急性肝不全プロトコールに準拠して実施され、広域スペクトル抗菌薬、抗真菌薬、プロトンポンプ阻害薬、ビタミンKの投与などが行われた。 臨床アウトカムは、(1)病態の改善(ビリルビン値およびアミノトランスフェラーゼ値の持続的な低下と、血液凝固能の正常化)、(2)肝移植、(3)死亡の3つのカテゴリーについて評価が行われた。90%でヒトアデノウイルスを検出、14%で肝移植、死亡例はない 急性肝炎で紹介された50例のうち、44例(年齢中央値4歳[範囲:1~7]、女児24例[55%])が確定例の定義を満たす肝炎を有していた。このうち13例が同施設に転院し、残りの患児は地元の施設で治療を受けた。2022年1月~4月の同施設への原因不明の急性肝炎による入院数および原因不明の急性肝不全による肝移植数は、いずれも2012~21年における年間症例数よりも多かった。 医療記録が入手できた患児(80%)は全例が白人であった。受診の主な理由は黄疸(93%[41/44例])が最も多く、次いで嘔吐(54%[24例])、下痢(32%[14例])、白色便(30%[13例])、腹痛(27%[12例])、嗜眠(23%[10例])の順だった。 ヒトアデノウイルスの分子検査を受けた30例では、27例(90%)が陽性であった。サイトメガロウイルス(CMV)は全例が陰性で、エプスタイン-バーウイルス(EBV)のカプシド抗原は2例が陽性で、核抗原は1例が陽性だった。 腹部超音波検査では、胆嚢壁肥厚が45%(20例)、軽度肝腫大が27%(12例)、軽度脾腫が18%(8例)で認められた。 38例(86%)は自然回復した。残りの6例(14%)は肝機能が持続的に悪化して急性肝不全に進展し、全例が肝移植を受けた。この6例中5例は急速に進行性の脳症を来し、黄疸発生から脳症発現までの間隔は6~7日だった。死亡例はなかった。肝移植を受けた6例を含む全例が自宅退院した。 UKHSAは、血液と肝組織のメタゲノム解析を行い、アデノ随伴ウイルス2やヘルペスウイルスを検出した。これらの所見の重要性については、現在、さらなる評価が進められている。 著者は、「多くの患児でヒトアデノウイルスが分離されたが、この疾患の病因におけるその役割は確立されていない」としている。

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ブタに蔓延するスーパー耐性菌、ヒトに広がる可能性も

 抗菌薬では死滅しないスーパー耐性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)CC398(以下、CC398)は、ブタを中心とするヨーロッパの家畜の間に50年以上にわたって安定して存在しているとする研究結果が、英ウェルカム・サンガー研究所のGemma Murray氏らにより報告された。CC398の出現の背景には、農場での抗菌薬使用の普及が考えられるという。研究グループらは、このCC398が耐性を保持したままヒトに広がる可能性があるとして、警鐘を鳴らしている。研究結果の詳細は、「eLife」に6月28日掲載された。 CC398は、ヨーロッパではブタやその他の家畜におけるMRSAの主要なタイプであり、特にブタとの関連性が強い。その好例はデンマークの養豚場で、CC398を保菌するブタの割合が、2008年の5%から2018年には90%にまで増加している。ただし、CC398陽性のブタでも、病気になることはないという。また、CC398を原因とするヒトMRSA感染症の報告例も増加しつつある。 Murray氏らは今回の研究で、27年にわたり家畜とヒトから収集した1,180個のCC398サンプルのゲノムを用いて、MRSAに抗菌薬に対する耐性を付与する2つの特定の可動遺伝因子(Tn916とSCCmec)の進化の歴史について調べた。可動遺伝因子とは、ゲノム中、あるいは他のゲノムなどに移動できるDNA配列のこと。 その結果、これらの可動遺伝因子は数十年にわたってブタのCC398の中で安定して存在し続けていることが明らかになった。このうち、テトラサイクリン耐性遺伝子を有するTn916は、CC398が出現した当初から約57年にわたって存続していることが示唆された。一方、SCCmecについては、メチシリン、テトラサイクリン、および金属耐性の遺伝子を有するSCCmec V型が35年前から存在していることが分かった。 これとは対照的に、CC398がヒトの免疫系を回避することを可能にするφSa3と呼ばれる第3の可動遺伝因子は、ヒト関連および家畜関連のCC398の双方で、時間の経過とともに頻繁に消失と出現を繰り返していることが明らかになった。これは、CC398がヒト宿主に迅速に適応できることを示唆している。 Murray氏は、「養豚場での抗菌薬の過剰使用により、MRSAが抗菌薬に対する極めて高い耐性を獲得するように進化した可能性がある。われわれの研究からは、この家畜関連MRSAの抗菌薬に対する耐性は、高い安定性を持ったまま数十年にわたって維持されていること、また、この細菌がさまざまな家畜種に広がっていることが確認された」と話す。 ヨーロッパでは、農場での抗菌薬の使用が以前よりは控えられるようになった。しかし、研究グループは、CC398の安定性の高さを考えると、使用制限の継続がもたらす影響は限定的なものにとどまる可能性が高いと見ている。研究論文の上席著者である英ケンブリッジ大学獣医学分野のLucy A. Weinert氏は、「ヨーロッパでCC398がいかにして生まれ、家畜の間で広まり、ヒトに感染するまでになったのかを理解することは、公衆衛生上のリスクを管理する上で非常に重要だ」と強調する。 Weinert氏はさらに、「ヒトにおける家畜関連MRSA感染症の症例は、現状ではヒトにおけるあらゆるMRSA感染症症例のほんの一部を占めるに過ぎない。しかし、症例が増加しつつあるという事実は危惧すべき兆候だ」と危機感を示す。なお、世界保健機関(WHO)は、MRSAなどの耐性菌を人間の健康に対する最大の脅威の一つとみなしている。

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処置後の予防的抗菌薬【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q25

処置後の予防的抗菌薬Q25症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗った。縫合し、ドレッシング材で被覆もしたぞ。あとは…創部の感染予防に抗菌薬を処方しないとな。何を処方しよう?

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ビールは男性の腸内細菌叢に良い?

 ビールが男性の腸内細菌叢に良い効果をもたらす可能性のあることを示す、小規模な研究の結果が報告された。NOVA大学リスボン(ポルトガル)のAna Faria氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に6月15日掲載された。 この研究では、健康な男性22人(解析は19人)を無作為に2群に分け、1群にはアルコール度数5.2%のラガービール330mL、他の1群にはノンアルコールビールを同量、夕食時に飲んでもらった。介入期間は4週間で、介入前後に血液と糞便の検体を採取した。その解析の結果、両群ともに、腸粘膜のバリア機能のマーカーである糞便アルカリホスファターゼ活性が上昇するとともに、腸内細菌叢の多様性が向上したことが確認された。体重や体脂肪量の増加はなく、心血管代謝マーカーに有意な変化は生じなかった。 腸内細菌叢は腸に生息している細菌の集まりのことで、近年の研究によって、代謝や免疫能などの健康維持に重要な多くのプロセスと関連のあることが分かってきている。腸内細菌叢の組成は、遺伝的背景、健康状態、ストレス、薬剤(特に抗菌薬)など、多くの因子の影響を受けて変化する。ただし、食事が最も重要な要素と考えられている。 一般に腸内細菌叢の多様性が大きいほど、健康に良いとされる。過去の研究から、地中海食のような野菜、豆、穀物、ナッツ、魚が豊富な食事や、ヨーグルトやキムチなどの発酵食品は、腸内細菌叢の多様性を高める可能性が示されている。Faria氏らは、麦芽を発酵させて作るビールにも同じような効果があると考えて、今回の研究を行った。またビールには、腸内細菌叢に影響を与える可能性のある植物性化合物のポリフェノールも含まれている。研究結果から上述のように、ビールやノンアルコールビールには、糞便アルカリホスファターゼ活性や腸内細菌叢の多様性を高める働きがあることが示された。Faria氏は、「これらの評価指標は腸機能の良いマーカーと考えられる」と述べている。 一方、本研究には関与していない米ノースフロリダ大学ジャクソンビル校のLauri Wright氏は、この研究結果の早急な解釈に注意を促す。同氏は、「食物の体への影響を観察する研究は全て有用である。ただし、食生活全体を評価することが重要だ。さらに、どのような食べ物や飲み物であっても、腸内細菌叢への影響を上回る作用を体にもたらす。今回報告された短期間の介入試験の結果を基に、腸への影響が健康管理上のメリットにつながると判断することはできない」と言う。それよりも、一般的な食事の質に焦点を当てることを、同氏は推奨する。「毎日ビールを飲むのではなく、高度に加工された食品を避け、果物や野菜を含む栄養豊富な自然食品をより多く摂取した方が良い」とのことだ。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のEmeran Mayer氏も、「この研究はサンプル数が少なく、腸内細菌叢の機能性の詳細な検討を行っていない」と研究の限界点を指摘する。ただし、「ビールが腸の健康をサポートする可能性を否定するものではない」とも述べている。同氏は、「ビールの香りと苦味のために醸造時に用いるホップは、健康上のメリットに関連している。そのメカニズムの一つが腸内細菌叢の変化によるものなのか否か、興味深い点だ」という。 Mayer氏はまたWright氏の主張にも同意し、「健康的な食習慣を維持することが先であって、ビールを飲んで健康になろうとする考え方は正しくない」と述べている。加えて、「たとえビールが腸内細菌叢へ良い影響をもたらすとしても、それを都合の良い“言い訳”としてビールを飲む人が現れないか心配だ」とも語っている。

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