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事例23 レボフロキサシン(商品名:クラビット)投与日数の査定【斬らレセプト】

解説前月受傷の足底挫創に対して状態確認に通院された患者が熱発を訴えていた。足底の傷はきれいに治癒していたので、口腔内を目視したところ、扁桃腺に膿が付着していた。これが熱発の原因であると考えて急性扁桃炎と診断、クラビット®錠(レボフロキサシン)を14日分処方した。しかし、B事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)を理由に7日分へと査定になった。同薬剤の添付文書を見てみると、「本剤の使用にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめる」と限度日数の明記はない。そのため14日分までは良いと考え、投与していた。しかし、「最小限の期間」とは、「感受性検査などを行ったうえで効果が予見できる期間」とされている。その期間は、他の多くの抗菌薬では添付文書にて7日間を限度とされていることから、保険診療における抗菌薬使用限度は、7日間が1つの目安とされていることが推測できる。事例もこの目安で7日分に査定となったものであろう。外来であって、急性感染症に対する抗菌薬の1処方に対して感受性検査などもないことから、7日以内に査定となっていてもおかしくはなかった事例であった。

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英プライマリケアの抗菌治療失敗が増加/BMJ

 英国では、1990年代後半にプライマリケアでの抗菌薬の処方が減少しプラトーに達した後、2000年以降再び増加し、耐性菌増加の懸念が出てきている。 英・カーディフ大学のCraig J Currie氏らは、1991~2012年における英国のプライマリケアでの主な4つの感染症における抗菌薬の治療失敗率について検討した。その結果、各感染症に対して初期治療で用いられる抗菌薬の上位10剤のうち、1剤以上が治療失敗と関連していた。また、この期間中に全体的な治療失敗率が12%増加し、その増加のほとんどは、プライマリケアでの抗菌薬処方が再び増加してきた2000年以降であることが報告された。BMJ誌2014年9月23日号に掲載。 著者らは、UK Clinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いて、上気道感染症、下気道感染症、皮膚・軟部組織感染症、急性中耳炎に対する抗菌薬単剤での初期治療の失敗率を縦断的に分析した。主な評価項目は、標準化した基準で定義された調整治療失敗率(1991年を100とした指数)とした。 主な結果は以下のとおり。・CPRDの抗菌薬処方箋約5,800万枚から、4つの適応症に対する単剤治療の1,096万7,607エピソードを分析した。それぞれのエピソードは、上気道感染症が423万6,574(38.6%)、下気道感染症が314万8,947(28.7%)、皮膚・軟部組織感染症が256万8,230(23.4%)、急性中耳炎が101万3,856(9.2%)であった。・1991年における全体的な治療失敗率は13.9%であり、上気道感染症12.0%、下気道感染症16.9%、皮膚・軟部組織感染症12.8%、急性中耳炎13.9%であった。・2012年における全体的な治療失敗率は15.4%で、1991年と比較し12%増加していた(1991年を100とした調整値:112、95%CI:112~113)。最も高かったのは下気道感染症であった(同調整値:135、95%CI:134~136)。・最もよく処方される抗菌薬(アモキシシリン、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン)の治療失敗率は20%以下であった。一方、上気道感染症治療におけるトリメトプリム(1991~1995年:29.2% → 2008~2012年:70.1%)、下気道感染症治療におけるシプロフロキサシン(同22.3% → 30.8%)とセファレキシン(同22.0% → 30.8%)は顕著な増加が認められた。・広域スペクトルのペニシリン、マクロライド、フルクロキサシリンの治療失敗率は、ほぼ変化がなかった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第12回

第12回:胆石のマネージメント~無症状の対応から、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処まで~監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 胆石は、腹部エコーを行ったら偶然見つかった、ということが日常診療では多いと思います。日本でも剖検による胆石保有率が2.4%1) と決して少なくありません。ここで、無症状の胆石への対応、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処を復習したいと思います。 以下、American Family Physician 2014年5月15日号2) より1.はじめに胆石は、消化器疾患の中でも最も多い疾患の1つである。胆石のリスクとして、糖尿病、肥満、女性、ホルモン製剤、避妊薬の内服がある。ほとんどの患者では無症状に経過し、超音波検査などで偶然見つかることが多い。偶然見つかった胆石患者のほとんどは、今後症状が出現する可能性は少ないが、一度症状が起きると胆石発作が繰り返される。2.症状、徴候胆石発作は、右上腹部の急性の疼痛として表現される。変動なく突然発症し、1時間でピークを迎える。90%が10年以内に再発をする。急性胆嚢炎の身体所見は何と言ってもMurphy sign(右季肋部を押さえると吸気時に痛くて呼吸が止まる)が重要である。3.診断腹部エコーがまず勧められる。胆石の診断において 感度が98%、特異度が95%である。MRCPは、エコーで描出できなかった場合に次に推奨される。胆石がある患者の6~12%に胆管結石があり、それらは膵炎や胆管炎のリスクになるので注意が必要である。MRCPとERCPは同等の診断精度を持つ。ただし、ERCPのほうが侵襲的で出血、膵炎、胆管炎が4~10%で生じる。4.治療胆石溶解剤の内服は、無症状の胆石に対する疼痛予防としては効果がない。手術の有無については、通常の無症状の胆石は経過観察をするが、例外として磁器様胆嚢(胆嚢がんのリスクあり)、溶血性貧血、3cm以上の胆石では手術を考慮する。胆石発作および胆嚢炎で手術を選択した場合は、ほとんどの症例で腹腔鏡下胆嚢摘出術が薦められる。ただし、経過観察も1つの選択肢となりうる。ある研究によると症状のある胆石に対しては35%に手術が必要で、平均5.6年手術を延長することができたとする報告がある。腹腔鏡下から開腹術に移行する可能性は、非炎症性であれば2~15%、胆嚢炎であると6~35%である3) 。待機的に行われた胆嚢摘出術であれば、予防的な抗菌薬の投与は不要である。ただし、ハイリスク(60歳以上、糖尿病を抱えるなど)であれば、予防投与により感染のリスクを軽減できるかもしれない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 山口和哉ほか. 日臨外医会誌 1997; 58): 1986-1992. 2) Abraham S, et al. Am Fam Physician. 2014;89:795-802. 3) Sherwinter DA, et al. Laparoscopic cholecystectomy. Medscape.

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びまん性汎細気管支炎〔DPB : diffuse panbronchiolitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)は病理組織学的には両側びまん性に分布する呼吸細気管支領域の慢性炎症像を特徴とし、臨床的には慢性副鼻腔炎を伴う慢性気道感染症の形を取る疾患である。そもそもDPBの疾患概念は1960年代に、わが国で確立されたものであるが、欧米においてDPBがほとんど存在しないため、長く認知されてこなかった。しかしながら、1983年、本間氏らによりChest誌上に紹介されて以来1)、徐々に理解が深まり、現在では広く認知され欧米の主要な教科書でも必ず触れられる疾患となっている。■ 疫学以前はそれほどまれな疾患ではなく、1970年代には人口10万人対11という有病率の報告もあったが、近年では典型例は激減し、めったに見ることがなくなった2)。男女差はなく、発症年齢は10~70代まで広く分布するが、発症のピークは中年である。多くの例で、幼小児期にまず慢性副鼻腔炎にて発症し、長い年月を経て下気道症状の咳、膿性痰が加わって症状が完成する。近年DPBが激減した背景には、戦後の日本人の生活水準が急速に向上し、栄養状態が大きく改善したことと、後述するマクロライド療法が耳鼻科領域の医師にも普及し、慢性副鼻腔炎の段階で治癒してしまうことの2つが大きな原因と考えられる。■ 病因明確な発症のメカニズムはまったく不明であるが、本症が病態として副鼻腔気管支症候群(sino-bronchial syndrome: SBS)の形を取ることから、背景には何らかの呼吸器系での防御機構の低下・欠損が推定される。さらにDPBでは親子・兄弟例が多く報告され、また家族内に部分症ともいえる慢性副鼻腔炎のみを有する例が多発することから、何らかの強い遺伝的素因に基づいて発症する疾患と考えられる。この観点からHLAの検討が行われ、日本人DPB患者では、一般人にはあまり保有されていないHLA-B54が高頻度に保有されていることが見出された3)。B54は特殊なHLAで、欧米人やアフリカ人にはまったく保有されず、東アジアの日本を含む一部の民族でのみ保有される抗原であり、このことがDPBという疾患が、欧米やアフリカにほとんど存在しないことと関連があると考えられる。■ 症状最も重要な症状は、慢性的な膿性の喀痰である。この症状のない例ではDPBの診断はまったく考えられない。痰に伴って咳があるのと、併存する慢性副鼻腔炎由来の症状である鼻閉、膿性鼻汁、嗅覚の低下が主症状である。疾患が進行していくと、気管支拡張や肺の破壊が進行し、息切れが増強し、呼吸不全状態となっていく。■ 予後1980年代以前のDPBはきわめて予後不良の疾患であり、1981年の調査では初診時からの5年生存率は42%、喀痰中の細菌が緑膿菌に交代してからの5年生存率はわずかに8%であった。しかしながら、1980年代半ばに工藤 翔二氏によるエリスロマイシン少量長期投与法が治療に導入されると予後は著明に改善し、早期に診断されてマクロライドが導入されれば、むしろ予後のよい疾患となった4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)病歴と特徴ある画像所見から、典型例では診断は難しくない。画像所見としては、胸部X線所見で中下肺野に強い、両側びまん性の辺縁不鮮な小粒状影の多発を認め、これにさまざまな程度の中葉・舌区から始まる気管支拡張像と過膨張所見が加わる。CT(HR-CT)は診断上、きわめて有用であり、(1) びまん性小葉中心性の粒状影、(2) 分岐線状陰影、(3) 気道壁の肥厚と拡張像がみられる。DPBの診断基準(表1)を示す。表1 びまん性汎細気管支炎の診断の手引き1. 概念びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis: DPE)とは、両肺びまん性に存在する呼吸細気管支領域の慢性炎症を特徴とし、呼吸機能障害を来す疾患である。病理組織学的には、呼吸細気管支炎を中心とした細気管支炎および細気管支周囲炎であり、リンパ球、形質細胞など円形細胞浸潤と泡沫細胞集簇がみられる。しばしばリンパ濾胞形成を伴い、肉芽組織や瘢痕巣により呼吸細気管支炎の閉塞を来し、進行すると気管支拡張を生じる。男女差はほとんどなく、発病年齢は40~50代をピークとし、若年者から高年齢まで各年代層にわたる。慢性の咳・痰、労作時息切れを主症状とし、高率に慢性副鼻腔炎を合併または既往に持ち、HLA抗原との相関などから遺伝性素因の関与が示唆されている#1。従来、慢性気道感染の進行による呼吸不全のため不良の転帰を取ることが多かったが、近年エリスロマイシン療法などによって予後改善がみられている。2. 主要臨床所見(1) 必須項目1)臨床症状:持続性の咳・痰、および労作時息切れ2)慢性副鼻腔炎の合併ないし既往#23)胸部X線またはCT所見: 胸部X線:両肺野びまん性散布性粒状影#3 胸部CT:両肺野びまん性小葉中心性粒状病変#4(2) 参考項目1)胸部聴診所見:断続性ラ音#52)呼吸機能および血液ガス所見:1秒率低下(70%低下)および低酸素血症(80Torr以下)#63)血液所見:寒冷凝集素価高値#73. 臨床診断(1) 診断の判定確実上記主要所見のうち必須項目1)~3)に加え、参考項目の2項目以上を満たすものほぼ確実必須項目1)~3)を満たすもの可能性あり必須項目のうち1)2)を満たすもの(2) 鑑別診断鑑別診断上注意を要する疾患は、慢性気管支炎、気管支拡張症、線毛不動症候群、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症などである。病理組織学的検査は本症の確定診断上有用である。[付記]#1日本人症例ではHLA-B54、韓国人症例ではHLA-A11の保有率が高く、現時点では東アジア地域に集積する人種依存症の高い疾患である。#2X線写真で確認のこと。#3しばしば過膨張所見を伴う。進行すると両下肺に気管支拡張所見がみられ、時に巣状肺炎を伴う。#4しばしば細気管支の拡張や壁肥厚がみられる。#5多くは水泡音(coarse crackles)、時に連続性ラ音(wheezes、rhonchi)ないしスクウォーク(squawk)を伴う。#6進行すると肺活量減少、残気量(率)増加を伴う、肺拡散能力の低下はみられない。#7ヒト赤血球凝集法で64倍以上。(厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班班会議、平成10年12月12日)SBSの形を取り、画像上、前述のような所見がみられれば、臨床的に診断がなされる。寒冷凝集素価の持続高値、閉塞性換気障害、HLA-B54(+)といった所見が診断をさらに補強する。通常、病理組織検査を必要としないが、非典型例、関節リウマチ合併例、HTLV-1陽性例、他のSBSとの鑑別が難しい例などでは、胸腔鏡下肺生検による検体が必要となる場合もある。近年、DPBが激減していることから経験が不足し、COPD、気管支喘息などと診断されてしまっている例もみられ、注意を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)表2 びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するマクロライド療法の治療指針(2000年1月29日)マクロライド少量療法はDPBに対する基本療法であり、早期の症例ほどより高い臨床効果が得られることから、診断後は速やかにマクロライド少量治療法を開始すべきである。 なおマクロライド薬のうち、第1選択薬はエリスロマイシン(EM)である。(投与量及び用法)EM 1日投与量は400または600mgを分2または分3で経口投与する。(効果判定と治療期問)1.臨床効果は2~3ヵ月以内に認められることが多いが、最低6ヵ月は投与して、その臨床効果を判定する。2.長期投与により自覚症状、臨床検査所見(画像、肺機能など)が改善、安定し、重症度分類で4または5級(付記1)程度になれば、通算2年間の投与で終了する。3.終了後症状の再燃がみられれぱ、再投与が必要である。4.広汎な気管支拡張や呼吸不全を伴う進行症例で有効な場合は、通算2年間に限ることなく継続投与する。(付記)1.4級:咳・痰軽度。痰量10mL以下、息切れの程度はH-J II~III。安静時PaO2は70~79 Torrで、呼吸器症状のため社会での日常生活活動に支障がある。5級:呼吸器症状なし。安静時にPaO2は80 Torr以上。日常生活に支障なし。2.マクロライド薬のうち、現在までに本症に対する有効性が確認されているのは14員環マクロライド薬であり、16員環マクロライド薬は無効である。EMによる副作用や薬剤相互作用がある場合、あるいはEM無効症例では、14員環ニューマクロライド薬の投与を試みる。投与例 1)クラリスロマイシン(CAM)200または400mg 分1または分2経口投与2)ロキシスロマイシン(RXM)150または300mg 分1または分2経口投与炎症が強い例では、殺菌的な抗菌薬の静注やニューキノロン経口薬を短期間投与し、感染・炎症を抑えてから基本的治療に入る。基本的治療はエリスロマイシン、クラリスロマイシンを中心とした14員環マクロライドの少量長期投与である。これらの薬剤の抗炎症効果による改善が、通常投与後2週間くらいから顕著にみられる。エリスロマイシンでは400~600mg/日を6ヵ月~数年間以上用いる。著効が得られた場合はさらに減量して続行してもよい。ただし、気管支拡張が広範囲に進展し、呼吸不全状態にあるような例では、マクロライドの効果も限定的である。有効例では、投与後2週間くらいからまず喀痰量が減少し、この時点ですでに患者も自覚的な改善を認める。さらに数ヵ月~6ヵ月で呼吸機能、胸部X線像の改善がみられていく。同時に慢性副鼻腔炎症状も改善するが、嗅覚に関しては、やや改善に乏しい印象がある。マクロライドは一般的には、長期間投与しても何ら副作用を認めないことが多いが、まれに肝障害や時に胃腸障害を認める。元来マクロライドは、緑膿菌にはまったく抗菌力がないと考えられるが、近年の研究から14員環マクロライドが緑膿菌のquorum sensingという機能を抑制し、毒素産生やバイオフィルム形成を阻害することが解明されてきている。4 今後の展望典型例はほとんどみられなくなったが、日本人にはDPBの素因が今なお確実に受け継がれているはずであり、軽症例や関節リウマチなどの疾患に合併した例などが必ず出現する。 SBSをみた場合には、必ずDPBを第1に疑っていく必要がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会 呼吸器の病気のコーナー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Homma H, et al. Chest. 1983; 83: 63-69.2)Kono C, et al. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2012; 29: 19-25.3)Sugiyama Y, et al. Am Rev Respir Dis. 1990; 141: 1459-1462.4)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 157: 1829-1832.

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エボラ出血熱の最新報告-国立国際医療研究センターメディアセミナー

 9月3日(水)、都内にて「西アフリカのエボラ出血熱ウイルス流行と国際社会の課題」と題し、国立国際医療研究センターメディアセミナーが開催された。今回のセミナーでは、実際に現地リベリアで患者の診療や医療従事者への指導を担当した医師も講演し、最新の情報が伝えられた。※画像は、出国時の体温検査(画像提供:国立国際医療研究センター 加藤 康幸氏)対応は1類感染症の疾患 「日本の医療機関における備え、感染対策の基礎」と題し、堀 成美氏(国立国際医療研究センター)が、わが国の感染症対策の概要について説明を行った。 エボラ出血熱は、感染症法上1類感染症として取り扱われており、特定の医療機関で診療を行うこと、また、現在、患者発生に備えて、厚生労働省検疫所や自治体と共同して感染症患者の移送などの訓練を行っていると述べた。ワクチン開発の現状 次に、「ワクチン、治療の現状と課題」をテーマに西條 政幸氏(国立感染症研究所)が、現在のワクチン開発の状況を説明した。 本格的なワクチン開発は、1995年のエボラ出血熱アウトブレイクより行われた。当初は、同疾患に罹患し回復した患者の血液輸血という、中和抗体投与療法から開始された。現在、ウイルス増殖を抑制する抗ウイルス薬T-705と中和活性を有する抗体製剤であるZMappが開発され、サルやマウスによる治験が行われている。 T-705は早い段階の投与で効果を発揮し、マウスについて感染6日後の投与では死亡例がなかったのに対し、8日後の投与では約半数が死亡する結果であったという。また、ZMappは、サルについて感染5日後に投与した群はすべて回復が認められたのに対し、コントロール群では8日以内にすべて死亡したことが報告された。 西條氏はワクチンの特徴として、感染を予防するものではなく、あくまで体内でのウイルス増殖を抑え、重症化を防ぐために使用されるものであることを強調した。 今後のワクチン使用の問題点としては、ヒトへの有効性のほか、安全性、情報開示などさまざまなことが挙げられると提起した。 また最後に、西アフリカの感染拡大について触れ、「ウイルスそのものに変化は見られないものの、感染拡大の阻止には苦慮している。拡大の阻止には、さらなる住民への教育、広報、医療機関への資材の提供などが期待される」と説明した。疾患への知識不足がさらなる感染を招く 続いて、「リベリアにおけるエボラ対策支援活動から」をテーマに、実際にリベリアで活動した加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター)が最新情報を紹介した。 リベリアは、乾季のある熱帯雨林気候に属し、人口約420万人。今回の感染拡大は内戦後、国連による平和維持状態が続いている中で起こったものである。 エボラ出血熱は、現在5種類が特定されており、今回の流行はその中でも最強のザイール型と呼ばれているもの。首都を含む広範囲の感染拡大は、新興感染症では世界が初めて経験する事態で、WHO予測では2万人の感染者が予想されているという。 WHOによればエボラ出血熱は、人-人感染でうつり、2~21日で症状を発現、生存率は47%という特徴をもつ。そして、加藤氏によれば、現地では看護をする患者家族や医療スタッフへの感染例が多いとのことである。 典型症状は、出血よりも発熱、下痢と嘔吐であり、現地では、マラリアが通年で流行していることもあり、初期診断時に発熱症状の患者の鑑別診断に苦慮しているとのこと。確定診断は、PCR法による診断が行われ、現地では疑い例の段階で治療・隔離ユニットに収容される。 流行を抑えるためには、隔離と検疫が重要で、現地でも対策が取られているが、医療システムが崩壊していることもあり、順調には進んでいない。そんな中で、さまざまな国、機関の支援により医療の再構築がなされており、今回の支援活動では、感染防止の教育、発熱外来の設置、治療ユニットの設置などが行われた。 現地では、患者の1割が医療従事者であることから、医療従事者の感染防護としては、ガウンなどを重層する国境なき医師団の対策を採用している。また、始業時の体温チェック、バディ体制での病室入室時の防護服チェックなど、万全の態勢を期して臨んでいることなどが紹介された。 治療に関しては、エンピリック治療として抗マラリア薬や抗菌薬の投与が、支持療法として点滴、輸血などが行われている。さらに、疾患啓発や感染防止教育のために、回復患者が医療機関を巡回する取り組みが行われているそうである。 今後の課題として、エボラ出血熱について現地住民への理解の促進、現地の医療システムの復旧、政府などへの信頼性の回復、孤立化による物資不足の解消などが待たれる、と講演を終えた。詳しくは次のサイトをご参照ください。 国立感染症研究所 エボラ出血熱  厚生労働省 感染症法に基づく医師の届け出のお願い

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マクロライドと心臓死リスクの関連/BMJ

 デンマーク住民を対象とした大規模コホート研究から、クラリスロマイシン使用と心臓死増大との有意な関連が、とくに女性の使用において見つかったことが、Statens Serum Institute社のHenrik Svanstrom氏らにより報告された。同リスクの増大は、ロキシスロマイシン使用ではみられなかったという。マクロライド系抗菌薬はQT間隔を延長するため、致死的不整脈リスクを増大する可能性が示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「今回の所見を臨床での意思決定に取り入れる前に、マクロライド系抗菌薬の広範投与について独立集団で確認を行うことが優先すべき課題である」と提言している。BMJ誌オンライン版2014年8月19日号掲載の報告より。クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンについて心臓死との関連を評価 研究グループは、マクロライド系抗菌薬の心臓死リスク増大との関連について、クラリスロマイシンとロキシスロマイシンについて評価を行った。 1997~2011年の40~74歳のデンマーク成人コホートを対象とした。クラリスロマイシンによる7日間治療コースを受けた16万297例と、ロキシスロマイシンによる同治療を受けた58万8,988例、およびペニシリンVの同治療を受けた435万5,309例の計510万4,594例が解析に含まれた。 主要アウトカムは、ペニシリンVと比較したクラリスロマイシンおよびロキシスロマイシンと、心臓死リスクとの関連であった。サブグループ解析として、性別、年齢、リスクスコア、マクロライド系薬を代謝するCYP3A阻害薬併用の別による検討も行った。ロキシスロマイシンではリスク増大がみられず 観察された心臓死は285例だった。 ペニシリンV使用と比較して、クラリスロマイシン使用では有意な心臓死リスク増大がみられ(発生率は1,000人年当たり2.5例vs. 5.3例)、補正後率比は1.76(95%信頼区間[CI]:1.08~2.85)だった。一方、ロキシスロマイシン使用では有意な増大はみられなかった(発生率2.5例、補正後率比1.04、95%CI:0.72~1.51)。 また、クラリスロマイシン使用でみられたリスク増大は、女性で顕著であると断定できた(補正後率比:女性2.83、男性1.09)。 ペニシリンV使用との比較による、クラリスロマイシン使用とロキシスロマイシン使用の補正後リスク絶対差は、コース治療100万例につき心臓死がクラリスロマイシン37例(95%CI:4~90例)に対し、ロキシスロマイシン2例(同:-14~25例)だった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第11回

第11回:アジスロマイシン(AZM)とレボフロキサシン(LVFX)は死亡・不整脈リスクを増加する監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 臨床ではさまざまな抗菌薬が使われており、耐性菌の増加が指摘されています。それに加え、抗菌薬による副作用についても十分注意する必要があります。とくにマクロライド系抗生物質は、QT時間延長、torsades de pointes、および多形性心室頻拍を含む心臓不整脈リスクを増加させることが知られています1) 2) 3)。今回新たに発表された論文をご紹介します。 以下、本文 Annals of Family Medicine 3-4月号4)より1.目的AZMの使用はハイリスク患者の死亡リスク増大に関連があるが、若年~中年成人での関連ははっきりしない。食品医薬品安全庁(FDA)は「AZMにはLVFXに類似したリスクがある」という声明を含む公的な警鐘を行った。今回、AZMまたはLVFXを服用した場合、ABPCの服用と比較して心血管死および不整脈のリスクを増大するという仮説を検証するため、米国の退役軍人に後ろ向きコホート研究を実施した。2.方法1999年9月~2012年4月までの期間、退役軍人局で AMPC(AMPC/CVA含む)、AZM、またはLVFXを投与された米国退役軍人の外来患者をカルテから抽出。後ろ向きに調べたコホート研究。ABPC使用者は97万9,380例、AZM使用者は59万4,792例、LVFX使用者は20万1,798例。AZMはおおむね5日間、ABPCとLVFXはおおむね10日間以上投与された。3.結果既往歴、患者背景はほぼ同様であり、抗菌薬が投与されたのは耳鼻咽喉感染症、呼吸器感染症に多かったが、とくに泌尿生殖器感染症にはLVFXが使用されている傾向があった。ABPCを投与された患者と比較して、AZM投与の患者では内服開始1~5日間で死亡リスクが1.48倍(95%CI、1.05~2.09)、重症不整脈のリスクが1.77倍(95% CI、1.20~2.62)と有意にリスクが増大した。内服開始後6~10日間における統計学的有意差は認めなかった。同様にABPCを投与された患者と比較して、LVFX投与の患者は内服開始1~5日間で死亡リスクが2.49倍(95% CI、1.7~3.64)、深刻な不整脈のリスクが2.43倍(95% CI、1.56~3.79)と大きく、内服開始後6~10日間でも死亡リスク1.95倍(95% CI、 1.32~2.88)、不整脈リスクが1.75倍(95% CI、1.09~2.82)と有意差があった。4.結論ABPCと比較してAZMは内服開始1~5日間で統計学的に有意な死亡、不整脈の増加をもたらしたが、内服開始後6~10日では有意差がなかった。LVFXは10日間を通してリスクの増大があった。処方決定の際には抗菌薬のリスクと利益が十分考慮されるべきで、AZM、LVFX以外の抗菌薬の選択肢もありうる。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Mosholder AD et al. N Engl J Med. 2013; 368:1665-1668. 2) Svanström H et al. N Engl J Med. 2013; 368:1704-1712. 3) WA Ray et al. N Engl J Med. 2012; 366: 1881-1890. 4) GA Rao. et al. Ann Fam Med. 2014; 12: 121-127.

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ピロリ除菌、糖尿病だと失敗リスク2倍超

 Helicobacter pylori(HP)の除菌において、糖尿病の存在が抗菌薬の有効性を低下させることが懸念されている。新潟大学の堀川 千嘉氏らは、糖尿病患者の除菌失敗リスクに及ぼす糖尿病の影響を調べるためにメタ解析を行った。その結果、糖尿病患者のHP除菌失敗リスクが非糖尿病者に比べて高いことが確認され、糖尿病患者のHP除菌での治療延長や新たな除菌レジメン開発の必要性が示唆された。Diabetes research and clinical practice誌オンライン版2014年7月23日号に掲載。 著者らは、2012年11月30日まで、Biosis、MEDLINE、Embase、PASCAL、SciSearchを用いて文献検索した。選定した研究から、2人の著者がそれぞれ別に、HP感染の除菌治療を受けた人数と糖尿病の有無別のHP除菌失敗データを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・適格な8研究を選択し、データを取得した(計693人、うち糖尿病患者273人)。・全体では、非糖尿病者と比べた糖尿病患者のHP除菌失敗の統合リスク比(RR)は2.19(95%CI:1.65~2.90、p<0.001)であった。・標準プロトコル以外でHP除菌を行った2つの研究を除いた場合、非糖尿病者と比べた糖尿病患者のHP除菌失敗リスクはより高かった(RR:2.31、95%CI:1.72~3.11)。

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急性胆嚢炎で術後抗菌薬は必要か/JAMA

 軽症~中等症の急性胆石性胆嚢炎で術前・術中に抗菌薬を投与した患者は、術後の抗菌薬投与がなくても重篤な術後感染症には至らないことが、無作為化試験の結果、示された。フランスのピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学のJean Marc Regimbeau氏らが報告した。急性胆石性胆嚢炎の9割は軽症もしくは中等症である。急性胆石性胆嚢炎について術前・術中の抗菌薬投与が標準化されているが、術後抗菌薬投与の有用性に関するデータはこれまでほとんど示されていなかった。JAMA誌2014年7月9日号掲載の報告より。抗菌薬術前・術中投与の急性胆石性胆嚢炎患者、術後も投与vs. 非投与を検討 研究グループは、胆嚢切除術後の術後感染症に対するアモキシシリン+クラブラン酸(アモキシシリンレジメン)投与の効果を検討した。 試験は2010年5月~2012年8月にフランス国内17施設で治療を受けた414例を対象に行われた非盲検非劣性無作為化試験であった。 被験者は、軽症~中等症の急性胆石性胆嚢炎で、2gのアモキシシリンレジメン投与を術前に1日3回、術中に同1回投与された患者であった。術後に同投与を1日3回、5日間投与する群と非投与群に無作為化した。 主要評価項目は、4週時点のフォローアップ受診前または受診時に記録された、手術部位または遠隔部位の術後感染症発生率であった。術後感染症、非投与群の投与群に対する非劣性は認められず 414例(平均年齢55歳)のintention-to-treat解析において、術後感染症の発生率は、術後抗菌薬非投与群は17%(35/207例)、投与群は15%(31/207例)であった(絶対差:1.93%、95%信頼区間[CI]:-8.98~5.12%)。per-protocol解析(4週時評価を受けなかった人を除外)では、両群とも13%であった(絶対差:0.3%、95%CI:-5.0~6.3%)。 本試験では非劣性マージンを11%としており、術後抗菌薬の非投与群が投与群と比べてアウトカムが不良であるとは認められなかった。 なお胆汁培養の結果、60.9%で特定の病原体は認められなかった。 また、両群の術後合併症(Clavien-Dindo分類)の頻度も同程度であった。非投与群は同分類スコア0~Iが195例(94.2%)、III~Vは2例(0.97%)、投与群はそれぞれ182例(87.8%)、4例(1.93%)であった。

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抗菌薬静脈内投与後のアナフィラキシーショックによる死亡

消化器最終判決平成16年9月7日 最高裁判所 判決概要S状結腸がんの開腹術後に縫合不全を来たした57歳男性。抗菌薬投与を中心とした保存的治療を行っていた。術後17日、ドレーン内溶液の培養結果から、抗菌薬を一部変更してミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)を静脈内投与したが、その直後にアナフィラキシーショックを発症して心肺停止状態となる。著しい喉頭浮腫のため気道確保は難航し、何とか気管内挿管に成功して救急蘇生を行ったが、発症から3時間半後に死亡した。詳細な経過患者情報平成2年7月19日 注腸造影検査などによりS状結腸がんと診断された57歳男性。初診時の問診票には、「異常体質過敏症、ショックなどの有無」欄の「抗菌薬剤(ペニシリン、ストマイなど)」の箇所に丸印を付けて提出した経過平成2(1990)年8月2日開腹手術目的で総合病院に入院。看護師に対し、風邪薬で蕁麻疹が出た経験があり、青魚、生魚で蕁麻疹が出ると申告。担当医師の問診でも、薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがあると申告したが、担当医師は抗菌薬ではない市販の消炎鎮痛薬であろうと解釈し、具体的な薬品名など、薬物アレルギーの具体的内容、その詳細は把握しなかった。8月8日右半結腸切除術施行。手術後の感染予防目的として、セフォチアム(同:パンスポリン)およびセフチゾキシム(同:エポセリン)を投与(いずれも皮内反応は陰性)。8月16日(術後8日)腹部のドレーンから便汁様の排液が認められ、縫合不全と診断。保存的治療を行う。8月21日(術後13日)ドレーンからの分泌物を細菌培養検査に提出。8月23日(術後15日)38℃前後の発熱。8月25日(術後17日)解熱傾向がみられないため、抗菌薬をピペラシリン(同:ペントシリン)とセフメノキシム(同:ベストコール)に変更(いずれも皮内反応は陰性)。10:00ペントシリン® 2g、ベストコール® 1gを点滴静注。とくに異常は認められなかった。13:00細菌培養検査の結果が判明し、4種類の菌が確認された。ベストコール®は2種の菌に、ペントシリン®は3種の菌に感受性が認められたが、4種の菌すべてに感受性があるのはミノマイシン®であったため、ベストコール®をミノマイシン®に変更し、同日夜の投与分からペントシリン®とミノマイシン®の2剤併用で様子をみることにした。22:00看護師によりペントシリン® 2g、ミノマイシン® 100mgの点滴静注が開始された(主治医から看護師に対し、投与方法、投与後の経過観察などについて特別な指示なし)。ところが、点滴静注を開始して数分後に苦しくなってうめき声を上げ、付き添い中の妻がナースコール。22:10看護師が訪室。抗菌薬の点滴開始直後から気分が悪く体がピリピリした感じがするという言葉を聞き、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15「オエッ」というような声を何回か発した後、心肺停止状態となる。数分後に医師が到着し、ただちにアンビューバッグによる人工呼吸、心臓マッサージを開始。22:30気管内挿管を試みたが、喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。アドレナリン(同:ボスミン)投与をはじめとした救急蘇生を続けるが、心肺は再開せず。8月26日(術後18日)01:28死亡確認。死因はいずれかの薬剤によるアナフィラキシーショックと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張今回使用した抗菌薬には、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用を生じる可能性があるのだから、もともと薬剤アレルギーの既往がある本件に抗菌薬を静脈内投与する場合、異常事態に備えて速やかに対応できるよう十分な監視体制を講じる注意義務があった。ところが、医師は看護師に特別な監視指示を与えることなく、漫然と抗菌薬投与を命じたため、アナフィラキシーショックの発見が遅れた。しかも、重篤な副作用に備えて救命措置を準備しておく注意義務があったにもかかわらず、気道確保や強心剤投与が遅れたため救命できなかった。病院側(被告)の主張本件で使用した抗菌薬は、従前から投与していた薬剤を一部変更しただけに過ぎず、薬物アレルギーの既往症があることは承知していたが、それまでに使用した抗菌薬では副作用はなかった。そのため、新たに投与した(皮内反応は不要とされている)ミノマイシン®投与後にアナフィラキシーショックを生じることは予見不可能であるし、そのような重篤な副作用を想定して医師または看護師が付き添ってまで経過観察をする義務はない。そして、容態急変後は速やかに当直医師が対応しており、救急蘇生に過誤があったということはできない。裁判所の判断高等裁判所の判断医師、看護師に過失なし(1億2,000万円の請求を棄却)。最高裁判所の判断(平成16年9月7日)原審(高等裁判所)の判断は以下の理由で是認できない。薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、静脈内投与後5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には、投与後の経過観察を十分に行い、その初期症状をいち早く察知することが肝要であり、発症した場合には、薬剤の投与をただちに中止するとともに、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要である。とくに、アレルギー性疾患を有する患者の場合には、薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから、格別の注意を払うことが必要とされている。本件では入院時の問診で薬物アレルギーの申告を受けていたのだから、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある抗菌薬を投与するに際しては、重篤な副作用の発症する可能性を予見し、その発症に備えてあらかじめ看護師に対し、投与後の経過観察を指示・連絡をする注意義務があった。担当看護師は抗菌薬を開始後すぐに病室から退出してしまい、その結果、心臓マッサージが開始されたのが発症から10分以上経過したあとで、気管内挿管が試みられたのが発症から20分以上、ボスミン®投与は発症後40分が経過したあとであり、救急措置が大幅に遅れた。これでは投与後5分以内に発症するというアナフィラキシーショックへの対応は明らかに不適切である。以上のように、担当医師や看護師が注意義務を怠った過失があるから、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるため、死亡との因果関係をさらに審理をつくさせるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととする。考察またまた医師にとっては驚くべき裁判官の考え方が示されました。しかも、最高裁判所の担当判事4名が全員一致した判断というのですから、医師と法律専門家との考え方には、どうしようもなく深い溝があると思います。本症例は、S状結腸がんの開腹手術後8日目に縫合不全を来たし(これはやむを得ない合併症と考えられます)、術後17日でそれまで投与していた抗菌薬を変更、その後に報告された細菌培養の結果から、より効果の期待できるミノマイシン®を点滴投与したところ、その直後にアナフィラキシーショックを発症しました。ショック発現までの時間経過を振り返ると、22:00ミノマイシン®開始。数分後に苦しくなりうめき声を上げたので家族がナースコール。22:10看護師が訪室、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15心肺停止状態。数分後に医師が到着し、救急蘇生開始。22:30喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。となっています。今回の病院は約350床程度の規模で、上記の対応をみる限り、病院内の急変に対する体制としてはけっして不十分ではないと思います。最高裁判所の判事は、アナフィラキシーショックは5分以内の発見が大事である、という文献をもとに、もし看護師がミノマイシン®開始後ずっと付き添っていれば、もっと早く救急措置ができたであろう、という根拠で医師の過失と断じました。ところが当時の状況は、大腸がんの開腹手術後17日が経過し、すでに集中治療室から一般病室へ転室していると思われ、何とか縫合不全を保存的治療で治そうとしている状況でした。しかも、薬剤アレルギーの既往症が申告されていたとはいえ、それまでに使用したパンスポリン®、セフチゾキシム®、ベストコール®、ペントシリン®では何ら副作用の問題はなかったのですから、抗菌薬の一部変さらに際して看護師に特別な指示を出すべき積極的な理由はなかったと思います。ましてや、ミノマイシン®は皮内反応が不要とされている抗菌薬なので、裁判官のいうようにアナフィラキシーショックを予見して、22:00からのミノマイシン®開始に際して看護師をつきっきりで貼り付けておくことなど、けっして現実的ではないように思います。もし、看護師がベッドサイドでずっと付き添っていたとして、救命措置をどれくらい早く開始することができたでしょうか。側に付き添っていた家族が異変に気づいたのは、ミノマイシン®静脈注射開始後数分でしたから、おそらく22:05頃にドクターコールを行い、22:10くらいには院内の当直医が病室へ到着することができたと思われます(おそらく5~10分程度の短縮でしょう)。その時点から救急蘇生が開始されることになりますが、果たして22:15の心肺停止を5分間の措置で防ぎ得たでしょうか。しかもアナフィラキシーショックに関連した喉頭浮腫が急激に進行し、気道を確保することすらできず、やむなく喉頭穿刺まで行っていますので、けっして茫然自失として事態をやり過ごしたとか、注意義務を果たさなかったというような診療行為ではないと思います。つまり、本件のような激烈なアナフィラキシーショックの場合、医師が神業のような処置を行っても救命できないケースが存在するのは厳然とした事実です。にもかかわらず、医師や看護師がつきっきりでみていなかったのが悪い、救急措置をもう少し早くすれば助かったかもしれないなどという考え方は、病気のリスクを紙面でしか知り得ない裁判官の偏った考え方といえるのではないでしょうか。このように、医師にとっては防ぎようのないと思われる病態をも、医療ミスとして結果責任を問う声が非常に大きくなっていると思います。極論すると、個々の医療行為に対してすべてのリスクを説明し、それでもなお治療を受けると患者が同意しない限り、医師は結果責任を免れることはできません。すなわち本件でも、患者およびその家族へ、術後の縫合不全や感染症にはミノマイシン®が必要であることを十分に説明し、アレルギーがある患者ではミノマイシン®によってショックを起こして死亡することもありうるけれども、それでも注射してよいか、という同意を求めなければならない、ということですが、そのような説明をすることはきわめて不自然でしょう。本件は「医師や看護師の過失はない」と考えた高等裁判所へ差し戻されていますが、ぜひとも良識のある判断を期待したいと思います。一方、抗菌薬の取り扱いに関して、2004年10月に日本化学療法学会から「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」が発表されました。それによると、これまで慣習化していた抗菌薬投与前の皮内反応は、アナフィラキシー発現の予知として有用性に乏しいと結論付けています。具体的には、アレルギー歴のない不特定多数の症例には皮内反応の有用性はないとする一方で、病歴からアレルギーが疑われる患者に抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、あらかじめ皮内反応を行った方がよいということになります。そして、抗菌薬静脈内投与に際して重要な基本的事項として、以下の3点が強調されました。事前に既往症について十分な問診を行い、抗菌薬などによるアレルギー歴は必ず確認すること投与に際しては必ずショックなどに対する救急処置のとれる準備をしておくこと投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。とくに、投与開始直後は注意深く観察することこのうち、本件のようなケースには第三項が重要となります。これまでは、抗菌薬静脈内注射後にはまれに重篤な副作用が現れることがあるので経過観察は大事ですよ、という一般的な認識はあっても、具体的にどのようにするのか、といった対策まで講じている施設は少ないのではないでしょうか。しかも、抗菌薬投与の患者全員に対し、「投与開始から投与終了後まで十分な観察を行う」ことは、実際の医療現場では事実上不可能ではないかと思われます。ところが、このようなガイドラインが発表されると、不幸にも抗菌薬によるアナフィラキシーショックを発症して死亡し紛争へ至った場合、この基本三原則に基づいて医師の過失を判断する可能性がきわめて高くなります。当時は急患で忙しかった、看護要員が足りずいかんともし難い、などというような個別の事情は、一切通用しなくなると思います。またガイドラインの記述は、「抗菌薬投与開始直後は注意深く観察すること」という漠然とした内容であり、ではどのようにしたらよいのか、バイタルサインをモニターするべきなのか、開始直後とは何分までなのか、といった対策までは提示されていません。ところが、このガイドラインのもとになった「日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会の報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」によると、「きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始後20~30分における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である」とされました。すなわち、ここではっきりと「20~30分」という具体的な基準が示されてしまいましたので、今後はこれがスタンダードとされる可能性が高いと思います。したがって、抗菌薬の初回静脈内投与では、全例において、点滴開始後少なくとも20分程度は誰かが付き添う、モニターをつけておく、などといった注意を払う必要があることになります。これを杓子定規に医療現場に当てはめると、かなりな混乱を招くことは十分に予測されますが、世の中の流れがこのようになっている以上、けっして見過ごすわけにはいかないと思います。今回の症例を参考にして、ぜひとも先生方の施設における方針を再確認して頂ければと思います。日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)」日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策について(2004年版概要)」日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」消化器

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高齢肺炎入院患者へのアジスロマイシン、心イベントへの影響は?/JAMA

 高齢の肺炎入院患者へのアジスロマイシン(商品名:ジスロマックほか)使用は他の抗菌薬使用と比較して、90日死亡を有意に低下することが明らかにされた。心筋梗塞リスクの増大はわずかであった。肺炎入院患者に対して診療ガイドラインでは、アジスロマイシンなどのマクロライド系との併用療法を第一選択療法として推奨している。しかし最近の研究において、アジスロマイシンが心血管イベントの増大と関連していることが示唆されていた。米国・VA North Texas Health Care SystemのEric M. Mortensen氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2014年6月4日号掲載の報告より。65歳以上入院患者への使用vs. 非使用を後ろ向きに分析 研究グループは、肺炎入院患者におけるアジスロマイシン使用と、全死因死亡および心血管イベントの関連を明らかにするため、2002~2012年度にアジスロマイシンを処方されていた高齢肺炎入院患者と、その他のガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者とを比較した。 分析には、全米退役軍人(VA)省の全VA急性期治療病院に入院していた患者データが用いられた。65歳以上、肺炎で入院し、全米臨床診療ガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者を対象とした。 主要評価項目は、30日および90日時点の全死因死亡と、90日時点の不整脈、心不全、心筋梗塞、全心イベントの発生とした。傾向スコアマッチングを用い、条件付きロジスティック回帰分析で既知の交絡因子の影響を制御した。使用患者の90日死亡オッズ比は0.73 対象患者には118病院から7万3,690例が登録され、アジスロマイシン曝露患者3万1,863例と非曝露の適合患者3万1,863例が組み込まれた。適合群間の交絡因子について有意差はなかった。 分析の結果、90日死亡について、アジスロマイシン使用患者について有意な低下が認められた(曝露群17.4%vs. 非曝露群22.3%、オッズ比[OR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.70~0.76)。 一方で曝露群では、有意なオッズ比の増大が、心筋梗塞について認められた(5.1%vs. 4.4%、OR:1.17、95%CI:1.08~1.25)。しかし、全心イベント(43.0%vs. 42.7%、1.01、0.98~1.05)、不整脈(25.8%vs. 26.0%、0.99、0.95~1.02)、心不全(26.3%vs. 26.2%、1.01、0.97~1.04)についてはみられなかった。 結果について著者は、「肺炎入院患者に対するアジスロマイシン使用は、リスクよりも有益性が上回る」とまとめている。

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にきび治療への有効性を比較、抗菌薬 vs ピル

 米国ハーバード・メディカル・スクールのEubee Baughn Koo氏らは、にきび治療における、抗菌薬と経口避妊薬(OCP)の有効性を比較するメタ解析を行った。両者がにきび治療に有効であることは判明しており広く使用されているが、有効性について直接比較した検討はほとんど行われていなかった。結果、3ヵ月時点では抗菌薬が優れていたが、6ヵ月時点では同等であることが示され、著者は、「女性における長期のにきび治療では、ピルがファーストライン治療薬として全身性の抗菌薬の代わりとなるだろう」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2014年5月28号の掲載報告。 メタ解析は、Preferred Reporting Items for Systematic ReviewsとMeta-Analyses and Cochrane collaboration guidelinesに則して行われた。 226本の刊行レビューから、包含基準を満たした32本の無作為化試験を解析に組み込み分析した。 主な結果は以下のとおり。・3ヵ月時点と6ヵ月時点で、抗菌薬およびOCPはいずれもプラセボと比較して、炎症性病変、非炎症性病変、全病変の減少率がより大きかった。・各評価時点の抗菌薬およびOCP治療は、3ヵ月時点における全病変の減少率が抗菌薬のほうがOCPよりも優れていたが、それ以外は下記のように統計的に同等であることが示された。 加重平均炎症性病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬53.2%、OCP 35.6%、プラセボ26.4%  6ヵ月時点:抗菌薬57.9%、OCP 61.9%、プラセボ34.2% 加重平均非炎症性病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬41.9%、OCP 32.6%、プラセボ17.1%  6ヵ月時点:抗菌薬56.4%、OCP 49.1%、プラセボ23.4% 加重平均全病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬48.0%、OCP 37.3%、プラセボ24.5%  6ヵ月時点:抗菌薬52.8%、OCP 55.0%、プラセボ28.6%・本検討は、試験治療の不均一性および刊行バイアスの点で限定的である。

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急性虫垂炎を適切に診断できず死亡したケース

消化器最終判決判例時報 1556号99-107頁概要腹痛と血便を訴えて受診した45歳男性。腹部は平坦で軟、圧痛を認めたが、抵抗や筋性防御は認められなかった。腹部単純X線写真では腹部のガス像は正常で腸腰筋陰影も明瞭であったが、白血球数が14,000と増加していた。ブチルスコポラミン(商品名:ブスコパン)の点滴静注により腹痛はほぼ消失したため、チメピジウム(同:セスデン)、プロパンテリン・クロロフィル配合剤(同:メサフィリン)、ベリチーム®を処方し、翌日の受診と状態が悪化した場合はただちに受診することを指示して帰宅させた。ところが翌日未明に昏睡状態となり、DOAで病院に搬送され、心肺蘇生術に反応せず死亡確認となった。詳細な経過患者情報身長168cm、体重73kg、とくに既往症のない45歳男性経過1989年4月24日腹部に不快感を訴えていた。4月27日06:00頃間歇的な激しい腹痛、かつ血便がみられたため、午前中に某大学病院内科を受診。問診時に以下のことを申告。同日午前中から腹痛が出現したこと便に点状の出血が付着していたこと酒はワインをグラス1杯飲む程度であることこれまでにタール便の経験や嘔気はないこと肛門痛、体重の減少はないこと仕事は多忙であり、24日頃から腹部に不快感を感じていたこと初診時体温36.8℃脈拍脈拍80/分(整)頸部 および その周辺のリンパ節触知(-)甲状腺の腫大(-)胸部心音純・異常(-)咽頭粘膜軽度発赤(+)腹部平坦で軟・圧痛(+)、抵抗(-)、筋性防御(-)肝を右乳頭線上で肋骨弓下に1横指触知したが正常の硬さであった。血液検査、肝機能検査、膵胆道系機能検査、血沈を実施したところ、白血球数が14,000と増加。腹部X線写真の結果、ガス像は正常、腸腰筋陰影も明瞭であった。ベッドに寝かせて安静を保ったうえ、ブチルスコポラミン(同:ブスコパン)2A入りの生理食塩水200mLを30分で点滴静注したところ、腹痛はほぼ消失した。そして、セスデン®、メサフィリン®、ベリチーム®を4日分処方し、翌4月28日の診察の予約をして帰宅させた。その際、仮に状態が悪化した場合には、翌日を待たずしていつでも再受診するべきことを伝えた。16:00頃帰宅。19:00頃突然悪寒がしたため、アスピリンを2錠服用して就寝。4月28日01:00頃苦痛を訴え、ほとんど意識のない状態となって、いびきをかき始めた。02:13頃救急車を要請。搬送中の意識レベルはJCS(ジャパンコーマスケール)300(痛み刺激に反応しない昏睡状態)。02:50頃大学病院に到着時、心肺停止、瞳孔散大、対光反射なしというDOA。心肺蘇生術を試みたが反応なし。高カリウム血症(6.9)高血糖(421)CPK(153)LDH(253)クレアチニン(1.8)アミラーゼ(625)03:13死亡確認。12:50病理解剖。虫垂の長さは9cm、棍棒状で、内容物として汚黄赤液を含み、漿膜は発赤し、周囲に厚層出血をしていたが、癒着はしていなかった。腹膜は灰白色で、表面は滑らかであったが、虫垂の周囲の体壁腹膜に拳大程度の発赤が認められ、局所性腹膜炎の状態であった。また、膵間質内出血、腎盂粘膜下うっ血、気管粘膜下うっ血、血液流動性および諸臓器うっ血という、ショック死に伴う諸症状がみられた。また、軽度の心肥大(360g)が認められたが、冠状動脈には異常なく、心筋梗塞の病理所見は認められなかった。死因は「腹膜ショック」その原因となる疾患としては「急性化膿性虫垂炎」であると診断した。当事者の主張患者側(原告)の主張4月27日早朝より、腹部の激痛を訴えかつ血便が出て、虫垂炎に罹患し、腹部に重篤な病変を呈していたにもかかわらず、十分な検査などをしないままこれを見落とし、単に鎮痛・鎮痙薬を投与しただけで入院措置も取らず帰宅させたために適切な診療時機を逸し、死亡した。死因は、急性化膿性虫垂炎に起因する腹膜ショックである。病院側(被告)の主張患者が訴えた症状に対して、医学的に必要にして十分な措置を取っており、診療上の過失はない。確かに帰宅させた時点では、急性化膿性虫垂炎であるとの確定診断を得たわけではないが、少なくとも24時間以内に急死する危険性のある重篤な症状はなかった。腹膜炎は医学的にみて、低血量性ショックや感染性ショックなどの腹膜ショックを引き起こす可能性がない軽微なものであるから、「腹膜ショック」を死因と考えることはできない。また、化膿性虫垂炎についても、重篤な感染症には至っていないものであるから、これを原因としてショックに至る可能性もない(なぜ死亡に至ったのかは明言せず)。裁判所の判断以下の過失を認定死因について初診時すでに急性虫垂炎に罹患していて、虫垂炎はさらに穿孔までは至らないものの壊疽性虫垂炎に進行し、虫垂周囲に局所性化膿性腹膜炎を併発した。その際グラム陽性菌のエキソトキシンにより、腹膜炎ショック(細菌性ショック)となり死亡した。注意義務違反白血球増加から急性虫垂炎の疑いをもちながら、確定診断をするため各圧痛点検索、直腸指診および、直腸内体温測定などを実施する義務を怠った。各検査を尽くしていれば急性虫垂炎であるとの確定診断に至った蓋然性は高く、死亡に至る時間的経過を考慮しても抗菌薬の相当の有効性が期待でき、死亡を回避できた。そして、急性虫垂炎であるとの確定診断に至った場合、白血球数の増加から虫垂炎がさらに感染症に至っていることは明らかである以上、虫垂切除手術を考慮することはもちろんであるが、何らかの理由で診察を翌日に継続するのであれば、少なくとも抗菌薬の投与はするべきであり、そうすれば腹膜炎ショックによる死亡が回避できた可能性が高い。原告側合計5,500万円の請求を全額認定考察「腹痛」は日常の外来でよくみかける症状の一つです。多くのケースでは診察と検査、投薬で様子をみることになると思いますが、本件のように思わぬところに危険が潜んでいるケースもありますので、ぜひとも注意が必要です。本件の裁判経過から得られる教訓として、次の2点が重要なポイントと思われます。1. 基本的な診察と同時にカルテ記載をきちんとすること本件は大学病院で発生した事故でした。担当医師の立場では、血液検査、腹部X線写真などはきちんと施行しているので、「やれることだけはやったつもりだ」という認識であったと思います。患者さんは「心窩部から臍部にかけての間歇的な腹痛」を訴えて来院しましたので、おそらく腹部を触診して筋性防御や圧痛がないことは確認したと思われます。これだけの診察をしていれば十分という気もしますし、担当医師の明らかな怠慢とかミスということではないと思います。ところが裁判では「血圧測定」をしなかったことと、急性虫垂炎を疑う際の腹部の診察(マックバーネー圧痛点、ランツ圧痛点、ブルンベルグ徴候など)を行わなかったことを問題としました。その点について裁判官は、「担当医師は、血圧測定、虫垂炎の圧痛点検索は実施した旨を証言するが、いずれについてもカルテ上に記載がなく、この証言は採用できない」と述べています。もしかすると、実際にはきちんと血圧を測り、圧痛点の診察もしていたのかもしれませんが、カルテにそのことを記載しなかったがために、(基本的な診察をしていないではないかという)裁判官の心証形成に相当影響したと思います。やはり、医事紛争に巻き込まれた時には、きちんと事実を記載したカルテが自分の身を守る最大の証拠であることを、肝に銘じなければならないと痛感しました。と同時に、最近では外来診察時に検査データばかりを重視して、血圧をはじめとするバイタルサインを測定しない先生方が増えているという話をよく耳にします。最先端の診断機器を駆使して難しい病気を診断するのも重要ではありますが、風邪とか虫垂炎といようなありふれた疾患などにおいても、けっして高をくくらずに、医師としての基本的な診察はぜひとも忘れないようにしたいと思います。2. 帰宅させる時の条件患者さんを帰宅させるにあたって担当医師は、「腹痛で来院した患者ではあるが、ブスコパン®の静注によって症状は軽減したし、白血球は14,000と高値だけれどもほかに所見がないので、まあ大丈夫だろう。「何かあったらすぐに来院しなさい」とさえいっておけば心配はない症例だ」という認識であったと思います。そして、裁判官も、帰宅させたこと自体は当時の状況からして無理からぬと判断しているように、今回の判決は担当医師にとっては厳しすぎるという見方もあると思います。ところが、実際には白血球14,000という炎症所見を放置したために、診察から約半日後に死亡するという事態を招くことになりました。判決にもあるとおり、もし抗菌薬を当初から処方していれば、死亡という最悪の結果にはならなかった可能性は十分に考えられますし、抗菌薬を処方したにもかかわらず死亡した場合には、医療過誤として問われることはなかったかもしれません。このように、結果的にみれば白血球14,000という検査データをどの程度深刻に受け止めていたのかが最大の問題点であったと思います。もちろん、安易に抗菌薬を処方するのは慎むべきことですが、腹痛、そして、白血球14,000という炎症所見がありながら自宅で経過観察する際の対処としては、抗菌薬の処方が正しい判断であったと思います。■腹痛を主訴として来院した患者さんが急死に至る原因(1)急性心筋梗塞(2)大動脈瘤破裂という2つの疾患が潜んでいる可能性があることを忘れてはならないと思います。とくに典型的な胸痛ではなく腹痛で来院した急性心筋梗塞のケースで、ブスコパン®注射が最後のとどめを刺す結果となって、医療側の責任が厳しく追及された事例が散見されますので、腹痛→ブスコパン®という指示を出すときにはぜひとも注意が必要です。消化器

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うつぶせ寝にしておいた生後3日目の新生児が急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 988号264-271頁概要体重3,460g、身長51cm、正常分娩で出産した新生児。授乳は良好であったが、生後3日目の授乳後にミルクを吐き、腹満もみられたため、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝で寝かせた。ところがその45分後に全身チアノーゼ、心肺停止状態で発見され、ただちに行われた救急蘇生により何とか自己心拍と自発呼吸が再開した。ところが低酸素脳症が原因で重度の脳性麻痺となり、気道分泌物による窒息のため生後7ヵ月で死亡した。詳細な経過経過1995年1月5日03:00陣痛が始まったためそれまで通院していた総合病院に入院。05:43正常分娩にて、体重3,460g、身長51cmの男児を出産。心拍数や呼吸などに異常はなかった。ミルクなど合計84cc1月6日ミルクなど合計204cc1月7日ミルクなど合計402cc1月8日03:00母親が授乳。04:00かん高く泣いたため看護師がミルクを授乳し、コットに仰向け寝で寝かせた。05:40さらに泣いたため、おやつとしてミルクを授乳(このとき担当看護師は授乳していないと主張)、そのときの排気でミルクを吐き、さらに腹満もあったことから、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝(顔は横向き)で寝かせた(このときの勤務は深夜帯で、看護師1名が新生児室の新生児6~7名と、NICU室の重症児を含む3~4名の新生児を担当、NICU室から新生児室はみえない位置関係)。06:25それから約45分後、朝の授乳開始のため母親にわたそうとしたところ、顔を真下に向けた状態でうつぶせ寝となっており、抱き上げると全身チアノーゼ、呼吸停止状態であった(母親は枕代わりのタオルに直径6~7cmの吐乳を確認したと申告したが、担当看護師は嘔吐はなかったと反論)。ただちにNICU室に移し、産婦人科医師にコールするともに酸素投与、背中のタッピングを行ったが、反応なし。06:30産婦人科医師が到着し、心臓マッサージとバギングを行いつつ気管内挿管を試みたが気管内挿管できず、小児科医師の応援を要請。そのときミルク残査を含む液体が噴出したので吸引を行う。06:35小児科医師が到着して気管内挿管を試みたが挿管できず。06:40別の医師により挿管が完了した。このとき、吸引により乳白色の液体が吸引された。まもなく心拍音が聴取できるようになった。06:53自発呼吸が出現したが微弱であり、バギングが継続された。07:10口腔内から唾液様の液体が多量に吸引、挿管チューブからはごく少量の淡黄色液体が吸引された。07:35自発呼吸、心拍は安定し、クベースに収容された。しかし、低酸素脳症による重度の脳障害が発生した。08:30担当医師から、「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入ったため事故が生じた」という説明あり。10:30産婦人科、および小児科担当医師から、「事故の原因としてミルクの誤嚥が考えられる、挿管チューブより粘調なミルクかすのようなものが多量に引けた、肺炎を想定し早めに抗菌薬を投与する」との説明を受けた(一連の説明の中で未然型乳幼児突然死症候群とは告げられていない)。8月9日気道分泌物による窒息のため死亡。カルテの記載(1)産婦人科入院記録「tapping吸引にて気管内よりmilk多量に引ける」(2)小児科入院記録「挿管よりmilk残査多量に吸引できる。milk誤嚥による窒息→呼吸停止→心臓停止の可能性大、誤嚥の原因は不明」「チューブより粘調なmilkかすのようなもの多量に引け、吸引性肺炎を想定し、早めに抗菌薬使用としました」当事者の主張患者側(原告)の主張うつぶせ寝にしたために吐乳吸引を引き起こして窒息し、発見が遅れたために心肺停止に至った。病院側(被告)の主張吐乳の事実はないので、うつぶせ寝が心肺停止の原因ではない。心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったうつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはない窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずである蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものである嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずである死亡原因は未然型乳幼児突然死症候群(SIDS)である裁判所の判断うつぶせ寝にしたことにより、ふとんや枕などで鼻口部が圧迫され低酸素状態となり、嘔吐に引き続き吐物を吸引して窒息した結果、心肺停止となったもので、乳幼児突然死症候群ではない。1.心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったと主張するが、母親が枕代わりに使用していたタオルに黄色い吐乳のようなシミを確認していること、動揺しながら少しでも早く蘇生措置を行おうとした看護師、そして、事故が起きた新生児室を通らず直接NICU室に出入りした医師は嘔吐の痕跡を確認できる状況ではなかったため、嘔吐の形跡がなかったという証言は採用できない2.うつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはないと主張するが、うつぶせ寝にした場合に気道は食道よりも下になるため、咽喉頭部にたまった吐瀉物を吸引しやすくなるものである3.窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずであると主張するが、生後3日の乳幼児の運動能力からいって、寝具などに移動した痕跡がなくても不自然ではなく、また、新生児室はNICU室からはみえない位置関係なので看護師が気づかなくても不自然ではない4.蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものであるとするが、当時の担当医師は口から吹き出したミルク残査を吸引した後で心臓マッサージをしているので、この際に吐瀉された液体が後になって大量に気管内に移動したとは考えられない5.嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずであるとするが、本件では粘調性の低いサラサラしたミルク様のものが引け、固まりや気泡は認めなかったと主張するが、担当医師のカルテには「粘調なmilkかすのようなもの大量にひけ」と記載していて、陳述内容と異なる。最小泡沫の存在はミルク誤嚥による窒息を確認する有力な方法ではあるがそれが唯一の方法ではない6.死亡原因は乳幼児突然死症候群(SIDS)であると主張するが、未然型乳幼児突然死症候群があったことを窺わせる何らかの徴候があったことを立証することはできない原告側合計6,881万円の請求に対し、4,855万円の判決考察乳幼児突然死症候群(SIDS)とは、健康と思われていた乳幼児が主に睡眠中に死亡しているのを発見され、死亡直前の状況や剖検によってもその原因が解明できないという疾患です。1940年頃から欧米で注目され、1969年には米国において一疾患単位として定義され、わが国でも1981年に定義が行なわれました。近年になって、オランダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドから、うつぶせ寝をやめて仰向け寝とすることで、SIDSの発症頻度が低下したという報告が相次いでなされました。■この現象の解釈として(1)うつぶせ寝がSIDSの発症のリスクファクターとして働き、うつぶせ寝に伴うより深い睡眠、さらに覚醒反応遅延が関与して、SIDSの発症に間接的に関わっていたとする考え(小児科診療2000年3月号335頁)(2)うつぶせ寝を止めることにより単純にうつぶせ寝に伴う窒息死が減少したものとする考え。この場合、以前のSIDSとされていた症例には、なかにはうつぶせに伴う窒息死とされるべき症例も多く含まれていたということになる本件は病院側が未然型乳幼児突然死症候群と主張したように、救急蘇生が奏効していったんは救命することができましたので、いわゆる「乳幼児突発性危急事態:apparent life threatening event(ALTE)」という病態となります。厚生省研究班(当時)の定義によると、ALTEは「それまでの健康状態および既往歴からその発症が予想できず、しかも児が死亡するのではないかと観察者におもわしめるような無呼吸、チアノーゼ、顔面蒼白、筋緊張低下、呼吸窮迫などのエピソードで、その回復に強い刺激や蘇生処置を要したもののうちで原因が不詳のもの」とされています。本件では、気管内からミルク様のものを多量に吸引したという事実がありますので、何らかの原因で「嘔吐」したことと、その吐物を「誤嚥」して窒息したことは明らかであると思います。しかし、裁判でも最大の争点となったように、うつぶせ寝によって引き起こされた吐乳・窒息であったのか、それとも原因が不詳のALTE(未然型SIDS)と判断するべきなのか、本当のところはよくわからないと思います。そもそも、SIDSやALTEと判断する決め手となるような検査方法はなく、診断方法自体が除外診断となるため、さらに問題を複雑にしていると思います。もちろん、原告側の主張のように、吐乳が原因で窒息となり、その遠因としてうつぶせ寝にしたことが関与していたという可能性は十分に考えられます。しかし、生まれてから3日間まったく異常がみられなかったこの乳児に対し、今回の出来事を予見するのはまず不可能ではないでしょうか。裁判記録を読んでみると、当時の看護師はほかにも重症の新生児を担当していたので、とくに異常のみられないこの児に付きっきりの看護をするとは思えず、職務上の怠慢があったとか、不誠実な看護を施したとはけっしていえないと思います。もし、新生児室ではなく母親に預けられた段階で今回の出来事が発生していれば、「不幸な出来事」として誰もが納得し、裁判には至らなかったと思います。にもかかわらず、看護師の管理下で「うつぶせ寝にした」という事実だけが大きく取り上げられてしまい、医学的には適切と思える病院側の主張をことごとく否定し、高額賠償の判決へと至りました。もし、病院側に明らかな怠慢や過失が認められたのであれば、このような判決でも納得せざるを得ないのですが、けっしてそのようなことはなかったと思います。そのためもあってか本件は控訴へと至りましたが、一方で病院側の説明にも問題点を指摘することができると思います。それは事故直後から「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入った」と担当医師は家族に説明し、「誤嚥、窒息」とカルテに記載したにもかかわらず、あとになってから「未然型乳幼児突然死症候群」を主張したり、容態急変時に「嘔吐はない」と異なる内容の証言をして、今回の不幸な出来事は不可抗力であったとしました。どうもこのような一貫しない主張に対し、裁判官の心証が大きく患者側に傾いたのではないかと思います。近年では、乳幼児をうつぶせ寝とすることに対する過剰な反応がみられますので、本件のような不幸な事故の際にうつぶせ寝としていたことがわかると、医療機関側にとってはきわめて不利になると思います。一方でうつぶせ寝にすることのメリットも確かにあり、とくに未熟児や病児には仰向けよりも生理学的に有利であることが示されていますが、SIDS予防キャンペーンなどで「仰向け寝にすること」が推奨されている以上、それに準じた方針を選択せざるを得ないと思います。小児科

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偽膜性大腸炎を診断できずに死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1654号102-111頁概要高血圧性小脳出血を発症した65歳男性、糖尿病、腎障害、および軽度の肝障害がみられていた。発症4日目に局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術を施行し、抗菌薬としてセフォタキシムナトリウム(商品名:クラフォラン)、ピペラシリンナトリウム(同:ペントシリン)を開始した。術後2日目から下痢が始まり、術後4日目から次第に頻度が増加し、38℃台の発熱と白血球増多、CRP上昇など、炎症所見が顕著となった。術後6日目にはDICが疑われる状態で、腎不全、呼吸・循環不全となり、術後12日目に死亡した。解剖の結果、空腸から直腸にかけて著しい偽膜性大腸炎の所見が得られた。詳細な経過患者情報65歳男性経過1991年3月2日11:00頃法事の最中に眩暈と嘔吐を来して歩行不能となり、近医を経てA総合病院脳神経外科に搬送され、頭部CTスキャンで右小脳出血(血腫の大きさは3.8×2.5×2.0cm)と診断された。意識清明であったが言語障害があり、脳圧降下薬の投与、高血圧の管理を中心とした保存的治療が行われた。3月6日若干の意識障害、右上肢の運動失調がみられたため、局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術が行われた。術後感染防止のため、第3世代セフェム(クラフォラン®)、広域ペニシリン(ペントシリン®)の静注投与が行われた。3月8日焦げ茶色の下痢と発熱。腰椎穿刺では髄膜炎が否定された。3月9日白血球15,000、CRP 0.5。3月10日下痢が5回あり、ロペラミド(同:ロペミン)投与(以後も継続された)。3月11日下痢が3回、白血球42,300、CRP 3.9。敗血症を疑い、γグロブリン追加。胸部X線写真異常なし、血液培養陰性。3月12日下痢が3回、チェーンストークス様呼吸出現。3月13日下痢が2回、血圧低下、腎機能低下、人工呼吸器装着、播種性血管内凝固症候群を疑い、メシル酸ガベキサート(同:エフオーワイ)開始。抗菌薬をアンピシリン(同:ビクシリン)、第3世代セフェム・セフタジジム(同:モダシン)、ミノサイクリン(同:ミノマイシン)に変更。以後徐々に尿量が減少して腎不全が進行し、感染や血圧低下などの全身状態悪化から人工透析もできないままであった。3月18日死亡。死体解剖の結果、空腸から直腸にかけて、著しい偽膜性大腸炎の所見が得られ、また、エンドトキシン血症の関与を示唆する肝臓小葉中心性新鮮壊死、著しい急性肝炎、下部尿管ネフローシス(ショック腎)が認められたため、偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、細菌が血中に侵入し、その産生するエンドトキシンによる敗血症が惹起されエンドトキシンショックとなって急性循環不全が引き起こされた結果の死亡と判断された。当事者の主張患者側(原告)の主張小脳出血は保存的に様子をみても血腫の自然吸収が期待できる症状であり、手術の適応がなかったのに手術を実施した。1.死因クラフォラン®およびペントシリン®を中心として、このほかにビクシリン®、モダシン®、ミノマイシン®などの抗菌薬を投与されたことによって偽膜性大腸炎を発症し、その症状が増悪して死亡したものである2.偽膜性大腸炎について3月10~13日頃までには抗菌薬に起因する偽膜性大腸炎を疑い、確定診断ができなくても原因と疑われる抗菌薬を中止し、偽膜性大腸炎に効果があるバンコマイシン®を投与すべきであったのに怠った。さらに偽膜性大腸炎には禁忌とされているロペミン®(腸管蠕動抑制剤)を投与し続けた病院側(被告)の主張高血圧性小脳出血の手術適応は、一般的には血腫の最大経が3cm以上とされており、最大経が3.8cmの小脳出血で、保存的加療を行ううちに軽い意識障害および脳幹症状が発現し、脳ヘルニアへの急速な移行が懸念されたため、手術適応はあったというべきである。1.死因初診時から高血圧性腎症、糖尿病性腎症、感染によるショックなどの基礎疾患を有し、これにより腎不全が進行して死亡した。偽膜性大腸炎の起炎菌Clostridium difficileの産生する毒素はエンテロトキシンおよびサイトトキシンであるから、本件でみられたエンドトキシン血症は、偽膜性大腸炎に起因するとは考えがたい。むしろエンドトキシンを産生するグラム陰性桿菌が腸管壁を通過し、糖尿病、肝障害などの基礎疾患により免疫機能が低下していたため、敗血症を発症し、多臓器不全に至ったものと考えられる2.偽膜性大腸炎について偽膜性大腸炎による症状は、腹痛、頻回の下痢(1日30回にも及ぶ下痢がみられることがある)、発熱、腸管麻痺による腹部膨満などであり、検査所見では白血球増加、電解質異常(とくに低カリウム血症)、低蛋白血症などを来す。本件の下痢は腐敗性下痢である可能性や、解熱薬の坐薬の影響が考えられた。本件の下痢は回数的にみて頻回とまではいえない。また、腹痛や腹部膨満はなく、血清カリウム値はむしろ上昇しており、白血球やCRPから炎症所見が著明であったので肺炎や敗血症は疑われたものの、偽膜性大腸炎を疑うことは困難であった裁判所の判断1. 死因本件ではClostridium difficileの存否を確認するための検査は行われていないが、抗菌薬以外に偽膜性大腸炎を発生させ得る具体的原因は窺われず、また、偽膜性大腸炎はClostridium difficileを起炎菌とする場合がきわめて多いため、本件で発症した偽膜性大腸炎は抗菌薬が原因と推認するのが合理的である。そして、Clostridium difficileにより発生した偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、腸管から血中にグラム陰性菌が侵入し、その産生するエンドトキシンにより敗血症が惹起され、ショック状態となって急性循環不全により死亡したものと推認することができる。2. 偽膜性大腸炎について一般的に医師にはさまざまな疾病の発生の可能性を考慮して治療に従事すべき医療専門家としての高度の注意義務があるのであって、本件の下痢の状況や白血球数などの炎症反応所見の推移は、かなり強く偽膜性大腸炎の発生を疑わせるものであると評価するのが相当である。病院側の主張する事実は、いずれも偽膜性大腸炎が発生していたことを疑いにくくする事情ではあるが、ロペミン®により下痢の回数がおさえられていた可能性を考慮して下痢の症状を観察するべきであった。そのため、3月11日から翌12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であり、その時点でバンコマイシン®の投与を開始し、かつロペミン®の投与を中止すれば、偽膜性大腸炎を軽快させることが可能であり、エンドトキシンショック状態に陥ることを未然に回避できた蓋然性が高い。2. 手術適応について高血圧性小脳出血を手術するべきであったかどうかの判断は示されなかった。原告側合計3,700万円の請求に対し、2,354万円の判決考察このケースは、脳外科手術後にみられた「下痢」に対し、かなり難しい判断を要求していると思います。判決文を読んでみると、頻回の下痢症状がみられたならばただちに(少なくとも下痢とひどい炎症所見がみられた翌日には)偽膜性大腸炎を疑い、確定診断のために大腸内視鏡検査などができないのならば、それまでの抗菌薬や止痢薬は中止してバンコマイシン®を投与せよ、という極端な結論となっています。もちろん、一般論として偽膜性大腸炎をまったく鑑別診断に挙げることができなかった点は問題なしとはいえませんが、日常臨床で抗菌薬を使用した場合、「下痢」というのはしばしばみられる合併症の一つであり、その場合程度がひどいと(たとえ偽膜性大腸炎を起こしていなくても)頻回の水様便になることはしばしば経験されます。そして、術後2日目にはじめて下痢が出現し、術後4日目から下痢が頻回になったという状況からみて、最初のうちは単純な抗菌薬の副作用による下痢と考え、止痢薬を投与するのはごく一般的かつ常識的な措置であったと思います。その上、術後に発熱をみた場合には腸以外の感染症、とくに脳外科の手術後であったので髄膜炎や肺炎、尿路感染症などをまず疑うのが普通でしょう。そのため、担当医師は術後2日目には腰椎穿刺による髄液検査を行っていますし(結果は髄膜炎なし)、胸部X線写真や血液検査も頻回に調べていますので、一般的な注意義務は果たしているのではないかと思います。ところが判決では、「頻回の下痢が始まった翌日の3月11日から3月12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であった」と断定しています。はたして、脳外科の手術後4日目に、頻回に下痢がみられたから即座に偽膜性大腸炎を疑い、発熱が続いていてもそれまでの抗菌薬をすべて中止して、バンコマイシン®だけを投与することができるのでしょうか。この時期はやはり脳外科術後の髄膜炎がもっとも心配されるので、そう簡単には抗菌薬を止めるわけにはいかないと考えるのがむしろ脳外科的常識ではないかと思います。実際のところ、脳外科手術後に偽膜性大腸炎がみられるのは比較的まれであり、それよりも髄膜炎とか肺炎の発症率の方が、はるかに高いのではないかと思います。にもかかわらず、まれな病態である偽膜性大腸炎を最初から重視するのは、少々危険な考え方ではないかという気までします。あくまでも推測ですが、脳外科の専門医であれば偽膜性大腸炎よりも髄膜炎、肺炎の方をまず心配するでしょうし、一方で消化器内科の専門医であればどちらかというと偽膜性大腸炎の可能性をすぐに考えるのではないかと思います。以上のように、本件は偽膜性大腸炎のことをまったく念頭に置かなかったために医療過誤とされてしまいましたが、今後はこの判例の考え方が裁判上のスタンダードとなる可能性が高いため、頻回の下痢と発熱、著しい炎症所見をみたならば、必ず偽膜性大腸炎のことを念頭に置いて検査を進め、便培養(嫌気性培養も含む)を行うことそして、事情が許すならば大腸内視鏡検査を行って確定診断をつけておくこと通常の抗菌薬を中止するのがためらわれたり、バンコマイシン®を投与したくないのであれば、その理由をきちんとカルテに記載することというような予防策を講じないと、医師側のミスと判断されてしまうことになると思います。なお本件でもう一つ気になることは、本件では手術直後から予防的な抗菌薬として、2種類もの抗菌薬が使用されている点です。クラフォラン®、ペントシリン®はともに髄液移行の良い抗菌薬ですので、その選択には問題ありません。しかし、手術時には明らかな感染症は確認されていないようなので、なぜ予防的な抗菌薬を1剤ではなくあえて2剤にしたのでしょうか。これについてはいろいろとご意見があろうかと思いますが、ことに本件のようなケースを知ると、抗菌薬の使用は必要最小限にするべきではないかと思います。消化器

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肺炎・気管支喘息で入院した乳児が低酸素血症となって死亡したケース

小児科最終判決判例時報 1761号107-114頁概要2日前からの高熱、呼吸困難を主訴として近医から紹介された2歳7ヵ月の男児。肺炎および気管支喘息の診断で午前中に小児科入院となった。入院時の医師はネブライザー、輸液、抗菌薬、気管支拡張薬、ステロイドなどの指示を出し、入院後は診察することなく定時に帰宅した。ところが、夜間も呼吸状態は改善せず、翌日早朝に呼吸停止状態で発見された。当直医らによってただちに救急蘇生が行われ、気管支内視鏡で気管分岐部に貯留した鼻くそ様の粘調痰をとりのぞいたが低酸素脳症に陥り、9ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報気管支喘息やアトピーなどアレルギー性疾患の既往のない2歳7ヵ月男児。4歳年上の姉には気管支喘息の既往歴があった経過1995年1月24日38℃の発熱。1月25日発熱は40℃となり、喘鳴も出現したため近医小児科受診して投薬を受ける。1月26日早朝から息苦しさを訴えたため救急車で近医へ搬送。四肢末梢と顔面にチアノーゼを認め、β刺激薬プロカテロール(商品名:メプチン)の吸入を受けたのち総合病院小児科に転送。10:10総合病院(小児科常勤医師4名)に入院時にはチアノーゼ消失、咽頭発赤、陥没気味の呼吸、わずかな喘鳴を認めた。胸部X線写真:右肺門部から右下肺野にかけて浸潤影血液検査:脱水症状、CRP 14.7、喉にブドウ球菌の付着以上の所見から、咽頭炎、肺炎、気管支喘息と診断し、輸液(150mL/hr)、解熱薬アセトアミノフェン(同:アンヒバ坐薬)、メフェナム(同:ポンタールシロップ)、抗菌薬フルモキセフ(同:フルマリン)、アミノフィリン静注、ネブライザーメプチン®、気道分泌促進薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)、内服テレブタリン(同:ブリカニール)、アンブロキソール(同:ムコソルバン)、クロルフェニラミンマレイン(同:ポララミン)を指示した(容態急変まで血液ガス、経皮酸素飽和度は1回も測定せず)。10:30体温39.5℃、陥没気味の呼吸(40回/分)、喘鳴あり。11:15喘鳴強く呼吸苦あり、ステロイドのヒドロコルチゾン(同:サクシゾン)100mg静注。14:00体温36.7℃、肩呼吸(50回/分)、喘鳴あり。16:30担当医師は看護師から「喉頭部から喘鳴が聞こえる」という上申を受けたが、患児を診察することなく17:00に帰宅。19:30喉頭部の喘鳴と肩呼吸(50回/分)、夕食を飲み込めず吐き出し、内服薬も服用できず、吸入も嫌がってできない。22:00体温38.3℃、アンヒバ®坐薬使用。1月17日02:20体温38.1℃、陥没気味の呼吸(52回/分)、喘鳴あり。サクシゾン®100mg静注。06:30体温37.1℃、陥没気味の呼吸、咳あり。07:20ネブライザー吸入を行おうとしたが嫌がり、機器を手ではねつけた直後に全身チアノーゼが出現。07:30患児を処置室に移動し、ただちに酸素吸入を行う。07:40呼吸停止。07:55小児科医師が到着し気管内挿管を試みたが、喉頭部がみえにくくなかなか挿管できず。マスクによる換気を行いつつ麻酔科医師を応援を要請。08:10ようやく気管内挿管完了(呼吸停止後30分)、この時喉頭部には異常を認めなかった。ただちにICUに移動して集中治療が行われたが、低酸素脳症による四肢麻痺、重度意識障害となる。10:00気管支鏡で観察したところ、気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた。10月26日約9ヵ月後に低酸素脳症により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張肺炎、気管支喘息と診断して入院し各種治療が始まった後も、頻呼吸、肩呼吸、陥没呼吸、体動、喘鳴がみられ呼吸障害は増強していたのだから、気管支喘息治療のガイドラインに沿ってイソプレテレノールの持続吸入を追加したり気管内挿管の準備をするべきであったのに、入院時の担当医師は入院後一度も病室を訪れることなく、午後5:00過ぎに帰宅して適切な指示を出さなかった。夜間帯の当直医師、看護師も、適切な病状観察、病態把握、適切な治療を怠ったため、呼吸不全に陥った。病院側(被告)の主張小児科病棟は主治医制ではなく3名の小児科医による輪番制がとられ、入院時の担当医師は肺炎、気管支喘息の患者に対し適切な治療を行って、起坐呼吸やチアノーゼ、呼吸音の減弱や意識障害もないことを確認し、同日の病棟担当医であった医師へきちんと申し送りをして帰宅した。その後も呼吸不全を予測させるような徴候はなかったので、入院翌日の午前7:00過ぎに突発的に呼吸不全に陥ったのはやむを得ない病態であった。裁判所の判断入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息の診断を下してそれに沿った注射・投薬の指示を出しているので、ほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたことになる。そのため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった。ところが、入院後一度も病室を訪れず、経皮酸素飽和度を測定することもなく、ガイドラインに沿った治療のグレードアップや呼吸停止に至る前の気管内挿管の機会を逸し、容態急変から死亡に至った。患者側1億545万円の請求に対し6,950万円の判決考察1. 呼吸停止の原因について裁判では呼吸停止の原因として、「肺炎や気管支喘息に起因する気道閉塞によって、肺におけるガス交換が不十分となり呼吸不全に陥った」と判断しています。そのため、小児気管支喘息のガイドラインを引用して、「イソプロテレノールの持続吸入をしなかったのはけしからん、気道確保を準備しなかったのは過失だ」という判断へとつながりました。ところが経過をよくみると、容態急変後の気管支鏡検査で「気管および気管支には粘稠な痰があり、とくに気管分岐部には鼻くそ様の固まりがみられた」ため、気管支喘息の重積発作というよりも、粘調痰による気道閉塞がもっとも疑われます。しかも、当直医が気管内挿管に手間取り、麻酔科医をコールして何とか気管内挿管できたのは呼吸停止から30分も経過してからでした。要するに、痰がつまった状態を放置して気道確保が遅れたことが致命的になったのではないかと思われます。裁判ではなぜかこの点を重視しておらず、定時の勤務が終了し午後5:00過ぎに帰宅していた入院時の担当医師が(帰宅後も)適切な指示を出さなかった点をことさら問題としました。2. 主治医制をとるべきか当時この病院では部長医師を含む小児科医4名が常駐し、夜間・休日の当直は部長以外の医師3名で輪番制をとっていたということです。昨今の情勢を考えると、小児医療を取り巻く状況は大変厳しいために、おそらく4名の小児科医でもてんてこ舞いの状況ではなかったかと推測されます。入院時の担当医師は、肺炎、気管支喘息と診断した乳児に対し、血管確保のうえで輸液、抗菌薬、アミノフィリン持続点滴を行い、ネブライザー、各種内服を指示するなど、中~大発作を想定した気管支喘息に対する処置は行っています。それでも呼吸状態が安定しなかったので、ステロイドのワンショット静注を2回くり返しました。通常であれば、その後は回復に向かうはずなのですが、今回の患児は内服薬を嫌がってこぼしたり、ネブライザーの吸入をさせようとしてもうまくできなかったりなど、医師が想定した治療計画の一部は実施されませんでした。そして、当直帯は輪番制をとっていることもあって、入院時にきちんとした指示さえ出しておけば、後は当番の病棟担当医がみてくれるはずだ、という認識であったと思われます。そのため、11:00過ぎの入院から17:00過ぎに帰宅するまで6時間もありながら(当然その間は外来業務を行っていたと思いますが)一度も病室に赴くことなく、看護師から簡単な報告を受けただけで帰宅し、自分の目で治療効果を確かめなかったことになります。もし、帰宅前に患者を診察し、呼吸音を聴診したり経皮酸素飽和度を測るなどの配慮をしていれば、「予想以上に粘調痰がたまっているので危ないぞ」という考えに至ったのかも知れません。ところが、本件では血液ガス検査は行われず、急性呼吸不全の徴候を早期に捉えることができませんでした。そして、裁判でも、「入院時の担当医師はほかの小児科医師に比べて格段の差をもって病態の把握をしていたため、小児科病棟では主治医制をとらず輪番制であったことを考慮しても、患者の治療について第一に責任を負うものであり、少なくとも夜間の当直医とのあいだで綿密な打ち合わせを行い、午後5:00に帰宅後も治療に遺漏がないようにしておくべきであった」という、耳が痛くなるような判決が下りました。ここで問題となるのが、主治医制をとるべきかどうかという点です。今回の総合病院のように、医師個人への負担が大きくならないようにグループで患者をみる施設もありますが、その弊害としてもっとも厄介なのが無責任体制に陥りやすいということです。本件でも、裁判では問題視されなかった輪番の小児科当直医師が容態急変前に患者をみるべきであったのに、申し送りが不十分なこともあってほとんど関心を示さず、いよいよ呼吸停止となってからあわてて駆けつけました。つまり、入院時の担当医師は「5:00以降はやっと業務から解放されるので早く帰宅しよう」と考えていたでしょうし、当直医師は「容態急変するかも知れないなんて一切聞いてない。入院時の医師は何を考えているんだ」と、まるで責任のなすりつけのような状況ではなかったかと思われます。そのことで損をするのは患者に他なりませんから、輪番制をとるにしても主治医を明確にしておくことが望まれます。ましてや、「輪番制であったことを考慮しても、(入院指示を出した医師が)患者の治療について第一に責任を負う」という厳しい判決がおりていますので、間接的ではありますが裁判所から「主治医制をとるべきである」という見解が示されたと同じではないかと思います。小児科

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にきび経口抗菌薬治療、6ヵ月超継続は約18%に減少

 にきび治療における経口抗菌薬治療について、使用期間とコストの変化を保険請求データベースで後ろ向きに分析した結果、使用期間は以前より短縮していることが報告された。米国・ペン ステートミルトンS. ハーシーメディカルセンターのYoung H. Lee氏らによる分析で、6ヵ月超の使用は17.53%であったという。また、6ヵ月超から6ヵ月に短縮したことで、1人当たり580.99ドルのコストが削減されたことも示唆された。にきび治療における経口抗菌薬の治療期間に関する研究は限定的であるが、最近のにきび治療ガイドラインでは、3~6ヵ月とすべきことが示されている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2014年4月8日号の掲載報告。 分析は、保険請求データベースのMarketScanを用いて、抗菌薬治療期間とコストを抽出して行われた。 主な結果は以下のとおり。・平均治療期間は129日であった。・治療経過のほとんど(93%)が、9ヵ月未満であった。・3万1,634例の経過のうち、1万8,280例(57.8%)では外用レチノイド(商品名:ディフェリン)の併用投与が行われていなかった。・外用レチノイド併用投与例における平均治療期間は133日(95%信頼区間:131.5~134.7日)、非併用例の平均治療期間は127日(同:125.4~127.9日)であった。・抗菌薬治療期間6ヵ月超の平均過剰直接コストは、580.99ドル/人であった。・本分析は、保険請求データベースからの分析のため、診断および医療者の特定、またにきびの重症度が不明であった点で限定的であった。 以上を踏まえて著者は、「以前のデータと比べて抗菌薬使用期間は短縮していた。抗菌薬の使用期間の短縮に注目が集まるなか、5,547例(17.53%)が6ヵ月超であった。6ヵ月超が6ヵ月に短縮されることで、1人当たり580.99ドルのコスト削減となる可能性があった」と示唆している。

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検査所見の確認が遅れて心筋炎を見落とし手遅れとなったケース

循環器最終判決判例時報 1698号98-107頁概要潰瘍性大腸炎に対しステロイドを投与されていた19歳男性。4日前から出現した頭痛、吐き気、血の混じった痰を主訴に近医受診、急性咽頭気管支炎と診断して抗菌薬、鎮咳薬などを処方した。この時胸部X線写真や血液検査を行ったが、結果は後日説明することにして帰宅を指示した。ところが翌日になっても容態は変わらず外来再診、担当医が前日の胸部X線写真を確認したところ肺水腫、心不全の状態であった。急性心筋炎と診断してただちに入院治療を開始したが、やがて急性腎不全を合併。翌日には大学病院へ転送し、人工透析を行うが、意識不明の状態が続き、初診から3日後に死亡した。詳細な経過患者情報19歳予備校生経過1992年4月10日潰瘍性大腸炎と診断されて近所の被告病院(77床、常勤内科医3名)に入院、サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン)が処方された。1993年1月上旬感冒症状に続き、発熱、皮膚の発赤、肝機能障害、リンパ球増多がみられたため、被告病院から大学病院に紹介。2月9日大学病院に入院、サラゾピリン®による中毒疹と診断されるとともに、ステロイドの内服治療が開始された。退院後も大学病院に通院し、ステロイドは7.5mg/日にまで減量されていた。7月10日頭痛を訴えて予備校を休む。次第に食欲が落ち、頭痛、吐き気が増強、血の混じった痰がでるようになった。7月14日10:00近所の被告病院を初診(以前担当した消化器内科医が診察)。咽頭発赤を認めたが、聴診では心音・肺音に異常はないと判断(カルテにはchest clearと記載)し、急性咽頭気管支炎の診断で、抗菌薬セフテラムピボキシル(同:トミロン)、制吐薬ドンペリドン(同:ナウゼリン)、鎮咳薬エプラジノン(同:レスプレン)、胃薬ジサイクロミン(同:コランチル)を処方。さらに胸部X線写真、血液検査、尿検査、喀痰培養(一般細菌・結核菌)を指示し、この日は検査結果を待つことなくそのまま帰宅させた(診察時間は約5分)。帰宅後嘔気・嘔吐は治まらず一段と症状は悪化。7月15日10:30被告病院に入院。11:00診察時顔面蒼白、軽度のチアノーゼあり。血圧70/50mmHg、湿性ラ音、奔馬調律(gallop rhythm)を聴取。ただちに前日に行った検査を取り寄せたところ、胸部X線写真:心臓の拡大(心胸郭比53%)、肺胞性浮腫、バタフライシャドウ、カーリーA・Bラインがみられた血液検査:CPK 162(20-100)、LDH 1,008(100-500)、白血球数15,300、尿アセトン体(4+)心電図検査:心筋梗塞様所見であり急性心不全、急性心筋炎(疑い)、上気道感染による肺炎と診断してただちに酸素投与、塩酸ドパミン(同:イノバン)、利尿薬フロセミド(同:ラシックス)、抗菌薬フロモキセフナトリウム(同:フルマリン)とトブラマイシン(同:トブラシン)の点滴、ニトログリセリン(同:ニトロダームTTS)貼付を行う。家族へは、ステロイドを服用していたため症状が隠されやすくなっていた可能性を説明した(この日主治医は定時に帰宅)。入院後も吐き気が続くとともに乏尿状態となったため、非常勤の当直医は制吐薬、昇圧剤および利尿薬を追加指示したが効果はなく、人工透析を含むより高度の治療が必要と判断した。7月16日主治医の出勤を待って転院の手配を行い、大学病院へ転送。11:00大学病院到着。腎不全、心不全、肺水腫の合併であると家族に説明。14:00人工透析開始。18:00容態急変し、意識不明となる。7月17日01:19死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.病因解明義務初診時に胸部X線写真を撮っておきながら、それを当日確認せず心筋炎、肺水腫を診断できなかったのは明らかな過失である。そして、胸部X線で肺水腫があれば湿性ラ音を聴取することができたはずなのに、異常なしとしたのは聞き漏らしたからである2.転院義務初診時の病態はただちに入院させたうえで集中治療を開始しなければならない重篤なものであり、しかも適切な治療設備がない被告病院であればただちに治療可能な施設へ転院させるべきなのに、病因解明義務を怠ったために転院措置をとることができなかった初診時はいまだ危機的状況とまではいえなかったので、適切な診断を行って転院措置をとっていれば救命することができた病院側(被告)の主張1.病因解明義務初診時には急性咽頭気管支炎以外の異常所見がみられなかったので、その場でX線写真を検討しなかったのはやむを得なかった。また、心筋炎があったからといって必ず異常音が聴取されるとはいえないし、患者個人の身体的原因から異常音が聴取されなかった可能性がある2.転院義務初診時の症状を急性咽頭気管支炎と診断した点に過失がない以上、設備の整った病院に転院させる義務はない。仮に当初から心筋炎と診断して転院させたとしても、その重篤度からみて救命の可能性は低かったさらに大学病院の医師から提案されたPCPS(循環補助システム)による治療を家族らが拒否したことも、死亡に寄与していることは疑いない裁判所の判断当時の状況から推定して、初診時から胸部の異常音を聴取できるはずであり、さらにその時実施した胸部X線写真をすぐに確認することによって、肺水腫や急性心筋炎を診断することは可能であった。この時点ではKillip分類class 3であったのでただちに入院として薬物療法を開始し、1時間程度で病態の改善がない時には機械的補助循環法を行うことができる高度機能病院に転院させる必要があり、そうしていれば高度の蓋然性をもって救命することができた。初診患者に上記のような判断を求めるのは、主治医にとって酷に過ぎるのではないかという感もあるが、いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師に対しては、その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くすことが要求されることはやむを得ない。原告側合計7,998万円の請求に対し、7,655万円の判決考察「朝から混雑している外来に、『頭痛、吐き気、食欲がなく、痰に血が混じる』という若者が来院した。診察したところ喉が赤く腫れていて、肺音は悪くない。まず風邪だろう、ということでいつも良く出す風邪薬を処方。ただカルテをみると、半年前に潰瘍性大腸炎でうちの病院に入院し、その後大学病院に移ってしまった子だ。どんな治療をしているの?と聞くと、ステロイドを7.5mg内服しているという。それならば念のため胸部X線写真や採血、痰培をとっおけば安心だ。ハイ次の患者さんどうぞ・・・」初診時の診察時間は約5分間とのことですので、このようなやりとりがあったと思います。おそらくどこでも普通に行われているような治療であり、ほとんどの患者さんがこのような対処方法で大きな問題へと発展することはないと思います。ところが、本件では重篤な心筋炎という病態が背後に潜んでいて、それを早期に発見するチャンスはあったのに見逃してしまうことになりました。おそらく、プライマリケアを担当する医師すべてがこのような落とし穴にはまってしまうリスクを抱えていると思います。ではどのような対処方法を採ればリスク回避につながるかを考えてみると、次の2点が重要であると思います。1. 風邪と思っても基本的診察を慎重に行うこと今回の担当医は消化器内科が専門でした。もし循環器専門医が患者の心音を聴取していれば、裁判官のいうようにgallop rhythmや肺野の湿性ラ音をきちんと聴取できていたかも知れません。つまり、混雑している外来で、それもわずか5分間という限定された時間内に、循環器専門医ではない医師が、あとで判明した心筋炎・心不全に関する必要な情報を漏れなく入手することはかなり困難であったと思われます。ところが裁判では、「いやしくも人の生命および健康を管理する医業に従事する医師である以上、危険防止のため必要とされる最善の注意義務を尽くさなければいけない」と判定されますので、医学生の時に勉強した聴打診などの基本的診察はけっしておろそかにしてはいけないということだと思います。私自身も反省しなければいけませんが、たとえば外来で看護師に「先生、風邪の患者さんをみてください」などといわれると、最初から風邪という先入観に支配されてしまい、とりあえずは聴診器をあてるけれどもざっと肺野を聞くだけで、つい心音を聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。今回の担当医はカルテに「chest clear」と記載し、「心音・肺音は確かに聞いたけれども異常はなかった」と主張しました。ところが、この時撮影した胸部X線写真にはひどい肺水腫がみられたので、「異常音が聴取されなければおかしいし、それを聞こえなかったなどというのはけしからん」と判断されています。多分、このような危険は外来患者のわずか数%程度の頻度とは思いますが、たとえ厳しい条件のなかでも背後に潜む重篤な病気を見落とさないように、慎重かつ冷静な診察を行うことが、われわれ医師に求められることではないかと思います。2. 異常所見のバックアップ体制もう一つ本件では、せっかく外来で胸部X線写真を撮影しておきながら「急現」扱いとせず、フィルムをその日のうちに読影しなかった点が咎められました。そして、そのフィルムには誰がみてもわかるほどの異常所見(バタフライシャドウ)があっただけに、ほんの少しの配慮によってリスクが回避できたことになります。多くの先生方は、ご自身がオーダーした検査はなるべく早く事後処理されていることと思いますが、本件のように異常所見の確認が遅れて医事紛争へと発展すると、「見落とし」あるいは「注意義務違反」と判断される可能性が高いと思います。一方で、多忙な外来では次々と外来患者をこなさなければならないというような事情もありますので、すべての情報を担当医師一人が把握するにはどうしても限界があると思います。そこで考えられることは、普段からX線技師や看護師、臨床検査技師などのコメデイカルと連携を密にしておき、検査担当者が「おかしい」と感じたら(たとえ結果的に異常所見ではなくても)すぐに医師へ報告するような体制を準備しておくことが重要ではないかと思います。本件でも、撮影を担当したX線技師が19歳男子の真っ白なX線写真をみて緊急性を認識し、担当医師の注意を少しでも喚起していれば、医事紛争とはならないばかりか救命することができた可能性すらあると思います。往々にして組織が大きくなると縦割りの考え方が主流となり、医師とX線技師、医師と看護師の間には目にみえない壁ができてセクショナリズムに陥りやすいと思います。しかし、現代の医療はチームで行わなければならない面が多々ありますので、普段から勉強会を開いたり、症例検討会を行うなどして医療職同士がコミュニケーションを深めておく必要があると思います。循環器

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気道感染症への抗菌薬治療 待機的処方 vs 即時処方/BMJ

 気道感染症に対する抗菌薬治療では、即時的処方に比べ待機的処方で抗菌薬服用率が顕著に低いが、症状の重症度や持続期間に差はないことが、英国・サウサンプトン大学のPaul Little氏らの検討で示された。同国のプライマリ・ケアでは、気道感染症の治療の際、抗菌薬の不必要な使用を抑制するために非処方または待機的処方という戦略が一般に行われている。一方、文献の系統的レビューでは、待機的処方は即時的処方に比べ症状の管理が不良であり、非処方よりも抗菌薬の服用率が増加する可能性が示唆されている。待機的処方には、服用に関する指示書を付して処方薬を渡したり、再受診時に渡すなどいくつかの方法があるが、これらの戦略を直接に比較した試験は、これまでなかったという。BMJ誌オンライン版2014年3月5日号掲載の報告。個々の待機的処方戦略の有効性を無作為化試験で評価 研究グループは、急性気道感染症に対する待機的抗菌薬処方の個々の戦略の有効性を比較する無作為化対照比較試験を実施した。2010年3月3日~2012年3月28日までに、イギリスの25のプライマリ・ケア施設(医師53人)に3歳以上の急性気道感染症患者889例が登録された。 即時的抗菌薬処方が不要と判定された患者が、次の4つの待機的処方群に無作為に割り付けられた。1)処方薬を再受診時に渡す群、2)処方薬を後日に受け取る先日付処方群、3)処方薬は出さないが患者が自分で入手してもよいとする群、4)すぐには服用しないなどの指示書と共に処方薬を渡す群(患者主導群)。2011年1月に、さらに抗菌薬非処方群を加え、5群の比較を行った。 主要評価項目は2~4日目の症状の重症度(0~6点、点数が高いほど重症)とし、抗菌薬の服用状況、患者の抗菌薬の効果への信頼、即時的抗菌薬処方との比較なども行った。個々の待機的処方戦略には大きな差はない 333例(37%)が即時的抗菌薬処方の適応とされ、残りの556例(63%)が無作為化の対象となった(非処方群:123例、再受診群:108例、先日付群:114例、入手群:105例、患者主導群:106例)。即時的処方群でベースラインの症状の重症度がわずかに高く、下気道感染症が多く上気道感染症が少ない傾向がみられたが、非処方群と個々の待機的抗菌薬療法群の患者背景に差は認めなかった。 非処方群と個々の待機的処方群で症状の重症度に大きな差は認めなかった。重症度スコアの粗平均値は、非処方群が1.62、再受診群は1.60、先日付群は1.82、入手群は1.68、患者主導群は1.75であった(尤度比χ2検定:2.61、p=0.625)。 やや悪い(moderately bad)またはより悪い(worse)症状の持続期間にも、非処方群(中央値3日)と待機的処方群(中央値4日)で差はみられなかった(尤度比χ2検定:4.29、p=0.368)。 診察に「たいへん満足」と答えた患者は非処方群が79%、再受診群は74%、先日付群は80%、入手群は88%、患者主導群は89%(尤度比χ2検定:2.38、p=0.667)、「抗菌薬の効果を信用する」と答えた患者はそれぞれ71%、74%、73%、72%、66%(同:1.62、p=0.805)であり、抗菌薬服用率は26%、37%、37%、33%、39%(同:4.96、p=0.292)であった。 これに対し、即時的処方群の大部分(97%)が抗菌薬を服用しており、効果を信用する患者の割合も高かった(93%)が、症状の重症度(粗平均値1.76)や持続期間(中央値4日)は、待機的処方群に比べて高いベネフィットはみられなかった。 著者は、「非処方や待機的処方では抗菌薬服用率が40%以下であり、即時的処方に比べ抗菌薬の効果を信頼する患者は少なかったが、症状の転帰は同等であった」とまとめ、「患者に明確なアドバイスをする場合、待機的処方戦略のうちいずれの方法を選択しても差はほとんどないとしてよいだろう」としている。

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急性喉頭蓋炎を風邪と診断して死亡に至ったケース(1)

救急医療最終判決判例時報 1224号96-104頁概要数日前から風邪気味であった35歳男性が、深夜咽頭の痛みが激しくなり、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発し呼吸困難が出現したため、救急外来を受診。解熱鎮痛薬、抗菌薬、総合感冒剤などを処方されていったん帰宅するが、病状がますます悪化したため当日午前中の一般外来を受診。担当した内科医師は、胸部X線写真には異常はないため感冒による咽頭炎と診断し、入院は不要と考えたが、患者らの強い希望により入院となった。ところが、入院病棟に移動した1時間後に突然呼吸停止となり、気管内挿管が困難なため緊急気管切開を行ったが、植物状態となって死亡した。解剖の結果、急性化膿性喉頭蓋炎による窒息死と判断された。詳細な経過患者情報35歳男性経過1980年7月下旬この頃から風邪気味であり、体調不十分であったが、かなり無理をして行動していた。8月4日02:00頃咽頭の痛みが激しくなり、呼吸が苦しく、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発するようになった。04:40A病院の救急外来を受診。当直の外科医が診察し、本人は会話困難な状態であったので、付添人が頭痛、咽頭痛、咳、高熱、悪寒戦慄、嚥下困難の症状を説明した。体温39℃、扁桃腫脹、咽頭発赤、心音正常などの所見から、スルピリン(商品名:メチロン)筋注、リンコマイシン(同:リンコシン)筋注、内服としてメフェナム酸(同:ポンタール)、非ピリン系解熱薬(同:PL顆粒)、ポビドンヨード(同:イソジンガーグル)を処方し、改善が得られなければ当日定刻から始まる一般外来を受診するように説明した。10:00順番を待って一般外来患者として内科医の診察を受ける。声が出ないため、筆談で「息が苦しいから何とかしてください。ぜひとも入院させてください」と担当医に手渡した。喉の痛みをみるため、舌圧子で診察しようとしたが、口腔奥が非常に腫脹していて口があけにくく、かつ咳き込むためそれ以上の診察をしなかった。高熱がみられたので胸部X線写真を指示、車椅子にてX線室に向かったが、その途中で突然呼吸停止状態に陥り、異様に身体をばたつかせて苦しがった。家族が背中を数回強くたたき続けていたところ、しばらくしてやっと息が通じるようになったが、担当医師は痰が喉にひっかかって生じたものと軽く考えて特別指示を与えなかった。聴診上軽度の湿性ラ音を聴取したが、胸部X線には異常はないので、「感冒による咽頭炎」と診断し、入院を必要とするほどでもないと考えたが、患者側が強く希望したため入院とした。10:30外来から病棟へ移動。11:00担当医師の指示にて、乳酸リンゲル液(同:ポタコールR)、キサンチン誘導体アミノフィリン(同:ネオフィリン)、β刺激薬(アロテック®;販売中止)、去痰薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)などの点滴投与を開始。11:30突然呼吸停止。医師らが駆けつけ気管内挿管を試みるが、顎関節が硬直状態にあって挿管不能。そのため経皮的にメジカット3本を気管に穿刺、急いで中央材料室から気管切開セットを取り寄せ、緊急気管切開を施行した。11:50頃人工呼吸器に接続。この時は心停止に近い状態のため、心マッサージを施行。12:30ようやく洞調律の状態となったが、いわゆる植物状態となった。8月11日20:53死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.不完全な診察当直医師は呼吸困難・発熱で受診した患者の咽頭部も診察しないうえに、「水も飲めない患者に錠剤を与えても飲めません」という訴えを無視して薬を処方した。そのあとの内科医師も、異常な呼吸音のする呼吸困難の患者に対し、単に口を開かせて舌圧子をあてようとしたが咳き込んだので中止し、喉頭や気管の狭窄を疑わず、さらにX線室前で窒息状態になったのにさしたる注意を払わなかった2.診断に関する過誤患者の徴候、症状を十分観察することなく風邪による扁桃腺炎または咽頭炎と軽率な診断を下し、「息が苦しいので何とかしてください」という患者の必死の訴えを放置して窒息させてしまった。少なくとも万一の窒息に備えて気管切開の準備をなすべきであった。たまたま常勤の耳鼻科医師が退職して不在であり、外部から耳鼻科医師が週何回か来診する状態であったとしても、耳鼻科専門医の不在が免責理由にはならない3.気道確保の時機を逸した呼吸停止から5~6分以内に呼吸が再開されなければ植物状態や脳死状態になる恐れがあるのに、はじめから確実な気道確保の方法である気管切開を行うべきであったのに、気管内挿管を試みたのち、慌てて気管切開のセットを取りにいったが、準備の不手際もあって気道を確保するまでに長時間を要し植物状態となった病院側(被告)の主張1.適切な入院措置外来での診察は、とりあえずの診断、とりあえずの加療を行うものであり、患者のすべてを把握することは不可能である。本件の外来診察時には努力呼吸やチアノーゼを伴う呼吸困難はみられなかったので、突然急激な窒息状態に至るという劇的な転帰は到底予見できないものであり、しかもきわめて希有な病変であったため、入院時に投与された気管支拡張薬や去痰薬などの薬効があらわれる前に、そして、入院の目的や長所が十分機能する前に窒息から脳死に至った2.予見不可能な急激な窒息死成書においても、成人における急性化膿性喉頭蓋炎の発症および発症による急激な窒息の予見は一般的ではなく、最近ようやく医学界で一般的な検討がなされ始めたという段階である。したがって、本件死亡当時の臨床医学の実践における医療水準に照らすと、急性化膿性喉頭蓋炎による急激な窒息死の予見義務はない。喉頭鏡は耳鼻科医師によらざるを得ず、内科医師にこれを求めることはできない3.窒息後の救急措置窒息が生じてからの措置は、これ以上の措置は不可能であるといえるほどの最善の措置が尽くされており、非難されるべき点はない裁判所の判断1.喉頭部はまったく診察せず、咽頭部もほとんど診察しなかった基本的過失により、急性化膿性喉頭蓋炎による膿瘍が喉頭蓋基部から広範囲に生じそれが呼吸困難の原因になっている事実を見落とし、感冒による単純な咽頭炎ないし扁桃腺炎と誤診し、その結果気道確保に関する配慮をまったくしなかった2.異常な呼吸音、ほとんど声もでず、歩行困難、咽頭胃痛、嚥下困難、高熱悪寒の症状があり、一見して重篤であるとわかるばかりか、X線撮影に赴く途中に突然の呼吸停止を来した事実の緊急報告を受けたのであるから、急性化膿性喉頭蓋炎の存在を診察すべき注意義務、仮にその正確な診断までは確定し得ないまでも、喉頭部に著しい狭窄が生じている事実を診察すべき注意義務、そして、当然予想される呼吸停止、窒息に備えていつでも気道確保の手段をとり得るよう予め準備し、注意深く症状の観察を継続するべき注意義務があった3.急性化膿性喉頭蓋炎による成人の急激な窒息は当時の一般的な知見ではなく、予測できなかったとA病院は主張するが、当然診察すべき咽喉頭部の診察を尽くしていれば、病名を正確に判断できなくても、喉頭部の広範囲な膿瘍が呼吸困難の原因であり、これが増悪した場合気道閉塞を起こす可能性があることを容易に予測できたと考えられる4.当時耳鼻科常勤医の退職直後で専門医が不在であったことを主張するが、総合病院と称するA病院においては、内科とともに耳鼻咽喉科を設置しなければならず、各科に少なくとも3人の医師を設置しなければならないため、耳鼻科常勤医不在をもって責任を否定することはできない5.しかし、急性化膿性喉頭蓋炎によって急激な窒息死に至る事例はまれであること、体調不十分な状態で無理をしたことおよび体質的素因が窒息死に寄与していることなどを考慮すると、窒息死に対する患者側の素因は40%程度である原告側合計7,126万円の請求に対し、3,027万円の判決考察普段、われわれが日常的に診察している大勢の「風邪」患者の中にも、気道閉塞から窒息死に至るきわめて危険なケースが混じっているということは、絶対に忘れてはならない重要なことだと思います。「なんだ、風邪か」などと高をくくらずに、風邪の背後に潜んでいる重大な疾病を見落とすことがないよう、常に医師の側も慎重にならなくてはいけないと痛感しました。もし、私がこのケースの担当医だったとしても、最悪の結果を回避することはできなかったと思います。実際に、窒息後の処置は迅速であり、まず気管内挿管を試み、それが難しいと知るやただちに気管にメジカット3本を刺入し、大急ぎで気管切開セットを取り寄せて緊急気管切開を行いました。この間約20分弱ですので、後方視的にみればかなり努力されたあとがにじみ出ていると思います。ではこの患者さんを救命する方法はなかったのでしょうか。やはりキイポイントは病棟に上がる前に外来のX線室で呼吸停止を起こしたという事実だと思います。この時の判断は、「一時的に痰でもつまったのであろう」ということでしたが、呼吸器疾患をもつ高齢者ならまだしも、本件は既往症をとくにもたない35歳の若年者でしたので、いくら風邪でも痰を喉に詰まらせて呼吸停止になるというのはきわめて危険なサインであったと思います。ここで、「ちょっとおかしいぞ」と認識し、病棟へは「緊急で気道確保となるかも知れない」と連絡をしておけば、何とか事前に準備ができたかも知れません。しかし、これはあくまでも後方視的にみた第三者の意見であり、当時の状況(恐らく外来は患者であふれていて、診察におわれていたと思われます)からはなかなか導き出せない、とても難しい判断であったと思います。救急医療

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